日向「神蝕……?」

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112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/01(土) 12:57:30.80 ID:M4tIeY8B0

これ終わるのしばらく先そうだな
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/01(土) 22:03:18.62 ID:Z1htlMkA0

江ノ島が蘇生したのは九頭龍の文字が関係してるのかな…?
114 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/05(水) 12:18:14.43 ID:pssxomK80
>>112
このスレで終わるかどうかも怪しくなってきた。

>>113
九頭龍の文字は次回あたりで出したいな。



【朝日奈の部屋・ドア】


朝日奈 「あっちゃー、それはまずかったね……たぶん、日向のやつ激おこだよ」

ちょっと日向に同情しちゃう、と朝日奈は肩をすくめた。
まあ、ラブドールの七海でガマンしろっつったようなもんだしな。オレも"なんとなく"気持ちは分かるけど。

大神  「メールを送ってみたが、返事はない……日向の方もよほど参っているようだな」

電子生徒手帳を眺めて、大神はため息。

朝日奈 「学園中走り回って探すのはきついっしょ、葉隠のバカに占わせよっか?」

「さくらちゃん殴った件ダシにしたら、タダで占ってくれんだよあいつ!」と朝日奈。
自業自得とはいえ、ちょっと葉隠が可哀想になってきた。


左右田 「……いや、そこまで面倒かけんのはわりーし、自分で探すわ」

朝日奈 「そっか。じゃあせめて、このドーナツBOX持ってきなよ」ドサッ

左右田 「いーのかよ、これオメーらのおやつだろ?」

朝日奈 「いや、お腹がいっぱいになったら許してくれるかもしれないじゃん?」

大神  「日向がそこまで単純な男とは思えんが……空気を和ませるという意味では必要かもしれぬな」

左右田 「なんかほんと、サンキューな……オレがバカやっただけなのに」

朝日奈 「いいよ。その代わりこれ朝5時から行列できる限定セットだから、今度買ってきてね!!」グッ

大神  「明日の蝕が無事で済むとは限らん……喧嘩など生きているうちしかできぬ」

左右田 「分かった…じゃあ、「和一ちゃーん!!いたいた、やっと見つけたっす!!」……澪田?」

澪田  「もーっ、めっちゃ探したんすよー!!はいこれ、係のお知らせっす!」

押しつけられたプリントには、『学園長からのお知らせ』とある。
どうやら学園長が、俺たちの係を勝手に決めてくれたらしい。


澪田  「和一ちゃんは"介錯係"に決まったっす!!」

左右田 「は?かい…なんだって?」


聞き間違えの可能性も考えて聞き返すと、澪田は「死にかけの生徒にとどめを刺してあげる係っす!!」と
恐ろしい答えをくれた。

左右田 「待て待て待て!!んなこええ係があってたまっかよ!!!」

大神  「我のところにも来たぞ。なんでも"毒味係"とか……他にも"切腹係"や"影武者係"というものもあるらしい。
     学園長はどうやら、クラスの係というものを理解していないようだな」

朝日奈 「あれっ、私は飼育係だったよ?」きょとん

左右田 「いいなあフツーの係!代わってくれよ!!」

朝日奈 「あー…代わってくれるなら代わってほしいというか……」ずぅぅーん
115 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/05(水) 12:19:26.73 ID:pssxomK80


【回想・屋上庭園】


朝日奈 『飼育係かあ……なんかすっごい嫌な予感する』てくてく

朝日奈 『あれ?あそこの紫のマフラー、なんかすごく見覚えが……』

田中  『むっ、我が結界を破ったのは貴様か!』

朝日奈 『げっ!?』

田中  『再びあい見えるとは思わなかったぞ、徒花のウンディーネよ!
     我らには何らかの縁があるらしいな……ではさっそく、魔獣どもに
     魔力を供給する手伝いを頼もうか!』

朝日奈 『やっぱり……』ずぅぅーん

_____________


朝日奈 「……それだけじゃないんだよ、図書委員も夏のプール大会の実行委員も田中と一緒なの!
     もうこれ、なんかの呪いじゃない!?」

左右田 「なんつーか……うん。がんばれ……」

澪田  「ちなみに唯吹は"雨乞い係"っす!」

左右田 「おお、責任重大じゃねーか」

澪田  「はい!今さっきおんなじ係の紋土ちゃんと千尋ちゃんにお知らせしてきた所っす!
     ホラ貝担当として、明日からのステージは盛り上げてくっすよー!」

左右田 「ほ、ほら貝……雨乞いってそんなもんだっけ?」

澪田  「経験はないっすけど、ソウルがあればどうにかなるっす!!」むふー

プリントを見ると、介錯係はオレと終里、辺古山、日向、松田の5人らしい。
……松田?

左右田 (超高校級の神経学者、っていうと……松田夜助だよな)

頭ん中に、目つきの悪いロン毛が浮かぶ。あいつも生き返ってたのか?
じゃあなんで授業も全部バックれてんだあいつ。

左右田 (それより、目下の問題は日向だな。明日は隔離型が来るし、さっさと探して話し合わねーと)


しかし、日向の怒りはすさまじかった。
ドーナツは受け取り拒否。大浴場ではフルチンで逃げられ、個室のインターホン連打もシカトされた。

……もしかして、オレたちこのまま絶交とか……ねえよな、うん!!だってオレらソウルフレンドだかんな!!


左右田 「そうと決まればさっさと寝るか……明日は蝕だし」ゴソゴソ

左右田 「…………」

左右田 「明日死んだら、オレは日向と仲違いしたまんま死ぬんだな……」グスッ
116 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/05(水) 12:20:01.49 ID:pssxomK80


【朝・食堂】


オレの文字のせいで喋るようになったとはいえ、ケータイに説教されるというのはあんまりいい気がしない。


セブン 『和一。カロリーメイトだけでは空腹はおさまらないぞ。
     そんなバランスの悪い朝食で、命がけの試練を乗り切れると思うのか?』ピロンッ

左右田 「それどころじゃねーよ!!今のオレには蝕より親友の怒りの方が大問題なんだよ!!
     メールも返ってこねーし、これはいよいよやべーぞ……」もぎゅもぎゅ

田中  「貴様の自業自得だろう……いっそ、あの人形を破壊して特異点に許しを乞うのはどうだ?」

セブン 『……それでは、かえって火に油を注ぐことになると思うぞ』

左右田 「あああ、オレはなんてバカなことを言っちまったんだ……!」

頭を抱えるオレに、向かい合って飯を食う田中は「怒りが解けるのを待つしかないな」と
珍しく役に立つアドバイスをくれた。

ソニア 「あら、おはようございます田中さん、左右田さん」

左右田 「間が空かなくなっただけでも嬉しいです」キリッ

ソニア 「今日は隔離型が来るそうですね……できればこの3人でチームになれたら嬉しいのですが」

左右田 「えっ!?」ガタッ

田中  「何を期待している。俺と雌猫は"始"から共に行動しているが、雌猫は体力が足りないからな。
     俺一人では守り切れない可能性があるから、というだけの話だ」

左右田 「あ、そうですよね……分かってましたよ、はい」

ソニア 「あら。左右田さんと一緒に行きたいとおっしゃったのは、田中さんじゃありませんでした?」

田中  「なっ……俺が雑種の力にひれ伏すなど、万に一つもありえ「もしかして……オレと仲良く
     なりたいとか?」……今すぐ口を閉じろ「……はい」しかし、残酷な審判の刻まで猶予がないな……」

左右田 「あと5分しかねーじゃねーか!!」ガタッ

ソニア 「日曜日ですから、つい朝寝坊してしまいましたね。チョベリバですわ」

左右田 「チョベリバどころじゃねー!!つーか、ナナミ取ってこねーと!!」ガタッ

セブン 『私を七海に装着してくれるという話はいつやってくれるのかね』

左右田 「あーあー、帰ったら即やってやる!!丸腰で蝕なんてゴメンだ!!」ダッシュ


そうやってオレが焦ってる間にも、時計の針は進んで――


カッ!!


窓から見える空島が、太陽と重なってものすごい光を放った。


【日向創:Chapter3『夢』(ユメ)】


日向  「ん……」むくっ

日向  「無事に転送されたか……隔離型ということは、あと二人いるはずだ。早めに合流しないとな」

ポケットからボールペンを取り出して、指先で回しながら歩く。
今回の蝕は、雰囲気が重苦しい。暗く、淀んだ灰色の空。瓦礫の広がる地面。赤い水で満たされた池――。
子供のころお寺で見せられた地獄絵図が思い出された。
117 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/05(水) 12:20:34.31 ID:pssxomK80

日向  「そんなに広くないな。どこかに出口が……、誰だ!」ブンッ

ボールペンを刀に変化させて構える。瓦礫の影にいた奴は「ひいっ!」と情けない声をあげた。
やがて出てきたニット帽に、オレはゆっくりと刀を下ろす。地面にへたりこんだ左右田の背中を、
「しっかりする!」と小泉が叩く。

小泉  「左右田と会う前に歩き回ってみたんだけど……出口っぽいものはなかった。
     広い道が一本あったけど、まずは合流しようと思って帰ってきたの。
     歩く間に敵にも合わなかったから、そんなに怖い蝕じゃないかもね」

日向  「危ないだろ。もし敵が出てきたら――「アタシは、それくらいしか役に立てないし」

小泉  「分かってるわよ。油断大敵、でしょ?」


一方、その頃。


霧切  「奥に行きましょう。そこに夢の主がいるはずよ」カッ

蝕の解析を終えた霧切が先に立って歩く。

西園寺 「さんせーい!ゲロブタの息で汚れた空気吸うのも限界きてたところだし、早く行っちゃおうよー!」

罪木  「あれ……?」

霧切  「どうしたの、罪木さん?」

罪木  「あ、あの赤い水……なんでしょう、かね……池、みたいに見えますけど……」

霧切  「さあ、手がかりがあるかしら?どうやら危険ではなさそうよ」

西園寺 「ふーん……じゃあ、あんたが行って調べてきてよ!」ドンッ

罪木  「へっ……きゃあああ!?」ドボーン

霧切  「罪木さん!……あなた、何を考えてるの?危険では"なさそう"というだけなのよ」

怒る霧切を、西園寺は反抗的な目で見上げる。そんな二人の後ろで、罪木がザバアッと上がった。

罪木  「ゲホッ、げほっ…!う、うっ…!」ビシャビシャ

霧切  「隔離型は3人1組でのクリアが絶対。罪木さんとの禍根は知っているけれど、
     協力してもらわなければあなたも死ぬわよ」

分かっているの?と問われて、西園寺は言葉につまった。居心地が悪そうに
もじもじと指を突きあわせる。

西園寺 「う……」

西園寺 「だって、だって、分かんないんだもん……どうやって接すればいいのかなんて……!!
     あんたとチームになるなんて、思ってなかった!!」

叫ぶなり、西園寺はくるっと踵を返して走っていく。
霧切は「使って」とハンカチを渡した。

霧切  「追いかけましょう。西園寺さんの座標はまだ近くにあるわ」

罪木  「は、はい!」
118 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/05(水) 12:21:39.49 ID:pssxomK80
_____________

左右田 「あー……んじゃ、さっさと行こうぜ。オレも一応今回は武器持ってっからよ」

小泉  「武器……って、あんたまさか」

地面に膝をついた左右田は、抱えていたコンテナの鍵を外す。中に入っていたのは、七海だった。
スイッチを押すと『ぱちっ』と目を開けて起き上がる。

日向  「七海……」

ナナミ 「…………」

七海は微動だにしない。

左右田 「あー、アクティブモードだからよ。喋ったりはできねーぜ」

小泉  「あんたねぇ……千秋ちゃんに闘わせて自分は安全な所にいようってわけ!?」ぐいっ

左右田 「お、オレが作った武器だぞ、それを使って何がわりーんだよ!!オメーなんて自分の文字も
     ろくに扱えねーくせによ!!」

日向  「やめろ!!二人とも興奮するな!!……脱出するのが先だ「だって!」
     左右田、いいんだ。もう……絶望しなくてもいいんだ」

左右田 「んだよ、分かったみてーな口きいてよ……」

日向  「だから……何が罪滅ぼしになるかとか、いい人ぶってるみたいで恥ずかしいとか、
     そんな事は考えなくていい。ただの左右田和一として生きていていいんだ。
     元はといえば……俺が元凶なんだから」

左右田 「…………」

日向  「今やるべきことをやるだけだ。……制限時間も心配だし、早く行こう」

とはいえ、闇雲に歩いても出口は見つからない。とりあえず、小泉が探し当てたという道まで戻ってみた。

日向  「これか……この奥に蝕の"主"がいるんだろうな。前の"龍"は鍵を探す試練があったけど、
     今回はどうなんだろうな」

小泉  「あのさ、ここまで来て言うのもあれかもしれないけど……気づいた?」

日向  「?」

小泉  「この空間……影がないの」

左右田 「うおっ、マジだ!?」

日向  「俺たちの影も映らないか……龍の時はあったんだけどな。あとで霧切に聞くしかないか」


____________

霧切  「影がない……ということは、私たちは精神体のようなものかもしれないわ」たったったっ

罪木  「つまり、体は……」たったったっ

霧切  「現実の希望ヶ峰学園にそのまま残っている。この蝕は"夢"でしょう?つじつまは合うと思うけど。
     もしここで死ねば、現実の体が取り残されることになってしまうかもしれないわ。
     気をつけていきましょう」

罪木  「ふひいぃ……!じ、じゃあ…さっき西園寺さんを行かせちゃったのって……とっても
     危ないんじゃ……」

霧切  「いえ。この蝕においての"敵"はただ一人よ……ただ、それがまずいの……」

罪木  「ふえっ?」

___________
119 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/05(水) 12:22:36.59 ID:pssxomK80


さらに奥まで進むと……そこにいたのは、巨大な『女』だった。
長い髪で、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべた女が、俺たちを見下ろしている。


日向  「お前が主か?」

女   『いかにも……妾はこの"夢"の主。人間の子が来るのはずいぶんと久しぶりよのう……されど、
     骨のなさそうな奴らよ』

左右田 「んだと!?」

日向  「やめろ左右田、挑発に乗るな!」

しかし、時すでに遅し。
飛び出した七海が、腕に仕こんだガトリングを女に向けて撃っていた。

女   『ふん。夢も見られぬからくりが、無粋な真似を……』


――ドンッ!!


女の『髪』がムチのようにしなって、七海を狙う。

左右田 「あぶねえ!!……くそっ、オメーに任せた!」ブンッ


ビシッと蜘蛛の巣状にひびが入ったが、
床に縫いつけられた七海は悲鳴ひとつあげず、持ちこたえていた。

日向  「七海!」

左右田 「強化合金で作ってんだ……ちょっとやそっとじゃ壊れねーようにしてあんだよ」

そう言ってニット帽をずり下げた左右田は、「もう、七海が死ぬとこは見たくねーかんな」と呟く。

小泉  「左右田、あんた……」

小泉  「……でも、今ので分かった。あの攻撃、私たちだったらひとたまりもない。うかつに
     手出さない方がいいかも……」

そんな小泉の言葉が終わるか終わらないかのうちに、女は『退屈だのう』と自らの腹に手を当てた。
瞬間、女の腹が『カパッ』と割れて、中から無数の手が出てくる。

左右田 「ギャー!!なんだ、なんだこれ!!」

小泉  「放して!……放しなさいってば!!」じたばた

パンッ!!

日向  「弾丸がきかない!?」

女   『しばし、妾の夢を味わうがよい』

_________

______


左右田 「ん……ん?」ぱちっ

左右田 「!?!?!?」


あたりをきょろきょろと見回す左右田……は、ギロチンに首を落とされているのに気づくと
「ぎゃあああ!!オレの首があああ!!」と期待を裏切らない叫び声をあげた。


日向  「落ち着け左右田、痛くないだろ?」(十字架にハリツケ。血みどろ)

左右田 「痛てえとか痛くねえとか、そういう問題じゃねーんだよ!!」

小泉  「なんかよく分かんないけど……これが試練ってこと?悪趣味……」(in鋼鉄の処女。血まみれ)

ナナミ 「…………」

左右田 「あれ、なんで七海はなんともねーんだ?」
120 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/05(水) 12:23:11.34 ID:pssxomK80

日向  「あいつは文字がないから、蝕には巻きこまれないってことだろ。扱いとしては小泉のカメラと
     同列なんだろうな」

小泉  「ちょ、千秋ちゃんをモノみたいに言わないでよ!事実かもしれないけど!
     そういえば、あいつ"夢の主"って言ってたっけ……」



『……知恵の回る奴らだのう。これでは張り合いがない』

『そなたらと遊んでもつまらぬ。どれ、出してやろう』


女の声と共にパアッと光が満ちて、俺たちは元の姿に戻された。
目の前に、三つの扉がある……。


女   『その扉の行き先はどれも同じ……されど、一人ずつしかくぐれぬ』

日向  「つまり、出口まではたった一人で行くしかないということか?」

女   『それもまた、試練ぞ』

左右田 「うう……こえーけど、しょうがねーよな……ん?」ギュッ

小泉  「千秋ちゃんは一緒に行ってくれるってさ」

日向  「じゃあ二人とも、学園でまた会おうな」ガチャッ

小泉  「うん。気をつけてね」ガチャッ

左右田 「……じゃ、あとでな」ガチャッ

ぱたんっ。

扉が閉まると、ひたすら真っ暗な空間が広がっている。足元は道になっていて、ずっと遠くに光が見えた。

日向  「……よし、行くか」

__________


霧切  「西園寺さん!その女に攻撃してはだめ!!」

必死の声に、扇を構えていた西園寺が「え」と目を驚きに見開く。巨大な女の手足にからまっていた糸が、
はらり、ひらりと落ちていった。

女   『ほう……あやつりの能力(ちから)か。なんとも味なものよの』

西園寺 「わたしの文字が……きいてない!?」

霧切  「その女は夢の主にして術者……文字の力がきかないの!下手に手出しをしたら……」

女   『せっかく妾の夢を味わわせてやろうと思うたに、水を刺しおって。……消えろ、小娘ぇ!!!』カッ


微笑んでいた女が、恐ろしい形相になった。両目はカッと見開かれ、
ゆらゆらと揺れていた髪が逆立つ。


霧切  「逃げて、西園寺さん!!!」

がたがたと震える西園寺は、女の髪がしなるのから目を離せないままその場に立ち尽くしていた。
121 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/05(水) 12:23:41.37 ID:pssxomK80

バッ!!

罪木  「ぐ、かはっ…!」ボタボタ

西園寺 「ゲロブタ…あんた、何やって……」

すんでのところで割って入った罪木の下敷きになって、西園寺には傷一つつかなかった。
代わりに背中で斬撃を受けた罪木が、口からこぼれる血を手で受け止めている。

罪木  「こ、こで……死ん、だら……西園寺、さんの、体……」ゴフッ

罪木  「さ、さいおん…じ、さんの……着物、は……たかい、から……汚すわけにはっ……」ボタボタ

西園寺 「な……こんな時に、何言ってるのよ……ほんとに、バカなんじゃないの、あんたっ…!」


"癒(いやし)"


罪木の体から光が放たれた。切り裂かれたブレザーの下、えぐれた肉が少しずつ盛り上がって、血が止まる。
傷は一分ほどで、赤い痣を残して消え去った。


女   『神にも似た力よの。……どれ、気が変わった。よいものを見せてもろうた礼をやる。ちこう』かぱっ

西園寺 「げえっ!気持ち悪……」

霧切  「……行きましょう」

西園寺 「えっ?で、でも」

霧切  「あの女の体内に出口があるわ。挑発に乗らずに黙っていれば、ほんの少し悪夢を見るだけで試練を
     突破できる。簡単な蝕だったのよ」

西園寺 「…………」

霧切  「あとはまっすぐ歩くだけ。……先に出て待っているわ」

霧切は背中を向けて、女のぱっくりと割れた腹の中に飛びこむ。

罪木  「じ、じゃあ私も……行きますねぇ……」ぴょんっ

一人残された西園寺は、「きもいきもいきもい」と呟きながら、目をつぶって女の方へ歩く。

西園寺 「…………何よ。ありがとうなんて、言わないんだからね」

西園寺 「ありがとう、なんて……」

西園寺 「……今さら、言えるわけないじゃん……あたしみたいな奴が」

__________

日向  「……ん、終わった……のか?」むくっ

起き上がると、そこは元の広場だった。他にも何人か生徒が倒れている。ちゃんと胸が上下しているのに
安心した。たぶん、この蝕では俺たちの意識だけが転送されていたんだろうな。

日向  「"夢"か。その名のとおりってわけだな」

ベンチに座ると、手の中に青い欠片が落ちてくる。今回はどんな記憶が入っているのか。
前回は、江ノ島が死んだ後に絶望の残党たちを集めて演説しているカムクラが見えたが……

日向  「今回はスプラッターのない記憶がいいな……」グッ


ぱあっと光が満ちて。
122 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/05(水) 12:24:14.37 ID:pssxomK80

おさまった時、目の前にいたのは左右田だった。
どうやらここは、奴のラボであるらしい。


左右田 『おっ?カムクラさんじゃねーか。めっずらしーのな、こんな地下まで来るなんてよぉ、
     もしかしてオレに会いたかったとか?』

ヒャハハハッと笑った左右田は、機嫌がいいみたいだ。
手術台の上にベルトで縛りつけた『何か』をいじりだす。そいつは、左右田によく似た顔をしていた。

『んーっ!!ぐ、んぐっ、んうぅぅーー!!!』

猿ぐつわをはめられた全裸の男が、必死に体をばたつかせている。
きっと、左右田が年を食ったらああいう感じになるんだろうな、と思うと同時にカムクラが聞いた。


カムクラ 『それは、あなたの父親ですか?』

左右田  『せいかーい。カムクラさんは会話がサクサク進むっから楽だよなー。江ノ島はキャラが
      ゴロゴロ変わっからよー、見てて面白れーけど話すんのはクッソだりぃんだよな』

カムクラ 『……脳と脊髄を生体で調達した自立型のロボットですか』

左右田  『そ。実の家族で造る殺戮マシーン。イカしてんだろ?』

父親   『……!!』ジタバタ

左右田は、頭蓋骨が取り外されて脳がむき出しになった父親にコードを繋ぎ始めた。
コードの先に、ガトリングガンをたずさえたロボットが見える。カプセル部分には溶液が満たされていた。
あそこに、左右田の父親の脳が入るのか。

『やめろっ………和一、やめてくれ!!目を覚ませ!!』

口が自由になると、父親は必死に叫んだ。


やめろ。

それだけはやめろ。



日向  「やめろ!!!」

九頭龍 「うわっ!?」バッ

日向  「………九頭龍か。……悪い、驚かせて」

九頭龍 「オメーといると寿命が縮むぜ……相当やばいモン見えたらしいな」バクバク

心臓をおさえて「いい加減慣れろよ」と九頭龍。カタギに無茶を言うな。


左右田 「……思い出したかよ」

隣に座る左右田は、両手で顔を覆ってため息をついた。

日向  「お前の家族は、みんな兵器に」

左右田 「オレだけじゃねーよ。ソニアさんは家族を田中の動物の餌にしちまったし。小泉の親は江ノ島の実験台。
     西園寺の家は皆殺し。花村のお袋さんはとんかつ。オレだけじゃねえんだよ……」
123 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/05(水) 12:26:21.29 ID:pssxomK80
左右田 「怒りをぶつける江ノ島はいねえし、家族の死を悲しむ権利もねえ。普通に生きていくのも苦しい。
     ……オレ、帰ってきてよかったのかな」

左右田 「いっそ、あのまま絶望してりゃよかっ「それは違うぞ!」

日向  「俺は……まだ記憶があいまいで、実感がない。だけど、絶望の方が楽だったなんて思わない。  
     お前がやっているのはただの現実逃避だ。絶望していた頃の自分を部分的に再生して、
     答えを出すのを先延ばしにしているだけだろ」

左右田 「…………オメーって、人の心えぐるのが上手いよな」

日向  「俺が怒っているのは、お前が全部抱えこんだことだ。七海を造ってくれたのは……感謝してるんだぞ」

左右田 「!」

日向  「……ありがとう。また、七海に会わせてくれて……俺もムキになって悪かった」

日向  「ゆっくり、やり直してこう。俺も、お前も……みんなで」

そう言うと、左右田は泣きながらうなずいた。


_______

一旦切ります。
次回は不二咲の文字が出せるかな。78期でまだ文字が不明なキャラ多すぎ。
124 : ◆XksB4AwhxU :2017/04/06(木) 10:59:28.48 ID:aF6711jD0

九頭龍 「青春ドラマは終わったかよ?……だったら、次はオレの話を聞いてくれよ」

九頭龍 「学園のデータベースを見てえんだ……左右田、オメーから"超高校級のプログラマー"に話つけてくんねえか」

日向  「……!!まともにはアクセスできない代物か」

九頭龍 「いざという時は、オレが一人で泥を被るからよ……オメーらは関係ねえで押し通せ」

日向  「………そんな悲しい事を言うな。俺たちは仲間じゃないか。泥を被るのも一緒だ」

左右田 「おう!大体、んなヘマ打ってたら超高校級じゃねーしな!あいつの能力を信じようぜ!」

九頭龍 「お前ら……!」



【数分後:不二咲の個室】



不二咲 「ええと、つまり……学園のデータベースにハッキングするってことですか?」

九頭龍 「バカ、んな大声で言うな!」シーッ

不二咲 「あ、大丈夫ですよぉ、個室の監視カメラは収音マイクの質が悪いから、僕たちの会話の細かいところは
     聞きとれてないと思います……」

生身の不二咲とは初対面だった。男子の制服を着ているのに、逆の意味で違和感を覚える……。

日向  (パソコンの前に座っている姿は、本当にかっこいいな。……七海が言ってたとおりだ)

セブン 『では、私が学園長のアクセス権に侵入して囮役をしよう。千尋はその間にデータベースから学生名簿だけを
     このパソコンにコピーしてくれ』

左右田 「いいのかよ……オメー、マザーコンピュータが応答してねーんだろ。いざという時のバックアップが取れねえのに
     危険な橋を渡るなんて」

セブン 『私は一度、データの海に消えた身だ……それに、冬彦の疑問はこの学園の真実を解き明かす鍵の一つとなるだろう。
     その手助けができるなら本望だ。……私がこのケータイに引きよせられたのも、おそらく同じ"力"によるものだ』

日向  「同じ力……?」

セブン 『無駄話をしている時間はない』

左右田の胸ポケットから飛び出したセブンは、パソコンの前に立って機械の手を伸ばす。
それを見ている不二咲は「わあ……」と目を輝かせていた。
     

不二咲 「このケータイ、左右田先輩の文
125 : ◆XksB4AwhxU :2017/04/06(木) 11:00:16.75 ID:aF6711jD0
字なんですか!……すごいなあ、みんな自分に合った
     文字を選んでいるものなんだなぁ……」

不二咲 「よし。じゃあ、行きますよ……」カッ


"電(でん)"


セブン 『イニシエイト.クラック.シークエンス……アクセス開始!』カッ

不二咲 「よし、入った……!!」バチバチ


俺たちはただ、ぽかんとそれを眺めることしかできなかった。不二咲の手が0と1の数字に変わっていく。
ずぶ、とパソコンの画面に入った不二咲の手が、何かを探るように動いた。

セブン 『学園長のシステムに侵入完了した。千尋、今のうちに学生名簿を出してくれ』

不二咲 「よっ……と、セキュリティがきついけど、なんとか……」


警告音と共に、ポップアップがいくつも出てくる。不二咲はそれをグシャッと握りつぶしてさらに奥へと手を進めた。
やがて、電脳体の手がずるりっと何かを引きずり出してくる。『希望ヶ峰学園 生徒名簿』とあった。


不二咲 「出ました……調べるのは、ええと……「九頭龍菜摘だ」……クズリュウ、ナツミ。……検索。
     …………あれ?」

九頭龍 「どうした?」

不二咲 「名前が、出ない……」

九頭龍 「ば、バカ言ってんじゃねえ!!あいつはたしかに……」

不二咲 「ど、同窓会と本科の名簿も検索したんですけど……この学園に九頭龍って名字の人は、先輩一人しか……」

九頭龍 「らちが明かねえ、どけ!」


九頭龍は不二咲を押しのけて画面をスクロールしていく。
しかし。


『クズリュウ ナツミ』

『検索結果:0件』


九頭龍 「どうなってやがんだ……!」





不二咲の部屋を出て、混乱する九頭龍をなんとか落ち着かせる。
食堂へ着くころには、九頭龍もなんとか話ができるようになっていた。


小泉  「ええと、つまり……菜摘ちゃんのデータがないってこと?うーん……でも、菜摘ちゃん一人のデータを消す理由がないし……」

日向  「どこかにまぎれている可能性も考えて、全部のデータをスキャンしたんだが」
126 : ◆XksB4AwhxU :2017/04/06(木) 11:00:52.69 ID:aF6711jD0

左右田 「結果は0件。九頭龍菜摘ってやつはこの希望ヶ峰学園にはいねーとさ」

九頭龍 「データの上だけの話だ!!」ドンッ

小泉  「テーブル叩くのはやめな!……予備学科のほうには聞いてみたの?」

日向  「俺が教室に行ってみた。佐藤も九頭龍もたしかにそのクラスにはいたらしいんだけどな。
     出席名簿にはなかった。幻の生徒ってやつだ」

花村  「やあ、みんなそろって何の話だい?そんな辛気くさい顔をしてないで、ボクの新作チョコレートをお食べよ!」

日向  「そうだ……花村だ!」ガタッ

花村  「ンフフ、待ちきれないっていうんだね?いいよ日向くん、さあ!このチョコレートに舌をはわせて、先っちょの
     ベリーをいやらしく舐めまわして、そして口にずっぽりと含ん「お前、南地区のパン屋で九頭龍の妹を見たって言ってたよな!」……え」

花村  「ま、まあ……見た、というか会った、というか……」

九頭龍 「お前、それをなんで言わねーんだよ!」

花村  「ええっ!?じゃああの子が九頭龍くんの妹って本当の話だったの!?」

左右田 「……んん?どういう意味だ?」

花村  「だって九頭龍くん、一人っ子でしょ!」


その言葉に、小泉が「ちがうよ!」と反論する。


小泉  「あ、アタシ……菜摘ちゃんのことは中学のころからずっと知ってるんだよ?花村が覚えてないだけだって」

花村  「弐大くんも一緒にいたけど、彼も覚えてないって言ってたよ!」

日向  「あの、記憶力がたいして悪くない弐大が……?たしかにおかしいな」

左右田 「……」

左右田 「なあ。オレ今、すっげー嫌なこと思いついちまったんだけど、言っていいか?」

左右田 「あのプログラムに入る前、オレたち記憶消されてたよな。もともとの記憶を消せるってことはよ……逆に
     "偽の記憶を植えつける"ってこともできんじゃねーのか?」

九頭龍 「テメエ、言っていいことと悪いことがあんだろーが!!」

左右田 「可能性の話をしてんだよ!!」

九頭龍 「それがマジなら……マジなら、オレの思い出もっ……あの島でオレとペコが小泉を殺したのも、全部っ……」

小泉  「九頭龍……」

九頭龍 「偽モンの記憶に振り回されて、いもしねえ妹のために、小泉を殺しちまったってことになんじゃねーかよ!!!」

日向  「ちがう!!それなら、九頭龍の妹がここに存在する理由が分からないだろ!!」

花村  「な、なになに?ぼく、地雷踏んじゃった……?」てるてるてる

神代  「いや、むしろファインプレーだよ」もぐもぐ

花村  「うわあああ!?」

日小左九「「「「!?」」」」


第一印象、小学生。
そいつは、テーブルに置かれたチョコレートバーをかじっていた。
127 : ◆XksB4AwhxU :2017/04/06(木) 11:01:19.34 ID:aF6711jD0


神代  「僕の才能なら、お兄ちゃんたちの謎に賢者タイムのような明快な答えをあげられるかもよ」

日向  「お前は……誰だ?」

神代  「僕は神代優兎(かみしろ ゆうと)"超高校級の諜報員"なんて呼ばれている……もともと影は薄かったんだけど、
     この文字のおかげでますます仕事がやりやすくなってね」

神代は頬にある『隠』を指さした。

神代  「こうやって注目を浴びていると、露出[田島「チ○コ破裂するっ!」]の気分だよ。……妹さんの話だけど、"夢"で同じチームになるまでは
     会ってなかったんだよね?」

九頭龍 「な、なんで同じチームだったことまで知ってんだ!?」

神代  「僕の肩書、もう忘れた?」

九頭龍 「ぐっ……」

神代  「うん。妹……菜摘さんがどうして今まで当のお兄さんと接触しなかったのか。そこはブラックボックスだからさすがに分からないけど、
     菜摘さんは予備学科の生徒とも親しくしていないから、その方面から崩すのはむずかしいかな。
     ただ、意外な交友関係があるみたいだ」

日向  「意外……?」

神代  「"超高校級の野球選手"……桑田怜恩くん」

左右田 「はぁ!?どんな接点だよ!!」

神代  「桑田くんも78期の中では孤立していて、菜摘さん、あとは霧切さんくらいしか生徒と接点がないんだ。
     普段も蝕も一人で行動しているみたいだから、捕まえやすいよ。"始"の時から交流があるみたいだけど、菜摘さんの情報を得たいなら
     当たってみるのも手だね。……と、うわさをすれば」


神代が指さした先には、トレイに料理をのせる桑田がいた。


九頭龍 「……ちょっと聞いてみるか」ガタッ

小泉  「あ、待って!いきなりはさすがに「おい桑田、テメエちょっと面貸せ」なんでそんなヤクザみたいな挨拶すんのよ!」

九頭龍 「ヤクザなのは事実なんだから仕方ねーだろ!!……おい、テメエ菜摘とどこで知り合った?あいつについて洗いざらい吐いてもらおうじゃねーかよ」

桑田  「わ、悪いんすけど……オレからはちょっと話せねーっていうか……話すなって言われてるっつーか……」

九頭龍 「あぁ!?テメエあんま舐めた事抜かしてっと」ぐいっ
128 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/06(木) 11:01:57.52 ID:aF6711jD0

カッ!


"出(いずる)"


胸ぐらをつかんだ九頭龍の目の前で、桑田は姿を消してしまった。

九頭龍 「なっ……」

神代  「あーあ。あんな早漏な聞き方するからだよ。桑田くんの文字は"出"だからね。
     今みたいな瞬間移動で逃げられるか……片玉にされちゃったりするかも」

左右田 「こえーこと言うなよ!」

神代  「さて。僕は君たちにヒントをあげたわけだけど……報酬はいらないよ。僕はほかに調べることがあるから、そのついでに得た情報を
     ちょっと見せてあげたまでだからね」ガタッ

神代  「……江ノ島さんの安全も確認できた今なら、"あの人"も出てこられるだろうし……」

日向  「あの人……?」

神代  「じゃ、また近いうちに会おうね」

菓子パンの袋を引っつかんで歩き出した神代は、あっという間に食堂の背景に溶けて消えていった。
文字の能力なのか、それともあいつの才能なのか……。


九頭龍 「……んだよ、なんでこんな……わけのわかんねえ事に……」


頭を抱えた九頭龍は、「菜摘……」と小さく呟いた。

存在しない生徒。隠れていた生徒。

日向  「また謎が増えたな……一体どうすれば、真実にたどり着けるんだ……?」

________

うっかりsaga忘れた




129 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/06(木) 11:02:24.09 ID:aF6711jD0
いったん切るよ。
次回はまた蝕が起こるよ。
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/06(木) 11:35:25.98 ID:VInOiWlrO

なんとも複雑になってきたな
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/06(木) 15:49:44.61 ID:KrNQ5BQ6o
そういえば、二章いなかった花村はともかく弐大は九頭竜に妹いること裁判で
知ってるはずだよな。なんで知らなかったんだろう?
132 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/10(月) 13:10:03.70 ID:SAXN2eMT0
地の文を減らす努力。

>>130
これからもっと複雑になるよ。

>>131
花村が知らないのは当たり前だけど。
それだと弐大の発言も矛盾する。
__________

【夢
 死亡者数:13名
 生存者数:1511名
 総生徒数:1524名→1511名】

__________


【弐大の個室】


ことのあらましを聞いた弐大は、難しい顔で腕を組んだ。

弐大  「ワシはマネージャーという才能柄、人の顔は一度見れば忘れん。
    小泉の学級裁判で九頭龍の妹の写真は見ておったからのう」

日向  「だったらなんで「結びつかんかったんじゃあ」

弐大  「目の前におる女子と、九頭龍の妹として見せられていた写真……あれが同じものと気づいたのは
     部屋に戻ってからでのう。悪いことをしたと思うたが」

今から思えばおかしな話じゃあ、と弐大は頭をかいている。

弐大  「しかし……九頭龍に妹がおった、というのはあの島で初めて聞いた。ワシが知らぬだけかと思っとったんじゃあ」

小泉  「ねえ九頭龍、そもそもあんた、なんで生徒名簿なんか見ようって思ったわけ?」

九頭龍 「……"夢"の主、って女がいただろ。ニタニタ笑ってる、でけえ女。あいつが菜摘に言ったんだ」


『久しいのう……我が娘よ』

『うつつの寝心地はどうじゃ?』


辺古山 「ただの戯言かと思ったが……私の記憶にもおかしな所があった。
     お嬢の名前が、坊ちゃんに言われるまで思い出せなかったのだ」

小泉  「そういえば、私も……あの子の下の名前、度忘れしてた……」

弐大  「この学園は、何が起こっても不思議ではないからのう」

日向  「で、どうする。俺としては調べてやりたいんだけどな」

豚神  「ひとまず九頭龍の妹のことは後回しだ。明日の予報も晴れだ……蝕の準備をする方が優先されるべきだろう」

九頭龍 「けどよ!」

豚神  「焦るな、せっかく神代がくれた手がかりだぞ。まずは定石どおりに行こうじゃないか。
     幸い、あさってからの予報は曇りだ。その間に桑田から情報を引き出せばいい。
     ……いいか。死んだら元も子もないんだぞ。まずは生き残ること。それだけだ」

133 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/10(月) 13:10:30.36 ID:SAXN2eMT0
【翌朝】


キーン・コーン・カーン・コーン………


学園長 『みんな、おはよう。今日も一日頑張ろう、"希望"をつかみとるために』


日向  (朝と夜のアナウンス。学園長室にあった人形を見せると、辺古山が"こいつは形代だ"と教えてくれた)もぞもぞ

日向  (神社とかによくある、体の悪いところを撫でて奉納する身代わりの人形らしい。
     落ちていた場所を考えると、あれは学園長の身代わりなんだろう)ガバッ

日向  (テレビが映ったあの日……食堂で突然消えたのも、本体の学園長は別の場所にいるからか)

日向  (学園長がいるのは、俺たちが決して行けない場所……)


着替えながら、窓の外を見る。
忌々しい空島は、今日も変わらず浮かんでいた。


日向  「いつかあそこに行って、化けの皮を?がしてやる!」

日向  「……」

日向  「最近、荒んでるな……俺」

___________


豚神  「澪田、前から言おうと思っていたんだが……」

澪田  「はいはい、なんでしょ!「はいは一回でいい」はっ、まさか結婚の約束……「違う」

豚神  「はいは一回だ。お前の文字はたしか、音で防壁を張るんだったな。……全方位に対応できないと
     いう欠点を忘れていないか?」

澪田  「あー、それは覚えてるっすけど……」

豚神  「背後や上からの攻撃には無力だと分かっているなら、もっと工夫をだな」

澪田  「むむっ、お説教の始まりそうな気配を受信したっす!そりゃ逃げろ〜!」

豚神  「澪田!」


カッ…


日向  「くっ……」


空島が、まぶしい光を放つ。
反射的に手を顔の前に出して……光がおさまった時、目の前にいたのは。


日向  「!?」


すっぱだかの、七海千秋だった。
134 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/10(月) 13:11:10.19 ID:SAXN2eMT0

【日向創:Chapter04:『母』(ハハ)】



日向  「なっ……え、えっ?」


混乱する俺の隣で、左右田も「うわあああ!!」と叫んでいる。

左右田 「そっ、ソニアさん!?」

一糸まとわぬ姿のソニアが、左右田の頬を撫でた。
する、と首に腕を回してそのまま口づけようと顔を近づける。


ソニア 「きゃあああ!?な、なにが起こって……」

左右田 「え、ソニアさんが二人!?」

田中  「めっ、雌猫……やめろ!我が瘴気に触れれば貴様もただでは済まな……」

左ソニ 「「三人!?」」


裸のソニアが、田中の股に足を入れてそのまま押し倒す。二人の唇が重なった瞬間。


パカッ


田中  「……!?」


ソニアの顔が割れて、中からたくさんの手が出てくる。
田中を中へ引きずりこんだソニアの腹がふくらんで、透明なカプセルのようになった。


豚神  「これが今日の蝕だと!?」

裸の澪田に捕まった十神も、あっという間に引きずりこまれた。


ソニア 「田中さん!……出して、出してください!!」ガンッ、ガンッ


椅子で自分の偽物をぶん殴るソニアの後ろで、左右田がとうとう偽ソニアに食われる。


ソニア 「左右田さん!なっ、何か刃物は……」オロオロ


そんなソニアの前に、金髪の女が立った。


ソニア 「おかあ、さま……?」ぱくんっ


日向  「七海、ごめんな!」カッ


"変(へん)"


日向  「うらああッ!!」ブンッ


ざくっと手ごたえがした。おそるおそる目を開ける。日本刀がめりこんだ七海の顔が、
左右にパカッと開く。

日向  「……やめろ、やめてくれよ……」

しゅるしゅるっと伸びてきた手が、俺の体に巻きついて。

日向  「やめろ、七海ぃぃーー!!!」

俺の視界は、真っ暗になった。
135 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/10(月) 13:11:59.34 ID:SAXN2eMT0


罪木  「…………」

罪木  「……あれっ」ぱちっ

罪木  「何が……起こったんですかぁ……?」きょろきょろ

罪木  「ここ、どこでしょう?学校……じゃ、ありませんよね……」

ベッドに眠っていた罪木は、あたりを不思議そうな顔で見回す。
ハート柄のかわいいパジャマ。清潔なベッド。かわいい家具のある部屋。

罪木  「おかしいですねぇ……私はいつも、押し入れで寝てたはず……」

コンコン

罪木  「ひゃうぅ!?」びくーん

ガチャッ

??? 「蜜柑ー?まだ寝てたの?」

罪木  「お……かあ、さん……」

母   「もう、まだ寝ぼけてるの?朝ごはんできたわよ、下りてきなさい」


あきれたように腰に手を当てた母親。

罪木  (おかしいです……私を見ると、ぶつか怒鳴るかしかしてくれなかった、お母さんが……)

母   「ほら、座りなさい。髪の毛やってあげるから……あんた、高校生にもなってそんなんじゃ、
     お嫁の貰い手がないわよ」

優しい母親が、罪木の髪の毛をとかしてくれる。
ざんばらに切られていたはずの髪は、なぜかきちんとしていた。

とんとんとん……


父   「おはよう、蜜柑」

罪木  「おっ……おはようございますぅ……」

父   「ハハハ、実の父親にそんなかしこまらなくていいんだぞ?」

罪木  (この人も……誰なんでしょうか……?)

コーヒーを飲みながら新聞を読んでいる父親は、スーツを着ている。

罪木  (朝ごはんがもらえたのなんか、いつぶりでしょうか……でも、おいしいですぅ……)もぐもぐ


朝日がさしこむリビング。キッチンに立つエプロン姿の母親。まるでドラマのような光景だ。


ピンポーン


母   「あら、創くん?ごめんなさいねえ、蜜柑ったらまだご飯食べてるのよ」

日向  「いいんですよ。俺待ってますから」

罪木  「日向さん!?」

日向  「おいおい、幼なじみだろ。んなよそよそしく呼ばないで、"創"でいいっての」

罪木  (日向さんが幼なじみ……?ますます分からなくなってきちゃいました……
     ここ、一体どこなんですかぁ!?)ぐるぐる
136 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/10(月) 13:12:34.35 ID:SAXN2eMT0
_________


左右田 (うおおおおソニアさんが!!ソニアさんがオレと手をつないで……)

ソニア 「和一さん?どうかしましたか?」

左右田 (もう覚めなくていいや)

ソニア 「もう……また徹夜で機械いじりしてましたね?ほんとに困ったちゃんですね、和一さんは。
     朝ごはん作ってきましたから、学校に行く前に二人で食べましょう?」

左右田 「あれ、ソニアさん……料理なんて出来たんですか?」

ソニア 「当たり前だのクラッカーですわ!ほら、和一さんが大好きなツナサンドですよ!」

左右田 「……なんだ、この違和感」

左右田 「ま、いっか」もぐもぐ

_________


小泉  「お父さん、また仕事?」

父   「ああ……まったく、残業続きで嫌になるよ」クキッ、コキッ

父   「まあ、お前たちのためだと思えばがんばれるけどな」

小泉  「そう……行ってらっしゃい。無理はしないでね」

パタン…

小泉  「そうだ……アタシ、お父さんがいつも家にいるのが嫌だった。よそのお父さんが
     バリバリ働くのがうらやましかったんだ」

小泉  「……あれ?じゃあ今出てったお父さんは、一体なんなの?」

小泉  「……」

小泉  「……いいか、別に」

_________


西園寺 (……なんなの、これ)


母   「あら、どうしたの日寄子さん。あなたの好きな里芋を煮ましたのよ」

祖母  「日寄子や、今日のお稽古は疲れたろう。しっかりお食べ」

女中  「お嬢様、お召しがえですよ。お食事の前に浴衣に着がえましょうね」

広々とした座敷で、鍋を囲んだ家族。
食卓に並んでいるのは、西園寺が大好きなものばかり。


西園寺 (……仲良しの家族って、こういうものなんだ)

西園寺 (……気持ち悪い)

母   「日寄子さん?」

西園寺 「もういいっての」

父   「今日のお前はおかしいぞ」

西園寺 「おかしいのはあんた達だよ!」カッ


"舞(まい)"


西園寺 「わたしの家族は、こんなんじゃない!!」ブンッ

137 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/10(月) 13:13:13.77 ID:SAXN2eMT0

扇の一閃。
操られるままに、祖母が壁に頭をぶっつけて動かなくなる。


西園寺 「家元の座に執着して……子供の食事に毒を盛って……婿養子のお父さんをいびって!!」


次に、母親がぐつぐつ煮えたった鍋に頭を突っ込んだ。


西園寺 「わたしの着物を破って……足袋に針を入れて……とても口に出せないようなことをたくさんしてくれて!!」


女中たちが、包丁で首をかき切る。


西園寺 「そのせいでわたしはこんなッ……こんな人間にしか、なれなくて!!」


何度も床に頭を打ちつける父親を、西園寺は荒い息をついて見下ろす。


西園寺 「ちがう……わたしが勝手に歪んで、勝手に人を傷つけてる……
     辛いのはわたしだけじゃない、分かってんだよそんなの!!!」

西園寺 「でも、そんな生き方を選ばせたのはおまえらなんだよ!!」

西園寺 「おまえらがッ……もっと、ちゃんとした家族だったら……」


気がつくと、あたりは血の海になっていた。
動かなくなった家族に背を向けて、西園寺はつぶやく。


西園寺 「あのゴミクズみたいなやつらが、わたしの家族だよ」

西園寺 「だから、わたしは帰る」


スウッ……

そう口にした瞬間、西園寺は光に包まれた。

_______

___


西園寺 「…………」

西園寺 「……んっ…」ぱちっ

西園寺 「な、なによ……これ」

霧切  「あら、意外と早かったわね」


そこが校庭だと気づいた瞬間、西園寺は目の前の異様な光景に言葉を失った。

女。女、女。

巨大な裸の女が、何十体と立っている。彼女たちの腹は子宮を思わせる透明なカプセルになっていて、
その中で胎児のように、生徒たちが眠っていた。
138 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/10(月) 13:13:42.38 ID:SAXN2eMT0


西園寺 「これ……なんなの?」ぺたっ

霧切  「この蝕は、寄生型……生徒に寄生し、文字の力を食らう蝕なの。文字は"母"よ」

西園寺 「母?」


霧切はホログラムを出して説明する。

霧切  「まず、裸の女が出てきたでしょう?あれが寄生型の蝕で"女"。それぞれが思い描く"理想の女性"の姿をとって
     現れ、生徒たちを誘惑する……そして、顔の中から手を出してからめとる」

霧切  「すると、"女"は"胎"の中に生徒を引きずりこんで通常型の蝕である"母"へと変化する。
     その中で、生徒たちは幸せな夢を見る……それを夢だと看破できなければ、文字の力を少しずつ食べられて……」

霧切の指さした先には、すでに受精卵まで戻ってしまっている生徒がいた。

西園寺 「……!!」

霧切  「ああなったらもう手遅れよ。"母"の中で永遠に幸せな夢を見続けるしかないわ」

西園寺 「そうだ、おねぇは……」

あわてて辺りを見回した西園寺は、小泉の眠っているカプセルを見つけて「おねぇ!!」と叩く。

西園寺 「おねぇ、起きてよ!!おねぇ!!」

霧切  「無駄よ。"母"そのものを破壊すれば、一心同体となっている生徒たちも同じように消えてしまう。
     小泉さんが自力で夢から覚めるしか、方法はないわ」

西園寺 「だけどっ……あんたの文字、蝕の弱点が分かるんでしょ!何か方法はないの!?」

霧切  「一つだけあるけど……かなりリスキーよ」

西園寺 「教えて、小泉おねぇが助かるんだったら、わたし……」

霧切  「……」ふっ

霧切  「その心配はなさそうね。ほら」

ピシッ、と小泉のカプセルにひびが入った。幼稚園児くらいの姿まで戻っていた小泉が、目を開ける。
小泉の口が「ひよこちゃん」と動いた。


西園寺 「おねぇ、聞こえてるの……わたしだよ!目を覚まして!!」


ひびはどんどん大きくなって、元の小泉が転がり出る。とたんに"母"はしぼんで、すうっ……と消えていった。

小泉  「う……頭痛い……」ズキズキ

西園寺 「うっ、ううっ……うわあああん!!よかったよぉぉぉ!!」がしっ


泣いている西園寺の後ろで、隣り合ったカプセルに入っていた十神と澪田が出てくる。
139 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/10(月) 13:14:31.73 ID:SAXN2eMT0


山田  「幸せな夢といいますが……もともと現実が満たされていた僕にはあまり関係ありませんでしたぞ!」ふんす

安広  「なのに私より遅いというのは、いかがなものでしょうか」

山田  「うぐっ……」

安広  「ふふ、ちょっと意地悪を言ってみたくなっただけですわ。胎内で見る夢は刺激がありませんでしたもの」

山田  「多恵子殿にとっては蝕も遊びですか……ジャンプの打ち切り漫画もビックリの斜め上な発想には
     もうついていけませんぞ……」げんなり

安広  「誰がついてきてくれと言いました?」にっこり


次々に出てくる生徒たちを見て、西園寺が思い出したのは。


西園寺 「……そういえば、ゲr」

西園寺 「あいつ……どうして」

小泉  「日寄子ちゃん?」

ふらふらと歩き出した西園寺は、やがて目的のカプセルを見つけて立ち尽くす。

西園寺 「……嘘」

小泉  「蜜柑ちゃん……あの子、辛い育ちだって聞いてたから……夢から逃げられないんだ……」

カプセルの中で眠る罪木は、赤ん坊の姿になっていた。
楽しそうに笑っているが、だぼだぼの制服に包まれた彼女にもはや時間が残されていないのは、明白。

西園寺 「…………」

西園寺 「霧切、教えて。"母"の中に入る方法」

霧切  「負ければ死ぬわよ」

西園寺 「こいつが勝手に死ぬことの方が許せない!!わたし、まだこいつのこと許してないんだから!!」

霧切  「…………」

霧切  「いいわ。……必ず二人とも帰ってくると約束できるなら」

こっくりとうなずいた西園寺に、なにか言いかけた小泉も黙る。
140 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/10(月) 13:15:01.25 ID:SAXN2eMT0

霧切  「"母"の顔が二つに割れているのが見えるでしょう?あそこから夢の中に入れるわ。……終里さん」

終里  「なんだ?」

霧切  「あなた、西園寺さんを抱えてあそこへ投げこめるかしら」

終里  「おうっ!よーするにバスケのダンクだな!?」ひょいっ

西園寺 「ちょっ、何するの!やめてよ!!」じたばた

霧切  「西園寺さんの身長じゃ届かないでしょ」

西園寺 「やめてってばー!!土食べさせたのは謝るからあああ!!」

終里  「行くぜ!!歯ァ食いしばってろよ……」

西園寺 「やめてーーー!!」ぶんっ

なんと、終里赤音はダンクシュートを理解していなかった。
宙を舞った西園寺の小さな体は、見事に"母"の中へボッシュートされる。

すとんっと着地した終里は「えーと……」と自信なさげに頬をかく。

終里  「あ、あれでよかったんだよな……?」

小泉  「よ、よかったけど……ダンクってああいうのじゃないからね?」

霧切  「あとはただ祈るしかないわ……二人とも無事に帰ってくるのをね」

_________

切ります。



141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/11(火) 00:35:19.19 ID:jeM4GMRc0
乙です!一気に読ませてもらいました 展開にわくわくです
142 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/14(金) 21:57:39.53 ID:+gndf1D00
>>141
あざっす。


日向  (隣に住む可愛い巨乳の幼なじみが罪木。現実の罪木よりスタイルがいい気がする)

七海  「日向くん、おはよー!昨日貸してあげたゲーム、もうやった?」

日向  (友達以上恋人未満の委員長、七海。ぼんやり七海も捨てがたいがこっちもまたよし)

ウサミ 「みなさーん、授業が始まりまちゅよー!席についてくだちゃーい!」ふりふり

日向  (優しくてあったかい担任の先生……ウサミ)


ザワザワ… オマエシュクダイヤッタ?
クッソー、テストノケッカサイアクダー ザワザワ…


日向  (これは夢だ。七海に取りこまれた中で見ている夢だ)

日向  (それは分かってるんだが……いまいちクリアの方法が分からないな。
     ゲームだったらボスがいるんだが)

日向  (…………)

日向  「そうだ、ボスだ!!」ガタッ


しーん……


ウサミ 「えーと、日向くん……?今の注釈に何か質問がありまちゅかー?」

日向  「お腹が空いたので保健室に行ってきます!」バッ

ウサミ 「日向くん!?いろいろと間違ってまちゅよー!!」


たったったっ…


日向  「どこだ、どこにいるんだ!?」ガラガラッ

日向  「……ここも外れか!」チッ


電子生徒手帳の地図を頼りに、だだっ広い希望ヶ峰学園の中を走り回る。
くそっ、夢なのになんだって校舎のデカさは現実と同じなんだ!


日向  「ここか!?」ガラッ

モブ女 「きゃー!!エッチー!!」ビュンッ

日向  「更衣室だったのか!すまん!!」


顔に当たったパンツを投げ返すと、着替えていた女子から「サイテー!」「死ねよ!」の怒号が送られる。
全部の教室を探したが、出口らしきものは見当たらない。時間だけが刻一刻と過ぎていく。


日向  「……ん?」


ピンポンパンポーン


『3年B組日向くん。B組の日向くん。至急学級裁判場まで。繰り返します、3年B組の日向くん……』


日向  「このふざけた声……モノクマだな」

日向  「ここから脱出するためには、やはりモノクマを倒すのが手っ取り早いか」たったったっ

日向  「よし、行こう。武器……は、このネクタイを」カッ


"変(へん)"


日向  「モノケモノ召喚とかされたらまずいな。早めにケリをつけるか」

日向  (エレベーターに乗りこんで、弾倉を確認。ちゃんと6発入ってるな)

日向  「待ってろよ、モノクマ……」
143 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/14(金) 21:58:17.79 ID:+gndf1D00

チーン ガラガラ


日向   「おいモノクマ!来てやった……ぞ?」

モノクマ 「待ちくたびれたよ日向くん……約束の時間からちょっと遅れてくる方がマナーだって
      カンチガイしてるパターンでしょ、君。あのねぇ、大名行列じゃあるまいし、
      ボクが呼んだらさっさと来るのが礼儀だよ。あ、クマよ」

日向   「な……なんで、んなデカいんだ、お前……」プルプル


そこにいたのは、天井まで届きそうなくらい膨らんだモノクマだった。
自分の持っている拳銃が、とたんに頼りないものに思えてくる。


モノクマ 「ボスキャラが巨大化するのってインパクトあるでしょ?だからボクもやってみたの」

モノクマ 「ま、時間もないしちゃっちゃと殺っちゃおうか!んじゃ、どっからでもかかってこーい!!」ガオー

日向   「」


__________



西園寺 「いだっ!」ドサッ

西園寺 「うう……罪木のやつ、覚えてろよ……」ヒリヒリ


ぶつけた尻をおさえて立ち上がる。わたしの目の前で、メリーゴーランドが回っていた。

右に視線を向けるとコーヒーカップ。左には100円入れると動くパンダとかの乗り物。

――夕暮れの空。


西園寺 「ふーん、遊園地か。いかにも庶民が喜びそうな安っぽいアトラクションばっかだねー」くすくす

西園寺 「つーか、罪木はどこ……」きょろきょろ

??? 「そふとくりーむ、うっ、そふとくりーむぅ♪」

??? 「あらあら蜜柑、そんなに一気に食べたらお腹壊すわよ」


当たり前だけど、夢の中の罪木は小さいし。あちこちぺたんこだった。
幸せそうだし、いっそこのままのほうがこいつのためかもしんないけど。


西園寺 「……帰るよ、罪木」ぐいっ

幼罪木 「ふゆぅ?おねえちゃん、だれぇ?」

??? 「おいおまえ!みかんになにしてんだ!」ドンッ

西園寺 「そのアンテナ……日向おにぃ!?」

幼日向 「おばさん、こいつみかんをゆうかいしようとしてる!けいさつにいわなきゃ!」

母親  「そうねぇ、創くんの言うとおり……悪い人はけけけいいさつつに」ガタガタ

幼日向 「けけけけいさつににににこ、ここころしてもももらわな」ガタガタ

西園寺 「!?」

幼罪木 「ふえ?ママ……はじめくん?」


子どもの日向おにぃと、罪木の母親。
二人の輪郭がぶれて、巨大な化け物に変わる。皮膚は緑色だし、ブヨブヨしてるし。もう二人の面影なんかない。
144 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/14(金) 21:58:59.19 ID:+gndf1D00

西園寺 「何、あいつら……頭にメスと注射器ブッ刺さってるし……もしかして、ここが罪木の夢だから?」

母親  『さあみかんんんんん、こっちにおいででええええ』グチョッ、ブチュッ

幼日向 『みかんんんんん』ベタン、ベタン

幼罪木 「い、いやだよぉ……こわいもん……」ぎゅっ

西園寺 「ふんっ、わたしを追い出すためなら罪木に怖いもの見せてもいいんだ。ずいぶん身勝手な"母"だね」

わたしの親とそっくりだ。

西園寺 「……逃げるよ。おねぇの背中にしっかりつかまって」

幼罪木 「う、うん……」ぴとっ


わたしは、罪木を背中におぶって駆け出した。
着物のすそがめくれて、転びそうになるのをなんとかこらえて、遊園地の出口に向かって走る。


幼日向 『にげるなあああああ!!!』ゴオッ

西園寺 「あつっ……!」

幼罪木 「おねえちゃん!」

西園寺 「だい、じょうっ……ぶ!」


ああ、そういえば。
あんたがわたしに弱みを見せたことなんか、なかったよね。


出口までたどり着いたところで、罪木を地面に下した。

西園寺 「たぶん、そこが夢の出口だと思う。あとは一人で行くんだよ」

幼罪木 「で、でもぉ……おねぇ……」

西園寺 「……わたしがここまでやってやってんだぞ、その前足は何のためについてんだよゲロブタぁ!!」

幼罪木 「!」びくっ

幼罪木 「……おねぇも、ちゃんときてね」とてとて


罪木は出口の向こう、真っ暗な中を走っていく。
そこでやっと、化け物どもが追いついてきた。


西園寺 「……あとは、こいつらを倒すだけだよね」カッ


"舞(まい)"


幼日向 『あああああfぢんlふぉqqi:@』ビッタンビッタン

母親  『青fwt3wq』−*1』ベタンッベタンッ


西園寺 「消えろよ偽物どもぉ!!」ブンッ


西園寺の体がくるりと回転し、左手の扇が空間を一文字に切り裂く。

瞬間、彼女を食べようと涎を垂らしていた化け物は、お互いの腹に牙を突き立て息絶えた。


西園寺 「終わった……って、あんた」

幼罪木 「………」ぷるぷる


出口のところでもじもじしてたのは、先に行かせたはずの罪木だった。


西園寺 「……しょうがないか」きゅっ


手をつないでやると、にへらっと安心したみたいに笑ってる。きもっ。かわいいとか絶対思わないからね。


少しずつ、少しずつ消えていく遊園地に背を向けて、わたしたちは光に向かって歩き出した。
145 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/14(金) 21:59:36.62 ID:+gndf1D00

日向  「はあ、はあっ、はあ……」

モノクマ「ハァ……まったく、これだからゆとり世代は。
     あのねぇ、ボクはまだ変身を残してるんだよ?オラ、もっとケツの穴締めてこいやあああ!!」

日向  「はっ、ははっ……キャラブレすぎだろ……」ヨロッ

日向  「モノクマ……江ノ島か。あいつ、最後まで理解不能だったって事なんだな」チャキッ

日向  「もっとも、あいつを理解できる奴なんか……あいつ一人だけだろうけど」


――パンッ!!


モノクマの眉間を撃ちぬいたが、奴はまだ倒れてくれない。

日向  「なんだ……何が、足りないんだ……?」

モノクマ「うぷぷぷ、だって君は」


もう時間切れだもん。


日向  「嘘……だろ」

モノクマ「ボクを倒すって決めた所まではよかったんだけどね。そこまでが長すぎダレすぎ。
     君だってこの心地いい夢から覚めたくなかったんでしょ?命がけの試練を強制される
     現実なんてもううんざりだったんでしょ?」

日向  「ちがう」

モノクマ「なにが違うっていうのさ。毎朝おっぱいで起こしてくれる罪木さんがいいんでしょ?
     左右田くんや九頭龍くんと行くゲーセンは楽しかったでしょ?
     七海さんと放課後デートがしたかったんでしょ?」

日向  「違う……俺は、現実へ……」

モノクマ「もういいじゃない。永遠に幸せな夢の中で、らーぶらーぶしてこうよ」

日向  「嫌だ!!俺は、絶対に現実へ帰るんだ!!」


だから、俺に力を――


カッ!!


伸ばした手の先に、"変"の字が浮かび上がるのを見届けて。

俺の意識は途切れた。

__________


罪木  「……う、ん……」ぱちっ

霧切  「目が覚めた?……お手柄ね、西園寺さん。あと数分遅れていたら、帰ってこられなかったわよ」

西園寺 「……」

罪木  「あ、ありがとうございましたぁ!!……こんな、私なんかを助けてくれて……」ばっ

西園寺 「はぁ?わたしがこんな使えないゲロブタ一匹助けるために命かけたとか思ってんの?
     思い上がりもいい加減にしろよ、日向おにぃに恩売ってやろうって考えただけなんだからね」

罪木  「あうぅ……」

西園寺 「あんたがいなくなったら、張り合いがないし」

罪木  「?……今、なんて「ところで日向おにぃは?まだ出てきてないの?」

照れくさいのか、むりやり話題をそらした西園寺。

しかし、霧切は暗い表情で首を横に振った。


霧切  「……これが、日向くんだった"もの"よ」

西園寺 「……は?」

指さされたのは、透明なカプセルの中にゆらゆらと浮かぶ卵子。
146 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/14(金) 22:00:02.38 ID:+gndf1D00

小泉  「うそ、これが日向……?」

両手で口をおさえる小泉。

豚神  「さっき西園寺がやったように、連れ戻せないのか!?」

霧切  「無理よ。ここまで"戻って"いるということは、完全に"母"へ取りこまれたということ……彼の文字の力は
     すべて、養分とされてしまったでしょうね」

西園寺 「そんな……おにぃ……」へなっ


しくしくと泣き出した罪木の横で、西園寺はへたりこんだ。


身勝手な自分に根気よく付き合ってくれた。
絶望として、希望として。自分たちを導いてくれた。
そして、今も……この理不尽な試練を強いられる中、十神と共に皆をまとめ上げようと努力していた。

その、日向が。


罪木  「うそです……そんなの、嘘に決まってます!!
     だって……日向さんは約束してくれたんです、必ずここを出るんだって!
     その日向さんが……し、死ぬわけっ……」

左右田 「畜生、返せ!日向を返せよ!!」ガンッガンッ

田中  「やめろ、雑種。それ以上叩いても、お前の拳が傷つくだけだ」

左右田 「ちくしょう……」ずるずる

左右田 「ぜってー認めねェかんな……まだ蝕は終わってねェ……空島が出る前に帰ってくりゃいいだけの話だ……」


黙って空を見上げた田中は、太陽の影から空島が顔を出しているのを見て心の中で呟いた。

田中  (だが、なぜだ……なぜ、特異点の死という現実に違和感がある?)


______________


???  「……体が重くなっている……脂肪、ではなさそうですが」

モノクマ 「君は……」

???  「時間がありません」すっ


地面を蹴った青年の膝が、巨大モノクマの頬に命中する。
一瞬の、静止。体勢を崩したモノクマにもう一発蹴りを叩きこんで、地面に沈めた。


???  「……命を賭けるにしては、単純すぎる試練ですね。
      この現実も、僕を高揚させることはできないということですか」

???  「……ああ、そういえば時間がないんでしたね」


空間にピシッとひびが入る。崩れゆく裁判場の中、光に向かって彼は歩き出した。
147 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/14(金) 22:00:36.91 ID:+gndf1D00


空島はすでに、その大部分を見せている。脱落者と生還者がほぼ決定する時刻になっても、
左右田はまだカプセルに縋りついていた。罪木は祈るように指を組んで、西園寺も手を合わせている。
仲間たちが見守る中、カプセルから『ピシッ』と音がした。


左右田  「なっ、なんだ!?」バッ

霧切   「!……これは、まさか……いえ、ありえないわ」

小泉   「見て、カプセルが!」


"母"の顔が苦悶に歪み、カプセルが真っ二つに割れる。
カプセルを蹴破ったのは、日向ではなく。


???  「……こんな時は、なんと言えばいいんでしたか」

田中   「貴様……カムクライズルかッ……!」

カムクラ 「ああ、思い出しました。"お久しぶりです、お元気でしたか"。でした」


羊水の中から立ち上がった日向――否、カムクライズルは、
まったく感情のこもっていない再会の挨拶をした。


カムクラ 「……そんな顔をしなくても、すぐに日向創は返しますよ。彼を生還させるという目的は果たされましたから」

少しだけ眉を動かしたカムクラが、こめかみに指を当てて目を閉じる。

カムクラ 「では、またいつか……」

すうっ、とカムクラが消える。同時に、日向の体がぐらりと地面に倒れこむ。

罪木   「、日向さん!」

左右田  「大丈夫だ、生きてっぞ!」

わあっ、と喜ぶ77期生たちを見届けて、霧切は踵を返す。

霧切   「やはり彼は、イレギュラー……あの状態からの生還は、私でも予想できなかったわ。
      だけど……」

膝をついて、呆然と地面に落ちた制服を見つめる九頭龍を見下ろした霧切。

霧切   「あなたは、ずっと夢を見ているようなものだったのね。九頭龍くん」


言われた九頭龍は、「くっ」と声のない嗚咽を漏らしてその場にうずくまった。
   


【女(通常型)母(寄生型)
 死亡者数:73名
 生存者数:1438名
 総生徒数:1511名→1438名 】


________

切ります。
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/15(土) 01:03:08.95 ID:OSmpoMDQ0
乙です いったい誰の制服なのか… 怖いっすわ…
149 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/19(水) 17:33:57.00 ID:31PTZRtF0

日向  「カムクラが!?……それ、本当なのか!?」

小泉  「うん。みんな見てたし。あのワカメみたいな髪の毛は間違えようがないよ」

左右田 「つーか、カムクラさんってやっぱ迫力あるよなァ。ちょっと目が合っただけでこう、
     ビリビリーって来るっつーか……体の芯のあたりが凍るっつーか……」

澪田  「共振?みたいな感じっすよね」


頭の上にはてなマークを浮かべた面々に、
「音叉を二つ並べると、もうかたっぽもブルブルーってなる、アレっす!」と解説してくれる。


豚神  「……しかし、カムクラがまだ日向の脳に残っていたなら、なぜ今さら出てきた?
     日向の肉体が失われる事態は避けたいはず。"始"で出てきてもよかったはずだ」

狛枝  「たしかに気になるね……あのさ、日向君。ちょっと"変わる"ことってできるかな」

日向  「カムクラに変身しろってことか?」

狛枝  「うん」


俺は両手を合わせて「むむむ……」と念じる。


カッ!!


"変(へん)"


スゥ…


日向  「どうだ?ちゃんとカムクラになってるか?」


変身の能力を使うのは初めてだから、自信がない。
視界をふさぐ前髪をかきあげて聞くと、狛枝は「見た目だけはね」と頷く。


豚神  「意識は日向のまま、見た目だけがカムクラになったか……"また、いつか"と言っていたが、
     あいつが出てくれば日向の肉体を人質に取られてしまうぞ」

澪田  「んん??イズルちゃんは創ちゃんを助けてくれたんすよね?」

狛枝  「残念だけど、"母"の中に閉じこめられて困るのは、カムクラも同じだから……それだけの理由だと思うよ」

澪田  「ぐぎぎ……てっきり漫画でよくある、敵キャラが味方になってくれる熱い展開かと思ったら
     裏切られたっす……」

狛枝  「でもさ、さっき十神くんが言ってたとおり、出てくるなら初日でもよかったはずなんだよ。それが
     日向君の大ピンチになってやっと出てきたってことは……」

日向  「カムクラは自由に俺の肉体を使えない?」

狛枝  「少なくとも、日向君が死ぬギリギリにならないと出てこられないのかも。
     カムクラの状態で"変"の字を使えるかどうかも気になるところだけど……あのさ、そろそろ戻ってくれないかな。
     さっきから君の髪の毛が当たってチクチクするんだよね」

日向  「あ、悪い」


シュウッ…


元の姿に戻ると、「やっぱりおにぃはそのモブっぽい頭が一番だよ」と西園寺が言う。
150 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/19(水) 17:34:24.38 ID:31PTZRtF0


西園寺 「今度カムクラおにぃが出てきたら、"美容師の才能は持ってないの?"って聞いてやるんだー」

日向  「西園寺……それがお前の最後の言葉になるかもしれないぞ」

小泉  「えーと……まとめると、今は心配いらないってことでいい?」

十神  「それでいいが……お前も、だいぶおおらかになったな」

小泉  「悪い?」ジロッ

十神  「いや、好ましい変化だ」フッ

小泉  「そういうあんたも、よく笑うようになったよね……えいっ」パシャッ

十神  「何をする!」

小泉  「いいじゃん、いいじゃん。私たちだけで固まってるのはよくないことかもしれないけど……おかげで
     協力して蝕をクリアしていける。それって、すごいことだよ!だって私たち、今まで一人も死んでないんだから!」

西園寺 「そういえば、九頭龍のチビはどうしてんの?」

花村  「なんか落ちこんでるみたいだったから、ご飯をドアの前に置いてきたよ。
     ……そういえば、辺古山さんもいないね」

豚神  「誰か、あとでメモを挟んでやれ。さて、次は蝕の対策会議をするか」


十神が手を叩くと、全員の表情が真剣なものに変わる。
いつもの、作戦会議だ。

豚神  「現在、生徒数は1438名……3の倍数だ。だが、罪木によると保健室にいる重傷者のうち、7、8人は今夜が山らしい。
     となれば、おそらく通常型になるだろうな」

日向  「じゃあ、通常型が来るという前提で話すぞ。まず、天気予報だ。午前中が晴れるのは、今日から6日後の水曜日。
     高気圧の動きから見て、ずれることはないと思う。
     左右田、七海の改造は終わったか?」

左右田 「おうっ、いつでも行けんぜ!」

弐大  「なんじゃ、七海をパワーアップでもしたんか」

左右田 「まず腕にガトリングだろ、それから背中に外部端子くっつけてバッテリーを増やして、目にサーチ機能つけて……あと、
     小型のレーザーガンも作ったんだぜ!」

日向  「それ以上七海を人間から離さないでくれるか?」

西園寺 「そもそも人間じゃないじゃん、あいつ」

豚神  「そっちは心配いらないな。では次、弐大とソニア」

ソニア 「はい!」

弐大  「応ッ!」

豚神  「お前たちはどちらも文字の能力を強化するサポートだ。いつも通りソニアが田中、弐大が終里につく編成で行こう。
     花村は次回、田中について行ってくれるか?」

花村  「うん、次もたくさんお肉をとるから期待して待っててね!」


また、あの麻薬みたいなステーキを食わされるのか……。
151 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/19(水) 17:35:00.69 ID:31PTZRtF0


豚神  「さて、残りの編成だが……普段とは違う編成での相性が見たい。狛枝は小泉と西園寺の組に。罪木は澪田と俺の組だ」

狛枝  「二人とも、よろしくね」


二人とも、露骨に嫌そうな顔だ……。


西園寺 「ちょっとでも変な動きしたら、アタマ吹っ飛ばしてやるからね」ギロッ

豚神  「そうだ。罪木、今のうちに言っておく。俺たち二人が戦闘不能になった場合は、迷わず逃げろ」

罪木  「えっ……で、でも「お前しか、治せないからだ」

日向  「女子たちが調べてくれたんだけどな、本科で治癒系の文字はお前一人なんだ。お前の文字が戦局を立て直すこともありうる。
     いざという時は、頼んだからな」

罪木  「……はい」ギュッ


エプロンを握りしめて、罪木は弱々しい声で答えた。


澪田  「ペコちゃんと冬彦ちゃんはいつも通り二人組っすね!んで、作戦方針は!」

日向  「目標は全員生還だ!確実に倒せる敵以外は無視しろ、とにかく逃げ切れ!」


オーッ!


石丸  「何というか、近寄りがたい雰囲気があるな」モグモグ

山田  「秘密結社という感じですな」モグモグ

不二咲 「いつも固まってるからね、先輩たち。一対一だと気さくな人たちなんだけどなぁ…
     もっと仲良くしたいよねぇ」

霧切  「……苗木くん」こそっ

苗木  「心配しなくても、彼らが"絶望の残党"だってことはバレてないよ」ひそひそ

葉隠  「バレたら大パニックだべ」ぼそっ

十神  「少なくとも卒業までは隠し通す方がいいだろうな」ぼそぼそ

腐川  「じ、ジェノサイダーもたぶん、大丈夫です……ああ見えて口は堅いので……」

朝日奈 「でもさ、それってなんかさみしいよね」

十神  「俺たちがあいつらを許せているのは、"たまたま生き残ったから"というだけだ。
     殺し合いの果てに惨たらしく死んだ奴らは、のうのうと生きる絶望の残党など許せないだろうな。

霧切  「そうよ。黒幕だった江ノ島さんを仲間として受け入れろという横暴を通したんだから、
     これ以上は酷というものでしょう?」

朝日奈 「……そう、かな……」

十神  「そうだ」

朝日奈 「……」


__________
152 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/04/19(水) 17:36:31.00 ID:31PTZRtF0

ガチャッ



左右田 「たっだいまー、元気してたかオメーら」

ナナミ 「……」かちかちかちかち

左右田 「なあ、そのピンボールゲーム楽しい?パソコンに入ってる奴だろそれ。七海はもっと歯ごたえあるゲーム
     やってたぜ。ところで、解析は進んでっか?」

セブン 『ファイルの解析は終了した。今さっき千尋にすべてのデータを送ったところだ』キュゥン…

左右田 「おお、ありがとな!」

セブン 『しかし、気になるデータがある……和一、これを見てくれ』パッパッ

左右田 「なんだ?"なら……しか高校入学案内"?フツーのパンフレットじゃねーか」

セブン 『ナラカ、と読むらしい。日本中の地名を検索したが、こんな不吉な地名はどこにもない。
     考えられるのは架空の学校か、それとも……』


この大人なケータイはそこで言葉を濁した。


左右田 「不吉な地名、ってどういう意味だよ」

セブン 『ナラカ、とはサンスクリット語で……"地獄"を意味するのだ』

左右田 「……!!」

セブン 『このパンフレットは、サーバーの最奥にプロテクトが何重にもかかった状態で保管されていた。まだ
     すべて確認できていないが、おそらくこの怪奇現象のヒントになるものだろう』

左右田 「で……それをオレに聞かせてどうするんだよ、まさかオメー」

セブン 『私は、次の蝕までにそこからファイルをコピーしようと思う』

左右田 「分かってんのかよ……学園長に見つかったら潰されんぞ」

セブン 『だからこそ、千尋には任せられない。前にも言ったが、私は一度自我を失った身だ。再びの消滅は何も恐ろしくはない。
     こんな奇妙な縁で君たちと出会った……助けになれるなら、本望だ』

左右田 「そうかよ……」

セブン 『……和一、君の心を受信した。君は、優しいな』フッ

左右田 「オメーがこのケータイに引き寄せられた理由が分かれば、なんか役に立つってだけだっつの」

セブン 『一つだけ頼みがある。私の自我が予定通り消滅した後は、私を七海に装着してくれ。きっと役に立つ』

左右田 「ああ、約束だ」

セブン 『では、後は頼んだぞ……バディ』


ふっ、とレベルメータの顔が消えた。もうサーバーの中に行っちまったんだな。


左右田 「……なんだろ、すげー嫌な予感すんな」

背筋がざわざわする。
直感は終里のスキルだろ?


なんとなく、次の蝕はやべーもんが来る。
そんな予感がした。


______


今日は短いけどここで切るよ。
次回は蝕だよ。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/19(水) 17:52:47.94 ID:uTlh/TRto


九頭竜が落ち込んでるのは何でだ?菜摘がやられた?
154 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:48:50.42 ID:Nli3LyVz0

巻末にあるならかようちえんパロのようなもの

_____________


【きぼうがみねようちえん ぜつぼうぐみ】


日向  「はーい、みんなあつまれー。希望ヶ峰幼稚園の時間だぞー」


<わー(白衣を着た日向の周りに集まる77期生園児たち)


西園寺 「つーかさあ、なんで日向おにぃが先生役なの?」

日向  「苗字が原作キャラとかぶってるからだ」キリッ

小泉  「そんだけの理由なんだ……」

日向  「……素でスモッグが似合う高校生とか初めて見たな。
     んじゃ、西園寺がキレる前に行くぞー」


【はなむらくんのしつもん みんなのもじがどこにあるのかおしえてください】


日向  「とりあえず一覧にしてみたぞ」


日向→『変』左手の甲 左右田→『機』うなじ 小泉→『写』喉元  田中→『獣』左胸 

罪木→『癒』右手の甲 豚神→『偽』鎖骨  西園寺→『舞』左足首 終里→『闘』右太もも

ソニア→『生』左手首 弐大→『助』腹   九頭龍→『冬』うなじ 辺古山→『刀』右胸

澪田→『音』右二の腕 狛枝→『運』左足  花村→『食』尻


九頭龍 「お前……ケツに文字あんのか」

西園寺 「うえっ!?さすが下半身でモノ考える変態ヤローは違うよね!」

花村  「ぼくがやったわけじゃないってば!!」

日向  「おい、花村が変態なのは本当だけどそこまで言ってやるな」

花村  「」

日向  「というわけで、次回の希望ヶ峰幼稚園をお楽しみにー」ヒラヒラ

花村  「オチはないの!?」
155 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:49:31.54 ID:Nli3LyVz0





>>1「さて、続き投稿するか」

>>1「ファッ!?公務員試験って四次まであるんか!時間NEEEE」

そんなわけで、とりあえず書きだめ分だけ投下してくよー

_________


コンコン…


日向  「九頭龍、飯持ってきたぞ」

花村  「ねえ、もう3日目だよ。そろそろ出てきてよ。今日の味噌汁は日向くんのエキスがたっぷり入った特製なんだよ!」

日向  「誤解を招く表現はやめろ、何も変なものは入れてないぞ、本当だ!」


ガチャッ


九頭龍 「うるせえな……後で食うから置いてけ」


3日ぶりに見た九頭龍は、いつもの迫力がそぎ落とされていて。

小さい体がますます小さく見えた。


日向  「……お前がずっと部屋に閉じこもっているのは、妹さんの姿が見えなくなったのと関係あるのか」

九頭龍 「だったら、何だってんだよ。腰抜けって笑うのか?」

日向  「どういう意味だ、俺はただお前が心配で……」

九頭龍 「余計なお世話だって言ってんだ!……っ、うるせえ!!」


九頭龍は部屋の中に振り返って叫んだ。


日向  「誰かいるのか?だったら悪か「とにかく、……オレのことはいいから、ほっとけ!」バタンッ

花村  「あーあ、やっちゃった……」ハァ

日向  「とりあえず食事だけ置いて戻るか」コトッ


<オーイ

日向  「なんだ、朝日奈?」

朝日奈 「ちょうどよかった!あのさ、一緒に葉隠の部屋に来てくんない!?」

日向  「はっ?……葉隠?」



【葉隠の部屋】


朝日奈 「はがくれー、日向連れてきたよー」キィッ


葉隠康比呂という男を、俺はよく知らない。

朝日奈いわく「ロクデナシ」の五文字で片付くらしいが、

布団をかぶってブルブルふるえてる葉隠には、「ビビリ」の三文字も加えてやりたいと思った。


156 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:50:08.55 ID:Nli3LyVz0

葉隠  「あ、あああ日向っち……初めましてだべ……」ガタガタ

日向  「悪いが、時間がないんだ。介錯係の仕事があるからな」

朝日奈 「えっ」

日向  「日本刀の手入れと使い方講座だ。その道のプロ、辺古山ペコ先生をお招きしている」

朝日奈 「」

日向  「で、何の用だ」


聞くと、葉隠は「すー、はー」と深呼吸して、

やっと覚悟を決めた。


葉隠  「日向っち……いや、日向っちとカムクラっちの二人に、予言があるべ」

日向  「!」

葉隠  「俺の"予"は10割当たる。だから、今から俺が話すのは……絶対にやってくる未来の話、って思ってくれ」

日向  「それで、なんで俺なんだ?苗木に話す方がいいんじゃないのか?」

葉隠  「それは、その……日向っちに聞いてほしいからだべ」


目が泳いでいる。嘘だな、と思った。

きっと、苗木には言えないような未来なのかもしれない。


葉隠  「日向っち……次の蝕は、たくさんの生徒が死ぬべ。"始"と同じ……いや、それ以上に。
     カギを握るのは、朝日奈っち」

朝日奈 「わ、わたし?」

葉隠  「だから、朝日奈っちに万が一のことがあっちゃいけねえんだ」

日向  「……分かった。俺がそばについて守る」

朝日奈 「日向!」

葉隠  「それを聞いて安心したべ。……これが一つ目の予言。二つ目は、日向っち自身のことだ。
     日向っちはいずれ、"神の力"を分け与えられる」

日向  「神?お前、何を」

葉隠  「日向っちは、神の後継者の一人に選ばれたんだべ」


バカバカしい予言だ。

でも、笑って済ませるのは、葉隠の真剣な目が許してくれない。


葉隠  「その力は、カムクラっちでは正しく使えない。だから、日向っち自身が選ぶ必要があんだ。
     でも、それはまだ先の話だから、ちゃんと全部の真実を知った上で決めろよ。
     そんで、いよいよ三つ目。最後の予言だ」


ごく、と喉が鳴る。

回避不可能な未来の話に、俺も緊張しているようだ。
157 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:50:34.33 ID:Nli3LyVz0

葉隠  「六道紅葉」

日向  「ろくどう、もみじ?」

葉隠  「みんなを助けてくれる人の名前だべ。その時が来たら"呼ばなきゃ"いけねえから。
     しっかり覚えとけよ」

日向  「分かった……」コクン

朝日奈 「ねえ、葉隠……どうしちゃったの?あんたらしくないじゃん」

葉隠  「俺、今まで人の役に立とうとか思ったこと、なかったんだべ。神蝕に巻きこまれてからも……死にたくねえって、
     そればっか考えてた」

葉隠  「でも、これが"信頼"されるってやつなんだな……意外と悪くねえって思えたべ」

朝日奈 「葉隠……」

葉隠  「んじゃ、予言で疲れたから寝るべ」ゴソゴソ

日向  「分かった。……ありがとう」

葉隠  「どういたしましてだべ。……死ぬなよ、二人とも」


ちょっと清々しい表情の葉隠に見送られて、俺たちは部屋を出た。

そして――運命の水曜日がやってきた。


_________



豚神  「どうやら、隔離型の発生は避けられたようだな……お前たちは、作戦会議の通りに動け。
     朝食分のカロリーをすべて消費するくらいでなければ、神蝕は生き延びられないぞ!」

澪田  「おーっ!!……輝々ちゃんも!」チラッ

花村  「お、おー!」グッ


日向  (そろそろか……)ガタッ


教科書を片付けて、立ち上がる。

机に立てかけておいた刀を握りしめて、窓の外を眺めた。


――次の蝕は、たくさんの生徒が死ぬべ。


日向  (そうだ……葉隠との約束があった。朝日奈を探し出して、守らないと)


大神は、西地区で予備学科の奴らのリーダー的なことをしているらしい。

そもそも朝日奈が「自分の身は自分で守る!」と俺の助けを拒否していた。


日向  (葉隠があそこまで言うってことは、今日の蝕は相当きついな。
     少なくとも、文字を上手く使えない朝日奈じゃ乗り切れないレベルか)

<ガラッ


朝日奈 「日向、今日は……その、ごめん。メーワクかけるね」

罪木  「わ、私は朝日奈さんと一緒に行けてうれしいですよぉ!」


左右田 「七海ー。AI同士でブッキングとか起こってねーか?」カチャカチャ

ナナミ 「うん、大丈夫……だと、思うよ」

左右田 「あ、そうだ。あとで不二咲にメールでファイル送っとかねーと……よしっ、装填完了!
     大事にしろよ、セブンが自我と引きかえにくれた力だかんな」ギギッ


腕にケータイ型の通信機をつけられた七海は、「うん、大事にする」とうなずいた。
158 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:51:07.48 ID:Nli3LyVz0


九頭龍 「………」ブツブツ

小泉  「ねえ、さっきからうるさいんだけど……誰としゃべってんの?」

九頭龍 「……そっか、菜摘は……ありがとな、教えてくれて……で、今日は……
     ああ、蝕が来んだよ……それで……」ブツブツ

小泉  「……!」ゾッ

西園寺 「……ねえ、この学園の中に閉鎖病棟ってある?」


独り言を話す九頭龍の目は、焦点が合ってなかった。

ここまで追いつめられていたなんてな……気づいてやれなかった自分がふがいない。

この蝕が終わったら、ちゃんと話を聞いてやらないと。


九頭龍 「じゃあ、そろそろ時間だからよ。オメーらと話せて気が楽になったぜ、じゃあな」ガタッ


と、立ち上がった九頭龍はさっさと辺古山の方へ行く。

今のはなんだったんだ?


罪木  「わ、わたし…カウンセリングは専門外でっ……ふええ、肝心な時に役立たずな才能で
     すみません……」ぐすぐす

狛枝  「彼の希望が潰されるのを黙って見ているしかないなんて……僕はなんて無力なんだ……」ブルブル

日向  「……悪いが、あいつのことは蝕が終わった後に考えろ。
     今日は通常型だ!蝕が来る前に、早く外に出るぞ!」ガラガラッ


――カッ!!


日向  「なん、だ……!?いつもより、まぶしっ……」

とっさに、顔の前に手をかざす。

光がおさまった時、見えたのは。


罪木  「ひ、日向さん!空が……!」


灰色の空に現れた、いくつもの水紋だった。



【日向創:Chapter05:火(ヒ)】



外に出た俺たちは、誰からともなく空を見上げる。

灰色の空に、ゴロゴロ…と雷が鳴った。


霧切  「……」カッ!


"索(さく)"


霧切  「……火?」


ホログラムには、この蝕が『火』であるという以外に、何も情報が出なかった。

霧切の文字でも解析できない蝕ってことか?


豚神  「っ、お前たち、固まりすぎだ!!散れ!!!」


十神が叫んだ瞬間、空の水紋から『ジャラッ』と何かが下りてきた。

――蛇だ。白い骨だけの蛇。そいつらが、口を大きく開けて、俺たちを狙う。
159 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:51:47.29 ID:Nli3LyVz0

狛枝  「まずい!あいつら、意思があるみたいだ!!」ダッ

日向  「くそっ……みんな、避けろ!!影に入れ!!」タッ


俺の号令で、みんなが一斉に走り出す。

蛇は『ガチガチ』と牙を咬み合わせて、ものすごいスピードで降りてくる。


豚神  「いつもの蝕より動きが早い……澪田、防壁を!」

澪田  「了解っす!!」カッ!


"音(おと)"


空中から龍の頭がついたギターを取り出した澪田は、弦に指をかける。

澪田  「まずはC4!」ジャアーンッ

二人を狙って降りてきた蛇は、見えない壁に弾かれて『ギイッ!』と吹き飛んだ。

澪田  「ひゃっほーう!!アドレナリンぜんかーいっ!!
     いっくよー、それじゃあ一曲目!"10年ぶりに地元に帰ったら幼なじみが塀の中にいた"ー!!」ギャギャギャ

豚神  「やめろ!!せめて放課後ポヨヨンアワーとやらの曲を……ぐおおお!!耳が、あ……割れ……!」


攻撃判定のあるバリア。それが澪田の文字だ。

しかし、範囲はあまり広くない。俺たちは蛇を打ち返しながら、なんとか避けるありさまだった。


西園寺 「に、逃げなきゃ……あっ!」ドテッ


着物のすそに足を引っかけて、西園寺が転んだ。


日向  「西園寺!立て、はやく!!」

西園寺 「あ、足、ひねって……!」

小泉  「危ない!!」ドンッ

西園寺 「おねぇ?……きっ、きゃあああ!!」


突き飛ばされた西園寺が、悲鳴をあげた。

両足に蛇が噛みついた小泉は、西園寺が無事なのを見て「よかった……」と呟く。


小泉  「ううっ……!」

なんとか抜けようとするが、蛇はガッチリと小泉を地面に固定していた。
160 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:52:17.42 ID:Nli3LyVz0


小泉  「ひよ、こちゃ……逃げ……」ゴフッ

西園寺 「いや、嫌だ!!小泉おねぇ!!」ブンブン

小泉  「いい、から!!」

西園寺 「!!」びくっ

小泉  「お願いだから……逃げてよ……日寄子ちゃ、んを…守れ、たら……アタシ……」


ゴオッ!!

小泉の体に噛みついた蛇が、青い炎へ形を変える。


西園寺 「あ、ああ、っ、ああああ!!おねぇぇぇ!!!」


叫ぶ西園寺の目の前で、小泉の体は炎に包まれた。


小泉  「……あー、あ…やっぱ、り……アタシ……」

小泉  「こん、な……役に、しか……たて、なかっ…た…か……」ガクッ

罪木  「西園寺さん!」ぐいっ

西園寺 「な、何するの!?まだおねぇが……離して、離してよぉ!!」ズルズル

日向  「あ……」ハッ

日向  「小泉……!小泉ぃぃ!!」バサッバサッ


ジャケットを脱いで、火を叩く。

そんな俺の手を、今度は朝日奈が「逃げよう!」と引っぱった。


朝日奈 「ごめん、小泉ちゃん……」ギュッ

日向  「そん、な……」


『だってアタシたち、まだ誰も死んでないんだから!』

作戦会議の食堂で、小泉は嬉しそうに言っていた。

どこかで油断していたんだ。

これが命がけの闘いだってことを、忘れていたんだ。


日向  (俺はまた、小泉を守れなかった……!!)ギリッ

朝日奈 「ねえ、日向!この蝕って、"火"なんだよね!?」

日向  「ああ!!」

走りながら答えると、朝日奈は「やっぱり」とうつむく。

朝日奈 「そっか……葉隠が"カギを握るのは朝日奈っち"って……そういうこと、だったんだ」ザッ

止まった朝日奈は、手のひらを空へかざす。

……そこで、動きが止まった。


日向  「どうした?」

朝日奈 「あ……」カタカタ

日向  「おい、朝日奈!早く水を」


その時の朝日奈が何を思い出していたか……それは想像がついた。

『始』が終わった後、体育館で初めて文字を発動した日の記憶だ。

____________
161 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:52:44.87 ID:Nli3LyVz0

朝日奈 「ぐっ…ゴボッ、ガボッ……!」ボタボタ

日向  「朝日奈!?」

朝日奈 「ごぼっ…ご、ぐっ、ボォッ……!」ビチャビチャ

____________


日向  「……い、おい、朝日奈!!」

朝日奈 「……!」ハッ

日向  「大丈夫だ、お前ならできる。まずは水を使うものを」

朝日奈 「い、いや……」ガタガタ

朝日奈 「っ、できないっ!!…私には、できない!!」バッ

日向  「朝日奈!!」


朝日奈は俺の手を振り払い、目にも止まらぬ速さで逃げていく。

追いかけようとした俺の前に、蛇が立ちふさがった。


火   「……」ガチンガチン

日向  「仕方ないな……まずは、今日を切り抜ける!」ブンッ


刀を振りかぶって、蛇を切り伏せる。
それを繰り返すうちに、空が少しずつ晴れていった。


日向  「終わったか……」シュゥッ

刀をハンカチに戻して、ポケットに突っこむ。

日向  (とりあえず、みんなの安否を確認しよう)


そう思って校庭に向かった俺は、「日向さん!」と呼ばれる。


罪木  「よかった。日向さん、無事だったんですねぇ…」

日向  「お前もな……って、辺古山!?」


罪木の肩に手を回した辺古山は、血まみれで苦しげな呼吸を繰り返していた。

制服の袖がちぎれて、ポタポタと血が落ちている。


辺古山 「心配、するな……右腕を、持って…行かれた、だけだ」ゼーゼー

日向  「俺がおぶった方が早い、罪木!保健室は!?」ガバッ

罪木  「鍵ならここにありますぅ!さ、先に行って……ひゃああ!?」ステーン

日向  「っ、お前も!」ぐいっ


辺古山を背中にかついで、空いた右手で罪木を引っぱる。

保健室の前には、ケガをした生徒が集まっていた。


モブ生 「うう……いてえ、いてえよぉ…」

モブ生 「お母さん……」

罪木  「み、みなさぁん!順番に治しますから、押さないでくださぁい!」アタフタ
162 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:53:35.81 ID:Nli3LyVz0

とりあえず、ベッドに辺古山を寝かせて額の脂汗を拭いてやる。


日向  「そういえば、九頭龍はどうしたんだ?」

辺古山 「はぐれ、て……しま、った……不覚、だが……」ゴホッ

罪木  「……」

辺古山 「どう、した……治せ、ない……のか?」

罪木  「ごっ…ごめんなさぁい!!」バッ

頭を下げた罪木は、そのまま「うう…」と泣き出した。

罪木  「わ、私の文字はっ……もうなくなった腕を、生やすことはっ、できないんです……!
     血を止めて、傷口を塞ぐことしかっ……」

辺古山 「そうか……」フゥ

日向  「お、俺が探してくる!どこかに落ちているかも「無駄だ。あの蛇に食われてしまった」……くそっ!」

辺古山 「……気持ちだけで、十分だ。ありがとう」

罪木  「ふえっ……ぐすっ、せめて、左右田さんに義手を頼んでおきますねぇ……」

辺古山 「ああ、頼んだ」


それ以上見ていられなくて、俺はそっとベッドを離れた。


日向  (先に食堂へ行こう……)ガラッ

九頭龍 「!…日向か」

日向  「今は入らないでおいてやった方がいいかもしれない」

九頭龍 「なんでテメーにんな指図受けなきゃいけねえんだよ!」

日向  「分からないか!……辺古山だって、泣きたい時はある」

九頭龍 「……」

九頭龍 「なあ、日向……小泉、死んじまったんだよな」

日向  「ああ」

九頭龍 「なのによォ…オレだけ、ずっとペコの後ろで守られててよ……情けねえったら
     ありゃしねえ!小泉は、ダチ守って死んだってのによ……!!」ガンッ

九頭龍 「なんでオレは……こんなに弱えんだよ……」



【夜・自室】


ベッドに入ってからも、目が冴えて眠れない。


日向  (……小泉真昼。男子には口うるさかったけど、しっかり者で……いい奴だった)

日向  (西園寺は、また祭壇を作ってやるんだろうか。二回も親友を失って、あいつは立ち直れるんだろうか)


そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。
163 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:54:04.42 ID:Nli3LyVz0

【翌日】


日向  「おはよう、みんな」ガラガラッ

日向  「……って、あれ?今日は自習か?」

田中  「ついさっき、闇の君主よりの使者が授業の中止を伝えに来たぞ」

日向  「このタイミングで自習か。……嫌な予感がするな」

左右田 「あーあ…今日から二日間晴れかァ……ホントついてねえ」ボリボリ

終里  「……?」スンスン

弐大  「どうしたんじゃ、終里」

終里  「匂うぞ……」

弐大  「そりゃ、蝕の前触れじゃあ。お前ほど鋭ければ匂うのも「ちがう、そんなチャチなもんじゃねえよ」

終里  「なんだ、これ……すげー怖え……なんでオレがこんな」ガタガタ


終里の言葉が終わらないうちに、空にゴロゴロ…と雷が鳴った。

空に浮かぶいくつもの水紋……まさか。


豚神  「お前たち、考えるのはあとだ、外へ出るぞ!」

ソニア 「おかしいではありませんか!なぜこんなに早く……」

田中  「それより…昨日と同じ予兆というのは、どういうことだ!」

日向  「……」

日向  「学園長が言っていたんだけどな、文字にはいくつか特殊なものがあるらしい」

ソニア 「特殊……?」

日向  「神、王、国、死……あとは四大元素。俺が聞いたのはこれだけだった。
     今回の蝕は"火"だよな?」

弐大  「むっ?つまり、この"火"は普通のやり方では倒せないということか!?」

終里  「なあ、さっさと外出ようぜ!!ここにいても狙い撃ちされんぞ!」ダッ

弐大  「お、応!!…すまんが日向、その話は生き残ってからじゃあ!」タッ

日向  「……まずいぞ、俺の予想が当たってたら」


校庭に出た俺は、悪い予想が大当たりだったことを知った。

ザアアアッ…!

炎をまとって下りてくる、白骨の蛇。その数は昨日の倍以上だ!
164 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:54:53.73 ID:Nli3LyVz0


日向  「くそっ、さばき切れない!!」ガンッ、ギインッ!

ナナミ 「……」ガガガガガッ


七海の腕に仕込まれたガトリングガンは、一寸の狂いもなく蛇の脳天を撃ち抜く。


左右田 「おい七海、一旦下がれ!あぶねーぞ!!」

ナナミ 「大丈夫…それより、日向くんが」

ナナミ 「!」ダッ

日向  「あっ…!」

いつの間にか、すぐ目の前に蛇が迫っていた。

ナナミ 「日向くん!」ドンッ


炎の舌をちろちろ出す蛇を、七海の膝が蹴り飛ばした。

グシャアッ!

蛇は校舎の壁にぶち当たって、粉々になった。


ナナミ 「日向くん、大丈夫!?」

日向  「あ、ああ……」

ナナミ 「よかった……」ホッ


ただの機械のはずなのに。

眉を下げて胸に手を当てる仕草は、本当に七海千秋そのままで。

左右田 「二人とも無事か!?」

日向  「俺は平気だから、西園寺の所へ行ってやってくれ!!」

ナナミ 「分かった、行ってくるね」トコトコ


歩き出した七海の後ろ姿を、左右田は不思議そうな顔で見る。


左右田 「……そういやあいつ、さっきコマンドなしで動いたよな……」

日向  「なんだって?」

左右田 「いや…なんでもない」タッ


そのうち、空が少しずつ明るくなって蛇が消えていく。

シュゥッ…

俺は刀を消して、昨日より血なまぐさい校舎に入った。
165 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:55:19.69 ID:Nli3LyVz0


日向  「そうだ、辺古山!」ダッ

血で滑る廊下を、保健室目指して走る。

もしものことがあったら……!

日向  「辺古山!」ガラッ

罪木  「治りましたよ。起き上がってみてください」パアア

花村  「よっ……と、お?……すごいね!さっきまで引きつれて痛かったのが、もう治ってる!!」

日向  「花村、お前もケガを」

花村  「うん。とっさに手をかばったら、背中をね……さっきまでズル剥けのグジュグジュ。
     あの痛みと、治療中腰に乗ってた罪木さんのお尻の感触は忘れないよ」


字面だけ聞くといやらしいが、相当な重傷だったらしい。

料理人らしく手をかばって、背中に噛みつかれたのか。


日向  「大変だったな……今日はおやつなんていらないから、休んでろ」

花村  「ううん、やらせてよ。ぼくの才能って、蝕では役に立たないから……せめてみんなを
     元気づけることしか、ね?」

そう言われると、返す言葉もない。


花村  「それに……これが、ぼくにできる精一杯の償いだから」ガラガラッ

西園寺 「……」ベチーンッ

狛枝  「いったあ!……西園寺さん、ばんそうこうはもっと優しく貼ってくれないかな。
     一応僕もけが人だよ?」ヒリヒリ

西園寺 「はぁ?私が消毒してやっただけでもありがたいと思いなよ」

狛枝  「そうか……この程度の不運では、罪木さんのお尻と等価交換できないのか……」ボソッ

西園寺 「ど う い う 意 味?」ギロッ

狛枝  「いたたたっ!やめて、髪の毛引っぱらな……あ、日向くん!助けて!!」

日向  「……今のはお前が悪い」


そこで、ベッドで寝ていた辺古山が起き上がった。

辺古山 「日向?来てくれたのか」

日向  「ああ、お前が心配でな」

辺古山 「嬉しいことを言ってくれる……ここにも蛇は来たが、
     今日は澪田がついていてくれたからな、片腕でもどうにか対応できた」

澪田  「唯吹バリアーは無敵っす!」グッ

日向  「そうか…よかった」ホッ

澪田  「んじゃ、唯吹は一旦失礼するっす!ペコちゃん、安静にしてなきゃダメっすよ!
     お腹冷やさないように、ちゃんとお布団かけるっす!」

辺古山 「分かった」くすくす

澪田  「あとでご飯持ってきてあげるっすねー!」


パタン…


澪田が出ていくと、辺古山は暗い表情で布団を握りしめた。
166 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:55:47.90 ID:Nli3LyVz0


辺古山 「……小泉のことなんだが」

日向  「聞いたのか」

辺古山 「私が……全力で走れば、小泉を助けられたかもしれない」

日向  「……」

辺古山 「だが、私の後ろには坊ちゃんがいた。あの人を守らなければと……その想いが、
     勝っていたのだろう。あと一歩で、間に合わなかった」

日向  「辺古山……お前が気に病む必要は」

辺古山 「分かってる。きっと小泉も、この場にいれば同じことを言うだろう。だが、私は……」

辺古山 「私は、今度こそ……小泉を生かしたかった……!」ポタッ



九頭龍 「……入れねえじゃねーか」

九頭龍 「……」

九頭龍 「また、オレが……小泉を死なせたんだな……」

九頭龍 「くそっ!」ガンッ

_________


コンコン…ガチャッ


学園長 「やあ、戦刃さん。おつかれさま、ちょっと甘味でもどうだい?」ボリボリ

戦刃  「いただきます」ボリッ

学園長 「さすが花村君は、お菓子作りも一流だね。冷蔵庫に入っていたのを勝手に持ってきちゃったけど、
     彼が死ぬのは惜しい」ボリボリ

戦刃  「……学園長先生は、みんなを根絶やしにするつもりなんですか?
     私でも、かすり傷が出来たくらいなのに……」

学園長 「嫌だなあ、人聞きの悪い。あとは朝日奈さんが勇気を出すだけでこの蝕は終わるよ。
     そういえば……戦刃さんはいつまでここにいるつもりだい?」

戦刃  「分からない…だけど、学園長先生が"盾子ちゃんの代わりに絶望を見せてあげる"って……」

戦刃  「そう、言ったから……それを見届けるまでは、私があなたを守りたい」

学園長 (そんなことも言ったっけ。……まあ、戦刃むくろは莫迦なりに使えるしな。
     しばらくは機嫌をとっておくか)

学園長 「……っ」チクッ

戦刃  「先生?」

学園長 「いや、何でもないよ」

学園長 (死して尚、心は肉体に……霧切仁という男も、たいがい化け物だな)

________
167 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:56:17.13 ID:Nli3LyVz0


【食堂】


さすがの西園寺も、もう一回あの禍々しい祭壇を作る気にはなれなかったらしい。

真っ赤に泣き腫らした目で、罪木が背中をさするのも振り払わない。


田中  「人の悲しみには、波がある。想い出は静けさの中で蘇り、遺された者をさいなむ。
     西園寺は今、その時なのだろう」

ソニア 「私たちに何かできることは……」

田中  「強いて言うなら、生きることだ。……いつ、誰がそうなるとも限らないということを、
     心に刻みつけることだ」


田中の言葉は、集まった仲間たちの胸の奥底へ沈みこむ。

みんな、ふとした拍子に一人分空いた席を見ていた。


豚神  「小泉が死に、花村と辺古山が負傷した……今回の蝕は桁違いの強さだな」

日向  「昨日より蝕の始まる時間が早かった。敵の数も多かった。……ということは、
     弱点となる文字で致命傷を与えない限り、日々パワーアップして襲いかかってくる」

左右田 「こいつに全滅させられた年は何度もあっからなァ」

日向  「左右田?お前、何か知ってるのか」

左右田 「いや……話すと長くなっから、今はしねえ。まずはこの"火"をどうにかしねーとな」

日向  「それなんだが……"火"の弱点は、"水"。つまり、78期の朝日奈葵が鍵なんだ」

西園寺 「だったらっ…だったら、すぐその女に」

日向  「いや……朝日奈は"始"の時に文字の発動を一回失敗しているんだ。
     それからあとは、せいぜい水の入ったコップを出す程度で……大がかりな水を出すのが
     恐ろしいんだと思う」

罪木  「"火"の一日目でも……逃げてしまったそうなんです」

西園寺 「何それ……そいつがちゃんと闘えば、小泉おねぇが死なないで済んだのにっ……!」

豚神  「……日向、行くぞ。まずは話をしてみよう」ガタッ

日向  「ああ。対抗できる文字は朝日奈しかいないからな」ガタッ


【朝日奈の個室】

コンコン…


苗木  「朝日奈さん、僕だよ。苗木だよ。話がしたいんだ。明日の蝕のことなんだけど……」

ギイッ…

朝日奈 「……なに?」

苗木  「あのね、日向クンたちが食堂で集まって話しているのを聞いたんだけど、"火"を倒すためには
     朝日奈さんの文字が必要なんだ。明日は僕たちと一緒に来ない?」

朝日奈 「……私、一回逃げたんだよ。今さらどうやって……」

霧切  「私たちがあなたを守るわ。みんなで蝕を倒しましょう」

苗木  「そうだよ、僕たちがいるよ!怖くなんかないよ、あんな蝕、朝日奈さんの文字なら一発じゃないか!」
168 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:56:44.22 ID:Nli3LyVz0
朝日奈 「やめて!!!」

苗木  「!?」ビクッ

朝日奈 「お願いだから、やめてよ……!私、私にはできないっ…無理だよ……!!」ズルズル

石丸  「弱音を吐くとはらしくないぞ!生徒全員の命がかかっているのだ、できる、できないは
     問題ではなかろう!!!」

安広  「朝日奈さん、死ぬならどうぞご勝手に。
     ですが、わたくしはあなたのくだらない恐怖心のために命を落とすなんて、
     まっぴらですわ。それだけはお忘れなきよう」

朝日奈 「お願いだから、あっち行ってよ……私にはっ、みんなの命を預かるなんて……そんな責任……!!!」


「何をしてるんだ?」


朝日奈 「ひな、た……ななし……?」ボロボロ

日向  「寄ってたかって、圧迫尋問か?俺たちが話すからどいてろ」

石丸  「日向くん!生徒全員の命運がかかっているのだぞ!!「だからどうした」なっ……」

日向  「力ずくで引っぱり出せば朝日奈が闘ってくれるのか?確実に"火"を倒せるのか?
     ……俺にはそうは思えない」

豚神  「一旦下がっていろ、愚民め!」シッシッ


苗木たちはとりあえず廊下の角まで下がった。

朝日奈からは見えないが、じーっと様子をうかがっている。


豚神  「……お前が、恐ろしいと思うのは分かる」

朝日奈 「……!」びくっ

豚神  「俺はな、実のところ……そこまで己の生に執着があるわけではない。いつ死んでも、大した後悔はない。
     だから、お前に"闘ってくれ"と命乞いをしに来たわけではない」

豚神  「朝日奈、お前はどうなんだ。死にたいのか、それともみっともなくあがいて、生きていきたいのか?」

朝日奈 「わた、しは……」

豚神  「お前が生きたいと思うなら、そのために文字を使え」

日向  「それとな、策がないわけじゃないんだ。何せこっちには"超高校級のメカニック"がいるからな。
     あいつに巨大水鉄砲でも作ってもらって、屋上に配置して空に向けて撃てば、どうにかなるかもしれないぞ」

日向  「お前ひとりに何もかも背負わせるなんて、そんなことはしない。
     生きるためには、責任が伴う。それを俺たちはよく知ってるから」ポンポン

朝日奈 「う、うう……!」ボロボロ

朝日奈 「嫌だ、嫌だよ……みんなが死ぬのは嫌だ……!」ぐすぐす

日向  「まだ死ぬって決まったわけじゃない。もしかしたら左右田で何とかなるかもしれない」

朝日奈 「無理だよ、分かってるもん!私じゃなきゃ、ダメなんでしょ……?」ポロポロ


「そうだ、お主でなければならぬ」

のそっと入ってきた大神は、俺たちを下がらせて朝日奈の肩に手を置いた。
169 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:57:12.56 ID:Nli3LyVz0


大神  「朝日奈よ……1438人の命など、お主の細い肩には背負えぬだろう。だが、始で命を救った十神と日向。
     そして、溺れたお主を助けた罪木……3人の命なら、どうだ」

大神  「せめてこの3人は救う。そう考えるだけでも、胸が楽にならぬか」

朝日奈 「……」

大神  「我はもう二度と、お主に生を諦めてほしくない」

朝日奈 「!さくらちゃん……」

大神  「言いたかったのはそれだけだ。朝日奈葵は一人ではないぞ」


たくましい筋肉に抱きしめられた朝日奈の目から、ぽろっと涙が落ちる。

俺は十神に目くばせして部屋を出た。

パタン…

苗木  「あ、どうだった?」

日向  「友は強し……ってとこかな」

豚神  「同じ言葉でも、友に言われるのとでは重みが違うということだ」


行くか、と歩き出した俺たちに、苗木は「えっ?ちょっと、どういうこと?ねえ!」と困惑していた。


【夜.左右田の個室】


左右田 「しっかしよぉ、今日はマジでビックリしたぜ。コマンド入力してねえのに自動で動いて
     日向をかばったんだもんな。あれか、やっぱお前、七海の生まれ変わりとか?
     ……なわけねーか」カチャカチャ

ナナミ 「左右田くん」

左右田 「ん?」

ナナミ 「ちょっと……お腹の回線をいじられるのは恥ずかしい、かな」

左右田 「なんだよ、メンテしとかねーとフリーズしちまうかもしれねーんだぞ」ガチャンッ

ナナミ 「うーん、男子に見られるっていうのは……ちょっと」

左右田 「着がえ見られるみてーなモンなのか?機械の考えることってのはわかんねーなあ」ガガッ、ピーッ

ナナミ 「……日向くんだったら、いいかも」

左右田 「はぁ!?……んじゃ、今度からメンテには日向立ち会わすか?」ガキッ

ナナミ 「そういうのじゃ、ないんだけどな……」

ナナミ (なんだろ、この気持ち……日向くんを見てると、胸の回路が動かなくなっちゃうの)

ナナミ (何なんだろう……)


ザーッ…

『これからもわたしに…色々教えてくれる?』

『…あたりまえだろ』

『七海が知りたいこと、俺が何だって教えてやるよ』

ザザッ…


左右田 「……い……おい、七海?」

ナナミ 「……っ!」ハッ

左右田 「島の七海もよくボーッとしてたっけなあ、立ったまんま寝てたのはマジでビックリしたわ」ハハハ

ナナミ (今のは……?)
170 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:57:41.51 ID:Nli3LyVz0
_______


今日で『火』は三日目だ。

学園長のアナウンスと同時に飛び起きた俺は、制服を身に着けるといそいで外へ出る。


カッ!


日向  「せめて朝食が終わるまでは待ってほしかったな……」

西園寺 「泣いても笑っても、たぶん今日が最後だよ」


扇をいじる西園寺は、珍しくブレザーを着ていた。

「わたしが転んだせいで、おねぇが死んだんだ」と泣いていたのを、俺は知っている。


日向  (朝日奈はまだ個室か……?)タッ


【同時刻.朝日奈の個室】


朝日奈 「!もう来てる……」ギュッ

朝日奈 「やらなきゃ……私がやらなきゃ……」

コンコン

朝日奈 「っ、だれ……さくらちゃん?」ガチャッ

十神  「迎えに来てやったぞ、臆病者め」

朝日奈 「……え」

石丸  「本来はこんな使い方をしたくないのだが……朝日奈くん、"出てきたまえ"!!」カッ


"正(せい)"


朝日奈 「!?あ、足が勝手に……」トッ

石丸  「許してくれ……みんなの命がかかっているのだ……"ついてくるんだ"」

朝日奈 「え、えっ?なんで、なにがっ……」トコトコ

__________


日向  「朝日奈、どこだ!!」タタッ

日向  「……なんだ、あれは」


俺の視線の先には、朝日奈の肩に手を置いた十神(本物)と

気まずそうに立っている石丸がいた。


日向  「おい、何をしてるんだ!!!」

十神  「お前こそ、何をしている?朝日奈が初日の時点で"水"を解放していればよかったんだ……こいつが
     怖気づいて闘わなかったせいで、どれだけ生徒が無駄死にしたと思ってる!!!」

日向  「なんだと……」

十神  「――発動!」カッ


"皇(すめらぎ)"


空中から二振りのまさかりを取り出した十神は、その切っ先で座りこんだ朝日奈を囲むように円を描く。

削れた地面がパアッと青い光を放った。
171 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:58:11.45 ID:Nli3LyVz0
十神  「俺の文字は、このまさかりで囲んだ部分を"支配"することができる。
     そこに化け物を入れようが、安全地帯にしようが、俺の気分次第だ」

炎をまとった蛇が、まっすぐに朝日奈を狙った。


朝日奈 「きゃっ……!」


バチィンッ!!


見えない壁に弾かれて、蛇がのけぞる。地面でビク、ビクッと痙攣する白骨の蛇を、

十神の革靴がぐしゃっと踏みつぶした。


日向  「こっちにも来た……!」カッ


"変(へん)"


日向  「う、ら、あああああっっ!!!」ブンッ


バキッ!


日向  「もう一発!」ブンッ


グシャッ!


金属バットで、蛇を殴り倒していく。

昨日よりさらに数が増えている……キリがない!!


朝日奈 「や、やめて……やめて!」

朝日奈 「日向、こっちに入……」がくんっ「……え?」

十神  「言っただろう。その円の中は俺の支配圏だ。勝手に出ることは許さん」

十神  「せいぜいそこで、仲間が無残に死んでいくのを指をくわえて眺めてろ」コッ…

朝日奈 「あ……」

石丸  「十神くん……本当にこのやり方が正しいのか?」

十神  「今さら何を言う。お前も、この女が尻込みしたせいで死ぬのはごめんだと思ったんだろう?」

石丸  「それは……」ギュッ


バキッ!ゴシャッ!!


日向  「どうすれば……どうすればいいんだ!!!」


視界を埋め尽くす蛇に、俺は思わず叫んだ。

瞬間。
172 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:58:41.22 ID:Nli3LyVz0
カッ!!


カムクラ 「ふぅ……」シュゥッ

カムクラ 「僕がいなければ、彼は何回死んでいるんでしょうか」ブンッ


ゴッ、グシャッ、ゴスッ


十神   「カムクライズル……あいつに朝日奈を助けられては困る」すっ

石丸   「!?十神くん、何を」


ふっ、と朝日奈を囲む円の光が消えた。代わりに、赤い光が炎のように立ち上る。


十神   「円の中に出していた"命令"の種類を変えた。早く闘わなければ、四方八方から喰われるぞ」


ギギッ…ガチンガチン

赤い光を見た蛇たちが、今度は朝日奈目がけてまっさきに突っこんでいった。


石丸   「くっ……やめろ!"朝日奈くんを傷つけるな"!」カッ


"正(せい)"


石丸の声に合わせて、朝日奈を狙った蛇が小さな盾に弾かれる。


朝日奈  「あ、ああっ、あああ……!!」ガタガタ

朝日奈  「どうしよう……出さなきゃ、って、分かってるのに」スルッ

二の腕の『水』を見つめて、朝日奈はぽろぽろ泣き出した。

朝日奈  「どうしても……怖い、怖いよ……!!」

______________


澪田   「……はあっ、はあーっ、ハア……!」

豚神   「澪田、一旦逃げるぞ!建物の影の方が安全だ!」ぐいっ

澪田   「は、ははっ……ほんと、キリがないっすね……」がくんっ

豚神   「澪田、あきらめるな!立て!!!」

澪田   「……ほんとに、勝てるんすか?」

豚神   「なんだと?」

澪田   「敵はわんさか来るし、朝ごはんも食べてないからお腹ペコペコだし」

澪田   「もう……唯吹たちみんな、ここで」

豚神   「そんなことは絶対にさせない!!!」

澪田   「……!」

豚神   「"僕"が、決めたんだ……絶対に、みんなでこの学園を出るって!!だから澪田さんも
      それに協力しなきゃ、ダメなんだ!!!」

澪田   「そんな、むちゃくちゃな……」
173 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:59:09.41 ID:Nli3LyVz0
豚神   「……澪田、楽器を変えてみたことはあるか?」

澪田   「へっ?いや、いつもギターだったっす」

豚神   「もしかすると、お前の防壁が全方位に対応できないのはそのせいかもしれない……
      試さないで死ぬのはお前も後味が悪いだろう、何か他の楽器を出してみろ!」

澪田   「他!?他って……」むむむ


"音(おと)"


澪田   「……これとか」チーンッ

トライアングルを鳴らすたび、蛇の脳天が次々に爆破される。

澪田   「ほいっ、ほいっ、ほいっ!」チーンチーンチーン

澪田   「めっさつかれる……」グター

豚神   「また数が増えたぞ!」

澪田   「ああああっ、もう!!これ以上デカい音出る楽器は知らねーっすよ!!」カッ

ボンッ!!


豚神   「……ピアノ?」

澪田   「とりあえず、ペダル踏んで……両手10本の指で和音を!」


ガァァァーンッ……!!


それは、すさまじい衝撃。

地面を震わせた音が、青い稲妻となって蛇たちを食い尽くす。


豚神   「すごいぞ、澪田!四方の敵が一気に……」

澪田   「ふふっ、唯吹は無敵っすからね!!」


――ドスッ。

澪田   「!!??」


十神の体に、何匹もの蛇が噛みついた。

背骨がぐしゃっ、とつぶれる音。

白夜ちゃん、と叫んだつもりだった。だが、声となっては出なかった。

背中をくの字に曲げた十神は、澪田の腕の中でぼんやりと空中を見ている。

その体がもはや呼吸をしていないことに気づいた澪田の脳裏に、蘇る声。


『気をつけろよ、澪田。特に背後や上からの気配にはな』


澪田  「ふっ、うぐぅぅ……!」

澪田  「なんで、なんでっすか、白夜ちゃん……唯吹には、気をつけろって言っといて……」ポロポロ

澪田  「白夜ちゃん……!!」
174 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 17:59:39.11 ID:Nli3LyVz0
______________

両手を広げた石丸が、「大丈夫だ」と笑った。

石丸  「君のことは、絶対に守る。それが、僕の責任だ」

朝日奈 「石丸……」

石丸  「……すまない。君を苦しめてばかりで」カッ!


目の前に、ひときわ大きな盾が浮かんだ。

カムクラがすうっと目を閉じる。同時に、戻ってきた日向が「くっ」と膝をついた。


日向  「まだ無事か、朝日奈!」

朝日奈 「……っ、バカ…それ、こっちの台詞!」

朝日奈 (やらなきゃ……!みんなが、ここまで命かけてくれたんだから……!!)ギュッ

朝日奈 (落ち着いて……プール、池、なんでもいい……とにかく水のある場所を……)


頭を抱えてイメージを始めた朝日奈は、

だんだんと呼吸が落ち着いてくるのが分かった。

周りの景色が、少しずつ明瞭になっていく。


朝日奈 (……あれ?)

そこで、朝日奈は何かに気づいた。

茂みの中、人の手が飛び出している。

骨ばった、細い指。よれた袖口から覗く手首に、茶色い数珠が……


朝日奈 (……え、嘘。だって、だって、あいつが死ぬわけ)

朝日奈 (でも、あんな趣味の悪い数珠してるやつ、あいつしか)ヨロッ


立ち上がった朝日奈は、そのまま固まった。

茂みの中に倒れている人間の正体が、分かってしまったから。


朝日奈 「あっ……あ、ああああアああぁぁあ゛ああ!!!!」カッ!!
175 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/01(月) 18:00:05.07 ID:Nli3LyVz0
叫んだ朝日奈の足元がボコッ、と割れた。割れ目はどんどん大きくなって、校庭を埋め尽くす。


"水(みず)"


ブシャアアアッ!!


割れ目の間から吹き出した水が、空へ向かう。


十神  「……やっとか」

石丸  「見たまえ、蛇が……!」


石丸の指さした先では、炎をまとった蛇が水の中でのたうちまわる姿。


朝日奈 「うう、うわあああああ!!!!」


『火』にぶつけられた水は、周りにいる生徒たちをも吞み込み始めた。


日向  「朝日奈!!俺だ!!分かるか、日向創だ!!!」ガバッ

朝日奈 「よくも、よくも葉隠をっ……消えろぉぉぉ!!!!」

日向  「落ち着け、朝日奈!もういいんだ、やめろ!!石丸が溺れかけてる!!!」グイッ


額に血管を浮き上がらせて、暴れる朝日奈を押さえつける。

俺には分からないが、これ以上の解放は危険だ。本能がそう告げている。

シュゥッ…

やがて、腕の中の朝日奈がぐったりと力を抜いた。


朝日奈 「うううっ……うわああああ!葉隠……葉隠ぇ……!!」ぽろぽろ

朝日奈 「うえっ……私が……私が、ちゃんと…ぐすっ、できてたら……!」

日向  「大丈夫だ。もう終わったんだ。全部」ポンポン

朝日奈 「葉隠ぇ……!!」

日向  「がんばったな。よくがんばった。ありがとうな」

石丸  「……」ギュッ


血なまぐさい匂いの立ちこめる中、朝日奈の泣き声が空に響き渡った。


【火(特殊型)三日間
 死亡者数:1126名
 生存者数:274名
 総生徒数:1430名→274名】



___________

切ります。やっと十神、石丸の文字が出せた…
176 : ◆XksB4AwhxU :2017/05/02(火) 22:18:08.21 ID:scNA2U970
次はまたちょっと桑田編行くか 
大和田で和むか
苗木視点か...
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/06(土) 14:17:23.36 ID:TEjB4FabO
更新やったーからのおわおああ絶望…! とうとう犠牲者ががが 菜摘ちゃんもどうなったのか不安だし、朝比奈さんのメンタルも大丈夫かこれ…
178 : ◆XksB4AwhxU :2017/05/06(土) 15:34:33.11 ID:DdpLtWOm0
>>177

10割占いのスレ楽しく読んでたけど
回避不可能な未来予知は怖い。


179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/06(土) 19:07:31.08 ID:ivDNb5XA0
葉隠が悟った感じになったのは自分の未来見たからか
180 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/08(月) 11:11:52.58 ID:3h/q+p2e0
>>179

そのつもりだけど、それは後々。
_________


菜摘  「……」ペラッ


<『求む アマチュアカメラマン! 写真部】


菜摘  「……」グシャグシャ、ポイッ


丸めた紙をゴミ箱へ投げて、菜摘は顔の前に手をかざした。


菜摘  「今日もまぶしいなあ……」スウッ

菜摘  「!?」


手の向こうに、青空が見える。

まばたきする間にまた肌色になった視界。


桑田  「よっ、ヒマか?」ヒョイッ

菜摘  「……あんた、部活見に行ったんじゃなかったの」

桑田  「いつ死ぬか分かんねーのに、のんびり部活なんかやってられっかよ」

菜摘  (今の……気のせい?)


菜摘 「ねえ、今日も空島って見えてる?」

桑田 「あー、昨日よりちょっと北北西?のあたりに浮かんでる」


学園で空島の見えない生徒は、菜摘だけだ。


菜摘 「ふーん……私もいつか、見えるようになるかな」

菜摘 「……」

菜摘 「ねえ、あんたは死なないでよね。絶対にここを出て、自由になりなよ」


お前もな、と言いかけた口は、

菜摘の沈んだ表情につぐまれる。

そうやって二人はしばらく、中央広場のベンチから空を眺めていた。
181 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/08(月) 11:13:01.81 ID:3h/q+p2e0
ザワザワ…カチャカチャ…

キョウノテストドウダッタ? コノパスタウメーナ ダレカオチャトッテキテー


桑田  (スパゲッティと、野菜のスープ。デザートのドーナツ率が高いのは誰の策略なんだ?)モグモグ

桑田  (今日も今日とてぼっち飯。今気がついたけど、この一ヶ月菜摘以外と会話してねえ)ゴクゴク

桑田  (頼むぜ、九頭龍菜摘。オメーが死んだらオレはマジのぼっちになっちまうかんな、
     ぜってー死なないでくれよ)チラッ

ワイワイ…

石丸  「なるほど、そんな考え方もあるのだな!参考になったぞ苗木先生!!」

苗木  「あはは、久しぶりにその呼ばれ方したよ」

不二咲 「そういえば、だいぶ暑くなってきたけど…衣がえはやっぱり6月1日かな?」

石丸  「あと一ヶ月もあるのか……蝕で走り回ると制服が蒸れる。融通を利かせてはもらえないだろうか」

腐川  「あんたの口から"融通"なんて言葉が出る日が来るなんてね……」

石丸  「僕は常に成長を続けているのだよ!」


アアハハ…


大和田 「よ、よぉ…ここ、いいか?」ガタッ

桑田  「……なんか用かよ」


苗木が差し向けやがったのか、と思ったけどちがうらしい。

コイツとは仲良かったらしいけど、実感がねえから、オレの中では他人とそんなに変わらない。


大和田 「いや、特に用とかねえけどな……その、お前は平気なのか?」

桑田  「何がだよ」(イライラすんなこいつ、でけえ図体してモジモジ喋りやがって)

大和田 「不二咲が生きて喋ってるって言ってもよ…オレがテメエの勝手な都合であいつをブッ殺したって
     罪は消えねえんだよ……お前もそうなんだろ?」

桑田  「……」プチッ


ハッキリ言えよ、『傷の舐めあいがしたいです』ってよ。


桑田  「オメーは悪くねえよ」

大和田 「……!」

桑田  「悪いのはあんな事させたモノクマだろ?不二咲もオメーを許すつもりなんだろ?だったら
     それでいいじゃねえかよ。な?」

大和田 「やめろよ…」

桑田  「もう楽になれって。辛かったんだろ?」

大和田 「やめろっつってんだろうが!!!」ガタンッ


なんと総長は、親切にもなぐさめてやったオレの胸ぐらをつかんできた。

あいかわらずの短気。こいつ、不二咲の事件から何も学んでねーな。


苗木  「やめなよ、大和田クン!手離して!」ぐいっ

桑田  「あー、どれが気に食わなかったのか知んねーけど、落ち着けよ」

大和田 「離せ苗木!桑田のヤロー、やっぱ何も分かっちゃいねえ!!」


『つづいてはスポーツです!』


そこで、テレビのニュースがスポーツの話題に切りかわった。

『まずはメジャーリーグで活躍中の大谷選手。二刀流はアメリカでも……』
182 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/08(月) 11:13:32.46 ID:3h/q+p2e0

桑田  「あ……」

食堂のテレビに映った野球選手が、ホームランを打った瞬間。

オレは短い悲鳴を上げてその場にぶっ倒れた。

______________


「ネームプレート、よし。返り血防止のシーツ、よし。ドアの鍵、よし。
 あとは桑田くんを待つだけですね」

「なーんか怪しいなあ……あの流れだったらフツー苗木じゃね?
 でも二人っきりってトコはやっぱ、期待しちゃうよなあ」

「でも、あの手紙に引っかかってくれるでしょうか。
 自分で言うのもなんですけど、かなり怪しいのに」

「あれだ、吊り橋効果ってやつを期待したってバチは当たんねーだろ、うん。ぶっちゃけ不安だしな、オレも」

「……大丈夫。きっと桑田くんは来てくれます。だって、桑田くんと私は」

「ま、舞園ちゃんに限って変なことはねーだろ!だってオレと舞園ちゃんは」



――ともだちだから!


【保健室】


桑田  「……」

桑田  「……あれ?」パチッ

シャアッ

罪木  「よかった…!あ、あのぉ…何があったか、覚えてますか……?」

桑田  「オレ、たしか……食堂で」

罪木  「はい…食堂で倒れた桑田さんを、大和田さんが運んできたんです」


起き上がって見ると、外はもう真っ暗だった。

オレのせいで夕飯を食いそこねたらしい罪木先輩は、おにぎりをかじってる。


桑田  「大和田が…?」


特に理由のない暴力はこの働きでチャラにしてやっか。やさしーなオレ。


罪木  「はい…すっごく心配してました。"オレがまた八つ当たっちまったんだ"……って。
     あ、お部屋まで付き添いましょうかぁ?」

桑田  「いや、一人で歩けるんでへーきっす」ガラッ

罪木  「そうですかぁ…でも、具合が悪くなったらすぐに言ってくださいねぇ……
     私は超高校級の保健委員ですから…お注射でも点滴でも……手術だって……」モジモジ

桑田  「は、はあ…」(この人まだ絶望なんじゃねーの?)


なんか危険な匂いがする。保健室はなるべく行かないようにしとこう。

今日は大安吉日だったはずなのに、不運の連続だ。

電子生徒手帳を見ると、菜摘から『おだいじにー』とメールが来てた。


桑田  「……ん?」


個室のドアの前に、クリアファイルが置かれてる。

堅っ苦しい字と分かりやすい図は、気絶してる間にあった午後の授業の内容らしい。
183 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/08(月) 11:14:01.64 ID:3h/q+p2e0

桑田  「……自覚のねえ悪口が一番タチ悪いよなあ」


でも追試は正直めんどくせーし、ここは石丸の言うとおり勉強しておいた方が後々楽そうだ。

どーせ帰宅部だし、毒見係は仕事ないし。


桑田  「そーいや、明々後日が晴れだっけ。死んだら追試受けなくていいんだよな」カリカリ

桑田  「……何考えてんだオレは、葉隠のアホが伝染ったか」ペラッ


葉隠  「へくしっ!!」


【数日後】


教師  『で、あるからして…マルクスの三頭政治。これがローマの共和制を……』

キーンコーンカーンコーン

教師  『では、本日の授業はここまで。明日のテストで70点以下の生徒は追試があるので、気をつけるように』

大和田 「」

朝日奈 「」

葉隠  「」

忘れてた。希望ヶ峰学園は偏差値も超高校級なんだった。


桑田  (えーと、明日は雨だし……暗記すればなんとか)ダラダラ


そんなことを考えてる間に、空島が太陽に重なった。

カッ!!

そして今日も、試練が始まる。

___________


桑田  「ん……」パチッ

桑田  「隔離型か。気持ちわりー場所だな」スッ


立ち上がって、周りを観察。

灰色の空と、ガレキの山と、血の池。うん、こりゃ確実にやべーもんが来るわ。


ガラガラッ


終里  「あれ?お前……誰だっけ」

山田  「桑田怜恩殿!お久しぶりですなあ!」パァァ

桑田  「山田……と、終里先輩」

終里  「あれ、お前オレのこと知ってんのか?えーと……なあ山田、こいつ誰だ?」

山田  「終里赤音殿は人の名前を覚えるのが苦手なのです。なにか食べ物をあげるといいですぞ」ヒソヒソ

桑田  「ブーデーは何やったんだよ」

山田  「リュックの中にあった油芋チップスを……半分のつもりが全部取られてしまいまして……」ずぅぅん…

桑田  「チッ、しょうがねーなあ」ゴソゴソ

終里  「おわっ!?あんぱん!?なんでポッケからあんぱん出てくんだお前!すげえな!!」キラキラ

桑田  「食ってる間に覚えてほしいんすけど、オレは桑田怜恩っていいます」

終里  「おうっ!くわたな!おほへたへ!」モグモグ


腹いっぱいになった終里先輩と山田を連れて、出口を探した。

そんなに広くない空間で、山田が見つけた道を歩く。
184 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/08(月) 11:14:29.43 ID:3h/q+p2e0

山田  「もうすぐ出口……!?!?」

桑田  「……んだよ、あれ」

山田  「おうふっ!?き、きょきょきょ…リアル巨女キタ――(゚∀゚)――!!」

終里  「なんだあいつ!?すっげー倒しがいがありそうだぜ!!」ゴォッ


そこにいたのは、何cm…いや、何mの巨大な女だった。髪を揺らして、オレたちを見下ろしてる。

文字の先制攻撃だべ!……と思った瞬間、そいつが『妾は夢の主』と笑った。


『人の子よ……何を望む。永遠の吉夢か、それとも泡沫の凶夢か……』


山田  「そりゃもちろん、ぬっぷぬぷのぐっちょぐちょ「それ以上言ったら殺すぞ」男のロマンという
     奴じゃありませんか!」

終里  「きょーむってなんだ?食えんのか?」


『ふむ……なかなかに骨のありそうな子らよ。どれ、しばし妾の夢を見せてやろう』ズズズ…


パカッと割れた腹から、白い手が出てきて、オレたちの体にからまる。

山田  「あああ!!そんなところ触らないでぇ!!触手プレイはらめぇぇ!!」ジタバタ

終里  「くそっ、ちぎれねーぞこいつ!」グイグイ

桑田  「うわ、ああああああ!!!」ズルズル


ぱくんっ。


___________

___


ピチャン…ピチャン…


桑田  「……あ……」パチッ

桑田  「オレ……たしか、あのデカい女に……」ゴソッ

桑田  「どこだ、ここ……?」


シャワーから水滴が落ちて、静かな中で響く。

暗がりに目が慣れてくると、そこがシャワールームだと分かった。


ガチャガチャッ!


桑田  「!?なんっ…いってぇ!」ズキッ

手首が痛い。熱をもったみたいだ。赤く腫れたそこに、金箔がついてる。

オレは、模擬刀を取ろうとしたのを舞園に先回りされて、手首を叩かれて……

シャワールームのドアをこじ開けて、中にこもった?


ガチャガチャ…ギイッ
185 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/08(月) 11:14:57.50 ID:3h/q+p2e0

桑田  「うそ、だろ……だって、女子の方は、鍵が」ハッ

桑田  (そうだ、あいつら、部屋入れ替えて……じゃあここは、苗木の)


ザクッ


桑田  「あっ……」ボタボタ

舞園  「……桑田くんが、いけないんですよ」ズズッ


腹から抜かれた包丁は、べっとりと血がついている。

そっか、オレは舞園に殺されるんだ。


桑田  (……あんまりじゃねーかよ、これ……)ズルッ


くそ、いいダイイングメッセージが思いつかねえ。なんかねーのか、まだらのひもみてーなやつ。


桑田  (そうだ、あれだったら……苗木はたぶん分かる)ズッ…

オレは最期の力を振り絞って、壁に『つる』とだけ書いた。


『それ、夢の時間はもう終わりじゃ』


桑田  「……は?」


パアッ…


気がつくと、オレたちは元の場所にいた。山田が「うげえええ」と吐いてるのを、

終里先輩が「大丈夫か?もう終わったぜ」と背中をさすってやってる。

『そなたら、よほど妾の夢が気に入ったようじゃの。今一度見てみるか?』


終里  「冗談じゃねーぞ…オレはもうあんなん見たくねえよ…」


『よう凶夢を耐えた。名残惜しいが、もう時間じゃ。どれでも好きな扉を選べ』


終里  「んじゃ、オレは一番右の行くぜ」

山田  「えええ、三人一緒ではないと!?」

桑田  「なあ、入った瞬間喰われるとかねーの?」

『どれも出口に繋がっておるゆえ、案ずるな』

桑田  「……だってよ、オレは真ん中行っから、オメーもさっさと来いよ」ガチャッ

山田  「うう、これは精神的にキツいですぞ…」ギィッ

____________

バタンッ

桑田  「あー、ひでえ目にあった……龍の方が楽だったわ、マジで」


出た先は、この前とは違って中央広場だった。

ベンチに座って休んでるオレの隣に、終里先輩が出てくる。
186 : ◆XksB4AwhxU [saga]:2017/05/08(月) 11:15:26.17 ID:3h/q+p2e0


終里  「弐大のおっさーん!オレの方が先だったぜ!」ブンブン

弐大  「応ッ、じゃあ約束通り、放課後にアレをしてやるか!!」

山田  「安広多恵子殿はまだ……」

不二咲 「まだだよぉ。山田君は本当に安広さんが好きなんだね」ニコニコ

山田  「ふおあっ!?い、いやいや、僕はそんな、恋愛感情とかそういったものでは」ブンブンブン

安広  「あら、あなたを好きだなんて言う奇特な女性がいたなんて驚きですわ」


オレたちはかなり早めに出たみてーだ。

知ってる顔が次々に出てくる中で、見覚えのある金髪が歩いてくるのが見えた。


菜摘  「……」

桑田  「おせーぞ、お嬢。……あ?何泣いてんだおま」ガシッ

菜摘  「う、うえっ……あ、あああ……!!」ボロボロ

桑田  「はっ?あ、あああ!?やめろ、誤解だアホ!」


なんと、こいつはいきなり抱きついてきた。

生温かい目で見てくる山田に、オレは必死に弁解する。


菜摘  「助けて……」

桑田  「は?」

菜摘  「怖いよ、わたし……もう、どうしたらっ……」

桑田  「――っ、!!」


そこで、オレはやっと気づいた。山田たちからは影になって見えてないけど。


桑田  「お、お前……それ、なんなんだよ」カタカタ


オレのシャツをつかんでる菜摘の手が、顔が、

透けていた。

_______

切ります。

菜摘視点でちょっと書くかな。
187 : ◆XksB4AwhxU :2017/05/08(月) 12:00:29.93 ID:HDabpnKM0
抜けてた。

>>182の最後に

「石丸だ。来週はテストがある。君は記憶力が悪いのだから復習を怠らぬように!」

...石丸のノートのコピーだったらしい。
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/10(水) 08:43:09.75 ID:S+0E/Me5o


ザッピングシステムはサイレンみたいに視点変更する時日にちとか時間とかあるといいかも
どこまで戻ったかわからず混乱した
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/08(木) 21:59:24.83 ID:52WG9KYA0
待ってる
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/14(金) 20:43:08.62 ID:sE0XGrgQ0
二次試験で落ちましたひゃっほーい
そして保守ありがとう


山田  「ほほう…桑田怜恩殿も隅に置けませんなあ……ではここで定番の、"リア充爆発しろ"!!」ビシィッ

安広  「まずはあなたから爆ぜてくださいます?……あらっ?あなた、その手」

桑田  「っ、!」カッ


"出(いずる)"


フッ…


安広  「……見間違えでしょうか」


【西地区.寄宿舎】


シュウッ…スタンッ


桑田  「いって!」ドサッ、ゴロゴロ

桑田  「くっそ…やっぱ、座標が遠いと着地むずいな」ガチャッ

キイ…

桑田  「自分で歩けよ……暗いな、電気つけ「やめて!……お願いだから、やめて」……わーったよ」

行こうとしたオレの手を、ベッドに寝かせた菜摘が引っぱった。

菜摘  「まだ帰んないで。ちょっとだけ……私の話、聞いてよ」

菜摘  「でなきゃ、本当に…消えてなくなっちゃいそうなんだ、私……」



それの名前を表すなら。

『不安』の二文字がふさわしいと、思った。


菜摘  「なん、で……お兄ちゃん……?」


【九頭龍菜摘 (クズリュウナツミ)
 Chapter:幕間】


声をかけた、つもりだった。
しかし、兄――冬彦は、まるで自分なんか眼中にないように通り過ぎていく。

菜摘  「珍しいなあ、お兄ちゃんが冗談なんて」


アハハ、と笑ってはみたものの、心の中ではものすごいショックだ。
短気だが真面目な性格の兄が、仮にも妹を。しかもこんなサバイバルの後で
無視するなんてイタズラをするだろうか?


菜摘  「……ま、まあ……お兄ちゃんだって友達と話したいだろうし?
     全然ショックじゃないけど?うん」

自分を納得させるようにひとりごと。
単純に気づかなかっただけかもしれない。
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/14(金) 20:43:35.46 ID:sE0XGrgQ0


◆◆◆◆


菜摘  「その理由に気づいたのは、ずっと後だったんだけど」

桑田  「……」

菜摘  「ほら、いつか買い物付き合ってもらった時にさ。パン屋で花村先輩と弐大先輩に会ったでしょ?」

菜摘  「二人が"知らない"って言った…あれが、本当だったんだ」


◆◆◆◆

佐藤  「……閻魔様ってのは、モウロクしてるらしいね。あんたみたいな悪党が
     生き返るなんて」

菜摘  「あんたこそ、犬のくせに偉そうに机座ってんじゃないわよ。小泉の靴でも舐めてれば?」

佐藤  「なんだって!?」ガタッ

言い争う私たちを、クラスメイトは遠巻きにしている。
いつものことだ。私と佐藤がお互いの性質を嫌悪しているのは明らかだったから。

でも、その日は違った。

「……おい、誰か止めてこいよ」
「嫌だよ、怖えもん」
「つーかさァ」


――誰だっけ、あいつら。


◆◆◆◆


桑田  「……んん?あいつ"ら"ってことは、佐藤ってやつもか?」

菜摘  「うん。でも不思議なんだよ。机にはそれぞれ名札がついてるんだけど、私と佐藤の机、ちゃんとあるんだ。
     寄宿舎にもちゃんと部屋があるし……でも、朝の出席で呼ばれたことは一回もなかった」

菜摘  「九頭龍菜摘の存在を証明してくれるのは、私自身と、それから……あんただけだったんだ」

菜摘  「少しずつ、記憶が鮮明になっていく。小泉真昼に嫉妬していたこと。予備学科で腐っている奴らを
     笑って鬱憤晴らししてたこと。組の若いの使って、小泉のネガを全部燃やしたこと……」

菜摘  「最初は、自分ってこんなにひどい奴だったんだ……って苦悩した。
     でもね……気づいたんだ。それら全てがあいまいで……そうだったみたいなようにも思えるし、
     そうじゃなかったみたいな気もする」

菜摘  「自分の記憶すら……たしかに自分のものだと信じられない。
     その孤独が、あんたに分かる?」

桑田  「……分かるよ」

菜摘  「そんなの、口ではどうとでも「大和田と、苗木と……あとは、不二咲か」

桑田  「男子ではそこらへんとつるんでたな。たまに舞園とか、朝日奈も一緒で……ゲーセン行ったり、
     買い食いしたり、まあ普通の高校生やってた」

桑田  「オレってこんなに幸せだったんだ……って知った時にさ、すげえ後悔が来たよ。
     なんで忘れてられたんだ、なんで……殺しちまったんだ、って」

菜摘  「……」

桑田  「オレはもう二度と、あんな幸せを感じる事は許されない。
     なのに死にたくない、こんな怖い所から抜け出したい、そう思ってる自分に気づいて……」

桑田  「また、苦しくなる。その繰り返しだ」

菜摘  「……ははっ、私たち、ホント似た者同士だね」クスクス


◆◆◆◆
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/14(金) 20:44:01.16 ID:sE0XGrgQ0

九頭龍 「いいかペコ、ちゃんと覚えろよ。こいつは菜摘。菜っ葉を摘むって書いて菜摘だ」

辺古山 「申し訳ありません……」

菜摘  「いいって。ペコもまだ調子悪いんでしょ」

九頭龍 「……」じーっ

菜摘  「な、なに?どしたの、お兄ちゃん」タジタジ

九頭龍 「……あいつになんかされてないだろうな」

菜摘  「あー、もしかして桑田のこと言ってる?ただの友達だって。何もないない」

九頭龍 「ならいいけどよ……いいか、ああいう奴は口説き文句がそれと分かんねえもんなんだ。大体…」

辺古山 「坊ちゃん。ひとまず話は後にして、まずはこの夢から出ませんか?」

九頭龍 「そ、そうだな…菜摘、足元気をつけろよ」

転ばないように手を差し出してくれる兄は、
記憶の中と同じように優しい。

なのに、それがまるで夢の中の出来事みたいに感じられるのは、どうしてだろう?

テクテク…

菜摘  「うわ、血の池だ、気持ち悪……二人とも、よく冷静でいられるね」

九頭龍 「ああ、隔離型が来るってのは分かってたからな。心の準備だけは、どうにか」

菜摘  「そっ、か。いいな、そういうの」

辺古山 「お嬢?」

菜摘  「あ、ううん。なんでもない」

菜摘  (お兄ちゃんには、仲間がいるんだ……いいなあ)


たいして広くない空間の、一本道を歩く。
そのうちに、開けた場所に出た。


菜摘  「……っ!?」ズキンッ

髪を揺らして笑う、巨大な女。

それを見た瞬間、頭に鋭い痛みが走る。

菜摘  (なに、これ……)ズキズキ

九頭龍 「……なるほど。テメエがここの主ってわけか」

夢の主 『いかにも。……されど、しばし待て』

辺古山 「……?」

女は、私を見つめて――本当に美しい、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。

夢の主 『久しいのう……我が娘よ。うつつの寝心地はどうじゃ?』

菜摘  「……は?」

クズペコ「「わが……娘?」」


――何を、言ってるの?


夢の主 『まだ思い出せぬか。菜摘よ……そなたの甘く芳しき想い出も、その身に宿す心も。
     頭の上から足の先まで、すべて』

夢の主 『妾が作り出したもの。そなたは、一つの泡のごときもの――』

九頭龍 「テメエ…何ふざけた事抜かしてやがる、菜摘が泡だと?」

夢の主 『分からぬか。なら……思い出させてやろうぞ』カッ


瞬間、女の腹がパックリと割れて、無数の白い手が伸びてくる。
声を上げる間もなく『それ』にからめとられて、私の意識は真っ暗な底へ落ちた。


◆◆◆◆
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/14(金) 20:44:32.59 ID:sE0XGrgQ0


私は、暗い中を漂っていた。

その中でぼんやりと光る場所がある。そこに、糸で吊るされた人形がひょこひょこと歩いてきた。

モノクマ「ある所に、一組の夫婦がありました。お父さんは極道の組長。お母さんは元芸者。
     日陰者の二人でしたが、仲良く、楽しく暮らしていました」

モノクマ「しかし、体の弱かったお母さんは、息子を産んですぐに死んでしまいました。
     お父さんは、若頭をつとめる弟の裏切りにあい……」

パンパーン…ザァァァ……

モノクマ「ある雨の日に、殺されてしまいました」

お父さん人形が、ぐったりと血のりの海に沈む。

モノクマ「残されたのは、やっと歩けるようになったばかりの男の子。
     その名を冬彦といいました」

パッと明るくなったそこには、赤ちゃんの人形が座っていた。

モノクマ「九頭龍組は二つに分かれます。裏切り者の若頭をいただく派閥と、直系の血筋である
     冬彦くんを次期組長とする派閥です。二つの勢力は激しく争い、多くの血を流しました。
     ――冬彦くんの意志など無関係に」

しくしく。しくしく。折り重なって倒れる死体の中で、冬彦の人形が泣いている。
それをなぐさめる、ペコ人形。

モノクマ「冬彦くんの心の支えは、共に育ったペコちゃんだけでした。
     誰もが自分を、権力の道具としか見てくれません。誰も、自分を愛してくれません。
     冬彦くんはいつしか、逃れようのない運命を呪うようになりました」

九頭龍 『オレが九頭龍の直系だから……みんなオレが組長になるのが当たり前だと思ってる。
     やめてくれ!!オレはそんなの嫌だ!!オレは、ペコがそばにいて、毎日が平和な……
     そんな人生が欲しいだけなんだ!!』

モノクマ「その時。冬彦くんはひらめきます」

九頭龍 『そうだ、オレの代わりに組を継いでくれる奴がいればいいんだ!』

モノクマ「それが、冬彦くんの悲しい空想の始まりでした……」

九頭龍 『オレには妹がいるんだ。オレより背が高くて、オレに顔がそっくりで。
     頼りがいがあって、組の若い奴らには姐さんって慕われてる』

九頭龍 『ちょっと口が悪くて、気が強くて……あ?ヤクザならそういう奴の方がいいだろ。
     肝が据わってて、血を見てもビビりゃしねえ。本当にいい妹だぜ』

九頭龍 『九頭龍組を継ぐのにふさわしいのは、あいつの方だ』

モノクマ「しかし、空想の日々は終わりを告げます。次期組長としての正当性が欲しい冬彦派の人々が、
     彼を"超高校級の極道"として希望ヶ峰学園に入れてしまったのです」

モノクマ「彼の逃げ道は、今度こそ完全に閉ざされてしまったかのように見えました。
     ――"人類史上最大最悪の絶望的事件"が起こるまでは」

また、場面が切りかわる。血まみれの人形たちの中で、冬彦人形が笑っている。

モノクマ「九頭龍冬彦は、運命に勝利しました。もう、空想の妹に呪われた運命を背負わせる
     必要はないように思えました」

モノクマ「しかし……空想の妹はバーチャルの世界で復活を果たします。
     偽物の記憶と"九頭龍菜摘"という名前を得て」

――え?
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/14(金) 20:44:59.68 ID:sE0XGrgQ0


菜摘  「……嘘」

菜摘  「そんなの、嘘に決まってる!!!」

モノクマ「冬彦くんは、島での記憶と、外で生きてきた20年の記憶の両方を有している。
     いわばキミは、空想上の妹に偽の記憶を肉づけされた人形……」

菜摘  「ちがう、ちがう、ちがう、ちがう!!!」ブンブン

モノクマ「どうして自分には空島が見えないのか、不思議に思っていただろう?
     君という存在は、夢の主が九頭龍冬彦の記憶から作ったもの――つまり、文字と同質だから」

モノクマ「ヒトではない君は、常世と彼世を繋ぐ空島を認識できない」

菜摘  「黙れぇぇぇぇ!!!」ブンッ、スカッ

モノクマ「……これが現実なんだよ。そして、君の存在はすでに"揺らいで"いる」

菜摘  「なんっ…」

その時、気づいた。私の手が、また透けている。

モノクマ「身に覚えがあるようだね。……そう。九頭龍冬彦の記憶が、君の命の源。
     しかし、彼は少しずつ"現実"を思い出してきている」ズズッ…

ストンッ

モノクマがいた場所に、学園長が現れた。その手には、希望のカケラがあった。


学園長 「すでに九頭龍組がないことも……両親や叔父の記憶が嘘であったことも……
     君という存在が、いないことも。彼はたびたび、君の存在を認識できなかった」


その言葉に、私はハッと気づく。
私が見えているはずなのに、無視して通りすぎたお兄ちゃんのことを。


学園長 「九頭龍くんが"思い出す"につれて、君の存在は揺らぎ、やがて消え去るだろう。
     君は、"夢"の文字に還るんだ」

菜摘  「そんなっ…そんなの、いやだよぉ……」ポロポロ


ザアッ…

段々明るくなっていく視界。学園長の「可哀想に」という声が、聞こえた気がした。


◆◆◆◆


菜摘  「……」パチッ

そこは、元の空間だった。お兄ちゃんとペコは、まだ出てきてない。
ゆらゆらと髪の毛を揺らして、夢の主――母親が、私を見下ろしている。

夢の主 『我が娘よ、悲しいか。それとも怒っておるか』

菜摘  「……分からないよ。だって私、人間じゃないんでしょ。私が感じているこの感情は、」ポロッ

菜摘  「……この心も、あんたに作られたものなの?」ポロポロ

夢の主 『そなたが外で何を想い、何を得、何を感じたか……それまでは、妾の手では作れぬ』

菜摘  「そっか。じゃあ、それだけで、いい」グスッ

菜摘  「私、先に出てるね。おに…冬彦さんと、顔合わせづらいから」クルッ

夢の主 『すまぬ。我がそなたを作ったのは、ほんの戯れであった。……そなたの涙を、見るためではなかった』

パァッ…

◆◆◆◆
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/14(金) 20:47:56.66 ID:sE0XGrgQ0

どんな言葉をかければいいのか、分からない。

混乱しているオレに、菜摘は叫んだ。


菜摘  「そんなのっ……そんなの、嫌だよぉ……!!」ガバッ

桑田  「!!」

菜摘  「約束したもん!一緒に外に出るんだって!…っ、いっぱい、やりたいことあるの!!
     私ッ……私、」ズルズル

菜摘  「消えたく、ないよ……!まだ、ここにいたいっ……」

本音を全部吐き出した菜摘が、オレにしがみついたまま大泣きする。

菜摘  「うっ……う、うわあああん……!!」

お兄ちゃんには言わないで、とか。人に会いたくない、とか言っているのを、
オレはどこか遠くで聞いていた。


◆◆◆◆

シュゥッ…スタッ

桑田  「あー、ひどい目にあったぜ。さすがヤクザ」コンコン

桑田  「よーっす、メシ持ってきてやったぞ。今日は塩パンに、サラダに、ラタトゥイユな。
     デザートは苺のアイスだってよ」カチャッ

菜摘  「……ありがと」


ベッドに寝転がってる菜摘は、だいぶ透けて後ろの壁が見えていた。
透けてんのに食えるのかは謎だ。


菜摘  「……あんた、なんで私の世話してくれんの」

桑田  「いや、オメーがちゃんと飯食いに出てくるんならしねえよ?」

菜摘  「あ、そ……」

菜摘  「……」

菜摘  「私がいなくなっても、ちゃんとしなよ」


それが、九頭龍菜摘と交わした最後の会話だった。
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/07/14(金) 20:50:13.38 ID:sE0XGrgQ0
今日はここまで
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/14(金) 22:18:48.86 ID:IjujQ/X70
おつ
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/19(水) 23:08:27.32 ID:aCCXLinR0
おつでした 待ってましたが展開ががが 菜摘ちゃんと桑田くんのコンビは大好きなので最後の会話ってとこに号泣です
うう、続き待ってます
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/08(火) 19:10:02.43 ID:wJ3xLOsd0
あげ
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/08(火) 20:11:46.74 ID:wJ3xLOsd0
あげ
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/08/28(月) 20:38:37.59 ID:B4M2oVZl0
女子十一番/総合二十三番 時岡千波(ときおか・ちなみ)



身長 152cm
体重 42kg
誕生日 11月13日
血液型 A
部活動 吹奏楽部
友人 久瀬ゆかり・宗和歩
辻莉津子・寺内紅緒
藤原奈央・堀内尚子
前川染香・水無瀬繭子
山崎雛子
(女子主流派グループ)
愛称 千波・千波ちゃん
能力値
知力:

体力:

精神力:

敏捷性:

攻撃性:

決断力:

★★★★☆

★★★★☆

★★★☆☆

★★★★☆

★☆☆☆☆

★★★☆☆
無邪気で天然の幼い子。周りから可愛がられる妹的存在。
口が達者で、はっきりした物言いで相手を傷つけることもあるが、本人に自覚は全くない。頭はいいが、何事も直感なので深くは考えない。
 

以下ネタバレです。白黒反転すると読めます。

支給武器:

NO DATA
kill:

なし
killed:

酒井真澄(男子六番)
死亡話数:

第90話
凶器:

コルト・ガバメント
 

教室内で、プログラムに対して東海林至(男子十番)が反論。芝崎務(担任)が銃を取り出し危険に晒されるが、城龍慶(男子九番)に守られ事なきを得た。<11話>

D=02エリアの倉庫に、寺内紅緒(女子十番)・藤原奈央(女子十四番)・水無瀬繭子(女子十七番)と共に篭城。<55話>

繭子と奈央が気絶した相模夕姫(女子七番)を連れてくる。目覚めた夕姫の話で辻莉津子(女子九番)の最期の状況を知る。倉庫に木下亘(男子特別参加者)が来る。亘とただならぬ関係の夕姫に説得され、亘を信用する。突如酒井真澄(男子六番)の襲撃を受け、頭部に被弾し死亡。<88〜90話>


個人的にはデザインした時から好きな子だったんですが、あっけない最期になってしまいました。計 画 通 り …ではないという。ごめんよぅ。
せめてこの子には真澄の前髪をパッツンにしてほしかったww
 
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/18(月) 11:52:09.15 ID:4ji/cLmA0
待ってる
203 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU [https://plus.fm-p.jp/u/mofu11]:2019/03/31(日) 13:12:24.28 ID:XS37ogRT0
お久しぶりです。
酉が合ってるか自信ありませんが作者です。
引っ越しなどでコンスタントな更新が難しいので
(今までも遅かったですが)
同人サイトを作りました。
自分のペースで書きたいと思ってのことです、あとは、地の文つきの方が楽だというのもありますが。
アホリズムの方も病文字など新たな設定が出たところですし
サイトの方で仕切り直して書いていきますので、
そういう事でよろしくお願いします。
204 :ヒヤコ ◆XksB4AwhxU :2019/04/30(火) 12:52:09.56 ID:/7hsh0fB0
書き忘れてましたが、サイトの方は普通の逆行だのクロスだのに
混ざって普通にホモがあります
(ジャンルによっては10割ホモです)
ロンパはNLオンリーですが、苦手な方はご注意ください。
カプ表記をしてありますので、だいたい避けられると思います。
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