島村卯月「マーキング」

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150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/03(木) 12:36:55.42 ID:HWaFrKsf0
だけど、あの時の私の体調は確かに万全の状態だったはず。


今の様に悪寒も、頭痛も、吐き気も無い……


「あっ……」


それを思い返した時、私は『もしかして……』と、ある答えにへと辿り着いた。


何で人の手に触れただけで悪寒が走るのか。


何で声を聞くだけで頭痛や吐き気が起こるのか。


考えてみれば、体調不良が原因でそんな事が起きる訳が無かった。


その原因は……私の心の奥底、もう一人の私にありました。


『何で、こんな事をしないといけないんですか?』


『私が触れたり話したりしたい相手は、あなたなんかじゃないです』


『やだ……』


『嫌です……』


『嫌だ……嫌だっ!』


奥底から響き渡る、恨みや怒りの籠った魂からの慟哭


心の中の私が、プロデューサーさん以外の人に接する事を拒否していた。


それを私に伝える為、訴える為に拒絶の意思が症状となって表れていたのでした。


そもそもこの症状が起こるのも、初めての事ではありませんでした。


仕事帰りに事務所に立ち寄った際、プロデューサーさんと美穂ちゃんが楽しそうに話をしていた時。


プロデューサーさんからツアーに同伴できないと言われた時。


電話中に私以外の話題が出て、それを話す時。


私が寂しく思ったり、不満を感じると必ずといって症状は起きている。


151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/03(木) 12:37:42.99 ID:HWaFrKsf0
『……あぁ、そういう事なのか』と、私は心の中で人知れず一人で納得した。


あれだけ我慢する、頑張ってみせると何度も吐いていたのに、実際にはちっともできていなかったのでした。


『絶対に、無理だけはしないで』


それだから凛ちゃんに見透かされて、詰問されたという訳ですか。


……はははっ、私の方が凛ちゃんよりも年上なのに……全然駄目ですね。


『ねぇ……何で、我慢なんかするんですか?』


そんな風に思っていると、心の中の声が私にそう語り掛けてきた。


我慢する、理由……?


だって……私の我が儘を通したら、みんなに迷惑が……。


『みんなって……誰の事?』


誰って……それは私に関わってくる人達。特に美穂ちゃんや響子ちゃん、プロデューサーさん。


私が我慢をするだけで……みんな上手くいくのなら、私……、


152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/03(木) 12:38:11.67 ID:HWaFrKsf0
『でも、相手の我が儘は通して……自分は迷惑しているのに、それでいいんですか?』


……私はプロデューサーさんに頼まれたから、任されたから。


なら、プロデューサーさんの期待に応える為にも、私は頑張らないと……。


『我慢して……頑張って……それで、あなたは楽しい?』


楽、しい……?


『楽しくないですよね? 自分自身が楽しくない……幸せじゃないのに誰かを笑顔にできるだなんて、本気で思ってますか?』


『昔は今よりももっと楽しかったですよね? あの頃はまだプロデューサーさんは私に付きっ切りでしたから』


『いつまでも我慢してないで、そろそろ正直になりませんか?』


…………


『頑張り続けたって、疲れるだけで何にもなりませんよ?』


『私はあなた、あなたは私。どっちも島村卯月なんですよ。私のしたい事は、あなたのしたい事なんです』


私、は……


『だから、さ……いい加減……』



153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/03(木) 12:38:48.27 ID:HWaFrKsf0






『 私 と 向 き 合 い ま し ょ う 』






154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/03(木) 21:30:21.67 ID:0GQGo/XDo
吐き気に耐える島村卯月いいよね……
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/03(木) 22:43:17.34 ID:ZTaoGbaY0
特訓で自分自身と向き合おう!()
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/04(金) 01:36:18.47 ID:gpbhbMUU0
未央含めて、伏線で未央Pに邪悪な一面でもあるのかと思ったらそういう…
これまでの話を2文字で表すなら、智絵里の共有に始まりまゆが愛情ありすが理解文香が変化(錯覚)藍子が管理凛が追跡で、今回は独占だろか
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/18(金) 06:58:46.03 ID:Eo9YkfFV0
むき、あう……そっか、自分と向き合う……。


そういえば……しばらくできてなかったな、そんな事。


自分に嘘ついて……誰かの為だと言い訳して……私という存在を偽り続けてきた。


だけど、もう……もう、いいんだよね?


私の……自分の心に、正直になってもいいんだよね?


『はい、その通りですよ』


私の言葉に、心の中の私が頷いてそう答えました。


実体は無い彼女なのに、何故だか笑っている様に私は感じる。それも、満面の笑みで。


それはきっと……仮面の様に張り付いた笑顔と違い、ごくごく自然な……以前の私が浮かべていた笑顔。


心からの衝動をそのまま表情に浮かべた、私のできる最高の笑み。


158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/18(金) 06:59:32.32 ID:Eo9YkfFV0
……あぁ、それです。今までずっと……ずっと、忘れてました。


笑顔は私の魅力の一つなのに……何で、忘れていたんでしょう。


でも、これからは……


「……卯月?」


不意に私を呼ぶ声が横から聞こえてきて、その方向にへと私は顔を向ける。


顔を向けた先、そこには別の場所にいるはずの凛ちゃんが何故か立っていました。


まだ握手会の最中なのに、こっちにやって来るなんてどうしたのでしょう。


そう思って辺りを見回すと、あれだけいたファンの姿は消えていて、周辺には一人としていません。


残っているのは運営スタッフの皆さんや私達の様な関係者のみ。


私があれこれと考えている中、無意識の内にファンの人達と交流を済ませ、握手会を終わらせていたのでした。


159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/18(金) 07:00:16.84 ID:Eo9YkfFV0
「あっ……っ!?」


その事に気付いた瞬間、脳天を鈍器で殴られた様な痛みと衝撃が私を襲った。


今まで蓄積されていた分が一気にきたせいか、その強さは今までで一番のものでした。


「わ、た……し……」


凛ちゃんに何かを言おうとするけれども、口が上手く動かなくて、言葉にならない。


やがて、私の身体は支えを失った人形の如く、がくりと崩れ落ちていく。


どうにか抗おうとしても、身体も精神もとうに限界を超えていて無理でした。


体勢を立て直せなかった私はどさりと音を立てて、床の上に崩れ落ちてしまった。


「卯月っ!?」


視界が徐々に闇に落ちていく中、凛ちゃんの驚愕の声が耳に響いてきました。


でも、私はどうする事も出来ない。大丈夫だとも、もう言えない。


そして、私の意識は完全に闇の中にへと沈んだのでした。



160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/18(金) 07:01:27.16 ID:Eo9YkfFV0




……………


………





「ん……」


どれだけ眠っていたのでしょうか。重たい瞼をグッと開いて、私は目を覚ましました。


「……いたっ」


意識が覚醒すると同時に、ずきっとした痛みが頭に走る。


意識を失った時に比べれば微弱な痛みですけど、それでも辛いものは辛い。


身体も重たくて、目覚めとしては最悪な部類でした。


「ここ、は……」


私は何とかして上半身を起こすと、ここがどこなのかを確認しようと、周囲を見回す。


寝起きの少しだけ霞がかった世界に映るのは、辺り一面は白色の景色で包まれていて、広々とした室内。


私が寝ているベット以外にはテレビや花の活けられた花瓶、パイプ椅子と置いてある物は少ない。


どう考えても、ここはホテルの一室とは違います。病院の個室でした。


161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/18(金) 07:02:16.24 ID:Eo9YkfFV0
視線を下に向けてみれば、服装も握手会の時のステージ衣装から、私が良く着るパジャマにへと変わっていました。


「私……倒れて、ここに……」


あれから一体、どうなったのでしょうか。


私は意識を失っていたので詳細な事は当然分かりませんが、きっと……大変な騒ぎになったのだと思います。


イベントの主役、アイドルの私が握手会終了直後に倒れたのですから。


唐突にそんな事態が起これば、そうなるのも不思議ではありません。


凛ちゃんや未央ちゃん。二人のプロデューサーさん達。会場のスタッフの皆さん。


両手の指では数えきれないぐらいの、大勢の人達に迷惑を掛けた事でしょう。


そして……ここにはいない、私のプロデューサーさんにも。


「……はっ」


申し訳ないという気持ちは強くありました。


自分を偽って目を背けて、突き進み続けた結果が今回の事態です。


関係者全員に謝った所で、許されるかどうかも分かりません。


だからこそ……今の私の心の中では、その気持ちがかなりの割合を占めていました。


162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/18(金) 07:02:44.22 ID:Eo9YkfFV0
「……ははっ」


だけど……だけど、それなのに……、


「あはっ、あははっ……」


笑いが込み上げてきてしまうのは、何ででしょう。


こういった結果を、心の中の私が望んだからなのか。


……いいえ。多分、違います。この笑いは、そういう気持ちでは無いのです。


謝罪よりも、後悔という自責の念よりも、勝ってしまっているのです。


もう我慢をしなくても良いという、解放感の方が。


「私……もう、駄目ですね……」


そう、もう駄目です。前の私には、二度と戻れません。


「アイドルとして……みんなのアイドルとして、失格です……」


そう、失格。堕ちてしまった以上、当然の事でした。


けど、私は決めたのだから。正直になるって、もう我慢はしないって。


だから、これからは……


「私は私らしく生きて、私の自身の歌を歌っていくんです」


163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/18(金) 07:53:39.73 ID:+dXgFTT0o
久しぶりの更新ヒャッホーウ
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/25(金) 09:07:41.39 ID:uh60T5eQ0
あぁ、そうだ。そうしましょう。


誰かの為に自分を犠牲にするんじゃなくて、自分の好きに、自由に行動する。


もう遠慮をする事もしなくたっていい。人に対する気遣いなんて必要はありません。


「うふふっ、あはははっ! 楽しみだなぁ……そんな生活を送れる事が」


考えただけでも、ワクワクとドキドキが止まらない。


こんな気持ちはしばらく感じた事が無かったです。


最後に感じたのはいつの事だったか……まぁ、そんな些細な事はもうどうでもいいですね。


「あぁ、会いたいなぁ……一刻も早く、あの人に会いたい……」


今のありのままの自分を見せたくて、素直な自分を伝えたいから。


こんな病室なんて抜け出して、直ぐにでも会いに行きたい。


165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/25(金) 09:09:03.25 ID:uh60T5eQ0
ライブツアーがどうなったのかも分かりませんけど、それすらも投げ出して駆けつけてしまいたい。


そんな風に思いを馳せていると、病室に備え付けられた扉が不意にガラッと音を立てて開きました。


そして空いた隙間から、病室内にへと入り込む影が一つ……何でしょう。一体、誰が来たのでしょう。


医師や看護師といった病院関係者か。もしくはうちの事務所の関係者か。


私が視線を向けて確認すると、当てはまった答えは後者の方。


それも、私にしたら喜ばしいぐらいの人物でした。


「……卯月」


扉を開けながら入り口に佇むのは、先程まで会いたいと願ってやまなかった男性。


今の私が最も必要としている人物、私達の……いえ、私のプロデューサーさんでした。


本当なら今頃は東京で仕事をしているはずなのに……。


まさか、私の為にここまで駆けつけて来てくれたのでしょうか。


だとしたら、私はとっても嬉しく思います。倒れて正解だったかな。


166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/25(金) 09:09:55.97 ID:uh60T5eQ0
「プロデューサーさん……」


「……卯月。あぁ、良かった。目を覚ましたんだな」


プロデューサーさんはそう言うと、私の傍にへと駆け寄ってきました。


久しぶりに見るプロデューサーさんの表情は安堵の色を浮かべていました。


きっと私が目覚めた事に対して、安心しての事のなのでしょう。


「その……どうして、ここに……? 東京でのお仕事は大丈夫なんですか……?」


「そんなものは全部投げ出してきた。企画作成とか付き添いの仕事よりも、卯月の方が大事だからな」


……あぁ、嬉しい。凄く嬉しいなぁ。


やっぱりプロデューサーさんは、私の為に駆けつけてきてくれたんですね。


うふふ……ごめんね、美穂ちゃんに響子ちゃん。


プロデューサーさんは二人に付き添うよりも、私の方が大事なんだって。


二人と違って、私は仕事以上の存在なんだって言ってくれましたよ。あははっ。


「気分の方はどうだ? 辛い所は無いか?」


「えっと、まだ色々と……頭痛とかも酷くて」


「そうか……倒れてからまだ一日ぐらいだし、無理もないか」


167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/25(金) 09:10:52.30 ID:uh60T5eQ0
一日……あれからそれだけの時間が経っていたのですか。


その間ずっと眠っていた私からすれば、それ程時間が経ったとは感じませんが。


「まぁ、今は安静にしていてくれ。無理は良くないからな」


「はい、ありがとうございます」


「でも、驚いたよ。卯月が倒れたと聞いた時には本当に肝を冷やした」


「……ごめんなさい」


「卯月は謝らなくていい。悪いのは、俺の方だからな」


謝る私に向けて、プロデューサーさんは「本当にすまなかった」と、言って頭を下げました。


「……医者が言うには、今回の原因は過度なストレスによるものだと聞いた」


「……そう、ですか」


ストレス……まぁ、不満によるものもあるから、あながち間違いではありませんね。


本当の原因はもっと複雑で、怨念めいたものですけど……ここは何も言わないでおきましょう。


168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/25(金) 09:11:42.51 ID:uh60T5eQ0
「それ以外にも日頃の疲れだとか、ツアーに対するプレッシャーとか……要因になるものは幾らでも考えられる」


「……はい」


「だけど俺が傍にいて、それらに気付けていれば卯月が倒れる事もなかった」


「……」


「思えば俺は……卯月に依存し過ぎていたのかもしれない。頼りになるからと任せっきりで、何とかなると過信して……その結果がこれだ。本当に、ごめんな」


そう言うとプロデューサーさんは再び頭を下げました。


今度は深々と下げたまま頭を上げず、長い長い時間を掛けて謝ったのでした。


……そっか、プロデューサーさんもようやく分かってくれたんですね。


でも、いいんですよ。プロデューサーさんが間違っていた様に、私だって間違っていましたから。


「……プロデューサーさん、頭を上げて下さい」


私がそう言うと、プロデューサーさんは指示に従ってくれて頭を上げてくれました。


「プロデューサーさんも謝らなくていいですよ。悪いのは……私だって同じでしたから」


「卯月……」


「本当は、体調が良くないのは分かってました。それでも見ないふりをして、我慢し続けてきたから……悪化しまって、みんなに迷惑を掛けて……だから、私も同罪なんです」


169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/08/25(金) 09:13:08.42 ID:uh60T5eQ0
「同罪だなんて、そんな……悪いのは全部俺の……」


「そうじゃありません。私だって、悪いんですから」


そう言った後、私はプロデューサーさんの手を取り、ギュッと握りました。


私の様に細くは無くて、ゴツゴツとした感じの男の人らしい素敵な手。


いつまでも握って、触れたままでいたいけど、今はそんな場合ではありません。


「だから今回は『どっちも悪かった』という事にしませんか?」


「いや、それだと……」


「その代わり、プロデューサーさん。一つだけ……約束して下さい」


「……約束?」


「はい。今回の様な間違いを二度と起こさない……って、誓ってくれますか? そうすれば私……これからも頑張り続けられます」



170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/25(金) 17:03:34.00 ID:Ug9XviBEo
いよいよ佳境だな…ワクワクテカテカ
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/25(金) 17:29:55.04 ID:3CS0MXmGo
PCSでこれなら美穂、卯月、智絵里のユニットなら死人が出るな
美穂も響子もCuヤンデレ9人衆に入ってたな
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/25(金) 17:36:32.23 ID:jZTGEQn8O
今回のような間違い
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 03:23:38.80 ID:srSD36GM0
そう、間違いを間違いにしたままだから、今までの様にどんどんとおかしくなっていく。


間違いを正しいと言い張って、その矛盾に首を絞められて苦しみ、そして私は最終的に壊れてしまった。


そうならない様にする為にも、こういった約束は必要だと思います。


私の事を大事だと思ってくれているのなら、きっと誓ってくれる……そうですよね、プロデューサーさん?


「どう、ですか? こんな私なんかの我が儘……聞いてくれますか?」


「……そう、だな」


「……」


「……分かった。俺は卯月のプロデューサーだからな。その誓い……守ってみせるよ」


174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 03:24:42.75 ID:srSD36GM0
……あははっ、良かった。本当に、良かった。


また今度と時間を空けたり、曖昧な言葉ではぐらかしたり、もっと躊躇ったりとか。


そんな風に躱されてもおかしく無かったですけど……まさかほぼ即答で誓ってくれるなんて。


私が言った事なんて、所詮は面倒で身勝手な子供の我が儘ぐらいにしか思われない言葉。


普通の人なら、どうでもいいとばかりに受け流されてしまうかもしれない。


けど、そんな事を目の前で誓ってくれるプロデューサーさんは、期待以上の素敵な人です。


「本当? 本当ですかっ!?」


「どこまで卯月の希望通りに添えるかは分からないが……とにかく、頑張ってみせるさ」


「えへへっ♪ ありがとうございます、プロデューサーさん」


私が喜びのあまりに笑顔を浮かべると、目の前のプロデューサーさんも表情を綻ばせました。


175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 03:25:19.69 ID:srSD36GM0
……あぁ、これです。久しぶりに見る、この人の笑顔。


最近は難しい表情ばかりしていたから見れてなかったけど、私はこれが見たかったんです。


「でも、もしも約束を破ったら……その時はまた倒れるかもしれませんから、気を付けて下さいね」


「おいおい……それは勘弁してくれ」


「じゃあ、ほら、プロデューサーさん。約束の印に……」


私はそう言った後、右手を少しだけ上げて握りこぶしを作る。


それから小指だけを立て、それをプロデューサーさんにへと向けて……
 

「指切りしましょう。指切り♪」


求める様に小指を動かしながらそう言いました。


「指切り……って、いや、もう俺はそんな歳じゃ……」


「……駄目、ですか?」


176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 03:26:03.73 ID:srSD36GM0
「うっ……あぁ、分かったよ。ほら、やればいいんだろ」


哀願する様に私が言うと、仕方ないなとばかりにプロデューサーさんも小指を差し出しました。


あまり乗り気で無いのに受けてくれるのは、さっきの約束を誓った手前、断り難いからでしょう。


でも、それでいいんです。そうでなくては困ります。


さっきのだけで終わってしまうと、それではただの口約束程度にしかならない。


証拠も無く、後で何とでも訂正できる様な中身の無い取り決め。


それじゃあ駄目です。そんな軽々しい絆なんて、私は望んでなんかいない。


私が求めるのはもっと強固な……どんな障害があろうとも断ち切れない様な、強靭な繋がり。


だからこそ、これは第一段階。


プロデューサーさんを私の傍に縫い止める為の楔となるのです。


そして私は差し出されたプロデューサーさんの小指に自分の小指を絡めていく。


その後はギュッと力を入れ、解けてしまわない様に結びつきました。


177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 03:26:48.23 ID:srSD36GM0
「それじゃあ、プロデューサーさん。いきますよ?」


「あ、あぁ」


「「ゆーびきりげーんまん、うそついたらはーりせんぼんのーます」」


「「『ゆーびきったっ!』」」


その掛け声と共に、繋がっていた小指同士を私は離しました。


この時を以てして、誓いはしっかりと結ばれたのです。


プロデューサーさんは私に対して、二度と間違いを犯さないという誓いが。


そして……私とプロデューサーさんとの、新たな歩みの一歩目でもありました。


「えへへっ♪ ねぇ、プロデューサーさん?」


「ん? どうした?」


「約束したからには、私をもっと素敵なアイドルにして下さいね」


「……あぁ、分かった」


『……あと、それから……』


178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 03:27:27.04 ID:srSD36GM0






『もっと私を幸せに……笑顔にさせて下さいね、プロデューサーさん♪』






179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/09/08(金) 03:31:17.70 ID:srSD36GM0
どうも、お久しぶりです

最近仕事が11連勤だったり、ウィルスに掛かって寝込んだりとほぼ死んでました

あともう少しで終わりが見えてきたので、今月こそ、今月のうちに何とか終わらせられる様に頑張ろうと思います

それではまた、書き溜めたら投下していきます

180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/08(金) 10:50:05.01 ID:MRRwGIr3o
11連勤とは一体ウゴゴ...
乙です、ゆっくり書いてください...
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/08(金) 16:39:57.37 ID:Zs1DZSuao
11連勤って死にそう…
PCS不仲説思い出した…響子でなく智絵里を入れたピンキーキュートもあったな

藍子や文香のCuバージョンな行動してるな卯月
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/03(火) 03:16:52.09 ID:QyDCxRoO0
今月過ぎたけど終わらせるどころか更新なかっただと…(絶望
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/04(水) 00:23:20.41 ID:DO4bXzlh0
ね、年内には…
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/05(木) 01:16:56.03 ID:k+EUzKyZ0
……………


………





「お疲れ様でしたっ!」


撮影のお仕事終了後。私は現場にいるスタッフさん達に向けて元気良くそう声を掛けました。


その声に反応してか「お疲れ様です」と、みなさんから返事が返ってくる。


それを聞き終えると、帰ろうとして外に出ようとしましたが、こっちに向かって近づいてくる人影に気づき、私は足を止める。


近づいてきた人物は恰幅が良く、頭に帽子を被ったここの撮影所の監督さん。


さっきまで私に向けてあれこれと指示を飛ばしていた人でした。


「お疲れ様、卯月ちゃん。今日も輝いていて、凄く良かったよ」


「あっ、はい。ありがとうございます」


ニコニコと機嫌の良さそうな笑みを浮かべている監督さんに向けて、私はぺこりと会釈をしつつそう言いました。


185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/05(木) 01:17:42.12 ID:k+EUzKyZ0
「それにしても……最近の卯月ちゃんは凄いね。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いって感じじゃないかな」


「そ、そんな……私なんてまだまだ……」


「いやいや、謙遜する事は無いよ。それぐらい今の卯月ちゃんは凄いんだって」


まるで私の事を理解しているかの如くの発言。


歯の浮く様な言葉に不快感が露わになってしまいそうでしたが、心の内に抑えて表には出さない。


何を知った上でそんな事を言ってるのか分かりませんが……とりあえず、何も言わないで話を聞いておく事にしました。


「あのライブの後から人気爆上げだし、このままいけばトップアイドルも夢じゃないと思うんだ」


トップアイドル。私の憧れだった称号。少し前までは、届くかどうか分からなかった高みの位置。


それが今、私の手の届きそうな距離にまで近づいている。


中間辺りの位置でフラフラとしていた私なんかの手に。


現状での私の人気を考えると、あともう少し頑張れば辿り着けそうにも思えました。


けど、今の私にとって……トップアイドルなんてものはどうでも良かった。


言ってしまえば、勝手に付いてくるおまけみたいなもの。


そんな称号を手にした所で、何の価値があるというのでしょうか。


それよりももっと……もっと大切で大事なものがあるというのに。


186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/05(木) 01:18:09.99 ID:k+EUzKyZ0
「僕も応援してるから、頑張ってね、卯月ちゃん」


「はいっ! 島村卯月頑張りますっ!」


私はそう言った後「次の仕事があるので……」と、監督さんに告げて撮影所から早々に出ていきました。


次の仕事があるのは事実ですが、ここにあまり長居した所で時間の無駄にしかなりませんからね。


撮影所のあるビルの階段を一気に駆け下り、外に出る為の大きな玄関口を通り抜ける。


そして外に出た私を待ち受けていたは、黒塗りの一台の車。


良く見慣れたデザインのその車は、私達の事務所が所有する商業車の内の一つ。


私は特に躊躇いもせずに助手席側の扉を開けて、その車にへと乗り込んでいきました。


「お迎え、ありがとうございます」


乗り込んでから間髪入れず、私は運転席に座る相手に向けて労いの言葉を掛ける。


もちろん、その相手とは私のプロデューサーさん。


彼は優しく微笑むと「お帰り、卯月」と、言って私を出迎えてくれました。


この笑顔を見てるだけで、撮影での疲れが吹き飛んでしまいそうでした。


187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/05(木) 01:18:38.16 ID:k+EUzKyZ0
「仕事の方はどうだった? しっかりとできたか?」


「ばっちりです。監督さんも『凄く良かった』って、褒めてくれました」


「凄く良かった、か。流石は卯月だな」


「そ、そんな……えへへ」


流石と褒められて、自然と頬が緩んでにやけてしまう。


そんな言葉を掛けられてしまえば、嬉しくなってしまうのは当然の事でした。


だって、先程の監督さんの言葉と比べ、何万倍もの価値のある言葉なんですから。


それから私がシートベルトを締め、移動の準備が整うと、私達を乗せた車は次の現場を目指して進み始める。


ここからそこまでの距離はそこそこ遠く、時間にも余裕があったので、プロデューサーさんはゆったりとしたドライブ気分で車を走らせていきました。


その道中、プロデューサーさんは運転しながら私にへと声を掛けてきました。


188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/05(木) 01:19:04.90 ID:k+EUzKyZ0
「そういえば……最近は体調の方は問題無いか?」


「あっ、はい。問題はありません。寧ろ、元気一杯です」


「……そうか。なら、安心したよ」


私の受け答えに安堵してか、彼は前を向きつつホッと息を吐く。


「正直言うと、まだ不安でな。また卯月が倒れてしまうかもしれない……なんて思ってしまってな」


プロデューサーさんの脳裏には、きっとあの時の私の姿が映っているのでしょう。


ストレスや不安を抱え込み、挙句に倒れてしまって弱った私の姿が。


けど、今の私には無縁のもの。あの頃の弱い自分は、もういません。


「大丈夫ですよ。今は体調管理もしっかりとできてるので、倒れるなんて事はもうありません」


そう、私にはプロデューサーさんがいてくれるから。


私の隣に必ずいてくれて、常に支えてくれるから、問題が無い。


彼がいる限り、私の体調は常に万全の状態。だからこそ、倒れる心配はいらないのです。


189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/05(木) 01:19:45.27 ID:k+EUzKyZ0
「だから、プロデューサーさんも安心して仕事に取り組んでください」


「……そうだな。ありがとう、卯月。本当はこっちが励ます側なのに……」


「気にしなくていいですよ。これからも二人で頑張っていきましょう」


そう、二人で頑張っていくのだ。私と彼の二人で。二人だけで。


それ以外にはもう必要は無い。いや、もういないと言うべきでしょうか。


だって……プロデューサーさんが直接担当するのは、私だけになったのですから。


プロデューサーさんがあの二人……美穂ちゃんと響子ちゃんを担当するのは、今も変わってはいない。


けど、彼女達にはそれぞれ専属のマネージャーが付く事になったのです。


プロデューサーさんの負担が少なくなる様に、私だけを専任できる様にと。


事務所側からそういった指示が出て、今の体制にへとなっているのでした。


……まぁ、こうなったのも私が事務所を脅……お願いしたからなんですが、プロデューサーさんには内緒にしているので、彼がそれを知る事は無いでしょう。


そういった経緯もあって、今は彼を独占する事ができている。頑張った甲斐があったというものですね。


でも、本当は担当からも外してしまいたかったですけど、そればかりは叶いませんでした。


あまり高望みが過ぎると、手に入れたものを手放しかねないので、関わる機会が減っただけでも良しとしましょう。


うふふっ、本当にごめんね二人共。二人からプロデューサーさんを奪ってしまって。


こうなった理由を知る事も無く、新しく付いた人達とせいぜい仲良く頑張ってね、あははっ。


190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/05(木) 01:20:18.44 ID:k+EUzKyZ0
「私……信じてますからね、プロデューサーさん。約束をしっかりと守ってくれる事を」


「あぁ、分かってる。指切りまでしたんだから、破ったりはしないさ」


「えへへ、ありがとうございます」


……あぁ、でも。まだちょっと足りません。


やっぱり今の状態は、独占したと言うにはまだ遠すぎます。何かまた……別の手段を考えておかないと。


もっとプロデューサーさんに私だけを見て、私だけの言葉を聞いて貰いたいから。


その為にも……島村卯月、全力で頑張ってみせます。


だから……その日が来るまで、待ってて下さいね、プロデューサーさん♪ うふふっ♪






終わり


191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/05(木) 07:16:09.76 ID:k+EUzKyZ0
お久しぶりです

大分期間が空いてしまいましたが、何とか卯月編は終わりにへと辿り着くことができました

本当に亀更新で申し訳ありません

書き始めが4月だったのに、終わりが10月とか……

たった5万字未満の内容に半年もかけるとか、遅筆ってレベルじゃない

192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/05(木) 07:23:39.97 ID:k+EUzKyZ0
一応、卯月編は終わりましたが、全体的な話の流れで言うとまだ終わりじゃありません

元々は全部で4部構成で考えてたのですが、執筆が遅すぎてそこまで辿り着けるか分からなくなってきている現状

やる気と執筆できる暇ができれば今後、続卯月編、美穂編、響子編と投稿していけれたらなぁ……なんて思ってます

まぁ、次回は別のアイドルで考えているんですがね

プロットばかりはできるのに、肝心の内容が書けないのは問題だと思う

193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/10/05(木) 07:28:14.01 ID:k+EUzKyZ0
今回のシナリオを書いてて思ったのが、自分は一人称で書くのがとにかく駄目だという事が分かりました

何度もそれで躓く事もあったので、次回以降からは三人称で書いていこうと考えてます

凛編、卯月編と一人称で書いてた話はどちらも終わりまでに長くなってるので、苦手だというのは確定的に明らかですし

また次回の話も終わりまでに長くなりそうですが、何とか頑張りたいと思います

それでは依頼を出してきます

ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました

194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/05(木) 07:53:31.29 ID:j8z7PfAjo
お疲れ様です!
4月から書いてたんですっけ....、続編待ってます
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/05(木) 08:15:57.68 ID:K8YBF1exo

卯月愛が重いな、まゆ、智絵里以上に黒い策略考えやがる
ドロドロPCS良いな、Cuヤンデレ6人衆で未登場なの幸子と志希だけか

美穂は元からヤバイのとあの2人との出会いで策に気づいて楽しいことになるんだろうな
闇堕ち卯月ってこんなにも魅力的なのか
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/05(木) 16:45:04.05 ID:qgOAQp9H0

締め方にこれで終わり…?って文香編以上に肩透かし感あったから続編の予定聞けただけでもうれしい
美穂響子の依存の対象はマネージャーかプロデューサーか果たして…
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/05(木) 20:03:05.96 ID:K8YBF1exo
美穂はPから引き離されて禁断症状が出てそう、クマのぬいぐるみPの名前付けるし程だし
同郷の蘭子のマーキングは難易度高いだろうな

CuPは複数のアイドルを担当するハメになるのか
ちひろが不遇に思える、鬼悪魔ちひろなのに
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/06(金) 00:02:11.57 ID:Bv3/16Edo
アイドルだけがマーキングするとは限らない
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/07(土) 18:59:26.27 ID:SzlVNOfzO

次作も楽しみ
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