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僧侶「勇者様は勇者様です」
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2 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 21:42:43.70 ID:66S2KmHM0
《はじまり》
──遥か昔、まだ世界が混沌としていた頃の話……
──死を振りまく厄災、魔王の恐怖に怯える日々が続いていた……
──しかしその暗黒の日々に終止符を打つ者たちが現れた……
──絶対神様のご加護によって聖なる力を手にした一行……
──勇者とその仲間達、彼ら八人によって邪悪は打倒され、永劫の平和が訪れたのであった……
3 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 21:47:04.61 ID:66S2KmHM0
*
勇者「……だそうだけど」
僧侶「初代勇者の英雄譚の一節ですよね。それがどうかしましたか?」
勇者「永劫に平和なら、何でこんな事をしているんだろうなって」
僧侶「仕方がないですよ。勇者一族の大事な勤めの一つなんですから」
僧侶「根も葉もない噂だったとしても、魔王の名がそこにあるなならば貴方が行かなくてはならないのです」
僧侶「そうすることで人々は安心することが出来ますから」
勇者「それにしたって最近多くないかな。“魔王軍の残党が現れた”って噂」
僧侶「確かに頻繁に有りすぎる気がしますね……」
勇者「騒ぎになるのを見て面白がっている愉快犯がいるかもしれないね」
4 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 21:51:57.90 ID:66S2KmHM0
僧侶「そうだとしたら許せませんね」
勇者「僕も面倒だしね」
勇者「さて、ここが目的地か」
僧侶「私は教会に挨拶に行って来ますね」
勇者「僕はその辺うろついているかな」
僧侶「あまりに遠くには行かないでくださいよ」
勇者「もう僕が教会に行かないことに対しては怒らないんだね」
僧侶「その事は半ば諦めています……ですが、貴方にもいずれ正しい信仰の心が芽生えると信じています」
僧侶「何故ならば貴方は絶対神様に選ばれし勇者の血統なのですから」
勇者「はいはい」
5 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 21:57:19.30 ID:66S2KmHM0
僧侶「はあ……貴方はもう少し大人になるべきですね」
勇者「善処はしているよ」
僧侶「……まあいいです。さっきも言いましたが遠くには行かないでくださいね」
勇者「そこまで子供扱いしなくても良いじゃん……」
勇者「じゃあ後でね」
僧侶「はい、それでは」
勇者「…………」
勇者(特に理由はないのだけれども、昔から教会で祈る気分にはなれない)
勇者(得体の知れない胡散臭さを感じてしまうのだ)
勇者(こんな気持ちで形式だけの祈りをしても逆に失礼な気がして最近は教会に入ることも少なくなった)
6 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 22:05:06.00 ID:66S2KmHM0
王都郊外の町の子供「あ、勇者様だ!」
勇者「こんにちは」
王都郊外の町の子供「こんにちは!」
王都郊外の町の子供「ねえ、腰にあるのがあの勇者の剣?」
勇者「そうだよ。お仕事で来ているから一応持ってきたんだ」
王都郊外の町の子供「えっ、悪い怪物がこの辺にいるってこと!?」
勇者「うーん、どうだろう。いないと思うんだけど、本当に現れたとしても僕達がいるから大丈夫だよ」
王都郊外の町の子供「だよね! 勇者様がいれば安心だもんね!」
勇者「うん、そうだね」
勇者(実際は父さん達抜きでの実戦経験はあまり無いから、僕らだけで対処できるかわからないけど……)
7 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 22:11:06.32 ID:66S2KmHM0
勇者(まあ今回もただの噂だと思うけどね)
その時、何かが崩れる音とと悲鳴が勇者の耳に届いた。
王都郊外の町の子供「な、何の音……!?」
勇者(……噂だと良かったんだけど……)
勇者「君は直ぐにお家へ帰りなさい。危ないから今の音がした方に行ったら駄目だよ」
王都郊外の町の子供「う、うん……!」
勇者(音がした方角はあっちだ)
勇者(急がないと……!)
8 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 22:13:01.15 ID:66S2KmHM0
*
勇者は町外れの墓地に着いた。
勇者(これは……ゾンビ……!?)
勇者(墓地の遺体がゾンビになっている……!)
ゾンビA「ウウウ……」
勇者(どうしよう……ゾンビとは言ってもついさっきまで安らかに眠る遺体だったんだよね……)
勇者(剣で斬ってしまっても良いんだろうか……)
ゾンビB「グウウウウ……」
ゾンビC「ガアアアッ!」
勇者「うわっ!」
9 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 22:19:34.60 ID:66S2KmHM0
勇者(そんな事言ってられないか……!)
勇者「後でちゃんと埋葬し直しますので!」
勇者が剣を一閃するだけでゾンビ達はまとめて真っ二つになった。
勇者(相変わらず、流石は伝説の剣って感じだな……)
勇者(持っているだけで安心できる)
ゾンビD「オオオッ!」
ゾンビE「ガウッ!」
勇者(って、キリがないな! 結構広い墓地だからどんどんゾンビが湧いて出てきちゃうのか!)
僧侶「勇者様、退いてください!」
勇者「僧侶!」
10 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 22:26:02.52 ID:66S2KmHM0
僧侶が呪文を唱えると、たちまちゾンビたちが動きを止めて倒れ出した。
勇者「僧侶って回復以外も出来たんだね」
僧侶「こういう相手の場合限定ですけれどもね」
ゾンビF「ウウウウ……」
僧侶「……!」
僧侶(大丈夫……平気よ……平気……)
僧侶(落ち着いて私……)
僧侶「……ふう……」
勇者「それよりも僧侶、どんどんゾンビが湧いて出てきちゃうんだけど……」
僧侶「……これはどこかにゾンビを生成する魔法陣がありますね。それを探し出して破壊しないと駄目です」
11 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 22:39:37.30 ID:66S2KmHM0
勇者「魔法陣か……」
勇者「あの下が怪しいかもしれない」
僧侶「墓地のシンボルの石像が崩されていますね……。酷いことを……」
勇者「瓦礫を退かさないと……」
僧侶「勇者様!? 勇者の剣で瓦礫を叩かないで下さい!」
勇者「いやでも、この剣を持っていないとただの非力な人になっちゃうから……」
僧侶「身に着けるだけで効力があるのをお忘れになったのですか!? 手で瓦礫を退かせるとか、他にもやりようがあるでしょう!」
勇者「そ、そうだね……」
僧侶「ゾンビの方は私が引き受けますので、なるべく早くお願いします……! その、あまり対峙していたくないので……」
勇者「わかった、任せて……!」
12 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 22:45:32.59 ID:66S2KmHM0
勇者「よっと……!」
勇者(やっぱりこの剣は凄いなあ……僕でもこんな大きな瓦礫を持ち上げられるなんて)
勇者(でもこの剣無しでは僕は本当に無能だから、絶対に失くさないようにしないと……)
勇者(さて、これが魔法陣か……)
勇者は魔法陣の描かれた石畳を踏みつけて壊した。
勇者「魔法陣は壊したよ!」
僧侶「まだ他にもあるはずです! 探し出して同じように破壊してください!」
勇者「わかった!」
それから勇者は六つの魔法陣を発見し、その都度破壊した。
勇者「ゾンビの数が増えなくなった……今ので最後だったみたいだ!」
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/04/08(日) 22:53:59.35 ID:BHKPBdw10
剣の勇者
14 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 22:54:03.06 ID:66S2KmHM0
僧侶「わかりました。残りを一掃します……!」
僧侶の術で残ったゾンビが全て動かなくなった。
僧侶「……この後埋葬し直さなくてはなりませんね」
勇者「そうだね」
勇者「うーん……」
僧侶「どうかしましたか?」
勇者「いや、少し変だなあって」
僧侶「変、とは」
勇者「いや、この魔方陣なんだけどね。見つけられたくなかったもっと上手く隠す方法がなかったのかな」
僧侶「確かにそれはそうですね」
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/04/08(日) 23:00:49.81 ID:rxDTDsnd0
テスト
16 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:01:24.21 ID:66S2KmHM0
勇者「まるでここは本命じゃないみたいな、そんな感じがする」
僧侶「本命とは?」
勇者「わからないよ。そんな気がするってだけ」
勇者「さて、教会に報告しに行こうよ」
僧侶「そうですね」
王都郊外の町の神官「ゆ、勇者様! ここにおられましたか!」
勇者「どうしたんですか、そんなに慌てて……」
王都郊外の町の神官「一大事です……! 早く王都へお戻りになってください……!」
勇者「……王都で何が……?」
17 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:08:59.16 ID:66S2KmHM0
*
──王都中心部
勇者「こ、これは……」
僧侶「私達の街が……!」
王都の聖騎士A「きょ、強力な人外が突然大量に現れて……我々では手も足も出ず……」
王都の聖騎士A「あの方々も応戦されていましたが……」
勇者「……! 家を見てくる……!」
僧侶「私も……!」
勇者「…………」
勇者(一体何が……)
勇者(父さん……! 母さん……!)
18 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:21:35.51 ID:66S2KmHM0
勇者は両親が住む実家へと駆け出した。
勇者「はあ……はあ……家はもうすぐだ……」
勇者(……着いた……!)
勇者「二人共無事!?」
勇者「…………母さん…………?」
勇者「そんな……母さん……」
勇者「返事をして、母さん……!」
勇者の父「……お、お前か……」
勇者「父さん!!」
勇者「すぐに術師を呼んで来る!」
19 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:23:47.99 ID:66S2KmHM0
勇者の父「いや……無駄だ……」
勇者(……! 内臓が……!)
勇者の父「よく……聞け息子よ……」
勇者「…………」
勇者の父「敵を……見誤るな……」
勇者の父「自分で考えて……信じた道を……」
勇者の父「…………」
勇者「父さん……!」
勇者「くっ……」
勇者「…………」
20 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:24:59.69 ID:66S2KmHM0
勇者「僕の……せいだ……」
勇者「さっきの町での事は囮だったんだ……」
勇者「僕が勇者の剣を持って行ってしまっていたから父さんは……」
勇者「うううっ……」
21 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:26:43.12 ID:66S2KmHM0
*
白髪の国王「……そなたらの家族の事は、誠に残念であった」
勇者「…………」
僧侶「…………」
白髪の国王「勇者の血筋がいる区画であるからと安心していたが、それは大きな間違いであった」
白髪の国王「そなたらがいるからこそ、厳重な警戒態勢をしくべきであったのだ……」
勇者「……いえ、国王様がお気に病むことではございません」
白髪の国王「……そなたの父、そして僧侶の父は共に稀代の強力な力の持ち主であった」
白髪の国王「“奴ら”はそなたらの父の事を恐れて、今回の様な強襲に出たのであろう」
勇者「奴ら……ですか?」
22 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:27:29.48 ID:66S2KmHM0
白髪の国王「うむ……信じたくはないが、信憑性の高い情報が入った」
白髪の国王「そなたらの家族を殺めた者達は魔王軍の残党……新生魔王軍を名乗る集団であるということがわかった」
勇者「魔王……軍……」
白髪の国王「うむ……」
白髪の国王「もしかすると、これは大いなる厄災の始まりなのかもしれない……」
勇者「…………」
白髪の国王「……今のそなたにこのような事を言うのは心苦しいのだが、聞いてくれ」
勇者「……はい」
白髪の国王「そなたには勇者一族の当主として、共に戦う仲間を探す旅に出て欲しいのだ」
勇者「仲間……」
23 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:29:00.20 ID:66S2KmHM0
白髪の国王「そうだ。初代勇者が七人の仲間と共に千年前の大戦を戦ったという話は知っているな」
勇者「はい。魔法使い、剣士、僧侶、弓使い、格闘家、戦士、アサシンの七人と様々な困難に立ち向かったと聞いています」
白髪の国王「その通りだ」
白髪の国王「勇者の剣を持つことが可能な直系の者の元には、七人の選ばれし仲間が集うという……」
白髪の国王「そしてその仲間達には、伝承の通り強力な力が宿るとされている」
勇者「初めて耳にしました」
白髪の国王「次期当主が二十の歳を迎える時に口伝される事になっている……」
白髪の国王「本来ならばもう直ぐそなたの父から語られるはずの事だった」
勇者「そうでしたか……」
白髪の国王「僧侶の父は、勇者の父の“仲間”として選ばれていた」
24 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:29:53.51 ID:66S2KmHM0
白髪の国王「仲間として選ばれた者の身体にはその証が刻まれる……」
白髪の国王「そなたにはその証が現れる者を大陸中を旅して探し出して欲しいのだ」
白髪の国王「そなたの父が倒れた事によって国民は不安にかられている……」
白髪の国王「そなたには現当主として彼らを照らす次の灯火になって欲しい」
勇者「……しかし、仲間を探すとは言ってもこの広い大陸でどうやって……」
白髪の国王「初代勇者の仲間達の子孫に証が刻まれることが多いらしいのだが、例外もあるようでな……」
白髪の国王「しかし安心せよ。どういう理屈かは私にはわからないが、必ず彼らとは出会うようになっているらしい」
白髪の国王「何万里離れていようとも、勇者が仲間を求め続ければ必ずその者と出会うと私は聞いた」
勇者「なるほど……」
勇者「この話、承りました」
25 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:30:42.03 ID:66S2KmHM0
勇者「勇者一族の当主として、必ず仲間を引き連れて戻って参ります」
白髪の国王「おお勇者よ。頼もしい言葉だ」
白髪の国王「万全の準備で旅に出られるように計らおう」
勇者「ありがとうございます」
僧侶「……一つ、よろしいでしょうか」
勇者「僧侶……?」
僧侶「その旅、私も同行させて頂きたいのです」
勇者「なっ……」
白髪の国王「……僧侶よ。この旅は勇者の仲間を探すための旅なのだ」
白髪の国王「残念ながら関係のない者があまり多く同行すると、その道を困難にすると伝えられている」
26 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:31:11.45 ID:66S2KmHM0
僧侶「国王様、私の手の甲をご覧下さい」
白髪の国王「む……その紋章は……!」
僧侶「はい。昨晩、突然現れました」
勇者「まさか……つまり……」
白髪の国王「そなたが勇者の一人目の仲間であるという事か……」
僧侶「はい」
白髪の国王「ならば同行を断る理由はない。そなたの分も準備を進めよう」
僧侶「ありがとうございます」
勇者「…………」
27 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:33:38.12 ID:66S2KmHM0
*
勇者「まさか僧侶が仲間として選ばれるなんてね」
勇者「でもお互い初代勇者パーティーの末裔なわけだし、不思議な事でも無いのかな」
僧侶「…………」
僧侶「勇者様は、普段と変わりないんですね」
勇者「……別にそういう訳じゃないよ……」
勇者「まだロクに親孝行出来ていないのになって、後悔と悲しさで一杯だけど……」
勇者「もう起きてしまったって事は事実なんだ。起きてしまったことは何をしたって変わらない」
勇者「今から変えられるのは未来だけだと思うんだ」
僧侶「こんなに取り乱している私が異常なんでしょうか」
28 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:36:45.34 ID:66S2KmHM0
勇者「……いや、きっと変なのは僕の方だと思う」
勇者「昔から良くあるんだ……心が煮えたぎるはずの場面で妙に落ち着いてしまう事が」
勇者「まるで同じような場面に幾千と立ち会って来たみたいな、そんな気分になることがね」
僧侶「…………」
僧侶「……ちなみに勇者様が今回の旅に出ようと決意したのは何故ですか?」
僧侶「王の御前だったからですか? 勇者の末裔であるという事から湧く義務感からでしょうか?」
勇者「その二つは当然あるとして……」
勇者「その理由もよくわからないんだよね」
勇者「ただ、僕の中の何かがそう促したんだ」
僧侶「……自分の事なのに何もわからないんですね」
29 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:38:14.39 ID:66S2KmHM0
勇者「まだまだ子供だからね」
僧侶「……私は勇者様よりもずっと子供かもしれません」
僧侶「今の私の原動力はただ一つ、復讐心だけです」
僧侶「お父さんとお母さんを殺した奴を探し出して殺してやりたい。それだけなんです」
勇者「それは当然の感情だと思うけどな」
勇者「僧侶が言うには少し物騒な台詞だけど」
勇者「復讐が良いことなのか悪いことなのかは語れないけど、そう思う事自体は咎められる事では無いと思うよ」
勇者「ただし、ちょっと気になることがあるから、僧侶もこの言葉を覚えておいて欲しい」
僧侶「気になること……?」
勇者「うん。父さんが息絶える間際に僕に言った言葉なんだけど、きっと僕だけに向けられた言葉ではないと思うんだ」
30 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:38:41.45 ID:66S2KmHM0
勇者「『敵を見誤るな』って」
勇者「この言葉の意味は今はわからないけれど、最期に力を振り絞って言う程のことだから……」
僧侶「……わかりました、覚えておきます」
僧侶「でも、今の私にとっての敵は明確です」
僧侶「憎き人外達……奴らが私達の家族を殺めたという事実は変わらないです」
勇者「…………」
勇者「まだ少し早いけど今日はもう休もう」
僧侶「そうですね……まだ色々と疲れているみたいですし」
僧侶「それではまた明日」
勇者「うん……」
31 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:39:28.69 ID:66S2KmHM0
*
???「こんばんは」
勇者「こんばんは。貴方は?」
???「僕かい? 僕は■■だよ」
勇者「■■……? 一体誰だろう……」
???「今は分からないかもね。でもいずれ分かってくるかもしれない」
勇者「いずれ?」
???「うん。これは僕の失敗のせいでね。ごめんね」
勇者「失敗? 何が何やら……」
???「それもいずれ分かるようになると思う」
32 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:40:13.42 ID:66S2KmHM0
勇者「そっか。それじゃあその時まで待つかな」
???「本当はそうならない方が良いんだけど」
???「こんなつもりだったんだ……慣れないことをしたばっかりに……」
勇者「うーん、やっぱりよく分からないな」
???「ごめんね。まだ君が理解するには早すぎるみたいだ」
勇者「という事は、いずれは何か分かるってこと?」
???「うん。その時は遠くない未来にきっと」
???「……そろそろ時間だね」
???「またね……という言葉が適切かは分からないけれども、とりあえず言っておくね」
勇者「うん、それじゃあまた」
33 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:41:30.73 ID:66S2KmHM0
*
勇者「……変な夢……」
勇者「そうだ、僧侶の所に行かないと」
僧侶「──勇者様、入っても良いですか」
勇者「あ、ちょうどいい所に。大丈夫だよ」
僧侶「失礼します」
勇者「うん。何か用事かな」
僧侶「はい。これから始まる旅について少し見通しを持ったほうが良いと思いまして」
勇者「僕も丁度そう思っていた所」
僧侶「その……国王様が仰っていた話では紋様が現れる素質のある者とは自然に出会えるという事でしたが……」
34 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:42:14.71 ID:66S2KmHM0
僧侶「闇雲に探すよりはある程度当たりをつけた方が良いと思うのですが」
勇者「そうだね」
勇者「そうなると、まずは自分達みたいな初代の勇者パーティーの末裔を尋ねるのが得策かもしれない」
僧侶「王国内ですと初代魔法使い様の末裔が居ますが……」
僧侶「現当主及び次期当主が不在だと聞いています」
勇者「ええ、そうなの?」
僧侶「詳しいことは不明らしいのですが皇国の方に赴いているとの事です」
勇者「皇国に……」
僧侶「ですので皇国には行く必要があるでしょうね」
僧侶「勿論少し後回しにはなりますが」
35 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:43:12.90 ID:66S2KmHM0
勇者「うーん、それじゃあ仕方がないから北側から行くかな」
僧侶「北側……北方連邦国と自治区ですか……!?」
勇者「だ、駄目かな?」
僧侶「……いずれは行かねばならない事は分かっていますが……しかしよりによってその二国からとは」
勇者「反教会勢力が幅を利かせている国だもんね」
僧侶「はい……」
勇者「でもそれなら尚更早く行ったほうが良いんじゃないかな」
勇者「もし仮に僕達のパーティーが聖職者でいっぱいになったとしたら、それこそ行きにくいよ」
僧侶「た、確かにそうですが……」
勇者「それに北側は寒さが厳しくなるからね。冬になる前には周っておきたいかな」
36 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:44:30.28 ID:66S2KmHM0
僧侶「……その通りですね。勇者様の案でいきましょう」
勇者「よし、そうと決まれば早速出発しよう」
僧侶「も、もうですか?」
勇者「装備も用意していただいたし、留まっている理由もないしね」
僧侶「……わかりました。国王様にご挨拶をしてから出発しましょう」
勇者「そうだね」
勇者「不謹慎かもしれないけれど、少し楽しみだな。色々な国を巡る旅っていうのは」
僧侶「不謹慎と言うよりも呑気過ぎるのでは……」
僧侶「これも天からの試練だと考え、真剣に取り組むべきだと思います」
勇者「勿論、ふざけている訳じゃないよ」
僧侶「それなら良いのですが……お互い気をつけていきましょうね」
勇者「うん、改めてよろしくね」
37 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/08(日) 23:45:53.23 ID:66S2KmHM0
《ランク》
S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師
A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師
B1 狼男 赤鬼青鬼
B2 お祓い師 勇者
B3 フードの侍 小柄な祓師
C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵
C2 トロール
C3 河童 商人風の盗賊
D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶
D2 狐神 青女房
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ
※あくまで参考値で、条件などによって上下します。
※前作からランクの細かい修正があります。特に赤鬼青鬼などは“ダンジョンの力をプラスしてAランクだった”ので、素の力のBランクに落としました。
38 :
◆8F4j1XSZNk
[sage saga]:2018/04/08(日) 23:47:18.04 ID:66S2KmHM0
以上が序章です。
前回は地の文なしに挑戦しましたが状況が伝わりにくい気がしたので今回は簡単に挟んでいきます。
週イチでは更新したいです。前回もそう言っていた気がします。
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/04/09(月) 00:01:32.04 ID:+0WVuWic0
おお!
ずっと待ってた
毎週楽しみにしとく
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/09(月) 00:10:58.52 ID:Ue+fOZ2A0
乙
これは過去作とつながってるの?
41 :
◆8F4j1XSZNk
[sage saga]:2018/04/09(月) 00:16:29.71 ID:Hjhm6ptX0
>>40
繋がっています。
開始時は《青女房》編と大体同じ頃です。
42 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 19:56:05.48 ID:pBu2wJkV0
《極寒の地》
──王国と北方連邦国の国境付近
僧侶「そろそろ国境の関所のようですよ」
勇者「案外早かったね。勇者の冒険譚ではこの辺まで来るのにも一苦労二苦労した描写があったけど」
僧侶「今はこのように鉄道が大陸中に張り巡らされていますからね」
僧侶「よほどの辺境に行かないのであれば数日、長くても数週間で大抵の場所へ行けるのでは無いのでしょうか」
勇者「転移魔法でも使えればもっと早いんだろうけど」
僧侶「そんな超上級魔法がポンポンと使われるような世の中は、それはそれで困りますよ」
勇者「さて、ちゃんと入国できるかな」
僧侶「大丈夫……なはずです」
43 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 20:06:29.97 ID:pBu2wJkV0
僧侶「別に敵対国だというわけでは無いので……」
勇者「良好な関係でもないけどね」
僧侶「そうですけれども……」
北方連邦国は大陸北西に位置する連邦国家で教会を持たない国の一つ。
寒さが厳しく土地も肥沃とは言え無いが、そこに住む人々は屈強な肉体と精神を持っていることで知られている。
実際、長い歴史の中で北の大地の民が他国の侵略を許したという記録は殆ど存在しない。
そのお国柄のせいもあってか、彼らは教会権力からの干渉を一切受け付けていない。
勇者「そういえば修道服じゃない僧侶は久々に見たかも」
僧侶「北方連邦国に修道服で行くわけにはいきませんからね。しばらくは仕方がないです」
僧侶「さて、駅についたら荷物をまとめて関所に向かいましょう」
44 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 20:24:08.26 ID:pBu2wJkV0
勇者「入国審査が終わったら食事にしようよ。少しお腹が空いちゃったから」
僧侶「そうですね。私も何か食べておきたいです」
勇者「よーし何にするかなあ」
僧侶「あまり贅沢はいけませんよ。これも修行の一環なのですから」
勇者「はいはい分かっているってば」
僧侶「はあ、まったく……」
45 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 20:26:17.69 ID:pBu2wJkV0
*
連邦国関所の衛兵A「身分証を提示しろ」
勇者「はい、これです」
連邦国関所の衛兵A「……王国騎士団からの使者か」
勇者(本来は騎士団には属していないんだけど、北方連邦国には教会がないからそういう事にしてあるんだよね……)
勇者(しかし流石は北方の民……筋骨隆々、腕が丸太のようだ……)
連邦国関所の衛兵A「となると、貴様らが初代勇者と僧侶の末裔か」
連邦国関所の衛兵A「話は聞いている」
勇者「そうでしたか……!」
連邦国関所の衛兵A「残念だがここを通すわけにはいかない」
46 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 20:32:55.03 ID:pBu2wJkV0
勇者「って、え……!?」
僧侶「……どういうことですか」
連邦国関所の衛兵A「王国から勇者の末裔らが来た場合、現在は国内に入れてはならないという命令が下ってる」
僧侶「何故ですか!? 私達が貴方がたの国に不利益になる事をするとでも思っているのですか?」
連邦国関所の衛兵A「理由は私が知るはずなど無いだろう。ただ命令に従っているに過ぎない」
僧侶「今がどういう状況なのかわかっているのですか!」
連邦国関所の衛兵A「私の知った話では無いと言っているだろう」
連邦国関所の衛兵A「これ以上ここで騒ぐのならば、正当な理由を以て貴様らを処罰する」
僧侶「な……!」
勇者「僧侶、やめよう」
47 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 20:35:05.35 ID:pBu2wJkV0
僧侶「ですが……!」
勇者「もしここが駄目だったら別の場所を巡ってからでも良いんだから」
僧侶「それは……」
勇者「お騒がせしました。失礼します」
僧侶「…………」
連邦国関所の衛兵A「…………」
連邦国関所の衛兵A「貴様ら、宿は取っているのか」
勇者「関所の向こうで取るつもりだったのですが」
連邦国関所の衛兵A「そうか……」
連邦国関所の衛兵A「この地は王都住まいのエリートには少し寒いだろう」
48 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 20:36:57.49 ID:pBu2wJkV0
連邦国関所の衛兵A「ここを通す事は出来ないが、関所の外の宿ぐらいは紹介してやろう」
僧侶「え……」
勇者「そうですか! ありがとうございます」
勇者「ちょうど宿をどうするか思案していた所だから助かったね、僧侶」
僧侶「そ、そうですね……」
僧侶「ありがとうございます」
連邦国関所の衛兵A「……仕事の一環だ」
連邦国関所の衛兵A「変に目をつけられる前に立ち去ったほうが良いだろう」
勇者「うん、そうさせてもらうね」
連邦国関所の衛兵A「フン……」
49 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 20:37:37.98 ID:pBu2wJkV0
*
──関所近くの宿屋
勇者「さて、初手から結構な難易度になりそうだね」
僧侶「先ほど勇者様が仰っていた通り、ここは一旦諦めて帝国などから探し始めるのも有りだとは思いますが」
勇者「最悪はそうするつもりだけど……」
僧侶「どうかしたのですか?」
勇者「うん。結局あの関所は越えなくちゃならないかもしれない」
勇者「連邦国に居るような気がするんだ、僕達の仲間が」
僧侶「なんとなく、ですか?」
勇者「なんとなくだね。国王陛下は自然に出会えると仰っていたけど、こういう事なのかもしれない」
勇者「距離とか場所とかは分からないけど、その仲間に出会うには先へ進まなくちゃいけないって気がするんだ」
50 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 20:39:51.29 ID:pBu2wJkV0
僧侶「しかしそうは言いましても……」
勇者「まあ正攻法では行け無さそうだよね」
僧侶「北方連邦国はなぜ私達を国へ招き入れたく無いのでしょうか」
勇者「さっきこの宿の主人と話していた時に小耳に挟んだんだけど……」
勇者「どうやら最近の魔王軍出没騒動は王国の自作自演なんじゃないか、という噂が流れているみたいなんだ」
僧侶「なっ、そんなことは……!」
勇者「勿論僕だってありえないと思うよ」
勇者「しかし魔王は千年前に打倒され、ここ百年は彼らの目立った動きも見られない」
勇者「そんな状態だから、最悪の可能性の方を考える方が難しいと思うんだ」
僧侶「……と言うよりはむしろ、その可能性を考えたくないんじゃないかと思います」
51 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 20:43:53.48 ID:pBu2wJkV0
勇者「そうかもしれないね」
勇者「しばらくはずっと人間同士の小競り合いばかりだったんだから、今回のも何らかの策略だと疑ってしまうよね」
勇者「実際に最近共和国が皇国にちょっかいを掛けていて、周辺では緊張状態が続いているみたいだし」
僧侶「我々はただ絶対神様の名の元に集っているだけだと言うのに……」
勇者「その代表者が王国民である時点で、彼らにとっては王国の兵力としてカウントされるんじゃないかな」
勇者「国と国の垣根を越えて協力し合うには、もっと危機的状況になってからじゃないと無理かもしれないね」
僧侶「そうなる前に解決しなければならないというのに……」
勇者「真偽が定かでは無いとしても各国は対策を始めているはず」
勇者「千年前と違って人間も扱える力や技術が大きく進歩したから、僕達が必ずしも必要な存在であるというわけでは無いんだ」
勇者「だから今後の事も視野に入れてあまり波風は立てないほうがいいかもね」
52 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 20:47:11.96 ID:pBu2wJkV0
僧侶「そう……ですね……」
勇者「さっき言った予感のこともあるし、せっかく来たのだからしばらくは粘ってみるけど」
勇者「どちらにしても今日はもうどうしようも無いし、食事を取って寝ようか」
僧侶「あ、私が下から貰ってきますよ」
勇者「いや僕も手伝うよ」
僧侶「いえ大丈夫です。勇者様はここで待っていてください」
勇者「そう? じゃあお願いするかな」
僧侶「はい。それでは行って来ますね」
53 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 20:49:41.24 ID:pBu2wJkV0
*
勇者「……結局三日粘ってみたけど」
僧侶「入国できませんね」
勇者「仮に何か起こっても自分達だけで解決する自信があるのかもしれない」
勇者「明日も行って駄目だったら別の場所に行くことも検討しようかな」
勇者「自治区の方とか」
僧侶「あちらの方が更に入国しにくそうですけれどもね……」
勇者「まあ、確かに」
僧侶「それでも私達は行かないとならないのですけれどもね」
僧侶「さて、そろそろ食事を頂いて来ますね」
54 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 20:52:08.03 ID:pBu2wJkV0
勇者「うん、お願い。一応僕は自治区に行くことになった時用のルートを考えておくよ」
僧侶「お願いします」
勇者(……密入国という手もあるけれども、やっぱり今は王国が不利になるような行動は控えるべきかな……)
勇者(さて、ここから自治区の方に向かうとすると少し戻ってから乗り継いで……)
勇者(自治区までは鉄道は伸びていないから途中で馬を買う必要があるかも……)
勇者(お金は十分に持っているから問題ないけど、僧侶は乗馬出来たっけな)
勇者(出来ないなら僕の馬に乗せる事にになるかな)
勇者「あとそれと……」
僧侶「勇者様、お待たせしました」
僧侶「はい、こちらが勇者様の分です」
55 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 20:54:01.81 ID:pBu2wJkV0
勇者「ありがとう」
勇者「ちょっと聞いておきたいんだけど、僧侶は馬に乗れる?」
僧侶「馬ですか? 得意とは言えませんね……」
勇者「自治区に行くとなるとそれなりの距離を馬で移動することになると思うから、厳しそうなら言ってね」
僧侶「なるほど、わかりました」
僧侶「折角のスープが冷めてしまっては勿体無いのでひとまず食べましょうか」
勇者「そうだね、それじゃあ……」
僧侶「……神よ、今日も無事過ごせた事に感謝いたします」
勇者「ん」
僧侶「ちゃんとお祈りしましょう」
56 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 20:58:03.96 ID:pBu2wJkV0
勇者「……ほら冷めると勿体無いでしょう」
僧侶「はあ……勇者様は相変わらず……」
勇者(ん……? このスープ……)
僧侶「美味しそうな香り……」
勇者(まさか……!)
勇者「僧侶! 飲んじゃ駄目だ!」
僧侶「えっ……?」
勇者「中に何か薬が混ぜられている!」
僧侶「それって……!?」
勇者「うん、僕も少し飲んでしまった……」
57 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 20:59:41.60 ID:pBu2wJkV0
勇者「症状が出る前にここを離れたほうが良さそうだ」
僧侶「は、はい……!」
勇者「食事に薬が混ぜられていたということは宿の主人は信用できない……」
勇者「窓から飛び降りるしか無いか……」
勇者(しかし僧侶にはこの高さは厳しいかもしれない……)
勇者(勇者の剣の力を使って僧侶を抱えて降りるのが一番良い方法かな)
勇者「よし、僧侶……」
覆面の男「動くな」
勇者「なっ……!?」
覆面の男が今にも意識を失いそうな僧侶を抱えて、その首筋に刃物を押し付けている。
58 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 21:02:41.30 ID:pBu2wJkV0
僧侶「うう……」
勇者「僧侶に何をした!!」
覆面の男「安心しろ。さっきのスープに入っていたのは睡眠薬だ」
覆面の男「命に関わるような事はない」
勇者「僧侶を離せ……!」
覆面の男「言う通りにすれば危害は加えない」
勇者(少しだけだけどスープを飲んでしまったせいか、体がだるい……)
勇者(このままだと……)
覆面の男「大人しくしていろ。その剣に手をかけた瞬間、このナイフが女の首を貫くぞ」
勇者「くっ……!」
59 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 21:03:36.04 ID:pBu2wJkV0
覆面の男「よし、素直なのは良いことだ」
勇者「…………!?」
勇者(消え……!?)
勇者「ぐえっ…………!?」
覆面の男の拳が勇者の鳩尾にめり込んだ。
勇者「ごはっ……!」
覆面の男「安心しろ、殺しはしないと言っただろう」
覆面の男「……場合によっては、だがな……」
覆面の男に薬を飲まされた勇者の意識は徐々に遠のいていった。
60 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 21:06:51.29 ID:pBu2wJkV0
*
???「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」
勇者「あれ、君はこの間の夢の■■……」
勇者「……って、僕死んじゃったんですか!?」
???「いや冗談だよ。死んじゃったら僕とは会えないからね」
勇者「なんだ驚かせないでよ」
勇者「そういえば僧侶は……!?」
???「命は取らないって言っていたから大丈夫だとは思うよ」
勇者「それはそうだけど……」
???「さっき僧侶を助けたいって思ったよね」
61 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/16(月) 21:10:00.04 ID:pBu2wJkV0
勇者「当たり前じゃないか。僧侶は大切な仲間だ」
???「そして君はその剣の力を使おうとした」
???「そうすると、こうやって僕と会える事も増えてくるだろうね」
勇者「剣を使うと君と……?」
???「うん。それは君にとってはあまり良い事では無いかもしれない……」
???「今の君にとってはね……」
勇者「それって一体……」
62 :
◆8F4j1XSZNk
[sage saga]:2018/04/16(月) 21:11:19.80 ID:pBu2wJkV0
また来週。
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/17(火) 18:43:53.88 ID:GUCdYbufO
サモンナイト3ぽいな
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/04/18(水) 21:59:51.26 ID:rfaBtN2ZO
新しいのが始まってたのか、乙ー
65 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 18:27:29.06 ID:iKG8yrVl0
*
勇者「…………」
勇者(またこの夢か……)
勇者(ここは……狭いけど寝室かな……)
勇者「あっ……! 僧侶は……!?」
勇者(僧侶はこの部屋には居ない……)
勇者(手には枷がされている……扉には外から鍵がかかっているな……)
勇者(独房と言うには随分綺麗だけど、似たようなものか)
勇者(この感じは一応配慮したって事なのかな。命は取らないっていうのも案外本当かもしれない)
勇者(剣は流石に取り上げられているよね……こうなったら僕はもうお手上げだ)
66 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 18:36:05.31 ID:iKG8yrVl0
勇者(剣術は勿論修めているけれど、基本的には非力だからなあ)
覆面の男「……起きたか」
ドアに取り付けられた鉄格子の窓から、勇者たちを襲撃した覆面の男が顔を覗かせた。
勇者「僧侶は……一緒に居た女の子はどうした」
覆面の男「心配せずとも無事だ。貴様より早く目覚めている」
勇者「僕達を攫って何が目的なんだ」
覆面の男「……果たして惚けているのか、どうか……」
勇者「…………」
覆面の男「まあ良い。今から貴様らは査問会で取り調べを受けてもらう」
覆面の男「嘘は付かず、正直に全てを話す事だな」
67 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 18:42:38.39 ID:iKG8yrVl0
覆面の男「出ろ」
勇者「…………」
勇者(査問会……僕達に何らかの疑いがかけられているという事か……)
勇者(一体何が……)
勇者(もしくは僕達を陥れるための言い掛かりという可能性もあるけれども)
勇者(そんな事をすれば王国との戦争は免れなれない)
勇者(侵略をせず、させず……護りに徹してきたこの国に限ってそんな挑発的な事をするだろうか……)
覆面の男「ここだ」
覆面の男「もう一度忠告するが、変な気は起こさず正直に聞かれたことに答えろ」
68 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 18:46:56.58 ID:iKG8yrVl0
覆面の男が扉を開けるとそこは大きな円形のホールになっており、周りには国の重鎮と思われる人達が座っている。
その中央には同じように手枷をはめられた僧侶が立っていた。
勇者「僧侶……!」
僧侶「勇者様、ご無事でしたか……」
勇者「うん。怪我も大した事は無いよ」
大柄な熊髭の老人「私語は慎み給え」
大柄な熊髭の老人「君達二人には北方連邦国領内で人外を扇動し、政界の重鎮を暗殺させた首謀者の嫌疑がかけられている」
勇者「あ、暗殺……!?」
大柄な熊髭の老人「実行犯は既に捕らえられり、その口から王国軍の名前が出ているのだ」
大柄な熊髭の老人「その事件が起きる二日前から国境付近に滞在する、勇者を名乗る王国軍人がいる……」
69 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 18:48:56.10 ID:iKG8yrVl0
大柄な熊髭の老人「それを疑わずに誰を疑うというのか」
僧侶「勇者を名乗るって……この人は本物の勇者の末裔です……!」
大柄な熊髭の老人「君達が本物かどうかはここでは重要ではない」
大柄な熊髭の老人「君達がこのタイミングで王国軍の差し金でここへやって来たという事実が問題なのだ」
大柄な熊髭の老人「君達はどのような命令を受けてここに来たのだね?」
勇者「……命令ではありません」
勇者「命令ではなく自分たちの意志でこの場所を選んでやって来ました」
大柄な熊髭の老人「何が目的で?」
僧侶「仲間を探すためです」
大柄な熊髭の老人「仲間とは?」
70 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 18:49:58.81 ID:iKG8yrVl0
僧侶「近年行動が活発になってきた魔王軍の残党を打ち倒すための仲間です」
覆面の男「…………」
大柄な熊髭の老人「……魔王軍、か」
大柄な熊髭の老人「それは真面目に言っているのかね? 我が国の重鎮を暗殺したのもその魔王軍の残党とやらだとでも言うのかね?」
僧侶「それは私達には分かりませんが、その可能性もあるとは思います」
大柄な熊髭の老人「……話にならないな」
大柄な熊髭の老人「今回の件、知っている情報を洗いざらい吐けばお前達だけは不問にしてやっても良い」
大柄な熊髭の老人「勿論、事が全て片付くまではこちらで拘束させてもらうが……」
大柄な熊髭の老人「どうかね? 何か話す気になったかね?」
勇者「…………」
71 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 18:52:19.97 ID:iKG8yrVl0
勇者「話すも何も、今僧侶が言った事が事実です」
大柄な熊髭の老人「……そうか」
大柄な熊髭の老人「ここで話さないというのであれば、別室で少々手荒な方法で聞くという事も考えているが……」
僧侶「……!」
勇者「待ってください」
勇者「我々の言うことが信用出来ないというのであれば仕方がありません。しかし手荒な手段に出るというのであれば……」
勇者「僧侶には手を出さないで下さい。僕が一人で引き受けます」
僧侶「ゆ、勇者様……!?」
大柄な熊髭の老人「…………」
勇者「僧侶の強みは強力な回復の術が扱える事だけど、当然向こうはこっちに術を使わせない対策を取っているはず」
72 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 18:57:17.62 ID:iKG8yrVl0
勇者「体力は僕の方があるから……耐え忍んだりするのは得意な方だし」
僧侶「しかし……!」
大柄な熊髭の老人「私語はやめよ!」
大柄な熊髭の老人「……どうしても話さないというのか」
勇者「これ以上お話しする事が無いだけです」
大柄な熊髭の老人「…………」
大柄な熊髭の老人「お前はどう思う?」
会を取り仕切っていた老人が後ろに控えていた男に声をかけた。
その男は連邦国人らしく屈強な体つきをしており、その右目には大きな傷跡が刻まれている。
隻眼の斧使い「……この者らの言っている事に嘘は無いだろう」
73 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 19:00:30.35 ID:iKG8yrVl0
隻眼の斧使い「あの男の息子だ。信用できる」
勇者「ち、父をご存知なのですか……!?」
隻眼の斧使い「ああ」
隻眼の斧使い「このまま話すのもなんだ、手枷を外してやってくれないか」
大男がそう言うと勇者達の手枷が外された。
隻眼の斧使い「では改めて挨拶しよう」
隻眼の斧使い「俺は隻眼の斧使いと言う。お前の父とは仲間だった」
勇者「仲間……つまり……」
隻眼の斧使い「ああ。俺はお前の父のパーティーメンバーとして選ばれた戦士の紋章持ちだ」
隻眼の斧使い「いや、正確には“だった”か……」
74 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 19:03:11.96 ID:iKG8yrVl0
隻眼の斧使い「報せは聞いている。残念だ」
勇者「…………」
僧侶「…………」
隻眼の斧使い「二人の父は強く、優しい男だった」
隻眼の斧使い「あの二人がやられたとなると、魔王軍の残党の件も信憑性が増す」
大柄な熊髭の老人「ふむ……」
勇者「あの……」
隻眼の斧使い「何だ」
勇者「訃報も聞いており、状況の予想も立っている中でこのような手段に出た理由は何なのでしょうか」
隻眼の斧使い「手荒な真似をしたことは詫びよう。望むのであればこの後具体的な何かで償わせてもらう」
75 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 19:05:48.88 ID:iKG8yrVl0
隻眼の斧使い「望むなら命で……」
勇者「い、いや、そこまでは……」
隻眼の斧使い「本当に済まなかった」
隻眼の斧使い「しかし、そうせざるを得なかった状況であったのだ」
僧侶「一体何が……」
隻眼の斧使い「一連の事は貴族院の厳重な命令に従ったものだったのだ」
勇者「貴族院……」
隻眼の斧使い「ここも議会だが、軍事や外交についての発言権は低い」
隻眼の斧使い「この国は外観は共和制を取っているように見えるが、実際には貴族階級だった連中が未だに中枢に居座っている」
隻眼の斧使い「封建制度が時代遅れとは言うまい。昔から変わらず上手く機能している王国や帝国はそれでいいだろう……」
76 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 19:10:23.78 ID:iKG8yrVl0
隻眼の斧使い「だが我々は捨てたはずだ。捨てたはずの体制が私利私欲のために居座り蝕んでいるのだ」
勇者「そんな事情が……」
勇者「しかし貴族院は一体何故今回の様な事を……」
隻眼の斧使い「……今の貴族院は何者かの傀儡となっている」
隻眼の斧使い「先日仲間が暗殺されたのも貴族院の手引だと考えられる。奴らは君達に罪をなすりつけるつもりで我々に命を下したようだが」
隻眼の斧使い「目的は恐らく、北方連邦国と王国との対立を煽るためだろう」
僧侶「連邦国と王国を戦わせて一体何を……」
僧侶「……まさか……」
隻眼の斧使い「ああ。我々が潰し合って疲弊することで得をする者が今の話の中に登場している」
隻眼の斧使い「新生魔王軍とやらは、小さな小競り合いをするつもりなんかじゃない」
77 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 19:15:23.33 ID:iKG8yrVl0
隻眼の斧使い「国家単位で潰していく準備をしているんだろう」
隻眼の斧使い「貴族院を操っている誰かとはまさに……」
その時ホールに爆発音が響いた。
大柄な熊髭の老人「な、何だ……!?」
隻眼の斧使い「思い通りに事が運びそうに無いから、ここに居る奴をまとめて処分するつもりか……!」
隻眼の斧使い「気をつけろ! 崩れてくるぞ!」
僧侶「きゃっ……!」
勇者「僧侶! こっちだ!」
勇者(外に逃げた所で敵が待ち構えている可能性もある)
勇者(まずは勇者の剣を取り戻さないと……!)
78 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 19:18:22.90 ID:iKG8yrVl0
覆面の男「探しものはこれか?」
覆面の男は鞘に収まった剣を勇者に手渡した。
勇者「あ、ありがとう……!」
覆面の男「別に礼を言われる立場ではない」
覆面の男「それよりもここの爺さん達を避難させるのを手伝ってくれ」
勇者「うん、わかった」
勇者「僧侶は先にここを出て、怪我人の手当にをしてくれるかな」
僧侶「わかりました」
覆面の男→暗器使い「俺は暗器使いだ。あの時は殴って悪かったな」
勇者「よろしく暗器使い。お互い仕事だし気にしなくていいよ。死んだわけじゃないしね」
79 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 19:19:24.48 ID:iKG8yrVl0
暗器使い「死んだわけじゃないし……って、変わっているなお前」
勇者「よく言われる。さてと、避難の手助けに行かなくちゃ」
勇者と暗器使いは隻眼の斧使いと協力してホールの中の人達を安全な場所へ避難させた。
勇者達が建物の外を確認すると、蝙蝠のような羽が生えた小さな悪魔が大量に飛んで周りを囲んでいた。
隻眼の斧使い「インプか……一体一体は雑魚だがこれだけ数がいると厄介だ」
隻眼の斧使い「こっちには非戦闘員も多い。今建物から出るのは得策ではないな」
暗器使い「如何致しましょうか」
隻眼の斧使い「そうだな……」
隻眼の斧使い「ここの護りは俺や他の奴らに任せろ」
隻眼の斧使い「お前は貴族院に忍び込め。あそこに黒幕が居るかもしれない」
80 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 19:21:45.94 ID:iKG8yrVl0
暗器使い「分かりました」
勇者「あの……」
隻眼の斧使い「どうかしたのか?」
勇者「僕達も付いて行って良いでしょうか」
隻眼の斧使い「ふむ……」
隻眼の斧使い「そうだな。付いて行ってやってくれ」
暗器使い「しかし……」
勇者「向こうには強力な力の持ち主が居るかもしれない」
勇者「もしもの時の保険程度に考えてもらって構わないですよ」
勇者「死なない限り僧侶が治してくれるし」
81 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 19:24:14.94 ID:iKG8yrVl0
僧侶「そこまで過信されても困ります」
暗器使い「……分かった」
暗器使い「だが目的地までは敵の目を忍んで行動するから、進行ルートはかなり厳しいぞ」
暗器使い「勇者はともかく僧侶は大丈夫なのか?」
勇者「厳しそうな所は僕が背負って行くよ」
僧侶「申し訳ないです……」
勇者「謝らなくていいよ。僧侶は仲間なんだから、お互いに助け合うのが当然でしょ」
僧侶「は、はい……!」
暗器使い「よし、それじゃあ行くぞ」
勇者「うん……!」
82 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/04/25(水) 19:25:51.37 ID:iKG8yrVl0
勇者達は抜け道から建物を脱出して貴族院を目指した。
隻眼の斧使い「さて……」
隻眼の斧使い「インプのような雑魚を相手に出来る者はそっちを頼む」
隻眼の斧使い「何体か紛れ込んでいる面倒そうな奴らは俺が相手する」
隻眼の斧使い(当然向こうにもかなりの敵が居るはずだ)
隻眼の斧使い(若者三人……油断をすれば死ぬぞ)
隻眼の斧使い(果たしてどうなるかな)
83 :
◆8F4j1XSZNk
[sage saga]:2018/04/25(水) 19:27:16.47 ID:iKG8yrVl0
また来週。
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/04/25(水) 19:34:54.42 ID:T7uNJjUoO
乙ー
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/26(木) 01:50:15.09 ID:MfM047NDO
来てたー!乙乙乙!
86 :
◆8F4j1XSZNk
[sage saga]:2018/04/26(木) 13:56:12.23 ID:/rQlKhMB0
>>39
>>64
>>84-85
ありがとうございます。相変わらずの遅筆ですがお付き合いください。
87 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/03(木) 02:02:15.77 ID:D/o6DO5r0
*
暗器使い「次は向こうだ。この水路を飛び越えるぞ」
勇者「分かった。僧侶はしっかり捕まって」
僧侶「はい……!」
勇者は僧侶を抱えたまま三メートル程幅がある水路を飛び越えた。
勇者「よくこんな複雑な道を覚えているね」
暗器使い「覚えないとやっていけない仕事に就いているからな」
暗器使い「さて、貴族院はすぐそこだが……」
暗器使い「地下から侵入するという方法もあるが、ちょうど日が落ちてきたから外壁を登って行くほうが良さそうだ」
勇者「よし。僧侶は僕が背負って行くね」
88 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/03(木) 02:03:02.39 ID:D/o6DO5r0
僧侶「今日はまさにおんぶ抱っこで何も役立てていないです……」
勇者「まあ僧侶に関しては“役に立たない方が良い”んだけどね」
僧侶「まあ、そうですけれども……」
暗器使い「よし、ここを登るぞ」
勇者「うわあ、高いなあ」
勇者「よし、行くよ僧侶」
僧侶「た、高い所は苦手ですので慎重にお願いします……」
勇者「大丈夫。落ちても僧侶に治してもらえば良いから」
僧侶「私が落ちたら元も子もないでしょう……!」
勇者達は外壁を登り、建物上部のテラスに辿り着いた。
89 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/03(木) 02:03:54.18 ID:D/o6DO5r0
暗器使いが周囲の安全を確かめ、いよいよ貴族院の建物内部へ侵入した。
暗器使い「(侵入には成功したが、敵の親玉が何処に居るのか……)」
暗器使い「(貴族院のメンバーが居る最深部の会議室ならば向こうだが)」
僧侶「(随分と薄暗いですね……)」
勇者「(おそらくあっちで合っていると思うよ)」
勇者「(何となく分かるんだ)」
暗器使い「(勇者の末裔が言うならば信憑性は高いな。会議室へ行くとしよう)」
三人は物陰に隠れながら廊下を進んで行く。
暗器使い「(……! 隠れろ……!)」
勇者「(どうしたの?)」
90 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/03(木) 02:05:00.85 ID:D/o6DO5r0
暗器使い「(見張りがいる)」
僧侶「(あれはコボルトですね……やはり新生魔王軍の手のものでしょうか)」
勇者「(連邦国では公職についている人外も多いって聞くけど)」
暗器使い「(それはそうだが、奴らは初めて見る……)」
暗器使い「(貴族院が新生魔王軍の影響下にあるというのは真実のようだな)」
僧侶「(どうします?)」
暗器使い「(二人はここで待っていろ)」
暗器使いはそう言うとコボルトの死角から近づいていき、ナイフで二体の見張りを仕留めた。
勇者「(流石、鮮やかなお手並みだね)」
勇者「(剣を振り回すことしか出来ない僕とは違うや)」
91 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/03(木) 02:05:35.90 ID:D/o6DO5r0
暗器使い「(適材適所と言う奴だ。得意とする事でお互いに補い合えば良い)」
勇者「(それもそうだね)」
勇者と暗器使いの二人でコボルトの死体を物陰に隠した。
勇者「(この扉の向こうに貴族院の長達が居るんだね)」
暗器使い「(なるべく生かして捕らえろと命令されている)」
暗器使い「(一応はそのつもりでいろ)」
勇者「(うん、分かっているよ)」
暗器使い「(……よし……)」
暗器使いが扉を開けて会議室へ飛び込んだ。
暗器使い「全員動くな!」
92 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/03(木) 02:06:28.06 ID:D/o6DO5r0
連邦国の貴族院議員A「な、何だ……!?」
連邦国の貴族院議員B「貴様は民選議会お抱えの暗器使い……! 何のつもりだ……!」
暗器使い「あんたらには新生魔王軍と結託して国家転覆を目論んだ疑いが掛けられている」
暗器使い「ここから先は大人しく俺の言うことに従った方が怪我をせずに済むぞ」
連邦国の貴族院議員B「フン……貧民街出自の卑しい身でよくもそんな偉そうな口がきけるな小僧……」
連邦国の貴族院議員B「国家転覆を目論んで居るのは貴様らの方だろう……!」
暗器使い「……あんたらに主導権が無いっていうのが分からないのか?」
連邦国の貴族院議員A「くっ……!」
暗器使い「抵抗する素振りを見せてみろ、首を飛ばすぞ」
連邦国の貴族院議員A「ひぃっ……!」
93 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/03(木) 02:07:46.30 ID:D/o6DO5r0
勇者「……何だか僕達はいらなかったみたいだね」
僧侶「油断してはいけませんよ勇者様。あまりにも簡単に事が運びすぎている気がします」
勇者「うーん、確かに僕もそう思うけど……さ……」
そう言いかけた勇者の胸を黒い刃物のようなものが貫いていた。
その黒い刃物は勇者の影から一直線に伸びていた。
勇者「うっ……ぷ……確かに……」
僧侶「ゆ、勇者様!?」
暗器使い「何だ……!?」
連邦国の貴族院議員B「く、くくく……! まだ我々は手詰まりではない……!」
連邦国の貴族院議員B「貴様ら邪魔な連中を葬り、共和制など捨てて、再び貴族が堂々と表舞台で活躍する時代を取り戻すのだ……!」
94 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/03(木) 02:08:44.95 ID:D/o6DO5r0
暗器使い「新生魔王軍の奴らにはそんな言葉でそそのかされたのか……!」
暗器使いが議員体に詰め寄ろうとするが、影の中から勇者を貫いたものと同じ刃物が飛び出して来たために阻害さてしまった。
暗器使い「影の中から攻撃してくる敵だと……!? 厄介な……!」
暗器使いは自分の影が見やすい位置に移動し、影の中からの攻撃に対処した。
暗器使い(影があるところならどこからでも攻撃できるのか? 影に攻撃すれば本体にダメージが行くのか?)
暗器使い(本体は何処なのか? 影が本体ではないのか?)
暗器使い(クソッ……! 何もわからない……!)
暗器使い(僧侶はどうなった……? おそらくあの子は攻撃手段はほとんど持っていないと思われるが……)
勇者「僧侶! 閃光だ!」
勇者「閃光の術を暗器使いの周りの至る所で発動させるんだ!」
95 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/03(木) 02:10:15.63 ID:D/o6DO5r0
僧侶「は、はい……!」
暗器使い「ゆ、勇者……!?」
暗器使い(馬鹿な……! 確かにさっき心臓を貫かれて……!)
勇者「今だ暗器使い! 目を閉じて!」
暗器使い「くっ……!」
次の瞬間、暗器使いの周りをまばゆい光が包み込んだ。
勇者「……よし、成功だね」
暗器使い「勇者……これは一体……」
暗器使いが目を開けると、閃光を直視してしまったためのたうち回っている議員達と、胸の傷がすっかり塞がった勇者と僧侶がそこにいた。
勇者「影の中に居た敵は、影のある所なら何処からでも攻撃出来るわけでは無いみたいなんだ」
96 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/03(木) 02:11:00.92 ID:D/o6DO5r0
勇者「あの敵はおそらく影の中を移動していた……いや、影の中でしか移動ができないんだ」
勇者「つまり違う影に移るには影同士が接していないといけないんだ」
勇者「僕の影に移ってきたのは、この建物に入った時のいずれかのタイミングだと思うんだけど……」
勇者「君の影に移ったのは僕を刺した後に、僕と君の影が交わった時だと思うんだ」
勇者「何処の影からでも攻撃ができるなら無防備な僧侶を狙うタイミングはいつでもあったはず」
勇者「そうしなかったのは議員を捕縛しようとしていた君を優先的に倒すために、僕の次に君の影に乗り移っていたからだと思うんだ」
勇者「影の中にしか居られないなら、その影を一時的にでも無くしてしまえば敵も消滅するんじゃないかと思ったけど、どうやら成功したみたいだね」
勇者「厳密には完全に影を無くせるわけではないんだけど、一定以上濃い影にしかいられないみたいだね」
暗器使い「なるほど……」
暗器使い「……じゃない! 一体どうなっている!」
97 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/03(木) 02:12:21.63 ID:D/o6DO5r0
勇者「ど、どうなっているって?」
暗器使い「胸の怪我の事だ! すぐに立ち上がれるようなものでは無かったし、なんなら既に死んでいるはずだ……!」
勇者「ああ、さっきの怪我の事」
勇者「あれは僧侶にすぐに治してもらったよ」
暗器使い「あれ程の怪我を一瞬で……!?」
勇者「ね、言ったでしょ。死なない限り治してくれるって」
僧侶「驚きすぎて私の心臓が止まるかと思いましたけど……」
僧侶「以前はここまでの治癒力はありませんでした。おそらく僧侶の紋章持ちになった影響だと思います」
勇者「そういえば紋章によって力が強化されるんだっけ」
僧侶「そのようですね、完治出来て良かったです」
98 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/03(木) 02:13:42.58 ID:D/o6DO5r0
勇者「ほんとに助かったよ」
勇者「……そうして僧侶が治してくれたのに僕には攻撃が来なかったから、敵が影の中を移動している事ついて確信したんだ」
暗器使い「なるほど……」
暗器使い(それにしても凄まじ良い治癒力だ……流石は勇者の仲間か……)
僧侶「ど、どうかいたしましたか……?」
暗器使い「……いや、何でもない」
暗器使い「それよりも早く影使いもどうにかしないといけないな」
僧侶「ですが、何処の影に敵が潜んでいるのか分からない中を進むのは危険すぎます」
勇者「ああ、その事なら大丈夫」
僧侶「大丈夫とは……何故ですか?」
99 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/03(木) 02:16:23.01 ID:D/o6DO5r0
勇者「ええっとね、さっきの考察の続きなんだけど」
勇者「敵が影へ移動できるとして、何で僕達がこの部屋にたどり着くまで攻撃して来なかったか疑問に思わない?」
僧侶「確かに外は夜で真っ暗だし、廊下もあんなに薄暗かったのだから全員を仕留めるタイミングは幾らでもあったはず……」
暗器使い「……まさか、人の影か……!」
勇者「うん、僕もそう思う」
勇者「影から影に移れるとは言ったけど、更に正確に言うなら人の影から人の影へっていう制約付きなんだと思うんだ」
勇者「人の影をそれと認識できない暗闇では効果がないってことだね」
暗器使い「だがそうだとすると……」
勇者「うん、分かってる」
そう言って勇者は扉の方に駆け出し、鞘から抜いた勇者の剣で扉を貫いた。
100 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/03(木) 02:17:25.80 ID:D/o6DO5r0
すると扉の向こうから男のうめき声と、何かが床に倒れる音が聞こえた。
勇者「僕に影の術を移した術者本人も近くにいるはず、って事だよね」
勇者「術を移したタイミングはおそらく、僕達がこの部屋に入った後に後ろからこっそりとって感じだろうね」
暗器使い「あ、ああ……」
暗器使い(一々腰が低くて弱々しい奴だと思っていたが、躊躇なく殺しに行ったな……)
僧侶「…………」
勇者「これで当初の目的は果たせそうだけど……どうしようかな」
勇者「この建物には他にも敵が残っていそう」
暗器使い「議員達を抱えてもう一度あの外壁を降りるのは……無理か」
勇者「ちょっと厳しいかな……腕がもう一本あれば出来そうだけど」
101 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/03(木) 02:18:20.54 ID:D/o6DO5r0
暗器使い「そうなると階段で下まで降りるしか無いな」
勇者「僕がこの人達を運ぶから暗器使いには敵の対処をお願いしても良いかな」
暗器使い「ああ、任せろ」
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