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ある門番たちの日常のようです
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35 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/11(金) 01:02:22.29 ID:6HvgTbn4O
《目標地点まであと30秒!》
《OK Guys, It's about time to War!!》
「こっちは一応女なんだけど」
「今そこはツッコむところじゃねえだろ」
威勢のいいかけ声が機内に流れ、それを合図に的外れな呟きを漏らす“同僚”と共に席を立つ。空を焦がす銃火や砲撃の最中を擦り抜けるようにして飛びつつ、MV-22Bの後部ハッチがゆっくりと開く。
「うおっ………」
途端、真後ろを飛んでいた別のMV-22Bが下から砲弾に撃ち抜かれて火達磨になる。吹き付けてきた熱風に、俺を含めた何人かが僅かに顔をしかめた。
だが、それ以上の反応は誰も示さない。そんなものは、疾うの昔に見慣れて久しい俺達にとっての「いつも通り」の光景に過ぎない。
《目標地点に到達!!総員順次降下開始!》
《砲火が激しい、長くは留まれない!飛べ、飛べ!!》
操縦席から急かされるのと同時に、先頭の何人かが飛び出していく。それを皮切りに、MV-22Bの後部から次々と人影が空に舞う。
(,,゚Д゚)「────【Wild cat】、降下する!!」
列の中程に居た俺────“海軍”少尉、猫山義古もまた跳躍し、空中に身を躍らせた。
こうして、今日もまた俺にとっての“日常”が幕を開ける。
36 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/11(金) 01:07:24.92 ID:6HvgTbn4O
〜(,,゚Д゚)ある門番たちの(非)日常のようです(゚ー゚*)〜
変態マッチョ・地獄の血みどろ風トマトソース和え
\待たせたな/
| || /⌒\|
‖ /⌒\ ヽ
| σ ̄λ 人 |
〜〜〜〜| > |
/( T )/ (_ノ
( ヽ_ノヽ
|_丿 /⌒\
| | | ヽ
\/( |〜、人 |
`( | |___\_ノ/
(\| ヽ \/⌒ヽ/
Σそ LLL)/ L_ノて
37 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/08/11(金) 01:14:43.41 ID:6HvgTbn4O
もう少し先に進めたいところなのですが眠気が限界に達しまして一度落ちます。申し訳ありません。
明日はもう少し速い時間帯に更新させていただきます
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/11(金) 02:44:17.02 ID:fPNeKif2o
乙
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/11(金) 10:26:16.48 ID:Q2zq0DqA0
おつおつ
やっぱ過酷だなあ…と思っていたらどえらい物がぶち込まれたw
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/11(金) 11:33:30.57 ID:g8i7s2Nro
乙
マッチョの方はあんまり知らないけどシュワちゃんみたいな人間武器庫な感じか?
41 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/11(金) 22:45:06.66 ID:6HvgTbn4O
高度7000M。翼を持たず、跳躍能力も低く、耐久力も脆弱な人間がこの高みまで到達するということは、考えようによってはとてつもない偉業かも知れない。単体の動物としては割と貧弱な部類に入る人間が技術の革新を経て文字通りの意味で「雲の上の世界」に辿り着く、世間一般で言うところの“豊かな感性”の持ち主なら、人類の叡智の歩みとか科学の進歩の軌跡とかそんなものに気づいて感動の涙を滝のように流したりするのだろう。
残念ながら俺は学も感性も無いので、雲の上にいようが地面にいようが考えることは変わらない。
《Mayday, Mayday, Mayday!!》
《Chariot-51 one hit!!》
《Shit, I'm hit!!》
なにとぞ今日も生きて帰れますように、だ。
《ヨシフル、Chariot-51がこっちに落ちてくるぞ!!》
(,,;゚Д゚)「散開運動、回避しろ!!」
対空砲火の直撃で火達磨になったMV-22Bが、くるくるとオレンジの曲線を描きながら落下する。夜空に逆巻く炎は荒々しくもどこか幻想的で、機体のパイロットたちには悪いが見とれてしまいそうな光景だ。
米軍開発のウィングスーツを滑空するムササビのように広げて時速200KM/hオーバーで急降下中の、俺達を追うような軌道じゃなければの話だが。
(,,;゚Д゚)「火の粉にウィングを焼かれるなよ、Break!!」
無線機に向かって叫びながら、僅かに身を捩り降下軌道と速度を調整する。熱を帯びた巨大な塊がほんの一メートルと離れていない位置を落下していく様がちらりと視界の端に移った。
飛び交う無線の中にどうも聞き覚えのある悲鳴が混じり、通過した塊に人影と思わしきものが張り付いていた気がするが見なかったことにする。
第1、集中を切らせば次にああなるのは俺だ。
42 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/11(金) 23:07:14.26 ID:6HvgTbn4O
《1名が墜落機に巻き込まれた!》
(,,#゚Д゚)「構うな、隊形維持しろ!」
高度7000Mとはいっても、地面に到達するまでに有する時間はたった2分間に過ぎない。だが逆に、張り巡らされる弾幕の中を滑空する時間が2分もあるともいえる。
敵の───地上に蠢く深海棲艦の群れは、その2分間で俺達を殲滅するべく膨大な量の火線を空に向かって吐き出してきた。
《Ups...》
《Ahhhhhh!?》
《Break, Bre》
呻き声が、悲鳴が次々と上がり、味方への指示や注意を促す叫びが爆発音や肉の断裂音と共に途切れていく。真っ暗な街並みを照らし出す無数の対空砲火の光が瞬く様はまるで満天の星空をそのまま地面に映したかのようで、はっきりいって美しい。
まぁ正体は、深海魚の出来損ないみたいな怪物共が放った光でかつ俺達への殺意に溢れているわけだが。
《高度3500!!》
(,,#゚Д゚)「地表到達まで一分!総員隊形維持しつつ着陸姿勢への移行を開始しろ!!」
夜空を焦がす無数の砲火を潜り抜けながら、急速に迫ってくる地面に対して平行になるよう少しずつ降下軌道を変えていく。それはとりもなおさず地表の敵に対して砲撃を当てやすい軌道をとることになり、艦隊戦で例えるならわざわざT字不利になるよう舵を切るようなものだ。一言で言えば手の込んだ自殺と同じ意味になる。
43 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/11(金) 23:53:11.86 ID:6HvgTbn4O
飛んで火に入る夏の虫、なんて言葉が日本にはある。この地は日本じゃない上奴等に諺が通じるとも思わないが、ミニチュアサイズの大きさで時速600km前後を出して飛び回る空母艦娘の艦載機すら撃墜する能力を持つ深海棲艦からすればきっと俺達は夏の虫か、さもなきゃ「肥え太った七面鳥」と同じだったに違いない。
『オォオオオオオオッ!!!』
『アァアアアアア……ッ!』
黒を基調とした体色の個体が多いせいで、奴らの姿をはっきりとは識別できない。それでも、風切り音と砲声に混じって微かに聞こえてくる奴等の独特の鳴き声は、歓喜と嘲りに満ちているように聞こえた。
《【Wild?cat】、目標地点に接近!》
《CAS開始。Warthog,?全機攻撃を開始せよ》
《Roger.
Warthog-01,?engage》
《Warthog-02,?engage!!》
だが、嬉々として俺達に狙いを定めていたであろう奴等は、間抜けなことに真上から突っ込んでくる機影に気づけなかった。
『オォアアアッ!!?』
『グゥアッ!?』
GAU-8アヴェンジャーガトリング砲が4門、一斉に火を噴く。30mm機関砲弾が降り注ぎ、攻撃を受けた何体かの非ヒト型が耳障りな呻き声を上げた。残りの火線も突如現れた新たな敵に混乱してか大きく乱れる。
動揺したであろう奴等の頭上を、双発エンジンの騒音を撒き散らしながら四つの直線翼を持つ機体が駆け抜けていく。
《Enemy?have?damage》
《All?unit,?Keep?fire!!》
「空の魔王」の血を引く、フェアチャイルド・リパブリック社が生み出した近接航空支援専用機───A-10戦闘機。4機の「イボイノシシ」が、鼻息荒く深海棲艦に襲いかかる。
44 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/12(土) 00:54:42.06 ID:JRPJjvivO
詳細な理由は未だに不明だが、奴等はヒト型、非ヒト型を問わず種をあげて「人類」を憎悪している傾向がある。本来俺達は(一部「そうじゃない奴」も混じっていたとはいえ)人間と奴等との力の差を考えれば優先して撃破すべき存在ではないはずだが、その習性故奴等はわざわざいつでも嬲り殺しにできる筈の俺達に火力を集中しようとした。
結果、4機のA-10は疎かになった防空網を突っ切って奴等の頭上に無傷で到達する。要は、「本命」である俺達を同時に「囮」としても活用したというわけだ。
『オォオアアッ!?』
『ガッ───ゴァアッ!?』
アヴェンジャーガトリング砲が咆哮し、太い火線が街並みを照らして地を駈ける。放たれたハイドラ71ロケット弾が街の彼方此方で炸裂し、表皮を砕かれた非ヒト型の個体が悶え苦しみ怒りと苦悶の声を上げる。
乱れ、崩れ、穴だらけになった防空網。大きく開いた火線の隙間に、俺達を始め次々と“ムササビ”の群れが飛び込んでいく。
《着陸20秒前だぜ!》
(,,#゚Д゚)「ポイントに障害物、敵影共になし!総員減速用意!!」
45 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/12(土) 00:56:02.23 ID:JRPJjvivO
凄まじい勢いで地面や家屋が後ろに流れていく中、彼方に見えた街並みの切れ目。直径20M程の広場が視界に映った瞬間、右手で胸元のトリガーを握る。
《着地まで10秒だよ》
(,,#゚Д゚)「急減速開始!!パラシュート、射出!!」
トリガーを引き抜く。
(,,; Д )「ゴァハッ………!?」
途端に、全身の骨を軋ませるような衝撃を感じた。パラシュートが風圧を受けて背後で一気に広がり、物理法則に従って滑空を続けようとする俺の身体を起点に慣性と壮絶な綱引きを開始した。
(,,;゚Д゚)「………っはぁ」
幸いにして慣性はあまり執着心が大きいタイプではなかったようで、綱引きの軍配は早々にパラシュートと風圧に上がる。景色が流れていく速度は見る見るうちに落ちて、崩れ落ちた瓦礫の山や原型をギリギリ残している家屋の屋根を掠めるようにして俺の身体はパラシュートの下にぶら下がったままゆっくりと広場に降りていく。
やがて俺の足は、トンッという軽い靴音と共に地面の感触を取り戻す。
(,,゚Д゚)「【Wild cat】、空挺成功。これより作戦行動に移る」
( ゚∋゚)「【Ostrich】、降下完了。情況開始」
「降りた。報告終わり」
「いや、もうちょいやる気出せよ姉貴……駆逐艦江風、降下完了。これより駆逐艦時雨と共に【Wild cat】並びに【Ostrich】の援護に回る!」
俺達は、ロシアの大地に降り立った。
46 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/12(土) 01:32:19.55 ID:JRPJjvivO
着地報告を無線で飛ばしてパラシュートの紐をとっとと切断しながら、俺達はサブマシンガンを、時雨と江風は現状唯一の艤装である25mm連装対空機銃を構えて周囲を警戒する。
飛び込む瞬間は確かに敵影がないことを確認しているが、あくまでも時速200qで滑空しながらの視認に過ぎず万全のチェックとは言い難い。周辺の戦闘音の動きから「大物」による襲撃はなさそうだが、油断は禁物だ。
幅10M程の道路を四方向に延ばし、コンクリート製の古びたアパートや家に囲まれた円形の広場。とどまればわざわざ集中砲火の的になるようなものなので、Ostrich側と時雨、江風も含めて22名全員の用意が整ったのを確認して直ぐに北側の通路へと移動する。
張り詰める空気。四方八方から砲声や爆発音、そして深海棲艦共の呻き声や怒号が聞こえてくる中、この広場だけは不気味なくらいに静まり返っている。
⊂( ゚∋゚)∂「………」
(,,゚Д゚)b「………」
Ostrichの指揮官と思われる、優に190cmは越えるであろう巨体の男とハンドサインを交わし、先に進むよう促す。俺はしんがりとしてなおも広場を警戒して、北通路に向かいながらも丹念にそこかしこに銃口を向けてにらみを利かせていく。
土だけが盛られた花壇、ひっくり返った木製の荷車、今し方俺達が取り外したパラシュートの下、家々の窓や柱の陰─────
(,,゚Д゚)「…………」
敵の爆撃にでも吹き飛ばされたのか、屋根が崩れ落ちている正面の古びたアパートのような建物。
その二階で、窓越しに何かが動いた。
(,,#゚Д゚)「Enemy!!」
叫ぶよりも先に、指が4.6mm短機関銃の引き金を引く。
乾いた銃声が響く。AK-47を構えた“人影”が、鮮血を吹きだして窓から転がり落ちてきた。
47 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/12(土) 02:07:23.59 ID:JRPJjvivO
ソヴィエト連邦時代にミハエル=カラシニコフによって生み出された、「世界で最も使われた軍用銃」を抱えながら広場に転げ落ちてきた男。茶色の草臥れたハンチング帽を被りロシア人のステレオタイプをそのまま3Dプリンター辺りで実体化したんじゃないかと疑いたくなるような体格をしたその男は、武器こそ持っていたものの遠目に見る限りは明らかに“ただの人間”だった。
だが、それがまるで合図だったかのように、広場のそこかしこで「気配」が動く。建物の二階から、柱の陰から、家々の隙間から、何挺、何十挺という数の銃口が突き出され俺達に向けられる。
(,,;゚Д゚)そ「うぉおおおおおっ!!?」
銃口が向けられたとはいってもほとんどはめくら撃ち状態のようで、弾丸自体は手ぶれ等の影響もありあらぬ方向へと飛び散っていく。だがまさに「下手な鉄砲も数打てば当たる」という奴で、たまたま正確な位置に飛んできた弾丸を通路脇の横倒しになっている乗用車の影に転がり込んで避ける。
(,,゚Д゚)「ちいっ!」
「※※※………」
すぐさま身を起こし、応射。右手50M程先の細い路地から銃撃を加えてきた、青いパーカーを着た男が額の風穴から血を吹きだして前のめりに倒れ込む。
更に照準を左に向け、射撃。ショートカットに金髪のやせた女が一人突っ込んでこようとしていたが、弾丸がめり込んだ喉をかきむしりながら痛々しい呼吸を数秒繰り返した後膝から崩れ落ちて事切れた。
「アウッ!?」
「───Enemy down!!」
(,,゚Д゚)「Good job」
リロードしようとした俺の横で、別の銃声。UZIが火を噴いて、連射を受けた小太りの男が血だるまになって広場に転がる。
装填を終え、車の上側から顔を出して撃つ。今し方撃たれた小太りの男を助けようとしたらしい人影の頭蓋を、何発かの弾丸が鈍く生々しい音を立てて貫く。
48 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/08/12(土) 02:09:49.78 ID:JRPJjvivO
いったん切ります。
今回扱うテーマ的にマッチョ関連除いて(マッチョ関連でも幾らか)暗いテーマ扱います。ので、割と展開も人によってはエグいと感じる部分があるかも知れませんがご容赦下さい
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/12(土) 02:20:45.35 ID:LtK0xBoA0
おつおつ
敵の制空圏への突撃すらとんでもないのに、地上に降りたってもこれなのか…
仕出かした事のツケのおかげでとんでもない感じかな
50 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/12(土) 22:53:26.10 ID:JRPJjvivO
それは、信じられないほど稚拙な待ち伏せだった。
せっかく包囲下にあった俺達にわざわざ脱出寸前まで手を出さず、いざ戦闘が始まれば銃火を隠す努力すらせず隠れている位置を教えてくる。肝心の射撃もろくに狙いが定まっていないため、弾丸の大半は的外れな場所に突き刺さる。味方が倒れれば、相互の連携も取らずに助けようと射線に身を晒して結果屍体を増やすだけ。
(,,゚Д゚)「……江風、路地に伏兵は?」
《いんや、居ないね。ビビって出てこれない可能性も0じゃないけどさ。
一応確認するかい?》
(,,゚Д゚)「いや、弾と時間の無駄だ。いい」
あまりにもお粗末な有様に罠の可能性を考えたが、通信を飛せば拍子抜けするような返答。
疑念は、確信に変わる。
こいつらは市民を装ったりしているわけではない。正真正銘、ずぶの素人だ。
(,,゚Д゚)「2、3人負傷させて退くぞ。殲滅するだけ弾の無駄だ」
「Aye sir」
援護に戻ってきた兵士の肩を叩いて合図を出し、幾つかの暗がりや物陰に弾丸を叩き込む。肩や足を抑えた人影が呻き声を上げて地面に転がるのを目にすると、俺たちは一応後方に注意を向けながらもとっととその場を去る。
案の定、申し訳程度の当てる気すらない銃弾が何発か撥ねただけで追撃の気配は全くなかった。
《どうだった?》
(,,゚Д゚)「追撃の心配は無い。前方への警戒だけで十分だ、このまま進め」
《解った。こっちは4ブロック先まで行ってるからとっとと追いついてね。あんまり待たせると鼻に練りからしねじ込むから》
(,,゚Д゚)「エグすぎるだろ……」
中東の過激派辺りが正式に尋問の手法として採用しそうな内容に身震いしながら、もう一人を促して足を速める。
(,,゚Д゚)「どういう教育してんだよあの筋肉野郎……」
子は親に似るとはよく言ったものだが、艦娘と提督にも同じことが言えるらしい。
白露型駆逐艦2番艦の言動には、英才教育の成果がしっかりと窺えた。
51 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/12(土) 23:20:30.97 ID:JRPJjvivO
「はい練り辛子」
(,,;゚Д゚)「ふざけんnなんで持ってるんだよお前馬鹿かやめろ近づけんな!!」
通信が来てから一分と経っていないはずなのだが、駆け足で追いついた俺の顔面めがけて早速2番艦が右手を突き出してくる。握られたチューブからひり出された黄色い香辛料が、鼻先でツンとした刺激臭を撒き散らした。
ホントに何で辛子持ってんのコイツ?それ艤装?艤装なの?
「62秒も部隊を待たせたじゃ無いか。無駄にできる時間はないって身体に教えなきゃ」
(,,゚Д゚)「この攻防戦の時間が一番の無駄だよ阿呆」
いやもう「蛙の子は蛙」っていうけど筋肉提督の艦娘は筋肉だね。教育って大事。
「……つーか時雨姉貴、なんで練り辛子持ってんだよ」
「提督の口にねじ込もうと思って」
なんでコイツいきなりクーデター実行宣言してんの?
「あー、そう……まぁいいけどさ」
仮にも艦隊司令官の扱い雑すぎだろこいつら。
(,,゚Д゚)<敵の気配は?>
<今のとコロ近くニイル様子はありまセん>
ツッコみどころはまだまだ山とありそうだが、これ以上“無駄な時間”を過ごしても益はないのでとっとと次の行動に移る。
近くで周囲の様子をうかがっていた兵士の一人に声を掛けると、少しフランス訛りが入った英語で返事があった。
<たダし、ムルマンスク全体の戦キョウはよくありまセん。
A-10が一機深海棲艦の攻撃デ撃墜されまシた>
(,,゚Д゚)<それは今し方俺も聞いてたさ。……まぁ、そう上手くはいかねえわな>
52 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/12(土) 23:55:41.12 ID:JRPJjvivO
思わず、声と表情が固くなる。
A-10は空対空戦闘の性能は絶望的だが、頑丈さと圧倒的な対地攻撃能力の高さから深海棲艦相手にもかなりの打撃能力を誇る。条件や武装次第ではル級すら単機で中破に追い込めるほどのポテンシャルがあるため、A-10部隊の損失が増えればそれだけこの作戦の成功率は下がっていく。
「少尉、その人何て言ってんだい?」
(,,゚Д゚)「A-10【Warthog】が一機やられたそうだ。航空隊の損耗が増えるとこっちにも深海棲艦がくる可能性が─────」
右手、100M程の位置で粉塵が舞い上がる。飛んできた直径10M程の瓦礫が目の前の電信柱を一本叩き折った。
『────ァアアアァアアアアッ!!』
家々の隙間から、家屋を幾つか吹き飛ばして耳障りな咆哮と共に軽巡ホ級が顔を出す。
周囲の建造物と大きさを比較する限り、最低でもeliteの個体であることは間違いない。
( ゚∋゚)「…………もう遅かったみたいだな」
(,,゚Д゚)「やかましい」
【Ostrich】指揮官(?)の大男が呟く。口元をカラスの嘴を思わせる黒いマスクで覆っているため、声は少しくぐもっていて聞き取りづらい。
つーか喋れるのかよ意外にいい声しやがって。なんだよそのマスク嘗めてんのかかっこいいじゃねえかクソが。
53 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/13(日) 00:26:31.19 ID:l09jKAHAO
『ァアアアアァアアアッ!!!!』
たまたま近くに出現しただけということを願ったが、残念ながら神様はなかなかのクソ野郎らしい。善良極まりない人生を送ってきた俺の祈りはあっさりと無視され、ホ級はそこかしこの建物を薙ぎ倒しながらゆっくりと方向転換した。
眼に相当する器官がない、人間の上顎だけ切り取って顔の位置に据えたような気色の悪い頭部が砲塔と共に此方に向けられる。明らかに狙いは俺達だ。
早々に着いてないもんだと、思わず深いため息が口から漏れた。
「少尉、戦うかい?」
(,,゚Д゚)「バカ言え────Wild cat, Ostrich両隊並びに時雨、江風に通達。さっきも言ったとおり、俺達には今時間が無い」
とはいえ、一つだけ幸運と言えそうなこともある。それは現れたのがホ級一隻だけだという点。
(,,゚Д゚)「戦うな、“処理”しろ。30秒で片付けるぞ」
「ナメてるの?20秒余裕だよ」
これなら、“無駄にする時間”は最小限で済む。
54 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/13(日) 00:46:54.00 ID:l09jKAHAO
音がして、新たな粉塵が衝撃で舞う。背負われた三段重ねの砲塔が同時に火を噴き、六発の弾丸が夜気を切り裂いて飛んでくる。
(,,#゚Д゚)「─────Attack!!」
『アァッ!?』
尤も、その時には既に俺達は砲撃された場所から消えている。やや前のめりになり、サブマシンガンを抱えバラバラの路地に飛び込みつつ低い姿勢でそのままホ級めがけて突っ込んでいく。
(#゚∋゚)「Go go go!!」
深海棲艦は、ヒト型と非ヒト型双方に(ついでに言うと通常の場合は艦娘にも)当てはまることだが「接近戦・白兵戦」を大半の個体が想定していない。従来軍艦とはアウトレンジから大威力の砲撃を撃ち合うために設計された兵器であり、「生ける軍艦」である奴等の高火力もそういった戦闘を前提としているためのものだ。
眼前のホ級は、幸い「一般的」な思考ルーチンの個体だったようだ。反撃を全くせず即座に自身への突貫を開始した俺達に明らかに戸惑っており、2、3人の組に細かく分かれて散開した俺達のどれを照準するべきか迷って背中の砲を右往左往と揺らしている。
混乱した様子のホ級の眼前に、道路に面する路地の一つから時雨と江風が飛び出した。
55 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/13(日) 00:59:51.22 ID:l09jKAHAO
もう一度言うが、深海棲艦同様艦娘も「本来は」白兵戦を想定していない。暴徒鎮圧や避難民の制御を目的とした護身格闘術程度は各国で教えられることが多いが、あえて無機質的に言ってしまえば艦娘とはあくまで「人型の戦艦兵器」だ。無論艤装から得られる圧倒的な膂力やそもそもの身体能力の高さなどポテンシャルは秘めているが、極めて常識的な思考から「艦娘の白兵戦強化は不要・少なくとも優先順位は極めて低い」という見方が世間一般の考え方になる。
ただし、こいつらは存在自体が“非常識”だ。
「───っふ!!」
「あぁらよぉっとぉおお!!」
『ォオオオオアアアアアアアアッ!!!?』
時雨が横手投げで放った棒状の何かが、ホ級の首元に突き刺さる。仰け反り露わになったその腹に、江風が背中から抜き放った小ぶりな斧を思わせる形状の刃が叩き込まれる。
(,,#゚Д゚)「Flag out!!」
悶絶し、蹲るホ級。下がった砲口に、俺は腰から手榴弾を手にとってピンを外して投げ込む。
『アァッ─────』
背中から白い光が迸る。身体の内側から爆光に引き裂かれて、ホ級の身体が破裂した風船のように飛び散った。
56 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/13(日) 12:30:57.84 ID:pGPCXHXY0
頭おかしい(褒め言葉)
57 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/14(月) 22:05:26.14 ID:LdiSRF6L0
ビシャビシャと湿気た音を立てて、ブヨブヨした白い脂肪の塊が路上のあちこちに落下する。薄らと降り積もりコンクリートを美しく塗装していた雪が、同じ白でも腐ったぞうきんに近い色の肉片に踏み荒らされて無惨に調和を崩していく。
砲塔部分で起きた大爆発に巻き込まれて、ホ級eliteの巨体はおおよそ7割程度が消し飛ばされた。
「……」
江風が顔をしかめながら俺達を振り返る。咄嗟に得物を回収した上で飛び下がっていたので爆発に巻き込まれた様子はないが、強烈な異臭を放つホ級の肉片と体液を頭から浴びる羽目になった彼女は不愉快げな表情を隠そうともしない。
「少尉、ギコさンさ、それ既製品?」
(,,゚Д゚)「……いや、技研から“プレゼント”された新兵器だな。しかも事前通告無しで」
確かに内蔵弾薬への誘爆を狙って砲塔に投げ込んだが、幾ら何でも爆発が大きすぎる。此方としては江風と時雨がトドメを刺すのを援護するつもりで投げ込んだため、面食らったのは俺も同じだ。
「最低でも携行ミサイルぐらいの威力はありましたよね、あの爆発から察するに……」
(,,゚Д゚)「なんつー危険物持たせてんだあのマッドサイエンティスト共」
移動を再開しつつ、残り二つになった手榴弾の内一つをベルトから取り外して眺める。
姿形はM26手榴弾と殆ど変わらないのだが、よく見ると表面に何か描いてあることに気がついた。
ハ_ハ
ナオルヨ!! > ((゚∀゚∩
\ 〈
ヽヽ)
(,,゚Д゚)
(,,゚Д゚)「えっ、なにこれ」
廃村間近の村の役場が血迷って出した、ローカルゆるキャラの失敗作みたいな絵だった。
マジでなんだコイツ。何で跳んでるの?何で満面の笑顔なの?技研マジで何考えてんの?
ハ_ハ
ナオルヨ!! > ((゚∀゚∩
\ 〈
ヽヽ)
何が治るんだよお前破砕手榴弾だろうが。対極の存在じゃねーか。
58 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/14(月) 22:16:16.84 ID:LdiSRF6L0
「………アレ?」
大本営に“海軍”技研全員の精神鑑定実施を上申すべきか本気で悩んでいると、併走する江風が俺の手元を覗き込んでハテと首を傾げた。
「なぁギコさン、アタシそれ見たことあるかも」
_,
(,,゚Д゚)「……この絵をか?」
「うン。どこで見たンだっけかなー、思い出せないけどそう昔のことでもなかった気がすンな」
「あっ、僕も見たよソレ」
反対側で(何故かまだ練り辛子を手放さずに)並んで走る時雨が、俺の手元に視線を向け少し驚いた顔を見せる。
「鎮守府にすっっごい綺麗なセールスのお姉さんが来たんだけどさ、青葉がその絵に似た形の水筒?を買ってたと思う。提督のお金で」
(,,゚Д゚)「……お前らの鎮守府ってあのホーンテッドマンションの事だよな」
「そこ以外あるわけないじゃん、仕えない脳みそだね」
「つーかホーンテッドマンションって……」
なんだ?もうちょいドストレートに「化け物屋敷」とでも呼んだ方が良かったか?
(,,゚Д゚)「とりあえず“コレ”の出所がまともじゃないつまてことは音速で理解した。なら俺はもうこの件については触れん」
一説には「アフリカの奥地よりも行き着くことが難しい」(要出展)とされるあの鎮守府にわざわざセールスに出向く時点でその女は明らかにまともではない。というより、“あの鎮守府”にまつわる話で何か一つでもまともだった例しがない。
………そう考えると、その事をよく知っているだけじゃなくそんな鎮守府の提督や艦娘と面識、交流がある俺もまともじゃ無いな。
「顔に書いてあるから言うけどね、この中に“まとも”な奴なんか一人も居ないよ。今更何言ってんのさ」
正論だが一番まともじゃない奴に言われたのが滅茶苦茶腹立つ。
「………」
(,,; Д )「やめr練り辛子ァアアアアァアアアッ!!!!」
鼻に黄色い危険物をねじ込まれ、走る速度を落とさないため多大な精神力を消費する羽目になった。
59 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/14(月) 22:40:05.24 ID:LdiSRF6L0
かつて、“大祖国戦争”と呼ばれた戦いがあった。
今から70年前、世界中の人類が二度目の“国家総力戦”を経験していた時代。
太平洋の島々で、アフリカの砂漠で、グレートブリテン島の空で、凍てつく北欧の大地で、東南アジアのジャングルの中で、あらゆる国が途方もない数の屍を積み重ねていた時代。
死と荒廃と破壊だけが全てだった当時において、中でも壮絶に憎み合い、互いを絶滅させるべく戦った二つの国家────ナチス・ドイツとソヴィエト連邦によって引き起こされた最も激しく最も愚かな戦い。東欧の大地で、両陣営併せて小国一つが丸々消し飛ぶほどの人命が消耗された。
大祖国戦争、我が輩たちにとってよりなじみ深い名で呼ぶなら“独ソ戦”。
人類同士の殺し合いとしては今なお空前絶後の規模であるこの戦いは、序盤の劣勢を覆してソヴィエト赤軍が勝利を収めた。戦後、ヨシフ=スターリンをはじめとするソヴィエト首脳部はナチス・ドイツに対して激烈な抵抗を見せ国威高揚に貢献した12の都市を表彰、【英雄都市】の名誉称号を贈り、これらの街の名を冠した学園艦を新たに建設するなど大いに讃えた。
ムルマンスクは、そんな【英雄都市】の一つだ。
60 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/14(月) 22:47:00.88 ID:LdiSRF6L0
61 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/14(月) 23:11:48.77 ID:LdiSRF6L0
( ФωФ)「────そして、滅びの危機に直面していた祖国を救うべく全てをなげうって戦った街が、今度は自ら滅びの危機を招くか」
我が輩は戦闘指揮所を兼任する輸送機────マクドネル・ダグラス社製軍用機C-17の中で、モニターに表示される数々の数値を眺めつつ小さく息をついた。
飛び交う通信の断片的な内容とモニター上を流れていくデータを結びつけ、処理し、整理する。そうして見えてきた現状だが、まぁ、我が輩たちからすれば「いつも通り」と言わざるを得ないものだ。
('、`*川「ムルマンスク、危機的な状況です」
( ФωФ)「だろうな」
オペレーターの一人がインカムのマイク部分を押さえながら報告してくるが、その声は至極冷静。彼女からその報告を投げられた我が輩も、特になにか感じるわけでもなくただ頷く。
疾うの昔に、聞き慣れた報告だ。彼女も、我が輩も。
諸々の紆余曲折を経てこの“海軍”が発足された頃より、我が輩たちに楽だった戦場など存在しない。
そして、いかなる情況においても我が輩たちの役割は常に同じ────“深海棲艦の根絶”だ。
( ФωФ)「………とはいえ、なぁ」
ここに至る経緯を思い出して、再び口からため息が漏れた。
( ФωФ)「本当に、自称“平和主義者”はろくなことをしない」
62 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/14(月) 23:48:17.58 ID:LdiSRF6L0
ロシア連邦ムルマンスク州・州都ムルマンスクは、単に“英雄都市”として壮絶な歴史を持っているだけではない。北極圏の港町としては最も大規模で、北欧に至る海上輸送路の重要な拠点の一つでもある。“最北の学園都市母港”という一面も持ち、戦後もロシアの繁栄に常に貢献してきた町といえる。
深海棲艦の出現によって世界中のシーレーンが破滅の危機に陥った際は、ロシアはこのムルマンスクを不楽の要塞とするべく徹底的に強化した。艦娘実装時には真っ先に鎮守府が置かれ、以後も戦力の増強は定期的に続いている。今回の深海棲艦による欧州大規模襲撃に際しても、ムルマンスクがある限り北方からの深海棲艦の侵入はあり得ないと誰もが確信していた。
だが、ムルマンスクは陥落した。ただし、深海棲艦ではなく人間の手によって陸から───内側から制圧された。
('、`*川「このタイミングで武装蜂起って、何考えてるんでしょうね本気で」
( ФωФ)「馬鹿の考えなど理解しようとするだけ無駄だ。少なくとも我が輩はそんなことに時間を割くつもりはない」
ベルリンの陥落確定から間を置かずロシア軍によって行われたルール地方に対する核兵器の使用は、国内外で様々な批判が噴出した。ロシア政府も批判自体は覚悟の上での攻撃実行だったのだろうが、彼らにとっての誤算はこれが独立運動家のプロパガンダに利用された際、煽動に乗ってしまった民衆の数が思いの外膨大だったことである。
ムルマンスクに住民の手引きで侵入した反政府組織の集団が住民の一部と共に武装蜂起を開始したとき、ムルマンスクの主力部隊並びにヴェールヌイが東欧・北欧への対応のため移動中だったことも災いした。
基地からの通信が途絶えたのが17時間前、ロシア政府が事態を把握し、かつ国内外に漏れぬよう徹底的な箝口令を敷いたのが14時間前。
そして、日米政府を通じて“海軍”に出撃命令が下ったのが12時間前。
無論、ムルマンスクに到達するまでに事態が悪化することは十二分に予測していた。単に、予想していた中でも最悪の部類だったというだけで。
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/15(火) 09:19:37.40 ID:OfoAPEM40
ナオルヨ君ワロタwwwwwwwwwwwwww
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/15(火) 11:23:40.45 ID:BRaLySDA0
おつおつ
唐突に劇物を持ち込むのはw
ロシアの決断もあれだけど、それに付け込んで今度は人類全体を脅かしていたらどうしようもねえな…
65 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/15(火) 23:03:04.25 ID:pLchbqPz0
( ФωФ)「反政府軍との交戦は?」
「市街地各所で発生しています。【Warthog】が引きつけているからと言うのもありそうですが、寧ろ深海棲艦と交戦した記録の方が少ないですね」
別のオペレーターが、計器を操作してモニターに新たなデータを出力する。
ムルマンスク市全体の簡易地図が映し出される。地図の幾つかの箇所には、赤色や緑色の光点が点滅していた。
それぞれ赤が深海棲艦と、緑が反政府軍と空挺部隊による交戦が発生した点になる。なるほど、ざっと見ただけでも7:3で緑色のマーカーの方が多い。
( ФωФ)「着陸時までに発生した空挺部隊の損耗は………2割程度か」
脳内で真っ先に「思ったより軽微な損害だな」という感想が、口元にそのことを自嘲する苦笑いが浮かぶ。
昔と……六年前と比べて、我ながらイヤな人間になったものだ。
( ФωФ)「“ヒト型”との交戦報告はあるか?」
「今のところ市内では確認できません。ただ、今回の“暴動”のせいで州全体の防衛網に多大な混乱が生じているため奴等の侵入を防げる状態じゃありませんでした。
まだ到着していないだけでここに出現する可能性は極めて高いかと」
「コラ湾はパラオ鎮守府艦隊を主力とする別働隊が封鎖を完了、深海棲艦を迎撃中。
現状は優勢ですが物量差がかなりあるため、持ち堪えられる時間は長くないですね」
「航空隊より報告。軍港施設にて人間と深海棲艦の交戦が確認されました。武装から推測するに正規ロシア軍のものではありません。案の定といいますか、おそらく鎮守府・港湾施設は反政府軍の手に落ちています」
('、`*川「准将、大本営より通信。ロシア連邦軍より本格的な増援部隊が編成・派遣されたとのこと。現時刻より1時間程度で到着する見込みです」
優秀なオペレーターたちが矢継ぎ早にあげてくる情報に眼を通し、耳を傾け、まとめ、整理していく。
……状況は例え世辞でも良いとは言えない。だが、少なくとも予想の範疇からそう大きく外れたものではなかった。
作戦を変更する必要は“まだ”ない。そう確信した我が輩は、次の段階に進むべく通信機を手に取る。
66 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/15(火) 23:11:09.73 ID:pLchbqPz0
('、`*川「……どうかしましたか?」
( ФωФ)「……いや、大丈夫である」
通信を繋げる間際の一瞬、我が輩が少し躊躇したのを見抜かれたらしい。訝しげに首を傾げる彼女に手を上げて、何でも無いことを示す。
無論、本当に「何でもない」なら例え僅かでも通信を繋げることを逡巡しないわけだが。
( ФωФ)「【Caesar】より【Fighter】、応答せよ」
《此方【Muscle】、聞こえないぞ》
………
( ФωФ)「………【Caesar】より【Fighter】、応答せよ」
《此方【Muscle】、聞こえないぞ。繰り返せハゲ》
………………………
( ФωФ)「………………【Caesar】より【クソボケ脳筋提督】、応答せよ」
(#T)《誰がクソボケ脳筋提督じゃあオルァアーーーーーーーーっ!!!》
(#ФωФ)「完璧聞こえておるだろうがボケェエエエエエエエエエエ!!!!!」
('、`;川「!?」
通信相手の大音声が鼓膜を揺らし、応ずる我が輩の怒声にオペレーターの何人かがびくりと身を竦ませた。
………だから気が進まないのだ。この、脳細胞の一片から足の指先に至るまで筋肉で構成したような「昔馴染み」と会話をするのは。
67 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/15(火) 23:24:26.64 ID:pLchbqPz0
のっけから悪い意味でいつも通りのノリを繰り出してきた通信相手に、思わず我が輩の肩ががっくりと落ちる。
この6年間で我が輩も、他の多くの同胞たちも色々と変わった。なのに、何故かコイツだけ頑なに変わらない。特に内面はこれっぽっちも進歩がない。これには安西先生も絶望のあまりバスケットボールを顔面に叩きつけることだろう……それが奴に効くかどうかは別の話だが。
( ФωФ)(効かねえな)
多分ぶつけたバスケットボールの方が破裂して終了であろう。
まぁ、コイツ相手に遠慮や気遣いは微塵も必要ない。こちらも「“海軍”准将」並びに「当作戦指揮官」の仮面をとっとと脱ぎ捨てて無線機に向かって捲し立てる。
( ФωФ)「テメェ何勝手にコールサイン変えようとしてんだ。作戦が混乱するだろうがアホか」
( T)《いやいやいやお前がアホか。だって俺だよ?俺のコールサインだよ?マッスル以外の何があるんだよ。百億歩譲っても【Leonidas】か【Sparta】だろ。
【Fighter】とかなんかクソ雑魚っぽい。ヤダ》
( ФωФ)「ヤダじゃねーよ脳みそ五歳児か。文句は大本営に言え決めたの大本営なんだから」
( T)《はーーーー、つっかえ。上層部もお前もマジつっかえ。そんなんだから禿げんだよ》
( ФωФ)「まだフッサフサだし百歩譲って禿げたとしててめえのせいだよどんだけてめえら関連の始末書来てると思ってんだ」
( T)《関係ないけど【Caesar】ってコールサインとしてどうなん?なんかチョイスがダサくね?》
( ФωФ)「世界的な偉人の名前つかまえてお前……」
尤も、それをコールサインとして採用されるといまいちしっくりこないというかあまりセンスを感じられないのは同意するが。
あとその論理で行くと【Leonidas】も割と選択としては微妙ではないかと思ったが、言うとまたいらぬ方向に話が脱線すること請け合いだったのでぐっと腹の中に飲み込んだ。
( ФωФ)「とにかくだ、コールサインは今更変えられん。次回で貴様の希望が通ることを祈るんだな、【Fighter】」
( T)《だから【Muscle】だっつってんだrドゥフボゥッ!!?》
68 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/15(火) 23:47:00.10 ID:pLchbqPz0
《───どうも〜〜ロマさん!ウチの司令官が大変失礼しました〜!》
“昔馴染み”が突然奇天烈な断末魔をあげ、一瞬向こう側で静寂が訪れる。瞬き二回ほどの間を置いて応答したのは、少し幼い響きが残るもののはきはきとして耳障りの良い少女の声だった。
( ФωФ)「青葉か」
《はい、青葉ですよ!あ、司令官には後でよく叢雲さんと共に言い聞かせておきますのでここはご容赦下さい!》
( ФωФ)「うむ……時に、奴は今どのような状態だ?」
《股ぐら抑えて蹲ってます!!》
(;ФωФ)「お、おう」
基本的にこの鎮守府の艦娘達は提督である奴に対して容赦が全くない。間違いなく慕われてもいるのだが、時折奴の身分が海軍提督だということを忘れるぐらい扱いが雑だ。
( ФωФ)「あー……可能ならもう一度奴に無線を戻してくれ。間もなく作戦空域だ、齟齬があっても困る」
《了解しました!
…………ところで青葉としては、さっきロマさんも司令官のノリに併せて大騒ぎしてたのはいただけないと思いますよ〜〜?》
(;ФωФ)「………」
耳朶に染みる声色から、夏の向日葵を思わせるあの笑顔とその笑顔の奥に輝く凍てつく氷の如き目付きが容易に想起される。空調がよく効いているはずの機内なのに、我が輩の背筋は裸でロシアの大地に放り込まれたかのような凍えぶりだ。
《次同じことが起きたら司令官と一緒に叢雲さんのお説教受けて下さいね……?》
(;ФωФ)「二度としません勘弁して下さい」
かつて一度だけ、様々な偶然の果てに我が輩はあの叢雲の「説教」の対象になったことがある。
あそこから生きて帰れたことは、我が輩の人生でも五指に入る奇跡だ。
69 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/16(水) 00:21:29.67 ID:dVd3DJ7HO
undefined
70 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/16(水) 00:24:33.05 ID:xMn+FauW0
(;T)《ってぇ〜〜、お前アレ半ば本気の蹴り………はいすみませんもうふざけないですもう一発はやめて下さい死んでしまいます》
通信に復帰した奴の声はまさに「震え声」であり、額に脂汗を浮かべて青葉の追撃に身構える姿が目に浮かぶようだ。我が輩は心の底からの感情を込めて、そんな“昔馴染み”に声をかける。
( ФωФ)「ざまぁwwwwww」
( T)《てめぇ今度あったら絶対アロガント・スパーク決めてやるからな》
( ФωФ)「それこないだ貴様が例のノロマス系女にぶちかました奴だろうが」
《………ロマサーン?シレイカーン?》
(;ФωФ)「《申し訳ございません!!!!》」(T;)
薄ら聞こえてきた青葉の声に直立不動になる。なんだこの威圧感こっわ。睨んだだけで深海棲艦沈められそう。
( ФωФ)「で、作戦の話に戻るが変更は一切無い。我が輩たちはこのままトゥロマ川からムルマンスクへの上陸を計る深海棲艦を迎撃。奴等の上陸地点を封鎖して市内への流入を止める。
港湾部の掌握後は維持戦力を残して市内に反転。先遣降下した部隊やロシア正規軍と合流して反政府軍並びに深海棲艦残党の殲滅に移行する」
( T)《………俺が言うのもなんだけどお前も切り替え凄いな》
本当にお前に言われる筋合い無いなこの日本版デッドプールが。
( T)《“泊地”はもうどっかに築かれてるのか?》
( ФωФ)「少なくとも現段階では報告はない。だが、奴等が築くつもりでここを攻撃している可能性は極めて高い。
そしてもしこの近辺に泊地ができた場合、ヨーロッパ全域の失陥は確定的になる」
ドイツ、フランス、デンマーク、そしてノルウェー。実に4箇所で深海棲艦は内陸浸透の橋頭堡を手に入れ、東欧連合軍や米仏軍は質量双方で圧倒されつつある。
仮にここでムルマンスクに深海棲艦の拠点が築かれれば、ロシア軍はモスクワ防衛のために膨大な戦力を割く必要ができる。そうなれば東欧の支援をまともに行えない。加えてスウェーデン、ノルウェー、フィンランドの北欧3ケ国も東西から挟撃される形になり、既にノルウェー海とデンマーク方面から雪崩れ込んでくる敵艦隊に青息吐息の三国がそれに耐えられるわけがない。
言ってしまうなら、ムルマンスクを襲撃した反政府軍と彼らを安易に迎え入れ同調した相当数の市民は、その考えなしの行動の結果人類全体を本格的な滅亡の危機に追いやったと言っても過言ではない。
71 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/16(水) 00:59:32.18 ID:xMn+FauW0
( ФωФ)「まぁ、御託を並べはしたが貴様が、そして我が輩たちがやるべき事は変わらん。要は────」
( T)《────クソ雑魚ナメクジ深海魚を皆殺しにしろって事だろ?初めからそう言えば一回で済むっての》
( ФωФ)「ああ言えばこう言う奴だ」
………本当に、こいつは昔から変わらない。我が輩の所属する組織がまだ自衛隊“だけ”だった頃から、一貫して馬鹿で単純で筋肉教徒でB級(クソ)映画フリークでムカデ人間をこよなく愛するという致命的な欠陥嗜好を抱える社会不適合者だ。
だが一方で、小指の爪の先程だが「変わらない」事を尊敬する。
例え国から捨て駒のように扱われても、例え騙された挙げ句──騙され方は間抜けの一言に尽きるが──得体の知れない実験のモルモットにされても、例えそれらを全て背負った上で更に「提督」として艦娘達を率いることになっても。
奴は頑なに変わらない。変わろうともしない。
今まさに、「世界の命運」がかかっているような状況下においてすら、奴は相変わらずいつも通りだ。
('、`*川「准将。目標ポイント上空まで後15秒です」
( ФωФ)「────【Fighter】、時間である!!」
その真っ直ぐさが。迷いのなさが。
我が輩は、本当に極稀にだが羨ましくなる。
( T)《だから【Muscle】だっつってんだろ死ね》
( ФωФ)「なんでそこまで頑ななんだよてめえが死ね」
………いや、これ単に事の重大性が解ってないだけか?
72 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/16(水) 01:13:59.37 ID:xMn+FauW0
報告忘れてました、本日ここまで。
明日からマッ鎮ズとロマギコが本格的に共闘していきます。
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 01:27:33.60 ID:mJbR8qpA0
おつおつ
戦況が悲惨だけど、いつもの雰囲気がある分落ち着くなあ(白目
そしてやっぱギコさんも強いのかw
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 02:37:52.93 ID:oKlC7DoA0
乙っぽい
75 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/16(水) 23:13:24.01 ID:xMn+FauW0
('、`*;川「目標地点に到達────っと!?」
( ФωФ)「っ……」
グラリ。津波に正面から突っ込んだ小舟のように、C-17の巨体が傾いだ。
低く、だがはっきりと機内に届いた砲弾の爆発音。何発か連続したそれらはよほど近くで炸裂していたのか、床や壁を通して震動が我が輩たちにも伝わってきた。
《Enemy shoot incoming!!》
《Evade, Evade!!》
《Shit, I'm hit!! Going down Going down!!》
《All unit, Break!! Pull up!!》
《Alcatraz-06 one hit……Noooooo!?》
阿鼻叫喚と言っていいだろう。友軍の輸送機や護衛の戦闘機隊による悲鳴にも似た通信が入り乱れ、悲鳴や爆発音を残してその内の幾つかが途切れていく。
('、`;川「深海棲艦の対空砲火です!!港湾部より凄まじい量の弾幕が展開されています!!」
「前衛のMV-22Bに被撃墜機多数、護衛のF-35にも損害有り!!」
「敵の総数は不明です、少なくとも100隻は優に超えているかと……」
( ФωФ)「映像出せ」
('、`*川「了解!映像、モニターに出します!!」
オペレーターの一人が機器を操作し、メインモニターの画面を切り替える。
真夜中の暗闇に包まれる港湾部が、赤外線カメラによって映し出される。
深海棲艦は体表から放出する特殊な電磁波によってロックオンを受け付けないが、体内器官の一部が第二次世界大戦期の軍艦のタービンのような構造をしておりこれらは特に奴等の戦闘時は常時強い熱を発している。
そのため、奴らの体色も相まって有視界戦が難しい夜間は熱源感知による捕捉が非常に有用な手段となるのだが────
( ФωФ)「………なるほど、これはなかなか大量であるな」
やや画質の荒い、緑がかった白と黒を基調とする画面の中に蠢く異質な明色の群れ。様々な形状をしたそれらは時折一際強く発光するが、恐らく砲撃によるものだろう。
100……いや、そんな数ではすむまい。やや離れた位置からこのムルマンスクへと向かってくる新たな群れも加えれば、200は優に越えているだろうか。
“昔馴染み”にこの映像を見せてやれば、さぞやげんなりした表情を浮かべたことだろう。
76 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/16(水) 23:22:21.82 ID:xMn+FauW0
「トゥロマ川より深海棲艦が上陸を開始!上陸箇所は確認できる限りでは5箇所、判別はできませんがヒト型も複数体含まれます!!」
「対空砲火、更に激化!Alcatraz-02、05もロスト!
攻撃、全て“前衛部隊”に集中!」
( ФωФ)「………ふむ」
機内の揺れが更に激しさを増していく中で、我が輩はオペレーターの新たな報告に思わず眼を見開いた。
( ФωФ)「存外上手く“釣れる”ものであるな」
艤装を装備した艦娘の、関係者の間ではその特性上“船体殻”と呼ばれる不可視の防壁。高い対爆・対貫通防御能力を持つが、この防壁の内側に存在する艦娘達の“本体”は人類とそう耐久力は変わらない。
加えて、彼女達の防壁はあくまでも深海棲艦や通常兵器の砲撃・爆撃・銃撃に対する防御力しか持っていない。例えば、高度100Mからでも転落すれば極めて高い確率で彼女達は死ぬ。MV-22Bが撃墜された瞬間の爆発などで死ぬことは免れても、そのまま地上に叩きつけられれば何の意味も為さない。
【ヒト型】という利点を活かして、彼女達は空輸によって瞬く間に前線に展開させることができる。だが機体が撃墜された事による“落下死”という危険性も併せ持つこの輸送方法は、一種の諸刃の剣なのだ。深海棲艦もその事を理解している以上、上陸の邪魔をさせないためになるべく艦娘が空にいる内に撃墜してやろうという魂胆なのだろう。
奴等がある程度の戦略性を持って人類に相対する存在であるなら、それは「当然」辿り着く解。
( ФωФ)「後衛のMV-22B全機に通達。低空域にて加速突入用意。合図があり次第順次突撃を開始せよ、と」
('、`*川「了解!」
故に我が輩は、あの全身筋肉を含む艦娘部隊をあえて大きく遅らせて進ませていたわけだが。
77 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/16(水) 23:23:53.75 ID:xMn+FauW0
https://m.youtube.com/watch?v=NC8BeRFuUm4
78 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/16(水) 23:27:49.18 ID:xMn+FauW0
拍子抜けするほど敵はあっさりと此方の策にかかったが、気を抜けるような状況では未だにない。
いかにも指揮官機然とした存在感があるC-17を前に出して囮の効果を強めた結果我が輩自身が吹き飛ばされかねないという事もあるが、それ以上にせっかく艦娘の損失が未だ0なのだ。
地上に彼女達が完全に展開しきるまでは、その状態を維持したい。
( ФωФ)「対地射撃開始!」
「Yes sir!!」
通常輸送機は武装がなく、せいぜいミサイル攻撃を回避するためのフレアや最低限度の自衛用に機首や後部に小口径の機銃が配備されているものがある程度だ。
ただし、“海軍”仕様かつ管制機用の改造モデルであるこのC-17は少々事情が異なる。
オペレーターが端末を操作する。それに伴い両翼に装備されたM61 20mmバルカン砲塔と機体下部に格納されていたボフォース L60 40mm機関砲が起動し、港に蠢く深海棲艦の群れをにらみ据えた。
「Open fire!!」
『ウォアッ!?』
『ガァッ!?』
『ォオオオオォオオオッ!!!!』
撃ち下ろされる弾丸。三条の火線が群れの直中に突き刺さる。
無論ヒト型はおろか駆逐イ級にすら効果的なダメージを与えられる攻撃ではないが、知能が低い非ヒト型なら挑発効果は十分だ。
尋常ならざる肺活量を持って吐き出された咆哮が、入り乱れる砲声とジェット音を容易く切り裂いてここまで届いた。
一拍遅れて、声の主が放ったと思われる砲弾が機体の間近で炸裂する。
79 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/16(水) 23:46:27.81 ID:xMn+FauW0
「敵群体、当機並びに前衛部隊への砲火更に激化!」
('、`*川「港湾部に殺到している個体はほぼ全て此方に射線を向けています。接近する後衛部隊に攻撃が向く様子はありません!」
( ФωФ)「よし、そのまま引きつけ続けろ。とにかく銃火をばらまき一瞬でも長く奴等の眼を此方に引きつけるのである」
「「「了解!!」」」
1秒後には至近弾や直撃弾によって痛みを感じる間もなくこの世から消えたとしても不思議ではない砲火の中を、パイロットの文字通り命懸けの努力と奇跡に等しい幸運によって辛うじて無事でいる状況下。
臆病なものなら戦意を失い泣き叫んでいるような有様の中で、オペレーターたちは全員自らの職務を全うし続けている。
そんな彼らの姿を見てばかりいるわけには行かない。
我が輩もまた、職務を全うすべくクリスヴェクターを胸に抱えウィングスーツの下にしまい込む。
('、`*;川「…………本気で行く気ですか?」
( ФωФ)「当然だ。百聞は一見にしかずと言うであろう。
前線の状況を我が輩自身が肌で感じなければ、的確な指示など出せん」
自衛隊の一員として作戦を立案した青ヶ島の一件のように、ぬくぬくとした後方で戦闘の指揮を執るのはどうにも性に合わない。
戦国時代の名将、朝倉宗滴公のような「常在戦場」こそ指揮官としての理想であるべきだ。
どれほど腐った人間になろうとも、机上の数字だけ眺めて戦争をした気になれるほど腐りきった存在には、我が輩はなりたくない。
80 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/16(水) 23:56:44.81 ID:xMn+FauW0
( ФωФ)「────ハッチを開けろ!!」
我が輩の叫びに応じて、C-17の後部ハッチがゆっくりと開いていく。強烈な寒気が機内に吹き込み、先日の降雪から一転して雲一つ無い夜空とその中に咲き乱れる無数の爆炎が視界に映し出された。
( ФωФ)「これよりムルマンスク港湾部の深海棲艦を迎撃、敵艦隊の浸透を防ぐ!
総員、着地と同時に速やかに行動を開始せよ!」
後ろに続く、20名ほどの護衛兵士を振り返る。風と爆発音に負けないよう声を張り上げれば、全員が同時に頷く。
(*゚ー゚)「了解です、准将」
その先頭に立つもう一人の“昔馴染み”は、場違いな程朗らかな笑みを浮かべていた。
81 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/17(木) 00:22:05.02 ID:NMLZvzgs0
(#ФωФ)「用意、用意、用意…………降下、降下、降下!!!」
対空砲火が途切れた刹那の隙を突き、空中に身を躍らせる。そのまま体を下に向け、僅かに四肢を広げて滑空の姿勢を作りながら地面に向かって加速していく。
ヘルメットと薄いながらも防寒性能に優れるウィングスーツのおかげで寒さや風圧を殆ど感じることはないが、弾丸の如き速度で街並みが迫ってくる視覚的な圧迫感からは逃れられない。しかも空に舞う“餌”を撃墜すべく、地表やトゥロマ川から撃ち上げられる嵐の如き対空砲火の直中に突っ込んでいくわけだ。
ともすれば細めそうになってしまう眼を意識して見開き、視界を狭めぬよう尽力する。
《Albatross-Team,?Engage!!》
眼下を、機影が駆け抜ける。プラット・アンド・ホイットニー?F135エンジンの稼働音で冷え切った夜気を震わせ、F-35ライトニングが港湾部に乗り上げ市内への侵入を開始した深海棲艦に向かって突っ込んでいく。
《Albatross-01,?Fire!!》
《Albatross-02,?Fire!!》
『ォオァアアアアアアアアッ!!!?』
両翼下部から切り離される、計4発のMk84爆弾。
『───ァアッ……』
火柱が上がり、直撃を受けた駆逐ロ級と思わしき“艦影”が仰け反る。上陸したばかりだったロ級はよたよたと後ろに向かって数歩蹌踉めき、弱々しい鳴き声を──実際に聞こえたわけではないが──天に向かって上げた後仰向けにトゥロマ川に転落した。
82 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/17(木) 00:45:19.58 ID:NMLZvzgs0
『────ォアッ!?』
『アァアッ!?グゥアッ!?』
『ォオオォ………』
《Enemy down!!》
《Bombs away》
《Don't stop!! Pull up Pull up!!》
【Albatross】の突入によって、奴等はようやく低空で突入してきた後衛部隊の───我が輩たちの「本命」の存在に気づいたらしい。慌てて迎撃すべく新たな火線を貼るが、時既に遅くAlbatrossに後続したF-35部隊による攻撃が始まった。
Mk84を用いた、それもJDAMを装着していない完全な無誘導爆撃。深海棲艦の出現前にはもう見ることは無いと思われた光景だが、まともに最先端技術が通用しない奴等には却って此方の方が効果的だ。
そして彼らはアメリカ軍から選抜された“海軍”航空隊である。元々対深海棲艦を想定した訓練を受けてきた彼らにとって、この程度はこなせなければ恥になる。
『ォオオオオオッ!!?グォッ、オォォォ……』
《Enemy kill》
《Good job!!》
寸分違わぬ精度で次々と叩き込まれる爆撃に、損害が瞬く間に増える。身体から濛々と黒煙を吹き出して物言わぬ骸となった個体もおり、爆撃が川辺の上陸中、或いは上陸直後の艦に集中されたこともあってその隊列は大きく乱れていた。
【Warthog】や第1波空挺部隊、そして反政府軍との交戦に夢中になって奴ら先遣隊がムルマンスク内陸に集結してしまっていたこともこの有様に拍車を掛ける。
背後から撃たれる心配が極めて薄いF-35部隊は、基本正面の群体からの砲火にさえ気を配っていればいい。彼らの研ぎ澄まされた集中力と鍛え上げられた操縦技術の前には、隊列が乱れ大きく隙間が空いた火線など児戯に等しい。
83 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/17(木) 01:18:18.18 ID:NMLZvzgs0
最新鋭の音速戦闘機群による猛爆撃で奴等が足止めを食らう中、我が輩は高度200m程に達したところで悠々とパラシュートを開く。C-17から飛び出す直前はあれほど濃密だった弾幕は今や見る影もなく、明らかに統率を失った様子で散発的に撒き散らされているだけだ。
《Lightning-01 Engage!!》
《Lightning-03 Engage!! Attack!!》
『『『ォオアァアアアアアッ!!!?』』』
丁度我が輩の足が地に着いたところで、前衛の護衛機たちも攻撃に移る。高高度から猛然と迫ってきたF-35の新手に爆弾と機銃掃射を浴びせられ、一挙に10隻近い軽巡・駆逐が断末魔を残して沈黙した。
(*゚ー゚)「准将、総員無事着陸に成功しました」
( ФωФ)「うむ」
航空隊の高い練度に感心しながら反復爆撃の様子を眺めていると、兵を纏めた椎名が此方に駆け寄ってくる。あくまでもざっと見た限りだが、欠員はいない。
( ФωФ)「前衛部隊全体での損耗は」
(*゚ー゚)「降下前の時点でMV-22Bが何機か撃墜されていますが、空挺に成功した部隊の損害は極めて軽微だと思います」
「………でも、そもそも俺達や艦娘部隊が降下する意味ってあったんですか?」
少々困惑した様子で、護衛兵の一人が首を傾げる。彼の視線の先にあるのは、殆ど一方的に深海棲艦を叩きのめしている航空隊の姿。
「この調子だと、少なくとも正面の敵艦隊については空軍だけで処理できそうですが」
確かに、あの光景だけを見れば艦娘に出る幕など無いと感じてしまう。そして実際に世界中の人類の多くは、ああいった光景を何度か目にして開戦当初致命的な誤認をしたのだ。
“深海棲艦は大した敵ではない”と。
84 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/17(木) 01:51:10.94 ID:NMLZvzgs0
undefined
85 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/17(木) 01:52:51.31 ID:NMLZvzgs0
疑問の声を挙げた兵士を改めて眺めてみると、かなり年若い。あまり白人の顔立ちや年齢の見分けに自信があるわけではないが、せいぜい20になるかならないかといったところではないだろうか。
幾ら“海軍”出身でもこの若さだと深海棲艦との戦闘経験が乏しいか、場合によってはコレが初陣の可能性もある。……そういった若者を入隊させる余裕がまだあることを喜ぶべきか、仮にも海軍にいながら深海棲艦への理解がその程度でしかない人間がいることを嘆くべきかは議論の余地がありそうだが。
( ФωФ)「名は?」
「……? ロナルド=ウィリアムズですが」
( ФωФ)「なるほど、ではウィリアムズ。結論から先に言うが、“あの程度”の爆撃で斃しきれるほど深海棲艦は甘い存在ではない。貴様は少々不勉強が過ぎる」
「し、しかし、現に空軍は圧倒を─────!?」
彼がそんな台詞を口に仕掛けた瞬間から、F-35の編隊が徐々に戦場から離脱を開始していた。彼は眼を丸くしているが、少し考えればそれは至極当然の行動だと解る。
( ФωФ)「某フライトシミュレーションじゃあるまいし、戦闘機には60何発もミサイルを積むことも燃料を無視して無限に飛び続けることもできん。奴等の物量の前に、“あの程度”の爆撃はただの足止めだ」
個体一つ辺りが第二次世界大戦基準とはいえ軍艦の耐久力を持ち、しかもそれが多くの場合複数体───最悪数百体単位で押し寄せてくるという悪夢。しかも高い戦闘力を誇るこの種族は、とにかく近代兵器との相性がとことん悪い。
イージス艦ではまともにロックオンができず、戦車や自走砲では単純な火力差、耐久力差が大きい。唯一高い火力と誘導兵器に頼らずとも攻撃を当てる力が両立している空に活路を見いだそうとも、底が全く見えない敵の物量の前ではどうしても焼け石に水となる。ましてやヒト型の存在や空母型が用いる艦載機との相性を考えると空の優位性も決して絶対的ではない。
ドイツ・ベルリンでの一件も、あれほど奇跡的な勝利を収めながら結果から見れば“甚大な損害の末に拾った局所的な勝利”に過ぎなかった。
要はベルリンで示されたのは人類の「可能性」ではなく、深海棲艦に相対する人類の「限界」だと言えよう。
86 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/17(木) 02:11:56.95 ID:NMLZvzgs0
( ФωФ)「根本的な話をするとだな、本当に通常兵器だけで勝てるような相手ならこれほどの犠牲が払われるものか。世界共通の脅威が現れてなお内輪揉めに興じていた人類の愚かさを差し引いたとて、六年前の様なていたらくが起こるわけがない」
だが実際には、人類は世界規模で制海権と制空権を喪失しあらゆる国が本土上陸の危機に晒された。実際に蹂躙された国も少なくない。
断言しよう。あの時間違いなく、我が輩たち人類は滅びへの道を着実に歩んでいた。
( ФωФ)「人類には必要だった。深海棲艦の脅威に抗える存在が。劣勢から挽回し、人々を勇気づける英雄が。既存のものとは全く指向が異なる兵器が。
故に人類は、生み出した」
(#T)「行くぞオラァアーーーーーー!!!!」
「「「オォーーーーーッ!!」」」
「艦娘という、【兵器】を」
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/17(木) 02:15:02.40 ID:GnvTK6PY0
筋肉の時間だ!!!!!
88 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/17(木) 02:15:12.83 ID:NMLZvzgs0
本日ここまで。ご静聴ありがとうございました
89 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/18(金) 14:09:36.34 ID:w0/XbvPLO
爆弾を使い切り、補給のために離脱を開始するF-35の編隊。波状攻撃による妨害から解放されて、残った深海棲艦が進撃を再開した。
『ォォォアアアォアアッ!!!』
『ァア、アアアアアアッ!!!!』
散々上陸を妨害されたことに対する怒りか、幾多の同胞を沈められたことへの嘆きか。より強く、より長く、奴等が口々に上げる耳障りな咆哮が空気を振動させる。
度重なる爆撃によって更地と瓦礫の山しか残っていない川辺は、化け物共が群れなし陸へと上がってくる様がよく見えた。最低でも5Mを越える巨体の持ち主たちが横隊を組み、瓦礫の山を蹴散らしながらムルマンスクの街を蹂躙すべく進撃する。
だがその進路には、既に奴等の天敵が展開を終えていた。
(#T)「武蔵ぃ、ぶちかませ!!!」
「おう!
────遠慮はしない、撃てェ!!!!!」
口火を切ったのは、やはりあの男が率いる艦隊だった。
大日本帝国が世界に誇る、46cm三連装砲が轟音を奏で、それを放った褐色の肌を持つ大柄な艦娘───大和型戦艦2番艦・武蔵の大音声と共に大地を揺らす。
砲弾は膨大な熱と運動エネルギーを撒き散らしながら敵の戦列に向かい、その先頭を進んでいた軽巡ト級に直撃する。
『ァグァッ』
断末魔を上げる暇すらなく、ト級の巨体は爆発音と共に細かな破片と化して飛び散った。
90 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/18(金) 14:50:44.65 ID:w0/XbvPLO
『………ア?』
『ゥッ、アァ?』
非ヒト型の深海棲艦は知能がヒト型に比べて極めて低く、罠や欺瞞にかかりやすい上自身がよほど致命的なダメージを受けるまで“退却”というものを知らない。リ級やル級のように戦況を読んで軽微な損害でも撤退するといった知性的な行動は上位種からの命令が無い限りほぼ見られず、しかしながらそれ故に損害を顧みずに前進してくるため物量を用いた浸透強襲を迎撃することは困難を極める。
だがそんな非ヒト型でも、武蔵による規格外の一撃には知能云々を越えた生存本能を大いに揺さぶられたようだ。
飛散したト級の体液や肉片を頭から浴びて、奴等の進軍が困惑し躊躇するかのように止まる。
尤も、それは寧ろ最悪手に近いわけだが。
「武蔵さん、奴等ビビって棒立ちになりました!構わず続けて撃って下さい!」
「わかりやした姐さん!!」
「俺達は敵左翼に火力を集中する!陸奥、羽黒、撃て!!」
「此方も攻撃を開始します!山城、扶桑、主砲斉射!!」
居並ぶ戦艦部隊の砲撃が、唸りを上げて殺到する。
非ヒト型種は姫級などの随伴個体を除いて、現状確認されているほとんどが所謂軽巡クラス、駆逐艦クラスの下級艦だ。通常兵器から見れば十分な難敵でも、ある程度の練度を積んだ艦娘達からすればよほど物量差が無ければそう脅威となる相手ではない。
ましてや、“海軍”所属の艦娘部隊。練度は一般的な鎮守府に配属されているそれらと比較してまさしく次元が違う。
寸分違わぬ精度での砲火に的確に急所を射抜かれて、圧倒的な火力の炸裂に容易く甲殻を砕かれて、次々と薙ぎ倒されていく。
特に、あの男が率いる武蔵の練度は群を抜いていた。もともと“艦娘・武蔵”の性能は高いが、奴はそれを更に極限まで鍛え上げたらしい。
奴の砲が一つ吠える度に、確実に一隻、敵が地に屍を晒した。
まさに、一撃必殺と呼ぶに相応しい。
91 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/18(金) 15:53:41.48 ID:w0/XbvPLO
艦娘部隊との砲撃戦(というより一方的な虐殺)によって、深海棲艦側の対空砲火は今や殆どなくなっている。空母型がまだ到着していないのか、艦載機が上がる気配も無い。
無防備になった港の空に、新たなMV-22Bの編隊が乗り込んできた。
《降下しろ、Go??go?go!!》
《着陸完了!総員、展開急げ!》
「先行部隊の援護に回る!足柄、行け!!」
「鳳翔さん、いつでも艦載機を上げられるよう準備を。比叡以下各艦、砲撃開始!!」
ホバリングする機体からスリングロープを伝って、或いは着陸した地点で後部ハッチから飛び出して、そこかしこで提督と艦娘達が路上に展開する。凄まじい速度で屍が増えていく深海棲艦に対して、此方は機銃弾一発の被弾報告すら届かない。
だが、油断はしないし攻撃の手も緩めない。
息継ぐ間もなく攻め立てて、全て鏖殺するまで此方が気を抜ける瞬間は訪れない。
( ФωФ)「対地攻撃機隊、第2波突入せよ。全火力を上陸中の深海棲艦に集中!」
《了解。これより支援攻撃を開始する》
(#ФωФ)「艦隊各位、航空支援間もなくくるぞ!衝撃に備えるのである!」
程なくして、魔王の申し子が爆音を響かせて我が輩の頭上を飛び過ぎた。
92 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/18(金) 17:14:15.14 ID:w0/XbvPLO
《Targets affirm. Guns,Guns,Guns》
《Guns, Guns, Guns》
『ォオゥオオオッ!!?』
『グゥガッ……』
4機のA-10は、射程に捕らえた深海棲艦の群体をありったけの火力で打撃した。ロケット弾と機関砲の火線を雨のように浴びせかけられ、正面に加えて上空からの火力も加わったことで奴等の戦列は更に乱れる。機銃掃射と砲撃で全身に大小様々な弾痕を穿たれて、一番大きな個体だったホ級flagshipがぐたりと前のめりに倒れた。
《Enemy down!!》
《Scorpio-01より【Caesar】、対地掃射完了。再d
上空を通過し、再度攻撃に移ろうと反転していたA-10の編隊。その先頭を行く機隊が、正確無比な地上からの砲火によって吹き飛ばされる。
《!? Scorpio-01 Down!!
I repeat, Scorpio-01 Down!!》
「空軍機が───っ!?」
次に狙われたのは、一際派手に艦隊を蹂躙していた武蔵だった。
立て続けに二度、砲が唸る。弾丸は寸分違わぬ見事な照準で、回避の間を与えず彼女に迫る。
「むんっ!!!!!」
また二回、音が鳴る。
( ФωФ)「えぇ〜〜………(困惑)」
直撃コースだった砲弾は、彼女の拳によって何れも粉砕される。
「………くっ」
煙が上がっている拳を突き出した体勢のまま、顔を伏せて武蔵は笑う。最初は肩を震わせる程度だったそれは、やがて高らかな哄笑に変わった。
「………くくっ、ははははははは!!いいぞ!当ててこい!!!
私は、ここだぁ!!!!!!」
完全に、世紀末覇者とかその辺りの貫禄だった、
93 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/18(金) 17:50:46.82 ID:w0/XbvPLO
『────!? ─────!!!?』
『───ッ』
Scorpio-01と武蔵に対する砲撃の実行者である戦艦ル級は、明らかに動揺していた。その随伴艦としてともに前衛まで進出してきた重巡リ級もまた、隣に立ちながら表情を強張らせる。
当たり前だ。砲撃を躱される、耐えられるまでなら此方が艦娘であることも含めて十分に想像できよう。だが、徒手空拳で砲弾が撃墜されるなど例え眼前で見せられたとしても俄には信じられまい。なにせ味方の側であり、しかもあやつらの練度をよく知っているはずの我が輩ですら未だ目の錯覚だった可能性を捨てきれないのだから。
『────ッ!!!!』
場合によっては恐怖すら抱いていたかも知れない。ル級は明らかに冷静さを欠いた動きで、両手の艤装を武蔵に向けて構える。
故に奴は、既に間近に迫っていた“より危険な存在”を感知できなかった。
『……………ア?』
巨大な盾を思わせる艤装が、持っていた両手ごと落下する。一拍遅れて吹き出した自分の青い血液を、ル級は半ば呆けた表情で眺める。
「────ども〜♪」
『ゥア゛ッ!?』
掛けられた声に顔を上げた瞬間、視界が誰かの掌によって覆い尽くされる。
「ぃよいしょぉっ!!」
『!!!?!?!?』
青葉型重巡洋艦、1番艦青葉。
彼女は、そんなどこか気が抜けるような気合いと共に、鷲掴みにしたル級の頭を地面に勢いよく叩きつけた。
94 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/18(金) 18:00:58.24 ID:w0/XbvPLO
23:00から改めて更新致します
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/18(金) 18:39:16.73 ID:Iw2IIQMD0
草
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/18(金) 19:17:25.00 ID:V2wi9kwA0
これは酷い(確信
頼もしさもここまでくればドン引きだわなあw
97 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/18(金) 23:02:24.90 ID:w0/XbvPLO
音が鳴った。
中身が入ったビール缶を握りつぶしたような、水風船を満身の力を込めて地面に叩きつけたような、そんな大きく響きはするが軽い音。
例えその光景を目の前で見たとしても、重巡洋艦娘が戦艦ル級の頭を地に打ち付けて叩き潰したときに“それ”が鳴ったのだと俄に信じられる者はこの世にどれだけいるだろうか。
( ФωФ)「………のっけから全力全開であるな」
( T)《※このゲームには暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています》
( ФωФ)「は?」
誰だこのふざけた男を1大国の命運がかかった作戦に連れてきた奴。
我が輩か。
「─────あはっ♪」
彼女は───重巡洋艦・青葉は止まらない。
ビクビクと震える首無しル級を放り捨て、更に踏み込む。
『…………ッ』
事態を飲み込めずにいたのだろう、随伴艦であるリ級の動きはあまりにも緩慢だった。
残り五歩になったところで、ようやく肉薄する青葉に気づく。
四歩。驚愕からか、或いはもっと別の感情からか、あからさまに表情を歪める。
三歩。右手に展開した艤装を、弾丸のような速度で接近してくる青葉に向ける。
二歩。既に間近に迫った青葉から逃れようとしたか、砲を向けながらも仰け反るようにして身体が後ろに流れた。
一歩。
『────?』
ぷつり。
古びたゴムが千切れるような、ビニールテープをハサミで裁断したような、そんな妙に無機質に感じる音を残して。
リ級の右手が、消える。
零歩。
「ハイっ、おしまいっと!」
『………? ───……?』
状況を飲み込めぬまま呆然と眼を見開いていたリ級の首筋を、先程右腕を切り落としたばかりの青葉の手刀が撫でる。
青色の体液を鮮やかにまき散らしながら、リ級の首が宙を舞った。
98 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/18(金) 23:19:58.69 ID:w0/XbvPLO
( T)《引くわ》
( ФωФ)「………とんでもないの育て上げたな貴様」
( T)《アレに毎日オモチャ扱いされる俺の気持ちがわかるか?》
( ФωФ)「知るかよ死ね」
( T)《お前が死ね》
(*゚ー゚)「青葉さんに通信繋ぎますか?」
(;ФωФ)「《すみませんでした!!!》」(T;)
アレと叢雲のダブル説教とか考えただけでも全身が震える。実現すればそれが今度こそ我が輩最期の時になることは間違いない。
『オォガァアッ!?』
「っふぅ……!」
さて、我が輩たちが阿呆のような会話を交わす間にも戦況は刻々と変化する。
『ォアアアッアッ!?』
『ガグッ………』
「っぷぅ! いやぁ、楽でいいですねぇ!」
やはり、先程青葉が斃したル級は前衛艦隊の指揮“艦”だったらしい。元々の旗艦か前線の混乱ぶりを治めるために進み出てきたのかは定かではないが、どちらにせよ残された非ヒト型達はますます統率を失って“海軍”屈指の──一説には最強の──力を持つ重巡洋艦に蹂躙されていた。
回し蹴りを受けたイ級が下顎を粉砕されて横倒しになる。ホ級の腕が斬り落とされ、体勢を崩した直後に腹を切り裂かれて絶命する。そのままホ級の首を引きちぎって投げつければ、今まさに砲撃を放とうとしたロ級の砲口にその首が詰まり、弾薬の誘爆でロ級が木っ端微塵になる。飛んできたロ級の破片を横殴りで吹き飛ばせば、武蔵の砲撃に負けず劣らずの速度で飛翔したそれが別のホ級の胸を射抜く。
艤装は装備されている。だが青葉は、それらの蹂躙を全て徒手空拳で行っていた。
日本人女性の平均身長よりやや低い、150cmになるかどうかの小柄な身体で躍動し、大きいものなら20Mに達するような化け物を格闘戦で薙ぎ倒す。
さながら一昔前の、ヒーローアニメのような光景には最早衝撃を通り越して笑い出してしまいそうだ。
99 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/18(金) 23:38:32.27 ID:w0/XbvPLO
( T)《ガル=ガドット主演の世界的大ヒット作品【ワンダーウーマン】、8/25から日本公開》
( ФωФ)「何言ってんのお前」
( T)《ノルマ達成》
( ФωФ)「何言ってんのお前」
8/25なんて疾うの昔に過ぎてるだろ怖っ。
《タウイタウイ泊地【Hound-Dog】より、軽巡一隻突撃する!援護頼むぜ!!》
《【Ghost】より【Caesar】。我が艦隊から前衛に白兵戦力を増強、【Fighter】青葉を支援する。……まぁ、正直なところ支援が必要そうには見えないが》
二つの“艦影”が後衛から飛び出し、青葉と深海棲艦共の乱戦の直中へと突っ込む。片方は刀を、片方は槍を脇に構え、それぞれ低い姿勢で弾丸のごとく敵艦との間合いを詰める。
「おらぁっ!!!!」
『ヴァッ………』
裂帛の気合いと共に振り切られた軽巡・天龍の刀が、ホ級を袈裟懸けに斬って落とした。
「────っふ!」
『コクァッ!?』
鋭い呼気と共に突き出された特型駆逐艦・叢雲の槍が、ヘ級ののど笛を貫き通す。
「やぁこれは……っと!!」
新たに乱入してきた二人の鮮やかな手並みを目の当たりにし、青葉も負けじと拳を突き出す。
正拳突きによって声もなく撃ち倒されたイ級は、しばらくぴくぴくと痙攣した後完全に沈黙した。
すると天龍と叢雲も、すかさずそれぞれの得物を振るい敵艦を撃ち倒す。そのまま三人は草でも薙ぎ払うかのように、周囲の非ヒト型を物言わぬ骸に変えていく。
100 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/18(金) 23:59:12.58 ID:w0/XbvPLO
「いやぁ、まさか青葉達の鎮守府の天龍さん以外にもこれほど鋭い剣技を持つ方がいらっしゃるとは。この世界は広いですねぇ」
「お宅の天龍と比べてもらえるとは光栄だな。まっ、追いつくのはまだまだ先の話だろうが!」
「其方の叢雲さんは、もしやこの間ウチの司令官がお邪魔した………」
「えぇ、あのノロマス女の騒ぎの時に世話になったからちょっとした恩返しにね………あんたには必要なかった見たいだけ、どっ!!」
たまたま散歩道で会った少女達の挨拶のような朗らかな会話。ただしそれは、この三者による殺戮の中で交わされている。
互いに、特に連携は取っていない。ただそれぞれの武器を振るい、目の前の敵に当てる。
その単純な動作が、しかしながら確実かつ簡単に周囲の敵を絶命させていく。
《此方那智、敵艦隊へ突入する!!》
《加古、白兵艤装展開!突貫開始!!》
《雷、司令官のために頑張るわ!………ムラクモニマケナイムラクモニマケナイムラクモニマケナイ》
青葉達の戦いぶりにあてられたのだろうか。無線機から次々と“名乗り”が聞こえ、艤装を構えた艦娘達が敵陣へと斬り込んでいく。
(*゚ー゚)「なんか戦国時代の侍が名乗りを上げてるみたいですね」
( ФωФ)「言い得て妙だな」
確かに、それはなかなか時代錯誤な光景に思えた。初めて「鉄砲」という近代の開幕を告げる兵器を手に入れてから数百年、我が輩たち人類は常に「いかに遠くから、リスク無く敵を倒すか」に重点を置き戦争技術を進歩させてきた。銃の射程が伸び、大砲が、戦艦が、空母が生まれ、やがて地球の裏側さえ狙えるミサイルの開発にまでこぎ着けた。
そんな中にあって「進歩」の系譜に組み込まれていた兵器の生まれ変わりである少女達が、槍や刀を模した武器を構えて人類の敵を打ち倒していく。
見ようによっては、何と皮肉な光景だろうか。
101 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/19(土) 00:20:40.31 ID:Pj/0RVMWO
青葉ら10隻ほどの艦娘達による白兵突撃で、遂に深海棲艦側の前線は完全に決壊した。
非ヒト型の物量と浸透能力を持ってしても、キチg………ゴホン、斬獲部隊の攻勢の勢いを相殺することはできなかった。後に膨大な数の屍と豪雪のごとく降り積もった肉片や甲殻片を残して、旗艦の命令を受けたらしい前衛部隊がトゥロマ川へと戻っていく。
勝ち鬨の一つも上げたくなるような快勝だが、当然誰もそんな愚かな真似はしない。
《統合管制機より港湾部全部隊に通達!トゥロマ川よりヒト型深海棲艦多数接近!》
《レーダーに反応あり、市街北より機影多数!敵空母機動部隊より艦載機が出撃した模様!》
《トゥロマ川南下中の第2波艦隊、間もなく当区域に到達します!》
我が輩たちの仕事は、まだ終わりからはほど遠い。
( ФωФ)「我が輩たちももうサボれんぞ。気を引き締めろ」
(*゚ー゚)「了解です!」
( ФωФ)「艦隊各位、命令は先程までと変わらん。貴様等の、我が輩たちの任務は深海棲艦による市街地浸透の完全な阻止と上陸部隊の殲滅だ。
“海軍”の誇りにかけて、絶対にここを通すな!!」
《《《了解!!》》》
( T)《【Musc( ФωФ)「【Fighter】どうした」
( T)《死ね》
( ФωФ)「お前が死ね」
この後めちゃくちゃ青葉に怒られた。
102 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/08/19(土) 00:29:06.22 ID:Pj/0RVMWO
明日の出向が馬鹿早なことに今更気づいたので寝ます。
103 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/19(土) 00:29:43.42 ID:Pj/0RVMWO
本日は2100から更新予定
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/19(土) 01:13:13.70 ID:tT7nF8KA0
おつおつ
105 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/19(土) 21:02:56.23 ID:Pj/0RVMWO
ムルマンスク鎮守府並びに同海軍基地は、ロシアのみならず欧州諸国───特に、ドイツ、ポーランド、スイス等を中核とした東欧連合軍にとっても極めて重要な拠点だった。
前面の敵を抑えるのに手一杯な連合軍の背後に敵が浸透することを妨げる防御の要であり、学園艦や民間人の疎開・避難に際してその中継点として機能する交通の要衝でもある。艦娘戦力とそれらの整備施設、そして巨大な陸海戦力を擁するため連携すれば攻勢作戦の軸にもなり得る。
単に艦娘戦力の物量だけで見ればイタリアが現状は欧州筆頭だが、内陸深くへの侵入と橋頭堡の確保を許し日本に次ぐ艦娘先進国だったドイツが半壊している現在は圧倒的に欧州全体で陸戦兵力と艦娘を補充・整備する環境が足りていない。
元々ウクライナ問題を始めEU各国はロシアと大小様々な外交問題を抱えており、ことにドイツは第二次大戦での因縁や先日のルール地方に対する核兵器投射など並々ならぬ確執がある。しかしそれらを抱えてなおロシアと連携し、かの大国とその要衝ムルマンスクに縋らねばならない程度には、東欧連合軍は困窮を極めていた。
故に、ムルマンスクが反政府勢力と彼らに同調した相当数の市民によるクーデターで制圧された挙げ句正規軍の支援が途切れた状態で深海棲艦の襲撃をうけているという報せが入ったとき、東欧連合加盟各国首脳は一様に顔色を失った。
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/19(土) 21:15:11.32 ID:F0+UnErA0
乙 更新 待ってました
107 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/19(土) 21:19:23.70 ID:Pj/0RVMWO
ドイツ連邦共和国首相、ダイオード=リーンウッドも顔色を失った国家元首の一人だ。
以前よりアメリカのマスコミに“アイアン・マスク”なんて渾名を付けられる程度には顔のパーツを動かさないことで知られる彼女だが、ムルマンスクの一件が持ち込まれた直後は顔から血の気が文字通り失せて完全な土気色と化していた。表情は【オペラ座の怪人】が身につける仮面のように完全な無となり呼吸すらたっぷり一分ほど止まっていたため、ショック死したと勘違いし恐慌状態に陥った側近の一人が救急車を呼びかけるほどの騒ぎになった。
/*゚、。 /「────なるほど、なるほど。えぇ、それは当然助かります。私だけでなく、欧州に住まう全ての人間がその善意に感謝することでしょう」
(#゚;;-゚)「………おや」
そんな一悶着があってからまだ2時間と経っていないため、彼女を勇気づけようと入れ立てのココアを持ってきた首相秘書のデイ=ヒルトマンはやや面食らって立ち尽くすこととなった。
つい117分前まではそのまま棺桶に入れても葬儀屋が気づかずに蓋をして埋めてしまいそうなほど悲惨な状態だったが、今誰かと通話をしている彼女は幾分かの回復どころかほぼいつも通りの様子に戻っている。
たった今、創設されたてホヤホヤの機動迎撃大隊をムルマンスクに投下できるかどうかを東欧連合軍の陸軍総司令官に確認してきたばかりのデイは、どうも自分の仕事が無駄足に終わったようだと悟った。
/*゚、。 /「えぇ……えぇ……改めて感謝致します。Premierminister Minami」
ダイオードは更に一分少々の談笑の後、最後にそう言って受話器を電話機の上に戻す。
カチャリと音が鳴り、彼女はそれを合図としたかのように息をゆっくりと吐き出しながら椅子に深く腰掛けた。
/;*-、- /「ふぃ〜〜〜〜…………」
ダイオードにしては珍しく弛緩しきった顔。例えるならひいきのサッカーチームが絶体絶命のピンチに陥っていたところ、キーパーのスーパーセーブによって失点を免れた直後のサポーターのような表情だ。
聡明なデイは、その様子を眺めただけでだいたい何が起きたのかを察した。
108 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/19(土) 21:42:57.41 ID:Pj/0RVMWO
(#゚;;-゚)「支援の申し出ですか」
/ ゚、。 /「あぁ、それも遠回しなレンドリースや経済連携じゃない。直接的なムルマンスクへの軍事攻撃だ」
(#゚;;-゚)「おぉ、それは」
確かに今までとは毛並みが違う、とデイは思った。
アメリカはフランス、スペインには積極的に軍事介入をしているものの、フランス東部の陥落によって東側への陸海空路全てが寸断され戦力を派遣する場合北アフリカ経由というとてつもない迂回を強いられる東欧・北欧へは経済支援の表明にとどまっている。
東欧連合に参加していない一部ヨーロッパや中東各国、肝心要のロシアも支援こそ表明したものの動きは鈍く、中国は軍事支援を表明したもののあからさまな口約束でしかも暗に東欧連合各国に対する見返りまで求めていた。イギリスに至っては最早支援の表明すらしていない。
頼みの綱の艦娘先進国・日本は自国の空母機動艦隊をアメリカ軍と合流させて艦娘共々実際に派遣してくれたが、この連合艦隊はノロノロとインド洋を経由して向かってくるため到着は少なくとももう半月以上先になる。
まぁこれらの国々の戸惑いや沈黙には──クソッタレのチャイナ野郎は別として──それぞれ理由や立場がある。結局のところ、他国の前に自国を護りたいというのは為政者として当然の感情だ。
勿論深海棲艦が人類の絶滅を目論んでいることは明白なので、本来ならそういうことを言っている暇はない。だが、それが解っていたとしても今の欧州に手を突っ込むのはかなりの度胸を要する決断だろう。
因みに北朝鮮も何故かヨーロッパに哀悼と支援の意を表明したが、【Fall's Full(秋の馬鹿)】とメディアに酷評され一部SNSやコミュニティサイトで話題を提供した後ひっそりと忘れ去られた。
109 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/19(土) 22:10:00.83 ID:Pj/0RVMWO
(#゚;;-゚)「それで、電話のお相手は?」
/ ゚、。 /「あぁ、ミナミだよ」
(;#゚;;-゚)「ミナミ……あぁ………」
デイの脳裏に、一度見たら二度と忘れられない日本国総理大臣の顔がデンッ!と勢いよく現れた。
彡(゚)(゚)
かつて外交会談の席で一度目にしただけだが、未だに(悪い意味で)鮮烈に記憶している。
ギョロリとした大きな眼に、縦長の細い顔と顔の面積の半分ほどを占める蛙のように巨大な口。日本人は「黄色人種」に分類されるそうだが、彼の肌は実際に黄ばんでおりさながらシーシーレモンのイメージキャラクターがそのまま現実に抜け出してきたような印象を受ける。
ヨシヒデ=ミナミ(南慈英)。クトゥルフ神話のディープワンも裸足で逃げ出す異様な風貌を持った男が日本の国政の長であると知ったとき、デイは強烈な目眩に苛まれた。
/ ゚、。 /「そうイヤそうな顔をするもんでもないよ。彼は風貌は完全にダゴンの眷属だが優秀な男だ」
(#゚;;-゚)「それは知っておりますが……あの、首相私より酷くないですか」
Premierminister Minamiの辣腕は、デイもよく知っている。
山ほどの失言ととても一国の代表とは思えない粗野な所作で国内外で痛烈な批判を受ける一方、今までの日本なら口を濁していた外交問題にずけずけと踏み込み正論をぶちかます姿は「お嬢さんをあやすようなもの」と嘲笑された日本の外交姿勢を激変させた。
就任当初から「どうも今回の日本国首相はひと味違う」と噂に上っていた南の言動は、深海棲艦の出現と艦娘の実装を機に切れ味を増していく。
今や艦娘先進国として、日本の立ち位置は国際社会で押しも押されもせぬ物になった。そしてその艦娘技術、特に改二技術を事実上独占状態にできているのは間違いなく南慈英の外交手腕に寄るものだ。
(;#゚;;-゚)「………解ってはあるんですが」
デイ=ヒルトマンはタンク・ブンデス・リーガの伝説の操縦手として名誉の負傷がそこかしこに刻まれた顔を思い切りしかめる。
どれだけ有能だろうが、とにかくあの不気味な容貌だけは受け付けられない。
110 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/19(土) 22:54:53.46 ID:Pj/0RVMWO
(#゚;;-゚)「……って、あれ?首相、ということは今の電話は日本からの?」
/ ゚、。 /「あぁ、支援の申し出だ」
(#゚;;-゚)「既に空母艦隊を派遣しているのに、更にですか?」
日本は以前からポルトガルとの相互援助協定を結んでおり、今回の欧州への空母機動艦隊派遣もその協定に基づいた行動だ。
それとは別に、ムルマンスクへの攻撃部隊も派遣したということなのか。
/ ゚、。 /「明確にいうと表面上は日本からの派兵じゃないよ。
“海軍”からだ」
(#゚;;-゚)「“海軍”………」
デイも、その組織の存在は知っていた。
艦娘実装当初、まだ彼女達に関連した国際法も殆ど作られておらず戦線の穴を埋めるために猫も杓子もの勢いで彼女達を指揮する提督が粗製乱造の如く生み出されていた頃。
戦線が急速に押し返されていく一方で質の低い提督達による艦娘への傍若無人な行動が問題化し、また艦娘の価値に気づいた主要国による利権の奪い合いも頻発。仮初めの団結が崩壊し、再び人類同士が銃を向け合う寸前までいった時に日本とアメリカ合衆国によって生み出された、利権争いからも国際法からも外れた人類と艦娘の共同組織。
あらゆる国家のあらゆる指揮系統から、そして当時既に形骸化しつつあった国連からさえ事実上独立し、ただ深海棲艦を撃滅するためだけに編成された部隊。
その後も自在な展開能力を持つことから日米によって管理され、常任理事国と艦娘保有国以外には存在すら知らされていない超法規的軍事組織。
存在を知る一部国家の首脳や軍事関係者は、彼女達のことをただ単純にこう呼ぶ。
“海軍”と。
111 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/19(土) 23:12:11.77 ID:Pj/0RVMWO
/ ゚、。 /「君も知っているだろう、“海軍”に所属する戦力は艦娘も人間もこの戦争の初期を生き延び、膨大な数の深海棲艦を暗い海の底に葬り去ってきた古強者がほとんどだ。
たまに動員される新規戦力も、アメリカ海兵隊を初めとする各国の特殊部隊や日本の艦娘の中でもとびきりの戦功を上げた猛者揃い。
今世界で一番強い軍隊は、間違いなくこの“海軍”だ」
それは確かだとデイも頷く。
世界一位と世界三位の経済大国が、しかも人類面、艦娘面それぞれの最強戦力を誇る国家が手を組んだ事実上の連合軍だ。そこに豊富な経験まで加わってしまえば、何をどうしようとも正面戦闘となれば勝ち目は一粒の麦ほども存在しない。
加えて、一応は“あらゆる国家から独立した完全中立組織”となっているがその実情は日本とアメリカが指揮権をがっつり握っている。兵力こそ決して潤沢とは言えないが、アメリカ軍から譲渡された豊富な輸送機のおかげで展開能力も随一だ。米軍基地に隠蔽される形で東南アジアの各諸島に泊地・基地を持つなど活動範囲も広い。
だが、デイの脳裏に今度は別の疑問が引っかかった。
(#゚;;-゚)「………ムルマンスクは深海棲艦だけでなく、反政府組織に協力し共に立てこもっている市民もいるはずです。
そこに、艦娘を主力とする“海軍”を投入するのですか?」
112 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/19(土) 23:32:49.72 ID:Pj/0RVMWO
第一条。艦娘は人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条。艦娘は人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条。艦娘は、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。
希代のSF作家、アイザック=アシモフのロボット三原則に着想を得た【艦娘三原則】は単に国際法で定められているだけではなく、艤装のシステムに組み込まれて艦娘がこれを護るよう様々な防護機能が設定されるほどの徹底ぶりだ。
無論艦娘側へ提督から理不尽な命令が出て貴重な艦娘資源を浪費することを避ける、或いは単に性暴行事件の発生を防ぐために艦娘側の人間に対する殺さない程度の“正当防衛・抗命権利”も法的・システム的両面で明確に認められてはいる。
だが、今回の武装しているとはいえ「人間・市民」に対し艦娘側から攻撃を加えるとなれば恐らく相当なグレーゾーンだ。
(#゚;;-゚)「艦娘は確かに非常に強力な戦力ですが、今回のムルマンスクは事情が複雑です。時期尚早というか、このタイミングでの投入だと“艦娘三原則”に違反する可能性も高いのでは」
/ ゚、。 /「まさしくその通りだ、デイ君」
ダイオードはそう言って、椅子の背もたれから身体を起こしてデイを見る。
その眼の奥から安堵が消え、どこか仄暗いものを灯していることにデイは気づいた。
/ ゚、。 /「だから、“海軍”が投入されたんだ」
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/19(土) 23:35:38.86 ID:viWZoI2Lo
ぶっちゃけ、人類の裏切り者を通り越してるから人類区分から外しちゃってもいいよな
114 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/20(日) 00:19:57.08 ID:nuLJSATjO
鍋一杯に詰め込んだポップコーンが弾けるような軽快な音と共に、手元の4.6mm短機関銃が火を噴く。足下で吐き出された空薬莢が散らばった。
弾丸をぶち込んだ建物の暗がりで呻き声が上がり、骨董品物の猟銃を構えていた爺さんが一人道路に転がり出る。
「た……助けt」
(,,゚Д゚)「Clear」
まだ息があるようだったが、弾が勿体ないので思い切り首の辺りを踏みつけて骨を折る。そのまま爺さんが隠れていた路地を覗き込んでみたが後続はなく、俺は後ろに続く時雨達に前進を合図した。
やけに古びた、木造の家が建ち並ぶ通りを静かに進んでいく。静かにといってもそこかしこを飛び回る味方空軍機のジェット音や砲声、深海棲艦の咆哮。
<ラァアアアアアアアアアイ!!!!!
(,,;゚Д゚)「………」
あと、こんな遠くなのに何故か聞こえてくる変態約1名の雄叫びのせいで周囲は十二分に騒がしいのだが。
「………ウチの提督ほンとに人間なンかな?」
(,,゚Д゚)「断言するがアレが人類にカテゴライズされるならプレデターとエイリアンは立派な人間だ」
「それもそっか」
俺としては地球外生命体説かハイター博士に生み出された人造人間説を推したい。或いは筋肉の神様。
彡⌒ミ
(´・_ゝ・`)
なんだ今脳裏に浮かんだ禿げたおっさん。怖っ。
115 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/08/20(日) 07:24:19.42 ID:nuLJSATjO
あぁ寝落ちしてた……本日22:00より更新します
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/20(日) 13:24:35.59 ID:cafnU6nA0
おつです
森・小泉・安倍・麻生の長所をぶち込んだ怪物この時代にいれば、そりゃあ世界もビビるはなw
それに人類の復興のためなら、いくら独善的でも危害を及ぼす連中は優先排除しなくちゃなあ…
117 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/08/20(日) 21:42:08.32 ID:X6CdCuvbO
仕事上の付き合いで更新時間が取れないので明日のお昼頃に更新ずらします。申し訳ございません。
118 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/20(日) 22:39:44.25 ID:H0D0QEkO0
楽しみにしてます〜
119 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/21(月) 12:35:31.86 ID:aNZmD83PO
銃声が響き、何メートルも離れた場所で雪交じりの土煙が上がる。火花が見えた路地脇の木の上に連射を浴びせると、ドラグノフ狙撃銃を抱えた人影が紅い軌道を残して地面に落下してきた。
(,,゚Д゚)「っふ」
駆け寄ってみると即死して居らず、一瞬腕が動いたのでナイフで胸をついておく。
「へたくそ……痛っ!?」
(,,゚Д゚)「喧しい、サブマシンガンで精密射撃なんかできるかっつの」
無意味に煽ってきた白露型2番艦の頭をひっぱたきながら、屍体を改めてじっくりと観察する。
この街に来てから初めて目にした、「軍服」を着た人間(だったもの)だ。白を基調にした厚手の迷彩服を着たそいつの、口元を覆っていたスカーフのような布を無造作に引きはがす。
(,,゚Д゚)「………チッ」
浅黒い肌に、掘りが深い目元や口元、クシャクシャの黒い髪。胸元に見えるのはアラビア文字を刻印したと思わしき入れ墨だ。
あまり外国人の年齢や顔立ちの区分に詳しいわけではないが、少なくともこの年若い男のルックスや出で立ちが平均的なロシア人のものであるとは到底思えない。
続けて右手の軍用グローブを脱がすと、手の甲にも胸元の入れ墨とよく似た造形の文字が刻まれていた。
( ゚∋゚)「………確定か」
(,,゚Д゚)「クソッタレ」
悪態を漏らしながら、俺は無線を繋ぐ。
“海軍”として必須の英語はともかく、アラビア語なんてちんぷんかんぷんだ。この言語を用いた文章が右から左に書かれているということさえ、つい最近知った。
だが、屍体の手の甲に刻まれたこの単語の意味だけは解る。ニュースで、新聞で、海軍の資料で、そして戦場で。幾度となく、それこそ脳裏に刻み込まれるほど繰り返し目にしてきたのだから。
(,,゚Д゚)「Wild-CatよりCaesar、敵兵の射殺体に“アッラーフ”の刻印を確認した。
この武装蜂起、イスラムが関係してやがる」
120 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/21(月) 12:48:10.53 ID:aNZmD83PO
undefined
121 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/21(月) 12:50:13.96 ID:aNZmD83PO
undefined
122 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/21(月) 12:52:01.26 ID:aNZmD83PO
《…………………………ハァアアア〜〜〜〜〜〜》
たっぷり15秒にわたる沈黙の後、無線機からはクソデカくクソ長いため息が聞こえてくる。込められた落胆と嫌悪の量はさながら夕飯がハンバーグだといわれてウキウキしていた子供が目の前にそうめんを出されたときのそれに匹敵し、そんな声を通信相手────ロマさんが出すことはかなり珍しい。
( ФωФ)《……それ本当か?見間違いとかじゃなくて?》
(,,゚Д゚)「ここでんな嘘つく意味も時間もないっすよ。なんなら写真送りますか?」
( ФωФ)《まぁそうだよな……………ッハァ〜〜〜〜〜》
もう一度、ため息。因みに向こう側では砲声や銃声、深海棲艦共の雄叫びなんかが飛び交っているのだが、その直中でも落胆することをやめられないほどこの報せはロマさんにとってキツかったらしい。
( ФωФ)《このタイミングでなんちゅー余計な真似かましてるんだあのクソ狂信者共………全員身体にC-4巻き付けてルール地方で“ジハード”してくんねえかな》
(,,゚Д゚)「ロマさん、色々その発言はマズい」
( ФωФ)《知ったことか、どうせ誰が聞くわけでもあるまい》
(,,゚Д゚)「いや、それはそうだがなぁ……」
ロマさんはよほど腹に据えかねたのかその後も二言三言罵詈雑言を吐いた後、ようやく少し声に冷静さを取り戻して話を進めにかかる。
( ФωФ)《それで、イスラムのどの組織が絡んでいるかは解るか?》
(,,゚Д゚)「いや、残念ながら“アッラーフ”の文字以外にこれといって目立つ情報はない」
建物の陰に運んで俺ともう二人ほどで屍体を更に漁ってみたが、解ったのは胴に刻まれた入れ墨がどうやら聖典の一部を引用した物らしいということぐらいだ。
持ち物もサバイバルナイフや手榴弾、旧式の拳銃に小瓶に入った飲料水、後はクルアーンの小冊子と煙草だけで眼を引く物はない。
(,,゚Д゚)「強いていうならこの射殺体は若い。あと、俺を狙ったと思われる狙撃がざっと七メートルは外れた位置に着弾したことから考えて相当なへたくそだったはずだ」
123 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/21(月) 13:15:51.67 ID:aNZmD83PO
( ФωФ)《貴様がそいつを屍にした位置は?》
(,,゚Д゚)「ゲネラロヴァ通り六番地、道脇に潜んでいたところを木から撃ち落とした」
( ФωФ)《………ハァ〜〜》
三度目のため息。時間は短かったが、込められた落胆の量は寧ろ今までより多く思えた。
_,
(,,゚Д゚)「今の内容にそんなにガッカリすること含まれてたか??」
( ФωФ)《武装ゲリラとはいえ仮にも軍事組織の“軍服”組が、それも若年とは言え狙撃手がその程度の質という時点で恐らく輪を掛けて碌な集団ではない。ましてやゲネラロヴァ通りは鎮守府から三キロと離れておらん、重要地点に配置される戦力としてはあまりに粗末に過ぎる。
せいぜい下請けの下請けの下請けだろう。そんな泡沫組織潰したところで、奴等全体からすれば爪の先程の痛手にもならんのである》
(,,゚Д゚)「……あぁ」
この人の頭の回転の速さは尋常じゃない。1の情報から10を知り、10の材料で100を作るだけの力を杉浦六真は持っている。
だからこそ自衛隊の方ではその能力を危険視され、疎まれてあの地位に留められたのだが。各国の常備軍と“海軍”の両方に属している人間は上層部を中心に結構な数が居るが、表の軍階級と“海軍”での階級がこれほど乖離しているのは恐らくロマさんぐらいだろう。
( ФωФ)《まぁ、その泡沫組織にムルマンスクが制圧されたのは事実である。引き続き鎮守府の奪還と──…………》
124 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/21(月) 16:30:15.62 ID:aNZmD83PO
訪れた沈黙は、コレで4回目。
だが、今回は今までの物とやや毛並みが違う。
(,,゚Д゚)「……准将殿、何か気になることでも?」
( ФωФ)《あり得ん》
静寂を終わらせた呟きは、さっきまでとは比べものにならないほど暗く鋭い。
( ФωФ)《その程度の力しか無い低質なテロリスト集団が、そもそもロシア連邦海軍の最重要拠点を襲撃できるなど本来あり得ん。そしてそんな集団に、深海棲艦の脅威に今この瞬間晒されているムルマンスクの住民達が同調して手引きするなどなおのこと不可解である》
(,,;゚Д゚)「………!」
額に、温度の低い汗が浮かぶのを感じた。
確かに、不自然だ。もともとムルマンスクの陥落自体、ロシアのみならず世界中のあらゆる国家にとって寝耳に水だった。普通に陥落させられたというだけでも信じがたいのに、こんな素人同然の三流ゲリラにあっさり、それも周辺に碌な連絡も取れないまま制圧されるなど本来起こり得るはずがない。
(,,;゚Д゚)「………土地柄でたまたまイスラム教徒が多く集まっていたという可能性は」
( ФωФ)《ロシア全体でイスラム教徒の流入が増えつつあるのは事実だが、わざわざ関連の宗教施設もろくに無い僻地の最前線に彼らが来る理由はない》
無理やり捻り出した理由は我ながらなんとも現実味がなく、案の定一刀両断された。
( ФωФ)《…………よし、ギコ》
(,,;-Д-)「………ウッス」
ロマさんは、他人を基本的に名字で呼び比較的長い付き合いの俺やしぃに対してもそのスタンスは崩さない。
そして、彼が名前や愛称で呼んできたときは面倒事が降ってくると相場が決まっている。
( ФωФ)《貴様ら先遣空挺部隊の主任務を一つ追加する。
ムルマンスク鎮守府の主要施設の奪還、ロシア連邦海軍の新型艦娘の救出、そして新たに、今回の襲撃を行った【武装集団指導者の生け捕り】である》
そして残念ながら、今回もその法則は健在だった。
125 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/08/21(月) 16:32:33.12 ID:aNZmD83PO
通信制限下&外回り中のダブルパンチの中でやるべきではなかったとやや後悔。
22:30辺りで再度更新します
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/21(月) 17:35:27.35 ID:5bUf0C500
乙
127 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/21(月) 22:32:45.00 ID:hwimiDv60
やりがい満点の任務を新たに追加してくださった“海軍”准将殿は、「以上である」と慈愛に満ちたお言葉を残して通信を終えた。
椅子に座りすぎてイボ痔になれ。
( ゚∋゚)「………【Caesar】はなんと?」
(,,゚Д゚)「今回の事件の首謀者を生け捕りにしろってよ。あっちは大層な乱痴気騒ぎの真っ最中だったし急いだ方が良さそうだな」
「うぇ〜〜〜〜〜………」
傍で俺とOstrichの会話を聞いていた2番艦が舌を突き出し、あからさまにイヤそうな声を出す。
「面倒だなぁ…………殺さないように手加減しなきゃいけないってことじゃん」
(,,゚Д゚)「生け捕りは俺とOstrichでやるから安心しろ。お前みたいなアホに手加減なんて高等技術最初なら求めてねぇ」
「金剛扱いかい?後で工廠裏に来なよ」
「時雨姉貴金剛さンに対して酷すぎねぇ────!」
江風が唐突に台詞を切り身構える。
微かに聞こえてきた、車のエンジン音数台分。何れも、確実に此方へ近づいてくる。
( ゚∋゚)「……散開。隠れろ」
Ostrichの合図に、全員がその場から散開し木の上や建物の中、車の陰などに身を隠す。
「────※※※※!」
「※※、※※※!!」
正面100M程先、突き当たりに立つ青い屋根の4階建ての家の手前に四台の軍用トラックが止まる。口ひげを蓄えた指揮官と思われる男の叫び声に応じて、荷台から兵士達が一斉に路上へ飛び出し武器を構えた。
128 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/21(月) 22:42:51.53 ID:hwimiDv60
身を伏せた薪の山の陰から、僅かに顔を出してじっくりと現れた部隊を観察する。服装は全員先程射殺した狙撃手(笑)と同じ白を基調とした迷彩服で、口元をスカーフやターバンで隠しているという点も一致する。唯一指揮官と思われる男だけは首から上にベレー帽以外の物を身につけておらず、聞こえてくる言葉の意味は解らないものの見るからに尊大な態度で唾を飛ばしながら尊大に周囲の兵士達を怒鳴り散らしていた。
(,,゚Д゚)(見れば見るほどひでぇな)
武装兵の数はおよそ60人前後と言ったところか。荷台から路上に降りたのはいいが動作は一人残らず酷く緩慢で、AK47を主力とした火器も構えているのではなくただ持っていると言った方がただしい。
奴等はいつまで経ってもトラックの周りからほとんど動かず、互いにおどおどと視線を交わしながらボールに盛られたジャガイモのように狭い空間にひしめき合っている。周囲では深海棲艦と此方の空軍による攻防戦も未だ激しく続いていて、駆逐艦の砲撃一発でも流れ弾で跳んでくれば十中八九全滅だ。
予想が正しければ恐らく先程の狙撃手との通信が切れたから駆けつけた部隊のはずなのだが、60人強という兵力の誰一人として周囲の偵察や安全確保に向かわない。指揮官もそれをさせようとする気配すら見られず、ふんぞり返って自分の周りに心持ち多くの兵力を集めている。
そも、最初からこれだけ拠点となり得るポイントがありながらそれを全部放置して狙撃手一人と民兵一人だけの配置という時点であり得なさすぎて罠を疑うレベルだ。というか実際直前まで伏兵や奇襲を展開していたのだが、のこのこやって来た増援の動きがあの有様ではおそらくこれがこの組織の“素”なのだろう。
129 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/21(月) 23:12:17.59 ID:hwimiDv60
undefined
130 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/21(月) 23:56:35.12 ID:hwimiDv60
「うっわぁ………」
「アレ酷いね、ウチの提督なら単騎2秒で制圧できそう」
俺と同じ場所に隠れた江風と2番艦も、呆れた様子を隠さずに武装(しただけの)兵の集団を眺めている。ほかの場所で待機するやつらの様子を横目で確認してみたが、見れば見るほど寧ろ“油断をしない”ことが一番困難な敵の様子にほぼ全員失笑一歩手前だ。
(,,゚Д゚)「……いっそあの有様こそ俺達の油断を誘うための罠だと思いたいぐらいだな」
敵の手応えがないというのはまぁ喜ばしいのかも知れないが、流石にここまでされると最早馬鹿にされているようで不愉快ですらある。
同時に、益々疑念が深くなる。例えとち狂ったムルマンスク市民のほぼ全てがこいつらを引き込むための手引きに参加していたとしても、そしてロシア連邦の駐屯軍側がどれほど直前の直前までその動きを把握していなかったとしても、艦娘込みのムルマンスク駐屯軍が易々と施設その他をこの軍から奪われる姿が想像できない。例えロシア側の兵力が10人だったとしても、最低限市外へ連絡を飛ばす時間は十二分に確保できたはずだ。
「それで、どうするの?一人でアホみたいに突撃して白兵戦縛りで殲滅してみる?」
(,,゚Д゚)「金剛扱いかこのガキ、後で工廠裏来い」
「なぁ、二人は金剛さンに借金でも踏み倒されてンの?」
別にそんなことは無いし、金剛のことがきらいというわけでもない。ただ、俺にとっての一番身近な金剛も負けず劣らずのアホなので、俺の中で金剛=アホという図式が固まってしまっただけだ。
(,,゚Д゚)「……さて。2番艦、江風、制圧が終わったら出てこい」
「おっと、行くンかい?!」
「了解。それで、何秒待ってればいい?」
観察を十分に終えて、こいつらの底は見切った。後は迅速に“処理”をし、とっとと親玉を縛り上げてこの“人類史上最大の奇跡”のタネを吐かせるだけだ。
(,,゚Д゚)「15秒でケリを付ける。
各位攻撃準備、速やかに殲滅しろ………あぁ、注意点が一つだけ」
とはいえ、俺はあの無能な部隊は俺たちにとって悪いばかりでもない。
(,,゚Д゚)「どんな殺し片をしても構わんが、トラックには傷つけるなよ」
移動の足をわざわざ自らの死とひき替えに提供してくれたことについては、俺は心の底から感謝している。
131 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/22(火) 00:16:29.44 ID:pf27omEU0
(,,゚Д゚)「……っと」
狙撃手(笑)から奪っておいたドラグノフを構え、一応目立たないよう若干の気を遣いながら積み重なった薪束の上に据える。
まぁ、多少は慎重にはなっているが少しでも心得があるまともな軍隊の前でやればたちまち蜂の巣にされる粗い動きだった。だが、案の定奴等は気づかない。
スコープを覗き込む。ど真ん中にしっかりとひげ面が映り込んでいるのを確認し、風向きとその強さに併せて少しずつ狙いを修正していく。
とはいえ、彼我の距離は300Mにあるかないか。風も微風で、弾道に大きな影響はない。
これで外せと言われる方が、難しい話だ。
(,,゚Д゚)「ハァッ───!」
目一杯吸い込み止めていた息を、鋭く吐き出して引き金を引く。
「─────?」
「※※※!!!?」
「※※、※※※!!!!!」
寸分違わぬ狙いで飛翔した7.62×54mmR弾は指揮官の額、そのど真ん中にめり込みそのまま頭蓋を貫通する。眼を見開く奴の頭部、その前後から脳漿と骨片、赤い血液が噴き出し辺りに飛び散った。
「お見事!」
(,,゚Д゚)「そりゃどうもっと!!」
「カッ────」
後ろで江風がからかい半分に飛ばしてきたやんやの声に投げやりに返しながら、二人目を照準。突然絶命した指揮官の様子を覗き込もうとした護衛の一人が、側頭部から弾丸をぶち込まれて力士の張り手でも食らったように吹っ飛びトラックの荷台に激突する。鈍い衝突音がして、血痕を残しながら護衛はずるずると地面に崩れ落ちていった。
「カハァッ……」
(#゚∋゚)「─────Go go go!!!」
「「「Yes sir!!」」」
三人目がのど笛を撃ち抜かれたところで、【Ostrich】の号令が響く。俺達三人以外の全員が一斉に立ち上がり、物陰から飛び出して敵との距離を一気に詰める。
132 :
◆vVnRDWXUNzh3
[sage saga]:2017/08/22(火) 00:21:19.29 ID:pf27omEU0
文字数制限ぇ……再編集に大苦戦した結果ご覧の有様です。今日少し早起きの必要があるので改めて夜に更新します
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/22(火) 00:46:30.74 ID:OLLeivpA0
本当にお疲れさまです…
胡散臭さもさることながら、よっぽどの厄ネタ以外であの筋肉を突破できる未来が見えないw
134 :
◆vVnRDWXUNzh3
[saga]:2017/08/22(火) 23:31:32.51 ID:pf27omEU0
どんなにあからさまに無能でも、指揮官は指揮官。部隊の中枢であり、沈黙すれば統率は大幅に失われる。
そして練度の低い兵士ほど、“上”に依存する割合は強い。場慣れしていないため自分の考えを持っての行動ができず、上からの指示がなければだいたいはただの木偶の坊と化す。
それでも、Ostrich達が早々に弾丸の一発も追撃で撃ち込んでいれば、例え碌な連携が取れずとも反撃なり逃走なりを我に返って行えた奴がいたかも知れない。人数“だけ”はそれなりにいる手前、少なく見積もっても10や20の銃撃はとんできたはずだ。
「※※※………」
「※※※※※!!?」
( ゚∋゚)「────」
だが、Ostrich達は最初の合図以降無言のまま100Mばかり駆け、一度も、一人として引き金を引くことなく距離を詰める。奴等はその行動を戸惑い気味に見つめるばかりで“我に返る”機を逸し、最後まで木偶の坊のまま敵の肉薄を許した。
( ゚∋゚)「Fire」
響く銃声。火線が迸り、唸る弾丸に肉が裂かれていく。
血が通った射撃の的が、身じろぎ一つ出来ず薙ぎ倒されていく。
( ゚∋゚)「Clear」
虐殺は、4秒で終わった。
「狙撃と接近の時間併せたら20秒かかってるね。コレだから頭金剛は」
(,,゚Д゚)「あの瞬間から計測開始だなんて俺一言でも言いましたっけ?流石記憶力金剛だな2番艦」
「は?」
(,,゚Д゚)「あ?」
「………二人とも後で金剛さンに謝りなよ」
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