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国王「さあ勇者よ!いざ旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」完結編
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255 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/10(土) 20:25:55.32 ID:Ho8YDfJf0
木竜「勇者一行の力は…一線を画しておりますじゃ」
木竜「おそらく、炎獣が敗れたということは、魔界のどの勢力をもってしても勇者の撃破は絶望的。…が」
木竜「この爺めに、今一度機会をお与えくださいませぬか」
魔王「え………?」
木竜「この木竜。姫様のために、必ずや勇者一行に一矢報いて参ります」
木竜「死は覚悟の上じゃ。しかし、誰かがそうしてまでも反撃に出ねば、魔界はこのまま終わりを迎えまする」
木竜「儂が生きて戻ることはないでしょうが………それでも長年培った知恵と竜族の誇りは、魔界の誰にも劣りませぬ」
魔王「ま、待って…。待って、爺」
木竜「儂の死が、反撃の狼煙になるはずじゃと信じておりまする」
木竜「………全ては、我らの魔界のために」
魔王「いっ、行かないで!」
魔王「駄目っ! 行ったら死んじゃう!!」
魔王「爺、死んじゃうんだよ!!」
木竜「………姫様」
木竜「どうか、お気をしっかりと」
木竜「魔界のために、尽くしてくだされ」
魔王「爺!! 爺っ!!」
魔王「行かないでっ、爺!!」
ギィィィ…
――バタァン…!
256 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/10(土) 20:26:51.49 ID:Ho8YDfJf0
魔王「そ………そんな………」
魔王「爺が………炎獣が………」
魔王「こ、殺され………」
魔王「………!」ハッ
魔王「氷姫は!? 雷帝はどこに…っ!」
魔王「ねえ!! 氷姫!! 雷帝!!」
魔王「………だ、誰もいないの?」
魔王「私達の魔王城に、誰も………!」
雷帝『………。…』
氷姫『………、魔王に………でしょ』
雷帝『阿呆。なんで今、その話をする』
氷姫『はは! …そりゃ結構なことで』
魔王「!」パァッ
魔王「氷姫っ! 雷帝!!」
氷姫『ねえ』
氷姫『終わっちゃうのかなぁ。あたし達の、全部』
雷帝『………全滅は必死だ。私達は………勇者の元に辿り着くことなく、破れ去ったということになる』
魔王「え…!?」
雷帝『………すまない。また会えると、信じている。氷姫』
魔王「ら、雷帝…!?」
魔王「どこへ行くのっ!? そっちは駄目!!」
氷姫『………畜生…』
魔王「氷姫!! 駄目だよ、行かないで!!」
魔王「殺されるっ!!」
魔王「皆、勇者に――」
魔王「殺されてしまうっ!!」
257 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/10(土) 20:27:55.86 ID:Ho8YDfJf0
魔王「はあ…! はあ…!」
魔王「どうして…!! なんで………!!」
魔王「なぜ、こんなことに――」
《これは、仕方のないことなのですよ。魔王》
魔王「………!」
《勇者が現れ、彼が桁違いな力を示して魔界に攻め入ってきた。そんなことが起こっては》
《あなたの臣下は、それを命懸けで止めにかかるしかないのです》
《足並みを揃える暇さえない四天王は、勇者一行に各個撃破されるでしょうね》
《そうして勇者は、最後には魔王城に辿り着き》
《あなたの喉元へ刃を突きつけます》
魔王「ひ………っ」
《魔王。あなたはそれでも逃げることは許されません》
《仲間を全て失い、心臓を鷲掴みにされても尚》
《戦うことを強いられます》
魔王「やめて………」ブル…
魔王「…やめて、お願い………」…ガタガタ…
《ねえ、魔王。これでようやく、想像できましたか?》
《これが》
魔法使い《あなたが人間に与えてきた絶望です》
258 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/10(土) 20:28:53.03 ID:Ho8YDfJf0
魔法使い《あなたは今までずっと搾取する側でいた。四天王と、力に任せて人間をねじ伏せてきました》
魔法使い《何故、そんなことが出来たんです?》
魔法使い《四天王が、あなたの持つ邪神の加護で力を増強されていたからですよね?》
魔法使い《あなた自身が、並外れた技を操っていたからですよね?》
魔法使い《なあんだ…。ただ邪神の加護がとってもいっぱい注がれていたから、だからあなたは勝っていただけじゃないですか》
魔法使い《――じゃあ、もし逆の立場だったら?》
魔法使い《勇者に、強い女神の加護が与えられていたら、あなたはどうなっていたんですか?》
魔法使い《………その答えが、これです》
魔法使い《あなたはただ、泣きながら戸惑い、仲間が失われていくのを眺めていることしか出来ないのですよ》
魔法使い《あなたの勝利は、邪神の気まぐれにしか過ぎない》
魔法使い《中身なんてひとつもない》
魔法使い《ただの、幸運でしかなかったのです》
259 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/10(土) 20:29:46.50 ID:Ho8YDfJf0
魔法使い《…おや?》
魔法使い《逃げ出してしまいましたか…。魔王たる者が、ひどい体たらくですね》
魔法使い《さて、あなたが創り出した、この偽りの魔王城。そんなに逃げ場は多くありませんよ》
魔法使い《魔王!》
魔法使い《聞こえているんでしょう! 足掻くことを止めて、受け入れなさい!》
魔法使い《…くっくっく》
魔法使い《もう少し、ですねぇ…》
260 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/10(土) 20:43:39.74 ID:Ho8YDfJf0
〈展望台〉
女勇者「………ふう。今一歩の所で逃したか」
女勇者「四天王め…。自分自身を堅固な氷で凍らせたのか」
氷姫「…」パキィ…ッ
女勇者「はっ!」ヒュッ
カァン…!
女勇者「…私の剣をもってしても、傷がつけられんとは」
女勇者「あの一瞬で大した魔法を使ったな。火事場の馬鹿力という奴か」
女勇者「しかし、どうしたものかな。こうなるとお前が自ら出てくるまで私は打つ手なし、というわけだ」
女勇者「…うーむ…」
女勇者「暇が苦手なタチなんだぞ…私は。あー、どこぞから色男が沸いて出て絡み合いを始めたりせんものかなぁ」
女勇者「私が現役勇者だったの頃は、イイ男が向こうからワラワラと寄ってきたもんだが」
女勇者「…」
女勇者「勇者か。全く、数奇なものよな」
女勇者「私は…先代魔王を倒した英雄として祭り上げられていた。だが、私自身が成し遂げたことなどどれほどあったことか」
女勇者「それを、旅が終わって女神の加護を失った時に改めて痛感したものだ」
女勇者「お前と同じだよ。氷の四天王」
女勇者「私個人の武勇など、語り継がれるべくもないのだ」
261 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/10(土) 20:44:25.23 ID:Ho8YDfJf0
女勇者「…ひとつ、昔話でもしようか」
女勇者「私のひとつ前の勇者は、魔王と同士討ちになったそうだ」
女勇者「もうひとつ前は、魔王に勝って」
女勇者「さらに前の勇者は、魔王に負けた」
女勇者「勇者と魔王は、ずうっとそんな風に戦いの歴史を繰り返し続けている。それはこの世界で、人と魔族の生命活動の一端を担っている」
女勇者「魔王が勝てば人間の人口は激減し…逆もまたしかり。――皆、この恐ろしい綱引きを何の疑問も持たずに見守ってきた」
女勇者「…たった一人。魔界で生き延び続けてきた、その男を除いて」
〈下層研究ホール〉
先代「側近は」
先代「あの男は、魔王と勇者の戦いの渦の中心にいながらも、何百年も戦いを生き延び続けた」
先代「そうして奴は、魔王と勇者の戦いの意味を、考え始めたのだな」
雷帝「ちっ!」バッ
ギィンッ! ガキィッン!
雷帝(隙が、ないっ!)
雷帝(一太刀浴びせることすら、叶わないのか…!!)
先代「…薙」
――ズババァ…ン!!
雷帝「ぐあ…っ!!」ガクッ
262 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/10(土) 20:45:24.89 ID:Ho8YDfJf0
雷帝(くそ、もっとだ…)
雷帝(限界を、越えろ)
雷帝(思考に頼るな)
雷帝(斬れ。ただそのための器になれ)
雷帝(敵を斬れ…!!)
先代「覚えているか、雷帝」
先代「側近が反旗を翻したあの日。あの時、起こっていたこと…」
雷帝「………」ゼェ…ハァ…
先代「…私の加護が、娘に引き継がれ始めた。あの事態が、側近の抱いていた推測を決定的なものにした」
雷帝「――かっ!!」 ド ッ
ギャリ…ッ!!
先代「惜しいな」
先代「あと半歩踏み込めていれば、入ったかもしれん」
先代「断」
ズバンッ!!
雷帝「ぁぐ…ッ!!」
先代「ふふ…。いいぞ、雷帝」
先代「加護などに頼らずとも、お前の潜在能力は、そう…私をも凌ぐものであるかもしれん」
先代「その可能性に賭けろ。ひと振りにお前の全てを乗せろ」
先代「筋力も、神経も、直感も、魔力も」
先代「見せてみろ。お前の渾身の一刀」
雷帝「ふー…ッ!」
雷帝「ふー…ッ!」
先代「…もう、私の声は届いていないか」
263 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/10(土) 20:46:18.91 ID:Ho8YDfJf0
先代「雷帝」
先代「あの時、お前は私が、女勇者と側近の二人に負けたと思っていただろう」
雷帝(呼吸を合わせろ)
雷帝(音を聞くな)
先代「違うのだ、雷帝」
先代「私は、女勇者が玉座の間に辿り着いた時には、もう」
先代「側近と相討ちになって死んでいたのだ」
雷帝(魔力をひりだせ)
雷帝(全てをぶつけろ)
先代「邪神の加護を持っていた当時の魔王である私を」
先代「四天王との連戦を経た、血まみれの側近が」
先代「命と引き換えに、たった一人で」
先代「倒したのだ」
――ダンッ
雷帝「 」
ボ ッ ! !
――――――
――――
――
十八年前
女勇者「ここが…玉座の間か」
賢者「い、いよいよってわけかい?」
剣豪「なんだよ賢者。てめぇここに来てビビってんのか?」
264 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/10(土) 20:47:43.93 ID:Ho8YDfJf0
賢者「あのねぇ…。多少動揺するのがまともってもんだろう。君みたいに肝が座りすぎている奴が異常なんだよ!」
女勇者「それだけ言い返す余裕があれば充分だろう」クス…
剣豪「けっ、違いねぇ」
賢者「ぐむっ…。き、君達と一緒にしないでくれっ。自分はこれでも繊細なタチなんだ! これまでだって何度も無茶苦茶な作戦に付き合わされて…」ブツブツ…
剣豪「繊細だろうがなんだろうが最終決戦に負けちまえば、死ぬだけだぜ。…とくりゃあ」
剣豪「やるしか、ねえだろうが」
賢者「………」ゴクッ…
女勇者「ま、そういうことだな」
女勇者「死んだ方が楽っていうような戦いになるかもしれないけどな?」
賢者「…馬鹿を言わないでくれ」
賢者「まだまだやりかけの研究が沢山あるし、解き明かしていない秘密だって数えきれないんだ」
賢者「自分はこんな所で死ぬわけにはいかない…!」
女勇者「…ふふ」
剣豪「上等だぜ」クク
女勇者「――さて」
女勇者「それでは行こうか」
ギィイィ…
265 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/10(土) 20:48:26.47 ID:Ho8YDfJf0
女勇者「………こ」
女勇者「これは――」
先代「」
玄武「」
木竜「ぜ…ひゅ…」
鳳凰「………ぐはっ」
雷帝「」グタ…
剣豪「な…なんだ、こりゃあ…!?」
賢者「四天王に…」
賢者「それに、魔王…っ!!」
女勇者「………っ!!」
先代「」
女勇者「………死んでる………のか…」
賢者「…す、凄まじい戦いがあったようだ。これは、まさか…」
剣豪「………仲間割れ、か…!?」
剣豪「…どいつもこいつも、瀕死の傷を負っていやがる…!!」
女勇者「………」
女勇者「魔王が、死んだ………」
女勇者「…これで」
女勇者「これで全てが終わった…?」
剣豪「…っ」
賢者「………こんな終わり方が………あると言うのかい?」
266 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/10(土) 20:49:14.16 ID:Ho8YDfJf0
剣豪「――魔王は死んだ」
剣豪「つまりは、全ての終わり。そう言うことだろうが」
剣豪「俺様達の冒険は、終わったんだよ………」
賢者「………こんなことが…こんなことが、本当に………?」
女勇者「――はは」
女勇者「ははははは! …酷い、拍子抜けだな!」
剣豪「………女勇者」
女勇者「けれど、期せずして目的は果たされたってわけだ」
女勇者「………終わったのなら、戻ろう。いずれにせよ、私達は」
剣豪「――勝ったんだよ!」
女勇者「…!」
剣豪「俺様達はここまで突破してきた!」
剣豪「魔王は死んだ!」
剣豪「とくりゃあ…人類の勝利だろうが!! それ以外の何がある!?」
女勇者「………ああ!」
女勇者「ああ、そうだ…!」
女勇者「私達は、勝ったんだ…っ!」
――
――――
――――――
〈展望台〉
女勇者「強がってみたけれど、本当は分かっていた」
女勇者「私は………魔王を倒せなかった勇者だ」
267 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/11(日) 01:25:33.42 ID:224Ehhrc0
女勇者「その事実は公にされることはなかった。それを知るのは一部の特権階級だけのこととなり」
女勇者「民衆は私を英雄として祭り上げた。…多くの犠牲を払った戦いの結末は、嘘で塗り固められたのさ」
女勇者「私は務めを果たせなかったことを胸に秘めて、偽りの称賛を浴びながら生きることとなる」
女勇者「………まだ戦闘の最中で命を落とした方が、いい生涯だったんじゃないだろうか」
女勇者「そんな思いに、そののちずっと…さいなまれながら、な」
氷姫「………」
…パキ
パキパキ…!
女勇者「お、ようやく殻から出てくる気になったか」
女勇者「まあ、アラサー女の昔話なんぞ面白くもないだろうしな」
女勇者「とっととケリをつけようじゃないか」
ズズズズ…
女勇者(! この圧力)
女勇者「…なるほど、ただ氷に閉じ籠っていたわけではない、ということか」
氷姫「………」ゴゴゴゴゴ…!!
女勇者「…魔力の捻出にこの時間の全てを懸けたか。とんでもないのをぶっ放すつもりだな、氷の四天王…!」
女勇者「ふふ…面白い!」
女勇者「ならば、私も渾身の一撃をくれてやろう…!!」
268 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/11(日) 01:27:02.84 ID:224Ehhrc0
女勇者(おそらくはとんでもない氷の波動が飛んでくるな…! 普通にやっても切り抜けられん)
女勇者(魔力を全て剣に圧縮して突撃をかける…そうして敵の波動の中央を突破してダメージを与える)
女勇者(これしか手は………!?)
チラ… チラ…
女勇者「………」
女勇者「雪か」
女勇者「粋な演出をするものじゃないか、氷の四天王」
女勇者「あの日を思い出すよ。勇者として何も成し遂げられなかった私が」
女勇者「友としても価値がなかったのだと、思い知った日」
女勇者「………賢者」
女勇者「お前の考えていたこと、今なら私にも分かる。けれど、お前がしたことが正しいなんて、私には言えない」
女勇者「せっかく生き返ったってのに………何も変わらんなぁ」
女勇者「お前に、ひとつも伝えられないなんて」
女勇者「情けないよ………」
ギュオォオォ…!!
氷姫「………」 パキン…ッ!
女勇者「――来るか」
269 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/11(日) 01:28:08.21 ID:224Ehhrc0
――バリィンッ!!
氷姫「行くぞ!! 先代勇者!!」
氷姫「あたしの全力を――」
氷姫「くらえぇえぇえぇッ!!」
ド ギ ュ ウ ゥ ン ! !
女勇者(くっ………!!)
女勇者(突破してやる!!)
女勇者「――ぜぇえぇえぇえぇえッ!!」
ド ッ ! ! !
女勇者(…いかん)
女勇者(これは、届かんな)
女勇者(こいつ、土壇場で、さらに力をつけたのか)
女勇者(加護を失っても尚、前に進もうと?)
女勇者(………大した奴だ)
女勇者(ああ、記憶が甦る。これが走馬灯というやつか?)
女勇者(あの日の、剣豪と賢者の顔を………)
女勇者(――そして)
――
――――
――――――
――――
――
賢者「………………」
剣豪「…賢者。何を浮かねぇ顔してやがる?」
賢者「この魔族…――」ゴソ…
270 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/11(日) 01:29:17.56 ID:224Ehhrc0
女勇者「………そいつは一体何だ?」
賢者「この者は、魔王の側近を勤めていた魔族だね」
剣豪「…ひでぇ有り様だ。こりゃあこいつも死んでやがるな」
賢者「………この状態なら蘇生は可能だ」
女勇者「!?」
剣豪「そ、蘇生だぁ? 何を言っていやがる!?」
賢者「…この戦いの跡。それに魔力の気配を見て、分からないかい?」
賢者「最後に、強烈な一撃で魔王を倒したのは、この魔族だ」
女勇者「…っ」
女勇者「そいつが、魔王を…!」
賢者「魔族の間で何があったかは分からない…。だけれど、この魔族が魔王を倒したというなら」
賢者「それは"この世界の法則が覆った"ってことだ」
賢者「勇者でないものが…女神の加護以外のものが、魔王を撃破したのだから」
女勇者「………賢者」
賢者「…」
賢者「また来たのかい? 暇だねえ、女勇者」
賢者「英雄様はもうゆっくりと余生を過ごせばいいんだろうけど、生憎自分は忙しくてね」
賢者「お酒の相手なら剣豪にしてもらいなよ。ああ、あいつはもう大将軍って呼んだ方がいいのかな――」
ガシッ…
賢者「………離してくれ」
女勇者「嫌だ」
271 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/11(日) 01:30:08.87 ID:224Ehhrc0
女勇者「賢者。このところのお前はおかしい」
女勇者「あんなに大事にしていた妹をほったらかして、研究室にこもりきりになって」
女勇者「私や剣豪とは顔も会わせようとしない。その代わりに付き合ってるのは」
女勇者「女神教会の教皇と、あの戦争好きの王とばかりだ」
賢者「………」
女勇者「なんで、そんな風になってしまったんだ…。話してくれよ、私にも…」
女勇者「頼むよ…」
賢者「…」
賢者「君に話せることなんかないよ」
賢者「悪いけど、もうこんな風に訪ねてくるのは止めてくれないかな。自分にとっては、苦痛でしかないから」
女勇者「なっ…!」
賢者「それじゃあね…」
剣豪「………」ムンズ
賢者「!? 剣ご…」
バキッ!!
272 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/11(日) 01:31:34.65 ID:224Ehhrc0
賢者「ぐっ…!」
女勇者「剣豪…っ、止せ!」
剣豪「止めんな、女勇者。こんくらいでどうにかなるタマじゃあねぇんだ」
剣豪「魔界の死炎山で、ドラゴンの尾っぽにぶっ飛ばされた時の方が効いたろうが」
剣豪「闇の谷で巨人に握りつぶされそうになった時や、キメラの大群に一斉に牙を立てられた時の方が」
剣豪「よっぽどヤバかったよなぁ………賢者?」
賢者「…」
剣豪「俺様達は一緒に命をなげうって旅をしてきたくされ縁同士だ。なんなら、旅の前がどんだけ半人前だったかも知ってる同郷だ」
剣豪「それをてめぇ………なんなんだよ、てめぇはよ」
剣豪「なんでそんな、敵を見るような目で見るんだよ…!!」
賢者「…」ギロ
女勇者「…賢者」
賢者「………あの旅を妙に美化してしまうのは、君の悪い癖だよ。剣豪」
賢者「あの旅で、自分達は何を成し遂げたって言うんだい?」
剣豪「…なんだと?」
賢者「言ってごらんよ。勇者一行であるはずの自分達は、魔王を倒したかい? 違うだろう!」
賢者「ましてや、"何故魔王を倒すのか"も考えないままに、闇雲につっ走り続けただけじゃないか!」
賢者「自分達に協力をしてくれた人達を振り回して、無駄に死なせて、その旅の果てに」
賢者「君はどうして、そんな風に悠々と妻をめとって将軍なんかやっていられるのさ!?」
賢者「笑わせないでくれ!!」
273 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/11(日) 01:32:32.10 ID:224Ehhrc0
剣豪「お前――」
女勇者「賢者ッ!! この野郎ッ!!」
女勇者「いい加減にしろよ、てめぇ!!」ギュウッ…!
賢者「…!」
剣豪「………お、女勇者…」
女勇者「手前勝手に人のことを分かった風に言いやがって!! 」
女勇者「私達がなんの負い目もなく呑気にやってると本気で思ってんのかッ!? ぁあ!?」
女勇者「私が、どんな思いで生きてるか…あの旅の時みたく、本気で考えたことがあんのかよッ!?」
賢者「…っ」
女勇者「私は!! 私は…っ!!」
女勇者「お前が何を考えてるのか、分からないんだよ…っ!! どんなに考えても!!」
女勇者「教えてくれよ、お願いだから…!」
女勇者「元の生真面目だけどちょっと抜けてる賢者に………戻ってくれよ………!!」
賢者「………」
剣豪「女勇者…」
274 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/11(日) 01:33:50.29 ID:224Ehhrc0
剣豪「…賢者よう。俺様達は、おんなじものを背負っていたはずだぜ」
剣豪「あの、魔王城での一件まではな。ところが、お前は帰ってきてから変わっちまった」
剣豪「てめぇだけで背負いこんで、いつも難しい顔をしてやがる。見るからに体にガタがきてんのに、何かに縛られてやがるみたいだ。だから、そいつに」
剣豪「俺様達を巻き込めって言ってるんだ。これまでだってそうして来ただろう」
剣豪「力になれることは、あるはずだぜ。………仲間なんだからな」
賢者「………」
女勇者「………賢者…」
賢者「勘違いしないでくれないか」
賢者「君達はもう仲間なんかじゃない。自分にはもう、新しい仲間がいる」
女勇者「な…何…」
「賢者。ここにいたのですか。もうすぐ実験の時間ですよ。…おや」
魔法使い「これはこれは。勇者一行の皆さんじゃあありませんか」
剣豪「て…めぇ………!」
剣豪「まさか、あの時の…!!」
女勇者「…魔王の」
女勇者「側近…っ!!」
魔法使い「初めまして。では、なかったんですよね。でも、あの時は僕、死にかけてましたから、覚えてなくって」
魔法使い「お二人は僕の命の恩人ですからね。いつかご挨拶をと、思っていたんですよ」
275 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/11(日) 01:41:38.77 ID:224Ehhrc0
女勇者「………お前」
女勇者「お前か。賢者をたぶらかしたのは」
魔法使い「何の話です? たぶらかした?」
賢者「気にすることはないよ…魔法使い。彼らの言葉に意味なんてない」
賢者「自分達には、そんなことよりもやらなきゃならないことがあるだろう?」
女勇者「!!」
剣豪「…っ」
魔法使い「それは、そうですが。いいんですか? すっごく怒ってるように見えますし、それに…」
魔法使い「次の実験では、あなたが生け贄になってしまうんですよ?」
女勇者「なっ…!?」
剣豪「生け贄…だと…!」
賢者「………」
賢者「…この際だからはっきり言っておくよ」
賢者「自分は誰に惑わされたわけでも、操られているわけでもなく、自分の意思でこうしているんだ」
賢者「勝手な友情の押し売りで、自分の邪魔をすることは、もう金輪際やめて欲しい」
賢者「迷惑だよ」
剣豪「――!!」
女勇者「…賢者…っ!」
賢者「…時間は、あの日から大きく流れてしまったんだ。今はもう、君達と自分は別の道を歩んでいる」
賢者「………雪が降ってきたね」
賢者「冷える前にうちへ帰った方がいい。暖かく迎えてくれる我が家にね」
女勇者「………ま、待て」
女勇者「賢者………!」
賢者「さよなら、二人とも」
賢者「もう二度と会うことはないだろう」
276 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/03/11(日) 01:42:49.67 ID:224Ehhrc0
キ ィ ン … !
氷姫「はあ、はあ、はあ…!」
氷姫「………あ、危なかった」ツー
氷姫(血が、額から…! 剣の切っ先が届いていたのか)
氷姫(あと僅かでも突破されていたら、頭を割られていた)
氷姫「なんて、女よ…こいつ」
女勇者「」パキィッ…
氷姫「はあ、はあ、はあ…」
氷姫「ふん…。一度死んでんなら、大人しく、退場なさいよ」
氷姫「なんで、あんたが」
氷姫「泣いてるのよ………」
女勇者「」
277 :
◆EonfQcY3VgIs
:2018/03/11(日) 01:45:36.49 ID:224Ehhrc0
今日はここまでです
間をあけてしまって申し訳ないです
見てくださってる方がいる限り、完結にはこぎつけようと思います
278 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/11(日) 02:03:57.07 ID:CHwTEXOEO
乙
待ってた
279 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/11(日) 06:54:26.41 ID:5Vhlz/0Q0
乙
280 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/11(日) 07:25:58.96 ID:HeTXTlwDO
乙
281 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/12(月) 17:11:08.83 ID:LyLAbH7AO
乙
おかえり
282 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/03/21(水) 11:38:57.66 ID:30LbfBgz0
おっさん
283 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/23(金) 09:59:26.82 ID:oLwOypmEO
頭がこんがらがって意味がわからなくなってきた
284 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/03/27(火) 11:21:56.77 ID:W63BjFKN0
乙乙
285 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/02(月) 20:24:45.59 ID:/QS46X6Vo
まっとる
286 :
◆EonfQcY3VgIs
[sage]:2018/04/17(火) 18:20:24.55 ID:46PRBaMd0
今週末21日(土)に続きを投下します
287 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/17(火) 22:58:32.72 ID:HCDYIumFo
待ってたで
288 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/18(水) 07:55:38.29 ID:ks//4mrAO
待ってる!
289 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 09:07:06.27 ID:hkG69/nJ0
氷姫「ひとつだけ言っておくわ。………この雪は、あたしの魔法の影響で降ったわけじゃない。だから、きっと」
氷姫「どこぞの信用ならない神様が降らせたんじゃない?」
氷姫「…別に、あたしの知ったこっちゃないけどさ」クル…
『………め…』
氷姫「…え?」
『…進め………四天王…』
『…私の………見れなかったものを…』
『………見てくれ………』
氷姫「………」
氷姫「分かったわ」
氷姫「そこで、眺めてなさい」
氷姫(………進もう)ザッ
『――システムパターンAをクリアしました』
290 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 09:14:45.45 ID:hkG69/nJ0
雷帝「………側近は、先代勇者一行によって、人間の地で蘇生された」
雷帝「そしてその時から、魔法使いとして生き始めた…」
雷帝「そういうことなのですね」
先代「…ああ」
先代「あいつが生き延びたことは、人間に…いや、世界に新しい可能性をもたらした」
先代「"女神の加護を持たぬ者が、魔王を倒した"」
先代「その事実が引き金となって、あらゆる研究と成果が引き起こされることとなる…」
先代「が、この先のことを語るのは私の役目ではないようだ」
雷帝「…先代様」
先代「お前に与えられた深手は、まもなく私の命の灯火を消し去る。…やってくれたな、雷帝よ」
先代「だが、それでいい。お前が繰り出した技の数々こそが、本当のお前の力だ。そいつを強く信じろ」
先代「所詮、私のこれは偽りの生だ。失われた過去の存在は、潔く去るとしよう」
雷帝「………」
291 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 09:17:22.75 ID:hkG69/nJ0
先代「なあ、雷帝」
雷帝「…なんでしょうか」
先代「あの子は………この世界に何をもたらすのだろうか」
先代「…魔王なのであれば、それは闇と混沌であるべきよな」
先代「魔法使いにこのまま魂を奪われれば、今までに類を見ない覇者としての魔王に、君臨し得るかもしれない」
先代「けれどあの娘は、きっともっと違う答えを求めている」
先代「魔王としては愚かなことを…しかしとても尊いものを、あの子は求めている」
先代「私は………やはり親バカなのかな」
先代「それが誇らしいのだ」
雷帝「…!」
先代「雷帝」
先代「あの子のことを、頼んだ」ピシッ…
ボロッ…!
雷帝「先代様っ!」
雷帝「………」
『システムパターンBをクリアしました』
雷帝「――………行こう」
雷帝(軋む身体を引き摺ってでも。そうでないと、歩みが止まる)
雷帝(この奇怪な通路の先には………)
雷帝(この上、一体何が待つ?)
292 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 09:19:06.99 ID:hkG69/nJ0
〈魔王の心の魔王城〉
魔王「はあっ、はあっ…!」
魔王「…た………助けて…誰か」
魔王「誰か………!」
魔王(――ああ。私はなんて弱いんだろう)
魔王(爺を失って、炎獣を失って。仇を討つことも真実に歩み寄ることもせずに、ただ逃げるばかり)
魔王(頭で分かっていても、心がまるで病にでも侵されたかのように絶望に沈んでいる)
魔王「恐い…恐いよぉ!」
魔王(…全てを覚悟して進んできたはずだった)
魔王(なのに………)
『ならば力を欲すればよい』
『お前には無尽蔵の破壊をもたらす権利がある』
『敵から全てを奪い去れ。さすれば恐怖とも絶望とも無縁』
魔王「…あなたは…っ」
ズォオオ…
魔人『さあ、我が手をとれ』
293 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 09:20:50.41 ID:hkG69/nJ0
魔王(魔人)
魔王(ずっと側にいた存在。ずっと私をおびやかし続けていた者)
魔王「………けれど、絶対的な力を持っている。同化してしまえば、認めてしまえば、もう恐いものなどない…」
魔王(駄目だ!! 明け渡しては駄目!!)
魔王(魔人とひとつになっては、暴虐の化身になってしまう…そうなっては、いけない!)
魔王「…いや。私は、人間にとっては既に殺戮の象徴でしかない。私は既に殺しすぎている」
魔王(それは………)
魔王「そればかりか、炎獣達をいい様に使った。仲間に秘密を打ち明けないまま、利用したんだ」
魔王(………っ!)
魔王「そんな私が、何を今さら潔癖ぶる必要があるの?」
魔王「魔王らしくなる。ただそれだけのこと」
魔王(………………)
294 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 09:23:23.59 ID:hkG69/nJ0
魔王(それは)
魔王(ただ私が楽になろうとしているだけの言葉だ)
魔王(私は最初から高潔でもなんでもない。薄汚く、この手は血に染まっている)
魔王(そんなことは分かっている)
魔王(それでも為さなければならないことがあった。だから、これまでだって進んできた)
魔王「………」
魔王(投げ出しては駄目。醜いものだって、抱えて生きていくの)
魔王(私はひとつの生命に過ぎないのだから)
魔王「………ああ、そうだ」
魔王「私はまだ」
魔王「悩むことが出来る」
魔人『………なんだと?』
魔王「――私は、あなたと共には行けないわ。魔人」
魔人『貴様………この期に及んで』
魔王「私は私の意志で歩む。………あなたは必要ない」
魔人『………』
《あははは》
《お困りのようですね。魔人》
魔法使い《お手伝いを、しましょうか?》
295 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 16:07:06.24 ID:hkG69/nJ0
魔人『………』
魔王「…魔法使い…!」
魔法使い《困った人ですねぇ、ほんとに。自力で立ち直ってしまったんですか? 魔王》
魔法使い《並大抵の精神力じゃあないですよ。まあ、しかしそれでこそ》
魔法使い《貴女という魔王が魅力的なんですが、ね》
魔王「…あなたが」
魔王「あなたが殺したのよ、炎獣も。爺も」
魔王(…いけない。感情が剥き出しになる。心を晒してはつけこまれるっ…)
魔王(でも、どうにも制御ができない…! 途方もない怒りが、込み上げてくる…っ!)
魔王「よくも…」
魔王「よくも、炎獣を」ゴォ…
魔法使い《…》
魔王「幻を見せて、今度は私から何を奪うつもりなの――!」
魔法使い《…珍しいですねぇ、魔王。あなたがそんなに怒りを露にするなんて。まあ、あなたが怒るのは至極最もだとは思いますが》
魔法使い《ですがね、検討違いのことがひとつあるので、それだけお教えしておきましょうかね》
296 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 16:14:08.20 ID:hkG69/nJ0
魔王「………なんですって?」
魔法使い《あなたに見せていたのは、単にあなたの精神を攻撃するために用意した幻というわけではありません》
魔法使い《もし違う選択肢があったら未来はどうなっていたのか…そんな可能性の世界を見て頂いていたわけです》
魔王「…可能性の世界?」
魔法使い《そういうシミュレーションは、数え切れないほど繰り返して来たんですよ。選択肢の変更と、"その世界線が辿り着く未来"の研究を、ね》
魔法使い《もしも、勇者一行が集って魔王討伐に出ていたら? 仲違いを起こすことなく、勇者の元で団結して立ち上がっていたら?》
魔法使い《その結果はね、魔王。先ほどご覧頂いた通りです。四天王は各個撃破され、貴女は惨めに追い詰められるのです》
魔法使い《こんな選択と結果があったのかと思うと、なんて現実は脆いんだろうかと…そんな風には思いませんか?》
魔王「…」
魔法使い《どうです? 別の世界線を視覚化してみるって面白いでしょう?》
魔王「…空想の世界に過ぎないわ。そんなもの」
魔法使い《おや、聞き捨てなりませんね》
魔法使い《単なる絵空事などではありませんよ。全てのことは、本当に現実になり得た事象なのです》
魔法使い《どうやら貴女は、現実の自分に大層自信がおありのようですが…でも、考えてみたことはありますか?》
魔法使い《"今の貴女は、本当に本当なのか"》
魔王《…何を…》
魔法使い《ふふ。断言しますが、別次元を覗き見ることも未来を垣間見ることも、技術があれば可能になることです》
魔法使い《テクノロジーってやつですよ。見つかってしまえばそれまでのこと。それは勇者や魔王なんてあやふやな存在よりずっと確かなものです》
魔法使い《僕達は時間すら飛び越えた世界を眺めることが出来ました》
魔法使い《それだけのアドバンテージを持って僕達は》
魔法使い《この物語を紡いできたのですよ》
297 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 16:15:36.48 ID:hkG69/nJ0
〈下層研究ホール〉
雷帝(………私がここに来る時、ここは下層研究ホールだと音声が告げていた)
雷帝(氷姫はどうやら別の地に飛ばされたようだが…なんだ? この施設に詰め込まれた技術の数々は)
雷帝(人造人間の生成。異空間移動の科学的成功。そして)
雷帝(――時空間転移ゲートの設立)
雷帝(………)
「信じがたい技術の数々だろう? この研究施設は未知の領域だ」
「俺も最初は信じられなかったさ」
雷帝「っ! 誰だ!?」
「けれど本当だった。奴らは人間を造り、奇跡を起こし、未来を知る事さえ出来た」
「この技術があれば、魔王など容易く倒すことが出来る…。そうすれば、人々の安寧の時代が始まる」
「…なあ。俺がそんな風に夢を見てしまったのも」
兄「仕方のないことだとは思わないか?」
雷帝「お前は…!」チャキ…!
兄「久しぶりだ雷帝。殺された時ぶり、というやつだな。弟も世話になったみたいじゃないか」
兄「俺が次の門番ってわけさ」
兄「――でもやりあう前に、少しだけ奴らのことを覗いてみようって気はないか?」
298 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 16:17:10.91 ID:hkG69/nJ0
雷帝「奴ら………」
雷帝「それは、魔法使いのことか…!?」
兄「…魔法使いと教皇。連中は志を同じくする研究者だったのさ」
兄「世界の法則を司る女神と邪神の神秘。そいつへ挑戦する、同志ってやつだ」
兄「勇者ではなく側近が先代を倒したことで、神々の加護が絶対ではないということを証明された。奴らが拠り所とするのはその事実だけで充分だった」
兄「雲を掴むような話だったが、道標は存在した。………古代王朝の遺した遺物や文章だ」
雷帝「――…この機械城のごとき文明が」
雷帝「本当に実在したと言うのか?」
兄「どうやらそうらしい。奴らの研究は恐ろしい速度で進んだ。そいつに拍車をかけたのは、人造人間〇一七号の完成だ」
兄「"魔女"と呼ばれたその存在は、あらゆる成果を研究施設にもたらした」
兄「やがて犠牲を払いながら、魔法使いと教皇はついに女神を創りあげる方法へと辿り着き」
兄「誕生した女神は時間すら飛び越えるようになる」
299 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 16:18:42.04 ID:hkG69/nJ0
ザザ…ザ…
教皇『み………見ろ。石板に文字が刻まれ出したぞ』
魔法使い『…ええ。どうやら、これが未来に行った女神の啓示のようですね』
雷帝「! 魔法使いと、教皇!?」
兄「あれは、記録された映像記録さ。かつての奴らの姿というわけだ」
兄「どうやら、奴らのつくった女神が初めて時を越え、啓示をもたらした時のもののようだな」
教皇『こ、これが我々の未来…!?』
魔法使い『ふむ。女神が時を越えて見た未来ですから、恐らく間違いはないでしょうね』
教皇『魔王の凶暴化。勇者の敗北。人類の敗走…。そして』
魔法使い『あはは。僕らは、死ぬそうですよ』
教皇『…っ!』
魔法使い『魔王と四天王に為す術なく蹂躙される未来。…さて、どうしたものですかね』
兄「…そう。奴らが未来を知ったこの時に、この物語は動き始めたのさ」
300 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 16:19:51.61 ID:hkG69/nJ0
兄「奴らは、魔王を打倒する未来を描くために手を打ち始め、つくられた女神はそのために動き始める」
兄「幼い魔王に恐るべき魔人の影響が見られ始めると、魔法使いは魔界に飛び、冥王に接触」
兄「冥王の力で魔王が邪神の加護をコントロールする状況を作るよう依頼」
兄「四天王の面子を揃えるため、虚無と海王を使って魔界紛争を起こす。魔王と現四天王の結びつきがここで固まる」
兄「さらに人間界で六人の勇者一行を収集し、それぞれの道を示唆、暗示。これで役者は全て名を連ねることになる」
兄「後は俺を使って教会中心の軍を起こせば、魔王勇者大戦の火蓋が切って落とされるってわけさ」
雷帝「………っ」
雷帝「私達の戦いは、こうして作られた…?」
雷帝「………全ての戦いが…奴らの手の上の出来事だったというのか」
兄「前代未聞の強力な邪神の加護を持つ魔王を倒すために、奴らの女神が叩き出した緻密なスケジュールが、この物語さ」
兄「…これで歴史は本来の姿から大きく舵を切り」
兄「お前や俺が体験した、この膨大なシナリオを歩むこととなる」
301 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 22:36:19.48 ID:hkG69/nJ0
〈展望台〉
氷姫「…ようやく頂上か」
氷姫(機械城の楼閣をひたすらに登ってきたけど…門番とやらはここにいるの?)
氷姫(………死人さえ生き返った。もう、何が起こってもおかしくない)
氷姫(魔法使いが甦らせたこの城。不気味なほどに得体が知れないわ)
竜騎士『止まれ! 魔王四天王っ!』
氷姫「!?」
氷姫(コイツ…っ、今、何処から出てきた!?)
踊り子『四天王の生き残りめ…! アタシ達が相手よ!』
竜騎士『行くぞ、踊り子!!』
踊り子『うんっ!』
踊り子『アタシ達は………負けないっ!!』
氷姫「ちっ、敵か…!!」ザッ…!
氷姫(…にしても、何この違和感は!? こいつらは、そこにいるようで気配が全くしない…)
『よかろう、来るがいい光の勢力よ!』
虚無『我が闇の呪いをもって葬ってくれる!! ――魔王四天王の力、思い知るがよい!!』
氷姫「!?」
氷姫(きょ………虚無…!?)
魔女「構えずともよい。氷姫よ」
魔女「これは、視覚化された疑似体験に過ぎん」
魔女「彼らは勝手に戦いを始める。現実とは関係のないところでな」
302 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 22:40:58.23 ID:hkG69/nJ0
氷姫「あんたは…っ」
氷姫「…そう。あんたが次の門番ってわけ?」
魔女「そういうことだの。流石に慣れてきたか? しかしまあ、一応名乗っておくとしよう」
魔女「妾は、魔女。教皇領の地下で造られ、お前の究極氷魔法に打ち負かされた翼の団の一員だった、魔導士じゃ」
氷姫「へえ…。良かったわ、女勇者並のバケモノが出てこなくて」
魔女「ほっほっ。言ってくれるの。まあ、妾やあの男にしか語れぬことがあるからこその、人選なのじゃろうな」
氷姫「…あんたにしか、語れないこと?」
魔女「氷姫よ。先の戦いを見てみよ。虚無に対し、竜騎士と踊り子が戦いを始めた」
魔女「向こう側を見てみよ。別の戦いが始まっておる」
氷姫「………!?」
召喚士『大丈夫ですか!?』
侍『うぬ…っ! 油断しましたな…!』
侍『しかし………次は食らわんぞ、四天王!!』
風神『なんやぁ、面倒なやつがおるのう』
風神『ニンゲンが二匹か。まとめて切り裂いちゃる…!!』
303 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 22:41:39.63 ID:hkG69/nJ0
召喚士『風神の鎌鼬が来ます…っ』
侍『拙者が奴を止めまする! 召喚士殿はその隙に詠唱を!』
召喚士『…っ。分かりました!』
氷姫「な………なんなのよ、これ」
氷姫「誰よ、こいつら…!?」
魔女「これは、本来迎えるはずじゃった人間と魔族の決戦の様子じゃよ」
魔女「魔法使いや教皇の手が加わることがなければ、もともと物語が辿るはずじゃった結末」
魔女「真の勇者一行と、真の四天王の戦いじゃ」
魔女「これが正史なのじゃよ」
氷姫「これが…………正史…!?」
氷姫「真の…って………な…なによそれ」
氷姫「こいつらが本物だって、言いたいわけ!?」
魔女「…信じられんか? まあ、そうじゃろうな」
氷姫(そんなバカなことが…っ! ………でも、何? この奇妙な説得力)
氷姫(仮に………仮によ。こいつの言っていることが仮に本当だとしたら…あたしたちは)
氷姫(あたしたちが倒してきた勇者一行は………――)
魔女「そう」
魔女「本来の歴史では、全く別の勇者一行と、全く別の四天王による戦いが描かれるはずじゃった」
魔女「今の世界の役者は、加護を受けた魔王と勇者以外、みーんな、偽物じゃ 」
304 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 22:42:40.35 ID:hkG69/nJ0
魔女「ああ、この世界線のお前達の魔王ならあそこにおるぞ」
魔女「もはや、原型を留めておらんがな」
氷姫「………なっ………」
氷姫「あれが、魔王、なの………?」
魔王『………………』
ズォオォオォオォオォ…!
巫女『な…なんて禍々しい気でしょうか』
勇者『………』ギュッ
巫女『…勇者』
勇者『大丈夫だよ、巫女』
勇者『女神様がついてる。俺を信じて!』
巫女『…はいっ』
勇者『必ず、勝とう…!』
巫女『………行きましょう!』
氷姫(………駄目だ…。今のあたしには、分かる)
氷姫(この勇者達は、あの魔王に勝てない)
305 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 22:43:44.52 ID:hkG69/nJ0
魔女「魔王は、邪神の加護を正面から喰らって、もはや世界を滅ぼす衝動に支配されておる」
魔女「まあお前達の美しい姫君のままよりは、あちらの方が魔王然としておるがな」
虚無『ふん………勇者一行。こんなものか』
竜騎士『がホッ…』
踊り子『りゅ…竜騎士…っ』
竜騎士『踊り、子…逃げろ…………』
虚無『我がそんなことを許すと思うか?』
…ボキッ
竜騎士『あブ・』
踊り子『ひっ…竜騎…!!』
虚無『貴様もだ………潰れろ』
グシャ
魔女「創り出された女神は、この未来を見たのだな」
魔女「そしてその女神の啓示を受けた教皇は、この悲惨な未来を迎える人類を救いたいと思い、動き出した」
魔女「だが…奴もまたいつの間にか道を外して、結局はお前達に葬られることになった」
306 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 22:44:42.74 ID:hkG69/nJ0
魔女「では、何故物語を支配していた教皇が敗れ去ったのか?」
魔女「その原因は、教皇と魔法使いの思惑のズレにある」
召喚士『うっ…、うっ』
召喚士『召喚が、召喚が出来ない…っ』
召喚士『どうして、なんで』
召喚士『このままじゃ、このままじゃ』
風神『もう、お前さんには霊力は残っとらんからの。全力でやっても倒せなかったんじゃあ、しゃあないやろ』
ザクッ
侍『あガッ』
ドサッ…
風神『ほい、一人目。次はお前の番やの』
召喚士『あっ…、あっ――』
スパッ ――ボト…
魔女「…魔法使いの動機はなんだと思う?」
魔女「この人類を救いたい…魔王をどうしても倒したい…そういうものか?」
魔女「違うの。奴はただ」
魔女「――天上の神々の意思に逆らいたかったのじゃ」
307 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 22:45:35.67 ID:hkG69/nJ0
勇者『…巫女』
勇者『巫女』
勇者『返事をしてくれ』
巫女『』
勇者『まだ、生きているんだろ?』
勇者『そうなんだろ?』
勇者『もう目が見えないし、血の臭いしかしないけれど』
勇者『君の声が聞ければ、まだ戦える』
勇者『だから…』
勇者『なあ、巫女』
勇者『巫女…』
巫女『』
勇者『………』
魔王『………………』
ズォオォオォオォオォ
勇者『………まだ』
勇者『まだ、たたかわなきゃ』
勇者『――おれは、ゆうしゃ』
勇者『たたかうことをやめてはならない』
勇者『だから』
勇者『たたかう』
勇者『さいごまで』ヨロ…
魔王『………………』
魔王『 我が腕の中で息絶えるがよい 』
308 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 22:46:44.58 ID:hkG69/nJ0
魔女「勇者と魔王の戦いが終結するたびに、こうした絶望は常に敗北した種族に約束されていた」
魔女「人間にも魔族にも平等にな。………しかし、こんなことに果たして意味があるのか?」
魔女「言うなればこのおぞましい悪夢の全ては、神々の選択ひとつで両種族にふりかかるのだ」
魔女「勇者に女神の加護が強くもたらされるか。魔王に邪神の加護がより強くもたらされるか」
魔女「その違いだけで、敗北した種族はこれほどの地獄を味わうことになる」
氷姫「な、何を言ってんのよ………あんたは…っ」
氷姫「意味…ですって? 魔王勇者大戦の?」
氷姫(この大戦の…………意味? そんなもの………――)
――氷姫「そんなものはひとつもない………そういうオチだったりしてね」
氷姫「…っ!」 ゾ ッ
魔女「――そう、意味などないのじゃ」
魔女「聖と邪の二つの種族はあれど、そもそも"悪"は存在しない」
魔女「神々の壮大な遊戯盤の上で、いたずらに死を振り撒くだけ………魔王勇者大戦は、ただそれだけのものなのじゃよ」
309 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 22:47:43.52 ID:hkG69/nJ0
魔女「だから魔法使いは」
魔女「この戦いの根本を操る神々への挑戦を始めた」
魔女「この世界を縛り付け続ける天上の神々の法則を打ち破る………――それが魔法使いの戦いじゃった」
魔女「魔王の圧倒的勝利を収めて終わるという、神々の台本。…それを変えるべく動いていたという点では、教皇と魔法使いの目的は一致していたのじゃ」
魔女「ただ魔法使いは………魔王を倒すだけではなく」
魔女「神々の作った不条理なゲームから、人々の手に歴史を取り戻そうとしておったのじゃ」
310 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 23:04:25.68 ID:hkG69/nJ0
魔女「いずれ魔法使いには教皇が邪魔な存在となってゆき…魔王を使って処分することになる」
魔女「こちらで選ばれた偽の勇者一行の決死の猛攻に時間を与えられた魔法使いは………ついに、"鍵"を完成させることに成功したのじゃが…」
――ヒュオッ!
魔女「!」
魔女(何かが頬を掠めた…。氷の矢か)
魔女「…なんじゃ。最後まで話を聞いていかんのか」
氷姫「…」
氷姫(今さら、迷うな)
氷姫(この胸糞悪い見世物も、こいつのご託も、あたしにとっては重要じゃない)
氷姫(魔王を助ける。炎獣の仇を討つ)
氷姫(あたしがすべきことは、それだけ――)
パキパキパキィ…! ミシミシ…!!
魔女「………まあ、迷っていてはこの戦いは切り抜けられぬ。それもひとつの正しい選択であろうな」
魔女「しかしの」
氷姫「冴え渡る氷の風よ、敵を切り裂け!!」
――ヒュッ
パキィンッ!!
氷姫(!? 魔法が跳ね返って来――)
スパッ!
氷姫「ぐあッ!」ガクッ…
魔女「"鍵"によって妾が得た力は計り知れん。先の四天王と勇者一行ほどの差が既に生まれておる」
魔女「お前の魔法を弾き返すことすら造作もない。もう、お前に妾は倒せぬのだ」
311 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 23:05:09.21 ID:hkG69/nJ0
氷姫「全てを断罪せし氷塊よ、降り注げッ!!」
ゴオォオォオ!!
魔女「…無駄じゃ」
パキィンッ!! ――ドゴォン!!
氷姫「うぐあぁあっ!!」
氷姫(くッ、そっ!! 全ての魔法が反射される!!)
魔女「…理解せよ。そして諦めるがいい」
魔女「お前達の戦いはここまでなのじゃ」
氷姫「――生命の果ての地の死神よ!!」
氷姫「その鎌をもて、敵を打ち砕けッ!!」
――ギュオオオオオオオオ!!
魔女(………自力で、"死神の大鎌"すら詠唱するか。こやつにはもはや邪神の加護は無いというに、大したものじゃ)
魔女(諦めろ、と言うにはあまりに多くのものを乗り越えてきたのじゃな)
魔女(絶望の果ての、覚悟すらその瞳には見えておる)
魔女(せめて)
魔女(せめて、安らかに眠るがいい)
312 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 23:08:45.19 ID:hkG69/nJ0
〈魔王の心の魔王城〉
魔法使い《――神々を相手取り、歴史を奪い返す》
魔法使い《それは長い、長い時間を要する戦いでした。本当に、気の遠くなるほど…》
魔法使い《けれど、この十数年は実に美しいひと時になりました。魔王勇者大戦に意味などない…その気づきに至るまでの無為な時間に比べれば、ね》
魔法使い《土足で僕の生を弄んできた存在…神々に、ようやくこの手を伸ばすことができたのだから》
魔法使い《今まで生きてきて僕の血肉になったもの全てを、研究に注ぎ込んだ。そうしてようやく、それらは実を結ぶ》
魔法使い《僕は"鍵"を手にした》
魔法使い《"鍵"は扉を開く。僕らを見下ろす神々が鎮座する、その地への扉を》
魔法使い《その未知の空間へ、僕を誘う》
魔法使い《…気に食わないんですよ。僕はね》
魔法使い《神だなんて胡散臭い代物を気取って、宿命だなんだと焚き付けて人をいいように操るようなことをして》
魔法使い《そういう奴がね、嫌いなんでなんですよ、ただ単に》
魔法使い《だから………神々の思惑を裏切ってやろうと》
魔法使い《そう、思ったんです》
魔王「………あ」
魔王「あなたがしようとしていたことは」
魔王「………私達のしていたことは」
魔王「――私達の戦いに何の意味もなかった…?」
313 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 23:09:31.32 ID:hkG69/nJ0
魔王(勇者と魔王の戦いの意味を…)
魔王(私は答えられない)
魔王(その問いに辿り着くことさえ、私には膨大な時間がかかった)
魔法使い《これだけ多くの命を死に追いやってきた魔王勇者大戦の意味が、この期に及んでもあるというのなら》
魔法使い《証明してみて下さいよ》
魔王「………っ!!」
魔法使い《さあ、魔王!》
魔法使い《…出来ないのでしょう、あなたには!》
魔法使い《あなたは不用意に死をばら蒔いたに過ぎない! そしてそれを認めた空虚な思いこそ》
魔法使い《賢者が、その胸に抱いていた感情なのですよ…!》
魔王(私は…………!)
魔王(私は――)
魔王「っ!」ギュッ
魔王(絶望に明け渡しては駄目だ………!)
魔王(今こそ………今こそ、考えなくては!!)
魔人『考える意味などない。意思など必要ではない』
魔人『魔王に必要なのは、滅びの力と死の螺旋だ』
魔人『 受 け 入 れ ろ 』ズォオ…
魔王(…っ、魔人が、怒りのエネルギーを増長させる…! 自分のコントロールが上手く利かない…!!)
314 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 23:10:11.09 ID:hkG69/nJ0
魔王(目の前の敵を倒せ。人間を倒せ。勇者を倒せ………。何かがそう、急き立てる)
魔王(………どす黒い怒りが、喉からせり出ていく)
魔王「………あなたに」
魔王「あなたに何の権利があって、そんな言葉を紡げるの…魔法使い!!」
魔王「――あなたのしていることだって結局、人々を操って戦乱に導くことに他ならないでしょう…!」
魔王「多過ぎる犠牲を払ったこの戦いの果てに、解決があるというの!?」
魔法使い《…》
魔法使い《ははは! なるほど、そうですね》
魔法使い《確かに、僕は神に逆らうと言いながら、やってることは一緒です。企みをめぐらせて思うように人々を操った》
魔法使い《魔王。あなた達の絆も、研鑽も、勝利も………全ては僕の計算の内だったわけですから》
魔王「………っ」
魔法使い《炎獣も木竜も》
魔法使い《最初から死んでもらうつもりでしたよ。だから僕が殺したんです》
魔王(――!!)
魔王「一体………っ!!」
魔王「こんなことが、どんな結末をもたらすっていうのっ!!」
ゴォ…!
315 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 23:13:17.35 ID:hkG69/nJ0
魔人『………そうだ。もっと力を求めろ』
魔人『――我とひとつになれ』
魔王(計り知れない怒りが、身を焦がす………!!)
魔王(駄目だ………っ! 今こそ、考えなければ)
魔王(答えを探さなきゃならないのに――)
魔法使い《こうしている間にも、残りの四天王は死の定めを辿っていますよ》
魔法使い《最後の二人の門番には、絶大な力を与えてますしねぇ》
魔法使い《おや、噂をすれば。氷姫が、今にも止めを刺されんとされていますね――》
魔王「魔法、使いィッ!!」ゴォオォオォオ…!!
魔法使い《…ははは!》
魔法使い《凄いですねぇ。途方もない力が生み出されていきますよ! 邪神の加護ってものは、恐ろしいですよねぇ》
魔法使い《思い知るでしょう、自分がどれだけおぞましい怨嗟の乱流の内にいたか》
魔法使い《そんな中を、"なぜ勇者と戦うのか"という疑問に一度は辿り着いた精神力は、見上げたものですよ》
魔法使い《けれど、それも過去の話になろうとしてますねぇ。なんという明確な殺意でしょうか》
魔法使い《正史のあなたに近づいていますよ、魔王…》
魔王「ううううううううう」
316 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 23:14:12.33 ID:hkG69/nJ0
魔人『さあ――』
魔人『――明け渡せ』
魔王「うううううううううううううううううう」
魔王(駄目だ…!! 怒りに飲み込まれる!!)
魔王「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
炎獣「魔王」
317 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 23:18:40.20 ID:hkG69/nJ0
炎獣「駄目だ、魔王」
炎獣「呑み込まれるな」
魔法使い《――!!》
魔人『貴様は………』
魔王「………………炎」
魔王「獣………?」
炎獣「よっく見ろ、魔王」
炎獣「そいつはお前がずっと遠ざけてきたはずの力だろ」
炎獣「喰われちゃ、駄目だ」
318 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 23:19:07.40 ID:hkG69/nJ0
魔王「………っ」
魔王「――炎獣だ」
魔王「炎獣」
魔王「炎獣が、いる」
炎獣「…魔王」
魔王「炎獣………っ、炎獣っ!」
炎獣「わりィ、魔王…」
炎獣「約束したのに…ちょっと、そばを離れちまったな」
319 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 23:22:03.68 ID:hkG69/nJ0
魔王「炎獣…っ!!」
魔王「…っえ?」ス…
魔王(炎獣の身体を、腕がすり抜けた…)
炎獣「…やっぱ触れ合えねぇか」
魔王「これ…っ」
炎獣「すまねぇ。魔王。俺は今、心だけの存在だ」
炎獣「魂だけ…霊みたいなもんだ。やっぱりさ俺は一度きっちり」
炎獣「死んだんだ。あの時」
魔王「…っ!!」
炎獣「でも、こうして会いに来れた。きっと魔法使いが、死と生の境目を曖昧にしたせいだ」
炎獣「こんな形でごめんな、魔王。でも、もう少し」
炎獣「これでもう少しだけ、戦える」
魔王「…炎、獣…?」
320 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 23:22:36.83 ID:hkG69/nJ0
魔法使い《………》
魔法使い《…あと少しのところで》
魔法使い《正気を取り戻してしまいましたか。そうですか》
魔法使い《炎獣…。思念体になってまで》
魔法使い《魔人の驚異から魔王を救いますか》
魔法使い《………》
魔法使い《ですが、どうするつもりですか? その、魔人を》
魔人『―― 貴 様 ァ !!』 ォオ…!!
魔人『幾度邪魔をすれば気が済むッ!!』
魔人『その女から離れろッ!!』
魔人『身体を加護に明け渡せェッ!!』
ミシミシミシッ…!!
炎獣「…よぉ、久しぶりだな。相変わらずすげえ力だ」
炎獣「俺がやり合ってた時よりも数段圧力が増してやがる」
炎獣「…魔王。よく、聞いてくれ」
魔王(………せっかく、また会えたのに)
魔王(炎獣…。どうして)
魔王(どうしてそんなに、悲しそうな顔を、しているの)
321 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 23:23:36.15 ID:hkG69/nJ0
炎獣「俺は死んだけど…こうしてまたお前に会うことができた」
炎獣「けどな………俺は結局、生き返ったりは出来ない」
魔王「――っ!!」
炎獣「それでも、お前の役に立てることがひとつだけある…」
炎獣「俺だって悔しいけどよ。こうするしか、もう魔法使いに勝てねえ」
炎獣「なあ、魔王」
炎獣「俺が俺じゃなくなっても、友達でいてくれるか?」
322 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/04/21(土) 23:24:34.38 ID:hkG69/nJ0
今日はここまでです
323 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/22(日) 01:49:12.76 ID:sL3vFlPA0
おっ
324 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/22(日) 02:04:23.45 ID:ZWjlx+mDO
乙
325 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/22(日) 10:44:11.96 ID:l/+u+6cw0
乙
326 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/04/25(水) 13:32:21.37 ID:vE7L5LiWo
魔法使いは冥王と接触してたのか・・・・・・
327 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2018/05/04(金) 16:21:03.58 ID:BFTmNDkm0
長いし、ワンパターンで面白くない
惰性で読んだけど正直読んでるのが苦痛
多分、どこぞで落選したやつを使いまわしてるんだろうけど、落ちて当然だわな
小説家もどきに言いたくないけど、書き手として才能を感じられない
まぁ出版社の人にも言われただろうけどね
328 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/04(金) 17:21:44.82 ID:a7uDq86PO
面白いものを素直に楽しめない人にはなりたくない
329 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/05(土) 04:06:07.89 ID:hacTbH7A0
別に批判するなとは言わん
だがこのSSがワンパターンだと言うならそれは違うわ
330 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/06(日) 11:02:15.11 ID:d5ocHOKiO
最初から中盤辺りまで楽しかったのに
途中からもう内容がグチャグチャしてきて意味がわからなくなってきた
私の理解力がないだけだろうが…
331 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/06(日) 18:27:44.16 ID:gdC2c9uDO
途中から迷走なんてよく有る事
有料じゃあるまいし素人が書いてんだから許容範囲だろ
332 :
◆EonfQcY3VgIs
[sage]:2018/05/06(日) 22:37:29.02 ID:cB/iqaZG0
今週末12日(土)に続きを投下します
333 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2018/05/07(月) 22:38:18.60 ID:rWHQUjaFo
楽しみにしてる!
334 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 08:38:54.30 ID:fcV9fmiV0
雷帝「ぜッ!!」ギュンッ
ズバァン!!
雷帝「はッ!!」ビュッ
ザンッ!!
雷帝「ふッ!!」ギュバッ!
――ヒュドッ!!
雷帝「………はあっ、はあっ」
雷帝(何故だ………。何故っ)
雷帝(一太刀も浴びせられない…っ!?)
兄「流石の剣捌きだ、雷帝。あの先代を倒して来ただけあって、凄まじいものだ」
兄「よくぞ生身でその域に辿り着いた。同じ生命として誇らしくすらある」
兄「――でも、俺は倒せない」
兄「魔法使いが創った"鍵"は、神々の加護にすら届く反則級の代物だ。その恩恵にあずかった今の俺には」
兄「これだけの力がある」ブンッ
ド キ ャ ッ ! !
雷帝「!!」
335 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 08:42:14.17 ID:fcV9fmiV0
雷帝(………ひと振りで、背後の壁が粉砕された)
雷帝(あんなものを………一度でも受けたら、身体が千切れ飛ぶ………!!)
兄「魔法使いがどういうつもりでいるのか…俺には推し量れんが」
兄「お前が勝てそうにないってことは、確かだな」
雷帝「………雷の嵐よ」ォオ…
バリバリッ…! バリッ!!
兄「! 魔法か」
兄(雷鳴の閃光を連続発生させて、隙を突こうという魂胆だな)
兄「…面白い。足掻いてみせてくれ」
兄「魔法使いの絶対的力の前に…お前がどこまでやれるのかを」
雷帝「っ」バッ!!
兄(後ろか!)ヒュ――
ド バ バ ァ ン … ! !
336 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 08:43:16.25 ID:fcV9fmiV0
雷帝(避けきったつもりだった…っ! が、腹を掠めている!)
雷帝(なんて強大な斬撃だ………奇襲に失敗すれば、待つのは死――)
雷帝(いや。恐怖を想像するな。歩幅が縮む。より死を近づける)
ビリッ…! バリバリッ!!
雷帝(乱発する電撃に隠れろ。敵の死角に入り込め)
雷帝(一刀の元に斬り捨てられなくば、次の一刀を見舞え)
雷帝「」ギュンッ!
兄(次は頭上からか!)ブオ
― ― …
兄『本当に、女神の加護に似たものを。いやそれ以上のものを…作ることが出来るのだな』
魔法使い『ええ』
雷帝(!!)
337 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 08:44:09.34 ID:fcV9fmiV0
雷帝(なんだ、この声は!?)
魔法使い『あなたの弟さんは、勇者一行に選ばれたそうですね。なんでも女神が実際に姿を現したのだとか』
魔法使い『でも、"勇者"なんて魔王に勝利できるかも分からない曖昧なものに頼るよりは』
魔法使い『この技術を駆使して、人の確実な勝利を約束することが、最良とは思えませんか?』
兄『…』
魔法使い『あなたが、軍部の頂点に立つことが出来れば、それは可能ですよ』
魔法使い『簡単なことです。国王や弟さんを裏切り、教会を利用すればいいんですよ』
兄「…気にするな。ただのエコーさ」
兄「全てを裏切りたった一人で事を為そうとした男の、憐れな記憶の断片だよ」
雷帝(これは…こいつの過去か)
兄「お前が電撃など垂れ流して暴れるものだから、施設の機械が誤作動を起こしたのだろう」
兄「全く…人の傷をほじくり返してくれる」
魔法使い『…あなたは頭の良い人だ。心のどこかで思っていたんじゃないですか?』
魔法使い『勇者に頼ることでしか平穏を維持できない、人々の愚かさを』
魔法使い『気づいてしまったのでしょう。それはもう、引き返せないことなのではないですか?』
魔法使い『"あなたにしか出来ないこと"を為すのです』
魔法使い『――弟さんではなく、あなたがね』
338 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 08:45:02.44 ID:fcV9fmiV0
兄「…戦士」
兄「俺はずっとお前が羨ましかった。…ひたむきさと、それゆえの強さが」
兄「俺よりも遥かに優れた剣を使うようになった頃から、俺は増してゆくその思いを胸のうちに抑え込むようになった」
兄「…女勇者様は、そんな俺の心の内を見透かしておられたんだろうな」
兄「まあ、俺の小さな足掻きの生など」
兄「貴様らの前で露と消えていくわけだが」クル
雷帝(!! いかん)
雷帝(完全に読まれ――)
兄「残念だったな」ヒュン
ズ ド ッ …
雷帝「かふッ…!!」
………ドタ
339 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 15:09:13.77 ID:fcV9fmiV0
雷帝「………はッ…」
雷帝「…かッ………」
ドロ…
兄「…半身吹っ飛ばしたと思ったんだが」
兄「片耳から肩にかけて落としただけか」
雷帝「ぜッ………」
雷帝「ひゅッ………」グラ…
ボトボト…ッ
兄「おいおい、動かない方がいいんじゃないか? 命を縮めるぞ」
雷帝「はッ………」
雷帝「ふうッ………」
ズルズル…
兄「…地を這いつくばっても尚」
兄「剣を取るのか…」
雷帝「………それが」ハッ…ハッ…
雷帝「私の権利だ」
340 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 15:12:35.05 ID:fcV9fmiV0
兄「ふっ、ははは…!」
兄「…そうか。やはりな」
兄「お前は、どこかあいつに似ているんだ。俺の弟にな。あいつ、お前ほど頭が回るクチじゃあないんだが」
兄「でも…なんだろうな。もののふの誇りそのもののような奴だった」
兄「…今のお前は、あいつにだぶるよ」
雷帝「………」チャキ…
兄(刀を鞘に収めた。が、その瞳は何者にも屈する様子はない)
兄(…不気味だな。何を考えている?)
雷帝「………」
兄「…気づいているか? 雷帝」
兄「今までのお前達とは立場が逆転してしまっている。力を示して他を圧倒していたお前が」
兄「すっかり挑戦者のようだ」
341 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 15:13:33.92 ID:fcV9fmiV0
兄「今までの物語のあらましを考えれば…お前はその必死の健闘も虚しく敗北するというのがスジだろう」
雷帝「………」
兄「それでも、俺に勝ってみせるかい?」
兄(いいな…そんな展開を見てみたいというのも、本音だ。………けれど)
兄「悲しいかな、俺は手を抜くことは出来ない」
兄「…お前の生の、最後の最後のところの力を見せてくれ」
兄「お前がこの世界に生まれてきた意味を」
兄「教えてくれ」チャキ…
雷帝「………」
雷帝「――"居合い"」
――戦士「兄上!」
兄「!!」
342 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 15:14:24.96 ID:fcV9fmiV0
雷帝(痛む)
雷帝(片腕を失った身体が悲鳴を上げて、神経がのたうちまわる)
雷帝(でも、この感覚がある。この感覚は、私のものだ)
雷帝(私はまだ生きている)
雷帝(翁を………炎獣を、失った痛み)
雷帝(魔王様を守れなかった無念)
雷帝(そのうずきが、私を生かす)
雷帝(私はまだ生きている)
雷帝(誰に操られるでもなく私だけの生を)
雷帝(生きたい)
雷帝(もう)
343 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 15:15:14.56 ID:fcV9fmiV0
雷帝(失いたくない)
ゴ ッ
344 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 15:16:00.65 ID:fcV9fmiV0
兄(最後の最後、そのひと振りが)
兄(今までの全てを超越したのか)
兄(それが、お前の強さか)
兄(その強さに対して、俺は…)
兄(………お前のことなんか思い出したせいだぜ。剣が、鈍ったのは)
兄(また負けちまったよ、畜生)
兄(まったく。こんな役回りばかりか)
『システムパターンCをクリアしました』
345 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 19:57:18.87 ID:fcV9fmiV0
魔女「…どうやらあの男も逝ったか」
魔女「………」
魔女「それで、おぬしは」
魔女「その身体で、まだ立つつもりなのか?」
パキ… パキキ………
氷姫「…ひゅう、ひゅう」
氷姫(くそ)
氷姫(網膜まで凍って、何も見えない)
氷姫(腕も凍りついて、地面に張りついてしまってる)
氷姫「ひゅう…ひゅう…」ガチガチ…
氷姫(………氷の女王であるあたしが、寒いだなんて、お笑い草ね)
氷姫(究極氷魔法に、失敗した時以来かしら)
魔女「氷魔法の使いすぎじゃ。お前自身が氷漬けになるぞ」
氷姫「………それも」ヒュウ…ヒュウ…
氷姫「悪かぁないかも、ね…。あたしの、死に方としちゃ、最上ってもんよ…」
346 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 19:59:01.66 ID:fcV9fmiV0
魔女「…死ぬまで戦いを止めないつもりか」
氷姫「おあいにく、さま…。あたしって、最高に、往生際が、悪くってね」
氷姫「あたしが、勝つまで、付き合って、もらうわよ」ヒュウ…ヒュウ…
魔女「呆れた女じゃ。…命を自ら投げ出すか」
氷姫「………あたしは」
氷姫「あたしの、最も大切なものを、守れなかった」
氷姫「魔王を、炎獣を…」
氷姫「だから、いつ死んだっていいじゃないの」
魔女「…そう言うわりにおぬしは」
魔女「おぬしの魔力は…まだ妾を倒そうと殺気立っておるぞ」
氷姫「…は」
氷姫「はは…」ォオォオォ…
347 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 20:00:10.44 ID:fcV9fmiV0
氷姫「不思議よね。ほんと…」
氷姫「いつ死んだっていい、だなんて思うと………余計に足が踏ん張っ、て」
氷姫「前を向かせるのよ…」 バチッ…
バチバチッ… バチバチバチバチッ!
魔女「なんじゃ、それは」
魔女「詠唱でもなんでもない…気迫で魔力を生み出しているのか」
氷姫(こいつに放つ、何度目か分からない全力…)
氷姫(さっきの魔法より、僅かでも上回っているかもしれない)
氷姫(今度こそ、倒せるかも知れない)
氷姫(それに全てを賭ける)
氷姫(身体が重い。何も見えない)
氷姫(気管に冷気が突き刺さって、血が溢れ出しそうだ)
氷姫(それでも)
氷姫(この腕が上がれば)
氷姫(魔法を、撃てる)
348 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 20:01:20.36 ID:fcV9fmiV0
氷姫(雷帝、ごめん)
氷姫(こいつを倒しても、あたし)
氷姫(こいつの魔法を防げない)
氷姫(それでも)
氷姫(――地獄に、引き摺り込んでやる)
氷姫「………腕…ッ」
氷姫「上がれぇぇぇぇぇぇえええええええええエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」
――バキバキバキッ
ド ン ッ
魔女(のう…魔法使い)
魔女(お前は分かっているんだろう)
魔女(邪神の加護を失って尚、こうして肉体と精神の限界に挑むこやつらは)
魔女(もはや、かつてのお前そのものじゃ)
魔女(絶対的な神秘に己の身ひとつで挑んでいたお前と)
魔女(お前は、こやつらをその身の限界を越えさせるために………妾達を遣わせたのか?)
349 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 20:02:32.97 ID:fcV9fmiV0
魔女(滅茶苦茶な魔法じゃ)
魔女(しかし、今までのどんな魔法より鋭利じゃ)
魔女(同士討ちか。いや、よくぞここまで持ち込んだ)
魔女(尊敬に値する。四天王)
魔女(だから、これは妾の敬意じゃ)
魔女(お前はもう少し)
魔女(生きるがいい――)
ヒュ…
氷姫(!!)
氷姫(敵の魔法が、逸れた――)
『システムパターンDをクリアしました』
ド カ ァ ア ア ン ッ … ! !
350 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 20:04:08.68 ID:fcV9fmiV0
氷姫「………」
氷姫(………勝っ、た)
氷姫(あたし……勝ったの…かな)
氷姫(ほんとに、これは)
氷姫("勝ち"なのかな)
氷姫「………」
氷姫「は、はは…」
氷姫「何も見えないんじゃ…それも分かんないや」
氷姫「………」
351 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 20:05:20.17 ID:fcV9fmiV0
ズル… ズル…
氷姫(………ああ、体が重い)
氷姫(半分体が凍ってるんだから、そりゃ当たり前か)
氷姫(もう、止まってしまいたい。まともに思考がまとまらない)
氷姫(あたしは進んでいるの? 止まっているの? それさえ分からない)
氷姫(ここは、どこ…)
くノ一「………雷帝は先に行った」
くノ一「門は開いている」
氷姫(…あっそ)
くノ一「魔王をどうしたかは分からないが…魔法使いは、そこで待ち受けているだろう」
くノ一「あなたも………その体で行くのか?」
氷姫「………」
氷姫「………」ズル…ズル
352 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 23:06:48.77 ID:fcV9fmiV0
氷姫「………目が見えないってのは、存外不便なもんね」
氷姫「あんたがそこにいるのか…分からないわよ」
氷姫「ねえ、雷帝」
氷姫「そこにいるの?」
雷帝(………この冷気)ピクッ
雷帝(来たのか、氷姫)
雷帝(…はは。せっかくの再会だと言うのに、お前の言葉を聞く耳は削がれ、喉は潰れて何も伝えられない)
氷姫「この魔力の波動…あんたなのね」
氷姫「いるんなら、返事くらいしなさいよね。ったく」
雷帝(何を言っている…? ………お前、目が…凍っているのか)
雷帝(――お前も決死で戦い抜いてきたのだな)
氷姫「ねえ、雷帝」
氷姫「あんたには、言わなきゃ気がすまないことがあるの」
353 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 23:07:41.80 ID:fcV9fmiV0
氷姫「あんたは、あたしを強いって言った」
氷姫「でもね」
氷姫「あんたには、あたし、そんな風に言って欲しくない」
雷帝(何を言っているんだ。氷姫、私には分からん)
雷帝(お前がそっち側に立っていたら、私はお前に触れることすら出来ないのだ)
雷帝(片腕を失ってしまってな)
氷姫「あんたとあたしは、一緒なのよ」
氷姫「沢山の気持ちが、一緒だったの」
雷帝(もはや一歩も歩くことはままならん)
雷帝(最後に一刀を振るうのでやっと)
雷帝(しかし不思議だな。お前と一緒だということが)
雷帝(このろくに動かん身体に、力をたぎらせる)
氷姫「だから、最後に背中を任せるのがあんたで、良かったと思ってる」
氷姫「ねえ、これだけは伝えたかったのよ。あたし」
354 :
◆EonfQcY3VgIs
[saga]:2018/05/12(土) 23:08:27.90 ID:fcV9fmiV0
雷帝(なあ、氷姫。私の剣は、お前の魔法は、届くだろうか。魔王様の元に)
氷姫「あたし、魔王を恨んでなんかいないわよ。あいつの為に戦えることが、誇りなの」
氷姫「それは今も変わらない。きっと最後まで」
雷帝(仇討ちだなんて、愚かだろうか?)
氷姫「いいじゃない、カッコ悪くたって。それでもあたし達はここまで来たのよ」
雷帝(…そうか。そうだな。私は最後まで私の剣を振るうのみだ)
氷姫「あたしだって、意地があるわ。氷の女王のね」
雷帝(今さら逃げ出しようもないのだ)
氷姫「それがあたし達の覚悟よ」
雷帝(倒れるときは、前のめりに、だな)
氷姫「最後の一歩だったとしても、踏み出すのよ」
氷姫 雷帝 「さあ」 (さあ)
氷姫 雷帝 「(受けとれ)」
――魔法使い!!
魔法使い「………いいでしょう」
魔法使い「あなた達の辿り着いたものを、見せて貰いましょう」
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