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日向「神蝕……?」
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1 :
ヒヤコ
◆XksB4AwhxU
:2017/03/07(火) 21:27:02.74 ID:IvyvkjHz0
日向「……神蝕?」
※アホリズムとロンパ無印、スーダンのクロス的なもの
※主人公は日向だけど、他キャラで『〇〇編』的な書き方をしていく予定
※苗木くん逆補正気味。
________________
日向 (その日は、俺にとって単なる365分の1日ではなく……)
日向 (あのコロシアイ修学旅行よりもっと理不尽で、残酷で、苦痛と哀しみに満ちた……)
日向 ("毎日"の始まりだったんだ)
【日向創 Chapter0 "始"(ハジマリ)】
日向 (俺の名前は日向創(ヒナタ ハジメ)。元は希望ヶ峰学園の予備学科生だ)
日向 (常夏の島、ジャパウォック島でのコロシアイ修学旅行――。
11人の犠牲を出しながらもなんとか生き残った俺たち5人は、
現実のジャパウォック島で仲間たちの目覚めを待つことに決めた)
日向 (未来機関へ帰る苗木たちの船を見送った俺たちは、ひとまずホテルを拠点とすることにした。
そして明日からの探索に備え、それぞれのコテージに戻った……)
日向 (……はず、だった)
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1488889622
2 :
ヒヤコ
◆XksB4AwhxU
:2017/03/07(火) 21:27:41.10 ID:IvyvkjHz0
【???】
日向 「う……、ん……」パチッ
日向 「!?」
日向 (背中に感じたのは、コテージのベッドではなく、固いパイプ椅子の冷たさ。
そして……目の前に広がっていたのは、つい昨日見たばかりの景色だった)
日向 「ここは、希望ヶ峰学園の体育館か……?」
日向 (まるで、入学式のようだった。パイプ椅子に腰かけた奴らが眠っている。
あちこちから聞こえる寝息が、異様な雰囲気を演出していた)
日向 (よく見ると、そいつらは皆同じ制服を着ていた。見覚えのある茶色のジャケット…
あれは、希望ヶ峰の制服だ……)
日向 (何人いるのかは数え切れない。だが、おかしくないか……?たしか予備学科の生徒は
集団自殺したはずだし、本科の学生も学園にはいないはず。それに何より)
日向 「なんで俺は、プログラムの中と同じ姿なんだ?」
左右田 「ん……」ガタッ
日向 (隣で寝ていたそいつは、起きるなりつんざくような叫び声をあげた)
左右田 「あれっ、日向?なんで朝からオレの部屋に……って、えええええ!!?」キョロキョロ
日向 「落ち着け左右田、俺にも理由は分からな」
左右田 「こ、ここ希望ヶ峰だよな!?ハッ、まさかオレらまだプログラムの中に」
九頭龍 「いや、それはねーだろ」
日向 (振り返った先には、やはり同じようにパイプ椅子に座った九頭龍がいた。
眼帯も黒いベストも、修学旅行の時と全く同じ姿をしている)
3 :
ヒヤコ
◆XksB4AwhxU
:2017/03/07(火) 21:28:25.28 ID:IvyvkjHz0
九頭龍 「オレらはたしかに現実のジャパウォック島にいたんだ……寝てる間に拉致られたってのがまあ、
妥当なとこだな」
左右田 「つー事は、これも未来機関の差し金か!?」
九頭龍 「さあな……そもそもオレら77期生の命を助けたのは苗木の独断だったろ。
"希望"どもが黙ってるとも思えねえ。
どうせ一度は死んだような命だしな……こいつが未来機関の意思だってんなら、
煮るなり焼くなり好きにしてもらおうじゃねえか」フーッ
左右田 「そんなあああ!!オレまだソニアさんと手もつないでねーってのに!!」ガーン
九頭龍 「ま、未来機関の仕業って考えるとおかしい事だらけだ。日向、お前はどう思う?」
日向 「どう……って」
九頭龍 「前の列のコック帽……どっかで見覚えねえか?隣のおさげも」クイッ
日向 「あ、あの二人は……!」
日向 (前列で眠っているのは、"超高校級の料理人"花村輝々に間違いなかった。
俺たちの目の前でヘリコプターに吊るされ、火山でカツにされたはずのあいつが……)
日向 (その隣は、狛枝が手に入れていたファイルの中で見た顔だった)
日向 「超高校級の文学少女……腐川冬子か!」
九頭龍 「あいつらだけじゃねーぞ。周りよく見てみろ」
日向 (周りを見渡すと、たしかに全員いた)
左右田 「おいおい、どーなってんだこりゃ……!ソニアさんに小泉に西園寺、澪田、辺古山……
狛枝も……十神までいやがる!あいつら今ごろ、島でグースカ寝てるはずだろ!?」
日向 (ソニアを真っ先に見つけたので、目の前の左右田は偽物ではないと確信できた。
あいつは……本名はないらしいし、俺たちにとっての十神はあいつ以外いない)
西園寺 「うわあああん!!小泉おねぇぇぇ!!」ギュウウウ
小泉 「ちょっ、日寄子ちゃん?どしたの?」
日向 (遠くで、西園寺が小泉にしがみついて泣いている。
俺は高鳴る心臓をおさえて、77期生の仲間全員がいるのを確認した)
4 :
ヒヤコ
◆XksB4AwhxU
:2017/03/07(火) 21:29:18.06 ID:IvyvkjHz0
日向 「77期生だけじゃないぞ。ちらほら見覚えのある顔がいる」
左右田 「あーっ!あいつ、裁判場にいた……」
日向 「霧切響子だな。…お、向こうも目が覚めたみたいだ」
日向 (霧切は目を覚ましてあたりを見回す。俺たちを見つけると、一瞬だけ目を見開いたが、
すぐに元の無表情に戻って、"あとでね"と声を出さずに言った)
苗木 「霧切さん、ここは……体育館?」
石丸 「う……しまった!個室以外での就寝は……ッ、僕はっ、いつの間に体育館に!?」ガタッ
苗木 「!」
石丸 「いや、それより……僕はたしか美術準備室に呼び出されて……うっ!」ズキッ
苗木 「石丸クン?どうして、生きて…」
石丸 「そうだ、後ろで気配がしたんだ。振り返ろうとした所を……誰だったんだ、
あれは…あの影は……いっ、痛い!頭が痛いぞ!割れるみたいに……」ズキズキ
苗木 「石丸クン、それ以上はやめるんだ!」
舞園 「わ、私死んだんじゃ……なんで体育館なんかにいるんですか!?」
苗木 「舞園さん?」
舞園 「あれ、お腹……刺されたはずなのに」
日向 (傷一つない腹を制服ごしに撫でて、舞園は困惑している)
霧切 「これは、一体……」
日向 (霧切は事態の把握に務めているが、さすがの名探偵でも無理らしい)
桑田 「……」
日向 (78期生から一人離れたパイプ椅子に、ぽつんと座っているあいつ……桑田怜恩か?)
不二咲 「うう……ん、あれ…?ボク、ずいぶん長い間眠ってたみたいだ……」ゴシゴシ
日向 (苗木たちの反応から言っても、間違いない。
あいつらは……"コロシアイ学園生活で死んだ78期生"だ)
日向 (しかし、78期生が生き返るなんてことがあるのか?いくら超高校級とはいえ、
"実は絶望側の仕掛け人でした"くらいしか、生きている理由なんて……)
日向 (そんな俺の思考は、懐かしくも不快な声によって遮られた)
5 :
ヒヤコ
◆XksB4AwhxU
:2017/03/07(火) 21:35:41.19 ID:IvyvkjHz0
狛枝 「やあ、ずいぶんと久しぶりに会ったような気がするけど……日向クンたちに
間違いないよね?」ガタッ
左右田 「げっ、唯一会いたくねえクラスメートが……」
狛枝 「あはは、いくらボクが77期の屑鉄だからって、そこまで冷たくしなくてもいいじゃないか。
一緒にあの島で過ごして、共に希望を追い求めた仲間ではあるんだからさ!」
終里 「おい……!オメーがいつオレたちの仲間になったんだ……?」ユラリ
狛枝 「あ、終里さんも目が覚めたんだ」
終里 「黙ってろ!それ以上喋ったら、そのニヤケ面を七海の分ヘコませてやんぞ!!」ゴォッ
日向 「七海…そうだ、七海は……!」キョロキョロ
日向 「……そうか、いるわけ……ないんだったな……」ストン
日向 (生徒たちの中には、ちらほらと78期生の姿もあった。数えてみたが、人数は16人……
あの"コロシアイ学園生活"で死んだはずの奴までいたということは、ここはやっぱり
ジャパウォック島と同じプログラムなんだろうか?)
キーン、コーン、カーン、コーン……
??? 『みなさん、おはようございます』
??? 『これより…第××回、希望ヶ峰学園入学式を執り行います』
日向 (××の所は、ノイズが混ざって聞こえなかった。そして、次の瞬間――
ありえない人物が、壇上に姿を現した。
『体育館で目覚めた者たちも、教室、あるいは
武道場、水練場、寄宿舎……この学園で目覚めた希望ヶ峰の全生徒諸君。
はじめまして……いや、"お久しぶり"かな?』
『私の名前は霧切仁。希望ヶ峰の……君達の、学園長だ』
霧切 「……おとう、さん?」フラッ
日向 「――!!」
日向 (誰もが、驚き……言葉を失っていた。死んだはずの希望ヶ峰学園長が、そこにいる。
かたわらにモノクマのヌイグルミを抱えて。きっちりとスーツを着こんで。
生前と髪の毛一本違わない姿で。……静かな微笑みを、浮かべていた)
6 :
ヒヤコ
◆XksB4AwhxU
:2017/03/07(火) 21:36:46.19 ID:IvyvkjHz0
学園長 「書けたかな。そうしたら次は、その漢字を声に出して読むんだ」
腐川 「えっと…語(かたり)?」
霧切 「……索(さく)」
澪田 「音(おと)ー!」
左右田 「きっ、機(き)!」
辺古山 「刀(かたな)」
十神 「皇(すめらぎ)」
日向 (えっと……これは、"かわる"か?それとも"へん"?)
日向 「変(へん)……!」
日向 「いてっ…!」バチィンッ
日向 (文字を読み上げた瞬間、紙が粉々に弾けた。火傷のような痛みに、思わず声が出る。
痛みの走った手を恐る恐る確認すると…)
日向 「なんだこれ……さっきの文字、なんだよな?」
日向 (そこには、甲骨文字のような書体で"変"の一文字が浮かび上がっていた。
こすっても、つねっても消えない。まるで刺青のようだ。
隣を見ると、左右田がうなじに手を当てて"なんだ!?"と叫んでいる。
周りの生徒たちも、体に刻まれた文字を見て目を丸くしている)
学園長 「よし、無事に"儀式"は完了したみたいだね……ではそろそろ、試練の時間だ。
ここにいるうち一人でも多くが"生き残る"ことを、願っているよ」
ズズズズ…
日向 「なっ、なんだ、次は何が……」
日向 (空間に、次々と黒い円が現れた。床、天井、壁に出た円の中から出てきたのは)
生徒A 「きゃああああっ!!」
生徒B 「なんだ、なんだよこの化け物…!」
日向 (四本の足に、三つの目玉。鋭い牙の覗く口からは、よだれをダラダラと垂らしている。
恐竜のような化け物たちの牙はまっすぐに、俺たちを狙っていた)
7 :
ヒヤコ
◆XksB4AwhxU
:2017/03/07(火) 21:37:44.02 ID:IvyvkjHz0
学園長 「全員、起立っ!!さあ、希望を背負った生徒たちよ、闘うんだ!!」
日向 (生徒達の悲鳴と、化け物の唸り声が轟く体育館で、俺は知った)
日向 (今日は、俺にとって単なる365分の1日ではなく……)
日向 (あのコロシアイ修学旅行よりもっと理不尽で、残酷で、苦痛と哀しみに満ちた……)
日向 ("毎日"の始まりなんだと)
_______
今日はここまで。
様子見ながら書いてきます。
8 :
ヒヤコ
◆XksB4AwhxU
:2017/03/07(火) 21:50:02.61 ID:IvyvkjHz0
>>5
と
>>6
の間に入れ忘れていた…しょっぱなからのミスで死にそうだ
学園長 「ほとんどの生徒は驚いていることだろうね。"なぜ自分は生きている?"と……
答えは簡単だ。君達は"試練"のために、再び生を受けたのだ」
左右田 「試練……?また、あのコロシアイみてーなのがあんのか……?」
日向 (コロシアイなら、まだマシだったかもしれない。学園長はスーツの胸ポケットから、
何枚かの紙を取り出して見せると、気がふれているとしか思えない言葉を放った)
学園長 「これから君達2500人の生徒には、命を賭して戦ってもらう!!」
日向 (俺たちの手の中に、ひらりと小さな紙が落ちてきた。学園長が持っているのと同じ、
円の周りに四つの三角形が描かれている。それだけでなく、俺の右手にはいつの間にか
小さな鉛筆が握られていた)
学園長 「その円の中に、各々が"闘う"ための漢字を書いてくれ。一文字しか書けないから、
慎重に選ぶんだ」
霧切 「待って!……どういうことなの、あなたはもう死んだはずよ。それに、"命を賭して"って
何?私たちに何をさせようと言うの?」
日向 (立ち上がった霧切には目もくれず、学園長は腕時計を見た)
学園長 「あまり時間がないな……」
霧切 「お願い、説明して!あなたは本当に私の」
学園長 「まだ文字を決めていない生徒は、早く書くんだ!!」
日向 (学園長の気迫に圧されて、俺たちは紙に目を落とす)
左右田 「お、おい……漢字ってなんだよ、オレらもう命の心配とかしなくていいんじゃねーのかよ!」
九頭龍 「嫌な予感がするな……」
日向 (そう言いつつ、九頭龍はもう書きだしていた。周りを見ると、たかが漢字一文字に
駄々をこねるのもバカらしいと気づいたのか、みんな半信半疑で書いている)
日向 「書くしか、ないのか……!」
日向 (闘う……闘う……)
日向 (俺があの島でやったのは……手に入れたのは……"封じていた記憶"と、"汚い過去"……
でも、そこから目を背けてはいけないんだ。俺は……今度こそ、誰の手も借りない。
カムクライズルではなく、日向創として)
日向 (俺自身を、"変えて"みせる!)ガリッ
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/07(火) 22:31:36.01 ID:YtLrdVV+o
期待
10 :
ヒヤコ
◆XksB4AwhxU
:2017/03/08(水) 17:27:00.71 ID:r4P7jXfa0
>>9
ありがとう。
日向 「どっ……どうすれば……」
辺古山 「坊ちゃん!ここは危険です、早く!」
目にも止まらぬスピードで走ってきた辺古山は、九頭龍の手をぐいっと引っぱって
立たせた。九頭龍は「先に行ってんぞ!」と叫んで、体育館を後にする。
ソニア 「あ、あ……!」ガタガタ
田中 「……思考は本能を鈍らせるぞ、雌猫。しかしこの怪奇……再会を喜ぶ暇もなさそうだな」
ソニア 「田中さん……!」
田中 「これが罪深き我らに与えられた蜘蛛の糸か……いいだろう、地獄より還りしこの魂、
後は野となれ山となれ!……雌猫、貴様が望むなら、その立会人にしてやってもいい」
ソニア 「わ、私は……」
ソニア 「……」グッ
ソニア 「行きましょう!」スクッ
左右田 「あーっ!!チックショー、また田中に抜け駆けさせてたまっかよ!!」ダダダダッ
左右田も二人を追って出て行ってしまう。ソウルフレンドに激励の言葉はないのか?
……気づくと、この一分足らずで体育館からほとんどの生徒が消えていた。
学園長 「君達、何をしているんだ?」コツッ…
霧切 「……」ギリッ
学園長 「すでに試練は始まっているよ。早く外に出て闘うんだ。その"文字"を使ってね」
ズズズッ
日向 「!床にも円が出て……」グイッ
学園長 「ちなみにこの化け物たちは、"始"という漢字から生まれた。
漢字から生まれた本能だろうね……君達の体に刻まれた文字の"匂い"を追う。
学園のどこに逃げようと、闘いからは逃れられない」
学園長はその言葉を証明するかのように、抱えていたモノクマのぬいぐるみを
ポイッと化け物たちの群れへ放り投げる。
……化け物は見向きもせず、生徒たちを追い回していた。
霧切 「何を、他人事のように……これを仕組んだのはあなたでしょう!?」
豚神 「日向、走るぞ!」
足がすくんでいる俺を引っ張ったのは、十神だった。
その肥った体をものともしない走りは健在だ。
十神はそのまま、空いた左手で泣いている赤いジャージの襟首をつかむ。
朝日奈 「あ、あんた……十神?」
豚神 「説明は後だ、とにかくこの体育館を出るぞ!この狭さだ、囲まれたら……」
グチュッ…ガシュッ、ギャアアアアア!!
俺たちの後ろで、肉が引きちぎれるような音と、悲鳴が聞こえた。
グチュ、グチョッ…ゴリゴリ…ブシュゥゥ…
豚神 「……ああなる」
霧切の声ではなかったことに、少しだけホッとする。
ちらっと振り返った向こうでは、何体もの化け物が下半身のない女子生徒にかぶりついていた。
血しぶきが上がるたび、まだ生きている女子生徒は体をびくつかせて、悲鳴をあげる。
日向 「うぶっ……」オエッ
豚神 「吐くな、貴重なエネルギーを無駄にする気か!
……おい、愚民ども!お前たちがまだ生きることを諦めていないなら、すぐにここを出ろ!
これは忠告ではない、"超高校級の御曹司"の命令だ!!」
十神の声に、残っていた生徒たちも弾かれたように逃げ出した。
俺たちの手を握る十神の手に、じっとりと冷や汗がにじむ。
朝日奈 「いやだ……こわいよ……さくらちゃん、どこにいるの……?」グスッ
11 :
ヒヤコ
◆XksB4AwhxU
:2017/03/08(水) 17:30:11.99 ID:r4P7jXfa0
体育館前のホールを抜けて、廊下を走る。化け物の足元をくぐりぬけて、
床に浮かぶ円……化け物の召還陣を跳び越えて、俺たちはただひたすらに、外を目指した。
バタァンッ!
日向 (しかし、廊下の扉を蹴破った俺たちが見たのは……さらなる地獄だった)
豚神 「くそっ……もうこんなに死者が!」ワナワナ
化け物が出てきてから、まだ4、5分しか経っていない。その短い時間で、
校庭は血の海になっていた。薄暗い中、頭のない死体を引きずる化け物。泣き叫ぶ生徒を
バリバリと足から食らっていく化け物。まだ温かい内臓を……舐めて……しゃぶって……
朝日奈 「う、うぅっ……!」
へたりこんだ朝日奈は、わずかな胃液だけを吐いた。口元をジャージの袖でぬぐって、
「ひどい……!」とつぶやく。そんな中、十神はネクタイをゆるめて鎖骨の文字を見せた。
やわらかい脂肪に埋まった鎖骨に、文字がある。
豚神 「日向、お前の文字は何だ?」
日向 「えっ、と……"変"だ。変わるって字だよ」
豚神 「なるほど、使い勝手はよさそうだな。ちなみに俺は"偽"(いつわり)だ。
あの学園長が言っていたな。"文字を使え"と。つまり、俺たちに与えられた能力は……
"漢字を具現化する能力"だと考えられる」
豚神 「死者が蘇り、消えたはずの学園が存在するこの世界…何が起こってもおかしくはあるまい。
しかし、まさか本当の意味で"闘い"とはな……分かっていたら、もっと使い勝手のいい
文字にしたぞ!」
十神は手ごろな枝を拾い上げると、近づいてきた化け物の口に
豚神 「お、おおおッ!!」ブンッ
つっかえ棒にして差しこんだ。
化け物 「……グルルッ……」ガジガジ
化け物 「ガアアアアア!!」バキンッ!
豚神 「!……やはり、この文字でなければ対抗できないのか!」
枝を噛み砕いた化け物は、その勢いのまま十神に飛びかかって倒した。
胸に乗りかかられて、十神は化け物のアゴをがっしりつかむ。
豚神 「くっ……日向、そいつをっ、朝日奈を連れて逃げろ!」
日向 「バカ野郎、お前を見捨ててなんて行けるか!」
豚神 「この俺が"頼んで"いるんだぞっ……十神の信念を、曲げてまでっ…ぐっ、」
化け物はさらに力をこめる。鋭い牙をつたって、十神の高級そうな服にダラァッ…と
よだれがこぼれた。十神は気持ち悪そうに眉をひそめて、もはやこれまでかと目をつぶる
日向 「仲間が死ぬところなんて……もう二度と見たくないんだよ……」シュルッ
俺は、深緑色のネクタイを外して握りしめた。
もう、うんざりだ。仲間の涙を見るのも……成すすべもなく、死んでいく仲間を見送るのも……
自分の無力さに苛まれるのも。
日向 「変……変……変わる……」
だから、俺に、武器を。現実に立ち向かう、力を!
日向 「変われ……変われぇっ!!」カッ
"変"(へん)
朝日奈 「……きゃっ!」
朝日奈 「……ひな、た?」
まばゆい光がおさまった後。俺の右手にはネクタイが変化した、一振りの刀が握られていた。
辺古山が使っていたのと同じ、切れ味のよさそうな日本刀だ。
日向 「らあああッ!!」ブンッ
化け物 「!?」
肉を斬る確かな手ごたえが、刃から手につたわる。十神の顔を噛み千切ろうとしていた
化け物のアゴは、俺の一閃で血を吹き出して地面に転がった。
その隙に這い出した十神は、朝日奈を背中にかばって立つ。
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