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とある魔神の上条当麻II
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1 :
無し
[saga]:2017/05/16(火) 12:38:47.77 ID:8g/+Pc080
彼女は何者なのだろう
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1494905927
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/16(火) 19:12:21.01 ID:RWnxsmZ9O
知るかバカ!そんなことよりオナニーだ!
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage saga]:2017/05/17(水) 17:01:20.69 ID:h5AGtYtz0
楽しみ。
4 :
無し
[sage saga]:2017/05/18(木) 16:13:15.84 ID:HKB+8XA70
オティヌスの作り出した結界の中で、神裂は心を落ち着かせながら思った。
これほどまで高度な結界を一人で張り、聖人である自分の全力の一撃を受けてもなお、平然としている。
さらに彼女は、オティヌスは、自分が聖人であると知っていながら、肉弾戦を申している。通常の人間であれば自殺行為に等しいだろう。
だが神裂は既に、オティヌスのただならぬ気配を感じ取っていた。かといって、この気配は感じたことはなかった。一言で言えば異端。人間とは違ったものだった。
並みの魔術師なら失神するであろう魔力と、呼吸と同じように、絶えずはっせられている殺気。あの時の一撃で神裂はオティヌスが聖人でもなく、人間でもないことをさとったのだ。しかし、勝ち目がない訳ではない。自分はロンドンでも五本の指にはいると呼ばれている。自惚れているわけではないが、自分を倒すような相手はそういないのだ。
しかし彼女は知らない、オティヌスが魔神の失敗作であり、既に別の出来損ないに、別の聖人が完敗していることを。
「聖人対オティヌス、か……。」
完璧な魔神、上条当麻は、オティヌスの作り出した結界の外でつぶやく。
「おてぃぬすは勝てるのかな?」
銀髪純白シスターのインデックスがといかける。
「少なくとも並みの魔術師には一瞬もかかんないだ
ろ。でも今回は聖人だからなぁ…。」
戦闘経験が狭い当麻は強さを比べるのが苦手だ。
それに先の一撃で全てを決められる訳にもいかない。
「やって見ないとわかんねぇわ…」
「ふーん。」
5 :
無し
[sage saga]:2017/05/18(木) 16:42:27.33 ID:HKB+8XA70
「意外と役に立たないね。」
「がふっ!」
痛烈なお一言! 、という声が辺りにこだましまた。
「でも、おてぃぬすが勝つと思うよ。」
自分の身がかかった勝負でありながら、インデックスは自信ありげにいう。
「へぇ、なんでそう思うんだよ?」
精神的ダメージからなんとか復活した当麻が問う。
するとインデックスはなぜか嬉しそうなうな顔で、
「だって、私のために戦ってくれようとしてくれてるもん。」
6 :
無し
[sage saga]:2017/05/18(木) 18:05:07.24 ID:HKB+8XA70
「っっっっ!」
今度は嬉しそうに彼女は話した。
「それだけでも嬉しいし、迷える子羊に手を伸ばす
者は神の名のもとに救われるんだよ」
ここで当麻はさとった。
彼女が今までずっと一人でにげつつけていたのを。
「それに、わたし何にも覚えてないんだ。」
記憶喪失ってのかな。 彼女は続けた。
「気がついたら裏道にいて、頭の中で自分の名前と
か、魔術結社、とかが頭の中で回っていて、追わ
れてる、逃げなきゃ、て必死に逃げてたの。だか
ら……」
くるり、とインデックスは当麻を見た。そして、
「助けてくれようとしててくれてありがとう」
弾けんばかりの笑顔でそう言った。それは不幸な境遇にある少女の顔ではなく、純粋な、幸せそうな顔だった。
かつて、同じように一人ぼっちな状況にあった当麻だったが、そこには支えてくれる家族がいた。
しかし彼女は、ずっと一人でいた。ずっと一人、恐怖からにげつづけていたのだ。
「……待ってろよ」
当麻の言葉にインデックスが反応する。
「必ず救いだしてやるからな!」
その誓いにインデックスはにっこりと微笑んだ。
「おい魔神、お話しはすんだか」
7 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/18(木) 19:32:28.61 ID:HKB+8XA70
割って入るように話しかけてきたのは、神裂と一緒に結界の中にいる魔神の失敗作、オティヌスだった。
「今からこの勝負のルールを説明する。二人には審
判をやってもらうからな」
相変わらずの身勝手ぶりに、いつもは反応するはずの当麻だが、それよりも気になることがあった。
「審判て……、俺らがやったら不利になるんじゃない
か?」
当麻が言っているのは勿論神裂だ
「あっちには審判になれそうなやつはおらん。それ
に勝敗の決め方は簡単さ」
「なんなんだよ?」
不思議そうな顔をする当麻に、オティヌスはニヤリと笑う。すると、一枚の赤い布切れを見せた。
「日本で言うところの、しっぽとり、てやつさ」
8 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/18(木) 22:54:09.22 ID:HKB+8XA70
張り出されている結界の半径は約200メートル、高さは400メートル近い。肉弾戦には充分過ぎる広さであろう。既に、今いた空き地の面積を超え、町をものみこんでいるのだ。
そしてその中に立ち、いがみ合う少女が二人。
一人は黒髪をポニーテールに結んだ長身の少女。服装は奇抜(率直に言うと痴女)で腰に2メートル近い日本刀を据えている。聖人神裂火織。
それに逆方向に位置するのは、流れるような金髪と金瞳の丸腰の少女。ゆったりとした金と黒のトルコ系民族衣装を身にまとっている。魔神の失敗作オティヌス。
すでにピリピリとした空気が流れているが、先に口を開いたのはオティヌスだった。
「魔術無しの肉弾戦、といっていたが、そっちにハ
ンデをやる」
「ハンデ、ですか」
なめられたものだ。
すると、オティヌスは一枚の赤い布切れを出した。
「この布切れにはこの結界の核となる術式がかかっている。私以外の者が触れると核の役割を終え、この結界は解除される仕組みだ」
さらにオティヌスは続けた。
「お前のハンデとしての勝利条件はこの結界の解除だ。私が腰に巻いたこの布切れに触れて解除するか、この結界をちからずくで壊すかすれば勝ちだ」
他に質問は? とオティヌスは聞く。
しかし神裂は答えもせず、何かの術式を唱えた。
「ほう、解除術式か」
しかしオティヌスともに、結界は余裕そうだ。多少の影響を受けてか結界にブレが生じたが、他に何ともないようだ。
「かなり高等な術式ですね……」
神裂が唱えたものも並みの魔術師が扱えるものではないが、それを上回るように結界はもろともしない。
「で、他に質問は?」
オティヌスが同じ問いをする。
「……ちなみに聞いておきますが……、そちらの勝利条件は?」
「私か? そうだな……」
そこら辺を考えていないあたり、オティヌスらしからぬところだ。ただ単に忘れただけか、それか……。
「二度と立てんようにしてやるか」
極度の好奇心によるものか。
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 06:38:31.34 ID:cQeInpmbO
いつぞの続きか
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 06:48:57.20 ID:HPs1J8fEo
なつかし
11 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/19(金) 14:44:41.28 ID:JHXpflAw0
その言葉を合図に、先に地面を蹴ったのはオティヌスだった。ただ一蹴り、たった一蹴りだけで、オティヌスは金色の閃光となり、10数メーター離れた神裂の目の前まで距離を詰める。
「ッ!」
反射的に腕を顔の前でクロスしてガードする、が、その刹那に放たれた拳にその場にとどまることができず、大きく後退する。
(この威力は、聖人並み……!!)
例えるならば大砲、それに近しい威力の拳だ。
「ーーーー応言っておくが、もうこの結果(なか)では魔術は使えん」
まるで歌でも歌うように、オティヌスは話す。
「と、言っても、あの程度のものなら使っても変わらんがな、聖人」
最後に皮肉を添えて。
「っ! 調子にのんじゃ……!」
体勢を立て直し、神裂は両足に力を入れる。
「ねぇっっ!!」
今度は神裂が地面を蹴る。その一瞬にして神裂は音速を超え、すでに眼前へと迫ったオティヌスに放つ右拳に、力をこめ、そして放つ。
「やるうっ! が」
マッハ2近い右拳(凶器)を前にして、オティヌスは怖がるどころか逆に楽しそうだった。
「足りんわっ!!」
「ぐっ!」
マッハ2近い拳を、オティヌスは机上の消しカスを払うように、容易く片手で払いのける。
しかし神裂の狙いはそこだった。
空いていた左手を動かし、腰に巻いている赤い布切れに素早く手を伸ばす。
あと数センチ。しかし、
「なんだ、もう止めるのか?」
神裂の眼には、それがスローに見えた。
自分の左手か、どこからともなくやってきた白い右手に払いのけられるのを。
そして、
「もう少し楽しめよ、神裂」
もう片方の、全てを壊す力を持つ白い左手が、自分に迫るのを。
「らあぁぁぁぁっ!!!」
「!?」
そこで、オティヌス側にはじめて予想外のことが起きた。
右頬に直撃すると思われた、いや、確信していた自身の拳が、スカッ、という風に空をきったからだ。
神裂が、自分の予想を上回るスピードで拳を避けきったのだ。
通常の聖人には避けられるはずがない、そう、『通常』の聖人には。
12 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/19(金) 16:16:26.27 ID:JHXpflAw0
undefined
13 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/19(金) 16:44:26.98 ID:JHXpflAw0
神裂は上位9位以内に入る実力者聖人だった。それも、身体能力だけでなく魔術の面でも世界最高クラスの実力を持つ。
(……なめていた)
すでにオティヌスの攻勢はくずれ、今は均衡の状態にある。
いや、神裂がやや押している。
(こいつ、私のスピードに順応してきているのか……?)
神裂ほどの上位聖人となると、その強さは正に反則級である。下位の聖人、つまり『通常の聖人』ではなく、『聖人 神裂火織』の強さが今、発揮されている。
それは今のオティヌスと渡り合うほどに。
まさにこれは音速戦闘。周囲に衝撃波を出しながら、お互い戦闘を続けている。
14 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/19(金) 17:33:18.70 ID:JHXpflAw0
そして何より、この状況に深く関わっている要因があった。
(……予想外のスピードだな……。そしてマヌケにも……。)
腰に巻いている布切れに伸ばされた神裂の手をいなし、オティヌスは忌々しく思う。
(自分の付けたハンデで苦戦するとは……!)
オティヌスがハンデをつけたのは神裂の心を折るためだった。圧倒的な力の差を見せつけ、勝利する。それが目的だった。
しかし実際はどうだ。自らが劣勢とまでは言わずとも、互角以上に渡り合っている。魔神の失敗作であるオティヌスの体力が神裂以上としても、攻撃力そのものでは神裂には劣っていた。
仕方なくオティヌスは神裂の最期の拳をいなし、一旦距離をとる。
「……どうしたんですか?」
神裂はやや息を切らして問う。すでに愛刀『七天七刀』は腰からおろされていた。
「正直予想外だ……。それほどの強さを秘めていたとは……」
オティヌスは息を切らしてはいなかったが、以前、状況は変わっていない。それどころかいつか押し負けてしまう恐れも。
「……もうやめましょう。こんな下らないことはやめて、彼女を渡して下さい。」
神裂が降参を促す。しかしオティヌスは、
「図にのるな聖人」と一蹴した。
「貴様ごときが、私に勝てると本気で……」
「時間がないんです……」
ついに神裂が絞り出したような声をだす。その顔は、今にも悲しみで潰れてしまいそうな顔だった。
15 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/20(土) 10:08:07.73 ID:rvVVdfy60
「あの子にはもう……、時間が残ってないんです」
(……あの子とは……禁書目録?)
オティヌスは後ろの二人、結界の外にいる上条当麻とインデックスに目をやる。
この結界には防音加工がされているので、二人はこちらをただ観ているだけだった。
ここでオティヌスは長考、といってもほんの数秒だけ頭を巡らせる。
(こいつら、禁書目録と過去に接点でもあるのか……?)
ここで、あの赤髪神父の言葉がよみがえる。
『例え君が全てを忘れてしまうとしても、僕は何一つ忘れず君のために生きて死ぬ』
16 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/20(土) 10:56:59.91 ID:rvVVdfy60
(『例え全てを忘れてしまうとしても』……?)
オティヌスが原典を数千冊抜き取った際、インデックス自身の記憶はゼロに近かった。ここ一年以前の記憶が、『消去されていた』(面倒くさそうだったので黙っておいたが)。
(こいつらが抜き取った……?)
だが何の為に……。
この二人とインデックスには、過去に接点があるように思える。現に、神裂と赤髪神父(ステイル)には、そういったそぶりが見えた。
オティヌスは長考、といってもほんの数秒だが思考を巡らせたあと、
(茶番は終わりだ……) とため息をついた。
するとオティヌスは腰の布切れを外した。敵の突然の動きに、神裂はつい身構えてしまった。がーー、
ーーブチンッーーーー
という音に、それを見ていた三人は驚愕に目
を見開く。そしてーーーー、
「なぁにやってんだあぁぁっーーーー!!!!」
結界の解除によって、魔神の怒声がオティヌスたちの耳に届く。強固な結界は核の破壊によって崩れ、跡形もなくなる。
17 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/20(土) 12:32:59.73 ID:rvVVdfy60
「オティヌス! お前っ!」
当麻は初めて彼女に激怒した。
インデックスの事情をオティヌスは知らないとしても、オティヌスは勝手に勝負を仕掛け、勝手に負けたのだ。
長年付き添った仲だとしても、さすがにこの身勝手さは許せなかった。
彼女がどれだけ辛い過去を背負っているのか、
彼女がオティヌスにどんな感情を抱いていたのか、
それを無下にしたのが許せなかった。
そう、当麻が激怒した理由はそこだった。
「こいつがーーインデックスがお前にどんな気持ちを抱いていたのか、わかってたはずだろうが!!
自分の身がかかった勝負だとしても、こいつはお前を信じてたんだぞ!?」
「今はそこに注目している時じゃない」
「っ!」
オティヌスは平然とした口調で答えた。
当麻はまた何かを言おうとするが、オティヌスは当麻ではなく、神裂の方に向かって口を開き、それを遮った。
「禁書目録……、インデックスの記憶を消去したのはお前らだな?」
「!?」
神裂の顔が驚愕と恐怖の色に染まる。オティヌスはそれを見て図星か、と確信した。
「ーー記憶を消したって……、どういう……!」
「まぁ、確かに、インデックスを狙う輩がこいつの記憶をわざわざ消したというのはおかしい」
インデックスの知識が欲しいなら、記憶を消すついでに抜き取ればいいのだ。
「 だが、こいつらはそれだけをやった。それにこいつらの言葉からは、インデックスと過去に何か合ったことが伺える。因縁など、そう言った物ではない、何かが」
そして、その場を沈黙が支配した。
当麻とインデックスは驚愕で何も言えず、神裂は沈痛な顔をし、オティヌスはただ答えを待った。
だが、その沈黙を破る声が。
18 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/20(土) 14:52:51.83 ID:rvVVdfy60
「答える理由はないな……」
神裂ではない。別の、男の声だった。
「ス、ステイル!」
「寝たふりして聞いていたのか? それとも本気でいままで寝てたのか?」
オティヌスの問いにステイルは答えない。代わりにステイルはルーンのカードをオティヌスの背に向けた。
「黙れ。人の心にずかずか踏み込んできやがって……!」
「おいおい、ボロを出したのはそっち側のはずだろ?
それにその言葉はさっきの肯定として受け取っていいのか?」
敵対心丸出しの姿勢と言葉に、オティヌスは背を向けたまま逆に挑発するように答えた。
一触即発の空気が流れた。オティヌスとステイル、どちらに軍配が上がるかは明白だった。
しかし、その空気を破るように、
「…………私とステイルは、1年前インデックスと同僚でした」
「!?」
突然、神裂が話始めた。
「神裂っ……!!」
ステイルが止めようとする。しかしオティヌスはすかさず、「続けろ」と遮った。
「記憶を抜き取る手間が省けた」
神裂は続ける。
まるで、思い出を語るように。
19 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/20(土) 16:06:34.77 ID:rvVVdfy60
【1年前】
ある日、二人はとある少女と出会った。
当時、二人は悩みを抱えていた。
まだ、自分の選択が正しかったのか悩んでいて、それに沈みこんででしまったような気持ちで前を向けずにいた。
だが、彼女は、インデックスは二人に光をくれた。
インデックスは純粋で、無垢で、二人に優しく接してくれた。
話しているだけで心が安らぎ、
自然と笑顔があふれ、
ーーーーいつしか二人の悩みは消え去っていた。
幸せだった。
彼女が笑えば自分達も笑い、
彼女が悲しくなれば自分達も悲しくなる。
ありきたりの
平穏な日々が、
二人にはそう感じられた。
永遠に続く、そう思っていた。 だけどーーーー、
彼女は魔導図書館。完全記憶能力をもち、十万三千冊の原典を記憶し、保持する。
そのため脳の容量の八十五パーセントはそれに侵されていた。
そして、残っている十五パーセントは、完全記憶能力を持つ故か、たった1年で埋まって、限界で死んでしまう。
容量の限界を迎えたときの彼女は苦痛と高熱で苦しそうにうめき、見るに耐えなかった。背けたかった。助けたかった。その手段を探した。 でもーーーー、
二人は消すことにした。
見つからなかった、方法が。彼女を救えなかった。
なのに、記憶を消す時の彼女の顔は笑っていた。
『絶対に忘れないから…………』
できやしない。なのに、二人にとっては救いの言葉だった。それとともに、ある罪悪感ができた。
『忘れないから…………』
高熱で苦しそうな顔に、無理に作った笑顔。
それは二人に対する罪悪感も籠っているようだった。
情けなかった。救うことができなかったうえ、純粋で無垢な少女に、自分達は罪悪感を抱かせてしまった。 あんな苦しい顔をしてほしくなかった。
だから……、罪悪感を抱かず、自分達への罪悪感を抱かず、出来るだけ楽に、
彼女の記憶を消すことにした。
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/20(土) 20:02:55.00 ID:eBrj0NFpo
おつかーレ
21 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/20(土) 23:40:08.81 ID:rvVVdfy60
私達のせいだ…………。
これからも引き続き、インデックスの罪悪感で埋まってしまった顔を見ることができなかった。
自分達のせいで、あの美しい笑顔を歪ませたくなかった。
自分達の楽しい思い出で、彼女を苦しませたくなかった。
だから、恨まれ、嫌われることを選んだ。
それが正しいことではないと分かっていた。
けれど少なくとも、罪悪感は抱かない。
それで苦しんだりはしない。悲しんだりしない。
だから、悪役を買った。
最低限の記憶を残し、自分達に追われているという状況を作り、『学園都市』という壁の内に彼女を閉じ込めた。
『学園都市』という科学の街の中では、インデックスを狙う魔術師はそう易々と手は出せない。魔術サイドと敵対する総本山が、安全の地だった。
ーーーーもう一度言うがそれが正しいとは思って
いない。
けれど、二人はそれを選んだ。
もう、これ以上、苦しませたくなかったから。
それが、とある少女と二人の過去(思い出)だった。
22 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 00:49:59.71 ID:xxEEm2Hq0
過去を話し終えた神裂は、ただ前を向いている。悲しそうな顔で。
その視線の先は、彼女が心の底から愛するインデックスか、お互い拳を交えたオティヌスか、傍観者であった当麻か、同じ過去を歩いたステイルか、それは定かではない。
「私達は感情という余計な物を捨て去り、時に敵の追跡者を演じ、時に害するものから彼女をまもり、今日まで監視をすることに徹していました」
誰も何も言わないので、「だから……」と神裂がまた話しはじめた。
「もう時間がないんです……! 今日を含めて、あと一週間もないんです……!! だから……っ」
ついに神裂が、切羽詰まったような声を出した。それはまるで、懇願する、弱々しい少女のようだった。
「彼女を、ーーインデックスを引き渡して下さい……!」
ついに、神裂は、頭を垂れた。
「……何、戯れ言いってんだ……!!」
誰も言葉を発さない『沈黙』を破るのは、オティヌスやインデックス、ステイルでもない。
その声は、神裂にただ傍観者としてしか位置付けられていた、オティヌスより格下と判断されていた、上条当麻のものだった。
その顔はさっきまでの腑抜けたような顔ではなく、真剣で、怒気を含んだ表情(かお)だった。
「インデックスを苦しめたくない!?
余計なものは捨て去った!?
ふざけんな! ただ怯えてただけじゃねぇか!!
自分が背負い込めそうなもんだけ背負って、他こいつに押し付けただけじゃねぇか!!」
「ッ!!!」
「何でテメェらが勝手にこいつを『不幸』って決め付けて勝手にこんなことやってんだ!
気づかねぇのか!? 自分達がこいつにただ下向かせてるだけだって!!」
23 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 00:52:41.08 ID:xxEEm2Hq0
次ページへの移りかた、教えて下さい。
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/21(日) 12:37:18.06 ID:+S4SveEho
乙カレー?
25 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 12:50:08.90 ID:xxEEm2Hq0
その言葉に、聞いていた二人はうっ、と声を詰まらせる。
二人の様子は当麻の尋常ならざる怒気にたじろいでいるようにも見える。
「インデックスを苦しめたくないってテメェら言ったよな!? でもどこかも分からない場所に一人ぼっちの状況がどんだけ辛いのかぐらい分かるだろ!? 何でそんな馬鹿見たいな選択しちまったんだよ!?」
「ほ、他にどうしろって言うんです!?
教会の中で監禁するのも考えました! でもそうしたら彼女の目には全てが敵に……!!」
「……誤解ときゃいいだけだろ。一年で記憶なくなんならその次の一年でもっと幸せな記憶を作ってやれよ……」
二人の魔術師は何も言わない。
「記憶失っても次の一年にはもっと幸せな記憶が待ってんなら苦しまねぇだろ……。インデックスを幸せにすることくらいは貫き通せよ。それができねぇんなら……」
魔術師は顔を伏せたままだった。そして当麻は、最期の言葉を叩きつけた。
「てめぇらにインデックスの友達はつとまんねぇ」
「何……!」
その言葉に反応したのは、神裂ではなく、ステイルだった。
「お前の言ってることは最もだ。けどな、世の中は何で綺麗事だけじゃやっていけないんだ。
『必要悪の教(こちら側)』の事情もあるんだ。
そんな感情論だけじゃどうにもならない事情がな……!」
「だからいってんだろ……!」
一瞬の間も開けず、当麻が言う。
「こいつを幸せにすることくらい、貫けって!!」
「……………………」
ステイルは何も言わない。だが、代わりに彼の手には、今の心情を表すような、炎があった。
「っ! ステイルッ!」
神裂が咎めようとするが、「止めるな」、としか彼は言わなかった。
26 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 13:59:37.64 ID:xxEEm2Hq0
「……お前は本当に生意気で気にくわないよ、心の底からな……!」
「…………俺も同じ気持ちだよ……!」
当麻も拳を握った。
まさに一触即発の空気。少しでも刺激が加われば、また新たな争いが起こるだろう。
「……いい加減頭を冷やせお前ら」
そんな空気の中、声を出したのはオティヌスだった。はりつめた空気は消えないが、構わずオティヌスは、諭すように話しはじめた。
「……まずルーンの魔術師、ここで争って何になる?
その時の感情で動くんじゃない。そのうち自分の身を滅ぼすことになるぞ。
そして魔じ……上条……」
この二人がいるところで、『魔神』という呼びは控えた方がいい。が、不覚にも当麻は何故か揺らいだ気持ちになった。
「お得意の説教は良いが、当然何か解決策でもあるんだろうな?」
「そ、そりゃ、原典の記憶を抜き取ったり……」
「お前はイギリス清教と戦争するつもりか。勝敗云々はともかく、お前ん家の野蛮……聖人の立場が悪くなるだろ」
「そうかもしんねーけど、このままほっとけるかよ! このまま記憶を消され続けるなんて……、こいつの人生なのに……!!」
27 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 14:01:28.33 ID:xxEEm2Hq0
すいません。23の質問は無視して下さい。
28 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 14:44:56.76 ID:xxEEm2Hq0
「これ以上こいつの人生を消され続けるだけにしたくねぇよ!!」
その言葉は上条当麻の心の願いにも聞こえた。誰の支えもなく、これからも一人で、何も知らず、この街をさ迷い続ける宿命を、背負わせたくなかった。
可哀想、という言葉は見下したような言葉だ。
けれど上条当麻にはわかる。自分以外の全てのものを失った気持ちが。
「だから、頼む! 二人とも!」
当麻の声が一段と大きくなる。
「俺に、インデックスを……任せてくれ!!」
「…………」
また辺りが沈黙に包まれる。当の二人は何も言わない、いや、言えない。何を言えばいいのか分からない。
オティヌスはただ静観していた。が、口角は何故か、少し吊り上がっているようにも見える。
「……私はとうまにまかせてもいいよ」
「!?」
「インデックス……」
「とうまは助けてくれるもん。私が飢えていたら食べ物をくれたんだもん」
それは、インデックスにある思い出。
「私を飢えから救ったように、とうまは私を救ってくれるよ、きっと」
インデックスの大切な友達。
「だから、大丈夫」
それは、至極当たり前で、最も困難なこと。
「私は……、とうまを……信じるよ……」
人を心の底から信じること。
「だ、から……」
その時、インデックスの体勢がぐらりと崩れる……。
バタン! と、インデックスが倒れた。
「イ、インデックス!?」
29 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 15:11:55.68 ID:xxEEm2Hq0
突然倒れたインデックスに、当麻が駆け寄る。
インデックスの顔は赤く、体中から熱という熱を出している。
当然、インデックスは苦しそうにうめいていて、口からは僅かに、「とうま……、オティヌス……」と二人の名を呼ぶ声が。
「まさか……、これが……!」
「ああ、症状だ」
驚愕する当麻に、ステイルが平然を装いながら、忌々しげに言う。
「もう良いだろ。インデックスの記憶を……」
「待って下さい」
「神裂?」
「彼らはいわば、今のインデックスのパートナーの様なものです。彼らが何とかすると言っているのなら、我々は静観すべきでは?」
「何を言ってるんだ!? 今日、昨日会った様な奴らだぞ!? もう時間は迫っている! やるぞ!」
「記憶を消す直前、何も出来なかった私達は、彼女に泣きつき、何度も謝りました。
その時間ぐらい、与えてもいいのでは?」
30 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/21(日) 15:47:49.85 ID:xxEEm2Hq0
神裂はステイルと違い、冷静だった。
それがステイルの怒りにさらなる拍車をかけた。
「神裂!! 正気か!? 教会精鋭の僕らでもどうにもできなかったんだぞ!? あの得体の知れない奴らが、彼女を救える訳がない!!」
「そうでしょうか? 少なくともあのオティヌスと名乗る少女は聖人でもないに関わらず、魔術なしの肉弾戦でも私と互角の力を持っていましたよ?」
「なっ……!?」
「ステイル、何より彼女が信頼しているんです。
ここはインデックスの意思を尊重すべきです。
あなたは彼女を信じた人間を、信じられないんですか?」
その一言が、ステイルを黙らせた。
やがて、ステイルは「君は信じるのか?」と神裂に聞いた。
が、彼女はただこちらをまっすぐ見つめるだけだった。
「……はぁ、分かった」
ついにステイルが折れた。
「でもいざとなったら……」
「私もそのつもりです」
「話しは終わったのか?」
わかりきったことなのに、オティヌスが言葉をかける。
「ああ、君達を信じよう」
その言葉に、オティヌスは待ってましたと言わんばかりの顔をする。当麻はインデックスをだきかかえながら安堵した笑みを浮かべていた。
「だがその前に、君達のことを知りたい。
君達は何者で、どこの国の魔術師だ?」
神裂にも聞かれたことだが、これはあまり聞かれたくなかった。
さっきの勝敗はうやむやになったから、答える必要はないのだが、
断ったら面倒になりそうなので、仕方なくオティヌスは答えることにした。
「はぁ、上条……」
「な、何でせうか……?」
まだ呼ばれなれていないからか、当麻は多少びくついた様な、裏返った様な声を出した。
31 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/22(月) 00:40:33.39 ID:gnptlIuz0
「……インデックスを降ろしてこっちにこい。
こいつらに正体を話す」
「必要ねぇだろ。下、地面だぞ?
つか、何でインデックス降ろす……」
「来い。いいから降ろせ」
オティヌスの声はなぜだかいつもより威圧的に聞こえた。
「………………」
「なんだそのオッレルス似の気色悪い笑み顔は」
「いや、ひょっとしてオティちゃん、インデックスに焼きもちを……イタイ、イタイ、イタイ!!」
「オティちゃん言うなっつってんだろ!! つか、妬いてねぇしっ!!」
「蹴んなって! インデックス抱えてんだぞ!?
つか妬いてんだろ、行動からして!
あと、上条さんの笑った時の顔はあんな気色悪くないぞ!?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そこまで気色悪くなんかない!!」
「うるさいわよ、オッレルス!!」
「ゴ、ゴメン、何か罵られた気がして……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……で? あらためて聞くけど、君達は何者なんだ
い?」
当麻に抱えられていたインデックスの体は、四人の後ろで、オティヌスの浮遊魔術(当麻がうるさかったので)によって数10センチほど宙に浮いていた。
両腕は自由だが体はボロボロの当麻は、隣に立つオティヌスが答えるのを待った。
32 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/22(月) 01:07:20.68 ID:gnptlIuz0
「まず初めに言っておく。私達はどこの国の、どこの勢力の魔術師と言うわけではない」
国はともかくとして、オティヌスには組織はあるのだが、ここではそれを隠しておいたほうがいいだろう。
「フリーの魔術師、ですか?
それだけじゃないように思えますが?」
やはり、神裂は鋭い。たまらず苦笑したオティヌスは、内心で舌を巻いた。
「もちろんそこらの魔術師ではない。
ちょっと違っていてな。お前らも聞いたことがあるんじゃないか? ーーーー『魔神』」
「!!!?」
神裂とステイルが受けた衝撃は並々ならぬものだろう。
何故ならば、自分達が相容れていた存在が、
魔術を極め、『神』の領域にまで足を踏み入れた存在だったのだから。
普通はこの瞬間、生きているだけでも何億分の一の確率の奇跡なのだから。
33 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/22(月) 21:22:04.53 ID:gnptlIuz0
「もっと詳しく言うとその失敗作だ。力は到底本物には及ばんだろうが、世界を壊すぐらいは出来る」
さらりととんでも発言がでたが、ステイル達は敢えて無視する。それよりも気になったことがあった。
「……まるで本物に会った様な言い方だな」
「ふん、何を言うか」
当たり前だろう、とオティヌスは隣に立つ当麻の背を叩く。それは彼を差し出すようだった。
「こいつが『完璧』な魔神だ」
敢えて、オティヌスは当麻をただの『魔神』として紹介した。100%成功の確率を喋るより、ただの魔神としての方が、都合が良いと考えた。
ちなみに当麻にはさっき蹴っているときに「何も喋るな」と伝えておいた。
ここまではオティヌスの演出通りだった。が、
「いまいち信じられません……」
「そこのマヌケ面が魔神? そういう寝言は寝てても言うな」
さんざんな評価だった。
当の魔神は何か言おうとするが、オティヌスから余計なこと言うな、とばかりに足を踏まれる。
色々とかわいそうな神様だ。
予想外の出来事に、オティヌスははぁ、とため息をつく。
「いや、確かに、こんな中も外も腑抜けな奴が魔神とは、私は正直今でも信じられん。
まぁ、そういう結果は見えていたが」
「おい」
「……仕方ない。魔神」
オティヌスは魔神呼びに戻す。
34 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/22(月) 22:47:46.22 ID:gnptlIuz0
undefined
35 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/22(月) 23:26:17.74 ID:gnptlIuz0
「……あれをやれ」
「……分かったよ、いつものあれだろ?」
いまだに不機嫌な当麻は、オティヌスに言われて手のひらを前にだす。突然の事に、ステイル達は身構える。
すると魔神の手のひらから、まばゆい光を放つ魔方陣が出現した。
「どうだ? 初めて見た感想は?」
その輝きは、八年前、一人の少女と老人に見せたものと同じ光だった。
「『聖ジョージの領域』に出現した空間の亀裂から放たれる巨大な光の柱。
魔術名は"竜王の息吹"」
オティヌスが淡々とした説明口調で話す。
ステイル達は禍々しい光と魔力を感じ、驚愕としている。これが自分達に向けば、塵一つも残らないだろう。
実際、これは聖ジョージのドラゴンの一撃と同義なのだ。
「魔神級の魔術師……おっと魔神だったな。その限られた者達でしか使えん超魔術だ。
……それで、信じてくれたか?」
「…………信じましょう。あなたが魔神だと」
神裂はこれを見て信じたようだ。
「…………はぁ」
しかしステイルは、ため息をついた。
「正直、信じたくないけど、君が魔神であることを信じる……!」
不快感を隠そうともせず、ステイルはイライラ声で言った。当麻達に自分の大切な少女を委ねることが気にくわないようだ。
「で、改めて俺達にインデックスを任せてくれるよな?」
「ああ、任せたよ!」
「任せます」
二人は自分達を信じたようだ。
「しかし、私達が一年かけても見つけられなかったのに、あなた達には探す宛でもあるんですか?」
いくら魔神と言えど、後一週間でインデックスを解放する方法が見つけられるのか、神裂は疑問に思った。
しかしオティヌスはこう答えた。
「もう既に、方法は見つかった」
「!?」
「ほ、本当かよ!?」
「ああ。しかしそれにはまず、お前達の間違いを正す必要がある」
オティヌスは、ステイル達の間違いについて話しはじめた。
36 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/23(火) 20:54:13.13 ID:BH9q7Wei0
「最初に言っておく。人間が記憶のしすぎで死ぬことはない」
しょっぱなからオティヌスは、問題の大前提を覆した。それにステイルは勿論、神裂も「ほ、本当ですか!?」と驚いたそぶりをする。
「ほんとも何も、よく考えてみろ。インデックスの脳の八十五%は原典の記憶で、残りの十五%はたった
一年で埋まってしまうんだったら、
他の完全記憶能力者はたった七、八年しか生きられない、という理屈になるぞ」
「それに、人間の記憶したものはその種類によってそれぞれ別の部分に振り分けられる。知識は知識、エピソードはエピソード、というように。
知識である原典の記憶を消すべきなのに、何故エピソード記憶を消すんだ?」
「じ、じゃあ、一年おきに記憶を消すというのは……」
「お前らの上の人間のデマだろう。そう言えばお前らは絶対に助けようとするし、魔術どっぷりならその理屈でも信じるに決まってると踏んだんだろう」
大体、というよりほとんどの魔術師は、科学を嫌う、または苦手としている者達である。
中には一般家庭にある電化製品すらまともに扱えない者もいるので、こういった多少のこじつけでも信じてしまうのだろう。
「インデックスは天才なんだろ? 恐らく自分達へ反乱を起こされるのが怖くて、記憶を消して使いたい時だけ使えるように手近に置いたほうがいいと考えたんだ」
「…………インデックスが苦しんでいるのは?」
ステイルが静かに問う。
一見冷静に見えるステイルだが、その両拳は強く、固く握られていた。相当怒っている。
「一年周期にインデックスの記憶を消さないと死ぬ、といったような魔術でもかけられているんだろう。恐らくずっとな」
「最大主教……! あなたは……!」
ついにステイルが憤慨したかのような声をあげた。最愛の友人の命と人生、記憶すら奪われたのだ。彼は今、『最大主教』という人物に怒りを向けている。
オティヌスはステイルを敢えて無視して続ける。
「術式は恐らくインデックスの体のどこかだ。その場所さえ分かれば破壊できる」
37 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/23(火) 21:38:07.66 ID:BH9q7Wei0
「じゃあ、俺がそれを右手で壊せば……!」
「インデックスは晴れて自由になる」
つまり、可能なのだ。この少女の地獄を終わらせることが、自分達にはできる。このふざけた現実を、ぶち壊せる。それを実感した瞬間だった。
「だったら話しは早えな!」
「そうだな。しかしその前にもう一度聞く。お前達、本当に『私達』に任せていいのか?」
それを聞き、オティヌスの言葉の真意に気付いた神裂は、「いいえ、私達も協力させて下さい」と答える。
「インデックスの友として、あなた達に協力させて下さい」
「よし。……で、そこの神父は?」
「助けるに決まってるだろ。……彼女を救って見せる。ずっと前に、僕の魔法名に誓ったんだ」
「おお! ようやく折れてくれたか」
オティヌスのオーバーリアクションにステイルは煙草をふかすだけだ。それにオティヌスのニヤケ顔が自分の上司に似ているからか、さらにイライラが加速する。
「うるっさいな! とっととやれよ!!」
イライラが頂点に達し、ついにステイルが怒鳴った。
「分かってますって。さて、さっそくインデックスの術式を……」
急かされた当麻が軽いテンションでインデックスに駆け寄り、右手で彼女の体に触れようとする。
が、しかし、「待て! 魔神!」とオティヌスの慌てた声ですんでの所で静止する。
「な、何でせうか……?」
恐る恐る、当麻が聞く。オティヌスの顔は本気で焦っていた。
「いいか、魔神。インデックスが着ているのは、『歩く教会』だぞ?」
「ああ、そうだけど……」
当麻はまだ自分のしようとしたことが理解出来ていないようだった。
「即ち、魔術だ。お前の右手でそれに触れれば……」
「あ……」
当麻の右手は自分の幸運どころか、魔術すら消す。いや、それがこの場に置いて役に立つのだが、今その手でインデックスに触れれば、
「『歩く教会』は壊れて……」
「……インデックスの衣類はバラバラになる……」
38 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/23(火) 22:17:43.53 ID:BH9q7Wei0
それを聞いた神裂は横を向いて咳払いをする。
一方ステイルは幽鬼の様な表情を浮かべ、「燃やしてやる……!」といった不穏な言葉を呟いている。
「危うく上条さんの不幸の確率が働くところでした……」
もしあのまま触っていたら、一気に袋叩きだった。
「お前が完璧なのに完璧じゃない理由が分かった気がする……」
オティヌスはすでにげんなりとしていた。
気を取り直して当麻は、『歩く教会』に触れないよう気をつけて、インデックスの術式を探そうとする。
が、また問題にぶち当たった。
「……どっから探せばいいんだ……」
考えて見れば、どこから探すべきかそんなもの決めていなかった。後ろではステイルが「変なところ触ったら燃やす!」とうるさい。
というかずっと燃やす、しか言ってないな。
「あの〜、神裂?」
「はい?」
インデックスの体に術式っぽいものとかなかった?」
いつも一緒にいた二人なら、それらしき物を見ているかも知れないと思った。
「……いえ、私の知る限りは……」
「そうか……」
また振り出しに戻る。こうなれば泣き寝入りだ。
「オティヌ……」
「自分で考えろ」
「……ひどい」
泣き寝入りも失敗した。こうなればない知恵を振りしぼるしかない。
(神裂やステイルにも見つけられなかったんだから、普通の隠し場所じゃないよな……。他人にも、インデックス自身にも見つからない………………あ)
それは偶然だった。いや、奇跡とも呼んでもいい。
当麻に答えが下りてきた。
「な、なぁ! 体の中は!? インデックスの身体の中に術式があるんじゃないか!?」
その言葉に、三人ははっ、とする。
39 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/23(火) 23:15:44.00 ID:BH9q7Wei0
「例えば……口の中とか」
確かに、体内に術式があるのなら、ステイルやインデックスには発見はまず不可能だ。しかし口の中ならば、まだ術式の解除ができる。
それに納得したのか、オティヌスは「でかした!」と声をあげる。
「本当によくやった! まさかこんな的確な答えをお前が導き出すとは!」
「誉めすぎると逆に傷つくんですけど!?」
当麻が悲痛な叫びを上げる。不憫すぎるだろ。
「……で、口の中、というと……」
「もちろんお前が探せ」
「デスヨネー」
これで見つからなかったら、また振り出しだ。
そう思いながら、当麻はインデックスの口をできるだけ優しく開く。口内は温かいというより熱く、インデックスの熱い吐息が手にかかる。
そして当麻はその中を覗く。
「……あった」
見つけた。喉の奥に、魔方陣が描かれていた。
40 :
◆fWgrVHZ/1E
[sage saga]:2017/05/26(金) 00:26:25.06 ID:CZrVDGL70
形はまるで数字の4がねじまがった様で、ここからでも禍々しい魔力を感じた。
明らかに並みの魔術ではない。オッレルスの持つ原典の中にも、このような術式はなかった。
「喉の奥にある。けど、この術式、なんというか……」
「"やばい感じがする"んだろう?」
当麻の言葉を察してか、オティヌスが先に言う。
「そこらの教会の防御術式とは比にならないだろうな。なんせイギリス清教の最重要人物だからな、魔神のお前でも、ダメージを受けるんじゃないか?」
まぁ、当麻に本当で勝とうとするならば、それこそ魔神級の術式を数十個使うか、同じ存在である魔神でもなければ無理だろう。
「まさかインデックスの魔力を使うとか……」
「それはありえません。インデックスは魔術が使えません」
当麻の不安要素神裂がを否定した。しかし当麻は、
「それ、どこ情報?」
「教会からですが」
「今すぐその考えを捨てろ。お前らを騙した奴等だぞ?」
「いえ、インデックスが魔術を使えないのは事実です。実際、彼女は魔術を使うことができませんでしたし」
「…………んじゃ、これはもう壊していいよな?」
当麻が最終確認をとる。
「たとえ教会に刃向かうことになっても」
「もう覚悟は決まっているからね……」
「お前ら……ほんとインデックスのことが好きだな」
その答えを待たず、当麻はインデックスの口に入っていた右手をさらに奥へ入れる。インデックスはやはり呻き声を上げたが、当麻は人差し指を魔方陣に当てた。
バキィィィィィィン!!
という甲高い音が響く。破壊した。
しかしその瞬間、当麻は衝撃波の様な何かに吹き飛ばされた。
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