梨子「5年目の悲劇」

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63 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:28:29.94 ID:SnVGEAuwO
「が、くる、し……」

「っ…………」


ただ、”彼女“の首を無言で絞め続ける。
64 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:29:20.19 ID:SnVGEAuwO
“彼女“は己の首に掛けられたロープを外そうと必死でもがく。

だが、酸欠状態になりつつある身体では碌な抵抗も出来ない。

こういう時、刑事ドラマなら犯人に傷をつけることで真相解明に近づけさせると言うけれど。

それはさせぬと言わんばかりに、ロープにぐぐっと力をこめる。


数分、いや数十分。どのくらいの時間が経っただろう。

気づいた時には、“彼女”の身体は動かなくなっていた。
65 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:30:04.94 ID:SnVGEAuwO
「ハァ、ハァ……」

ロープから手を放し、止まらない汗を拭う。

荒ぶっていた呼吸と心臓の鼓動が少しずつ整ってくる。


……殺してしまった。

後悔はない、と言えば嘘になる。

けれども、殺さなければならなかった。
66 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:31:11.51 ID:SnVGEAuwO
「…………」

物言わぬ亡骸を担ぎ、”準備“を始める。

まだ終わっていない。もう後戻りは出来ない。

自分はこの計画を、何としてでも完遂させなければならないのだから。
67 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:32:06.42 ID:SnVGEAuwO
────7月30日、午前11時。


梨子「集合時間だけど……揃ってないわね」


集合場所であるロープウェイ乗り場に集まっていたのは7人。

鞠莉と善子、2人の姿が見当たらないのだ。
68 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:33:11.03 ID:SnVGEAuwO
自動運転のロープウェイは既に扉を開けて停車しており、時刻表によれば間もなく発車する。

「テレビの人たちと打ち合わせもあるだろうし、リゾートの方で先に待っているのではないか」

誰かが言ったその内容に皆が納得し、それならとロープウェイに乗車する。

ただでさえ雨が降っていて皆相応な荷物を持っているのに、屋根の外に居たくはなかった。
69 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:34:19.89 ID:SnVGEAuwO
「おーい! 待ってー!」


扉が閉まる寸前、大きなキャリーバッグを抱えた女性が駆け込んで来た。

傘を畳むのも忘れてゼェハァと息を切らせる彼女に、皆揃って呆気に取られる。
70 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:35:02.13 ID:SnVGEAuwO
千歌「あのー、あなたは?」

「久しぶりね、Aqoursのみんな」


呼吸を整え、高森と名乗った女性。

後ろで纏めた髪に赤ブチのメガネ、もしかして。
71 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:36:59.44 ID:SnVGEAuwO
梨子「もしかして、大会でいつもいたレポーターさん?」

千歌「そういえば……!」

高森「そうよ。覚えててくれて嬉しいな」


Aqoursがまだ6人だった頃、東京スクールアイドルワールドで初めて出会った彼女。

忘れもしない『0票』の集計結果を渡されたのは、今となってはいい思い出。

結果として、あの一件がなければAqoursの成長はなかったのかもしれないのだから。
72 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:38:55.41 ID:SnVGEAuwO
その後も、最終予選、決勝戦、その他スクールアイドルのイベント……。

彼女はいつも会場にいて、私たちも何度か顔を合わせていた。

Aqoursの優勝インタビューをしたのも、彼女だった筈だ。
73 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:39:30.26 ID:SnVGEAuwO
花丸「でも、なんでここに?」

高森「頼まれたの、小原さんに」

果南「鞠莉が?」

高森「そう。Aqours再会記念を、リゾート宣伝も兼ねて番組にしてくれないかってね」


……本当に依頼したのか。

昔からいつものことだったが、鞠莉は突拍子のないことでも本当に実行してしまうから恐ろしい。
74 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:40:23.27 ID:SnVGEAuwO
高森「それで、11時頃に出るロープウェイに乗って来てくれませんかって連絡を受けてたんだけど……何だか妙なのよ」

ダイヤ「妙、とは?」

高森「カメラマン何人か連れて来る予定だったんだけど、時間になっても来ないもんだからどうしたものかってね」

高森「電話したら、みんな口を揃えて『小原さんから、翌日にずらして欲しいって連絡があった」なんて言うんだもの」

高森「私はそんな連絡受けてないし、Aqoursのみんなは集まってるし、なんでかなーって」
75 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:40:53.96 ID:SnVGEAuwO
ルビィ「そんな筈はないと思うけど……マネージャーさんとは明日までって話をしているのになあ」

高森「まあ、黒澤ちゃんのマネージャーって結構そういうところ厳しいからね」

ルビィ「マネージャーさんと知り合いなんですか?」

高森「ええ。スクールアイドルから芸能人になった人は他にもいるし、そういう人たちのこともよく知ってるわ」
76 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:41:56.95 ID:SnVGEAuwO
曜「でも、確かにヘンだよねえ。私たちにもそんな話伝わってないし」

梨子「誰か、善子ちゃんか鞠莉さんに電話した?」

果南「一応してるんだけど……出ないね」

花丸「どうせ二人で何か企んでるずら」

梨子「……」


何とも言えない感覚に、私は肩を震わせる。

悪寒とまではいかないにしても、雨天からくるものでは決してない。

例えるなら、何か良くないことが起こりそうな……そんな予感。

折角のAqours再集結なのに、何故。

そんな私の思いを置き去りにするように、8人を乗せたロープウェイは山を登っていった。
77 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:43:21.47 ID:SnVGEAuwO


千歌「おー……」

ダイヤ「雨天でなければ完璧でしたわね」


ゴンドラを降りると、そのリゾートは眼前に広がっていた。

手入れの行き届いた洋風庭園に囲まれた、瀟洒な別荘という言葉がピッタリな建築物。

屋外プールも完備しており、各部屋にテラスがついているらしいこともここから窺える。

周囲は鬱蒼とした森林、ロープウェイとヘリポート以外に道らしき道は無い。

けれども、その建物は閉鎖的な印象を全く感じさせなかった。
78 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:44:21.28 ID:SnVGEAuwO
曜「外も凄かったけど……」

ルビィ「中も綺麗……」


大理石の床、待合い用の大きなソファ、ガラス張りのテーブル、煌びやかなシャンデリア。

天窓からは、フロストガラスである程度緩和された太陽光が差し込むのだろう。

今は生憎の雨で、明かりの主役はシャンデリアなのだが。
79 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:45:25.29 ID:SnVGEAuwO
高森「……いないわね、小原さん」

千歌「善子ちゃんもどこ行ったんだろう」


こういう時、「Ciao〜♪」とハイテンションで出迎えるのが鞠莉だった筈なのに。

従業員との打ち合わせ……にしては、私たち以外誰もいないように感じられる。
80 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:46:08.28 ID:SnVGEAuwO
果南「ねえ、気になったんだけど」

梨子「これは……ルームキー?」


ロビーの中央、一番大きなテーブル。

そこに、8つの鍵が置かれていた。

高海様、渡辺様、桜内様……

全て、鍵の下にワープロ打ちの紙が置かれている。

つまり、この鍵を取れ、ということなのだろう。
81 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:46:57.29 ID:SnVGEAuwO
そして、一緒に置かれていた一枚の手紙。


『Aqoursの皆様、正午になりましたら再度ロビーにお集まりください』


梨子「何だか、かなり凝ったことするのね」

果南「そういうことだったら、大人しく待ってあげよっか」
82 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:47:30.54 ID:SnVGEAuwO
ダイヤ「……ところで。私とルビィ、どちらがどちらの鍵か分かりかねるのですが」

ルビィ「どっちも『黒澤様』って書いてる……」

果南「んー……部屋番号を見た感じ、片方は私の隣でもう片方はマルの隣みたいだし」

花丸「じゃあ、こっちがルビィちゃんの鍵ずら」

ダイヤ「では、私はこちらを」
83 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:48:26.99 ID:SnVGEAuwO
千歌「とりあえず、お部屋に荷物置いて来ようよ」

梨子「そうね。癪だけど鞠莉さんと善子ちゃんの企みに乗ってあげましょう」


私たちは皆、バス停からそこそこ距離のあったロープウェイ乗り場まで雨の中歩かされているのだ。

それに、仕事の関係などで荷物の量が他より多い人もいる。

千歌と私の提案に、反対する者は誰もいなかった。
84 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:50:48.32 ID:SnVGEAuwO



ガシャリ、グシャリ。

誰にも気づかれないようロープウェイ乗り場へ行き、ハンマーで制御装置を力任せに破壊する。

これで、このリゾートは陸の孤島と化した。

この作業が終わったら、次はあれをロビーに置かねば。
85 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:51:58.73 ID:SnVGEAuwO


外装やフロントが豪華なら、部屋も当然ながら豪華だ。

ベージュのカーペットに、優に3人分の幅はあるベッド。

テラスの向こうは、依然として雨。

こういうテラスで日光を浴びながら優雅に紅茶、と洒落こみたいところだが、今日は出来そうにない。
86 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:52:47.30 ID:SnVGEAuwO
時間まですることもないので、備え付けのテレビを見ながら色々考える。

何故鞠莉と善子は揃って音信不通なのか。

破天荒な2人のことだ。もしかしたら、壮大なドッキリでも仕掛けているのかも知れない。

ドッキリでなくとも、ここまで姿を見せないからには何かがある。

二人揃って電話にも返事がないのはいささか不自然だ。
87 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:54:05.78 ID:SnVGEAuwO
梨子「…………」


気づけば、約束の正午まであと5分。

学生時代に習った5分前行動の精神とやらは身体からそう簡単に抜け出ないもので。

着替えようかとも思ったが、結局そのまま部屋を出た。
88 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:54:46.66 ID:SnVGEAuwO
────正午、ロビー。


再び集合した8人。

けれど、やはり2人の姿はなかった。


ダイヤ「あの2人は一体何をしているんですの……」

果南「まあまあ落ち着いて」

ダイヤ「全く、果南さんは相変わらず甘いのですね」
89 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:55:17.57 ID:SnVGEAuwO
高森「でも、本当にどうしたのかしら」

ルビィ「んー……あれ、またテーブルに何か……」


大テーブルのど真ん中。

何かが置かれているが、身を乗り出さないと取れないだろう。
90 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:56:28.93 ID:SnVGEAuwO
千歌「とうっ!」


行儀が悪い、を我先にと実行した千歌が、それを手に取った。


千歌「鍵と紙だね。小原CEO……え?」


鞠莉の部屋の鍵と、それを示す紙……らしいのだが。
91 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:57:02.63 ID:SnVGEAuwO
千歌「きゃぁぁっ!?」


何かに驚いたように、千歌はその2つを放り投げた。


梨子「どうしたの?」

千歌「だって、あの紙……」


曜「これ……血じゃないの!?」
92 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:58:28.79 ID:SnVGEAuwO
梨子「っ!?」


曜が拾ったその紙には、血痕らしき真っ赤な染みが付着していた。

まさか。嫌な予感が一瞬にして湧き上がる。


「「…………」」

誰も言葉を交わさぬまま、鍵が示す部屋へと一斉に駆け出した。
93 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 02:59:56.37 ID:SnVGEAuwO
────鞠莉の部屋。


果南「嘘……」

ダイヤ「鞠莉、さん……?」


2人の声を切っ掛けに、悲鳴が廊下に反響する。
94 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 03:01:38.98 ID:SnVGEAuwO
小原鞠莉は、そこにいた。

いや、あった、という方が正しいだろうか。


床に横たわる身体。

備え付けの小さなテーブルに掛けられた、魔法陣らしきものが描かれた黒い布。

その上に、小原鞠莉の首が乗せられていたのだ。
95 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/11(日) 03:02:52.92 ID:SnVGEAuwO
今回はここまで。

アキバレポーターは本名が設定されていないようなので、ここでは中の人から取って高森で行きます。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/11(日) 09:56:41.98 ID:YN5aS/jw0
元ネタ的にやはり何人か死んでしまうのか…
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/11(日) 12:03:23.22 ID:ZQnLeseDO
一見すると善子がやったように見えるけど中二卒業してるしなあ
本人の姿が見えないのが気になる
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/11(日) 14:50:29.18 ID:ubHZrCsMo
内容に不満があるとかじゃなくて、これからも結構グロイ描写があるなら、Rの方でやった方がいいかもね
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/12(月) 23:18:25.67 ID:XR5hgI1DO
今回の梨子ちゃんは探偵側かな
100 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 01:56:45.81 ID:OK/bdtscO
────12時半頃、ロビー。


千歌「……ココア入れてきたよ、果南ちゃん」

果南「ありがとう」

梨子「ダイヤさんも、どうぞ」

ダイヤ「……どうも」
101 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 01:57:46.09 ID:OK/bdtscO
高森「状況は芳しくないわね」

曜「……警察、しばらく来られないよ」

外に出ていたらしい曜と高森が、ずぶ濡れの身体で戻ってきた。

すっとタオルを差し出しながら、どういうことだと尋ねる。
102 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 01:58:44.59 ID:OK/bdtscO
高森「ロープウェイを動かす装置がね、壊されてたのよ」

曜「色々試してみたけど、ゴンドラがビクともしなかった」

花丸「で、でも……警察のヘリコプターとかなら」

高森「そう思ったんだけどね……」

ケータイを見て、と促される。
103 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:00:18.62 ID:OK/bdtscO
ルビィ「嘘……」

梨子「圏外……」


機械と基地局が何らかの形で繋がっていたせいだろう、誰かがそう推理した。

小原グループCEOが死に、今ここに居るであろう唯一の社員の行方が掴めない以上、機械に関する是非は分からない。

ハッキリと分かるのは、私たちは外部との連絡手段もないまま、揃ってこのリゾートに閉じ込められたこと……ただそれだけだった。
104 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:01:25.48 ID:OK/bdtscO
果南「ねえ、まさかだけど」

果南「鞠莉を殺したの、善子なのかな」

ダイヤ「果南さん!」

果南「だってそうでしょ? あの布は善子の持ち物だったし、彼女だけどこにもいないんだよ」
105 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:02:19.00 ID:OK/bdtscO
花丸「善子ちゃんがそんなことする筈ないずら!」

ダイヤ「そうですわ。Aqoursの一員だった善子さんが、何故鞠莉さんを……」

果南「じゃあ、誰がやったんだろうね」


ゾクリ、と身体が悪寒を感じたのは……気のせいだろうか。
106 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:03:22.11 ID:OK/bdtscO
果南「ごめん、気分悪くなったから部屋に戻ってる。何かあったら……内線電話でも部屋に直接来るでもいいからさ」

「昼食は要らないから」と言い置き、鍵を持った果南は一人ロビーを去った。


ルビィ「でも、善子ちゃんが犯人じゃないとしても……犯人、まだどこかに居るのかな」

梨子「分からない。例えば、誰かに恨みを買っていた、とか……?」

高森「確かに、大企業の社長ともなれば本人も知らないところで恨みを買うことはおかしくないけれど……」
107 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:04:29.62 ID:OK/bdtscO

グ〜〜〜ッ


「「…………」」

千歌「……ごめん、朝から何も食べてなかったから」


突然の腹の虫の音に、どうしようもなく緊張がほぐれる。

幸いにもキッチンに食材が搬入されていたので、軽い昼食を摂ることにした。

……結局皆あまり箸が進まず、胃に無理やり押し込んだせいで料理の味もほとんど分からなかったのだが。
108 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:04:58.60 ID:OK/bdtscO
────13時半頃。


ダイヤ「軽くお昼作りましたので、一応置いておきます」

果南『いいって言ったでしょ?』

ダイヤ「ですが……」

果南『……勝手にして』
109 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:05:32.71 ID:OK/bdtscO
ダイヤ「…………」ハァ

梨子「何だか果南さん、変わりましたね」

ダイヤ「ダイバーショップがなくなってから、果南さんはああです」

梨子「髪を切ったのも、もしかして……」

ダイヤ「ええ。千歌さんとお揃い、と本人は言っていましたが……」
110 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:06:36.40 ID:OK/bdtscO
ダイヤ「何より、店がなくなったのは……」ハッ

ダイヤ「……とにかく、私は失礼します」

梨子「……? 施錠はしっかりしてくださいね」

ダイヤ「分かっていますわ」ガチャリ


自室へ戻るダイヤを見送り、私も部屋へ向かった。
111 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:07:36.51 ID:OK/bdtscO
────梨子の部屋。


梨子「んー……」


分からない。この事件は謎が多すぎる。


まず一つ、何故犯人は鞠莉の首を切断したのか。

鞠莉の死体には、首を絞めたような跡がはっきりと残されていたのを確認している。

仮に彼女を殺すだけなら、絞殺死体でも十分なのではないだろうか。
112 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:09:25.83 ID:OK/bdtscO
二つ。何故犯人は犯行を善子の仕業のように見せかけているのか。

首が狩られていた件についても、かつて善子がハマっていた黒魔術、その類の見立てと考えれば一応辻褄は合う。

現に善子の持ち物である魔法陣の描かれたクロスが使われたのだから、彼女が犯人と考えるのが自然ではある。
113 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:10:18.57 ID:OK/bdtscO
しかし、もし彼女が犯人ではないと仮定した場合。

犯人はその偽装を、“Aqoursの皆”に見せつけたのだ。

全盛期ならいざ知らず、5年経った今でもその名前を紙に記し、私たちを誘導した。

度の過ぎたファンの仕業か、或いは。
114 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:11:24.21 ID:OK/bdtscO
梨子「まさか」


『私たちの中に、犯人がいる』

あまりしたくない想像を保留として、思考を次へ進める。
115 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:12:44.43 ID:OK/bdtscO
三つ目。何故犯人はロープウェイを使えなくしたのか。

ワープロであんな紙を用意していたことと言い、私たちをここに閉じ込めたことといい。

一連の犯行には、計画性が滲み出ている。

犯人はこの後も誰かを狙っているのだろうか、そんな考えが頭をよぎった。
116 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:13:50.71 ID:OK/bdtscO
梨子「そうだ、内線」


果南はあの時、内線電話について触れていた。

当然、この部屋にも備え付けの電話機が設置されている。

薄い期待を胸に受話器をあげ、1、1、0のボタンを押してみる。
117 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:14:36.55 ID:OK/bdtscO
梨子「……やっぱりダメか」


繋がらない。外部への連絡手段は全て絶たれている。

夕飯時までベッドで寝転がっていようか。そう思った矢先。

プルルルル、とさっき切ったばかりの室内電話が鳴り出した。
118 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:15:24.44 ID:OK/bdtscO
梨子「もしもし」

果南『もしもし、私。さっきはごめんね』

掛けてきたのは果南だった。別段何かが起こったワケでもないらしい。

梨子「いいですよ、そんな……」
119 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:18:32.44 ID:OK/bdtscO
果南『私ね、梨子ちゃんが羨ましいって思う』

梨子「……?」

果南『鞠莉が死んだ時、梨子ちゃんは私やダイヤを気遣ってくれた』

果南『でも、私自身は鞠莉があんな死に方をしたのに全く悲しめてなくてさ。死んだのか、程度にしか思えなくて』

梨子「果南さん……」
120 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:20:37.25 ID:OK/bdtscO
果南『梨子ちゃんも気を付けた方がいいよ。2年で変わらなくたって、5年も経てば人は変わるんだから』

梨子「っ……」

果南『それじゃあ、夕飯の時になったら教えてね』ガチャッ ツー ツー ツー

彼女の言葉に、私は何も言い返すことが出来なかった。


──ねえ、梨子ちゃん。あのこと、私は忘れてないからね。


同時に、何となく千歌のことが気になったが……結局、電話を掛けることも、直接部屋に行くことも出来なかった。
121 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:21:05.45 ID:OK/bdtscO
────14時頃、千歌の部屋。


千歌「──うん、多分そういうことだから。じゃあね」 ガチャリ

千歌「……ハァ」
122 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:22:06.51 ID:OK/bdtscO
鞠莉の死体を目にした時、「当然だ」という感情しか湧かなかった。

理由はどうあれ、彼女はそういう運命だった。然るべき報いを受けたのだ。

千歌「…………」

いつからだろう。いつからこうなってしまったんだろう。
123 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:22:36.40 ID:OK/bdtscO
千歌「……雨、まだまだやみそうにないね」

カーテンを閉め、ベッドに軽くダイブする。

千歌「まったく、都合が良いんだか悪いんだか」

その呟きを聞く者は、ここにはいなかった。
124 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:24:01.21 ID:OK/bdtscO
────15時頃、花丸の部屋。


花丸「善子ちゃんが犯人なワケ、ない……」

絞り出すように呟いた。

あの状況では善子に疑いが向くのは無理もないだろう。

現に果南は疑っていたし、他の皆もその方向に傾いているかも知れない。

何しろ、彼女の消息は自分にさえ分からないのだ。

けれども津島善子が人殺しをするような人間でないことは、自分が一番分かっている。
125 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:24:30.05 ID:OK/bdtscO
善子『ずら丸、私、番号がない……』

花丸『嘘……だって、405、406、よんひゃくは……』

善子『…………』

学科は違っても、一緒の大学に行こう。

そう誓って一緒に勉強したけれど、善子は受験に失敗した。
126 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:25:31.61 ID:OK/bdtscO
善子『何で私に構うのよ……あんた今日講義あるんでしょ?』

花丸『善子ちゃんが部屋から出るまで、ここにいるずら』

善子母『ごめんなさいね、いつも』

花丸『いえ、お構いなく』

善子『…………』

やがて彼女は、浦の星入学当初のように引き籠ってしまった。
127 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:26:22.16 ID:OK/bdtscO
花丸『昨日、ルビィちゃんがテレビに出てたずら』

善子『知ってる。芸能事務所入ったんでしょ』

善子『私もあんな風に、輝いてたのにね……』

善子『あの頃に、戻りたい……』

花丸『…………』

出席日数に影響の出ない範囲で、ずっと善子に構い続けた。
128 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:27:24.33 ID:OK/bdtscO
善子『ずら丸、今日空いてる?』

花丸『空いてるけど……どうしたの?』

善子『スーツ買いに行くから、付き合って頂戴』

花丸『スーツ……?』

やさぐれていた彼女は、ある日を境に突如活発になった。
129 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:28:17.97 ID:OK/bdtscO
善子『この前、マリーが家に来てね。今度社長になるから、何ならウチで働かないかって』

花丸『おぉう……だからってこんな急に変わるものずらか』

善子『何だっていいの。これでニート脱出、リア充への第一歩よ!』

ビフォーアフターっぷりに最初は面食らったが、何はともあれ善子が引き籠りから脱却したことを喜んだ。

そして、彼女を救ってくれた鞠莉に感謝した。
130 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:29:45.16 ID:OK/bdtscO
それが、今。

鞠莉が死に、善子がその容疑者だと思われている。

花丸「……」ハァ

こうなってしまうのは仕方ないこと、なのだろう。
131 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:30:13.73 ID:OK/bdtscO
コンコン。

誰かがドアを叩く音。ルビィだろうか。

「はーい」と返事をし、ドアを開けた。
132 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:30:41.42 ID:OK/bdtscO
────16時頃。

プルルルル プルルルル

梨子「…………ん」

いつの間にか寝てしまっていた私を、電話の音が起こした。

梨子「……もしもし」

寝ぼけ眼を擦りながら、応答する。
133 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:31:11.94 ID:OK/bdtscO



『────助けて、殺される!』




そのSOSで、私の眠気は霧消した。
134 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:33:11.82 ID:OK/bdtscO
今回はここまで。

すっかり忘れていましたが、全員の部屋割です。

135 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/18(日) 02:36:15.21 ID:OK/bdtscO
……アップローダー側のエラーなのかそれともこちら側に問題があるのか

よく分からないので念のために
https://gyazo.com/64fd497b0bca02c0816f2f469db64ce3

今度こそ今回はここまで。
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/06/18(日) 12:50:37.11 ID:lIrPYmvDO
2年で変わらなくたって〜のくだりでゾッとした
マリー何やったんだよ…
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/18(日) 14:29:38.65 ID:WcxPAKvRo
つまんね
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/18(日) 21:51:04.37 ID:ElGD4bQvo
おつ
続きが気になる〜
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/22(木) 22:09:20.94 ID:ItDOrnPEo
>>135

http://i.imgur.com/2614FLr.png
140 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:28:25.68 ID:bpoy+28wO
梨子「花丸ちゃん、どうしたの!?」

電話の主は花丸だった。だが、様子が明らかにおかしい。

花丸『ダイヤ、さ、やめ……ガハッ!?』ザクッ

梨子「え……?」

花丸『あっ ギっ があ˝Aあア˝っ!!!?』ザシュッ ズシャッ ズチュッ
141 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:29:20.94 ID:bpoy+28wO
何度も何度も、刃物で肉体を刺す生々しいサウンドが耳に入る。

梨子「もしもし、もしもし!?」

『ぁ…………』



『…………』ガチャッ ツー ツー ツー
142 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:30:17.82 ID:bpoy+28wO
梨子「…………」

通話を一方的に切られ、断末魔が物理的に途絶える。

あまりにも一瞬すぎる出来事に、脳の処理が追い付いていない。

花丸が襲われ、恐らく殺された。それだけでも十分すぎることなのに。

私はこの耳で、はっきりと聞き取ったのだ。




『あなたが、鞠莉さんを……!』




彼女を刺す音に混ざるようにして、憎しみの籠った黒澤ダイヤの声を。
143 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:31:04.37 ID:bpoy+28wO
廊下に出ると、間髪入れず曜と鉢合わせした。

曜「あれ、どうしたの? すっごく顔色悪いけど……」

梨子「話はあとよ、3階に急がないと!」

曜「え、ちょっと、何!?」

困惑している曜の手を引いて、エレベーターホールへと駆けた。
144 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:31:44.44 ID:bpoy+28wO
────3階。

花丸の客室が位置しているのはエレベーターを降りてすぐ、306号室。

部屋の前には既に、ドアを何度も叩く先客がいた。

ルビィ「花丸ちゃん! ねぇ、花丸ちゃん!?」ドンドン


事情をまだ知らない曜が「どうしたの?」と尋ねる。

ルビィ「花丸ちゃんの部屋からヘンな声が聞こえたから……でも、何度呼んでも出なくて……!」

果南「なんだかうるさいけど……」

高森「何かあったの?」

騒ぎを聞きつけ、高森、果南も廊下へと現れた。
145 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:33:03.42 ID:bpoy+28wO
私がかいつまんで事情を話す。

電話があったこと。花丸が襲われたこと。

犯人がダイヤであるらしいことは……言いかけて、結局喉元でつっかえた。

もしそれが真実ならば、目の前にいる赤髪の少女にはあまりにも酷な現実を二ついっぺんに突きつけてしまうことになる。


高森「じゃあ、国木田さんはもう……」

梨子「まだ何とも言えない。けれど、鞠莉さんが殺されてる以上、確認しないワケには……」

曜「私、マスターキー探して来る!」
146 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:34:14.47 ID:bpoy+28wO
千歌「どうしたの? さっき曜ちゃんとすれ違ったけど」

名乗りを上げエレベーターへと急ぐ曜と入れ違いに、千歌が現れた。

梨子「あ、えーと……」
147 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:35:06.33 ID:bpoy+28wO
曜「梨子ちゃん、これ!」

千歌に事情説明をしているうちに、マスターキーを手にした曜がフロントから戻ってくる。

パスされた鍵をキャッチし私は、鍵穴へそれを差し込んだ。

ギィィィ。

オートロック式の重たい扉が開かれ、皆一斉に部屋へとなだれ込む。
148 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:36:04.21 ID:bpoy+28wO
梨子「花丸、ちゃ……」

飛び込んできた光景は、反射的に目を背けたくなるほどに凄惨だった。

真っ赤に染まったベッドの上には、ゴミでも捨てるかのように無造作に置かれた身体が。

滅多刺しにされたということが嫌でも分かるくらいに、衣服にもでかでかと赤い染みを作っている。
149 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:37:01.43 ID:bpoy+28wO
ルビィ「花丸ちゃん、花丸ちゃんが……いやぁぁぁぁぁぁぁ!?」

そして、部屋の隅にあるテーブルには、鞠莉の時と同様に。

血の気の失せた花丸の首が、魔法陣の描かれたクロスに乗せられていたのだ。
150 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:37:39.77 ID:bpoy+28wO
視界の端に、泣き叫ぶルビィと、苦い顔をして彼女を連れ出す曜と果南の姿が映る

私は無意識のうちに唇を噛んでいた。

もし、あのSOSに早く対応出来ていれば、花丸が命を落とすことはなかったのだろうか。

実際には無理だと言われたとしても、一縷でもその可能性があった以上、私は悔しくてたまらなかった。
151 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:38:21.49 ID:bpoy+28wO
高森「ねえ、これって……」

高森の声で我に返る。

部屋の窓が開いていて、ベランダから1本のロープが垂らされていた。

雨の降る中、犯人はここから逃げたのだろう。


千歌「ところで、ダイヤさんが見当たらないけど……」

梨子「…………」

やっぱり、彼女のことも話した方がいい。

そう判断して、私は残っていた2人と一緒に部屋を出た。
152 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:39:44.31 ID:bpoy+28wO
曜「……ルビィちゃんは、向こうの果南ちゃんの部屋にいる」

306号室を出ると、曜が待っていた。

曜「果南ちゃんだって、鞠莉ちゃんがあんなことになって辛い筈なのに……」

梨子「っ……」

少し前に果南本人から話を聞いているせいで、つい「本当にそうなんだろうか」と無意味な反論をしそうになる。

梨子「……実は、さっきの電話のことなんだけどね」

衝動をぐっとこらえ、代わりに姿を見せないダイヤに関することを口にした。
153 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:40:45.96 ID:bpoy+28wO
高森「……それ、本当なの?」

梨子「犯人が前もってダイヤさんの声を録音していてそれを流した、ってなったら話は変わるけど、間違いない」

千歌「ダイヤさんが犯人だったら……もう、逃げたのかな」

曜「どうして?」

千歌「だって、ベランダにはロープが掛かってたし、梨子ちゃんに声を聞かれてるんだよね?」

高森「確かに筋は通っているけど……」
154 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:42:42.42 ID:bpoy+28wO
高森の言う通りだ。

花丸を殺そうとしたが電話でSOSをされ、それに気づかないままダイヤ本人の声が乗り、逃亡。

一見辻褄は合っているが、そうすると何故魔法陣クロスを再び用いたのかという疑問が残る。

津島善子=犯人のシナリオの次は、黒澤ダイヤ=犯人のシナリオ。

犯人はどうしてそんな回りくどいことをしようとしているのだろう。

何より、私たちはもっと根本的な何かを忘れているような……そんな気がしてならなかった。
155 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:43:38.74 ID:bpoy+28wO
曜「とにかく、一旦部屋に戻ろう」

高森「……そうね」

千歌「…………」

梨子「あ、千歌ちゃん」

千歌「なに?」

向けられた視線に、何故か異様な冷たさを感じた。
156 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:45:09.11 ID:bpoy+28wO
梨子「ちょっと、話があるんだけど」

千歌「……別にいいけど」

怯まず、私は彼女を部屋へ招く。

今のうちに、違和感を払拭しておきたかった。
157 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:45:48.12 ID:bpoy+28wO
────梨子の部屋。

梨子「はい、これ」

千歌「ありがと。それで、話って?」

備え付けのティーパックをゴミ箱に捨て、沸かしたばかりの緑茶を差し出す。

「あちっ」とカップを口から離す動作を見ていると、やっぱり千歌は千歌だ、とどこか安心する自分がいる。
158 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:46:54.07 ID:bpoy+28wO
梨子「前に千歌ちゃん“あのこと、忘れてないから”って言ってたけど……」

千歌「あー……あれね。うん、忘れて」

梨子「え?」

千歌「勢いで言っちゃったけど、あれ、私の自分勝手でしかないから」

梨子「どういうことなの? 話が全然見えないんだけれど」

千歌は、言おうかどうかを迷っているような節が見えた。

けれども少し考える動作をして、やがて紅茶を飲み干し、語り始めた。
159 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:47:40.43 ID:bpoy+28wO
千歌「梨子ちゃん、東京の音大に通ってたんでしょ?」

梨子「うん、そうだけど……」

千歌「梨子ちゃんのお母さんから聞いたんだ。教員免許取れる方の学科も受験したけど、結局ピアノ専攻の学科にしたって」

梨子「確かにそう。浦の星で音楽教師をやってみるのもいいかなって思って」
160 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:48:10.07 ID:bpoy+28wO
千歌「私もそれを聞いて、教職課程の単位を取れる大学を選んだの」

千歌「曜ちゃんもその予定だったんだよ? 飛び込み選手もいいけど、浦の星で体育教師も捨てがたいって」

結局、家の仕事が忙しくて大学には行けなかったけど。伏目がちに、千歌は付け加えた。
161 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:48:57.55 ID:bpoy+28wO
梨子「……なるほど。そういうことだったのね」

ようやく彼女に関する謎が解けた。

私と千歌と曜。いつか3人で、一緒に浦の星で働く。

千歌はそれを夢見ていたのだ。
162 : ◆8TImjtGSKs [saga]:2017/06/25(日) 01:49:54.54 ID:bpoy+28wO
千歌「ごめんね。考えてみれば、梨子ちゃんには梨子ちゃんのユメがあるんだし」

梨子「いいよ、そんな……」

千歌「結局、私も大学は中退しちゃったからね。お母さんたちにすっごく怒られた」

てへ、と舌を出す千歌。

なんだ、蓋を開けてみれば単純な話だったのか。

安堵しかけた表情は……しかし、次に紡がれた言葉で再度こわばることになる。
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