佐野満「えっ?強くてニューゲーム?」

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386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:40:46.15 ID:JcVHvI7Q0
「待ちなさい」

 しかし、今まで沈黙を保っていた香川の一声に真司は足を止め、背後を

振り返った。

「城戸さん。佐野君が貴方に会いたがっていますよ」 

「今、彼を呼び出すので差し支えがなければ少し待っていただけますか?」

「えっ...ああ、はい」

 佐野満。

 かつて一度しか邂逅していない相手ではあったものの、真司にとっては

数少ないライダーバトルに否定的な立場を取っている初めての第三者的な

立場をとるライダーバトルの参加者。

 機会があれば、一度腰を据えてゆっくりと話をしたいと感じていたのだが

それが出来ない程、自分の近辺の状況は目まぐるしく変わってしまった。

「もしもし、佐野君ですか。ええ、貴方にお客さんが来てますよ」

「はい。401研究室に来て下さい。大至急。はい、それでは」

 香川が電話を切り、真司に満が来ることを教える。

 そして五分後、城戸真司は佐野満と数ヶ月ぶりの再会を果たした。
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:41:13.12 ID:JcVHvI7Q0
〜〜

 香川の電話を受け、急いで考え事を切り上げ研究室に戻った満の視界に

懐かしい相手の姿が飛び込んできた。

「城戸さん。お久しぶりです。お元気ですか」

「ああ。久しぶり。そっちも元気そうで何よりだよ」

 少しやつれたものの、見る者を安心させる笑顔を浮かべる真司との

再会に満の顔も自然と本心からの笑顔を浮かべる。

「どうですか?怪我とかしてませんか?」

「まぁ俺は大丈夫だけど...蓮と手塚がいなくなっちまった」

「えっ?」

「ここに来たのは、ここの人達が二人の行方を知らないかなって思ってさ」

「佐野君知らないかな?蓮と手塚のこと」

「いえ...俺があの二人に最後にあったのは一ヶ月前くらいで....」

「それから今日まではあの二人とは会ってません」

「そっか...」

 最後の希望が断ち切られた真司は、がっくりと項垂れて机の上に

突っ伏した。

 満はそんな真司に追い打ちを掛けるようで気が引けたものの、かねてから

聞きたいと思っていたことを尋ねることにした。

「城戸さん。実は俺、城戸さんに聞きたいことがあるんです」

「え?聞きたい事ってなにさ?」

「先生。お願いできますか?」

「ええ。デッキを私に渡して下さい」

 あっけにとられる真司を横目に、満は香川に自分のデッキを渡し、香川は

特製の機械にそのデッキを挿入し、浅倉と交戦した日の戦闘データを

パソコンにダウンロードし始めた。
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:41:45.22 ID:JcVHvI7Q0
「少し時間が掛かるので、佐野君の質問を私からさせて頂きます」

「城戸さん。先日私達は浅倉威と交戦し、彼を打ち破りました」  

「ええっ!じゃあ香川さん達が浅倉を倒したんですか?!」

 驚きを隠せない真司に首肯した香川は、口を挟みたくて仕方がない

真司の口を塞ぐように次から次へと言葉を継ぎ足していった。

「はい。私と東條君...東條君は浅倉と相討ちになりましたが」

「浅倉と私が戦闘している間に、佐野君と仲村君も戦っていたのです」

「ゾルダと、その忠実な手下とね」

「浅倉と違い、ゾルダと手下は取り逃がしてしまいましたが」

「その戦闘中にとある乱入者が現れ、佐野君に攻撃を仕掛けてきたのです」

「その乱入者というのが....」

 香川の言葉に被さるように、パソコンの電子音が動画のダウンロードの

終了を告げるアラームを鳴らした。

「城戸真司さん、貴方の変身するライダーに瓜二つなんですよ」

 アビスのデッキからあの日の戦闘データをパソコンにインストールした

香川は事情が掴めない真司にその動画を見せた。

「なんだよ...これ?」

 真司の動揺も最もだった。

 なにせ自分が身に覚えのない事をしているどころか、意味不明な事を

アビスに言い放って狂ったように襲いかかっている。

「いや、こんなの俺知らないですよ...えっ?だって」 

「なんだよ?俺は本当のシンジの片割れだ。って...」

 慌てたように真司が自分のバッグの中から龍騎のデッキを取り出す。

 特に変哲のない神崎製のカードデッキがそこにはあった。

 手にしたからと言って自分の性格が豹変したり、神崎士郎に洗脳される

とかそういった事は何一つ起きていない。

 香川はこの様子からして、恐らく真司はシロだという見当をつけた。

 だが、仮にここにいる真司が本物だとして満と交戦したあの龍騎は

一体何者なのだろうか?
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:42:28.70 ID:JcVHvI7Q0
「あっ!そうだ。俺からも聞きたかった事があるんだよ」

 アビスと龍騎の交戦を見守っていた仲村が慌てたように香川の机から

一枚の写真を取り出し、真司の座っているデスクの上に置く。

「この写真なんだけどさ、写真の日付の日に神崎士郎と出会ったのか?」

 それはまだ東條が生きていた頃、浅倉を討つと誓ったあの日に前後した日に

香川が放った密偵によって撮られた写真だった。

 真司に何かを手渡す瞬間を捉えた決定的スクープの瞬間だったが、

果たしてこれを認めるか認めないかで、この先の展開が大きく変わる。

「いや、なんだこれ?」

「えっ?神崎が俺に何かを渡してる?」

 神崎士郎が自分に何らかのカードのようなものを渡している写真に

真司は首をかしげ、その現実を否定するしかなかった。

(おかしい。ここまで証拠が揃いながら、彼は頑として事実を認めない)

(いや、事実を認めないのではなく...ひょっとしたら事実ではない?)

(つまり、城戸真司と瓜二つの存在がライダーバトルに参加している?)

 その仮説に至ったとき、香川は最後の決め手となる写真を真司に渡した。

「城戸さん。この黒い龍騎は、貴方ですか?」

「いやいやいや...えぇ...違いますよ。初めて見ました」 

「ふむ...」

 真司の答えにより、香川研究室の面々はそれぞれが朧気ながらも龍騎の

偽物がリュウガという存在であり、神崎士郎と手を組みライダーバトルの

勝者になろうと企むいわばミラーワールド側のライダーがリュウガである

という共通の見解に辿りついた。

 真司の外見に似せた理由は不明だが、まずはリュウガ攻略の一端を

垣間見れただけでよしとしよう。
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:43:13.24 ID:JcVHvI7Q0
「あの、香川さん?」

「ちょっと黙ってて下さい」

 恐る恐る口を開いた真司をピシャリと撥ねのけた香川は、今のやりとりで

得られた有益な情報を元に、リュウガをあぶり出す方法をいくつか考案し、

それの簡単な見直し作業に没頭していった。

「城戸さん。こちらに」

 自分達が香川が考えをまとめる邪魔になると考えた満と仲村は怪訝な

顔をしている真司を隣の空き教室へと連れ出した。

「なんだよ。事情が良く掴めないんだけど」

「俺、なんか悪い事しちゃった?」

「そんなことないですよ」

 仲間を失い、自らのあずかり知らぬ所でライダーバトルに介入している

自分と瓜二つの存在に少なからずショックを受けた真司の肩に満は自分の

手を置き、何とか慰めようとした。

「城戸。これは忠告なんだが」

「恐らく残りのライダーが真っ先に狙うのは、おそらくお前だ」

「えっ?」

 仲村も香川が次に取ると思われる一手を推測しながら、他のライダー達に

自分達に協力してくれる強力なライダーを奪われる前に、迅速な説得を

試み始めた。

「俺達の陣営は、既に3人のライダーを倒している」

「白鳥、サイ、蛇の契約獣と契約しているライダーだ」

「嘘だろ...じゃあ、美穂は」

「...言いたくない事だが、王蛇を倒した東條に殺されたと思う」

 信じたくない現実を知ってしまった真司は、力なくへなへなとその場に

崩れ落ちてしまった。

 満はかつて自分が香川研究室に初めて来た際に、ガイを殺した以前の

ライダーについて東條が言及していた事を思い出した。

 そうか...

 東條が一番最初に殺したライダーは真司の大切な存在だったのか。
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:43:49.58 ID:JcVHvI7Q0
「...東條のした事は殺人だ。決して許される事ではないと思う」

「ああ...だから、だから言ったのに...復讐するなって」

「俺が...俺が...必ずお前を止めてやるって言ったのに...」

「馬鹿野郎...なんで、なんで先走っちまったんだよ....美穂」

 瞳から大粒の涙をこぼしながら、それでも真司は懸命に感情を抑える。

「城戸さん。その...美穂さんってどんな人だったんですか?」

「ああ....バカで嘘つきで直情的で素直じゃない女詐欺師だったよ」

「でも....浅倉に殺された家族を、蘇らせようとして一生懸命戦ってた」

「何度も助けようとしたんだ....でも、アイツは復讐に凝り固まってて」

「止めてくれって...お前を失いたくないって...言ったのに...」

 堪えきれず、机に突っ伏した真司は悲しみの涙を流し続けた。

 自分にさえ手を差し伸べた真司の事だ。

 救おうとして、何度も共闘した間柄の相手がもう二度と自分の手の

届かない場所へと旅立ってしまったことに、本気で悲しんでいるに

違いない。

 多分、あの秋山蓮が消息を絶ったときもきっと今と同じような状態に

陥ったのだろう。 

「城戸。東條は確かに頭のおかしいキチガイ一歩手前の人間だったよ」 

「でも、アイツは最後に自分の命と引き替えに浅倉を討ったんだ」

「東條のした事は正当化出来ない。君の涙の元凶はアイツだからだ」

「だけど...100%ある内の1%だけでもいい。アイツを許して欲しい」

「アイツも君と同じような事を考えてこの戦いに命を賭けていた」

「もし、それでも君が東條を許したくないと思うのなら...」

 涙を流し、懸命に怒りの感情を封じ込んでいる真司の目の前に仲村は

タイガのデッキを置き、その左手に持った金槌を真司の右手に握らせる。

「このデッキを壊して、ここから出て行ってくれて構わない」

「良いんだな?」

 ぞっとするような声音で真司が仲村に確認を取る。

「ああ。東條はもう死んだ。君の復讐に俺は手を貸す事は出来ないが」

「東條が一番大切にしていた『誇り』を君は壊す権利がある」

「さぁ、やるなら....やれ」

 仲村の言葉に、決心を固めた真司は躊躇いながらも自分の頭上高く

ハンマーを振り上げ、そのままタイガのデッキへと振り落とした。

 ガァアアアアアン!

 目を閉じながらも、事の成り行きを見守っていた満は、目を開けた時

タイガのデッキのすぐ隣の机の面が陥没している事に気が付いた。
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:44:18.39 ID:JcVHvI7Q0
「俺は...俺はァッ....!」

「許したくなんかない!でも、でも!」

「美穂は...美穂は...もう、戻ってこない!」

「だから、だから俺はァッ....」

「この戦いを必ず終わらせてやる!終わらせてやるんだ」

「もう、ライダーがこれ以上誰一人として死なない為に!」

 葛藤の末、城戸真司は自分の中にある誓いに殉じることを決意した。

 ミラーワールドを閉じ、これ以上ライダー同士が戦わないで済むように

する為に自分は戦うのだと決意を改めた。

「城戸さん。力を貸して下さい」

「俺達はオーディンとリュウガを討ちます」

「残っているライダーは俺達を含め、あと6人です」

「オーディンを倒す為に、城戸さんの力が必要なんです」

「だから、この通りです。お願いします」

 深々と頭を下げた満を驚いたように見つめた真司は、躊躇う事なく

笑顔を浮かべ、その答えを出した。

「ああ。俺の方こそ、よろしく」

 
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:44:48.12 ID:JcVHvI7Q0
第二十六話 ユナイトベント

 〜ミラーワールド〜


 香川英行が城戸真司を自らの陣営に引き入れたのと時を同じくして、

神崎士郎は自らに忠実なライダーを一人手に入れる事に成功した。

 由良吾郎。かつて仮面ライダーゾルダだった男の秘書だ。

 傷害致死で起訴されただけあり、吾郎の腕力は浅倉には一歩劣るものの

暴力を振るう事への躊躇いのなさと仕える主が死んだ後も、その不変の

忠誠心でライダーバトルを戦い抜く事を決意した男は、最後の一人として

オーディンと戦い、自らが勝利できる可能性を実現させるという契約の元、

神崎士郎の軍門に降ったのだった。

「先生...」

 神崎士郎と共にミラーワールドに足を踏み入れた吾郎は、自分の視界に

呆然と空を見上げているマグナギガを捉えた。

 既にベルデに変身している為、いつでも臨戦態勢には入れる。

「クリアーベントを使えば気が付かれずにマグナギガの背後を取れる」
 
「さぁ、行け」

 命令とも取れるが、それ以上に良い策が思い付かないのも事実だ。

 吾郎はクリアーベントを使い、マグナギガの背後に忍び寄る。

 そして、デッキから予め抜き取った契約のカードをマグナギガの背中に

突き刺した。マグナギガは無抵抗のままカードに吸い込まれた。
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:45:38.39 ID:JcVHvI7Q0

「....」

 吾郎の胸中に複雑な思いが溢れる。

 しかし、秀一が死に残りのライダーがあと六人という状況下で吾郎が

自分の勝率を少しでも上昇させ、秀一を蘇らせるにはこうするしか

方法がないのだ。

 マグナギガとの契約を済ませた吾郎は士郎に促され、ミラーワールドを

脱出し、誰もいない廃墟の中で士郎との打ち合わせを再開した。

「これでお前の所持するモンスターは三体に増加した」

「ベルデのデッキにおけるバイオグリーザとマグナギガ」 

「そして、秋山蓮から奪ったデッキにおけるガルドミラージュ」

 士郎が吾郎から取り上げたミラージュのデッキをコートの中から

取り出し、その中にあるカードを取り出す。

「私からお前に与える選択肢は二つある」

「一つはベルデのデッキとミラージュのデッキの複数使用の許可だ」

「もう一つはデッキを一つに絞り、使えるカードを増加させる許可だ」

 ここで神崎士郎の勝利条件を整理してみよう。

 香川のオルタナティブを除外した上で残りのカードデッキを数えると、

タイガ、アビス、龍騎、ベルデ、オーディン、リュウガ、ミラージュの

七つが現存している事になる。計算すると両陣営ともにそれぞれが半分の

カードデッキを保持している。

 しかし、戦力差はこの時点で明確である。

 リュウガとオーディンとタイムベントが士郎の手中に存在する限り、

香川陣営がどのような策を弄したとしても、神崎士郎を完全な形で打倒し、

ミラーワールドを閉じる事は到底不可能である。

 故に、神崎士郎は持てる全ての戦力を費やし、ただ香川陣営に属する

全てのライダーを各個撃破する事に注力すれば良い。

 そうすればどんなに時間が掛かったとしても、9割を超える高い勝率で

自らに歯向かう香川英行を葬り去る事は不可能ではない。

 例え神崎優衣が自らに与えられる新たな命を受け入れる事を拒んだと

しても、ライダーバトルの期限まであと半年残っている。

 どんなに優衣が命を拒んだとしても、それまでに例え優衣の意思を全て

無視したとしても、士郎は優衣に新しい命を与えるつもりだった。

 そして、その為のライダーバトル必勝の策を練る事を士郎は怠らない。
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:46:31.36 ID:JcVHvI7Q0
「神崎さん。後者の案について詳しく聞かせて下さい」

「良いだろう」

 沈黙を破った吾郎の発言に厳かに頷いた士郎は自らの提案を目の前の

ライダーへと語り出した。

「今、お前の手元にはベルデとミラージュのデッキが存在している」

「ライダーは一つ以上のデッキを保持してはいけないことになっている」

「故にお前は主催者である私にどちらか一つを返納しなければならない」

「だが特例として、返納する際にお前は契約モンスターを選択し直す事が出来る」

 士郎の理屈を理解した吾郎は躊躇う事なくベルデのデッキを士郎に

返却した。

「神崎さん。俺はマグナギガを契約モンスターに選びます」

「そうか」

 士郎はベルデのデッキからカードを全て抜き取り、カードの上に自分の

右手をかざし、なにやら複雑な詠唱を始めていた。

 一分も経過しない内に、ベルデのデッキからカメレオンの紋章が消え、

なにも契約されていないブランクの状態へと初期化が為されたその後、

マグナギガを象った深緑のカードデッキが士郎の手の上に現れる。

「これを見ろ」

 士郎から手渡された12枚のカードに吾郎は目を通した。

「そうですか...そういうことなんですね」 

 カード左上に刻まれたそれぞれのライダーの契約の紋章、吾郎にとっては

それがベルデのものではあったものの、今し方士郎に渡されたカードの

契約の紋章は全てゾルダのものへと書き換えられていた。

 つまり吾郎はこの時点でどのライダーよりも多くのアドベントカードを

保持している計算になる。その数はおよそ18枚の計算になる。

 ライダーバトルにおける数の優位性は既に証明されている。

 王蛇サバイブに勝利したオルタナティブ・ゼロや、相手のカードを奪い

有用なカードを得ながら戦いを進めてきたタイガの例に漏れず、カードを

多く持つという事は、それだけ自らが戦況を有利にできるということに

他ならない。

 つまり、現時点で最も最強に近いライダーに吾郎は成り上がったのだ。
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:47:06.70 ID:JcVHvI7Q0
 隠密と奇襲に長けるベルデ、遠近距離戦に対応できる高火力のゾルダ、

そしてその両方の長所を兼ね備えるミラージュの力が今の吾郎にはある。

 1対1で戦えば、まず特殊カードで裏を掻かれない限りは敗北の可能性は

絶無である。

 更に、神崎士郎と手を組んだ事により、もし吾郎が何らかの想定外で

他のライダーに敗れたとしても、神崎士郎にとってまだ利用価値があると

判断された場合は、かつての浅倉威がタイガと対峙した時と同様にタイム

ベントで時を巻き戻され、自分が優勢に戦いを進めていた時間まで時を

逆行させられる恩恵を受けられる可能性も生じている。

 烈火のサバイブのカードが香川の手に落ちた以上、またリュウガがいつ

自分を裏切るのかが分からない以上、士郎としては吾郎を贔屓する事に

全力を尽くしたとしても、ライダーバトルの早期解決にそれが繋がるので

あれば、躊躇う事なく踏み切れる。

 故に、神崎士郎は由良吾郎に更なる恩恵を与える。

「ユナイトベント?」

「ああ。三体のモンスターを合体させる事が出来るカードだ」

 ユナイトベントと士郎が呼んだカードを手に取った吾郎はその瞬間、

ある種の悪寒を感じた。

「これを使えば、理論上はサバイブのカードすら圧倒できる力を得る」

「理論上、とは?」

「後はお前次第と言う事だ」

 そう言い残した神崎士郎はあの耳鳴りのする金属音と共に姿を消した。

「待っていて下さい...先生」 

 たとえ神崎士郎の走狗に成り下がったとしても、必ずライダーバトルを

勝ち抜き、秀一を蘇らせてみせる。

 そう固く心に誓った吾郎は、自らが得た新たな力を...かつて己を救った

恩人が愛用していたゾルダのデッキを固く握りしめ、決意を新たにした。

397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:47:40.41 ID:JcVHvI7Q0
〜〜〜

 一方、神崎士郎が奸計を巡らせる中、香川英行は新たに仲間に加えた

城戸真司を交え、これからの方針を語りながら、神崎士郎の策をどのように

突き崩すのかを必死になって考えていた。

 満が考えついたリュウガ攻略法と書かれた乱雑に書かれた十数ページに
 
わたる神崎士郎の牙城を突き崩す策は、確かに一考に値する策だった。

 満の策はこうだった。

 まず、香川と真司がオーディンを足止めし、その隙に仲村がコアミラーを

量産型オルタナティブ部隊を率いて破壊し、コアミラーの守護を担う

リュウガと満が交戦するという少し頭を捻れば、誰でも思いつく策だった。

 しかし、今まで神崎士郎に対する先入観で士郎の行動パターンを推測

しながら戦いを進めてきた香川の目を惹いたのは、満が今まで自分達が

思いもよらない視点から神崎士郎の、オーディンの行動をある程度こちら

の思い通りに動かせるように仕向けるというアプローチだった。

 タイムベントの動力源に使われているのがサバイブのカードだとしたら?

 もし真司がリュウガに乗っ取られたら、どうすればリュウガから分離を

させられるのだろうか?

 タイムベントをオーディンから奪い、ライダーのデッキごと破壊すれば

オーディンはタイムベントを二度と使えないのではないのか?等々、

今までオーディンや神崎士郎と対峙しながら、その牙城を崩せなかった

香川にとって満が捻りだした渾身の策はまさに値千金の価値を持っていた。
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:48:15.28 ID:JcVHvI7Q0
「驚いたな...まさかこんなこと考えついてたなんて」 

「いやぁ...でも、まだ足りないんですよ。仲村先輩」  

 まさか満がこんな策を捻り出すとは思いもしなかった仲村が目を白黒

させながら、その作戦が書かれた内容に目を通している。

「凄えじゃん!これなら神崎の暴走を止められる!」

 真司は満の背中をバシバシと叩きながら素直に満が考えついた策を

絶賛していた。

「城戸君。神崎優衣さんと連絡を取りたいのですが」 

「え?ああ。はい。優衣ちゃんはこの時間帯は花鶏にいると思います」 

 はっとした顔で何か重要な事を思いついた香川は真司にこの作戦の

鍵を握るであろうキーパーソンである神崎優衣との対談を望んだ。真司も

香川のただ事ではない様子に真剣な面持ちになり、携帯電話を取りだし

優衣の電話番号に掛けたのだった。

 3コール後...

「もしもし?どうしたの真司君?」

「あっ、優衣ちゃん!今さ、時間あるかな?」

「優衣ちゃんに話を聞きたいって人がいるんだ。かなり偉い人だよ」

「う、うん。あのね、真司君」

「なんだよ優衣ちゃん?歯切れ悪いよ」

 真司の携帯から漏れ聞こえる神崎優衣の声は、まるで何かに怯えて

いるような、そんな声だった。

「あなた、本当に真司君なの?」

「えっ?」

 その一言を聞いた瞬間、香川は何かに気が付いたように猛烈な勢いで

破ったノートの切れ端にある一言を書き殴り、それを真司に渡した。

 真司は最初、ノートに書かれている事を理解できずにぽかんとしていたが

仲村が神崎士郎に何かを渡されている真司の写真を見た時に、全ての得心が

いった。
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:49:28.06 ID:JcVHvI7Q0
「優衣ちゃん。落ち着いて良く聞いて、俺の質問に答えて欲しい」

「今日の俺のTシャツはどんなTシャツだった?」

「えっと...赤と白のサッカーみたいなシャツで...」

「背中の背番号が大きく08って書かれてたよ?」

 その瞬間、真司は大きく息を吸い込み携帯電話に思い切り怒鳴った。

「真一!優衣に手を出すな!」

 耳をつんざく大声と共に、優衣と真司をつないでいた携帯電話の

通話ボタンが切れた。

 遂に未知のベールに包まれていたリュウガの正体が完全に明らかに

なったことに、香川陣営に緊張が走った。

「....話は後っす。とりあえず、今は全員で花鶏に行きましょう」

 真司を信用すべきか、排除すべきか?

 その考えがありありと顔に出ている二人の仲間を窘めながら、満は

真司を促し、花鶏への道を急ぐのだった。

 仮面ライダーリュウガと城戸真一。

 はたして真司と真一の関係はいかに?
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:50:37.97 ID:JcVHvI7Q0
 〜〜

 香川英行とその仲間が神崎優衣がいるであろう花鶏へと向かっている頃、

当事者である優衣は自分の部屋に戻ってきた真司...否、ミラーワールドに

存在するもう一人の真司と相対していた。

「優衣、話がある」

「やっぱり、その呼び方...。あなた真一君ね?」

「ああ。隠すまでもない事だからな。そうだ、真一だ」 

 ベッドに腰掛けている優衣に平然とそう言い放った城戸真一は

弟である真二が花鶏に付くまでの間の僅かな時間に優衣と語らう事にした。

「神崎の阿呆は、まだお前に新しい命を与える事に固執しているのか?」 

「うん。お兄ちゃんはずっとそればかりを考えてるの」

「なまじ頭がいいだけタチが悪いな。ま、俺もアイツの事は悪く言えないが」

 自嘲を込めながらも、士郎が行っているライダーバトルをどこか皮肉

めいた表情で辛辣に突き放す真一の顔は邪悪な笑みを浮かべていた。

「なにせ、お前の好意を最大限利用しているのは俺の方だからな」

「約束を守れよ、優衣。なにせお前は...」

「俺を見殺しにして、真二を助けたばかりか」

「俺という存在をミラーモンスターにまで貶めた大罪人なんだからな」

 そう言い残した真一は、現実世界の滞在限界時間を告げる身体から

立ち上る粒子を確認した後、優衣の部屋にある姿見の中へと姿を消し、

高らかに笑いながら、疾風のサバイブのカードをデッキへと入れたのだった。

401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/05/23(火) 12:52:40.25 ID:JcVHvI7Q0
 ボスキラーの真司君とボスキャラになったゴロちゃんが香川、神崎陣営にそれぞれ与したところで今日の投稿は終わりです。
 
 
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/23(火) 17:31:30.81 ID:mPHPRik90
スレタイ的にゼール軍団をひきいて佐野が無双する話かと思ったらアビスだったでござる
まぁ貴重な龍騎ssだし最後まで期待してる
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/23(金) 03:38:44.50 ID:OAYoiVfX0
保守
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/06(水) 15:25:44.65 ID:uKkNqvJu0
まだかよ
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/09/10(日) 11:31:20.18 ID:a3vNOaub0
うわぁ……一気読みしたんだけどすごいところで止まってる……
てか、もうこれハーメルンとかの小説投稿サイトで連載してもいい線生きそうな気がする内容だよ……

それで、>>1は生きてる?仕事とかが忙しいの?
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:23:15.57 ID:Nkr8DRMT0
>>405さん、>>1です。ありがたいコメントありがとうございます。今就活中です。
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:24:28.41 ID:Nkr8DRMT0
 第二十六話 過去と今と未来

「優衣ちゃん!」

 まるで見計らったかのように自分の部屋に真司が飛び込んできたのは、

真一がミラーワールドへと姿を消してから五分後の事だった。 


「な、何?真司君、この人達は一体誰なの?」

 自分の部屋にずかずかと入り込んだ三人の見知らぬ男に気後れしていた

優衣だったが、真司の口から蓮と手塚が既に命を落としている事と、

これ以上のライダーバトルの長期化を防ぐ為、香川とその仲間の下で

真司がミラーワールドを閉じるべく動いている事を聞いた事により、

やはり自分は生きていてはいけない存在なのだと改めて自覚した。

「ああ。だから優衣ちゃん。ミラーワールドについて知っている事を」

「うん。いいよ。教えてあげる。だけどね」

「ミラーワールドについて教える前に真司君に聞きたい事があるの」

「聞きたい事って?」 

「貴方のお兄ちゃんの事、真一君の事を覚えている?」

 真一という言葉が優衣の口から飛び出した時、真司は嫌悪感も露わに

露骨にその話題を避けようとした。

 しかし、香川は真司が避けようとした話題について、リュウガという

存在に迫る核心部分を語るように強要した。

「城戸君。我々には情報が必要なんです」

「神崎士郎の牙城を崩すには、まずリュウガの攻略が必須です」

「お願いです。どうか、教えて下さい」

「...わ、分かりましたよ。でも、あまりいい話じゃないですよ」

 そう前置きした真司は、渋渋ながら自分と真一の過去について訥々と

しゃべり始めたのだった。
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:25:06.76 ID:Nkr8DRMT0
「俺には昔、真一って言う名前の一個上の兄貴がいたんです」

「兄貴は小さい時から...なんていうのかな、とにかく乱暴でした」

「小学生の頃から見境なく誰にでも暴力を振るう...その、粗暴というか」

「一歩間違えれば浅倉みたいになるような、危ない人間でした」

「でも、分からないんですけど、真一は俺だけを例外扱いしていました」

「お前は俺の弟だ。だから大切にする。手は上げない」

「一度だけ兄貴とケンカした時に、兄貴からそう言われました」

 忘却の霞がかかった記憶をたぐりながら、真司は真一がどのような

末路を辿ったのかを語り始める。

「俺が中三の時、兄貴は刃物で心臓を一突きにされ、命を落としました」

「兄貴に恨みを持つ連中に、兄貴に間違われた俺を庇ったからです」

「俺もその時に頭をバットでぶん殴られ、意識不明の重体になりました」

「俺が兄貴について思い出せるのは、ここまでです」

「なんで兄貴がライダーになったのかまでは、検討がつきません」

 真司の持つ情報だけでは、まだ不十分だ。

 そう、真司を除く三人は考えた。

 何故真司の兄がリュウガとなり、神崎士郎に手を貸しているのか?

 そして、その全てを知っているたった一人の証人が、目の前に座る

神崎士郎の妹なのだ。

 神崎士郎に介入される前に是が非でも、優衣から情報を引き出せる

だけ引き出さなければならない。

 そう判断した三人は、焦りを押し殺しながら優衣に対していくつかの

質問を開始した。
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:25:42.72 ID:Nkr8DRMT0
「君と、その城戸さんのお兄さんはどんな関係だったんだい?」

 まず最初に口を開いたのは満だった。

「.....」

 しかし、優衣は気まずそうに満から視線を逸らし、その質問に回答

することを避けた。

「じゃあ、君は何者なんだ?どうして神崎士郎は君に固執する?」

 次に質問した仲村も優衣は冷たく黙殺した。

「優衣ちゃん!答えてくれないと話が前に進まないよ!」

 苛立った真司が優衣に二人の質問への返答を促すが、当の優衣は

ただひたすらに沈黙を守り続けるだけだった。

「....」

 埒があかない。このまま神崎優衣が口を割らないままだったら、恐らく

そう遠くないうちに、神崎士郎は情報の漏洩を防ぐ為、どのような手を

使ったとしても、必ず自分の妹を攫い、自分の傍に置くだろう。

 そうなってしまえば、もうおしまいだ。

 だが、香川英行は周到な下準備を怠っていなかった。

「神崎さん。私には息子がいるんですよ」

「これを、見て頂けますか?」

 香川は自分のビジネスバッグの中から、細長い筒の中に丸められた

一枚の画用紙を取り出し、それを広げて優衣の視界に入るように広げた。

「それは、香川さんの絵ですか?」

「はい。息子が保育園のお絵かきの時間で書いてくれた私の絵です」

 香川の息子が書いたというその絵は、いかにも子供らしい絵であり、

香川の顔の原形すら捉えていない丸と四角の配置だった。

「下手でしょう?でも、私は一目見てこれは私だと理解できたんです」

「何故ですか?」

「この絵には私に対する息子の想いがこもっているから、ですよ」

 そう言うと、香川は画用紙をひっくり返し、自分の息子が何を考えて

この絵を描いたのかが説明されている題名を読み上げた。

 香川の息子が描いた絵の題名は『パパは家族の味方』という題だった。

「たとえその真意がどれだけかけ離れていようと、本質は変わりません」

「息子にとって私は、家族を守り、守らなければならない英雄であり」

「神崎君にとって君は、愛おしみ守り通さなければならない家族なのです」

「裏を返せば、それだけ神崎君は君の愛に飢えていると思われます」

「だから、神崎君と君は互いを守る為に鏡の世界の力を借りた」

「それが、ミラーモンスターの正体なのでしょう?」

 まるで自分と士郎の全てを見透かすような香川の言葉に、優衣は

己の身体の震えを止める事が出来なかった。
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:26:13.75 ID:Nkr8DRMT0

「はい....」

 絞り出すように神崎優衣は香川の問いに返事を返した。

「お兄ちゃんと私は、早くに両親を亡くしました」

「私達の両親は...私に虐待を加え、お兄ちゃんは私を庇ってくれました」

「そして、その虐待のせいで私は小学生の頃、死にかけました」

 堤防が決壊したダムのように優衣は怒濤の如く、自らが辿ってきた

半生をこの場にいる四人へと聞かせ続けた。

「お兄ちゃんは、昔から頭が良く、よく未来の事を当て続けました」

「優衣、この日は外に出るな。あそこの交差点で車が事故を起こす」

「優衣。今日は友達の家に泊まれ。父親が職を失いお前に当たり散らす」

「まるで占い師のようにお兄ちゃんは未来に起きる事を予知し続けました」
 
「まさか....」

 優衣の告白に大きく目を開いた真司は、ハッとした表情で優衣を

見つめた。

「うん。真司君が思っているとおりの事が起きたんだ」

「私は昔、真司君と真一君に出会っているの」

「どうして君が...まさか!?」

 真司の顔がみるみるうちに青ざめていく。

 震える手で真司は龍騎のデッキを慌てて取り出した。

 自らが契約しているドラグレッダーのカードを引き抜く。

 それはまるで過去に自分が優衣から貰った絵と今、自分が持っている

赤い龍の絵を見比べているようだった。

「さっき、私が何者かを聞いた人がいたよね?」

「私はかつて人間だった存在、今は人間の姿を取った『何か』だよ」

 カラカラと音を立て、真司の手から龍騎のデッキが落ちた。

 優衣の放った衝撃の一言に、真司もあの冷静な香川でさえ動揺を

隠す事が出来なかった。
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:26:47.78 ID:Nkr8DRMT0
「私は十数年前に死にかけ、一度命を落としたの」

「お兄ちゃんは本当に嘆き悲しんだんだ」

「未来を見る力、厳密に言えば少し違うけど」

「少し違う?神崎さん、その力の内容をもっと具体的に教えて下さい」

「私も良く理解は出来ていないんですけど...なんというか、その」

「隣り合わせの鏡を覗き込んで、いくつもの未来を垣間見る」

「私がお兄ちゃんから聞けたのは、そこまでです」

 神崎優衣の言っている事はおそらく並行世界の概念のことだろう。

 ある一つの世界で選択されなかった選択肢の可能性が実現された世界。

 神崎士郎はそういった膨大なパターンの中から、自分にとって都合の

良い結末が訪れた未来を垣間見れるらしい。

「未来を垣間見る?ということは、神崎君はそれを自由に出来ると?」

 待てども待てども神崎士郎の手の内を知る事が出来なかった香川にとって

優衣からもたらされた情報はまさに天恵そのものだった。

 超能力は香川の専門外だが、現に科学という枠組みに落とし込まれたの

であれば、まだ幾らでも対処のしようがある。

 例えば一つのある未来に、ここでは神崎優衣に士郎がライダーバトルの

勝者の命を与え、優衣が新たな生を得る事象へと全ての現象が収斂すると

仮定する。

 神崎士郎単体で未来予知が出来るとは考えにくい為、ミラーワールドを

存在せしめているコアミラーのなんらかのバックアップ機能を行使しつつ

隣り合う、あるいは並行し合う幾重にも重なり合ったミラーワールドから

オーディンが勝利する未来を観測出来るとする。

 この際、神崎士郎は自分が可能な範囲で可能な限りライダーバトルに

おける不安要素を完全に取り除こうとするはずである。

 しかし、未来は常に不安定で定まらない。

 オーディンが勝利する未来があるとすればその逆もまた然り。

 問題は、神崎士郎の未来を垣間見るという最悪の能力がどれくらいの

精度と範囲に適応されるかである。
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:27:37.42 ID:Nkr8DRMT0
 同じ未来を知る事が出来るという能力であっても、ある一つの未来を

垣間見れるだけなのか、それともこれから起きうるある一つの結末としての

未来を予知できる能力なのか。それだけでも香川達が直面する事態は

大きく変わってくる。
 
 しかし、神崎士郎の試みも最初から順調というわけではないようだ。

 頭の中の自分が囁いたその言葉に、思わず香川の顔に笑みがこぼれた。

「すいません。神崎さん、お話しの続きを聞かせて頂けますか」

 思考の堂々巡りに突入しようとしている自分に気が付いた香川は、

おっかなびっくりな表情で自分を見つめている優衣に話の続きを促した。
   
「はい。じゃあ、続きを話しますね」

「お兄ちゃんは、その力を使って私が死ぬ未来を見ちゃったんです」

「お兄ちゃんが言うには、その...私は親の虐待で命を落としたそうです」 

「でも、未来を見て変えられるだけ神崎士郎は頭いいんでしょ?」

「だったらなんで、ライダーバトルなんて面倒臭い事するんだよ」

 満の指摘に優衣はこう切り返す。

「その力を以てしても、どんな手を使っても私の死は回避できなかった」

「でも、お兄ちゃんは私に仮初めの命を与える事に成功したの」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!何が何だか、俺には分からないよ」

 あまりにも突拍子もない真実に困惑を隠せない真司だったが、優衣は

そんな真司の抗議を聞き流し、どんどん話を進め始める。
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:28:49.81 ID:Nkr8DRMT0
「では、ミラーワールドに貴方達兄妹はある程度干渉できる」

「例えば、ミラーモンスターを創造し、それを使役したり」

「時間を巻き戻す等の主催者権限を持つ存在」

「そう言う前提で、私は貴女方を認識すればいいんですか?」

「はい。私達は人の輪から外れたイレギュラーな存在です」

 優衣の言葉にようやく得心がいった香川は、かねてから聞こうと思って

いたいくつかの質問事項を優衣にぶつけ始めた。

「神崎さん。いくつか答えて欲しい事があります」

「まず一つ、ミラーワールドには魂と肉体の概念はありますか?」

「あります。けど、ミラーワールドは一種の虚構世界です」

「現実世界に干渉は出来るけど、いずれその影響はなくなります」

「つまり、ミラーワールドの住人は現実世界に永遠に留まれない」

「はい。現実世界の人がミラーワールドに長く留まれないのと同じです」

「次に、城戸真一はどうしてミラーワールドの住人になれたのですか?」

「私が兄に頼んで彼をミラーワールドの住人にしました」

 本当に唐突に明かされた城戸真一というミラーワールドの住人の過去。

 真司は驚きと困惑を未だどこにぶつければ良いのか途方に暮れていたものの、

優衣の口から明かされる真一の最後を黙って聞き届ける事にした。 

「真司君、子供の時に公園である女の子に出会った事を覚えてる?」

「えっと...確か、俺が小学生だった時だよな?曇りの日だろ」

「うん。その時の私が死んじゃった神崎優衣だったの」

「だけどさ、確かに俺は過去に優衣ちゃんと出会ったかも知れない」

「けど、だったら兄貴は?兄貴はその...いつ君と出会ったんだよ?」

「俺が君から赤い龍の絵を貰った後に兄貴と出会ったのか?」

「うん。ちっちゃい頃の真司君と真一君はそっくりだったから...」

「鏡の私と本当の私が融合した後に、私は真一君に出会ったの」
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:29:37.78 ID:Nkr8DRMT0
 要領を得ない優衣の話を簡単にまとめると以下の通りになる。

 ミラーワールドの自分と融合する前の優衣は城戸真司と出会っていた。
 
 そして両親からの虐待を受け続け、死んでしまった現実世界に生きる

神崎優衣とミラーワールドの神崎優衣が一つになった後、即ち真司と

出会った数ヶ月後に真司の兄である真一に今ここに存在する神崎優衣が

出会ったということになる。

 優衣の話は更に続く。

「真一君が殺されたあの日、私はあそこにいた」

「真司君は頭から血を流していて、真一君はその時には、死んでいて」

「私...私は、もうどうすれば良いのか分からなくて...」

「そしたら、お兄ちゃんが...」

 神崎優衣の嘆きに応えるように神崎士郎がその姿を現した。

「二人を蘇らせてって....その時の私はそれしか思いつかなくて」

「それでお兄ちゃんはダメだって言って...それから」

 お前が救いたい方を選べと、神崎士郎は妹に提案したらしい。

 そして神崎優衣は今ここに立っている城戸真司を生き返らせてくれと願い、

神崎士郎はその通りにしたのだそうだ。

 神崎士郎は真一と真司の胸に手を当て、自分の懐から光り輝く「何か」

を二つ取り出し、自分の胸から取り出した「何か」を真一の胸に押し当て、

もう一つの「何か」を真司の胸にそれぞれ押し込んだ。

「優衣。もう大丈夫だ」

「今の俺の力では一人を生き返らせるので手一杯だ」 

「だが、安心しろ。城戸真一も死なせない」

「奴は、お前と同じ存在になるんだ」

 その一言と同時に、真一の姿はあっという間に光の粒と化して士郎の

手に持つ小さな鏡の中へと吸い込まれていった。

 その「何か」というのが全く見当がつかない四人だったが、ただ一人

香川だけは神崎士郎が城戸真一にコアミラーにかかわる何かを挿入し、

自分の理論の不足部分を補ったのではないかとあたりをつけていた。

 更に深く考察するのであれば、ミラーモンスターが鏡から自分の姿を現し、

人間を攫うのと近い仕組みを城戸真一の身体に組み込んだのではないのだろうか。

 人間の身体にミラーモンスターのコアを埋め込むハイブリット化。

 それが仮面ライダーリュウガの在り方として一番信憑性の高い仮定だ。
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:31:18.54 ID:Nkr8DRMT0
「神崎さん。俺はあんたの言ってることを信じることにするよ」

 香川と真司と満の三人が黙りこくる中、仲村創だけが神崎優衣との

会話を続けていた。

「その上でいくつか質問したい。答えられるだけ答えてくれ」

「まず一つ、君はいつから鏡の中の城戸真一に出会ったんだ?」

「....ミラーワールドの真一君と出会ったのは、あの日の一週間後です」

「お兄ちゃんに連れられてミラーワールドに入った時」

「真一君は、あの日と変わらない姿で私の前に現れました」

「その時、城戸の兄貴は君に何を言ったんだ?」

「恨み言か?それとも感謝なのか?」

「....言いたくありません」

「そうだよな。考えてみれば意味不明な存在にされちまったんだもんな」

「俺だったらぞっとするなぁ。誰もいない鏡の世界で独りぼっち」

「人一人いない世界で動くものと言ったらミラーモンスターしかない」

「君と同じ存在の神崎士郎だっていつまでもそいつの傍にはいられない」

「そりゃ弟である城戸を恨むわけだ」

「神崎がいかにも考え付きそうな姑息で卑怯な手段だな」

「ミラーワールドで活動するライダーにこれ以上の適任者はいないよな」

「なにせ時間無制限でライダーの力を揮う事が唯一可能な被験体」

「ようやく合点がいったぜ。城戸の兄貴は君を守るシステムなんだよ」

「城戸の兄貴の生きたいって思いを利用したこれ以上ない卑劣な策だよ」

 仲村の私怨まみれの糾弾は、まさに正鵠を射ていた。

 優衣の話は真実である。

 もしその真実が九割がた合っているのであれば、城戸真一は自らの生死が

曖昧な状態で数年間ミラーワールドで孤独に過ごしている事になりかねない。

 並の人間であればいつ発狂してもおかしくない状況である。
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:32:48.18 ID:Nkr8DRMT0
「兄貴....」

 真司の顔が悲痛な表情を浮かべる。
 
 たとえどんなに乱暴な兄だったとしても、真司に対しては暴力を振るう

どころか、良き兄として自分とともに育ったかけがえのない存在である。

そんな大切な存在が自分のせいで今も苦しんでいるとなると、真一をして

特別な存在と言わしめた真司にとって、その結末はあまりにも酷すぎた。

「優衣ちゃん...。じゃあ、真一は、俺の兄貴は」

「ミラーモンスターに、なっちまった...ってことなのか?」

「違う!真一君はミラーモンスターじゃない!私と同じ存在よ!」

 真司の悲しみに満ちた視線に耐えきれず、神崎優衣は真司の問いかけを

真っ向から否定した。

 しかし、その否定に対して懐疑的な視線を向ける男がいた。

「神崎さん。じゃあ、ミラーワールドにはどうして人がいないんだ?」

 今まで疑問に思っていなかった当然のように受け入れられていた鏡の

世界における最大の疑問点に満が突っ込んだ質問をした。

「だって、鏡の中の神崎さんとと現実世界の神崎さんが合体したんだろ」

「だったら、そこら辺を歩いている人も同じじゃないとおかしいじゃん」

リュウガの正体に迫ろうとする質問に図星を突かれた優衣はその問いかけにあえて答えず、

逆にミラーワールドとは何かという問いかけに対し、その真実を満達に返した。 
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:33:30.92 ID:Nkr8DRMT0
「佐野君。鏡に映ってる景色とミラーワールドは似て非なるものなのよ」

「鏡に映ってる景色はあくまでも、この世界の有り様を反映しているだけ」

「ミラーワールドはこの世界と隣り合う世界の狭間の領域」

「つまり、今ここにある世界と並行世界との境界線がミラーワールドなの」

 優衣の口から飛び出たミラーワールドの正体に、香川達四人は絶句した。

「じゃあ、コアミラーっていうのは一体何なんだ?」 

「ミラーモンスターを生み出したり、ミラーワールドを作ったりする...」

「コアミラーは、ミラーワールドと隣り合う世界をつなぐ境界線よ」

 優衣の口から次々と明かされる驚愕の真実に、仲村は衝撃を受けながら、

一縷の望みを賭け、優衣に最後の質問をした。

「つまり、ああ畜生...ってことはそれを使って世界を行き来出来るのか」

「はい」

「並行世界がある分だけ、コアミラーも鏡の世界も存在するって事なのか」

「そうです」

「なんてこった....」 

 へなへなと力なく崩れ落ちた仲村は虚ろな目で優衣の部屋の天井を

見つめ始めた。

 仲村が何故ショックで放心状態になったのかを残る三人も痛いほど

理解していた。

 ライダーの戦いは、神崎士郎が願いを叶えるまで永遠に続くのだと。

 仮にこの世界の神崎士郎の野望を打ち砕く一歩手前の状態まで辿り

ついたとしても、タイムベントのカードとコアミラーが神崎士郎の手に

ある以上、時を巻き戻されてしまうのは明々白々。

 つまり、
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:34:02.04 ID:Nkr8DRMT0
「たとえ、この並行世界にいる神崎君を倒しても意味は全くない」

「我々の最後は有り得た筈の一つの世界の結末。そういう事ですか」

「並行世界ではなく、単一世界の話であればまだ救いはあったものの...」

 憤懣やるかたない表情で近くにあった壁を香川が殴った。

 当然だ。

『多くを救う為に一つを犠牲にする勇気』を掲げて英雄たらんとし、この

ライダーバトルを終結させる為に奔走し続けた男にとって、優衣の口から

飛び出た残酷な真実は耐えきれない程の屈辱でしかなかった。

 東條が死んだ。自分に協力してくれた六人の疑似ライダーが落命した。 

 そして今、残った仲間達の命が危険に晒されようとしている。

 しかし、今の香川には自分が掲げたエゴを貫き通すだけの強固なまでの

傲慢ともとれる強烈な自負心が消え去ってしまっていた。

 自らが掲げた理念は全て無駄だったということを悟ってしまったからだ。

 東條の死は無駄死で、疑似ライダーは浅倉への復讐を果たせないまま

神崎士郎に反目し続けた自分のとばっちりを食って全員が焼き殺された。

(なにが、多くを救う為に一つを犠牲にする勇気だ...)

(なにが英雄なんだ...!!)

 結局自分は、自分の口から出た自分でさえ理解できていない一見、高邁に

見える体の良い詭弁で、自分のエゴを満たす為だけに何も知らない無知な、

出会う筈のなかった人々の未来と運命を狂わせた最悪の道化でしかなかった。

 いつ神崎が自分の家族を人質にとってくるのか分からないんだぞ?

 いつまで悠長にしているんだ、香川英行?

「くっ...そぉ....」

 己を口先だけの役立たずと卑下した香川は、人目をはばかる事無く

ボロボロと涙をこぼし、泣き崩れた。
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:34:32.89 ID:Nkr8DRMT0
 神崎士郎はライダーバトルの完遂を狙うだろうし、神崎陣営に与する

ライダー達もそれぞれの思惑はあれど、神崎士郎と同様に自らの願いを

叶えるべく動き出している筈だ。

「神崎さん。ちょっといいですか?」 

 ただ、何をすれば良いのか分からない三人に対して、満だけが不自然な

までに冷静な対応を取っていた。

 優衣を部屋から連れ出した満は、階段を降り、休憩時間中で誰も人がいない

花鶏のホールのテーブルの前に立ち、優衣との先程の話の続きを再開した。

「神崎さん。アンタは、これからどうしたいんですか?」

「アンタと、アンタの兄貴のせいで俺達は死ななきゃいけないんですよ」

「香川先生も、仲村さんも、城戸さんも、家族と未来がある身なんです」

「断じて、化け物風情に捧げる生け贄になんかなっちゃいけない人なんだ」

「香川先生にはな、アンタが死んだ時と同じ位の歳の息子がいるんだぞ?」

「アンタとクソ兄貴と違って、幸せ一杯に毎日を過ごしてるんだ!」

「アンタが生きているせいでしなくてもいい尻拭いを先生はやってんだよ」

 神崎士郎がライダーとして選んだ人間達の命を無価値なものだと断じる

ように、佐野満も人間ではない神崎優衣の命を無意味なものと断じた。

 何故自分はこんなことを言っているのか?

 それすらも理解し切れていない満だったが、ただ一つだけ理解できている

真実があった。

 それは、神崎士郎は神崎優衣の為に命を張るということだった。

 そして、それしか自分達が神崎士郎の仕組んだライダーバトルに勝てない

ということも満は理解していた。
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:35:22.47 ID:Nkr8DRMT0
「アンタを責めても、今更俺達が死ぬ事には変わりは無いんだよ」

「だけどさ、もし罪悪感ってものがアンタにあるのなら...」

 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ満は今から自分が言わんとする事を優衣に

告げる事を躊躇した。

 神崎優衣も被害者には相違ないし、神崎士郎が優衣を生き返らせる事に

腐心する理由も満には理解できていたからだ。

 神崎士郎は『家族』という幸せが欲しかったのだ。

 普通に生きていれば、手に入る平凡な幸せが。

 朝起きたら、父と母と妹が自分にほほえみかけてくれる幸せ。

 昼には学校で友と未来を語らい、友情を育む幸せ。

 夜には両親と妹と友に眠り、また次に訪れる朝を共に迎える幸せ。

 だけど、現実はそうはならなかった。

 士郎は天才であるが故に孤独に苛まれ、優衣は親に愛される事無く

虐待によって命を落とした。

 更に運の悪い事に、ミラーワールドなんて言う訳の分からない物と出会った

士郎は自分の幸せを実現してくれるたった一人の肉親を蘇らせる為に自分の魂を

売り渡してしまった。

 それが全ての始まりだった。

 神崎兄妹がどのような言葉を尽くしても、佐野満はそれを全て否定する。

 なぜなら、満は愛する家族の死を受け入れ前へと進んだからだ。

 だからこそ、今の満には過ぎ去りし過去に囚われ続け、未来なんか

何一つ見ていない神崎士郎の所業を真っ向から否定できる。

「俺達は、これからアンタの兄貴を殺してでもライダーバトルを止める」

「妹のアンタにも責任の一端はあるから、ケジメをつけて貰う」

「それでもさ、アンタに罪がないのは俺達四人とも理解しているんだ」

「だからアンタも命を賭けて、神崎士郎の暴走を止めてくれ」

「それが、自然の摂理をねじ曲げてまで生き残ったアンタの罪の贖いだ」

 満の言葉に、優衣は涙に濡れた瞳で返事を返した。

「分かりました...」

「ああ」

 優衣が深々と頭を下げたの見た満は、そのまま部屋を出ようとした。
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:36:20.20 ID:Nkr8DRMT0
「待ってください」

 ドアノブに手を掛けた満の背後から優衣の声が聞こえた。

 後ろを振り返ると、優衣は自分の鞄の中からある物を取り出していた。

 それは何年も使い込まれた薄汚い小さな鞄だった。

「これは?」 

「お兄ちゃんが隠していたミラーワールドの情報とカード...です」

 その一言を伝え終わった瞬間、神崎優衣は糸の切れた人形のように

床に崩れ落ちた。

 満は崩れ落ちた優衣に目もくれず、鞄の中を一心不乱に漁っていた。

 そして神崎優衣は、満にある一枚のカードを渡した。

「神崎さん。このカードはなんですか?」

「それは、切り札...お兄ちゃんを止めるための切り札です....」

 満はそのカードを自らのデッキへと加えた。

「後...鞄の中にはコアミラーの欠片とブランクのデッキがあります」

「コアミラーの欠片とコアミラーは惹かれ合う性質があります」

「だから、これを使えばコアミラー本体の場所に行けるか....ら」

 満は徐々に爪先から粒子化していく優衣を黙って見つめ続けていた。

 ライダーがミラーワールドでの活動限界時間を迎えるのと同様に、神崎

優衣という存在も現実世界での活動限界時間(いのち)が尽き始めている。

 別にこの女が死んでも死ななくても満にとっては痛くも痒くもないが、

被害者気取りでこのまま死なれるよりも、神崎士郎が隠し続けざるを得ない

情報を差し出したことだけは、神崎優衣もまた神崎士郎のという凶人の

被害者の一人だったという事実を、確かに認めなければならない。
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:37:05.70 ID:Nkr8DRMT0
「お願い...お兄ちゃんを、止めて」

 それと同時に、優衣の部屋でも部屋に残った三人が慌ただしく動く音が

聞こえ始めてきた。

「佐野!」  

 階段を慌ただしく降りてきた仲村が倒れ伏している優衣の傍で所在なく

立っている満へと声を掛ける。

「大変だ!香川先生の家族が攫われた!」

「なんだって!」

 部屋に倒れ伏している優衣に視線を向けた仲村は、一刻も早く自宅へ

戻りたそうにしている香川と目配せをしながら、満に同行を求めた。

「仲村君。城戸君と先に車の中で待っていて下さい」

「どうやら、私にも東條君と同じ選択の時が来たようです」

 自分を見つめる満の視線に、何かを感じ取った香川は部屋の外で待つ真司と

仲村に階下で待つように指示を出し、満と二人きりになるように状況を整えた。

「多くを救う為に一つを犠牲にする勇気、でしたよね?」 

「でも、先生。家族を人質に取られたまま本気で戦えるんですか?」

「俺はね、先生が家族を救う為に俺達を犠牲にするんじゃないか?」

「先生の覚悟が揺らいでいるんじゃないかって疑っているんですよ」

「...」

「確か、最初に先生は言ってましたよね?」

「神崎優衣を殺せば、全ての戦いが終わるって」

「でも、大分最初の予定からずれてしまいましたね」

「どうしますか?今、ここで、神崎優衣を殺しますか?」

 満の言葉に、香川の顔が複雑そうな表情を浮かべた。

 公私混同をしているつもりはなかった。

 いつかはこうなる事を予測していた。
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:37:35.24 ID:Nkr8DRMT0
「先生は、自分が死ぬ事を恐れてるんじゃないんですか?」

 満の言う通り、香川は死ぬ事を恐れていた。

 愛する家族を残し、この戦いで命を落とす事を恐れていた。

 それでも、それでも...自分は家族を、仲間を失いたくない。

 だが、二つを守る事の両立はもう出来なくなってしまった。

 リュウガの正体を知ったとして何になる?

 未だに神崎士郎とオーディンの牙城を崩す手がかりは何も得ていない。

 時を逆行させるタイムベントとミラーワールドにおける全ての事象を

思いのままに操れるコアミラー、そして三枚の強化カードの秘密。

 この間までの自分ならば、無策のまま神崎士郎の逆鱗である神崎優衣に

接触を図ろうとはしなかったはずだ。

 タイムベントの攻略方法はともかく、サバイブとコアミラーに対する

何らかの対抗手段を整えてから満を持して動いただろう。

 心のどこかで、油断があった。

 家族を求め、家族を守るという一点において神崎士郎は未だ人間性を

保っているのではないかと無意識のうちに、自分に降りかかる最悪の

可能性から目を背けてしまっていた。

 その結果として、もう取り返しの付かないところまで自分の妻子は

追い込まれてしまったのだ。

 家族を取り、オルタナティブのデッキを捨て、仲間を見捨てる。

 仲間を取り、オルタナティブとして戦い続け、家族を見捨てる。

 神崎士郎が香川英行に提示した条件はこの二つだった。

 タイムベントを封じる手立てがない以上、今から赴く戦場では必ず

誰かが命を落とすのは明白だった。 

 無策のまま闇雲に戦う事の愚かさを香川は身に染みて理解している。

 理解しているが故に、今も答えの出ない堂々巡りの思索の中に囚われ

続けているのだ。 
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:38:24.70 ID:Nkr8DRMT0
(典子、裕太...)  

 幸せにすると誓った。何故なら自分が愛して愛し抜いた家族だからだ。

 どんな艱難辛苦であっても、必ず撥ねのけ、粉砕すると誓った。

 だが、自らが掲げた理念の中に香川は家族を含められなかった。

 いかに神崎士郎とは言え、人の道に外れた事はしないだろう。

 甘かった。

 自分の秘密を握る最も厄介な敵を神崎士郎が野放しにする訳がない。

 電話越しに泣き叫ぶ息子の声が頭の中で反芻される。

「パパ助けて!ママが鏡の中に引きずり込まれちゃった!」

「うわぁ!やだやだやだあああああああああああああああ!!!」

「助けてえええええええええええ!!!」


「ああ。そっか...だったら、みんなはぼくをみとめてくれるよね?」

「これで、わかったでしょ?」

「きみより、ぼくのほうがせんせいにふさわしいって」


 家族が今も自分の助けを待ち続けている。

 愛する者を守れない恐怖と英雄として戦わなければならない義務。

 その板挟みになりながら、香川英行は苦悶の果てに一つの答えを出した。

「佐野君。答えはとっくに出ているんですよ。最初からね」

 神崎士郎の企みを知った時、仲村と東條を仲間に引き入れて本格的に

ライダーバトルに参戦すると決めた時、香川は自分が掲げた多くを救う為、

一つを犠牲にする勇気という、英雄の覚悟という在り方と共にこの戦いを

戦い抜くと誓った。
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:39:03.22 ID:Nkr8DRMT0
『東條君。私の背中を君に預けます』

『だから、君の命を私に預けて欲しい』

 脳裏に浮かんだ東條の命懸けの挺身が、香川の家族に対する深い愛情を

上回った。たとえこの戦いの果てに、何一つ得るものが無かったとしても、

戦いの中で失われた犠牲を無かった事には出来ない。

 自分の背中には、既にその命を背負うと決めた仲間がいる。

 荒唐無稽な自分の理想と行動に殉じ、命を落とした仲間がいる。 

 自分を信じて、過去を乗り越えようと懸命に足掻く仲間がいる。

 彼等の死を、偽りにすることはできない。出来る訳がない。 

 この選択は間違っている。家族を犠牲にする英雄は英雄ではない。

 英雄以前に、人として大切な何かが破綻している化け物と同類だ。

 それでも、香川英行は自分の意志を変えない。

 仲間を見捨て、愛する家族と共に、全てを投げ出し逃げる。

 悪魔が保障した安寧という選択肢に、今すぐにでも逃げ込みたいという

人として大切な何かを守るという当然の選択肢を切り捨てる。

 英雄は切り捨てる一に、自らの人としての幸せをあてがった。

「ただ、私には覚悟が...覚悟が足りなかった」

「失う覚悟が、大切な何かを失っても尚戦い続ける覚悟が足りなかった」

 妻よ、息子よ。これが英雄たらんとした愚かな男の末路だ。

 狂人と罵るがいい。悪魔と憎むがいい。

 お前達の死を無駄にはしない。

 それでも、私は、私は誓う。

 最後まで掲げた自分の信念は絶対に曲げない。

 多くを救う為に一つを犠牲にする勇気を実現する為に私はお前達の

かけがえのない命を犠牲にし、英雄となり神崎士郎を討つ。

 お前達の命は確かに、私にとってかけがえのない尊いものだ。

 だが....だが....それでも、私は....
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:39:32.86 ID:Nkr8DRMT0

「誰かを守る英雄が、一人だけじゃいけないって誰が決めたんですか?」

「先生は犠牲になっちゃいけない人なんだ。だから僕は先生を守る」

「やりましょう。先生。あと一息です」



 死んでしまった仲間がいる。

 自分を信じて、命を賭けて共に戦ってくれる仲間がいる。

 そう、誰よりも守らなければならない自分の命を香川英行という一人の

狂人の狂言を、理念を丸ごと信じて戦ってくれているのだ。

 ここで家族を取ってしまえば、香川英行は英雄ではなくなってしまう。

 しかし、家族を見捨てても香川英行は英雄ではなくなるのだ。

 死ぬ覚悟はとうに出来ていた。

 あの浅倉威との戦いで命を落とすことになったとしても、罪無き人々を

脅かすあの凶悪殺人犯と差し違えるだけの覚悟は持っていたはずだった。

 しかし、あの時に死んだのは自分ではなかった。

 自分の掲げた英雄の覚悟というエゴの犠牲になったのは東條だった。

 そして今、再び香川英行は『英雄』という都合のいいエゴで自分を

信じて付き従う仲間達の命を犠牲にしようとしている。

 彼等が自分に掛けてくれた言葉と、尊ばれなければならない勇気を。

 そんな彼等に自分が掛けてくれた言葉と、掲げた信念を,,,

 それは許されない冒涜だ。 

 引き返す訳にはいかない。偽りにする事なんて出来ない。

 多くを救う為に一つを犠牲にする勇気。

 それは英雄になる為の条件ではなく、英雄という妄執に囚われた哀れな

道化にピッタリの呪いではないのかと香川は自虐した。

「必ずだ...必ず...私は....」 

 満と父親の別離とは比較にならないほどの、無残で残酷な悲壮なまでの

覚悟を決めた香川は、最後の決断を下した。
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:40:01.31 ID:Nkr8DRMT0
「命を賭けて下さい。佐野君」

「私が必ずオーディンを倒し、この戦いを終わらせます」 

 その決意を聞き届けた満は大きく頷く。

 優衣から受け取った袋の中からミラーワールドに関わる神崎士郎が

隠蔽していた全ての物を渡す。

 満からミラーワールドに関わる資料と三枚のカードを受け取った香川は、

数十枚に渡る資料を自らの脳裏に二分でその全てを焼き付けた。

 そして、三枚のうち二枚のカードをオルタナティヴのデッキに挿入し、

満から渡されたブランク状態のデッキを白衣のポケットの中へと収納した。

「行きましょう。先生」

「リュウガは俺が倒します。そして、俺が先生の盾になります」

「だから、俺達と最後まで戦って下さい。お願いします」 

「ええ。どうせやるなら派手に行きましょう」

「さて!ミラーワールドに殴り込みを掛けにいくとしましょうか!」

 ライダーバトルが終結するまで、残り五ヶ月。

 遂に神崎士郎と香川英行との全面戦争の火蓋が切って落とされたのだった。
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:40:28.00 ID:Nkr8DRMT0
 第二十七話 全てを失ってなお....


〜香川邸〜 

 花鶏を後にした満達が香川の自宅に到着した時、既に香川の妻子の姿は

そこになかった。

「遅かったな。香川」

 居間に四人のライダーが集結する中、食器棚のガラスに神崎士郎が

映り込み、平坦な口調で香川の到着の遅れをなじる。

「ええ。少しばかり取り乱してしまいましてね」 

「色々悩んだ末に、ようやく答えが出たんですよ」 

 香川の答えと共に、神崎士郎は姿を消した。

「あなた!」

 姿を消した神崎士郎は、香川の妻を最初に連れてきた。

 事情が掴めず、自らの身体が徐々に消えつつある恐怖に苛まれながらも

香川典子は恐怖に顔を歪めながら、自分の愛する夫が自分は見捨てても息子だけは

助けてくれるという期待の籠もった視線を夫へ向ける。

 その腕には、意識を失い眠り続ける自分の愛する息子が抱かれていた。

「典子...」

 泣き出しそうな表情で、しかし...それでも自分の決意は鈍らないと

言わんばかりの形相で香川英行はオルタナティブに変身した。
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:41:07.80 ID:Nkr8DRMT0
 それは、今から妻子を犠牲するという現実を直視できないという香川の

心の悲痛な叫びを代弁するような行為だった。

 香川がライダーに変身したことを受け、真司も龍騎のデッキを取り出し、

香川の助太刀に入ろうとするが、それを満が阻止する。

 更に仲村が真司の背後に回り込み、真司が変身しないように全力で

その身体を満と共に拘束する。
 
「そう、それがあなたの答えなのね...」 
 
 オルタナティブに変身しながら一向に自分と息子を助ける為にミラーワールドへ

入ってこない夫の真意を悟った香川典子は寂しげに微笑み、鏡越しに立つ香川と

その仲間達に一声をかけ、彼等がこの先苛まれるであろう罪悪感を少しでも

和らげようと、迫り来る死の恐怖に抗いながら笑顔を浮かべ、言葉を紡ぎ始める。

「あなた。一足先に私と裕太は行ってますね」

「いつかまた。いつかまた...家族三人で会いましょうね」

「仲村君。最後までこの人のことを守ってあげてね」

「な、何考えてんだよ!何考えてんだよ!アンタ!」 

 助けられるはずの命をむざむざ見捨てようとする正気の沙汰とは思えない香川の

判断に真司は我を忘れて激昂した。

「ふざけんな!アンタの家族だろうが!見捨てて良い訳なんかない!」

「待ってくれ神崎!その人達を殺さないでくれ!」

 正気を疑うような香川の判断に怯えながらも、真司は懸命に何とか香川の妻子を

助けようと試みた。
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:41:44.74 ID:Nkr8DRMT0
「離せ!離せよ!お前らも何考えてんだよ!」

「いいのよ。優しい人」

 必死に満と仲村の拘束を振り解こうともがく真司に、典子は儚げに微笑みかけ、

自分の死が夫と目の前にいるその仲間達に遺恨を残さないようにする為、残された

時間の許す限り、一つでも多くの言葉を重ねた。

「私は英行さんが何をしているのか理解できないけど」

「英行さんがこうすると言うことは、きっとそれは大切なこと」

「貴方達を守る為に、英行さんが私達を捧げるというのならそれは本望」

「だから、あなた達はあなた達のまま強く生き抜いて....」

「ああっ...あああああああああああああああ!!!」

 ミラーワールドの止まっていた時が一気に動き出す。

 限界時間をとうに過ぎていた香川母子の身体が徐々に粒子と化していく。

「英行さん...だい、すき...」

「典子...裕太...。また、また明日に...」

「ええ。また、明日。会いましょう...」

 真司は狂乱状態に陥りながら、ただ目の前で何の罪もない母子が消滅する様を

見殺しにすることだけしか出来なかった。
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:42:34.28 ID:Nkr8DRMT0
「香川ああああああああああ!!!!」
 
 絶叫と同時に真司は拘束を振り解き、目の前に立つオルタナティブへ殴りかかる。

「なんでだよ!なんで見殺しにしたんだ!」

「ミラーワールドを閉じる為に闘ってるんじゃなかったのかよ!」

「助けられたはずだろう!アンタだったら!アンタだったら!」 

 消えゆく妻子に手を差し伸べず、意味不明な言葉を掛けて見殺しにした

香川の行いは、助けたくても自分の手の届かない所で仲間を二人失った

心の痛みが癒えない真司の逆鱗に触れてしまった。

「私は!自分の掲げた信念を最後まで曲げたりはしない!」

 自分の目の前に飛び込んできた拳を捕まえた香川は、真司に向き直り

表情の見えないオルタナティブのマスクのまま絶叫した。

 一つ一つ仮面の下にこぼれ落ちていく自分の人間性(なみだ)。

 いっそこの瞬間に、自分を形成している全てを投げ捨てて何もかもを

忘れ去りたい。

 タイムベントのカードがあれば、それを使ってライダーバトルに参加

しようとしたその時まで遡り、この結末をあの時の自分に教えてやりたい。

 この瞬間を以て、香川英行はライダーバトルに参加した事で、かつて己が

築き上げ、その手中に収めてきた全てを自らの手でぶち壊した愚者へと成り果てて

しまった。

 英雄でもない、父親でもない、人間でもない。

 それでもなお、その胸中には譲れない信念が残っていた。
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:43:10.26 ID:Nkr8DRMT0
「私の背中には預けられた命がある!」

「守れなかった命もある!だが、これ以上...これ以上」

「神崎士郎!貴様に私の仲間を殺させはしない!」

 遅ればせながら、香川英行は自分が甚だしい思い違いをしていたことに

気が付いたのだった。

 未だ英雄に至れない英雄志望者(オルタナティヴ)は、奇しくもかつて満が

自分に語ったもう一つの英雄としての在り方を体現している存在が、今まさに

自分の目の前に立っている事に唐突に気が付いた。

 自分が掲げなければいけなかった英雄の覚悟と在り方は、多くを救う為、

一つを犠牲にする勇気ではなかった。

 一人でも多くの誰かを守る為に、自らの身を挺し、命を張って最後まで

戦い続ける覚悟と信念こそが真の英雄なる為に必要な勇気だったのだ。

 東條の最後と、真司の激昂を通して香川英行はようやくその答えに

辿りつくことが出来た。

 英雄はなろうと思ってなれるような存在ではない。

 多くの困難と苦難に真正面から立ち向かう中で、それに屈しないだけの

心の熱さと強さを持つ者だけが成り得る存在なのだから。

 何もかもを失った自分だからこそ、ようやくその入り口に立てたのだ。

 ならば、これから自分がしなければならないことは...

 最後まで自分の掲げた英雄像(エゴ)を貫き通すのみなのだから。
  
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:44:31.52 ID:Nkr8DRMT0
「愚かな選択をしたな。香川英行」 

「お前が救おうとした仲間は果たしてお前の家族の命より重かったのか?」

 変身を解き、ライダーという仮面を脱ぎ捨てた英行は鏡の中でまるで

香川の葛藤に無関心を貫き、静観を決め込む神崎士郎と相対する。

「ええ。確かに君の言う通りですよ」

「私は自己満足の為に妻子を見殺し、そして仲間を死に追いやりました」

 涙を流しながらも、その表情は一片の曇りすら見えない笑顔だった。

 それは、背後に控える三人はともかく無表情を貫かせる神崎士郎さえも

戦慄を隠し得ないほどのおぞましさを放っていた。

「ですが、もう私は英雄でも、父親でさえなくても...いや」

「私は...もう、人間でさえなくてもいい」

 その言葉と共に、香川英行はオルタナティブのデッキを鏡の前に掲げる。

 満も創も、そして真司も英行に倣い、デッキを翳す。


「愛する者を喪う事が、全ての終わりというのなら」



「私はそれを否定する。神崎士郎、私はお前の全てを否定してやる!」



「オーディンを出せ、神崎士郎」



「みっともなく過去に固執する貴様の止まった時を、私が破壊してやる!」
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:45:06.90 ID:Nkr8DRMT0
 愛する唯一の肉親の存在を否定する香川の一言に、神崎士郎も憤怒を

露わにしながら自らの背後に控える忠実な手下達を呼び寄せる。

「いいだろう。香川英行」

「貴様の挑戦を受けて立つ」

 その瞬間、香川邸のダイニングに三つの鏡が出現した。鏡の中には、

ゾルダ、リュウガ、オーディンの三人のライダーが集結していた。

「香川さん。俺は、アンタの言ってることが無茶苦茶にしか聞こえない」

 リュウガが待ち受ける鏡の隣に立つゾルダの鏡の前に立った真司は

オーディンの前に立つ香川に声を掛けた。

「さっきのことだって、家族を救おうとすれば出来た筈なんだ」

「でも、アンタは英雄という幻想に囚われて、大切な家族を殺した」

「ええ。どうやら私は天才ではなくただのバカだったようですね」

「後悔もしているし、助けに行けば良かったとさえ思っています」

「しかし城戸君、私はね、今は家族の死を悼むことよりも...」

「目の前の頭のイカれた野郎をぶちのめしたい気分なんですよ」

 今までとは正反対の性格に反転してしまった香川に思わず毒気を抜かれた

真司は、どうしたものかと思案にくれた末にゾルダの鏡の前から離れ、

香川の背後に立ったのだった。
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:45:43.73 ID:Nkr8DRMT0
(はぁ...蓮の悪態が懐かしいよ。俺も美穂の事、悪く言えないなぁ)

「じゃあ、俺もオーディンをぶちのめす事にします」

「考えてみれば、手塚を手にかけたのはコイツ以外に考えられないし」

 真司に倣い、満も自分が立つリュウガの鏡の前から隣に立つ仲村の隣へ並ぶ。 

「よし。だったら俺も」

「どうせやるなら2対1で相手をボコボコにした方が楽ですよねぇ?先輩」 

 満の目の前には神崎士郎の恩恵を受けたゾルダが立っている。

「ああ。その通りだ。2対1なら負けっこねぇよ」

 満の発言に頷いた仲村も自信ありげな笑みを浮かべ、鏡の前に立つゾルダに

対して中指を突き立て挑発する。

「では、諸君」

「ここらで一つ、神様気取りの神崎士郎君をぶちのめすとしましょうか」

 その確認に、全員が頷いた。

「死ぬなよ。皆」 

 この場にいる全員の気持ちを代弁した真司がデッキを翳す。

「「「「変身!!!!」」」」

 そして、四人は同時に変身した。

 龍騎とオルタナティブはオーディンの待ち受ける鏡の世界へ。

 アビスとタイガはゾルダの待つ世界へとそれぞれ飛び込んでいった。

 
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 21:59:50.93 ID:Nkr8DRMT0
第二十八話 死闘、開戦

 アビスとタイガが辿りついた今回の戦場は、身を隠す遮蔽物が何もない

夜を模した満点の星が瞬く月下の砂漠だった。

 煌々とアビスとタイガを照らす満月の月明かりと星々の煌めきだけが

唯一の光源だった。

 見渡す限り途方もなく広がる砂漠は、地の利を生かして一撃翌離脱の奇襲戦法を

得意とするタイガと、正面切って力でゴリ押しする白兵戦特化のアビスにとって

著しい不利を強いていた。

「strike vent」

 タイガは盾代わりとなる巨大な虎の爪を模した籠手を呼び出し、油断なく

周囲を警戒する。

 土中を自在に泳げるアビスハンマーは、既に龍騎に変装した城戸真一によって

瞬殺されてしまい、残されたアビスラッシャーは白兵戦に特化しているが故に、

迂闊にアドベントのカードを切ることは出来ない。

 何故なら、相手の手の内が分からないうちに... 

「佐野!」

「のわあああっ!」 

 油断なく周囲を警戒していたタイガが、慌ててアビスの身体を引っ掴み自分達が

現在立っている場所から全力で飛び退く。 

 ドガアアアアアアン!!

 わずか一瞬の差だった。

 先程まで自分達が立っていた場所に、巨大な砲弾が着弾した。

 巻き上げられた大量の砂が目眩ましとしてタイガとアビスの頭上に降り注ぐ。

「クソッ!視界が悪すぎる!」

 ピンポイントに二、三、四弾目と、タイガとアビスが回避しようとする

場所へと巨大な砲弾が次々と着弾する。

 カードをバイザーにベントインしようにも、それだけの時間がない。

 そして....
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:00:24.38 ID:Nkr8DRMT0
「ぐあああああ!!」

 六弾目。遂に巨大な砲弾がタイガの左腕を直撃した。

 デストクローの爪の部分を掠めた砲弾はそのまま爆発し、籠手を粉砕した。

「先輩!」

「佐野!あそこだ!撃て!」

 半壊し、使い物にならなくなった左手の籠手を投げ捨て、着弾した左腕の骨が

折れていない事を確認したタイガは、微かに聞こえる機械音の方向を指し、

アビスにその場所にめがけて攻撃を仕掛けるように命令する。

「うおおおおおおおお!!」 

 アビスバイザーで限界まで圧縮された水の鎌鼬が、自分達を狙撃した何者かの

存在を遂に捉えた。

「ゴオオオオ....」

 それはアドベントで呼び出されたマグナギガだった。

 二つ名で鋼の巨人と称されるマグナギガは、その巨体故に機動性に著しく欠け、

攻撃の的にされるというデメリットを抱えていた。

 しかし、その巨体を覆い隠せるだけの地の利があれば、充分にその重火力を

活かせる強みがある。更にAP6000という高い攻撃翌力と防御力を兼ね備えている

マグナギガにとってアビスバイザーの不可視の鎌鼬など豆鉄砲と何ら変わらない。

 目的を果たしたマグナギガは、あっという間に姿を消した。

 マグナギガが消え、次の攻撃に備える為の小さな余裕が両陣営に訪れる。
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:01:19.46 ID:Nkr8DRMT0
「くそっ。地の利は敵さんにあるって訳か」

「先輩。今手持ちのカードは何枚あるんですか?」 

「サバイブを入れて3枚だ」

「3枚?なんでです?」

「嫌な予感がして、城戸にフリーズベントを渡した」

「あー...ナイス判断ですね...」

「佐野、このカードをお前に預ける。持っててくれ」

 突然、意味不明なことをし始めたタイガに面食らったアビスだったが、

「敵を欺くには味方からっていうだろ?」

「なるほど!じゃ、俺も先輩にこのカードを預けます!」

 互いの契約モンスターのアドベントのカードを交換した二人のライダーは

未だに姿を見せないゾルダに対する警戒を強め続けた。

 今頃、香川と真司はオーディンと交戦しているのだろう。

 二人ともオーディンを倒すと息巻きながらも、オーディンのスペックは

全ライダー中最高を誇っている。

 前準備無しに無策で戦えば、いかに瞬間記憶能力を持つ香川や残存する

ライダーの中でも特に高い実力を誇る真司であっても敗北は必至である。

 故に仲村創は、香川邸に突入する前の待機時間に真司へと自分の持つ

モンスターの動きを止めるフリーズベントを渡しておいたのだった。

 タイガもアビスもあずかり知らぬとは言え、今のゾルダは神崎士郎に

よって全ライダー中で最多のカードを持つライダーである。

 仮に満がリュウガと1対1で相対する事を選んでいれば、確実に真司か

仲村のどちらかはゾルダの圧倒的なカードの前に葬られていた。

 また、放置されたリュウガの存在も無視できない。

 更に最悪な事に、アビスもタイガもゾルダが18枚のアドベントカードと

ユナイトベントによる合体モンスターにより20枚以上のカードが使えると

ことを知らない。

 故に二人が勝利を収める為には、一度しか切れない切り札の切り所が

重要になる。 

 だが、それを許すほど限界まで強化されたゾルダは甘くない。 

 何の為にゾルダがアドベントカードでマグナギガを召喚し、初手から

地の利を生かした戦法を採用したのか?
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:01:51.20 ID:Nkr8DRMT0
「まずい!先輩、さっきのあれは陽動作戦だ!」 

 咄嗟にその事実に気が付いたアビスはデッキからカードを引き抜き

隣に立つタイガのバイザーにそれをベントインしようと試みた。

「くけえええええええええ!!!」

 甲高い鳴き声と共に、満の身体が柔らかい砂丘に引きずり倒される。

「ベルデ?!」

 かつて一度だけ相対した姿を消すカメレオンのミラーモンスターと契約していた

ライダーの名前を満は最後に叫んだ。

「待て!」 

「Advent」

 バイザーのスロット部分にはカードが既に差し込まていた。

 辛うじてバイザーにカードを読み込ませたタイガだったが、次の瞬間、

何か硬い石の様な物が自分の顔面に叩き付けられ、思わずバランスを欠き

よろめいてしまう。

 怯んだ隙に、今度はデストバイザーに紐のようなものが絡みつく。

 かつん!という音と共にタイガは自分に投擲されたものがヨーヨーだと悟った。

 だが、それを理解したと同時に自分の手からデストバイザーがすっぽ抜け、

あらぬ方向へと吹き飛んでいく。

「しまった!」 

 デストバイザーと片方のデストクローを失ったタイガの無防備な左のこめかみに

金色に輝く水牛の角が直撃する。

 意識を刈り取る重い一撃を右手のデストクローで防御するが、代償として

タイガはゾルダに無防備な腹部を晒すという最悪の事態を作り出してしまった。

「これで、終わりっす!」

 ギガホーンを振り抜いた回転を殺さないまま一回転したゾルダは左手に持つ

マグナバイザーを零距離で連射し、タイガのデッキと関節部分を特に集中的に狙い、

撃ち続けた。

「ガアアアアアアアアアア!!!!」 

 マグナバイザーの連射を強引にデストクローで断ち切り、ふらつく身体で

何とか距離を取ろうとするタイガだったが...
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:02:46.71 ID:Nkr8DRMT0
「どこに行こうとしているんです?」 

 ギガホーンの砲口から放たれた緑色の一撃に意識を刈り取られてしまう。
 
 タイガを超える鮮やかな奇襲を成功させたベルデは、バイオグリーザが

戻ってくる前に、確実にタイガを仕留めようとギガホーンの角部分を

その無防備な腹部のカードデッキに狙いを定め、一息に振り下ろす!

「ガオオオオオオオオオオオオ」

 だが、間一髪の所で満に渡したデストワイルダーのアドベントカードが

その効果を遺憾なく発揮する。

「なにっ!」 

 無制限に成長を続けるワイルドマッスルと、契約主である東條の死後も

定期的にミラーモンスターを与えられたデストワイルダーの強さは、既に香川の

契約していたサイコローグのAPを超えるまでに成長していた。

 血に飢えた左右のデストクローが袈裟懸けにベルデを正面から切り裂く。

 ゾルダは左側の攻撃は回避したものの、背後を晒してしまう。

 そして右側からの横薙の一閃を躱し損ね、大量の血を撒き散らす重傷を

負ってしまう。 
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:03:24.67 ID:Nkr8DRMT0
「先輩ーーーーー!」

 そして、タイガのアシストによりバイオグリーザに捕食される間一髪の

タイミングでアビスラッシャーに命を救われたアビスが、猛然とタイガと

交戦しているベルデめがけて猛突進をかましてきた。

「アビスラッシャー!」

「ッシャアアアアアアアアアアア!!!!」 

「くっ!」

「clear vent」

 自分の不利を悟ったゾルダは、最後の力を振り絞りマグナバイザーで

デストワイルダーの目に発砲し、その隙を突いて姿を消して離脱する。

「アビスラッシャー!追うな!」

 手負いのゾルダを追撃し、トドメを刺すよりも、アビスは目の前に倒れている

仲村の安全を優先する事にした。

「先輩!先輩!しっかりしてください」

「あ、ああ。間に合ったか。佐野」

 フラフラになりながらも、なんとか立ち上がったタイガは周囲を警戒し、

姿を消したゾルダとの距離を稼ぐべく、満の肩を借りながら這々の体で

今いる場所から離脱を始めたのだった。
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:04:14.75 ID:Nkr8DRMT0
〜〜

 タイガとアビスが月下の砂漠を模した鏡の中の戦場で戦う中、オルタナティヴと

龍騎は荒れ果てた瓦礫の山を模した廃墟で激しい戦闘を繰り広げていた。

 鉄骨、瓦礫、コンクリートの破片。そしてミラーモンスター。

 それらが10mを超える小高い塔の様にそびえ立つ戦場の中で、真司と

香川の二人を待ち受けていたのはリュウガだった。

 既にリュウガはアドベントのカードで自らの契約獣ドラグブラッカーを召喚し、

先手必勝とばかりに空の利を生かしたドラグブラッカーによる絨毯爆撃で龍騎と

オルタナティヴを抹殺せんと躍りかかった。

 黒き龍の口から吐き出される漆黒の火炎弾は、全てを焼き尽くす赤き龍の

灼熱の火炎弾と異なり、全てを凍てつかせる波動を纏った死の吐息だった。

 瓦礫の根元にドラグブラッカーのブレスが着弾する。

 凄まじい反動と共に石化した瓦礫の塔が粉砕され、その破片が散弾の如く

周囲に撒き散らされる。

「香川さん!オーディンはどこにいるんですか!」

「おそらく静観を決め込んでいるのでしょう!」

「私と君、仲村君と佐野君のどちらかが弱った所を叩くはずです」

「更に!あの黒い龍の放つ炎は当たった物を全て石化させます!」

「なんだって!」

「だから...今は隠れましょう!」

 瓦礫の塔に身を隠しながら全てを石化させる死の吐息をかいくぐり、二人は

ようやくドラグブレッカーとリュウガを振り切り、未だ無事な瓦礫の山の隙間に

身を隠すことに成功した。
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:04:50.05 ID:Nkr8DRMT0
「だぁっ!埒があかねぇ!このままだとじり貧だ。体力が尽きる!」

「香川さん!俺がドラグレッダーを出して奴を叩き落とします」

「良いですよ!ですがあの炎に焼かれれば君の契約獣が石になります」

「だから...今から私が説明する通りにリュウガと交戦して下さい」

 息切れしながら龍騎がドラグレッダーを使った空中戦を提案する。

 オルタナティヴもそれには概ね賛成したものの、リュウガの契約獣である

ドラグブラッカーのブレスの石化効果を考慮した作戦を練っていた。

「まず最初にこの戦場に潜む大量の雑魚モンスターを私が引きつけます」

「おそらくリュウガはサバイブのカードをあるタイミングで使う筈です」

「全てのカードを使い切る寸前、互いのカードが一枚になった時...」

「ファイナルベントを使用して君にトドメを刺そうとするはずです」

「その時君は敢えてリュウガから離れ、私のいる場所へ合流して下さい」

「勝算は?!ハッキリ言ってそれ、上手くいくのかよ?」

 矢継ぎ早に出される香川の指示に疑問を呈しながらも、真司は直感で

リュウガが現時点の自分を上回る力を持っているのではないかと考えた。

「ええ。上手くいきますよ。更に言えばリュウガは私を狙うはずです」

「故に、城戸さんにはリュウガのカードを限界まで削って欲しいのです」

「サバイブの猛攻を耐えきる策は既に備えています」

「この勝負、リュウガのサバイブの猛攻を耐えきれば我々の勝利です」

「香川さん....。わかった。陽動をお願いします」

 ドラグブラッカーのブレスが真司と香川の隠れている場所のすぐ隣の

瓦礫の塔を直撃し、粉々に砕け散る。

「wheel vent」

 まず最初に瓦礫の山の隙間から飛び出したのはオルタナティヴだった。

 デッキからサイコローグをバイクに変形させるホイールベントのカードを

引き抜き、スラッシュリーダーへと読み込ませる。
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:05:40.03 ID:Nkr8DRMT0
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

 雄叫びを上げ、猛然と主の元へと駆けつけたサイコローグは己の身体を

一瞬のうちにバイクへと変化させ、オルタナティヴをその背中に乗せる。

「ふん、陽動か...」

 仮面の下で不敵に微笑んだ城戸真一は、ミラーワールドでのぞき見た

オルタナティヴの使用カードの枚数と内容を踏まえた上で、眼下の地上で

五月蠅く這い回る疑似ライダーを確実に葬る為の策を発動した。

「やれ!」

 自分の左手に隠し持つコアミラーの欠片をリュウガは躊躇なく使った。

 神崎士郎から渡されたミラーワールドの権限にアクセスできる、いわば

一度限りの使い捨て程度の力しかない欠片だが、それでも所持カードが十枚

未満の疑似ライダーを葬り去ることが出来るだけのミラーモンスターを

一斉に召喚する事等、今のリュウガにとってはいとも容易いことだった。

「なにっ?!」

 リュウガの攻撃を真司から自分へと移し替えるべく、サイコローダーを

駆りながらドラグブラッカーの照準を狂わせていたオルタナティヴだが、

地面が爆発し、地中から大量出現するシアゴーストを初めとする夥しい

ミラーモンスターの大群には為す術がない。

(くそっ!これでは...為す術もなくやられてしまう!)

 リュウガが呼び出したミラーモンスターの総数は約300体。

 リュウガにとっても一度きりの使用しかできないものの、カードという

枚数の制限された戦闘手段しか持ち得ないライダーにとって、この数の

暴力は、まさに打つ手無しの絶体絶命の窮地に追い込む常勝の策と言える。
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:06:23.60 ID:Nkr8DRMT0
 サイコローダーから人型に戻ったサイコローグも懸命に二本の得物を

振り回し、自らを押しつぶそうと攻撃を加え続けるミラーモンスターを

切り捨てていくが、それでも単純で圧倒的な数量を捌き切れない。

 オルタナティヴもカードがあるだけ、サイコローグよりかは今の所は

善戦出来ているが、ジリ貧な事には変わりは無い。
 
 更に最悪なことに、巨体を誇るディスパイダーが蜘蛛の糸で雁字搦めに

されたサイコローグへと襲いかかった。

 蜘蛛の糸で全身をミイラの様に絡め取られたサイコローグは、身動きが

出来ないまま為す術もなく、蜘蛛の口の中へと運ばれていく。

「ならば!」

 ここまで追い込まれた以上、躊躇う必要はもう無い。

 そう判断したオルタナティヴは、コールサモンと時を同じくしてロール

アウトされた、疑似ライダー専用の新たなカードの使用へと踏み切る。

「Accele vent」

 瞬間加速のカードを使ったオルタナティブは、そのスペック上の限界の

三倍を超えるジャンプ力で空中へと跳躍した。

 そして同時に黒いライダーは己のデッキから三枚のカードを引き抜き、

一枚を地面にもう一枚をサイコローグへ、最後の一枚をディスパイダーへ

投げつける。

「Seal!」 

「Aports!」

「Contract!」

 スラッシュリーダーに読み込まれた三枚の虎の子のオルタナティヴ専用の

カードは誤作動を起こすことなく、その効果を覿面に発揮した。
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:06:57.10 ID:Nkr8DRMT0
 地面に突き刺さった「封印」のカードは、その半径100m以内に存在する

ミラーモンスターの身体の自由を奪う。

 二枚目の「呼び寄せ」のカードはサイコローグの肩に突き刺さると同時に

彼を糸の牢獄から解き放ち、一秒も経過しない内に空中に留まる自らの

契約主の傍へと呼び寄せた。

 そして最後の一枚である契約のカードは狙い誤る事なくディスパイダーの

背中に突き刺さり、そのままオルタナティヴの新たな契約獣(戦力)として

吸収されたのであった。

「今だ!やれッ!」

「しゃあっ!」 

 ドラグブラッカーの背に乗り、空中で未だ事態を静観し続けるリュウガに

一気呵成に勝負を決めるべく龍騎とドラグレッダーが急襲を仕掛ける。

 赤と黒、限りなく同じ存在でありながらどこまでも正反対な二匹の龍と

二人のライダー達は死力を尽くし、今ここで雌雄を決さんとばかりの覇気を

身体から立ち上らせながら、己に相対する敵(自分)へと刃を向け、敢然と

斬りかかっていく。
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:07:43.04 ID:Nkr8DRMT0
 互いの契約した赤龍と黒龍が一つの身体を持ちながら二つの頭を持って

生まれた憎しみ合う双頭の獅子の如く、目の前に現れた不倶戴天の仇敵の

首を叩ききろうと、その身を絡ませ合いながら死に物狂いの死闘を開始する。

 ドラグレッダーがドラグブラッカーの喉首を振り向きざまの一瞬の刹那の

交差で噛みちぎったかと思えば、ドラグブラッカーの返す石化の炎の一撃で

ドラグレッダーの鋭利な尾が脆くなった石像の如く砕け散る。

 敵意と殺意と憎悪が一つの形を取り『怨』という明確な互いを排除する

域にまで達した二体の龍は、眼下で戦いを続ける主達そっちのけで高ぶりに

昂ぶり続けた己の殺意を眼前の相手へとぶつけるべく、最上の威力を誇る一撃を

吐き出そうとした。

 そして、地上に降り立ったリュウガと龍騎の戦いも熾烈を極めた。

 先に仕掛けたのは龍騎だった。

 しかし、ソードベントのカードをバイザーにベントインして呼び出した

龍騎へと敢然と殴りかかり、素手でありながら、まるで数秒先の未来を

予知しているかのようなトリッキーな動きでリュウガは龍騎を圧倒する。

 大上段に振りかぶった龍騎の右肘を押さえ、前屈する左膝の皿を目掛け

強化された脚力による下段蹴りを龍騎へ放とうとするリュウガ。

「おわぁっ!」

 膝を蹴り砕かれれば、その時点で著しい戦闘力の低下は免れない。

 敵の次の一手を読み切った龍騎は、手首を器用に回転させ、その鋒をリュウガの

頭上へと突き立てようと試みた。

 リュウガもまた龍騎の攻撃の意図を察知したのか、瞬時に自分の危機を悟ったと

同時に退き、龍騎との間に充分な距離を取る。
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:08:23.26 ID:Nkr8DRMT0
「俺という最強のライダーの為の器となれ!」 

 狂戦士の如き強さを龍騎に見せつけたリュウガは、異なる色でありながら

真司と全く同じ声と姿、そして力と共に猛然と襲いかかってきた。

 空中で絡み合うドラグレッダーとドラグブラッカーも互いの主の意図する

戦いへと加勢する為に、我先にと地上へと駆けつける。

 全てを石化させる黒炎弾を放ち、龍騎を追い詰めるドラグブラッカーに

ドラグレッダーがすかさずその身を盾にし、龍騎を乱暴ではあるものの、

リュウガの近くへと放り投げる。  

「Strike vent」

「Strike vent」

 互いの契約獣が放った赤と黒の炎弾が龍騎とリュウガを吹き飛ばす。

「「がはっ!」」

 近くにあった未だに倒れずに直立する瓦礫の塔へ、二人のライダーは

激突した。

「あああああああああああああああ!!!」

「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 狂った様に叫び合う龍騎とリュウガは、互いを殺し、滅ぼしこの世界から

抹消せんとすべく己の持ちうる全ての命の炎を燃やしながら駆けだした。
  
「Sword vent」

 大上段に振りかぶったリュウガのドラグセイバーが龍騎の頭上へと

振り下ろされる。龍騎はその一撃を真っ向から受け止め、強引に自らの

体を左へ捻り、無防備なリュウガの下半身へとその刃を振り抜かんとする。

 しかしリュウガはあえて自らの身体を前進させ、龍騎へと衝突させる事により

龍騎の次の攻撃の一手を潰す事に成功する。

 吹き飛ばされた龍騎は防御の姿勢を整える暇も無いまま、一瞬で自分との

間合いを詰めたリュウガの斬撃を為す術もなく受け続けてしまう。

 一、二、三撃と振り下ろされ、滅多切りにされ続けた龍騎は敢えて膝をついて

項垂れ、無防備な頭部を差し出すことでリュウガに生じるであろう慢心を利用した

カウンターを放つ事にした。

 案の定、その誘いに乗ったリュウガはその頭部へと渾身の一撃を放ち、

龍騎の頭部を粉砕せんとする全力の一撃を繰り出す。

(いまだ!)

 至近距離から両手で振り下ろされたドラグセイバーの刃の下、両手持ちであるが

故に生じてしまった胴体と胸に生じた僅かな空間に龍騎は全身のバネを使い、

一気に飛び込んだ。
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:09:02.51 ID:Nkr8DRMT0
「喰らえ!」

 ドラグセイバーの内側に潜り込んだ龍騎は、まず自分の膝による二発の

膝蹴りをリュウガのデッキへと見舞い、身体のバネを利用した頭突きを

リュウガの顎へと叩き込む。

 激しく頭を揺らす頭突きのダメージを堪えることは容易い。

 だが、いくらミラーワールドにおける制限時間が無制限とはいえ、リュウガの

デッキを破壊されてしまえば、その時点で城戸真一の敗北は決定する。

(なんて厄介な奴なんだ!) 

 リュウガとその契約獣ドラグブラッカーの攻撃翌力は、龍騎とドラグレッダーの

攻撃翌力よりも一段階上の数値を誇っていた。

 カードも、契約獣の持つ力も全てが龍騎を上回っている筈なのだ。

 自らに襲いかかる龍騎の渾身の右のストレートから始まる拳の乱打を両腕で

ガードし、リュウガはなんとか嵐のような猛攻を耐えきった。

 龍騎は目の前に立つリュウガへと右、左、右斜め、左下段蹴り、前蹴りと

息もつかせぬ猛攻撃を仕掛ける。精緻かつ絶大な破壊力を誇る一撃を、リュウガは

その威力を既に知り抜いている。

 なぜなら、龍騎とリュウガは表裏一体。全く同じ存在だからだ。

「ドラァッ!」

 身体を捻った勢いそのままに龍騎は左回転に廻って胴廻し回転蹴りを放つ。

 リュウガは慌てて頭部をガードするが、完全に蹴りの威力を消す事は出来ず、

右手に持っていたドラグセイバーを取り落としてしまった。
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:09:39.74 ID:Nkr8DRMT0
 武器を無くし、素手同士で殴り合う状況へと流れを引き寄せた龍騎は 蹴りの

回転を殺さないまま、後ろに下がりながら、リュウガの落としたドラグセイバーを

蹴り上げ、自らの右手につかみ取る。

 切り札を使わずして楽に仕留めることが出来る相手ではない。  

 修羅と化した弟をそう評した城戸真一は、神崎士郎がリュウガに与えた恩恵を

今ここで使うことにした。 

 かつての肉親の断末魔を耳にした城戸真司は、ここぞとばかりに最後の

力を振りしぼり、リュウガを攻め立てる。

 しかし、リュウガのこめかみを打ち抜かんと振り抜かれた左拳は

「なっ?!」

 ピン刺しの標本の様になった蝶の様にピクリとも動かなくなっていた。

「どうして!なんで動かないんだ!!」

 リュウガの顔面、後数センチの所で真司の身体は目の前の相手を殴り抜く突きを

放とうとした瞬間のまま、停止していた。

「真司ぃぃぃぃ....」

 リュウガの身体から黒い炎が吹き上がる。

「その肉体を寄越せえええええええええ!!!」

 そして、その黒い炎と同化したリュウガは身動き一つ取れない龍騎の

身体へとまとわりついたのだった。
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:10:49.14 ID:Nkr8DRMT0
〜現時点でライダーが保持しているカードの残り枚数〜

龍騎 ガードベント
   リターンベント
   フリーズベント

アビス ソードベント
    ストライクベント
    ファイナルベント 
   
タイガ ファイナルベント
    サバイブ〜烈火〜      
    コンファインベント
    リターンベント

リュウガ サバイブ〜疾風〜
     ガードベント
     ????
     ????

オルタナティヴ

     ファイナルベント
 アドベント×2(サイコローグとディスパイダー)
     ガードベント×3
     ????

ゾルダ  シュートベント×2
     コピーベント×2
     ファイナルベント×3
     ガードベント×3
     トリックベント
     ソードベント
     アドベント
     ユナイトベント

オーディン サバイブ〜無限〜
  タイムベント
      ソードベント
      スチールベント
      アドベント
      ストレンジベント
     
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 22:11:43.49 ID:Nkr8DRMT0
 今日の投稿はこれでおしまいです。つづきはまた近日中に投稿します
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/26(火) 23:03:37.45 ID:qXZz7rMKo
うひょー更新きたああ!
乙!!!
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:37:48.38 ID:JB4A+Idt0
 29話 王道を貫く信義 

「なんてザマだ....」    

 鏡の中の月に照らされたゾルダの背後には夥しい量の血がこぼれていた。

 先程のデストワイルダーの渾身の一撃は深々とゾルダのスーツを切り裂き

並のライダーであれば一撃で即死してもおかしくない深手を与えていた。

(先生なら、きっとこんな無様を晒す事なんかない....) 

 そう考えながらも、ゾルダは神崎士郎からリュウガが受け取ったのとは

また異なる「恩恵」を自らの身に行使する事に決めた。

「HEAL」

 赤い十字架が描かれたカードをマグナバイザーにベントインする。

 士郎が吾郎へ渡した傷を癒やすカードの効力がすぐに発揮される。

 体力こそ回復しなかったものの、先程の戦闘で受けた大小の怪我や打撲の

痛みが全て消え去るのが身体で理解できた。

「助かった...」

 安堵のため息をついたゾルダは、次の一手をアビスとタイガの二名に

どう仕掛けるのかを考え始めた。

 序盤の奇襲は確かに上手く行ったものの、結果として虎の子の姿を消す

クリアーベントを失ったのはかなり痛かった。

 神崎士郎と手を組んだ以上、カードに不足は全くない。

 加えてこちらには戦況を一瞬で破壊できる切り札が存在している。

 自分にとって、どういう勝ち方が一番勝率が高いのか?

 このまま圧倒的なカードの枚数差を利用して力押しをするのか?

 それともユナイトベントによる合体モンスターで速攻で片をつけるか?

 どちらにせよ、自分の勝利を確信するにはまだ早すぎる。

(まずは相手に先に切り札を切らせる。そこから反撃だ)

 そう結論づけたゾルダは、デッキからカードを引き抜き再び戦場へと躍り出た。
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:39:16.62 ID:JB4A+Idt0
ミラーワールドで繰り広げられる戦いもいよいよ終盤へと差し掛かってきた。

「Final vent」 

 アビスとタイガが身を隠した地点から200mも離れていない地点に巨大な巨人が

轟音を立てながらその姿を現した。

「ええい!クソッタレがぁああああっ!」  

 身を隠す遮蔽物もなく、雨霰と降り注ぐミサイルやビームを防ぐ為の盾もない。

 逃げようにも逃げられない窮地に陥ったタイガは激昂しながら、マグナギガの

後背部にマグナバイザーをまさにセットしている最中のゾルダに向かい、無謀にも

立ち向かおうとした。

「先輩!落ち着いて!今ここでキレちゃダメだ!」

 デッキからカードを取り出したタイガだったが、その特性上、どうしても自分が

相手のいる場所まで到達するのに数秒の時間が掛かってしまう。
 
 仮にファイナルベントが成功したとしても、ゾルダがマグナギガに接続した

バイザーのトリガーを引いてしまえば、ゾルダの腹にタイガの爪が突き刺さる

よりも早くミサイルとビームが自分達を木っ端みじんにするだろう。

 タイガは自分が出したカードをデッキに仕舞う事を考えたが....。

「佐野、俺を信じてくれ!」

 それは、起死回生の閃きだった。

 勝利への一縷の望みとなるカードをアビスへと託したタイガは、あえてゾルダに

聞こえるように、大声で自分達がこれから打つ一手を知らせた。
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:40:11.27 ID:JB4A+Idt0
「ファイナルベントを使うぞ!」

 タイガの悪手に、未だ直面していないアビスのファイナルベントに対する対策を

無意識のうちに考えてしまったゾルダの手先が一瞬だけ引き金を引く事を躊躇った。

「はいッ!」

 アビスは未だに使い慣れていない自分のデッキのファイナルベントを切り、

マグナギガに唯一対抗できる最強のモンスターを召喚した。

 なぜ、タイガが大声を上げて自分に命令を下したのかは分からない。

 しかし、自分に託されたカードを見たアビスは朧気ながらもタイガが描く

この絶望的な劣勢を覆す勝利の方程式の解を垣間見た気がした。

 ならば、自分はその方程式の解に辿りつく為に幾らでも協力しよう。

 アビスがバイザーにファイナルベントのカードをセットするよりも早く、

ゾルダはマグナバイザーの引き金を引いた。

 幾千もの光条とミサイルが乱舞しながら、ロックオンしたターゲット目掛け

一斉に襲いかかる。

 ゾルダに数秒遅れ、アビスもバイザーにファイナルベントをベントインした。

「Final vent」 

 タイガを抱え、被弾しながらも少しでも射程範囲圏から逃れようとするアビスの

走る地面の下から、雄叫びを上げながらアビソドンが現れた。

「シャアアアアアアアアアア!!」

「アビソドン!俺達に構うな!ミサイルとビームを真っ向から相殺しろ!」

 主からの命令に従ったアビソドンは、その巨大な尾鰭で一瞬のうちに主と

その仲間をエンドオブワールドの射程範囲外へとはじき出し、シュモクザメへと

己の姿を変貌させ、ゾルダのビームとミサイルを受け止めながら、徐々に

マグナギガへと肉薄していった。
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:40:55.47 ID:JB4A+Idt0
 間一髪の所でバイザーを引き抜いたゾルダは、躊躇う事なくマグナギガを

囮にして、敢えてアビソドンの元へと走り出していった。

 案の定、マグナギガという大きな獲物を目にしたアビソドンは小さな獲物等、

眼中にないとばかりに、喜々としてその大口を開け、目の前の獲物へと踊り

掛かっていった。 

 AP7000とライダーバトルにおいて屈指の破壊力を誇るゾルダとマグナギガの

ファイナルベントだったが、アビスとアビソドンのファイナルベントは奇しくも

ゾルダのそれとは数値が同等だったものの、無情にも格が違いすぎた。

 マグナギガはその巨体故に、他のモンスターを圧倒する大火力を手に入れたが、

それ故に攻撃を回避する為の機動力を持ち得なかった。即ち、自らが敗北する事は

ないという一撃必殺の己の攻撃スタイルの裏を掻かれてしまったのだ。

 ミラーモンスター二体分の攻撃翌力を兼ね備え、空水地全てに対応できる万能型の

融合モンスターであるアビソドンにとって、自分より何もかもが劣っている

直立不動のミラーモンスターを葬る事など容易いにも程があった。

「ゴオオオオオオ!!!」 

 為す術もなくアビソドンから攻撃を受け続けたマグナギガの鋼鉄の体は左足を

食いちぎられ、右手のバズーカ砲は肩ごと切り裂かれた無残そのものの様相を

呈していた。

「クッ!」

 背後へと回り込む事に成功したゾルダはマグナギガの惨状を目の当たりにし、

遂にユナイトベントによる圧倒的破壊力を持つミラーモンスターを召喚せざるを

得ないと判断した。

 このまま行けば、マグナギガは確実に葬り去られてしまう。

 それだけは避けなければならない。

 秀一のために、秀一が生きたという確かな証が消える事だけはなんとしても

絶対に回避しなければならない。
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:41:59.59 ID:JB4A+Idt0
「やるしか、ない!」 

 腹を括ったゾルダは、己のデッキから遂に「合体」のカードを引き抜き、

それをバイザーにベントインした。

「UNITE Vent」

 その瞬間、マグナギガにトドメを刺そうとしたアビソドン目掛け、左右の

資格からバイオグリーザとガルドミラージュが襲いかかり、アビソドンから

マグナギガを救った。

「嘘だろ、おい....」 

 かつて、東條と香川が烈火の力を得た王蛇サバイブと対峙したように、満と

仲村も命を賭けて、相対し、戦わなければならない強敵と相見えたのだった。

 眩い光が収斂したと同時に、その中心地に立つ「怪物」は主であるゾルダ諸共

三人のライダーを一瞬のうちに爆発と共に彼方へと吹き飛ばした。

「ゴオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 それはまさに、大量破壊兵器<ジェノサイダー>と呼ぶに相応しい怪物だった。

 ロボットのように無機質だったマグナギガの体にバイオグリーザの特性である、

しなやかで強靱な筋肉が絡みつき柔軟性と機動性を補っている。更にその背には

三体分のミラーモンスターが合体して尚、その巨体を浮き上がらせ、飛行可能

たらしめる2枚の歪な機械と鳳凰型モンスターの翼が融合した飛行ユニットが

接続されている。

「嘘だろ、あんなのありかよ....」

「止めてくれ、もう、やめてくれよぉ...」 

 完全無欠の最強モンスターと化したマグナギガを目にした満は、思わずそうこぼした。

 あんなバケモノにどう勝てばいいのかが分からない。

 膝から崩れ落ち、絶望的な声をあげた満はそのまま背を向け縮こまってしまった。

 ゾルダはアビスが何を言っているのかは聞き取れなかったが、自分が召喚した

巨大な契約獣の威容を目の当たりにしたアビスが恐怖に屈したように見えた。

 現にアビスは後ずさりを始め、ここから1mでも遠ざかりたいと言わんばかりに

逃げだそうと後ろを頻繁に振り返っている。
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:43:36.55 ID:JB4A+Idt0
「佐野...俺に任せろ」 

 後ずさる満とは対照的に、一歩前に進み出た創は既に覚悟を決めていた。

「俺がお前の、血路を開いてやる」

 例え全ての希望が消え失せたとしても、そこに守るべき者がいるのならば...

(いつだって、人は英雄に至れる!) 

 なぁ、そうだろう?




「東條!」




 俺だってお前だけに格好つけさせるわけにはいかないんだよ!

 満身創痍の体に意地<えいゆう>という名の最後の燃料を投下する。

「先生....また、明日」 

 その日が来るとは限らないが、まだ俺が死ぬには時間がある。

 少なくとも、今すぐ死ぬ事はないだろう。

 だから、体がバラバラになって戦えなくなる時が来るまで足掻いてみせるさ。




「行くぜぇええええええええええええええ!!!!」



 
 砕け散るガラスのように脆弱な己の肉体に最後の灯火を男は灯した。




「Survive」




 烈火のサバイブをデストバイザーにベントインしたタイガの姿が瞬く間に

強化されていく。

 左手には新たに白虎の頭部を模した盾兼バイザーのデストバイザーツヴァイ、

右手には炎と氷の力を宿した分離可能な左右合体の両刃斧が握られている。

 おそらくこの戦いで自分は死ぬ。多分目の前のコイツにやられるだろう。

 だけど、不思議と心は安らいでいた。

 きっと東條も、死んでいく時にはこんな心境だったんだろうと容易に想像できた。

 だからこそ、次に自分が何をすべきかを誤ることは絶対にない。
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:44:19.45 ID:JB4A+Idt0
「Advent」  

 かつて憎み合い、共に戦った仲間の契約獣が創の召喚に応じた。

 風と氷と炎の力を宿した猛虎は眼前に立つ巌の如き巨巌の蚩尤の威容に臆する

事無く、世界を震わせる咆哮を上げる。 

「負ける気がしねえなぁ...そうだろ?!お前らぁ!」  

 その言葉、その背中に一人と一匹が意気軒昂の雄叫びを上げる。

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 

「グルオオオオオオオオオオオ!!!」

 その姿、その武威は止まるところを知らず。

 英雄は正道を歩み、その前に立ちはだかるは悪の巨魁。

 かくして、英雄達は二度目の試練へと直面することと相成る。

461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:44:59.61 ID:JB4A+Idt0
30話 城戸真一

 
〜回想〜 

 物心ついたときから、城戸真一の心の中には医学や科学で説明のつかない

荒れ狂う破壊衝動と暴力が巣喰っていた。

 生まれつき心の中にある箍が外れているのではないかと真一の父母はそう

分析し、腫れ物に触るようにして一つ年下の弟である真二を可愛がり、兄である

己をなるべく遠ざけようと腐心した。  

 真一は常に孤独だった。

 そしてその孤独を唯一埋めることが出来たのが暴力だった。

 目につく物全てを壊そうとする恐ろしい人間性は、既に幼少期から芽生えていた。

 そんなとき、真一の運命を変える出会いが彼に訪れた。

 城戸真一と神崎優衣が初めて会ったのは彼が中学二年生の時だった。

「兄ちゃん。ちょっと一緒に来てよ」

 自分に逆らった中学三年生を半殺しにし、逆らったというのは真一の視点であり、

本当のところは真一がクラスメイトに暴力を振るうのを見かね、仲裁に入った

数人の生徒達の喉に鉛筆を突き刺したというのが真実である。

 事が事だけに中学校の校長に自宅謹慎を命じられ、暇をもて余す兄を見かねた

真二が両親が夜寝静まったのを見計らい、兄を外に連れ出そうとしたのだった。

「何だよ真司、もう夜中の12時じゃねーか」 

「お前、明日も学校だろ?寝なくていいのかよ」

「大丈夫だって。兄ちゃん」

 他人に対して躊躇無く快楽のままに暴力を振るえる真一だったが、一つ年下の

弟である真二にはどうしてもそうした気が起きずにいた。
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:45:29.04 ID:JB4A+Idt0
 
「分かったよ。しょーがねーなぁ」

 一軒家の二階の窓から雨樋をつたって、仲の良い兄弟は深夜の町を自転車で

どこまでも駆けていく。

「で、真二。お前は俺に何を見せたいんだ」

「いいからいいから。俺に着いてきてよ。兄ちゃん」

 自転車をこぎ続けること30分、真一が辿りついたのは廃遊園地だった。

「なんだ?ここ十年以上前に潰れたところだろ」

 正門の横に自転車を置き、雨風に晒されボロボロになった壁の穴から二人は

鼠のように遊園地に忍び込んだ。

「ふふーん。兄ちゃんはこの遊園地に伝わる噂、知らないだろ?」

「なんだよ。その噂って」

 懐中電灯で暗い道を照らしながら、真二は得意げな表情を浮かべてこの遊園地に

伝わるという噂話を始めた。

 何を伝えたいのか要領を得ない説明だったが、弟が言うにはこの遊園地には

女の子の幽霊が出現し、その子はミラーハウスを根城にしている。その子に

ホイホイついてくと、ミラーハウスの鏡の中に閉じ込められ、その鏡の中に潜む

『何か』に食べられてしまい、二度と家に帰れないというありきたりな話だった。

「真二、お前はガキだなぁ。まさかそれ本気で信じてるのかよ」

「信じてるよ。だってその女の子の幽霊は俺の友達だもん」

「はぁ?」
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:45:58.66 ID:JB4A+Idt0
生まれてから十数年少しの付き合いだが、弟が生来のお人好しであるという事は

今までの付き合いで理解している。少し頭を使えば、虐待された女の子が家に帰らず

廃遊園地で一人遊びをして、時々訪れる頭の悪い連中を驚かし、喜んでいると

分かりそうなことなのに...。

 ともあれ、今から向かう廃遊園地のミラーハウスという場所に潜んでいるのが

得体の知れない幽霊などではなく、実態のある人間ということに内心密かに安堵した

真一は弟の後を素直についていくことに決めた。

「優衣ちゃん。来たよ」

「あっ、真二くん」

 ミラーハウスの入り口に立った弟が幽霊女の名前を呼んだ。

 優衣と呼ばれた弟と同い年の女の子は、まるで親友のように弟へと抱きついた。

「真二。お前の友達ってのは結構変わってるんだな」

「あーっ。真二君から聞いたよ。お兄ちゃんの真一君でしょ」

「そうだよ幽霊女。初めまして、真二の兄の城戸真一だ」

「よろしくお願いします。神崎優衣です」

 真二のように純真さから来る人なつっこさで優衣は初めてで会った真一にも

物怖じすることなく手を差し伸べ、真一もその手を躊躇うことなくとった。

「優衣ちゃん。アレやってよ。アレ」

「えーっ、真二君ってば最近いつもここに来るときそればっかりじゃん」

 ミラーハウスの入り組んだ迷路を歩き続けた三人は大きく開けた場所へと

辿りつく。
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:46:26.06 ID:JB4A+Idt0
「なんだ?何を今からやるんだ?」

「ふふーん。それはねぇ」

 真一の問いかけに得意げに笑う優衣は床に散らばっていた紙を取り上げ、

それを無造作に鏡へと押しつけた。

「?!」

 真一は目を疑った。

 鏡の向こう側に紙が押し込まれるようにして落ちたのだ。

「兄ちゃん。優衣ちゃんは凄いんだぜ。鏡を操れるんだ」

「か、鏡を操れる?」

 なんだコイツは。

 真一の優衣を見る目が一瞬で変わった。

「ほら、見て!鏡を見て」 

 はしゃぐ弟が指さす先ではまたもや信じられないことが起き始めていた。

「嘘だろ」

 紙の中から、何かが姿形を象り具現化したのだ。

「グルルル...」

「フシュー....」

 巨大な赤い龍と黒い龍が鏡の中に現れた。

 その二匹は明らかに自分達三人の存在に気が付いていて、しきりに尾や体を

ぶつけ、こちら側にいる美味そうな餌を喰らおうと試みていた。
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:46:54.54 ID:JB4A+Idt0
「なんだよこれ...」

「兄ちゃん。始まるよ」

 真二が目を輝かせながら、これから始まることに大きな期待を寄せる。

 そして、それは唐突に始まった。

 赤い龍が黒い龍の尾に噛みつき、黒い龍は逆鱗に触れた自分そっくりな龍へと

黒炎の豪火球を吐き出したのだ。

「いっけー!ドラグレッダー!黒いのなんかやっつけちまえ!」

「なぁ真二。あの赤いのドラグレッダーっていうのか?」

「うん。黒いのはドラグブラッカーっていうんだ」

 真一は今、自分の目の前で繰り広げられている光景を信じられなかった。

 信じられなかったと同時に、心の底から得体の知れない歓喜がわき上がってきた。

 誰にも負けない強大な力を誇り、その気になれば国も世界すらも滅ぼせる

あの鏡の中に潜む怪物がたまらなく欲しい。

 戦いは数十分にも及び、赤い龍が黒い龍に対して優勢に戦いを進めていた。

「真一君?」

「なあ優衣。あの黒い龍、俺に寄越せよ」

 血走った瞳は狂気の色に染まり、目の前に手を伸ばせば手に入る人智を越えた

力を手に入れるには何だってするというなりふり構わぬ非道さが浮かんでいた。
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:47:23.24 ID:JB4A+Idt0
「無理だよ...。お兄ちゃんならそれが出来るけど、私には無理なの」

「ああ!?なんだと!」

「魔法が使えるんだろ!その魔法とやらで俺にあの龍を寄越せって言ってんだよ!」

 真二と同じ顔が恐ろしい『何か』に取り憑かれたように変化したことに優衣は

耐えきれず、鏡の中に手を押し当てて二頭の龍の戦いをあっけなく終らせて

しまった。

「ああっ!なんで止めちゃったんだよぉ!」

「って!兄ちゃん?!何してるんだよ」

「手を貸せよ真二。コイツを脅してあの龍を奪ってやるんだ」

「ダメだって!兄ちゃん、そんなことしたら優衣ちゃんの兄貴が....」

「どうせコイツの兄貴も幽霊なんだろ?どけよ!」

 自分を羽交い締めにする弟を振り切り、真一は優衣に再び詰め寄る。

 その時、あの音が聞こえた。

 キィィィィ....ン、キィィィィ....ン。

「ああっ来ちゃった」

 キィィィィ....ン、キィィィィ....ン

 真一の背後。真二にとっての正面に朧気な影のような何かが現れる。

 それは徐々に輪郭を得て、一人の男になった。
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:47:58.61 ID:JB4A+Idt0
「何をしている、優衣。ここにはあまり来るなと言ったはずだ」

「ごめんなさい。でも...」

 真二をちらりと見遣った優衣はそれきり黙りこくってしまった。

「なぁ、アンタ。どうやってこんな面白いものを見つけたんだよ」

「誰だ、コイツは」

「真二君のお兄ちゃんの真一君」

 優衣の兄、神崎士郎は困ったように頭を掻く真二を一瞥し、家に帰る様に促した。

「いこ、真二君。今お兄ちゃん怒ってるから」

「で、でも...兄ちゃんが」

「気にすんな真二。朝には戻る」

 妹と弟を追い出した兄達は改めて互いの存在を認識した。

「どうも始めましてお兄さん。城戸真一といいます」

「今日はアンタにお話しがあるんですよ」

「率直にお願いします。あの黒い龍を俺に下さい」

 身も蓋もない強欲で一方通行の要求を突きつける真一。そのズボンのポケットの

中にはバタフライナイフがその出番を待ち構えていた。

「良いだろう。だが、それには一つだけ条件がある」 

「なんだよ?その条件ってのは?」

「ついてこい。実際に見た方が理解が早い」

 神崎士郎は鏡に手をかざし、真一を異界へと誘った。

 誘われるままに真一も士郎の後を追い、鏡の中へと飛び込んでいった。

468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:48:30.62 ID:JB4A+Idt0
〜〜〜

 真一が降り立った場所は、どことも知れぬ暗い海辺だった。

 月光に照らされた二人の男が、先程見たドラグブラッカーと同じ存在を使役して

命懸けの死闘を繰り広げている。
 
 ライダーバトルとは異なり、あくまでもこの戦いは使い魔を使役する戦いだった。

 その証拠にミラーモンスターの傍らに控える男達は何の変哲も無い服を着ている

一般人のようだった。

「ルールは?」

「12人の総当たり戦だ。契約獣を使い最後の一人になるまで戦え」

「敗北した人間はどうなるんだ?」 

「契約者は最後の一人になるまで戦う。最後の一人になるまでな」

 ぞっとするような恐ろしい色の浮かんだ瞳で神崎士郎は真一に念を押す。

 勝敗はあっけなくついた。

 サイのような契約獣が蜘蛛のような契約獣をその角で貫き、勝利の雄叫びを

上げながら敗北した契約獣の主を頭から貪り喰らったのだ。

「人を、殺せるのか」

「ああ。お前が望むのならば幾らでも」

「乗った。アンタに手を貸してやるよ」

 その時、神崎士郎は確かに笑った。

 城戸真一という一人の人間が人間であることを放棄した瞬間だった。

469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:48:58.62 ID:JB4A+Idt0
〜〜〜

 ドラグブラッカーを得た城戸真一はまさに最強に相応しい契約者だった。

 契約者の戦い。そう神崎士郎はこの戦いのことを評していた。

 自分の内で暴れる凶悪な破壊衝動を満たすことさえ出来れば良いと考えている

真一にとってはどうでも良いことだったが、士郎曰く、この戦いはいずれ来る

戦いの前哨戦というものらしい。

 彼の両親が、生まれつき真一の心は壊れていると評したように人としての大切な

何かが致命的に欠けていた『リュウガ』は、翼を得た虎のように次々に神崎士郎の

口車に乗せられた哀れな人間達を殺し続けた。

 契約者と共に戦うに相応しい契約獣を選定する戦いには様々な人間が士郎の

口車に乗せられて参戦していた。

 正義感に燃える警察官、チンピラ、普通の小学生、窓際族のサラリーマン等が

それぞれの内に抱えた心の中の欲望を契約した獣達に与えることで契約獣は

より強大に、より醜悪な姿へと己を変貌させていった。


 最後の一人になれば、どんな願いも叶えられる。


『合わせ鏡が無限の世界を形作るように、現実における運命もひとつではない』


『同じなのは欲望だけ』


『全ての人間が欲望を背負い、その為に、戦っている』


『その欲望が背負い切れないほど大きくなった時、人は、ライダーになる』


『ライダーの戦いが始まるのだ』



 しかし、真一の契約獣であるドラグブラッカーは契約主の殺戮本能を幾たび

注がれてもその姿を醜く変えることは一度も無かった。

 なぜなら『リュウガ』はミラーワールドで最初に生まれたライダーだからだ...。

 奇跡に縋るしかない哀れな人間達が怪物に叶う道理などどこにもなかった。

 
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:49:31.15 ID:JB4A+Idt0
〜〜〜

「はは、ハハハハハ」
 
「アハハハハハハハ!!!」

 狂ったように叫びながら怪物は現実世界で暴れ回っていた。

 鏡の世界で契約獣を戦わせる戦いがあと一回で終わる頃には、既に城戸真一は

己の体の大半をミラーモンスターと同じくする存在へと成り下がっていった。

 正確に言えば、神崎士郎のとある目的のための被験体になってしまったのだ。

 尤も正気を失っていた怪物にとって、それは本当に些末なことだった。

 鏡の中を通り、自分に刃向かった『餌』の家に忍び込み、ミラーワールドへと

引きずり込んで捕食する。そんなことを繰り返していたある日の出来事だった。


 その日は、リュウガにとって最悪の日だった。

 ミラーワールドの中で眠りに落ちていたリュウガは、鏡の外側から誰かが

自分を探している気配を察し、臨戦態勢へと入った。

「真一君!真一君!どこなの!」

「お前、誰だ...」

 自分の眠りを妨げる存在を確かめたリュウガは、その少女がかつて弟の横にいた

あの神崎士郎の妹だと言うことに気が付いた。 

「神崎、優衣...」

「真一君!助けて!真二君が!」

 既に優衣と出会った日から数ヶ月が経過していた。

「しん、じ...真二が、どうかしたのか」

「真一君に間違われて、襲われてるの!」

 優衣の悲痛な叫びに、リュウガの意識は『真一』へと引き戻された。

「真二が襲われている?!どこだ!アイツはどこにいる!」

「こっち!早く来て!」 

 優衣の手鏡の中に身を潜めた真一は、優衣と共に弟のいる場所へと急行した。

471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:50:03.44 ID:JB4A+Idt0
〜〜〜

「真二君!」

 優衣が辿りついたのは、人通りのない鉄橋の下だった。

 真二は凄惨な暴行を複数人に受け、朦朧としながら懸命に生きようとしていた。

 既に弟の脇腹には深々と包丁が突き刺さっていた。

 真一は暴漢達の中に見覚えのある顔を見つけた。

 自分と雌雄を決する戦いの相手である最後の契約者だった。

「ウオーッ!」

 咆哮を上げながら真一は鏡の中から飛び出し、普通の人間よりも遙かに強い

腕力で次々に弟を襲う暴漢達をなぎ倒していく。

 しかし、暴漢達は真一よりも二回り大きい巨漢達だった。

 あっという間に素手の真一を巨漢達は取り押さえてしまった。

「[ピーーー]やーっ!」

「ガッ!?」

 真一の体に何度も何度も暴漢の包丁が突き立てられた。

 それは、怪物と呼ばれた真一の最後にしてはあまりにもあっけないものだった。

「いやああああああああ!!!」

 拘束され、為す術もなく殺されていく真一の姿を見てしまった優衣は気を失って 

しまった。真一もそれに前後するようにあっけなくその生涯を終えようとしていた。

 筈だった。

「助けて!お兄ちゃん!助けてええええええええ!!!」

 妹の悲痛な叫びと共に、神崎士郎が姿を現した。

「....」

 神崎士郎は無言で自分の契約獣である金色の不死鳥を召喚し、目の前にいる

男達を全て焼き払った。
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:50:40.33 ID:JB4A+Idt0
「しっかりしろ。優衣」

「ごめんなさいごめんなさい。真一君、真二君。ごめんなさいごめんなさい」

 茫然自失状態の妹は、二人の友達を死に追いやった自らの無力さを呪い、

ブツブツと謝罪の言葉を呟くだけのマリオネットになってしまった。

「お兄ちゃん。お願いです二人を生き返らせてくださいお願いします」

「....できる限りのことはしてみよう」

 最愛の妹の心をこれ以上傷つけたくなかった神崎士郎は、ミラーワールドの

コアミラーの力を使い、真一と真二の蘇生を試みた。

 結果として神崎士郎が二人に施した処置は二人の命を長らえさせる結果を出した。

 しかし、それは一方に永劫に等しい苦痛を与えるものでもあった。

 真一は実体を失い、人と呼ぶにはあまりにも不安定な存在へと成り下がった。 

 神崎士郎は城戸真一を延命させるために、彼を正真正銘のミラーモンスターへと

変えてしまったのだ。
 
「優衣。もう大丈夫だ」

「今の俺の力では一人を生き返らせるので手一杯だ」 

「だが、安心しろ。城戸真一も死なせない」

「奴は、お前と同じ存在になるんだ」

 神崎優衣と同じ存在になると優しく諭した士郎だが、それについては些かの

差違が生じる。
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:52:34.02 ID:JB4A+Idt0
 優衣の場合はミラーワールドの自分から寿命を貰い、同じ存在へと同化している。

 ライダーバトルの終焉は神崎優衣の20回目の誕生日である。
 
 では、なぜ神崎優衣の20歳の誕生日でライダーバトルが終わるのか?

 結論から言えば、神崎優衣はどの並行世界であっても殆どの確率で短命に

死ぬ運命にあるからだ。

 もっと正確に言えば、一番長生きできる可能性というものが神崎優衣には

二十歳までしかない。

 この場合、並行世界の自分自身の寿命が尽きるのが20歳の誕生日であり、

そこまでは何も問題なく普通の人間と同じように生きることが出来る。

 ただ、20歳以降は生きられないという運命はどう足掻いても覆ることは

この先二度と無いというデメリットが生じてしまった。

 一方、真一の場合は自らの延命に真二の命を共有する形で命を長らえた。

 優衣の場合と異なるのは、真一は命を失う前に辛うじて人間の肉体を持ったまま

ミラーモンスターと同じ存在になったことである。

 城戸真司が人間として生き続ける限り、その生命エネルギーが真一にも同量分

流れ込む。即ち、真司と同じ様に真一も成長することが出来るように神崎士郎が

城戸真一という存在を「そう言う存在」として作り替えたのだった。

 だからこそ、城戸真一は城戸真司と何もかもが全く同じ姿を取る事が出来た。

 神崎優衣が真一のことを自らと同じと評したのは、かつての優衣が鏡の中の

もう一人の自分から命を分け与えられ、一つの命を共有するのに同化して何とか

生きながらえたのと同様に、城戸真司の命を共有する真一もいずれ現実世界に生きる

真二と同化することが分かっていたからである。
 
 しかし、こちらの場合にも綻びが生じ始めている。

 ライダーバトルの終焉が近づき始める中、ミラーワールドの境界線の線引きが

曖昧になりつつあるが故に、真一の真司に対する干渉の勢いが徐々に強まっている。

 双頭の獅子のように、一つの体に宿る同じ命を共有する二つの存在は高い確率で

共存することは不可能に等しい。

 いずれ喰らい合い、一つの命が必ず死を迎える結末が訪れるのだ。

 更に、城戸真一が城戸真司の体を乗っ取る確率は、どの並行世界においても

神崎士郎の思惑が成功する確率よりも、ずっと高い。

 即ち.....

〜回想終了〜
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:53:09.68 ID:JB4A+Idt0
 ゾルダとタイガ達が最終決戦に臨もうとする中、オルタナティヴと龍騎の戦いも

大きな転換点を迎えようとしていた。

「...........」

 黒い炎を上げ、その姿を一瞬で黒い霧へと変化させたリュウガは龍騎へと

まとわりつき、城戸真司の体を乗っ取った。

「なんてことだ...」

 疑似ライダー専用の『契約』のカードで契約したディスパイダー・リボーンで

雑魚モンスターを駆逐しつつ、サイコローグを強化していたオルタナティブは

少なくとも、香川英行はその顛末をそう分析した。

 糸の切れたマリオネットのように立ち尽くす龍騎の体がビクンと震えた。

 その瞬間、オルタナティヴの周囲を取り囲んだ全てのミラーモンスターが

蜘蛛の子を散らすようにして逃亡を始めた。

 浅倉威と対面したときとは比較にならない殺気が全身を駆け巡る。

 毛穴からマダニと蛆が吹き出し、全身の血液は瞬く間に腐食する。

 骨は髄まで見えない何かの歪な牙に万の顎で齧られる。

 あれは死だ。

 直視すれば死ぬ。戦えば死ぬ。逃げれば死ぬ。見れば死ぬ。

 幾千幾万を超えた億通りに届く死の膨大なイメージがオルタナティヴの脳へと

一斉に叩き込まれる。
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 19:53:41.92 ID:JB4A+Idt0
 
 勝てない。勝てるわけがない。

 無意識のうちにオルタナティヴはデッキから一枚のカードを引き、それを

カードリーダーへと読み込ませた。

 それは、圧倒的実力差に立ち向かおうとした弱者の最後の悪足掻きだった。

 その瞬間、時が止まった。

「Final vent」 

 それがリュウガかオーディンのファイナルベントだったかは定かではない。

 最後に彼が見た景色は

 立ち尽くす自らの体から切り落とされた自らの首だった。
 
 〜〜〜

「何だ、英雄というのも案外脆いものだな」

 遂に己の悲願を達成したリュウガ/城戸真一は目の前で木っ端みじんに

粉砕された哀れ英雄になれなかった男の亡骸を踏みにじり、悦に入っていた。

「真二、安心しろ。お前の望みは俺の望みでもある」

「神崎優衣を救い、ライダーバトルを終わらせる」

 己の死から数年の長き時を経て、遂に男は復活を果たした。

 弟の体の全ての主導権を乗っ取り、己と弟の全てを一つに束ねたのだ。

「言ったよな、真司。お前と俺は兄弟だ。誰よりも近しい」 

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・
「故に、今の俺達こそが本当の城戸真司なんだ」

 
 そして、城戸真司はどこへともなく消え去っていったのだった。

 
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/27(水) 20:09:55.47 ID:JB4A+Idt0
 今日の投稿はここまでです。鏡像の城戸城戸真司がどういう存在なのかを自分なりに考察して掻いてみたつもりなのですが、作中の説明を簡単にすると

 ミラーワールドの優衣(二十歳までしか生きられない並行世界の優衣であり、この物語に登場する優衣に自分の命を与えることに同意した存在)が、

この世界の神崎優衣に命を分け与えたのと逆バージョンのことを神崎士郎は城戸真一に施した。
 
 即ち、現実世界で死に瀕した城戸真司(兄の死を望まずに、何とかして兄弟二人で生き残りたいと思っていた)の命をミラーワールドの存在となりつつある

城戸真一につなぐことで(真司の生命エネルギー)、一時的に城戸真一をミラーモンスターでもなく、人間というにはあまりにも曖昧な存在へと変えた。

 しかし、ライダーバトルが進むにつれて現実世界とミラーワールドの境界線が曖昧になりつつあり、隣り合う二つの世界が一つに収斂し始めているため、

(龍騎本編の最終話のハイドラグーンの現実世界の侵攻の一歩手前の状況になっている)ミラーワールドの存在と現実世界の存在が同化し始めている故に、

真一は真司の体を乗っ取ることに成功した。という解釈で読み進めてください。
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 11:24:01.81 ID:W0yva3On0
ライダー&契約獣紹介

 合体モンスター 獣帝マグヌム・オプス(ジェノサイダー)

身長:450cm(両翼展開時、700m)
体重:700kg
握力(左腕):250t
ジャンプ力:一飛び60m
パンチ力:350AP
キック力:500AP
AP(アドベント時):10000。

 神崎士郎と結託した仮面ライダーゾルダがユナイトベントによって己の契約する
契約モンスターであるマグナギガ、バイオグリーザ、ガルドミラージュの三体を
合体召喚した、その名の通り烈火王蛇ベノヴァイパーやゴルドフェニックスさえ
超越した最強のミラーモンスターである。

 合体モンスターの戦闘力(AP)は合体したモンスター同士の相性によって
決定されるいわば総合値の様なものであり、劇場版EpisodeFinalにおける王蛇の
ジェノサイダーがドラグブラッカーの石化ブレスによって石化した例もある為、
必ずしも数値が高ければ高いほど絶対的な強さを誇るというわけではない。

 この合体モンスターはそうしたデメリットを合体したモンスター同士の個々の
能力によって全てを補完し合っている為、高い戦闘力を保持したまま殆どの弱点を
潰し、万全にして最高の、最も優れた契約獣として君臨する事となった。

 全身重火器の塊であると同時に、単体での防御力の高いマグナギガはその巨大な
体躯故に、敏捷さで勝る同格のモンスターに劣るという欠点が存在した。
 しかし、ユナイトベントにより姿を消すステルス能力を持ち、バネが仕込まれた
逆関節の脚部による高跳躍力を武器としているバイオグリーザと、飛行能力を持つ
ガルドミラージュの二体の持つ長所を兼ね備えた最強の合体モンスターが生まれた。
 
 外見は四足四腕四腕のケンタウロスそのものであり、無機的でありながら
有機的な生物の要素を含んだ剛柔兼ね備えた万能型のミラーモンスター。
 ロボットのように無機質だったマグナギガの体にバイオグリーザの特性である、
しなやかで強靱な筋肉が絡みつき柔軟性と機動性を補っている。更にその背には
三体分のミラーモンスターが合体して尚、その巨体を浮き上がらせ、飛行可能
たらしめる2枚の歪な機械と鳳凰型モンスターの翼が融合した飛行ユニットが
接続されている。

 また、思考能力も三倍以上に跳ね上がり単体による戦闘行動を展開する事が
可能となり、カードの枚数が制限されているライダーとは異なり、全身武器庫
であるが故に、状況と距離に応じた戦略にて敵を迎え撃てるようになった。
 しかし、サバイブによるライダー強化ではないため、ミラーモンスターの
戦闘力と比較するとライダーのスペックはそのままというデメリットが生じる為、
そこにつけ込む隙が僅かに存在する。
 また、オーディンのゴルドフェニックスを凌駕する余りにも高すぎる攻撃翌力を
誇るため、このモンスターが暴れ続けるとミラーワールドが崩壊してしまう
かもしれない危機に陥る危険性が存在する。
 加えて、合体は契約主であるゾルダにも解けないためジェノサイダー自身の
防御力を凌駕する攻撃を受けてしまえばひとたまりも無い。

 ファイナルベント名は奇しくも並行世界のジェノサイダーと同じドゥームズデイ。
 並行世界のジェノサイダーのそれは開腹した己の胴体目掛け、王蛇が必殺技の
ライダーキックを叩き込み、小型ブラックホールへと叩き込むが、この世界の
ジェノサイダーのそれは、相手を空間に固定した上で、剣で切刻み、フルボッコに
した上でゾルダのファイナルベントであるエンドオブワールド(三体合体により
ミサイルもビームの威力もその量も三倍以上になっている)を叩き込む。
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 11:24:51.59 ID:W0yva3On0
合体によって増加したアドベントカード

 アドベント:マグヌム・オプスを召喚する AP:12000

 シュートベント:AP6000

 ギガランチャーを二連結した巨大砲門を召喚、ロックオンした相手が例え
ガードベントを使用しても、その盾を木っ端みじんに粉砕し、続く二射目で
ライダーも粉砕する最高15連射可能な無反動移動砲門。

 ガードベント:GP6000

 相手の攻撃を防御したと同時に、防いだ衝撃を相手へ同じ威力で返したり、
ライダーの意志によってその大きさを自在に変化させることも可能となった盾。
パンチングアーマーとして相手の防御の上から殴りつけることも可能な攻防兼用
できるギガアーマーの強度と大きさが倍になったガードベント。

 スチールベント:相手の武器やアドベントカードさえ盗めるカード。

 ホールドベント:AP4500

 ガルドミラージュの圏の大きさになったベルデのヨーヨー。
 外見は片手持ちの盾であり、上級ミラーモンスターでさえ切り裂く程に鋭い。
 接触した相手の体に触れる爆発反応を起こす爆発反応装甲仕様となっている。
 また、ホールドベント本来の使い方として相手に投げつけ、雁字搦めにして
身動きが取れないようにして拘束するという使い方もある。

 ファイナルベント:AP15000

 ファイナルベント名は奇しくも並行世界のジェノサイダーと同じドゥームズデイ。
 並行世界のジェノサイダーのそれは開腹した己の胴体目掛け、王蛇が必殺技の
ライダーキックを叩き込み、小型ブラックホールへと叩き込むが、この世界の
ジェノサイダーのそれは、相手を空間に固定した上で、剣で切刻み、フルボッコに
した上でゾルダのファイナルベントであるエンドオブワールド(三体合体により
ミサイルもビームの威力もその量も三倍以上になっている)を叩き込む。
 勿論、直撃すれば例えゴルドフェニックスであっても確実に一回で死ぬ。

479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 11:25:50.47 ID:W0yva3On0
仮面ライダー龍牙 

身長:193cm
体重:95kg
パンチ力:600AP(30t)
キック力:800AP(40t)
ジャンプ力:75m
走力(100m)2.5秒

 鏡像の城戸真司こと城戸真一が弟である城戸真司を急襲して完全に吸収した上で
疾風のサバイブを使用して強化変身したリュウガの最強形態。現実世界の真司と
ミラーワールドの真司が融合している為、アドベントカードを共有し、身体能力は
二倍にまで跳ね上がっている。

 マグヌム・オプスを最強のミラーモンスターとすると、リュウガサバイブは
最強のミラーワールドのライダーと言える。ライダーのスペックはオーディンを
抜き去りにし、ミラーモンスターのスペックもドラグレッダーを吸収、一つに合体
している為、その戦闘力も二倍に跳ね上がっている。

 契約獣 暗黒無双龍・ブラックドラグレッダー

 ドラグブラッカーとドラグレッダーの二体が合体して生まれた双頭の龍。
 ミラーワールドに二体しか存在しない龍型のミラーモンスターが本来の姿に
戻った為、APは11000とあのマグヌム・オプスと同等か上回っている。
 龍型のモンスターであるブラックドラグレッダーの力を与えられたライダー。
 攻守共に二倍の威力へと跳ね上がったの十枚のカードを駆使し、状況に応じた
臨機応変な戦い方を取れるのが特徴と言える。
 また、ブラックドラグレッダーへと二体の龍達が合体する事により、片方が
アドベントカードによる状態異常が打ち消される効果がある。
 
 所持カード
ソードベント×2
・ドラグセイバーを装備。4000AP。

ストライクベント×2
・ドラグクローを装備。4000AP。

ガードベント×2
・ドラグシールドを装備。4000GP。
 腕に装備する場合と両肩に装備する場合を選択可能。

アドベント×3
・ドラグレッダー、ドラグブラッカー、ブラックドラグレッダーの三体を召喚可能。
 なお、ブラックドラグレッダーは龍牙の意思一つで分離、再融合が可能である。
 5000AP、6000AP、11000AP。

ファイナルベント×3
・ドラゴンライダーキック(龍騎、リュウガ、ブラックドラグレッダー)を発動。 6000、7000、12000AP。

リターンベント:タイガから城戸真司へ譲渡された一枚。一度使用したカードを使える。
 
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 11:26:44.92 ID:W0yva3On0
仮面ライダー龍牙サバイブ

 サバイブ〜疾風〜のカードによってパワーアップした龍牙の最強フォーム。
 ブラックドラグレッダーも無双烈火龍・ブラックドラグランザーに進化した。
 二倍に跳ね上がった炎の力に加え、疾風の力による加護を受けている為、
ライダー、契約獣共に相乗効果で更に戦力が増加されている。

 ソードベント×2 6000AP
 ドラグバイザーツバイが銃剣のように変形するドラグブレードと疾風の力を
宿した柄のみの剣であるドラグソードの二本を召喚する。必殺技は二本の刀に
それぞれ烈火と疾風の力を宿した斬撃で相手を一刀両断するバーニングセイバー
(バーストセイバー)

ガードベント 6000GP。
・ファイヤーウォールを発動。ブラックドラグランザーが直接龍牙サバイブを守る。

シュートベント 7000AP。
・メテオバレットを発動。直撃すれば死、石化しても死が待ち受ける。

ストレンジベント
・使ってみないと何が起こるか分からないカード。

アドベント
・無双烈火龍・ブラックドラグランザーを召喚。15000AP。

ファイナルベント
・ドラゴンファイヤーストームキックを発動。20000AP

481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 11:27:38.43 ID:W0yva3On0
仮面ライダータイガサバイブ


身長 205cm
体重 100kg
パンチ力 550AP
キック力 650AP
ジャンプ力 一飛び75m
走力(100m)3秒

 烈火のサバイブによって強化変身を遂げたタイガのサバイブ形態。
 デストワイルダーは烈火の力を宿す炎帝獣・デストブレイカーへと進化した。
 バイザーは両刃の巨大な斧の中心にカードを入れるデストバイザーツヴァイ。

 ライダー自体のスペックは大幅に上昇したが、体力の消費がとても激しい為、
ノーマル形態でカードを大量に持ち、体力を温存しながら持久戦に持ち込める
ゾルダや二人分の体力を持つ龍牙サバイブと比較すると長期戦に難がある。

 炎帝獣・デストブレイカー

 全長 5m
 全幅 2.9m
 全高 1.8m
 重量 560kg
 

 サバイブ〜烈火〜の力によって強化された白虎型ミラーモンスター。
 二足歩行型から四足歩行へと移行したことによって、全長5m・体重560sと
以前の倍ほどの巨躯を誇るようになった。

 刀の如き巨大な爪と烈火と氷の力を宿した強力なブレスが主な武器である。
 その一撃はいかなるミラーモンスターをも切り裂き、その体を包む炎と氷の力を
内包した金色の毛皮はあらゆる攻撃から主や己の身を守護する鉄壁の城塞となる。
 空は飛べないが、炎に姿を変え攻撃を無効化したり、空間に氷の足場を発生させ
空中を飛ぶ敵へと肉薄する等、能力の汎用性はかなり高い。
 また、炎と氷の力を得たことにより、更なる進化をライダーへともたらした。
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/01(日) 11:30:38.28 ID:W0yva3On0
所持カード

 アドベント AP9000
・デストブレイカーを召喚する。

 ストライクベント AP5500
・氷の力と炎の力を宿したデストブレイカーの爪を模した籠手を与える。
 
 ガードベント GP6000
・氷の甲冑をタイガに纏わせ、いかなる攻撃をも身代わりに受ける。

 トリックベント AP3000
・実体のある分身やない分身を十以上作り、相手を撹乱する。

 フリーズベント×2
・ライダーの動きを止めるカードとミラーモンスターを停止する二枚がある。

 コンファインベント×2
・相手のカードの効果を無効化する。

 スチールベント
・相手のカードを奪う。 

 ストレンジベント
・使ってみなければ何が起こるか分からないカード

 ファイナルベント AP13000
 デストブレイカーが超高密度にまで圧縮した氷と炎の四角錐を出現させ、逃げ道を塞ぎ
そのまま相手目掛けて発射し、八つ裂きにする、更にその攻撃を耐えたとしてもタイガサバイブが
炎の力を宿したデストバイザーツヴァイで一刀両断したり、ライダーキックで粉々に砕く。
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/12(日) 14:39:54.84 ID:kKdf05dX0
>>1さん投降お疲れ様です。
このお話は神崎が結末を認めないと叫んで巻き戻しになる運命なのでしょうか?
彼は自分に都合が悪い結末を迎えたライダーバトルの場合(オーディンが死亡、もしくは結末を待たずに神崎結衣が消滅)は問答無用でタイムベントで時間を巻き戻していたそうなので、それが気になります。(なので、聞いた話によると劇場版のあれもシアゴーストたちとの決戦の後、タイムベントで巻き戻されたという設定になっているそうです。)
原作では最終的に何度繰り返しても「結衣が新しい命を欲しない」と幾度もなく繰り返してやっと理解した神崎士郎が、時間を巻き戻すのと同時に自分と結衣をミラーワールドの中に引き込んで封じた結果があの結末なのだそうなので、それだとしたらここまで頑張った佐野が報われないなって思います。
物語りは最終局面へと向かっていますが、自分も就活が近いのでその対応をしつつ楽しみにしています。
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/14(火) 15:23:16.63 ID:y+DNB+Gv0
 コメントありがとうございます。質問に対する答えとしてはそういうのは考えていません。
 ただ僕自身もこの物語を書く時に、小説版やHEROSAGAにおける龍騎の物語の一部の設定を流用したりしています。更に私的な考えとして、神崎士郎も不死身というわけではない。ミラーワールドにも何らかの限界があるんじゃないか、ライダーの欲望<ねがい>が神崎士郎の至上命題すらを軽々と凌駕した場合には
ゴルドフェニックスという一種の不可能すら超える最強のミラーモンスター<可能性>すら生み出すのではないか。とかエトセトラエトセトラ。
 長くなりましたが完全に最後の一人になるまでライダーバトルは続きます。佐野君も仲村君も香川先生もゴロちゃんも真司君も真一君も、そして神崎士郎も
叶えたい願いのために戦っているので、戦いの最中に命を落として道半ばで果てる覚悟は全員持っているでしょう。
 最後の一人の願いは必ず叶う。それが、この繰り返された一つの可能性としてのライダーバトルにおけるたった一つの結末とだけお答えします。
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/11/14(火) 18:58:44.93 ID:yT0A74SK0
最近読み始めたけれども面白いスレだなぁ
まさか東條があんな感じになるなんて思いもしなかったし
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