千歌「私のぴっかぴか音頭・タイムトラベル」

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230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:51:55.38 ID:smyUCZOA0


善子「ルビィ……」

ルビィ「大丈夫だよ。善子ちゃんなら話せるよ。花丸ちゃんと話せるよ」

ルビィちゃんが善子ちゃんを抱きしめる。

善子「……」

善子「……ルビィ、私、行くから。ちゃんと、話すから。次に会うときは、3人だから」

ルビィ「……うん」

それだけ言うと、善子ちゃんは花丸ちゃんの消えた方に走っていった。


ルビィ「……千歌さんも」

千歌「え……?」

ルビィ「花丸ちゃんと善子ちゃんを結んだのは、千歌さんだから」

千歌「ルビィちゃん……」

ルビィ「2人のこと、お願いします」

ぺこりと、ルビィちゃんが頭を下げる。


千歌「……ありがとう」


千歌「私、行くね」





―――――

―――
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:52:23.88 ID:smyUCZOA0


――――


文芸部室は、既に足元もよく見えないくらい真っ暗だった。

息を整えて入ろうとすると、善子ちゃんが恐る恐る部屋の奥に踏み込んだところだった。


善子「花丸……?」

花丸「……」

花丸ちゃんは背中を向けて椅子の上に体育座りをしていた。


善子「あの、はなま――」

花丸「善子ちゃん」

花丸「マルは、ダメずらね」

善子「え……?」

花丸「『アイドルが大好きな友達』のこと、困らせて。『小さい頃に憧れたアイドル』のこと、傷つけて」

花丸「マルは、やっぱりただのマルだったずら。『ハナちゃん』にはなれない、ただのマル」

善子「花丸……」
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:53:20.38 ID:smyUCZOA0


花丸「ごめんね、善子ちゃん。マル、ただお礼が言いたくて。こんなに大事な思い出なんだよって、言いたくて」

花丸「小説だって、そのためだったんだ。気づいてほしくて、思い出してほしくて、マルを見てほしくて。それで、仲良くなりたくて」

善子「私、普通の高校生よ。何の特技もなくって、何の特徴もない、ただの善子。それでも……?」

花丸「……うん。マルが仲良くなりたいのは、善子ちゃんずら」


善子「花丸は、昔の私じゃないとダメなんだと思ってた。夢だって見たわ。黒い服を着て、蝋燭なんか振り回してる、変な夢」

善子「私も、そうならなきゃダメなのかと思ってた。なれなくて、つらかった」

ゆっくりと花丸ちゃんが振り向いた。


善子「ごめん、あんなこと言うつもりじゃなかった。ただ、私を見てほしかった。今の私でも、もう一度仲良くなれたらそれでいいって……」

花丸「善子ちゃん……」


花丸「ふふっ、マルたち、ちゃんと話してなかっただけみたい。お互い、勝手に想像し合って、すれ違って」

善子「……そうね」

233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:54:43.66 ID:smyUCZOA0


花丸ちゃんと、善子ちゃん。

ゆっくりと、自分のことを伝えあっている。

これまで抱いてきた想いを伝えあっている。


それぞれが生きてきた過去が積み重なって今がある。

確かに今を生きている。


なかったことになってるんじゃない。

「梨子ちゃん」や「曜ちゃん」や、「ダイヤさん」や「ルビィちゃん」は消えてない。

その想いが、言葉が、私の中に残っている。「皆」は確かにあの時を生きていた。


そして私も、ほんの一瞬でも一緒に生きていた。

今までたくさんのAqoursと出会って、別れて。

そうやって、私は今ここにいるんだ。全部全部、繋がっているんだ。
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:55:29.06 ID:smyUCZOA0


向かい合って、2人が話し続けている。

お互いの過去を交換している。


善子「ルビィがね、3人一緒がいいって、そう言うの」

花丸「ルビィちゃんが?」

善子「ええ、そうよ……だから、あー……、ごほん」

善子「く、ククク……! 今からあんたは堕天使ヨハネの、そのー、そう、リトルデーモンよ! もちろん、ルビィもなんだから!」

花丸「……」

花丸「大丈夫?」

善子「な、ななっ! たまには付き合ってあげてもいいって、そういう話じゃない! 普段は今の私でいいなら、たまにはって、そういう……!」

花丸「マルにそんな趣味はないずら」

善子「なっ、ちょっと!」

花丸「……ふふっ」

善子「……もうっ」

目を真っ赤にして、2人がふっと笑みをこぼした。





――――――

―――
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:56:25.03 ID:smyUCZOA0


――――


善子「……千歌さん」

千歌「善子ちゃん、ごめんね。私、善子ちゃんのこと……」

善子「許さないわ」

千歌「善子、ちゃん……」

善子「だからね千歌さん、話しましょ。これまでのこと、お互いのこと」

花丸「うん、千歌さん。話したら分かり合える。マルたちはたった今、それを学んだずら」

千歌「……うん!」


それから、私たちはずっと話していた。

警備員のおじさんに見つかってからは、近くのバス停に腰かけてまで。


私の話、善子ちゃんの話、花丸ちゃんの話。

何でもない日常の話、家族の話、Aqoursの話、私の不思議な旅の話。


たくさんたくさん、話し続けた。

236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:57:23.22 ID:smyUCZOA0


私たちは、自分の奥の奥に手を伸ばして、少しずつ見せては引っ込め、見せては引っ込めを繰り返していた。

2人の想いが、しとしと私の胸に染み込んでくる。刻み込まれていく。

それは「元の」2人と同じようで違っていて、違うようで同じだった。


私が行ってしまっても、2人の想いは無駄じゃない。

2人は生き続ける。

そして2人の想いは、それぞれの過去と結びついた「皆」の想いは、私を通して続いていくんだ。


だからだろうか、自然と言葉が口から漏れた。


千歌「私、皆ともやりたかったな、スクールアイドル」

237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:57:59.68 ID:smyUCZOA0


善子「千歌さん……」

一瞬言葉を詰まらせ、善子ちゃんは寂しそうに笑った。


善子「……ありがとう。私、それだけで十分よ」

千歌「……」


善子「……平気よ! 千歌さんがいなくたって、平気なんだから」

善子「花丸とルビィが言ってくれるの。私と仲良くしたいって」

善子「だからきっと、大丈夫。私、やっていける」

善子「だから、ね、花丸」

花丸「……うん」



「「私たち、スクールアイドル、始めます」」



少しだけ枯れた声が響いた瞬間、光が満ちた。

238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:58:43.11 ID:smyUCZOA0


花丸「これが、千歌さんが言ってた……!」

善子「お別れ、なのね」

花丸「どうしても、行っちゃうの……?」

千歌「ごめんね、私、行かなきゃいけないんだ」

花丸「せっかく、話せたのに……」

千歌「話せたから、大丈夫。皆の言葉を聞けたから」


白い光はどんどんと強くなっていく。


善子「……あれは」


角が錆びついた標識の上、ひらひらと紙が落ちてくる。



『入部届 津島善子』


『入部届 国木田花丸』



花丸「……」

受け取った花丸ちゃんが、不思議そうに栞のような『入部届』を眺めている。

239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 03:59:23.34 ID:smyUCZOA0


善子「これを渡したら、お別れなのよね。千歌さんは、そのために来たのよね」

千歌「……うん、そうだよ」

善子「じゃあ、はい、これ」

花丸「千歌さんは、不思議な人。マルの話を聞いてくれて、善子ちゃんを連れてきてくれて。マルたちを、繋げてくれた。なんだか、魔法使いみたい」

千歌「私は、何もしてないよ」

花丸「……ううん。千歌さんにもお礼を言いたいんだ。千歌さんは行っちゃうのかもしれないけど……、マルの話を聞いてくれて。マルと、お話してくれて」

花丸「だから、はい、これ」


善子ちゃんと花丸ちゃん。

2人が『入部届』を差し出してくれる。


これに触れば先へ進める。

また、Aqoursを少し取り戻せる。

けれど、同じくらい大事な2人が目の前にいる。同じくらい大事な8人が「この世界」にいる。



2人に手を伸ばす。

ぐらりと視界が歪む。
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:00:27.22 ID:smyUCZOA0


千歌「―――ありがとう……」


善子「……忘れないで、私たちのこと。私たちが過ごした時間は、消えないから。目にした景色は、交わした言葉は、消えないから」

善子「『ここ』も、千歌さんの過去だから。『ここ』も、消さないでほしいから」

千歌「……うん。絶対に消さない。2人のこと、Aqoursの皆のこと、絶対に忘れない」



花丸「……忘れないよ、千歌さんのこと。千歌さんと過ごした時間は、マルたちの中からも消えないから」

千歌「……花丸ちゃん、ありがとう。私ね、小説最後まで読みたかったな」

花丸「うん、うん……。でも、千歌さんなら見つかるよ。自分の物語、見つけられるよ」

花丸「ページを埋めて、その先まで。きっとその先に、奇跡があるから」

241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:01:01.18 ID:smyUCZOA0


どんどんと光が強くなっていく。

視界には何もうつらなくなっていく。

自分の声が何重にも響いていく。


きっと、すぐにまた会える。

だけど、違うんだよね。「ここ」も、消しちゃダメなんだよね。なかったことにはならないんだよね。

だから。


善子「……それじゃあ」

花丸「千歌さん」




千歌「……さよなら」


私は初めてそう言ったんだ。





―――――――

―――――

―――
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:01:52.04 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


見慣れた部室の中、私のそばには8人が座っている。

紙を丸めたり、糊をつけたり、紙に何かを書いていたり。


善子「それにしても、ランタンの材料が余ってて助かったわね」

花丸「うん、本当ずら!」

ルビィ「このランタンに手紙を書いて海に流すんだよね! うわあ……! 綺麗だろうなあ……!」

鞠莉「シャイニーな日になりそうね。小原家も全面バックアップするわ! ……あ、私たちも船に乗るとか、いいんじゃない?」

梨子「そんな適当な……」


くすくすと、笑い声が響く。

その「適当」な案が採用されたことを、私は知っている。

それでもやっぱり、この時のことは覚えていなかった。

痛いほどの既視感だけが、頭をガンガン殴りつけていた。

243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:02:53.33 ID:smyUCZOA0


『『千歌さん』』


声が聞こえる。

天使の羽のような、本のページをめくる音のような、しなやかで、静かな声だった。


『ずっと思っていたの。もし、堕天使じゃなかったら、もし、中学で普通な私になっていたらって』


『教室で何でもない話をしながら盛り上がって、はしゃいで、騒いで。そんな私もあったんじゃないかって』


『でもね、そんなことを想うとき、一緒にいるのはあの2人なのよ。それと、変な格好をしてまで追いかけてきてくれた、千歌さんたちなのよ』


『だから私は、自信を持ちたい。今までの自分に、今までの時間に、育った景色に。きっとそれは、美しいはずだから』







『ずっと思ってたずら。もし、小説なんか書いていたら。もし、スクールアイドルにならなかったらどうなっていたんだろうって』


『皆の足を引っ張っちゃうことも、なかったのかな。練習やライブで迷惑かけちゃうことも、なかったのかなって』


『でもね、善子ちゃんとルビィちゃんが――2人がいるから。友達に憧れて、友達に手を握ってもらったから。世界を見せてもらったから』


『だからマルは何度でも、ふらふらふらふら、この世界に入り込んでしまうんだって、そう思うな』





―――――――

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244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:03:44.51 ID:smyUCZOA0

――――――――――#4「私の今」
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:04:18.23 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


目が覚めた。

私は何かふわふわしたものに包まれていた。

天井のシミが見える。

カチコチという秒針の音が聞こえる。

私の部屋だ。


志満「千歌ちゃーん? ちょっと手伝ってー!」

志満姉が私を呼ぶ声がする。


千歌「はーい! 今行くね!」


布団をめくり、廊下に出る。

私の部屋で目覚めたのは2回目だ。

最初はもっと混乱していたことを思い出して、くすりと笑う。

246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:04:53.04 ID:smyUCZOA0


志満姉は台所で作業をしていた。

ナスやらきゅうりやらが辺りに散乱している。

志満「おはよう、千歌ちゃん。これ、玄関に置いてきてくれる?」

千歌「これ……」

志満「もう、毎年置いてるでしょ。これに乗って、ご先祖様が行き来するのよ」

大小さまざまな野菜に、4本ずつ割りばしが刺さっている。


志満「月曜は7月盆。8月盆と、どちらの慣習の人も泊まりに来るから、出しておかなきゃね」

千歌「……そっか」

受け取って、玄関へ向かう。

7月12日。

月曜は7月盆。

あの暑い夏の夜は、1か月後。

247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:05:37.13 ID:smyUCZOA0


千歌「何だか、すっごく長い旅をしている気がする……」

それも、あと少しなんだ。

あと2人。

志満姉に言われた通りに、玄関に野菜でできた精霊馬を置く。

何だか前にも、同じことをした気がする。

ずっとずっと前。「4月」に来るより、もっと前。


あの時、私は何を考えていたんだっけ。

千歌「あの時は、東京から帰って来たすぐ後で……」

私は、どうしようもなく悔しくて、不安だった。


千歌「でもね、今なら知ってるよ」

それから3年生が入ってくれること。

9人になって、また歩き出せること。


千歌「まずは皆に出会わなくちゃ」


別れの後には、出会いがある。

それを繰り返して、今の私は「ここ」にいる。

だから、次の挨拶は決まってるんだ。



千歌「そうだよね、皆」

248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:06:36.08 ID:smyUCZOA0

#5「私とスクールアイドル」

249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:07:30.35 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


学校は変わっていなかった。

相変わらず校舎の壁や机は新しかった。

それも初めて「4月」に行った時と比べれば、ところどころに傷が入っていた。


私が呼んだ8人は、不思議そうな顔をしながらも部室に集まってくれた。

気だるそうに椅子に座っている善子ちゃんは、黒いマントを身に着けていた。


果南「千歌、どういうこと? 何で鞠莉までいるわけ」

不機嫌そうに果南ちゃんが指をさす。

鞠莉「私だって呼ばれたんだから仕方ないじゃない」

果南「だいたいここ、スクールアイドル部の部室でしょ。私には関係ない」

曜「でも果南ちゃん、前はスクールアイドルやってたって……」

果南「ちょ、ダイヤしゃべったの!?」

ダイヤ「ええ」

梨子「ま、まあまあ、ここは千歌ちゃんの話を、ね?」

250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:08:14.29 ID:smyUCZOA0


記憶そっくりの会話を繰り広げる3年生に、苦笑いしてしまう。

きっといつでもそうなのだろう。

不器用にすれ違って、お互いのことを変に気遣っている。


曜「それで、千歌ちゃん。今日はどうして?」

千歌「あのね、今日は大事な話があって、呼んだんだ」


千歌「信じてもらえないかもしれないけど、信じてほしい」

千歌「この9人じゃないとダメなんだ。この9人で、したい話なんだ」

千歌「長い長い話になるんだけどね、聞いてほしいんだ」

梨子「千歌ちゃん……?」



千歌「まずは、自己紹介から」



千歌「はじめまして、高海千歌です」




―――――――

―――――

―――

251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:09:36.20 ID:smyUCZOA0


――――


「「「…………」」」


どこかで、蝉の鳴く声がする。

赤みがかった陽光が机を彩る。

しばらく、誰も声をあげなかった。



一番最初に立ち上がったのは、果南ちゃんだった。

果南「……悪いけど、信じられない。帰る」

鞠莉「意気地なし」

果南「なっ、どういうこと!」

ダイヤ「お止めなさいな。鞠莉さんも、わざわざ煽らなくてもよいはずですわ」

鞠莉「……」

果南「……」

ダイヤ「果南さんも、わかっているのでしょう? わたくしも、到底信じられません。ですが、ですが……。千歌さんは知るはずのないことを知っている」

果南「……」

ダイヤ「わたくしは、Aqoursの名前については話していません。鞠莉さんに留学の話が来たことも、話していません」

ダイヤ「それなのに、千歌さんは知っている。それなのに、千歌さんは知らない。鞠莉さんが帰ってきたのは、去年の話ですわ」

千歌「え……?」

鞠莉さんの留学の時期がずれている。

それが、違いなのかな。

果南ちゃんか鞠莉さんの「もし」のヒントなのかな。

252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:10:08.41 ID:smyUCZOA0


ダイヤ「全て千歌さんのお話で説明がつきますわ。千歌さんは、わたくしたちと一緒に過ごして、そして……」

梨子「別の過去に移動した……?」

果南「それが今ってこと? 信じられない」

ルビィ「ルビィは、何がなんだか……」

善子「ぐぬぬ……タイムトラベルだなんて、このヨハネを差し置いて……!」

花丸「善子ちゃん、千歌さんはしたくてしたわけじゃないんだよ」

善子「わ、わかってるわよ!」

ざわざわと、部室が騒々しくなる。

信じる、信じない、そんな言い合いが続いている。


曜「千歌ちゃん」

曜ちゃんの静かな声が部室に落ちた。


曜「千歌ちゃんは、どうしたいの?」


千歌「私は……」
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:12:30.03 ID:smyUCZOA0


千歌「私は、9人でスクールアイドルがやりたい」


曜「それは、帰れるから?」

千歌「……正直に言うと、それもあるんだ」

千歌「でもね!」

千歌「私は、今ここにいる皆ともやりたいんだ! スクールアイドル!」


梨子「私たちは、千歌ちゃんの知ってる私たちじゃないのに?」

千歌「うん」


たくさんの皆に出会って、別れて、ここまで来た。

出会った仲間は、なかったことになる仲間なんかじゃない。

「皆」との関係が、思い出が、出会いが、別れが、ずっと残り続けるんだ。


千歌「私は皆と踊りたい。今はまだよく知らないけど……。お互い大好きになれるって、知ってるから」

254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:12:59.84 ID:smyUCZOA0


曜「……」

曜「……わかった」

曜「……ううん、本当は難しくてわからないけど、それでも」

梨子「曜ちゃん……?」

曜「私は、千歌ちゃんを信じるよ」

千歌「よ、曜ちゃん! ありがとう……!」

曜「だって、千歌ちゃんが出会った『私』もそうしたんだよね。千歌ちゃんと喧嘩してまで、そうしたんだよね」

千歌「……うん」

曜「たくさんの私が今に繋がっているなら、『私』も信じなきゃ」

梨子「はぁ……」

梨子「曜ちゃんがそこまで言うなら。それに、私も千歌ちゃんのこと、信じたい」

千歌「梨子ちゃん……」

2人の言葉を聞いて、1年生の3人も静かに頷いてくれる。
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:13:30.99 ID:smyUCZOA0


果南「……」

果南「やっぱり、帰る」

千歌「果南ちゃん!」

果南ちゃんは部室の扉に手を掛けたところで、立ち止まった。

果南「……」

何も言わずに、果南ちゃんは部室から出て行った。


ダイヤ「……」

鞠莉「……バカ」



千歌「話して、くれませんか。ダイヤさん、鞠莉さん」

前は、聞けなかったけれど。

まだ何も、知らないけれど。


千歌「知りたいんです。それで、一緒にやりたいんです」


ダイヤ「……わかりましたわ」

256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:14:15.43 ID:smyUCZOA0


ルビィ「お姉ちゃん……!」

ダイヤ「どの道、近々話さなければと思っていました。あなたたちが東京に行ったからですわ」

ダイヤ「Aqoursは、今苦しんでいる。挫折を味わい、悔しくて、もがいて……だからこそ、話さなければと思っていました」

ダイヤ「わたくしたちも、そうだったから」

鞠莉「……ダイヤ」

ダイヤ「鞠莉さん、よろしいですか?」

鞠莉「私は、別に」


ふいと外を向いた鞠莉さんを横目で見ながら、ダイヤさんは話し始めた。


ダイヤ「そうですわね、どこから始めればいいのか……ですが、やはりここからですわね」



ダイヤ「わたくしたち3人は、親友でした」

257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:14:49.43 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


ダイヤ「高校に入り、また一緒になりました。しかし、廃校の噂を聞きました」

花丸「廃校? この学校が、ずらか?」

ダイヤ「ええ、そうです。今では信じられないかもしれませんが……」

ダイヤ「その噂を聞いたわたくしは、果南さんと鞠莉さんを誘ったのです」

千歌「……スクールアイドル」

それで、3人でAqoursを始めたのだと聞いていた。

けれど、「ダイヤさん」はAqoursは2人だったと言っていた。


ダイヤ「反対したのは果南さんです」

ダイヤ「果南さんは……鞠莉さんは留学するべきだと、そう言いました」

鞠莉「……パパの伝手よ。千歌っちの知ってる私は、ずっと断っていたみたいだけど」

後ろを向いたまま、鞠莉さんが口を挟んだ。


ダイヤ「鞠莉さんは、すぐに留学に行きました」

千歌「……」
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:15:41.55 ID:smyUCZOA0


ダイヤ「わたくしたちは、約束をしました」

ダイヤ「鞠莉さんが帰って来たら3人でやろうと。一緒に廃校をなくそうと」

鞠莉「……嘘つき」

ダイヤ「……」

一瞬、2人の目が合った。


ダイヤ「……残ったわたくしたちは、2人で活動をしていました。曲を作って、練習して……。順調でした」

ダイヤ「しかし……」

ダイヤさんが物憂げに目を伏せる。

ルビィちゃんが、そっと肩に触れた。


ダイヤ「わたくしが、怪我をしました。練習中のことでした。オーバーワークが祟り、足首を……」

鞠莉さんは留学に行った。

ダイヤさんが怪我をした。


少しずつ「違い」が明らかになっていく。
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:16:22.50 ID:smyUCZOA0


ダイヤ「果南さんは気づいていました。それで、東京で歌わないことを決めました」

ダイヤ「わたくしたちは、大喧嘩をしました。果南さんと喧嘩したのは、はじめてでした」

ダイヤ「最後の機会でした。早期に廃校を阻止しようと思えば、そこで結果を出すしかありませんでした」

梨子「え、でも……」


ダイヤ「果南さんは、諦めないと言いました。まだ大丈夫、鞠莉さんがもうすぐ帰ってくる。3人でやり直せる。そう言いました」

ダイヤ「そして、去年の夏、鞠莉さんが帰ってきました」



ダイヤ「廃校は、なくなりました」

260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:17:10.63 ID:smyUCZOA0


鞠莉「……」

鞠莉「私が帰ってきた時、浦の星女学院はもうボロボロだったのよ」

鞠莉「ダイヤたちはまだ間に合うと思っていたようだけれど、無理だった」

曜「どうして……?」


鞠莉「……私のせいよ」

鞠莉「私が留学に行ったから、パパは向こうの学校にかかりきりだった。この学校のことが後回しになった」

鞠莉「せめて1年、1年でも私が在籍していれば、もう少し延ばせたかもしれないのに」

千歌「そう、だったんだ……」


鞠莉「帰って来てすぐに、2人のことを聞いたわ。怪我があって、厳しい状況だって」

鞠莉「廃校を止めるために他の手段も考えているって。それこそ、生徒会とかね」

鞠莉「だから、投資したの」

鞠莉「パパに頼み込んで、校舎の外装から、備品や、学校周辺の施設にまで」

千歌「だから……、だから『ここ』は……」


だから、学校は変わっていたんだ。

新しい机と椅子。見たことのない自動販売機。真っ白の塗装。

きっと細かいところはもっと変わっている。

鞠莉さんだったんだ。
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:17:55.32 ID:smyUCZOA0


善子「何でそこまでして……」

鞠莉「廃校がなくなれば、続けられるでしょ?」

ダイヤ「……」

鞠莉「きっかけは廃校阻止のためだったわ。でも、2人がSchool Idolをやっていたのはそれだけが理由じゃなかった」

鞠莉「ダイヤと果南はSchool Idolが大好きだった。続けたかった。私もやってみたいと思った。だから、続けられるように手を打ったの」



ダイヤ「……果南さんは、怒りました」

ダイヤ「今まで見たことがないくらい、怒りました。もうやらないと言って、スクールアイドルを辞めました」


ダイヤ「それからは……」


鞠莉「ご覧の通り、ね」

おどけた調子で、鞠莉さんが結んだ。

部室にまた沈黙が落ちる。


違いは、驚くほど単純だった。

鞠莉さんはすぐに留学に行った。果南ちゃんはそれを後押しした。

たったそれだけで、大きな違いが生まれてしまった。

262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:18:38.74 ID:smyUCZOA0


鞠莉「私は、失望したの」

いつの間にか、鞠莉さんがまっすぐこちらを見ていた。

鋭い視線に、いつかの理事長室でのように息が継げなくなる。


鞠莉「School Idolに、果南に、失望したの」

千歌「……」

鞠莉「School Idolは、その程度だったの? 廃校阻止っていう目的がなくちゃ、続けられないの?」

鞠莉「ただの手段だったの? 目的を達成したら、辞めてもいいの?」

鞠莉「3人でやろうと言ってくれたのは、嘘だったの?」

鞠莉さんが早口でまくし立てる。

瞳が夕日を映して鈍く光った。

ダイヤさんが、眩しそうに顔を逸らす。



鞠莉「School Idolがその程度なんだったら、やる意味なんかない」



鞠莉「ねえ千歌っち。……どうして、School Idolなの?」



―――――

―――

263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:19:23.81 ID:smyUCZOA0


――――


私はどうしてスクールアイドルをやっているんだろう。

私たちは、どうしてAqoursをやっていたんだろう。


あの暑い暑い夜、私はどんな気持ちで内浦の海の上に立っていたんだろう。


千歌「なんだか不思議な気持ちだったような……」

Aqoursの皆と踊ったことを思い出す度、きゅうきゅうと胸が締め付けられた。

私は楽しかったのかな。嬉しかったのかな。それとも――。


帰り道でも、ずっと考えていた。

歩きながら、ぺらぺらと歌詞ノートをめくっていた。


1曲1曲、頭の中で歌いながら歩き続けた。

この世界の私は、どんな想いで歌詞を書いていたんだろう。

そして私は、どんな想いで……。


千歌「……」

家について、ドアを開けた。



志満「あら、お帰り千歌ちゃん。果南ちゃんが来てるわよ」

264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:20:03.64 ID:smyUCZOA0


――――


果南「千歌」

私の部屋のベッドの上、果南ちゃんは座ったまま首をこちらへ向けた。

千歌「ひどいよ果南ちゃん。勝手に乙女の部屋に入るだなんて」

果南「志満姉が案内してくれたんだよ。それに乙女って……?」

千歌「あー! 失礼な!」

果南「……」

果南「……ふふっ」

困ったように果南ちゃんは笑った。


果南「あー、千歌が相手だとやりにくいな。鞠莉相手だったら、ずっと真顔でいられるのに」

千歌「ほんとに?」

果南「どういう意味?」

千歌「べっつにー。果南ちゃんは相変わらず変なところで意地っ張りだなって」

果南「……帰る」

千歌「冗談だよ。いや、冗談じゃないけど」

千歌「でもさ、どうして急に?」

尋ねると、果南ちゃんはきゅっと眉を上げた。
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:20:50.96 ID:smyUCZOA0


果南「聞きたいことがあるんだ」

千歌「うん、なあに?」

果南「千歌は、どうしてスクールアイドルをやってるの?」


千歌「……」


果南「今日言ってたよね。千歌は別の未来から来たって。私は、信じてないけど」

最後の一言だけ、語調が強い。

果南「でもさ、もしそうなら――」


果南「千歌は、廃校になるかもしれない世界に戻ろうとしてる」

千歌「……うん、そうだよ」


果南「どうして?」


千歌「また、9人で踊りたいから」
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:21:55.55 ID:smyUCZOA0


そう言うと、果南ちゃんは苛立たし気に息を吐いた。

果南「千歌、ダイヤと鞠莉から話聞いたんでしょ?」

千歌「うん、聞いたよ」

果南「だったらわかるでしょ。スクールアイドルじゃ廃校は止められない」

千歌「わかんないよ」

果南「わかるよ。あれだけ頑張って、不安で、怖くて、悔しくて」

果南「それなのに、無駄だったんだよ」

果南「私たちのやってきたことは、鞠莉が一瞬で解決しちゃった」

果南「はじめから、そうしておけばよかった。はじめから、スクールアイドルなんか――」

千歌「果南ちゃんっ!」

果南「……っ」


千歌「ダメだよ、果南ちゃん。それは言っちゃダメ」

果南「どう、して……? 私は……っ」

果南ちゃんの目尻が、どんどんと湿り気を帯びる。
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:22:29.82 ID:smyUCZOA0


果南「私は……っ! 3人でやりたかった!」

果南「鞠莉が帰って来て、3人でだったら何でもできるって、そう信じてた!」

千歌「果南ちゃん……」

果南「それなのに、鞠莉は、鞠莉は……!」


果南「私たちの活動が無駄だったって言うみたいに、お金で全部解決して……っ!」

果南「曜たちだってそうだよ。あんなに頑張ってたのに。東京で悔しい思いして……」

果南「スクールアイドルを続けても、意味なんかない。奇跡なんか、起きない」

千歌「……そんなことないよ」

果南「どうしてそう言い切れるの」

拗ねたような声で、果南ちゃんは聞いた。


果南「どうして、信じられるの? それとも千歌の知ってる私たちは、すごいスクールアイドルなの?」

千歌「ううん。おんなじだよ、果南ちゃんたちと、おんなじ」

千歌「それでも、私はスクールアイドル、辞めないよ」
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:23:14.45 ID:smyUCZOA0


果南「不安じゃないの……?」

果南「どうして、ここまで来たの? 苦しくて、寂しくて……それなのに、どうして」


私は、どうしてここにいるんだろう。

私たちはあの始まりの夜、何を思っていたのだろう。

嬉しいような、楽しいような、ううん、それだけじゃない。


千歌「不安だったよ。ううん、今も」

そうだ、私はあの時、不安だった。


千歌「このままでいいのかなって思って。これでよかったのかなって不安に思って」

千歌「だから、私はここに来たのかも」

果南「……どういうこと?」

千歌「あの日……私の旅が始まった日」

千歌「私たちは『過去を想う日』を過ごしてた」

果南「……」

千歌「私たちは皆、過去を想ってた。ううん、過去に憧れてた」

果南「憧れてた……?」

千歌「こうだったらよかったのに。こうだったら、もっと上手くいったかもしれないのにって」

千歌「もしもこうだったらって、手紙なんて送って。だから私は、『4月』に着いたんだと思う」

真相なんて、わからないけれど。
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:24:24.07 ID:smyUCZOA0


果南「もしも、こうだったら……」

千歌「そこには、Aqoursはなくて。皆の『もしもの夢』だけが叶ってた」

果南「そこから、どうしてここまで……」


私は、どうしてここまで進んで来れたんだろう。

どうして、今ここにいるんだろう。「9人」という奇跡を、諦めずにいられるんだろう。


千歌「……」

果南「……」


静かな時間が部屋に流れる。

不意に、どこからか音が聞こえてきた。

ぽろぽろと、零れるような音だった。


果南「……この音」


千歌「……梨子ちゃん」


梨子ちゃんが、ピアノを弾いていた。

千歌「最初も、そうだった。梨子ちゃんのピアノを聞いて、思い出したんだ」

千歌「そこからまた、私は走り出したんだ。梨子ちゃんに会って、曜ちゃんに会って、そして――」


途端に、全部を伝えたくなった。


ねえ果南ちゃん。

私ね、こんな素敵な仲間に出会って、素敵な言葉をもらって、それで今、ここにいるんだよ。

270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:25:33.72 ID:smyUCZOA0


千歌「皆がいたからなんだ」

果南「皆?」

千歌「そう、皆が。果南ちゃん、さっき奇跡は起きないって言ってたよね」

果南「……うん」


これまでの旅が、「皆」の想いがぐるぐると私の中を巡っている。


千歌「やっぱり、そんなことないよ。果南ちゃんが必死にもがいてきた先に、私たちが必死に走ってきた先に、奇跡はあるんだよ」

―――『千歌さんなら見つかるよ。自分の物語、見つけられるよ。きっとその先に、奇跡があるから』



果南「たしかに私は必死だった。でも、それは全部無駄だったんだよ」


千歌「果南ちゃんのやってきたことは、無駄じゃない。無駄なんかじゃない。消えたりなんか、しない」

―――『私たちが過ごした時間は、消えないから。目にした景色は、交わした言葉は、消えないから』



果南「でも! 結局廃校は鞠莉が解決したんだ。私たちは、何もできなかった」


千歌「果南ちゃんが踊っていたのは、本当に学校だけのため? 他に大事なものは、あったんじゃないかな。見失っちゃダメだよ」

―――『目指す先を、見失ってはなりません。信じて、選び続けなければなりません』

271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:26:34.45 ID:smyUCZOA0


果南「私は……不安だったけど、つらかったこともあるけど、ダイヤと笑っている時間が、踊っている時間が楽しくて」

果南「でも、ダイヤとも、鞠莉とも喧嘩を……」


千歌「ううん、大丈夫。2人のことが大好きなままなら、絶対大丈夫」

―――『大好きだったら大丈夫……。ルビィに、そう教えてくれたから』



果南「でも、今さらだよ。今さら、そんなこと言ったって2人は……」


千歌「行ってあげて、鞠莉さんのところ。ダイヤさんのところ。2人とも、きっと待ってる」

―――『きっと、待ってるから。何日、何か月、何年でも、いつでも、どこでも、千歌ちゃんのこときっと待ってる』



果南「……そうかな。私、行ってもいいのかな。スクールアイドル、辞めなくてもいいのかな」


千歌「……うん。思い出して。始めて踊ったときのこと。スクールアイドルを始めたときの気持ち。鞠莉さんとダイヤさんとの約束を、思い出して」

―――『私にAqoursの話をしたときの気持ちを、思い出してね』



果南「私は、本当は――――」






―――――――

―――――

―――

272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:27:08.59 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


屋上には、他に人はいなかった。


3人と、私と。4つの影だけがゆらゆらとアスファルトに揺れていた。




果南「鞠莉、ダイヤ」



ダイヤ「まったく……」



鞠莉「遅すぎよ、バカ」



7月13日。乾いた風がふわりと身体を撫でた。


3人は手を握り合って一度笑い合うと、長い間じっと黙っていた。





―――――――

―――――

―――

273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:28:13.50 ID:smyUCZOA0


――――



果南「……千歌」

照れくさそうに、果南ちゃんが私の目を見た。


果南「私たちがスクールアイドルを始めたら、Aqoursに入ったら、千歌は元の世界に帰れるんだよね」

千歌「……うん」

ダイヤ「最後、ですのよね。千歌さんの長い長い旅の、最後ですのよね」

千歌「……うん、最後なんだ。これで、9人なんだ」


鞠莉「ねえ千歌っち。1つだけ教えて」

少しだけ赤くなった鼻をこすりながら、鞠莉さんがまっすぐこちらを見た。


鞠莉「どうして9人にこだわるの? 帰るのに必要なんだってことはわかってるわ。でも、それを抜きにして――」


鞠莉「千歌っちにとって『9人』はそんなに大事なの?」

探るような、けれど乞い願うような瞳だった。

274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:28:44.92 ID:smyUCZOA0


千歌「……」

千歌「同じだよ」


鞠莉「え……?」


千歌「果南ちゃんとダイヤさん、そして鞠莉さんの『3人で』と、同じなんだよ」


果南「……」

ダイヤ「……」


鞠莉「……」

長い間、鞠莉さんは何も言わなかった。

浅い息で、言葉を探しているようだった。



鞠莉「……そう、そんなに」

一粒だけ、ぽたりと雫が落ちた。

鞠莉「そんなになのね、私たち」



千歌「うん……そんなになんだよ、私たち」


屋上に、光が溢れた。

275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:29:52.72 ID:smyUCZOA0


ダイヤ「これが……!」

果南「うわっ……! 千歌、本当だったんだ……」

眩しそうに目を細めながら、果南ちゃんは呆けていた。


千歌「ひどいなあ、信じてなかったなんて」

果南「いや、そうじゃなくて、そうじゃないけどさ」

鞠莉「ダイヤと果南は頑固だからね」

果南「うるさいなあ。ダンスの練習は覚悟してよね」

ダイヤ「鞠莉さんは経験がありませんし、苦労するかもしれませんわね」

鞠莉「Oh……」


3人が言葉を交わしている。

影が重なったその上に、ひらひらと紙が落ちてくる。



『入部届 黒澤ダイヤ』


『入部届 松浦果南』


『入部届 小原鞠莉』



千歌「……」

最後なんだ。

これを取れば、終わりなんだ。
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:31:13.02 ID:smyUCZOA0


千歌「皆、待っててくれてるかな……」

『入部届』に手を伸ばす。


千歌「……っ」

くらりと頭が揺れる。


ガタンと、どこか遠くで音がする。


曜「千歌ちゃん!」

屋上の鉄扉が開いて、曜ちゃんたち5人が駆け寄ってくる。


千歌「曜、ちゃん……!」


薄れる意識の中、8人の目が見えた。

皆が口々に私の名前を呼ぶ。


眩暈はどんどん強くなっていた。

もうすぐ、戻るんだ。
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:32:15.85 ID:smyUCZOA0


鞠莉「千歌っち」

鞠莉「きっと、理由なんかないのよ。School Idolじゃなきゃいけない合理的な理由なんか、1つも」

鞠莉「だから、信じて。どんな想いで、どんな顔で踊っているかの方が、きっと遥かに大事だから」



果南「先のことは、わからないよ。不安にもなる。それでも、無駄になることなんかないって、千歌が教えてくれたんだ」

果南「怖さも不安も抱きしめて、進んでいける。千歌なら、大丈夫」




千歌「鞠莉さんっ! 果南ちゃんっ! 皆――」



千歌「千歌、帰るから! 皆のおかげで、帰れるから! だから……ありがとう、さよなら―――…」





―――――――

―――――

―――
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:33:23.84 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


音を立てて、海水が皆の足に掛かる。

8人が砂浜に立っていた。

波の音が聞こえる。船が海上を走る音が聞こえる。

遠くの方から誰かが笑う声が聞こえる。


千歌「もうすぐ、お盆だね」

また、勝手に私の口が動いた。相変わらず身体は動かない。

鞠莉「そうねえ……。盆踊り、楽しみね!」

果南「それが終わったら、もう地方予選だっけ。早いなあ」

千歌「……よかったのかな」

曜「え、何が?」


千歌「私たち、ここまで来て、よかったのかな。もっと、何かできることはなかったのかな」

梨子「……千歌ちゃん?」

千歌「えへへ、ごめんね。ちょっとだけ、考えちゃうんだ。もしもあの時、もしもこの時……って」

私の言葉を聞いて、皆は考え込んでいた。

相変わらず、覚えていない会話だった。

けれど相変わらず、既視感だけが強く残った。


果南「もしも、もしも、ね……」


「「「もしも、かあ……」」」


279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:34:35.54 ID:smyUCZOA0


『千歌』

『千歌っち』


声が聞こえた。

海のように深く、雲のように軽やかな声だった。


『ずっと思ってたんだ。もしも、最初から鞠莉を留学に送り出していたらどうなっていたんだろうって』


『その方が、鞠莉の将来のためになったんじゃないか。少しでもスクールアイドルをやったことで、鞠莉を縛り付けてしまったんじゃないかって』


『でもさ、その度に鞠莉に叩かれた頬が痛むんだ。私の気持ちを馬鹿にしないでって、そう言われるんだ』


『きっと、先のことなんて考えても仕方ないんだよ。大事な人と今何がしたいか、それだけじゃないのかな』





『ずっと思ってたの。本当は、すぐに留学に行くのが正解だったんじゃないかって』


『そうしたら、喧嘩しなくて済んだんじゃないか、自分のためにも、パパのためにもなったんじゃないかって』


『でもね、思いきり悩んだあの時期に、私は大事なことを学んだのよ。一生消えない、大事な記憶』


『正解ばかりじゃ学べない。悩みながら、選んで選んで、私は今を生きるのよ』



青い海に、青い空に、8人の影が溶け込んだ。




―――――――

―――――

―――

280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:35:14.56 ID:smyUCZOA0

――――――――――#5「私とスクールアイドル」
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:35:57.09 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


目が覚めた。

ちゅんちゅんと鳥が鳴いている。

カーテンから漏れる陽の明かりが優しく部屋を照らす。

色とりどりの箱が目に入ってくる。


『千歌ちゃん誕生日会』

見慣れた筆跡のカードが床に落ちている。


私の部屋だった。私は床に転がっていた。

隣では、曜ちゃんと梨子ちゃんが行儀よく寝息を立てていた。


千歌「……」

窓の近くでは、ダイヤさんとルビィちゃんがもたれ合ってうとうとしている。

果南ちゃんと鞠莉さん、花丸ちゃんはベッドの上で狭そうにもぞもぞ動いていた。

善子ちゃんは何やら寝袋のようなものにくるまっている。

全員いる。


千歌「戻って、来た……?」

もう一度人数を数えた。

9人いる。
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:36:40.65 ID:smyUCZOA0


自信が持てなくて、しばらくぼうっとしていた。

何度数えても、9人だった。


千歌「戻って、きたっ!」

小さく、叫び声をあげた。

千歌「私、私、戻ってきた……!」

9人の世界に。

私の知っているAqoursがいる世界に。


こらえきれなくて、立ち上がった。


パジャマのまま、部屋の外に出る。

まだ明け方だった。

夏らしい暑さを感じながら、家の外に出る。


携帯の画面を見る。

「8月1日」

今日は、私の誕生日だった。

283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:37:14.39 ID:smyUCZOA0


曜「千歌ちゃーん?」

梨子「もう、いっつも変な時間に起きるんだから……」

目をこすりながら、曜ちゃんと梨子ちゃんが歩いてきた。

曜「あ、千歌ちゃん」

梨子「どうしたの、こんな明け方に」


千歌「……」


言葉が出なかった。

この2人は、私の知ってる曜ちゃんと梨子ちゃん。

今まで出会った「2人」が頭に浮かぶ。


うん、わかってる。

消えちゃったんじゃない。

今までの「2人」の想いは、今目の前の2人に繋がっている。
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:38:00.47 ID:smyUCZOA0


千歌「曜、ちゃん……っ! 梨子ちゃん……っ」

曜「え、え? 千歌ちゃん?」

梨子「なんか、嫌な夢でも見た……?」

ぽろぽろと涙を流して抱き着く私を、2人は優しく受け止めてくれた。


千歌「やっと、戻ってきた! 今度は、もう不安にならないから」

千歌「『皆』に教えてもらったから! 私は、1人じゃないから!」

曜「千歌ちゃん……?」

千歌「私、皆と一緒に、進み続けるよ!」

千歌「頼りないかもしれないけどさ」


曜「……」

梨子「……」

2人は顔を見合わせて、可笑しそうに吹き出した。

曜「頼りないなんて、そんなことないよ。千歌ちゃんの歌詞、私は大好き!」

梨子「もう少し早く書いてくれてもいいとは思うけど、ね」

千歌「ええー」

わざと不機嫌そうな声を出す。

こんなやり取りも、久しぶりだった。
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:38:42.79 ID:smyUCZOA0


梨子「でも千歌ちゃんがこういうこと言うの、珍しいね」

千歌「そうかな?」

不思議そうな顔で、梨子ちゃんは私の顔を眺めた。

曜「確かに、どっちかって言うと私の方が多いかもね」

梨子「そうだよね……。だってさ――」



何となく、嫌な予感がした。

これ以上、聞いてはいけないような。

ずっと引っかかっていた痛みに気づいてしまうような、そんな気がした。





梨子「だって、Aqoursのリーダーは、曜ちゃんだもんね」

286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:39:13.25 ID:smyUCZOA0

#6「私」
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:39:45.57 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


練習には、身が入らなかった。

練習開始の合図は曜ちゃんが出していた。

練習終了の合図も曜ちゃんが出していた。

メニューは曜ちゃんとダイヤさんが相談して決めていた。

全て、私がやっていたはずのことだった。


彷徨っていたのは、Aqours全員の夢の世界。

そして「ここ」は、私の夢の世界。

きっと、ずっとそうだったんだ。

これまで歩んできた世界でも、私はずっと夢の中だったんだ。

288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:40:17.63 ID:smyUCZOA0


千歌「どうして気が付かなかったんだろう……」

1つ目の世界。私は梨子ちゃんと曜ちゃんとしか話さなかった。

2つ目と3つ目の世界では、ダイヤさんが部長をやっていた。練習はすべてダイヤさんが仕切っていた。

4つ目の世界。曜ちゃんが練習を仕切っていた。私はその間、善子ちゃんや花丸ちゃんに注意を向けていた。

曜ちゃんは、気を遣ってくれているのだと思い込んでいた。

5つ目の世界では、そもそも練習に出ていない。


何とか否定しようと思い返すも、気がつかなかった理由だけがボロボロと出てきてしまっていた。

289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:41:13.25 ID:smyUCZOA0


千歌「私の『もしも』……」

内容は、考えるまでもなかった。

自分のことだから。

私が一番わかっているはずだった。


あの夏、私はリーダーであることに不安だった。

曜ちゃんだったらって、そう思ってた。


曜「千歌ちゃん、どうしたの?」

練習後、鞄をふりふり、曜ちゃんが顔を覗き込んでくる。


千歌「……」

曜「……千歌ちゃん?」

千歌「あ、ご、ごめんね。何だった?」

曜「……」

290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:42:45.70 ID:smyUCZOA0


どうやったら、戻るんだろう。私は戻りたいのかな。

今までは簡単だった。

Aqoursの誰かが、夢の中にいた。

その誰かが夢から醒めれば、先に進めた。


けれど今回は違う。

夢の中にいるのは、私なんだ。


千歌「私は忘れてない。全部全部、覚えてる」

私はAqoursの一員だった。

「元の」世界の思い出だって、全部覚えている。


千歌「本当に、全部……?」

ううん、違う。私が覚えていない記憶があった。

「移動」するたびに見る景色。

既視感は抱く。けれど、記憶にはなかった。


曜「……千歌ちゃん!」

千歌「え……?」

曜「やっぱり、変だよ。今朝からずっとぼーっとしてさ」

千歌「ご、ごめん」

曜「何かあったなら、話してほしい。こんなでもさ、私リーダーだし。それに何より、千歌ちゃんの友達だから」


ずきりと胸が痛んだ。

291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:43:45.07 ID:smyUCZOA0


――――


千歌「私、どうすればいいのかな」

ベッドに横たわり、天井を見上げる。

迷いながら、旅をしてきた。やっとここまで来た。


千歌「9人、揃ったんだよね」

千歌「もう、いいのかな。私がリーダーじゃなくても」

練習は、上手く行っているように見える。

曜ちゃんは、ダンスもうまいし、人気だし。


千歌「もう、いいよね。千歌、頑張ったんだもん。ここまで、来たんだもん」

千歌「Aqours、取り戻したんだもん」


『諦めないで。会いに来て』

『もう一度、走り出して』


いつか夢で聞いた言葉がよぎる。


千歌「ここまで、来たんだもん……っ! ちゃんと走り出したんだもん! もう、いいじゃん、これで、いいじゃん!」


歌詞ノートを取り出してみる。

私が知っている曲は、全て書いてあった。




千歌「Aqoursは、もうあるんだよ」


292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:44:22.01 ID:smyUCZOA0


――――


練習にはやっぱり身が入らなかった。

皆は必死だった。

8月4日。もうすぐ予備予選だった。

Aqoursはもがいて、もがいて、何とか結果を残そうとしていた。廃校を止めようとしていた。

曜ちゃんは完璧なんかじゃなくて、たくさん悩み事を抱えていた。

それを少しずつ分け合いながら、Aqoursは心を通わせていた。



曜「皆が教えてくれたんだ。悔しいって。このままじゃ終われないって。この学校を、守りたいって」

東京での思い出があるから頑張れる。だから、想いを1つに。

曜ちゃんはそう言った。
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:46:06.88 ID:smyUCZOA0


皆が東京での思い出を口にするたびに、内浦の海を思い出した。

梨子ちゃんに抱きしめられながら、みっともなく声を上げて泣いた、あの時を思い出した。



皆が廃校の話をするたびに、屋上での夜を思い出した。

温かい光を放つランタンが空を満たした、あの震えるような夜を思い出した。



皆のおかげだと曜ちゃんが口にするたびに、Aqoursの皆の顔が浮かんだ。

この旅で出会った、「皆」の顔。それよりずっと前、一緒に浴衣を着た皆の顔を思い浮かべた。



そんな時、私はふらふらと、海辺で波を眺めるのだった。



千歌「これで、いいんだよ」

チリチリと胸が痛かった。


千歌「皆、頑張ってるじゃん。Aqoursは、輝きかけてる。輝ける。私だって、ここなら、9人でなら――」


曜「……」

294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:46:49.41 ID:smyUCZOA0


――――


8月8日、夜。

私はまた、海を眺めていた。


細い月が夜空をぼんやりと照らしている。

ぽつりぽつりと瞬く星が、海の黒いうねりに呑み込まれる。


もわりとした風が吹く。

潮の香が漂ってくる。


千歌「……」


明日からは、忘れよう。

だって、予備予選があるんだ。

それが上手く行ったら、盆踊りだって、地方予選だって。

何も、変わらない。私の記憶と、何も変わらない。


Aqoursは9人。

皆が私を助けてくれる。

誕生日会だって開いてくれる。


これ以上、何があるんだろう。これ以上、何を望むんだろう。



曜「……千歌ちゃん」


ざざっと、砂を踏む音がした。
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:47:27.67 ID:smyUCZOA0


曜「毎晩、ここにいるね」

千歌「曜ちゃん」


曜ちゃんが潮風に吹かれて髪をなびかせている。

表情は暗くてよく見えなかった。


曜「どうしてここにいるの?」

千歌「……どうしてだろうね」


ぼんやりと答えた私に、曜ちゃんは何も言わなかった。

代わりに私の隣に腰を下ろした。


千歌「砂、ついちゃうよ」

曜「いいの」


千歌「……」

曜「……」
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:48:14.73 ID:smyUCZOA0


曜「千歌ちゃん、今何考えてるの?」

千歌「うーん、曜ちゃんは、すごいなって」

曜「……そんなことないと思うけど」

千歌「そんなことあるよ。水泳だって上手いし、衣装づくりだっていつもすごいし。おまけに――」


千歌「おまけに、Aqoursのリーダーだし」

曜「……」

曜「千歌ちゃんはさ、どうしてここにいるの?」

千歌「え?」

曜ちゃんは、同じ質問を繰り返した。


曜「どうして、ここで立ち止まっているの?」

千歌「曜ちゃん……?」

曜「行かなきゃいけないところが、あるんじゃないの?」

千歌「どうして、どうしてそんなこと……」

一言だって、話していないはずなのに。

何も口にしていないはずなのに。

297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:49:03.71 ID:smyUCZOA0


曜「私もさ、よくはわからないんだけど……」

困ったように頭を掻きながら、曜ちゃんはしばらく下を向いていた。

曜「私と千歌ちゃん、春にさ、喧嘩したっけ?」

千歌「……してない、と思う」

していないはずだった。

この世界では曜ちゃんと私は喧嘩をしていないはずだった。


曜「……だよね」

曜「でもさ、なんかした気がするんだ」

千歌「……!」


曜「最近さ、変な気分なんだ」

曜「千歌ちゃんがずっと苦しんでるような気がしてさ」

曜「どこかに行きたい行きたいって、ずっともがいて……。周りには言わないんだけどさ、ここじゃないどこかに、行きたいって」

曜「私はそんな千歌ちゃんとさ、喧嘩したり、言いあったり、千歌ちゃんがつらそうなのを、横で見ていたり」

298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:49:43.74 ID:smyUCZOA0


曜「……もう1回聞くね」

曜「千歌ちゃんは、どうしてここにいるの? どうして、ここで海を眺めているの?」

どうしてここにいるんだろう。

答えを辿ろうと手を伸ばす。

もっと前に。もっと過去に。私の、最初の場所に。




千歌「……私ね、μ'sに憧れたんだ……」

曜「うん」

千歌「……それでね、スクールアイドル、始めたんだ」

私は、どうしてここにいるんだろう。

きっとその始まりは、そこだから。
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:50:24.66 ID:smyUCZOA0


千歌「千歌はおバカで、頼りないんだけど、曜ちゃんが助けてくれるんだ」

千歌「梨子ちゃんも、花丸ちゃんも、ルビィちゃんも、善子ちゃんも」

千歌「果南ちゃんも、ダイヤさんも、鞠莉さんも、助けてくれるんだ」

曜「……」

曜ちゃんは、黙って耳を傾けていた。


千歌「たくさん失敗だってしてさ、悔しくて、叫びだしたくて、それでも必死でもがいて」

千歌「先のことが不安で、どうしようって思って」


それで、気が付いたら「4月」にいた。


千歌「それからだって、同じだよ。必死で立ち上がろうってもがいたんだ。Aqoursを、取り戻したくて」

千歌「そのたびに、また皆が助けてくれたんだ」



曜「……Aqoursは、取り戻せた?」

300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:51:01.37 ID:smyUCZOA0


千歌「……うん、取り戻したよ」

曜「ほんとに?」

千歌「……」

曜「本当に、取り戻した? 『千歌ちゃん』は、全部取り戻したの?」

千歌「……っ」


息ができなかった。

何かがお腹からせぐりあがって、私の胸を詰まらせていた。


私は、全部取り戻したんだろうか。

私の知ってるAqoursを、全部、全部。


「皆」にもらった言葉が、頭の中に響く。

皆で踊って歌った曲が、歌詞が響いてくる。

歌っている皆の声が、踊っている皆の表情が浮かんでくる。

それだけじゃない。

歌っている時の想いが、踊っている時の想いが、皆と一緒にいるときの想いがぷくぷくと泡のように浮かんでは消えた。


全部、取り戻したんだろうか。
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:51:44.62 ID:smyUCZOA0


千歌「……違う、違うっ! 取り戻してなんか、ない……っ!」


千歌「私が、憧れたんだ…っ! 私が、スクールアイドルを始めたんだ……!」


千歌「私が、輝きたかったんだ! 私が、学校を守りたいって思ったんだ……!」


千歌「私が、悔しかったんだっ! 私が、苦しかったんだ……っ!」


堪えきれずに、立ち上がって叫ぶ。


胸の中で膨らんだ想いのあぶくが、次々と弾けていく。


ぼうぼうと燃え盛るような熱が、私の胃を、肺を、喉を、焼き尽くしていく。


頬を熱いものが伝った。
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:52:32.20 ID:smyUCZOA0


千歌「私が、不安だったんだ! 私が、それでももう一度って思ったんだ……っ!」


千歌「私が『皆』と出会ったんだっ! 私が、大事なこと、教えてもらったんだ……っ!」


千歌「私が、帰りたいって思ったんだっ! ずっとずっと、私が選んできたんだっ!」


千歌「全部全部、私なんだ……っ! 私の想いなんだ……っ!」





千歌「私が、『私』がっ!!」



絞り出すように、ねじ切るように、叫んだ。



千歌「私が、Aqoursのリーダーなんだ……っ!!」





曜「……やっと、言えたね」
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:53:21.36 ID:smyUCZOA0


そっと、曜ちゃんは私を抱きしめた。


夜の海が、眩い光に包まれていく。

煌々と辺りを照らす光は、私の胸から広がっていた。


眩暈と、体中を巡る熱で、くらくらと視界が歪む。




曜「千歌ちゃん」


曜「それが、千歌ちゃんだよ」


曜「私は、ううん、私たちは――」


曜「いつでも、どこでも、何があっても、千歌ちゃんのこと、信じてるから」



曜ちゃんの腕が白く光っている。

海が白く光っている。

世界が、白く光っている。



そして、私の意識は―――





―――――――

―――――

―――

304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:54:03.74 ID:smyUCZOA0

『諦めないで、会いに来て――』
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/20(火) 04:57:03.84 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


白かった。

床も、空も、周りの景色も、全てが真っ白だった。


『やっと来たね』

どこかから、声が響いてきた。


千歌「……ここ、は……?」


『うーん、私もよくわかんないんだ。ほら、千歌バカだから』


千歌「私の、声……?」


『そうだよ。私、高海千歌』


千歌「私、どうなったの?」


『もうすぐ、帰れるよ。旅が終わるよ』

私の声は、そう言った。


千歌「そう、なの……?」

306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/20(火) 04:58:29.94 ID:smyUCZOA0


あの日。あの盆踊りの日から始まった旅。

「過去を想う日」

そう言いながら踊った日だった。


『色んな条件が重なっちゃったんだ』


『まず、私――ううん、あなたたちは、船に乗った』


ギイギイ揺れる船の上を思い出す。



『手紙を送った。ランタンにして、たくさん、たくさん……。それが、道になった』


淡島はオレンジ色に包まれていた。柔らかい光だった。

私たちは、そのランタンに過去への手紙を書いた。



『思い浮かべた。もしもこうだったら……。過去を、想った』


もしもの夢。9人分の夢を、私は見てきた。



『そして何より、お盆だった。過去との橋が架かる日だった。道と、乗り物と、想いと……。全部揃えたあなたたちは、過去へ飛んだ』

307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 04:59:17.96 ID:smyUCZOA0


千歌「ちょ、ちょっと待って、『私たち』ってことは、皆も……!」


『そうだよ。千歌だけじゃない。皆も違う過去に飛んだ。それぞれ迷って選んで、たどり着いた』


「私」が一番遅かったみたいだけど。

私の声が可笑しそうに笑った。


千歌「そう、だったんだ……」


千歌「どうしてそんなに詳しいの? あなたは、私なんだよね」


『そうだよ、私は高海千歌。詳しいのはね、私だったから。全ての始まりは、私で、あなただったから』


千歌「どういう、こと……?」

308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:00:14.34 ID:smyUCZOA0


『7月15日、私はあなたのところに行った』


千歌「7月、15日……?」

千歌「それって志満姉が言ってた……」


『そう、7月盆。もう1つのお盆なんだって。詳しいことはわかんないけど』


千歌「その時……」


『覚えてるんじゃないかな。「元の」7月15日、あなたが何をしたか』


千歌「私は……」


7月15日。私は、不安だった。

東京でのライブがあったばかりだった。

悔しい思いをして、海の中で泣いたばかりだった。

自信を無くしていた。


千歌「私は、ナスとか、キュウリとかを並べて……」



『そう、精霊馬に、あなたは願った。曜ちゃんがリーダーだったら、上手く行ったのかな。そう願った』

309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:01:16.19 ID:smyUCZOA0


『だから、私が来たんだ。私は、過去のあなた。あなたが選ばなかった、高海千歌。精霊馬に乗って、私はあなたと一緒になった』


千歌「私と、一緒に……?」


『そうだよ。私は、あなたの中からあなたを見ていた。あなたの願いも、逃げ出したい不安も、全部わかった』


『だから、揃えたんだ。手紙も、想いも。Aqoursの皆に提案までして、過去に戻れるように』


千歌「Aqoursの皆に、提案……。ひょっとして、あの夢の……!」


『そうだよ。あれは、私がやったんだ。あなたはその間、私と交代して眠っていた。だからあんまり覚えてないみたい』


千歌「そういえば、あの時期、たまに気がついたらぼうっとしてた……」


『まさか、あんなにぐちゃぐちゃになるなんて、Aqoursがなくなるなんて、思ってなかった。焦って、ちょっとした言葉しか残せなくて……』


千歌「会いに来て、って……」


『うん、でも、会いに来てくれた』


千歌「……」
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:02:05.36 ID:smyUCZOA0


『あなたは、選べるよ』


千歌「え?」


『ここから進むか、ここから戻るか。リーダーだって、辞められるよ。責任だって、負わなくていいんだよ』


『「私」は、どうするの?』


千歌「……」

千歌「梨子ちゃんが、教えてくれたんだ」


『梨子ちゃんが?』


千歌「私は、Aqoursのこと、大好きなんだって」


千歌「曜ちゃんが約束してくれたんだ。いつでもどこでも、絶対待ってるって」


千歌「ダイヤさんが背中を押してくれたんだ。諦めないで、選び続けなさいって」


千歌「ルビィちゃんが励ましてくれたんだ。大好きだったら大丈夫って」

311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:03:22.89 ID:smyUCZOA0


千歌「善子ちゃんが気づかせてくれたんだ。無駄なことなんかないんだって」


千歌「花丸ちゃんが見せてくれたんだ。その先に奇跡があるんだって」


千歌「鞠莉さんが叱ってくれたんだ。スクールアイドルを信じるんだって」


千歌「果南ちゃんと一緒に考えたんだ。不安も、怖さも……全部全部抱きしめて、先に進んでいけるんだって」



千歌「私は、気づいたんだ。今までの私が……今までの想いが、経験が、過去が、全部全部積み重なって、私になるんだって」


千歌「どれか1つでも欠けたら、私じゃないんだよ」


千歌「そんな私を、皆は信じてくれてるんだ」



『……そっか。見つかったんだね』


千歌「うん、私、先に進むよ」
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:09:32.44 ID:smyUCZOA0

『うん、千歌は――あなたは、先に進んでいける』


千歌「あなたは、どうなるの? これまでの世界の千歌は、どうなるの?」


『私は、たくさんの私たちは、また戻るよ。これまで通り、私の世界で過ごしていくんだ』


『でもね、私たちの想いは、あなたの一部になる。あなたが残した想いは、私たちの一部になる』


『全部の想いが混ざり合って、私になるんだよ』



千歌「私、全部背負っていけるかな」


『大丈夫。あなたはもう、皆から受け取ってるよ』


千歌「え?」


『旅の途中で、もらったはずだよ。8人分の、入部届を』


『あなたはずっと埋めてきたはずだよ、自分の、Aqoursの、歌詞ノートを』


何もない真っ白な空間から、みかん色のノートがゆっくり落ちてくる。

その周りを踊るように、8枚の小さな紙がひらりひらりと舞っている。

313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:10:43.40 ID:smyUCZOA0


ノートを受け取る。


表紙には、Aqoursと書いてあった。ページをぺらぺらとめくって、また閉じる。

裏表紙には「高海千歌」


――私の名前。


『想いを乗せて、歌詞を書いて、日々を積み重ねて……そうやってページをめくった先には、あなたがいるから』


『皆が悩んで選んだ想いが、入部届には詰まっているから』



『それがあれば、大丈夫』


『それは、あなたの、皆の、大切な――――未来へのチケットだから』


千歌「未来への、チケット……」


『願って。Aqoursの想いに』


千歌「うん」




千歌「私、皆の所へ帰りたい。皆と、未来へ進みたい」






―――――――

―――――

―――


314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:11:13.44 ID:smyUCZOA0


―――――

―――


315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:12:50.65 ID:smyUCZOA0


◇―――――◇


8月15日、桟橋の上、日は既に傾きかけ。

予報通り熱帯夜を迎えつつある内浦の海を、熱を孕んだ空気がもやりと包んでいた。


梨子「……なんだか、不思議な気分」

浴衣を着た梨子ちゃんがぼそりと呟いた。


曜「ほんとだよね。とんでもないことに、巻き込まれてさ」

ルビィ「だ、だだ大丈夫だよね、また飛ばされたりしないよね」

千歌「……大丈夫。私たちは、もう大丈夫」


果南「おーい、そろそろ船が出るよー!」

鞠莉「もう、果南ったらまた帯が曲がってるわよ」




全員が目を覚ました時、私たちは浴衣を着たまま、お祭り会場の控室で肩を寄せ合って眠っていた。

時計を見た誰かが大声を上げた。

私たちはお互いの旅の経験も話し合えないまま、慌てて船に乗り込んだ。


でも大丈夫。これから、いくらだって時間がある。

私たちは9人一緒に、未来に向かって進んでいくんだから。

316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:13:35.29 ID:smyUCZOA0


千歌「ねえ!」

曜「どうしたの、千歌ちゃん?」

千歌「今日が終わったらさ、歌詞を作ろうよ! 次の曲は、皆でさ!」

花丸「皆で、歌詞……楽しそうずら!」

ルビィ「わあ……! 今からわくわくするね!」

善子「ククク……ッ、このヨハネの刻を超えた黙示録が聞きたいって、そういうことね!」

梨子「それは少し違うと思うけど……」

ダイヤ「ええ、でも、いい案ですわね。わたくしたちの、再出発ですわ!」

千歌「ね、でしょでしょ!」


きゃあきゃあと騒ぎながら船に乗る。

私たちを、過去に連れて行った船。


今度は、未来へ。

皆、悩みながらここへ辿り着いたんだ。

私たち、これからなんだ。


千歌「もう、迷わない!」

全部全部抱きしめて、新しい世界へ出発するんだ。

317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:14:10.91 ID:smyUCZOA0


果南「ふふっ、それも楽しみだけどさ、今日は、まず……」

鞠莉「Yes! 前は途中でくらっとしちゃったけど……盆踊り、楽しむわよ!」


にこにこと笑顔で、私たちは配置につく。

私は先頭で提灯を掲げる。




「「「あっちから こっちから よっといで―――」」」




くるりと回る。

8人分の笑顔が目に入る。


「皆」はどうしてるかな。

それぞれの時間を過ごしているのかな。

それとも、盆踊りに誘われて、見に来てくれているのかな。

318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:16:39.49 ID:smyUCZOA0


蝶が飛んでいた。

ひらひらと、楽しそうに飛んでいた。

私、帰ってきたよ。

大切な世界に。大切な皆の隣に。



「「「あっちから こっちから よっといで―――」」」



ふわふわと上下に揺れるランタンの灯りの中、私たちの船が出た。



不思議な旅だった。甘くて苦い旅だった。

きっと、ずっとそうなんだろう。

これから味わうこと全部、甘くて苦いんだろう。それでも。

それでも、私たちは感じたもの全部を胸に抱いて、少しずつ少しずつ、歩んでいく。



これは、そんな旅だったんだ。


私のぴっかぴか音頭・タイムトラベル。


―――私が私に出会った物語。









End



319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:17:30.69 ID:smyUCZOA0
おわりです。長々とお目汚し失礼しました。
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/06/20(火) 05:18:49.05 ID:smyUCZOA0
以下過去作です。


ダイヤ「あ、この写真…。」

曜「見て!イルカの真似ー!」

花丸「今日も練習疲れたなあ…。」

梨子「ほ、本当にこのメンバーなの…?」

果南「これだから金持ちは……」

鞠莉「果南が…」千歌「戻ってこない…?」

321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 11:44:08.65 ID:hUgahH4KO
おつおつ〜
感動したよ
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 11:45:26.66 ID:daJQN0MyO
おつ

だーっと読んだから帰ってからもう一回読むわ
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 11:55:23.99 ID:Dpbg3RwA0
乙乙
久しく読みごたえのあるSSに出逢えた、感謝する。
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/20(火) 12:07:39.52 ID:W2/RqEGY0
長けりゃバカみたいに持ち上げられるな
ウザイわ
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 16:46:05.97 ID:H8y6/U4p0
面白かった

他メンバー視点の攻略も気になるな
誰視点が一番高難易度だったんだろう
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/21(水) 05:34:58.18 ID:XTS2P8dZo


すごい力作だった
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/22(木) 20:12:23.90 ID:+OfO5beZ0
冒頭の船で踊るシーンはすでに一度改変られた曜ちゃんリーダーの世界て、最後は直接に最初の世界の8月ヘ飛ばされた…ってこと?

こまけえこと抜きで今回も面白かった乙。
それぞれのもしもは着眼点が良くて、ギャップを見せながらもちゃんとキャラに沿っててみんなかわいい。ダイヤ部長の安心感好き。
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/03/24(火) 07:08:22.30 ID:joL8Xqgk0
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2020/03/25(水) 06:23:57.83 ID:lKbhwlCp0
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