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【艦これ】伊58「黒く塗り潰せ」
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658 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/07/16(火) 00:35:23.47 ID:WS8HAR6A0
それは彼女にとってあまりにも想定外の出来事であり、客観的に見れば当然の出来事でもあった。
例えば毎日牛肉を食べて牛乳を飲んでいれば人は素手で闘牛に勝てると強弁されて信じる事ができるだろうか。
支離滅裂、意味不明、論理破綻。大っぴらに話してしまえば夢想の狂人と誹られても無理はない。
だが同意義の言葉で置き換えると人はあっさりとそう思い込む。
今回の場合で言うならばつまり、潜水艦娘程度なら艤装無しでも勝てると、そう誤解したのだ。
今までそうして来たのだからこれからだってずっとそうだと、永遠にそうだと。
何故なら常日頃から潜水艦娘を虐待し、時には嬲り殺しにしてきたからだ。彼女はその力関係が永遠に続いていくものだと思っていた。
調理された、お膳立てされた肉を食べながら自分が獲物を狩るライオンだと思い込んだ。闘牛を肉としか見えなくなっていた。
659 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/07/16(火) 00:37:48.45 ID:WS8HAR6A0
悪と小物は価値観を共有している。だが悪は決して闘牛を肉とは見ない。そこが小物が小物たる理由だ。
今対峙したのは虐げられ怯え弱り切った上に練度も不十分、何より艤装を取り上げられた艦娘ではない。
ごく平凡な環境でごく平凡な鍛錬を積みごく平凡な艤装を積んだごく平凡な艦娘。
圧倒的な力と都合の良すぎる豪運を持つ正義ですらない。たかが同格の相手だ。
自分と同格であるが故に危機が及ぶ、その想像力と危機感が致命的に欠如していた。
艤装を装着した艦娘の力は何千、何万馬力。たかが人間の力でどうにかなるはずがない。それが例え今までずぅっと虐げてきた潜水艦娘でもだ。
その見分けすら付かないからこそ小物は小物なのだ。
敵対するものが全て自分より弱いと思い込み主役に突っかかり、無様に一蹴される小物。
目に見える敵全てが肉にしか見えなくなった狂人。
それこそが小物が小物たる理由であり、物語的な都合。
そして人間の本質でもある。決して自らを客観的に評価できないそれ故に悪か小物かにしかなれないという本質。
そんな一小物が宙を飛び今顔面から床に激突した。
660 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/07/16(火) 00:38:27.64 ID:WS8HAR6A0
「хорошо(ハラショー)」
後ろから聞こえる機械的な言葉を尻目にU-511は駆けていく。
「制御装置、制御装置は」
ぶつぶつと呟き歯をガタガタと震えさせながらU-511は駆けていく。
この鎮守府を守る水門の制御装置。それを見つける事が彼女の目的であり、彼女が今選べる最も有効な安牌だ。
何故か。それは今しがた見せた艤装の有無による力の差が要因だ。
鎮守府の艦娘、U-511の敵が持つ艤装の保管場所はドック、入渠施設、もしくはその近くだ。
これはどの鎮守府泊地でも同じ事が言えるし、U-511達の泊地の施設もそのようにできている。
その位置関係がどういった手間を生むかというと、敵はこれから艤装を取りに行き装着した上でU-511を追いかけなければならないという事だ。
逆にU-511の目的地はドックではない、ドックは彼女の入り口であり目的地は水門の制御装置。
つまり敵は単純計算彼女の倍ほどの距離を移動しなければならない。
例え相手が潜水艦娘だろうが艤装を付けないままでは抑えるのは不可能。
途中で出くわす可能性は高いが艤装が無ければ先ほどの暁のように艤装の出力に力負けし、蹴散らされて終わるだけだ。
U-511からすれば制御装置に向かえば危険からの逃亡と目的達成を両立できる。だからこそU-511は全力で制御装置まで走る。
661 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/07/16(火) 00:39:38.28 ID:WS8HAR6A0
その時建物が轟音で揺れた。彼女はそれだけで味方の誰かが壁を越えて鎮守府に突貫した事を理解した。
どうやってやったかはU-511にはよくわからないが、恐らくこの警報を聞いてU-511が見つかったと判断してかく乱の為に突っ込んだのだろう。
U-511を捕まえる為に艤装を装着した艦娘はドックを攻めるそちらの対処をせざるを得なくなる。
U-511の目的がわかっていなければ尚更だ。敵からしてみれば目的を知るには情報もそれを知る手段も少なすぎる。
この鎮守府の構成員は殆どが駆逐艦娘。偵察機を上げられる軽巡洋艦娘も多く見積もっても両手で足りる程度。
そしてそれらは外で待機している空母艦娘が全て撃ち落とす。
だからこちらの手を読むには情報が足りない。上手く勘を働かせられでもしなければ作戦に問題は無い。
とにかく走る。水門を開ければ多大な戦力が鎮守府になだれ込む。そうなれば勝ちだ。
駆逐艦娘も軽巡洋艦娘も潜水艦娘にとっては脅威以外の何物でもないが、それ以外の艦娘にとっては基本的には脅威にはならない。
その理屈も基本的には、という注釈が付くがこちらには空母艦娘も重巡洋艦・戦艦娘も揃えている。少なくともパワー負けは有り得ない。
だからこそ水門を開けてそれらの戦力をこの鎮守府にぶつけられれば勝敗はほぼ決する。
662 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/07/16(火) 00:40:43.50 ID:WS8HAR6A0
伊58から教えられた地理を必死に思い出して走る。走り続けた先に扉が見えた。
突き破るように扉を開けると大仰な機械が視界に映った。これが水門を開閉する制御装置、コンソール。
コンソールに飛びつき装置を操作すると数秒おいて水門が左右に割れ始めた。外敵から身を守っていた水門がたった数秒の手間であまりにもあっさりと割れ始める。
その隙間を縫うようにして我先にと飛び出す影はU-511には見えない。それらは水に広がる絵具のように滑らかに、確実に、広がっていった。
そしてすぐさま聞こえてくる怒号と砲声。けたたましい警報により揺れていた鎮守府に今度は感情の津波が襲う。
それらはすぐに鎮守府を覆いつくす。誰一人逃がす事無く全員を飲み込むだろう。これでU-511の任務は終わりだ。
663 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/07/16(火) 00:47:32.15 ID:WS8HAR6A0
制御装置の陰でしゃがみ込み隠れた彼女は自分をぎゅっと抱きしめた。
あとは帰るだけだがある意味それが一番難しい。突出した味方が妨害しているとしても一部はこちらに向かって来ている。
迎えが来るまではたった一人で耐えなければいけない。無暗に飛び出しては囲まれて袋叩きだ。
その為にはこの制御装置を最大限利用しなければいけない。こちらにとっては今やただの盾だが向こうからしたら家の一部だ。
主砲で破壊でもしたら水門は二度と戻らない。金で買った安全と安心があっさり崩れ去る。だからこそ物でありながら人質に成り得る。
とはいえ怖いものは怖い。いくらアドバンテージがあろうとも危険から逃れられるわけがない。
人質が効かない。それは無い話ではない。
迎えが殺されたら。それも無い話ではない。
迎えが来るまで自分が持ち応えられなければ。それが一番の問題だ。
不安が心に染み渡る。危険は彼女のすぐ隣にある。次の瞬間それは彼女の何もかもを奪い去るかもしれない。
何もかも、そう何もかもだ。
手足を失った伊58。原型を留めないほど腫れ上がった提督の顔。潰された彼の手。正気を失った潜水艦娘。
そして、この鎮守府の海の底に眠る何人もの死体。
グロテスクでおぞましい光景を思い出し、その姿に自分を重ねてしまう。
664 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/07/16(火) 00:48:44.40 ID:WS8HAR6A0
U-511はずっと掴んでいた、布に包まれた鉄塊を抱きしめる。それは潜入前に唯一持ち込めた提督からの贈り物だった。
いざという時の為にと渡されたそれの中身は、引き金一つで人を殺せる拳銃だった。
艤装を付けていない艦娘にも、生身の人間である提督にも有効なそれは文字通り今の彼女の最終兵器。
艤装付きのU-511ならばその気になれば首をへし折る程度は容易いが彼女にその度胸も覚悟もない。
手足に貼り付く死の感触に彼女の心は耐えられない。それは彼女自身もよくわかっている。
それでも拳銃なら人差し指一つ動かす労力で同程度の成果を得られる。故にこれを持たされ、故に敵もそれを理解している。
だからこそ引く引かないに関わらずその存在そのものが牽制に成り得る。それが銃の価値の一つだ。
縋りつくように抱きしめる。提督の温もりでも求めるかのように、その熱越しに彼に助けを求めるかのように。
だが返ってくるのは鉄の冷たさだけ。海水で冷やされ人の温もりなど一切感じない。
それでもU-511は抱きしめる。返ってくるものが非情な現実だとしてもそれに縋るしか思い付けない。
大義を見失った今、縋れるものはただ一人だけだ。そのただ一人の為にここまで無理無茶を通してきた。だからこそひたすら求める。
早く。早く。助けて。迎えに来て。提督。心の中で囁き、祈り、念じる。何度も何度も何度でも。
動きが止まった彼女を捉えるように細い腕が絡み付く。U-511はそんな幻覚を見かけていた。
先ほどの、あの時と同じように、首を絞め手足を掴むかのように。
665 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/07/16(火) 00:50:32.84 ID:WS8HAR6A0
「助けて」
「早く助けて」
骨と皮だけの腕が増えていく。首を絞める手が首輪のように何重にも重なっていく。逃れるように身体を丸め込む。
幻の腕は彼女の身体を突き抜けその手を首に重ねていく。
もうここに居たくない。早く帰りたい。帰ったら提督は褒めてくれるのだろうか。
帰ったら、帰ったら、帰ったら、帰ったら、帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい。
帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい
帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい
帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい
U-511の中の何かが切れた。物理的にない『それ』の代わりに蝶番が軋む音が響く。
あるいはそれらは逆の順番だったかもしれないがそれらはほぼ同時に起こった。
666 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/07/16(火) 00:51:40.34 ID:WS8HAR6A0
こつこつと近づいてくるそれを気付かれないように覗き見る。
そして見えるのは白い裾、黒い靴、金の装飾。
「Admiral」
667 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/07/16(火) 00:53:44.48 ID:WS8HAR6A0
提督だ。提督が迎えに来てくれた。そう判断した。外で待っていた提督が水門を開いたのを見て迎えに来てくれたんだ、と。
緊張の糸が解れだしていくと共に気持ちが揺れ動いていく。
怖かった。本当に怖かった。それももう終わりだ。帰れる。あの泊地に。
制御装置の陰から身を出して提督と向かい合う。提督はそんなU-511の姿を見て笑う。
顔の皮膚を歪ませ、黄色い歯を覗かせながら、のこのこ出て来た敵の姿を見て笑う。
野太い銃声が響いた。
血と肉片をまき散らしながら彼女の視界と重心がぐるりと回る。
それでも痛みを感じなかった。床に叩き付けられるまでは。
668 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/07/16(火) 00:54:43.13 ID:WS8HAR6A0
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
669 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/07/16(火) 00:58:56.95 ID:WS8HAR6A0
艦娘とは至極都合の良い雌だ。
求めればそれに応え、求めずとも求め、媚びる。
艦娘とは至極都合の良い雌だ。
雄の意思は瞬く間に群れの中に伝播して、雌はそれに応える。
艦娘とは至極都合の良い雌だ。
全ては雄に応える為。それこそが艦娘の行動原理であり根本的な欲求。
恋慕の情を根幹に置いた雄との同調、雄との共有、雄との共感。
それらは雄の自尊心を愛撫し己に依存させる手段でしかない。
だがそれ故に、この地獄絵図が成り立った。今こうしている時も、知らない所で、世界各地あらゆる場所が雄から伝播された悪意で満ち溢れている。
670 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/07/16(火) 01:00:15.93 ID:WS8HAR6A0
U-511も例には漏れない。彼女もまた、彼女の提督と同調している雌の一匹。
では彼女は提督から何を得て何に同調したのかと言えば、答えは一つ。愚純さだ。
でなければこんな結果にはならない。でなければ、こんな過程すら起こり得ない。
彼女もまた、間違いを犯す馬鹿な雌の一匹に過ぎない。
671 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/07/16(火) 01:04:35.56 ID:WS8HAR6A0
☆今回はここまでです☆
672 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/10/09(水) 04:31:22.38 ID:i0tEhb290
床に叩き付けられ頭が揺れると同時にU-511の頭のお花畑は散った。痛みが彼女の意識を現実に引き戻す。
「やりやがったな」
引きちぎれた肉から血が溢れ出て床に広がる。
あふれ出る血の勢いが石を削り取る川の流れのように神経を刺激する。
「やりやがったな。やりやがったなこの野郎!!この野郎!!この野郎ォ!!!」
怨嗟の叫びを上げる声は聴きなれたそれではなかった。
彼女を撃ったその男は彼女がAdmiralと呼ぶ提督ではない。この鎮守府の提督、つまり敵。
「何しやがったこのクソ野郎ォ!!」
潜水艦娘を奴隷のように搾取し虐げ殺す、地獄のような鎮守府を作り上げた男。
コンソールの裏に飛び込むように逃げ込むと、元いた場所が破裂音と共に焼け付いた穴が開いた。
拳銃、銃弾。艤装を付けた艦娘ならばそんなものは脅威にならない。
それでもU-511にとって安心材料にはならない。
ブラック提督が築いてきた実績、死体の山、そして彼女自身が目の当たりにした伊58の姿。
引きちぎれ焼け爛れた両腕両脚、溢れ止まらない血、直視してきた惨状。
その輝かしい実績と、何より現に今、銃弾が結界を突き破り彼女の腕を抉った事実が彼女を怖気付かせる。
673 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/10/09(水) 04:39:09.23 ID:i0tEhb290
「バリアが通じると思ってねぇよなぁこいつはな!!お前ら艦娘をぶっ殺す為に特別に作られた銃なんだ!」
その言葉は間違っている。少なくとも建前上は。否、建前という言葉すら不適切なのかもしれない。
これが作られた経緯、その表向きの理由は建前というにはあまりにも軽薄で、無責任で、無価値な、口から出た出まかせだからだ。
既存の兵器では深海棲艦が持つ結界に通用しない。それ故に深海棲艦と同じような結界を持ち結界を突き破る武器を持つ艦娘の存在は重要視されていた。
深海棲艦に対抗する唯一の戦力にならざるを得なかった艦娘。
だがもし既存の兵器が深海棲艦に通じるようになったのであればどうなるか。例えば歩兵の突撃銃が、戦闘機の機関銃が、イージス艦のミサイルが。
まず間違いなく深海棲艦の殲滅速度は飛躍的に向上するだろう。熟練の職業軍人たちがその力を遺憾なく発揮し、深海棲艦は彼等の前に圧殺される。
その大義名分の下、結界を破る通常兵器の開発は進められた。
だが出資者と開発者たちの多くはそれを人類を守る為の兵器としてではなく艦娘『だけ』を殺す為の兵器として作っていた。
深海棲艦はついででしかない。そんなものよりただ目の前の、気にくわないそれを殴りたい、否定したい、殺したい。
理由は人それぞれだ。ある者は立場を奪われたから、ある者は見下された事が気に食わなかったから、ある者は女性上位の社会になる事を恐れたから。
そしてある者は、それらの人間を隠れ蓑として殺しを正当化できるから。
根底は多種多様だが大多数がそう感じ、ごく僅かな人間が大義名分を鵜呑みにし大多数に利用されていた。
そして大多数は信念の無い軽薄な責任逃れから斜め読みした正義を、ごく僅かな純粋な人間が信じた正義を、都合の良い箇所だけを飲み込みわが物とした。
結末を危惧する者、つまり彼らの本心を突く人間が現れた時、責任逃れの言葉をかざし、人類の敵のレッテルを貼り皆殺しにした。
本心を追求する数々の言葉に併せ建前を変え事実を捻じ曲げ、不当性を相手に押し付ける。
気にくわない障害を排除し続けることで彼らの正義は彼ら自身によって確固たるものと成り上がっていく。
正義が凝り固まっていくと共に彼らの行動もまた刃のように固まっていく。
先鋭化。思想の差別。道徳的優位に立ったと思い込んだ彼らの生態は彼らにとって気に食わないものを排除する事のみに特化していく。
彼らに倫理も合理性もありはしなかった。そうした者たちの意思が形になった武器を手にしたブラック提督もまた、彼らと違いはなかった。
オリョールクルージングで金を稼ぎ他者を蔑み殺す度、殺された潜水艦娘達は次々と深海棲艦へと姿を変えていく。
人類が不利になれば、深海棲艦が勝利すれば、その金が無価値になっていく事にも自分が殺される側に回る事にも気付いていない。
あるいはその合理性のない短絡的な思考と行動こそが人を人たらしめるものであるのかも知れない。
何故ならば自分の行いが自分達の首を絞める結果になると予想できていないのは、今この戦場にいる誰もがそうなのだから。
674 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/10/21(月) 00:33:51.25 ID:Ga8/KscD0
手負いの潜水艦娘が隠れたコンソールの裏側に回り込む。
その先で見た、たかが潜水艦娘の手に持つ物にブラック提督は一瞬硬直した。その手に握られているのは拳銃だ。
特別な仕様も無いただの拳銃だが人間相手に特別も何もあったもんじゃない。当たれば死ぬ。運が良くても重症だ。
潜水艦娘、U-511が指一つ動かせば弾が出る。ブラック提督が一歩でも近付けばそれだけで彼女が引き金を引く十分な理由になる。
彼自身も艦娘に通用する銃を持っているから五分五分。だが引き金を引く事に五の利益が保証されているわけではない。
殺したいから殺したといっても反撃で殺されれば0、全て台無しだ。そして撃った弾みで撃たれた弾に当たる可能性が十分ある距離に二人はいた。
膠着状態。
「撃てねぇだろ」
それは本来ならば、の言葉だ。
ブラック提督はU-511の人間性、内面を見抜いた。
長年の経験、人を虐げ殺し続けて得た知識と勘。自分を傷付けるか否かを見極めるのに関して言えば彼の技量は非情に優れている。
矮小化して例えるのであれば『いじめられっ子を見つける達人』とでも言えばいいだろうか。
あまりにもしょうもない技術であるが彼はこの技術一つで莫大な資産を手に入れたのだ。その即物的証拠はこの場において目をつぶってでも分かる。
周囲にある何もかもがその『いじめられっ子を見つける』技術によって生み出されたものなのだから。
いかに自分が傷付くことなく相手を傷付けられるか。どれだけ自分が責任を負わずに取り返しの付かない事をやらかせるか。
彼を小物ではなく悪たらしめる、長年の経験から培われた第六感を遺憾無く発揮し彼は優位に立つ。
675 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/10/21(月) 00:40:35.94 ID:Ga8/KscD0
「撃てるのか?撃ったらどうなるかわかるよな?」
彼の勘は正しかった。U-511に人を撃つ勇気は無い。
撃ち方を教わったとしても実際に引き金が引けるわけではない。誰かから命じられるわけでも無く自分の意思でとなると尚更だ。
彼女の提督がこの場にいて彼がこの場で撃てと言えば撃ったかもしれない。
そしてブラック提督の内蔵や脳髄に穴を開け銃弾からにじみ出る毒の追い打ちは彼を確実な死に至らしめるだろう。
提督に対しての信頼感、そして人を殺す事への責任の放棄による安心感、それらを両立してようやく彼女は撃てる。
だが独りでは決められない。
彼女は汎用的倫理と現代社会の常識を持つどこにでもいる女の子だ。
これまでの経験から人間への不信感を抱いていたとしても根付いたそれは簡単には捨てられない。
676 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/10/21(月) 00:50:02.87 ID:Ga8/KscD0
「艦娘が、提督を、人間を殺すのか?あ?」
だからこそ撃つのが怖い。撃ったらどうなるかわかるか、それを予想できてしまう。
自分が人を殺すということ、艦娘が人を殺すということ、艦娘が提督を殺すということ、全て予想ができてしまう。
「撃つのか?ナチスのクソ野郎」
その一言がU-511の意志にとどめを刺した。
自分はナチスだ。その現実がU-511の意志を完全に潰した。
引き金を引けば自分一人の力ではどうにもならない取り返しの付かない事態を引き起こしてしまう。
悪評は伝播する。その最悪の形を如月の末路を彼女は目の当たりにしている。
テレビ番組内で轟沈したというだけで無遠慮に、無許可に、無法に殺され続ける如月を。
ドイツの艦娘が、ナチスの艦娘が人を殺したと広まれば自分だけではない全世界のドイツ艦娘が危険視される。
他の艦娘以上に過敏に、過剰に、大げさに危険視される。何故なら彼女がナチスの歴史を持つ艦娘だからだ。
如月のように海軍や一般市民によって殺されだす可能性だって十分ある。
彼女に罪や落ち度はなかった。ただテレビ番組で轟沈したそれだけなのに彼女は狩られだした。
それならばナチスという罪を背負ったドイツ艦娘ならどうなるか。
自分一人の行いによって他の全てのドイツ艦娘が皆殺しにされるかもしれない。
かつてナチスが引き起こしたホロコーストのように。今度その標的にされるのはナチスの歴史を汲んでしまった同属だ。
だからそれを意識した途端彼女は引き金を引けなくなる。
自分独りの判断で同属を如月のようにできる程彼女は利己的になれないし、その代わりの勇気も持ち続けられなかった。
「クソが!」
この場において唯一倫理を完全に無視できる、責任を放棄できる存在がU-511の銃を蹴り飛ばし仕返しとばかりに銃を突き付けた。
トリガーに指をかけ彼女の薄い筋肉に、ごりごりと銃口を押し付ける。
彼は撃てる人間だ。
自分が撃つこと、人を殺すこと、提督が艦娘を殺すということ、それらの責任を一切負わずに済む存在だ。
いくら殺そうがいくら倫理に反していようが常に彼は危険の外にいる。
かつてホロコーストを引き起こしたナチスがそうであったように。
いくら殺そうがいくら罪に反していようが常に彼の身分も正義も保証され続けている。
677 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/11/07(木) 23:02:48.45 ID:X/ny5HSS0
「ごめんなさい。ごめんなさい!」
銃声が響く。
硝煙が彼女の皮膚を焼き銃弾が筋肉を引き千切る。痛みと衝撃で眼球がひっくり返り内蔵が揺れる。
飛ぶ意識を痛みが引き戻し痛みが意識を飛ばし、次の痛みが意識を引き戻す。
最早謝っても戻らない。後悔しても戻らない。この状況を勝負とするのであれば彼女は今この瞬間詰んだ。
銃弾は急所を外れているがそんなものは些細な事だ。彼女にもう状況を巻き返す力は無い。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
泣きながら謝り続けるU-511の頭に銃床が叩き付けられた。
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「許してください」
痛みに喘ぎながら謝罪する。もうこれしか方法が思い付かなかった。
相手が潜水艦娘を虐め殺す殺人鬼である事など最早関係ない。
それしかやれる事が無いのだから例え百億分の一の確率だろうがそれに縋るしかない。
この男が気まぐれで彼女を見逃すか、他人への慈しみの心に目覚めるか、憐れみを持って解放するか。
そんな興醒めな奇跡に縋るしかない。
だがそんな奇跡が起こる道理はない。
この世の運命を書き換えられる存在が居たとして、それが『余程性格が捻じ曲がっていて極端に偏った思想を持っている』のであれば起こる『かもしれない』。
自分の意志を突き通す為に世界のルールを書き換える程妥協を許さぬ頑固さと、自分の意志こそが正義と信じ抜く程の狂気的な思想の偏り
もしこの世の運命を書き換えられる存在がそんな幼稚な精神構造の持ち主であれば奇跡は起こるかもしれない。
勿論そんなものはいない。何よりブラック提督がU-511を許す理由が一切無い。
彼女は艦娘であり、敵であり、獲物であり、何より玩具であるのだから。
678 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/11/07(木) 23:07:55.57 ID:X/ny5HSS0
U-511の胸に刃が刺さる。
彼女の皮膚に突き刺さった刃が力強く彼女の下腹部目掛けて突き進む。
特製の潜水服が裂ける。白く滑らかな肌とその中心部からうっすらと吹き出す短く赤い血の線が外気に晒される。
自分の胸に刃が刺さるという光景を目撃した事で自分の生を諦めたU-511が正気を取り戻したのはブラック提督が裂け目に指を突っ込み開け広げた瞬間だった。
679 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2019/11/07(木) 23:16:22.66 ID:X/ny5HSS0
潜水服の下に隠されていた幼い乳房が男の眼前に晒された。
色素の薄い乳房の先端に獣のような視線を感じ嫌悪感と先ほどとは別の恐怖を感じる。
この男が今から自分に何をするのか、言葉は知らずとも行動の意味と意志は理解した。
この男は自分の命だけではなく女まで踏みにじるつもりだ。
ただ殺すだけでは飽き足らず命だけではないそれ以外の全て一切合切を貶めなければ満足しない。
自分は自分が持つ何もかもを嬲り殺しにされた後にようやく殺されるのだと。
最期の一瞬、いや最期の後も自分は嬲られ続ける。
何の生産性も未来も価値も無い。ただこの男の自己満足の為それだけの為に何もかもを踏み躙られる。
林檎を握りつぶすかのように晒された乳房が鷲掴みにされる。銃弾とは別の痛み、銃弾とは別の恐怖が思考を乱していく。
男がヒグマのように口を開く。歯と舌を剥き出しにして鼻の孔を膨らませながら顔を乳房に近付けていく。
思わず手で抑えるが今までの傷が艦娘の力を振るう事を阻害する。唾液を垂らした口が少女の乳房にじわじわと近付き
がり、と歯を立てた。
680 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2019/11/26(火) 14:08:06.74 ID:Uvmmim6QO
乙
681 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2020/03/14(土) 15:33:28.07 ID:ivgzjNqxo
ほしゅうううう
682 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/06/30(火) 16:39:05.42 ID:FKUpOvs40
歯が肉に食い込む。痛覚が感情を更にかき乱す。
食い込む歯と握り潰す指が痛みを、頂点を舐めまわす舌が嫌悪感を。足の間で膨らむ何かが踏み躙られる怒りと恐怖を沸きたてる。
最早反射的に頭を手で押さえる。本来差がある身体能力も怪我や精神状況といったコンディションの違いが差を埋める。
抵抗するには遅すぎた。早々に何もかもを捨て去る覚悟で反撃したのなら今この場で助かる事はできた。
身体が前後に揺れ出し、乳房の痛みが増していく。
ペンチで潰されハサミで切られるような痛みが徐々に中央に集まっていく。噛み千切られる。犯される。
頭を押さえる手が震え、涙が零れる。
痛みという空気が感情という風船に詰め込まれていく。それは許容量を越え出してもなお詰め込むのを止めやしない。
だが油断が一瞬訪れた。息を吸う、無意識で行われる生理現象が一瞬U-511の感情を止める。
その瞬間
683 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/06/30(火) 16:39:57.07 ID:FKUpOvs40
ごぉん、と下手糞が叩く鐘の音のような空気の振動が響いた。
目と鼻の先で鉄の塊が男の側頭部にめり込んでいく。
その鉄塊は彼の顔を一切変形させる事なく視界の外に押し出していく。
男の身体は顔に引きずられるように転げ落ちU-511にのしかかっていた重みも転げ落ちる。
そして映った見知らぬ天井に、見知った男の影が映っていた。その男は鉄のバットを持ち今もこちらを見下している。
「名取!!!!!」
「そのクソ野郎を縛れ!!」
684 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/06/30(火) 16:40:35.96 ID:FKUpOvs40
視界の隅に別の影が映る。その影は慌ただしく視界から外れた後がさがさと音を立て始めた。
「あぁ可哀想に。もう大丈夫、大丈夫だから。ごめんな」
「ごめんな。ごめん」
提督だ。バットを持った影は自分の提督だった。
安堵と緊張の落差で気を失う寸前で彼に抱き抱えられ上半身を起こされた。
彼は肩から下げていた鞄から小瓶とガーゼを取り出し中身をU-511の身体に染みこませる。艦娘相手なら簡単にできる応急処置だ。
緑色の粘液、高速修復材に浸されたガーゼを乳房を抉る歯形に付けるとU-511は羞恥と刺激に喘いだがそれを無視して処置を終わらせる事に集中する。
この程度の傷なら恐らくこれだけで治る。艦娘とはそういうものだ。取り出した包帯で潜水スーツごとぐるりと巻き、破かれ空いた穴を隠す。
銃弾で抉られた筋肉も同様に修復材を染みこませたガーゼで覆い保護テープで固定した。
素人の提督にはその傷がどれだけ深刻なのかも判断ができない。銃弾が身体に埋まっているのか、それとも身体を掠り抉っただけなのか彼には判別付かない。
だがどちらにせよ修復材に浸けておけば万事解決する。彼はその答えだけは知っている。修復材に浸けておけば内側から治る際に弾が排出される。その結果だけは知っている。
麻酔がそうであるように修復材を用いた回復の原理は未だ判明しておらず、更にこれは人には効能が無い。
故に修復材の存在は艦娘反対派が彼女らを『人モドキ』と揶揄する一因でもある。
685 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/06/30(火) 16:41:11.94 ID:FKUpOvs40
「怖かった」
「怖かったよ」
「そうだよな」
「ごめんな」
「ありがとう」
「本当にありがとう」
686 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/06/30(火) 16:42:06.90 ID:FKUpOvs40
胸の中のU-511が落ち着いてきた矢先、何かの咆哮が聞こえて二人の身体がびくんと跳ねた。
慌てて窓から様子を見るとそこには地面に描かれた無意味で荒々しい赤い線。その軌道の先に黒い服の少女が見えた。
手に何かを持ち叫んでいる。その手に捕まれた長く、節のある棒のようなものがぶらぶらと揺れる。周囲には誰もいない。
提督はそれだけである程度の状況を把握できた。
「できれば殺すなっつったんだけどな」
悪態をつき彼女の不幸に嘆きながら内心喜びが勝っているという事実を確認する間もなく彼は次の計画の指示を出そうと考えた。
これで正面広場は確保した。そして先ほど敵の指揮官を捕まえた。ならば後は待つだけだ。
自分は今から正面広場に向かい艦娘達を待つ。捕虜になった艦娘と艦娘を捕虜にする艦娘両方を待つ。
「名取」
「引き続き護衛をお願い。今から正面広場に向かう」
「長良は」
「こいつを引きずって付いてきて」
随伴、否ここまで提督の足になってくれた長良と名取が頷く。
ただの人間である彼がここまで高速移動できたのも長良が彼を抱えて走ってくれたからだ。
その上で何の贔屓も無く客観的に判断するのであれば提督のこの指示は致命的なミスだ。
687 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/06/30(火) 16:42:42.51 ID:FKUpOvs40
ここから先の戦力は手が塞がった長良と負傷したU-511、そして未だ困惑の意思が見て取れる名取の三人だ。
人質がいるとしても万が一戦うとなればまともにやれるのは名取だけ。
その名取が艦娘同士で戦う事にまだ迷いがある、というのが危険すぎる。
名取は艦娘を殺す事に躊躇するかもしれないが相手は絶対に躊躇しない。彼女らの頭の中は日々の虐待の中でそんな良識がとうに消え失せている。
ましてや人間一人殺す事くらいは名取が躊躇した一瞬の間に済ませられる。
長良は状況を割り切っている。躊躇する前に敵を撃てるだろう。
だからこそ長良と名取の役割を逆にするべきだった。生死を決める決断で提督は選択を間違えた。
あえて間違えた。理屈をわかった上で更に彼は考えを走らせる。
確率はどうか。先に突入した三人、否夕立が正面広場にいるから二人、が暴れまわればそちらに意識が取られるか。それでも一部はこちらを狙うかもしれない。
ブラック提督という人質がどれだけの抑止力となるのだろうか。相手に向ける情なんてものがこの辺の艦娘相手にまだ残っているかどうかはわからない。
それでもし万が一上手くいったとしたならば。否下手をこいて本当に正面広場まで行けたなら自分はこの先これからどうしていればいいだろう。
688 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/06/30(火) 16:43:21.56 ID:FKUpOvs40
そう悩んだ時に思い付く。
歌でも歌おう。本心をさらけ出せる歌を歌おう。それが彼女から奪った自分の役割なのだから。
一番好きな歌を歌おう。心の底から笑える歌を歌おう。
何もかも黒く塗り潰す、世界で一番大好きな歌を歌おう。
ろくでなしのように、狂人のように、気取った物語の主人公のように歌おう。
彼女から押し付けられた役割を果たしながら、自分は自分のやりたい事をしよう。
気取れば気取るほど、狂人であれば狂人であるほど、勝ちを確信していると思われれば思われるほど、報いが来た時に全てがひっくり返る。
ひっくり返ったその瞬間を自分は一番待ち望んでいる。
だから歌おう。
歌手に敬意と尊敬を、自分と世界に呪いと嘲笑を。
心の底の感情を今ここでさらけ出して歌おう。これが最期だと思って。
最期でなかったらなかったで、こんな無様な事は他にない。
689 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/06/30(火) 16:44:14.33 ID:FKUpOvs40
Amen(そうあれかし)と願い歌う。
笛の音を追いかける動物のように、三人の少女は歌い始めた男の後に続いた。
「俺の目の前に」
「赤い扉が立っている」
「俺はそれを」
「黒く塗り潰したくてたまらない」
「それ以外の色は要らない」
「何もかも」
「黒く塗り潰してやりたい」
690 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/08/26(水) 20:49:46.00 ID:+XYm0fRV0
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
691 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/08/26(水) 20:51:56.24 ID:+XYm0fRV0
提督がU-511と合流する数分前。彼女、夕立は激怒した。
しかしもう夕立には、自分が何に怒っているのかわからなかった。
この、目の前の売女のような恰好をした糞餓鬼に対して怒っているのだろうか。
この、目の前の売女のような恰好をした糞餓鬼の何が気に食わないのか。
提督を半殺しにした奴らの一員だからか。
それとも夕立と並び立つ彼女の親友、如月を産業廃棄物と罵った事だろうか。
692 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/08/26(水) 20:53:03.42 ID:+XYm0fRV0
テレビで轟沈した雑魚駆逐艦娘、この鎮守府の一部屋に玩具のように首を吊られてぷらぷらと揺れている駆逐艦娘。
だからこそ、今夕立の隣にいる如月もゴミ同然で片付けられる。
何故なら、如月は如月だから、如月が如月故に死ぬしかない。
殺されるしかない。
何故なら如月だから。
テレビで轟沈した如月だから。
だから死ぬしかない。殺されるしかない。
何故なら如月だから。
テレビで轟沈した如月だから。
だから死ぬしかない。殺されるしかない。
何故なら如月だから。
何故なら如月だから。
この糞売女、島風はそう言ってのけた。
それを聞いた時夕立は『これ』を生ゴミにしてやると心の奥底から誓った。
693 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/08/26(水) 20:59:03.26 ID:+XYm0fRV0
島風を夕立が抑えている間に如月と羽黒を鎮守府内に突入。
夕立は何も考えずそう提案した。
羽黒と如月がこの場から離れれば夕立は敵地で孤立するにも関わらずだ。
単独行動厳禁、それは泊地の艦娘に徹底されていた絶対の軍規だった。
それはあのテレビで得た教訓。無意味に孤立させた結果援護も得られず沈んだ如月から得た教訓。
常に二人で行動すれば死角をカバーし合える。だからこその単独行動厳禁。
それは泊地の艦娘にとって最優先のルールだった。
そう強く念を押されていたにも拘らず夕立はそれを無視して行動した。
水門が開けば仲間は後ろからいくらでも来る。
それを信じた結果でもあるが何よりも今ここで島風を自分の手で縊り殺さなければ気が済まなかった。
言ってはならない事を口にしたこの糞売女は誰の手でもない、自分の手で縊り殺さなければ気が済まなかった。
その点において羽黒と如月は邪魔ですらある。
この優等生どもは提督の指示通り殺さずに捕まえるはずだ。
このクソガキはここで、自分が、殺す。
そうでなければいけないという怒りと使命感に駆られた夕立の決意は固い。
694 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/08/26(水) 21:01:13.02 ID:+XYm0fRV0
だが心の奥底のその端で、夕立は疑問を抱いてもいた。
何故それは言ってはならない言葉なのか。何故自分はその言葉に怒るのか。
自分ではない他人に向けられた言葉に、何故ここまで怒るのか。
本当に腹立たしいのは一体何なのだろうか。自分は一体何に怒っているのだろうか。
心に僅かな迷いがありつつも、その答えを見つける間もなく戦いは一瞬で終わった。
695 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/08/26(水) 21:03:09.83 ID:+XYm0fRV0
蹴り飛ばされた島風が地面に削り取られながら勢いのまま転げ回る。
彼女の唯一の親友である連装砲型自立砲撃デバイス、島風が連装砲ちゃんと呼んでいるそれの首根っこを夕立は掴んでいた。
わしゃわしゃと首を振るそれを握力だけで強引に黙らせる。
そうでもしなければうるさく動き回るこの玩具の可動域で指を挟んでしまう。
それでも手足をわしゃわしゃと動かす連装砲型自立砲撃デバイスから視線を外し島風の顔を見据える。
最早余裕は一切感じられない。動揺と絶望。理由は二つ、親友が捕まった事。そして親友兼武器を失った事。
夕立にとってこの結果はわかりきっていた事だった。
何もかもが自分の理想と予想通りに事が動いている。
だからこそ、これからする事も何もかも自分がやりたいと願い望んでいた事だ。
696 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/08/26(水) 21:08:51.30 ID:+XYm0fRV0
島風にゆったりと近付きながら連装砲型自立砲撃デバイスの頭を空いた片手で掴む。
全力を込め鉄板に指を食い込ませるが如く締め上げ、捻る。
ごきん、ばきん、ぶちん、という破壊の感触が手に伝わる。もう片手にはびくびくと震える感触が伝わった。
それは喋れない、そうでないとしても少なくとも意思が理解されない機械の断末魔だ。
それが生き物のように、子供に蹴り飛ばされた虫のように、叩き落された羽虫のようにじたばたと蠢いている。
更に捻る。稼働域の限界以上に捻り上げられ、あるべき形を砕きながら更に周る。
想定外の稼働により内部の部品が引っ張り上げられ擦れ圧され砕ける。
エネルギーを伝えるケーブルがぶちぶちと音を立て引き千切られる。
そして、今島風の目の前で彼女の唯一の親友はその首をもぎ取られた。
首が引きちぎられてもなお張り詰め残っていた最後のケーブルがぶちりと切れる。
動力を失い機能を止めたデバイスの頭部の明かりが消える。その明かりは島風の心の灯火でもあった。
「ゴミじゃん」
意思で働かせられる限りの悪意を込めて吐き捨て、手に持っていた『ゴミ』も文字通り投げ捨てた。
怒りのままに叩き付けられたデバイスは中身に詰まっていた基板の欠片を空中に撒き散らしていく。
「次はお前だ」
ゴミと呼ばれ嘲られた島風の親友は今この瞬間死を迎え、島風は今この瞬間完全に戦意を喪失した。
697 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/09/05(土) 20:17:56.88 ID:kzBmeXH00
島風は走った。鎮守府内部に逃げ込めば振り切れると思い込み、夕立に背を向け走った。
そうすれば生き残れると確信していた。何故なら自分は島風だからだ。
誰よりも早く強い。それが島風型艦娘だ。それが海上だろうが地上だろうが同じ事。
誰も自分に追い付けない。後ろでキレ散らかしてる醜い化け物も島風に追い付く事はできない。
そう思っていた。足に何かが引っ掛かったのを認識した瞬間、空に影が差すまでは。
影は島風を見つめながら勝ち誇るように唱えた。
「おっ」
「そぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい」
698 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/09/05(土) 20:19:05.43 ID:kzBmeXH00
前のめりになる身体より早く顔面が地面に激突する。
島風の頭を中心に赤がじわりと広がった。激突で鼻を強打して鼻血が吹き出している。
その僅かに見える赤い染み目掛けて夕立は艤装付きの足で踏みつけると絶命する蛙のようなうめき声が彼女の足の下から聞こえた。
違う、島風は遅くなんてない。
踏まれた脳味噌はそれだけを考えていた。遅い、という反射的に出た悪意を何度も何度も反芻する。
お前が島風に追い付けたのは島風が何かに引っ掛かったからだ。
逃げる島風の足に一瞬引っ掛かった『何か』が敗因だ。実力で負けたのではなく不幸に見舞われただけだ。
島風はそう信じ込んでいた。
お前は早くない。島風より早いわけがない。島風が一番。島風が一番早いんだ。
もう一度。もう一度やればわかる。
島風は早い!島風は誰よりも早い!早いんだ!!
これはノーカウントだ!!!だからもう一度!もう一度!!もう一度!!!
島風が!!!!!!!!!一番早くて!!!!!!!!!!強いんだ!!!!!!!!!!!!
島風の顔が火花を吹いた。轟音と土煙を上げながら地面を滑りだす。
699 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/09/05(土) 20:21:13.04 ID:kzBmeXH00
夕立が島風の後頭部を踏みつけたまま上空に向けてその手に持つ主砲を撃ちだした。
反動制御をあえて切って撃たれた砲弾の爆発は夕立を反対方向へと弾き出す。砲弾は上空へ、その反動は地面に向かう。島風の後頭部を踏みつけたまま。
即席のスケートボード。それを支えるのは島風という名の無限軌道だ。
皮膚という名の履帯が回り、すぐさま熱と衝撃で千切れ失う。それでも推進力は収まらない。
その下にある皮下組織、そして筋肉や眼球を代表される臓器が代理になる。血液が噴出し僅かだが摩擦を奪う。まだ推進力は収まらない。
今の島風は、自分で走るよりも早く駆けていた。反動制御機能を切った砲撃、それによって生まれる反動という名の暴挙によって成立するそれを島風が次に活かす機会は無い。
眼球が千切れ飛ぶ、血液の赤と火花の黄色、髪の黄色が軌跡を描く。その過程で皮膚と肉は摩耗し、その下の骨と脳味噌が地面に触れる。
それでも夕立は止まらなかった。射線を横にして砲弾を撃ちだすと彼女の身体は横に回転しだした。
ぐるぐると回転しながら進んでいくそのスケートボードの足を掴み、あえて後頭部から軸足を踏み外す。
脚部艤装が摩擦で火花を散らし地面を抉り取る。進行方向の斜め前の壁を見据えて夕立は身体を捻った。
回転の勢いを殺さないまま、艦本式オール・ギアードタービン2基2軸、夕立型艦娘が持ち得る全力を込める。
それの両脚を掴み、身体を捻り、42000馬力を以て、島風を壁に叩き付け振り抜く。
主砲のそれとは比較にならない程の爆音と衝撃が走った。
700 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/09/05(土) 20:23:24.23 ID:kzBmeXH00
島風の死は、轟沈という括りに入るものではなかった。
人としての死、否、人としてですらない。
物理的な生物としての明確な死。人の形を保っていない、無意味無価値の肉塊と壁の染みに島風は成り果てた。
何の意味も価値も無い。微生物の餌となり臭い匂いを発する以外の役割は島風には無い。
艦娘、砲雷撃戦の結果としての死とは認められない程惨たらしい死。
そして夕立が望んで望んで、望んでやまなかった形での殺害。
千切れた両脚がぶらぶらと揺れ、新鮮な血液と垂らしているのを視認して夕立は達成感を得た。
これでいい。何もかもが夕立の思い通りに行った。
だけどまだ足りない。まだまだ、もっと沢山これを作らなければならない。
誰の為に?提督か、如月か。否、自分自身の為にだ。少し満たされた今、夕立は自分の意志を思い返していた。
自分が負け犬に成り下がったあの日々の事を思い返していた。
701 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/09/05(土) 20:26:07.00 ID:kzBmeXH00
あの夜起こった出来事が何もかもを壊してしまった。夕立は今でも覚えている。あれは夕立の改二改装が間近に迫った夜だった。
テレビで放送されてしまった如月型艦娘の轟沈。
それはたった一人の男の私怨によるもの。全てを知ってしまえばそんなくだらない真相があった。
だがそんなくだらない真相は最悪の事態を引き起こした。
待ち望んでいたかのように動き出した艦娘反対派の人間達。そして同じ海軍の仲間であるはずの人間達。
彼等は身近の如月型艦娘を次々を殺し、あるいは壊した。
『テレビでそうであったから』と免罪符を掲げ、何の経済的価値も戦略的価値も無い自己満足の悦楽に狂った。
夕立の友人だった如月もその狂気の例外ではなかった。
何も知らなかった彼女は何も知らないまま日本街に赴き、暴徒に殺されかけ追い詰められた。
殺され続ける自分の姿を見続け、深海棲艦の精神汚染にも晒された。
そんな友人を、夕立はただ追い詰める事しかできなかった。
助けたいと守りたいと心から願っていたにも関わらず、夕立は守る事すらできずむしろ如月を傷付ける事だけしかできなかった。
自分が夕立であったからこそ、如月にとって自分はただの害でしかなかった。
それでも助けたいと、守りたいと、その時の夕立はただ純粋にそれしか考えていなかった。
結局如月は金剛の時間稼ぎと、戻ってきた提督の言葉で寸での所で救われた。
そして夕立は約束されていた輝かしい未来を全て否定されたのだった。
その後如月は帰還する途中に負傷した提督の身の回りの世話役に就いた。
秘書艦に任命されていた三人すら押し退け彼女が抜擢された事について誰も文句を言わなかった。
夕立だけが、言葉に出せずにいた。
本来ならそこにいるのは夕立だったはずだ、と。
如月が新しい秘書艦に任命され泊地の皆が祝う片隅で夕立はひっそりと改二改修を済ませた。
702 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/09/05(土) 20:28:03.89 ID:kzBmeXH00
駆逐艦夕立は第三次ソロモン海戦で多大な戦果を挙げた武勲艦である。
一夜にして夕立は重巡級五隻を撃沈、二隻大破、防空巡洋艦の二隻を撃沈、駆逐艦の三隻を大破、三隻中破に追い込んだのだ。
夕立の非論理的、非常識的な暴挙とも言える殺戮は一部の者を異名で呼ばせた。その異名は『ソロモンの悪夢』。
駆逐艦娘夕立もその名に劣らぬ高性能な優秀な艦娘だった。
自分のルーツがそこにあると知った時、夕立は喜びを隠せなかった事を忘れられない。
自分の家族を奪った深海棲艦をこの手で倒せる機会に恵まれている。そう予想できたからだ。
他の誰でもない自分が、今度こそ守れるのだとそう信じ込めたからだ。
事実、駆逐艦娘夕立はあらゆる鎮守府泊地で重宝されていた。
だからこそ自分も重宝されるだろうし、守る為の力を十分に得たのだとそう信じ込んでいた。
パラオ泊地の補充要員として着任した夕立は同期の如月、潮と日々切磋琢磨し合った。
その合間に絆を紡ぎ、そして増える守りたい者。同期班員の如月と潮、そして提督。
何故か話題に乗らない潮はともかく、如月とは提督の話でよく盛り上がった事を昨日のように思い出す。
しかし必ず訪れるとすら思っていた輝かしい未来はたった一か月程度の出来事で全て否定された。
703 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/09/05(土) 20:32:36.36 ID:kzBmeXH00
『ソロモンの悪夢』の力で如月を守る事はできなかった。
新たな力を求め鍛錬を続ける中で如月は秘書艦に着任した。
彼女自身の適正と何よりあまりにも醜い理不尽に対する同情が要因だったが、周囲がそんなものを理解するはずがなかった。
演習の度に自分達に、否提督と如月に向けられる嘲笑と侮蔑。
その度に如月は提督との絆を深めていく。夕立を置き去りにして。彼との絆だけが自分の命を繋ぐと思い込んでいるかのように。
提督もそれを受け入れた。夕立と如月と潮の部屋だった場所は気付けば夕立と潮の部屋になり彼女の面影は消え去った。
外部の人々が望んでいるように本当に如月が死やその他の要因で消えたわけではない。如月は常に提督の傍に居た。
それに感づいた時、夕立はとどめを刺された。
704 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/09/19(土) 21:52:19.62 ID:Y+aHME880
あの日全てを失ったのは如月ではない。自分だ。夕立はそう感じていた。
確かに如月は多くのものを失った。名誉、地位、発言力、そして生きる権利すらも失った。
それでも最後の最後で彼女は得たかったものを得た。何もかもを失ったという自分を利用してそれを確固たるものとした。
だが夕立は、自分はどうだ。
得たかった力は何の意味も無かった。『ソロモンの悪夢』では何も守れなかった。
そして目の前で男を奪われた。自分が守ろうとしていた、自分が守れなかった友人に奪われた。
どれだけ力を付けようとも如月を守れない。何も知らない何も感じないキチガイは如月を傷付け続け、如月はそれすら利用して愛を得る。
湧き上がり止められない劣等感は夕立を確実に壊していった。
何も知らない外部の馬鹿が如月を貶めようとすればするほど、夕立は劣等感を刺激される。
優っているからこその無力感と劣等感。それ故に並大抵の事では覆せない。運命に近い絶望的状況。
ついに狂った夕立はある一つの答えに辿り着いた。
ならば自分を貶めてしまえばいいのだと。
705 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/09/19(土) 21:57:31.35 ID:Y+aHME880
夕立型艦娘が忌み嫌われる存在になったその時、提督は如月より自分の事を見てくれる。
提督の視線を独り占めできる時間が増える。
その為には『悪夢』では足りない。『地獄』を見せなければ。
自分に、自分の身内に害する者全てに『地獄』を見せてやる。
悪夢なんてものは所詮目を開ければ消えるもの。
二度と取り返しの付かない苦痛と損失を与えてやらなければいけない。
やりすぎと言われるほど痛めつけ、過剰に力を振るう。
軍規や規則なんていくらでも破ってやる。良識を捨て、時に良識を相手に突き刺す。
惨たらしく殺す事だけを考え、惨たらしく殺す事だけを実施し、惨たらしく殺す事を最優先事項として行動すれば自分の希望は成される。
軍規違反という汚点、制御不能という欠点、過剰防衛という短所。
どれだけ積み上げれば、否掘り下げれば如月に届くのかわからない。
だけどもうこれしかない。悪意という名の永久機関に届くには最初からこうするしかなかった。
これこそが最適解だ。夕立はそう確信した。
軽蔑されようが見下されようが嘲られようが構わない。むしろそれこそ自分が望むもの。
何もかもを自分が殺してしまう事こそが夕立の運命を切り開く唯一の道だ。
それができなければ負け犬だ。
706 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/09/19(土) 21:58:17.06 ID:Y+aHME880
動かせるだけの理性を動かし、心を塗り潰していく。
自分のトラウマを、辛い過去をわざと掘り起こし感情を沸き立てていく。
心を黒く、黒く、塗り潰していく。
歯痒さを、無力感を、怒りを、嫉妬を、夕立が思いつく限りのあらゆる負の感情を沸き立てていく。
黒く、黒く、塗り潰していく。
手に持っていた島風の両脚の破片が握り潰され余りが千切れて地に落ちた。
塗り潰せ。
殺意で自分の全てを塗り潰していけ。
707 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2020/09/19(土) 22:00:04.43 ID:Y+aHME880
夕立は叫んだ。今からお前達を皆殺しにするぞと言葉を使わずに叫んだ。
その音の波に弾き飛ばされるように二房の髪がびんと跳ね上がった。
あの頃絹糸のように柔らかくすらりと垂れ下がっていた彼女の髪。
今は彼女の心を表すように癖が付いて跳ね上がり、広がっている。
髪が女の魂という論が正しいのであれば、今の夕立の髪こそ彼女の魂が如何に変質したかを物語っていた。
目を見開き、牙を剥き、爪を立てる彼女の姿は獲物を殺す猟犬そのもの。
否、これは猟犬ではあるが猟犬ではない。
ティンダロスの猟犬。
腐臭をまき散らしながら時間や時空すら飛び越えながら獲物を追い詰めて殺す『犬の形をした化物』。
絶えず飢え、執念深く、獲物を恐怖させ発狂させても尚その命を啜るまで追い続ける。
伝説の通りあらゆる邪悪を自分の身体に集約させる為に今
化物が鎮守府の扉真正面から突っ込んでいった。
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