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梨子「5年目の悲劇」
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22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/05/30(火) 06:27:17.03 ID:p7gDM21O0
金田一少年の雪影村モチーフかなこれ
23 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 01:42:16.93 ID:oZ0o4GAZO
ルビィ「全く変わってないなあ、この町」
純粋なルビィの感想に、私も心中で頷く。
バスを降りてすぐ漂ってきた潮の香りも、眩しいくらいに綺麗な海も、馴染みのある建物も。
何もかもあの頃のまま、懐かしい気分に駆られる。
24 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 01:43:31.97 ID:oZ0o4GAZO
「二人とも、来てくれたんずらね」
梨子「!」
聞き覚えのある訛り。振り返るまでもなく、それが誰なのか理解出来た。
梨子「花丸ちゃん、久し、ぶ……」
花丸「どうしたずら?」
……理解出来た、筈だった。
25 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 01:44:58.58 ID:oZ0o4GAZO
梨子「いや、その……」
ルビィ「お姉ちゃんから聞いてたけど……花丸ちゃん、本当に身長伸びたね」
Aqoursの中で一番背が低かった筈の花丸は、ざっと165pだろうか。私の背を追い抜いていた。
その点を除けば眼鏡をかけたThe・文学少女の清楚な佇まい。訛りが出るのは相変わらずらしい。
今は文学系の大学に進み、その傍らで執筆した小説を賞に応募しているそうだ。
26 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 01:46:48.42 ID:oZ0o4GAZO
花丸「ルビィちゃんは変わらないずらね〜」
ルビィ「マルちゃん! 高校の頃からほとんど伸びなくて気にしてるのに……」
花丸「でも、ルビィちゃんはそのままでも可愛いずら」
ルビィ「うぅ〜……」
矢澤にことよく共演する彼女は、「近い背丈に同じツインテールの仲良しコンビ、まるで姉妹だ」と言われることがある。
勿論双方に姉、或いは弟妹がいるため二人は笑って否定するのだが、どちらもまんざらでもなさそうだった。
……ルビィが身長のことを気にしているようなので、このことは口には出さないでおく。
27 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 01:47:58.29 ID:oZ0o4GAZO
梨子「ねえ、もしかしてみんな来てるの?」
花丸「鞠莉さん以外はもうみんな集まってるずら」
梨子「鞠莉さん以外?」
曜「あれ、梨子ちゃん聞いてないの? 鞠莉ちゃん、いま海外にいるって」
梨子「あー……」
ホテルチェーンを主軸としていた小原グループは、今や様々な事業で世界に進出する大企業だということは知っていた。
なるほど。その若きCEOともなれば、日本に居なくても何らおかしくない、か。
28 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 01:48:32.75 ID:oZ0o4GAZO
梨子「何だか、遠い存在になったみたい」
無意識の内に、そんな言葉が口をついて出た。
29 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 01:49:58.00 ID:oZ0o4GAZO
────千歌の部屋。
襖を開けると、懐かしい顔ぶれと、まだ湯気が立っている8つの湯呑み。
善子「おっ ようやく来たわね。お茶、冷めちゃってるけど梨子のはそれ」
梨子「えっと……善子ちゃん? お団子やめたんだ」
善子「まあ、これでも社会人だしね。髪型もそうだけど、堕天使も卒業したわ」
30 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 01:51:11.01 ID:oZ0o4GAZO
荷物を置き、スーツに身を包んだ善子の隣に座る。
キャリアウーマンな風体の善子。堕天使ヨハネを名乗っていた頃のはっちゃけっぷりはすっかりナリを潜めている。
中二病卒業を機にリリー呼びも辞めてしまったのだろう、一抹の寂しさを覚えた。
31 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 01:52:56.59 ID:oZ0o4GAZO
ルビィ「お姉ちゃん!」
ダイヤ「久しぶりです、ルビィ。連日の仕事、お疲れでしょう」
ルビィ「慣れないことは多いけど、まだまだ元気だよ〜」
ルビィに飛びつかれて微笑むダイヤは、以前よりも大和撫子という言葉が似あうようになっていた。
人気アイドルに抱き着かれようものなら黙っていない迷惑なファンはいるが、実の姉を咎める者は居ないだろう。
黒澤家当主としての風格はきちんと備えているが、妹と笑顔を交わす姉の姿は微笑ましさがあった。
32 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 01:54:21.56 ID:oZ0o4GAZO
果南「千歌も仕事が終わったら来るってさ」
気になったのは果南の恰好。長かった髪は短髪になり、何故か彼女も着物。それに……。
梨子「果南ちゃん、その着物って確か、ここ(十千万)の……」
果南「そうだよ〜。ここの仲居さんが着るものだね」
梨子「いや、そうじゃなくて……」
33 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 01:55:00.77 ID:oZ0o4GAZO
果南「潰れたんだ、ウチの店」
梨子「えっ……?」
『旅館の手伝いでもしているのだろうか』 そんな予想は、斜め上すぎる形で裏切られた。
34 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 01:56:27.81 ID:oZ0o4GAZO
果南「去年、経営難でね。それでも、ダイバーショップを諦められなかったからさー」
千歌「それで、ウチでダイビング一式の貸し出しとか、教室も開いて、果南ちゃんにインストラクターをお願いしてるんだ〜」
千歌「あ、久しぶり、梨子ちゃん」
梨子「久しぶり……じゃなくて!」
ようやく現れた最後の役者、千歌。
だが、会えたことよりも先の話の衝撃が大きすぎてそれどころではない。
35 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 01:57:17.75 ID:oZ0o4GAZO
果南「お仕事終わったんだね。お疲れ」
千歌「この時期はお客さんが少ないからね〜。楽でいいよ」
果南「というわけで今はここに住み込みで、何もない日は旅館の業務を手伝ってるよ」
千歌「果南ちゃんの作る海鮮料理、お客さんにもすっごく評判が良くてさ──」
梨子「はぁ……」
空白の5年の間に、そんなことが起こっていたなんて。
本人はあっけからんとしているものの、何かが隠しきれていないように見えるのは……髪型が変わったせいだけではないのだろう。
36 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 01:58:52.83 ID:oZ0o4GAZO
千歌「とにかく、こうして9人集まったワケだし、暗い話はナシでいこうよ」
ルビィ「9人?」
梨子「鞠莉さんは居ないんじゃ……」
善子「いるのよ、ここに」チッチッチッ
指を振りながら、善子が取り出したのはタブレット端末。
37 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:00:24.61 ID:oZ0o4GAZO
善子「生憎と音声オンリーだけどね。CEOにこの時間空けておけって伝えてあるから」
梨子「どういうこと……?」
曜「善子ちゃん、いまは鞠莉ちゃんの会社で働いてるんだよ」
ルビィ「そうだったの!?」
善子「そうよ。というか、二人とも知らなかったのね」
38 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:01:13.91 ID:oZ0o4GAZO
自慢げに見せてくれた社員証は、確かに彼女が小原グループに所属していることを証明するものだった。
善子「日本支部の担当は違う人だけれど、鞠莉が雇うように直接人事に掛け合ってくれたのよ」
花丸「大学受験に失敗してしばらくやさぐれて、鞠莉さんに拾われるまでゆーちゅーばーしてたずら」
善子「それは言うなずら丸!」
39 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:01:47.51 ID:oZ0o4GAZO
鞠莉『Ciao〜♪』
果南「お、繋がったね」
電話越しの元気そうな鞠莉の声は、あの頃と変わっていなかった。
遠い存在、そう思っていた自分が馬鹿らしくなって来る。
40 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:02:43.14 ID:oZ0o4GAZO
鞠莉『久しぶりにAqoursが集まるってヨハネから聞いてたからね。もうみんな揃ってる?』
善子「揃ってるわよ。あとヨハネはやめてって言ったでしょ!」
鞠莉『私はそのままでいいってずっと言ってるのに。それに、前みたいにマリーって呼んでくれなくなったし』ムッスー
花丸「流石に、善子ちゃんも社長さんにそんなことは言えないずら」
曜「いよっ、CEO!」
囃し立てられる鞠莉が照れているのは、端末越しでも明らかだった。
41 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:03:58.38 ID:oZ0o4GAZO
梨子「あの……鞠莉さん」
鞠莉『その声は梨子ね。What? どうかした?』
梨子「浦の星が廃校になるって、本当なの?」
鞠莉『…………』ハァ
42 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:05:25.26 ID:oZ0o4GAZO
Aqoursの活動により、入学者が増えた筈の浦の星女学院。
けれどもそれは一時的なものに過ぎず、Aqoursの解散後はすぐに低迷。
行政等の関与もあり、今年度をもっての廃校は避けられない……。
“元“理事長の口から語られた現実は、あまりにも無情だった。
43 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:09:00.43 ID:oZ0o4GAZO
鞠莉『校舎だけでも何かの形で残せないかって思ってるんだけどね……』
ダイヤ「それについては、いずれじっくり話しておきたいところです」
鞠莉『ダ〜イ〜ヤ〜?』
ダイヤ「失礼」コホン
梨子「……?」
どういうことだろう。黒澤家は小原グループと何か関係があるのか、或いは内浦に根付く黒澤家だからなのだろうか。
44 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:10:36.70 ID:oZ0o4GAZO
果南「そういえば鞠莉、日本にはいつ帰って来られそうなの?」
鞠莉『来月の末くらいかな。今そっちに建ててる施設がもうすぐ出来上がるから、それの視察も兼ねてね』
ルビィ「施設?」
鞠莉『Yes♪ 高原の別荘をテーマにした、新しいリゾート。景観を壊さないように、麓からロープウェイで繋いだのよ』
45 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:11:04.72 ID:oZ0o4GAZO
善子「私もそっちで忙しいのよね……。8月にはお披露目させたいって、結構な無茶だったわ」
鞠莉『あら、不満?』
善子「イイエナンデモー」
46 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:11:49.60 ID:oZ0o4GAZO
千歌「ってことはさ、今度こそAqoursのみんなで集まれるんだよね?」
鞠莉『どうかしらね。TOKYOでお仕事してる二人次第だと思うけれど?』
梨子「私は次の公演がかなり先だから、休日ならいいけれど……」
ダイヤ「ルビィ、お仕事の方は大丈夫ですの?」
千歌「あー……」
47 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:12:23.57 ID:oZ0o4GAZO
引っ張りだこのルビィは、空いている日を見つけることが難しい。
それでも、9人再集結を夢見て(主に千歌の)期待の眼差しがルビィへ向かう。
視線を受けたルビィは、「ちょっと待ってて」とスマホの画面との睨めっこを始めた。
48 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:14:00.65 ID:oZ0o4GAZO
ルビィ「あの……鞠莉さんが来るのって、7/30、31ですか?」
鞠莉『ん〜……決まってるワケじゃないけれど、そこなら都合がいいワケね?』
ルビィ「はい!」
鞠莉『OK♪ 他のみんなはそれでいいかしら?』
鞠莉の問いに、ほぼ全員が肯定する。
唯一「まだ予定が分からない」と答えたダイヤも、善処すると付け加えた。
49 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:15:32.35 ID:oZ0o4GAZO
鞠莉『決定ね。折角だから、Aqoursの復活として特番でも組みたいところだけれど……』
ダイヤ「また貴女は唐突な……」
ルビィ「流石に厳しいと思うけど……」
鞠莉『そこはNo problem♪ 小原グループのコネを侮って貰ったら困るわ』
当日をお楽しみに。そう言い残し、鞠莉は電話を切ってしまった。
50 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:16:31.32 ID:oZ0o4GAZO
善子「……あとで集合場所聞いてメールするわ」ハァ
鞠莉なら本当にやりかねない。
頭を抱える善子に、少し同情した。
51 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:19:28.86 ID:oZ0o4GAZO
その後、お茶を飲みながら昔話に花を咲かせようとしたのだが、夜から仕事があるからとルビィが部屋を発つのを皮切りに、結局お開きとなった。
私も色々話したいことはあったが、来月まで取っておくことにして、彼女に付き添うことにした。
52 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:20:35.78 ID:oZ0o4GAZO
千歌「ねえ、梨子ちゃん」
梨子「どうしたの?」
千歌「あのこと、私は忘れてないからね」
梨子「あのこと?」
千歌「……ううん、なんでもない」
バスに乗る直前に千歌と交わした会話が引っかかったけれど……何のことかは分からなかった。
53 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:22:43.79 ID:oZ0o4GAZO
見送ってくれる6人に手を振り、やがてその姿は見えなくなる。
ルビィ「みんな、色々変わってましたね」
梨子「そうね……」
54 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:23:25.47 ID:oZ0o4GAZO
飛び込み選手を辞めたらしい曜、やけに背の伸びた花丸。
何となく昔のような元気がなくなった果南。昔のキャラを捨てた善子。
大物になっていたダイヤと鞠莉。そして、何とも言えない違和感のある千歌。
みんな、大なり小なり変化があった。
鞠莉は何かしらの形で私たちの再会をテレビに流したいと言っていたが、あの頃のように上手く行くのだろうか。
いつの間にか寝てしまっていたルビィの頭を撫でながら、私は考えた。
55 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:25:08.95 ID:oZ0o4GAZO
梨子「あ」
そういえば、公演によく来てもらっていたこともあって、両親に顔を見せるのをすっかり忘れていた。
家は十千万のすぐ隣だったのに、バカをやらかした。
来月内浦に来たときに顔を見せようと強引に結論づけ、私はこの件について考えないことにした。
56 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:26:36.65 ID:oZ0o4GAZO
……この時は、誰もまだ知らなかった。
再び集まるまでの1か月。
その間に、もっと大きな変化がAqoursに影を落としていたなんて。
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/04(日) 02:28:16.01 ID:fBN//o79O
しえん面白い
58 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/04(日) 02:32:20.67 ID:oZ0o4GAZO
プロローグここまで。
次から本編です。
>>22
正解です ここまではところどころ雪影村を意識しています
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/04(日) 09:20:31.18 ID:IzzfjFADO
成功した人とそうでない人の差が...
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/04(日) 22:31:08.47 ID:Hr+9nIq6O
おつおつ
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/04(日) 22:51:53.23 ID:JFK920Zoo
つまんね
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/05(月) 13:36:09.80 ID:lTpxj9kDO
期待
63 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:28:29.94 ID:SnVGEAuwO
「が、くる、し……」
「っ…………」
ただ、”彼女“の首を無言で絞め続ける。
64 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:29:20.19 ID:SnVGEAuwO
“彼女“は己の首に掛けられたロープを外そうと必死でもがく。
だが、酸欠状態になりつつある身体では碌な抵抗も出来ない。
こういう時、刑事ドラマなら犯人に傷をつけることで真相解明に近づけさせると言うけれど。
それはさせぬと言わんばかりに、ロープにぐぐっと力をこめる。
数分、いや数十分。どのくらいの時間が経っただろう。
気づいた時には、“彼女”の身体は動かなくなっていた。
65 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:30:04.94 ID:SnVGEAuwO
「ハァ、ハァ……」
ロープから手を放し、止まらない汗を拭う。
荒ぶっていた呼吸と心臓の鼓動が少しずつ整ってくる。
……殺してしまった。
後悔はない、と言えば嘘になる。
けれども、殺さなければならなかった。
66 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:31:11.51 ID:SnVGEAuwO
「…………」
物言わぬ亡骸を担ぎ、”準備“を始める。
まだ終わっていない。もう後戻りは出来ない。
自分はこの計画を、何としてでも完遂させなければならないのだから。
67 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:32:06.42 ID:SnVGEAuwO
────7月30日、午前11時。
梨子「集合時間だけど……揃ってないわね」
集合場所であるロープウェイ乗り場に集まっていたのは7人。
鞠莉と善子、2人の姿が見当たらないのだ。
68 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:33:11.03 ID:SnVGEAuwO
自動運転のロープウェイは既に扉を開けて停車しており、時刻表によれば間もなく発車する。
「テレビの人たちと打ち合わせもあるだろうし、リゾートの方で先に待っているのではないか」
誰かが言ったその内容に皆が納得し、それならとロープウェイに乗車する。
ただでさえ雨が降っていて皆相応な荷物を持っているのに、屋根の外に居たくはなかった。
69 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:34:19.89 ID:SnVGEAuwO
「おーい! 待ってー!」
扉が閉まる寸前、大きなキャリーバッグを抱えた女性が駆け込んで来た。
傘を畳むのも忘れてゼェハァと息を切らせる彼女に、皆揃って呆気に取られる。
70 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:35:02.13 ID:SnVGEAuwO
千歌「あのー、あなたは?」
「久しぶりね、Aqoursのみんな」
呼吸を整え、高森と名乗った女性。
後ろで纏めた髪に赤ブチのメガネ、もしかして。
71 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:36:59.44 ID:SnVGEAuwO
梨子「もしかして、大会でいつもいたレポーターさん?」
千歌「そういえば……!」
高森「そうよ。覚えててくれて嬉しいな」
Aqoursがまだ6人だった頃、東京スクールアイドルワールドで初めて出会った彼女。
忘れもしない『0票』の集計結果を渡されたのは、今となってはいい思い出。
結果として、あの一件がなければAqoursの成長はなかったのかもしれないのだから。
72 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:38:55.41 ID:SnVGEAuwO
その後も、最終予選、決勝戦、その他スクールアイドルのイベント……。
彼女はいつも会場にいて、私たちも何度か顔を合わせていた。
Aqoursの優勝インタビューをしたのも、彼女だった筈だ。
73 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:39:30.26 ID:SnVGEAuwO
花丸「でも、なんでここに?」
高森「頼まれたの、小原さんに」
果南「鞠莉が?」
高森「そう。Aqours再会記念を、リゾート宣伝も兼ねて番組にしてくれないかってね」
……本当に依頼したのか。
昔からいつものことだったが、鞠莉は突拍子のないことでも本当に実行してしまうから恐ろしい。
74 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:40:23.27 ID:SnVGEAuwO
高森「それで、11時頃に出るロープウェイに乗って来てくれませんかって連絡を受けてたんだけど……何だか妙なのよ」
ダイヤ「妙、とは?」
高森「カメラマン何人か連れて来る予定だったんだけど、時間になっても来ないもんだからどうしたものかってね」
高森「電話したら、みんな口を揃えて『小原さんから、翌日にずらして欲しいって連絡があった」なんて言うんだもの」
高森「私はそんな連絡受けてないし、Aqoursのみんなは集まってるし、なんでかなーって」
75 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:40:53.96 ID:SnVGEAuwO
ルビィ「そんな筈はないと思うけど……マネージャーさんとは明日までって話をしているのになあ」
高森「まあ、黒澤ちゃんのマネージャーって結構そういうところ厳しいからね」
ルビィ「マネージャーさんと知り合いなんですか?」
高森「ええ。スクールアイドルから芸能人になった人は他にもいるし、そういう人たちのこともよく知ってるわ」
76 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:41:56.95 ID:SnVGEAuwO
曜「でも、確かにヘンだよねえ。私たちにもそんな話伝わってないし」
梨子「誰か、善子ちゃんか鞠莉さんに電話した?」
果南「一応してるんだけど……出ないね」
花丸「どうせ二人で何か企んでるずら」
梨子「……」
何とも言えない感覚に、私は肩を震わせる。
悪寒とまではいかないにしても、雨天からくるものでは決してない。
例えるなら、何か良くないことが起こりそうな……そんな予感。
折角のAqours再集結なのに、何故。
そんな私の思いを置き去りにするように、8人を乗せたロープウェイは山を登っていった。
77 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:43:21.47 ID:SnVGEAuwO
◆
千歌「おー……」
ダイヤ「雨天でなければ完璧でしたわね」
ゴンドラを降りると、そのリゾートは眼前に広がっていた。
手入れの行き届いた洋風庭園に囲まれた、瀟洒な別荘という言葉がピッタリな建築物。
屋外プールも完備しており、各部屋にテラスがついているらしいこともここから窺える。
周囲は鬱蒼とした森林、ロープウェイとヘリポート以外に道らしき道は無い。
けれども、その建物は閉鎖的な印象を全く感じさせなかった。
78 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:44:21.28 ID:SnVGEAuwO
曜「外も凄かったけど……」
ルビィ「中も綺麗……」
大理石の床、待合い用の大きなソファ、ガラス張りのテーブル、煌びやかなシャンデリア。
天窓からは、フロストガラスである程度緩和された太陽光が差し込むのだろう。
今は生憎の雨で、明かりの主役はシャンデリアなのだが。
79 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:45:25.29 ID:SnVGEAuwO
高森「……いないわね、小原さん」
千歌「善子ちゃんもどこ行ったんだろう」
こういう時、「Ciao〜♪」とハイテンションで出迎えるのが鞠莉だった筈なのに。
従業員との打ち合わせ……にしては、私たち以外誰もいないように感じられる。
80 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:46:08.28 ID:SnVGEAuwO
果南「ねえ、気になったんだけど」
梨子「これは……ルームキー?」
ロビーの中央、一番大きなテーブル。
そこに、8つの鍵が置かれていた。
高海様、渡辺様、桜内様……
全て、鍵の下にワープロ打ちの紙が置かれている。
つまり、この鍵を取れ、ということなのだろう。
81 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:46:57.29 ID:SnVGEAuwO
そして、一緒に置かれていた一枚の手紙。
『Aqoursの皆様、正午になりましたら再度ロビーにお集まりください』
梨子「何だか、かなり凝ったことするのね」
果南「そういうことだったら、大人しく待ってあげよっか」
82 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:47:30.54 ID:SnVGEAuwO
ダイヤ「……ところで。私とルビィ、どちらがどちらの鍵か分かりかねるのですが」
ルビィ「どっちも『黒澤様』って書いてる……」
果南「んー……部屋番号を見た感じ、片方は私の隣でもう片方はマルの隣みたいだし」
花丸「じゃあ、こっちがルビィちゃんの鍵ずら」
ダイヤ「では、私はこちらを」
83 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:48:26.99 ID:SnVGEAuwO
千歌「とりあえず、お部屋に荷物置いて来ようよ」
梨子「そうね。癪だけど鞠莉さんと善子ちゃんの企みに乗ってあげましょう」
私たちは皆、バス停からそこそこ距離のあったロープウェイ乗り場まで雨の中歩かされているのだ。
それに、仕事の関係などで荷物の量が他より多い人もいる。
千歌と私の提案に、反対する者は誰もいなかった。
84 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:50:48.32 ID:SnVGEAuwO
◆
ガシャリ、グシャリ。
誰にも気づかれないようロープウェイ乗り場へ行き、ハンマーで制御装置を力任せに破壊する。
これで、このリゾートは陸の孤島と化した。
この作業が終わったら、次はあれをロビーに置かねば。
85 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:51:58.73 ID:SnVGEAuwO
◆
外装やフロントが豪華なら、部屋も当然ながら豪華だ。
ベージュのカーペットに、優に3人分の幅はあるベッド。
テラスの向こうは、依然として雨。
こういうテラスで日光を浴びながら優雅に紅茶、と洒落こみたいところだが、今日は出来そうにない。
86 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:52:47.30 ID:SnVGEAuwO
時間まですることもないので、備え付けのテレビを見ながら色々考える。
何故鞠莉と善子は揃って音信不通なのか。
破天荒な2人のことだ。もしかしたら、壮大なドッキリでも仕掛けているのかも知れない。
ドッキリでなくとも、ここまで姿を見せないからには何かがある。
二人揃って電話にも返事がないのはいささか不自然だ。
87 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:54:05.78 ID:SnVGEAuwO
梨子「…………」
気づけば、約束の正午まであと5分。
学生時代に習った5分前行動の精神とやらは身体からそう簡単に抜け出ないもので。
着替えようかとも思ったが、結局そのまま部屋を出た。
88 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:54:46.66 ID:SnVGEAuwO
────正午、ロビー。
再び集合した8人。
けれど、やはり2人の姿はなかった。
ダイヤ「あの2人は一体何をしているんですの……」
果南「まあまあ落ち着いて」
ダイヤ「全く、果南さんは相変わらず甘いのですね」
89 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:55:17.57 ID:SnVGEAuwO
高森「でも、本当にどうしたのかしら」
ルビィ「んー……あれ、またテーブルに何か……」
大テーブルのど真ん中。
何かが置かれているが、身を乗り出さないと取れないだろう。
90 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:56:28.93 ID:SnVGEAuwO
千歌「とうっ!」
行儀が悪い、を我先にと実行した千歌が、それを手に取った。
千歌「鍵と紙だね。小原CEO……え?」
鞠莉の部屋の鍵と、それを示す紙……らしいのだが。
91 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:57:02.63 ID:SnVGEAuwO
千歌「きゃぁぁっ!?」
何かに驚いたように、千歌はその2つを放り投げた。
梨子「どうしたの?」
千歌「だって、あの紙……」
曜「これ……血じゃないの!?」
92 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:58:28.79 ID:SnVGEAuwO
梨子「っ!?」
曜が拾ったその紙には、血痕らしき真っ赤な染みが付着していた。
まさか。嫌な予感が一瞬にして湧き上がる。
「「…………」」
誰も言葉を交わさぬまま、鍵が示す部屋へと一斉に駆け出した。
93 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 02:59:56.37 ID:SnVGEAuwO
────鞠莉の部屋。
果南「嘘……」
ダイヤ「鞠莉、さん……?」
2人の声を切っ掛けに、悲鳴が廊下に反響する。
94 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 03:01:38.98 ID:SnVGEAuwO
小原鞠莉は、そこにいた。
いや、あった、という方が正しいだろうか。
床に横たわる身体。
備え付けの小さなテーブルに掛けられた、魔法陣らしきものが描かれた黒い布。
その上に、小原鞠莉の首が乗せられていたのだ。
95 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/11(日) 03:02:52.92 ID:SnVGEAuwO
今回はここまで。
アキバレポーターは本名が設定されていないようなので、ここでは中の人から取って高森で行きます。
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/11(日) 09:56:41.98 ID:YN5aS/jw0
元ネタ的にやはり何人か死んでしまうのか…
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/11(日) 12:03:23.22 ID:ZQnLeseDO
一見すると善子がやったように見えるけど中二卒業してるしなあ
本人の姿が見えないのが気になる
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/11(日) 14:50:29.18 ID:ubHZrCsMo
内容に不満があるとかじゃなくて、これからも結構グロイ描写があるなら、Rの方でやった方がいいかもね
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/12(月) 23:18:25.67 ID:XR5hgI1DO
今回の梨子ちゃんは探偵側かな
100 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 01:56:45.81 ID:OK/bdtscO
────12時半頃、ロビー。
千歌「……ココア入れてきたよ、果南ちゃん」
果南「ありがとう」
梨子「ダイヤさんも、どうぞ」
ダイヤ「……どうも」
101 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 01:57:46.09 ID:OK/bdtscO
高森「状況は芳しくないわね」
曜「……警察、しばらく来られないよ」
外に出ていたらしい曜と高森が、ずぶ濡れの身体で戻ってきた。
すっとタオルを差し出しながら、どういうことだと尋ねる。
102 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 01:58:44.59 ID:OK/bdtscO
高森「ロープウェイを動かす装置がね、壊されてたのよ」
曜「色々試してみたけど、ゴンドラがビクともしなかった」
花丸「で、でも……警察のヘリコプターとかなら」
高森「そう思ったんだけどね……」
ケータイを見て、と促される。
103 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:00:18.62 ID:OK/bdtscO
ルビィ「嘘……」
梨子「圏外……」
機械と基地局が何らかの形で繋がっていたせいだろう、誰かがそう推理した。
小原グループCEOが死に、今ここに居るであろう唯一の社員の行方が掴めない以上、機械に関する是非は分からない。
ハッキリと分かるのは、私たちは外部との連絡手段もないまま、揃ってこのリゾートに閉じ込められたこと……ただそれだけだった。
104 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:01:25.48 ID:OK/bdtscO
果南「ねえ、まさかだけど」
果南「鞠莉を殺したの、善子なのかな」
ダイヤ「果南さん!」
果南「だってそうでしょ? あの布は善子の持ち物だったし、彼女だけどこにもいないんだよ」
105 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:02:19.00 ID:OK/bdtscO
花丸「善子ちゃんがそんなことする筈ないずら!」
ダイヤ「そうですわ。Aqoursの一員だった善子さんが、何故鞠莉さんを……」
果南「じゃあ、誰がやったんだろうね」
ゾクリ、と身体が悪寒を感じたのは……気のせいだろうか。
106 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:03:22.11 ID:OK/bdtscO
果南「ごめん、気分悪くなったから部屋に戻ってる。何かあったら……内線電話でも部屋に直接来るでもいいからさ」
「昼食は要らないから」と言い置き、鍵を持った果南は一人ロビーを去った。
ルビィ「でも、善子ちゃんが犯人じゃないとしても……犯人、まだどこかに居るのかな」
梨子「分からない。例えば、誰かに恨みを買っていた、とか……?」
高森「確かに、大企業の社長ともなれば本人も知らないところで恨みを買うことはおかしくないけれど……」
107 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:04:29.62 ID:OK/bdtscO
グ〜〜〜ッ
「「…………」」
千歌「……ごめん、朝から何も食べてなかったから」
突然の腹の虫の音に、どうしようもなく緊張がほぐれる。
幸いにもキッチンに食材が搬入されていたので、軽い昼食を摂ることにした。
……結局皆あまり箸が進まず、胃に無理やり押し込んだせいで料理の味もほとんど分からなかったのだが。
108 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:04:58.60 ID:OK/bdtscO
────13時半頃。
ダイヤ「軽くお昼作りましたので、一応置いておきます」
果南『いいって言ったでしょ?』
ダイヤ「ですが……」
果南『……勝手にして』
109 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:05:32.71 ID:OK/bdtscO
ダイヤ「…………」ハァ
梨子「何だか果南さん、変わりましたね」
ダイヤ「ダイバーショップがなくなってから、果南さんはああです」
梨子「髪を切ったのも、もしかして……」
ダイヤ「ええ。千歌さんとお揃い、と本人は言っていましたが……」
110 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:06:36.40 ID:OK/bdtscO
ダイヤ「何より、店がなくなったのは……」ハッ
ダイヤ「……とにかく、私は失礼します」
梨子「……? 施錠はしっかりしてくださいね」
ダイヤ「分かっていますわ」ガチャリ
自室へ戻るダイヤを見送り、私も部屋へ向かった。
111 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:07:36.51 ID:OK/bdtscO
────梨子の部屋。
梨子「んー……」
分からない。この事件は謎が多すぎる。
まず一つ、何故犯人は鞠莉の首を切断したのか。
鞠莉の死体には、首を絞めたような跡がはっきりと残されていたのを確認している。
仮に彼女を殺すだけなら、絞殺死体でも十分なのではないだろうか。
112 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:09:25.83 ID:OK/bdtscO
二つ。何故犯人は犯行を善子の仕業のように見せかけているのか。
首が狩られていた件についても、かつて善子がハマっていた黒魔術、その類の見立てと考えれば一応辻褄は合う。
現に善子の持ち物である魔法陣の描かれたクロスが使われたのだから、彼女が犯人と考えるのが自然ではある。
113 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:10:18.57 ID:OK/bdtscO
しかし、もし彼女が犯人ではないと仮定した場合。
犯人はその偽装を、“Aqoursの皆”に見せつけたのだ。
全盛期ならいざ知らず、5年経った今でもその名前を紙に記し、私たちを誘導した。
度の過ぎたファンの仕業か、或いは。
114 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:11:24.21 ID:OK/bdtscO
梨子「まさか」
『私たちの中に、犯人がいる』
あまりしたくない想像を保留として、思考を次へ進める。
115 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:12:44.43 ID:OK/bdtscO
三つ目。何故犯人はロープウェイを使えなくしたのか。
ワープロであんな紙を用意していたことと言い、私たちをここに閉じ込めたことといい。
一連の犯行には、計画性が滲み出ている。
犯人はこの後も誰かを狙っているのだろうか、そんな考えが頭をよぎった。
116 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:13:50.71 ID:OK/bdtscO
梨子「そうだ、内線」
果南はあの時、内線電話について触れていた。
当然、この部屋にも備え付けの電話機が設置されている。
薄い期待を胸に受話器をあげ、1、1、0のボタンを押してみる。
117 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:14:36.55 ID:OK/bdtscO
梨子「……やっぱりダメか」
繋がらない。外部への連絡手段は全て絶たれている。
夕飯時までベッドで寝転がっていようか。そう思った矢先。
プルルルル、とさっき切ったばかりの室内電話が鳴り出した。
118 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:15:24.44 ID:OK/bdtscO
梨子「もしもし」
果南『もしもし、私。さっきはごめんね』
掛けてきたのは果南だった。別段何かが起こったワケでもないらしい。
梨子「いいですよ、そんな……」
119 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:18:32.44 ID:OK/bdtscO
果南『私ね、梨子ちゃんが羨ましいって思う』
梨子「……?」
果南『鞠莉が死んだ時、梨子ちゃんは私やダイヤを気遣ってくれた』
果南『でも、私自身は鞠莉があんな死に方をしたのに全く悲しめてなくてさ。死んだのか、程度にしか思えなくて』
梨子「果南さん……」
120 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:20:37.25 ID:OK/bdtscO
果南『梨子ちゃんも気を付けた方がいいよ。2年で変わらなくたって、5年も経てば人は変わるんだから』
梨子「っ……」
果南『それじゃあ、夕飯の時になったら教えてね』ガチャッ ツー ツー ツー
彼女の言葉に、私は何も言い返すことが出来なかった。
──ねえ、梨子ちゃん。あのこと、私は忘れてないからね。
同時に、何となく千歌のことが気になったが……結局、電話を掛けることも、直接部屋に行くことも出来なかった。
121 :
◆8TImjtGSKs
[saga]:2017/06/18(日) 02:21:05.45 ID:OK/bdtscO
────14時頃、千歌の部屋。
千歌「──うん、多分そういうことだから。じゃあね」 ガチャリ
千歌「……ハァ」
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