僧侶「勇者様は勇者様です」

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299 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2018/08/23(木) 16:52:56.96 ID:b0hzDa7B0
次で《始動》編は終わると思います。
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/24(金) 01:26:55.60 ID:Blw+ng1DO
乙乙
待ってたで
301 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/11/15(木) 16:14:59.74 ID:v6ol9et80
復旧していたんですね……!
週末辺りからぼちぼち再開します。
302 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:42:19.11 ID:xFQvJJ0J0





勇者「日数はかかっているけど道中何の問題もなく進んでこられたね」

暗器使い「統率の取れた軍隊というのはそれだけ強力だ」

僧侶「一応聖騎士団は軍隊では無いのですけれどね」

暗器使い「やっていることは同じだろう。他国への不可侵を謳ってはいるが、各国の教会には駐留しているしな」

暗器使い「共和国の教会のようにほとんど独立してしまった所も有るようだが」

勇者「あはは……言いたいことは分かるけど騎士団のど真ん中でする話では無いかも……」

暗器使い「それもそうか」

僧侶「ふう……」

第五聖騎士団長「距離はあとどの程度だと思うか」
303 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:44:02.61 ID:xFQvJJ0J0
暗器使い「これ自身に距離を測る機能などはありませんが、迂回時の針のブレの大きさからみてもあと少しでしょう」

暗器使い「目標自体が大きく動いている様子は無いのでこちらを待ち構えているのかもしれません」

第五聖騎士団長「そうか……ならばあの中か」


聖騎士団長が指差した先には古びた石造りの建物が見えた。


僧侶「修行用の寺院の跡地……」

第五聖騎士団長「それを利用した迷宮の最深部だろう」

暗器使い「誘い込まれている。まあ恐らくは罠だろうな」

勇者「うん……でもエルフさんも見つからなかったし進むしか無いと思うんだ」

勇者「罠があったとしてもあの黒い騎士がこの中に居るのは確かなんだから」

第五聖騎士団長「そうだな……中に突入する隊と外で待機する隊に分けるとしよう」
304 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:45:11.46 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「突入隊は人数を絞る。待機側はお前に一任しよう」

第五聖騎士副団長「はっ!」

第五聖騎士団長「僧侶、お前もここで待機だ」

僧侶「ですが叔父様……」

第五聖騎士団長「気が付かないか? 我々は今敵に囲まれている」

僧侶「えっ」

勇者「うん、かなりの数……しかも強い」

第五聖騎士団長「待機組には奴らを相手にここで耐えてもらうことになる」

第五聖騎士団長「私の配下は精鋭だ。しかしそれでも負傷は避けられないだろう」

第五聖騎士団長「一族に伝わるその力……それを正当に継いだお前がここで皆を助けてやって欲しい」
305 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:45:37.84 ID:xFQvJJ0J0
僧侶「……はい、わかりました叔父様……!」

第五聖騎士団長「そして勇者は……」

勇者「僕も奥まで同行させてください。貴方から学びたいことがあるんです」

第五聖騎士団長「……よし、良いだろう」

暗器使い「俺は外に残る。エルフの奴のことは任せろ」

僧侶「勇者様、私の回復は無いのですからくれぐれもお気をつけて」

勇者「うん、わかってる」

第五聖騎士団長「それでは行くとしよう」
306 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:46:23.52 ID:xFQvJJ0J0





竜人A「──ぐわああああっ!!」

第五聖騎士団長「よし、次だ」

勇者(つ、強い……)

勇者(剣術も筋力も僕とは比較にならない……日々の鍛錬から生み出される理想の剣捌きだ……!)

竜人B「クソがっ!」

勇者「くっ……!」

第五聖騎士団長「焦りも油断も禁物だ! 常に冷静に剣を振るえ!」

勇者「おおおっ……!」

竜人B「ぎゃあっ!!」
307 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:47:08.39 ID:xFQvJJ0J0
勇者「……ふう……」

第五聖騎士団長「剣筋は悪くない。お父上の教育の賜物か」

勇者「ありがとうございます。幼い頃から剣を握らされてきましたから」

勇者「しかし……」

第五聖騎士団長「どうした?」

勇者「この体躯だけはどうにもなりませんね……」

勇者「父や団長さんのように豪快な剣を振るうことは出来ません。この剣に限れば力の補助でどうにかなりますが……」

第五聖騎士団長「身の丈などは生まれ持ったものだから仕方が無いだろう」

第五聖騎士団長「しかし筋力などは別だ。今の年の頃が一番成長できる」

第五聖騎士団長「基礎に則った剣術そしてそれを十分に発揮できる肉体の鍛錬ををこれから弛まず続けていくのみだ」
308 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:47:38.98 ID:xFQvJJ0J0
勇者「……わかりました……」

第五団聖騎士B「団長、先へ続く道を発見しました」

第五聖騎士団長「よし、進むぞ」


聖騎士団長に続いて進んだ先には大きな空間が広がっていた。


第五聖騎士団長「これは……」

勇者「地下の……墓地……?」

第五聖騎士団長「修行者の中では一生をこの島で過ごすものも居たという」

第五聖騎士団長「ここは彼らが眠る場所なのかもしれない」


黒い騎士「安らかに……という訳では無さそうだがな」


勇者「黒い騎士……!」
309 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:48:17.00 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「奴が……」

第五聖騎士団長(なるほど……凄まじい力を感じる)

黒い騎士「この寺院にどんな歴史があったのかは我は知らぬ」

黒い騎士「しかしこの空間に幾つもの霊魂が彷徨っていることは確かだ。黒い黒い魂だ……」


ぞわり、と黒い騎士の放つ気配が変化した。


勇者「これは……さっきまでとは比べ物にならない……!」

第五聖騎士団長「……参る……!」

黒い騎士「……!」


聖騎士団長の一撃を黒い騎士が剣で受け止め、金属と金属のぶつかりあう音が墓地に響き渡った。

黒い騎士の体がガクリと沈み、力では聖騎士団長が勝っている──かのように見えたのだが……。

310 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:55:46.81 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「むっ……!?」


聖騎士団長の剣は力ずくで弾き返され、その巨躯が宙へと放り出された。


第五団聖騎士B「馬鹿な……! 団長が力負けしただと……!」

勇者「いや、敵は力だけじゃない!」

第五聖騎士団長(……速いな……)


聖騎士団長は黒い騎士の猛攻を凌いで一旦距離を取った。


黒い騎士「なるほど、噂に違わぬ腕の持ち主のようだ」

第五聖騎士団長「貴様も四天王というのは伊達ではないようだな」

第五聖騎士団長「まだ力も出し切っていないと見える」

勇者「えっ……!?」
311 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:58:10.27 ID:xFQvJJ0J0
勇者(今のが全力じゃないのだとしたら、本気になったら一体どんな事になってしまうんだ……!)


その後も聖騎士団長と黒い騎士の闘いは続いたが、徐々に聖騎士団長が押され始めていた。

勇者は高度な闘いを前に、上手く加勢することが出来ずにいた。


第五聖騎士団長(素の力ならばまだ分からないが、ここでは少し分が悪いか)

第五聖騎士団長(今の奴のランクは恐らくは……)

黒い騎士「この場所は自分にとって“二重に”味方をしてくれている」

黒い騎士「負けても恥じることではない」

勇者(二重に……? 一つはダンジョンだとして、後もう一つは一体……)

第五聖騎士団長「フン……」


第五団聖騎士C「ほ、報告です……!」

312 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:58:38.11 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「どうした」

第五団聖騎士C「外で我々が応戦していた敵の軍勢が突如撤退……! 完全に姿を消してしまいました……!」

第五聖騎士団長「何……?」


黒い騎士「……“時間”か……」

勇者「じ、時間……?」

黒い騎士「そうだ、ようやく準備ができたようだ」


そう言うと黒い騎士は地下の墓場のある空間から飛び退いた。


第五団聖騎士B「逃げるか貴様……!」

黒い騎士「ああ、初めからそのつもりだ」

第五聖騎士団長「何…………!?」
313 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:59:08.03 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「……まずい、我々もここから早く……!」


聖騎士団長が気が付いた頃には既に遅く、地下墓地は結界に覆われてしまった。


黒い騎士「運が良ければまた会うこともあるだろう。それまでこの勝負は預けておくとする」

黒い騎士「それが何年後になるかは貴様ら次第だろう」


黒い騎士はそう言い残して奥の暗闇へと消えて行った。


勇者「逃げられてしまった……」

勇者(この結界は一体……)

第五聖騎士団長「下がっていろ」


聖騎士団長は剣を上に構え、その先へと力を集中させた。


第五聖騎士団長「オオオオオオッ……!」
314 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 14:59:42.90 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「はあっ!!!!」


聖騎士団長が振るった剣は結界の壁にぶつかり、火花弾かせ爆音を轟かせた。

しかし結界にダメージを与えられた様子は無く、依然としてその壁は勇者達を取り囲んでいた。


第五聖騎士団長「今の感触……なるほどそういうものか」

第五聖騎士団長「この結界、決して破れるものでは無いかもしれない」

勇者「それは一体どういう……」

第五聖騎士団長「お前も剣を振るえばわかる」

勇者「は、はい……」


勇者は促されるままに剣を抜き、結界の壁にそれを全力で突き立てた。


勇者「こ、これは……」
315 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:01:06.71 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「この壁はまるで自分自身。写し鏡のようなものだ」

第五聖騎士団長「自分の力では自分を超えることは出来ない、故に破ることが出来ない……そういった類のものだろう」

第五聖騎士団長「こちらを殺しに来るようなそんな罠ならば対処する自信はあったのだが、まさかこういうものだとは……」

勇者「このダンジョンは陽動……本命は別にあるということでしょうか」

第五聖騎士団長「ああ。他のダンジョンも恐らくは同じ様な役目なのだろう」

第五聖騎士団長「主力をダンジョンに閉じ込めてしまうが奴らの目的だったのだ」

第五聖騎士団長「このダンジョンが陽動である可能性は勿論考えられていた。本島には他の団が残っているから法国での事には対処できるだろう」

第五聖騎士団長(だが敵は本格的に動き出した……我々も早くここから脱出して成すべきことを為さなければ……)


消して壊れない結界をどのように突破するか思案し始めたその時、団員の一人があることに気がついた。


第五団聖騎士B「これは……結界にヒビが……?」
316 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:01:44.90 ID:xFQvJJ0J0
第五聖騎士団長「何……!?」


聖騎士が指差した場所には非常に小さいが確かに亀裂のようなものがあった。


第五聖騎士団長「ここは勇者が剣を突き立てた箇所だ……」

勇者「えっ、僕の……?」

勇者「団長さんの一撃よりも確実に弱かったはずなのに一体どうして……」

第五聖騎士団長「何か特殊なことは?」

勇者「いえ、普通に剣で突いただけです」

勇者「強いて言えば特殊なのはこの剣自体……」


言いかけて勇者はハッとした。


勇者(まさか……そういう事なのか……?)
317 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:02:55.85 ID:xFQvJJ0J0
勇者(この剣を握ってた時、僕は僕じゃない誰かになる。本来の僕よりも強力な力の持ち主に……)

勇者(僕が僕のものではないこの力を振るえばこの結界を破壊できるのでは……)

勇者(でも今まで通りじゃ駄目だ。こんな小さな亀裂ではこの結界は壊れないはずだ)

勇者(それなら……)

第五聖騎士団長「どうかしたのか?」

勇者「……もしかしたら、僕ならこの結界を壊せるかもしれません」

第五聖騎士団長「何だと……?」
318 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:03:52.42 ID:xFQvJJ0J0





???「やあ」

勇者「……あれ?」

???「どうかしたのかい?」

勇者「いや、いつの間に寝たんだろうって」

???「今は寝ているというより一時的に意識がこちら側に来ていると言う方が正しいかな」

???「君が急に力を引き出そうとしてしまうから」

勇者「力……」

???「うん。君はあの結界を破壊するためにこの力を求めたんだ」

勇者「そうか、僕は剣の力を……」
319 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:13:53.46 ID:xFQvJJ0J0
勇者「いや、“貴方の力”を使ったんだ」

???「そうだね。今まで以上に強く、ね」

???「こうなってしまたらもう止まらない」

???「俺にも止められることは出来ない」

勇者「それは一体……」

???「…………」

勇者「また大事なことは言ってくれないんですね」

???「うん……ごめんね」

???「これあ俺の意思であって、俺の意思ではないんだ」
320 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:14:34.39 ID:xFQvJJ0J0





勇者「…………」

僧侶「ゆ、勇者様?」

勇者「ん、え……?」

僧侶「一体どうしたんですか。寺院から出てきてずっと心ここにあらずといった感じでしたよ」

勇者「い、いや何でもないんだ」

勇者「ダンジョンの主である黒い騎士はここから立ち去った。直にこのダンジョンは崩壊して元通りになるはず」

僧侶「叔父様から報告は受けました。お疲れ様です勇者様」

勇者「うん。それよりもエルフさんは見つかったの?」

僧侶「ああ、エルフさんでしたら」
321 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:15:01.14 ID:xFQvJJ0J0
紅眼のエルフ「私なら平気よ。暗器使いが迎えに来てくれたわ」

暗器使い「俺が行かなくても自力で合流している最中だったみたいだがな」

勇者「ふう……無事でよかった」

紅眼のエルフ「私の心配はいらないって言ったでしょう。あんな甲冑野郎に追いつかれたりはしないわ」

勇者「それでも心配するよ……仲間なんだから」

紅眼のエルフ「……そう、ありがとね」

勇者「一応怪我とか見てもらって。僧侶、お願いしていい?」

僧侶「はい」

紅眼のエルフ「ちょっと、平気よ」

僧侶「駄目です来てください」
322 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:15:41.05 ID:xFQvJJ0J0
紅眼のエルフ「あなたたち心配性ね……」

暗器使い「仲間に恵まれてるな、本当に」

紅眼のエルフ「それは貴方も含めて?」

暗器使い「……どうだろうな」

第五聖騎士団長「さて、勇者殿達は私と一緒に真っ先に本島へ戻ってもらう」

第五聖騎士団長「既に各地の教会で緊急招集が掛けられている。我々にも成すべきことが山程ある」

勇者「その口ぶりですとまた何か……?」

第五聖騎士団長「うむ……」


第五聖騎士団長「──王国、帝国、共和国にまたがる広大な土地と南部諸島連合国の一部の島々が新生魔王軍の手に落ちた」


勇者「なっ……!」
323 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:16:09.52 ID:xFQvJJ0J0
僧侶「それは……!」

暗器使い「やはりダンジョンの出現は陽動だったか……」

紅眼のエルフ「…………」

第五聖騎士団長「奴らは占領した土地を魔国と名付け、人間に対して正式に宣戦布告をしたようだ」

第五聖騎士団長「いよいよ戦争が始まる……我々も備えなければならない」

勇者「…………」
324 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/11/18(日) 15:16:37.12 ID:xFQvJJ0J0


《ランク》


S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長 黒い騎士 第○聖騎士団長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 隻眼の斧使い 

B1 狼男 赤鬼青鬼 暗器使い
B2 お祓い師 勇者 第○聖騎士副団長
B3 フードの侍 小柄な祓師 紅眼のエルフ

C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵 影使い オーガ 竜人
C2 トロール サイクロプス 法国の熱い船乗り
C3 河童 商人風の盗賊  ウロコザメ

D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶 コボルト
D2 狐神 青女房 インプ 奴隷商
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ


※あくまで参考値で、条件などによって上下します。
※聖騎士団長は全団A1クラス
※聖騎士副団長は全団B2クラス

325 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2018/11/18(日) 15:17:24.83 ID:xFQvJJ0J0
お久しぶりです。
次回は《大陸会議》編です。
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/18(日) 23:47:43.11 ID:kcY/LSHeo
乙乙
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/19(月) 10:14:06.74 ID:VKgocpADO
328 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:24:21.01 ID:p2+N267H0
《大陸会議》


第五聖騎士団長「甘いっ!」

勇者「くっ……!」


尻餅をついた勇者の喉元に模造剣の先が突きつけられた。


勇者「ま、参りました……」

第五聖騎士団長「……ふう、今日はこの辺りにしておくか」

勇者「今日も一本も取れなかった……」

第五聖騎士団長「闘いの最中に色々と考えすぎるのも良くないが、勇者殿に関しては考えが無さすぎる」

第五聖騎士団長「姪がついていなければ今生きているのかも怪しいのではないだろうか」

勇者「お、仰る通りです……」
329 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:25:05.72 ID:p2+N267H0
第五聖騎士団長「まあしかし、この間よりは幾分かマシにはなったがな……」

勇者「僕みたいな未熟者の稽古にわざわざ毎日付き合って頂いて……本当に申し訳ないです」

第五聖騎士団長「なに、いずれは大陸を背負っていく希望の光の手助けが出来るのは光栄なことだ」

第五聖騎士団長「それに久々に勇者と剣を交えられて私もまだ学ぶべきことがあると実感している」

勇者「久々、ですか? もしかして父上と……?」

第五聖騎士団長「ああ、だいぶ昔のことだが何度かな」

第五聖騎士団長「勇者殿の剣筋はやはりお父上とよく似ている」

勇者「幼い頃からずっと稽古をつけられていましたからね」

勇者「やはり特殊な型なんでしょうか?」

第五聖騎士団長「初代勇者が各国を旅しながらその土地での剣術を吸収しつつ練り上げた物が源流で、その後も代々の勇者が改善を加えていったと言われている」
330 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:28:42.16 ID:p2+N267H0
第五聖騎士団長「私のような古来から伝わる化石のような剣術使いが相手では良い指導は出来ないかもしれないな」

勇者「そ、そんな事は……」

第五聖騎士団長「……初代勇者が大きく影響を受け、その根幹となったとされている剣術の流派が帝国に存在する」

第五聖騎士団長「今の勇者殿に必要なのはそこでの修練なのかもしれない」

第五聖騎士団長「今の状況でなければ直ぐにでも送り出してやりたいのだがな」

勇者「まあそれは難しいでしょうね……」


二週間前、法国の離島に出現したダンジョンの一つを制圧した勇者らは第五聖騎士団長とともに一番の船で本島に帰還した。

命令違反へのお叱りを十分に受けた後、法王猊下への謁見を済ませてからすぐに状況の整理のための会議へと参加した。


──王国、帝国、共和国にまたがる広大な土地と南部諸島連合国の一部の島々が新生魔王軍の手に落ちた。


第五聖騎士団長の口からそう伝えられた通り、大陸では新生魔王軍がそれらの国々の土地を占領し魔国の建国を宣言した。
331 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:31:12.04 ID:p2+N267H0
既に各国の国境では激しい戦闘が繰り広げられているが、どこも魔国が優勢となっていた。

百年単位で準備された計画であるからというのはもちろんのこと、

各地で同時に出現したダンジョン対応に軍隊や聖騎士団の主力が対応し、その中の実力者の多くがダンジョン内の結界に封じられてしまっている事も大きな原因だ。

結界に封じ込められるだけではなく、更に準備されていた罠によって多くの者が命を落とした。

法国でも第一聖騎士団長が最深の罠によって重症の怪我を負って倒れてしまった。

敵の陽動に見事にしてやられた各国は魔国の建国を安々と許してしまったのだった。

大陸本土はこのように混沌としているため勇者一行の帰還は許可されず、先のことがあるため今回は勇者も従わざるを得ない状況となっている。


第五聖騎士団長「さて、この後は招集がかかっているだろう。水を浴びて汗を流しておいたほうが良い」

勇者「はい、各国の代表の方々お見えになると聞いています」

第五聖騎士団長「私は騎士として立つからこれで良いが、勇者殿達は少し身なりを整えて臨んだほうが良いかもしれんな」
332 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:34:24.58 ID:p2+N267H0
勇者「三人にもそう伝えておきます」

第五聖騎士団長「また後ほど会おう」


勇者は教会に提供されていいる上等な部屋で休憩していた仲間三人に声をかけ、身支度をしてから会議が行われる部屋へと向かった。

席は埋まり始めており、勇者達も指定の場所に急いで着席した。


第三聖騎士団長「例の報告書のことですが、この後よろしいでしょうか?」

第五聖騎士団長「そちらのダンジョンでも同様のものが見られと聞いていたが……分かった、終了後ここに残ってくれ」

第三聖騎士団長「ええ。術的に気になる点もありましたので導師も交えて話しましょう」


──第三聖騎士団長

 全団長の中で唯一の女性で、また最年少でもある。

 法国内に出現した他のダンジョンの調査に当たり、最深での結界の罠は紙一重で回避して帰還した。

333 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:35:42.67 ID:p2+N267H0
王国軍総軍師「久しぶりですな勇者殿。出立の日に顔を出せず申し訳なかった」

勇者「いえいえ、お忙しい身でしょうからお気になさらず」

王国軍総軍師「この期間の間だけで随分とご成長なさった様子……天のお父上もお喜びのことだろう」

勇者「……ありがとうございます」


──王国軍総軍師

 彼の作戦の下で進軍すれば百戦百勝と言われており、大陸中でも名高い軍師。

 接しやすい人柄からか、人脈も広く信頼が厚い。


大柄な熊髭の老人「ふうむ……教会とは無縁の我々まで呼び出されるとは改めてことの大きさを考えさせられる」

自治区五代目区長「千年前と同じく大陸全体を揺るがす事態です……これは教会だけの問題だとすることは出来ないでしょう」

逞しい祈祷師「実際に我々の国土は侵されている。奴らの敵は教会に限られないという事だ」
334 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:37:00.04 ID:p2+N267H0
自治区五代目区長「私達は現在土地を奪われたわけでは有りませんが、先日の同時ダンジョン出現の際はその標的の一つとなっていました」

大柄な熊髭の老人「我々も同じだ。これは現存国家に対しての無差別な宣戦布告であると捉えて間違いないだろう」


──逞しい祈祷師

 南部諸島連合国における祭事で神々と人々を繋ぐ重要な役割を果たす祈祷師(シャーマン)の一人。

 彼はその中でも戦や闘いの神々への祈りを専門としており、南部諸島連合国における軍事においても大役を務めている。


眼鏡の共和国外交官「神聖な教会に異教徒や、ましてや不浄な人外が入り込んでいるとは世も末だな」

自治区五代目区長「…………」
335 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:41:07.63 ID:p2+N267H0
第五聖騎士団長「外交官殿、そのような言い方は」

眼鏡の共和国外交官「本当にこのような異教の者共を信用して良いのでしょうかねえ。腹の中はわからないものですよ」


──眼鏡の共和国外交官

 長身で細身の男で攻撃的な発言が目立つ外交官。

 つい先日までは“とある事件の後始末”のために皇国に出向いていた。


第三聖騎士団長「外交官殿いい加減に……」

氷の退魔師「──腹の中が黒々しい奴らは、俺は他にも知っているけどな」

眼鏡の共和国外交官「……ふん……」
336 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:43:58.25 ID:p2+N267H0
第五聖騎士団長「おお、氷の退魔師殿も来られましたか」

氷の退魔師「皇国での一件もどうにかカタがついたのでね……ある方の護衛を兼ねてついでに来たわけだ」


──氷の退魔師

 王国を代表する退魔師。

 ランクSまで到達した数少ない退魔師の一人であり、大陸中を駆け回って特務に当たる依頼をこなしている。


氷の退魔師「よお勇者くん、久しぶりだな」

勇者「は、はい……! お久しぶりです……!」

氷の退魔師「無事ダンジョンを攻略したらしいな。成長したものだ」

勇者「いえ、まだまだ皆さんには及びません……皇国でのダンジョンの件も聞いていますが、流石ですね」

氷の退魔師「なに、こっちも仲間に恵まれたに過ぎないさ」
337 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:46:06.21 ID:p2+N267H0
切れ長の目の女皇帝「あら、そちらが例の……?」

氷の退魔師「そう、次期……いや当代の勇者だ」

切れ長の目の女皇帝「まあ随分と可愛らしいこと……しかしその実力は確かなものと聞いている」

氷の退魔師「ああ、そこは俺が保証するぜ」

切れ長の目の女皇帝「はじめまして勇者殿。私は皇国の現皇帝を名乗らさせて頂いている者だ」

切れ長の目の女皇帝「よろしく」

僧侶「こ、皇帝陛下……!?」

勇者「えっ……!? あっ……勿体無いお言葉です……!」

切れ長の目の女皇帝「そんなに畏まらなくていい。氷の退魔師殿みたいにもっと自然にしてくれて構わない」

暗器使い(いやこの男……氷の退魔師は流石に馴れ馴れしすぎるだろう……)
338 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:46:53.66 ID:p2+N267H0
紅眼のエルフ(昔からの仲と言う感じだけれど、どうなんでしょうね……)


──切れ長の目の女皇帝

 皇国の現皇帝で先代の一人娘。

 皇国始まって以来初めての女帝だがその手腕は稀代のものと言われている。


帝国軍将軍「これはこれは、女皇帝陛下自らの出席とは驚きましたな」

切れ長の目の女皇帝「それはこちらの台詞ですわ将軍閣下」

切れ長の目の女皇帝「今はそちらの国は大変でしょうに大丈夫なのですか?」

帝国軍将軍「私のような老いぼれが一人抜けた程度で我が軍はどうにかなったりはしませんよ」
339 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:48:03.89 ID:p2+N267H0
帝国軍将軍「今後のためにもこの会に参加することには大きな意義があると考えての結果です」

切れ長の目の女皇帝「あら、老いぼれと言うにはまだまだ若いように見えますが」


──帝国軍将軍

 帝国の盾と隣国から恐れられる名将。

 彼の即座の対応がなければ魔国領は今の範囲に留まらなかったと言われている。


帝国軍将軍「ダンジョンの同時大量発生……魔国の建国……新生魔王軍の宣戦布告……これらに関して各国の知りうる情報をここで交換する」

帝国軍将軍「それぞれの国の上層部しか知りえない極秘情報も含めて包み隠さず……これが今回の会の趣旨で良いですね?」

色白の法王「ええそうです。皆さん、この緊急時にわざわざここまでご足労頂き感謝しています」

眼鏡の共和国外交官「猊下……!」

第三聖騎士団長「お席へどうぞ、猊下」
340 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:49:49.15 ID:p2+N267H0
色白の法王「うん、ありがとう」


──色白の法王

 各地の大神官が同時に彼を夢に見たという奇蹟から、長らく空席だった法王に異例の若さで選ばれた青年。

 大陸の混乱をおさめるべく、今回の会を自ら招集した。


色白の法王「神の子としてここへ集ってくださった皆さんはもちろんのこと、文化を違いながらも私の招集へ応じてくださったみなさん、感謝いたします」

眼鏡の共和国外交官「お、お顔をお上げになってください……!」

大柄な熊髭の老人「これは大陸に住まう者全ての問題です。そこに文化の垣根はないと考えています」

自治区五代目区長「我々は千年前と同じく巨悪と対峙する同士なのです。どうかお顔をお上げになってください……」

色白の法王「みなさん……本当に感謝いたします」

色白の法王「聖騎士総長を含む数名が事情で欠席しております事を先にお詫びしておきます」

色白の法王「一刻が惜しい事態でしょうから早速本題へと移りましょう」
341 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:51:56.29 ID:p2+N267H0





帝国軍将軍「……つまりあの結界は己の潜在能力を上回る力を以ってすれば破壊することが出来るという事か」

第三聖騎士団長「ええ、第五聖騎士団と氷の退魔師殿との報告で一致していますね」

自治区五代目区長「うちでも同じように結界を破壊できたようです。こちらの場合は森の力を借りてですが……」

第五聖騎士団長「こちらでは勇者の剣の力が発動したようでしたが、皇国のダンジョンではどのように?」

氷の退魔師「俺が式神の力を借りてちょっとね」

逞しい祈祷師「式神、とは確か……」

氷の退魔師「俺達術者に人外の力を貸してもらう術だ。皇国特有の術だが研究する機会があってな」

逞しい祈祷師「ふむ……我々の“贄”とも退魔師が一般に扱う使い魔ともまた違ったもののようだな」

逞しい祈祷師「興味深い話だが詳しくは別の機会としよう」
342 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:54:08.81 ID:p2+N267H0
大柄な熊髭の老人「あの厄介な結界の破壊方法が分かった事は大きいですな。各国とも多くの実力者があれに足止めされていると聞いていますからね」

王国軍総軍師「これでだいぶ立て直しが出来るでしょうな」

眼鏡の共和国外交官「しかし勇者殿のような特殊なケースを除くと、人外共の手を借りざるを得ないということですか……何とも忌々しい」

王国軍総軍師「今の時代人外とも手を取り合わねばならないと、教会の方針でもそうなっていることをお忘れですかな?」

眼鏡の共和国外交官「そうは言いますがこれも忘れてはならない。今回も我々の敵は人外であるということを」

切れ長の目の女皇帝「ふん……彼ら全てを敵と見ると本当にそうなってしまうかもしれぬぞ?」

切れ長の目の女皇帝「現に各国の人外が次々に新生魔王軍の軍門へと下っているという情報が入っているのよね?」

帝国軍将軍「ええ。我が国でも非合法の人身売買組織の拠点制圧をした際に人外の牢だけがもぬけの殻となっていたとの報告が入っている」

帝国軍将軍「目撃者曰く彼らは新生魔王軍の者によって連れて行かれたと……」

帝国軍将軍「如何に優れた軍も圧倒的な数の前には蹂躙されることが多くある」
343 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:54:47.65 ID:p2+N267H0
帝国軍将軍「新生魔王軍の規模はいまや各国それぞれの軍を上回ると考えられる。これ以上敵を増やさないようにすることが大事なのでは?」

眼鏡の共和国外交官「まあ、後ろから刺されたければ勝手にすればよいでしょう」

眼鏡の共和国「さて次の報告へと移っても?」

色白の法王「ええ、お願いいたいします」
344 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:56:34.38 ID:p2+N267H0





その後も各々が持ちうる情報を交換しあい、それに対する議論が幾度となく行われた。

日が昇った頃に会合は始まっていたが気がつけば既に月が空に浮かんでいた。

そして一度休憩を兼ねた夕食へ移ろうとしていたその時、氷の退魔師がある提案をした。


氷の退魔師「──という事を俺は提案したいんだが、どうかな」

第五聖騎士団長「ふむ……」

大柄な熊髭の老人「ほう……面白い」

眼鏡の共和国外交官「……何を馬鹿なことを。認められるわけがないでしょう」

眼鏡の共和国外交官「退魔師協会を教会の庇護から独立させる? それがどういう事なのか分かって言っているのですか、氷の退魔師殿?」

氷の退魔師「もちろん」
345 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 16:59:17.49 ID:p2+N267H0
眼鏡の共和国外交官「退魔師協会とは大陸中に支部を持つ組織……総力となれば各国の軍隊にも引けを取らないでしょう」

眼鏡の共和国外交官「そんな組織を独立させるなど出来るものか」

第二聖騎士団長「──私も外交官殿と同意見だ。退魔師協会の構成員は教会の信者とは限らない」

第二聖騎士団長「そんな彼らを野放しにするわけにはいかないでしょう」


──第二聖騎士団長


 僧から騎士へと転向したという点では第五聖騎士団長と似ている。

 病弱だった幼少期に死の淵にありながら毎朝の祈りを欠かさなかったと言われるほどの熱心な信者。


氷の退魔師「そんな俺たちを犯罪者集団みたいに言わんでもよお」

第二聖騎士団長「実際に似たような者たちが在籍している事は認知しています」

第二聖騎士団長「我々が統率しているからこそ成り立っているという事が分からないのですか?」
346 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:00:40.94 ID:p2+N267H0
氷の退魔師「大した言い分だ」

氷の退魔師「……が、本音はこうなんだろ? 教会のシノギが減ると困る、そう言えよ」

第二聖騎士団長「なんだと……?」

第三聖騎士団長「お二人とも、法王猊下の御前です」

氷の退魔師「だとよ」

第二聖騎士団長「…………」

色白の法王「……今の話、もう少し詳しくお聞かせ頂けますか?」

眼鏡の共和国外交官「猊下……?」

氷の退魔師「それでは僭越ながら……」

氷の退魔師「先のダンジョン騒動で早急に攻略されたダンジョンは二箇所あります」
347 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:03:10.02 ID:p2+N267H0
氷の退魔師「一つ目は勇者殿と第五聖騎士団が赴かれたという法国の離島のもの……」

氷の退魔師「もう一つは“たまたま”私が訪れていた皇国の西人街という場所のダンジョンです」

氷の退魔師「これら二つのダンジョンを数日で攻略することが出来たのは何故でしょうか?」

氷の退魔師「強大な戦力? 相手の意表を突く奥の手? 勿論それもそうでしょうが、それよりも鍵となったものがあります」

王国軍総軍師「ふむ、それは……?」

氷の退魔師「身軽な戦力です」

氷の退魔師「目の前で起こった事に即座に対応できる……ある程度は自分たちの意思で行動できる戦力がいたからこその早期攻略だったのです」

氷の退魔師「西人街では退魔師協会の者やその他の小さな組織……法国の離島では勇者殿の一行がそれに当たります」

氷の退魔師「西人街では本教会の指示を待っていたては被害者の数は大きく増えていた事でしょう」

眼鏡の共和国外交官「だから命令に違反してダンジョンに入ったと?」
348 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:06:52.58 ID:p2+N267H0
氷の退魔師「結果は出た。謹慎も受けた。何か問題が?」

第二聖騎士団長「身軽な戦力……そのために退魔師協会を本教会から独立させたほうが有用であると?」

氷の退魔師「俺はそう考えている」

第二聖騎士団長「浅はかな……新生魔王軍以外の野放しの猛獣が増えるに過ぎない」

切れ長の目の女皇帝「そう考えるのは勝手だがお前の一存では決められないであろう? 勿論私の一存でもな」

眼鏡の共和国外交官「この件は教会の問題だ。異教の国の長に発言権はない」

切れ長の目の女皇帝「異教の国? 我々は正式に教会を迎え入れたはずだが?」

切れ長の目の女皇帝「そう、貴方がたの国の大使館を兼ねていた教会の代わりにね。お忘れで?」

切れ長の目の女皇帝「“何やら不遜な事を我が領土でやらかそうとしていた事を咎めぬ代わりに譲り受けたと記憶しているが、これ以上何かぬかすのであれば口が滑ってしまうかもしれん”」

眼鏡の共和国外交官「…………フン…………」
349 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:07:20.08 ID:p2+N267H0
切れ長の目の女皇帝「……さて、今の氷の退魔師殿の案についてはこれ以上何かありませんか?」

切れ長の目の女皇帝「無いのであれば……」

色白の法王「……ええ、採決といたしましょう」
350 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/12/13(木) 17:08:36.60 ID:p2+N267H0
遅れましたが《大陸会議》編です。
前作登場人物の氷の退魔師が出てきました。いずれ他にも出てくるかもしれません。
では。
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/13(木) 23:18:53.81 ID:yBi6lTYVo
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/12/14(金) 01:51:06.78 ID:NKXPiO+DO
来てたか乙!
353 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:51:26.73 ID:HuOAqhe80





大柄な熊髭の老人「さて、そろそろ今日の本題といきましょうか」

眼鏡の共和国外交官「…………」

大柄な熊髭の老人「……先の報告にもありましたが、先日の新生魔王軍の決起以来多くの人外が彼らに合流いています」

大柄な熊髭の老人「それが手伝ってか、新生魔王軍の勢いは全く衰えることはなく、むしろ増大していっていると言っても過言ではない……」

大柄な熊髭の老人「これは、食い止めなければならない」

帝国軍将軍「……彼らにとっては幾百年と溜まった恨みつらみが晴らせるいい機会だ」

第二聖騎士団長「それで各国での人外に対する法の制定の促進……」

第二聖騎士団長「彼らに市民権を与える、という話になるのですね」

眼鏡の共和国外交官「言いたいことはわかりますがねえ……しかしあまりにも急すぎる」
354 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:52:20.99 ID:HuOAqhe80
眼鏡の共和国外交官「術者にはわからないでしょうが、根底まで根付いた法を改めていくというのは簡単な話ではない」

切れ長の目の女皇帝「ではこのまま新生魔王軍とやらがぶくぶくと膨れ上がっていくのを黙ってみていると言うか?」

王国軍総軍師「共和国外交官殿……この事は近年でも問題となりつつあった」

王国軍総軍師「我が国でも徐々に彼らのための法が敷かれつつある」

王国軍総軍師「帰国も何もせず来たというわけでは無いはずだ。その歩みを少しばかり早めねばならない段階に来たということなのだ」

眼鏡の共和国外交官「…………」

逞しい祈祷師「我が国でも当然、様々な法整備が始まっている……しかし法だけでは守れない者達についてはどうすれば良いと考えられているのか」

逞しい祈祷師「具体的言うならば、人や、自然から得られる力そのものによって生きているような者のことだ」

逞しい祈祷師「我が国ではこの教会で言うものとは別の……自然界に偏在する神々を信仰している」

逞しい祈祷師「我々は神々の恵みを受けて豊かな生活を営み、神々は我々の信仰によって永年に存在し続ける……」
355 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:54:40.46 ID:HuOAqhe80
逞しい祈祷師「そのような文化があれば話は別だが、他の地で彼らは果たして人の世に溶けこむことは出来るのか?」

氷の退魔師「その事だが……どこから説明しようか……」

氷の退魔師「ううむ、まず、そうだな…………」


氷の退魔師「俺の目指す先は“人外をこの大陸から消し去ること”だ」


勇者「えっ!?」

眼鏡の共和国外交官「何だと……?」

自治区五代目区長「ふむ…………」

色白の法王「それは、一体……?」

切れ長の目の女皇帝「言葉足らずだ馬鹿者め……」

氷の退魔師「まあまず聞いてほしい。俺の半生で研究した成果と考えについてだ」
356 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:55:39.64 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「みな一口に人間と人外と呼んでいるが、そう単純な話でもない」

氷の退魔師「まず人間の中には我々術者のような特殊な力を扱える者がいるが、これは人外と何が違うのだろうか」

氷の退魔師「これは力を自ら習得するか、外力によって与えられた力かの違いだ。この外力をこれからは巨大意思と呼ぶことにする」

第三聖騎士団長「しかし例えば、氷の退魔師殿の力も僧侶殿の力も先祖から受け継がれてきたものなのではありませんか?」

氷の退魔師「この力は家系的な適性があって得られたものであって、生まれてそのまま術を使える訳ではない」

氷の退魔師「そこには選択の余地すらもある。実際うちの馬鹿息子は一族の血に逆らったようだしな……」

第五聖騎士団長「それでは人外は巨大意思なるものに力を強制的に与えられた者たちを指すと?」

氷の退魔師「正確には一般的に人外と呼ばれている者たちの多くはそうではない」

氷の退魔師「そもそも人外という括りは大きすぎるし、好きじゃない」

氷の退魔師「エルフやらドワーフやらコボルトやら……そういった奴らは人間と同じように代々血が続いてきた種族だ」
357 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:56:37.72 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「俺が形式上人外と呼んでいる奴らは、種族じゃない」

氷の退魔師「どこからともなく生まれてきた個人のことを指している」

第五聖騎士団長「確かに、人間や犬猫が突然人外になったという報告も珍しくない。彼らを種として分類するのは難しい」

自治区五代目区長「その通りです。我々エルフが何らかの原因でエルフ以外の血から生まれるという事はあり得ません」

眼鏡の共和国外交官「……なるほど……」

眼鏡の共和国外交官「その原因が巨大意思、というものであると……?」

第三聖騎士団長「その巨大意思とは一体……」

切れ長の目の女皇帝「人々が抱く畏れや信仰のことだ」

切れ長の目の女皇帝「多くの者が恐れるものはいずれ真となり、具象化する」

切れ長の目の女皇帝「奴らの多くはその巨大意思によって生まれた代償に、その畏れを糧にせねば消えてしまう」
358 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:58:19.55 ID:HuOAqhe80
切れ長の目の女皇帝「特に近年、奴らの誕生自体が大きく減ってきている」

切れ長の目の女皇帝「これは人々が世の真を知り始めたから……」

切れ長の目の女皇帝「風は風神が、雷は雷神が起こしているわけではない……科学技術の発展が奴らの存在に取って代わった……」

切れ長の目の女皇帝「いや、元に戻ったと言う方が適切か」

第三聖騎士団長「それでは氷の退魔師殿が仰っていた“人外をこの大陸から消し去ること”とは、その者たちの衰退を促すということのですか?」

切れ長の目の女皇帝「ふう……そら見たことか、誤解を生んでいるぞ」

氷の退魔師「おお、これは失礼」

切れ長の目の女皇帝「衰退は促さなくとも起こっている。先程言ったように時代が人外を生み出さなくなっているからだ」

切れ長の目の女皇帝「此奴のが言いたいのは巨大意思に頼らないと存在できない人外を消す……つまりは巨大意思に頼らなくても生きていけるようにするということだ」

第三聖騎士団長「そんな事が可能なのですか?」
359 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 18:58:51.81 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「可能だ。それが俺の半生の研究成果の一つだ」

切れ長の目の女皇帝「我が国も協力して効果は実証済みだ。今後の改良の余地はまだまだあるが……」

王国軍総軍師「それは興味深い。更に詳しくお聞きしたいものだ」

大柄な熊髭の老人「ですねえ」

氷の退魔師「是非この後にでも…………」

紅目のエルフ「……一つ、いいでしょうか?」

色白の法王「貴女がたも会議の参加者です。どうぞ発言なさってください」

紅目のエルフ「ありがとうございます。それでは…………」


紅目のエルフ「人間と人外の共生を目指すのならば、魔国を国として認めるのも一つの手なのではないのでしょうか?」


勇者「…………!」
360 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:00:16.93 ID:HuOAqhe80
僧侶「エ、エルフ様……」

暗記使い「…………」

切れ長の目の女皇帝「ふふふ、確かに」

眼鏡の共和国外交官「笑い事ではないぞ女帝殿! 奴らは不当に我が国や王国、帝国の領土を蹂躙しているのだ!」

眼鏡の共和国外交官「それを許せるとでも?」

紅目のエルフ「失礼を承知で申し上げますが…………」

紅目のエルフ「今皆さんが国土と主張する土地は、一体誰の土地を蹂躙して手に入れたものなのでしょうね」

第二聖騎士団長「侵略を正当化するつもりですか?」

紅目のエルフ「正当化しないとこの大陸に正義など無いのでは? 何百と繰り返されてきたことでしょう?」

紅目のエルフ「ならば最も簡単な解決策に思える、魔国の建国を阻害する理由としては十分では無いと思えるのですが」
361 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:01:12.94 ID:HuOAqhe80
紅目のエルフ「それに彼らの中には巨大意思無しには生きていけない者がいるのでしょう?」

紅目のエルフ「それならば人間を滅ぼすような事は絶対に無いでしょうし……」

氷の退魔師「奴らが国を建ててお終い…………ってなるならそれで良いんだが」

氷の退魔師「どうやらそうじゃ無いみたいでな」

紅目のエルフ「……一体何が……?」

帝国軍将軍「私が話しましょう」

帝国軍将軍「新生魔王軍の占領下から救出された国民の中に様子のおかしい者たちがいます」

帝国軍将軍「わかりやすく言うならば……感情の暴走、でしょうか」

帝国軍将軍「各々がある感情を常に懐き続けているように見える…………」

勇者「まさか…………」
362 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:01:48.26 ID:HuOAqhe80
帝国軍将軍「ええ……彼らはもしかしたら“巨大意思を生み出すだけの家畜のようなもの”を創り出そうとしているのかもしれません…………」

第五聖騎士団長「ふむ…………」

第二聖騎士団長「野蛮な……!」

氷の退魔師「ああ、その可能性は十分にある」

氷の退魔師「俺にも色々とツテがあってね。俺のやろうとしていることは奴らの耳にも入っているはずだ」

氷の退魔師「だがどうやら、歩み寄るつもりは無いらしい」

氷の退魔師「新生魔王軍の目的はおそらく、必要な分の人間を“管理”できる世界にすることなんだろう」

氷の退魔師「流石にそうさせるわけにはいかないだろう?」

紅目のエルフ「……それはその通りですね……過ぎた発言をお許しください」

氷の退魔師「なに、君の言ったことは当然の疑問のはずだ」
363 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:03:07.22 ID:HuOAqhe80
色白の法王「それでは氷の退魔師殿の詳しい説明はこの後していただくとして、一つ私の口から伝えたいことが有るのですが……よろしいでしょうか」

氷の退魔師「ええ勿論」

色白の法王「……現勇者およびその仲間の皆さん」

勇者「は、はい……!」

色白の法王「私がお伝えしたいのはあなた方の今後の活動についてです」

勇者「それは……」

勇者(まさか情勢が不安定な今は旅を自粛しろって話では……)

色白の法王「結論から申し上げます。思うように、好きになさってください」

勇者「え……」

色白の法王「千年前の戦いから代々現れたという勇者の仲間たち……彼らは一体どのようにして選ばれているのか聞いたことはありますか?」
364 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:03:59.65 ID:HuOAqhe80
僧侶「いえ、推測ばかりで正しいことは……」

色白の法王「ええ、私がこれから話すことも推測の域を出ません」

色白の法王「しかし、私が聞いた中では最も興味深い説でした」

色白の法王「あなた方、勇者の仲間たちには、一人ひとりに役割があるのだというのです」

色白の法王「その役割というのは、人によって、そして時代によって様々でした」

色白の法王「しかし過去に数度、同じ様に魔王軍の残党を名乗る者たちが現れた時は、彼らの役割はそれを止めるために与えられたと言います」

色白の法王「例えば、弓は趣味程度という吟遊詩人が弓使いの紋章持ちとして選ばれた時のことです」

色白の法王「彼が詩に良く用いる星座の知識を以って、星を使った大規模魔法陣の発動を阻止したと聞いています」

色白の法王「私はあなた方にもそのような役割があるのだろうと考えています」

色白の法王「そしてそれは、そのリーダーである勇者様、貴方も同様です」
365 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:04:26.59 ID:HuOAqhe80
色白の法王「その役割とはあなた方があなた方自身であるからこそ、与えられたもの」

色白の法王「だから自分らしく、思ったように行動していってもらいたいのです」

色白の法王「その先に危険が有るとしても、それが信じる道ならば進むことも必要となるでしょう……」

色白の法王「全ては、あなた方自身の判断にお任せいたします」

色白の法王「ですが我々があなた方の助力を必要としている時、可能であればお手を借して頂けると助かります」

勇者「はいっ……!」

暗記使い「お任せ下さい」

僧侶「有事の際は必ず駆けつけます……!」

紅目のエルフ「……ふうん、役割ねえ……」
366 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:05:04.71 ID:HuOAqhe80





──晩餐会場外のバルコニー


氷の退魔師「よう、お疲れさん。こんな所で何してんだ?」

勇者「お疲れ様です。いやあ、ちょっと酔いを覚まそうと……」

氷の退魔師「そうか、お前ももうそんな歳か」

勇者「あはは、まだ慣れないですね」

勇者「しかし凄いことになりましたね。これは前々から計画されていたことなんですか?」

氷の退魔師「ああ。退魔師協会を独立させて退魔師ギルドとする……皇国の皇帝サマの他にもうちの国王サマも協力してもらっている」

勇者「国王様も……!?」

氷の退魔師「ああそうだ。退魔師ギルドとして教会から独立したメリットは大きいぞ」
367 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:09:57.36 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「今まで以上に幅広い活動が出来ることは勿論だが……」

勇者「今までは退魔師の拠点がなかった北方連邦国、南部諸島連合国、自治区にもギルドを設立することが出来るんですよね」

氷の退魔師「人外への法整備の件も含めて本国に帰ってそれぞれ協議はするらしい。まあ恐らくは可能であろうという事だ」

氷の退魔師「それに伴って君達勇者一行も退魔師ギルドに加入してもらう。その方が今後の活動もしやすいはずだ」

氷の退魔師「この件も国王サマから承諾済みだ」

勇者「なるほど……」

氷の退魔師「今は色々と慌ただしいから時間がかかりそうだが、お前達の組合証の発行はなるべく急がせる」

氷の退魔師「発行でき次第帝国の使節と一緒に大陸に戻ると良いだろう」

勇者「色々とありがとうございます」

氷の退魔師「なあに、これぐらいさせろっての」
368 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:10:29.06 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「……あいつの忘れ形見なんだからな」

勇者「あいつとは……父のことでしょうか」

氷の退魔師「ああ……」

氷の退魔師「薄々勘付いていると思うが、俺があいつのパーティーの魔法使いの紋章持ちだった」

勇者「やっぱりそうでしたか……」

勇者「初代魔法使い様の御子孫ですものね」

氷の退魔師「こうなる恐れはあったんだ……もっと強く忠告しておくべきだっただろうか」

勇者「何か知っていたのですか?」

氷の退魔師「まあ独自のルートでな。皇国に出向いていたのは半分はそのためだ」

勇者「半分は……?」
369 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:11:13.93 ID:HuOAqhe80
氷の退魔師「まあ色々あんだよ」

氷の退魔師「……今はな、色んな事が複雑に絡み合っていっている最中だ。常に自分を見失わないようにしておけよ」

勇者「…………」

氷の退魔師「さて、あんまり席を外しすぎていると失礼だろう。そろそろ戻るとしようか」

勇者「そうですね」

勇者(氷の退魔師さんが魔法使いの紋章持ちだったということはもしかしたら息子の彼も……)

勇者(確かまだ皇国に滞在しているっていう話だったけれど)

勇者(まあまた後で聞いてみよう)
370 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:12:06.95 ID:HuOAqhe80





それから各国の代表に限って安全のために転移魔法で帰還をしていった。

転移魔法は消費する魔力も莫大であるためそう多くは使えない。

そのため付き人など他の者達は船に乗っての帰国になる。勿論勇者達もそれに従うことになっている。

新生魔王軍は各ダンジョンからの脱出のために転移魔法を多用していたようだが、そこからも彼らが準備に如何に年月をかけていたのかが窺える。

氷の退魔師が出立する直前に尋ねたところ、彼の息子は今は皇国にいるがこの後自分を含めてとある式を挙げた後にはどこへ行くかは分からないと言った。

氷の退魔師に着いていくことも考えたが、またもや勇者の“直感”が帝国へ向かうべきだと言っているために断念した。

結局諸々の手続きや準備が終わったのは会が終わってから一月も経った頃だった。


帝国使節団員「いやあまさか我々の船の準備が整った矢先に海が大荒れして出るに出られなくなってしまうとは……」

勇者「ようやく晴れて出発となりそうですね」
371 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:13:05.97 ID:HuOAqhe80
帝国使節団員「いやはや、本当にお手数をおかけいたしました」

僧侶「いえいえ、私達はお世話になる側ですので……」

帝国使節団員「道中はよろしくおねがい致しますね。それでは確認が取れ次第出発と……って、法王猊下!?」

勇者「えっ!?」

色白の法王「ふふ、見送りに来ました」

僧侶「そんなわざわざこんな所まで……!」

色白の法王「君達にはもう一度会っておきたくね」

色白の法王「僕とそう歳が違わないのに大陸中を駆け回っているなんて……本当に尊敬しているよ」

勇者「そんな……猊下の責務の重さと比べましたら……」

色白の法王「僕なんて大した事はないよ。法王とは名ばかりのお飾り……」
372 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:14:01.65 ID:HuOAqhe80
色白の法王「何で僕が選ばれたのかも未だに分からないんだ」

僧侶「そんなお飾りなどと……」

勇者「……仮に猊下がご自身をそう思われているとしましょう。しかしお飾りなのは僕たちも同じなのです」

勇者「ですがお飾りだからといってただ黙って座しているわけではありません」

勇者「飾り物は飾り物なりに出来ることをやっていきましょう」

僧侶「ゆ、勇者様……! 流石に出過ぎた言葉かと……!」

色白の法王「……飾り物なりに、か……」

色白の法王「ふふ、そうかもしれないね」

色白の法王「ありがとう、少し迷いが取れたよ」

色白の法王「この先きっとお互いに厳しい日々が待ち受けているとは思うけれども、頑張っていこうね」
373 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:14:46.31 ID:HuOAqhe80
勇者「はい……!」

色白の法王「勇者一行の行く先に天の導きがあらんことを!」

僧侶「それでは行ってまいります……!」


法王に見送られながら二人は乗船した。

船には既に他の使節団員や暗器使いらが乗り込んでおり、出向に向けて慌ただしく走り回っていた様子も落ち着いていた。


紅眼のエルフ「はい、酔い止めの薬。婆様に調合してもらったから効き目も抜群のはずよ」

勇者「ありがとうございます!!」

暗器使い「なるべく甲板で遠くを見ておけよ。食事中も手元を見すぎないようにな」

勇者「うん、気をつけるよ……」

帝国使節団員「それでは皆さん、出港しますよ!」
374 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:15:26.39 ID:HuOAqhe80


いかりを巻き上げる音が止むと次はごうと煙が吹き上がる音が響いた。

最新式の蒸気汽船は嵐の後の静かなら海原を悠々と進み始めた。

375 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:16:10.64 ID:HuOAqhe80
《ランク》


S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長 黒い騎士 第○聖騎士団長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 隻眼の斧使い 

B1 狼男 赤鬼青鬼 暗器使い
B2 お祓い師 勇者 第○聖騎士副団長
B3 フードの侍 小柄な祓師 紅眼のエルフ

C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵 影使い オーガ 竜人
C2 トロール サイクロプス 法国の熱い船乗り
C3 河童 商人風の盗賊  ウロコザメ

D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶 コボルト
D2 狐神 青女房 インプ 奴隷商
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ


※あくまで参考値で、条件などによって上下します。
※聖騎士団長は全団A1クラス
※聖騎士副団長は全団B2クラス
376 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/07(月) 19:19:10.64 ID:HuOAqhe80
登場人物が一気に増えました。
希望があればいずれ人物紹介をまとめたいです。
次回は《歓楽街》編です。
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/07(月) 23:41:37.11 ID:33Rz+WoDO

待ってた
378 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 15:56:45.85 ID:a5Ewyth70
《歓楽街》


法国本島から南下し、帝国と王国の国境にある深い湾へと蒸気船は進んでいった。

湾の最深、帝国と王国の国境が交わる巨大な港町にたどり着いた頃には報告に滞在していたのも遥か昔に感じられるような気がした。


┌──────────────────────────────────
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|    /       V               /    /\                               
|    >                     <      > ∨\                  __ ◇   
|    \                __/      |法国Σ 。    ◇       /    /      
|     _/  北方連邦国  /   <        \___/        __  /     \     
|    /                |     \__                  /    W        /     
|   「                /\自治区 V\_  __      /     /        \   
|   >___n__ _/  \__/   | |   \   |      \        |   
|   /       _ /   V                / /      |  /        |        \ 
|  / 亡国 //        /\___ ____V         \|         /  皇国   < 
|  [_   /  \       |      ∨                          |_        / 
|     \/     |    _/                                  /        \_
|            /    \                                  |          _/
|            |       /                  帝国             \_       /。 
|            L  王国 |                                     /      \
|            /       \_                                 \_  _/
|            |            \___     ____              /   V  |
|            |           _ _く  \_/        \_/\___     |       /     
|            \M       |  V  \          共和国      \_/       |     
|                \    Σ 。  _ \         /\/\_ _        _/     
|                  |_ /   /  \|/\__N      。 V  |      /       
|                    ∨     \_/ V     _◇        /    「             
|                      ◇       _    /  V  \_/\  \  n/           
|                          。   /  \ /              <  /__/               
|───────────────\__南部諸島連合国 __/ ────────
|    。                               。   \_/ \/                       
|                              


勇者「り、陸地だ……! 景色が揺れない……!」

帝国使節団員「はは……長い間お疲れ様です」
379 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:02:25.61 ID:a5Ewyth70
帝国使節団員「さて、入国手続きを済ませた後は我々と宿舎へ向かうということでよろしいですね」

勇者「はい、よろしくお願いします」

暗器使い「それにしても大きな街だな……」

僧侶「二大国家の国境にある港町で、更には法国への玄関口とも言われていますからね」

僧侶「主に交易などで栄えた巨大商業都市です」

勇者「この街は特殊で、二国の国境を跨いでいるのにも関わらず、街の中には関所がないんだよね」

僧侶「両国の軍隊も中には入れません。その代りに両国の民間出身の自警団がいて、街の出入りには厳重な検査があります」

暗器使い「なるほど……」

紅眼のエルフ「商業の街とは即ち歓楽の街……! 世界各国のお酒が手に入ると見たわ……!」

紅眼のエルフ「早く手続きを済ませたいわね」
380 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:03:02.48 ID:a5Ewyth70
僧侶「エルフ様……遊びに来たわけではないと……」

紅眼のエルフ「いつまでも気を張ってたらいざという時力が出ないわよ?」

暗器使い「まあ適度の息抜きは必要だろう……適度ならばな」

帝国使節団員「それではこちらへどうぞ」


使節団員に案内された勇者達は厳重な入国検査を済ませてから門を潜った。

その先には見渡す限りの綺羅びやかな街並みが広がっていた。


勇者「うおお……!」

僧侶「大きい……ですね」

暗器使い「法国の港町が気品のある美しさならば、こちらは情熱的な美しさと言えるだろう」

紅眼のエルフ「これは本当に楽しめそうね」
381 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:07:26.08 ID:a5Ewyth70
僧侶「まずは用意していただいた宿舎へ向かいますよ」

僧侶「よろしくお願いします」

帝国使節団員「はい、お任せください」


繁華街を抜けた先で四人は客人用の宿舎へと通された。


勇者「フカフカのベッドだ! 今日はぐっすり眠れそうだ」

紅眼のエルフ「あら、今晩寝るつもりなの? 私はてっきり朝まで遊ぶものだと」

勇者「それも魅力的だけど……」

僧侶「ほどほどにお願いしますね」

紅眼のエルフ「強くは止めないのね」

僧侶「エルフ様はその……止めても無駄な気がしてきまして」
382 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:11:08.77 ID:a5Ewyth70
暗器使い「ふっ、見限られているぞ」

紅眼のエルフ「いいもん、自由にやるわ」


紅眼のエルフは硬貨を入れた財布代わりの布袋を懐にしまって外套を羽織った。


紅眼のエルフ「それで、男衆はどうするの?」

勇者「僕は船の疲れがまだ大分あるから今日は遠慮しておくかな」

紅眼のエルフ「ま、それが懸命かもね」

暗器使い「……誰も行かないのであれば付き合おう」

紅眼のエルフ「あら、無理にとは言わないわよ」

暗器使い「俺も酒を入れたかったところだ」

暗器使い「法国でも上等なものは提供されていたが、宴席での酒は堅苦しくて好きではない」
383 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:19:38.14 ID:a5Ewyth70
紅眼のエルフ「それは同感。じゃあ行くとしましょうか」

僧侶「あまり遅くならないようにしてくださいね」

暗器使い「ああ」

紅眼のエルフ「大丈夫よ。私もこの男も飲まれるようなタイプじゃないから」
384 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:35:14.96 ID:a5Ewyth70





紅眼のエルフ「それで、何の用かしら?」


繁華街の外れで紅眼のエルフはふと足を止めて振り返った。

暗器使いは特に表情を変えることもなく彼女を追い越した。


暗器使い「お前が用がある所に俺も少しな」

紅眼のエルフ「私が用があるところなんて酒場だけだけど?」

暗器使い「宿舎に向かう途中表情を変えた場所……件の人身売買組織の拠点の一つか何かだろう」

紅眼のエルフ「……鋭い男ねまったく」

暗器使い「あの空気感は、どうにも馴染みがあってな」

暗記使い「あの件はうちの国の売人も一枚噛んでいたらしい。背景を探るように俺も指示を受けた」
385 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 16:51:04.99 ID:a5Ewyth70
紅目のエルフ「ああ、この間法国で議員さんと何か話していたものね」

暗記使い「見ていたのか」

紅目のエルフ「コソコソとなにか企んでいそうだったから、つい」

暗記使い「ふん、どうだろうな」

紅目のエルフ「ま、深くは追求しなわ」

暗記使い「そうしてくれ……」

暗記使い「さて、と……」

紅目のエルフ「着いたわね」
386 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:02:58.22 ID:a5Ewyth70


二人が見上げた先には、半壊した大きな建物がある。

一見すると普通の酒場のようだが、奥へと進むと異様な空間があった。


紅目のエルフ「これは……」

暗記使い「地下への入り口だな。おそらくこの先が……」

紅目のエルフ「……行きましょう」

暗記使い「ああ」


元は隠し扉のようになっていたと考えられるが、勇者らが自治区で入手した情報が発端の強制立ち入りの際に破壊されたようだ。

抵抗もあったようであちこちに戦いの跡が残っている。

石造りの螺旋階段を降りた先には見世物小屋のような広間があった。


暗記使い「……連れ去られた者たちはここで競りにかけられていたのだろうか」
387 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:12:01.05 ID:a5Ewyth70
紅目のエルフ「……そうでしょうね。許せないわ……」

暗記使い「ここにもエルフは囚われていたのか?」

紅目のエルフ「ええ、一人いたみたいね。もう自治区の方で保護されているはずだわ」

暗記使い「そうか……」

暗記使い「しかし妙だな」

紅目のエルフ「どうかしたの?」

暗記使い「おかしいと思わないのか? どうしてこの街にこんな所がある」

暗記使い「確かにこの街では手に入らないものは無いと言われている。だが人身売買だけは例外的に禁止されていると聞いている」

暗記使い「しかしあれほど厳重な検問があるのに、ここではそれなりの規模の売買が行われていたようだ」

紅目のエルフ「それは……確かに変ね」
388 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:14:01.03 ID:a5Ewyth70
暗記使い「可能性があるとすれば……」

紅目のエルフ「この街に、グルのやつがいるってことね」

紅目のエルフ「それもお偉いさんか、検問関係の人間に」

暗記使い「そういうことだな」

暗記使い「ま、解決した今となってはどうでもいいか」

暗記使い「……と、言いたいところだが」

紅目のエルフ「少し探ってみるのも面白そうね」

暗記使い「ああ。誰かの影響を受けているみたいだな」

紅目のエルフ「本当よね。あの子、視界に写ったことは解決しないと気がすまないのよね」

紅目のエルフ「自治区から法国への間でも人助けやらで何回脇道に逸れたことか」
389 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:15:42.39 ID:a5Ewyth70
暗記使い「おかげで旅程は滅茶苦茶だったな」

紅目のエルフ「ここに長く滞在はしないみたいだけど、出来る範囲で調べてみますか」

暗記使い「ああ、そうしよう」

紅目のエルフ「……早速面白いものを発見したわ」

暗記使い「どうした?」

紅目のエルフ「この壁の向こうから空気の流れを感じるわ」

暗記使い「隠し通路か……!」

暗記使い「国境を越えた大商業都市の地下に密輸用の地下通路があるとはな……」

紅目のエルフ「おそらく街の外へとつながっている通路もあるのでしょうね」

紅目のエルフ「ただしこれがそうとは限らない」
390 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:22:32.82 ID:a5Ewyth70
暗記使い「ああ。進んでみないとこの先は分からないな」

暗記使い「おそらくここを作動させれば……」


暗記使いが石壁の近くに隠されていた魔法陣を起動させると、壁が左右に割れて通路が現れた。

その通路を進むことしばらく、ふと暗記使いが足を止めた。


暗記使い「……気がついているな?」

紅目のエルフ「ええ、巡回の見張りかしらね」

暗記使い「あの地下室に繋がる隠し通路に見張りがいる……しかも自警団の制服ではないから、誰かが雇ったゴロツキだろう」

紅目のエルフ「……ま、殺さないようにね。面倒事になるかもしれないし」

暗記使い「わかっている」


暗記使いは音もなくゴロツキに忍び寄り、背後から口をふさいで首に針を突き刺した。
391 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:27:25.34 ID:a5Ewyth70
しばらく抵抗しようともがいたゴロツキは、徐々にその動きが鈍り、ついには床に崩れ落ちた。


紅目のエルフ「睡眠薬でも塗ってあるのかしら?」

暗記使い「ああ」

暗記使い「こいつは縛り上げてどこかに隠しておこう」

紅目のエルフ「……待って、まずいわ」

紅目のエルフ「複数の足音……近づいてくるわ……!」

暗記使い「何……!? まさか……」


暗記使いが眠らせたゴロツキの手のひらにはいつの間にか小型の魔道具が握られていた。

おそらくは仲間のもとに緊急の信号を送るためのものだと考えられる。


暗記使い「やられた……ゴロツキにしては良いもの持ってるじゃねえか……!」
392 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:29:44.43 ID:a5Ewyth70
紅目のエルフ「貴方やあの奴隷商も色々と持っていたけれど、最近は便利な物が多いのね」

暗記使い「この手の道具を開発している優秀な南部諸島連合出身の男がいるらしい」

暗記使い「とにかく引き返すぞ」

紅目のエルフ「いえ、進みましょう」

暗記使い「何? 全員倒すつもりか?」

紅目のエルフ「それでも何とかなるでしょうけれど、もっと楽な方法があるわ」

紅目のエルフ「何より今は時間をかけたくないわ」


雇われゴロツキA「いたぞ!」

雇われゴロツキB「男は殺せ! 女は生け捕りにすれば上乗せの報酬が貰えるはずだ!」

雇われゴロツキC「へへっ、耳長じゃねえかちょうどいい。もう一匹と一緒に運び出しちまおう」
393 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:30:36.51 ID:a5Ewyth70


紅目のエルフ「あんたらに構ってる時間はないの!」


紅目のエルフが右手を振り上げると同時に、ゴロツキたちの足元から木の根のようなものが飛び出してきた。

それらが絡まり合い檻のようになり、ゴロツキたちを中に閉じ込めてしまった。


雇われゴロツキA「なっ!?」

雇われゴロツキB「くっ、出られねえ!」

紅目のエルフ「先に行かせてもらうわね」

暗記使い「何をそんなに急いでいる?」

紅目のエルフ「わざわざこの通路にこんなに見張りを付けている意味は何だと思う?」

紅目のエルフ「既に街の外に奴隷を運び出していたならこんな事はしないわ」

紅目のエルフ「それにゴロツキが言っていたでしょう、エルフもまだどこかにいるわ」
394 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:33:27.34 ID:a5Ewyth70
暗記使い「なるほど……自警団が救い出した奴ら以外の奴隷がまだこの街に隠されているのか」

紅目のエルフ「ただし私達が侵入したことがばれてしまったから、このままじゃその子達は街の外に連れ出されてしまうかもしれない」

紅目のエルフ「そうなったら足取りを掴むのは難しくなってしまうわ」

暗記使い「それは急がないとまずいな……」

暗記使い「奴らが走ってきた方面からしてこっちの道のはずだ。行くぞ……って」

暗記使い「おい……どこに行った?」


暗記使いが辺りを見回すが紅目のエルフの姿は無い。


暗記使い「ちっ、敵の罠か……!? いや、まさか……」

ゴロツキ首領「待てよ侵入者」

暗記使い「…………!」
395 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:35:13.77 ID:a5Ewyth70
ゴロツキ首領「部下を向かわせたはずだが……あの馬鹿共。使えねえな、まったく」

ゴロツキ首領「ま、感謝するぜ。こう一つぐらいアクシデントが無いと報酬も上がらねえからな」

暗記使い「……残りの奴隷は無事なのか?」

ゴロツキ首領「ん? 俺は雇われだから詳しくは知らねえが、無事だろう」

ゴロツキ首領「商品を自ら傷付けるとは思えないね」

暗記使い「そうか」

ゴロツキ首領「聞きたいことはそれだけか? それじゃあお喋りはここまでだ」

ゴロツキ首領「行く……ぜっ!」

暗記使い「っ!!」

暗記使い(速いっ……!)
396 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:37:34.47 ID:a5Ewyth70


ゴロツキ首領が繰り出した短剣を暗記使いは間一髪で躱した。


ゴロツキ首領「ひゅー、やるねえ!」

暗記使い(こいつ自信の実力は並以上だが俺なら捌けないほどでは無い……)

暗記使い(だが、あのガントレット……)

ゴロツキ首領「もう気がついたか、流石だねえ」

ゴロツキ首領「こいつは良いぜ。俺でもBランク賞金首を殺っちまう事ができた」

暗記使い「便利な物が出回りすぎるのも考えものだな……」

ゴロツキ首領「さあさあ、次行くぜっ!」

暗記使い「ちっ……!」

暗記使い(それにしてもあの女はなぜこうすぐ居なくなるんだ……!)
397 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2019/01/19(土) 17:38:04.15 ID:a5Ewyth70
今日はここまでです。
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/01/22(火) 03:10:48.29 ID:aNNNVEcDO

誤変換を指摘する様な野暮はしたくないんだけどさすがに暗“記”使いは次から直した方が宜しいかと
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