【ガルパン】西「四号対空戦車?」 後期型

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1 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 12:46:54.33 ID:LpreklqI0
以前投稿した以下のSSの続きです。

◆1
【ガルパン】西住みほ「IV号対空戦車?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475267396/


◆2
【ガルパン】西「四号対空戦車?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491635145/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1508644014
2 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 12:50:37.55 ID:LpreklqI0


プルルル プルルル



「…んぅ…?」

「…今何時…?」

「……11時か…」

「…」


プルルル プルルル




西「じ、11時っ?!」



やってしまった…。

夜遅くにアッサムさんやグリーンさん(GI6の部長)と話をしていたせいで思いっきり寝坊した…。

あの時何の話をしたっけ……あぁそうだ。私のことやダーリンのこと、そしてOG会の話だったな。

さすがに深夜にやるのはまずかった。次やるとしたら昼にしよう…。


寝坊すると学校に行く気が無くなるのは何故だろう。

…いや、寝坊したからだよね。


プルルル プルルル


考えても仕方ないから、さっきから鳴りっぱなしの電話に出よう…。

3 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 12:52:45.42 ID:LpreklqI0


ピッ


西「はい…」ボケー

『御機嫌よう"ヴェニフーキ"。部屋は綺麗になっているかしら?』

西「…?」

『…もしもし?』



…ああ、そうだった。

私は今"ヴェニフーキ"って偽名を使って聖グロにいるんだった。

元はダージリンが私につけてくれた渾名『ベニフウキ(紅富貴)』だったんだけど、これだと紅茶の品種名で足がつくからという理由で改変された。

なんでもゼラの戦いでのカエサルの言葉 "Veni, vidi, vici"(=来た、見た、勝った)からとった"Veni"。

そして『愚か者』の "hookie" を合わせてVeni Hookie。つまりヴェニフーキなんだそうだ。

これを直訳すると"愚か者が来た"となるらしい。

横文字はちんぷんかんぷんだから、名前の由来云々については良くわからん…。全部丸投げだ。

それで、何ゆえ私自身が理解出来ぬような渾名を名乗って、聖グロにいるかというと…



強制退学させられたダージリンを復学させるため。

4 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 12:57:39.05 ID:LpreklqI0


ダージリンは聖グロOGの中にいる"反・聖グロ派"(反体制派)の『聖グロ弱体化工作』によって、強制退学させられた………。

どういうわけか奴らは聖グロを腐敗・崩壊させようと目論んでいる。

その破壊工作の一つとして学園一の学力を誇り、戦車道の隊長として数々の実績を上げてきたダージリンを消し去った。

"成績不振"、"不純交際"といった事実無根の風説をでっち上げ、"不良生徒ダージリン"という虚像を作り上げて…。

その風説によりOG会から"不良生徒の退学"という市民権を奪い取り、結果ダージリンは虚偽の情報を鵜呑みにしたOG会らによって学園を追放された………。


いずれも反体制派による嘘っぱち。

でも、いずれも私が関わっている。

その事実を知った日から私は私ではなくなった。


この"こそこそ作戦"は私が一匹狼でやってるわけじゃない。

聖グロの卒業生で前隊長である、"アールグレイ"さんの指揮によって私は動いている。

ヴェニフーキという渾名を授かったのも、姿を偽っているのも、何処で何をすべきかというのも、皆アールグレイさんによるものだ。


そういった事情から、アールグレイさんとは情報を共有するために頻繁に連絡を取り合っている。

もちろん今し方かかってきたこの電話も。

5 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:01:20.68 ID:LpreklqI0


『"ヴェニフーキ"、聞こえてるの!?』



西「……おぁようございであります………」ネボケ

アールグレイ『……あなた今どこにいるのよ』



アールグレイさんとの電話でのやり取りでは、必ず最初に『部屋(服装)は綺麗にしてあるか?』から始まる。

これは以前、部屋に"盗聴器"を仕掛けられたことがあって、『盗聴されてないかチェックしろ』という、当事者のみ知るやり取り。

昨晩確認して大丈夫だったから、今朝も大丈夫だと思う。…たぶん。

ちなみに盗聴器は先日アールグレイさんからお借りした電波探知器が探してくれる。


それにしても、何もかもド忘れてしまうほど頭の回転が鈍っているな。

これからは夜更かしせずに早く寝よう…。

6 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:03:17.33 ID:LpreklqI0


西「自分の部屋であります…」

アールグレイ「…今日は平日よ? 講義はどうしたの?」

西「拠ん所ない無い事情ゆえ寝坊致しました…」

アールグレイ「………」



電話の向こうから巨大なため息が聞こえる。無理もないか。

学校に遅刻するという失態はともかく、今の私は身分を偽って聖グロにいる。

髪の毛の色も瞳の色も変えて、西絹代ではない"別人"になりすましている。

だから、こんな無防備な状態を誰かに見られたら正体がバレてしまい一巻の終わりだ。

たとえ自室とはいえ、気を抜くべきではない。


だけど眠い。頭が痛い…。

7 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:07:55.80 ID:LpreklqI0

アールグレイ『…随分と良い生活だこと』ハァ...

西「昨日は深夜にアッサムさん達と話をしたせいで寝る時間が無くて…」

アールグレイ『そう。…あなた全部打ち明けたものね』

西「なにゆえそれを…?」

アールグレイ『盗聴器』

西「あ…」

アールグレイ『まだ回収してなかったでしょう?』

西「そういえばそうでした…」



ダージリンが強制退学させられた

犯人はOGの中の反・聖グロ派、そしてそいつに媚び諂う聖グロ内の"内通者"。

ともなれば、真っ先に疑いがかかるのがアッサムさんだ。

そのアッサムさんが奴らと繋がる内通者か否かを探るため、アールグレイさんから借りた盗聴器を隊長室に仕掛けたのだった。

向こうが盗聴器を仕掛けてきたからこちらも盗聴器を仕掛ける。やられたらやり返せ。


結論を言うと、その盗聴器のおかげで、アッサムさんやGI6の面々が連中とは"無関係"だということがわかった。

盗聴器が拾った内容は私だけでなく、アールグレイさんも聞いている。

昨晩のアッサムさんやGI6を交えた話し合いも当然把握しているだろう。


ということは…

8 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:11:53.11 ID:LpreklqI0


アールグレイ「あなた、一体どういうつもりなの?」



西「ん…」

アールグレイ「私はアッサムやグリーン達と"手を組め"と言ったはず」

アールグレイ「なのに、"私の獲物に手を出すな"だなんて、何を考えているの?」

西「…」



― あえて言うならば

― これが私の 戦"邪"道 です



今思い返すと何故あのようなことを言ったのかわからない。


アッサムさんが内通者でないことが判明した。

私が隊長室に仕掛けた盗聴器によって、私の上着に仕掛けられた盗聴器が、GI6やアッサムさんとは異なる別の誰かによるものだとわかった。

同時に、それは"ずっと前から監視されていた"ということだと理解し、身の毛のよだつほ恐怖を抱き、助けを求めるかのようにグリーンさんを呼び出した。

あのとき私は、グリーンさんやアッサムさんの力を借りようと思ったんだ。


だけど、そんな私の思惑とは裏腹に、出てきた言葉は




"私の獲物に手を出すな"。


9 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:14:46.77 ID:LpreklqI0


西「実を言うと、私も良く存じ上げないのであります」

アールグレイ『はぁ!? ふざけるのも大概に

西「最初はお二方に助けて貰おうと思っておりました」

西「なのでグリーンさんが仕掛けた盗聴器を逆に利用して、アッサムさん達と話をする機会を作ってみました」

アールグレイ『ならどうして!』

西「…けれども、あの時、隊長室で話をしているうちに思ったのです」

アールグレイ『…?』


西「皆を巻き込みたくない…って」


アールグレイ『…』

西「…確かに、聖グロの問題ですから、彼女たちは無関係ではないと思います」

西「しかし、連中は平気で人の尊厳を踏み躙り、平気で人を奈落の底へと蹴落とす下衆です。そんな奴らとの戦いにアッサムさん達まで巻き込んだら…」


西「聖グロが内側から崩れていく」


アールグレイ『…』

西「それこそ、奴らの思う壺だな…って…」

アールグレイ『…それで、"邪道"であるあなたは、全部独りで抱え込もうって魂胆なのかしら?』

西「壊れるのは一人だけで十分です」

アールグレイ『…』

10 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:19:29.63 ID:LpreklqI0


西「もう、嫌なんです…」

アールグレイ『なにが…?』

西「私以外の人が苦しんだり傷付いたりするのが…」

アールグレイ『…』

西「…だから、誰かが傷付くぐらいなら、私一人が全部飲み込んでしまおう…と」

アールグレイ『………』

西「皆が助かるなら、それで良い…って」

アールグレイ『…自己犠牲精神は結構よ。あなたが傷つくことで辛い思いをする人がいること、忘れてないかしら?』

西「…」


アールグレイ『もう一度言うわよ? あなたの最終目的は、"ダージリンを復学させる"こと』

アールグレイ『そのために、強制退学の根拠が反体制派による嘘っぱちであるとを証明する』

アールグレイ『そのためには、聖グロリアーナ内部にいる内通者を特定し、そこから芋づる式にOG内の"裏切り者"を特定する』

西「心得ております」

アールグレイ『…だけど、それらとの引き換えにあなたが廃人にでもなれば、それはもはや成功とは言わない』

西「…」


11 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:22:00.41 ID:LpreklqI0


アールグレイ『あなたを含め、全ての人が以前と何ら変わりない生活を送ること。それが私達の"完全勝利"なのよ』

西「…」

アールグレイ『あなたが何を思うかは知らない。けれども、聖グロリアーナの腐敗を目論む連中にとって、"ダメージ・ゼロ"は最大の損失なの。わかった?』

西「…」

アールグレイ『お返事』

西「…かしこまりでございます」

アールグレイ『とにかく、今は身支度して講義に参加なさいな。あなたが普段通りの生活を送るのも作戦の一つよ』

西「そうですね。 "スミマセン! 寝坊したでありますっ!" とでも言って突撃しませう」

アールグレイ『おバカ。そこは"体調が優れなかった"とでも言っておきなさい』

西「体調…ですか…」


アールグレイ『何かしら?』

西「いや。こちらに来てからそこそこ経ちますけど」

アールグレイ『ええ?』


西「月のものが来てないな…って」


アールグレイ『なっ…!』

西「まぁ、来たら来たで色々面倒しょうから来ない方が良いですけどね。あはははは」

アールグレイ『あなた、体調は大丈夫なの…?』

西「寝不足で頭が痛いです」

アールグレイ『そうじゃない!』

西「え? 特には…」


12 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:28:05.22 ID:LpreklqI0


アールグレイ『…よく聞きなさい。今まで以上にしっかり栄養を補給して、夜は十分に休むこと』

アールグレイ『あと、必要以上に無理はしないこと。いいわね?』

西「え、ええ…?」

アールグレイ『絶対よ? 約束なさい』

西「はい…」

アールグレイ『それじゃ、何かあったらすぐに相談や報告すること!』

西「わかりました」



という具合に、朝(もうすぐ昼だ…)の連絡が終わった。

珍しくアールグレイさんは焦っておられたが、一体何があったのだろうか?

まぁ、何にせよこのままボケーっとしていてるのも良くないから、お言いつけ通り身支度を整えて学校へ行こう。


13 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:29:12.35 ID:LpreklqI0


ヴェニフーキ/西「…これでよし」

https://i.imgur.com/d0Y5len.jpg



西絹代は"ヴェニフーキ"に変身した。

…なんてね。


鏡を見るたび、映る自分の姿を見るたびに、その豹変っぷりに驚く。

髪の色も目の色も違う。以前よりも目つきは悪くなって、充血した目の下にはクマもできている。完全に危ない人だ。

アールグレイさんの手によって初めてこの姿になった時、私はもうこの世にいないのだなぁと思った。なんだか悲しい。

常にそばに居てくれたダージリンですら、この姿を見て私(絹代)だと気付かなかったぐらいだ…。

聖グロの誰かに気付かれたらそれで終わりだから、完璧な変装であることが望ましいけれど、誰か私の事、気付いて欲しいな。



そんなことを考えながら身支度を終えて講義室へ向かっていたら、道中で何人かの生徒が声をかけてきた。

…とりあえず『持病の癪で動けなかった』と誤魔化しといた。


頭が痛い…。





〜〜〜〜




14 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:32:40.29 ID:LpreklqI0


【聖グロリアーナ 紅茶の園】



「あっ、ヴェニフーキさん!」



ヴェニフーキ(西絹代)「ん…」

ルクリリ「大丈夫? 顔色悪いけど…?」

ヴェニフーキ「普段通りですが?」

ルクリリ「いやいや、絶対いつもよりゲッソリしてるって!」

ヴェニフーキ「…」

ルクリリ「ヴェニフーキさんここ最近すんく頑張ってるけれど、無茶して倒れたら意味ないから、適度にリラックスした方がいいと思うんだ」

ヴェニフーキ「まぁ…夜更かしが過ぎたので」

ルクリリ「そうなの?」

ヴェニフーキ「ええ」



ガンガンする頭に身悶えていたら同じ2年のルクリリさんが話しかけてきた。

聖グロ生らしく優雅にお上品…っぽく振る舞う一方で、何処となく抜けているお転婆娘な人。

知波単にいた頃の私(西絹代)はともかく、聖グロにいる今の私(ヴェニフーキ)とはまるで正反対な性格だ。

しかし同い年という事もあってか、彼女はよく私に話しかけてくる。こんな無愛想で根暗な人間と話して何が楽しいのだろうか…。



15 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:35:54.35 ID:LpreklqI0

ルクリリ「へぇ。ヴェニフーキさんも夜更かしするんだ?」

ヴェニフーキ「たまには」

ルクリリ「私もゲームやるとついつい…」アハハ

ヴェニフーキ「そう」

ルクリリ「スーパーマジノブラザーズってやつ。面白いよ!」

ヴェニフーキ「なるほど」

ルクリリ「今度やってみない?」

ヴェニフーキ「気が向いたら」

ルクリリ「あ、あとさあとさ! この間ね?」

ヴェニフーキ「ん…」



次から次へと投げつけられる話を当たり障りのない返答で回避する。

戦車以外の会話も好きだけど、今は身分を偽って他校に潜伏してるので、いらんことを喋るとすぐにボロが出る。

だからアールグレイさんの指示通り、基本的に"無口・無表情"で会話も最小限に留めるようにしている。

辛いけど、これもダージリンの為だと思って必死に自分を殺す。

こんな人物像を描いてるせいで『怖い』、『何を考えているかわからん』…と、以前の私からは想像できないような評価をもらう(目が怖いのは以前から言われてたけど…)。

一年生はおろか、アッサムさんですら最初はおどおどしながら私に接していた。


だけど本当に怖いのは、そんな偽りの人物像がだんだん板についてきている事だ。演技じゃなくて。

最初の頃は必死に感情を抑えていたけれど、今では以前ほど苦労することなく無表情、無機質な人間を演じられるようになった。慣れというものは怖い。

姿だけでなく、人格まで塗り潰されていく。

16 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:38:06.62 ID:LpreklqI0


ルクリリ「そういえば最近は」


「ヴェニフーキ…!」


ヴェニフーキ「アッサム様…」

ルクリリ「あ、御機嫌ようですわアッサム様!」

アッサム「御機嫌よう。…、ヴェニフーキ、午前中は講義に出席しなかったとのことですけど?」

ルクリリ「あ…」

ヴェニフーキ「寝不足故に頭痛で起き上がれず。深夜にやるのは間抜けでした」

アッサム「でしょうね。おかげで私も寝不足ですの。次回は明るい日中にいたしましょう…」

ルクリリ「うん?」

アッサム「…ルクリリ、少し席を外して下さるかしら?」

ルクリリ「え、ええ。かしこまりましたの」



彼女も一応はお嬢様言葉を話すんだね。何かぎこちないけど。

ルクリリさんに続くように、他の生徒もアッサムさんの様子を察して立ち去った。

紅茶の園には私とアッサムさんの2人だけ。

17 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:40:44.07 ID:LpreklqI0


ヴェニフーキ「…」

アッサム「………私は」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「私は、絶対に認めません。あなたが"邪道"だなんて…」



先に口を開いたのはアッサムさんだった。

そして内容は案の定昨晩のこと。



ヴェニフーキ「…」

アッサム「確かに、私も最初はあなたが"内通者"ではないかと疑いました」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「何故なら、あなたの行動には不自然な点が多かったから…」

ヴェニフーキ「私が今ここにいる理由、ご存知ですよね?」

アッサム「勿論ですの。あなたは内通者ではなかった。それどころか私達と同じ」

アッサム「…それに、この件を抜きにしても、あなたの今までやってきた行為の数々が邪道だとは到底思えません」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「だから、自らを邪道と呼ぶのはやめ、普通に生活して欲しいのです」



普通に生活する。

普通に生きる。

…普通ってなんだろ?。


聖グロの生徒として生活しろって事なのかもしれないけど、私は聖グロの人じゃない。

私にとっての普通の生活は、"知波単学園の西絹代として生活しろ"ってことだから。

今はこんなだから出来ないよ。それにこの先も、もしかしたら…

18 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:45:26.37 ID:LpreklqI0


ヴェニフーキ「王道があるから、邪道があります」

アッサム「…!」

ヴェニフーキ「邪道があるから王道が眩しく見える」

ヴェニフーキ「だったら、私がその邪道になればいい」

アッサム「そんな…!」

ヴェニフーキ「邪道として、邪道に落ちようとする人間に"あっちへいけ"と追っ払ってやる」



かつての仲間を捨て、自分さえも捨てて生きる今の自分が王道であるはずがない。

多くの人を騙して、聖グロを乗っ取って、そして聖グロに関わった人たちにまで私は牙を向けた。

作物を喰い荒らす蝗のように

内臓を食い破る寄生虫のように


こんな私を邪道と呼ばずして何と呼べばいい?

教えてくれ。アッサムさん。


19 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:48:19.54 ID:LpreklqI0


アッサム「それではあなただけが苦しむ!」

アッサム「それにこれは聖グロリアーナ全体の問題ですの! あなただけが

ヴェニフーキ「昨晩も申したように、」

アッサム「っ…」

ヴェニフーキ「連中の作戦を失敗させる為には、"何も変わらない"が絶対条件です」

アッサム「…」

ヴェニフーキ「誰かがくたばりでもしたら、それだけで奴らは"成功した"とほくそ笑む」

ヴェニフーキ「だから、犠牲は最小限に。…それだけのことです」

アッサム「………」



私は、ダージリンを弄んだクズ連中らと戦うクズ。

だから私以外の人がクズを相手にして、同じくクズになってもらっては困る。

邪道と戦うから戦"邪"道。

戦車道じゃなくて戦邪道。

あははは。

私みたいな汚い女にピッタリの役割じゃないか。

あははは。

あはははははは。

20 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:49:33.73 ID:LpreklqI0

アッサム「…ならば、私はあなたの負担が少しでも減るよう助力致しますわ」

ヴェニフーキ「はぁ」

アッサム「あなたが言うように犠牲は最小限に。そしてその最小限には、ヴェニフーキ、あなたも含みます」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「だから、私なりに出来ることを模索した結果、あなたの負担を何かしらの形で軽減させること」

ヴェニフーキ「具体的には?」

アッサム「あなたがされて喜ぶことは?」

ヴェニフーキ「何もしない事です」

アッサム「なっ…!」



実際その通りなんです。アッサムさん。

今の私は名前も姿も何もかも偽って皆を騙しているんだ。

そんな状態で何かされても嬉しくないし、いらぬ神経を使うだけ。

だから、何もしてくれない方が私は嬉しい。

…ごめん。

21 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:50:47.83 ID:LpreklqI0


ヴェニフーキ「そのお気持ちだけで十分です」

アッサム「…」

ヴェニフーキ「だから、アッサム様たちは普段通りに生活して下さればそれで満足」

アッサム「そう…。一日でも早く問題が解決するよう祈りますわ…」

ヴェニフーキ「感謝します」

アッサム「…それともう一つ、あなたにお話が」

ヴェニフーキ「何でしょう?」


アッサム「明日、大洗女子の方々がいらっしゃいます」



…あんた人の話ちゃんと聞いてたか?

何もしない事って言っただろう!

他校の人が来たら余計な気を使わにゃならんだろうが!!

それに大洗ってこの間私が………

22 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 13:55:37.50 ID:LpreklqI0


ヴェニフーキ「…は?」

アッサム「そ、そんな顔をしないで下さいまし! これはずっと前に決めたことですの!」

ヴェニフーキ「ずっと前?」

アッサム「ええ。先の大会で優勝したので、それを祝おうと」

ヴェニフーキ「知りませんが?」

アッサム「あなたが聖グロリアーナへ来る前の話ですもの」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「ダージリンが、"ベストを尽くした戦友たちを讃えましょう"と」

ヴェニフーキ「なるほど…」



…すっかり忘れていたけど、大洗女子は先の"臨時"の公式戦で見事に黒森峰に勝利した。

随分昔のことのように思えてしまうけど、さほど時間が経過していないから驚く。

新学期を迎えると同時に、『無人機』という理不尽なルール改定がなされ、すぐに"臨時"の公式戦がめり込む。

おかげで三年生は引退を先延ばしにして、再び戦車に乗ることが出来たけど…


戦車道に突如追加された"無人機"というルール。

…無人機? 無慈悲の間違いじゃなかろうか?


一体誰が考えたのかわからないが、本当に無慈悲で意味不明な改定だ。

改定に伴い、我々知波単を含め、各々の学校は新たな戦いに乗り遅れまいと相次いで無人機を配備していった。

しかし、その改定は戦車以上に高価である無人機を、予算の都合で配備出来ない学校にとっては絶望的なものだ。

何故なら大空を我が物顔で飛び回る無人機は戦車では簡単には落とせないから。



そしてそれは連戦連勝を遂げた大洗女子にとっても例外ではなく、地上の攻撃が一切届かない無人機を相手に一方的に蹂躙された。


23 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 14:15:01.04 ID:LpreklqI0

アッサム「大洗女子の優勝は多くの学校に希望を与えてくれた」

アッサム「無人機を保有しないにもかかわらず、無人機を使う強豪校たちを相手に巧みな戦術で勝利を重ねたのですから」


ヴェニフーキ「"四号対空戦車"ですね」


アッサム「ええ。見かけるたびに戦車の形が変わっていたので驚きましたわ」

アッサム「それは大洗の戦術が変幻自在であることを象徴するかのように」




………と思いきや、大洗女子は西住さんたちが乗るIV号戦車をIV号"対空"戦車と改造して、無人機に対抗した。


最初は"メーベルワーゲン"という4枚の大きな装甲板で覆われた対空戦車。アンツィオ高校との練習試合で投入した。

次は"ヴィルベルヴィント"という算盤珠のような砲塔に高射機関砲を搭載した対空戦車。練習試合で露呈したメーベルワーゲンの問題点を改善するためにとった措置。

そして次に出てきた"オストヴィント"。プラウダ高校との練習試合での戦訓より、カチューシャさんの助言や西住流の力を借りて実現した対空戦車。

オストヴィントとは公式戦の第2試合で実際に相まみえたけれど、我々知波単の無人機を2つも叩き割られた。

この試合の後に規定に修正が入ったため、西住さんたちの対空戦車は使用不可となり、事実上大洗は無人機への対抗手段を喪失した。

これらは私が大洗戦で怪我をして入院している時に、お見舞いに来てくれた西住さんや秋山さんが話してくれた。


理不尽な話ではあるが、そもそも砲塔などが密閉型ではない戦車は以前より規定で禁じられていた。

先の大会は、無人機に関する問題・改善点の可視化を図り、今後のルール改定の指標にするという試験的な側面もあったため、最初は天蓋の無い対空戦車も黙認されていた。

しかし、その黙認も選手の安全には代えることは出来ず改定されたというもの。

それでも大洗は諦めることなく、次の対空戦車である"クーゲルブリッツ"を開発し、サンダース戦に臨み、そしてサンダースのB-29すらも奇天烈な戦術で撃破し、勝利した。


あの戦術は誰もが仰天するものだ…。

24 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 14:19:08.43 ID:LpreklqI0


アッサム「今思い返しても素晴らしい戦術でしたわね」

ヴェニフーキ「ええ。肝心の"我が校"は一回戦でボロ負けしましたが」

アッサム「あ、あれは知波単学園が…!」

ヴェニフーキ「敵の大将は古今無双の英雄ですね。なにしろ"我が校"をコテンパンにしたのですから」

アッサム「本当に驚きました。吶喊・突撃だけが取り柄だった知波単学園が、あのような高度な戦術を取るなんて…」

ヴェニフーキ「………」



その"敵の大将"というのは私。

複雑な気分だ。知波単の私が聖グロの生徒になって他人事のように知波単を語るのだから…。

いずれにせよ、"あの結果"は実際に指揮した私ですら驚いたほどだ。ダージリン率いる聖グロを相手にあそこまで成果を出せるとは思わなかったのだから。

でも、それでも私は成果を出さなきゃいけなかった。

どうしても勝たなきゃいけなかった。

だって、成果を出せなかったら…



知波単の戦車道が"廃止"になるから。

25 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 14:21:16.03 ID:LpreklqI0


だからあの時私は限られた時間の全てを戦車道に注ぎ込んだ。

勝利せねばそれで終わりだから、勝つ為にありとあらゆる情報や知識をかき集めた。

そして、今までの"突撃戦法"では勝てないとわかり、新しい戦術を作り上げなければならなかった。

戦車や無人機の移動速度、砲の射程距離、貫通力、試合会場の地形、過去の戦車道大会、歴史上の戦い…

猛勉強した。猛特訓した。

集めた知識や情報をもとに、突撃一辺倒だった戦術を大幅に変更し、究極の戦術を編み出した。

もちろん仲間たちは猛反発した。"我が校の伝統に背いた!!" って非難轟々だ…。


だけど、そうしなければ伝統どころか戦車道そのものを失ってしまう。

26 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 14:26:23.29 ID:LpreklqI0


アッサム「そう考えると、知波単学園の皆様もこの大会で大きな成果を出した学校ですわね」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「そしてダージリンはあの時から知波単学園の隊長…絹代さんを気にかけていた…」

ヴェニフーキ「そうですか」

アッサム「ええ。前も話したけれど、絹代さんは戦車道廃止の危機に瀕した知波単学園を救った人です」

アッサム「そんな彼女の面影に、ダージリンは自分を重ねたのでしょうね」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「同じく血の滲むような努力をして、死に物狂いで聖グロリアーナを支えてきた者として」

ヴェニフーキ「…」



私は二戦目で大洗と対決した。

陸と空から大洗を畳み掛ける最初こそ健闘したものの、四号対空戦車"オストヴィント"によって我々の無人機は壊滅し、戦車も残り僅か。

そんな逼迫した戦況にて私は最後の無人機を動かそうとした。


特攻兵器 "桜花" を搭載した一式陸上攻撃機を。


意識が朦朧となる中、"全て壊してしまえ"という悪魔の囁きが聞こえ、無人機を操作する端末を手に取ろうとした時、そこにダージリンから貰った"戦友の証"があった。

そしてダージリンとの約束を思い出した。


おかげで私は特攻兵器を使うことなく、伝統である突撃を敢行して、最期は知波単学園として終わった。


私はダージリンに助けられた。

ダージリンがいたから知波単の戦車道は死を免れた。

意識が途切れる直前、ダージリンの姿が見えた。


27 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 14:31:29.72 ID:LpreklqI0

アッサム「…どこへ行くのです?」

ヴェニフーキ「部屋に戻ります。寝不足ですので」

アッサム「そう。では私もそろそろ。…ちゃんと休むのですよ?」

ヴェニフーキ「ええ」

スタスタ

ヴェニフーキ「…」



西「…ダージリン………」



最後の突撃で私は負傷して意識を失い、目覚めたら病院の布団の中にいた。

そして、そこにはやっぱりダージリンがいた。ダージリンは入院中、手厚く看病してくれた。

気が付けばいつもダージリンがそばにいてくれた。

本当に幸せだった…。

一緒に過ごすうちに、ダージリンの考えることが解るようになった。

彼女の感情が私の感情として、私の心に宿るようになった。

ダージリンの幸せが私の幸せで、ダージリンの苦痛が私の苦痛。

…そんな感情だった。

だからOG会に潜む反体制派の工作によってダージリンが強制退学させられたと知って私は



心を壊された。



必死に守ってきたものを一瞬で粉々にされた。

ダージリンが受けた屈辱・絶望・怒り・悲痛、それらが全て私自身のものになって襲い掛かる。

自分ひとりでは抑えられず、とうとう理性を失って発狂する。精神安定剤が手放せなくなるほど深い傷を刻まれた。


心も身体もボロボロになって、破落戸のように目つきが悪くなって

疑心暗鬼の塊になって、ダージリンに泣きついて

アールグレイさんと手を組んで

"ダージリンの救済"という名目で奴らへの復讐を誓って


そして私は"ヴェニフーキ"という偽名を名乗って―――



現在に至る…。




〜〜〜



28 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 14:33:48.74 ID:LpreklqI0


【翌日 聖グロリアーナ女学院 紅茶の園】



聖グロ一同「「「優勝おめでとうございます!!」」」



桃「ほ、本日はこのような場に招待頂けたこと、こ、心より感謝しまする…ここ、これも常日頃の…」

杏「かぁーしま、長いし硬いって」

柚子「桃ちゃんらしいね」フフ

桃「ここに来てまで桃ちゃん言うなーっ!!」


アハハハハ!



全国大会、大学選抜チーム戦、そして先日の臨時の公式戦でも見事優勝し、破竹の勢いの大洗女子。

戦車道の規模こそ小さいものの、巧みな戦術と隊員の練度は強豪校に一切劣らない。

廃校の危機を何度も乗り越えた大洗女子の躍進は大きな夢と希望を与えてくれた。

そんな彼女たちを称え、優勝を祝うためにこのような交流会を企画した。好敵手を称えるというダージリンの流儀に基づいて。

ダージリンもまた、大洗が歩んだ戦車道に自分の戦車道を重ねていたに違いない。


だけど、その祝賀会を企画したダージリンはここにはいない…。

29 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 14:36:54.68 ID:LpreklqI0

アッサム「本当はもっと早くご招待したかったのですが、日程が詰まってたものでして」

みほ「いえいえ、とんでもありません! このような場にお誘いいただけるだけでも嬉しいです!」

沙織「むしろ聖グロの皆さんには色々恩返ししないといけないくらいです」

優花里「武部殿の仰る通りです。本当に聖グロの皆さんには感謝してもしきれません!」

アッサム「ふふ。そう言っていただけると嬉しいですわ」

エミ「…本家かぁ」

オレンジペコ「本家…ですか?」

エミ「あ、い、いや、こっちの話!」

オレンジペコ「???」



ダージリンを失い、私がここへ潜り込んでからというもの、聖グロは短期間に色んな学校と練習試合や祝賀会などで交流を重ねてきた。

プラウダ、サンダース、知波単、そして黒森峰。

これらは繰り上がりで隊長になったアッサムさんによる、"実戦に近い環境で上質な練習を行う"という考えによるもの。その判断はもちろん、各学校の日程や学園艦の入港の手間を鑑みても、アッサムさんの緻密な計画と調整には驚かされる。

さすがは大学選抜戦で参加者全員の制服や大洗への短期転校を手配した人だけある。なにせ各校の主要メンバーだけでなく、その人達が乗る戦車の乗員も含めてなんだからなぁ。

仮に1輌に4人乗ってたとすれば、22×4で88人。…だけど私が心得違いをしたせいで、その数はどえらい事になっている。

…あの時はすみませんでした。



30 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 14:38:49.71 ID:LpreklqI0

みほ「ところで、ダージリンさんはまだ…?」

オレンジペコ「!」

沙織「そういえば体調崩されて結構経ちますよね」

アッサム「ダージリンは…」

麻子「あまり長引いているから単なる風邪とは思えないが…」

オレンジペコ「えっと…」

華「心配です。難病を患っておられなければ良いのですが…」



やはり話題として上がるのはダージリンの件だ。

前回お会いした決勝戦の時からまた時間が経っている。このまま"風邪"を長引かせてはさすがにまずい。



ヴェニフーキ「ダージリン様はじき戻られるでしょう」

アッサム・オレンジペコ「…!」



そう断言する。

私はこの命に変えてでも、どんな手を使ってでもダージリンを復学させる。

それが奴らへの復讐。そしてダージリンへの恩返し。

ダージリンは絶対聖グロに帰って来る。



沙織「!!」

優花里「あっ…」

華「…」

みほ「ヴェニフーキさん…!」

エミ「…」

ヴェニフーキ「お久しぶりです。大洗の皆様」



あんこうチームの皆さんにお辞儀をする。

"優勝おめでとうございます"

"あなた達の道を変えてごめんなさい"

"こんな姿であなた達を迎えて申し訳ない"


三つの意味を込めて…。


31 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 14:41:09.97 ID:LpreklqI0


みほ「お久しぶりです。先日はその…お世話になりました」

ヴェニフーキ「こちらこそ。素敵な試合を観戦できたこと、とても喜ばしく思います」

みほ「ええ。おかげさまです」


エミ「あなたがウワサの"みほに助言した人"なの?」


ヴェニフーキ「…」

みほ「え、エミちゃん!?」

エミ「だってそうじゃない? 私達はそれで勝ったんだから」

みほ「そ、そうだけど…」

アッサム「助言?」

みほ「…ええ。実は私達が黒森峰に勝てたのは、ヴェニフーキさんの助言の陰でして…」

アッサム「えっ、そんなの初耳ですわ…」


32 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 14:48:57.82 ID:LpreklqI0


ヴェニフーキ「無人機を廃止するために、どうしてもあなた達の力が必要だったのです」

エミ「…ふーん」

みほ「そうだったんですか…」

ヴェニフーキ「この"改悪"に終止符を打つためには、"無人機を持たず、使わず強豪校に勝利する"…という物語が必要」

ヴェニフーキ「これが出過ぎた真似であることは重々承知しております。深くお詫び致します」



もう一度、西住さんに頭を下げる。

決勝戦で西住さん達あんこうチームは高射砲塔の天辺に戦車を構え、橋を渡る黒森峰のフラッグ車を一発の砲弾で仕留め"完勝"した。


― この会場の中に1箇所だけ、黒森峰を一方的に葬れる場所があります


試合前に私は無礼にも西住さんにそう言い放った。

その"一箇所"で放った一発には、私の戦車道の全てが注ぎ込まれていた。

かつて知波単の戦車道を守るため死に物狂いで習得した"感覚"。

そこから導き出した結論、それを大洗にと…。


結果として、試合は私の望み通りとなった。

西住さんは私の意図を汲んでくれた。

ありがとう。西住さん。

そして、ごめんなさい。

33 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 14:50:45.97 ID:LpreklqI0

みほ「い、いえいえ…!」

ヴェニフーキ「たとえ、どれだけ理不尽な改悪をしようとも、我々が滅ぶことはない。いつ何時でも必ず這い上がってみせる」

みほ「!」

ヴェニフーキ「…そういったメッセージを、"奴ら"に届けたかった次第です」

みほ「そうだったんですね…」

エミ「…」



西住さんに放ったその言葉は、私自身への暗示でもある。

"奴ら"というのも…



ヴェニフーキ「…それに」

みほ「?」

ヴェニフーキ「大洗を廃校にはしたくなかった…」

エミ「…そう」

みほ「あ、ありがとうございます…!」

34 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 14:51:57.26 ID:LpreklqI0

沙織「…」

ヴェニフーキ「…ん」

沙織「あっ!」ビクッ

ヴェニフーキ「どうされましたか?」

沙織「えぁ…な、何でもありませんっ!!」アセアセ

ヴェニフーキ「あなたは確か…」

沙織「あの…あんこう…じゃなくて隊長車の通信手の武部沙織です!」

ヴェニフーキ「ご丁寧にどうも。ヴェニフーキです」

沙織「ど、どうも…!」



視線を感じたので振り返ってみたら、あんこうチームの武部さんがいた。

だけど何だかオドオドしておられる。

やっぱりこの顔(目)は相当キツいか………。




〜〜


35 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 14:55:50.57 ID:LpreklqI0


オレンジペコ「腕によりをかけてお料理たくさん作りましたので、ぜひぜひ召し上がってください」

華「ありがとうございます!」パァァァ

優花里「あはは。相変わらずですねぇ五十鈴殿」


あや「すっごーい! これペコちゃんが作ったの!?」

オレンジペコ「私が作ったものもあれば、他の方が作ったものもあります」

優季「でもでも凄いよ! ペコちゃん絶対いいお嫁さんになれるよ!」

オレンジペコ「えへへ。ありがとうございます」

あや「いいなー! 私にも料理教えてよー!」

オレンジペコ「聖グロリアーナにいらっしゃったらいつでもお教えしますよ」

優季「あー! あやだけズルいー! 私も教えてもらうー!」


ルクリリ「デザートにはフルーツやスイーツなどもございますの」

麻子「おおお!」パァァァ

沙織「あはは。相変わらずだね麻子は」

みほ「甘いものを食べると元気になれるもんね」

ヴェニフーキ「マカロンもご用意しました。如何でしょう?」

みほ「マカロン!?」ピクッ

優花里「あ、西住殿も元気になりましたね」

ヴェニフーキ「西住さんはマカロンがお好きなのですね」

みほ「はい! マカロンはいくらでも食べれちゃいます♪」

エミ「あ、相変わらずね…」

ヴェニフーキ「すごく幸せそうです」

みほ「はい! マカロンとボコがあれば私は幸せです!」

優花里「西住殿は本当にマカロンとボコがお好きですからねぇ」

みほ「うん! このあいだ内臓はみ出しボコの新バージョンが出たんだよ!」


36 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:00:23.52 ID:LpreklqI0


エミ「うっ…」

沙織「お食事中にその話はやめようよみぽりん…」

麻子「グロテスクなのは勘弁してくれぇ…」ガタガタ

みほ「ええ…」ガーン

ルクリリ「なんか…すごいスプラッタなアニメなんd…ですわね」

ヴェニフーキ「子供向け、ですよね?」

優花里「子供向け…だと思いますが、子供に観せたらグレること間違いナシですね…あはは…」

みほ「ぐ、グレないよ! 観たらみんな幸せハッピーになれるんだよ!」

ルクリリ「ヴェニフーキさん、一度観た方が良いんじゃない?」

ヴェニフーキ「余計なお世話」


みほ「いいですか? ボコはですね…」

優花里「また始まりました…」

エミ「私は10年前から聞かされてるわよ…」

華「うふふっ」モグモグ



マカロンを食べながらボコの話をする西住さんは、純粋無垢な乙女だった。見てるこっちまで思わず笑みが零れそうなほど。

西住さんは一通りボコについて力説したあと、満足そうにボコの歌を歌い出す。



  〽人生 負けても いいんだぜ
   いつか 勝てると 夢を見て
Come on, Come on, Come on, You can this!
ボコリ ボコられ 生きていけ



あはは。

いつか報われるって信じながらボロボロになっていく。

まるで今の私じゃないか。あははは…。


37 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:02:59.49 ID:LpreklqI0


みほ「良い歌ですよね! なんかこう、ワクワクしてきますよね!」キラキラ

ルクリリ「そうかな…」

ヴェニフーキ「ええ。良い歌です」

ルクリリ「えぇ…」

みほ「えへへ♪」



こんな"ボコ"でもいつか勝つ日が来るのだろうか。 …いや、来ないだろうな。

戦って負けて満身創痍になるからボコなんだと思う。そしてそれを観た人たちが笑顔になる。

だから、皆がいつまでも笑顔でいられるように…ってボコという脇役を置く。

主役はそれを観ている人たち。

だから、私も私と関わる人達が笑顔でいられるなら……ずっと、脇役でいいや。

38 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:05:08.63 ID:LpreklqI0


沙織「ヴェニフーキさん…?」

ヴェニフーキ「っ、…呼びました?」

沙織「何か、あったのですか…?」

ヴェニフーキ「えっ?」

沙織「その、悲しそうな顔をしていたから…」

ヴェニフーキ「いえ…」



いかん…。

ボコと自分の境遇が何処と無く似ている気がしたせいで、思わず感情移入してしまった。

そのせいで武部さんにいらん心配をかけてしまった。



沙織「…みぽりん」ジトー

みほ「ふぇ!?」

沙織「ヴェニフーキさん困ってるよ…」

みほ「え? え?!」アセアセ

ヴェニフーキ「大丈夫です。西住さんがすごく楽しそうに語ってるので、ボコってどんなアニメなんだろうかと考えていただけですよ」

沙織「そうですか…?」

ヴェニフーキ「ええ」

沙織「あはは。ちょっと安心しました」

ヴェニフーキ「心配して下さってありがとうございます」

沙織「えへへ…」



色んな所に気が行き届くとても優しい人だ。間違いなく良妻賢母になる。

戦車道そのものが『礼節のある淑やかで慎ましく凛々しい婦女子』を育成することを目的にしているのだから、戦車道の終着点はきっと武部さんなのかもしれない。

そう考えると武部さんもまた、私が憧れた王道の一つだ。

39 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:09:23.16 ID:LpreklqI0


華「うふふっ。どのお料理もとっても美味しいです♪」

優花里「五十鈴殿も相変わらずですねぇ」アハハ

華「はい。相変わらずです」フフッ

ヴェニフーキ「料理はたくさんありますので遠慮なくどうぞ」

華「はいっ♪」

沙織「華は少し遠慮した方がいいと思うな…」


麻子「んぅ……」

ヴェニフーキ「ん、体調が優れないのですか?」

麻子「いや…眠い……」

優花里「あはは、冷泉殿は低血圧ですから普段からこんな具合でして」

ルクリリ「何となく分かるなぁ。私も徹夜したときこんな感じだもん」

アッサム「夜は早く寝なさいといつも言っているのに…」

沙織「もー麻子ったら! なにもこんな時まで寝なくたっていいじゃない!」

麻子「…眠いものは仕方ない…………」スピー

ヴェニフーキ「…」



私も最近、朝にめっぽう弱くなったり、頭痛がしたり苛々することが多い。

だから冷泉さんの気持ちも何となく分かる。

そんな低血圧を改善する食べ物と言ったら………



ヴェニフーキ「ケーキはいかがです?」

麻子「ケーキ…?」ムクリ

優花里「わっ、復活したぁ?!」



低血圧には甘いものが良いらしい(本当か…?)から提案してみたら一瞬で回復した。

さすが甘いもの。

…というより冷泉さんが単に甘いもの好きなだけかもしれんが。


40 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:15:10.78 ID:LpreklqI0


ルクリリ「他にもスコーンやプリンといったスイーツ系もありますよ!」

麻子「おぉぉ…ここが天国か…!」パァァ

ルクリリ「あははっ。みんな紅茶を飲むだけにお茶請け作りにも余念も無いんだ。だからスイーツ系も得意分野なの!」ドヤッ

ニルギリ「ルクリリ様は味見しかしていないですよね?」

ローズヒップ「いっぱい味見しておりましたの。羨ましいですの」

ルクリリ「ぐっ…別にいいじゃないかぁ!」

ニルギリ「たまには手伝って下さいよ…」ジトッ


麻子「沙織、私は聖グロで余生を過ごす」

沙織「えーっ!? それじゃ操縦手は誰がするのよー!」

麻子「レオポンのツチヤさんがいる。3年が卒業すれば一人ぼっちだ。仲良くしてやってくれ」

ツチヤ「えっ、ウチがあんこうチームの操縦手やんの!?」

麻子「うむ。ポルシェティーガーを巧みに操作するツチヤさんなら、IV号など屁のカッパだろう」

エミ「今はE-100対空戦車だけどね…」

優花里「IV号も好きですが、E-100対空戦車も捨てがたいですぅ〜〜」ワシャワシャ


アッサム「改めて見ると大きいですわね…」

ヴェニフーキ「手合わせする側としては、E-100対空戦車よりIV号に乗って頂きたいですけどね」

みほ「あはは。もうすぐIV号の修理が終わるって言ってましたよ」アハハ

エミ「もうすぐこの子ともお別れかぁ…」

ヴェニフーキ「…」

エミ「?」



― もしもし

― ふぇっ!?

― どうしたのよそんなに驚いて…

― あ、あの…えっと…

― ちょっと…みほ?

― ご、ごめんなさい!また次の機会にっ!



そうかあの時電話に出たのはあなたか。急に知らない人の声がするから焦ったぞ。

…だけど試合の時はいなかったような。転校生かな?


41 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:27:36.44 ID:LpreklqI0

ツチヤ「まぁE-100対空戦車はともかく、IV号はポルシェに比べたらねぇ…」

麻子「うむ。E-100は相当な荒くれ者だ。なにより重くて腰に来る」

ツチヤ「だよねぇ。IV号のあとにコレ乗ると絶対重いよ…」

麻子「逆に言えばE-100に乗った後にポルシェティーガーに乗れば幾分か軽く感じるんじゃないだろうか?」

ツチヤ「そうかもしんないね」


ナカジマ「やめといた方がいいよー」ヒョコッ

ホシノ「E-100が電気ストーブになっちゃうよー」モコッ

スズキ「ツチヤはレオポンなのにライオン(ランオン)だからねー」ニョキッ


ツチヤ「んなっ! ここでもソレ言うのかよッ!!」


ワッハハハハハ!!


ホシノ「あ、でもツチヤならIV号カスタマイズしても〜っとスゴいのにしてくれるかもよー?」

スズキ「たとえばH型の次の"I型"とかさー」

ヴェニフーキ「確かIは無かったような?」

優花里「ええ、I型は無いですね」

ナカジマ「じゃぁじゃぁ、その次のJ型とか?」

優花里「J型はH型を簡略化したものですし、砲塔旋回が手動になったので、むしろ劣化と言うべきかと…」

ナカジマ・ホシノ・スズキ「あぁー…」

ツチヤ「"あぁー…"じゃねーよ!!」ガァァァ!!

42 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:29:01.24 ID:LpreklqI0

ナカジマ「だってさぁ、やらかしそうだもんツチヤ」

スズキ「うん」

ホシノ「うん」

ナカジマ「うん」


ツチヤ「こォンのやろォォォォォォ!!!!」


ナカジマ「うおっ、ツチヤがまた暴走したぞぉ〜!」ワハハハ

ホシノ「逃っげろ〜♪」

スズキ「あはははっ♪」


ツチヤ「ヴェニフーキさん! ブラックプリンス貸して!! ポルシェごとアイツら粉ッ々にしてやるッ!!」ガァァ!!

ヴェニフーキ「構いませんが、砲手は?」

ツチヤ「五十鈴さんに任せるよっ! アイツらがどんだけ逃げても五十鈴さんなら当てられっからさぁ!」

華「味方を撃つのはちょっと…」

ツチヤ「だ、だったらブラックプリンスの砲手さん!」

ヴェニフーキ「…」チラッ

モーム(BP砲手)「…」

ヴェニフーキ「『ワシはやらんぞ』と言っております」

ツチヤ「そ、そんなぁ…」ガーン


アハハハハハ!!


43 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:36:31.64 ID:LpreklqI0


エミ「…ちょっと良いかしら?」

ヴェニフーキ「何でしょう?」

エミ「そのブラックプリンスって、もしかして…」

ヴェニフーキ「西呉王子グローナ学園からお借りしたものです」

エミ「マジで?!」

ヴェニフーキ「ええ。隊長のキリマンジァロさん曰く、『是非使ってください』とのことです」

エミ「うぇぇ?! アイツそんな事言ったの?!」

ヴェニフーキ「ええ」

エミ「げぇぇ…」

ヴェニフーキ「?」



聖グロに来てすぐはチャーチル歩兵戦車の砲手をやっていたが、プラウダ高校との練習試合を経て火力不足が気になったので、何か妙案はないかと考えた。

その時にふと西グロこと『西呉王子グローナ学園』のことが脳裏に浮かび、そこでブラックプリンスを借りれまいかと、アールグレイさんに提案してみた。

案の定アールグレイさんは訝しげな反応を示したが、西グロの隊長キリマンジァロさんは『ダージリン様ファンクラブ』とやらのプラチナ会員とのこと(あの女がプラチナ会員ならば、私はさしずめブラック会員といったところだろう)。

そこに目をつけて、強制退学させられて以降自宅待機だったダージリンを、短期留学という形で西グロへ通わせる代わりに、ブラックプリンスを借りるという『取り引き』をした。


プラチナ会員さんにとって願っても無い出来事だろうし、聖グロにとっては火力の増強になる。

そして私自身もアッサムさんやペコが乗る隊長車から距離を置ける(特定されるのを防げる)。

ということで三方各々が得をするものだった。


…だが、問題はブラックプリンスの乗員に、GI6のメンバーが乗るという予想外な出来事が起きたという点。

ランサムさんが操縦手。GI6部長のグリーンさんが装填手。一年生のフレミングさんが通信手。そしてやたら無口なモームさんが砲手

先日の深夜に行われた話し合いでGI6やアッサムさんと"和解"したものの、私が西絹代であるという事は絶対に知られてはならない。

どうしたものか…。



44 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:38:58.37 ID:LpreklqI0


ルクリリ「あはは! やっぱり大洗は面白い人が多いね!」

みほ「ええ、個性的な方が多いですね」

優花里「個性的すぎて対応に困る時もありますけど」アハハ

ルクリリ「まぁ元気だったらウチのローズヒップも負けていないけどね。なっ、ローズヒップ?」

ローズヒップ「ふぁい?」モグモグ

アッサム「こ、こらローズヒップ! 口の中にモノを入れたまま喋ってはいけません!」

ローズヒップ「」ゴックン


エミ「実にいい食べっぷりね…」

ヴェニフーキ「同意です。思わず見とれてしまうほど」

アッサム「あなたも見とれていないでちゃんと指導なさい…!」

ヴェニフーキ「ローズヒップ、お手」

ローズヒップ「はいですの」ポン

アッサム「そうじゃなくて!」

華「ふふ。ローズヒップさんを見ていると、こちらまでお腹が空きますね」

沙織「まだ食べるの?!」


ルクリリ「ほーらローズヒップ、おかわりあるぞー!」

ローズヒップ「いただきまーす!」モゴモゴ

ルクリリ「はい次!」コトッ

ローズヒップ「いふぁだきまふっ!」ムシャムシャ

ルクリリ「はいドンドン」カタン

ローズヒップ「いたぁだきますっ!」ガツガツ

ルクリリ「はい、ジャンジャン♪」カチャッ

ローズヒップ「いただきまぁす!」モシャモシャ


優花里「…どこかで聞いたことがあるような掛け声です」

華「これは"わんこ蕎麦"ですね」

ヴェニフーキ「彼女は犬みたいなので"わんこ"なのかもしれません」

みほ「あはは。ちょっと可愛いかも」

45 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:40:57.78 ID:LpreklqI0

ローズヒップ「いやぁ〜、ケーキ美味しゅうございましたですっ!」

ルクリリ「あははっ! いい食べっぷりだったよローズヒップ!」

アッサム「こらっルクリリ! あなたまで一緒になって遊んでどうするのですか!」

ルクリリ「わっ!? すみませ〜ん!!」

ローズヒップ「満腹満腹でございますの」ポンポン

アッサム「ローズヒップ…あなたも綺麗にお作法を忘れてしまったのですね……」ハァ...


麻子「こんなにケーキが食べられる聖グロリアーナが羨ましい…」

ニルギリ「今回はこういう機会ですからね…」アハハ

ヴェニフーキ「ちなみに我が校に来たら、髪型をギブソンタックにするという規則があります」

麻子「ギブソンタック?」

アッサム「ありませんわよ。そんなルール」

麻子「ケーキが食べれるならギブソンタックでもモヒカンでも一向に構わない」

沙織「あんたモヒカンにするの?」

麻子「モノの例えだ。モノの」


ヴェニフーキ「ちなみにギブソンタックというのは、そこのおチビみたいな髪型です」

麻子「おチビ…?」

オレンジペコ「むぅ! おチビだなんて失礼ですっ! こう見えても前より伸びましたから!!」

ヴェニフーキ「横に?」

オレンジペコ「た て に!!」


アハハハハ!

46 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:44:17.03 ID:LpreklqI0

沙織「そう言われてみるとペコちゃん前に会った時より少し伸びたかも」

オレンジペコ「ええ、伸びましたとも!」フンス

麻子「背の高いヴェニフーキさんが隣にいるとピンと来ないな…」

オレンジペコ「ぅ…いつかきっと追いつきます…」シュン

ヴェニフーキ「頑張れ」

沙織「にしても、麻子がペコちゃんみたいな髪型にしたらどんな感じなのかなぁ」

麻子「毎朝セットするのが大変そうだな…」

オレンジペコ「慣れてしまえばすぐに出来ちゃいます」

沙織「オレンジペコならぬ"オレンジマコ"ってね!」

オレンジペコ「お、オレンジマコ…」ハハハ..

ニルギリ「やたら語呂が良いですね」


麻子「そうだな、良い名前だ。お礼として沙織、お前には"茶番"というニックネームをやろう」

ヴェニフーキ「…」

沙織「嫌に決まってるでしょ!」

オレンジペコ「ち、茶番…」アハハ..

麻子「しょーもないことばかり言うお前にはピッタリなニックネームだ」

沙織「絶対やぁだぁ!」

優花里「ダージリン殿が後輩に茶番って呼ぶところ、ちょっと見てみたいかもです」

みほ「想像できないなぁ」アハハ

47 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:46:39.53 ID:LpreklqI0

アッサム「ふふっ。ダージリンが後輩にそのような酷いニックネームをつけることはあり得ませんわ」

みほ「ですよね。ダージリンさんは仲間想いな優しい方ですから」

ルクリリ「確かに仲間想いなお方だけど、何処かしら抜けてるというか…天然というか変人

ツネッ!

ルクリリ「あいたっ! な、何で今ツネったの!?」ヒリヒリ

ヴェニフーキ「おイタが過ぎますワヨ」シレッ

オレンジペコ「…ダージリン様のモノマネですか?」

ルクリリ「うぇぇ…」ヒリヒリ

アッサム「概ね同意ですが、指導とはいえ鉄拳制裁は如何なものかと」




― もしも、もしもですよ? 私が聖グロの生徒だとしたら、どの様な名前を頂けるのだろうかと思っただけです

― そうね。紅茶に因んで

― "茶番"なんてどうかしら?

― ………。



呼ぶんだなーそれが。

まさに"しょーもない"私の為にあるような名前だ。



― む。

― そうね。あなただったら ――― ベニフウキなんていかがかしら?

― ベニフウキ?

― 漢字で書くと"紅富貴"。アッサムに近い日本の品種よ。



あのやり取りが無かったらベニフウキから転じた"ヴェニフーキ"なんて偽名は誕生しなかった。

そうだとしたら、私は今頃どんな名前をつけられていたのだろうか…。


48 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:50:03.12 ID:LpreklqI0

ルクリリ「それで、冷泉さんがオレンジマコと名乗るなら、ペコはどうしようか?」

オレンジマコ「どうもなりません」

沙織「モコはどうかな?」

麻子「ネコがいい」

華「動物ならタコとかいかがでしょう?」

エミ「ゲコ」

ヴェニフーキ「セコで」

みほ「ボコ!」

オレンジ●コ「はいぃ?!」ムカッ


優花里「…オコですね」

ヴェニフーキ「怒ってるフリして実は喜んでます。根っからのマゾっ子でして」

オレンジペコ「まっ…! そんなわけないじゃないですかっ!!」

ヴェニフーキ「はいはい。落ち着いて」ナデナデ

ルクリリ「そそ。短気は損気」クシャクシャ

オレンジマコ「ぁぅ…」フニャ

麻子「まさにネコだな」

華「ふふ。オレンジペコさんも先輩に恵まれていますね」

優花里「思わず嫉妬しちゃいそうです」


オレンジペコ「!」ハッ


ルクリリ「お、赤くなってる」ニシシ

オレンジペコ「なってません!!/////」


アハハハハハハ!



大洗(もとい、あんこうチーム)の皆さんとは身長のことでやたら盛り上がった。

本当はこのまま皆さんと雑談を楽しんでいたかったが、あまり溶け込むとそのうちボロが出るので、名残を惜しみつつ一旦席を外すことにした。






49 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:53:24.34 ID:LpreklqI0

オレンジペコ「そうですね…映画といえば007は面白かったです」

梓「あっ、聞いたことがある! ジェームズ・ボンドだよね!」

オレンジペコ「はい。イギリスの小説が原作のスパイ映画です」

あゆみ「おー! 先輩たちが好きそうだなぁそういうの」

オレンジペコ「アクション系やミリタリー系が好きな方には好まれます」

桂利奈「あれ? 007ってサイボーグのアニメじゃなかったっけ?」

オレンジペコ「えっ?」

紗希「………」ボー

あや「それは009だよ桂利奈ちゃん」

桂利奈「あ、そうだったー!」


アハハハハハハハ!



ペコは今度はウサギさんチームの人たちと雑談をしているようだ。

ちょっとだけ会話を盗み聞きしてみよう。

先輩に囲まれて活動する事が多い彼女にとって、同い年であるウサギさんチームの皆さんは良いお友達だ。

うちのペコをどうかよろしくお願いします。…と、少しだけ先輩面してみる。


50 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:56:10.44 ID:LpreklqI0

優季「ねぇーねぇー、007ってイギリスの映画だよね?」

オレンジペコ「はい、イギリス映画です」

優季「ということは聖グロの人たちはみんな知ってるのぉ?」

オレンジペコ「うーん、知ってる人もいればそうでもない人もいますね」

あや「へぇー、そうなんだー」

梓「ちょっと意外かも」

オレンジペコ「題材が題材ですから抵抗のある人もいらっしゃいますからね」

優季「そうなんだー」

あゆみ「あとは濡れ場もあるしねー」

桂利奈「濡れ場って?」

ペコ・梓「ぅ…////」カァァ..



どうやら『007』の話題で盛り上がっているようだ。女子高生にしてはなかなか渋い。

かくいう私も007は過去に観たことがある。

あの時はスパイって凄いな格好良いなー。なんて思っていたけど、そんな私が今では身分偽って他校に潜伏するというスパイさながらな行為をしてるから皮肉な話だよ。

あの時の自分に教えてやりたいな。『現実のスパイはジェームズ・ボンドみたいに格好良くはない』ってね。

他人も自分も疑い騙し、常に正体がバレないか冷や冷やしながら毎日を生きている。

実を言うと今この瞬間もボロが出てしまわないかと、神経をピンピンに張り巡らしている。

だから、架空の物語だとわかっていても、どうしても自分と重ね合わせてしまう。

スパイ映画を楽しめない、数少ない内の一人だ。

51 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 15:58:51.50 ID:LpreklqI0



「まるであなたですね。007」



ヴェニフーキ「彼にしてみれば、私達がやってる事なんて御飯事かと」

「あはは。そう卑屈にならないで下さい」

ヴェニフーキ「…」



もう一人のジェームズ・ボンドこと、GI6部長のグリーンさんが来やってきた。

…ということは他のGI6も近くにいるのだろうかと会場を見回してみたら、三号突撃砲の乗員たちと雑談をしているようだ。

彼女たちは表向きは『小説部』だから話が合うのかもしれない。



ヴェニフーキ「ご用件は?」

グリーン「こういう機会ですから腹の探り合いはナシにして、のんびり雑談でもと思いまして」

ヴェニフーキ「…」


コトッ


グリーン「どうぞ。今回は…というより今回も私の奢りですよ」

ヴェニフーキ「ありがとうございます」


52 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:11:32.10 ID:LpreklqI0


グリーン「…良いですね。戦車道も」


ヴェニフーキ「はい?」

グリーン「今までは隊長の指示の下で情報を集めたりしていたのですが、こうやって自ら参加するのも悪くありません」

ヴェニフーキ「戦車道からは色んなことを学ばされますからね」

グリーン「ええ」

ヴェニフーキ「お嬢様学校でありながら、戦車道にかける各々の情熱は並々ならぬもの。そして戦車道によって家族のような強い結束力が生まれる」

グリーン「全くです。願わくば、もっと早く戦車道と出会いたかった」

ヴェニフーキ「…だから」

グリーン「ん?」



ヴェニフーキ「この中から"裏切り者"を見つけ出すのが、つらいですね」



グリーン「…身内、ですからね」

ヴェニフーキ「これが赤の他人だったらどれだけ良いことか…」

グリーン「我々が手を下す前に名乗り出て頂きたいものですね」

ヴェニフーキ「ダージリン様を叩き落とすような下衆共が簡単に自首するでしょうか」

グリーン「わかりません」

ヴェニフーキ「…」



しばらくグリーンさんと他愛のない話をした。

といっても、やっぱり件の反・聖グロ派や連中に媚びを売る内通者のことばかりだけど。

聖グロに来て、皆と少しずつ交わるようになって、ここが第二の故郷のように感じ始めた。


そして、そんな故郷から"裏切り者"が出る…。


53 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:13:03.95 ID:LpreklqI0



「あの、ヴェニフーキさん…」


ヴェニフーキ「…ん?」

「そ、その…お隣、いいですか?」

ヴェニフーキ「ああ。立ち話も何ですからテーブルに移動しましょう」

沙織「あ、ありがとうございます…!」

グリーン「おっと、では私はここで。長話に付き合って下さってありがとうございます」

ヴェニフーキ「こちらこそ。色々とお話ありがとうございました」

「…」



グリーンさんの次は武部さんがいらっしゃった。

今日は色んな人に話しかけられる。

交流会だからというのもあるかもしれないけど。

54 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:15:41.80 ID:LpreklqI0


沙織「あ、あの…」

ヴェニフーキ「はい。何でしょう?」

沙織「その、聖グロリアーナでの生活は慣れましたか…?」

ヴェニフーキ「ええ。皆様が親切にしてくれるお陰で、打ち解けることが出来ましたよ」

沙織「そ、そうですか。良かった…!」

ヴェニフーキ「もしかして、心配して下さってたのですか?」

沙織「えっ? ええ…その、ちょっと聖グロにはいなかったタイプの人でしたから…」エヘヘ


ヴェニフーキ「聖グロにいないタイプ…?」

沙織「何と言うか…こう、聖グロってお嬢様! って印象がありますよね?」

ヴェニフーキ「ええ」

沙織「その中でヴェニフーキさんは……クールビューティー? っていうのかな?」

ヴェニフーキ「クールビューティー…」

沙織「ノンナさんやナオミさんみたいな冷静沈着な感じで……あっ、ごめんなさい。ノンナさんというのはプラウダ高校の…」

ヴェニフーキ「お二人ともよく知っていますよ。有名な砲手ですですよね」

沙織「はい…!」


ヴェニフーキ「まぁ…確かに最初はアッサム様を含め、皆に怖がられていました」

ヴェニフーキ「けれど、日が経つにつれて少しずつ私に接して下さるようになりました」

沙織「ですよね! ヴェニフーキさん知的だし戦車詳しくて優しいから、皆に頼られるお姉さんって感じですもん!」

ヴェニフーキ「恐縮です」


55 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:28:30.72 ID:LpreklqI0

「ヴェニフーキ様」


ヴェニフーキ「ん…ペコ?」

オレンジペコ「紅茶のおかわりはいかがでしょう?」

ヴェニフーキ「ああ。…武部さんもいかがでしょう?」

沙織「そ、そうですね。お願いします」

オレンジペコ「かしこまりました」コポコポ

沙織「ありがとうペコちゃん」

オレンジペコ「どういたしましてです。…ところで、どんなことをお話されてたのですか?」

沙織「ヴェニフーキさんが転校してから生活に慣れたかな〜ってね」

オレンジペコ「大丈夫ですよ。ヴェニフーキ様は表情こそあまり変えませんが、色々と気を遣って下さるとっても優しい方ですから」

沙織「うん。クールで、その…カッコ良いです…!」

ヴェニフーキ「恐縮です」



ふたりとも持ち上げすぎだ。

気を遣ってるのも"クール"なのも、いらんことを喋ると正体がバレるから自重しているだけ。

自分を偽っているだけなんだ。元の"西絹代"はこの5倍は喋るやかましい女だよ。



オレンジペコ「それにヴェニフーキ様って意外にイタズラ好きですし」

沙織「えっ!? そうなんですか!?」

ヴェニフーキ「誤解です」

オレンジペコ「誤解じゃありませんもん」

ヴェニフーキ「強いて言うならば、誰かさんのポケットにカエルの模型を放り込むくらいです」

オレンジペコ「アレやったのヴェニフーキ様ですかっ!!?」

ヴェニフーキ「いい反応でしたね。しみじみ」

沙織「あはははっ」

オレンジペコ「わ、笑い事ではありません! 本当にビックリしたんですからねっ!」


56 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:32:14.01 ID:LpreklqI0


沙織「あ…そうだ」

ヴェニフーキ「何でしょう?」

沙織「ありがとうございました」ペコリ

ヴェニフーキ「えっ?」

沙織「みぽりんから聞きました。決勝戦のこと」

ヴェニフーキ「ああ…」

オレンジペコ「私も驚きました。あの完全試合はヴェニフーキ様の助言によるものだったなんて…」

沙織「うん。私もビックリだったよ。でもそのお陰で私達優勝できたからね!」

ヴェニフーキ「お役に立てたのでしたら光栄です」

沙織「う、うん…!」



…どうしたんだろう?

急に俯いてしまわれた



ヴェニフーキ「武部さん?」

沙織「ふぁいっ?!」

ヴェニフーキ「もしかして、体調が優れないのですか?」

沙織「い、いえそんなことは…!」アセアセ

ヴェニフーキ「…」


ピタッ


沙織「ひゃうっ!!?」

ヴェニフーキ「…熱は無さそうですね」

沙織「は…はいぃ………」

オレンジペコ「…ヴェニフーキ様」

ヴェニフーキ「ん…?」



その後も皆が皆、雑談に花を咲かせたり料理に舌を打ったりして祝賀会を満喫していた。

一旦距離をおいてた(にも関わらず色んな人に話しかけられる…)私も小腹が空いてきたのでそばにあった『ジェリードイール』という料理を食べてみた。

余談だけど、知波単にいた頃は和食以外の料理を食べることは無く、ここに来て久々に"洋食"とやらを味わう機会を得られた。

当然ながらナイフやフォークの使い方も知らず、テーブルマナーについてはダージリンやアールグレイさん直々の指導の下で身につけた。

『箸を持参してもいいですか?』と言えば『何のために聖グロに行くの…』と呆れられる始末だ。

何のためって、食事をしに行くわけじゃないんだぞ!


57 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:35:14.59 ID:LpreklqI0

ヴェニフーキ「………っぐ…!?」

ローズヒップ「およ? どうされましたの?」

ヴェニフーキ「ぐ………」

ローズヒップ「…ヴェニフーキ様???」

ヴェニフーキ「」

ローズヒップ「げぇっ!? ウナギのゼリー寄せですのっ!!」

ヴェニフーキ「」



『ジェリードイール』が何か知らず興味本位で食べたのがいけなかった…。

口に入れた瞬間、泥臭さと生魚特有の生臭さが広がり、吐き出したい衝動に駆られる。

かといって公衆の面前で吐くわけにもいかんので、必死に飲み込もうとする。

だが、一秒でも早く飲み込もうと噛み砕けば小骨が口内に刺さるし、生臭くてヌルヌルしたゼリーが暴れまわる。

口の中で戦でも始まったような阿鼻叫喚っぷりには思わず涙が出そうになる。


い、一体何なんだこのゲテモノは!!

そしてこんなものを大洗の皆さんに食わすつもりか聖グロは!!!




〜〜〜


〜〜〜




58 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:37:09.30 ID:LpreklqI0



「……フゥ…」



…死ぬかと思った。


持ち前の気合と根性でなんとか奴さんを飲み込んだが、あやうく"素"が出るほど酷い代物だった…。

生まれてこの方様々な料理を食べてきたが、あのような破壊力のある料理は初めてだ。納豆とかクサヤとかの比じゃない。

口の中に清涼剤を詰め込んでようやく持ち直した。…もう当分食べたくない。


ヤツのおかげで気分が悪くなったので、今はこうして会場から離れた場所で風に当たって涼んでいる。

頭が痛い…。


59 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:40:31.05 ID:LpreklqI0


「あっ! ヴェニフーキさん!」

ヴェニフーキ「!」

「あはは…その、姿が見えなかったので探しちゃいました」

ヴェニフーキ「…私を?」

「うん…」

ヴェニフーキ「お心遣い感謝致します。武部さん」

沙織「えへへ…」



会場にいないことを察したのか、武部さんが心配して探してくれた。

こんな私にまで気を遣って下さるなんて、本当に優しい方だ。

彼女を先輩に持つ大洗の1年生は本当に幸せだろうな。



沙織「でも、やっぱり気分悪そうですね…」

ヴェニフーキ「実は先ほど、ジェリードイールという料理を食べたのですが、口に合わなかったようで」

沙織「それって魚の切り身が入ったゼリーみたいなのですか?」

ヴェニフーキ「ええ」

沙織「やっぱり…。みぽりんもそれ食べたら涙目になっちゃって……あっ、みぽりんというのは私達の隊長で…」

ヴェニフーキ「心得ております。西住さんですよね」

沙織「うん。ひと口食べたら白目向いちゃって、ポロポロ涙流しながら必死に飲み込んでました…」アハハ

ヴェニフーキ「心中察します。私も初めて食べた時は気を失いそうでした」

沙織「あはは、そうなんですか」



その初めてというのは、ほんの数分前の話。

誰の仕業か知らんが、何の注意も無しにあんな下手物を場に出しおって。

しかも西住さんまで人柱にしやがって!

訴えられても知らんからな。


60 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:41:56.19 ID:LpreklqI0


沙織「…」

ヴェニフーキ「…」

沙織「すっかり…寒くなりましたね…?」

ヴェニフーキ「そうですね。もうすぐ今年も終わります」

沙織「年が明けたら先輩も引退して、今度は私達が3年になって…」

ヴェニフーキ「ええ」

沙織「ちょっと寂しいなぁ…って」

ヴェニフーキ「…」



そうだ。もうすぐ三年生は卒業してしまう。

お世話になった先輩も、試合でご一緒した他校の方々も。

カチューシャさん、ノンナさん、ケイさん、ナオミさん、まほさん、アッサムさん、


そして、ダージリンも…


寂しいな。

卒業後もどこかで会えないかな…。


61 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:42:59.60 ID:LpreklqI0


沙織「聖グロは来年からはどうされるんですか?」

ヴェニフーキ「三年生が引退されるので、我々の中から隊長と副隊長が選ばれるかと思われます」

沙織「ヴェニフーキさんが隊長じゃないんですか?」

ヴェニフーキ「えっ?」

沙織「あれ? てっきり…」

ヴェニフーキ「どうでしょう」

沙織「私がもしも、聖グロの三年生の人だったら…ヴェニフーキさんを推薦します!」

ヴェニフーキ「私を?」

沙織「ええ。私達に的確な助言をしてくれるほど優れた能力を持ってますし」

ヴェニフーキ「…」

沙織「それに…とっても仲間思いで優しくて、素敵な方ですから…」

ヴェニフーキ「ありがとうございます」


62 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:44:42.07 ID:LpreklqI0


沙織「だけど…どうして…」

ヴェニフーキ「ん?」

沙織「どうして…ヴェニフーキさんは…」




沙織「いつも悲しそうな顔をしてるんですか………?」




ヴェニフーキ「…!」

沙織「…今にも泣き出しそうな…そんな悲しい表情………」

ヴェニフーキ「そう見えますか?」

沙織「うん…」



怯えられたり、心配されたり。

私の顔は皆にはどの様に映っているのだろう…。


63 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:47:02.22 ID:LpreklqI0

ヴェニフーキ「それは恐らく…人それぞれだと思います」

沙織「人それぞれ…?」

ヴェニフーキ「私を見てものすごく怯えた人がいました」

ヴェニフーキ「また別の人は私を見て"間抜け面"と言う」

沙織「間抜けだなんてそんな…」

ヴェニフーキ「そして武部さんは悲しそうな顔と仰った」

沙織「…」

ヴェニフーキ「その人の感性が反映されているのかもしれませんね」

沙織「で、でもっ! 私は…ヴェニフーキさん好きですよ! 優しくて仲間思いですし…!」

ヴェニフーキ「私も武部さんのような方は好きです。世界中の人がみんな武部さんのようになればいいと思うほどに」

沙織「!」



決してお世辞なんかじゃない。

本当に世界中の人間が武部さんのようになって欲しい。

そうだったら私はこんな真似をすることも無かった。

きっとダージリンも退学することなく今ごろパーティー会場の中心にいたに違いない。

64 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:47:38.71 ID:LpreklqI0


沙織「あ、あの…、ヴェニフーキさん…」

ヴェニフーキ「何でしょう?」

沙織「………」

ヴェニフーキ「どうされました?」

沙織「その………」


65 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:50:28.94 ID:LpreklqI0


沙織「…好きな人って、いますか……?」









ヴェニフーキ「えっ?」

沙織「き、急に変なこと聞いてごめんなさい…!」

ヴェニフーキ「好きな人…ですか」

沙織「ええ…」

ヴェニフーキ「たくさんいます」

沙織「たくさん……?」

ヴェニフーキ「聖グロの皆や、大洗を始め、お世話になってる人たちですね」

沙織「あのっ! …そ、その……恋愛としての好きな人は?」

ヴェニフーキ「恋愛…?」

沙織「も、もしいないのでしたら…その…」




っ…!

武部さん………!?



66 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:51:34.88 ID:LpreklqI0












沙織「私と、付き合ってください………………!!」









67 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:56:40.91 ID:LpreklqI0


ヴェニフーキ「武部…さん………?」


沙織「…お会いしてそんなに長くはないけど……」


沙織「一目惚れ…でした…」



沙織「ヴェニフーキさんのことが好きです」







どうして………?

どうしてこんな私なんかを…







私には………




68 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 16:59:48.17 ID:LpreklqI0


ヴェニフーキ「………申し訳、ありません…」



沙織「えっ………」

ヴェニフーキ「…私にはもう、心が通じ合う人がいます」

沙織「…………」

ヴェニフーキ「ごめんなさい…」

沙織「………」



沙織「…………そう…だったんですね」

沙織「……私の方こそ……ごめんなさい」




謝らないといけないのは私の方です。

本当に、ごめんなさい。

私にはもう、守らないといけない人がいます。

今こうやって、姿や名前を偽ってここにいるのも、全部その人の為。

だから武部さんのお気持ちに応えることは出来ない。


それでも、こんな愚か者に好意を寄せて下さって、本当にありがとう。

とても嬉しかった………。




〜〜〜


69 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:02:56.25 ID:LpreklqI0


「どうでしたか?」

「…あはは…好きな人がいるって………」

「…そうか…まぁ…他を探そう。沙織…」

「そだね…あははっ……っ…」

「先輩…次がありますよぉ…」

「うん…そうだよ……ね………」

「…ヴェニフーキ

「いっ、いいのいいの!」



離れた場所から武部さんたちの会話が聞こえる。

辛い。

武部さんの想いを踏み躙ったことが辛い…。

私にはもう決めた人がいるから、その人を押し退けて他の誰かを好きになることなんて無い。

だから、武部さんの気持ちに応えることはできなかった…。


武部さんに出来るせめてもの罪滅ぼしとして、私は会場を後にした。

少しでも彼女の心の傷を抉らないように。

私はもう、そこにいるだけで彼女を傷つけてしまうから…。

誰よりも明るくて、誰よりも優しい武部さんの想いを私は抉ってしまった。



私のせいで………




70 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:14:56.82 ID:LpreklqI0


【聖グロリアーナ学生寮 廊下】



ヴェニフーキ「ッぐ………グゥゥ………!」

「ヴェニフーキさん? だ、大丈夫ですの…?」

ヴェニフーキ「ダ…イ…ジョウブ…」

「フラフラですわよ! 何方が見ても異常ですの!」

「早くお医者様を…!」

ヴェニフーキ「……いい…」

「…ですが」

ヴェニフーキ「……しつこいなァ………!」ギロッ

「ひッ!?」


ヴェニフーキ「………私のことなんて……放っといてくれッ!!!」




反・聖グロ派や内通者に対する怒り

武部さんへの罪悪感

ダージリンを助けられないまま時間が経つことへの焦り

姿を偽ってることへの嫌悪、プレッシャー、不安

私という存在への憎悪


色んなものが頭の中へ出ては入ってを繰り返す。

私が壊れたあの日のように頭の中でグチャグチャとかき混ぜられる。

頭が痛い。どうかなってしまいそうだ……。

あの時は薬を飲んで誤魔化していたけれど、ダージリンと約束したからもう薬は無い。

だからひたすら耐えるしかない………。


だけど、今日はもう頑張れそうにない。

だから休もう…。

ベッドに入って…ダージリンに電話して

「おやすみなさい」って言って…

そして…そして…そのまま眠りにつこう。

そうすれば明日からまた…きっと、頑張れるから………。


早く…ダージリンに会いたい…



ダージリン………



71 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:16:11.08 ID:LpreklqI0


『--様です』







部屋へ戻る途中、誰かの話し声が聞こえた。

そしてその人は"ヴェニフーキ"と呼んだ気がする…。

誰か私の事でも話しているのか?

ここへ来てからと言うもの、私は揉め事ばかり起こしてきたし、皆からの評価は散々だろう…。


本当ならもうこれ以上余計なことを考えずにいたかった。

だけど、私の名前を出されたせいで会話の内容が気になってしまった。浅ましい…。



だから、その会話に聞き耳を立てた。



そして、

72 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:17:15.72 ID:LpreklqI0


「はい…アッサム様ではなく…ヴェニフーキ様です」

「そうです。ブラックプリンスを導入すると提案した方です」

「…いえいえ。こちらこそ」
















オレンジペコ「ええ。OG会の皆様にはこれからも…えへへ………」




















見つけたよ。内通者。




73 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:20:24.08 ID:LpreklqI0


オレンジペコ「ええ。この事は誰にも…はい…」

オレンジペコ「ですので…どうか、よろしくお願いします」

オレンジペコ「…はい。私の方からも…」

オレンジペコ「ええ。クルセイダー会やマチルダ会の皆様にもよろしくお伝え下さい」

オレンジペコ「…では、失礼します」





ヴェニフーキ「…そういうことだったんだね………」

74 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:24:27.70 ID:LpreklqI0



オレンジペコ「ひッ!!?」



ヴェニフーキ「…やっと見つけた…"内通者"……」

オレンジペコ「べ、ヴェニフーキ様…!?」

ヴェニフーキ「…OG会の人、何て言ってた………?」

オレンジペコ「ち、違う…違うんです…は、放してください!」

ヴェニフーキ「私の事…何と言った?」

オレンジペコ「…やめて…放して…!!」

ヴェニフーキ「何て、報告した…?」

オレンジペコ「だ、大丈夫ですっ! お、OG会の方……怒ってませんでしたので……ですから…!」







西/ヴェニフーキ「…"ペコ太郎"」



75 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:29:00.66 ID:LpreklqI0


― ペコ太郎があまりに面白くてついつい

― ぺ、ペコ太郎…

― あはは。他にもラーメンペコとかペコ煎餅とかペコ饅頭とかクールペコとか

― ラーメンペコ…美味しそうね

― ダージリン様も悪ノリしないで下さい

― あはは。ペコさんのあだ名は色々浮かび上がるので、また面白いの出来上がったら発表しますぞ

― 結構です。西さんが名前を悪用するなら私も悪用しますもんね

― あはは。どんなのが出来るか楽しみですなぁ。"絹おねーちゃん"とか大歓迎ですぞ!

― 呼 び ま せ ん




オレンジペコ「えっ………」


西「信じてたのに………」


オレンジペコ「っ!!」

西「…アッサムさんか、他の人だって思ってた…」

西「ペコ太郎は、絶対ありえないって思ってた……」

西「OG会と共謀して、ダージリンを追い出したのは別の誰かだって」

オレンジペコ「う、うそ…うそ…そんな………!」



あの時と同じ。

病院でペコに牙を剥くことから始まって、

聖グロでペコに牙を剥いて終わる………


76 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:30:43.98 ID:LpreklqI0


オレンジペコ「違うんです…ヴェニフーキ様、ヴェニフーキ様! 私は…!」

西「…裏切り者め………」

オレンジペコ「お、お願いです…信じてください………!」

西「どう信じろっていうのさ…私やダージリンを裏切ったあんたを……」

オレンジペコ「ち、ちがうんです! ヴェニフーキさま…私は…そんな」

西「あの時のこと、覚えてるな…?」

オレンジペコ「あのとき…?」


西「病室で、ダージリンが退学したって教えてくれた日」


オレンジペコ「!!!」

77 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:33:02.36 ID:LpreklqI0


オレンジペコ「ヴェニフーキさま? …えっ…えぇぇぇぇぇ!!!?」

西「もう私が"ヴェニフーキじゃない"って、わかってるはずだよね…?」

オレンジペコ「うそ……うそ………き、絹代さま……!?」

西「…」

オレンジペコ「……ぁ…ぁ……いやぁぁぁ……!」


西「どうしても許せなかった…ダージリンを"潰した"OG会が……」

西「そしてそいつらに尻尾振るクズが」

西「だから、誰が犯人なのか突き止めたかった」

オレンジペコ「違うんです…これには……わっ、私は……!」

西「聖グロに来て、OG会と繋がる"内通者"を探した」

西「そしたら」






西「あんただった…」


78 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:38:27.94 ID:LpreklqI0


聖グロ内部に裏切り者がいるんだから、犯人は私と関わる聖グロの誰か。

そんなことは最初からわかってた。わかっていたさ…。

一日でも早く裏切り者を捕まえたいと思う一方で

その日が来ないことを願った。

こんな私に親身に接してくれた人を、心の底から憎む日が来るのを。


それが嫌だったから、なるべく聖グロの人たちと距離を置こうとした。

無愛想で根暗で無機質な雰囲気を纏って誰も寄せ付けないようにした。

そうすれば誰が裏切り者だったとしても私は容赦しなくても済むから。


なのに、皆は私を案じて世話を焼く。部外者なのに。偽物の転校生なのに。

だからいつか、その日が来ることが怖かった。

私なんかにお節介を焼く優しい人を私は攻撃しないといけないから。

でも…



よりにもよってペコ、あんたなの………?


79 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:39:39.37 ID:LpreklqI0

オレンジペコ「ま、待って絹代さm


西「来るなッ!!」


オレンジペコ「っ!!」

オレンジペコ「…き、聞いてください…お願い……!」

西「聞いたところでどう信じろって言うんだ?」

オレンジペコ「っ…!」

西「何を言ってももう無理。あんたのことなんて信用できない」

オレンジペコ「そ……そんな………」

西「私達があんたに何した………」








西「私達に何の恨みがあるって言うんだッ!!!」


80 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:41:27.02 ID:LpreklqI0


オレンジペコ「お、お願いします!! 何でもしますからっ!!」

西「じゃぁ、もう私の前に現れないで」

オレンジペコ「えっ………」

西「あんたのせいで私もダージリンも死ぬほど苦しんだ」

オレンジペコ「そんな…!」


西「もうあんたの顔なんて見たくない……吐き気がする」


西「…だから、消えてくれ」



妹のように可愛がっていたペコも、今では嬲り殺してやりたいほど憎い。

どうやったらこの女を少しでも傷つける事は出来るか、どうすれば最大級に苦しめることは出来るか。

私やダージリンが味わった苦痛を、どうやったらこの女に刻み込めるか。

脳裏に浮かぶのはそればかり。


81 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:42:45.06 ID:LpreklqI0


オレンジペコ「…ヒッグ…ゥッ………」

西「あんたは良いさ。そうやって泣けばいい…」

西「そしたらOG会が助けてくれる」

オレンジペコ「……ひどいよ……絹代様…︙…」

西「あんたの大嫌いな私も"退学"する。ダージリンみたいに」

オレンジペコ「…そんなこと…言わないでよ………」

西「OG会に媚びてる限り、あんたを責める人はいない」

西「だから、あんたは



オレンジペコ「私のこと何も知らないのにッ!!!」



82 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:43:49.59 ID:LpreklqI0


西「なんだと?」ギロッ


オレンジペコ「ッ! …わ、私だって好きでこんな事やってませんっ!!!」

オレンジペコ「大好きなダージリン様や絹代様をこんな目に遭わせて!! それでも平然といろなんて言われて!!」

オレンジペコ「でも逆らったら何もかもオシマイだからずっと!!!」

西「なに…?」

オレンジペコ「………ずっと………皆にウソついてた…………」



あれ?

83 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:45:26.82 ID:LpreklqI0


西「………は???」

オレンジペコ「私が……OG会に逆らったら………」

オレンジペコ「…お家が……壊れちゃうから………」



…あれ?



オレンジペコ「……OG会には逆らえない……絶対……」

オレンジペコ「…そんなことしたら……お父さんの会社、潰されちゃう…」

西「…」

オレンジペコ「そしたら…学校にも行けなくなるし…生活も出来なくなっちゃう………」




………あれ?


84 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:46:33.53 ID:LpreklqI0


オレンジペコ「だから…」

西「自業自得。クズに手を貸せばそいつもクズだ」

オレンジペコ「だから………」














オレンジペコ「あの時、 "助けて" って」
















西「………」

オレンジペコ「……でも…もう無理だよね………ごめんなさい………」


オレンジペコ「さようなら。絹代さん。…お世話になりました………」



85 : ◆MY38Kbh4q6 [saga !red_res]:2017/10/22(日) 17:50:32.29 ID:LpreklqI0















あれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれ????????













86 : ◆MY38Kbh4q6 [saga !red_res]:2017/10/22(日) 17:52:32.34 ID:LpreklqI0


西「…待て」

オレンジペコ「…」

西「それ、本当なんだろうね…?」

オレンジペコ「……うん…」

西「…証拠は?」

オレンジペコ「これ…お父さんの会社…」

西「…」

オレンジペコ「OG会が…お父様の会社の株を買い占めて…」

西「…」

オレンジペコ「私が下手なことをすれば、それを暴力団に売却するって…」

オレンジペコ「そしたら生活出来なくなって、学校にもいけないし、家族がバラバラになるって…」

オレンジペコ「だから私…守らなくちゃって……」

西「…その割には随分平然と過ごしていたよね?」

オレンジペコ「"バレたらどうなるかわかるよね?"…って………ううっ………!!」

西「あははははは」

オレンジペコ「…絹代様…?」







もうだめだ。


87 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:54:14.24 ID:LpreklqI0





「あーっはははははははっはっはははははははっはははははっっははははっっはっっははっっはっはははっっははっっははははははははっはっははははっはっはっっはっははっはっっはは!!!!!!!!!!!!!」



「っ!!」





負けたよ負け! 参りましたぁ! 完敗ッ!!

私なんかよりお前たちのほうがずぅーーーーっと邪道だ!!

なんせダージリンを退学にさせただけじゃなく、傍にいたペコにまで片棒を担がせたんだ!!




「き、絹代様!? 落ち着いて下さい!! 落ち着いて!!!!」




当然、本人は嫌がったはずだ! 猛反対した!!

だけど家族を人質にすりゃ嫌ですなんて言えんよなぁ!!?

だから退学してからその日までずーーーっとお前たちの奴隷になった!!




88 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 17:56:51.27 ID:LpreklqI0



「誰か!! 誰かいませんか!! 助けてください!!」

「ペコ…? どうしたの?」

「き、ヴェニフーキ様がぁ…」

「ヴェニフーキさん? ………!!」




しかも悪事がバレぬように何事もなく"平然としてろ"って命令した!!

だから誰ひとりペコがそんなことを抱えてるなんて知らんわけだ!!

ペコが独り苦しんで、誰もそれに気付かず、そしてお前たちは笑い続けるッ!!

羽もぎ取ったスズメを足で転がすように!!

あはははははははははははは!!! ってなァ!!




「なっ! 落ち着いて! ヴェニフーキさん!!」

「ヴェニフーキ!!」



「あはははははははははは!! あーっはっっははははははははっはあっっははっはははははっはっっは!!!!!!!!」



「どうしちゃったんですかヴェニフーキさん?!!!」

「いいからヴェニフーキを押さえて!! 早くッ!!!」




完璧だ! 完璧な邪道だ!!!

お前たち何処で何を食えばそんな邪道になれるんだ?!


教えてくれ!! 同じ邪道"初心者"の私にッ!!!!!






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


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89 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 18:01:04.43 ID:LpreklqI0



「ぅ……………」




「…目が覚めたようね?」

「…」

「過度の寝不足やストレスが原因で、今まで溜まってた不満が一気に爆発したのよ」

「…」

「聞いた話だと貴女は一人で色々抱え込んでるそうだから、もう少し周りを頼るなりして負担を減らしたほうが良いわ」

「…」

「それじゃ、私は保健室に戻るから、ゆっくり休んで頂戴」




西「………」




ここは………私の部屋?


90 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 18:04:17.12 ID:LpreklqI0


コンコン


西「…」

『私です。入りますよ…?』

西「…」



頭がボンヤリする…。

私はまたあの時のように発狂して皆に取り押さえられて

また精神安定剤を打たれた。

あの時と全く同じだ…。

……畜生。

91 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 18:07:33.56 ID:LpreklqI0

ガチャ


西「…」

オレンジペコ「…」

西「…」

オレンジペコ「絹代様…気分、落ち着きました…?」

西「…」

オレンジペコ「…絹代様?」


西「………悪かった」


オレンジペコ「えっ…?」

西「…ペコが、そんな目にあってるなんて知らなかった。………ごめん」



私やダージリンと同じように、いや、私達以上にペコは苦しんでいた。

奴らの言いなりになって、先輩であるダージリンを陥れるしかなかった。

誰にも相談できず、ただ笑顔を偽って罪を背負い続けるしかなかったんだ…。


『私達に強力しろ。でなければお前の家を崩壊させる』


そう脅されて、一高校生ごときにどう抵抗しろという…。

その日からペコは反・聖グロ派に首輪をかけられ、奴らの工作に強制的に参加させられた。

工作が終わってからも黙秘を強いられ、誰にも助けを求められずただ一人、罪を背負い続けた…。


だからあの時、ペコは私のところに来た。

聖グロではなく、外部の人間である私のところに…。


そして、『助けて』って………。




私が心の底から憎んだ"内通者"もまた、私と同じだった。


92 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 18:12:17.33 ID:LpreklqI0


オレンジペコ「…許してあげません」

西「…じゃぁもう良いですよ。……一生許してくれなくても…」

オレンジペコ「むぅ…。普段の絹代様だったら"許してくださーい! 何でもしますからッ!"って言うのに…」



腕に打たれた薬のせいで許しを乞う気力も沸かない。

ベッドに仰向けになって、天井を眺めて返事をするので精一杯だ。



西「"普段の絹代様"なんてもう何処にもいない。とうの昔に死んだ」

オレンジペコ「縁起の悪いこと言わないでください…」

西「それに私は許されないことを沢山してきた。今さら許しを請う方がおかしい」

オレンジペコ「そんな事ないですよ…。絹代様は聖グロリアーナや私達の為に一生懸命頑張ってました」

西「憎い奴、気に食わない奴を叩き潰したかっただけ」

オレンジペコ「むぅ。ダージリン様はともかく、絹代様を不幸にさせるはずなんて無いのに…」

西「何故"私"なんですか…」

オレンジペコ「…好きだったからですよ。絹代様のこと…」

西「私には

オレンジペコ「知ってますよ。ダージリン様にゾッコンですもんね」



93 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 18:17:35.92 ID:LpreklqI0


西「………」

オレンジペコ「だからあのとき、武部さんをお断りしたんですよね?」

西「…だったら」

オレンジペコ「ええ、私は他の人を探します。絹代様なんかよりもず〜っと素敵な人を!」

西「ひどい言われよう…」

オレンジペコ「お互い様です」

西「私に抱きついて言うセリフじゃないですよね。それ」

オレンジペコ「…今だけはこうさせて下さい…じゃないともう頭おかしくなっちゃいます………」

西「…」



私は頭がおかしくなったけど。

本当に死ぬんじゃないかと思うくらいだった。あの時と同じように…。


だけど、ペコは自分の意志で奴らに加担していたわけじゃないと知って

"そうせざるを得ない理由があった"と知って、肩の力…というより身体全体の力が抜けた。

…違うか。精神安定剤の効果だろうな。


いずれにせよ私は憎む相手を失った。


やり場のない怒りはいつの間にか虚無感に変わって私に襲いかかる。

グニャグニャと視界がぼやけ、ベッドにヘナヘナと倒れ込む。

…もう動けない。


そんな私の隣にはどういうわけかペコがいる。

散々傷だらけにしたにもかかわらず、ベッドに仰向けの私に抱きついて顔を埋めている。

…念のため言うと、この子が勝手にへばりついているだけ。


94 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 18:19:03.94 ID:LpreklqI0


オレンジペコ「…ダージリン様とは今もお付き合いを?」

西「…ええ」

オレンジペコ「キス、しました…?」

西「………した」

オレンジペコ「…その先も…ですか?」

西「…その先?」

オレンジペコ「その先はその先ですよ」

西「何のことか判らないから答えようが無いです」

オレンジペコ「…オトナな事です」

西「…」

オレンジペコ「そうですか」

西「…まだ何も言ってないですけど?」

オレンジペコ「沈黙は肯定と捉えます」

西「…もうそういう事でいいよ」

95 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 18:21:41.29 ID:LpreklqI0

オレンジペコ「…ふふっ。絹代様は色男ですもんね」

西「人を不設楽みたいに言わないで下さい。…あと私は男じゃない」

オレンジペコ「でも男の子みたいなところありますし」

西「どこに男要素があるんですか…」

オレンジペコ「大雑把なところとか」

西「女でも大雑把な人いるじゃないですか。…ルクリリさんとか」

オレンジペコ「ルクリリ様が聞いたら怒りますよ」

西「怒ったら怒り返せばいい」

オレンジペコ「それ、"逆ギレ"って言うんですよ」

西「はは…」


オレンジペコ「あとはボーイッシュなところですとか」

西「…」

オレンジペコ「一年生にも絹代様に好意寄せている人、結構いますしね」

オレンジペコ「密かにファンクラブなんかも出来ちゃってます。ご存知でした?」

西「知らない。…それに、そのファンクラブは"ヴェニフーキ"っていう赤の他人です。私じゃない」

オレンジペコ「ヴェニフーキ様は私にも優しくして下さいました。でも、絹代様は…助平ですね。男の人みたいに」

西「色恋沙汰を覗き見したがる人に言われたくないですねハレンチペコ。…いや、もうスケベコでいいや」

オレンジペコ「むぅ、それ酷いです…」

96 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 18:23:19.76 ID:LpreklqI0


西「よく似合ってますよ。なにせ私の部屋に盗聴器仕掛けるんですから」

オレンジペコ「ちっ、違います…!」

西「盗聴して何を知りたかったんです?」

オレンジペコ「それは…その…OG会の人から"アイツは怪しいから徹底的に調べ上げろ"って渡されて………」

西「………」

オレンジペコ「で、ですから私はそんなつもりじゃ…!」

西「本当に、それだけなんですかね…」

オレンジペコ「ど、どういう意味ですか?」

西「私の私生活を覗こうとしたかったのでは?」

オレンジペコ「そ、そんなことは…!」

西「…どうだか」

97 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 18:25:54.42 ID:LpreklqI0

オレンジペコ「…絹代様、だいぶ変わっちゃいましたね…」

西「こんなこと続けてたら誰だって心病んで性根も腐りますよ」



ペコの言う通りだ。どんどん性格が歪んできているのが自分でもわかる。

あの日、ダージリンが退学させられたと知った日も性格…人格が壊れていると実感したけど、その時以上に壊れてきている…。



オレンジペコ「目つきも悪くなっちゃいましたし、まるで別人です」

西「実際"別人"になってここに来ているわけですからね」

オレンジペコ「…今でも信じられないです。ヴェニフーキ様の正体が絹代様だなんて…」

西「あはははは。ダージリンやアッサムさんも気づかなかった程ですからね」

オレンジペコ「声真似だけでなく変装まで特技になっちゃったんですか…」

西「この変装は私がやったんじゃない。アールグレイさん」

オレンジペコ「そうなんですか」

98 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 18:26:43.99 ID:LpreklqI0


西「…で」

オレンジペコ「で…?」

西「ペコ太郎に首輪はめた畜生連中について」

オレンジペコ「えっと…それは………」



そう。ペコがどういう意図で加担していたにせよ、"内通者"として奴らとは繋がっている。

だからペコから奴らの情報を引き出して、それをアールグレイさんに伝えれば私の役目は終わる………。








「なるほど。あなたがウワサの"ヴェニフーキ"ね」










………はずだった。



99 : ◆MY38Kbh4q6 [saga]:2017/10/22(日) 18:32:46.14 ID:LpreklqI0


「初めまして転校生さん。我が校での学園生活は充実しているかしら?」


西「………」

オレンジペコ「…ぁ…ぁぁぁ………!」


ヴェニフーキ/西「…失礼ですが、どちら様で?」



わざわざ自己紹介なんてしてくれなくともわかる。こいつが"黒幕"だ。

こいつがダージリンを退学させたクズだ。

本来なら飛びかかって喉笛を噛み千切るほど憎い相手だけど、薬が回っているせいで何の感情も沸かない。

こんな状態では意味が無いかもしれないけど、一応"ヴェニフーキ"としてお相手する。

起き上がろうともせず、ベッドに仰向けになったまま。



「あら。OGの顔を知らないなんて残念ね…」

ヴェニフーキ「一言にOGと言えど、大勢いらっしゃいますので」

OG「仰る通り。でも、自己紹介の必要は無さそうね」

ヴェニフーキ「…?」




OG「ご苦労様。オレンジペコ」

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