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八幡「異本・たとえばこんなバースデーソング」
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1 :
◆A95oCT.s2k
[saga]:2017/06/18(日) 17:59:32.89 ID:/+LAMdvF0
・設定と注意点・
細かい部分は省略し、高校3年生の6月18日を舞台に原作3巻の結衣の誕生日パーティーのメンバー+αで彼女の誕生日を祝福しようというお話です。
クラス替えは無し、2年から全員そのまま同じクラス(F組とJ組)へ進級しています。
小町は総武高校1年生として奉仕部へ入部、部員は雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣、比企谷八幡、比企谷小町の計4名。
途中、八幡と海老名の両名とで視点が交互に切り替わる箇所あり。
無茶苦茶長いです。
多少無茶な展開があったり、出て来ないキャラがいても気にしない点をどうぞご理解ください。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1497776372
2 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:01:37.65 ID:/+LAMdvF0
プロローグ
“誕生日”……。
年に一度、自分がこの世に生を受けた事に感謝する記念日であり、その親や友は、その者がこの世に生まれて来てくれた事に感謝し、その者の健やかなる成長を願う日でもある。
ある者にとって誕生日とは、また一つ大人へと成長した事を実感し、父と母に、また祝福してくれた友に感謝する日でもあり。
ある者にとって誕生日とは、また一つ歳を重ねる自分を再認識し、一時の憂いを覚える日でもある。
かの有名な小説、『トム・ソーヤーの冒険』の著者、マーク・トウェインは生前、こんな名言を残していた。
“人生で一番大事な日は2日ある。生まれた日と、何故生まれたかを分かった日。”と。
……生まれた日はともかく、少なくとも俺はまだ、自分が何故この世に生まれてきたのかを理解してはいない。
だが、彼女はどうだろう。
自分が何故この世に生まれて来たのか。その理由を、彼女は既に見出したのだろうか。
これは、そんな問いかけに対する、彼女の一つの答えの物語なのかも知れない……。
3 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:03:46.80 ID:/+LAMdvF0
@ 葉山隼人の計略
去年の4月に奉仕部に入れられ、俺が雪ノ下や由比ヶ浜と知り合うようになってから既に1年以上の時が過ぎた。
平塚先生の命令で俺が奉仕部に入部させられたこの1年は、俺にとって相応に慌ただしい1年だったと言えるだろう。
由比ヶ浜の依頼に始まり、材木座に戸塚、葉山や相模、城廻先輩、戸部、海老名さん、一色、三浦など、多くの生徒が問題や悩みを抱えては奉仕部を訪ねて来た。
それらの問題に対し、時に1人で、また時に誰かの協力の元で向き合い、結果として奉仕部を中心に多くの生徒の問題が解決される一方、また少しばかりの悔恨を残しつつも、それらの問題は解消されていった。
そうして時は足早に過ぎ、ようやく俺達はこの春、3年生となった。
「お兄ちゃーん、小町先行くよー」
「待て小町、弁当忘れてる」
「あ、ほんとだ」
テーブルの上に放置されていた弁当箱を小町に渡し、俺は玄関を出る。
総武高の制服姿がすっかり気に入ったのか、スカートを翻しながら小町が言う。
「へへ、こうしてお兄ちゃんと登校するのも久しぶりだね」
「中学ん時はまず一緒に学校行くとかなかったもんな」
実際、俺みたいな身内がいる事は学校での小町にとってマイナスでしかないからな。
それを知っていた俺は、中学ではなるべく小町と接点を持たないようにしていたのだ。
4 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:05:10.95 ID:/+LAMdvF0
「じゃあお兄ちゃん、放課後に部室でね」
「おう」
学校が近付くに連れ、俺と小町は距離を開け、それぞれ別々の足取りで学校へと向かう。
そうした日常も当たり前になりつつある6月、初夏の風に僅かな湿度を感じながら、俺は今日も部室で勉強をしていた。
「……ふあぁ………」
数学の問題集を解いているとふいに生欠伸が出てしまった。
その声に応じるように、俺から見て左……いつもの定位置で同じく問題集を解いている雪ノ下が俺に言う。
「随分眠たそうね」
「最近寝不足なんだ、復習ついでに小町の勉強も見てやったりしてるからな」
小町も小町で結構無理してここに受かったもんだから、やはりここの勉強について行くのに必死らしい。
かくいう俺も、1年の頃はそうしていたような気がする。
それもあり、最近の俺はどうも寝不足続きだった。
5 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:06:42.58 ID:/+LAMdvF0
「お茶を淹れるわ、気分転換も大事よ」
「ああ、サンキュな」
そう言うと雪ノ下は少しだけ微笑み、慣れた手つきで紅茶を準備する。
雪ノ下を横目に見つつ、俺はふと思う。……以前に比べれば、俺と雪ノ下の関係も少しは縮まったのかも知れない、と。
気品ある面持ちで紅茶を入れる雪ノ下から目を逸らし、俺は眼前の方程式を解いていた。
× × ×
雪ノ下の淹れてくれた紅茶を啜り、一息ついていた時の事。
一際元気な声と共に部室の扉が開かれた。
「どうもー、遅れちゃってすみませーんっ」
そう、にっこりとチャームポイントの八重歯を覗かせながら、小町が部室に入って来る。
「おう、小町」
「こんにちわ小町さん、今お茶を入れた所なんだけど、小町さんもどうかしら」
「雪乃さん、ありがとうございますっ」
元気に一言、小町は雪ノ下に礼を言う。
6 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:08:32.54 ID:/+LAMdvF0
「お前もすっかり馴染んだよな」
「えへへ、まぁねー」
「思えば、小町さんと知り合ってからもう1年になるのね」
「あっという間でしたよねー……っと、あれ? 結衣さんは?」
そう言いつつ、きょろきょろと部室を見回す小町。
「由比ヶ浜さんなら、今日は三浦さん達と予定があると言う事で先に帰ったわよ」
「ああ、俺にもそんな事言ってたな」
「へー、じゃあ丁度良かった」
「……?」
どこか含みを込めた小町の声に、思わず俺と雪ノ下の頭に疑問符が浮かび上がる。
「いやぁ、そろそろかなーって思ってまして」
「そろそろって何だよ」
「まったく、これだからおニブちゃんは……」
妹よ、おそらく「鈍い」と「お兄ちゃん」を合わせたんだろうが、お兄ちゃん的にそれは無理があると思うぞ。
7 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:09:59.38 ID:/+LAMdvF0
「……もしかして」
小町の言葉に何かを思い出したように雪ノ下が呟いた。
「由比ヶ浜さんの誕生日、そろそろよね」
「ピンポンピンポーン! そうですよ、去年はみんなで結衣さんのお祝いしたじゃないですか」
「あぁ……そう言えばそうだったな」
去年の事が思い出される。
確か、俺、由比ヶ浜、雪ノ下、小町、途中で声をかけた戸塚に、何故か付いて来た材木座の6人で、カラオケとゲーセンに行ったんだっけな。
「また、みんなで結衣さんのお祝いしたいなって思ってたんですよ」
「そうね、良い考えだと思うわ」
「ま、俺も小町もあいつには世話になってるからな……いいんじゃねえの」
実際、由比ヶ浜のお陰でどうにかなった事もあるし、それ以前にその……なんだ。俺としても、あいつの誕生日を祝うのは悪くないっつーか……な。
「それで、何か案があるのかしら」
「いやー、それがまだ何も決めてなくてですねぇ」
「お前な……」
「だってぇ〜」
俺の突っ込みに小町は口を尖らせる。
8 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:11:40.86 ID:/+LAMdvF0
「……ま、前みたいにカラオケでうぇいうぇいやりゃいいんじゃねえの」
「不本意ながら私も比企谷くんと同じことを思ったわ、どうなのかしら」
「いやー、前回とまんま同じってのも小町的にポイント低いと言いますか……」
そう言いながら若干ジト目で小町は俺を見る。
いや、そもそも俺と雪ノ下にそう言う提案を聞く時点でアレなのだが。
……方やぼっちで方や孤高の女王、そもそも俺達はそういううぇいうぇいやるような世界とは違う真逆の住民なんだよ、FFで言う雲と雨ぐらい冷めてんだよ。
そーゆーの興味ないし、壁にでも話していて欲しいもんである。
そもそもそうやって集団でうぇいうぇいやるのは、一色とか戸部とかが得意な分野だろ、人選が悪すぎだ。
「やっぱり、小町的には前回以上に盛り上げたいと思う訳ですよ」
「そう……なの、どうしたものかしらね……」
そうやってしばしの間3人でああでもないこうでもないと言っていた時。
外から聞き覚えのある数名の声と共に、部室の扉がノックされた。
「どうぞ」
ノックに応じた雪ノ下の返事に合わせるように、数名の生徒が部室に入って来た。
9 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:12:56.85 ID:/+LAMdvF0
「急に悪い、今大丈夫かな」
「先輩、どうもー」
「ちーっすっ」
「……また随分賑やかな人達が来たわね」
「お前らか、一体どうした?」
そこには、俺のクラスのトップである葉山隼人を先頭に現生徒会長の一色いろはと、サッカー部員で葉山と一色の取り巻きの一人でもある戸部翔の3人がいた。
「比企谷くん、小町さん、彼等にお茶を用意して差し上げて」
「はーいっ、小町におっまかせですっ♪」
「あいよ」
雪ノ下の指示に従い、俺と小町は人数分のお茶の用意に動く。
「すまない、雪ノ下さん」
「雪ノ下先輩、ありがとうございます」
「あざっす」
口々に礼を言う3人だった。つーか戸部、お前のそれ何語だよ。礼ならちゃんと言え。
そして紅茶の準備を終え、席に戻った俺達は、葉山達の話を聞く事にした。
10 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:14:14.99 ID:/+LAMdvF0
「それで、今度はなんのご相談かしら」
「いえ、今回は相談じゃなく、ご招待に来たんですよ」
「招待?」
一色の声に疑問符が浮かぶ、一体何の話だろうか。
「ああ、今度、結衣の誕生日があるのは知ってるだろ」
「知ってるも何も、今ちょうどその話で盛り上がってたんですよー」
葉山の話に小町が乗り気で返す、するとそれに合わせるように雪ノ下も頷いた。
「ええ、私達も由比ヶ浜さんのお誕生日をどうお祝いしようかを考えていた所なのよ」
「じゃあ丁度良かったですっ。今度結衣先輩のお誕生日会をみんなで開くんですが、先輩達もどうですか?」
「気持ちは嬉しいけど、私達が伺っても大丈夫なのかしら」
一色の提案に若干困ったように雪ノ下は言う。
「ああ、前に結衣から去年の事を聞いていて、今年はみんなで結衣の誕生日を祝おうと思っていたところだったんだ」
「それで、せっかくだし奉仕部の皆さんもお誘いしようと思いまして」
「んでんで! みんなでプレゼント買ったり、ご馳走とか作ったりしてさ、んで、コレ絶対楽しいっしょってなったってワケ!」
どうでもいいけど戸部、んでんで言いすぎだろ、こいつだけオーバーランしちゃってるよ。言語中枢が迷い猫なの?
11 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:15:39.33 ID:/+LAMdvF0
「良いと思いますっ、私達も何やろうか考えてたところですし」
「じゃあ、決まりですねっ」
小町の声に一色も笑顔で返す。
それを見るなり、葉山も安堵の表情をしていた。
「今日はその話を奉仕部とする為に、優美子と姫菜に結衣を任せていたんだ」
「ふむふむ、つーまーり、これは皆さんから結衣さんへの愛の込められたサプライズって事ですね、いやぁさっすが葉山先輩、うちの兄にも見習って欲しいもんですよほんと」
「馬鹿にするなよ小町、俺はこう見えてもサプライズにかけて言えば結構やる方なんだぞ、むしろ驚かれすぎて麻痺させるぐらいまである」
「それはサプライズではなくてパラライズね……ライズしか合ってないじゃない……」
俺の渾身の自慢に対し、冷淡に突っ込む雪ノ下だった。
「あははは……まぁそういう訳だったんだけど、結衣を借りても大丈夫だったかな」
「ええ、今日は特に依頼も無かったから問題はないわ」
「まぁ、基本的に勉強してるか本読んでるかの部活だしな」
「そっか……それで、どうだろう」
「一応、その誕生日会に誰が来るのか聞いても良いかしら」
「うん、俺が声をかけたのは……」
葉山が出席者のリストと思わしきメモを取り出す、そこには葉山と三浦が声をかけた、由比ヶ浜の誕生日会の参加者の名前が載っていた。
リストを見せて貰うとそこには主役の由比ヶ浜を筆頭に主催の葉山と同じグループの三浦、海老名さん、戸部、大和、大岡、一色は勿論のこと、何と相模の名前まであった。
12 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:16:39.91 ID:/+LAMdvF0
「……相模も来るのか」
「ああ、声をかけてみたら、来てくれるって言ってたよ」
「俺や雪ノ下が来ることまで知ったらあいつ、来なくなるんじゃないのか」
実際、去年の文化祭の一件のせいで俺、あいつに相当嫌われてたからな……。
「それはないよ、もう、去年までの彼女とは違う」
「…………そっか」
そう、確信したかのように葉山は言った。
なら、それ以上聞く事も無いだろう。
「お兄ちゃん、この相模さんって人と何かあったの?」
「別に、もう終わった事だし、大したことじゃねえよ」
「ふーん、そっか」
小町が気になるといった表情で聞いてくるので適当に流しておくと、どこか納得したように小町は返した。
13 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:18:42.39 ID:/+LAMdvF0
「それで、そのメンバーに俺達を入れると、結局どのくらい来るんだ?」
現状参加するメンバーを確認しておく。
奉仕部からは由比ヶ浜、雪ノ下、小町、俺。
F組からは葉山、三浦、海老名さん、戸部、大岡、大和、戸塚、相模。
別口からは一色と……あまり誘いたくはないが、材木座ぐらいか。
「総勢14名……結構多人数ね」
「うわぁ、結構大規模ですね」
まぁ、単純に人数だけを見たら前回の倍以上はいるからな……。
「段取りとかはもう決めているのかしら?」
リストを見ながら雪ノ下は葉山と一色に確認する。
「一応当日の大まかな段取りは決めてあるんですが、比企谷先輩達の出欠を確認してから改めて打ち合わせをする予定でした」
「そう、分かったわ」
「それで早速なんだけど明日の放課後、当日に向けての打ち合わせをしたいんだ、大丈夫かな」
葉山の問いに俺、雪ノ下、小町が揃って口を開く。
「小町は大丈夫です、お兄ちゃんもでしょ?」
「ああ、問題無い」
「私も大丈夫よ。場所はF組で良いのかしら」
「そうだな。うん、ありがとう」
「明日も引き続き、三浦先輩が結衣先輩を連れ回してくれるそうなので、内緒にできますね」
「うんうん。隼人くんもいろはすもマジ冴えてるわー」
「じゃあまた明日、みんな、ありがとう」
俺達に軽く会釈をし、葉山達は部室から出て行った。
14 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:20:14.31 ID:/+LAMdvF0
× × ×
「とりあえず、戸塚に電話してみるか」
「あーそれは小町がやるよ、お兄ちゃんは中二さんお願い」
「お前な……」
「いいじゃん、だって中二さんと連絡取れるのお兄ちゃんだけなんだし」
「まさに適材適所ってところね、比企谷くん、諦めなさい」
「ちぇ……わーったよ」
俺はしぶしぶ材木座に電話をかける。コール音がして間もなく、材木座の声が聞こえてきた。
『我だ』
「ノンタイムかよ、早すぎだろ」
『ふふふふ、いつ何時どこの出版社から連絡が来るか分からんからな』
そんな事ねえよ、あり得てたまるか。
「あーあー、用件だけ言うぞ、実は今度由比ヶ浜の誕生日会を開くんだがどうだと思ったがお前今原稿忙しいだろ、締切近いって言ってたしなほら邪魔するのも悪いから俺の方から断っておくぞいやいや気にすんなじゃあな」
『は、八幡? 八幡??』
――ピッ
材木座が言い終わらぬ内に一方的に電話を切る。
「残念だが材木座は来れないそうだ」
「お兄ちゃん性格悪い……」
「何を言う、一応誘っただろ」
小町の突っ込みに爽やかな返しをしていると、ドタドタという音と共に聞きたくもない絶叫が響いて来た。
15 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:22:20.49 ID:/+LAMdvF0
「はあああああちまあああああああああん!!!!!!!!」
怒声と共に部室の扉が勢いよく開かれる。
すると、原稿らしき十数枚の紙の束を持った材木座が息を切らしながら部室に入り込んで来た。
「ざ、材木座……どうしてここに」
「お主が一方的に電話を切るからであろうが」
言うや否、手にした原稿用紙を掲げ、高らかに材木座は言い切った。
「ふふふふふ八幡、生憎だが既に原稿は終わらせたものでな……そう、故に今の我は自由!! 自由の翼を持つ紅蓮の一矢なのだああああ!!!!!」
もう面倒くせえよこいつ、そのまま壁外調査にでも行って巨人に喰われてくれよもう。
「中二さん今日も絶好調だなぁ」
「つまり、しばらくは暇だから是非連れて行って欲しい……と言う事かしら」
「はぁ……仕方ねえな」
このまま押し問答を続けても意味がないので、仕方なく材木座もメンバーに招く事にする。
「して八幡、我の原稿なのだが、加筆修正を加えたこの新作、是非一度呼んで頂きたくござ候」
「断る」
「まぁ待て八幡、今回は妹君にも配慮し、過激なシーンを控えた全年齢対象にした奴だ、心配はないぞ」
うぜぇ……お前それ小町にも読ませる気か。
「あははははっ、大丈夫ですよ中二さんっ、小町の分も、お兄ちゃんが楽しく読んでくれますよっ♪」
「おっふ」
とても爽やかな笑顔と共に、小町は材木座の願いを断っていた。ていうか妹よ、兄の意見を無視して終わらせようとするな。
僅かに呻き声を上げる材木座を無視して、小町は戸塚に電話をし始める。
数秒の会話の後……。
16 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:23:57.18 ID:/+LAMdvF0
「戸塚さんも参加したいってさ、良かったねお兄ちゃん」
にっこりと笑顔を崩さぬまま、小町は戸塚の参加を表明してくれたのだった。
そっか、戸塚も来るのか……良かった……。
× × ×
翌日、ホームルームが終わると同時に由比ヶ浜が俺に話し掛けて来る。
「ヒッキー昨日はごめんね、急に姫菜と優美子に誘われちゃって……」
「ああ、特に依頼も無かったし、大丈夫だ」
申し訳なさそうに言う由比ヶ浜に俺は答える。
「それで、実は今日もなんだけど……」
「ん、ああ……分かった、雪ノ下には伝えとくから安心しろ」
「……うん、ありがと」
そして放課後、生徒のいなくなった教室に昨日のメンバーが集結する。
ホームルームからそのままF組に残った葉山の周りには戸部、大岡、大和、海老名さんが固まり。そのグループから少し離れた所に相模が適当な椅子に座っているのが見える。
俺の席の周りには戸塚と、やや遅れて雪ノ下、小町、一色と材木座が到着する。
由比ヶ浜はそのまま三浦に連れて行かれたので、これで全員が揃った事になるな。
そしてメンバーの着席を確認すると、全体に向けて葉山が声を上げた。
17 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:26:18.01 ID:/+LAMdvF0
「じゃあ、そろそろ始めようか」
クリップで止められた数枚の資料を一色が配る。
そして一人一人の顔を見ながら、葉山は続けた。
「今日みんなに集まって貰ったのは他でもない、結衣の誕生日の事についてなんだけど」
葉山の声に合わせるように一色が黒板の前に立ち、チョークで本日の集まりの趣旨を書き連ねて行く。
黒板には“結衣先輩のバースデー会議”と、一色らしく可愛らしい題名が書かれていた。
「来週の日曜……つまり6月の18日だけど、結衣の誕生日なんだ」
「結衣先輩にとっては高校生活最後の誕生日ですし、せっかくなら大きく祝おうと思って、葉山先輩がいろんな人に声をかけたんですよね」
「ああ、それで、こうして今日集まってくれたみんなで結衣のお祝いをしようと思うんだ」
「ひゅ〜、隼人くんマジかっけー!」
「さっすが隼人くん! やるわぁ〜」
葉山と一色の声に戸部や大岡達から称賛の声と拍手が上がる。
「まぁまぁ……で、本題なんだけど……」
真顔に戻り、葉山は進める。
葉山と一色の進行はつつがなく行われた。
俺達は渡された資料に目を通しながら葉山の声を聞く。
開催場所はなんと学校で、当日は休校日だが、既に何名かの先生には一色の生徒会長権限で許可を取っており、宿直の先生もいるから問題はないとの事だった。
18 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:28:38.37 ID:/+LAMdvF0
当日の流れとしては、まず誕生日用に装飾を施した教室に料理を運び、そしてサプライズで由比ヶ浜を呼び、プレゼントを渡してからそのままパーティーという計画のようだ。
それに合わせ、まず前日準備としてプレゼントの調達班と、当日の係として、会場の装飾班、ご馳走の調理班の他、由比ヶ浜をパーティーの時間まで連れ回す役が必要と言う事も書かれていた。
その際、資料に一通り目を通した雪ノ下から「ご馳走の調理と言う事だけど、家庭科室の使用許可は取ってあるのかしら?」と質問を投げかけられる。
その質問に一色が
「ええ、既に鶴見先生から許可を頂いています」
と返答すると、納得した様子で雪ノ下は資料に文字を走らせていた。
「まず、各係を決めたいと思うんだけど、どうかな」
葉山の声に全員が頷く。まぁ、まずは係を決めないとどうにもならないもんな。
「料理班ですけど、この人数分だと結構料理できる人が複数名はいないと厳しそうですねー」
「そうだな……まともに料理が出来る人材が最低でも4人は必要か」
俺と小町の意見を聞くと、葉山が全体に向けて質問を投げかける。
「ではこの中で、料理に心得のある人がいたら手を上げてくれないか」
葉山の声に数名が手を上げる。
その声に応じ、俺、雪ノ下、小町、一色、相模、海老名さん、葉山、戸塚の8名が挙手をする。
19 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:29:57.93 ID:/+LAMdvF0
「……とりあえず、比企谷と雪ノ下さんに、比企谷の妹さん……」
「あ、普通に小町でいいですよ、葉山先輩」
言葉を詰まらせた葉山に微笑みながら小町が言う。
「ありがとう。じゃあ、比企谷と雪ノ下さんと小町さんの3人には調理関係を頼みたいんだけど、大丈夫かな」
葉山の問いに異議なしと言った風に俺達3人は答える。
料理と言えば確かに、俺と小町は言うに及ばず、雪ノ下も適任だろう。というか、それぐらいしか出来ないと言った方がいい。
「……あと一人か………」
葉山が全体を見ながら呟く。
「あー、戸塚先輩にはプレゼントの用意をお願いしたいんですけど、大丈夫ですか?」
「僕? うん、いいよ」
一色の問いかけに戸塚は笑顔で答える。 確かに、前回の誕生日やクリスマスの時といい、戸塚の高い女子力は由比ヶ浜のプレゼント選びには欠かせないだろう。
「わたし、できれば装飾に回りたいなー。無理ならいいけど」
「いや、大丈夫だよ。じゃあ姫菜には教室の装飾をやってもらおうかな」
海老名さんの意見に葉山は笑顔で答え、そのまま続ける。
20 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:31:51.11 ID:/+LAMdvF0
「当日、いろはには俺と優美子の3人で結衣の相手をして欲しいと思ってるんだ」
「はーい、かしこまりましたっ」
そして葉山は最後に残った生徒、相模に向けて問い掛ける。
「……相模さん」
「へ?」
葉山の声に不意を突かれたような声を出す相模。 そういやこいつの声、久々に聞いた気がする。
「調理班、頼めないかな」
「うち……えっと……」
葉山の真剣な眼に動揺を隠せないのか、相模が俺と雪ノ下の方を見やる。
確か、俺と雪ノ下……奉仕部が相模と最後に関わったのは、例の体育祭の一件以来だったか。
あの一件以来、俺も雪ノ下も彼女とは特に言葉を交わす事も無く今に至っているから、相模の中で忘れていた悔恨の念が呼び覚まされたとしても、何ら不思議ではなかった。
「相模さん、無理なら別に……」
「ううん、大丈夫。うち、やるよ」
雪ノ下の声を遮る様に、相模は強く頷く。
その眼には前の様な不穏さも動揺もなく、ただ強い意志が宿っているようにも見えた。
その姿に一瞬驚く俺と雪ノ下だったが、尚も話は続けられる。
「ありがとう、じゃあ次だけど……」
相模に一言礼を言い、葉山は続ける。
21 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:33:40.73 ID:/+LAMdvF0
「会場装飾だけど、できれば男の子が欲しいなぁ。力仕事になりそうだし」
「じゃあ、戸部、大和、大岡と、戸塚に材木座くん、頼めるかな」
「隼人くんマジチョイス冴えてるわー、おっけぇー」
「ああ、楽しくやれそうだなー」
「よろしく!」
「ファッ!? わ、わわ……我か?」
「ザイモクザキくん、よっろしくぅ〜♪」
「宜しく、ザイモクザキくん!」
「お……おおおおう! ま、ままままかせろぃ!」
絡んでくる戸部達に材木座は動揺しまくっている、すごく気持ち悪い。
まぁ、正直適材……とは言わないが、プレゼント購入や調理班に比べたらまだマシな方だろう、海老名さんの指示で力仕事に勤しんでいればいいだけなのだから。
……まぁあいつらも基本的に馬鹿でノリが良くてうるさいだけで無害だし……あれ、それって害しかないんじゃねえの。
「……八幡、八幡」
「おわっ……材木座、急に出てくるなよ……」
いきなりの声に振り向くと材木座が怯えたチワワみたいな目で俺に囁きかける、目をうるうるさせたこいつマジで気持ち悪い……殴りたい、この顔。
「八幡……あいつらなんなの? 我にやたらとフレンドリーなんだけど、我の事好きなの? なんなの?」
「まぁ……好かれてるんじゃないか……? 珍獣的な意味で」
もう、いっそのことあいつらに影響されて脱ヲタしちまえよ、その方がみんな平和になるし。
22 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:35:21.16 ID:/+LAMdvF0
「愚腐腐腐腐腐腐腐腐腐…………と、とべっちとザ、ザザ虫くんに……大岡くんと大和くん……あぁっ……最ッッ高……!!」
海老名さんがとても不健全な眼差しで鼻血を垂らしながら男達を舐めるように見る。
腐ってやがる。遅すぎたんだ……。
「もしかして海老名さん、最初からあれが狙いだったんじゃないかしら」
「もしかしなくてもそうだろ」
雪ノ下に俺はそう返す……戸塚、大丈夫だろうか。
「……続けていいかな、繰り返しになるけど、プレゼント調達は俺と戸塚と、優美子に任せて欲しい」
「うん、由比ヶ浜さんに気に入って貰えるのを見つけて来るね」
気を取り直し、葉山と戸塚も告げる。正直これも妥当な人選だと思う。
由比ヶ浜と一番仲良く、また一緒にいる葉山と三浦に加え、戸塚のセンスがあればプレゼント選びに失敗は無いだろう。
確認を取ると三浦に話の趣旨の報告なのか、葉山はスマホを器用に打ち込んでいた。
23 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:36:21.84 ID:/+LAMdvF0
こうして係決めはまとまり、結果、以下の様な割り振りとなった。
・ご馳走調理班・
比企谷八幡、雪ノ下雪乃、比企谷小町、相模南
・前日のプレゼント調達班・
葉山隼人、三浦優美子、戸塚彩加
・会場装飾班・
海老名姫菜、戸部翔、大和、大岡、戸塚彩加、材木座義輝
・当日の由比ヶ浜連れ回し担当・
一色いろは、葉山隼人、三浦優美子
「じゃあ、あとは各グループで細かい打ち合わせをしてくれ、以上」
「何か不都合な事や問題があったら葉山先輩か私宛に連絡下さいねー」
葉山と一色のその声を合図に会議は終わり、各々がそれぞれのグループと共に話を詰めて行く。
……そして、雪ノ下の声の元、俺、小町、相模が集まる。
「では、私達は何を作るか決めましょうか」
「はいはーい、その前に一ついいですか?」
小町が手を上げ、雪ノ下に一言告げる。
24 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:37:39.49 ID:/+LAMdvF0
「小町さん、ええ、どうかしたの?」
「すみません、えっと……相模さん……ですよね」
「え……うち?」
そして小町は相模に向き合い、挨拶をする。
「はい、どうも初めまして。私、比企谷小町って言います、恥ずかしながら、そこにいる比企谷八幡の妹なんです」
「比企谷の……妹さん」
「ええ、見たところ、何やら過去に小町の知らない所で兄と何かあったようにお見受けしたので、まずはそれをそこのごみい……いえ、兄に変わって謝らせて頂こうと思う訳ですはい」
「おい小町……」
「お兄ちゃんは黙ってて、どうせお兄ちゃんが相模さんに何かやったんでしょ」
こいつは一体何を言っているんだ。
まぁ、確かに俺が何かやったって点は否定しないが、だがなんでそれを無関係な小町に言われねばならんのだ。
怪訝な顔で小町を見るが、そんな俺の目線を無視するかのように小町は続ける。
「まぁ、こんな兄なんですが、今回は結衣さんのお誕生日の為にここに集ったということで、ここはどうか一つ、水に流してやってはくれませんか?」
「…………」
小町のお願いに相模は無言で小町を見る。そして数秒の沈黙の後……。
25 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:38:58.03 ID:/+LAMdvF0
「っっ……ぷっ……」
相模の肩が震え、僅かに吹き出す。そして……。
「っっっ、ははははっっ! あーっはははははっ」
……一度吹き出してからは止まらなかった。まるで洪水のようにお腹を押さえ、大爆笑する相模。
その笑い声に周囲から注目が集まるが、尚も相模の笑いは収まる気配を見せないでいた。
「あははははっ! っっっくっ…お腹痛い……っははははっ!」
「相模さん……」
爆笑を続けるその姿に雪ノ下から心配の声が上がる。
そして数秒、ようやく落ち着きを取り戻してから相模は口を開いた。
「っっっくくくく……ひ、比企谷の妹、面白いね……」
「は、はぁ……まさかそんなに笑う程面白かったかなとは思いますけど……」
「ううん、なんかスッキリした」
そう告げると、相模は目尻を拭いながら俺と雪ノ下に向き合う。
その眼は、まるで憑き物が落ちたように爽やかさを見せ、俺と雪ノ下を見据えていた。
「比企谷、それと雪ノ下さん、うち、2人に謝らなきゃいけないよね」
頭を下げ、相模は続ける。
26 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:40:34.60 ID:/+LAMdvF0
「比企谷、去年うち、すごく酷いことしたよね、本当にごめん」
「…………」
「文化祭でわがままやって、見栄張って……調子に乗って、いじけて、投げ出して、それから比企谷にバカみたいな嫌がらせして……体育祭でもそう、認めて貰いたいって、反省してんじゃんって子供みたいな事言って……ほんと、最低だったと思う」
「でも、今なら分かるんだ、文化祭の時も体育祭の時も……比企谷はうちの事、助けてくれようとしたんだって」
「やめろ、俺は別にお前なんか助けちゃいない」
そっぽを向きながら俺は返す。
相模が何を思おうが勝手だが、勝手に自分の都合の良いように解釈するのはやめてくれ。そんなんじゃない。
「雪ノ下さんも、うちが無責任な事したせいで倒れて、体育祭でもたくさん迷惑かけたよね……本当にごめんなさい」
「それは違うわ。あの時姉さんの挑発を流せなかった私にも責任はあったもの……」
往々にして人はその時の間違いに気付かず、気付く時はいつだって全てが終わった後、失ってから初めて気付かされる時もしょっちゅうある。
そして、彼女もきっとそうだったのだろう。
体育祭の後、相模に何があったのかを俺は知らないし、聞くつもりもない。
だが、それが結果として今の相模に変化を与え、失っていた事に気付けたのなら。それはきっと…………。
「ま、お前が今いくら謝っても、俺がされた事はなかった事には出来ないけどな」
「……うん、分かってる」
そう、どんなに悔やんでも、反省をしても、過去は帳消しには出来ない。
だが、未来を変える事は出来る。
27 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:43:29.36 ID:/+LAMdvF0
「だけど、それに気付けたんなら、少しは前に進めるんじゃねぇのか、俺は前に進んだ事がないからよくわからんが」
「比企谷……」
「ったく、ほんとにこのごみぃちゃんは素直じゃないんだから……」
呆れるように小町がぼやく。その姿に微笑みを浮かべながら、相模は俺達に告げた。
「結衣ちゃんの為に、うちも手伝わせてくれないかな。もう逃げたり、変に空回って落ち込んだりしないから……ちゃんとお祝い、したいんだ」
「……ええ、こちらこそお願いするわ、相模さん」
「比企谷、よろしくね」
「……おう」
「相模さん、宜しくお願いしますねっ♪」
「うん、宜しくね、小町ちゃん……って、呼んでもいいかな?」
「いいですよぉー、なんなら義妹(いもうと)って呼んで下さっても、あ、今の小町的にポイント高いっ」
「あはははっ、やっぱり小町ちゃん面白いっ」
小町の答えに再び笑顔を見せる相模だった。
ふと横目に葉山を見ると、安堵の表情でこちらを見ているのが見えた。
すべてが終わったあの祭りから数ヶ月……俺達と彼女の関係は、平行線から緩やかにその角度を変え……僅かに他人以上へとなったのだった。
「では改めて、当日に何を作るのか、決めてしまいましょう」
「とーりあえず、バースデーケーキは欠かせないですよねー」
「料理はビュッフェみたいに大皿に乗ったのを好きに取る方がいいんじゃねえか、雰囲気も出る上、作る側の負担も減るし、個々の好き嫌いにも対応できる」
「そうね……じゃあ、料理はそれで行きましょう」
「あ、うち、ケーキなら前に友達と作ったことあるよ」
「じゃあ、ケーキと他のデザートは私と相模さんで担当するわね、比企谷くんと小町さんはメインの料理をお願いできるかしら」
「はーい」
「おう」
こうして俺達の中での役割分担も終え、当日の買い物は前日に集まって済ませる運びとなった。
周囲を見ると、そこかしこであれこれと楽しそうに議論が交わされている。
そんな教室を見回しながら、俺は当日のメニューの献立を小町と組み立てていた。
28 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:46:39.51 ID:/+LAMdvF0
A たとえばこんなバースデープレゼント
そして土曜日。
俺、雪ノ下、小町、相模の4人を交えて交わされた議論の末、当日のメニューは以下のように決定された。
スパゲッティ、フライドチキン、オムライス、ピザに各種フライにサラダとデザート……。
相当な量ではあるが、予め下準備をしたり、手が空いたらこちらに回してくれたりと工夫をすれば不可能ではないだろう。
今日はその買い出しと、各々のプレゼントを買う為に街に出る事になったのだ。
「へへ、まさか比企谷と雪ノ下さんと一緒に出かけるなんてね、ちょっと前じゃ考えられなかった」
「ほんと、人生何が起こるか分かったもんじゃねえな」
「小町は良かったと思いますよ、そういうの、とっても大事だと思います」
「まぁ、良いんじゃないかしら……ね」
そんな会話をしながら電車を乗り継ぐ事しばらく、南船橋のららぽーとTOKYO-BAYに俺達は到着していた。
去年、雪ノ下と一緒に由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買ったのもここだったっけな。
「とりあえず、どうする?」
建物を前に俺はみんなに問い掛ける、こういうのは無目的に探索するよりも最初に目的を決めてからの方が効率が良いと決まっている。
「んー、食材なんかは戻ってからでも買えると思いますし、まずは皆さん個人で買うプレゼントから見ませんか?」
「うん、そうだね、じゃあ……最初はどこから行こっか?」
「前は確か、この辺りでプレゼントを買った覚えがあるわね」
雪ノ下が店内マップを指差しながら言う。
「……雪ノ下それ、違う地図だぞ」
「知ってるわ、早く行きましょう」
「雪乃さーん! そっちじゃないですよー!」
俺の突っ込みを誤魔化すようにすたすたと歩を進める雪ノ下と、その手を掴んで戻そうとする小町。そして……。
「なんか意外……雪ノ下さんってああいう所もあるんだ」
そんな光景に驚いたように目を丸くする相模だった。まぁ、お前の中の雪ノ下像では到底想像できないだろう、あれは……。
29 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:48:25.24 ID:/+LAMdvF0
小町が雪ノ下の手を引き、その後を俺と相模が並んで歩く。そんな感じで俺達は店を探索していた。
しかし、女3人寄れば姦しいというのは本当のようで、時折、自分の買い物をし始める場面も幾つか伺えたが、それもまた買い物の醍醐味なのだろう、男には分からない感覚ではあるが。
基本的に小町が先導してくれるおかげで店回り自体は非常にスムーズに行えている。
ファンシーショップ、ブティック、雑貨屋、小物屋と、確かに多くの店を見る事は出来たが、いざプレゼント選びとなるとどうにもこれという物が無く、当初の目的はやや難航の様子を醸し出していた。
――そうこうして店を回る事しばらく、一旦休憩の為に立ち寄ったフードコートでの事。
「いやー、なかなか決まりませんねー」
「一通り見たけど、結衣ちゃんなら持ってそうっていうのが結構あったもんね」
「そもそも、誕生日のプレゼントを決める基準って一体何なのかしら……?」
雪ノ下の声に小町と相模が思い思いに口を開く。
去年を振り返るに、雪ノ下、こういうの慣れてなさそうだったもんな。
「そーですねぇ……例えば、今その人が持ってなくて、その人に必要な物とか、欲しそうな物とかですか?」
「今の由比ヶ浜さんに必要な物で由比ヶ浜さんが持ってなさそうな物……受験対策の参考書や問題集とかかしら」
「いやぁ……確かに受験生には必要だと思いますけど……」
「うち的にそれ、何か違う……」
誕生日のプレゼントに参考書ってそれ、完全に嫌がらせだろ、好感度下げまくりも良い所だ、友達の間で悪い噂とか流されるパターンだぞ。
「とりあえず、店はまだあるんだし、もう少し見て回ってもいいんじゃねえか」
「比企谷の言うとおりだね、もう少ししたら他のお店も見て回ろっか」
相模の声に同意するように俺達は席を立つ。
その時、聞き覚えのある声が俺達に向けられた。
30 :
◆A95oCT.s2k
[saga]:2017/06/18(日) 18:50:17.12 ID:/+LAMdvF0
「あっれぇー、雪乃ちゃんじゃない」
「あー、陽乃さん!」
声に振り向く、そこには雪ノ下の姉の雪ノ下陽乃さんの姿があった。
涼しそうなロングのスカートにやや胸元の開いた白いブラウスを着ており、それが元より備わっている気品をより引き出している一方、その佇まいがどこか妖艶な雰囲気すら醸し出していた。
意外な人物の到来に俺、雪ノ下、相模の間に少しばかりの緊張が走る。
そんな俺達の気なんてお構いなしといった様子で陽乃さんはアイスコーヒーを手に俺達のテーブルに座る。そんな陽乃さんを、雪ノ下が怪訝の表情で見ていた。
「姉さん、どうしてここに」
「そんな恐い顔しないでよー、私だって、たまには一人で買い物ぐらいする時もあるって」
雪ノ下の視線を流すように陽乃さんは話を続ける。
その合間を縫い、今度は小町が陽乃さんに挨拶を交わす。
「陽乃さん、やっはろーです」
「うん、小町ちゃんやっはろー、比企谷くんも、やっはろー」
「……うっす」
そのにこやかに交わされる挨拶の裏を読む様に、俺は一言だけ返した。
やはりこの人はどうも苦手だ。自分の思考は一切悟らせない癖に、こちらの一挙手一投足から全てを読み取るような視線を投げかけて来る。
そうして一人一人を見るようにして、陽乃さんは相模に目を付け、話しかけていた。
31 :
◆A95oCT.s2k
[saga]:2017/06/18(日) 18:52:16.85 ID:/+LAMdvF0
「君は……ええと、さざなみさん……だっけ?」
「相模です、相模南……雪ノ下さんのお姉さん、お久しぶり……です」
「ああごめん、相模さん……だったね、へぇ、雪乃ちゃんと仲良くしてくれてるんだ」
陽乃さんのその目線に耐えかね、相模の顔がみるみる内に困惑に包まれていく。
しかし、それでも相模は陽乃さんから目を逸らさず、意志の込められた声で話を続ける。
「ええ……雪ノ下さんも、比企谷も……あの時、私を助けてくれましたから」
「……そっか、雪乃ちゃんと、あと比企谷くんとも、仲良くしてあげてね」
「……はい」
「……君、前に比べて変わったね……いや、強くなったとも言うべきかな」
そう一言、陽乃さんは相模の目を見て一瞬、微笑む様な顔を見せながら言った。
そして少しの間を置き、陽乃さんはアイスコーヒーを一口含み、皆に向けて話を続ける。
「で、今日はどうしたの? みんなで比企谷くんとデート?」
「あり得ないわ、今日は由比ヶ浜さんのお誕生日の買い物に来たのよ」
「ふーん、ガハマちゃんのお誕生日ね」
「いやー、どのお店もなかなか魅力的なんですが、思いの外難航してまして」
「まぁ、ここってお店多いからね……ふふふ、そんな君達にここはお姉さんが素敵なアドバイスをしてあげよう」
小町の声に納得するような顔で陽乃さんは言う、そして、鞄の中からチラシと思われる1枚の紙を取り出し、俺達に渡した。
「そこのお店、先週オープンしたばかりだから、行ってみたら? さっき見て来たけど、品揃えも良くて雰囲気の良いお店だったよ」
陽乃さんの声に合わせてチラシを見る、そこには、俺達がまだ見てないエリアに新規オープンしたと思われる店舗の情報が書いてあった。
32 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:53:59.02 ID:/+LAMdvF0
「陽乃さん、ありがとうございますっ」
「姉さん……」
「比企谷くんとガマハちゃんには雪乃ちゃんもお世話になってるし、それに、雪乃ちゃんに新しく出来たお友達もいる事だしね」
言いながら一瞬、陽乃さんは相模に目を配ると、アイスコーヒーを飲み干し、鞄を手に席を立つ。
「じゃあ、わたしはもう行くね。また今度、みんなで遊びましょ」
それだけ言うと、陽乃さんは雑踏に向けて足を運ぶ。
その後ろ姿を見ながら、相模は緊張が解けたように溜息をついた。
「……緊張したぁ……」
「お前、よくビビらなかったな」
「正直驚いたわ、あの眼の姉さんを前に怯えずにいるんですもの」
「まぁ、確かに緊張したけど……別に嘘付いてるってわけじゃないし、普通でしょ」
僅かに照れる顔をしながらチラシを手に、相模は立ち上がりそう言った。
「さ、早くお店行こ」
そして、どこか軽い足取りで雑踏へと歩み出す。
その背を追うようにして、俺たちもまた、相模の後に付いて行くのだった。
33 :
◆A95oCT.s2k
[sage saga]:2017/06/18(日) 18:55:46.04 ID:/+LAMdvF0
× × ×
陽乃さんの教えてくれた店に到着した時、またも俺達は聞き覚えのある声に呼び止められた。
「あれ、ヒキオじゃん」
「やあ、みんなもここに来てたんだ」
「八幡、小町ちゃん、雪ノ下さん、相模さん、こんにちわっ」
「おう、お前らも来てたのか」
私服姿の三浦、葉山、戸塚と出くわした。
そう言えばこいつらプレゼントの調達班だったな。
「みなさんやっはろーですっ」
「小町ちゃん、やっはろー」
小町の声に戸塚が笑顔で返す。うん、今日も戸塚は可愛いなぁ。
「プレゼント選びは順調かしら」
「ああ、みんなで渡すやつは既に買ってあるんだ」
雪ノ下の問いかけに葉山が包装されたプレゼントを見せる。
手のひらよりやや大きいサイズのそれの中は伺えないが、形状からして箱型のものだと言うの事は分かった。
「で、ヒキオ達は何してんの?」
「実は、うちら個人でも結衣ちゃんのプレゼントを買おうって事になって」
「それで、さっきここのお店の事、教えて貰ったんですよ」
「じゃあ、僕達と同じだね」
「じゃあ、戸塚達もか」
三浦の問いかけに小町と相模が答える。それに戸塚が応じ、俺もまた返すのだった。
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