右京「呪いのビデオ?」修正版

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 10:38:15.09 ID:EAF0Yir90


「死ん…でる…」


「しかもこの死に方は!」


「間違いありません。吉野さんや小宮さんと同じ死に方です!」


そこにはあの吉野や小宮と同じく恐怖に引きつった死に顔の警備員たちの死体があった。

どれも死後数日は経過したモノばかり。

だが何故こんなことになったのか?

気になって周囲を調べてみるとそこにあるモノが置かれていた。


「これは監視カメラの制御装置ですね。」


「これで外に設置されている監視カメラの映像を見るわけですね。
けどこれといって特別なモノというわけでもありません。こんなモノが死因になります?」


そんな疑問を抱く神戸。

だがこの監視カメラの映像が映し出されるモニターを見て右京はある結論を見出した。

そしてそのカメラのスイッチを切ると同時に神戸に対してある指示を出した。


「神戸くん、キミは今すぐこの場を離れてください。」


「そんな…
お言葉ですが僕だってここへは覚悟を決めてきました。
そう簡単に引き下がることは…」


「いえ、そうではなく応援を呼んでほしいのですよ。
死体が出た以上、これは殺人事件として警察の捜査を入れることができます。」


右京が指摘するように死体が出た以上は

いくらこの施設が防衛省の管轄下とはいえ警察の捜査が入ることが出来る。

それなら携帯で通報すれば十分だと言うが

生憎、この場所は携帯の圏外区域。

応援を呼ぶにしても携帯の利用範囲に行かなければ呼ぶことが出来ないわけだ。


「外部の電話線もどういうわけか切れています。
ですから神戸くん、車を所持しているキミに応援を呼んでほしいわけです。」


「けど…それじゃあ…杉下さんとカイトくんは…?」


「僕たちはこの施設にいる生存者を探します。一人くらい生きていればいいのですが…」


「俺たちのことはいいから急いで応援を!」


神戸は少し考えた後、すぐに思考を切り替え右京たちにこの場を託す選択肢を取った。


「わかりました。
近くの所轄に出動要請した後すぐに戻りますからそれまで無事でいてください!
それと…後輩くんもな!」


そんな先輩風を吹かしながらカイトの頭をポンと叩く神戸。

それからGT-Rに乗り込むと携帯の圏内を目指して猛スピードで走り去っていった。
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 10:39:59.40 ID:EAF0Yir90


「神戸さんですけどあれってわざと逃がしたんですか?」


「ええ、彼はまだ呪いのビデオを見ていない。
そんな彼を死の呪いに巻き込むわけにはいきませんからねえ。」


「そうですね。たぶん警備員たちが死んだのも…」


二人が警備員たちの死を察した時だ。

モニターからザザッと雑音が流れた。見るとそこには奇妙な映像が流れている。

それは恐らく呪いのビデオの映像。

これまでは早津の絵のみで実物は見ることはなかったが

それがどういうわけだかこうしてモニターに映し出されていた。


「なるほど、彼らが死んだのはやはり呪いのビデオの映像を見たせいですね。」


「けど…何でこれが流れているんですか…?」


「それは恐らく諸悪の根源がこの施設で復活の時を待ち望んでいるからですよ。」


門を潜り抜け、施設に入る右京とカイト。

これは罠かもしれない。

だが二人には残り時間が差し迫っていた。

これが罠であろうとこの施設に立ち入る以外に方法はない。

残り時間はわずか…

右京たちはこの施設の何処かにある山村貞子の怨念が封じられた井戸を目指した。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 10:40:34.12 ID:EAF0Yir90


9月1日 PM20:00


「警察です!助けに来ました!」


「生き残っている人は返事をしてください!」


研究施設に入った右京とカイトはなんとか生き残りを探そうと必死に生存者に呼びかけた。

だがそこにはこの施設で働く職員たちの死体の山しかなかった。

どうやら来るのが遅かったらしい。

恐らく片山雛子が連絡を取った時点で既にこのような事態に陥っていたのだろう。


「ダメですね、生存者は確認できません。
しかも全員急性心不全、しかも全員あの恐怖に引きつった死に顔をしてますよ。」


「つまり全員が山村貞子の呪いを受けてしまったわけですか。」


この施設の職員の全員が例外なく呪いによって死亡していた。

何故こんな事態になっているのか?

山村貞子の力を制御しようとしたその代償なのか?

そんな時だった。この施設の奥に進むとある部屋を発見。

そこは得体の知れない機材が置かれており、さらには膨大な資料で埋め尽くされていた。

その資料の中には勿論、山村貞子の生前の経歴が記されていた。
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 10:43:44.98 ID:EAF0Yir90


******************


1950年、山村志津子は娘の貞子を出産。
父親は伊熊平八郎であるが妻子持ちであるため婚外子。


******************


1956年、伊熊平八郎が志津子の能力を公開実験。
その際に記者が一名死亡、我々はこれを貞子による仕業と断定。
貞子の能力はこの時点で開花したと予想。


******************


同年、三原山大噴火。
母親の志津子は死亡、原因は自殺。
志津子には精神障害の気があった模様、恐らくそれによる影響。
しかし貞子の影響もあったのではと考えられている。


******************


1962年、貞子が通う小学校で遠泳の授業アリ
その際に同級生の子供たちが全員水難事故により死亡。
この事故の原因が貞子にある可能性大。


******************


1968年、劇団飛翔に入団。
舞台仮面にて主演の座を射止める。
公演時に死者が発生、その後劇団員たちと共に貞子の消息も途絶える。


******************


1998年、伊豆パシフィックランドにある貸別荘の真下にある井戸にて貞子の遺体を発見。
その後、貞子の研究を行うべくこの地にてProjectRINGを開始する。


******************


以上が貞子の出生と経緯に纏わる記述だった。

この事実は概ねこれまで右京たちが調べたことと大差はない。

これで防衛省も長年に渡り貞子を追い求めていた事実が明らかとなった。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 10:44:36.48 ID:EAF0Yir90


「この部屋にある資料…全部山村貞子のこれまでの出生から劇団飛翔や
井戸に閉じ込められるまでの調査資料じゃないですか!
何でこんな物を調べる必要があるんですか…?」


「恐らく防衛省は45年前…いえ、57年前から調べていたのでしょう。
伊熊平八郎の研究、つまり山村志津子や貞子の能力を軍事利用できないかを…
そして15年前に起きた呪いのビデオによる事件、全て調査したようですよ。」


「けどこんなに調べてどうする気なんだ?」


「呪いのビデオを制御、
そして強化を図ろう山村貞子のルーツを探ったのでしょう。
しかしそれは失敗してこのような大惨事を招いたようですが…」


貞子に関わった者たちは例外なく悲惨な末路をたどる。

この惨状がまるでそのことを物語っているようだ。

しかしだからといってここまできて引き下がるわけにはいかない。

これ以上この惨事が広がらないためにも一刻も早く貞子の呪いを解く必要がある。

そんな時だった。


((ガシャッ!))


この死体の山で溢れかえっている室内に金属の音が響いた。

どうやら先ほどの響音は施錠されたロックが解除された音らしい。

見ると電子ロックされていた奥の部屋の扉が開かれたようだ。


「これってまさか…」


「どうやら貞子が僕らを招いているようですね。行きましょう。」


恐らくこれは罠かもしれない。

だがこの状況で引き返すことはもう出来ない。

たとえこれが罠であろうと進むしかない。

まさに虎穴に入らずんば虎児を得ず。

こうして特命係の二人は貞子に導かれるように扉を開けて奥の方へと進めた。
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 10:51:26.23 ID:EAF0Yir90


9月1日 同時刻


同じ頃、右京たちと別れて応援を要請しようと携帯の圏内に出た神戸だったが…


「おかしいな。何で繋がらないんだ?」


携帯の電波は立っているのにそれでも連絡が付かなかった。

既に右京たちと別れてからかなりの時間が経過している。

一刻も早く応援を連れて戻らなければならないのに

こんなところでグズグズしている暇はないのだが…


「何だ…?」


ふと、奇妙な気配がした。

まるで誰かの視線を感じるようなモノだ。

視られている。思わずそう身構えてしまうが…

しかし周囲を見回すと誰もいない。

やはり気のせいかと思い引き続き携帯を操作していると…


((ザ…ザ…ッ…ザ…))


車に搭載されているカーナビの画面に突如ノイズが走った。

そんな馬鹿な…

このカーナビが不調になったことなど一度もない。それなのにどうして?

すぐにカーナビの不調を確かめようと画面に顔を近寄せた時だ。
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 10:52:13.03 ID:EAF0Yir90


「うぐっ!?」


突然息も出来なくなるほど苦しみが神戸の全身を駆け巡った。

苦しい…息が出来ない…何で…どうして…?

それでもなんとかカーナビへと目を向けてみせた。

だがそのカーナビの画面には驚くべきモノが映っていた。


「井…戸…?」


そこに映っていたのは井戸。

見覚えのない…いや…そういえば見た気がする…

先ほど、警備員たちの死を目撃した時のことだ。

あの時チラリと監視カメラの画面を見てしまった。

その際に井戸がほんの少しの数秒だけ映っていたはず。

まさかそのせいで…?


「あなたが…山村貞子さんですね…何故こんなことを…」


神戸は画面に映る井戸に向かってそんなことを尋ねてみせた。

何故こんなことをするのかと…?

当然のことだが返事はない。

しかし次の瞬間、恐るべきことが起きた。

180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 10:52:43.54 ID:EAF0Yir90


『あ゛あぁぁ…』


なんと画面から人間の手が出てきた。

それは女性らしきか細い手だ。

その手が自分の頬を触ってきた。その感触は気味が悪い。

何故ならこの手からは人間の体温というか温もりを一切感じないからだ。

さらに指の爪はボロボロ、まるで拷問で引っこ抜かれたみたいな状態であった。

そしてその手が神戸の顔に寄せてきた。


「ハハハ、こんなところが死に場所か…」


最早これまでだ。

死んだらどうなるのだろうか?

それなら未だに後悔を引きずっている城戸充にでも行くべきか。

そんなことを考えていた。

しかし最後に思うことは右京たちのことだった。


「杉下さん、どうか無事でいてください。」


迫りくる貞子を前にそんな事を思いながら…

死を覚悟した神戸はそっと目を閉じた。
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 10:53:51.28 ID:EAF0Yir90


9月1日 PM21:00


「今…神戸くんの声が聞こえませんでしたか…」


「神戸さんの声?気のせいじゃないっすか。」


その頃、右京たちはこの施設の奥へと潜入を試みていた。

そしてようやくこの施設の奥へとたどり着くのだが…


「ここも死体だらけですね。」


「そのようですね。しかしこの人だけは背広姿ですよ。」


この施設にある死体のほとんどが白衣を着た研究職に携わっている者たちばかり。

そんな中、一人だけ背広姿でいた人物。

IDカードを確認してみるとその人物の名は山岸邦光。

この施設で実施されているProjectRINGの責任者であり右京たちが探していた件の人物だ。


「どうやら彼もビデオの呪いを受けて亡くなっているようですね。」


「けど何でみんな死んでいるんですか?
ここにいる連中はビデオの呪いを解く方法を知っているはずですよ。
それなのにどうして!?」


確かにカイトがそう疑問に思うのも無理はない。

何故なら精神病院から岡崎を連れ出したのなら呪いのビデオの謎を解いたはずだ。

それなのにどうしてこんな死体の山が築かれているのか?

それがどうにも解せなかった。


「それは恐らくビデオのダビング自体が真の解き方ではないからですよ。」


そんなことを呟く右京。

ビデオのダビングが真の呪いの解き方ではない?

いや、そんなはずはない。

現に浅川玲子やそれに自分たちに呪いのビデオの存在を教えた早津は

ビデオの複製によって1週間の期限後も生き延びることが出来たはずだ。

そう右京に反論しようとした時だった。
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 10:58:54.40 ID:EAF0Yir90


「アタナ…スギシタサン…?」


誰かが自分たちの背後からか細い声で呼びかけてきた。

馬鹿な、生存者は誰もいなかったはずでは?だが現に声が聞こえた。

それから恐る恐るうしろを振り返ってみると…そこにいたのは…


「ハハ…ヤッパリスギシタサンダ…」


そこにいたのは大柄な男だった。

背はおよそ180センチで

白衣を着ていることから恐らくこの施設で研究職に携わっていたのだと伺えた。

とにかく生存者がいて良かった。

ホッとしたカイトはその男を保護しようと手を差し伸べようとするのだが…


「その男に触れてはいけません!」


「え…でも…生存者ですよ?」


いくらこのProjectRINGに関わっているとはいえ彼はこの惨事における唯一の生存者だ。

それならば保護をするのは警察官としての務めのはずだが…
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 10:59:22.93 ID:EAF0Yir90


「確かに彼は生存者です。しかし彼は…」


「恐らく彼こそがこの惨事の元凶…」


「何故なら彼は小菅彬。
かつてレベル4のウイルスを世に広めようとした張本人ですからね。」


この目の前にいる男こそが小菅彬。

それを聞いてカイトはすぐ身構えてしまった。

見れば焦点の合っていない目つき。

さらに生気のない顔つき。どれを取っても小菅の状態は尋常ではなかった。


「マサカ…スギシタサンガクルナンテ…コレモウンメイッテヤツカナ…」


「御託は結構。それよりもこの惨状について説明して頂けますか。」


いつもは誰に対しても紳士的な右京も

かつて都内で大量殺戮を起こそうとし、

かつての相棒だった亀山薫を危うく死ぬ危険に合わせることになった

小菅に対しては口調がどうにも荒げていた。

そんな小菅も右京の反応を見るなりニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべていた。

そのやり取りを見てカイトは小菅を不快に思った。

この惨事の何がそんなに面白可笑しいのかと…

それから小菅は懐からビデオを取り出しこう呟いた。
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:00:04.37 ID:EAF0Yir90


「ワ…ガ…コ…」


「我が子…なるほど…そういうことですか。」


小菅が呟いた我が子という言葉。それに納得した様子を見せる右京。

かつて小菅はレベル4のウイルスを我が子として大事に扱っていた。

それはまさしく歪んだ愛情。

だがそのウイルスも現在はすべて処分されている。

そんな小菅が我が子と呟いた。それはつまり…


「そのビデオが新しいあなたの子供ですか。」


「ビデオが子供…そんな…」


最早カイトには理解出来る範疇ではなかった。

このビデオは大量殺戮の道具だ。

それを愛でているこの男は単なる異常者でしかない。

小菅を前にして嫌悪感を募らせるカイト。

右京がこの男に対して嫌悪感を抱いても無理もないことだとようやく理解した。


「小菅彬!お前を逮捕する!」


そんな小菅の腕を取り押さえて逮捕しようとするカイト。

だがそうはならなかった。

小菅はカイトに取り押さえられる前に逆にその身体を吹っ飛ばしてみせた。


「うわっ!?」


瞬く間に吹っ飛ばされるカイト。

その怪力はあまりにも常人離れしていた。


「キミハヒドイナ。ボクハオンビンニススメタイノニ…」


「ふざけんなよ…これのどこが穏便だよ…」


「マッタクウルサイナ。コレダカラニンゲンハ…」


そんなカイトを煙たがる小菅。

それから小菅はカイトを無視して右京に視線を移した。

右京もまたそんな小菅に対してあることを質問してみせた。
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:02:38.53 ID:EAF0Yir90


「小菅さん、これはあなたの意思で行われているのですか?」


「ソウダヨ…コレハ…ボクノイシダ…」


「確かにあなたの意思なのでしょう。
しかし気になることがあります。それはビデオです。」


右京が指摘したのはビデオだ。何故媒体にビデオを選んだのか?

今ならDVDなり動画なりいくらでも映像媒体は存在するはず。

それなのに敢えてビデオにする理由は何なのか?


「それは自信がなかったからではありませんか。」


「自信がないってどういうことっすか?」


「確実性が欲しかったからですよ。
異なる媒体で呪いの複写を行いそれが有効なのかという自信がなかった。
だから当時と同じビデオテープを使った。
それは成功して吉野さんと小宮さんの二人は死亡した。」


呪いの媒体を敢えて今時のモノにしなかったことを指摘する右京。

それを聞いて何故そのことに拘るのかと思う小菅。

確かにこんなことを尋ねて何の意味があるのかと思うのも無理はない。

だが本題はここからだ。


「つまりあなたが行ったのは単なる再現でしかない。」


「恐らく研究半ばで行き詰まったのだと思われますが…」


「これが何を意味するのかわかりますか?」


「つまりそのビデオはあなたの子ではない。」


「もしもそのビデオに親が居るのならそれは山村貞子です。」


「あなたは単に真似事をしたにしか過ぎないのですよ。」


それが敢えて当時の再現をした理由だと告げる右京。

その言葉を聞いて小菅に変化が見受けられた。

小菅は自分の足元に倒れている山岸を見下ろした。

かつて拘置所で刑の執行を待つ自分を山岸がこのProjectRINGに誘った理由。それは…
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:03:18.60 ID:EAF0Yir90


【転移性ヒトガンウィルス】


これは呪いのビデオで死んだ人間を防衛省が解剖して判明したことだ。

呪いのビデオにはかつての天然痘ウイルスに似たモノが確認された。

それを彼らは転移性ヒトガンウィルスと名付けた。

ビデオを見た人間はこうウィルスに犯され1週間後に死ぬ。

それが防衛省の下した結論だった。

そしてウィルスの研究を携わっていた小菅が呼ばれた理由は

このウィルスを完全に制御することにあった。

そのことを了承して小菅は研究に携わった。

だがそれはこれまで自分が知っている自然界に居るウィルスとはどれも異なるモノ…

その研究は容易なモノではなかった。

それだけではなく元々歪んでいた心に更なる歪みが生じ始めていた。

山村貞子という女は15年前に自分よりも遥かに優れた殺人ウィルスを作ることが出来た。

だが…自分はどうだ…?

その貞子の猿真似をしているにしか過ぎない。

これでは永遠に貞子を越えられないと…

それから程なくしてビデオを媒体にしたウィルスが完成。

後始末兼口封じに吉野賢三という男の殺害に成功。

この施設の連中はこれで当初の目標をクリア出来たと大いに喜んでいた。

だが自分はそうは思えなかった。これでは単なる猿真似だ。

こんなモノを我が子とは言えない。だからこれを超えるウィルスを作ろうと進言した。


『既に設定値はクリアしている。あとは他の媒体で試せるのか確認出来ればいい。』


そんなことを言われた。

それは小菅のプライドを傷つけるのに等しい言動だった。

そもそもこの小菅彬は常人とはかけ離れた思考の持ち主だ。

彼がこれ以上のウィルスを作れないとなればどうなるのか?

歪んだ思いがある暴挙へと変貌しつつあった。
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:04:03.49 ID:EAF0Yir90


「そしてあなたは呪いのビデオを使ってこの施設に居た人たちを殺し始めた。
その理由はさらなるウィルスを作り出すため。
呪いのビデオを超える我が子とやらを生み出すためだったわけですか。」


「しかしそれを行うには山岸審議官をはじめとする
この施設の研究員たちが邪魔になってきた。だからあなたは彼らを…」


我が子を生み出す。

そのためだけにこの施設の研究員の命を生贄にしてみせたという小菅彬。

それは極めて自己的な理由。情状酌量の余地など無いに等しい。

さて、そんな小菅だが

結局彼の能力を持ってしもてビデオのウィルスを解析することは不可能だった。

つまりこれだけの犠牲を払っても小菅は自らの子を生み出すことは出来ず、

残ったのはこの凄惨な殺戮現場のみとなった。
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:04:28.63 ID:EAF0Yir90


「ソウダ…ボクハケッキョクマタコドモヲツクレナカッタ…」


「ダカラボクハ…サダコニスベテヲササゲタ…」


「イダイナルワガコヲ…ウミダスタメニ…サダコハボクトヤクソクシテクレタ…」


「ソノタメニボクハ…」


それから小菅は意を決したように右京とカイトの襟首を掴み取ると

そのまま彼らの身体を持ち上げてこの施設のさらに奥にある場所…

中央に位置する井戸へとやってきた。


「井戸…やっぱりここにあったんだ…」


「小菅さん…これ以上はやめなさい…あなたは貞子に操られているのです…」


未だ襟首を掴まれ息苦しそうにする右京たち。

しかしいくら苦しもうが知ったことではない。

いや、むしろ楽になるよう開放させてやるべきだ。

この場で横たわっている他のみんなのように…

そう思ったのか小菅は二人を井戸の穴に近づけた。そして…



「 「うわぁぁぁぁぁ!?」 」



小菅彬の手により右京とカイトは井戸の中へ放り投げられてしまった。
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:10:54.59 ID:EAF0Yir90


第6話


―――


―――――


ここはどこだ…?

カイトが目覚めたそこは何処かの古びた街だった。

まるで昭和の時代にタイムスリップしたようなそんなノスタルジーに浸れるような感覚だ。

だが右京ならともかく残念ながら自分は懐古主義など持ち合わせてはいないが…

それでもこの街並みが奇妙なことに変わりはない。

何故なら先程から見回してみてもこの街には人気がまったくない。

だがそんな時だった。カイトの前に立ったまま顔を伏せている4人組の男女を発見した。


「よかった、すいませんがちょっと聞きたいことがあるんですけど…」


恐る恐るその数人に声を掛けてみるが…

何故か返事が返ってこない。大声で叫んだのだから聞こえているはずだが…?

それにしてもこの男女だが背格好からして全員10代後半のようだ。

だが問題は服装だ。この服は今時のモノにしてはかなり古い。

たとえて言うならまるで90年代後半の印象を思わせるモノだ。

仕方なくその4人に触ってみようとするが…


190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:11:34.71 ID:EAF0Yir90


「やめろー!触ってはダメだ!」


突然背後から誰かがカイトに向かってそう叫んだ。

年齢は20代後半〜30代前半くらいの男だ。

その男はカイトの行動を遮ると急いでその場から連れ出した。


「あの…何するんですか!あの4人は…」


「あいつらは岩田秀一、大石智子、能美武彦、辻遥子!
伊豆パシフィックランドで呪いのビデオに触れて死んでしまったヤツらだ!」


それを聞いてカイトはすぐさま彼らの顔を確認した。

その顔は…生気が漂っていないが…確かに資料で見た岩田たち4人だった…

しかし何故15年前に死んだはずの彼らがこの場所にいるのか?

かつて死んだ彼らがいるこの場所は一体どこなのか?カイトは思わずそんな疑問を抱いた。


「ここは…地獄だ…」


「地獄…?」


「そうだ、山村貞子の呪いに触れた者たちが逝き着く場所だ。」


地獄、そう言われてある意味納得ができた。

確かにこの場所は地獄というにふさわしい場所だ。

よく見渡してみると街にいる人々はカイトとこの男以外まるで生気が感じられない。

その原因がこの男の言うように呪いによるものなら…

そんなカイトたちの前にさらなる集団が現れた。

それは…なんということだろうか…

先ほどまで居た施設の死体の群れだ。さらには…
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:12:19.62 ID:EAF0Yir90


「アァ…ケイジサン…」


「オレタチ…シニタクナカッタヨ…」


1週間以上前にマンションで死んだ吉野賢三と小宮までもがその群れの中にいた。

やはりこの世界が山村貞子の創り出した地獄というのは間違いないようだ。


「吉野さん…それに小宮さんも…」


「彼らは山村貞子に殺された亡者たちだ。
呪いのビデオを見てしまったことで今も成仏できずこの世界に閉じ込められている…」


死後ですら貞子に魂を囚われる。そんな悲惨な事態が起きるとは…

そうなると残り時間が間近の自分がこの地獄へ堕ちたのも当然か。

こんなことなら複製を行えばよかったと後悔した時だった。
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:13:02.86 ID:EAF0Yir90


「ドコ…ドコ…ナノ…」


「ヨウ…イチ…」


「ドコニイルノ…?」


目の前をとある女が何かを求めて彷徨っていた。

それはまるで大事な何かを求めているようなそんな感じだ。

しかし何を求めている?

そういえば…さっきこの女はこう言ったような気がする。

陽一と…それではまさか…


「ヨウイチ…ドコ…オカアサン…アナタヲタスケテ…アゲナキャ…」


やはり確信出来た。この女は浅川玲子だ。

15年前、たった一人あのビデオの呪いを解いた女…

その浅川玲子が恐らく息子の陽一を求めて彷徨っていた。

そんな哀れな彼女を目の当たりにしてカイトの脳裏にはある疑問が過ぎった。

何故彼女がここにいるのかと…?

呪いを解いた彼女がこの場にいることはおかしい。

しかしこの場に浅川がいるということは…

その瞬間、カイトはある結論に達してしまった。
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:13:37.52 ID:EAF0Yir90


「そう、呪いはビデオの複製を行っただけでは完全に解けないんだ。」


「でも…どうして…
現に浅川玲子は1週間経っても死ななかったはずだ!
それなのにどうして彼女はこの地獄に堕ちたんだ!?」


確かに浅川はビデオの呪いは解いた。

しかし貞子が仕掛けた本当の呪いからは逃れることが出来なかった。


「何故なら彼女は新たな呪いを生み出してしまったからだ。」


「新たな呪いってなんだよ…?」


「お前は岡崎という男を知っているな。
その男は沢口香苗を見殺しにしたことで新たな呪いに掛かった。
それと同じことが浅川にも起きたんだ。」


それを聞いてカイトは何故浅川がこの地獄に堕ちたのかようやく理解出来た。

つまりどんなに呪いを回避しようとしてもビデオの呪いには必ず犠牲者が付き纏う。

ここである疑問が生じる。

もしも自分の呪いが回避出来たのならそのせいで犠牲になった人間はどうなるのか?

その答えは浅川の周囲を蠢く者たちにあった。


「レイコ…ヨウイチハドウシテ…」


「ナンデ…アナタハ…」


浅川の周りを彷徨く老年の男女。恐らく浅川の父母とみて間違いないはず。

その二人がまるで浅川に恨みがましくまとわりついていた。

そしてこの光景を見てカイトはようやく察することが出来た。

ビデオを廻して犠牲になった者は怨念を抱くのではないか。

そしてその怨念は呪いを移した者に復讐を行う。つまり逃れられない連鎖。

そしてカイトは杉下右京が呪いのビデオの解き方について抱いていた疑問を思い出した。

この呪いの解き方は正しいものではないのだと…

まさにその通りだ。勿論一時的な死は免れるのかもしれない。

だが結局はそれ以上の呪いが募って襲ってくる。つまりビデオはきっかけにしか過ぎない。

この呪いの本質の恐ろしさはそこにあったということがようやく理解出来た。
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:16:33.76 ID:EAF0Yir90


「結局ビデオの複製は
死の呪いを引き延ばしているだけにしか過ぎない。
生き残るためには根本的な解決を行わなければダメなんだ。」


「けど複製もダメだっていうなら…どうしたらいいんですか…」


「貞子の怨念を除去するしかない。だがそれには…」


「けど浅川玲子と高山竜司も貞子の死体を発見して供養したのに
それでもダメだったんですよ!他にどんな方法があるんですか!?」


死体を探して供養することも、それにビデオの複製もダメだった。

そうなるとこの呪いをどうやって回避することが出来る?

こんな見ず知らずの男にまるで八つ当たりでもするかのように訴えるカイト。

だがこれがいけなかったのだろうか。

今まで俯き彷徨っているだけの亡者たちがカイトに襲いかかろうとしてきた。


「もうダメだ。
これ以上お前はこの世界にいれば亡者になってしまう。そうなる前に俺の手を掴め!」


「え…ちょっと…何がどうなって…」


迫り来る亡者たちを前にして狼狽えるカイト。

そして男がカイトの手を取ろうとした瞬間。

男は不思議そうな顔でカイトを睨みつけてこう呟いた。
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:17:06.79 ID:EAF0Yir90


「お前…心に闇を抱えているな…」


男にそのことを問われてカイトは思わず目を反らした。

普通ならこんな時に何をわけのわからないことを言うのかと思うだろう。

だがカイトは自身に向けられたその言葉の意味を察することが出来た。しかし…


「それはここに置いていけ。この闇はいずれお前を不幸にするぞ。」


男がそう言った瞬間、まるで心の中に蠢く何かが腕を伝って抜けていくのが感じられた。

それに伴いこんな状況下で心が不思議なほど冷静でいて穏やかになった。

先ほどまでの恐れや焦りといった感情がまるで何処かへ消えたかのようだ。


「あなたは誰なんですか?どうして俺を助けてくれるんですか!?」


「それはキミが息子の陽一に祖父を殺したという悲しい事実を伝えないでくれたからだ。」


「息子の…陽一…?まさかあなたは…」


ここでようやくカイトはこの男の正体がわかった。

彼は15年前、浅川玲子と共に呪いのビデオを調べていた高山竜二。

恐らく彼もビデオの複製が真の呪いの解き方でないことに気づいたのだろう。

だからこそこのことをカイトに警告した。

そんな高山の招待に気づいた瞬間、目の前が光に包まれ再び意識を失った。

―――――

――
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:17:36.26 ID:EAF0Yir90


…カ…


イ……ト……く……


カ……イ………ト………ん


「カイトくん!しっかりしてください!!」


「ハッ!?杉下さん…ここは何だ?水の中…まさかここは…?」


右京に促されるように意識を取り戻すカイト。

気づくと身体中が濡れていた。どうやら水に浸っていたようだ。

しかしここは何処だ?

周囲が円形の石壁に挟まれたかなり狭い空間に閉じ込められていた。

試しに見上げてみると…その頭上はかなり高い。

これを素手で登るのはロッククライミングの上級者でもかなり困難なそんな場所だ。

しかしここはどこなのだろうか?

カイトは意識を失う前に起きた最後の記憶を辿った。

あの時、自分たちの身に何が起きたのか?そしてようやく思い出せた。


「そうだ…俺たちは小菅彬によってここに突き落とされたんだ…」


「ええ、水がクッション代わりになったおかげでこの高さから落ちても助かったようです。」


「でも小菅はどうなったんですか?」


「彼ならそこにいますよ。」


右京が指した方を見るとそこには先ほどの小菅の姿があった。

どうやら自分たちと一緒にこの井戸に落ちてきたらしい。

何故わざわざ自分から井戸に…?

そう思って小菅を問い詰めようと近寄ったが…
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:20:10.63 ID:EAF0Yir90


「嘘だろ…こいつ…死んでる!?」


「どうやら彼は貞子に操られていたようです。」


貞子に操られていた。

それでようやく小菅の異常な行動に説明がついた。

しかし貞子のことを問われてカイトは咄嗟に腕時計を見て時刻を確かめた。

自分たちが気を失ってからどれだけ時間が経過したのか確かめてみると…


「11時55分…まさかあれからこんなにも気を失っていたのか…?」


この事実に気づいたカイトは呆然とした。

何故なら時刻が正しければ井戸に落とされてから1日が経過してしまった。

呪いの時刻は1週間。あのビデオを見たのは8月26日、そして今日は9月2日。

今日がその当日だ。さらに時刻…

早津が描いた呪いのビデオの絵を見たのがこの5分後の12時ちょうど。

つまり死亡時刻まで残り5分を切っている。
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:20:36.34 ID:EAF0Yir90


「そんな…まだ…謎は解けてないのに…」


「いえ、そうでもありませんよ。真上を見上げてください。」


そう言われて真上を見上げるカイト。

見るとそこにはわずかながら丸い天井の光が差し込んでいた。

恐らく山村貞子がこの井戸の中で最後に見た光。

そしてその後、彼女はこの井戸で闇の中を30年も彷徨い続けていた。


「貞子は30年間、この苦しみを味わった。
なんとかこの生き地獄から抜け出そうと藻掻き苦しんでいた。
壁を見てください。彼女がここを出ようとした痕跡がありますよ。」


右京の言うように壁にはやたらと引っかき傷が付いていた。

そういえば静岡県警で井戸のことを調べた際にもこの事実を聞かされた。

貞子がこの世に復讐しようとした動機。

それはどんな手段を用いても井戸から這い出ること。

そのために貞子はあの呪いのビデオを生み出した。

外の世界で何の不自由もなく光に灯てられた自分たちへの憎しみを募らせて…

これこそが貞子の人々を殺し続けた動機。それがようやくハッキリとした。


「これでビデオに隠されたメッセージの謎はすべて解けました。
さあ、ここに居るのはわかっています。いい加減出てきたらどうですかッ!」


ここは貞子のテリトリーである井戸。この場所に貞子は間違いなく居るはず。

彼女は何があろうと自分たちを殺しに来る。

一体どこからやってくる?この狭い周囲を見渡すカイト。

するとこの井戸内部で変化が見られた。

足元を何かがズルズルと這うようなそんな気味の悪い感覚を受けた。

そしてその得体の知れない何かが集まり黒いモノで覆われた。
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:21:46.92 ID:EAF0Yir90


「これって…まさか…髪の毛…?」


カイトが気づいたがそれは正しく人間の髪の毛だ。

その異様なまでの長髪が形を成してそこから一人の女が現れた。

白いドレスを着た…腰まで伸びた長髪…顔をその髪で覆い隠すようにしているこの女…

二人は直感で悟った。

今まで感じたこともないこの奇妙な感覚、この女こそ貞子だ。


「山村貞子、ようやく会えましたね。」


ようやく会えたとそう告げる右京。

思えばこの1週間、特命係はこの貞子を求めて彼女の縁ある場所を転々とした。

自分たちの命のためとはいえ貞子の生い立ちを知った。

確かにその生い立ちを知れば同情することは出来る。

しかしそのために人を呪い殺すことなど許されるはずがない。


「あぁぁぁぁ…」


そんなことを思っていた時、貞子が不気味な声を上げた。

そして自らの髪で右京とカイトの四肢に纏わりつき次第に彼らを拘束した。

時刻は残り3分、どうやら直接手を下すつもりらしい。
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 11:22:15.20 ID:EAF0Yir90


「クソッ!離しやがれ!」


「まさか僕らの動きを抑えるとは…」


「やばい…杉下さん!時計を見てください!もう残り3分を切りましたよ!?」


呪いの死亡時刻が迫ってきている。

しかしここまできて未だに呪いを解くための方法が見つかっていない。

貞子を供養することもビデオを複製することも呪いを解く真の方法ではなかった。

それでは呪いはどうやって解けばいいのか…?


「ダメだ…どんな方法でも呪いは俺たちに跳ね返ってくるんだ…」


跳ね返ってくる。

思わずカイトが呟いたこの言葉。

それは先ほどの幻の世界で出会った高山竜二とのやり取りで悟ったこと。

確かにこの状況ではそんな弱音を吐いても仕方がないはず。

だがその言葉を聞いた右京はあることを閃いた。


「なるほど、その手がありましたか。
貞子さん、僕らを殺すには少々時間があります。その前に僕の話を聞いてもらえますか!」


今から自分達を殺そうと企む貞子に声をかける右京。

隣に居るカイトもこの時ばかりは何をトチ狂ったことを思わず正気を疑ってしまった。

だがそんな右京の言葉を聞いた貞子は

二人の首に巻きついていた髪の力が弱まりなんとか苦しみから脱することは出来た。

しかしこれは単なる一時凌ぎ、一体右京はどうするつもりなのか?
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 12:44:40.47 ID:EAF0Yir90


「僕たちはあなたについて色々と調べて回ってきました。
どなたも貞子さんについては同じ見解でした。
45年前の貞子さんはとても美しかったと…
劇団に入団して輝かしい将来を手に入れるはずだった。
しかし…それは出来なかった…
いつも彼女の前にはまるで厄病神の如く邪魔をする存在がいた。
それが…あなたですね!もうひとりの『山村貞子』さん!!」


「もう一人の?どういう事ですか!?」


「つまりはこういう事ですよ。山村貞子なる女性は二人いた!
ひとりは母親である志津子さんに似て美しい姿をした女性。しかしもう一人は…
ドス黒く、邪悪な意志を持った…そうあなたの事ですよ。
我々の目の前にいるもう一人の貞子さん!!」


貞子が二人いるという結論を出す右京。

もしも貞子が二人いるのなら…

一方は母親譲りの美貌に恵まれた美女。

反面、もう一人は不気味さと異能な力に悩まされ化物と忌み嫌われた影の女。

そんな二人はこれまでどんな生涯を送ったのか?

それは容易に想像することが出来る。

一方の幸せをもう一方が妬み恨みそして復讐を行った。

それこそが45年前の公演での出来事だ。

あれが影の貞子の力で行われたのならその動機も納得がいく。

つまりあれは嫉妬だった。それも他の誰でもない自分に対する嫉妬だ。

もう一人の恵まれた自分を不幸に堕とすことで復讐を果たそうとした。

だがそれはなんらかの理由で妨げられこうして井戸に閉じ込められることなった。

もしそうだとしたらこれはまさに自業自得としか言い様がない。
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 12:45:15.49 ID:EAF0Yir90


う゛う゛…ぅぅぅ…あ゛…あ゛…あぁぁぁ…



そんな中、この世のモノとは思えない奇妙なうめき声が聞こえてきた。

右京の推理を聞いた貞子が怒り狂っていた。

貞子は未だ彼らを拘束している髪を操り二人を自分の元へと近づけた。


「杉下さん!時刻は…残り10秒!?どうする…どうすれば助かるんだ…」


残り時間5秒前。

それと同時に右京たちは遂に貞子と間近で対面することになった。

その身体は死臭を漂わせており、吐き気を催すほど強烈な臭いが放たれた。


「これが…山村貞子…杉下さん…どうすれば…」


「カイトくん!目を閉じてください!僕がいいと言うまで絶対に開けないでください!」


「え?でも…」


「いいから早く!!」


「わ…わかりました!杉下さん信じてますからね!!」


右京の指示に従い目を閉じるカイト。

言われなくてもこんな不気味な貞子を相手に目を合わす気などない。

それから残り時間が更に過ぎていった。

5…4…3…2…1…

そして遂に右京の死亡時刻に到達した。

それと同時に今まで髪に覆われていた顔を現して凶悪な眼で睨みつけようとする貞子。

その眼から発せられる能力を使い二人を殺そうとしたまさにその瞬間…
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 12:46:27.97 ID:EAF0Yir90


「これを見なさい!!」


右京は貞子の眼にあるモノを近づけた。

それは何かの破片だ。いや、よく見るとそれは鏡の破片。

この破片はかつて大島の山村家で見つけたモノ。それを右京は貞子に押し付けたようだ。


「あ…がぁぁぁあ…!?」


それを見せつけられてなにやら苦しみ出す貞子。

そのおかげで二人の拘束は解けたが

一体これはどういうことなのかカイトにはさっぱりわからなかった。


「時刻が過ぎても俺たちは生きてる。
呪いは解けたんですね!けど…どうして貞子は苦しんでいるんですか?」


「簡単です。彼女の呪いが彼女自身に跳ね返っただけです。」


「跳ね返ったって…まさかその鏡で…?」


「先ほどのキミの言葉で確信が持てました。
僕はずっと気になっていました。
精神病院に入院していた倉橋雅美や岡崎は
『TVから貞子が出てきて殺しに来る。』と言っていましたね。
何故そんな事をするのか?それは貞子が念じて人を殺すことが出来る。
しかしそれは念写と同様に相手を直接見なければならない。
だからTVやガラス等の鏡面を使い直接殺しに来なければいけなかった。
しかしそれが逆にこちらにもチャンスとなった。
高野舞さんからも聞きましたが
15年前彼は水を使って貞子の怨念を水に溶かし出す実験をしていたそうですよ。
何故実験に水を使ったのか?
それは水がすべてを映しだしそして反映させる作用を持っていたから…」


昔からこんなことわざがある。


【人を呪わば穴二つ】


このことわざの意味は誰かを呪い殺せば、自らも相手の恨みの報いを受ける。

恐らく呪いのビデオはこれを利用したモノであるはず。

しかしもしもこのビデオの呪いに盲点があるとするならそれは唯一つ。

つまりこの呪いの大元なる人物たる貞子にも呪いが起きるということだ。

呪いのビデオが世に放たれてから15年。

いや、その前からこの貞子は人を呪い殺していた。

何故その報いを受けなかったのか?そんなはずはない。

呪いのビデオが関わったすべての人間に呪いを与えるのなら

それは貞子自身にも起こり得るはずだ。

その呪いは57年前の公開実験の記者の死から始まり大島の三原山大噴火。

それに45年前の劇団飛翔での呪殺。さらには15年前から始まった呪いのビデオ。

これらの呪いが今ようやくすべて貞子に振り返ってきた。

だからこそ貞子はこうして報いを受けるかのように苦しんでいた。
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 12:48:13.74 ID:EAF0Yir90


「う゛う゛…ギャァァァァァ!?」


跳ね返った自分の呪いに苦しむ貞子。

だが貞子は苦しみながらもその髪で右京を壁に叩きつけた。


「ぐふっ!」


「この…よくも!杉下さん!しっかりしてください!杉下さん!」


そんな右京を必死に呼びかけるカイト。

だが右京は先ほどの一撃で気を失い

その身体は貞子の元へと引きずられる様に連れて行かれた。

右京の身体は貞子の髪に覆われこの井戸のさらに奥へと繋がる水底に誘われていく。


「やめろ貞子!その人を連れて行かないでくれ!
杉下さんにはまだこれからも解決してもらわなきゃいけない事件がたくさんあるんだよ!」


なんとか右京を助けようともがくカイトだがこの髪を振りほどくには人間の力では無理だ。

無理だ。自分の力だけではどうにも出来ない。

こんな時に自分の未熟さ、それに無力さを思い知らされるとは…

そして苦しみから脱した貞子が右京を連れて井戸の底へと深く潜って行こうとした。


「やめろー!俺の相棒を連れて行かないでくれ!!」


連れて行かないでくれ。貞子に対してそう必死に訴えるカイト。

だが貞子は非情にもその言葉に耳を傾けようともせず水の中へ引きずり込んでいく。

もうダメかと思われたその時、そんな訴えに応えるかのように救いの手が差し伸べられた。
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 12:49:00.68 ID:EAF0Yir90


「待て!」


「杉下さんには手を出させないぞ!」


「杉下さんしっかりしてください!」


それは突然の出来事だった。

どこからともなく現れた特殊班の格好をした男たちが現れて

貞子の身体を拘束して右京の身体を取り戻した。


「な…何だ?ひょっとして神戸さんが応援を呼んできてくれたのか!?」


これは神戸が頼んだ応援の人たちが間に合ったのか?

そう思ったが…

しかし駆けつけたのはこの特殊班だけではなかった。


「危ないところでしたね。杉下は無事ですよ。」


もう一人、気を失っている右京の身体担いだ男がカイトの前に現れた。

しかしこの男は先ほどの特殊班たちとはどうも雰囲気が異なる。

この井戸では不似合いな格式ある背広姿で

まるで警察庁次長である自分の父親と同じ官僚のような雰囲気を醸し出していた。
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 12:49:54.56 ID:EAF0Yir90


「あなた方は…もしかして神戸さんが呼んだ応援の人たちですか?」


「神戸?懐かしい名前ですね。
それよりも甲斐さん、杉下を背負って今すぐこの井戸から脱出してください。
脱出するためのロープを用意しました。これによじ登れば必ず上に辿り着けますよ。」


それから背広姿の男は気を失っている右京をカイトに託してそれと同時にロープを渡した。

男の言うようにロープはこの頭上高くどこまでも伸びていた。

これならどうにかして上に戻ることが出来る。

だが問題はまだ残っている。それは貞子だ。

この女をどうにか押さえ込まないとならないわけだが…


「キミたちが登りきるまで我々が貞子を抑えています。
しかしどこまでもつかはわかりません。さあ、時間はありませんよ。急いでください。」


どうやら彼らは自分たちが脱出するまで貞子を阻んでくれるらしい。

一瞬、彼らのことを心配したが

自分たちも長時間水の中にいて疲労困憊で他人のことを心配する余裕がなかった。

とにかくこれで助かる算段は整った。

それにこの人たちの厚意を無碍にすることは出来ない。

今は黙って言うことを聞くしかない。


「本当にありがとうございます。けど最後にお名前くらいは教えてくれませんか。」


「名前…ですか…」


名前を聞かれて一瞬その背広の男は迷った素振りを見せた。

何か名乗れない事情でもあるのかと察するカイトだが…

すると背後で未だに貞子を押さえ込んでいる

特殊班の隊員たちの背中に書かれているロゴを見て背広の男はこう名乗った。


「我々は緊急対策特命係です。」


自分たちは緊急対策特命係と…男はそう名乗った。

まさか自分たちと同じ特命係が他にもいるとは…

こんな事態とはいえ思わずそのことに驚くカイト。

だが時間は迫っていた。驚きつつもカイトはロープを伝って登りだした。


「甲斐さん、杉下のこと…頼みましたよ。」


ロープをつたっていくカイトに男はそんな言葉を伝えてみせた。

そんな男だが希望を託すのと同時に少しながら寂しさを含むような表情が見受けられた。

それはまるで自分にはもう杉下右京を助けることが出来ないという悔い…

そんな想いが感じられた。
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 12:51:01.36 ID:EAF0Yir90


「ハァ…ハァ…杉下さん…頑張ってください…もう少しですからね…」


それからロープを伝って上を目指すカイト。

体力に少しは自慢があるカイトもさすがに右京を担いで登るのはかなりの困難だ。

手が痛い。それに自分も体力が限界に近い。しかし手を休めるわけにはいかない。

急がなければ…貞子が…

そう思い必死に登り上がろうとした時だった。


「う゛う゛…あぁぁぁ…」


それはこれまで聞いたこともないような奇声だった。

聞いただけで背筋がゾッとするような奇声が下から聞こえてきた。

こうなれば泣き言なんて言ってる場合じゃない。

急いで登りきらなければ、そう思った矢先のことだった。


「うぐぁぁぁぁ!!」


貞子がロープを驚く速さでよじ登り

あっという間にカイトの前に立ちはだかりその進路の妨害を行った。


「ドウジテ…アナタタチダケガ…タスカルノ…?」


カイトの顔まで近づいて貞子はそう問うた。

何故あなたたちだけが助かるのかと?

自分はこれまで何度もこの生き地獄を抜け出そうと抗った。

だが今まで誰も自分は手を差し伸べてもらえなかった。

それなのに…どうして…
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:06:54.26 ID:EAF0Yir90


「それは…」


「僕たちが…」


「今を生きる…人間だからですよ…」


「カイトくん!ロープを離してください。それから急いで壁によじ登って!」


右京が目覚めた。

そして右京の指示を聞いたカイトはすぐさまその言葉通りロープを離して壁によじ登った。

その行動を目の当たりにした貞子も二人を追おうとしたが…次の瞬間…


「!?」


ロープがブチッと契れた。

それと同時に貞子は落っこちそうになった。


「イヤダ…マタアソコニモドリタクナイ…」


だが往生際悪く貞子は右京の足に掴まって落下を防いだ。

未だに生にしがみつこうとする貞子。


「イキタイ…イキタイ…ワタシモソッチヘイキタイ…」


その様は最早執念と言ってもいいモノ…

そんな生への執着には恐怖を通り越して哀れみすら感じられた。

だが生を許されるのはこの世に居る人間のみだ。

209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:07:29.67 ID:EAF0Yir90


「既に死者であるあなたに…この世界で生きる資格はありませんよ…」


「ソ…ソンナ…」


右京の非情な一言が貞子の胸に突き刺さった。

それから力尽きた貞子は

右京の足から手を離してしまいその身は再び井戸の水底へと戻っていった。


「貞子が井戸の底へ落ちていった…」


「まるで蜘蛛の糸ですね。
御釈迦様が慈悲で罪人に差し伸べた蜘蛛の糸を
罪人の無慈悲な心の所為で切れてしまう。
結局山村貞子は自分から救いの手を振り払ってしまった。
もしも彼女が一度でも誰かを思いやる気持ちがあれば道は違ったかもしれないのに…」


大勢の人間を犠牲にしてでもこの生き地獄を抜け出そうとした貞子。

しかし人を呪い続けた貞子にこの地獄を抜け出すことは出来なかった。

恨みつらみを抱えたまま、自分だけが報われるなんてことは決して有り得ない。

これだけは誰であれ何物にも変えられない真実だった。
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:09:16.61 ID:EAF0Yir90


「それよりもキミ…大丈夫ですか?手が震えてますよ?」


「だ…大丈夫ですって!俺若いし…杉下さん担いだくらいで根を上げたりしませんから…」


そう強がってはみたものの

これまでの疲労にロープをよじ登ったことでカイトの体力は最早限界寸前までなっていた。

もう限界が近い。息も途切れている。

急がなければ…

なんとしても抜け出なければと気力を振り絞りよじ登ろうとした。


「いざとなったら僕を降ろしてキミだけでも助かりなさい!」


「いいから俺を信じてください!必ず一緒に助かりますから!」


そんな時、天井から光が見えてきた。

どうやら終わりが見えてきたらしい。

あと少し…ほんの少し登れば上に出られる。それなのに…力が出ない…

そんなカイトの手が汗で滑り落ち…

もうダメだ…カイトはなんとか右京だけでも助かればと最後の力を振り絞って

天井まで上げようと試みようとした時だった。
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:10:45.61 ID:EAF0Yir90


「諦めるなー!」


「しっかり!もう大丈夫だ!」


それは二つの手だ。

その手が今にも落ちそうになっていた自分たちの身体を押し上げて井戸から脱出させた。

これでようやく生き地獄から脱することができた。

しかし一体誰が自分たちを救ってくれたのか?

それからすぐにその手を差し伸べてくれた人たちを見るとそこにいたのは…


「右京さん!大丈夫でしたか!」


「キミは…亀山くん…?」


「カイトくんも間一髪だったね。」


「それに神戸さんまで…けど…どうして…?」


そこに居たのは元特命係の亀山薫。それに助けを呼びに行ったはずの神戸の二人だった。

いや、それだけではない。

そのうしろには捜査一課の伊丹、三浦、芹沢、

それに組対5課の角田課長や大木、小松、鑑識の米沢、さらには大河内の姿まであった。
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:12:11.81 ID:EAF0Yir90


「伊丹さん、芹沢さん、三浦さん、それに角田課長や米沢さんまで!」


「みなさん、どうしてこちらへ?」


「それはですね…俺がみんなを説得したんですよ。」


そう、彼らを動かしたのは警察の上層部などではなく亀山の意思だった。

右京たちのことが気になった亀山はあれから警視庁に頼み込みに行き

旧知である捜査一課の伊丹たちや角田課長などに動いてもらった。

ちなみにどうやってこの施設に入ろうとしたのか聞いたら

亀山自身が無断侵入してそれを彼らが咎めて強引に入り込もうとしたとか…

それを聞いて随分と無茶な真似をしたなと右京たちは思った。


「…という訳でしてね。」


「僕も亀山さんに助けてもらったんですよ。」


「助けてもらった?そういえばキミ…妙にボロボロですね。」


「応援を呼びに行こうとしたら貞子らしき女性に襲われましてね。そしたら…」


あの時、命の危機に晒されそうになった神戸を助けたのは

この場所へ駆けつけようとした亀山たちだった。

元々霊感のある亀山だからこそ貞子を追い払うことが出来たようだ。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:17:40.68 ID:EAF0Yir90


「それから僕はみなさんを連れて施設に向かったんですよ。」


「まあ死体が出たとなればもう令状は要りませんからね。
俺が無断侵入する必要も亡くなったんですけど…なんなんですかこの死体の山は?」


「警部殿とカイト以外死体の山だぞ。生きてるヤツは一人もいやしねえ…」


どうやら彼らもこの施設を捜索したらしいがやはり生存者は自分たちだけのようだ。

しかし貞子を撃退したとはいえ未だにこの施設が禍々しい雰囲気が漂っている。

急いで彼らを遠ざけなければその命が危ない。


「それでは鑑識の作業に入ろうかと思うのですが…」


「よし、俺たちも現場の捜査を手伝うぞ!大木、小松、米沢の手伝いしてやれ!」


「はいっ!」


「了解っす!」


「待ってください!ここはいるだけで危険なんです!」


「カイトくんの言う通りです!急いで全員退避して…」


急いで現場を調べようとする米沢、それに角田たち。

しかしその時だった。


((ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ))


施設内に地鳴りが響き渡った。

それはこの施設内部が崩壊する音だ。

それから急いでこの崩壊する施設から退避する右京たち。

こうして井戸のあった研究施設は脆くも崩れ去り、

また貞子に関する調査資料も建物の崩壊と共に消えてしまい

今後、山村貞子のルーツを辿ることは永遠に不可能になってしまった。
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:18:27.18 ID:EAF0Yir90


「まさかこんなに脆く崩壊するなんて…」


「これも貞子の影響なのか?」


「大河内さんこの施設は危険です。今後誰も近づけないように手配してもらえますか。」


「わかりました。すぐ対応しましょう。」


それから至急関係各所に連絡を取る大河内。

こうして貞子の呪いは解かれた。


「これで終わったんですね…」


「さあ、どうでしょうか。」


崩壊した建物を呆然と眺める右京とカイト。

時刻は9月2日のPM12:00を指していた。

眩しい陽射しに照らされて瓦礫で埋もれた研究施設を明るく映し出していた。

それは皮肉にも貞子が求めていた光が差し込むかのような光景だった。
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:21:02.58 ID:EAF0Yir90


第7話


9月2日 PM14:00


「患者さんはもう喋れる状態ではないのですが…」


「それでも緊急の用事ですので、通させて頂きますよ。」


「ちょっと待ってください!まったく!どうなっても知りませんよ!」


2時間後、右京とカイト、それに神戸と亀山の4人は再び南箱根療養所を訪れていた。

その理由はもちろん貞子の父である伊熊平八郎と話しをするためだ。

しかし病室に居た伊熊は既に息も絶える寸前の臨終だった。

だがそれでも彼に話してもらわなければならないことがあった。


「アナタタチハ…サダコハ…ドウナリマシタカ?」


「山村貞子は再び井戸の底へ戻りました。復活する心配はないでしょう。」


「ソウデスカ…サダコ…スマナイ…」


貞子が井戸の底へ戻ったことに安堵する伊熊。

これでもう思い残すことはないとでも思ったのだろうか。

それから右京はそんな伊熊にあることを尋ねた。
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:21:32.01 ID:EAF0Yir90


「伊熊さん、あなたが存命の内に聞いておかなければいけないことがあります。
45年前、山村貞子を井戸に閉じ込めたのは父親であるあなたですね。」


「そんな…あり得ないですよ!」


「そうですよ!貞子は実の娘じゃないですか!?」


「実の娘だからですよ。
これ以上娘の所為で人が死ぬのは耐えられない。そう思ったのではありませんか?」


45年前、貞子を井戸に突き落としたのは父親である伊熊平八郎だと推理する右京。

その推理が正しければ色々な疑問が解ける。

劇団飛翔の団員たちの失踪、もしその時に団員を殺したのが貞子ならある疑問が生じる。

それは彼らの死体処理だ。

団員たちの死体は45年経過した現在でも見つかっていない。

それを井戸に閉じ込められた貞子が処理を行ったとは考えにくい。

だがそれを第三者である人物が行ったとすればどうであろうか?

あの時、それを行えたのは唯一人。父親である伊熊平八郎しかいないはず。


「ソウデス…ワタシガサダコヲイドニトジコメタンダ…」


それから伊熊は語り始めた。

57年前、能力に目覚めた貞子は母の志津子以上の素質があった。

これをどうにかするには貞子をふたつに切り離さなければいけない。

そう考えた伊熊はあらゆる方法を駆使して貞子をふたつに切り離すことに成功する。

一方は母親に似た美しい少女、だがもう一方はドス黒く禍々しい存在…

伊熊はそのもう一人の貞子を伊豆の家にクスリ漬けにして監禁状態にしていた。

そうでもしなければ彼女は間違いなく人を殺そうとするからだ。

しかし、事態は最悪の結果を生んだ…

結局分離したとはいえ善良の貞子の幸せを妬んだ悪意の貞子が尽くその幸せを踏み潰し、

それに怒りを感じた劇団飛翔の団員たちと婚約者を殺された宮地彰子が

悪意の貞子を殺しに乗り込んできた。

貞子は元のひとつに戻り劇団飛翔の団員たちと宮地彰子を返り討ちにした。

もうこれ以上貞子を抑えきれないと思った伊熊は貞子を襲い、

井戸に閉じ込めてしまうという悲しい話であった。
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:24:55.42 ID:EAF0Yir90


「なるほど、やはりそういう事でしたか。
最初にあなたにお会いした時『貞子すまなかった。』と仰ったのでもしやと思いましてね。
それに井戸があった場所ですが元はあなたの邸宅があったと聞いています。
そんなあなたならば貞子を井戸に閉じ込めるのも容易いでしょうね。」


「それじゃあ以前悦子が聞いた女子学生の井戸での噂話は…」


「恐らくそれは『中年の男』つまり当時の伊熊さんが
娘の貞子を殺害しようとして井戸に閉じ込めたのでしょう。
その女子学生が階段を上がれなかったのはもう一人の悪意の貞子がいたから。
貞子の悪意を感じてしまい階段を上がれなかったのかと思われます。」


以上が45年前に起きた劇団飛翔の失踪事件の真相だった。

伊熊はすべて貞子のためだと語った。

本来なら自分は45年前に貞子のあとを追って死ぬべきだった。

だがいざ自殺しようとした時、恐くて出来なかった。

そのせいで45年も生き恥を晒した。

愛人の志津子や娘の貞子は不幸に陥れたのに自分は…


「そんな…アンタ実の娘だろ!何でそんなことをしたんだ!?」


「亀山さん抑えて!重病患者ですよ!」


その話を聞いて思わず伊熊を問い詰めようとする亀山とそれを静止しようとする神戸。

だが何度聞いても答えは「済まなかった。仕方なかった。」を繰り返すばかり。

この45年間、彼はずっとこの罪に苦しんできたはず。

だからといってこの過ちは許されるはずがない。

そんな命の瀬戸際に罪滅ぼしをさせるために右京は最後にあることを問い質した。
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:25:52.80 ID:EAF0Yir90


「最後に聞いておきたいことがあります。
あなたが45年前に劇団飛翔の団員たちと宮地彰子の死体を隠した場所を教えてください。」


「カレラノシタイハ…ワタシノイエノ…ウミノヨクミエルバショニウメタ…」


「何故彼らの死体を隠していたのですか?
あなたは死ぬはずだった。それなら隠す必要などなかったはずですよ。」


「モシカレラノシタイガハッケンサレレバ…
シインニカカワラズサダコガウタガワレルコトニナル…
セメテモノ…オヤゴコロダッタンダ…スマナカッタ…サダコ…」


こうして伊熊平八郎は特命係の4人が見守る中、静かに息を引き取った。

思えばこの男こそすべての発端だったのかもしれない。

伊熊が貞子の…いや…貞子の母親である志津子の能力を見定めなければ…

このような悲劇は避けられたかもしれない。

恐らくそのことを伊熊自身もずっと悩んでいたはず。

だからこそ最後はすべての罪を告白したのだろう。

そんな伊熊を哀れに思いつつ、

特命係は伊熊が最期に遺した言葉に従い遺体の捜索に出向いた。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:28:36.11 ID:EAF0Yir90


9月2日 PM17:00


「ありましたー!白骨死体です!」


「こっちもだ!こりゃ10人くらい埋まってるぞ!」


それから伊熊の証言に従い

伊丹たちとそれに静岡県警との捜査により旧伊熊邸付近を捜索したところ、

伊豆パシフィックランドの海岸付近で男女の白骨死体が大量に埋められているのを発見。

その遺体のすべてが死後45年経過されたモノだと確認することが出来た。


「これで遺体は全部ですね。
飛翔の劇団員たちと宮地彰子さんとみて間違いないでしょう。」


「一応確認取りますけどそうでしょうね。」


「伊熊平八郎は最後に人間として…いや父親としての務めを果たして死んだんですね。」


「そうですね。娘の罪をこうやって告白してくれたわけだし…」


掘り起こされた遺体を確認しながら

最後に伊熊が父親としての行いをわずかばかりに認めるカイトたち。

だが右京はそんな伊熊に対してある疑惑を抱いていた。
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:29:57.46 ID:EAF0Yir90


「果たして彼は本当に山村貞子の父親だったのでしょうか。」


「どういうことですか?」


「そもそもあのような異能の力を持った山村貞子の父親が
何の力も持たない伊熊平八郎だというのが僕には不自然に思えてなりません。
貞子の父親は別にいると考えるべきだと思いますよ。」


「お言葉ですが…
それは貞子や父親の伊熊が死んだ今となっては誰にもわからないことでは…」


「いえ、恐らくですが山村貞子は薄々気付いていたはずですよ。
その証拠に彼女はずっと山村姓を名乗っていました。
彼女は母親の死亡後、伊熊平八郎に引き取られています。
それなのに伊熊姓を名乗らず山村姓を名乗っていたことを考えれば
本当の父親が伊熊平八郎ではないことをわかっていたのかもしれません。」


伊熊平八郎が貞子の実の父親ではない。

もしその考えが正しいのなら…

貞子の本当の父親は一体誰なのか?

そんな疑問を抱いた時、右京は現場に近い海を眺めながらこう呟いた。


「しょーもんばかりしているとぼうこんがくるぞ。」


「それって…呪いのビデオのメッセージですよね。それがどうしたんですか?」


「意味は『水遊びばかりしていると、お化けがくるぞ。』ですが…
僕は最初この言葉に何の意味も無いのかと思っていました。
けれどもしこれが意味のある言葉だとしたら…
貞子の本当の父親は恐らく…海の魔物かもしれませんね…」


海の魔物…それこそが貞子の本当の父親なのだと…

確かに海は昔から人を誘う場所だ。

そしてそれは決まって海に巣食う魔物だと伝えられている。

もしもその話しが真実だとしたら…貞子とは…

右京とカイト、それに亀山と神戸は

荒れ狂う海を眺めながらこの一連の不気味な事件に幕を閉じようとした。
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:35:45.71 ID:EAF0Yir90


だが…その矢先のこと…

そんな右京たちの元へある報せが舞い込んできた。


「あの本庁の方々…もうひとつ遺体発見されたんですが…」


「他にもまだ死体が?場所はどこですか?」


「ここから少し離れた場所です。それも死後45年くらい経っているらしいですが…」


「何で一体だけ離れた場所に埋められてるんだ?」


「たまたま離れて埋めた…わけじゃないよな?」


全員が疑問に思う中、伊丹の携帯に連絡が入った。

連絡の主は参事官の中園からだ。

すぐに全員本庁の方へ戻れというお達しだった。
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:36:14.37 ID:EAF0Yir90


9月2日 PM20:00


「 「馬鹿者ォォォォォォッ!!」 」


「貴様ら特命係には謹慎処分を命じていたはずだぞ!それなのに勝手に捜査しおって!」


本庁に戻ったと同時に内村と中園の怒号が飛び散った。

当然だ。特命係は謹慎処分を受けたにも関わらず命令違反を犯して捜査を続行。

さらには防衛省の施設にまで立ち入るという暴挙まで犯したとなれば

普通ならタダでは済まされないはずなのだが…


「おまけに防衛省の施設に勝手に潜入し大量の死体を発見するとは…
それに何故亀山と神戸までここにいる!?特に亀山!お前は警察を辞めた部外者だぞ!」


「まぁ…成り行きというヤツでして、
なんか現職時代は騒音みたいな
内村部長のお説教も今となっては懐かしささえ感じますねぇ…」


「なんとなくわかりますよそれ。僕もちょっと懐かしいみたいな感じが…」


「誰が勝手に喋っていいと言った!?」


「まったく…
今回の命令違反は明らかに重大問題だと言いたいが…
警察庁の甲斐次長がお咎め無しと言ってきてな…」


「防衛省の秘密を暴いた成果だと言ってきてな。フンッ、甲斐次長に感謝するんだな!」


どうやら裏でカイトの父親である甲斐次長が手を回してくれたようだ。

カイトはそんな不仲の父親に悪態をつくが今回ばかりは一応感謝している様子。

さて、本来ならここで全員退室する流れなのだが…


「内村部長、明日から休暇でしたよね。実はお願いがあるのですが…」


そんな中、右京だけ内村にあることを進言してきた。それは…
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:43:01.58 ID:EAF0Yir90


最終話


9月3日 AM11:00


「何故…」


「どうして…」


「何で…俺が特命係と一緒に大島まで来なければならんのだ…」


それから翌日、特命係は内村を伴って再び大島を訪れていた。


「まあまあ部長、たまの休日をこういう自然豊かな場所で満喫するのも悪くないですよ♪」


「そうですよ。
こうして自然に囲まれたらストレスの胃炎も少しは治るんじゃないんですか?」


「喧しい!せっかくの休日を満喫しようかと思えば
杉下のヤツにこの場所へ同行してほしいとせがまれるし一体何がどうなっておるんだ…
その前にお前たち仕事はどうした!?」


「俺は…まだサルウィンに戻る予定日まで日があるんで…」


「僕も上司の長谷川元副総監とはなるべく顔を合わせたくないんで…」


「神戸さんのサボる理由やべえ…」


さらに同行者として亀山と神戸まで連れ添っていた。

そのせいで内村の胃炎はますます酷くなるばかり。


「カイトくん。僕はちょっと用事があるので一旦別行動を取ります。
みなさんを…そうですね…
先日こちらに来た時に夕食をご馳走になった女将さんの旅館に案内していただけますか。」


さて、その右京だがなにやら所要があるらしく別行動を取ることになった。

代わって迎えに来た陣川が旅館へと案内することになった。
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:49:51.52 ID:EAF0Yir90


「亀山さんお久しぶりです。それにソンくんも!」


「あ、どうも…」


「ソンじゃないんだけどな…」


「ところでそろそろお昼ですよね。
みなさんお腹を空かしていると思って女将さんがお昼ご飯を作ってお待ちしていますよ。」


「オッ、マジっすか!それなら早く行かなきゃ。
そういえばあの女将さんの旅館って名前…まだ聞いてないんですけど何ていうんですか?」


「あぁ、『旅館遠山』って言うんだよ。」


それから全員で先日右京たちがお世話になった女将のいる旅館へ向かうことになった。
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:50:20.33 ID:EAF0Yir90


9月3日 PM12:00


「まあまあみなさんよくいらっしゃいました。お昼ご飯の支度は出来ていますよ!」


「どうも、主人の遠山です。今回は遠路遥々お越しくださってありがとうございます。」


さっそく旅館遠山を訪れたカイトたち一行。

そこでは先日会った女将とそれに夫である主人が快く出迎えてくれた。


「奥さん、それにご主人、お世話になります。」


「どうもすみませんねぇ。いきなり大勢で押しかけちゃって。」


「それじゃお邪魔しま…あれ?」


さあ、上がって用意してくれたお昼ご飯を食べようかと思ったその時だ。

カイト、亀山、神戸の三人がある違和感に気づいた。

それから三人は女将のことを何故かジッと見つめていた。


「あの…私の顔見て何で不思議そうな顔してるんですか?」


「おかしいな?
最初に会った時は何も感じなかったのに…女将さんのことを前にもどこかで見た気が…」


「あぁ、俺も最近どっかで女将さんのことを見たんだよな。」


「実は僕もなんですけど…不思議ですね。みんなして同じことを言うなんて…」


「イヤですよ!若い男たちがこんなおばちゃん相手に口説くだなんて!」


女将はカイトたちの反応に笑って誤魔化すが…

しかしカイトたちは至って真面目に女将の顔を睨みつけるかのように凝視していた。

この女将の顔…誰かに似ている…

それもつい最近どこかで会っているはず。

だがどこで会ったのか?それを思い出せないのだが…
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:50:47.89 ID:EAF0Yir90


「お前たち!いい加減そこを退け!私が入れないだろうが!」


そんな中、業を煮やした内村は

カイトたちが玄関口で立ち止まっているところを強引に押しのけて旅館に入ってきた。

そして女将の顔を見ると、内村はまるで幽霊を見たような真っ青な顔になった。


「あ゛…あぁ…」


「あの部長…どうかしたんですか?」


「まるで幽霊でも見たような顔をしてますよ。」


「ゆ…幽霊…いやまさか…そんな…」


女将の顔を見るなり青ざめた顔を浮かべて動揺した素振りを見せる内村。

先ほどから何かがおかしい。

確かに違和感はある。だがその正体が何なのかがわからない。

一体何がどうなっている?そう疑問に思った時だった。
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:53:33.36 ID:EAF0Yir90


「やはりそういうことでしたか。」


「杉下さん、戻って来たんですね。一体どこへ行ってたんですか?」


「この近隣にある小学校です。恐らく50年前に山村貞子が通っていた学校です。」


山村貞子の通っていた小学校と聞き思わずこの場にいる全員が驚きを見せた。

何故まだ貞子のことを調べる必要があるのかと疑問に思ったのだが…


「けど事件はもう終わったはずじゃないですか。今更何を調べるんですか?」


「先日僕たちはあの防衛省がProjectRINGを行っていた施設に立ち入りました。
ですがひとつだけ気になることがあります。それはある矛盾についてです。」


矛盾、右京の口から出たこの一言にカイトは首を傾げた。

そんな…この事件において何も矛盾なんてなかったはず…

それなのに何の矛盾があるのかと疑問を抱いた。


「水難事故。その記述があったことを覚えていますか。」


「そういえば…貞子が小学生の頃のことでしたよね…」


それはあの施設に入った時に判明したことだ。

小学生時代、貞子の同級生は水難事故に遭遇。貞子以外は全員死亡したとのこと。

この事実だけ聞けば確かに貞子の怪奇さを物語ることが伺える。

だがそんな中でカイトだけがこの話しに違和感を覚えた。
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:54:03.89 ID:EAF0Yir90


「あれ?おかしいっすね。今の話しが確かなら…
女将さんって山村貞子と同級生のはずですよね。何で無事なんですか?」


カイトは女将と最初に交わした会話を思い出した。

確かこの女将は自分が山村貞子と同級生だと自分たちに教えていた。

だがこの話しには疑問がある。

もしも女将が貞子と同級生なら50年以上前の水難事故で死亡しているはず。

それなのにこうして無事でいるということは…


「先ほど小学校で確認を取りました。あの水難事故で生存者は山村貞子一人だけ。
当時彼女と同級生だった人間は全員死んでいます。
つまり山村貞子に同級生なんていないんですよ。」


その言葉に女将は動揺を隠せずにいた。

つまり女将は右京たちに対して嘘をついていたことになる。

だがここで疑問が生じる。何故そんな嘘をつく必要があったのかだ。


「けど…女将さんは何故そんな嘘を…?」


「その疑問を解くにはまず女将さんの名前を知るべきです。
女将さん、それにご主人。あなた方の名前を教えてはいただけませんか。」


そういえばと気づいたがまだこの二人の名前を聞いていなかった。

しかし名前を教えて欲しいと聞かれて女将は狼狽えだした。

何故ここまで狼狽えるのか?

それから主人がなにやら妻の女将に声をかけている。

ボソボソと話しているが恐らく「心配するな。大丈夫だ」とでも言っているのだろう。

そんな主人に促されて女将はようやく自分の名前を名乗った。
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:55:23.72 ID:EAF0Yir90


「私は遠山悦子。旧姓は…立原悦子といいます。」


「アンタが…立原悦子だと…?馬鹿な…アンタは…!?」


女将は全員の前で自らの名を明かした。

だがそれを聞いた内村は困惑していた。それにカイトもだ。

何故なら立原悦子といえば劇団飛翔のスタッフだった女性だ。

それにこの旅館の名前は遠山ということは…

この旅館の主はつまり同じく飛翔で音効を担当していた遠山博ということになる。

まさか当時の飛翔関係者が夫婦としてこの貞子出生の地で旅館を営んでいたとは…

だが何故女将はこの大島で…それも山村貞子の同級生だと嘘をついていたのか…?


「昨日、我々は伊豆パシフィックランド跡地…
いえ…旧伊熊邸付近で大量の遺体を発見しました。
それは45年前に謎の失踪を遂げた劇団飛翔の劇団員たちと宮地翔子のモノだと判明した。
ですがそんな中でひとつだけ身元不明の遺体が他のモノとは離れた場所で発見された。
この事態をどう思われますか?」


そのことを聞かされて夫婦は困惑した表情になっていた。

右京の推理に次第に追い詰められていく夫婦。

この反応からして二人は45年前の事件になんらかの関わりがあることは間違いない。

だがそれはどんな関わりなのか?


「この大島に来るまでずっとこのことが気になっていました。
何故その遺体だけ他のモノと離れた場所に遺棄されたのか?
考えられる理由は何か?それを推理した時、ある答えにたどり着きました。
それは誰かがその遺体の人物と入れ替わったのではないかということにですよ。」


それが右京の導き出した答えだ。

だがそれでは誰が誰と入れ替わったのか?それに入れ替わる理由はなんなのか?

その背景を推理してみせた。
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:55:49.75 ID:EAF0Yir90


「その理由は入れ替わる側になんらかの特殊な事情があったからだと考えられます。
そしてその理由とは何か?
ここで注目すべきが45年前に劇団員たちが失踪する前に起きた公演での出来事です。」


「45年前、舞台の公演で人が死んだ。
それから劇団員たちは伊豆の旧伊熊邸に乗り込み悪意ある貞子を殺害しようとした。
問題はこの前後です。
もう一人の公演を行っていた善意の貞子はどうだったのでしょうか?
以前から疑惑のあった貞子のせいで公演中に人が死んだ。
その様を見て劇団員たちはどのような行動に出たのか。
ひょっとしたら貞子は劇団員たちに襲われたのではありませんか?」


それは考えられる可能性だった。

45年前、公演中の悲劇から旧伊熊邸に乗り込むまでの間は

当事者たちにしか何が起きたのかわからない空白の時間があった。

その間に何が行われたのか?

恐らく善意の貞子は劇団員たちから逆襲を受けた可能性が高い。

しかし劇団員たちはその逆襲を終えても怒りが収まらなかった。

だからこそ逆襲を終えた直後に旧伊熊邸に乗り込み悪意の貞子を殺害しようとした。

だが結局は返り討ちに遭い全員が死亡するという結果に終わってしまった。


「お言葉ですが…それがどう関係するんですか…?」


「ここで当時の貞子の人間関係を取り上げてみましょう。
45年前、貞子に関わった人間が様々な思いを巡らせていました。
劇団員たちは立て続けに怒る不可解な死について彼女を疑った。
宮地翔子は婚約者を殺された恨みを晴らそうと貞子の殺害を企てていた。
つまりあの当時、殆どの人間が貞子に悪意を抱いていたことになります。」


「ですがそんな中で唯一人、貞子を守ろうとした人間がいた。
それが当時の劇団で貞子を庇っていた遠山博さん。あなたですね。」


この旅館の主である遠山の前で貞子を庇っていたのでは推理する右京。

しかしその事実が一体何を意味するのか?


「それではここで当時の出来事を整理しましょう。
45年前、貞子はもうひとつの半身が尽く相手を殺害したことによりその命を狙われていた。
この先も誰かに命を狙われ続けなければならないのか?
そんな不安に駆られた時、ある行動に出たのではありませんか。」


「それじゃあ…この人はまさか…」


「そうか…だから僕たちはこの人に見覚えがあるのか!」


「俺なんか二度も会ったしな!」


右京の推理にカイト、神戸、亀山の三人もまたこの事件の真相にたどり着いた。

そう、答えは既に彼らの目の前にあった。

そして右京はある人物の前でこの45年間隠されていたある真実を告げた。
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 14:58:15.52 ID:EAF0Yir90






「女将さん、あなたは45年前に亡くなった立原悦子と入れ替わった山村貞子ですね。」




232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:06:48.12 ID:EAF0Yir90


それがこの45年間隠されてきた真実だった。

この真実を告げられて女将は何も言わず俯いたままだ。

恐らく気が動転して何も言えないのだろう。

そんな女将を庇うように主人が右京の推理にこう反論した。


「ま…待ってください!
確かに私たちは45年前に劇団飛翔のスタッフでした…
だからといってそんな…入れ替わるなんて…証拠はあるんですか!?」


「証拠ならあります。こちらの内村部長です。」


かつて内村は劇団飛翔でアルバイトを行っていた。

その時に貞子を目撃していた経緯がある。

それは先ほどの反応からして

45年経った今でも彼女の顔を覚えているほど印象に残っていた。


「内村部長は45年前に学生アルバイトで飛翔に出入ってました。
内村部長、お尋ねしますがこの女将が山村貞子で間違いありませんね。」


「ああ、間違いない。
あれから45年過ぎたが彼女の顔は忘れたくても忘れられんよ。
女将さん、アンタは間違いなく山村貞子だ。」


それはまさかの誤算だった。

45年前の関係者など既に自分たち以外この世には存在していないと思っていたはず。

しかし過去というものはどんなに隠そうとどこからか綻びが生じる。

最早この真実は隠すことなど出来ない。

そう思った女将はご主人の静止を振り切り、右京たちの前でその正体を明かした。
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:07:14.12 ID:EAF0Yir90


「ハイ、私が山村貞子です。」


「やっぱり女将さんが貞子なんですね…」


「けど何で彼女は生きてるんですか?」


「そうですよ。彼女は45年前井戸に閉じ込められたはずじゃ!?」


遂に自らの正体を明かした女将。

自分が山村貞子という事実を認めた。だがそれと同時にある疑問が生じた。

それは45年前井戸閉じ込められた貞子が何故こうして無事でいるのか?

これでは伊熊平八郎が今際の際に遺した証言と食い違いが生じる。

これはどういうことなのか?

その疑問を解決すべく右京はこの事件のもう一人の当事者にこう質問した。
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:10:07.02 ID:EAF0Yir90


「ご主人…いえ…遠山博さん。あなたはこの答えをご存知のはず。話してもらえますか。」


「………わかりました。すべてをお話しします。」


最早この状況から逃げられないと悟った遠山は覚悟を決めた。

それから45年前に起きた出来事を語りだした。

それは飛翔の劇団員たちが旧伊熊邸に乗り込んだ時のことだ。

遠山は密かに貞子と共に逃げた。

しかし悪意の貞子が追ってきて二人はひとつとなり劇団員たちを惨殺。

本来なら遠山もその場で死んだはずと思っていたが…


「気が付くと何故か私だけが生き残りました。
恐らく貞子が私を悪意から守ってくれたのだと思ったのです。
それから貞子を探していたらある光景に出くわしました。」


それは父親の伊熊が貞子を井戸に突き落とした光景だ。

それから伊熊が井戸を離れた後、すぐに遠山は井戸に閉じ込められた貞子を救ってみせた。

だがここである問題が起きた。


「井戸に閉じ込められた私は蓋を閉められてもうダメかと思いました。
けどそんな時主人が助けてくれて…でもそう簡単には行きませんでした。
もう一人の私が現れて井戸から抜け出そうとしたんです。」


「私はこれ以上もう一人の私に罪を重ねてほしくないために力いっぱい抵抗したら…」


「貞子は再び…二人に分かれました…
私たちはもう一人の貞子を井戸に閉じ込めました。
それからすぐにその場を立ち去ろうとしたのですが…」


現場から立ち去ろうとした二人はある光景を目の当たりにした。

それは伊熊が飛翔の劇団員たちの死体処理を行っていた。

次々と地中深くに埋められていく死体。

そんな中、二人はある女の死体に注目した。それが立原悦子だった。
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:10:34.01 ID:EAF0Yir90


「私は思いました。
このまま貞子が生き延びても宮地彰子のような連中が貞子に纏わりつくんじゃないかと…
そこで貞子を社会的に死んだ事にして誰かと入れ替えればいいのではと考えました。
その時、悦子と貞子を入れ替わらせたんです。」


「悦子さんは私と同年代の女性で歳も近かったから誤魔化すのは簡単でした。」


それから伊熊が死体を全部埋めた後で二人はもう一度立原悦子の死体を掘り起こした。

貞子が彼女と入れ替わるためにその証拠となるものを処分するためだ。

こうして貞子は立原悦子に成り代わり45年間誰にもバレることもなかった。


「なるほど、しかしわかりませんね。
あなた方は入れ替わったにも関わらず、
何故山村貞子に縁があるこの島で今も住んでいるのですか?」


「私たちはその後20年以上各地を転々としました。
しかしあの日の事が頭から焼き付いて離れないんです。
私が島を離れなければあんな惨劇は起こらなかったはずなのに…」


「それで私と貞子はこの島に戻ってきたんです。正体がバレるのを覚悟で…」


「ですが…不幸中の幸いな事に私の同級生は事故で死んだため誰もいなくて…
この島で唯一の肉親である叔父も
普段は滅多に家から出なかったので誰も私が山村貞子だと気付かなかったわ。」


かつての事件の罪悪感からこの島へ戻ってきた貞子と遠山。

確かにいくら悪意の貞子による犯行だったとはいえ

その行為を半身の貞子が止められなかった罪悪感は相当なモノにちがいないはず。

それを想う気持ちもわからなくもない。

そしてこの罪悪感という言葉に右京はもうひとつある事実に気づいた。
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:11:06.74 ID:EAF0Yir90


「罪悪感、つまり立原悦子に成りすましたのもその感情が理由ですか。」


「え?それってどういうことですか?」


「45年前の公演の妨害を行い悪意の貞子を煽ったのは立原悦子ということですよ。」


それは当時その場にいた内村も目撃した奇妙な光景。

わけのわからない音が壇上で流れていたことだ。

あれはスタッフの誰かでないと機材を操作することが出来ないはず。

それに内村の証言だと当時立原悦子は貞子に悪意を抱いていた。

もしもそれを立原悦子が行ったとすればその行為にも納得がいった。


「当時悦子さんは…夫に片思いを寄せていました…
だから夫と親しくしていた私に嫉妬してやったのだと思います。」


どうやら立原悦子は当時遠山博に恋愛感情を抱いていたらしい。

恐らくそれを宮地翔子に利用されてあのような行動に出たようだ。

だが立原悦子はそのことに罪悪感を抱いていたらしい。

それ故に彼女は劇団員たちから二人を逃げるように促したらしいが…


「だからあなたは立原悦子を演じたのですね。結局立原悦子は悪意ある貞子に殺害された。
それを不憫に思ったあなたは
せめてもの償いに立原悦子を演じることで彼女がご主人と結ばれたことにさせた。
本質は貞子であるあなたとですが…
戸籍上ではご主人の遠山さんと立原悦子が結婚したことになっている。
それが自分に出来るせめてもの罪滅ぼしと思ったわけですか。」


貞子が立原悦子を演じていた本当の理由。

それは報われなかった悦子の恋を戸籍上で叶えさせること。

何も知らない他人からすれば異常とも思われる行動かもしれない。

だが他に方法はなかった。この事件を公にすることは出来ない。

もしもそれを行えば井戸に封じられた悪意ある貞子が目覚めて再び惨劇が繰り返される。

そのために45年前の犠牲者たちの遺体も放置せざるを得なかった。

そして当初右京たちに自分が貞子の同級生と嘘をついたのも

立原悦子に対して歪んだ友情を感じたからだ。

最後は自分を助けてくれた、

もしかしたら出会いを間違えていなければ友達になれたかもしれなかった女性。

そのために敢えて貞子の同級生と嘘ぶいたのかもしれない。

だが貞子の関係者と嘘ぶいたのはそれだけが理由ではなかった。
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:11:36.31 ID:EAF0Yir90


「この45年間、正体を知られるのかもという不安がありました。
けどそれ以外は幸せな日々を送れました。
あの事件から山村貞子としての呪いがまるで断ち切られたかのように幸せだったわ。」


「ですが15年前、その平穏は破られた。
悪意ある貞子が井戸の底から呪いのビデオなるモノを作り出し世に放った。
そのせいであなたは再び罪悪感を覚えた。」


かつてこのビデオの謎を追うために浅川玲子と高山竜二はこの島を訪れた。

しかし二人は貞子に関わったばかりに死んでしまった。

だからこそ次にこの島を訪れた者たちに貞子に関わるなと警告を促した。

それこそが唯一自分が行える贖罪であるかのように…


「自首します。これ以上あなたたちを欺くことは出来ませんから。」


右京たちにすべてを暴かれた貞子は自首を決意した。

この45年間欺いてきた罪を思えばそれも致し方ないことだ。

だが最後に右京は貞子にあることを頼んだ。
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:21:23.76 ID:EAF0Yir90


9月3日 PM15:00


「あなたたち…また…」


「奥さん落ち着いて!今日はお話を聞きに来たわけじゃないので!」


右京たちは貞子を連れて再び山村家を訪れていた。

全員が山村家に入ろうとする中、唯一人この家に入ることを躊躇する貞子。

それもそのはず、恐らく貞子は大島に戻ってからこの家には絶対近寄らなかった。

その理由は自分の正体を感づかれたくなかったことにある。

それにもうひとつ理由もある。それは…


「お母さん!」


そんな貞子だが何かに気づいたかのようにある部屋へと走り出した。

右京たちも急いであとを追うがそこはかつて使われていた志津子の部屋。

その部屋で霊感の強い者たちは志津子の幽霊を目撃した。


「そんな…母がどうして…?」


「恐らくこの世になんらかの未練が残っているのではありませんか。
きっと娘のあなたのことを心配していつまでも成仏出来ずにいるのかもしれません。」


かつて母の志津子は三原山の火口に身投げした。

当時子供ながら貞子自身も母の死を間近で目撃していた。

まるで自分の命を生贄にこの大島の怒りを…

いや…もう一人の悪意ある自分の怒りを鎮めようとした志津子。

その霊が今も尚この家を彷徨っていると知り居た堪れなくなった。
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:21:53.21 ID:EAF0Yir90


「貞子さん、お母さんを成仏させてください。それが出来るのは娘のあなただけです。」


「けど私の力は45年前にもう一人の私と分かれた時になくなってしまったわ…」


45年前、あの惨劇の後で再び分かれた貞子は異能の力を失った。

あれから普通の人間になった自分が母に何をしてやれるのか?

そんな不安を抱く貞子に亀山、神戸、カイト、の三人はこう告げた。


「力なんて関係ありませんよ。
あなたがお母さんを成仏させたいっていう願いがあればそれで十分なはずです!」


「僕もオカルトには詳しくないですけど…親子に超能力なんて関係ないでしょう。」


「いざとなったら俺たちが付いてますから安心してください!」


力は関係ない。

娘として母親に一言声を掛けるだけで十分だと…


「お母さん。お久しぶりです。私…貞子だよ…」


「うん、あれから大島に戻ってきたの。」


「ねえ、お母さん。私…今…幸せだよ…」


「好きな人とも結婚できた。子供も出来てそれに孫だって…」


「うん、夢は叶えられなかったけど…それでも人並みの幸せは得られたわ。」


「私はもう平気だよ。だから安心して。」


「お母さん、今までありがとう。」


貞子が話し終えると何かがこの部屋から抜け出た感覚が走った。

恐らくこの部屋に囚われ続けていた志津子の霊が成仏したようだ。

霊感の強い亀山やカイトなどは志津子が穏やかな顔で消えていったと話した。

それを聞いて和枝もようやく憑き物が落ちたことで安堵することが出来た。

こうして長年山村家に付き纏っていた禍々しい想いは祓われた。
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:23:27.33 ID:EAF0Yir90


一ヶ月後―――


「これより城南大学演劇部の公演を開催致します。」


あれから一ヶ月の時が過ぎた。

その日、城南大学演劇部による舞台仮面の公演が行われた。

その観客席には右京とカイトの姿があった。

中には内村部長の姿もあったがそれはこの際どうでもいい。

ところで何故彼らが大学の舞台を観に来たのか?

それは舞台裏にいる一人の女性が主な理由だ。


「まさか貞子さんがこの公演のアドバイザーを買ってくれるなんて思いませんでしたね。」


「いえ、そうでもありませんよ。
45年前の公演は事故により中途半端な形で終えてしまいましたからね。
彼女自身も未練を抱えていたはずです。」


実はあれから右京たちは貞子に頼んで

この城南大学演劇部のアドバイザーを引き受けてほしいとお願いした。

貞子も青春の思い出をあんな形で終わらせたくないとこうして請け負ってくれた。

ちなみに観客席には夫の遠山、それに高野舞や浅川陽一などあの事件の関係者も観ていた。

彼らも様々な思いを巡らせながらこの舞台を観ているのだろう。
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:24:04.75 ID:EAF0Yir90


「結局、45年前の事件について貞子さんは不起訴になったわけですね。」


「元々あの事件は時効が過ぎていましたからね。
それに飛翔の劇団員たちを惨殺したのは悪意ある貞子の方でした。
善意ある彼女を今更裁くことは出来ませんよ。」


45年前の事件を発覚したまでは良かった。

だが既に45年も経過しているので既に時効は成立している。

そのため貞子が長年立原悦子の身分を偽っていたことに関しても不問とされた。

何故なら15年前に警察が悪意ある貞子の遺体を発見したことにより

山村貞子としての死亡は成立してしまった。

また防衛省がその山村貞子を利用して悪事を成そうとしたのだから

これを公にすれば世間は間違いなく防衛省を叩くはず。

そんな政治的配慮を踏まえてこの事件が表沙汰になることはなかった。


「やっぱり納得いきません。
結局お偉いさんたちの都合のいい脚本で事件は終わっちゃうんですね。」


「確かに仕方ないといえばそれまでです。
しかしだからこそ呪いのビデオなどというものが流行らなかったのかもしれません。」


「それってどういうことですか?」


「所詮この世は時勢で決められていくものということです。
いくら悪意ある貞子が異能の力を持ちそれを用いて呪いのビデオを作ろうとも
時代の変化に伴いビデオ自体がなくなったためにビデオの呪いは一過性に終わった。
結局のところ呪いなどというものは何の力も持たないということですよ。」


それが今回の事件で右京が感じたことだ。

その時勢に逆らえることなど出来なかったと…

そう思うと山村貞子がどれだけ異能の力を発揮しようとも所詮彼女も自分と同じ人間。

これまで貞子に感じていた恐怖が若干だが薄れることが出来た。
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:29:20.90 ID:EAF0Yir90


「………もし」


「生まれ変わることができるなら…」


「それが神に逆らうことであっても…」


「私はあなたのそばに」


「あなたと一緒にいたい」


「ああ、面影さえも 鮮やかに浮かぶ」


「あなたに会うことができたなら なんといえばいいのかしら」


そんな話をしている内に舞台はクライマックスを迎えていた。

そしてカーテンコールが鳴り響いた。

思えばこの舞台は45年前に終えるべきだった。

それが様々な人々の思惑により

こうして45年経ってようやく終演を迎えることができた。


「すべてが夢ならば」


「夢から覚めた時 あなたがいてくれたら」


すべてが夢ならば…

主演女優が最後のセリフを口にしてようやくこの舞台は終演を迎えた。

そう、このセリフの通りすべてが夢だったのかもしれない。

誰もが悪い夢を見ていた。

そしてその夢からようやく覚めることが出来た。

唯それだけのことだったのかもしれない。
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:29:51.54 ID:EAF0Yir90


同時刻―――


ここは政府のある施設、片山雛子はある人物を待っていた。

そこに一人の女性が連れて来られていた。


「ようこそ嘉神郁子さん。
このような場所にお連れして申し訳ありません。
ですがこの計画は秘密裏に進めたいものでして…」


『嘉神郁子』

かつてはバイオテクノロジー研究所の主席研究員であったが

娘の茜の身体を母体として使い、クローン人間を製造しようとした過去がある。

しかし茜は子供を流産してしまい結局この世にクローン人間が生まれることはなかった。

ちなみにこれは神戸が特命係に所属していた時に関わった最後の事件でもある。

そんな彼女が何故呼ばれたかというと…


「何故私を呼んだんですか?」


「あなたのクローン研究でこの世に甦らせたい人間がいるんですよ。」


「甦らせたい人間って…クローン人間は必ずしも同一の個体になるとは…」


いくらクローンといえど同じ人間を作ることなどできない。

そんなモノはSFでしかありえない。

それに日本では2001年より

クローン規制法が執行されて事実上クローン人間の製造は違法とされている。

それなのに何故…?


「何も完全なクローン人間を作って欲しいとは言っていません。
けどそれらを犯してでも欲しい遺伝子情報があるとしたらどうですか?」


それから部下の一人が嘉神郁子の前にあるモノを持ち出してきた。

それは死体。それも完全な白骨死体と化したモノだ。

さらにもう一人、車椅子の男も…

その男の名は岡崎。

先日の事件で彼だけは片山雛子の手により前もって脱出していた。

それはこれから行う実験に利用するために…
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:34:03.73 ID:EAF0Yir90


「これを見つけるのに苦労しましたよ。
瓦礫で埋もれていた井戸から掘り起こしてようやく回収したんですからね。」


「この死体は一体…誰なの…?」


「この死体の名は山村貞子。
57年前に超能力を使い一人の記者を殺害。
それから45年前に劇団飛翔の団員と宮地彰子を殺害。
更に15年前には死んでいるにも関わらず
呪いのビデオというモノを作り出し多くの不特定多数の人間を殺害。
所謂、異能の力を持った超能力者です。」


超能力者と聞き郁子は不謹慎ながらこの死体に興味が沸いた。

しかしそんな危険な人物を蘇らせる理由はなんなのかと雛子に尋ねた。

まさかこの力を悪用するつもりではと思わず勘繰ったが…


「それは抑止力のためです。
今後第二、第三の貞子が現る可能性もある。
そのためにも抑止力と成りうる存在が必要になります。
それこそが貞子のクローンを作る大きな理由です。」


あくまで今後の抑止力のためと主張する雛子。

とりあえずはその理由を信じる以外に選択肢はない。

何故なら郁子には受刑中の娘が居る。

わざわざこの場所に呼ばれた理由は娘の刑期を短縮することが条件だったからだ。

片山雛子は国会議員。

検察や裁判所にコネがある彼女なら娘の刑期を短縮させるなど造作もないことだ。

だから大人しく従うしかなった。
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:34:31.86 ID:EAF0Yir90


「それとこれはついでだから話しておきますが
あなたは以前からProjectRINGへの参加が検討されていました。
ですが小菅彬の方を防衛省が強く推していたのでそれは今まで見送られていたわ。」


実はこのProjectRINGに当初はこの嘉神郁子が検討されていた。

しかし呪いのビデオを殺人兵器に転用しようとした防衛省の意向により

小菅彬を超法規的措置で出所させて研究を行わせていた。

だがそれは見るも無残な結果に終わってしまった。


「けどこうなることを最初から知っていました。
小菅を入れたら間違いなく失敗すると何度も忠告していたのに彼らは小菅を招いた。
それなのに…」


「何で…そのことを予期出来たの…?」


「あの日、私まで巻き込んで小菅の出所を手配した日のことよ。彼は私にこう言ったわ。」


『また僕は我が子を生み出すことが出来る。』


小菅の出所を手配した日、

彼は世にも薄気味悪い笑顔でしかも人間としての身勝手なエゴを丸出しで雛子に語った。

正直、雛子自身もこれまでにないほどの嫌悪感を覚えるほどだった。

だがその言葉を聞いて雛子は間違いなくこの計画が破綻すると確信が持てた。


「何故そんなことがわかったの?彼の行いが狂気的だったから?」


「確かに彼の思想は狂気に包まれていました。
けど彼は研究者として…いえ…人間として当然のことを忘れていたんだもの。」


雛子はクスクスと笑いながらそれを面白がっていた。

対して郁子はますますその疑問が深まるばかり。

そんな郁子にまるで答え合わせをするかのようにその理由を話した。
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:34:57.33 ID:EAF0Yir90


「だって男に子供は生めないじゃないですか。」


「それが…理由なの…?」


「ええ、そうですよ。
私は今まで男たちが作ってきたモノを間近で見てきました。
どれも権力やお金絡みでろくなモノじゃなかった。
それなのに男が子供を生み出す。心の中で爆笑ものでしたよ。」


男に子供は生めない。

それは自然の摂理そのものだ。

これこそが片山雛子が小菅彬ではなく嘉神郁子を選んだ理由。

生命を生み出すのは男ではない。女でなければならない。

その前提を誤ったからこそ防衛省が行ったProjectRINGは失敗に終わった。


「これより私の指揮下でProjectRINGを再始動します。」


そして片山雛子によりProjectRINGは再始動した。

かつてのProjectRINGは男たちの暴挙によって失敗に終わった。

だが自分たち女はちがう。

力の用い方を誤らなければ過ちなど起きるはずもない。そう信じた。

しかしどんなに言葉で言い繕うとも結局は禁忌の行い。

特命係によって解かれた怨嗟の輪廻がまたもう一度繋がりだした。

結局、いくら阻もうと人がいる限り永遠にこの愚行は繰り返されるのか。

まさにリング、その呼び名のように永遠に繰り返される連鎖…

この行く末が幸と出るかそれとも凶と出るかは誰にもわからない。

こうして悪魔の実験は人々の知らないところで今も何処かで続けられている…
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:40:57.38 ID:EAF0Yir90


―――――

―――――――


それが今から3年前に起きた出来事だ。あれから3年の月日が流れた。

あれから様々な出来事が起きた。

捜査一課の三浦が職務中に刺されて重傷を負い警察を退職。

さらに鑑識の米沢も辞令が下されて警察学校の教師に就任。

それにもう一人、この3年で最も変わり果ててしまった人間がいた。


「受刑者番号0123番。中に入りなさい。」


名前ではなく受刑者番号で呼ばれた一人の青年がこの面会室の反対側から入ってきた。

そこは罪を犯した者たちが唯一外の人間と触れ合える場だ。

そして現れたのはかつての面影はあるものの窶れた表情を浮かべた青年。

かつては毎日のように一緒にいたこの青年に右京は声を掛けた。


「久しぶりですね。カイトくん。」


「杉下さんこそ…その怪我大丈夫ですか…」


現れた青年は甲斐享。

去年まで特命係に在籍していた右京のかつての相棒だ。

何故、彼が刑に服しているのか?それには理由があった。

1年前、都内でとある怪事件が起きた。

それは約2年間に渡って警察の追求を逃れた犯罪者たちに制裁を下す闇の仕置人。


『ダークナイト』


その模倣犯の犯行を特命係が突き止めた。

だがその事件を追っていくうちに意外な展開へと繋がっていく。

なんとダークナイトの正体は甲斐享ことカイトだった。

その真相を突き止めた右京は自らの手でカイトを追求。

カイト自身も自らの罪を認めたことによりこの事件は幕を下ろした。

だがこの事件の傷跡はあまりにも大きいものだ。

かつて3年間も共にした相棒の犯行を見抜けなかった右京は

この事件が未だに自分の至らなさが招いたものではないかと後悔していた。
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:24:41.70 ID:EAF0Yir90


エピローグ:右京「らせん?」



「まさかキミとこうした形で再会することになるとは思いませんでした。」


「俺もです。ところで今日は何の用があって来たんですか?
まさか杉下さんが世間話をするためにわざわざこんな場所に来たわけじゃないでしょ。」


相変わらずの軽口を叩くカイト。

だがそれとは裏腹にカイトの顔にはいくつか暴行された形跡があった。

それを見て右京はとある事件を思い出した。


『刑務所に入った警察官は虐められる。』


まだ神戸が相棒だった頃のこと、

多摩刑務所の刑務官久米達也が受刑者の金策を知って凶行に及んだ事件があった。

その際に組対5課の角田課長が呟いた皮肉がそれだった。

理由は簡単だ。

娑婆で自分たち犯罪者を相手に大手を振るった警察官や刑務官が同じく刑務所に入った。

そうなればもう強権を行使することなど出来るはずもない。つまりお礼参りというものだ。

さらにカイトはダークナイトとして活動していたために

この施設に収監されている犯罪者たちからかなり恨みを抱かれている可能性がある。

それこそがカイトの顔にある暴行跡の原因だと右京は推測した。

だがこのことを指摘したところで強情なカイトはその事実を認めようとはしないはず。

さらに面会時間にも限りがある。

時間があればカイトが暴行されている事実を明らかにしてそれをやめさせることも出来る。

だが今は時間が限られている。そのため要件を果たすことのみを優先させた。
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:25:13.29 ID:EAF0Yir90


「わかりました。時間も押しているので要件だけ済ませたいと思います。
カイトくん、3年前に僕たちが関わった呪いのビデオの事件を覚えていますよね。」


呪いのビデオのことを聞かされて思わずカイトも苦い顔を浮かべた。

あれはカイト自身にとっても忌むべき事件だからだ。

ちなみに右京が語ったのはその後の顛末についてだ。

あの事件後も右京はある人物の行方を追っていた。

それは精神病院から連れ出された岡崎。その行方がようやく明らかになった。

岡崎の行方が知れた理由は1月に起きたテロ事件が発端だ。

片山雛子が新たに立ち上げた新会派New World Orderで同志の音越栄徳が殺害された。

それにより雛子は政治家として責任を取る形で辞職。

同時にそれまで自身が独自に進めてきたProjectRINGも解散することになった。

そのため今まで行方不明だった岡崎の所在が明らかとなり彼は元の精神病院へ再入院。

これでようやく3年前の事件に決着がついた。
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:25:40.89 ID:EAF0Yir90


「なんかやけにあっさりとした終わり方で拍子抜けですね。
実は片山雛子が国家転覆でも企んでいるとかそんな壮大な話しに繋がるかと思いました。」


「現実なんて案外そんなものですよ。
映画や小説じゃあるまいし下手な続編など誰も期待はしませんからねぇ。」


その後の顛末と軽口を叩き合う二人。

まるでかつての特命係の部署で話しているような会話だ。

これで一応要件は済んだ。

だがここを訪れた理由はもうひとつある。

それは3年前に聞きそびれたある質問についてだ。


「カイトくん、覚えていますか。
3年前、僕は片山さんの事務所でこんな質問を行いました。」


それは呪いのビデオの謎を解き明かすために

片山雛子とそれに捜査一課の伊丹たちに行った質問。

『自分たちの手元に呪いのビデオがあれば各々どういった使い方をするのか?』

その質問に対して伊丹たちはそんな危険なモノはすぐに処分すると答えた。

雛子も検証した後に処分と答えてみせた。

だがこの質問の返答をまだカイトから聞いていなかった。


「あの時は時間が迫っていたためにそれが出来ませんでした。
ですからこうして改めて尋ねます。
カイトくん、もしキミが呪いのビデオを手に入れたらどう使いますか?」


呪いのビデオを手に入れたらどう使うか。

その質問に対してカイトはかつてのある出来事を思い出した。

それは呪いに負けそうになり思わずその絵を描いて複製を行おうと試みた時だ。

あの時のドス黒い闇の感情に覆われた感覚を思い出しながらこう答えた。
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:27:47.18 ID:EAF0Yir90


「あの当時の俺ならこう答えたかもしれません。
呪いのビデオは悪質な罪を犯した犯罪者たちに観せるべきだと…」


それがカイトの答えだった。その答えを聞き右京は無念な表情でいた。

恐らくカイトの返答を予想していたのだろう。


「何故そんな考えを抱いたのですか?」


「死の呪いまでの時間、つまり1週間ということに注目しました。
あの恐怖は俺自身が体験してわかったことがあります。
1週間という時間を
犯した罪の重さへの悔いとそれに制裁を兼ねた恐怖を感じ取れたらと思いました。」


確かに呪いのビデオを用いればそれは可能かもしれない。

犯罪者にビデオを見せて

それによる死への恐怖と後悔を呼び起こしさらに死という制裁を加える。

この行いは当時のカイトにしてみればまさに理想的なモノだったのかもしれない。

右京はカイトがダークナイトとして犯行に及んだ理由をあれからずっと考えていた。

そしてある考えにたどり着いた。

それはカイトが犯行に及んだ原因は呪いのビデオにあったのではないかという結論だ。

何故そんな考えに及んだのか?それは2013年8月26日。

右京とカイトが偶然にも早津によって貞子の呪いを受けた直後のことだ。

その日は偶然にもダークナイトが世間で初めて犯行に及んだ日でもあった。


「あの夜、キミはダークナイトとして初めての犯行に及んだ。間違いありませんね。」


右京に問われてカイトは静かに頷いた。

それと同時に右京の心にどうしようもない悔いが漂った。

右京はあの日のことを思い出していた。

3年前の8月26日。あの日…花の里でカイトと別れた時のことだ…

やはりあの時、カイトを一人で帰すべきではなかった。

カイトがダークナイトとして犯行に至った理由のひとつには

あの呪いのビデオも関わっていた可能性もあったからだ。

それがこうも予想が的中してしまったことで自らに対して嫌悪感を募らせていた。

だがこの話しに右京はある疑問を抱いた。
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:28:15.74 ID:EAF0Yir90


「ですがキミはそれを実行しなかった。その理由は何故ですか?」


「それは…あの時…高山竜二に会ったからです…」


これは防衛省の施設で井戸に落下した時のことだ。

今でもあれが夢か幻かはわからない。

だがあの時、カイトは確かに高山竜二らしき男と出会った。

そしてあのビデオを見た者たちが行き着く先を覗いた。

それは山村貞子の生み出した地獄を永遠に彷徨うという

死後の自由すら奪われる残忍なものだった。

そしてそこで高山からこう言われた。


「高山さんは俺の心に闇があることを指摘しました。」


「闇…ですか…」


「それから高山さんは俺の心の中にある闇を取り除いてくれた。
事実、あれから不安な想いはなくなりました。けどそれは完全じゃなかった…」


結局、その闇はいつまでもカイトの心にこびり付くかのように宿り続けることになった。

そしてそれが暴力という形で犯罪者に制裁を促す

闇の仕置人ダークナイトを生み出す結果に繋がった。

つまりダークナイトとはカイトの心の闇の表れということだ。
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:28:59.77 ID:EAF0Yir90


「今なら…わかります…
自分がどれだけ恐ろしく…危険な考えを抱いていたのか…
ここに収監されてからずっと考えていました。
恥ずかしい話ですけどこんな場所に収監されてやっとわかりました。
相手に自分の命を握られる恐怖というものが…
いくら犯罪者とはいえ命を軽々しく裁こうなんて人間のすべきことじゃない。
それを自分がこうして裁かれたことでようやく理解できたなんて皮肉ですよね。」


それがカイトの語った懺悔の告白だった。

人の命を裁くことなど警察官の裁量を越えた行いだ。

恐らくカイトはそのことを心の何処かで理解していたからこそ

ダークナイトとして活動していた時は最後の一線だけは踏み越えなかった。

確かにそれは立派な行いとは言い難い。

だがその悪を憎む心だけは確かなはずだ。

だからこそ彼を救ってやりたい。そう思った右京はカイトに対してあることを語りだした。
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:30:12.14 ID:EAF0Yir90


「カイトくん、キミはあの事件の直後に奇妙なことを言いましたね。
あの井戸に落ちた時、僕たちを助けてくれたのは緊急対策特命係だと僕にそう話した。」


「そうです…けどいくら探してもそんな部署はどこにもなかったですけどね…」


3年前、あの事件があった直後にカイトはある部署を探していた。

それは緊急対策特命係、

警察組織に存在するその部署を探して井戸で助けてくれた人たちにお礼を言いたかった。

だがいくら探してもそんな部署は存在などしなかった。

そのことをこの右京にも話したのだが…


「ずっと迷っていました。当時その話を聞いて僕自身も信じられなかった。
ですが改めてこう思いました。
やはりこのことを今こそキミに話すべきだとそう思ったのです。」


それから右京は胸ポケットから一枚の写真を出した。

それはもう20年は経過したような古い写真。

そこには特殊班の格好をした数人の男たち、

それと中央には右京と背広を着た男が写ったモノだ。それをカイトに見せた。


「これは…杉下さん…それに…嘘だろ…この人たちは…
間違いありません!井戸で俺たちを助けてくれたのはこの人たちですよ!?」


間違いない。

この写真に写っている人たちはかつて井戸で自分たちを救ってくれた人たちだ。

3年前、井戸で危うく悪意ある貞子に水底へ連れて行かれそうになる右京を救った男たち。

特に右京の隣に写っているこの男に注目した。

この男はよく覚えている。

あの時、自分に右京を託すように助け船を出してくれた人物だ。

だが彼らのことを知っていながら何故右京は3年間秘密にしていたのか?
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:30:49.29 ID:EAF0Yir90


「この写真ですが既に殆どの人たちが亡くなっています。」


「亡くなっているって…どういうことですか…?」


それから右京は特命係が作られた経緯から語りだした。

そもそも特命係とは警察庁の小野田官房長によって発足された組織だ。

その理由はもう30年ほど前のことになる。

かつて大使館で人質籠城事件が発生。

警察はこの事件を表沙汰にすることなく秘密裏に対処する構えに出た。

そのため急遽対策チームを作ることになった。それが緊急対策特命係。

現在の特命係にあたる部署だ。

この写真はその結成時に撮られたものらしい。


「ですがこの事件で大勢の隊員たちが死亡。
僕はその責任を取らされる形で名前を変えた今の特命係に移動。
こうして緊急対策特命係は現在の窓際部署になったわけです。」


それが特命係の作られた経緯だ。

そしてもうひとつ、カイトは右京が今までこの事実を告げられなかった理由を話した。


「そして僕の隣に写っている小野田官房長です。
彼は2010年に起きた前代未聞の警視庁籠城事件。
その直後に警視庁の幹部職員に逆恨みの形で刺されて殉職なされた。
つまりその写真に写っている人たちは殆どが既にこの世にいないんですよ。」


そのことを聞かされてカイトはショックを受けた。

小野田官房長の名前は以前から耳にはしていた。

だが実際こうして顔を見るのは今日が初めてだ。

それに今までこの人たちにお礼をしようと何度も探し回った。

しかしどれだけ探しても緊急対策特命係なんて聞いたこともないと言われる始末。

それがこんな形でようやくわかるとは…
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:31:31.77 ID:EAF0Yir90


「そんな…この人たち…亡くなっていたなんて…」


「どうして…俺なんか…助けてくれたんだよ…」


「だってこの人たち…もう死んでるのに…それなのにどうして…」


この場が面会室であるにも関わらずカイトは思わず泣き出してしまった。

彼らはかつての事件で殉職した立派な警察官。

それに比べて自分はダークナイトとして闇の仕置人を気取っていた。

そして今では刑務所に送られたなんて…

この事実を知って自分の犯した過ちがあまりにも惨めに思えてしまった。


「3年前に僕はこの事実をキミに伝えるべきでした。
ですが僕にはそれを伝えることが出来なかった。
何故ならこの写真に写っている彼らが僕を助けるとは考えられなかった。」


「それってどうしてですか…?」


「30年前の大使館立てこもり事件。
突入開始直前で僕はチームから外された。
理由は上司の小野田官房長と意見の対立してしまったから…
当時僕は犯人グループと粘り強く交渉を行っていた。
ですが上層部の一声でそれが台無しになってしまった。
その結果、隊員たちを死なせてしまいました。」


まるで悔いるかのようにこのことを話す右京。

実はこの話を右京はこれまでの相棒たちに直接語ったことはなかった。

何故ならこの事件において隊員3名が死亡。

それは命を重んじる右京にしてみればあまりにも大きな罪だ。

そのため、右京は以前の相棒だった亀山や神戸にすら触れてもらいたくはなかった。
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:32:02.80 ID:EAF0Yir90


「カイトくん、キミに謝らなければなりません。」


「死んだ彼らが僕を助けてくれるとはどうしても思えなかった。」


「何故なら彼らが死んだ原因はあの時現場から遠ざけられた僕の責任です。」


「ですがもしこのことを伝えていればキミは悩まずに済んだかもしれない。」


「本当に申し訳ないと思っています。」


それが右京からの謝罪だった。

そんな右京を見てカイトは居た堪れなくなってしまった。

何故だ…何故あなたが謝るんだ…

悪いのは自分だ。あなたではない。

30年前の事件だってあなたは自分が出来る最大限の努力をしてみせたはずだ。

それなのに…どうして…

そんな後悔を募らせるカイトに右京はもうひとつ語らなければならないことがあった。

それは人の心にあるものは決して闇だけではないということだ。
[newpage]
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:33:09.13 ID:EAF0Yir90


「ですがその話を聞いてこうも思いました。
彼らが助けてくれたのは人の心に闇が存在するのと同じくまた光も存在するはずだと…」


「光…?」


「そう、光です。人の心には闇が存在するのなら同時に光も存在します。」


確かに人の心は闇だけではない。そこには必ず光もある。

かつてカイト自身もその光を感じていた。

それは特命係に在籍中にこの相棒の杉下右京と何度も感じていたはず。

だがそれでも自分は心の闇に負けてしまった。これはどうしようもない事実だ。


「でも俺は…自分の心の闇に勝てなかった…だから…」


「確かに自分一人では解決できない闇がある。
ですがキミは一人ではない。
たとえ自分の内なる光だけでは無理でも
周りの人たちがキミの光を今でも照らしていますよ。」


「周りの人たち…?」


「恋人の悦子さん。彼女は病を克服してキミの帰りを待っています。
それに捜査一課の伊丹さんや芹沢さん、角田課長たちや米沢さん、花の里の幸子さん、
それからかつて特命係に在籍していた
亀山くんや神戸くんもキミが帰ってくることを心底待ち望んでいますよ。」


心の闇とは時として簡単にその心を飲み込むかもしれない。

それは自身の心の光だけで抗うことだって困難な時もある。

だがそんな時、周りにいる人たちが支えになってくれる。

カイトにはその人たちがいることを右京は伝えてみせた。
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:33:50.93 ID:EAF0Yir90


「それにキミのお父さんに……この僕もキミが帰ってくることを望んでいます。」


「カイトくん、キミは決して一人ではありません。
今、話したようにキミには支えてくれる人たちがいる。
それにかつての彼らも…
亡くなった小野田さんたちも僕たちの危機を救ってくれた。」


「だから改めて伝えたい。
かつてキミを助けてくれた彼らのため、
今もまたキミを信じて待ち続けている人たちのため、
今度こそ正しい道を歩んでください。それがキミに出来る唯一の償いです。」


それが右京の伝えたい言葉だった。

その直後に看守から面会時間の終了を促された。これで本日の面会は終了となった。

看守に付き添われて面会室を退室させられるカイト。

そんなカイトだが最後に一言、右京にこう伝えてみせた。


「杉下さん…ありがとうございました…」


その言葉を伝えると同時にカイトは退室した。

『ありがとう』

その言葉には右京と相棒を組んでからこの3年間、様々な想いが込められていた。

カイトから送られたこの言葉を胸に抱きながら

右京は先ほどカイトに見せたかつての写真をもう一度覗きながら思った。


「官房長、改めて僕たちの命を救ってくれたことを彼に代わってお礼を申し上げます。」


今はもうあの世にいるかつての仲間に礼を述べる右京。

特命係が作られてから30年近くが経過した。

あの時の生き残りは自分と石嶺小五郎のみ。

もう一人の生き残りだった萩原壮太も数年前に癌を発症して帰らぬ人となった。

彼らから託されたこの命、決して無駄にはしないと堅く誓ってみせた。
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:34:51.05 ID:EAF0Yir90


「ここまでで結構です。どうもありがとう。」


それから数時間後、職員に車椅子を押されて右京は拘置所の建物から出てきた。

外は先ほどの雨は上がったもののまだ天気は生憎の曇り空。

この分だとまた雨が降る可能性が高い。

そうなる前に携帯でタクシーでも呼ぼうと思った時だ。


「闇…ですか…」


ふと、先ほどのカイトとの会話を思い出した。

カイトがダークナイトとして活動するきっかけとなった心の中に宿っていた闇。

それは別にカイトだけが特別なわけではない。

誰もが心の中に闇を宿している。それはこの右京ですら例外ではなかった。


「闇とは…嫌なものですねぇ…」


職員が施設の方へ戻っていき、右京一人になった直後のことだ。

右京自身にほんの少しだけ嫌な思いが過ぎった。

それは不安や恐怖といった負の感情。

3年前の事件、あの時は相棒のカイトが居てくれた。

だからたとえ山村貞子という邪悪な敵が相手であろうと立ち向かうことができた。

だが今は一人孤独の身だ。

かつての相棒だった亀山薫と神戸尊は自らの元を去った。

それにカイトもこの拘置所に収監された。さらに先日の事件で負ったこの怪我。

孤独感とさらに傷の痛みが負の感情に拍車をかけていた。

これがカイトの言っていた心の闇ならば彼が容易く堕ちたのも肯けなくもない。

そう思っていた右京だが、そんな時に誰かが声をかけてきた。
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:46:10.08 ID:EAF0Yir90


「あら、杉下さんじゃありませんか。こんなところで奇遇ですね。」


それは元女性議員の片山雛子だ。

こんなところで彼女と鉢合わせするとは妙な偶然だ。

そんな雛子だがある少女を連れていた。

年齢は三歳ほどの白いワンピースを着た少女だ。

だが片山雛子はまだ独身。結婚したなどと聞いたことがない。

まさか隠し子ではと思わず勘繰ってしまった。


「一応説明しておきますけどこの子は遠縁の子です。
それでこの子の親が亡くなったので私が引き取ったので妙な誤解をなさらないでください。」


「失礼しました。そうですか。遠縁の子ですか…」


「そういえばまだ自己紹介していませんでしたね。
この子の名前は真砂子ちゃん。年齢は3歳とまだ子供ですがしっかり者なんです。
さあ、ご挨拶して。」


「はじめまして、まさこです。」


「こちらこそ、僕は杉下右京といいます。」


そんな中、挨拶を交わす右京と真砂子。

それにしてもこの少女…

何処となく雰囲気が誰かに似ている。

かつて救えなかった…あの井戸の女…山村貞子に…

それから握手をしようとした時だった。

右京の手を握ってきた真砂子がこんなことを告げた。
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:46:38.38 ID:EAF0Yir90


「おじさん、まっくらだね。まるで…いどのそこみたい…」


真っ暗だと…そんなことを言われた…

まるでこの年端もいかない幼気な少女に心の内を見透かされたような気分だ。

嫌な感じがした。自分の心が闇に染まっていく感じだ。


“孤独” “恐怖” “絶望” “嫉妬” “憎悪” “後悔” 


凡ゆる負の感情が右京の心を揺さぶった。

このままだと闇に引き込まれて二度と抜け出せないようなそんな気がした。


「右京さん、大丈夫ですか。」


そんな時だった。

誰かが自分の名前を気安く呼びながら背後に近づいてこの車椅子を引いた。

気になった右京が後ろを振り向くとそこには…
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:47:34.60 ID:EAF0Yir90


「冠城くん…キミはどうしてこちらへ…?」


「偶然…という言い訳は苦しいですよね。
まあ気になって後を尾けてきました。あ、お叱りは後ほどで…」


冠城亘、カイトがいなくなった後に現れた右京の元同居人。

この3月まで法務省のキャリア官僚だったが

青木年男が唯一の目撃者となった事件で捜査妨害を行ったことで法務省を退職。

その後は直属の上司だった日下部彌彦の計らいで晴れて正式に警視庁へ異動。

これまで特命係に配属された中ではかなり異色なキャリアの持ち主だ。


「だから言ったじゃないですか。
右京さんは先日の事件で怪我がまだ完治してないんだから付き添うって…」


「僕も申し上げたはずですよ。
今回はどうしても一人で行きたいから遠慮してほしいとね。」


「けどそうやって一人で秘密を抱えてると気になっちゃうじゃないですか。
いつも右京さんも言ってるでしょ。細かいことが気になるのが僕の悪い癖だってね。」


そんな軽快な軽口で右京の叱責を躱す冠城。

普段ならこのふざけた態度に少しは腹立だしく思えるが

今日に限ってはそれが何故か心地よく思えた。

それに気づけば先ほどまで心の中に渦巻いていた負の感情がなくなっていた。

まるで闇に一条の光が差し込んだが如く消し去られたみたいに…
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:48:36.53 ID:EAF0Yir90


「どうしました?まさか傷口が開いたんじゃ…」


「いえ、大丈夫ですよ。むしろそのお節介のおかげで助かりました。」


そんな礼を述べられて冠城は思わず首を傾げた。

先ほどカイトに伝えたあの言葉。

周りの人たちが光を照らしてくれると…

まさか自分が伝えた言葉が右京自身に招く結果になるとは妙な気分だが悪くはなかった。


「おじさん…さっきとはちがう…なんかひかりがもどってる…」


立ち直った右京に真砂子はそう述べた。

光を取り戻せたと…

まさか最初の頃はぞんざいに扱っていた冠城に救われるとは…

愚痴りながらも右京は満更でもない笑みを浮かべた。


「さあ、行きましょうか。帰りが遅いと角田課長に心配されますよ。」


「そうですね。その前にひとつだけよろしいでしょうか。」


それから右京は真砂子の前に近づき、この少女の瞳を覗き込んだ。

その目はまだ何物にも染められていない純粋なものだ。

まだ少女はこの世の汚れを知らないのだろう。

このまま何も知らない方が案外幸せなのかもしれない。

もしかしたら自分が考えていることは実に馬鹿らしいものだ。

だがそれでも敢えて伝えなければならないことがあった。
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:49:05.00 ID:EAF0Yir90


「真砂子ちゃん、キミに伝えたいことがあります。
その昔、貞子という女性がいました。彼女には不思議な力があった。」


「ですがそのことを忌み嫌われて貞子は悲惨な結末を辿ってしまった。」


「僕はそんな彼女を救いたかった。しかしそれは叶いませんでした。」


「結局、彼女は自らの心の闇に囚われ最後はその闇の中へと堕ちていった…」


3年前、井戸で貞子を助けられなかったことを悔やみながら語る右京。

もしもあの時、貞子を救うことが出来たらと何度も悔やんだ…

だからこそ目の前にいるこの少女に伝えておきたいことがあった。


「真砂子ちゃん、将来キミは自分のことについて悩むことがあるはずです。」


「ですがその時はどうか内なる心の闇に囚われないでほしい。」


「人の心には闇と同時に光もある。」


「あなたの心の光をどうか消さないでください。」


それは先ほどカイトにも伝えた言葉だった。

自らの心の闇に囚われないでほしいと…

しかし真砂子はこう尋ねた。


「けどそれでもダメだったらどうしたらいいの?」


それは悪意のない無邪気な質問だった。

もしも心の闇に囚われたらどうしたらいいのか?

そんな真砂子の質問に対して右京は冠城に車椅子を押されながらこう答えた。
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:49:32.25 ID:EAF0Yir90


「その時は僕たちを訪ねてください。」


「警視庁の暇人が集う陸の孤島、特命係。」


「そこで僕たちはいつでもお待ちしていますよ。」



End
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:53:07.16 ID:EAF0Yir90
これにてこのssは終わりです。

一応当時の内容にちょっとばかりダークナイトネタを入れてみました。

ちなみに何でこのネタを入れたのかというと実は相棒本編だと

カイトくんはこの時期にダークナイトとしての犯行に及んでいたからです。

それでひょっとしたらカイトくんが犯行に及んだ背景にはこんな出来事があったんじゃね的な展開でした。

あと最後に出てきた女の子は…まあ想像するにアレがコレになった的な感じです。

そんなわけでこれでようやく修正ができてほっと一安心です。
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 17:55:24.79 ID:EAF0Yir90
あと最後に何で右京さんが怪我してるのかというと
序盤とラストのシーンは今夜放送する映画の後日談的なお話だったからです。
それでは今夜の映画相棒Wを見るまでの暇潰しにでもご覧下さい。
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/21(水) 20:04:31.20 ID:CRJI5WWh0
面白かったです
地獄先生ぬ〜べ〜と呪怨がコラボしたssも読んでみたいです、無理なら良いんですが機会が会ったら今度書いて下さい
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/21(水) 23:39:13.81 ID:CvMZH2TaO
乙!!!
修正前のも面白かったけど、こっちもいい…!
特殊班のくだりはいつ読んでもちょっと涙腺をやられてしまうね…
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/22(木) 23:49:12.42 ID:ZfTmSeJ00
乙です!
先日の呪怨の方も拝読させていただきましたが、前回も今回も非常に面白かったです。
やっぱり歴代の相棒が集結するのは熱い……!
相棒の方しか元ネタは知らないけど、色々なところに過去作の伏線とかがあってワクワクしました。
亀山くんの家にお邪魔した時に貞子がいたのはゾッとした。
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/27(火) 19:59:45.04 ID:v6jxWdo9O

面白かった
385.28 KB Speed:0.1   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 新着レスを表示
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)