佐野満「えっ?強くてニューゲーム?」

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286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:45:39.97 ID:DSAJ+Ylu0
「お前か...英雄の親玉っていうのは...」 

「ええ。名もなき英雄ですが、それも今日までです」

 遂に姿を現した浅倉威と対峙する香川英行。

 時刻は平日の午前9時43分。場所は清明院大学から遠く離れていない

人通りの多い大通りである。

「面白れぇ...典型的だが、悪くない」

 北岡に写真を見せられた時には気が付かなかったが、人の理から外れた

浅倉威は、香川を一瞥するだけで自分とは別のベクトルではあるものの、

目の前の相手も一筋縄ではいかない何かを持っている、人の域を踏み外した

とんでもない化け物だということを一瞬で悟った。

「ライダー同士、いざ尋常に勝負とはお互いガラでもないだろうが...」

「お前となら、かなりギリギリの所で愉しめそうだ」

「結構。どうせ死ぬなら互いの全てを出し切って死にたい物です」

 この戦いで自分と同じ土俵に上がって戦おうとするライダーと初めて

遭遇した浅倉の笑顔がますます獰猛さを帯びた凄惨な物へと変化していく。

「分かってるじゃねぇか...英雄サマよぉ...」

 尋常ならざる雰囲気の二人のオーラに気圧された何も知らない一般人が

海が割れるように、二人を避けて通り過ぎていく。

 まるで怪物と英雄の対決を妨げるものはいないとでもいうように...

「...変身!」 

 銃の早撃ちのようにカードデッキを取り出した香川と浅倉は

己の全てを戦いの昂揚に任せ、ライダーへと変身した。

「...変身!」

 二人が変身したと同時に、打ち上げ花火が空中で爆発する音が周囲に

響き渡る。それを合図に香川と浅倉の体は一瞬のうちに、ミラーワールド

へと吸い込まれていったのだった...。
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:46:14.63 ID:DSAJ+Ylu0
〜ミラーワールド〜 


 浅倉と香川の戦いが始まったその直後、北岡秀一と由良吾郎も同時に

ミラーワールドの中へと突入し、香川との『同盟』に則り、浅倉威を

今度こそこの世から消し去るべく行動を開始した。

「さて、それじゃあこっちもやりますかね...」

 ゾルダがバイザーに一枚ずつカードを挿入して自分の武器を呼び出す。

「Strike vent」

「Gurad vent」

「Copy vent」

 ゾルダが呼び出した武装はマグナギガの肩と頭部を模した手甲と肩を

守る盾だった。

「うん。中々似合うじゃない。ゴロちゃん」  

 利き手にギガホーンを、両肩にギガテクターを装着したゾルダに変身した

ベルデはうんうんと頷きながら完全武装した自分の姿にご満悦だった。

 元々奇襲特化型のベルデの戦い方はヨーヨーで敵の体の一部分を縛って

相手の体のバランスを崩したり、特殊カードであるコピーベントで相手の

姿と武器を模倣し、1対1で切り結んでカードデッキを破壊するか、あるいは

クリアーベントで姿を消して気配を殺しながら、ライダーの背後に音もなく

近寄り、ファイナルベントを喰らわせるような戦法しかとれない。

 簡潔にまとめるとベルデのカードは肉弾戦にはとても向いているとは

言いがたい代物だった。

 しかし、そのハンデを埋める武器を手に入れる事が出来たら?
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:46:50.09 ID:DSAJ+Ylu0
 その点、北岡秀一は周到だった。

 ゾルダが使う事のない二枚のカードをあえて先に使用し、ベルデにコピー

させる事で他のライダーとの間にある埋めようのない戦力差のカバーに

つなげられ、何よりも相手のミスリードを誘える利点も生まれた。

 最も、この作戦が完璧な物かと問われればそうでもない。

 ベルデの最大の切り札の一枚と言えるコピーベントは既に使い切って

しまったし、ギガホーンを失ってしまえば丸腰になってしまう。

 だから...

「戦力差は経験と奇策で補わなきゃね」

 ベルデに変身した秀一はそう呟いた。
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:47:16.48 ID:DSAJ+Ylu0
「ゴロちゃん、絶対に相手と交戦しちゃダメだからね」

「あくまでも俺達の狙いは浅倉一人なんだから」

「相手も一筋縄じゃ行かないと思うけど、逃げ続けてくれよ?」

「大丈夫です。絶対に逃げ切りますから」

 秀一の言葉にゾルダに変身した吾郎が頷く。

 香川の策が、予め全ての反射物を破壊した完全にほぼ逃げ場のない一方

通行の地下通路でタイガや量産型オルタナティブ達と徒党を組んだ上での

時間切れで浅倉を消滅させる二段構えの策であるのならば、秀一の策は

香川の策に便乗した上で戦いを乱戦に持ち込み、一人でも多くライダーを

引き連れ、地下通路の中におびき寄せた上でのファイナルベントによる

一斉掃射を狙う物だった。

「いたぞ!」

「じゃ、ゴロちゃん。任せたよ」 

 向こう側の歩道からアビスとオルタナティブを発見した秀一は吾郎の

負担を少しでも減らすべく、オルタナティブへと躍りかかっていった。

「先生。任せてください...」

 そう呟いた吾郎は残った自分めがけて突進してくるアビスを誘うように

近くにあった細い裏路地へと駆け込んでいった。


290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:47:45.55 ID:DSAJ+Ylu0
「始まったか...」

 ライダーバトルの今後の趨勢を決する大規模な戦いを現実世界の鏡から

覗きこむ二人の人間がいた。神崎士郎と城戸真一だった。

「香川め、中々よく考えたものじゃないか」

「全ての反射物を予め現実世界で破壊した上で浅倉をおびき寄せる策とは」

「そうだな」

「どうする?オーディンを出すのか?」

「ああ」

「そうか。俺は俺で動かせて貰う」

 神崎を一瞥した真一は龍騎に変身し、鏡の中へと戻っていった。

 そして、神崎士郎もこの戦いの結末を見届けるべく、ミラーワールドの

中へと入っていった。 

291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:48:25.34 ID:DSAJ+Ylu0
〜英雄と怪物〜

 遂に三者三様の戦いの幕が切って落とされた。

「Sword Vent」

「Sword Vent」

 まず最初に戦況が大きく動いたのは、香川と東條のチームだった。

 緩やかなスロープでにらみ合った香川と浅倉は、日の光が当たらない

薄暗い地下通路へと吸い込まれるように駆け下りていった。
 
「うおーっ!」

 力任せに振るわれるAP3000のベノサーベルの力任せで乱雑な一撃を

オルタナティブは殺傷力で劣るスラッシュダガーの特性を生かしながら、

数学の方程式を解くように最小限の解を以て躱しては捌ききる。

(体を躱し、体勢が崩れた時に浅倉は突きを多用する)

(足などの下段部分に対する斬撃対処としてはジャンプによる後方回避)

(ならば、反応できない速度で浅倉を切り刻む!)

 王蛇の攻撃パターンに対する最適な反撃を組み立てたオルタナティブは

一瞬の内に自らの攻撃パターンの中に浅倉の攻撃と同じ動作と荒々しさを

取り込んだ物へ変化させたのだった。

「?!」

 まるで鏡に映った自分のような攻撃をするオルタナティブに王蛇は

たちまち劣勢へと追い込まれていった。
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:48:52.95 ID:DSAJ+Ylu0
 ベノサーベルの攻撃力は確かに他のライダーと比較して高い。

 頑丈さと攻撃力そして王蛇たる浅倉の後退のねじが外された状態による

無謀な突撃が組み合わさる事で最悪にして最強の攻撃が生みだせる。

 いわば肉弾戦で相手の装甲を突き穿ち破壊する事に主眼を置かれた白兵

特化のソードベントと言える。

 一方で香川のスラッシュダガーはAP2000とベノサーベルよりも劣るが、

それを埋めるだけの途方もない才気を持つ香川によって魔改造された

サイコローグが得た新しい力がそのままスラッシュダガーに反映されている

状態と言える。

 香川に改造される前のサイコローグは、目からビームやミサイルを

出すこともなく、自分の武器であるスラッシュダガーからは炎を放つ事も

出来なかったAP5000のちょっと強いだけのミラーモンスターだった。

 だが、香川英行はミラーワールドに滞在する時間を犠牲にすることで

ミラーモンスターがライダーに貸し与える力の出力を上げることに成功した

 その副次的なものの結果として、サイコローグは突然変異じみた進化を

遂げることに成功したのだった。即ち、目からビームを放ち、武器から

青い炎を吹き出すようになったのだ。

 話は逸れたが、要は単純な攻撃力で勝る王蛇の暴力をオルタナティブの

圧倒的な知力と膂力が押さえ込んでいると言うわけである。
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:49:28.65 ID:DSAJ+Ylu0
 確かに浅倉は強い。

 死を恐れずに立ち向かう蛮勇はライダーの中で一位と言えるし、自らに

降りかかる危機を切り抜けるだけの悪辣なまでの狡猾さも持っている。

 しかし、それ故に浅倉威は香川英行を打破することが出来ない。

 何故なら、香川は浅倉の想定のその遙か上を行くからだ。

 トンネル内部、自分の背後から聞こえて来たオルタナティブとは異なる

もう一つの電子音声に王蛇はすぐさま反応することが出来なかった。

 自分を超える斬撃を繰り出す香川の太刀を捌ききれず、返しのついた

棘で体を抉られては退路を炎で塞がれて追い込まれる王蛇に背後に潜む

一番敵に回してはいけない相手への対処を考えられるだけの時間は

与えられなかったからだ。

「ぐああああああ!!」

 わざと作られた香川の隙に乗じて背後に開けた何一つ明かりのない地下

通路の中に飛び退き、距離を取ることに成功した王蛇の背中を鋭い斬撃が

切り裂いた。タイガによる暗闇からの奇襲である。

 一度目の斬撃は王蛇の強化スーツの背中を深々と切り裂き、切り裂かれた

箇所からは生身の肌が覗き、そこから大量の血液が飛び散った。

 二度目の斬撃は浅倉の足を突き刺すような攻撃だったが、浅倉は自分の

ベノサーベルをタイガに投げつけることでこれを回避し、考え得る限りの

最悪の結末を一先ず先送りにすることに成功したのだった。
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:50:11.12 ID:DSAJ+Ylu0
「Steel vent!」

 よろよろと立ち上がった王蛇は悪足掻きのつもりか、バイザーを開き、

特殊カードのスチールベントを使用し、タイガのデストクローを奪い、

間断なく攻防重視の構えを取り、仕切り直しを図った。

「チッ!判断を間違ったかも...!」

 アドベントを使い、デストワイルダーかメタルゲラスを召喚して浅倉を

捕らえた方が良かったかも知れないとタイガは後悔した。

 そうすれば次の一手にファイナルベントを使うことだって出来たはず。 

「いえ、上出来です。残り時間はあと7分あります」

「このまま消耗戦を続けましょう」

 王蛇が投げつけたベノサーベルを左手に持ったオルタナティブが頭に

血が登りそうなタイガの心を宥める。

「はい。先生」 

「Strike vent!」

 デストバイザーにもう一枚のストライクベントを挿入したタイガは、

右手にメタルホーンを構え、改めて目の前の王蛇へと向き直った。

「はぁ...はぁ...楽しいなぁ、ライダー同士の戦いってのはよぉ...」

「これだけでライダーになった価値は充分ある。そう思わねぇか?」

「化け物め...」

 王蛇の持つカードはあと二枚。

 対して、自分と香川のカードは合わせてあと10枚もある。

 しかし、これだけの優位性を確保しているのにも関わらず、タイガも、

オルタナティブも王蛇の発する得体の知れない何かに徐々に飲み込まれつつ

あった。
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:50:42.02 ID:DSAJ+Ylu0
〜ベルデVSオルタナティブ〜

「....」

「....」

 香川と東條が地下で浅倉との死闘を繰り広げている中、地上では二組の

ライダーによる戦いの幕が開いていた。

 道路を挟んで相対し、にらみ合う疑似ライダーと仮面ライダー。

「Accele vent!」    

 先に仕掛けたのはオルタナティブだった。

 宙高く舞い上がり、停車していたトラックのコンテナの上に飛び乗った

オルタナティブはスラッシュリーダーにアクセルベントを読み込ませ、

50m近くあった距離を一瞬で詰めることに成功したのだった。

「そう来たか!」

 ベルデのコピーベントにより、ベルデのバイザーはゾルダのバイザーと

同様の機能を備えるに至っている。

 故に、秀一はベルデのコピーベントが解けるまでの間、ゾルダとして

今までと遜色のない戦い方を迷うことなく取ることが出来る。

 空中から舞い降りたオルタナティブが、一瞬のうちに直線距離17mの

間合いを一気に詰めようとしたところに、偽ゾルダはマグナバイザーを

連射し、懐に入られないように一定の距離を保つ。
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:51:21.54 ID:DSAJ+Ylu0
(どっちが北岡で、どっちが影武者なんだ?)

 秀一が吾郎と入れ替わっていることを悟った仲村だが、もし自分が

相対している相手が姿を消すライダーがゾルダに擬態しているとしたら、

一瞬の隙を突かれる危険性も無視できない。

 何しろ、ライダーバトルの半分はファイナルベントの威力で決定するが

残り半分は運と相手の奇策が勝利を左右すると言っても過言ではない。

(浅いねぇ...ま、相手が頭悪い馬鹿で助かったよ)

(ゴロちゃん...頼むから死なないでくれよ...)

「じゃ、近距離戦行ってみようか!」

 動揺を敏感に感じ取った秀一は、一気に勝負を決するべく、ベルデが

最もその実力を発揮できる肉弾戦をオルタナティブへと仕掛けていった。

「Sword vent」

 しかし、オルタナティブも一瞬で迷いを捨て去りスラッシュリーダーに

ソードベントのカードを読み込ませ、武器を呼び出す。

「うおおおおお!」

 絶叫しながらオルタナティブは大上段に振りかぶった大剣をゾルダへと

叩き付けようとするも、ゾルダは軽やかなステップでこれを回避。結果、

地面のアスファルトが抉れ、小さなクレーターが出来た。

 なんて馬鹿力だ。

 内心で呆れたように呟いた秀一はギガホーンの砲口をオルタナティブの

頭に向けて、弾丸を撃ち出した。
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:52:17.34 ID:DSAJ+Ylu0
「っぁ!」

「へぇ、これってビームなんだ」

 ギガホーンから放たれた緑色の光線にニヤリと笑った秀一は両手に構えた

マグナバイザーとギガホーンによる精密な射撃で相手に攻撃をさせること

なく一方的な蹂躙を始めたのだった。

「うわあああああああ!!」

 圧倒的な経験差と実力差に圧倒された仲村は、歯痒い思いをしながら

防戦一方の最悪な状況に自分が追い込まれていることを悟った。

 前に出て斬りかかろうとすれば、小回りの利くマグナバイザーで牽制され

後ろに下がってカードを切ろうとすれば、火力で勝るギガホーンの光線が

それを許さない。

(考えろ、考えるんだ...なにか、なにか盾になるもの...盾?!)

 マグナバイザーの弾丸が自分の右肩をかすめた時、オルタナティブの

頭の中に一か八かの閃きが舞い降りた。

「調子に乗るな!」
 
 逃げることを止めたオルタナティブはゾルダに相対し、自分の持つ

スラッシュダガーに炎を込めた遠距離からの斬撃を見舞った。

「無駄だって言って...」

 悪足掻きをせせら笑うゾルダの顔が引きつった。

 今、自分とオルタナティブが戦っているのは幅4m程度の歩道だった。

 バイクに変身して相手を攻撃するオルタナティブにとって、この狭さは

脅威でしかないが、必ずしもその脅威が逆転に繋がらないとは限らない。
 
 オルタナティブの放った斬撃の対象はゾルダではなく、その近くに

あった大きく育った街路樹の幹だった。

「しまった!」

 ベルデのスペックはオルタナティブよりも劣る。

 それ故に一方的に銃撃を浴びせられるガードレールで保護された歩道を

秀一は戦場に選択したのだった。

 確かにその狙いは間違っていなかったし、オルタナティブの変身者である

仲村創の経験不足に上手くつけ込む形でゾルダに変身したベルデはここまで

戦いを優勢に進めることが出来たのだから。

「隙を見せたな。さぁ、正体を現しやがれ!」

 高さ5mを優に超える大木が自分の目の前に倒れ込んで来れば、当然

どんな人間であっても、すぐさまそこから飛び退いて距離を取る。

 だが、その距離こそが今のベルデの命綱に他ならなかった。

 そして、その命綱が切られた音が切り落とされた街路樹の向こうから

聞こえて来てしまった。
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:52:45.03 ID:DSAJ+Ylu0
「Advent!」

 猛烈な勢いで自分の元へと駆けてくる人型をしたオルタナティブの

契約モンスターが自分の頭部からビームを放ってやってきた。

 ミラーワールド二位の攻撃力を誇るサイコローグがやってきたのだ。

「やっば!」

「Clear Vent」

 近くにあったポストに身を隠した秀一は自分の悪運に感謝した。

 自分を捉えきれなかったサイコローグのレーザービームが直撃した

ビルの壁や車のボディがとんでもない音を立てて爆発したからだ。

(ふぅ...ヤバかったぁ...。今日はもう撤退した方がいいな)

(早くゴロちゃんと合流してミラーワールドから脱出しよう)

 間一髪でサイコローグに捕らえられ、殺される前に最後の奥の手を

切ることに成功した秀一は、息を殺してサイコローグとオルタナティブの

魔手から命からがら逃げ出した。

「くそがぁあああああああ!!!」
 
 自分の背後から聞こえる怒りの雄叫びに「おお、怖い怖い」といつもの

茶化すような笑みを浮かべた秀一はオルタナティブに見つからないよう、

慎重に吾郎の待つ戦場へと向かうことにしたのだった。

299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:53:14.41 ID:DSAJ+Ylu0
〜アビスVSゾルダ〜


 ライダーバトルの状況が目まぐるしく変わる中、最後の対戦は意外な

乱入者により、複雑な様相を見せ始めていた。

 遡ること八分前、オルタナティブと別れたアビスは路地裏に逃げ込んだ

ゾルダを追いかけて疾走していた。

 平均的なライダーが持つカードの枚数が5枚か6枚と仮定すると、既に

武装しているゾルダのカードの残りを4枚程度とアタリをつけたアビスは

躊躇なくアドベントのカードでアビスハンマーを呼び出し、ゾルダを

追いかけ捕獲しろと命令を出したのだった。

 地面や湖に潜れば時速125kmの速さで獲物を追跡するアビスハンマーに

とってライダーの脚力などたかが知れている。

 案の定、数十秒後にはアビスハンマーに足を掴まれたゾルダが、土中に

ひきずりこまれまいと必死の抵抗をしていた。

「ぐっ!くそっ!」

(あの時のゾルダと声が違う?そうか、そういうことか...)  

 道理でいつもと違う恰好をしていたと言う訳か。

 ガイとゾルダに殺されかけた時に、満は秀一と吾郎の声を一度だけ

聞いていたことが決め手だった。

 ゾルダの変身者とその手下は互いのデッキを交換して変身し、敵の目を

欺いて漁夫の利を狙っていた。そう考えるとつじつまが全て合う。
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:53:50.07 ID:DSAJ+Ylu0
「答えろ。偽ゾルダの変身者とどこで落ち合う予定なんだ」

「教えるわけ、ないだろ...」

「ふーん。そう言う事言っちゃうんだね〜」 

「アビスハンマー。こいつの体、もっと土の中に埋めて良いよ」 

 地面の下から気持ちの悪い唸り声が聞こえたと同時に、ゾルダの体が

まるで底なし沼に吸い込まれていくようにずぶずぶと沈んでいく。

 ゾルダの体の半分がアスファルトに埋まった所で、アビスハンマーが

俺の役目は終わったと言わんばかりに、地面の中から這いだし、アビスの

隣に黙って控えた。

「俺さ、アンタがどうなろうと別に関係ない訳なのさ」

「ライダーバトルに乗ってる側の人間なんだろ?アンタ達」

「黙って死ぬか、それともしゃべって生き延びるか選んで欲しいなぁ」

 脅迫とハッタリをかけ、ゾルダに変身したライダーに揺さぶりをかける。

「殺すなら、殺せ...」

「あーあ。じゃ、そうするわ」 

 これ以上話しても時間の無駄と悟った満は、躊躇なく地面の中で餌を

待ち侘びるアビスハンマーに食事の許可を出そうとした、が....
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:54:21.93 ID:DSAJ+Ylu0
「Strike vent!」

 雲の中から姿を現した深紅のドラゴンが満めがけて避けようがない

豪火球を吐き出したのだった。

「ッ!!アビスハンマー!俺を守れ!」

 そう言うなり、アビスハンマーの体を盾にしたアビスは背中から

アスファルトの地面に倒れ込み、アビスハンマーが逃げ出さないように

その両脇から手を入れて雁字搦めにして最低限のダメージだけで

切り抜けることを選択した。

 豪雨のように降り注ぐ火の玉は槍のように次々に地面に突き刺さり、

狙い誤ることなくアビスやアビスハンマーの体にも突き刺さった。

「ぐああっ!」

 豪火球を真正面から3発受けたアビスハンマーがあっけなく消滅する。

(誰だ!誰なんだ!)

 一言では言い切れない間柄の契約獣の片割れがいなくなったことに

傷つきながらも、ドラグレッダーによる空からの爆撃がようやく終わりを

迎えた。

 よろよろと立ち上がった満は、まるでゾルダを庇うような龍騎の攻撃の

仕方に違和感を感じながらも、姿の見えない敵からの再びの来襲に備え、

撤退を選ぶ。

(やばい...このままいけば作戦が全部ぶち壊されるかも知れない)

 元々この作戦は、香川陣営の四人と、浅倉と北岡とその手下の三人以外の

ライダーの介入は想定されていない前提で成立している。

 香川と東條のツートップが浅倉に後れを取るとは思えないが、その二人の

思考の外から相手が乱入してしまえば、当然戦況はひっくり返ってしまう。

 ここに残って八人目のライダーと戦うか、それともゾルダを殺して、

香川と東條の加勢に向かうのか?迷う時間はもう殆どない。
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:54:53.21 ID:DSAJ+Ylu0
「悪く思わないくれよ!」 

 アビスが選んだのは後者だった。

 どのみちゾルダの殺害は今回の作戦に含まれている訳だし、ここで強力な

ライダーを確実に倒しておけば、この先の戦いを優位に進められるのは

目に見えている。

「Strike vent」 

 由良吾郎は己の命運はここまでかと天を仰いだ。

 だが、天は彼を見捨てていなかった。

「Advent」

 アビスクローから水が発射される前に、アビスの体がまるで見えない

巨大な何かに突き飛ばされたかのように宙へと吹き飛ばされたのだった。

「うわああああああああ!!!」

 叫び声を上げながら路地裏から道路まで吹っ飛ばされたアビスを

目を丸くして見送った吾郎の頭上から懐かしいあの声が聞こえてきた。

「ゴロちゃん!」

「先生!よくご無事で!」

 クリアーベントの効果が切れたベルデが土の中に生き埋め寸前になった

ゾルダの横に立っていた。

「バイオグリーザ!ゴロちゃんを穴から出してくれ!傷一つつけるな!」

 カメレオンのミラーモンスターが契約主の言葉に従い、その強力な

腕力で土の中に埋め込まれたゾルダを掘り起こした。

「でも、どうしてここが?」

 秀一の肩を借りて立ち上がった吾郎は当然の疑問をぶつけた。

「城戸の奴がゴロちゃんの居場所を教えてくれたんだよ」

「城戸さんが?」

「ああ。龍騎に変身した奴が路地裏に入っていくのを見てね」

「そしたらなんとゴロちゃんがそこにいたのさ」

「そうだったんですか」 

 九死に一生を得た吾郎は、それでも何か腑に落ちないかのように

首をかしげていたが、とりあえず北岡と合流できた事を喜ぶ事にした。
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:55:22.57 ID:DSAJ+Ylu0
「よし、見えてきたぞ!」

 自分達を追いかけてきたオルタナティブとアビスの姿が見えないことに

安堵した秀一と吾郎は、無事に自分達の車の場所へと辿りついたのだった。

「せーの!」

 車のガラスの中に身を投げた二人は、次の瞬間には現実世界への帰還を

果すことに成功していた。

「やった!やったぞゴロちゃん!!」

「良かった。無事に戻って来れたんですね」

 車内に戻った秀一と吾郎は喜びを爆発させて手を取り合った。

 思ったよりも疑似ライダーに手こずりはしたが、最悪の状況から

こうしてほぼ無傷での生還を果たせたのだ。何も言うことはない。

「先生。もう帰りましょう。あとは残った人達に任せれば大丈夫です」

「そうだね」

「浅倉は香川に、城戸が残りの二人を倒してくれれば万事OKと言う事で」

 香川の戦力を減らすことには失敗したものの、その戦力の底を見る事に

成功したゾルダとベルデの二人組は颯爽と戦場を後にして去って行った。


 こうして、戦いは次なる局面へと移り変わっていく。

304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:55:53.75 ID:DSAJ+Ylu0
二十話 〜Survive〜

 バイオグリーザに吹き飛ばされ、仕留められたはずのゾルダを仕留め

損ねたアビスは、よろよろと吹き飛ばされた場所から自分の身体を

起こした。

 顔を上げ、正面を見るとそこには赤い仮面ライダーが立っていた。

「どういうことだよ!城戸さん!」

「アンタと俺は協力関係にあるんじゃなかったのかよ!」 

「協力?何をバカな事を言っているんだ、貴様」 

 この前会った時とは、まるで違う別人のような冷酷な声にアビスは

身震いが止まらなかった。

 誰なんだ、コイツは。

 真司と全く同じ存在であることは分かる。

 だが、根本的な何かが決定的に異なっている。

「アンタ、一体誰なんだ...」

「俺か?俺は、城戸シンジだ」

 そんなことは分かっている。

 だが、先程から己を襲う悪寒の波は一体何なんだ。
 
 そんな満の内心の動揺を見透かすように、龍騎はアビスの問いかけに

答え始めた。

「俺は本当のシンジの片割れだ。お前の知る城戸真司は偽物だ」

「なにを、言ってるんだ...アンタ」

「俺は真司の中のもう一人の城戸シンジだ」

「アイツは俺の体を奪うどころか、全てを奪い去った」

 意味不明な独白をする城戸真司の本物を自称する怪しいライダーは

おもむろにデッキからカードを引き抜き、バイザーにベントインした。
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:56:20.39 ID:DSAJ+Ylu0
「Sword vent」

 地面に突き刺さった青竜刀を引き抜いた龍騎は狂ったような叫びを

上げながらアビスへと躍りかかった。

「止めてくれ!止めてくれよ城戸さん!俺はアンタの敵じゃない!」

「死ねぇ!」

 恐るべき速さの攻撃にアビスは為す術もなく追い詰められる。

 防戦一方のアビスは、必死にガードを固めて致命傷を避け続けるが、

龍騎は息切れすることなく防御の上から雨霰と拳と蹴りの暴力の暴風雨を

降らし続けた。

 ドラグセイバーを相手の左腿に打ち付け、がくりと左からバランスを

崩して倒れたアビスの左頭部に龍騎の全力の膝蹴りが吸い込まれていった。

 一瞬で意識を刈り取られたアビスはそのまま反撃に転じることなく、

そのまま固いアスファルトの地面に全身を叩き付けられた。

「あがっ!」

 こめかみを痛打し、余りの痛みに身動き一つ取れないアビスを一瞥した

龍騎はそのままトドメを刺すべく、アドベントで契約獣を呼び出した。

「ギャオオオオオオオオ!」

 無双龍ドラグレッダーの地を裂き、空を割る咆哮がミラーワールドに

響き渡る。

「終わりだ」

「Advent」  

 自分の隣から姿を現したドラグレッダーにアビスを放り投げた龍騎は

既に勝敗の決した勝負に興味はないというように、その場から離れようと

した。

 だが、アビスの近くをオルタナティブが通りかかることまでを龍騎は

想像することが出来なかった。 
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:57:27.69 ID:DSAJ+Ylu0
「Wheel vent」 

「うおおおおおおおおおおおおお!」 

 仲間を救うべく猛然とドラグレッダーの元へ突っ込んでくる仲村の

蛮勇に失笑を隠せない龍騎だったが、今更仕留めた相手を取りこぼすのも

愚かしいと思い直し、オルタナティブのファイナルベントが届かない

上空へと舞い上がるようにドラグレッダーに指示を出した。  

「うわああああああああ!!」

 龍騎を背中に乗せて、オルタナティブのファイナルベントを回避した

ドラグレッダーは後先考えずに突っ込んできた愚か者を仕留めるべく、

その顎を開いて、全てを灰燼に帰す炎の息吹を吐き出した。

 しかし、オルタナティブの後先考えない行為によって生じた僅かな隙に

アビスは目を覚まし、おぼつかない手でなんとか龍騎に対抗できる唯一の

カードをバイザーにベントインした。

「Final vent」

「シャアアアアアアアア!!」

 雄叫びを上げたアビスラッシャーと先程破壊されたアビスハンマーとは

別の個体が光を放ちながら合体する。

「佐野!おい、佐野!大丈夫か?」

「大丈夫...じゃ、ないかもしれない...です」

「逃げるぞ。早く乗れ」

 這々の体で満の傍にやってきた仲村は満が呼び出したアビソドンの

巨大な姿に圧倒されながらも、なんとかホイールベントで呼び出した

サイコローグが変身したバイクへと乗せることに成功したのだった。

 意識を失いながらも、しっかりと仲村の腰に手を巻き付けた満は

そのまま深い眠りに落ちていった。
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:57:58.22 ID:DSAJ+Ylu0
「ギャオオオオオオオ!」

「ゴオオオオオオオオオ!!」

 地上から飛び立ったアビソドンは陸海空の全ての状況に対応できる

形態へと己の姿を変化させ、空に待ち構える龍騎とドラグレッダーに

襲いかかっていった。

 ミラーモンスターにはおおよそ知性と呼ばれるものは備わっていない。

 しかし、神崎士郎がライダーバトルにおいて使役するミラーモンスターが

最低限の役割を果すようにカードに組み込んだ一種のプログラムによって

ある程度の優先順位というものが契約モンスターの行動を束縛している。

 例えばライダーが敵の攻撃を受け戦闘不可能に陥る、あるいは陥りかね

ない状況ならば、状況に応じて契約主を助けなければならないという

強制が契約モンスターには課せられている。

 故にアビソドンはそのファイナルベントの特性と神崎士郎が組み込んだ

プログラムにより、擬似的とはいえ図らずもオルタナティブとアビスの

殿を務める羽目になった。

 アビソドンから放たれるビームとミサイルの嵐をかいくぐりながら

龍騎は冷静に頭を使いながら、アビスとオルタナティブの持つ時間を一分

一秒でも多く奪うべくドラグレッダーを巧みに操った。

(リュウガのファイナルベントと同等とは...)

 アビスのファイナルベントのAPは7000。素の攻撃力はAP5000である。

 対するドラグレッダーのAPはAP5000。正面きってやり合えばどちらが

勝利し、どちらが敗北するのかは目に見えている。

 契約主のアビスが敵対するライダーと充分な距離を取ったと判断した

アビソドンは悠々と自分の強さをドラグレッダーに見せつけるように、

何処かへと泳ぎ去って行った。 
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:58:25.61 ID:DSAJ+Ylu0
一方、呼び出されるだけ呼び出された挙げ句、無駄骨を折らされた

ドラグレッダーは不機嫌そうな唸り声を上げながら、今にも取り逃がした

アビソドンを追いかけようとしきりに方向転換しようとしていた。

「....ドラグレッダー、もういい。下ろせ」

 だが、この状況こそが最もリュウガが望んだ状況だった。

 リュウガが降りた場所は香川と浅倉の一騎打ちの場所だった。

 ミラーワールドの存在である城戸真一に制限時間はない。

「さて、そろそろ残り三分という所か...」 

 地下通路の中へと足を踏み出そうとしたその時、

「そこまでだ」

 厳かな声の主が己の肩を掴んでいた。

「オーディン...」

「神崎士郎からの命令だ。ナイトとベルデを始末しろ」

「そうか。なら、俺はそれに従うまでだ」

 今日に至るまでその姿を一切見せる事のなかった13人目にして、最後の

ライダー、オーディンは何もせず、静かに去って行く龍騎を見送った後、

香川の指示に従った六人の量産型オルタナティブ軍団が地下通路へと

突入しようとしたその瞬間ゴルドフェニックスが現れ一瞬で焼き払う。

「Time vent」

 そして、時は全て神の思いのままに操られる。
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:59:09.40 ID:DSAJ+Ylu0
〜進化する王蛇〜


(オルタナティブ軍団がここに到着するまで、残り5分)

 浅倉威を作戦通りに追い込んだ香川英行の懸念は、自分が作り出した

量産型オルタナティブの突入するタイミングだった。

 一人では浅倉威を取り逃がす恐れがある。下手をすれば仲村や東條と

一緒に戦っても取り逃がす可能性も微かにだが存在している。

 故に香川英行は戦いの鉄則に倣い、数の暴力で王蛇を仕留めるという

シンプルだがとても合理的な手段に打って出た。

 量産型オルタナティブとオルタナティブの違いはアクセルベントと

ソードベント以外の三枚のカードの代わりにガードベントを二枚入れた

ヒットアンドアウェイの攻防を主眼にしたデッキ構成である。

 スペックはオルタナティブよりも一割程度劣るが、それ以外は90%の

性能を発揮できるように作り上げられている。

 ソードベントは自分達が使っているものよりもAPが500多い代物だし、

ガードベントは一撃ならどんな攻撃も防げるGP3000に設定してある。

 活動時間は9分31秒だが、王蛇の残り時間が三分を切ってしまえば、

そんな活動限界時間は些末事でしかない。

 決定力には欠けるが、集団戦でこそ彼等が真価を発揮する。
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 11:59:36.09 ID:DSAJ+Ylu0
そして、香川がこの量産型オルタナティブを託した相手というのが、

法では裁けぬ浅倉威に大切な人達を殺された遺族達だった。

 香川は仲村の言葉からヒントを得て、被害者遺族の会に足繁く足を

運び、その中から屈強な六人の男達を選び出したのだった。

 浅倉に殺された被害者の数は50人以上にも及ぶ。当然、被害者の

遺族達の数はその数倍にも及ぶ。

 彼等の事情はここでは割愛するが、ともかく香川英行は自らが選んだ

六人を完全に説得、信用させることに成功し、今日に至るまで他の仮面

ライダーに気が付かれることなく、量産型オルタナティブを一通り完璧に

使いこなさせる訓練をさせ続けた。

 そして、遂に彼等の苦労が報われる日がやってきた。

311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:00:08.33 ID:DSAJ+Ylu0
 王蛇に残された選択肢はあと二つだった。

 一つは闘争ではなく逃走。

 アドベントを使い、ベノスネーカーを召喚し、目の前の二人のライダーを

足止めさせた隙にそのまま地下通路から出てミラーワールドから脱出する。

 もう一つは逃走ではなく闘争。

 玉砕覚悟でファイナルベントを使い、タイガかオルタナティブを仕留め

神崎士郎から貰ったサバイブのカードで残り一人を仕留める。

「ふん...」

 壁際に追い詰められた王蛇は不敵な笑みを浮かべ、その毒牙にかける

最初の獲物をタイガにすることに決めた。

「ウオオオオオオオオ!!!」

 自分から見て左にいるオルタナティブの足へと右手のデストクローを

投げつけ、すかさず香川のフォローに入った東條へと踊りかかった。

 上から振りかぶって下ろされる虎の爪をタイガは右手のメタルホーンで

当然のように上段で受け、その威力を減衰させた上で王蛇の無防備な

土手っ腹めがけて強烈な前蹴りを浴びせた。

「ぐふっ!」

 10tを軽く超える蹴りを水月に諸に浴びせられた王蛇はマスクの中に

血反吐を撒き散らしながら、通路の真ん中へと吹き飛ばされた。
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:00:40.74 ID:DSAJ+Ylu0
「Final vent」

「シャアアアアアアアア!!」

 背後から猛然と迫るベノスネーカーが吐き出す毒液の奔流に乗った王蛇は

迷いなくバイザーにファイナルベントを叩き込み、タイガに対して必殺の

一撃を叩き込むことに全てを賭けた。

「はぁっ!」

 天井ギリギリまで飛び上がった王蛇にベノスネーカーが必殺の毒液を

吐きかけようとしたその時...

「Freeze vent」

 これ以上はないという絶妙なタイミングでタイガの秘中の秘である 

フリーズベントがその効果を発動させた。

 いかなるミラーモンスターの動きを停止させるカードの力により、

ベノスネーカーは一瞬で凍り付き、無力化された。

「何?!」

 初めて体験するカードの効力に反応が遅れた王蛇にたたみかけるように

タイガは攻撃の手を緩める事なく、ファイナルベントを挿入した。

「ガオオオオオオオオオオ」

 振り返った王蛇の腹に猛虎の爪が突き刺さる。

「グワーッ!」

 デストワイルダーに引き倒され、無様に地面を引きずられる王蛇の体は

あと十秒もしないうちに自分の契約獣と挟撃しようとするタイガの元へと

辿りついてしまうだろう。

「舐めるなーっ!」

 オルタナティブもタイガでさえも、もう王蛇は万事休すなのだと誰もが

確信していた。しかし、浅倉威は驚くべき方法で自らの窮地を脱した。

「ギャアアアアアア」

「なにっ!どうしたんだデストワイルダー!」

 自分の爪が浅倉威に届くまで、あと残り半分の距離という所でいきなり

デストワイルダーが左手を押さえて、地面に転がって消えてしまったのだ。
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:02:14.37 ID:DSAJ+Ylu0
「ありえない。なんでファイナルベントが無効化されたんだ?」

「ハハハ...窮地に追い込まれた毒蛇が獲物を噛まないわけがねぇだろ」 

 瀕死の重傷を負いながら、それでも立ち上がる王蛇の生命力の余りの

強さにオルタナティブとタイガも恐怖を禁じ得なかった。

「王蛇の...そうか、毒をデストワイルダーに」

 得意げに嘲笑する王蛇のベノバイザーのコブラの頭部の牙の部分に、

何か白い物がこびりついていた。それはデストワイルダーの毛だった。

 そう、王蛇は引きずられる最中に自由な右手でベノバイザーの牙を

デストワイルダーの右腕に突き刺したのだった。

 毒蛇が僅か1mg以下の毒で何百匹もの生物や人間を死に至らしめるのと

同様に、ミラーワールドで最強の致死毒を持つベノスネーカーの毒を

体内に注がれて無事なミラーモンスターはまずいないだろう。

「どこまでも...悪運の強いやつなんだ...」

「どうしたよ英雄サマ?俺を殺すんじゃなかったのか?」 

 瀕死の重傷を負いながらも、王蛇は戦況をゼロに戻す事に成功した。

「さぁ、殺し合いを始めようぜ...?」

 王蛇が最後の一枚をデッキから引き抜いた。

 その瞬間、地下通路の全てが烈火の炎に包まれる。





「Survive」





 燃え盛る劫火に煌々と照らされた棺桶の中で、絶対的な死の権化として

王蛇は新たな力を携え、不死鳥の如く全ての傷を癒やした完全無欠の

存在となって生まれ変わったのだった。

「さぁ...今度は俺がお前らを殺す番だ...」

 烈火の力を手に入れ新生したベノヴァイパーが戦いの終幕を告げる

第三のゴングを鳴らした。
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:06:35.31 ID:DSAJ+Ylu0
〜力の差を埋める『』〜

 神崎士郎の奥の手を得た浅倉威との圧倒的な実力差を敏感に感じ取った

香川英行は活動限界時間の迫るタイガに撤退を命じた。

 状況は浅倉威に傾きつつあった。

 神崎士郎から渡された強化カードを受け取らないライダーがいたとは

想定外にも程がある。
 
 しかも、予め量産型オルタナティブにセットしていた位置情報及び

生存確認システムが王蛇の強化と同時に全てロストしてしまったのだ。

 これ以上、東條を危険に晒すわけにはいかない。

 故に、香川英行は東條を逃がす為の血路を開く覚悟を決めた。

「東條君!逃げるんだ!」

「何でですか!先生」

「あれはもう君の手には負えない!オルタナティブを率いて撤退しなさい」

「嫌です!先生は僕に言いました!一緒に戦おうって!」

 たとえ浅倉威と差し違えてでも、香川の命は守り抜かなければならない。

 英雄にはなれなくても、英雄の盾になって死ぬことなら...それが浅倉の

魔手から大切な人を守る唯一の手段であれば、東條悟は躊躇うことなく

命を捧げられる。

「覚悟はもう決めている!カードだってまだ残って...」

「私には責任がある!君をこの戦いに巻き込んだ責任がある!」
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:07:16.46 ID:DSAJ+Ylu0
しかし香川は東條と共に戦うことを拒んだ。

 たった一人で目の前に立つ紅蓮の大蛇とその契約者を相手取って

その命を散らそうとしているのだ。

 意味が分からない。

 あれほど英雄になることは命を軽々なものとして扱ってはいけないと

常日頃から自分に説いていた香川が、今この時になってその言葉とは

真逆の行為を取ろうとすることが理解できない。

「東條君。英雄にはね、守らなければならないことがあるんですよ」

「かけがえのない仲間を失いそうになった時に自らが盾になる覚悟」

「力なき多くの者を守るために非情な悪を担う覚悟」

「そして、自分にだけは負けないという誓いを最後まで貫く覚悟」

「どうやら今日は君が私と肩を並べて戦うには早すぎたようですね」

 仮面の下に笑顔を隠した香川は、すがりつく東條の手を振り払い、

右手に持ったスラッシュダガーを両手で構えた。

「先生!先生ッ!なんで!なんで!」

 王蛇がサバイブに変身する前に仕留める機会が何度もあったにも拘わらず

何度も選択を間違えた東條は激しい怒りに襲われていた。

 でも、もうどんなに激昂しても過ぎた時は二度と戻ることはない。

「浅倉アアアアアアアアアアアッ!」

 香川の期待を裏切り、あまつさえその命を危険に晒した自分の愚かさと

どこまでも生き延びようとする王蛇の生き汚さに東條は怒っていた。

「ハハハハハハハハ!いいザマだなぁ英雄さんよぉ」

「その滑稽さに免じて、そら」

 地下通路を煌々と照らしていたサバイブで作り出された炎の障壁が

一瞬でベノヴァイパーに吸い込まれていった。

「十秒くれてやる。その間に生きるか、死ぬかを決めろ」 

 浅倉の悪辣なまでの慈悲にタイガはいかに自分が非力で無力なのかを

思い知らされた。

「東條君。約束を破って一人死んでいく私を、許してください」

「!!!」

 闘争を選んだ王蛇と真逆の選択をしたタイガは猫が尻尾を巻いて

大蛇から逃げ出すように、光り差す出口へと向かって走り出した。
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:07:53.81 ID:DSAJ+Ylu0
「ふぅ...」

 タイガが階段を登って地下通路から出て行くのを確認した王蛇は香川との

戦いを再開すべく、再び炎の障壁を展開して邪魔者が入らないように場を

整えた。

「良いんですか?」

「貴方にとって一人でも殺すライダーが減るのは好ましくないのでは?」

 絶体絶命の窮地に追い込まれているにもか関わらず、香川英行は余裕を

崩すことなく、目の前に立つ王蛇サバイブに好戦的な笑みを向ける。

「はっ、確かに獲物が減るのは業腹極まりない。が、奴は小物だ」

「俺が手をかけるまでもない」

「その点、アンタはアイツと違ってギリギリまで殺し合えるからな」 

「正々堂々からほど遠い貴方の口からそんな言葉が出るとはね...」

「ふふふふふふ...」 

「ハハハハハハハハ」

 策は破れ、孤立無援の絶体絶命の窮地に追い込まれながらも香川英行は

目の前のライダーとの戦いに、今までにない程に心が沸き立ち血が滾るのを

感じていた。

(結局、英雄も怪物も戦いにおいては等しくライダーということですか) 

「香川、気が付いているか?」 

「上を見ろ」

 浅倉が指さした方向に目を向けると、そこには現実世界で破壊した筈の

カーブミラー、天井についたガラス張りの照明器具、そしてトイレの中に

ある鏡まで苦心して浅倉威を追い込むために取り外し、破壊した全てが

時を巻き戻されたかのように蘇っていた。

「ハハハハハ。鏡の世界で鏡を壊すのはタブーらしいな」

「ふむ。どうせやるならフェアに殺し合え。ということですね」

「いや、神崎の奴が時を弄ったんだろう」 

 タイムベントの存在を浅倉威が知っている事に少し驚いた香川だったが、

時が巻き戻され、停止した状況に置かれた今こそが浅倉威を討ち取る

最後の機会なのだと改めて認識した。

「ええ、そういう事なら時が動き出すまで目一杯愉しめますね」

「ならば!獣同士、どちらかが死ぬまで存分に殺し合いましょう!」

 理性の箍とオルタナティブ・ゼロに掛けていたリミッターを全て外した

香川英行はデッキから今まで誰にも見せたことのないカードを引き抜く。

 
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:10:06.70 ID:DSAJ+Ylu0
「そうだ!お前のようなライダーを俺は待っていたんだ!」

 小賢しさや矜持を投げ捨て、怪物と同じ土俵に上がってきた香川英行に

歓喜の叫びを上げた浅倉威は夢中になった。 

「Sword vent」

 手甲型のベノバイザーツヴァイに王蛇サバイブはソードベントのカードを

挿入し、AP4500にまで破壊力を引き上げられたベノサーベルの強化版、

ヴァイパーブレードを召喚した。

 サバイブの力を得た新しいベノサーベルの形状は、サーベルに鞭と刀を

足した刀身が剣に近い形状をしていた。

 烈火の力を宿した刃の部分に炎が踊り、刀身の峰の部分には相手の刀身を

受け止め、手首の返しを利用して破壊する鋸歯がずらりと生え揃っている。

 そして刃の鋒から長く伸びるのは一刺しされれば絶命必至の猛毒を持つ

ベノヴァイパーの毒が含まれている伸縮自在の鋭い鞭だ。

 対するオルタナティブも負けてはいない。

 時を止められたことにより、浅倉を仕留めるために待機していた忠実な

量産型オルタナティブの援軍が見込めないことを理解した瞬間、香川は

ゼロにしかない特殊な暗号コードを解除し、緊急事態にのみ使える特殊な

カードを発動する。
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:10:33.78 ID:DSAJ+Ylu0
「Callsummon!」

 コールサモンと書かれた魔方陣の描かれたオルタナティブ・ゼロの

カードが効力を発揮する。

 そのカードは、半径100m以内に居る量産型オルタナティブの持つ全ての

カードをゼロの元に回収した上で、消耗したゼロの武器と防具を増やす

効果を持つまさに反則じみたカードだった。

 量産型オルタナティブが全てロストした上で、自分よりも戦闘力の勝る

ライダーに孤立無援の状態で対峙した状態でしか使えない最終手段だが、

その効果は決してサバイブに劣りはしない。

 今回引き連れてきた量産型オルタナティブは六体。

 そして彼等の持つカードは合計24枚。香川の残りのカードを合わせれば

なんと合計28枚もの武器カードがゼロの手中へと収まってしまう。

 神崎製のカードデッキは、破壊された瞬間に全てのカードがロストするが

香川製の量産型オルタナティブのデッキは破壊されたその時点で、未使用の

アドベントカードがオルタナティブ・ゼロのカードのストックとして

量子転送されるようになっている。

 王蛇サバイブの持つカードの合計枚数は特殊系三枚と武器系五枚の

合計8枚。単純計算にしておよそ4倍の差が王蛇とゼロの間に生まれた。

 この時点で王蛇サバイブがオルタナティブ・ゼロに勝る唯一の点が

契約モンスターであるベノヴァイパーだけという異常事態が生まれた。

 つまりこれは、香川の頭脳とオルタナティブがサバイブ無しで

神崎士郎のサバイブの力を凌駕したという証明に他ならない。
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:11:09.25 ID:DSAJ+Ylu0
「ハハハハハ!良いぞォ香川ァ!お前はやっぱり最高だァ!」 

「Guard vent!」 

 喜悦の叫びを上げながらマンホールの蓋を隙間なく6枚重ねたような

盾を呼び出したオルタナティブに王蛇サバイブは飛びかかっていった。

 右手に剣を、左手に盾を構えたオルタナティブはベノサーベルの先端の

鞭からにじみ出る毒液が己に掛かることのないように巧みに操っては

盾の頑強さを生かした突撃と撤退を織り交ぜた攻防を展開した。

 圧倒的劣勢を覆すべく、王蛇もサバイブで強化された力で香川の

シールドを力づくで破壊しに掛かった。

 10発目の攻撃でオルタナティブの盾の最下部が綻びを見せた。

 王蛇は一旦距離を置き、壊れた盾の部分に鞭を叩き付け、全てを溶かす

溶解毒をその先端から流し込んだ。

 地面を溶かし、有害な毒ガスを発生するベノヴァイパーの毒が霧となり

オルタナティブの周囲に立ちこめる。

 一息でも吸い込めばたちまち身動きが取れなくなるのは必至。

 オルタナティブも王蛇を追うように有毒ガスが発生した箇所よりも

前の場所へと飛び出した。

 王蛇とオルタナティブも次のカードをバイザーにベントインし、決定的な

優位性を相手に先んじて先取すべく動き出した。

「Accele vent」

「Strange vent」

 アクセルベントで自らを加速させたオルタナティブは破損して使い物に

ならなくなった盾の最下部を切り捨て、残り五枚となった盾を構えて

円盤投げの要領で王蛇へと投げつけた。
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:11:41.04 ID:DSAJ+Ylu0
「そんなもので俺を殺せると思ってんのか!!」

 怒りの声と同時にベノサーベルがまるでバターのようにシールドを

切り裂いた。炎と毒を纏った斬撃に真っ二つにされたGP3000を誇る大きな

盾はその原型を一秒たりとも留める事なく、跡形もなく消え去った。

「思ってませんよ!」

 アクセルベントの効力が切れる前の最後の高速移動で王蛇の背後に

回り込んだ香川は王蛇の右膝裏を切り裂くことに成功する。

 膝裏の防御しようのない急所を斬り捨てられた王蛇は溜まらず地面に

転げ落ちるはずだった...が。

「どこを見ている?」

 地面に倒れる前に霧のようにかき消えた王蛇がオルタナティブの背後から

先程と全く同じ攻撃を仕掛けてきた。

 恐るべきは王蛇の戦術眼である。

 アクセルベントの効力が失われた一瞬の隙を突くとはいえ、一目見た

相手の動きをトレースしたり、そこから攻撃パターンを割り出す香川の

裏をかくのは容易ではない。

「戦いってのは何が起こるか分からないから楽しいよなぁ?」 

 バイザーにベントインされ、カードリーダーに読み込まれたストレンジ

ベントは分身を生み出すトリックベントへと変化した。

 矢継ぎ早に繰り出される香川の攻撃を受け続ける分身と入れ替わった

王蛇サバイブは残り6体の内、3体を香川の拘束要員として向かわせ、

残り三体を自分の忠実な護衛として間断なく周囲を警戒させる。

「くっ!」

 背後からがっちり体を固められ、為す術もなく王蛇サバイブの分身に

滅多切りにされ続けるオルタナティブの装甲が徐々に剥がれ落ちていく。

(まずい!このままでは殺されるッ!)

 しかし、肩に手を回され、足首も拘束された状態でサバイブ状態の

ライダーにどう立ち向かえるというのか?

「楽しかったぜ、英雄さんよ」

「名残惜しいが、そろそろ決着つけさせて貰うぜ?」

 息を整え、ダメージから立ち直った王蛇サバイブはデッキからカードを

取り出し、見せつけるようにベントインした。
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:12:37.58 ID:DSAJ+Ylu0
「Advent」

 万事休すか。

 地面に波打ち浮かび上がる鏡面から、ウロボロスの如き蛇身と化した

烈火王蛇ベノヴァイパーが王蛇サバイブの傍らに召喚された。

 絡みつくようなその巨躯に禍々しい赤と紫の極彩色と炎を纏った巨大な

双頭のコブラは新たな力を得た歓喜の叫びを上げようとその大きな口を開き、

全てを溶かす万物熔解の黒炎弾を放とうとした。

「Confine vent」

 次の瞬間、脅威のアドベントモンスターはその姿を一瞬のうちにまるで

神隠しに遭ったかのように、忽然とその姿を消してしまったのだった。

 当然、ベノヴァイパーの攻撃は不発に終わる。

「どういう...ことだ?」

「こういう、ことさ!」 

「Advent!」

 この場にいないライダーの声が再び聞こえた時、炎の障壁が陽炎のように

揺らぎ、あり得ない乱入者が姿を現したのだった。

「東條!貴様ァアアアアアアア!」

 アドベントで呼び出したメタルゲラスの背中に隠れ、灼熱の防壁を

突破して香川の窮地に駆けつけたのは仮面ライダータイガだった。

「東條君...なぜ...」

 メタルゲラスが猛然と雄叫びを上げながら、王蛇サバイブの分身達に

単騎で突っ込んでいく。

 タイガも瞬く間に分身を片付け、先程の攻撃で傷つき、立てない程に

消耗したオルタナティブを抱きかかえ、王蛇の攻撃が届かない地下通路の

端へと回避した上で、その毒牙から仲間を守るように立ちはだかる。
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:13:11.36 ID:DSAJ+Ylu0
「誰かを守る英雄が、一人だけじゃいけないって誰が決めたんですか?」

「....」

「先生は犠牲になっちゃいけない人なんだ。だから僕は先生を守る」

「やりましょう。先生。あと一息です」

「東條君...分かりました!」

 最後の力を振り絞った二人のライダーは指し示したかのように己の

デッキからこの戦いの勝敗を決する為のの切り札を取り出した。

 そして展開されていた炎の障壁が消え去り、メタルゲラスの突進により、

一番端の出口にまで追いやられた王蛇サバイブも、この戦いに終止符を

打つべく、自らのデッキの中で最も攻撃力の高い切り札を、一際眩い炎の

輝きを放つファイナルベントをバイザーに挿入する。


「「「ハァ、ハァ、ハァ....」」」 

 
 命を賭けたこの戦いに終止符を打つ願い(チカラ)が

 躊躇わない勇気だけが、悪を滅ぼし未来を変える!

 

 「「「Final vent!!」」」



 再びその巨大な姿を現した烈火王蛇ベノヴァイパーはその姿を瞬時に

巨大なバイクへと変貌させ、自らの契約主と共に眼前の敵を破壊すべく、

猛毒と烈火の両方の性質を併せ持った漆黒の黒炎弾を吐き出しながら

前に向かって走り出す。
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:13:39.73 ID:DSAJ+Ylu0
 ポイズントルネードクラッシュ。

 技の威力はAP9000だが、王蛇が今までに契約獣に捕食させた大量の

ミラーモンスターのエネルギーを加算すると、その威力はAP10000を

軽く超え、眼前の二人のファイナルベントを合わせた数値にも肉薄する

可能性を秘めている。

 しかし、

「東條君!私に続け!」

「はいっ!」

 対するタイガとオルタナティブも負けてはいない。

 個々のファイナルベントの数値は確かに王蛇サバイブには届かない。

 しかし、どんなに強大な個が目の前に立ちはだかったとしても...

(先生は凄いや...だって、こんな時でも負ける気がしないんだから)

 二人なら信じられる。二人ならきっと乗り越えられる。

 強固な信頼で結ばれた師弟の絆が王蛇を凌駕する時が遂に来た。

324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:14:14.94 ID:DSAJ+Ylu0
 サイコローグがバイクに姿を変えたサイコローダーが目の前に迫る

ベノヴァイパーと同じ速度で横方向に高速スピンしながら突撃を掛ける。

 一見無意味なスピンのように思えるが、高速スピンによって生じた

強烈な風の防護壁により、ベノヴァイパーが吐き出した漆黒の豪火球は

悉く弾かれる。

 事ここに至っては、全てを天に任す他ない。

 これ以上の言葉はいらない。後は全力で正面からたたき伏せるのみ。

「……っ、アアアアアアアアアアアア、ハァァァァァ!」
 
 運命を切り裂く白銀の弾丸と

「行くぞオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」
 
 曲がることなく敵を貫く人犀一体の一撃を以て

「ウオオオオオアアアアアアアアアアアアアアア!!!」 

 命を貪り、永遠の戦いを望む無限の蛇身を今ここで貫く一撃とする!


 この間、時間にして僅か10秒。

 そして、三者三様の願いと想いを秘めた最後の一撃が激突した時、

停止していた全ての時が動き出した。
 
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:14:45.41 ID:DSAJ+Ylu0
 第21話 〜やがて消えゆく命の灯火〜


 ドゴオオオオオオオオオオオオオン!!!!

 圧倒的な実力を誇る龍騎の乱入により、香川と東條の戦う場所から

離れた場所へと避難していた満と仲村は、サイコローダーから降りた時に

聞こえた爆音の方向へと互いの首を向けた。

「なんだあれは!!」 

 驚愕した満の言葉に、ひょっとしたら自分達があえて香川達の助太刀に

入れないように遠ざけられたのではないかと思い当たり、仲村創はその

顔を青ざめさせた。

「まさか、俺達はあのライダーに先生達と分断されたんじゃ...」

「ええっ!だったらまずいじゃないですか!」

 オルタナティブに搭載されているミラーワールド活動限界時間は

残り2分45秒。アビスに至っては一分も残されていない。

「戻りましょう!ライドシューターに乗ればまだ間に合います!」

 量子化の止まらないアビスはライドシューターを呼び出し、仲村を乗せ

香川達が交戦している地下通路へと引き返していった。

「間に合った!」 

「Sword vent」

「仲村先輩。俺、時間切れになるんで、これを使って下さい」

 大切な仲間達の無事を信じるアビスは、武器を失った仲村に自らの

二振りの剣を預け、一足先に近くにあった鏡の中に急いで飛び込み

現実世界へと帰還していった。

「頼む!二人とも生きていてくれ...」

 アビスの剣を携えたオルタナティブは地下通路の入り口の前に立ち、

躊躇うことなく仲間たちのもとへと走り出していった。

326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:15:28.00 ID:DSAJ+Ylu0
〜〜

「せんせい...いきて、ますか?」

「なんとか、ぶじ...ですよ」

 地下通路の戦いは英雄達に辛くも軍配が上がった。

 王蛇サバイブとオルタナティブのファイナルベントがぶつかりあう中、

タイガの捨て身のヘビープレッシャーが王蛇の頭部を貫き、結果、

生命活動を強制的に停止させられた王蛇とベノヴァイパーは同時に爆散、

消滅したのだった。

 その爆発の余波は凄まじく、駆けつけたオルタナティブが階段の傍で

倒れている二人を発見した時、余りの惨状に言葉を失う程の惨状が

目に飛び込んできたのだった。

 香川は何とか五体満足で命に関わる程の怪我を負う事はなかったが、

それは東條の挺身あってこその奇跡の生還だった。

「東條...お前...」

 香川を爆発の余波から守る為に身を挺したタイガの背中には、びっしりと

隙間もない程の瓦礫の破片が突き刺さり、一見して助からないと分かる程の

大量の血が流れている。

 それは王蛇の、怪物の最後の悪足掻きだった。

 サバイブの力が消失し、原形を留められずに消え去った王蛇サバイブの

ベノサーベルの刀身が深々とタイガの左肩部分に突き立てられている。

 更に両足には焼けただれながらも、しっかりと獲物に噛みついている

四匹もの小型の毒蛇が、その毒牙を突き立てていた。

 肉が腐り、ぐずぐずと溶けていく音がタイガの体から聞こえて来た。
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:16:00.84 ID:DSAJ+Ylu0
「とう、じょう君。とうじょう、君?」

 強かに頭を打った香川が混乱から戻る前に、バックルからデッキを

引き抜いたタイガの変身が強制的に解除される。

 変身解除された東條の体は、なぜそうなっても息があるのかを疑う程の

惨たらしい状態だった。

 王蛇の毒を注入された左半身は、その毒素によりほぼ溶けかけている。

 そしてその毒の猛威は留まることを知らず、比較的無事な右半身と

その血管に乗り、瞬く間に残る肉体を破壊しようとしている。

 東條悟にとっての唯一の救いは、全てが決した刹那の瞬間の中で、

尊敬する師の理想に殉じて死ぬことが出来る多幸感と、既にその体が

ミラーワールドにおけるタイムリミットを迎え、本格的な肉体の崩壊が

始まった事による身体を襲う王蛇の猛毒による地獄のような責め苦が

あと数秒で終わることだった。
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:17:03.09 ID:DSAJ+Ylu0
 仲村創にとって東條悟の存在は大きかった。

 分かり合えない存在だった。ずっと相容れない相手だった。

 時には憎み合い、時には命を狙われた間柄だったが、それでもいつも

気が付いた時には背中合わせで共に窮地を乗り越えてきた仲間だった。

 そんな仲間との別れが後数秒の所まで迫ってきている。

 なにも心の整理がつかないまま、ただただ無情に過ぎ去る時が大切な

仲間を死の世界へと誘う。 

 だから、創はたった一つだけ自分に出来る事を勇敢に戦い、今まさに

最後を迎えようとする名もなき英雄への手向けにしようと決めた。

「東條....お前、勝ったんだな」

「うん...なかむらくんにもみせたかったなぁ」

「ぼく、がんばったんだよ?」

「ああ。俺の完敗だ。東條、お前は先生の正しさを証明したんだ」

「もう浅倉威が人を殺すことはない。もう誰も泣くことはないんだ」

「ああ。そっか...だったら、みんなはぼくをみとめてくれるよね?」

「これで、わかったでしょ?」

「きみより、ぼくのほうがせんせいにふさわしいって」

 焦点の合わない瞳でなにもない虚空を掴むように仲村の頬に手を

伸ばした東條悟は、それきり言葉を話すことなく永遠の眠りに就いた。

「東條...とうじょぉぉぉぉ....」

「馬鹿野郎...英雄になっても死んじまったら....」

「意味なんて...意味なんて、何も意味なんてないだろうが!!」
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:17:45.28 ID:DSAJ+Ylu0
 安心しきった笑顔を浮かべた悟は、最後に拾ったもう一つの勝利を

側にいた誰かに褒めて貰おうと、最後の力を振り絞った...。

 静かに眠る英雄の頬を赤い涙が伝う。

 怪物と戦い勝利した英雄の手には、一枚のカードが握られていた。

 それは、東條が命と誇りを賭けて王蛇から勝ち取った、炎の力を秘めた

赤と黄金の翼のサバイブ〜烈火〜のカードだった。

「先生、帰りましょう...」 

 気を失った恩師の体を抱きかかえた仲村創は、最後にもう一度だけ

かけがえのない仲間の勇姿をその目に焼き付けて、ミラーワールドを

後にしたのだった。


 誰にも看取られる事のない暗闇の中で、英雄は一人微かに微笑んだ。

 結局、憧れた人を悲しませてしまったけど、最後にその背中に追いつき

肩を並べて共に戦えた事を己が人生の最大の喜びと誇りとして、彼は歴史に

名を残さぬ名もなき英雄として、その短い人生の幕を下ろしたのだった。


 仮面ライダー王蛇/浅倉威、死亡 残り9人。

 仮面ライダータイガ/東條悟、死亡 残り8人。


 戦いは加速する。終焉の時は近い。

330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:18:15.87 ID:DSAJ+Ylu0
〜〜〜

 誰もいない教会の中で、一人の男がオルガンを弾いていた。

 その隣には鈍い輝きを放つ白銀の鏡が鎮座していた。

 万華鏡のようにあらゆる世界を映し出す虚ろなる境界を覗きながら、

神崎士郎は繰り返された世界の終わりが近づきつつある事を悟った。

「優衣。待っていろ...必ずお前に、新しい命を...」

 一際勇壮な最後の一節の後、戦いの無意味さを思い知らせるような

虚しい余韻が誰もいない教会の中に響き渡る。

「さぁ、行け」

 そして、コアミラーから新たな悪夢が姿を現す。

 絞首台から突き落とされた断末魔に嗚咽を足したような産声を上げる

白い人型のモンスターが次々と生み出されていく。

 シアゴースト。

 ミラーワールドに終焉をもたらす存在にして、ミラーモンスターの中でも

最強の数の暴力と進化を司る悪魔達が遂に解き放たれてしまった。

「戦え。お前達の命は、全て優衣の為に存在する」

 生み出され続ける白い悪魔を放置した神崎士郎は、自らの傍らに

置かれた幼き日の妹と自分が描かれた一枚の絵を大切に抱きかかえた。


 戦いは加速する。ライダーが最後の一人になるまで....

331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:26:22.69 ID:DSAJ+Ylu0
 第二部完となったところで、今日の投稿を終わりにしたいと思います。
 第三部と第四部は未だ執筆中なので、この続きを投稿するには時間が掛かると思います。
 五月末には投稿したいと考えているのですが、もし間に合わなければ別スレ立てるかも知れません。

 長文、かつ佐野君が誰だコイツ?な感じの拙作でしたが、応援して頂ける皆様のおかげでここまで
話を書き上げる事が出来ました。本当に感謝しております。ありがとうございます。
 それでは、しばらくの間失礼させて頂きます。
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:28:03.29 ID:DSAJ+Ylu0
登場人物紹介 後編

佐野満

 何の因果か主役に抜擢された龍騎屈指の雑魚ライダー。

 繰り返された世界のズレか、あるいは作者の都合というメタ的要素の
寵愛を受けた結果、第二部終了時においてほぼ無傷のラッキーボーイ。

 性格は本編よりではある物のライダーバトル初期から参戦し、多くの
出会いや別れを繰り返し、自分なりに世の中の厳しさや出来ないことを
乗り越えて行くことの大切さを思い知り、徐々に彼の父親が望んでいた
困難を乗り越えて前を進む人間へと変わっていった。

 お調子者ではあるものの小賢しい小知恵が上手いこと状況とかみ合い、
それが彼の命を長らえさせることに成功した。

 ぶっちゃけ神崎士郎とのファーストコンタクトで彼から契約のカードを
ぶんどっていなければ須藤刑事に騙されて彼の契約モンスターの餌食に
なっていたのは内緒の話。

 劇中では契約のカードをベルトに挟んでアビスハンマーをゲットしたり
香川の傘下に『英雄が守るべき多数の弱者』として入ったりと本編よりも
遙かに上手く立ち回り、後述する新たな契約獣の力を存分に振るって
徐々にその力量を香川研究室の面々に認められるようになっていった。

 ライダーとしての実力は下から数えた方が早く、かつては香川教授に
戦う覚悟のなさを指摘され、戦わずに生き残ろうとしていた弱い自分と
最後の肉親である父親と訣別したことにより、ライダーバトルに改めて
参戦して、必要とあらば他のライダーを殺す覚悟を決めたことにより、
インペラーだった時よりも遙かに強い実力を出すようになった。
 
 仮面ライダーインペラー 契約獣はギガゼール

 スペックと契約獣とカードは本編準拠。

 第二話から第五話と少ない登場回数だったものの、群体をなして
数で圧倒するバトルスタイルが最大の強みのライダー。
 変身者の満の命を何度も助けた功績はとても大きい。 

 劇中では所持カード三枚の所謂ハズレライダーということに悲観した
満の謀略により、その儚い命を散らしたが、契約したギガゼールは
自らを倒した二体の鮫型モンスター達にその役割を譲り、静かに
海中に没していった。

 仮面ライダーアビス 契約獣はアビスラッシャー、アビスハンマー

 第六話以降に満の新たな力となった鮫型モンスターの力を与えられた
本来、龍騎本編の世界には存在し得なかった新しく生まれたライダー。

 王蛇同様、白兵戦と攻撃力に特化した超アタリライダー。
 所持するアドベントカードのAPは3000を下回ることはなく、切り札の
ファイナルベントのAPに至ってはゾルダのそれと同じ威力を誇るという
まさにぶっ壊れ性能という言葉が相応しい最強スペックを持つ。

 本編では第二部終盤にアビスハンマーを盾代わりにした事以外に
目立った失敗は特になく、ライダーと戦う事を決めた満の覚悟次第では
大化けするかも知れない今回のライダーバトルの台風の目と言える。

所持カード

ソードベント
・アビスセイバーを召喚。3000AP。

ストライクベント
・アビスクローを召喚。3000AP。

アドベント×2(アビスラッシャー、アビスハンマーの一枚ずつ)
・アビスラッシャー、アビスハンマーを召喚。5000AP。

ファイナルベント
・アビスダイブを発動。7000AP。

333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:29:11.32 ID:DSAJ+Ylu0
霧島美穂
 
 ライダーバトルの紅一点にして、最初の脱落者。
 戦いの序盤に城戸真司に出会い、彼に恋するも運悪くキチガイ状態の
東條と交戦してしまい、フリーズベントで契約モンスターの首を落とされ
惨たらしく殺されてしまった可哀想な人。
 
 しかし、彼女のブランク体から抜き取られた一枚の契約のカードが
浅倉威を葬る切り札になった。

仮面ライダーファム 契約獣はブランウイング

 ミラーワールド一美しい白鳥の力を与えられたライダー。
 ぶっちゃけ器用貧乏なスペックとか言わない。
 蟹さん同様サバイブがなければやってられないカード構成である。
 
 所持カード

ソードベント
ウイングスラッシャーを召喚 2000AP

ガードベント 
ウイングシールドを召喚2000GP

アドベント
ブランウイングを召喚 4000AP

ファイナルベント
ミスティースラッシュを発動 5000AP


334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:29:40.47 ID:DSAJ+Ylu0
鏡像の城戸真司
 
 本名は城戸真一。かつて城戸真二と呼ばれた青年の兄である。
 神崎優衣と幼い頃に弟と共に出会った過去を持つ。

 しかし何らかの理由で神崎優衣と同じ鏡の中の自分と一体化しており、
現実世界には存在できるものの、制限時間が課せられている。

 彼がこうなった背景には、城戸真司が深く関わっている筈だが...

仮面ライダーリュウガ 契約獣はドラグブラッカー

 かつて城戸真二が神崎優衣に願って描いて生み出された深紅の龍と
対を為すもう一匹のドラゴン。真一が優衣に願って生み出された存在。

 何から何までドラグレッダーにそっくりだが、ドラグレッダーよりも
早く生み出されたことと、ミラーワールドに深く一体化している
真一の影響でドラグレッダーよりも高い攻撃力を誇る。

 所持カードは龍騎と全て同じだが、龍騎よりAPが1000高い。

 第一部、第二部では披露されなかったものの、ドラグブラッカーの
ブレスには石化効果があり、そのブレスを浴びたミラーモンスターは
例えサバイブの力を得た状態であったとしても、石化を免れない。 

335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:30:37.37 ID:DSAJ+Ylu0
東條悟
 龍騎の世界で一際異彩を放つ英雄になりたい永遠の英雄中毒者。
 英雄になれば皆が自分を好きになってくれるという理由でライダーに
なっちゃったある意味いい加減な25歳の夢見がちな青年。

 かつてライダーになってデストワイルダーに命を狙われたところを
香川教授に救われ、以降その思想に心酔して戦うことにした過去を持つ。 
 その頃から仲村創とは犬猿の仲だった。

 劇中ではファム、ガイを完璧な奇襲で葬る等の活躍を見せた他、下心が
丸見えで自分達を利用する佐野を牽制したり、犬猿の仲である仲村の
窮地を救う等、打算はあるが結果的に誰かの為になる行為を取った事で
自分を高く買う香川の信用を得るという幸運に恵まれた。

 そして、浅倉威の存在を英雄として断罪する事に決めた香川英行は
全幅の信頼を置くようになった東條を相棒に指名し、東條もその期待に
答えるべく全力で香川の力になることを決め、運命の闘いに身を投じた。

 戦いは熾烈を極めるが、東條が持つ特殊カードと高い戦闘能力が
香川が己の優位性を崩さずに王蛇を追い詰める最大の武器となった。

 しかし、サバイブで強化された王蛇に悟は恐怖を覚え、香川と浅倉の 
言葉に促されるように、尻尾を巻いて地下通路から逃げ出してしまった。

 この時点で浅倉から逃げ出さなかった香川のような勇気を持てなかった
自分は英雄になんか到底なれないと悲嘆に暮れるが、例え英雄なんかに
なれなかったとしても、先生を見捨てて逃げる臆病者にはなりたくないと
奮起し、香川と浅倉が戦いを続ける戦場へと舞い戻る。

 だが、サバイブの力を得た王蛇は全てにおいてタイガを圧倒していた。
 猛毒を孕んだ炎の障壁をメタルゲラスと共に突撃し打ち破ったまでは
良かったものの、ベノヴァイパーから分離した猛毒の子蛇に足を執拗に
噛まれ、致死量の毒を流し込まれた事で瀕死の重傷を負った。 

 皮肉な事にこの毒こそが東條悟と言う人間を英雄にまで押し上げた。 
 王蛇の暴力に屈しそうな香川を奮い立たせた後、残っていたもう一枚の
メタルゲラスのファイナルベントを使い、香川と共に全てを燃やし尽くす
王蛇サバイブのファイナルベントを迎え撃った。

 そして、ベノヴァイパーのファイナルベントのダメージに耐えきれずに
それでもベノヴァイパーの頭と胴体を吹き飛ばしたサイコローグが爆散。
 自らを守る契約獣を失った王蛇にヘビープレッシャーの一撃が直撃するも
頭部だけになってもしぶとく生き残ったベノヴァイパーがメタルゲラスに
噛みつき、王蛇諸共爆散。この時に瓦礫やベノヴァイパーの体内から
飛び散った毒から香川を守る盾となり、命を落とした。

 そして、己の命がミラーワールドに消える寸前、犬猿の仲だった仲村に
タイガのデッキと香川のことを託し、自分が英雄になれた事を誇りながら 
その短い生涯を閉じたのだった。
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:31:06.67 ID:DSAJ+Ylu0
仮面ライダータイガ 契約獣はデストワイルダー

 白虎型モンスターの力を与えられたライダー。
 主に不意打ちによる奇襲と恵まれた筋力による白兵戦を得意とする。
 
 デストワイルダーのお陰で龍騎や王蛇に肉薄する実力を持っているが、
ファムやガイ等を倒し、両ライダーが持っていたコンファインベントや
契約などの特殊カードを手に入れたことにより、より広範囲にわたる
戦いを単独で展開出来るようになった。

 なおデストワイルダーとメタルゲラスも王蛇同様にモンスターを充分に
捕食させていたため、それぞれのファイナルベントは元々の数値よりも
およそ1000〜2000程上昇していた裏事情がある。

 所持カード

ストライクベント
・デストクローを召喚。3000AP。

フリーズベント
・相手の動きを一時的に封じる。1000AP。

リターンベント
・一回使ったカードをもう一回使える。
 コンファインベントで消された効果も戻せる。

アドベント
・デストワイルダーを召喚。5000AP。

ファイナルベント
・クリスタルブレイクを発動。6000AP。

337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:33:02.26 ID:DSAJ+Ylu0
浅倉威

 関東拘置所に拘留されていた25歳の凶悪殺人犯。
 今まで自分が引き起こした殺人の動機は全てイライラしたからという
とんでもない極悪人。

 神崎士郎にその凶悪さ故にライダーバトルを円滑に進める存在として
選ばれたライダーだったが、繰り返された世界のズレにより、彼が
劇中で他のライダーを手にかけることはなかった。

 劇中での扱いは物語終盤に突入する前の中ボス。
 雨が降る六月の第四週目に神崎士郎から烈火のサバイブのカードを
受け取り、七月第二週に北岡秀一の元を尋ねた際、罠と分かりつつも
秀一を含めた多くのライダー達が待ち受ける祭りの場所に向かう。

 香川によって全ての反射物が破壊された地下通路の中で、一進一退の
攻防をオルタナティブ・ゼロとタイガと繰り広げる。
 だが、タイガのアシストとこの日のためにスペックを底上げされた
オルタナティブ・ゼロの猛攻に敗北寸前にまで追い込まれたが...

「Survive!」

 烈火のサバイブの力を用い、不利になった戦況を打開。
 全てが1.5倍近くにまで跳ね上がった強化形態で香川英行と東條悟に
リターンマッチを挑む。その際、自らが手を下すまでもないと判断した
英雄ではない小物を炎の障壁から逃がし、英雄を自称し、それに相応しい
実力を持つ香川との一騎打ちに持ち込むことに成功した。

「Callsummon!」

 怪物の圧倒的暴力に対し、英雄は自らが力を与えた量産型ライダーの
カードデッキのカードを全て自らの手元に召喚するカードを使い、
サバイブの質とカードの枚数に圧倒的物量で対抗した。 
 戦いは更なる激化の一途を辿り、加速するオルタナティブ・ゼロに
王蛇サバイブはストレンジベントで呼び出したトリックベントの分身で
立ち向かい、これを捕縛。これにて勝敗は決したかと思われたが...。    

 Adventをコンファインベントで無効化したタイガがメタルゲラスと共に
炎の障壁を突き破り、王蛇サバイブへと敢然と立ち向かってきたのだった。
 メタルゲラスと共に分身を蹴散らされ、オルタナティブ・ゼロをタイガに
掻っ攫われた王蛇サバイブの怒りは頂点に達した。

「「「Final vent」」」

 ファイナルベントをバイザーにベントインした王蛇サバイブ。

 そして、その傍らに出現した契約獣、烈火王蛇ベノヴァイパーが
その巨大な姿をバイクに変形させ、毒と炎の両方の性質を併せ持つ
黒炎弾を放ち、相手を葬るポイズンファイヤートルネードクラッシュで
オルタナティブ・ゼロとタイガとの一騎打ちへと王蛇サバイブは臨む。

 王蛇サバイブの必殺技に対し、オルタナティブ・ゼロとタイガは
デッドエンドとヘビープレッシャーの二段構えによる壮絶な一騎討ちを
選択。それぞれのファイナルベントがぶつかり合った。

 そして香川の契約するサイコローグと東條の契約したメタルゲラスを
道連れに爆散するという壮絶な最期を王蛇サバイブは迎えたのだった。

338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:33:38.39 ID:DSAJ+Ylu0
仮面ライダー王蛇 契約獣はベノスネーカー

 ミラーワールドに生息する巨大な毒蛇の力を与えられたライダー。

 ライダーとしての能力自体は龍騎、タイガと互角であるが、変身者の
浅倉の闘争心と攻撃的な性格、凶暴性、生身での格闘能力の高さ等により
他のライダーを圧倒する戦闘力を持つに至っている。
執拗に標的を襲撃する戦法を得意としている。

 第二部中盤に神崎士郎から得た烈火のサバイブのカードの力により
新たな力を得た王蛇サバイブに変身できるようになった。

所持カード
 
ソードベント
ベノサーベルを召喚 3000AP

アドベント
ベノスネーカーを召喚 5000AP

スチールベント 相手の武器を奪う

ファイナルベント ベノクラッシュを発動 6000AP

339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:34:37.07 ID:DSAJ+Ylu0
仮面ライダー王蛇サバイブ 契約獣は烈火王蛇ベノヴァイパー

 サバイブ-烈火-のカードによりパワーアップした王蛇の最強フォーム。
 
 ライダーを仕留められず、その苛々を解消する為、ミラーワールドで
100体を超えるモンスターを乱獲、もとい狩り続けた為、オーディンさえ
圧倒するスペックを手に入れた。

 タイガとオルタナティブ・ゼロを各個撃破していれば間違いなく
勝利していたものの、自らのファイナルベントの数値が二人の使った
ファイナルベントを合計した数値に僅かに及ばず敗北を喫した。

 スペック
 身長198cm
 体重93kg
 パンチ力 450AP
 キック力 600AP
 ジャンプ力 一飛び65m
 走力(100m)3.5秒

 所持カード

ソードベント
・ヴァイパーブレードを発動。4500AP。
 形状は鞭と剣の峰に相手の刀剣の刀身をへし折るソードブレイカーを
合体させた遠近両用の両手剣。

 烈火のサバイブの力を得た事により、刀身は最大温度摂氏1000℃の
炎を纏い、先端から伸びた黒い鞭は猛毒を持つクラゲのように相手の体に
張り付いて、全てを溶かす溶解毒を相手の体に流し込んで破壊する。


ガードベント
・ファイヤーウォールを常時発動する。3500GP。
 王蛇サバイブの意思一つで展開出来る炎の障壁。
 並のミラーモンスターなら全て焼き払ってしまう灼熱の盾。

 あくまでも実体がない炎の障壁なので、命を捨てる覚悟を決めて全力で
突っ込めば突破できるが、最終的にはライダーであっても炎でこんがりと
ローストされてしまったり、炎の中に含まれる猛毒で致命傷を負わせる等、
付与効果の付かないガードベントの中でも随一の攻撃力を誇る。

 タイガはこれを突破する際に重度の火傷を負い、この時点で自らの死を
覚悟した。
 そして一度突破されるとそのバトルの間は二度と展開出来なくなるのが
唯一の弱点である。

 劇中では香川との一騎打ちを邪魔されないように浅倉が最大出力で
障壁を展開していたが、メタルゲラスの特攻により強引に障壁が破られた
ことによって効果が途切れ、無効化されてしまった。

シュートベント
・ポイズンバレットを発動。4000AP。劇中未登場。

ストレンジベント
・使ってみないと何が起こるか分からないカード。
 劇中では分身を作るトリックベント(2000AP)に変化した。

アドベント
・烈火王蛇ベノヴァイパーを召喚。8000AP。

サバイブ「烈火」
・ライダーをサバイブの力を持つライダーに変化させる。
 ゴルトフェニックスの左の翼の力を宿している。

ファイナルベント
・ポイズンファイヤートルネードクラッシュを発動。10000AP。
 
 王蛇サバイブを乗せたベノヴァイパー・バイクモードがウィリー走行し
漆黒の火炎弾を連続発射しながら接近して車体で敵を踏み潰す。10000AP。

 10000APと表記されているものの、今まで王蛇が倒してきたモンスターの
エネルギーをベノヴァイパーが己自身の力に変えているため、実質 
香川と東條と一騎討ちした時点の本当のAPは15000APだった。
 しかし、それは彼と相対した二人のライダーも同様であり、最終的には
15000対16500という僅差で惜敗し、ミラーワールドへと散っていった。
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:35:10.62 ID:DSAJ+Ylu0
烈火王蛇ベノヴァイパー

 全長 12m
 全幅 2m
 全高 1.3m
 重量 300kg
 最高速度 時速750km

 ベノスネーカーがサバイブの力でパワーアップした姿。AP8000。
 モンスターモードとバイクモードの2つの姿をとる。
 
 外見はベノヴァイパーに強化された事によって、従来の二倍の体躯を
誇るようになり、その蛇身は毒々しい紫色から烈火の炎の如き深紅へと
染め上げられている。

 更に一つしかなかった頭部と実体の横に実体のない炎のベノヴァイパーの
蛇身が融合している状態になっている為、実体と炎の両方の独立した
思考による攻撃が可能となった。
 炎の蛇身は本体から分離可能で、その気になれば自由自在にいかなる
場所であっても登場する事が出来る。

 また進化の恩恵として、頭部両脇につけられた鋭い刃はそれぞれが
意思を持つ小型の蛇型モンスターとして独立思考による移動が可能になり、
母体であるベノヴァイパーに仇為す敵に姿を消して襲いかかるように
なった。ちなみにソードベントの猛毒の鞭の部分はコイツらである。
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:35:51.16 ID:DSAJ+Ylu0
仲村創 

 神崎士郎のミラーワールドと現実世界を結びつける入り口を構築する
実験により、研究室の仲間を皆殺しにされた為、その復讐を誓った25歳の
怒れる大学院生。

 神崎士郎への復讐以外何も眼中に入っていないものの、自分に力を
貸し与えた香川教授には心から敬服し、その指示の元動いている。
 第二部に東條と共に登場し、佐野満を使ってみるように香川を説得し、
その面倒を見る役を担った。

 同士である東條悟とはそりが合わず、互いを香川の元から追い出そうと
する程に険悪な関係だったが、満の加入により、少しずつではあるが、
冷静さを取り戻し、東條との関係もそれに伴い軟化していった。

 しかし、第二部最後の戦いにより東條が自らの命を犠牲にしたことで、
浅倉威と刺し違えてその命を散らした為、もう二度と東條と和解する事は
出来なくなったが、最終的に東條を認めた上で、自らの敗北を宣言。
 共に戦った戦友を安堵させ、あの世へと送り出した。

オルタナティブ 契約モンスターはサイコローグ

 スペックと契約モンスターと所持カードは香川のデッキと同一である。
 
 仲村のサイコローグは香川のサイコローグよりも好戦的な性質である。

 地下駐車場で圧倒的な数で襲いかかってきたミラーモンスターを
単身で食い止め、自分より大きなディスパイダーをファイナルベントを
使用することなくスラッシュダガーで頭を串刺しにして仕留めたり、
クリアーベントで姿を消したベルデを見逃したものの、前述した通り、
香川の開発によって得た高度な知能により、あえてベルデを見逃して
次の戦いで仕留めようとする周到さも見せている。

 所持カード

ソードベント
・スラッシュダガーを召喚 2000AP。

アクセルベント
・使用者のスピードを上げる 2500AP。

アドベント
・サイコローグを召喚 6500AP。

ホイールベント
・サイコローグをバイク形態に変形させる 4500AP。

ファイナルベント
・デッドエンドを発動 8000AP
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:36:45.28 ID:DSAJ+Ylu0
香川英行 

 正義について深い拘りを持つ反面、キチガイ一歩手前の東條悟や
復讐以外目に入らず、異常に短気な仲村創や、下心丸出しで自分を
利用しようとする佐野満等の一癖ある連中を束ねるデカい器の持ち主。
 ぶっちゃけ、彼がいなければこの三人の早期退場は必至だった。

 登場は第二部からだったが、的確な指示と超天才としか言いようのない
頭脳で確実に神崎士郎の思考パターンを推測したり、自らが開発した
疑似ライダーであるオルタナティブの弱点を潰した上で活動時間の延長や
量産型オルタナティブの量産に成功し、GP3000の盾を作り出すなど
その才気は留まるところを知らない。

 神崎士郎が目下の脅威として見做す危険人物でもあるが、彼も佐野満が
内心で評したように自分の元に集った三人のアブノーマルな同士達同様、
普通ではない程の覚悟を持ってライダーの戦いに参戦している、ある種の
破綻者でもある。

 そして、彼の初陣となった王蛇戦では、あえて自らの罠に飛び込んだ
浅倉威と互角の白兵戦を演じ、自らが最も信用する東條悟と共に何度も
王蛇を窮地に追い込み、死闘の末にサイコローグと東條の命を犠牲にし、
見事にノーマルスペックのまま神崎士郎のサバイブによって強化された
ライダーを撃破した。 
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:38:00.37 ID:DSAJ+Ylu0
オルタナティブ・ゼロ 契約モンスターはサイコローグ 

 コオロギ型ミラーモンスター。身長225p、体重125sの二足歩行型で、
サイコロのような顔面から複数のパイプが伸びた異形の姿をしている。
 劇中ではオルタナティブとオルタナティブ・ゼロと契約し、契約主達に
疑似ライダーの力を与えた。

 なお今作ではオルタナティブ・ゼロとオルタナティブはそれぞれが
別々のサイコローグと契約を結んでいる為、一方が破壊されても
オルタナティブとゼロのデッキはブランクになることはない。
「ホイールベント」によりバイク形態「サイコローダー」に変形する。

 AP6500とドラグレッダーを超えるAPを誇るが、これは香川教授が
ミラーワールドでの滞在時間を減少させる事でその分の疑似ライダーや
サイコローグの出力を上げる理論の構築と実用化に成功した賜物と言える。
 後に攻撃力を保持したままミラーワールドの制限時間の延長に成功。

 またその際にサイコローグは知能を獲得し、僅かとは言え人に近い
思考パターンとある程度の自我が発露し、敵味方を自分の意思で判別し、
状況に沿った戦いが出来るというまさにトンデモミラーモンスターに
進化した。

 劇中では最強候補に恥じない立派な活躍を上げ、仲村創と香川英行を
良く助け、彼等の戦いが優位になるようなアシストを連発し続けた。
 また夜な夜なミラーワールドから抜け出して、深夜三時の誰もいない
道路をバイクになって猛スピードで走る奇妙な癖を持っている。
 そして自分を追い越す車に突撃する悪癖もある。

所持カード

ソードベント
・スラッシュダガーを召喚 2000AP。

アクセルベント
・使用者のスピードを上げる 2500AP。

アドベント
・サイコローグを召喚 6500AP。

ホイールベント
・サイコローグをバイク形態に変形させる 4500AP。

ファイナルベント
・デッドエンドを発動 8000AP

コールサモン
・オリジナル設定のカード
 ある極端なまでの危機的状況に陥った時にのみ発動される香川専用の
二枚目のファイナルベント。
 質でダメなら量で押せというシンプルなコンセプトの元、香川先生と
東條と仲村がアイディアを出して作り上げた香川研究室最高の発明。

 その効果は後述の量産型オルタナティブのカードを全て自分に集め、
己の武器として使用できるというトンデモ効果のカードである。

 劇中ではタイムベントで時を止めたオーディンにミラーワールドに
連れてきた全ての量産型オルタナティブが襲撃され、死亡したと同時に
浅倉威がサバイブを発動した為、香川がこれの解除コードを用いて
六体の持つソードベント、アクセルベント、ガードベントの未使用状態の
アドベントカードを回収し、自らのデッキに装填した。

 AP2500のソードベント6枚とアクセルベント6枚の攻撃カード12枚と
GP3000のファイナルベントを普通に防げる盾12枚の計24枚+自分の残りの
カードという神崎士郎も涙目になる鬼畜仕様のサバイブ殺し。

 これさえ応用すればオーディンだってイチコロさと思われがちだが、
このカードそのものが実用化に成功していないプロトタイプの数枚の内、
一番効果を発現させる可能性の高い試作品であり、常に失敗の可能性が
つきまとうギャンブル性の高い諸刃の剣の代物だった。

 香川が自らの契約したサイコローグをベノヴァイパーに破壊された時、
このコールサモンのカードと彼の持っていた全てのカードは契約獣を
失ったライダー同様、初期状態のブランク体へとスペックダウンし、
現状でオーディンやサバイブを持つライダーを単体で制圧できる可能性を
持つ唯一のカードはあっけなく消え去ってしまったのだった。

344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/30(日) 12:40:39.55 ID:DSAJ+Ylu0
量産型オルタナティブ 契約獣???

 量産型オルタナティブとは疑似ライダーオルタナティブのスペックが
一割減しただけのオルタナティブの劣化コピーライダーである。

 香川英行が対神崎士郎用に開発したオルタナティブ軍団の先鋒を務める
役割を担う。劇中最初の装着者達は浅倉威にかけがえのない存在の命を
奪われた遺族達である。

 現行でロールアウトされた六体はファムと同等のスペックを誇る
安定した運用が出来る成功した量産型だったが、神崎士郎の操るライダー、
オーディンによって実用化に成功した全てが破壊されてしまった。
 
 この量産型オルタナティブの特筆すべき特徴は、契約した契約獣の
スペックが低かろうと、香川が作り出したオルタナティブのデッキと
契約した瞬間から香川が定義し、カードに組み込んだプログラムによって
強制的にサイコローグがオルタナティブに与える同じ姿と性能をもたらす
存在へと変えてしまう特性を持つ。

 神崎製のカードデッキは契約者と契約のカードで正式に契約獣と契約を
果したライダーに契約獣の持つ力が与えられるシステムになっているが、
香川製のデッキは最初からライダーのスペックが全て定義済みであり、
どのようなミラーモンスターと契約してもオルタナティブと全く同じ
外見とスペックになるように調整されている。

 簡潔に説明するとミラーモンスターが量産型オルタナティブのデッキの
契約のカードで契約させられると、カードとデッキの両方に設定された
プログラムにより、オルタナティブのデッキの性能を引き出すのに最適な状態へ、
つまり香川の持つオルタナティブの契約獣、サイコローグと同様の状態へと
強制的に上書きと最適化されてしまう。

 つまり、サイコローグがライダーに提供しているのと同じだけの出力の
エネルギーを一回の変身ごとに契約した契約獣に強制的に供出させる
システムと言える。

 例えるなら100馬力分の車が出すエネルギーを100頭分の馬を使って
同量のエネルギーを捻り出させるのが量産型オルタナティブであり、
前者の100馬力分の出力を持つ車が神崎士郎製のカードデッキによって
生まれたライダーである。

 変身者を選ばないが、変身者に負担を掛けず、契約するモンスターも
選ばないが、契約獣には多大な負担を掛けるというある意味理想的な
エネルギーサイクルを実現したカードデッキ。まさにチートである。

 当然、サイコローグより弱いミラーモンスターはデッキから自らに
掛けられる負担に耐えきれずどんどんその生命エネルギーを武器や
盾に吸い取られ、最終的には死に至ってしまう。
 三回も戦えば契約した雑魚ミラーモンスターは消滅してしまうが、
消滅したら消滅したらでまた再契約すれば量産型オルタナティブとして
バトルに復帰できるのでそんなにデメリットはない。

 しかし、契約した雑魚ミラーモンスターはミラーワールドには掃いて
捨てるほど存在しているし、デッキも量産型の為、ライダーと交戦して
破壊されたとしても再生産が可能という神崎士郎のライダーバトルを
根底から覆す恐るべきメリットを保持している。
 活動限界時間は9分31秒。神崎製のライダーに性能が肉薄している。


所持カード

 契約獣を量産型オルタナティブを動かすバッテリーとして用いる為、
アドベント及びファイナルベント、ホイールベントは使用不可。
 しかし、その分不足した攻撃力を500AP上昇させたソードベントと
防御に優れた二枚のGP3000のガードベントによって補っている。

・ソードベント 
 量産型スラッシュダガーを召喚する。AP2500

・アクセルベント
 自らを加速させる

・ガードベント(二枚)
 量産型オルタナティブシールドを展開する。GP3000
 二枚重ねればどんなファイナルベントも防げる優れもの
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/30(日) 18:53:46.57 ID:I1BUxjckO
映像で見たいくらいハマったわ
続きも楽しみに待ってるぞ
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/01(月) 00:43:05.05 ID:RziiyAEwo

香川教授「強くてニューゲーム」
の方が正しいんじゃないかというくらい強烈な装備が並んでるのは気のせいでしょうか
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/02(火) 09:56:44.23 ID:8SpG5Hcv0
>>346 じゃあ第三部と第四部のタイトルは香川教授「強くてニューゲーム」 にさせて頂きます。
佐野君は充分強くなったし、今度は香川先生が神崎士郎とガチで戦う内容で進めます。
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/02(火) 10:03:24.34 ID:cQVBnMylO
>>347
現状でも十分に面白いし書きたいもの書けばいいと思うよ
レス一つで無理してプロット変えることは無いさ
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/04(木) 09:15:55.45 ID:ND57vid/0
佐野くんが主人公してると思ったら東條くんが漢になってた。
面白い
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/05(金) 16:02:22.80 ID:k22q6G2So
面白すぎて夢中で読んでしまった
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/23(火) 12:20:38.70 ID:JcVHvI7Q0
第三部 

第二十二話 休息と安息


〜香川邸〜

 香川英行による浅倉威の討伐は、東條悟の尊い命と多大な犠牲を払い、

ひとまずの成功を収めたと言えた。

 ゾルダとベルデは逃がしたものの、わざわざ高いリスクを冒した

甲斐もあり、神崎士郎とも結託している浅倉を倒した上、ライダーを

強化するサバイブのカードを手に入れることが出来たからだ。

 東條の死は確かに悲しい出来事だが、今はそれよりも次の戦いに向けた

新しい作戦と方針を固める必要があると判断した香川英行は妻と子供が

仕事で出かけて留守にしている自分の自宅に満と仲村を招いた上で

作戦会議をすることにしたのだった。

「では...これより会議を始めたいと思います」

「...はい」

「はい...」

 毅然とした態度を崩さない香川も、心ここにあらずといった状態の満も

いつもなら強気な態度を見せる仲村も、ここにいない既に死んでしまった

もう一人の仲間の最後が頭から離れない。

 香川はそれを全て理解した上で、残る二人に東條の事を頭から切り離し、

前回の戦いで得た情報及び戦果についての報告を促す。

「じゃあ、僕から報告させて頂きます」 

 仲村に促された満が、仲村と香川に戦いの様子を語り始める。

「ミラーワールドで先輩と別れた僕はゾルダを追いかけました」

「ゾルダをアドベントを使って捕らえる事には成功しました」

「しかし、路地裏に逃げ込んだゾルダは北岡秀一ではありませんでした」

「つまり、北岡秀一の手下がゾルダになりすましていたと言う事ですか」

「はい。間違いないです」

 香川は神崎士郎による盗聴盗視を防ぐため、シャッターを閉め切り、

鏡面となるものを全て取り外した二階の和室で満の報告をノートに

記入して手短にまとめる。
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/23(火) 12:21:13.96 ID:JcVHvI7Q0
「で、ゾルダのデッキを破壊しようとした時、乱入者が現れました」

「乱入したライダーの姿は見ましたか?」

「はい。赤い龍を契約獣にしたライダーでした」

「にわかには信じがたいですね。城戸真司は非戦派ではなかったのですか」

「確かに城戸さんには違いないけど...別人みたいだったんです」

「本性を隠していたって言えばそれまでなんですけど...」

「俺は本当のシンジの片割れだ。お前の知る城戸真司は偽物だ」

「俺は真司の中のもう一人の城戸シンジだ」

「そんな事を言って俺に襲いかかってきて来ました」 

 一通りの報告を終えた満は香川に対して伺うような視線を向け、

身を固くしながら、次の言葉を待っていた。

「報告ありがとう、佐野君」

「ところで、君はこれからどうする予定ですか?」

「君の行動に差し支えない範囲で答えて頂けますか?」

 香川からのストレートな質問に満は迷う事なく答えを返した。

「そうですね。俺は最後まで先生と仲村先輩と戦うつもりです」 

「本当に、佐野君は本当にそれでいいんですか?」

「まぁ...正直な話、逃げられればそれに越した事はないんですけど」

「死ぬ時はやっぱ喚いて見苦しく死ぬんだろうなと思いますね、はい」

「自分なりに腹は括ったつもりです」

「先生や先輩達に命を救われた恩を返さないまま逃げるのは嫌なんで」

「だから俺は東條先輩の分まで戦う事にしました」

 満の答えに微かに笑った香川の手を握った満は、会話の主導権を

仲村に譲り、自分と同じやりとりをする二人の会話に耳を傾ける。
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/23(火) 12:22:05.12 ID:JcVHvI7Q0
(そっかぁ...東條さん死んじまったんだな)

 心の中でキチガイ一歩手前とか何考えているのか分からない奴と酷評し、

ウマが合わなかった相手ではあったものの、その最後は英雄の覚悟を説く

男の後を追うものに相応しい終わりだった。

 英雄と共に巨悪を討ち取り、英雄に成り上がった瞬間に命を落とす。

 初めて出会った時の東條の瞳は、何も定まっていない生ける屍と同じ

虚無を宿していたが、戦いを経るごとに、言葉を交していく内に徐々に

人らしさを取り戻し、溌剌としたものへと変わっていった。

 その死に方はありきたりな悲劇だが、その時の東條の心の中には、

きっと後悔はなかったのだと満は想いを馳せた。 

「報告は以上です」

「はい。分かりました」

 会議は滞りなく淡々と進んでいく。ライダー同士による今回の戦闘の

大まかな俯瞰を掴んだ香川は、自分のポケットからタイガのデッキと

烈火のサバイブのカードを取り出した。

「それは...」

「ええ。東條君から託された...彼の唯一の形見です」 

 ここで香川は初めて堪えきれずにその表情を苦悶に歪めた。

 英雄になる覚悟を常に説いていた自分に心酔していた危うい所がある

教え子が自分の理想に殉じて命を落とした事に香川は耐えられなかった。

 香川の当初の予定では、多数を生かすための少数の犠牲に東條や仲村は

入っていないはずだった。浅倉がサバイブで強化変身した時でさえ

香川英行は仲間の安全を慮っていた。

 しかし東條は自分の命を香川に全て賭ける事に悔いはないという信頼と

信念の元に散っていった。そして東條が死を覚悟して浅倉と戦う自分の

元に駆けつけてきてくれなかったらあの戦いに勝利できなかったのも

事実だった。

 問題は、その現実に香川自身が向き合えていない事だった。
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/05/23(火) 12:22:42.73 ID:JcVHvI7Q0
「あの時、私は東條君に命を救われました」

「おそらく私一人では浅倉威に返り討ちに会った筈です」

「悔やんでも、悔やみきれません」

「...ッ!私は...私の言葉が、東條君を...死に追いやったと思うと...」

 本当なら、もっと教えたかった事が沢山あった。

 不器用で人付き合いと嘘をつくのが下手な東條が自分の足で立って

歩けるようになるまで、その成長を見続けていたかった。

 命を賭けたライダーバトルに東條を巻き込んだのも、最後まで困難に

負ける事なく立ち上がって、勝利を掴むことの重要さを教えて、彼の

今後の人生を輝かしいものにしてやりたかったという気持ちからだった。

 怜悧で理知的な香川が流す涙に満は何も言えなかった。

 ただ、自分が加わった最初の頃に香川が言っていた神崎優衣の抹殺で

全てが終わると言っていた頃にはもう戻る事は出来ないし、仮に優衣を

抹[ピーーー]るよりも、ライダーバトルの決着の方が早く着くのではないかと

いう懸念と危惧を抱いていた。

「先生は東條を救えなかった事を無念に思っているかも知れないけど」

「それは違うと思います」

「東條は先生と肩を並べて戦って最後まで先生を守り抜いた」

「先生。俺、東條の事は嫌いでした。でも...今はただ...」 

「アイツが...英雄になれた事が、凄く尊いことのように感じます」

「あああ...。私はッ!私はぁ...うううううう......!!!」

 自分よりも東條と深く関わっていた仲村の言葉に香川はただただ

涙を流し続ける事しか出来なかった。 

「東條は先生の掲げた覚悟を自らの命で実現したんです」

「先生は間違っていない。だから先生は最後まで戦わなければいけない」

「香川先生。やりましょう。ライダーバトルを終わらせましょう」

「英雄の覚悟を持った一人の人間として、ミラーワールドを閉じるんです」

 あえて当初の目的だった神崎優衣の抹殺を言葉にしなかっただけ、

仲村にも優衣を[ピーーー]事にある程度の抵抗があったのかもしれない。

 ともあれ、自分に掛けられたその言葉に奮起した香川は涙を拭い、

溢れそうになったその感情に蓋をして、二人に向き直る。
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:23:11.79 ID:JcVHvI7Q0
「香川先生。僕からも良いですか?」

「これは私的な疑問だし、突拍子もない質問かも知れないけど」

「先生はこれから先、人として戦うのか、それとも英雄として戦うのか」

「それを俺達に打ち明けて貰えますか?」

 東條よりも現実的で打算的な満にとって、香川のような絵に描いた

聖人がこれからの戦いにどう臨むのかは一つの重要なポイントだった。

 仲村もそうだろうが、東條のように香川の掲げた英雄像に深く心酔

していない満にとって、この先、香川が求める英雄像に殉じて命を

落とすような終わりは何よりも避けたかった。

 東條の献身と対照的なドライさはあるものの、むしろこの際に満も

自分が手を組む相手の真意を知らなければならない。

 今日の友が明日の敵になるこの戦いにおいて、この瞬間ほど重要な

意味を持つ瞬間はない。

「そう、ですね...」

「私は確かに英雄たらんとして、今までこの戦いに介入しました」 

「ですが、私自身自分が言っていた事の本当の意味を理解できなかった」

「結局、私の掲げた英雄像はただのエゴだったんです」

「そのエゴを東條君は実現して、命を散らしてしまいました」

「これが、私の罪です」

 自らの罪を満と仲村に懺悔した香川が遂に答えを出す時が来た。
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:23:44.10 ID:JcVHvI7Q0
「だから、私は人間としてライダーバトルに参加します」

「東條君がそうしたように、私も命を賭けて君達を護ります」

「英雄としてではなく、一人の人間として」

「だから、これからも私に力を貸して下さい。この通りです」

 深く頭を下げた香川に対し、満も仲村も同様に頭を下げる。

 ようやく香川の真意を理解できた満と仲村は深々と床に頭をつけた

香川の体を床から引きはがし、その手を取って改めて忠誠を誓った。

「先生の真意、確かに理解できました」

「僕達も先生の事を信じて、引き続き共に戦わせて頂きます」

 最期の血を分けた家族である父が死んだ時点で、どのみち自分が帰れる

場所なんてものは、もうこの世のどこにもありはしない。

 そういう一種の虚無感を埋める代替として、満はライダーバトルに

逃げ場を求めた。

 人はそれを逃避と言うが、逃げ込んだ先には満が得られなかった充足と

生きる為の戦いと、同じ目的のために共に肩を並べて戦う仲間達がいる。

 それに、香川と仲村には恩がある。

 その恩を返さないまま、彼等の元を去りたくない。

 満は新しく出来た自分の居場所を守るため。

 仲村はこれ以上大切な仲間を失わないため。

 香川は失ったものの尊さを嘘にしないために剣を取る。 


 そして、この時を以て神崎士郎のライダーバトルは加速する。

357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:24:16.86 ID:JcVHvI7Q0
〜〜〜

「おい恵里!しっかりしろ!恵里!」  

「残念ですが...もう、小川さんは...」

「嘘だ...そんなはずないだろ!おい!恵里しっかりしろ!恵里ーッ!」

 香川英行がかけがえのない仲間を失ったように、秋山蓮も同様に

かけがえのない恋人を失ってしまった。

 秋山蓮を本当の意味で理解していると言える小川恵里は眠るように

その短い命を散らした。

 心電図の起伏が平坦になる事の意味をここにいる誰もが理解している。

 ただ、違いはそれを認めるか認めないかでしかなかった。

「行かないでくれ...恵里...お前が、お前がいないと...俺は...」

 痛ましい光景から目を背けるように、恵里の傍に集まった医師と

看護師達は恋人達の最後の別れを妨げないようにそっと病室から

出て行った。

 後に残されたのは秋山蓮ともう一人の女の二人だけだった。
 
「うわあああああああ!!」

「蓮...」

 恋人の死を受け入れられずに絶叫する秋山蓮の肩に悲痛な顔をした

神崎優衣の右手が置かれる。

「離せ!誰のせいでこうなったと思っているんだ!」

「出て行け!出て行けええええ!」

「恵里ッ!恵里ッ!恵里ーッ」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
 
 鬼の形相で獣のように吠える蓮に優衣は何も言葉を掛ける資格がない。

 当然だ。何故なら自分の兄のせいで蓮の恋人は死ぬ羽目になったからだ。

 優衣は蓮の事が好きだった。

 知り合ったきっかけは、蓮が恋人を失うきっかけを作った兄の実験の

せいだが、それでも不器用な生き方の中に確かな熱を持ってライダーの

戦いに身を投じる蓮の姿に心惹かれる自分がいた。

 その想いは抱く事さえ許されないが、それでも優衣は密かに士郎に

蓮を何とか最後まで生き残らせてくれと懇願していた。

 それが蓮の覚悟を踏みにじる冒涜だとしても、例え蓮の想いが自らに

向く事はないと理解していても、愛した男が無為にその命を散らしていく

ことに優衣の心は耐えられない。

 冷たくなった恋人の亡骸を抱きしめる蓮に背を向けた優衣は静かに

病室を後にした。
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:24:42.93 ID:JcVHvI7Q0
「あっ!優衣ちゃ...」

 蓮のことが心配になってその後をつけてきた城戸真司と手塚海之は

涙で顔をグシャグシャにした優衣を見て、蓮の恋人が死んでしまった事を

悟ってしまった。

「真司君...ごめん。私のせいで、恵里さんが」

「そんな!優衣ちゃんは悪くないよ!悪いのは神崎の奴なんだ!」

「な!そうだよな手塚?」

「ああ。城戸の言う通りだ。だが、今は蓮をそっとしておいてくれ」

「城戸、先に二人で花鶏に帰っていてくれ」

「俺は蓮が心配だからここに残る」

「分かった。じゃあ頼んだ」

 蓮のいる病室まで感情だけで突っ走りそうな真司に優衣を花鶏に送る

ように頼んだ手塚は、背後に現れた神崎士郎に語りかける。

「お前のせいで多くの人が悲しんでいるぞ、神崎」

「そんなことは関係ない。死んだ恋人を蘇らせたければ勝てば良い」

 相変わらず胸くそが悪くなる台詞を吐いた神崎士郎は、背中を振るわせ

必死に涙を堪える妹を気遣うような視線を見せた後、単刀直入に用件を

告げた。

「戦え。お前が戦う相手は既に待機している」

「断る。俺を連れ出した後に蓮にお前のペットを襲わせるんだろう?」

「戦いを放棄するならそうするまでだ」

「交換条件だ。俺が戦っている間、蓮には手を出さないと誓え」 

「良いだろう。ならこちらの条件にも従って貰おう」

「臨むところだ」

 病院の待合席から立ち上がった手塚海之は神崎士郎の後ろを歩く。

 一分も歩かないうちに神崎士郎は二階に続く階段に付いている大きな

鏡の前で足を止めた。

「変身しろ。この鏡の向こうに今回お前が戦う戦場がある」

「随分とサービスが良いんだな」

「ああ。ライダーバトルが順調に進んでいる証拠でもある」

 鏡の中に姿を消した神崎士郎に続き、手塚海之もデッキを取り出し

鏡に掲げた。

「変身!」

 Vバックルに装填されたデッキが装甲を展開し、装着者の全身を覆う。

 ライアに変身した手塚は意を決してミラーワールドへと飛び込んだ。

359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:25:11.29 ID:JcVHvI7Q0
〜〜〜

「ここは、小学校?」

 ライドシューターから戦いの場所に降り立ったライアが目にしたのは

先程まで自分がいた病院の階段の踊り場ではなく、山奥にある荒れ果てた

広大な敷地を持つ小学校だった。

 自分が到着したのと同時に、もう一台のライドシューターが遅れて

その横に停車する。降りてきたのはゾルダだった。

「おやぁ?どうやら神崎の言っていた相手って言うのはお前の事か」

「北岡、秀一」

 軽口を叩くゾルダを睨み付けるライア。

 それに閉口するかのような無機質な神崎士郎の声がどこからともなく

聞こえて来た。

「お前達はここでどちらかが死ぬまで戦ってもらう」

「ここはミラーワールドではない。現実世界だ」

「つまりライダーに課される制限時間は、ない」

 ゾルダとライアは互いに顔を見合わせ、神崎士郎の言葉に耳を傾ける。

 今までライダーが戦うのはミラーワールドと相場が決まっていた。

 しかし、あえてそれを曲げて現実世界で戦いの決着をつけさせようと

するとは、何かの裏があるのではないかと二人は勘ぐっていた。

「今、お前達の頭にこの場所の情報を送った」

 廃校のスピーカーから聞こえる士郎の声が聞こえたと同時に、二人の

頭の中にこの学校の敷地の詳細なデータが送られてきた。

 校地面積 16,393 u。建物敷地 5,950 u。運動場 10,443 u。

 四階建校舎、一部崩壊箇所あり、制限時間なし。

 脳裏に流れ込んだ情報を全て頭に叩き込んだ手塚と秀一はこの戦いを

どこかで見ている神崎士郎に死闘の開始の宣言を求めた。

「どちらかの死を以てこの戦いの終わりとする」

「戦いから逃げるな。逃亡者には罰を与える」

 その一声と同時に、濁った灰褐色の巨大なバリアが校舎を覆った。 

 そして、校舎の窓ガラスが全て砕け散る音が戦いの始まりを告げる。
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:25:43.35 ID:JcVHvI7Q0
第二十三話 エンド・オブ・ワールド

 神崎士郎から送られた今回のバトルフィールドの情報を瞬時に理解した

ゾルダは迷う事なく校舎側へと猛然と駆け出していった。

 ライアとは二度交戦したが、まともに戦えばまず負けないという自信が

秀一にはあった。それに今は運の良い事に自分の病気の症状が出ていない。

(神崎のお膳立てにも感謝しなきゃ。と、言いたい所なんだけど...) 

(壮大なバトルを演出したい愉快犯ってガラでもないだろうに)
 
 神崎士郎が校舎内の窓ガラスを全て割った事が腑に落ちない。

 陰気くさい顔でいつも大したことない事を深刻に受け止めすぎている

モテない男がそうそう無意味な事をするわけがない。 

(ってことは...手塚の奴になにか戦局をひっくり返す手があるって事か)
 
 聡明な頭をフル回転したゾルダは躊躇う事なく、アドベントのカードを

デッキから引き抜き、バイザーにベントインする。

「Advent」

 地響きを立て、巨大な巨人がゾルダの隣に召喚された。

 鋼の巨人マグナギガ、AP6000の巨大な人機型の固定砲台はその赤い

瞳で今回の獲物に照準を合わせた。

 自分と正反対の校舎を覆うバリアの境界にライアは立っている。

 この距離ならギガランチャーで充分だろうと判断したマグナギガは

重厚な音を立てながら、その重い巨腕を持ち上げ、ライアへと照準を

合わせた。

「違う。ミサイルを発射しろ。マグナギガ」

 契約主のゾルダの言葉に不満げな唸り声を上げたマグナギガだが、

どのみちミサイルの方が当たりやすいかと思い直し、自らの胸を開き、

隠し持っていた大量のミサイルをライアに向けて一斉に放った。

 自動追尾ミサイルが校舎裏に逃げ込もうとするライアへと襲いかかる。

「くっ!」

「Advent」

 爆炎の中から空飛ぶ赤いエイ型モンスターに乗るライアの姿を見つけた

ゾルダは相手が自らの策に嵌まった事に喜んだ。
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:26:12.41 ID:JcVHvI7Q0
(よし、かかった!)

 ライアにはガードベントがない。

 故に、多方向からの攻撃を防ぐには自らの契約獣を呼び出して上空へと

回避するしか防御方法がないのだ。

 例外はコピーベントでゾルダのシールドをコピーするくらいだが、

そんな隙を与える程、秀一は甘くなかった。

 マグナギガのミサイルは量こそ沢山ある物の、一発一発の威力は

1000APにも満たない。故に、ある程度強いミラーモンスターであれば、

全部破壊する事だって不可能ではない。

 ライアを背中に乗せたエビルダイバーは口から吐き出す鋭い水の刃で

次々にミサイルを切り裂いていく。

「shoot vent」

 この戦いの勝利条件を頭の中で整理しながら秀一はシュートベントの

カードを呼び出した。

 マグナギガにライアに銃口を向けたまま、一発も撃つなと命令を下した

ゾルダは自らが呼び出したギガランチャーをひたすら発射し続けた。

 しかし、空を自在に飛び回るエビルダイバーはヒラリヒラリと余裕を

持って、その大砲から発射される特大の弾丸を回避し続けた。

 それでいい。

 強化されたゾルダの視力でエビルダイバーに騎乗しているライアの

手元に自分のギガランチャーがコピーされているのを確認したゾルダは、

屋上にライアが降りたと同時に、自らも扉がなくなった小学校の入口から

校舎の中への侵入を果したのだった。

362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:26:42.95 ID:JcVHvI7Q0
〜〜
 
 エビルダイバーがライアの安全を確認し、その姿を消したと同時に

ライアは膝を床につけて荒い息を吐き出した。

「はぁ...はぁ...はぁ」

 ライアがいまいるのはゾルダの攻撃が届かない屋上だった。

 屋上には貯水槽と屋上へ続く階段と扉以外には何もない。

「貯水槽に水は...ないか」

 錆付き、赤く変色した貯水槽を叩き、水の有無を確かめたライアは

屋上に何も利用できるものがないことを悟ると、躊躇う事なく扉を開き

校舎の中へと入っていった。

 屋上の階段を降りると、三階の中央部分に辿りつく。

「なるほど。中央の他に左右にも階段があるという訳か」 

 この廃校の三階には中央から見て左の階段の方向に五、六年生の

教室が計四つ存在し、中央階段から右側に目を向けると授業で使われる

音楽室、AV教室、空き教室の順に部屋が並んでおり、空き教室の隣に

右階段が存在していた。

「寒いな」 

 神崎士郎が割ったと思われる鏡の破片が存在しない事に手塚海之は

唐突に気が付いた。

 ライアはまず最初に近くにあった六年生の教室に入り、とりあえず

ゾルダから身を隠しながら、まとまらない考えをまとめようと必死に

頭を回転させながら、神崎士郎の意味不明な行為の意図を掴もうと

懸命になっていた。

 しかし、試しに三階にある教室をくまなく調べても鏡や鏡のように

何かを反射するものはどこを探しても見つからなかった。

「...つまり、1対1で確実に決着をつけろ。ということか」

 スペックの上では、ゾルダにライアは確実に劣る。

 正面切ってぶつかり合えばきっと敗北は免れない。

「全く、俺もまだまだ青いな」  

 自らが持つギガランチャーも狭い廊下では振り回す事は出来ない。

 咄嗟の判断とは言え、小回りの利かない武装をコピーベントでコピー

するのは失敗だった。

「だが、これにしか出来ない事も確実にある」 

 思考を切り替えた手塚海之はギガランチャーの照準を教室の床に

合わせ、階下の教室までぶち抜く大穴を作り始めたのだった。

363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:27:09.60 ID:JcVHvI7Q0
〜廃校舎 一階〜

 ライアが着実に自分の戦いやすいフィールドを作り上げる中、ゾルダは

一階にある図工室と家庭科室と職員室を忙しく往復し続けていた。

「よし...これだけあれば鏡の代わりになるだろ」

 一体ゾルダは何をしたいのか?

 窓がなくなった一年生の教室の中で、ゾルダは自分の目の前に置かれた

大量のステンレスのナイフと包丁、図工室の引き出しの中で眠っていた

文化祭の飾り付けに使われる筈だった銀色の折り紙や裏面に両面テープが

付いているメタリックシルバーのカッティングシートを見下ろす。

「別に俺が負けるなんて事は万に一つも考えちゃいないんだけどさ」 

「一流は万が一に備えて相手の裏を掻く準備も怠らないのよ」 

「ねぇ、ゴロちゃん」

 独り言を呟きながら秀一は黙々と教室の中央に置かれている半壊した

教卓の無事な板を引っぺがし、その縦1m、横40cmの一枚板にかけずり

回ってかき集めたカッティングシートと銀紙を貼り付ける。

「ふう、大体これで三分の二は埋まったか」

 普通の鏡よりは劣るものの、確かに鏡面にハッキリと浮かぶ己の姿を

確認した秀一は、残ったステンレスのナイフや包丁を鏡面となる刃部分を

全てたたき折り、テープ代わりに持ってきた大量の釘と金槌で打ち付ける。

 そして五分後、鏡のない世界で即座に秀一は即席の鏡を作り出した。

 多少の隙間はあれど、確かにそれは鏡と言える代物だった。
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:27:36.08 ID:JcVHvI7Q0
「問題は隠す場所なんだけど、隣の教室で良いか」

 自分の隣の教室の上から聞き慣れた轟音を耳にしたゾルダは素早く

今まで自分がいた教室から飛び出し、ライアがやってきたと思われる

左の階段へと続く道を歩き始めた。

 先程自分がいた教室の真上からまたしても床をぶち抜く砲弾の音が

聞こえて来た。隣の教室を覗くと、まるで鉄球が落ちてきたかのように

ぽっかりと教室の天井の半分の面積を占める丸い穴が穿たれていた。

「なるほどねぇ。隠す場所と階段を穴だらけにして逃がさないつもりか」

 ライアのカードの性質とその効果を知っている秀一は、生徒玄関へと

急いで走り出した。

 中央階段に陣取った秀一が固唾を飲んで見守る中、西側の階段から

ゆっくりと階段を降りる音が聞こえてきた。

 マグナバイザーを展開し、いつでもカードを呼び出せるように身構える。

「....」

 そして、ライアが階段からギガランチャーを放り投げた瞬間、ゾルダは

迷わずシュートベントのカードをベントイン、ギガキャノンを呼び出す。

「ふんっ!」
 
 反射的な迎撃だったが、それでも牽制にはなったようだ。

 ギガキャノンから放たれた二発の砲弾の威力はギガランチャーと比べ、

速度は劣るものの、その分機動性と高い威力を誇る。

 壁に空いた巨大な穴を見て満足げなため息をつく秀一だったが、

次の瞬間、自らの判断ミスを身を以て知る事になった。
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:28:07.00 ID:JcVHvI7Q0
「Final vent!」 

 二階から飛び降りたライアがつい先程自分が開けた大穴から、自爆

覚悟の特攻を仕掛けてきたのだった。

 エビルダイバーの背に乗り、ミラーモンスターを一撃で粉砕する程の

強烈な威力の体当たり攻撃が、ゾルダに防御の一手を打たせないまま

その無防備な体に吸い込まれていく。

「Guard vent」

 何とか間一髪の所でギガアーマーを呼び出し、致命傷を避ける事は

出来たものの、病身の秀一にとってその一撃は致命的だった。

「ぐあああああああああああ!!!」

 いつも余裕を崩す事無く颯爽と全てを解決する北岡秀一の全身に

強烈な痛みが走った。

 ライダー屈指の防御力を誇る盾であっても直線距離を最速で突き進む

ライアのファイナルベントの前には歯が立たず、粉々に砕け散った。

「うぐああああああああああ!!!」

 脳を素手で掴まれ、全力で握り潰されたようなえもいわれぬ気持ち悪い

感触と共に秀一の全身がビクビクと陸に打ち上げられた人魚のように震えた。

 そのあまりの悲鳴に思わずライアは攻撃を躊躇ってしまった。
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:28:33.54 ID:JcVHvI7Q0
「何をしている?早くトドメを刺せ」 

 未だに苦悶の叫びを上げ続けているゾルダを冷酷に見下ろしながら

神崎士郎は呆然と立ち尽くすライアに決着をつけるよう促す。

「決着は着いた。もうコイツは戦えないだろう」

「いや、まだだ。相手のライダーの命を奪うまでが戦いの決着だ」

「そして、お前が戦わないのならこちらも好きに動かせて貰う」 

 神崎士郎はこれ以上の戦いを拒むライアを一瞥すると、その姿を消し、

別の場所で待機していた最後のライダーを校舎内に召還する。

「待て!何をする気だ!!」

 弱り切った秀一の体を抱きかかえ、校舎のどこかにあるはずの鏡から

脱出を図ろうとする手塚だが、ここは既に現実世界だという悪夢のような

真実に気が付き、絶望した。 

 そして、ある意味幸運な事にその絶望はすぐに終わりを迎える事になる。


「ライダーの宿命からお前達は逃れられない」 

 黄金の光を纏う最強無敵のライダーが遂に降臨する。

「さぁ、戦わないのならその命を散らすがいい」

 制限時間9分55秒の死闘が遂にその幕を開けた。

367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:29:00.08 ID:JcVHvI7Q0
〜〜

 ゾルダを背負い、校舎から飛び出したライアは無我夢中で空に叫ぶ。

「くっ!神崎!どういうことだ!これはルール違反じゃないのか!」 

「最初に言ったはずだ。逃亡者には罰を与えると」 

「お前は戦いを拒み、その男を連れ、逃亡しようとしている」

「約束を先に破ったのはお前だ。よってオーディンの介入は認められる」

「貴様ァーッ!」 

 自分が北岡を助ける事を見越した上で最後の13人目のライダーをここに

呼び出したと言うのならば、遅かれ早かれ北岡と自分はここで命を落し、

ライダーバトルから脱落するのだろう。

 神崎士郎の悪意ある采配はともかく、先に約束を破ったのは自分なのだ。

 だからこそ、守らなければならない。

 自分が見捨てる事が出来ずに助け出したこの男の命を....

「なにを、してる...早く、俺を置いていけ」

「出来るわけないだろう!」

 今にも死にそうな秀一の言葉に激昂した手塚はデッキから最後の一枚を、

もう一枚の疾風の力を宿すサバイブのカードを引き抜いた。

「....」 

「Survive」

 荒れ狂う疾風が豪雨と雷を召喚する。

「変身!」

 その姿をライアサバイブへと変貌させたライアは、校庭の中心に陣取り、

動く事が出来ないゾルダを庇う様に姿を現したオーディンと相対する。
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:29:42.42 ID:JcVHvI7Q0
「戦え、ライダーの戦いからは逃れられない」

「Guard vent」

「はっ、強化カードで常時強化されてる相手から逃げるのは当然だろ?」

「無様だな。北岡秀一。今のお前には金も力も何もない」

「果たしてその病身、いつまで保つかな?」

 秀一の挑発に嘲笑で応えたオーディンは瞬時にその姿を消し、一瞬で

ゾルダの背後に回り込み、自らのゴルトバイザーの柄で鋭く突く。

 オーディンの不意打ちに、ゾルダは二枚目のガードベントを呼び出し、

肩に装着されたギガテクターでその矛先をずらす。

 しかし、オーディンの力はノーマル形態のゾルダの遙か上を行き、

ギガアーマーよりも防御力は劣るとは言え、一発で肩のプロテクターを

粉砕する。  

 ゾルダがオーディンの攻撃圏内から逃れたことを確認したライアは

すかさずサバイブで増加されたカードを切る。

「trick vent」

 召喚されたライアの分身は、オーディンの魔手から本体とゾルダを

守る盾としてそれぞれが独自の意思を持ち、間断のない防御の陣を敷く。

「そこか!」

 金色の羽が煌めいたと同時に姿を現すオーディン。

 呼び出されたライアの分身達は9体。本体も含めれば10体だ。

 数の優位性はオーディンの持つ個の力に勝っている。

(未来の見えない戦いか...だが、ここで死ぬわけには行かない!) 

 脳裏に浮かんだかけがえのない仲間の笑顔を勇気に変え、男はまた

自らの運命を変えるべく、もう一枚のカードをバイザーにベントインした。
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:30:11.83 ID:JcVHvI7Q0
「Advent」

 四体の分身がオーディン本体を食い止める間、本体のライアサバイブは

アドベントで強化された契約獣エグゾダイバーを召喚した。

「乗れ!」

「ああ!」
 
 飛行能力を獲得したエグゾダイバーの背に乗り込んだ二人のライダーは

空中へと戦場を移してオーディンを迎え撃つ事にした。

「北岡、後ろは任せた」

「こうなりゃヤケだ!撃ち落としてやるよ!」

「振り落とされるなよ?!」

「誰に物言ってんのよ!」

 肩に背負ったギガキャノンを構えたゾルダは、油断することなく空中を

見渡し、オーディンの来襲に備える。

「来たか!」

 そして、自分達が向かう進路の前方に黄金に輝く不死鳥の姿を発見する。

 仮面ライダーオーディンの契約獣にして最強のミラーモンスター、それは

全てを焼き尽くす神威の炎を纏ったゴッドフェニックスだった。

 無限の化身と化した不死鳥は、天上に住まう迦陵頻伽の如き美しい

殺意の雄叫びを上げながら、ライア達へと襲いかかっていった。

「エグゾダイバー!」

 サバイブの力を得て尚届かない高い壁へとライアとエグゾダイバーは

果敢に挑みかかっていった。

 黄金の翼が煌めくと同時に疾風と業火がエグゾダイバーに絡みつく。

 エグゾダイバーも負けじと自らの機動力をフルに生かし、空中での

ドッグファイトを劣勢ながらも膠着状態へと持って行った。

 だが、ゴルドフェニックスの攻撃は徐々にエグゾダイバーの身体を

蝕んでいった。

「エグゾダイバー?!」

 一瞬の交錯の後、ゴルドフェニックスの攻撃がエグゾダイバーの右の

鰭を切り裂いた。
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:30:47.00 ID:JcVHvI7Q0
「キュウウウウウウウ!!!!」

 それは、大切な契約主を最後まで守り切ろうとする契約獣の意地だった。

 最後の力を振り絞り、地上にライアとゾルダを降ろしたエグゾダイバーは

力尽き、その姿を消した。

「北岡!これを使え!」

 サバイブの強化変身が尽きる前の僅かな刹那にライアはゾルダに一枚の

カードを託した。

「Return vent」

 ライアから託されたカードをバイザーにベントインしたゾルダは

自らのバイザーから現れたあるカードに目を丸くした。

「OK!やるじゃないの!」

 一度使ったカードを再度使用できるリターンベントの効力により、

ゾルダの手元には疾風のサバイブのカードが現れた。

「そろそろ反撃といきますk...」 

 だが、北岡秀一が逆転の一手を打つことは二度となかった。

「Time vent」 

 地上にいた全ての分身を葬ったオーディンは動じることなく、自らの

切り札であるタイムベントのカードを使い、時を巻き戻す。

 そして、時は巻き戻り、鰭を切り裂かれたエグゾダイバーが校庭に

ライアとゾルダを下ろす瞬間にオーディンはその姿を現した。

 エグゾダイバーが戦闘不可能になったことにより、サバイブの変身が

解除されたライアに、戦う術はもう残されていなかった。

「くそっ...ここまでか」

「いや!まだだ!」

 命運尽きた二人のライダーの最後の悪足掻きすら届かない圧倒的な力。

 それほどまでに、サバイブ〜無限〜の持つ力は凄まじかった。
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:31:20.02 ID:JcVHvI7Q0
「Final vent」

 そして、結末は定められた運命へと天秤を傾ける。

「最強はこの私だ!」

 勝ち鬨を上げたオーディンの背後には何も残されていなかった。

 ゾルダとマグナギガの残骸も、ライアのバイザーの残骸すらも全てが

永遠の混沌の中へと消え去ってしまった。

「優衣...」

 北岡秀一と手塚海之が姿を消した廃校の校庭に神崎士郎が現れた。

「今回は俺に任せてくれるんじゃなかったのか?」

「気が変わった。今回はどうやらオーディンで事足りたようだ」

 背後から今まで静観を決め込んでいた城戸真一が音もなく士郎の

横へと姿を現し、地面に落ちているサバイブのカードを拾い上げた。

「残り7人か。もう手を出すなよ?俺が愉しめなくなる」

「好きにすると良い」

 そう言い残した神崎士郎は再び音もなくその姿を消した。

「クククク....真司...お前が大切にしている全てを壊す時が来た」

「神崎優衣も、お前の仲間も全て俺が殺してやるよ...」

 
 仮面ライダーライア/手塚海之、死亡 

 仮面ライダーゾルダ/北岡秀一、死亡 残り7人。
 
 
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:32:10.81 ID:JcVHvI7Q0
第二十四話 遺志と意地

「北岡秀一は、ライダーバトルから脱落した」 

「嘘だ...そんなの...嘘だ...」

 秀一がオーディンによって葬られた翌日、神崎士郎は主の帰還を待つ

由良五郎の元に現れ、残酷極まりない真実を伝えた。

 秀一に全幅の信頼を置く吾郎にとって、その死は到底信じられること

ではなかった。

「なんで!なんで先生が死んだんですか?!相手は、相手は誰なんだ!」

「北岡が戦っていたのはライアだ。先に仕掛けたのは北岡だった」

「....先生は、どう戦って...死んで行ったんですか?」

「これを見ろ」

 ガックリと膝を落し項垂れている吾郎を促した神崎士郎は、秀一の

事務所にある大型テレビに自らの手をかざし、ゾルダとライアの戦いの

様子を写しだしたのだった。

 どこかの廃校で戦っている二人のライダーは一進一退の攻防の末、

ライアがゾルダのガードベントごとファイナルベントを直撃させた事で

一応の決着を迎えようとしていた。

 しかし...

「なっ!?」

 あろうことかライアがゾルダの肩を支え、戦いを止めて現実世界に帰還

しようとしたとき、二人のライダーが姿を現した。

 黒い龍騎とオーディンによく似た緑色のライダーだ。

 そして、その二人のライダーは身動きの取れないライアとゾルダに対して

ファイナルベントを直撃させ、あっという間に葬り去ったのだった。

「嘘、だろ....」

「これが真実だ。龍騎とミラージュ、緑色のライダーがお前の主を殺した」
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:32:39.52 ID:JcVHvI7Q0
 ギリリと奥歯を噛み砕くような歯ぎしりを立てた吾郎は、内心では

少なくともあれほど秀一に戦いを止めるように説得していた城戸真司が

自らの仲間諸共秀一を葬り去るとは到底思えなかった。

 しかし、秀一が死んだ事はもう変えようがない真実になってしまった。

 ならば、相手側にどのような事情があれ、自分は秀一から任された

自分の役割を果たさなければならない。

 秀一を蘇らせ、彼の身体に巣喰う病魔を全て取り除くという秀一が

かつて望んだ願いを自分が叶えなければならない。
 
 その為には、まずこの男を利用して戦いの最後まで生き残らなくては

ならない。吾郎の脳裏に秀一から託されたある物の存在が浮かんだ。

「神崎さん...なにか、なにか先生の遺品は...ないんですか?」

「ない。だが...奴が契約したモンスターなら、まだ存在している」 

「お前が望むのなら、マグナギガの元に連れて行こう」

「お願いします」

 士郎の提案を疑う事なく受け入れた吾郎は、近くにあった姿見の中へと

入っていった士郎の後を追っていった。

374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:33:17.09 ID:JcVHvI7Q0
〜線路沿いの道路〜

 自宅へ帰る道を歩きながら、仲村創はポケットの中にあるタイガの

デッキを固く握りしめていた。

 二日前、香川の家でこれからの方針を話し合った際、信じられない事に

自分の口から東條のデッキを譲ってくれと言う言葉が香川に向かい、飛び

出したのだった。

 驚いた事に香川も東條のデッキを使うつもりだったらしい。

 しかし、香川の方がサイコローグもオルタナティブも自分より遙かに

上手く使いこなせるという理由で無理矢理自分がタイガのデッキを使う事を

認めさせたのだった。

「はぁ...俺もバカだよな」

「張り合う相手の東條はもういないってのにな...」

 いけ好かない奴のデッキを後生大事にしようとする自分の気持ちが

今でも理解できない。だけど、今まで東條へ抱いていたどの感情よりも

ずっとしっくりくる想いが今の自分の心の中に溢れている。

(東條。お前の力を貸してくれ)

 疑似ライダーとして今までライダーとしての戦いに関わってきた自分と

違い、東條は最初からライダーとしての覚悟を決め、ライダーバトルに

身を投じていた。

 アイツの英雄になるという考え方は分からない。理解すら出来ない。

 だけど、  

「待ってろ神崎。英雄(おれたち)がお前の野望を必ず打ち砕く!」

 固く握りしめた拳と共に決意を新たにした仲村は、ミラーモンスターが

現れる前の独特の金属音を耳にしたと同時に、ポケットからデッキを出す。

「お前、仲村創だな」 

「秋山、蓮....」  

 全身を黒いコートで覆った男がバイクから降り、剣呑な視線で自分を

睨み付ける。以前ミラーワールドで遭遇した時と比べ、遙かに纏う空気が

重々しく、より刺々しいものへと変化している。

「戦え」

「ああ」

 夕日が落ち、夜が星を引き連れる時が来た。

 この戦いが終わるとき、どちらか一人が命を落とす。

 そんな漫然とした予感が仲村の脳裏をよぎった。

「変身!」  

「変身!」

 バイクのサイドミラーにデッキを翳した二人のライダーは、吸い込まれる

ようにして戦場をミラーワールドの中へと移したのだった。

375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:33:45.22 ID:JcVHvI7Q0
〜ミラーワールド〜

 落日のミラーワールドにおける今回の戦場となった場所は、広大な

面積を持つ線路だった。

 不意打ちと奇襲に一日の長があるタイガにとって、見晴らしが良く、

隠れる場所が全くない線路という戦場は些か不利な条件と言える。

 対する秋山蓮が変身するゴルトフェニックスの力の一端を持つ眷属の

力を与えられたミラージュにとって、相手を見失わないこの戦場は

まさに最高の戦場と言えた。

「Trick vent」  

 攻撃一辺倒のタイガが最も苦手としているのが、攻守共に取れた

バランスの良いデッキを持つライダーである。

 かつて蓮がナイトだった時は、スペックで勝っているという利点が

存在していたものの、ダークウイングがガルドミラージュに倒され、新たに

蓮がガルドミラージュと契約した際に、その利点が潰されてしまった。

 ガルドミラージュが司るのは蜃気楼、即ち幻影である。

 故に、ミラージュのトリックベントの数値はAP3000という破格であり、

タイガはミラージュの分身7体を相手取り無謀な消耗戦を強いられていた。

「Advent」 

 なんとかデストバイザーで三体の分身を破壊したタイガはデッキから

アドベントのカードをベントインし、デストワイルダーを召喚する。

「Advent」 
 
 ミラージュもそれに対応するように、ガルドミラージュを召喚し、

分身と共にデストワイルダーを迎撃させる。
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:34:14.38 ID:JcVHvI7Q0
「....」 

「....」 

 この時点で、互いに残されたカードは残り四枚。

 互いに実力が伯仲しているのならば、勝敗を決するのはカードを切る

順番しかない。

「Sword vent」 

 先に仕掛けたのはミラージュだった。

 緑色の鮮やかな刀身を持つ不死鳥の炎の力を宿した片手剣を振るいながら

タイガへと敢然と斬りかかっていった。

 ミラージュの猛攻を受けきれないと判断したタイガは、未だに乱戦を

繰り広げているデストワイルダーの加勢に向かう為、敢えて背を向けて

逃亡を始める。

 タイガ同様デストワイルダーも窮地へと追い込まれていた。

 ミラージュのトリックベントによる残り4体の分身を吸収し、自らの力に

変換したガルドミラージュは、その姿を蜃気楼のように捉え所のないもの

へと変化させ、デストワイルダーが捉える事の出来ない猛スピードで

猛攻を掛けていた。

 深く抉られ続けるデストワイルダーは溜まらず逃亡を選択する。が、

「Freeze vent」

 契約主であるタイガのアシストにより、強制停止させられた憎い相手の

頭部に、線路のレールにめり込むくらいの全力の一発を叩き込む。

「くっ!」 

 一転して劣勢に立たされたミラージュは躊躇う事なく撤退を選択するが、

逃げる獲物をみすみす見逃す虎はミラーワールドの中にはいなかった。
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:35:19.13 ID:JcVHvI7Q0
「Final vent」

 デストワイルダーが奇襲攻撃を行い、タイガの元へと相手を引きずり

デストクローを腹部や背中に突き立てるクリスタルブレイクは技の特性上、

デストワイルダーがタイガの元まで行かなければ技が決まらない為、引き

ずられる最中にデストワイルダーを攻撃するなりして怯ませればファイナル

ベントが中断される為、比較的成功率が低いファイナルベントだった。

「グアアアアアアアア!!!」

 既にミラージュの背骨にはデストワイルダーの鋭利で鈍重な爪の一本が

深々と筋肉を貫き、突き刺さっている。

 凹凸の激しい線路に敷き詰められた石の上に全身を押しつけられ、

引きずられる激痛により、ミラージュはデストワイルダーを怯ませる

迎撃行動はおろか、数秒後に到来する死の未来を回避する事すら

出来ない非常事態に陥っていた。

「文句はないよな?先に仕掛けたのはお前の方なんだから...」

 ぞっとするような声音と同時に、タイガのデストクローがミラージュの

心臓を貫く。

 しかし、

「くっ!分身か!」 

 いつの間にか本体と入れ替わっていた分身がタイガの魔手の身代わりと

なり、当然ミラージュはまんまとタイガから逃げ果せる事に成功した。

(撤退だ。丸腰のままここに残るのは危険過ぎる)

 そう判断した仲村創は余計な事を考える事なく、近くにあったカーブ

ミラーから現実世界への帰還を果たしたのだった。
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:36:10.96 ID:JcVHvI7Q0
〜〜〜

「はぁ...はぁ...はぁ...」 

 苦虫を噛みつぶしたような顔をしながら、ミラージュは逃げ果せた駅の

ホームの中で荒い息を吐きながら、現実世界へ戻る為の鏡を探していた。

「クソッ!」

 デッキから取り出したファイナルベントのカードがフリーズベントの

影響下を脱した事を示すように光り輝く。おそらくタイガは撤退を選択

したのだろうとアタリをつけたミラージュは近くにあったガラス窓に

手をかざし、いつもと同じように現実世界へと戻ろうとした。

「!!」

 だが、信じられない事に目に見えない何かが自分の身体に物凄い勢いで

衝突し、車のような激しい衝突の衝撃にミラージュの身体は宙を舞う。

「ガハッ!」

 誰だ、誰が俺を襲ったんだ?!

 既に使えるカードは半分にまで削られている。

 ガードベント、コピーベント、ファイナルベント。

 もし相手が自分が予想しているのと寸分違わぬ戦略をとるのならば...

「恵里ッ!俺はッ!」 

 遅ればせながらデッキからファイナルベントを引き抜いたミラージュは

杖型のバイザーにそれをベントインしようとしたところを...

「Final vent!」

 クリアーベントで姿を消したベルデのファイナルベントに絡め取られて

しまったのだった。

 視界が逆転し、5度ほど回転したあと空高く舞上げられたミラージュの

頭はそのまま固い線路のレール上へと叩き付けられた。

「....」
 
 物言わぬ死体となったミラージュの身体が徐々に消滅を始める。

 それを何の感情も宿らない瞳で一瞥したベルデはミラージュのバイザーで

そのデッキを破壊しようと考えたものの、思い直したように消滅を始めた

秋山蓮のバックルからミラージュのデッキを引き抜き、沈痛な面持ちの

まま、現実世界へと帰還したのだった。

 仮面ライダーミラージュ/秋山蓮 死亡。
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:36:48.36 ID:JcVHvI7Q0
第二十五話 最後の一人


 〜401研究室〜

「では、これより我々の次の目標を発表します」
 
 東條の死亡から一週間後、香川英行は仲村創と佐野満を招集し、次なる

指令を開口一番発令した。

「我々が次に倒すのは、仮面ライダーオーディン及びリュウガです」

「...」 

 満も仲村も厳かな面持ちで香川の言葉に耳を傾けている。

 当然だ。現時点で未だに生存しているライダーの実力とカードの内訳は

既に殆ど知られている。

 浅倉の死後、目下の脅威は北岡秀一と城戸真司だったが、北岡秀一は

神崎士郎の謀略で命を落とし、城戸真司は今の所非戦を貫き続けている為、

消去法とは言え、オーディンとリュウガを香川が選択するのは当然だった。

 オーディンに対して決定的な一撃を与えられる術を香川英行は現時点では

所持していない。虎の子のコールサモンも契約していたサイコローグの

爆散と同時に消滅してしまった。

 しかし、この三人であれば未だに未知数の実力を誇るリュウガを葬るのは

容易いと香川が考えるのは無理からぬ事でもあった。

「先生、オーディンとリュウガはどんなライダーなんですか?」

「そうですね。今、そのライダーの画像を印刷します」 

 自分のパソコンのフォルダの一つから過去のミラーワールドで交戦した

オーディンとリュウガの画像を香川は二部コピーした。

 香川から渡されたコピーを受け取り、未だ対戦した事のないライダーの

画像をしげしげと見つめた満はなにやら深く考えこむような素振りをした。

「佐野君?」

「ああ、すいません」

「それで?先生はいつこのライダー達と交戦したんですか?」

「佐野君が仲間になる一ヶ月半前ですよ。丁度半年前です」

 オーディンとリュウガの手の内を知らない満に香川と仲村は自分達が

知りうる範囲でオーディンとリュウガの情報を満に教え始めた。
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:37:22.89 ID:JcVHvI7Q0
「先生、まずは先に俺から話しても良いですか?」

「構いませんよ」

「よし。佐野、お前は何から聞きたい?」

「えっと、じゃあリュウガって奴の戦闘力と狙いを教えてください」

「ふーむ...。あまり気負わせたくないから言いたくはないんだが」

「リュウガは恐らく先生と互角の強さを持っていると思う」

「一ヶ月半前、コアミラーを破壊しようとしたときの話を以前したな?」

「はい。でも、邪魔が入って出直す羽目になったって聞きました」

「そう、その邪魔をしたのがリュウガという黒い龍騎だ」

「お前が高く評価している城戸真司と瓜二つの戦い方をする上に」

「契約している黒い龍の吐く炎は全てを石に変える力を宿している」

「俺が思うに、あのライダーは神崎士郎の左腕だな」

「先生の反応速度以上の速さと怪力で暴れる厄介な敵だよ」

「弱点らしい弱点はない...と?」 

「今の所はな。ちなみにオーディンもだ」 

 仲村からリュウガについての分析を聞き終えた満は香川にオーディンの

能力について問いただそうと考えたが、結局無意味な事だと考え、開き

かけた口を閉じる事にしたのだった。

「佐野君?」 

「先生。俺、頭の中に浮かんだ作戦をまとめてきます」

「...ほう。では、全力で考えてください」

「私はそれを全力でサポートしますから」

「ありがとうございます」

 そう言い残した満は研究室から退室し、一人静かな場所で今し方

思いついたリュウガ攻略の為の布石に関する自らの策をまとめるべく

空き教室へと歩き出したのだった。
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:37:59.07 ID:JcVHvI7Q0
「さて、仲村君。本当にいいんですか?」

「ああ、俺が東條のデッキを使うことですか?」

「ええ。本来なら君はタイガよりもオルタナティブの方が使い慣れている」

「それに...私も東條君に対して深い思い入れがあるものですから」

 あの日、香川の家で開かれたミーティングで佐野を先に帰した後、

仲村がタイガのデッキを使う事に香川は猛反対した。

 疑似ライダーは神崎士郎のライダーバトルのデメリットを背負う事なく

ライダーバトルにライダーと遜色ないスペックで参戦できる優位性を

持っている。

 仲村が言っている事は本末転倒に他ならない。

 自らが持つ安全を捨ててまで他のライダーと同じ土俵に立った上で、

ライダーバトルに参加し、命を軽々に放り投げようとする事に一体どんな

意味があるというのだろう。

 だから、香川はあえてそのことを仲村創に問いただした。

 香川の問いに、仲村は要領を得ない答えではあるがこう答えた。

「確かに先生の言う事の方が正しいと思ってます」

「でも、こればかりは先生に言われても譲れないんですよ」

「東條が男を見せて、意地を張ってミラーワールドの戦いで死んだんだ」

「我ながら馬鹿げたこと言ってるなとは思ってるんです」

「だってこれは結局の所、蛮勇でしかないんだから」

「けど、アイツが死んでも尚、俺は東條に負けたくないんです」

「アイツがタイガのデッキを使い、命を落としたのなら」

「俺はタイガのデッキを使って、最後まで生き残ってみせる」

「誰の為でもない、アイツを超えたいと思う自分のプライドの為に...」

 仲村の言葉に何も反論できなくなった香川は、その主張を認め、仲村の

持つタイガのデッキとオルタナティブのデッキを交換したのだった。
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:38:41.26 ID:JcVHvI7Q0
「先生。前にお話ししたとおりです。俺は自分の意見を曲げません」

 感傷を振り払うように仲村は香川に意見を言わせる事なく、かねてから

考えていた自らの策を香川へと述べ始めたのだった。

「香川先生。オーディンに対抗する例の作戦なのですが」

「そうですね。一応、我々の陣営には契約のカードが二枚あります」

「試してみる価値も、時間も今しかありませんしね」

 仲村が香川に献策したオーディン打倒の為の策とは、ミラーワールドに

未だ潜む不死鳥型モンスターの三体を捕らえ、融合し、ゴルトフェニックス

と同等の力を持つ合体型モンスター、ジェノサイダーを生み出す事だった。

「しかし、仲村君。私が目にした神崎君の資料には...」

「ええ。モンスターを合体させるカードは存在していない。ですよね」

「だったら...コイツで一か八かの可能性に賭けてみましょう」

「サバイブのストレンジベントですか...」 

 仲村が取り出した烈火のサバイブのカードを見つめた香川は、それでも

首を縦に振る事はできなかった。

 確かにサバイブの力はライダーを強化するというだけあり、とてつもない

力を秘めていた。

 かつて王蛇サバイブが用いたストレンジベントというカードがあった。

 使用すると様々なカードに変化する効果を持つこのカードは、状況に

応じて使用者が最も望むカードに姿を変える特性を持っている。

 仲村が主張しているのは、まさにその特性だった。

 ガルドミラージュ、ガルドサンダー、ガルドストームの三体を契約し、

手元に揃えた状態で、ストレンジベントを使い、この三体を合体させる

カードを呼び出して合体させるという、ある意味ご都合主義にも程がある

考え方だが、現状オーディンの契約しているゴルトフェニックスの力に

対抗するにはこちら側もそれと同等の力を持っていなければ話にならない。

 だが、仲村はその融合条件というものを失念していた。
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:39:11.82 ID:JcVHvI7Q0
 仮に仲村の仮説を正しいと仮定した上で、その仮説を自分達が100%

実現させなければならないときに何を知り、その上で何を調整しなければ

ならないのかを仲村は頭に入れていない。

 融合条件における契約獣の合体制限数や融合後の性能テスト、融合に

おける融合対象の選択優先順位、いや、それ以前に神崎士郎がこちらの

狙いを察知した上で、例の不死鳥型のモンスター達を自分達の目の届かない

所へ引っ込める可能性だって否定できない。

「っ...どうすりゃいいんだよ...」 

 後一手、後一手が足りない。

 仲村も香川が果たして何を考えた上で自らの策に否定的なのかを

理解しているが故に、このまま突き進めば良いのかを考えあぐねている。

 だが、その後一手が自分達の手の中にあろうことか自ら飛び込んで

来たのだった。

 勢いよく開く扉と威勢良く飛び込んできた青年がそこに立っていた。

「あのっ!すいません!」

「蓮を!俺の仲間が今どこにいるのか知りませんか?」 

 天啓の如くその姿を現したのは、城戸真司だった。
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:39:40.28 ID:JcVHvI7Q0
〜〜

「お前、また来たのか...」

 呆れたように呟く仲村だったが、その隣では香川が驚いたように

その口をぽかんと開けていた。

「なんだ、お前の仲間ってあれか?あの黒ずくめの兄ちゃんだろ」 

「そう!ソイツだよ。なぁ、どこで会ったんだ?」

「電話しても連絡が取れなくて心配で心配で...」

 どこか無理をしているような真司の状態にいつもは無愛想な仲村も

今回ばかりは邪険にすることなく、真司を空いている椅子に座らせ、

冷蔵庫の中にある缶ジュースを真司に勧め、話の先を促した。

「まぁ、落ち着いて話を聞かせてくれ」

「俺達も今忙しいんだ」

 500mlの缶ジュースに口をつけた真司は、意を決したようにゆっくりと

その口を開き、今まで自分達の身の回りで起きた出来事を語り始めた。

「....という訳なんだよ」

「そうか。大体分かった」

 真司の話が一段落付いたところで、仲村は自分の頭の中でこれまで

真司とその仲間が遭遇してきた事態をまとめていた。

 まず浅倉を倒す少し前に、真司の仲間である秋山蓮がミラーモンスターに

葬り去られた自らの新しい契約獣を探す為、仲間と共に自然公園へと赴き、

鳳凰型モンスターであるガルドミラージュの再契約に成功したこと。

 そして、浅倉を倒したその直後あたりに秋山蓮の恋人が病気で死に、

同じ日に真司の仲間である手塚海之が消息不明になり、その二週間後、

仲村にとってはつい昨日の話だが、秋山蓮が行方不明になってしまい、

真司はいなくなってしまった二人の仲間の行方を捜し続けているという

内容だった。
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:40:15.72 ID:JcVHvI7Q0
「城戸さん。いいか...落ち着いて聞いてくれ」

「実は、俺は昨日その秋山蓮って奴に会ったんだ」

「本当か!どこで会ったんだよ?」

 思わぬ情報に目を輝かせながら真司は食いついた。

 しかし、仲村の浮かべた沈痛な表情に考えたくない最悪の未来を

垣間見た真司の顔は暗いものへと変わっていった。

「線路沿いの一方通行の道路だ。それで、戦えとアイツに言われた」

「あの時の君の友達は...その、無理矢理戦おうとしていた」

「まるで何かを戦うことで忘れようとしていた感じだったと思う」

「強かったよ。逃げるのが精一杯だった」

「秋山は最終的に自分の分身を作り、俺から逃げ果せた」

「それ以降のことは、俺の口からはなんとも言えない」

「いや...そうだったんですか」

 一瞬、仲村が蓮を殺したのではないのかというよからぬ想像が脳裏に

浮かんだ真司だったが、もし仮にそうだったとしても、あの時の蓮は最愛の

恋人の死で冷静さを失い、まともな判断を下せるような状況ではなかった。

 そもそも手塚に促されて優衣と共に花鶏に帰らず、蓮に何を言われようと

その側にいてやれなかった自分が悪いのだと無理矢理納得させ、平静さを

保つことを真司は選択した。

「すいません。じゃあまた俺他の所を探しに...」 

 最も可能性が高い香川研究室の聞き込みが空振りに終わった以上、ここに

留まっても何も始まらないと思考を切り替えた真司は鉄砲玉のように

研究室を後にしようとした。
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