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京太郎「死んでも生きる」良子「死んでも一緒」
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258 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2020/10/08(木) 01:43:12.71 ID:iYX4OPw+0
―――【ホテル】
良子(普通に電車に乗って帰ってきましたが……熊倉さんたちは?)
京太郎「戒能さん」
良子「はい?」
京太郎「……」ユビサシ
良子「え……あれ、なんで部屋の前に熊倉さんたちが?」
トシ「待ってたよ」
秋一郎「たく、いつまで待たせんだ」
トシ「まだ十分も経ってないだろ」
秋一郎「余命が十分減った」
トシ「変わんないよ」
良子「え? ああ、須賀君のお迎えですか?」
トシ「言ってないのかい?」
京太郎「ええ、まぁ」アハハ
良子「え?」
秋一郎「……打つぞ」
良子「……麻雀ですか?」
トシ「それ以外ないだろう」フッ
京太郎「……お願いします」
良子「……はい」コクリ
259 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2020/10/08(木) 01:51:17.77 ID:iYX4OPw+0
―――【ホテル:良子の部屋】
良子「それにしてもどうして麻雀を?」
トシ「京ちゃんが打ちたいんだって」
良子「須賀君が?」
京太郎「すみません、やっぱり……デートの〆と言ったら麻雀かなって」
トシ「たしかに」
秋一郎「同意」
良子(私の思ってるデートと違う)
トシ「ていうか大沼、あんたそこは禿げ上がるほど同意って言いなさい」
京太郎「元々禿げてるよってツッコミですか」
秋一郎「悪霊小僧、飛ばしてやらぁ」
京太郎「ひぇっ」
良子(仲、いいんですね)
京太郎「っし……勝つ!」ズゥッ
良子(ッ……なんでしょう、妙な感覚?)
秋一郎「開幕から使えるようになってらぁ」ハッ
トシ「さすが、だね」クスッ
良子(これはいささか本気でいかなくては、ですか……)ゴッ
260 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2020/10/08(木) 02:14:46.91 ID:iYX4OPw+0
良子(なっ、なにも……どの力も感じないっ!)バッ
京太郎「……」タンッ
良子(これが、須賀君の力?)
トシ「……悪霊たちの力さ」タンッ
良子「え?」
良子(引いても、ただの一片も私自身の、いえ背後の力を感じない……降ろせない!)タンッ
秋一郎「曰く、生命が輪廻転生する際の狭間の力……」タンッ
京太郎「まつろわぬ霊たちの力を完全にコントロールするには至りませんけどね……だからせいぜいできて、無力化」タンッ
トシ「それでも十分さ、まぁ悪霊の身だからこそできていることではあるんだろうけど、ね」タンッ
良子「……そうですか、それがあなたの」
京太郎「ええ、勝ちます。あなたに……」
良子「望むところです。ここからは真っ向勝負、私の力……いつまでもバインドさせてはおきません」フッ ゴォッ
京太郎(たしかに……ずっとは無理か、それでも勝機をつかむ、そのために……っ)
良子「さぁ、ここからがスタートです」タンッ
京太郎「ポン!」
秋一郎「……」
京太郎「見せますよ……かっこいいとこ」フッ タンッ
トシ(やってみせな―――霊帝)
261 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2020/10/08(木) 02:35:11.55 ID:iYX4OPw+0
良子(まぁやはり……“オカルトそのもの”を相手にしているというだけあって格が違う)
トシ(それでもまぁ、限定的とは言えここまでコントロールできるのも才能かね、いや因果か……)
秋一郎「チートだな」タンッ
京太郎「いや俺からしたらチート3人相手にしてるようなもんっすよ。封じるぐらいにしかこの力使えないし……」タンッ
トシ「この三人封じるってのもすごいけどね。しかもあんたはあんたで」タンッ
京太郎「おっとそこまでっす」
トシ「まぁいいけど」
良子「強い……」
京太郎「戒能さんに褒められると素直にうれしいです……先生みたいなもん、だから」
良子「しかし、まだまだ甘いですね」
京太郎「えぇっ!?」
良子「当然です。封じているだけなら素の力でやりあうことになるんですから、能力特化のプレイング相手でないと意味がない」フフッ
京太郎「う〜痛いところつきますね。いやわかってはいましたけどぉ」
良子「さて、それでは次はどうします?」タンッ
秋一郎「ま、見せ所だわな……限界超えるか? それとも別のなにかでくるか?」タンッ
京太郎「さて……こっからは俺も運次第、悪霊なりに悪運強いかもしんないですけ……ど!」タンッ
262 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2020/10/08(木) 02:45:31.64 ID:iYX4OPw+0
―――【ホテル:清澄高校部屋】
咲「……ん」ピクッ
久「どうしたの?」
咲「なんか、懐かしい感覚が……」
優希「早く寝ようじぇー」
まこ「さすがに疲れたからのぉ」ハァ
和「帰るの明日ですもんね……」
まこ「京太郎を置いて、な」
咲「京ちゃん……そっか、京ちゃんの感じに似てたんだ」
久「え?」
咲「ん、もう寝ましょうか、明日……また会いに行きましょう」フフッ
和「?」
咲「……」
263 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2020/10/08(木) 02:59:26.28 ID:iYX4OPw+0
京太郎「……やっぱ危険かぁ」
トシ「やっぱし」ハァ
良子「え?」
秋一郎「手、薄れてんぞ」
京太郎「……まぁ見ていてくださいよ」
良子「なっ! 中止です中止っそんな状態で!」
京太郎「いや、これでいい……勝てなきゃ結局」
良子「消えればおしまいでしょうっ」
京太郎「タイムリミットも近いんでしょう?」
トシ「ああ、元々身体との繋がりが薄れ始めてるからね……明日か明後日には同じだよ」
京太郎「なら」タンッ
良子「なんでっ!」
京太郎「……お願いします、どーせ消えるなら麻雀やりながらが、いいんですよ」ハハッ
良子「っ〜〜!!」
トシ「聞いて、やりなよ」タンッ
良子「……ほんと、会ったときから、私を助けてくれた時から、私のために出て行こうとしたときから……」タンッ
秋一郎「……」タンッ
良子「知ってましたけど、バカ、なんですから……」
京太郎「……すみません、俺も自分がここまでバカとは思ってませんでした」ハハッ タンッ
トシ「さて、そろそろ拘束が切れるかい?」
京太郎「いえ、切らせません……これで、終わります」
トシ「南四局、どっちにしろだね」タンッ
良子(点数差……私が一位、二位は大沼プロ、次点で熊倉さん……須賀君は最下位、どうやっても)ダンッ
秋一郎「……見せてみろよ悪霊。負の無限力をもって超えて見せろ」タンッ
京太郎「悪霊としての力、それと俺の……俺と戒能さんでクリエイトした力」スッ
良子「っ」ザワッ
トシ「ほう……」
京太郎(戒能さん……!)
―――ダンッ
京太郎「ツモ! ジャックポット!」
ズラッ
良子(7が並んでっ!)
秋一郎「演技良いな悪霊」
トシ「さすが京ちゃん」クスッ
京太郎「四暗刻ッ!」
264 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2020/10/08(木) 03:09:58.43 ID:iYX4OPw+0
トシ「索子萬子筒子の7ばっか集めて……はじめて見た」
秋一郎「麻雀歴、長いのにそんなことあるか?」
トシ「あるでしょ、ていうか……京ちゃんがやるのを初めてみた」
秋一郎「?」
トシ(どこの因果……いや、自ら発現した? 稀少も稀少……)
良子「須賀君……」
京太郎「って言っても、二位ですけど」アハハ
良子「私の、勝ち、ですよ」
トシ「ありゃ、ラスだ」
秋一郎「余裕ぶってたのにな」
トシ「いや、これはまさかだった……」
京太郎「……悔しいなぁ」ハァ
秋一郎「残念だったな、未練って勝つことだろ?」
京太郎「……たぶん」
良子「っ……ごめんなさぃっ」
京太郎「いや、本気でやってたんだからそりゃそうっすよ。俺は本気で勝ちに行って、それで勝てなかった」
トシ「……」
京太郎「それはもうしょうがないことなんです。だって今、俺……すっげぇ麻雀楽しかった!」ニッ
フワッ
良子「え?」
京太郎「な、なにこの感じ……」
秋一郎「お前光ってんぞ」
京太郎「うわー!? 人体発光! いや霊体発光! プラズマ!?」
トシ「……やっぱね」フッ
良子「え?」
トシ「……そんな気がしてた」
京太郎「知って、たんですか?」
トシ「気がしてた、だけだって」
265 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2020/10/08(木) 03:20:20.24 ID:iYX4OPw+0
京太郎「俺は俺の未練……勝つことだと思ってた」
トシ「今の今まで、一度も勝てなかったわけじゃないだろ?」
京太郎「そうですけど、でも強い相手と」
トシ「あんたの言う強い相手って?」
京太郎「そりゃ戒能さんとかトシさんとか、大沼のおっさんとか」
秋一郎「おいこら」
良子「しかし、私には……」
トシ「いやあんたの未練は違うね」
京太郎「え?」
トシ「京ちゃんの未練は……もっと簡単で難しいことさ、ハンドボールやってただろ?」
京太郎「まぁ、なんで知ってるのか知らないけど」
トシ「後悔ある?」
京太郎「……ないわけじゃないっすよ。でも一生懸命練習して、みんなと何度も打ち合わせて、それで県大会でいい結果残して」
トシ「満足したろ?」
京太郎「はい、別に嫌になったからやめたとかでもなくて俺……あっ」
トシ「満足できた?」
京太郎「っ……俺、死ぬ気でやりました」
トシ「ああ……」
京太郎「今、死ぬ気で戦って、死ぬ気でここまで練習して、それで負けて、それでも俺っ、俺はっ……」
良子「……っ」
京太郎「戒能さん、俺……」
良子「須賀君、あなたは……立派でした。よく、がんばりました」
京太郎「っ……ああ、そっか、こんなことだったんだ」
秋一郎「死ぬ気で戦って負けるなら本望か……才能しか感じねぇな」
トシ「おや高く買ってるね」
秋一郎「たりめぇだ、俺の“弟子”でもある」
トシ「だね」フッ
266 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2020/10/08(木) 03:43:53.06 ID:iYX4OPw+0
仄かに輝く体、徐々にあふれる粒子は魂なのか別のなにかか
輝く手を見つめ、京太郎は瞳を僅かに潤ませる
強くあったつもりだった。それほど気にせずいたつもりだった
「戻れる、帰れる……みんなの、とこに……」
「須賀、くんっ……」
呼ばれた声に、意識が引っ張られる
忘れていたわけではない。忘れるということを、可能性を
「か、戒能さん……俺っ、最後に戒能さんにいいとこみせれたかな?」
「見せてもらいましたっ、でも、それでも……またもう一度っ」
「わ、忘れないから絶対!」
京太郎のすぐ傍に寄って、良子はそのまま胸に飛び込む
抱き合うようになる京太郎と良子
ギュッと握ればその感触はしっかりとお互いに届く
「忘れないっ、忘れてたまるかっ……忘れるなこの気持ちっ」
言い聞かすように、言葉にする
「いかないでっ、いやですっ……まだ、まだ返事もっ」
「必ず、会いに―――」
「待ってなんてあげませんっ、私がいきます!」
強いそんな言葉に面食らって、言葉を失う
「私は、我慢弱いんですっ……それに約束っ」
「あっ」
「須賀君とは沢山あるんですからっ、麻雀やるって言いましたし、もう一度、遊園地……行くって言いましたっ!」
「も、もちろんですよ。絶対いきましょう……絶対」
抱きしめる。約束を噛み締めるように、良子を抱きしめる
そして、徐々に感覚が抜け落ちていくのも同時にわかってしまう
僅かに力が緩んで、京太郎がふらつく
「須賀君っ」
「か、戒能さんっ……良子さんっ!」
「っ」
お互いの瞳を見合う
あの観覧車でのときのように、ハッキリと
そうして、笑みを浮かべた京太郎が頷く
「俺は、生きますからっ、これで最後じゃ……ないからっ」
薄れゆく意識の中、しっかりと言葉にする
「必ず、死んでも生きる―――約束します、からっ」
267 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2020/10/08(木) 03:48:17.36 ID:iYX4OPw+0
「当然です! 約束、全部守ってもらいますから、京太郎っ!」
会えるとわかっている。わかっていても、どうしても抑えきれない
溢れる涙がぽろぽろと落ちていく
京太郎はそんな良子を見て、穏やかな笑みを浮かべる
「ありがとう、良子さん……」
その瞬間、京太郎の視界いっぱいに良子の顔が広がった
まつ毛が長いなだとか、肌がきれいだなとか、髪がサラサラだなとか余計なことを考える
柔らかな唇の感触を唇で受け止めながら、京太郎はことを徐々に理解していく
「……〜〜〜!!!??」
「っ」
離れる良子、その顔は真っ赤で
うるんだ瞳も紅潮した顔も、羞恥でどうにかなってしまいそうと訴えるような表情も
リアルな体であれば京太郎自身、自分がどうしていたかわからない
「なっ……!」
「京太郎っ」
すでに時間はない
驚愕だとかすらかき消すような感覚
徐々に落ちていく感覚
戻ろうとする意識、体が足元から急になくなっていく未知なる感覚
「私も貴方のことがラブで……大好きですっ!」
そして―――
268 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2020/10/08(木) 04:03:33.35 ID:iYX4OPw+0
―――【翌朝:病院:???の病室】
ふと、眼が覚めて視界に映るのは天井
知らないがなにがあったのかはわかる
ここが天国でもないことが、はっきりとわかった
「あ……あ、あ……こんな、声、だっけ?」
少し不安になりながらも、動かしにくい体を動かす
腕につながっている点滴のチューブが抜けないように、ゆっくりと上体を起こそうとしたところで、気づく
横に、誰かがいた
「……よう、おはよう」
「……京ちゃん」
幼馴染、宮永咲がそこにいた
ハッキリと自分の―――“須賀京太郎”の名を呼んだ親友
抱きしめていた“優勝トロフィー”を見て笑みを浮かべる京太郎
「おめでとう」
「っ……遅いんだよぉ、いうのがぁ」ポロポロ
笑顔を浮かべるも、彼女の瞳からこぼれる涙
いつも明るい親友にそんな表情をさせた罪悪感に苛まれながらも、それでも京太郎は笑顔を浮かべた
上体を起こして、手を伸ばしてそっとその涙をぬぐう
「ま、たせた」
「ん……待たせすぎだよ! バカ京ちゃんっ!」ニコッ
269 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2020/10/08(木) 04:15:52.89 ID:iYX4OPw+0
―――【それから少しして】
咲が連絡し、検査と診断をした後にまた病室に戻される京太郎
その時にはすでに両親や久や和、優希にまこも揃っていた
全員に言葉をかけられつつ、京太郎は謝罪をしつつ、少しばかりの時間を過ごす
それぞれ出ていき、今病室に残るのは京太郎と咲の二人
「にしても、心配かけたなぁ」
「本当だよ、バカ京ちゃん」
「お前それやめれ」
「バカはバカだから、他人助けて自分がってバカ、ほんと京ちゃん」
猛烈に罵る幼馴染はおそらく、先ほど泣き顔を見られた照れ隠し
そんな親友の言葉に、心配かけたなと思いつつ軽口で返す
いつも通りのそんな光景の中、病室の扉がノックされた
「あれ、どうぞー」
「あっ! しまった!」
咲が駆けていき扉を開く、咲と入れ違いで一人の女性が入ってくる
薄紫の髪、豊満なボディ、そんな女性と視線を交わす京太郎
フッと笑みを浮かべた女性に、京太郎が目を見開く
「―――あ」
「……ハロー」
直後、京太郎は―――小首をかしげた
「戒能、良子さん?」
270 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2020/10/08(木) 04:16:39.26 ID:iYX4OPw+0
ここまでー
だいぶ進んだめっちゃ進めた!
終わりと見せかけて、もうちょっとだけ続くんじゃ
271 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/10/08(木) 04:43:55.03 ID:9Upt1NMq0
乙!
中高生の甘酸っぱい恋愛みたいで見ててニヤニヤしてしまった
ラストの感じだと京太郎はやっぱり幽体離脱?中の記憶を忘れてしまったのかな?この後の展開もすごく気になるなぁ
272 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/10/08(木) 07:03:13.11 ID:wqhrbQ360
乙
273 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/10/09(金) 06:33:48.81 ID:EEEoqZAc0
遊園地デートも真剣勝負もお別れでの約束とキスも病院での咲とのやりとりもどれもめっちゃ良い…
そして素晴らしい密度からのここで引きとは
次がとても楽しみ
274 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/10/10(土) 04:06:12.66 ID:FU5JvHRJ0
乙です!
「忘れないっ、〜この気持ちっ」の台詞すごい好き!
泣いちゃう親友咲ちゃんも可愛くて好き!
275 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/10/16(金) 00:12:50.61 ID:WWddZrqC0
乙です
結構王道のラスト直前の記憶消失
会って思い出すのか、何かの契機に思い出すのか、忘れたままだけどそこから関係を築くのか
どうなるのか楽しみです
276 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/12/21(月) 02:12:20.66 ID:0PxT4HEZ0
忙しいのかな
277 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/27(金) 21:29:45.50 ID:PwFEEC+p0
よっし、なんとかやってくぞーい!
278 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/08/27(金) 21:46:05.12 ID:+AL7LT520
うおおおおおおおおおお!
279 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/27(金) 21:48:02.88 ID:PwFEEC+p0
―――1週間後【病院】
京太郎「……変わり映えしない景色だなぁ」
窓から外の景色を見る京太郎は私服
顔色等も前までの京太郎に戻って、ほぼ変わらなくなった
憂いを帯びた表情で眺める外になにを想っているのか……。
京太郎「あ、戒能さん!」
良子「ハロー―――須賀君」フッ
京太郎「みんなは?」
良子「帰りましたよ、でもソーリーです。わざわざ残ってくれて」
京太郎「良いですよ別に、やることもありませんし……俺が戻ったところで、ね?」
笑う京太郎に、良子はそっと笑みを浮かべた
理解はしているのだ。彼女とて彼の気持ち、思っていることは
そして二人は歩き出す。今日は―――退院日だ
京太郎「にしても、俺が戒能さんと会ったことあるなんてなぁ」
良子「ま、まぁ小さい頃の話ですから」
京太郎「んーでもこんな美人と会ってるのに忘れてるなんてぇ」
良子「上手ですね」フフッ
今ここで大事なのは、須賀京太郎の記憶について
結論だけならば―――記憶は“失っていた”
身体から魂が、霊魂が抜けていたその数週間の記憶を彼は憶えていなかった
予測していた結末でもある。不本意ではあるが、良子はそれを受け入れた
その上で、熊倉トシも大沼秋一朗も戒能良子も、再び彼と出会ったのだ
280 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/27(金) 22:17:02.10 ID:PwFEEC+p0
―――【街中】
京太郎(こ、これってデートか!? 麻雀プロと昔会ったことがあってデートってなにこれ!?)
良子「……新鮮ですか?」クスッ
京太郎「え、あ……そうですね。東京歩くことなんてないし」
良子「そう、ですね」フフッ
シンプルに、彼にとっては初めてだった
しかして、彼女にとっては彼と歩く道は別段、初めてではない
故に歩いていたのだがなんでもない
諦めてはいたのだ。彼にとってのファーストコンタクトの時点で
良子「トシさんにも言われてはいたんですけどね」
京太郎「ん、熊倉さんっすか?」
良子「え、ええ……少し」
京太郎「麻雀のあれこれ聞きたいんですよねぇ」エヘヘ
そんな彼の笑顔を見てから、彼女はふと笑みを浮かべた
色々な思い出が脳裏を駆け巡るが―――彼であって彼でない
良子「私で良ければいくらでも、教えますよ」
京太郎「ホントっすか!?」
良子「オフコース」フフッ
京太郎「俺は幸せ者だなぁ」
良子「……それじゃぁ、さっそく一局行きますか?」
京太郎「……えっ!?」
良子「あと三日はあるでしょう?」
京太郎「まぁ、でも良いんですか? 忙しいんじゃ」
良子「チルドレンは、大人に甘えるものです」フフッ
281 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/27(金) 22:40:16.23 ID:PwFEEC+p0
―――【雀荘】
京太郎「え、ええ〜!!」
あれから歩いて雀荘までやってきたものの、まず個室に通された
その時点でおかしいとも思ったのがそれが吹っ飛ぶほどの衝撃
良子「さ、やりましょう」フフッ
京太郎「こ、このメンツですか?」
座っているのは熊倉トシと大沼秋一朗の二人
そこに良子と自分が加わって四人
京太郎「いやー勝てるわけないっすよぉ!」
良子「やれば良い所まで食い付けるかもしれませんよ?」クスッ
京太郎「えー」チラッ
秋一郎「ほら、さっさとつけよ……悪霊使い」
京太郎「言われてますよ?」
良子「そうですね」クスッ
トシ「ん、来年は自力で来るんだろ?」
京太郎「……はい!」コクリ
良子「ようやく、約束が果たせますね」
京太郎「え?」
良子「なんでも、さて……はじめましょう?」
京太郎「……お、お手柔らかに」
282 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/27(金) 22:51:29.52 ID:PwFEEC+p0
それから、何度も対局をくりかえす
良子もトシも秋一郎も辞めようとはしない
それ以上に―――京太郎は、楽しんでいた
京太郎「ふぃ〜やった三位!」
トシ「上手く漁夫の利を得たねぇ」
京太郎「偶然でしょうけど」アハハ
秋一郎「偶然を導くのも雀士の力だろ」
そう言って、手元のタバコを灰皿に押し付ける秋一郎
意外そうな顔をする京太郎は、秋一郎の援護に驚いたからだろう
良子「やはり、素質を感じますね」クスッ
京太郎「そうっすか?」
良子「ビコーズ、伸び代ですね」
京太郎「……そっかぁ」エヘヘ
良子(うっ、かわいい……)
京太郎「にしても、もう6回も雀荘変えてますけど」
トシ「まぁまぁ、環境は変えてった方が調子よくなったりもするからねぇ」
京太郎「……まぁ、確かに」
トシ「ほら京ちゃん、次行くよ」
京太郎「あ、うっす!」
283 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/27(金) 23:14:45.02 ID:G6VvULo20
―――しばらくして【雀荘前】
京太郎「だぁ〜疲れたぁ!」
トシ「お疲れさん」
京太郎「死ぬかと思った」ハァ
秋一郎「いいジョークだ」ハッ
京太郎「死にませんけど、死んでも生きるんで」ハァ
良子「っ……」
京太郎「まぁなにはともあれこれで強くはなった……んですか?」
トシ「まぁ間違いなく」
京太郎「……なら、いっか」
心底嬉しそうに、俯きがちに言う彼を見て良子は顔をしかめる
本当はもっと強かったと、数週間で君はもっと強くなれると
そして―――
京太郎「……戒能さん?」
良子「ふぁっ!? あ、なんでもないです!」
京太郎「?」
良子「ナイスでしたよ?」フフッ
京太郎「……ん、よかった」ニッ
良子「今日は麻雀漬けでしたけど、良かったんですか?」
京太郎「しばらくこういう日、なかったから嬉しいっすよ!」
本心からの言葉だと理解できた
付き合いは数週間でも、それがわかるぐらいには密度は濃かった
京太郎「もしかして明日も?」
トシ「んー明日はせっかくだしデートでもしてくれば?」
京太郎「えー誰とっすか」
トシ「戒能と」
良子「へ?」
京太郎「……ふぇっ!!?」
284 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/27(金) 23:38:52.81 ID:G6VvULo20
―――翌日
良子(わざわざ待ち合わせとは……私も、若いですね)ハァ
タッタッ
京太郎「あれ、戒能さん!」
良子「ひゃわっ!?」
京太郎「早くないっすか!?」
良子(こ、ここは……)フゥ
京太郎「えっと、いつからいました?」
良子「今来たところです」フフッ
良子(今回はエクセレントですね!)
京太郎「さすが! 霊能力っすか!?」
良子「ああいえ、普通に」
京太郎「あ、そ、そうですか」
良子「ええ……でも」
京太郎「?」
良子「楽しみには、してたんですよ?」
京太郎「!」パァッ
良子「まぁ一時間も早いんですけど」
京太郎「へへっ」
良子「?」
京太郎「一時間ですけど、戒能さんと一緒に入れる時間、増えるなって」
良子「っ」
京太郎「あ、くさかったっすね」アハハ
良子「いえ、嬉しい、ですよ……」フッ
京太郎「ホントっすか!?」
良子「明日で、いや今日で終わらせる……」
良子(この未練……)
285 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/28(土) 00:03:03.52 ID:aQEKPzKt0
良子「せっかくですし、手でも繋ぎましょうか」フフッ
京太郎「ふぇっ!?」
良子「ほら、デートなんですから」フフッ
京太郎「っ……はい」スッ
ギュッ
良子「ん……大きいですね」クスッ
京太郎「ま、まぁタッパも違いますからっ」カァッ
良子「では、行きましょうか」
テクテク
京太郎(うっ、めっちゃリードされてしまっているぅ)
良子「絶叫系は、まだ早いですか……前回の記憶をリボーンしなくては」キョロキョロ
京太郎(てか俺、手汗大丈夫か!?)
286 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/28(土) 00:22:25.71 ID:WKBOFqSy0
―――【その後】
京太郎「っ!」ゼェハァ
良子(色々乗ったし絶叫系と思ったのですけども……)
京太郎「ひ、ひぇ……しょ、正直侮ってました」
良子「ふふふっ、か、変わらないっ」クスクス
京太郎「へ……?」
良子「い、いえっ、そりゃそうですよねっ」クスクス
京太郎「む、むしろ戒能さんはなんで平気なんですかぁ」カァッ
良子「私は二回目でっ」クスクス
良子(本当は須賀君もですけど)
良子「約束は守れましたけど、もう一回乗っておきますか?」クスクス
京太郎「い、いや次は死にます。死にかけましたけど」ゼェハァ
良子「っ、そこまで一緒、なんですね」ボソッ
京太郎「?」
良子「いいえ、観覧車でも……乗りましょうか」フフッ
京太郎「あ、はい!」
287 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/28(土) 00:27:01.56 ID:WKBOFqSy0
とりあえず今回はここまで
長らくお待たせしましたー
ラストスパートだから頑張るよー
288 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/08/28(土) 09:13:08.29 ID:HG0g3K6w0
オッケー
こっちもやってたか
前の遊園地の再現みたいなのあっていいな
289 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/08/28(土) 09:13:40.87 ID:HG0g3K6w0
間違えた乙
290 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/28(土) 21:41:39.64 ID:UMeEkN+e0
やってくでー
一応臨海の方も終わりを迎えたのでこちらも頑張るゾイ!
また、なんか建てて書くつもりではあるけどもー
291 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/28(土) 22:01:26.45 ID:cL3zM8lG0
―――【観覧車】
京太郎「おー高い、てか街が綺麗だ」
良子「っ……」
京太郎「へー」
良子「……好きです、か」フッ
京太郎「へっ!?」カァッ
良子「え、ああすみません……少しセンチメンタルです」
京太郎「?」
良子「須賀君は麻雀、好きですか?」
京太郎「も、もちろんっすよ。昨日一日麻雀してやっぱ好きだなって」ニッ
良子「……仲間は、好きですか?」
京太郎「もちろんです。沢山迷惑かけちゃったけど……それでも、俺が起きて喜んでくれて、泣いてくれた」
良子「……」
京太郎「」
良子「っ」ビクッ
京太郎「一緒にいたい、大事な仲間です」
良子「そう、ですか……」
京太郎「もちろん、戒能さんともっ」ニッ
良子「え」
292 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/28(土) 22:15:14.27 ID:1xgoMmmA0
―――【どこか】
大きな陸橋の上、ベンチに座っている熊倉トシ
その隣にいるのは大沼秋一朗
二人の視線の先には―――遊園地
「なんてことない話さ」
「ん?」
「アイツの、京ちゃんのこと」
「……」
徐々に赤くなってきている空
視線の先の遊園地で観覧車が回っている
「因子と因果……因子さえそろえることができればこそ、できることもある」
「再現か?」
「それに近い。けどね、それとはまた違う」
語ることは一つ。語りたいことは一つ。
ただそれを真っ直ぐに伝えるのは簡単だが、それを真っ直ぐ実現する難しさ
それでも彼のため、彼女は出来うる限りのことはした
それが失敗に終わろうと結果としては、それほど変わりはないと熊倉トシは理解している
「それでもね、私は京ちゃんと―――京ちゃんを愛したアイツに幸せになって欲しい」
「……溺愛だな」
「こんなあたしに付き合ったあんたも大概だよ」
「弟子だからな、それなりに世話してやんねぇと」
そう愚痴るように言う秋一郎の顔には、確かに笑みが浮かんでいた
故に、熊倉トシもふっと笑みを浮かべて空を見上げる
因子は揃っているのだ。“悪霊の残した残滓-因子-”は拾い上げた
あとは―――因果と成すだけなのだ。
293 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/28(土) 22:36:59.37 ID:zsCwlIW10
―――【観覧車】
半周を周り、頂点を過ぎ下る観覧車
景色を見ている暇もなく、良子と京太郎はお互いの瞳を見あう
戒能良子は“彼”といた時のことを脳裏に思い浮かべあがらせながらも、激しく動悸する胸の前で手をぎゅっと握る
「……貴方は、私の唯一です」
「え、唯一……?」
すでに、景色は視界に入っていない
戒能良子に熊倉トシの思惑も計画も、関係などないのだ
ただ純粋に戒能良子は、目の前の少年に感情をぶつけるのみ
「っ」
あの日々を零にすることなどできなくて、足掻いている
諦めるつもりだった。彼は彼じゃないと、でも彼は彼と同じことを言うのだ
故に、良子は滲む視界を振り払って最後の言葉を紡いでいく
「私はっ、貴方のことがラブで……大好きです!」
ハッキリと口にして、ハッと気づく
自分が言っている言葉を、まだ彼にとっては出会って数日
そんな自分が口走った言葉の意味と、結果を
「戒能さん……」
「っ」
ビクリと震える良子
膝の上に置かれたその手に―――そっと手が重ねられる
「え」
顔を上げれば、そこには京太郎
先ほどより近いその目の前に、京太郎の顔が映る
優しい笑みを浮かべる京太郎
「遅れたけど、約束……守るから」
「きょう、たろぉ?」
「死んでも生きる……生き返る、かな?」
「ッ!」
笑顔を浮かべる京太郎の前で、堪えていた涙がぽろぽろとこぼれる
下っていく観覧車
京太郎は、そこに“存在していた”
294 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/28(土) 22:47:16.16 ID:zsCwlIW10
「……ごめん」
「っ」
頭を横に振る良子の瞳からは涙がこぼれ続ける
スカートにシミが広がっていく
そっと、片手を離した京太郎がハンカチを取り出してその目元を拭った
「色々……トシさんがしてくれたんだと思う。きっと大沼さんとか……も」
協力してくれたのはきっと、松実露子もだ
彼女は自分と同じ霊だ。本質こそ違うものの、きっと彼女もまた
「一つ一つ、色々な場所に俺を“呼び戻すナニか”を散らせて、きっと」
「京太郎、なんですか?」
「イエス、俺は須賀京太郎……」
そっと、良子の手を自分の頬に寄せる
ひんやりとした手の平を頬で感じつつ、彼女の顔を見れば、夕焼けに照らされてかほんのりと赤い
なにがどうだとか、細かく考えるのは性に合っていない
ただ目の前の現実を噛みしめるのみだ
「戒能さん、いや良子さん……」
「は、はい」
「俺は」
ガチャリと、音がすると同時にゴンドラの扉が開く
「え?」
京太郎と良子の二人と、係員の眼が合う
295 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/28(土) 23:04:20.06 ID:zsCwlIW10
泣いた女の手を握る青年
(面倒の予感しかしない)
係員は口にも顔にも出さず、即座に判断する
だが、しかし―――ふと、京太郎はウインク一つをしながら人差し指を立てた
そして音に出さずに唇のみで言葉を伝える
『もういっかい!』
(なるほど)
「ごゆっくり〜! いってらっしゃ〜い!」
営業的な営業文句と共に営業スマイルでゴンドラの扉を閉めた
そして再び密室、息をつく京太郎が咳払いをして良子の方を見る
水を差されたけれども、その気持ちがおさまることもない
「良子、さん」
「あ、はい」
涙が止まった良子の眼をしっかりと見つめる
その赤い顔、お互いわかっているのだ
しっかりと―――伝え合ってはいるのだから
「俺も貴方がラブで……大好きです。愛してます」
ニッと白い歯を見せて笑みを浮かべる京太郎
良子は再び瞳一杯に溜めた涙を流しながら、京太郎の頬に両手を添えた
彼だって理解している。二度目だが今回は違う
切羽も詰まっていなければ、気持ちの余裕の無さも意味が違ってくる
京太郎も手を良子の背に添えて、すぐそばに近づいてくる感覚を受け入れた
二度目のキスの味―――きっと二度と忘れないだろう。その夕焼けも、瞳も
296 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/28(土) 23:31:25.82 ID:mauixQKk0
京太郎たちの乗ったゴンドラは、頂点へとたどり着く
椅子に隣同士で座る京太郎と良子の二人
指を絡めてしっかりと手を握る。二度と離さないと言うように
「ようやく、見れましたねー景色」
「……でも、ドキドキしすぎてそれどころではありませんけど」
そんな言葉に、京太郎の頬がほんのりと染まる
繋いでいる手の力を少し強めつつ、抗議するように良子の顔を見る
しかし、いたずらっぽく笑う彼女を見て笑みを浮かべつつ再び景色に視線を移す
二人の視界に映る夕焼け空と街
「あそこらへんですね、京太郎と出会った交差点」
「それで、あそこらへんですか、良子さんの泊まっているホテル」
「……なんか、変なこと思い出してません?」
「へっ!? な、なにが!?」
下って行くゴンドラ
ゆっくりと過ごせるこの半周、心の余裕に二人が笑顔を浮かべながら会話を弾ませる
地上へとゆっくりと降りて行き、今度こそしっかりとゴンドラの扉が開く
「楽しんでいただきましたか〜! お気をつけて!」
先に降りた京太郎が、良子の手を取りそっと降りるのをエスコートする
両足で地に足をつける良子、そして京太郎
二人で顔を見合わせて笑みを浮かべると歩き出す
ただ帰るだけの道。だが特別なお互いの帰るべき場所へと―――
「良子さん、帰りましょ」
「はいマイダーリン♪」
―――向かうべき場所、帰るべき場所はただ、一つ
「……てかダーリンってさすがに恥ずかしくないっすか?」
「う゛っ」
297 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/28(土) 23:45:22.39 ID:mauixQKk0
―――1週間後【長野・清澄高校】
麻雀部部室で、京太郎は囲んでいた雀卓を前に背を伸ばす
結果としては上々であり2位、1位は親友こと宮永咲
原村和と片岡優希を退けてなのだから今までと比べたら著しい成長だ
「まだ勝てないかぁ」
「京ちゃんにはまだまだ負けないよっ♪」
「……何度でも挑むよ」
「何度でも受けて立つよ」
好戦的な笑みを浮かべる親友に、京太郎は苦笑を返す
そんな時、扉がノックされる音がして全員がそちらを見やる
「そろそろ下校の時刻よ」
「全員、帰り支度しんしゃい」
竹井久と染谷まこの声に頷いて立ち上がる
「のどちゃん帰ろー!」
「あ、寄っていきたいところが、咲さんと須賀君も」
「いこー!」
「あ、悪い、俺は……」
誘いの言葉に、バツが悪そうに返事を濁す
そんな様子を見て三人がニヤニヤと笑みを浮かべた
顔を赤くして京太郎は後頭部を掻く
「ほっとけ」
「か〜おんし大概にしとかんとあかんぞ」
「わかってますよ〜」
「須賀君、今度は私を東京に連れてってね」ニコッ
「全員まとめて」フッ
298 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/28(土) 23:56:30.44 ID:mauixQKk0
軽い駆け足で校門から出て、さらに少し
そんなところに立っている彼女は、やはり輝いて見えた
惚気と言われればそうだが、それでも自分の感性がおかしいとも思えない
「お待たせ、良子さん」
「ん、今来たところですよ。京太郎」
ニコリと、輝くような笑みを浮かべる
二人揃って、歩き出す
「今日はまたどうして?」
「もちろん……貴方と会うついでにワークを」
「そっちがついでなんだ」
「当然です」
笑みを浮かべる彼女の隣を歩く京太郎
この関係をどう表現しようか、恋人と言えばそうなのだけれどそれでは軽すぎる気もする
もっと重いナニカだ。でなければ説明がつかない
お互いの人生をゆだねて生きている。そんな関係
「良子さん」
「はい」
「俺が死んだらどうします?」
「……死んでも一緒です」
笑みを浮かべて手をつなぐ
本気だが、無邪気。歪んでいると言えばそうだが
京太郎も良子も、そもそもの出会いも別れも、歪んでいたのだ
だが至って健全、やはりそれ以上でも以下でもない
「だったらやっぱ……死んでも生きないだ」
笑う京太郎の隣で、良子もまた笑う
地に足をつけて歩き出す
同じ歩幅で、一歩一歩を踏み出す
299 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/29(日) 00:00:00.96 ID:lP+0NotN0
>>298
ミス
〇「だったらやっぱ……死んでも生きないとだ」
300 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/29(日) 00:25:48.99 ID:lP+0NotN0
繋いだ手と手、感じる体温
しっかりと生身でお互いを感じて、しっかりと心で感じる
魂もなにもかもを文字通り全霊でかける関係
そんな慣れないロマンチスト的発想に、苦笑する京太郎
「それでも、一生に一度の関係、なんでしょうね」
「……ビコーズ、“一死に一度”じゃないですか?」
「変な理屈ですね」
「熊倉さんの影響ですかね」
クスリと笑う良子を見て、京太郎もまた笑みを浮かべた
ただ穏やかな日々
夏も終わりが近づいてきたのか、蝉の声も聞こえなくなってきていた
「これから何度も、こんな風にシーズンを過ぎていくんですよ……二人で」
「楽しみです。これからが……一年一年が」
「はい、まだまだ長いんですよ。人の生は」
死んだからこそ出会えた
そして生きているからこそ、今こうしていられる
二人でただ、生きていく
―――喜びも悲しみも苦しみも抱えて、それでも幸せを手に
「京太郎……今、ハッピーですか?」
笑顔を浮かべる愛した者に、問われる
そんな言葉に握る手の力を軽く強めて、京太郎はめ一杯の笑顔を浮かべた
手の温かみと胸の熱さを感じ、愛しき者を視界一杯に
「もちろん」
「……私も、今が最高にハッピーです」
そう言う彼女を抱きしめて、そっと唇を重ねる
少し強い風が、葉を揺らす音だけが響く
顔を離すと、京太郎は少し赤らんだ顔で、眩いばかりの笑みを浮かべる
―――ラブで、愛してます。
-カン!-
301 :
◆Bc4KZX4MNU
[saga]:2021/08/29(日) 00:30:34.13 ID:lP+0NotN0
くぅ疲!
終わったー! 何年後しかの完結!
そんな長いわけでもなかったのに長かった
まぁ一種のオカルトエンドというかなんというか
個人的な解釈いれまくりだからわかりにくみかもしれんけど雰囲気で読んでもらえれば僥倖
またすぐに京太郎SS書くとは思う
そんじゃまたどこかでー
302 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/08/29(日) 00:46:39.96 ID:psurOz/C0
乙です
最後の方まさにイッチって感じの雰囲気だ
重いけど二人が幸せそうでホッコリした
また書くなら着いてくからやってくれ
303 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/08/29(日) 08:58:41.86 ID:qsSekiJV0
乙です
こっちも完結見れて本当に嬉しい
単品ヒロインものもいいものだからまた読んでみたい
304 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/08/29(日) 15:59:39.87 ID:SHZYC4n6o
乙!
305 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2021/08/29(日) 21:07:21.83 ID:+ih0+F5k0
乙です
少し寂しいけどしっかり完結してくれてありがたい
次回作も期待してます
306 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2021/09/02(木) 20:44:08.06 ID:Hpe5UP5Z0
完結してた!超乙です!
王道のラスト、素晴らしく良かった
戒能プロかわいい
307 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2022/03/21(月) 19:20:44.70 ID:ToO50Y7W0
完結してるのに今気が付いて読んだ…練られた展開に独自の世界観で咲キャラを描いていてとてもよかった…
今更ですが乙でした
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