勇者「遊び人と大罪の勇者達」

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565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 16:19:08.68 ID:do1GsOP20
勇者「…………」

勇者「お邪魔します」

遊び人「ふふ、いらっしゃい」

元々開いてない距離を、勇者は腰を動かして移動した。

勇者は遊び人の肩にもたれかかった。

遊び人「……私達が出会ってから、どれくらいになるんだろうね」

遊び人「二人きりで冒険している癖に。二人とも、心の底では意地でもお互いに縋ろうとはしなかった気がするな」

遊び人「私達、頑張らなかったもんね。どこかでは、諦めちゃっていた気もするものね」

遊び人「ねえ、勇者」

遊び人「私は私のせいで、もう誰かが傷つくところを見るのは嫌なんだ」

遊び人「もしも勇者が今苦しんでいるならさ。また、逃げ出したって……」

勇者「頼みがあるんだ」

勇者は遊び人の言葉を遮った。

遊び人「頼み?」

勇者は遊び人の肩から離れ、言った。

勇者「戦ってって、励まして欲しい。勝てって、応援して欲しい」

勇者「この時を逃したら。俺は一生変われないままだと思うから」

勇者「俺、強くなりたいんだ」

戦わなくてもいいと言ってくれた人のために、勇者は戦う。
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 16:46:07.03 ID:do1GsOP20
ピキ…ピキピキ…

勇者「ウォラアアアア!!!!!!」

錬金「ほほお」

ガラガラ、という音とともに、結界は崩れ落ちた。

錬金「短期間でよくここまで強くなったものじゃ」

勇者「…………」

錬金「なんだ、その目は」

勇者「騙していたな」

錬金「何を」

勇者「6人の術士が囲っていた魔法陣。あれの正体が何かわかったんだよ」

勇者「俺に”枕詞”を付与させただろ!”大罪”という名前のな!!」



錬金「……前にも言わなかったか。時間がないと」

錬金「幼少の頃よりさぼってきたお前と、鍛錬を続けてきた勇者達。その差をどうやれば埋められると思う」

錬金「時間の差は、時間で埋めるしかあるまいて」

錬金「この世には強制転職呪文と呼ばれるものがある。それを少し改良した呪術を創造したのじゃよ」

錬金「お前の身体を変化させた。寿命と引き換えに、身体能力を増幅させるようにな」

錬金「大罪の賢者の一族が、寿命の漏れと引き換えに、呪力を手に入れたのと同じじゃ」

勇者「人の命をなんだと……」

錬金「内緒にでもしなければまともに戦ってくれないと思ったからの。安心せい。こんなまがい物の呪い、一月もすれば勝手に解けるわい。お前はノーマルのままじゃ。大罪の賢者に比べれば足元にも及ぶまい」

錬金「元に戻してほしければ、今すぐにでも戻してやるが」

勇者「……このままでいい」

錬金「そういうと思ったぞ」

勇者「あんたたちの手の平で転がされてばっかりだ」

錬金は誤魔化すように笑った。

錬金「じゃが、確かに心も身体も多少は強くなったようだ。今日はもう帰って良い。明日からの訓練はまた難易度をあげるからの」

錬金はそう言い残すと、帰っていった。



勇者はというと。

勇者「……えっ。うそ!」

勇者「あれ!ちょっと褒められた!?」

普段滅法厳しい実力者から、認められることの喜びを知った。
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 18:14:03.24 ID:do1GsOP20
遊び人「おばちゃん、ごめんください」

寮母「あら、どうしたの」

遊び人「勇者に届け物があるんですけど」

寮母「なにそれ、大きな荷物だけど」

遊び人「剣なんです。特注品でつくってもらったのが完成して」

寮母「普通の荷物だったら私が預かるんだけどねぇ」

遊び人「じゃあ勇者が帰るまで待ってよっかな」

寮母「あの子の帰り最近とても遅いわよ」

遊び人「そうらしいですね……」

寮母「よかったら、勇者くんの部屋にそれ置いてきて貰えるかしら?」

遊び人「いいんですか?」

寮母「今日はお部屋の点検で生活術士の方が入るって伝えてあるから、見られてもいいように片付けてるはずだもの。それに、ずっと一緒に冒険してきた仲間なんでしょう。合鍵渡しておくから」

寮母「私は街中にちょっと買い物に行ってくるから。鍵はそこの机の引き出しの中にでもしまっておいてちょうだい」

遊び人「わかりました」
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 18:16:04.44 ID:do1GsOP20
遊び人「ということで」

コンコン

遊び人「おじゃましまーす」

遊び人「本当だ。勇者にしてはけっこう片付いてる。今の私の部屋よりよっぽどマシだな」

遊び人「勇者は誰よりも早く起きて、誰よりも遅く帰って、この部屋で睡眠を取っていたんだね」

遊び人「ずっと一緒に泊まってたのに。今こうして、当たり前のように別室で暮らしてるのって、なんだか不思議な感覚だな」

遊び人「…………」

遊び人「剣を置いて、出るとしますかね」

遊び人「どうしようかな。部屋の真ん中に置いとけばいいのかな。万が一盗っ人とか入ってきちゃったら大変だな」

遊び人「洋服棚の中とかにしまっておいたほうがいいのかな」

パカ

遊び人「……あの野郎」

遊び人「色欲の谷で着せられそうになったバニースーツがかけてある。まだ諦めていなかったのか」

遊び人「昔洞窟の中にいたときも気持ち悪かったもんなー。身も心もニギニギされたくなったらバニースーツを着ろとかなんとか」

遊び人「この服装がそんなにいいかね」

遊び人「…………」

遊び人「…………」チラッ チラッ

遊び人「部屋には姿見もあるんだ」

遊び人「ちょ、ちょっとだけ」
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 18:27:00.53 ID:do1GsOP20
遊び人「あっ」

勇者「…………」バサリ

勇者は道具袋を落とした。

遊び人「……えっと」

遊び人「剣、完成したんだって」

勇者「…………」

遊び人「そこに置いておいたから」

遊び人「では、これにて失礼」

勇者「ちょっと!!」

遊び人「なに?」

勇者「なんでバニーガールの格好してるの!?」

遊び人「うるさいな!!遊び人がバニースーツ着て何が悪いのよ!!」

勇者「ついに目覚めたのか!!やったぁああああ!!勝利の日が訪れた!!!!」

遊び人「ちょ、見るな!!観覧料500G!!10秒につき発生します!!」

勇者「払う払う!!1000秒は見る!!」

遊び人「やだ!!脱ぐ!!もう脱ぐ!!」

勇者「ええっ、脱ぐの!?500Gでぇえええ!!?脱ぐの!!?」

遊び人「脱がないわよ馬鹿!!!」

勇者「じゃあバニースーツ!!」

遊び人「嫌よ!!脱ぐわよ!!」

勇者「脱ぐの!!!?」

遊び人「もう!!!私のバカヤロー!!!!!」
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 18:52:07.75 ID:do1GsOP20
遊び人はバニースーツの上から、元着ていた服装を身に着けた。

勇者「それはそれでそそるな……」

遊び人「自分の部屋に戻ったらちゃんと着替えるからね!!」

勇者「厳しい修行の良いご褒美が貰えたな今日は」

遊び人「ご褒美じゃないから!!観覧料5000G、慰謝料1万G、剣運び代1000G、払ってもらうからね!!私は今や強欲な女なんだからね!!」

勇者「いやいいよそういうの。強欲の腕輪の影響を受けてバニースーツ着ちゃったみたいな言い訳。誰もいない部屋でバニースーツ着るのなんて100%色欲だよ。お兄ちゃんは嬉しいよ」

遊び人「よりによってなんで今日に限って早いのよ……」

勇者「師匠も忙しいみたいだからな。本来俺の修行に付き合ってくれてるのがおかしいくらいなんだよ」

遊び人「師匠?」

勇者「あー、えーっと、遊び人のお爺ちゃんのこと」

遊び人「無理やりそう呼ばされてるの?」

勇者「ち、違うって!好きで呼んでるの!!本人は嫌がるけどさ」

遊び人「なにそれ。男心ってよくわかんないわね」

勇者「俺は女心がわかるけどな」

遊び人「はぁ?」

勇者「うさみみも付けてみたくなったらいつでも言ってくれ」

遊び人のこうげき!

勇者「ぐぼぉ……」

遊び人「まだまだ修行が足りないみたいね!!また鍛えてらっしゃい!!お邪魔しました!!」
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 19:15:05.14 ID:do1GsOP20
錬金「……よし」

錬金「100点じゃ。今日はもう帰って良い」

勇者「やったー!!遊んでくるー!!」

錬金「馬鹿、子供か」

勇者「今日もありがとうございました!!」

勇者は錬金に一礼すると、部屋を出ていった。

部屋には筆記用具と、紙束が残されていた。

錬金「……頭の回転は鈍いが、記憶力は悪くないようじゃのう」

錬金「この数日間でよく全ての職業の特徴を覚えたわい。あの兜の世界で直接身体に叩き込んだおかげでもあるんじゃろうが」

勇者、音術士をはじめ、賢者、踊り子、呪術師等の特技と呪文、及び大型モンスターの特徴を全て頭に叩き込んだのだった。

錬金「勇者。お前がどう考えようと、精霊が宿っていることは、蘇りの効力を抜きにしても素晴らしいことなのじゃ」

錬金「精霊からの絶大な信頼を得て、無口詠唱を唱えられる魔王でさえ、その体内に精霊を宿すことはついぞ叶わなかったのじゃ」

錬金「精霊はこう考えたのじゃ。魔王であれ、勇者であれ、強きものは守るに値する」

錬金「だが、精霊を守ってくれるのは、勇者というものだけであると」

錬金「精霊が加護を与えるものは、精霊を守護する者だけなのじゃ」

錬金「守れるほどに、強くなるんじゃぞ」
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 20:06:41.61 ID:do1GsOP20
勇者「遊び人とご飯食べに行くの、久しぶりだな」

勇者「最近全然会ってなかったから、妙に緊張しちゃうよな」

まだ夕日の残る都の中を、勇者は軽い足取りで歩いていた。

勇者「この数週間、本当にえぐかったな」

勇者「嘔吐なんて当たり前で。血も吐くわ、ストレスで顔面にぶつぶつができるわ」

勇者「師匠と実戦した時は骨もバキバキに折れたし。その後回復させられてまたすぐ戦闘で」

勇者「でも、それらに耐えて強くなろうと思い続けられたのは、全部遊び人のおかげなんだ」

勇者「自分に絶望して孤独に彷徨っていた時に、あの子だけは精霊の加護を抜きにして俺のことを見てくれて」

勇者「戦わなくてもいいって言ってくれたのは、あの子だけだった」

勇者「俺は、恵まれてるんだな。強くなる理由が先にあって、強くなろうと努力した」

勇者「普通は、強くなってはじめて、自分を慕ってくれる人が現れるものなのに。だからこそみんな、守るべき人がいない状態から強くなるのが世の常なのに」

勇者「俺は幸いにも、弱い時からあの子がいてくれた。にもかかわらず、強くなろうとさえしなかった」

勇者「負けたらどうなるか、目を反らし続けていた」



戦って、勝たなくちゃいけない日は訪れる。

その時負けたらどうなるかは明確で。

手に入れたかったものを手に入れられなくなるか。

失いたくなかったものを失ってしまう。



勇者「今は思う。あの子を守れるようになった強い自分の物語というものを見てみたいって」

勇者「隣にいてくれる女の子にふさわしい人になりたくて、男は強くなるんだ」

勇者「嫉妬を、必ず倒そう」
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 23:27:24.12 ID:do1GsOP20
目覚ましの音は、いつも嫌いだった。

母親のぬくもりから引き剥がされ、冷たい世界に放り出される気がした。

お母さん。

自分を産んでくれた女性をそう呼んでいられたのは、いつまでだったろうか。

世界から無価値であると突きつけられながら、無理やり引きずり出されるようになったのはいつからだったろうか。

朝日も。鳥の鳴き声も。川のせせらぎも。

心地よいまどろみから自分を引き剥がすものは全て憎らしく思えた。

戦いたくない。

全てのことから逃げることを許して欲しい。

それが、許されないのだとしたら。

せめて、こんな風に。

やさしく手を握って、起こしてくれたら。
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 23:27:56.48 ID:do1GsOP20
勇者「……お母さん?」

遊び人「ごめん、起こしちゃった」

真っ暗闇の部屋の中でも、ベッドのそばにいるのが遊び人だとわかった。

遊び人はもぞもぞと、掛け布団の位置を直すような動作をしていた。

勇者「俺、いつの間に」

遊び人「疲労が溜まってたんだね。帰り道からふらふらしだして、部屋まで連れてきたんだよ」

遊び人「修行、一段落したんだってね。おつかれさま。勇者も、緊張が解けて気が抜けちゃったのかもね」

勇者「……そっか」
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 23:30:46.33 ID:do1GsOP20
遊び人「大変だったんだね」

勇者「…………」

勇者「うん、大変だった」

勇者「冒険譚を昔に読んでてさ。強い敵に勝てなかった勇者が、修行をして再び強くなる場面とかがあって、憧れも抱いてたりしたんだけど」

勇者「強くなるって、ただただつらい日々の連続だった。地味だし、面倒くさいし、泣きたいし、吐きそうになるしで、修行なんてのはやりたくないことの寄せ集めだった」

勇者「自分ひとりの野望のために生きている人には、強くなるための行為なんて絶対できないよ。だから正義はいつも悪を倒せるんだ」

少なくとも物語の中では、と勇者はぼそっと付け足した。

勇者「誰よりも頑張っていたつもりだったけど。修行場所に向かう途中、朝の暗闇の中で鍛錬をしている戦士や武道家を見かけた。修行場所から帰る途中、夜の暗闇の中で呪文の練習をしている魔法使いや僧侶を見かけた」

勇者「今守りたい誰かがいるのかもしれないし、そうでないのかもしれない。いずれにせよ、今の自分を変えるために日々を注いでいる人は、何かを壊したくて強さを欲しているんじゃなくて、何かを築きたくて強さを欲しているように見えた」

勇者「今強い人達って、人生のどこかで強くなろうとした人達だってわかったんだ」

勇者「遊び人も、俺の見えないところで頑張ってきたんだろ。これまでの冒険でも、この都に来てからの数週間の間にも」

勇者「聞かせてほしい。遊び人がした、努力の話」

遊び人「……うん」

遊び人「その代わり、勇者がしてきた努力の話も教えてね」

苦しいその時に、独りぼっちだったとしても。

それを乗り越えた後で、同じように乗り越えてきた人が、耳を傾けてくれる日はやがて来る。
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/02(火) 23:44:45.38 ID:do1GsOP20
〜宮殿 地下〜

強欲「戦いの日が近づいてきた。君たちも今日からはここに泊まれ」

宮殿の地下室にて、強欲は告げた。

勇者が修行を受けていた部屋の他にも、無数の部屋が存在していた。

強欲「封印の壺もここに保管していた。宮殿の最深部だ」

勇者「逃げる時どうするんだよ」

強欲「逃げるという選択肢は基本的にはない。奴らが同じ轍を踏むとは思えん。移動の翼や、精霊の加護による転送の対策を間違いなく講じてくるだろう。可能な限りの防衛策は当然施すつもりではあるが」

強欲「だからこそ、その裏をかいた戦略を立ててきた。作戦を遂行できれば問題はない」

勇者「……覚悟を決めるしかないか」

錬金「猶予はないんじゃ。封印の壺にもヒビがはいってきてるじゃろ」

遊び人「うん。表面が割れてきてる」

錬金「装備の魔力にたえきれなくなっておるんじゃ。割れたら最後、物体感知に容易にひっかかるぞ。人間の感知よりもずっと容易で、広範囲の距離で特定されるぞ」

錬金「逃げるのも、疲れたじゃろうて。勝って終わりにしようぞ」
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 00:56:03.27 ID:Ru5fbabL0
【TIPS】

禁術が禁術足るのは、下記3つの要因のいずれかに当てはまることによる。

・殺戮性の高さ <例:総魔力放出呪文>
・影響力の強さ <例:音讎の呪文>
・術者へのペナルティ <例:強制転職呪文>

使ってはいけない、と言われるようになったのは。

それらが使われた過去において、数多くの不幸が生み出されたからである。
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 01:12:29.04 ID:Ru5fbabL0
明日一通り投稿をした後に、再び書き溜めます。

当初の予定より大幅に文章が膨らんでしまい、
あらすじも一通りできているため簡潔に終わらせるべきか悩んだのですが、
納得いくまで文章を書き続けたいと思いました。

投稿当初から読んでくださっている方には申しございません。

新年も引き続きよろしくお願いします。
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 01:33:54.90 ID:1Cl7f4sA0
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 12:53:29.47 ID:Ru5fbabL0
お姫様「……ギャッ!!!」

強欲の都の敷地外で、お姫様はよろめいた。

研究員「何をしている。勇者感知は成功したのか」

お姫様「いたた……電流を流されたみたい……」

研究員「逆感知されたんだ。場所を変えるぞ」

「もう遅い」

移動の翼の羽根がぱらぱらと頭上から落ちてきた。

複数の術士がお姫様達を囲み込んだ。

上級術士「いきなり親玉の左腕が現れて光栄だぞ」

お姫様「誰が左腕よ!!右腕よ!!」

上級術士「そこの女は音を操る術士だ。白衣の男の結界には時縮化の呪文を唱えよ。後ろに魔物も複数体いるようだから気をつけろ」

術士達は詠唱を唱えると、耳の周りがシャボン玉のようなもので覆われた。

シャボン玉はどれも、統一された緑色に染まっていた。

お姫様「暗号術よ。あいつら同士の会話は通じるけれど、こちらからは解読もできないし音を伝えることもできないわ。緑色なんて、一番調節が難しい色なのに」

研究員「仕方ない。おい、魔物、出番だ」

研究員は牛型の魔物に命令をした。

研究員「すてみだ。行け」

魔物「ぐぉおお!!!」

牛型の魔物が突進するのを、術士達は躱した。

研究員は無口詠唱で、火炎の呪文を唱えた。

魔物「グモォオオオオオオオオ!!!」

魔物に火がつくと同時に爆風が起こり、胃袋の中から無数の鉄製の玉が飛び出した。
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 12:54:54.23 ID:Ru5fbabL0
強欲「奴らが来たようだ。都の東側の入口から侵入してきたらしい」

遊び人「逆感知できる人なんて、旅に出てから初めてあったかも」

強欲「待ち構えてさえいれば、上級の術士なら誰でも出来る。随分舐めた真似をしてくれる。俺達も嫉妬の勇者の感知は何度も試みているが、対象は奴の所持物だ。逆感知の恐れもなく、感知の範囲も広いからな」

強欲「トラップで強力な呪いをかけられた装備を感知させられた時は、少々痛い目を見るが」

勇者「敵はどれくらいの人数で来ているんだ」

強欲「確認できたのは東門の数名だけだ。各方角から同時に侵入している可能性が高い」

強欲「都の中に既に何名かは侵入していたのだろう。外部にいるものを中から招き入れるのは容易だからな」

強欲「既に都中に警報は発令している。あとは宮殿に繋がる経路を、奴らが突破できるか否かだ」
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 13:29:45.33 ID:Ru5fbabL0
お姫様「肉体強化、呪文反射、爆風緩和。奴らも戦闘が始まる前から、可能な限りの補助呪文をかけているわね」

研究員「西側からの連絡が途絶えた。侵入に失敗したみたいだ」

お姫様「使えないわね。そういえば、あの女はどこから侵入する予定か聞いてるかしら」

研究員「あの女?」

お姫様「もう1人の側近よ!根暗のくせに嫉妬様に妙に気に入られててムカツク奴……」

研究員「あの方は、嫉妬様と共に行動している」

お姫様「はぁ!?」

研究員「嫉妬様も、強欲の勇者を私達が打ち倒せるとは思っていない。最期の戦いには自らが出るとのお考えだ」

研究員「入り口を壊すのが私達の役目。最期の場まで伴うのがあの女性の役目。役目が分かれているんだ」

お姫様「……なによ。なによそれ。嫉妬様は、そんなこと……」

お姫様「あの女……許せない……ムカツク……」ギリリリリ…

お姫様「私の……私の居場所を……!!」
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 13:31:27.30 ID:Ru5fbabL0
上級術士「見つけたぞ!!」

上級術士「巨大な結界を張って閉じ込めるんだ!!」

命令が他の術士に伝達され、詠唱を唱え始めた。



お姫様は立ち上がり、広けた空間に向かって歩んだ。

お姫様「私一人で充分だってこと、嫉妬様にもわかってもらわないと」

お姫様から独特の魔力の気配が広がった。

研究員「待て!!何を考えてる!!」

お姫様「この一月で私がどれだけ成長したか、みんなに聴かせてあげるのよ」

研究員「禁術を発動するつもりか!!味方もろとも破滅するぞ!!」

お姫様「『リコルダーティ』」

研究員「くそっ!!自分にかける羽目になるとはよ!!」

研究員は悪態を尽き、自分の周囲に結界を張り始めた。

お姫様「『スケルツォ』」

お姫様「『ベルスーズ』」

お姫様「『主を失いし旋律の怨嗟よ』」

お姫様「『仇讎曲を奏で給え』」

お姫様「『Morte』」

お姫様「『Tremolo』」




お姫様「『Sonate』」
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 15:31:21.25 ID:Ru5fbabL0










――――トン


一滴の、静かな音が広がった。







585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 15:32:21.94 ID:Ru5fbabL0
研究員「……(うっ)」

研究員「(一体、何が……)」

簡易に張られた結界の中で、研究員は精一杯耳を抑えて身構えていた。


目を上げると、術士達が生気を失ったように、倒れているのが見えた。

お姫様は、ただ立ち尽くしていた。

その手に持つ鋭利な装備には血が滴っていた。

研究員「おい、どうなっている!そんな装備で倒したのか!?」

研究員「ちゃんと術は発動し……」

『グモォオオオオオオオオ!!!』

研究員「ひぃ!なんだ!」

研究員の耳の内側から、魔物の鳴き声が響いた。

『や、やめてくれ!!息子だけは!!』
『お前らはそれでも人間か!!!』

研究員「これは……」

『使えない研究者め……』
『もうここには来なくていい』

研究員「お、俺が、過去に聞いた……」

『……ごめんなさい。あなたとは……』

研究員「やめろ……やめてくれ!!」

過去に聞いた悲しい言葉の記憶が、激流のように研究員の脳内に鳴り響いた。


『嫌vぬあ;んbにあえb:ゔぁ憎ゔぁ;んれんぶpな』 『弱:k−0い3j5死m:ゔぁvりあ@bんじょいえk疎v;あvbギs』 『去gbbsんdvjsj;bjぬ;sb主;んfb;svkzんbおいっvbん;jsぬgjs;:gm』 『呪jvん;あんふいゔぉ@あ恨vんmfなあううrjvbんrんゔぁ;』『讐にvにあうえh8えjvまお;んゔあえrhb』







『産むんじゃなかった』
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 15:32:54.60 ID:Ru5fbabL0
扉が開く音がした。

お姫様「……久しぶりね」

遊び人「あなたは!!!」

お姫様「この前は、エグい呪文を使おうとしてくれたじゃないの」

遊び人「さっきの魔力の気配……やはり、音讎の呪文を使ったのね!!」
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 15:33:34.53 ID:Ru5fbabL0
TIPS

『音讎の呪文』

過去に聞いたことのある、忘れたい全ての音を一斉に呼び起こす呪文。

全ての音の再生が終わるまで呪文は解けない。

特徴として、対処が極めて困難なことがあげられる。

呪文の音が耳の鼓膜に届けば発動するため、手で耳を抑える程度の対処はもちろん、魔法反射や簡易結界でも防ぎ切ることができない。

完全な結界や、空間の空気を抜き取る呪文等、発動に時間がかかる対処呪文しか存在しない。

状態異常に分類されるため、精霊の加護がある者は自殺すれば解除される。
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/03(水) 15:34:44.03 ID:Ru5fbabL0
遊び人「音讎(おんしゅう)の呪文。私もまだ幼い頃に唱えてしまって、泣き続けたことがあるってお父さんから聞いたことがある」

遊び人「これが禁術とされるようになったのは。一度でも戦争に参加したことのある成人がかかった場合、必ずと言っていいほど自殺を試みるからなのよ」

遊び人「あなたが、ここまで来れたのも不思議なくらいに、感情ごと呼び起こす呪文なのに……」

お姫様「…………」

遊び人「まさか、あなた!!自分の耳を!!」

お姫様の両耳から、血が流れ出していた。

お姫様は不気味な笑みを浮かべながら、詠唱を始めた。

お姫様「『リコルダーティ・スケルツォ・ベルスーズ』」
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/04(木) 00:48:07.12 ID:GAmWAbrDO
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/04(木) 01:54:50.26 ID:JNFXVCVn0
強欲「……ふぅ」

強欲「まずは、一名捕らえたな」

強欲の勇者は、一瞬で完全な結界を出現させた。

お姫様は中に閉じ込められ、彫像のように動きを止められていた。

遊び人「こんな完全な結界をたった一瞬で!!一体どうやって……」

強欲「俺の実力が1だとしたら、こいつの力が99だ」

強欲は自分の腕をひらひらと振った。

腕輪が黄金色に輝いていた。

強欲「通常攻撃も、魔法攻撃も、道具の使用も、この腕輪は自分の望んだ威力にまで瞬時に引っ張り上げる能力がある」

錬金「油断するな。足音が聞こえる。おそらく時間差で味方を送り込んだのじゃろう」

錬金「なんとしてでも防げ。世界の命運がわしらにかかっている」

足音は大きくなり、白衣を来た男たちが次々と現れた。
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/04(木) 02:15:44.82 ID:JNFXVCVn0
錬金「はぁ…はぁ…」

錬金「これで、最後かの……」

迷路のように広がっている地下を移動しながら、勇者達は敵と対峙した。

しかし、あくまで戦闘の前線に立ったのは、錬金を始めとした宮殿に仕える術士達であった。




今回の戦いにおける最大の目的は、嫉妬の勇者の捕縛。

作戦の根幹に関わる教会への転送に関して ”絶対に勇者、遊び人、強欲の三人が死んではいけない” 理由があった。

強欲「……信号が入った。地上にある教会は、完全に結界を張られたそうだ。敵側の援軍の力はやはり教会の攻略に注ぎ込まれていたらしい」

強欲「だが、我らの大罪の装備に打ち克つことができるのは、同じ大罪の装備を所持している嫉妬の勇者しかいない」

強欲「奴は必ず自らここに来る。我らの側にある『暴食の鎧』『色欲の鞭』『強欲の腕輪』この3つの装備を全て使用しても、奴の体内に宿っている6つの精霊は倒しきれない。そして一度精霊を破壊した武器は嫉妬の首飾りによって攻略化される」

強欲「奴は死ぬことを恐れないはずだ。大罪の装備以外による攻撃で絶命しても、やつが転送されるのは、既に奴の手中に落ちた教会だと考えるはずだ」

強欲「なんとしてでも、先手で奴を絶命させ……」





嫉妬「誰を、どうすると言ったか」

無様に寝転がる研究者を蹴り飛ばしながら、嫉妬の勇者が現れた。
592 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/04(木) 02:16:23.18 ID:JNFXVCVn0
強欲「やっと来てくれたか。待ちわびたぞ」

嫉妬「教会を基地にしなくてよかったのか。何度でも蘇りが効いたぞ。貴様のかつてのパーティメンバーは四天王との戦いで全員死んだと聞いている」

強欲「俺を倒せるのはお前くらいしかいない。そして、お前に倒される時は、俺が精霊ごと殺される時だ。ならば、奥深くで休んでいるのがよいだろう」

嫉妬「なるほど、光栄だ」

嫉妬「といいたいところだが。あまりに無様な状況だ。他の者ではやはり、大罪の装備には手も足も出まいか」
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/04(木) 02:17:09.38 ID:JNFXVCVn0
嫉妬「それにしても、お前は本当に結界の中が好きだな」

嫉妬は結界に足を歩み入れた。

首飾りが鈍く輝いていた。

嫉妬「禁術を唱えて東の部隊を味方もろとも不能にさせたそうじゃないか」

嫉妬はお姫様を掴み、結界の外へと引きずり出した。

強欲「平気で完全結界の中に……。既に首飾りで攻略化(とりこみ)済みというわけか」
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/04(木) 02:18:14.09 ID:JNFXVCVn0
嫉妬「まずは、話の聞ける状態にせねば」

嫉妬が回復呪文を唱えようとすると、錬金が即座に動いた。

錬金「奴に動く隙きを与えるな!!」

錬金の命令と同時に、術士は詠唱を始めた。

誰よりも早く、錬金は呪文を発動した。

錬金「『魔壁剥がし』!!」

嫉妬「ほほう。人間に唱えられるものがいるとは」

錬金の杖からは緑色の蔓(つる)のようなものが伸びた。

しかし、枯れ葉の色に変色し朽ちてしまった。

錬金「これも攻略化しておったか……呪文中断!!」

術士達は詠唱を中断した。

錬金「奴は魔反射をかけておる。生半可な魔力では全て返り討ちにされるぞ」

錬金「後は任せたぞい、大将」

強欲「ああ。下がっていろ。生半可でない呪文で魔壁ごと吹き飛ばしてやる」



他の術士は後ろに下がり、強欲と嫉妬が対峙した。

嫉妬「強欲。身の丈に合わぬ願いを叶えようとする醜き心に選ばれた勇者よ!」

強欲「嫉妬。叶わぬ願いを手に入れた者を引きずり落とす醜き心に選ばれた勇者よ!」

嫉妬「拭い去る!!」

強欲「奪い取る!!」

2人は同時に呪文を唱えた。
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/05(金) 00:34:21.18 ID:WLApPFvDO
乙乙
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/06(土) 09:01:28.70 ID:nY42ru3vo
乙!
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 14:46:44.06 ID:cSlOzYY80
TIPS

『嫉妬の首飾り』

・攻略化…一度持ち主を破滅に陥らせたことのある呪文・特技・装備・道具等の情報を取り込む

・無効化…一度攻略化したことのある呪文・特技・装備・道具等の効力を消し去る。無効化の度に寿命を消費する。

通常攻撃は無効化の対象外である。
<例>色欲の鞭によって嫉妬の首飾りの所有者が倒され、攻略化した場合。
復活後、再び色欲の鞭によって攻撃された時に無効化を行うと、それは付与効果のないただの鞭の攻撃となる。
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 14:47:40.73 ID:cSlOzYY80
戦闘する2人を、遊び人は注意深く観察していた。

遊び人「大罪の装備の使用には寿命を消費する。それは嫉妬の首飾りにも当然あてはまること。だから、呪文の無効化に首飾りを多用するのは避けたいはずよ」

遊び人「マハンシャさえ唱えておけば、嫉妬は大概の呪文を防ぐことができる。そして、魔壁剥がしなどの特殊呪文だけを無効化すれば、実質全ての呪文を防げるといってもいい」

強欲「『雷槍で穿て、ペルクナス』!!」

強欲の右腕から7つの電気の槍が飛び出した。

嫉妬「無駄だ」

嫉妬の首飾りが鈍く輝いた。

強欲「勇者の呪文は当然攻略化済みというわけか。自分で自分に攻撃した時はさぞ痛かったろう」

嫉妬「残念なことに、この世の大概の呪文は攻略化済みだ」

遊び人「……やはりそう。強欲の腕輪、という装備を攻略化していなくとも。雷撃の呪文を過去に攻略化済みであったら、無効化されてしまうんだわ」
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 14:48:32.22 ID:cSlOzYY80
嫉妬「勝利のためならあらゆる手段を試みる強欲な勇者よ。その大胆さとは裏腹に、計画性、緻密性、慎重性をそなえた人物だという話をよく聞く」

嫉妬「我々のことや大罪の装備についてもこそこそと嗅ぎ回っていたようだが。その腕輪で精霊ごと倒したところで、俺は復活する。俺の体内には複数の精霊が宿っているのでな。そこの小娘から話を聞いたであろう」

嫉妬は遊び人を横目で見て言った。

嫉妬「俺を倒せる方法でも思いついたのなら、聞かせてほしいものだ」

嫉妬は右腕に大きな力を貯めた。

嫉妬「その前に、貴様が死ななければな!!」

嫉妬は雷撃呪文を、無口詠唱で唱えた。

強欲は相殺化しようと、雷撃の呪文を唱え返した。

しかし、強欲の放った雷撃は消滅してしまった。

強欲「ぐぉおおおおお!!!」

嫉妬「寿命さえ惜しまねば、いくらでも呪文を消すこともできるのでな」
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 14:57:59.46 ID:cSlOzYY80
遊び人「やはり、呪文同士の戦いでは勝ち目がないわね」

勇者「でも、憤怒は兜を装備して奴を倒したじゃないか」

遊び人「それは、嫉妬の首飾りにも攻略できない対象があるからよ」




強欲「……貴様の呪文の特徴は掴んだ」

強欲「あとは、俺の得意なこれだけで行くとしよう」

強欲は呪文の詠唱の構えを解き、通常攻撃の構えを取った。

強欲「行くぞ!!」

強欲は腕輪の力を全て、剣技に注ぎ込んだ。

嫉妬「ぐっ!!!」

剣を振るあまりの速度に、風を切る音が轟いた。

一度宙を切った風の音が、分裂したかのように幾重にも重なって響いた。

強欲「この腕輪は一太刀の振るいで幾百かの攻撃を加える!!」

強欲「通常攻撃に関しては、首飾りの力を存分に発揮できないようだな!」

嫉妬「大罪の腕輪め……」

嫉妬は呪文を繰り出しながら、強欲と戦闘をしていた。

本来であれば、通常攻撃だけでは呪文と剣技の組み合わせに勝てるはずもないのだが。

強欲の腕輪の力により、あまりあるほど剣技の強さで圧倒していた。

強欲「終わりだ!!!」

強欲が剣は、防御呪文の障壁を突き抜け、嫉妬の胸に突き刺さった。

嫉妬「……がぁっ……」



バリイイィイイインン!!!

精霊が砕ける音が響いた。
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:04:58.78 ID:cSlOzYY80
〜決戦前日〜

錬金「強欲の勇者。そして勇者と遊び人。お前らは戦闘当日、絶対に死んではならん」

錬金「この地下内に、もう一つの教会を創った。ここじゃ」

宮殿地下の迷路のような道を歩き、異質な空間があるのを勇者と遊び人は目撃した。

神官「…………」

遊び人「神官様がいる」

強欲「普段は他の場所にいた神官だ。勇者復活の使命を帯びている。試しに一度自殺を試みたが、確かにここで復活をした」

強欲「地上に通常の教会が1つ。ここに新たな教会が1つ。戦闘で死んだ位置から、最も近い位置の教会で復活することになる」

勇者「一体、何のために……」

錬金「ここで、わしの長年の研究の出番じゃ」

錬金はそういうと、他の部屋の案内をした。

そこでは、見たこともない材質の塊を囲んで、多くの術士が作業に取り掛かっていた。

錬金「賢者の石の失敗作じゃ」

遊び人「賢者の石……」

錬金「硬度が極めて高く、魔法を跳ね返す性質をそなえておる。他にも様々な魔物の繊維を合成させておる」

錬金「この材質で出来た武器で切りつけたら攻略化されるかもわからんが。ただの空間として設置した場合に無効化はできまい」

錬金「この物質で出来た檻を作る。戦闘で死んだ奴を、この教会に転送させる。復活は神官の目の前。ここにあらかじめ檻を作成しておき、閉じ込めるというわけじゃ」

錬金「加えて、真上の部屋に、雨水を大量に保管しておる。やつがこの檻に入ったタイミングで、水を流し衰弱させる」

錬金「自然に存在しているものを、嫉妬の首飾りは攻略化できないはずじゃ。もしもあらゆるものを消滅させたりすることができるのであれば、傲慢や憤怒と戦闘している時に、空気を消滅させて窒息させて戦闘不能にでもしてたはずじゃな」

錬金「なんとしてでも奴を一度殺害する。そしてこの檻の中に出現させ、窒息させる。奴が衰弱している間に槍でも伸ばして首飾りを奪えば良い」





――――――――


602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:08:53.18 ID:cSlOzYY80
強欲は、剣を嫉妬に突き刺したままであった。

嫉妬からは血が流れ出し、意識が遠のいているようにみえた。

強欲「朽ちてくれ」

嫉妬が教会へ転送される瞬間を待った。

檻の中に閉じ込め、水を流し、窒息させ、気絶したところで首飾りを奪う。

首飾りさえなくなれば、強欲の腕輪の力を以て、精霊ごと何度でも殺害をすることができる。

強欲「はやく、飛べ!!」

その時だった。

強欲「ぐぁっ!!!」

バコン!という音が一瞬聞こえたかと思うと、嫉妬に突き刺していた剣が弾け飛んだ。

強欲「木の音!!肉体保護の棺桶が出現したのだな!!」

しかし、音が聞こえたのは一瞬で、棺桶は目視する間もなく消滅したようだった。

遊び人「おかしいわ!!教会への転送がされるはずじゃ……」

混乱している一同の前で、一人の人物が口を開いた。



嫉妬「おお、私よ。死んでしまうとは情けない」

傷が完全に癒えた状態で、嫉妬の勇者が復活していた。
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:21:46.33 ID:cSlOzYY80
遊び人「どういうことよ!!絶命したはずよ!!なのに神官の元への転送もなく、そのまま復活をするなんて……」

嫉妬「ちゃんと神官の元で、俺は蘇ったさ」

嫉妬はにんまりと笑みを浮かべていた。

錬金「…………なるほどの」

錬金は何かを察したようだった。

錬金「勇者であることを捨てたか」

嫉妬「捨ててはいないさ。転職はしたがな」

嫉妬「俺の今の職業は、神官様だ」
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:24:53.45 ID:cSlOzYY80
嫉妬「俺は元々、今の俺が支配している王国の奴隷だった」

嫉妬「精霊が宿った俺は被験体にされ、様々な実験をさせられた」

嫉妬「俺が神官もろとも雷撃を落として自殺を試みた時に、不思議な現象が起きた」

嫉妬「一度目に落ちた雷は、俺と神官に直撃した。だが、俺はその場で蘇った」

嫉妬「二度目に落とした雷は、俺に直撃し、研究者が用意していた別の教会で俺は復活した」

嫉妬「一度目の雷で、何故俺だけ復活したのか。それは、タイムラグがあったからだ」

嫉妬「神官は、精霊からその職業を全うする能力を託されている。自分の身が滅びつつある時でさえ、気絶している時でさえ、勇者の蘇生を果たす。いうならば、神官の身体を通して、精霊の力が勇者を蘇生させていたわけだ」

嫉妬「自分自身が神官になった場合。死亡した時点で最も近い位置にいる神官は、俺自身であるため、他の神官の元へ送還されることはない。精霊の加護を宿している俺を、神官である俺自身が蘇生することになる」

嫉妬「かつて、魔王が神官を魔王城に置き、勇者の精霊の加護による逃亡を阻止しようとしたことがあった。これは失敗した。神官は自分のいる領域を、人間の領域であると認識できなかったからだ」

嫉妬「俺は俺自身の中に復活する。当然、人間の領域であると認識できる。魔王城の中であろうがな」

嫉妬「研究者共はこのタイムラグを何かに活かせないかと悩んだ末、答えを見つけられないままだった。しかし俺は、最も有効な活用方法を考えついた」

嫉妬「精霊の加護による、教会への転送の省略。これによって、結界の張られた教会に転送されるようなこともない。お前らもそのような作戦を立てていたのだろう」

錬金は焦りの表情を浮かべていた。

嫉妬「だが。この仕組の真価は別のところにある」

嫉妬「精霊殺しの陣による死亡の可能性の排斥だ」

嫉妬「俺の中に宿っている精霊が魂から飛び出すのは、俺が死亡した時だ。そこが精霊殺しの陣が敷かれているエリアであれば、俺の精霊は飛び出した瞬間に破壊される」

嫉妬「俺自身が神官であるため、精霊は転送する必要もなく、俺の魂から飛び出す過程も省かれる」

嫉妬「精霊殺しの陣によって俺は死ぬことはなくなったのだ」
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:33:06.51 ID:cSlOzYY80
遊び人「でも、神官は精霊に託された者のみがまっとうできる職業なんでしょ。通常の転職神殿でも、神官への転職はできないわ。そもそも、勇者という職業の者は転職自体許されていないはず!どうして……」

嫉妬「それはお前が一番よくご存知のはずだろう」

遊び人「……まさか」

遊び人「……強制転職呪文」

嫉妬「グリモワールと書かれた書物を見させて貰った。お前の父親は実に素晴らしい術を記載してくれていた」

錬金「あの馬鹿息子……」

錬金はショックを受けたような顔をした。

嫉妬「呪文の才能を持った術士が、真に対象者の転職を願った時にのみ使える禁術だ。『大罪の賢者』という、本来転職不可能な職業から『遊び人』に変えられたのも、この呪文の力だ。対価として、極めし職業1つ分のスキルの放棄という大きな代償がつくだけはある」

嫉妬「使用出来る器のあるものがいなかったのでな。自分自身で使用させてもらった。勇者という職業から、神官という職業へな」

遊び人「雷撃の呪文を使っていたはず……。勇者という職業を放棄したのではないの?」

嫉妬「悲しいことに、俺はまだ勇者という職業を極めていない。俺だけではない。古代の勇者は自身の力だけで魔王を葬った。大罪の装備等に頼らなければ四天王さえ倒せない今の世界の勇者に、勇者という職業を極めたといえるものはおらんだろう」

嫉妬「職業の格によって、極めの水準は大きく異る。例えば、遊び人という職業は極めるのに容易い。最低限度のレベルを積んで賢者に転職するのが通常だが。遊び人を限界まで極めれば、強制転職呪文で大罪の賢者になることも可能だ」

嫉妬「強制転職呪文は等価交換ではない。誇り高き職業のスキルを放棄して卑しい職業へ転職することもできれば、卑しい職業のスキルを放棄して誇り高き職業に転職することも可能だ」

嫉妬「俺も1つの職業を既に極めていたので、放棄させてもらった!!」

突如、嫉妬は怒りに歪んだ表情をして叫んだ。

嫉妬「奴隷という、忌まわしい職業をな!!!」
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:34:37.31 ID:cSlOzYY80
嫉妬は、再び淡々と語りだした。

嫉妬「嫉妬という感情は、敗者の感情だ」

嫉妬「この首飾りも、本来であれば最弱なものだ。一度、敗北をした相手にしか効力を発揮しない」

嫉妬「俺はそれを、自身の才覚で全て乗り越えたのだ」

嫉妬「どうする。強欲の腕輪の力はもう発揮しないぞ」

嫉妬「残りの大罪の装備で、時間稼ぎでもするか?」
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:37:40.19 ID:cSlOzYY80
嫉妬は、右腕に雷の力を蓄え始めた。

強欲「『マハンシャ』!!」

嫉妬「たいていの呪文は攻略化済みだといったはずだ」

首飾りが光ると、魔法障壁は粉々に散ってしまった。

強欲「くそっ!!」

強欲は通常攻撃を繰り出そうと、瞬時に飛び出した。

嫉妬「剣で雷を斬れるものか」

嫉妬は雷の呪文を放った。

強欲は腕輪に念じた。

だが、いつものような黄金色の輝き放つことはなかった。

強欲「ぐぁあああああ!!!!」
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:41:13.36 ID:cSlOzYY80
強欲「はぁ……はぁ……」

強欲の身体は、燃焼と再生を繰り返していた。

嫉妬「無口詠唱で回復呪文を唱え続けたか。素晴らしい集中力だ」

嫉妬「よかったな。回復呪文は攻略化の対象外だ。俺を敗北に至らしめるにあたって、敵の回復は間接的な要因にすぎないとの認識らしい」

嫉妬「さて、そろそろこいつにも働いてもらわねば」

隅で倒れていたお姫様に、嫉妬は回復呪文をかけた。

お姫様の体の傷が癒え、耳からの出血も止まった。

お姫様「……嫉妬様」

嫉妬「耳は聞こえるな。大罪の装備を後ろで隠れているやつらが守っている。奪ってこい。強欲は俺が相手をする」

お姫様「……かしこまりました」

お姫様は急激な回復に伴う副作用でよろけながらも、勇者達を見据えた。
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:42:34.55 ID:cSlOzYY80
強欲は叫んだ。

強欲「逃げろ!!例の場所で落ち合うぞ!!」

にげる。

作戦が完全に失敗にしたとわかった時に、発する命令だった。

ただがむしゃらに逃げ出して。あらかじめ定めていた『誓いの書簡の村』で落ち合うという、それだけの命令だった。

勇者「……やるしかないのか」

お姫様「あんたみたいな雑魚、一瞬で葬ってやるわよ」

目の前の女の子はぼろぼろになりながら立っているものの。

傲慢と憤怒の2人を相手に戦っていた、嫉妬の王国最強の術士である。

遊び人「勇者、どうするの」

遊び人は足を震わせながら尋ねた。

勇者「どうするって、逃げるしか無いだろ」

勇者「俺が道を切り開く。その間に、地上に逃げろ」

勇者「地上に出た瞬間、移動の翼で逃げるんだ。嫉妬が強欲と戦闘している今、空から雷で撃たれる恐れもない」

勇者「さあ!」

勇者と遊び人は、同時に駆け出した。
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:48:35.95 ID:cSlOzYY80
お姫様「待ちなさい!!」

ふらふらになりながらも、お姫様は笛を口に咥えた。

勇者は、瞬時に飛び出し、一瞬でお姫様との間合いを詰めた。

お姫様「なっ!!」

勇者「うぁああああ!!!」

勇者はお姫様を蹴り飛ばした。

お姫様「うぅ……おぇえ!!!」

お姫様「う、うそ……」

吹き飛んだお姫様が他の楽器を取り出すも、勇者に一瞬で間合いを詰められた。

お姫様「なんて速度……」

勇者はお姫様の楽器を吹き飛ばし、再び蹴りを加えた。

吐瀉物の音が響いた。
611 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:50:20.43 ID:cSlOzYY80
お姫様「く……くそ……雑魚だったはずなのに……おえぇえええ……」

お姫様「……女の子に……暴力振るうなんて……」

勇者「剣を心臓に刺すよりはマシだろ」

お姫様「……舐めやがって。殺さなかったこと、後悔させてやるわ!!」

お姫様は、簡易的な呪文を詠唱した。

しかし、それ以上に早く勇者は距離を詰め、腕を斬りつけた。

お姫様「いやぁあああああああ!!!」
612 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:51:23.75 ID:cSlOzYY80
お姫様「いだい……うぐっ……どういうことよ……」

勇者「ずるをしたんだよ。大罪の賢者の力に近づこうと、寿命を肉体強化にまわす呪いをかけてもらったんだ」

勇者「今の俺は、大罪の無職といったところだけどな」

遊び人が出口を駆け上がっていくのを、勇者は見届けた。

自嘲的に言いながらも、勇者はこの場を制したことに達成感を覚えていた。

勇者「少しだけ、強くなったんだ」

今強い人達は、人生のどこかで強くなろうとした人達。

勇者も、強くなった。

他者との戦いに、勝てるほどまでに。

勇者「殺さなければ、後悔するんだったな」

勇者は剣を大げさに構え、突進をした。

お姫様「ひっ……」

お姫様は怯んだ。

勇者「うぉらあああ!!!!!!」

勇者は横を素通りすると、遊び人の後に続いていった。

お姫様「……へっ?」

勇者「殺せるわけないだろ」

勇者「女の子に救って貰った人生なんだから」

勇者達はにげだした!
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:56:30.00 ID:cSlOzYY80
勇者は宮殿の1Fに出た。

勇者「酷い……」

味方の術士が血を流しながら、横たわっている惨状を目の当たりにした。

勇者「遊び人!!どこにいる!!」

宮殿には複数の出口がある。

勇者は迷いながらも、正面玄関に向かい、空の真下へと出た。

空を見上げるが、遊び人の姿はなかった。

勇者「もう逃げ出せたのか。他の出口からでたのかもしれない」

勇者「よかった」

勇者は安堵した。

自分も誓いの書簡の村に飛び立とうと、移動の翼を取り出そうとした。

勇者「……なんだ、この感覚」

気だるさが、どっと勇者を襲った。

嫌な予感がし、勇者は辺りを見回した。
614 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 15:58:16.34 ID:cSlOzYY80
前方の広場に、人影が見えた。

髪の長い女性が1人立っており。

その傍らでは。

勇者「遊び人!!」

ぼろぼろになった遊び人が横たわっていた。



勇者「……許さない。嫉妬の仲間か!!」

勇者は剣を構え、遠く離れた女性に向かって叫んだ。

勇者「お前は一体……」

「そんな遠くから話しかけないで、もっとこっちに寄っておくれよ。この子みたいに、雷で撃ち落としたりやしないからさ」

勇者は、背筋が凍る思いがした。

「これでも威力を弱めてあげたんだ。その証拠に棺桶が出現していないだろ」

長い黒髪を持つ女性は、淡々と勇者に話しかける、

「精霊の加護なんてものに頼っているから、命に危機感を持たないんだよ。あんなもの、無い方がマシだと思わない?」

「ねえ、勇者」

勇者「嘘だ……」

倒れていた遊び人は、痛みに耐えながら勇者に尋ねた。

遊び人「……勇者。こいつを、知ってるの……?」

「知ってるも何も」

ショックを受けている勇者に変わって、美しい女性は代わりに答えた。

怠惰「同じ故郷出身の、元パーティメンバーよ」

怠惰の勇者が現れた!
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:00:48.09 ID:cSlOzYY80
勇者「ど、どうして……」

勇者「ち、違うんだ……俺は、あの時……!!」

勇者は混乱している!

怠惰「久しぶりの再会で、いきなり言い訳だなんて。相変わらず、情けない男だね」

勇者「なんで……死んだと思っていた……」

怠惰「死んだと思ってた、って。遠回りな言い方をするんだね」

怠惰「勇者は、私達を殺そうとしたんじゃない」

遊び人「なによそれ……」

勇者は怯えた目で遊び人を見た。

勇者「やめろ、違うんだ……」

怠惰「こいつはね」

勇者「やめろって!!!」

叫ぶ勇者を見て、怠惰は笑みを浮かべた。

怠惰「ははーん。この女の子には聞かれたくないってことかしら。確かに、精霊の加護だけが唯一の存在価値であるあんたに、その取り柄を根本から否定するような話だもんね」

勇者「やめてくれ!!!!!!」

勇者は錯乱した!!
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:02:46.20 ID:cSlOzYY80
勇者「うぁあああああああああああ!!!!!!!!!」

勇者は怠惰に向かって、すてみで突進をした。

怠惰「相変わらず、考えることから逃げてばっかりね」

怠惰「あなたが見捨てたこの命を、これが救ってくれたのよ」

“怠惰の足枷が鈍く光った。”

勇者「…………がぁっ……」



勇者の攻撃力が極限まで下がった。

勇者の防御力が極限まで下がった。

勇者の素早さが極限まで下がった。

勇者の魔力が0になった。

勇者の反応力が極限まで下がった。

勇者の集中力が極限まで下がった。

勇者の判断力が極限まで下がった。

勇者の決断力が極限まで下がった。

勇者の生きる意志が極限まで下がった。

勇者は力が抜け足元から崩れ落ちた。

勇者は廃人になった。

勇者「……………………ぁ………」


勇者は虚ろな目をして、四肢をだらりと投げ出していた。

口は薄く開き、端からよだれが垂れていた。

遊び人「勇者っ!!!」
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:03:50.07 ID:cSlOzYY80
怠惰「さて、と」

怠惰は、腰に2本携えている剣のうち、1本を取り出した。

怠惰「貴重な素材を殺すなとはあの方から言われているけど。あなた達は転送を利用して逃げ回るのが得意みたいだからね」

怠惰「私の仕事は、大罪の賢者の生き残り、あなたを連れて帰ることだもの。こいつの精霊の捕縛は二の次よ」

怠惰の勇者は、紫色に輝く剣を両手で持ち、横たわる勇者の横で高く持ち上げた。

遊び人「紫色に輝く剣……」

遊び人「せ、精霊殺しの魔剣!!」

怠惰「さよなら」

遊び人「やめて!!!」

怠惰の勇者は、魔剣を深々と勇者の身体に突き刺した。



ガラスの砕ける大きな音が響き渡った。
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:04:41.43 ID:cSlOzYY80
遊び人「あ……あぁ……」

遊び人「ゆ、勇者……」

遊び人「精霊の光が……見えないよ……」

わなわなと震える遊び人を見て、怠惰の勇者は苦笑していた。

怠惰「やだ。そんな悲しい顔しなくてもいいのよ。魔剣は精霊だけを斬りつけることのできる剣。刃は人間には触れられないのよ」

怠惰は剣を引き抜き、鞘に収めた。

勇者の胸部の装備に穴は空いておらず、出血の様子も見られなかった。

怠惰「それよりもね。そいつは、死んで誰かが悲しむような、ろくなやつでもないのよ」

怠惰「よかったじゃない。これで、自動的にパーティメンバーも解除されるわ。もう二度とこいつと一緒に冒険しなくても済むのよ」
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:08:18.32 ID:cSlOzYY80
怠惰「どうやらあっちも終わったみたいね」

嫉妬の勇者が、強欲の勇者を引きずって表に出てきた。

怠惰「楽勝でしたか?」

嫉妬「こいつの仲間の老人が、強制転職呪文をかけてきた。奴が大元の開発者だったみたいだ。危うく遊び人にされるところだった」

怠惰「ふふふ。遊び人になったあなたは見てみたかったかも。防げたのですか?」

嫉妬「禁術はマハンシャでは防げない。嫉妬の首飾りで攻略化したこともない。だから、姫様に身代わりになってもらったよ」

怠惰「お姫様も可哀想に。酷い王子様に使い捨てにされて」

嫉妬「遊び人から音術士に戻るのは、時間はかかるが簡単だ。転職に必要な最低限度の経験を積むのに時間はかかるがな」

嫉妬「お前の方は、首尾良くいったようだな」

怠惰「ええ。しかし、大罪の賢者の脱走の可能性があるため、勇者の精霊の加護は破壊致しました。申し訳ございません」

嫉妬「俺もこいつらとの鬼ごっこには飽きていたところだ。これで大罪の装備はすべて揃った。あとは時間をかけて我々の計画を進めれば良い」

怠惰「ついにこの日が訪れましたね」

嫉妬「ああ。どれほど待ちわびたことか」

怠惰「この女はあなた様に差し上げます」

怠惰の勇者は遊び人を見下ろしていった。

怠惰「そして、この勇者は、私が責任をもって、故郷に連れ戻します」

嫉妬「なるほど、あの地か。任せよう」
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:15:55.60 ID:cSlOzYY80
嫉妬は狂喜に満ちた表情を浮かべていた。

嫉妬「俺の持つ嫉妬の首飾り。お前の持つ怠惰の足枷」

嫉妬「この前の侵略で奪った憤怒の兜。傲慢の盾」

嫉妬「先程こいつから奪った強欲の腕輪」

嫉妬は足元に投げ出した強欲の勇者を見下ろした。

嫉妬「そして」

嫉妬は遊び人から道具袋を奪い取った。

嫉妬「封印の壺の中に閉じ込められている、暴食の鎧、色欲の鞭」

嫉妬「大罪の7つ装備。ついに、すべてを手に入れた」

嫉妬「ただの寿命の延長なんぞで、俺は満足しない」

嫉妬「永遠に、この世界の支配者となるのだ」



嫉妬は、都の支配者足る強欲の頭を掴み、電流を流した。

都の結界は解かれ、外で待機していた魔物の侵入を許した。

研究者達も嫉妬の元に集まり、手配を整えた。

遊び人は、嫉妬の王国へ連れて行かれ。

勇者は、怠惰の勇者とともに故郷へと連れて行かれた。









パーティは、解散した。






621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:18:35.40 ID:cSlOzYY80
【強欲の勇者の思い出】

錬金「……久しぶりだな、若造。わしの研究室に勝手に入ってくるなと言ったのを忘れたか」

若き青年に、堅物そうな男性は言った。

強欲「研究が進んでいるか尋ねに来たんだ。世界一の錬金術師に」

錬金「ふん、くだらん。錬金術師など今この世界にいるものか。賢者の石でさえ創造できん癖に。死者の復活に取り組むなど、狂気の沙汰だと思わんか」

錬金「金と酒と女に溺れた凡人の方がよっぽど健全じゃ。」

強欲「あんたの口からそんな言葉が出るとは」

錬金「これでも昔はヤンチャで優秀な研究者での。地位も名誉も欲した。贅沢な暮らしもな。あの頃は健全じゃった」

強欲「でも、今のあんたは研究を続けている。亡くなった奥方を蘇らせるために」

錬金「人の傷心の理由に興味があるだけなら帰ってくれ。魔王討伐の旅の途中ではなかったか」

強欲「パーティが全滅したんだ。他の者は、みな死んでしまった」
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:21:48.67 ID:cSlOzYY80
錬金は驚いた顔をした。

錬金「なんと……。精霊の加護はどうした」

強欲「精霊殺しの陣の上で戦ったんだ。魔王城の中で、四天王の一体を相手に」

錬金「そやつは、一体どんな」

強欲「再生を司る四天王だった」

錬金「再生?」

強欲「魔族は人間とは比較にならないほどの体力を有している。そのせいか、回復呪文の効果は薄い。人間が生き延びることを優先しているとしたら、魔族は破壊することを優先とした戦闘能力を有している」

強欲「奴は、膨大な体力を持ちながらも、自身の体力を全快させることのできる巨大な魔物だった。人間の場合に生じる回復呪文に伴う副作用も、一切抜きでな」


強欲「奴の攻撃パターンは二つ。祈りを捧げた後の全体攻撃。そして、祈りを捧げた後の完全回復」

強欲「祈りの時間は長く、行動速度だけは劣っていたといえる。祈りを捧げている間に俺達は攻撃を加え、やつが祈りを終えそうになったら遠くへ離れて防御の結界を張る。そして再び祈りを唱えたところを攻撃する」

強欲「奴は俺らを見くびっていたと思う。攻撃の回数こそ多いものの、回復の回数は非常に少なかった。俺らがコツコツとやつに貯めていたダメージは、本当に些細なものだったのだろう」

強欲「奴の回復が再生だとして、攻撃は腐敗だった」

強欲「放射線状に伸びる腐敗の光は、強力な防御結界さえも溶かした。部屋が広大で逃げ切ることなど出来ずに、攻撃される度に防御の結界で防いだ。」

強欲「行動を繰り返す度に俺らは体力や魔力をすり減らしていった」
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:25:43.30 ID:cSlOzYY80
強欲「戦士が、身体の一部を溶かされた。僧侶が回復呪文を唱えても、再生したそばから腐敗してしまう。禁術級の状態異常だ」

強欲「勝ち目がないと思った俺達は、逃げ出そうとした。しかし、いつの間にか入り口が消滅していた。おそらく、奴の細胞が壁として埋め込まれていたんだ。俺達が入る時は腐敗した状態で地面に溶けていて、回復の祈りとともに壁として再生したんだ」

強欲「魔法使いが爆発呪文を唱えてそこら中の壁に穴を開けようとしたが、材質は極めて頑丈で、削る程度だった。奴の身体で構成されていた入り口の壁が一番脆いと考え、必死で探した」

強欲「だが、結界を張れる僧侶の魔力が尽きてしまった。奴が腐敗の光で攻撃してきた時に、僧侶が俺らの前で仁王立ちした。光は彼女だけに注ぎ込まれた」

強欲「美しかった彼女は一瞬で腐敗した。灰色の、ドロドロの液体になって地面に解けた。しかし、肉体保護の棺桶が出現し、彼女だった物質はその中に保管された」

強欲「奴が再び祈りを捧げている間に、入り口らしき箇所を見つけた。魔法使いは爆発呪文を一心に打ち込んだ。奴の細胞の壁が大きく削れたが、奴は二度目の攻撃を繰り出してきた」

強欲「次は戦士が仁王立ちをした。逞しかった身体が一瞬で腐れ落ちた。彼にも肉体保護の棺桶が出現し、ドロドロの液体を包み込んだ」

強欲「魔法使いが再度爆発呪文を唱えると、人が一人分やっと通れるくらいの穴が空いた。すると、魔法使いが俺を強引に引っ張った。彼女は仁王立ちをして俺をかばった」

強欲「後ろで彼女の溶ける音を聞きながら、穴を通って入り口から出た。精霊殺しの陣の及んでいない範囲に無事に戻った」
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:28:00.51 ID:cSlOzYY80
強欲「俺はそこで1つの大きな疑問とぶつかった」

強欲「精霊は勇者である俺の魂の中に宿っており、パーティメンバーの魂と俺の魂を常につなぎとめている」

強欲「パーティメンバーが死んだ場合には肉体保護の棺桶を召喚させる。そして、パーティメンバー全員が全滅した際に、勇者の魂から飛び出して、メンバーを神官の元まで運ぶ」

強欲「俺が死んだ場合、精霊は俺の魂から飛び出す。しかし、精霊殺しの陣が敷かれているエリア内に仲間がいる。そうなると、精霊は彼らを助けないのではないかと」

強欲「一度国に戻り、兵士を引き連れて棺桶を取り戻しに行こうと決めた」

強欲「だが、仲間4人で登ってきた魔王城を、一人で脱出するだけの体力も魔力も俺には残っていなかった。上級の魔物に囲まれた時に、俺は仕方なく自殺をした。精霊殺しの陣のある部屋に連れ戻されたら終わりだと思ったからだ」

強欲「教会で目覚めた。あたりを見回しても、仲間の姿は見えなかった。同時に、自分の右腕に見覚えのない腕輪が巻かれているのを確認した」

強欲「見たこともないほどに強力な装備を得た俺は、上級の術士を引き連れて再度魔王城に侵入した。今までの苦労が何だったのかと思うくらいに、四天王の部屋に容易にたどり着いた」

強欲「奴が一度目の攻撃のための祈りを始めた時に、俺は奴の体力を半分削った。防御の結界で一度目の攻撃をやり過ごすと、奴は回復のための祈りを唱え始めた。俺はその間に奴を絶命させた」

強欲「部屋の隅に、異臭を放つ棺桶が3つ転がされていた。俺はそれを精霊殺しの陣の外まで引っ張り出した」

強欲「途中で出くわした魔物は全滅させていたから、術士には元来た道を通って帰ってもらった。俺はその場で自殺を試みて、仲間とともに教会へ転送され、蘇生されることを試みた」

強欲「再び教会で目覚めたものの、俺はまたしても一人だった。棺桶に入っていた仲間は転送されていなかった」
625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:35:16.90 ID:cSlOzYY80
強欲「俺は今の状況を整理した。そして、精霊がどのように行動したのか、1つの想像に行き着いた」

強欲「最初の戦闘で俺が自殺した時。精霊は俺の魂から飛び出した。まずは俺の棺桶を掴んだだろう。そして、仲間の元へ向かおうとしたはずだ」

強欲「そこで、精霊殺しの陣の敷かれている部屋に入ろうとした。自分を焼き切るような魔力を感じ、その部屋に入ることを恐れた」

強欲「しかし、精霊は勇者が魔王を倒すことを補助しなければならない使命を帯びている。当然勇者の仲間の救済も含まれている。しかし、救済しようとすれば、自身が消滅し、勇者の保護ができなくなってしまう」

強欲「世界の均衡を保つための勇者補助、という精霊の使命において、棺桶の教会への持ち運びは義務となっている。そのため、精霊個人の独断で、棺桶の転送を保留するという行動に出れなかったのであろう」

強欲「矛盾を解消しようとした精霊は、強引な手段に出た。俺と仲間の、パーティメンバーの契を解消したんだ」

強欲「精霊は勇者である俺だけを教会へ運び、義務を果たした」
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:36:33.06 ID:cSlOzYY80
錬金「……そうか」

錬金「お前が手にした腕輪は、大罪の装備に違いないじゃろう。おそらく、強欲の腕輪と呼ばれるものじゃ」

錬金「強欲だから、選ばれたのではない。強欲になるから、選ばれたのじゃ」

錬金「改めて問おう。お前の望みはなんだ」

強欲「…………」

強欲「金でも何でも、欲しいものはすべてかき集めてやる。この街ももっと発展させて、世界中から優秀な人材が集まるような都にしてみせる」

強欲「だから。俺が持って帰った3つの棺桶の中に眠る、腐敗した泥を再生してほしい。あの世に行った魂をこの世に呼び戻す研究を続けて欲しい」



今まで手にしてきた現実で価値あるものが、全て虚構だと知った。

金は命より軽い。

命のためならば、人は全てを差し出し、奪う。

命を手に入れようとする時に最も。

人は強欲に忠実となる。



強欲「俺の仲間を、生き返らせてくれ」



強欲の勇者達 〜fin〜
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/01/08(月) 16:38:22.64 ID:cSlOzYY80
しばらく間をあけて、怠惰編を投稿します。
ご愛読ありがとうございます。
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/08(月) 21:14:09.75 ID:2jLvg47DO
乙です
629 : ◆uw4OnhNu4k [sage]:2018/01/16(火) 23:31:41.17 ID:ToQeKPLT0
仕事が繁忙期に入りほとんど書く時間が取れず、
次の投稿が3月下旬になりそうです。
GW前には完成出来るように努めてみます。
ご支援してくださってる方には申し訳ありませんが、
もうしばらくお待ち頂けると幸いです。
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/02/02(金) 02:10:43.64 ID:UmFP4B0r0
応援してます
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/22(木) 01:04:33.16 ID:sFdH0VF70
☆ゅ
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/17(土) 20:22:10.65 ID:uzWLd5/40
『努力』

好きな仕事。好きな家。好きな場所。好きな食べ物。好きな服。

運が良ければ、好きな人も。

努力によって手に入れられる価値あるものは多い。

努力といって具体的には、勉強をしたり、身体を鍛えたり、価値あるものを提供することなどが挙げられる。

労苦に耐えてでもほしいものがあるならば、努力は必要だといえる。

労苦に耐えてまでほしいものがないならば、努力は必要ない。

多くの人間は、楽園を望む、

楽園とは、努力をせずにあらゆるものが手に入る場所のことである。

楽園を手に入れるには、皮肉なことに、対価として人生一生分の努力を要する。

楽になるために、苦労を伴うのであれば、人は楽などいらないと言ってしまう。

怠惰に生きるためならば、人は手段を選ばない。

頭を働かせずに済むために、いくらでも知恵を絞る。

身体を動かさずに済むために、いくらでも口を動かす。

身体を鍛えるのも。

知識を身に付けるのも。

めんどうくさい。

めんどうくさいという、ただそれだけの理由で、全て億劫になってしまう。

周囲の信頼を失って、居場所を失ってでも、剣を振るったり、活字を読み込むことなんて、ごめんなのだ。

横たわり、何もせずに過ごした時間を全て鍛錬に費やしていれば。

愛する人が燃えることも、憎き相手が嘲笑うことも、防げたかもしれないというのに。

後悔するとわかっていながら、動かない。

自分を磨かず生きてきた青年は、本音に気付いた。

【第6章 怠惰の監獄 『努力の足枷』】

世界を救うくらいなら、二度寝した方がマシだ。
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/17(土) 20:23:57.48 ID:uzWLd5/40
嫉妬「くそが!!!」

嫉妬の王国の地下牢で、嫉妬は怒りに呻いた。

嫉妬の足元には割れた壺の破片が散らばっていた。

嫉妬「本物の封印の壺はどこにある!!あの遊び人を電流の拷問にかけたが、在り処を知らなかった!!妙な仕込みをしていやがった!!」

怠惰「勇者も同様です……」




勇者「……ざまーみろ。見つかりやしないさ」
634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/17(土) 20:26:29.90 ID:uzWLd5/40
強欲の都での決戦前日。

強欲は、都にいる上級の術士を全員集めた。

封印の壺と全く同じ見た目の壺を複製しており、たった1つの本物と偽物を混ぜてランダムに彼らに渡した。

彼らは、各々の思う場所へ飛び立ち、壺をひと目のつかないところに隠して、完全な結界を施した。

嫉妬に敗北した場合の対策であった。

もしも嫉妬に敗北した場合、壺を隠した上級術士達は都から逃げるように言い渡されていた。敵の拷問にかけられて、自分の隠した壺の在り処を吐かないようにするためである。

本物の封印の壺がどういうものであるかわからない以上、嫉妬の勇者が壺の場所を感知することはできない。

大罪の装備と違い、封印の壺は独特の魔力を放たないため、感知は極めて困難なのだ。

だが、安堵していられる時間は長くはない。

勇者「封印の壺はヒビが入っていた。大罪の装備の魔力に耐えきれずに、やがて割れてしまう。そしたら奴らに感知される可能性が極めて高まる」

勇者「その前に、なんとかしないと……」

そうはいっても。

懐かしの故郷で。

囚人服を着せられ、牢獄の中に閉じ込められている勇者にとって、状況は、絶望的であった。
635 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/17(土) 20:29:55.51 ID:uzWLd5/40
勇者「ううううぐぁああああああああああ!!!!」

勇者は檻に捨て身でとっしんした!!

檻に1のダメージを与えた。

勇者「ぐぅえええっ!!!??」

勇者「いってぇええええええ!!!!!!」

勇者は大きなダメージを負った。

勇者「うぁああああああああ!!!!」

勇者は檻に捨て身でとっしんした!!

檻に1のダメージを与えた。

勇者「うぐぁ……」

「さっきからうるさいなぁ。やめるか、そのまま死ぬかどっちかにしてくれよ」

隣の牢獄からの苦情には耳を傾けず、勇者は檻を睨みつけた。
636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/17(土) 20:47:09.75 ID:uzWLd5/40
怠惰の監獄と呼ばれるようになった勇者の故郷は、特殊な事情で捕まった者達が投獄されている。

盗みや殺しなどの罪を犯したものではなく、王族、貴族、研究者、政治犯など、人質や重要な情報を知る人物が投獄されている。

屈強な戦士や、上級術士等もいるが。

「諦めなよ。ここから脱出できた人は未だ一人もいないって話だよ」

勇者「…………」

「檻自体が特殊な素材で出来てるんだ。物理攻撃が効かないのはもちろん、呪文も全て反射されてしまう」

「なによりも、この地には呪いがかけられているんだ。向かいの囚人達を見てご覧よ」

勇者は反対側の牢獄を見た。

ぐったりとうなだれている、白髪の男性がいた。

「あれでも名のある賢者だったんだ。嫉妬の勇者からの協力の要請を断ったらしい。かつての英雄達も、ここに来たら廃人さ」

「僕たちももうじきああなるさ」

この地に連れてこられてから、身体に気怠さが重くのしかかっているのを感じていた。

勇者は気づいた。

怠惰の勇者が支配するこの地は、怠惰の装備によって無気力化されているのだと。

脱出を試みようと檻にダメージの蓄積を続けていた者も、一週間も経てば無気力になり、動かなくなってしまうのだった。

「楽観的に考えようよ。僕らは働かなくて済むんだ。かつてのここの住人は、嫉妬の王国の奴隷にされてるって話だよ。それに比べたら……」

勇者「えっ……」

勇者が息を飲んだ時に、足音が近づいてきた。
637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/17(土) 21:06:54.92 ID:uzWLd5/40
怠惰「仲良くおしゃべりだなんて。もうあの遊び人のことは見捨てたのかしら」

勇者「怠惰……」

怠惰「勇者。故郷に帰ってきた感想はどうかしら?」

勇者「どういうことだよ!!どうして嫉妬の勇者の仲間になってるんだ!!それに、故郷のみんなが奴隷になってるって……」

怠惰「最後の最後に事情を知ってあれこれ言うなんて。まるで、魔王討伐前までは冷たい対応だったのに、魔王討伐後に勇者を英雄扱いする国民みたいね」

怠惰は呪文を唱えながら檻に触れると、鍵が開いた。

怠惰「さあ、これで逃げられるわよ」

勇者「えっ」

怠惰「あの時、私達を見捨てた時みたいにね」

怠惰は勇者を蹴り飛ばした。
638 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/17(土) 21:08:32.60 ID:uzWLd5/40
勇者「がぁっ……」

怠惰「よくも、ぬくぬくと生き延びていてくれたわね」

怠惰は勇者を殴りつけた。

怠惰「過去を全部捨てて、やり直そうとでもしたわけ?」

怠惰は勇者を殴りつけた。

怠惰「失われた者達は、決して戻らないというのに」

怠惰は勇者を殴りつけた。

怠惰「今を救って、過去を塗りつぶそうとするんじゃないわよ」

勇者「ごぼっ…………」




勇者は視界がぼやけていった。

薄れゆく意識の中。

このまま自分は、死すべき人間なのかもしれないと、思ってしまったのだった。
639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/18(日) 01:13:39.12 ID:2zTPbsaX0
乙待ってた
640 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/03/19(月) 00:10:56.45 ID:GdHXJLsA0
やった、更新されてる!
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:02:12.84 ID:sWHyAgRB0
【怠惰の勇者の思い出】

怠惰「どんまいどんまい」

剣士「そう肩を落とすなって」

勇者「そう言われても……。俺も2人のいる選抜クラスに入りたかったよ」

剣士「気持ちはわかるが、勇者だってろくに鍛錬してなかったじゃないか」

怠惰「ちょっと剣士!!試験前に勇者はちゃんと体力づくりしてたって!!勉強が足りなかっただけよ!!」

勇者「あの、全然フォローになってないんだけど……」

剣士「いずれにせよ幼馴染は幼馴染だ。年齢は違えどな。これからも休日には遊び相手になってやるさ」

勇者「べつにいいし…」

怠惰「拗ねちゃって。やっぱり年下のお子様はかわいいなぁ」

勇者「まーたそうやって!!」
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:08:47.10 ID:sWHyAgRB0
〜数年後 試練の谷〜

鳥の魔物は羽根の中に魔力の渦を溜め始めた。

大気が震えた。

怠惰「『フルゴラ!!』」

怠惰が呪文を唱えると、空から雷撃が降り注いだ。

しかし、虹色の鳥獣はびくともしていないようだった。

怠惰「何度やっても電撃が効かないわ……。何よ、こんな化物出るなんて、試験官は一言も説明してなかったのに……」

剣士「珍種が谷に迷い込んだんだ。俺がひきつけている間に、怠惰は勇者を連れて逃げろ!!」

剣士は気絶寸前で呻いている勇者を見て言った。

怠惰は勇者を背負った。

勇者「ぐぼ……」

勇者の口から出た血が怠惰の肩についた。

怠惰「本当に、剣士だけを置いていくなんて……」

剣士「はやくしろ!!!」

鳥の魔物は羽根を広げた。

溜め込んだ風の魔力が、剣士に向かって飛び出した。

怠惰「剣士!!!!」



怠惰が叫んだ時。

空から青白い光が注いだ。

青白い光は気絶している勇者と怠惰を包み込んだ。

怠惰「な、なによこれは!!」

鳥の魔物が放った風の呪文は、剣士の身体を貫いた。

その瞬間、棺桶が出現し、剣士の身体を保管した。
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:12:24.78 ID:sWHyAgRB0
教会で3人は目覚めた。

夜になると、怠惰は一人で長老の屋敷に赴いた。

長老の言葉に怠惰は驚いた。

怠惰「間違えた?」

長者「そうとしか考えられん」

長老「精霊はお主に取り付くはずじゃった。幼き頃から雷の呪文を操りし、勇者の資質を持って生まれた者。その者の強い心の動きに呼応して精霊は現れた」

長老「ただしその時に背中に勇者を背負っていた。精霊は誤ってあやつに取り付いてしまったのじゃろう。ろくに鍛錬もせず、呪文も使えぬあいつに、勇者の資質があるとは思えん」

怠惰「だったら、もう私に精霊の加護が取り付くことは……」

長老「ないじゃろう。お主は精霊の加護のない勇者となり、あやつは勇者でないのに精霊の加護を持つ者となったのじゃ」

長老「急遽だが、旅立ちの時は来た。本来であれば、お主と、剣士と、優秀な術士をつけて冒険させる予定じゃったが」

長老「勇者を連れて行け。戦闘の役には立てずとも、精霊の加護はあるだけで役立つ」

長老「なんせ、殺されても死なないからの」
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:15:52.99 ID:sWHyAgRB0
〜旅の途中〜

今日も帰り道は険悪ムードだった。

剣士「お前がそんなんだから、せっかく仲間になってくれたあの魔法使いも見切りをつけて出ていったんだ!!」

勇者「そんなこと言われたって……」

剣士「なんで戦おうとしないんだ!!」

勇者「できることはやってるよ!!俺の実力なんて最初から百も承知だったじはずじゃないか」

剣士「お前があの時!!」

怠惰「もううるさいよ……。宿に戻って休もう。クエストは無事完了したんだから」


お金だけはたくさんあった。

剣士も怠惰も戦闘能力にはかなり秀でており、キメラ狩りなどの上級クエストもクリアすることができた。

しかし、いつしか、良質の宿屋に泊まるときも、3人分の個室を取ることが増えていった。



勇者「くそ!!馬鹿が!!」

勇者「どうして俺が冒険なんかでなくちゃいけねーんだよ!!」

勇者「もう起きたくない。一生寝てたい。何も背負いたくない。何も考えたくない」

勇者「できねーよ。もう逃げさせてくれよ。努力したくねーよ」
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:16:56.77 ID:sWHyAgRB0
勇者こそ、最初は喜んでいた。

親しく、憧れの幼馴染の2人と、一緒に冒険ができると。

しかし、2人には才能があったし。

今まで積み重ねてきたものの差もあまりにも多すぎた。

勇者「努力が足りないっていうけど。才能があったら、俺だって努力していたさ」

勇者「センスがないんだよ。自分でもわかるんだ」

勇者「剣術の訓練なんてそう。パターンの記憶しかできない。これからどんなに頑張っても、100万通りある戦い方の、千通りの戦い方を暗記して終わってしまうだけだ」

勇者「剣士なんて身体の中に無限の戦い方の記憶が埋め込まれてるみたいだ」

勇者「呪文だって怠惰みたいに使いこなせない。呪文書に向き合っても、理論をまるで理解できない。感覚で唱えられる天才型でも決して無い」

勇者「はあ、嫌だな。寝たくないな。明日起きたくないな」

勇者「幼馴染とか、性格がどうとか関係ない」

勇者「人間関係って、実力で決まってしまうんだ」

勇者「レベルがあがったら遊び人にでも転職しようかな。そしたら戦えなくても許してくれるかな」

勇者「それとも、俺が、冗談言ったり、変な踊りを踊っても、あの2人は白い目で見てくるだけかな」

勇者「昔みたいに、もう笑い合ったりできないのかな」
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:19:23.40 ID:sWHyAgRB0
〜幻の巣〜

剣士「また、あの時と同じか……」

町を壊滅に陥れた魔物の討伐に来ていた。

それは、巨大な虹色の鳥の魔物だった。

剣士「成長しているのは人間だけではないってことか」

怠惰「剣士、無謀な攻撃はしないでよ。頂上まで着くのにこれだけの日を要したのよ。ここではあいつの魔力で移動の翼が効力を失うんだから。これで教会に転送されたら、こいつはまた卵を持って他のエリアへ……」

剣士「わかってる」

剣士「勇者、俺と怠惰がやつを引き付ける。その間にお前はたまごを奪うんだ」

勇者「…………」

剣士「どうした、できないのか?」

勇者「……やるよ」
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:32:15.42 ID:sWHyAgRB0
剣士と怠惰が魔物の注意をひきつけている間。

魔物の巣に勇者は駆け寄った。

勇者「これが……大賢者の言ってた……」

虹色の小さなたまごを掴んだ。



勇者が駆け戻ってこようとしたとき、鳥の魔物は振り返った。

そして、たまごを抱える勇者を見て、雄叫びをあげた。

剣士「まずい、気づかれた!!」

魔物は毛を逆立て、勇者に向かって駆けてきた。

怠惰「勇者!!はやく自殺してよ!!たまごの所有権は今私達にあるわ!!」

勇者「い、いきなり言われても困るよ!!」

両腕でたまごを抱えながら、勇者はパニックに陥った。

魔物が足を伸ばし、勇者の首を引き裂こうとした。

勇者「うわぁ!!」

勇者は身体をのけぞらし、思わず手を顔の前に出した。



勇者の腕は引き裂かれた。

勇者の両手から大量の血が溢れ出した。

卵は地面に落下し、割れてしまった。

怠惰「卵が!!!」

勇者「……うぐぁあああ!!!」

勇者「いだい!!!いだい!!!!か、回復!!はやく!!!」

怠惰はショックのあまり呆然としていた。

魔物さえ、割れた卵を見つめながら、動きを止めてしまった。
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:36:48.94 ID:sWHyAgRB0
剣士「おい、この無能」

剣士は痛みに呻いてる勇者の胸ぐらを掴んだ。

剣士「これで、1つの町の命が無駄になったぞ」

剣士「お前には精霊の加護しかないのか。お前自身の価値はどこにあるんだ。お前は何のために生きてるんだ」

剣士「どうして俺達と一緒にいられる。平気で歩いてこれたんだ。飯を食って、寝てこれたもんだ。俺らがどんな思いを抱えてきたかなんて、お前は一生知ることはないんだろう」

剣士「お前なんか、仲間にするんじゃなかった」



剣士は怒りにまかせて言葉を吐くと、割れた卵を見つめたままの魔物の背後に忍び寄っていった。

勇者は霞んだ景色を、ただ不思議な気持ちで見ていた。

迷惑をかけないように、行動してこなかったことで今まで怒鳴られていたのに。

いざ、役に立ちたいと思って動いてみたら、また失望された。

両手から血を流しても心配などされないくらいに、自分はこのパーティで無価値な存在となってしまった。

勇者「…………」

憎しみがわいた。

幼い頃より誰よりも早く起きて剣術の訓練をしていた剣士。

幼い頃より誰よりも遅くまで呪文集を読み込んでいた怠惰。

そして、今ある時間を過ごしたいように過ごしてきた勇者。

自業自得の報いを受けただけに過ぎないのに。

勇者は、世界に、2人に憎しみを抱えた。

勇者「……滅べ。滅んでしまえ」

勇者「自分を認めてくれない、こんな世界……」

勇者「魔王に滅ぼされてしまえ……」

勇者はつぶやいた。
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:45:30.40 ID:sWHyAgRB0
魔物は身体を起こすと、目を閉じた。

虹色の羽毛が真っ赤に色を変えた。

魔物は振り返り、剣士に向かって羽根を向けた。

剣士「まずい……」

剣士が防御の姿勢を取るよりも早く、飛び出した羽根が剣士の身体に刺さった。

バサバサと音を立てながら、無数の羽根が剣士の全身に刺さっていく。

身体中からどばどばと血が溢れ出した。

剣士「……ガ……ゴ……ギギ……」

目をまわしながら剣士は崩れ落ちた。



異変は明らかだった。

怠惰「……どういうことよ」

怠惰「ねえ、なによ。どうして棺桶が出現しないのよ!!」

怠惰「精霊の加護を防ぐ通常攻撃なんて理論上ありえないわ!!どういうことなのよ!!」

怠惰「……まさか」

怠惰は、勇者を見た。

勇者はもがれた両手を突き出し、朦朧としながらうすら笑いを浮かべていた。

怠惰「あんた……まさか!!」

怠惰「パーティを解除したのね!!」
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/21(水) 15:46:38.16 ID:sWHyAgRB0
バサバサという音が再び響き、怠惰は鳥の魔物を振り返った。

羽根の色は虹色に戻っていたものの、魔力を蓄え、次の攻撃準備にうつろうとしていた。

怠惰「こ、ころされる……」

怠惰「し、しぬ……」

怠惰の全身に汗が吹き出た。

足が震えてまともに立てなくなった。

怠惰「う、うそでしょ……し、しにたくない……」

怠惰「勇者、ちょっと、冗談でしょ……」

怠惰は震えながら勇者に近づいた。

両手から血を流していた勇者は、出血多量で死亡した。

棺桶が即座に勇者を保管し、精霊が出現し、教会へと転送した。

塔の頂上には、剣士の死体と、伝説級の鳥の魔物と、怠惰だけが残された。

怠惰「……はは、見捨てられた。し、死ねってことなのね……」

怠惰「やだ……。死にたくない……」

怠惰「だ、誰か助けて……」



怠惰が恐怖で震えていると、鳥の魔物は気が変わったのか、魔力を溜めるのをやめた。

そして、剣士の亡骸に近づいた。

くちばしを伸ばし、死体を貪りはじめた。

液体の飛び散る音が響いた。

怠惰はよろけ、転びながら、今まできた道を急いで引き返していった。
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/22(木) 00:50:01.52 ID:xeSHWv790
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/22(木) 01:52:05.72 ID:crdEtf/DO
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 08:10:25.70 ID:TCmnjeZu0
〜翌日〜

「おーい、生きてるぅ?」

勇者「……うぐ……」

「ここからじゃ見えないけど、ひっどい音が聞こえてきたよ。なんか、昔仲間を見捨てて逃げたそうじゃないか。殺されないだけましだよ。毎日拷問攻めにされたっておかしくない」

勇者「……俺を殺せない理由があるんだと思う。あいつらの求めてるものについて、俺が何か知ってるかもしれないと思ってるんだ」

「でも、もう拷問にかけられたんだろ?吐かずに耐えたっていうのかい?」

勇者「俺自身でさえ大した情報ではないと思っていることが、奴らにとっては大きな価値を持つことがある。電撃流しの拷問はそういう繊細な情報の引き出しには不向きなんだ」

「ふーん」

勇者「それより、この数日間で俺以外に投獄されたやつを知らないか。職業は遊び人で、女の子なんだけど」

「私のこと?」

勇者「……そういう冗談はいい。とにかく、何か知ってることがあったら何でも教えてくれ」

「今夜のご飯は肉が出るよ。楽しみでしょ」

勇者「そういう冗談は良い」

「自分では大したことないって思ってることでも、誰かにとっては大事な情報かもしれないってさっき自分で言ってたじゃん」

勇者「俺が言いたいのは」

「カリカリしないでよ。ここは怠惰の監獄だよ?焦ってどうするのさ」

勇者「その焦りも消えてしまったらどうするんだよ」

「その時は今の意識さえ消えてしまってるんだ。怠惰に生きていけばいい」

勇者「ふざけた理屈だ。そんなの、死んだらどうせ無になるから、死んでも構わないって言ってるようなものじゃんか」

「死んでもかまわないけどなぁ」

勇者「口だけだ。いざ死に直面したら」

「うぐっ!!!!」

勇者「な、なんだよ」

「うぐっ……おぇええ……」

勇者「布の音……衣類を首に巻き付けてるのか!?」

「……こ……に……」

勇者「お、おい!!誰か!!誰か!!」

「こんやは……おにく……」

勇者「…………」

「本当に死ねばいいって思った?嫌だよ、生きたいから生きてるんだもの。死にたくないから生きてるなんて言ってる奴らはみんな嘘つきさ。おやすみ」

654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 08:11:56.02 ID:TCmnjeZu0
〜翌日〜

ガン!ガン!

「……うるさいなぁ。また檻を破ろうとしてるの?」

勇者「……救いにいかなくちゃいけない人がいるんだ」

「遊び人の女の子を探してるって言ってたね。恋人なの?」

勇者「そんなんじゃない」

「それじゃあ片想い?」

勇者「…………」

「あっ、ちょっとイラッとしてる」

勇者「パーティメンバーだよ。もう、今は違うかもしれないけど……」

「なにそれ」

勇者「俺の中に宿っている精霊を破壊されたんだ。パーティメンバーは精霊の力を授かったものが、仲間として認識することで結成される。その精霊がいなくなってしまえば、もう効力は無いんだ」

「えっ、職業勇者だったの!?」

勇者「違う。精霊が宿っただけの無能だよ。だからここに閉じ込められてる」

「本当の職業は何なの?」

勇者「無職だと思う。でも、案内人に向いてるって言われたことはある」

「なにそれ、面白いんだけど。珍しいじゃん」

勇者「ありがとよ。ところで、あんたとおしゃべりしている暇はないんだ」

「いくら体当りしても無駄だよ」

勇者「今の俺は身体能力を強化されているんだ。その代わり寿命を消費しやすい体質になっているけど。1ヶ月もきれたら効果が消えてしまうらしい。まあ、あんたには何のことだかさっぱりだろうけど……」

「人そのものに枕詞をつけたんだね。『大罪の』って。怖いことする人もいるもんだよね。大罪の一族でさえその枕詞は中々つけないものなんだよ。超優秀な賢者ならともかく」

勇者「大罪の一族を知ってるのか!?」

「…………」

勇者「知ってるんだな?」

「…………」

勇者「えっ?なんでいきなり黙った?」

「些細な情報に驚くと相手は喜んでもっと大きな情報を教えてくれる。大きな情報に興味がそそられないふりをすると相手はムキになってもっと細かい情報を教えてくれる」

勇者「……ふ、ふーん。大罪の一族か、どうでもよさそうな話だな」

「じゃあ話さなーい」

勇者「絶対言うと思った!!」

「絶対言うと思ったって絶対言うと思ってたからもう話さない」

勇者「絶対言うと思ったって絶対言うと思ってたからもう話さないって絶対言うと思っ」

「絶対言うと思ったって絶対」
655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 08:12:45.14 ID:TCmnjeZu0
〜翌日〜

勇者「いいこと考えた」

「どうぞ」

勇者「死んだふりをすればいい。そしたら死体だと思って引きずり出してくれる。食事が来たときにでも試そう」

「今まで誰も試みなかったと思う?」

勇者「どうなったんだ?」

「死体には魔弾が撃ち込まれるんだ。死んだふりをしている生者じゃないか確かめるために。ここの食事は魔力を奪う素材が使われているから、防御呪文も唱えることはできないよ」

勇者「抜かり無いな」

「そういえば体当たりばかりで、呪文を使おうとはしなかったね。普通みんな呪文から試そうとするもんだよ」

勇者「ろくに使えないんだよ。精霊の信頼が一般人よりも全然無いんだ」

「精霊の加護がついてたのに?変なの」

勇者「あんたはどんなのが使えるんだ」

「ドラゴンになる呪文とか」

勇者「えっ!?」

「使えたら楽しいだろうなあって妄想する呪文」

勇者「はいはい」

「想像は魔法だよ。実際に目の前に現れるか現れないかの違いだけだ」

勇者「かなり大きく違うと思うんだけど」

「こんな独房の中で発狂せずにいるのに必要なのは、頭の中の世界をひろげることだよ」

勇者「あんたはいつからここにいるんだ」

「いつからだと思う?」

勇者「俺と同じくらいからじゃないのか?」

「そういうことを想像するだけでもいい訓練になると思わない?」

勇者「何の訓練だよ。妄想か?」

「呪文の訓練だよ」

勇者「えっ?」

「頭の中に強く思ったものだけが、目の前に現れるんだよ。だから、現実を大切にしたければしたいほど、想像することをやめちゃ駄目だ」

勇者「そっか……。たしかに、そうかも。俺も自分の願いを浮かべて……」

「肉肉肉肉肉」

勇者「せっかくいい話だったのに」

その夜の食事は質素なスープだった。
656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 08:14:01.10 ID:TCmnjeZu0
〜翌日〜

「貴族が貴族である所以は、努力をしなくていい人間であるからだよ。つまり、働かないっていうのは偉いってことなんだ」

勇者「遊び人が聞いたら泣いて喜びそうな言葉だな」

「奴隷が何を強いられているかといえば、労働の二文字に尽きるよ。奴隷が反乱を起こしたのは、命を賭けてでも、働くことを辞めようとしたからだよ。それこそ、命がけの労働から逃げるためにも」

勇者「嫉妬の勇者は元奴隷だって言ってた」

「同情するかい?」

勇者「俺の育ったこの地域は、奴隷制度なんてものとは無縁だったから。正直、あんまり想像できないよ。それに労働はまた別問題だろ。今の時代王様だって忙しそうに働いているさ。職業あるものみな労働者さ」

「だとしたら職業無きあんたは最も偉大な存在だ」

勇者「はいはい」

「誰だって労働なんてしたくないのさ。労働せずに色々なものを手に入れられるならそれがいいに決まってる」

勇者「俺も努力は嫌いだった」

「努力と労働はまた別だよ。最低限を求めるのが労働で、最大限を求めるのが努力なんだから」

勇者「正反対だな」

「働いてる人々がみんな最大限の幸福を追求しているように見えるかと尋ねられたら、そんなことはなさそうに見えるだろう?頑張って何かを入れることより、頑張らないことの方が楽なんだもの」

勇者「頑張らない方が楽なのは当たり前だろう?」

「好きな人と結婚して、子供を産んで、幸せな家庭を持つ可能性をあげるくらいなら、訓練もせずに怠けていた方がましだ、ってことの何が当たり前なのさ。ありふれた怠惰というのは、実に非常識なことなんだよ」

勇者「なんで俺は頑張れなかったんだろう」

「人が今までやってきたことを繰り返すのは、生き残る確率が高いからに違いないからじゃないかな。昨日と同じ道を通れば、新たな危険に遭遇せずに済むからね。変化に適応できない生物から死ぬというのに、皮肉な話だよ」

勇者「平穏に生き伸びることだけを考えて怠惰に過ごしていたら死にたくなる人生を送ってしまったわけか」

「人生皮肉だらけだね」
657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 08:26:10.11 ID:TCmnjeZu0
〜翌日〜

「精霊が失われたとわかった時どんな気持ちだった?」

勇者「自分が失われたような感触だった」

「それは精霊への愛情?」

勇者「違う。精霊の加護がなくなったことによって、自分の唯一の取り柄がなくなってしまったという絶望」

勇者「それは、今まで隣にいてくれた人が、離れていくかもしれないという恐怖でもあった」

「離れると思う?あんたの大事な遊び人さんとやらは」

勇者「……あの子は多分、そういう子じゃない。俺と冒険を始める理由に精霊の存在はあったかもしれないけど。精霊がいなくなったからって、人を見捨てるような子じゃない」

「だとしたら、離れていくのは君自身からだね。精霊のいいない素の自分に失望されるのが怖くて、距離を置かれる前に距離を置こうとする未来が見えるよ」

勇者「…………」

「だから今までの人生努力していた方がよかったのに」

勇者「みんなが口にするセリフだろそれ」

「才能によって人望を得た人は『自分から才能が失われたら何も残らない』という負の側面に目を向ける。努力によって人望を得た人はそうは思わない。才能は手に入れる過程がなかったから一瞬で失うことを想像しやすいけど、努力は積み上げた過程があるだけ失った自分を想像しにくい」

「努力によって培ったものを失った自分なんて、所詮過去の自分に過ぎないからね」

勇者「あんたは今までの人生努力してきたのか」

「もちろんさ。毎日寝てても飯が運ばれてくる生活を追い求めてきたさ」

勇者「夢がかなったというわけか」

「肉肉肉肉肉」

勇者「今夜叶うといいな」
658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 08:59:06.96 ID:TCmnjeZu0
〜翌日〜

勇者「…………」

「…………」

勇者「…………」

「……何考えてたの?」

勇者「何も」

「嘘ばっかり。真面目なこと考えてたんでしょ」

勇者「精霊って何なんだろって考えてた」

「ふーん。で、何だったの?」

勇者「信頼そのものだった」

「信頼?」

勇者「人間の信頼を具現化したものだった。って、精霊を目視したことはないけどさ」

勇者「精霊が人を信頼するんじゃなくて、人に宿る信頼度こそが精霊の力足り得るんだって」

「よくわかんないな」

勇者「実力の高い人は精霊の力をより借りられるようになって、呪文の威力が増すだろ。最たるものが無口詠唱だ。そして、無口詠唱を唱えられる代表的な存在が魔王だった」

勇者「でも、精霊は魔王に宿ったことはかつて一度もない。精霊が力を貸すのはいつも人間だった」

「それは世界の力の均衡を保つためじゃないの?」

勇者「遊び人から聞いたことがある。精霊は、精霊を守ってくれる唯一の存在が人間であると信じていたと」

勇者「俺は、俺に奇跡的に宿りついてくれた精霊を、守ってあげられなかった。精霊は最初から俺に失望していたし、最後の瞬間まで思った通りの出来損ないだった」

勇者「一度でいいからさ。信頼されてみたかった。信頼されるような自分になるべきだった」

勇者「変わりたくても、変われなかった」

勇者「多くの人間は、努力する人間が好きだ。それは多くの人間が、変わりたくても変われないからだよ」

勇者「頑張っても変われないんじゃなくて。変わりたいのに頑張れない」

勇者「頑張ったら、変われるというのに……」

「……一度でも頑張ったことあるの?」

勇者「最近、少し頑張ってた。でも、間に合わなかった」

勇者「三つ子の魂は百までっていう通り、俺の性根が腐っていることはきっと死ぬまで変わらない」

勇者「けれど。後悔の日々の積み重ねの先に、自分の中に新しい魂が宿ることもあると思うんだ。ひねくれていた頃の自分では決して信じられないようなほどの、希望や善意に満ちた自分がさ」

勇者「戦わなくていいと言ってくれた人のために、戦おうって思ったんだ」

勇者「俺だけじゃない。今まで散っていった数多くの勇者の願いはきっと一緒だったに違いない」

勇者「好きな人が、遊んでいられる世界をつくろう」

「…………」

勇者「遊び人という職業を生むために、賢者という強き職業が存在しているのかもしれない」
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 09:51:08.54 ID:TCmnjeZu0
〜翌日 深夜〜

コンコン

勇者「なに?」

「あっ、起きてた」

勇者「眠れないからな。あんたと同じだ」

「へへっ。あのさ、暇だから昔の話でもまたしてよ」

勇者「どんな?」

「将来の夢とか」

勇者「冒険譚を自分で書くのが夢だった」

「へー!意外」

勇者「俺も世界各地の異変を自分の目で見て。冒険譚を自分で書いて。故郷のやつらから尊敬の眼差しを集めようなんて妄想して」

勇者「認められること、見られることばかり考えて、誰のことも見てあげようとはしなかった。そのせいで、今や監獄となった故郷で、こうして閉じ込められることになった」

勇者「悔いだらけだな。自分には才能もないって努力もしないで。故郷のやつらが今の俺を見たらどうおもうかな。駄目なままだって思うかな」

勇者「こんなところに閉じ込められたら、怠惰の呪いがなくても過去を思い出して廃人になりそうだよ」

「…………」

「今まで馬鹿なことしちゃったね」

勇者「本当だよ」

「まして、才能なんてものに縋ろうとするなんてさ」

「才能って、誰もができないことを自分だけはできることを言うでしょ」

「努力って、過去の自分ができなかったことを今の自分ができるようにすることを言うでしょ」

「努力しておけば、とにかく間違いは起きなかったのにね。他人よりいくらスピードが遅くてもさ。昨日の自分より今日の自分が遅いってことは絶対ありえないんだから」

「一歩も進まなくても他人により秀でるのが才能だとしたら、昨日の自分より一歩秀でることが努力なんじゃない?なんだか、そっちの方が幸せを感じて生きられそうじゃない?」

「だからさ」

「今から、また変わればいいじゃん」

勇者「でも、どうやって……」

「こうやって」





ガチャリ。




660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 10:33:32.52 ID:TCmnjeZu0
勇者「……えっ」

勇者が格子に手を触れると、扉箇所が開いた。

今夜は曇りなのか、月明かりも差しておらず、いつも話していた相手の顔をろくに判別できなかった。

勇者は驚きを抑えつつ、小声で尋ねた。

勇者「鍵を盗んだのか?」

「持ってた」

勇者「持ってた?」

「看守だから」

勇者「はっ?あれ、いつも食事を運んできた看守は……」

「役目が細かく分かれててさ。死んでるかもしれない人に魔弾を打ち込んで生存確認なんかをするのが僕の役目なんだ」

勇者「隣の部屋の囚人かと思ってた……」

「隣の部屋は今空き部屋だよ。労働者を強いられている奴隷という意味では、囚われていることに変わりはないんだけどね。みんなと違って故郷にいられるだけましかも」

「今まで騙しててごめんね。本音を聞きたかったんだ。もうちょっと聞きたかったけど、看守は一定期間ごとに交代されるんだ。怠惰の装備とやらの影響で看守自身が働かなくなってしまうからね」

看守は勇者の手を引くと、監獄の外へ連れ出した。
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 10:35:00.04 ID:TCmnjeZu0
勇者「……えっ」

勇者が格子に手を触れると、扉箇所が開いた。

今夜は曇りなのか、月明かりも差しておらず、いつも話していた相手の顔をろくに判別できなかった。

勇者は驚きを抑えつつ、小声で尋ねた。

勇者「鍵を盗んだのか?」

「持ってた」

勇者「持ってた?」

「看守だから」

勇者「はっ?あれ、いつも食事を運んできた看守は……」

「役目が細かく分かれててさ。死んでるかもしれない人に魔弾を打ち込んで生存確認なんかをするのが僕の役目なんだ」

勇者「隣の部屋の囚人かと思ってた……」

「隣の部屋は今空き部屋だよ。労働者を強いられている奴隷という意味では、囚われていることに変わりはないんだけどね。みんなと違って故郷にいられるだけましかも」

「今まで騙しててごめんね。本音を聞きたかったんだ。もうちょっと聞きたかったけど、看守は一定期間ごとに交代されるんだ。怠惰の装備とやらの影響で看守自身が働かなくなってしまうからね」

看守は勇者の手を引くと、監獄の外へ連れ出した。
662 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/24(土) 10:36:44.42 ID:TCmnjeZu0
「勇者、無理しないでね。でも、頑張るんだよ」

「戦い続けなければいけない、なんてことはない。勝ち目のない相手と戦って、負けて死んじゃったらどうするの」

「逃げ続けてもいい、なんてことはない。守るべきものを守れなくて、生きがいを失っちゃったらどうするの」

「選択肢は2つあったんだ。戦い続けるか、逃げ続けるか、じゃなくて。今日は戦って、明日は逃げて、を繰り返してもよかったんだ」

「でも、とりあえず今は逃げなきゃだね。そして戦って、守りたい女の子を守りなよ」

「ついでに、故郷のみんなも救ってね」

暗闇の中、ほんのりと笑みが見えた。

「勇者、おかえり」

「そして、さよなら」

看守は手を振ると、元来た道を戻っていった。





涙がとまらなかった。

勇者「……なんだよ。なんだよそれ」

勇者「だって、こんなことしたら」

勇者「あんた、殺されるだろ……」

故郷を後にし。

勇者はにげだした。






変わろうとしているあなたの、目指している姿をこそ、あなたらしいと言ってあげるの。

怠惰の勇者達 〜fin〜
663 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/24(土) 18:44:01.11 ID:QRhFWagoO
1レス貼り付けミスしました…外出中なので帰ったら修正します。
664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 00:56:45.58 ID:jqWNyRsV0
665 :>>661.5 [saga]:2018/03/25(日) 01:08:59.23 ID:jymK58TD0
久しぶりに外の空気を吸い込んだ。暗闇で景色は見えなかったが、懐かしい匂いがした。

「これ、持って。役に立つもの詰め込んであるから」

看守は道具袋を渡した。

「ここから先はついて行けない。特定の奴隷を感知する魔法陣が敷いてあるって聞いたことがあるから。囚人はついていないから大丈夫だよ。監獄の中で廃人になるか、自殺してしまうかのどちらかしか普通ありえないから」

「勇者一人で行くんだ。僕はまたすぐに監獄に戻らないといけない。一定時間ごとに備え付けの魔法石に触れないと、労働をさぼっていると思われて他の監視人が来てしまうから」

勇者「待って。待ってくれよ。あんたは一体……」

「勇者と同じ劣等生の元学生だよ。クラスは別だったけど、君のことはよく聞いてた。落ちこぼれなのに旅に出ることになったのもね。嫉妬や冷やかしの対象として非難されることも多かったけど、僕にとっては羨望だった」

「僕もやがて旅に出た。強くなって、仲間も得て、色々な知識に触れた。でも、最後には挫折して故郷に逃げてきた。それは仕方のないことだった」

「僕は世界を救うどころか、一緒にいてくれた人達さえも救えなかった。そして思ったんだ」

「世界を救いたい人が世界を救うんじゃなくて、隣にいる人を守ろうとする人が、ついでに世界も救うんだと」
666 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/25(日) 02:01:43.56 ID:SMC4Uqs90
667 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/27(火) 00:12:37.13 ID:e+epmtSx0
お姫様「なんであの女はこの国に来ないわけ?やることなんて山程あるってのに」

研究者「怠惰の監獄の地にいるんだ。あの装備を持ってこの王国に来られると衰退しかねないからな」

お姫様「ふん、いい気味よ。嫉妬様とはろくに会えないでしょうからね」

研究者「用がある時は嫉妬様が赴いている」

お姫様「はっ!?なによそれ!!」

研究者「嫉妬様の味方になった唯一の勇者だ。貴重な存在だ」

お姫様「ろくに働いてもいないくせに!!なのに嫉妬様の寵愛を受けてる……。他の勇者みたいに精霊の加護を剥がされてしまえばいいのに」

お姫様「ムカムカしてきた……腹いせに罵倒してくる」

バタン!


研究者「はぁー、これだからお嬢様は」
668 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/27(火) 00:14:55.98 ID:e+epmtSx0
お姫様「やっほー。無能な彼氏と引き剥がされた気分はどう?毎日寂しい思いしちゃってる?」

遊び人「…………」

お姫様「あんた、大罪の賢者の生き残りだったんだってね」

遊び人は目を閉じていた。

凄まじい魔力の気配とともに、遊び人は口を開いた。

遊び人「『渺茫たる海原に住まいし大蛇よ』」

お姫様「ひっ!!?」

遊び人「『その渇きを潤すため、汝の住処である水をすべて飲み干し……』」

遊び人「『ヒュ――――!!』」

遊び人は口笛を吹いた。

呪文は不発に終わった。

お姫様「……は、はは!そうよ!!あんた、全然唱えられないくらいに遊び人の職業の縛りが強いそうじゃない!!」

お姫様「あんたの閉じ込められているこの部屋は特殊な素材で出来ていて、物理も呪文も全て跳ね返すの。元々は研究者が特別な魔物を封じ込めるために創った部屋でさ。食事もお気づきの通り、魔力を奪う素材が入れられている」

お姫様「でも、関係ないのよね。寿命を消費して呪文を発動できるのだから。それにあなたの力なら、こんな部屋吹き飛ばせるに違いないんだもの。」

お姫様「その残り少ない寿命を使えなくてよかったじゃない。ここでモルモットとして、余生を愉しむことね」

遊び人「…………」

お姫様「ねえ、聞いてるの?」

遊び人「『かさ』」

遊び人が詠唱を終えると、一瞬植物の香りがした。

しかし、遊び人の頭の中は虹色に輝く星を触りたい衝動でいっぱいになった。

瞬く間に植物の気配は消えてしまった。

お姫様「……いつまでもやってなさい。絶望するまで」

お姫様「あなたが脱出したところで、あの勇者はあなたともう会いたくないでしょうけどね」

お姫様「精霊の加護があるから今まで同情心で付き添ってくれたかもしれないけど。命がけとなったら、他人のために命を投げ出そうなんて思うような奴には見えないわよ」

お姫様「そもそも、あの怠惰の監獄から抜け出すことはできないわ。どんなに腕力と知力があっても破壊できない檻がそなえられてあるんだもの。加えて怠惰の装備の呪い。きっともう廃人になってるわよ」

お姫様「二人とも監獄がお似合いだわ。一生もがいてなさい。オホホホホ!!」

お姫様は高笑いしながら去っていった。




遊び人「……そうね。監獄が私達にはお似合いね」

遊び人「世界に居場所のなかった私達」

遊び人「この旅のきっかけも、牢獄の中だったんだもの」
669 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/27(火) 00:35:59.67 ID:e+epmtSx0
【過去の章 『殺人勇者と泥棒遊者』】



遊び人「……許してくれませんか?ただ働きしますので」

村長「駄目じゃ!貴様は立派な大罪人じゃ」

遊び人「村の物だと知らなかったんです」

村長「畑から食料を盗んで何が知らなかったじゃ!!」

遊び人「一般常識に疎くて……」

村長「食い物どろぼうめ!!それにしてもぎょうさん食いよったわ!!人間の皮を被った魔物じゃないのか!!」

村長「まぁいい。おい、そこの日雇い。この女のことをちゃんと見張っておけよ」

「はい……えっと」





遊び人「あっ」

勇者「あっ」
670 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/27(火) 00:37:33.19 ID:e+epmtSx0
〜1月ほど前 カジノ〜

勇者「お、俺はさわってなんかいない!!信じてくれよ!!」

僧侶「絶対触ったわ!!どさくさに紛れて私のお尻揉んだのよ!!」

「最低……」

「テーブル周りに人が集まってたもんね……」

「冒険者の格好をしてるくせに、一人でカジノに来て怪しいわ」

勇者「ち、違うんだって……本当に……」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえ!!大人しく捕まるか大金でも差し出せや!!」

「そうよそうよ!!」

勇者「……なんだよそれ」

勇者はポケットに手を入れた。

小型の毒針を掴んだ。

自分の首に突き刺そうと考えた、その時だった。

遊び人「見てました!!!!」
671 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/27(火) 00:38:25.17 ID:e+epmtSx0
ザワザワ……

遊び人「私、この人のこと見てました!!触っていませんでした!!!」

「なんだって?」

遊び人「私、喉が乾いて、バニーガールさんに飲み物を貰おうとしてたんです」

遊び人「そしたら、さっきから何度も何度もバニーガールさんにしつこく話しかけている男がいて気になったんです」

遊び人「話の内容を聞くに、食事に誘っているようでした。でも結果は全滅。この人は、まったくつれないバニーガールさんに落ち込んでフラフラになっていました」

遊び人「このテーブルでダブルアップが続いて観客が押し寄せた時に、この人も波に飲まれていました。それでそこの僧侶さんのところに流されたんです」

遊び人「でも、手は自分の顔のところにありました。なぜなら、両手で涙を拭っていたからです」

遊び人「他に犯人はいるのかもしれませんが、その人は無実です!!」
672 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/27(火) 00:39:48.68 ID:e+epmtSx0
勇者「今日は……ありがとうございました……」

遊び人「いえいえ」

勇者「酒場でパーティメンバーを探そうと、片っ端から声をかけても誰も味方になってくれなくて……気分転換に普段行かないカジノなんかに来て。気持ちを切り替えてバニーガールさんに話しかけるも、気味悪そうに拒絶されて……」

勇者「僕の味方になってくれる人がまだこの世界に……」

遊び人「(さっきから全然人の目見ないなこの人)」

勇者「ほ、ほんとうに助かりました……」

遊び人「いえいえ。どういたしまして」

勇者「……あ、あの」

勇者「よ、よかったら……」

遊び人「はい?」

勇者「…………いえ」

勇者「ありがとうございました。お気をつけて……」

トボトボ……
673 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/03/27(火) 00:56:04.94 ID:e+epmtSx0
遊び人「うわぁ……悲壮感めっちゃ背中からにじみ出てるよ」

遊び人「大丈夫かなあの人。自殺とかしないかな」

遊び人「えーっと、こんな時外界の人になんて言葉をかければよいのか……」

遊び人はカジノの外に出た。

外はすっかり暗くなっていた。

少し離れたところをとぼとぼと歩く勇者の背中に向けて叫んだ



遊び人「あ、あの!」

勇者「…………」

遊び人「世界に女の子は星の数ほどいますから!!」

遊び人「4つ5つ星が消えたところで、夜空は明るいですから!!」

勇者「…………」

勇者「上、見上げてみ」

遊び人が夜空を見上げると、くもりがかっており、星は見えなかった。

月だけが輝くだけだった。

勇者「無数に輝く星が1つも振り向いてくれないのは、絶望ってもんさ」

勇者「星の数ほどいる女の子はこう思うさ。星の数ほどいる男から、どうしてこんな奴を選ばなくちゃいけないんだって」

勇者「ちなみに、さっきの、嘘だから。パーティメンバーを探してたって」

遊び人「……じゃあ一体」

勇者「俺と、心中してくれる相手を探していたんだよ」

勇者はポケットから毒針を取り出した。

遊び人「ちょっと!!駄目よ!!」

勇者「安心しろよ。一人で死ぬから。隣町にある教会まで歩くのがしんどいだけだ」

勇者は毒針を自分の首に突き刺した。

一瞬にして勇者の身体は消え去った。

遊び人「…………消えた」

遊び人「……わからないことだらけだけど」

遊び人「なんか、消えて清々した!!」
674 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/28(水) 00:56:11.15 ID:tjvbygWDO
675 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/28(水) 23:49:17.54 ID:HzPjqMxl0
676 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/05(木) 00:25:21.81 ID:Z7HvKCQr0
〜小さな村の牢屋にて〜

勇者「なんで畑の食べ物なんて盗んだんだ」

遊び人「わたし、冒険に疎くて。地面に食料が実ってる地域にたどり着いたと思ったんです」

勇者「あるのかそんなこと。というか仲間はいないのか」

遊び人「……いません」

勇者「そうか。金はあるのか?金を出せば許して貰えるかもしれない」

遊び人「お金がないから食べ物に困ってたんですよ」

勇者「カジノに行くくらいに余裕あったんだろ」

遊び人「カジノに行ったからですよ」

勇者「…………」

勇者「生活費を全てギャンブルに注ぎ込んだのか?」

遊び人「恥ずかしながら……」
677 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/05(木) 00:29:11.20 ID:Z7HvKCQr0
遊び人「困りました……」

勇者「俺はこの前あんたの世話になったからな。なんとかして助けてやりたいが、いかんせん俺も金に困ってるんだ」

遊び人「今は何をされてるんですか?」

勇者「この村で短期間の労働だ」

遊び人「囚人の監視ですか?」

勇者「ちがうよ。家畜見張りだよ。ついでにあんたの見張りも頼まれてるだけだ」

遊び人「えっ」

勇者「餌やりの時間だから行ってくる。ほら、これはあんたの分だ」

遊び人「今や私は家畜同然ですか」
678 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/05(木) 00:40:59.42 ID:Z7HvKCQr0
ゴゴゴゴゴ……

勇者「うわわわ!!なんか凄い魔力の波動が!!」

勇者「あの女の牢屋から気配が!!」

タッタッタ…

勇者「何をしている!?」

遊び人「…………」

勇者「……どうして逆立ちしてるんだ」

遊び人「脱獄しようと思って……」

勇者「なるほど。それで逆立ちしたわけか」

遊び人「はい」

勇者「なんでだよ!!」

遊び人「なんか呪文を唱えようとすると遊んでしまうみたいで」

勇者「なんだそりゃ」

遊び人「地に足をつけて生きられない呪いなんです」

勇者「手はついてるけどな」

遊び人「脱獄には逆転の発想が必要ですから。逆立ちだけに」

勇者「…………」

遊び人「ところで、腕が限界なのでもう降りていいですか?」

勇者「好きにしてくれ」
679 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/05(木) 00:47:39.67 ID:Z7HvKCQr0
遊び人「あれ、教えてくださいよ」

勇者「なんだよ」

遊び人「私の前から一瞬で消えたじゃないですか。魔力の気配を一切出さずに。あんな特技が外界にはあるんだなって」

勇者「なんだよ外界って」

遊び人「あれができれば私もこの牢屋から脱獄できます」

勇者「やり方は簡単だ。毒針を自分の首に突き刺すだけだ」

遊び人「死にますよね?」

勇者「うん。死ぬ」

遊び人「でもあなたは生きている」

勇者「完全には死んでないからな」

遊び人「なんですかそれ。ゾンビみたいですね」

勇者「アンデット系男子」

遊び人「ちょっとかっこよく聞こえます」
680 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/05(木) 00:57:36.00 ID:Z7HvKCQr0
勇者「ギャンブル系女子に仲間はいないのか」

遊び人「その響きはかわいくないですね。ちなみに酒場に行って仲間の募集を探しに行ったりはしましたよ」

勇者「どうだった」

遊び人「お酒が苦手だということが判明しました」

勇者「それは残念だったな。ところで仲間の募集についてはどうだ」

遊び人「ろくに戦闘のできない遊び人を仲間にいれたがるのはろくでもない男ばかりに見えました」

勇者「そうだろうな」

遊び人「自分がろくにならないと見合った禄は与えられないというわけです」

勇者「一理ある」

遊び人「あなたはどうでした?行ったことあるんでしょ?」

勇者「ろくに戦闘をしようとしない勇者を仲間にいれたがらないのはまともな冒険者に見えました」

遊び人「えっ、ろくに戦闘をしようとしないんですか」

勇者「だって戦うのってしんどいから。ああでもないこうでもないと言い訳を並べて戦闘から逃げ続けてきた」

遊び人「世界平和は勇者ではなくあなたのような人が生み出すのかもしれませんね」

勇者「そうだな。勇者なんてろくでもない職業だ」

遊び人「でしたら遊び人はろくでもある職業ですね」

勇者「ああでもないしこうでもないけどろくではある職業」
681 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/05(木) 01:07:24.85 ID:Z7HvKCQr0
遊び人「そこで何をしてるんですか?」

勇者「鳥の数を数えてる。仕事のうちの1つだ」

遊び人「誰の役に立つんです?」

勇者「これをすることで俺にお金が手渡されて俺が助かる」

遊び人「もっといい人助けがあるんですが」

勇者「どんな」

遊び人「逃してくれませんか?」

勇者「俺の仕事がなくなっちまう」

遊び人「この前助けてあげたでしょ!!」

勇者「そんな悪く無いじゃん、この環境」

遊び人「この牢屋に入れられてもみてよ」

勇者「俺が立ってる場所もあんたが座ってる場所も大して変わりないだろ。むしろ俺は勤務中は立ちっぱなしだから疲れるんだ」

遊び人「いいところに気が付きました。そう、あなたは労働という檻の中に閉じ込められているのです。そこで1ついいことを教えてさしあげましょう。実はこの檻の内側だと思われている私の寝ている場所こそが世界で唯一の外であり、この檻の外側だと思われている世界全てが檻の中なのです。さあ、檻をあけてください。そして入れ替わりましょう。外の世界は目と鼻の先ですよ」

勇者「シラフなのに飛んだ発言をするのはやめてくれ」

遊び人「それを言うなら逆立ちもしていないのに逆転の発想はやめてくれ、でしょ。私お酒飲めないんですから」

勇者「ただの天然か」

遊び人「天然ってなんですか?」

勇者「そういうとこだよ」
682 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/05(木) 01:20:57.50 ID:Z7HvKCQr0
勇者「俺もあんたも金がないだろ。ここでなら飯は食える」

遊び人「家畜の餌食べさせられてるんですよ」

勇者「俺だって同じもん支給されてるぞ」

遊び人「えっ!?そうなんですか!?あははは!!」

遊び人「ごめんなさい、今ちょっと笑いそうになっちゃいました」

勇者「思いっきり笑ってたな」

遊び人「私をここに閉じ込めている理由は何なのでしょう。こんな小さな村だから、私以外に囚人もいないみたいです。もしかして、私自身も家畜とみなされていて、食べられるまでここで飼育される運命なのでしょうか……あわわわ……」

勇者「さあな。俺だってこの村に来たばかりでろくに情報を教えてもらっちゃいないんだ」

遊び人「あなたも最後には村人の餌にされてしまうかもしれませんよ?」

勇者「それは困る」

遊び人「一緒に逃げましょうよ。さぁ、ここの鍵をあけてみましょう。大丈夫、私がついているから。やらずに後悔するより、やって後悔するほうがいい」

勇者「励ます風にしたらやると思ったら大間違いだぞ」

遊び人「やって後悔するより、やらずに後悔するより、他人にやらせて後悔させる方が良い」

勇者「うわ、最低なこと言ったよ。うまいこと責任俺に背負わせて逃げ出すつもりだよ」

遊び人「家畜として、社畜の隣で生涯を終えるとは思いませんでした」

勇者「誰が社畜だ」
683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/05(木) 04:01:40.05 ID:AZBWYvaT0
684 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 17:13:26.70 ID:D6bjl4o10
ガヤガヤ…

勇者「なんだか外が騒がしいな」

遊び人「お祭りでもやるんでしょうか」

勇者「だとしたら何か生贄を捧げる儀式でもする可能性があるな」

遊び人「ちょっと!怖いこと言わないでください!」

勇者「ふわふわの綿毛に囲まれながら、甘いクリームをお口いっぱいに頬張るのだ」

遊び人「怖いことを言うなって言ったんです。かわいいことを言えなんて言ってません」



バタバタ…

村人「おーい、日雇い!村長さんがお呼びだで!!」

勇者「俺は日雇いじゃない!!期間契約の労働者だ!!」プルプル…

遊び人「怒ることではないでしょう」

村人「そこの女も連れて来いとのことだ」

遊び人「えっ……あの、許してくれるんですか?」

村人「詳しいことは村長さんに聞きな。早く行くべ」

勇者「そうだ。早く行くぞ、7番」

遊び人「……この男ぉ……」
685 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 17:20:36.68 ID:D6bjl4o10
広場を通り過ぎると、一人の青年を村中の人が囲っていた。

勇者「あれは誰ですか?」

村人「吟遊詩人だ。昔この村から冒険に出て、今日ついに帰ってきたんだ」

遊び人「昔から有望な少年だったんですか?」

村人「罪人は口を慎むんだな」

遊び人「…………」

勇者「昔から有望な少年だったんですか?」

村人「そうだとも。呪文を使える者なんてほぼ皆無のこの村で、あの子だけは呪術を使用できたのさ。すっかり大きくなっちまって」

勇者「へえー、そうなんですね」

遊び人「(私の代わりに質問してくれた……気を遣ってくれたのかな)」

遊び人「あの、ありが……」

勇者「へっへーん!労働者の俺は罪人のあんたと違って、質問に答えて貰えるべさ!」ニヤニヤ

遊び人「…………」
686 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 18:09:03.97 ID:D6bjl4o10
村人「連れて参りました」

村長「うむ。下がってよろしいい」

村人「はっ」

ガチャリ…

村長「……さて。いきなり本題に入ろうかの」

勇者「そうですね。私の賃金の支給に関して」

村長「この村では毎年、大蛇の魔物に生贄を捧げておる」

遊び人「えっ……」

村長「その表情、理解が早くて助かるわい」

村長「今年はあんたが生贄になるんじゃ。村娘からこれ以上犠牲者は出せん」

遊び人「はいわかりました、と素直に言えるわけないでしょう。にげだしますよ」

村長「あの道具を置いてか?」

村長は鉄製の箱の中に入れられている道具袋と壺を指さした。

村長「あんな材質の壺、触れたこともない。貴重なものなのじゃろう?壺の中は見えないくせに、手を入れても何も入っておらんかった。何か特殊な用途のものに違いない」

村長「そこでじゃ。生贄を要求する魔物を無事討伐できたら、持ち物ごとお主を無罪放免にしてやろう」

遊び人「私の職業は遊び人です。戦闘なんて出来ません。近くの王国から兵士でも要請すればいいでしょう」

村長「……ふぉっふぉ」

村長「近くにあった王国は既になくなったのじゃよ」

遊び人「大蛇に滅ぼされたのですか」

村長「より肥沃な土地を求めて国民ごと大移動しただけじゃ。あの王国があった頃は魔物も手を出してこんかった」

村長「王国という脅威が去ってから、魔物はこの村から生贄を要求してくるようになったのじゃ」
687 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 18:10:44.48 ID:D6bjl4o10
遊び人「その生贄に私がなれというのですか」

遊び人「定期的に生贄を要求するような魔物なら、知能が高く、言語もある程度理解できるのでしょう」

遊び人「私は正直に、よその場所から来た冒険者だって伝えます。それでも魔物は認めてくれるのでしょうか」

村長「怒りをかってもいいんじゃよ。わしらも命がけじゃ」

遊び人「えっ?」

村長「ここの地域一帯に魔法を使えるようなものはろくにおらん。神から見捨てられたようなこの土地で、ほそぼそと生きることを望むだけの我らに、精霊は力を貸そうとはしてこなかった」

村長「しかし、ついに今日、一矢報いる可能性が帰ってきたのじゃ」

遊び人「さっきの吟遊詩人……」

勇者「一人の魔法使いに頼って、大蛇を倒そうというのですか?」

村長「そのとおりじゃ」
688 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 18:12:35.00 ID:D6bjl4o10
遊び人「危険だわ!!近くに国がないのなら、強力な冒険者が来るのを待ったほうが……」

村長「こんな土地に強き冒険者など来ないわい。それに、他の国に強さを借りるという発想はもちろんしたわい」

村長「力だけでは勝てんのは百も承知じゃ。力と智をあわせてこそ強大な力となりうる」

勇者「智とは何のことですか?」

村長「村1番の賢き者を、税金でMBA取得のためよその都の留学に行かせたのだ。数年前のことじゃがな」

遊び人「えむびーえー?」

勇者「それで帰ってきたのがあの吟遊詩人?」

村長「いや、わしじゃ」

勇者「お前かよ!」
689 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 18:13:13.50 ID:D6bjl4o10
村長「魔法こそてんで駄目じゃが、学識の方はお手の物じゃわい」

村長「特技としてSWOT分析を修得しておる」

遊び人「すうぉっとぶんせき?」

村長「たとえば、そこの雇い人」

勇者「はい」

村長「あんたを主軸に、大蛇と戦うことを想定した場合はこうなるじゃろう」

カキカキ…

勇者「どれどれ?」

・強み…弱みの数の多さ。

・弱み…身体弱そう。おつむ弱そう。根暗そう。貧乏そう。女子苦手そう。挙動不審。

・機会…この時期は花粉が少なく、花粉への炎症持ちでも大丈夫。

・脅威…わし

勇者「強みが強みじゃねーしなこれ!てか弱み多すぎだろ!!」
690 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 18:30:38.30 ID:D6bjl4o10
〜牢屋〜

遊び人「説明を一通り聞いてまたここに逆戻りです……」

勇者「仕事の期間延びた!やったった!こんな楽な仕事今までなかったし!!」

遊び人「はぁー」

勇者「気を落とすなって。なんとかなるって」

遊び人「なんとかなるのはなんとかしようとしてきた人だけですよ」

勇者「堅いこと言うなよ」

遊び人「あの、お願いですからあれのやり方教えてくれませんか」

勇者「あれってなんだよ」

遊び人「私の前から消えた奴ですって」

勇者「……無理だよ」

遊び人「あんな転移の方法なんて見たことないです。呪力の気配もないし、特技でも聞いたこともないし」

遊び人「自殺の行動を取ったあとに蘇るなんて、まるで冒険譚に読んだような……」

遊び人「…………えっ。うそ」

遊び人「あなた、もしかして……」

勇者「もう消灯の時間だ。また明日な、7番」

遊び人「ちょっと!!!」

トコトコトコ…
691 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 19:04:58.36 ID:D6bjl4o10
〜翌日〜

遊び人「あなた、勇者なんでしょう!!!」

勇者「…………」

勇者「朝の第一声で昨日のテンションを引きずって来るなよ。いい感じで途切れたのに」

遊び人「パーティを結成することで発生する精霊の加護。それによる教会への転移があの瞬間移動の正体だったのですね」

遊び人「お願いです!私を仲間にしてください!!」

勇者「精霊の加護目当てか?」

遊び人「……否定できません」

勇者「それとも、身体目当てか?」

遊び人「否定します。精霊の加護目当てです」

勇者「……やだよ」

遊び人「どうして!!」

遊び人「あなたにどんな信念があるか知りませんが。人の命がかかってるんですよ!!」

勇者「確かに俺を冤罪から救ってくれた恩人ではあるが……」

遊び人「大蛇を倒せなかったら、村娘が毎年攫われて……」

勇者「はっ?」

勇者「自分を牢屋に入れてる村の心配している場合かよ。あんたの生き死にがかかってるんだぜ」

遊び人「……たしかに、そうですね」

遊び人「では、助けてくれるんでしょうか」

勇者「わかったよ。パーティの結成も解除も簡単だ。俺があんたをパーティと認めて、あんたも俺をパーティと認めてくれれば結成できる」

勇者「おそらく俺が前回訪れた小さな町の教会で復活する。そこで復活して、それでパーティを解除して、俺もあんたも晴れて自由の身だ」

遊び人「……駄目です」

勇者「何がだよ。例の大切な壺か?諦めろって」

遊び人「それもありますが……村を裏切るなんて」

勇者「ちょ、ちょっと。お前それ本気で言ってんの?」

遊び人「私の里は滅んだんです。だから、この村が大蛇によって苦しめられているのを放っておくことなんて」

勇者「じゃあどうするんだよ。戦うのか?俺は嫌だぞ」

遊び人「勇者なのに戦わないのですか?」

勇者「勇者じゃねーよ。ふざけんな」

遊び人「な、何なんですかじゃあ」

勇者「俺は、人殺しだ」

勇者は家畜の餌やりに向かうと、その日は中々戻っては来なかった。
692 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 19:07:33.32 ID:D6bjl4o10
〜翌日〜

遊び人「私は、寿命泥棒ですから」

勇者「朝からなんなんだよ」

遊び人「時間が無いんです。だから、本音で話し合わないといけないんです」

勇者「戦闘準備を整えているらしいな。あと数日で出発だとか」

遊び人「寿命ですよ」

勇者「寿命?」

遊び人「私の寿命には、限りがあるんです。それも、人よりとても短く」

遊び人「あなたが自分を殺人者だと言った一言には、きっと過去の深い意味が込められているのでしょう。それを掘り起こされたくなければ、私は掘り起こしません」

遊び人「私が寿命泥棒だと言った一言には、過去の深い意味が込められています。それを掘り起こしたくはありませんが、今あなたに伝えるべき内容だと確信しています」

勇者「俺の協力を得るためか?」

遊び人「はい」

勇者「俺があんたに同情して何でも協力してやると言ったら、どうするつもりなんだ?」

遊び人「魔物に大人しく食べられます」

勇者「それで?」

遊び人「死んだらすぐ教会に転移して逃げ出せます」

勇者「俺があらかじめ死んでいた場合は、口の中に入ったあんたが急に消えることになる。俺が生きていた場合は、口の中に入っていたあんたが棺桶にかわり、大蛇の口に広がることになる」

勇者「食べさせたと錯覚させることは困難だぞ。それに、生贄ってのが食べることを意味するのかわからないじゃんか。もっと残酷な趣味のことを意味してるかもしんないんだぞ」

遊び人「…………」

勇者「まあ後のことはお前の好きにすればいい。過去のことについて話したいならどうぞ話してくれ。一日中暇だからな」

遊び人「……感謝します」
693 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 19:09:09.98 ID:D6bjl4o10



……

…………

………………



勇者「……なんだよ大罪の一族って。冒険譚に出てくるような話だったぞ。里が装備に吸い込まれたって。信じろっていうのかよ」

遊び人「信じなくてもいいから同情してください。この長い時間話したことが仮に全て嘘であったとしても、こんな嘘をつくくらいに追い詰められているんだと」

勇者「その7つの装備は人間の欲望を満たすことができ、さらに7つ集めれば吸い込まれた者達の寿命を吸収することができるんだったな?」

勇者「あんた、あと10年くらいしか生きられないんだろう?だったらさ、おばあちゃんになれるくらいまで寿命貰っちゃいなよ」

勇者「あんたに生きてほしいと思ってる人は、あの世にも、この世にも、たくさんいると思うぜ」

遊び人「……味方になってくれるんですか?」

勇者「割り切った関係でいいならな。あんたは精霊の加護を利用する。俺はあんたに一切手を貸さない」

遊び人「ありがとうございます!!!!」
694 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 19:15:02.26 ID:D6bjl4o10
勇者「ギャンブルで生活費なくして、俺以下の存在に出会えたと見下せていたのにな」

遊び人「酷いこと言いますね」

勇者「それは俺が酷い奴だからだよ。俺は俺が最低だって知ってるから、他人のことを最低だと言っても許されるんだ」

遊び人「あなたが最低なら、他人の人は最低にはならないでしょう。最低とは言わない方が敵も増やしませんよ」

勇者「理屈っぽいやつだな。これだからエリートは」

遊び人「別にエリートなんかじゃ……」

勇者「学習しない人、成長しない人は、世界中から疎まれる」

勇者「駄目なままでは、ダメですか、と聞きたいよ」

勇者「毎朝起きた時、いつも憂鬱だった」

勇者「毎朝眠いのは、毎晩寝る前に、明日を迎えたくなくて、寝なくちゃいけないのに夜更かしをしてしまったからだ」

勇者「不器用で弱い俺にとって、冒険は自己嫌悪と劣等感を味わう日々の連続に過ぎ無かったよ」
695 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 19:16:39.06 ID:D6bjl4o10
勇者「もしも明日世界が滅びるとしたら」

遊び人「えっ?」

勇者「よく周囲の大人から言い聞かされてた。嫌いだったなこの言葉」

勇者「どうする?明日しんじゃうって聞いたら」

遊び人「えーっと」

遊び人「移動の翼を体中につけて、どこまで飛べるか実験してみたいです」

勇者「純粋で良いな」

遊び人「あなたは?」

勇者「バニーガー」

勇者「植物でも眺めて過ごすかな」

遊び人「純粋で悪いこと言いかけましたね」
696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 21:23:07.80 ID:D6bjl4o10
勇者「ちょっと前はさ、1つの明確な答えがあったんだ」

遊び人「世界が滅ぶ前日に何をしたいんですか?」

勇者「世界が滅ぶことを願う」

勇者「笑えるだろ。実話だ。俺はさ、精霊の加護を授かって、仲間と一緒に魔王討伐の冒険に出ててさ」

勇者「それでもその旅があまりにもつらくてさ。自分を否定する毎日が続いて。いっそ世界が滅ぼされてしまえなんて願ってた」

勇者「俺は精霊の加護こそ与えられているが、勇者じゃないんだよ」

勇者「戦いなんて大っ嫌いだ。争うのがいやとかじゃなくて、戦闘センスがなさすぎる」

勇者「精霊の信頼もないから魔法も1つも使えない。というか、自分が何の職業かもわからないくらいに特徴がない」

勇者「だからさ。間違っても、俺のことは勇者様なんて呼ばないでくれ」

勇者「もうあの頃のように、期待されて、それを裏切る日々には戻りたくないんだ……」
697 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 21:25:00.34 ID:D6bjl4o10
勇者「精霊の加護を目当てに、俺の仲間になりたいと言ってくれるやつはいたさ。結成しては、数日で解散して、みたいな日も実はあったんだ」

勇者「圧倒的な実力不足だった。他人より努力しても、剣術の腕は並に劣っていた」

勇者「呪文だってそう。世界が滅べと願う男に、精霊が信頼してくれるわけもない。頭を垂れてお願いしても何の呪文も使えず、命に数Gの価値しかない」

勇者「性格だってそう。魔王を倒そうという意識もない」

勇者「一番最初の仲間とは、冒険が進むに連れて段々険悪な雰囲気になった。『俺を棺桶に閉じ込めたままお前らで冒険してろ!!魔王を倒したら復活させてくれ!!』なんて言ったこともあった。殴られたけどな」

勇者「勇者でもないのに勇者の使命を与えられた。天職じゃなかったんだ。精霊の加護を与えられたばかりに無理やり故郷を追い出されて冒険に出された」

勇者「そんな俺と旅してると、強い志のもと冒険している仲間じゃ、ぎくしゃくしちまうよな。巨大な魔物を倒してるのをだまって後ろで見てるだけ。魔物を倒したあと長く歩く無言の時間がきつかった」

勇者「俺じゃなければよかったのに。俺じゃなくて、然るべきものがちゃんと精霊の加護を受け取っていたら……」

勇者「俺は毎日早起きしてまで世界を救いたくなかったんだ」
698 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 21:27:10.52 ID:D6bjl4o10
勇者「誰かと群れるのが嫌になって。独りで冒険を始めた」

勇者「いろんな場所にたどり着いてさ。のんきな街もあれば、殺気だった村もあって」

勇者「道具屋が冒険者にクレームつけられて土下座させられてたり、宿屋で変な客が暴れてたり、酒場で食い逃げした冒険者をぼこぼこにしたって話しを聞いたり」

勇者「ある屋敷の令嬢を慕っていた青年が、失恋の悲しみで無理心中したり。新呪文の開発のプレッシャーに押しつぶされた術士が自殺したり」

勇者「魔物と人間の殺し合いだけが苦しみじゃないこの世界で。みんな、どうして生きてるんだろうな。何のために頑張ってるんだろうな」

勇者「ただ生きるのって、どうしてこんなに大変なのかな」

勇者「何のために生きてるんだろう」

遊び人「…………」

遊び人「生きることは、つらいよね」

勇者「あんたみたいなやつでもそういうこと言うんだな」

遊び人「こっちのセリフですよ」

遊び人「私の一族なんて寿命も短いしさ。生きることを考えなければならないという焦燥感がある一方、そんなことを考える暇も無駄っていう諦観もあってさ」

遊び人「何のために生きてるかわからないけど」

遊び人「何のために生きてるかわからないのに生きてることが、生きる価値の裏付けにもならないかな」

遊び人「人間には何か成すべき一事があって、それを成すために生きている。って考えると楽だけどさ」

遊び人「私が思うのはさ。生きることの意味は、生まれる前や、まして死んだ後にできるものではなくて」

遊び人「今、生きているこの時間、この私の中にあるものなんだと思う」

遊び人「お母さんはね。ずっといたい人とずっといるために生きてるんだって言ってた」

遊び人「もう、死んじゃったんだけどね」

遊び人「でも、故人を偲ぶ時間も、苦しみそのものだけど、生きている大切な理由の1つに違いないよね」

遊び人「つらくても、生きるんだよ。大切な人との時間を重ね続けていくために」

勇者「…………」

勇者「俺には、そんな相手は……」

ガチャリ

699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 21:40:53.91 ID:D6bjl4o10
〜出発の日〜

村長「今までご苦労じゃったの。ほれ、賃金じゃ」

勇者「…………」

村長「なんじゃ、不満かの?」

勇者「いいえ……」

勇者「あ、あの」

村長「なんじゃ」

勇者「今夜、あの吟遊詩人と、遊び人は本当に2人で大蛇の討伐に行くんですか」

村長「お主には関係のないことじゃろう」
700 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 21:44:58.51 ID:D6bjl4o10
〜牢屋〜

遊び人「どうされたんですか?」

勇者「逃げるぞ。俺のパーティになれ。心中してどっかの教会に行くんだ」

遊び人「大蛇を倒しにいかなければなりません。私がオトリになって呼び寄せる必要があるんですから」

勇者「あの吟遊詩人が倒せると信じているのか?」

遊び人「信じていませんよ。話したこともありませんし」

勇者「じゃあどうして!」

遊び人「言ったでしょう。好きな人と時間を重ねるために生きてるんだって」

勇者「だから、あんたが生き延びて、あんたの心の中に生き続ける故人のためにも……」

遊び人「生きることはつらいって、言ったじゃないですか……」

勇者「なんだよ。なんで泣いてるんだよ。俺に偉そうに励ましてたじゃないかよ」

遊び人「他者が生きることを願うのは簡単です。でも、自分が生きることを自身で肯定するのは、私には難しいことなんです」

勇者「世界が滅ぶことを願って、自分が生き延びることだけを考えてる俺より、あんたの方がよっぽど生きる価値があるだろ」

遊び人「私のせいであれだけの命が奪われてしまったのだから。せめて、私の命をもって……」

勇者「なんだよなんだよ。自暴自棄かよ。というか、大人しく生贄になるつもりじゃないだろうな」

遊び人「出てってください……」

勇者「どういうことだよ!!今更自己否定かよ!!」

遊び人「黙ってくださいよ!世界なんて滅べばいいと思ってたのなら、私の命1つくらいどうだっていいでしょう!!」

勇者「この数日間話してたことに何の意味があったんだよ!!」

遊び人「意味なんてありません!!」

勇者「っ…………!」

勇者「そうかよ!!あー、そうかよ!!」

勇者「独りで死んでろ!!」
701 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 22:05:35.09 ID:D6bjl4o10
〜荒野〜

ズカズカ!!

勇者「…………」イライラ

勇者「知るかよ。世界なんか知るかよ」

勇者「幼馴染を捨てたんだ。親友を見殺しにしたんだ。そんな俺が、今更他人を救おうだなんて、罪滅ぼしに過ぎないだろ」

勇者「独りで冒険している時間があまりにも長過ぎた。自分について孤独に考える時間があまりにも多すぎた。そのせいで、こんなにも偽善者になっちまった」

勇者「……あー!!!」

勇者「パーティを組むくらいならいいだろ!!!」

勇者「大蛇には畑の飯でも食わせときゃいいんだよ!!」




〜牢屋〜

勇者「おい!!どこにいる!!」

村人「何だお前。出てったんじゃなかったのか」

勇者「あの遊び人はどこへ!!」

村人「もう洞窟へ向かっただろ」

勇者「くそ!!」

村人「ちょ、ちょっと待つべ!!!何するつもりだぁ!!!」

ザワザワ…

村人2「どうしたべ!?」

村人「こいつ取り押さえるだ!!!」

勇者「ふざけんな!!やめろよ!!」

村人「早く牢屋へ入れるべさ!!」

勇者「くっそ!!なんだこいつ!!力つえぇ!!!」

村人2「冒険者の癖に貧弱だべさ!!」

勇者「うわ、やめろ!!離せ!!!」

村人「道具も取り上げろ!!」

勇者「やめろおおおお!!!!」
702 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 22:25:57.20 ID:D6bjl4o10
前〜

遊び人「ここね」

吟遊詩人「…………」

遊び人「道中に魔物が一体も出なかったですね。あなたが楽しそうに大きな音で演奏して歩いていたにも関わらず。気持ちを落ち着けたいとかなんとか言ってましたけど」

吟遊詩人「…………」

遊び人「幸運だと思いますか?」

吟遊詩人「…………」

遊び人「私、こう見えても呪文の達人で。呪文の解析には自信があるんです」

遊び人「魔除けの呪文を使っていたでしょう」

吟遊詩人「だ、だから何だと言うんだ」

遊び人「あなたが村を出てから数年間の間、同じように冒険していたんじゃありませんか?」

遊び人「あなた、ろくに魔物と戦ったことがないでしょう?」

吟遊詩人は怯えと怒りの混じった表情で遊び人を睨みつけた。

吟遊詩人「お、お前みたいな女に命懸けの冒険の恐怖がわかるか……!!」

遊び人「やっぱり。今夜は私を見殺しにして、大蛇に差し出すつもりだったんでしょう。これから私にかけるのは眠りの呪文ですか、それとも麻痺の呪文ですか?」

吟遊詩人「お前……ま、マハンシャが使えるのか?」

遊び人「内緒です。でもあなたに何かをされるのは癪なので、かけようなんて思わないでくださいね」
703 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 22:29:53.33 ID:D6bjl4o10
遊び人「仕方ないことですよ。人を見捨てることは、絶対に許されることではなくて、しかし逃れられない選択です」

遊び人「その十字架を背負って生きてください。あなたが悪人であればのんきに生きられます。その代りに他者の恨みによって殺されるでしょう。あなたが善人であれば、自身の罪悪感によって自分を殺して生きるでしょう」

遊び人「きっと、この洞窟の前に立って、同じ選択をした人は多くいたに違いありません。魔王城の前に立って、同じ選択をした冒険者もたくさんいたに違いません」

遊び人「職業についている人はかわいそうですね。戦士は戦わなければならない。盗賊は盗まなければならない。魔法使いは魔物を焼かなければならない。僧侶の仕事でさえ、傷つく仲間を癒す前に、傷つく仲間を一度は後ろから見なければならないんですから」

遊び人「逃げることは仕方がないことです。ただ、逃げた相応の報いが訪れるだけです」

吟遊詩人「し、死を前に何を悟ったふりをしている!!黙って進め!!」

遊び人「黙りません。でも進んであげますよ。あなたの魔除けの呪文もあると便利ですしね」



遊び人は、遊ばず祈った。



戦わなかった戦士に、祝福を。

欺いた武道家に、祝福を。

祈りを捨てた僧侶に、祝福を。

毒を放ちし魔法使いに、祝福を。

逃げ出した勇者に、祝福を。

遊び人「逃げ出したくて、逃げ出した人なんていなかったんだよね」

そう言いつつも、遊び人は洞窟の中に入った。
704 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 22:43:11.12 ID:D6bjl4o10
大蛇「……来たか。待ちくたびれたぞ。不快な音をさっきから出しおって。女の匂いがしたから出てきてやったが」

吟遊詩人「ほ、本当にいた……」

大蛇「奇跡にすがりついていたか。しかし、私は伝説ではなく確かにここにいる」

巨大な牙を剥き出しにしながら大蛇は語りかけてきた。

大蛇「今夜の生贄はお前か」

遊び人「はい」

大蛇「今夜余に喰い殺される気分はどうだ」

遊び人「可哀想です」

大蛇「かわいそう?」

遊び人は考えた。

大蛇の目的は、娯楽だと。

死に怯える村娘と、村娘を殺された怒りに震える村人。

それを味わうことを愉しんでいる。

しかし、遊び人が死んでも悲しむ人もいなければ。

遊び人自身、一人ぼっちのこの世界で、死んでしまいたい気持ちが沸いていた。

ただ、大人しく、村娘のふりをして死ぬつもりでいた。

大蛇「ふふ……いつまで強情を張っていられるか楽しみだ」

大蛇「おい、そこの男。わしを殺すことを目的に来たのだろ?」

吟遊詩人「そ、そんな!滅相もない!この娘を無事送り届けるために……」

大蛇「毎年女は独りでここに来ていた。わしがこの周囲の魔物に手を出さぬよう指示をしていたのでな」

大蛇「見栄を張ってきたんじゃろう。お前みたいな臆病者のクズは吐き気がするんじゃよ。男はまずくて食えんが、どれ、余興に遊んでやろう」



大蛇があらわれた!
705 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 22:50:23.65 ID:D6bjl4o10
吟遊詩人「う、うわあ!!」

吟遊詩人はにげだした!

しかし、まわりこまれてしまった!

大蛇「遅いわ」

大蛇は巨大な尾で吟遊詩人を叩きつけた。

吟遊詩人「ぎやぁ!!!!」

倒れた吟遊詩人の身体に、激しく何度も振り下ろされる、

吟遊詩人「ギッ!!」

吟遊詩人「ゴッ!!」

吟遊詩人「グェッ!!」

村で囲まれていた時の落ち着いた吟遊詩人の姿とは対象的に。

両目があらぬ方向を向き、血と一緒に奇妙な声を上げていた。

遊び人「……う、うわ、わ……」

大蛇「トドメはまだ刺さんぞ」

大蛇は尾を吟遊詩人に巻きつけると、きつくしばりあげた。



ポキポキポキポキ。


吟遊詩人「……グェエエエエエ!!!!!!」

どばどばどば、と、吐瀉物を吐き出した。

遊び人「ひっ、わ、あ……」

遊び人はにげだした!

大蛇「ふっはっは!!やっと恐怖を実感したか!!」

しかし、まわりこまれてしまった!!
706 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 23:09:52.18 ID:D6bjl4o10
遊び人「う、うぅ、うっ……」ポロポロポロ…

大蛇「足が震えているではないか。さっきの落ち着いた態度はどうした」

遊び人「あぅ、あ……」

遊び人「ゆ、許して……」

大蛇「何を許せと?」

大蛇は尾を緩めた。

吟遊詩人は地面に倒れ込んだ。

吟遊詩人「……クヒュ―。クヒュ―」

遊び人「い、生贄は1人だから……」

大蛇「ほおっ!?」

大蛇は感情を剥き出しにして嬉しそうな表情をした。

遊び人「い、生贄は毎年ひとりって決まってて……」

遊び人「も、もうその人、死んじゃうから……」

遊び人「だ、だから……」

大蛇「……いいや」

遊び人「えっ」

大蛇「まだ、死んではおらん」

遊び人「えっ……」

吟遊詩人「クヒュー。クヒュー」

大蛇「選べ」

遊び人「え、選ぶって……」

大蛇「わしがこいつを殺すか。それともこいつを殺さないか」

遊び人「……た、愉しみたいだけでしょ」

遊び人「わ、わたしがその人を、こ、こ、殺してって言葉を言わせたいだけなんでしょ……」

大蛇「それだけではないぞ。お前ら2人を見逃す選択肢もある。その代わり、村を壊滅させに向かうがな」

遊び人「た、愉しんでるだけじゃない……」

大蛇「早く決めろ。こいつが死ぬ。その前にお前を締め殺すぞ」

大蛇は遊び人に詰め寄った。
707 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/08(日) 23:10:37.76 ID:EmfGW+4n0
エレファント速報ですがまとめさせてもらいます
708 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 23:11:43.76 ID:D6bjl4o10
遊び人「あ、う、あ……」

大蛇は尾を遊び人の身体に巻き付けた。

汚物の臭いが遊び人の鼻腔をついた。

遊び人「ひ、ひっ、ひっ……」

遊び人「う、ああ、や、やめ……ご、ごべんなざい……」

遊び人「ゆ、ゆるじでくだざい……」

大蛇「言うべきことを言えば考えてやらんこともない」

遊び人「う、うっ……おぇ……」

遊び人「いぎだい……」

遊び人「じにだくない……」

大蛇「ふはは!そうではないだろう!」

遊び人「そ、そいつを……」

大蛇「そいつを?」

遊び人「こ、こ、こ……」

遊び人「こ、こ……」

遊び人「殺して……」

大蛇「ふははは!!!」

大蛇が狂喜に満ちた顔をした。

大蛇は牙を吟遊詩人に突き刺した。

大蛇「おっと、もう既に死んでおるようじゃ!!」

大蛇「結局は人間の子よ!!一晩かけてお前を……」

遊び人「殺して……勇者様!!」



勇者のこうげき!
709 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 23:55:42.48 ID:D6bjl4o10
大蛇に1のダメージ。

驚いた大蛇はとぐろをほどき、洞窟の隅へと逃げた。

勇者「勇者様って呼ぶなって言っただろ」

遊び人「う、うう……」

勇者「ほら、死ぬのは怖いだろ」

遊び人「う、うん……」

勇者「人を見殺しにするのもつらいだろ」

遊び人「うん……」

勇者「とかいって。俺は死ぬこともないし、自ら人を見殺しにしたからさ。絶対ろくな死に方しないんだけどな。お前には話したくもない過去だけど」

勇者「そこの蛇も言ってるだろ。所詮は人間だって。善悪とか、そういうものを超越した感情が、人間にはあるんだよ」

勇者「俺がお前を助けに来たことは、あの村を見捨てることを意味するんだから」

大蛇「なんだ貴様……この俺様を倒そうというのか……」

勇者「既に勝負はついている」

大蛇「……なに?」

勇者「致死性の毒針を打ち込んだ。残念だったな」

大蛇「…………」

遊び人「…………」

遊び人「大蛇に毒って効くのかな?」

勇者「…………」

大蛇のこうげき!
710 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/08(日) 23:57:13.76 ID:D6bjl4o10
大蛇は尾をふりかざした!

勇者は必要以上に距離をとって避けた。

勇者「うぉわ!?」

大蛇「愚弄しおって……!!」

大蛇は遊び人めがけて尾を伸ばした。

大蛇「今すぐ絞め殺してくれるわ!!あの男はあとでなぶり殺してくれる!!」

勇者「遊び人!!」

遊び人「な、なに!?」

勇者「俺の、仲間になってくれ!」

遊び人「えっ」

勇者「ここまで来るのも大変だったんだ。武器もないまま牢屋に入れられたもんだからさ。物凄い痛みに耐えて牢屋に頭打ちつけたり、首を爪で引っ掻いたりして、激痛に耐えて自殺して。まあ俺はすぐ転送されやすいんだけどさ」

勇者「隣町の教会で目覚めて、移動の翼を盗んで、こっそり村に飛んで。この洞窟への地図の入った道具袋も一緒に回収して。急いでここまで駆けてきたんだ」

勇者「はやく仲間になれ!!」

遊び人「私が生贄にならないと、あの村は!!」

勇者「死にたいのかよ!」

遊び人「生きたいよ!」

勇者「そうだろ!」

遊び人「誰にも迷惑をかけずに、生きたいんだよ!」

勇者「諦めろ!!」

遊び人「わ、私は大勢の人間を犠牲にさせた大罪人なの!!」

勇者「俺に関係あるのかよ」

遊び人「無いよ。あなたとは数日間一緒に話しをしただけよ」

勇者「救うよ」

遊び人「勇者だから?」

勇者「俺は、人殺しだから」

遊び人「私は、寿命泥棒だから」

勇者「知るかよ。滅んじまえばいいだろこんな世界」

遊び人「だったら私一人なんて」

勇者「自分を許してくれた人を、世界と天秤にかけられるかよ!!
711 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/09(月) 00:00:14.78 ID:4y9IhOFv0
勇者「戦わなくていいなんて、女の子から言われたことなかったんだ!!」

勇者「精霊の加護目当てで集まってきたくせに。精霊の加護に見合った力を周囲は期待してきた!!」

勇者「俺は、精霊の加護の存在に苦しめられていたんじゃない!!勇者の素質をもたないことに、俺自身の力を否定されることに苦しんでいたんだ!!」

勇者「何度でも言うよ。俺は勇者様なんかじゃないよ。勇気の欠片もなくて、強くなくて、世界が大嫌いな男なんだ」

勇者「自分が歩き出すことで花を踏み潰したっていいって思ってるほどだ。その花だって、周りの土の養分を吸い取って生きているって言い訳をしてな」

勇者「あんたみたいにやさしい人が、幸せになれない世界なんて否定しちまえよ!!」

遊び人「…………あなたのこと、大嫌いだな」

遊び人「好きの裏返しとかじゃなくて、ただただ大嫌い……」

勇者「俺はあんた以上に俺のことが嫌いだよ。生きるけどな」

大蛇の尾が遊び人の全身を巻き付けた。

遊び人「強み!!」

遊び人「それでもやさしいところ!!」

遊び人の身体は大蛇の尾によって潰された。

大蛇「ぐぉつ!?」

強烈な締め付けを跳ね返すほどの棺桶が出現した。

勇者「中の死体には絶対触れさせないほどの防御力を誇るんだ。外面は剣で表面をなぞっただけで傷がつくただの木箱なんだけどな」
712 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/09(月) 00:08:59.34 ID:4y9IhOFv0
大蛇「妙な術を……」

勇者「遊び人はそこでゆっくり寝てな。あとは俺に任せろ」

大蛇「小僧!!本気で俺様を怒らせたな!!」

勇者「小僧って呼ぶのやめてくれないか」

大蛇「今から死ぬ者に呼び名などないわ!!」

勇者「勇者様って呼べって言ってんだよ!!」

勇者は大蛇に飛びかかった。

大蛇は勇者に体当りすると、勇者は無残に吹き飛んだ。

勇者の身体は出現した棺桶に保管された。

二つの棺桶は教会に転送された。

〜教会〜

勇者「やべやべやべやべ」

勇者「強すぎワロタ」

神官「…………」

勇者「すいません!遊び人を蘇らせてください!」

神官:1,900G頂きますがよろしいでしょうか。

勇者「はい。1,900……はぁ!?」

勇者「遊び人だろ!?今呪文も使えない状態だってのにそんな金額すんのかよ!!」

神官:1,900G頂きますがよろしいでしょうか。

勇者「は、はらうよ!わかったよ!!俺のここ数日の労働代が……」

勇者はさきほど村から取り戻した道具袋からお金を取り出した。





遊び人「ぷはぁ!!」

遊び人「はぁ…!はぁ…!」

勇者「気分はどうだ?」

遊び人「えっと……いつの間にか寝てたみたい……」

勇者「死の恐怖を和らいでくれるのは精霊の加護の恩恵の1つだ。よし、今すぐ村に戻るぞ」

遊び人「えっ?」
713 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/09(月) 00:31:37.02 ID:4y9IhOFv0
村長「何をしておる!」

勇者「あっ、見つかった」

勇者と遊び人は村長の屋敷に忍び込み、檻の鍵を見つけ、封印の壺を回収した。

村長「何をしておるのだ!!」

勇者「にげだしました」

村長「逃げた?お、おい、そこの女は……」

遊び人「にげだしちゃいました」

勇者「大蛇がこの村を壊滅させに今からやってきます」

勇者と遊び人は村長の脇を通り抜けて村の広場に出た。


勇者「号外!!号外!!」

勇者「生贄がにげだしました!!今に大蛇が襲ってきます!!」

遊び人「わたしがにげだしました!!」

勇者「これから村人で新たな地を求めた大移動です!!」

勇者「ここに、少しおすそ分けしておきますね」

勇者は教会のある町から盗んだ大量の移動の翼を村の広場にばらまいた。

言葉の意味を理解しはじめた村人が、血相を変えて駆け寄ってきた。


勇者「よし、にげるぞ」

遊び人「にげちゃいましょうよ」

2人は移動の翼をつかった。

混乱に陥る村の夜空をあがっていった。

勇者「勇者失格だな」

遊び人「ええ。確かに、冒険譚では見たことないです。村人を見捨てる冒険者の物語」
714 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/09(月) 00:34:11.18 ID:4y9IhOFv0
遠くの村に降り立ち、あてもなく2人は草原を歩いていた。

勇者「勇む心を持たぬ勇者」

遊び人「遊ぶ余裕も猶予もない遊者もここにいます」

勇者「やっと開き直ってくれたか」

遊び人「はい。世界に心を開きなおりました」

勇者「たとえ世界からぼろくそに言われようが。信頼を失い続けようが。それでも生き続けるんだよ」

遊び人「私たちには、私達しか知らない私達がいるはずだから?」

勇者「ろくでもない自分の正体を、自分だけが知っているってだけだ。精霊の加護を持ちながら、魔王や魔物なんか見向きもしない」

勇者「俺は、したいこともないし、がんばりたくもない」

遊び人「それならなおさら私と冒険しましょう」

勇者「精霊の加護目当てだろ?」

遊び人「自由に考えて良し」

勇者「俺は戦えないよ?」

遊び人「逃げるのも良し」

勇者「いつも昼過ぎに起きるよ?」

遊び人「早起きして稽古しなくても良し!!」

勇者「俺は……」

遊び人「世界を救わなくても良し」

遊び人「村長の願いを聞き届けなくても良し!!魔物に襲われている村を素通りしても良し!!」

遊び人「世界に散らばった装備を盗んで集めるだけの簡単なお仕事です!!」

勇者「おいおい。さっきとは打って変わったな」

遊び人「死の恐怖を前にして、生きることに執着がわいてしまいました。善悪の比ではありませんでしたよ」

勇者「精霊の加護があると生に執着が沸かないみたいな言い方だな」

遊び人「そんなことありませんよ。私には生きるためにあなたが必要なんです」

勇者「俺の精霊の加護がだろ?」

遊び人「自由に考えて良し」

勇者「さっきも聞いた。まあいいか」

遊び人「いつか、冒険譚に載るといいですね」

勇者「何が」

遊び人「村を見捨てて。魔王も討伐しようとせず。寿命を手に入れようとする冒険者の物語」

勇者「人殺しと、寿命泥棒か」



運命の人とは、きまって不思議な出会い方をする。

10人にも20人にも心を求めて近づいては、拒絶されて気力もなくなった頃に。

下心もないまま会話をいつの間にかしている、やさしくてかわいい女の子。

無数の星が振り向いてくれない人に限って。

遊び人「あはは!お互い、大罪人ね!!」

月だけが振り向いてくれる運命なのかもしれない。
715 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/09(月) 00:46:08.50 ID:4y9IhOFv0
遊び人「一つだけお願いが」

勇者「どうぞ」

遊び人「バニーガールの格好じゃなくてもいいですか?」

勇者「自由に考えて悪し。着てください」

遊び人「明日世界が滅ぶなら考えてあげる」

勇者「明日滅ぶかなぁ」

遊び人「いいよ別に。明日、世界が滅ぶからなんなの。好きなもの食べて、本読んで、寝てやりましょうよ。それこそ、明日世界が滅びるとわかった時にやりたいことなんじゃない?」

勇者「いつでも出来ることだろそれ」

遊び人「当たり前だよ。いつでも出来ることは、世界が滅ぶ前にもできるってことだもの」

勇者「なんかウキウキしてないか?さっきまで足が震えてたのに」

遊び人「してるよ。私、生きてるんだって。怖かったのに、怖くなくなったって。ほら、今も」

勇者「おわっ!いつの間に!」

魔物の群れが現れた!

遊び人「記念すべき第一戦!私達の冒険の始まりだね!!

勇者「はぁー。誰にも自慢できない冒険譚になるぞこれ」




勇者  たたかう
    まほう
    どうぐ
    にげる▼



勇者たちはにげだした!




殺人勇者と泥棒遊者 〜fin〜

716 : ◆uw4OnhNu4k [sage]:2018/04/09(月) 00:59:18.43 ID:4y9IhOFv0
>>707
仮面浪人の道の時は細部まで丁寧にまとめてくださってありがとうございました。宜しくお願いします。
717 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/09(月) 01:06:29.47 ID:cOo0Bs2DO
718 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/09(月) 01:10:21.21 ID:Ue+fOZ2A0
719 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/09(月) 19:20:31.47 ID:WyNz/uSn0
720 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:18:12.53 ID:/yKl3BVY0

『焼餅(やくきもち)』


喉から手が出るほど欲しいものといえば。

青く見える隣の芝生。

赤く見える隣の花。

面白く聞こえるあの男の話。

やさしく聞こえるあの女の声。

賢く映るあの年下の頭。

美しく映るあの年下の顔。

死んでしまえばいいと願ったのは、それは私が努力しても手に入れられなかったものだから。

殺してしまいたいと望んだのは、努力しても手に入らないと諦めるほどの輝きだったから。

あらゆる欲望を包括する、この、嫉妬こそ。

人間を破滅足らしめる7つの大罪のうち、最も災厄の欲望である。

罪を背負わされて生まれし、罪なき人間に、精霊はただ願う。

【第7章 嫉妬の王国 『渇望の首飾り』】

さち、あれかし。
721 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:18:47.35 ID:/yKl3BVY0
〜嫉妬の王国〜

コツン…

旅の荒くれ者「ふっざけんじゃねえよぉおおおおおおお!!ぶつかってんじゃねえよクソ女ぁああああああ!!!!!」

怠惰「……邪魔よ」ジロリ

旅の荒くれ者「うっ……な、なんでもねえよぉおおお!!」



〜城内〜

怠惰「久しぶりに王国に来たのに、下民に触れて不快だわ」イライラ…

お姫様「あれー、怠惰なひきこもりお姉さま。働かずに何をしていたんですの?」

怠惰「あら、いたの。今のあなたに言われたくないわ。立派な遊び人さん」

お姫様「私は嫉妬様の身代わりになったの!!私が庇わなければ嫉妬様が遊び人にされていたのよ!!」

怠惰「庇ったんじゃなくて盾にされたんでしょ」

お姫様「あ、あなたね……」

怠惰「そんなことはどうでもいいわ。それより嫉妬様はどこ?」

お姫様「例の”旧”決闘場よ。いつも研究者の男どもといるのよ……」
722 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:19:39.06 ID:/yKl3BVY0
お姫様「そういえば、話に聞いたけど、あんたが捕獲していた勇者、逃げ出したそうじゃない。大罪の装備がありながら、自分の統括する故郷でまんまとしてやられたわね!!」

怠惰「…………」

お姫様「へへーん、なんか言ったらどうなの?」

怠惰「廃人にさせるわよ」ジロリ…

お姫様「ひっ……」

お姫様「せ、せいぜい見つかることを祈ることね!!あの遊び人を人質にしたら来てくれるかもしれないし」

バタン

怠惰「……来ないわよ。かつて、仲間を見殺しにした奴だもの」



〜外〜

主人「おら、さっさと働け!!!」バチン!!

奴隷「ひっ!!」

主人「俺の同僚がまた屋敷を建て替えたんだ。負けてらんねぇんだ……」


青年「……許せない。あいつが研究者に選ばれ、俺は落ちた……。いつも成績は及ばなかった……。なんで……なんであいつばっかり……」


令嬢「どうしてあの方は、小汚い農家出身の選んだというの……。何よ……私の何があの女に及ばなかったというの……。い、色仕掛けをしたに違いないわ……。穢らわしい……こ、ころしてやる……」ギリリ…



怠惰「何度訪れてもまともじゃないわね。負の感情で満ちた国」

怠惰「だけど、嫉妬という感情がこの国を覆うようになってから、以前にも増してこの王国は巨大な力を持つようになった。近隣国の滅亡と引き換えに」

怠惰「うちの故郷とは大違いね。今や怠惰な囚人が寝そべるだけ」

怠惰「私はそこで、何もせずただ日々を無為に過ごすだけ」
723 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:21:11.42 ID:/yKl3BVY0
〜旧決闘場〜

嫉妬「よく来てくれた」

怠惰「足枷を持ちながらの移動はしんどいですわ。これだけは肌身離さず持ち歩けと嫉妬様から言われてるから仕方ないですけど」

嫉妬「君のそばにあるのが一番安全だからな」

怠惰「このまま故郷を離れてたら故郷の囚人がやる気を取り戻してしまいそうです」

嫉妬「そうだな。全員に脱走されてしまうかもしれん。先日、あの男にも逃げられたそうじゃないか」

怠惰「……っ!!も、申し訳ございません!!」

嫉妬「俺は気にしていない。逃げ回るしか脳のない雑魚だ。あの男に私怨があるのは君の方だろう」

怠惰「ええ。あいつがのうのうと余生を過ごすことは私が許しません」

嫉妬「ふん、私怨を晴らすのは大罪の装備が見つかってからにしてほしいものだ」

怠惰「はい……。ところで、これを」

怠惰の勇者は報告書を嫉妬に手渡した。

怠惰「怠惰の装備が故郷に与える影響の記録です。いつものように、定刻に看守に記録させたものを集めています」

嫉妬「君自身が書いてある箇所もあるだろう。そこを読むのが愉しみでな」

怠惰「自分の装備の特徴について記して置きたいですから。私の身の回りの世話人、私と会話する道具屋、装備の持ち主である私と直接触れ合うものについての記録も残しています」

怠惰「ただ、申し訳ございませんが、世話人の勘違いか私の記載した今回報告分は破棄してしまったようで……」

嫉妬「そうか。殺したか」

怠惰「クビにしただけです」

嫉妬「相変わらず甘い女だ」

怠惰「ところで、嫉妬様は連日ここで研究者と何をしているのですか」

嫉妬「自動感知呪文の調整をしている」

怠惰「自動感知呪文?」

怠惰は地面に描かれた巨大な魔法陣を見た。


【TIPS】

嫉妬の王国には、二つの決闘場がある。

旧決闘場。新決闘場。

旧来使っていた決闘場が老朽化し、近年になってから新しい決闘場がつくられた。

旧決闘場は現在研究施設として使われている。

嫉妬の勇者が奴隷時代に、実験台にされていたのもこの旧決闘場である。
724 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:22:32.37 ID:/yKl3BVY0
嫉妬「感知には二種類の方法があるのは知っているな」

怠惰「1つは直接対象を絞り出す感知です。もう1つが、対象以外の要素を全て特定し、全体から差し引く感知です」

嫉妬「そうだ。差し引く感知は時間と魔力こそ膨大にかかるものの、世界規模の広さを範囲の対象にすることを可能にし、感知対策も無効化できる。エルフの里の特定も、魔王城の特定も、この方法によって可能にしてきた」

嫉妬「数多の勇者共の捕縛にもこの方法を使った。暴食の勇者、色欲の勇者を運良く感知にかけることもできた。大罪の装備は手放していた後だったがな」

怠惰「それで大罪の装備も?」

嫉妬「傲慢の盾は感知にひっかけることができた。赤い糸の呪文に気付く前は散々錯乱させられたがな。今は特集な物質であればたいてい感知することができる」

嫉妬「だが、封印の壺だけは別だ。あれは感情を物に閉じ込める研究によって造られた。直接にせよ間接にせよ感知をしようにも、ただの特徴のない壺に過ぎないのだ。世界中の壺と同じ扱いのため対象を絞りきれない」

嫉妬「だが、大罪の装備を抑え続けるには限界がある。壺が割れた時には、自動感知呪文が暴食の鎧と色欲の鞭を感知する」

怠惰「あの……その魔法陣の感知呪文を使えば、あの勇者も……」

嫉妬「ふはは。それは無理だ」

怠惰「感知の力を割くのさえもったいないと?」

嫉妬「ただの特徴のない壺と一緒だ。航海士だったか、無職だったか忘れたが、あの程度の男はあまりにも多すぎる」

怠惰「そうですか……」

嫉妬「もっといい方法がある。あの遊び人を日時指定で処刑すると脅せばよい」

怠惰「お姫様からも言われました」

嫉妬「不満か?」

怠惰「勝てない戦いに挑むような奴ではありませんよ」

嫉妬「利口ではないか」

怠惰「勝つための脳がないだけです」
725 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:24:07.76 ID:/yKl3BVY0
怠惰「今日私をここにお呼びた理由は何でしょう。大罪の装備の発見は、封印の壺が割れるまでの時間の問題に思えます。何もせず待っていれば自然と……」

嫉妬「怠惰の勇者らしい発想だ」

怠惰「申し訳ありません」

嫉妬「君の言う通りだ。だが、俺のやることはただ寿命を延ばすことだけではないのだ」

嫉妬「この旧決闘場は、研究施設の他にもう一つの顔がある。地下室にもう一つの”檻”としての役割がな」

怠惰「檻ですか。私の故郷と同じですか」

嫉妬「こちらに閉じ込めているものは人間の貴族などではない。そこでだ、怠惰の装備が与える影響を見せてくれ」

怠惰「はぁ、囚人ですか……。怠惰の足枷を使うまでもない対象だと思いますが」

嫉妬「そうかな」

怠惰「もしや、ドラゴンやゴーレムのような魔物でしょうか。あ。あるいは、勇者の生き残り……」

嫉妬「どちらかといえば、勇者に近いかもしれん」

地下の奥にたどり着いた嫉妬は、檻の中の”ソレ”を怠惰に見せた。

怠惰の表情は、凍りついた。
726 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:24:50.83 ID:/yKl3BVY0
遊び人が嫉妬の王国に囚われてから、時は過ぎ。

三ヶ月以上が経った。

その間に、嫉妬の王国は以前にも増して勢力を伸ばし。

怠惰の監獄には多くの罪なき人々が収監され。

魔王が君臨していた頃、いや、その時以上にも増して。

世界は不機嫌な表情を見せるようになっていた。

ただ1人を除いて。

研究者「国王。緊急のご報告です。自動感知に波形の乱れが現れました。封印の壺の耐久が間もなく尽きる前兆です」

嫉妬「ほほう、ようやくか」

嫉妬「いよいよ、俺の欲望を永遠に満たし続ける世界が訪れる」






「にへへへ!!そこの旅人のお姉さん!!どうですかこの僕のバニー姿!ようこそこの……」

旅人「ギャー!!!」

いや、ただもう1人を除いて。
727 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:26:05.12 ID:/yKl3BVY0
〜祭り 当日〜

お姫様「はぁー、退屈。嫉妬様は怠惰の女の故郷に行っちゃうし。お祭りの祝日で相手してくれる研究者もいないし。まぁそれは計画が順調に進んでるってことなんだろうけど」

お姫様「ねえ、あんた。独りぼっちって虚しくない?」

遊び人「…………」

お姫様「怠惰の監獄でもないのに死んだみたいな表情してるんじゃないわよ」

お姫様「ねえ、あんた、嫉妬ってしたことある?」

お姫様「私はあるわよ。金が無限にあるような地位に生まれて、音楽の才能も、術士としての才能にも恵まれて生まれてきたこの私でさえね」

お姫様「母親の愛情に恵まれている女を見ると、殺してやりたくなった」

お姫様「一番求めたいものを得られないから心に闇が生まれるの」

お姫様「持っている本人を見るなら憎悪。受け取っている他人を見るなら嫉妬。私は母を憎悪し、母親の愛情を受け取っている小娘に嫉妬した」

お姫様「もういいんだけどね。私には嫉妬様がいるから。それに、お父さんはちゃんと私のこと愛してくれてたっぽいし」

遊び人「…………」

お姫様「男に愛されないのが一番可哀想なことよ。本当に惨めな女。自分のせいで親がイカれた研究を続けて、里が滅んで、遊び人になってやっと出会った男にまで見捨てられた」

お姫様「嫉妬様はあんたを何かの材料として手元に残しておきたいみたい。もう人間としての余生じゃないわね」

遊び人「……見捨てても許してあげる。とかさ」

お姫様「は?」

遊び人「自由に生きて、っていうのはやさしさなんだろうけど。それは、以前の私なら平気で言ってた言葉なんだろうけど」

遊び人「勇者はきっと助けに来てくれる。そう信じてる。だから、見捨てたら許さないんだ」

お姫様「……羨ましい頭ね」
728 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:26:37.38 ID:/yKl3BVY0
夜になった。

お祭りが始まり、王国中は賑わいに包まれた。

奴隷は自由こそないものの、主人が家を留守にするため、一時的に労働から解放された。

色とりどりの呪文が夜空に打ち上げられ、鮮やかに城下町を照らした。



“魔王消滅の日”



世界中でそう噂されたのがこの日である。

嫉妬の王国だけでなく、世界中が今日という日を祝っている。

遊び人「そんな日に、嫉妬の勇者は怠惰の監獄に何をしに行ってるんだろうか」

遊び人「そんな日に、私はこんな場所でどうして閉じ込められているんだろうか」

遊び人「はぁー、勇者のお金使ってカジノに行って、大負けしてやりたいなぁ……」
729 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:27:39.45 ID:/yKl3BVY0
〜怠惰の監獄〜

高速移動型の鳥型の魔物が、手紙を運んできた。

怠惰「嫉妬の勇者様の文章だわ」

“怠惰の装備を奪い取った、勇者の徒党について記した後、この魔物を送り返せ”

怠惰「なによそれ」

怠惰は窓を開けて外を見る。

いつも通りの、ひとけの全く感じさせない虚しい故郷の夜だった。

怠惰「この魔物に遅れて、嫉妬の勇者様が今こっちに向かっているということよね」

怠惰「こんな記念すべき日に!!冗談じゃ済まされないわ!!」

怠惰「”魔王を討伐したのは嫉妬様なんだもの”」

怠惰の勇者は一言書き添え、手紙を魔物にくくりつけて送り返した。

“情報は嘘です。貴方が不在の嫉妬の王国に、侵入しようとしている者がいるはずです”

怠惰「嫉妬様への報告書が、世話人の勘違いで捨てたものだと思っていたけど……それがもし誰かに盗まれたものだとしたら。私の字体を模倣して、嫉妬様に手紙を送ったに違いない」

怠惰「私と嫉妬様の関係を知っていて、私の住処を知っていて」

怠惰「嫉妬様に敵対しているもので、私を知っている者。私の字体を判別した者」






怠惰「あいつ!!!!」
730 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:28:24.56 ID:/yKl3BVY0
〜嫉妬の王国 出入り口〜

怠惰「はぁ…はぁ…やっとたどり着いたわ」

怠惰は王国内に入ろうとした。

案内人G「待ちたまえ!!!!俺が案内してやろう!!!」

怠惰「急いでいるのよ。もうここの国のことは知ってるわ」

案内人G「今夜まつりが行われてることもか?」

怠惰「全部知ってるわ。邪魔よ」

案内人G「…………」

案内人G「確認案内料20,000Gになりまーす!!!」

怠惰「はぁ?」

案内人G「確認案内料、いただきまーす!!!貰うまで通せませーん!!!!お祭り見れませーん!!!!」

怠惰「ふざけるんじゃないわよ……」スタスタ…

案内人G「盗っ人だぁああ!!!情報の盗っ人が現れたぁああああああ!!!誰かお金を取り返してくれぇえええ!!!」

ザワザワ…

怠惰G「な、なによ!!こんなことで時間取ってる場合じゃないのよ!!」

怠惰G「は、払うわよ!!」

チャリン

怠惰は20,000Gを手渡した。

案内人G「うっほほー!!毎度ありー!!」

怠惰「後で覚えておきなさい……」

怠惰は怒りを抑えながら、王国内へ駆けて行った。

案内人G「はっはー!!愉快愉快!!」

案内人G「ようこそ!!強欲の都へ!!!」
731 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:28:58.78 ID:/yKl3BVY0
怠惰「な、なによこれ!!!!?」

怠惰は王国の中の情景を見て驚いた。

酒場主人「今夜は酒乱じゃなく、淫乱じゃああ!!!!!///」

バニーガール「いらっしゃいー!!お姉さんこれからいい店来ない?」

半裸の姿の男女が、まつりの熱に浮かれながら痴態を曝け出していた。

案内人S「お姉さん、お店をお探しですか」

怠惰「どうなってるのよ!!王国の中にこんな乱れた一画が出来てたなんて……」

案内人S「好きな男性のタイプはございますか。筋肉質、知的、肥え気味。お好みの職業もあればあわせて……」

怠惰「私が探しているのは普通の男よ!頼りない感じで、体格は貧弱な……」

案内人S「こんな感じでしょうか」ボロン

案内人Sはマントを脱いだ!

案内人Sがあらわれた!!

怠惰「っ!?」

怠惰は案内人Sを蹴り飛ばした。

案内人S「いひひひ!?!!いだいぃいいい!!!///」

怠惰「訳がわからないわ……」

怠惰の勇者は再び駆け出した。

案内人S「……色欲の谷へようこそ///」
732 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:29:33.42 ID:/yKl3BVY0
怠惰「慌ててたから、来る場所を間違えたのかしら。でも街並みは記憶のままだし……」

怠惰「あの、ちょっと聞いてもいいかしら」

案内人B「…………」ムシャムシャ

怠惰「ここの国の名前を教えて貰える?」

案内人B「……この肉は、ラム肉……」ムシャムシャ…

怠惰「違うの。肉じゃないの。国。ニクじゃく、クニ」

案内人B「このラム肉は……」

怠惰「だから、肉じゃなくて……」

案内人B「このクニの……」

怠惰「うん!」

案内人B「このクニのラム肉は美味……」

怠惰は案内人Bを蹴り飛ばした。

案内人B「うぼろろろ……」

怠惰「どいつもこいつも使えないわね!!」
733 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:30:26.64 ID:/yKl3BVY0
怠惰「何かがおかしいわ。祭りだからって、ここまで雰囲気が……」

案内人P「あらあら、お困りのようで。迷子の子供かい?」

案内人P「何でも知ってるこの俺が、特別に案内して差し上げてもいいが?」

怠惰「……案内人?」

案内人P「見ればわかるだろ?天才的な案内人だって」

怠惰「さっきから話しかけてくるのは案内人ばかり……」

怠惰「この異様な空気が洗脳によるものだとしたら、まだ洗脳にかかっていないものをこいつらが選んで話しかけている……?」

案内人P「何をぶつぶつ言ってるんだ?」

怠惰「教えて欲しいことがあるんです」

案内人P「ぐははは!!よろしい、特別にこたえてやろう!!」

怠惰「ここは、なんていう名前の場所ですか?」

案内人P「…………」

怠惰「あの」

案内人P「頭を地面に擦り付けてから、もう一度尋ねなさい」

怠惰「っ!?」

案内人P「なんか文句でもあるのか?教えてあげなくてもいいんだが」

怠惰「…………っ」ググッ…

怠惰は、腰を降ろし、地面に頭をつけた。

怠惰「……この国の名前はなんですか?」

案内人P「傲慢の街に決まってるだろ。馬鹿か」

怠惰「傲慢の街は遥か遠方にあるはずです、ここは嫉妬の王国のはずです」

案内人P「傲慢の街……嫉妬の王国……」

怠惰「あなたはいつからここで働いているのですか?」

案内人P「俺は……ずっとここで……案内人として……」

怠惰「目を覚ましなさい!!ここは嫉妬の王国よ!!あなた、冒険者の格好をした男に何かを吹き込まれたんじゃないの!?」

案内人P「俺は……この街を……傲慢の街だと旅人に伝え続けてきた……ま、ま、間違いなど許され……」

怠惰「目を覚まして!!」

案内人P:この街は世界で1番凄い街さ!!どのくらいすごいかって?手で表現すると……

怠惰「目が虚ろになった。神官が同じ表情をするのをみたことがある。もう何を話しかけても無駄ね……」

怠惰はあたりを見渡した。

店主「この店の料理は世界で一番うまいんだぜ!!」

客「この俺は、どんなにクソな料理でも世界で一番うまく感じる才能があるんだぜ!!」

怠惰「案内人の性格が、そのまま住人にも感染(うつ)されている……」

怠惰「以前王国を訪れたときも、おかしなやつらが声をかけてきた。そして、そいつらはどれもこの国の住人ではなく、旅の者だった」

怠惰「7つの大罪の地の影響を色濃く与えやすい案内人と、影響を色濃く受けやすい旅人」

怠惰「あいつが、仕込んでいたっていうの……」
734 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:31:30.09 ID:/yKl3BVY0
〜回顧〜

「あのー、すみません。旅の商人をしているものなのですが、ちょっと道を教えていただきたくて」

勇者「それはあの分岐点を右に進んで、それから……」

「わかりました!ありがとうございます!」

怠惰「勇者、何やってたの?」

勇者「道聞かれてさ、教えてた」

剣士「おとといも、その数日前も聞かれてなかったか?」

勇者「あー、確かに言われてみれば」

怠惰「よその国の人からしたら、そんなに賢そうに見えるのかしらねえ?」

勇者「全然納得してない顔」

剣士「冒険者が道を尋ねるのは、ある特徴を持った相手だって聞いたことがある」

勇者「なにそれ。気になる」

剣士「この人なら、助けてくれそうだって思う相手に人は道を尋ねるそうだ」

怠惰「信頼そのものじゃない」

剣士「実際どうしてくれるかはともかくな」

勇者「一言多いなぁ!!……あっ」

怠惰「ん?」

勇者「やべ、教えた道間違えたかも!」

剣士「ほらな」

勇者「ちょっと追いかけるわ!!」

タッタッタ…

怠惰「……なるほど」

怠惰「助ける力があるかじゃなくて、助けようとしてくれるかどうかってことなのね」
735 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:32:15.32 ID:/yKl3BVY0
TIPS

【案内人の特徴】

・案内人はその村に入ってきた者とファーストコンタクトを取る職業である。

・案内人が告げる街の名前を冒険者は疑うことなく信じる。

・入り口付近に立つ待ち人を冒険者は案内人と判断する。

【勇者の才能】

・よそ者と住民の判別の的中率が高い。

・声をかけられやすい。

・よその国の案内人を洗脳する話術を持つ。
736 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:33:29.71 ID:/yKl3BVY0
〜旧闘技場前〜

怠惰「凄い人だかりね……」コツン

案内人H「痛ってぇええええええええ!!!!!?」

案内人H「ぶつかってんじゃねえよぉおおおおおおおおおおお!!!?」

怠惰「……はぁ、またか」

案内人H「表出ろやあああああ!!!!」

案内人H「ってここ表じゃねえかぁあああああああああ!!!!!!!!」

怠惰「時間がないの。寿命に命は変えられないわよね」

怠惰は、道具袋から怠惰の足枷を取り出した。

怠惰「宴はおしまい」

案内人H「うらぁああああああ!!!!!!!!!!」

両足に足枷をはめて、怠惰は祈りを込めた。

怠惰「廃人と化せ」

怠惰の足枷が鈍く光った。





旧闘技場の周辺の道に立っていた大勢の人が、重なる様に地面に横たわっていた。

怠惰「うぐっ……さすがにこの人数にかけるのは代償が大きいみたいね……」

怠惰は心臓部分の胸部を抑えながら、死体のように転がっている人の群れの上を歩き出した。
737 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:34:38.73 ID:/yKl3BVY0
旧闘技場の中に入り、怠惰は地下室の前へと辿り着いた。

一人の女性が座り込んでいた。

案内人T「…………」

怠惰「あなたも邪魔する気?」

案内人T「……喋りかけないでよ。さぼってるところなんだから」

怠惰「……あなた、もしかして、アカデミーで一緒だった」

案内人T「あれ……怠惰ちゃん?」

怠惰「何してるのよ、こんなところで」

案内人T「何って、故郷の案内人よ」

案内人T「故郷のみんなは嫉妬の王国に連れて行かれちゃったけど。故郷で働くことを許された奴隷は、定期的に嫉妬の王国と行き来することになってるの。故郷は気が重くなる瘴気で満ちて働けなくなってしまうから」

案内人T「嫉妬の王国で休養する間は、私達は働かなくてもいいの。はやく交代の日が訪れないかなぁ……」

怠惰「今の故郷はつらい?」

案内人T「そりゃあね。夢も希望もないよ。でも、頑張る気力もないから、希望を打ち砕かれる絶望もない」

怠惰「そう……」

案内人T「そろそろ魔法石に触らなくちゃ、さぼってるのがばれちゃう」

怠惰「あのね、あなたが今いるここは……」

案内人T「なに?」

怠惰「いいえ。何でもないわ。お勤めごくろうさまです」

案内人T「えへへ。働いてないよ」

怠惰「ちょっと教えてくれる?勇者のやつここを通っていかなかった?」

案内人T「さっき通っていったよ。門番もさぼって寝てたからすんなりとね。まだ戻ってきてはないなぁ」

怠惰「わかった、ありがとう。またね」

案内人T「またね〜」
738 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:35:29.15 ID:/yKl3BVY0
研究所地下内の複雑な経路を抜け、怠惰は探し求めていた相手と対峙した。

その男は、痩せ細った女性を両腕に抱えていた。

「相変わらず凄いね。これだけ事前準備を尽くしたのに、立ちはだかってくるなんて」

怠惰「逃げること以外を覚えたのね。どうしてここにその子がいることが特定できたのかはわからないけれど。あなたの冒険は今度こそ終わりよ」

「いつまでもにげることを許してくれないんだな」

怠惰「あなたを逃げさせないことが、私の死なない甲斐といってもいいほどなんだもの」

「弱者の僕は、そんな風でありたかった。その強さも、賢さも、全てが妬ましかった」

怠惰「一番この王国にふさわしいことを言うじゃない」

「もちろん。今や、この国の案内人なんだから」

勇者「ようこそ。嫉妬の王国へ」

勇者があらわれた!
739 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:36:25.76 ID:/yKl3BVY0
勇者は遊び人を地面にそっと横たわらせた。

遊び人「……ごめんね。無理やり来させちゃって」

勇者「小指のずっと見えてたし。気づいてたし」

遊び人「ほんとう?」

勇者「こっちだって色々準備整えてたのに、毎日ガンガンに引っ張りやがって」

遊び人「3ヶ月も待ちくたびれたよ。いつから気づいてた?」

勇者「こっちのセリフだよ。いつから巻き付けた?」

遊び人「勇者が寝てる時」

勇者「いつでも寝てたからなぁ、昼過ぎまで」

遊び人「ふふっ、たしかに」

勇者「遊び人」

遊び人「なに?」

勇者「今日は、たたかう」

勇者は剣を抜き取った。

怠惰「……いいじゃない。精霊の加護がなくなった今、本当の死の恐怖を思い知らせてあげるわ!!」
740 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:37:15.49 ID:/yKl3BVY0
怠惰は声こそ荒げながらも、頭の中は冷静だった。

怠惰の足枷を使用し、剣を交えることもなく戦闘を終えるつもりであった。

怠惰は道具袋に手を伸ばした。

同時に、勇者も道具袋に手を伸ばした。

怠惰は足枷を掴んだ。

勇者は複数の魔法石を掴んだ。

ブオン!!

地下室の灯りが全て消えた。

怠惰「くっ……消灯させたのね。相変わらず正面から戦わない男ね」

怠惰は構わず装備を取り出した。

勇者「それだけじゃない」

地震のような音が頭上から響いてきた。

「おいこのやろおぉおおお!!ゲームのはじまりの合図が鳴ったぞぉおおおお!!」

「勝利条件が表示されたぞぉおお!!」

「一番最初に虹色の卵を見つけたやつは……30万Gだと!!?」

怠惰「足音がする……!自分の位置を把握させないつもりね!!」

怠惰は神経を尖らせた。

左手で剣を構え、右手で装備を地面に落とした。

わずかな動きも捉えようと、暗闇を注意深く見つめた。





ピカン!!!

怠惰「くっ!!?」

眩いばかりの光が勇者の剣先から輝き、怠惰の瞳に映った。
741 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:37:52.83 ID:/yKl3BVY0
怠惰「ど、洞窟照らしの呪文!!それも、無口詠唱で……」グラ…

勇者は怠惰を地面に投げ倒した。

怠惰の勇者は頭を強く打った。

カランカランという音、ドタドタという音、するりと右手から物が抜ける感触。

混乱する頭でも、大切なものがこの一瞬の間に、憎しみの対象から奪われていることを理解していた。



「おい、真っ暗だぞ!!灯りをつけろ!!」

お祭りのゲームに夢中になっていた住民は叫んだ。

魔法使いが洞窟照らしの呪文を唱えた。

怠惰「ぐふ……」

「お、おい。何寝てるんだ?」

怠惰「この研究施設でゲームだなんて、許されるわけもない。賞金なんて嘘っぱちよ」

「ないってどういうことだよぉおおお!!!?ふざけんじゃねえぉおおおお!!!?」

怠惰「怒りっぽい住民ばかりね。おそらく憤怒の案内人から噂を流されたんでしょうね。当人も騙されてるんだろうけど」

怠惰「虹色の卵なんて……人をどこまで侮辱したら気が済むのかしら」

怠惰は惨めさに打ちひしがれながら、立ち上がろうとした。

しかし、自分の脇にあったはずの足枷が奪われていることに気づき、立ち上がる気力を失った。

怠惰「あんな装備に頼ろうとしたから、負けたんだ。最初から私も明かりをつけていればよかったんだ」

怠惰「ここのところ、戦闘をさぼっていたから、勘が鈍りすぎちゃったみたい」

怠惰「嫉妬様に、殺されちゃうだろうなぁ……」

怠惰「また、逃げられちゃった」
742 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:38:25.60 ID:/yKl3BVY0
怠惰は、勇者が人混みに紛れ、地上に逃げ込んだものと思い込んでいた。

勇者「おい、どこ行くんだよ!!」

遊び人「……見て欲しいものがあるの。聞いた話を紡ぎ合わせただけで、確証はないんだけど」

遊び人は自分を抱える勇者に指示を出し、地下内の別の場所に移動させていた。

勇者「もしかして、憤怒と傲慢の装備があるのか?」

遊び人「それはここにはないよ。嫉妬の王国に影響を与える装備を、あいつはこの王国に置きたがらないみたい」

勇者「確かに、混乱は生じやすくなるからな。奴隷を統治する国ならなおさら、不安定な要素は置きたくないだろうし。実際俺がやった作戦も、いろんな国の要素をこの国に集めることだったし……」

遊び人「何してたの?」

勇者「あとで説明するよ」

遊び人「わかった。ところでさ、強くなったね」

勇者「えっ、さっきのか。あんなの……」

遊び人「私のこと持ち上げてるじゃん。お姫様抱っこ」

勇者「こっちか。お前が軽くなったんだよ」

遊び人「そうかなぁ」

勇者「そうだよ」

遊び人「お姫様抱っこする人は、どんな人か知ってる?」

勇者「王子様?」

遊び人「残念、勇者様でした。だから、勇者様抱っことも呼ぶの」

勇者「余計なこと喋るとつかれるぞ」

遊び人「余計じゃない人と喋ることに余計なことなんてないよ」

勇者「ど、どうも」

遊び人「あはは。照れてる」
743 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:39:18.40 ID:/yKl3BVY0
勇者「はぁ…はぁ…、まだか。あんまり寄り道してると、嫉妬の勇者が……」

遊び人「この先だよ。ごめんね、もう自分で歩くから」

遊び人はふらふらの状態であったが、勇者の肩を借りながら歩き出した。

長い廊下だった。

奥に大きな檻と魔法陣、そして巨大な結界と鎖が見えた。

勇者「何だよあれ、何が閉じ込められているんだよ」

遊び人「魔物だよ」

勇者「魔物?」

勇者はコツコツと歩き出した。

遊び人「私を救いに来る者もいないと笑っていたお姫様は、いろんなことを話してくれたわ」

遊び人「魔族には四天王と呼ばれる強大な存在がいた」

遊び人「砂の怪物。それは砂粒の魔力の集まりのような存在で、大きな一体の魔物でありながら無数の魔物の群れでもあった。あらゆる物理攻撃が効かないとされていた。しかし、暴食の鎧を身に付けた暴食の勇者によって食された」

遊び人「夢を司る球体。戦闘者を自分の夢の世界の中に引きずり込むの。そこは球体がかつて訪れていた場所で、夜が開けるまでに幼い頃の球体を見つけ出して破壊しないと夢に飲み込まれるの。色欲の鞭を装備した色欲の勇者によって、安眠を妨害させて撃退した」

遊び人「召喚を司る少女マリア。自分で創造した絵を具現化させたり、対象者のコントロールを得る人形を吐き出すことができる。憤怒の兜を身に付けた憤怒の勇者によって倒された」

遊び人「再生を司る巨壁。膨大な体力を持ち、自身を完全回復させる祈りの呪文を唱えることができる。攻撃の祈りもとても強力で、相手を腐敗させる光を放ち、それには回復の呪文を無効化する禁術級の状態異常が付与されている。強欲の腕輪を身に着けた強欲の勇者によって倒された」

遊び人「そして、側近と呼ばれるもの。精霊殺しの陣の設計者。魔剣の管理も任されていた。罠の呪文を得意とし、いかなるところからの攻撃も反射すると言われていた。怠惰の足枷を使用した怠惰の勇者によって、衰弱死させられた」

遊び人「彼、彼女らは主君を守るために存在していた。特殊なまじないによって、主君自ら手出しをしなければ相手からも気づかれない、村や街のような守護の中に隠れていたの。守護者がいなくなったことで、主君は認知不可の領域から放り出された」

遊び人「彼はかつての世界の支配者。魔族の頂点に立つもの。嫉妬の勇者を精霊ごと一度殺害するも、ストックされていた精霊により復活され、再び戦いを挑まれた。嫉妬の勇者を殺害足らしめた彼独特の呪術は全て攻略化・無効化され、二度目の戦闘では為す術もなく倒された」

遊び人「嫉妬の勇者は、その存在を殺害しなかった。強力な呪力をもつものとして、この奥に閉じ込めた」

勇者「それじゃあ、まさか……」

勇者達は偉大な存在の前に歩み寄った。

漆黒のローブに覆われた、人型の魔物が立っていた。

勇者「こいつが、魔王!」



魔王があらわれた!
744 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:39:59.96 ID:/yKl3BVY0
幾重にも張り巡らされた結界のせいで、容姿をはっきりと確認することは難しかった。

勇者「魔王は生きていたんだ!!この世から消えてなどいなかった!!」

遊び人「ええ。でも、これを生きているといっていいのか……」

遊び人「魔王の消滅の噂と同時に、瘴気は薄まり、魔物の出現もずっと少なくなったわ。それはもうこの魔王の力が世界に及ばないことを意味しているんだと思う」

勇者「それじゃあ、こいつは何のために閉じ込められているんだよ」

遊び人「……触媒よ」

勇者「触媒?」

遊び人「巨大な魔力を持つものは、特殊な呪文の発動を成功させやすくするの。里にいた頃の幼い私がそうであったように」

勇者「呪文って、どんな……」

勇者はつぶやきながら、大きな空の容器があることに気づいた。

勇者「あの空の容器は、何に使うんだ?」

遊び人「……空じゃないわ」

勇者「でも、何にも入って」

遊び人「私には、精霊が見えるから」

勇者「それって……!」

遊び人「ここで勇者を殺して、宿りついた精霊を保管しているよの」

遊び人「あなたと旅をしてから出会った、勇者達の精霊もそこに……」

崩れそうになった遊び人を、勇者が支えた。



その時だった。

「おーい、そこにいるのは誰だ。魔王様の手下かぁ?」

研究者Aがあらわれた!
745 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:40:48.83 ID:/yKl3BVY0
勇者「遊び人、下がれ!」

勇者は剣を構えた。

「庶民共がぞろぞろ大事な研究施設に入っていくもんだから驚いちまったよ。門番はサボってるし、住民は血気盛んだし、この王国はどうかしちまったんかね。それとも、全部あんたの仕業か?」

勇者「ぐっ……」

「西方の国に伝わる物語だったか。笛を吹いた少年に町の子供がついていき、ほらあなの中に閉じ込められてしまうお話は」

「よその国の案内人がこの国に何人も紛れ込んでいた。捕らえて状態異常を回復する呪文を何度もかけて、ようやく記憶を取り戻したようだった。ある一人の案内人を名乗る男に話術で洗脳され、ここに連れてこられたって」

「まずは旅人を騙すところから始めたんだろう。嫉妬の王国に他の大罪の性格を持ち込み始めたんだ。そして嫉妬の王国の住民にも次第に影響が伝播し始め、今夜のお祭りの開けたムードによって各国の色が爆発した」

「嫉妬の性格という統一した性格によって秩序が保たれていたこの国だったが。大食らい、変態、自慢屋、怒りん坊、がめついやつ、サボり人が溢れ出したら秩序なんて崩壊する。現に今、脱走や反乱を試みている奴隷への対応で兵士共は必死だ」

「世界のどこにあるかわからぬ物を探すのに必死で、研究者はこの国の異変にろくに目を向けようとはしなかった。庶民と触れるようなことも普段からしないからな」

「本当に見事だ。並大抵の洗脳術じゃない。案内人という職業の特権を、才能を、ここまで活かす者がいるとは思わなかった」

「で、だ」

研究者は懐から魔法石を取り出した。

「戦闘用の術士に危険信号を知らせておいた。間もなくここに来る。彼らにここの存在は秘匿なんだが、まああとで全員分記憶を消せばいいだろう」

「さて、目的を話してくれないか。怠惰の足枷を奪い、魔王の膝下まで来たわけを」

研究者が右手を振りかざした。

勇者が反応するよりも早く、怠惰の足枷が小さな結界の中に封じ込まれた。
746 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:41:22.13 ID:/yKl3BVY0
勇者「くそっ!」

遊び人「そんな……。ごめん、私がこんなとこに寄ろうって言わなければ……」

勇者「こいつを気絶させて結界を解いて、足枷を使って全員気絶させれば済む話だ」

「ただのガリ勉だと舐められちゃ困るな」

研究者は頭を指でかいた。

勇者「行くぞ」

勇者は地面を蹴った。

研究者は空中に小さな結界を創った。

勢いよく駆け出した勇者のみぞおちにめり込んだ。

勇者「ぐぉっ……」

研究者「空中に固定する結界だ。僕が飲み物をちょっと置きたくなった時なんかに使う」

勇者「うぁああ!!!」

勇者は小さな結界を避け、再び勢いよく駆け出した。

研究者は再び右手をふるった。

勇者「うぁっ!?」

勇者は足を空回りさせ、激しくころんだ。

研究者「時縮化の呪文だ。少し足をはやくしてやった」

勇者「く、くそっ!!」

勇者は怒りの形相を見せた。

勇者「死ね!!」

やけっぱちな言葉を吐き、剣を投げつけた。

研究者「ぶははは!!小悪党のセリフじゃないか!!」

研究者は再び結界を出して、剣を弾こうとした。

その瞬間に、剣先から眩い光が放たれた。

研究者「なっ!?」

研究者の前に出現し始めていた結界は消滅した。

剣を避けるため強引に研究者は身体を反らした。

勇者「うおらぁあああ!!!!」

勇者はすてみでたいあたりした。

研究者のふところに向かって突撃した。
747 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:42:22.39 ID:/yKl3BVY0
勇者「いっ……」

勇者「痛ぇえええ!!!」

「ごめんごめん、身体のまわりに結界をつくることにしたんだよ。間一髪だ」

研究者は右手を勇者の頭にかざした。

「燃やすことも、突き刺すことも、頭ごと結界に閉じ込めることも何でもできる。大人しく処刑されるのを待つんだな。今すぐ死ぬよりかはいいだろう?そうでもないか?」

勇者は身動きが取れなくなった。

「恋人との冒険ごっこもおしまいだ。さて、奥にいるお嬢さんも大人しく……」

遊び人は、研究者の顔を見つめていた。

「ん、どうした?」

遊び人「……えっと」

「惚れたか?」

遊び人「い、いいえ……」

「違うのかよ。じゃあいいや」

遊び人「あの、お父さん……」

「いやいや。なにそれ、そういう甘え方するから許し方してもらおうってこと?ダメダメ。愛する妻と息子は裏切れないよ」

遊び人「ち、違います!」

遊び人「わ、私の父の知り合いですか?故郷の研究書物の挿絵にあった似顔絵に、見覚えが……」

「…………」

「あ、あんた……」

同僚「あの馬鹿研究者の娘か!?」
748 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:42:49.73 ID:/yKl3BVY0
同僚「ま、まてまて。えーっと」

同僚「嫉妬の奴隷が脱獄した時に、バカ上司に逆らってあいつは左遷されて」

同僚「大罪の賢者の里を滅ぼすようなことをやらかした。そこの里から生き延びた少女が一人いて」

同僚「その子は最近捕らわれて、この国のどこかに幽閉されていて」

同僚「と思ったら抜け出して、今ここにいる、ってことか」

同僚「まじかよ……。俺もあの嫉妬様脱獄事件が起きてから、結界の開発に関わってたもんだから、あんたの情報なんかろくに入って来なかったんだよ……」

同僚「……困った。これは非常に困った」

遊び人「何が困ったんですか?」

同僚「俺は、あんたの父さんのことが好きだったんだ」

勇者「えっ……」

遊び人「え、えええええ!!?」

同僚「おい男引くなよ。それは勘違いだよ。というかなんで嬢さんは嬉しそうな顔をしてるんだ?」
749 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:43:42.24 ID:/yKl3BVY0
遊び人「ち、父と……ぶふぉっ……!わ、わたしの父とどういう関係で?」

同僚「ただの同僚だ。理屈っぽくて、小難しい話をするやつだが、親父さんのために研究を続ける熱心なやつだった」

同僚「俺がこの仕事を辞めようか迷った時も励ましてくれたりしてな。なかなか大変な仕事でな、周りはやめて楽になれなんて気軽に言うんだけど、あいつだけは熱心に引き止めてくれたんだ」

同僚「少し前のことになるが、俺の開発した結界のおかげで1つの町を自然災害から救うことができた。他国を侵略してばかりのこの王国の研究者として働いて、あんなに感謝されることになるとは思わなかったよ。実は、今の妻ともそこで出会ったんだ」

同僚「返そうにも返しきれない恩を受け取ったまま死なれちまったんだ。またあいつと仕事ができたらどんなにいいだろうって今でも思うほどだ」

同僚「うーん、どうしたものか……」

同僚が頭を抱えていると、足音が近づいてきた。

同僚「まずいな。仲間が来てしまった」

勇者「ええー……」

遊び人「あなたが呼んだんじゃん……」

同僚「大丈夫だ。この国の結界は、俺の管轄そのものだ」

同僚は右手を空中に突き出し、ゆっくりと円を描き始めた。

石臼がひかれるようなごろごろとした音が聞こえた後、カチッ、という音が聞こえた。

同僚「ほら、持て。ちょっと特殊な仕組みで、脱出呪文は使えないのでな。常に持ち歩いてる」

懐から移動の翼を3つ取り出し、念を込めた。

同僚「仲良く頭をぶつけるぞ!!」

遊び人「ちょ、ちょっと!!」

三人は地下で移動の翼を利用した。

天井をすり抜けて、地上へと降り立った。

人気のない、修理中の屋外便所にたどり着いた。
750 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:44:53.47 ID:/yKl3BVY0
同僚「王国の外に出て、移動の翼を使え。さすがに国に張られた守護を全て解くことはできん。かなりの人数と時間を要する」

同僚は移動の翼を何枚も手渡した。

同僚「悪いが、俺ができるのはここまでだ。今すぐ地下に戻って、他の研究者には悔しそうな顔をする予定だ。家庭ある身なんでな」

遊び人「充分です。本当にありがとうございました」

同僚「あんた、そこの子を守ってやれよ。その子に生きててほしいと願った者達のためにも」

勇者「はい」

同僚「達者でな。こんなクソまみれの王国、さっさと滅ぼしてくれ」

研究者は移動の翼を掴み、念じた。

地面に吸い込まれるように、瞬く間に姿を消した。
751 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:45:52.80 ID:/yKl3BVY0
勇者「……遊び人」

遊び人「ええ。今度こそ逃げましょう」

勇者「ここまでうまくいくとは思わなかった。もう切り上げどきだ」

勇者「とにかく、王国の外まで!!」



勇者達は走り出した。

祭りで浮かれる人混みの群れに逆らい、王国の外へと。

赤い糸の呪文で結ばれている2人だったが。

自然と、手を繋いでいた。

もう、はぐれないように。

もう、はなれないように。



もう……。






ゴォオオオオオ…………

遊び人「な、なんなの……」



ゴォオオオオオオオオ…………



遊び人「あの巨大な黒雲は……」

勇者「遊び人、伏せろ!!」





―――雷が降り注ぐ一瞬、世界は無音に包まれた―――





752 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:46:57.41 ID:/yKl3BVY0
王国の広場には、巨大な大穴が空いていた。

そこは奇しくも、かつて奴隷に空から降り注いだ精霊が宿った場所であった。

脱走を試みていた数多くの奴隷は、黒焦げの死体となった。

住民も、奴隷も、貴族も、研究者も、全員が恐怖に引き攣った顔をしていた。



嫉妬「異変は薄々感じていたが。それよりも大事な用事に最近追われていたのでな」

嫉妬「さて。この国の誇りを取り戻そうではないか」

祭りの陽気さは消え去り、一瞬にして冷たい空気が辺りに流れた。



遊び人「どうしよう……嫉妬が到着したんだわ」

遊び人「もしも、勇者が案内人だってことがばれたら、直接感知で特定されてしまうわ。この国にいる案内人はそう何十人もいないはずだし……」

勇者「いや。それは大丈夫なはずだ」

勇者「俺は今日感知呪文に一度もひっかかっていないんだ。さっきの研究者も、案内人が混乱の源だと踏んでおきながら、感知呪文で探したとは言っていなかった」

勇者「王国内だと移動呪文が唱えられないように、感知呪文を唱えられない制限があるんだ。自動感知呪文のような巨大な装置を除いて」

遊び人「……なるほど。この王国の中で感知呪文を使う者がいるとしたら、それは嫉妬の勇者を暗殺したい敵対国なんかに違いないよね」

勇者「今はとにかく、王国の外へ逃げるんだ」
753 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:49:08.10 ID:/yKl3BVY0
勇者達はにげだした。

しかし、まわりこまれてしまった。

兵士「これより、一切の出入りを禁ずる!!」

兵士「王国を囲うように見張りを張り巡らせた!!」



遊び人「どうする、勇者。術士があちこちに……それに、戦闘用の魔物も、王国を囲うように配備されているみたい。王国の中でじっと隠れてる?」

勇者「研究者がいうには、結界の調整には数日要する。感知呪文の規制を解いたら、”案内人”にフィルターを掛けて俺を探すつもりだろう」

遊び人「為す術ないね」

勇者「そうだな。様子もわからないし、とりあえず、脱ごっか」

遊び人「はっ?」



〜防具屋〜

遊び人「どう、似合う?」

遊び人は魔法のドレスを身に付けた!

勇者「もっと黒くてピチピチした格好の方がよかったんじゃないか?」

遊び人「バニースーツ着させようとしないで。また殴っちゃうよ」

勇者「しばらくは様子を伺おう。隙きを見て逃げ出すんだ」

遊び人「隙きなんて見せてくれるかなぁ」

勇者「数時間後の俺が頑張って作り出してくれるさ」

遊び人「おお、頼もしいね」

勇者「まずは腹ごしらえでもしよう」

遊び人「いいね。なんか、ひさしぶりだね」

勇者「なにがだ?」

遊び人「こういうのだよ。こんなことをしてる場合じゃないのに、こんなことをしている感じ」

勇者「そうだな。こういうの、久々だな」
754 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:50:07.64 ID:/yKl3BVY0
勇者「ふぅー、食った食った。横になりてぇ」

遊び人「こんな非常時に」

勇者「なーんかいい脱出方法ないかぁ〜」

遊び人「いい仕事ないかなーみたいなノリで言わないで」

勇者「足枷を使って国民全員気絶させるとか」

遊び人「何人いると思ってるのよ。それに寿命がどれだけ消費されるか……」

勇者「実際、どれくらいなんだろうな。各装備の寿命の消費量」

遊び人「個人の寿命がどれほどのものか不明だから実験さえできないけど。使用感による目安はあるってお姫様が言ってた」

遊び人「嫉妬の首飾りは、自分を死に至らしめた呪術に対して効果を発揮するでしょう?初見の呪術の吸収、つまり攻略化によって寿命は大きく浪費する。でも、一度攻略化した呪術に対する無効化にはほとんど消費しないみたい」

遊び人「だから、例えば魔王が独特の呪術で嫉妬を殺害したとして。殺害されたタイミングでの攻略化には寿命を大きく消費するんだけど、二度目以降の戦闘で魔王がどれだけ呪術を放っても、ほとんど寿命を消費せず無効化できるの」

勇者「一度死ぬことが前提の装備なんだよなぁ。それこそ精霊の宿った勇者しか使えないような装備じゃん」

遊び人「そうでもないみたいよ。一度攻略化した呪術に対しては、他の者が嫉妬の首飾りを装備しても無効化はできるみたい」

勇者「じゃあ俺が首飾りを奪えば、魔王も倒せるってことか。便利だな」

勇者「というか、無効化に寿命ほどんど使わないなら、強欲の都の時の戦闘みたいに嫉妬はマハンシャなんかかける必要なかったんじゃん」

遊び人「吸収するより跳ね返す方がいいでしょう。それに、寿命なんてたとえ一時間でも削りたいものではないんだから。塵も積もれば山となるもの」

勇者「嫉妬は大罪の装備を全て集めて、何をするつもりなんだろう」

遊び人「永遠の命でも欲しいんじゃないかな」

勇者「永遠の命かぁ」
755 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:51:21.44 ID:/yKl3BVY0
2人は出店で販売されていた、魔物のお面を被りながら王国を歩いた。

巨大な落雷により、お祭りムードは消え、人々は緊張感に包まれていた。

勇者「……嫉妬の勇者だ。遠くに見える」

遊び人「私達を探しているのかしら」

勇者「どうしよっか。さっきの修理中のトイレを壊して、下水管の中にでも隠れようか?汚物に塗れるかもしれないけど、絶対探して来ないと思うんだ」

遊び人「うーん……やだなぁ。命と天秤にかけるなぁ……」

勇者「あっ、研究者が誰か連れて出てきたぞ」

遊び人「……怠惰の勇者だね」

勇者「…………」

遊び人「こ、殺されちゃうのかな」

勇者「…………」



嫉妬「なんだこの有様は」

怠惰「申し訳ございません……」

嫉妬「怠惰の装備が盗まれたというのは、事実とは異なるのだな?」

怠惰「いえ……」

嫉妬「いえ?」

怠惰「う、奪われました……」

嫉妬「奪われた?誰に?」

怠惰「ゆ、勇者です……」

嫉妬「…………」

嫉妬は、怒りの形相を見せた。

嫉妬「無能がぁ!!!!」

嫉妬が放った雷撃によって、付近にいた住民は焼かれた。

倒れて痙攣する者がいても、全員恐怖で身動きが取れないようであった。

嫉妬「来い!!」

嫉妬は怠惰を掴んで。引きずり出した。

人垣がさぁーと開いて道を開けた。

遊び人「まずい、こっちに来るわ!!」

勇者「教会がある!!とりあえず入るぞ!!」
756 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:51:51.01 ID:/yKl3BVY0
〜教会〜

遊び人「通り過ぎたようね」

勇者「暴君だな。かつて自分が奴隷にされていたからか、住民に対する容赦がないな」

遊び人「あー、本当に心臓に悪いね。いつ死ぬかもわからないって気持ち、ずっと忘れてたから」

勇者「……ごめん」

遊び人「どうして謝るの?」

勇者「精霊の加護がないから……」

遊び人「そこっ!!?」

勇者「えっ?」

遊び人「あははは!!!」

2人しかいない教会で、遊び人は大声で笑いだした。

勇者「……怒るよ」

遊び人「あはは、ごめんごめん。大きな心でやさしく受け止めて」

遊び人「ねえ、だってさ。精霊の加護もないのに、救いに来てくれた方がよっぽど嬉しいことだと思わない?」

勇者「嬉しい嬉しくないの問題じゃないだろ……」

遊び人「嬉しいことは問題にならないのよ」
757 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:52:44.75 ID:/yKl3BVY0
勇者「今更聞くのも恥ずかしいんだけどさ。どうして俺なんかを頼ってくれたんだ。精霊の加護があったからかな……」

遊び人「頼る?何を偉そうなこと言ってるのよ」

遊び人「強そうだとか。賢そうだとか。お金を持っていそうとか。はたまた精霊の加護があるからとか。あなたの長所を頼って一緒に冒険をしようとしたんじゃないのよ」

勇者「じゃあ」

遊び人「放っておけなかったの」

勇者「なんだそれ」

遊び人「なんだろうね、よくわかんない」

遊び人はニッコリと笑った。



遊び人を救うまでの三ヶ月間、勇者は心身をすり減らして動き続けた。

動きながら、身体を鍛えて、動きながら、賢くなった。

勝ててよかった、と勇者は心底思った。

今、この瞬間のためだけにも。

寿命を削り、気力を削り、努力をした甲斐があったと。

少しでも生まれ変わった自分に、彼女の笑顔に、安堵した。
758 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:54:11.58 ID:/yKl3BVY0
遊び人「はぁー。教会でこんな大声で笑ったの初めて」

勇者「神官もいないしな。お祭りだからだろうか」

遊び人「ねえ、この建物、本当に教会なのかな?」

勇者「教会だろ。外から見た時十字架のマークあったし。立派な教卓も前方に置いてあるし。横に長い椅子も見覚えのある形だし」

遊び人「うーん。明かりも付いてるし、鍵もかかってなかったし、確かに機能はしてるんだろうけど」

勇者「何がそんなに気になるんだよ」

遊び人は教卓の方に歩いていった。

遊び人「呪文集があるわ」

勇者「それがどうした?」

遊び人「たぶんね。今ここは、アカデミーの代わりに使われているのよ」

勇者「こんな小さな建物なのに?」

遊び人「孤児か、あるいは奴隷の子供のための施設なのかもしれない。肉体労働以外の仕事にも従事させるために」

遊び人「嫉妬はさ、今神官の職業をしているわよね。だから、精霊の加護を持つ者がこの国で倒れた場合、嫉妬の前で蘇ることになると思うの」

遊び人「もしも他に神官がいたら、その神官近くで蘇ってしまうことになるわよね。各国の勇者の精霊を集めている嫉妬からしたら、他の神官のところで蘇られて逃亡でもされるのは痛手よね」

遊び人「だから、おそらくこの国にいた神官を全員クビにしたはず。自分だけがこの国の神官となるために」

勇者「……なるほど」

遊び人「この発見を嫉妬の撃退に活かせないかな?」

勇者「うーん、もう俺達に精霊の加護もないしなぁ。特に々思い浮かばないな」

勇者「それに、今日はお祭りだろ?神官も息抜きに各国から来ているんじゃないかな」

遊び人「うーん……」
759 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:56:19.25 ID:/yKl3BVY0
勇者達が考えあぐねていると、拡声石によって王国中に嫉妬の声が響き渡った。

嫉妬『国王が留守の間に、随分浮かれていたようだな』

嫉妬『勇者と遊び人、お前らもまだこの王国の中にいるはずだ』

嫉妬『俺は今から国民の前で3つのことを言わせてもらう』

嫉妬『1つ。怠惰の勇者を捕らえた。浮かれて奴隷の統治すらもできなくなった国民への見せしめとして、今から1時間後にこの女を新闘技場にて処刑する』

嫉妬『1つ。勇者よ、1時間以内に怠惰の足枷を持って遊び人を闘技場に連れてくれば、お前の命は保証する。好きな国へ飛ぶがよい。奴隷を統治するこの国では、約束を反故にすることの弊害は大きいから安心しろ。お前一人の命が救われようが俺にとってはどうでもよい』

嫉妬『1つ。いかなる者もこの国を出ることは許さない。脱出は不可能だ。王国を囲うように術士を配備しており、結界で出口を塞いでいる。移動の翼で空から脱出しようとするものは、俺が全て落雷で撃墜する。飛行系の魔物も配備している』

嫉妬『利口な選択をすることだな』




遊び人「勇者……」

勇者「…………」

勇者「3つのことを言うときにさ。1つ、1つ、1つ、って三回言うよりもさ」

勇者「1つ、2つ、3つって言ってくれる方がわかりやすいんだよな」

遊び人「…………」

勇者「状況はだいたいわかったよ。逃げるのは簡単だ」

遊び人「えっ?」

勇者「出入り口付近にいる見張りを、怠惰の足枷で無力化すればいい」

遊び人「結界はどうするの?」

勇者「遊び人が分析して、俺が呪文で解くよ」

遊び人「呪文……そういえば、勇者、あなたどうして呪文を……」

勇者「精霊が信頼してくれたんだ。基本的な結界破りも、時縮化の呪文も、理論だけは強欲の都で師匠に叩き込まれたから唱えることはできる」

遊び人「こんな短期間で精霊に信頼してもらえるなんて……勇者、頑張ったんだね」

勇者「……あ、ああ」



恥ずかしい話を、打ち明けることはできなかった。

勇者はまた、ずるをした。

封印の壺のダミーを隠した術士の一人と、強欲の都で再会した。

勇者の案内人としての才能を発揮させながら、監視の目を通り抜け、かつて修行に励んだ研究施設へと潜り込んだ。

そこで”大罪の枕詞”を付与する呪術を再びかけてもらっていた。

以前は肉体強化の呪術だったが、今回は魔力強化を目的として。

寿命を精霊に差し出す身体になった。

一月も経つと元通りになる、一時しのぎのものだった。

今まで誰かが積み重ねてきたものに、簡単に追いつけると信じることができなかった。

ただ、遊び人にそのことを打ち明けて、”寿命泥棒”だと悲しませたくはなかった。
760 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:56:59.67 ID:/yKl3BVY0
遊び人「ねえ、いいの?」

勇者「…………」

遊び人「怠惰の勇者が処刑されても」

遊び人「ずっと、悔やんでるんでしょ?」

勇者「全部過去の話を聞いたのか」

遊び人「聞いた。勇者が中々話したがらなかった過去も、全部」

勇者「失望した?」

遊び人「本人しか本人の気持ちなんてわからないよ」

勇者「俺が遊び人のこと裏切るとは思わなかったか?」

遊び人「うーん、あまり」

勇者「一度仲間を裏切ったのに?」

遊び人「一度仲間を裏切ったから、ずっとそのことを後悔しているんでしょう?」

勇者「もう剣士は死んでしまった。償うことなんてできないよ」

遊び人「償いたいの?」

勇者「わかんないよ」

遊び人「このまま逃げて、大丈夫なの?」

勇者「敵国の中で大人数相手に、救えっていうのかよ」

遊び人「自分に嘘をつかないでよ……」

勇者「なんだよそれ。どうしてお前が泣いてるんだよ」

遊び人「あなたが泣いているからよ!!」

勇者「……っ!!」ポロポロ…






遊び人「勇者」

遊び人「戦いましょう」
761 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:57:37.18 ID:/yKl3BVY0
たたかうとは、怠惰の足枷を使う、ということを意味していた。

寿命の価値を知っている遊び人が、それほどまでに戦うことを要求するのは。

それが、今の勇者にとって、命に天秤にかけるほど大切な選択であると確信しているからに違いなかった。

勇者「……失敗したら、死ぬ間際後悔するぞ」

遊び人「その時はめちゃくちゃ恨むよ。だから失敗しないでよ」

勇者「大きな心で受け止めてくれ」

遊び人「人間だから無理だと思う。死の恐怖は善悪を超越するから」

勇者「経験者は語るか」





〜新闘技場〜

嫉妬「間もなくだ。また見捨てられたようだな」

怠惰「…………」

嫉妬「いつまでも隠れて、馬鹿なやつだ。明日には王国内での感知呪文が可能になるよう調整をしている。案内人に対象を絞れば見つかるまで時間もかかるまい」

嫉妬「自動感知呪文の魔法陣はいじりたくないのでな。怠惰の足枷に対象を絞る場合、また全世界から対象を差し引いていく必要がある。俺が直接見つけてやれば問題あるまい」

嫉妬「さて、目立つところに移動しよう。国民を楽しませるのも国王の義務なのでな」
762 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:58:15.18 ID:/yKl3BVY0
闘技場には大勢の国民が呼び寄せられていた。

お面をつけた2人は、人混みに紛れながら闘技場の中央を眺めた。

遊び人「怠惰の勇者が放り出されてる。剣を持ってるということは、魔物と戦わせられるのかした」

勇者「もうあいつの考えることは嫌というほどわかるよ。勇者という存在にあてがう魔物といったら、ただ一人しかいない。ほら、地下から出てきた」

闘技場の隅を見ると、地下室への出入り口から、さきほど勇者達を助けてくれた研究者が出てきた。

出てきた多くの研究者のいずれもが、疲労と困惑に満ちた顔をしていた。

嫉妬「さあ、剣をとって、戦え」

嫉妬は怠惰に告げた。

地下から、人形の魔物が出てきた。

嫉妬「闘技場の歴史上、最も見ることを望まれた戦いであろう?」

嫉妬「勇者と、魔王の戦いは」

闘技場に魔王があらわれた!
763 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/04/15(日) 18:58:36.31 ID:pfhvxYoC0
どうなる?
764 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 18:59:30.84 ID:/yKl3BVY0
国民のざわめきの中、怠惰と、魔王は立ち尽くしていた。

怠惰「……あなたも懲り懲りよね。魔族の王としての誇りを持って生きてきたのに。大罪の装備なんかが現れたせいで、人間のおもちゃにされて」

怠惰「戦う気なんかないのでしょう。封印されている間もずっと、死ぬことを考えていたんじゃないかしら」

怠惰「あなたに、戦う理由はある?」

魔王は答えなかった。

ただその場に立ち尽くしていた。

怠惰「あなたに勝ったら、私は自由になれるのかしら」

怠惰「ここから外の世界に、救いなんかなかったから、ここに来たというのにね」

怠惰は、詠唱を唱えた。

怠惰『フルゴラ!!』

雷撃の呪文が魔王に迸った。




魔王「……自殺だと」

魔王「余を見くびるな」

魔王はぼろぼろになった怠惰の勇者を見下ろし、言った。

怠惰「げはっ!!ごぼっ……」

怠惰の唱えた呪文は全て、魔王の無口詠唱のマハンシャによって跳ね返された。

魔王「我を倒すほどの首飾りが、あの愚者の手に渡ったことだけが残念だ」

魔王「貴様を殺すついでに、あの白衣を来た男共も道連れにしてやろう」

魔王は右手を高く掲げた。

禍々しい黒玉が出現し、エネルギーを蓄え始めた。

怠惰「や、やめて……」

魔王「さらばだ、勇者」
765 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:01:10.11 ID:/yKl3BVY0



理不尽な、世界だった。

生まれてくる価値のない、人生だった。

信頼するに値しない、人々だった。

死ぬ理由がないという理由で、生きることを強要され。

いざ、生きることを望んだ時には。

全身から脳裏まで震えるほどの恐怖に包まれながら、殺されてしまう。

ねえ。

確かに、こんな世界。

怠惰「……見捨てたくも、なるよね」





魔王の攻撃力が大幅に下がった。

魔王の防御力が大幅に下がった。

魔王の素早さが大幅に下がった。

魔王の魔力が大幅に減った。。

魔王の反応力が大幅に下がった。

魔王の集中力が大幅に下がった。

魔王の判断力が大幅に下がった。

魔王の決断力が大幅に下がった。

魔王の呪文が怠惰に放たれた。



怠惰「きゃぁあああああ!!!」

魔王の攻撃をあびて、怠惰は吹き飛んだ。

怠惰「……痛い!!痛いぃいいい!!!」

怠惰「痛いよぉ……ううっ……」ポロポロ

勇者「泣くなよ。俺だって我慢してたんだから」

怠惰「……勇者?」

勇者「さすが魔王だけあるな。大罪の装備を使っても、呪文の威力がここまでしか落ちないのか」

怠惰「……いまさら罪滅ぼしのつもりで救いに来たなら、逃げたほうがいいわよ」

勇者「罪なんて滅ぼせるかよ。俺が望んだのは世界が滅ぶことだけだ」
766 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:01:55.25 ID:/yKl3BVY0
怠惰「魔王に怠惰の足枷が及ぼす効力については実験済みだわ……」

怠惰「その結果、勇者による勝率は2割程度だということが判明したの」

勇者「ま、まじかよ」

怠惰「嫉妬の首飾りくらいよ、魔王を完全に手懐けるほどの力を持つ装備は」

怠惰「逃げるならさっさと逃げなさいよ……」

勇者「ああ、逃げるさ。逃げることしか能がないからな」

勇者「今度は、お前と一緒にな」

勇者は怠惰の手を引っ張った。

怠惰は反射的に手を振り払った。

怠惰「……逃げるわ。でも一人で立てるから」

勇者「自由にしてくれ」



勇者たちはにげだした!
767 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:03:56.94 ID:/yKl3BVY0
術士「逃がすな!!」

術士たちがあらわれた!!

勇者「何の意味もなく、こんなだせえ靴履くかよ!!」

勇者は装備していた怠惰の足枷に祈りを込めた。

行く手を阻もうとしていた術士達は、全員その場に倒れ込んだ。

勇者「うぐっ……」

怠惰「ゆ、勇者」



遊び人「勇者、こっちよ!!」

虹色に爆発する小さな花火を遊び人はばらまいていた。

パニックになった観客者は慌てて道を退けた。

勇者「……遊び人としてのスキルが大役立ちだな」

遊び人「あっ、確かに!初めて遊んで役に立ったかも!」

場外へ出た勇者達は、王国の出入り口付近へと走り出した。

勇者「もう少しだ……」

遊び人「勇者、顔色悪いよ?」

勇者「なんだか、けだるくて……」

遊び人「やくそうかなんか……」

「止まれ!!今すぐ降伏しろ!!」

術士A,B,C,D,Eがあらわれた!!

遊び人「きりがない!!」

勇者「こっちもきりなく攻撃するまでだ……」

勇者は怠惰の足枷を使用した。

術士達は瞬く間に地面に倒れ込んだ。

遊び人「行くよ、勇者!また敵が現れる前に……」

勇者「…………」

遊び人「勇者?」

勇者「……駄目だ」

遊び人「どうしたの?」

勇者「足が……重くて動かない……」

勇者はその場に座り込んでしまった。

「いたぞ!!」

術士A,B,C,D,E,F,Gがあらわれた!!
768 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:04:54.52 ID:/yKl3BVY0
怠惰「副作用よ」

遊び人「副作用?」

怠惰「怠惰の足枷の使用には、寿命の消費だけじゃなくて、使用者の気力を奪う反動もあるの」

遊び人「そんな……」

怠惰「残念ながら、私も魔王との戦いで魔力があまり残ってないわ」

遊び人「だったら、私が足枷を装備して……」

怠惰「ただでさえ寿命が少ないんでしょ、やめておきなさい」

怠惰は服の内側から、薬草を取り出した。

怠惰「ほら、飲みなさい」

勇者「…………」

怠惰「口を開けて」

ぼぉーっとしていうことを効かない勇者の口に、怠惰はやくそうをねじ込んだ。

遊び人「何するの!?」

怠惰「即効性があるから、大丈夫よ」

怠惰「これは、意思の薬と呼ばれるもの。私が名付けたんだけんどね」

遊び人「意思の薬?」
769 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:05:55.57 ID:/yKl3BVY0
勇者「……ありがとう」

勇者は立ち上がった。

勇者「もう少しだ」

怠惰の足枷を再び使用した。

術士「……ぐぁ……」

術士達は気絶した。

怠惰「怠惰の足枷によって故郷に影響が色濃く出てからしばらくして、新種のやくそうが育ち始めたの」

怠惰「飲み込んだもののやる気、戦闘、意思、そういったものを一時的に高める効果がある」

遊び人「……そういえば、暴食の村でも新種の植物が育ったって言ってた。真実草っていう、飲んだものに秘密を吐き出させる薬……」

怠惰「怠惰の装備による影響を、植物たちは克服しようとしたのよ。このままじゃ枯れて死んでしまうから突然変異を起こしたのか。あるいは、怠惰の装備があっても生き残りやすい種類の植物の繁栄に偏ったのかはわからないけど」

怠惰「生きることを、植物は切望した。そして、これを食したものはその意思を与えられる」

怠惰「いくつか持っておきなさい。怠惰の装備の呪いさえ乗り越えるとても強力なものよ」

遊び人「……それって、嫉妬の勇者も持っているの?」

怠惰「残念ながらね。これを口に含んで戦われたら、少なくとも気絶はしないわね」
770 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:06:29.20 ID:/yKl3BVY0
勇者達は王国出入り口の結界箇所までたどり着いた。

勇者「遊び人、どうなってる?」

遊び人「……やっぱり。憤怒の城下町で使われていたものと同じ。時縮化の呪文で崩せるわ」

勇者「本物の結界を用意して練習する時間が取れなかったんだ……うまくいくかな」

怠惰「自信がないならどいてなさい。代わりに、場外にいる魔物を追い払う呪文でも唱えてて。低級呪文のはずよ」

勇者「ええーっと……」

遊び人「ほら、昔勇者が大蛇から私を助けに来てくれた時。吟遊詩人が」

勇者「ああ!追いかける途中で聞こえてきた!!試してみる!!」

勇者は剣に祈りを込めた。

勇者が剣を爪でひっかくと、特殊な音が響き始めた。

魔物の群れが遠のき始めた。

遊び人「勇者、本当に呪文に強くなったのね!」

勇者「……ま、まぁな」
771 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:07:51.71 ID:/yKl3BVY0



パキ…。

パキパキ……。

遊び人「もうすぐ!!」

パキパキパキ…………



パキン!

遊び人「開いた!!」

人一人通れるほどの隙間が、結界から生じた。

怠惰「はぁ……はぁ……先に行って。時間が経つと閉じるわ……」

「こっちだ!!」

研究者A,B,C,D,Eがあらわれた!!

勇者「遊び人急げ!!」
772 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:08:51.09 ID:/yKl3BVY0
勇者「……やるしかない」

勇者は意思の薬を飲み込んだ。

勇者「うぉおおお!!!」

勇者は怠惰の足枷を使用した。

研究者達は、耐えきった。

怠惰「まさか……」

研究者「意思の薬の成分を凝縮した薬瓶を飲み干してきたのさ。なかなかいけた味じゃなかったがね。術士共はただの時間稼ぎ要員さ」

勇者「……ぐっ…ぅ……」

研究者「閉じろ!!」

研究者は結界を施そうとした。

怠惰「勇者!!逃げて!!」

怠惰は、虚ろになっている勇者を結界から押し出した。

外から遊び人が引きずり出した。

結界は閉ざされた。

怠惰の勇者が取り残された。
773 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/15(日) 19:09:43.36 ID:/yKl3BVY0
遊び人「勇者!!意思の薬を!!」

遊び人は勇者の口に意思の薬を含ませた。

研究者「くそっ!!あいつらを捕らえなければ意味がない!!今すぐ結界を解除するんだ」

研究者達は結界の解除を始めた。

瞬く間に結界がほどかれ始めた。

怠惰「……逃げて」

勇者「馬鹿言うな……」

怠惰「あの時とは状況が違うから……」

勇者「俺自身も違うから……」

怠惰「わかってるよ。もう、いいんだって」

怠惰「なんだか、疲れちゃったしさ」

怠惰が、何年ぶりかの笑顔を勇者に向けた。

勇者「なんだよそれ!!」

怠惰は勇者の言葉に応えず、祈りを唱え始めるた。

結界の崩壊の速度が少し緩んだ。

研究者「邪魔な女だ!!」

研究者は風の呪文を唱えた。

怠惰の身体は切り刻まれた!!

勇者「怠惰!!!」
774 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/15(日) 22:57:35.12 ID:mJbV6Ie7O
なんで俺こんな名作を知らなかったんだろう
775 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/16(月) 00:21:44.09 ID:HDdFD9bn0
776 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/16(月) 01:40:48.92 ID:hTLEd+NDO
777 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:44:41.53 ID:kvW2N9mC0
怠惰「勇者……」

怠惰「あんた、強くなったね……」

勇者「何言ってんだよ……今もこんな無力で……」

怠惰「……命懸けであの子を助けようとしたんでしょ。死ぬと決めた人間は、強くなるのかしらね」

勇者「違う!!本気で生きると決めたんだ!!」

勇者「だから、怠惰も一緒に!!」

怠惰「馬鹿。10年遅いわよ……」

「来い!!逃げられるぞ!!数で押せ!!」

術士A,B,C,D,E,Fがあらわれた!

魔術師A,B,C,D,E,Fがあらわれた!

怠惰「勇者、逃げなさい!!」
778 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:45:15.35 ID:kvW2N9mC0
勇者「…………」

怠惰「何してるの!!はやく!!」

勇者「……うぉおおおおおおおおお!!!!!!!」

勇者「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

遊び人「勇者!!!!」

勇者は怠惰の足枷をつかった!



「ぐぁ…………」

バタリ。

バタリ。バタリ。

「…………ぁ……」「……うぉ…………」


バタバタバタバタ。バタリ。

ドサドサドサ……


バタリバタリバタリバタリ……。




怠惰の周囲を囲っていた者は全て倒れた。

勇者「…………ぁ…………」



勇者は廃人となった。



779 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:45:51.15 ID:kvW2N9mC0
遊び人「勇者……しっかりして。ねえ、勇者」

遊び人は意思の薬を勇者の口の中に押し込もうとした。

勇者はだらりと口を開け、よだれを垂らした。

遊び人「ねえ!!勇者!!しっかりして!!」

遊び人は怠惰の足枷を勇者から外そうとした。

しかし、頑丈に縛り付けられており、外すことができなかった。



嫉妬「ちょうどいい頃合いだな」

嫉妬の勇者があらわれた!



遊び人「なっ……」
780 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:46:21.71 ID:kvW2N9mC0
嫉妬「怠惰の足枷を攻略化していないのでな。体内の精霊の補充はそうやすやすとできないもので、攻略化のために殺される気にはなれなかったのだ。雑魚どもがいい身代わりになってくれた」

嫉妬「さて。約束は破られたわけだ。三人まとめて処刑するとしよう」

嫉妬は結界を開き始めた。

怠惰「勇者を連れて移動の翼で逃げなさい」

遊び人「でも……」

怠惰「私が食い止めるから!!」

遊び人「……わかった」

遊び人は移動の翼を使用した。



嫉妬「愚かな……。焼き尽くしてくれる」

嫉妬「『レヴィアタン』!!」

嫉妬が呪文を唱えると、黒雲が夜空に出現し始めた。

バチバチ、バチバチ、と、遠くの夜空から黄色い閃光が弾き始めた。
781 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:47:11.46 ID:kvW2N9mC0
満身創痍になりながらも、怠惰は立ち上がった。

怠惰「はぁあああああ!!!!」

怠惰は近くで気絶していた兵士の剣を取り、嫉妬を切りつけようとした。

嫉妬「小癪なやつだ」

嫉妬は身を翻し躱した。

嫉妬の呪文は中断され、黒雲は霧散した。

嫉妬「先に死にたいようだな。『マハンシャ』」

怠惰「魔法をかけるつもりもないわ。通常攻撃は首飾りの攻略化の対象外なのでしょう」

嫉妬「通常攻撃が俺の弱点だと思いこんでいるならめでたいことだ」

嫉妬は剣を抜いた。
782 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:47:43.85 ID:kvW2N9mC0
怠惰「がふっ!!ぐふっ!!」

嫉妬「口ほどにもない」

嫉妬は左腕を突き出した。

火の玉が怠惰の腹部に直撃した。

怠惰「ぐぁ…………」

嫉妬「剣技だけでも倒せる確証はあるが、やつらを今すぐ撃ち落とさねばなるまいのでな。呪文と剣術の組み合わせが最も強かろう」

嫉妬「さて」

嫉妬は再び祈りを唱え始めた。

嫉妬「『レヴィ……』」

嫉妬は後ろを振り返らないまま身を反らした。

怠惰「はぁ……はぁ……」

嫉妬「……かつて拾ってやった恩を忘れたか」

嫉妬「あの勇者の方が、そんなに大切か」

嫉妬の勇者は、屈辱の形相を浮かべた。

嫉妬「貴様から絶命させてやろう!!」
783 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:48:22.81 ID:kvW2N9mC0
勇者を抱えたまま、遊び人は夜空を飛んでいた。

幸いにも、黒雲の気配に怯えた鳥獣の魔物は遠くに逃げていた。

勇者「……あ、遊び人……」

遊び人「勇者!!」

勇者「怠惰は……?」

遊び人「……勇者。今は逃げるしかないの……」

勇者「怠惰は……?」

遊び人「あなたは悪くない。仕方のないことなの……」

勇者は朦朧としながらも、王国の方にクビを向けた。

さきほどまで自分達がいた場所の頭上に、黒雲が立ち込めていた。

勇者「……おい。あそこ。あそこにいるんだろ……」

勇者「戻らないと……怠惰が……」

遊び人「勇者……駄目なのよ……」

勇者「なんだよ……なんだよそれ……」

勇者「ひどい……ひどいよ……」

勇者「やっと、やっと。変われるかもしれないって思ったのに…………」

勇者「なんだよこの世界……ひどいよ……」

勇者「こんな……、こんな世界なんか……」

784 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:49:12.79 ID:kvW2N9mC0
『やっほー、年下のお子様くん』

『その呼び方やめろって』

『今日も稽古さぼったって聞いたよ』

『瞑想の練習してたんだよ』

『家のお布団の中で?』

『まあな』

『はぁー。将来好きな女の子が出来た時に守れなくなっちゃうよ』

『女子なんて興味ねーし!』

『うっわ、ガキ』

『せめてお子様くんにしてよ』

『現れてから強くなるもんじゃないのよ』

『強くならないと現れないから?』

『違うの。現れてから強くなろうとしても、間に合わなくなることがあるから』

『よくわかんねーよ』

『瞑想ばっかりしているからよ』

『うるさいなー』

『ねえ、じゃあさ。好きな女の子がいないなら、今は私のために強くなってよ』

『な、なんだよそれ!』

『将来の練習だと思ってさ』

『はぁー!明日も瞑想するし!!うるせーし!!』タッタッタ…

『あはは、子供だなぁ』
785 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/16(月) 23:51:59.09 ID:kvW2N9mC0
勇者「……う、うぐ……」

勇者「……うぐ……!!」

遊び人「勇者?」

勇者「……うううぉおおおああああああああああ!!!!!」

勇者「うあぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




嫉妬「『レヴィアタン』!!」

黒雲から雷撃が落下した瞬間。




勇者「うぉおおおおおあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




夜空から眩いばかりの、青白い光が現れ。

遊び人「この光は!!!」






勇者の身体に直撃した。


786 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/17(火) 01:30:12.74 ID:54ZHoJkDO
787 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 22:52:57.26 ID:plqGsBdE0

嫉妬「どういうことだ!!」

嫉妬「何故、肉体保護の棺桶が!!」

落雷が怠惰に直撃した後、その場には1つの棺桶が残されていた。




遊び人「い、今のは!!精霊の光り!!」

遊び人「勇者の体内の中に、精霊が宿ってる!!」

遊び人「でも、どうして!ここ数年、勇者の誕生なんて一人も聞かなかったのに」

遊び人「…………」

遊び人「もしかしたら」

遊び人「あの地下室で、闘技場で、、勇者が”魔王の生存を認知したこと”に鍵があったのかもしれない」
788 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:01:49.65 ID:plqGsBdE0
遊び人「精霊は元々、人間の魔王討伐の使命を補助するために降臨していた」

遊び人「魔王消滅の噂によって、勇者は魔王の生存を信じなくなった。そのせいで、精霊の降臨自体を受け容れる姿勢が失われていた」

遊び人「勇者が魔王の生存を認知した今、精霊も勇者に宿る意義を見つけたんだわ」

遊び人「だとしたら、パーティの結成も可能になっているはず!」

遊び人「勇者!!怠惰はきっと無事よ!!」

勇者「……うぅ……うぐ……」

遊び人「どうしたの!?精霊の降臨に痛みが伴うなんて話は……」

勇者「……あ……あし……あしが……」

遊び人が勇者の足を見ると、どす黒い痣で覆われていた。

遊び人「怠惰の足枷の副作用……」
789 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:03:17.57 ID:plqGsBdE0
神官「ちきしょー、せっかく祭りに訪れたってのに、入場制限ってなんだそりゃ。遅くまで教会に残って老人共の悩みを聞くんじゃなかったぜ」



遊び人「地上に神官がいる!」

遊び人「大罪の装備による身体への影響は、一回の死亡で治るはず……」

遊び人「勇者、よく聞いて」

勇者「……うぐ……」

遊び人「一回自殺を試みるわ。そしたらすぐに足枷を脱いで、私と怠惰を蘇らせるの」

遊び人は勇者の道具袋から、短剣を取り出した。

遊び人「迷ってる時間はないわよね……」

遊び人「勇者、行くわよ!!」

遊び人は勇者の首に短剣を突き刺した。

棺桶が出現し、勇者の死体を保護した。

遊び人「大丈夫ってわかってても心臓に悪いなぁこれ……」

遊び人「……んっ!!!!!」

遊び人はナイフを自分の首に突き刺した。

棺桶が出現し、遊び人の死体を保護した。

勇者、遊び人、怠惰の3つの棺桶は精霊によって即座に神官の前に運び込まれた。
790 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:03:53.53 ID:plqGsBdE0
勇者「……ぷは!!」

勇者「蘇った……んだよな?」

神官:ようけんはなんですか。どくをちりょうしますか。のろわれたそうびをかいじょしますか。しんだなかまをよみがえらせますか。

勇者「仲間を……っ!?」

勇者「うげぇえ!!なんだこの気色悪い感触!!」

勇者は足元を見ると、足枷が不気味な魔力を放っているのを感じた。

勇者「のろわれたそうびを解除してくれ!!」

神官:のろわれているそうびはありません。

勇者「なんだよそれ!!じゃあ仲間!!仲間を蘇らせてくれ!!まずは遊び人から!!」

神官:8000Gになりますがよろしいでしょうか

勇者「高くなってるし!!なに!?ここ物価高いの!?」

勇者「なんでもいいから蘇らせてくれ!!」

神官:うけたまわりました。
791 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:07:38.82 ID:plqGsBdE0
遊び人「……ぷはっ!勇者!!」

勇者「ぐぅのおおお!!!」

勇者「脱げた!!」

勇者は怠惰の足枷を脱いだ。

勇者「次は怠惰を蘇らせてくれ!!」

神官:2000Gになりますがよろしいでしょうか

勇者「あれ、昔の方が高かった気が……まあいい、お願いする!」

神官:うけたまわりました。

神官:怠惰の魂をこの世に……

神官は祈りを始めた。

遊び人「あ、あのさ!!勇者!!」

勇者「ん?」

遊び人「ありがとう!」

勇者「えっ」

遊び人「あ、ありがとうって言ってんの!」

勇者「……へへっ。どういたしまして」
792 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:08:37.19 ID:plqGsBdE0
怠惰「……んんっ……」

勇者「寝起きのところ悪いが、急ぐぞ。追手に見つかる前に」

怠惰「……眠い……あと5分」

勇者「はぁ?」

怠惰「……風邪引いたっぽい……今日休む……」

勇者「おいどうした。なんだその定番のセリフは。お前が仮病なんて、熱でもあるのか?」

遊び人「熱があったら仮病じゃないから!さっさと行くわよ!!」





勇者達は移動の翼を使いながら、遠くへ逃げた。

さきほどまでの絶望は過ぎ去り。

混乱や恐怖とは無縁の、静かな夜の空に出た。



勇者達は、にげきった。
793 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:11:13.34 ID:plqGsBdE0
3人は移動の翼で夜の空を飛び続けた。

怠惰は自分が蘇ったことの意味を理解しているはずだが、そのことについて言及してこようとはしなかった。

遊び人「うう、夜の飛行は冷えるなぁ」

遊び人「ねえ勇者、足はもう大丈夫?」

勇者「うん、平気。びっくりしたよ。気味の悪い痣みたいなのもできてたし」

怠惰「……大罪の装備をずっと身に着けるなんて、愚かにもほどがあるわ」

怠惰「装備の種類にもよるけど、怠惰の足枷はすぐに装備者を飲み込もうとする傾向が強いわ。私も戦闘中以外は基本身に付けないようにしていたもの」

遊び人「嫉妬なんかいつも首飾りつけてるんじゃないの?」

怠惰「身につけることの副作用が元々少ない装備なのかもしれないけれど。それ以上に、嫉妬の勇者自身が装備を上回るほどの感情の強さを持っているのよ」

遊び人「…………」
794 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:13:02.20 ID:plqGsBdE0
怠惰「ところで、私達はいつまで飛び続けるつもりなの?」

遊び人「とにかく遠くへ行ってるつもりだったけど。見覚えある地域に出てきたね。庭の宝の村もこのあたりじゃなかったっけ」

勇者「そう言われればそうだな」

遊び人「せっかく蘇えらせてくれたところ悪いんだけどさ。一度ここら辺りで自殺しておきましょうか」

勇者「なんで!?蘇生にいくらかかると思ってんだ!!」

遊び人「気づかない内に鳥系の魔物が尾行してるかもしれないじゃん。精霊の加護による転送なら完全に巻くことができるでしょ。念の為よ。命はお金より大切でしょ?」

勇者「また見つかるよりましか。よし」

勇者は短剣を取り出した。

遊び人「ナイフは慣れないなぁ。毒針もまた買わないといけないね」

怠惰「毒って苦しくないの?」

遊び人「ちょっと痺れて気絶する感覚かなぁ。精霊による死の恐怖の柔和のおかげかもしんないけど。本当はのたうちまわるほど苦しかったりして」

勇者「怖いこと言うなって。ナイフが嫌なら飛び降りるぞ」

遊び人「あっ、それいいかも!!」

勇者「じゃあ決まりだな」

怠惰「本気で言ってるの!?」

遊び人「本気だよ!!」

勇者「本気で死ぬぞ」



地上より遥か上空で、3人は移動の翼に祈りを込めるのをやめ、手放した。

3人は凄まじい速度で落下し、地面に激突した。

パーティは全滅した。
795 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:13:37.75 ID:plqGsBdE0
〜教会〜

神官「…………」

勇者「無事蘇ったか。むしろ無事じゃなかったから蘇ったという方が正しいか」

勇者「さて、遊び人を……」

勇者「…………」

勇者「神官。怠惰を蘇らせてくれ」





怠惰「……んん」

勇者「目が覚めたか」

怠惰「……ええ。酷い悪夢を見た気がする」

勇者「高い所苦手だったっけか」

怠惰「…………」

怠惰「私を先に蘇らせたのは、何か意味があるんでしょう?」

勇者「……ああ」

勇者「怠惰」

勇者「……あの時は、本当にごめん」
796 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:14:27.50 ID:plqGsBdE0
怠惰「…………」

怠惰「ごめん、か」

怠惰はそうつぶやくと、勇者の持っていたナイフを奪った。

怠惰「そうやって、罪を贖った気になって生きていくのよね!!」

怠惰「この、人殺し!!」

怠惰はパーティからぬけだした。

勇者「怠惰っ!?」

怠惰のこうげき!

勇者「ぐばっ……」

怠惰のふりかざしたナイフは勇者の首を掻っ切った。

勇者は死亡した。

神官の前で、勇者は蘇った。

怠惰「償えないわよ!!」

怠惰はナイフを勇者の心臓に突き刺した。

勇者は死亡した。

神官によって勇者は蘇った。

怠惰「剣士はもう帰ってこないのよ!!」

怠惰は勇者の腹部にナイフをめった刺しにした。

勇者は死亡した。

勇者は蘇った。
797 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:14:56.69 ID:plqGsBdE0
怠惰「どれだけ、どれだけつらい日々を、剣士を大切に思っていた人達が過ごすことになったと思うの!!これまでも!!これからも!!」

怠惰は勇者の額にナイフを突き立てた。

勇者は死亡した。

勇者は蘇った。

怠惰「あんたの!!あんたの弱さのせいで!!!」

怠惰のこうげき!




勇者は殺された。

勇者は蘇った。

勇者は殺された。

勇者は蘇った

勇者は……


…………


……




798 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:16:48.43 ID:plqGsBdE0
怠惰「はぁ……はぁ……」

返り血で真っ赤になった怠惰は、その場に座り込んだ。

勇者「…………」

怠惰「…………」

怠惰「なんか、言いなさいよ……」

勇者「…………」

怠惰「…………」

怠惰「本当に、あんたなんかパーティじゃなければよかった」

怠惰「…………」

怠惰「精霊がさ、あんたにまた宿ったわよね」

怠惰「精霊は勇者にのみ宿るものだと思っていた。でも、精霊は、勇者じゃないあんたに宿った」

怠惰「勇者という資質を持ったものが精霊を呼び寄せやすかっただけで。勇者という資質を持たなくとも、ふさわしい思いを持つものに精霊は宿るのかもしれなかったのね」

怠惰「私はさ、私に宿るはずだった精霊が、背中におぶっていたあんたに奪われたものだとずっと恨んでいたけれど」

怠惰「あの精霊も、はじめからあんたに宿るつもりだったのかもしれないね。だとしたら、理不尽に責めていたかもね。今更わかんないけどさ」

怠惰「幼馴染としての私達は、うまくやっていけてたのにね。冒険者というパーティメンバーになった途端、何もかもがうまくいかなくなってしまったね」

怠惰「一緒にいることの目的が違うだけで、同じ相手でも、全く関係性って変わってしまうものなのね」

怠惰「どうして私に怠惰の装備が現れたのかずっとわからなかった。幼い頃から努力してきたし、怠惰なあんたを憎んですらいたのに。それこそ、あんたにこそふさわしい装備よ」

怠惰「きっとね、私は最も怠惰を知る必要のある勇者だったのよ。怠惰という感情から、過去への向き合い方を学ぶべき勇者だったって」
799 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:17:43.95 ID:plqGsBdE0
怠惰「7つの大罪は。人間に救う7つの欲望は、幸せと隣にあるものだった」

怠惰「食べること。愛すること。誇ること。熱くなること。欲すること。羨むこと。そして、さぼること」

怠惰「怠惰って、7つの大罪の中で唯一特別なものだと思わない?」

怠惰「他の6つの大罪が『求めることの幸せ』だとしたら、唯一怠惰のみが『求めないことの幸せ』なのよ」

怠惰「何者かになりたいと思っても、何もしたくなかったあなた」

怠惰「何も積み重ねずに過ごす日々に自分を呪っていたあなた」

怠惰「そんなあなたが望む日常は、やはり、何もせず、ただ日々を過ごすことなのよね」

怠惰「大切な人と、だらだらと」

勇者「……そんな日常、今ではもう手に入るかどうか」

怠惰「勇者」

怠惰「魔王城へ行きなさい」
800 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:19:50.60 ID:plqGsBdE0
勇者「魔王城……」

怠惰「傲慢の盾、憤怒の兜はそこに保管されているわ。主なき魔王城は今は誰でも認知することができるから入れるはずよ」

怠惰「嫉妬はね、世界を統一する計画を立てているの。嫉妬の王国と、魔王城を拠点にね」

怠惰「主要な居住区を結ぶように一定間隔で建物を建造し、人間と魔物を等間隔に配備する」

怠惰「全ての村、町、都、里、谷、人間の住まうところを繋いで1つの王国にする」

怠惰「全ての洞窟、塔、祠、そして魔王城、魔物の住まうところを繋いで1つの王国にする」

怠惰「そして二つの王国を結び、自分が両者の世界の王となる。」

怠惰「あんたが嫉妬の王国に各国の案内人をばらまいたのとは訳が違うわ。7つの大罪を、7つの大罪の装備によって管理するの。完全な世界統治よ」

勇者「こんな広い世界で居住区を全て繋げるなんてこと可能なのか?どれだけの月日が……」

怠惰「小さな村から洞窟まで全てを網羅するなんて到底できないわ。嫉妬がやろうとしていることは、今ある世界を支配することじゃない。新しい世界を作り上げることなのよ」

怠惰「そのためには、自分の王国に繋がれないような地域は破滅させてもいいとの考えよ。大罪の7つ装備の力を利用すれば、世界を破壊するのは容易いから」

怠惰「ねえ、勇者」

怠惰「世界を救って」
801 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:21:29.15 ID:plqGsBdE0
勇者「…………」

勇者「……冗談じゃない」

怠惰「!?」

勇者「世界なんて救うつもりはない」

怠惰「冗談で言ってるなら……」

勇者「冗談じゃない!冗談だなんて冗談じゃない!!」

勇者「世界が嫌いなんじゃない。歩み寄っても受け入れられない、自分自身が大嫌いだった!」

勇者「それを認めたくなくて、世界が嫌いだなんて自分に嘘をついているうちに、本当に世界のことが嫌いになってしまった」

勇者「でも、そんな自分のことを、許してくれる存在がたった一人だけ現れた」

勇者「だから……俺は、その子のためだけに戦うよ。それがたまたま、世界を救うことにつながろうが、知ったことじゃない」

怠惰「……まわりくどいわね。以前にまして、ひねくれものね。良い開き直りっぷり」

怠惰「おかげさまで、あんたがあいつを倒しても、あんたが死んでも、どっちにしても気が晴れそうだわ」

勇者「それはよかった」
802 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:30:46.27 ID:plqGsBdE0
怠惰は教会の出口へと歩んだ。

勇者「どこへ行くんだ」

怠惰「あんたがいる以外のどこか」

勇者「正解だな」

怠惰「あなたは、償えないわよ」

勇者「うん」

怠惰「今から世界中の人を救っても、そのことに変わりはないわ」

勇者「うん」

怠惰「でも。それは私も同じこと」

怠惰「私は、大切な感情の1つを乗り越えることができなかった。それがきっと、怠惰の感情」

怠惰「つまり、人間らしさを許すことをできなかったのよ」

怠惰「あーあ。嫌だわ。悪人が目の前にいるのに、自分を嫌悪してしまうこの世界なんて。滅んじゃえばいいのにね」

勇者「…………」

怠惰「今はもう滅んでほしくないのかしらね」

怠惰「ねえ」

怠惰「命懸けで、助けに来てくれたこと、感謝するわ」

勇者「……うん」

怠惰「それじゃあね。勇者」

勇者「うん。怠惰」





勇者・怠惰「さようなら」
803 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/17(火) 23:47:27.54 ID:plqGsBdE0
遊び人「……よっこらしょ。って、なんじゃこの血の海はぁああ!!?」

勇者「…………」

遊び人「無反応だし」

遊び人「あれ、怠惰の勇者は?」

勇者「……パーティから出ていった」

遊び人「そっか」

勇者「…………」

遊び人「これだけ血液を生み出せる方法があれば、賢者の石つくれちゃう気がするんだよねぇ」

勇者「…………」

遊び人「…………」

遊び人「私は、出ていかないからね」

勇者「…………」

遊び人「ギャンブルで遊ぶお金がなくなっても」

遊び人「精霊の加護がなくなっても」

遊び人「早起きしなくても。魔物と戦わなくても」

遊び人「私のパーティは、勇者だけだよ」

勇者「…………」ポロポロ…

遊び人「ほら、こっち向いて」

勇者「なんだよ……」





遊び人「ただいま」



勇者「……ああ!!」

勇者「おかえり!!」
804 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 00:59:13.76 ID:h5HxVKtb0
805 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/18(水) 02:23:12.37 ID:8b7CRenDO
806 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:20:46.22 ID:9XHV72F70
【嫉妬の勇者の思い出】

〜思い出 1〜

女奴隷「わたしたち、自由よ!!」

青空の下。

女奴隷は、自分を地獄の王国から連れ出してくれた男奴隷に言った。

嫉妬「慣れないものだな。枷をつけられて生きてきたせいで、自由を後ろめたく感じる」

女奴隷「わたしはずっと夢見てた。地獄みたいなこの人生を、救ってくれる何かが起こるって」

女奴隷「そしてあなたに救われた。私が白衣の男たちによってひどい目に遭わせられているときも、いつも味方でいてくれた」

嫉妬「……俺はただ」

女奴隷「勇者は、優者」

女奴隷「人にやさしくすることもまた、選ばれし者にしかできない行為なのよ」

嫉妬「自由に浮かれて綺麗事を話すか。生きることは地獄の塊だったはずだ」

女奴隷「綺麗事を抜きにしたら、何も話せなくなっちゃうわ。だって、生きることは本当に綺麗なんだもの」

女奴隷「私はこの世界が大好きよ。長生きしたいと思うくらいに」

嫉妬「長生きか。そんな言葉ろくに口にしたこともなかった」

女奴隷「さっさと死んでしまいたかった?」

嫉妬「ああ」

女奴隷「どうして死ななかったの?」

嫉妬「何か起こるかもしれないと期待していたからな」

女奴隷「そして起こった」

嫉妬「…………」

女奴隷「私達もこれで、立派な冒険者の仲間入りよ」

嫉妬「魔王なんぞに挑むほど、俺はこの世界を救いたいとは思っていないぞ」

女奴隷「それは私も。とにかくね」

女奴隷「この世界が大嫌いでも、長生きしたいと思える人と出会えたら、それはやっぱり生きててよかったってことなのよ」

女奴隷は笑った。
807 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:21:25.69 ID:9XHV72F70
〜思い出 2〜

女奴隷「……ガハッ!!ガハッ!!」

嫉妬「どうした!!何故棺桶が出現しない!!」

巨大なネズミ型の魔物を撃退したあと、女奴隷が激しく咳き込んだ。

嫉妬は混乱に陥りながらも、どうぐ袋に入れていたやくそうを女奴隷に使用した。

しかし、効果はまったくなかった。

「生死には全く影響を及ばない呪いだからね。菌、と呼ぶんだ。毒と似たようなものだけど、そこらのやくそうでは治せないよ」

青い服を身にまとった男が突如現れた。

嫉妬「誰だお前は……僧侶か?」

「そんなに出来た存在じゃない。鼻持ちならない職業さ」

男は自分の額を指で叩いた。

「失礼するよ」

男は女奴隷の胸部に手を置いた。

嫉妬「お前!!何をする!!」

「解決するのさ」

賢者「それが僕の職業の役目だからね」
808 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:22:51.25 ID:9XHV72F70
〜思い出 3〜

今夜も、女奴隷は賢者の語る物語をうっとりと聞いていた。

賢者「道具屋の娘に失恋した夜に、鍛冶屋の青年は嘆いた。世界は、なかなか認めてくれないものだと」

賢者「死んではいけないと言ってくれる人はたくさんいても、あなたと生きたいと言ってくれる人は1人も現れてくれないと知った」

賢者「彼の親友は励ました。今まで積み上げたものがなかった者でも、意思の切り替えによって、一日にして何もかもが変わることもあると」

賢者「そして鍛冶屋の青年は決めた。今まで嫌々してきた、代々引き継がれてきたこの仕事で輝いてみせようと」

賢者「彼は細長い筒に、魔法を取り入れることを試みた。それが今の魔法銃の起源だと……」



…………

女奴隷「……zzz」

賢者「もう寝たか。あれだけせがんできたのに」

嫉妬「子供のようなやつだからな」

賢者「なあ、僕の話は退屈だったか?」

嫉妬「そんなことは決してない。何故?」

賢者「嫉妬が退屈そうな表情をしていたからさ。心配になったんだ」

嫉妬「退屈なものか。毎晩毎晩、人に語れるだけの話をよく引き出してこれるものだと感心していたほどだ」

賢者「それは褒められているのかな?」

嫉妬「生まれも育ちも違うからな。かなわない」

賢者「……そんなことないさ」

嫉妬「何を言う。魔法使いの都の出身なんだろう?」

賢者「これを旅の仲間に話すのは生まれて初めてかもしれないな」

嫉妬「何だ?実は王子様か?」

賢者「実は僕も、奴隷出身なんだ」



賢者の男は、照れくさそうに笑った。

どういうわけかもわからないが。

嫉妬はこの時、自分の胸の中に、紫色に鈍く光るものを感じた気がした。
809 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:23:33.32 ID:9XHV72F70
〜思い出 4〜

キスをしていた。

女奴隷が賢者に惹かれていることはわかっていた。

それでも、救世主である自分を選んでくれると信じていた。



翌朝起きると、2人は何でもないような顔をして話しかけてきた。

パーティメンバーを一人追加しよう、賢者が言った。

賛成よ、と女奴隷が言った。女性の仲間がほしいわ、と。

どういうつもりなのだろう。

もうひとりの女と俺が結ばれれば、自分達の仲も隠す必要がなくなるとでも考えているのだろうか。

俺はパーティメンバーを増やすつもりなどない。



減らせばいいのだ。
810 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:27:27.75 ID:9XHV72F70
〜思い出 5〜

女奴隷「どうして賢者を殺したの!!」

激しい雨の中。

賢者は血を流したまま倒れていた。

嫉妬「……彼には、故郷に妻がいる」

嫉妬「酔った勢いで打ち明けてきた。君は旅の間だけの女だって。遊び相手に過ぎないと」

女奴隷「嘘よ!!」

嫉妬「僕を疑うというのか」

女奴隷「あの人を信じているのよ!!」

嫉妬「信じたい気持ちと真実には何の関係もない」

女奴隷「どうして殺したのよ!!」

嫉妬「許せなかったからだ!!」

女奴隷「どうしてあなたが!!」

嫉妬「君のことが好きだからだ!!」

女奴隷「…………」

嫉妬「もう一度、2人で冒険をやりなおさないか」

嫉妬「自由を感じていたあの頃に戻ろう。二人だけで、行きたい場所にだけ行って、それで……」

女奴隷「…………あなたの気持ちはよくわかった」

女奴隷は短剣を取り出した。

嫉妬「何をする!!」

女奴隷「錯覚を守るためなら、人は命懸けで狂うのよ。信じたことを真実にするの」

女奴隷「わたしは、あなたの物にはならない」

女奴隷は、短剣で自身の首を切り裂いた。

女奴隷は血しぶきをあげ、地面に倒れた。

女奴隷は死亡した。

嫉妬「……棺桶が出現しない。パーティから抜け出したということか」

嫉妬「……ふ。ふふふふ!」

嫉妬「俺は、選ばれなかったというわけか!!!」

嫉妬「ははははは!!!!」

嫉妬「ヒヒヒヒヒ!!!ハハハハハ!!!」

嫉妬は二つの死体の横で、狂ったように笑い転げた。

それは世界では、ありきたりな痛みであっても。

生まれてから奴隷として育った嫉妬にとっては、世界はあまりにも小さすぎた。

1つしか希望のない世界から、その1つが奪われた時。

嫉妬の中の何かが壊れた。
811 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:28:59.62 ID:9XHV72F70
〜思い出 6〜

「どうされましたか?何かよくないことでも……」

馬車の中から降りてきた若い女の魔法使いが、嫉妬の顔色を心配して尋ねた。

今や、嫉妬の仲間は30人を超えていた。

しかし、精霊の加護が及ぶパーティメンバーとしては誰一人として選出されていなかった。

嫉妬「なんでもない……悪い夢を見た……」

「貴方様にも、そういうことがあるのですね」

魔法使いは小さな笑顔を見せた。



「嫉妬様、緊急のご報告です。さきほど戦士が、深手の傷を負って帰ってきました。今は僧侶が治療中です」

嫉妬「相手は?」

「女一人です。高価な装備を揃えていたので、金目のものを奪おうと戦士は考えていたようです……」

嫉妬「勝手な真似はするなと言っただろう。相手は魔法使いか?」

「それが、戦士はうめきながら、こう言ったんです」

「雷に、襲われたと……」

嫉妬「……女勇者か。面白い」

嫉妬は剣を握った。

今や彼の強さは、他の勇者の中でも群を抜いていた。
812 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:31:33.42 ID:9XHV72F70
〜思い出 7〜

怠惰「貴方様は、何を目指しているのですか」

怠惰は嫉妬に尋ねた。

嫉妬「……どういう意味だ」

怠惰「気分を害されたのなら申し訳ございません」

怠惰「ただ、あなたは嫉妬の首飾りを手に入れ、この国を治め、魔王を撃退し捕縛しました。今や世界最強の勇者です」

怠惰「なのに、あなたは全く満たされていないようにみえます。今はまだ何かの途中にしか過ぎないと」

嫉妬「そう見えるか」

怠惰「はい」

嫉妬「埋められない心の穴がある場合、どうすれば良いと思う?」

怠惰「代わりのもので満たす、ですか?」

嫉妬「新しい心に取り替えるのだ」

嫉妬「俺はこの世界に復讐を果たす。永遠にな。俺以外の全ての人間が、地獄を見続ける世界にさせてやるのだ」

嫉妬「数え切れぬほどの人が住まうこの世界で。自分以外の幾千幾万を超す全ての人間が、自殺を図る光景はさぞかし美しいとは思わんか?」

うっとり笑う嫉妬を見て、怠惰は恐怖に震えた。

そんな怠惰の頭に、嫉妬はやさしく手を置いた。

嫉妬「お前は見捨てないでやろう。俺の隣で黙って見ていろ」

怠惰はその言葉に感激し、安堵して目を閉じた。



嫉妬には人を惹き付ける不思議な魅力があった。

それは、創られた魅力であった。

自分が他者に打ち明けた真心を裏切られた人間は、虚飾を磨く生き方に変わる。

あるがままの自分というものを捨て、嫉妬は世界を手に入れるのにふさわしい自分を演じ続けた。

かつて手に入れられなかったものが手に入るようになった嫉妬は、しかし満たされなかった。

それはもはや、自分自身ではないからだ。

嫉妬「……どうすれば、満たされるかだと」

嫉妬「俺以外の全ての人間の心を、空虚で満たした時であろう」

失われたものを、取り戻すのではない。

得られなかった世界を、嫉妬は壊そうとしていた。



嫉妬の勇者達 〜fin〜
813 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/23(月) 23:37:59.97 ID:9XHV72F70
次回で最終章です。去年の夏から書き始めましたが、今週中に完結する予定です。
ネットで読むには大変な量の物語ですが、お付き合い頂きありがとうございました。
814 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 02:00:12.29 ID:NdpHUhQDO

終わっちゃうのか…
815 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 08:34:33.13 ID:eLiqNQsDO
全裸待機
816 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/24(火) 18:47:01.82 ID:lRAHu/8S0
817 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:21:15.06 ID:ih6hDcQ/0
お姫様「ねえ、そこのあんた。勇者って奴のことを知らないかしら」

奴隷「……存じておりません」

お姫様「あっそ」



お姫様「どうして私がこんな仕事を……。これで今日何人の奴隷と話したことか」

案内人T「ふぁーあ」

お姫様「あいつも奴隷の格好してる。サボってるように見えるけど」

お姫様「ねーねー。あんた勇者って奴のこと知ってる?怠惰の牢獄の地の出身なんでしょ」

案内人T「知ってるよー」

お姫様「ラッキー!!じゃあさ、あいつの両親が今どこにいるか知らない?この王国で奴隷として働いてるのかしら?」

案内人T「勇者の親かー」

案内人T「父親はどこかで生きてるかも知らないな。母親は昔に亡くなったんじゃなかったっけ」
818 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:21:56.68 ID:ih6hDcQ/0
勇者「止まって」

遊び人「えっ?」

勇者「罠がある」

草むらの中を歩いていた遊び人が足元に目を凝らすと、毒矢の罠が仕掛けてあった。

遊び人「うわっ!ほんとだ!よく気づいたね」

勇者「細い糸が空中に光った気がしてさ」

遊び人「勇者、なんだか変わったね」

勇者「俺が立派になりすぎて寂しくなったか?」

遊び人「誇らしいよ。でも確かに寂しいかも」

勇者「なんだそりゃ。心配すんなって。俺がいくら最強になろうとも、俺は俺のままだぜ」

勇者が照れながら歩いていると石に躓き、木に固定されていた毒矢の本体に首から刺さった。

遊び人の前に棺桶が現れた。

遊び人「…………」

遊び人「一生心配するっての!!」
819 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:22:37.80 ID:ih6hDcQ/0
ズゴゴゴ!!ズゴゴ!!

遊び人「重い!!棺桶引きずるのにブランクあったからな」

遊び人「えーっと、この先に村が一個あるんだったな。教会で蘇らせてもらおうっと」




〜教会〜

遊び人「蘇らせてください」

神官:25,000Gになりますがよろしいでしょうか

遊び人「はいはい。25G」

神官:お金が足りません

遊び人「えっ、出してるよ」

遊び人は25G差し出した

神官:25,000Gになりますがよろしいでしょうか

遊び人「…………」

遊び人「ええぇえええええええ!!?」



神官:おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない。

勇者「ぷはぁ!!」

勇者「あれ、遊び人のやつ棺桶に入ってやがる」

勇者「魔物にやられたのかな。それとも引きずるのがめんどくさくなって自殺したとか?」

勇者「困るんだよなぁ。遊び人の蘇生代馬鹿高いんだから」

勇者「でもおかしいな、この村初めて来た気がするんだけど……まあいっか」

勇者「遊び人を蘇らせてくれ」
神官:8000Gになりますがよろしいでしょうか

勇者「ひょえー。仕方ない。頼む、蘇らせてくれ」

神官:承りました

神官:遊び人の御霊を呼び戻し給え
820 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:23:24.33 ID:ih6hDcQ/0
遊び人「…………」

勇者「蘇ったな。なあ、魔物にやられたのか?引きずるの大変かもしれないけど遊び人の蘇生代金ってかなりの値段が……」

遊び人「勇者様」

勇者「うん。ん。ん?さま?」

遊び人「私めの命に比べてあなたの命があまりにも尊かったので、もう死ぬしかないと……」

勇者「いやいやどうしたいきなり。神官、呪いか毒がかけられてるみたいなんだけど」

遊び人「私と離れていた短期間で精霊の信頼をそこまで勝ち取るなんて……」

遊び人「もはや私三人分よりも価値ある人間に……」

勇者「意味わかんねえって。それより飯食いに行くぞ。旨いもの食おうぜ」

遊び人「ご一緒させて頂きます」

勇者「うわーやりづれぇ」
821 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:25:27.77 ID:ih6hDcQ/0
ふたりは、暇だった。

嫉妬の王国の自動感知呪文は、封印の壺に対象を設定をされている。

一度勇者達の持つ大罪の装備に対象を定め直した場合、またこの世界の全てから対象物以外の要素を差し引く必要があるため、膨大な時間がかかる。

だから、封印の壺が割れるまでは、嫉妬の王国が勇者達を見つけることはない。

魔王城に踏み込むのであれば、封印の壺に入った暴食の鎧と色欲の鞭を手に入れてから向かうのが賢明であった。

一度、強欲の都の近くにあった転職神殿の占い師に相談をしても、同じような回答が返ってきた。

それまでの時間、2人はとくに生き急ぐわけでもなく、今までのようにのんびりと冒険をしていた。



そして、幾日が過ぎた。
822 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:26:32.26 ID:ih6hDcQ/0
〜ほらあな〜

夜中、勇者はふと目を覚ました。

勇者「あれ、遊び人?」

首を動かして辺りをみまわしても、遊び人の姿は見えなかった。

ふと、自分のお腹の上に使い古された赤色のメモ帳が乗っているのに気づいた。

“お花をつみに行ってきます”



遊び人「あら、起きてる」

勇者「お花は見つかったか」

遊び人「排泄しながら探したけど見つからなかった」

勇者「いやもうそれ綺麗な表現で隠そうとした意味ないから」

遊び人「寝起きなのにツッコミ頑張るなぁ」

遊び人は勇者の隣に寝転んだ。

遊び人「冒険譚はそこらへんの描写が甘いよね。魔王との決戦中に尿意を催すことだって現実ではあり得るのにさ」

勇者「世界の半分はいらないから、尿意の半分でも消してくれとか心の中で願うんだろうな」

遊び人「描写するに値しない些細なことが大切だったりするからね」

勇者「本当だよ。新品の革靴履いて足にできたマメが痛いとかな。毒地でもないのに歩く度にダメージ負うからな」

遊び人「職業が遊び人だと自己紹介する時にけっこう世間に気まずい思いをするとかね。賢者見習いとか言うけど杖も持ってないとかね」

勇者「戦闘中も、敵にジャンプして斬りかかろうとしてる時に『やべ、財布落としちゃうかも……』とか気になったり」

遊び人「うふふふ」

勇者「あれ、今のそんなに面白かった?へへ」

遊び人「ねえ、気づいてた?」

勇者「なにが?」

遊び人「ここさ。私達が暴食の村につく前に寝ていた洞窟じゃない?」
823 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:28:55.13 ID:ih6hDcQ/0
勇者「あっ!そう言われれば見覚えある!いつの間にそんな遠くまで」

遊び人「裏を返せばここからあんな遠くの場所まで行ってたってことだよね」

勇者「そっか。なんだか信じられないな」

遊び人「何に対して?」

勇者「うーん。今までの軌跡ぜんぶ」


勇者は立ち上がり剣を構えた。

遊び人「勇者、何を」

勇者「『太陽を追い求めし夜の女王よ。その黄金の輝きの一部を我が剣に授けよ!!』」

勇者「『アカリン』!!」

勇者は洞窟照らしの呪文を唱えた!

遊び人「わっ!!」

眩いばかりの光が洞窟の中を照らした。

遊び人「凄い!!」

勇者「……どうも」

勇者自身が驚いていた。

遊び人奪還のために強欲の都の術士にかけてもらった大罪の枕詞が、時間の経過によって解けていたにもかかわらず、呪文を簡単に使用できるようになっていた。

勇者「こいつのおかげかな」

勇者は自分の胸に手をあてた。

勇者「以前俺に宿っていた精霊は、やっぱり不本意で俺に宿ったんじゃないかって思う」

勇者「ふさわしくないものにふさわしくない幸運が訪れたら、それは不幸の始まりになるんだろう」

勇者「今は自分のことを認められるようになったと思う」

遊び人「何をいまさら。勇者はずっと凄かったじゃない」

勇者「ありがとな」

勇者は思った。

自分で自分を認められるようになったのは、自分を認めてくれる人が現れたおかげだと。
824 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:32:36.62 ID:ih6hDcQ/0
遊び人「すっかり目が覚めちゃった」

勇者「夜更かしはよくないぞ」

遊び人「なんで寝なくちゃいけないんだろう。睡眠時間がなくなれば生きてる時間がぐんと増えるのに」

勇者「俺は寝るの好きだけどなぁ」

遊び人「そういえば私も好きだった」

勇者「遊び人はさ、長生きしたい?」

遊び人「うん。絶対したい」

勇者「やっと肯定してくれるようになった」

遊び人「後ろめたさを感じても。罪悪感を感じても。私のためにそれを手に入れようと頑張ってくれる人の前で、嘘をつくのはやめることにしたの」

遊び人「まぁ、己が命のために呪われた装備を集めるなんて、悪役側みたいだけどね。物語なんかじゃ、永遠の命を望む悪者に限って不運にも死んじゃうんだよね」

遊び人「今になって、寓意がわかった気がするよ。そういう物語に現れていた悪役は、もしかしたら本当に永い命を手に入れていたかもしれない。けれど、ただの長寿は生きている意味そのものではないってことだったのかも」

遊び人「今が好きだから今を延ばしたくて永遠を望む、なんて人いないんじゃないかな。今が好きなひとは、今しか見ないんだもの。今を永遠に感じてるんだもの。まだ来ぬ未来ばかり生きてるひとは、どんなに長生きしても生きたことにはならないのよ」

勇者「おとぎ話なんか気にするなよ」

遊び人「ねえ勇者」

遊び人「私を救ってくれて、ありがとう」

勇者「まだ何にも解決してないよ。あれもこれもどれも」

遊び人「そうだね」

遊び人「でも、今こうやって、2人で楽しいじゃん」



あらゆる障害を二人の力で乗り越えることができなくても。

あらゆる障害を差し置いて、二人で幸せを感じることはできる。

遊び人「さて、二度寝しよっか」




勇者「…………」

勇者「なあ遊び人」

勇者は上体を起こして言った。

勇者「もしも明日、世界が滅びるとしたらなんだけど」
825 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:33:45.46 ID:ih6hDcQ/0
【TIPS】

『ヒロイン』

やさしい女の子のこと。

ヒロインは最初に現れている。

主人公の男の子は、旅をして、成長をして、色んな異性と出会うが。

結ばれるべき人は、最初からいる。

強くなっても。富を得ても。

誰のために強くなったか。誰のために富を得たか。

それを忘れずにい続けられたからこそ、強さや富を失わずに済んだのだ。

主人公のヒロインがたまたま第1話に現れるのではない。

最初から最後までヒロインを守り続けたから、男の子は主人公になれたのだ。

『ヒーロー』

ヒロインを守る、何者でもない男の子のこと。
826 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:35:50.45 ID:ih6hDcQ/0
〜嫉妬の王国〜

キィイイイイン!!!!

研究者A「自動感知呪文が反応した!!封印の壺が割れた証だ!!」

研究者A「全員叩き起こせ!!嫉妬様にも早くご報告を!!」

研究者B「嫉妬様は、現在例の場所に……」

研究者B「何故こんな時に。仕方ない、鳥獣の魔物で伝令を送れ。俺達は暴食の鎧と色欲の鞭を回収しにいくぞ!!」




キィイインン!!!

遊び人「……っ!?」

遊び人「今の感覚!!」

遊び人「勇者!!封印の壺が割れたみたい!!」

遊び人は、大罪の装備の独特の魔力を感じた。

勇者「どの方角からだ」

遊び人「……おおよその方向だけど。花の香りの村の方面にあるみたい。私が気配をたどれば見つかると思う」

勇者「少し遠いな。嫉妬の王国の研究者たちも自動感知呪文の装置で気づいたはずだ。急ぐぞ!!」





幸いにも、封印の壺は花の香りの村の隅に埋められていた。

勇者「間に合ったな」

勇者達は暴食の鎧と色欲の鞭を手に入れた。

遊び人「強欲の都にいた術士の一人がここに埋めに来たのよね。私達の訪れたことのある場所でよかった」

勇者「これで暴食の鎧、色欲の鞭、怠惰の足枷はこちら側に。そして傲慢の盾、憤怒の兜、強欲の腕輪、嫉妬の首飾りは相手側にあることになったわけだ」

遊び人「勇者、自動感知呪文はこの二つの装備の居場所を特定し続けるよ。ここに追手が来ても、感知呪文の装置があるのは王国の旧決闘場の中だからすぐに私達の居場所がばれることはないけれど。ずっと逃げ続けることは無理だと思う」

遊び人「もし、今持っている装備を放棄すれば……」

勇者「そんなことしたくはないだろ。正直にわがまま言えって」

遊び人「……そうだね。勇者」

遊び人「嫉妬の勇者と、戦って欲しい」

遊び人「勝って、装備を全部手に入れて欲しい」

遊び人「わたし、長生きしたいんだ!!」
827 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:45:54.95 ID:ih6hDcQ/0
〜魔王城〜

移動の翼を使い、勇者達は魔王城の前にたどり着いた。

魔王が君臨していた頃に施されていた結界は、全て解除されていた。

勇者「怠惰が言ってた。ここに、全ての大罪の装備がある」

遊び人「少し前に偵察で訪れた以来だね」

勇者「魔王という主なき今でも、禍々しさを感じるな。他の勇者達も、かつてここに訪れてきたんだよな。魔王討伐、その目的を果たすために」

勇者「さて、律儀に正面玄関から入る気はない。近道するぞ」

勇者は再び移動の翼を取り出した。

勇者「どうする?」

遊び人「なにが?上階に直接飛ぶんでしょ?」

勇者「移動の翼を身体中に身に着けて飛んでみるか?」

遊び人「えっ?」

勇者「ほら、俺が負けちゃう可能性もなくはないじゃん。明日死んじゃうとしたら、移動の翼を身体中につけて飛んでみたいって、食い逃げで捕まってた時に言ってなかったっけ?」

遊び人「……覚えててくれたんだ」

遊び人「もう。食い逃げって言わないの!!」

遊び人のこうげき!

勇者に3のダメージ!

勇者「はぁ!?」

遊び人「生きることだけ考えて!ほら、はやく行くよ!!」

遊び人は嬉しそうな顔をして言った。
828 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 22:50:54.13 ID:ih6hDcQ/0
勇者達は魔王城の上階にたどり着いた。

遊び人「……さて」

遊び人「ここからは私の出番ですかね」

勇者「無理はしないでくれよ。先日の実験の時も……」

遊び人「心配ご無用。というより、心配してくれる人がいるうちは安心しちゃうってもんだよ」

遊び人は道具袋から”意思の薬”を取り出した。

遊び人「怠惰の足枷の呪いさえも克服する薬」

遊び人「わたしの遊び癖も、乗り越える意思をこれは与えてくれることがわかった」

遊び人「物体感知の呪文を唱えるわ」

遊び人は意思の薬を口に含んだ。

両手を組み、目を閉じた。






―――キィイイン。

――――――キィイイン。キィイイン。キィイイン。

遊び人「……全て捉えたわ。でも完全な結界が張られているみたい」

遊び人「大きな障害物だけでも取り除いておこうかしら」

遊び人「『開け〜、ゴマ』!!」

――――パキン!! パキンパキンパキン!!!!

遊び人「はぁ…!はぁ…!」

勇者「大丈夫か!?」

遊び人「……成功したみたい。防御壁を私の魔力が上回った……。各部屋への扉は全て開けたわ。結界がいくつか張られてるみたいだけど」

勇者「さすがだな。反則地味た力だ」

遊び人「装備は全て魔王城の中にあるよ。早く行きましょ……」グラ…

立ち上がろうとした遊び人は、ふらついた。

勇者「立てるか?」

遊び人「……ごめん。やっぱり遊び人が真面目に仕事しちゃうと反動がきついみたい。人それぞれに見合ったお仕事があるものね」

勇者「ゆっくり休んでてくれ」

遊び人「お言葉に甘えて」

勇者は遊び人を背負った。
829 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:02:07.44 ID:ih6hDcQ/0
遊び人「まずはそこの大穴に落ちて」

遊び人が背中から指示を出した。

勇者「死なないかな?暗くて何も見えないぞ」

遊び人「さっき感知呪文を唱えた時に、ついでに場内の構造は全て把握しておいたから安心して」

勇者「すげえ……」

遊び人「地面に砂が敷き詰められているの。着地の衝撃で足が砕けると思うけど、回復呪文を唱えれば問題ないよ。もう勇者も有能な術士だしね」

勇者「まじかよ」

遊び人「移動の翼を使用しながら優雅に降りる方法もあるわ。今の魔王城は特殊道具も特殊呪文も使い放題よ」

勇者「それを先に言ってくれ」



勇者達は移動の翼を使いながら大穴の中に飛び降りた。

遊び人の指示に従い砂の上を歩いた。

勇者「砂漠を歩いてる感覚だな」

遊び人「うーんと、あと3歩」

勇者「あー、ここらへん?」

遊び人「うん。この真下」

勇者は遊び人を背中からおろした。

勇者「砂堀りの時間だな」

勇者は砂を掘り起こした。

しかし、いくら砂を掘っても、無尽蔵に砂が沸いてきた。

勇者「なんだこれ。永遠に穴を掘れる気配ないぞ」

遊び人「完全結界が張られてるのね。私の出番みたい」

勇者「大丈夫か?」

遊び人「駄目でも、やるしかないもの」

遊び人は意思の薬を口に含んだ。

集中した後、呪文を唱えた。

遊び人「『あめ』!!」

すると、遊び人の手の平から水が勢いよく降り注ぎ始めた。
830 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:06:04.52 ID:ih6hDcQ/0
水は砂の中に吸い込まれていった。

しかし、砂は乾燥したままであった。

勇者「どういうことだよ。水が消えてくぞ」

遊び人「これでも吸収されてるはずよ。砂がものすごく乾燥してるっていえばわかるかな。喉がカラカラの勇者に、ちょっとやそっと飲み物与えても満足しないのと一緒だよ」

勇者「だとしたらこの砂喉乾きすぎだろ。雨というより滝が流れ込んでるってのに乾いたままだ」

遊び人の手の平からはゴオゴオと音を立てながら、凄まじい量の水分が流れ出ていた。

遊び人「ちょっとずつ染み込んできてるよ」


遊び人の言う通り、じっと見ていると砂が湿りはじめ、固まった。

遊び人「充分みたいね。掘り起こしてみて」

勇者「任せろ」

勇者は砂の固まりをどかした。

すると、兜が現れた。

勇者は憤怒の兜をてにいれた!

勇者「おわっ、こんなにあっさり」

遊び人「言っておきますけど、樽いっぱいの水を何百個分も局所に流せる呪文使いなんてそうそういないんですからね……」

遊び人は額から汗を流して言った。

勇者「がんばったな。よくできました」

遊び人「もう……。それにしても、嫉妬も厄介な結界を張ってくれたなぁ」

勇者「おそらくこの結界は嫉妬の首飾りで攻略化済みなんだろう。無効化すればあいつはいつでも自由に取り出せたわけだ」

勇者「よし、次の装備を探しに行くぞ。ほれ、おんぶ」

遊び人「すみませんねぇ。お邪魔します」

遊び人は勇者の背に乗った。
831 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:07:35.93 ID:ih6hDcQ/0
人形がいっぱい飾られている部屋に着いた。

桃色で装飾されたかわいらしい部屋だった。

勇者「うげっ、魔王って悪趣味だな」

遊び人「魔王の部屋なわけないでしょ。あなたが憤怒の城下町で2人の過去を演説したでしょ。ここは召喚を司る四天王、マリアの部屋に違いないわ」

遊び人「寝具の横に置いてある、大きな人形を調べてみて」

勇者「大きな人形っていうか」

勇者は人形の前に立った。

勇者「これ、魔王に似てね?小さいけど」

遊び人「体内に装備の気配を感じるわ」

勇者「腹かっさばくか?」

遊び人「攻撃すると起動する危険性が高いよ。人形と戦闘になるわ。ちょっとおろして」

勇者「おいおい、大丈夫かよ」

遊び人「意思の薬はまだたくさん残ってるよ。怠惰の監獄の地からたくさん取ってきたじゃない」

勇者「俺が心配しているのは……」

勇者の言葉をよそに、遊び人は呪文を唱えた。

遊び人「『みつ』!!」

遊び人の手の平から、黄色の液体が流れ出した。

液体は人形の口の中へと流れ込んでいった。



勇者「また水か」

遊び人「水じゃないよ。蜜だよ」

勇者「似たようなもんだろ」

遊び人「お酒の成分も混ぜてるんだから」

勇者「なんで人形に酒を……うわ!」

いきなり人形は表情を浮かべた。

勇者「生きてる!」

遊び人「大丈夫。じっとしてて」

人形は最初は驚いた表情を浮かべていたものの、液体の味が気に入ったのか、頬を紅潮させ満足げな表情を浮かべた。

勇者「ちょっとかわいいな」

遊び人「ちょっとかわいいね」
832 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:18:16.89 ID:ih6hDcQ/0
人形はしばらく液体を飲み続けていたが、やがて顔が青ざめてきた。

頭をふらふらと揺り動かしながら、次第に気味の悪い声を出すようになった。

遊び人「色欲の町の宴の席でお姉さんに囲まれて、調子乗った後の勇者みたい」

勇者「なにそれ!?全然記憶ないんだけど!!」

遊び人「でしょうね」

ビチャビチャ!!!

勇者「うわっ!?」

人形は身体をくの字に曲げて吐き出した。

黄色の液体に混じり、大きな物体がゴロっと吐き出されてきた。

魔王の人形は気絶した。

遊び人「……勇者」

勇者「わかってるよ。俺が取るっての」

勇者は傲慢の盾をてにいれた!



勇者はボロ布で盾を拭ったあと、道具袋に盾をしまった。

勇者「なんだか笑っちゃうよな」

遊び人「なにが?」

勇者「嫉妬の勇者がここに隠したんだろ?こんなかわいい部屋に来て、人形の中に大罪の装備を隠すなんてさ」

遊び人「……たしかに。こんなに分散させて、なんだか違和感が……」バタ…

遊び人はまたしても倒れてしまった。

勇者「もう限界じゃんかよ!!やっぱり一旦……」

遊び人「……次のフロアに行きましょう」

勇者「でも」

遊び人「占い師は今日が決戦たるべき日だと言っていたわ。他に選択肢はないのよ」

遊び人「今度は、あっちの方向に行って」

勇者「……わかったよ。ほら、おんぶ」

遊び人「うん」

遊び人は勇者の背に乗った。

遊び人「……勇者の手、ねばねばする」

勇者「吐瀉物だと思うと嫌になるだろ。俺の手汗だと思ってくれればいい」

遊び人「……わーい、べとべとの勇者の手汗だー」

力ない声で、遊び人はいつものバカバカしいやりとりを行った。
833 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:19:51.98 ID:ih6hDcQ/0
遊び人を背負っている時に、呼吸がかなり乱れていることに気づいた。

勇者「本当に消耗が激しいな」

遊び人「……正直ね。お父さんの願いで賢者の真逆の職業に強制転職されたのに、賢者のお仕事してるんだもの」

勇者「身体の拒否反応か。例えるなら、戦士が呪文を使ったり、僧侶が肉弾戦をしたり、盗賊が寄付活動してるようなものか」

遊び人「よくパッと思いつくね」

勇者「勇者が逃げ回ってるようなものか、ってたとえも思いついたけど、俺は逃げるの大好きなんだよなぁ」

遊び人「……知ってます」



遊び人「そこの壁、攻撃してみて」

勇者「ここか?」

勇者は剣を構えると、壁に攻撃した。

剣は壁をすり抜けた。

遊び人「幻影呪文がかけられていたみたい。そのまま入って」

勇者達が壁の中を抜けると、大広間のような場所に出た。

勇者「だだっ広い部屋だな」

遊び人「一番奥まで進んで」

勇者「ここ横切っていくのは怖いな」

遊び人「大丈夫。ここに装備以外の気配はなかったから」

遊び人をおぶりながら勇者は大広間を歩んでいった。



大広間に奥までたどり着いた。

勇者「大きな石がある」

遊び人「この中から装備の気配がする」

勇者「どうする?」

遊び人「生き物じゃないみたいだし、とりあえず攻撃してみたら?」

勇者「よっしゃ」

勇者は剣を構えた。

勇者「ふぅー……。行くぜ!!」

勇者「死ねぇええ嫉妬ぉおおおおおおお!!!!!!!」

勇者のこうげき!

石の表面に切り傷を与えた。

勇者「やったか!?」

石の表面はただちに自己修復し、切り傷は消えてしまった。

勇者「なっ!?馬鹿な!?」

遊び人「今の一連の勇者、完全に悪役だったよ」
834 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:27:28.57 ID:ih6hDcQ/0
遊び人「体力を回復しつづける結界ね。自身だけを回復し続ける賢者の石みたいなものかな」

遊び人「ちまちまと攻撃を与えても壊せないね」

遊び人は意思の薬を取り出した。

薬を持つ遊び人の手は震えていた。

勇者「待って!!いいこと考えた!!」

遊び人「なに?」

勇者「大罪の装備の力を借りる」

遊び人「何の装備をどう使うの?」

道具袋の中には、暴食の鎧、色欲の鞭、傲慢の盾、憤怒の兜が入っていた。

勇者「ええーっと……」

遊び人「大罪の装備は理性を飲み込む力を持つってこと、散々聞いてきたでしょう?このサイズの石を壊す分だけに使うには、あまりに装備の使用経験が足りないよ」

勇者「じゃあどうすれば」

遊び人「私が呪文を使うのよ」

勇者「もう駄目だって!!」

遊び人「死にはしないから」

勇者「死ななければ何でもいいのかよ!!」

遊び人「そうだよ。生きていればそれでいい」

遊び人は意思の薬を口に含んだ。

遊び人「生きていれば、なんとでもなるもの」

遊び人は祈り始めた。

遊び人「大罪の装備を使って破壊しにくい結界が揃っていたのは、偶然じゃないのかもね」

遊び人「嫉妬の勇者の考えてることが、だんだんわかってきた気がするよ」

遊び人「こんな繊細で強固な結界を一人で壊せるのは、私しかいないでしょうから」

遊び人「『さん』!!」

遊び人が呪文を唱えると、手の平から液体が垂れ始めた。

石に水滴があたると、煙を出して溶け始めた。
835 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:39:12.62 ID:ih6hDcQ/0
勇者は注意深く、割れた石から出てきた腕輪を掴んだ。

強欲の腕輪をてにいれた!

遊び人「液体って便利ね……」ドサ!

遊び人は倒れた。

勇者「遊び人!!」

遊び人「へへ……働きすぎちゃったな……」

勇者「無理し過ぎだ。本当に限界だ」

遊び人「……そうね。それが奴の狙いだったのよ」

勇者「どういう意味だよ。さっきも嫉妬の勇者が考えてることがわかった気がするって」

遊び人「きっと、私が意思の薬を使ってこの結界を破壊することは想定済みだったんだよ。罠といってもいいかもしれない」

勇者「あいつは精霊を破壊されるのを恐れてるんだろ。あいつの隠していた大罪の装備をまんまと奪って。それがあいつの狙いだっていうのか?」

遊び人「ぎりぎり私達に勝てる状況を考えたのよ」

遊び人「あまりに盤石な態勢で構えると私達がまた逃げるとも限らない。あまりに無防備だと私達に倒されるでしょう?九分一分の勝利ではなく、六分四分で勝つことを考えたのよ」

遊び人「ちょっと気になるものを感知したの。そこの階段を降りていった先に行ってほしいの」

勇者「もう呪文は使うなよ」

遊び人は返事をしなかった。
836 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:40:02.05 ID:ih6hDcQ/0
歩いている途中、遊び人はまた話をし始めた。

遊び人「マリアの部屋の話に戻るけど。かわいいお人形さんの中に傲慢の盾を入れたのは、きっと敬意なのよ」

勇者「敬意?」

遊び人「魔族に対する敬意。憤怒の兜は砂の中に埋めてあった。あの大穴の中は、砂の怪物と呼ばれる四天王の部屋だったんだと思う。強欲の腕輪のあった大部屋はきっと、再生を司る巨壁の部屋」

勇者「魔王を捕縛して触媒代わりにしているのに敬意だなんて」

遊び人「大罪の装備がなければ人間は魔族に勝ち目はなかったでしょ」

遊び人「倒した敵に敬意を払うことで、それに打ち勝った自身の価値を認めてるだけかもしれないけれどね」

遊び人「着いたみたい。そこの扉を開けて。鍵は壊してあるから」
837 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:44:18.18 ID:ih6hDcQ/0
扉を開けると、暗闇が広がっていた。

勇者「真っ暗だな」

遊び人「何も見えないね」

勇者「でもなんだろう。なんか、花の香りがする気がする……」

遊び人は勇者の背中から降りた。

勇者「立てるか?」

遊び人「勇者がいれば」

遊び人は勇者に寄りかかりながら、暗闇の中を進んだ。

遊び人「ここらへんね。勇者、目をつむって」

勇者「うん」

勇者は目を閉じた。




遊び人「『ほし』」
838 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:47:18.00 ID:ih6hDcQ/0
ドサッ…

勇者「遊び人!?」

勇者が目を開けると、遊び人が倒れていた。

勇者「また結界を破ったんだろ!!意思の薬を使って!!」

遊び人「……ここは夢を司る四天王の部屋だったのよ。星明りのおかげで、いいものを見つけられたわ」

遊び人の右手には紫色の輝剣が握られていた。

勇者「精霊殺しの魔剣……」

遊び人「これで秘宝とも呼ぶべきものは全部奪えたわ。あとは、ひとつの大罪の装備を気配を感じるだけ」

勇者「それが嫉妬の首飾りなんだろ。遊び人がこんな状態でいけるかよ。一旦どこかの村に避難して……」

遊び人「駄目みたいだよ」

勇者は振り返った。

いつの間にか、さきほどまで歩いてきた道は消滅していた。

代わりに、地面には赤い絨毯が敷かれており、一直線の道が生まれていた。

勇者「やっぱり、全部奴の罠だったんじゃないか!」

遊び人「赤い糸の呪文と似たようなものね。4つの秘宝に糸を巻き付けてあったのよ。全てに絡めたられた結果、ここまでおびき寄せられた。絶妙な数と配置のバランスだったわ」

遊び人「でもね、罠にひっかかったとは言い切れないわ。嫉妬にとってもこれは苦肉の策だったのかも。肉を切らせて骨を断つために、どこまでの肉を差し出すべきか彼自身図りかねていたのよ」

勇者「ふざけんなよ。赤い絨毯の上なんて、魔王との決戦かよ」

遊び人「私はカジノをおもいだすけどな」

勇者「それだったらどんなにいいことか」

遊び人「ふふ。あれはあれで命懸けの決戦だったじゃない」
839 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:56:54.90 ID:ih6hDcQ/0
〜魔王城 最深部〜

勇者と遊び人は絨毯の上を歩いた。

一本に進む真っ直ぐな道。

2人は、見覚えのある形状の建物にたどり着いた。

勇者「魔王城に、一番似つかわしくないだろ」

円形状の屋根。

先端に聳える十字架。

明かりを取り入れるステンドグラス。

勇者「決戦の場は、教会か」



嫉妬「……来たか」

勇者達が扉を開けると、嫉妬の勇者が座っていた。

勇者「魔王の玉座に座ってんじゃねーよ。卓上で説教でもしてろ」

勇者「大罪の装備はあるだけ奪ってやったぜ。全部手元に置いておけばよかったのに」

嫉妬「いつまでも逃げられては、俺も老人になってしまうのでな。寿命が尽きなければの話だが」

嫉妬「お互いわかっていたはずだ。今夜この状態で対峙することを」

嫉妬「貴様らも強欲の都の近くにある転職神殿に行ったのだろう。そして例の占い師に尋ねたはずだ。最も俺様に挑むべき時はいつかとな」

嫉妬「俺も同様に尋ねた。貴様らの挑戦を受けるべき時はいつかとな。それは、お互い同じ今日という日に当然なろう」

嫉妬「俺が勝利する可能性を確保するにあたって、その賢者の女の意思を削ることが重要な要素だった。精霊を殺す力を持つからな。俺も全ての呪文を攻略化しているとはいえない。大罪の一族というイレギュラーを相手にしたくはないのでな」

嫉妬「お前らにとっては精霊殺しの装備の数が重要な要素だ。通常攻撃でいくら俺を殺しても、精霊は死なないからな」
840 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/28(土) 23:57:41.43 ID:ih6hDcQ/0
嫉妬「さて、交渉といこう」

勇者「交渉?」

嫉妬「貴様達のこの旅の目的は1つだ。そこの遊び人の寿命を延ばすために大罪の装備を7つ集め、寿命を吸い取りたいのだろう?」

嫉妬「今すぐ叶えさせてやろう。装備を持って俺のところまで来い。寿命を何十年分か吸ったあとは自由なところへ逃げればいい」

勇者「信じられるかよ。お前が首飾りを投げて寄越せ」

嫉妬「威勢だけはいいな。守る力もないというのに」

勇者は顔を赤くした。

嫉妬「戦う手間を省いてやると言ってるんだ。お前らなど殺すのは容易い」

遊び人「勇者、信じる必要ないよ。こいつが私を嫉妬の王国に監禁してたのは、大罪の賢者の生き残りである私の力を必要としていたから。きっと、特殊な儀式の触媒か何かに私が必要なのよ。生きて逃がすつもりなんかない」

嫉妬「それは早とちりもいいところだ。確かにお前らは引き裂かれるかもしれん。そこの女は必要なのでな」

勇者「てめぇ……」

嫉妬「だが、勇者。お前は逃してやろう」

勇者「逃がす……?」

嫉妬「お前は無傷で逃してやる。なんなら、怠惰の代わりとして俺の片手にしてやってもよい」

嫉妬「お前は面白い存在だ。憤怒の街で会った時から、異様な速度で成長を遂げた。賢者のような慎重性をそなえながら、勇者としての無謀さもそなえている、腹心の部下とはならないだろうが、俺を愉しませる働きぶりをしてくれるだろう」

嫉妬「どうだ。世界の半分をやるから、俺の仲間にならないか?」

嫉妬は手を差し出した。

遊び人は勇者を見た。

勇者は嫉妬をまっすぐ見つめて言った。

勇者「俺は無謀なんかじゃない。恐れ知らずじゃない」

勇者「勇気は、出すのが怖いからこそ価値があるんだ。誰よりも臆病な俺が勇気を出すほど、この子は価値有る存在なんだ」

勇者「俺の世界の半分は、ここにある!!」

遊び人「むわっ?」

勇者は遊び人の頭に手を置いた。

勇者「そして、もう半分はここにな!!」

勇者は自分の胸を叩いた。

遊び人は、照れくさそうにクスクス笑った。

遊び人「他の世界はないのかしら」

勇者「あいにく、俺も勇者なりたてなんでな。他の世界など知った事か」

そういいながら、命がけで勇者は立つ。

勇者「この子は俺が救う!!」

勇者「大罪を贖え、嫉妬!!」



たたかおうとする男を見て。

全身が震えた。

自分を守ろうと立つ男の表情は、こんなにも頼もしいものなのかと驚いた。

委ねたいと思わせる安心感があった。

紛れもなく、勇者と呼ぶべき存在であった。

伝説が生まれてから、伝説の姿が生まれるのではない。

名も無き時代から、既にそこにいるものたちは、伝説だと感じているのだ。

これが、英雄の姿なのかと。
841 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/29(日) 00:00:48.51 ID:lRCTzg150
嫉妬「……くだらん!!」

嫉妬「命を賭してまで守るべき他者など、存在するものか!!」

嫉妬は、妬みと嫉みの入り混じった形相で勇者を睨みつけた。

嫉妬「四肢をもぎ取ったあと再び尋ねてやろう!!そこの女の命と自分の命のどちらが大切かとな!!」

遊び人「あなたの望みは何なの?魔王を倒した存在として、世界の英雄になること以上の栄誉なんて……」

嫉妬「俺を奴隷として散々虐げてきたこの世界の、英雄になれと言うのか!!」

嫉妬「強国の姫君と結婚し、民の模範として清く正しく生きろというのか!また魔物の残党狩りなどにでろと言うのか!!笑わせてくれる!!」

嫉妬「俺はこの世界の王になるのだ!!全ての人間と、魔物の王に!!」

嫉妬「そして、俺以外の全ての人間は奴隷として生きるのだ!!」



嫉妬「暴食!!」

嫉妬「俺は俺が選ぶものを食すことを許される!夫婦の妻の人肉を食しても、夫は俺に感謝しなければならない!!」

嫉妬「色欲!!」

嫉妬「俺は俺が選ぶ女を犯すことを許される!街中の美しい女をすれ違いざまに犯しても民は見過ごさなければならない!!」

嫉妬「憤怒!!」

嫉妬「俺は好きな感情を出すことを許される!気まぐれに人を殺す!気に食わなかったら殺す!!気にいっても殺す!!」

嫉妬「傲慢!!」

嫉妬「民は俺をあがめ無ければならない!全ての民は俺が命じた時に俺に祈りを捧げる!!灼熱の地域で飢えている時でも、極寒の地域で疲弊している時でもな!!」

嫉妬「怠惰!!」

嫉妬「俺は何も生み出さぬことを許される!!民が必死に生み出したあらゆる財産は、俺の所有物となる!!」

嫉妬「強欲!!」

嫉妬「俺は更なる命を求める!そこの女との子供を生み、大罪の賢者の一族を復活させる!!我が子の寿命を大罪の装備に吸収させ、俺は永遠の寿命を得続ける!!」

嫉妬「嫉妬!!」

嫉妬「そして、勇者共!!俺の可能性を奪う可能性を持つ者ども!俺の欲望の一部を既に叶えしものども!こいつらから精霊の加護を奪い取り、俺は絶対的命の保証をする!」

嫉妬「人間にとっての最大の欲望は何か!!人間を支配することだ!!」

嫉妬「俺は、国王、勇者、魔王を超えた存在となり、この世界に君臨する!!!」

嫉妬「7つの大罪の装備を全て身につけることによって寿命を吸い生き続け、そして全ての欲望を満たし続ける!!」

嫉妬「俺は永遠にこの世界を支配するのだ!!!」

勇者「……てめぇ」

勇者「ふざけんじゃねえ!!!」

遊び人「勇者……」

勇者「色欲!!」

勇者「この子と大所帯をもつのは、この俺だ!!」
842 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/29(日) 00:06:27.77 ID:lRCTzg150
誰もが、美味しいものを食べていられる世界。

誰もが、美しく思う人と愛し合っている世界。

誰もが、自分で自分を誇りに思っている世界。

誰もが、感情を出すことを許されている世界。

誰もが、自由にゆったりと過ごしている世界。

誰もが、求め続ける事を認められている世界。

誰もが、他者を尊敬し合うことのできる世界。

暴食、色欲、傲慢、憤怒、怠惰、強欲、嫉妬。

7つの欲望が大罪と呼ばれたのは。

これらの世界が、諦めざるを得ない、夢物語であるからだ。

【最終章 魔王城 『命を越えた時間』】

けれど、たった1つだけ。

世界が滅ぶ、1日前に叶えることができるとしたら。

何をしてみたいですか。

まして。

これらの願いを超えるほどの出会いが、僅かにでもあるのなら。

そのためだけに、生きていたくないですか。
843 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/29(日) 02:09:09.34 ID:SjD+g+AR0
844 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/29(日) 21:16:58.45 ID:C5ujVBbk0
今日はあるかな
845 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:10:02.97 ID:BTByofbZ0
勇者「遊び人」

勇者は小声で尋ねた。

勇者「移動の翼で逃げ切れないかな。これだけ大見得を切った後に逃げ出せたら最高だろ?」

遊び人「私も考えたけど、ここだけ建物の周囲に結界が施されてるみたいなの」

勇者「そうか……」

勇者は地形を確認した。

建物は見た目こそ教会であるものの、広大な面積や、障害物の少なさ等から見て、明らかに戦闘場としての構造をしていた。

上を見上げると、豪華な装飾が施された照明が吊るされていた。太陽の光を吸収する発光石が埋められているものだ。

勇者「移動の翼を使っても、ふしぎなちからでかき消されるわけじゃないんだろ。遊び人、建物上部に吊るされている巨大な照明のところまで飛ぶんだ。その上に乗っかって避難しててくれ」

勇者「俺は大罪の装備を使うから。理性を失った時、遊び人を攻撃してしまうかもしれないから」

遊び人「……うん。わかった」
846 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:11:57.49 ID:BTByofbZ0
勇者「あと、もう一度確認したい。あいつの体内にはいくつの精霊が宿ってる?」

遊び人「……大きな白い塊になってて数がわからないの。でも、憤怒が精霊を破壊した時に、ゆらぎが生じて数を確認できたわ。その時は6つだった。そして、強欲の都で破壊したから、5体のはず」

遊び人「一度とどめを刺すのに使用した呪文や装備が全て攻略化されるとして」

遊び人「暴食の鎧。色欲の鞭。憤怒の兜。傲慢の盾。怠惰の足枷。強欲の腕輪」

遊び人「憤怒の兜と強欲の腕輪は攻略化済だから、大罪の装備だけだと4体分しか倒せない」

勇者「魔剣もある。あいつは精霊を犠牲にしてまで攻略化はしないって怠惰が言ってた。それでちょうど5体分だ」

遊び人「……そっか」フラ…

遊び人は、また倒れかけた。

勇者「遊び人!!」

勇者が抱きかかえると、身体中が震えていた。

顔は青ざめており、鼻からは血が出ていた。

遊び人「それに、あと、1回……」

勇者「えっ?」

遊び人「あと1回だけなら、呪文を使えると思うから……いざという時は……」

勇者「いざなんて起こさせない!なんなら、あいつの首飾りを奪えば勝利は確定なんだ」

勇者「勇者の俺に戦わなくていいって言ってくれただろ。遊び人のお前には戦わせないよ」

遊び人「私は、寿命泥棒だから……。勇者の寿命、また減っちゃうから……」

勇者「そんなことないよ。あいつ倒して、2人で1000才まで生きるんだろ?」

遊び人「……そうなの?」

勇者「今決めたんだ。ほら、行って来い」

遊び人「……うん。照明の上で遊んでくるね」

勇者「その意気だ」

遊び人は移動の翼を使用した。
847 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:12:40.64 ID:BTByofbZ0
嫉妬「大事な打ち合わせは事前にしておくんだったな。まだ1回呪文を使えるそうじゃないか」

勇者「遊び人様の出る幕なんかねーよ」

勇者は大罪の装備を取り出した。

嫉妬「そうか。確かに貴様らは幸運だ。失われた精霊の補充の準備をしていたが、明日整うはずだった」

勇者「明日まで延期しなくてよかったのかよ」

嫉妬「私もそうしたい気持ちは山々だったのだが。貴様らとの力の均衡が揃うのは今日だというからな」

嫉妬「強力な魔族に対抗できるよう精霊が人間に宿るのと同様、世界は平等を望む傾向にあるらしい」

嫉妬「嫉妬の首飾りがこちら側にある以上、俺は平等とも思っていないがな」
848 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:13:17.92 ID:BTByofbZ0
勇者「話を延ばして明日にまで延ばすつもりかよ。こっちは生き急いでるんだ」

勇者「さっそくだが、俺の故郷からのお返しだ」

勇者は怠惰の足枷を装備した。

勇者「廃人と化せ」

勇者は怠惰の足枷を使用した。



嫉妬の攻撃力が極限まで下がった。

嫉妬の防御力が極限まで下がった。

嫉妬の素早さが極限まで下がった。

嫉妬の魔力が0になった。

嫉妬の反応力が極限まで下がった。

嫉妬の集中力が極限まで下がった。

嫉妬の判断力が極限まで下がった。

嫉妬の決断力が極限まで下がった。

嫉妬は足元から崩れ落ちた。



勇者は剣を構えながら嫉妬に近づいた。

嫉妬は目を閉じていた。

勇者「このまま、首飾りを奪えば……」
849 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:14:13.86 ID:BTByofbZ0
勇者は嫉妬を殺害しないよう気を付けた。

大罪の装備を使用して殺害してしまえば、嫉妬の首飾りによって攻略化され、復活後の戦闘では無効化されてしまう。

裏を返せば、殺害に至らせなければ、いくらでも装備の効力を発揮できるということであった。

勇者「一生うなだれててくれ」

勇者は嫉妬の首飾りを奪おうとした。

その時嫉妬の目が開いた。

嫉妬は剣を握っていた手を動かした。

勇者は咄嗟に、怠惰の足枷を履いたまま嫉妬を首を踏みつけた。

足枷の底の無数の針が貫通し、嫉妬の首に突き刺さった。

嫉妬「ガァ……」



バリィイイイインン!!!!

嫉妬の精霊は破壊された。

死の刹那、嫉妬は怠惰の足枷に対する強烈な感情が芽生えた。

嫉妬は絶命した。
850 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:15:05.92 ID:BTByofbZ0
嫉妬は即座に棺桶に保管された。

神官としての職業が、嫉妬自身を蘇らせた。

嫉妬は復活した。

勇者「まずい……!!」

勇者は後方に飛び退き、距離を取った。



勇者「意思の薬を使用していたんだな!!」

嫉妬「その通りだ。だが、さすがは怠惰の足枷の効力だ。お前など簡単に斬りつけられたはずだったのだが」

嫉妬「いきなり首飾りを奪いに来るとはな。弱者にふさわしい戦い方だ」

嫉妬は余裕の表情を見せた。

嫉妬「さて、間もなくお楽しみが届くぞ」

勇者「何を……」

その時、上空から大きな声が聞こえた。

遊び人「勇者!!!精霊のゆらぎが見えたの!!」

遊び人「精霊が、まだそいつの体内に5体いるの!!」

遊び人「強欲の都での戦闘から、1体分補充していたんだわ!!」
851 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:16:01.77 ID:BTByofbZ0
嫉妬は笑いだした。

嫉妬「貴様らがのこのこ逃げている間に、俺ものんびりと待っていたわけではない」

嫉妬「精霊の取り込みには7体という上限がある。加えて、1体の取り込みには数ヶ月以上の歳月を要する」

嫉妬「憤怒の勇者に破壊された分は、王国に保管してある精霊のストックから吸収させてもらっていた」

嫉妬「さて、貴様らの計算によると、どうやらあの遊び人も一度は呪文を使う必要が出てしまったな」



勇者「くっ……」

勇者は怠惰の足枷を使用した。

嫉妬「無駄だ」

嫉妬の首飾りが鈍く光った。


嫉妬の攻撃力は変わらなかった。

嫉妬の防御力は変わらなかった。

嫉妬の素早さは変わらなかった。

嫉妬の魔力は変わらなかった。

嫉妬の反応力は変わらなかった。

嫉妬の集中力は変わらなかった。

嫉妬の判断力は変わらなかった。

嫉妬の決断力は変わらなかった。

嫉妬に変化は生じなかった。

嫉妬「貴様ごときの所有物に対する妬みが、1つ減ったというわけだ」

嫉妬「無効化に消費する寿命は僅かとされているのは聞いておろう。無数に唱えようが貴様の寿命が尽きるほうが先だと思うが」

勇者「俺は、俺に出来ることをやるだけだ!」

勇者は怠惰の足枷を脱いだ。

勇者は暴食の鎧を取り出した。
852 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:16:39.69 ID:BTByofbZ0
勇者が装備を身に付けようとしている間に、嫉妬は薬瓶を飲んでいた。

勇者「……魔力を回復する薬瓶か」

嫉妬「こればかりは精霊の加護による復活でも回復できんのでな」

嫉妬「『マハンシャ』」

嫉妬の身体を魔法反射壁が覆った。

勇者「なんだか、人間らしい戦い方をするじゃんか」

勇者「『マハンシャ』」

勇者は新しく覚えた呪文を唱えた。

勇者の身体を魔法反射壁が覆った。

嫉妬「俺達ほど人間らしい人間もそうはいないだろう。人間らしさの欠片も無い人間こそ、最も人間らしいというものだ」

勇者「……これからの俺を見て、もう一度同じことを言えるのかよ」

勇者は暴食の鎧を身に着けた。
853 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:18:46.43 ID:BTByofbZ0
勇者「…………フー。フー」

勇者は目を血走らせて周囲を見た。

勇者「フー。フー。フー……」

今にも死んでしまいそうなほどの飢えを感じていた。

目に映る光景全てを胃袋に収める衝動に駆られた。

嫉妬「魔法壁ほど焼き尽くしてくれる!!」

嫉妬「『レヴィアタン』!!」

嫉妬が呪文を唱えると、雷撃が勇者に向かって迸った。

勇者「ウガァアアアア!!」

ゴクリ……。

勇者は雷撃を飲み込んだ。

嫉妬「……なら、分裂なら防げまい」

嫉妬は剣を収め、炎の玉を両手に創り出した。

嫉妬が呪文を放つと、勇者の両脇へと呪文が飛んだ。

勇者「ウガァアアア!!」

勇者は自身の身体の大きさ以上に口を広げ、バクン、と二つの玉を同時に飲み込んだ。

嫉妬「なるほど。だが」

嫉妬はその隙に勇者の懐へと入った。

嫉妬「終わりだ」

嫉妬は勇者の喉元へと剣を突き刺した。

勇者「ギッ……!!」
854 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:19:21.75 ID:BTByofbZ0
勇者は目を反転させた。

しかし、暴食の鎧は勇者の胃袋を休ませなかった。

勇者が喉を動かすと、突き刺さった剣は胃袋へと流れていった。

嫉妬「……化物か」

勇者は嫉妬の右腕を喰らった。

勇者の喉の傷はたちまち癒えた。

勇者「ウゥウウゥワアアアアアアア!!!!!」

勇者は大口を開けた。

嫉妬の身体を超えるほどの大穴が目の前にあった。

嫉妬「これが、暴食の鎧の力か」

勇者は嫉妬を、丸ごと飲み込んだ。

勇者「……グェップ」




バリィイイイイイン!!!

精霊の砕ける音が勇者の胃袋から響いた。

死の刹那、嫉妬は暴食の鎧に対する強烈な感情が芽生えた。
855 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:19:52.55 ID:BTByofbZ0
遊び人「どうしたのかしら……」

遊び人が上空から勇者を見下ろしていると、勇者が呻いているのが見えた。



勇者「……ウオェ。ウボェ……」

勇者「オェエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」

勇者は大口を開け、胃袋に飲み込んだものを吐き出した。



嫉妬「……くそが。地獄のような居心地だったぞ」

嫉妬は簡単な浄化呪文を自分にかけた。

勇者「……うおぇ。うげぇええ……」

正気を取り戻しかけた勇者は、暴食の鎧を脱ぎ捨てた。

勇者「……お前のクソ不味さが、胃袋から口内にまで広がってきたぞ……うぉええええ!!!」

ビチャビチャビチャ!!!!

嫉妬「口に合わなかったようで残念だ」

嫉妬は鈍い光を放ち終えた首飾りを撫でた。
856 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:21:06.14 ID:BTByofbZ0
勇者「残り4つ……」

勇者「頼んだぞ、俺の相棒よ」

勇者は色欲の鞭を取り出した。

嫉妬「俺を興奮させようというのか?」

勇者「野郎同士で交わる趣味はねーよ。少なくとも俺はな」

上空から聞こえる声を無視して、勇者は色欲の鞭を装備した。



勇者「…………ハァ…ハァ…」

勇者は肉体が高潮していくのを感じた。

勇者「陵辱…シテ…ヤル…」

嫉妬「弱き者が高き者を抱くことなどできないのだがな」

嫉妬「『レヴィアタン』!!」

嫉妬は電撃呪文を唱えた。

勇者は鞭をふるった。

撫でられた電撃は従順になり、鞭にまとわりついた。

勇者「『火炎ノ精』!!!」

勇者は火炎呪文を唱え、空中に浮遊させた。

勇者「『氷水ノ精』!!!」

勇者は氷水呪文を唱え、空中に浮遊させた。

勇者「『風塵ノ精』!!」

勇者は風の呪文を唱え、空中に浮遊させた。

勇者「交ワレ!!」

勇者は鞭を無茶苦茶に振り回した。

相異なる4つの属性は、お互いを相殺し合うことなく交わり合いだした。

鮮やかな四色の呪文は、溶け合いながら変色をした。
857 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:22:08.76 ID:BTByofbZ0
嫉妬「馬鹿な……!3属性以上の合体だと!」

勇者「ウグッゥゥゥゥゥゥウ!!!」

勇者は一層激しく鞭を振り回した。

呪文はお互いを激しく求めあった。

鞭には、鮮やかな漆黒色が纏わり付いていた。

勇者「ウァアアアアアアア!!!!」

勇者は鞭を嫉妬に叩きつけた。

嫉妬は咄嗟に結界を張った。

鞭は結界の表面で弾かれた。

嫉妬「はぁ…はぁ…威力はないようだな…」

嫉妬「……なっ!?」

鞭に纏わり付いていた漆黒色が結界に纏わり付いた。

黒色はウヨウヨと無数に分裂し、一つ一つが小さな生命体として運動を始めた。

結界はゴリゴリと削れていった。

勇者「破レ!!!!」

結界は瞬く間に崩壊し、黒色の粒の波が嫉妬の身体に覆いかぶさった。

嫉妬「……グァアアアアアアアアア!!!!」

嫉妬の髪、眼球、胸、下半身。

身体の隅々にまで行き渡った生命は表面から食い破った。

無数の命の種子は、嫉妬の心臓を食い破った。



バリィイイイイイン!!!!!

ガラスの割れる大きな音が聞こえた。

死の刹那、嫉妬は色欲の鞭に対する強烈な感情が芽生えた。
858 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:22:50.73 ID:BTByofbZ0
勇者「ハァ……ハァ……」

勇者「ハァ……ッ!?」

一度死亡した嫉妬は、精霊の加護により復活した。

嫉妬の首飾りが鈍く光ると、黒色の生命はお互いを憎み合い始めた。

先程まで協力しあっていた無数の命は、自分の欲望を最優先させ殺し合いを始めた。

勇者は途端に空虚さと罪悪感に襲われた。

鞭はもはや艶めかしさを失っていた。

勇者は色欲の鞭を手放した。

嫉妬「命を奪う種子か。寿命を食らう鞭にふさわしい使い方であったぞ」

嫉妬「さて、次はどうする?」
859 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:23:44.29 ID:BTByofbZ0
勇者「残り3体……」

勇者は傲慢の盾を取り出した。

嫉妬「虫唾が走るな。俺様の装備を貴様が使っているのを見るとな」

勇者「くれたんじゃなかったのかよ」

嫉妬「貴様に永遠の命などふさわしいものか。傲慢も甚だしい」

勇者「だったら余計にこの装備が俺にふさわしいじゃねえか」

傲慢「奢るものは久しからずという言葉も知らないのか」

勇者「そうやって傲慢を知った気になってることを、傲慢っていうんだよ!!!

勇者は傲慢の盾を使用した。
860 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:24:30.31 ID:BTByofbZ0
嫉妬はほくそ笑んでいた。

勇者は傲慢の盾の効力を、傲慢の勇者の話から聞いた限りで知っている。

一方、嫉妬は一度傲慢の盾を長い間保有していた。

当然、その効力については熟知している。

嫉妬は剣を懐にしまった。

勇者「くっ!」

嫉妬「お気づきの通り。その盾は、攻撃を仕掛けた者にしか効力を発揮しない」

勇者「だったら、一方的に殴りつけて……」

嫉妬「『風塵の精』!!」

嫉妬は自分の周囲に、高速で蠢く風の刃を出現させた。

嫉妬「あくまで防御としての役割だ」

嫉妬はそういうと、地面に座り込んだ。

地面に魔法陣を描き、詠唱を唱え始めた。

上空から遊び人の声が響いた。

遊び人「勇者!!そいつの詠唱を中断させて!!」

遊び人「大量召喚の術式よ!!」
861 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:25:05.81 ID:BTByofbZ0
遊び人「無数の小さな魔物を出現させるつもりなの!!傲慢の盾で全滅させようものなら中毒で倒れるか、寿命が尽きてしまうわ!!」

勇者「どうすりゃいんだよ!!」

嫉妬の周囲には風塵が巻き起こっており、傲慢の盾を前にして突き進んでも勇者の身体を守れそうにはなかった。

また、嫉妬にかけられている魔法反射を打ち砕くほど、勇者は強力な魔力を持っていない。

遊び人「武器を持ち替えて!!」

勇者「何にだよ!!」

遊び人「早く!!」

勇者が慌てふためいていると、頭上から魔法銃を発射する音が聞こえた。
862 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:25:36.73 ID:BTByofbZ0
遊び人「きゃああああああああああ!!!」

吊るされた巨大な照明ごと、遊び人が頭上から落ちてきた。

異変に気づいた嫉妬は召喚の呪文を中断した。

同時に、嫉妬の周囲を覆っていた風塵は消え去った。

嫉妬「まずい……!」

嫉妬は咄嗟に、遊び人の落下地点を予測し風塵の呪文を唱えた。

風は切り刻む刃としてではなく、衝撃緩和としての役割を果たした。




勇者「っっっ!!!!」

勇者の突き出した魔剣は、嫉妬の身体を掠めた。

嫉妬は反射的に態勢を変え、勇者の攻撃を躱していた。
863 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:27:14.36 ID:BTByofbZ0
嫉妬「……貴様」

嫉妬「仲間の女を囮にして敵に救出させ、その間を突いたか!!」

嫉妬「どこまでも勇者にふさわしくない奴だ!!」

嫉妬は怒りの形相を浮かべた。

嫉妬「『レヴィアタン』!!!!」

勇者「ぐぁあああああああああ!!!!!」

勇者は雄叫びをあげた。

嫉妬「この俺を侮辱するような真似をしてくれたな!!!」

嫉妬は勇者の右腕をめがけて剣を振るった。

嫉妬「お前はただでは殺さん!!その寿命が尽きるまで、永遠に拷問を加えてやろう!!」

嫉妬は勇者の左腕をめがけて剣をふるった。

勇者「ぐぅぅうううあああ!!!???」

嫉妬「貴様は!!貴様は!!!」

嫉妬は勇者の身体をめがけて何度も剣をふるった。

嫉妬の前には、四肢を切断され、血しぶきをあげている勇者の姿があった。

嫉妬は屈み込み、倒れている勇者に顔を近付けた。

嫉妬「貴様だけは死ぬことさえ許さん!!!!」

勇者「それは助かる」

嫉妬の背後から、大きな盾が振り落とされた。

嫉妬「ガァ……!?」

盾の下部の先端が、嫉妬の首の骨を折った。





バリリイイイインン!!!!!

精霊の砕ける音が響いた。

死の刹那、嫉妬は傲慢の盾に対する強烈な感情が芽生えた。
864 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:28:26.01 ID:BTByofbZ0
勇者は遊び人の元まで駆け寄った。

勇者「無茶すんなって言っただろ!!」

遊び人「あいつは私を守らなくちゃいけないから……でも、精霊を1つ破壊できた」

勇者「お前を守らなくちゃいけないのは俺だっての」



嫉妬が召喚及び風塵の呪文を中断させ、遊び人が落下した直後、勇者は魔剣を持ち嫉妬に近づいた。

魔剣による攻撃は失敗したが、左手で傲慢の盾を構えていた。

怒りに身を任せた嫉妬は勇者を攻撃したため、傲慢の盾が発動した。

傲慢の盾の能力は、錯覚。

相手が自身を勝者だと思いこむような幻想を見せつける。

嫉妬は己の理想の光景を思い描いた結果、本来何もない空間に、勇者が瀕死になりかけている幻想を見ることとなった。



勇者「残り2体……」
865 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:29:14.31 ID:BTByofbZ0
勇者「遊び人。頼みがあるんだ」

遊び人「うん」

勇者「俺が魔剣であいつの精霊を破壊する。そしたら……」

遊び人「呪文を使って最期の精霊を破壊してほしいんでしょ?」

勇者「……悪い」

遊び人「帰ったらゆっくり寝るから大丈夫だよ」

勇者「聞いておきたいことがある」

勇者「あいつがイレギュラーと呼ぶような呪文はあるのか?あいつがまだ絶対に対象化していないような……」

遊び人「無いって言ったら絶望だよね」

勇者「笑うしかない」

遊び人「負けて無理やり笑う必要なんかないよ」

遊び人は声を潜めて勇者に言った。

遊び人「お姫様から情報を掴んでるの。嫉妬は、禁術に対する対象化をいくつか行えていない。撃退できる呪文は覚えてるわ」

勇者「……わかった」

遊び人「さっ、早く終わらせてカジノにでも行きましょ。私は後ろで見守ってるから」

勇者「緊張感の無いやつだ」

勇者は再び力を込めて魔剣を握った。
866 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:30:59.40 ID:BTByofbZ0
嫉妬「俺に剣技で挑むか。裸で臨むようなものだが」

勇者「こいつにも手伝ってもらう」

勇者は、既に攻略化されている強欲の腕輪を装備した。

勇者の意識ははっきりとしていた。

勇者「やはり、理性を奪うような装備じゃないんだな。通常時と感覚は違うけど、闘志が沸くような感じだけだ」

勇者は魔剣を構えた。

勇者「やっぱり最後は、捨て身しかねえよなぁ!!」

勇者は嫉妬に向かって突進した。

嫉妬「愚かな」

嫉妬「『レヴィアタン』!!」

嫉妬から雷撃が迸った。

勇者「『マハンシャ』!!」

勇者が一度呪文を唱えると、嫉妬の周囲を32個の魔法反射鏡が覆った。

雷撃は乱反射し、嫉妬自身を襲撃した。

嫉妬「仕方あるまい」

嫉妬の首飾りが鈍く光った。

強欲の腕輪は黄金色の輝きを失い、32個の魔法反射壁は1つにまで減った。




瞬時に背後を取っていた勇者は、魔剣を嫉妬に突き出した。

勇者「くらえ!!!」

しかし、嫉妬は振り返らないまま剣を後ろ手に持ち、勇者の攻撃を防いだ。

勇者「なっ!?」

嫉妬「……気配が丸わかりだ」

嫉妬は勇者を蹴りつけた。

勇者「ぐはっ!!」
867 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:32:00.34 ID:BTByofbZ0
勇者「だったら……」

勇者は攻略化済みの憤怒の兜を取り出し、装備した。

勇者「ウグググ……!!!!」

勇者は魔剣を口に加え、獣のような姿勢を取った。

勇者「ウグァアアアアアアア!!!!」

一瞬の速度で、嫉妬の懐へと入った。

嫉妬「無駄だと言っておろう」

嫉妬の首飾りが鈍く光ると、勇者の頭は急速に平静を取り戻した。

嫉妬「遅すぎる。攻撃も直進的だ」

嫉妬は再び勇者を蹴りつけた。

勇者「ぐぼっ……!!」

勇者は無様に吹き飛んだ。

勇者「…………ぐっ」

勇者は無口詠唱で、中級の回復呪文を唱えようとした。

嫉妬「『マフウジ』」

呪文は勇者の魔法反射を突き破った。

勇者は呪文を封じられた。

嫉妬「教会で憤怒に身を委ねるのは、どこぞの勇者と似た者だな」

嫉妬「そういえば、かつてパーティメンバーであった僧侶の女から教えてもらったことがある」

嫉妬「あなたは救われていますか、との問いかけの意味はこうであるらしい」

嫉妬「あなたは神の怒りから救われていますか。であると」

嫉妬「貴様は怒りから見放されて絶望しているようだがな」
868 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:32:30.05 ID:BTByofbZ0
嫉妬は倒れて呻いている勇者の手を踏みつけた。

勇者「っっっ!!?」ポキ…

嫉妬「返して貰うぞ」

嫉妬は魔剣を拾い上げて、装備した。

嫉妬「精霊を破壊できる手段の数が揃えば俺に勝てるとでも思ったか」

嫉妬「自分の実力不足を考慮に入れなかったことを嘆くんだな」

嫉妬は勇者の身体に魔剣を突き刺した。

バリリリンン!!!

精霊の砕ける音が響いた。

嫉妬「命はまだ奪わん。拷問がまだ足りていないのでな」
869 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:33:39.92 ID:BTByofbZ0
勇者「ぐぼっ……ぐぶっ!!」

嫉妬は勇者を蹴りつけた。

勇者「うぼぉぉええ……」ビチャビチャ…

遊び人「勇者!!!」

勇者は嫉妬に嬲られ続けていた。。

嫉妬「殺さぬ程度に抑えるのも難しいな」

嫉妬「貴様にも寿命を分け続けて、数百年以上拷問を与え続けようとも思っているのだが」

勇者「……うううぁああ!!」

勇者は身体を無理やり引きずった。

嫉妬「まだ抗うか。よろしい。絶望するまで好きにさせてやろう」
870 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:36:32.92 ID:BTByofbZ0
勇者「お前……なんかに……」

勇者「遊び人の時間を渡せるか!!」

勇者は再び、大罪の装備を全て取り出した。

勇者は暴食の鎧を装備した。

勇者は色欲の鞭を装備した。

勇者は傲慢の盾を装備した。

勇者は憤怒の兜を装備した。

勇者は怠惰の足枷を装備した。

勇者は強欲の腕輪を装備した。

勇者は攻撃をしかけようとした。

しかし。

勇者「…………ッッッッッ!!!!!」

嫉妬「愚か者め」

勇者「イィ、イギギギギ!!!??」

勇者「ギィイイヤアアアアアア!!!!!」

遊び人「勇者!!!」



勇者はのたうちまわった。

6つの欲望が装備者のコントロールを奪い合った。

勇者は痙攣をし、泡を吹き出した。

嫉妬「無様な格好もいいところだ!!」

嫉妬「どうして嫉妬の首飾りが7つの大罪の装備において頂点に君臨するか理解していないようだな!!」

嫉妬「この装備がなければ他の全ての装備を同時に操ることもままならない。寿命の吸収もこの首飾りがあるからこそできることなのだ」

嫉妬「生命の安全を確保できる日までは精霊を温存し、攻略化を躊躇していたが。貴様のおかげで手間も省けた」

嫉妬「見世物はもうそのへんでよい」

嫉妬が勇者に近づいた。
871 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:37:52.36 ID:BTByofbZ0
勇者「……ぐぁああああ!!!」

勇者は渾身の力を振り絞り、大罪の装備の力を全て発動した。

勇者「ググッ……ググッ!!!!」

大量の寿命の消費と引き換えに、凄まじい呪力の気配があたりを包んだ。

嫉妬はため息をついた。

嫉妬「……貴様を活かすのは辞めだ。寿命がいくらあっても足りなそうだ」

嫉妬の首飾りが光ると、呪力の気配は瞬く間に霧散した。

勇者はほとんど意識を失いながら、嫉妬を前に棒立ちに立っていた。

嫉妬「……お遊びにはもう飽きた。死ぬがよい」

嫉妬「『レヴィアタン』」




我を失っている勇者に、嫉妬は雷撃を放った。

しかし、勇者の身体は動き、雷撃を躱した。
872 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:38:46.67 ID:BTByofbZ0
遊び人「飽きてないよ。私はまだまだ、遊んでいたい」

遊び人は手を突き出し、小指を巧みに動かしていた。

勇者は朦朧とした意識のまま、遊び人のコントロールに従い移動をした。

嫉妬「赤い糸の呪文か。自分を守れなかった男のことが、そんなに愛おしいか」

無様によろけながらも、勇者は遊び人の元へたどり着いた。

遊び人「おかえり、勇者。がんばったね」



倒れ込んだ勇者は、顔だけを動かした。

視界の中に、人間の女が映り込んだ。

勇者「……ウグァアアア!!!」

勇者は目の前の肉を食したくなった。

勇者は目の前の美貌を犯したくなった。

勇者は目の前の命を軽んじたくなった。

勇者は目の前の存在に激怒をぶつけたくなった。

勇者は目の前の存在を支配したくなった。

勇者は目の前の存在に全てを投げ出したくなった。

勇者は大罪の装備の力を使用しようとした。

しかし、寿命が足りなかった。

嫉妬「もはや、装備の使用に必要な最低な寿命さえ残っていないのだろう。端数分だけの時間しかそいつには残されていない」

嫉妬「せめて、冥土の土産にそいつが望む快楽でも与えてやったらどうだ?」

嫉妬はあざ笑うかのような目で蔑みの言葉を投げた。
873 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:42:56.50 ID:BTByofbZ0
遊び人「……そうね」

遊び人「罪じゃないもの。罪じゃなかったもの」

遊び人「これらの装備を持っていた勇者達もきっとそうだったはず。誰も、欲望なんて制御することなんてできなかったと思う。抗うことはできても、打ち克つことなんてできなかったのよ」

遊び人は勇者に身についていた装備を一つずつ丁寧に外した。

遊び人「欲望に苦しめられた彼ら彼女らはきっとこう思ったのよ。満たせぬ欲望があるくらいなら、いっそのことなくなってしまえばいいと」

遊び人「7つの大罪に勝る8つ目の欲望があるとするなら」

遊び人「それは、禁欲ね」

勇者の装備は全て外された。

嫉妬の暴行によって、身体はぼろぼろになっていた。



遊び人「がんばったね」

意識の失いかけた勇者に遊び人は言葉をかけた。

遊び人「正直なところさ」

遊び人「生きることは、つらいよね」

遊び人は、困った表情をしながらも、笑顔で言った。

遊び人「ずっとずっと、遊んでいたいよね」

遊び人は、勇者の前で祈るように手を組んだ。

嫉妬「……これは!!」

嫉妬「感じたことのない生命の流れ!!何をするつもりだ!!」

嫉妬は咄嗟に、防御呪文を唱えた。

遊び人「ねえ、勇者」

遊び人「ありがとう」

勇者「…………」

遊び人「戦ってくれて、ありがとう」

遊び人からやさしい気持ちがあふれだした。



瀕死の勇者の傷が癒え始めた。

勇者の出血が止まった。
874 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:48:31.53 ID:BTByofbZ0
嫉妬「何をするかと思えば!!」

嫉妬「書物で目にしたことがある!遊び人という職業を極めた者のみが発動することができる癒やしの技!!」

嫉妬「ふははは!!これは驚いた!!賢者になるための踏み台に過ぎないその職業を極めた愚か者がおろうとはな!!」

嫉妬は愉快そうに笑った。




勇者は意識を取り戻した。

勇者「……ここは」

遊び人「教会の下。あるいは私の膝の上」

勇者は記憶をたどりながら、心から悔やんだ表情をした。

勇者「……駄目だった。まだ奴の体内に2体の精霊がいる」

勇者「遊び人の呪文で1つ破壊しても、1体残ってしまう……」

勇者「俺が強ければ……魔剣で倒すこともできたのに……」

勇者は打ちひしがれた表情をしていた。

勇者「一か八かの作戦があるんだ」

勇者「先に、遊び人があいつの精霊を一体破壊してくれ。そのあと、2人で自殺を図る。神官としてのあいつの目の前に現れた瞬間に、魔剣で攻撃すれば……」

遊び人は首を横に振った。

遊び人「無口詠唱で肉体保護の呪文をかけているみたいなの。仮に魔剣で精霊は斬れても、通常攻撃によるとどめを刺せないわ。毒針を刺しても、状態異常回復のやくそうや呪文で治癒してくるでしょう。私達の得意技を嫉妬は熟知しているはずだもの」

勇者「そんな……」

勇者は絶望の表情を浮かべた。

勇者「俺が、弱いばっかりに……」

遊び人は勇者の背中を撫でた。

遊び人「勇者。こんな時どうすればいいか知ってる?」

勇者「わからないよ」

遊び人「逃げるんだよ」
875 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:49:07.08 ID:BTByofbZ0
遊び人は勇者を背負った。

大罪の装備を置き去りにして、出口へとゆっくり進んだ。

勇者「えっ、ちょ、ちょっと。いてて……」

勇者は思わず笑ってしまった。

勇者「建物でも破壊して、移動の翼で逃げるのか?」

遊び人「それは難しいね。結界が何重にも覆っているみたいなの。爆発呪文を一度唱えても全部壊しきれないな」

勇者「じゃあどうするんだよ」

遊び人「だから、逃げるんだってば」

広大な教会の中で。

嫉妬の勇者から離れるように、遊び人は勇者を背負ってとても遅い速度で歩いていた。

出口までの距離は長かった。
876 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:50:33.88 ID:BTByofbZ0
嫉妬「……もう少し賢い女だと思っていたのだが。その男と冒険をしていた時点で、たかが知れていたというわけだ」

嫉妬はうんざりした表情で、同じ様に歩みを進めた。

嫉妬「もう、こいつらはいらないのか?」

嫉妬は地面に散らばった6つの大罪の装備のそばにたどり着くと、遊び人に尋ねた。

遊び人「あなたはそれを欲しいんでしょ?」

遊び人は歩みを止めた。

勇者をゆっくりと降ろした。

勇者が遊び人を見上げると、口にやくそうのようなものを含むのが見えた。


遊び人は振り返り嫉妬に正面から向き合った。

嫉妬「欲しいかだと?くだらない質問だ。時間稼ぎのつもりか」

遊び人「時間稼ぎする時間なんてないよ。寿命が尽きてしまうんだもの」

嫉妬「だとしたら答えてやろう。俺はずっとこれらを求め続けていた」

嫉妬「お前を孕ませ、大罪の一族を復活させる日が待ち遠しいぞ。我が子を寿命の素材にして永遠に生きる日々がな」

遊び人「そう。あなたの気持ちはわかったわ」

遊び人「他人を羨んで生きてきた嫉妬の勇者さん。それらがどうしても慾しいのね」

遊び人「『喉から出た手で殺してしまうほどに』」
877 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:52:16.01 ID:BTByofbZ0
嫉妬「貴様!!何をするつもりだ!!」

遊び人の足元に、魔法陣が現れていた。

遊び人「『我から能力を奪い給え。我の全うせし職業を奪い、彼の者へふさわしい大罪の職業を与え給へ』」

遊び人は強制転職呪文をつかった。

嫉妬の勇者に命中した。

嫉妬「ぐぁっ!!!」

嫉妬は強制転職させられた。

遊び人は今までに身に着けた遊びに関する知識を全て忘れてしまった。

遊び人は今までに覚えた道楽のスキルを全て忘れてしまった。

遊び人は”遊び人”の職業を失い、”大罪の賢者”へと職業を戻された。

勇者「どういうことだよ!!」

遊び人「学び尽くすことのできない人生だったけれど、遊び尽くすことはできたみたい。勇者のおかげだね」

遊び人「これで職業の枷は取れたわ。呪文も使い放題」

遊び人「遊び人の宿命は、最後は賢者として人一倍働くことだって決まってるのよね」
878 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:53:09.43 ID:BTByofbZ0
嫉妬「ふざけるな!!」

嫉妬は焦燥に駆られていた。

強欲の都で遊び人の祖父から『遊び人』への強制転職呪文をかけられそうになったことを思い出していた。

もしも遊び人にされているのであれば、逃げるしか選択はなかった。

嫉妬「くだらんやつめ!!やはり時間稼ぎか!!」

嫉妬は首飾りを発動し、外に張られている結界を自身に対してのみ無効化した。

嫉妬は懐にしまってあった移動の翼を使用した。


嫉妬「止むをえん!!」

嫉妬はにげだした。

しかし、まわりこまれてしまった!

遊び人「逃げたい時に限って逃げられないってこと、教えてあげるわよ」

嫉妬「なっ……」

遊び人「『かさ』」

嫉妬の頭上に巨大な葉っぱが現れた。

遊び人「『あめ』!」

滝のように降り注ぐ水が嫉妬を地面に打ち付けた。

嫉妬「ぐはっ……!!」
879 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:54:58.36 ID:BTByofbZ0
嫉妬は無様に地面に転がった。

嫉妬「はやく、対抗呪文を唱えなければ……」

“遊び人”に転職させられていると思っていた嫉妬は、意思の薬を口に含んだ。

しかし、効果はなかった。

嫉妬「……この感覚は」

嫉妬は異変に気づいた。

勇者「……一体何が」

勇者も状況を把握しきれていなかった。



嫉妬「これは、漏出?」

嫉妬は自分の体内から、凄まじい速度で時間が流れていくのを感じた。

その時、地面に散らばっていた大罪の装備が震えだした。

嫉妬「まさか!!俺の職業は!!」

嫉妬「”大罪の賢者”!!」

嫉妬の首飾りを除く6つの大罪の装備から、”大罪の賢者”を飲み込もうとする青白い手が伸びた。

最も近い距離にいた嫉妬の全身を、6つの手が絡め取った。

嫉妬の首飾りから出現した大罪の手は、自身の宿り主を守ろうと、6つの手に抗った。
880 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 00:57:39.85 ID:BTByofbZ0
勇者「ふざけるなよ……」

勇者は涙を流していた。

強制転職呪文だけは、絶対に使用してはいけないという取り決めをしていたのだった。

勇者「大罪の賢者に戻ったら、お前もあの手に飲み込まれるじゃんかよ……」

里の賢者を全滅させた腕を、防ぐ方法などあるはずもなかった。

遊び人「勇者、聞いてほしいことがあるの。まだ2人が生き残る方法が一つだけありそうなの」

遊び人「私も強制転職呪文を使う想定をしていなかったから、今閃いたばかりなんだけど。それに嫉妬の首飾りの対象化が、奴の意思に関わらずに発動するってことに賭けるしか無いんだけど……」

勇者「なんでもいい、話してくれ」

遊び人「あの手が嫉妬の精霊を破壊したあと、一体だけ精霊が残るはず。ここで重要なのはね、嫉妬の職業の果たす役割についてなの」

遊び人「強制転職呪文はね、本来なら踏むはずの転職の過程を大幅に省略しているの。そのせいか、前の職業の名残がどうしても色濃く残ってしまうの」

遊び人「私が大罪の賢者から遊び人になっても寿命の漏出がとまらなかったように。嫉妬が神官から大罪の賢者に転職をしても、神官としての名残は残る。つまり、嫉妬がその場で復活することには変わりないの」

遊び人「6つの装備に宿る大罪の手を嫉妬は攻略化、無効化するはず。今度は、嫉妬の首飾りに宿る白い手は私に伸びてくる。里を滅ぼした最強の手だけれど、たった一つだけ食い止めることの出来る呪文が存在するの」

遊び人「里が滅ぼされた時と違って、今は嫉妬の首飾りが存在する。だからね、勇者が……」

バリリリンン!!!!!!

遊び人の言葉を遮り、精霊の砕ける音が響いた。

死の刹那、嫉妬は大罪の手に対する強烈な感情が芽生えた。
881 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:00:02.64 ID:BTByofbZ0
大罪の手に飲み込まれた嫉妬は精霊を破壊され、死亡した。

嫉妬に残された一体の精霊の加護によって、その場で蘇生をすると即座に嫉妬の首飾りを使用した。

嫉妬の首飾りは、たとえ大罪の賢者であろうと、自身の宿り主への殺意は芽生えなかった。

嫉妬の首飾りは、他の6つの大罪の手を攻略化し、無効化した。

6つの大罪の手は、寿命を奪う意思を失い、各々の装備の中へと吸い込まれていった。

嫉妬「……はぁ……はぁ」

嫉妬「……愚かな。こいつだけは、俺にも止められんぞ……」

嫉妬「何もかも終わりだ……お前らの命も、俺の永遠の命も……」

嫉妬「俺達の未来は、失われたんだ……」

嫉妬の首飾りから、大罪の手が遊び人へと伸びた。
882 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:01:23.13 ID:BTByofbZ0
伸びてくる大罪の手に対して、遊び人は片手を前に突き出した。

勇者「遊び人!!」

遊び人「あのさ、勇者」



里の大賢者と呼ばれる者達が、あらゆる呪文を放っても防ぐことのできなかった大罪の手。

しかし、当時彼らが放った呪文は、全て生き延びるための呪文だった。

大罪の一族には広く知られていない禁術が、1つだけあった。

それは、威力、持続性において、非一族の世界で最強とされている呪文だった。

遊び人「寿命泥棒で、ごめんね」

遊び人は呪文を唱えた。




遊び人「『総魔力放出呪文(くろいいと)』」



遊び人のひとさし指から、一本の黒い糸が伸びた。
883 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:02:10.43 ID:BTByofbZ0
遊び人の寿命と引き換えに、膨大な力が解き放たれた。

遊び人の中に生きる命の秒数が、凄まじい速度で減少しはじめた。

遊び人「くっ……!!」

勇者「遊び人!!」

黒い糸は、大罪の手に真っ向から衝突した。

嫉妬「全ての魔力を消費する禁術!!」

嫉妬「寿命を魔力に変換する大罪の賢者が使用することは、確実な死を意味するはずだ!!」

嫉妬「俺を殺すためだけにこんな……!?」

嫉妬「いや、奴らの狙いは!!」
884 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:02:39.82 ID:BTByofbZ0
勇者は、嫉妬の王国で遊び人と交わした会話を思い出していた。

遊び人『嫉妬の首飾りは、自分を死に至らしめた呪術に対して効果を発揮するでしょう?初見の呪術の吸収、つまり攻略化によって寿命は大きく浪費する。でも、一度攻略化した呪術に対する無効化にはほとんど消費しないみたい』

遊び人『だから、例えば魔王が独特の呪術で嫉妬を殺害したとして。殺害されたタイミングでの攻略化には寿命を大きく消費するんだけど、二度目以降の戦闘で魔王がどれだけ呪術を放っても、ほとんど寿命を消費せず無効化できるの』

勇者『一度死ぬことが前提の装備なんだよなぁ。それこそ精霊の宿った勇者しか使えないような装備じゃん』

遊び人『そうでもないみたいよ。一度攻略化した呪術に対しては、他の者が嫉妬の首飾りを装備しても無効化はできるみたい』

勇者『じゃあ俺が首飾りを奪えば、魔王も倒せるってことか。便利だな』
885 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:03:52.03 ID:BTByofbZ0



―――――。



勇者「……そうだ」

勇者「今の俺の寿命でも、嫉妬の首飾りなら……!!」

勇者「まだ、可能性はある!!」

勇者「遊び人!!」



遊び人「……うううう」

遊び人「あぁああああああああああ!!!!!!」

遊び人は全身に力を込めた。

嫉妬「貴様ぁ!!!」

遊び人「必死で抵抗してくるってことは、やっぱり対象化していなかったようね!」

遊び人「この呪文を使える術士は、世界にそういないでしょうから!!」
886 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:06:05.24 ID:BTByofbZ0
里最大の呪力を持つ遊び人の呪文は、大罪の手の力をわずかに上回っていた。

遊び人「あんたは…寿命を奪うだけでしょ…」

遊び人「こっちは、寿命削って生きてるのよ!!」

黒い糸は大罪の手を削りながら突き進んだ。


遊び人「私は、私は……」

遊び人「私も……」

遊び人「私の命を願う人達の、寿命を背負ってここまで……」ポロポロ…

遊び人「寿命を奪って……」ポロポロ…

遊び人は、涙を流し始めた。

遊び人は、最高峰の賢者でありながらも。

心は、脆い少女でった。

遊び人「私は……みんなを死なせてしまっただけの……」

倒れていた勇者は、ぼろぼろの身体を起き上がらせて叫んだ。

勇者「お前はただの野菜泥棒だろ!!」

遊び人「……勇者?」

勇者「俺はなんて呼ぶんだよ!!自分を頼ってくれたたった一人の女の子さえ守れなかった俺は!!」

勇者「いつまで……!いつまで経っても……!」

勇者「俺は、人殺しだから!!」

遊び人「私は、寿命泥棒だから……」

勇者「寿命泥棒なんかじゃない!!生きる意味そのものを俺にくれただろ!!」

勇者「生きてるだけの時間が生きてる時間じゃないって、遊び人が教えてくれたんだ!!」

勇者「今までの冒険は、永久の命で世界を支配するよりも、ずっとずっと価値のある時間だった!!

勇者「だから!!」

勇者「これからも、2人で生きるんだよ!!!」ポロポロ…

勇者は涙を流した。

遊び人は、自分の中にあたたかい気持ちが沸くのを感じた。

遊び人「…………弱み」

遊び人「優しすぎるところ」
887 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:09:16.50 ID:BTByofbZ0
遊び人は全ての力を糸に注いだ。

遊び人「はぁあああああああああ!!!!!」

寿命を最大限に込め、遊び人の攻撃力は最大に達した。

嫉妬「ぐぁっっっ!!?」

黒い糸は、大罪の手を突き破った。

嫉妬「ガァッ……」

黒い糸は嫉妬の首を貫いた。

死の刹那、嫉妬は遊び人の放った禁術に対して強烈な感情が芽生えた。

ガラスの激しく割れる音が聞こえると同時に、嫉妬がその場に倒れ込んだ。

嫉妬は首から血を流したまま地面に横たわった。

肉体保護の棺桶が出現することも、復活することもなかった。

嫉妬は全ての精霊を失い、絶命した。

勇者達は勝利した。
888 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:10:51.96 ID:BTByofbZ0
勇者「まだだ……!!」

勇者は状況を確認した。

嫉妬の首飾りから現れた大罪の手は敗北を認め、嫉妬の首飾りの中に潜り込んでいった。

他の大罪の装備は嫉妬の首飾りに無効化されたままであり、同様に大罪の手が出現する気配はなかった。

問題は、遊び人であった。

遊び人「……はぁっ……くっ!!」

遊び人の指からは未だに総魔力放出呪文が発動し続けていた。

嫉妬を撃退した遊び人は、寿命の漏出を必死に制御しようとしているものの、呪文はとめどなく流れ続けていた。

せめて建物を崩壊させないよう、手を突き出したまま同じ位置に固定しようとしていた。
889 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:13:08.69 ID:BTByofbZ0
勇者はぼろぼろの身体を引きずり、嫉妬の勇者の亡骸を目指した。

今こうしている一刻一刻により、遊び人は死へと確実に近づいていた。

勇者「くそっ……動けよ!!」

遊び人による癒やしの術は、勇者を完全な回復には至らせなかった。

勇者の足の指はいくつか折れており、足には痺れが残っていた。

勇者「術者が死んだ今、マフウジは解けているはず!!」

勇者は回復呪文を唱えようとした。

しかし、魔力が足らなかった。

勇者「嘘だろ……」

勇者は惨めさに打ちひしがれていた。

自分の戦闘能力の無さによって魔剣による破壊も果たせず。

今も小さな回復呪文を使うほどの魔力さえ残っていない。

勇者「魔剣で打ち倒せていたら……強制転職呪文を放つ必要なんかなかった。そしたら、白い手も出現しないまま、他の禁術や、総魔力放出呪文を唱えられた」

勇者「体力と寿命に余力さえあれば……もっと、もっと時間に余裕が……」

勇者「俺の、俺の実力さえあれば……」

勇者は後悔で泣きながら、傷んだ身体を引きずった。
890 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:14:30.43 ID:BTByofbZ0
時間をかけて、勇者は嫉妬の勇者の亡骸までたどり着いた。

勇者「……これを使えば」

勇者は嫉妬の亡骸に触れた。

込み上がる感情を押し留め、嫉妬の首飾りを奪った。

勇者は嫉妬の首飾りを装備した。

勇者「そして……」

勇者は、遊び人の手から伸びる黒い糸を見つめた。

発動時とは比べ物にならないほど細くなっており、今にも消えてしまいそうだった。

勇者は嫉妬の首飾りに込められた、嫉妬の感情を呼び起こした。

勇者の中に、憎しみにも似た紫色の感情が噴出した。

勇者「…………」

勇者「失せろ」

勇者はくろいいとの呪文を無効化した。

総魔力放出呪文は消滅した。
891 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:15:50.28 ID:BTByofbZ0
勇者「はやく……」

勇者「はやく、全部届けないと……」

勇者は、目の前に散らばる大罪の装備を見つめた。

手が、震えた。

自分がこれから行う手作業と移動に、この世界で最も大切な存在の命が賭かっていた。

自身の残り寿命の心配など、一切頭になかった。

勇者「これらを、全部、遊び人のところまで……」

暴食の鎧。
色欲の鞭。
傲慢の盾。
憤怒の兜。
嫉妬の足枷。
強欲の腕輪。
嫉妬の首飾り。

勇者「これらを、全部……」

両手で、抱えきれる量ではなかった。

勇者「……間に合うのか?」

途端に、勇者の全身から汗が吹き出た。
892 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:18:04.96 ID:BTByofbZ0



手ぶらでここまでたどり着くのもやっとだったのに、装備を持っていけるだろうか?

これだけの数を運ぶには、往復しなければならないだろうか?

嫉妬の首飾りを遊び人につけたあと、他の装備を支配するのに寿命は消費するのだろうか?

全て身に付けた後はどのように寿命の吸収を行うのだろうか?

こんなに震えた手と足で持っていけるだろうか?

何が最も必要なことなんだろうか?

どうすればいいんだろうか?

勇者「……どうすれば。どうすれば……」

混乱した頭で、勇者はわけもわからず装備を抱え込んだ。

勇者「……うわ、わっ!」

カラン!!カラン!!

両手で精一杯抱えようしたが、震える手から装備が落ちてしまった。
893 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:18:50.13 ID:BTByofbZ0

勇者「あ、あそびにん!」

勇者は震える声で呼んだ。

勇者「こ、こっちに来てくれ……!」

勇者「じ、じかんが……じかんが……」

勇者「おれひとりじゃ……」




俺は、何をやっているんだろうか。

俺は、どうしてこんなに無力なのだろうか。

遊び人はどんな目で自分を見ているのだろうか。

遊び人は今も生きているんだろうか。

遊び人は。

遊び人は。

遊び人は…………。



遊び人「勇者」

絶望で打ち震えている勇者を、やさしく呼ぶ声が聞こえた。

勇者が顔をあげると、遊び人はにっこりと笑っていた。

勇者「……遊び人?」

手の甲を見せ、小指だけを突き立てていた。

遊び人「はい、喜んで」

遊び人は、足元から崩れ落ちた。
894 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:19:22.45 ID:BTByofbZ0
【TIPS】

『大罪の力』

短命な寿命で生まれつく、賢者の一族がいた。

彼らは人間に巣食う7つの欲望を元に、禁忌の呪文を発動した。

儀式は失敗し、欲望は分裂し、7人の勇者の元に装備の形となって届けられた。

暴食の鎧
色欲の鞭
傲慢の盾
憤怒の兜
怠惰の足枷
強欲の腕輪
嫉妬の首飾り

欲望に応じた能力をもつこれらの装備の伝説は広まり。

7つの大罪、と呼ばれるようになった。
895 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:20:47.92 ID:BTByofbZ0
【epilogue】

あれから、幾月も過ぎ。

〜怠惰の王国〜

国王「祝福じゃ!!パレードじゃ!!」

国王「世界は、平和となったのじゃ!!」

怠惰の王国では、魔王消滅の日を記念して祭りの準備が行われていた。

案内人T「……ようこそー。怠惰の王国だよー……」

案内人T「ふわ〜あ……」

怠惰「あなた、ちゃんと働きなさいって」

案内人T「……いいじゃん別に。奴隷を解放した英雄がよく言うよ……」

怠惰「まったく」

怠惰は顔をしかめたが、諦めて故郷の中に入っていった。

怠惰「世界を救った本物の英雄達を、見習ってほしいものだわ」
896 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:21:26.23 ID:BTByofbZ0
大罪の力。

魔王消滅の噂で喜んでいる世界に対し、伝説地味た装備の話は。

面白半分の噂話として広まることはあれど、事実の出来事としては誰も信じようとはしなかった。

ましてや、大罪の装備のために奔走した、元案内人と遊び人の物語などは、誰にも語り継がれることはない。



はずだった。
897 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:22:09.25 ID:BTByofbZ0
決戦の夜、怠惰は一人の研究者と魔王城へと向かった。

同僚「こんなことしてる場合じゃねえんだよ!!封印の壺が割れたんだ!!あいつらに会いたいならまずはそっちを……」

怠惰「いいえ、もうここに訪れているはずよ。もしかしたら、決戦の真っ最中かも」

同僚「それはねーよ。明日、嫉妬に精霊の補充を行う予定だったんだ。奴らと戦うなら、当然その後を選ぶだろう?」

怠惰「嫉妬は大罪の装備だけを欲してるんじゃない。あの遊び人の女の子も欲しているの。あの子達が挑む程度の状況でなければならないの。占い師がそう告げたのよ」

同僚「はん!占いなんかが根拠かよ!めでたいやつらだぜ!!」

怠惰「いいから。早く魔王城の頂上まで向かうのよ」

同僚「お前と一緒に仲良く飛んでるところを見られたら極刑もんだぜ。俺にだって愛する家族がな……」

怠惰「あの王国で育つ子供の未来なんて、変えるに越したことはないでしょう?」

同僚「……ちっ。面倒なやつだな」

怠惰「面倒なやつは嫌い?」

同僚「いや、好きだったよ」

怠惰「あら、昔の恋人?」

同僚「そんなんじゃねーよ」
898 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:22:54.50 ID:BTByofbZ0
怠惰「おかしいわ。いくら探しても見つからない」

同僚「妙だな。警護の魔物の数も最小限しかいない。それに、開かずの間がいくつか開かれていた」

同僚「奴らがこの城のどこかで決戦しているとして。きっと、特別な手順を踏まないとその部屋には入れないようになっているんだ」

怠惰「どうやって見つけるの?感知呪文?」

同僚「それだけ厳重に隠された場所があるとして、直接感知は無理だろう」

怠惰「だったら、全てを差し引く方法で……」

同僚「夜が明けちまうよ。こういう時は手探りで探すしかねーんだよ」

怠惰「研究者なのに!!」

同僚「地道が最も効率的なことだってあるんだよ」
899 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:23:41.54 ID:BTByofbZ0
2人は時間をかけて魔王城内を探索したものの、隠し部屋を見つけられずにいた。

一度城外に出て、外から周囲を調べてまわっていた。

同僚「あれは……」

怠惰「鳥の魔物ね。どうかしたの?」

同僚「王国から嫉妬様宛に手紙を飛ばした魔物かもしれない」

同僚は鳥が旋回している近辺まで近づいた

怠惰「ここが怪しいってわけ?」

怠惰は城壁を眺めながら尋ねた。

同僚「……ああ。ここ、妙じゃないか」

同僚は外壁に触れた。

同僚「魔力の流れがおかしい。結界が損傷している」

怠惰「……言われてみれば、そんな気がしないでもない」

同僚「というより、これ、ヒビじゃねえな。線が貫通してやがる」

怠惰「線?」

同僚「貫かれたような跡がある。しかも、何重にも張られた結界全てを貫いている。こんな攻撃呪文みたことねーぞ……不自然過ぎる」

同僚「探ってみるぞ」
900 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:24:19.49 ID:BTByofbZ0
怠惰「なによ、ここ……」

同僚「教会だと!!」

巨大な教会を発見した同僚と怠惰は驚愕していた。

同僚「扉があるな」

怠惰「入るわよ」

同僚「だが……」

怠惰「あなたは入らなくていいわ。私だけで入るから。家族が心配なら帰ってちょうだい」

同僚「誰のおかげでここまで来れたと思ってやがる」

同僚「……研究者の好奇心を舐めるな。行くぞ」
901 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:25:47.13 ID:BTByofbZ0
怠惰と同僚は、建物に入った瞬間に身震いした。

見覚えのある3人の人物が、全員横たわっていた。

同僚「……おい、嘘だろ!!」

同僚「嫉妬だ!!死んでいる!!」

同僚「何故だ!精霊の加護を6つ体内に宿してあったはずだ……」



怠惰「ねえ、こっちに来て!!」

怠惰は同僚を呼んだ。

そこには、男女の遺体が並んで横たわっていた。

怠惰「この女の子、勇者とずっと一緒に旅をしていた遊び人……」

同僚「傷跡が見えない。何かの呪いで殺されたのか?」

怠惰「それにしては、穏やかな表情をしているけれど……」

怠惰は懐から布を取り出し、遊び人の顔にかぶせた。
902 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:27:19.45 ID:BTByofbZ0
同僚「……おい、なんだよこれ」

勇者の遺体を注意深く観察した同僚は、声を荒げた。

同僚「こいつ……」

同僚「自殺してやがる……」

怠惰は息を飲んだ。

亡骸の傍らには毒針が転がっていた。

同僚「致死性の非常に高いものだ。腕に刺されたあとが残ってる」

同僚「しかも、なんだこいつの格好は」

勇者の遺体には、独特な装飾の鎧、兜、腕輪、足枷、首飾りが身につけられていた。

また、すぐ傍には鞭と盾が転がっていた。



怠惰「……大罪の装備よ」

怠惰の勇者は、怠惰の足枷を拾った。

怠惰「でも、おかしいわ。呪力を、一切感じないの」

同僚「どういうことだ?」

怠惰は他の装備についても触れながら、確信を深めた。

怠惰「装備に込められた寿命が、空になっているのよ。1つの里の賢者全員分の命の力がね」

怠惰「この男は……勇者は。全ての大罪の装備を身に着け、寿命を吸い尽くして」

怠惰「半永久的な寿命を得たあとに、自殺したのよ」

怠惰「きっと、もう二度と、この装備を巡って争いが起きないように」

同僚「でも、どうして自殺を……」

怠惰「……ほんとうね。最悪ね」

怠惰「この女の子は、決してこんな最後を勇者に望んでいなかっただろうに」
903 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:29:59.21 ID:BTByofbZ0
同僚は移動式の結界を創った。

勇者と遊び人の亡骸を運んだ。

怠惰「私達も、決着をつけなくちゃね」

同僚「……本気なのか」

怠惰「ええ。怠惰の監獄を解放させるわ。投獄されている大賢者も、怠惰の足枷の効果が抜けて力を取り戻している頃よ」

怠惰「あなたは、そうね、魔王を討伐したらどうかしら」

同僚「はは。勇者様じゃあるまいし」

怠惰「でも、あなたなら出来るんでしょう?」

同僚「……結界を組み替えて、装置の出力をいじればな……」

怠惰「冗談で終わらせるつもりはないでしょうね」

同僚「……逃げ出す権利はないのか?」

怠惰「逃げなくてはいけない時があるのと同様、戦わなくてはいけない時があるでしょう」

怠惰「私達しかいないわ。協力者を増やしながら、怠惰の監獄の地と嫉妬の王国に革命を起こすの」

怠惰「一人の勇者と遊び人がどのような旅をしてきたか、軌跡を辿って事実を集めて、物語を世界に伝えながら、世界が果たすべき使命を示すの」

怠惰「生き残ったものたちによって、できることをするの」

同僚「……なんだよ、冒険譚の作成でもすんのかよ。すっかり怠惰らしさをなくしてしまったな」

怠惰「これでも怠け者に寛容になったほうよ」

同僚「わかったよ。手伝ってやるよ、その、物語のお披露目をよ」

同僚「そのかわり、エピソードには俺の親友の話を大きく裂いて貰うからな。あと、俺の活躍も」

怠惰「頼もしい限りだわ。一人の臆病な勇者が、世界を救うまでの物語」

同僚「逃走から始まり、闘争で終わる物語か」

怠惰「良いこと言ったつもり?」



噂話は、やがて物語となった。

物語は、冒険譚として編纂され。

冒険譚の内容は、やがて。

誰もが信じる、伝説となった。
904 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:31:41.09 ID:BTByofbZ0
暴食の村は、民が標準的な体型に戻った後、食の産業を発展させた。

色欲の谷は、民が規律を整えた後、男女の色模様を許容した文化を発展させた。

傲慢の街は、民が謙虚さをそなえた後、世界的なコンテストの開催地になった。

憤怒の街は、民が冷静さを取り戻した後、治安の維持に国力を注いだ。

強欲の街は、民が奉仕の心を抱いた後、貧困国の再生に資金を投じた。

怠惰の監獄は革命を起こし、嫉妬の王国で働いていた故郷の奴隷を開放し、怠惰の勇者を英雄として新たな国家を建設した。

嫉妬の王国は一度瓦解したものの、他者に尽くす志を持った者達が集い、医療魔術に関する研究を発展させた。




特別な力がなくとも、世界は成長する。

時間の経過によって。

個人の努力によって。

人々は、罪を贖い続ける。




怠惰の王国には、今尚多くの巡礼者が訪れる。

二つの並んだ墓標を前に、人々は祈りを捧げる。。

伝説が記された大理石には、このような文字が刻み込まれていた。



『贖罪の勇者達、ここに眠る。』
905 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:32:28.32 ID:BTByofbZ0
【勇者と遊び人の思い出】

封印の壺が割れる、少し前の時間のこと。

〜ほらあな〜

勇者「なあ遊び人」

勇者は上体を起こして言った。

勇者「もしも明日、世界が滅びるとしたらなんだけど」



遊び人「パフパフしてほしいの?」

勇者「ぶはっ!ゲホっ……コホッ……」

勇者に甚大なダメージ。

勇者「何言ってんだよ!」

遊び人「する胸がないっていいたいの!?」

勇者「いや、そういうわけじゃない!!」

遊び人「じゃあどういうわけよ」

勇者「……したい」

遊び人「じゃあ、する?」

勇者「……しねーよ」

遊び人「ふーん」
906 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:33:30.03 ID:BTByofbZ0
遊び人は勇者の問いかけをよそに、道具袋をあさっていた、

遊び人「ねえ、食べ物入ってるけど、おなかすいてない?真夜中だけど」

勇者「普通に減ってる」

遊び人「食べる?」

勇者「そんな気分じゃない」

遊び人「じゃあどんな気分?」

勇者「そうだな」

勇者「俺は、ここまで来れたんだという傲慢な気持ち」

遊び人「おっ、自信があっていいね」

勇者「同時に、何も考えずただ寝ていたいという怠惰な気持ちもある」

遊び人「いつもの私達じゃん」

勇者「あとは、嫉妬の勇者を破壊せしめたいという憤怒の気持ち」

遊び人「それは私も一緒」

勇者「あとは、優秀で非の打ち所のない仲間に、嫉妬する気持ち」

遊び人「嘘ばっか」

勇者「ちょっと嘘かな。100のうち、99が尊敬だから」

遊び人「……もう」
907 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:37:25.28 ID:BTByofbZ0
勇者「あとはお金がほしいな。勇者城を建設したい。これは強欲な気持ちかな」

遊び人「今のたった数十秒のうちに、勇者は7つの大罪を犯した。7倍大罪人だよ」

勇者「しょうがないよな。生きてるんだから」

遊び人「7つの大罪の感情は、誰の中にも存在するってことだよね」

勇者「ああ。けれどそれは、相手との関係によって罪ではなくなると思うんだ」

遊び人「関係によって罪ではなくなる?」

勇者「傲慢に話すのを笑顔で聞き入れてくれる関係性もある。一緒にだらだらすることを望まれる関係性もある。嫌な人からは手を触れられるのも嫌だけど、好きな人とは唇を重ねたいとさえ思う」

勇者「つまりさ」

勇者「本来罪となるそれらの行為が、罪でなくなるように生きることが大切だったんだ」

勇者「誰が罰さなくとも、一人で抱えていたら罪の意識を7つの欲望に感じてしまうかもしれないけど」

勇者「それを認めてくれる人とであれば、それらは罪ではなくなるんだ」

勇者「受け容れてくれる人を探したり、受け容れてもらえるような自分になることこそ、人生という冒険の醍醐味だったんだ」

勇者「誰もが勇者になれるんだ。自分の中に感じる罪の意識と、向き合おうとするものはみんな勇者なんだ」

勇者「生きることそのものが、7つの大罪と向き合う旅だったんだ」
908 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:38:12.19 ID:BTByofbZ0
遊び人「……7つの大罪と向き合う旅か」

勇者「いつまで続くかな」

遊び人「もしかしたら、明日世界が滅んじゃうかもしれないからね」

勇者「そうだな」

遊び人「でも、私はいいと思ってるの」

勇者「どうして」

遊び人「こうしていられるから」

勇者「そっか」

遊び人「薄い返事だね」

勇者「嫉妬が望むのはむしろ永遠の世界だからな」

遊び人「世界の滅亡と似たようなものよ」

勇者「そもそもその質問が好きじゃないからな」

遊び人「そうだったっけ?」
909 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:40:26.89 ID:BTByofbZ0
勇者「だからさ。えーと」

遊び人「ん?」

勇者「その、えーっとさ」

遊び人「なによ」

勇者「あした、世界が滅ばないとしたら?」

遊び人「えっ?」

勇者「もしもの話だって。明日、世界が滅ばないで、俺達も生き延びるとしたら?」

遊び人「うーん。そんなの明日考えればいいじゃない」

勇者「そう考えてると、一生明日が訪れないだろ」

遊び人「勇者は、何かいい考えでもあるの?」

遊び人は尋ねた。

勇者「遊び人」

遊び人「うん?」

勇者「好きだ。この戦いが終わったら、俺と結婚してくれ」

遊び人「えっ」

遊び人は、驚きのあまり口を開けていた。

勇者「笑うなよ」

遊び人「驚いてるのよ!!け、結婚だよ?」

遊び人「そ、その前にお付き合いとかは……」

遊び人は、言葉を止めた。

異性としての交わりこそなかったものの。

この冒険以上に、相手のことを理解できる付き合いなど存在しないと思った。

勇者「返事は?」

遊び人「……私達は、明日からも生きるんだよね」

遊び人は、ここで全てを完結させたくないと思った。

死を悟った想い人同士の約束としてではなく、現実の出来事として。

未来に実現させることを願った。

遊び人「……返事、あとでもいい?」

勇者「ええー!?」

遊び人「大丈夫!勇者が勝ったあとに、ちゃんとするから」

勇者「……負けたら?」

遊び人「勇者の身体がみじん切りにされても、私だけは勇者の勝ちだって信じてあげるから」

勇者「無理がないか?」

遊び人「無理なんかしないわ」

遊び人「だって、遊び人だもの」

少女は笑顔で答えた。



世界は、つくづくおそろしい。

とてつもない大罪人がいたものだと、遊び人は思った。


遊び人と大罪の勇者達 〜fin〜
910 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2018/04/30(月) 01:44:40.21 ID:BTByofbZ0
おしまいです。

大長編にも関わらず、読んでくださりありがとうございました。
(文字数はおよそ325,000字だそうです)。

私自身の感想を書くと止まらなそうなので、代わりに皆さんの感想を頂けると幸いです。



おまけですが、その他紹介致します。

[紹介]
・ツイッターアカウント
踏切交差点
@humikiri5310
フォローしてくれるととても嬉しいです。
気軽にリプライでご感想もください。

・他作品はこちらです

女「人様のお墓に立ちションですか」

女「また混浴に来たんですか!!」

男「仮面浪人の道」


あらためて、最後まで読んでくださりありがとうございました。

ずっと書いていたくなるくらい、自分でも大好きな物語でした。

最後に次作予告で終わりたいと思います(夏投稿予定)。
911 : ◆uw4OnhNu4k [saga]:2018/04/30(月) 01:48:26.24 ID:BTByofbZ0
「私の病名も診断してくれたら、あなたをほどいてあげる。叶わなかった恋の呪縛から」

“青春コンプレックス”

廃墟で出会った美少女から、男は病名を告げられた。


ありきたりに浮かぶ真夏の象徴への殺意。

それは白い入道雲。

プールの消毒液の匂い。

真夏のアスファルト。

椅子の裏に吊るされた雑巾。

掲示板に刺された画鋲。

給食袋をかけるフック。

線路の上を歩く、麦わら帽を被った、白いワンピースの少女。

手に入れたかった、二度と手に入らない青春。

「あの時ああしていれば」

同性の親友もいた。

尊敬できる先生もいた。

愛情深い親もいた。

なのに、振り向いてくれなかった、たった一人の女の子。

隣にあの人がいないというただそれだけで、人生は絶望そのものだった。

『だから、今から過去をやり直してみない?自分の未来と引き換えに』

次作:「青春ゾンビと廃墟の少女」

あり得たかもしれない過去は、諦めるには美しすぎた。
912 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/30(月) 07:34:15.89 ID:j0n652w+O
混浴の人だったかあ
またド嵌まりしちゃったぜ

お疲れ様でした
913 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/30(月) 07:42:37.83 ID:5XIQnY4TO

1スレ完結とは思えないレベルの骨太ストーリーでした……!
914 :訂正>>874 [saga]:2018/04/30(月) 09:14:09.82 ID:BTByofbZ0
>>874
削除文


『勇者「一か八かの作戦があるんだ」

勇者「先に、遊び人があいつの精霊を一体破壊してくれ。そのあと、2人で自殺を図る。神官としてのあいつの目の前に現れた瞬間に、魔剣で攻撃すれば……」

遊び人は首を横に振った。

遊び人「無口詠唱で肉体保護の呪文をかけているみたいなの。仮に魔剣で精霊は斬れても、通常攻撃によるとどめを刺せないわ。毒針を刺しても、状態異常回復のやくそうや呪文で治癒してくるでしょう。私達の得意技を嫉妬は熟知しているはずだもの」

勇者「そんな……」

勇者は絶望の表情を浮かべた。 』


この時点で勇者の精霊の加護は破壊されていたので、自殺という手段は取れませんでしたね。
915 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/30(月) 14:27:56.60 ID:FGRlK5aDO
乙乙
面白かったです

途中で水を差すのもあれなので今更ながら怠惰についての指摘
7つの大罪中の怠惰とは単に怠ける事ではなく
信仰に対する怠惰つまり不信心って事なのです
いかにもキリスト教らしい罪ですね
916 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/30(月) 17:15:56.51 ID:txO6cCwN0
917 :1 [saga]:2018/05/01(火) 20:14:04.35 ID:xutyr4hN0
今全部見返している途中なのですが、矛盾点やわかりづらい点が多々ありました…。大きなとこだけ明日まとめて解説します。気になる箇所があればおっしゃってください。

>>915
怠惰は本来そういう意味を示していたんですね。その点盛り込めばもっと内容が深くなったと思います(笑)気を遣って最後に教えてくださってありがとうございました。
918 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/05/11(金) 13:05:01.21 ID:e3MXXibp0
解説は無さそう…なのかな?
919 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/27(水) 07:18:21.56 ID:RTwAERUDO
920 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/07/26(木) 01:57:41.94 ID:Nk0HCJUL0
921 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/08/22(水) 23:31:06.58 ID:idj8MCJKo
おつおつ
勇者は救われたのか?
922 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/03(土) 03:20:12.01 ID:0rK5U5eX0
てす
923 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2020/05/29(金) 06:50:42.40 ID:VeiGlgruo
スレが残ってるから敢えて書かせてもらう
久し振りにワクワクしながら徹夜で読んでしまったくらいに凄く良かった

924 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/10(日) 07:36:43.98 ID:9/E2mls70
>>923
ありがとう。 踏切交差点
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