とある魔神の上条当麻II

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41 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/26(金) 22:36:38.26 ID:CZrVDGL70

「!?」

何が起こるかは覚悟していたが、これほどまでの衝撃は予想できなかった。不様にも当麻はしりもちを地面につき、黒いオーラを漂わせて体を浮かばせるインデックスを、ただ見ることしかできなかった。


「…………」

ギン、と魔方陣を浮かばせた目と、当麻の黒い瞳が合う。
そして、インデックスの口が開く。




「ーー警告、第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorumーー禁書目録の『首輪』、第一から第三までの全結界の貫通を確認……」


それは間違いなく彼女の声だった。しかし、その口調は機械的で抑揚の欠片もなかった。


「再生準備……失敗。『首輪』の自己再生は不可能。現状、10万3000冊……もとい、10万2997冊の『書庫』の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」
42 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/26(金) 22:44:14.30 ID:CZrVDGL70
突如、インデックスの眼の魔方陣が拡大した。



「『書庫』内の10万2997冊により、防壁に傷をつけた魔術の術式を逆算……失敗。該当する魔術は発見できず。
 術式の構成を暴き、対侵入者用の特定魔術を組みあげます」
43 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/26(金) 23:20:49.61 ID:CZrVDGL70

まずいーーーー、直感的にそう感じた。

(やっぱりただの魔術じゃねぇ!)

当麻は今のインデックスにかかっている術式を解除しようと駆ける。が、

「迎撃用の結界を展開ーー」

先にインデックスが結界を展開する。

それによって発生した衝撃波に押しのけられるように、当麻は数メートル後退した。

「こ、これは……! シルビアの……!?」

オッレルス家の聖人シルビアは、結界を防御だけでなく、攻撃にも使っている。
しかしあれは彼女の独創魔術だったはずだ。それも聖人特有の『天使の力〈テレズマ〉』を使うはず。
44 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/27(土) 17:11:25.98 ID:FcTNH5zc0

「天使の力すら使うのかよ!」

右手を大きく突き出す。一見何の変哲のないただの手。しかしそれは神の奇跡を打ち消す。



「やってやろうじゃねぇか……!!」

甲高い音と共に、結界は壊れた。
45 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/27(土) 17:21:33.05 ID:FcTNH5zc0

「……結界の崩落を確認。侵入者個人への有効な術式を検索、組み立てーー」

「ーー侵入者個人に対して最も有効な魔術の組み込みに成功しました」

インデックスの眼の魔方陣がまた広がる。

その時、当麻の背中にとてつもない悪寒がはしった。

何か来る。核兵器級の何かが。

当麻は反射的に右手を前に突き出した。

「これより、特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を破壊します」
46 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/27(土) 17:30:18.83 ID:FcTNH5zc0


インデックスから、見覚えのある光を放つ、直径数メートルの光の柱が当麻を襲う。

突き出した右手でそれをおさえるが、絶えずぶつかってくる砲撃の威力と質量に、体全体が押される。

当麻の右手はただの右手ではない。しかし魔術の類いを打ち消すだけで、強度は人間並み。
47 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/27(土) 17:36:14.18 ID:FcTNH5zc0
防御の術式もかけられないし、仮に魔神の左手で受けても怪我ではすまないだろう。

そのため衝撃はダイレクトに、絶えず体に伝わる。

この右手こそが、魔神上条当麻の最大の特徴であり、弱点である。
48 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/27(土) 17:45:01.97 ID:FcTNH5zc0
しかし、

「っぐ……! うおおお!!」

他の部位は魔神だ。魔神の肉体は強大な魔力とリスクの高い術式、そして原典に耐えられる強度を持つ。
そのため聖人と比較して身体能力は2〜3倍、肉体強度は3〜4倍だ。

直に受けない限り、現状では押しきることができる。
49 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/27(土) 17:54:28.75 ID:FcTNH5zc0

(一歩、一歩ずつでも……! 前に進む!!)

ほんの数センチずつだが、前進しはじめた。

押しきればインデックスに触れられる。

インデックスの術式を解除できる。

この魔術"竜王の息吹"の弱点は、威力が高過ぎてコントロールが難しく、下手すれば自分にも当たることだ。そのため一直線にしか放てない。
50 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/27(土) 17:58:05.02 ID:FcTNH5zc0

押しきってインデックスにたどり着ければ、自分達の勝ちだ。
51 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/27(土) 18:17:59.71 ID:FcTNH5zc0

〈オティヌスside〉



オティヌスは目の前の光景に言葉を失っていた。


巨大な光の柱と、自分の相棒が右手一本で拮抗している。
どう見てもあり得ない状況だ。


「何故だ……!」

オティヌスが言葉を絞り出す。


「何故インデックスに魔術が!?」
52 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/27(土) 21:03:02.43 ID:FcTNH5zc0

驚愕が困惑へと変わった。

インデックスは魔術を使えない。つまり魔力を練れない、そう解釈していた。

しかし魔力を練れないのではなく、魔術を使うのに制限がかかっているのでは、その時は考えつかなかった。


「……あれは"自動書記"……」

一緒に傍観している神裂がつぶやいた。表情と目は、驚愕の色に染まっている。

「彼女の持つ10万3000冊の魔道書の知識を総動員し、最適な対抗手段を用いて敵を排除する魔術……!」

「インデックスが魔術を使えないのはあの魔術の維持、発動のためだったと言うのか……!」

吐き捨てるようにステイルが言う。

「10万3000冊の魔道書の知識を持つ彼女と戦うとことは……、一つの戦争を迎えることを意味するぞ……!」


「いや、ちがう……、もしかしたら」

インデックスこそが、完璧な魔神なのでは、
オティヌスはそんな気がした。
53 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/27(土) 23:46:15.62 ID:FcTNH5zc0


ギリ、と無意識に歯ぎしりする。
恐れている? 自分が?

急激に今の自分に対する怒りを感じた。

自分が浅はかな考えをしなかったら、自分が考えを急かさなければ、こんなことにはなり得なかったはずだ。これは自分の責任だ。

彼が進もうとする限り、オティヌスも諦められない。

だがら、インデックスを救う以前に、魔神の失敗作として、上条当麻の相棒として、


(打開策を…………!!)



「魔神! よく聞け!」

「!? オティヌス!?」

「分かっているだろうが、インデックスはお前が触れれば解除される。つまり私達の勝ちになる!」

「知ってら! だからこうやって近づこうと……!」

「近づけば近づくほど威力が増しているのくらい分かってるだろ、このバカ野郎!
右手は人間なんだぞ!? 今でもその手は悲鳴をあげている! 下手すりゃ耐えきれず消し飛ぶ!」

「悪いが引くってのはなしだぜ!?」
54 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/28(日) 10:48:34.50 ID:zUXEOD3/0
「当たり前だ。誰に当たると思ってるんだ、このマヌケ。いや、弾除け」

「おい! 上条さんの価値ってその程度なの!?」

「いいか、魔神」

「スルー!?」

「少しの間だけ、その攻撃を私達が食い止める。その間にインデックスに触れて術式も解除しろ!」

「ん、んなことできんのか!?」

当麻にはとてもこの力をオティヌス達が押さえきれるとは思えない。

「ああ、できる。ステイル」

オティヌスがステイルの名を呼ぶ。

「"魔女狩りの王"は?」

「一応使えるが……」

ここら一帯にあるステイルのルーンは、まだはずされていない。"魔女狩りの王"を使うのには十分だ。
しかし、あの火力が何の役にたつのか、ステイルは分からなかった。

「……いくら持つ?」

「おい! まさか!」

ステイルはオティヌスの考えを察した。"魔女狩りの王"を、盾がわりにする気だ。
確かに防御に特化しているが、今回は度が違う。

「魔神級の魔術だぞ!? 一瞬も耐えきれない!」

「魔力と耐久性については私が補助する。数秒持てばあいつがインデックスにたどり着ける!」


55 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/28(日) 11:01:52.93 ID:zUXEOD3/0

「だが……」

「自信がないのか!? 助けたいんじゃないのか!? 少なくとも今、あいつは逃げず耐えているぞ!」

ステイルの態度にオティヌスはついに激昂したような声を上げる。


「やれ、ステイル! インデックスを救え!」

「っ!! ……"魔女狩りの王"」

キッ! と前を向き、ステイルは炎の巨人を呼び出す。
出現した巨人はいつもより
56 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/28(日) 11:35:20.82 ID:zUXEOD3/0
「お、大きい……!」

オティヌスの補助を得てか、2メートル程増していた。これほど大きなものはステイル自身、作ったこともなかった。
燃え盛る炎は大きく、ここからでも熱を感じる。

「魔神! 準備はできたぞ!」

そのオティヌスの声を合図に、当麻は"竜王の息吹"をいなし、かわす。
そして砲撃はオティヌス達の方へと向かい、その射線上にある"魔女狩りの王"に直撃する。

「よし!耐えているぞ!」

普通ならすでに崩壊していてもおかしくない。
しかし、オティヌスの補助で、余裕で耐えている。
再生も追いついていた。
が、

「い、威力が!?」

"魔女狩りの王"の防御力に比例するように、砲撃の威力もとたんに上昇した。

今度は再生が追いつかず、"魔女狩りの王"はすぐに崩壊しはじめた。
そしてさらに追い討ちをかけるように、

「上条当麻の接近を確認。標的に攻撃を行います」

二発目の"竜王の息吹"が当麻に放たれる。

「うおっ!」

反射的に右手をつき出す。直撃はしなかったが、受けていた右手から、ごきり、と嫌な音が。

八方塞がり、万策尽きたかに思われた、が、


「Salvare000!!」

神裂の声と共に、剣激がインデックスの足下へ向かう。


57 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/28(日) 11:44:42.87 ID:zUXEOD3/0
「神裂!」

放たれた剣激はインデックスの足下、正確にはその地面に直撃し、インデックスの体ごと、二つの砲撃が空へと向く。

「行って下さい! 上条当麻!」

当麻はもう一度走り出す。そしてインデックスの眼前へとたどり着き、インデックスに触れた。
そして、

バキィィィィィィン!!

甲高い音と共に、インデックスの魔術が、ついに、解除された。

58 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/28(日) 12:18:51.33 ID:zUXEOD3/0
〈上条side〉

やっと、終わった。

インデックスを助けることができた。


術式から解放されたインデックスは、自身の傍らで気絶していた。今はスースーと、寝息をたてている。

当麻の右手はもう動きそうにない。二発目に耐えきれず、何本か折れていた。

(終わったんだな……)

しかし右手に痛みはない。珍しく今日は疲労を感じていて、痛みより疲労が勝っていた。


すると、自分の頭上から、光の羽が落ちてきた。"竜王の息吹"の余波だった。

(や、やばい!)

その羽はインデックスに触れそうだった。

どのような効果があるかはよく知らないが、インデックスに触れられればやばいことはわかる。

すぐに消そうとするが、

(右手が動かねぇ!)

先で折れてしまった右手が、動きそうにない。衝撃を受けて肩も痛めているようだ。
59 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/28(日) 12:26:49.62 ID:zUXEOD3/0
(ハッ……)

何故か当麻は心の中で笑った。



(魔神って、これ受けてもだいじょぶだよな……)

当麻はついに、インデックスに覆い被さった。


そして、光の羽が、当麻の体じゅうに当たった。




60 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/28(日) 17:49:57.39 ID:zUXEOD3/0




目を開けるとそこには、見知らぬ白い天井があった。

どれ程寝ていただろうか。ゆっくりと上体を起こすと、自分はベッドの上だった。

(……ここは……病院?)

なんとなく状況がわかってきたところで、ドアが開いた。

「魔神、気分はどうだ?」

入ってきたのはオティヌスだ。どこか申し訳なさそうなのは気のせいだろうか。

「よ、オティヌスか」といつも通り返事をしたつもりだが、今度は安堵したかのような顔をした。

「インデックスはどうなったんだ?」

「無事だ。お前が庇ったおかげでどこも怪我していない」

淡々とオティヌスが答える。

「そーですか。上条さん、一安心ですよ」

「…………」

「ん、オティヌス? どうかしたか?」

急に黙りこくったから、どうかしたのかと思った。
すると、オティヌスは気まずそうに「なぁ……」と声を出した。

「聞きたいことがあるんだ」
61 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/28(日) 23:45:25.97 ID:zUXEOD3/0



〜〜数分前〜〜


「これは記憶喪失というより、記憶破壊じゃないかと思うよ?」


とある病院の診察室で、カエル顔の医者が言った。


「脳細胞の一部が焼ききれていて、正直記憶が戻る見込みは無いよ? なんせ物理的に潰されているようなんだから」


彼はこの学園都市内で一番の腕前を誇っている。必要な機材があれば直ぐ様用意し、取りこぼした命は一つと無い。

しかし、その力を持ってしても、


「これは、僕でも治せないよ?」


目の前に座る二人の少女は、何も言葉を発さない。明らかに二人は学園都市の人間ではなかった。

片方の金髪の少女は悔しそうな表情で、ギリ、と歯ぎしりし、もう片方の銀髪の少女(シスター?)は今にも泣き出しそうだった。

やがて、金髪の少女が口を開いた。


「……肉体のダメージは……?」


恐らく、彼女が最も恐れていることだろう。よほど大切な人なのか。それでも、真実を伝えなければ。


「完治したとは言えないよ」
62 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/29(月) 00:14:04.07 ID:F8zkmxMu0

「恐らく後遺症が残る。
外傷の無い所にまで体のあらゆる所に大きなダメージを負ったんだ。それは精密検査しないと分からないけれど―――――――」
「もういい」


金髪の少女が遮った。
やはり聞くに耐えなかったようだ。今の彼女の胸中は察せないが、穏やかではないのは確かだ。


「――――面会してもいいか?」

「ああ、いいとも」


昨日、あの少年と彼女達に何が起こったかは知らない。けれど、彼女達が、これから大きな業を背負っていくのは、その場にいなかった自分でも分かる。
だから、背を押すことしかできない。


「言っておいで」


それに答えず、彼女は診察室を静かに去って行った。




〜〜現在〜〜



診察室をでて、現在病院の廊下を歩いているインデックスの胸中も、穏やかではなかった。

自分はどんな顔をして、彼に会えばいいのだろうか。
第一、彼は自分を覚えていてくれているのだろうか。

忘れられていることを考えると、胸に黒い何かが渦巻いてきた。
63 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/29(月) 00:40:45.77 ID:F8zkmxMu0


それが何かはわからない。




結局それが分からないまま、彼のいる病室の前へとたどり着いた。
いや、たどり着いてしまった。

自分の気持ちも定まらない、そんな不完全な気持ちだった。こんなので入れるのだろうか。
けど、そんな気持ちでも、

オティヌスは既に入っている。自分より先に覚悟を決めて。だから、自分もいかなければ。自分だけ逃げたくなんかない。


「ふぅ………………」と病室の前で一息つく。





そして、インデックスはドアを開けた。
64 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/29(月) 20:36:39.89 ID:F8zkmxMu0












「―――――――――――――――――お、インデックス」




いた。


ベッドには間違いなく、上条当麻がいた。右手が折れているなど違った所はあるが、確かに、はっきりと自分の名を呼んだ。



彼の傍らではオティヌスが「遅いぞ。何してた」とやや膨れっ面で、怒ったような口調だが、間違いなく診察室の時とは雰囲気が違っていた。


「だ、大丈夫なの…………?」


おかしい、嬉しいのに声がかすれてる。目頭も熱くなってきた。


「ああ、身体のことか? いやー、上条さんもさすがに死んだと思いましたけど、奇跡的に助かったんですよ。魔神の肉体も捨てたもんじゃないですよ」

「よく言え。もろに受けて魔力生成に障害を持ったくせに。どんだけ体はるんだ」

「いいんですぅ、上条さんの身体なんだから。障害くらい、訓練すれば」

「…………その訓練に付き合うのは誰だ」

「オティヌス様、お願いします」
65 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/29(月) 21:03:07.71 ID:F8zkmxMu0


「イヤだ」

「土下座したのに!?」

「怪我人の土下座ほど見苦しいものがあるか。お前限定で。お前限定で!」

「理不尽すぎんだろ! つか二回も同じ事を!?」

「あ、違った。いつもだったな」


「………………あれ、目から涙が…………?」

「キモいんだよ、目の前で」



全く、何にも変わっていない。
二人はさもいつも通りのように、夫婦漫才を始めていた。至って健全に振る舞っている。


昨日何が有ったかはあの魔術師二人に聞いた。
自覚と記憶はないけれど、確実にこの二人とあの魔術師達が、生死の間際にまで達してしまいそうになったのは紛れもない事実だろう。


そして、その原因が自分であることも。


けれども二人は、何も言わず、自分という存在を受け入れてくれた。この場にいることを拒みはしなかった。
66 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/29(月) 21:45:16.03 ID:F8zkmxMu0


「さすがにそれは許せねぇ! 仕返しに炎の魔術で燃やしてやる!」

「はぁ? 今のお前なら、初見の魔術じゃチャッカマン程度がせいぜいだろうが(笑)!」

「火炎放射器くらいは出せますぅ! 上条さんは腐っても魔神です! 魔力練れなくても魔神です!」




しかし、拒まれてはいないが、今は相手にされていない気がする。


(…………早速空気なんだよ…………)


今や、さっきまで感じていた嬉しさはどこへやら、自身の存在の空気化が気がかりだった。

早く自分の存在に気づいてほしくて、声をかけようとしたその時、ガラリ、とドアが開いた。


「やぁ。気分はどうだい?
…………て、だいじょぶそうか」


入ってきたのは、二メートル越えの大男、ステイルだった。
その後ろからは、病院の中でも露出過多な服装の神裂が、ステイルに続いて入ってきた。
67 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/29(月) 22:06:07.50 ID:F8zkmxMu0


「あ、ステイルと神裂か」

「なんだ、見舞いか?」

「それも兼ねて………………て言うか、お前ら何やってんだ!?」

「いや、これは……」


ステイルが驚くのも無理ない。
今二人の状況を説明すると、オティヌスがどこからともなく取り出した縄で当麻の身体を縛って、彼を芋虫状態にして自由を奪い、その胴体を片足で踏んづけている最中だった。


俗に言う、SMプレイだ。


「上条当麻。昨日の一件で君に対して尊敬と感謝の気持ちを抱いたが………………幻想だったようだ」

「誤解だ! これはオティヌスが……」

「見損ないました……」


間髪入れずに、神裂が告げる。


「インデックスの前で、こんなことをして!」

「違うってば! あ、インデックス! お前何か言ってよ!」
68 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/29(月) 22:20:33.15 ID:F8zkmxMu0


今度は恥とプライドをかなぐり捨て、インデックスに懇願する。もちろん芋虫状態で。しかし、


「ふん! とうまなんか知らない!」

「何故にお怒りモード!? つーかオティヌスいい加減、縄(これ)、外せーーーー!!」




〜〜数分後〜〜




「危うく変態認定されるとこでした…………」

「安心しろ、もうなってる」

「安心の要素どころか、不安要素しかない!?」


ようやく解放された当麻だが、オティヌスの不穏な一言に反応する。


「インデックスは何か不機嫌だし……、あー、不幸だ…………」
69 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/29(月) 22:53:31.28 ID:F8zkmxMu0


サラリーマンのようなため息をつき、当麻はお決まりの口癖を呟く。神裂がそれに反応したのは気のせいだろうか。


「で、何の用できた? 見舞いだけじゃないだろ」

「……さすがは魔神、の失敗作か。
確かにそれだけじゃない。というか、見舞いがついでだね」


ステイルの言葉におい、と病室内から声が上がる。
しかしステイルは意に介さず続ける。


「インデックスの処遇が決まった」

「!!」

「…………教会はインデックスを、上条当麻の下に保護させるそうだ」

「え!?」

「……なんだ、嫌なのか? 生活費の方は補助するそうだが」

「いや、そういう問題じゃねぇよ! それよりシルビアに何を言われるか分かったもんじゃねぇ!」

「そっちかよ」


オティヌスの突っ込みが入る。


70 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/30(火) 20:43:03.08 ID:UnnL04lf0


「前から思うんだが、シルビア程度、お前には赤子以下のはずだろ」

「お前はあの『お仕置き』を知らないから言えるんだ!」


すると突然、当麻の体がぶる、と震えたように見えて
「シルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖いシルビア怖い」

と、何かのトラウマを呼び覚ましてしまったようだ。


「で、インデックスを私達に預けるのはいいとして……」

(潔いくらいにスルーしたんだよ…………)


「お前達の方はどうなんだ? インデックスを監視する任務も解かれ、実質、そっちの上司に逆らったようなことをしたんだぞ?」


形からすれば二人は、『必要悪の教会』に逆らったことになる。恐らく二人もそれを覚悟してインデックスを救おうとしたのだろう。
それ相応の罰が下るはずだとオティヌスはおもっていた。


「いえ、インデックスの件については何も言及されていません。私達に対しては、通常の勤務に戻れ、というお達しだけでした」
71 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/31(水) 20:05:39.08 ID:kkolI7u70


「それだけ?」

「教会の方もあまり表沙汰にはしたくないのでしょう。インデックスはイギリス清教の重要人物ですから」

「ま、君達が僕達にする心配事なんて、ないってことさ」


そう言うとステイルはゆっくりと振り返り、「彼女をよろしく」とだけ言って神裂と共に当麻の病室を出た。
72 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/31(水) 21:11:18.47 ID:kkolI7u70


「……ま、とりあえずよろしく。インデックス」

「とりあえずよろしくな」

「なんで『とりあえず』!?」

「「いや、急だったし」」

「だとしても扱いがひどい!」


そしてまたいつもの空気に戻る。
今の所はインデックスがいじられ役にいるようだ。まぁ、基本自由奔放なインデックスを翻弄できるのはこの二人ぐらいだろうが。

「あ、インデックス。あのお医者さんに俺の薬貰ってきてくれない? 後で取りに来るよう言われてるから」

「わ、分かったんだよ。でも代わりに、お家に帰ったらいっぱい食べさせてほしいかも!」

「ああいいぞ。当麻(こいつ)の財布が空になるくらいまでは大丈夫だ」

「何が大丈夫だ!?」

「分かったんだよ!」

「わかるなーーーーーーーー!」
73 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/31(水) 21:28:11.80 ID:kkolI7u70


前言撤回。オティヌスの方が上手であった。


「…………お前……後で覚えとけよ……」

「暇だったらな」


つまり、覚える気はない。
当麻は諦めたように、はぁ、とため息をつき、上体をベッドに寝かせる。昨日の疲れが完全に取れたわけじゃなかった。
それに後一週間は入院生活、とあのカエル顔の医者が言っていた。


「…………ふふ…………」

「?」


オティヌスが急に笑った。それを見て当麻は怪訝な顔をする。


「お前と会って、早くも八年たったか。正直、私にとって、お前と出会ったあの日は最高の日だと思っている。勿論今も」
74 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/05/31(水) 21:51:32.48 ID:kkolI7u70


「ああ、もう八年たつのか……」


オティヌスが唐突に他意のない話を始めるのはいつもの事なので、当麻も慣れたように返す。


「バチカンでお前とまた会ったときも、お前は私のことを覚えていてくれてたな」

「そりゃ、あんな痴……すいません、なんもない」

「……それ以上言ったらグーをとばすつもりだった。
ま、それも覚えているくらいなら問題ない。やはりお前は何の記憶も失っていないな」

「人名、用語、知識、全部問題無かったしな」


当麻が目を覚ました後、 オティヌスは自分に細かい所まで質問してきた。当麻はその全てを正確に答えていたし、オティヌスが頭の中を覗いても、脳の機能には何の問題もなかった。
つまり、上条当麻は何の記憶も失っていなかった。
75 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/03(土) 00:39:57.06 ID:oaNvi/Np0

「だが、それは今分かっている範囲だけだ。
後々から何かの記憶を失っていることが分かるかもしれない。……そういった時は頼れよ?」

「ハイハイ。喜んで頼らせて頂きます」


しかし、当麻の答えを聞いたオティヌスは、何故か不服そうにジトッとした目でこっちを見た。


(そう言っていつも頼らん癖に……)

「え? 上条さん何か悪いこと言った!?」


本気でオティヌスが不服な顔である原因が分からない当麻は、態度を崩して慌て始める。
それを見て、不満を通り越して呆れ始めたオティヌスはもういい、と病室を出ようと立ち上がる。




「…………俺も、オティヌスと会えてよかった」


ピタリ。
病室のドアの前まで歩いたオティヌスが動きを止める。


「オティヌスはすげぇ頼れるし、俺の知っている中じゃ、ダントツに強い。それに何より、オティヌスは優しい」
76 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/03(土) 01:01:56.68 ID:oaNvi/Np0

「…………優しい、のか? 私は……」


いつもの自分なら否定していたであろう。だが、他でもない自分の相棒、上条当麻の言葉にオティヌスは何故か、やや恐怖心を抱きながら聞き返す。

生まれてこのかた、そんな事は他人に言われたことがなかった。

自分が持つ力を見たものは誰であれ、恐れ、また拒絶され、敬遠された。当麻以外の人間で、まともに話そうとする者はいなかった。

自らの力が原因の彼女の苦悩を、理解しようとする者はいなかった。



77 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/03(土) 16:03:27.14 ID:oaNvi/Np0


オティヌスは信頼する相棒からの返事をまった。








「友達のために立ち上がるやつが、優しくないわけねぇだろ」






「――――――――――そうか………………」


短い返事だけ返して、病室の外へと出る。当麻には見えるはずもなかったが、その時のオティヌスは、




――――――――――――いつもより柔らかな、白く、美しい、聖母のような笑みを浮かべていた。


(優しい、か………………)
78 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/03(土) 16:41:31.65 ID:oaNvi/Np0


病室から出ても、オティヌスはどこにも行かずそのままゆっくりとドアにもたれ掛かった。

その間も彼女はその笑顔を崩すことはなかった。


やはり、ああ言われると反応に困る。


だけど今、オティヌスの心はとても穏やかだった。
いや、暖かい。今まで感じたこともないくらいに。


それは、ただ優しいと言われたからだけじゃない。



自分にとって、世界で最も長い時間を共に過ごしてきた人に、そう『理解』してくれていたからだ。
それが堪らなく、嬉しい。


(やはり、私も一人の人間なのだな)


まぁ、それがあいつの耳に入れば、『そんなこと思わなくてもお前は人間だろ』と言われそうだが。
79 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/04(日) 19:04:40.86 ID:6kO2MXYq0


少しして、トテトテ、という音がオティヌスへ近づいてきた。


「おてぃぬす〜。どうしてそこにいるのー?」

「ん、いや、お前を迎えにいこうとしててな」

「まだそんな立ってないと思うんだけど……。
あ、当麻のお薬貰ってきたよ」

「おお、ありがと」


すると突如、インデックスの表情が凍るように固まった。あまりにも唐突なことだったので、オティヌスは「ど、どうした!?」と狼狽え始めた。


「お、おてぃぬすが、わ、私にお礼を言ったんだよ……!」

「なんだよその理由!? 失礼すぎんだろ!?」

「いや、自分勝手で傍若無人な性格してて、問題が起こったらとうまに押し付けてるし…………」

「今日のご飯、もやしな」
80 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/04(日) 19:21:58.91 ID:6kO2MXYq0


「嘘なんだよ!? 冗談なんだよ!? 昨日会ったばかりでおてぃぬすのことあんまり知らなかったし……!」

「……………………これから知っていけばいいだろ…………」

「…………え?」

「私もお前のことをよく知ってる訳じゃない。これからお互いのことを知りあって、理解していけばいい。理解し合う時間なら、たくさんあるだろ。勿論、あいつとも」

「お、おてぃぬす…………」


これまで、オティヌスが積極的に人と関わろうとしたことは少なかった。ましてや仕事関係ではなく、友情関係を築いていこうとしたことは、全く無かったと言っていい。
しかし、上条当麻との出会いによって、八年前から少しずつ、オティヌスの心は変わっていっていた。
勿論、インデックスもたじろいでいた。
だがオティヌスは、内心不安ながらも黙って目の前の少女の答えを待った。
81 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/04(日) 19:39:33.60 ID:6kO2MXYq0








「…………………………と、とうまとならともかく! お、女の子どうしでそう言った関係は、私としては遠慮しとくんだよ!」

「は!?」

「ゆ、百合展開はかんべんかも!!」

「んな展開望んじゃいねぇよ!
ちくしょう、一生に一度の告白なのにィ!!!」






「…………はは、不幸だ」


病院、特に病室の前では静かに(切実)。
82 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/04(日) 20:23:01.08 ID:6kO2MXYq0
…………………………………………………………………………………………………………………………………


「…………何かな? 冥土帰し」


とある病院の一室。そこでは冥土帰しと呼ばれるカエル顔の医者が、数年ぶりに誰かと電話ごしの会話をしていた。
勿論、ただ世間話をするために掛けたのではない。


「今日、僕の所に一人運ばれて来たんだがね? 明らかに学園都市の生徒じゃないんだよ」

「ほう。それがどうかしたのかい?」


電話の向こうからは、それだけがかえってきた。


「君と彼らは関わっているんじゃないか? アレイスター。特にその付き添いで来た金髪の子と」


今度は少し間があった。
83 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/04(日) 20:45:19.20 ID:6kO2MXYq0
「…………なぜ、そう思う?」

「彼らのIDが見つからなかったからだよ。
それに今日は来賓の予定も無かったし、そうなると君が関わっているのがいつものことだろう?」


冥土帰しは淡々と、詰問するように答えていく。


「それにあの金髪の子、なんというか、雰囲気が昔の君と似ているんだよ」

「…………ク、ククククク、ふ、ふははははは! ふはははははは………………!!」

アレイスターが電話の向こうから地獄の亡者のような笑い声をあげた。


「さすがだ。さすが冥土帰しだ。 もう数十年と経っているのに……。私のクローンだと見破ったか?」

「クローン? 私が似ていると言ったのは雰囲気だが?」
84 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/04(日) 21:33:19.14 ID:6kO2MXYq0

「ふむ。確かに彼女……オティヌスは私と姿形は似ていない。しかし彼女と私の考えることは非常によく似ている。合理的思考、判断力、観察力。全てにおいて私と似かよった方式だ」

「……まるで今まで見ていたかのような言い方だね」

「"プラン"に必要な"パーツ"だからな。部品の性能はよく見ておくべきだろ?」


「――――僕の患者を部品呼ばわりするな。彼らは僕の患者なんだからな――――」


いつもの彼なら考えられないであろう、怒気の籠った声で冥土帰しは忠告する。医者として、患者を守ることが彼にとっての信条だった。
85 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/05(月) 21:14:49.69 ID:87TSx8Lp0
「おっと、失言だったな。
用がそれだけなら、そろそろ切らせてもらうよ。
さらばだ」


その言葉を最後に、電話からはプー、プーという電子音だけが、冥土帰しの耳へと入ってきていた。


「……アレイスター、君は……」



…………………………………………………………………………………………………
…………………………


86 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/05(月) 21:22:15.84 ID:87TSx8Lp0

インデックス編、終わりです。
ぐだぐだとひきのばしすぎてしまったと今思います。
慣れないせいで、下手な文ばかりを書いてしまいました。

次は、三沢塾編をとばして、日常編、妹達編に続きます。
87 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/05(月) 23:41:14.34 ID:wPrEeo4Yo
おつなのー
88 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/06(火) 22:48:53.63 ID:cabx3Vyj0
次回予告


「また勝負かよ! このビリビリ中学生!」
魔神になった不幸体質を持つ少年ーー上条当麻


「ビリビリじゃなくて、名前で呼べっての!」
学園都市のビリビリ中学生ーー???


「それほどこの町は、人を狂わせるんだ」
クローン(?)の魔神の失敗作ーーオティヌス


「もう! 卵ばっかりはイヤなんだよ!」
十万三〇〇〇冊を記憶する少女ーーインデックス


「よろしくだにゃー、カミやん」
謎の金髪グラサンニャーニャー男ーー???


「ボクぁ落下型ヒロインのみならず、」
謎の青髪変態ピアス男ーー???


「―――と、ミサカはツンツン頭の少年に答えます」
学園都市のビリビリ中学生(?)ーー???
89 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/06(火) 22:51:51.18 ID:cabx3Vyj0


「 第五話・学園都市の日常」

90 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/09(金) 16:54:15.06 ID:igQ1IyIM0




学園都市

東京西部に位置し、三メートルの壁に囲まれた完全な円形の都市。
総面積は東京都の3分の1を占める広さを持つ。
総人口は約230万人で、その8割は学生。
ここの学生らは「記憶術」だの「暗記術」という名目で超能力研究、即ち「脳の開発」を行っている。
そのため外の世界との技術格差は二、三十年ほどあり、二十三に別れたそれぞれの学区で様々な研究を行っている。

そしてその一角、第七学区

中学・高校といった中等教育機関を主としており、同校に通う学生や勤務教師たちの生活圏となっていて、9つの他学区と隣接するせいか雰囲気は雑多である。
91 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/09(金) 17:32:05.78 ID:igQ1IyIM0


はー、ホントついてないわ…………。

7月中旬終わりのある日、八時を少し過ぎた頃、第七学区のとある路地で、一人の少女がいた。
しかしその周りには、がらの悪そうな男が四人いて、その少女を囲って逃げ場をなくすかのようにして絡んでいた。


「なー、君、常盤台の子だよねー?」

「こんな夜中に何で一人でいんの? 暇なら俺らと遊ばない?」

「帰りはちゃんと俺らが送るからさ」

「いつ帰れるかはわかんねーけどよー」


その言葉で下品な笑い声を上げる不良達に対し、彼女は軽くため息を漏らすだけだった。
その理由は呆れ。
誰にと言うと、この状況を見ていながらにして、見ないふりをしてそこを通りすぎる生徒達にだった。
92 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/09(金) 17:45:32.64 ID:igQ1IyIM0

自分の身が可愛いのは分かるが、この状況を見たのなら、せめてこの街の治安を守る、警備員や風紀委員に通報だけでもするべきだ。
それすらもできない生徒達は、いくら何でも情けないと思った。

最も、彼女の素性を知る者がいたなら、イヤお前が追っ払えよ、と口を揃えるだろうが。

(ホント、ろくでもないやつばっかね、この街も、こいつらも)


そろそろ不良達が手を出してきそうだ。出して来たら即攻撃する。相手が手を引いてくれたのならこっちはありがたいが、今までの経験では、今日もまた攻撃することになるだろう。
93 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/09(金) 18:27:28.50 ID:igQ1IyIM0

攻撃しようと身構えたその時、「おい、どこ行ってたんだよ」と見知らぬツンツン頭の少年が、不良達の間を割って入り声をかけてきた。


「探したんだぜ? ほら、帰るぞ」


まるで自分を囲む不良達は眼中に無いとばかりに、少年は続けて話しかける。勿論面識はない。
しかしこの少年はまるで知り合いとでも話しているかのようだった。


「ちょ、待ってよ! あんた誰!?」


思わず叫んでしまった。そしてそれを聞いた不良達は一気に雰囲気を変え、少年は「おい! 知り合いのふりして逃がそうとしたのに!」と慌て始めた。
94 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/09(金) 19:03:09.15 ID:igQ1IyIM0

「はぁ!? いきなり話しかけてきたらそうなるでしょう!?」

「だとしても空気読めよ!」

「誰に向かって口聞いてんのよ!!」


自分は昔から少々勝ち気だ。ゆえに、些細なことでもすぐ突っかかってしまい、今のように言い争いになったりする。
一方、完全に無視されたと思った不良達は「テメー何無視してんだ?」と詰めよってきていた。

「いきなり出て来て舐めたことしやがって。覚悟できてんだろーな?」

「ハッ。女の子に手を出すような小者が吐きそうな台詞はいてんじゃねーよ」

「あぁ!?」
95 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/09(金) 19:15:18.94 ID:igQ1IyIM0

「よく見ろ! まだガキじゃねぇか!」

「え?」


……おい、このツンツン頭今なんつった?


「こんなガキに手ぇ出して、お前ら恥ずかしくねぇのかよ!?」

「だっ……………………!!」


ブチン、と自分の中の糸が切れた。


「誰がガキだああぁぁぁぁぁぁ!!!?」


自分の身体から、怒りの叫びと共にビリビリ、と電撃がほとばしける。それは周りの不良達に至らず、近くの電子機器にも直撃した。放電が終わると当然不良達は揃って気絶し、頭上の街灯は弱々しく点滅していた。
96 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/09(金) 19:33:07.14 ID:igQ1IyIM0

しかしそんな中で、断末魔の悲鳴を上げて気絶した不良達と同じようには倒れず、頭上の街灯のように弱々しいそぶりは見せず、その場に堂々と立っている男がいた。


「な、何すんだよ! この電撃ビリビリ女!」


このツンツン頭の少年だった。
右手を前に構え、それだけで身体を守っているような姿勢と、驚きながら非難するかのような口調で自分の目の前に立っていた。
さっきの電撃は右手一本で防げるようなものじゃない。どうやって防いだのかは分からなかったが、それよりも、自分にはまず言うべきことがあった。


「ビリビリ言うなっ! あたしにはねぇ!―――――」




「―――― 御坂美琴って名前があんのよ!」


その瞬間、ついに、科学と魔術は交差した。
97 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 13:39:33.40 ID:9SYNKKcb0


上条当麻と御坂美琴が出会ってから数日たった。

その日、学園都市は記録的な猛暑を観測し、今の時間帯なら平日は学生達が通学中で、その暑さに身を焦がすはずだが、その日はちょうど日曜日で、この猛暑の中では誰も外を出歩こうせず、ほとんどは冷房の効いた学生寮に引きこもっているだろう。

が、しかし、当麻らのいる学生寮は、数少ない例外だった。


「あ、暑い……んだよ………」


当麻達が住む、とある高校の学生寮の一室。純白修道服のシスターことインデックスは、そのリビングでうだるような暑さに耐えきれず、だらしなくねっころがっていた。
98 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 13:53:47.31 ID:9SYNKKcb0

「そ、それに、お腹すいたよぉ……。とうま〜〜、朝ご飯まだ〜〜?」


この暑さなら食欲も失せるのが普通だが、インデックスはそんなこと関係ないようだ。

それを聞いた当麻は、テーブルの宙に浮いた卵とのにらめっこをやめ、「やかましい! 上条さんは忙しいんです!」とインデックスへ一喝した。
しかしその弾みで、宙に浮いた卵はバリリッ、という音をたてて割れてしまった。


「集中しろ! これで三十一個目だぞ!」


今度はテーブルの向かいに座っているオティヌスが、半ば涙目で当麻に一喝する。
それを聞いた当麻は「不幸だ……」とお決まりのセリフを呟く。
99 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 14:10:49.12 ID:9SYNKKcb0

「お前はどんだけ卵を無駄にする! 今日と昨日を合わせて、六十個はやってるぞ!」

「せ、正確には五十三個なんだよ……」


インデックスが意味のない訂正をする。こうでもしないと気が持たない。


「ほら、まだ六十個もいってないよ!」

「やかましい、開き直んな! 六十個も五十三個も五十歩百歩じゃねぇか! インデックス、テメェがんなこと言うからこいつが屁理屈胡くんだよ!」


ついに溜まったストレスが爆発し、インデックスは「どうどう、落ち着くんだよ、オティヌス」といつかの流れのように宥める。


「私は犬じゃねーしっ!!」

(この流れどっかであったな……)
100 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 14:41:04.05 ID:9SYNKKcb0

当麻がやっているのは、魔力をコントロールする訓練"卵割り"だ。八年前にオッレルスから魔力を扱うための訓練としてやらされていて、とうの昔に成功した(二百個近く無駄にしたが)はずだが、なぜ今更こんな訓練をやっているのか。

それは学園都市に着いたその日のこと、彼はインデックスを救うため、自らの身体に光の羽を受けた。

魔神級の魔術の余波だけあって、普通なら骨も残らないだろう。しかし上条当麻は魔神。身体に受けて死にはしなかったものの、魔力の生成と制御に障害が残ってしまった。

このまま魔術を使われると下手すれば世界そのものがぶっ壊れる危機を感じたオティヌスは、当麻に昔やった"卵割り"の訓練を聞き出し、早速昨日からその訓練を課していたのだが、一向に成功する気配は無かった。
101 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 15:06:35.13 ID:9SYNKKcb0

「はぁー、はぁー。……すまない、取り乱した」


さっきのは取り乱したってレベルじゃ無かったけど、と当麻は思った。しかしそれを言うとまたキャラが崩壊しかねないので、黙っておこう。


「今日はこれくらいにするか。卵はもうないし」

「んじゃ、朝ご飯にするか」

「ご飯!?」


ガバッ、とインデックスが生き返る……もとい起き上がる。


「は、早く食べたいんだよ! とうま! 今日は何!?」

「あー、卵焼きと目玉焼きとスクランブルエッグにしようかな」
102 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 15:21:11.37 ID:9SYNKKcb0

「ぜ、全部卵……!」

「さすがにもう飽きたぞ、魔神」

「と、おにぎりです」

「よっしゃ! …………ハッ!」


自分の好物が出て素直に喜ぶオティヌス。しかしそれを見た当麻がにやけているのに気付き、ハッとなる。

「き、貴様……! 図ったな!」

「えー、何のことでせうか? オティちゃイヤ、マジでごめんなさい!」

「もう一回"これ"で縛られたいみたいだな、魔神。いや、上条当麻……」

彼女が手に持つのは、病院で当麻を縛ったいつかの縄だった。
103 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 15:41:41.78 ID:9SYNKKcb0

「もう! 卵ばっかりはイヤなんだよ! おにぎりは前も食べたし! もっと別のが食べたいんだよ!」


自分を無視する二人と空腹に耐えきれず、ついにインデックスが癇癪を起こした。しかしオティヌスと当麻はそんな事どうでもいいとばかりに、


「黙れ、インデックス! 今日という今日は、こいつのふざけた頭を刈り取ってやんだよ!」

「インデックス! そんな事言わずにたす……不幸だああぁぁぁぁーーーーー!!」


上条家は相変わらず、平和だった。


104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/10(土) 18:34:25.89 ID:Mevj9i7Co
乙カレーの
105 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 20:53:14.77 ID:9SYNKKcb0


そして、一悶着あったが三人は無事朝食をむかえることができた。相変わらず卵しか並んでいなかったが、さっきの一悶着も含め、もはやそれは日常風景だった。

「やっぱり五日連続卵料理はキツイんだよ……」

と言いつつ、これで三十個目の卵焼きを口に入れるインデックス。

「そうか? まぁ、確かにコレステロールは溜まりそうだが……」

いつもはインデックスに賛同するはずのオティヌスだが、今日は好物のおにぎりが並んでるだけあって、朝から上機嫌だった。

「ステイルからの生活費がお前の食費で泡になるんだよ。文句あんなら食う量減らせ」
106 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 21:07:23.40 ID:9SYNKKcb0

当麻がこれで何回目かも分からないセリフを言う。

「でも、この食欲は押さえきれないんだよ!」

「修道女にあるまじき言葉だな。禁欲じゃなかったのか?」

「オティヌスまで……! でも私はまた修行中の身であって……」

「修行中ならなおさらじゃないか? まぁ、その気になれば私と上条は食事をする必要もないのだが」

「だ、だったら……」

「かといって私達も空腹に完全に耐えきれる訳じゃないぞ? 前に一ヶ月ぐらい飲まず食わずでいたが、精神がおかしくなりそうだった」

「んで、一ヶ月ぶりの食事の感想は?」

当麻が興味本位でオティヌスに聞いた。
対して、オティヌスが答えた。
107 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 21:26:54.25 ID:9SYNKKcb0

「あの時は全ての苦痛から解放されたようだった。
思えば、私がおにぎりが好きになったのはあの時からだったな……!」

「おにぎり食ったって……、二年前のあの日じゃねぇか!」

「なんだ、覚えてるのか?」

「当たりめぇだ! あん時何も言わずに姿消しやがって! 後から一ヶ月はお前が消えたとかでトール達が俺んとこに来たり、お前に恨み持った魔術師がお前探しに襲って来たりで大変だったんだぞ!?
んな下らねぇ理由で消えてたのかよ!? 事後処理大変だったのに!」

「だ、だったら、文句あるならあの時に何してたか聞いてたら良かっただろ!?」

滅多に見せない剣幕に、オティヌスはややおののきながらも言い返す。その弱々しさから、あまり効果は無さそうだ。
しかし、当麻から返ってきた答えは、予想の斜め上をいっていた。
108 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 22:14:39.83 ID:9SYNKKcb0

「珍しくお前が疲れてたから何も言えなかったんだよ。あんなに弱々しいお前は初めて見たからな。敵の魔術師に襲われたかとか、心配してたんだぞ?」


当麻の「心配してた」という言葉を聞いて、不意を突かれたオティヌスは顔を赤らめて、何やらゴニョゴニョ言い始める。僅かに聞こえたのは「べ、別にそんな…」「お前になら……」だが、当麻にはどういう意味か分からなかった。


「ご馳走さま、なんだよ」

空気を無視して食べ続けていたインデックスが両手を合わせる。当麻もそれに続いて「ごちそうさん」と言った。

「さて……。オティヌス、これから何か用でもあるか?」
109 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 22:27:53.28 ID:9SYNKKcb0


今だにゴニョゴニョ言っているオティヌスが、それを聞いて「あ、ああ。そうだな」と冷静さを取り戻した。


「……とりあえず、また新しい冷房機を買うか。この前買ったのも、昨日ぶっ壊れたしな……」

また、とは、ぶっ壊れた冷房機が一つ目じゃないということだ。昨日の謎の落雷によって今の冷房機はおじゃんになってしまった。すると、オティヌスは突然何か黒いオーラを出し始めた。

「なぁ、魔神。思ったんだが、そろそろ例のビリビリ女を粛清しに行かないか? もう我慢の限界なんだが」

「しゅ、粛清って……! お前が行くと洒落になんねぇじゃねぇか! それと上条さんはそんな事に加担しません!」
110 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 22:30:15.31 ID:9SYNKKcb0


当麻が
111 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 22:48:17.37 ID:9SYNKKcb0
上の110のは誤投です。すいませんでした。


「チッ。なぁ、インデックス? "竜王の殺息"って知ってるか?」

断固とした態度をとる当麻に対して、オティヌスは次にインデックスに不安な言葉をかける。
これを聞いて当麻は必死に「答えるなよ!? 絶対に答えるなよ!?」と言った。

当のインデックスは、可愛らしく小首を傾げただけだが。


「ま、あの女の事は置いといて、とりあえず明日から行く高校の準備をするか」

「え? ちょ、オティヌスさん!? 今さらっと何て言いました!?」

「さーて、まずは冷房機を買いに行くぞ。準備は後だ」

「ねぇ無視? そんな怒ってんの? エアコン壊されたの俺に原因あんの? ねぇ?」


エアコンを壊されたのが原因ではなく、オティヌスは当麻が他の異性とつるんでいるのが気にくわないのだが、それに気づかない当麻はかなりの鈍感だ。
112 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 23:11:27.70 ID:9SYNKKcb0

「先日あのカエルの医者からここのIDが渡されてな。私達がここに移り住んだのも、そのIDに記されてる学校の寮がここだったからさ」

「んなもん医者がやっていいのかよ……。てか、今更学校行くって」

「今の歳なら高校生だろ? 平日に外にぶらつかれると、ここの治安を守ってるっていう警備員とやらに毎回補導されるだろ。おとなしく行け」

「けど……」

「……まぁいい。お前がどうして躊躇するのかは知らんが、とりあえず冷房機は買いに行くぞ。
ほら、とっとと準備しろ」

「わかったよ…………」


しぶしぶながらも当麻が承諾した。


「ほら、インデックス。お前も準備しろ。幸い家電量販店はここから近い」
113 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/10(土) 23:12:51.78 ID:9SYNKKcb0

今日の分はここまでです。
次は明日か明後日に投下します。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/11(日) 00:35:38.77 ID:9BUVCQ1Eo
へい、おつなの
115 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/11(日) 11:32:42.41 ID:fcJ2e9yV0

外に出ると、ホットプレートの上にいるかのような暑さが三人を襲った。エアコンが壊れているので家の中も十分暑いのだが、外は太陽光によって温度が上がったアスファルトの地面が、さらに温度を上昇させている。比喩表現なら、ホットプレートというよりフライパンの方が正しい。


「こ、これは……」

まだ歩いて五分もたっていないのに、当麻は汗だくだった。また他の二人は当麻より暑さの耐性が無いらしく、当麻より後ろにいた。

「くそ…。これが日本の夏かよ……汗が……」

「も、もう限界、かも……」

「お前ら気をしっかり持て! 今はまだましだ! 日本の暑さはこんなもんじゃないぞ!」

「お前……最近日本に行ったことあるのかよ……」

既に意識が朦朧とし始めている後ろ二人に当麻が檄を飛ばす。効果はないようだが。
116 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/11(日) 12:36:06.88 ID:fcJ2e9yV0

「毎年帰ってるよ。丁度今の季節だな。まだこっちで別の用事済ませてないから、そのついでに今年も行く気だよ」

「毎年帰ってるのか? なんの用があってだ?」

「……………………良いだろ、別に」

「素っ気ないな。それが八年間共に過ごした女に対する態度か?」

「誤解を生む言い方すんなよ」

「教えてくれよ」

オティヌスという少女が嫌うのは退屈だ。そのため自分が気に入った物、興味がわいたことに食いついてくる。当麻の素っ気ない態度を見て、興味がわいたのだろう。
だがオティヌスは知らない。それが彼の地雷を踏んでしまったことに。


「そうだな、強いて言えば―――――――――――
――――――――――死んだ人が帰ってくる日、かな」
117 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/11(日) 17:15:58.64 ID:fcJ2e9yV0


「っ! …………悪いことを聞いたな…………………」

「……いや、あれは俺がやるべきことだよ。
お前は別に気にする必要ねぇ。あれは俺に原因があるし」

「そうか……………………。あ、ほら、見えたぞ」

オティヌスの指の先には、大手家電量販店の店舗があった。それは一店舗にしてはかなり大きく、当麻も「うお! でっけぇ!」とさっきの暗い声とは打って変わって驚いたような声を上げ、一人で先に進む。

「………ねぇ、とうまって、昔家族を亡くしたりしたの?」

「さすが禁書目録だな。東洋の文化も知り尽くしているか」

インデックスの頭には十万三〇〇〇冊の魔導書が記憶されている。その中には東洋や日本の仏教文化も入っていておかしくない。

「あいつはそれに対してはかなりデリケートだ。あまり触れるなよ。あいつが魔神であることを忘れるな」
118 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/11(日) 17:47:44.82 ID:fcJ2e9yV0


オティヌスが恐れているのは、上条当麻の暴走だ。感情が爆発することで魔神の力が感情のままに振るわれることで、世界が崩壊する恐れがある。

その場合は彼の右手を使えば元に戻せるが、最悪彼の精神が壊れて、それすらできなくなるかもしれない。それに今の当麻の力は不安定だ。精神が正常でも、魔術を使われれば世界にどんな影響を及ぼすか分からない。


「第一として、あの状態で、あいつには魔術を使って欲しくないな……」

「…………………………………」

「別にお前に原因があるわけじゃない。あいつが勝手にお前を庇っただけだ」

そのとげのある言い方に、インデックスの身体がピク、と震える。


「どうせ、自分のせいだとか、何もできない自分に怒りでも感じてるんだろ?
あいつがあんな"些細なこと"でお前を責めるわけないだろ。最後は気にすることねぇよ、で済ますに決まってる。
だからそんな下らない考え捨てて、今までのようにに接しろ。あいつならその方が喜ぶに決まってる。
あいつもまた、一人の人間だ」
119 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/11(日) 19:28:47.65 ID:fcJ2e9yV0

「…………そうかな」

「私はそう解釈しているぞ」


何年間も共に過ごした、オティヌスだからこそ言い切れる上条当麻という人間の性質。オティヌスの言葉には、信頼の他に、その誇りも感じられた。

そして、この話は終わりだと言わんばかりに、オティヌスは当麻のもとに急ぎ足で向かって行く。
インデックスは何か吹っ切れたかのように、「待ってよ〜! オティヌス!」と彼女に続いた。




店に入った三人は早速、前に買ったエアコンと同じ種類の物を買うために、店の奥の方へと向かう。
が、しかし、ここで"不幸"が襲う。

「うそだろ…………」


あろうことか、そこにエアコンは無かった。いつもなら稼働中のサンプルの下に商品が置いてあるはずなのに、それが影も形もない。
電化製品が売り切れるとは信じられないことだが、紛れもない現象(リアル)である。
120 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/11(日) 19:37:42.37 ID:fcJ2e9yV0



あまりの衝撃でその場で三人が固まっていると、後ろから「どうしたんですかにゃー? 御三方?」というエセっぽい土佐弁が聞こえてきた。


「え?」

と、突然かけられた声に後ろを振り返ると、



「もしかしてエアコンが目当てなら、もうとっくに売り切れちまってるにゃー」



そこには、アロハシャツを着た、金髪サングラスの、いかにも怪しげな男が立っていた。
121 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/11(日) 19:39:35.49 ID:fcJ2e9yV0


短いですが、今日の分はこれで最後です。

122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/12(月) 12:11:29.75 ID:Xa6sV33Wo
おつん
123 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/13(火) 16:41:21.45 ID:WvkRXIMQ0

(にゃーってなんだよ……)売り切れって、電化製品であるエアコンが何で売り切れてんですか」

「昨日の落雷のせいで、ここら辺の学生寮の電化製品が一部駄目になっちまったから、たくさんの生徒がここに買い直しに来てるからだにゃー。
全く、学園都市の天気予報は外れるはずないのににゃー」

金髪アロハシャツはやれやれといったふうに頭を振った。落雷の原因を知る当麻はハハハ、乾いた笑いを見せながら、心の中で顔も名前も知らない生徒に謝った。


「たぶんどこの店も売ってないだろうにゃー。再入荷は未定らしいし…、ところでお宅ら、あんま見かけねぇ顔だにゃー? 転校してきたかにゃー?」

「まぁ転校……かな? この近くの学生寮に住んでるんだよ」

「!? もしかしてそこの女の子と同棲してんのかにゃー!?」

「まぁ、そうだな……」

「羨ましいんだにゃー!」
124 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/13(火) 17:05:41.46 ID:WvkRXIMQ0

他の客がいるのに関わらず、金髪の男は大声を上げた。

「金髪金眼美少女に銀髪碧眼シスター、どんなラノベの主人公だにゃー! リア充爆ぜろ、ハーレム爆ぜろ! こんチキショー!!」

(後半は口調が標準になって願望だらけじゃねーか)

「はぁ、はぁ、す、すまんにゃー。最近舞夏が構ってくれてなくてにゃー……」

だからってここまで感情を露にすることはないだろ、当麻は心中で突っ込んだ。

「まいか? もしかしてその子って土御門舞夏?」

インデックスは聞き覚えのあるのか、目の前の土御門舞夏の兄と思われる男に聞いた。

「? 舞夏と友達かにゃー? そーいやあいつ、隣に銀髪のシスターと金髪の美少女と冴えなさそうなツンツン頭の男が引っ越して来たとかいってたにゃー?」

「具体的すぎんだろーが! つーか冴えないってなんだよ!」
125 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/13(火) 18:40:32.69 ID:WvkRXIMQ0

冴えないと言われたのが傷ついたのか必死で否定しようとする当麻。しかしあの魔術師二人にも同じようなことを言われたのを思いだし、(そんな冴えないのか……)と若干自信をなくしてきてはいるが。


「ハハハ、落ち着くんだにゃー。
あ、改めまして、土御門舞夏の義兄、土御門元春だにゃー」

土御門元春と名乗る金髪の男は自己紹介をする。

「俺は上条当麻。明日からあの寮の学校に転校するから、同じクラスだったらよろしく。」

「よろしくだにゃー、カミやん。じゃ、俺はお目当てのもんは見つかったからそろそろ帰るにゃー」


お互いに自己紹介が終わると、そのまま土御門は満足気に帰っていった。上機嫌なのを見ると、『お目当てのもん』が見つかってよほど嬉しいようだ。
126 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/14(水) 17:08:46.05 ID:LZnp65kd0


「………………何かインパクトの強い人だったな」

当麻がしみじみとした表情で呟いた。

「私はできれば同じクラスにはなりたくないな。
あんなクソ変人とは」

(それはさすがに言い過ぎかも…………)


「しかし何でこう、学園都市には変なやつしか居ねぇんだろうなぁ」

そう愚痴をこぼしたら、頭に例のビリビリ中学生、御坂美琴の顔が浮かんだ。あれと似た人達とこれから暮らすと思うと「不幸だ…………」と口からお決まりのセリフを吐き出した。

「ねーねーとうまー。エアコンはどうするのー?」
127 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/14(水) 17:45:11.78 ID:LZnp65kd0

「うーん。……仕方ない、ちょっと遠い所に買いに行くしかないか……」

「えー!? また歩くのーー!?」

「さすがに疲れたぞ。もう空間移動魔術でも使って行った方がいいんじゃないか?」

「上条さんもそうしたいんですけど、正直苦手で毎回三キロくらいの誤差は当たり前なんですよ」

「完璧な魔神がなにいってんだよ」

「はっきりとイメージして、移動することだけに集中するかしないとダメなんだよ! 成り立ての頃も『部屋をキレイにしたい』って念じたらそこら辺の家具とかも一緒に消しちゃったこともあるんだからな!」

上条当麻という魔神は、望むことを一〇〇パーセント成功させることができる。しかしそれはあくまでも魔術によるものであり、望む事をそっくりそのまま再現出来るわけではない。

途中で雑念が入ればそれと混同した結果になる恐れもあり、それは複雑であればあるほど起こりやすくなる。
要は気持ちの問題である。自身の感情だけは、魔神でもどうにも出来ないのだ。
128 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/16(金) 18:55:29.56 ID:NcaiRixS0

「だったらあれを使ってみたい。丁度この前完成した物なんだが」

「完成? ひょっとして作ってた霊装かよ?」

前にオティヌスの仲間と話している時、オティヌスは何やら魔神級の霊装を作っているらしいと聞いた。
それにオティヌスは何回か家の原典を借りに来たりしていたので、あの原典を霊装を作るための参考にでもしていたのだろうかと思う。

「ん、知ってたのか。北欧神話に出てくるオーディン、別名オティヌスのみが持つ『骨船』と呼ばれる霊装だ」

そう言ってオティヌスがポケットから取り出したのは、ナイフで文字のようなものが刻まれていた何かの動物の脚の骨だった。
129 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/16(金) 19:15:39.69 ID:NcaiRixS0

「自分たちを移動させているのではなく、自分たち以外の全て、惑星の方を移動させることで瞬時の移動を実現しているんだ。
動くのは地球だから、お前の右手も関係なしで移動できる」

「へーすげーな! オティヌスってこんなものも作れんのかよ」

「借りにも魔神の失敗作だ。これくらい余裕で出来なくてどうする。
この場所じゃ使えないから一旦外に出るぞ」

当麻に褒められたせいか、若干嬉しそうな表情のオティヌス。
そのまま悠々と二人を連れて外に向かえたらよかったのだが突然、「あ」とオティヌスの足が止まった。

「ど、どうしましたー? オティヌスさん?」

嫌が予感はするが、当麻は取り敢えず背を向けたまま固まっているオティヌスに声をかける。
するとオティヌスは「怒らないで聞いてくれ…」と大変申し訳なさそうな顔でこっちを見る。

「……………実はこれ、だいたい三〇〇から四〇〇キロくらいの誤差が当たり前なんだった」

「はぁ!? 三〇〇から四〇〇って、俺の誤差の百倍もあるじゃねぇか!」
130 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/16(金) 19:23:10.58 ID:NcaiRixS0

「し、仕方ないだろ! 地球は一直線じゃないんだ! これくらい当たり前だ!」

「逆切ですか!? お前の『骨船』なんかを期待して損したわ!」


「つ、つまり、また…………」

ギャーギャー言い合う二人を傍目に、インデックスは絶望的な声を漏らす。

「……歩かなきゃなんねぇ……」

当麻の言葉で、ハァ、と三人分のため息がその時同時に出た。







「…………どうしてこうなった……………………」
131 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/16(金) 19:36:32.65 ID:NcaiRixS0

再び歩き始めた三人。灼熱地獄のような炎天下に置かれ、その顔に最早生気というか、希望というか、そう言ったものは一切無かった。

「何でだ。私達は普通でいたはずだ。いやいれたはずなんだ。バカの卵割りの訓練にだけ時間を潰していれば…………」

(オティヌスにも限界が来やがった…………。インデックスは…………)

ちらり、と隣を歩くインデックスを見る。

「アハハ、アハハハハハハハ!!!
ねぇねぇ見てよ当麻!? 目の前に緑色の髪をした変な男の人がいるよ!? アハハハハ!!!」

「ダメだ……(緑色の髪の男?)」

正直自分も限界が来ていた。このままでは本当に死んでしまう。魔神だから、といういつもの法則はちゃんと通じてくれるのだろうか?
132 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/16(金) 19:59:15.02 ID:NcaiRixS0

すると追い討ちをかけるように、「ちょっとアンタ!」という声が聞こえ、自分の身体がビクゥッ! と跳ねた。

「その声は……ビ、ビリビリ」


目の前に仁王立ちしているのは、茶髪で常盤台の制服を着た、当麻が最近よく出くわす少女だった。その少女は「またビリビリって……!」と身体から、比喩ではなく本当に電気を放出する。

「ビリビリじゃなくて、名前で呼べっての! さ、勝負よ!」

「また勝負かよ! このビリビリ中学生! 昨日もやったじゃん!」

「だ・か・ら・名前で……!」

「ハイハイ。でも御坂、悪いけど今日はムリ! またお前のせいでぶっ壊れた我が家の家具をまた買い直しに行かないと行けないんだよ!」

「ハァ? 知らないわよそんなの。さ、とっとと行くわよ!」

相変わらずの美琴の自分勝手ぶりに、当麻はげんなりとする。こっちはそれどころじゃないのに。
しかし当麻は突然、背後からの禍々しい気配を察知した。


「………………お前が学園都市第三位、"超電磁砲(レールガン)"の御坂美琴か?」

それはオティヌスのものだった。しかしその様子はまるで宵街を徘徊する吸血鬼のようで、目はしっかりと美琴を向いていた。
133 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/16(金) 20:03:46.94 ID:NcaiRixS0
今日はここまでです。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/16(金) 20:50:28.06 ID:k80hfVtUo
おつかーレ
135 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/17(土) 13:10:46.17 ID:U0IggFeT0

「? アンタ誰よ?」

自分の好敵手の背後から出てきた金髪金眼の少女。勿論自分とは初対面のはずだが、どうやらあっちは自分の素性を知っているようだった。

「……………………………の、せいで………………」

「え?」

彼女から何か聞こえた。が、小さすぎて何を言ったのか分からなかった。

「お前のせいでええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

今度ははっきりと聞こえた。
そしてそれと同時に金髪の少女の手から、まばゆい光を放つ電撃の槍が放たれ、それは真っ直ぐと自分に向かって来る。

「くっ!」

紙一重でそれを避けるが、あの電撃の出力は焼け焦げた地面を見る限り、明らかにLevel4相当の威力だった。
136 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/17(土) 21:52:48.48 ID:U0IggFeT0

「ちっ! 外れたか!」

一方、電撃の槍を避けられたオティヌスは堪らなく悔しそうだった。勿論さっきの攻撃で殺す気はなかったが、目の前の女、御坂美琴のせいで被った被害を思いだし悔しさが別のベクトルの怒りへと変わる。理由はとんでもなくしょうもないのに。
そして、次の攻撃をしようとしたそのとき、

「ま、待てオティヌス!」

相棒、上条当麻が後ろから抱きついてきた。

「ひゃ、ひゃん! な、何をする!?」

勿論上条は暴走する自分を止めようとしたのだろう。しかし今のお互いの身体は密着状態で、傍から見ればまるで自分が抱き締められているように見えるだろう。
上条の体温を直に感じ、心臓はバクバクという音をたてている。そして、限界がやって来た。

「や、やめ、やめろ……!」

「え? あ、ご、ごめん!」
137 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/17(土) 22:08:09.07 ID:U0IggFeT0

慌てて上条は抱き締めるのをやめる。
が、次の瞬間、上条目掛けて雷撃の槍が飛んできた。

「え、ちょっとま、」

完全に不意討ち。勿論放ったのは美琴だ。
対処が遅れ、遂に上条の身体に直撃した。常人なら直ぐ様失神しても可笑しくないはずだが、

「イテテ…………」

それをちょっと痺れた程度で済ましてしまうのが魔神、上条当麻。

「くっそ、不幸だ」

「今更ながら、何でアンタはちょっと痛いで済ますの?」

「その前に今更ながらお前が電撃を放つのはなぜでせうかそしてなぜ今もビリビリしてる!?」

目の前の少女がビリビリ、というよりイライラしているのは主に自分が原因なのだが、それに気付くことがない上条。そして不幸は続く。

「とうま? 何でオティヌスに抱きついたの?」

「イ、インデックスさん。なぜその歯をガチガチとならしているんでせうか?」
138 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/17(土) 22:11:21.70 ID:U0IggFeT0


「決まってるんだよ。とうまに噛みつくためなんだよ♪」


「ふ、不幸だああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


魔神が全力疾走で逃げる姿が、そこにはあった。







139 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/17(土) 22:47:26.73 ID:U0IggFeT0


〜翌日〜


第七学区にある、とある高校の一年七組。
今の時間帯ならそろそろホームルームが始まる頃だが、今日は始まるのが遅れている。


「今日は小萌先生くんのおそいなー? どうしたんやろ?」

三大テノールもびっくりするほどの野太い声をした男が言う。いや、何よりもびっくりするのはその髪。場違いなくらいの青い髪だ。

「さぁ。今の今まで、遅れたこと何てないのにニャー」

その前の席に座るのは、同じく場違いなくらいの金髪をした男、というか土御門だった。

「ああ、早くあの幼い姿を見て癒やされたいわー」

「そのセリフじゃ、お前は生粋のロリコン決定だにゃー」

「ロリが、好きちゃうねん! ロリも、好きなんや!!」
140 : ◆fWgrVHZ/1E [sage saga]:2017/06/17(土) 22:58:35.12 ID:U0IggFeT0

「結局同じだにゃー」

すると、教室のドアがガラリ、という音と共に開かれる。

「はーい、みなさーん。ホームルームを始めるんですよー?」

入ってきたのは教師、ではなく、どう見ても小学生くらいの女の子だった。しかも普通に教壇にたっている。
初見なら確実に唖然とする光景だがもう見馴れてしまったのか、生徒達は何ら違和感を抱かず、席に座っていく。

「そ・の・ま・え・に、今日は転校生を紹介するんですよー」

その一言に、教室の空気は一気に沸いた。
さらにその幼女、ではなく、幼女のような容姿の教師、月詠小萌は言葉を続ける。
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