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梨子「5年目の悲劇」
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163 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 01:50:30.38 ID:bpoy+28wO
千歌「……ところでさ」
梨子「?」
千歌「誰が鞠莉ちゃんと花丸ちゃんを殺したんだろうね」
千歌の視線と声色が再び、暗さと冷たさを帯びた。
164 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 01:52:34.84 ID:bpoy+28wO
梨子「でも、ダイヤさんが犯人だって言ったのは千歌ちゃんじゃ……」
千歌「そんなワケないじゃん。紙なんかを前もって準備したりしてかなり計画を練ってるのに、電話で声を出してしまうなんてミスをすると思う?」
梨子「それは、そうだけど……」
千歌「それに、梨子ちゃんの話が本当ならダイヤさんは花丸ちゃんが鞠莉ちゃんを殺したって思ったことになるでしょ? 何でそうなるの? どうやって知ったの?」
まくしたてる千歌に、ただただ気圧される。
165 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 01:53:52.29 ID:bpoy+28wO
千歌「何でっていえば……言っておくよ。花丸ちゃんは分からないけど、私には鞠莉ちゃんを殺す動機はある。ああ、果南ちゃんもね」
梨子「ちょっと、どういうことなのそれ!?」ガタッ
突然すぎる告白に、私は思わず椅子から立ち上がる。
166 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 01:54:53.01 ID:bpoy+28wO
千歌「話はおしまい。犯人推理するなら頑張ってね」
梨子「ちょっと、千歌ちゃん!」
足早に部屋を出た千歌を追いかける。
彼女は自室、203号室に入り扉を閉める。これ以上の追求は許してくれなさそうだ。
167 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 01:55:29.69 ID:bpoy+28wO
梨子「……あ」
諦めて部屋に戻ろうとして、私は気づいた。
まずい。鍵を持たないまま部屋を出てしまった。
客室の扉はオートロック式。このままでは部屋に入ることが出来ない。
168 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 01:56:28.64 ID:bpoy+28wO
高森「あら、どうしたの?」
マスターキーは誰が持っていただろうか。
そんなことを考えながら、念のためフロントに確認するためエレベーターへ向かうと、偶然にも高森と鉢合わせした。
梨子「ちょうど良かった。実は……」
169 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 01:57:47.13 ID:bpoy+28wO
────高森の部屋。
高森「それなら、私が保管してるわ。一番の年長者が預かっててくれると安心だ、ってね」
そう言われ、私は彼女の部屋、305号室へと案内された。
彼女の机には、スケジュールがびっしり詰め込まれている紙や、Aqoursの記事が載った雑誌などが置かれている。
170 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 01:58:38.37 ID:bpoy+28wO
高森「こういうところって大体オートロックだからね。気を付けなよ?」
梨子「ありがとうございます」
マスターキーを受け取り、ぺこりとお辞儀をする。
返すのは夕飯の時でいいよ、と付け加えられた。
171 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 02:00:00.49 ID:bpoy+28wO
梨子「そういえば高森さんって、今でもスクールアイドルのイベントに携わっているんですか?」
高森「うーん……ちょっと違うかな。今は、『昔スクールアイドルだった人』のお仕事に携わってる」
高森「黒澤ちゃんや、元μ’sの矢澤ちゃんみたいにね。あと、元Saint Snowの2人なんかも」
梨子「あー……」
ラブライブ大会以降、Saint Snowともしばらく会っていない。
懐かしい名前に、あの頃に引き戻されたような感覚になる。
172 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 02:01:11.31 ID:bpoy+28wO
高森「あの時はごめんね、0票の紙……辛かったでしょ?」
梨子「いえ、そんな……」
高森「隠さなくていいんだよ。顔に出てる」
梨子「……辛かった、です。みんな落ち込んでました。特に千歌ちゃん」
確かに辛かった。けれども一度壁にぶち当たったからこそ、私たちAqoursは軌道に乗り始めた。
……その軌道は、もう二度と元通りにはならないくらいに血塗られてしまったのだが。
173 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 02:01:46.26 ID:bpoy+28wO
高森「μ’sやA-RISEが解散してから、スクールアイドルは数が爆発的に増えて、競争主義が目立つようになっていった」
高森「私は何だかそれが我慢出来なくてね。だって、観る人を楽しませるのもそうだけど、自分たちが楽しくなければやってる意味はあるのかなって」
高森の言葉に、初めてAqoursがスクールアイドルとしてラブライブに登録した日を思い出す。
5000グループ、或いはそれ以上のグループの中で、あの時、私たちは頂点に輝けたのだ。
174 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 02:02:31.98 ID:bpoy+28wO
高森「そんな時、あなたたちAqoursが現れた。めいいっぱいに楽しんで、輝こうとしているスクールアイドルに」
高森「私ね、期待してたの。一度スクールアイドル界隈の現実を見せて……そのあとでも輝けるのかなって」
高森「もしそれで辞めちゃったら、私の責任だった。でも、あなたたちは再び舞台に戻ってきた。まさか昔のAqoursまで連れて来るとは思わなかったけどね」
苦笑する高森。
昔のAqours……彼女は、ダイヤたちのことも知っていたのだろう。
175 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 02:03:09.38 ID:bpoy+28wO
高森「いま黒澤ちゃんたちの仕事に移ったのは、あれ以来、競争が激化しすぎて見ていられなくなったからなの」
梨子「そうだったんですね……」
高森「だから、あのAqoursがまた集まるって聞いた時はすっごくワクワクしたのよ」
それが、こんなことになるなんて。
私は、犯人への怒りが己の中に湧いてくるのを感じていた。
176 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 02:03:53.10 ID:bpoy+28wO
梨子「……なんだか、ごめんなさい」
高森「いいのいいの。5年って、人をこうも変えてしまうのかなって、ちょっと悲しくなっただけだから……」
物憂げな言葉に居たたまれなくなって、私は話を切り上げて高森の部屋を出た。
177 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 02:04:24.95 ID:bpoy+28wO
エレベーターの『▼』のボタンを押す。
ふと、思った。
高森は一体何の用があってエレベーターに乗っていたのだろう。
結局その答えは分からないまま、夕食の支度が始まりそうな時間になった。
178 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/25(日) 02:05:03.39 ID:bpoy+28wO
今回はここまで。
179 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/25(日) 09:01:20.18 ID:tRiRehFDO
千歌ちゃんがすっごい怪しい…
180 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/25(日) 18:11:01.47 ID:Ib8ngptpO
怪しくないのがダイヤと善子ぐらい
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/27(火) 16:37:35.94 ID:ILFTTQEDO
>>63
からの犯人視点?は実は善子が殺されてるとか......? どうだろ
182 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/27(火) 20:11:55.41 ID:Oq19cIVN0
なんとなくだけどもうダイヤも善子も生きてなさそう
183 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/27(火) 23:09:04.10 ID:IdrNbd7SO
まあ金田一やコナン的には死んでるだろうね
184 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/28(水) 00:52:42.08 ID:XGo2BZ+To
>>1
がしねばいいのに
185 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/28(水) 03:21:35.32 ID:69c3LbbDO
桜内少女の事件簿...
186 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:06:58.45 ID:tV5HRLQYO
────17時頃、食堂のキッチン。
曜「なんで二人が殺されなきゃいけないんだろう」
梨子「分からないよ、そんなの」
スープの煮える大鍋をかき混ぜながら、曜が尋ねる。
結局、夕食は私と曜の二人で作ることになった。
食堂には今しがた果南とルビィが現れ、席で待機している。
千歌と高森もいずれ来るだろう。
187 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:07:42.27 ID:tV5HRLQYO
曜「そうだよね……。私にも理由は分からないし、しばらく東京にいた梨子ちゃんなら尚更、だよね」
梨子「うん……」
梨子「(5年も経てば人は変わる、か……)」
果南や高森の言葉が胸に刺さる。
一度殺されて、更に首を切断される。どんな恨みを買えばそうなるのだろう。
188 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:08:54.04 ID:tV5HRLQYO
曜「そういえば、水泳辞めた理由、梨子ちゃんには教えてなかったよね」
梨子「……うん」
曜「……本当はさ、水泳続けたかった。でもパパが身体壊しちゃって」
曜「ほら、私、パパと二人で暮らしてるから……」
曜「悔しかった。けど、私が仕事をしないと生活が出来ない。だから夢を諦めた」
曜「でも鞠莉ちゃんも花丸ちゃんは、これからって時じゃない……」
189 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:09:37.82 ID:tV5HRLQYO
梨子「曜ちゃん……」
ギリ、と奥歯を噛みしめる音がこちらの耳にまで届く。
大企業の社長と小説家志望。二人とも、確かな未来や夢があったのに、殺された。
……水泳選手を諦めた曜にとっては、それがかなり堪えたのだろう。
私はまたしても、返す言葉を失っていた。
190 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:10:57.85 ID:tV5HRLQYO
梨子「……痛っ」
不意に、左手に軽い痛みが走った。
曜「大丈夫!?」
梨子「うん、大丈夫……」
手元が狂って、包丁で指を切ったらしい。
恐らくまだ新品であろう真っ白なまな板に、じわりじわりと赤い染みが広がってゆく。
怪我人に仕事をさせるワケにはいかないと待機する側へと移され、残りの工程は全て曜に任せる形になった。
191 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:11:34.08 ID:tV5HRLQYO
食堂にいたのは、まだ果南とルビィの二人だけ。
二人とも表情は暗い。今でこそ化粧で隠しているが、ここに来る前はルビィの顔には泣き腫らした跡があったという。
指から血を流していることを心配されたが、包丁で少し切ってしまっただけだと宥めた。
……けれども、しばらくはピアノ演奏に支障が出るかも知れない。
192 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:12:40.39 ID:tV5HRLQYO
ルビィが絆創膏を持っているらしいので、私は二人で彼女の部屋へ向かうことにした。
千歌「やっほ。二人揃ってどうしたの?」
道中、千歌とすれ違い、怪我のことなどを簡潔に説明した。
千歌「そっか、お大事に」
やはり彼女の態度はそっけない。何かを隠しているのか、それとも。
193 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:13:07.52 ID:tV5HRLQYO
エレベーターに乗り、3のボタンを押す。
彼女は終始無言を貫き、気まずさだけが場に残っていた。
チン、とベルの音が鳴り、扉が開く。
梨子「────え?」
私は、私たちは、目の前にある“それ”に理解が追い付かなかった。
194 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:14:06.98 ID:tV5HRLQYO
人だ。
倒れている人。
これは誰? 高森だ。
なんで倒れてるの? 背中から包丁が生えてる。
死んでるの? 息は──ない。
195 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:14:40.97 ID:tV5HRLQYO
ルビィ「ひっ……」
直後、耳を劈くような甲高い悲鳴が3階に響き渡る。
高森が殺された。惨劇はまたしても繰り返されたのだ。
196 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:15:44.90 ID:tV5HRLQYO
────食堂。
梨子「……」
気まずい食事はこれで二度目だ。
私は、視線を合わせないように気を付けつつ、全員の表情をうかがう。
千歌も、曜も、ルビィも、果南も。表に出しているかは個人差こそあれど、誰もが3人の死を悲しんでいるように見えた。
だがきっと、この中に芝居を打っている人物がいるのだ。
……我ながら、仲間を疑うことしか出来ない自分が嫌になる。
197 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:16:22.38 ID:tV5HRLQYO
千歌「…………」ズズーッ
果南「ちょっと千歌、行儀悪いよ」
目立つ音を立ててスープを啜る千歌を窘める果南を横目に、思考を更に進める。
犯人はこの中にいる。いつしかそれは、確信へと変わっていた。
しかし、鞠莉と花丸だけならまだしも、今日久しぶりに再会したばかりの高森を殺す動機などあるだろうか。
何より、彼女だけは首を斬られておらず、刺殺されただけ。
198 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:16:59.49 ID:tV5HRLQYO
梨子「……」
私の脳内に、一つの仮説が浮上する。
マスターキーを取りに行く時に、高森とエレベーターで鉢合わせした時。
もしあの時点で彼女がこの事件に関する“何か”を掴み、それを調べる過程、或いは調べがついた後だったとしたら。
犯人によって、口封じをされた。
先の手間の凝った2件と違い、高森殺しは至ってシンプルだ。
あながち間違っていない……のかもしれない。
199 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:17:47.36 ID:tV5HRLQYO
だが仮にそうだとして、彼女は一体何を掴んだのだろう。
そして遺体の見つかった場所のことを考えると、ある明確な『壁』が生まれる。
遺体があったのは3階、エレベーターを降りてすぐ。
果南とルビィは共に3階の部屋、まして途中まで2人一緒の部屋に居たのだ。
ルビィは一度泣き腫らしの跡を隠すために自室に戻ったらしいが、どのみちエレベーターを使えば遺体があることに気付く筈だ。
勿論、果南とルビィが共犯の可能性や、2人して非常階段を使った可能性もないとは言い切れない。
200 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:18:14.25 ID:tV5HRLQYO
次に曜。彼女は私と一緒に夕食を作っていたという明確なアリバイがある。
私と行動する前に既に高森を殺し終えていた、というのならこの前提は崩れる。
しかし、これまた果南とルビィに遺体があることを騒がれてしまう可能性が大いにあるのだ。
と、なれば。
201 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:18:56.93 ID:tV5HRLQYO
千歌「ごちそうさま。私、先に部屋に戻ってるよ」
梨子「……千歌ちゃん」
千歌「ん、どうしたの?」
梨子「……いや、なんでも」
千歌「じゃあね」
当然、疑いの目が向くのは唯一アリバイのない千歌だ。
202 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:19:32.83 ID:tV5HRLQYO
梨子「…………」
曜「りーこちゃん」
彼女はこれまでも意味ありげな発言を繰り返している。
犯人がそこまで露骨なことをするだろうか。
曜「ねえ、梨子ちゃん?」
駄目だ、全然分からな──
曜「梨子ちゃんってば!」
203 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:20:24.92 ID:tV5HRLQYO
梨子「ひゃぁ!? び、びっくりしたぁ……」
曜「だって、何度呼んでも反応がないし、顔色も悪かったから」
テーブルの下からひょこっと首だけを出す曜。
前後左右から声を掛けても反応がないもので、次は足元から、なのだという。
曜「もう果南ちゃんもルビィちゃんも帰ったし、お皿も洗い終えたよ」
梨子「えっ?」
辺りを見回せば、今ここにいるのは本当に2人だけではないか。
大時計の短針も、いつの間にか8の字に差し掛かろうとしていた。
204 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:21:50.60 ID:tV5HRLQYO
────梨子の部屋。
梨子「はぁ……」
明確な答えを出せないまま、時間だけが過ぎてゆく。
落ち着け。順番に整理していこう。
・11時:いなかった鞠莉と善子以外はロープウェイに乗った。高森が遅れて来た。
・彼女曰く、自分以外のスタッフには翌日にずらして欲しいとの連絡があったらしい。
・ロビーには、全員分の名前の紙と部屋の鍵、そして正午にロビーに集まるよう書かれた紙があった。
・正午:ロビーに、血の付いた『小原CEO』の紙と鍵。206号室に行くと、首を切断された鞠莉の死体があった。ロープウェイが通じず、後に外との連絡手段も全てシャットアウトされていたことが判明。
・昼食。13時半頃、唯一食べなかった果南の部屋の前に彼女の分を置いた。
205 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:22:44.71 ID:tV5HRLQYO
・果南から内線電話があった。
・16時頃、花丸からの内線電話。電話越しに殺害された。
・曜と一緒に306号室へ向かうとルビィがいた。果南、高森、千歌の順で集まる。
・曜にマスターキーを取って来て貰う。部屋には鞠莉同様、首を切断された花丸の死体。
・ルビィは果南の、曜と高森は自分の部屋へ。私は千歌と少しお話した。
・ちょっとしたアクシデントからフロントに行こうとして、高森と遭遇。
・17時頃、私と曜で夕飯を作る。果南とルビィ、少し時間を空けて千歌の順で食堂に来る。
・ルビィの部屋に絆創膏を取りに行くと、3階のエレベーター前で高森が殺されていた。
・夕食を食べ終え、現在に至る。
206 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:23:10.95 ID:tV5HRLQYO
梨子「……!」
おかしい。あまりにも不自然な箇所があった。
梨子「じゃあ、何でそんなことが……」
今まで見聞きしてきた事柄が、頭の中を駆け巡る。
徐々に霧が晴れ、目の前にあった正体不明が少しずつ形を明らかにしていくような、そんな感覚。
207 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:24:23.64 ID:tV5HRLQYO
梨子「だって、そんなこと……あ」
カーテンを開け、窓の向こうを見た時。ふと、その可能性に気付いた。
梨子「ある。たった一つだけ、方法が!」
思わず叫ぶ。いつの間にか外の雨も止んでいた。
208 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:24:55.36 ID:tV5HRLQYO
私は急いで室内電話の受話器を取り、3、1、0のボタンを押す。
果南『誰?』
梨子「もしもし、私です」
果南『梨子ちゃんか、どうしたの?』
梨子「少し、確認したいことがあって──」
───
──
─
209 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:25:45.67 ID:tV5HRLQYO
果南『そうだね。その逆も、昔見たことがあるよ』
梨子「やっぱり……ありがとうございます」
果南『でも、それを聞くってことは、まさか……』
私の手から受話器が滑り落ち、床にぶつかった。
まずい。これが真相だということは、犯人は──
果南『もしもし、もしもし!?』
梨子「あ、いえ大丈夫です。ちょっと受話器を落としちゃって……失礼します!」
ガチャ。勢いよく電話を切り、高森に返しそびれていたマスターキー片手に私は部屋を出た。
210 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:26:21.03 ID:tV5HRLQYO
────???号室。
「…………」
“彼女”は、明かりのついていないその部屋にいた。
ポリタンクの中身をぶちまけ、佇んでいた。
その部屋には、ベッドに横たわるもう一つの影があった。
“彼女”は、まだ温かいその身体に、口を開けた2つ目のポリタンクの中身をかけた。
211 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:27:08.32 ID:tV5HRLQYO
アクシデントもあったが、計画は概ね予定通りに進んだ。
窓を開ける。雨はもう降っていない。
「…………」
長かった計画も、最後の段階を残すのみ。
ポケットからマッチ箱を取り出し、中身を1本手に持つ。
さあ、この部屋に火を────
212 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:28:05.38 ID:tV5HRLQYO
「待って!」
213 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:28:43.25 ID:tV5HRLQYO
“彼女”は振り返った。ドアが開かれている。人影が立っている。
人影の正体は……桜内梨子だった。
214 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/03(月) 00:29:29.61 ID:tV5HRLQYO
今回はここまで。次回から解答編です。
215 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/03(月) 09:27:52.79 ID:Tpj+m9FDO
やべえ全然犯人分からん
216 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/04(火) 19:52:39.49 ID:nHMdkgCf0
果南が非犯人だってこととロープが移動に使われてそうだってとこくらいしか分からんぞお
217 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/04(火) 21:01:58.87 ID:gRNe5luDO
果南に何を聞いたのかが分かればなあ
昔ってことは鞠莉関連かダイヤ関連か
218 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/05(水) 02:46:25.56 ID:8dBB1W1JO
やべー
超おもしれぇ
219 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/06(木) 00:17:10.58 ID:tZN3La/Qo
まーたラブライブキャラが汚れ役やってる
220 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/06(木) 12:31:53.11 ID:B5qrpB6DO
千歌が露骨に怪しいけど犯人ではなさそうな気がするんだよな
221 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/07/06(木) 21:19:31.56 ID:m+rg/kJeO
こういう推理物だと明確にアリバイがある曜が一番怪しいのだがそれだとトリックがまったく分からん
222 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/06(木) 22:37:34.34 ID:adMLGSLS0
全滅とは行かずとも半分くらい減るかと思ってただけに
もうちょい引っ張りそうに見えたがあっさり解決するのか
223 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/06(木) 22:44:15.29 ID:VSKJyfd+O
仮に善子とダイヤも死んでるならちょうど半分だが
計画って言ってるし動機はしっかりあるんだろうけどさっぱり分からぬ
224 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:47:55.41 ID:qzmsVTnmO
梨子「待って!」
その声に“彼女”の手が止まる。
梨子「もう、あなたの計画は終わったの! あなたが仕掛けたことも、全部見抜いた! もうこれ以上は、意味がないの!」
まくしたてる。このまま、“彼女”がマッチを擦らないように時間を稼ぐ。
私は、その部屋に満ちている不自然なニオイにはとうに気づいていた。
いや。
犯人が誰か、どんな仕掛けを使ったのか。それらが分かった時点で、きっとこの部屋に火を点けるだろうと察したのだ。
225 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:48:38.68 ID:qzmsVTnmO
果南「ちょっと、これはどういうこと? さっきの電話は……」
騒ぎに反応し、果南がやって来る。
言いたいことは色々あるがまずは皆を呼んで来るようお願いし、私は更に“彼女”に言葉を投げかけた。
梨子「じきにみんなが来るわ。だから、そのマッチを捨ててちょうだい」
「…………」
廊下からの明かりしかない部屋の中で、“彼女”は尚も無言だった。
しかし、薄明かりの中でも抜け殻のような表情が窺える。
この計画をほとんど終わらせたにも関わらず、“彼女”は何も満足を感じていない。
それだけが、せめてもの救いに思えた。
226 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:49:12.72 ID:qzmsVTnmO
曜「梨子ちゃん!」
千歌「嘘……」
ルビィ「そんなことって……」
果南「みんな、連れて来たけど……だって、彼女は……!?」
背後から声がするが、私は振り向かない。
227 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:49:50.59 ID:qzmsVTnmO
千歌「どういうことか、説明してくれる?」
梨子「全部、彼女が仕組んだことだったの。鞠莉さんを、ダイヤさんを、そして高森さんを殺したのも、全部彼女が。そうよね?」
その声に合わせて、誰かが室内の電気のスイッチを入れる。
228 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:50:30.33 ID:qzmsVTnmO
梨子「────花丸ちゃん」
花丸「…………」
照らされた部屋の中央に居たのは、名指しを受けた国木田花丸本人に他ならなかった。
229 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:50:56.97 ID:qzmsVTnmO
果南「マルが、どうして……」
曜「だって、この部屋で確かに首を……なのに、何で?」
梨子「死んだフリをしただけだったのよ」
私は、花丸の目を見据えたまま推理を続ける。
彼女はまだマッチを捨てていない上に、自身もガソリンか何かを被っている。
この部屋に、何より彼女が自分自身に火をつけたらそこでお終いだ。
だから時間を稼いで、決心を鈍らせる必要がある。
230 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:51:49.77 ID:qzmsVTnmO
梨子「仕掛けは至って単純。あのテーブルに穴をあけて、そこから顔を出す。その上で、身体が下から見えないように鏡を置いた」
梨子「多分、あの黒い布には切れ込みが入っていて、首を出せるようにしていたんだと思う。そうすることで、穴と首の隙間を誤魔化したのよ」
一瞬、視界を部屋の隅へとずらす。
私の推理を裏付けるかのように、置かれているミニテーブルの中央には穴があいていた。
きっと、証拠隠滅のために燃やすつもりだったのだろう。
231 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:52:15.01 ID:qzmsVTnmO
ルビィ「でも、ベッドには首のない身体があったのに……」
梨子「あれのことね」
指で示した先。ベッドの上に、あの時の身体がまだ横たわっている。
千歌「え……じゃあ誰なの、あれは」
梨子「ダイヤさんよ」
花丸「…………」
視線を即座に花丸の方へ戻す。彼女は一言も喋らない。マッチから手を離さないまま、じっとこちらを睨んでいる。
232 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:52:44.02 ID:qzmsVTnmO
果南「あれがダイヤだっていうの!?」
梨子「そう。首を切断して、花丸ちゃんの服を着せてしまうことで、私たちはそれが彼女の身体だと錯覚してしまった」
曜「じゃあ、あの時点でもっときちんと調べていれば……」
ルビィ「花丸ちゃんが生きているってことはすぐに分かった、ってこと?」
梨子「ええ。でもそれは無理だったでしょうね。鞠莉さんも同じように首と胴体で分けられていたから……」
蓋を開けてみれば、実にシンプルな結論だ。
しかし、事前に『犯人は胴体と首を分けて置く』という刷り込みをされたせいで、致命的な勘違いを起こしていた。
ただ、それだけのことだったのだ。
233 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:53:26.18 ID:qzmsVTnmO
千歌「でも、何で分かったの? 花丸ちゃんが犯人だって」
梨子「……キッカケは、あの電話だった」
曜「電話って、花丸ちゃんから掛かってきたっていう、あれ?」
梨子「そうよ」
後方からの質問に応答しつつ、花丸の動向を観察する。
相変わらず微動だにしない彼女。だが、表情には少しずつ変化が表れていた。
234 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:53:52.90 ID:qzmsVTnmO
決心が揺らいでいる。
その瞳から、決意の色が薄れている。
心なしか、マッチを握る手からも少し力が抜けているように見えた。
もう一押し。
それを確信した私は、畳みかけるように推理の続きを話し始めた。
235 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:54:43.61 ID:qzmsVTnmO
梨子「リアルタイムで起きている殺人。それを印象づけることで、あの死体への違和感を更に消す。それが偽装死体の最大の肝だった」
梨子「現に私も、花丸ちゃんの演技に騙された。けど、よく考えたらそれは不自然なのよ」
果南「不自然?」
梨子「死体の首を切るまでの時間よ」
花丸「…………」
236 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:55:23.55 ID:qzmsVTnmO
梨子「よく考えてみて。電話越しに花丸ちゃんが殺されて、少し間が空いたけれど私はすぐに部屋を出た」
梨子「ここ306号室の前ではルビィちゃんが大声を出していたし、このあと窓からロープを伝って逃げなければいけない」
梨子「逃走する犯人の心理とは明らかに矛盾している、首を切るという手間の掛かる行為。手際が良すぎる犯行と相反する、被害者に電話をされてしまったという事実」
梨子「その違和感に気付いた時、もう、あの死体が偽装だったという考え以外は浮かばなかったわ」
237 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:56:04.32 ID:qzmsVTnmO
花丸「…………」
そこまで言い終えた私の前で、花丸の手からマッチが滑り落ちた。
私はそれを素早く奪い取る。
花丸「……バレないと思ったんだけどなあ」
ルビィ「花丸ちゃん……」
ようやく発せられた言葉は、犯人のあげた白旗だった。
けれども、私は既に気付いている。
その瞳の奥にはまだ明確な意思が残っていることも、それが何なのかも。
238 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:56:33.42 ID:qzmsVTnmO
花丸「そうだよ、マルが鞠莉さんたちを殺した。全部マル一人でやったの」
曜「なんで、こんなことをしたのさ」
梨子「そのワケはあとにしましょう。まだ、花丸ちゃんがついた嘘を明らかにしないといけない」
花丸「……!?」
花丸の目に、動揺の色が強く浮き出た。
やっぱり、彼女にはまだ隠そうとしていることがある。
239 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:57:42.57 ID:qzmsVTnmO
曜「嘘も何も、花丸ちゃんはもう認めてるんだよ?」
梨子「ええ、普通ならね。ここから先は、ある意味私にしか解けないようになっているのかも知れない」
千歌「話が全然見えないんだけど……」
梨子「あの電話には、もう一つ妙な点があった」
果南「ダイヤの声が入ってたっていう、あれね」
果南の視線は、『彼女』へと向いている。もう、全てを理解したのだろう。
240 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:58:20.10 ID:qzmsVTnmO
梨子「ええ、よく考えてみて。さっきも言ったけれど、花丸ちゃんはダイヤさんの死体を自分だと誤認させる方法を取ったのよ?」
曜「……あれ? じゃあ、その時はまだダイヤさんは生きてたってこと?」
梨子「いいえ、違うわ。それこそ、時間との勝負な状況下において、首を切断して、服を着せかえて……」
梨子「何より、そんな中で花丸ちゃんがSOSの電話をすること自体が不自然なの」
千歌「確かに、何やってんだろうこの人……ってなるよね」
241 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:58:51.53 ID:qzmsVTnmO
梨子「考えられるのは二つ。一つは、どこかでダイヤさんの声を録音して、それを通話の中に混ぜること」
梨子「けど、喋るかどうか分からないセリフを待つよりも、もっと単純な方法があった」
曜「単純な方法?」
花丸「…………」
花丸の視線が、私を突き刺す。
やめろ、それ以上は。そんな殺気をひしひしと感じる。
242 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 01:59:30.93 ID:qzmsVTnmO
梨子「さっき、果南さんに確認したわ。以前、ダイヤさん、果南さん、花丸ちゃん……AZALEAの3人で、淡島ホテルの手伝いをした時のこと」
梨子「あの時、ちょっとした騒動が起きて……ダイヤさん、花丸ちゃんを部屋から引っ張り出すために、ルビィちゃんの声真似をしたそうね」
果南「うん、とっても似てた。結局、ホテルの扉には覗き穴があるせいで無意味だったんだけどね」
梨子「そして、果南さんだけは知っていた。姉が妹の声を真似られたように、妹も姉の声を真似られるんだって」
243 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:00:00.69 ID:qzmsVTnmO
梨子「そうよね、ルビィちゃん」
ルビィ「…………!」
名指されたルビィは、既に顔面蒼白だった。
きっと、私が通話の違和感に言及を始めた時点で内心は穏やかでなかった筈だ。
彼女は何も答えない。口元が震えている。
244 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:00:48.97 ID:qzmsVTnmO
花丸「っ、ルビィちゃんは関係ないずら!」
梨子「私も、最初は花丸ちゃん一人だと思ってた。でも、あなたの偽装死体のことを考えれば、辻褄は合うのよ」
梨子「花丸ちゃんは、幾つもの仕掛けであれを死体だと思わせた。顔がまるで血の気を失っていたように見せかけていたのもその一つ」
梨子「じゃあ、その化粧道具はどこから調達したのかしら」
曜「まさか」
花丸「違う! それも、マルが買って持ってきたの!」
梨子「じゃあ花丸ちゃん、一つ聞いていいかしら」
花丸「……なんずら」
今にも泣きだしそうな声をしている。けれども、追及を止めるわけにはいかない。
245 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:01:55.12 ID:qzmsVTnmO
梨子「なんで、ルビィちゃんの部屋に電話をしなかったの?」
花丸「────!」
梨子「私の部屋は、花丸ちゃんの部屋から見て一番距離がある。演技とはいえ、一刻を争う事態だった筈よ」
梨子「でもあなたは、ルビィちゃんの部屋に電話をかけられなかった。何故なら、ルビィちゃんには部屋の前でドアを叩いてもらう役を演じてもらったから……違うかしら?」
花丸「違う、マルは……」
ルビィ「もういいよ、花丸ちゃん!」
246 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:03:22.99 ID:qzmsVTnmO
花丸「ルビィ、ちゃん……?」
ルビィ「梨子さん、完敗です。犯人は、花丸ちゃんと私。ほとんど、梨子さんの推理した通りです……」
梨子「…………」
実のところ、ルビィが共犯だという明確な物的証拠はなかった。
けれども、二人が共犯だと気づいた時。きっとこうしてやらないと、共犯者は名乗り出ない。
こうしてやらないと、彼女たちの性格からして、二人ともどうしようもないものを抱えたまま過ごしていくことになる……そう、思ったのだ。
247 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:04:00.13 ID:qzmsVTnmO
梨子「動機はやっぱり……善子ちゃんね」
梨子「教えてちょうだい。善子ちゃんと鞠莉さんたちの間に、何があったのか」
ルビィ「それは……」
花丸「善子ちゃんを、あの二人が奪ったから」
放たれた“動機”は酷く分かりやすく、それでいて残酷だった。
それを皮切りに、花丸はぽつりぽつりと話し始めた。
248 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:04:50.85 ID:qzmsVTnmO
花丸「善子ちゃんが大学受験に失敗したって話は、前にもしたと思う。それでしばらく引き籠ってたことも」
花丸「ある時、鞠莉さんが善子ちゃんを自分の会社に入れてくれた。形はどうあれ、善子ちゃんは外に出るようになった」
花丸「マルは、大学に通うようになってから一人暮らしを始めててね。会社に近いからってことで、善子ちゃんもそこで住むようにしたの」
249 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:05:44.94 ID:qzmsVTnmO
善子『結構広いのね、このアパート』
花丸『親には、ちょっと無理を言っちゃったずら』
善子『それにしたって部屋多いわよ。私が一つ使っても余るし、誰か泊めるつもりなの?』
花丸『あ、そこはルビィちゃんがこっちに来たとき用の部屋だよ?』
善子『なるほどね……』
───
──
─
250 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:07:17.73 ID:qzmsVTnmO
花丸「いつか、3人で昔みたいにお泊り会が出来ればいいなって、そう思ってた」
花丸「けど、3週間前のあの日。善子ちゃんから『たすけて』って、それだけ書かれたメールが送られてきた」
花丸「最初は仕事に疲れたのかなって、柔らかい布団と美味しいご飯を準備してた」
花丸「……でも、3日経っても善子ちゃんは帰って来なかった」
花丸「会社にも来てないみたいだし、流石に探しに行こうとして、そしたら、玄関の郵便ポストに善子ちゃんのケータイが入ってた」
花丸「悪いなとは思ったけど、マルはその中身を見た」
251 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:10:38.34 ID:qzmsVTnmO
花丸「ビックリしたずら。メモ帳の中にびっしりと、鞠莉さんの会社が黒澤家と組んで働いていた色々な不正が載ってたんだから」
花丸「その中には、果南さんのお店が潰れた原因が鞠莉さんだってことも書かれていた」
果南「……!」
花丸「善子ちゃんは、それを暴こうとして消されたんだって、そう思った」
梨子「……」
私は、まるで彼女の話についていけなかった。
企業の不正を告発しようとした社員が上層部に消されるという話は刑事ドラマなどでたまに見かける。
しかし、それを鞠莉とダイヤが実行していたということが、にわかに信じられなかった。
花丸「まだその時は半信半疑だったんだけどね……その日の夜、居ても立ってもいられなくて、ルビィちゃんに電話したんだ」
彼女の話は、尚も続く。
252 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:11:17.69 ID:qzmsVTnmO
ルビィ『……あ、花丸ちゃん』
花丸『どうしたの? 元気ないみたいだけど……』
ルビィ『……』
花丸『ルビィちゃん?』
ルビィ『あのね、お姉ちゃんが──』
253 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:12:55.53 ID:qzmsVTnmO
花丸「ルビィちゃんは、ダイヤさんから家族の縁を切られかけていた」
花丸「ファンレターに混じって、鞠莉さんたちに潰された企業の書いた恨み言のような手紙があったんだって」
花丸「それを問い詰めたら、ダイヤさんは……」
花丸「だから確信したの。やっぱり善子ちゃんは二人に消されたんだって」
……ダイヤはともかく、鞠莉はこの機会を逃せばいつ接触出来るか分からない。
それを踏まえると、二人の間に気の遠くなるような苦労があったことは想像に難くなかった。
254 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:13:51.13 ID:qzmsVTnmO
花丸「でもこれだけは信じて。ルビィちゃんは誰も殺してない。ただ、偽装トリックに協力してもらっただけなの」
花丸「あの二人は許せなかったし、マルの頭の回転が遅かったせいで、こんな方法しか思いつかなかった。でも、ルビィちゃんを犯罪者にすることだけは、どうしても抵抗があった」
花丸「だからせめて、いざという時は自分ひとりで罪を被れるようにって、そう思ったのに……!」
喋り続ける犯人以外、誰も言葉を発しない。
ただ、この哀れな少女の告白に、じっと耳を傾けることしか出来なかった。
二人の罪を赦す気にはなれない。しかし、許しがたいという憤りも、湧いては来なかった。
255 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:15:27.98 ID:qzmsVTnmO
花丸「だから、ルビィちゃんだけは……」
言葉が途切れ、力尽きたかのように、彼女は倒れた。
ルビィ「花丸ちゃん!」
長身の少女を受け止めたのは、小柄な少女だった。
花丸「ごめん、なさい……」
最後に、小さく呟いて、国木田花丸は意識を手放した。
256 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:16:31.57 ID:qzmsVTnmO
花丸は、ルビィの部屋に運ばれた。
彼女が目を覚まし救助が来るまでの間、皆が枕元についていた。
ルビィ「花丸ちゃん、昨日の夜に鞠莉さんを殺してから、ずっと寝てなかったんです」
ルビィ「それに、お姉ちゃんが鞠莉ちゃんを殺したのが花丸ちゃんだって気付いちゃったみたいで、慌てちゃったみたいで……」
梨子「……そっか」
いつ眠りに落ちてもおかしくない身体で、アクシデントに対応しながら死体の演技をやってのけたのか。
その忍耐力と精神力は、流石だと評せざるを得ない。
257 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:17:38.16 ID:qzmsVTnmO
果南「鞠莉に店を潰された、か……。間違ってはいないんだけどね」
ルビィが席を外したタイミングで、果南が口を開いた。
梨子「?」
果南「まだニュースになってないから、知らないのも無理はないか」
曜「どういうこと?」
果南「2年前淡島の近くの海底で、貴重な新資源が見つかってね。いろんな企業や行政がそれを虎視眈々と狙ってた」
梨子「じゃあ、鞠莉さんたちは」
果南「うん。内浦を他所の手に渡さないために、汚いことに手を染めたんだ。私の店の近くは、特に資源が豊富だったみたいでね……」
258 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:18:35.72 ID:qzmsVTnmO
梨子「そんな……じゃあもし────」
ルビィが戻って来たのが視界に入り、続きの言葉を押しとどめる。
これ以上、彼女たちを追い詰めるような真似は出来なかった。
……救助が来て、花丸が目を覚ましたのは、翌朝のことだった。
259 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:20:23.73 ID:qzmsVTnmO
花丸「じゃあね、ルビィちゃん、みんな」
ルビィ「うん、待ってる。時間のある時は、会いに行くよ」
花丸「……ありがとう」
その日のうちに、花丸は警察に自首をした。
本人たっての希望で、ルビィが共犯だということは皆の中での秘密になった。
物的証拠もない以上、誰も反対する者はいなかった。
けれども私だけは、別の事柄で頭がいっぱいだった。
260 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:21:29.69 ID:qzmsVTnmO
花丸『……そういえば、梨子さん』
梨子『どうしたの?』
花丸『高森さんって、どうやって殺されたんずら?』
梨子『────え?』
この事件は、まだ終わっていない。
そう思わざるを得なかった。
261 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:22:54.94 ID:qzmsVTnmO
────8月1日、夜、梨子の家。
梨子母「明日には東京に戻るのよね」
梨子「……うん」
梨子母「まさか、お友達があんなことになるなんてね……」
梨子「…………」
事情聴取を終え、久しぶりの実家。
千歌たちも既に自宅に戻っている筈だ。
262 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/07/09(日) 02:23:33.42 ID:qzmsVTnmO
『警察では、国木田さんから詳しい事情を──』
ニュース番組を消し、母が作った料理を食べる。
梨子母「どうだった?」
梨子「……美味しい。ありがとう」
梨子母「なら良かった。その魚、渡辺さんからお裾分けしてもらったのよ」
梨子「ごちそうさま。……?」
遅い晩御飯を終えて、席を立つ。ふと、壁に掛かっているカレンダーが目に留まった。
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