国王「さあ勇者よ!いざ旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」完結編

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506 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 09:28:03.11 ID:ma21ZHtA0
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507 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 09:32:29.22 ID:ma21ZHtA0


遊び人(やめろ!! もう入ってくるな!!)



「いは、自分を1が来る」ろ」魔人『…』「あ、や、物…!」んか…!?」?人』ス――ュッ鬼「んならそ決めさもうでいなrボッ………(…? な、動か))?(か………半身がれ…シャ人『…』…』ル…魔王「ひっ王(ここっ…!!』(あ……ゅうに、むく…)」ドッ魔人』゙ワ…「めに!!バッ?炎獣るなっ!!゙カッ!!『


遊び人(やめろっ!! やめろッ!!)


もい!)…』ズ…?獣(だ、。る――)?雷帝「""…!!」バァッ!!人『』」木「ォオォオッカッゥン…――…』ッ…帝」炎獣「、はあ…魔……タ…や、った、木竜「…様中、か?ええ」「が…神の加がをvした。…儂、い」雷帝「質をがそtにす護。の器らい、っ言れが」「の小な、の6gをめypていと??「、ううことう。なな…、ななる9はもあまppいて「る種、うす。どはに、意をて」……。すが、うくを」む。し、お。よのう」炎獣「」?竜「むん?んじゃ、ってる」…翁。は反。でさえのはきう。んをのくど」雷8帝凰供何かい。…」「…ふうむ「て、うやららっ、竜「なしおる」…

遊び人(やめろぉおぉおッ!!)

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508 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 09:33:52.83 ID:ma21ZHtA0
」雷帝「質をがそにす護。の器らい、っ言れが」「の小な、のをめていと??「、ううことう。なな…、ななるはもあまいて「る種、うす。どはに、意をて」……。すが、うくを」む。し、お。よのう」炎獣「」?竜「むん?んじゃ、ってる」…「炎タタ「! ぬしじゃ 「                  」 そjくそれでj戦?」魔王「、治竜「う6j帝「!?…あれス…?姫「もyu……ん雷!」魔王かった…倒のね竜「全無をしおヒュィイ炎獣「…獣「がko0で倒し「何?」「――






遊び人(――え?)







「         」





遊び人(………お)


遊び人(お前は)




































 ――――ゴ――――ゥ――ン――――ッ――!!!――――













509 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 09:35:27.94 ID:ma21ZHtA0




















魔王(………)




魔王(終わった)






510 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 09:37:10.43 ID:ma21ZHtA0



魔王(出し尽くした)



魔王(私の全てを)



魔王(全てを引き替えに、私は)



魔王(ーーあの子供を倒した)



魔王(そうして私は今度こそ失ったんだ)








魔王(炎獣を)




511 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 09:38:49.48 ID:ma21ZHtA0



魔王(隣には、誰もいないし)


魔王(私の体はもう動かない)


魔王(――私の旅は終わった)


魔王(もうこれ以上、どこに行きようもない)


魔王(そうして私は、何を得たのだろう?)


魔王(分からない。………けれど確かなことは)


魔王(神は死んだ。もう勇者も魔王も生まれない)


魔王(こんな苦しみを味わう者は、もう現れない)


魔王(だからこれでいい。どこへ行く必要もない)



魔王(ただゆっくり)



魔王(ここで朽ちてゆこう)



魔王(………炎、獣)



512 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 09:49:23.76 ID:ma21ZHtA0



魔王(私も………そっちに、行く…)



魔王(………よ…)











魔王「」




































少年「はは。まだ死ぬには早いよ、魔王」

513 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 09:50:25.23 ID:ma21ZHtA0

少年「いやあ、危なかった」

少年「思いのほかダメージを受けてしまったなぁ…まさか、君達がここまでやるとは…」


少年「ふっ、くくく。ねえ」

少年「本当にさ、僕は信じられないんだよ…」


少年「まさかただのいち生命が、この世界の管理者である僕を、ここまで追い詰めるなんて…!」

少年「こんなスリリングな戦いが、描かれることになるなんて………っ!」


少年「魔王には今回人類へ大きなダメージを与えてもらうために、今までにないほど強大な加護を授けていた…それがそのまま我が身に返ってきたことで思わぬ被害を…」

少年「いや! そんな無粋なことはどうでもいい! それよりも炎獣の決死の覚悟! そして溢れだす美しい想い出たちっ!」

少年「ああ…っ、本当に胸を打たれたよ! 言葉に出来ないくらいっ!」


少年「…そうして魔王。君自身も最早空っぽになるほど自らを犠牲にして魔弓を放った――」

少年「けれど僕は倒れなかった。この身に一握りの力を残してこうして立っている」

少年「惜しかった…! あと一歩で君達は成し遂げられず………そして全ての努力は水泡に帰す」


少年「そう。――心地の良いバッドエンドだ」

514 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 15:27:53.29 ID:ma21ZHtA0

少年「魔王…そして四天王」

少年「それに魔法使いの思惑。国王の策。………管理者である僕を倒そうという謀の全ては、敗北したんだよ」


少年「ふふ。上質な悲劇って、なんて甘美なんだろう………うっとりしてしまうよ」

少年「ああ…たまらないなぁ。いつだって僕の作り上げた魔王と勇者は情感豊かな物語を紡いでくれる」

少年「僕の美しい友人であり、想い人であり、ママのような理解者さ」

少年「今回のお話も心に染み入るね…。………でも、これだけの幕引きを見てしまった今」


少年「――更に情熱的なストーリーを見てみたくなってしまうよね…?」


少年「…ふふふ!僕に良いアイディアがあるんだ………!」

少年「僕の身に残る力を、全てまとめて君に与えよう、魔王!」

少年「今や脱け殻同然の君には、抗う力はない。…今度は純粋な殺戮兵器になってしまうだろう」

少年「そうなった君は、あの荒廃した世界に現世の地獄を形作ることとなる…!」

少年「ああ、わくわくしてきた! 君は恐ろしい残忍さで破壊の限りを尽くし、そして人々にこう呼ばれるんだ」


少年「"大魔王"、ってね!」


少年「ふふふっ! 誰一人として君に立ち向かえる力の持ち主などいないのだ! きっと夢のような混沌に陥るだろう!」

少年「世界は暗黒の時代を迎えることになる………ふふふ。けれど安心して」

少年「また僕の力がこの身に戻ったら、今度は大きな力を宿した黄金の勇者を作り上げてあげるから」

少年「そうして、希望を切り開く夢の冒険が、再び始まるのさ」

515 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 15:29:22.25 ID:ma21ZHtA0

少年「ただ、君に力の全てを与えてしまったら、次に勇者を作れるのはいつになってしまうかな…君達の感覚で言えば百年近く後になるかも」

少年「大魔王たる君を見ていれば退屈しなさそうだけど、出来れば今の君にももう少し楽しませて欲しいなぁ………」

少年「………いや、どうやらここから君の逆転はなさそうだね。少しばかり、寂しいよ」

少年「人々の祈りが君に届いて奇跡の復活、とかさ。最後の最後の想いの力で再起、とかさ。そんな展開もちょっと見てみたかったかもね」

少年「…でも、まあ」

少年「これで終わりだね」


少年「…魔王。楽しませてくれて、ありがとう」

少年「さあ、改めて君に邪神の加護を与えよう」

少年「大丈夫。圧倒的な力に任せていれば、君に約束されるのはただ至福の感覚のみだ」


少年「僕に残されたこの力の全てを吸いとって、絶大な力に身をゆだね――」

少年「人の世の地獄の物語を紡ぐ、偉大なる存在に――」




少年「大魔王になるがいい!!」




516 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 15:30:08.03 ID:ma21ZHtA0



――ォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォォオォオォオォォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオォオ…!!!




少年「…ふふ。そうだ」

少年「空っぽで、感情さえ抱けない君はもはや受け入れるしかない」

少年「逆らうことも許されない全ての生命は、畏怖を持って君に従うだろうね」

少年「…ああ、でも彼女がいたな。そう、冥王」

少年「けれどさしもの冥王も、この力には敵わないだろうね。…ふふ。いよいよ自分に死期が迫ったら、果たして彼女はどんな思いを胸に戦うのかな…っ?」

少年「楽しみだなぁ…! 冥王すら敵わない崇高なる大魔王………!」

少年「ふふふ! 君はこの後百年、世にも恐ろしい修羅の物語を刻むんだ!」

少年「さあ………新たなストーリーの幕開けだ!!」



















魔王(――――――)

517 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 15:31:17.64 ID:ma21ZHtA0

少年「…ん?」

少年「なんだ…? 魔王に…」



魔王(――――――)



少年「感情の、揺らぎ?」

少年「いや。まさかそんなはずないよね」

少年「あの魔弓と引き替えに、魔王は全てを失ったんだから」



魔王(――――たい)



少年「!?」



魔王(――――――苦しい――)


魔王(――痛い――――)



518 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 15:32:03.29 ID:ma21ZHtA0

少年「なんだ、これ」

少年「感情が………芽生えている…?」


魔王(――――やめて――)


魔王(もう――――戦え――ない――――のに――)



少年「…苦痛?」

少年「痛みのようなものが、魔王の自我を呼び覚ましている」

少年「そんな…まさか。何故………!?」

少年「一体、誰がこんなことを………」



魔王(――や――めて――――)

魔王(――――もう――休ませ――――て)



『ふざけんじゃねぇ』

『てめぇみたいな悪人を、楽にさせてたまるか』

『俺はお前が憎い』

『俺の全てを奪ったお前が』

『俺の愛しい仲間も、愛しい女も、全て全て…!』


『お前が殺したんだ!!』


519 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 15:32:53.10 ID:ma21ZHtA0

魔王(――あ――ああ――)


魔王(あなたは――――)



『覚えてくれていなくて結構だ。どうせ俺は、お前が蹴散らした虫けらに過ぎねぇんだからな!』

『くそ! くそ! くそ!』

『何が勇者一行だ!! 俺はまんまと操られて、お前に全てを奪われた!!』


盗賊『呪ってやるぞ、魔王――!!』

520 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 17:41:36.91 ID:ma21ZHtA0

盗賊『お前のせいだ!!』

盗賊『お前が攻めてきたせいでみんな死んだ!!』

盗賊『剣士も、エルフも、斧使いも、騎士も、魔女も、狩人も、吸血鬼も!!』

盗賊『軍師も………っ!!』

盗賊『お前の…お前のせいで!!』


魔王(――――痛い――)

魔王(――苦し――――い)



少年「これは………っ、死者の念…!?」

少年「この無の世界に蠢く亡者の意識が…」

少年「魔王に向かって集まり始めている、のか…!」


魔王(――焼けるようだ)

魔王(助けて――)



戦士『…助けて?』


戦士『助けて、だと? お前が?』

戦士『あれだけ殺しておいて、自分だけ楽になりたいと?』

戦士『笑わせるな。もっと苦しめ』

戦士『死よりも激しい辛苦こそ、お前に相応しい………魔王』

521 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 17:42:45.60 ID:ma21ZHtA0

戦士『ふふ…滑稽だ。死んでしまえば生者を恨むことしか出来ない』

戦士『しかしそれが許されるのならば、甘んじよう』

戦士『何より目の前に仇がいるのだ』

戦士『――苦しめ』

魔王(………く、首が)

戦士『苦しめ!』

魔王「や、め………かふッ!!」

戦士『苦しめ!!』




少年「………憎悪」

少年「この物語の犠牲者の魂が…自らを葬った根源を嗅ぎ付け」

少年「その怨嗟が、魔王に感覚を呼び起こしている…!」

少年(死後の気の狂うような静寂を漂う者にとって………死にかけの仇など、格好の餌食だ)



武闘家『おぬしはまだそんな所にいるのか?』

武闘家『悠々と生者を気取って?』

武闘家『…許せぬ』



武闘家『許せぬ許せぬ許せぬ許せぬ許せぬ許せぬ許せぬ許せぬ許せぬ』

522 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 17:43:31.92 ID:ma21ZHtA0

魔王「うぐっ…!! あっ、ぐぁっ!!」


商人『魔王!! 貴様が!!』

商人『貴様が全てを奪ったッ!!』

商人『今こそその代償を払えッ!!』



少年(ゆ、勇者一行………!)

少年(無惨に散った彼らの途方もない怨嗟が吹き出してくる――)


少年(いや、それだけじゃない!)




女勇者『お前さえいなければ…!!!』

523 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 17:44:30.69 ID:ma21ZHtA0


教皇『苦しめ!!!』


軍師『憎い…!!! あなたが、憎い!!!』


虚無『苦痛を味わえ!!!』


兄『もがき懺悔しろ!!!』


『お前のせいで………』

『お前のせいで………!!』




魔王「うガっ、ゴッ」

魔王「や、メテ」

魔王「おっ、ネガ、いッ………」


524 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 17:45:32.08 ID:ma21ZHtA0

少年(物語を動かした人物だけじゃない…名もなき兵士から…犠牲になった町民に魔族まで)

少年(この大戦のために死した数えきれない魂が怒号を上げている)

少年(それらがもたらす無数の苦痛は、魔王に意識を取り戻し――)

少年(膨れ上がった呪力は、僕の支配を拒む………!!)



魔王「ぐぁあッ…!!」



魔法使い『――本当は僕がそこに立っているはずだった』

魔法使い『何故僕ではなく、お前がそこにいる?』

魔法使い『…死の苦しみよりもずっと狂気に満ちた悪意を、お前に』


魔法使い『苦しめ』



魔法使い『苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ苦しめ』



魔王「うぎッ、がっ!!」

魔王「た、たすっ」

魔王「助け――」


先代『………お前………ば………』


魔王「!!」

魔王(お、お父さ)






先代『お前さえ生まれなければ』


525 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 17:46:27.12 ID:ma21ZHtA0


魔王「そ」

魔王「んな」




魔王「あああ」



魔王「あああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああっ!!!」





魔王「あ――――――」













木竜『あなたの』









炎獣『お前の』








526 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 17:47:12.17 ID:ma21ZHtA0








炎獣『お前のせいだ』
















魔王「――――――――――――」







   バ  チ  ッ !!



527 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 17:48:08.93 ID:ma21ZHtA0




少年「っ!!」


少年(は………弾かれた………っ!)




シュゥウウウウ………




魔王「………」 ユラ…





少年「………ま、魔王」


少年「一体………何が、どうなったんだ」


少年「僕の干渉は及んでいない。それなのに君は」


少年「――君は、立っている………!!」



魔王「………」


528 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 17:49:19.01 ID:ma21ZHtA0


少年「その原動力は僕の与えた力では、ない………」

少年「僕の力を、押し退けた上で君は…――君は甦ってみせた」

少年「それを可能にしたのは、生者の祈りでも、希望の力でもなく…」



魔王「………ふふ」



少年「!」


魔王「どうして?」

魔王「どうして私は生きてるの?」


529 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 17:50:03.07 ID:ma21ZHtA0

魔王「私は…沢山の人々を死に追いやった」

魔王「…戦場の片隅で事切れた兵士の一人に至るまで」

魔王「その呪いは今、私に返ってきた」

魔王「ああ。きっとこうなって然るべきだったのかもしれない」


少年「ま、魔王………」


魔王「苦痛が疼く。それは片時も私から離れることはない」

魔王「これは永遠の呪い。私に与えられた罰」

魔王「分かっていた。私がどんなことを成し遂げようと、多くを殺めた罪人に他ならないということ」


魔王「――けれど、目の当たりにしたくはなかった」

魔王「お父様にも、爺にも………炎獣にも」


魔王「死の世界の苦痛を前にしたその時には、もう」



魔王「私は………許されるはずがないんだ」


530 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 17:50:55.63 ID:ma21ZHtA0

魔王「私さえ、いなければ」

魔王「彼らは今も生きていたはずだった」

魔王「………炎獣も」

魔王「ねえ」


少年「!」


魔王「私が愛していたはずの命の怨恨が、血となって巡っているかのように、私を責め立てるの」

魔王「ずっと、ずっと、ずっと………絶え間なく」


少年「………」


魔王「あのまま、あなたの力で自我を消し去ってしまった方が、ずっと楽だった…」

魔王「………今の私にあるのは、身を切るような痛み」

魔王「心臓が鼓動するたびに身体を内から食い破ろうとする、怨念」

魔王「ねえ、どうして?」




魔王「どうしてあのまま私を支配してくれなかったの?」







少年「ふっ、ふふふ」


少年「あはははははははははははははは!!」

531 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 17:51:45.47 ID:ma21ZHtA0


少年「これは、凄い!! 君は素晴らしいよ、魔王!!」


少年「君は絶体絶命のピンチを切り抜けた…! それを可能にしたのは死した者の恨み!」


少年「魔王を名乗る者に相応しい復活だ!! 僕の力に明け渡すこともなく、君は生き延びることに成功したんだ!」


少年「けれど、呪いによって得た生に、君はもはや喜びを感じられない…!」


少年「多くの者の憎しみを一身に受けて………大切だった仲間にすら恨みを向けられて」




少年「――君の気高さは、失われてしまった…!!」





魔王「お願い」

魔王「もう私を殺して」

532 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 17:52:55.04 ID:ma21ZHtA0

少年「くくくくく…!」

少年「君の"意思"は、最後の最後のところで君を支えていた光だった!!」

少年「君を君たらしめていた大事なものを、失ってしまったんだ…!!」


魔王「………」


少年「ああ…! なんたる美しい絶望だろう」

少年「ふふふ…。魔王。傷心の君をさらに突き放してしまうようだけどね」

少年「君を殺そうにも、僕にはもうそんな力は残っていないんだよ?」

魔王「…どう、して?」

少年「残った力の全てを君に授けるつもりだったからねぇ。それが弾き飛ばされてしまって、僕には何の力も残っていない」

少年「力の復活までには時間を要する。力を失ってしまったのだから、それまでは僕も取るに足らない非力な子供と一緒さ」

魔王「そんな………」

少年「悲しいよね。辛いよね。ごめんね?」

少年「でも、逆に考えてごらん? 僕は今なんの力もないただの子供なんだよ?」


少年「今なら、首を絞めてでも僕を殺してしまえるんだよ」

少年「君がここに来た望みは、そういうことだったはずだろう?」


魔王「………」

魔王「私には」

魔王「もう、どうすることも出来ない」

魔王「何かを為そうなんて気持ちは」

魔王「欠片も沸いてこない…」


533 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 17:54:12.74 ID:ma21ZHtA0

少年「あはっ!」

少年「あははははははははははは!! 魔王! 僕を倒そうとやって来た君には、絶好のチャンスなのに!!」

少年「当の君は、ただ生きているのでやっと!!」

少年「――僕らは生きているのに、互いに命を奪い合うだけの力がないんだよ…!!」

魔王「………」

少年「こんな形のゲームオーバーが今までにあっただろうか!!」

少年「引き分けを迎え、お互いに手を出せないまま茫然としているしかない結末…!」

少年「ふふふ! 僕ひとりでは到底思い付かなかったシナリオだ…!」

少年「賢者………本当にありがとう。君のお陰で今までにない展開を楽しむことが出来た」

少年「興奮が、収まらないよ…!」

魔王「………」

少年「魔王が港町より人間の王国に攻め入った、今回の魔王勇者大戦」


少年「その結末は………」

534 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 17:55:08.32 ID:ma21ZHtA0



少年「――"静寂"だったんだ」




少年「魔王………君はこの物語の主役だった」

少年「仲間と協力し、押し寄せる強敵と困難を退け、世界の謎に挑みかかった」

少年「けれど、最後に僕と引き分けた」

少年「この世の管理者たる僕のことは、やはり倒すことなど出来なかった」

少年「君は所詮、作られた物語の登場人物に過ぎなかった。つまりはそういうことさ」

少年「これで、幕引きだ」



魔王「………………」


535 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 20:44:50.43 ID:ma21ZHtAo

少年「…ふふ! これは次の魔王勇者大戦も楽しみだなぁ」

少年「今回の悲劇ほどのお話にはならないかもね。でも、この戦いを越えてまた新たな英雄が生まれると思うと…ふふふ」

少年「そう、次だ。この余韻に浸るのも良いけど、もう僕は次の準備へ取り掛からないと」

少年「今回は、これ以上展開のしようもないからね…」


魔王「………」

少年「…表情のない人形のようだね。魔王。つまらないや」

少年「そんな顔をしていたって、誰も君を殺してはくれないんだよ、もう。あっちに行ってよ」

少年「僕は次のお話を考えるのに忙しいんだ。ふふ」


少年「…」

536 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 20:58:44.15 ID:ma21ZHtA0

少年「僕が力を取り戻して次の魔王勇者大戦を始めるまでには長い時間がかかる。それまでに次のお話を…」

少年「………」

少年「うん。時間はいっぱいあるんだ。いくらでも考えられる」

少年「…そう。いっぱい………」

魔王「………」

少年「いや、少しの間の出来事だ。力を取り戻すまでなんて。永い時を過ごしてきた僕にはあっという間だよ」

少年「そう。少しの間………」

少年「………いや、でも」

少年「あれ?」



少年「………」


537 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 20:59:41.20 ID:ma21ZHtA0

少年「そうだ…! ね、ねえ魔王!」

少年「君、僕の話し相手になってよ。一緒に物語を考えようじゃないか!」

少年「どうせすることもないんだし、さ。いいだろう? 魔王」

魔王「………もう」

魔王「私を殺して」

少年「………」

少年「…ちぇ」

少年「なんだい。話し相手にもなってくれないのか…」

少年「…どうやって時間を潰そうか」

少年「今まで、いつだって僕の作った英雄達の物語が側にいてくれた」

少年「勇者と魔王を巡る夢の冒険が…僕を楽しませてくれた」

魔王「………」

少年「でも次のお話を始めるまで………」


少年「――あと、百年もかかる」

538 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:00:22.26 ID:ma21ZHtA0

少年「………」

少年「…百年…」

少年「………百年も」


少年「………………」


少年「………ど」



少年「どうしたらいいんだ?」


539 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:01:13.55 ID:ma21ZHtA0



少年「今の僕は完全に力を失ってしまって、例え小さな勇者でさえ作ることは出来ない」

少年「こんなことは………こんなことは、今までになかった」


少年「ここは無の空間。元々なんにもない場所なんだ。だから」

少年「こ…困ったな。物語があったからこそ、僕は時間を忘れて没頭していられたのに」

少年「こんな空白、し、知らない………」


少年「――…空白?」

少年「空白が、百年も続く………?」



少年「は、はは。想像しただけで………」

少年「ど、どうしたらいいんだ…? も、物語がないなんて、僕は…」

少年「そもそも僕は………この無の空間で」

少年「無の空間に、たった一人で…」

少年「………あれ」

少年「あれ。…あ、あれ?」

少年「どうしよう」




少年「物語を失った僕は」

少年「生きているといえるのか?」

540 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:02:00.17 ID:ma21ZHtA0

少年「あれっ。あれっ?」

少年「どうしよう、どうしようどうしよう」


少年「ど、どうしたらいい?」


少年「ねえ」


少年「ねえ、ねえ!」


少年「ねえってば!!」




魔王「………」


魔王「私には」



魔王「どうすることも出来ない…」






少年「――!!」

541 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:02:38.90 ID:ma21ZHtA0

少年「は、ははは…!」

少年「そん、な…あまりに酷いじゃないか」

少年「そうだ………これはあまりに酷すぎるよ」

少年「…おい」

少年「おいっ!」

少年「ふざけるなよ!!」

少年「君がっ、君が僕の力を拒んだりするからっ!!」

少年「こんなこと、ありえないはずだったんだ……!! 亡者の思念を引き寄せて、僕の力を寄せ付けないなんて…っ」

少年「僕は、この世界の制作者であり管理者だぞっ…!! それを、それを――」



魔王「………」

魔王「あなたは、狡猾で老獪なようで」



魔王「その実」


魔王「本当にただの子供でしかないのね」






少年「…ッ!!」

542 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:03:25.15 ID:ma21ZHtA0

少年「黙れッ! 黙れよッ!」

少年「お前がこんなところまで攻めてきたから、こんなことになったんだろ!?」

少年「お前がいなければ、こんなことにはならなかったんだっ、魔王っ!!」

少年「なんとかしなきゃいけないんだよ!! そうじゃなきゃ、く、空白が来るんだっ!!」

少年「君なら何とか出来るはずだろっ!?」

少年「………そ、そうだ。そうだよ」

少年「き、君はあれだけの困難を乗り越えてきたんだ。多くのことを、成し遂げたじゃないか」

少年「僕は見ていた。君は主人公なんだよ、この物語のさ…。だ、だから」

少年「僕のことだって助けてくれてもいいだろっ…!?」

少年「ねえっ!!」

少年「おいっ!! なんとかいえよッ!!」


魔王「………」



少年「こんなのって」

少年「こんなのってないよ!!」

543 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:04:18.54 ID:ma21ZHtA0

少年「あ、あんまりだ!!」

少年「も、物語が、ないなんて」

少年「あまりにもひどすぎるよ!!」

少年「ああ………ああ!!」

少年「く、空白がやってくる!! 物語のないっ、空白が!!」

少年「そんなの、耐えられないんだよう、僕には!!」

少年「だからお話がいるんだ!!」

少年「ずっと、それがあったから僕は………っ」

少年「なのにっ、なのに!!」

少年「こ、こんなこと!!」

少年「物語がなくなっちゃったら、僕っ!」


少年「ひっ…一人きりなんだよぉっ!!」

544 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:05:01.05 ID:ma21ZHtA0

少年「だ、誰か!!」

少年「誰か、お願いだ!!」

少年「ママ!!」

少年「ママ!! どこ!?」

少年「たっ………助けて!!」

少年「お願いだ!!」

少年「僕に…っ」

少年「お話を………っ。ねぇ!」


少年「聞いているんだろう!? 賢者…っ!!」


少年「――………まさか」




少年「まさか、こうなることまで全て分かってて僕を………っ」




















遊び人「………おい」

545 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:05:52.18 ID:ma21ZHtA0

少年「ああ」

少年「ああっ、そうだ…」

少年「君がっ、君がいたじゃないか!! 遊び人!!」

少年「ねえ、お話を、お話を聞かせてよ!!」

少年「君なら面白可笑しい話をたくさん知ってるはずだ!! そうでしょう!?」

少年「何でもいいっ、話して聞かせてよ!!」

少年「例えば、例えばさ!!」

少年「そう、そうだなぁっ、えっと」

少年「ああそうだ…! 全ての冒険を終わらせた勇者が、その後どうなったのか、とかさ!!」

少年「ぼ、僕知らないんだよ! ひとつお話が終わったら次のお話作りに取りかかっちゃっていたからさ!!」

少年「ねえっ、君ならそういう」

少年「そういうさ、面白い話を知ってるはずだよね!?」

少年「ねえ、ねえ、ねえ」

少年「ねえってば!!」


遊び人「………」ス…


少年「………え?」

少年「何? それ………?」

546 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:06:43.47 ID:ma21ZHtA0

少年「君、そんなもの持っていたっけ?」

少年「ふふ、はは。おかしいね。君がそんなものを持っているなんて」

少年「だって君は、何も出来ない遊び人なのにさ。不釣り合いだね、なんかさ」

少年「でも、どこかで見たことある形だな」

少年「ああ、そうだ! それは"どうのつるぎ"じゃないか!」

少年「その剣は確か、勇s

547 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:07:31.31 ID:ma21ZHtA0


ズブッ…

548 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:08:13.80 ID:ma21ZHtA0

少年「………?」

少年「………は………ふ」

少年「あ………ああ…」

少年「こ…これは………ど」

少年「どういう………こと…?」

少年「なん…で、君………が…こん………なこと………?」

少年「君、に…は………大それ…た………事………なん…て」

少年「こ…れっ…………ぽっちも…………」


少年「…………あ…………あ…………」


少年「痛い…!!」

少年「痛い痛い痛い痛い痛い!!」

549 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:08:55.95 ID:ma21ZHtA0

少年「痛いっ!!」

少年「痛いィっ!!」

少年「痛いよぉッ!!」

少年「いたいいたいいたいッ!!」

少年「た、助けてッママ!!」

少年「いたいいたいいたいいたいいたいいたいィッ!!」

550 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:09:36.20 ID:ma21ZHtA0

少年「あ"あ"あ"ッ!! くそっ!!」

少年「なん"っ、でッ!!」

少年「痛いよォッ!!!」

少年「あは!!!」

少年「あはははははははははははははは!!!」

551 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:10:20.20 ID:ma21ZHtA0

少年「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」




少年「アハハはははっははッははハハハははハハハははハははははハハはっはははハハハはハハハハハハハハハハハハは!!!!」








少年「はは………ッ」




少年「………か、ふ………」

552 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:11:06.85 ID:ma21ZHtA0


少年「………け」


少年「………賢、者………」


少年「賢…者………。ね、え………賢…」


少年「………助け…て…よ………」



少年「………さ」


少年「さむ………い………」

553 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:12:29.91 ID:ma21ZHtA0


少年「………か………は………」


少年「………い………たい………」


少年「………さむ………い………」





少年「………死に…たく………」


少年「………………ない」



少年「…ま…だ………僕の………作っ、た………世…界………で」


少年「………僕…の………ため………だ…け………の」



少年「………物………語………を」

554 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:13:11.91 ID:ma21ZHtA0


少年「………………死………にたく」



少年「………ない………………」





少年「………?」



少年「………なん、だ………」


少年「………ぼ…く………は………」








少年「――ちゃん…と………………」



少年「………………生きて………た………………」







少年「………………のか………………」


555 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:14:00.78 ID:ma21ZHtA0


遊び人「………物語ってのぁよ」




遊び人「最後までどうなるか分からねぇから、面白ぇんだろうが」





少年「………………」





遊び人「思いがけず端役に殺される気分は、どうだ?」



遊び人「神様よぉ」






少年「………ぼ」



少年「く………」



少年「………生…き………」



少年「………………て………………」



少年「………………………………た」





遊び人「………知るか」



遊び人「てめぇの…」



遊び人「てめぇのおままごとはよ………」





遊び人「俺に言わせりゃあ」
556 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:15:05.21 ID:ma21ZHtA0


遊び人「とんだ、三文芝居だったよ」


 ブン…











――ドスッ


557 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:16:00.93 ID:ma21ZHtA0




少年「ぐヒゅ」



少年「ゴ」




















少年「」








558 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:16:57.83 ID:ma21ZHtA0


魔王「………………」



魔王「………死…んだ」



魔王「神であったものが…」



魔王「憐れな古代人の少年が…」






少年「」







遊び人「………」


559 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:17:48.54 ID:ma21ZHtA0


魔王「――今度こそ終わった」

魔王「あまりに突然に。けれど絶対的に」

魔王「終わったんだ。これで」

魔王「全てが、終わった」

魔王「まさか………あなたが」


魔王「あなたが終わらせることになるなんて…」



遊び人「………」



魔王「………」

魔王「どうして?」

魔王「ふふ………ただの気まぐれ?」



遊び人「………こいつを」

遊び人「この剣を、俺に届けた奴がいた」

560 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:18:42.93 ID:ma21ZHtA0


魔王「…どうの、つるぎ」

魔王「とてもありふれた剣。旅立つ新米の冒険者が手にするような」

魔王「それを…誰かがあなたに、届けた?」



遊び人「そいつは多分」

遊び人「なけなしの勇気を振り絞ってここに来たんだ」

561 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:20:00.36 ID:ma21ZHtA0

遊び人「お前の魔弓で次元が揺らいだ時に」

遊び人「その小さな隙間を縫ってここに来た」

遊び人「…それが奴の精一杯だったんだ」


魔王「あの瞬間に、ここに、来た?」

魔王「そんなことが出来る人が…? だって扉を潜る資格があるのは――」


遊び人「あいつの"勇気"を見たら」

遊び人「俺にもやらなきゃならないことがある気がした」

遊び人「ただ、それだけのことだ」

遊び人「あれが誰だったかなんて………知ったことじゃねぇ」


魔王「………」

562 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:20:54.55 ID:ma21ZHtA0


魔王「………そうか」

魔王「ずっと、いたんだ」

魔王「ずっと、あの謁見の間にいたんだ」


魔王「この物語が始まった、あの瞬間からずっと」

魔王「私達が、勇者一行を倒して王国に近づく間も」

魔王「たった一人で、恐怖に震えながら」



魔王「それでも、逃げ出したわけじゃなかったんだ」


563 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:21:54.43 ID:ma21ZHtA0


魔王「ずっとずっと、隠れ続けていた」


魔王「そして最後の最後、あの一瞬」


魔王「小さな、ありったけの"勇気"を抱き締めて」



魔王「私達に………その剣を届けてくれた」








魔王「ありがとう………………勇気ある者」


564 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:22:36.89 ID:ma21ZHtA0


魔王「勇者」


565 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:36:11.89 ID:ma21ZHtA0



遊び人「………奴はもういない」

遊び人「この無の空間は、もう穴だらけだ。そこら中が元の世界に繋がって………じきに崩れ去る」

遊び人「神は、死んだんだからな」


魔王「………そうね」


遊び人「俺も、帰るんだ」

遊び人「あの、クソみたいな街角に」


魔王「ねえ」

魔王「ひとつお願いがあるの」


遊び人「…」














魔王「…………――私も、殺して」

566 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:37:05.68 ID:ma21ZHtA0


遊び人「………」


魔王「………」


遊び人「………なんでだよ」


遊び人「全部終わったじゃねえか。終わったってのになんで」


遊び人「なんであんたが死のうとするんだよ」





魔王「ふふ」


魔王「もう私には………物語がどんな結末を迎えたって関係がないの」


567 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:38:00.17 ID:ma21ZHtA0


魔王「死した人々の呪いは、私からあらゆるものを取り去ってしまった」


魔王「………私の価値あるものは全て失われてしまった」


魔王「思い出もどす黒く塗りつぶされて、希望は生まれた途端に拒絶され続ける」


魔王「言葉を発しているのだって辛いの。でもね、死に辿り着けるなら」


魔王「そのためだったら、笑うことだってできる」ニコ



魔王「ね………お願い」





魔王「私を、殺して」












遊び人「………」





遊び人「断る」

568 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:38:55.91 ID:ma21ZHtA0


遊び人「こんなことは最初で最後だ」

遊び人「俺の人生で、こんな大袈裟なことは金輪際ごめんだ」


遊び人「今日のことは、忘れる」

遊び人「もう夢はおしまいだ。再び見ることはねぇ」

遊び人「俺は、あのクソッタレな毎日に戻るんだ」

遊び人「だからもう二度と………」


遊び人「俺に関わるな」





遊び人「――あばよ」





569 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:39:49.91 ID:ma21ZHtA0



魔王「………………」



魔王「…?」




魔王「ああ…そうか」


魔王「これ以上、戦いはない」


魔王「魔王勇者大戦は終わった」


570 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:40:29.59 ID:ma21ZHtA0


魔王「――私は、生き残ったのか」


571 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:41:29.22 ID:ma21ZHtA0


魔王「生きなきゃいけないんだ」


魔王「………生きる」




魔王「私はまだ、この身体を」

魔王「呪われた血の走る身体を引き摺って」

魔王「生きなきゃいけない」


魔王「………」

572 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:42:28.51 ID:ma21ZHtA0

魔王「ねぇ…」


少年「」


魔王「あなたは私が物語の主人公であると言った」

魔王「………でも、例えそうであったとして」

魔王「私みたいに愚かな主人公に、何の意味があるのかな?」


魔王「幾つもの大きな過ちを犯し、大切な仲間さえ守れず」

魔王「ふふ…最後の敵を、この手で倒すことすら出来ず」

魔王「魔族も人間も、数えきれない命を奪った私は」




魔王「少しでも価値のある、主人公だったのかな………」

573 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:43:18.74 ID:ma21ZHtA0

魔王「………英雄たる強い想いの人々は、この戦いには沢山いた」

魔王「なぜ、私が…」

魔王「私だけが、こんな風に生き延びているのか」

魔王「………分からない」

魔王(分からない)


魔王(………)


魔王(ねえ、私は)


魔王(主役だから、生き延びたのだろうか)







魔王(そんな生に)


574 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:44:04.47 ID:ma21ZHtA0


魔王(なんの意味があるんだろう)





フワ …



575 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:45:01.35 ID:ma21ZHtA0

魔王「…あの世界の風だ」

魔王「私は、戻るのか」



魔王「――少しだけ、実感が沸いてきた」

魔王「………私が、永遠に許されることのない罰と共に生き延びてしまったこと」



魔王「――ようやく、意識が際立ってきた」

魔王「同時に身体中を這いまわる痛みもより鮮明になってくる」



魔王「――にわかに、気力も戻ってきた」

魔王「今なら自ら断つことが出来る気がする」














魔王「私自身の、命を」


576 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:46:19.41 ID:ma21ZHtA0


カラン…



魔王「! これは…」

魔王「………どうのつるぎ」

魔王「…そう。置いていってくれたのね」

魔王「ふふ…。せめてもの情け? …私が自分で終わらせられるように」



魔王「…」チャキ…



魔王「この刃を喉元に突き刺せば」

魔王「全てから、解放される。身体中の激痛からも、泥のように心から溢れる悲しみからも」



魔王「価値のない役目からも」


577 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:47:07.32 ID:ma21ZHtA0

魔王(本当にいいの?)


魔王「………迷う必要なんて、ないわ」


魔王「私は、多くの人にとって死神でしかなかったのだから」

魔王「父上にとっても………爺にとっても」


魔王「炎獣にとっても」


魔王「………………」



魔王「勇者の剣で、魔王が死ぬ」

魔王「…ふふ。結局、とてもありきたりな結末を辿るのね」

578 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:48:05.95 ID:ma21ZHtA0

魔王(――そうか)

魔王(こういうことだったんだ)




――魔法使い「予言、しましょうッ………魔王!!」

――魔法使い「――この物語の終わりは、あなたの、死だ!!」



魔王(あなたは、この瞬間のことを、言っていたのね)


魔王(あなたたちは、全部知っていたんだ)

579 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:48:53.54 ID:ma21ZHtA0

魔王(ふふ)




魔王(沢山の戦いがあった)



魔王(沢山の死があった)



魔王(その数だけ、物語があった)



魔王(でも)



魔王(なんだかあっという間だったなぁ………)

580 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:49:47.70 ID:ma21ZHtA0


魔王(そして最後に………魔王の物語が、幕を閉じるんだ)



魔王(………………なんだか)



魔王(意識が、ぶつ切りになってきた)

581 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:51:01.52 ID:ma21ZHtA0

魔王(いけない)



魔王(意識を手放してしまう前に)



魔王(せめて自分で、決着をつけよう)

582 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:51:43.95 ID:ma21ZHtA0

魔王(はやく)



魔王(急いで)



魔王(ああ、手が震える)

583 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:52:28.14 ID:ma21ZHtA0

魔王(………勇者)



魔王(あなたの勇気を、私にも)



魔王(終わらせるための、勇気を)

584 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:53:10.50 ID:ma21ZHtA0

魔王「………」チャキ………



魔王(そうだ)



魔王(それでいい)

585 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 21:53:52.62 ID:ma21ZHtA0

魔王(さよなら)



魔王(世界)

586 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 22:00:17.64 ID:ma21ZHtA0

魔王「…これで」



魔王「本当に」

587 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 22:00:59.51 ID:ma21ZHtA0




魔王「――全て、おしまい」














































588 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 22:01:41.82 ID:ma21ZHtA0



















































「それから」

589 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 22:02:46.21 ID:ma21ZHtA0

「どうやら世界は、新しく生まれ変わったようでした」



「というのも、私達はその大きな確変の瞬間を目にすることはなかったのです」



「同じ日が昇り、同じ風が吹き、今までと同じ空の下で、私達に分かることといえば」



「"魔王と勇者を失った"、という事実だけでした」



「そして、二度と現れることはないのです」



「数え切れないほどの生命の死が、黄金の鎖のように長く長く続いた物語の果てに、私達はもう」



「自分の人生を自分で生きていくしかないのです」



「この先の世界に――」

590 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 22:03:41.12 ID:ma21ZHtA0

「…私達を導く英雄は、いないのだから」



女性「はい、おしまい」


子供「…うーん。難しいよぉ」

女性「そうかもねぇ。アンタにゃまだ早かったか」

女性「ま、今日の演劇を見れば、もっと分かるわよ、きっと」

子供「じゃあ、はやくえんげき、いきたい!」

女性「ハイハイ、夕方には始まるから焦らないの」

女性「ったく、この堪え性のなさは誰に似たんだか」

青年「おい。ちょっと出てくる」

子供「父ちゃん!」

女性「………祭典の時間まで、まだまだあるけど?」

青年「いやあ、ちょっと落ち着かなくてさ。子供の面倒頼むよ!」

女性「あ、ちょっと!」

女性「…ったく、親子揃って」

591 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/24(土) 22:04:27.40 ID:ma21ZHtA0




【    】




592 : ◆EonfQcY3VgIs [sage]:2018/11/24(土) 22:06:46.70 ID:ma21ZHtA0
すみません、もう少しだけ続くのですが、本日はこれ以上投下する時間が取れないので、明日の夜残りを投下します
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 02:32:21.21 ID:01BNtF0DO
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 14:37:39.55 ID:mm3Ar0M0o
乙です
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/25(日) 17:41:15.51 ID:QgRNiT/r0
待ってた
596 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 18:19:23.38 ID:h4w+AuR50

飲み屋


青年「こんちは、やってる?」

親爺「おいおい、気の早ぇ野郎だな。開店時間はまだ先だぞ」

青年「いいだろ、ケチケチすんなって…痛っ!」ゴンッ

親爺「がはは! まーた頭ぶつけてやがる!」

青年「狭い店だよ、ホント…」

親爺「バカ抜かせ、お前がでかいんだよ」

青年「そうかぁ?」

親爺「図体ばっか大きくなりやがって。少しは偉大な親父殿みたいな武勲を上げてみたらどうなんだ?」

青年「まーたその話かよぉ」

親爺「お前の父親はな、それはそれはものすっごい剣の使い手だったんだ。俺がこーんなちっちゃな頃に見た建国祭でなぁ…」

青年「もうその話はいいっつーの。いいからビール!」

親爺「…ったくこのボンクラ、昼も回らない内から酒ときたもんだ」

青年「いいじゃんかよ! 今日くらいはさぁ!」

親爺「お前、嫁さんはどうしたんだ?」

青年「ちょっと息子の面倒見てもらってるよ」

親爺「…それでお前さんだけ出てきたのか?」

青年「うん」

親爺「………呆れた奴だ。雷が落ちても俺は知らねぇからな。ほらよ」ゴト

青年「おっ、待ってました!」

597 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 18:20:38.91 ID:h4w+AuR50

青年「では、この日の平和を祝って、カンパイ!」

親爺「お前みたいな穀潰しと違って、俺は仕事があるんだよ」

青年「ご、穀潰しはないだろぉ?」

親爺「俺の若い頃はなぁ、昼から飲むなんて贅沢は出来なかったもんだぜ」

青年「でもさぁ、親爺さんだって昔は町で有名な悪ガキだったって聞いたけど?」

親爺「…」

青年「…本当だったんだ?」

親爺「うるせぇ! そんなもん、本当にガキだった頃の話だ! …大人になりたいだけの、クソガキだった」

青年「ま、せっかくイイ商売してた家を継がずに、こんなチンケな店始めちゃうくらいだからなぁ」

親爺「チンケたぁなんだ! 失敬な野郎だ。こっちのが性に合ってるんだよ」グビッ

青年「って結局飲むの!?」

親爺「やっかましい。この店じゃ俺が法だ。文句言いたきゃ他に行け!」

青年「相変わらず無茶苦茶言うよ、ホント…」

598 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 18:21:32.15 ID:h4w+AuR50

親爺「しっかしお前と顔を付き合わせて飲むってのも飽き飽きだ」

青年「悪かったね、代わり映えのしない顔で」

親爺「あーあシケてるぜ! 見目麗しい美女かなんかが現れて、お酌してくれんもんかなぁ」

青年「そんな無茶な…」

ガラ…

黒騎士「こんな時分から何を騒いでいるのだ?」

親爺「…うわっ」

青年「び、美女は美女でも、すげぇ堅物が来た…」

黒騎士「うん? なんだその顔は」

青年「な、なんでもないよ…久しぶりだな」

黒騎士「久しぶり、と言っても半年も経っていないがな」

青年「そういやぁそうか」

599 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 18:22:37.78 ID:h4w+AuR50

黒騎士「マスター、ワインを」

親爺「あんたも飲むのかよ」

黒騎士「いいではないか。今日くらいは」

親爺「…」

青年「お前さ、その甲冑重くないわけ? 仮にも年頃の女の子がこんな町中でそんなもん着けてさ…」

黒騎士「別に大したことはない。それにこのご時世とはいえ、魔族の中でも顔の知られた私が変装もなしに出歩くわけにはいかないだろう」

青年「ま、そりゃそうだけど」

親爺「お前さんは、こんな所で酒なんか飲んでていいのかよ?」

黒騎士「全てはつつがなく進んでいる。万にひとつも大事はない」

親爺「大した自信だよ、全く」

黒騎士「………あいつは来てないのか?」

青年「来てないな。流石に忙しいんじゃないの?」

黒騎士「…まあいい。お前にだけでも話しておきたいことがある」

青年「はーあ。やっぱりお堅い話じゃんかよ」

青年「で、なんだよ話って。まさか"魔王"が現れたとか、そんな話じゃあないだろうな」

黒騎士「………魔王は」

黒騎士「魔王は、もういないだろう?」


黒騎士「私たちの世界に魔王が現れることは、二度とない」

600 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 18:23:34.60 ID:h4w+AuR50

青年「…そう、だな。魔王は…」

青年「俺たちが魔王って呼ぶ人は、たった一人きりだもんな」

黒騎士「ああ」

青年「俺たちのこの世界を………魔王勇者大戦のくびきから解き放った英雄」

青年「真実を探求し、管理者を追い詰めた魔族であり…最後の魔王となった女性」

黒騎士「そして全ての罪を背負い、"どうのつるぎ"で自ら命を絶った伝説の魔族………」

黒騎士「魔王」

黒騎士「彼女は今の世界の礎を作った立役者。偉大な女性だ」

青年「…もし生きてるなら、会ってみたかったけどな」

黒騎士「残念ながらそれは叶わない。………彼女は死んだんだ」

黒騎士「魔王勇者大戦の最後の最後に」

青年「…そうだな」

黒騎士「私が話そうと思っていたのは、もっと別のこと」

黒騎士「宝典についてだ」

601 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 18:24:39.18 ID:h4w+AuR50

青年「宝典。宝典ね」

青年「今朝も嫁が息子に読み聞かせてたっけな」

黒騎士「最後の魔王勇者大戦のすべてを書き記した書物…宝典」

黒騎士「著者不明ながら今や世界に知らぬものはいないほどの偉大な歴史書だが。やはり、あれを書き記したのは」

黒騎士「あれだけのことを知り、残すことことができるのは………」

黒騎士「魔界の大魔術師、冥王だけだ」

青年「ふうん。やっぱ冥王か」

黒騎士「ああ。こちらの手の者で宝典の原本を研究し、痕跡を辿ってきたが今回どうやら間違いないという結果が出た」

黒騎士「彼女の行方は、依然として知れぬまま。その住処である冥界と共に姿を消して久しい」

黒騎士「冥王は、全ての見届け人というわけだが………現時点では接触は難しいだろうな」

青年「へえ。難しいか」

黒騎士「………」

602 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 18:25:33.67 ID:h4w+AuR50

黒騎士「お前、何か話したいことがあるな?」

青年「な、なんだよ急に。今は宝典の話だろ?」

黒騎士「上の空のくせに何を言う。ぼうっとして。そういう時のお前は大体なにかの情報を掴んでいて、しかもそれが」

黒騎士「あまり喜ばしくない情報、というケースが多い」

青年「…ちぇ。お見通しかよ」

黒騎士「話してくれ。悪い報せならなおのことだ」

青年「別に、そんな大袈裟なもんじゃないよ。俺のは、想像の域を出ない話だからな」

青年「でも、もしかしたらあの最後の魔王勇者大戦の意味をひとつ示してくれるものかもしれなくて」

青年「そいつが………俺にはちょっとやりきれないっていうか、さ。それだけのことだよ」

黒騎士「…」

青年「ある、一人の男の話なんだ」

603 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 18:26:43.46 ID:h4w+AuR50

青年「男には妹がいた」

青年「二人だけで生きてきた兄妹は、それは仲が良かったんだそうだ」

青年「妹は病弱で、苦労することだらけだったけど、男はそれを献身的に支えて、ひっそりと生きていた」

青年「そんな男に、ある転換期が訪れる。………友人が、勇者に選ばれたのさ」

青年「男は魔法の知識に強く、友人に共に旅について来てくれと頼まれた」

青年「男は悩んだ。が、もし友人と共に魔王討伐が成功すれば、王国から莫大な報酬を得られる。………妹にもっと良い暮らしをさせてやれる」

青年「男はそう思って、話を受けた。病弱な妹を残して、男は友人らと旅に出た」

青年「結果として、彼らは魔王を討伐した英雄として、歓喜の王国に迎えられることになる。多くのことは、報われるはずだった」

青年「けれど、運命は残酷だったんだ。………男の妹は、男が旅に出ているその間に」

青年「あまりの孤独から、心まで病んでしまっていた」

604 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 18:27:41.28 ID:h4w+AuR50

黒騎士「…」

青年「妹は、帰ってきた男をもはや兄と認識することは出来なかった。ただひたに夢の世界を生き、幻想の中の兄を待ち続け」

青年「男を拒絶した」

青年「妹は、"自分が生きているのか死んでいるのかも分からない"状態だったそうだ」

青年「男は絶望した。だがその絶望と相反して、世間は男の活躍を称賛し、そうしてやがて男は」

青年「賢者、と呼ばれるようになっていた」

黒騎士「…賢者!?」

黒騎士「それでは、今の話は…」

青年「そう。女勇者との魔王討伐の間に、賢者の身に起こった出来事さ」

青年「それから、賢者は人が変わったようになってしまった。妹を誰にも会わせようとせず、かといって自らも妹のことを受け止めることが出来ずに」

青年「賢者は、研究に没頭していくようになる。そしてその狂気とも言える熱量の研究の中で、賢者は古代王朝に気づいた」

青年「そしてその延長線上に、世界の管理者たる"少年"が存在していることさえ推察するに至った」

605 : ◆EonfQcY3VgIs [saga]:2018/11/25(日) 20:49:04.61 ID:h4w+AuR50

黒騎士「賢者は、管理者の正体が"少年"であると知っていたというのか?」

青年「どうやら、そうみたいだ」

青年「やがて賢者は、新しい同志…教皇と魔法使いを得て」

青年「奴らと共に実験を繰り返し、その果てに自ら生け贄になる道を選んだ」

青年「女勇者や魔法使いが語ったように、賢者は女神をつくる時に犠牲になったはずだった」

青年「そこで賢者の生は、終わりを告げるはずだった…」

黒騎士「はずだった?」

青年「ああ。賢者は――」

??「賢者は、今もって生きておるのよ」

黒騎士「!」

青年「…よお。まさか顔を出してくれるとは思わなかったよ」

青年「王子殿下」



王子「ほほ。苦しゅうない」

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