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僧侶「勇者様は勇者様です」
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520 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/05/03(金) 18:46:52.59 ID:mEfttAV60
紅目のエルフ「知ってるでしょ? 逃げるのは得意なんだから」
勇者「それじゃあ各々情報を集めに行こう」
521 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/05/03(金) 18:47:59.02 ID:mEfttAV60
もう一回GW中に上げたいですね……
どうなるかは分からないですが
522 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/05/04(土) 00:26:29.90 ID:6qKfvimDO
乙乙
待ってるぜ
523 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/01(土) 12:55:34.80 ID:hdVxsX6L0
*
──集落北側の丘
勇者(これが見回りで見つけたっていう足跡かな)
勇者(あそこの木の枝、よく見ると切り取られている……偵察の邪魔になるから、かな)
勇者(……ん、この足跡……まだ新しいぞ)
勇者(そしてこの木の周りだけ不自然に葉が落ちている……という事は……!)
勇者「上か!!」
フードの侍『チィッ!!』
上からの襲撃者の刀と、勇者の剣がぶつかった甲高い男が辺りに響き渡った。
フードの侍『今ので倒れてくれれば良いものを……』
524 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/01(土) 13:00:38.36 ID:hdVxsX6L0
その声は小柄な体躯には似合わず、低く淀んでいた。
勇者「……人では無いね」
フードの侍『分かるか』
勇者「まあね」
フードの侍『お前はあの屋敷の主に雇われたのか?』
勇者「うん、退魔師協会に依頼が出ていたから」
フードの侍『となると、お前は退魔師か』
勇者「そう言うことも出来るね。専門ではないんだけど」
フードの侍『なるほど、面白い……』
フードの侍『同業者とやり合えるとはな……!』
525 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/01(土) 13:01:14.01 ID:hdVxsX6L0
勇者「なっ……! それは協会の会員証……!!」
フードの侍『隙きありだ……!!』
勇者「しまっ……!?」
以前の勇者ならば、その一撃で斬り伏せられていただろう。
しかし、その刀は勇者に届くことはなく、ギリギリの所で受け流されてた。
フードの侍『……今のに反応するか……』
勇者「あ……危なあ……」
フードの侍『並の腕ではないな。何者だ?』
勇者「い、いや僕自身は大した者じゃないんだけどね? 一応当代の勇者って事になっているよ」
フードの侍『勇者……! お前がか……!』
526 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/01(土) 13:03:02.78 ID:hdVxsX6L0
フードの侍『……お前が勇者であるとして、それならば何故、あんな屋敷の主に雇われているのか』
勇者「どういうこと……?」
フードの侍『ふん、知らないのか。あそこの屋敷にある物は多くが盗品だ』
フードの侍『あの成金と部下共は、盗賊団上がりの犯罪者共なんだよ』
勇者「なっ……!」
フードの侍『勇者サマが犯罪者の手助けをするのか?』
勇者「……か、仮にその話が本当だとしても、犯罪者相手だから盗み返しても良いって理屈にはならないよ」
勇者「きちんとした手続きを踏むべきだ」
フードの侍『……これが人外相手だったら、そんな面倒なことをしないで殺したって罪には問われないのにな』
勇者「えっ……」
527 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/01(土) 13:16:45.59 ID:hdVxsX6L0
フードの侍『……とにかく、あそこに恩人の大切な形見があるんだ。退かないと言うのであれば、斬ってでも進む』
勇者「……君の話を信用するには、まだ証拠がない……」
フードの侍『……そうか、では……』
勇者「……だから、証拠を見せてよ。もし君が言うことが本当なら、僕も手伝うよ」
フードの侍『参る……って、ええ?』
勇者「だって君の言うことが本当なら、野放しには出来ないよね」
フードの侍『し、しかし……良いのか?』
勇者「僕は自分が正しいって思うことをしたい」
フードの侍『…………』
フードの侍(似ている……彼に……)
528 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/01(土) 13:17:30.77 ID:hdVxsX6L0
フードの侍『しかし証拠か……。持っているのは鍛冶師の売却証書だけだ。これは自分にとっての目安にはなるが、第三者にとっての証拠とはなり得ない……』
疲れた様子の黒髪の男「……証拠は無いけれど、証人ならいるよ」
フードの侍『っ……!』
勇者「あれ、何でここに?」
疲れた様子の黒髪の男「誰よりも早くそいつを見つけ出すつもりだったんだけどね……先を越されたか」
フードの侍『な、何故……何故お前がここにいる!!』
フードの侍は何か恐ろしいものを見るような目で、刀を構えて黒髪の男と向き合った。
勇者「知り合いなの?」
フードの侍『勇者よ……お前は何故こんな男と一緒にいる……!』
勇者「何故って、お世話になっている道場での稽古の相手で……今回は一緒に依頼を受けてくれることになって……」
529 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/01(土) 13:25:05.81 ID:hdVxsX6L0
フードの侍『こいつは……妖刀に取り憑かれて罪なのない人外を斬って回っていた、辻斬りという男だ……!!』
勇者「え……」
疲れた様子の黒髪の男→辻斬り「……久しぶり」
辻斬り「お前は相変わらず自分を隠しているんだな」
フードの侍「……勇者を騙して“善い人”を演じていたあなたには言われたくないかな」
勇者「えっ……その声、女の子!?」
勇者(猫の耳が生えてる……化け猫か何かなのかな……?)
辻斬り「隠していたわけではないよ」
辻斬り「……俺はあの男に敗れ、お前に刀を折られてから、逃げるように皇国を去った」
辻斬り「自分を支配していた妖刀が消えてしまって、自分自身を見失ってしまったから」
530 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/01(土) 13:25:59.72 ID:hdVxsX6L0
辻斬り「だけれど結局この手には刀が握られていた。生きていく術を、他に知らないんだ。だからせめてこれ以上見失わないように、俺は道場の門を叩いた」
辻斬り「結局未だに、自分のことを理解する事は出来ていないけれどね……」
フードの侍→猫又「……じゃあ何? 今はもう悪いことはしていなくて、更生目指して頑張っています、とでも言いたいの?」
猫又「信じられるわけないじゃない!」
猫又「あなたは、私を、彼を、あの神サマを……殺そうとしたんだから……!」
辻斬り「……許してもらえるとは思っていない。だけれど、今は信じてほしい」
辻斬り「俺は、お前の言っていることが正しいと勇者に証明しに来たんだ」
猫又「なっ……」
勇者「じゃあ証人っていうのは……」
辻斬り「ああ、俺だ」
531 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/01(土) 13:33:35.07 ID:hdVxsX6L0
辻斬り「あの刀を打ったのはその猫女の……家族だ」
辻斬り「詳しい事情は知らないけれど、その猫女は大陸中に散らばった盗品を回収してまわっているらしい」
辻斬り「盗品でなくとも、危険な刀は大金を積んで買い取っているとも聞いている」
辻斬り「それなのにわざわざ今回は盗み出すという手段を取っている。これはつまり、あれが盗品であるということなんだろう」
勇者「そんな事情が……」
猫又「なんであなたがそこまで知っているの」
辻斬り「……自分も関わったことだから。多少は情報を仕入れるさ」
猫又「…………」
辻斬り「それよりも早く戻ろう。アレは俺もよく知る種類のやつだ……早めに回収して処分してしまったほうが良い」
猫又「……うん、そうだね。あなたのことを信用した訳ではないけど、あれは長いこと放置しておきたくない」
532 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/01(土) 13:36:11.87 ID:hdVxsX6L0
勇者「あの刀はそんなヤバイものなの?」
辻斬り「……ああ。あれは……」
辻斬り「持った者の殺戮衝動を増長させる、そんな効果がある」
辻斬り「……そう。俺を人外殺しに変えた刀と、同じ気配がするんだ」
533 :
◆8F4j1XSZNk
[sage saga]:2019/06/01(土) 13:37:39.96 ID:hdVxsX6L0
GW中に三回更新すると言って出来なかった分です。
辻斬りや猫又(フードの侍)を思い出せない方は
>>1
から過去スレを読み直して頂けると幸いです。
534 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/10(月) 10:14:33.36 ID:QpCimaKDO
>>533
正直忘れてたけどすぐに思い出した…けどまた読み直して来た
…のにまだ更新されて無いのは一体どういう訳じゃ?
535 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/10(月) 20:16:44.15 ID:WDKhBHLy0
>>534
書き直し部分ができてしまったため遅れてしまいました。申し訳ございません。
現状書き直せたところまで今晩投下します。
536 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/10(月) 20:17:44.05 ID:WDKhBHLy0
*
暗器使い「遅れて来てみれば……何だこの状況は」
僧侶「あ、暗器使いさん……! 実は彼があの刀に触れた瞬間、急に暴れだして……!」
柄の悪い門下生「ウ……ウオオオオオオオオオッ!!」
暗器使い「妖刀は聞いていたが、本物だったのか……」
柄の悪い門下生「コロス…………!!」
暗器使い「ちっ……! 僧侶は下がってろ」
柄の悪い門下生「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
暗器使い(速いな……!)
門下生が刀を振り下ろすと、石畳が大きく抉れた。
537 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/10(月) 20:18:26.62 ID:WDKhBHLy0
暗器使い「お前みたいなパワー馬鹿とは正面でからやり合いたく無いな……!」
暗器使いはどこからともなく鎖を取り出してそれを門下生の持つ刀に巻き付けた。
暗器使い「そいつを奪えば勝ちなんだろ! 楽勝だ……!」
柄の悪い門下生「グギギギ……」
暗器使い「って、この馬鹿力……!」
僧侶「暗器使いさんっ……!」
暗器使いは鎖で刀を奪うどころか、逆に鎖で手繰り寄せられそうになってしまった。
しかし暗器使いは更に鎖を取り出し、門下生の体中に巻きつけて動きを完全に封じた。
暗器使い「流石にこれなら動けないだろう。刀を奪うことも出来なくなったがな……」
そこに勇者たちが遅れて駆けつけた。
538 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/10(月) 20:19:07.47 ID:WDKhBHLy0
勇者「この状況は……!? 僧侶は平気?」
僧侶「ええ、暗器使いさんが来てくれたので……」
僧侶「それよりもそちらの方は……」
猫又「その刀に縁がある者とだけ。しかし、予想通り刀の力に飲み込まれてしまっているね」
辻斬り「…………」
猫又「昔の自分に重ねるのは勝手だけど、今はあの刀を奪い取ることに集中して」
勇者「刀を奪うって言っても、一旦暗器使いの鎖を解かないと……」
柄の悪い門下生「……新参者ノクセニ、生意気ナ……」
暗器使い「その必要は無さそうだ……構えろ!」
門下生は鎖を引き千切り、辻斬りに向かって飛びかかった。
539 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/10(月) 20:19:57.69 ID:WDKhBHLy0
柄の悪い門下生「オ前ヲ殺シテ、俺ノ方ガ優レテイルト証明シテヤル!!」
辻斬り「チッ……!」
門下生と辻斬りの刀がぶつかり合って火花を散らした。
二人の戦いはほぼ互角のように見えて、徐々に辻斬り側が押され始めていた。
勇者「僕たちも加勢しよう……!」
古流剣術師範「それは駄目だ」
勇者「師範さん……いつの間に?」
古流剣術師範「野暮用でついさっきな。しかし予感は的中か」
古流剣術師範「この方は以前目にしたことがあってな。その時から嫌な雰囲気は感じ取っていた」
古流剣術師範「様子を見るに、おそらくあの刀はあいつの過去に大きく関係したものだ」
540 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/10(月) 20:20:41.33 ID:WDKhBHLy0
古流剣術師範「ここで立ち向かうことが今のあいつには必要だ」
勇者「でも……」
辻斬りは明らかに劣勢に転じていた。
このままでは勝敗は明確だ。
古流剣術師範「あいつは過去の自分に負い目がある。それでもなお刀を握ったならば、何をするべきなのかを理解する必要がある」
古流剣術師範「ところでお前さん」
暗器使い「自分ですか」
古流剣術師範「少し頼みがある」
暗器使い「……?」
師範が暗器使いに何やら耳打ちをしている間、勇者は辻斬りらの戦いから目を離せないでいた。
541 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/10(月) 20:21:18.16 ID:WDKhBHLy0
明らかに辻斬りの方が実力は上なのだが、その体はすでに限界を迎えようとしていた。
それはおそらく、その過去の自分への負い目のせいなのだろう。
辻斬り「ハァ……ハァ……」
勇者「……僕も、後悔はいっぱいある」
勇者「今も矛盾を抱えながら生きている。沢山の犠牲の先に僕たちは立っている」
辻斬り「…………」
勇者「でも、この剣を握っている限りは止まれないんだ。一度踏み込んでしまった僕や君には、やり遂げることに責任があるんだ……!」
辻斬り「やり遂げる……責任……?」
勇者「だからそんな所で立ち止まってないで、自分自身の責任を果たしに行こう」
辻斬り「…………」
542 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/10(月) 20:22:06.36 ID:WDKhBHLy0
柄の悪い門下生「ヨソ見ヲスルナァァァァァッ!」
辻斬り「……ああ、そうかもしれない……」
辻斬りの刀から迷いが消えた。
柄の悪い門下生「グアッ!?」
辻斬りは門下生の刀を弾き飛ばした。
すかさずその刀を猫又が『妖刀折りの妖刀』で破壊すると、門下生は糸の切れた人形のように倒れ込んだ。
猫又「……これで、最後の一本だ」
猫又は刀のリストを小さく畳んでポケットへとしまった。
ちょうどそこに、成金男が駆け込んできた。
集落の成金男「こ、この状況は何ですかね!?」
古流剣術師範「ああ、これはこれは丁度いいところに」
集落の成金男「……?」
543 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/10(月) 20:22:58.52 ID:WDKhBHLy0
*
成金男の資産の多くが盗品によるものだった。
暗器使いが途中で師範から指示を受けていたのは、その証拠となる書類の回収だった。
帝国軍と昔から縁の深い道場の主として、前々から大盗賊団の頭領の疑いがあった成金男の調査が指示されていたのだという。
多少の抵抗はあったが、屋敷の外で控えていた帝国軍兵と門下生らの協力もあって全員がお縄についたのであった。
猫又「……過去の罪は、いずれ消えると思っているの?」
勇者「いや、僕はそうは思わないよ」
勇者「罪を一度背負ったら……それが相手に許されないのだとすれば、背負ったまま歩き続けなきゃいけないって思うんだ」
暗器使い「…………」
辻斬り「……俺はかつて、本当に取り返しの付かないことをしてしまった」
544 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/10(月) 20:26:44.93 ID:WDKhBHLy0
辻斬り「妖刀の力によるものとは言え、この手で多くの人外を殺してしまった」
僧侶「……でもそれって、妖刀のせいであって、辻斬りさんが全て悪いというわけでは無いんじゃ……」
辻斬り「罪というのは、望まなくても背負ってしまうことがある。そういうことなんだろうな」
猫又「……望まなくても背負う、か……」
猫又「それを言うなら、私もこんな刀を生み出したご主人様を止められなかった」
猫又「あの時はただの猫だったから、どうしようもないと言えばそれまでだけど」
猫又「私はご主人様の罪を代わりに背負って、今ここに立っているってことなんだね」
猫又「……君を、君の故郷を巻き込んでしまって、ごめんね」
辻斬り「……そんな、俺は……!」
猫又「私は君に斬りかかられた事は許すよ。他のことに比べたら些末な事かもしれないけど、少しでもその方の重荷を下ろしてあげたいんだ」
545 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/10(月) 20:27:20.79 ID:WDKhBHLy0
辻斬り「……俺も」
辻斬り「俺もこの運命が、お前やお前のご主人のせいであるとは思わない。これは俺の心の弱さが生んだ結果なんだ」
辻斬り「だから、お前もその肩の上の物を少しは下ろしてくれよ」
猫又「……うん。さっきは丘で散々な言い方をしちゃって、ごめんね」
辻斬り「あれは事実だ」
辻斬り「……何の因果か、俺はここまで生き延びてきた」
辻斬り「出来ることと言えば、刀を握って戦うぐらいだ。ならばせめて、この腕を誰かのために役立てたい」
辻斬り「勇者。俺もお前たちの旅に同行させてくれないか」
そう言って差し出された辻斬りの腕に、淡い光とともに紋章が現れた。
僧侶「こ、これは……!」
546 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/10(月) 20:27:54.54 ID:WDKhBHLy0
勇者「剣士の紋章……!」
暗器使い「お前が次の仲間という訳だな」
辻斬り「……の、ようだね。勇者さえ良ければ、助力させてくれないかな」
勇者「勿論、歓迎するよ」
勇者「早くエルフさんにも教えてあげないとね」
僧侶「まだ南の森から帰ってきていないんですね」
暗器使い「ああ、こちらが片付いたのがまだ伝わっていないようだな。呼びに行くとしよう」
猫又「……待って」
勇者「どうしたの?」
猫又「南の森側……何か変だよ……」
547 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/06/10(月) 20:28:28.92 ID:WDKhBHLy0
暗器使い「変だと?」
猫又「私は猫又だから、霊とか、そういう死に纏わる気配に敏感なんだけど」
猫又「南側に沢山の“死”を感じる……」
僧侶「言われてみれば、確かに感じます……!」
勇者「……! 急ごう……!!」
548 :
◆8F4j1XSZNk
[sage saga]:2019/06/10(月) 20:30:12.26 ID:WDKhBHLy0
投稿予告しても有言不実行になりそうなので、今まで通りにやっていきます。
半年後ぐらいに思い出してください。申し訳ございませんでした。
549 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/06/12(水) 01:37:01.78 ID:A9v4qX2DO
>>548
乙
狐神読み直してそのノリで突っ込んだだけだから気に病む事はあらぬのじゃ!
550 :
◆8F4j1XSZNk
[sage saga]:2019/06/17(月) 23:00:51.39 ID:kGe2xwg10
>>549
乙ありがとうございます。更新頑張ります。
551 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/06/24(月) 07:27:17.75 ID:ZDw34mNLO
今の辻斬りのランクはどれくらいなんだろ
552 :
◆8F4j1XSZNk
[sage saga]:2019/07/02(火) 15:03:45.78 ID:8Mb4mLm20
>>551
この話の終わりにランク表を出しますが、変化がないとだけお伝えしておきます。
妖刀の狂気に飲まれた強さは無いですが、修行で剣士としてステップアップしたのでプラスマイナスそのままという事です。
553 :
◆8F4j1XSZNk
[sage]:2019/07/02(火) 15:05:28.50 ID:8Mb4mLm20
*
勇者達が南の森に駆けつけると、そこには異様な空気をまとった甲冑の軍団が待ち構えていた。
その先頭に立っているのは、法国のダンジョンで遭遇した新生魔王軍の四天王の騎士だった。
黒い騎士「久しいな、勇者よ」
勇者「エルフさんをどこにやった……!」
黒い騎士「……あの森の民か……」
黒い騎士「知らんな」
勇者「……! 居場所を言えっ!」
僧侶「ゆ、勇者様……」
黒い騎士「今はあの女の心配よりも、自分たちの事を気にしたほうが良い」
554 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:06:55.10 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士の後ろに控えている甲冑の騎士たちが動き出した。
その数は二十ほどだ。
僧侶「あの全てが死霊です……! ですが、何かがおかしいです……」
僧侶「あそこにいる以上の数の気配を感じるんです……」
暗器使い「伏兵か……!?」
猫又「……違うよ……」
猫又は、その猫の耳を丸めて怯えていた。
猫又「あの先頭のヤツ……アイツに“沢山いる”……!」
辻斬り「あの騎士そのものが、死霊の集合体なのか……!」
黒い騎士「今はあの時と状況が違う」
555 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:07:52.48 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「手は抜かないと思え。行くぞ」
死霊騎士「オオオオオオッ!」
黒い騎士が剣を抜くと同時に、死霊の騎士たちが一斉に勇者たちに襲いかかってきた。
勇者、暗器使い、辻斬りはそれぞれ得物を抜き、遅れて猫又も怯えながらも刀を抜いた。
聖なる加護のない普通の武器では霊体を斬ることは出来ないため、暗器使いと辻斬りは敵の動きを封じる事に集中した。
そしてそれらを、勇者の剣と、猫又の持つ『霊体斬りの刀』が一体ずつ葬っていった。
しかし一体一体が驚くほど強いというわけでは無いが、数の差のは覆せなかった。
それに加えて黒い騎士の存在が勇者たちを追い込んだ。
黒い騎士「驚いたな。この数ヶ月で見違えるほど強くなった。」
勇者(ぐっ……! こんなじゃ駄目だ……! もっと“受け入れないと”……!)
556 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:09:08.27 ID:8Mb4mLm20
勇者をまとう雰囲気が、格闘家の隠れ家での一戦のときのように一変した。
黒い騎士「ほう、まだ強くなれというのか……!」
黒い騎士「だが、足りないな!」
黒い騎士の剣が、勇者の首筋を切り裂いた。
勇者「が、がああああああああああああっ!!」
僧侶「勇者様!!」
直ちに僧侶が勇者の傷を治療した。
勇者(おかしい……! ダンジョンの力の恩恵を受けていたはずのあの時と、今の黒い騎士が同じぐらい強い……!)
黒い騎士「不思議か、勇者よ」
黒い騎士「まあ知らずとも良い。貴様はここで死ぬのだからな」
557 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:10:31.37 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「厄介な能力を持つ僧侶とともに葬ってやろう」
黒い騎士が剣を振り上げた。
暗器使い「チッ! 間に合わねえ……!!」
黒い騎士「さらばだ」
僧侶「あ……」
僧侶は、死んだ、と目を伏せたが、その剣が僧侶を切り裂くことは無かった。
ギリギリで飛び込んだ辻斬りの刀がそれを受け止めたのだ。
辻斬り「ぐ……おお……!」
辻斬り(何て重い……!)
黒い騎士「剣士の紋章持ちか……」
558 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:11:33.85 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「やはり勇者は早めに葬るべきであったか」
黒い騎士「来い……! その剣技を俺に見せてみよ!」
辻斬り「……!!」
辻斬りは黒い騎士と善戦はするが、やはり少しずつ押されていった。
黒い騎士「どうした! そんなものか!」
黒い騎士「あの島で戦った正騎士団長や、先の戦場で葬った将の方が強かったぞ!」
辻斬り(猫又の話ではこいつは霊体の集合体らしいが……ちゃんと肉体は持っている)
辻斬り(ならば俺の刀でも倒せるはずなのだが……それが届かない)
辻斬り(最近は精神修行に専念しすぎていた……勇者との稽古があったとは言え、やはり体が出来上がっていないか……)
辻斬り(流石に今の実力差では……)
559 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:12:32.57 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「もう終わりか? ならば望み通り……」
猫又「ちょっと君! 何諦めてんの!」
猫又「休んでいる暇があったらこれを使いなさいよ!」
猫又が投げたものを受け取ってみると、それは鞘に収まった一本の刀だった。
その雰囲気に、辻斬りは覚えがあった。
辻斬り「馬鹿な……これはさっきお前が折ったはずでは!?」
猫又「君が昔持ってたのとも、さっきのとも別。帝国に来る途中に盗賊から取り戻したの」
猫又「それを使えばまだ太刀打ちできるんじゃないの?」
辻斬り「だがこれは……!」
猫又「ああもう! 言ってる場合じゃないでしょ!」
560 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:13:24.46 ID:8Mb4mLm20
猫又「今の君なら大丈夫だから! さっき自分で誓ったことをもう忘れたって言うの!?」
辻斬り「それは……」
黒い騎士「……参る!」
辻斬り「……!」
辻斬り(俺は……せめて死ぬまでは誰かのために刀を振るうと決めた)
辻斬り(だが死ぬのは、今じゃない……!!)
辻斬りが妖刀を抜くと同時に、その身に嫌な感覚が走った。
よく覚えている、懐かしい感覚だった。
辻斬り(俺はもう、あの時とは違う……! 憎しみや、怒りに飲まれない……!)
辻斬り「おおおおおおおおおおおおおおっ!!」
561 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:14:24.92 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「何っ…………!?」
辻斬りの一太刀が、黒い騎士を袈裟斬りにした。
黒い騎士「ぐうううううううっ!?」
辻斬り「ハァ……ハァ……」
辻斬り「もう俺の信念は、曲げさせはしない……」
猫又「ふう……やれば出来るじゃん」
猫又「仮に暴走しちゃったら、また私が止めるから安心しなよ」
辻斬り「いや……もうあんな事は、させない」
猫又「……そ。なら良いんだけど」
辻斬り「トドメだ」
562 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:15:22.83 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「……! 来い! 死霊騎士達よ!!」
黒い騎士の呼び声に応じて甲冑の中から霊体が飛び出し、彼の身体へと吸い込まれていった。
すると辻斬りから受けたはずの深い傷は塞がり、何事も無かったかのように立ち上がった。
黒い騎士「……仕切り直しと、いこうか」
勇者「そうか……アイツは『霊体を吸収して強くなる力』を持っているんだ……!」
勇者「だから法国の地下墓地でもあれほどの強力な力を有していたんだ!」
暗器使い(冗談じゃねえ……俺も勇者も体力の限界だ。辻斬りだってもう一回剣を交える余裕は無いはずだ)
勇者達が満身創痍で得物を構え直したその時、僧侶がその後ろですっと立ち上がった。
僧侶「……今の様子からすると、やはり肉体はあってもその本質は生霊で構成されているようですね」
勇者「僧侶……?」
563 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:16:43.06 ID:8Mb4mLm20
僧侶「貴方が以前よりも力が増しているというのも、二ヶ月前に三国との大戦で沢山の生霊を吸収できたからではありませんか?」
僧侶「ならば、これが効くはずです……!」
僧侶「戦闘が始まってからずっと溜めさせて貰いました! 聖なる光をくらいなさい!!」
僧侶がそう叫ぶと、その両手からまばゆい光が放たれた。
しかしそれは目くらましのためのものではなく、霊体に絶大な威力を発揮する聖属性の術だ。
かつて旅立ちの前に、王都の郊外でゾンビ相手に放った一撃よりも更に強力なものが、黒い騎士の体を直撃した。
黒い騎士「があああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
光と砂埃でその姿は見えないが、苦しむ騎士の声が辺りに響いた。
次こそ終わりだと、辻斬りが踏み込んで刀を振り下ろした。
しかし、その刀は宙を斬った。
564 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:18:48.94 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「やはりその力は厄介だ。ここで斬り捨てなければいずれ我軍の損失に繋がるだろう……!!」
辻斬りも勇者も無視をして、黒い騎士が狙ったのは僧侶だった。
僧侶「やっ…………!」
暗器使い「僧侶っ!!」
先ほどと違い、誰もが間に合わない場所に立っていた。
次の瞬間には、ごろんと僧侶の首が地面に転がっていた。
565 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:29:28.90 ID:8Mb4mLm20
*
──はずだった。
僧侶の首の代わりに地面に落ちていたのは、黒い騎士の腕と剣だった。
黒い騎士「……馬鹿な……! 間に合う距離では無かったはずだ……」
それを斬り落としたのは、勇者だった。
勇者「僧侶を……殺させはしない……!」
勇者「“俺”は……!!」
黒い騎士は瞬時に判断した。
消耗した今では確実に“これ”には勝てないと。
眼の前に立っている男は、自分の知る勇者では無いと。
566 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:30:21.75 ID:8Mb4mLm20
僧侶「きゃっ!?」
黒い騎士は僧侶と自分の腕を抱えてその場を離脱することにした。
作戦による撤退以外で、敵に背を向けたのは初めてだった。
それほど圧倒的な何かを、勇者から感じたのだ。
勇者「僧侶を離せええええええええっ!!!!」
その背後から勇者が迫った。
背中の傷で死ぬとは、何とも不名誉なことだ、と騎士は思った。
迫る勇者の肩に、矢が突き刺さった。
勇者も良く知る、生木から削り出された特殊な矢だ。
勇者「な、んで……!」
567 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:31:19.99 ID:8Mb4mLm20
射手は、木の上からその紅い瞳で勇者たちを見下ろしていた。
僧侶「エ、エルフさん……! 一体何で!!」
紅目のエルフ「…………」
勇者達が初代格闘家の隠れ家を出た直後に入ってきた情報を思い出した。
>大陸会議で取りまとめられた帝国、王国、共和国による共同攻撃が魔国に向けて行われたが、それは完全に失敗に終わってしまった。
>まるで、作戦の全てが筒抜けであったように。
>現在各国は内通者の存在を疑っている。
>特に、あの会議の場に居た者が疑わしいとされている。
勇者「内通者って……エルフさん、だったの……?」
紅目のエルフ「……そうよ」
568 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:35:22.74 ID:8Mb4mLm20
勇者「いつから……!」
紅目のエルフ「最初からよ。私は新生魔王軍の弓兵なの」
僧侶「そんな……」
紅目のエルフ「私ね、人間なんて大嫌い」
紅目のエルフ「私が何であそこまで奴隷商人達を追っていたか教えてあげるわ」
紅目のエルフ「昔、私も奴隷だったのよ」
紅目のエルフ「ハイエルフの白い肌に、ダークのエルフの紅い瞳が珍しいって、随分な高値で取引されたのを覚えているわ」
紅目のエルフ「一緒に妹も奴隷として市場に並んでいた」
紅目のエルフ「でも妹は身体が弱くて、粗悪な環境に耐えられなかった」
紅目のエルフ「安値で叩き売りされて……それで買った奴は妹を連れて行く際に何ていったと思う?」
569 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:37:14.46 ID:8Mb4mLm20
紅目のエルフ「『壊れる前に沢山使ってやる』ってね」
僧侶「ひ、酷い……」
紅目のエルフ「私や妹みたいな目にあった亜人は、大陸中に幾らでもいるはずよ」
紅目のエルフ「そして皆、人間を恨んでいる」
紅目のエルフ「現に、奴隷商から救い出された人外奴隷達の多くがこちらの軍門へ下ったわ」
暗器使い「エルフの森で奴隷商から情報を聞き出した途端に、各地で奴隷市場が襲撃されたのはそういう事か」
紅目のエルフ「そうよ」
僧侶「法国での検問を突破できたのはどういう事なんですか……!?」
紅目のエルフ「それは簡単なことよ。まだ魔王軍での契の儀式をしていないから、術の検知に引っかからなかったの」
紅目のエルフ「何でかは知らないけれど、勇者一行の紋章まで出ちゃうもんだから、内通者にピッタリでしょう?」
570 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:38:19.50 ID:8Mb4mLm20
紅目のエルフ「法王サマは、紋章持ちにはそれぞれ役割があるなんて言っていたけれど、私の役割って何だったのかしらね」
紅目のエルフ「勇者一行を騙して出し抜いてやるってのが役目だったのかもね、あははっ」
僧侶「エルフ、さん……」
紅目のエルフ「皆上手いこと騙されてくれて良かったわ」
暗器使い「……薄々は、気がついていた」
紅目のエルフ「あら、そうなの?」
暗器使い「まず内通者の存在を疑ったのは、あまりに都合よく敵が現れる事からだ」
暗器使い「始めのうちは勇者の行く先を阻むように何度も……今思えばこれは紋章持ち探しを妨害するためだったんだろう」
暗器使い「そして法国での一件を皮切りに、勇者を排除する方針に変わった訳だが……」
暗器使い「あんな山奥に幹部級が二体も現れたのはおかしかった。確実に行き先を流している奴が身近にいなければな」
571 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:40:01.09 ID:8Mb4mLm20
紅目のエルフ「ま、私達の中に内通者がいるとすれば消去法で私よね」
暗器使い「……いや、それでも仲間であるお前を疑いたくは無かった」
紅目のエルフ「……あっそ」
暗器使い「だが確信に変わったのは、ある事に気がついたからだ」
勇者「ある事……?」
暗器使い「法国でその騎士に出会ったときからそうだ」
暗器使い「お前、一度だって新生魔王軍の配下相手には直接攻撃をしていないだろう」
勇者「……確かに……」
僧侶(言われれば……)
暗器使い「法国のダンジョンでは違和感なく戦闘から離脱できるように、あんな芝居を打って俺達と離れたんだろう?」
572 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:40:48.73 ID:8Mb4mLm20
紅目のエルフ「芝居を打ったなんて酷いわ。あの時はこの騎士サマが本気で勇者を殺しに行くから」
黒い騎士「……俺はあの時点で、勇者が危険な力を秘めていると感じ取っていた……」
暗器使い「……そう、“そこに俺は違和感を感じていた”」
紅目のエルフ「違和感……?」
暗器使い「その時もそうだしが、何より……」
暗器使い「何故格闘家の隠れ家での一戦で、サロスから僧侶を庇った! 最後にゼパールの逃亡を妨害した!!」
紅目のエルフ「……!」
暗器使い「お前の行動にはゼパールも解せない表情をしていた」
暗器使い「お前は恐らく……」
紅目のエルフ「……違うわ」
573 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:42:01.08 ID:8Mb4mLm20
暗器使い「お前は勇者達が、仲間が大切に感じられるようになっていたんじゃ無いのか!!」
紅目のエルフ「違うわよ!!!!」
紅目のエルフ「勝手なこと、言わないで……」
紅目のエルフ「少しあなた達のおままごとに付き合ってあげただけよ」
紅目のエルフ「早く撤退しましょう。これ以上は時間の無駄だわ」
黒い騎士「……ああ……」
僧侶「は、離して……!」
黒い騎士が僧侶を抱えて踵を返した。
僧侶(駄目……もう一度術を打つ力の余裕がない……)
勇者「待て……!!」
574 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:45:49.18 ID:8Mb4mLm20
暗器使い「追うな勇者!!」
勇者「だけれど!!」
暗器使い「こっちはもう全員が満身創痍だ。下手に深追いして敵の罠があったらどうするつもりだ……!」
辻斬り「……俺も同意見だよ。これ以上は危険だ」
勇者「このままじゃ僧侶が殺されてしまうんだよ!?」
暗器使い「いいか。今追えば敵の思う壺かもしれない」
暗器使い「僧侶が攫われたのは、俺達の力が足りなかったからだ。この足りない力では、世界どころか僧侶だって救えない。そうだろ?」
勇者「くっ……!」
暗器使い「それに……気休めかもしれんが聞いてくれ」
暗器使い「僧侶は恐らく殺されない」
575 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:46:33.70 ID:8Mb4mLm20
辻斬り「……なんでだい?」
暗器使い「初めの頃、勇者が殺されずに見逃されていた理由と同じだ」
暗器使い「僧侶を殺せば次の僧侶の紋章持ちが現れるだけだ」
辻斬り「なら、殺さずに捕らえておいた方が良い、か」
暗器使い「ああ。奴らはあの能力がこちらの陣営にいることを厄介に思っていたようだからな」
暗器使い「それに、殺すならこの場でも出来たことだ」
暗器使い「黒い騎士はそうしようとしていたが……アイツはそうはしなかった」
勇者「……エルフさん……」
暗器使い「……良いか勇者」
暗器使い「今の俺達に出来ることは二つだ」
576 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:47:19.82 ID:8Mb4mLm20
暗器使い「一つは今まで通り、残りの紋章持ちを探すという事」
勇者「……残りは魔法使いと格闘家の紋章持ちだね」
猫又「へえ、紋章持ちっていうのは全部で七人なんだ」
暗器使い「……そして二つ目は、俺達自身がもっと強くなることだ。もう二度と負けないためにもな」
勇者「うん……そうだね」
暗器使い「それから勇者。お前に一つ聞いておきたい」
暗器使い「その剣と、お前自身についてだ」
勇者「…………」
暗器使い「そろそろ俺達も、知っておいて良いんじゃないのか?」
勇者「……分かった。話すよ」
577 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:48:01.20 ID:8Mb4mLm20
勇者は街まで戻り安全が確保できた所で、暗器使い達に剣の秘密を語った。
暗器使い「……驚いたな。その剣の中に“初代勇者様がいる”って言うことになるのか?」
勇者「そうだと思う」
勇者「初めの内は夢にぼんやりと出てくる程度だったんだけど、最近ははっきりと認識できるようになったんだ」
勇者「剣のおかげで僕は初代勇者様の力を借りることが出来る」
勇者「それこそ最近は……かなり力が馴染んできた感覚があるよ」
暗器使い(時折別人のように強くなるのはそのせいか……)
暗器使い「しかし何で今日までその事を黙っていた? 何か問題でもあるのか?」
勇者「それは……その……ほら、確証が持てなかったって言うか」
勇者「この剣に宿っているのが誰かをきちんと認識できるようになったのは最近だから、言い出すタイミングがなくて」
578 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:53:04.52 ID:8Mb4mLm20
暗器使い「……そうか。そういう事にしておこう」
勇者「うん……」
猫又「あのさ、初代勇者の魂と一体化したような状態になったおかげで記憶の共有も出来たのなら、あの騎士のことも何か分からないの?」
勇者「ええっと、まだ完全に記憶が共有できている訳じゃ無いんだ」
勇者「現に魔王の事ですら何にも頭に浮かんでこないんだ」
勇者「ただそれにしても恐らくは……あの騎士は千年前の大戦の時にはいなかったはずだよ」
辻斬り「新しく加入した幹部って事か」
辻斬り「ま、新生なんて名乗るぐらいだし中身は結構別物って可能性は高いね」
辻斬り「初代勇者の記憶……場合によっては俺達にとってかなり有益な情報をもたらしてくれるかもしれないね」
暗器使い「かもな……」
579 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:53:50.27 ID:8Mb4mLm20
暗器使い「そんで、これからそうするんだ? いつもの直感で行きたい場所は無いのかよ」
勇者「それがね……中々ピンと来なくて」
勇者「もしかしたら、ここで少し腕を磨いていけって事なのかもしれない」
辻斬り「そういう事なら付き合うよ」
辻斬り「俺もかなり、剣筋に鈍りがあるみたいだからねえ」
暗器使い「お前はどうするんだ?」
猫又「私? ……うーん……」
猫又「君たちが良ければだけど、しばらくは一緒に行動してみようかな」
猫又「妖刀の監視もしなきゃ、だし」
辻斬り「それは心強いけど……何でまた?」
580 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:54:39.94 ID:8Mb4mLm20
猫又「盗品の刀は今回で全部回収できたから、私の生きている目的っていうのは果たされてしまったわけ」
猫又「前はね、その目的が無くなったあとどうしたら良いんだろうって不安だったの」
猫又「でもね、皇国で知り合ったある二人組のおかげでその不安も消えた」
猫又「どんな些細な、どんな下らない事でもまた次を見つければ良い。簡単なようで難しいことだけど、そう思うようにしてるの」
猫又「しばらくは君たちが歴史をどう動かしていくのか眺めているのも面白いかなあって」
暗器使い「同行者が増えるのは心強いが、大丈夫なのか?」
勇者「あんまり紋章持ち以外が仲間になると良くないとは聞いているけど、一人や二人なら何の問題も無いはずだよ」
勇者「実際初代勇者様だって色々な人と冒険していたからね」
勇者「猫又さんが良いなら是非」
猫又「それならしばらく厄介になるね」
581 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:55:12.09 ID:8Mb4mLm20
辻斬り「あんたと一緒に行動する日が来るとはね……」
猫又「それはこっちのセリフ。あのときの傷跡残っているんだから」
辻斬り「それは……悪かったよ」
猫又「ま、いずれ何かの形で返してもらうわ」
辻斬り「ああ、そうする」
辻斬り「さて、取り敢えずは道場に戻るって事で良いんだよね」
勇者「うん、そうしようかな」
辻斬り「それじゃあ行こうか」
辻斬り(初代勇者が宿った剣か……恐らくはこの刀も……)
辻斬り(いろいろと調べてみる必要が有りそうだな)
582 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:56:56.75 ID:8Mb4mLm20
*
──数日後、魔国にて
百目の異形「では無事に僧侶の紋章持ちを捕獲できた、と」
黒い騎士「ああ……だが肝心の勇者を仕留めきれなかった」
隻腕の忍「あっちには剣士の紋章持ちも加わっていたんだろ? それは予定外だったから仕方が無い」
隻腕の忍「あの紋章持ちは毎度毎度、単純戦闘力が飛び抜けているからな」
妖艶な術師「だからこそ、発展途上の今に叩いてしまえれば良かったのだけれど」
黒い騎士「済まない……」
妖艶な術師「まあ、僧侶の力と貴方の魂の相性は最悪だからね……不意打ちを食らったのであれば仕方が無いけれど」
百目の異形「もう少しそちらに兵力を回せれば良かったのだが、敵の目を掻い潜るためにはあまり大所帯では困るのでな……」
583 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:58:53.52 ID:8Mb4mLm20
隻腕の忍「何より人間の連合国側の攻撃が苛烈になってきているからなあ。主力はやはり前線に置きたい」
隻腕の忍「向こうも先の作戦の失敗分を取り戻そうと必死なんだろう」
百目の異形「うむ。その件については見事な働きだったぞ、エルフよ」
百目の異形「まさか勇者パーティー内に間者がいるとは思いもしなかっただろう」
紅目のエルフ「……それはどうも」
妖艶な術師「それにしても、僧侶は殺さなかったのね」
妖艶な術師「当代はかなり強い力を持っているみたいだから殺して次に移しても良かった気がするけれど」
妖艶な術師「長いこと一緒に居て情でも移っちゃった? エルフちゃん?」
紅目のエルフ「……まさか」
新生魔王軍の長「そこまでにしておけ」
584 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:59:27.28 ID:8Mb4mLm20
新生魔王軍の長「黒い騎士が殺さずに捕獲をしたのであれば、あれは騎士の物だ」
新生魔王軍の長「四天王は互いに過干渉をしてはならない……そう決めたはずだ」
妖艶な術師「分かっているわ。ちょっと疑問に思っただけよ」
新生魔王軍の長「今回は先の戦の穴を突いて黒い騎士らを送り込めたが、この先は警戒も強まってそう簡単には行かないだろう」
新生魔王軍の長「残りの転移魔法陣も多用はでき無いのでな」
新生魔王軍の長「勇者本人を叩けなかったのは痛かったが、回復役を削げたのは大きい」
新生魔王軍の長「次の機を見て当代勇者は消す」
新生魔王軍の長「四天王はこの先も自身の役割を果たせ。良いな?」
百目の異形「うむ」
妖艶な術師「はあい」
585 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 15:59:59.79 ID:8Mb4mLm20
黒い騎士「承知した」
隻腕の忍「へいへい」
新生魔王軍の長「紅目のエルフも今後は別の役割を与えることになる。頼んだぞ」
紅目のエルフ「分かりました……」
新生魔王軍の長「傲慢な人間共からこの大陸を奪い取る。その日まで我々は止まれん」
新生魔王軍の長「さあ奴らにもう一泡吹かせてやろうか……!!」
586 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 16:00:44.72 ID:8Mb4mLm20
《ランク》
S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師 初代格闘家
A〜 黒い騎士
A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長 第○聖騎士団長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ ゼパール 勇者(初代の力)
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 隻眼の斧使い サロス
B1 狼男 赤鬼青鬼 暗器使い
B2 お祓い師 勇者 第○聖騎士副団長 褐色肌の武闘家
B3 猫又 小柄な祓師 紅眼のエルフ
C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵 影使い オーガ 竜人 ゴロツキ首領 柄の悪い門下生
C2 トロール サイクロプス 法国の熱い船乗り 死霊騎士
C3 河童 商人風の盗賊 ウロコザメ
D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶 コボルト
D2 狐神 青女房 インプ 奴隷商 雇われゴロツキ 粗暴な御者
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ
※あくまで参考値で、条件などによって上下します。
※黒い騎士は特に条件変動が激しいためA〜とします。
※聖騎士団長は全団A1クラス
※聖騎士副団長は全団B2クラス
※前作「フードの侍」を「猫又」に変更。
※勇者(初代の力)は名前の通り、剣の力に頼った状態でのランクです。
※お祓い師(式神)は、狐神の力を借りている時のランク。
587 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/07/02(火) 16:01:33.99 ID:8Mb4mLm20
《出会いと》編でした。
次回は《不毛の大地》編です。
588 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/07/03(水) 02:08:25.04 ID:PPMgNJKDO
待ってたぜ!乙乙
589 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 19:57:31.58 ID:B6eGxfUL0
《不毛の大地》
──紅目のエルフが裏切り者だと判明し、僧侶が新生魔王軍に攫われてから二ヶ月が経過しようとしていた。
連合国と魔国の戦いは一進一退で終りが見えず、日に日にお互いが疲弊していくのが感じられた。
紅目のエルフの裏切りが露見した事もあり、過激派がより一層人外を糾弾するようになった。
彼らと人外擁護派の衝突によって戦線から遠い街の治安も悪化の一途を辿っていた。
勇者達はそんな各地を回って暴動や事件を治めながら、他の紋章持ちを探して帝国から共和国へと拠点を移すことになっていた。
勇者「あ、暑い……」
暗器使い「これはキツイな……」
帝国と共和国の国境を越えてしばらく、勇者達は巨大な砂漠の真ん中を進んでいた。
辻斬り「地域的に暑いのは当然なんだけど、こうも植物がないと肌を刺すような暑さになってしまうんだねえ……」
猫又「水ちょうだい……」
590 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 19:58:18.69 ID:B6eGxfUL0
辻斬り「はいはい」
勇者「次の集落まではどれ位かな」
暗器使い「日が沈むまでには着けそうだな」
猫又「良かった。夜は日中と打って変わって冷え込むから」
辻斬り「その距離なら水も十分持ちますね」
暗器使い「ああ、あと少しだ。頑張って行こう」
勇者「……そうだね」
休憩を終え、砂漠でのメジャーな移動手段となる砂漠アシダカドリに各々騎乗した。
最後に腰を上げた勇者は身長こそ変わらないものの、少し逞しい背中に成長していた。
591 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 19:58:48.75 ID:B6eGxfUL0
*
目的の集落が近付いて来た時、勇者達はある異変に気がついた。
猫又「何か騒がしいね」
勇者「うん、行ってみよう……!」
勇者達が騒ぎの起こっている方へと駆け付けると、集落で逃げ惑う人々の姿があった。
砂漠の村人A「に、逃げろおおおお!!」
砂漠の村人B「ヒイイイイイッ!!」
勇者「一体何があったんですか!?」
砂漠の村長「た、旅の人かね……! ここは危ないから逃げなさい!」
砂漠の村長「“ヤツ”らが現れたのだよ……!!」
592 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 19:59:43.17 ID:B6eGxfUL0
暗器使い「ヤツら……?」
その時、勇者達の背後の砂の中から巨大な影が姿を現した。
砂漠の村長「あ、危ないっ……!!」
暗器使い「何だ!? ジャイアントワームか!?」
巨大なミミズのような怪物が、勇者達を飲み込もうとその口を開けて迫ってきた。
勇者「っ!!!!」
しかし、次の瞬間には勇者の抜いた剣によって真っ二つに切り裂かれてしまった。
辻斬り「うん、だいぶ様になってきたな」
勇者「……まだまだ、辻斬りさんには敵わないよ」
砂漠の村長「あ、貴方がたは一体……」
593 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:00:19.17 ID:B6eGxfUL0
勇者「僕は勇者です。ここは僕たちにお任せを」
*
しばらくして、集落に大量発生していた怪物たちは一掃された。
お礼に、と勇者達は快く集落に招き入れられたのだった。
砂漠の村長「勇者様方にはなんとお礼を言えば良いのか……」
勇者「そんな、当然のことをしたまでですよ」
辻斬り「それにしても、さっきの怪物たちは一体……」
砂漠の村長「あれはジャイアントワームの砂漠固有種、サンドワームです」
砂漠の村長「砂の中から馬や牛ですら一飲みにしてしまう恐ろしい怪物ですが、ある特定の音を嫌がるという性質が有りましてな」
砂漠の村長「その音を砂中に流し続ける特殊な魔法の鐘で集落を守るのがこの辺りでは普通の事なんですよ」
594 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:02:44.16 ID:B6eGxfUL0
猫又「そんな事を知らずに砂漠越えをしていたね」
辻斬り「最悪睡眠中に食われていたかもねえ」
暗器使い「まったく運が良いんだか、なんだかなあ……」
暗器使い「それで、今回はその鐘が有りながらなんであれ程のサンドワームが集落に?」
砂漠の村長「最初は鐘の故障を疑ったのですが、どうやらそうでは無いらしく……」
砂漠の村長「サンドワームの生態に詳しい者によると、何やら奴らは怯えた様子だったと言っていましてね」
猫又「普通なら嫌がる鐘の音を無視できる程の何かから逃げてきた、と」
砂漠の村長「うむ……」
砂漠の村長「先程他の集落からも同様の報告が来ましてね。この砂漠で何かが起こっている可能性は高いでしょうな」
勇者「サンドワームが怯える程の何か……」
595 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:03:36.41 ID:B6eGxfUL0
勇者「…………」
砂漠の村長「…………」
砂漠の村長「勇者様のお考えになっていることは分かります。ですがご自身の目的のためにここは早く出られたほうが良いでしょう」
勇者「で、ですが……」
砂漠の村長「今回は急にヤツらが現れたものだから対応に遅れましたが、警戒をすれば何てことは有りませんな」
砂漠の村長「既に周辺集落との連携も始めていましてね」
暗器使い「勇者、村長のおっしゃる通りだろう」
暗器使い「実際さっきの戦い、彼らの活躍が大きかっただろう?」
村守護のダークエルフ「町へ食糧の買い出しに行っている間にこんな事に……申し訳ない」
砂漠の村長「何、自分の人員配分ミスだ」
596 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:04:13.28 ID:B6eGxfUL0
砂漠の村長「我々はこの砂漠で代々ずっと暮らしてきた民族でしてね」
砂漠の村長「この程度の困難、乗り越えてみせましょう」
勇者「……分かりました」
砂漠の村長「しかしやはり砂漠に現れた何かについて、勇者として気になる点は有るのでしょうな」
砂漠の村長「他の集落からの情報をまとめると、方角は恐らく南東側……」
砂漠の村長「この共和国の首都の方角とおおよそ一致しますな」
砂漠の村長「あちらの方がより情報が手に入るでしょう。元々の目的地のようですからな、丁度良いのでは?」
猫又「そういう事なら明日の朝にはまた出発した方が良さそうだね」
辻斬り「うん。今晩はお言葉に甘えてここで休ませて貰おうか」
砂漠の村長「ええ、しっかりと疲れを取って下され」
597 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:05:00.79 ID:B6eGxfUL0
*
翌朝、村長の厚意で携帯用のワーム避けの鈴を貰い、勇者達は共和国首都を目指して出発した。
更に砂漠の案内人としてダークエルフが同行してくれる事になった。
勇者「すいません、わざわざ僕たちのために……」
村守護のダークエルフ「旅人を送り届けるのも我々の仕事だ」
勇者(確かにそれなりのお金も取られたけど……この地で暮らすために必要な仕事なんだろうな)
村守護のダークエルフ「村のことは大丈夫だ」
村守護のダークエルフ「……この砂漠は広いが、生き物が暮らせる場所は限られている」
村守護のダークエルフ「水が湧き、わずかに緑が茂る場所に少数が寄り添う……そんな村々が点在している」
村守護のダークエルフ「一つ一つの規模が小さいからこそ、昔から有事の際は皆で結託をして乗り越えてきた」
598 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:08:43.68 ID:B6eGxfUL0
村守護のダークエルフ「今回も“何か”が起こっていると思われる場所の周囲の者は、比較的広い集落へと避難させ、我々ダークエルフが重点的に守護にあたっている」
暗器使い「ダークエルフは古来よりこの砂漠に住まう亜人種なんだな?」
村守護のダークエルフ「……古来言うほど長い歴史は無い。せいぜい八百年ほどだろう」
猫又「八百年でも十分長いけれど……」
辻斬り「俺達と亜人とでは時間の尺度が違うのさ」
勇者「失礼な質問になってしまうんですが、良いですか」
村守護のダークエルフ「気にするな。だいたい聞きたいことは分かる」
村守護のダークエルフ「何故こんな不便な場所に住んでいるのか、だろう?」
村守護のダークエルフ「理由は森の民と大体同じだ。過去の大戦で人間と人外が対立した後、教会勢力がいる国々では俺達亜人も迫害の対象になった」
辻斬り「森の民……エルフか」
599 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:09:47.88 ID:B6eGxfUL0
村守護のダークエルフ「ああ。だが俺達と奴らとでは境遇が違った」
村守護のダークエルフ「千年前の当時、俺達の祖先の多くは魔王軍側に加わっていた」
村守護のダークエルフ「エルフに領土を分け与えた王国も、流石にダークエルフに干渉することは出来なかったみたいだ。そのときには既に、教会の力は絶対的なものになっていたからな」
暗器使い「初代勇者パーティの弓使いもエルフだったと聞くからな。そういう点も、当時の国王の行動が見逃された理由の一つだったんだろう」
村守護のダークエルフ「その口ぶりでは今回もエルフなのか?」
勇者「うん……今は訳あって居ないけれど」
村守護のダークエルフ「……詳しくは聞かないでおこう」
暗器使い「やつの瞳はお前たちのように燃えるような紅色だった」
暗器使い「本人曰く、どこかにダークエルフの血が混ざっているらしいが」
村守護のダークエルフ「エルフのとダークエルフの混血か……珍しいな」
600 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:10:34.34 ID:B6eGxfUL0
村守護のダークエルフ「かの大戦後は我々は砂漠に、奴らは森に籠もっているからな。交流は無いに等しい」
村守護のダークエルフ「大戦以前も良い間柄では無かったようだしな」
村守護のダークエルフ「さて話を戻すか」
村守護のダークエルフ「この砂漠に留まる理由……それは俺達ダークエルフも、あの集落の人々も同じだろう」
村守護のダークエルフ「ここが故郷だからだ」
村守護のダークエルフ「先祖がここに住み着いた理由は関係ない。それは彼らも同じだろう」
村守護のダークエルフ「生まれ育った場所を簡単に捨てることは出来ないものさ」
辻斬り「故郷、か……確かに大事なものだね」
猫又「…………」
辻斬り「しかし大丈夫なのかい? ここの国のお偉いさんには人外亜人嫌いが多いと聞くけれど」
601 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:11:02.63 ID:B6eGxfUL0
村守護のダークエルフ「その心配はない……まあ街に着けば理由も分かってくるだろう」
辻斬り「…………?」
602 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:11:46.74 ID:B6eGxfUL0
*
集落を発って一月近く、ようやく一面砂の景色から変わって人々が多く行き交う場所に到達していた。
しかし彼らの顔はどこか暗く、活気が感じられなかった。
その空気は首都に到着しても同じで、少しメインストリートから外れればならず者がたむろする怪しい地域に迷い込んでしまうようになっていた。
村守護のダークエルフ「流石にこの先はついて行けない。この先の酒場で仕事を探しているから、また用があれば来てくれ」
村守護のダークエルフ「次は大値引きするさ」
勇者「はは、分かりました。ありがとうございます」
ダークエルフに別れを告げると、予め退魔師ギルド経由で連絡を取っていたとある人物に謁見するために中心部に向けて歩き出した。
足を進めると少し賑やかさが出てきたようで、出し物などをしている姿も散見された。
観光客らしき男「食いもんはここまでだ。夜に食べられなくなっても知らねえぞ」
603 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:12:12.88 ID:B6eGxfUL0
観光客らしき女「ふん、わしの胃が底なしであるという事を忘れたのかのう?」
観光客らしき男「俺の財布が底ありなんだよ!!」
観光客のような人々の姿も増えていき、ようやく中心部らしい雰囲気になってきた。
しかしそれでもどこか影があるのは、今が戦争中だからなのだろうか。
604 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:15:45.58 ID:B6eGxfUL0
*
それからしばらくして、勇者らは目的の人物と卓を囲んでいた。
眼鏡の共和国外交官「久しぶりですね勇者殿。会議以来なので半年以上ですか」
勇者「お久しぶりです……」
眼鏡の共和国外交官「そちらが剣士の紋章持ちの方と……また新しいのが“一匹”紛れ込んでいますね」
勇者「そんな言い方は……!」
猫又「気にしないよ。私猫だし」
眼鏡の共和国外交官「また同じ轍を踏むのですか、勇者殿」
眼鏡の共和国外交官「例の内通者のことはとっくに耳に届いています」
勇者「…………」
605 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:16:37.36 ID:B6eGxfUL0
眼鏡の共和国外交官「人外共は我々を同じ知的生命だとは思っていない。家畜と同じです」
眼鏡の共和国外交官「分かり合うことなど出来ないのですよ」
勇者「それは、貴方も同じなのでは無いですか……?」
眼鏡の共和国外交官「そうです。だから争うしか無いのです」
勇者「でも少なくとも僕は……僕たちは違います」
勇者「全員が納得の行く方法なんて無い……だから僕は僕の信じたようにやるんです。それは貴方と同じことのはずです」
眼鏡の共和国外交官「……後悔してからでは遅いのですよ?」
勇者「後悔はもう十分してきました。これからも沢山するでしょう」
勇者「でも僕はやります」
暗器使い「勇者……」
606 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:17:08.09 ID:B6eGxfUL0
眼鏡の共和国外交官「……そうですか。ならば好きにすると良いでしょう」
眼鏡の共和国外交官「ただしここは我々の国です。ルールには従っていただきます」
勇者「勿論です」
眼鏡の共和国外交官「さて本題ですが……ここ最近共和国で入手できた情報について教えて欲しい、でしたか」
勇者「はい」
607 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:19:35.86 ID:B6eGxfUL0
*
暗器使い「やはり戦線は厳しい状態か……」
眼鏡の共和国外交官「例のダンジョンの罠で各国とも主力を多くを失いましたからね」
眼鏡の共和国外交官「最深部に誘い込みダンジョンごと爆破するとは卑劣な手段を……」
眼鏡の共和国外交官「勇者殿はよく生還できたものだ」
勇者「僕に関しては恐らく、あの時点では向こうが殺すつもりが無かったんだと思います」
眼鏡の共和国外交官「ふむ……?」
勇者「実は……」
勇者は眼鏡の共和国外交官に事情を説明した。
眼鏡の共和国外交官「勇者の力のシステムを逆手に取るために、勇者の力を見極めていたという事ですか……」
暗器使い「予想に反して勇者が成長し始めたから、始末するって方針に変わったようだがな」
608 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:20:19.44 ID:B6eGxfUL0
辻斬り「相手は勇者の力を厄介におもっているようだからねえ。紋章持ちが全員揃うのも快く思わないんじゃないかな」
眼鏡の共和国外交官「そうですか……しかし残念ながら我が国で紋章持ちが覚醒したという話は聞いていない」
勇者「そうですか……」
眼鏡の共和国外交官「力になれず申し訳ない」
眼鏡の共和国外交官「その件に関しての情報はありませんが、少し気になる話が有りましてね」
暗器使い「気になる話?」
眼鏡の共和国外交官「ここから南西に向かった砂漠の中にダンジョンらしき建造物が現れ、そして消えたという噂です」
勇者「ダンジョンらしき建造物……!」
辻斬り「へえ……?」
眼鏡の共和国外交官「元々は古代の遺跡があった場所なのですが、それとは似て非なるものが一晩だけ観測されたのことで、今聖騎士達が調査の準備をしているところでしてね」
609 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:20:51.96 ID:B6eGxfUL0
眼鏡の共和国外交官「勇者殿は戦線ではない地域で活躍することに注力している様子なので、良ければ聖騎士らに話を通しましょうか?」
勇者「……よろしくお願いします……!」
610 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:21:41.36 ID:B6eGxfUL0
*
勇者達は案内されるがままに、大聖堂横の聖騎士の兵舎へとやって来た。
そこに現れたのは修道女にしては顔の険しい、騎士にしてはあまりに身軽な女性だった。
その姿を一目見て、勇者は気がついた。
勇者(人間じゃ、無い……? 教会に何故……)
目付きの悪い細身の女性「貴様が勇者か」
勇者「う、うん……」
目付きの悪い細身の女性「付いて来るが良い」
勇者「は、はい……」
暗器使い(怖い姉ちゃんだな……)
611 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:26:21.39 ID:B6eGxfUL0
辻斬り(しかもかなり強そうだ)
猫又(お腹空いたなあ)
目付きの悪い細身の女性「何故我がこのような小間使いのような……」
終始機嫌の悪そうな女性に付いていった先は小さな応接間のような場所で、既に何人かの人物が待機していた。
その多くがフードを深く被っており、異様な雰囲気に包まれていた。
その中心にいる騎士らしき男だけが柔和な笑みで勇者達を招き入れた。
共和国首都の聖騎士長「私はこの首都教会の聖騎士長を任されている者です。よろしくお願いします、勇者御一行様」
勇者「よろしくお願いします」
共和国首都の聖騎士長「案内を任せてしまって済まなかったね。こちらも慌ただしくて」
目付きの悪い細身の女性「二度とやらんぞ」
612 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:27:30.80 ID:B6eGxfUL0
ぶっきらぼうな女性の物言いに、控えていたうちの一人が立ち上がって不機嫌そうな顔を見せた。
赤毛の術師「貴女、誰の温情で今存在できているのかまだ理解できないみたいね」
目付きの悪い細身の女性「……それは貴様が言うことではなかろうが、雌餓鬼が」
赤毛の術師「は?」
目付きの悪い細身の女性「あ?」
共和国首都の聖騎士長「こらこら二人共、お客様の前だ」
赤毛の術師「しかし……!」
共和国首都の聖騎士長「落ち着いて、な?」
赤毛の術師「…………はい」
火花を散らす女性二人を、聖騎士長が困った顔をしながらその場を収めた。
613 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:28:13.18 ID:B6eGxfUL0
暗器使い「(うちの子はこうじゃなくて良かったな……)」
辻斬り「(いやいや、この子も意外と凶暴だよ?)」
猫又「(……あ?)」
勇者「(ま、まあまあ……)」
辻斬り「(それにしても案内してくれた子も、赤毛の子も並の実力じゃない……)」
暗器使い「(何よりあの優男……法国の正騎士団長に劣らない力を感じる)」
猫又「(首都を任されるにはそれだけの力が必要って事なんじゃないの?)」
猫又「(これだけの実力者が集まる必要があるものなの? ダンジョンってやつは)」
勇者「(うん。決して油断できない場所なんだ)」
共和国首都の聖騎士長「さて少し狭いけれど席に着いてもらえますか」
614 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:28:56.02 ID:B6eGxfUL0
共和国首都の聖騎士長「まさかこのタイミングで勇者殿らが訪れてくださるとは、これも導きなのでしょうか」
暗器使い「砂漠にダンジョンらしきものが出現したとの事だが……」
共和国首都の聖騎士長「恐らくはダンジョンで間違いないみたいですね。本来あの位置にあるはずのダンジョンが宣戦布告時に現れなかったそうなので」
辻斬り「本来あるはず……? 何故そんな事を知っているんだい?」
共和国首都の聖騎士長「敵の情報を握っている者はこっち陣営にもいるってことですよ」
目付きの悪い細身の女性「…………」
共和国首都の聖騎士長「ダンジョンを出現させた者の検討もついています」
共和国首都の聖騎士長「非常に強力な敵です。ここの戦力だけで勝てるかどうか……」
暗器使い「それほどの……!?」
共和国首都の聖騎士長「ええ。“理”側の存在と考えていいでしょう」
615 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:31:05.54 ID:B6eGxfUL0
勇者「つ、つまり……素の状態でもランクSなのは確定だと……」
目付きの悪い細身の女性「しかも生半可な者ではではない」
目付きの悪い細身の女性「死ぬ気がないのであれば残って寝ているが良い」
勇者「…………!」
共和国首都の聖騎士長「本来ならば“あの方”の協力を得たかったのですが」
赤毛の術師「『この街からは出ない』との事で……」
共和国首都の聖騎士長「やれやれ、いつも通りですか……」
勇者(ランクSの凄さは目の当たりにしてきた……)
勇者(初代格闘家様やダンジョンでの黒い騎士……皆自分一人では及ばない強さだ……)
勇者(でも……!)
616 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:31:40.37 ID:B6eGxfUL0
勇者「この剣が、行かねばならないと言っているんです……!!」
暗器使い「勇者、それは……」
勇者「うん、そらくは」
目付きの悪い細身の女性「……好きにしろ……」
共和国首都の聖騎士長「よし。それならこの先の話に進めましょうか」
共和国首都の聖騎士長「やはりダンジョンの主は、“アレ”で間違いないのですね?」
目付きの悪い細身の女性「うむ、確実だ」
目付きの悪い細身の女性「彼処に眠っていたのは海の王レヴィアタンと対を成す、ベヒモスと呼ばれる獣だ」
赤毛の術師「……ベヒモス……!」
猫又「私でも知ってるぐらい有名な怪物だね」
617 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:32:27.24 ID:B6eGxfUL0
猫又「でも確かレヴィアタンと同士討ちで死んでしまったんじゃなかったっけ?」
目付きの悪い細身の女性「ふん、それは違うな」
目付きの悪い細身の女性「かの大戦が終結した後も、ベヒモスとレヴィアタンは戦い続けていた」
目付きの悪い細身の女性「奴曰く……真の死を求めてとの事だが、我にはあの考え方は理解できん」
目付きの悪い細身の女性「そしてその戦いに巻き込まれた男がいた…………初代戦士だ」
勇者「もしかして初代戦士様が海上で亡くなった原因って……」
目付きの悪い細身の女性「その時の消耗によるものだろうな」
目付きの悪い細身の女性「結果として初代戦士は死に、ベヒモスは瀕死に……レヴィアタンは生死が不明だそうだが恐らく死んだだろう」
目付きの悪い細身の女性「ベヒモスはそのまま数十年眠り続け……そして目覚めると辺り一面が不毛の大地と化していたという」
辻斬り「その言い方だと、あの砂漠が出来たのは大戦の後だったのかい?」
618 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:33:18.27 ID:B6eGxfUL0
目付きの悪い細身の女性「何だ、何も知らんのか」
目付きの悪い細身の女性「いかに初代戦士と言えど、あの怪物二体を同時に相手して致命傷を与えるなど無理な話だ」
勇者(その通りだ……剣の記憶をたどってみても、あの方一人だけではそんな芸当が出来るとは思えない……)
勇者(駄目だ……! 何か引っかかる……記憶が……)
目付きの悪い細身の女性「やはり“正しい歴史”は伝えられていないのか」
目付きの悪い細身の女性「……やれやれ」
目付きの悪い細身の女性「あの砂漠と同じような地域がこの大陸にあるだろう。そこについて調べてみることだな」
猫又「随分と詳しいんだねえ。それにさっきの口ぶりからすると……」
目付きの悪い細身の女性「……その通りだ。我は元々魔王軍下にあった」
暗器使い「やはりか……しかし何故」
619 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2019/08/15(木) 20:33:44.73 ID:B6eGxfUL0
目付きの悪い細身の女性「経緯は省く」
目付きの悪い細身の女性「ただ単に、自分の愚かさに気がついただけだ」
赤毛の術師「…………」
目付きの悪い細身の女性「奴らの近くにいた立場からの言葉としてもう一度聞くが良い」
目付きの悪い細身の女性「勝てると思うなよ」
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