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【進撃の巨人×異世界食堂】エレン「異世界食堂? なんだよそれ?」
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1 :
◆kh6j.ZZqSk
[saga]:2017/08/27(日) 22:24:44.11 ID:hVxqWr5Do
――その日、エレン・イェーガー、ミカサ・アッカーマン、アルミン・アルレルトら三名の調査兵達は、未だかつてない程の窮地に立たされていた。
人類の大いなる進撃の一歩となる筈であった、第57回壁外調査。
だが、その作戦は、女型の巨人の突然の襲来により、思わぬ妨害を強いられる事となる。
女型の巨人に対し、エレン・イェーガーは巨人化の力を使い、これに応戦。
しかし、女型の巨人の強さは巨人化したエレンの力を遥かに凌駕しており、一時はエレンも女型の巨人に連れ去られてしまう。
が、【人類最強】と謳われるリヴァイ・アッカーマン及び、ミカサ・アッカーマンら両名の活躍によりこれを打破、見事エレン・イェーガーの救出に成功する。
……しかし、女型の巨人の残した爪痕は予想以上に深く、数多の兵と精鋭を犠牲にしたにも関わらず、調査兵団は撤退を余儀なくされた。
だが、それで悲劇が終わった訳ではなかった……。
撤退の最中出現した、奇行種を始めとした数十に及ぶ巨人の軍勢が撤退中の部隊に対し、奇襲を開始。
この奇襲により、部隊は完全に分断され、エレン、ミカサ、アルミンの三名は広大な森の中で孤立してしまう。
巨人との戦闘で消耗しきった彼等では、その数の暴力とも言える膨大な数の巨人に対抗しきれず、三人は……命懸けの敗走を続けていた。
既に馬を失い、信煙弾も切れ、ミカサ・アルミン両名の立体起動装置もガス欠間近……そんな生存は絶望的と思われた状況で奇跡的に見つけた、一本の古木に空いた穴。……三人がそこに身を隠してから、今日で既に三日が経過していた。
これは、そんな彼等の元に訪れた一つの物語。
絶望と恐怖に立ち尽くした彼等に起きた、奇跡の物語である――。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1503840283
2 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:26:52.39 ID:hVxqWr5Do
二年前、訓練兵専用訓練所、食堂
エレン「異世界食堂? 何だよそれ?」
コニー「噂なんだけどよ、なんでも世界のどこかに異世界の料理屋に通じる扉があって、その店じゃ、いくら食っても食いきれない量の牛の肉とか、すげえ量の砂糖を使った料理を作ってくれるらしいんだってよ」
ジャン「はっ、コニー、お前バッカじゃねえの、そんな店あるわけねえだろ。仮にそんな店があったとしても、俺たちみてえな訓練兵の給料じゃ、牛の肉なんか一生かかっても食えやしねえよ」
ライナー「まったくだ、どこの誰が言ったんだか知らないが、馬鹿馬鹿しいにも程があるな」
マルコ「ははは、でも、夢のある話だと僕は思うけど」
サシャ「食べきれない量の牛のお肉……いいですねぇ……そんな夢の様なお店……一度でいいから行ってみたいですねぇ……ごくり」
クリスタ「サシャ……よだれ出しすぎ……」
トーマス「へぇ……そんな店があるのか……」
ベルトルト「なかなか興味深い話だね、アニもそう思わないか?」
アニ「……別に、おとぎ話に興味はないさ」
コニーの突拍子の無い話に、ある者は呆れ、ある者は夢物語と笑い。またある者は妄想の世界に浸っていた。
そんな中、エレンとアルミンだけは呆れる事無く、その話に聞き入っていた。
3 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:28:33.14 ID:hVxqWr5Do
ミカサ「でも、なんでそんな話が……」
アルミン「……きっと、絶望に瀕した人達を励ます為に誰かが話したお話……とかじゃないかな……そういう話って、聞くだけでも元気が湧いてくるでしょ?」
ユミル「馬鹿げた絵空事でも生きる力になる……か……でも、牛の肉が食べ放題ってのも、さすがに盛りすぎだと思うけどねぇ」
サシャ「いいじゃないですか! そういう素敵なお話があっても。私はあると思いますよ、いやむしろあって欲しい!!」
コニー「その店にサシャが来たら、店中の肉を食いまくって出禁か……いや、むしろ店を乗っ取るぐらいはやりかねねえな」
ジャン「はっはっは! 違ぇねえ!」
サシャ「も〜、みんな酷いですよー」
エレン「……なあ、ミカサとアルミンはあると思うか? そんな店……」
ミカサ「私は、あって欲しいと思う。そんな夢みたいな所があれば、きっと、誰も飢えたりせず、皆が平和に過ごせる筈だから……」
アルミン「僕は正直分からない……でも、決して無いとも言い切れないんじゃないかな。だって、そのお店が無いって事を証明できた人はいないんだし。……エレンはどう思う?」
エレン「俺か? 俺は……あると思うぜ、前にアルミン話してくれただろ、炎の水とか、氷でできた大地の話とか……だったら、いくら食っても食いきれないだけの肉を出してくれる店があったって、不思議じゃないだろ」
アルミン「だね、エレンならそう言うと思ってたよ」
4 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:30:55.57 ID:hVxqWr5Do
―――
――
―
エレン「っはっっ……っ」
アルミン「エレン、起きた?」
いつの間にか寝てしまっていたのか、酷く不機嫌な顔でエレンは目を覚ました。
エレン「ああ……悪い、寝ちまった……状況はどうなってる……?」
ミカサ「残念だけど、何も変わってない」
エレン「そうか……」
エレンは樹洞から外を見る。
地上からおよそ4〜5メートルはあろうかと言う高さから大地を見下げるエレンの眼下には、およそ3メートルから7メートル前後の巨人が複数、エレンの方を見据えながらうろついていた。
――その時だった。
アルミン「エレン! 危ない!!」
エレン「うわっ!!」
外に身を乗り出したエレンの襟首をミカサが強引に掴み、穴の中へと引きずり込む。
その刹那、先程までエレンがいた空間に、餌に飛びつく魚の如く、下方から飛びかかった巨人の口が空を裂く。
あと少し引っ込むのが遅れていたら自身の身体がどうなっていたのかを想像し、エレンの身が思わず竦(すく)み上がる。
5 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:32:53.81 ID:hVxqWr5Do
ミカサ「エレン、不用意な事はやめて」
エレン「わ、悪いミカサ……助かった……」
アルミン「間一髪だったね……」
エレン「くそ……一体いつまでこんな所にいなきゃならねえんだ……」
今エレン達がいるのは、人三人が入ってもまだスペースに余裕がある程の大きな古木に空いた樹洞の中だった。
幾重に渡る戦闘で疲弊しきった彼等の、命からがらの敗走劇の終着点。
複数の巨人に見つかり、必死で逃げ延びた先。その開けた空間で、まるで三人を待っていたかのようにその頭上でぽっかりと口を開けていた一本の古木。
その穴目掛け、エレンを抱えて立体起動で飛び込むミカサとアルミン。
しかしその代償は大きく、結果としてミカサの立体起動装置はガス欠寸前になっていた。
6 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:34:59.71 ID:hVxqWr5Do
アルミン「あの時、ミカサがこの穴に気付かなかったら、僕達は今頃……」
ミカサ「生き延びる為には、ああするしかなかった」
エレン「あの時は本当に助かったぜ……でも、このままじゃ本当にマズいな……」
エレンの言う通り、未だに絶望的な状況だという事に何一つ変わりは無かった。
既に食料は尽き、飲み水も枯れ、体力も精神も限界近く。更に、外には多数の巨人。
戦う力も武器もほとんど残されていない彼等にとって、この状況はただ死を待つだけの状況そのものであった。
エレン「クソっ! こうなりゃオレが巨人になって、下の奴ら全員蹴散らしてやる!」
アルミン「駄目だよエレン! 体力の無い今のエレンに巨人化は危険すぎる!」
エレン「んな事言ったって、この状況を切り抜けなきゃどうしようも無いだろ!! ……あっ……っ?」
突然立ち上がり、アルミンに怒鳴り声を上げるエレンだったが、突然の目眩に膝から崩れ落ちてしまう。
7 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:37:11.16 ID:hVxqWr5Do
ミカサ「エレン、怒ると体力を使う、じっとしてて」
エレン「くっ…そぉ…っっ!」
アルミン「ほら、エレンだってもう立っているのもやっとじゃないか……」
エレン「……くっっ!! 体力が戻れば、あんな奴ら……!!」
何度か行われたエレンの巨人化実験の結果判明した事だが、エレンの巨人化には幾つかの条件が必要だと言う事が分かっていた。
その条件の一つが、『明確な目的』である。
巨人に対する強い憎しみや、大岩を運ぶ、或いは誰かを守る為といった目的を迷いなく抱く事がトリガーとなり、エレンの巨人化は成功する。
そしてもう一つの条件……条件と言っても、これは成功率に関わる話ではあるが、『心身共に充実している事』がポイントとなる。
巨人化は過度に体力を消耗する上、その理性を保つ為に強い精神力が求められる。
故に、相次ぐ戦闘による消耗に加え、その空腹から生じる疲労が重なった今のエレンの状態は非常に危険で、仮に巨人化できたとしても、理性を保ったまま下にいる巨人と十分な戦闘が行えるかどうか……アルミンの懸念はそこにあった。
8 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:38:23.34 ID:hVxqWr5Do
ミカサ「アルミン……アルミンの立体起動装置はどう?」
アルミン「僕の立体起動装置もミカサのと同じ……使えてもあと二回ぐらいでガス欠だ……とてもあの巨人達を相手に戦闘は出来ない……」
ミカサ「そう……私が活路を開く。それで、その間にアルミンはエレンとここから逃げて」
エレン「ミカサ、お前何言ってんだよ……俺達にお前を見捨てて逃げろとか、そんなふざけた事、出来るわけねえだろ……!」
ミカサ「私は強い……だから、死なない、絶対に生き延びる」
アルミン「ミカサ……エレンの言う通りだ、そんな事、認める訳には行かない……!」
ミカサ「アルミン……」
二人の強い拒絶の意志に根負けし、ミカサは自分の発言を撤回する。
仮にミカサを捨てて逃げ果せたとしても、救助の確証が無い今、すぐに別の巨人に襲われるのが目に見えている。
それはミカサ自身も考えれば分かる筈なのだが、そんな状況判断すらも出来なくなる程に、ミカサもまた追い詰められていた。
9 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:39:28.07 ID:hVxqWr5Do
エレン「結局打つ手無しかよ……畜生っっ!!」
ミカサ「二人は死なせない……私は絶対に、諦めたりしない……っ!」
エレン「諦めねえぞ……絶対に生き延びてやる! 絶対に……!!」
失いかけた闘志を再度滾らせるエレン達だったが、それでも空元気は長く続かず、次第に声から覇気が消えて行く。
アルミン(何か無いか……この状況を打破出来る方法……! くそ、考えろ考えろ……! この状況を突破できる案を……頭が擦り切れるまで考えろ!!)
アルミン(僕にミカサやエレン程の力は無い……じゃあ何が出来る? しぶとく生き抜いて来たこの頭で、この状況を切り抜ける方法を考えるしか無いじゃないか……!)
必死でアルミンは考えを巡らす。
この状況を打開できる術を、持てる全ての知識を総動員し、考えに考えを重ね続ける。
アルミン(やはりエレンに巨人になって貰うしか……いや、今のエレンの体力じゃ危険すぎる、確実じゃない……じゃあ狼煙を上げて救助を呼ぶ……駄目だ、まず火を起こせる物が無い……!)
アルミン(……体力の回復……食事……食べ物……)
アルミン「ねえ、その辺りに、何か食べられそうな物ってないかな。何でもいい、キノコでも苔でも、食べ物になりそうなものを、もう一度探してみよう……」
アルミンの提案に、既に再三調べ上げた穴の中を再度見回すエレンとミカサだったが、それでも結果は変わらずだった。
10 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:40:36.07 ID:hVxqWr5Do
エレン「ダメだ……やっぱり何も見当たらねえ……」
ミカサ「食べられそうなもの……何も無い……」
微かな希望も虚しく、アルミンの案は水泡に帰した。
それでも、物は試しと木を剥がして食べてみたりもしたが、あまりに硬すぎてとても食べれるものではなく、それも無理矢理飲み込んでみたりもしたが、結局嘔吐して余計に体力を減らすだけの結果となってしまっていた。
エレン「はぁ…はぁ……クッ……水……飲みてえな……」
ミカサ「水……」
エレンの言葉にミカサに一つ案が浮かぶ。
それを思い付くや否、おもむろに腰のブレードを抜き、ミカサが自身の腕にその刃を押し当てようとする。
瞬間、その行為が何を意味するのかを悟り、エレンとアルミンが必死の形相でミカサのその行為を制止させる。
11 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:41:42.39 ID:hVxqWr5Do
エレン「……馬鹿野郎! ミカサお前、何やってんだよ!」
アルミン「ミカサ! 落ち着いて! まだ諦めちゃだめだ……早まっちゃだめだ!」
ミカサ「離して……私の血を二人に分け与える、大丈夫、私は死なないから……」
アルミン「それじゃミカサの血が減るだろ! そんな事少し考えれば分かる事じゃないか!!」
エレン「いい加減にしろよお前……そうやって周りの心配はお構いなしに自己犠牲とか、ふざけんなよ……」
エレンの胸に怒りが溜まる。
追い詰められたストレスと逼迫したこの状況がこの場にいる全員を追い詰め、正常な判断力と忍耐力を奪い取って行く……。
ミカサ「私が二人を守る……その為なら、私は何でもする……」
エレン「それが迷惑だっつってんだよ! いい加減にしねえとブン殴るぞテメェ!!」
ミカサ「じゃあ、エレンにはこの状況を突破する案が浮かぶと言うの……?」
アルミン「やめてよ二人とも! 今ここで言い争ってたって何もならないだろ!!」
一触即発の二人の間にアルミンが割って入り、二人を宥める。
12 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:42:50.76 ID:hVxqWr5Do
アルミン(ちくしょう……何の為に今まで机にかじりついて勉強して来たんだよ……。こういう時に仲間を助ける方法も浮かばないで、どうして二人の仲間なんて言い切れるんだよ!!)
何一つ打開策が浮かばない自分に苛立ちが募る。
だが、幾ら考えを巡らせても状況を覆せる案は浮かばず、ただ徒(いたずら)に時間だけが過ぎて行った。
アルミン「あ……っ……」
エレン「アルミン! 大丈夫か!?」
アルミン「くそ……こんな……所で……っ」
衰弱も限界を迎え、遂にアルミンはその場に倒れ込んでしまう。
ミカサ「アルミン……大丈夫?」
アルミン「ごめん……でも、少し休めば動けるようになるから……大丈……夫……」
エレン「もういい、アルミン、少し休んでろ……」
アルミンの身体をマントで覆い、少しでも体温を逃がさないようにして休ませる。
静寂が訪れ、時間と共に薄々感じていた、『ある感情』が一層強く、エレン達の胸中に込み上げて来ていた……。
13 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:43:52.95 ID:hVxqWr5Do
ミカサ「…………エレ……ン……私……」
エレン「大丈夫だミカサ……絶対に助かる……絶対に……っくっ! こんな所で死んでたまるか……! 俺は……まだ何も成し遂げちゃいねえ……!!」
震えるミカサの手を優しく包み、エレンは強く言う。
それは何の根拠の無い一言ではあったが、その言葉だけでも、今のミカサの心を安心させるには十分だった。
エレン(死んでたまるか……死んで……たまるか……ッッ!)
だが、その言葉を言うエレン自身の手もまた、微かに震えていた……。
14 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:44:43.40 ID:hVxqWr5Do
物が食べられない、水が飲めない、生物が普段当り前に行っている、生命を維持するための基本行動。それが出来ないと言う恐怖……。
いつ外の巨人が痺れを切らし、今自分達がいる古木を薙ぎ倒しにかかるかも知れないという恐怖……。
救助が来ないまま、このまま朽ち果てるかも知れないと言う恐怖……。
静かに、だが確実に迫り来る、“死”の恐怖。
空腹が、疲労が、恐怖が、心労が、エレン達の心を犯す。
衰弱しきった肉体には力が出ず、焦りと絶望に意識が乗っ取られ、涙が溢れて来る。
生きたい……死にたくない……助かりたい。
生物が生きる上で抱く当然の欲求、それが今、潰えてしまうかも知れないと言う、抗いようの無い呪縛。
三人の意識がそれに沈み切るのも、最早時間の問題だった――。
15 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:46:05.36 ID:hVxqWr5Do
―――
――
―
エレン「喉が渇いた……水飲みてえ……」
アルミン「食事……食べ物さえあれば……」
ミカサ「温かいスープ……焼きたてのパン………」
食事が取りたい。食べたい、飲みたい……。
食べたい、飲みたい、食べたい、飲みたい……。
うわ言のようにそれを呟く。
そして、朦朧とした意識の中、何気なく覗いた外に……それはあった。
エレン「ん……?」
穴の外、光に照らされ、きらりと一瞬何かが輝きを放つ。
エレン(何の光だ……?)
見間違いかと思い、目を凝らしてその方向を見てみる。
――見間違いじゃない。確かに何かが光っている。
16 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:46:44.74 ID:hVxqWr5Do
エレン「なぁ……あれ、何だ?」
ミカサ「エレン……どうしたの?」
エレン「あそこだよ、ほら……外、巨人達の近くの、あの木の辺り……何か光ってないか?」
アルミン「……?」
エレンの言葉にアルミンが望遠鏡でエレンの示唆した方向を見る。
アルミン「確かに何かある……あれは……扉??」
エレン「何言ってんだよ……こんな所に扉なんかがあるわけが……」
アルミンから望遠鏡を借り、エレンもまたその場所を覗いてみる……。
そこには、確かに扉のような物が映っていた。
エレンの見慣れぬ生き物を模した小奇麗な看板に、異国の文字なのか、見慣れぬ文字の書かれた一つの扉。
森の中、多くの巨人達に守られる様に、その不思議な扉はそこにあった。
17 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:48:32.57 ID:hVxqWr5Do
アルミン「何であんなところに扉が……まさか見落としていた……? いやまさか、そんなことはあり得ない……」
エレン「幻……なんかじゃねえよな、ミカサにもアルミンにも見えてるって事は……じゃあ、ありゃやっぱり本物……」
ミカサ「……行ってみよう、このままここにいても、どうにもならない……」
エレン「ミカサ……お前何言って………」
アルミン「でも、ミカサの言うとおりだよ……このままここにいても、ただ死を待つだけだ……だったら、あの扉に賭けてみるのもありだと思う」
それはまさに、博打に他ならなかった。
その扉の先が安全だと言う確証は何もないし、もしかしたら、扉に向かう途中で巨人に捕まってしまうかも知れない。
それでも、このまま動かずにいるよりかは遥かに良い。
アルミン(それに、あの扉に描かれた不思議な生き物の看板……何故だろう、不思議と危険を感じさせない気がする……)
その、扉に描かれた生き物から感じられる柔らかさが、不思議とアルミンの警戒心を和らげていた。
18 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:49:38.89 ID:hVxqWr5Do
エレン「……分かった……二人の立体起動装置はまだ動くか?」
ミカサ「私のは大丈夫、でもアルミンの立体起動装置は温存させるべきだと私は考える」
アルミン「うん、万が一もあるし、可能な限り節約はしておくべきだと思う」
ミカサ「私が二人を抱えて一気に下るから、地面に降りたら、皆一気に扉まで走って」
アルミン「うん、分かったよ。……それで行こう」
作戦が決まり、各々が準備に取り掛かる。
立体起動の動作を確認し、ミカサが外に向けて足をかける。
そしてエレンとアルミンがミカサの肩にしがみつき、残された体力と集中力を総動員し、周囲の巨人の動きに目を見張る。
アルミン「タイミングが全てだ……ミカサ、落ち着いて」
ミカサ「分かってる……任せて」
そしてタイミングを計る事しばらく、その時が訪れた。
19 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:50:36.71 ID:hVxqWr5Do
エレン「――今だ!!」
アルミン「行っっけええ!! ミカサぁ!!」
ミカサ「……ッッ!!」
巨人達が扉から距離を取ったその瞬間、扉の傍の大地目掛け、ミカサが立体起動装置のアンカーを射出する。
数日ぶりに感じるその独特の重力感に煽られ、三人の身体が宙を舞う。
その数秒後、急激に三人に襲い来る衝撃と草の匂い。
着地後すぐに態勢を整えると同時に、エレンの声が響き渡る。
20 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:51:17.86 ID:hVxqWr5Do
エレン「走れえええええ!!!!!」
エレンの声に合わせ、三人が扉目掛けて駆け抜ける。
弱った身体に足腰にふらつくが、それを必死で堪え、転ばぬように走り出す。
時を同じくして、周囲の巨人達がエレン達に向け、一斉に襲いかかる……!
エレン「くそ、前から巨人が!」
ミカサ「邪魔を……するなァァーーっっ!!」
手を振り下ろす巨人の一撃を紙一重で避け、ミカサが腰のブレードを抜刀し、その不用心な腕を一刀で斬り飛ばす。
その隙を縫い、エレンとアルミンが一気に扉との距離を詰める。
そして扉を開け、三人は雪崩れ込むように扉の中に飛び込んだ……!
21 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:52:26.62 ID:hVxqWr5Do
―――
――
―
洋食のねこや、店内
静かな店内に二人の客、ねこやはその日も平和に営業していた。
ハインリヒ(エビフライ)「ふむ……今日もまた美味いな、エビフライは」
タツゴロウ(テリヤキ)「うむ、やはり鶏肉は香ばしい照り焼きに限る……」
店主「アレッタさん、落ち着いたら休憩入ってくれ」
アレッタ「はーいっ」
ハインリヒ「しかし、あの娘もよく働いてくれる……屋敷のメイドにも見習って欲しいものだ」
タツゴロウ「美味い食事に美しいウェイトレス……いやはや、本当にここは楽園だな」
アレッタ「えへへ、お二人とも、ありがとうございますっ」
和やかな一時が店内に流れて行く。
しかしその一時は、突如として来訪した三名の客人により一時中断される事となった。
三人「うわあああぁぁぁっっ!!!」
22 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:53:52.98 ID:hVxqWr5Do
扉から転がり込むようにして飛び込んできた三人の客。
大きな音と共に訪れたその客人に対し、その場の誰もが入口に釘付けになっていた。
エレン「痛ててて……みんな、大丈夫か?」
ミカサ「……私は平気」
アルミン「うーん……ここは……?」
アレッタ「い、いらっしゃいませ! お客様は何名様でしょうか?」
店主「なんだなんだ今の音……お、お客さん、大丈夫ですか……? それにその服は……」
ハインリヒ「あの者達はいったい……」
タツゴロウ「見た所、異国の戦士らしいな……」
店中の誰もが、驚いた表情でエレン達を見ていた。
それに対し、エレン達もまた、初めて見る異質な空間に驚きが隠せないでいた。
23 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:55:10.50 ID:hVxqWr5Do
ミカサ「ここは……?」
アルミン「ここは……一体何なんですか?」
エレン「…………あれ……ここは?」
疑問を、興味を抱きながら店内を見回すエレン達だった、そんなエレン達に向け。店主が簡単に店の説明をする。
店主「ここはねこやっていう洋食……いや、料理屋ですよ」
エレン「料理屋?? こんな森の中で……巨人達がいるのに……料理屋だって???」
アレッタ「巨人……?? あ、すみません、お客様達は一体どこから来たんですか?」
ミカサ「私達は、ウォール・ローゼからやって来た、途中で馬を失い、三日三晩、命懸けで巨人達から逃げ続けていた……」
ハインリヒ「ウォール・ローゼ? 聞いた事の無い国だな……」
アレッタ「また、新しい扉でしょうか?」
アルミン「あの扉は一体……あっ……」
ミカサ「アルミン、大丈夫?」
アルミンの視界を目眩が襲い、倒れそうになる所をミカサが咄嗟に支える。
24 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:56:45.83 ID:hVxqWr5Do
エレン「一気に走ったからな……俺ももう倒れそうだ……」
店主「……とりあえず、お客さん達、席に座ったらどうでしょう、見た所結構腹空かしてるみたいですし、もし良かったら何か食べてって下さい」
アレッタ「こちらへどうぞ、お席にご案内します」
アレッタの案内でエレン達は席に通される。
店主「今、おしぼりと水をお持ちします、少しお待ち下さい」
そうエレン達に向け、店主は告げる。
その店主の後ろ姿を見ながら、ミカサが一言呟いた。
ミカサ「あの人……お母さんと同じ、東洋人……」
アルミン「うん……東洋人の男の人なんて、僕も初めて見たよ」
エレン「訳分かんねえ……外じゃ巨人達が大暴れしてるってのに……ここの人達はなんであんなに普通にしてるんだ?」
アルミン「分からない……ねえ、見てよ二人とも、ここの灯り、火を使ってる様子も無いのに、あんなに明るく光ってる……」
アルミンが天井の電灯に触れながら言う。灯篭に似たそれは微かに暖かく、火も無いのに強い輝きを放っていた。
25 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:57:55.82 ID:hVxqWr5Do
アルミン「これはもしかして……電灯?」
エレン「デントウ……? 何だよそれ?」
アルミン「何かの本で見た事があるんだ、『電気』っていう不思議なエネルギーを使って灯す、灯篭みたいな物があるんだって」
ミカサ「それが、これだと言うの?」
アルミン「僕も初めて見たよ……ここは一体……」
エレン「おい、見てみろよこれ……!」
エレンがテーブルの端にある物を手に、驚きの声を上げる。
26 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 22:59:56.53 ID:hVxqWr5Do
アルミン「まさかそれは……塩じゃないか?」
エレン「まさか、塩なんて壁の中じゃ黄金より価値があるんだぞ? それがなんで、こんな所に置いてあるんだよ?」
ミカサ「それが塩かどうかは、舐めてみれば分かる」
アルミン「そ、そんな事出来るわけないよ! もしこれが本当に塩だとしたら、一つ舐めただけでどれだけのお金がかかるか……」
エレン「ああ……あんま触らないようにしとこうぜ……ほんと、分かんねえ事だらけだ……」
ミカサ「でも、ここは確かに料理屋みたい……」
ミカサの視線の先には、自分達の世界でも見覚えのある食器類と、別の客が食べている、肉と思わしき皿に乗った食べ物があった。
確かに、ここは料理を食べる食堂のようらしい……だが、そこは明らかに自分達の知る料理屋とは違う、異質な雰囲気の漂う料理屋だった。
そして、店内の内装も、テーブルに置いてある調味料も、そのどれもがエレン達の目には異質に見えていた。
27 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:01:22.97 ID:hVxqWr5Do
アレッタ「お待たせしました、お水とおしぼりとメニューになります」
アレッタがトレイを手に氷の入った水とおしぼりとメニューを持ってくる。
アルミン「とても綺麗な水だ……それに、このグラスの中に浮いてるのは……まさか氷じゃ……?」
エレン「なっ? ちょっと待ってくれ、なあ、この水一杯いくらするんだ?」
アレッタ「ええと、この氷水は無料ですけど……」
エレン「なん……だと……」
氷水が無料だという言葉にエレンが驚愕する。それもその筈、エレン達の住む壁の中では、氷は非常に貴重な物だった。
冬の時期にしか取れず、断熱の効いた特殊な作りの部屋でなければ保存が出来ない氷。……それを口にできるのは、壁の中では貴族や王族ぐらいだ。
そして、エレン達は差し出された水を恐る恐る口に含んでみる。
28 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:03:46.50 ID:hVxqWr5Do
エレン(こ……これは……!!)
数日ぶりに飲む水の清涼感が渇いた喉に染み渡り、エレン達の火照った身体を心地良い涼しさが包み込む。
エレン「冷たくて美味え……い……生き返る……!」
アルミン「水がこんなに美味しいものだったんて……知らなかった……」
ミカサ「このおしぼりも……冷たくて気持ち良い……」
アルミン「うん……しかも、かなり上質な布だよ……ほつれも無く、丈夫できめの細かい刺繍がされている……」
エレン「なあ、もしかしてここ、実はすっげー高い店じゃないのか……俺達の今の手持ちの金で食えるのか??」
アルミン「どうだろう……メニューにも見た事のない文字が書かれているし……もしかしたらここは、王族御用達の隠れた高級店なのかもしれない……」
塩や氷が簡単に客席に運ばれる店というだけでも十分に異質なのだ、そんな店で何が出て来るのか、エレン達には想像もできなかった。
だが、それでもエレン達は、見る全ての物に目を輝かせていた。
そして、そんなエレン達の様子を静かに見つめる者が店内に二人……ハインリヒとタツゴロウだった。
29 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:05:23.20 ID:hVxqWr5Do
ハインリヒ「ふむ、彼等は一体……」
タツゴロウ「見た所、どうやら氷も塩も見た事が無いと言った様子だな、確かに気にはなるな……」
彼等もまた、エレン達の姿に目が離せずにいた。
彼等は皆、その腰に奇妙な機械と、剣に見える数本の刃と思わしき物を携えており……。
まだ幼さの残るその顔立ちは酷く痩せ細っていたが、服の上からでも分かるその鍛え上げられた肉体と、血と泥で汚れた軍服を纏うその姿からは、戦士として幾重もの死線を越えて来た迫力が伝わって来ていた。
三名の異国の兵士のその相貌に、ハインリヒもまた、公国に仕える一介の騎士として興味を抱かずにはいられなかった。
ハインリヒ「失礼、私はハインリヒ・ゼーレマンと申す、公国で騎士をしている者だ」
ハインリヒが席を立ち、エレン達に声をかける。
整った顔立ちと気品あるその貴族の様な仕草に、エレン達の背筋に僅かな緊張が走った。
30 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:07:47.13 ID:hVxqWr5Do
ハインリヒ「見た所君達は兵士の様だが、一体どこから来たのだ、その血と泥は、その奇妙な機械は一体……」
エレン「オレた……いや、私達は、ウォール・ローゼから来ました」
ミカサ「巨人達に襲われ、逃げ場を失っていた時、ここの扉を見つけ、飛び込んだ」
アルミン「奇妙な機械って……まさか、立体起動装置を知らないんですか?」
ハインリヒ「興味があるな……是非話を聞かせてくれ」
そしてエレン達は、ハインリヒに自分達がここに至る経緯を話し始めた。
自分達が巨人と言う未知の存在と戦う兵士だと言う事、そして人類が今、壁の中で家畜同然に生きており、自分達はその壁を抜け、巨人達から自由を取り戻す為に戦っていると言う事。
そして、作戦行動中に作戦は中断され、本部へと撤退している最中、巨人達に襲われ、退路を断たれたと言う事……。
エレン達の世界では誰もが認識している事実に、ハインリヒとタツゴロウは、驚愕と共にその話に聞き入っていた。
タツゴロウ「まさか、そんな世界が存在しているとはな……」
ハインリヒ「では君達は、まだ少年だと言うのにその、巨人に立ち向かい、今も命を賭して戦っていると……?」
ミカサ「ええ、そして私達は今、作戦の途中で部隊と逸れ(はぐれ)、孤立している……」
ハインリヒ「そうか……そんな事が……」
エレン「今更何を驚いてんですか……まさかあなた、巨人を知らないって言うんですか?」
アルミン「まぁまぁエレン……それで、ここは一体何なんですか? この氷水も、この塩も、電灯も、僕たちは初めて見ました……ここは一体……」
ハインリヒ「ここは、異世界食堂だ」
一同「「「異世界食堂??」」」
そのどこかで聞き覚えのある単語に、エレン達は驚愕する。
31 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:09:04.03 ID:hVxqWr5Do
ハインリヒ「ああ、ここは……七日に一度、不特定に空間にひずみが生じ、異世界と繋がるという不思議な店なんだ」
エレン「なあアルミン、異世界食堂って……」
アルミン「昔、コニーが言ってた、あの……」
ミカサ「牛の肉や砂糖を使った料理が食べれるって言う料理屋、それが、ここ?」
ハインリヒ「ふふ、どうやら、この店の話だけは、そちらの世界にも通じているようだな……」
アルミン「信じられない………いやでも、この電灯や、氷水が普通に存在している事を見ると……でも……」
全員が全員、とても信じられないといった様子でハインリヒを見ていた。
その彼等を優しく諭すように、ハインリヒは話を続ける。
ハインリヒ「私も、初めてここに来た時は君達と同じだった……飲まず食わずで走り回り、もうダメかと思った時、ここの扉を見つけ、店主の料理に命を救われ、任務を果たす事が出来た……」
ハインリヒには、エレン達の姿がかつての自分に重なって見えていた。
絶望の淵でここに辿り着き、渇いた喉を潤す氷水に感動するエレン達のその姿に、懐かしさと共に不思議な感覚が込み上げて来る。
32 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:10:10.53 ID:hVxqWr5Do
ハインリヒ「代金は私が支払おう、異世界の戦士達よ、ここで存分に休息を取ると良い」
アルミン「しかし……お気持ちは嬉しいのですが……その、私達には代価をお返しできる宛が……」
ミカサ「返せる宛も無いのに人に借りを作るなと、私達は親からそう教わった」
エレン「ああ……それに、どうあっても俺達は戦士だ……そんな物乞いみたいな真似、出来るわけが……」
牛の肉や砂糖を使った料理にかかる金額なんて、今のエレン達に到底支払える様なものではない。
あまりにも法外な額を請求される事が頭をよぎり、つい遠慮がちになってしまう。
が、それ以前に、誇りある戦士だと言うプライドが、エレン達の胸中にあった。
その意思の強さに、ハインリヒは大きく笑う。
ハインリヒ「はっはっは、その気高さ、ますます気に入ったぞ!……しかしだな」
ひとしきり笑い声を上げた後、公国の騎士は刺す様な眼差しでエレン達に問い掛ける。
33 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:13:08.22 ID:hVxqWr5Do
ハインリヒ「……一つ、君達に問おう、今……君達が成すべき事はなんだ?」
エレン「……仲間の元に帰還し、我々の無事を報告する事です……」
ハインリヒ「それが分かっているのなら結構だ」
自分達が今何をすべきなのか、それをしっかりと把握している異世界の戦士達に向け、ハインリヒは一つの提案を持ちかける。
ハインリヒ「……ではこうしよう、どうしても腑に落ちぬと言うのなら、その腰に下げた不思議な機械……それを一つ、私にくれないか?」
アルミン「立体起動装置を……ですか?」
ハインリヒ「ああ、異世界の技術の結晶ともあれば、国王もきっと喜んで下さる事だろう、そしてその技術が応用できれば、きっと多額の報奨金が支払われる、それを君達の食事代として受け取る事にしよう」
未知の世界の戦闘法にハインリヒの騎士としての血が騒ぎ出す。それに、何としてでも彼等には休息が必要だと、ハインリヒは思っていた。
ハインリヒ「その、立体起動装置と言ったか……話を聞けばその機械、馬を走らせられない市街地や森の中でも高い機動力を発揮できるようだ、構造を解析できれば、私達も今後の戦闘に大きく貢献出来るやも知れん」
エレン「だってよ、アルミン、どうする……?」
アルミン「…………」
アルミンは考え込む、非常時とはいえ、見ず知らずの人間に立体起動装置を渡しても良いものかを。
見ず知らずの者への立体起動装置の私的譲渡は重大な軍規違反……重罪だ、下手をすれば追放……或いは、死罪の可能性も十分あり得る。
34 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:14:28.98 ID:hVxqWr5Do
ミカサ「そんな事、考えるまでもない……」
アルミンの答えを待たずして、ミカサが自分の立体起動装置を外し、ハインリヒに手渡す。
アルミン「ミカサ……軍規違反だよ! それ!」
ミカサ「あれはもうガスが切れて使えないガラクタ、廃棄する手間が省けた。それにここは異世界……壁の中じゃない……だから、軍規も存在しない」
アルミン「そんな無茶苦茶な……」
エレン(壁の中じゃない……か)
ミカサの一方的な持論に根負けし、アルミンはそれを見逃す事にする。
そして、立体起動装置を抱え、ハインリヒが声高に店主に告げる。
ハインリヒ「異世界の戦士達よ、その心意気に感謝する……店主よ! 料金は私が支払う、彼らに肉を、とびきり美味い肉を食べさせてやってくれ!」
店主「はいよ、せっかくだし、精がつくように、たっぷりとニンニクを効かせましょうか?」
ハインリヒ「ああ、それで頼む」
店主「では、しばしお待ちを」
そう言い、店主は調理場に移る。
料理を待っている間、エレンはふと考え付いた事をアルミンに話す事にしてみる。
35 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:16:04.11 ID:hVxqWr5Do
エレン「なあアルミン……もしここが異世界ってんなら……壁の中の人達をここに案内すれば、もう巨人を気にする必要なんてないんじゃないか?」
アルミン「それは僕も考えたんだけど……でも、数十万、数百万といる人類をみんなここに運ぶのって、きっと無理だと思う……」
ミカサ「私は反対……それは結局、巨人から逃げ出すと言う事になる、……なら、たとえ今が苦しくても、勝って道を切り開べきだと私は考える」
アルミン「うん、それに……僕たちの都合でここの人達を巻き込むのも、きっとそれは間違ってると思うよ……」
エレン「そっか……そうだよな……悪い、馬鹿な事を考えちまった」
タツゴロウ(僅かに抱いた甘い考えをすぐに捨て去る勇気……こいつら、なかなかの兵(つわもの)だのう……)
ハインリヒ(まだ二十歳にも満たない子供だと言うのに大したものだ……余程辛い事があったのだろう……)
そして待つ事しばらく、美味そうな匂いと調理場から聞こえる音が、エレン達の腹を強く刺激し始める。
36 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:17:49.35 ID:hVxqWr5Do
アルミン「良い匂いだ……これは……肉? 肉を焼く匂いだね……」
エレン「今一瞬見えたけど、ありゃ何の肉だ? 分厚くて赤みがあって……見た事ねえぞ」
ミカサ「前に……訓練兵だった頃に見た覚えがある……サシャとコニーとキース教官の料理対決の時……」
アルミン「もしかして……牛の肉? そんな、まさか……」
エレン「なんにしても……早く来てほしいぜ……腹減ったぁ…………」
思えば、ここに来るまで三日三晩、彼等は一滴の水すら口にしていなかったのだ。
それに加え、度重なる戦闘に幾人もの仲間の死を前にして、身体も精神も擦り切れる寸前だった。だが、ようやくそれも解放される。
食事を取り、疲労が回復できれば、きっと事態は好転する。そう信じ、エレン達はただ静かに、料理の完成を待っていた。
―――
――
―
アレッタ「お待たせ致しました! サーロインステーキになります! 鉄板は大変熱くなってますのでお気を付け下さい!」
目の前に出されたそれに、三人の身体と思考が停止する。
ジュウジュウと脂が弾け、一口では食べきれない様な分厚い、赤みを帯びた肉の塊がそこにあった。
その傍には彩りよく添えられた温野菜に、これまた美味そうな香りを放つニンニクのソースがあり、そのどれもが、未だかつて感じた事のない感覚をエレン達の脳に刻みつける。
37 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:19:09.71 ID:hVxqWr5Do
エレン(普通に考えれば簡単にわかる……こんな美味そうなもん、一生食えねぇってことぐらい……)
一目で分かる、自分達が一生かかっても食べられない、圧倒的な存在感。
その迫力を前に、三人は初めて巨人の襲来を受けたあの日の様に震え、固まっていた……。
エレン「なあ……これは何だ……?? 夢か、幻か?? こんな美味そうなもんが、俺達の前にあっていいのか……??」
アレッタ「ええと、こちらはビーフ……牛肉のステーキになります」
アルミン「牛肉……これが、牛の……肉……」
ミカサ「初めて見た……なんて美味しそうな香り……」
三人がそれぞれ、思い思いの感想を口にする。
初めて見るそれは、彼等にとっては余りにも偉大だった。
38 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:20:13.00 ID:hVxqWr5Do
ハインリヒ「まぁ、驚く気持ちも分かるが、まずは冷めないうちに是非食べてみてくれ……きっと口に合うと思うぞ」
エレン「い、いただきます」
ハインリヒの言葉に息を飲み、各々がナイフとフォークで肉を切り分け、一口、それを口に運んでみる。
エレン「…………ッッッ!!!!」
39 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:22:34.38 ID:hVxqWr5Do
――それは、決して美味いと呼べる物ではなかった。
否、“美味い”などと言う浅はかな言葉では片付けられない程に、暴力的で、刺激的で、高貴な味だった。
最初に感じたのは、初めて感じた事が無い程の、強い塩と胡椒の味だった。
その塩の味に導かれるように、口の中を、肉と脂の味と食感が、縦横無尽に暴れ狂う。
咀嚼する程に脂が口の中に広がり、一口、また一口と肉を嚥下し、胃に運ぶ。
その仕草は……まさに巨人。普段彼等が憎み、脅威とする巨人の如く、大口を開けて肉を喰らう。
もはや味の感想を口にする事すら惜しまれる、ただその動作のみが彼等のこの料理に対する評価であり、感想でもあった……。
40 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:23:27.30 ID:hVxqWr5Do
エレン「………っっ………っっ!」
ミカサ「…………ッッ……」
アルミン「……………っっ………」
がつがつと無言で肉を切り、ソースに浸し、口に運ぶ。
ニンニクの効いたソースは舌を、鼻を抜け、胃を刺激し、エレン達に更に強く訴えかける。
もっとだ、もっと肉を寄越せと、胃が、脳が叫ぶ……!
付け合わせの野菜も、自分たちの世界には存在しえない程に瑞々しく、甘く、歯応えがあり、肉と脂に塗れた口内を優しく満たしてくれる。
そして一口、二口、三口と肉が口に運ばれ、一切れの肉が消えるのに、三分も掛からなかった。
41 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:25:40.19 ID:hVxqWr5Do
ハインリヒ「店主! まだ足りぬ! ステーキをあと三人……いや、六人分だ! 急いでくれ!!」
店主「はいよ、しばしお待ち下さい」
ハインリヒの声に店主が再び料理を開始する。
そして肉が無くなったエレン達は、次の目標をライスとスープに向けた。
パン食が基本となるエレン達にとって、米はまさに未知の食べ物だった。
炊きたての米特有の艶と、口に含んだ時のほかほかとした暖かさと、噛めば噛むほどに僅かに甘さが感じられるその食感に、エレン達の食欲は更に加速する。
同様に、スープもまた絶妙な味わいだった。
鶏肉と玉ねぎ、ジャガイモをベースに長時間煮込んだそのスープは香りも良く、口に含めば含む程、鶏肉の味が口の中で踊り出す。
42 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:27:36.61 ID:hVxqWr5Do
ハインリヒ「ライスとスープもお代わりを頼む、大盛り……いや、特盛りでだ!」
アレッタ「はい、ただいま!」
ライスとスープを平らげる間に二皿目のステーキが目の前に差し出され、再びエレン達は眼前の肉目掛け、ナイフとフォークを突き立てる。
何度味わっても飽き足りぬ肉と脂の味……その深い味に、身震いすらする程の感動がエレン達を包んで行く。
そして、次第にぽつり、ぽつりと、静かにエレンはミカサとアルミンに声をかけ始めていた。
エレン「美味ぇ………うめえ……なあアルミン……世の中、こんなに美味いもんがあったんだな……」
アルミン「うん……僕も……初めて知った…………ご飯が、肉がこんなに美味しい物だなんて……知らなかった……!」
ミカサ「美味しい……美味しいっ……っ! おいしい……っっ」
43 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:29:21.83 ID:hVxqWr5Do
そして二枚目の皿も完食し、三枚目の皿を手にした時、不意に三人の頬を奇妙な感覚が伝っていた。
それは、涙……。
気付けば涙が溢れて来た。
涙を流しながら、彼等は……。
エレン「美味ぇ……ぐずっ……うめぇよぉ……っっ」
ミカサ「うん……っっうん……っっ美味しい……泣けるぐらい……美味しい……!!」
アルミン「んっ…うっっ………はぁ……っっ……涙が……止まらない……おいしい……っ」
エレン「美味え……美味ぇ……うめぇ……」
44 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:30:30.32 ID:hVxqWr5Do
これまで、何度死ぬ思いをして来ただろう。
これまで、何度目の前で仲間の死を見て来ただろう。
これまで、何度空腹を味わって来ただろう。
飢えが、渇きが、恐怖が、どれだけ彼等を追い詰め、容赦なく襲いかかって来た事だろう、そして何度、絶望に挫けそうになっただろう……。
それを思い出せば思い出す程に感じる。自分は今、生きているのだという安心感。
仲間と共に今、生を繋いでいるという、幸福感。
それ程までに、彼等は追い詰められていたのだ。
そして、そんな彼等を一体誰が笑う事が出来ようか。否、いる筈がない。
絶望の淵より生還した彼等の事を笑える者など、その場にはいる筈が無かった……。
45 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:32:38.56 ID:hVxqWr5Do
アレッタ「皆さん、あんなに泣いて……でも、すごく幸せそうに食べてますね……」
店主「ああ……へへへ、なんか、こっちも貰い泣きしちまいますね……本当、作った甲斐があったってもんだ」
ハインリヒ「それ程までに過酷だったのだろう……だが、彼等は戦い続けた……己の心が壊れる寸前まで追い詰められ。それでも、仲間を信じ、助け合い……ここまで来たのだろう」
タツゴロウ「それもまだ年端も行かぬ子供だ……死と隣り合わせの戦場で戦い続けるのは、さぞ心苦しかった事だろう」
騎士として、傭兵として時に戦場に身を置く二人にとっても、エレン達の境遇は他人事には感じられなかった。
事実、エレン達程の年齢で兵に志願し、戦い、そして散って行った者達を、ハインリヒもタツゴロウも多く目の当たりにして来た。
だからこそなのだろう、異世界と繋がるこの店で、彼等と同じ戦士と巡り合えたこの奇跡に、二人は感謝の念すら抱いていた。
ハインリヒ「店主よ、私にもステーキを頼む、勿論、付け合わせはエビフライでな」
タツゴロウ「おお、私にもテリヤキチキンとステーキを頼む」
アレッタ「はい、少々お待ち下さい!」
店主「ははは、お二人とも、ありがとうございます」
店内に活気が戻る。
そして再び、美味そうに焼かれた肉の香りが店内に漂い始めていた……。
46 :
◆kh6j.ZZqSk
[sage saga]:2017/08/27(日) 23:33:44.19 ID:hVxqWr5Do
―――
――
―
食事からしばらく、エレン達は満腹の喜びを噛み締めていた。
ハインリヒやタツゴロウ、アレッタとも打ち解け、それぞれがそれぞれの世界の話に聞き入っていた。
エレン達が未だ見た事も無い海や広大な砂漠の話、エレン達の世界の巨人に似た、凶悪な悪魔との、命を賭した戦話など。
その話の多くがエレン達を興奮させ、確かに壁の外に世界が広がっていると言う事実が、一層エレン達に生きる目的を強く抱かせる。
そして、ハインリヒ達もまた、エレンの話に深く感銘を受けていた。
壁の中の人々がどれだけ苦しめられ、エレン達がどれだけの修羅場を潜り抜けて来たのか……苦労話がほとんどではあったが、嬉々として仲間と共に過ごした日々を語るエレンの顔は、誇らしく、また勇ましくも見えた。
どれだけ世界が、国が違っても、戦士は戦士であり、人は人なのだ。
生きようとする気高き意志と、自由を求めて戦うその強さに国境は無く、変わる事がない。
その事に安心し、ハインリヒの顔には自然と笑顔がこぼれていた。
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