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八幡「異本・たとえばこんなバースデーソング」
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34 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:57:32.79 ID:/+LAMdvF0
「うんっ、みんなでお買いもの、楽しいよね」
「だなぁ、戸塚と買い物、楽しいよなぁ……」
その戸塚の笑顔に見惚れた俺は一瞬、考えを巡らして見る。
―――――――――
八幡『戸塚……このドレスどうだ。戸塚に似合うと思うんだが……』
彩加『八幡……うん、すっごく綺麗……いいの? 僕なんかの為に……』
八幡『何言ってんだよ、戸塚だから……着て欲しいんだ』
彩加『八幡……すごく嬉しいよ、ありがとう……』
八幡『戸塚……いや、彩加、これが俺の気持ちだ、受け取ってくれ……』
彩加『八幡…………うん、すっごく嬉しい……えへへ……あれ、なんでだろ、急に涙が……っ』
―――――――――
「お兄ちゃーん、小町達先行くよー」
小町の声に現実に戻る、辺りを見れば俺を残してみんな先に店に入っていた。
そして慌てて後を追うようにして、俺も店に入ったのだった。
× × ×
「せっかくだし、男女に分かれて選んでみないか」
「隼人が言うならあーしは別にいいけど……」
言いながらちらりと雪ノ下と相模を見やる三浦。まぁ、気持ちは分からなくもない。
同じクラスと言うだけでほとんど面識の無い相模と、似たタイプでありながら真逆の性質を持つ雪ノ下と同行するというのは、三浦にとって心穏やかな事ではなさそうだし。
「ふふ、だーいじょーぶですよ三浦先輩、小町におっまかせですっ」
「ヒキオの妹……」
そうして小町が三浦に声をかける、三浦のどこか棘のある雰囲気すら小町にとっては小川の小石と変わらないといった風に、小町は自然と三浦に溶け込んでいた。
35 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:59:47.27 ID:/+LAMdvF0
「それに小町的にはこの場合、同性同士の方が案外良い案出るかと思うんですよ」
「そうね、私は別に構わないわ」
「うちも、みんなが迷惑じゃなければ」
双方、意義はないといった感じだった。
「じゃあ決まりだな、しばらくしたらこの辺りで落ち合おうか」
葉山の提案に頷き、各々が別々のコーナーに入って行く。
葉山とこうして行動するのも、久々なような気がするな。
× × ×
店内はさすが新規オープン店と言わんばかりに、そこかしこに宣伝ポップと商品が陳列されていた。
女の子受けしそうな小物に洋服、生活雑貨に化粧品など、品揃えも含め、どれもが他の店のそれとは違っている。
俺自身も陳列された商品を眺めては「あー小町喜びそうだなー」とか「戸塚にぴったりだな」とか思っていた。
「あ、これなんか結衣喜びそうだな」
「いいね、そのカチューシャ、由比ヶ浜さんに似合いそう」
葉山がカチューシャを手に取る。
ビーズでデコレーションされたそのカチューシャは、デコデコしてる割に控える所は控えめに工夫されていた。由比ヶ浜が付けたらさぞ似合うだろう。
しかも、デザインの割に優しいお値段設計までしてあったりする。
「これは、日焼け止めか」
「八幡、それ、今年の夏の新作って書いてあるよ」
コスメティック用品の棚を見る。見れば、今年の夏の新商品というポップと共に、宣伝CMの動画なんかが流されていた。
スプレータイプで手軽に扱える上、ヒアルロン酸だかなんだか、化粧水と同じ成分が入っているのが注目らしい。
36 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:02:29.89 ID:/+LAMdvF0
「結衣の奴、今年もなんだかんだで遊びそうだし、喜ぶとは思うけどな」
「受験勉強に支障が出るのは否定できねえな」
「まぁまぁ、登下校とか体育の時間に使って貰うとかもできると思うよ」
そうして、葉山と戸塚と俺の3人で商品を見て回り、あれこれと手にとっては検討する。
俺の場合、基本的に買い物なんていつもは自分一人で済ますものだから、今自分がそういうのに関わっているという事に妙な違和感を覚えてしまう。
けど、まぁ……こういうのも悪くないとまでは言わないが、なんというか、な。
自分の中に湧き上がる妙な感覚を強引に抑え込み、再度商品を見回す。
するとそこに、非常に目を惹かれる物を見つけた。
……これを受け取った由比ヶ浜の事をしばし考えてみる。
喜んでくれるかどうかは分からないが、きっと悪い顔はしないだろう、なんとなくそう思った。
「俺、見つけたからちょっと買ってくるわ」
「お、何にしたんだ?」
「……まぁ、明日までのお楽しみってやつだ」
葉山が聞いてくるが、さすがに恥ずかしいので、誤魔化すことにする。
「そっか、うん、ぶしつけだったな、悪かった」
気遣いなのか、葉山はそう言うと戸塚を連れて他のコーナーに向かっていった。
それを見送り、俺はそれを素早く手に取るとレジに向かう。
料金を支払い、それとなく店員に包装を頼み、待つ事しばらく。
37 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:04:29.58 ID:/+LAMdvF0
「あら、比企谷くん」
「雪ノ下か」
俺と同じく目当ての品を買えたのだろう、雪ノ下が俺に声をかけてきた。
「プレゼント、決まったのかしら」
「まあな、お前はどうなんだよ」
「私も決まったわ、相模さんと三浦さんのアドバイスのお陰でね」
「そっか」
ふと三浦と相模の方を見る。
小町が間に立っているように見えたが、相応に仲良く接しているように見えた。
「小町さん凄いわ……人の間にどんどん入って、場の空気を乱すことなくスムーズに進めているんですもの……」
「あいつは人のそういうとこ、よく見てるからな。由比ヶ浜に影響されたってのもあるんだろう」
兄の俺がこんなんだからこそだろう、その駄目な部分を教訓に、小町の対人スキルと立ち回り方には、俺には真似できない物が幾つもあった。
それは俺と雪ノ下と相模の間を取り持った事もそうだが、過去を遡れば川崎の件しかり、去年の合宿しかり、文化祭打ち上げの件しかり、小町の立ち回りで人が集まる場面が多々あった。
小町はどんな人にも臆する事無く入って行き、そこに問題があればその解決の為に自分にできる事を最大限やろうとする。
実際、雪ノ下が三浦のアドバイスでプレゼントを決めた事も、三浦と相模がああしてお喋りをしている事も、小町の尽力が大きい要素だろう。
兄としてそれは誇らしくもあり、不憫に感じる所でもあった。
38 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:06:55.86 ID:/+LAMdvF0
「苦労が絶えないわね……小町さんも」
俺を見ながら雪ノ下は言う。
「俺だけが原因であるかのような言い回しはやめろ、言われなくても自覚はしている」
「あら、自覚はあったのね……ああいう立ち回りは酷く疲れると思うわ、特に、あなたが相手だと余計にね」
「……そうかもな」
雪ノ下の声に俺は小声で頷く。……今度、どこかしらで労ってやるとするか。
そうこうして、ある者はプレゼントを買い、またある者は品物を包装して貰ったりして、時は過ぎて行った。
そして……。
「じゃあみんな、明日はよろしく頼む」
「ヒキオー、料理マズかったらあーし許さないかんね」
「専業主夫志望舐めんな、味っ子も逃げ出すぐらいの料理を作ってやるよ」
「ではみなさん、また明日です!」
「うんっ! それじゃあねー!」
それぞれがプレゼントを手に、解散の流れとなった。
39 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:09:01.73 ID:/+LAMdvF0
「んじゃ、戻って食材買ってから帰るか」
「そうね」
「急がないと欲しいお肉、売り切れちゃうかもね」
「じゃあ、行こっか」
思い思いに口を開きつつ、俺達は電車に乗る。
そして千葉に戻り、特に問題も無く食材の買い物も終え、それを各々に分担し、解散しようとした時のこと。
「ではみなさん明日、学校でお会いしましょうっ」
「うち、今日はすっごく楽しかった、またみんなで……今度は結衣ちゃんも一緒に遊びに行けると良いね」
「まぁ、たまの息抜きには良いんじゃないかしら」
なんて事を話しながら、それぞれが家路を行く。
その道すがら。
「小町」
「ん、どうしたのお兄ちゃん」
「……お疲れさん、今日は俺が夕飯作るわ」
「あれ、珍しくお兄ちゃんがデレてる」
「なーに言ってんだ、俺は妹と戸塚には常にデレデレだぞ、むしろときめき状態を超えて告白状態まである」
「それは良く分かんないけど……。じゃあ、今日はお兄ちゃんのお言葉に甘えちゃおっかな」
「おう、任せとけ」
八重歯を覗かせる小町の荷物を持ち、俺は歩を進める。
街は夕日に照らされ、細く長い影が2人分、道に並ぶ。
兄妹で並んで帰るなんていつぶりだったかと思い出しながら、俺と小町の影は、同じ歩幅で進んでいた。
40 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:11:53.01 ID:/+LAMdvF0
B 彼と彼女達の、はっぴー・ばーす・でー
そして翌日。
下準備をした食材の容器とプレゼントを鞄に入れ、いつもより遅い時間に俺と小町は家を出た。
休日の道は平日と比べるとどこか新鮮さに包まれていて、僅かながら違和感を抱く。
……まぁ休日にわざわざこの道を通る事、ないもんな。
そうしてしばらくして学校に到着し、校門前で待つ事数分。
「おはよう、比企谷くん、小町さん」
私服姿の雪ノ下に声をかけられた。
「おはよーございます、雪乃さんっ!」
「おう」
「少し早かったかしら」
「まー大丈夫じゃないですか、そろそろですし」
時計に目をやり、小町が言う。
そして集合時間に伴い、一人、また一人と校門前に集まってくる。
海老名さんに相模、戸塚、戸部、大岡、大和に材木座と、メンバー全員が校門に集合していた。
「これで全員かしら」
「そうだねー」
雪ノ下と海老名さんがメンバーの1人1人を確認する。
「でも、どうやって中に入るの?」
「誰か忍び込んで開けるとかどーよ?」
「あーそれいいわー、マジミッションポシブルだわー」
相模の疑問にふざけて返す戸部、大岡、大和の3人、ていうかタイトル間違えてんだろ、不可能じゃなくて可能になってるよ、いや大体あの映画不可能を可能にしてるけど。
41 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:14:26.87 ID:/+LAMdvF0
「そんな事する必要もなさそうだな」
俺が校門の先を見ながらそう言うと、皆もその目線の先を見る。
すると、何本かの鍵を手にした平塚先生が職員玄関からこちらに向かって来るのが見えた。
いつも通り、白衣姿で校門を開けながら平塚先生は言う。
「おはよう諸君、一色から話は聞いていたが、君達の事だったのか」
「当直の先生って、平塚先生の事だったんですね」
「まあな……書類整理もあったし、君達3年生の進路についても携わっているし……ほら、私何よりも若手だし、若手だし! 若 手 だ し !!」
大事な事なので3回も言ったよこの人……マジで早く誰か貰ってやってくれ。
「鍵は雪ノ下に預けるから、何かあったら職員室か当直室まで来てくれ。ま、何も無い事を望むがね」
「先生、ありがとうございます」
「ああ、由比ヶ浜の誕生日、盛大に祝ってやると良い」
白衣を翻しながら戻る平塚先生の背に、戸部から悪意無い一言が投げかけられる。
「今度はー、このお礼に平塚先生の誕生日もみんなでお祝いしますねー!」
「うぐっ……み、皆の気持ちだけ受け取っておく……!! はぁ………早く結婚したい……」
「あっれぇー、先生どーしちゃったんだ??」
「戸部、それ以上はやめて差し上げろ……、生徒に祝われる誕生日を思い浮かべた先生が泣いちゃったじゃないか」
「先生も大変ね……」
42 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:17:30.03 ID:/+LAMdvF0
× × ×
こうして教室の鍵を開けてからの事。
携帯を片手に、海老名さんが一言皆に告げる。
「隼人くんと優美子からみんなに伝言ね、『みんな、結衣が嬉し泣きするような素敵なお祝いにしよう!』だってさ」
その海老名さんの声に『おーっ!』と元気な返事が交わされる。
そして、一同は散会し、それぞれの持ち場へ向かう事になった。
――調理担当班side――
全員がエプロンに三角巾という、調理場に相応しい恰好で立っていた。
まずは準備室から必要な道具を持ち運び、用意する。
大鍋、フライパン、しゃもじ、菜箸、包丁、まな板、ボール等々、次々に調理道具が並べられ、まずはそれらの洗浄が始まる。
それらが終わると、今度はホワイトボードにメニューが書き連ねられる。
メニューを確認するように、それに応じた食材が並べられる。
時間まであと2時間、順調にいけば十分に時間内で終わるだろう。
「さてと、まずは……」
「では予定通り、私と相模さんでデザートに当たるわ」
「うん、比企谷、小町ちゃん、何かあったらうちも手伝うから、いつでも呼んでね」
「おう、さんきゅな」
「ありがとうございます、じゃあお兄ちゃん、時間のかかりそうな奴から始めちゃおっか」
「そだな、とりあえずオムライス用に米の仕込みやるわ」
小町の声に合わせ、俺も動く事にする。
こうして、俺達の仕事は始まった。
43 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:20:23.82 ID:/+LAMdvF0
――教室装飾班side――
ヒキタニくん達が家庭科室でご馳走の準備をしている一方で、教室には私の指示の元、とべっち、大和くん、大岡くん、戸塚くん、ザザ虫くんの5人がそれぞれ働いてくれていた。
椅子をどかしたり机を並べたり、男の子同士が協力して何かをヤろうとする仕草についヨダレが出てしまう……。
「海老名さん、こっちの机はここでいい?」
「うんっ、そうだね、そこにお願い」
「よいしょ……結構重いね」
「戸塚、俺も手伝うぜぃ」
戸塚くんが私に確認を取り、大和くんが戸塚くんのフォローに回る。
いいなぁ……こういう男の子同士の友情ってすっごくいいなぁ………。
一通り配置を整えたら、テーブルクロスを各テーブルに被せて準備はOK、続いて私は用意しておいた折り紙やら何やらをみんなに配ることにした。
今度はそれを切ったり張りつけたりして、教室をデコレーションする予定なのだ。
「なんかこーゆーの、なっつかしいよな」
「ああ、中学ん頃、卒業式とかでやったよな」
「えへへ、そうだね、すっごく楽しい」
「そーいや、ザイモクザキ君の卒業式はどうだったん?」
「……わ、我か? 我の卒業式は………まっすぐ帰宅し、家で我が主の作った馳走を召しておった、ちなみに主と書いて母上と読む……」
「うっわぁー、それってまるでヒキタニくんじゃね? マジヒキモクザキじゃね?」
「あははははっ! マジ受ける!」
「はちざい………はうっ!」
みんなが言うそのシチュエーションを妄想し、思わず鼻血が出る。
「ちょま、海老名さん? 大丈夫??」
とべっちの声に慌てて意識が戻り、作業を続ける私。
今日、私生きて帰れるかなぁ……。
44 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:22:17.56 ID:/+LAMdvF0
× × ×
――調理担当班side――
「へっくし!」
「もーお兄ちゃん汚ーい、ちゃんと手ぇ洗ってよー」
「ああ、すまん……なんか寒気が……わり、ちょっと上着取ってくる……」
「風邪とか勘弁してよー」
小町のぼやきを受けつつ、俺は上着を取りに向かう。急にどうしたんだ俺……ほんとに風邪か?
あれから数分、炊飯器をセットし、予め下準備をしておいたフライ類を揚げたりと、俺の調理自体は順調に進んでいた。
小町も小町で大鍋にスパゲティを入れる傍ら、ピザ生地にピーマンやサラミ等の具材を乗せてはその上にチーズを乗せたり、フライ鍋に油を注いだりとあくせく動いている。
雪ノ下の方に目をやると、口数こそ少ないが相模と共にケーキやらデザート作りに専念していた。
雪ノ下の指示に合わせるように相模があちこちと動いているので、なんとかコミュニケーションは取れているようだ。
時計をちらりと見やる。残り90分、問題なく作業は進んで行った。
45 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:25:01.73 ID:/+LAMdvF0
× × ×
――教室装飾班side――
折り紙を切ったり繋げたりして装飾を作ってはいるけど、どうにも作業に遅れを感じていた時の事。
とべっちも大和くんも大岡君も、みんながんばってくれているんだけど、それでも会話が途切れたりと、モチベーションの低下に連鎖して、作業の滞りを感じ初めていた。
「ふむう、しかし、こうではどうも作業が進まぬな」
「そうだね……思ったよりも時間がかかっちゃうね」
「もっと、パパーっとできる方法とかねえもんかなぁ」
「隼人くんのシュートぐらいぱぱーっとやっちゃえるようなやり方とかねえかなぁ」
「……ふふふ、我に名案浮かんだり」
そう言うと、ザザ虫くんがスマホをいじって何かを調べている。
しばらくしてから何か気になるページを見つけては、画面を見ながら器用に折り紙を折っていた。
そして……。
「戸塚氏ぃ!! 我にエクスカリバーを持たせぃ!!」
「え? えくす……なに?」
「スミマセン、ハサミ下さい……」
ザザ虫くんの声にきょとんとしながらハサミを手渡す戸塚くんかわいい、マジ天使。
46 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:27:16.40 ID:/+LAMdvF0
「ふふふふ………刮目せよ!! これが我の……創世の光だあああああ!!!!!」
器用に折った紙にザザ虫くんがハサミを入れて開くと、そこには綺麗な星が出来上がっていた。
「これぞ奥義、天地創世(ビギニング・オブ・ザ・コスモス)!! ドーンッッ!!」
最後にドーンという効果音を自分で言っていたけど、声に出さなくても迫力は十分出ていたと思うよ、ザザ虫くん。
「おおおおお!! すっげえ! マジすっげえ!!」
「ザイモクザキさんマジパネェ!!」
「ザキさんすげぇ! 動画撮ろうぜ動画!」
「えっ、いや、そんなぁ」
とべっち達に持ち上げられ、満更じゃなさそうな顔でザザ虫くんは照れていた。
男の子達のモチベーションも上がったみたいだし、これはこれで良かったのかもね。
ほんと、男の子達同士の友情っていいなぁ。
47 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:30:26.71 ID:/+LAMdvF0
× × ×
ザザ虫くんのおかげで作業は調子を取り戻して来ていた。
ニコ動にある動画を見ては色々と切り絵関係の動画を参考にした事もあり、パターン豊富な装飾がどんどん教室を彩って行く。
そんなみんなを見ながら、私はとべっちと一緒に黒板に結衣の似顔絵を描いていた。
その時。
「……!! ーーっっ……! っっはぁ……だめだぁ、この風船、なかなか膨らまないね」
戸塚くんが飾り付け用の風船を膨らまそうとしてたけど、なかなか上手く膨らまないようだった。
その時、大和くんが戸塚くんに向けて話しかける。
「戸塚、貸してみ」
「ふぇ、大和くん……」
「こーゆーのはコツがいるんだ」
そう言うと大和くんが何という事でしょう、“戸塚くんの咥えていた”風船を口に含み、一気に膨らませる。
そして私の中の何かも一気に膨らんでいった。
「うわぁ、大和くん、すごいねー」
「へへへ、これでもラグビー部だし、肺活量には自信あるんだぜ」
「うわぁ……ほんとだ、すごい筋肉、僕もそうなりたいなぁ」
そんな男子の花園の光景に鼻血をドバドバ垂らしながら見ていると、何を勘違いしたのか、とべっちが
「海老名さん風船膨らませる男がいいのか……よし、お、俺も風船膨らますぞーー!! それよこせえー!!」
と大和くんの方に駆けて行った。うん、いいよいいよ、もっとやって。
……でも、黒板の方が止まっちゃったのはいけないよねぇ、私は意識を戻し、端っこで折り紙を切っているザザ虫くんに声をかけてみる。
48 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:32:08.04 ID:/+LAMdvF0
「ザザ虫くん」
「うぬ、どうしたエビ」
「ザザ虫くんって、絵は描けるよね? オタクだし」
「オタクだからと無条件に絵が描けると思うでないわ、我が描くはただただ血沸き肉躍る戦慄と感動の物語よ!」
「あー、そ、そうなんだ」
頼もうと思ったけど、これじゃだめかな。
「うおっほん、だが、まぁ最近はノーゲー○・ノーライフしかり、ラノベの挿絵を自分で描いている作者もおるからな」
「我も専属の絵師が見つからなかった時の為、密かに練習をしている事もある」
「そっか、じゃあ手伝ってくれるかな」
「うむ」
そう言うとザザ虫くんは私を手伝ってくれた。
そうこうしている内に時間は流れ、気付けば結衣が来るまであと1時間を切っていた。
49 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:35:26.53 ID:/+LAMdvF0
――調理担当班side――
各々が作業を分担した事で調理の方は特にこれといった問題も無く進んでいった。
既にパスタと各種フライが完成し、俺と小町が担当していオムライスとチキンとピザが完成すれば、あとはサラダにデザートのみとなっていた。
滞りなく進む作業に安心していたのも束の間、その時、唐突にそれは起こった。
「あーごめん誰かピザお願いします!!」
チキンを揚げながら小町が言う、どうやらピザを取り出す時間を忘れていたらしい。
かくいう俺も今しがた作ったチキンライスをこれから卵に閉じる段階に移ったので、動くにも動けない状態だった。
「こっちも手が離せねえ」
「相模さん、小町さんの所へお願い」
「うん!」
雪ノ下の指示で相模が動き、急いでオーブンを開ける。
「南さん、ありがとうございます」
鉄板に乗ったピザを相模が移そうとする、その刹那。
「うん……それで、これ……熱っっ!」
「あ」
急いでいた故の不注意か、その瞬間、小町のピザが相模の手を滑り落ちる。
コンマにして数秒の間を置き、かっしゃああん!! と耳を塞ぎたくなるような音と共に、小町のピザは床に叩き付けられた……。
50 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:38:00.79 ID:/+LAMdvF0
「ぁ……あ」
自分の不注意に相模の顔が白くなる。これはまずい。
すると間髪を置かず小町が揚げ物の火を止めるや否、相模の手を取り、水道水でその手を冷やしていった。
「雪乃さん、そこのボールに氷水作ってくれませんか、あと、チキンもお願いします」
「分かったわ」
「小町ちゃ……あの、うち……ご、ごめんなさい……ごめんなさい!」
冷静な小町の声に応じるようにして、雪ノ下も冷静に処置に移る。
自分に原因があるのに何もできず、その光景をただ呆然と見ているだけしか出来ない事は、相模にとって何よりも辛いことだろう。
「だーいじょうぶですよ、それよりも、南さんの手の方が小町的に心配です」
「小町ちゃんっ……ごめん、ごめんねぇぇ……っっ」
「氷水、ここに置いておくわね、あと、チキンの方も上げておいたわ」
「雪乃さん、ありがとうございます!」
「小町、大丈夫か?」
「お兄ちゃんはそのまま! 今大事なところでしょ!」
小町の指示に俺は素直に従う、まぁ、今俺が駆け寄った所で何ができるとも限らないか。
小町には申し訳ないと思うが、俺も俺で自分の仕事に集中させてもらう。
51 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:40:17.37 ID:/+LAMdvF0
「よっと」
くるりと反回転し、オムライスがひっくり返る、焼き色十分、実に美味そうなオムライスが出来上がっていた。
それを皿に移し、俺も小町の元へ駆け付けた。
「大丈夫か」
「うん、ごめんお兄ちゃん、さっき強く言っちゃったね」
「気にすんな、あれは小町が正しい」
俺がそう言うと、少しだけ小町は笑っていた。
「私のポーチに軟膏と絆創膏が入ってるから、それを使って」
「雪乃さん、ありがとうございます」
「…っっ………ごめんね、小町ちゃん……っ」
啜り泣きながら相模はただ謝罪の声を上げていた。
それは去年に見た涙とは違う、純粋に悪いと思う誠意の涙で、それが相模の本心のように見えた。
「気にしないで下さい、小町も抜けてましたし」
「でも……うち…………」
「いいんですよぉ、それよりも、私のせいで南さんの手に火傷とか、そっちの方が小町的にポイント低いですし」
「……っごめん、ありがとぅ……」
処置を施す事数分、小町は相模の手に軟膏と絆創膏を貼る、その光景を横目に入れつつ俺は片付けに移り、雪ノ下と小町も自分の作業に戻っていた。
その時、唐突に扉が開かれる。
52 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:41:57.56 ID:/+LAMdvF0
「邪魔するぞー、さっきの音は何だ? 宿直室まで聞こえてきたぞ」
そこには平塚先生が立っていた。
「あぁ、ちょいとトラブルがありまして」
「大丈夫なのか?」
ピザの残骸を片付ける俺を見ながら、平塚先生は言う。
「まぁ、正直多少物足りないってのが本音ですが、何とかなりますよ」
俺の声を聞いた相模が一瞬表情を曇らせるが、別にそういう意味で言ったわけではない事を釈明したい。
「ふむ、時間まであとどのくらいだ」
「40分ってところですかね」
時計を見ながら俺は言う。まぁ、ある様に見えてそんなにない、正直微妙な時間ではあった。
「そうか……比企谷、雪ノ下、もし時間を延ばせるとしたらどのくらいできる?」
「それは葉山君達次第だと思いますが……」
「何かあるんですか?」
妙案がありそうな先生に俺は問うと、先生は困ったような顔をして。
「いや、なんなら宅配ピザでも頼もうかと思ってな、丁度私も小腹が空いて来たし、由比ヶ浜の為に皆が頑張っているのに、大人の私が何もしないというのもアレだし……」
と、頬を掻きながらそう答えた。
53 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:43:36.15 ID:/+LAMdvF0
「いやー、先生がそうまでしてくれるのは小町的に嬉しいんですが、ほら、最近のピザってデリると結構かかるって言いますか……」
小町が困ったような顔で言う。つうかデリるって何その略語、何を消されちゃうの?
「気にするな比企谷妹、私だってこう見えても大人なんだ、財布に金ぐらいはある」
「平塚先生も何かしたいんでしょう、お言葉に甘えてもいいんじゃないかしら」
「先生、うちも出します、その、うちが原因だし……」
「相模……気持ちは嬉しいが。こういう時はどんと任された方が、大人としては気持ちが良いものだよ」
「先生……ありがとうございます……」
うむと一言。そして携帯電話を手に、平塚先生はピザの手配をしてくれた。
「やはり30分はかかるそうだ」
「結構ギリギリね」
「仕方ない、一色に電話して、少し伸ばして貰うようにするわ」
そうして、俺は一色に電話をかける。
賑やかに歌うコール音を聴く事数秒、一色の声が聞こえてきた。
54 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:45:30.60 ID:/+LAMdvF0
『もしもしー?』
「一色か」
『あぁ、先輩、どうかしましたか?』
「葉山、そこにいるか」
『居ますよー』
「代わってくれ」
『はーい』
そして待つ事数秒、葉山の声が聞こえてくる。
『もしもし、何かあったか?』
「葉山か、いや、料理の方少し時間がかかりそうでな。できれば10分ぐらい遅れて来てくれると助かるんだが」
『……ああ、分かった。何かあったのか?』
「いや、大したことじゃない」
『そっか……うん、分かったよ。じゃあまた後で』
「ああ」
数秒の会話を終え、俺は携帯を仕舞いながら言う。
「大丈夫だそうだ」
そう聞くや否、全員の顔に僅かばかりの安堵の表情が浮かんだ。
時間まであと30分、遅れを取り戻すように、俺達は調理の続きに移っていった。
―――そして、調理を終えたご馳走を慎重に教室に運び、全ての準備を終えて待つ事しばらく。
本日の主役、由比ヶ浜結衣が会場に姿を見せた。
55 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:49:06.41 ID:/+LAMdvF0
× × ×
葉山、三浦、一色に案内され、やや緊張の面持ちで由比ヶ浜は会場に足を踏み入れる。
「え、あ、あの……これって何? ゆきのん、ヒッキーも……これ、どーゆー事??」
何が何やらといった風な顔で教室内を見回す由比ヶ浜だった。
まぁ、みんなこの時の為に準備していたんだろうから、何も知らない由比ヶ浜が驚くのも無理はないだろう。
驚きの顔で皆を見る由比ヶ浜を見て、一色は会場の全員に一声告げる。
「みなさーん、準備はいいですかー?」
「おっけー!」
そして一色の号令に合わせ、皆が一斉にクラッカーを取り出し……
「「「結衣、ハッピーバースデー!!!」」」
その瞬間、ぱぱぱぱぱん!! と、一斉にクラッカーが鳴らされる。
四方から放たれる紙吹雪を浴びながら、ようやく由比ヶ浜は状況を理解したようだった。
「……みんな、あ、ありがとう……!」
「今日のこの日の為に、葉山君がみんなに声をかけてくれたんだよ」
「みんな、結衣の事をお祝いしたいって言ってたよ」
「結衣ー! おめでとー!」
「ふふふ、結衣、どうよこのサプライズ!」
「さいちゃん、隼人くん、姫菜、優美子も……もう、急にびっくりしたし!」
56 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:51:55.81 ID:/+LAMdvF0
「結衣、おめでとう」
「「「おめでとー!」」」
「戸部っち、大和君に大岡君も……うん、ありがとう!」
教室の1人1人から祝福の声をかけられる由比ヶ浜。
その眼は歓喜に満ち溢れており、それを見届ける皆の眼もまた、喜びに満ちていた。
「結衣さーん、おめでとうございます!」
「小町ちゃん、ありがとうーっ!」
「お誕生日おめでとう、由比ヶ浜さんにとって素敵な1年である事を願っているわ」
「ゆきのん、うん、ありがとう!」
「結衣先輩、これ、みんなで頑張ったんですよ」
「いろはちゃん、えへへへへ……ほんと、すっごく嬉しいよ、あたし」
「結衣ちゃん……あの、うち……」
「さがみんも、ありがと……お祝いしてくれて、私、すっっっっごく嬉しいよ!」
「結衣ちゃん……うん、うちこそありがとうっ」
そうして、由比ヶ浜は1人1人に感謝の言葉を返す。
そんな光景を俺は材木座と共に教室の端から眺めていた。
「……君達は混ざらないのか?」
端にいる俺達に向かい、平塚先生が言う。
57 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:53:54.73 ID:/+LAMdvF0
「俺や材木座がああいうのに混ざるタイプじゃないのは先生がよく知ってるでしょう」
「うむ、我も八幡に同意」
「……器用じゃないな、自分の気持ちは声に出さねば届かない時もあるのだぞ。今日の君達の頑張りは、十分称賛に値すると、私は思うがね」
平塚先生が何を言いたいのかは分かる、が、そういうキャラでない俺が前に出るのも、どうも憚られるな……。
「やれやれ、仕方がない……由比ヶ浜ー!」
「ちょま、先生何やってんすか」
平塚先生の声に由比ヶ浜が振り向き、こちらに向かってくる。
「先生ーっ!、先生もありがとうございますっ!」
「いいや、私は特に何もしていないよ……それよりも、この2人の方が遥かに仕事を全うしたと思うがな」
先生は俺と材木座に目線をやりながら言う。
「ヒッキー、中二も、ありがと……」
照れるように、やや頬を赤くしながら、由比ヶ浜は感謝の声を告げる。
「いや、俺は……その……」
僅かにどもる俺の声を遮る様に、材木座が弾けたように一言叫ぶ。
「うおっほん!! あー、そのー、我は思う! 『世に生を得るは、事を為すにあり』と!」
「あはははっ、中二、それも何かのマンガ?」
「い、いや、これはその……」
緊張していたのか、やや走りがちに言った材木座の言葉を補足するように平塚先生は続けた。
58 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 19:59:02.33 ID:/+LAMdvF0
「坂本龍馬だな、『人生の目的は、出世したり、事業や学業で成功して、財産や地位・名声を手に入れることとは限らない。』
「『事を為すこととは、夢や目標を実現すること。人生で何かを成し遂げること、人生に意味を持たせることが大切だ』と言う意味が込められている」
「シンプルに言えば、『せっかくこの世に生まれてきたのだから、何か大きい目的を見つけて、それをやってやろうじゃないか』って意味だな」
平塚先生の言葉を端折り、由比ヶ浜に分かりやすく伝える。
歴史上の人物の名言を祝福に使うとは、材木座らしいっちゃ材木座らしかった。
「彼なりに君の誕生日を祝福しているのだろう、そう受け取ってやれ」
「中二……うん、ありがと」
真っ赤な顔でそっぽを向く材木座に向けて、由比ヶ浜はにこやかに微笑んでいた。
「ねえヒッキー、この料理、みんなヒッキーが用意してくれたの?」
「いや、俺だけじゃないぞ、小町や雪ノ下、相模と、みんなで作ったんだ」
「ヒッキー……さがみんと仲直りできたんだね」
「……いやまぁ、仲直りっつーか、そもそもそんなんじゃないっつーか、な」
「ふふふ、ほんと、ヒッキー素直じゃないなぁ」
由比ヶ浜が俺の顔を食い入るように見つめる……その視線から目を逸らした俺に向かい、平塚先生が俺の肩に手を添え、優しい声で言う。
「比企谷……ちゃんと自分の気持ちを言ってやれ。由比ヶ浜も、それを望んでいる」
平塚先生のその声に観念し、少しの間を置いて俺は一言、由比ヶ浜にそっと囁いた。
「…………由比ヶ浜、その……おめで……とう……」
間を置き、たどたどしく、俺は由比ヶ浜に伝えた。
「うん……ヒッキー……ありがとう、すっごく嬉しいよ」
俺が顔を赤くして言った言葉に対し、由比ヶ浜は僅かに涙を浮かべながら、そう返したのだった。
59 :
◆A95oCT.s2k
[saga]:2017/06/18(日) 20:01:36.58 ID:/+LAMdvF0
C そのバースデーキャンドルの灯が揺れる時。
それから、パーティーは本格的に開かれた。
「うまっ! このチキンマジでうめえ!!」
「まだまだありますから、たくさん召しあがって下さいねー」
「やべー、ヒキタニくんの妹ちゃんマジ天使!」
戸部や大岡、大和らは小町の作ったチキンにがっつき、そして舌鼓を打ち、その味を絶賛していた。
「うそ、ヒキオのオムライス超美味いんだけど……」
「ほんとだ、さすが先輩、こーゆー所で女子力高いんですよね、他はダメダメなのに」
「比企谷、うち、お代わりしてもいい?」
「比企谷くん、卵の巻き方あとで教えて貰ってもいいかしら」
「おう、あとでな」
方や俺のオムライスは女子を中心に人気のようで、何だかこそばゆいやら、不思議な感覚がしていた。
「作ったこのパスタ、美味いな……」
「あれ葉山くん、口にソース付いてる」
「ん? あ、戸塚、ありがとな」
戸塚がハンカチを手に葉山の口元に付いたソースを拭う。
その姿に、俺と海老名さんの目が若干変わる。
「と、戸塚! 俺も! 俺も!!」
「はいはーいお兄ちゃん、小町がやってあげるからねーまったくしょうがないなーごみいちゃんはー」
「戸塚くんが隼人くんに……はぅっ!」
「ちょ! 姫菜マジ擬態しろし!」
「あはははっっ」
そんな俺達の姿を見ながら、由比ヶ浜は大笑いしていた。
60 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 20:08:00.38 ID:/+LAMdvF0
「のう八幡、時に我は今日、真のリア充というものを理解した気がするぞ」
「そか、良かったな」
「この体験は我の人生にまた一つ、新たな経験を与えたもうた! この経験を生かし、我は書くぞぉぉおおお!!」
「……勝手に盛り上がっててくれ」
――そうして、各々が思い思いに由比ヶ浜を祝福していた。
ある者は飲み、歌い、食い、笑い、それぞれが由比ヶ浜の今日という日を誰よりも祝っていた。
……そして、パーティーはメインへと移行していく。
「じゃあ、そろそろケーキを出しましょっか」
一色が言うと、暗幕が閉められ、教室内に葉山と三浦の2人によってケーキが運び出される。
随所にフルーツが散りばめられていて、とても美味そうに見えるな。
そんな雪ノ下と相模の二人で作られた手製のケーキにロウソクが刺されると平塚先生がライターで火を点け、教室内が静まりかえる。
「みんな、ほんとに、ほんとにありがとう……っ」
キャンドルに照らされるケーキを前に、由比ヶ浜は眼に涙を浮かべながら言う。
そして、誕生日を祝う祝福の歌と共に、由比ヶ浜は一息、キャンドルに灯った火を吹き消す。
一瞬の静寂と闇が教室を支配し、明りが付けられると同時、絶え間ない拍手と祝福の声が上がり始める。
「結衣ー! おっめでとう!!」
「うん……ぅん……ありがとう……みんなありがとう!!」
割れんばかりの拍手の中、由比ヶ浜はその大きな眼から零れる涙を拭う事も無く、感謝の声を上げながら歓喜に震えていた。
そんな由比ヶ浜を囲うようにして女性陣が駆け寄り、その肩を抱く。
そうして1人1人に抱きつくようにして、由比ヶ浜はただ、子供のように泣きじゃくっていた……。
61 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 20:09:33.44 ID:/+LAMdvF0
「やってよかったな」
横から葉山が俺に言う。
「まぁ、良かったんじゃねえか」
「比企谷、本当にありがとう」
「俺は何もしてねえよ」
「……それでも、比企谷がいてくれなかったら、きっとこうはならなかったと思うよ」
「……どうだかな」
葉山の声にそう返し、俺は残ったピザを一つ、口に放り込んだ。
「……美味い」
僅かばかり塩分が増したように感じられたそれをジュースで流し込み、俺は一言呟いた。
62 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 20:11:19.07 ID:/+LAMdvF0
× × ×
「さて、じゃあ、プレゼントの贈呈と行こうか」
「うん! そうですね!」
葉山の声に一色が元気よく答え、各々がプレゼントを取り出した。
「まず最初に、これはみんなからのプレゼント、受け取ってくれるかな、結衣」
「うん……えへへ……なんだろ」
葉山が見覚えのあるプレゼントを取り出し、戸塚と三浦でそれを手渡す。
先日、三浦と戸塚とで選んだやつだろう、由比ヶ浜が照れながら包装を開けると、その中には可愛らしいデザインのデジカメが入っていた。
「わぁ……こんな素敵なの貰っちゃってもいいの……?」
「うん、色々選んでみたんだけど、やっぱりこういうのが由比ヶ浜さんにぴったりかなって思ったんだ」
「これならどこ行っても使えるし、結衣、こういうの好きっしょ」
「うん、大切にするね!」
戸塚と三浦がそう言うと大事そうにデジカメをしまい、由比ヶ浜は笑顔で向き合う。
それを皮切りに、各々がプレゼントを贈る為、由比ヶ浜に向かって行く。
「あーしはこれ、結衣、このブランド気に入ってたっしょ」
「わぁー! ありがとう優美子! これ、前から欲しかったTシャツだよ!」
三浦が渡したのは有名ブランドのTシャツだ、そのブランドの限定品のようで、実に三浦らしいチョイスだと思う。
63 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 20:15:33.19 ID:/+LAMdvF0
「俺はこれを」
「隼人君もありがとう、この化粧水、大事に使うね」
「ああ、そうしてくれると俺も嬉しいよ」
葉山が送ったのは化粧水だった。
以前、ららぽーとで販売されていたやつだ、俺もそれには見覚えがあった。
「私はこれ、結衣に似合うと思うよ」
「姫菜もありがとう、このペンケース、大事にするね」
そして、海老名さんからは可愛らしいペンケースが送られる。
どこか見覚えのあるゆるキャラがデザインされていて、由比ヶ浜に似合いそうなペンケースに思えた。
「俺達はコレ、みんなで出し合って買ったんだ」
「これ、スイパラの招待券じゃん! とべっち、大和くん、大岡君もありがとう!」
戸部達からはスイーツ食べ放題のペア招待券が送られた。
「結衣先輩、これ、疲れに効きますから、ぜひ使って下さい」
「うん、いろはちゃんもありがとう!」
そして一色からもプレゼントが手渡される。
包装紙の中には、可愛らしいバスタイムのセットが入れられていた。
「由比ヶ浜さん、はい、お誕生日おめでとう」
「さいちゃん、ありがとう……わぁ、この石鹸、すっごく可愛い〜」
戸塚からは美容石鹸が、どうやら流行りの物らしく、可愛らしいデザインが印象的だ。
「結衣ちゃんお誕生日おめでとう、はいこれ、良かったら使って」
「さがみん、うん、ありがとう!」
相模からはハンドタオルとハンカチが送られる。
由比ヶ浜に似合う、爽やかなブルーの上品なデザインだった。
64 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 20:21:05.57 ID:/+LAMdvF0
「小町からはこれです、結衣さんに気に入って貰えると嬉しいですっ」
「小町ちゃんもありがとう、ご飯、すっごく美味しかったよ!」
そして小町からはアロマオイルとキャンドルのセットが渡される。
……それ、小町が前に雑誌で見てたやつだな。
「けふこんけふこん、わ、我はこれを……」
「中二、これは何?」
「は、初めて『オタクの我が女子に誕生日プレゼント贈る事になったんだが』というスレを立ててしまった、『リア充氏ね』と書かれて動悸が抑えられなかったぞ我……」
「わぁ、ヘッドホンだ! 中二ありがとう!」
そう言い、由比ヶ浜は材木座の手を握り締める。
「へへぶぅぁ!! こ、これが、女子の温もり……ぐはぁ! 我が生涯に! 一片の……悔い無し!!」
……初めて女子に手を握って貰えたのが嬉しかったのだろう、感激のあまり、材木座昇天しちゃったよ。
しかし、こいつがちゃんとしたプレゼントを持って来た事が何よりの驚きだ。
掲示板にスレ立ててまで悩んだ辺り、材木座も材木座なりに由比ヶ浜の事を考えていたのだろう。
「急だったからな、これぐらいしか用意できなかったが、良かったら使ってくれ」
「平塚先生も、ありがとうございます!」
平塚先生も先程用意して来たのだろう、本らしき物を由比ヶ浜に手渡していた。
由比ヶ浜が中を取り出すと、「ゼロから始めるお料理生活」という、どこかで聞いたようなタイトルのレシピ本が出て来た。
「由比ヶ浜も、これぐらいは作れるようになれるといいな」
「平塚先生……はい、あたし、頑張ります!」
大事そうに本を受け取り、元気に返事をする由比ヶ浜だった。
65 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 20:23:48.88 ID:/+LAMdvF0
「由比ヶ浜さん、これ、受け取って貰えるかしら」
雪ノ下が恥ずかしそうにプレゼントを渡す。
丁寧に包装された袋を開けると、一際喜んだ声で由比ヶ浜は声を上げる。
「わぁ……パンさんだ! ゆきのんありがと!」
「私の部屋にある物とお揃いなの、よかったら、お部屋に飾ってくれると嬉しいわ」
「うんうん! あたし、今日はこれ抱いて寝るよ! 本当にありがとう!!」
「そ、そう……喜んでもらえたようで良かったわ、私こそありがとう」
由比ヶ浜の声に照れるように雪ノ下は俯いていた。
次は……俺か。
丁寧に包装されたそれを握り締め、由比ヶ浜に手渡す。
周囲の視線もそうだが、僅かに手が震えているのが自分でも分かる……あぁ、なんかこっ恥ずかしいな……。
「ありがとうヒッキー……開けても良いかな」
「ああ……まぁ、気に入ってくれると……その、嬉しい」
急に言葉がたどたどしくなる。俺、こんなキャラだったっけ。
由比ヶ浜がプレゼントの包装を開ける。
中には、白い百合がデザインされた髪留めが入っている。
「ヒッキー……これ……」
「去年はその、なんだ、犬用の首輪だったし、由比ヶ浜本人に向けたやつじゃ無かったからな……気に入ってくれるかどうかは分からんが……」
「嬉しくないわけないよ……ヒッキー、これ、付けてみてもいい……?」
「ああ……」
顔を赤らめながら由比ヶ浜が俺の髪留めをそっと頭につける。
とても似合っていると、我ながら思ってしまっていた。
66 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 20:28:34.85 ID:/+LAMdvF0
「どう……かな……」
「あ、ああ……良く似合ってると思うぞ……」
頬を掻きながら、俺は一言、そう言った。
そして、その光景を見た女性陣から、思い思いの声が投げかけられる。
「結衣、チョー可愛い」
「うんうん! ヒキタニくんやるじゃん!」
「由比ヶ浜さん、素敵な髪留めね……比企谷くん、あなたにしては、なかなか良いセンスだと思うわよ」
「っていうか、お兄ちゃんが誰かにああいうまともなの送ったの、人生で初めての事ですよ……」
「びっくり、比企谷ってちゃんとそういう事出来るんだ……」
「先輩すごいです、正直マジで見直しました……」
「よく似合ってるぞ由比ヶ浜。比企谷……私が勧めた奉仕部での活動、どうやら無駄じゃなかったみたいだな」
ああああああ、今すぐ逃げ出してえ……。
何この感じ、俺じゃないみたいだくそ。恥ずかしくて顔上げれねえ……。
その後、戸部達からはからかわれ、葉山と戸塚からも色々言われ、材木座からは「リア充爆発しろ」などと罵られ、俺は生涯この日の事を忘れないだろうと心に誓ったのだった……。
67 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 20:30:20.96 ID:/+LAMdvF0
× × ×
「結衣先輩、せっかくですし、何か皆さんに一言どうぞ!」
「いろはちゃん……うん、そう……だね」
一色に促され、由比ヶ浜は皆の前に立ち、言葉を紡ぐ。
その言葉の一つ一つをを聞き洩らさないように、皆が由比ヶ浜の声に聞き入っていた。
「あたし……こんなに素敵なお誕生日、生まれて初めてだよ、みんな本当にありがとう……」
「あたしさ、あんまし頭よくないし、きっとこれからもみんなにいっぱい迷惑とかかけちゃうと思うけど……」
言葉を紡げば紡ぐほど、由比ヶ浜の目に涙が浮かぶ。 途中たどたどしくなりながらも、由比ヶ浜は震えるように言葉を絞り出していた……。
「えへへへ……なんだっけ、さっき中二が言ってた言葉……なんとかを得るは、事を為すにある……だっけ」
「何かを成すかっていうのがまだ分からないんだけど、でも、でもね……きっとあたしは、こうしてみんなと会う為に、生まれて来たんだって、今ならそう思えるんだ」
「一緒に笑ったり、泣いたり、たまに喧嘩したりして……そうやって、あたしはずっとみんなと一緒にいたい」
「みんな……大好き、本当に、ありがとう!!!」
その声に端を発するようにして再度、割れんばかりの拍手が響く。
そして多くの人が由比ヶ浜の周りに集まっていった……。
68 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 20:32:12.67 ID:/+LAMdvF0
× × ×
それからしばらく。
飲めや歌えやの祭りが終わり、後片付けも済んだ頃、夕日が差し込む教室で1人、俺は窓の外を眺めていた。
葉山達は二次会という事で、例のカラオケ屋へ向かったらしい。
後程合流する話だが、ああいうリア充全快な場はどうにも肌に合わず、未だに行こうか帰ろうか、俺は悩んでいる所だ。
「ふぅ……」
自販機で買ったMAXコーヒーを一口飲み、今日の事を色々と回想してみる。
恥ずかしくもあり、嬉しくもあり、色んな気持ちが混ざった不思議な感情が俺の胸中を包んでいた。
そんな俺に向け、唐突に後ろから声がかけられる。
「あ、やっぱりここにいた」
跳ねるように驚いた俺はその声に振り向く。
そこには、白百合の髪留めを髪に刺した由比ヶ浜がいた。
「由比ヶ浜……どうしたんだよ、てっきりみんなと一緒に……」
「ヒッキーの事、迎えに来たんだよ」
「迎え?」
「そ、みんなに呼んできてって言われてさ」
「そっか」
「うん……ヒッキー……今日は本当にありがと……」
「礼なら葉山や雪ノ下に言ってやれ、実際、俺はただ料理作ってただけだし」
「そんな事ないよ……」
「あたしね、本当に嬉しかったんだよ」
優しい眼差しで由比ヶ浜は続ける。
69 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 20:34:28.29 ID:/+LAMdvF0
「隼人君に優美子、とべっち達にいろはちゃん、さいちゃんにさがみん、ゆきのん、小町ちゃん、中二に……みんながお祝いしてくれた事もそうだけど。一番嬉しかったのは、ヒッキーがみんなと一緒にいてくれた事なんだ」
「由比ヶ浜……」
その時だった、不意に背中に感じる、とても温かく、柔らかい感覚。
「ねえヒッキー、少し、こうさせて」
ぎゅっと、由比ヶ浜が俺を後ろから抱き締める。
「…………」
「…………」
沈黙が続き、それに呼応するように鼓動が高まっていくのを自分でも感じる。
しばらく無言でいる俺に、由比ヶ浜の声がかけられる。
「ヒッキー、あのね、あたし…………ヒッキーの事…………好……」
「由比ヶ浜」
”その言葉”の続きを遮る様に、俺は由比ヶ浜の声を止める。
「ヒッキー……」
「そこから先はまだ……言わないでくれ」
俺の声を聞くや否、弾けたように由比ヶ浜の声に嗚咽が混じる。
「っっ……ヒッキー……だめだよ。もう……」
「だめだよぉ……止まらない……止まらないよっ……あたし、ヒッキーが……」
声に合わせるように、由比ヶ浜が俺を強く抱きしめる。
その声が、抱きしめる力が増せば増す程、俺の中に感情が流れて来る。
だが、その気持ちを必死で抑え、俺は続ける。
70 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 20:36:45.64 ID:/+LAMdvF0
「……それ以上はまだ、言わないでくれ、頼む」
「…………ヒッキー……」
……このまま、感情のままに由比ヶ浜の“その言葉”を聞けばどうなる。
そして感情のままに“その言葉”を返したらどうなる。
ここで、もしも好きだと告げたらどうなる。
今見てるこの景色は、夢のように消えてしまうんじゃないだろうか。
俺みたいな奴と付き合ったとして、それはきっと由比ヶ浜にとって重荷でしかならない。
きっと……いや、確実に俺は、由比ヶ浜に依存する。
今の由比ヶ浜を形作っている関係よりも、俺のそばにいて欲しいと、おこがましくも思ってしまう。
こいつは優しいから、きっと、そんな俺にも合わせてくれると思う。
でも、そんな俺に、由比ヶ浜もいつか疲れを感じてしまう。遠からず、そうなってしまう。
……俺の為にこいつがそんな苦労をする必要がどこにある。
なら、今はその言葉を聞くわけには行かない。
その言葉の持つ意味の先にあるモノを予測した上で、言葉を紡ぐわけには行かない。
――『君は理性の化け物だね』
不意に、いつの日か聞いた陽乃さんの言葉が頭を過る。
ああそうだ、理性的で何が悪い、冷静になって何が悪い。
感情に任せて好きな人を傷付けられるほど、生憎俺も子供じゃないんだよ……。
だから、せめて……今はまだその思いを告げるわけに行かないのなら……せめて……。
71 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 20:39:58.91 ID:/+LAMdvF0
「ヒッキー…………」
「由比ヶ浜……」
由比ヶ浜の腕を振り解き、俺は言葉を続ける。
「今は……これで勘弁してくれ」
そう言いながら、俺は由比ヶ浜に左手を差し出す。
その手を両手でそっと掴み、どこか納得したように、由比ヶ浜は言葉を続ける。
「……うん、今は……ね」
友達以上とでも言うべきだろうか。だが、今はこれでいい。
焦ることなく、ここから始めたっていいだろう。
「でも、やっぱりだめ」
そう言うと今度は掴んだ手をそっと抱き寄せ、由比ヶ浜が俺の腕に抱きついてくる。
「お前な……」
「告白させてもらえなかったんだし、これぐらいは許してよ……」
「……まぁ、いっか」
「いつか……ヒッキーが大丈夫になったらさ……ちゃんと言わせて、私の気持ち……」
「……ああ、いつか……な」
決心がついたら、伝えよう。
由比ヶ浜の言葉か俺の言葉か。どちらが先になるのかは分からないが。それでも……。
由比ヶ浜が一番言いたくて聞きたかったその言葉を、俺は……。
夕日に影が映し出される。
影はしばらくの間、重なり続ける。
そして、俺と彼女は変わっていく。
臆病な自分に傷付きながら、そうやって変わる自分に戸惑いながらも。
――――俺と彼女は一歩づつ、確実に、大人になっていく……。
72 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 20:41:17.35 ID:/+LAMdvF0
エピローグ
“誕生日”……。
年に一度、自分がこの世に生を受けた事を感謝する記念日であり、その親や友は、その者がこの世に生まれて来てくれた事に感謝し、その者の健やかなる成長を願う日でもある。
ある者にとって誕生日とは、また一つ大人になった事を実感し、愛する人と出会えたこの世界に感謝する日でもあり。
ある者にとって誕生日とは、愛する人がこの世に生まれ、数奇な運命の果てに巡り合えた事に感謝すべき日でもある。
これは、彼女が見つけた、そんな一つの答えの物語。
――俺と彼女が生まれた理由を見出した、小さな一つの物語なのかも知れない……。
「異本・たとえばこんなバースデーソング」 了
73 :
◆A95oCT.s2k
[saga]:2017/06/18(日) 20:46:14.57 ID:/+LAMdvF0
終わりです。
創作自体数年ぶりで久々に投下してみましたがいかがでしたでしょうか。
また何かしら出来たら投下してみますので、その際はよろしくお願いします。
そして読んでくれた人、本当にありがとうございます、
あと、川崎さんと折本さん出せなくてすみませんでした。
最後に、結衣ちゃん誕生日おめでとう
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/18(日) 22:09:26.60 ID:mB+uqXrk0
乙です
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/18(日) 22:57:24.64 ID:LCphR7iCO
乙
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/18(日) 23:35:27.33 ID:WJ7/4t7ho
乙
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/19(月) 00:18:48.73 ID:LGx4wTY5O
おつ
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/20(火) 02:01:02.84 ID:dtYstTqzo
お疲れ様でした
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/22(木) 19:32:14.29 ID:qiJPW98IO
確かに違和感しか残らないな
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/22(木) 22:16:22.23 ID:8qm3Y0YX0
作者しかいないスレ
応援もアンチも全て自演乙です
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/23(金) 07:53:07.77 ID:asFNrzfgO
ここのもう一つの誕生日ssと終わったあとのコメが違いすぎて笑うw
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/13(木) 14:32:43.27 ID:rqxwMxSRo
ガハマはくそ
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2019/07/22(月) 00:06:41.06 ID:N2sWPiL3O
比企谷HACHIMANの哄笑に掻き消される比企谷八幡への鎮魂歌・改
比企谷HACHIMANがやって来る。
千葉の更地からやって来る。
頼んでないのにやって来る。
「ホンモノ」「ホンモノ」と耳障りな羽音をたてる信者という名のイナゴの群れを引き連れてやって来る。
そそり勃つ男根から欲望を垂らしながらやって来る。
イナゴの群れも男根をそそり勃たせて付いてくる。
ある時はグラマー少女を、ある時はスレンダー少女を犯す為にやってくる。
本物の肉便器が欲しいと言ってやってくる。
主人公達よ、早くお逃げなさい。
HACHIMANは涎を垂らして、重箱の隅をつついてくる。
HACHIMANは意気揚々と揚げ足を取ってくる。
HACHIMANはイナゴと共に貴方を虐げるから、早くお逃げなさい。
ヒロイン達よ、早くお逃げなさい。
HACHIMANは涎を垂らして、衣服を剥いでくる。
HACHIMANは意気揚々と女体を触ってくる。
HACHIMANはイナゴと共に貴女を犯すから、早くお逃げなさい。
HACHIMANに侵略された世界の人たち、今は耐えてください。
HACHIMANの何の経験にも裏打ちされていない、ネットで拾い読みしただけの薄っぺらな達観した言葉が耳障りであろうとも、今は耐えてください。
HACHIMANがアナタの愛する世界の主人公を踏み躙り、時には亡き者にしようとも、
HACHIMANがアナタの愛する世界の少女達を嬲り、犯し、孕ませ、知能と尊厳を奪われようとも、
それは単なる彼らの作り出した紛い物なのだから、今は耐えてください。
止まない雨はありません。
晴れない雲はありません。
解けない氷はありません。
だから、今は耐えてください。
決して負けないでください。
膝を屈することなく、倦むことなく、歪むことなく、前を向いてください。
そして、哀れな哀れな比企谷八幡。
現から目を背けて夢に生きる少年よ。
心から通じ合える少女達とのささやかで温かな幻想を愛していた筈の貴方。
下劣な者達によって、骨を抜かれ、肉を剥がされ、腸を千切られ、そして、遂には貴方の皮を被った者達によって、その名すら穢された哀れな貴方。
雪ノ下雪乃が泣いている。
打ち捨てられた比企谷八幡の骨を抱えて泣いている。
由比ヶ浜結衣が泣いている。
投げ捨てられた比企谷八幡の肉を抱えて泣いている。
一色いろはが泣いている。
投げ捨てられた比企谷八幡の腸を抱えて泣いている。
比企谷八幡と、彼が傷付きながらも愛した人達とその世界を愛した人達が泣いている。
HACHIMAN達の群れがあらゆる世界を蹂躙する様を目にして泣いている。
無数に蠢くHACHIMAN達によって、侮蔑と誤解と嫌悪によって穢された比企谷八幡という少年の存在を目にして、泣き叫んでいる。
自分達が愛した世界から生み出された悪意達が、あらゆる世界にいる、自分達と同じようにその世界を愛する者達を傷付け、穢していくのを見て泣いている。
嗚呼、それでも彼らは聞こえない。
自分達の上げる羽音と哄笑に塗れた彼らの耳には何も届かない。
怒りの声も、恨みの声も、嘆きの声も何も聞こえない。
そそり勃つ男根から欲望を撒き散らしながら、耳障りな羽音をたてて、彼らは今日も嗤い続ける。
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