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右京「呪いのビデオ?」修正版
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73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:36:55.76 ID:EAF0Yir90
8月30日 AM9:00
「杉下さん!重大な事がわかりました…っていねぇし…
やっぱあの人も所詮は人間か。
自分があと3日後に死ぬなんてわかれば仕事どころじゃないよな。」
それからすぐに特命係の部署に着くのだが…
いつもなら自分よりも早く着いているはずの右京の姿がなかった。
恐らく昨日のことで自分の死期を悟り恐くなって逃げ出したのではと…
「おはようございます。」
「うわぁっ!後ろにいたんですか!?
脅かさないでくださいよ…俺てっきり…いえなんでもありません。」
「はてさて何を言っているのやら…
それで先ほど大声で叫んでましたが何かわかったのですか?」
「実は俺…悦子に呪いのビデオの噂を聞いたんですけど…」
「まさかキミ…早津さんみたく悦子さんに呪いのビデオに呪いを…」
「いや!そんなことしませんよ!
まぁギリギリで思いとどまったんですけど…
…ってそうじゃなくて悦子が昔聞いた呪いのビデオに関わる噂話があるんですけどね。」
そしてカイトは悦子から聞いた話を右京に語った。
悦子が聞いた話によればとある女子学生が古い屋敷に迷い込んだ夢の話らしい。
その女子学生は広い屋敷の中で迷子になり、ふと気づくとある階段の前に近付いていた。
彼女はその階段を上ろうとするがその階段を上の階から奇妙な不気味さを感じてしまい、
階段を上ることが出来なかった。
だがそんな時だった。
『 『ギャァァァァァァァァァァァ!!!!!』 』
若い女の叫び声が聞こえた、気になった女子学生は屋敷を飛び出し声のした庭へ向かった。
そこには古びた井戸があり、
それに白い服を着た髪の長い女を襲う中年の男が彼女を殺そうとして…
「その長髪の女は中年の男によって井戸の中に落ちていったという話です。」
「ヒィィッ!?恐えな…何だそれ…怪談か?」
「あ、課長お早うございます…ていうか居たんですね。」
「コーヒー貰いに来たのにお前らが変な話をして気付かなかったのが悪いんだろ。
それにしてもさっきの話なんだよ…朝っぱらから恐がらせるなっての!」
カイトの話を偶然立ち聞きしてしまった角田。
そのままMyカップにコーヒーを注ぎながら欠伸を上げていた。
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:41:30.70 ID:EAF0Yir90
「おや、課長。徹夜でしたか?」
「まあな。お前さんたちは大島に行ってたから
知らんだろうがこっちはちょっと事件があったんだよ。」
実は右京たちが大島へ向かう前夜にとある事件が起きていた。
繁華街で危険ドラッグを卸していた元暴力団員加藤実が襲われるという事件だ。
被害者が組を破門になったチンピラであることから
角田たち組対5課はこの犯行を同業者のトラブルではないかという線で捜査していた。
話を終えてコーヒーを飲み干すと角田は再び自分のデスクへと戻って行った。
話は脱線したがともかく今の話で右京は気になることがあった。
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:43:26.38 ID:EAF0Yir90
「今の話ですがどこかおかしくありませんか?」
「そりゃ夢の中の話ですからおかしいところはあるでしょう。」
「いえ、そうではなく…何故その女子学生は階段の上に恐怖を感じたはずなのに
舞台が突然『井戸』の方に移るのかです…
『女子学生』、それに『中年の男』と『長髪の女』…
僕はこの物語にはあともう一人登場人物がいるように思えるのですがね…」
そんな風にカイトの説明を聞き入る右京。
そんな右京だがなにやら用意を始めていた。
それは先ほど他の部屋から持ってきたシュレッダーだ。
そのシュレッダーに何かの用紙をセットしている。
一体何をしているのかとカイトが気になって見てみると…
「これ…早津さんが描いた呪いの絵じゃないですか!」
それは右京たちが呪われる原因となった早津が描いた絵だ。
それをシュレッダーに入れる右京。そして…
「あぁ…絵が処分されていく…」
なんとシュレッダーによって絵は細かく切断されてしまい復元不可能な状態になった。
何故こんな真似をするのか?
「危険だからですよ。この絵は既にビデオの役割を行ってしまった。」
確かに今となってはこの絵が呪いのビデオの役割を担ってしまった。
それを考えれば処分は妥当なのかもしれないのだが…
「これで心置きなく死ねますね…ハハ…」
「そんなに早く諦める必要もないと思いますがね。
あと3日あります。必ず僕たちが助かる糸口は見えるはずですよ。」
その励ましに力なく頷くカイト。
だが呪いの力は本物だ。それに呪いを解く答えは既に出ている。
それなのに何を調べろというのか?
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:44:14.43 ID:EAF0Yir90
「それよりもキミにひとつ言っておきたいことがあります。
これから先誰に尋ねられようと決して呪いのビデオの内容を教えないでください。」
「え?だって絵なら…
杉下さんが処分しちゃったじゃないですか?内容なんかもう伝えられないですよ。」
「山村貞子の呪いは呪いのビデオに限らず…絵になっても呪いが有効でした。
つまりもしかしたらですよ…これは僕の想像になりますが…
彼女の呪いは手記や最悪…口頭での説明でも呪いが可能かもしれません。」
「そんな…今
更そんなこと言ってもこの件に関わっている人がどれだけいると思ってるんですか!?
山村貞子や伊熊平八郎のことを調べた角田課長や
花の里で老婆の方言を教えてくれた幸子さん!捜査一課の伊丹さんたち!
それに大島の陣川さんや山村和江さんにも
既に貞子の呪いが掛けられているんですか!?」
「いえ、彼らには肝心の呪いのビデオの内容は明かしていません。
大島で撮られた陣川くんの画像を見るに呪いに掛かっているのは今のところ…
僕たちだけのはず。
僕たちが『歩く呪いのマスターテープ』になっている可能性があります。」
つまりこれからは自分たちだけで捜査を行わなくてはならないことにある。
確かに特命係は常に単独で捜査を行ってきた。
しかしこの事件に隠れている得体の知れない何かを相手にするのに
自分たちだけでは余りにも心細い。
右京とはちがい、カイトにはその不安が重く伸し掛った。
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:45:20.88 ID:EAF0Yir90
8月30日 AM10:00
ここは城南大学。都内でも有数の進学校と噂されている大学だ。
この学校は近年文化系に取り組んでいて
演劇部などはその本格的な舞台を披露させていることから世間ではかなり注目されている。
その大学の一室にある高野舞のオフィス。
右京とカイトは15年前高山竜司の教え子であり、
浅川玲子と高山竜司の一人息子である『浅川陽一』を引き取った高野舞を尋ねていた。
現在、彼女は若いながらもこの大学の教授職を勤めている。
そんな彼女のオフィスに招かれた右京たちだがその部屋に右京はある疑問を抱いた。
「あの…警察の方がお話って一体…」
「その前にちょっと気になる事が、
大学教授の方なのにこの室内にはTVは勿論PCすら置いてない…
いえ、鏡面的な物がほとんど置いてないのはちょっと不思議に思いましてね。」
「あの…まさかそんなことを尋ねに来たんですか?」
「すみませんねぇ。細かいことが気になるのが僕の悪い癖でして…」
確かにこの部屋にはそんな鏡面的な類は置かれていない。
それを普段から細かいことを気にする右京が指摘するのも当然だが…
しかしこれは本題ではない。
そんな右京を尻目にカイトが今回高野舞を尋ねた本題に入った。
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:46:35.54 ID:EAF0Yir90
「率直にお伺いします。
高野さん、あなたは呪いのビデオについて何か心当たりはありますか?」
カイトが呪いのビデオ訪ねた瞬間、高野舞の顔は真っ青になった。
この反応を見た右京たちは彼女が呪いのビデオに関して、
何か重大な秘密を知っていると確信した。
「実は我々も『呪いのビデオ』を見てしまったのですよ…」
「俺たちのタイムリミットはあと3日しかありません。話してもらえませんか。」
「正直に申し上げます…私は…呪いのビデオは見ていません。
けど…その所為で私の恩師である高山竜司が死んだのは存じています。
私から言えるのはそれだけです…」
「いや…嘘だ!さっきの反応…あなたは間違いなく何かを知っているはずだ!」
「…」
カイトから激しく追求されたが舞はそれっきり黙秘した。
恐らく当時のことを口にしたくないのだろう。
さすがに令状も取れていない捜査なので強硬手段も出来ないが、
このままでは埓が明かないと踏んだ右京は彼女にある揺さぶりを仕掛けてみた。
「そういえばこの大学にはそのお亡くなりになった
高山竜司さんのご子息である浅川陽一さんが在学中だと聞いているのですが…」
「まさか…あなたたち…また陽一くんを使って…
帰ってください!もうお話することなんかありません!!」
陽一を引き合いに出されたことでさらに右京たちを拒む舞。
だがそんな時だ。
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:47:32.01 ID:EAF0Yir90
「舞さん遅くなってごめん。」
誰かがこの部屋を訪ねてきた。
それは見るからに大学生の少年、現在の浅川陽一だ。
どうやら右京は事前にこの陽一に舞の部屋を訪ねるように仕向けていたようだ。
本来ならこんなことはしたくはないのだろうが…
しかし右京たちも死亡時刻が迫っていた。従って猶予はない。
だからこそこんな手段に打って出た。
「あの…僕に話って何ですか?」
「キミのお母さんである浅川玲子さん、
それとお父さんである高山竜司さん。二人について話を聞こうと思ったんだ。」
「陽一くん、知っていることがあるなら教えて頂けますか?」
舞に代わって陽一から話を聞き出そうとする右京たち。
だが陽一からの返答は意外なモノだった。
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:48:01.11 ID:EAF0Yir90
「母さんと父さんのことですか?
母さんは僕が小さい頃に死んじゃったし…
父さんなんか生まれてから一度も会ったことすらないですよ。」
「お父さんと会ったことが無い!?」
「そういえば二人は離婚してますからね。
離婚したのは陽一くんが物心つく前のことだったのでしょう。」
父親である高山竜二と面識はないと言う陽一。
だがこうなると少し奇妙とも思えることがある。それは舞と陽一の関係だ。
生前、実の父親である高山ですらろくに会わなかった息子の陽一を
当時の教え子だった舞だけが引き取った。
いくら教え子とはいえ些か限度を超えているはず。
つまりこの二人は過去に…それも15年前に何かあったのではないのかと勘繰った。
「いけませんか!恩師の息子を引き取ったら犯罪とでも言う気ですか!?」
「失礼、気を悪くされたのなら謝罪します。
ですが実の父親ですらまともにあったことのない息子を引き取った。
美談ではありますが疑う余地がなくもない。
もしかしたらあなた方には15年前に何かそうなるだけの事件が起きたのではないですか?」
「あの…だから…それは…」
改めて15年前のことを問われて狼狽える様子を見せる舞。
確かに呪いのビデオに…いや…山村貞子に関わったのならこの反応は無理もない。
しかしだからこそこの二人の協力は不可欠だ。
そのためにも右京たちは自分たちの誠意を伝えてみせた。
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:48:42.06 ID:EAF0Yir90
「高野さん、その様子から察するにあなたも山村貞子の力に恐怖を感じているのですね。
確かに不安になる気持ちはわかります。ですがこれだけは約束させてください。
僕たちはあなたたちの平穏な日々は絶対に壊しません。」
「俺たち話を聞いたらさっさといなくなるんで、安心してください。」
「わかりました…
けどその前に陽一くんを外させてください。彼には教えられないから…」
「舞さん、僕はもう大人だよ。それに僕も気になってたんだ。
もうおぼろげな記憶しか覚えてないんだけど小学校の母さんが死んだ時期だけ
どうも記憶が曖昧で…僕も真実を知りたいんだよ!」
「知らせてあげるべきだと思いますよ。彼ももう大人です。」
「そうですよ、陽一くんはあなたが思っているほどガキじゃありませんって!」
「わかりました。それではお話します。あれは先生が亡くなった直後でした…」
そして高野舞は15年前に自分の身に何が起こったのかを
右京とカイト、それに浅川陽一に話し始めた。
舞が呪いのビデオに関わったのは高山が死んだ当日のことだった。
あの日、舞は高山の自宅を訪ねるとそこでは高山が恐怖にひきつった顔をして死んでいた。
その後、高山の死を不審に思った舞は
浅川玲子の同僚である岡崎と知り合い彼から呪いのビデオに関する話を聞かされた。
そして舞も高山の死が呪いのビデオに関わっているのだと確信した。
それから岡崎と一緒に当時失踪していた浅川玲子の行方を追うことになり、
暫くして浅川玲子とその息子である浅川陽一を見つけたが…
「当時の陽一くんは…貞子の怨念にとり憑いつかれていた…
だからあなたは当時の記憶がおぼろげなんだと思う。
まあこんな話を警察の方が信じてくださるとは思いませんけど…」
「いや!信じますから大丈夫ですって!」
「構わずお話を続けてください。」
信じられない話だがそれでも今は信じるしかない。
そう思い舞の話を聞き続けるのだが…
その後、岡崎はなんらかの理由で心を煩い精神病院に入院。
舞自身も何度か貞子の怨念らしきモノに触れそうになり危うかったと話す。
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:49:36.76 ID:EAF0Yir90
「その貞子の怨念により浅川さんはトラックに撥ねられて…即死でした。
私と陽一くんはその時現場に居たので…その時の酷い有様は今でも忘れられません…
そして私は呪いの謎を解くために貞子の生まれ故郷である大島へ向かいました。」
「やっぱりあなたは大島の…あの山村家に向かったんですね!」
これは大島で会った山村和恵の証言とも一致している。
どうやら舞が陽一を連れて大島に向かったのは間違いないようだ。
だがその時、実は二人の他にもとある同行者がいた。
それは当時の事件で精神科医として関わった『川尻』という男だ。
川尻は陽一にとり憑いついた山村貞子の怨念を
水に溶かして除去するというかなり危険な実験を行った。
舞の話によればその実験の前に、
最初の犠牲者である大石智子の死亡現場に居合わせていて、
後に精神病院に入院した倉橋雅美を使って実験を行ったが
その実験の所為で倉橋雅美は危うく死亡しかけたという極めて危険な実験だったらしい。
それから陽一を被験者として実験は開始されたが…
貞子の怨念は人の制御出来るモノではなかった。
貞子の怨念は暴走し実験の場にいた殆どの人間は貞子に殺されたという…
ちなみに貞子の叔父である山村敬もこの実験に参加していたとのことだった。
「そんな実験が行われていたのかよ…」
「なるほど、山村敬さんもこの実験に…
やはり彼の死も呪いのビデオに関わるモノでしたか。
しかしひとつ疑問があります。
それほど大勢の犠牲が出ながら何故あなた方だけが助かったのですか?」
「それは…先生が私たちを救ってくれたからです。」
「先生?つまり高山竜司さんのことですね。」
「あの実験の時…気付いたら私は井戸の中にいたんです…
必死になって一緒に井戸に落ちた陽一くんを探しいたんですけど見つからなくて…
諦めていたらそこへ先生が現れて…」
そんな舞の説明に陽一はかつて起きた出来事を思い出していた。
そういえば…自分は…その昔…井戸に落ちた記憶がある。
とても深い場所だ。それに呼吸も出来なくて息苦しくもあった。
それでもうダメだと諦めていた時だった。
誰かが救いの手を差し伸べてくれたことを思い出した。
あれは懐かしくも暖かいあの手は…あの時…助けてくれたのは…
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:50:04.85 ID:EAF0Yir90
「思い出したぞ!?そうか…あの人は父さんだったんだ!
小さい頃、舞さんと一緒に井戸に落ちた記憶があって…誰か男の人に助けられて…
それから手を握られて…その人の手を握った瞬間に怒りとか憎しみみたいな…
ドス黒い感情が一気に抜け落ちていった覚えがあります。」
「それから私は必死に井戸を這い上がりました。気がつくと元の場所に戻っていたんです。」
「なるほど、あなたが陽一くんを心配する理由がよくわかりました。
それにしても実験ですか…
かつて山村貞子の母親である山村志津子も無理矢理超能力の実験を行われた。
それがこうして陽一くんにも行われるとは因果ですねぇ。」
それが高野舞の知る、呪いのビデオとそれに山村貞子に纏わる話しだった。
どうやら山村貞子に関わる者は誰もが不幸を遂げる運命にあるようだ。
そしてこれで舞と陽一の関係にも納得がいった。
それに陽一だがこの話を聞いてあることを思い出した。
それは生前の母が自分にあることをさせた思い出だ。
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:52:02.70 ID:EAF0Yir90
「呪いのビデオ…そういえば思い出した事があるんですけど…
昔、母さんが僕に『ビデオをダビングしてお爺ちゃんに観せろ』って言ったんですよ。
これって何か関係ありますか?」
「それって…まさか…」
「なるほど、浅川玲子はそうやって息子であるあなたを助けたわけですか。」
これで合点がいった。
浅川玲子の両親が亡くなった原因。
それはこれまで右京たちが考えていたように呪いのビデオにあった。
しかし何故浅川の両親がビデオを観ることになったのか?それが疑問だった。
だがそれも陽一が絡んでいたとしたら話は別だ。つまりこういうことなのだろう。
15年前、陽一はなんらかの理由で呪いのビデオを観てしまった。
母親の浅川はそんな陽一をなんとしても救い出そうと必死だったはず。
そこでようやく答えにたどり着いたのがビデオのダビングだ。
浅川は陽一を救うためにその禁じ手を行った。第三者である両親にビデオを観せた。
その結果、陽一は助かった。だがそのせいで両親は死んだ。
つまりこうして陽一が生き延びた理由は母親の助けとそれに祖父母の犠牲があったからだ。
「それは恐らくですが…」
「ちょっと杉下さん!すまない。俺らもそれ以上は知らないんだ…」
「そう…ですか…」
そんな陽一に真実を告げようとする右京をカイトが遮った。
それは突発的な行動で右京もまさかカイトに遮られるとは思わなかった。
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:52:32.14 ID:EAF0Yir90
「ところで…精神病院に入院なされている岡崎さんなのですが、
先ほどの高野さんのお話では彼は呪いのビデオを観てないそうですね。
それにも関わらず岡崎さんは精神病院へ入院する事になった。
その辺の事情に何か心当たりはありますか?」
「そういえば…私と知り合った頃…
岡崎さんは女子高生に呪いのビデオの取材をしていました。
その子は沢口香苗というんですけど。ただ…その子も…」
「呪いのビデオで亡くなったのですか?」
「はい、私も見ましたがそれはもう酷い死に顔で…
私が知っていることは以上です。これ以上お話しすることはありません。」
「えぇ、大変参考になるお話でした。どうもありがとう。」
こうして舞と陽一から当時の話を聞き終えた右京たち。
それから部屋を退室しようとするのだが…
去り際、カイトが二人に対してこんなことを告げた。
「最後に俺からもいいですか?特に陽一くんに聞いてほしいんですけど…」
「何でしょうか?」
「今日のこと…いや…呪いのビデオなんか全部忘れちゃってください。
こんなこと憶えてたらあなたたち絶対不幸になっちゃいますから!
突然押し掛けて変なこと言ってると思いますけど…とにかくこれで失礼します…」
そんなことを告げながらカイトもまた舞の部屋を出て行った。
それから右京と合流するカイトだが…
そんなカイトに右京は先ほどのことを問い質した。
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:53:16.34 ID:EAF0Yir90
「キミ、先ほど僕が陽一さんに尋ねられた際…
思わず会話を遮りましたね。彼にはすべてを知る権利があったはずですよ。」
「そんな事言われなくてもわかってますよ…けど何も知らないとはいえ…
実の祖父を自分の命が助かるために犠牲にしたなんて俺には伝えられません…」
「なるほど、それがキミの考えですか。」
「何すか?文句があるなら聞きますけど。」
「文句なんてありません。それが正しいと思うならキミは胸を張るべきだと思いますよ。」
別に右京は今のことについて咎める気などなかった。
確かに真実を告げることは大事なことだ。
しかしそれも時と場合を考える必要がある。
特に今回の事件で絡んでいるのは呪いのビデオだ。
人を殺せるおぞましいモノを相手にしなければならないのに
そんな破を突くような真似をしてあの二人に害が出れば取り返しのつかないことになる。
一見正反対だが今回に至っては右京もまたカイトの意見を尊重してみせた。
「それよりこれからどうしますか?
確かに高野舞の話は参考になったけど結局実験は失敗してるし…」
「いえ…大変参考になるお話でしたよ。
なるほど、これで繋がってきました。
ところ次の場所へ行く前にちょっと寄り道しておきたいところがあります。」
「寄り道ってどこですか?」
「それはこの学校の演劇部です。」
高野舞からの聞き込みは終えたというのに何故かまだ大学に留まる右京。
そんな右京が次に訪れたのがこの学校の演劇部。
何故、この学校の演劇部を尋ねるのかというと
それは先日の内村部長の部屋にあったこの学校の舞台パンフレットを見たからだ。
あの内村が大学の演劇に興味を示したのが些か気になったようで少し覗いてみたい。
そんなわけでさっそくその演劇部を訪ねてみた。
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:54:37.28 ID:EAF0Yir90
8月30日 AM11:30
「よーし!それじゃあ今のところをもう一度!」
どうやらそこでは舞台のオーディションが行われているらしい。
主演希望の女子大生たちが
演出担当の学生たちが見守る中でその台詞を舞台の上で叫んでいた。
それから女性たちは一人ずつ舞台に立ち、壇上でセリフを読み上げていった。
「………もし」
「生まれ変わることができるなら…」
「それが神に逆らうことであっても…」
「私はあなたのそばに」
「あなたと一緒にいたい」
「ああ、面影さえも 鮮やかに浮かぶ」
「あなたに会うことができたなら なんといえばいいのかしら」
「すべてが夢ならば」
「夢から覚めた時 あなたがいてくれたら」
それがこの舞台に立つ主演女優のセリフだった。
この舞台の公演は『仮面』というモノ。
その内容は若い娘が交通事故で顔全面に火傷を負い、凄惨な形相になってしまった。
その娘は醜い素顔を晒したくないと仮面を付けるようになり人目を遠ざけるようになる。
しかしそんな娘が恋に落ちた。それは決して報われぬ恋。そんな悲恋の物語だった。
確かにその内容は娘の苦悩や罪悪感を描いた文学的な演目だ。
だが残念なことにそれを演じる女子大生たちの演技力が伴っていなかった。
恐らくこの中に主演を務めるだけの演技力を持ち合わせる女性はいないはず。
そんな風に見つめていた。
だが舞台の演出をしていた学生の一人がこう呟いた。
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:55:26.96 ID:EAF0Yir90
「やっぱり当時の飛翔の人たちじゃなけりゃ無理なのかな。」
その学生の口から出た飛翔という言葉に右京たちは聞き覚えがあった。
それは大島を出た貞子が入ったとされる劇団の名称だった。
気になった右京たちはこの学生に劇の内容について聞いてみた。
「失礼、ちょっとよろしいでしょうか。
この演劇ですが元々はどういった経緯でやることになったのですか?」
「あ、これですか?
実は…ちょっとオカルト的な演出を兼ねようと思ったんです。」
オカルト的な演出と聞いて思わず首を傾げるが…
だがその理由を聞いてみるとそれは本当にオカルトめいた話だった。
元々この舞台『仮面』の演目は45年前に飛翔という劇団が公演する予定だったらしい。
しかしそれは多難を極めたらしい。公演を行う直前に主演女優が事故死。
その後も代役の女優を用意するも次々と事故が相次ぎ劇団関係者も中止を考えていた。
そんな矢先のことだ。当時まだ入りたての研究生が舞台に上がった。
研究生は見事に主人公の娘役を演じてみせた。
そして研究生は認められて見事主演女優の座を取ってみせた。
「なるほど、確かに曰くつきの話ですねぇ。
ですがそれだけではオカルトとしての要素が薄くも思える。
もしかしてまだ何か続きがあるのですか?」
この話にはまだ続きがあるのではないか?
そう尋ねるとその途端、学生は険しい表情になった。
実は右京が指摘したようにこの話には続きがあった。
45年前、劇団飛翔はこの公演を行っていた。だがその公演中のことだ。
演劇中、なんらかのアクシデントが起きたらしい。そこで死人が出たとか…
それに後日、飛翔の関係者はほとんどが行方不明になったらしい。
まるで神隠しにでもあったかのように忽然と消えた。
それ以来この仮面の公演は忌み嫌われるようになりどの劇団でもやらなくなってしまった。
ちなみにその飛翔で何が起きたのか聞いたが
さすがにその学生も知らないようで当時の関係者でもなければわからないという。
これで行き詰まりかと思われたが、ふとこの公演の台本に注目した。
見るとこの台本、かなり古そうだが…
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 01:59:39.49 ID:EAF0Yir90
「飛翔で使われていたオリジナルの台本です。もうコピーしたんでよければ差し上げます。」
飛翔で使用されていたとされる台本。
そのページにあるスタッフ欄を捲ってみた。
スタッフ紹介
重森勇作:演出
×葉月愛子:主演女優
山村貞子:主演女優(代役)
有馬薫:劇団員
………
〜スタッフ紹介〜
遠山博:音効
立原悦子:衣装
内村完爾:雑用
それがページの一覧だ。
まず主演女優の方に注目したが×印が記されていた。
「恐らく先ほどの証言通り主演女優が亡くなったために急遽の処置だったのでしょう。」
「それじゃあ貞子はこの時に何かあって…」
恐らく貞子の身に何かあったのかもしれない。
思わぬ場所で手がかりを拾ったわけだが…
しかし右京はこの台本でもうひとつある事実に気づいた。
なるほど、だからあの時あそこにアレがあったのかとようやく納得ができた。
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 02:00:40.63 ID:EAF0Yir90
8月30日 PM14:00
先ほど高野舞より聞いた通り
右京たちはさっそく精神病院に行き、入院している岡崎を尋ねようとするが…
「え!岡崎さんは退院した!?」
「はい、1ヶ月くらい前に身内の方が引き取りに来ましたよ。」
どうやら岡崎はこの病院を退院したらしい。
しかしどうにもおかしい。ここは精神病院だ。
さらに岡崎はこの病院で既に15年以上も入院している重度の精神障害を抱えているはず。
それなのに今頃になって退院?何か奇妙に思えてならなかった。
「ちなみにお尋ねしたいのですが
引き取りに来られた身内の方はどんな人たちだったのでしょうか?」
「確か背広姿の男性が数名…だったと思います。
兄弟とか言ってましたけど顔は全然似てませんでしたね。アハハハ。」
「ちなみに退院されたのは何曜日のことでしょうか?」
「確か日曜日ですよ。休日を利用してやって来たと言ってましたからね。」
それから病院側に聞いたが
引き取った身内に関しては患者のプライバシーの問題でその詳細は明かされなかった。
この病院に岡崎がいなければ話にならない。
さて、どうするかと思ったわけだが…
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 02:01:06.62 ID:EAF0Yir90
「ところでここにもう一人入院されている倉橋雅美さんにもお話を伺いたいのですが…」
「彼女をですか?正直彼女の面会は許可しにくいのですが…」
「ある事件でどうしても彼女の協力を得たくて、どうかお願いします。」
「わかりました…担当の医師に言ってみます。私ちょっと席を外しますから。」
そう言って席を外す看護師。
その傍らで呆れた顔で右京に文句を呟くカイトだが…
「嘘言っちゃって…精神障害の人間の証言なんかに刑事能力は無いですよ。」
「おやおや、僕は別に嘘など言ってませんよ。
彼女は僕たちが追っている
呪いのビデオの事件に協力をしてくれたらそれは事実になりますからねえ。」
「ハイハイ、屁理屈捏ねたら杉下さんの右に出るヤツなんていやしませんよ…」
とりあえずこれで倉橋雅美と面会出来る手筈は整った。
それから1時間も待たされたが
ようやく二人は担当医師の立会いで倉橋雅美と面会することが出来た。
しかし右京とカイトは彼女が病室からこの面会室まで歩いてくる姿に思わずギョッとした。
何故なら彼女の視界に決して『ある物』を見せないために
看護師が布で隠しながらここまで歩かせてきたからだ。
そしてようやく会えた倉橋雅美と聞き込みをしようとするのだが
この15年間で彼女は驚くほどに窶れてしまった。
彼女の年齢はまだ30代前半だというのにその髪は最早白髪だらけ、
目も恐らく満足に寝てないのだろうか大きな隈が出来ていた。
倉橋雅美の状態を見たカイトはとてもじゃないが
彼女から満足な話は聞けないと判断するがそれでも右京は敢えて彼女に話を切り出した。
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 02:02:03.16 ID:EAF0Yir90
「倉橋さん、今日はあなたにお話が合って来たのですが。」
「…」
「呪いのビデオ…ご存知ですよね。」
「呪い…ビデオ…」
「あ…」
「ああ…」
「あ゛…あ゛ぁぁぁぁぁぁ!?」
呪いのビデオ。その言葉を聞いた瞬間、彼女はいきなり大声を叫び出した。
「倉橋さん!しっかりして…大丈夫ですからね、鎮痛剤用意して!早く!」
「ちょ…ちょっと本当に大丈夫なんですか!?」
彼女は髪を掻き毟りまるで何かに怯えてしまいその場で暴れ出した。
カイトも彼女が暴れないようにと抑えるのを手伝っていたが
その拍子に自分のスマートフォンを落としてしまった。
「いけねっ!携帯落っことしちまった…」
倉橋雅美は精神障害を患っている。
そんな彼女をこれ以上刺激させるわけにはいかない。
そう察したカイトが一刻も早く携帯を仕舞おうとしたのだが…
「あ…あぁぁ…キャァァァァァァァァァ!?」
その瞬間…
彼女はこの世のモノとは思えないほどの叫び声を上げてその場で気絶してしまった。
最早、話を聞くどころではない状態になった倉橋雅美はそのまま病室に連れ戻された。
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 02:02:41.29 ID:EAF0Yir90
「あの…俺…何かしました?」
「僕が見た限り
彼女はキミが落としたスマートフォンを見てあんな叫び声を上げたようですが…」
「けど…こんなモン見たくらいなのに何で気絶するほど怯えるんですか?」
自分の携帯を間近で見ながら確かめるカイト。
この携帯にはには特に異常なモノはない。
…ということは携帯についている何かを見ることを異常に恐がっているのか?
しかしそれは一体何なのか?
そのことで頭を悩ませていたら担当医師が先ほどのことで侘びに来た。
「いや…申し訳ない、こちらから最初に注意しておくべきでした。
彼女はTVの画面や鏡などを極端に嫌いそれに恐怖しているらしいんですよ。」
「TVの画面を?それは何故でしょうか?」
「実は彼女…ここに入った直後なんですが…
今はあんな状態ですがその頃はまだ口が訊けたんですけどね。
当時妙な事を言ってたんですよ。」
15年前、倉橋雅美がまだ辛うじて正気を保っていた頃のことだ。
入院当時の彼女はあるモノに対して極端に怯えていた。
それはTVだ。TVを見ることを極端に恐がっていた。
医師がその理由を尋ねると彼女はこう答えた。
『TVの画面から髪の長い女が出てきて自分を殺しに来る』
当時、その話しを聞いた医師たちは誰も彼女の言うことなど信じなかった。
勿論この担当医師だって未だに信じてはいない。
所詮は精神障害を患った患者の妄言。
だが一人だけいた。そんな彼女の妄言とも思える言葉を一人だけ信じた医師がいた。
「その一人とはもしや…
以前はこちらに勤務されていた川尻という名の医師ではありませんか?」
「えぇ…確かに川尻が私の前任の担当医でしたが…」
「それでは川尻先生が当時残した資料を拝見したいのですが残っていませんか?」
「そんな物残っちゃいませんよ。
川尻さんが死んだ時に何処かの役所の人たちが持って行きましたから。」
川尻が遺したと思われる倉橋雅美や呪いのビデオに関する資料。
それさえ得ればこの呪いを解決する糸口になるはずなのに…
ここでまたもや足止めをされるというのが実に歯がゆかった。
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 02:03:11.46 ID:EAF0Yir90
8月30日 PM16:00
「ハァ…結局捜査は進展したけどやっぱり肝心なことはわかりませんでしたね…」
ため息混じりで特命係の部屋に戻る右京とカイト。
そんなカイトが弱音と共に吐くため息には焦りと諦めが混じっている。
残り時間が少ないのにここまで進展しないのではどうしようもない。
そもそも情報が少なすぎるのだから。
「ですが明らかになったことがあります。
それは我々の他にも以前から山村貞子に関して動いている輩が居ることです。
恐らくProjectRINGとやらに関する連中のはず。」
「ああ、あの早津さんが言っていたあの…けどそいつらがいつ動いていたんですか?」
カイトが指摘するようにこれまでの聞き込みで
それらしき連中が動いた形跡は見当たらなかった。
もしそんな連中がいたら一体いつ動いてたのだろうか?
「先ほど精神病院に行った時、
岡崎さんが退院したという話を聞きましたよね。あの話を聞いて奇妙だと思いませんか。」
「奇妙って…
確か兄弟が連れて帰ったとかそんな話でしたよね。それのどこがおかしいってんですか?」
「確かに兄弟がいる事には何の問題もありません。
どこの家庭でも兄弟の一人や二人くらいはいるでしょう。
ですがいくらなんでも日曜日の休日に
背広姿で迎えに来る身内なんていると思いますか?」
「あ…言われてみれば…けどその連中岡崎さんを連れて行って何をする気なんだ?」
「まだそこはわかりませんが、まぁ察するに…ろくでもないことでしょうね。」
右京の言うようにカイトもろくでもない連中が関わっていると察することは出来た。
何故なら15年前の事件に関わっている連中だ。
この連中も関わっている以上は貞子の異力を把握しているはずだ。
それなのに何故進んで関わろうとするのか?そのことについて疑問を抱いていた。
それにカイトにはもうひとつ疑問に思える点があった。
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 02:03:47.60 ID:EAF0Yir90
「そういえば岡崎さんって何で入院してたんですか?
彼は別に呪いを受けたわけでもないんですよ。それなのにどうして?」
それは岡崎が精神病院に入院していたことについてだ。
岡崎は呪いのビデオを見ていないはず。
それはこの15年間、生きていることで証明されている。
それなら何故精神疾患になるほどの事態に陥ったのか?
当時の彼の身に何が起きたのかそれもまた疑問だった。
「これは僕の考えですが彼は貞子ではない別の呪いを受けたのではありませんか。」
貞子ではない別の呪い?
そんなことを告げられて首を傾げるカイト。
馬鹿な…ありえない…大体誰が岡崎に呪いなど与えるのかと…
「高野舞さんの説明によれば岡崎さんは精神病院に入院する前に
沢口香苗という女子高生に呪いのビデオに関する取材をしています。
恐らくこの沢口香苗が原因ではないのでしょうか。」
「沢口香苗?けど彼女は取材を受けただけですよ。それだけで呪いなんか…」
舞の話が正しければ岡崎は取材を行っただけのはず。
それだけで精神を患うような精神疾患が起きたりするはずがない。
そう思ったのだが…
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 06:57:23.28 ID:EAF0Yir90
「ここから先は…僕の想像になりますが…もしかしたら…
岡崎は浅川玲子から呪いのビデオの死を回避する方法。
すなわちビデオをダビングして誰かに見せることを予め伝えられていた可能性があります。
考えてみれば当然かもしれません。
関わった人間に対応策を教えていても当然だったはずですよ。」
「ちょ…それ本当ですか!?
いや…でも待てよ、それが本当なら岡崎は沢口香苗にダビングの方法を
教えてあげればよかったはずだ!
それなのに何で沢口香苗は死ななきゃいけないんですか!?」
確かに岡崎が呪いを解く方法を知っていたならそれを伝えればよかったはずだ。
それにも関わらず沢口香苗は呪いのビデオによって死亡した。
それは何故か?
「ここでひとつ注目すべき点があります。
それは川尻医師が行ったとされる実験です。
といっても陽一くんが被験者になった実験の方ではなく
昨日お会いした倉橋雅美が被験者として行われた実験ですがね。」
「その実験の席に『岡崎』も立ち会っていたという事ですか?」
「恐らくそうでしょう。
しかし実験は被験者である倉橋雅美が死にかけたという結果でした。
その光景を目の当たりにした岡崎さんはどういう心境だったと思いますか?」
「そりゃ恐怖したと思いますよ。
もしかしたら岡崎さんはその実験に立ち会うまで
呪いのビデオについては半信半疑だったかもしれないし…あぁっ!?」
たったいま自分が口にしたことでカイトもようやく気づけた。
もしも今まで半信半疑だった岡崎がその時点で呪いのビデオを信じたらどうなるのか?
それこそが沢口香苗の死に繋がる原因だった。
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 06:57:54.88 ID:EAF0Yir90
「そう、実験を目の当たりした岡崎は呪いのビデオに恐怖し、
沢口香苗を見殺しにしてしまった…
その結果、呪いのビデオが世間に広まることはなくなりましたが…」
「代わりに今度は貞子ではなく沢口香苗の呪いが岡崎を発狂させたと…
なんてこった。この事件に関わる連中は軒並み不幸になっていきますね。」
「そうでしょうかね。不幸になる方の大半が面白半分で鬼の住処を突く者たちですよ。
昔から言うじゃないですか。触らぬ神に祟りなしと…
まあだからと言って殺人が許されるわけではないのですがね。」
触らぬ神に祟りなし…
右京が呟いた言葉だが確かにそうかもしれないとカイトは思った。
そもそも15年前の発端となった岩田たち4人も最初は面白半分でビデオを見たはずだ。
それがこのような事態を招いてしまった。
自業自得といえばそれまでだろうが…
だがそれでも殺人は許されるべき行為ではない。
もしも止められる方法があるのなら一刻も早くその方法を突き止めなければならない。
そう改めて覚悟を決めた時だった。
「警部殿〜なにやら動き回っているようですなぁ。」
「ちょっとお話があるって内村部長が呼んでますよ〜」
「うわ…」
そこへ現れた伊丹たち。
どうやらここまでの捜査状況を報告しろとのことらしいが…
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:01:18.42 ID:EAF0Yir90
8月30日 PM16:30
伊丹たちに同行されながら
右京とカイトの特命係が内村部長の部屋に入ると
中園とそれに内村が相変わらず不機嫌な態度を取りながら待ち構えていた。
「貴様ら…事件には関わるなと言っておいたはずだぞ!」
「それに伊丹たち!
お前らも何故特命に事件の捜査を任せた!捜査一課の刑事としての責任感は無いのか!?」
「そう言われましても…」
「オカルトは捜査一課の専門外でして…」
「大体あの事件はもう自殺で方が付いたんじゃないですか?」
内村と中園の叱責に対してこの件を自殺と判断している伊丹たち三人。
確かに今のところ大した物証もなくそう判断するのも無理はない。
ところがそういうわけにもいかなかった。
そんな彼らの前に鑑識の米沢が内村の部屋に現れた。
「どうやら自殺と判断するには些か早計だと思います。
実は被害者の吉野さんの部屋から
被害者以外の指紋が見つかりまして。これで他殺の線が出てしまいましたな。」
「た…他殺!
だって被害者は急性心不全じゃないですか!?
他殺になるわけが…」
「もしかしたら第三者との間に急性心不全を引き起こす『何か』が起きて
被害者はその所為で死んだ…という可能性もあるかもしれん。
今一度徹底的に洗い直せ!」
「そういう訳だ、わかったなお前たち!」
珍しく冴えた判断を下す内村に対してうへぇといううんざりした顔で頷く三人。
まさか当初は自殺かと思えた事故に他殺の可能性が浮上するとは…
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:02:11.94 ID:EAF0Yir90
「ところで米沢さん。その発見された指紋は何処から出てきたのでしょか?」
「それがですな…
なんとあのTVに巻かれていたガムテープの粘着部分から指紋がベッタリと出てきまして。
こんな基本中の基本を見落とすとは鑑識の不手際と思われてしまいますなぁ…」
「確かあのガムテープ…取れ方が妙でしたね。
あの破れ方はまるでTVの外側ではなく内側から破れたみたいな破れ方でした。」
「それって…まさか…あの倉橋雅美が言ってたことじゃ…」
「高野舞のあの異常という程までに徹底した鏡面の無い部屋…
倉橋雅美のTVの画面を極端に嫌う衝動…倉橋雅美の証言…
あながち間違ってはいなかったのかもしれませんよ。」
今の米沢からの報告を確認するとこんな推理が出来上がる。
『TVから山村貞子が出てきてビデオを観た人間たちを殺している』
さすがにそれはない。
こんなことを誰が信じられるのかと…
さて、そんなことよりもこれで厄介な問題が起きてしまった。
つまりこれより捜査一課による本格的な捜査が始まる。
そうなるとこの展開は右京たちにとって非常にまずいことになるわけだが…
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:02:45.74 ID:EAF0Yir90
「おい特命係!何を話している?貴様らに発言を許可した憶えはないぞ!!
ところで貴様ら、この事件について色々と嗅ぎまわったようだな。
これまで調べた事を全部一課に寄こせ!」
「そうだ、他殺の件が見えた以上この件は捜査一課が行う!」
「ちょ…ちょっと待ってくださいよ!
どうすんですか杉下さん!
一課に情報を教えたら最悪一課の連中全員呪い殺されちゃいますよ!?」
やはりこうなるようだ。
元々特命係に捜査権など与えられてはいない。
いつも勝手に捜査を行っているだけだ。
そのため捜査一課に情報を寄越せと言われたら否が応にも提出しなければならないが…
「どうした?何故言えんのだ?従わなければ貴様ら二人を謹慎処分にしてもいいんだぞ!」
「3日間の謹慎だ。
まぁお前たちにとっては屁とも思わんだろうが
それでこちらの捜査の邪魔をしないというなら安いモノだ。」
「3日も謹慎!?
そんな事されたら3日後には俺たち死んじまう…
どうすんですか杉下さん!このまま謹慎処分なんか喰らう訳にはいないんですよ!?」
今まで得た情報を話すことは簡単だ。しかしそうれなればどうなるか?
恐らく貞子の呪いが捜査一課に広まる恐れがある。
そうなればどうなることか…
しかしこのまま伝えなければどうなるのか?
元々内村は特命係に対していい感情を抱いてはいない。
今もこうして嫌がらせを喜々として行っている。
そんな内村たちなら特命係に対して近親処分を下すなど喜んでやるはずだ。
そうなったら最後、右京とカイトはビデオの呪いによって死ぬ。
これは二人にとってまさに袋小路に立たされた状況だ。
「止むを得ないですね。もしかしたらこれも山村貞子の思惑かもしれません。」
ふと、右京が口にした山村貞子の名前。
それを聞いて伊丹たちは
ようやく話す気になったのかと思ったが一人だけちがった反応を見せる男がいた。
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:03:20.14 ID:EAF0Yir90
「ちょっと待て…今…何と言った…?」
それは内村だ。
内村は先ほどの右京の言葉にある反応をするが
右京はそんなことなどお構い無しに米沢にあることを頼んだ。
「米沢さん、ガムテープから発見された指紋ですが至急照合してほしい人物がいます。」
「そう言われましても…既に前科者や関係者の指紋を照合していますが?」
「いえ、それとは別で…
静岡県警の遺留品係の方に、ある人間の指紋と照合すれば恐らく一致すると思いますよ。」
「わかりました。それではすぐに問い合わせます。」
そういって大急ぎで確認作業に入るために部屋を出ていく米沢。
それと同時に伊丹たちが右京に詰め寄った。
「指紋が照合って…杉下警部はもう犯人が分かっているんですか!?」
「何だ、それなら事件は早期解決じゃないですか。」
「それで犯人は一体誰なんですか?」
今のやり取りを見て既に右京がこの事件の犯人に気づいていることを察した伊丹たち。
そんな伊丹たちは当然誰が犯人なのか教えろと言ってくるわけだが…
「杉下さん…大丈夫なんですか?捜査一課を巻き込んで…もしものことがあったら…」
「恐らくですが呪いのビデオのことさえ言わなければ…たぶん大丈夫かと…」
さすがに不安の色を隠せないカイト。
もしも事件の詳細を話したせいで呪いが拡散すればそれは取り返しのつかないことになる。
そんな不安でいるカイトだが
そこに今まで席でふふんぞり返っていた内村が立ち上がり
何か思いつめた表情で右京たちにあることを問い詰めた。
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:05:33.47 ID:EAF0Yir90
「杉下…お前…先ほど妙なことをほざいてたな。もう一度言ってみろ。」
「…と言いますと?」
「女の名前を言ったろう!もう一度言え!」
女の名前をもう一度言えと怒鳴り散らす内村。
そんな内村の顔は何か恐怖に怯えたそんな風に伺えた。
それと同じタイミングで先ほど照合に行っていた米沢が戻ってきたが…
その米沢もなにやら青ざめた表情でいた。
「米沢さん…照合終りましたか?その顔を見ると僕の予想通りのようですね。」
「杉下警部…私に何がなんだかさっぱりですよ…」
「おい!お前たちだけでわかった顔をするな!?我々にもわかるように説明しろ!!」
そんな彼らに苛立ちを覚えてつい叫ぶ中園。
そこで右京もようやく彼らにこの事件の事実を告げてみせた。
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:06:20.66 ID:EAF0Yir90
「それではご説明します。
被害者の自宅のガムテープから見つかった指紋は
45年前に井戸に閉じ込められ、そしてそれから30年後に、
静岡県の伊豆パシフィックランドにある貸別荘の床下にある井戸から
死体となって発見された山村貞子という女性のモノと一致しました。」
「 「なにぃぃぃぃ!?」 」
その報告に伊丹たちは驚きを隠せなかった。
今の話しが正しいのなら吉野を追い詰めた人物は45年前に死んだ人間ということになる。
「ま…まさかその山村貞子って女が犯人なんですか?」
「バカッ!そんなわけねえだろ!45年も前に死んだ人間が殺人なんか行えるもんか!?」
「けど指紋が…これはどう説明すれば…」
「杉下!貴様…こんな世迷言を調べていたのか!
ふざけるにも限度というものがあるぞ!謹慎だ!謹慎!とっととこの場を去れ!!」
そんな事実を聞いてこの場にいる誰もが信じられなかった。
このことを世間に公表することなど出来ない。
それをやれば警察の威信に関わる。きっと何かの間違いだ。
そう思い誰もがこの事実を認めたくはなかった。
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:06:46.12 ID:EAF0Yir90
「嘘だ…何故あの女が…」
そんな中、一人だけ恐怖と不安に蹲る男がいた。それは内村だ。
「杉下…もう一度聞くぞ…山村貞子は…45年前に井戸に閉じ込められたのか?」
「それは間違いありませんよ。
お疑いなら静岡県警に問い合わせてみてはどうでしょうか?
発見された当時の捜査資料は残っていますが。」
「いや…いい…」
内村は誰の目にも明らかであるように何か隠し事をしていた。
勿論それを見逃す特命係ではなかった。
「今度はこちらから質問させて頂きます。内村部長は何を隠しているのですか?」
「いや…私は何も…」
「正直に答えてください。
この事件で既に二人も亡くなってるんですから。
いや…今までの被害者をカウントしたら二人どころじゃないんですけどね!」
右京とカイトに詰め寄られる内村。
思えば最初に吉野賢三と小宮の死を報告した時から内村は何か様子がおかしかった。
今にして思えば明らかに動揺した素振りを取っていたように伺えた。
もしかしたらこの事件について何か知っているのではないか?
既にこの事件は二人の被害者を出している。
確かにオカルトといえばそれまでだがそれでも手を拱いてるわけにはいかない。
そのため、相手が刑事部長の内村であろうと問い詰める必要があった。
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:07:26.76 ID:EAF0Yir90
「おい杉下、何を言っている?何故部長がこの件に関わっていると思うんだ!」
そんな右京に中園は何故内村がこの件に関わっているのかと疑問の声を上げた。
そこで右京はあるモノをこの場にいる全員に見せた。
それは先ほど城南大学の演劇部で手に入れた飛翔が使っていた当時の台本だ。
「この台本ですがスタッフ欄に気になる名前が載っていました。」
その台本の一番下のスタッフの名前。
それは雑用係の名前だがそこにはこう記されていた。
内村完爾:雑用
それは紛れもなく内村の名前だった。
「45年前、内村部長はこの劇団飛翔となんらかの関わりがあったのではありませんか?」
「内村部長の年齢なら当時のことに関わっていても不思議じゃないですからね。」
飛翔の台本を見せて内村を問い詰める右京とカイト。
「お前ら!部長に対して失礼だろうが!」
「そうですよ!」
「いい加減にしてください!」
そんな特命係の無礼に怒った中園と伊丹たちであったが…
実はその矛先は右京たちにではなく…
「部長!いいから吐いてくださいよぉ!」
「つらいのもわかりますがねぇ…」
「一度やってみたかったんですよ。部長への尋問!」
「馬鹿者!節度を弁えんか!」
さらには調子に乗った伊丹たちにまで追求される内村。
こうなれば内村とてたまったものではない。
堪らず内村もついにその重い口を開いてみせた。
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:08:07.45 ID:EAF0Yir90
「45年前、俺は山村貞子と会っているんだ。」
ついにその重い口を開き語り出した内村。
それはかつて劇団飛翔で起きた出来事の一部だった。
「あれは俺がまだ学生の頃…
その劇団は飛翔と言って…そこそこ有名な劇団だった。
当時文学少年だった俺はそこでアルバイトをしながら演劇を間近で眺めていたわけだ。」
今の文学少年という発言に思わず苦笑いを浮かべる捜査一課の面々。
いつもならここで怒鳴り声のひとつでも上げるはずだが…
今日に限ってはその雰囲気ではなかった。
「ある日の事だ。葉月愛子という女が死んだ。
その女は劇団の主演女優だった。
葉月を失った劇団は厳しい状況に見舞われた。
公演を目前に控えていたのに主演女優が死んだので急遽代役を立てることになった。」
「その代役が山村貞子ですね。」
「そうだ。当時彼女はまだ研究生だったにも関わらずそれは見事に代役を演じた。
その姿は本来の主演女優だった葉月愛子以上の演技力と美しさを兼ね備えていた。
それを見た劇団の男連中は誰もが貞子を推した。」
あの偏屈な内村ですら認める貞子の美しさと演技力。
恐らくそれは素晴らしいモノだったはず。
だがそんな幸せの絶頂にいた貞子に不幸が訪れた。
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:09:09.14 ID:EAF0Yir90
「当時、劇団では不穏な空気が漂っていた。
主演女優が死んだのは誰かが意図的に殺したからではないかと疑ったからだ。
それで彼女を殺したという疑いの目を掛けられたのが…山村貞子だ。」
当時、『立原悦子』という女性スタッフが貞子に疑いの目を向けた。
劇団の誰もが貞子が犯人ではないかと疑ったが生憎と証拠はなかった。
それでも誰もが貞子を疑った。
主演女優が死んだことにより貞子は代役とはいえ主演の座を得ることが出来た。
真偽はともかくそんな貞子に疑惑が掛けられのは仕方のないことだった。
「まあ俺は貞子が殺したとは思わない。
それに貞子自身もそのことを強く否定していた。
だが貞子はまだ駆け出しの身で…俺はただの学生アルバイトだ。
正直庇いたかったがそうなると俺にも疑いの目が掛けられる。
そうなれば将来ある俺の身が危ないと思い…結局俺は彼女を庇うことが出来なかった…」
「部長って若い頃から器が小さかったんですね…」
「『三つ子の魂百まで』って事だな。元々ヒーローになれない性分なんだろ。」
当時は貞子のことを庇えなかったと悔やむ内村。
そんな内村に皮肉を呟く伊丹と芹沢とそんな二人を諌める三浦。
とりあえず捜一トリオは置いといて内村は貞子の話しを続けた。
「だがそんな貞子を庇う男が一人だけいた。遠山とか言ったか。
当時の先輩スタッフだがそいつだけが貞子は犯人じゃないと庇った。
まあ今にして思えばヤツは貞子に惚れてたのだろう。だから庇ったのだろうが…」
そんなことを憎たらしげに語る内村。
恐らく自分が救いのヒーローになれなかったことを妬んでいるのだろう。
まあそれはともかくとしてそれでも内村の貞子に対する評価は大きかった。
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:09:37.76 ID:EAF0Yir90
「確かに疑惑は拭えなかった。
だがそれでも彼女にはそんなモノを軽く補う天性の美しさがあった。
黒く長い髪が印象的でそれにあの神秘的な美しさ…
もしあのまま銀幕の舞台で活躍していたら恐らく後世に名を残す名女優だったはずだ。」
「しかし、そうはならなかった。そうですね。」
右京の問いに内村は静かに頷いた。
それから内村はあの日のことを語った。
それは劇団飛翔が舞台『仮面』の公演を行った日のことだ。
「あの日は今でも忘れられない。
公演があった日のことだ。俺は雑用係として裏方に回りながら舞台を覗いていた。
舞台に立つ貞子の演技には人を魅了させる力があったのは間違いない。
劇は見事なモノだった、誰もが彼女に魅了していたよ。
しかしそんな最中だった、舞台の音響からある音声が流れてきたんだ。」
それは奇妙な音声だった。
『的中!』 『的中!』 とわけのわからない男の声だ。
観客の誰もが何かの演出だと思った。
しかし舞台の壇上にいた貞子はそうとは思えなかった。
本来なら優雅に役を演じ無ければならなかった貞子に激しい動揺が走ったという。
そんな音声に怯える貞子。しかし異常はそれだけではなかった。
それからさらに奇妙な出来事が起きた。
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:10:07.24 ID:EAF0Yir90
「な…何が起きたんですか?」
「女だ…」
「気が付くといつの間にか40代くらいの中年の女が舞台に立っていた。 」
「見覚えの無い女だった…言っておくがその女は役者じゃないぞ。
観客席からも見えたが、劇団の連中がその女の存在に驚いていたからな…
それから奇妙な耳鳴りがした…思い出すと吐き気がするくらい嫌な耳鳴りだった…
そんな奇妙な現象を止めようと舞台袖から一人の男が貞子に近付いた。
その時会話の内容は聞こえんかったがその男は貞子を宥めようとしていたらしい。 」
「そして事件が起きた…」
「事件って…」
「何があったんですか?」
その舞台で何が起きたのか?
伊丹たちは思わず内村を問い詰めるが…
内村はこう告げた。人が死んだ―――
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:11:57.48 ID:EAF0Yir90
「貞子を宥めようとした男は急に苦しみだし…舞台から倒れた!
その光景を間近で見た貞子は悲鳴を上げた。
すると今度は天井から照明が落っこちてきて…
もう会場内は大パニックになった。俺も無我夢中で逃げ出したよ。
それからどうなったかは知らん。
ちなみに劇団員は山村貞子を含めてほぼ全員行方不明になったらしい。
生き残ったのは一部の…大道具や音響のスタッフくらいしかいなかったという話だ…」
それが内村の知る山村貞子に関するすべてだ。
やはり飛翔で貞子が絡んだ事件が起きていたことはハッキリとわかった。
だが今の話を聞いて右京たちはひとつ疑問に思ったことがある。
「しかし何でパニックを起こしたんですか?
内村部長の話し通りなら
舞台が成功していたら彼女には輝かしい未来が待っていたはずじゃないんですか?」
「確かにカイトくんの言う通りです。
彼女が会場内でパニックを起こす必要はなかったはずです。
それにも関わらずそのような大惨事が引き起こされてしまった。
少々引っかかりますねぇ。 部長、ひとつお尋ねしたいのですが…」
未だに怯える内村に対して右京はある質問をした。
それは…劇団で髪の長い少女はいなかったかという質問だ。
その質問に対して内村も居たような居なかったようなと曖昧な返答をした。
以上が内村からが話した事の詳細だった。
吉野や小宮の死に動揺したのも
どうやら最近この二人から呪いのビデオの取材について当時のことを聞かれたからだとか。
これで一応納得のいく説明はついた。
「ハァ…気分が悪くなってきた…
特命係、さっき言ったように…お前らは謹慎だ!
それと俺はもう帰る。あとのことは…中園…お前に任せる…やっておけよ。」
「ハッ!わかりました、お気を付けて!
聞いた通りだ。特命係は3日間自宅謹慎だ!さっさと家に帰れ!」
こうして右京とカイトは自宅謹慎を命じられてしまった。
しかしそれでも思わぬところから山村貞子の重要な手がかりを得ることは出来た。
だがそのせいで3日間の自宅謹慎を言い渡されてしまった。
これでは呪いの日まで動くことは出来ない。
また思わぬところで足止めを食う羽目になった。
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:14:26.83 ID:EAF0Yir90
第4話
8月31日 AM8:00
「ハァ…あと2日か…長いようで短かったな俺の人生…」
「あのさ亨、アンタ今日非番だっけ?」
「上司にいきなり3日間の謹慎を言い渡された。
まったく冗談じゃないっての、こっちは文字通り命懸けだってのによ…」
翌日、カイトはマンションで同棲している恋人の悦子にそんな愚痴を零していた。
結局内村部長の言われるがままに大人しく謹慎処分を受けた特命係。
カイトは残り2日のタイムリミットをこのまま大人しく部屋で過ごさなければいけない
自らの境遇に対して焦りと不安、そして諦めの感情が入り混じっていた。
「まったく…アンタ刑事になってからまだ1年しか経ってないじゃない!
そんな事じゃ出世出来ないわよ。
あーあ、こんな甲斐性なしの男は見限ってもっと将来性のある男とくっ付こうかな。」
そんなカイトを叱咤するかのように文句を言う悦子。
しかしそれでもカイトの反応は薄い。それどころか…
「いいんじゃねえの…俺たぶんあと2日で死ぬかもしれないし…」
「ちょっと!冗談だってば!本気にしないでよまったく!」
「なぁ…俺が死んで葬式やるとしても
絶対ウチのクソ親父だけは呼ばないでくれよ。
来たら俺絶対あの親父を呪うかもしれないから…」
何を馬鹿げたことをと嘲笑う悦子。
だがカイトの言葉には現実味があった。今の自分なら人を呪うことが出来る。
それはなにか確信的な思いがあった。
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:15:26.08 ID:EAF0Yir90
「ねえ…本当にふざけるのやめなさいよ!
亨…たぶん謹慎とか言われてふて腐れているだけなのよ。
外に出れないならTVでも観ようか。
昨日新作のDVDレンタルしてきたからさ気分転換に観ようよ!」
「TVねぇ…」
悦子の勧められるままにTVを観ようとしたカイトだがその時…
昨日、精神病院に倉橋雅美を尋ねた際に言われたあの言葉が頭を過った。
『TVの画面から髪の長い女が出てきて自分を殺しに来る。』
「ダメだ!TVを付けるな!?」
「ちょっと…亨…何してんのよ!?」
気が付けばカイトはガムテープを取り出しTVのモニターをグルグルに巻いていた。
自分でも異質に思えるこの行動。
それを見てようやくわかった。あの吉野の部屋で起きた出来事が…
吉野の部屋ではTVのモニターがガムテープでグルグル巻きにされていた。
つまり今のカイトと同じだ。吉野はTVから抜け出ようとする貞子を必死に止めようとした。
「そうか…だから吉野さんは…あんな行動をしたのか…」
ようやく吉野の異常とも思える行動が理解出来たカイト。
だがその一方で事情を知らない悦子はそんなカイトを心配そうな目で見つめていた。
「あのさ亨…アンタおかしいわよ!一体何があったのか話しなさいよ!」
「うるさい!もう俺の事は放っておいてくれよ!」
「…」
「怒鳴ってゴメン…けど俺…本当に余裕無いんだ…」
「わかった、私もう仕事に行くね。」
悦子に八つ当たりのように怒鳴り散らすカイト。
そんな自分の行いに自己嫌悪に陥った。
悦子は何も悪くない。悪いのは自分だ。
カイトは悦子に八つ当たりなんてする気はなかった。
しかし死への焦りが彼を徐々に追いつめていた。
リビングのソファーに寝っ転がり先ほどの悦子への八つ当たりを後悔した。
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:17:08.98 ID:EAF0Yir90
「どうしたらいいんだ…?」
最早どうすることも出来ない。
このままなら自分はビデオの呪いで死ぬだけ。
あのビデオの呪いは本物だ。それは自分も認めている。
それならどうしたらいい?ビデオの呪いを解決させる手段は…
「複製して誰かに…見せるしかないか…」
既に答えは出ている。
右京はその答えを否定しているがそれでも早津はこの方法を使って助かった。
それならば…
思い立ったカイトは紙と鉛筆を用意して絵を描こうとした。
それは先日、早津が偶然にも自分たちに行った方法だ。
呪いの絵を描いてそれを他人に見せて貞子の呪いを解く。
だが…呪いを解くにしても誰に見せるべきか…
見せた相手は呪いが降りかかるはず。それをわかっていながら見ようとする者はいない。
しかしそのことを伝えなければどうだろうか?それなら相手に見せても問題はない。
こうして呪いの解き方を自分の解釈で次々と解決していくカイト。
その様はまるで悪魔がとり憑いたかのように冴えていた。
それでは最後の問題だ。
「これを誰に見せたらいい…?」
問題は死ぬ相手を選ばなければならない。
この絵を見た人間には死んでもらう必要がある。
何故ならこんな厄介な呪いを他に撒き散らせるわけにはいかない。
だからこの呪いは小規模な犠牲で済ます必要がある。
そしてその小規模な犠牲は誰が好ましいか?
恋人の悦子?相棒の右京?それとも仲の悪い父親?どれも論外だ。
そうなれば死なすべき相手はいない。いや、そんなことはない。
この確実に死に至らしめることが出来る行いを有効に活用する方法があるとしたら…
そしてこの方法を本来用いるべき者がいるとしたらそれはまさしく…
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:18:52.78 ID:EAF0Yir90
「犯罪者たちだ。」
そう、犯罪者だ。
法で裁けず警察すら逮捕をこまねく犯罪者たちにこの方法を活用したらどうだろうか。
そうすれば彼らに制裁を与えることが出来る。
そのことを思いつくと同時にカイトの脳裏にある出来事が呼び起こされた。
それは親友の梶祐一郎の妹が殺された事件だ。
容疑者はすぐ逮捕された。だがその容疑者は薬物による心神喪失で不起訴処分となった。
そのことを不満に思った梶は妹への復讐に殺意を燃やすが
それを見かねたカイトはその容疑者に暴力という制裁を下してみせた。
そしてもうひとつ、カイトにはある秘密があった。
今朝の朝刊の事件欄を読むとある記事に注目した。
『繁華街で元暴力団員が暴行される!犯人は未だ不明!?』
それは昨日角田が捜査していた事件内容だ。
実は26日の夜、カイトはある瞬間に出くわした。
この元暴力団員が危険ドラッグを売り捌く光景だ。
それを目撃したカイトはある衝動に駆られてしまった。
目の前で早津の命を救えなかった無力感。そして法の目を掻い潜る犯罪者たち。
気づいた時には血まみれになったチンピラが横たわっていた。
昨日の話からして警察はチンピラ同士の仲違いによるものだと捜査しているから
決して自分に捜査の目を向けることはないだろう。
だからこの事実はあの右京にすら告げていない。自分だけの秘密だ。
もしもこの方法が成功するのなら自分は助かる。
いや、それだけじゃない。
もしかしたら犯罪被害にあっている人々の救済にも繋がるはずだ。
それを思えば自分のやっていることは善であるとそう思えた。
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:22:58.43 ID:EAF0Yir90
「何をしているのですか?」
そんな時、ふと誰かが背後から自分に声をかけてきた。
それは恋人の悦子ではない。それに不仲の父親でもない。
カイトは恐る恐るうしろを見た。するとそこにいたのは…
「どうも、おはようございます。」
「何で杉下さんがウチに居るんですか?」
「先ほどマンションのエントランスで悦子さんにお会いしましてね。
キミのことをどうかよろしくと言って部屋に立ち入ることを許可してくれました。」
どうやらこの部屋に右京を招いたのは悦子のようだ。
恐らく今の自分を心配しての配慮なのだろうが…
しかしこれは見られたくなかった。
この人に自分の醜い部分を晒したくはない。
そう思い描き上げようとした絵をすべて黒く塗り潰してしまった。
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:23:39.84 ID:EAF0Yir90
「何か…言わないんですか…」
「何を言えというのですか。」
「そりゃ…勿論…」
「絵を描いたことは咎めません。
いくら警察官といえど所詮は人間です。弱さを否定することなど僕にはできません。」
カイトの行動を弱さと語る右京。
どうやら右京は自分が絵を描いて死を回避することまでしか推理していないようだ。
さすがに自分の行いまでは知られてはいないとホッと安堵するのだが…
そんなカイトに対して右京はある質問をした。
それはカイトの行く末を決める大事な選択だった。
「カイトくん、僕はキミに強制はしません…が選んでください。
このまま残り2日間を部屋の中で大人しく謹慎するか…
それとも僕と一緒に捜査を行い、
呪いのビデオと山村貞子の謎を解き明かして生き残る方法を探索するか。
まあどちらを選んでも僕はキミの選択にとやかく言う気はありませんがね…」
まだ貞子の捜査を諦めていない右京。
その姿勢は警察官として正しいモノだろう。
だがそれと同時に自らの行いに激しい嫌悪感が募った。自分は何をしていたのかと?
だから思わずこんな質問をしてしまった。
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:24:08.09 ID:EAF0Yir90
「そ…その前にひとつだけ質問させてください。
何で俺なんかと…杉下さんの頭脳なら…
俺なんかいなくたって一人でどうにでもなるじゃないですか!」
カイトは当然の質問をしてみせた。
自分は昨日内村部長に自宅謹慎を言い渡されてからずっと怯えていた。
『残り2日間を大人しく家の中で過ごせ!』というのは…
今のカイトにしてみれば事実上の死刑宣告同然であった。
それにも関わらず自身と同じ境遇である右京は毅然と振る舞い今も堂々とした態度でいる。
それなのに何故自分が必要とされるのか?カイトにはそこがわからなかった。
「キミ、僕が山村貞子の『呪い』を恐れていないと本気で思っていますか?」
そう言うと右京は自分の手の震えを見せた。
カイトは初めて右京の弱い姿を見てしまった。
いつもは敢然と犯罪者の罪を暴く右京が他人に弱みを見せたのは
以前、特命係に在籍していた亀山薫、神戸尊にすら見せなかったはずだからだ。
「恐いのはキミだけではありません。
所詮僕もただの人間ですよ。
死が迫ってしまえばどんなに取り繕っても動揺を隠せませんからねぇ。
だから頼りになる相棒に傍にいてほしいと思っています。」
頼りになる相棒に傍にいてほしい。
そんな右京の頼みを聞いてカイトはほんの少しばかり嬉しかった。
何故なら自分はこの杉下右京に頼られている。
それを思えばなによりも誇らしく思えたからだ。
右京の本音を聞いたカイトにもう迷いは無かった。
そしてカイトは先ほど右京が問いかけた選択の答えを伝えた。
「しょうがないっすね。俺も杉下さんと一緒に捜査しますよ。
俺だって警察官です。山村貞子を野放しにするわけにはいきませんからね!」
「そうですか、ありがとう。
さっそく事件についてですが昨日の内村部長の話で色々と新事実が判明しましたね。」
そんなカイトの決断を軽く受け流す右京。
もう少しリアクションがほしいと呟くカイトだが…
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:24:47.65 ID:EAF0Yir90
「注目すべき点は内村部長がスピーカー越しで聞いたあの言葉です。」
「それって確か…
『的中!』…『的中!』って言葉の事ですか。
確かにおかしいですよね。これって何なんでしょうかね?」
「えぇ、気になって調べてみたんですよ。そしたらこんなモノが出てきました。」
そう言うと右京はある一枚の紙をカイトに見せた。
それは帝都新聞社の一枚の新聞記事であるが日付を見てみると1956年となっていた。
記事には一面でデカデカと右京たちが気になる文が掲載されていた。
その文とは…
―インチキ超能力者、実験中に人を殺す!?―
という見出しが載っていた。
記事の内容は二人が南箱根療養所で出会った伊熊平八郎が
山村貞子の母、志津子による超能力の公開実験についての記載であった。
その記事によると山村志津子は千里眼による超能力で様々な実験を衆目の前で
成功させるがある一人の記者が『インチキ!』と疑いの声を掛けた。
その言葉にショックを受ける志津子だが次の瞬間…その記者は急に苦しみ出して倒れた。
死因は急性心不全。
一応捜査は行われたが事件性は無いということで
志津子は逮捕されずに事故死として片付けられた出来事との記載だった。
「杉下さん…この記事って…」
「帝都新聞が57年前に発行した新聞です。
まぁこれは当時の記事をコピーした物ですが…
気になるのはこの文面です。ここを読んでください。」
その記事には以下のようなことが記されていた。
『実験にはサイコロを使いどんな目になるのかを当てるかを行う内容であった。』
サイコロ、確かビデオの絵にそれがあったはず。
つまりサイコロの絵は志津子の公開実験だった可能性が高いわけだ。
119 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:25:17.08 ID:EAF0Yir90
「それにしてもこの記事の内容酷過ぎですよね。
山村志津子に対する批判や中傷が酷過ぎますよ。
そりゃ死人が出たからしょうがないにしてもちょっと一方的じゃないですか?」
「おや、キミもそう思いましたか。
僕もそこに違和感があって、そのことについてこれから調べようと思うんですよ。」
「調べるたってどうすんですか?
この記事が書かれたのはもう57年も昔の事なんですよ。
書いた記者はとっくに死んでいるか…生きていたとしても定年になってますから。」
既に57年前の事件だ。
今の帝都新聞に当時の関係者などいるはずもない。
それに自分たちにはその伝手もないと思えたのだが…
「実は…帝都新聞には一人友人がいましてね。
まぁ現在は既に帝都新聞を辞めてフリーのジャーナリストですが…
これからお話を伺いに行きますよ。」
「帝都新聞に友人ねぇ、随分と都合がいいですね。」
「それとこれから行く場所は
キミも強ち無関係というわけじゃありませんよ。
ある意味、キミの先輩に当る人もいますから…」
こうして二人は右京の言う帝都新聞の友人に会いに車で向かう事になった。
しかし…そんな右京とカイトを尾行する一台の車が後ろにいた。
―「行ったか。」
―「ヤツら何処に向かう気だ?」
―「着いたようですよ、けどこのマンションは…」
―「間違いない、このマンションは…かつて杉下右京の相棒だった亀山薫のマンションだ!」
120 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:26:02.01 ID:EAF0Yir90
8月31日 AM10:00
「亀山くん、それに美和子さん、お久しぶりですね。お元気そうでなによりです。」
「そういう右京さんこそ、お変わりないようですね!」
「すみません…サルウィンに行ってから音沙汰無しにしてしまって…」
「あの…杉下さん…こちらの方々は?」
「おやおや、僕としたことが…紹介しましょう。
こちらは亀山薫くん、以前特命係で僕と一緒に働いてくれていた人です。
現在はサルウィンという国にボランティア活動をなさっています。
それとこちらは美和子さん、亀山くんの奥さんです。
彼女は以前帝都新聞社に勤めていましたが。」
なんと右京がカイトを伴ってやってきたのはかつての相棒である亀山薫のマンションだ。
現在はサルウィンでボランティア活動に励む亀山夫妻だが
どうやら所用のため日本に一時帰国したようだ。
「あぁ…なるほど、この人が俺の先輩…どうも、特命係の甲斐と言います。」
「あら!イケメンくんだ!」
「それじゃキミは俺の後輩になるわけか。
さあ、どうぞどうぞ!三人とも上がって、上がって!」
こうして亀山夫妻によって部屋へと招かれる右京たち。
「ささっ!亀山家特製のコーヒーですよ、どうぞお飲みください。」
居間に通された右京とカイトはテーブルに亀山が用意したコーヒーを飲んでみた。
普段は紅茶やコーラを飲む二人だがその味は…
121 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:26:39.42 ID:EAF0Yir90
「……頂きます。おや…これは…」
「いい豆使ってますね!どうしたんですかこれ?」
「でしょ!実はこれサルウィンで採れた豆なんですよ♪」
「薫ちゃんたら商才があったらしくあっちでコーヒーの豆を栽培して
この商売が軌道に乗っちゃって大成功しちゃったんですよ。」
「まあボランティアの海外援助だけに頼っているわけにはいかないですからね。
自分たちで何か出来るこがあればと思って始めたわけですけど…」
「悪いことではないと思いますよ。
それで現地の方々の生活が向上なされているなら
キミは自分がやっていることを誇るべきだと僕は思います。」
サルウィンでの活動を右京に伝えると同時にそのことを認められる亀山。
かつて一方的な都合で警察官を辞めてしまったが…
それでもかつての相棒に今の活動を認められることは嬉しいことだった。
「右京さん…あざーっす!
それで…キミが今の右京さんの相棒なんだっけ。え〜と甲斐くん?」
「はい、そうです。
あ!俺のことはカイトって呼んでください。甲斐亨なんでカイト、覚えやすいでしょ。」
「はぁ〜!特命係にこんな若いイケメンくんがやってくるなんて…
しかもこの子、右京さんから指名もらって特命係に来たそうよ。
捜査一課でヘマやらかして飛ばされた薫ちゃんとは大違い!」
「うるさいよお前!
言ってる事が親戚のおばちゃんみたいだぞ!
大体なぁ…指名って何だよ!?キャバクラじゃあるまいし…」
「誰がおばちゃんかね!?これでもまだお姉さんです!」
「愉快な人たちですね。」
「えぇ、彼らを見ていると飽きる気がしません。
ちなみにですが角田課長がいつも特命係に置いてあるコーヒーを飲みに来るのは
亀山くんがコーヒーを飲んでいたからですよ。」
「あぁ、なるほど…ってこんなこと聞きに来たわけじゃないでしょ!?」
積もる話もようやく終わり、右京はいよいよ本題に移った。
実は今回、話しを聞きに来たのは亀山の妻である美和子にあった。
日本に居た頃、美和子は帝都新聞の記者を勤めていた。
そのため帝都新聞について詳しい事情を知っているはずだと思いあることを尋ねた。
122 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:27:26.97 ID:EAF0Yir90
「正直…キミたちを巻き込みたくはないのですが…
僕たちも余裕が無くて…この記事を見てほしいのですが…」
「何だこりゃ?超能力?」
「この記事…帝都新聞のモノだけど…57年も前の記事ですね。」
「以前帝都新聞にお勤めになっていた美和子さんなら
この記事に関する詳しいお話をご存知ではないかと思いましてね。」
そのことを告げられて少々気まずい雰囲気になる美和子。
恐らく美和子はこの件に関して何か思うことがあるようだ。
それから意を決したようでそれを踏まえてあることを話し始めた。
123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:28:05.62 ID:EAF0Yir90
「…けど…うん…まあもういいか。
私も帝都新聞辞めちゃったわけだし右京さんたちに話しても問題ないでしょう。」
「その言動から察するに何か曰くつきの話のようですが…」
「ハイ、私も帝都新聞に勤めていた頃…年配の先輩から聞いた話なんですけどね。
この話…現在でも社内じゃタブーにされている話でして…
その記事に載っている死んだ記者ってのがウチの…帝都新聞の記者なんですよ。」
「帝都新聞の記者?なるほど、仲間の記者が殺された。
だから山村志津子のことをこんなボロクソに叩いた内容を書いたわけですね!」
「いいえ、それだけじゃないの。この記事を書いた人は…死んだ記者の婚約者なのよ。」
「婚約者?つまり亡くなった記者の方とは恋仲だったわけですか。」
話は今から57年も前に遡る。
この記事を書いたのは『宮地彰子』という女記者はある人物を追っていた。
それは彼女の婚約者を殺した人間だ。
当時、警察は彼女の婚約者の死因を事故死と判断して捜査は行われなかった。
だが彼女は婚約者の死は殺人だと周りに言い続けた。
しかしそんな彼女の発言を新聞社の人間は誰も信じようとはしなかった。
そのため彼女は一人でその人物を追っていた。
「けど宮地さんもかなり違法スレスレでその人物を追っていたらしいです。
警察の調書を見たり実験の録音されたテープを手に入れたり…
他の新聞社がその事件を事故の見出しで出したのに
ウチだけ『山村志津子が人を殺した!』なんて
内容を書いたものだから当時のお偉いさんは怒り心頭だったそうですよ。」
「そりゃそうですよね。
一応病死なのに殺人の見出しになんてしたら嘘の記事書いたことになっちゃうし…」
「なるほど、山村志津子の公開実験を調べていたわけですか…
それで宮地彰子さんは現在どうなさっているのですか?
是非ともお会いして彼女からもお話を伺いたいのですがねぇ。」
美和子に現在の宮地彰子の消息を尋ねる右京。
だがそれは不可能だった。何故なら彼女は45年前に失踪したらしい。
45年前、彼女は同僚の記者に事件の真相を暴くと言ったきり帰ってくることはなかった。
そしてこれが帝都新聞において彼女の存在がタブーとして扱われている問題でもあった。
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:29:25.29 ID:EAF0Yir90
「彼女が失踪する直前、ヤクザから拳銃を購入していたと同僚記者が証言していました。
その理由は恐らく婚約者を殺した相手に復讐するため。
だから帝都新聞では未だに彼女の存在がタブーとして扱われているんです。」
「誰かを殺そうとしたってまさか…」
「それで美和子さん、彼女は何処に行くのか行先を言ってはいなかったのですか?」
「ええ、一応言ってたいたそうですよ。ただ…」
「ただ…どうなされましたか?」
「その行先なんですけど…確か劇団だと言ってたそうですよ、名前が…」
その劇団の名前は飛翔だった。
つまりこういうことだ。
45年前、宮地彰子は貞子を殺害しようとした。
ヤクザから購入した拳銃はそのために使用したのだろう。
だが彼女の消息は今も途絶えたままだ。それどころか劇団飛翔の人間も…
「やはり彼女も劇団飛翔のメンバーと一緒に…」
「間違いないでしょうね。
宮地彰子と飛翔の劇団員は何らかの事件に巻き込まれてしまい…
恐らく全員亡くなられたのだと思われます。」
失踪した宮地彰子と飛翔の劇団員たちが今も生きているという可能性は低い。
恐らく45年前に死亡したとみて間違いないはず。
それが誰の手によって行われたのかは一目瞭然だ。
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:29:58.80 ID:EAF0Yir90
「当時の山村志津子の公開実験でまだご存命の記者の方はおられますか?」
「いないそうです。
山村志津子の公開実験…
それを見てた記者全員が実験から10年以内に全員死んだらしいんです。」
「10年以内に死んだ…じゃあやっぱり…
けどどういう事だ?
山村志津子って宮地たちが失踪する12年前にもう亡くなったじゃないですか。
何で宮地彰子は12年以上も前に死んだ志津子のことを調べ続けていたんだろ?」
確かにカイトが指摘する通り山村志津子は実験直後に起きた三原山大噴火で亡くなった。
それにも関わらず既に死亡した相手を調べるというのはどう考えてもおかしい。
それでは宮地彰子は一体誰に復讐しようとしたのか?
「けど…同じ女記者だから
彼女の境遇はちょっと理解出来るところがあるんですよね。
私も薫ちゃんが誰かに殺されでもしたら私情優先した記事を書いちゃうかもしれないし…」
「おいおい、嬉しいこと言ってくれちゃってさ。」
「なるほど、大変参考になりましたよ。美和子さん、どうもありがとう。」
「そんな…気にしないでください。
けど右京さんはこんな事件調べてどうする気なんですか。
いくらなんでもこれ45年前の事件ですよ。
もし宮地彰子が生きていたとしても残念ですけど…もう時効扱いですよ?」
こうして美和子から重要な話を聞こえる右京。
しかしこんな45年前の事件を何故調べるのかと聞かれてしまう。
唯でさえこの事件は他人に教えられないというのに…
だがこのまま何も伝えずにいるとあとで何か問題が起きた時は厄介だ。
そんなわけで触り程度の情報を伝えてみせた。
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:34:53.57 ID:EAF0Yir90
「それでは説明します。といっても詳しいことは言えませんが…
最近都内である事件が発生しまして
その事件にもしかしたら山村志津子の娘が関わっている可能性があるのです。」
「山村志津子に娘がいたんですか!なるほど、それで調べていた訳ですね。」
「なるほど、つまりその人物が山村貞子なわけですね!」
「…はぃ?…」
「ええ、俺らが調べた限りだとどうやら娘の貞子にも特殊な力があると…」
「カイトくん、ちょっと話をやめてもらえますか…」
突然カイトの話を遮り何か奇妙なことに気づく右京。それは…
「亀山くん…キミ…どこでその名を知りましたか?」
「へ?何を言ってるんですか右京さん?」
「僕とカイトくんは確かに山村志津子の名前は話の流れで教えましたが…
娘の貞子の名前はまだ明かしていませんでした。
勿論美和子さんも先ほどの会話から察するに
貞子の存在どころか名前すら知らなかったはず…
それなのにキミは山村貞子の名前を知っていた。
それに…僕はこのテーブルについてからひとつ疑問があるのですが…」
「じ…実は…俺もさっきから気になってるんですけど…」
「薫ちゃん…私もなんだけど…」
「ちょっと何だよみんな!
わかるように説明してくれなきゃ俺だって困っちゃうよ?」
亀山はみんなが自分を茶化しているんだろうと思い冗談半分でいたが
右京、カイト、美和子の三人は奇妙な疑問を感じていた。
その理由はテーブルに置かれているカップの数だ。
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:35:30.32 ID:EAF0Yir90
「何故キミはコーヒーを三つも用意したのですか?」
「俺たちは二人しかいないんで、
てっきり亀山さんか美和子さんが飲むモノかと思ってたんですけど…」
「私もてっきり薫ちゃんが飲むかと思ってたから何も言わなかったんだけど… 」
「なんだ、そんな事気にしてたのか!
ハハハ、みんな神経質なんだからもう♪だってさぁ…」
全員が感じていた疑問に亀山は笑って答えるが、
その答えに亀山以外の全員が驚きを禁じ得なかった。
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:36:00.41 ID:EAF0Yir90
「だって右京さんたち三人でウチに入ったじゃないですか!
右京さんとカイトくんとそれと白い服を着た髪の長〜い女の人。
あの人が山村貞子さんでしょ?」
「亀山くん!それは本当ですか!?
そういえばキミは確か玄関口で『三人とも上がって』と言いましたね。
山村貞子は…僕たちと一緒にこの家に入ったのですか!」
「えぇ本当ですよ、俺確かに見ましたモン。
右京さんたちが玄関に居た時にうしろに髪の長い女の人が入りましたから。
そんで気になって名前を尋ねたら小声で『山村貞子』って自分から言ってましたよ。」
「ハハ…何言ってんすか?
俺ら今二人しかいないじゃないですか。そんな髪の長い女なんかいないですよ!」
「そうよ薫ちゃん!
事情はよく知らないけど私だって玄関にいたけど女の人なんかいなかったよ。
それに今だっていないじゃない!」
「そこがおかしいんだよな。
俺もウチに入るところまでは確かに見たんだが気が付くといなくてさ…
まったく何処行っちゃったのかね?」
元々の素質なのか霊感の強い亀山。
以前は亡くなった友人の幽霊も目撃したとのことだが。
右京もそのことを若干ながら羨ましいと思ったこともあるらしい。
それはともかくつまりこの部屋には貞子の気配がある。
そんな不安が過ぎった時だった。
((ピンポ〜ン!))
誰かがこの家のチャイムを鳴らした。
それから何度もドンドンと玄関のドアをノックする音が力強く聞こえてくる。
まさかこれは貞子が!
そんな恐怖がカイトの頭を過ったがそんな事も知らずに
家主である亀山は玄関の扉を開けようとしていた。
「たく…誰だよ?チャイム鳴らしたんだからこんな力強くノックする事はねえだろ!」
「ちょ…ちょっと待ってください亀山さん!開けるのは危険ですよ!?」
「そうよ、薫ちゃん!私も事情はよくわかんないけど…とにかく様子見よ!」
「あのねぇ、ここは俺の家なわけ。
こんな無作法に玄関叩くヤツがいたら
文句のひとつくらい言わなきゃ相手がつけ上がるだけだって…ね!」
「ダメだ亀山さん!離れて!?」
玄関の扉を開けようとする亀山をなんとか止めようとするカイト。
このままでは貞子の呪いが…
玄関の先にはきっと貞子がいる。そんな不安が過るカイトだが…
しかしその心配は必要なかった。何故なら…
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:40:13.32 ID:EAF0Yir90
「『元』特命係の亀山ぁ〜!久しぶりだなこの野郎!」
「テメェは伊丹!何で俺んちに押し掛けてきてんだよ!?」
「うるせぇ!
こっちだってな、誰が好き好んで警察辞めたお前の家になんか来るもんかよ!」
なんと玄関の扉をノックしていたのは捜査一課の伊丹だった。
そのうしろには三浦と芹沢の姿まである。
どうやら右京たちを備考していたのは捜査一課だったらしい。
「これはみなさん。
やはり先ほどから僕の車の後を付けていたのはあなた方でしたか。」
「まあ警部殿が大人しく謹慎なんてするとは思っていませんからね。」
「将来の心配をしない左遷部署ならではってヤツですね。」
「右京さんたちの後を付けていた?おい伊丹!どういう事だ!?」
「どうせ特命係が大人しく謹慎なんざしてるはずがねえと思ってな。
だから尾行したらどういう訳かお前の家に着ちまったんだよ。
あぁ…喉乾いた。茶と菓子くらい持って来い!俺はお客さまだぞ!」
ここが亀山のマンションということもあり
いつものように遠慮する必要もないので偉そうにふんぞり返る伊丹。
そんな伊丹に苛立ってか台所からあるものを持ち出すのだが…
「うっせえ!お前みたいなヤツに誰が茶なんか出すか!代わりに塩撒いてやる!喰らえ!」
「バカッ!やめろ!服に付くだろうが!」
「ちょっと二人ともこんな玄関で騒ぐのやめなさいよ。近所迷惑でしょ!?」
「けどこの家の中には…貞子が…」
「貞子だぁ?
お前まだそんな事言ってんのか?
そんな何年も前に死んだ人間がいるわけがねえだろ!」
「貞子って髪の長い女性ならさっき帰ったよ。なんか妙に苦しそうだったけど。」
どうやら貞子は退散したらしいが…
怪我の功名か今の塩巻きが
思いのほか効果があったのかは定かではないがとりあえずこの場は安全のようだ。
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:40:57.16 ID:EAF0Yir90
「じゃあもうここに山村貞子はいないんですね。
よかったぁ!安心したら腰が抜けちまった…ハハ…」
「よかねーよ、ほら立て。さっさと行くぞ!」
「行くって何処へ?」
「どうせお宅らの事ですから何か事件の情報を掴んだんでしょう。
正直我々はこの事件をどう捜査すべきか恥ずかしながら皆目見当も付きませんのでね…
こうして警部殿の動向を探ってたわけですよ。」
「利用出来るものはなんでも利用する、それが捜査一課のモットーだ!」
「いや…そんなモンをモットーにしてるの先輩だけだから…」
「いいから早く行くぞ!こんなところにいると亀山菌が移る!」
「俺だってお前のツラなんざ二度と見たかねえやい!」
相変わらず憎まれ口の応酬を続ける亀山と伊丹。
その光景はかつてを知る人間ならどこか懐かしくも思えなくもない。
それはさて置き、伊丹たちがいるのなら都合がいい。
これより彼らを加えてある場所に向かうことを決めた。
「それでは僕たちもそろそろお暇しましょう。
お騒がせしてすみませんねぇ。亀山くん、それに美和子さん。」
「いえいえ、そんな。大して役に立ったかどうかもどうかもわかりませんけど…」
「もし人手がいるなら手伝います。サルウィンから戻って身体を持て余してますからね!」
捜査の協力を試みようとする亀山と美和子。
だが関係者でない二人をこれ以上関わらせるわけにはいかなかった。
「いえ結構、既に一般人であるキミを巻き込むわけにはいきません。
そのお気持ちだけで充分ですよ。
それよりもこの件はすぐにでも忘れてください、あなた方の命に係わります。」
「わわかりました。
右京さんの言う事に間違いはないですからね。捜査の方は頑張ってください!」
こうして右京たちは亀山のマンションを去って行った。
そんな彼らの立ち去る姿を見送る亀山と美和子だったが…
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:48:51.15 ID:EAF0Yir90
「ねぇ…薫ちゃん…
さっきの右京さんたちの話しからして山村貞子って
もう死んでいるらしいんだよね。それなのに何で捜査しているんだろ?」
「さあな、俺たちの知らないところで何かが起きているんだろ。
まったくこんな時自分が警察官じゃないのが歯がゆいなんて思ってもみなかったぜ。」
「ところで薫ちゃんさっきその貞子って人の事見たんだよね。どんな印象だった?」
「そうだな、一言で言うなら…『暗い』かな…
いやな…陰湿とかそんなんじゃなくて…何かを恨みとか…そんな感じがしたな。
まあ俺自身もよくわかんねえんだけど…」
先ほど目撃した貞子に負の感情に満ち溢れていたことを印象に思う亀山。
あれは尋常なモノではない。
確かに暗いとは思った。だがあれは…暗いというよりも闇そのもの…
そんなモノを右京たちは相手にしているのかと思うと
今の警察官でない自分が何の力にもなれなくて歯がゆさを感じてならなかった。
それにもうひとつ、彼ら伝えなければならないことがあった。
「ところで…右京さんには言えなかったんだが…
実はあの人たちの帰り際にな…
また見えちゃったんだよ…山村貞子…無事でいてくれたらいいんだけどな…」
右京とカイトの安否が気になる亀山…
しかし亀山の不安を余所に右京とカイトの呪いのカウントダウンは着々と進行していった。
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:49:26.95 ID:EAF0Yir90
8月31日 PM13:00
「おい、いいのか?アポ無しでいきなりこんなところ来て…?」
「いや、勝手について来たのは伊丹さんたちでしょ。今更何言ってるんですか?」
「だがここは議員会館だぞ。」
「なんだってこんなところに…」
さて、亀山のマンションを出た右京たちが向かった先は
なんと国会議員のオフィスが集う議員会館だ。
その議員会館にある一室、
片山雛子の事務所に右京たち5人が揃ってある人物が来るのを待ち構えていた。
それから待たされること10分、ようやくその人物が姿を見せた。
「杉下さん、それにみなさん、お久しぶりです。」
「これは片山議員、どうもご無沙汰しています。」
そこに現れたのは女性国会議員として注目されている片山雛子だ。
将来は初の女性総理大臣とも称されている彼女に一体何の用があるのか?
さすがにノコノコと付いてきたとはいえ伊丹たちは動揺を隠せずにいた。
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:56:35.00 ID:EAF0Yir90
「それで今日はどういったご用件でいらっしゃったのですか?
まさか謹慎中のあなた方がこんな世間話をしに来たわけじゃないのでしょう。」
「おやおや、僕たちが謹慎処分を受けた事をもうご存知でしたか。」
「杉下さんが来られるんですもの。
一応警視庁の方へご報告しておきましたので…
そしたらあなた方は現在謹慎処分を受けていると言われましてね。
まあ私にはどうでもいいことですけど。」
まさか自分たちが来ただけですぐに警視庁にクレームを入れるとは…
些かやり過ぎだと思うカイトだが伊丹たちにしてみれば
長年色々と確執のあるこの片山雛子にしてみれば警戒して当然だと思えなくもなかった。
しかしそうは言ってもこちらも子供の使いではない。
警察の仕事としてこの場へ趣いたわけなので何もせず帰るわけにはいかない。
そんなわけでさっそく伊丹は雛子に対して事情聴取を始めるのだが…
「単刀直入にお伺いします。
先日都内で亡くなった吉野賢三さんですが警部殿たちが言うには
どうも亡くなる前にあなたのことを張り込みしていたらしいんですよ。
何か心当たりはご存じありませんかね?」
「そう言われましても、ご存知かと思われますが
私の仕事は守秘義務のある事柄ばかりですからおいそれと話せないんですよ。
特に令状も無い捜査ではお話しすることも出来ませんので。」
「かーッ!相変わらず痛いところ突きますよね!」
「これでも魑魅魍魎跋扈する国会で仕事をしているんですよ。
わけのわからない濡れ衣を着せられて振り回されるのは御免ですので。ご了承ください。」
任意の事情聴取に対して守秘義務を盾にする雛子。
さらに言うなら右京たちはアポすら取っていない無礼な態度でいる。
それならこちらも無礼で返すのが筋だとでも言わんばかりの態度を取る雛子。
そんな雛子だがカイトに注目していた。
この中で初見なのは彼だけだからか…それとも…
「ところで…あなたは…?」
「あ、自己紹介が遅れました。甲斐享と言います。今度特命係に配属された新人です。」
「そう、あなたが…お父さまのことは聞いているわよ。」
父親のことを聞かれて一瞬ムッとなるカイト。
まさか初対面の人間に父親との関係を指摘されるとは予想外だ。
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 07:57:50.35 ID:EAF0Yir90
「親父は関係ありません!」
「まあ確かに警察庁のあなたのお父様とはお近づきになりたいですけど…
個人的にあなたの心情は察する事は出来るわよ。私も政界に入った直後は…
父親の後釜継いだばかりで親の七光りだとか言われたから…」
珍しく自分の心情を察してくれる片山雛子に思わず好感を抱くカイトだが…
そんな感情はこの後の彼女の豹変した態度に
すぐ弾け飛ぶとはこの時のカイトにはまだ予想もつかなかった。
「それで杉下さん、もうこれで話は終わりですか?
それならお帰り頂けませんかしら、これでも私は忙しいので…」
「その前に僕の推理を聞いていただけますか。まぁ多少超常的現象も含みますが…」
「杉下さんの推理?
少し興味がありますね。いいわ、どんな推理を聞かせてもらえるのかしら。」
杉下右京の推理、確かに興味はあった。
わざわざ議員会館まで乗り込んできたわけだ。それなのに何の準備もなく来るはずもない。
さらに言うなら彼が問題を上げてくれるのなら…
そう思い雛子は右京の推理を静かに聞いてみた。
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:01:00.43 ID:EAF0Yir90
「それでは、事件の発端は45年前…いえ、57年も前に遡ります。
当時、伊熊平八郎という学者が
大島に住む山村志津子という女性を被験者とした超能力の公開実験が行われていました。
そこで彼女はあらゆる実験を成功させましたが
一人の記者がこの実験を「インチキだ!」と罵った。
その直後、記者は急性心不全で亡くなった…
山村志津子が殺したのではと疑いを掛けられた志津子は発狂し…そして亡くなった。」
「……気の毒な話ですがそれが何か?」
「話は続きます。それから12年後…
山村志津子の娘である山村貞子は成長して劇団飛翔に入ります。
彼女は女優になる気だったのでしょうね、しかしそうはならなかった。
劇の本番中に貞子は予想しなかった事態が起こり…舞台で死人が出た。
その直後…劇団員たちは行方不明…になりました。」
「そんな半世紀も前の事件を話されても困るんですけど…
杉下さん、あなた本当に何しに来たんですか?」
確かにこの事件は45年も前の出来事だ。
こんなことを今更洗いざらいしたところで何になるというのか?
だがこの話はまだ続きがあった。
「57年前に亡くなった記者には当時婚約者がいたそうです。
名前は宮地彰子、彼女は山村志津子の公開実験を調べていたそうですよ。
それはそうでしょうね、婚約者が殺されたのだから…
そして彼女は山村志津子の公開実験から12年後に
娘の貞子が所属する劇団飛翔に赴きます。目的は恐らく貞子を殺すため…
そのために彼女は拳銃を用意したそうですから。」
「け…拳銃…」
「復讐のために娘の貞子を殺そうとするなんて…」
「以前帝都新聞に勤めていた美和子さんから聞いた話です。間違いないはずですよ。」
拳銃の話が出て刑事の職柄か思わず反応してしまう伊丹たち。
だが雛子にはわからなかった。
いくら拳銃が出たところでそれは45年前の出来事。今更罪を問うことなど出来はしない。
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:02:27.77 ID:EAF0Yir90
「少しおかしいと思いませんか。
山村志津子が亡くなったのは公開実験が行われてからすぐの事だったとか…
それなのに宮地彰子はその後も事件を調べ続けた。」
「それは…娘の山村貞子を殺すためじゃないんですか?」
「ではそれは何のために?」
「決まってるでしょ。
志津子を殺せなかったから代わりに
娘の貞子を殺して婚約者の恨みを果たしたかったんですよ。」
この話を遮るように口を挟んできた伊丹たちの見解は復讐との答えだ。
雛子もその答えに納得の様子を見せている。
確かにそれなら一見辻褄が合わなくもない。
だがそれでも12年も亡くなった恋人のためとはいえ尋常ではない執念深さを感じられた。
「なるほど…恨みですか。その考えにも一理あります。
しかしそれなら何故さっさと貞子を殺さなかったのでしょうか?
ただ殺すだけならいくらでも機会はあったはずですよ。
それに宮地彰子は 警察の調書や実験の時の録音テープまで調べていたとか…
何故でしょうかねぇ。」
「前置きが長いのは杉下さんの悪い癖ですね。
恐らく杉下さんはこう言いたいのでしょう。
公開実験で記者が死んだのは山村志津子の所為ではないと…」
「そう!まさにその通りなのですよ!さすがは議員、冴えていらっしゃる。」
「まさか…その記者を殺したのは私だとか言わないですよね。
言わなくてもわかると思いますけど57年前なんて私は生まれてませんからね。
それなのに私を疑うなんて馬鹿げてますわ!」
片山雛子の年齢は30代後半。
事件が起きた57年前はまだ生まれてすらいない。
そんな自分が当時の容疑者だとでもい言いたいのかと苛立ちを見せた。
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:40:32.19 ID:EAF0Yir90
「いえいえ、さすがにそんな事は考えていませんよ。
57年前の公開実験で記者を殺害したのは…恐らく山村貞子です。」
「山村…貞子が…?」
「そう、宮地彰子は12年掛けて調べて気付いたのでしょうね。
自分の婚約者を殺したのは山村志津子ではなく…娘の貞子だと!」
「けど貞子って…
57年前の事件は確かまだ小学生くらいの年齢だったはずです。
当時子供だった貞子に大人を殺すなんて不可能ですよ!?」
カイトは今の推理にそう異を唱えた。
確かに当時子供だった貞子に人を殺すことなど出来るはずがない。
そう、まともな手段なら…
「山村志津子は公開実験に及ぶほどの超能力を有していた。
そして宮地彰子はこう結論づけた。
娘の貞子も間違いなく能力を持っていて…
もしかしたら母親以上の能力の素質を持っていたかもしれない。
超能力に年齢は関係ないと…そう考えられませんか?」
超能力で人を殺す。
一見馬鹿げた結論かもしれないがそれなら納得がいかなくもない。
だがそうなると疑問が残るのは劇団飛翔での出来事だ。
あれはどう説明するのか?
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:40:58.68 ID:EAF0Yir90
「あの事件も山村貞子の仕業でしょう。
しかし彼女はそもそも舞台中に人を殺そうだなんて思ってもみなかったはず…
引き起こすきっかけを作ったのは宮地彰子が原因です。
彼女は貞子の本性を暴くために舞台の本番中にあるテープを流した。
それこそが…」
それが昨日の内村が45年前の公演で聞いたとされる『的中!』…『的中!』…の音声。
恐らくその音声を流したのは宮地彰子。
彼女は貞子の本性を暴き出そうとそのような行動に出た。
しかしそうなると問題もある。
そんなことをすれば劇団の誰かに怪しまれるのではないかと…?
「もしかしたら劇団の中にもいたのかもしれませんよ。
山村貞子を疎んでいた人物が…
あの劇団で最初に起きた葉月愛子の事件で貞子は一度疑われていますからね。
そんな貞子を疎んでいる人物がいたとしてもおかしくはないでしょう。
その人物と協力して宮地彰子は貞子の本性を暴いた。
つまり45年前の事件は宮地彰子によって引き起こされたことになります。
いえ…劇団のほとんどが失踪したことを考えればもしかしたら…
劇団飛翔の団員たちと宮地彰子は山村貞子の本性を暴き出し…
あわよくば貞子を殺害しようと企んでいた。
しかし計画は失敗し彼らは返り討ちにあってしまった。
恐らくこれが45年前の事件の真相でしょう。」
パチパチパチと部屋に鳴る拍手。
片山雛子は右京の推理を聞き、その推理に対し拍手を送った。
だが彼女の心情は内心穏やかではなかった。
「素晴らしい推理でしたね、けどその事件はもう45年前に起きた事件ですよ。
いくら法改正で時効が無くなったとはいえさすがにその…
宮地彰子という記者や劇団飛翔の団員たちを裁くことは出来ません。
それに山村貞子という女性もこの場合正当防衛になるはずではありませんか?」
確かに山村貞子を現在の方で裁くことなど不可能だ。
そもそも彼女は45年前に死んでいる。
そんな彼女にどんな罪を与えろと?そう苛立ちながら
しかしここまでの話は前置き、本番はここからだ。
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:45:37.23 ID:EAF0Yir90
「話を続けます。
45年前、宮地彰子とそれに飛翔の劇団員たちを殺した
山村貞子ですが彼女もまた無事ではいられなかった。
何者かの手により伊豆の井戸に閉じ込められてしまい、それから30年の月日が経ち…
浅川玲子、高山竜司の手により死体を見つけてもらったのですよ。
何故二人は30年も前に閉じ込められた山村貞子を見つけることが出来たのか?
それは15年前に巷で噂になった呪いのビデオが関係しているからですよ。」
「呪いのビデオ?
杉下さんあなた自分が何を言っているのかわかってますか?
警察官がそんな非科学的な…」
まるで話についていけないという素振りを見せる雛子。
無理もない。先程までの山村貞子の話ですらオカルトだったのに…
さらに呪いのビデオなんて出てくればそう思えても仕方のないことだった。
「杉下さんの仰ることが全然わかりません!
いきなりやってきて事件の聴取に来たかと思えば
急に50年以上も前の事件についての推理を語り出して!
おまけに今度は呪いのビデオ?さすがの私も怒りますよ!?」
そう言って珍しく人前で怒りを露にする雛子。
それを見て宥めようとするカイトと伊丹たち。
普段は温厚なイメージで世間からも注目を集める片山雛子だが、
そんな彼女でも突然やって来られて
呪いのビデオなんてわけのわからない話をされれば怒りたくもなるだろう。
だが右京の推理は終わらない。いや、むしろここからが本題だ。
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:46:09.53 ID:EAF0Yir90
「いいえ、まだ帰るわけにはいきませんよ。大事なのはここからなのですから。
15年前、精神病院の川尻医師が倉橋雅美という少女を担当しました。
この倉橋雅美という人物は先ほど述べた
呪いのビデオを見て亡くなった大石智子の死亡現場に居合わせた少女です。
当時、彼女は大石智子の死にトラウマを感じてしまい、精神病院に入院してましたが
彼女が呪いのビデオの影響を受けたことを知った川尻医師は
山村貞子の怨念の除去を行う実験をしました。
しかしその実験は失敗…川尻医師もその最中に死亡したとのことです。」
「それが何だと言うのですか?
私には川尻という医者が
単なるマッドサイエンティストでしかないと思いますけど。」
ここまでは特命係がこれまで捜査してわかったことだ。
だがここまでだ。これ以上先は何もわからなかった。
正直、カイトはさすがにもうお手上げかと思ったのだが…
「それではここから今まで知り得たことを推理していきたいと思います。」
なんとカイトの予想に反してこれまで得た情報を元に推理を始める右京。
この片山雛子の前で何を語ろうというのか?
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:46:40.21 ID:EAF0Yir90
「呪いのビデオ、そんなモノが実在すると仮定しましょう。
ここでみなさんに質問します。みなさんはどういった使い方をしますか?」
もし自分たちの手元に呪いのビデオがあれば各々どういった使い方をするのか?
この場にいる全員がそんなことを問われた。
それから右京は一人ずつ聞いてみた。まずは伊丹からだ。
「俺は…まあ捨てちまいますね…そんな厄介なモン誰が好んで持ってられるか。」
それに続いて芹沢と三浦も…
「俺だって先輩と同意見ですよ。
そんな危なっかしいモノ持ってるだけでやばいじゃないですか。」
「そうですよ警部殿。見ただけで死ぬなんて危険極まりないですよ。」
芹沢と三浦も伊丹と同じく破棄するといった意見になった。
警察官として人命を考える職務に付く者としては至極当然な答えだ。
見ただけで人を呪い殺す呪いのビデオ。
そんなモノを好んで傍に置く者など一人もいるはずがない。
それから右京は雛子にもこの質問を行った。それに対して雛子が出した結論は…
「私も伊丹さんたちと同意見です。危険極まりないモノは即処分すべきです。」
やはり政治家として真っ当な答えを述べる雛子。
だが彼女はもうひとつこう付け加えた。
「但しあらゆる検証を行ってからですね。」
「検証とはどういうことでしょうか?」
「当然でしょう。見ただけで人を呪い殺せる代物ですよね。
それならなんらかの対応策を講じる必要がある。だから検証する。
何かおかしいことを言いましたか?」
それが片山雛子の答えだ。
確かに片山雛子らしい答えではある。
単に処分するのは簡単だ。
しかしその後の対応策を講じるというやり方は必ずしも間違いではない。
この場にいる全員の受け答えに満足した様子を見せる右京。
そんな右京だが全員が答え終わると同時に次にある可能性を考慮した。それは…
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:47:07.27 ID:EAF0Yir90
「それでは次の質問です。もし呪いのビデオが悪意ある者の手に渡ればどうなりますか?」
悪意ある者。
すなわち犯罪者、もしくはそれに該当する人間。
そんな者が呪いのビデオを悪用すれば…
そこには最悪な可能性が巡られた。
「間違いなく殺人の道具に使われるはず。
殺意ある張本人がその手を汚すことなくビデオを見せただけで人が死ぬのです。
しかも死因は急性心不全であるため証拠は一切残されない。
殺人を行うのにこれほど理想的な凶器は他にありませんよ。」
恐らく犯罪者なら誰もが挙って欲する凶器、呪いのビデオ。それが右京の見解だ。
呪いのビデオを見せられた被害者は1週間後に急性心不全で死亡。
警察は病死と判断し殺人事件として取り扱われずに処理されてしまう。
つまり完全犯罪が成立することになる。
「完全…犯罪…」
呪いのビデオの可能性に思わず呟いてしまう雛子。
この瞬間、先ほどまで怒声を口にしていた片山雛子が急に静かになった。
これを見逃す右京ではない。それから右京の推理はまだ続いた。
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:47:34.17 ID:EAF0Yir90
「そう、悪意ある人間の手に呪いのビデオが行き渡り、
呪いを回避する方法を知り得ているなら
その人物は間違いなく呪いのビデオを悪用するはずです。
ましてやそれが国家ともなればどうでしょうか?」
「一体どうなるっていうんですか?」
「先ほど述べた事を拡大するだけですよ。
敵対する国の人々に呪いのビデオの映像を公開させる。
この映像を見た対象のその国の人々は…
1週間後、その国には恐らく死体の山が出来ているでしょうね。
大量殺戮がいとも簡単に行えて
おまけに核ミサイルのように周囲への汚染を気にする必要もない。
また単なるビデオの映像を公開しただけなので
周辺国からは疑惑を持たれたり報復される恐れすらない。」
「究極の殺人兵器『呪いのビデオ』…恐ろしいと思いませんか?」
つまり呪いのビデオとは使い方次第では核と同等の大量殺人の兵器になる可能性がある。
それも国家レベルとなればいとも容易く大量殺戮が行える。
そんな考えは…間違いなく狂気の沙汰だ。
何処の世界にこんな夢物語を取り上げる者がいるものか…
「プ…」
「フフ…」
「アハハハ!」
「杉下さんの想像力の逞しさには相変わらず感服しましたわ。
けどそれだけ、こんな馬鹿げた妄想を本気にする政治家がいると思いますか?」
そんな右京の推理を一笑する雛子。
確かに雛子の言うようにこんなことを真面目に考える政治家などいない。
そんな夢物語を本気で信じる人間などこの世にいるものか…
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:48:00.38 ID:EAF0Yir90
「確かにこの世にはもういないかもしれません。」
「ですが…」
「以前は居たとしたらどうでしょうか。」
なにやら意味深な表情で語り出す右京。
そこで雛子もまた笑うのをやめて構える姿勢を取った。
ここで右京が何かを仕掛けてくると察したからだ。
「もしもですが57年前に行われた公開実験で山村貞子の力を知った人間がいたら?」
「その人間は同じく57年前に起きた三原山大噴火で貞子の力が本物だと確信した。」
「山村貞子の力に有用性を見出すことが出来たらどうでしょうか。」
「きっと利用したいという欲に駆られるはずです。
かつて貞子の母親である山村志津子を利用した叔父の山村敬や伊熊平八郎のように…」
そう、彼らは貞子の母である志津子を公開実験の見世物として利用した。
だがその人物がやろうとしたことはそんな見世物などではないはず。
それらよりもはるかに予想を超える行いを考えていたにちがいないと仮定していた。
「それではその人物とは誰なのか?」
「かつて山村貞子の力を把握していた人間は殆どが亡くなった。」
「ですがそれでも近年まで生きていた人間がいました。
その人は政治家です。恐らく山村貞子が関わった人間の中では最も権力のある人物。」
「その人物はかつて山村貞子と接触していた可能性があります。」
「異能の力を持つ山村貞子。その存在を知り得た政治家。」
「その人物とは片山先生もご存知のあの人です。」
かつて山村貞子の存在を知っていた政治家。
そして片山雛子とも繋がりのある人物とは…
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:49:40.14 ID:EAF0Yir90
「57年前の三原山大噴火、あの災害で島の南側にいた人物で助かった生存者が4名。」
「山村貞子、叔父の山村敬、父親の伊熊平八郎、それともう一人…」
「当時、山村家の旅館に宿泊していた片山擁一。」
「ご存じですよね。片山議員のお父さまですよ。」
それは大島に行った時に陣川のいた駐在所にて明らかになった事実だ。
片山擁一といえば片山雛子の父親にして長年外務大臣を務めていた政治家だ。
父親である片山擁一と貞子に思わぬ接点があったことを明らかにされた雛子。
その瞬間、雛子にわずかながらの動揺が走った。
「お父さまは貞子の存在を知っていた。それは間違いないはず。
そのことを娘である片山議員が存じ上げていたかどうか僕にはわかりません。
ですがこれである仮説が成り立ちます。」
「仮説とは何ですか…?」
「お父さまが貞子の力を政治に利用しようとしたのではないかということです。」
異能なる貞子の力。それを政治に使う。
確かにもしそんな力が手に入ればそれは政治家が有用出来るかもしれない。
たとえばの話しだが対立する政敵がいたとする。
その政敵を異能の力で葬れば己の手を汚さずに抹殺することが可能だ。
しかしこんなのは夢物語だ。そんなことがあるはずは…
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:50:12.77 ID:EAF0Yir90
「ところで吉野賢三が亡くなった日のことです。
僕は彼が転落したマンションである車を見かけました。
ナンバープレートには[品川 ぬ 23 -38]と記載されたセダンの車です。」
車のナンバーを問われて思わず雛子の頬に冷や汗が零れ落ちた。
以前、右京はとある事件で自分が所有する車のナンバーを照会していた。
恐らくそのことを覚えていたのだろう。
まったく忌々しいほどの記憶力だと嫌味に思う雛子。
だが追求はこれからだった。
「さてここでもうひとつ仮説を立てたいと思います。
吉野賢三は亡くなる直前、ある特ダネを仕入れたと言っていました。」
「もしもこの特ダネとやらが
どなたかにとって世間に暴かれることが不都合だったらどうなるでしょうか?」
「始末する必要があったのではないか?そう思えませんか。」
始末、つまり殺害すること。
しかしそうなるとどうやって殺人を実行するかだが…
殺人ともなれば当然あらゆるリスクが生じる。
当然ながら犯行が警察に暴かれたら実行犯は逮捕される恐れもあるだろうし
さらにそれを指示した人間たちも芋づる式で捕まる恐れもある。
だがそのリスクを避けることが出来たらどうか?
そこで浮かび上がったのが先ほど右京が話した呪いのビデオだ。
もしも呪いのビデオが既に殺人の道具として活用されていたとしたら?
「つまり警部殿は吉野賢三が自殺じゃなくて殺害されたと言いたいんですか?」
「考えられる可能性です。
早津さんの証言では吉野賢三は呪いのビデオを浅川さんの遺品から見つけたと推測した。
しかし考えてみればこれはおかしい。彼女は呪いのビデオの恐ろしさを知っていたはず。
そんな彼女が呪いのビデオをひとつでも遺しておくでしょうか?
それを考えれば吉野さんのマンションにあったビデオは
新たに作られたモノであるという可能性が高いと思われます。」
「けど…呪いのビデオで殺人なんて…」
未だに半信半疑な伊丹たち。
確かにそれなら不可能犯罪と言えるかもしれない。
だが呪いのビデオなどというオカルトをどう信じろというのか?
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:51:03.84 ID:EAF0Yir90
「呪いではなくサブリミナル効果として解釈してみてはどうでしょうか。」
「サブリミナル効果…?」
右京の言葉に思わずハモる捜一トリオたち。
サブリミナル効果とは人間の潜在意識に無意識のうちに刺激を与えて影響を与える効果。
日本では禁止されているが過去にはTV番組でこの手法が取り入られたケースがある。
身体に一時的な麻痺症状を起こす被害が見受けられており現在は規制が促されている。
「つまり呪いが起きたのはビデオの映像にサブリミナル効果が使用されていた。
そう考えれば人が死んだという説明に対してある程度の納得がいくというものです。」
「けど杉下さん、刷り込み程度で人が死んだなんて事例は今まで存在しませんよ。」
「ええ、ですからそれを研究していたらどうでしょうか。」
「勿論その研究を行うにはそれなりに規模のある施設が必要です。
それほどのモノを提供出来るのはやはり政治的な発言力の高い人物が望ましい。」
政治的な発言力の高い人物。
それからこの場にいる全員が片山雛子に注目した。
どうやらようやくこの追求における本質が見えてきたからだ。
148 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:51:46.93 ID:EAF0Yir90
「さて、先ほどの車の話に戻りましょう。
転落事故があった日、片山議員は吉野賢三のマンションに自らの車を向かわせた。」
「その理由を考えました。
ひょっとしてあのビデオは片山議員が吉野賢三に流したモノではないのかと…」
「そう考えれば辻褄が合います。
つまり犯行に使われた呪いのビデオは片山議員の手によって吉野賢三へと渡った。
議員にとってスクープを狙う彼は邪魔者でしかない。だから排除する必要があった。
しかし排除するにも方法を選ばなくてはならない。大事になれば厄介ですからねえ。」
「そこで思いついたのが呪いのビデオ。
これを吉野賢三に試すことにより口封じが出来てなにより実地テストも兼ねられる。
まさに一石二鳥だと思いませんか。」
それが吉野賢三と小宮の死の真相だと語る右京。
確かにこれならば片山雛子が自らの手を汚すこともなく殺人を行うことが可能だ。
しかしこの推理にはある問題があった。
「まったくバカバカしい話ですね。
仮に呪いのビデオがあったとしましょう。
杉下さんの言うようにサブリミナル効果で人が殺せると仮定するとしてですよ。
それをどう実証するのですか?」
そう、呪いのビデオが凶器である実証を行わなくてはならない。
実証を行うにはどうするか?
その方法はひとつしかない。実際に呪いのビデオを見た人間が死ぬこと。
だがそんなことが許されるはずはない。
事件の実証を行うために殺人を行うなど以ての外だ。
「確かに呪いのビデオを凶器として実証するのは困難です。
しかしそれを実行出来たらどうですか?
そうすれば呪いのビデオが凶器として認められるはずです。」
「だからその実証を行うというのですか。
まさか警察が事件の実証のためにそんな非人道的な行いをするとでも?」
「いいえ、そんなことをしなくても呪いのビデオを観てあと二日で死ぬ人間が二人います。
その二人が死ねば呪いのビデオは凶器として実証される。
そうなれば警察が本格的に動くことが可能です。」
呪いのビデオを観てあと二日以内に死ぬ人間…?
そんな人間がどこに…
すると右京は雛子を睨みつけた。
それと同時にカイトも今の右京が言った意味を察することが出来た。
その二日以内に死ぬ人間というのが…
149 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:56:33.40 ID:EAF0Yir90
「そう、この二日以内に死ぬ人間とは僕とカイトくんです。
僕たちは捜査の段階で呪いのビデオの一端に触れてしまった。
そのため、呪い通りなら僕たちはこの二日以内に死ぬ可能性が高い。」
「つまり二日後に僕たちが死ねば当然警察は動きます。
何故なら警察官が死んだのですからねぇ。何かあったと嫌でも察しますよ。
それに今の話を伊丹さんたちも聞いています。
ですから捜査一課が動くのは確実ですよ。」
「ProjectRING、その全容が明らかにされますよ。」
それが右京の推理とこれから予想すべき事態だった。
特命係は文字通り自らの命を賭けている。つまり背水の陣の覚悟だ。
こうなれば片山雛子にとっては厄介だ。
今の右京たちの証言を捜査一課の伊丹が聞いていた。
これによりもし二日後に右京とカイトが死ねば当然捜査一課が動く。
その時には片山雛子にも捜査の手が及ぶ。
面倒なことを疑われおまけに妙なことで腹を探られるのは好ましいモノとは思えない。
そんな思いが彼女の脳裏を過ぎった。
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:57:04.97 ID:EAF0Yir90
「話は以上ですか?」
「はい、今のところはこのくらいですね。」
「まったく…
いきなり事務所まで乗り込んできて
呪いのビデオがどうだの父がそれに関わっていたなど妄言は充分聞きました。」
「それと杉下さんたちが亡くなったら
お葬式に出席してお線香くらいは上げてあげるのでどうかご安心なさってください。
それではどうかお引き取りください。」
そんな嫌味を告げて雛子は右京たちにこの場から退席を促した。
さすがに令状も無しではこの場にはいられない。
結局連れられてきた伊丹たちは走るようにさっさといなくなったが
去り際、右京はこんなことを告げた。
「片山議員、僕はあなたがこの件に深く関わっているとは思いません。
ですが今すぐになんらかの対応を行ってください。これは下手をすれば大事になりますよ。」
こうして伊丹たちに続いて右京とカイトもこの場から退席した。
それから右京たちがいなくなったことを見計らい
雛子は自らのデスクに腰掛けてようやく落ち着けた。
呪いのビデオ…山村貞子…それに父親…
相変わらず妙なことにばかり首を突っ込んでくる男たちだと特命係を忌々しく思う雛子。
そんな雛子だがあることを思い出していた。
今は亡き父との思い出だ。
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:57:36.25 ID:EAF0Yir90
「山村…貞子…」
つい山村貞子の名前を呟く雛子。
それは自分が幼い頃から疑問に思っていたことだ。
昔から父は誰かを探していた。
それも娘である自分が生まれるずっと以前からだ。
まるで父は何かを求めるかのようにその誰かを探して…いや…欲していたというべきだ。
外務大臣まで上り詰めた父が一体誰を…何を求めていたのか…
幼い頃からずっと疑問だった。そんな疑問が解決したのは15年前のことだ。
『貞子が…死んだ…?』
ある日、父の元へ報せが入った。それは貞子という女性の死だ。
その死を知って父は落胆した。
そんな父の反応を見て雛子もようやく察することが出来た。
父は長年探していたのはこの貞子という女性だ。
貞子の悲報を受けて落胆する父。しかし雛子はそれでよいと思っていた。
これでいい。父はようやく貞子という女の呪縛から解放されることが出来る。
思えば貞子を追い求める父はどこか不気味だった。
まるで何か大きな欲望を求めるようなそんな様が見受けられた。
それが貞子の死でようやく解放される。
人の死を喜ぶのは不謹慎だがこれであの不気味な父を拝まずに済むと思っていた。
ところが…そう思ったのも束の間だった…
152 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:58:04.53 ID:EAF0Yir90
『呪いの…ビデオ…だと…』
ある日、川尻という医者が訪ねてきた。
死んだ貞子があるビデオを世に広めていたとの話しを父に告げた。
それは当時学生だった雛子も耳にした噂だ。
見たら1週間後に死ぬ呪いのビデオ。
馬鹿げた話だ。こんなオカルトをあの父が信じるはずがない。
だが父はちがった。
『そうか…貞子が…そうかそうか!ハハハハ!!』
そのことを告げられた父は高笑いしながら狂喜した。
あの貞子が遺産を遺してくれた。
それは今まで悲観に暮れていた父にとって朗報にも等しいものだった。
同時に雛子はさらに父親を恐怖するようになった。
それから父は人を集めて何かを始めた。
その詳細は娘の雛子にも一切告げずに秘密裏に進めていた。
だがその最中に父は病に倒れた。
それから医師により余命間近と宣告されて父は愕然となった。
無理もない。不治の病を告げられて父は正気に戻れたようだ。
もう貞子を求めることはやめるだろう。
これでようやく…父は…それに自分は貞子という亡霊から解放される。
そう安堵していたが…
153 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 08:58:35.75 ID:EAF0Yir90
『雛子…貞子を蘇らせろ…どんな手を使ってもだ…』
それは悪夢だった。
父は今際の際にも貞子を追い求めることをやめなかった。
それどころか今度は娘の自分に後を託そうとしていた。嫌だ…冗談じゃない…
そのことを何度も拒否した。
そんな得体の知れないモノをどうにかするつもりはない。
しかしそれは自らの一存だけで拒否できるものではなかった。
『既にProjectRINGは始まっている…最早誰の手にも止められない…』
既に事は自分では手に負えないほど根深いモノになっていた。
父以外の人間も山村貞子の有用性に気づき始め、あることを実行しようとしていた。
最早それを止める手段は無いに等しい。
そのため父の死後も協力せざるを得なかった。
吉野賢三の死、あれは雛子の仕業ではない。
その連中が吉野賢三を亡き者にしようとビデオを流したようだ。
それを雛子が知ったのは吉野賢三が亡くなる直前だった。
そのため急いで彼の死を確認しに行った。
だがそこで偶然にも杉下右京に気取られるのは計算外だった。
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:03:55.82 ID:EAF0Yir90
「ちょっといい?連絡繋いでほしいんだけど…」
それから雛子は秘書たちに取り次いで急いである場所へ連絡を取った。
だがその連絡は一向につかない。
おかしい…今までならこのようなことはありえないはずなのに…
まさか…いや…考えるべきだ…
既にあの杉下右京がこの件に関わっている。
つまり事態は急を要するということ…
こうなれば手段を問いでる暇はない。
そう思った雛子は自らの携帯を取り出し、急ぎある人物に連絡を取った。
「もしもし、実は依頼したいことがあって…」
「そう、詳細に関してはこれからメールでそちらに送ります。」
「事は急を要します。なので…」
「あなたの元相棒、彼にこのことをすぐに伝えてください。」
不敵な笑みを浮かべて連絡した人物を頼る雛子。
それから雛子は送った資料をすべてシュレッダーに入れて処分した。
この件に自分は何も関わってなどいないと思わせるため。
あの杉下右京の追求を逃れるには徹底的にやらなければならない。
それに…うまく行けば彼らは終わらせてくれるかもしれない。
この永遠に続くかもしれない悪夢を…
155 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:07:22.64 ID:EAF0Yir90
第5話
8月31日 PM15:00
「それじゃあ俺たちはこれで…」
「だからここにはアポ無しで来ちゃダメですよ。」
「そんなこと今更言ってもしょうがないだろ。」
議員会館駐車場で伊丹たちと別れる特命係。
どうやら片山雛子は警視庁にクレームを出したらしく
そのことに激怒した内村と中園の怒りを買って大人しく帰参することになったらしい。
その間に二人は右京の愛車、
日産フィガロに乗り込みながら右京は携帯をジッと見ながらある連絡を待っていた。
なにやら誰かからの連絡を待つ右京。
一体何を待っているのかとカイトは尋ねた。
「あの…何を待っているんですか…?」
「カイトくん、僕は片山雛子が吉野賢三を殺害したとは思っていませんよ。」
「でも…さっきは…」
「あれは彼女を揺さぶるためです。
もし彼女が吉野賢三を殺害したのならわざわざ犯行現場に戻るなんて愚行はしません。
あの行動は恐らく彼の身に何かあったと駆けつけようとしたと考えるべきです。」
片山雛子の人物像についてそう述べる右京。
それはある意味片山雛子の人間を熟知しているからこそ判断できることだ。
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:08:01.06 ID:EAF0Yir90
「カイトくん、これは僕の片山雛子に対する個人的な見解ですが…
彼女は一見何かよからぬ事を企んでいる策略家…なのは確かでしょうが、
彼女自身が直接手を下すことはしない。
いえ、そもそもそのような危ない橋を渡る人物ではない。
つまり『限りなくクロに近いシロ』だということですよ。」
そんな右京の見解に首を傾げるカイト。
どうにもイマイチ理解出来ないといった表情だ。
さて、そんな二人の元に右京の携帯へ連絡が入った。
どうやら右京が待ち望んでいた反応だ。
「おや?…この番号は…」
「誰からですか?」
「今日は昔の馴染みと縁があるようですね、もしもし。
これはまた随分とお久ぶりです、はぃ?わかりました、すぐに伺います。」
連絡してきた相手にと随分親しそうに話す右京。
一体誰と話しているのかと疑問に思うカイト。
それから連絡を終えると右京はフィガロを走らせてある場所へと向かった。
それは警視庁の隣にある警察庁。
カイトの父親である甲斐峯秋が警察庁次長を務めていることもあるこの建物。
まさか父親と会うのかと警戒するカイトだが…
その駐車場に入るとある男が二人を待ち受けていた。
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:08:47.98 ID:EAF0Yir90
「杉下さん、お久しぶりです。」
そこに現れたのはエリートな風貌を見せるキザそうな男。
およそ警察庁の職員とは思えない風貌だが…
未だに首を傾げているカイトに気づいたのか右京はカイトにこの男を紹介した。
「紹介します。彼は神戸尊くん。かつて特命係に在籍していた僕の相棒です。」
神戸尊、カイトが特命係に赴任する前の前任者。
現在は警察庁官房付きとしてこの警察庁に勤務している。
そんな神戸が二人を呼んだ理由は…
「ところで神戸くん、僕らを呼んだということはひょっとして…」
「杉下さんのお察しの通り、
先ほど片山議員から連絡がありました。
なにやらとんでもなく荒唐無稽な話を彼女の前で言ったそうですね。」
「荒唐無稽…まあ確かに…そうかもしれませんね。」
「…ったく!片山雛子…警察庁にまでチクッたんですか。
お偉いさんってのはクレームにだけはいち早く対応しやがるな!」
片山雛子からのクレームに思わず苛立つカイト。
ここは警察庁、恐らく父にもこのことが伝わっているはず。
そうなるとどうせこの後、小言を言われるに決まっている。
そう思うとどうしても腹立ってしまった。
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:09:13.92 ID:EAF0Yir90
「まあ…片山議員からの連絡はそんなクレームじゃなくてですね…
今から話す事は守秘義務が課せられます。
こうしてお二人をわざわざ警察庁に呼ばなければならない程の
重要な案件ということを予め承知してください。」
思わせぶりな前ぶりで今から話すことが重要な案件であることを示唆する神戸。
それから神戸は今から5年前に起きた事件について語りだした。
「杉下さん、覚えていますか?
かつて亀山さんと相棒を組んでいた頃に逮捕した小菅彬…」
「小菅彬?彼はまだ刑期満了してないはずですが?」
「それがですねぇ…」
「ちょっと待ってください。その小菅彬って何者なんですか?」
「そうか、キミは知らないよね。」
「無理もありませんね、あの事件は関係者以外には伏せていましたから。」
何も知らないカイトのために右京はかつて小菅彬が起こした事件について説明した。
小菅彬、彼はかつて自分が勤める国立微生物研究所である事件を起こした。
彼は研究所の高度安全室に保管されているウイルスを強奪し、
その際に同僚の職員である後藤一馬を殺害しウイルスを所持したまま逃亡。
後に外部に持ち出されたウイルスがBSL(バイオセーフティーレベル)の、
レベル4で作られたウイルスであった事が発覚する。
すぐに警視庁は警戒態勢を敷き、小菅彬を確保する事に成功、最悪の事態は回避された。
しかし彼の真の狙いは防衛省が密かにレベル4の施設を稼働させている事を世間に公表。
日本人の危機感と防衛意識を植え付けるのが本当の目的だった。
ちなみにこの事件は右京が亀山とともに捜査した最後の事件でもある。
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:09:42.86 ID:EAF0Yir90
「そういえば…思い出しましたよ!
俺が新米警官だった頃、突然上から警戒態勢だって言われて…
俺なんかその日は非番だったのにいきなり召集されましたよ。
けど犯人の名前は明かされませんでしたね?」
「前代未聞の犯罪だったからね。彼の身元は一切明かさずに秘密裏に逮捕されたのさ。」
「しかし何故彼の話題を持ち出すのですか?会話の意図が見えないのですけど…」
「実は先日、その小菅彬が秘密裏に釈放されたとのことです。」
それはまさに異例の事態だ。
小菅彬が犯した罪は
一歩間違えればこの大都会東京にいる全ての人間が死ぬかもしれない大犯罪に繋がるもの。
それを無罪放免になど出来るはずもない。
「それ本当ですか!?だって相手は犯罪者じゃ…」
「静かに!
この件は世間には公表されてないし
それに警察庁でも極一部の人間にしか知らされてないんだから!」
「あ、すいません…
けどそれじゃあ国が犯罪者相手に司法取引したってわけじゃないですか!
こんな事態あり得ませんよ!?」
確かに日本は法治国家だ。
だが犯罪者と司法取引したことなどこれまで一度としてない。
いや、それは表向きの話。
実は近年、日本政府はあるテログループと交渉をした事実があった。
160 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:11:43.94 ID:EAF0Yir90
「赤いカナリア、本多篤人。あれが思わぬ引き金になってしまいましたか。」
今の話を耳にして右京は思わずそう呟いた。
かつて右京と神戸は赤いカナリアの大幹部だった本多篤人のことを思い出した。
あの時、逮捕され死刑が執行される直前に本多は釈放された。
その理由は赤いカナリアの残党が都内に炭疽菌をバラ撒くと日本政府を脅したためだ。
それにより日本政府は赤いカナリアと秘密裏に交渉、本多篤人の釈放を実行した。
ちなみに現在、本多篤人は政府の監視下に置かれながら超法規的措置により
娘との余生を過ごしている。
しかし何故この事件が今頃になって蒸し返されるのか?
それはこの事件を指揮していたのがあの片山雛子だからだ。
「なるほど、この件に片山議員が関わった理由がようやく見えてきました。」
「そう、片山議員はとある連中に脅されて指示されたらしいです。
本多篤人の釈放は表向きの理由が警察庁の公安による独断ということですが
どういうわけかその筋の連中が
あれは日本政府が交渉した事実がバレてそれを打ち明けると脅されたらしいです。」
「つまり本多篤人を釈放したんだから小菅彬も利用したいので釈放しろってこと?」
カイトの解釈は概ね正解だと告げる神戸。
つまり片山雛子は本当にこの件には関わっていなかった。
一定の距離を保ち、いざとなれば離反する腹積もりでいたようだ。
しかしそうなると片山雛子に小菅彬の釈放を依頼した連中は何者なのか?
161 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:12:10.25 ID:EAF0Yir90
「この件には防衛省が関わっています。
それも防衛省大臣官房審議官の山岸邦光。
彼は小菅彬が起こした事件でレベル4の実験室の稼働を指示していた張本人ですからね。」
「防衛省…ですか…
元々小菅彬が作っていたウイルスは防衛省が作らせていたモノだった。
なるほど、彼の有用性は最初から把握済みだということですね。
ちなみに彼が秘密裏に出所したのはいつ頃でしょうか?」
「これがつい最近でして、1ヶ月前なんですよ。
どうやら本多の時のようなすぐにされたわけではなくて、
本多の一件を知った防衛省が3年掛けて小菅彬を出所させたようです。」
1ヶ月前、それは吉野賢三が特ダネの情報を掴んだ時期と重なる。
つまり吉野賢三は防衛省が流した呪いのビデオによって殺害された疑いが出てきた。
これでこの事件の大筋は見えてきた。
しかしこうなるとひとつだけ厄介なことがある。
「けど防衛省にどうやって乗り込むんですか?俺たちじゃ令状なんて取れませんよ?」
カイトが指摘するように
いくら警察官といえど令状も無しに防衛省に乗り込むなど狂気の沙汰だ。
さらに言えば特命係に捜査権など存在しない。
つまりまともな正攻法では望めない。それではどうすればいいのか?
「そこはご安心を、実は助っ人を呼んでいます。」
どうやら一案があるという神戸。
それからこの駐車場に一台の車がやってきた。
この車だがこの警察庁の隣にある警視庁から駆け込んできたらしい。
そして現れたのは…
162 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:13:16.27 ID:EAF0Yir90
「さて、これはどういうことか説明してもらおうか。」
ビンに詰まった白いモノをポリポリとしかめっ面で噛み砕く強面の男。
警視庁主席監察官の大河内春樹。
いつもながら不機嫌な大河内だがそれには理由がある。
「特命係のお二人は謹慎処分が下されているはずですが何故この場にいるのですか?」
そのことを問われて思わず気まずくなるカイト。
当然だ、主席監察官が目の前に居るというのに謹慎中の自分たちが外を彷徨いている。
これを怪しまない監察官がどこの世界に存在するだろうか?
だが右京はこれを些細なことのように振る舞い
大河内もそんな右京の態度に慣れきっているのか半ば諦め気味だ。
それから右京たちはこれまでの経緯を大河内に説明。
だがそれはあまりにも理解を超える内容だった。
「つまり呪いのビデオとやらが殺人の道具に使われた。
それはサブリミナル効果を使った疑いがあり
そんな危険極まりないモノを防衛省が関与していると?」
今の話を要点だけまとめてみせた大河内。
だがこれでもまだ理解の範疇を越えるものだ。
そもそも政府の役人がオカルトじみたモノを開発するなどありえない。
大体サブリミナル効果で人が死んだ話など前例がない。
とてもじゃないが信じろという方が無理だというのが大河内の見解だ。
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:13:47.84 ID:EAF0Yir90
「それで杉下警部、私はどうすればよいのですか?」
「アポを取って頂きたい。防衛省の山岸審議官と直接会ってお話しをしたいのです。」
さらには大河内を通して防衛省の山岸審議官と対面したい旨を要求。
最早それは図々しいにも限度があるという振る舞い。
しかし大河内も頭ごなしに否定するつもりもない。
杉下右京が動いている。これだけで事態は急を要することくらいは想定出来る。
だがそれでも問題はあった。
「無茶を言ってくれますね。
いくら私でも防衛省の役人相手にコネがあるわけではありませんよ。」
「それではどなたならそのコネをお持ちでしょうか?」
「そうですね。この警察庁に居られる甲斐次長なら造作もないことでしょうが…」
不意打ちに父親の名が告げられ不機嫌な様子を見せるカイト。
あの不仲の父にモノを頼むというのは
いくら事件解決のためとはいえ正直快く思えなかった。
しかしそんなカイトの反応など無視して
大河内は甲斐次長に防衛省に取り次いでもらうように直談判を行った。
その結果、今日中は無理だが明日の午前中に会えるようにアポが取れた。
とにかくこれで黒幕と対峙することが出来る。
それに…呪いのビデオを生み出した元凶…山村貞子とも…
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:15:29.99 ID:EAF0Yir90
9月1日 AM10:00
大河内の手はずで右京、カイト、それに神戸と大河内の4人は防衛省を訪れていた。
要件は唯一つ、この防衛省にいる山岸邦光を問い詰め
呪いのビデオを使った吉野賢三、小宮の両名を殺害した事実を認めさせる。
そのために訪れた。
それから4人は山岸の部屋へと通されたわけだが…
「山岸審議官は居られないようですねえ。」
「そうですね、大河内さん本当にアポ取りましたか?」
「いや、連絡を取った時に彼は留守中だったので
仕方なく秘書の者に強引だが今日この時間に会うことを無理やり取り次いだ。
そういうわけだから向こうは一切知らないかもしれんな。」
なんと無茶苦茶なことをと内心呆れるカイト。
だが考えてみれば
一見荒唐無稽な容疑をかける自分たちも十分無茶苦茶であるなと苦笑いした。
165 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:15:57.02 ID:EAF0Yir90
*********
「遅い!遅すぎる!?」
山岸のオフィスに通された右京たちだが
いくら待っても山岸がこの部屋を訪れようとはしなかった。
予定なら山岸はとっくにこの部屋についているはずなのに…
気になった大河内はもう一度山岸のスケジュールを確認すべく秘書に確認を取りに行った。
その間に右京たちはというと…
「ちょっとちょっと杉下さん!
ここ他人の部屋ですから!何やってんですか!自重してくださいよ!?」
「すみませんね、
引き出しとかあるとつい中身を見てしまう癖がありまして。
細かい所まで気になるのが僕の悪い癖でして…」
「だからってここ…お偉いさんの部屋なんだから自重してくださいよ…」
「この人の下に就いたらこんな事日常茶飯事になるから早く慣れた方が良いよ。」
「いやいや、そこは慣れちゃダメでしょ…」
大河内が部屋を出たと同時に
右京はいつもの悪い病気が出てしまい周囲の者を手当たり次第物色し始めた。
するとなにやら出てきたようだが…
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:20:06.79 ID:EAF0Yir90
「おやおや…こんな物が出てきましたよ。」
「それ…何処かの建物の見取り図ですね…?」
それは確かに何処かの建物の見取り図だ。
しかも鉄筋コンクリートでしっかりと作られた施設。
残念ながらこの施設が何処にあるモノかは記されていない。
だがこの見取り図には奇妙なモノが表記されていた。
それは施設の中央、そこになにやら気になるモノが…
「これは…井戸…?」
「何で井戸なんかあるんですか。」
井戸、それにこの施設、行方不明の山岸、そしてProjectRING。
今まで散らばっていたピースがひとつに組み合わさった。
「なるほど、ProjectRINGが何処で進行されているのかわかりました。」
「それは一体何処なんですか?」
「その場所は伊豆パシフィックランドの跡地だと思われます。」
伊豆パシフィックランドはかつて山村貞子が閉じ込められた井戸のあった場所。
それに岩田たち4人と浅川玲子がビデオを見た場所でもある。
しかし何故あの場所なのか?それが疑問だった。
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:20:35.56 ID:EAF0Yir90
「恐らく山村貞子の因縁の地だからでしょう。」
「因縁の地…確かに貞子はそこにある井戸に30年も閉じ込められたわけですからね…」
「だからあの場所が選ばれた。
いえ、むしろあの場所でなければならなかった。
貞子にとって因縁あるあの井戸の周囲でなければ人を殺すだけの怨念は満たされはず。」
「そもそも呪いのビデオはどうやってこの世に出てきたと思いますか?」
「そりゃ山村貞子の怨念が念写されたんでしょ。まあ非科学的な話ですけど…」
「そう、念写ですよ!
僕はオカルトに詳しいのですが念写とは能力者の
思念を映像機器に送り込む事です。その行為を行うにはある法則があります。
それは距離です、山村貞子が作った呪いのビデオはオリジナルのビデオだけでなく
ダビングしたビデオにすら呪いが降りかかっていた。
何故その様な事が出来たか、それは山村貞子があの呪いのビデオを念写した場所が
伊豆パシフィックランド、その下に貞子が閉じ込められた井戸があったから…
つまりあの場所で呪いのビデオが念写されたのは山村貞子の怨念が
一番強い場所であったからなんですよ!」
あの井戸には貞子の憎悪に満ちた場所と言っても過言ではない。
そこで吉野たちを殺した呪いのビデオが復元されたとしたら…
それはProjectRINGを行う場所としてはまさに相応しき場所だ。
「伊豆パシフィックランドですか…?」
「ええ、山岸審議官はそちらに居られる可能性が高いです。」
部屋へ戻ってきた大河内に現在山岸の居所を伝える右京。
だがそれはあくまで憶測。そんな憶測だけで動くのは無理な話だ。
168 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:21:01.42 ID:EAF0Yir90
「無理だ。まだ何も起きていない状況でこれ以上は動けませんよ。」
「何も起きていないですか。そうではないのかもしれませんよ。」
「それは…どういう意味ですか…?」
「既に現場ではかなり危機的状況に陥っているとみて間違いないはずです。」
大河内にそう告げる右京。
しかし何故この段階でそんなことが断言できるのか?
憶測だけではこれ以上の判断材料はありえないはずなのだが…
「何故片山議員は僕たちにこの情報を流したのでしょうか?」
「それはたぶん自分がこれ以上やばい橋を渡りたくないからでしょ。」
「それもあります。ですがこうは考えられませんか?
昨日、片山議員は僕たちが事務所を去った時点で山岸審議官と連絡を取ろうとした。
ですが彼とは連絡が取れなかった。
それにProjectRINGの危険性を考慮するなら…」
「まさか…山岸審議官の身に何か起きたとでも…」
「ハッキリ言えば手遅れの可能性すらあります。」
既に手遅れの可能性すらある。
そう告げられてさすがの大河内も動揺が走った。
しかしそうは言われても警察が許可も無しに防衛省の施設に立ち入ることは不可能だ。
事が公にならない限り警察が動くことは出来ない。
これは今の状況だけでなくどんな事件においても言えることだ。
つまり現時点で山岸が居るかもしれない施設に立ち入るには…
169 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:21:28.98 ID:EAF0Yir90
「僕たちしかいませんね。」
「そうっすね。こういう時こそ特命係の出番ですよね。」
「杉下さん…しかし…」
「大河内さん、わかってください。今すぐ対応しないとさらに事態は悪化します。」
事態の悪化、それは呪いのビデオが再び世間に広まる恐れがあること。
15年前、殆どの関係者を死に至らしめた呪いのビデオ。
それが再び世間に出回れば今度はどれだけの被害が及ぶのか…
その事態だけはなんとしても避けなければならない。
だからこそ、このような事態でも自由に動ける特命係の出番ということになる。
「大河内さんたちはこちらに残って
引き続き令状の手配をお願いします。現地には僕とカイトくんが向かいます!」
現地には自分たち特命係だけで乗り込む右京とカイト。
現状において二人だけなら自由に動けられる。
それに大河内にはこの場に残って今回の一件を上に報告しなければならない義務がある。
そのため、現状においてはこの場で分かれるのは適切な判断だが…
170 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:21:55.58 ID:EAF0Yir90
「それなら僕も同行しますよ。」
「神戸くん…ですが…
現在キミは警察庁の人間ですよ。それが僕たちと同行していいのですか?」
「お言葉ですがこの件に関わった以上、
このまま引き下がるつもりはありません。
それにお忘れかもしれませんが僕だって元特命係です。同行させてください。」
「わかりました。キミはこういう時になると意外と頑固ですからねぇ。」
それから神戸の運転するGT-Rに乗り込む右京とカイト。
「車の運転は僕に任せてください。
杉下さんのフィガロよりも僕のGT-Rの方がスピード出ますからね。
けどその代わりスピード違反とかうるさい事は言わないでくださいよ!」
「ええ、キミの運転の荒っぽさはよく知ってますから。」
アクセルを全開にして激しいエンジン音を鳴らしながら
神戸のGT-Rは一路かつての伊豆パシフィックランドの跡地を目指した。
その場所こそかつての山村貞子が命を落とした地でもあり
そして現在もその怨念渦巻く忌まわしき因縁ある地でもあった。
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 09:25:30.86 ID:EAF0Yir90
9月1日 PM15:00
「どうやらここが目的地のようですね。」
「そうですね。ここが僕たちの目指していた終着点でしょうか。」
防衛省から神戸のGT-Rで爆走すること4時間近く、
ようやく目的地へとたどり着くことが出来た。
そしてたどり着いた先は…
目の前にあるボロボロに放置された看板にこう記されていた。
伊豆パシフィックランドと…
この地こそがかつて呪いのビデオが作られた場所だった。
その伊豆パシフィックランド跡地のさらに奥に厳重に警備されている施設が存在した。
四方をまるで刑務所のように厚いコンクリートの壁で覆われた施設。
恐らくこの場所がProjectRINGの計画が進行されている施設とみて間違いない。
そう右京たち三人は確信に至った。
「ここが例の場所…ところで二人とも口数が少ないけど大丈夫ですか?」
「いや…全然大丈夫じゃないですよ。
神戸さん…信号機片手で数える程度しか止まってないから車酔いが…ウゲェ…」
「キミ…サイレン鳴らしてなかったら間違いなくスピード違反で捕まっていましたよ…」
「大丈夫ですよ。これでも腕は確かですから。」
ここまでの道中、神戸の荒っぽい運転で車酔いを起こす右京とカイト。
だがそんな弱音を吐いている暇はない。
既にこの施設の内部では
あの恐ろしい呪いのビデオとそれに山村貞子に関する研究が行われている。
その行いを一刻も早くやめさせなければならないのがここへ来た目的だ。
172 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/21(水) 10:37:16.84 ID:EAF0Yir90
「それで守衛をどう突破しますか?見たところ警備の人間がいるようですよ。」
これだけ厳重な警備を固めている施設だから当然門番の人間が配置されている。
それを突破する方法はどうすべきか?
さすがの右京もここまで辿り着くことばかりを優先してそのことを疎かにしていた。
いくら警察といえど防衛省の施設を相手に正面突破を行うのは自殺行為に等しい。
しかしこのまま手を拱いているわけにもいかないわけだが…
そんな時、右京はあることに気づいた。
「あの警備員ですがうつ伏せになっていませんか?」
「本当ですね。まさか居眠りしてるんじゃ…」
右京の言う通り、門番の警備員はうつ伏せでになっていて何かがおかしい…
試しに警備員のところに近付いてみることにした。
一歩ずつ忍び足で気取られずに…そしてようやく近づいてみると…
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