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鈴谷秘書艦と新入り不知火
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123 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/22(火) 23:04:30.71 ID:JU0n3XVZ0
霧の中、ゆっくりと航路を確認し続けていると、周りから他の3人の声がしないことに気がついた。先程よりも酷くなった霧は、10メートル先さえも見せてくれない。空から降ってくる雪が私の頬を、まるで痛め付けるかのように冷やす。
電探を見ても3人の反応はない、前方に輸送船団が居たはずなのに反応が1つもない。自分の居場所も分からないまま、とにかく羅針盤を使えば輸送船団には合流できるだろうと思い、南東に進路を向ける。それにしても酷い霧だ、訓練生だった時に文献でみたキスカ島の様だ。
不知火が居なくなってかれこれ10分は経つ、合流した輸送船団から離れることは出来ず、かといって不知火を見捨てることは出来ない。
磯風「白露、ちょっと良いか?」
白露「??どしたの?」
磯風「不知火、私が探してきてもいいか?」
そう言うと白露は少し難しい顔をした。分かっている、たった1人のために輸送船団護衛任務から離れるのもおかしな話だ。だが、白露は笑顔になって
白露「うん、良いよ」
許可してくれた。実際のところをいうとあまり許可されるとは思わなかったのだ。
磯風「良いのか?任務から離れるんだぞ?」
白露「私と満潮が居ればなんとかなるって、もしかして旗艦が信用できない?」
磯風「いや、今回限りは信用させてもらおう。見つけ次第、お前たちに合流する。先にいっててくれ」
白露「あいよー」
124 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/22(火) 23:25:42.74 ID:JU0n3XVZ0
ここはどこだろう、段々と目的の場所から離れている気がする。それに、霧が晴れないせいか今どちらを向いているかわからない。さて、どうしたものか…
不知火「ん…?」
1つ、電探に反応がある。ゆっくりとだがこちらに近づいている。相変わらずの霧で姿は見えない、艦娘か深海棲艦か…
磯風「よし、居た居た」
不知火「磯風?私ははぐれていたのね…」
磯風「全くだ。ほら、早く向かうぞ。この縄を持て、はぐれないようにな」
不知火「ええ」
1本の縄を腰に巻き付け、外れないようにする。
磯風「よし、行くぞ」
不知火「了解」
125 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/08/22(火) 23:26:10.47 ID:JU0n3XVZ0
ここまで
126 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/23(水) 09:42:19.77 ID:liqnv3cdo
おつ
127 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/19(火) 23:07:42.89 ID:u73hTmLv0
再開、遅れて申し訳ありません。
128 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/19(火) 23:16:34.74 ID:YpVXP81Po
うい
129 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/20(水) 05:37:31.42 ID:BVyHPtOs0
手袋に染み込んだ血がまだ乾き切っていなかったのだろうか。握った縄に血の痕がつき、ベッタリとへばりつく。
磯風「不知火、腕の傷は大丈夫か?」
不知火「もう治ったわ。なぜそんなことを?」
磯風「いや、また血が出てるからな」
不知火「え?」
腕を見ると、さっきと同じ傷の場所から再び大量の血が出ている。傷口が開いたのだろうか。こぼれ出る血を手で止める。
磯風「艤装の調子が悪いのかもしれないな。戻ったら司令官に言ってみたらどうだ?」
不知火「そうね、そうするわ」
幸い傷口はまた閉じて、血も完全に止まった。そろそろ白露たちと合流できるだろうか。
白露『あー、あー、不知火と磯風、聞こえてる?』
無線から白露の声が聞こえる。
磯風「ああ、きこえるぞ。どうした?」
白露『そっちは見つかった?』
磯風「見つかったぞ、今そっちに向かってる」
白露『なら、早めに合流してね。提督に心配かけたくないし』
磯風「了解だ。不知火、行くぞ」
最大戦速で海原を駆ける。
130 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/20(水) 06:04:22.10 ID:BVyHPtOs0
不知火たちがこちらに向かっている頃、白露と満潮は優雅な船の旅を楽しんでいた。電探には自分達以外の反応が全く映らず、輸送船団から襲われたという連絡も来ない。
満潮「静かね、このまま何事もなく鎮守府に帰りたいわ」
白露「まぁね、鎮守府まであとちょっと。提督に連絡いれよっと」
無線を繋ぎ、提督にそろそろ入港することを伝えようとする。
白露「あーあー、こちら三哨旗艦白露。入港許可を求めます」
返事は帰ってこない。無線自体は繋がっている。今は席をはずしているのだろうか。このままだと輸送船団を入港させることができない。
鈴谷『あーえっと、提督代理の鈴谷だよ』
白露『秘書艦?提督は?」
鈴谷『何か上から呼ばれて出かけちゃった。要望なら私が聞くけど、何かあったの?』
白露「輸送船団の入港許可を求めます」
鈴谷『なるほどね。良いよ、輸送船団入港し次第三哨も入港して良いよ』
白露「ありがとうございます。ふぅ、満潮輸送船団に連絡しておいて」
満潮「はいはい」
長いようで短いような二時間だった。とにかく今は入港させることを考えよう。
131 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/09/20(水) 06:05:04.79 ID:BVyHPtOs0
ここまでです
132 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/09/20(水) 09:32:30.48 ID:tS1Hr/Muo
おつ
133 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/11(水) 18:38:43.50 ID:OlBt4mty0
再開します。
134 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/11(水) 18:49:34.57 ID:UiDOZ4/yo
うい
135 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/11(水) 19:25:46.51 ID:OlBt4mty0
白露「満潮、輸送船を案内してあげて」
満潮「はいはい、辺りの警戒よろしく」
満潮が輸送船を率いて鎮守府に向かう。電探に反応はなく、波も穏やか。これほどまでに航行しやすい海があっただろうか。ただ、この視界を遮る霧と降り続ける雪さえなければ。こんなに酷い霧は着任したとき以来だ。
時計で時刻を確かめる。そろそろ哨戒の交代時間、まだ不知火を迎えに行った磯風も帰ってこない。とは言え、先に帰るのは旗艦としての名が廃る。
白露「遅いなぁ、そろそろ満潮が入港し終えるってのに」
ふと電探を見ると、反応が2つこちらへ向かってくる。ピッタリとくっついて離れず、それに少しだが艦の海を走る音が聞こえてくる。
白露「磯風…?おーい、磯風ー!」
必死に二人の方向へ呼び掛け、返事を待つ。それを聞いたのか、反応がさっきよりも早くこちらへ向かってくる。ようやく帰ってきたと安堵、気を抜き迎えに行こうとした。だが、霧から出てきたのは二つの黒い塊。
白露「っ!?」
白露は寸での所でイ級との衝突を回避、すれ違い様に砲弾を2発撃ち込みこれを沈めた。背後から迫るもう1体からの砲弾を避けきれず1発被弾、左肩を損傷し艤装の排煙部分がおしゃかになったが、主砲を持ち換え赤く光る目を撃ち抜きこれを撃破する。
残骸が火と煙をあげ、まるで狼煙のように空高く昇っていった。
白露「いったぁ…もう、紛らわしいなぁ」
肩に砲弾の破片、そして火傷の痕。かなり痛々しいが鎮守府に戻りさえすれば、こんな傷すぐに治る。
磯風「おい白露!大丈夫か!?」
声をかけられて白露が顔を上げるとそこには磯風と不知火の姿があった。
白露「ったく…二人とも遅いってば」
磯風「すまん、鎮守府に戻ろう」
不知火「すみません、これも不知火の落ち度のせいです…」
白露「いいよいいよ、それよりもさっさと入渠したいなぁ」
二人は白露を支えるようにして航行する。
136 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/11(水) 20:14:10.66 ID:OlBt4mty0
港へ戻ってくると先に満潮が帰投しており、四哨が交代で海に出ていった。白露が体を伸ばし艤装を背負ったまま入居場へと向かっていった。
満潮「まさか、輸送船団のお守りまでしなきゃいけないなんてね」
不知火「…」
満潮「ほら、落ち込まない。初出撃でこの濃霧、慣れてる私たちでさえ迷うんだからしょうがないわよ」
不知火「いえ…」
必死でフォローしてくれてはいるのだろう、でも初出撃でこんなに恥を晒してしまったのだ。このままだと陽炎に会わせる顔がない。
満潮「はぁ…不知火、ちょっとこっち向きなさい」
不知火「…何を」
両頬を勢い良く挟まれて結構大きな音が響いた。頬がヒリヒリする。
満潮「そんなに気にしたってなにも変わらないわよ。それよりも嫌なことなんて忘れて、さっさとご飯食べて寝た方が有意義よ」
不知火「…そうですかね」
満潮「そうそう、あとその敬語やめて。同じ駆逐艦に敬語を言われるとなんか落ち着かないわ」
不知火「…分かった」
満潮「よろしい」
ようやく手を離してくれた。未だに頬がヒリヒリする。どれだけ強く挟まれたのだろう。
137 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/11(水) 20:14:42.70 ID:OlBt4mty0
ここまで
138 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/11(水) 20:20:51.58 ID:UiDOZ4/yo
おつ
139 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/10/13(金) 22:51:37.64 ID:gmZOGA680
そういや雪が降ろうが雨が降ろうがこの子達半袖なんよな
140 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/30(月) 15:25:24.58 ID:l6QAcLSx0
再開します
141 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/30(月) 16:19:26.05 ID:l6QAcLSx0
磯風「おい不知火、メンテナンスの準備ができたぞ」
満潮「何かあったの?」
不知火「艤装のメンテナンス、少し調子が悪いので」
満潮「そう、ちゃんと治してもらってきなさい」
磯風の元へ向かうと口に手を当てて、肩を揺らして笑っている。少しイラッとするが、気にせず工廠に向かいたい。
磯風「し、不知火…その頬は…プフッ…♪」
不知火「…笑わないで」
磯風「こんなの笑うに…プフッ…」
何度も吹き出す磯風に咳払いをして笑いをやめるよう促す。昔の私であったら拳で磯風の顔を殴っているところだろうが、今の私はそんなことはしない。衝動をグッとこらえ気持ちを鎮めようと努める。
磯風「悪い悪い、それにしても艤装の不調か。ハッキリとした故障なら修理もしやすいだろうに」
不知火「環境の変化での故障…それとも劣化…」
少し考えながら歩いていると、誰かと軽く肩がぶつかりよろめく。
不知火「あっ、申し訳ありません」
頭を下げて謝罪すると、相手の足が止まる。
??「…ん…あぁ…」
眠そうな顔をして歩いていく。頭をあげて少しだけ見えた相手の顔を見ると、驚いてしまいえっ、という声を出してしまった。聞こえなかったようで、そのまま歩いていってしまった。
不知火「…磯風、あの人って」
磯風「あぁ…吹雪だな。あいつあんなんだったか?」
142 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/30(月) 17:34:08.09 ID:l6QAcLSx0
そのまま歩いていく吹雪の姿を良く見ると、髪はボサボサで荒れており後ろで結ばれているはずの髪も結ばれていなかった。
不知火「人の裏って…分からないものね…」
磯風「そうだな…さて、ここが工廠だ」
鉄の重たい扉を開けて中の様子を伺う。装置の稼働音が鳴り響き、唯一の工作艦の明石がいた。
不知火「明石さん」
明石「あ、不知火ちゃん。久しぶりだねぇ」
あったのはかれこれ1年前ほどだっただろうか。彼女はたった1人の工作艦ということもあってか、各地の鎮守府と白地を転々としている。装置の修理と艤装のチェック、彼女が言うには「もう10人同じ体があればなぁ」だそう。
明石「それで、二人で何のご用かな?」
不知火「艤装のチェックをお願いします。少し具合が悪いようで…」
明石「ん、見せて」
背負っていた艤装を床におくと、艤装をゆっくりと分解し始める。
143 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/10/30(月) 17:35:02.39 ID:l6QAcLSx0
ここまで
144 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/11/03(金) 09:53:21.80 ID:LT13vPTc0
吹雪の真の姿がw
それにしてもこの不知火格好つけてるんだけど落ち度の匂いが半端ない
145 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/20(月) 21:36:08.46 ID:iJVC/rZy0
再開します
146 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/20(月) 22:39:41.57 ID:iJVC/rZy0
明石「んー…おっ?」
何かを見つけたように声を上げると、缶を取り出しさらに奥まで手を滑り込ませる。こちらからでは何が起きているかは分からないが、故障の1つでも見つけたのだろうか?
明石「あったあった。これが故障の原因だね」
そう言って1つの大きな鉄の破片をこちらに見せてくる。
明石「これが艤装の奥深くまで入り込んでたせいで上手く機能しなかったみたいだから、後は軽い修理で直るよ」
不知火「ありがとうございます」
明石「良いよ良いよ、こっちで元の場所に戻しとくから」
不知火「はい、それでは」
ひとまず故障が治ったことに安堵する。横からニヤケ顔で小突いてくる磯風に、鳩尾へ肘を入れるとそのまま工廠を後にし廊下へ出る。
磯風「さ、流石に…鳩尾はダメだろう…!」
不知火「自業自得」
そのまま廊下を歩いていると、向かいから駆け足で駆逐艦娘がやって来る。かなり急いでいるのか額に汗を滲ませ呼吸を乱していた。
磯風「し、白雪…な、何を急いでるんだ…?」
白雪「磯風さん!吹雪を見ませんでしたか!?」
磯風「それならさっき不機嫌そうに向こうに歩いていったが…どうかしたか?」
白雪「いえ!それでは!!」
もうダッシュで廊下の向こうへ消えていく。何人かすれ違った艦娘は不思議そうに眺めていた。
147 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/20(月) 23:46:56.71 ID:iJVC/rZy0
不知火「白雪は確か舞鶴所属だったような」
磯風「確か新人時代の時、初演習で舞鶴としたとき居たな」
そんな昔の事を、自分でも良く覚えていたと感心する。
磯風「まぁ、異動なんてどこでもあることだろう。現に私たちがその異動してきた艦なんだからな」
不知火「それもそう、ね」
磯風「さて、次は白露の様子を見に行こうと思うが、不知火はどうする?」
不知火「ついていくわ」
磯風「ならこっちだ。早く向かおう」
不知火「えぇ」
今日だけで鎮守府内を行ったり来たり、今日中に敷地内を探索するつもりはなかったがついでに済ませられたと思えば、ちょうど良かっただろう。
148 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/11/20(月) 23:47:26.03 ID:iJVC/rZy0
ここまで
149 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/14(木) 21:23:15.45 ID:A08x2THa0
再開します
150 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/14(木) 22:04:06.54 ID:A08x2THa0
ドックへの道は磯風が丁寧にわかりやすく教えてくれた。意外と重たい扉を開け中に入ると、奥のベッドで白露が寝ていた。傷はすっかりと治り、いつでも退室できるようになっていた。
白露「やぁやぁ2人共、さてはお見舞いかな?」
嬉しそうににやけ、切られたリンゴを口へ運ぶ。既に誰かが来た後のようだ。
磯風「どうやら見舞いに来なくて良かったみたいだな、帰るぞ不知火」
白露「わー!待って待って!」
必死に袖にすがり付くと、犬のように顔を擦り付ける。犬かと言いたくなったが、既に2人の犬達が居るのを思い出すとその言葉を奥底へ封じ込めた。
白露「せっかくだからリンゴ剥いていってよ。皮を切るの苦手でさぁ」
不知火「それなら私が」
ナイフを手に取りリンゴの皮を薄く剥く。昔、数多くのリンゴの皮を剥いてきた経験を活かす時がまさかこんな時だとは思わなかった。こんなスキルを身に付けてさせてくれた陽炎には感謝しなければいけない。
磯風「へぇ大したんだ。それは陽炎姉さん絡みか?」
不知火「ご明察、流石ね」
磯風「ふっ、あの陽炎姉さんの事だ。どうせ風邪でも拗らせて寝込んだんだろう」
リンゴの皮を剥き終わると蔕を取り除き、8等分にして種を取る。皿に盛り付けると、ベッドの台に置いておく。当の白露は剥いた後の皮を両手で広げていた。
白露「おぉ〜〜〜!すごーい!」
磯風「ここまでリンゴの皮は長くなるのか。すごいな」
そこまで誉められると嬉しい。2個目のリンゴを剥こうと手を伸ばしたとき、後ろからトントンと誰かに肩を叩かれた。
鈴谷「やっほー♪」
磯風「ひっ、秘書艦殿!」
すぐに立ちあがり敬礼をする。苦笑いを浮かべながら椅子に座るよう促す。…前も磯風は同じ様な驚き方をしていたような気がする。
鈴谷「もー、堅苦しいのは良いってば。それよりも不知火に用事があるんだけど、良いかな?」
不知火「はい、分かりました」
151 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/14(木) 22:25:29.27 ID:A08x2THa0
ドックの外まで連れ出され、1つの手紙を手渡される。
鈴谷「はいこれ、横須賀の陽炎からね。流石は長女、次女への手紙も怠らないねぇ♪」
不知火「…今読んでも?」
鈴谷「部屋に戻ったらね、それと廊下の掃除しなくてもいいよ。みんな使う廊下の筈なのに埃1つ無いからね。これ満潮にも伝えてあるから〜」
私は、掃除が消えた嬉しさよりも陽炎から来た手紙が気になって仕方がなかった。
不知火「…」
鈴谷「あれ?もしもーし?聞こえてる?」
不知火「…っ?」
鈴谷「あ、帰ってきた。ということであとはおねがいね〜」
まだ多少ボーッとしている私の脳ミソを動かせるために、顔を両手で叩きシャキッとする。既に秘書艦はいなくなっていた。
152 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/14(木) 22:25:58.86 ID:A08x2THa0
ここまで
153 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/12/16(土) 21:31:22.95 ID:hGVFvu6y0
かげぬいは尊い。
白露は可愛い。はっきり分かんだね
154 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/30(土) 09:55:29.21 ID:pnhndO3u0
再開します
155 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/30(土) 10:52:27.09 ID:pnhndO3u0
手紙をポケットへしまい込むと、白露のベッドに戻る。それほど時間は経っていない筈だが、既に白露はベッドから降りあくびをしながら体を伸ばしていた。
白露「いや〜、やっぱり体を動かさないと鈍るね〜。変にベッドで寝るもんじゃないや」
磯風「流石は体力バカだな、訓練でもするか?」
白露「良いね!さっさと満潮も呼ばないと!」
磯風「そうだな。不知火、満潮探してきてくれるか?」
不知火「はいはい、と言ってもどこにいるか」
磯風「それなら桟橋に行ってみろ、暇なときはそこで海を見てることが多い」
不知火「なるほど、それじゃ」
桟橋、私たちにとっては出撃と帰還する最も大切な場所。そこに心が釘付けにされるような娘は少なくはない。実際、私自身も桟橋から動かないことがあった。
ドックを出て、外へと出る。あまりさっきまでの雪は止んでいたが、曇りっぱなしで空気は冷えっぱなしだ。吹き付けてくる風を手で防ぎながら、前へ進む。
156 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/30(土) 11:39:27.25 ID:pnhndO3u0
外に人は誰もいない。それもそうだ、こんな悪天候に好んで出るような物好きはいない。
歩いていくとようやく海が見えてきた。木の桟橋は改めて見ると小さくかなりボロボロだが、これを見ると安心するのは艦娘としての性なのだろうか。
桟橋にはただ1人、満潮が足を海へ投げ出して座っている。ただ、悲しげな表情を見るとこちらまで不安になってくるのはなんだろう。
不知火「満潮」
満潮「…不知火?何?」
不知火「白露が訓練をすると言っています」
満潮「そう、分かったわ。ったく、人に頼らず自分で呼びに来なさいっての」
そう言った彼女の目の下は赤く腫れている。泣いたあとなのだろうか。息は少し荒い。
不知火「満潮、ちょっと良いですか?」
満潮「何?白露達が待ってるんでしょ?」
不知火「その目、どうしたのですか?」
満潮「放っといてよ、ほら訓練するんでしょ」
彼女は駆け足で白露達のところへ向かっていく。その後についていき、ドックへ再び向かう。
157 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/12/30(土) 11:39:54.21 ID:pnhndO3u0
ここまで
158 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/28(日) 20:34:17.70 ID:vLC5UCfD0
再開します
159 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/28(日) 21:53:21.17 ID:vLC5UCfD0
ドックに戻ると、白露は既にベッドから降りて柔軟をしていた。磯風が後ろから、背中を押して胸が太股についている。
白露「おかえり〜…アイタタタタタッ!」
磯風「もう少し静かにしろ。もっと痛くするぞ」
白露「ちょっとは手加減をしてってば…!」
磯風は今もグイグイと背中を押し、前屈のまま白露は痛みで呻いている。その割りには上半身はピッタリと下半身にくっついている。
満潮「何やってんのよ」
磯風「見ての通り、白露の柔軟だ」
白露「アイタタタタタッ!」
相変わらず痛そうな声をあげている。それにしても柔らかい体だ、これだけ柔らかければ十分だろう。
不知火「申請書はありますか?」
磯風「問題ない、ここにある」
そう言って申請書をヒラヒラと見せつけてくる。満潮が横から奪い取ると、机に備え付けてある鉛筆で名前を書いていく。
白露「んじゃ、申請書出してくるから艤装の用意しといてよ。備品の準備もよろしくねー!」
白露はドックを出て走っていく。磯風はやれやれといった表情でこちらを見てくる。
磯風「どうせ白露の事だ。準備が終わった頃を見計らってこっちに来るつもりだろうさ」
満潮「いつもの事よ。不知火もあんな奴の部隊に配属させられるなんて幸薄いわね」
不知火「慣れることにします」
満潮「それが一番よ」
クスクスと笑うと全員でドックを出る。風は先程よりも弱くなり、多少は楽になるだろう。
160 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/28(日) 22:20:39.33 ID:vLC5UCfD0
廊下を歩いていると、吹雪を背負った白雪が向こうから歩いてくる。熟睡しているのだろうか、体を完全に白雪に預けガクンと首が垂れていた。
磯風「やぁ白雪、吹雪は見つかったみたいだな」
白雪「えぇ、ありがとうございます。白露さんが走っていきましたが、今から訓練か何かですか?」
磯風「体が鈍って仕方がないそうだ。旗艦の命令に従うのは随伴艦の役目だからな」
白雪「それなら、私達もお手伝いしましょう」
磯風「良いのか?」
白雪「吹雪の場所を教えてくれたお礼です。最善を尽くさせていただきます。ほら、吹雪」
吹雪「んぅ…何…」
白雪が吹雪を揺らして起こす。まだ眠そうな目を擦りながら背中から降りる。
白雪「訓練のお手伝いですよ」
吹雪「分かった…準備してくるね…」
ヨタヨタとたどたどしい足取りで準備室へと向かっていく。
不知火「あの、あれは大丈夫なのですか?」
白雪「今は寝起きですが、ちゃんと眼が覚めれば戦えますから」
ニコニコと返事をされ、こちらからの返しに困った。今思えば、吹雪型がその後の駆逐艦の派生元、その一番艦の戦い方はどういうものなのだろうかとても興味がある。
白雪「それでは私も準備してきます。また後で」
吹雪の後を追って白雪も準備室へ向かう。私達もさっさと準備をしてこよう。
161 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/28(日) 22:48:44.97 ID:vLC5UCfD0
廊下を歩いていると様々な艦娘とすれ違った。皆、ノビノビと過ごしていてとても生活しやすそうであった。読む機会を失った陽炎からの手紙は、夜寝る前に読むことにする。
満潮「今更だけど、あんな吹雪を見るの初めてね。あれが本性だったりするの?」
磯風「いや、さすがに違うだろ。あれは眠いだけに違いない…そうだよな?」
不知火「いや、知らないけど」
謎の胸騒ぎに私達全員が襲われた。吹雪には芋くさい田舎娘というイメージがあり、それが定着してしまっていた。
磯風「ま、まぁ、何だって良い。それよりも訓練だ、訓練!」
満潮「分かってるわよ。何でそんなに大声出してるのよ。周りに迷惑でしょ」
満潮のごもっともなお叱りが出たところで、白露が戻ってくる前に準備を済ませられるように駆け足で準備室に向かう。
162 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/01/28(日) 22:49:30.65 ID:vLC5UCfD0
ここまで
163 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/25(日) 21:45:07.92 ID:8sZeci750
再開します
164 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/25(日) 23:09:39.18 ID:8sZeci750
undefined
165 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/25(日) 23:37:14.06 ID:8sZeci750
準備室に着くとロッカーの中の艤装を取り出す。ちゃんと破片も取り出されたようで新品のように綺麗だった。
磯風「流石工作艦、明石万々歳だな」
不知火「あの人が居なかったら私たちはマトモに出撃できないでしょうね」
砲塔と魚雷管を装着する。仰角を変えて動作を確認する。どちらもスムーズに動くことを確認すると、機関を背負いアームの調整をする。
満潮「調子良さそうね」
不知火「はい、今度こそちゃんと動いて見せます」
満潮「なら任せたわよ」
水面に足をつける、浮力も問題なくそのまま立つことが出来た。少し進んでみると痕跡はちゃんと残っており、どれだけ移動したのかも確認できる。
満潮「というか不知火、あんたまた敬語になってるわよ」
不知火「すみません」
満潮「ここまで敬語が出るなら癖ね。磯風には普通だから陽炎型以外には敬語になるのかしら?」
この敬語はどうしようもない。訓練生時代からの癖で陽炎型の一部以外には敬語で話していて、陽炎や黒潮に手伝ってもらったが治ることはなかった。
満潮「まあ気にしていてもしょうがないわ。不知火の喋りやすい様にしゃべればいいわよ」
不知火「そうします」
艤装の準備を終え、訓練用のペイント弾を装填し試し打ちとして備え付けの鉄棒に向かって発砲する。問題なくインクは鉄棒にへばり付き、無事に撃てることを確認する。
訓練海域に移動すると、吹雪が準備を進めていっていた。テキパキと進めていき、ほぼ準備できていた。
磯風「おーい、白雪。来たぞ」
白雪「あ、皆さん。こちらは吹雪の1個が終われば準備完了です」
磯風「こっちは白露が来れば準備完了だ」
白露「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃジャーン!」
最大速力でやって来た白露は急旋回で私たちに海水をぶっかけて止まった。シャツが海水で張り付く。
166 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/25(日) 23:50:21.48 ID:8sZeci750
満潮「何してんのよこのバカ!」
白露の頭を勢いよくしばくと、濡れたスカートを絞っていた。
白露「ごめんごめん、それで白雪たちも訓練するの?」
白雪「いえ、私はお礼として皆さんの訓練をお手伝いさせてもらうだけですから」
白露「そうなの?」
磯風「ああ実はな…」
白露に事の経緯を伝える。何度かクスクスと笑って白雪が手伝ってくれることを喜んでいた。
白雪「それじゃ、私はこの的を動かしますから訓練開始の合図に空砲を1発ならしてくださいね」
そう言うと白雪はロープを持ち的を動かす。最後の一個に吹雪が結び終えると、大きなあくびをして白雪と同じように的を引っ張っていく。
白露「私が陣形を言うから、それに合わせて艦隊行動してね」
磯風「了解、旗艦殿」
白露「それじゃ、いっくよー!」
1発の空砲が辺りに鳴り響き、訓練の開始を告げる。
167 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/02/26(月) 01:06:36.26 ID:GcwDyZKu0
全員一斉に速度を上げ、まずは基本の単縦陣から始める。第四戦速での航行を始め、目標の的まで距離を詰める。白雪がこちらを確認すると、逃げるようにして動き始める。
白露「目標前方!初弾、撃て!」
各々から放たれたペイント弾は放物線を描いて飛んでいく。的には2発、満潮と不知火が放ったペイント弾が命中した。次弾の装填を急ぎ、魚雷管も目標に向ける。
白露「命中弾、夾叉確認!各自修正、次弾用意、撃て!」
2斉射目は7発が命中、1発が的を越えて少し後ろに着水した。すぐさま白露から次の命令が飛ぶ。
白露「単縦陣から複縦陣に変更!最大戦速!」
2列目の私が白露の横に行き、さらに速度を上げる。白露の顔にはいい笑顔が浮かんでいた。
白露「2個目行くよ!右砲戦用意、各自の判断で撃て!」
最大戦速のせいか体が揺れ、狙いが定まるのはまだあとであった
168 :
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[saga]:2018/02/26(月) 01:07:06.29 ID:GcwDyZKu0
ここまで
169 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/28(水) 16:22:51.46 ID:ibiQ5+7D0
再開します
170 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/28(水) 18:12:51.00 ID:ibiQ5+7D0
体の揺れが収まってきたのを見計らい、狙いを定め的を撃ち抜く。すぐに体を向きを変えて次の的に向かう、吹雪が引っ張る的はチョロチョロと小刻みに震えかなりうざったい。速度をあげ、限界まで近づき初弾で命中させる。
不知火「よし、このまま…」
突然頭部を誰かに叩かれる。頭を押さえ振り返ると満潮が怒った顔でこちらを見ていた。
満潮「急ぎすぎ!実戦だったら死んでるわよ!?」
不知火「え?」
白露たちの方を見るとかなり距離があり、白露が笑っているのが見える。白雪達も苦笑いをしているようで道具を引き上げてこちらに向かっていた。
白露「あははは、まさかそんなに先々行かれるとは〜…」
不知火「すみません…」
何故か今日は謝ってばかりのような気がする。このままでいいんだろうか。
白露「1回動き合わせるところからやろっか。先にやれば良かったかな」
磯風「あれだ、前の鎮守府の艦隊の動き方が身に付いてるからこっちに慣れてないんだ」
白露「でも、さっきの哨戒の時は迷子になった以外はちゃんと出来てたよね?」
磯風「…しらん!」
171 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/28(水) 19:16:01.87 ID:ibiQ5+7D0
満潮「とりあえずやればいいでしょ。出来たら他に原因があるんだから」
白露「それもそっか。不知火、準備いい?」
不知火「問題ありません」
気持ちを切り替える。気にしていてはしょうがない、さっさとこちらに慣れなければ。
白露「それじゃあ輪形抜いた4つやろっか。白雪達もやる?」
白雪「そうですね、吹雪はどうしますか?」
吹雪「わ、私は食べ損ねた昼食の分を食べたいからいいかなって」
白雪「そうですか、それじゃあ私たちはここで。続き頑張ってくださいね」
二人は使った的を戻るついでに持ち帰っていった。
172 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2018/03/28(水) 19:16:47.99 ID:ibiQ5+7D0
ここまで
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