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僧侶「勇者様は勇者様です」
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102 :
◆8F4j1XSZNk
[sage]:2018/05/03(木) 02:19:20.44 ID:D/o6DO5r0
板の表示が変なのですが何か不具合でしょうか。
GW中にもうひと更新したいです。
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/05/03(木) 10:32:24.64 ID:xtmJJD7Ro
乙ー
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/03(木) 22:44:03.39 ID:M/ElR0fDO
乙
直ってる?
105 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 19:57:34.90 ID:sohr5uHB0
>>103-104
ありがとうございます。表示が変なのはChromeを使用しているからのようです。
再開します。
106 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 19:59:54.98 ID:sohr5uHB0
暗器使いが先導し、勇者が議員らを抱え、僧侶が後方警戒をしながら建物を進んで行った。
階段を下り、一階の大ホールに辿り着いた時、待ち構えていた数十の敵達に囲まれた。
コボルトの兵A「そいつらを連れて行かれちゃ困るんでな。置いて行ってもらおうか」
暗器使い「それは無理だ」
コボルトの兵B「状況分かってんのか? 影使いを殺ったみたいだが、お互いに奇襲無しのこの状況で人数差をひっくり返せるとでも?」
暗器使い「……勇者、やれるか?」
勇者「うん。僧侶はこの人達が余計なことをしないように見張っていてね」
僧侶「分かりました」
コボルトの兵A「コソコソと話してんじゃねえ!」
勇者「……!」
107 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:02:04.85 ID:sohr5uHB0
飛び掛かってきたコボルトに勇者は剣を突き立てた。
コボルトの兵A「ごばっ……!」
コボルトの兵B「やりやがったな……!」
コボルトの兵B「まずは丸腰のお前を片付ける!」
次に前に飛び出したコボルトも、いつの間にか暗器使いが握っていたナイフによって喉を切り裂かれてしまった。
コボルトの兵B「がふっ……」
コボルトの兵C「こ、こいつら……」
コボルトの兵D「油断してんじゃねえよ……! 人数差を活かせ馬鹿が……!」
一斉に飛び掛かってきたコボルト達を、勇者は剣で薙ぎ払って倒した。
そして暗器使いは、これもまたいつの間にか取り出した擲弾を投げつけて目の前を一掃した。
108 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:02:45.30 ID:sohr5uHB0
勇者は縦に横に敵を両断していき、暗器使いは様々な武器で敵を翻弄していった。
僧侶は無理な体勢で敵に突っ込んでいく勇者を後方からフォローした。。
コボルトの兵E「つ、強い……」
コボルトの兵F「このままじゃ全員やられるぞ……」
勇者「これだけ騒いでも人間の衛兵が一人も出てこない」
僧侶「完全に新生魔王軍の手中だったということですね」
暗器使い「……奥からまだ来るぞ……!」
オーガA「何苦戦してんだお前ら」
オーガB「たかが人間三人だろう」
コボルトの兵E「オ、オーガの兄貴達……」
109 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:06:15.13 ID:sohr5uHB0
コボルトの兵F「気を付けてください! こいつら無茶苦茶だ……!」
オーガA「こいつらが……?」
身の丈が三メートル程のオーガが一体ずつ、勇者と暗器使いの前に立ちはだかった。
オーガB「こんなチビに一方的にやられて恥ずかしくないのかよ」
勇者「チ、チビ……? 確かに君達オーガに比べたら小さいかもしれないけど人間としては普通だからね……!」
僧侶(私と大して身長変わらないんですよね、勇者様……)
勇者「別に僕はチビではないけど……ちょっと気に障ったから倒す……!」
暗器使い(滅茶苦茶気にしているな……)
僧侶「って、勇者様! そんな闇雲に突っ込んでは……!」
オーガB「ははっ! 隙だらけだぞチビ!」
110 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:07:43.06 ID:sohr5uHB0
勇者「あっ……!」
オーガの強靭な拳が勇者に襲いかかる。
ギリギリの所で勇者は避けようとするが、右肩とオーガの拳が接触した。
勇者の剣の加護を受けているが、肉体が無敵という訳ではない。
骨が折れ、肉が裂ける嫌な音がホールに響いた。
勇者の右肩から先は滅茶苦茶になっており、皮一枚でかろうじて繋がっているようにも見える。
勇者「ぐっ……うううううっ!」
勇者は大きく後ろに跳んで距離をとった。
オーガB「その腕では剣は握れまい。女共々死ね……!」
オーガはもう一度その拳を振りかざして勇者にと止めを刺そうと踏み込んだ。
111 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:11:34.41 ID:sohr5uHB0
拳の先にいる勇者は次は全身をミンチにされ、ひしゃげた肉塊が出来上がるはずだ。
オーガB「……な、何だ……?」
しかしその拳には剣が突き立てられていた。
“しっかりと両腕で握られた”勇者の剣が、オーガの拳から腕にかけて突き刺さっている。
オーガB「な、何故だあああああああああああっ!」
勇者は絶叫するオーガから剣を引き抜き、腰の位置にしっかりと構えた。
暗器使い(死なない限り……か……)
暗器使い(僧侶の回復の術の威力もそうだが、あの勇者の精神も大分イカレているな……)
暗器使い(汚い仕事ばかりしてきた自分が言える台詞でもないが……)
勇者が振り切った剣は、オーガの体すらも容易く両断した。
112 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:12:50.27 ID:sohr5uHB0
それを見たもう一体のオーガは瞬時に「ヤバイ」と判断し、腰の二メートルはある大剣に手をかけた。
しかしその時には既に喉に槍が突き立てられていた。
槍を握っているのは暗器使いだ。
オーガA「ごぽ………や、槍など一体どこに……………」
暗器使い「……それが武器であるならばどんな武器でも隠し、持ち運ぶことが出来る」
暗器使い「それが俺の力だ」
オーガA「馬鹿……な……」
コボルトの兵E「オーガの兄貴達が……」
コボルトの兵F「やられちまった……!」
勇者「さて、そろそろ投降してください」
113 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:13:32.40 ID:sohr5uHB0
勇者「これ以上は無駄な血が流れますよ」
コボルトの兵E「ぐ……」
コボルトの兵F「わ、分かった……だから殺さないでくれ……」
残ったコボルト達は次々に獲物を捨てて投降の姿勢を取った。
勇者「こっちはこれで終わりかな。あとは民選議会の方がどうなっているかだけど……」
僧侶「……まだです……」
僧侶「まだ終わっていません……」
勇者「ど、どうしたの僧侶?」
僧侶「まだ何も終わっていませんよ勇者様!」
僧侶「この人外達を全て殺さないと終わりません!」
114 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:16:33.47 ID:sohr5uHB0
勇者「でももうみんな降参しているよ。無抵抗の敵は殺しちゃ駄目だと思う」
勇者「それは虐殺って呼ばれるものだ」
僧侶「意味のある殺しというのを考えた事は無いのですか?」
僧侶「家畜を殺すのは衣食のため、戦争で敵を殺すのは自国のため……」
僧侶「人外を殺すのは世界の平和のためです」
勇者「僧侶……」
暗器使い「…………」
僧侶「お父さん達が死んだのは人外がいたからです。千年前の厄災の時点で全ての人外を根絶させれば、きっとお父さんもお母さんも死ななかった」
僧侶「悪いのは人外なんです」
僧侶「ましてや、お父さん達を殺した奴らと同じ新生魔王軍の人外など絶対に生かしておけません……!」
115 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:19:19.44 ID:sohr5uHB0
僧侶「殺しましょう……! 勇者様、こいつらを殺しましょう!」
コボルトの兵E「ヒイイッ……!」
勇者「…………」
勇者「駄目だよ僧侶」
勇者「敵の捕虜は重要な情報源とかになったりもするんだから、ちゃんと連れて帰らないと」
僧侶「…………」
僧侶「ああ、そういう事でしたら従います」
僧侶「人外撲滅の礎になるって事ですよね……!」
勇者「……うん、そうかもしれないね」
勇者「それよりもちょっと確認しておきたい事があるんだけど」
116 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:20:08.48 ID:sohr5uHB0
暗器使い「民選議会に戻ってからでは駄目か? 大丈夫だとは思うがまだ向こうの安否は不明だ」
勇者「こっちで話しておきたい事なんだ」
暗器使い「……何だ」
勇者「今回の件って恐らく、僕達は上手く利用されたって事で良いんだよね」
暗器使い「…………」
僧侶「ゆ、勇者様……?」
勇者「あの大斧を持ったおじさん……僕のお父さんのパーティーの戦士職だったって言っていたけれど」
勇者「そんな人が政治機関にいるのに、国の中枢に新生魔王軍の工作員が入り込んでくるなんてそんなに簡単に出来る事なのかな」
勇者「勿論、その工作員が相当のやり手だって可能性もあるけど、今のところそんな気配はないし」
勇者「何より、仮に議会が乗っ取られたとしても気が付くのは時間の問題でしょ。ずっと前から民選議会でもこの事は認知されていたはずなんだ」
117 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:22:43.34 ID:sohr5uHB0
勇者「それなのに今まで放置されてきた……これはちょっと変だよね」
僧侶「それは……」
暗器使い「…………」
勇者「おそらく民選議会は新生魔王軍の工作員を上手く誘導し、見逃して貴族院に送り込んだ張本人」
勇者「そしていずれ訪れるであろう僕達にクーデターの代行をさせたんだ」
勇者「民選議会が貴族院を崩壊させるのと、勇者一行が新生魔王軍の工作員を倒すのとでは意味合いが異なってくる」
勇者「民選議会は一切社会的に汚れずにクーデターを完了させたって事なんじゃないかな」
勇者「貴族院の言いなりになった振りをして僕達を強引な手段で連れてきたのは、貴族院がまともな状況ではないという印象を植え付けるため……」
勇者「これが僕の予想なんだけどどうかな」
暗器使い「…………」
118 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:26:32.30 ID:sohr5uHB0
僧侶「勇者様、何も今ここで言う事では……」
僧侶(民選議会お抱えの暗器使いだってさっき貴族院の人達が言っていたじゃないですか……)
僧侶(雇い主を悪者に仕立て上げられたら怒っちゃうとか思わないんですか……!)
暗器使い「そうだとしたどうする……」
勇者「…………」
勇者「……別に、どうもしないよ」
暗器使い「何……?」
勇者「僕も薄々気が付きながら利用されていたからね」
勇者「今回は双方に利があるから特に言う事はないかな」
勇者「そっちはクーデターが成功したし、僕達は旅の目的に即した行動が取れた」
119 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:27:22.70 ID:sohr5uHB0
勇者「僕達の旅の具体的な目標はパーティーメンバーを探し出す事だけど……」
勇者「その目的は最近不穏な空気が漂う王国……広く言うなら大陸全体を安心させる事なんだ」
勇者「“国の中枢で悪事を働いていた新生魔王軍の工作員を勇者一行が捕縛”なんて見出しは、その目的を果たすための良い材料になる」
勇者「……かなあ、なんて」
暗器使い「…………」
暗器使い「……ふん、顔の割には中々鋭いな」
勇者「顔の割にはって失礼じゃない……!?」
僧侶(あれ……? 怒ってない……?)
暗器使い「俺はそういう事は詳しく聞かされないが、おそらくお前の想像通りなんだろう」
暗器使い「しかし予想外の反応だったな。ここでもう一戦あるかと思ったんだがな」
120 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:28:55.33 ID:sohr5uHB0
僧侶「勇者様は少し変わり者ですので……」
勇者「何でもかんでも事を大きくしていたら身がもたないよ」
勇者「さて、話も済んだし戻らないとね」
暗器使い「ああ、そうしよう」
勇者達は議員らを抱え直すと民選議会へ向けて戻って行った。
勇者「暗器使いは何で今の仕事をやっているの?」
僧侶「貴族院での会話からすると貧民街にいらっしゃったそうですが……」
暗器使い「……どこの国もそうだとは思うが、貧民街なんていうのは子供だけで暮らすには厳しすぎる場所だ」
暗器使い「連邦国は他の国に比べて一段と冷えるらしいが……冬の寒さにやられて大人だって次々と命を落としていくような場所だ」
暗器使い「そんな場所だから生き残るために手段を選ばない奴も多い」
121 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:30:22.82 ID:sohr5uHB0
暗器使い「ガキだった俺は腕力では大人には敵わないから、仕込んだ武器を使って相手の不意を突くようなことをよくしていた」
暗器使い「今のこの力は生まれ持ったものなのか、それともスラムの生活の中で手に入れたものなのかは分からない……」
暗器使い「そんなある日、スラムの問題を解決しようって計画の視察に来ていた熊髭の議員と出会った」
暗器使い「俺の能力を見て雇おうって話になったらしい」
勇者「なるほど……」
暗器使い「ちゃんとした職とは言い難いかもしれないが、俺に自分の衣食住を確保できる手段をくれた人達だ……」
暗器使い「少なくとも俺にとっては恩人だ」
勇者「……そっか。何か悪い言い方しちゃってごめんね」
暗器使い「いや、民選議会が勇者達を利用したのは事実だ」
暗器使い「ただしこれだけは知っておいて欲しい」
122 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:31:03.93 ID:sohr5uHB0
暗器使い「近年の貴族院は汚職が絶えなかった。国内での貧富の差が広がってしまったのも奴らのせいだ」
暗器使い「民選議会は様々な政策を打ち出して事態の解決を図ったが、失業者は増え続けるばかりだった」
暗器使い「もう国として限界だった。根本の仕組みから作り直すしか俺達に残された道は無かったんだ」
僧侶「……先程勇者様が仰った通り、今回の件は私達にとっても得るものが有りました」
僧侶「この後議会に戻ったらお互いの落とし所を話し合って、それ以上は不問とするのが良いでしょうね」
勇者「えっ、何か要求するつもりなの!?」
僧侶「当然です。私は薬を盛られて、勇者様は殴られているんですよ」
僧侶「これを不問にして良いものではありません」
暗器使い「その件は本当に済まなかった……」
僧侶「怒っているという訳では無いのですが、落とし前というものはやはり必要です」
123 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:31:41.96 ID:sohr5uHB0
勇者「僧侶っていうより裏路地の怖いおじさんみたいだね……」
僧侶「なっ……!」
勇者「まあでも、僧侶の言う事も一理あるかな……」
勇者「……そういえば、さっきの話の感じだとさ……」
暗器使い「ん、なんだ?」
124 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:33:16.00 ID:sohr5uHB0
*
大柄な熊髭の老人「おお、三人とも無事であったか」
勇者「はい。議員達も拘束してきました」
大柄な熊髭の老人「ご苦労であった。おい、議員達を連れて行け」
熊髭の議員が指示を出すと、部下と思われる数人の男たちが貴族院の議員達を何処かへと連れて行った。
この後彼らがどうなるのかは勇者達には分からない。
隻眼の斧使い「無事に達成するとは、流石は現役の勇者だ」
勇者「いえいえ。斧使いさんもあの数を相手にして皆さんを守りきるなんて流石ですね」
隻眼の斧使い「こっちには戦える奴が他にも沢山いたのでな」
隻眼の斧使い「多少面倒な相手もいたが……」
125 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:33:51.86 ID:sohr5uHB0
勇者「それでもほとんど怪我をしていないなんて……」
勇者「僕なんて心臓に穴を開けられましたから……」
隻眼の斧使い「し、心臓に……?」
僧侶(あれは怪我とは言いませんよ……)
暗器使い(あれは怪我とは言わないな……)
勇者「僧侶がいなかったら今頃何回死んでいることか……」
隻眼の斧使い「た、頼れる仲間が居るようで何よりだ」
勇者「僕も本当にそう思います」
勇者「……ところで、少し話があるのですが良いでしょうか?」
隻眼の斧使い「聞こう」
126 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:35:15.94 ID:sohr5uHB0
勇者「僕達は“そちらの思惑通りにきちんと働きました”。ですので先程仰っていた通り、僕達のお願いを一つ聞いてもらってもいいですか?」
隻眼の斧使い「……ふ、良いだろう。言ってみろ」
勇者「暗器使いを僕の旅の仲間に加えたいのですが、許可をもらえますか?」
暗器使い「な……!?」
隻眼の斧使い「ほう……?」
僧侶「ゆ、勇者様……!? 一体何を……!?」
勇者「いやあ、さっきの戦いを通じて思ったんだけど……今の僕達には冷静に状況を見極められるような仲間が必要だと思うんだ」
僧侶「しかし暗器使いさんには紋章は出ていません。紋章持ちではない人があまり沢山仲間に加わるのは良くない、というお話をお忘れですか?」
勇者「あまり沢山が駄目って事は、多少なら良いってことだよね」
僧侶「そ、それは……」
127 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:36:52.19 ID:sohr5uHB0
暗器使い「……一つ良いか?」
暗器使い「何故俺なんだ? 頼れる大人なら他にも沢山いるだろう」
勇者「その事については、ちょっと余計なお世話かもしれないんだけど……」
勇者「さっき暗器使いは、この国から出たことが無いって言っていたよね」
勇者「仕事柄、仕方が無いんだろうけど……」
勇者「勿体無いって思っちゃったんだ。こんなに凄い人が一つの国に篭りっきりなんて」
暗器使い「凄い……? 俺がか……?」
勇者「そうだよ、暗器使いは凄いよ! あんな力今まで見たことも聞いたことも無い!」
僧侶「たしかに私も初めて耳にする力でした。どんな武器でも隠し持てる……とはどこまで可能なのかも気になりますね」
勇者「それは僕も気になるな……! 大きな斧とかも隠し持ってるの?」
128 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:39:44.09 ID:sohr5uHB0
暗器使い「仮にも暗器使いが手の内を全て明かす訳がないだろう……!」
勇者「ええ、ケチだなあ……」
勇者「でもその口ぶり、鉄砲ぐらいは持っていそうだね」
暗器使い「どうだろうな」
勇者「うーん、教えて欲しいなあ」
暗器使い「俺に本気で襲い掛かってくれば、もしかしたら使うかもしれんな」
勇者「それは僕が殺されるやつ」
暗器使い「せめて相打ちする自信はないのか……」
大柄な熊髭の老人「……ふ……」
暗器使い「……! 失礼しました、騒ぎ過ぎました……」
129 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:40:24.06 ID:sohr5uHB0
大柄な熊髭の老人「いや、構わない」
大柄な熊髭の老人「お前が友人……と言うには少し歳が離れているが、そのように人と楽しそうに話しているのは初めて見る」
暗器使い「……そうでしょうか」
大柄な熊髭の老人「お前は良くも悪くも真面目な男に育った。ここら辺で外の世界を見に行くのも悪くないだろう」
大柄な熊髭の老人「こういう話はもっと早いほうが良かったかもしれないが……」
大柄な熊髭の老人「少々お前の事をここに縛り付けすぎたかもしれん」
暗器使い「いえ、そんな事は……」
隻眼の斧使い「折角の機会だ、この子らと一緒に旅に出てみたらどうだ?」
暗器使い「し、しかし……」
勇者「無理にとは言わないけど、僕としては一緒に旅に行けると嬉しいかな」
130 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:40:59.55 ID:sohr5uHB0
勇者「さっきの戦いでの相性は悪くなかったし……」
勇者「それに二人より三人のほうがきっと楽しいだろうしね」
僧侶「何度も言いますがこの旅は娯楽では無いということはお忘れなく……」
僧侶「ですが、私も暗器使いさんのような方が一緒だと心強いです」
暗器使い「…………」
暗器使い(出会ったばかりの俺の事をこんなに必要としてくれる……)
暗器使い(こんなにありがたい事があるだろうか)
暗器使い(それに、外の世界か……)
暗器使い「……悪くない話かもしれない」
勇者「だよね!? 一緒に行こうよ!」
131 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:41:35.36 ID:sohr5uHB0
暗器使い「ああ、許可がもらえるならば是非一緒に行きたい」
勇者「やった!」
勇者「良い……ですよね?」
大柄な熊髭の老人「もう大人に管理される歳でもあるまい」
大柄な熊髭の老人「今までの仕事のことなどについて少し手続きを踏まないといけないが、一週間以内には出立の許可を出そう」
暗器使い「……ありがとうございます」
暗器使いが深くお辞儀をしてから顔を上げた時、その肩が突然熱くなり始めた。
暗器使い「肩が……何だ……?」
勇者「これは……」
隻眼の斧使い「アサシンの紋章……」
132 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:42:57.45 ID:sohr5uHB0
隻眼の斧使い「そうか、お前が選ばれたか……」
勇者「初代の格闘家が北方連邦国の出身だから、格闘家の紋章持ちと出会うかと思っていたんだけど……」
僧侶「目の前の先代様が戦士の紋章持ちですし、血統や土地柄に縛られないケースも多いようですね」
僧侶「しかしこのタイミングで紋章が出るとは……」
僧侶「勇者様が仲間と認めることで現れるのでしょうか?」
勇者「うーん、過去には出会う前から既に紋章が出ている人もいるみたいだから一概には言えないんじゃないかな」
勇者「何にしても、暗器使いは僕達の仲間って事だね。これからよろしくね」
僧侶「そうですね。よろしくお願い致します」
勇者が差し出したてを暗器使いは握り返した。
暗器使い「……ああ、よろしく頼む」
133 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:43:28.30 ID:sohr5uHB0
こうして勇者は新たに暗器使いを仲間として迎え入れ、三人での旅をスタートした。
次に目指す場所は自治区としている。
自治区は森の民エルフが治める土地なのだが……。
134 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/06(日) 20:43:54.41 ID:sohr5uHB0
《ランク》
S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師
A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 隻眼の斧使い
B1 狼男 赤鬼青鬼 暗器使い
B2 お祓い師 勇者
B3 フードの侍 小柄な祓師
C1 マタギの老人 下級悪魔 エルフの弓兵 影使い オーガ
C2 トロール
C3 河童 商人風の盗賊
D1 若い道具師 ゴブリン 僧侶 コボルト
D2 狐神 青女房 インプ
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔 ゾンビ
※あくまで参考値で、条件などによって上下します。
135 :
◆8F4j1XSZNk
[saga sage]:2018/05/06(日) 20:45:32.21 ID:sohr5uHB0
みるみる内にストックが尽きていきます。
それでは。
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/05/06(日) 20:46:07.25 ID:j98RPoIYO
乙ー
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/07(月) 02:22:29.07 ID:KuBgH6/DO
乙
138 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:09:51.58 ID:Eq8P5eTQ0
《森の民》
──北方連邦国領内から自治区方面行きの蒸気機関車
勇者「想像以上に時間がかかっているね」
勇者は硬いライ麦パンを一口かじって、窓の外の代わり映えしない景色を見た。
勇者達の乗車した機関車は、途中での荷物車の切り離しや連結が多く、何度も途中の駅で長い時間足止めをくらっていた。
王国との国境付近から“いつの間にか”連邦国首都まで移動していた勇者達は、首都発の機関車にかれこれ二日間は乗車している。
これまた“何故か”連邦国議会からの計らいがあり、一等寝台車両を充てがわれているため特に不便などは無いのだが。
暗器使い「丁度、帝国方面への大掛かりな出荷と被ってしまったようだ」
暗器使い「下調べが足りなくて済まないな」
勇者「まあ、たまにはゆっくりなのも良いんじゃない」
139 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:10:37.92 ID:Eq8P5eTQ0
勇者「帝国への荷は石炭とかかな? 北方連邦国は鉱山が有名だから」
暗器使い「おそらくそうだろう。この国は土地が痩せていて農業には向かない」
暗器使い「漁業はそれなりに盛んだが、地下資源に恵まれていなければこの時代ではやっていけなかっただろう」
暗器使い「今は工業がこの国を支えている」
僧侶「石炭と言えば、最近皇国でも大きな炭鉱が見つかったらしいですよ」
僧侶「そのせいか、近隣国との情勢が不安定になっているらしいです」
勇者「共和国なんかは地下資源は輸入に頼り切りって話だからね」
僧侶「人間同士で争っている場合ではないというのに……」
勇者「国同士の衝突が始まってしまったら、僕達の旅も難航するだろうね」
暗器使い「現在進行系の衝突という訳ではないが、次に向かう自治区も中々入国しづらいのではないか?」
140 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:11:31.26 ID:Eq8P5eTQ0
暗器使い「勇者達の入国を足止めした我々が言うのも何だが」
僧侶「そうですね。よりにもよって入国しにくい二国を最初に巡るとは」
僧侶「私も納得しての出発ではありましたが……」
勇者「あはは……自治区の方も入国が難しそうだったら後回しにするよ」
勇者「また拉致されたら困るしね」
暗器使い「ふっ……タダで首都まで運んでもらえるかもしれんぞ」
勇者「あはは! それも良さそう!」
僧侶「当事者同士でよく笑えますね……」
勇者「過ぎ去った事は大抵笑い話にできるよ」
僧侶「……でも、笑えない事もあります」
141 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:12:04.51 ID:Eq8P5eTQ0
僧侶「自治区、ですか。亜人……いえ、人外が治める土地……」
僧侶「人外が……」
僧侶「…………」
勇者「僧侶……」
僧侶「大丈夫です、ただ……」
僧侶「……すいません、少しだけ風にあたって来ます」
勇者「うん。目的地はまだまだだしゆっくりして来なよ」
僧侶「はい……」
僧侶は寝台車両を出て食堂車の方へと移って行った。
暗器使い「僧侶は人外に対してかなりの憎しみを抱いているようだが、一体何があったんだ?」
142 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:13:12.34 ID:Eq8P5eTQ0
勇者「うーん……」
勇者「絶対神の啓蒙な信者だから……というのは建前のようなものだろうね」
勇者「勿論理由の一つではあるんだろうけど、それ以上に人外を憎むようになったきっかけがあるんだ」
勇者「一つは昔……四年前だったかな」
勇者「僧侶が人外の集団に乱暴されちゃった事があってね」
暗器使い「乱暴、か……」
勇者「うん。大きな怪我とかは無かったけど、精神的には深い傷を負ってしまったみたいなんだ」
勇者「他に仕事があったとは言え、僧侶から目を離してしまった僕や父さんにも問題があった」
勇者「それからしばらく塞ぎ込んでしまった時期があってね」
勇者「ようやく体調も良くなってきて、僧侶としての仕事に復帰し始めた矢先にこの間の事件……」
143 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:14:24.89 ID:Eq8P5eTQ0
暗器使い「新生魔王軍による先代勇者と先代僧侶の襲撃事件か」
勇者「うん……」
勇者「特に母親の遺体の状態は酷かったみたいで、四年前のトラウマが掘り返されたのかもしれない」
勇者「あの日の僧侶の目には怒りと同じぐらい恐怖が見えた」
暗器使い「そうか……」
暗器使い「しかしお前は僧侶と似たような境遇に居るはずなのに、あの子とは何か違うな」
暗器使い「憎くないのか?」
勇者「勿論、僕や僧侶の両親を殺めた奴は許さない。憎んでいるよ」
勇者「でもそれは人外全体を憎む理由にはならないと思うんだ」
勇者「少しずつでいいから僧侶にも理解してもらいたいと思っている」
144 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:15:10.72 ID:Eq8P5eTQ0
勇者「考え方を押し付けるつもりはないけど……憎むだけなんて悲しい事だと思うんだ」
暗器使い「……そうだな」
暗器使い「俺も人外全てが悪いとは思わん」
勇者「北方連邦国では人外とはどういう向き合い方をしているの?」
暗器使い「北方連邦国は元々小国同士がぶつかり、侵略や和解を繰り返して出来た国だ」
暗器使い「その小さな国の中には人外の部族が治める国もあった」
暗器使い「国の一員になった者達もいれば、どこかへ亡命していった者達もいる」
暗器使い「後者の多くは千年前の魔王軍に合流していったと言われているが」
暗器使い「そういう成り立ちの国だから、人外であっても国の一員であれば区別はしない」
暗器使い「ただし、エルフ程ではないが外の者を嫌う国柄なのでな。外から受け入れるような事はあまり無いだろう」
145 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:15:58.67 ID:Eq8P5eTQ0
暗器使い「人外だと元からいた者とそれ以外の者の区別がつきやすいから、彼らは尚更この国には入りにくいな」
暗器使い「何もかも構わず受け入れるという皇国とうちの国とはまた別だ」
勇者「元からいた部族の人外であれば、公職に就くこともあるって事?」
暗器使い「そうだな。議会にも人外の議員はいる」
勇者「あのコボルト達が正規の職員だった可能性は……」
暗器使い「職員の顔ぐらい全て覚えているからそれは無いだろう」
暗器使い「仮にうちの国民だとしても、あの時は関係なかっただろうがな」
勇者「うーん、そうかもね」
それからしばらくして、僧侶が客室の扉を開けて戻ってきた。
勇者「おかえり僧侶。その手に持っている紙袋は?」
146 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:16:43.81 ID:Eq8P5eTQ0
僧侶「向こうの車両で知り合った老夫婦に頂いたんです。見てください、真っ赤な林檎ですよ」
勇者「この時期には珍しいね」
僧侶「この辺りでは丁度この時期が旬らしいですよ」
僧侶「折角なので頂きましょう。私は一個は食べ切れないと思うのですが……」
勇者「僕は一個貰うよ」
暗器使い「じゃあ僧侶は俺と分けるか。切るから貸してくれ」
暗器使いは僧侶から林檎を一つ受け取ると、ナイフを取り出して半分に切り分けた。
勇者「蜜がたっぷりで美味しいね」
暗器使い「連邦国首都ぐらい北に行くと新鮮な果物は高級品でな。久々に食べたが良いものだな」
僧侶「後でもう一度あの老夫婦にお礼をして来ないと駄目ですね」
147 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:17:22.04 ID:Eq8P5eTQ0
勇者「そうだね。僕達も直接お礼を言いたいな」
暗器使い「ああ、そうだな」
*
──翌日、終着駅
勇者「さて、ここから先は馬に乗り換えないとね」
暗器使い「馬の手配のために紹介状を書いてもらってきている」
勇者「それは助かるね。馬車の有無と頭数はどうしようかな」
暗器使い「馬車は使わないほうが良いだろう」
暗器使い「荷のない馬車はエルフ狩りと疑われてもおかしくない」
暗器使い「馬車を使えばチェックが厳しくなり、関所を越えるのに時間が掛かる可能性がある」
148 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:17:59.43 ID:Eq8P5eTQ0
勇者「荷があったらあったで密輸とかを警戒されちゃうしね」
暗器使い「ああ、あそこは閉鎖的な土地だから尚更な」
暗器使い「正規の商人も契約した一部の者しか行き来が許されていないらしい」
僧侶「何度も思うのですが、関所を通れるのか不安が募るばかりですね……」
勇者「うーん、自信なくなってきたかも」
暗器使い「初代のパーティーメンバーにはエルフの弓使いがいたんだろう? 今回も仲間を探しに来たって言えば何とか……」
暗器使い「ならないか……」
勇者「当時は人間とエルフとの仲がここまで険悪では無かったって聞くからね」
暗器使い「しかし不思議だな。教会によれば、勇者一行は絶対神に選ばれて加護を受けた者達らしいが」
暗器使い「初代のパーティーメンバーにはエルフやドワーフがいる。教会の人外嫌いと矛盾しているようだが……?」
149 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:18:29.01 ID:Eq8P5eTQ0
暗器使いが僧侶の方を見ると、彼女は気まずそうに目をそらした。
僧侶「さ……最近は教会もその点について見直しています……」
暗器使い「つまり、僧侶の人外嫌いは教義に則ったものではなく、個人的な感情に寄るものだという訳だな」
僧侶「そ、それは……」
暗器使い「……色々とあったようだが、そのままという訳にもいかないだろう。これから増える仲間に人外がいないとは限らない」
僧侶「それは、わかっているんです……」
僧侶(でも……)
勇者「ま、まあまあ。その時はその時で……」
勇者「あ、ここで馬を借りるんじゃないのかな。声をかけてみるね」
勇者「あのー、すいません」
150 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:19:13.82 ID:Eq8P5eTQ0
ドワーフの馬貸し「おう、お客さんかい」
僧侶「ひっ……!?」
店内から出てきたドワーフを見て僧侶はとっさに暗器使いの後ろに隠れてしまった。
僧侶(無理なんです……どうしても心の底から……)
暗器使い「…………」
暗器使い(思ったより重症か……。しかしこんな調子で自治区に行けるのか……?)
暗器使い(あそこにはほとんどエルフしかいないのだが……)
勇者「ねえ暗器使い、さっきのお願いしていい?」
暗器使い「ん? ああ……」
暗器使い「自分達はこういう紹介で来たのだが」
151 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:19:48.60 ID:Eq8P5eTQ0
ドワーフの馬貸し「……おお、これはこれは首都からわざわざご苦労様です」
ドワーフの馬貸し「我々が保有する中でも上等な馬をお貸し致しましょう」
ドワーフの馬貸し「頭数の方はどうなさいますか?」
勇者「えっと、ここから自治区の関所まではどれ位かかりますか?」
ドワーフの馬貸し「東の関所ですか……。そうですね、馬を歩かせて五日程でしょうか」
勇者(四日か……。僧侶は一応馬には乗れるみたいだけど、長時間は不安かも……)
勇者「二頭借りて、一頭に僕と僧侶で乗ろうかな」
勇者「一部の荷物を暗器使いの方の馬に持ってもらう様にしよう」
暗器使い「それが良さそうだな」
暗器使い「そういう訳で二頭で頼む」
152 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:20:46.68 ID:Eq8P5eTQ0
ドワーフの馬貸し「かしこまりました。折り返しのために一人同行させますのでそちらにも荷物を分けると良いでしょう」
ドワーフの馬貸し「今ご用意いたしますので裏の馬屋の方へどうぞ」
馬貸しに連れられて馬屋へ行くと凛々しい馬たちが干し草を食んでいた。
勇者「これは……大事に育てられているんですね」
ドワーフの馬貸し「ええ。もちろん商売ですから」
ドワーフの馬貸し「しかしそれ以上に、馬は我々亜人種や人間と切っても切り離せないパートナー……いわば家族と同然の存在です」
ドワーフの馬貸し「工業化が進んだ近年でもまだまだ活躍の場はありますから、これからもこの子達と共に歩んで行くつもりですよ」
暗器使い「なるほど……我々も道中では大事に乗らせて頂きます」
ドワーフの馬貸し「そうして頂けると」
勇者「よし、それじゃあ僕はこの馬にするかな」
153 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:21:29.48 ID:Eq8P5eTQ0
暗器使い「それでは自分はこちらで」
ドワーフの馬貸し「さすが、お二人ともお目が高い。馬具一式を持って参りますので少々お待ちを」
その後馬貸しが持ってきた馬具を馬に着せ、暗器使いの乗る馬に荷物などを乗せると、早速三人は関所を目指し始めた。
そして途中の集落で宿を借りたり野営をしたりと六日程道を進んでいると、遠方に鬱蒼と茂る木々たちが見えてきた。
*
僧侶「あれが……」
ドワーフの従者「ええ。あれが自治区……森の民エルフ達が暮らす場所です」
勇者「連邦国と隣接しているのに急に自然が豊かになるんだね」
暗器使い「彼らは自然との調和を大事にする種族だと聞いている。その方面の術に強い者も多いらしいから、その辺りが関係しているんだろう」
勇者「はるか昔は大陸中にエルフの森があったみたいだけれども、今はあそこ以外はほとんど残っていないんだよね」
154 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/05/22(火) 19:22:13.15 ID:Eq8P5eTQ0
僧侶「千年前の大戦後、中立の立場であったにも関わらず各国で迫害を受けたエルフが集結し王国の辺境地を占拠したのが七百年ほど前だとか」
僧侶「実際には王国が率先してエルフの逃亡先として土地を提供したとも聞きますがね」
勇者「僧侶がそんな俗説についても調べているなんて意外だな」
僧侶「べ、別に知識は得られるだけ得たほうが良いと言うだけです」
僧侶「それから事の真偽を自分で判断すれば良いのです」
勇者「確かに、その通りかもね」
ドワーフの従者「そろそろ関所が目の前ですよ。準備をなさった方が良いかと」
勇者「そうだね。無事通れると良いんだけど……」
155 :
◆8F4j1XSZNk
[saga sage]:2018/05/22(火) 19:24:24.55 ID:Eq8P5eTQ0
というわけで自治区が舞台の《森の民》編です。
よろしくお願いします。
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/22(火) 23:02:20.48 ID:It+LU5kDO
乙
荷物車→貨物車
啓蒙な→敬虔な
かな?
157 :
◆8F4j1XSZNk
[sage]:2018/05/23(水) 01:14:58.79 ID:MCuefMc80
>>156
おっしゃる通りです
敬虔に関しては全くの勘違いでした
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/05/23(水) 09:32:45.13 ID:Bz/aOxOeO
乙ー
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/24(木) 07:40:45.74 ID:gtvQB4YmO
関所までドワーフ5日→勇者4日→結果6日
勇者の予想ガバカバやんけ
160 :
◆8F4j1XSZNk
[sage]:2018/05/24(木) 21:51:51.79 ID:GB+S/sPL0
>>156
>>158
ありがとうございます。
>>159
勇者の台詞が5日の間違いです。すいません……。
161 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 14:46:50.90 ID:TiIWmUpJ0
*
エルフの衛兵A「……よし、通っていいぞ」
勇者「えっ」
エルフの衛兵A「何を驚いている」
勇者「いや、こんな簡単に通れるとは思っていなかったので」
暗器使い「門前払い覚悟で来ていたのですがね」
エルフの衛兵A「さる方から連絡が来ていてな。勇者とその一行が来た場合通すにように言われている」
エルフの衛兵A「さっき術師に貴様らの紋章が本物かどうかも確かめさせたから問題はないだろう」
勇者「連邦国の時とは対応がえらく違うね」
暗器使い「……あの時数日時間がかかったのは貴族院の方でも対応に関して協議がなされていたためだろう」
162 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 14:48:40.40 ID:TiIWmUpJ0
暗器使い「その結果があれとは浅はかな連中だとは今更ながら思うがな」
エルフの衛兵A「関所を通ることは許可するが行動範囲は制限させてもらう」
エルフの衛兵A「第一に謁見してもらわねばならない方がいる。そこまでは他の衛兵を案内に付けるから従ってもらう」
勇者「わかりました。ありがとうございます」
エルフの衛兵A「……くれぐれも問題は起こしてくれるなよ。分かっていると思うが我々と貴様ら人間の関係は良好なものではない」
エルフの衛兵A「如何に勇者の末裔とて、事の次第によっては許されない場合もあるということを肝に銘じておけ」
勇者「ご忠告ありがとうございます」
エルフの衛兵A「フン……それではこの先は任せるぞ」
エルフの衛兵B「は、はい……! 了解いたしました!」
いかにも新人らしい青年のエルフがその先を案内することになった。
163 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 14:49:22.89 ID:TiIWmUpJ0
この見た目でも勇者達よりも遥かに歳上である可能性もあるのだが、どうしてもそのようには見えない。
エルフの衛兵B「み、皆さんこちらです。着いて来てください……!」
*
関所を越えた先では再び馬での移動となり、珍しい光景に目を奪われては衛兵に物を尋ねるなどしながら目的地を目指した。
そうして慣れない複雑な地形を数日進み続け、少し体に疲れが見え始めた頃。
エルフの衛兵B「皆さんは自治区は初めてですか?」
勇者「商人や一部の特殊な人達以外は殆どの人が来たことがないんじゃ無いかな」
エルフの衛兵B「そ、それもそうですね」
勇者「それにしても意外だったのが……」
勇者「思った程エルフの皆からの視線が悪いものでは無いんだね」
164 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 14:51:20.85 ID:TiIWmUpJ0
エルフの衛兵B「……勇者様達ならご存知だとは思いますが、今のこの土地を僕達エルフに与えて下さったのは隣の大国です」
エルフの衛兵B「エルフを辺境に追いやったのは人間ですが、また助けてくれたのも人間なんです」
エルフの衛兵B「恨みや傷は消えませんが、また誇りにかけて恩を忘れる事もありません」
僧侶「…………」
勇者「隣の大国……当時の国王様はどういう思いで行動に移ったんだろうね」
エルフの衛兵B「あまり大きな声では言えない事ですが、千年経った今も友好にしていただいていると聞いています」
エルフの衛兵B「で、出過ぎた言い方にはなりますが何らかの意思は感じます……」
エルフの衛兵B「しかしやはり僕達が救われている事には変わりありません」
エルフの衛兵B「恨みに関してももう千年も前……祖父母よりも上の代の話ですから、僕らが感情的になるのは難しいです」
暗器使い「そうか、亜人の寿命は数百年程度……我々人間よりは遥かに長いとは言え、当事者が生き残っているような事は無いのか」
165 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 14:52:09.45 ID:TiIWmUpJ0
エルフの衛兵B「そうですね」
エルフの衛兵B「信仰の長く続いた土着神の類や、より概念に近づいた存在……強力な力の持ち主なら千年単位でも生きるらしいですけれども」
勇者「それこそ当時の魔王軍幹部が生き残っていたとしたら、今でも存命している可能性は十分あるって事だよね」
エルフの衛兵B「ええっ……!? い、一応記録では魔王軍幹部は魔王自身を含めた全員が初代勇者一行に滅ぼされたと有りましたけれども……」
勇者「流石に僕もありえないと思うけどね。もしもの話ってだけ」
エルフの衛兵B「で、ですよね……」
勇者(しかし国王様は“魔王軍の残党”という言い方をされていた……)
勇者(その可能性も捨てきれないってことかな……)
勇者が考え事を始めてすぐ、前方から子供達が飛び出してきた。
エルフの子供A「あっ、お兄ちゃんだ!」
166 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 14:52:51.24 ID:TiIWmUpJ0
エルフの子供B「お仕事なの?」
エルフの子供C「後ろの人達ってもしかして人間!?」
衛兵と顔見知りらしい子供達は四人を取り囲んでワイワイと騒ぎ始めた。
特に子供達は人間を見る機会があまり無いのか、勇者達三人を物珍しそうな目で見ている。
エルフの衛兵B「こらこら! この方々は大切なお客様なんだから粗相のないように!」
エルフの衛兵B「仕事が終わったら遊んであげるから少し待っていて」
エルフの子供A「えーでも僕達も人間のお兄ちゃんたちとも遊びたいよ」
エルフの子供B「そうだよずるいよ!」
エルフの子供C「ずるいぞ!」
エルフの衛兵B「あのねえ、僕は遊びに行くわけじゃないの! あんまり聞き分けがないとおばさま達に言いつけるよ」
167 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 14:54:02.66 ID:TiIWmUpJ0
エルフの子供A「それは駄目!」
エルフの子供B「ひきょう者!」
エルフの子供C「あはは! 逃げるぞー!」
子供達が走り去っていくのを確認すると、衛兵はどっと疲れたようにため息をついた。
エルフの衛兵B「……お恥ずかしいところをお見せしていしまいました」
勇者「仲が良いんですね」
エルフの衛兵B「両親の知り合いの子供なんです。この仕事に就く前はよく面倒を見ていましたから」
暗器使い「ここはもう中心部……首都に近いようだが、随分と子供の姿を見るようになったのはその為か?」
エルフの衛兵B「ええ。僕達亜人種は人間に比べて寿命が長い代わりに子を成しにくいみたいで、小さな子供がいる事自体が珍しいんです」
エルフの衛兵B「彼らの成長への影響も考えて、子供が生まれるとこうして首都へ引っ越して子供達同士で触れ合う機会を設けられるようにしているんですよ」
168 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 14:55:25.35 ID:TiIWmUpJ0
エルフの衛兵B「大きな教育機関もこの辺りに集中していますし」
勇者「なるほど……」
勇者「子供達の相手なら僧侶も得意だよね」
僧侶「……えっ、私ですか!?」
勇者「僧侶は教会の孤児院で子供達に人気なんだ」
エルフの衛兵B「ああ教会の……」
エルフの衛兵B「確かに子供達には人気がありそうですね」
僧侶「べっ……別に私は……」
暗器使い「……やれやれ、恐らくはそろそろ高貴な方との謁見になるんだから気を落ち着かせておけ」
僧侶「わ、分かっています……!」
169 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 14:56:17.84 ID:TiIWmUpJ0
勇者「それで、これから自分達が謁見する相手というのは?」
エルフの衛兵B「えっと、この先の館にいらっしゃるのですが」
エルフの衛兵B「初代勇者の仲間のお一人の、初代弓使い様の直系の子孫に当たる方です」
*
勇者達が案内された館の応接間には小柄なエルフの老婆が待っていた。
自治区五代目区長「お待ちしておりました現勇者様とそのお仲間のお二方……」
自治区五代目区長「私はこの自治区の区長を五代目に務めさせていただいているものです」
自治区五代目区長「もう説明は受けているかもしれませんが、初代弓使い様の直系家系の生まれです。どうぞおかけになってください」
勇者「失礼します」
勇者「……お初お目にかかります。先月から正式に勇者を襲名させて頂いた者です」
170 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 14:57:42.90 ID:TiIWmUpJ0
僧侶「お、同じく現僧侶の紋章持ちで初代僧侶様の直系家系の者です」
暗器使い「北方連邦国出身の暗器使いです。先日暗殺者の紋章が現れたばかりです」
自治区五代目区長「なるほど今回の暗殺者の紋章持ちは北方連邦国からですか……」
自治区五代目区長「北方連邦国には先代の戦士の紋章持ちがいたはずですが彼は健在でしょうか?」
暗器使い「ええ、こちらへ伺う前までお世話になっていました。あの方とお知り合いで?」
自治区五代目区長「いえ、直接お会いしたことは有りませんが人づてで話は聞いていました」
自治区五代目区長「それから貴方がたのお父上……先代勇者様と僧侶様の事は残念です」
自治区五代目区長「彼らはこの自治区を訪れた事が有りましてね」
勇者「そうでしたか……それは自分達と同じ目的でなのでしょうか」
自治区五代目区長「ええ、しかし先代は自治区から紋章持ちは現れ無かったのですけれどもね」
171 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 14:59:19.03 ID:TiIWmUpJ0
自治区五代目区長「弓使いの紋章は帝国の方に現れたと聞いています」
勇者「しかし今回は関所から今に至るまで我々が来ることを分かっていらっしゃったような対応でした」
勇者「やはり紋章持ちが自治区から出たのでしょうか?」
自治区五代目区長「良い推測です。ええ、その通りです」
自治区五代目区長「私の家系の者では有りませんが、選ばれて納得の実力を持った子です」
自治区五代目区長「ほら、入ってきなさい」
区長に促されて応接間に入って来たのは、長い小麦色の髪と紅色の瞳が美しいエルフの女性だった。
紅眼のエルフ「初めましてになるわね、勇者。今回の弓使いの紋章持ちとして選ばれた者よ」
勇者「よろしく。エルフで紅い瞳なのは珍しいね」
紅眼のエルフ「遠い先祖でダークエルフの血が混じっているらしく、その名残りみたいで」
172 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 15:00:03.06 ID:TiIWmUpJ0
紅眼のエルフ「私の一家はほとんどが紅い瞳を持っているわ」
僧侶「ダークエルフ……砂漠の民ですか」
僧侶「森の民とはあまり交流がなかったと聞いていますが貴女のような存在は珍しいのでは」
紅眼のエルフ「その通りであまり一般的なケースでは無いとは思うわ」
紅眼のエルフ「ダークエルフのほとんどは魔王軍の軍門に下ったという話だから、貴女がそういう顔をしたくなるもの分かるわ」
僧侶「……!」
紅眼のエルフ「でも随分と遠い先祖の話だもの。詳しくは知らないし私には関係がない話だから」
勇者「僧侶、これから一緒に旅に出る仲間なんだから仲良くしてね」
僧侶「別に私は……」
紅眼のエルフ「あら、私は仲間になるとは一言とも言っていないけれども」
173 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 15:00:42.44 ID:TiIWmUpJ0
勇者「えっ」
僧侶「なっ」
暗器使い「…………」
自治区五代目区長「こら、あまり困らせるような言い方をするんじゃありません」
紅眼のエルフ「……はあい婆様」
自治区五代目区長「この子が誤解させるようような事を言ってしまってごめんなさいね」
自治区五代目区長「勇者の仲間として旅に出ることに関してはこの子自身も既に了承しています」
自治区五代目区長「しかしその前に片付けて置かなければならない問題があるのです」
自治区五代目区長「解決前に彼女程の使い手にここを発たれてしまうのは困りますので……」
紅眼のエルフ「事が片付くまで待ってもらいたい。もしくは……」
174 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 15:02:50.09 ID:TiIWmUpJ0
勇者「僕達がその問題解決のための手助けをすれば良いって事だね」
紅眼のエルフ「ええ、話が早くて助かるわ」
暗器使い「その問題というのは……」
紅眼のエルフ「婆様……」
自治区五代目区長「ええ、話して差し上げなさい」
紅眼のエルフ「分かりました」
紅眼のエルフ「……最近多発しているのよ。人攫いが」
勇者「な……!」
僧侶「それは……」
暗器使い「エルフは人間から見ても見目麗しい者が多い。裏の市場では違法で人身売買がなされていると聞くが……」
175 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 15:06:27.86 ID:TiIWmUpJ0
紅眼のエルフ「昔からエルフはそういった連中の標的にされやすかったわ」
紅眼のエルフ「でもここ一年間は比較にならないほど多発しているの」
紅眼のエルフ「かなりの手練が集中的に自治区で活動していると見て間違いないわ」
勇者「その人攫い達を捕まえて、攫われてしまった子達の保護をこれからやる必要があるって事だね」
紅眼のエルフ「外国まで売り飛ばされてしまった者の奪還はそう簡単なことではないでしょうね」
紅眼のエルフ「でも犯人達を捕まえて売買ルートを聞き出せれば、いずれ買い戻しをする事も出来るかもしれないわ」
紅眼のエルフ「私がいま率先してやるべきなのは実行犯の確保。その後の事は他の人に任せるつもりよ」
紅眼のエルフ「実行犯さえ確保できれば直ぐに貴方達の旅に同行するから安心してちょうだい」
暗器使い「そういう事ならば……いやそうで無くとも早く解決するに越したことは無い。詳しく話を聞かせてもらおうか」
その後、区長と紅眼のエルフから現場の状況や実行犯の目撃情報などについて詳しい話を聞く事になった。
176 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 15:15:24.05 ID:TiIWmUpJ0
現場は東側の国境付近であるため明日また改めて出発する事となった。
今晩は区長の館の部屋を使わせてもらう事になったが、まだ寝るには早い時間であるため勇者と僧侶は館の外へ散歩に出かけることにした。
僧侶「ふう……」
勇者「東の国境までは二日は掛からないみたいだね」
僧侶「ええ、ですが国境とは言ってもその範囲は広いです」
僧侶「この森を知り尽くしているであろうエルフを相手にしながら一年間も行動するような手練が相手ですから、そう簡単にはいきそうにありませんね」
勇者「そうだね。こっちも頭を使う必要がありそうだ」
僧侶「…………」
勇者「僧侶?」
僧侶「……いえ、なんでもありません」
177 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 15:16:19.26 ID:TiIWmUpJ0
エルフの子供A「あー! 昼間の人間のお兄ちゃんとお姉ちゃんだ!」
エルフの子供B「本当だ!」
エルフの子供A「ねーねー! これから遊ぶ約束をしていたえーへーのお兄ちゃんが仕事でいそがしいって言うから、代わりに僕達と遊んでよ!」
僧侶「えっ……!? いや私は……」
勇者「いいじゃん遊んであげなよ」
僧侶「勇者様……しかし……」
勇者「えー、子供の相手も出来ないの?」
僧侶「そういう事ではなく……!」
エルフの子供A「それじゃあかくれんぼね! お姉ちゃんが鬼で!」
エルフの子供B「きゃはは! 隠れぞるぞー!」
178 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 15:16:48.00 ID:TiIWmUpJ0
エルフの子供C「ちゃんと三十数えてよな!」
僧侶「えっ、いや待ってくださ……」
勇者「これはやるしか無いんじゃない?」
僧侶「……そうみたいですね……」
*
僧侶「……はい捕まえました!」
エルフの子供A「うわー、お姉ちゃん足速いよー」
エルフの子供B「かくれんぼも鬼ごっこもお姉ちゃん勝ちだね!」
僧侶「毎日のように孤児院の子達の相手をしていましたからね。この程度では負けませんよ」
エルフの子供C「こういうのは大人げないっていうんだぞ」
179 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 15:22:46.20 ID:TiIWmUpJ0
僧侶「男の子なのに女の人に負けて言い訳なんてかっこ悪いですよ」
エルフの子供C「ぐっ……!」
エルフの子供C「つ、次は負けないんだからな!」
僧侶「ふふ、その意気でかかってきなさい」
僧侶「……って、もうだいぶ暗いですね」
僧侶「そろそろお家に帰る時間ですよね」
エルフの子供A「あっ、もうこんな時間」
エルフの子供B「うふふ、勝負はおあずけだね」
エルフの子供C「くっそー!」
エルフの子供A「またお姉ちゃんと遊べる?」
180 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 15:24:50.80 ID:TiIWmUpJ0
僧侶「そうですねえ……明日からしばらくはお仕事でいないのですけれども、それが終わってこちらに帰ってきた時にまた遊べるかもしれません」
エルフの子供B「本当!? まってるね!」
僧侶「まだ確定ではないのであまり期待はしないでくださいね」
エルフの子供A「待ってるからぜったい来てね!」
僧侶「そうですね、なるべくここに戻ってくるように頑張りますね」
エルフの子供A「やったあ!」
エルフの子供C「またな人間の姉ちゃん!」
僧侶「はーい、気を付けてくださいね」
エルフの子供B「ばいばーい!」
エルフの子供達は大きく手を振って各々の家へと帰っていった。
181 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 15:25:27.16 ID:TiIWmUpJ0
残された僧侶は子供達の相手のためか少し疲れた顔をしていた。
勇者「お疲れ様」
僧侶「……勇者様、途中からサボっていましたよね?」
勇者「どうやら僕よりも僧侶の方が人気があるみたいだからね」
勇者「それで、どうだった?」
僧侶「どうだったって……」
僧侶「……子供は無垢です。人間も動物も、人外だって変わらないとは思います」
勇者「そうだね」
勇者「でも子供だけじゃなくて大人だって同じだと思うよ」
勇者「あの子たちを育てているのは、他でもないエルフの大人たちなんだから」
182 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/02(土) 15:26:11.71 ID:TiIWmUpJ0
僧侶「それは……」
僧侶「……勇者様のおっしゃる通りかもしれません」
僧侶「今日は少々疲れました。早めに寝るとしましょう」
勇者「そうだね。その前に歓迎の席を用意してくれているって話だったから行かなくちゃ」
僧侶「そういえばそうでしたね。そろそろ時間ですし行くとしましょう」
183 :
◆8F4j1XSZNk
[saga sage]:2018/06/02(土) 15:27:11.18 ID:TiIWmUpJ0
最近暑いですね。
また来週か再来週。
184 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2018/06/02(土) 15:44:29.57 ID:Cng+K+BZO
乙ー
185 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/06/03(日) 01:07:26.40 ID:XLe2ICBDO
乙
186 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:04:04.21 ID:/yQ1aH3t0
*
勇者一行を歓迎する宴が終わった後、勇者達は各々に与えられた客室へと戻って就寝した。
しかし……。
僧侶「…………」
僧侶(眠れない……)
僧侶(……何だか頭も痛いしちょっと風に当たってきましょう)
僧侶「…………」
僧侶(綺麗な町並み……)
僧侶(これがエルフの人達の文化……)
僧侶(自然と調和していて、優しくてあたたかい……)
187 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:06:40.53 ID:/yQ1aH3t0
僧侶(人外だからって差別的に嫌ってきた私は一体……)
僧侶(そもそも何で私はこれ程に人外を……?)
僧侶(もちろん許せない出来事は何度もあったけれど)
僧侶(何かおかしいような……)
???「────憎め……」
僧侶「なっ……!?」
僧侶「だ、誰……!?」
???「──憎め……」
???「──もっと憎め……!」
僧侶「何者ですか……! 出てきなさい……!」
188 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:07:40.03 ID:/yQ1aH3t0
僧侶(……っ! 頭が……痛い……!)
???「──貴様の純血を奪った人外を……」
???「──両親の敵である人外を憎め……」
僧侶「ぐ……頭が……」
???「──奴らの芽を……」
僧侶「ぐう……芽を……!」
???「──そうだ……」
僧侶「芽を……摘まないと……!」
189 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:09:17.16 ID:/yQ1aH3t0
*
エルフの子供C「へへっ、かーさんにばれずに脱出成功……!」
エルフの子供C「今日こそ伝説の光る獣をこの目で見てやるんだ……!」
エルフの子供C「あしたあいつらに自慢してやるぞ」
僧侶「あら……?」
エルフの子供C「ギクッ……!」
僧侶「こんな時間に何をしているんですか?」
エルフの子供C「こ、これはその……」
エルフの子供C「実は……」
190 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:09:55.80 ID:/yQ1aH3t0
…………
僧侶「なるほど、夜にしか現れないというその伝説の獣を見つけて皆に自慢したかったと……」
エルフの子供C「お願い、母さんには言わないで……!」
僧侶「……こんな時間に子供一人で出歩いたら危険だって事は分かりますよね?」
エルフの子供C「……うん……」
僧侶「その獣が凶暴だったらどうするつもりなんですか」
僧侶「何よりも最近は人攫いが出ていると聞いています」
僧侶「残念ですが君一人を森に行かせるわけにいきません」
エルフの子供C「そ、そんなあ……」
僧侶「当然の事です」
191 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:10:55.55 ID:/yQ1aH3t0
エルフの子供C「けちー」
僧侶「ケチじゃありません」
僧侶「……その代わり、特別に私がついて行ってあげます」
エルフの子供C「えっ、本当!?」
僧侶「ええ。ですから今後は一人で無茶なことはしないように」
エルフの子供C「うんわかった! 早速行こう!」
僧侶「ほらほら走らないの」
エルフの子供C「へへっ、こっちの方だよ」
僧侶「はーい、今行きますよ」
僧侶「…………」
192 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:11:43.01 ID:/yQ1aH3t0
*
僧侶「随分と森の深い所まで来てしまいましたね」
エルフの子供C「そりゃあ伝説の獣なんだから、街の近くにいるわけないじゃん」
僧侶「それもそうですね」
エルフの子供C「この辺は大人が狩りをする時でも中々来ない場所なんだ」
エルフの子供C「きっとこの辺なら出ると思うんだよなー」
僧侶「大人でも中々来ない、ですか……」
僧侶「……それは助かりますね」
エルフの子供C「人間の姉ちゃん……どうかしたのか? 何だか目が……」
僧侶「大丈夫です……怖がらないで……」
193 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:13:50.00 ID:/yQ1aH3t0
エルフの子供C「え…………」
僧侶の手がエルフの子供の額に触れようとしたその時だった。
勇者「──僧侶、そこまでだよ」
僧侶「なっ……!? 勇者様!?」
僧侶「何でこんな所に……!?」
勇者「僧侶が部屋を出て行く気配がしたからね。後をつけさせてもらったよ」
勇者「同じ質問を返すけど僧侶は何でこんな所に? しかもエルフの子供まで連れて」
僧侶「そ、それは……」
僧侶「そういえば何で私はこんな事を……? 一体……」
勇者「僧侶……?」
194 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:14:33.83 ID:/yQ1aH3t0
僧侶「…………っ! 私はっ……“今何をしようとしていた”……!?」
僧侶「何をっ……!」
僧侶「うっあああああああああっ!!」
勇者「僧侶!?」
勇者(明らかに僧侶の様子がおかしい……! これは一体……!?)
暗器使い「……あれは何らかの術的攻撃を受けている可能性もあるな」
勇者「あ、暗器使いも来ていたのんだ……! とにかく僧侶を……!」
暗器使い「ああ、区長の所に連れて行くぞ。子供の方は俺に任せろ」
勇者「了解……!」
暗器使い「よし、お前も行くぞ」
195 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:15:01.60 ID:/yQ1aH3t0
エルフの子供C「う、うん……」
エルフの子供C「姉ちゃん、大丈夫なのか……?」
暗器使い「……ああ、今から区長様に診てもらうからな」
エルフの子供C「そ、それなら……区長さまならきっと……」
暗器使い「…………」
暗器使い(過去のことがあるとはいえ少し過敏すぎると思っていたが、やはりあれは……)
196 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:18:15.92 ID:/yQ1aH3t0
*
僧侶「すう……すう……」
自治区五代目区長「……取り敢えず今は睡眠の香で眠っているだけです」
自治区五代目区長「それで僧侶様が突然信じられない行動に出た原因ですが」
自治区五代目区長「これは呪術によるものです。しかも極めて高度な……」
勇者「呪術、ですか……」
暗器使い「やはりか……」
自治区五代目区長「非常に高度であるが故、その効果を正しく解析することは叶いませんでした」
自治区五代目区長「聞くところによると僧侶様は時折人外に対して並々ならぬ憎悪や嫌悪を示すようですね」
勇者「ええ、その通りです」
197 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:19:01.24 ID:/yQ1aH3t0
勇者「しかしこの街の子供達と触れ合っている時はそのような事はなかったのですが……」
自治区五代目区長「これは解析結果と私の想像を合わせての事ですので参考にとどめて頂きたいのですが」
自治区五代目区長「僧侶様に掛けられた呪いは“人外を激しく憎むように働きかけるもの”ではないでしょうか」
自治区五代目区長「最終的には先程のように本人の意志を越えた行動に出てしまうような、そんな類のものだと私は思うのです」
暗器使い「なるほど……」
自治区五代目区長「……呪術の影響下とはいえ、僧侶様は我が区の子供を傷つけようとしました」
自治区五代目区長「この事は事実ですね」
勇者「そ、それは……」
勇者(その通りだ……呪術のせいだとしても一歩間違えれば子供が犠牲になっていたんだ……)
勇者(それをお咎め無しで済ますなんてことは……)
198 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:20:16.83 ID:/yQ1aH3t0
自治区五代目区長「……よく聞いてください、勇者様」
勇者「はい……」
区長は眠っている僧侶の頭を軽く撫で、それから勇者達の目を見てこう告げた。
自治区五代目区長「お二人はこの後、きちんと僧侶様を労るのですよ」
勇者「え……」
自治区五代目区長「僧侶様の心は大変優しく慈愛に満ちています」
自治区五代目区長「そんな彼女が目を覚まして、自分がなそうとしてしまったことを思い出したらどれ程傷つくか」
勇者「…………」
暗器使い「区長様は僧侶をお咎めにならないと仰るのですか?」
自治区五代目区長「もし事が起こっていたのであれば、私も区の長として心を鬼にしたでしょう」
199 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:24:37.24 ID:/yQ1aH3t0
自治区五代目区長「しかしそれはお二人によって防がれました」
自治区五代目区長「先程も言ったように僧侶様に掛けられている呪いは非常に高度なものです」
自治区五代目区長「殆どの人間はそれに抗うことは出来ないでしょう。そんな彼女をどうして責めましょうか」
勇者「区長様……」
自治区五代目区長「……私の力では呪術そのものを解除することは出来ません」
自治区五代目区長「しかしこのような事が再び起こらないように多少の対策はさせていただきました」
勇者「対策、ですか?」
自治区五代目区長「呪術の発動を抑えるペンダントを僧侶様に着けておきました」
自治区五代目区長「これで並のことでは僧侶様が人外に対して殺意などを爆発させることは無いでしょう」
暗器使い「そんなわざわざ……本当に感謝いたします」
200 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:25:30.68 ID:/yQ1aH3t0
自治区五代目区長「いえ、私にできることをしたまでです」
自治区五代目区長「しかしこのペンダントも完璧なものではありません。くれぐれも気を付けてくださいね」
勇者「ええ、本当にありがとうございました」
自治区五代目区長「いえいえ。僧侶様の体調次第だとは思いますが、明日には出発をするはずですので早めにお休みになってくださいね」
201 :
◆8F4j1XSZNk
[saga]:2018/06/16(土) 17:27:06.26 ID:/yQ1aH3t0
*
奴隷商A「ここ数ヶ月商品の入りが悪いせいで少し厳しい状況になって来たぞ」
奴隷商B「耳長どももかなり警戒を強めているみたいだからな……」
奴隷商B「だが焦りは禁物だ。ルートがバレたら俺達はお終いだ」
奴隷商A「それはそうだけどよ……」
奴隷商B「大丈夫だ。耳長に手を出す命知らずなんてもう最近ではあまりいない」
奴隷商B「供給が減っていけばゆるりと値段も上がっていくはずだ」
奴隷商A「そういうもんかね」
奴隷商B「そういうもんだっての」
奴隷商A「よくわかんねえけど、お前が大丈夫だっていうなら大丈夫か」
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