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僧侶「勇者様は勇者様です」
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763 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/05(火) 19:44:21.98 ID:8D+Kdu790
港湾管理施設の受付嬢「ええ、お泊りのお宿を教えて頂ければ」
お祓い師「分かった。宿が取れたらもう一度伺う」
港湾管理施設の受付嬢「ご不便おかけいたします」
お祓い師「いや、そちらも忙しいだろうに。じゃあまた後で」
港湾管理施設の受付嬢「ええ、お気をつけて」
764 :
◆8F4j1XSZNk
[sage saga]:2020/05/05(火) 19:44:47.47 ID:8D+Kdu790
来週更新します
765 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/07(木) 01:31:45.86 ID:EpS64GvDO
乙乙乙 待ってたぜ
766 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 20:56:27.83 ID:E+0OV0+s0
*
勇者「で、宿を探すもどこも満室と……」
辻斬り「便の再開待ちをしているのは俺達だけじゃないって事だろうね」
辻斬り「まあこれほどの規模の港だ。全面欠航はかなりの影響を出す訳だ」
勇者「ううーん、困ったなあ……」
狐神「宿が満室といえば西人街を思い出すのう」
猫又「西人街で何かあったの?」
お祓い師「ああ……感謝祭か何かと被って宿が取れないってことがあってな……いや待てよ」
お祓い師「そうだ、あの時は確か……」
猫又「どうかしたの?」
767 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 20:59:28.36 ID:E+0OV0+s0
お祓い師「いや、あの時はどうにか宿を取ることが出来たんだが……ダメ元でギルド支部に行ってみようか」
勇者「ギルド支部に?」
お祓い師「ああ……運が良ければ恐らくは……」
お祓い師に言われるがまま、一行は退魔師ギルドの支部へとやってきた。
大きな街の支部ということもあり、建物は大きく中には沢山の人々が行き交っていた。
共和国港街のギルド受付嬢「退魔師ギルドの支部へようこそ」
共和国港街のギルド受付嬢「ご用件は……と、これはこれは勇者様でございますね?」
勇者が差し出したギルド会員証を見て受付嬢が眼鏡の位置を直しながら一瞥した。
共和国港街のギルド受付嬢「と、なると南部諸島連合国へ向かう道中といった所でしょうか」
勇者「どうしてそれを?」
768 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:00:13.77 ID:E+0OV0+s0
共和国港街のギルド受付嬢「ギルド幹部……氷の退魔師様から、最大限のバックアップをするようにと連絡が入ってまして」
お祓い師「あの親父……俺達の動向を把握してるのかよ」
辻斬り「三白眼の呪術師という男経由の情報だろうね。その男もギルドの幹部なんだってね?」
お祓い師「ま、だろうな」
共和国港街のギルド受付嬢「船の再開の目処は立っておらず、それまで夜を明かす宿も取れず……といった所でしょうか」
勇者「お、お見通しなんですね」
共和国港街のギルド受付嬢「当ては……ギルドの所有する宿ですね?」
勇者「えっ、そんな物があるんですか?」
共和国港街のギルド受付嬢「おや、違いましたか」
お祓い師「いや、そうだ」
769 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:01:03.11 ID:E+0OV0+s0
お祓い師「もし空きがればで良い……泊まらせては貰えないだろうか」
共和国港街のギルド受付嬢「勿論御座いますよ。こちらも氷の退魔師様からの指示でして」
お祓い師「ちっ、相変わらず一歩先にからこっちを見やがって」
狐神「ふふ、まだまだ敵わないのう」
勇者「でもこんな忙しい時に部屋を抑えて頂いたなんて……何かの形でお礼をしたいのですが」
共和国港街のギルド受付嬢「お礼ですか……そうですね」
共和国港街のギルド受付嬢「滞在している間、ギルドの依頼をこなして頂けると助かります」
勇者「そんな事で良いんですか?」
共和国港街のギルド受付嬢「トラブルというのは別のトラブルを誘発するものです」
共和国港街のギルド受付嬢「これだけの人数を抱えていながら手が回りきっていないのが現状でして」
770 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:01:39.24 ID:E+0OV0+s0
勇者「そういう事なら任せて下さい。困っている人を助けるのが僕たちの仕事ですから」
共和国港街のギルド受付嬢「助かります。まずは係に宿まで案内させますので」
案内された部屋は贅沢にも全部で三室。
部屋割りは、お祓い師夫婦で一室。勇者と辻斬りで一室。猫又が一室となった。
荷物を預けて再びギルドに出向くと、手が回りきっていないという分の依頼書が手渡された。
勇者「また盗人、か」
辻斬り「猫の次はなんだろうね」
猫又「さあて、ね」
お祓い師「何かあったのか?」
辻斬り「なに、再会の時に少しね」
771 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:03:19.10 ID:E+0OV0+s0
共和国港街のギルド受付嬢「ここ最近、このような目立った犯罪が頻発しています」
共和国港街のギルド受付嬢「原因は共和国政府による、例の決定だと言われていますね」
お祓い師「例の決定……砂漠の民などの人外も含めて、正式に国民として登録するという話か」
お祓い師「ベヒモス件から随分と早かったが……大陸会議以来準備そのものは進めていたんだろうな」
勇者「それが何で犯罪増加に繋がるの?」
辻斬り「世の中には自分は存在しない事になっていた方が都合の良い連中ってのもいるのさ」
辻斬り「今まで自由にやれていた領域が、国民全員の管理によって上手く回らなくなる……」
辻斬り「そういった連中が、次のお仕事を確立するまでの軍資金貯めに躍起になっているんだろうね」
猫又「犯罪が増えたと言うより、見えていなかった連中が表に顔を出したって事だね」
勇者「……皆のための変化なのに」
772 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:07:57.82 ID:E+0OV0+s0
狐神「変化を望まない者いるというわけじゃ」
勇者「変化を、望まない……」
狐神「大陸中の揉め事もそこでぶつかっておるのじゃろう?」
狐神「禍根を断って仲良しこよしよりも、今まで通り憎しみ合っていたい連中が立ちはだかって居るんじゃないのかの?」
勇者「うん……でも僕は変わる道を進み続けるつもりだ」
狐神「それで良いんじゃないのかの? 所詮正義なんて自分の中にしか無いのじゃから」
勇者「……うん……」
お祓い師「……さ、て」
お祓い師「お仕事内容の詳細だが……」
辻斬り「船の積荷を狙った盗賊団か」
773 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:08:29.94 ID:E+0OV0+s0
お祓い師「勇者達が以前訪れたっていう歓楽街が北の海の入口なら、ここは南の入口だ」
お祓い師「内陸……特に帝国に運び込めば値段が跳ね上がるような積荷が多くある」
お祓い師「それを掻っ払えるだけ頂いて内陸にトンズラするつもりだろう」
勇者「じゃあゆっくり探している時間は……」
辻斬り「あまり無いだろうねえ」
猫又「そうと決まれば早速向かったほうが良さそだね」
勇者「うん。商船の船着き場に行こう」
774 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:10:30.66 ID:E+0OV0+s0
*
──商船船着き場の倉庫
港湾倉庫の管理係「ああ、積荷泥棒には本当に参っているぜ」
大柄の男は忌々しそうに木箱に肘をついた。
港湾倉庫の管理係「被害はうちだけじゃねえ。とにかく気が付けば荷がどこかへと持ち出されているのさ」
港湾倉庫の管理係「奴らは人外の盗賊団だ」
港湾倉庫の管理係「どこから現れ、どこに消えていくのか想像もつかねえ。奇妙な力を使いこなすかなりの手練達だ」
勇者「実際に目撃された方がいるということですか?」
港湾倉庫の管理係「ああ、俺がその一人さ」
港湾倉庫の管理係「奴らは、魚人族さ。この街にも魚人族はいるが……良い奴らだから、別の集団だろう」
775 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:10:59.17 ID:E+0OV0+s0
勇者「確かに魚人族なら港湾での行動には有利かもしれないけれど……」
港湾倉庫の管理係「とにかく犯人を早く捕まえてくれよ。このままじゃ仕事になりゃしねえ」
勇者「はい、なるべく早く解決したいと思います」
港湾倉庫の管理係「おう、任せたぜ」
776 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:13:17.89 ID:E+0OV0+s0
*
勇者らは倉庫を出て繁華街を歩き出した。
行き交うのは人間だけでなく、様々な種族の面々だ。
亜人などの人外らが正式に国民として登録される……この事への準備そのものは大陸会議後から進められていたのだろう。
ベヒモスの一件後、直ぐに共和国内でも新しい法律が定められたのだ。
勇者「折角世の中が変わり始めたのにね……」
お祓い師「急激な変化は歪みを生む……予想はできた事態だ」
勇者「そうだね……」
勇者「さて、早速街の人に聞き込みを開始しようか」
お祓い師「いーや、その必要はないぜ」
777 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:13:53.23 ID:E+0OV0+s0
お祓い師「人探しや道案内はこいつの十八番だ」
お祓い師「『導く能力』を持っているんだからな」
お祓い師「どうだ? 積荷を盗んだ犯人は見つかったか?」
狐神「むむむ……それがのう……」
お祓い師「どうした?」
狐神「ピクリとも反応しないのじゃ」
お祓い師「何……?」
勇者「どういう事?」
狐神「あの貨物倉庫から積荷を盗み出したという者の居場所が全く見つからないのじゃ」
猫又「能力の調子が悪いとか?」
778 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:16:25.42 ID:E+0OV0+s0
狐神「それは無いのう」
狐神「現にこの通りで一番美味な食事処の場所ははっきりと分かる」
お祓い師「オイ」
辻斬り「敵がその手の能力を妨害する手段を持っている可能性は?」
お祓い師「そうだとすればお手上げだな。そんな奴を相手にしたことが無い」
勇者「う〜ん、困ったね」
どうしたものかと考え込む勇者の背後に人影が飛び出してきた。
全員が身構えるが、勇者が手でそれを制した。
勇者「大丈夫、知り合いだ」
???「……勇者さん……やっと見つけた」
779 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:17:10.54 ID:E+0OV0+s0
勇者「初代格闘家さんの……」
???→褐色肌の武闘家「はい、お久しぶりです」
勇者「僕の事を探していたみたいだけど」
褐色肌の武闘家「それが、実は……」
お祓い師「何か事情があるみたいだな」
お祓い師「立ち話も何だし、どこかに入らないか」
取り敢えず狐神が指定した食事処の奥の間を借りて話をする事になった。
お祓い師「それで。このお嬢さんは一体どこのどなたなんだ?」
勇者「僕たちのとの出会いについても交えて少し話そうか」
褐色肌の武闘家「う、うん……」
780 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:20:14.41 ID:E+0OV0+s0
褐色肌の武闘家は自らについて、そして帝国の山中で勇者らと遭遇した時の一連の出来事を説明し始めた。
自分が初代格闘家と暮らしていた事。
そこに勇者らが訪れた時に、サロスとゼパールの襲撃にあった事。
そして彼らの持つ『愛情を操る力』によって、気持ちを暴走させられた武闘家が勇者を庇って重症を負った事。
お祓い師「初代格闘家が生きている……か」
勇者「思ったよりも驚かないんだね」
お祓い師「ああ……俺も千年越しの伝説をこの目で見てきたばかりだからな」
お祓い師「それも、かなりの身近でな」
狐神「ふ……」
勇者「……?」
781 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:21:13.63 ID:E+0OV0+s0
猫又「それで。なんでわざわざ帝国の山奥からこんな所まで勇者を追いかけて来たの?」
褐色肌の武闘家「それが、勇者様方と出会ってからお師匠様の様子が変で……」
勇者「えっ……?」
褐色肌の武闘家「一日中何か考え事をしているようで……」
褐色肌の武闘家「そしてついにしばらく家を空けるなんて言い出してしまって」
褐色肌の武闘家「あのお師匠様が長期で家を出るなんてただ事じゃない……そう思って居ても立っても居られず」
勇者「まあ確かに……引きこもりお屋敷で一日中ゴロゴロしている人だったもんね」
褐色肌の武闘家「きっかけと言えば恐らくは勇者様か、あの魔王軍の幹部達……」
褐色肌の武闘家「どちらにせよ、勇者様を追いかければどちらにも近付けるだろうと思って、噂やギルドの情報を頼りにここまで来たの」
褐色肌の武闘家「同行させてとまでは言わない」
782 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:22:04.59 ID:E+0OV0+s0
褐色肌の武闘家「お師匠様について情報が入れば教えて欲しい」
お祓い師「……なるほどな」
お祓い師「どうするんだ、勇者?」
勇者「うん……何か分かるまでは一緒に行こうか」
猫又「私が言うのも何だけど、同行者が増え過ぎたらまずいんじゃ無かったっけ?」
勇者「一時的にだし……そもそも今は勇者の力がうまく使えている実感が無いし……」
お祓い師「…………」
お祓い師「まあ、良いんじゃねえか」
お祓い師「今の依頼も狐神の力でちゃちゃっと解決するつもりだったんだが、こうなってしまっては人手が多いほうが良いだろう」
褐色肌の武闘家「あ、ありがとう……!」
783 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:22:50.25 ID:E+0OV0+s0
褐色肌の武闘家「そういう事ならもちろん協力させてもらうよ」
勇者「あと、勇者様はやめてよ。歳も大して違わないんだし」
勇者「僧侶はいくら言っても直してくれないんだけどね……」
褐色肌の武闘家「……分かった。よろしくね、勇者」
勇者「こちらこそ!」
店を出た一行は、勇者と武闘家、辻斬りと猫又、お祓い師と狐神のペアで手分けをして情報を集めようということになった。
決して仲が良いという訳ではない辻斬りと猫又のペアを勇者が心配したが、辻斬りが個人的に猫又に用があると言って結局そのままとなった。
784 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/05/12(火) 21:28:50.40 ID:E+0OV0+s0
>>765
ありがとうございます。
今日はここまでです。
近い内にこのスレ分は一旦走り切りたいと思っています。
785 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/05/14(木) 02:01:39.39 ID:oeOyoGeDO
乙乙
ゆっくりでも良いんだぜ?
786 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:06:43.82 ID:ALKaSVx60
*
それから日付は変わっていくものの船が再開する様子は無く、勇者達は荷泥棒の捜索を続けていた。
しかし有力な情報は手に入らず、思った以上に難航する羽目になっていた。
勇者が行く先々で人助けをするものだから尚の事だった。
お祓い師が暗記使いから聞いた話曰く、今までの旅の道中でもその調子だったらしい。
本人はその事についてこう言っていたらしい。
──勇者の紋章システムは僕たちに意図的に大陸中を旅させようとしている。
──この一大事の最中、前線ではなくここに僕たちがいる意味は恐らく……。
褐色肌の武闘家「国も種族も越えて、手を差し伸べられるような存在になるため……か」
勇者「ん? 何か言った?」
787 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:07:14.79 ID:ALKaSVx60
褐色肌の武闘家「……いや、何も」
褐色肌の武闘家「あのね、志としてはご立派だと思うんだけど」
武闘家は勇者を見て大きくため息をついた。
褐色肌の武闘家「一応契約を交わして仕事をしている最中なんだから、ちゃんと本命に集中したほうが良いと思うよ」
勇者の両手には荷物が抱えられており、その横を歩く老婆と談笑していた。
勇者「わ、分かっているよ?」
褐色肌の武闘家「確かにその荷物はお婆さんが持って帰るには大変そうだけれど……」
褐色肌の武闘家「次は寄り道無しでお願いね」
勇者「ははは……善処するよ」
港湾街暮らしの老婆「すまないねえ忙しい中」
788 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:07:53.44 ID:ALKaSVx60
勇者「ううん、良いんです」
勇者「これが僕たちの仕事なので」
褐色肌の武闘家「はあ……本当に程々にね」
勇者「分かっているって」
港湾街暮らしの老婆「家はここだから、もう大丈夫だよ」
老婆の家だという建物は何らかの店をやっているようで、周りと比べると幾分か豪勢な造りだった。
勇者「中まで運びますよ」
港湾街暮らしの老婆「ありがとうねえ」
港湾街暮らしの老婆「そうだ、お世話になったからねえ。冷たいお茶でも飲んで行きなさい」
勇者「あ、ありがとうございます」
789 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:13:59.14 ID:ALKaSVx60
褐色肌の武闘家「勇者……はあ。お言葉に甘えさせてもらいますね」
お店の中には煌びやかな宝石が並んでおり、普段光物にあまり興味がない武闘家でさえも目を奪われてしまった。
お茶と一緒に焼き菓子を振る舞ってもらい、十分に休憩ができた二人は情報集めに戻ることにした。
勇者「あ、お婆さん。この辺りで魚人族を見かけませんでしたか?」
港湾街暮らしの老婆「魚人族かい? それならこの家を出てすぐの道をずっと西の方に進むと彼らが集まっている場所があるねえ」
勇者「魚人族の集会所……!」
港湾街暮らしの老婆「彼もボウヤみたいに荷物持ちをしょっちゅう手伝ってくれたりしてね」
港湾街暮らしの老婆「とても良い人達だよ」
勇者「……その魚人族達が盗みを働いているという話を聞いたことは?」
港湾街暮らしの老婆「盗み? そんな馬鹿なことがあるものですか」
790 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:14:58.37 ID:ALKaSVx60
港湾街暮らしの老婆「私もだてに長くは生きていない。彼らがそんなことをしないという事ぐらい分かるさ」
港湾街暮らしの老婆「それに私は彼らとたまに仕事をしていてね。そんな事をしなくても儲かっていることぐらい分かるさ」
褐色肌の武闘家「仕事……?」
勇者「……なるほど分かりました。お茶、美味しかったです」
港湾街暮らしの老婆「はいはい。何やら忙しそうだけれでも気をつけて行きなさい」
褐色肌の武闘家「ありがとうね、お婆さん」
老婆の家を出て、教えてもらった道を進んだ。
港湾街の中心部からは少し外れた地区に目的の建物はあった。
魚人族が集いの場としているという酒場で、一見寂れているが看板などはよく掃除されており、ホコリ一つ見当たらない。
勇者「使われている形跡がある……空き家ではないね」
791 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:15:46.16 ID:ALKaSVx60
褐色肌の武闘家「どうする? 忍び込む?」
勇者「うーん……まだ黒と決まったわけじゃないしなあ」
入るか入るまいか、悩む二人の背後に迫る影に気が付いたときには遅かった。
二人は十数もの魚人族に囲まれてしまっていた。
魚人グループのリーダー「おう、人間のお二人さん。こんな所に何の用だ?」
褐色肌の武闘家「しまった……!」
褐色肌の武闘家(囲まれるとは不覚を取った……! この人数相手は骨が折れそうだね……)
慌てる武闘家に対して、勇者はいつも通りの冷静さだった。
勇者「この酒場はまだ開店前なの?」
褐色肌の武闘家「ゆ、勇者!? 何を呑気に……!」
792 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:16:24.52 ID:ALKaSVx60
太った魚人「これから準備って所だが、席についていてもらっても構わないよ」
勇者「それではそうさせてもらうかな」
褐色肌の武闘家「えっ? えっ!?」
武闘家の心配とは裏腹に二人は快く受け入れられた。
太った魚人「酒にするかい?」
勇者「いや、ちょっと探し物の最中だから遠慮させてもらうよ。酒場に来たのに申し訳ないんだけど……」
太った魚人「それらな最近手に入った珍しいお茶を淹れよう」
勇者「ありがとうございます」
褐色肌の武闘家「待って待って! 待ってってば!!」
魚人グループのリーダー「ん、どうした嬢ちゃん」
793 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:18:52.63 ID:ALKaSVx60
褐色肌の武闘家「えっ、いや、その……」
勇者「大丈夫だよ。お婆さんの言う事を全て鵜呑みにするわけじゃないけれど、そこまで警戒しなくても平気」
勇者「このご時世にこんな人が集まる街で問題を起こすのはリスクが高いし」
勇者「この酒場も住宅街の真ん中だけど、周囲の人から避けられている様子もない……」
褐色肌の武闘家「それはそうだけど……」
魚人グループのリーダー「何の話だ?」
勇者「すいません。中で詳しく話します」
そうして二人は席に着くと、魚人らに港湾倉庫で多発している窃盗事件について説明した。
魚人グループのリーダー「なるほど……それで犯人として自分たちが疑われていると」
勇者「まあ確かに、荷を運び出すのは警備が厳重な丘よりも海の方が幾分かは楽そうですけれども……」
794 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:19:30.28 ID:ALKaSVx60
魚人グループのリーダー「その容疑者たちの本拠地の真ん中でお茶を飲むとは肝が太いのかそれとも」
褐色肌の武闘家「おそらく後者の方だと思います……」
太った魚人「ほうら砂糖菓子だ。今日のお茶に良く合うはずだ」
褐色肌の武闘家「……もうなるようになれ」
武闘家は菓子を口に放り込んで咀嚼した。
それが想像以上に美味だったためか、次々と口へと運んで行った。
勇者も一つ食べると、魚人らにある書類を見せた。
勇者「今日の晩、貨物船が南部諸島連合国から来るらしいんですけれども、その積み荷は宝石、貴金属、鉱石類のようで」
勇者「盗むにはもってこいの品です」
魚人グループのリーダー「……その窃盗団とやらが来るとすれば今日という事か」
795 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:21:06.09 ID:ALKaSVx60
魚人グループのリーダー「その容疑者たちの本拠地の真ん中でお茶を飲むとは肝が太いのかそれとも」
褐色肌の武闘家「おそらく後者の方だと思います……」
太った魚人「ほうら砂糖菓子だ。今日のお茶に良く合うはずだ」
褐色肌の武闘家「……もうなるようになれ」
武闘家は菓子を口に放り込んで咀嚼した。
それが想像以上に美味だったためか、次々と口へと運んで行った。
勇者も一つ食べると、魚人らにある書類を見せた。
勇者「今日の晩、貨物船が南部諸島連合国から来るらしいんですけれども、その積み荷は宝石、貴金属、鉱石類のようで」
勇者「盗むにはもってこいの品です」
魚人グループのリーダー「……その窃盗団とやらが来るとすれば今日という事か」
796 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:21:38.84 ID:ALKaSVx60
魚人グループのリーダー「警邏側にも魚人やらがいるらしいからな」
勇者「それは……難しそうですね」
魚人グループのリーダー「とにかく今の港の中で自由に泳ぎ回る事は出来ない」
魚人グループのリーダー「正面から倉庫に忍び込めるような特技を持った奴は俺のグループにはいない」
褐色肌の武闘家「それならどうして荷は消えてしまったと……」
魚人グループのリーダー「さあな、見当もつかない」
太った魚人「俺たちが出来るとすれば港の外での強奪ぐらいか……」
魚人グループのリーダー「そうだな。だが荷は倉庫の中で消えているらしい」
勇者「港の、外か……」
勇者「もし積み荷が港の外で消えていたとしたら」
797 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:23:59.98 ID:ALKaSVx60
褐色肌の武闘家「でもそれだと管理係の人の証言と食い違うんじゃ……」
勇者「確かに……ううん、何か引っかかるな……」
勇者「……もし、そうだとすれば」
魚人グループのリーダー「何か気が付いたのか」
勇者「いや、可能性の一つってだけですよ」
勇者「一つお伺いしたいんですけども、良いですか」
魚人グループのリーダー「何だ」
勇者「実は先程、向こうの通りで商いをされているお婆さんと話しまして」
太った魚人「ああ、だからこの場所が分かったのか」
勇者「そうなんです。それで、あのお婆さん曰く、貴方がたとは仕事の付き合いのようですが」
798 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:24:30.07 ID:ALKaSVx60
勇者「一体どんなお仕事をされているんですか?」
魚人グループのリーダー「本業はここの経営だったり、運送業だったりとみんな様々だ」
魚人グループのリーダー「ただ、たまに実入りの良い仕事が必要になった時に、あの婆さんにお世話になるのさ」
褐色肌の武闘家「ご、合法な仕事ですよね?」
魚人グループのリーダー「当然だ」
魚人グループのリーダー「この辺りの海底で、とある石が採れるのを知っているか」
勇者「宝石類ですか?」
魚人グループのリーダー「いや、そういった価値はあまり無い」
魚人グループのリーダー「魔石だ。術師がその威力を増強するのによく用いるあれだ」
勇者「魔石が海底で?」
799 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:28:54.38 ID:ALKaSVx60
魚人グループのリーダー「ああ。地下資源に乏しい共和国だが、大砂漠や海底では魔石がそれなりに採れる」
魚人グループのリーダー「以前は需要が限られていたから売れたものでは無かったが、近年はその用途が広がったらしくてな」
魚人グループのリーダー「あの婆さんはその販売ルートを持っている。俺たちは手付かずの海底の石を手に入れる」
魚人グループのリーダー「そういう利害関係さ」
勇者「あのお婆さん、宝石商ですもんね」
褐色肌の武闘家「しかしそんなに儲かるならそちらを本業にしないんですか?」
太った魚人「はっはっは、それは流石に精神が持たないぜ」
太った魚人「高値で売れるような質の良い魔石は死の海の際にあるんだ」
勇者「死の海……」
共和国は広い国土に対して資源に乏しい国だ。
800 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:29:28.17 ID:ALKaSVx60
国の中央に大きく広がる砂漠は作物を実らせず。
死の海と呼ばれる南洋は魚の影も無い
大砂漠と死の海はとある一点を中心に広がっており、そこに近づく者には死が訪れるという。
太った魚人「文字通り命がけで潜っているからな。滅多なことじゃ行かないさ」
魚人グループのリーダー「まあこの間潜ったばかりだがな」
勇者「そうなんですか?」
太った魚人「酒場の二号店を出そうと思っていてね。その資金調達というわけだ」
太った魚人「その準備でここしばらくはここも閉めていたんだけれど、明日には再開できそうだ」
勇者「では今まさに忙しい盛りでしたか?」
魚人グループのリーダー「気にするな。どうやらそれどころじゃない状況のようだからな」
801 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:29:57.73 ID:ALKaSVx60
魚人グループのリーダー「他に聞いておきたい事はあるか? 力になれる事はなろう」
勇者「ううん……そうだなあ……」
勇者「お店で扱う食材や資材はどこから仕入れていますか?」
魚人グループのリーダー「うん? まさに今盗難被害にあっているあの倉庫を持っている商会だが……」
勇者「……前回の仕入れはいつですか?」
太った魚人「まさに今日、仕入れて来るところだけど……」
勇者「…………」
褐色肌の武闘家「勇者?」
勇者「……うん」
勇者「僕たちも今日はあの倉庫に行くので、仕入れの時もご一緒させてもらっていいですか?」
802 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:30:47.59 ID:ALKaSVx60
魚人グループのリーダー「それは構わないが、一体……」
勇者「実はですね……」
803 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:31:20.04 ID:ALKaSVx60
*
──一方辻斬りと猫又ら
辻斬り「猫又は今何本の妖刀を持っているんだい?」
猫又「……手の内は明かさない」
辻斬り「別に敵対している訳じゃないんだからさ……」
辻斬り「はい、そろそろこれ返すね」
辻斬りは腰に差していた刀を猫又に手渡した。
猫又が受け取ったそれは、徐々に泡のように消えてなくなってしまった。
辻斬り「ふー、しんどかった」
猫又「いい加減慣れなよね」
804 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:32:11.44 ID:ALKaSVx60
辻斬り「そうは言ってもねえ……」
辻斬りは妖刀への耐性を向上させるため、そしてトラウマを払しょくしていくためにも普段から腰に差すようにしている。
そして限界が来たところで猫又に預けて、という事を繰り返している。
辻斬り「しかし相変わらず便利な力だね。持てる数には限界は無いのかい」
猫又「私はこの姿になれるようになってから、ご主人様の妖刀を回収するのに必要な力が色々と備わった訳だから……」
猫又「そもそもご主人様の刀以外は持てないから、実質打たれた本数以上は無理なんじゃない」
猫又「あの暗器使いって人間の完全下位互換の力だね」
辻斬り「でも刀回収のために便利な能力が他にも備わっている訳でしょ? 猫又本来の力も残っているみたいだし」
辻斬り「そこまで複数の力が扱えるのは珍しいね」
猫又「大して役に立つようなものでもないけどね」
805 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:33:32.04 ID:ALKaSVx60
辻斬り「……一つ提案があるんだけど、良いかな」
猫又「何?」
辻斬り「お祓い師も交えて話したいから、彼らを探そうか」
猫又「……?」
辻斬りらは二人を探すために露店が密集している繁華街へと足を延ばした。
予想通り食べ歩きに精を出す狐神と、その横で財布の中を見て溜息をつくお祓い師の姿を発見した。
二人を捕まえて茶屋へと入ると、辻斬りはとある提案をした。
一同は驚き、特に猫又は心底嫌そうな顔をしたのだった。
お祓い師「しかし驚いたな。お前からあんな提案をされるとは」
辻斬り「これからは今まで以上の強敵と出会う事も増えるかもしれない。ベヒモスもその予兆だ」
806 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:34:01.14 ID:ALKaSVx60
辻斬り「出来る事はやっておきたいじゃないか」
お祓い師「まあ、な」
お祓い師「だが俺は“処置”をしただけだ。“発動”はしていない」
辻斬り「分かっているよ」
狐神「まあこればかりは急いでもどうにかなるものではあるまい」
狐神「気長に頑張るのじゃな」
猫又「ふう……まあ期待はしないで」
お祓い師「……さて、そろそろ行くとするか」
辻斬り「おや? 何か用事が?」
お祓い師「勇者に呼ばれてんだよ。この後全員で来てくれってな」
辻斬り「……と、言うと」
お祓い師「ああ、詳しくは聞いていないがある程度の目星はついたって事だろうな」
807 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2020/08/25(火) 23:35:11.90 ID:ALKaSVx60
本日はここまでです。
>>785
スレが落ちない程度に頑張ります……。
808 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/08/26(水) 04:41:53.34 ID:9IJCgEhDO
>>807
是非頑張って下さい&更新乙です
809 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/12/24(金) 03:23:13.84 ID:ox6OiFVR0
未だ待ち続けてるんだ!書いてくれよ!
810 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/12/24(金) 21:02:54.72 ID:VnJFlRub0
あの世で続きやってるから見に行くといいよ
811 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2021/12/25(土) 04:23:51.66 ID:Ncef1LXsO
どうだかw
812 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/12/25(土) 15:49:46.12 ID:wf/n9Ir50
最近エタったスレ死体蹴りすんの流行ってんの?
晒し上げたりしないでそっとしとくのも優しさだぜw
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