魔王「助けてくれぇ勇者ぁ!」

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28 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/07(金) 23:37:48.06 ID:bHNBdunp0
勇者「ほら、アイツならもう帰ったぜ」

魔王「おお! やるではないか勇者よ! ……ほれ、約束の梅おにぎりだ」

勇者「…なにか入っているわけではないな?」

魔王「貴様……我の楽しみだった昼ご飯を毒物入りだと言うのか!」

勇者「それもそうか…じゃあ早速食わせてもらう」ガブッ

勇者「はむっ……むぐっ…うまっ……」

勇者「うめぇ……梅おにぎりが、こんなにうめぇなんて……ングッ」


魔王「……なんじゃったらもう一個あるから、それも食うか?」

勇者「ゴクッ……い、いや! 俺は勇者だ! 魔王、貴様から施しを貰うわけにはいかない」

魔王「あれだけがっついた者の言う台詞ではないな」




魔王「ちなみにもう一個は明太子おにぎりじゃが…どうする?」

勇者「……次、なんかあったら助けてやるよ」

魔王「契約成立じゃな」
29 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/07(金) 23:40:10.95 ID:bHNBdunp0
勇者「…おにぎりって、こんなあったかくて…美味い物だったんだな」

魔王「勇者よ、貴様も苦労しておるのだな……相談ぐらいなら乗るぞ?」

勇者「魔王……あのな、僧侶が昨日卵と中農ソースを買ってきたんだ」

勇者「俺はてっきり普通に目玉焼きにソースかなって思ったんだ…俺本当は醤油派だけど最近そんなに気にしてられなくてさ」

魔王「う、うむ……ちなみに我も醤油派だぞ」

勇者「だよな! 目玉焼きには絶対醤油だよな! 戦士アイツ頭おかしくてよ、ソース以外は認めないとか言うんだぜ!」

勇者「俺もソースで食ってみたけど絶対的に醤油が美味いってのを思い知ったわ」

魔王「あのソースの感じが妙にマッチしないというヤツじゃな」

勇者「そう、それ! だったらお前卵かけご飯にもソースかけろよって話だ!」

魔王(…そこは関係ないんじゃなかろうか)
30 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/07(金) 23:42:59.44 ID:bHNBdunp0
勇者「えっと……何の話してたっけ?」

魔王「僧侶のご飯についてじゃったな、確か卵とソース買ってきたってとこで終わっておったな」

勇者「あぁ、そうだ…僧侶が卵料理作ったわけよ」

勇者「それがさ、物凄く甘く作った卵焼きの中にうなぎとパイナップルとちくわぶが入れてあってさ…」

勇者「それにソースかけてはいどうぞって来たわけだ……もう俺、何が美味いかわからねぇよ…」

魔王「想像以上に苦労しておったのだな……ほら、さっき差し入れで貰ったクッキーだ、食べるがよい」



勇者「ありがとう魔王……本当にありがとう」モグッ

勇者「……うめぇ」グスッ

魔王「礼などいらぬ、我は貴様に先ほど助けてもらったのだからな」

魔王「困ったときはお互い様だ、何かあったら我に連絡を寄越すが良い」

勇者「魔王……お前、いいヤツだな、見直したぜ」

魔王「フッ…我も伊達に長生きなどしておらぬわ」
31 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/07(金) 23:44:06.46 ID:bHNBdunp0
魔王「大事そうにクッキーを抱えながら勇者が帰っていきおったわ…」

魔王「…一度僧侶に料理の基本を教えねばならぬようだな、これではあまりにも勇者が不憫すぎるわ」

魔王「……いかん、我は魔王であったな、よそ様の家庭事情に顔を突っ込むのは止めておくべきか」



魔王「我がこうして封印されずに生きながらえていくのも、辛いものだな」

魔王「世界に平和がはびこっている今は満足に魔力の補給も出来ぬからな……ええいっ本当に忌々しき世の中よ!」

魔王「憎悪や、嫌悪…あらゆる人の負の感情を魔力として保持してきたのだから、本当に忌々しい世の中よ…」



魔王「あ、いらっしゃいませー! 本日は新装開店となっております!」
32 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/07(金) 23:45:38.33 ID:bHNBdunp0
魔王「ふぅ……やっと午前の仕事が終わったわい…警備員も疲れる仕事よ」

魔王「じゃが、今日は待ちに待った給料日ではないか! …ククク、一体幾ら稼いだのか気になるではないか」

魔王「今日は豪勢に魔水で魔力を補給しようではないか!」

魔王「クッハッハッハッハ!!!」



戦士「……お前、なに一人で笑ってんだ? 端から見てればヤバイぞお前」

魔王「なっ!? ……ええい、貴様! 今すぐ記憶を消し去るが良い! そうでなければ…」

戦士「なんだ? 久々にやろうってのか? いいぜ、相手してやるよ」



魔王「我が貴様に対して土下座して忘れてくださいと言い続けてやるわ!!」

魔王「フフフ、この人前でこんな老人を土下座させる愚かさを思い知るが良いわ!」
33 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/07(金) 23:47:18.90 ID:bHNBdunp0
戦士「ばかっ! やめろ! 忘れるからやめろ魔王!」

魔王「許してください戦士様! 我はそんな気はなかったのだ!」

戦士「分かった! 分かったから! 顔上げろ!」

魔王「ふむ……では、忘れてくれるのだな?」ムクッ

戦士「ああもう、綺麗さっぱり記憶から消したぜ」



魔王「……我の人脈を甘く見るでないぞ? 貴様が魔法使いにでも喋ればそれがすぐ我の耳に入るのであるからな」

戦士「魔法使いにも言わないって! だからこの話はヤメだ!」

魔王「最初からそうしておくべきだったのだ、情報戦で我に敵うものなどおらんのだからな」

戦士「魔王が情報戦ってなぁ……つか、お前なんでそこまでして生き延びたいんだよ」
34 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/07(金) 23:48:10.03 ID:bHNBdunp0
魔王「それは……だな」

魔王「……生物として生を受けた以上生き延びたいと思うのは誰でも一緒なのではないか?」

魔王「それは魔王である我でも、勇者でも、貴様でも変わらぬと思うがな」

戦士「そりゃそうだが……にしてもお前どんなことをしても生き延びるって感じがするぞ」

魔王「それは我が魔王であるから故だ、魔王が滅びては魔族が繁栄出来なくなってしまうではないか」

魔王「魔王の肩書きこそすぐに入れ替わるが、魔王である我の代替は誰も出来ぬのだ……」



魔王「決してな……ふっ、忌々しき宿命よ」
35 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/07(金) 23:50:19.90 ID:bHNBdunp0
戦士「……お前、なんか隠し事してねぇか?」

魔王「へそくりは貯めておるぞ? 幾らまでとは言えぬがな」

戦士「そうじゃなくて、いやそうじゃなくって……なんて言えば言いんだ?」

魔王「…よい、貴様は変に勘ぐりすぎているだけだ」

魔王「それに、貴様のような頭が足りぬ者が変に頭を使うと知恵熱が出るからな、ほどほどにしておくのだ」

戦士「お前、俺のことバカにしてね?」

魔王「戯け、魔法使いに貴様が知恵熱で倒れたときに何て言うか困るからこう言っておるのだ…だから貴様は頭が足りぬのだ」

戦士「ぐっぬぅう……なんか言いくるめられた気がするわ」

魔王「ハッハッハ! 魔王であるからな、舌戦は得意中の得意であるからな!」

魔王「では早く子孫を築き、我を倒せるように鍛えておくのだな!」

魔王「それまでの間は一時休戦だ! もう我は貴様らと戦いとうないわ…疲れるし」

魔王「では、これからコンビニのバイトがあるので失礼する!」
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/07(金) 23:51:14.72 ID:37ss2Nvp0
これは生き汚い魔王陛下
37 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/07(金) 23:52:51.58 ID:bHNBdunp0
――コンビニ



魔王「なんだそのッシャッセーという言語は!」

魔王「もっとお客様にちゃんと聞こえるように元気良く言わぬか!」

魔王「え? 似てた? …フッものまねは得意であるからな、もっと我を褒めるが良いぞ」

魔王「そして我を崇めよ! …い、いたっ! ウザいだと!? 貴様、暴力だけはやめろと言っている!」




僧侶「あ、いたいた…おーい、魔王さん! こんばんは」

魔王「むっ…誰かと思えば僧侶ではないか……こんな夜分遅くにどうしたのだ?」

魔王「今はRチキは売り切れておる、買うなら出直すのだな」

僧侶「あ、いえ…そうではなくて……あの、魔王さんなら知ってるかなって思ってきたんです」

魔王「ほう、人間の小娘が我に助言を求めるか……面白い、申してみよ」

僧侶「えっと、最近勇者様の体調が優れなくて……今日もご飯をそんなに食べずに寝られてしまって…」



魔王(あー、はいはい…もう原因分かっちゃった気がするぞ)



僧侶「もしかして、勇者様はご病気なのではないかと思ったのです」

僧侶「ですが、勇者様は元気だと一点張りで……魔王さん、勇者様から何か聞いていたりしませんか?」
38 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/07(金) 23:55:10.56 ID:bHNBdunp0
魔王「そうであるな……僧侶よ、まず我が確認したいことがある」

魔王「貴様は何故勇者が具合が悪いと思うようになったのだ?」

僧侶「それは……最近の勇者様がご飯をほとんど食べてくれなくなったからです」

魔王「ふむ……では、聞こう、本日の献立はなんだ?」

僧侶「えっとですね…勇者様が好きな献立を考えて作りました」

魔王「ほう……ヤツの好きな献立とな…どのようなものだ」

僧侶「ハンバーグと、唐揚げと浅漬けと、あとはお味噌汁に白米ですね」

魔王「いたって普通のメニューではないか……何か一工夫入れたりとかしたのか?」

僧侶「それは勿論です!」




僧侶「勇者様の元気が回復するようにスッポンの血と味に深いコクを出すためにコーヒー牛乳、あとカカオ一個ですか」

僧侶「それにピリッとした辛さが欲しかったのでから揚げにジョロキア? と唐辛子と山椒を入れて」

僧侶「後は甘さが足りなかったのでチョコレートとハチミツ、ユン○ル」

僧侶「それを全部一個にまとめて食べやすくしてみました!」

僧侶「一個にまとめるのに小麦粉と水あめとあとは……」



魔王「も、もう良い! そんなもの入れたら我だって食えぬわ!」

僧侶「えっ……ですけど、味見したときはすっごいおいしかったですよ?」

僧侶「もしかしてと思って少し持ってきたんです、魔王さん食べてみてください」

僧侶「遠慮しなくて大丈夫です、沢山作ってきたので…ガブっといっちゃってください!」

魔王(勇者ぁあああ!! 今、今助けに来てくれ! お前の嫁に我が殺される!!)
39 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/07(金) 23:58:29.90 ID:zaVzIlN2o
なお知恵熱とは幼児に起こるもので頭を使う云々は全く関係なかったりする
40 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/07(金) 23:59:10.43 ID:bHNBdunp0
魔王「…え、遠慮させていただく! 我はまだ……その、バイト中なのでな!」

僧侶「そんな…魔王さんならって思ったのに……」

魔王(くそっ…僧侶を泣かせたら勇者が我を殺しに来てしまうではないか!)

魔王「わ、分かった! ただし、一口だけだ…それ以上は店長の顔もあるのでな……すまぬ」

魔王「すぅー……うぐっ……い、いくぞ!」ガブッ



魔王「ゴフッ……おえっ! …うぉおえぇっ……ま、まずっ!」

魔王(とても人間の食い物ではない!! だが、ここで食わねば勇者に斬られる…ええい、ままよ!)



魔王「っぬぁあああ!!! 食べた…食べてしまったぞ我は!」

僧侶「あぁ…良かった……食べれたって事はお料理のせいじゃなかったってことですよね!」

魔王「料理のせいだ! この戯けめ!」

魔王「立派な毒物じゃわいこれは! いかな我でも完治不能の毒状態にさせられる所じゃったぞ!」

魔王「これは勇者にはやれぬ、没収じゃ」

魔王「良いか僧侶…料理というのは心が篭っておればそれだけで美味くなるものよ、白米だけであってもな」

魔王「それを味付けのせいにするとは言語道断! 普通のものを食卓に並べよ!」
41 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/04/08(土) 00:01:38.39 ID:bB541H3t0
魔王「明日は納豆とご飯を朝食に並べよ…それだけで勇者は涙を流しながら食べきるであろうな」

僧侶「それだけで良いんですか? もっと味にパンチが欲しいような…」

魔王「いらぬ! そんなもの犬にでも食わせてしまえ!」

魔王「だいたい何故我が勇者の体調を心配せねばならぬのだ……料理の本をやるから数日はそこに書かれているものだけを作るのだ」

魔王「分かったならばさっさと行け! 憎き勇者が僧侶が帰ってこぬと心配するであろう」

僧侶「……口調は相変わらずですけど、でも魔王さんって優しいですね」

魔王「このぐらいの寛大さが無ければ魔王は勤まらぬでな! ふははは!」
42 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/08(土) 00:03:40.22 ID:bB541H3t0
僧侶「あの、どうして魔王さんはこの世を何度も混沌に陥れようとしたのですか?」

魔王「知れたこと…我にとってその方が生きやすいからな、人々が恐れおののき恐怖する姿は我が魔力の糧とするに十分でな」

僧侶「本当にそれだけが目的だったんですか? 魔王さん優しいのに……」

魔王「優しさとはまた別の話だ、魔王としての責務としてやっていたに過ぎぬ」

魔王「それに我は勇者に倒されるまでが魔王であるでな、でなければ魔王なぞやっとらんわ」



僧侶「倒されるのが本当に良いと思っているのですか? …そんなの、おかしいです」

魔王「僧侶よ……我は世を脅かし、勇者に倒される宿命なのだ、我も倒されることにもう慣れておる」

魔王「それに我は……いや、なんでもない」

魔王「話は終いじゃ…帰るのだ、これ以上話すことなどもう無い…去れ」

僧侶「はい、では…また来ますね」
43 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/08(土) 00:04:33.93 ID:bB541H3t0
魔王「我も聖剣を壊しなどせねば今頃こんな苦労せずに眠れておったのに…」

魔王「それもこれも軟弱に作ったヤツが悪いのだ!」



魔王「あ、いらっしゃいませー!」

魔王「カフェラテとな? それのLサイズは150ゴールドじゃな、ガムシロは入れるか?」

魔王「では暫しそこで待っておれ、我直々にガムシロを入れてやる! 光栄に思え!」
44 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/08(土) 00:05:32.13 ID:irJMwaOLo
ちゃんと味見してるなら完全に味音痴
45 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/08(土) 00:05:53.41 ID:bB541H3t0
魔王「深夜のコンビニバイトは辛いものだ…この歳になると体力が持たぬわ……」

魔王「今日は仕事は入れておらぬし久々に魔王らしく過ごしてやろうではないか…ふはははっ!」

魔王「……その前に眠ろう、眠くて敵わん」

魔王「では戻ったぞ、我が家よ」ガチャ




魔王「む? 鍵がかかっておらぬではないか…鍵のかけ忘れとは、我としたことが…」

盗賊「……」

魔王「ほぉ…我が居ぬ間に空き巣を働こうとは…捨て置けぬ罪人であるな!」

魔王「貴様にやれる物は無い、我に処される前に早々に去れ」

盗賊「チッ…バレちまったら仕方ねぇ……テメェには死んでもらう!」チャキ

魔王「ナイフは反則じゃ! や、やめておくれ…我を殺さないでおくれぇ…」
46 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/08(土) 00:07:09.19 ID:bB541H3t0
一旦終了。
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/08(土) 00:08:21.67 ID:P39M6Hb/O
優しい世界
ていうかあんた良く次から次へとおもろいの思いつくな
48 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/08(土) 00:35:15.94 ID:CISTk52Y0
この筆の速さもすごいが
内容が良質なのもすごいや
実にすばらしい
49 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/08(土) 01:44:20.30 ID:pD6KkMNLo
もう信者まとめてしたらばにでも引っ込んだら?
50 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/08(土) 13:32:53.86 ID:HLs3Xu7fo
魔王様、働きすぎや
51 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/08(土) 20:52:24.41 ID:Ndwil4BNO
魔王「貴様にやれる物は無い、我に処される前に早々に去れ」

我が の間違いですかねぇ……
52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/09(日) 03:25:43.20 ID:ST96SwSEO
乙です。
とりあえず強気に出ておいて相手がやる気だったら命ごいをする、実にいいな。
53 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/09(日) 05:22:56.56 ID:+pGSedoRO
そういうのも良いと思う
54 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/09(日) 11:11:38.58 ID:JWr/GUSo0
盗賊「ケッ…脅かしやがって、おら、さっさと金の在り処を教えな!」ドガッ

魔王「蹴らんでおくれっ! わ、悪かったからこんなじじいをいじめないでおくれ…」

魔王「ほらそこに見える豚の貯金箱の中じゃ…」

盗賊「あぁ!? 通帳も出せ! カードもだ! 早くしろ!」

魔王「ひっ…それだけは後生じゃ……我が野たれ死んでしまうではないか!」

盗賊「うるせぇ! 今ここで殺されてぇのか!」

魔王「頼むぅ…それだけはぁ!」

盗賊「使えねぇじじいだ……おら、てめぇそこに居ろ、縄で縛ってやる」

盗賊「言っとくが暴れようものなら殺す、いいな!」

魔王「は、はひぃ…」グルグル
55 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/09(日) 11:12:42.10 ID:JWr/GUSo0
盗賊「おら、くそじじい! 通帳はどこに置いてあるか言え!」

魔王「つ、通帳は…そこの引き出しの中だ……も、もう良いだろう…やめとくれぇ」

盗賊「へっ…最初からそう言っておけば痛い見ずにすんだのによ!」ガラッ

盗賊「それじゃあコイツの金は……んだよ、ほとんどカラじゃねぇか、とことん使えねぇじじいだ」ポイッ

盗賊「それならなんか売れそうなものでも……あん? この扉、やけに魔力がかかってるじゃねぇか」


魔王「そこの扉には何もないぞ、ただ単に魔法っぽいのがかかっておるだけだ」

魔王「もっとも、貴様にその結界が破れるとは思わぬがな」

盗賊「生憎俺は盗賊になる前は魔法使いでな、実力だってかなり上の方だったんだぜ?」

盗賊「だけど今はこうだ! 勇者が魔王を倒しちまったのがいけねぇんだ!」

盗賊「俺はこうするしか生きていけなかったんだよぉ!」

魔王「お主も辛かったであろうな…」
56 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/09(日) 11:14:31.79 ID:JWr/GUSo0
魔王「しかしその先には行ってはならぬ、やめておくのだ」

魔王「そこだけは開けてはならぬ、我以外に踏み入ってはいけぬ場所だ」

魔王「今ならば間に合う、そこだけは入るでない」

盗賊「うるせぇよ、じいさん……こうも必死になるって事はいいものが幾つかあるってことだよなぁ?」

魔王「やめるのだ……でなければ、我は残った魔力を全て使ってでも貴様を消すしかなくなる!」

盗賊「よぼよぼの爺さんが俺に敵うとでも思ってんのか?」

盗賊「話が分かったらそこで指咥えて見てなクソじじい」

盗賊「結構頑丈な結界が貼られてるが、この俺には通じねぇな…結界関係の魔法は得意だからなぁ」バキン



魔王「ぐっ結界が……よもやこの様な事になろうとは…」

魔王「まだ間に合う、早く縄を解いてここであった事を忘れるのだ…告げ口はせぬ」

盗賊「まだそんな事言うのか…ま、何が出来るでもねぇじいさんは放っておくか」
57 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/09(日) 11:15:46.36 ID:JWr/GUSo0
魔王「仕方あるまい……では望み通り、貴様は我が消させてやろう」ブチィ

盗賊「っ!? な、なんだ…っ!」ゾクッ


魔王「光栄に思うが良い、人の子よ……我は魔王、今一度全ての力を持って貴様を消してやろう」

魔王「よもやこの場から逃げおおせると思うな……か弱き人間よ」

魔王「安心しろ、一瞬で済む」

盗賊「お、おい…テメェ冗談言ってんじゃねぇよ」

魔王「生憎、我は冗談というのがほとほと苦手でな……この存在を知った者をこのまま帰すとでも思うか?」

魔王「この魔王の手にかかって消えるのだ、後に自慢話にでもするが良い」


盗賊「ぐっ…くそ、これでも喰らえ! 氷結魔法!」

魔王「ふん、その程度か……魔法というのはこう使うのだ」

魔王「空間転移魔法!」


盗賊「空間魔法っ!? そんな最上級魔法を、詠唱も無しに……ぐぅっ!」

魔王「当然であろう、魔王なのだからな…貴様如きには少々贅沢な魔法であったか?」

魔王「我の知っている魔法使いであれば、その状態からでもこの程度の魔法なぞ跳ね除けおったが…貴様は無理なようだな」
58 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/09(日) 11:16:42.36 ID:JWr/GUSo0
盗賊「か、体が……どこへ行くんだっ…ぐ、ぁああああ!!!」


シュンッ


魔王「……消えよったか、安心するが良い、この国で一番安全な場所に放り込んだだけだ」

魔王「まぁ、そこは牢屋なんじゃがな…」

魔王「ぐっ……がはぁ!」ドサッ

魔王「……まさか魔法一回で、立っていられぬ程とは…我も落ちぶれたものよ」

魔王「だ、だが…あの場だけは……守らねば…」



魔王「……魔水を、得ねば…結界を張りなおさねば…」ググッ
59 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/09(日) 11:17:24.85 ID:JWr/GUSo0
魔法「ねぇ僧侶、本当にここが魔王の家なの?」

僧侶「そうです、このお家が魔王さんのお家ですよ」

魔法「へぇ…このボロ家がねぇ」

僧侶「ぼ、ボロでもちゃんと立派なお家じゃないですか」

魔法「あの魔王がこのボロ家にねぇ…ぷっくくっ…あー、ダメ! おかしすぎて涙出てきちゃう!」

魔法「だって魔王よ!? あの魔王がここで暮らしてるって…あっはは!」

魔法「はぁ……んで、僧侶がなんで魔王の家に行こうなんて言い出したの?」

僧侶「えっと、昨晩魔王さんからお料理の本を貰ったのですが、やっぱり教えてもらおうかなと」

魔法「ふーん、まぁ魔王の手料理は正直美味いからねぇ…そこだけは私も認めちゃうかなぁ」
60 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/09(日) 11:18:46.31 ID:JWr/GUSo0
魔法「魔王―いるんでしょー?」コンコン

僧侶「ちょ、魔法使いさん! それはあまりにも失礼なのでは…」

魔法「いいのよ、魔王だったらそろそろなんじゃーとか言いながら出てくるだろうし」

魔法「それにお裾分けしてるお皿も返してもらわないとだし?」

僧侶「あ、そう言えば勇者様が魔王さんに少しお鍋のお裾分けをしたんでした」

魔法「えっマジ? 鍋って僧侶が作ったの?」

僧侶「はいっ! 勇者様からも美味しかったって好評でして、また機会があれば作ってみたいです!」

魔法「にわかに信じがたいわね……奇跡が起きたって言うの?」

僧侶「そ、そんな事ないですよ…たぶん」



魔法「にしても、遅いわねぇ…寝てるのかしら?」

僧侶「昨晩コンビニのバイトでしたから…どうなんでしょう?」

魔法「まぁいいわ、案外鍵が開いてたりしてねっと……」ガチャ



魔法「…うそっ本当に開いちゃったんだけど」

僧侶「魔王さんもうっかりしてたんですかね?」
61 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/09(日) 11:19:40.45 ID:JWr/GUSo0
魔法「おーい、魔王? 家鍵あけっぱよ?」

魔法「……魔王?」

僧侶「何か、様子が変です…」

魔法「みたいね…少し上がらせてもらうわよ」


魔法「……まるで空き巣に入られたかのように荒れてるわね」

僧侶「それに、この微量に残る魔力の感覚……これはもしや」

魔法「間違いないわね、魔王の魔力だわ……思い出しただけで寒気がする感覚よ、忘れられるはずもないわ」
62 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/09(日) 11:20:22.65 ID:JWr/GUSo0
魔王「ぐっぅぅ……魔水を、早く、魔力を…」ズルッ

僧侶「魔王さん! ど、どうしたのですか!?」

魔法「おい魔王! アンタどうしたってのよ!」

魔王「僧侶に、魔法使いか……ふ、ふふ…少し筋トレしすぎてな」

魔王「体中が痛くて動けんのだ…ふはは、歳には勝てぬか」

魔法「嘘言ってんじゃないわよ! 大方賊に荒らされて抵抗したってとこらしいけどね」

魔法「魔王の魔力なんて他の奴と違いすぎて一発で分かるわよ」



魔王「フッ…流石は勇者一行のメンバーだな、すまぬが、起こしてはくれぬか?」

僧侶「わ、分かりました! 魔王さん、肩をどうぞ」

魔王「すまぬ……よもや我が僧侶の肩を借りるとは…」

魔王「少し前なら考えられる出来事よ……」
63 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/09(日) 11:21:45.71 ID:JWr/GUSo0
訂正:魔王「少し前なら考えられぬ出来事よ……」





魔王「ぐっ…我も落ちぶれたものよ……たかが賊一人にこのザマとは」

魔法「…ねぇ魔王、この扉……何か隠していたりしてない?」

魔法「ただの扉じゃない、厳重な結界が貼られていた痕跡が残っているわ」

魔法「まさかとは思うけど、魔王……アンタ悪巧みでもしてないでしょうね?」


魔王「フッ…そうだと言えば?」

魔法「簡単よ、もう一度魔王を倒すだけ…今のアンタなら片腕だけで倒せそうだけどね」

魔王「怖いのう……しておるわけなかろう、じゃが…その先には行くでない」

魔王「我のプライベートがその中に隠されておるのだ、秘密基地と言うべきかの」

魔法「何もやましい事をしてなければ入ってもいいじゃない…そんなに勇者ご一行は信頼できないわけ?」

魔王「信頼どうこうの問題じゃないのだ……特に貴様ら二人だけは絶対に入らせぬ」

僧侶「えっ私もですか!?」

魔王「そうだ、貴様もだ僧侶……やはり言わねばならぬのか?」

魔法「腐っても魔王だからね……で、何があるのよこの先に」

魔王「それはじゃな……誰にも言うでないぞ?」





魔王「その先には我が幾千年と集めてきたとってもえっちな物が秘蔵されておる」
64 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/09(日) 11:22:36.90 ID:JWr/GUSo0
僧侶「」

魔法「うわぁ……引くわぁ」

魔王「だ、だから言いたくなかったのだ! プライベートと言っておっただろうに」

魔王「じゃから…今日は帰ってはくれぬか? 厳重な結界を作り直さねばならぬからな」

魔法「そうしとく……帰るよ、僧侶」

僧侶「あ、あの……ごめんなさい」

魔王「よい、貴様らが来なくては我はあと2時間はあのままであっただろうからな、感謝するぞ」

魔法「礼とかいいから、ドすけべ魔王」

魔王「な、なんだと貴様! もう一度申してみよ! この我にそのような言葉を口にしたことを後悔させてやる!」

魔法「…へぇ、いいんだ?」

魔王「冗談ですよ、冗談……我、もう敵わんし…やめてくれんかの」
65 : ◆i29f5n1Y1w [saga]:2017/04/09(日) 11:23:11.71 ID:JWr/GUSo0
一旦終了。
66 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/09(日) 11:45:44.84 ID:76+2RzKPO
67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/09(日) 12:52:09.73 ID:59by0Zi00
68 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/09(日) 20:41:01.07 ID:opRHI5Fz0
乙です。
そら結界張ってでも魔翌力開放してでも守護るわ。
69 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/09(日) 21:09:27.24 ID:Fy45cRnx0
乙でございます
これは守らずにはいられない
70 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/10(月) 01:16:45.40 ID:rOGM4XGP0
幾千年と集めたらたとえただのエロ本でも過去の民族文化を伝える立派な歴史文献だわ
71 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/26(水) 18:01:25.53 ID:GEpYdDilO
エタったか………
72 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/28(日) 22:46:22.00 ID:c1KNlkN20
保守
73 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/20(火) 12:34:35.00 ID:zvYyNMGDO
いいスレ見っけたと思ったら、2ヶ月も前に止まってたのかよ
74 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/23(日) 19:34:34.06 ID:Xzu+L7HR0
はよ
75 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/24(月) 21:39:10.52 ID:pr8cozNx0
えー…
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/15(火) 23:59:24.27 ID:zgqQMnVeo
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/12/26(日) 10:22:49.07 ID:xUBcfHuSo
続け
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