【進撃の巨人×異世界食堂】エレン「異世界食堂? なんだよそれ?」

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47 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/27(日) 23:34:27.56 ID:hVxqWr5Do
エレン「しかし……美味かったよなぁ……」

ミカサ「本当に……美味しかった……生きてて良かった……」

エレン「なんか、便所行くのも勿体ねえな……ははは」

ミカサ「エレン、そう言う事言っては駄目」

アルミン「ははは……ハインリヒさん、本当に助かりました、ありがとうございます」

ハインリヒ「いいや、君達の食べっぷりには感銘した、私も奢った甲斐があったと言うものだ」

店主「……もし良かったらデザートもどうです、サービスしますよ」

 デザートと言う言葉にエレン達の心が僅かに揺れる……。

 あれだけの美味い料理を振舞う店だ、きっと噂の、砂糖を大量に使った料理とやらも、きっと甘美な味わいに違いないだろう……。

 だが、その誘惑を断ち、エレン達はハインリヒに向けて返す。
48 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/27(日) 23:38:18.90 ID:hVxqWr5Do
エレン「ありがとうございます。ですが、それは次の機会に取っておきますよ」

アルミン「そうだね、これ以上お世話になるわけにも行かないし……もう別腹も一杯だしね」

ミカサ「うん……甘えてばかりもいられない、今日ここで美味しい肉を食べられた。それだけで十分幸せ……」

ハインリヒ「そうか……分かった」

 その強い意志を持った眼差しに感銘を受け、ハインリヒは彼等を見据える。

 そして、宴も酣(たけなわ)となり、不意にその時は訪れた。


タツゴロウ「ゼーレマン卿、話の最中に恐縮だが、時間は大丈夫ですかな?」

ハインリヒ「っと……もうそんな時間か……あっという間だったな……戦士達よ、名残惜しいがそろそろ時間が来てしまった……続きはまた会った時に聞かせてくれ」

エレン「はい、本当に助かりました」

 言うや否、三人は立ち上がり、ハインリヒの見慣れないポーズを取り始める。
49 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/27(日) 23:40:40.14 ID:hVxqWr5Do
エレン「オレ達は、必ず帰還し、そして奴らに勝利し、再びここに戻って来る事を誓います!」

ミカサ「次は私達の仲間と共に……必ずここに来ます!」

アルミン「何年かかるか分かりませんが……必ず、成し遂げる事を皆さんに誓います!!」

 そして、三名の戦士は大きく胸を張り、握り締めた右の拳を心臓に当て、敬礼をする。

 それは公に、国に心臓を捧げると言うエレン達の誓いの敬礼……。だが、今この場に置いてその誓いは、この店にいる全ての人にのみ、立てられていた。

 異世界ならではの敬礼に対し、ハインリヒもまた、一人の騎士として、彼等の敬礼に敬礼を以て返す。


ハインリヒ「エレン・イェーガー、ミカサ・アッカーマン、アルミン・アルレルト……気高き異世界の戦士達よ……必ず、再び君達と相見える事を祈っている!……大いなる海と水の神よ、かの戦士達を守りたまえ!」
50 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/27(日) 23:41:43.55 ID:hVxqWr5Do
アレッタ「ありがとうございました! またのご来店をお待ちしています!」

店主「エレンさん、ありがとうございました、次も必ず来て下さいよ」

アルミン「ハインリヒさん、今度来た時に、もっと異世界の話を聞かせて下さい」

ハインリヒ「ああ、男同士の約束として胸に刻んでおこう、そなた達の勝利を、私も祈っている」

ミカサ「タツゴロウさん、良ければ、今度はあなたの戦話を聞いてみたい、私はまだ、もっと強くなりたいから……」

タツゴロウ「あまり女子供に聞かせる様な話ではない……が、ああ、一人の戦士なら別か……約束しよう、その時を私も待っているぞ」

エレン「マスター、アレッタさん、次はオレ達の仲間も連れて来ますよ」

アレッタ「あはは、それは楽しみですっ、ね、マスター?」

店主「ああ、たくさん食ってくれるなら大歓迎ですよ、きっとその日は、店中大忙しになりそうですね」

エレン「ははは……ああ、必ず来ます、それじゃあ!」

アルミン「ありがとうございました!」

ミカサ「では、行ってきます……!」
51 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/27(日) 23:42:52.97 ID:hVxqWr5Do
 そして、異世界の戦士達はそれぞれの戦場に戻って行った。

 いつか再び会うという誓いを立て、戻って来る為に。

 必ず勝利を掴み、仲間と共にここに来る為に。

 その誓いに応じるかのように、ハインリヒの胸の抱かれた立体起動装置だけが、微かに電灯の明かりに照らされていた。

―――
――


 エレン達が扉を出る少し前、三人は作戦を立てていた。


エレン「それでアルミン……ここを出たらどうする?」

アルミン「うん、もう作戦は考えてあるんだ……エレン、扉を出たらすぐに巨人化してくれ……できるよね?」

エレン「ああ、任せろ、気力も体力も十分戻った……今なら十分なれる自信があるぜ」

ミカサ「その後、私達はどうすれば?」

アルミン「エレンが巨人化したら、ミカサは僕に捕まって欲しい、僕が立体起動でエレンの肩にしがみ付くから」

ミカサ「うん、分かった」
52 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/27(日) 23:43:43.92 ID:hVxqWr5Do
アルミン「エレンは僕達が肩に捕まった事を確認したら、とにかく暴れ回って周囲の巨人たちを蹴散らしてくれ」

エレン「分かった……けど大丈夫か? 振り落とされたりしないか心配だ……」

アルミン「大丈夫だよ、髪の毛にしがみ付いてでも、絶対に振り落とされないようにするから」

エレン「分かった、信じてるぜ、相棒」

アルミン「そして、森を抜ける……森を抜ける最中も、出来る限り大暴れして、周囲に自分の存在を知らしめてくれ」

アルミン「10分ぐらい暴れ回って、何もなければそのまま森を抜けて、全速力で拠点に向かって撤退を開始するんだ」

アルミン「もしも何かしらの異変があったら、すぐに知らせるから……」
53 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/27(日) 23:44:55.14 ID:hVxqWr5Do
 もしも付近に救援部隊が展開しているのなら、物音に気付いた部隊が信煙弾を上げる筈である。

 それが確認できれば、すぐに救援隊と合流すれば良い。

 出来なければ、その時は全力で拠点に向かい、撤退を始めるだけである。

 しごく簡単な作戦ではあるが、不安要素はいくつもある。

 食事を取って体力が戻ったとはいえ、装備も体力も決して万全ではないのだ。

 三人無事に生還できるかどうかは分からない、が、それでも、この期を逃す訳には行かない……!


アルミン「撤退の際、もし運よく立体起動装置が見つかればそれも回収しよう……遺品を漁るのには抵抗あるけど……でも、万一の為だから」

エレン「分かった……へへ、アルミン、調子が出てきたな」

アルミン「……そう、かな?」

エレン「ああ……だからこそ安心できるんだ、この作戦もきっと……いや、必ず成功するってな」

アルミン「ああ……必ず、帰還するんだ……みんなで!」
54 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/27(日) 23:47:42.10 ID:hVxqWr5Do
―――
――


 扉を出た三人は、すぐさま巨人達の標的となった。

 空には薄く西日が射し、確かに時間が経過していた事がよく分かる。

 その中、エレンは眼前の巨人に向けて吠える。


エレン「もうさっきまでの俺達とは違うぞ……飯も食った、それも、とびきり贅沢で美味い肉をな…………!!」

エレン「俺達は必ず生きて帰る……! てめぇらそこを退きやがれ!! 俺達の邪魔を……するんじゃねええええーーーッッッ!!!!!!」

 『生きる』という何よりも強く、気高い意志のままに、エレンは己の手を噛みちぎる……!

 その刹那、雷光にも似た光が放たれ、エレンの巨人化は成功した。


エレン巨人体「ウヲオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!!」


アルミン「やった、成功だ!! ミカサ! 僕に捕まって!!」

ミカサ「うん、アルミン、行って!」

 アルミンはミカサを抱き抱え、エレンの首元にアンカーを射出する。
55 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/27(日) 23:52:54.93 ID:hVxqWr5Do
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アルミン「……行っっけええ!! エレン!!」

エレン「グヲヲヲヲヲオオオオオオオ!!!!!!」


 巨人化したエレンは荒れ狂う力で次々と周囲の巨人を撃滅していた。

 縦横無尽に暴れ回るエレンの猛攻に、その肩にいるミカサ達も一瞬振り落とされそうになるが、それでも必死に喰らい付き、振り落とされぬようにしがみ付く。

 尚もエレンはその意思を、生きようとする己の意思を、巨人達に向けて叩き付ける……!


 ――それはまさに、夕日を浴び、獲物を屠る一人の狩人が如く。


 ――それはまさに、自由を求め、羽ばたき続ける一羽の鳥が如く。


 ――それはまさに、生きとし生ける者に仇成す敵を、人類の敵を撃ち滅ぼさんが為、進撃を続ける巨人。



 ――“進撃の巨人”そのものであった。
56 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/27(日) 23:58:02.29 ID:hVxqWr5Do
―――
――


アルミン「よし、周囲の巨人は蹴散らした……エレン! 森を抜けるんだ!!」

 アルミンの声に呼応し、エレンは森を駆け抜ける。

 その時だった、前方から4〜5メートルはあるであろう巨人達が、徒党を組んでエレン目掛け、突撃を仕掛けてきた。


アルミン「くっ……キリがない!」

ミカサ「アルミン! あれを!」

アルミン「あれは……! 調査兵団のマントだ!!」

 ミカサが指差すその方角、そこには、二組の見慣れたマントが転がっていた。

 二人共、それを一目見ただけで、それが調査兵のなれの果てだと言う事が理解できていた。
57 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/27(日) 23:58:47.34 ID:hVxqWr5Do
アルミン「エレン、僕達をあの辺りで降ろしてくれ!」

 アルミンの言葉通り、エレンは調査兵の亡骸の傍にアルミンとミカサを降ろす。

 その間にも前方の巨人達はエレンに向かい、唸り声を上げながら突撃を開始する。

 迎撃に移るエレンだったが、その多勢に劣勢を強いられていた。


 それを視界に捉えつつ、遺体に駆け寄るミカサとアルミン。

 遺体の損傷は酷く、醜く潰された顔は判別が不能な程に腐臭を放ち、朽ちていた……。

 そして……。


アルミン「お借りします、どうか安らかに……」

 二人は数秒の敬礼と共にその兵士のドッグタグと思わしきネックを懐に仕舞い、装備を換装する。

 幸いな事に、ガスもブレードも十分にあり、使用するには問題なさそうだった。
58 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:02:36.40 ID:JxTi7aVSo
アルミン「ミカサ……準備は大丈夫?」

ミカサ「うん、いつでも行ける」

アルミン「ミカサはエレンの援護をお願い、出来る限り、僕は索敵を続けてみる」

ミカサ「わかった」

 そして、立体起動に移り、ミカサとアルミンは木々の合間を駆け抜ける。


ミカサ「エレンから……離れろォォォ!!!」

 エレンの肩に喰らい付いていた巨人のうなじを、ミカサが的確に切り伏せて行く。

 装備も整い、撤退の準備はこれにて万全となったのだった。
59 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:03:19.34 ID:JxTi7aVSo
 ――その頃、森から約3キロの地点。

サシャ「………ん?」

ミケ「……んん……?」

リヴァイ「どうした、何かあったか?」

サシャ「……森の中から、地響きと叫び声の様な音が聞こえます!」

ミケ「ああ、俺も感じた! この音は……巨人が暴れてる音だ!!」

エルヴィン「もしや、エレン達か?」

リヴァイ「さあて、どうだろうな」

ハンジ「でも、それはあり得ないと思うよ……補給も無いまま三日も経っているし、とてもエレンの体力が持つとは思えないんだけど」

エルヴィン「それはすぐに分かる事だ……総員! 信煙弾放て!!」

 エルヴィンの声に合わせ、各々が一斉に信煙弾を頭上に向けて打つ。

 その軌跡は遥か頭上に弧を描き、アルミン達の視界にも確かに写り込んでいた。
60 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:04:53.05 ID:JxTi7aVSo
アルミン「見えた! 信煙弾だ! 救援隊はこの辺りにいたんだ!」

ミカサ「じゃあ、あの先に救助が!」

アルミン「ああ! みんなここに来てくれていた!! エレン、あっちだ! あっちに向けて走るんだ!!」

エレン「ウヲヲヲヲヲヲォォオォオオオオオオ!!!!!」

 目標を視認したエレン目掛け、前方と後方から多数の巨人が迫り来る。


ミカサ「エレンの邪魔はさせない……消え失せろぉぉおお!!!!」

 一足飛びでアンカーを射出し、次々とミカサがエレンの前に立ちはだかる巨人達を蹴散らして行く。

 それに遅れるように、アルミンもまた周囲を索敵しつつ、エレン達に必死で追い付いていた。


アルミン「エレン!後方と右舷から三メートル級計六体! 距離およそ200!」

エレン「ウヲヲヲオオオオオオ!!!!!」

 アルミンの的確な策敵により、エレンもミカサもいち早く巨人の迎撃に移る事が出来ていた。

 そして後方の巨人を振り切りつつ、会敵する巨人を撃破しながら森を走破する事しばらく、信煙弾の発射されたポイントは着実に迫って来ていた。


 そして……。
61 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:05:41.63 ID:JxTi7aVSo
コニー「んん……あれは………?」

 木の上で索敵をしていたコニーが何かを見つける、次第にそれは疑惑から確信に変わり、コニーの顔に笑みがこぼれ始める。


コニー「間違いない、エレンだ!! おーいみんな! エレンだ、エレン達が戻って来たぞ!! ミカサとアルミンもいる! みんな無事だ!」

ジャン「へっ……あの野郎心配かけやがって!! みんな!! エレン達が生きていたぞ! 死に急ぎ野郎の生還だあああ!!!!!!」

一同「うおおおおおおお!!!!!!!」

 ジャンの声に合わせ、周囲から歓声が響き渡る。


ライナー「あいつ、やっぱり生きてたか!」

ベルトルト「今エレンに死なれるわけにはいかない……正直、安心したよ……」

コニー「へへっ……ジャンの言うとおりだったな」

ユミル「ったく、心配かけやがって! あいつら!!」

クリスタ「エレン……ミカサ……アルミン……! 良かった! 本当に良かった!!」

サシャ「ああでもっ! 凄い数の巨人に追われてますよ!」
62 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:07:16.69 ID:JxTi7aVSo
エルヴィン「総員迎撃準備! リヴァイ、エレンの護衛は任せたぞ」

リヴァイ「ああ、おいガキ共、俺に付いて来い、迫って来る奴ら、全員で蹴散らすぞ!!」

一同「了解!!」

 リヴァイの声に合わせ、各々が立体起動の準備に移る。


 そして、およそ72時間に及ぶ時間が過ぎた今、ようやくエレン達と救援隊が合流に成功する。


アルミン「皆さんご心配をおかけしました!! エレン・イェーガーを始め、ミカサ・アッカーマン、アルミン・アルレルト、無事に生還しました!」

ミカサ「ですが、森の中から多数巨人が襲来しています、皆、気を引き締めて!」

リヴァイ「了解だ、後は俺達に任せておけ」

 その背後からも多くの巨人がエレン目掛けて襲いかかって来ていたが、エレンの無事に士気の上がった兵士達の敵ではなく、瞬く間に巨人の掃討は完了した。

 そして……エルヴィンの声が周囲の隊員に向け、響き渡る。
63 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:09:00.07 ID:JxTi7aVSo
エルヴィン「総員撤退!! 急いでこの場所を離れ、拠点へ帰還する! 索敵怠るな! 全員必ず生きて帰るんだ!!」

一同「了解!!」


 巨人化したエレンを中心に索敵陣形が形成され、消耗したミカサとアルミンは馬車へと駆けて行く。

 拠点に向け、平地をひた走るエレン達に向けて尚も巨人達が群を成して襲いかかって来ていたが、満身創痍ながらも生きる意思をより堅固にしたエレン達の敵ではなく、次々と打ち倒されていった……。


 そして、一人の犠牲者を出す事無く、調査兵団は拠点への帰還に無事成功したのだった――。

―――
――


 調査兵団拠点

 星々が夜空を照らす頃、拠点に到着するや否、すぐさまエレンは解放された。

 エレン達の無事の一報を聞いた兵達はすぐに救助隊の元に向かい、その無事を喜び合っていた。

 ある者は抱き合い、ある者は笑い、ある者は泣きながらも、エレン達の無事を祝福していた。

 それはエレン達も同じだった。

 拠点に戻り、安全が確保されるや否、無事生還できた事の喜びに胸が溢れ、生き延びたという事実に心が躍りそうになる。


 だが、数度に及ぶ戦闘の疲労は確かに彼等の身体を蝕んでおり、その疲労感にエレン達は思わずよろけそうになるが、それでも震える足を奮い起こし、エレンは仲間達に向き合っていた。
64 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:09:39.49 ID:JxTi7aVSo
エレン「みんな、本当に助かったぜ……ありがとうな」

コニー「ったく……お前らよぉ……本当に、本当に良かったぜ……」

ユミル「お前達が心配でクリスタなんて夜も寝られなかったんだぞ……見てみろよこのクマ……クリスタの綺麗な顔が台無しだ」

クリスタ「うんっ……うん……っっ……みんな……無事で良かった……生きてて良かった……っっ!」

アルミン「みんな……心配かけて本当にごめん……」

サシャ「うえぇ〜ん……エレン、ミカサぁ、アルミン……みんな、本当に無事で良かったですぅぅぅ!!!」

エレン「わっ! サシャ! 急に抱き付くな!」

サシャ「……ん?? くんくん……なんですか、この微かに香る美味しそうな匂い……なんかすごく美味しそうな匂いがするんですけど……」

エレン・アルミン「げっ……!」

ミカサ「サシャ、それは……」

アルミン「あーー、それはほら!! アレだよ!! 森の中にすっごい良い香りのするキノコがあってさ!! それを食べたんだよ!」

エレン「あ、ああ! そうそう! いやぁーあれ超美味かったよなぁアルミン!!」

サシャ「あんなに巨人がいる森の中で……ですか?」

エレン・アルミン「ゔ……」
65 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:10:30.59 ID:JxTi7aVSo
ミカサ「……巨人は私が引きつけて退治した、その隙にアルミンが私の考えもつかない様なやり方でそのキノコを調理してた」

アルミン「そ、そうそう! そうだよ!」

サシャ「……? ふぅーん……まぁ、いいですけど……でも、本当に無事で何よりです、今度あの森に行く事があったら、是非私にもそのキノコ、食べさせて下さいねっ」

エレン「あ……ああ、いつかな」

コニー「何か隠してないか、あいつら……」

ユミル「さぁ……」

―――
――


エレン「でも、一体なんでみんながあんな所に……」

ミカサ「調査兵団の数は限られていた……作戦が失敗したその後すぐに救援が来るなんて、私達は考えもしなかった……」

アルミン「確かに、信じられなかったよ……一体どうして?」

コニー「ああ……それはな……」

クリスタ「ジャン達が、リヴァイ兵長とエルヴィン団長に直談判しに行ってくれたから……なんだ」

ジャン「おいクリスタ! 余計な事言うんじゃねえよ……」

アルミン「……? どういう事?」

クリスタ「実は……」
66 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:11:33.14 ID:JxTi7aVSo
 回想

 その日、ジャンは震える手で指令室の、エルヴィンのいる部屋の戸をノックしていた。


ジャン「失礼します、ジャン・キルシュタインであります!」

エルヴィン「入れ」

ジャン「ハッ!」

 扉の奥の声に答え、ジャンは指令室に入る。

 指令室には、椅子に腰かけたエルヴィンと、その横ではリヴァイがジャンを睨むように立っていた。

 エルヴィンとリヴァイに向け、敬礼を崩す事無くジャンは声高に言い放つ。
67 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:12:22.92 ID:JxTi7aVSo
リヴァイ「おい、このクソ忙しい時に一体何の用だ?」

ジャン「恐縮ですが、リヴァイ兵長とエルヴィン団長に一つお願いがございます!」

エルヴィン「ふむ……エレン・イェーガー達の事か」

ジャン「はい! エレン達の救助の許可を、是非頂きたいと思います!」

リヴァイ「おいガキ……ふざけた事言ってんじゃねえぞ……作戦が失敗に終わった今、どの兵も満身創痍なんだ……そんな状態で、生きてるか死んでるかも分からねえ新兵の救援なんてそうそう出せるとでも本気で思ってんのか、ああ?」

ジャン「で、ですが! まだ死んだと言う確証もありません!」

リヴァイ「ハァ……いいか、てめえらが巨人に食われる為に行きてえんなら俺は止めん、勝手に探して勝手に死ね。だが、そんなてめぇの我儘に俺達まで巻き込む道理がどこにある」

リヴァイ「てめぇの独断で救助の途中で誰かが死んだとして、その責任を背負えんのかてめえは」

ジャン「そ……それは……!!」

ジャン(……恐ぇ!! ……リヴァイ兵長超恐ぇ!! ……でも、俺も腹括ったんだ、後には退けねえ!!)

 射抜くようなリヴァイの眼力にジャンの手足が震える……が、それでもジャンは折れる事無く、自分の思いを口に出す。
68 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:13:06.29 ID:JxTi7aVSo
リヴァイ「どうなんだって聞いてんだ、答えろ」

ジャン「……もしも、もしもこの救助で死人が出たら……俺が責任を取り……そいつの家族に、俺の心臓を捧げます……!」

リヴァイ「はぁ……? てめぇの汚ぇ心臓如きで責任が取れるとでも、本気で思ってんのか」

ジャン「……っっ!」

リヴァイ「質問に答えろ、おい」

エルヴィン「待てリヴァイ……それは本当か、ジャン・キルシュタイン」

ジャン「………………っっ」

エルヴィン「本当かと聞いている、ジャン・キルシュタイン」

 刺す様なリヴァイの目線とは違い、エルヴィンのその眼は試す様に、まるで眼前の兵士の意思を計るように、ただ静かにジャンに向けられていた。

 その眼に対し、ジャンもまた強く己の意思を告げる。
69 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:15:23.23 ID:JxTi7aVSo
ジャン「はい……もしもこの救助で一人でも死者が出たら、その時は……俺が責任を取り、腹を切って償います!!」

 指令室にジャンの声が響き渡る。その声に呼応するように、背後から複数の声が聞こえて来た。


「ちょっと待って下さい」

 声のする方に三人の目が向く、そこには、敬礼の姿勢を取ったままのライナー、ベルトルト、コニー達の姿が見えた。


ジャン「お前ら……!」

ライナー「ジャンだけじゃありません、俺達も責任を取ります」

ベルトルト「私も、ジャンの意思に賛同します」

コニー「お、俺もです!」

ジャン「なっ、てめぇら何言ってんだ! これは俺の問題だ! お前達を巻き込む訳には行かねえよ!」

コニー「はっ! なーに言ってんだ、ジャンにだけカッコつけさせっかよ」

ベルトルト「今エレンを死なせる訳には行かない、それは、ジャンだけじゃなく僕達もそう思っているんだ」

ライナー「ああ、ベルトルトの言うとおりだ、そしてその為なら、俺達も戦士として自分の命を懸けるつもりだ」

コニー「それによ……エレンもミカサもアルミンもみんな、俺達の仲間だ……なら、助けに行くのが仲間ってもんだろ」

ジャン「お前ら…………!」

 ジャンの横に並び、コニー、ライナー、ベルトルトの三名は再度敬礼をする。
70 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:17:14.08 ID:JxTi7aVSo
一同「――エレン達の救出の許可を、どうか願い致します!!」

リヴァイ「ガキ共が……揃いも揃って何を勝手な事を……!!」

エルヴィン「分かった……君達の意思はよく伝わった……だがここは一先ず下がれ、詳しい事は追って知らせる」

リヴァイ「おいエルヴィン、俺はまだ良いとは……」

エルヴィン「リヴァイ、彼等の意思は確かに本物のようだ……確かに彼の言うとおり、エレン達はまだ死んだと決まった訳ではない」

リヴァイ「…………」

エルヴィン「それに、エレンの存在は今後の人類の勝利の為に必要不可欠な存在でもある……生きているにせよ、死んでいるにせよ、エレンの身体は必ず回収すべきだ、そうだろう」

ジャン「それじゃあ……」

コニー「エルヴィン団長……!」

 エルヴィンの眼は強く、扉の前の四人の兵士達を見据えている。

 臆することなく自分達に向けられた彼等の眼差しからは、確かな意思と覚悟が感じられる。

 その覚悟に嘘偽りが無い事を見届け、エルヴィンはただ静かに、彼等の意思に応えたのだった。
71 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:18:16.78 ID:JxTi7aVSo
エルヴィン「ああ、すぐにエレン達の救助の為の作戦を立てよう。リヴァイ、残った兵の招集を急がせろ、これは命令だ」

リヴァイ「……了解した」

ジャン「エルヴィン団長……あ、ありがとうございます!」

 自分達の願いを聞き届けてくれたエルヴィンに向け、ジャン達の口から次々と感謝が告げられた。

 ――そして、ジャン達が扉を出てからしばらく。


リヴァイ「今日は随分と情に熱い団長様だな」

エルヴィン「しかしリヴァイ、お前の胸中も彼等と同じだった……そうだろう?」

リヴァイ「……ふん……兵を招集する」

 リヴァイはそれに答えず、無言で部屋を出る。

 その数時間後、エルヴィンの命令により、エレン救出の任務が残存の兵達に伝達された……。
72 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:19:17.18 ID:JxTi7aVSo
―――
――


クリスタ「って事があったんだ……」

エレン「そっか……ジャン、ライナー、ベルトルト、コニー……助かったぜ、本当にありがとな」

ジャン「別に、俺はテメェが生きてようが死んでようがどうでも良かったんだけどな」

アルミン「はははっ、ジャンのその照れ隠しも相変わらずだなぁ」

ジャン「なっ! アルミンてめぇ!」

ライナー「ったく、本当に素直じゃないな、あいつ」

ベルトルト「ああ……でも、エレンが無事で良かった……」

ライナー「……ああ、そうだな…………」
73 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:21:47.02 ID:JxTi7aVSo
ミカサ「ジャン……ありがとう、ジャンのお陰で私達は救われた、本当にありがとう……」

 ミカサの感謝の笑みがジャンに向けられる。

 自身に対し、初めて向けられるその笑みにジャンの鼓動が急速に早くなる。


ジャン「…………っっ!! なっ! べ、別に!! 大したことじゃねえよ! こんくらい、何でも……!」

サシャ「あははは、ジャン、顔真っ赤ですよー?」

ジャン「うっせーー! いいから戻んぞ!」

ジャン(ミカサのあんな顔……俺初めて見たぜ……! ああもう、本当にやって良かったぁぁああ!!)

 満身創痍の身体を振り起こしつつも、各々がエレン達の無事を祝っていた。

 だが、その浮かれた雰囲気も、唐突にやって来たエルヴィン、リヴァイ、ハンジ達の来訪により、四散する事となる。

 その姿を見たその場の全員が敬礼をしたまま、静かにエルヴィン達を見つめていた……。
74 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:22:39.41 ID:JxTi7aVSo
エルヴィン「エレン、ミカサ、アルミン……皆、よく無事でいてくれた」

エレン「エルヴィン団長、オレ達の救援、本当にありがとうございます」

エルヴィン「いや、礼なら彼等に言うべきだ。……私はただ、君達の無事を信じ、指示を出しただけだからな」

アルミン「団長……」

エルヴィン「報告は後日でいい、とにかく今は、身体を休める事に全力を尽くしてくれ」

アルミン「ハッ! お心遣い、感謝します!」

リヴァイ「おい、お前達」

エレン「リヴァイ兵長……リヴァイ兵長もありがとうございました、今日オレ達がここにいるのも、兵長のお陰です」

アルミン「……そうだ、リヴァイ兵長、こちらを……」

 アルミンが懐から撤退の際に森で回収したドッグタグを取り出し、リヴァイに手渡す。
75 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:24:19.09 ID:JxTi7aVSo
リヴァイ「……これは?」

アルミン「撤退の際、朽ちた遺体から回収しました……兵長にお返しします」

リヴァイ「…………そうか」

 それを静かに受け取り、掘られた名前を見る。

 血で錆びついた鉄製の板には二名の調査兵の名前が彫られており、それが、リヴァイの元で任務に就いていた兵士の物だと言う事がリヴァイ達には即座に理解出来た。

 アルミンから手渡されたドッグタグを大切に懐に仕舞い、リヴァイが一言告げる。


リヴァイ「これで、ようやくあいつらを家族の元に帰してやれる……アルミン、よく回収してくれた」

 そうして笑う事も無く、一言、リヴァイの声だけが風に流れて行った……。
76 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:25:38.53 ID:JxTi7aVSo
ハンジ「ご苦労だったね、君達もさ」

ミカサ「はい、ですが……私が至らないばかりに、多くの犠牲を出してしまった……」

エレン「ああ……オレ達にもっと力があれば……あんな事には……くっ!!」

アルミン「分かっていたけど……それでも……僕達には何もできなかった………っ」

エルヴィン「過ぎた事を悔いても意味はない。なれば、失われた多くの命に報いる為にも、私達は生き続けなければならない」

リヴァイ「ああ、それが……生き延びた俺達が死者に出来る、唯一の手向けだ」


 そして沈黙の中、エルヴィンの声が響き渡る。


エルヴィン「今この場で生きている全ての兵士達に告げる!! 任務の為、人類の為に散って行った全ての勇者達に向け、総員、黙祷!!」
77 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:26:19.08 ID:JxTi7aVSo
 静かに、ただ静かに、その場の全員が目を瞑り、祈りを捧げていた。


 散って行った死者に向け、志半ばで倒れた仲間に向け、自分達に未来を、夢を託し、散って行った数多の英霊達に向け、彼等の祈りが捧げられる。


 ある者は悲しみに涙を流し、またある者は怒りに拳を握り締めつつも、皆、新たな誓いを胸に抱いていた……。



 ――この世に生きる全ての生命の為、巨人を殲滅し、壁を抜け、自由を取り戻す。



 その場の全ての想いに応えるかのように、夜空には流星が一筋、遥か遠くの地に流れて行った――。
78 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:28:24.54 ID:JxTi7aVSo
―――
――


 その夜、彼等は夢を見た。

 その夢はとても心地よく、幸福に包まれた、暖かな夢だった……。


サシャ「あれもこれも美味しい………ん〜〜!!! 最高れす………もがもが……っっゔ………」

コニー「おい誰か水だ!! サシャが肉を喉に詰まらせて息してねえ!!」

サシャ「ぼびく(お肉)……ぼびぐ(お肉)ぅ……」

マルコ「でも手だけは休まず動いている……」

トーマス「なんて執念だ……さすがサシャ……」


ジャン「おいアニ!! てめぇそれは俺の肉だ返しやがれ!!!」

アニ「いいだろ……別に減るもんじゃないんだし」

ジャン「減ってるよな……? なぁ、どう見ても減ってるよな!?」


ライナー「クリスタ、良かったらサラダ食うか、これ、すっげぇ美味いぞ」

クリスタ「うん、ライナー、ありがと」

ユミル「ちょーーっと待ったライナー、ほーらクリスタ、クリスタの眼差しよりも甘い、甘ぁーいお菓子だよ……こっちの方がいいだろ、な?」

クリスタ「うん、ユミルもありがとう……♪」

ユミル・ライナー(て、天使……いや、女神だ……)

ベルトルト「ライナー、顔、顔……」
79 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:29:36.44 ID:JxTi7aVSo
リヴァイ「ちっ……ガキ共が、飯も静かに食えねえのか」

エルヴィン「はっはっは……うむ、どれも実に美味だ……こんな店が本当にあったとはな……」

ミケ「ええ、本当に楽しそうで……来て良かったですねぇ」

ハンジ「これさー、どうやって作ってんだろ……製造工程が気になる、すっげぇ気になる……ねえリヴァイ、私兵隊やめてここで働いていい?」

リヴァイ「黙れクソメガネ」

ハンジ「う〜〜〜……ダメかぁ、ねえ、どうしてもダメ? ねえリヴァイってばぁ〜」

グンタ「ハンジ分隊長! それ以上兵長に絡むと本気でブチ切れますって!」

リヴァイ「……………………」

エルド「やべぇ……兵長の顔がいつも以上にやべぇ……」

オルオ「美味ぇ……どれもこれも最高だぜちくしょー!生きてて良かっ……(がぶっ)……痛っってぇえぇ!!!」

ペトラ「オルオ……少しは黙って食事が出来ないの……?」
80 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:30:16.97 ID:JxTi7aVSo
キース「うむ、しかし……本当に料理は最高ですな……私も長く料理をしてきましたが……こんなに美味な料理は初めてです……」

ピクシス「はっはっは……美味い酒に美味い料理、おまけに美人も多いと来た……特にほれ、あの金髪と黒髪の給仕の娘達、なかなかに美人じゃわい……ウチで是非雇いたいものじゃ」

アンカ「司令、少し自重して下さい」

ピクシス「ほっほっほ、こりゃなかなか手厳しいのう」


ハンネス「うぃぃ……エレーン、しっかり食ってっか〜?」

エレン「ハンネスさん、あんた飲み過ぎだろ」

ミカサ「ほらエレン、肉ばかりじゃなくて野菜もちゃんと食べないと強くなれない」

エレン「ミカサっ! 俺の肉取んなよ! こんなに美味いもんがあるのに、野菜なんか食ってらんねえよ!」

ミカサ「だめ、エレンは野菜も食べるべき、好き嫌いは認めない」

ハンネス「はっはっは!! すっかり尻に敷かれてんなぁエレンよぉ!」

エレン「な、何言ってんだよハンネスさん!!」

ミカサ「エレンは私の家族……家族の事を考えるのは当然の事……」

アルミン「あははは、ミカサもエレンも本当に幸せそうだなぁ」
81 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:31:24.87 ID:JxTi7aVSo
店主「アレッタさん、追加注文分完成だ、持ってってくれ!」

アレッタ「はーい! ステーキ五人前お待ちどうです!! ひー、い、忙しい〜〜!」

クロ『お待たせしました、ハンバーグ定食になります……』

タツゴロウ「はっはっは、しかし、この店がこうも賑わうとはな! 美味い、今宵の食事は一際美味く感じられるぞ!」

ハインリヒ「いやはや、彼等の幸せそうな顔、こちらも食欲をそそられますなぁ」

 暖かな喧騒が店内を支配する。

 彼等の宴は絶えず続き、その光景を店中の誰もが微笑ましく見つめている。


 それは、とても暖かく、心地よく、全ての争いから解放された彼等の夢。

 戦いに明け暮れる彼等に訪れた、ほんの一時の平和だった――。
82 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:32:00.12 ID:JxTi7aVSo
―――
――


 翌日

 兵舎の広場、穏やかな風の流れる中庭に彼等はいた。


エレン「………………」

ミカサ「あ、エレン……こんな所にいたの」

エレン「ああミカサか、……どうしたんだ?」

ミカサ「少し、昨日の事を思い出していた」

エレン「ああ、オレも……ミカサと同じ事を思い出してた所だ」

ミカサ「今でも信じられない……あの森の中に、異世界に通じる扉があったなんて……」

エレン「でも、オレ達は確かにあそこにいた……あの店でメシを食って、体力を取り戻し、そして救援隊と合流できた……」

ミカサ「うん……」

エレン「ミカサ……必ず、また行こうな」

ミカサ「エレン……うん、必ず……次はみんなで……!」

 エレンの強い声に、ミカサは笑顔で応える。

 その時、遠くからアルミンの声が聞こえて来た。
83 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:32:46.88 ID:JxTi7aVSo
アルミン「ああ、いたいた! おーい、エレン! ミカサ!」

エレン「アルミン! 団長達への報告は済んだのか?」

アルミン「うん……っても、さすがに異世界食堂の事は話せなかったけどね」

エレン「まぁ無理も無いか、かなりムチャクチャな話だもんなぁ」

アルミン「さすがに、森の中に異世界に通じる扉がなんて事、報告書に大真面目に書いたら精神疾患を疑われかねないからね……下手したら、今後の作戦から外されるかも知れないし」

ミカサ「それは駄目、アルミンの知識と閃きは、今後の私達にとっても必要不可欠」

エレン「だな、アルミンがいなきゃオレ達、生き延びれる気がしねえよ」

アルミン「そんな、買い被りすぎだよ……」

エレン「それで、報告書にはなんて書いたんだ?」

アルミン「うん、森の中でヘビや野草を捕えて食べて生き延びたって事にしたよ」

エレン「そっか……」
84 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:33:15.36 ID:JxTi7aVSo
ミカサ「今、エレンと二人で約束をしていたところ」

アルミン「約束? 何の?」

エレン「ああ、またみんなで、あの店に行こうってな」

アルミン「うん……そうだね!」

エレン「巨人共を全て倒して、壁を抜けて……そしたら、あの店で祝勝会だ!」

アルミン「今度は、砂糖を使ったお菓子なんかも食べてみたいよね」

エレン「オレはやっぱり肉だな! あの店の肉料理、次は全部食いきってやる!」

ミカサ「その為にも、今日から倹約して貯金をしなければ……」

アルミン「ハインリヒさん、僕達の為に一体いくら使ったんだろうね……」

エレン「ああ、そのお返しもしっかりしないとな……」

 そして笑顔を一変させ、エレンは真顔で二人に向き直る。
85 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:34:03.02 ID:JxTi7aVSo
エレン「ミカサ、アルミン……」

ミカサ・アルミン「うん……」

エレン「何があっても、オレ達は生き続けるぞ……必ずな!」

ミカサ「勿論、私は生きる……生きて、仲間を、家族を守る……!」

アルミン「僕もさ、世界の全てをこの目で見届けるまで……死ねない! 死ぬ訳にはいかない!!」

エレン「ああ……オレ達は生きる……!! 生きて! 必ず壁の外に出るんだ!!!」
86 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:34:53.46 ID:JxTi7aVSo
 エレンの声が中庭に響き渡る。

 それは、森の中で立てた誓いとは別の、もう一つの誓い。


 巨人を駆逐する為ではなく、その先の為の誓い。


 己が生きて何を成し遂げるかを宣誓する、鬨(とき)の声だった――。



 これは、後に大いなる陰謀に巻き込まれ、そして仲間に裏切れつつも尚、その歩みを止めぬ、兵(つわもの)達の物語。


 ――数多の生と死が交錯する戦場で彼等が見出した、一時の至福の物語である。
87 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:36:51.52 ID:JxTi7aVSo
 後日談


 チリンチリンと、閉店も過ぎた頃、唐突にその扉は開かれた。

 扉から一人の老人が入り、その老人は何も言わず、静かに席に腰をかける。

 薄暗い店内では店主が一人、店閉めの作業を行っていた。


店主「すいませんお客さん、もうへいて……おお、これはこれは、お久しぶりです」

老人「夜分遅くに失礼する、なかなか連中の隙を縫う暇がなくてな」

店主「せっかくですし、残り物で良ければご用意しましょう、如何いたしましょうか?」

老人「ああ、それで頼む」

店主「お酒は……今日は何にしましょう?」

老人「ウィスキーといったか、あれを氷で冷やしたやつを頼む、あれほど美味い酒、こちらではなかなか飲めんでな」

店主「はいよ、少々お待ちください」
88 : ◆kh6j.ZZqSk [sage saga]:2017/08/28(月) 00:44:37.14 ID:JxTi7aVSo
 そしてしばらく、老人の元に酒とつまみが用意される。

店主「お待たせ致しました、ウィスキーのロックとおつまみになります」

老人「おお、待っておったぞ」

 そして老人は、琥珀色の液体が注がれたグラスを一口含み、その味を絶賛する。


老人「うむ、美味い……この透き通る様な氷の冷たさが酒の味をより引き立てておるわ……それに、この柔らかいつまみは何じゃ? この独特の臭みと塩加減、実に酒によく合う……」

店主「それはスモークチーズです、牛乳を発酵させて固めた物を、燻製にしたやつですよ」

老人「ほっほっほ、牛の乳がこんなにも美味くなるとはな……いや、長生きはするもんじゃのう……」


店主「喜んでもらえて光栄です…………ピクシスさん」

 その老人の名はドット・ピクシス。

 駐屯兵団の司令官にして南側領土を束ねる最高責任者その人だった。


ピクシス「ほっほっほ……そうじゃ店主よ、ワシの願いは守ってくれとるかの?」

店主「ええ、先代からの約束ですからね……前にもピクシスさんの服を着た兵隊さんが来てましたけど、言いつけ通りに、ピクシスさんの事は内緒にしておきましたよ」

ピクシス「そうか……来ておったか……いや、感謝する……どんな兵だった?」

店主「それがですね…………」

 薄暗い店内に、微かに賑やかな会話が響き渡る。

 そして、一人の老兵の晩酌は、日を跨ぐ寸前まで続けられるのであった……。


 fin...
89 : ◆kh6j.ZZqSk [saga]:2017/08/28(月) 00:47:51.46 ID:JxTi7aVSo
これにて終了です、前にリゼロと異世界食堂のクロスも書いてみましたけど、それとは違った雰囲気が出ていたらと思います。

見て下さった方ありがとうございました。

それではまた今度は違うSSで。
90 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 10:36:10.02 ID:o+XAlu0nO
乙!
91 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 11:31:09.31 ID:w0xFI7hIO
もしライナー達にねこやの存在がバレたら、真っ先に潰されかねないな
そうなったらなったで赤の王が黙っちゃいないだろうが
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/28(月) 11:56:39.93 ID:GChp5ZUXO
腹減ってきたー
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/29(火) 16:32:30.93 ID:dcyyWqDBo
リクエストに応えたんだね。乙でした
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/08/29(火) 22:26:17.74 ID:poX84Uyd0
魂震わす、ご飯の力
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/02(土) 09:17:40.74 ID:OYsHLVfW0
面白かったー乙

でも、やっぱり三日三晩の絶食の後にステーキは・・・
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/09/02(土) 11:54:55.93 ID:PVamwoaA0
重過ぎて胃もたれするって?まぁ彼ら若いから何とかなるんじゃね?w
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