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ある門番たちの日常のようです
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135 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/23(水) 00:27:54.82 ID:5L4DPNhn0
2番艦との不毛な口論を最終的にげんこつで早々に切り上げ、ドラグノフを担いでOstrichの下へと駆ける。奴さん達は「二度撃ち」による入念なチェックも終わらせ、早くも移動の準備に取りかかっていた。
( ゚∋゚)「………注文通り、トラックは無傷だ」
俺達に気づいたOstrichは、そう言って部下が乗り込んでいるトラックの荷台を拳で叩く。
エンジンがかかった車体が一度震え、後部の排気口からガスが吹き出した。
( ゚∋゚)「………パンクや破損も見当たらない。後は乗り込めばいつでも動ける」
「勿論僕と江風は車内だよね?か弱い少女を寒空の下揺れる荷台に乗せるとか間違いなく鬼畜の所行だよ」
(,,゚Д゚)「江風、助手席乗れ。Ostrich、こっちのクソガキ簀巻きにして荷台に乗せるから手伝ってくれ」
「鬼畜!」
“か弱い”と言う単語から最も遠い存在が何か騒いでいるが無視だ。
安心しろ、お前はこの季節間違いなく風邪を引かない。夏だったら危なかったが。
(,,゚Д゚)「せっかくだから奴等の武装もいただいてくぞ!30秒で準備を済ませてトラックに乗り込め!それとどうせだから、一番近くにいる部隊にも残りのトラックを────」
指示を途中で切り、耳を澄ます。
「……どうしたい、ギコさン」
(,,゚Д゚)「来客だ」
うっすら聞こえてきた音が、新たに近づいてくるトラックのエンジン音だと確信し俺は再びドラグノフを身体の前で構えた。
(,,゚Д゚)「車両接近!総員戦闘用意!」
136 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/23(水) 01:14:14.54 ID:5L4DPNhn0
ゲネラロヴァ通りから目の前の大通り────キロヴァ通りへと躍り出て、ドラグノフを改めて膝撃ちの姿勢で音が近づいてくる方角に構える。
丁度左手、郵便局と思われる建物の手前にある路地を三台のトラックが曲がってくるところだった。
(,,゚Д゚)「っ」
スコープを覗き込み、鋭く息を吐き、引き金を引く。銃声が家々の合間を木霊し、弾丸が勢いよく銃口から飛び出す。
先頭を行くトラックのフロントガラスに蜘蛛の巣のようなひび割れが走り、内側で飛び散った赤い液体が付着する。
そのままコントロールを失った先頭車両が独楽のように回転し、避けきれず荷台部分に衝突した後続車諸共横転した。
更に3台目も無理やり迂回して追突から逃れようとしたが、此方も急ハンドルが祟ってバランスを崩しもの凄い音と共に郵便局に激突する。
(,,゚Д゚)「………チッ」
ここで誘爆でも起きてくれれば儲けものと微かに期待していたが、およそ200m先で横転・追突した3両は何れもウンともスンとも言わない。
まぁ、さしたる期待ではなかったが。軍用車両はバイクを例外として、殆どの場合燃えにくいディーゼルエンジンを採用している。欠陥品やガソリンエンジンが主である民間車両ならともかく、爆発物を直接ぶち込んだわけでもないのに派手に吹き飛ぶ軍用車両というのはほぼフィクション世界の出来事だ。
……序でに言うと人体というのも脆いようで意外と強靱なところがある。
「※※………ア゛っ!?」
「ガハッ……」
(,,#゚Д゚)「Enemy contact!!」
郵便局に突っ込んだ方の荷台から這い出てきた敵兵二人の頭を立て続けに吹き飛ばす。アレだけの大事故なら結構な数を戦わずして潰せただろうが、原形を留めないほどの大破をしているわけではない。現に、他の二台からも何人かの敵兵がふらつきつつも銃を片手に道路に姿を現している。
(,,#゚Д゚)「車両撃破も敵兵なお多数健在!なお、まだ後続兵力が来る可能性がある、各位警戒を厳にしろ!」
「アァッ………」
後ろの味方に声をかけながら、また弾丸を放つ。
胸の辺りを抑えた敵兵が、AK-47を取り落として前のめりに崩れ落ちる。
137 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/23(水) 01:43:02.71 ID:5L4DPNhn0
カチンッと間抜けな音が鳴り、恐ろしく抵抗が少ない引き金と共に弾倉が空になったことを伝える。新たな弾倉を銃の下部に差し込み、再びスコープを除きながら敵兵一人一人の頭や胸に丹念に銃弾を撃ち込んでいく。
………単純で手慣れた作業だが、それを同じ“人間”相手にやっている奴が今の世界にどれだけいるかと言うことを想像するとなんとも複雑な気分だ。
( ゚∋゚)《OstrichよりWild-Cat、此方は出発準備がほぼ完了した。助けはいるか?》
(,,゚Д゚)「いや、援護は不要だ。ほぼ処理は終わった」
15人目の頭蓋骨が半分吹き飛んだところで、3両それぞれから出てくる人影が無くなった。乗っているであろう人数からして全滅とは考えがたいが、少なくとも元より少なかった戦意が空っぽに近くなっているのは間違いない。
(,,゚Д゚)「後続も、今のところはまだ来ていない。移動を………嗚呼クソッタレ」
まだ、戦場の“音”は止まない。
次は、空から。風切り音が、徐々に高く、大きくなりながら此方へと迫ってくる。
(;゚∋゚)《………移動を急ぐぞ!!早く乗れ!!》
(,,;゚Д゚)「言われなくとも!!」
1秒ごとに鮮明さを増していくレシプロエンジン音の源から逃れるべく、俺は踵を返して一目散にトラックへ駆けだした。
138 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/23(水) 02:22:40.65 ID:5L4DPNhn0
「【Helm】 incoming!!」
「江風!!」
「了解!!」
俺がトラックの荷台に飛び乗ると同時に、空を見上げていた一人が指さし叫ぶ。直後に時雨と江風の構えた25mm連装対空機銃が起動、弾丸が軽快な発射音を残して空に駆け上がる。
『────!?』
『─────!!!』
上空に接近してきていた深海棲艦の戦闘機、【Helm】の群れが駆逐艦二人の対空弾幕を受けて次々と蜂の巣になり墜落していく。
「ちぃっ、時雨姉貴!こりゃ数が多すぎだ!」
「車両出して!早く!」
正確無比な狙いで今のところは敵機を寄せ付けていないが、およそ数百機に上ろうかという大群相手に機銃二丁で何とかできるはずも無い。早々に限界を察した時雨が運転手に向かって叫び、計22人を乗せたトラック二台が雪煙を蹴立てながら急発進した。
「クソッ、追ってくるぞ!」
(,,#゚Д゚)「俺達も撃て!“ワンショットライター”ならAK-47でも十分対抗できる、残弾気にせずばらまけ!!」
幸い、このトラックは幌が着いていないタイプの物だ。寒風を諸に受けることを喜ばしいとは言い難いが、上への銃撃を遮る物は何もない。
加えて先程の敵部隊を処理したおかげで、AK-47の弾薬は相当余分にある。
(,,#゚Д゚)「ゴルァッ!!」
『!?』
俺自身も、ドラグノフから持ち替えて真上に迫ってきた【Helm】の内一機に弾丸を浴びせる。
「ギコさン、ナイスショット!!」
後部エンジンを撃ち抜かれた敵機が火を噴き、瞬く間に弾薬に引火。墜落を待たずに空中で爆散。その様子を見た江風がやんやの歓声を送ってくる。
「ウィリアム=テルかシモ=ヘイヘか、流石の腕前!よっ、世界一!」
(,,#゚Д゚)「お褒めいただきありがとよ!光栄だが気ィ抜くなよ!!」
「あいよ!!」
言葉を交わしながら、俺は一瞬だけ後方に視線をやる。路上に転がる60数個の屍が、みるみるうちに遠ざかり──────
139 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/23(水) 02:24:05.29 ID:5L4DPNhn0
『─────キャハハハハハハ!!!』
.
140 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/23(水) 02:52:58.14 ID:5L4DPNhn0
(,,;゚Д゚)「……………は?」
あまりにもあり得なさすぎる“それ”を耳にした瞬間、俺の思考は一瞬完全に停止した。視線は遠ざかっていく屍の山を凝視し続けるが、新たに見えるものなど当然無い。
「猫山少尉!!」
(,,;゚Д゚)「───うおっ!?」
“表”では自衛隊の同僚である軍曹の声で我に返り、視線を上に戻して銃撃。降下してきていた【Helm】を撃墜するが、反動で蹌踉めき危うく荷台から転落しかける羽目になった。
「ちょいちょいちょい!?大丈夫かいギコさン!?さっきの今でどうしたってンだい!?」
「何?まさかもう疲れたの?仮にも“海軍”所属の人間があんなクソ雑魚軍団相手にしたぐらいで疲労困憊とか、ウチの提督に鍛えて貰った方がいいんじゃない?」
(,,;゚Д゚)「………バカ言え、ちょっと足滑らせただけだ。まさかこんだけ人間からハンディ貰った挙げ句俺に撃墜機数負けるとかやめてくれよな?」
「言ったね?十倍差で勝った後口の中に練り辛子と練りわさびとハバネロねじ込むから覚悟しろ」
「それ下手したら致死量じゃねえかな?」
2番艦の煽りに何とかいつもの調子で返しはしたが、それでも胸の内では未だに動揺が拭えずにいた。
何故、あんなものがここで聞こえたのか。
(,,;゚Д゚)(………気のせいだ、そうに決まってる)
自分に言い聞かせ、改めて迫り来る艦載機の群れに銃口を向ける。流石に航空戦力相手に気を抜く余裕はない、幾ら生々しく聞こえてきたからと言っていつまでも“空耳”に集中力をかき乱されていては致命的なミスに繋がる。
(,,;゚Д゚)「……深海棲艦機は殲滅は無理だ!牽制で攻撃させないようにしながら鎮守府施設に向かえ、急げ!!」
《Yes sir!!》
そうだ、空耳に決まっている。
でなければ、こんなところで赤ん坊の笑い声など聞こえてくるものか。
141 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/23(水) 03:24:50.81 ID:5L4DPNhn0
「何度も言っている、僕は正気だ。正気だからこそこの提案をしている」
「君の言うとおり、今人類は団結して戦わなければならない時なのだろう、私もそのこと自体には賛成するさ。そして恐らく、僕ほど熱心に“人類の勝利”を信じて疑わない者はこの世界に二人といない。断言する」
「だがだからこそ、だからこそ僕は“戦後”についてを考えているんだ。
人類が初めて共通の脅威を撃ち倒したとき、人類がこの危機を乗り越えて復興へと向かうとき、その世界をどこが導いていくのか?これは非常に大きな問題なんだ。せっかく敵を撃ち倒しても、戦後秩序を形成できなければ僕らは第一次世界大戦直後と全く同じ過ちを繰り返すことになる」
「人類が勝利した後の世界を守るための戦いも、同時に始まっている。
そして、だ。アメリカや日本では新たな世界秩序を作ることはまちがいなく難しい。だからこそ、僕たちが先んじて動かなければならないんだよ」
(´・ω・`)「大英帝国を中心とした戦後世界の形成、これこそが最も理想的な世界なんだ。
故に僕らは、この先“この戦争”に対する関わり方をよく考えなくちゃ行けない。
全ては英国の利益のために、だよ」
142 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/08/23(水) 03:25:53.09 ID:5L4DPNhn0
続きは本日23:00……予定
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/23(水) 10:24:48.22 ID:EEX0R+JH0
乙
144 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/24(木) 08:32:41.79 ID:SjGHwvao0
子供の頃、ヒーローに憧れた。光の巨人が巨大怪獣を薙ぎ倒し正義の五人組が悪の組織を粉砕する姿をテレビで見ては歓声を上げ、世間に正体をひた隠しつつ世界の平和を守る彼らの高潔な姿に平らな胸を震わせた。
別に「悪役を一撃でぶっ飛ばす」ほどの力は無くてもいいから、彼らのように大切なものを守れる存在になりたい。彼らのように悪を挫き正義を貫ける人間でありたい。当時心の底から私はそう思っていたし、記憶する限り小学校高学年辺りまでは本気で彼らのように成れると信じてもいた。
10何年かが経って、私もまたこの戦争のせいで色んなものを失った。代わりに、今の私はかつて憧れた「正義のヒーロー」になっている。
普段は仲間にも正体を隠し、人類を滅ぼそうとする得体の知れない怪物を打ち倒す────かつて「夢」であり「憧れ」だった生き様は今、私の「現実」であり「日常」だ。
正確に言うと科学戦隊や光の巨人を援護する特殊部隊の立ち位置だけれど、サッカー選手を夢見てコンビニでレジ打ちをしている人が大半であることを考えるとこれ以上を望むのはいささか贅沢が過ぎるだろう。
145 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/24(木) 08:45:00.04 ID:SjGHwvao0
……まぁ、基本的に子供の頃の夢なんてのは「綺麗なところ」にしか眼がいなかないまま抱かれる。私がその夢を抱いた時も、憧れたのはあくまでもヒーローが活躍して鮮やかに敵を倒す姿にであって「その裏側」にあるものをかんがえようともしなかった。
当時は丁度もしもヒーローが普通の営業マンのように活動していたらというコンセプトで描かれた、所謂「現実的なヒーロー」にスポットを当てたアニメが(主に大きなお友達に)ウケていた。けれど私はそのアニメを「自分の夢を穢す存在」として毛嫌いし、近くでその事に関する話が出たときは露骨に耳を塞いだりしたものだ。
大人になった今では、あのアニメがそれなりに正しかったと解る。現にこの世界に現れた“艦娘”というヒーローや彼女達と共に戦う組織・部隊を取り巻く環境は、決して子供の頃夢見たようなものではなかったから。
勿論、私も今では世界が理想論や綺麗事では動かせないと知っている。今の自分を取り巻く環境についても、それらを知ってなお踏み込んだ世界なので後悔はちっともしていないし誇りにも思っている。
ただ、それでも子供の頃の、純粋無垢に「ヒーロー」を夢見ていた自分にはもしもタイムスリップが出来るならあらかじめ伝えておきたい。
実際の「正義」は、思ったほど世の中では必要とされていなくて────
「───敵艦隊第三波、ムルマンスクに接近!間もなく射程圏内です!!」
「ヌ級より艦載機更に発艦!パラオ鎮守府艦隊からも、外洋より敵の航空隊が防衛ラインを突破し接近中と報告あり!」
(#ФωФ)「対空警戒を厳と為せ!総員、前進するのである!!」
「「「Yes sir!!」」」
(*゚ー゚)「了解!!」
────実際の「ヒーロー」は、思っているよりも遙かに命懸けだって。
146 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/24(木) 09:33:02.92 ID:yARe+3oQO
《Cargo-01 Landing!!》
《Cargo-02 Landing!!》
《総員展開しろ、急げ!!》
新たに6機のMV-22Bが私達の後ろで着陸し、機内から何人もの援軍が地面に降り立つ。
だけど、その中で艦娘戦力を含んだ部隊は一個だけ。他は全員が陸戦隊の歩兵だ。
《リンガ泊地艦隊、旗艦伊勢!【Caesar】の指揮下に入る!》
( ФωФ)「【Caesar】より伊勢、増援を感謝する!」
《どういたしまして!なお、“海軍”からムルマンスクに投入できる艦娘戦力はあたしらで打ち止めだとさ、後はあんたの采配に託すよ准将殿!》
( ФωФ)「そこは貴様らの働き次第であるな!」
ほぼ全世界という広大な活動範囲に対して、私達“海軍”の規模は決して大きくない。秋津洲ちゃんから大和さんまで所属艦娘は常に全てが戦力として計算されていて、提督だって最前線で武器を持って戦う。鎮守府の整備士を武装させて戦場に連れて行った艦隊があるなんて話も一つや二つではすまない。
ものすごーーーーーーーーーーーーーーーーーく好意的に言えば、全員が一丸となって戦っていて部署や兵科ごとの垣根がない。
何一つ嘘を挟まない正直な話をすれば、根こそぎ動員しないと兵力が足りない。
私達は、そんな不格好な“ヒーローとその仲間達”だ。
147 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/24(木) 17:27:09.51 ID:yARe+3oQO
それでも、日本とアメリカが主導した世界規模での反攻作戦を経て深海棲艦は殆どの領海から駆逐され、近海なら学園艦が護衛無しで航行できる程度まで奴等の脅威は低下した。“海軍”も一応残ってはいたけれど、ここ三年は稀に深海棲艦の大きな群れが見付かったときに駆り出されるぐらいで出撃頻度は激減した。……一部幽霊騒ぎだのなんだので、深海棲艦とは無関係のところで忙しかった“海軍”所属鎮守府もあるようだけど。
退屈で喜ばしいことに、“海軍”の必要性は少しずつ、確実に減っていっていた。
一ヶ月前、【リスボン沖事変】が起こるまでは。
《【Ghost】摩耶より【Caesar】、艦娘部隊の投入が打ち止めってのはマジか!?》
( ФωФ)「こんなところで嘘をついて我が輩たちになんの益がある。これがムルマンスに投入可能な艦娘戦力の最大値である!」
《クソがっ!!!》
摩耶ちゃんの叫び声を最後に無線が途切れる。
別に彼女がやられたわけではない。その証拠に、間を置かず前方で凄まじい量の対空砲火が空にばらまかれ出した。
恐らく、摩耶ちゃんの八つ当たりによるものだろう。
(*゚ー゚)「キツいですね」
( ФωФ)「ここだけじゃなくて世界中がな。見ようによっては六年前より深刻な事態と言えなくも無い」
まぁ、六年前はどの国も基本的には水際で敵の浸透を押し返していたし、陸上に深海棲艦の生産拠点なんてものも造られてはいなかった。
“艦娘”の数は、今や全世界を合計すると4万隻を越えたという。だが、深海棲艦の総戦力は底が見えない。奴等の数も、それを支える生産力も、恐らく人類の何倍も高い。
“有限”と、“限りなく無限に近い有限”の戦い。
物量差なんて言葉じゃ生易しすぎる。例え“善戦しているように見せかける”ことができたとしても、経過が違うだけでどんな筋道であっても結末は決まった戦い。
148 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/08/24(木) 19:59:32.49 ID:yARe+3oQO
本日からしばらく更新を一時的に(~月曜)中断致します。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
月曜日に一挙完結投下まで進ませていただきます
149 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/24(木) 22:25:22.53 ID:CF9qopwk0
乙
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/25(金) 01:28:10.11 ID:Q2odOCmA0
おつおつ、楽しみにしてます!
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/25(金) 08:50:06.51 ID:YJUOj6AJo
おつおつ
人類の詰みっぷりたるや
152 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/08/28(月) 17:06:37.87 ID:Ow1BdNejO
リアルの仕事で大ちょんぼをやらかしまして、本日・明日と連日予定みっちりにつき完結投下日を水曜夜に延期致します。
ご迷惑をおかけします。誠に申し訳ありません。
153 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/28(月) 17:29:21.99 ID:orxxxTPA0
ドンマイです(^_^;)
お仕事頑張って〜
154 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/30(水) 23:05:21.16 ID:LyWJyuTv0
《砲撃、来ます!!!》
誰かが叫び、暗い空を幾つもの閃光が駆け抜ける。古めかしい造形の家が多いムルマンスクに弧を描いて降り注いだ砲弾の雨は、人間の歴史など知ったこっちゃないとばかりに容赦なく吹き飛ばしていった。
《シュミッタ通りに砲撃多数着弾、艦隊に損害無しも建造物倒壊多数!》
《ブイン基地艦隊神通より【Caesar】、至近弾多数を確認!護衛陸戦隊に負傷者数名!》
《山城、被弾小破しました………不幸だわ…………》
《ブルネイ第2艦隊、五月雨が被弾小破。損害軽微だが比叡も被弾した!》
交わされる無線から窺える、状況の厳しさ。随一の練度を誇る“海軍”所属の艦娘の皆でも損傷を免れぬほどの、深海棲艦による激烈な攻勢。
('、`*川《統合管制機より全艦隊・全陸戦隊に伝達。敵第三波艦隊、射程圏到達に付き全艦が攻撃を開始!》
《ロシア連邦軍より入電、ベロカメンカに新たに敵艦隊の上陸を確認!空母多数を保有、敵艦載機の出所は恐らくここです!》
《コラ湾封鎖部隊、敵艦隊と交戦中。損害未だ軽微も弾薬が欠乏しつつあるとのことです》
《ロシア軍の増援部隊、各所で深海棲艦側の艦載機による妨害に遭い進軍が遅滞しています》
崩れた家が燃え盛り、夜陰の街並みをオレンジの明かりで照らし出す。深海棲艦たちが上げる、あの鉄の板を力一杯摺り合わせているような特徴的な鳴き声が無数の砲声と共に夜気を揺るがした。
凄絶だけど、私達はそれこそ数え切れないほど目にしてきた光景。今更感じることは何も無いはずなのに、それでも、私の身体は芯から震える。
::(* ー )::「ッ、ハァ………!」
歓喜に悶える身体を押さえながら、私は小さく吐息を漏らす。
嗚呼────本当に、この有様は何度見ても美しい。
155 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/08/30(水) 23:09:25.59 ID:LyWJyuTv0
( ФωФ)「おい、本性出てるぞ」
(*゚¬゚)そ「は!」
慌てて身体を起こして姿勢を正し、口の端から垂れていた涎を袖で拭う。ロマさんと部隊の皆は少し湿気た視線を私に送ってきたけれど、もう“慣れたもの”なので騒ぐ人はいなかった。
( ФωФ)「いい加減に何とかするのであるその嗜好。作戦行動の度にトリップされてはたまったものではない」
(*;゚ー゚)「いやぁ申し訳ありません。なかなかご無沙汰だったもので」
( ФωФ)「どうせこの先また山ほど見ることになる、今からそれでは身が保たんぞ」
(*゚¬゚)「………」
いけない、また涎が。
《AlbatrossよりCaesar、空域に【Helm】と【Ball】が多すぎて航空支援ができない。至急の排除を求む》
( ФωФ)「CaesarよりAlbatross、了解した。
艦隊各位、制空権の確保はできるか?」
《摩耶よりCaesar、無理だ!こっちが3機落としても4機が別の方角から足される始末だぞ!》
《此方皐月、全艤装火力を空に向けてるけど足りない!後10隻は追加しないと!》
《リンガ泊地、矢引よりCaesar。既に撃ち漏らした敵機が多数市内に侵入していきます、現在投入されている対空火力では完全阻止どころか進軍遅滞もままなりません》
《鳳翔より総司令殿、私達空母艦隊も対空射撃に加わってはいますけれど、焼け石に水です。この数を完璧に封殺するとなると、航空隊の発艦が必要かと》
('、`*川《統合管制機よりCaesar、市内の先遣空挺部隊からも百〜数百機単位の敵航空隊による襲撃の報告が複数上がっています。おそらく敵戦力の流入地点は港湾部だけではありません》
(*゚ー゚)「……」
先遣空挺部隊という単語に、本当に一瞬だけ心配が過ぎったけれどそれは直ぐに掻き消えた。
彼一人でもたかが艦載機にやられる姿が全く思い浮かばないが、今回の作戦では彼の元にしぐちゃんとえっちゃんも加わっている。
どちらかというと、あのチームに襲撃をかけてしまった反政府軍の部隊や深海棲艦に同情する案件だよね。
156 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/08/30(水) 23:19:15.24 ID:LyWJyuTv0
それよりも、今はこの港湾部の戦況だ。流石に私も、待ち望んでいた闘争に対する歓喜とは別の意味でも口元が引きつるようになってきた。
《ロシア軍より新情報が入電しました。ヴァイダ=グバ北部の海域にてヲ級flagship2隻を中核とした10隻を越える敵空母艦隊の“浮上”を確認。600機規模の艦載機が新たに此方へ向かっているとのこと》
《ノルウェー領ベルゲンの【泊地】からも深海棲艦航空機が大規模出撃、ムルマンスクに接近!ノルウェー、スウェーデン、フィンランドは空軍が壊滅しており迎撃不能!》
( ФωФ)「………この期に及んでは前倒しも必要か。Caesarより艦隊各空母戦力に通達、航空戦力の全投入を用意。指示があり次第一機余さず空に上げろ」
《《《了解!!》》》
と言っても、通信を聞く限り押し寄せてくる敵機の規模はきっと比喩抜きに空を埋め尽くす。幾らまだ温存されている此方の航空隊が圧倒的な練度を誇るとしても、対応できる物量には限度がある。
( ФωФ)「前衛白兵部隊、並びに砲撃戦中の各艦。対空射撃に戦力は回せるか?」
《【Fighter】青葉、それはち『グギャアアアアンッ!!?』しい注文ですね!》
青葉ちゃんから返ってきた通信には、生々しい断裂音と駆逐級のどれかが上げた断末魔が混じっていた。その後も、彼女を囲う敵艦たちの雄叫びや戦闘音が続く。
《前衛に殺到する非ヒト型の動きが変わりましたねぇ。……っ、かなり組織的に動いてます》
交戦の只中で通信をしてきているにもかかわらず、彼女の声には些かの乱れも、息切れ一つすらない。
ただ、端々から若干の苛立ちは感じ取れた。
《青葉たちの連携を分断しようとしたり、動きを止める役と攻撃を加える役で分かれて突っ込んできたり、戦略性が見られる。恐らく後衛にいるヒト型共から指示が出てるんでしょうねぇ。
とりあえず、この状況下で前衛から戦力割いたら大群に浸透される可能性がありますよ》
《同じく【Fighter】武蔵、砲撃戦も似たような状況だ。威力は此方が圧倒しているが手数は向こうに分がある、加えて前衛の低級艦部隊と上空に侵入し続ける航空隊に射線が半ば塞がれているのもキツい。
ただでさえ少ない手数を更に減らすわけには行かない、確実に飲み込まれる》
武蔵さんの通信は、聞く限り彼女達の苦戦、そして私達“海軍”の苦境をより明確にするもの。
その筈なのに、武蔵さんの声ははしゃいでいる子供のように明るい。
《いやぁ、久しぶりになかなか厳しい局面だな。この私達に、この武蔵に相応しい戦場だ!!
世界に冠たる大和型2番艦の底力を、火力を、存分に振るえることがこうも楽しいとは思わなかった!!》
157 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/08/30(水) 23:24:17.15 ID:LyWJyuTv0
( ФωФ)「………おい、クソ筋肉」
( T)《なんだイボ痔禿げ野郎》
( ФωФ)「おかげさまでなりそうだけどまだどっちもなってねえよ。ほんっっっっとよくもこんな性能性格両方吹っ飛んだの多数育て上げやがったな」
( T)《我ながらそう思う》
《それまさか青葉も含まれてます?》
( T)《筆頭が何言ってんの?》
( ФωФ)「筆頭が何言ってんの?」
《手酷い》
(*゚ー゚)「いつも通りのノリやめません?」
一応ここは人類の命運を握る重要拠点の一つであって、私達は今現在苦戦しているはず。なのに、彼らときたらそれぞれその実績からは到底考えられないほど低レベルな会話を交わしている。
( ФωФ)「………さて。ムルマンスク港湾部に展開する、全艦隊・全部隊に通達。
我が輩たちは現在制空権を奪われ、別働隊も敵航空隊に捕捉されている。退路は断たれ、敵の数は今なお増える一方である」
まるで、最初から私達の敗北は有り得ないと知っているかのように。
( ФωФ)「状況は最高、これより敵艦隊を殲滅する」
《《《了解》》》
158 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/30(水) 23:33:49.19 ID:LyWJyuTv0
深海棲艦たちはその“憎悪”と高い戦闘能力故、とにかく私達人類を1人でも多く殺害する傾向がヒト型・非ヒト型を問わず強い。例外は奴等にとって唯一の深刻な脅威となる艦娘と交戦するときで、喩え駆逐艦娘単艦であっても奴等はあらゆる戦力を尽くして艦娘を“撃沈”しようとする。
眼前の前段艦隊も、それは同じだった。
知能の高いヒト型による指示があり、しかも私達の動きはきっと見えていたはず。にもかかわらず、前段艦隊は引き続き青葉ちゃんたちとの交戦に全戦力を注いだ。
或いは、天敵である艦娘の皆が格闘戦や近接装備を用いた「白兵戦」を仕掛けてきたことへの動揺もあったのだろう。殲滅対象でも戦力としては基本的に取るに足らない存在である私達に注意を向ける余裕が、奴等に残っていなかったとしても不思議ではない。
或いはヒト型種のどれか一隻でも冷静な思考を保っていたなら、その光景に違和感を持つことができたかも知れない。
(#ФωФ)「……総員、着剣!!」
────“取るに足らない存在”の私達が、碌な重火器も所持していないのに乱戦の只中へ突撃してくることに対する、違和感を。
『………ァア?』
(#ФωФ)「ぬんっ!!」
前段艦隊の内一隻が、駆逐ハ級がようやっと私達の方を向いたのは、十分に此方が肉薄しきってから。
事態を飲み込めていないのか棒立ちしているその個体との距離を一気に詰め、先陣を切ったロマさんが勢いよく右腕を振るう。
『────ッッギィアアアアアアアアアッ!!!!?』
ロマさんの“刃”に貫かれ、ハ級の口からおぞましい悲鳴が飛び出した。
159 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/30(水) 23:45:48.97 ID:LyWJyuTv0
『グァッ……ウゥアアアアアッ!!!!』
( ФωФ)「ふんっ……!」
“刃”が突き刺さった位置から青くヌラヌラとした奴等特有の体液を吹き出しつつ、ハ級が激しくのたうつ。ロマさんの方も巻き込まれないようにと素早く右腕を引きながら飛び下がり、暴れるハ級から距離を取った。
( ФωФ)「ちっ、相変わらず気色の悪い感触である」
そう言って付着した体液を落とすために振られる彼の右手首からは、長さ30cm、幅15cm程度の西洋剣みたいな形状をしたプレートが伸びている。勿論手から直接生えているわけではなく、剣道の籠手にそのまま剣をくっつけたような感じだと言えば通じるかな?
ただし、色感や質感は明らかに鉄ではない。光沢はあるけれど夜間ということを差し引いても放たれる輝きは鈍く、なんとも不気味だ。今は青い粘着質な液体が付着しているけど“刀身”の色は黒を基調としていて、すぐにも夜の闇に溶け出して消えてしまうのではないかというほど深い。
少し臭い表現を使えば、まるで仄暗い海の底から闇を切り出して象ったような禍々しい“剣”だ。
『────ォアアアアッ!!!』
ハ級の鼻面に出来た裂傷からは相変わらず青い血が噴き出ている。ただそれは決してハ級にとって深刻なものではないようで、怒りに満ちた目付きで私達を睨みながら一声吠えた。
( ФωФ)「椎名、援護せよ!2名わが輩に続け!!」
「了解ぃ!」
「Yes sir」
(*゚ー゚)「了解!!」
ロマさんが再び“剣”を構えて突進し、もう2人同じ装備を腕に付けた隊員が後続する。
私も3人を射線から外すよう横っ飛びしつつ、右腕に嵌めた“それ”をハ級に向けた。
160 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/30(水) 23:54:02.32 ID:LyWJyuTv0
(*゚ー゚)「Shoot!!」
『ギィイイッ!!!?』
私の右腕から“矢”が一本放たれる。
時速200km程度、銃弾はおろかテニスプレイヤーのサーブより遅いそれは照準レーザーで定められた赤い軌道に沿って飛翔し、そのままハ級の左眼をビー玉が割れるような破砕音を残して射抜いた。
激痛と、失われた視界にパニックを起こしたか再び悶えぐらりと仰け反るハ級。巨体に似合わない貧弱な両足が剥き出しになり、そこに人影二つが走り寄る。
(・∀ ・)「あらよっと!」
大柄な男が刃を振るう。轟音が私の鼓膜を揺らし、ハ級の右足が骨ごと切断された。
川 ゚々゚)「キヒッ」
小柄な女性が剣を振るう。破裂音のようなものが響いて、人間で言う脹ら脛に当たる部位の肉がごっそりとハ級の左足から削ぎ落とされた。
『アァアアアアアアアアアッ!!!?』
( ФωФ)「っ!!」
両足を失い、当然の帰結として前のめりに転倒するハ級。その右眼に、ロマさんが剣を渾身の力で突きたてる。
(#ФωФ)「ぬぉおおおおああっ!!!」
『ギィアアアエアアッ!!!?───ァア……アアアァ……』
動けないハ級に対して、何度も何度も刃が突き刺さり、振り下ろされ、肉片と体液が悪臭を伴ってそこら中に撒き散らされる。
『ウゥア………アァ………』
ハ級の断末魔が見る間にか細くなっていき、やがて完全に沈黙した。
161 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 00:05:30.38 ID:PIXFVoZp0
(*;゚ー゚)「敵艦沈黙………っ!!」
川 ゚々゚)「イヒッ」
勿論、そこで戦闘は止まらない。なんせ、ここは両軍による白兵戦の真っ只中だ。
ゲームならきっと「Now Loading」の文字でも流れそうな場面で、代わりに飛んできたのは機銃の弾丸。私と、さっきハ級の攻撃に加わった栗色髪の女の人が火線から逃れて地面を転がる。
『────ィイアアアアアアアアッ!!!!』
右腕に展開した艤装を此方に向けた軽巡ホ級が、眼のない顔で私達をにらみ据えていた。
『…………ゴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
(・∀ ・)「ヒュー♪お怒りだぁね!!」
( ФωФ)「五月蠅いな」
ハ級の屍を目にしたせいだろうか、二度目の咆哮は先程より長く、大きなものだった。続けて火を噴いた機銃に、今度は男とロマさんが打ち倒したばかりのハ級の死骸の陰に飛び込む。
『ガァッ!!!』
「クソッ、主砲かよ!?」
「散開ぃ!!」
その隙に別方向から白兵装備で斬り込もうとした4人には、背中の連装主砲が唸る。ギリギリで全員が四方に散って避けたけど、砲撃で揺らぐ地面や砂煙に他の人達も身動きが阻害され反撃に移れない。
(;*゚ー゚)「………っ!」
『アァアアアアアアアアアッ!!』
近くの崩れた家の中に隠れた私は、窓辺から外の様子を伺う。ホ級はなおも弾丸を周囲にばらまきながら、私達を威圧するように三度吠える。
『オァアアアアアアア────ア?』
「────っは、ほっ!」
荒れ狂うホ級の背後から迫る影。小柄な影はサーカスの軽業師のような身軽さでホ級の巨体を駆け上がり、その肩口へと飛び乗った。
「はい、じゃあ静かにして下さいね〜」
『ィギッ』
影────青葉ちゃんが無造作に足を振る。
ホ級の頭がぐるりと一回転し、そのままねじ切れて地面に落下した。
162 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 00:19:10.55 ID:PIXFVoZp0
( ФωФ)「全く頼もしい戦いぶりであるな、青葉よ」
「…………ロマさん、前線にいるだけでも貴方の階級だと割とマズいのにまた白兵戦に参加してるんですか」
頭部を失い、ぐらりと傾いで倒れていくホ級の肩から重力を感じさせない動きで飛び降りた青葉ちゃん。彼女はハ級の影から顔を覗かせたロマさんの姿を見て、眉根を寄せてじっとりとした視線を彼に送った。
「貴方といい司令官といい、指揮官が一番戦死率が高い場所で戦うのは如何なものでしょうかね。ましてや今回はこの作戦の総指揮官じゃありませんでしたか准将殿………おっと」
青葉ちゃんがホ級の死骸を持ち上げ、自分の上に傘のように翳す。
爆炎を背に急降下してきた【Helm】の爆弾数発が、ホ級の首無し屍体に炸裂して火を噴いた。
( ФωФ)「あやつと一緒にするでない───斎藤、走れ!!」
(・∀ ・)「あいあいさー!」
ロマさんともう一人────斎藤と呼ばれた大男さんがハ級の影から同時に走り出る。
(*;゚ー゚)「わっ」
川 ゚々゚)「キヒィッ!!」
ほぼ水平射撃で飛来した砲弾が、ハ級の屍に直撃する。はじけ飛んだ胴体部分の大きな塊が、半壊した家屋の一つを薙ぎ倒す。
『ルァアアアアアアッ!!!』
直線距離で100M程向こう、此方に向けてイ級がゆっくりと身体を揺らし艤装を展開しながら近づいてきている。大きさはかなりあり、少なくともelite以上の等級であることは間違いない。
('、`*川《統合管制機より【Caesar】、敵第三波艦隊の非ヒト型も港湾部に上陸を開始。また、主力であるヒト型も一部が上陸の構えを見せています》
( ФωФ)「統合管制機、その角度からだと難しかろうが何とか対地射撃を────否」
『…………ガブァッ!?』
要請を出そうとしたロマさんの言葉は、断末魔を残して血反吐を撒き散らしながら倒れたイ級eliteの姿を見て中断される。
( ФωФ)「すまん、たった今必要なくなった」
「────ふんっ」
私達の視線の先では、さっき青葉ちゃんに続いて敵の群れの中に斬り込んでいった銀髪の駆逐艦娘がイ級の屍に足を掛けながらつまらなそうに鼻を鳴らしていた。
「その程度の力でこの叢雲様の前に立ち塞がろうなんてお笑いぐさね。消えなさい!」
163 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 00:38:44.42 ID:PIXFVoZp0
( ФωФ)「総員、イ級の屍の位置まで前進!【Ghost】叢雲と合流せよ!!」
「「「了解!」」」
青葉ちゃんも加えて、全員が一斉に叢雲ちゃんの元へ駆け出す。「戦争の音」は今や街中を満たし、私達の突入を機にそれらはいよいよ激しさを増していた。
「あぁ、青葉さん、こっちは概ね片付いたわよ────って、確かあんたこの作戦の司令官じゃなかったっけ?」
先頭を行く青葉ちゃんに気づいた叢雲ちゃん(といっても、“この”叢雲ちゃんとは面識がないから気安くちゃん付けすべきじゃ無いかも知れないけど)がにこやかに手を振り上げ、そしてその隣にいるロマさんの姿にすぐ怪訝そうに眉が寄った。
( ФωФ)「一応は海軍准将、貴様の提督の上官でもあるのだぞ。もう少し敬意を払ったらどうだ?」
「ならもうちょっと敬意を取れる行動してちょうだい。あんた自分が死んだら作戦が丸ごと瓦解しかねないって自覚あるの?」
「青葉もそう言ったんですけど、この人ウチの司令官となんだかんだ思考回路が似てますからねぇ。よく言えば現場主義、悪く言えば脳筋ですから」
( ФωФ)「繰り返すが正真正銘の脳筋と一緒にするでない。だいたい、我が輩がたかが深海棲艦如きに殺されるタマではないことは貴様もよく知っているはずだが?」
「あ、それ司令官の口癖です」
( ФωФ)「」
珍しく、ロマさんが本気でショックを受けた表情で黙り込んだ。とはいえ、私も“あの人”とロマさんは根源的なところで似た者同士だと思う。
ロマさんも向こうも、頑なに認めないだろうけど。
「……幾つかの上陸ポイントで敵艦隊が少しずつ下がり始めたと報告が来てるわ。損害が続出しつつあるとはいえあの物量キチガイ共がこの程度で下がるとは意外ね」
「向こうも、まさか人間の歩兵部隊まで白兵突撃しかけてくるとは思ってなかったんでしょうねぇ。しかもかなりの戦果を挙げているとなれば尚更に警戒しているのでしょう」
164 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 01:01:47.49 ID:PIXFVoZp0
最も射程が短い駆逐艦の主砲でも18km前後の距離から撃ち合うことが前提であり、“軍艦”という兵器は基本的に「いかに遠距離から敵を撃てるか」がコンセプトだ。
生ける軍艦である艦娘も、そして深海棲艦も同じことだ。彼女達は──前者に関しては“海軍”に所属する子を除いて──真っ向からの白兵戦闘なんて想定していない。非ヒト型はおろか、ヒト型ですら“人間の武器”には効果的でも“人間それ自体”の透過は防げずにいる。
艦娘の戦闘面での練度・質は圧倒的で制約も少ない“海軍”は、ただ国際的な組織でありながら保有する艦娘の数も相応に少なかった。艦娘には遠く及ばないにしろ深海棲艦にダメージを与えることが可能な戦車や戦闘機といった兵器も、組織の特性上おおっぴらに買い揃えるわけにもいかない。
そのため大本営────私達の上層部が目を付けたのが、“とある場所”で歴史的な戦果を挙げたこの白兵戦術だった。
目には目を、歯には歯を。特に甲殻それ自体が戦艦の装甲的な役割となるためまともな金属では貫けない非ヒト型にダメージを通すため、採取された奴等の甲殻片を加工して造られた剣や槍、クロスボウなどが艦娘・人間を問わず配られた。
戦車を複数台纏めて粉砕できるレベルの砲火と音速の戦闘機も撃墜できる機銃掃射の中を突っ切り、敵に肉薄して斬りつける───時代錯誤も甚だしい、長篠に散った武田軍も真っ青な戦い方。
でもこの戦い方こそが、私達“海軍”の最大の武器でもあり深海棲艦たちに対する隠し球でもある。
そして“隠し球”は、今回もまた深海棲艦たちに大きな混乱を与えることに成功していた。
165 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 01:44:33.61 ID:PIXFVoZp0
('、`*川《統合管制機よりCaesar、市街地中央や鎮守府施設近郊、更に市郊外からも深海棲艦が港湾部へ進撃を開始。航空隊は相変わらず先遣空挺部隊への攻撃を継続していますが、彼らへのマークはコレでかなり外れた筈です》
( ФωФ)「了解した────港湾部制圧部隊全体に通達。市内の敵艦隊が反転、我々の後方に迫りつつある」
『『………!?』』
『『!?!!!?』』
頭上まで迫ってきたHelmに向かって、ロマさんを始め何人かがサブマシンガンを構え弾幕を上げる。爆弾は既に落とした後なのか機銃による攻撃を余儀なくされた敵機は私達の射程圏まで何とか近づいてきたものの、正確無比な射撃を躱すほどの余力が残っていなかったのかあっさりと撃ち抜かれ落ちていった。
( ФωФ)「流石に挟撃はマズい、速やかに正面戦力を────」
(#T)《オアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!》
(;ФωФ)そ「ぬぅおおおおおおおおおおおっ!!!!?」
“あの人”の雄叫びが無線から聞こえて、巨大な塊がこっちに飛んできた。気配を感じてロマさん他数名が散開し、そこに軽巡ト級の頭部が隕石みたいな勢いで落下して地面に突き刺さる。
(#ФωФ)「てめっ、何してんだ殺す気かボケェエエエエエ!!!!」
(#T)《うるっせぇまたてめえのせいで仕事増えてんじゃねえかボケナスイボ痔が!!!!!何体クソ雑魚ナメクジ呼び寄せりゃ気が済むんだよ死ね!!!!!蒙武に側頭部抉られた汗明みたいに死ね!!!!!!》
(#ФωФ)「仕方ねえだろそういう作戦なんだからてめえが死ね!!!!!【Re:kill】で目玉引きちぎられてゾンビにムシャムシャされるモブ特殊部隊員みたいに死に腐れ!!!!」
( T)《てめえはもっと死nンンンンンンン!!!!》
( ФωФ)
(*゚ー゚)
《…………不知火です。司令官には少し“静か”にしていただきました。
敵艦隊殲滅、確認致しました》
(;ФωФ)「アッハイ」
《……………不知火に落ち度でも?》
( ФωФ)「滅相もありません落ち度は全てそこの筋肉にあります貴様がナンバーワンだ」
………声だけなのに、相変わらず凄い迫力だなぁぬいちゃん。
166 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 02:52:29.45 ID:PIXFVoZp0
「………いやはや、ウチの司令官と准将殿はやはり仲が悪いですねぇ」
(*;゚ー゚)「あ、あはは……喧嘩するほど仲がいいとも…………うーーん?」
「………というか、この准将本当に自衛隊の方で“天才”なんて呼ばれてた人なの?なんか青葉さんのところの司令官との会話聞いてると順当に馬鹿すぎて干されたように見えてくるんだけど」
うぅ、叢雲ちゃんの言い分に反論のしようが無い………。青葉ちゃんも苦笑いを浮かべて頬をポリポリと掻いている。
「あっはっはっ、まぁ少なくともこんな作戦立てられる程度には優秀な人ですよ?後、ウチの司令官もあんなんですけどすっごく優秀です。………本当に“色んな意味で”いい司令官ですよ」
そう言う青葉ちゃんの横顔は、いつもよりほんの少し真剣な色が混じった笑顔だった。
言葉だけは軽く、でも心の底から“あの人”を信頼しているんだと解る表情。
「すんごいはっきり言っちゃいますと、多分青葉たちの鎮守府で人類のため、世界のためなんて考えて戦ってる子はいないんじゃないですかね?多分殆ど全員が、第1に自分のため、そして第2に司令官のために戦ってるんだと思います」
「あら、随分モテモテなのねあの筋肉男」
「あー……恋愛感情についてはどうなんですかね。抱いてる人いるのかなぁ。どっちかというと悪友感覚というか、腐れ縁に近いから」
( ФωФ)「だいたいからしてあの男もそう言ったものを心底から嫌うからな。あの鎮守府には基本胃痛事案が山ほどあるが、そう言った意味での“健全性”は我が輩としても助かる限りだ」
無線で部隊に幾つかの指示を出し終えたロマさんが、そう言って肩を竦める。ちらりと青葉ちゃんの方に向けられた視線は、どこか複雑そうだ。
(′ФωФ)「にしても、最も世界のことを考えていない鎮守府の艦娘達が、最も世界を救うに足る力を持っていると来た。つくづく、“海軍”准将としては頭が痛い事態である」
「まぁまぁ、そこはご安心を。青葉たちも司令官も、今のところは世界に反旗を翻そうなんて思ってないので!」
( ФωФ)「にこやかにメッチャ不安募ること言われた────さて、次が来るぞ貴様ら!」
167 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 03:12:12.92 ID:PIXFVoZp0
『『『『ァアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』』』』
ロマさんの檄に応じるように、トゥロマ川から“奴等”の上げる雄叫びがここまで届いた。ズンッ、ズンッと一定のリズムを刻みながら、巨大な何かが戦列を組んで此方へ向かってくるのが見なくても解る。
破壊された港湾施設から吹き出す炎や両艦隊の砲弾による爆光で、まるでカメラのフラッシュを炊いているように時折十数メートルを越す“影”が群れを成している様が夜陰に写し出された。
('、`;川《管制機より港湾部全部隊に通達、深海棲艦第三波艦隊が上陸を開始!ほぼ全艦がelite或いはflagship、注意されたし!》
《退却中だった一部艦隊も第三波の攻勢に伴い反転、合流し再度攻撃に映る構え!またトゥロマ川上に空母ヲ級も一隻視認、敵航空隊も更に増えるぞ!!》
( ФωФ)「Caesarより各位、どんな状況下でも作戦は変わらん。速やかに正面艦隊に致命的な打撃を与え、挟撃を何としても防げ!」
「言われなくても!
叢雲、出るわ!見てらっしゃい!」
「よーし、じゃ!青葉も頑張っちゃいますか!」
新たに来着した敵の大群を目前にして、戦場の空気が、張り詰めていく。一人、青葉ちゃんだけがいつもの調子でいつも通りの笑顔を浮かべて敵艦隊を見据えていた。
……ただし、笑顔だったのは眼を除いての話だけど。
「────青葉取材、…いえ出撃しまーす!!」
168 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 03:28:15.85 ID:PIXFVoZp0
<近年の深海棲艦の脅威について、私自身もよく理解しております。硫黄島における“二度目の奇跡”がなければ、我が日本国も大きな損害を受けていた可能性がある、多くの人命を失っていた可能性がある、それは私も十分承知しているんですよ。ですから私も、【艦娘】の存在の必要性というのは十二分に理解しているのです。
しかし、しかしですね総理、深海棲艦を殺せると言うことは、艦娘は人間も殺せるということなんです。当たり前の話だ、深海棲艦は人類よりよっぽど強靱な生物なんですから>
<艦娘の皆様の人権という点もそうですが、それ以上に艦娘が“人類に牙をむく”という可能性は全くないのか、またもし深海棲艦を倒すことが出来たとして、今度は艦娘を用いて人類同士の戦争が起こるんじゃないのか、そういった不安を、ね?そういった不安を!市民の皆さんは抱いているんですよ!>
<こうした、市民の皆様や、第二次世界大戦で日本が侵略を────この際正当性の話はどうでもよろしい!ね?侵略を行った、アジアの国々の不安を取り除く必要が…………艦娘の存在に感謝している国もあるかも知れないけれど不安だと思っている国もあるんですよ!仰るとおり全部ではないですけど!
君、失礼じゃないか!誰が売国奴だ!取り消しなさい!>
<とにかくです、“艦娘という【兵器】が人類同士の戦争に使われないようにする”取り組みを、再び過ちを繰り返さない取り組みを、過去に“過ち”を犯した日本が積極的にやっていかなきゃ行けないんです!
だから我々の手で、この“艦娘三原則”を国際社会で制定されるようリードしていかなければならないのです!>
〜2012年、艦娘関連法案制定に基づく臨時国会・宝木蕗也共栄党議員の発言を抜粋〜
169 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/31(木) 11:08:17.37 ID:cA6NyzzA0
おつおつ
つくづく化け物しかいねえなこの戦場w
おまけに狂人枠なのかあの人w
170 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 15:29:16.66 ID:PIXFVoZp0
“艦娘”は、自身が本来の軍艦として活躍していた頃の名残なのか古い───具体的に言えば1930〜50年代頃に各国で主流だった造形の建物に強い関心を示す傾向がある。特に主だった活動拠点になる鎮守府や艦娘寮ではそれが顕著で、艦娘達のストレスを緩和するためにこの二つは各国ともあえて(規模が許す限りだが)外観に関してはこの年代を元にする場合が多い。
これは余談だが、例えば横須賀司令府に努める海自の艦娘達は旧江田島海軍兵学校並びに寮を忠実に再現した艦娘寮に寝泊まりしており、日本国が保有する艦娘の間ではここに配属されることが一種のステータスとなる。
ロシア海軍の“鎮守府”もまた、それらの例に漏れなかった。見えてきた門もその向こう側に垣間見える建物も、「えっ?何、教会?サンクトペテルブルク?」と一瞬身構えてしまうほど(古くさく)荘厳な佇まいをしていた。
ただし、古いのはあくまでも見た目や基本的な内装。艦娘とは最新の軍事技術の塊であり、深海棲艦に対する対抗策として以上に外交のカードとして全ての国が喉から手が出るほど欲する歩く最重要機密事項とも言える。
だからどの国にある鎮守府も、当然セキュリティは21世紀の最新技術の詰め合わせだ。
《─────全員伏せろ!!!》
(,,;゚Д゚)「うぉっ!!」
門が見えた瞬間、トラックの運転手が叫ぶ。門柱の中程から顔を出した自動機銃が2門火を噴き、弾丸が前を走っていた俺達のトラックに襲いかかる。
《RPG!!》
(,,;゚Д゚)「お約束かクソがっ!!」
弾幕で動きが鈍った車両に、両脇に立つ監視塔からロケット弾が飛来。ドリフトしながら横向きで停車したトラックの荷台から、俺達は一斉に飛び降りる。
「……っ、ああもう砂が服に入った!」
RPG-7は世界中のゲリラ御用達のお手軽携行砲だが、命中精度は笑えないほど低い。螺旋軌道を描いて着弾した砲弾はどちらも至近弾ではあったがトラックに直撃はせず、降りかかってきた砂利に2番艦が愚痴をこぼすだけの結果に終わった。
(#゚∋゚)「Go go go!!」
30M程後方で、Ostrich達が乗る二台目も停車。飛び降りた部隊はそのまま門や監視塔、塀上に向かって応射しつつ俺達の元まで前進してくる。
171 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 15:36:37.01 ID:PIXFVoZp0
( ゚∋゚)「………敵の状況は?」
(,,゚Д゚)「人数は不明だが少なくとも監視塔に二人ずつ、塀の上も両翼に十人前後だ。それと此方に向けられているサーチライトが合計八つ。
門の後ろに待機している奴や他所からの援軍もあるだろうからこの先もう幾らか増えるだろうな……おっと」
立ち上がってトラックの荷台から僅かに顔を覗かせてみるが、弾丸が飛んできたのですぐに身を伏せる。
流石に、“鎮守府”を守備するとなれば五流の武装集団でもそれなりの人員を揃えるらしい。射線はかなり統率が取れている方で、狙いもある程度正確。
少なくとも今まで処理してきた市街地の“戦争ごっこ組”や“革命ごっこ組”に比べれば遙かにマシな戦い方をしていた(比較対象があまりにもアレだが)。
(,,゚Д゚)「一つ情報追加。右手監視塔にスナイパーが1名追加だ。腕の程は解らんがまぁ油断はしないに越したことはない………んぁ?」
袖口を引っ張られたので振り返ると、江風が怪訝な表情で親指を空に向けていた。
「………なぁギコさン、なンで艦載機の奴等追撃やめたンだろう?」
(,,゚Д゚)「……」
江風の言うとおり、あの後も空襲を続けてきていた【Helm】の群れは此方が強引に鎮守府に向かい始めると途端に攻め手が鈍り、ものの数分で攻撃は完全に止んでいる。
確かにこっちの対空射撃で向こうも結構な数の撃墜機を出していたが、奴等の物量からすれば恐らく毛ほどの痛手にもなっていない。鎮守府からの迎撃を警戒するとしても、街全体が丸ごと機能停止し外界との連絡も遮断されている状況下で向こうがそこまで出し惜しみする必要性も見当たらない。
……いや、そもそも航空隊はおろか低級とはいえ深海棲艦それ自体が市内に浸透している状況で、最優先で潰されている筈の鎮守府が何故見た限りとはいえほぼ無傷に近いんだ?
(,,゚Д゚)「………そっちについて考えるのは後だ、まずは鎮守府の奪還を急ぐ」
「了解っと!」
ロマさん辺りが考えればもう少し正解も見えてくるのだろうが、あいにく俺の脳味噌じゃ碌な答えを導き出せそうもない。
難しい考察は頭のいい奴らに任せて俺は目の前の事柄に集中する。餅は餅屋、だ。
172 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 15:47:44.76 ID:PIXFVoZp0
(,,゚Д゚)「………」
弾幕に晒されない程度にトラックの影から顔を覗かせ、改めて門までの状況を確認する。
距離およそ150M程度、遮蔽物無し。鎮守府内の敵総兵力は不明ながら、自動機銃が機能している点から考えて武装勢力の中にハッカーが最低1名は存在……もう一つ可能性は考えられたが其方は正直あり得て欲しくない。
(,,゚Д゚)(遮蔽物なしのところに自動機銃ってのがキツいな………)
人間の射撃については暗闇さえ作り出せればかなりの制限を加えられるが、機械制御の機銃はそうはいかない。恐らく熱感知式だろうし、狙いも比べものにならないほど正確なはずだ。
真正面から突っ込めば、米帝の濃密な阻止火線の只中に銃剣突撃を敢行した大和魂旺盛な英霊の方々の苦闘を身を以て体験できるだろう。
(,,゚Д゚)「正直深海棲艦一、二隻のほうがなんぼかマシだな………時雨、江風、門柱の自動機銃と奴等のサーチライトを破壊、序でに一応スナイパーも潰せ。
OstrichとWild-Catは掃射完了次第前進を開始、敵を処理しつつ門を破壊して鎮守府内部に突入する。暗視スコープは忘れるな」
「あいよっ」
「りょーかい」
「「「Yes sir!!」」」
(,,#゚Д゚)「よし────Go!!」
全員の了解が取れたところで、合図を出す。途端、江風と時雨が25mm連装機銃を構えながらトラックの荷台に跳び上がった。
「江風は右手の機銃とサーチライトを!僕は狙撃手と壁の上の奴等をやる!!」
「解ったぜ時雨姉貴!
────食らいなぁ!!」
「※※※!!?」
「※※※………」
重厚な発射音が鳴り響く。門柱のコンクリートが砕け、中に埋め込まれていた収納式の自動機銃が火花を吹いて沈黙する。AK47を大きく上回る威力の弾丸が人体を粉砕し骨肉を引き千切る音が銃声の中に混じり、頭上からはアラブ語の悲鳴や断末魔が事切れた人体と共に降ってくる。
ガラスの割れる音や小さな爆発音が連続し、トラックの前を照らしていた明かりが消えていく。
173 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 15:59:15.68 ID:PIXFVoZp0
(,,#゚Д゚)「Move up! Move up!!」
(#゚∋゚)「Keep low!!」
暗闇が門へと至る空間を再び包み始めた辺りで、俺はOstrich達と共に門への前進を開始する。
「※※※※※!!」
「※※※、※※※※!!!」
サーチライトを破壊され混乱の極みに達した敵は、誰1人此方に気づくことなく半狂乱で弾丸をばらまいている。
加えて言えばトラックの上でど派手に攻撃を加えている江風と時雨が眼を引いているのもあるだろう。艦娘には何の意味も為さないか細い射線が、2人の障壁上で虚しく弾けていた。
(,,゚Д゚)「〜♪」
「ゥア………」
塀上の足場で間抜けに“軍艦”へ攻撃を続ける覆面の1人に狙いをつけ、鼻歌と共にAK47の引き金を引く。
乾いた銃声の後、胸から額に掛けて穴を空けたそいつが此方側に落下する。
「Shoot, Shoot, Shoot!!」
「Enemy down!!」
他の面々も随時攻撃を開始し、味方の銃声が一つ鳴る度に敵が1人確実に沈黙していく。
門まで到達した頃には、敵の抵抗は皆無に等しくなっていた。
(,,゚Д゚)d
( ゚∋゚) ))
門を挟んで俺と反対側の壁に身を寄せたOstrichに、腰の辺りを叩いてからハンドサインを送る。向こうが頷いたのを確認して、俺は例のクソ間抜けな絵が刻印された手榴弾を手に取る。
(,,゚Д゚)「っ」
( ゚∋゚)「っ」
馬鹿げた外見と馬鹿げた威力のグレネードからピンを外す。俺は門の手前に、奴さんは壁を越えて門の内側にそれぞれ同時に投げ込む。
(,,#゚Д゚)「伏せ!!」
轟音。
内外で起きた大爆発によって、ムルマンスク鎮守府の門が吹き飛ばされた。
174 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 16:05:13.38 ID:PIXFVoZp0
(#゚∋゚)「Breaching, Breaching!!」
(,,#゚Д゚)「時雨、江風!後続しろ!!」
「めんどい、さっき仕事したし待ってちゃダメ?」
「何言ってンだよ時雨姉貴、ほら行くぞ!!」
「むぅ……」
爆熱で拉げ、上空に舞い上がった扉の残骸が地面に落下してドデカイ音を立てる。俺とOstrichは同時に門の内側に踏み込み、後に2番艦と自身の姉を引きずる江風が続く。
最初に、飛び散った肉片やら炭化した手足やらが散乱している有様が眼に入る。ついで、人体が焼けるあの独特の臭いが鼻を突く。
やはり敵は門の内側で此方を待ち構えていたらしく、少なく見積もっても14、5人分の「残骸」が辺りには散らばっていた。
そして当然、敵の抵抗はまだ打ち止めに程遠い。
「※※※※※!!」
「※※!?」
「Enemy contact!!」
「Fire……ぐぁっ!?」
門から100Mほど奥で、トラック三台を横付けする形で築かれた簡易なバリケード。その向こう側や荷台の上には、およそ50人前後の武装兵が展開する。
たちまち双方でマズルフラッシュが瞬き、銃弾が夜気を切り裂いて交錯する。敵方で何人かがもんどり打って倒れたが、此方でも1人が左肩の付け根辺りを抑えて地面に倒れた。
「猫山一曹、猪野が撃たれました!!」
(,,#゚Д゚)「海自階級で呼ぶなアホ!!物陰に運ぶ、援護しろ!!」
「「了解!!」」
呻き声を上げている顔なじみを引きずり、監視塔の柱まで運ぶ。
「っ……すみません少尉」
(,,゚Д゚)「なぁに生きてりゃ御の字だ。弾は抜けてるから安心しろ」
猪野の傷口を確認しながら、バリケードの様子にも目をこらす。
(,,゚Д゚)「……ッチ」
忌ま忌ましさに思わず舌が鳴った。幾らかの損害は出ているようだが、弾幕はまだ勢いを衰えさせていない。此方側の損害も猪野以降出てはいないようだが、なるべく弾幕を寸断するための牽制が精一杯でまともな反撃が出来ているとは言い難い。
175 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 16:14:33.15 ID:PIXFVoZp0
敵はお粗末とはいえバリケードを構築しているのに対してこっちは再び遮蔽物無しでの戦闘、しかも数的不利まで抱えている。
練度に雲泥の差があるとはいえこのまま馬鹿正直に銃撃戦を繰り広げれば損害が更に増える。
……まぁこっちは、数だのバリケードだのが馬鹿らしくなるチートを随伴しているわけだが。
(,,゚Д゚)「時雨、江風」
追いついてきた白露型駆逐艦二隻を顧みる。2人も一応柱の陰に隠れているが、あくまで“一応”。この程度の弾幕なら24時間受け続けても艦娘の船体障壁にはカスダメすら入りやしない。
(,,゚Д゚)「立て続けにすまんがもう一仕事頼む。正面の奴等をすぐに黙らせてきてくれ」
「………めんどい」
「だから時雨姉貴は………ンで、また機銃をぶっ放す感じかい?」
(,,゚Д゚)「いや、さっきの対空戦や門の制圧戦で消耗も割としてるからな。今回は節約する」
それを聞いて、江風と2番艦は同時に顔を見合わせ───。
(,,゚Д゚)「近接戦闘を許可する」
続けた言葉に、2人は同時に満面の笑みを浮かべた。
(,,゚Д゚)「白兵戦だ。奴等を速やかに殲滅してくれ」
「了解、1分で片して来てやンぜ!!」
「何言ってんのさ、30秒余裕だよ」
176 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 16:20:25.88 ID:PIXFVoZp0
「─────※※※!!?」
「※※※※、※※!?!?」
小気味よくなるほどの敵の動揺ぶりが、夜風に乗って此方に伝わってくる。
監視塔の影から飛び出し、Ostrich達と敵との間を遮るようにして駆けていく時雨と江風。弾幕を集中してきた敵の感情が、戸惑いから驚愕へ、そして恐怖へ移り変わるのに時間は殆ど必要なかった。
「無駄だね」
「はっ、効かねぇッつの!!」
そりゃそうだ。2人ともパッと見た限りは年頃の少女二人。それもどう見ても戦闘向きとは言いがたい服装の二人組が何百、何千という弾丸を浴びても顔色一つ変えずに突っ込んでくるのだから。きっとT-1000に追われているときのジョン=コナーも、奴等と似たような気持ちだったに違いない。
「カ、カンムs」
「っと」
「ウァッ────!?」
最初に二人の正体に気づいたらしい敵兵の1人が舌っ足らずな発音で叫ぼうとしたが、それより先に額を時雨が投擲した棒状の何かが深々と額に突き刺さる。
「ほいっと!」
崩れ落ちたその屍体を踏み抜いて、赤い髪を靡かせた改白露型が中央のトラックに飛び乗った。
「そおら!!」
「※────」
無造作に振るわれる右手の斧。咄嗟にAK47を掲げたその敵は、銃身ごと身体を縦に両断されて両側に倒れ込む。
「………きひひッ♪」
足下と顔の右半分を自身の髪の色と同じ真紅の血で染め、別のトラックのフロントライトにまるで舞台の演出のように照らされて。
周囲で、逃げることすら適わず呆然と凍り付く敵を見回しながら、江風は嗤った。
……以前ロマさんから教わった話だが、イスラム教にはイブリースという悪魔がいるらしい。
今のあいつらにとって、イブリースと眼前の悪魔、どちらが恐ろしいかはおそらく議論の余地があるだろう。
「ふふン、いいねいいね!やっぱ駆逐艦の本懐は戦闘だよなー…………いっくぜー!」
「ヒッ─────」
歓喜の声を高らかに上げて、赤い髪の悪魔は再び斧を振りかぶる。
177 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 16:28:11.56 ID:PIXFVoZp0
「ぃよいしょおおおっ!!」
「「「ガッ………」」」
横に一閃された斧。軌道上にあった三つの首が、一撃で骨ごと断ち切られて宙を舞う。
「ほいさっ!!」
「オグゥッ!?」
思わず直前に「ぬるぽ」と付けてやれば良かったと本気で後悔するような見事な断末魔を残して出来上がった三つの生首、その内一つを鷲掴みにし江風が隣のトラックに投げつけると、顔面に直撃を受けた兵士は首があらぬ方向に曲がって事切れた。
「※※※────※!!」
「邪魔」
唯一損害がなかった向かって左手のトラックで、ようやく恐怖による金縛りが溶けたらしい1人が江風に銃を向ける。………が、胴を横から突き出された時雨の腕が貫通し弾は放たれぬまま終わる。
「江風ずるいよ、1人でこんなに狩っちゃって」
「悪ィな時雨姉貴、でも提督もいつも言ってンじゃん!獲物は早い者勝ちッてさ!
それに時雨姉貴の仕事も減るぜ!?」
「アガァッ!?」
江風はそう叫ぶと、今度はアッパースイングで斧を下から上へと振り上げた。
股ぐらから文字通り「割られた」その男の断面図から、噴水のように美しく血が空へと迸る。
「……全く、姉想いの妹に恵まれて幸運だね」
少しふてくされてそう言う時雨は別の敵の頭を鷲掴みにして、そのまま首をねじ切りつつため息をついた。
「そう言うからには、僕の方がここから多く狩っても文句は言いっこなしだよ?」
「ハイハイ、解ってますって!」
178 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 16:40:49.80 ID:PIXFVoZp0
時雨と江風による“虐殺”は続く。単純な膂力や身体能力において人間を圧倒的に上回り、船体障壁によって多くの陸戦火器は効果無しか極めて薄い。そして何よりも、2人は“提督”によって対人(並びに対深海棲艦)格闘戦の技術を徹底的に叩き込まれている。
真正面からまともに戦った場合、人間が勝てる要素は無い。
「ほいっ、そいっ!!」
「────ふっ!!」
江風が斧を振るう度、時雨が四肢を動かす度、二人の周囲には屍が増える。
打撃、斬撃、どちらもまさに一撃必殺。食らった敵は、例外なく無惨な死を迎えていく。
「────ふぃ〜、一丁上がりッと!」
「結局江風の方が多く狩ってるじゃん……まぁいいけどさ」
俺達がトラックまで辿り着いた頃には、動く敵は周囲に1人もいなくなっていた。
「よっ、ギコさン!見てくれよ、宣言したとおり一分かからず終わらせてやったぜ!」
(,,゚Д゚)「そーだな、見てたよ。お前さんの提督にもしっかりその暴れっぷり伝えてやるから安心しろ」
「やったぜ!!!」
「………あのさ」
(,,゚Д゚)「………あぁ、解ってる」
あの変態きんに君のもとで鍛え上げられた精鋭の1人とは言え、“海軍”としての作戦参加は初めてである江風はいささかワーキングハイというか特殊な作戦状況にテンションが振り切れてしまっている。だが、江風の補佐・目付役として(半ば無理やり)連れてこられた2番艦の方は、どうやら“違和感”に気づいたらしい。
(,,゚Д゚)「静かすぎる」
正面にある鎮守府本舎を始め10棟以上の関連施設に、増設に次ぐ増設で今やムルマンスク市全体の15%近い面積を占める広大な敷地。そのどこからも、ここに増援が派遣されたり攻撃が下される兆候が一向に無い。
(?゚∋゚)「………幾ら何でもこれで抵抗打ち止めというのはあり得んな」
「なンでだい?あんだけ山ほどやっつけてりゃ全滅だってそろそろあり得ンだろ?」
(,,゚Д゚)「だとしたら向こうのアホさ加減を差し引いても敵の戦力配置がおかしすぎる」
179 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 17:48:55.41 ID:PIXFVoZp0
江風の言うとおり、総発狂状態のムルマンスク市民を除けば既に中核の武装集団は200人近く────通信で聞こえてくる他の先遣部隊の撃破報告も併せれば確実に300人以上俺達で処理している。
こいつらの実際の組織規模は不明とはいえ、中規模程度の組織なら全滅も十分あり得るレベルの大損害だ。
だが、そうなるとまずこの戦力配分が不可解極まりない。ただでさえ質の低い戦力をわざわざ各個撃破されるためだけに市街地にばらまき消耗した挙げ句肝心の鎮守府付近には元より碌な防衛線が引かれておらず、いざ鎮守府内への侵入を許せば今度は防御拠点として優秀な施設建造物を放棄してわざわざ屋外で決戦と来た。
はっきり言って、ウォッカを直接脳に注射されて錯乱しているとしか思えない。特にもし今し方時雨達が殲滅した敵が本当に最後の戦力だったのだとしたら、最早この程度の組織に基地を奪われたロシア軍全体の質が疑わしくなってくる。
勿論、その可能性も捨てるわけには行かない。だが、俺達の中に江風ほど事態を楽観視できる度胸がある奴はいなかった。
( ゚∋゚)σ「………」
(,,゚Д゚)(………クソッ)
それでも、希望的観測が全く芽生えていなかったワケじゃない。本当に今のが最後だとしたら(ロマさんからの一番新しい任務はしくじっていることになるので大目玉確定だが)こっちとしては楽だ。敵は弱い方が楽に決まっている。
だが、Ostrichが指さした先─────立ち並ぶ施設の隙間から見える、港に浮かぶ“艦影”。それを目にした瞬間、うっすらと抱いていた疑念が確信へと変わる。
アドミラル・ゴルシコフ級。ロシア海軍が深海棲艦の攻勢激化に対抗して僅か三週間前に進水させたばかりのフリゲート艦が、“全くの無傷”で水面に浮かんでいた。
「………あのさ、なんで最新鋭艦が深海棲艦からもテロリストの奴等からもなんの攻撃も受けずまだ停泊してるんだろうね」
(,,;゚Д゚)「…………決まってんだろんなもん」
頬を伝う冷や汗。同じような水滴を額に浮かべた2番艦の問いに答えつつ、俺は手元のAK47をゆっくりと胸元まで持ち上げる。
「罠だ」
正面の鎮守府本舎窓から、無数の銃口が此方に向けて突き出された。
180 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 22:02:16.82 ID:PIXFVoZp0
「………へ?って、うぉおおおおっ!!?」
「わっ……」
(,,;゚Д゚)「Get down!!」
(;゚∋゚)「っ」
弾雨。それはまさしく“弾丸の雨”だった。
俺達の隠れたトラックに殺到する無数の銃火。軍用に強化された防弾装甲が瞬く間に火花を散らしながら穴だらけになっていく。ガラスが割れ、削れた塗装が裏側の俺達に降り注ぐ。トラックの周囲でも銃弾が撥ね、雪と土が混ざり合って舞い上がる。
「正面鎮守府本舎、敵影多数!」
(;゚∋゚)「敵の規模は何人だ!?武装は!?所属は!?」
「解りません!とにかく一階から六階まで全ての階から攻撃が来ています!」
(,,;゚Д゚)(身動きが取れねぇ………!)
単に銃火の数が多いだけじゃない。六階建てという比較的高所からも攻撃できる利点を活かして、上階からの射撃は最初からトラックを狙わず俺達の退路を塞ぐようにして放たれている。
攻撃の質があまりにも違う。少なくとも、さっきまで戦っていた奴等とは明らかに別格の集団だ。
「ねぇ、どうすんのさ」
(,,;゚Д゚)「どうするもクソも………つーかテメェ余裕だな!!」
「この程度じゃどうせダメージなんて受けないし」
(,,;゚Д゚)「そういやそうだった畜生!」
余裕の表情な2番艦にちょっとイラッときたが、おかげで此方も動揺が治まったので文句は引っ込めておく。
181 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 22:14:27.26 ID:PIXFVoZp0
「それで、どうすんの?また僕らが行こうか?」
「あたしと時雨姉貴ならこンな弾幕屁でも無いしな!ご要望があればいつでも突っ込むぜ!」
(,,゚Д゚)「………いや、そっちはまだ保留だ」
確かに江風の言うとおり、さっきと同様に2人を突っ込ませれば状況を打開できる可能性は高い。艤装弾薬を節約したいという問題にしても、ついさっき殲滅された部隊の銃火器を鹵獲して使わせれば対人相手なら十分。
予備弾倉もそれなりにあるので、25mm連装機銃の使用機会は大いに減らせるはずだ。二人の後に続けば、俺達も大した損害を受けずに本舎まで突入できる公算も立てられる。
だが俺は、正面から攻撃を掛けてくる正体不明の敵部隊に対して得体の知れない不気味さを感じていた。
奴等は今、確かに俺達をバリケードに拘束することに成功している。ただその過程で、奴等は数十人規模の友軍部隊を全滅の瞬間まで眉一つ動かさず眺め続けていたことになる。
味方部隊を囮にしての作戦行動なんてものは古今東西常套手段だし、俺達だってごく普通に使う手だ。だが、その囮が“必要性は全くないのに”全滅するまで放置しておくというのは明らかに感覚として度しがたい。
何かが、“普通じゃない”相手だ。その懐にあまり情報を持たないまま飛び込む勇気を、俺は持てなかった。
182 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 22:32:48.74 ID:PIXFVoZp0
(,,゚Д゚)「………急いては事をし損じるってな。本舎に真っ向からの突入はしない。
まず反撃で奴等を牽制しつつ、本舎右手の倉庫群に向かえ。時雨と江風はアサルトライフルを使ってしんがりを頼む。村田、俺と残ってこの二人を援護だ」
「解った」
「おうよ!」
「了解しました!」
( ゚∋゚)「………待ち伏せされている可能性は?」
(,,゚Д゚)「勿論0じゃないが建造物が少ない方向に向かえば自然待ち伏せ部隊の戦力も限られるからな、少なくとも備え無しで南に向かうよりはマシなはずだ。
逆に南は陸上警備隊の格納庫まである、この装備で迂回路として選ぶのは避けた方がいい」
包囲殲滅には絶好の機会となるこのタイミングでジープの一台すら来ていない以上あまり大規模な戦力が残っているとは思えない。
だが、過ぎたるは及ばざるが如しは“戦場での用心”には適用されない諺だ。
(,,#゚Д゚)「─────よし、行くぞ!Go go go!!」
「江風、撃って!!」
「わかってら!!」
白露型2人がズタボロになったトラックの荷台にひらりと飛び乗り、膝立ちでAK47を構えた。
たちまち弾雨が襲いかかる。だが、本舎全体から降り注いでくる無数の火線も【船体殻】を傷つけるだけのダメージには程遠い。2人は殺到する弾丸に眉一つ動かさず、マズルフラッシュが見えた窓を──といってもそれはほぼ全ての窓が該当するが──丹念に狙い撃っていく。
(,,#゚Д゚)「ゴルァッ!!」
「Ostrichは倉庫の制圧を急いで!手筈通り我々で食い止めます!!」
( ゚∋゚)「解った、任せる!!
Move up!!」
幾つかの銃火が沈黙して出来た隙。すかさず俺と村田が立ち上がり、更に三つ四つと敵の銃声を消していく。
Ostrichもまたバリケードから飛び出して、幾らか乱れを見せつつなお押し寄せてくる弾幕の中を倉庫に向けて駆けだした。
183 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/31(木) 23:26:12.73 ID:PIXFVoZp0
Ostrichが姿を現した途端、それまで江風と時雨に集中していた火線が半分近くもあいつらに狙いを変えた。艦娘への攻撃は無駄だと気づいたのか倉庫に向かわれたくないのかは定かではないが、とにかく百数十条もの銃火が走るOstrichの周囲で土煙と火花を撒き散らす。
(#゚∋゚)「撃ちながら走れ、足は止めるな!!」
「「「Yes sir!!」」」
Ostrichの方も応射しているが、何分走り撃ちの上AK47は弾の拡散率が高く精密射撃に向かない。遮蔽物越しかつ高所に向けて撃ち上げていることも考えれば、牽制としての効果もあまり得られない。
(,,#゚Д゚)「村田、射撃ペース上げろ!時雨、3階向かって右手側窓に弾幕集中!
機銃掃射許可だ、一連射!!」
「うん!!」
「了解です一そ………少尉!」
(,,#゚Д゚)「村田お前飯抜きだな!」
「そんな!?」
となると、あいつらが無事に倉庫まで辿り着くために重要なのは俺達からの“横槍”だ。
Ostrichへの射撃を少しでも緩和させるため、此方も切り札を少しだけ切る。時雨が25mm連装機銃を起動させ指示された場所を掃射すると、ほんの二秒ほどの銃撃でその辺りは完全に沈黙した。
(#゚∋゚)「───、───!!」
僅かな、だが確実に攻撃が大きく緩んだ微かな好機。コレを逃さずOstrichは加速すると、一気に他の奴等と共に倉庫の影へと転がり込む。
「───!!」
d( ゚∋゚)ノシ「─────!」
一番手前、屋根に大きく「6」と書かれた倉庫の脇の扉を蹴破り3人が中に入る。数秒の間を置いて、Ostrichが「大丈夫だ」とハンドサインを出しながら俺達に向かって手招きを開始した。
184 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/01(金) 01:01:00.71 ID:Hhd4dTCV0
「少尉、合図が!」
(,,#゚Д゚)「見えてた!江風、お前も一連射頼む!!」
「りょーかいっとぉ!!」
機銃が唸り、壁が貫かれ、ガラスが砕ける。“軍艦”の機銃掃射を受けた2階が、無数の黒い煙を吐き出しながら沈黙する。
(,,#゚Д゚)「走るぞ!!行け行け行け!!!」
(#゚∋゚)「────、────!!!」
俺達が倉庫の方へ走り出すのと、Ostrich他10名ほどが本舎へ向けて銃撃を始めたのはほぼ同時だった。
倉庫までの距離は200M程度。全力疾走すれば24、5秒で辿り着く距離だが、弾丸飛び交う中を突っ走るとなるとこれが俺と村田にとってはまさに「死ぬほど」長い距離だ。
(,,;゚Д゚)「……………っぷはぁ!!?」
( ゚∋゚)「こっちだ!!」
江風と時雨の掃射による被害で大きく乱れつつも、本舎からの弾丸はなおも俺達に追い縋ってきた。呼吸すら忘れる命懸けの鬼ごっこは辛うじて俺と村田に軍配が上がり、足下で弾けた銃火につんのめりながらも何とか倉庫の影に転がり込む。
( ゚∋゚)「よう、無事なようで何よりだ!」
(,,;゚Д゚)「ゴホッ……あぁ、お陰様でな!倉庫の中の様子は!?」
( ゚∋゚)「確認したが異常は何も無い!尤も、使えるものも何一つ無いがな!」
185 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage]:2017/09/01(金) 08:11:17.25 ID:Hhd4dTCV0
水曜日で終わらせるとはナンだったのか……果てに寝落ち……22:00頃更新します
186 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/01(金) 10:45:49.38 ID:c3L8Z/uA0
おつおつ
濃密だししゃあないw
187 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/01(金) 11:10:03.51 ID:HSaa28Ago
おつ
ドクオから続きこないなーと思ってたらまたこんな長丁場やってたのかww
今日まで気づかなかった
188 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/01(金) 23:12:08.72 ID:j6M+qQxRO
Ostrichから暗に倉庫が空っぽだと伝えられるが、俺は元より期待していない。入り口から数百メートルしか離れていない機密性皆無の倉庫に重要物が搬入されていた可能性は限りなく低く、おまけに現在は敵の制圧下。
仮に何らかの理由で特殊な物資が運び込まれていたとして、それがむざむざと残されているはずがない。
「うりゃりゃりゃりゃーーー!しつけえなチキショーめ!!」
(,,゚Д゚)「2人とももう十分だ、下がれ!!」
「了解!ほら、江風!」
「っと、あいよ!!」
武器を連装機銃から再びAK47に持ち替えて牽制を行っていた時雨達を呼ぶ。2人はそれぞれ鎮守府本舎に向かって最後の一連射を浴びせると、踵を返して此方へと駆けてくる。
「ギコさン、全員無事かい?!」
(,,゚Д゚)「お前らのおかげでな、AKと連装機銃の残弾は?」
「小銃の弾倉は僕も江風も五つずつ。連装機銃の方はあと半分ぐらいだね」
(,,゚Д゚)「OK上出来だ!入ってくれ!」
2人の背中を押して倉庫の中へと誘い、俺も「最後っ屁」としてAK47の引き金を引いた。
『…………っ!!?」
窓から突き出されていた銃口が一つ不自然に引っ込むのを視界の端に捉えつつ、俺は倉庫に入り扉を閉める。
189 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/02(土) 00:30:18.92 ID:uPdkT3I3O
流石に北欧最大の軍港施設だけあって、倉庫一つとってもスケールがデカい。中は綺麗な長方形となっており、ざっと見たところ少なくとも日本の一般的な市民体育館と同程度の広さがある。
(,,゚Д゚)「村田、飯島、こっちの見張りを頼む」
「「了解」」
Ostrichの指示なのか対角線上にあるもう一つの入り口に見張りが2名ついていたので、此方も同じ人数を今入ってきた扉につける。他に入り口らしい箇所はないので、外に対する警戒はこれで十分なはずだ。
強いていうなら入ってきた側、つまり本舎側を向いている面に上下開閉式のシャッターが着いているが、倉庫の規模に併せて此方もかなり大きい。十中八九電動式なので外からも開けられるだろうが、この重量の扉が高速で開閉できるとは思えないので万一敵が侵入目的で開放しても対処する時間は確保できる。
「………まぁしかし、本っ当になぁンにもねえ」
外の銃声も止んでようやく少し落ち着いたところで、江風が辺りを見回した後腰に手を当てて感心すら滲んだ声でぼやいた。
「こンだけデカいのにがらんどうだと、ちっとばかし落ち着かねえや」
“敵”がサーチライトや自動機銃を使ってきた時点で解っていたことではあるが、ムルマンスク鎮守府のインフラはかなりの部分が正常に機能しているようだ。倉庫内に関しても天井の電光パネルが煌煌と照らし出していて、中の様子は隅から隅までよく見える。
そして、本当に物らしい物が一つも置かれていない。脇の方に用途不明の鉄パイプが数束置かれている程度だ。
(?゚∋゚)「………使えるものも“何一つ”ないと言っただろ。アレは言葉通りの意味だ」
いっそ開放的なすがすがしさすら感じられる中で、Ostrichが低い声で答える。
(?゚∋゚)「元々何もないのか、占拠した奴等が根刮ぎ持って行ったのかは定かではない。………まぁ、ここがロシアであることを考えればウォッカは間違いなく含まれていただろうが」
“ダチョウ”のコールサインを与えられた身長190cm越えの大男は、ぼそぼそと台詞を続けて小さく肩を竦める。寡黙ではあるが、こんな状況下でもジョークを言える程度にはユーモアを持ち合わせているらしい。
190 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/02(土) 01:00:09.07 ID:uPdkT3I3O
「………というかさ、本当にもしかしてお酒入れられてたのかなここ」
俺の直ぐ後ろに立つ2番艦が、鼻をすんすんと鳴らしながら怪訝な表情を見せる。その姿は夕立や白露と言ったこいつの姉妹艦達とはまた別ベクトルの犬っぽい仕草で、さながら不審物に気づいた警察犬のように見えてくる。
「なんか、アルコールの臭いがする。臭い自体はちょっと薄いけどさ」
「………いやいやいや時雨姉貴、ここ仮にも一国の最重要軍事施設なンだろ?ンな大量の酒なンざ置いてあったわけないだろ、気のせいだって」
(,,゚Д゚)「ロシアだからなぁここ。正直この倉庫が丸ごと酒蔵だったと言われても驚かないぜ俺は」
比喩表現ではなく、ロシア人の奴等はどうも酒の類いを水と同じ感覚で飲んでいる節はある。実際、奴さん達の魂と言っても過言ではない国民的酒の一つであるウォッカ(водка)は、日本語で直訳すると「お水ちゃん」だ。
因みにこの豆知識は中学の頃に知り合った友人から聞いた。あの妙ちきりんな語尾は相変わらずなのだろうかと一瞬だけ胸の内が懐かしい記憶に満たされる。
風の噂で聞いた話だと、今はどこかの学園艦に乗り込んでそこで教師をやっているらしい。かなり頭がいい奴だったので、なんか納得しちまう。まさに適材適所ってもんだ。
…………等と、がらにもなく“昔の思い出”なんてものにほんの数秒でも浸ったのは間違いだったと。
「Freeze」
(,,゚Д゚)「………クソッ」
脇腹の辺りに突きつけられた銃口の冷たい感触を味わいながら、今俺は心の底から後悔している。
191 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/02(土) 23:02:49.37 ID:uPdkT3I3O
「動クナ、動クナヨ!!」
「Don't move!! Put youra hands!!」
いつの間にか、俺達は周囲を10人程の銃を持った人影に囲まれていた。全員が迷彩服に身を包んでおり、口元を布や防塵マスクのような物で覆っているため表情や各個人ごとの細かい情報を得ることは難しい。
それでも、最初の声が聞こえた位置から左手直ぐのところに立って俺に銃を突きつけている奴がかなり小柄な──せいぜい140cm程度か、もしくはギリ届かない可能性もある──ことは理解できた。
それと口にされる日本語、英語はどちらも訛りがキツくてやや聞き取りづらい。ただ、訛りの特徴には多少の聞き覚えがある。
(,,゚Д゚)(プット ユー“ラ”…………ロシア訛り、か)
そのように努めているのかロシア語自体は使われていないが、耳に入ってくるアクセントはほぼ一定。それに声を荒げてはいるものの、発声自体の起伏も平坦なものだ。
(,,゚Д゚)(かなり鍛えられた動きしてやがるな………)
まさか首をおおっぴらに動かして見て回るわけには行かないので、あくまで見える範囲の光景や周囲の物音から得られる限りの情報を搾り取る。
人が動く気配はあるが足音はほぼ聞こえず、隠密行動に長けていることが窺える。真っ先に俺とOstrichが指揮官だと当たりを付けて主力を割いて制圧しにかかっているあたり、指揮官も優秀だろう。
「お前達の指揮官は制圧した!銃を捨てろ!
Put down your Weapon!!」
敵は此方より人数が少ない──視界に映る人数と気配を併せても14、5人程度しかいない。加えてその内大半の人数を俺とOstrich、そして時雨と江風に割いている状況なのだが、それでも無駄なく全員を武装解除させていく。丁度俺の視線上にいる1人が手慣れた動きでクリアリングをしており、口にする英語と日本語もそれぞれ発音が他の奴等に比べてかなり洗練されている。ハンドサインで周りに細かく指示も出しているので、この部隊の指揮官と見て間違いなさそうだ。
192 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/02(土) 23:22:20.71 ID:uPdkT3I3O
俺は、右隣で同じようにホールドアップする大男を横目で見る。自分の目付きを自分で見ることはできないが、きっと風一つ吹いていない梅雨時の昼下がりよりも湿気に満ちた視線になっていることだろう。
(∩゚Д゚)∩「アメリカじゃ中に1ダース以上人間が潜んでいる状態を“何もない”と表現するんだな、初めて知ったよ」
(∩;゚∋゚)∩「……すまん、まさか地下室があるとは思わなかった」
言われて、包囲網の隙間から奴等の背後に目を懲らす。倉庫内の端、転がっているパイプ束の向こう側で床が1メートル四方に渡って持ち上がっており、どうやらそこから這い出てきたらしい。
……相手の練度が低くないとはいえ、この明るさの中でこんなものに気づけなかった自分への自己嫌悪が益々強くなる。ロマさんやあの筋肉に伝われば、向こう一年は確実に煽られそうだ。
(∩;-Д-)∩「………これはあんたばかり責めるのはフェアじゃないな。俺も立派なクソポンコツだ」
「喋らない方が身のためだと思うよ。
Be quiet」
(∩;゚Д゚)∩「っと」
より強く、腰の辺りに銃口が押し当てられる。俺とOstrichにそれぞれ英語と日本語で注意が飛ぶが、何故か日本語の方には殆ど訛りがない。
そして、声は静かだが思いの外高く─────どう聞いても変声期を迎える前の少女(ガキ)のそれ。
「さっきから、あまりじろじろ辺りを見るのは感心しないよ」
(∩゚Д゚)∩「はいはい」
なるべくバレないように視線を動かしていたはずだが、目敏く指摘された。
視線を戻すついでに、正面に立つ敵兵の持っている銃がAK12であることを確認。
これで、この集団の正体は確定した。
(∩゚Д゚)∩「………Ostrich、時雨、江風」
「…………! だから静かn」
(,,゚Д゚)「1人も殺すなよ」
「「了解」」
( ゚∋゚)「Roger」
193 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/09/02(土) 23:28:52.50 ID:uPdkT3I3O
「………っぐ!?」
掲げていた左手を握り込み、勢いよく振り下ろす。わき腹に密着していた銃口を叩き落としつつ姿勢をチビの顔面辺りまで落として肘打ちをかます。
(,,;゚Д゚)「って………」
咄嗟に奴が引っ込めた右腕でガードされる。チビの身体はびくともせず寧ろ殴りつけた俺の肘に岩をぶん殴ったような衝撃と痛みが走ったが、動き自体は牽制できた。
(,,#゚Д゚)「ゴルァッ!!」
「ギッ……!?」
足下に落ちていたAK-47を動きの流れで鷲掴みにして、そのまま肘の激痛に堪えつつフェシング選手のように真っ正面に立っていた1人の腹の辺りに突き出す。ドクロマスクを被っていたそいつは車に挽きつぶされた蛙のような声を上げて、後ろに二、三メートルほど吹き飛んだ。
「っ、止まっ──!?」
「うん、止まれよ」
俺へ改めて向けようとした銃口を、2番艦の足が蹴り上げる。
「お前がね」
「ゲホッ………」
息継ぐ間もなく手刀の突き。胸を(物理的に)打たれたチビが酸素を肺から吐き出しつつ蹈鞴を踏んだ。
「………※※※!!?」
向かって右手にいた覆面は俺に銃口を突きつけようとしていたが、チビが吹っ飛んだのを見て何かを叫びながら俺とすれ違う形で駆け出す。AK12を放り投げて懐からコンバットナイフを抜き放ち、姿勢を低くして時雨に飛びかかる。
194 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/02(土) 23:40:49.35 ID:uPdkT3I3O
(#゚∋゚)「────」
「グゥアッ!?!!?」
その横っ面に叩きつけられたのは“人影”。Ostrichの見た目に違わぬ筋力で投げ飛ばされた包囲網の1人が轟音と共に直撃し、そいつはナイフを取り落として床を滑る。
「ガフッ……」
「悪ィね、寝といてくんな!!」
Ostrichの背後で銃を撃とうとした1人が、江風に顎を指で弾かれる。
見た目は子供、肉体は軍艦な艦娘の一撃だ。軽く撫でられた程度にしか見えなくてもその威力は絶大で、脳を揺らされたそいつはたちまち気を失った。
「ほいっ、ほいっと!!」
「ゲフッ……」
「чeрт………」
そのままブレイクダンスのような動きで足を払われた1人が全身をコンクリートの床に打ち付けて沈黙し、更に伸び上がりながら打ち込まれた掌底に別の奴が悪態をつきながら膝を折る。
「чел!!」
「邪魔」
死角から江風に突っ込んできた大柄な兵士には、チビを片付けたらしい時雨の跳び蹴りが炸裂する。吹っ飛んでいったデカ物が壁に叩きつけられズルズルと床にずり落ちていく様は、まるでディズ○ーアニメの一コマのようにどこかコミカルだ。
( ゚∋゚)「────!」
(,,#゚Д゚)「ゴルァッ!!!」
最後に残った2人を、俺とOstrichがそれぞれ顔面ストレートで黙らせる。
これで、包囲陣の全員が沈黙した。
ここまで9秒。
195 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/03(日) 00:15:35.02 ID:hnfwegeQO
「…………っ!? なっ(#゚∋゚)「OCTaHOBиTeCЬ!
」
「ぴっ!?」
此方を振り返り銃を向けようとした敵の部隊長(?)に向かって、Ostrichが大音声で何事か叫びながら先に敵から奪ったAK12を構えた。2番艦の奇声と“誰かさん”が跳び上がったような音が後ろで聞こえたので、某筋肉提督への土産話としてしっかり脳内に刻んでおく。
向こうの指揮官がかなり流暢に英語を使っていたのはOstrichにも見えていた筈なので、ロシア語と思わしき叫びは恐らく他の奴等を牽制するためだ。事実Ostrichの大音声に竦みあがって動きを止めた残りの三人は、自由を取り戻した俺達側の人員に瞬く間に逆包囲され無力化された。
( ゚∋゚)「形勢逆転だ、お前達は我々の制圧下に置かれた。まずは大人しく武器を捨てろ」
OstrichはなおもAK12でしっかりと狙いを定めつつ、“隊長”に向かって声を掛ける。その口ぶりは、諭すと言うより挑発に近い。
( ゚∋゚)「それとも、まだ隠し球がおありかな?もしそうならどうぞ気が済むまで投入してくれ。我々は全て真っ向から、迅速に処理する用意がある」
「…………解った、此方にはもう奥の手も隠し球も切り札もない。武器を捨てて投降するので部下には手を出さないでくれ。意味があるかどうかはわからないが、最悪私の命とひき替えでもいい」
「っ、ダメだよ司令官!!」
時雨に押さえ込まれたチビが叫び、意識を失っていない何人かも“隊長”の……いや、司令官の言葉を聞いて口々にロシア語で嘆きの言葉を口にし始めた。
「ダメだ司令官!貴方だけは絶対に私が守る!!お願いだからそんなことを言わないでよ!!!」
「大層な慕われぶりは感心するけど、暴れすぎると寧ろ愛しの“司令官”の寿命は短くなると思うよ」
「……ッ、чёрт!!」
(,,゚Д゚)(あれ、これ悪役俺らじゃね?)
爽やかな笑みでゲスの極みな台詞を吐く2番艦の姿はまさに冷酷な悪の組織の幹部だ。正義と人類の味方・艦娘にはどうあがいても見えない。
改めて、教育の重要性を認識する。
196 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/03(日) 00:40:47.60 ID:hnfwegeQO
(,,゚Д゚)「………あー、あの馬鹿はあんなこと言っているが安心してくれ。俺達は決して敵じゃない。まぁこんな状況で言っても説得力なさ過ぎだけどな」
今にも地獄からの死者を名乗る蜘蛛男辺りが飛び込んできそうな空気を緩和させるためAK47を手放しながら、俺も“司令官”に声を掛ける。
元々、相手の正体が読めた時点で厳密には“敵”じゃないことは解っていた。上手く言いくるめる方法が思い付かず肉体言語で“説得”することになったのは反省材料だが、あの場で最優先すべきは熟慮ではなく一刻も早い状況の打開だったのでまぁ勘弁願おう。
(,,゚Д゚)「下手に話し合いを試みて拗れるよりはと実力行使を選んだが、この通り死者も重傷者も1人も出していない。俺達の敵はあくまで深海棲艦や………後は有り得ないと思いたいが、奴等に与する、利する存在だ。
一つだけ聞く、あんたはどっち側だ?」
「人間側だ」
“司令官”はそう言って、マスクを取り外すとそれを脇に投げ捨てた。
( ̄⊥ ̄)「私の名はファルロ。ファルロ=ボヤンリツェフ。
このムルマンスク鎮守府の、提督だ」
197 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/09/03(日) 00:41:57.70 ID:hnfwegeQO
ホントは昨日の内にここまで来たかった……一旦寝ます。
198 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/03(日) 01:01:38.23 ID:SyK/psGA0
おつおつ
199 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/03(日) 23:34:36.96 ID:BMyKX3m70
他人の容姿をとやかくいう趣味はないが、ファルロと名乗ったその男は言ってしまえば醜男にカテゴリーされる外観の持ち主だった。
背はそこそこに高いがOstrichや周りで転がっているこいつの部下のように筋肉質ではなく、寧ろ少しやせ気味。少し上を向いた鼻の筋や目元に西洋人特有の掘りの深さがなく、顔全体が少しのっぺりとしている。
鼻孔と眼は細く、口も気むずかしげに結ばれているため顔のパーツ全体が定規で引いた線のような印象を受ける。声を聞く限り年齢は若いのだが、荒れた肌や口元に刻まれた皺は寧ろ老人のそれだ。
一言に纏めるなら猿と蛇を足して二で割ったような顔立ちとでも言おうか、少なくとも夜の街で呼び込みをかける娼婦達が取り合うような男振りではないだろう。
一方で部下からの人望は厚いようで、例のチビを筆頭に意識がある全員が何とか倉庫の中心でホールドアップする自分たちの上官殿を助けられないかと今なお全神経を集中させて機を伺っている。
“ただしイケメンに限る”の法則はどうもこの男には当てはまらないらしい。危機的な状況下でなお指揮下の全員がコイツの身を第1に考える辺り、大した慕われようだと素直な感心が沸いた。
しかし、“提督”ねぇ。
(,,゚Д゚)「………やっぱりヴェールヌイか、お前」
最初に銃を突きつけられた時点でほぼ当たりはつけていたが、答え合わせの意味合いもかねて改めて問いかける。
「だったらなんだい?」
チビ────ロシア海軍艦娘・Верныйは、時雨に踏み付けられ動けない状態にもかかわらず気丈に俺の視線を正面から受け止め見返してきた。
「言っておくけど、私たちの司令官に手を出そうものなら絶対に許さない。例え轟沈することになってもお前達全員を道連れにする」
(,,゚Д゚)「……こりゃまた大層な忠臣ぶりだ。ハリウッド映画化も近いな」
少しだけ茶々をいれつつも、俺は時雨達全員に見えるようハンドサインを出した。銃口は向けられたままだが、Верныйを始め全員の拘束が解かれていく。
200 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/04(月) 00:03:28.76 ID:XTOLkAvV0
undefined
201 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/04(月) 00:10:26.88 ID:XTOLkAvV0
( ̄⊥ ̄)「話はまだ始まったばかりなのにあっさりと解放してくれるんだな」
(,,゚Д゚)「このまま無理やりあんたんとこの忠犬共を抑え付け続けた方が誤解が起きる可能性が高まるからな」
そう言ってあえて気軽げに肩を竦めて見せ、俺もまたファルロに向けていたAK47の銃口を下げる。
(,,゚Д゚)「一斉に暴れられた挙げ句こっちにまで損害が出たらそれこそ溜まったもんじゃない。こっちは銃をまだ持っているわけだから拘束解いたぐらいじゃお宅らより有利なのは変わらないしな」
それに、ファルロ側の人員は未だ1/3以上の人数が気絶した状態で使い物にはならない。人数としては2倍以上こちらが上回っていて、おまけに艦娘戦力も1vs2。
向こうには銃火器もまだ持たせていないため、万一暴れ出したとしても制圧は手早く終わらせられる。ファルロの方もそれは解っているのだろう、未だ敵意燻る部下達に鋭い視線で“動くな”と制止を加えていた。
(,,゚Д゚)「それに、さっきの繰り返しだが俺にとってあんたらは敵じゃないしあんたらにとっての俺達もその筈だ。“信頼”しろなんて贅沢は言わないが、“信用”はひとまずしてくれると助かる」
( ̄⊥ ̄)「解った、君達を“信用”する。どのみち我々に選択肢はないしな」
(,,゚Д゚)「ありがとさん。さて、時間がねえから手短に情報交換と行こうか提督殿。
先に一応の確認だが、あんたの所属と階級を頼む」
( ̄⊥ ̄)「ファルロ=ボヤンリツェフ。ロシア連邦海軍北方海軍所属、階級は少佐。
2013年からムルマンスク鎮守府の提督を拝命し防衛指揮の任に着いている。ここにいるВерныйを含め13名は全員私の部下だ」
(,,゚Д゚)「現状、あんたが指揮できるのはこの13人だけか?」
( ̄⊥ ̄)「基地内にいる戦力はこれだけだ。連絡が途絶えた市外への伝令のために、敵側の武装勢力に変装した一部隊が隙を突いて外に出たが………未だに、返って来る気配がない」
思い出すのは空挺完了直後、辺りで聞こえてきた「港湾施設付近」での謎の武装集団と深海棲艦との戦闘発生の報告。
敵の動きに対する違和感を覚えて以降もこの報告については結論を出せないでいたが、これで合点がいった。中身が違うだけで実際は正規軍だったということなら、深海棲艦側に襲われていたとしてもなんの不思議もない。
202 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/04(月) 00:34:59.96 ID:XTOLkAvV0
(,,゚Д゚)「俺たちは“海軍”所属の部隊だ。一応自己紹介すると俺はヨシフル=ネコヤマ、階級は少尉。
慣れないもんでな、少尉風情がロシア連邦海軍少佐にこの言葉遣いという点は軍の違いということで妥協してくれ」
( ̄⊥ ̄)「気にしないさ、状況が状況だしな」
(,,゚Д゚)「物わかりのいい上司だね、こいつらが羨ましい。
で、あんたは“海軍”の存在については?」
( ̄⊥ ̄)「よく存じ上げているさ。なにせВерныйが元“海軍”所属の艦娘だ」
時雨、江風、Верныйの肩が巡にぴくりと震える。時雨と江風は少し驚いた様子で眼を見開きながらВерныйを見、見つめられた側はやや剣呑な目付きでチッと舌を小さく鳴らした。
( ̄⊥ ̄)「日本とアメリカを主力とし、色々と複雑な経緯を経て編成された“世界最強”の軍隊。その一方、徹底的な選抜が原因となり非常に精強な戦力を持つ一方で稼働できる戦力が少なく時期によってはワ○ミ並に厳しくなることもある労働体系が玉に瑕……こんなところか」
(,,゚Д゚)「よくご存じで………待ってなんでワ○ミ知ってるの?」
( ̄⊥ ̄)「寧ろ日本人なのに知らなかったのか?何年か前、夜間空襲警報が鳴っているのに香港のワ○ミが通常通り営業していた光景がSNSで拡散され一時世界的な話題になったんだぞ?」
(,,゚Д゚)「えぇ……」
( ̄⊥ ̄)「今やあの企業名は世界共通語に近いな」
(,,゚Д゚)「えぇぇ………」
日本の恥部が世界に露見してしまった………イヤ待て待て待て話が逸れた。
203 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/04(月) 01:01:42.81 ID:XTOLkAvV0
(,,;゚Д゚)「ゴホンッ……ムルマンスク制圧に携わった、あの五流イスラム共の規模は?」
( ̄⊥ ̄)「正確なところは全く把握していない、なにせ気がついたら基地・鎮守府の機能ほぼ全てと市街地の大半が敵の手に落ちていたからな。
ただ、最序盤に交戦した限りでは大きな規模ではなかったはずだ。推測するに200から300程度かな?」
(,,゚Д゚)「ならイスラム共はもうこっちでほぼ殲滅した。次、民間人の暴動、並びにこの基地占拠への参加率は?」
(; ̄⊥ ̄)「…………イスラム共以上に、規模は解らん。ただ、推測だがムルマンスク市に住まうほぼ全員が参加しているのではとは思う」
「私達が市街地を経由して最初に脱出を計ったとき、既に鎮守府はムルマンスク市民多数に包囲されていた」
やや顔色が青くなったファルロの答えを、Верныйが補足する。
冷静な言葉遣いに勤めているが、コイツの表情も俺達の存在を差し引いてなお暗い。
「そのせいで脱出が出来なかったんだけど、まずあの人数は幾ら何でも常軌を逸している。何万人いたやら、一瞬で数える気が失せるレベルだったのは確かだよ。
………それで、印象に残ったのが街並みだ」
すうっと、Верныйの覆面の隙間から見える眼光が細められた。
「あれだけの規模、あれだけの人数がテロリスト集団まで引き込んで暴徒として押し寄せてきたって言うのに、少なくとも“あの段階での”ムルマンスクは街並みに煙り一つ上がっちゃいなかった。
百万歩譲って抵抗した市民や市警が一人として存在しなかったとしても、あんなに街並みが綺麗なのは幾ら何でも不自然すぎる」
(,,゚Д゚)「ってことは、ムルマンスクのほぼ全市民が敵であるという認識で間違いないか?」
「正直、“ほぼ”はいらないかもね」
204 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/04(月) 01:55:02.04 ID:XTOLkAvV0
厄介な報せではあるが、“ムルマンスクが相当規模の市民暴動によって機能停止した”というのは既に大本営から降りていた情報。その中には全市民が暴動(というよりは武装蜂起)に参加している可能性も示唆されていたし、ロマさんは実際市を上げての武装蜂起だと前提して作戦を立てていた。
要は元々予測されていた規模にほんの少しの上積みがあったに過ぎない。
………ただ、次が「本題」であり「問題」だ。
(,,゚Д゚)「答えにくい問いかも知れんが………ここからは、絶対に隠し立て無しで答えてくれ。
この武装蜂起に、ムルマンスクの」
( ̄⊥ ̄)「ムルマンスク海軍基地並びに鎮守府防衛の任に着いていた当時の駐屯兵力、その90%近くが今回の武装蜂起に関与している」
即答。
( ̄⊥ ̄)「いや、“関与している”等という生易しい表現ではないな。イスラム武装組織の基地侵入の手引き、市民への武器配布、ムルマンスク市警との連携、周辺鎮守府、軍拠点間の連携の寸断、これらは全て、ムルマンスク守備隊が“主導”したものだ」
淡々と情報を述べる声に、感情はこもっていない。台詞の起伏、抑揚もほぼ見られず、まるで電話の音声案内のように血の通わない機械的な“報告”だった。
………ただそれは、俺には感情を実際に無くした結果ではないように思えた。嫌悪や怒り、困惑、悲哀、驚愕等の感情が一気に噴出した結果、表に出す感情として脳が“無”を選んだ、そんな響きの声。
( ̄⊥ ̄)「断言しよう。今回の武装蜂起、中核戦力並びに首謀者は部下や同僚達、ムルマンスク残存守備隊およそ700名によるものだ」
そしてその「声」によって語られた内容は、俺たちにとっても十分すぎるほど最悪な内容だった。
( ̄⊥ ̄)「我がロシア連邦海軍の新実装艦娘ガングート、並びに最新鋭フリゲート艦アドミラル・ゴルシコフ級、その他基地・鎮守府に配備されているあらゆる設備、機能、兵装は“元”守備隊の制圧下にある」
(,,;-Д-)「…………」
最悪を徹底的に塗り替えていくファルロの言葉。あまりの内容に激しい頭痛が訪れ、ぐらりと視界が歪む。
205 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/04(月) 02:32:28.44 ID:XTOLkAvV0
undefined
206 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/04(月) 02:35:02.18 ID:XTOLkAvV0
undefined
207 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/04(月) 02:40:05.75 ID:XTOLkAvV0
( ̄⊥ ̄)「それで、事の発端だが────」
(,,゚Д゚)「……いや、そこまではもう流石に割ける時間が無い」
平坦な声でファルロはなおも報告を続けようとしたが、それについては此方で切り上げる。
ファルロ自身が明らかに限界というのもあるが、実際に時間がないというのもある。
倉庫の中に飛び込んでからおよそ20分程だろうか、そろそろ鎮守府本舎にいた“敵”も動きを見せる可能性が高い。
(,,゚Д゚)「続きは事態が収拾してから改めて聞く。護衛はしっかりしてやるから生きといてくれよ」
(; ̄⊥ ̄)「………“生きといてくれよ”とはまた凄い字面の注文だな、それこそ一生に一度でも面と向かって願われた奴は少ないんじゃないか?」
ファルロの表情が“無”から“呆れ”に変わる。………まぁ茫然自失から立ち直れたようで何よりだが突っ込むんじゃねえよ俺もちょっとすげえ言い草だなって自覚あるんだから。
(,,゚Д゚)「村田は表側、木戸は裏側の入り口を偵察。外に何かいる気配があったら直ぐに報告しろ」
「「了解!」」
(,,゚Д゚)「……にしても、大本営の方からヴェールヌイは出撃済みだって聞いてたんだがよく鎮守府にいたな」
( ̄⊥ ̄)「当たり前だろう。最重要防衛拠点に艦娘が一隻こっきりなんて事態あってたまるか」
既にヴェールヌイを含めファルロの部隊も全員が拘束を解かれており、Ostrichの指示に従って戦力の合流・分配を行っているところだ。俺も部下二人に指示を出しながら改めてファルロに話を振ると、奴さんは口元に苦笑いを浮かべている。
( ̄⊥ ̄)「我がロシア連邦はお宅やイタリアほど艦娘事情が潤沢ではないのでね。“同一艦隊”での出撃は流石に可能な限り避けるが、Верныйの複数配備なんて我々の基地や鎮守府ではしょっちゅう見る光景だ」
「!」
そう言いながら、ファルロはいつの間にかそばに寄ってきた旧大日本帝国海軍駆逐艦の頭にポンッとデカい掌を乗せる。
( ̄⊥ ̄)「この子がいなければ私は今頃生きていなかったろうな。心の底から感謝するよ」
「…………んん」
ファルロの手が頭をゆっくりと撫でると、途端にヴェールヌイの表情が同じことを飼い主からされている犬や猫のようにトロンとしたものに変わる。俺が話しに聞く限り改装前の【響】の頃から一貫して感情を表に出さない艦娘の筈なのだが、このヴェールヌイにはそんな面影微塵も見られない。
208 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/09/04(月) 22:45:35.22 ID:XTOLkAvV0
仕事の都合で本日更新不可、明日二回更新します
209 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/05(火) 01:06:16.47 ID:IhzWv9/A0
おつです
〇タミ酷すぎる…と思うけど、現実も下手すれば甚大な被害が出る事態なのにこの国鈍感過ぎるからなあw
210 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/05(火) 10:07:43.80 ID:YYSiAqOmO
(,,゚Д゚)(………これが噂に聞く提督LOVEって奴か)
かつて、某筋肉モリモリマッチョマンの変態が言った。
「そんなものがウチの鎮守府で起きたら多分俺は喉をかきむしって死ぬ」と。
あと、「トム=シックス監督と酒を酌み交わせたら死んでもいい」とも。
後者はどうでもいい。ものすごく。
(,,゚Д゚)「しかし、なるほど」
目の前でやられると、これは銃の引き金に指を掛けないようにするのに多大な精神力を要するな。
《少尉、裏口に敵の気配ありません!》
《表口も同様です。扉を開けて覗いてみましたが本舎からの攻撃もありません》
(,,゚Д゚)「解った………ファルロ、周辺の安全に関してはとりあえず確認できた。移動するぞ」
( ̄⊥ ̄)「ああ。指揮は其方に任せるよ、我々を二等兵として扱き使ってくれ」
これ以上場違いなラブ&コメディを見せつけられると脳の血管に多大な負荷がかかりそうだったので、いい具合に入ってきた村田達から無線報告をダシにして切り上げさせる。
ファルロはあっさりヴェールヌイの頭から手を離し、
持ち直したAK12を掲げながらそう言って笑った。
「……………」
暁型2番艦が、飯を取り上げられた肉食獣みたいな目付きで此方を睨んでくる。さっきまでのコイツの様子は完全によく懐いた飼い犬だったが、今飛ばされてくる殺気に満ちた眼光は幾匹もの獲物を食い殺しているオオカミのそれだ。
「……………グルル」
ちょっと唸ってきた。人間じゃなくて深海棲艦にその闘志を向けろよ自分の職務忘れすぎだろ。
「…………………くはぁ」
因みに白露型の方の2番艦は大あくびを噛み殺していた。
お前も職務忘れすぎだろ。
211 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/05(火) 10:54:24.52 ID:YYSiAqOmO
undefined
212 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/05(火) 10:56:02.05 ID:YYSiAqOmO
undefined
213 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/09/05(火) 10:57:35.48 ID:YYSiAqOmO
ロシア正規軍が暴動に参加していると聞いたときとは別のベクトルで痛み始めた頭を抑える。有能な士官が率いる精鋭部隊1ダースに元海軍の艦娘まで加わり戦力は大幅に増強されたはずなのに、不安しか感じられないのは何故だろうか。
( ̄⊥ ̄)「どうかしたか?」
(,,;-Д-)「いや何、ナロン○ースかバ○ァリンも今後は定期的に支給して貰えるよう“海軍”に掛け合うべきか悩んでてね」
或いはロキソニンでも可。
(,,゚Д゚)「はぁ………ところでこの乱痴気騒ぎに関与した守備隊は、勃発時は全員基地内にいたのか?」
( ̄⊥ ̄)「記憶する限りでは、な。休憩やら私用やらで街中に出ていた奴はいるだろうが、数は決して多くないはずだ。ただ、我々がこの倉庫の地下に逃げ込んでからだいぶ経つので今はどうか解らない」
(,,゚Д゚)「………となると、700名強ほぼ全員が未だ基地内でまるっと戦力温存中か」
空挺直後から断続的に入る味方部隊の通信はなるべく内容を確認するようにしているが、鎮守府の敷地内に突入してからも交戦報告は武装した市民と思われる集団とのものがほとんど。ごく稀に低級の深海棲艦がそれに加わることもあるが、鎮守府内で攻撃を掛けてきた部隊のような高い練度を誇る敵との戦闘報告は聞き漏らしがなければ一件も発生していないはずだ。
まだぶつかっていないだけという可能性も捨てきれないが、俺達第1波空挺団の投下範囲はほぼ市街地の南半分全域を網羅している。全部隊がそこから一斉に鎮守府・基地施設へと向かっていく中で、正規軍とだけ全くぶつからないというのは考えづらい。
「一応あたしらバリケードンとこの銃撃戦で削ったよな?」
(,,゚Д゚)「ほんの十何人かな。向こうの総兵力からしたら焼け石に水だ。
まさかと思うが、反乱軍に“新型艦娘”は含まれてないだろうな?」
( ̄⊥ ̄)「彼女はロシア連邦に忠誠を誓っているし、艤装の安全機構は何重にも掛けてある、問題ない…………と断言したいが、そもそも今回の件からして、常識的に考えれば“起こり得ない”ことだった。
すまないが確証はない。彼女が反乱軍側に加わっていたとして、それが本人の意志ではないことだけは保証するが」
214 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/05(火) 12:04:38.59 ID:YYSiAqOmO
(,,゚Д゚)「意味の無いフォローご苦労さん」
(; ̄⊥ ̄)「っ」
「…………」
投げつけられた言葉にファルロの表情がくしゃりと歪み、後に続くはずだった言葉が呑み込まれる。脇に立つ奴さんの忠犬がまた鋭い視線を飛ばしてくるが、無視。
(,,゚Д゚)「“貴重な、そして新たなロシア軍の艦娘戦力なのでなるべく保護するように”と命令は出ているから破壊・殺害はしないよう心がける、あくまでも“なるべく”な。
万一敵対していた場合も善処はするが………まぁ、期待はあまりしない方がいい」
新型艦娘を配備できるメリットは確かにデカい。ましてや現状危機的な状況を迎えている北欧方面にできるのならなおのことだ。
だが、艦娘が敵に回ること…………特に、どんな理由があれたった一隻でも「艦娘が敵に回った事実が民間に何らかの形で漏洩すること」がもたらすデメリットは、それを遙かに凌駕する。
艦娘を単純に“戦力”として勘定した場合ですら、上層部はデメリットの回避を優先している。ましてやそこに、提督個人の信頼だの敵対した艦娘側の事情だのが介在する余地はない。
(,,゚Д゚)「対深海棲艦戦力として見た場合、艦娘【ガングート】の価値は極めて重い。だが、その重さは“人類全体”と比べれば遠く及ばない。
俺は“海軍”士官として、上層部の決定に従う」
(; ̄⊥ ̄)「………あぁ、解った」
諦観の表情を浮かべて項垂れるファルロの横で、“信頼”の名を冠する駆逐艦娘の目付きは今や俺に対する殺意と憎悪で満ちあふれていた。
「………君達のそう言うところが嫌いで、私は“海軍”を去ったんだよ」
(,,゚Д゚)「あぁそうかい────Ostrich、準備はできてるか!?」
絞り出されるような声を聞き流し、俺は二人に背を向ける。
“嫌われる”のは慣れている、今更一人二人それが増えたところで思うことはない。
別段それで俺達の任務が変わるわけではないのだから。
215 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/09/05(火) 22:25:49.99 ID:VpTRDPL+0
おかしい……なんで3Pしか更新できてないんだろう……
明日から三連休いただいたのでここで死ぬほど頑張ります、今回亀更新に次ぐ亀更新で誠に申し訳ありません………
216 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/06(水) 02:14:00.25 ID:DVRhC4+DO
ええんやで
217 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/06(水) 20:03:06.32 ID:Cf1lHE5uO
(,,゚Д゚)「別にお前らからどう思われようが知ったこっちゃないが、青臭い人情ドラマに付き合ってやれるほど俺達にゃ余裕がないんだ。仲間を何とか助けたいあまり、味方に“誤射”しましたなんて勘弁してくれよ」
「……そんな言い方っ!!」
(# ̄⊥ ̄)「Верный!!!!」
「し、司令官………」
(,,;゚Д゚)「うぉっ………」
立ち去ろうとした足が思わず止まり、振り返る。
砲弾が一発至近距離で炸裂したんじゃないかと錯覚するような轟音が、人間の上げた叫び声だと理解するのに僅かながら時を要した。重ねようとしていた反駁の言葉を掻き消されて身を竦ませたヴェールヌイを、ファルロが見下ろしている。
憤怒……とまではいかないがそれに準ずる険しい視線を向けられて、ヴェールヌイは明らかに狼狽していた。
┌(;゚∋゚)┘
あと、まさにこっちへ向かってきていたOstrichはなんかストップモーションをかけられたトラック競技選手のVTRみたいな姿勢で固まっている。真顔で。
( ̄⊥ ̄)「Верный、ヨシフル=ネコヤマ少尉の言い分は完全な正論だ。寧ろ私の命乞いが見苦しく的外れだっただけで、感情に任せて彼に反論することは間違っている」
「………でも」
( ̄⊥ ̄)「お前が私や仲間達の、そしてГангутの名誉や安全を思って声を上げてくれたことは解っている。
……だが、今回の件はそもそも提督である私の無能さ、至らなさが招いたものだ」
声色からふっと怒気が消え、一転して諭すような口調でファルロはヴェールヌイに語りかける。
だが……優しげな口調とは裏腹に、細い眼の奥には悔恨と怒りの炎がちらついていた。
恐らくは自分自身に抱いているだろうそれらを堪えるように、ファルロの両手が満身の力で握りしめられる。
218 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/06(水) 20:29:27.25 ID:WGfcJS2B0
( ̄⊥ ̄)「そもそもГангутが我々に敵対したとは決まっていないし、少尉は例え裏切っていた場合でも“即座に”殺害するとは一言も言っていない。
Гангутを守るためにも、助けるためにも、我々は彼らと密に連携を取る必要があるんだ───Верный」
「…………!」
理窟では理解したが、まだ感情が処理しきれない─────そんな様子で俯くヴェールヌイの顔を上げさせ、ファルロは跪いて彼女と視線の高さを併せる。
恐らく血が滲んでいたのか、何度か胸元で拭われた両手が小さな肩に置かれた。
( ̄⊥ ̄)「思うことは多々あるかも知れないが、どうか今は私に力を貸してくれ。
そして事態が終わったら、怒りは全て今回の事態を招いた無能な私にぶつけてほしい」
「司令官………」
それでもヴェールヌイは、しばらく自身の感情との葛藤からか俺とファルロとを交互に見て難しい表情で唸っていた。
だが、“信頼”の名を冠された現ロシア連邦軍駆逐艦は最後には諦めたようなため息を一つ着いた後、眼光を鋭くし背筋を伸ばして彼女の提督に向かって敬礼した。
「───Да-с.
Верныйの名にかけて、必ずや司令官の期待に応えるよ」
( ̄⊥ ̄)「あぁ、そういって貰えると助かるよ」
(,,゚Д゚)(………はぁあ)
一連のやりとりを見ながら、俺はファルロに対する認識を幾らか書き換える。
(,,゚Д゚)(流石に人類全体の要衝で艦隊指揮を任される人材ってわけだ)
Гангутに対する甘ったれた命乞いを聞いたときは面食らったが、なるほど、部下からの人望は伊達じゃないということか。
219 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/06(水) 21:02:53.44 ID:WGfcJS2B0
undefined
220 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/06(水) 21:09:37.60 ID:WGfcJS2B0
(,,゚Д゚)「……で、お前はいつまで固まってんだよ」
┌(;゚∋゚)┘そ「………ハッ!!?」
そのまま銅像になりそうな勢いで硬直していたダチョウ野郎の元まで歩み寄ってその肩を叩くと、ようやく巨躯が時の流れを取り戻した。ドンドンと二歩歌舞伎役者みたいな動きで前に進んだ後、Ostrichは額に大量の冷や汗を浮かべながら俺を顧みた。
(;゚∋゚)「…………すまん、ファルロ提督の声が予想外に大きくて半ば気を失っていた」
(,,;゚Д゚)「……お前よくさっき生き残れたな」
(;゚∋゚)「……戦場はホラ、来るの予め解ってるし……」
いや、それにしてもビビりすぎだろ。ダチョウって実は滅茶苦茶臆病らしいけどまさかそっちが由来じゃないだろうなコールサイン。
(,,;-Д-)「……まぁいいや。んで戦力の再編はどうだ?」
( ゚∋゚)「……問題なく完了している。他のロシア連邦軍12名の武装点検も終わった。
俺達と交戦した包囲網の奴等も動きに支障を来すような怪我は負っていない、AK12についても全て正常に稼働する。
───それと」
珍しく、Ostrichの声が少しだけ嬉しそうに弾んだ。じゃらりと金属音が鳴り、肥えた大根並みの太さがある腕で何かを───一挺の銃を掲げてみせる。
(*゚∋゚)「これは、彼らからの“手土産”だ」
銃身はおよそ1Mを少し越える程度で、ぱっと見た限りは少し大きくなったAK-47といった第一印象になる。ただし中程に付けられた備え付けの弾倉は箱形で、通常のアサルトライフルとは比べものにならない桁違いの弾数が詰め込まれていた。
箱から伸びた弾帯はOstrichの全身にくまなく巻き付けられており、さながら趣味の悪い鎧のようだ。総重量は肩に掛けられている予備の弾帯も含めればかなりの物になるはずだが、Ostrichはそれらを苦も無く担いでいる。
(,,゚Д゚)「………なるほど、ペカーとはなかなかいい趣味してんな」
毎分800発の弾丸をはき出せる、ソヴィエト連邦時代より使われるPK軽機関銃の登場に俺も流石に声が上擦った。
深海棲艦には非ヒト型相手でもまともなダメージにはならないだろうが、対人戦では大いに役に立つ。
反乱軍との物量差を鑑みれば、これはまさに「最高の手土産」といって差し支えない。
( ゚∋゚)「……とはいえ、PKはこの一挺だけだ。後はAK-47が予備として十挺ほどあるから、それの弾倉を俺達の予備に回せる程度だな」
(,,゚Д゚)「十分だ、PKの運用はお前さんに一任するぞ。
Wild-Catより第1波空挺団各隊、応答せよ。現状を報告しろ!」
221 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/06(水) 21:20:23.12 ID:WGfcJS2B0
《ChaserよりWild-cat及びOstrich、ムルマンスク鎮守府を視認。もう10分程で侵入する》
《此方Coyote。目標より東に約1.5km地点、クニポヴィチャ通りまで進出。現在民兵と交戦中》
《Rabbit、予定通り目標地点南東の大学構内に突入。現在順調に制圧中、オーバー》
《Sparta、鎮守府南600M地点に到達。後五分ほどで到着・突入するが注意事項はあるか?》
(,,゚Д゚)「Wild-CatよりSparta他各隊に通達、ロシア正規軍のムルマンスク守備隊が武装蜂起に加担していることが判明した。戦力はおよそ700名、海軍基地・鎮守府内にほぼ全戦力が立て籠もっている恐れあり。
突入時は十分に注意しろ」
《了解した。作戦行動を継続する》
声を掛けた無線機からは、作戦が「順調」に推移している様子が次々と上がってくる。【Sparta】からの問いかけに返答しつつ、俺は少しだけ眉を顰めた。
(,,゚Д゚)(順調すぎるな)
他の部隊にも軽巡や駆逐の艦娘が──それも俺のところの二人ほどじゃないがイカレたメンツが組み込まれている上、脇を固める部隊も“海軍”の中でも上位に位置する精鋭揃いだ。敵を悉く“鎧袖一触”で叩き潰していたとしても、それは当然のことであって別段不思議なことじゃない。
だが、この場合“抵抗それ自体”があまりにも少なすぎる。深海棲艦の襲撃数が少ないのはまだロマさんたちが暴れ回る港湾部に引きつけられているからで納得するとして、問題は“民兵”による反撃の少なさ。
ムルマンスク市の人口は事前情報によれば30万人強。欧州陥落に伴う戦時疎開を考慮しても、15万〜20万は確実にまだいたはずだ。文字通りの“人海戦術”で俺達を攻撃することも十分に出来るはずで、それをしないどころか交戦報告自体が極端に少ないのはどういうことだろうか。
222 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/06(水) 21:44:35.27 ID:WGfcJS2B0
(?゚∋゚)「……どうする?味方の合流まで待つか?」
俺と同じ結論に達したのだろう、Ostrichも少し眉間に皺を寄せて俺に尋ねてきた。
( ゚∋゚)「……Spartaがかなり近い、彼らの突入を待って連携しながら動くという選択肢は取ってもいいと想うが」
(,,゚Д゚)「いや、ここは待たない。俺達だけで先に作戦行動を起こす」
だが、その点について俺の答えは既に出ている。
(,,゚Д゚)「港湾部の敵戦力は続々と増えつつあるし、コラ湾の封鎖もいつまで保つか解らん。ファルロ達との合流は戦力ではかなりデカいプラスだが、時間的には現状かなりのロスになってるのが実情だ。
例え五分でも、味方と息を合わせている余裕はない」
時間的にはロシア正規軍の増援部隊による援護が始まる頃だが、深海棲艦側の総物量が未知数である以上楽観視は出来ない。ロマさんや変態きんに君の存在を加味したとしても実力・練度で埋められる数的不利には限界がある以上、必要なのは迅速な鎮守府の制圧だ。
(,,゚Д゚)「それに、わざわざ“敵”が抵抗を手控えているのはやはり罠の可能性がある。
奴等が鎮守府に戦力を集めるためにこのような形を取っているんだとしたら、合流まで待つことは尚更まずい」
まぁ推測の域を出ない考えではあるし、ロマさんみたいに頭が良いわけでもないから正直精度に疑問符が付くという自覚はある。
だが、さっきも言ったとおり港湾部や全く姿を見せない民兵など不安要素の数々が悠長に考える時間が無いことを示す。
………それに、もう一つ。
(,,゚Д゚)「敵に鹵獲されているガングートの状態も気になる。既にかなりの時間が経ってはいるが、それでも一秒でも早く救出することは無駄にならないはずだ」
( ゚∋゚)「……………フッ」
(,,゚Д゚)「…………なんだよ」
( ゚∋゚)「……それをちゃんと言っていればあの駆逐艦娘もお前をそこまで嫌わなかったんじゃないか?」
(,,゚Д゚)「黙れクソダチョウ」
俺個人の感情でそうしようと言うわけじゃない。単に、最後の手段を取らなければ行けなくなる寸前まで“善処”をやめる気が無いというだけだ。
223 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/06(水) 22:12:59.38 ID:WGfcJS2B0
(; ∋ )「……別に照れなくてもいいだrウンドルフッ!!!?」
(,,#゚Д゚)「ファルロ、ヴェールヌイ!!」
どうしても俺をありがちな人情キャラにしたいらしい筋肉モリモリマッチョマンのみぞおちに肘を叩き込む。崩れ落ちた巨躯を脇の方に蹴り転がして、俺は怒りが治まらぬまま少し大きな声で二人を呼んだ。
「…………」
( ̄⊥ ̄)「…………その、そこの彼は」
(,,#゚Д゚)「何でも無い、拾い食いで腹でも壊したらしい。30秒で復活するから放置しといてくれ」
駆け寄ってきた二人は怪訝な表情で蹲る大男を一瞬見たが、直ぐに視線を俺に戻した。
(,,゚Д゚)「作戦が方針が決まった、幾つかの友軍部隊が付近まで来ているがこいつらとの合流は待たない。俺達だけでまずは鎮守府の奪還、ガングートの救出に動く」
( ̄⊥ ̄)「了解した」
「Да-с」
二人が、同時に頷く。ヴェールヌイの視線からはまだ敵意が抜けきっていないが、それでも二人とも迷いや余分な感傷は見られない。
完全に、任務に従事する軍人の目付きをしている。
(,,゚Д゚)「で、だ。俺は“海軍”として戦場の場数は踏んでるつもりだが、少なくともこのムルマンスク鎮守府に来たのは初めてだ。ここの地理に関しては、あんたに一日の長がある。
………全体的な指揮の方をお願いしてもよろしいでしょうか、ファルロ少佐殿」
( ̄⊥ ̄)「………それは構わんが、突然敬語に戻られると却って歯がゆい。最初の命令としては、作戦中も敬語無しで今まで通りに接してくれ」
(,,;-Д-)「………あー、了解したよ。今更ながらすまない、少佐」
( ̄⊥ ̄)「なぁに、“海軍”とロシア連邦軍は別組織だ。階級なんて関係ない。
そうだろう?少尉殿」
……どうも、この少佐殿は意外と底意地が悪いらしい。にやりと微笑むファルロを見て、厄介な人間にからかいのタネを与えてしまったと俺は少々後悔した。
224 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/06(水) 22:32:25.64 ID:WGfcJS2B0
未だ床に寝そべりウンウン唸るOstrichを足先で蹴って起きるよう促す。刺すような視線が下から見上げてきたが勤めて無視していると、やがて微かな呻き声を残して190cmオーバーの巨体が再び屹立した。
( ゚∋゚)「……後で覚えてろ」
(,,゚Д゚)「五秒で忘れることにするよ………江風、時雨、ヴェールヌイ!」
「残念ながら寝てるよ」
「………姉貴、時雨姉貴」
「ウーン、ウーン……サラアライ、サラアライ………ハッ!?」
………時間が勿体ないのでツッコミは省略する。
(,,゚Д゚)「先に確認したい。ヴェールヌイ、お前に“三原則”の適用は?」
「さっき貴方に銃を突きつけていたことからも解ると思うけど、されていないよ」
(,,゚Д゚)「よし」
返答に胸を撫で下ろす。あれがハッタリで“海軍”からの除隊にあたって三原則の適用が元に戻っていた可能性もあったが、ないならかなり作戦行動がやりやすい。
(,,゚Д゚)「敵がどういった行動を取ってくるか読めん、加えて向こうは正規の訓練を受けた本職の軍人だ。
油断はなし、常に三人一組で行動し敵影は躊躇無く殲滅しろ」
「あいよっ!!」
「りょーかi……クハァ」
「解った」
(,,゚Д゚)「ふんっ」
「あだぁっ!!?」
時間が勿体ないのでツッコミは省略し、白露型2番艦の頭にはげんこつを一度振り下ろしておいた。
胃が痛い。
225 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/06(水) 22:56:35.03 ID:WGfcJS2B0
(,,#゚Д゚)「そろそろ本番行くぞ!Ostrich、裏側の入り口から本舎裏手に回り込め!」
( ゚∋゚)「……了解した。
Guys, Let's go!!」
「「「Yes sir!!」」」
(,,#゚Д゚)「時雨、ヴェールヌイ、江風は全員正面攻撃に回り、表側からありったけの火力でど派手にぶちかませ!!
Wild-cat、全戦力をもって艦娘三名を援護!裏手からのOstrichの突入を成功させるために敵の目を引きつけろ!」
「「「了解!!」」」
( ̄⊥ ̄)「我々はヨシフル少尉の部隊と同行!共にВерный達を援護する!!
かつての仲間を撃つことになるが、怯むな!!我々の職務を鋼の意志で完遂せよ!!」
「「「Да-с.!!!」」」
三者三様の鬨の声を上げて、きっかり3ダースの兵士がそれぞれの持ち場の方向へと散っていく。俺は表口の扉に先頭で張り付き、その向かい側にファルロがAK-12を構えて身を寄せた。
( ̄⊥ ̄)「外に人の気配は………」
(,,゚Д゚)「………ないな」
後続する奴等にハンドサインで突入の合図をしようとして、俺の脳裏にふと一つの疑問が浮かぶ。
作戦開始の寸前でそれをそのまま口に出した理由は、俺にも解らない。もしかしたらファルロの緊張をほぐすためのものだったのかも知れないし、或いは俺自身が少しがらにもなく緊張した結果それを思わず……だったのかも知れない。
とにかく、俺は他愛もない雑談のような形でその疑問を投げかけた。
(,,゚Д゚)「因みに、ここの地下室はなんのために造られたんだ?」
( ̄⊥ ̄)「ん?あぁ、водкаの自作・保管用の部屋だよ」
(,,゚Д゚)「ほぉ………そりゃまたロシア人らしi」
………………酒を、“自作”?
226 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/06(水) 23:16:20.81 ID:WGfcJS2B0
( ̄⊥ ̄)「戦況が絶望的だった頃は、娯楽品やら嗜好品が殆ど市場に出回らなかったのはあんたらも知ってるだろ?
ロシアじゃ酒の類いの流通量がその時の名残で今でもまだまだ少なくてね。
マシにはなったけど値段が高くて、例え軍人でもおいそれと買えるもんじゃないんだ」
(,,゚Д゚)
( ̄⊥ ̄)「一応中国産の酒が最近安値で入ってくるようになった……が、中国で実際に飲まれている紹興酒とかの本場物ならいざ知らずパチモンは不味くて飲めん。中国産водкаなんてここにいる面々は臭いでもうダメだったよ」
「あれは本当にводкаをバカにしているよ。私たちにとっては文字通り水も同然なのに」
(,,゚Д゚)
「だから私達で、ロシア人の魂であるводкаをもう一度好きなだけ飲むために自分たちで造ろうと思ったのさ。その夢の第一歩が、ここの地下室だよ」
( ̄⊥ ̄)「ムルマンスク市民もあんな安物のводкаもどきで満足できるわけがないからな、私達の試みはまさにこの街を救うための………どうした?少尉」
(,,゚Д゚)「いや、なんでも」
努めて感情を殺し、平坦な声で応える。胃と頭痛がこれ以上無いほど痛み始め、目の前にチカチカと星が飛んだ。
「………なぁギコさン、この人ら助けたの間違いなンじゃ」
(,,゚Д゚)「言うな」
後ろから江風に思っていたことと全く同じ内容の台詞を言われ掛け、遮って黙らせる。
( ̄⊥ ̄)「?」
ムルマンスク鎮守府提督、もとい密造酒製造組織頭目・ファルロ=ボヤンリツェフは、動揺する俺を心底何が悪いのか解らないという様子で首を傾げていた。
227 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/06(水) 23:46:54.76 ID:WGfcJS2B0
《CNNからニュースをお伝えします。
東欧連合軍総司令部はドイツ領内における大規模な反攻作戦を計画していますが、それを実現するための戦力が足りない状況を解決するための方策は未だに見いだせていない模様です》
《EUの離脱も示唆しているイギリスはドーヴァー海峡を始め近海の封鎖を継続。西欧、東欧どちらの戦況に対しても不介入の構えを崩していません》
《スペイン政府はポルトガル、フランスと共同でイギリスへの非難声明を発表、アメリカ合衆国にも政治的な圧力を掛けるよう要請が出ています》
《非難の声は中東、アジアまで拡大していますが、世界の警察たるアメリカは無法者イギリスに対して未だに手をこまねいています》
《アルジャジーラの取材に寄れば、イギリスはアメリカに対して「自身の孤立主義に口を出すなら自国内のレイクンヒース空軍基地の利用を制限する」と強い牽制をかけている模様です》
《中華人民共和国の劉獅那(りゅう・しな)国家主席はイギリスの頑なな不介入主義を「栄誉ある孤立」として肯定的に捉えています》
《今や“艦娘先進国”日本の存在はヨーロッパ諸国にとって希望の光であり、侵略に苦しむ各地の人々が海上自衛隊と艦娘部隊の到着を心待ちにしています》
《ルーマ国連事務総長は日本の手厚い欧州支援に感謝の意を述べ、自衛隊・艦娘部隊への支援を惜しまないと声明を発表しています》
《日本自衛隊、艦娘戦力の海外派遣について、アジアの一部地域では“軽率なのではないか”“侵略主義の復活では”という声が上がっています。
また、国連人権委員会並びに国連侵略戦争監視委員会も、同様に強い懸念を示し自制を促す声明を発表しました。
国際社会のこうした懸念に対し、南首相がどういった対応を取るのか、注目が集まっています。
以上、【テレビ日ノ出】がお送りしました》
228 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/09/06(水) 23:48:59.01 ID:WGfcJS2B0
三連休の小手調べといったところで本日ここまで。明日お昼より更新再開します
229 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/07(木) 00:42:21.08 ID:jklL8q1A0
おつおつ
国柄というか呪縛というか、危機的状況だからこそぶれないのだろうかw
それとマッスルサイドの方も気になるなw
230 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/07(木) 12:12:28.04 ID:y5a/8HOy0
片翼をもがれたイリューシン-76輸送機が、被弾面から火炎を噴き出しながら街の外れへと墜落していく。本来闇夜に紛れるはずの黒煙による軌跡は咲き乱れ続ける爆炎に照らし出され、地上の我が輩たちでも容易く視認できるほどくっきりと映し出される。
開かれた後部ハッチからは、小さなオレンジ色の玉のようなものがぽろぽろと空にこぼれ落ちていく。一見ただの火の粉のようなそれらは、よく眼を懲らせば炎に包まれ悶えながら機内から脱出した人間だと気づくことが出来た。
びしゃり、びしゃり。
戦火の轟音が入り乱れる街の中に、上空から悲鳴と共に幾つもの人体が降り注ぐ。高度数百メートルからパラシュートを開くことも出来ず叩きつけられたタンパク質の塊は、都度内蔵やら血液やらその他ありとあらゆるものをぶちまけて路上に散乱していく。
( ФωФ)「っ」
我が輩の足下にも、一人が勢いよく叩きつけられる。脳漿と筋肉繊維と骨粉が混ざりあった赤い液体が軍用ブーツにかかり、ツンとした吐き気を誘うような───その一方で嗅ぎ慣れた臭気が鼻を突いた。
『グォオオオオオオオッ!!!?』
「давай,?давай,?давай!!」
頭上十数メートルほどの位置を対戦車ロケット弾が数発通り過ぎ、丁度此方へ向かってきてきた軽巡ト級に直撃する。
攻撃を放ったMi-24【ハインド】はローター音を轟かせながら後方の十字路に着陸し、機内からは深緑の軍服を着て袖の部分に汎スラヴ色の国旗を縫い付けた一団がAK-12を構えて周囲に展開した。
231 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/07(木) 12:32:54.39 ID:y5a/8HOy0
「ロシア陸軍のジノヴィ=グルージズェ大尉です!“海軍”の援護に参りました!!」
我が輩の元まで駆け寄ってきた男は、ほとんどロシア訛りがない流暢な英語でそう名乗った。白いものが何本か混じった立派な口髭を震わせて、響き渡る砲火の音に飲まれぬようにと懸命に声を張り上げている。
「リクマ=スギウラ准将でお間違いありませんか!?これより、指揮下に入ります!!!」
( ФωФ)「増援感謝する!!!」
叫ぶ我が輩たちの傍で、ジノヴィの部下がAK-12を空に向けて引き金を引く。急接近してきていた【Helm】が一機真正面から弾丸に貫かれ、炎を吹き出しバラバラになりながら墜落していった。
( ФωФ)「貴官らの戦力は!?」
「我々混成空中機動大隊の他に、独立特殊任務旅団数個が現在急行中!
また、五分後からは機甲戦力の空挺投下も随時行われます!!!」
( ФωФ)「ならば重畳だ!!!」
正直今回のルール地方における核使用のいざこざでロシアが戦力を出し惜しむ可能性も幾らか危惧していたが、杞憂に終わり少し胸を撫で下ろす。世に名高き【スペツナズ】を旅団ごと複数投入とくれば、ロシアのムルマンスク防衛に対する本気度は決して低くない。
( ФωФ)「これより我が輩たちは更に前進し敵艦に攻撃する!お前達は援護に回ってくれ!」
「Да-с.!」
( ФωФ)「青葉、叢雲、椎名、行くぞ!!
総員、前進!!」
「「「了解!!」」」
『ウォオオオオオオンッ!!!』
突き進む我が輩たちの頭上を、今度は敵側から放たれた砲弾が弧を描いて飛び過ぎた。
尾翼を粉砕されたMi-28が、くるくると糸が切れた凧のように回転しながら落ちていく。
232 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/07(木) 13:17:17.84 ID:y5a/8HOy0
港湾部の戦況は、まさに一進一退となっていた。我が輩たちが押し込むこともあれば、深海棲艦共に押し返されることもある。攻防の逆転はそれぞれが攻勢限界に達するごとに定期的に訪れ、結果として我が輩たちは敵の浸透を一歩も許さず、また此方もほんの1cmすら浸透することができぬままでいる。
そして今は、周期的に言えば我が輩たちが攻勢に出る手番だ。
「邪魔!!」
『『『!!?!?』』』
「やぁ、見事なもんですねぇ」
群がるハエの如く四方から押し寄せてきた敵の艦載機を、叢雲の対空機銃が唸り全て蜂の巣にする。まさに一瞬での殲滅に、青葉が走りながら器用に拍手を繰り出した。
「────んじゃ、お次は青葉の番ですね!!」
『ォオオオオオオォオッ!!!』
隊列から一歩踏み出した青葉が、そのまま一気に加速する。疾走する彼女の視線の先には、先程ハインドからの攻撃を受けていた軽巡ト級。
『ォオオオオオッ!!!』
「遅い遅い────せいっ!!」
三頭の内両脇の二頭が口を開き、中から突き出された単装砲が火を噴く。が、青葉はそれを前に飛んで避けると、そのままト級の下潜り込んで地に着かれた奴の腕めがけて右足を一閃した。
『ア゛ア゛ッ!?』
樹齢数百年の巨木を一撃で叩き割ったような、心地よい乾いた音がト級の断末魔と共に響く。蹴りを受けた右腕の肉が盛大に破け内側から骨格が突き出し、傷口からぼたぼたと青い血を吹きながらト級の巨体が横倒しになる。
『ァアアァア………ゴガッ?!』
「んー……やっぱり手負いを殺っても歯応えがないですねぇ」
呻くト級の上下の顎を掴み、そんなことをぼやきながら青葉は無造作に両腕を開く。
『ギッ…………』
甲殻の破砕音と筋肉繊維の断裂音が同時に響き、頭部を上下に引き裂かれたト級は悲鳴すら上げることを許されず絶命した。
「いやぁ、かつての地獄がこうなるとちょっと懐かしくすらなっちゃいますね!!さ、まだまだ頑張りましょう!」
「сатана……」
全身に奴等の返り血を浴びて満面の笑みで微笑む青葉の姿に、ロシア兵の1人が震える声で呟く。
まぁ、悪魔にしか見えんよなこの姿は。
233 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/07(木) 13:48:13.07 ID:y5a/8HOy0
「………日本の艦娘はレベルが違うと聞いていましたが本当ですね」
( ФωФ)「あやつは艦娘の枠さえ超越した何かだ、参考にするな」
グルージズェが最早驚愕を通り越して呆れた様子で呟いたが、“日本”への風評被害が広まる前に釘を刺しておく。我が国の艦娘は確かに質量共に世界最高水準だが、あのレベルが量産できているなら今頃この戦争は人類の一方的勝利の内に幕を閉じている。
( ФωФ)「“海軍”には頭と筋肉のネジを予め忘れて生まれてきた男が1人いてな。そやつに鍛え上げられた結果が“アレ”だ」
「な、なるほど……」
「本当に流石ねぇ。私も肖りたいぐらいだわ」
因みに【Ghost】叢雲は右手にぶら下げていたト級の下顎をつまらなそうに遠くへ放り投げる青葉の姿を、少し頬を染めて眺めている。……こいつの提督に速やかに話を通しておかなければいけないと、我が輩は固く心に誓った。
( ФωФ)「アレに憧れるのはやめておけ。主の提督が泣くぞ」
「あらなんで?強いことはいいことじゃない?」
( ФωФ)「あやつとあやつが所属する鎮守府の者どもは全員もれなく頭が────」
ぐらり。
足下が、微かに揺れる。
(;ФωФ)「散開!!」
「皆、下がりなさい!!」
我が輩と叢雲が同時に叫び、周りの兵士達と共に蜘蛛の子を散らしたが如く四方へ跳ぶ。直後、アスファルトで塗装された地面がボコリと1メートル近い高さまで隆起した。
『ギィイアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』
「Ahhhhhhhh!!!?」
土煙とコンクリートの破片が舞い上がり、地下からイ級の巨大な頭部が突き上げるような動きで表出する。逃げ遅れた“海軍”の兵士が1人、悲鳴と共にはね飛ばされそのまま倒壊した家屋の剥き出しの鉄骨に串刺しになる。
「驚かすんじゃないわよ、このッ!!」
『ォオオオオ───ギアッ!?』
跳ね返るように再度突貫した叢雲が、勢いよく槍を突き出す。眼の部分を突かれてそのまま反対側まで貫通されたイ級は、地下から出現した体勢のままぐたりと力を失って動かなくなった。
234 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/09/07(木) 14:15:40.29 ID:y5a/8HOy0
「セクソンがやられました、もう息がありません!!」
(#ФωФ)「怯むな、直ぐに体勢を立て直せ!次がもう来ているぞ!!」
『『『─────!!!!』』』
高らかに唸るレシプロエンジン音。摩耶達の対空砲火をかいくぐった凡そ30機ほどの編隊が三方に分かれながら此方へ向かってくる。
機影は、【Helm】に比べると遙かに丸っこい………というよりは、完全な球体に近い。そして何よりも色は白く、闇夜の中でもその姿は簡単に見分けることが出来た。
尾翼と主翼は縦に並び、主翼はその位置や形から“猫耳”なんてふざけた蔑称を付けられている。球形の機体の中心にはまるで目一杯開かれた口のように穴が開き、その中からは機銃が顔を覗かせる。
(*;゚ー゚)「【Ball】、きます!!総員、対空戦闘用意!!」
【Helm】と共に主力航空戦力を担う、深海棲艦の球形戦闘機。マルチロール戦闘機としての機能性が強い【Helm】に対して、【Ball】はより空対空戦闘───分けても艦娘達が操る小型艦載機との格闘戦に特化した能力を持つ。
とはいえ、それは【Ball】の飛行能力の高さを示すものであって、【Helm】と比べて地上・海上戦力にとって脅威度が下がるという意味にはならない。
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