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神通「カリブの、海賊?」【艦これSS】
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309 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 18:55:51.47 ID:sE/Vv+Mi0
だがそのあっけにとられる彼らとは違い、
ベケットだけはその正体を知っていた。
ベケット「この怪物の名前は『泊地水鬼』。陸上基地型の特性を持つ、
深海棲艦上位個体である水鬼級の一種だ。
その発見は第十一号作戦、……セイロン沖海戦に遡る」
神通「泊地水鬼!?」
神通が珍しく声を荒げたので、天龍たちは驚いた様子で神通を見た。
ベケット「……そうだ、君にも少なからず因縁があったか?」
310 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 18:56:20.07 ID:sE/Vv+Mi0
神通「……はい。……倒したと聞いていましたが」
そう、泊地水鬼とは、最近、日英の主力をもってしてようやく仕留めた難敵。
圧倒的な制空能力でセイロン島は激戦となり、
またその方面に戦力が集中したことで、コロンバンガラ島の悲劇にもつながった。
局地的にはなるが、文字通り、洋の東西を問わず、夥しい被害をだした。
だがその末に、なんとか討伐を完了したと発表されていた。
だが、実は仕留めていなかったのだ。随伴艦を沈められ、
自身も血を吐き逃げ惑っていた泊地水鬼。
ギリギリまで日英連合艦隊から逃げ切るも、艤装の火薬機構に火が付き、
大爆発を起こした。そこまでは良かった。
しかし、爆発後、日英艦隊はその死骸を発見できなかった。
後に、コロンバンガラ島沖の戦いで、多くの艦隊を失った大本営は、泊地水鬼を討伐したと発表。
戦力をそちらに傾けて、犠牲を出して尚、敵を倒せなかったとは言えなかったのだ。
ベケットの解説に、神通の顔が曇り、唇をかみしめる。
311 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 18:56:52.72 ID:sE/Vv+Mi0
ベケット「まぁ別にこれは連合艦隊を責める話ではない。
実際、当時の艦娘たちのレーダーにかからなかったことを考えれば、
少なくとも沈没に値する致命傷を負っていたのだろう。
ソイブイを掻い潜りこの海域に来たのも、反応しない程小さな生命力だったのかもしれない」
吹雪「しかし、……それほどの大破、単身で回復などあり得ません。
時間経過とともに力を失い死ぬだけですし、万一回復しても、その瞬間ソイブイが反応して存在がバレます」
ベケット「その通り。だから、全ては一つの結論にまとまる」
ベケットは、再び赤色のペンを取り出し、地図に点を打った。
312 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 18:57:53.53 ID:sE/Vv+Mi0
ベケット「スービック鎮守府に映像を送り、撃墜された本土の航空機。
その最終通信途絶地点は、ここだ」
その点を打った海域は、竜の海域。
ドラゴン・トライアングルの真ん中であった。
ジョーンズ「……その場所には、カリプソが居る」
ベケット「その通り。しかも普通のカリプソではなく、無茶をして霊格を弱めたカリプソだ」
ジャック「そのドラゴンにカリプソが呑み込まれたって? 馬鹿な」
ベケット「そうかな。艦娘も泊地水鬼も、妖精や怨念といったオカルトを用いて動いている。
奴もカリプソも、同じ女型の精神体だ。カリプソが共鳴していることはないか?」
カリプソの神隠しの力が、泊地水鬼に引っ張られている。
同じくニンフとしての力を持ち、海に沈んだ、悲劇性の高い魂が共鳴している。
理屈は分からないでもないが、カリプソがそんなことをするだろうか。
313 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 18:58:19.18 ID:sE/Vv+Mi0
ジョーンズ「するかも知れん。あれはそういう女だ。
正確に言えば、共鳴というより、気まぐれな同情や興味、好奇心だろう」
どういう女か、という質問は誰もしなかった。
最終的に意味するところは「気まぐれな女」というところだろう。
気まぐれに人を手助けし、気まぐれに人を苦難に突き落とす。
加護を与えるも与えないも波次第、海に吹く潮風次第。それが海の女神。
ベケット「海の女神の力と泊地水鬼が融合しているとすれば、この現象にも納得がいく。
現代のレーダーや無線は妖精技術や怨念体のエネルギーを数値にして
敵の居場所を突き止めている。ここに、海を司る神格等という桁違いの
力が放出されれば、レーダーや無線の許容量を大幅に上回り、使い物にならなくなる。
レーダーがホワイトアウトしたのも、無線が落ちたのもそのせいだろう」
バルボッサ「ならば、この大嵐もカリプソのせいだな」
ジャック「あぁ、もう何もかも全部カリプソのせいさ」
ベケット「その諸悪の根源を叩けば、すべて解決。わかりやすいだろう?」
314 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 18:58:50.23 ID:sE/Vv+Mi0
ジョーンズ「待て、カリプソごと殺すというのか!?」
ベケット「問題ない。泊地水鬼の殻を破壊すれば、勝手に融合など解かれる。
そもそも我々の力では、女神を滅ぼすこと等逆立ちしてもできん」
ギブス「つまり、今からこいつを倒しに行って、
ハクチスイキとやらを殺し、カリプソを分離させれば、解決ってことだよな?」
ベケット「我々は戦略的脅威である泊地水鬼が討伐できる。
貴様らはその分離したカリプソに元の世界に返してもらえる。
デイヴィ・ジョーンズはカリプソに会える。三方一両得だ」
ジョーンズ「俺は、会いに行く為に向かうのではない!」
ベケット「わかった。では、カリプソに直談判しにいく為としよう」
315 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 18:59:30.65 ID:sE/Vv+Mi0
その言葉に、ジョーンズは納得して席に戻る。
いちいち面倒くさいなとベケットは内心で思った。
とは言え、その後ろで実に不満げな顔をしているジャックに比べれば
まだかわいいものだ。
ベケットが溜息をつく。
ベケット「何が不満かね? ジャック・スパロウ」
ジャック「不満? じゃあ聞くが、俺たちは留守番で良いのか?」
ベケット「無論、貴様らもついてこい。お前たちは作戦の要になる」
ジャック「ほら見たことか! 無理だ! 無理に決まってる!」
ジャックは、とんとん拍子でまとまっていく話を、一人青ざめた顔で聞いていた。
彼はベケットに、機が来れば最後の命令として半日のあいだ船を出すよう伝えられていた。
これを予想してのことか、それとも保険だったのかは知る由もない。
だが、今となって考えれば、この命令に従うことは死を意味していた。
316 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 19:00:41.41 ID:sE/Vv+Mi0
ジャック「この海を? 俺が操舵する、俺の船で行けと?」
ベケット「お前ならばできよう」
ジャック「あぁ、あぁできるさ。だが普通の海じゃない!
一歩海に出てみろ、頭上にはヒコウキ! 俺たちは海のド真ん中!
超非現実的だぜ!」
ジャックはベケットが何か言う前に耳を閉じ、ソファにもたれかかった。
もう何も聞かないという意思表示だ。
ジョーンズ「スパロウがイカれた」
バルボッサ「ご愁傷様」
ベケット「ジャック・スパロウ。貴様と、貴様の持ち物はこの状況を打開するだけの力がある。
素直に私に手を貸せ」
ジャック「嫌だね。勝手に戦って、勝手に死に晒せ」
317 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 19:01:20.99 ID:sE/Vv+Mi0
ヘラヘラと笑って協力を拒むジャックに、ベケットは軍刀を抜き放つ。
ベケット「貴様も死に晒したくはないだろう?」
ジャック「あ、そう。それで刺せるか? いいや刺せない。何故ならお前の作戦がパーになるからだ」
ジョーンズ「いいや、刺せるとも」
不意に、後ろからデイヴィ・ジョーンズも、ジャックの後頭部にカットラスを突き付ける。
予想外の脅しに、ジャックも固まる。
ジョーンズ「刺して、死んで、海に放り投げれば、めでたく貴様は俺の船の奴隷だ。
自由意思で聞いてやってる今をありがたいと思え」
ジャックは生唾をゴクリと飲み、冷や汗を垂らす。
そして二人に見えない様にピストルを腰から手に取ろうとするが、今度はその手にバルボッサの剣先が添えられる。
バルボッサ「俺は戻ってラム酒が飲みたいのよ。いつまでもここにいるわけにはいくまい」
これで、ジャックは完全に抵抗力を失われる。
唯一の望みがギブスだが、彼はどっちに着こうか迷った末に、剣を床に置き、両手を上げている。
ジャックへの忠誠と、自分のみの危険を天秤にかけ、これでも敵に回らなかっただけ、
まだ忠誠心があるということだろうか。
318 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 19:01:48.69 ID:sE/Vv+Mi0
ベケット「それにスパロウの船からはめぼしい積み荷が全て押収されている。
いいか、全てだ。そして私はそれを使うつもりでいる」
ジャックは驚いた顔でベケットを見て、ギブスを見る。
ギブスは申し訳なさそうな顔でうつむいた。忠誠心も、時と場所を選ぶようだ。
ベケット「何、私も積極的にそれを使う気はない。
作戦通りいけば使う気はない。そして、作戦のためにはスパロウ、君の力が必要だ。
……言っている意味は、分かるな?」
ジャックは色々考えた末、抵抗は無理だと悟ったのだろう。
がっくりと肩を落とし、周囲はようやく剣を下した。
ベケット「では、総員、作戦を説明する」
319 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 19:02:40.44 ID:sE/Vv+Mi0
ベケットの伝えた作戦は、手順はそう複雑なものではなかった。
だが、余りに型破りで、余りに博打の要素が強すぎた。
ベケット「我々の、たったこれだけの戦力で、本土・南方を蹂躙する怪物を倒そうと思えば、
恐らくこれくらいしかない」
それは分かる。しかし、それにしても、余りに、余りに信じがたい作戦だ。
もっといえば、理屈は分かるが、信頼性に欠けた。それだけ突飛な内容だった。
吹雪「いえ、……しかし」
そう言ったきり、吹雪は黙り込む。
作戦立案の分野においては、吹雪はかなり優秀である。
机上の優等生的な回答だけでなく、限られた手札での奇策もできる策略家の面があった。
そんな彼女だからこそ、反論したくてもこれしかないと思えてしまい、黙り込むしかなかった。
ジャック「ちょっと待て!」
真っ先に反論したのは、先ほど説き伏せられたジャックである。
320 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 19:03:07.70 ID:sE/Vv+Mi0
ベケット「今度何だ?」
煩わしそうな声でジャックを睨みつける。
もう話は済んだはずだ、というオーラが言外ににじみ出ていた。
ジャック「作戦はわかった。俺が重要なのも、そりゃわかった。
だけど、それだけは無理だ。そもそも作戦として機能しない」
ベケット「何故だ、お前の経歴ならこれくらいはできるのではないか?」
ジャック「だがそりゃパールに乗っていたからだ。フーチー号は悪くない船だが、
それじゃ、それだけじゃ無理だ。性能が段違いだ」
その言葉に、ベケットは少し考えた。
失念していた、という訳ではないが、彼は色々な船を操っていたことを知っていたため、
パールかそれ以外かで大きく差が出るということまで考えなかった。
ベケットは少し悩む。
321 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 19:03:33.61 ID:sE/Vv+Mi0
その様子に、しびれを切らしたのはジョーンズだった。
ジョーンズ「では、パールがあれば行けるということか?」
その質問の意図を、ジャックは読めなかった。
しかし特に反論する気もしなかったので、頷く。
それを見てジョーンズがうっすらと笑む。
ジョーンズ「よかろう」
322 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 19:04:03.96 ID:sE/Vv+Mi0
グアム諸島警備府 港//
強風と、豪雨。
波は港の防波堤を時折完全に覆いつくし、見ているものは胆を冷やした。
基地を上げて反攻作戦の準備に取り掛かっている中、
ジャックとギブス、バルボッサ、そしてジョーンズの4人は、
そんな大荒れの港に立っていた。
目の前にはフーチー号が、今にもひっくり返りそうな様子でつながれていた。
ジャック「本当なんだろうな?」
ジョーンズ「嘘はつかん」
ジャック「それが嘘だろう」
ジョーンズは、笑いながら懐からビンを取り出す。
それは、ジャックが大事にしまい続けていたブラック・パールのボトルシップだ。
323 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 19:04:32.76 ID:sE/Vv+Mi0
ジョーンズ「この瓶の呪いには、古きアトランティスの力を感じる。
私の専門外だが、これくらいなんだ。どうということはない」
バルボッサ「お前に信じがたい力があることは、伝説で知っているが……」
ジョーンズ「案ずるな! かつて全盛期のカリプソを封印する方法を
海賊長たちに教えたのはこの私だ! デイヴィ・ジョーンズ・ロッカーに
スパロウの肉体と魂を閉じ込めたのも私だ! いわば私は、封印の専門家だ」
そういうと、目を瞑り、ジョーンズはに向かって何事かを呟く。
すると、ビンの中のパールが回転し、渦に沈んでいくではないか!
ジャック「お、おい!」
ジョーン「まぁ見ていろ」
324 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 19:05:17.61 ID:sE/Vv+Mi0
すると、異変はすぐに起きた。
係留していたフーチー号も、同じようにしてみるみる内に沈んでいく。
大波の仕業か!
そう思ったジャックは見ていられないとばかりに船に走るが、
ジョーンズに触手で首根っこを掴まれる。
そして顔を近づけ、何本かの顎髭で首絞められる。
ジョーンズ「落ち着いたか?」
恐ろしい荒療治であるが、さすがにここまでされてはジャックも黙らざるを得ない。
血がすーっと頭から下がり、冷静になる。
ジャック「落ち着いた。……やめろ、これ以上は落ちる」
ジョーンズ「フン」
325 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 19:06:07.01 ID:sE/Vv+Mi0
ジョーンズは、ジャックを詰まらなさそうに地面に放った。
体勢を起こしながら、ジャックがフーチー号を見ると、船は完全に沈んでしまっていた。
ジャック「嘘だろ、なんてことを!」
ジョーンズ「よく見ろ」
すると、海の底から、嵐にも負けぬ轟音をあげ、巨大な何かが浮き上がってくる。
クジラか? その疑問は、すぐに打ち消された。
何かが、水しぶきを上げて海面に浮きあがり、
ジャックたちの目の前に姿を現す。
ジャック「――!」
日も沈み、嵐で月も隠れ、真っ暗になったなかでも、その船を感じ取ることが出来た。
船に走り、手で触る。
その船の感触は、よく覚えている。
バルボッサとギブスも、同じようにして船を調べた。
本物だ。全員が思った。
本物の、ブラック・パール号だ。
326 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 19:07:14.12 ID:sE/Vv+Mi0
ジョーンズ「私の力で一時的に、ビンの中の船と立場を入れ替えた」
考えてみれば、黒髭の魔術を、デイヴィ・ジョーンズが破っても不思議ではない。
黒髭は伝説の海賊であるが、デイヴィ・ジョーンズもまた、伝説の海賊。
それも海の神話に加わるであろう伝説だ。もはや格が違う。
しかし、そんな伝説のジョーンズでもこれは難題だったのだろう。
ジャックらに一言付け加えた。
ジョーンズ「だが、それは一時的だ。アトランティスの神々を騙し通せるのは一夜だけ。
日が昇れば、すぐにバレ、再び今と同じように沈む。次に昇ってくるのはさっきの二流船だ。
夜のうちにケリをつけろ」
ジョーンズの言葉は、三人の耳から綺麗に抜けていく。
ちゃんと聞いてはいるのだが、気もそぞろだ。
あれほど恋、焦がれた愛しのブラック・パール号。
絶望的な戦力差の今夜の決戦。
しかしこの船があれば、何処へだって行ける。何者にだって勝てる。
この一夜だけでも、彼らにとって、最高の相棒が帰ってきたのだから!
327 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 19:07:42.27 ID:sE/Vv+Mi0
328 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 19:11:44.88 ID:sE/Vv+Mi0
次回、泊地水鬼討伐戦。
20:00投稿予定でしたが、今の分が想像以上に時間かかったのでもう少し遅らせます。
多分21:00かな。頑張ります。
ついに残り半分。次の投下が最後になるはず。
329 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/15(火) 19:26:13.93 ID:tghzJL/eO
>>328
乙
>>108
以降、悉く"dock"をドッグ表記してるのはちょっと気になる
330 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 20:19:15.92 ID:sE/Vv+Mi0
あ、確かに「ドック」ですね!
これだとワンちゃんですね、恥ずかしい。
幸か不幸かもう出てこない単語ですので、
皆さま脳内変換の程、よろしくお願いいたします。
331 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 20:20:18.88 ID:sE/Vv+Mi0
とりあえず予定通り21:00から始めます。
しばしお待ちを。
332 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/08/15(火) 20:56:41.50 ID:cWYkInCNO
>>155
このセリフをバルボッサに言ったら廃人になるwww
333 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:00:55.27 ID:sE/Vv+Mi0
>>332
ヴァージルと違ってバルボッサは割とイケイケですからへーきへーき。
小ネタはちょくちょく入れてるつもりなので、クスっと笑ってくださるとうれしいです。
334 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:01:53.98 ID:sE/Vv+Mi0
では、再開と行きましょう。
多分前半より文字数は少ないはずですけど、
量があるので時間はかかります。
どうぞ、最後までお付き合いくださいませ。
335 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:02:48.00 ID:sE/Vv+Mi0
太平洋 海上//
暦で言えば、今日は満月のはずだ。空を見上げる神通はそう思った。
しかし、黒く分厚い雲と雨に覆われていては、月の光など一つも差し込んでこなかった。
周りには島も、人工物もない。そこは数々の夜戦を経験した神通さえ戦闘は覚束ないような、
明かり一つ存在しない漆黒の海だった。
そんな海を、一隻の海賊船が行く。
336 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:03:52.71 ID:sE/Vv+Mi0
タ級「ウ゛ゥ……」
漣「ひっ……」
天龍「大丈夫か?」
漣「だ、大丈夫、大丈夫……」
手も足も、喉も震えてまともに声が出せない漣。だがそれは幸運ですらあった。
闇の中、四方から深海棲艦のうめき声が聞こえてくる。
暗闇に多少慣れた目でじっくり辺りを見渡すと、そこには駆逐、軽巡、重巡、戦艦、空母と、
深海棲艦の一大艦隊勢力が控えていることが分かる。敵はこの嵐の海を哨戒し、
どんな侵入者も寄せ付けないようにしている。
もし漣が怯えで大声を上げていたら、瞬く間に滅多撃ちの目にあっただろう。
337 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:04:20.85 ID:sE/Vv+Mi0
ベケット「だが、これだけの軍勢が攻撃に参加せずに控えているのだ。
本命はこの先にいるという証拠だ」
ベケットが小さな声で伝える。それを聞いて吹雪も頷く。
この兵力でどこかの基地を襲えば簡単に陥落するだろう。
そんな数を遊ばせているのは、そんな理由があるからだ。
338 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:05:01.33 ID:sE/Vv+Mi0
だがそんな数に任せた防御も、海賊たちには通用しない。
恐らくどこかの基地の帝国艦隊が討伐に向かえば、一瞬で藻屑と化しただろう。
それほどの戦力を、海賊船は奇跡的に潜り抜けていく。
この光景には、艦娘たちも仰天した。
ベケットから作戦を聞いたときは半信半疑どころか完全に正気を疑った。
忠実な吹雪ですらそうだった。それはあまりにも荒唐な展望で、無稽な策だった。
理屈ではそうあるかもしれないと思いはしたが、通じるとは思っていなかったのだ。
ジャック「ざっとこんなものかな?」
ベケット「悪くないな」
作戦を立案したベケットは自身のこもった表情でそう言った。しかし、内心は成功にほっと胸を撫でおろしていた。
本当ならば、もっと完璧な作戦を考えたかったが、泊地水鬼の攻撃がその時間をくれなかった。
無理に考え出したこの策は、ジャックたちの腕によるところが大きく、そこが不確定要素であったが、
その期待を、充分以上に超えてくれたのである。
海賊たちを乗せたブラック・パールは、月光さえ射さない暗い海を
静かに静かに、闇夜に紛れて進んでいく。
339 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:05:42.40 ID:sE/Vv+Mi0
ブラック・パール号//
船が進んでいくと、波が徐々に高くなり、雨風も強さを増してくる。
パールは嘘のように船体を上下させ、軋んだ音を上げる。
嵐の中央に近づいている証拠だ!
気づけば、辺り一帯に山の様にいた深海棲艦たちも完全にいなくなっている。
なんと一戦もせず、親衛隊ともいえる敵軍の裏側を突いた。
少し相反する表現だが、「大方の予想に反して」「想定通りに」、
彼らは作戦の第一段階を成功させたのだ。
それを裏付けるように、更に波と嵐の強さが増す。
しばらくは船室で身を潜めていたジャックだが、急に顔を上げると
大粒の雨に打たれながら、滑らない様に船首まで走っていく。
そしてそのまま船から身を乗り出すようにして前を見た。
340 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:07:03.81 ID:sE/Vv+Mi0
バルボッサ「見えるか!?」
ジャックの様子に驚いて、慌てて追いかけてきたバルボッサ。
しかしジャックは首を振る。
ジャック「いいや、まだだ」
遅れて他の海賊たちもジャックの元に駆け付けた。
ギブス「見えたのか!?」
ジャック「いいや、まだ」
ジョーンズ「来たかぁっ!?」
ジャック「まだ、まだ!」
ベケット「奴はどこだ!」
ジャック「待て、待て、待て!」
341 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:08:01.87 ID:sE/Vv+Mi0
興奮していく船首付近。
五人は必至で目を凝らす。真っ暗な中、これだけ船が揺れていれば
見えるものも見えなくなって当然だ。泊地水鬼がいるのか、居ないかもわからない。
バルボッサ「何処だ……!!」
それでも、見つけなければ始まらない。
四人は何とかして見つけようと必死だ。
ジャック「西だっ!」
一人、ジャックを除いて。
全員が声に反応し、ジャックを見る。
そして確信を得たように西の方角を向く。
そこには、言われなければ気づかないような、薄く、大きな敵影が見えた。
342 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:08:38.96 ID:sE/Vv+Mi0
ベケット「戦闘準備だ!!」
ベケットは急いで踵を返し、艦娘たちに大声で叫ぶ。
嵐の勢いは絶えず増し、もはや声で居場所を知られることはないだろう。
バルボッサ「さぁ、パールよ進めぇ! いざ、我らを仇なす脅威の下へ!!」
敵影を見るや否や、バルボッサがマストを操り、完全に風を捕らえる。
その推進力を活かすため、ジャックは舵を目いっぱい回した。
揺れは上下に加えて左右まで加わり、船全体がシェイクされる。
ベケット「ぐっ……!」
ベケットは落とされないように、船の船縁にしがみつく。
艦娘たちも急な旋回に大慌てとなる。
343 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:10:11.21 ID:sE/Vv+Mi0
ギブス「さぁ、行こうぜ! また一つパールの伝説を作ろう!」
ジョーンズ「待っていろカリプソォ! 俺はお前に屈服なぞせん!」
しかし、信じがたいことに、海賊たちはそんな動き回る足元など一切気にせず、
その暴れる甲板の上に、嬉々として立っていた。
足腰が強いとかバランスがとれているとかという問題ではない。
長い間、ほぼ毎日、海の上を船で過ごしていた連中だ。
彼らは最早、艦娘たちとは違う意味で、船と一体化していた。
船は、見失うことなく、敵の下へ一直線に。
そして、
344 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:10:47.68 ID:sE/Vv+Mi0
ジャック「いよう、怪物」
見つけた。
距離は10メートルもない。ここまで近づけば、敵の姿も分かる。
夕暮れ時にも見たその巨体、その姿は、間違いなく、
神通「……泊地水鬼!」
345 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:11:18.96 ID:sE/Vv+Mi0
泊地水鬼『ウゥ、アァ……』
巨大な怪物を目の前にして、ジャックの心が震える。
彼は利に聡く、賢しい人間だが、なにより冒険好きなのだ。
ジャック「叫べ! ヨーホー!!」
その声は甲板に響いた。
ギブス「ヨー、ホー!」
バルボッサ「ハハハッ! ヨー、ホォー!」
ジョーンズ「ヨー! ホー!! 満足かぁスパロウ!!」
346 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:12:17.74 ID:sE/Vv+Mi0
ジャック「ベケットも! ほら!」
ベケット「不要だ!」
ジャック「必要だ! 絶対に!」
バルボッサ「その通り。必要だとも!」
まさかバルボッサまでジャックに賛同してくるとは思わず、
観念してベケットも観念して「ヨーホー」と叫んだ。
それをみてジャックは満足そうにした。
この窮地を、この海賊たちは楽しんですらいた。
ジャック「やればできるじゃないか!
いくぞぉ野郎ども!」
ジャックは舵をギブスに託し、甲板中央に移る。
戦略的な意味合いなど無い。ただその瞬間を特等席で見たいがためだ。
347 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:13:01.20 ID:sE/Vv+Mi0
天龍「来るぞっ! 装填っ!」
吹雪「はいっ!」
漣「っ!」
神通「……」
旗艦である天龍の一声で全員が装填。戦闘態勢に入る。
天龍「来るぞ、来るぞ……!」
敵は強大だ。本来ならば、自分が全盛期の時に、この10倍の部下をもらって戦っても、
恐らく万に一つも勝ち目のない相手だ。
そんな相手に、これから立ち向かう。
348 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:13:34.51 ID:sE/Vv+Mi0
天龍「フゥー……」
天龍が深く呼吸をして意識を落ち着かせる。
案ずるな。立ち向かうが、真正面からではない。
天龍「あぁ、大丈夫。もう、誰一人死なせはしねえ……」
嵐雨の隙間から、戦艦水鬼の相貌が見えた。
文句なしの有効射程!
349 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:14:01.90 ID:sE/Vv+Mi0
天龍「撃ちーかたー始めえーっ!」
天龍の絶叫をかき消す一斉放火。
泊地水鬼『!』
動揺を突いた不意打ちは成功し、敵胴体に爆炎を上げさせる。
350 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:14:52.69 ID:sE/Vv+Mi0
戦艦水鬼『グウッ……!』
苦悶の声をあげ、嵐の中のパールをにらみつける。
ようやく、戦艦水鬼もこちらを認識できたようだ。
戦闘が始まる。
351 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:15:29.00 ID:sE/Vv+Mi0
ギブス「船長ぉー! 敵は堪えちゃいませんぜぇー!」
バルボッサ「かぁまわん! 敵影が原型を留めぬまで撃ち続けろ!」
ジョーンズ「殺せ殺せぇ! こちらが死ぬか相手を殺すか、選ぶ余地など無いぞぉ!」
戦場で狂喜している海賊たちの声が耳に入ってきた漣は顔を顰める。
漣「何を盛り上がってんですかあの海賊共はっ!」
その一言を耳ざとく聞き逃さなかったジャックは、
にんまりと笑みを浮かべて言った。
ジャック「お利巧ぶるな、お前もこの船に乗る以上海賊だ!
叫べ! ヨーホー! ヨー! ホー!」
352 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:16:38.86 ID:sE/Vv+Mi0
漣「あぁくそ! くそっ! 死ぬもんか! 死ぬもんか! ヨーホーっ!」
ジャック「そうだ、上出来だ! その意気だ!」
ジャックが周りを見渡す。
荒れた海、荒れた心、荒れた空、荒れた戦場。
敵も味方も、誰も彼も、何一つ穏やかならぬその夜こそは、彼ら海賊の生きる場所。
ジャック「諸君! 海賊の夜へようこそ!」
353 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:17:06.62 ID:sE/Vv+Mi0
四方八方に荒れる波に乗って、パールは再び泊地水鬼に接近する。
敵の動揺を突くには、余裕を与えてはならない。
ベケット「今だっ!」
天龍「撃てーっ!!」
天龍の号令で、再び至近弾を与える!
敵は目と鼻の先。外す方がおかしい。四人の砲撃は泊地水鬼の外殻に直撃する。
だが、それだけにとどまらない。
天龍「まだだ! やれ! 撃てっ!」
漣「っ、あぁあ!!」
吹雪「当たってー!!」
時間にして数秒。海上戦闘においては一瞬といえるその刹那に、
彼女たちは止まることなく次々と砲撃を食らわせていく!
たった一回の交差。それだけの間に、なんと一人5発。合計20発近い砲弾を放った。
泊地水鬼の胴体が、爆炎に包まれる。
354 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:17:43.92 ID:sE/Vv+Mi0
ジャック「ホッホー! 絶景だ!」
ジャックはその派手な爆発に両手を上げて興奮している。
神通は、自分たちが放った砲撃に驚いていた。
一瞬の一斉連射砲撃は、前線の長かった神通でさえ、見たことのない威力だった。
通常、彼女たちの戦いは、期せずして交互の撃ちあいになり、まるでターン制のような戦闘風景になる。
砲弾を撃ち出すには相当な火薬が要る。たった一発の砲撃でも、一瞬で砲身は超高熱を帯びる。
艦娘の艤装は軍艦の冷却機能よりもずっと優れているが、しかし連射などしては、砲身が瞬く間におしゃかになる。
こんな攻撃は普通はありえない。
当たり前だが、こんな攻撃をしていては、よほど運がよくなければ、一瞬で艤装が使えなくなり、
後は敵の的になるだけだ。
そして大して運のよくない彼女たちは、その全員がこの一回の攻撃で艤装を故障させていた。
ありえない攻撃をした代償だ。あとは死が待つのみ。
天龍「よし! 総員、交換!」
355 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:18:15.85 ID:sE/Vv+Mi0
だがそれはありえない作戦によって覆される。
天龍の一言で、艦娘たちは故障した艤装を背中から降ろすと、
船の外に投げ捨てた。
天龍「急げよ! 次の交差が来るぞ!」
神通「問題ありません」
漣「ふ、吹雪ちゃん、装着手伝って!」
吹雪「は、はい! 落ち着いて!」
彼女たちは、手近な艤装を持ち上げ装着する。
今、天龍達がいるのはブラック・パール船内の下層、船底部分。
356 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:18:45.44 ID:sE/Vv+Mi0
このエリアはいつもは大砲が積まれていたが、今は端に鎖で横にまとめられている。
そしてその大砲や火薬樽の積まれていた場所に、びっしりと艦娘用の艤装が並んでいた。
巨大な工作部・格納庫から取りそろえた彼女たちの同型の艤装。数はまちまちだが、
パール船底の床を埋め尽くす程度には揃っていた。
ベケット「もう一度寄せろ!」
ギブス「アイ、少尉!」
パールは真っ暗になった海で旋回する。
あれほど巨大な泊地水鬼だというのに、一度視線が外れれば、
この数歩先の見えないこの海では見失ったも同然だ。
そして、それは敵もまた同じ。であればよほどのことがなければ再び交差することはまずない。
357 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:19:37.41 ID:sE/Vv+Mi0
ジャック「ギーブス! もうちょい取り舵だ!」
ギブス「アイ、船長!」
だが、幸運なことに、パール側には完璧な索敵能力があった。
それは、ジャックの持つコンパス。
そのコンパスは、持ち主の真に望むものを指し示す。
今、手にしているジャックの望みは、元の時代への帰還。
であれば、針はカリプソを指し示す。そう、泊地水鬼と融合したカリプソへ。
パールは、誰もが動けなくなるような黒の帳に覆われた海を、
迷うことなく真っすぐ、泊地水鬼の下へ進む。
ジョーンズ「おぉ、カリプソ!」
358 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:20:12.70 ID:sE/Vv+Mi0
三度、船が交差する。
泊地水鬼の身体を簡単に説明すれば、女性の上半身と、両手足の生えた巨大な竜の口が付いているといった形だ。
ただでさえ真っ暗なその嵐の海で、巨体故の死角となる位置からひたすら撃ち込まれては、泊地水鬼とて捉えきれない。
天龍「行くぞぉ!」
天龍の掛け声も、既に前線の頃のものになっていた。
漣や吹雪といった戦闘経験の薄い者たちも、少しばかり意識が戦闘に溶け込んでいく。
天龍「引き付けたら、全員で一点を突くぞ!」
4人は、覗き窓の様に開いている砲門から泊地水鬼を注視する。
そこは本来、カルバリン砲が覗く穴であったが、今は未来の艦砲が睨みを利かせている。
359 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:20:38.98 ID:sE/Vv+Mi0
天龍「撃てぇっ!!」
艤装の内部エンジンをフル回転させ、砲撃と同時に高速の装弾を行う。
急激な挙動と艤装全体の高熱により給弾機関は悲鳴を上げる。
今度は一人頭七発の短期砲撃。慌てて海に放り出した艤装は、ジュっという音を立てて沈んでいく。
漣「っ! 効いてます! 効いてますよこれ!」
漣が歓喜の声を上げる。
指さす先の泊地水鬼は、うっすらとだが苦しそうに身体をよじらせている。
天龍「行ける。行けるぞ!」
360 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:21:15.54 ID:sE/Vv+Mi0
太平洋 海上//
泊地水鬼『ウゥ゛ゥアゥゥウゥ……!!』
相変わらず言語らしい言語を発しない泊地水鬼。
ベケットのデータでは、セイロン島の戦いでは流暢に喋っていたとある。
瀕死の身でカリプソと融合した影響だろうか。精神が定まっているように思えない。
泊地水鬼『アゥウァア!!』
だがそれでも、自分が今攻撃されていることは分かるのだろう。
泊地水鬼は再び反転して攻撃を仕掛けてこようとするブラック・パールを
破壊するため、その巨腕を持ち上げる。
361 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:21:42.86 ID:sE/Vv+Mi0
真っ白で太いその腕は、クジラ程度はあった。
硬度は鋼鉄に近く、これで殴ればパールなど一瞬で海も藻屑だ。
泊地水鬼『ア゛アア!!』
そんな一撃必殺が振り下ろされた!
ジョーンズ「クハハハ! どこを見ている!!」
天龍「斉射!」
泊地水鬼の攻撃は、パールとは真逆の方向へ落ちる。
その隙をついて、がら空きになった背後から、再び限界を超えた連射が突き刺さった!
362 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:22:09.42 ID:sE/Vv+Mi0
泊地水鬼『ウ゛ウゥ゛!!』
吹雪「凄い……!」
吹雪がそう思うのも無理はない。
訓練課程の座学を優秀に修めた吹雪だが、……否、優秀な吹雪だからこそ、
こんな作戦はまるで思いつかなかったし、聞いた後も上手くいくとは思っていなかった。
363 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:22:54.42 ID:sE/Vv+Mi0
作戦の概要は単純だった。
ブラック・パール号に艦娘を乗せ、そこから攻撃するというもの。
そうすればそこに大量の艤装を積み込めば、砲撃に集中できるし、残弾数も気にしなくて済む。
艦娘とは、軍艦の攻撃力と耐久力に、人の機動力と少ない被弾面積を併せ持った存在。
今彼女たちが行っている作戦は、艦娘の本来の戦略的存在意義を否定した、
旧来の砲撃戦闘そのものであった。
しかしその攻撃性の高さは、通常戦闘の数倍はあった。
泊地水鬼『アァウ゛ゥ゛!!』
漣「よっしゃ! 外れた!」
天龍「次だ! 撃てぇぇっ!」
364 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:23:31.77 ID:sE/Vv+Mi0
その効果は防御にも及ぶ。
艦娘にも、戦闘には電探が用いられる。
レーダーなしの有視界戦闘などほとんどなく、目視できる距離に達する前に敵の居場所を突き止められる。
艦娘ならば妖精の存在に反応して各個の存在を把握できる。
それは敵の深海棲艦もそうだった。艦娘を同種のレーダーで捉えてくる。
故に、カリプソの女神としての神性が妖精を上回ることで、艦娘はジャミングされ、
一方的に位置が敵に知られる状況は、現代戦闘において泊地水鬼に圧倒的優位があった。
当たり前だが、そんな状況では勝負にすらならない。
それを突破できたのも、彼女たちが船に閉じこもっていたおかげだ。
妖精を探査するそのレーダーは、海を行く木製の帆船には反応しなかった。
また、巨大な鉄の船とは違い、エンジン音もない。
嵐の中、見つけられるものではない。
365 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:25:02.19 ID:sE/Vv+Mi0
泊地水鬼『ウ゛ゥ゛!! ア゛ァ゛!!!』
泊地水鬼が血走った目でパールを探す。
パールは既に泊地水鬼の下を離れ、暗闇を旋回している。
夜戦に慣れた帝国海軍と、嵐を旅する海賊たちの容赦ない目が、泊地水鬼に集まる。
この暗黒の中、隙が生まれれば、またブラック・パールは闇に乗じて襲ってくるだろう。
それを防ぐには、泊地水鬼は先にパールを、目視して叩き潰すほかなかった。
しかし、それも不可能である。
ブラック・パールには二つの逸話がある。
一つは、パールは追い風においては、カリブ海最速。
そしてもう一つは、パールは暗闇で捉えられないというものだ。
かつて焼け焦げ、真っ黒になったパールの船体は光一つ跳ね返さない漆黒。
その黒は闇夜に紛れる。そうなれば、だれ一人として見つけ出すことはできない。
ましてやこの嵐雨だ。雷一つないその闇の帳の内側は、ブラック・パールの一人舞台である。
366 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:25:36.28 ID:sE/Vv+Mi0
泊地水鬼『!』
ジャック「後ろだマヌケめ」
天龍「撃ぅてええぇっ!!!」
作戦の効果は、極めて良しと言えた。
367 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:26:48.70 ID:sE/Vv+Mi0
泊地水鬼『ア゛アァア゛ゥァアゥア!!!!』
泊地水鬼から、血が噴き出す。
その大量の血は海に零れ落ち、ドポンと音を上げる。
吹雪「凄い……」
自分の撃った砲弾が、残さず泊地水鬼のどてっぱらに突き刺さり、炸裂する。
作戦通りとはいえ、この結果は、凄い。
しかし、吹雪は思っていた。
作戦の理屈は分かる。船で艦娘を運び、ばれずに海を走り回り、
ヒットアンドアウェイを繰り返す。
368 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:27:15.50 ID:sE/Vv+Mi0
しかし、実行となると話は別だ。
計器一つ満足に動かない異常力場の中、すぐ先の海の視界確保すら困難な暗闇で、
恐ろしく激しい荒波が船を揺らす。
こんな海では、現代の通常艦も通常に動けまい。
歴戦の艦娘ですら、機動力を落とすだろう。
そしてそうすれば、泊地水鬼の餌食だ。
つまり、この作戦は、理屈はできていても、土台無理な話だった。
369 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:27:41.14 ID:sE/Vv+Mi0
だが、あの海賊たちはやった。
この異常な海を、当たり前の様に超えて見せた。
視界ゼロのこの荒波を、我が物顔で進んでいく。
速度なんて、落とす気配はまるでない。
吹雪「あの海賊たち、いったい……」
吹雪は知らない。彼らの冒険を。
この程度の海は、幾度となく超えている。
370 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:28:43.34 ID:sE/Vv+Mi0
この海賊船は、この未来の船に比べれば、どの点を取っても劣っているだろう。
だが、その劣っている船に乗っていたからこそ、船員たちの能力は異能とも呼べる域にある。
風を読み、闇を見渡し、波を乗りこなし、船を身体の一部の様に操る。
それは、レーダーや各種機器の進歩によって必要なくなった技能。
今、どの船乗りも白旗を上げるこの海を渡ることが出来るのは、
きっとそれらを当たり前のように身に着けていた彼らだけだ。
吹雪「……」
恐るべき海を進み、数多の敵船と戦い、神話の怪物をうち倒し、世界の果てを抜け、
あらゆる伝説と出会い、あらゆる困難を乗り超えた、彼ら。
泊地水鬼を目の前にして、恐れ一つなく笑って剣を振り上げる彼ら。
この世界で唯一、この戦場に立つことができた彼らは、いったい何者なのだろう。
371 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:29:12.12 ID:sE/Vv+Mi0
泊地水鬼を超える悪の存在か。
人々を救う万夫不当のヒーローか。
いや、きっとどちらでもない。
ならばそう、海賊。
彼らは海賊。
彼こそが海賊!
372 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:29:39.87 ID:sE/Vv+Mi0
373 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:30:07.13 ID:sE/Vv+Mi0
ブラック・パール号 船内//
1時間を経て、夜が更に深まる。
嵐はまた激しさを増し、視界は悪化する一方だ。
泊地水鬼『グ、ウ゛ウゥ……』
吹雪「神通さん、……これ」
神通「……えぇ、このまま勝てるかもしれません」
戦況は未だに吹雪達側の優勢であった。
374 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:30:39.31 ID:sE/Vv+Mi0
太平洋 海上//
一方的な攻撃に晒された泊地水鬼は、
自身の内側に籠ったカリプソの魔力を吸い上げる。
泊地水鬼『ウ……ググ!』
警戒と攻勢に全力を尽くしたのだろう。
泊地水鬼はもう神隠しの力で深海棲艦を召喚することはできない。
ストックを失ってしまっていた。
だが、もう少し低級の、他の物なら呼び出せるかもしれない。
海で死んだのは深海棲艦だけではない。
泊地水鬼は、文字通り格の違うカリプソの力を使う。
375 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:31:06.01 ID:sE/Vv+Mi0
ブラック・パール号 甲板//
ザブリ、ザブリ、と大雨の音に混じるようにして、海から音が聞こえる。
甲板を陣取る海賊たちが周りに目を向けると、海からボロボロの姿をした人間たちが這い上がってくるのが見えた。
肌は青白く、足取りも不安定。目は青白く発光し、明らかに尋常のそれではなかった。
バルボッサ「ゾンビ共が現れたぞぉ!」
バルボッサは操船に重きを置いていた剣を戦闘用に構えなおす。
ジャック「あれ、お前んとこの部下じゃないのか?」
ジョーンズ「ハッ、俺はあんな趣味の悪い部下は持たん!」
ベケット「怨念によって半深海棲艦化させたのか! 泊地水鬼め、人を亡者に変えたか!」
376 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:32:00.79 ID:sE/Vv+Mi0
そう、泊地水鬼が引き上げたのは、海で沈んでいった無念、怨念。
それは船だけではない。人とて、当然そういった思念がある。
泊地水鬼は、カリプソの力でそれを無理やり半蘇生させ、海底から引っ張り出したのだ。
ギブス「船長! 奴ら銃持ってるぞ!!」
はっとして全員が亡者たちを見る。軍刀を抜き放っている前線の後ろで、
銃を手にしている隊がいくつもいた。
ギブス「おい来るぞ!」
亡者艦長「ゥ、ガァ!」
ベケット「退避!」
ひときわ階級の高そうな亡者が手を振るう。ベケットに言われるまでもなく、
危機を察知した海賊たちは皆射線から離れようと甲板の飛び伏せた。
それでも明らかに対応が遅く、重症は必至であった。
377 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:32:27.83 ID:sE/Vv+Mi0
亡者部下「ゥオオオオォ!」
亡者艦長「ゥオオォォォオオオ!」
ジャック「な、なんだ?」
が、危惧した銃弾は全く飛んでこず、亡者はあろうことか銃身を両手で持ち上げ雄たけびを上げていた。
銃を撃とうとする気配はまるでない。
ギブス「アイツら、銃の使い方、知らないんじゃ?」
ギブスに全員の目が向く。
378 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:32:53.65 ID:sE/Vv+Mi0
ベケット「水圧で頭がやられたか」
バルボッサ「死して心が壊れたか」
ジョーンズ「底知れぬ暗闇に意思が折れたか」
ジャック「ま、どれでもいい」
ちょいちょいと敵を指さす。亡者の雄たけびは拍をとり、合わさっていく。
さながら戦いを前にする蛮族である。意気が燃え上がり、目の発光が一段と増す。
ジャック「来るぞ」
いうや否や、亡者達が武器を片手に、四方八方から突っ込んできた。
ジャックたちは、だれが指示するでもなく、全員がバラバラに敵へと突っ込んでいった。
379 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:33:19.80 ID:sE/Vv+Mi0
次々と荒波から這い出て、船をよじ登ってくる亡者たち。
剣戟の音が響き渡る中、敵の一群を真っ先に抜け出したのはジャック。
彼の目的は敵殲滅ではなく、船の操舵である。
泊地水鬼の目から逃れるため、そして船側面にとりつく夥しい敵を振り落とすため
面舵に、取舵に、船を大きく動かす。
下では艦娘たちが次々に砲弾を放っている。
至近距離から攻撃を受け、鈍い動きをしている泊地水鬼は、未だに暗闇のパールをとらえられないでいる。
蟻が巨象を見つけるのは簡単だが、巨象の目には、蟻など塵埃に過ぎない。嵐の夜であれば猶更だ。
だが、巨象にかかれば、蟻の抵抗力など、これもまた塵埃程度だ。見つかれば死。捕まれば死。
ジャックは船を守るため全力で舵を回す。
380 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:34:13.30 ID:sE/Vv+Mi0
ブラック・パール号 前方甲板・前方//
大きなガタイから繰り出される剣戟は、その辺の海賊よりも強かった。
軍人として、海賊として、長く過酷な海上に身を置いたギブスは、この程度の劣勢など気にも留めなかった。
軍刀をもった、元は制服組であったであろう亡者が寄ってくる。
ギブスは敵が刀を振り上げる前の、出鼻の腕を蹴り飛ばし、体勢の崩れた亡者の首をはねる。
続いて小銃を、ホッケースティックの様に鈍器にして殴りかかってくる亡者に対し、
ギブスは剣を胴目掛け投げつける。剣はやすやすと貫通し、船に刺さり、亡者は磔になる。
亡者「アァ……!」
武器をなくしたギブス。敵はまだまだ視界いっぱいにいる。
にじり寄ってくる亡者に、ギブスは距離を保ちながら後ずさりする。
しかしすぐに木箱に退路を断たれる。
381 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:35:12.64 ID:sE/Vv+Mi0
亡者「アァァ!!!」
そんなギブスに亡者が殺到する。だがギブスは、さながらジャックの様に、ニヤリと笑うと、
木箱からなにかを取り出した。それは大好きな機関銃であった。
ギブス「うおぉぉぉぉおあぁ! はっはああぁーーーっ!」
雄たけびを上げながら機関銃を連射させる。3点トリガーなどという無粋なものはない。
照準や熱など、武器の継続性に関することは何一つ頭にない。
豪快にして、享楽的で刹那的。そして強い好奇心。そんな海賊としての側面と、
圧倒的にして特別な力が、ギブスの心の奥底に眠る、トリガーハッピーとしての性格を目覚めさせた。
ギブス「どうしたどうしたゾンビ共! 俺を倒したかったらクラーケンでも呼んできな!」
382 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:35:53.28 ID:sE/Vv+Mi0
そして性格だけでなく、才能も目覚めさせていた。通常命中率の悪いフルオート射撃を、
ギブスは銃口を上げることなく、水平に振り回し、横一列に敵をなぎ倒していった。
ギブス「イカ野郎が無理ならタコでもいい! サメでも来い!
強いならエビでもカニでもなんでもいいぞ! ハッハッハ!!」
恐らく、ジャックですら見たことのない歓喜の混じった笑い声を弾けさせるギブス。
そんな一方的な虐殺は、持ち込んだほとんどの機関銃を撃ち尽くすころには終わり、
ギブスのいる前方甲板に乗り込んだ亡者は全滅していた。
木箱を覗くと、あれだけあった機関銃がもう2丁しかない。
敵がいなくなったことで少し冷静になったギブスは息絶えた亡者から剣を奪い、
いそいそと腰に付けた。
流石に調子に乗りすぎたと、冷静になって恥ずかしさがこみ上げた。
383 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:36:18.88 ID:sE/Vv+Mi0
ブラック・パール号 前方甲板・後方//
亡者「ウ゛ゥ……」
ベケット「さて……」
手持ちの拳銃を撃ち尽くしたベケットは、不要とばかりにそれを投げつける。
上手く亡者の顔面に直撃したが、一瞬ひるむだけで、効果はほとんどなかった。
ベケット「……」
ベケットは軍刀を抜き、左右から寄ってきた亡者を鋭く斬りつけ、その勢いのまま、
目の前の敵に切りかかる。
亡者部下「グ、アァ!」
ベケット「っ!?」
斬り殺しにかかった一撃は、亡者の軍刀にいなされる。
あきらかな知性ある動きに一瞬動揺するが、ベケットは落ち着いて距離を取る。
384 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:36:44.35 ID:sE/Vv+Mi0
全身を見ると、他の亡者たちと同じく死者であるように見えるが、多少衣服の
劣化が少ない。推測であるが、恐らくはまだ沈んで間もないのだろう。
最近起きた軍艦の遭難事件の被害者の一人だろうか。
亡者部下「……」
知性のある亡者は、軍刀を正眼に構える。間違いない。この亡者は知性がある。
そう確信するベケット。そして、この亡者は剣道の有段者だとも推測した。
日本に来て、軍人として生きたベケットには、それが分かった。
ベケット「……」
そしてベケットも、同じように軍刀の切っ先を正眼にする。
剣道の、最も基本にして隙の少ない構え。ベケットは腰を落として相手の動きを待つ。
385 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:37:32.48 ID:sE/Vv+Mi0
開始の合図はない。
不意を突くように、相手がすり足で身体を左にずらす。
他の亡者のような千鳥足では断じてない。
ベケットも同じようにして動き、対角線上に動いていく。
前後、左右、せわしく足を動かすが、上半身にブレはない。
亡者が右足を上げる。
ベケットは軍刀を横にして、頭を防御する。
何歩かあった間合いをつぶすようにして、全体重を乗せた面の一撃が振り下ろされる。
ベケットは刀の切っ先を下にし、勢いに逆らわない形でそれを流した。
もし足を上げた瞬間に防御に移っていなければ、今頃頭蓋骨が半分になっていただろう。
互いに面も防具もない。当たれば一貫の終わりだ。
386 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:38:34.81 ID:sE/Vv+Mi0
しかし、そんな状況でも、亡者は攻撃の手を緩めない。
奇声を上げて小手を狙う。ベケットが反撃しようとすると、即座に刀を返し、そのまま面を突き刺してくる。
無理やり身体を動かして避けると、また全体重を乗せて振り下ろしてくる。
倒す隙はある。しかし相手の命を捨てるような怒涛の攻撃に、
ベケットの剣は後手に回っていた。亡者だから命に執着がないのだろうか?
いや、そうではない。いるのだ、世界には。目先の何かに捕らわれて、
大局的な利益や、命さえも秤に乗せることができる輩が。
ベケットは知っている。かつてベケットが命を落としたのも、そのせいだったのだから。
そういう男が、ベケットにとっての天敵なのだ。
ベケットは自嘲するように笑う。
亡者がにらみつける。
387 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:39:01.46 ID:sE/Vv+Mi0
ベケット「構えろ、海賊」
かつては同じ軍人だったのだろう。しかし、海を脅かす敵となれば、すべては賊であった。
ベケットの声に応じたのか、亡者は再び正眼に構える。
大してベケットは、軍刀を高く掲げ、上段に構えた。
隙が多く、上段者になって使いこなせる構えである。
しかし、勢いと攻撃性、速度は、五方の構えの中で最も高い。
ベケット「ゆくぞ」
勢いと体重を乗せて突っ込む。有段者から見れば隙だらけである。
一撃をいなして、その隙に首を斬って終わる。亡者はいなすために防御に構える。
388 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:39:32.05 ID:sE/Vv+Mi0
しかし、剣が重なるや否や、ベケットは突進の勢いを殺さず、そのまま相手に体当たりする。
驚く亡者の剣を鍔迫り合いの要領で抑え、足を払い、甲板に背中から倒す。
攻撃は止まない。圧倒的に体勢不利になった亡者相手の喉目掛けて強烈な突きを放つ。
頸椎を傷つけたのか、敵の動きが弱る。運動機能を麻痺させられなかったベケットは
サッと刀を喉から抜き、敵の腕を斬りつけ、筋肉を切断。動けなくなった敵の股間を
思い切り踏みつけ、意識を奪った。
剣道、というには明らかに邪道。武道というより武術。
今は前線に配置されてる元皇宮護衛官から習った上官に習った技、というまた聞きの様な技だったのだが、
練習を欠かさず行っていたからか、一連の動きをスムーズに行えた。
戦時の混乱の中でも、陛下を守る為に磨き上げた殺しの技術。
艦娘の様に海で戦うことはできなくても、人は、人として戦うための技術を研鑽しているのである。
文字通り、命を懸けて。
389 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:39:59.13 ID:sE/Vv+Mi0
さて、誤解されないように補足しておくが、確かにベケットは命を秤に乗せることができる者にやられた。
しかし、ベケットもまた、何かの為に命を秤に乗せることができる者である。
ウィル・ターナーが指揮するダッチマンとジャックの乗ったブラックパールに挟まれたとき、
ベケットには十分反撃のチャンスがあった。彼が乗るエンデバー号は文句なしの一等艦。
当時最大の攻撃兵器で、その砲門数は先の2艦を合わせても余りある数字だ。
撃ち返せば、重症を負いつつも、彼らを海の藻屑とすることができただろう。
しかしベケットはそんな絶体絶命の折り、なにもしなかった。
彼らと相打ちしても、後ろには多数の海賊がいる。
英国としては、海賊と敵対し、力を弱め、他国に有利を取られるわけにはいかない。
最悪の場合、海賊と組んだ他国に攻められて、大英帝国そのものが終わるかもしれない。
390 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:40:27.15 ID:sE/Vv+Mi0
利益に聡い彼は、一瞬にしてそんなことを悟った。
ならば、大英帝国はこの後、自国の利を確かなものとするため、海賊と手を組むだろう。
形は不明だが、国営海賊、国にに略奪を認められた海賊、この様な制度の下、海賊を手なずけるだろう。
であれば、ここで海賊と相打ちになるのは、利益にはならない。
ベケット「すべては利益のため……」
ベケットは、静かにそんな未来を思い、英国の将来のため、騒乱の元凶となった自分の死で、全てを終わらせた。
かつてベケットが命を落としたのは、彼自身が、大局的な利益の為に、命さえも秤に乗せることができる輩だったからだ。
そうやって命を懸けて、何かを守る為に力を尽くした男の剣が、弱いはずがなかった。
剣道使いの亡者を倒したベケットは、軍刀の血を振り払い、未だ群れなす亡者に突撃する。
命がけで磨き上げた剣術には、亡者ごときでは相手にならなかった。
391 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:41:34.27 ID:sE/Vv+Mi0
ブラック・パール号 中央甲板・右舷//
ベケットとギブスが前方甲板で奮戦をしている頃、
吹雪たちのいる船底に繋がる中央甲板では、面積が広いこともあってか、無数の亡者であふれかえっていた。
バルボッサ「亡者どもめ! 死にたい奴からかかってこい! 2度でも3度でも死なせてやる!!」
猛然と駆け寄ってきた亡者を、勢いに任せて脳天から唐竹割にする。
亡者はその惨状をみて進む足を躊躇ってしまい、結果、その隙を見逃さなかったバルボッサになで斬りにされた。
バルボッサ「どうしたぁ! 日本のヴォードヴィリアンは湧いて出るくる芸しかないのかね!」
そうして振り回した剣でまた敵の命を奪う。バルボッサはジャックの様な機敏な相手には後れを取りがちだが、
彼の剣の強さはその膂力にある。彼の剣はしばしば一撃で敵の命を奪うのだ。
そんな彼に、黒ひげから奪った、重く鋭いトリトンの剣を持たせれば鬼に金棒である。
392 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:42:10.90 ID:sE/Vv+Mi0
バルボッサ「うん?」
しかしそんな彼の一人舞台をいつまでも続かせてたまるかと、亡者たちが陣形を組み始める。
バルボッサ「ほう、少しは脳漿が海水になってない奴もいたか」
連携が取れているとは言いづらい拙さだが、亡者たちは一か所に固まって武器をバルボッサに向ける。
その塊のような密集陣形は、古来では槍衾やファランクスと呼ばれたそれの少人数版のようであった。
違うところは、盾がないことと、穂先が槍ではなく、剣や銃底であったことだ。
しかしそれでも、30人近い亡者で作り上げられたこの集団で殴り掛かられれば死につながる。
そしてまた、この塊のどこを切り崩しても、他の剣がバルボッサを貫くだろう。
393 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:42:38.92 ID:sE/Vv+Mi0
亡者「ウォア゛アア!」
身ぎれいな亡者の掛け声と共に、絶叫を上げながら突進してくる凶器の塊。
だがバルボッサはそんな死を前にしても表情を変えず剣を構えた。
バルボッサ「錨を上げろおぉ!!」
なぜか出航の合図を大声で叫ぶバルボッサ。そんな彼に亡者たちはなんの迷いもなく突っ込んでいく。
バルボッサが渾身の力で剣を振るう。彼我の距離は5m弱。剣は届かない。風切り音が鳴る。
亡者「!?」
バルボッサ「遅いっ!」
394 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:43:10.65 ID:sE/Vv+Mi0
風切り音が、唸りを上げる。
嵐の雨幕を突き破るようにして、
宙に浮かんだ錨が、横薙で突っ込んできた!
器用にもそれは、パールの甲板を一切傷付けることなく、綺麗に敵陣を崩壊させた。
バルボッサ「ハッハッハ!! 雑魚共めぇ!!」
重い鉄の塊が衝突してはひとたまりもない。敵は弾け、砕け、吹き飛んだ。
バルボッサ「覚えて逝け! これが本場のヴォードヴィルだ!」
彼の剣の強さはその膂力にある。だが今やそれだけではない。その剣は船のすべてを操るのだ。
彼にトリトンの剣を持たせれば鬼に金棒と重機関銃持たせるようなものである。
亡者はまだまだ居よう。しかし、こと船上では彼は止められない。
395 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage ]:2017/08/15(火) 21:43:55.95 ID:qOcUYkn40
凄い力作だな。
396 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:44:00.52 ID:sE/Vv+Mi0
ブラック・パール号 中央甲板・左舷//
同じく、最大の敵数を抱える中央甲板にて、もう一人の海賊の力が吹き荒れる。
亡者「ウ……、グ……」
ジョーンズ「死を前にする気分はどうだ?」
ジョーンズの顎髭が亡者の首に巻きつく。髭といってもそれはイカの触手の様なもので、
取ろうと思っても吸盤がきっちり張り付きかなわない。そうしてもがいている内に、酸素が途切れ、
亡者は再びこと切れた。ジョーンズは顎髭の触手だけで死体を横に放り捨てるとまた前へ進み出る。
397 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:45:02.14 ID:sE/Vv+Mi0
中央甲板の戦いは、異様であった。
バルボッサが暴虐の限りを尽くす右舷とは異なり、左舷はとても冷たく、静かな戦場であった。
右舷は血潮や肉片が飛び散っているが、左舷はただただ山の様な死体だけが重なっていた。
ジョーンズ「前なら船員にしてやることもできたが、あいにく今はそういうことはやっておらんのだ。
よって死ね。速やかに死んでゆけ」
淡々と亡者を倒していくジョーンズに、躊躇いながらも突撃していく亡者たち。
心や思考があるかはわからないが、圧倒的なまでの戦闘に、恐怖を抱いたのかもしれない。
ジョーンズ「ふんっ!」
ジョーンズの攻撃に慢心はない。ハサミで身体を砕き、剣で突き刺し、触手の鞭で首を折る。
全身が武器ともいえるその肉体を生かし、よってきた敵を一掃する。
398 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:45:35.75 ID:sE/Vv+Mi0
ジョーンズ「海の亡者が海の死神に敵うと思うか!」
ジョーンズの声に一様に怯える亡者たち。この圧倒的な差は、個人の力の差だけではなかった。
いくら強くてもこれだけの人数を相手どればここまで余裕ではいられない。
こうなった理由は、偏に相性のせいであった。海で死んだ霊の魂を捕らえ、あの世に連れていく
ジョーンズにとって、海で死んだ亡霊たち相手に負ける道理は無かった。
ジョーンズ「どうだ、死ぬのは怖いだろう?」
万が一もあるまい。海の亡者を相手にする仕事は、嫌というほど繰り返してきたのだから。
399 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:46:08.08 ID:sE/Vv+Mi0
ブラック・パール号 後方甲板//
泊地水鬼『アァァァアア!!!』
悲しみ、怒り、憎しみ。様々な気色が混ざった絶叫を上げ、泊地水鬼が暴れる。
豪雨が音を消し、雷一つ起こらないこの暗い夜の帳の中、唯一相手を認識できる要素は、直感だけ。
気狂いの様に心が乱れているからか、巨象たる泊地水鬼は、未だジャックらパール号を
発見できずにいた。亡者たちは人の魂に敏感に反応し殺しにかかってくるが、
泊地水鬼は存在がそもそも違うせいか、レーダーに映らないパールは不可視の存在であった。
ジャック「っと!」
400 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:46:37.40 ID:sE/Vv+Mi0
しかし止まれば砲撃の位置から割り出されて一撃で沈められるだろう。
さっきから豪雨の音に混じって、砲音ではない爆発音、鯨が飛び跳ねたような、海を割る音が聞こえてくる。
怪物はパールの全長より巨大な双腕を持っていた。捕まれば、殴られれば、命はない。
ジャック「あぁ! くそ!」
故に逃げ回り続けるため、嵐に乗って舵を取り続けるジャックであったが、
襲い来る亡者たちがそうはさせなかった。後方甲板に来ている敵は、他よりは少なかったが、
それでも操舵をしながら戦い抜けるのは至難の業であった。
401 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:47:19.70 ID:sE/Vv+Mi0
亡者艦長「ア゛ァッ!」
一見して指揮官らしい亡者の合図で、また敵がとびかかってくる。
ジャックは右手で舵を回しながら、左手で3人の亡者と応戦していた。
しかし、ジャックと言えど、あまりに劣勢すぎるその状況に焦りを覚え、一度舵から手を放し、
身軽な動作で敵をかいくぐり、身体が追い付いていない敵に剣戟を浴びせ、まとめて殺しきった。
が、安堵するジャックを追い立てるように、すぐ近くで海が割れる音がし、船が大きく揺れる。
泊地水鬼の腕が、海面に叩きつけられた音だ。
ジャックは慌てて舵を握りなおす。
亡者艦長「ウォ゛ッ!」
亡者「オォ゛オ!」
今度は海から這い出た増援を合わせて、8人がかりで突撃してくる。
応戦したいが、近くで響く泊地水鬼のヒステリックな叫び声を前に舵を離すわけにはいかない。
402 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:48:12.72 ID:sE/Vv+Mi0
ジャックが辺りを見回すと、そこに都合よく樽があった。
艦娘たちが船下層部で戦う間、万が一が起きないように外に出していた火薬樽だ!
舵にギリギリ指先を掛け、足をグッと延ばす。届かない。
敵が走ってくる。我慢できなくなったジャックは一瞬だけ手を放し、樽を敵に向かって蹴り、
もう一度舵を握る。また真横で衝撃音が聞こえた。間一髪だった。
船の傾きとともに、敵味方が揺れ、そして一樽が転がっていく。
しかし波は寄せて押し返す。坂道を下るように転がっていった火薬樽が、
転じて、ジャックに向かって勢いよく転がってきた。
ジャック「いや、ちょ、ちょっと! 待てっ!」
腰を舵に預け、ジャックはなんとか落ち着いて足で、衝撃を殺すように受け止めた。
それを返す波に合わせて強く蹴り押す。すると凄い勢いで亡者たちの一団に突っ込み、巻き込まれた敵は勢いをなくす。
ジャックはほくそ笑み、懐から愛用しているフロントリック式のピストルを放つ。
早撃ちながら精確なその銃弾は、真っすぐに火薬樽を貫き、敵陣の中で小さな爆発が起こった。
ジャック「ビンゴ」
403 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:49:05.37 ID:sE/Vv+Mi0
亡者艦長「ウ゛ヴゥ……!」
警戒すべき敵と、ようやく認められたのか、指揮官の亡者が軍刀を構えすり足で寄ってくる。
牽制しようとピストルを再び発砲するが、雨中に出したせいか、早くも濡れて撃てなくなっていた。
ジャックは無用となったピストルを捨てる。
ジャック「考えてみろ、俺が舵を取らなきゃお前もまとめて死んじまうぞ?」
亡者艦長「ヴア゛ァ!」
ジャック「聞く気なんて無ぇか、ふやけた鼓膜しやがって!」
亡者は爛々と青白く目を発光させ、上段の構えで軍刀を握りしめる。
ジャックは脱力して、左手にもった剣の切っ先を亡者に向ける。右手は依然舵を握ったままである。
豪雨音に混じって海を進む泊地水鬼の音が聞こえる。まだ亡者とは距離がある。
ちらりとコンパスに目を遣ると泊地水鬼が真後に来ているのが分かった。
その視線をそらした一瞬、生前は部下と同じく剣道の達人であった亡者が勢いよく切りかかってくる。
404 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:49:50.25 ID:sE/Vv+Mi0
距離、およそ5歩。すぐに必死の間合い。
ジャックは切っ先を向けたままの剣を押し出すようにして投げた。
直線上にカットラスの剣先が迫った亡者は器用に重心を後ろに下げ、剣を弾き飛ばす。
無手になったジャック。亡者が再び迫ろうと刀を構える。
それを無視してジャックは両手で舵を面舵一杯にきる。
風と波に煽られたパールは船体を大きく傾け、勢いよく進路を曲げる。
すると船尾左舷ギリギリのところを泊地水鬼の腕が掠めた。
その余波で、体勢を崩したジャックと亡者に大量の海水が降りかかる。
二人にとっては目くらましとなるだろう。
知性の残っていた亡者はそれに気づき、反撃の目を与えぬようジャックの剣の刀身を踏みつけ、取らせないようにする。
海水の目くらましが止めば、ジャックは切り殺されて終わる。
亡者は軍刀を再び上段に構えた。
405 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:50:16.80 ID:sE/Vv+Mi0
ジャック「よう」
亡者艦長「ッ!!?」
水しぶきが晴れ、再び二人が向かい合った時、ジャックの手に握られていたのは、ピストル。
それも真新しい、現代式の9mm拳銃! 工作部の倉庫から奪い、今まで腰に隠していたのだ。
ジャック「卑怯? 大いに結構。俺ぁ海賊だ」
引き金を引く。現代の拳銃は多少雨や海水に濡れたところで撃てなくなったりはしない。
水浸しの周囲に馴染まない、乾いた破裂音が響く。如何な達人とは言え、至近距離からの
拳銃発砲に耐えられるはずもない。奇跡的にも、一発目は急所を避け、なんとか踏ん張ったものの、
銃弾は残り7発。弾倉すべてを撃ち尽くす頃には、亡者は2度目の死を迎えていた。
ジャックは拳銃を捨てると、舵に集中する。
406 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:51:04.32 ID:sE/Vv+Mi0
407 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:51:46.60 ID:sE/Vv+Mi0
ブラック・パール号//
至近距離からのヒットアンドアウェイは現状有効であるが、
徐々に、徐々に泊地水鬼が対応してきている。
嵐と荒波のおかげで船が振り回されるような高速移動しているため、
今のところ捉えられていないが、それも時間の問題だ。
パールは敵のラッキーパンチ一発で沈む。
万全を期すなら、近寄って撃てる機会は次が最後だ。
敵の集中が途切れるまで距離を保ち、チャンスを待ちながら闇の中を旋回するべきだ。
度重なる泊地水鬼の攻撃をスレスレで避けたジャックはそう判断を下すと、
泊地水鬼から逃れるように舵を大きく回す。しかし明らかに奴はこちらについてきている。
流石に接近しすぎたか。逃れられるかは怪しい。
そして敵はそんな状況などお構いなしだ。
ジャックの周囲に、また腐臭に似た不快な臭いが立ち込める。海から亡者が再び這い上がってくる。
408 :
◆JjxDNGokTU
[saga]:2017/08/15(火) 21:53:09.89 ID:sE/Vv+Mi0
ブラック・パール号 後方甲板//
当然、それはジャックのいる舵取りの場所にも殺到する。
しかし泊地水鬼が大暴れしている中、この数に応戦している暇はない。
とはいえむざむざ死ぬわけにもいかないジャックは、剣を拾い上げ、
亡者の目を突き刺し、剣の切っ先を脳まで到達させた。
ジャック「光ってて目が狙いやすいな」
バルボッサ「どけぇ!」
軽口を叩くジャックの横をもの凄いで通り過ぎると、バルボッサが舵を握り、また大きく回す。
その避けたところに巨大な水柱が爆発音とともに上がる。直前に砲炎が見えた。
泊地水鬼の砲撃だ。
どんどん増えていく亡者たちのせいだろう。
船を覆いつくさんばかりの、彼らの青白い目の光がブラックパールの位置を知らせているのだ。
これは本格的に補足された。操舵に集中しなくてはならない。
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