僧侶「勇者様は勇者様です」

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199 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/16(土) 17:24:37.24 ID:/yQ1aH3t0
自治区五代目区長「しかしそれはお二人によって防がれました」

自治区五代目区長「先程も言ったように僧侶様に掛けられている呪いは非常に高度なものです」

自治区五代目区長「殆どの人間はそれに抗うことは出来ないでしょう。そんな彼女をどうして責めましょうか」

勇者「区長様……」

自治区五代目区長「……私の力では呪術そのものを解除することは出来ません」

自治区五代目区長「しかしこのような事が再び起こらないように多少の対策はさせていただきました」

勇者「対策、ですか?」

自治区五代目区長「呪術の発動を抑えるペンダントを僧侶様に着けておきました」

自治区五代目区長「これで並のことでは僧侶様が人外に対して殺意などを爆発させることは無いでしょう」

暗器使い「そんなわざわざ……本当に感謝いたします」
200 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/16(土) 17:25:30.68 ID:/yQ1aH3t0
自治区五代目区長「いえ、私にできることをしたまでです」

自治区五代目区長「しかしこのペンダントも完璧なものではありません。くれぐれも気を付けてくださいね」

勇者「ええ、本当にありがとうございました」

自治区五代目区長「いえいえ。僧侶様の体調次第だとは思いますが、明日には出発をするはずですので早めにお休みになってくださいね」
201 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/16(土) 17:27:06.26 ID:/yQ1aH3t0





奴隷商A「ここ数ヶ月商品の入りが悪いせいで少し厳しい状況になって来たぞ」

奴隷商B「耳長どももかなり警戒を強めているみたいだからな……」

奴隷商B「だが焦りは禁物だ。ルートがバレたら俺達はお終いだ」

奴隷商A「それはそうだけどよ……」

奴隷商B「大丈夫だ。耳長に手を出す命知らずなんてもう最近ではあまりいない」

奴隷商B「供給が減っていけばゆるりと値段も上がっていくはずだ」

奴隷商A「そういうもんかね」

奴隷商B「そういうもんだっての」

奴隷商A「よくわかんねえけど、お前が大丈夫だっていうなら大丈夫か」
202 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/16(土) 17:28:04.32 ID:/yQ1aH3t0
奴隷商A「まあ俺達には絶対失敗なんて無いからな」

奴隷商B「ああ、このローブ……人や動物から気配を隠してくれるだけではなく、森の精霊とやらの探知も掻い潜れるとはな」

奴隷商B「耳長お得意の森との対話ってやつも恐れることはねえ」

奴隷商A「……! おい二時の方向を見ろ……!」

奴隷商B「ほう……」

奴隷商B「周囲を警戒しろ」

奴隷商A「大丈夫だ……探知針の反応はないぜ」

奴隷商B「よし、行くぞ……」

奴隷商A「くくっ、任せろ」

奴隷商A「やあお嬢さん、こんな所を一人で出歩いたら危ないぞ」
203 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/16(土) 17:30:48.69 ID:/yQ1aH3t0
エルフの女性「…………!」

奴隷商B「馬鹿、早く捕まえろ!」

奴隷商A「ちょっと遊んだって平気だっての。こいつビビって声も出ていな……」


奴隷商Aがへらへらと笑っている隙にエルフの女性は森の深い方へと駆け出した。


奴隷商A「って、速っ!?」

奴隷商B「当たり前だ馬鹿! 耳長どもの森の中での身体能力をなめるな!」

奴隷商B「いい加減学習しろ!」

奴隷商A「わ、悪い……」

奴隷商B「いいから追うぞ!」

奴隷商A「おう……!」
204 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/16(土) 17:31:51.70 ID:/yQ1aH3t0
奴隷商B「まあ所詮女だ。追いつけないことはない」

奴隷商A「足撃って止めちまってもいいかな……」

奴隷商B「商品価値が下がる。却下だ」

奴隷商A「ちぇっ」

奴隷商B「まあそんな事をしなくても、ほらよ」

奴隷商A「女の走る速度が落ちてきたな。このまま追い詰めるか」

奴隷商B「ああ、それに……」

エルフの女性「…………!」

奴隷商B「どうやら行き止まりのようだな。観念しな」

奴隷商B「俺が手に持っているもの、見えるか? これは最近出始めた小型の銃なんだ」
205 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/16(土) 17:33:41.64 ID:/yQ1aH3t0
奴隷商B「お前が大人しくしてくれればこれは撃たない。言いたいことは分かるな?」

奴隷商A「へへっ……中々の上玉じゃねえか。これは高く売れるぜ」

奴隷商A「何なら少々味見でも……って……」

奴隷商B「……どうした?」

奴隷商A「いや……こいつの瞳の色が珍しいなって……」

奴隷商A「紅い…………ごぱっ……!?」


突然地面から生え出た太いツタが奴隷商Aの腹を貫いた。


奴隷商B「て、てめえ……何者だ……!」

エルフの女性「…………」
206 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2018/06/16(土) 17:34:55.05 ID:/yQ1aH3t0
次回で《森の民》編は終わりです。
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/16(土) 21:57:27.26 ID:/il0WylxO
乙ー
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/16(土) 23:22:23.38 ID:Uv0HqQ7DO
乙乙
209 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 21:49:33.92 ID:lLuWKSr20





──二日前

──自治区と王国の東の国境付近


紅眼のエルフ「この間は随分と大変だったようね」

僧侶「……申し訳ございません……私の精神が弱いばかりにあのような……」

勇者「エルフさん……」

紅眼のエルフ「分かっているわ、責めているわけじゃないの。事情は婆様から聞いている」

紅眼のエルフ「婆様が術を施してくれたならそれほど心配をする必要もないでしょう」

紅眼のエルフ「当事者としてはまあ不安は残っているでしょうけれども、今はやるべきことに集中しましょう」

僧侶「はい……」
210 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 21:50:17.40 ID:lLuWKSr20
暗器使い「それでは本題に移るとするか」

暗器使い「聞く話によると人攫いの一団は随分と手練のようだな。奴らを補足する手立てはあるのか?」

勇者「エルフの一族は森の動植物と会話を出来ると聞いているけれど、その力を使って探し出すことは出来ないの?」

紅眼のエルフ「当然それは何度も試しているけれども、向こうはそれに対して何らかの対策をしているらしいわ」

紅眼のエルフ「おおよその場所なら分かるのだけれども、詳しく捉えるのは難しいのが現状ね」

僧侶「そのおおよその場所というのがこの付近というわけなんですね」

紅眼のエルフ「そうね。奴らは東の国境を越えたり北東の海岸からの出入りをしたりしているみたいね」

紅眼のエルフ「敵は狡猾で用心深いわ」

紅眼のエルフ「行動に出る時は絶対に攫う対象が一人の時だけ。それがどんなにか弱い子供であってもね」

紅眼のエルフ「だから最近は特に女子供は一人では出歩かないようにしてはいるいるのだけれど……」
211 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 21:50:56.01 ID:lLuWKSr20
紅眼のエルフ「どうしても一人になってしまう瞬間というのはあるわ」

紅眼のエルフ「その瞬間を奴らは決して見逃さない。気がついた時には攫われてしまっているらしいわ」

勇者「聞いてはいたけれど本当にやり手みたいだね」

僧侶「そんな相手をどうやって……」

紅眼のエルフ「策はあるのだけどリスクが高いから里の皆にはやらせたくなかったの」

暗器使い「そこに都合よく外国から人間がやって来たと」

紅眼のエルフ「勿論貴方たちの実力を買ってのことよ」

紅眼のエルフ「それに直接危険な目にあうのは私だけだから安心して」

暗器使い「それはどういう……」

紅眼のエルフ「簡単なことよ。私が囮になるわ」
212 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 21:51:33.00 ID:lLuWKSr20
紅眼のエルフ「囮を使う場合は囮自身は勿論、周りの人間の能力が重要になるわ」

紅眼のエルフ「だからこそ貴方たちなの」

勇者「なるほど……」

紅眼のエルフ「以前別の子が敵を追い詰めたのにも関わらず上手く逃げられてしまったことがあったらしくね」

紅眼のエルフ「今回は確実に逃げられないようにしたいわ」

紅眼のエルフ「そこで鍵になるのが……貴女よ」

勇者「え……」

暗器使い「ふむ……」

僧侶「わ……私ですか……?」
213 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 21:52:24.88 ID:lLuWKSr20





エルフの女性→紅眼のエルフ「ようやく会えたわねクズども……」

奴隷商B「その瞳知ってるぜ……当代の守護憲兵で一番の実力の持ち主だ……」

紅眼のエルフ「私を知っているなら話は早いわ。大人しく投降してくれないかしら」

紅眼のエルフ「さもなくば、この人間のようになるわよ」

奴隷商A「ご……ごぼぼ……たす……けて……」

奴隷商B「そんな奴はいくらでも替えが効く」

奴隷商B「それよりも俺をすぐに殺せない理由はこうだろう……? 俺たちの売買ルートを聞き出せなくなるから、な?」

奴隷商B「長い時間かけてようやく捕らえられたんだ。そう簡単に殺せるはずが無いよなあ……」

紅眼のエルフ「…………」
214 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 21:53:13.21 ID:lLuWKSr20
奴隷商B「まあでもその心配はいらないぜ」

紅眼のエルフ「……どういうことかしら?」

奴隷商B「──俺たちが二人組だなんていつ言った?」

紅眼のエルフ「…………!」

奴隷商B「野郎ども出てきな!」

紅眼のエルフ「…………」

奴隷商B「…………あ?」

紅眼のエルフ「出てこないわね」

奴隷商B「なっ……どうなってやがる……!?」

勇者「ふう……」
215 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 21:53:53.97 ID:lLuWKSr20
暗器使い「周りの連中は全て片付けたぞ」

紅眼のエルフ「はーい、ご苦労様」

奴隷商B「まさかお前は逃げていたんじゃなくて俺たちを誘い込んでいた……!?」

紅眼のエルフ「そういうことよ。ご愁傷様」

奴隷商B「クソッ……!」

奴隷商B「……ま、まあいい……」

奴隷商B「さっき言った通りお前達は俺を殺せはしない……正真正銘最後の一人だからな」

奴隷商B「さあどこへでも連れていくが良いさ。ああ待遇は良くしてくれよ。話す気が失せちまうかもしれないからな……ガフッ……!?」

奴隷商B「な……何をしている……!?」

暗器使い「見てわからんのか。首筋を斬った」
216 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 21:54:58.18 ID:lLuWKSr20
奴隷商B「こ……こんな事をしたら……俺が死んだら売買ルートは永遠にわからなくなるぞ……!」

紅眼のエルフ「貴方が売買ルートの事を話してくれればその傷を治してあげるわ」

奴隷商B「へっ……治す気もないくせによくもそんなことを言えるな……」

奴隷商B「だいたいこの傷を治せそうな奴なんて……」

勇者「僧侶、治してあげて」

僧侶「は、はい……!」


僧侶は奴隷商Aに回復の術を使った。


奴隷商A「えっ、俺は……?」

奴隷商B「なっ……馬鹿な……!」

紅眼のエルフ「この子は強力な回復呪文の使い手みたいだから、その程度の傷ならすぐに治してくれるわよ」
217 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 21:55:45.26 ID:lLuWKSr20
紅眼のエルフ「早く全てを私たちに話すことね」

紅眼のエルフ「私には嘘偽りは通じないわ……一言でも虚偽があれば貴方の傷は塞がらないと思いなさい」

紅眼のエルフ「さあこのままだと血を流しすぎて貴方は死ぬわよ……」

奴隷商B「ぐっ…………!」

奴隷商B 「なっ……」

紅目のエルフ「ん……?」

奴隷商B「なめんじゃねえぞ耳長のメス風情が!!」


奴隷商Bが隠し持っていた短刀が紅目のエルフの頬をかすめた。


紅目のエルフ「悪あがきを…………って!? 」

紅目のエルフ(足が動かない…………!?)
218 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 21:58:00.91 ID:lLuWKSr20
紅目のエルフ(刃に毒でも仕込んであったのかしら………!? いや、この感じは術仕込みの短刀…………!)

奴隷商B「ひひっ…………お前は道連れだ…………!」


奴隷商Bが紅目のエルフにナイフを突き立てようとした。

しかしそれは間に割って入った勇者に阻まれた!


奴隷商B「なっ…………!」

勇者「大丈夫!?」

紅目のエルフ「えっ……? え、ええ……大したことは……」

暗記使い「大人しくしろ」

奴隷商B「ぐえっ……!」

暗記使い「僧侶、彼女の傷を治しておいてやれ」
219 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 21:58:49.51 ID:lLuWKSr20
僧侶「はい、動かないでくださいね」


僧侶は紅目のエルフの頬の傷を癒やした。


紅目のエルフ「えっ、いや、別に大した傷じゃないわ……」

僧侶「駄目ですよ。綺麗なお顔なんですから」

紅目のエルフ「いや、でも…………」

僧侶「どうかしたのですか……?」

紅目のエルフ「いや……人間に庇われたり、癒やしてもらうなんて初めての経験で……」

勇者「人間もエルフも関係ないよ。僕たちは仲間なんだから」

紅目のエルフ「へ…………」

紅目のエルフ「私が、仲間……ね……」
220 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 22:09:42.38 ID:lLuWKSr20
暗記使い「…………」

暗記使い「──さて、」

暗記使い「僧侶はここから先こっちを見ず、耳も塞いでいろ」

暗記使い「指示した時に治癒の力を使ってくれれば良い」

僧侶「えっ……は、はい……」

勇者「はい目隠し用の布」

僧侶「あ、ありがとうございます」

暗記使い「……よし、よく聞けよ?」

奴隷商B「ひいっ……!」

暗記使い「十秒黙るごとに指一本だ」
221 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 22:10:28.92 ID:lLuWKSr20
暗記使い「喋れば傷は塞いでやるし、その後も命の保証はしてやろう」

暗記使い「黙っていても傷は塞いでやるが…………全てを話さない限り何度もやり直しだ。意味は分かるな?」

奴隷商B「や……やめ……!」

暗記使い「さあ開始だ」
222 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 22:11:46.66 ID:lLuWKSr20





奴隷商が吐いた情報によってここ数年で攫われたエルフの民が多く自治区へと戻ってくることが出来た。

しかし一部の奴隷市場などは既に何者によって襲撃されており、エルフの奴隷の姿はそこには無かった。


勇者「うーん、何かスッキリしないね」

暗器使い「何者が奴隷市場を襲撃したのか。消えた奴隷はどこへ行ったのか……不明瞭なことが多いな」

僧侶「もうその辺りはエルフの皆さんに任せるしかありませんが……」

勇者「まあスッキリはしないけど、得るものは多かったね」

勇者「僧侶に掛けられた呪いを抑制するペンダントもそうだし……」

紅眼のエルフ「よし、もうすぐ王国領ね」

勇者「新しい仲間も加わったしね」
223 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 22:18:35.33 ID:lLuWKSr20
紅眼のエルフ「まあそれは約束だったもの」

紅眼のエルフ「王国領に入ったらすぐ北の港町に行ってそこから法国に向かうってことで良いのかしら」

勇者「そうだね。自治区からは直接船で行けないのからねえ」

暗器使い「それは仕方が無いだろう。うちの国からも法国には決められた商船以外行けない事になっている」

紅眼のエルフ「王国の領土が北の海岸に不自然に伸びているのは、その昔法国への玄関口欲しさに自治区から奪った土地のお陰であると聞いているわね」

勇者「あはは……らしいね……」

僧侶「信仰のためとはいえ間違った歴史であるとは私も思います……」

紅眼のエルフ「ま、私が生まれるよりもずっと前の話だし、実際にどういう事情があったかなんて分からないものだけれど」

紅目のエルフ「そもそも元を辿れば自治区は王国領だったわけだしね」

勇者「そういえばエルフさんって歳はいくつ……」
224 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 22:19:03.74 ID:lLuWKSr20
僧侶「ゆ、う、しゃ、さ、ま?」

暗器使い「女性に歳を聞くとはこれは如何に」

勇者「あっ、いや、そういうつもりでは……あはは……」

紅眼のエルフ「ふふっ……まあ一応答えてあげるわ」

紅眼のエルフ「そうねえ……貴方の十倍近くは生きているんじゃないかしらね」

勇者「じゅっ……十倍……!?」

紅眼のエルフ「あら、そんなに驚かれるなんて傷つくわね」

僧侶「もう勇者様!」

勇者「あっ、だからそういうつもりでは……!」

暗器使い「天然失礼とは……一番最悪なのでは?」
225 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 22:21:19.05 ID:lLuWKSr20
紅眼のエルフ「くくっ……あははっ……! 気にしなくていいわよ本当に……笑わせてもらったから……ふふっ」

紅目のエルフ「最初は人間と行動を共にするなんてどうかと思っていたけれど」

紅眼のエルフ「ふふっ……これは退屈し無さそうね」


四人目の仲間、弓使いの紋章持ちの紅眼のエルフを仲間に加えた勇者一行。

次に目指すのは勇者の直感によって、教会総本山のある法国となったのだが……。
226 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/06/27(水) 22:21:47.07 ID:lLuWKSr20


《ランク》


S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長  
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 隻眼の斧使い

B1 狼男 赤鬼青鬼 暗器使い
B2 お祓い師 勇者
B3 フードの侍 小柄な祓師 紅眼のエルフ

C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵 影使い オーガ
C2 トロール 
C3 河童 商人風の盗賊 

D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶 コボルト
D2 狐神 青女房 インプ 奴隷商
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ


※あくまで参考値で、条件などによって上下します。
227 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2018/06/27(水) 22:24:43.87 ID:lLuWKSr20
次回は法国が舞台の《始動》編です。
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/27(水) 23:43:23.02 ID:1pUINLgDO

229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/06/28(木) 01:41:34.23 ID:KWCdJhBBo
乙ー
230 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:23:12.34 ID:w4UcQvKc0


《始動》


──王国の領北端の港町から洋上へ遥かに進んだ地点


勇者「うっぷ……」

僧侶「勇者様大丈夫ですか?」

紅眼のエルフ「まさか勇者が船酔いに弱いとはね」

暗器使い「何度も言っているが具合が悪いからと下を見ては更に悪化するだけだぞ。デッキに出てなるべく外を見ろ」

勇者「りょ、了解……うっぷ……」

僧侶「ゆ、勇者様……」

僧侶「私は勇者様をデッキに連れていきますね」

紅眼のエルフ「お任せするわね」
231 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:23:58.26 ID:w4UcQvKc0
紅眼のエルフ「当代の勇者様とはどんな屈強な男かと思っていたのだけれど……想像とは大分違っていたわね」

暗器使い「あんなのでも戦闘の時は凄いんだがな」

暗器使い「それよりも本当に良かったのか? 故郷の方は今が一番忙しくなっているんだろう?」

紅眼のエルフ「約束は約束だしね」

紅眼のエルフ「それに私の故郷の皆は私一人が居なくなっただけで駄目になるようなヤワな連中じゃないわ」

紅目のエルフ「次期区長……婆様の娘さんもいるしね」

暗器使い「そうか、要らないことを聞いたな」

紅眼のエルフ「いいのよ」

紅眼のエルフ「しかし法国……教会の総本山ね……」

紅眼のエルフ「貴方はともかく私なんかは門前払いを受けないかしら」
232 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:25:34.89 ID:w4UcQvKc0
暗器使い「最近は教会でも色々動きがあるらしい。その点は心配はいらないだろう」

暗器使い「魔王軍の者でもなければ立ち入れないという事は無さそうだ。もちろん関所での検査は厳しいものだと思うが」

紅眼のエルフ「武器とか取り上げられちゃうのかしら」

暗器使い「それはあり得るな」

紅眼のエルフ「まあ私は植物が育つ環境であればいくらでも供給できるんだけどね」

暗器使い「俺もまあ……武器は持っていて、それでいて持っていないようなものだからな……」

紅眼のエルフ「ふうん、どういう事なのかしら」

暗器使い「……まあ、今度見せる機会があったら説明する」

紅眼のエルフ「楽しみにしておくわね」

紅眼のエルフ「あら……あれは……」

暗器使い「……どうやら今日か明日中には到着しそうだな」
233 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:28:01.70 ID:w4UcQvKc0





勇者「や、やっと着いた……」

紅眼のエルフ「へえ、綺麗なところじゃない」

暗器使い「俺も初めて訪れるが……なるほど……」


勇者達が船を降りた先に待っていたのは白を基調とした建物が多く立ち並ぶ港湾都市だった。


僧侶「玄関口でもこの美しさですからね。法都に着いたらもっと驚くと思いますよ」

勇者「そっか、僧侶は法国に来たことがあるんだったね」

僧侶「ええ。聖職者として訪れないわけにはいかないと思いまして」

僧侶「あの時は恐れ多くも法王猊下と謁見する機会も設けていただいて……」

勇者「へえ、法王様と……」
234 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:28:52.08 ID:w4UcQvKc0


船から荷を下ろし終わった勇者達の前に一人の青年が現れた。


本教会の案内人「勇者様とそのお仲間の皆さんですね」

本教会の案内人「わたくしは法都の本教会から案内役として遣わされた者です」

紅眼のエルフ「あら、随分と用意が良いのね。私達の時みたいに国の中で何らかの兆候があったのかしら」

本教会の案内人「わたくしは末端の人間ですから知る限りですが、貴方がたのような“選ばれし者”が法国に現れたという話は聞いておりません」

本教会の案内人「歓迎の準備は勇者様から書簡が到着してから始めさせて頂きました」

暗器使い「手紙? いつの間に出していたんだ?」

勇者「いやあ、自治区での一件が済んだ後すぐにね……僧侶に言われて」

僧侶「今まで行き当たりばったり事前連絡無しに他国に向かっていたのがおかしいのです」

僧侶「ただの旅人とは訳が違うんですからね」
235 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:29:23.12 ID:w4UcQvKc0
暗器使い「そりゃそうだ」

勇者「あはは……申し訳ない」

本教会の案内人「さて、本来なら法都へ向けて早速出発としたいところですが」

本教会の案内人「皆さん長い船旅でお疲れのはずです。今日はこちらで用意いたしました宿場でゆっくりと身を休めてください」

勇者「た、助かった……」

紅眼のエルフ「ふう、本当に我らが勇者様は……」

暗器使い「まあ言ってやるな」

僧侶「今回ばかりはフォローできませんね……」

勇者「みんな酷いなあ」

本教会の案内人「ふふっ、それでこちらです」
236 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:31:12.54 ID:w4UcQvKc0





勇者「あー美味しかった!」

僧侶「もう大分体調は良いみたいですね」

勇者「そうだね。地面って素晴らしい……!」

暗器使い「まあ帰りはもう一度船に乗ることになるんだがなな」

勇者「…………転移魔法陣とか使わせてもらえないかな…………」

僧侶「いくら勇者様でも無理です」

紅眼のエルフ「次は酔い止めの薬草をあらかじめ渡しておくわね」

紅眼のエルフ「ああいうのは酔ってから使っても効果は薄いから」

勇者「お願いします……」
237 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:31:54.39 ID:w4UcQvKc0
紅眼のエルフ「さてそろそろ夜も更けてきたしこれを頂こうかしらね。さっき露天で買ってきたのよ」

暗器使い「おお、上等な葡萄酒のようだな」

勇者「あ、僕も欲しい」

僧侶「勇者様は駄目ですよ」

勇者「何で!? 先月でもう二十歳だよ!? とうの昔に飲んでいい年齢を超えているんだけど!」

勇者「僧侶がたまに僕に隠れて飲んでいるのは知っているよ!」

僧侶「そ、それは人付き合い上仕方がなく……」

紅眼のエルフ「まあ良いじゃないの。勇者もこれからその人付き合いってものが増えてくるんでしょうから」

僧侶「ぐ……それは、そうですが……」

暗器使い「流石に酒場で持ち込みの酒は開けにくい。部屋に戻って二次会といこうか」
238 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:38:44.37 ID:w4UcQvKc0
紅眼のエルフ「男性陣の部屋でいいかしら」

勇者「どうぞどうぞ」

暗器使い「つまみに干し肉と豆でも買ってくる」

紅眼のエルフ「良いわね、お願いするわ」

僧侶「あーもう! 明日から法都へ向かうんですよ!」

紅眼のエルフ「だからこそじゃない」

紅眼のエルフ「貴女もさっき酒瓶を見た時に喉を鳴らしていたじゃない」

僧侶「えっ、見られて……!?」

紅眼のエルフ「あら、嘘だったのだけれど……」

僧侶「なっ……!」

勇者「僧侶、諦めよう」

僧侶「うるさいです!」
239 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:39:19.27 ID:w4UcQvKc0





僧侶「ふう〜……美味しい〜……」

僧侶「おかわり〜」

勇者「そろそろ止めにしたら?」

僧侶「えーまだ飲みますう」

勇者「はいはいまずは水飲んで」

僧侶「えー」

暗器使い「真っ先に駄目になったな」

紅眼のエルフ「可愛らしくていいじゃない」

勇者「ほら風邪ひくからこれ羽織って」
240 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:40:49.71 ID:w4UcQvKc0
僧侶「ありがとー」

紅眼のエルフ「本当に仲がいいのね」

勇者「小さい頃からの付き合いだからね」

勇者「それぞれの修行のために離れていた時期もあったけれど、基本的にはずっと一緒だったかな」

紅眼のエルフ「なるほど……」

紅眼のエルフ「ちなみに僧侶と勇者はお互いのことをどう思っているのかしら?」

暗器使い(グイグイと突っ込むなこの女……)


僧侶「生意気な弟です」

勇者「手のかかる妹、かな」


僧侶「ん?」
241 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:41:34.11 ID:w4UcQvKc0
勇者「えっ?」

僧侶「いやいや、勇者様より私のほうが歳上ですよね!?」

勇者「歳は関係ないよ。実際こうやって介抱されているのは僧侶でしょ?」

僧侶「ふ、普段どれだけ私が勇者様の尻ぬぐいをしているか分かっているんですか……!?」

僧侶「書類まとめや報告に関することは最たるものです……! 最近では書簡のこともそうですよね!?」

勇者「そ、それは確かにそうだけど……僧侶は仕事以外ではだらだらしちゃって家事なんかも疎かだから、僕が何度家政夫をしに行ったか……!」

僧侶「そんな昔のことを……!」

勇者「いやいや、勝手に昔話にしないでよ!」


勇者と僧侶の実のない話は結局僧侶が眠りに落ちるまで続いた。

勇者は僧侶を寝かしつけにもう一室へと彼女を担いで行った。
242 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:42:10.94 ID:w4UcQvKc0


暗器使い「何と言うか……」

紅眼のエルフ「ふふっ、どちらも子供ね」

紅眼のエルフ「期待していたような間柄では無いようだけど」

暗器使い「おいおい楽しむなよ」

紅眼のエルフ「そんなつもりではないわ」

暗器使い「思いっきり『期待していた』って言っただろう……」

暗器使い(こいつも中々の奴だなまったく……)

紅眼のエルフ「本当に姉弟……家族のようなものなんでしょうね、あの二人は」

暗器使い「家族か……まあそうなんだろうな」

紅眼のエルフ「…………?」
243 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:42:38.19 ID:w4UcQvKc0
暗器使い「俺たちもそろそろ寝よう。明日は早いらしいからな」

紅眼のエルフ「一緒に寝る?」

暗器使い「……馬鹿を言うな。向こうに帰れ」

紅眼のエルフ「あらら、連れないわね」

紅眼のエルフ「それじゃまた明日」

暗器使い「ああ」

暗器使い(はあ……本当に苦手なタイプだ……)
244 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:43:09.46 ID:w4UcQvKc0





僧侶「……おはようございます……」

紅眼のエルフ「おはよう。よく寝られたかしら?」

僧侶「お陰様で……」

僧侶「あの、時間は今どれ位でしょうか?」

紅眼のエルフ「まだ八時にはなっていないぐらいだったわ。丁度良い時間に起きたわね」

僧侶「寝坊しなくて良かったです。朝食の前に荷物を纏めておきましょうか」

紅眼のエルフ「うん、そうしましょうか」


二人が自分の荷に手を掛けた所でドアを勢い良く叩く音がした。


勇者「二人共起きてる!?」
245 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:43:42.40 ID:w4UcQvKc0
僧侶「勇者様? どうかしたのですか?」

勇者「いま教会からの使者を通じて緊急の連絡が!」

紅眼のエルフ「……一体何が?」

勇者「魔王軍だ……!」

僧侶「えっ……」

勇者「昨晩魔王軍が各地で一斉に蜂起したって……!」
246 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:44:41.76 ID:w4UcQvKc0





暗器使い「……つまり新生魔王軍が大陸各地でダンジョンを出現させ、宣戦布告をしたと」

勇者「うん、ただ変だなって思うことがあって」

勇者「ダンジョンってのは自然発生と人口生成のどちらでも関係なく、非常に長い時間を要するもののはずなんだ」

勇者「それなのに今回は大都市の中央に発生したダンジョンもあるみたいなんだ」

僧侶「何十年も誰にも気が付かれずにそんな準備が出来るなんてちょっと信じられませんね」

紅眼のエルフ「存外に彼らへの協力者が多くいるって事じゃ無いかしらね」

僧侶「考えたくはありませんが……そうなのかもしれません……」

暗器使い「一つ一つの種族で見れば人間が一番多いが、人外全体を一つと見ればその数は人間の人口に匹敵するとも言われているからな」

紅眼のエルフ「それで、私たちはどう動けば良いのかしら」
247 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:47:35.70 ID:w4UcQvKc0
暗器使い「法国でも数カ所の離島にダンジョンが出現したらしいが、そこに向かえば良いんじゃないか?」


本教会の案内人「いえ、その事なのですが……」


勇者「何か問題が?」

本教会の案内人「本教会からの指示で皆さんには予定通り法都に向かって頂くことになりました」

僧侶「なっ……」

本教会の案内人「皆さんは今の不安定な世のための光なんです」

本教会の案内人「まだ詳細の分かっていない敵陣へと赴いて万が一の事があっては困る……というのが本教会の意向だと思われます」

勇者「脅威に立ち向かう事が勇者の義務だと僕は思う」

勇者「それじゃあ僕達はただのハリボテじゃないか……」

本教会の案内人「……申し訳ございません。法国では本教会の指示に従って頂けると」
248 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:48:17.57 ID:w4UcQvKc0
本教会の案内人「本教会は各国教会の総本山であり、聖騎士団の本拠地でもあります」

本教会の案内人「法国は軍隊を持たない代わりにそれに劣らない聖騎士団が駐留しています」

本教会の案内人「早速その一隊がダンジョンへと出発したとの報告が有りました。今はそちらに任せて頂けると」

暗器使い「それで大方制圧が終わったら俺達が敵の大将首を持ち帰って晒してやればいいと」

暗器使い「ハリボテとはよく言ったものだな」

本教会の案内人「…………」

紅眼のエルフ「まあここで何を言っても変わらないわ」

紅眼のエルフ「大人しく法都へと向かうとしましょう」

勇者「……うーん、なんかなあ……」

僧侶「勇者様……」
249 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/13(金) 21:48:56.77 ID:w4UcQvKc0
本教会の案内人「……こんな状況ですから当然普通の船は海へは出られません」

勇者「へ?」

本教会の案内人「私の知り合いの船も港に留まっているようです」

本教会の案内人「しかし彼も熱い男ですからね……“私がふと目を話した隙に港へ向かった勇者様一行の事情を知れば”帆を張って海へと繰り出すでしょうね」

僧侶「それって……」

本教会の案内人「行くなら急いで下さい。直に他の者も来てしまいます」

勇者「ありがとう……!」

本教会の案内人「ふう……始末書で済めば良いのですが」

暗器使い「済まない。戻ってきたら勇者に全力で口添えさせる」

本教会の案内人「そうして頂けると……」

本教会の案内人「さあ行くならば今の内です」
250 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2018/07/13(金) 21:50:22.86 ID:w4UcQvKc0
予定通り法国編です。
更新間隔が空いてきましたが、前の通り絶対に投げ出しはしないのでどうかお待ち下さい。
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/13(金) 23:01:57.66 ID:97u6F2QCO
乙ー
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/14(土) 02:36:38.99 ID:+rsN88MDO
乙乙
待ってたで
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/26(木) 13:48:53.27 ID:wGaqsHbdO
報告編「報連相は確実に!」
254 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 14:53:45.90 ID:KWPNgOK80





法国の熱い船乗り「ああ? お前らあのヤローの知り合いか?」

勇者「そうなんだ、実はこういった事情で……」


勇者は事情を説明した。


法国の熱い船乗り「……なるほど分かった」

法国の熱い船乗り「こんな状況で海に出るなんざ正気じゃねえが、そういう事なら地獄の果まで付き合ってやるぜ!」

僧侶「ほ、本当ですか……!?」

法国の熱い船乗り「おうよ! 今から準備を始めるからちょっと待ってな」

法国の熱い船乗り「誰かに姿を見られたくないってんなら先に船の中で待っていて構わねえぜ」

紅眼のエルフ「結局普通にはいかないのがこの子達なのね」
255 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 14:54:15.01 ID:KWPNgOK80
暗器使い「普通ではないが、上手く行かない訳では無いのがこいつらの面白い所だ」

紅眼のエルフ「なるほどねえ……」





──法国本島から東の洋上


勇者「…………」

僧侶「……大丈夫ですか?」

勇者「今回はあらかじめ酔い止めを飲んだから多少は……」

法国の熱い船乗り「何だボウズ、酔いやすいのか?」

勇者「恥ずかしながら……」

法国の熱い船乗り「ったく根性がねえな。そんなんじゃ一人前の船乗りにはなれねえぞ」
256 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 14:59:11.97 ID:KWPNgOK80
勇者「ええ……僕っていつの間に船乗り志望になったの……?」

法国の熱い船乗り「しっかし先発のヤローどもに見つからないようにコソコソと進んでいたら思ったより日数がかかっちまったな」

法国の熱い船乗り「前が詰まってちゃ小型船ならではの機動性が活かせねえや」

紅眼のエルフ「上陸地点もずらした方が良いでしょうしね」

暗器使い「まあ俺達が向かうべき状況なのかも分かっていないんだ。今は焦る必要も無いだろう」

暗器使い「それにしてもダンジョンか……久しいな」

勇者「暗器使いもダンジョンに行った事が?」

暗器使い「その言い方だと勇者もあるみたいだな」

勇者「僕は修行の一環で父さん達と昔ね」

暗器使い「なるほどな……俺は領内のダンジョンの調査に携わったことあってな」
257 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:04:02.03 ID:KWPNgOK80
勇者「暗器使いの本職とはかけ離れた仕事みたいだけど?」

暗器使い「それは今もそうだろう」

勇者「まあね」

僧侶「恥ずかしながら私は一度も……」

紅眼のエルフ「それこそ本職とはかけ離れているじゃない。気にしなくていいのよ」

僧侶「そう言って頂けると……」

僧侶「ですが今からダンジョンへ向かうわけですからある程度の知識は備えておきたくて……何か注意するべきことなどは有りますか?」

勇者「じゃあダンジョンに関しての簡単な説明をするね」

勇者「ダンジョンまたは迷宮っていうのは強力な力の持ち主や自然的な力の吹き溜まりによって生成される結界の一種なんだ」

勇者「ダンジョンが生成されるとその内部では生成者……つまりダンジョンの主とその配下の力が底上げされるんだ」
258 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:05:11.01 ID:KWPNgOK80
勇者「内部に居ても主の配下ではない者……つまり僕達攻略者はその恩恵を受けられないから非常に不利なんだよね」

勇者「ダンジョンを消滅させるには主が術を解除するか、主が死ぬしかない」

僧侶「つまり今回のような状況では恐らく……」

暗器使い「向こうが術を解いてくれるなんてことは無いだろうから、主を倒すしか方法はないだろうな」

紅眼のエルフ「それは随分と骨が折れそうね」

紅眼のエルフ「ダンジョンを出現させるだけの力の持ち主の中でも、彼らにとっての敵の本陣目の前を任された奴が主ってことでしょう?」

暗器使い「ああ、並大抵の相手ではないはずだ」

勇者「聖騎士団も当然その事は分かっての人選のはずだから大丈夫だとは思うけど……」

勇者「それでもかなりの激戦になるだろうね」

僧侶「そんな中で私達は一体何をすれば……」
259 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:05:47.55 ID:KWPNgOK80
勇者「少人数の機動性を活かして索敵や情報収集をしようと思うんだ」

僧侶「しかし情報を集めた所でそれをどうやって騎士団に伝えれば? 私達は法国本島に居ることになっているんですよ?」

勇者「いやあ、それはもう普通に伝えに行けば良いんじゃないかな」

僧侶「えっ」

勇者「着いちゃったものは仕方が無いという事で」

僧侶「はあ……要するに無策という事ですね……」

紅眼のエルフ「まあ勇者の言う通り来てしまったものは仕方が無いでしょう」

紅眼のエルフ「割り切ってもらうとしましょう」

暗器使い「僧侶、諦めろ。俺よりも付き合いの長いお前なら勇者の事もよく分かっているだろう?」

僧侶「ええそれは勿論……」
260 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:06:28.27 ID:KWPNgOK80


その時、船乗りが遠方を睨んで銛を構えた。


法国の熱い船乗り「おう! 話している所悪いんだが揺れに備えてくれ!」

勇者「どうしたの?」

法国の熱い船乗り「ダンジョンとやらに行く前にウォーミングアップができそうだぞ」

法国の熱い船乗り「あの魚影は恐らく……ウロコザメだ!」


船乗りの目線の先に鮫というにはあまりに大きな魚影が近づいて来るのが見えた。


暗器使い「俺に任せろ」


暗器使いはそう言うとどこからともなくライフル銃を取り出した。


法国の熱い船乗り「お前一体どこからそれを……?」

紅眼のエルフ「ふうん……そういう力なのね」
261 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:07:36.21 ID:KWPNgOK80
法国の熱い船乗り「力……? そうやってどこからか武器を取り出すのが兄ちゃんの能力だっていうのか?」

法国の熱い船乗り「そいつはすげえがしかし……」

暗器使い(この距離なら当たる……)


暗器使いが引き金を引き、弾がウロコザメに向けて撃ち出された。

しかし銃弾はウロコザメの体を貫くことはなく甲高い金属音とともに弾かれてしまった。


暗器使い「硬い……!」

法国の熱い船乗り「ウロコザメは全身が金属みたいな鱗で覆われている」

法国の熱い船乗り「少なくとも頭側から攻撃しても弾かれるだけだぜ」

勇者「で、でも鮫はこっちに向かってくるわけだから……」

法国の熱い船乗り「おうよ。だからこうするんだ」
262 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:12:16.39 ID:KWPNgOK80
法国の熱い船乗り「まず一発目を避けるぞ!どこでもいいから捕まっておけ!」


船乗りはそう叫ぶと向かってくるウロコザメを避けるように思い切り舵を切った。


僧侶「きゃっ!」

勇者「うわわっ!」

法国の熱い船乗り「へっ! 落ちんなよ!」

法国の熱い船乗り「そんで……こうすんだよ!」


船乗りの手にしていいた銛が突如青白い稲妻を纏い出し、それが船を飛び越えて着水したウロコザメへ向かって投擲された。


勇者「す、凄い……!」

法国の熱い船乗り「護衛もなしにこの辺りで船乗りやるにはこれぐらい出来なくちゃなあ!」

法国の熱い船乗り「だが……ちっ、浅かったな……!」
263 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:12:52.29 ID:KWPNgOK80
暗器使い「もう一度来るぞ……!」

法国の熱い船乗り「しょうがねえ、もう一回やるか……」

紅眼のエルフ「いえ、その必要はないわ」

紅眼のエルフ「念の為と思ってこれを持ち込んでおいて良かったわ」

法国の熱い船乗り「それは船に積み込んだ苗木の枝で作った矢か……?」

法国の熱い船乗り「そんなもんで何をしようって……」

紅眼のエルフ「まあ見ていてちょうだい」

法国の熱い船乗り「何をするつもりかしらねえが任せていいんだな? 来るぞ……!」

紅眼のエルフ「……!」


紅眼のエルフが放った矢は生木特有のしなりのせいか、安定感のない軌道で飛んでいった。
264 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:13:30.42 ID:KWPNgOK80
しかし彼女が二、三言何かを唱えるとウロコザメの目の方向へと鏃が行き先を変えた。


勇者「あ、当たった……!」

法国の熱い船乗り「な、なんちゅう矢の軌道だ……!」

暗器使い「これが噂に聞く森の民の風を操る力か……」

僧侶「で、でも片目を潰されてもまだ鮫は怯んでいませんよ……! こちらへ向かってきます!」

紅眼のエルフ「大丈夫よ。私達が使役しているのは風だけじゃないわ」


再び彼女が何かを唱えると、ウロコザメの頭部から無数の枝が飛び出し爆ぜた。


紅眼のエルフ「生木の矢を使えばこんな芸当も出来るのよ」

暗記使い「ほう……」

勇者「え、えげつない……」
265 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:16:04.79 ID:KWPNgOK80
法国の熱い船乗り「ほーう、この状況下であの島に向かうって言うだけはあるな」

僧侶「元から戦闘要員ではない私は勿論ですが、こういう場所だと勇者様も見ているだけしか出来ませんね……」

勇者「そうだね……エルフさんが仲間になっていてよかった」

法国の熱い船乗り「さあて気を取り直して再出発としようか」
266 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:16:56.96 ID:KWPNgOK80





法国の熱い船乗り「よし、この辺なら騎士団の船にも見つからないだろう」

法国の熱い船乗り「しかし本当にいいんだな……?」

勇者「うん。どうせダンジョンの中では会わなくちゃいけないんだから、帰りは騎士団のお世話になるよ」

法国の熱い船乗り「お前さんがそう言うなら良いんだろうけどな……」

法国の熱い船乗り「まあ頑張れや。俺はこの辺で退散させてもらうぜ」

僧侶「本当にお世話になりました」

暗器使い「帰りも気をつけてくれ」

法国の熱い船乗り「おうよ。じゃあな」


船が無事に沖へ進んでいくのを見送った一行は、装備を再確認して島の奥地へと探索を開始した。

267 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:21:56.22 ID:KWPNgOK80
勇者「そういえばこの島には元々何かあるのかな?」

僧侶「伝統のある寺院があると聞いています。かつては神官らの修業の場としても使われていたとか」

僧侶「近年は老朽化かが進んでいるので保護のために実用は控えられていたようですが」

勇者「じゃあダンジョンの中心はその寺院の可能性が高いね」

暗器使い「教会の伝統的な施設にダンジョンが現れた、か……」

勇者「どうしたの?」

暗器使い「いや、先日の報告を詳しく聞いた所だと、他国では大きな教会自体がダンジョン化に巻き込まれた所もあるらしいな?」

紅眼のエルフ「ええ、そうみたいね」

暗器使い「これは力の誇示……教会勢力への強い敵対意思を示すためのものであることは間違いないだろう」

暗器使い「だがそれだけではない筈だ」
268 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:22:36.93 ID:KWPNgOK80
暗器使い「アピールにしたって目立ちすぎだ。何も各地でこれ程大規模にやる必要があるだろうか」

僧侶「何か別の狙いがあると?」

暗器使い「ああ、これはもしかすると陽動なのかもしれない」

暗器使い「新生魔王軍はこの後に別の……つまりは本命を成すつもりなのではと俺は思っている」

暗器使い「あくまで推測だがな……」

紅眼のエルフ「…………」

僧侶「で、でしたら……」

暗器使い「だが俺たちのやることは変わらない」

暗器使い「これ程の規模の事を陽動に使えるような敵だとすれば、俺たち四人にできることなんざ知れている」

勇者「確かに……」
269 : ◆8F4j1XSZNk [saga]:2018/07/31(火) 15:23:04.62 ID:KWPNgOK80
暗器使い「教会も馬鹿ではない。気付いてはいるはずだ……」

紅眼のエルフ「そういう事なら早速奥へと行きましょうか」

紅眼のエルフ「身軽なのが今の私達の取り柄なんでしょう?」

勇者「そうだね、行こうか」
270 : ◆8F4j1XSZNk [sage saga]:2018/07/31(火) 15:27:41.34 ID:KWPNgOK80
お気づきだとは思いますが、ちょうど前作の《ダンジョン》編と同じ時間の話となっています。
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/07/31(火) 16:12:06.21 ID:V6qnDRvcO
乙ー
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 00:12:49.30 ID:UZW9tGWDO
乙乙
273 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:03:59.88 ID:b0hzDa7B0





僧侶「だいぶ奥地まで来ましたが……もしかしてあれが」

勇者「うん、ダンジョンの始まりだね。あそこを通過したら制圧するまで戻ってこれないよ」

暗器使い「最低限のものは持ってきているが、長期化しそうならば先発の騎士団の世話になることも視野に入れておいたほうが良いだろう」

勇者「よーし、気をつけて進もうね」


一行は周囲に警戒しながらダンジョンへ踏み込んだ。


僧侶「あ、あれ……? さっきまでこんなに建物や洞窟が有りましったけ?」

紅眼のエルフ「ダンジョン結界内は地形や構造物すらも複雑に変化して文字通り迷宮と化すのよね」

暗器使い「ああ、元の地理の知識は何の役にも立たない。精々中心部がどの方角かが分かる程度だ」

暗器使い「先頭は俺に任せろ。エルフは後方の警戒、勇者は僧侶の護衛を頼む」
274 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:04:57.55 ID:b0hzDa7B0
紅眼のエルフ「わかったわ」

勇者「了解」


暗器使いを先頭にしばらく進んでいくと前方から飛び出してくる影あった。


暗器使い「早速お出ましか……」

勇者「デカい方は任せて! 暗器使いはゴブリンの群れをお願い!」

暗器使い「ああ」

サイクロプスA「オオオオオオッ……!」

勇者(要領はオーガを相手にした時と同じでいいはず……!)


勇者は振り下ろされた棍棒を身を翻して避けると、サイクロプスの懐に飛び込んで剣を突き立てた。


勇者「次っ……!」
275 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:06:17.76 ID:b0hzDa7B0
暗器使い(相変わらず危うい闘い方だ……だが……)

暗器使い(まあいい。俺は俺の相手に集中をせねば)

暗器使い(武装したゴブリンが六体……取るに足らない相手ではあるが手は抜かない)

暗器使い(失敗とはすなわち死だと教えられて来たからな)

暗器使い(銃……は流れ弾が勇者に当たる可能性がある)

暗器使い(ならば……)

ゴブリンA「キキッ、突っ立ってんじゃねえぞ人間! ……あばっ!?」

ゴブリンB「な……んだ……これは」

暗器使い「鋼の糸だ。連邦国の技術力を以ってすればこれ程の強度の物も作れる」

ゴブリンC「や……め……」
276 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:07:16.32 ID:b0hzDa7B0
暗器使い「…………」


暗器使いが手を引くとゴブリン達は賽の目状に崩れ落ちた。

ふと勇者の方に目をやると彼はサイクロプスらに囲まれていた。


暗器使い(あの馬鹿……突っ込み過ぎだと何度言えば……!)

暗器使い「この一体は俺に任せろ! お前は自分の前の二体をどうにかしろ!」

勇者「う、うん……!」

サイクロプスB「ゲヘヘ……その細腕で俺を相手しようってか?」

暗器使い「……こうすれば筋肉は関係ない」


そう言った暗器使いの手の中にどこからか巨大なハルバードが現れた。


サイクロプスB「なっ……! 一体どこから……!?」
277 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:11:20.09 ID:b0hzDa7B0
暗器使い「さあな。とにかく俺は重力に従って振り下ろすだけだ」

サイクロプスB「がっ……!?」


サイクロプスはハルバードで頭から両断されてしまった。

その光景に怯んだ隙に勇者も他の二体を斬り伏せた。


紅眼のエルフ「……ふうん……」

僧侶「軽いけがのようですが直ぐに治しますね」

勇者「うんお願い」

勇者「いやあ助太刀ありがとう」

暗器使い「お前はいい加減その後先を考えない闘い方を止めろ」

暗器使い「少しは恐怖心というものがないのか」
278 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:16:56.10 ID:b0hzDa7B0
勇者「恐怖心かあ……うーん、どうだろう」

勇者「そういえば最近特に感じなくなってきたような……」

暗器使い「戦いに慣れてきたということか? いずれにしても良いことではない」

勇者「わかった気をつけるよ」

暗器使い(もしくはあの剣の作用なのか……? いや、あまり憶測で物を言うのは良くないか……)

暗器使い「まあ良い……この先も多くの戦いが予想されるから体力の配分は気をつけていくぞ」

勇者「……待って、これは……」

暗記使い「何だ……? 封印か何かか……?」

僧侶「専門ではないので確実なことは言えませんが、おそらくこれだけでは完全なものではないです」

僧侶「このダンジョンの各地に外の封印の陣があるかもしれません」

勇者「その全部を何とかすれば良いってことか」

僧侶「そうですね。それらの位置を把握して騎士団に伝えるのが良いと思います」

279 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:17:55.87 ID:b0hzDa7B0



それからしばらく、勇者達が二つ目の封印の陣を発見し、その後現れたゴブリンらを制圧した時だった。


勇者「……! まだ何か来るよ……!」

暗器使い「何……?」


勇者達の目の前には先程と同じようにゴブリンなどの群れが姿を表した訳ではなかった。

そこには異様な気配を放つ謎の黒い甲冑の騎士が立っていた。


僧侶「黒い……騎士……?」

紅眼のエルフ「…………」

暗器使い「勇者……」

勇者「うん、わかってる」
280 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:22:05.02 ID:b0hzDa7B0
勇者「“あいつはヤバすぎる”……!」

暗器使い「ああ……素での実力は分からないがこのダンジョンにおいては恐らく……」

勇者「間違いなくSランクだね……」

僧侶「そんなっ……!」

勇者(恐らくこの騎士がこのダンジョンの主だ……こんな所に出てくるなんて想定外すぎるよ……!)

勇者(もう少し僕たちだけで偵察する予定だったけど、これじゃそうも行かないね……)

黒い騎士「……勇者とその仲間だな?」


騎士は甲冑のせいか若干くぐもった声でそう問いかけてきた。


勇者「……そうだよ。僕が勇者だ」

黒い騎士「自分は新生魔王軍の四天王が一人である」
281 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:22:50.84 ID:b0hzDa7B0
暗器使い「四天王……!」

黒い騎士「我らが覇道の妨げとなる貴様らにはここで消えてもらう」

黒い騎士「いざ参る……!」

勇者「来るっ……!」

暗器使い「馬鹿野郎! 正面からやり合おうとするな!!」

勇者「ぐっ…………あっ…………!?」


黒い騎士の剣を自身の剣で受けた勇者はそのまま後ろへと吹き飛ばされてしまった。


勇者「がはっ……!」

僧侶「なっ……!」

勇者(なんて……力だ……)
282 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:24:01.23 ID:b0hzDa7B0
黒い騎士「こんなものか、勇者よ……」

勇者「ま、まだだ……!」

黒い騎士「甘い……!」


勇者の刺突を躱した騎士はその突き出された腕に剣を突き立てた。


勇者「っ……! ぐああああああああっ!!」

暗器使い「ちっ……! 俺が時間を稼ぐ!」

黒い騎士「貴様もつまらないな。正当な剣の道を修めていないのが分かる」

暗器使い「正面からの立ち合いでは大した事がないのは自覚している……!」

黒い騎士(逆手にナイフ……いつの間に……)

黒い騎士「ほう……だがそれも通用はしない」

283 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:24:58.48 ID:b0hzDa7B0
暗器使いの投げたナイフは全て叩き落されてしまった。


黒い騎士「なるほど邪道の武というのも中々面白いが、まだまだ未熟なようだな」

暗器使い(まずいな……俺では相手になっていない)

勇者「一人一人じゃ駄目だ。連携していこう……」

黒い騎士「何……? 貴様もう傷が……」

黒い騎士「……なるほど、後ろの女の術か。貴様がかの僧侶の末裔だな」

僧侶「私が居る限り誰一人死なせはしません……!」

黒い騎士「……ふん……」

黒い騎士「如何に優れた白魔法使いでも死者を蘇らせることは出来ない。それは貴様らの領域では無い」

黒い騎士「ならば治す前にその生命を奪えば良い」
284 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:33:32.45 ID:b0hzDa7B0
勇者「……!」

暗器使い(ヤバイな……どうにか逃げる手立てを考えなければ……)

暗器使い(自分一人で逃げるならば容易いだろう。以前ならばそれでも良かった。だが……)


勇者『──勿体無いって思っちゃったんだ。こんなに凄い人が一つの国に篭りっきりなんて』


暗器使い(こいつらを見捨てて逃げることは、出来ない……!)

紅眼のエルフ「……ふう、仕方がないわね」


紅眼のエルフが少し面倒くさそうに呪文を唱えると、勇者、僧侶、暗器使いの三人との間に太いツタが絡み合った巨大な壁が現れた。


黒い騎士「ほう、これが森の民の力か……」

紅眼のエルフ「ま、勇者のパーティーに選ばれるんだからこれぐらいは出来るわ」

勇者「エルフさん!? これは一体……!」
285 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:34:22.67 ID:b0hzDa7B0
紅眼のエルフ「こういう鬱蒼とした場所を逃げ回るのは得意なのよ」

暗器使い「駄目だ危険すぎる」

紅眼のエルフ「あら心配してくれるの? ちょっと意外ね」

紅眼のエルフ「でも今は他に方法がないわ。精々私のために騎士団の本隊でも探して来てちょうだい」

僧侶「で、でも……!」

暗器使い「……分かった。すぐ戻る」

僧侶「暗器使いさん!?」

暗器使い「他に手立ては無い。今は彼女を信じよう」

勇者「……エルフさん! 絶対無理だけはしないでね!」

紅眼のエルフ「分かったから早く行きなさい」
286 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:34:49.45 ID:b0hzDa7B0
黒い騎士「みすみす見逃すとでも?」

紅眼のエルフ「あら。これは正面からの闘いとは違うのよ」

紅眼のエルフ「そういうの、貴方は得意なのかしら?」

黒い騎士「…………」
287 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:35:26.08 ID:b0hzDa7B0





勇者「ふう……ふう……」

勇者「何とか……逃げ切れたかな……」

僧侶「でも……エルフさんが……」

勇者「わかってる……だから早く聖騎士団の本隊を探さなくちゃ」

暗器使い「……案外それは早く見つかるかもしれないな」

僧侶「え?」

暗器使い「見ろ、靴の跡だ。大きさや歩幅も人間のものと見て間違いないだろう」

暗器使い「比較的新しい物だから今さっき近くを通過したのかもしれない」

僧侶「本当ですか……!」
288 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:38:22.54 ID:b0hzDa7B0
暗器使い「ああ、急ぐとしよう」

勇者「…………」

暗器使い「どうした?」

勇者「いや、やっぱり良くなかったかなって」

暗器使い「独断でこの島に来たことか?」

勇者「うん……」

暗器使い「最終的に全員自分の意志でここに来ている。良いか悪いかは別として、お前一人の責任というわけではないだろう」

僧侶「暗器使いさん……」

勇者「……ありがとう」


それからしばらく探索を続けている内に勇者達は聖騎士団の野営地にたどり着いた。
289 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:41:28.43 ID:b0hzDa7B0


第五団聖騎士A「止まれ! 何者だ!」

勇者「僕は勇者。後ろの二人は紋章に選ばれた僕の仲間達だ!」

第五団聖騎士A「勇者だと? 勇者は法都の法王猊下に謁見をしているはずだ」

暗器使い「この島のダンジョンのことを聞きつけて居ても立ってもいられ無くなったみたいでな」

暗器使い「まあ勇者の性というものだろう」

第五団聖騎士A「貴様らが本物の勇者一行であるという証拠はない。ここを通すわけにはいかない」

暗器使い(まあ当然の反応か)

僧侶(ど、どうしたら信じて貰えるんでしょうか……)

???「大丈夫だ。彼らを通したまえ」


勇者達の行く手を塞いでいた聖騎士達の後ろから大柄な中年の男が現れた。
290 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:43:49.61 ID:b0hzDa7B0


第五団聖騎士A「し、しかし団長……」

???→第五聖騎士団長「大丈夫だと言っている。彼らは本物だ」

第五団聖騎士A「は、はっ……!」

第五聖騎士団長「失礼。お初お目にかかるな勇者殿」

第五聖騎士団長「私は第五聖騎士団の団長を務めさせてもらっている者だ」

勇者「初めまして。勇者一族の当代当主を務めさせて頂いています」

暗器使い「北方連邦国の民選議会から来ました。当パーティーのアサシンの紋章持ちとして選ばれました」

僧侶「お、お久しぶりです叔父様……」

勇者「えっ」

勇者(僧侶の叔父さん……!?)
291 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:44:31.63 ID:b0hzDa7B0
第五聖騎士団長「ああ。大きくなったな」

第五聖騎士団長「実の弟の葬儀にも顔を出せない不甲斐ない男ですまない……」

僧侶「そんな事は……! この情勢では多忙を極めておられる筈です……わざわざ王国まで出向いて頂くわけにはいきませんでした」

第五聖騎士団長「あいつに家のことを任せて数十年……ついに兄らしいことは一度もしてやれなかった」

僧侶「……そのように深く想っていただくだけでも天の父上は喜んでいると思います」

第五聖騎士団長「……そうか」

勇者「僧侶のお父さんにご兄弟がいらしたなんて話、初めて聞いた……」

僧侶「叔父様は若い頃に出家をなさっていたので、私も修行の一環で法国に訪れた際に初めてお会いしましたから」

第五聖騎士団長「家を継ぐには私の癒やしの力はあまりに微弱であったのでな。才に恵まれた弟に家督は譲ったのだ」

勇者「そうだったのですか……お会いしたことが無いはずです」
292 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:45:04.85 ID:b0hzDa7B0
暗器使い「第五聖騎士団長……噂に聞く剣豪か」

暗器使い「純粋な剣の腕のみを頼りにたゆまぬ努力で団長の座まで上り詰めたという」

第五聖騎士団長「弟に比べて体だけは丈夫だったからな」

第五聖騎士団長「自分にはこれ以外無いという心構えで研鑽してきた」

勇者(剣の腕……僕もこの剣を受け継ぐ前から鍛錬はしてきたけど、それでもまだまだ足りていない事は分かっているんだ)

勇者(僕は恵まれた体格じゃない。より一層の努力をしないと強大な敵には歯が立たなくなってしまう……)

第五聖騎士団長「…………」

第五聖騎士団長「焦りは禁物。着実に丁寧に進んでいくことが大切だ」

勇者「えっ……は、はいっ……!」

第五聖騎士団長「さて、弓使いの紋章持ちが新たに仲間に加わったと聞いていたが……」
293 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:45:47.44 ID:b0hzDa7B0
勇者「はい、その件でこの野営地に来ました」


勇者は先ほどの出来事を説明した。


第五聖騎士団長「謎の黒い騎士か……」

第五聖騎士団長「それがこのダンジョンの主である可能性が高いと」

暗器使い「感じる力は凄まじいものでした。自分はそうだと見ています」

第五聖騎士団長「なるほど……黒い騎士の件は了解した」

第五聖騎士団長「だがエルフの弓使い事は我々は関与しない。それはお前達の独断が招いた結果だ」

僧侶「そ、それは……」

勇者「たしかに命令に従わずにここへ来た僕達の落ち度です」

勇者「でもエルフさんは僕達の大切な仲間なんです。捜索のための人員を割いてくれとはいいません」
294 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:46:53.86 ID:b0hzDa7B0
勇者「でも何か痕跡が見つかったりした場合は僕達に報告をしてはいただけないでしょうか」

第五聖騎士団長「厳しい言い方をさせてもらうが、お前達は一体この島に何をしに来たのか」

第五聖騎士団長「大切な仲間が一人行方不明になっただけでそれ以外は何もしていない。遊び半分で来ているならば解決までこの野営地にいてもらおうか」

僧侶「叔父様……」

第五聖騎士団長「大切な姪だとは言えここは譲れない。我々の歩む道には沢山の命がかかっているのだから」

勇者「……遊び半分ではありません」

勇者「確かにろくな計画もなしに来て、結果はこの様ですが……」

勇者「僕達も見据えている方向は同じなんです。役に立ちたいんです」

第五聖騎士団長「……その言葉は嘘ではないのだろう」

第五聖騎士団長「だが、結果が伴わなければそれは口先だけのものと変わらない。そうは思わないか」
295 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:47:28.30 ID:b0hzDa7B0

勇者「しかし……」

第五聖騎士団長「エルフの娘の捜索よりも今我々が優先してしべきことがあるのだ」

僧侶「それは一体……」

第五聖騎士団長「ダンジョンの最深への道を発見することだ」

第五聖騎士団長「どうやらこのダンジョンは見かけ以上に複雑な作りをしているらしい」

第五聖騎士団長「進めども同じ場所へ戻されることも多い」

暗器使い「……先程から口を挟むような間を逃しておりましたのですが、ここで良いでしょうか」

第五聖騎士団長「何かあるのか」

暗器使い「我々はこの島に来て何もしていなかったわけではありません」

暗記使い「まずは先へ進む道を封じているであろう魔法陣を二つほど発見いたしました」
296 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:47:54.63 ID:b0hzDa7B0
暗記使い「他のものと合わせて解除すれば更に奥へと進めるはずです」

第五聖騎士団長「ほう……」

暗記使い「それと、こちらを御覧ください」

第五聖騎士団長「これは……方位磁針か?」

暗器使い「形は方位磁針ですがれっきとした魔法道具です」

暗器使い「この道具は一度接触した対象の方向を指し示すことが出来るものです」

暗器使い「先程の黒い騎士との戦闘で細工をしておきました。奴がダンジョンの主だとすればその行き先を把握できるということは非常に大きな成果では」

第五聖騎士団長「…………ふむ」

第五聖騎士団長「ならば良い!」

第五聖騎士団長「成果があるならば宜しい! 征くぞ、全隊準備に取り掛かれ!!」
297 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:50:43.43 ID:b0hzDa7B0
第五団聖騎士A「はっ……!!」

勇者「いつの間に……」

暗器使い「何の考えもなしに着いてきたわけじゃない」

勇者「暗に僕が考えなしって言ってるよね」

暗器使い「事実だろう」

勇者「事実です……」

暗器使い「しかし俺達がついて行って何か役に立つのか」

暗器使い「正面切っての立ち合いはお前の方が俺よりも上手のはずだが……手も足も出ていなかったしな」

勇者「うん……この状態の僕ではとても敵わない相手だった」

暗器使い「お前も何か隠しダネがあるのか?」
298 : ◆8F4j1XSZNk [sage]:2018/08/23(木) 16:52:20.09 ID:b0hzDa7B0
勇者「確証はないけどね」

勇者「ただ少し怖いんだ」

暗器使い「……?」

勇者「これ以上進んだらもう戻れないような、そんな気がするんだ」
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