【艦これ】伊58「黒く塗り潰せ」

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84 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/04/23(日) 23:22:04.58 ID:06P70moD0


「日本は、大韓民国人に酷い事をしたって言う奴もいる」

「インドの方を見てみれば、身分制度が根強い」

「ヨーロッパの方でも昔は魔女狩りなんていうアホみたいな事をやっていた」

「何でまたこんな事が起きるかっていったな?」


「人が人である限り、こんな事が永遠に続いていくんだ」

「形を変えて、場所を変えて、この地球上のどこかで永遠に続いていくんだ」

「ただただただただ」

「他人を殺したいっていう欲望の為だけに」

「その為だけに」



「今日もどこかで人が殺される」


85 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/04/23(日) 23:29:52.79 ID:06P70moD0

☆今回はここまでです☆

最初の数レス作るのに10日以上かけてしまった…
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/25(火) 00:40:05.20 ID:zHzYqHCQo
アパルトヘイトって南アフリカじゃなかったっけ?
ドイツならホロコースト?
まあ乙です
続き待ってます
87 : ◆ZFgfLAc.nk [saga sage]:2017/04/25(火) 22:56:33.40 ID:BQDLKzNY0
とんでもないミスをしてました。ご指摘ありがとうございます。修正します。

>>83


「ドイツのホロコーストが悪と見なされ、それを受け入れさせられたのはドイツが負けたからだ」

「勝った方が歴史を作る。勝った奴が自分の都合の良いように歴史を作っていくんだ」

「自分が偉い、自分が正しい、自分が、自分だけが、正しいってな」

「だから負けたドイツはユダヤ人迫害の罪ばかり目を向けられる」


「でもな」

「あの程度の人種差別、どこの世界にでもありふれたものだ」

「現にアメリカにだって、KKKっていう白人至上主義団体が今でも存在している」

「そいつらが実際に黒人を集団で囲んで殺すなんて話もある」

「やり方とか規模は違うと思うけど、考えていることはホロコーストと何も変わらねぇ」

「他人を否定し、排除する。その根元は何も変わらねぇ」


「そういう風潮を何とかしようとした大統領、国のリーダーがいたけども」

「そのせいで戦争が起こって、何人ものアメリカ人が死んだ」

「そして、大統領自身もその後に殺された」

「他の誰でもない、アメリカ国民自身の手によって」



「そりゃそうだよな。もっと黒人から搾取して、黒人をいたぶって、黒人を殺したかったんだものな」


「それを邪魔しようってんなら」


「大統領だろうが、ブッ殺す」



「勝ったアメリカも、ナチスドイツと何ら変わらねぇ」

「いや…国の失業率を改善したり高速道路を作ったりもしてる分、もしかしたらナチスドイツの方がましだったのかもしれねぇ」

「でも、負けたから。ただそれだけの理由で、ただのイカれた虐殺者・独裁者として排除された」

「そうして、勝者は、全てを奪って愉悦に浸る」


「…結局のところ、どいつもこいつも、世界中のどこに行っても」

「理屈や名聞、言い訳が何であれ、『俺が上で、お前は下』って言いたいだけなんだ」

「それだけを、言い続けたいんだ」


「その幼稚な承認欲求・愉悦感を得る為だけに」


「否定して」


「殺す」


「それが、俺達人間っていう生物だ」


「他の国だって何も変わらねぇ」

88 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 20:19:12.47 ID:+oExVeOv0
>>1です。
最近は艦これアーケードでの、南方棲鬼のモーションにときめく日々を送っています。
全体的にとてもかっこよく、特にカットイン砲撃は一見の価値があります。しびれる〜。

それでは投下を始めさせて頂きます。
89 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 20:39:19.28 ID:+oExVeOv0


U-511「……Admiral」

提督「………もう、いいか?」

U-511「………」

提督「伊58の事、頼んだぞ。俺も時間が空いたらすぐに行くから」ガチャ

バタン

伊401「………提督」

U-511「私、いけない事、言っちゃった…?」

伊168「ユー…気にしないほうがいいわよ」

U-511「でも」

U-511「Admiral、あんな怒ってて…」

U-511「あんなAdmiral見たことなくて…怖くて…」

U-511「私のせいなんだよね…?」

伊19「…あれは、ユーのせいじゃないの」

伊19「提督の…癖みたいなものなのね」

U-511「癖?」

伊19「かっこよく飛び出してったけど、多分今頃後悔してる所なのね」

伊19「だから、そんな自分を責めなくていいの」

U-511「……でも」

伊19「いいから!」

伊19「何か気になる事があるなら今度聞けばいいのね!」

伊19「はっちゃんのシュトーレンの残り、全部食べていいから今は部屋に戻るの!」グイッ

U-511「あぁっ、イク…」


如月「………」

如月(それが)

如月(人間という生物、か……)

羽黒「如月ちゃん…」

如月「………私達も、戻りましょう。那珂さん、羽黒さん」

羽黒「…うん」

那珂「そうだね」(那珂ちゃんだ、って言ってるんだけどなー)


90 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 20:41:10.15 ID:+oExVeOv0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・



91 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 20:44:15.55 ID:+oExVeOv0


秘書艦すら置いて一人、部屋を出た提督は早歩きで廊下を進んでいく。

眉間に皺を寄せ、顎を引き、前を睨み付ける様に見据えて進む。

泊地の近所の住人がこの光景を見たならば、どうした何があった、と驚き心配するだろう。


彼の心は苛立っていた。

U-511は何も関係ない。

彼女は何が起こっているか知りたかっただけなのに。

なのに俺の言いようは何だ。

もう少し言い方があったんじゃないか。彼女は傷付いているだろう。

俺がもっと言葉を選んでいれば。

俺がもっと落ち着いて話をしていれば。

彼は後悔と不甲斐無さを感じていた。


そして脳裏を掠めた苦い記憶の味を思い出す。

口を開かせ、舌を動かし、声帯を振るわせた動力になった苦い記憶。

思考を放棄し、爆発する感情に注がれた、燃料になった苦い記憶。

92 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 20:46:57.58 ID:+oExVeOv0


喪失感。


喉を焼く酸の熱さと痛さ。


手にずしりと圧し掛かる重さ。


視界に映る己の手。


痛覚を刺激する鉄の塊。


今は亡き男の狂った笑い声。


無表情に、かつ残酷に通告する数字の羅列。


身体に無数の、見えないけれど決して消えない傷を付けられた少女。


彼女の、二度と戻らない名誉と権利。

93 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 20:49:34.01 ID:+oExVeOv0


思い出す度に憎しみと失望感が湧き出てくる。

速くなる鼓動。温い炎で首筋を炙られる感覚。プラスチックで喉や心臓を締め付けられるような痛み。


こんな事があった。

だから思わず言ってしまった。

だからしょうがないじゃないか。

だから俺は悪くないんだ。

悪いのはあいつらだ。


そう認識する為に、無意識の内に記憶を引きずり出した。

自分自身を正当化する為に、ただそれだけの為に感情を弄んだ。

彼もまた、どうしようもない程に人間であるのだ。

94 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 20:57:39.94 ID:+oExVeOv0


そして彼の無意識が世界の言葉を受信する。


そうだ、お前は間違っていない。

これが世界だ。

この世界はそういうものだ。

これが現実だ。

夢ではない。

これが現実。

これが常識。


現実は常に残酷であり

常に最悪の結果をもたらすもの。

傷付かず、犠牲も無く終わる物語なんて四流作家の作るもの。

ハッピーエンドなんて甘えでしかない。

苦痛と

恐怖と

無力感を与える、唯一無二の存在。

唯一の本物。

唯一の非幻想。

臨場感を凌駕してリアルに於いて反映実映される、有質量の全ての結果。

これが現実だ。

これが世界だ。

だから、お前は間違っていない。


その言葉が彼の幼稚な承認欲求を満たしていく。

彼もまた、どうしようもない程に人間であるのだ。

95 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:03:00.05 ID:+oExVeOv0
誤字出しました。修正します。

>>94


そして彼の無意識が世界の言葉を受信する。


そうだ、お前は間違っていない。

これが世界だ。

この世界はそういうものだ。

これが現実だ。

夢ではない。

これが現実。

これが常識。


現実は常に残酷であり

常に最悪の結果をもたらすもの。

傷付かず、犠牲も無く終わる物語なんて四流作家の作るもの。

ハッピーエンドなんて現実逃避、甘えでしかない。

苦痛と

恐怖と

失望と

無力感を与える、この世で唯一無二の存在。

唯一の本物。

唯一の非幻想。

臨場感を凌駕してリアルに於いて反映実現される、有質量の全ての結果。

これが現実だ。

これが世界だ。

だから、お前は間違っていない。


その言葉が彼の幼稚な承認欲求を満たしていく。

彼もまた、どうしようもない程に人間であるのだ。

96 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:03:48.89 ID:+oExVeOv0


だが

承認欲求が満たされる快感と共に押し寄せてくる黒い感情もあった。

それは殺意と呼ばれる感情だった。

97 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:06:04.89 ID:+oExVeOv0


それは自己を正当化する度に理不尽に湧き出る感情。


自分がどうしようもなく人間であるという事。

今まで散々自分を否定し、自分が生きていてはいけない人間だと叩き込んだ現実が、

今や彼の考えを容認し、彼の幼稚な承認欲求を満たしにかかっている事。

倫理や常識を放棄して、伊58にあれだけの仕打ちを行った事。



自分を否定し、拒絶し、ここまで堕とした世界に対する殺意。

手の平を返し、自分に媚びへつらうようになった世界に対する殺意。

伊58を追い詰め、四肢を奪い、絶望させた世界に対する殺意。


そして

狂気の域まで踏み込んだ、超悲観的な自分自身の思想に対する殺意。


98 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:09:26.61 ID:+oExVeOv0


何が現実だ。

何が世界だ。

何が本物だ。

何がリアルに於いて反映実現される有質量の全ての結果だ。



ふざけるな。

うそぶくな。

格好付けるな。



死ね


死ね


死ね


死ね



全部死ね。



殺す


殺す


殺す


殺す



全部殺す。


99 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:11:32.11 ID:+oExVeOv0


人間という生物が何かを否定し殺す性癖の生物なのだから


俺という人間は


俺を否定する世界を


あの子達を否定する世界を


手の平を返して俺に媚びへつらう様になった世界の不誠実さを


誠実で規則正しかった頃のお前が否定した、俺という人間も


何もかも否定して殺してやる。

100 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:15:10.81 ID:+oExVeOv0


二十数年に及ぶ彼の人生の中で培われた、狂人じみた自己否定と正義感が

彼の精神の中で不気味に共存していた。


自己否定という水

正義感という油

決して混ざり合わないはずの二つが

殺意という界面活性剤によって混ざり合っていた。


そして出来上がった、世にもおぞましいコロイド溶液が

彼の脳髄に流れ込み、言葉を刻む。



伊58は絶対に助け出す、と。


101 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:17:40.26 ID:+oExVeOv0


彼女は、雪風が自分の危険を顧みずに助けようとした子だ。

だから絶対に助ける。


あの子が笑顔になれるようにする。

この世が残酷であるからこそ

あの子をできる限り幸せにする。


それができなきゃ、雪風が悲しむ。雪風が、絶望してしまう。

それを見て、またあの絶望が顔を出す。

そうだこれが現実だ、と。お前は何一つ間違っていない、と。

そんな事には絶対させない。俺の思想は否定され続けなければいけない。


あの子が幸せになれない理由なんて何も無い。

あの子の幸せを否定する世界なんて俺がブッ殺してやる。


彼女の為にも、雪風の為にも、皆の為にも、俺自身の為にも

この話を

バッドエンドなんかで終わらせてたまるものか。

102 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:20:02.54 ID:+oExVeOv0



俺は、どんな手を使ってでも


伊58を助ける、雪風を幸せにする。


何を犠牲にしてでも


俺の、艦娘達を生き残らせる。


みんなを、幸せにする。


103 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:26:54.47 ID:+oExVeOv0


自惚れだろうな。

傲慢だろうな。

上手くいかないかもしれないな。



でも

それならそれで構わない。



それが、現実ってものだから。

それが俺を徹底的に否定する

本当の、正真正銘の、現実、世界だから。

現実に打ちひしがれ、絶望し、自分の命を絶つ。

俺みたいなクズは、クズらしくみっともなく格好悪く何の成果も残さずに死ねばいいだけの話だ。


格好付けた事を言って

失敗して

無様に手の平を返して

みっともなく死ぬ。


現実がわからないクズは、そうやって死んでいけばいい。

何も学ばなかったクズは、そうやって死んでいけばいい。

そうやってゴミみたいに死んでいく事が

俺に色々な事を教えてくれた

俺がどうしようもないクズ野朗だと教えてくれた

この世界に対する最大限の礼儀だ。

104 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:27:34.28 ID:+oExVeOv0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・



105 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:29:59.09 ID:+oExVeOv0



伊58「………」



伊58(ゴッパの、ゴッパの、手も、足も)

伊58(もう………)

伊58(これじゃあ、何の為に、逃げたのか…)


雪風「伊58さん、失礼します!」コンコン

ガチャ

伊58「………」

雪風「ご飯、お持ちしました!!」ニコッ

雪風「今すくうんでちょっと待っててくださいね!!」カチャン


雪風「……はい!あーん!!」

106 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:31:12.83 ID:+oExVeOv0


伊58「」プイ

雪風「あ……伊58さん」


伊58「いらないでち」

雪風「食べないと駄目ですよ。お腹空いちゃいます」


伊58「別にいいよ」

雪風「よくありません!それじゃあ死んじゃいます!!」




伊58「いいよ」


伊58「死んだって」



107 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:35:18.54 ID:+oExVeOv0


雪風「………!!」

雪風「…駄目ですよ」

伊58「何で?」

雪風「頑張って、頑張って生きていれば」

雪風「しれぇが、きっと何とかしてくれます」

雪風「何とか…」






伊58「 な ら な い よ ! ! ! 」






伊58「ゴッパの手も足ももう無いんだよ!?ずっとこのままなんだよ!?」

伊58「身体もぐちゃぐちゃにされて、綺麗じゃない!」

伊58「誰も好きになってくれない!!」

伊58「ずっとベッドの上で何もできないまま一生過ごすんだよ!?」

伊58「どうせこのままなんだったら、もう死んだっていいじゃない…!!!」


雪風「よく、ありません…!死ぬなんて…!!」

伊58「…何で、死んじゃ駄目なの?」

伊58「ゴッパを助けちゃったから?死なれたら気分悪くなるから?」

雪風「そうじゃ、なくて…!!」

伊58「………ねぇ」





「何で」



「なんでゴッパを助けたの?」




108 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:37:16.48 ID:+oExVeOv0



「なんでゴッパを助けたの?」



「何であそこで死なせてくれなかったの?」



「あのまま死んでいたら、こんな思いしなくて済んだのに」



「何で!?」



「何で助けたの!?」



「誰が助けてって言ったの!?」



「どうせゴッパはゴッパなんだよ!!」



「生きていたってしょうがないんだよ!!!」



「なのに何で!?」




「何で!?」





「何で!?」





「 何 で ! ? 」





「 何 で ! ? ! ? 」




109 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:39:13.55 ID:+oExVeOv0


雪風「…それは………」





伊58「………疫病神…!!!」ボソッ





雪風「………ッ!?!?」

伊58「あそこで死なせてくれればよかったのに…」

伊58「余計な事をしたせいで、ゴッパは死ねなかったんだよ…!!」

伊58「あのまま、死んでいれば、よかったのに…!!」


雪風「…ちがっ、う」

雪風「そんな、事、そんなつもりで…!!」





伊58「 疫 病 神 ィ ! ! ! 」




110 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:44:28.17 ID:+oExVeOv0



伊58「疫病神!!」



伊58「疫病神!!!」



伊58「疫病神ッ!!!!」



伊58「もう出てってよ!!!疫病神ィッ!!!!!」



伊58「もう生きていたくないんだよぉ!!!」

伊58「このまま死なせてよぉ!!!!!!!」


雪風「う……ッ!!…あぁああ、あああう……!!!」ダッ

バンッ

ダダダダダダダダ!!!!




伊58「………」


伊58「………あはっ」


伊58「あはは、あははははっ………」



111 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:46:24.70 ID:+oExVeOv0



「死ね………」



「死ねばいいんだ………!!」




「ゴッパなんて…」



「さっさと」



「死んじゃえばいいんだ………!!!」



112 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/02(火) 21:52:03.92 ID:+oExVeOv0

☆今回はここまでです☆

もうすぐ春イベント開催ですね。
備蓄や練度、時間を考慮して無理をしないように楽しんでいきましょう。

あと

最近デレステ始めました^^
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/03(水) 20:39:26.69 ID:0qKXY6Jso
おつにゃ
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/08(月) 10:14:42.15 ID:EvsQ6Iyho
>>112は中居君説
115 : ◆ZFgfLAc.nk [saga sage]:2017/05/16(火) 00:29:00.40 ID:jxOAwOyV0
>>1です。
皆様、春イベントの進捗はいかがでしょうか。>>1は現在最終海域を攻略中です。
期間いっぱいまでイベントに集中したいので、こちらの投下はまだ時間がかかりそうです。
ご了承の程、どうかよろしくお願い致します。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/16(火) 17:11:58.98 ID:x0ZwpZAfo
うぃー
117 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 21:58:57.31 ID:/Q/DuN7B0
>>1です。春イベントお疲れ様でした。
>>1は何とか最終海域まで攻略し、新規艦娘は全て集められました。
個人的な感想ですが、最近は以前のイベントに比べて新規艦娘のドロップ率が上がっているように感じます。
前回も伊13があっさりひょっこり出てきたので、もしかして調整されたのでしょうか。

それでは投下を始めさせて頂きます。
118 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 22:06:47.48 ID:/Q/DuN7B0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・



119 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 22:10:03.92 ID:/Q/DuN7B0


走る。


走る。


走る。


廊下は走ってはいけません。


そんな、ずっと聞いてきた言葉も投げ捨てて。

行く当てもなく走る。

あの部屋から離れるために。

何かから逃げるように。

視界が涙で滲み、脱水症状とショックで頭がガンガンと痛む。


「疫病神」

頭の中で声が反響する。

違うと否定する。その度に声が大きくなる。


「疫病神」

そんなつもりじゃなかった。傷付ける目的で助けるつもりじゃなかった。


「疫病神」

本当に助けたかった。何とかしたいと思っていた。


「疫病神」

だが、反響する声が


「疫病神」

少しずつ変わっていく。


「疫病神」

聞き覚えの無い、聞きなれた声。


「疫病神!!」

自分の声。


「疫病神!!!」


こだまのようでこだまでない。

自分の声が同じ言葉を繰り返し、繰り返し、繰り返し、叫んでいる。


「疫病神!!!!」


まるで自分に言い聞かせるように。



「そうさ!私は疫病神さ!!!」


120 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 22:13:58.14 ID:/Q/DuN7B0


突然沸いた強烈な違和感を感じ取る事で、雪風は寸での所で思考を切り離せた。


「………誰…ですか!?」

頭に響く声は自分のものではない。他の誰かのものだ。

他の誰かが、自分に言い聞かせようとしている。

その自己弁護的な考えが彼女の声帯に干渉し、震えさせる事でその危険な思考を自分から切り離した。

だが、頭に響く声は雪風の脳髄に追撃をかける。


「今言ったでしょう?私は疫病神」

「陽炎型駆逐艦八番艦」

「雪風」

「奇跡の駆逐艦」

「呉の雪風」


一気に畳み掛けられる情報に雪風の思考が置いてかれた。

何を言われているのかがわからない。理解しきれない。

表情は読み取れないはずなのに、まるで全て見えているかのように、頭の中の声が雪風の混乱を汲み取る。


「まだわからない?」

「私は雪風」

「陽炎型駆逐艦八番艦、雪風」

「その魂」

「あなたは私の魂を受け入れて、艦娘になったのでしょう?」


先程とは打って変わり、彼女を落ち着かせるように、彼女の思考が追いつくのを待つように

ゆっくりと、ゆっくりと、優しく語り掛ける声によって、雪風の思考が落ち着いていく。

121 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 22:17:40.28 ID:/Q/DuN7B0


艦娘は、それぞれの元となった艦船の魂を取り込む事によって人間から生まれ変わる。

船の記憶を、戦闘の知恵を、技術を受け継ぐ事で艤装を動かす力を、深海棲艦に対抗する力を得る。

ここに居る雪風もまた、例外ではない。


彼女は陽炎型駆逐艦八番艦雪風の魂を取り込み生まれた

陽炎型駆逐艦八番艦娘、雪風型艦娘の一人だ。


その事実を思い出し、雪風の思考の荒波が落ち着いていく。

122 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 22:19:20.72 ID:/Q/DuN7B0


その様子がまるで見えているかのように、頭の中の声が言葉を続ける。



先程までのような


言葉の刃を以って、雪風の心に詰め寄っていく。



「そう。だから私達は二人揃って疫病神」


「二人揃って」



「死神」


123 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 22:22:16.67 ID:/Q/DuN7B0


背筋に悪寒が走る。

背筋に走る冷たさは痛みと化して心臓に突き刺さる。

痛みは恐怖を助長する。

自分の考えが、存在が否定される恐怖を、助長する。

追い討ちをかけるように頭の中の声が畳み掛けていく。



「あの時も」


「あの時も」


「あの時だってそうだった」


「いつもいつも」


「自分だけが生き残って」


「自分以外は」



「みぃんなみぃんな死んじゃった」


124 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 22:26:27.32 ID:/Q/DuN7B0


あの時。あの時とは何だ。


一瞬の疑問の後


何かを絞り取るように前頭葉が圧迫され


脳髄と心臓に情報が流れていく。


彼女が体験した事の無い記憶。



軍艦雪風の魂の記憶。


125 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 22:38:26.32 ID:/Q/DuN7B0



「第三次ソロモン海戦」

それは、煙。



「ビスマルク海海戦」

「ダンピールの悲劇」

騒音。


「コロンバンガラ沖海戦」

視界を塞ぐ大雨、スコール。


「レイテ沖海戦」

海に飲み込まれていく人間。


「坊ノ岬沖海戦」

爆音と轟音、渦と人と、エンジン音。



「とか!」

「とか!」

「とか!!!」


許容しきれず、脳髄と心臓から溢れ出す様々な光景が身体を締め付けていく。

その光景は感情と言う名の刺激をもたらす粘液を周囲に広げていく。


恐怖

絶望

諦念

激情

不満

不服

困惑

殺意


「私の周りはみぃんな死んじゃった!!」

「私だけが!!平然な顔して生き延びた!!」



そして、罪悪感。


126 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 22:55:27.49 ID:/Q/DuN7B0


「幸運の艦?違う!!」

「雪風は、死神!!」

「雪風が生きる為に、みんなが死んだの!!!」

「雪風のせいで、みんなが死んだの!!!」


それは違う、と声にならない思考で反論する。

その弱弱しい反論を殴り飛ばし、声が雪風を追い詰めていく。


「違う!?違わない!!」

「雪風が幸運の艦であるからこそ、他の誰かが不幸を被る!!」

「雪風が生き残り続けるからこそ、他の船が沈み続ける!!!」

「誰かが幸運を得るという事は、他の誰かが代わりに不幸を被るという事!!」

「誰かが幸せになるという事は、他の誰かが不幸せになるという事!!!」

「雪風はその実例を見たはず!!!」

雪風は逃げてしまいたくなる感情すら否定され、一方的に放たれる言論の最前線まで引きずり出された。

「忘れたとは言わせない!!!」

忘れた、と言ってしまいたい。このまま逃げてしまいたい。

怖い。嫌だ。だが許されない。

自分の喉から新たな目と口が生え、意志を持ってこちらを見ているように感じる。

自分自身のものだが、自分自身のものではないかもしれない。だが、それが自分の一部である事は確かなのだ。

その自分の一部が、逃げる事、拒否する事を絶対に許さない。

雪風は、ただ下を向いて沈黙するしかなかった。

頭の中では気付いている。何の事を話題に上げられているか。

だが、それを雪風自身の口で説明できなかった。

それを説明するのが、怖くてたまらなかった。

だから、沈黙するしかなかった。



そのまま数秒の沈黙が続き、


雪風の、見えない、新たな口が開いた。


127 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 22:59:22.47 ID:/Q/DuN7B0


「伊58を救出した時」

「雪風は周囲の確認を怠り、魚雷の接近に気付かなかった」


あの痛みを思い出す。

後悔と、痛みと、無念を思い出す。


「本来ならばそのまま魚雷の直撃を受けるはずだった」


そして、一つの疑問も共に思い出す。

本来ならばそのまま魚雷の直撃を受けるはずだった。

だが、現実はそうならなかった。

あの時

確かにこちらに向かって、真っ直ぐに魚雷が突き進んでいたのを見た。



「なのに何故魚雷が逸れた!?」



不自然に逸れた魚雷。


川内の一撃で沈む敵艦。


嬉しかった。


安心した。


これで上手くいくと思った。


だけど、何故?何故魚雷が逸れたのか?

128 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 23:07:36.07 ID:/Q/DuN7B0


「そう、それこそが」

駆逐艦雪風の力?

「そう!」

「幸運の艦の力!!」

「全ての摂理を捻じ曲げ!他人を踏み躙り雪風だけが生き残る!!雪風の幸運の力!!!」

あの出来事そのものが、艦娘雪風を死神である覆しようのない根拠?

「そう!!」

「異能の力!死神の力!!!」

違う。そんなはずはない。

「なら何故魚雷が逸れた?」

「魚雷があんな不自然な動きをするのか?」

「説明できる?納得のいく説明ができる?」

「何故?」

何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
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何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
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何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
129 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 23:10:06.52 ID:/Q/DuN7B0


雪風の思考が無限のループに入る。

瞳孔が開いた瞳は前を見ているようで見えていない。

新たな情報収集能力を全て切り離し、思考の無限ループを繰り返す。

ループの出口は見えているが、それを無視してあえて延々と回り続ける。

その出口にたどり着いた瞬間、何が起こるかを彼女は予想していた。


説明できない。その結論に至ることがループの出口なのだ。


その結論が怖かった。だから彼女は永遠のループを自ら望んだ。

何故、と感じる事を続け、何故、と考える事を止めた。

考えればすぐに答えが出るが、それこそが彼女が一番恐怖を感じるものだからだ。

だが


「何故か!?」

「それが雪風の幸運の力だからだ!!」

声が、強制的に無限ループの出口に雪風を引きずり込んだ。

130 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 23:12:06.40 ID:/Q/DuN7B0


「雪風の幸運の力が!!雪風を生かそうとして!!」


「雪風以外の全てのものを殺していく!!」


「みんなみんな殺して殺して!!雪風だけが平気な顔して帰るの!!」


「みんなみんな!!雪風のせいで死んじゃったの!!」


「みんなみんな!!雪風のせいで不幸になったの!!」


「だって雪風は死神だから!!」


「だって雪風は疫病神だから!!」


疫病神。

今彼女の身に降りかかる全てが、彼女の頭の中で繋がった。


「あの子の言うとおり」

「雪風が余計な事をしなければ、あの子が今苦しむ事もなかった」

「雪風はあの子を助けて、良い事をしたと思っているでしょ?」



「これで、司令から褒められると思ったでしょ?」


131 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 23:15:18.52 ID:/Q/DuN7B0


そうだ。


そうだ。


そうだ。


伊58を助けたいと思った一つの理由にそれがあった。

遠征をやり遂げた上、艦娘を救助すれば、司令は雪風を褒めてくれる。

その時の快感と安心感、心地よさが欲しくてたまらなかった。

予想以上の功績を成し遂げた自分だけに笑顔を向けて、労ってくれる。


誰かと同じではない。平等ではない。

自分だけ。


自分だけがそれを独り占めできる快感が

それを享受する快楽が


欲しくて


欲しくて



欲しくて



欲しくて



欲しくて



132 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 23:16:34.35 ID:/Q/DuN7B0



「よくわかるでしょう?」



「雪風の幸運が」



「多くの不幸と引き換えにもたらされているんだって」


133 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 23:18:26.18 ID:/Q/DuN7B0




命綱のように大切にしていた何かが、支えが、一瞬にして消え去った。



134 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 23:28:24.31 ID:/Q/DuN7B0


足の力が抜けて、がくんと膝から崩れ落ちる。

腕を体の支えにして、床に頭をぶつけるのを防ぐ。

重い。腕が重い。身体が重い。精一杯突き出した腕が震える。

下唇を噛む、殆ど見えていない視界が涙で更に歪み滲み、頭痛がどんどん酷くなる。

許容量を超えた涙が床に落ち、びち、という音と共に弾け飛ぶ。

こめかみから感じる脈動と激しくなる心臓の鼓動。

感情という激流が質量を持って脳髄という容器内を駆け回っているかのように、頭が僅かに、びくびくと動く。

精一杯突き出した腕が震える。

何故こんな事をしているのか、それすらもわからなくなっていく。

何故こんな事に力を入れているのか。何に精一杯になっているのか。

楽に、楽になってしまいたい。もう嫌だ。

何もかもが、自分自身が、もう嫌だ。

135 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 23:29:54.30 ID:/Q/DuN7B0


雪風は

疫病神だ。

雪風の利益の為に

他人を傷付け

殺し

滅ぼす。

無意識に

無差別に

無造作に

雪風の幸福の為に

他人を不幸にしていく。

他人を蹴落としていく。

賤しい

浅ましい

死神

疫病神。

136 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 23:36:24.29 ID:/Q/DuN7B0


視界が暗くなる。

彼女の精神に呼応するように影が差す。

彼女が見てしまった、暗い世界が具現化されたかのように視界が暗くなる。

世界そのものが、暗くなってしまった。

光が遮られ、影が差してしまった。

影の根っこの部分から声が聞こえる。

雪風を呼ぶ声が聞こえる。

雪風にそれは聞こえなかった。

どんどん世界が暗くなっていく。

影が濃くなっていく。



そして



「雪風ちゃん」


「大丈夫?」



透き通った声が雪風の耳元に響いた。

137 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 23:45:13.11 ID:/Q/DuN7B0


気品、落ち着きと幼さを両立した独特の色気を持つ声。

自分の声とも頭の中に響く声とも違う声。

声の主が誰なのか、その情報を求めて雪風が本能的に頭を上げる。


彼女の視界に影を差していたその女性は、平均女性よりもはるかに大きい。

だが赤と白を基調とした服装と首元で輝く桜の紋章が、彼女の姿を逆光の中でも映し出す。

どんな暗闇の中でも存在感を出し続ける為にあるようなその佇まい。

太陽神、天照大御神の依代、と豪語しても尚説得力の感じられる優美さと力強さを兼ね備えたその姿。



艦娘の存在が世に知れ渡り、彼女達の元となったかつての軍艦にも注目が集まるこの現代で

今や彼女の名を知らない日本人は一握りしかいない。

そして彼女の存在を知らない軍人はいない。

当時の最高技術を粋を結集し、決戦兵器として誕生した戦艦の中の戦艦。




彼女の名は




「大和、さん」




超弩級戦艦




大和型一番艦




大和



138 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 23:48:33.65 ID:/Q/DuN7B0


「凄い顔色」

「何かあったの?」

膝を付き、背を丸め、白い手袋に覆われた細い腕を雪風に伸ばす。

細く長い指が雪風の涙を拭い取った。

「立てる?」

優しく語りかける大和に心配させまいと雪風は、はい、と答えて立ち上がった。

立ち上がれた。立ち上がれたが、その声は彼女の想定以上に弱弱しく、勢いも無かった。

大和はその様子を見て、眉尻を下げた。


「私に…ううん、私達に何かできる事はないかな?」

「私が駄目でも、香取なら、何とかなるかもしれないから」

「何があったか、聞かせて貰える?」

同じ目線の高さで、大和は新たに涙を滲ませ始めた雪風の目を見ながら言った。


「遠慮しないで」

香取とは、練習巡洋艦香取型一番艦娘香取の事だ。

U-511、雪風、香取、そして大和。

艦種も、艦級も、年齢も、国籍すらも異なる彼女達は

「同期なんだから」

トラック諸島海域における大規模作戦後、四人揃ってこの泊地に着任した

文字通りの同期の仲、であった。



「まぁ、とりあえず」

「ラムネ飲んで落ち着こ?」


139 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/05/30(火) 23:54:34.42 ID:/Q/DuN7B0

☆今回はここまでです☆

仮面ライダーアマゾンズが滅茶苦茶面白い。
アマゾンアルファ、鷹山仁の性格も生き様もかっこよすぎる。
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/30(火) 23:56:54.02 ID:8W9gRsP4o
おつかーレ
141 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/08(木) 21:22:28.66 ID:yhZYf5qW0
>>1です。
投下を始めさせて頂きます。
142 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/08(木) 21:25:10.73 ID:yhZYf5qW0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・



143 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/08(木) 21:40:55.98 ID:yhZYf5qW0


香取「提督、失礼します」ガチャ

提督「あれ、どうしたの?三人揃って」

雪風「しれぇ…」


香取「提督、お忙しい所申し訳ございません」

提督「あー、気にしないで?こんなもん大規模作戦の時に比べりゃなぁ」

提督「ま」

提督「俺ぐらいになるとそれでも秘書艦いなきゃやってられんけど、ねぇ?」

如月「ふふっ」



提督「それで、どうしたの?」

大和「雪風ちゃんが、提督に聞きたい事があるみたいなんです」

大和「ちょっとお時間頂いてもよろしいでしょうか?」

提督「雪風が」


雪風「………」

提督「………」

提督(………雪風)


提督「わかった」

提督「…ん、じゃあ大和と香取は付き添い?」

香取「えぇ…まぁ、そんな所です」

提督「そっか」

144 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/08(木) 21:48:27.59 ID:yhZYf5qW0


提督「大和、香取」

大和「はい」

香取「何でしょうか」


提督「雪風の事、気にしてくれてありがとう」


大和「!!…いえ、そんな、お礼なんて」

香取「そうですよ。当然の事をしたまでです」


提督「それでもだ」

提督「それでも、本当にありがとう」


大和「提督………」

香取「…どういたしまして」ニコッ



提督「じゃあ後の事は俺に任せて…あ、そういえば」

大和「?」

提督「アレ…届いてるんだったよな、如月?」

如月「えぇ。ちゃんと届いてるわよ。届いたそのまま、明石さんに渡してあるわ」

大和「!!」

提督「そっか。ありがとな、如月」

提督「じゃあ大和は工廠に向かってくれ。早速やりたいでしょ?」

大和「はい!」

提督「俺も楽しみにしてるよ。頑張ってきな」

大和「はい!」


提督「香取と如月も席外してくれ」

提督「雪風と二人きりで話がしたい」

如月「…わかったわ」


如月「ねぇ香取先生」クルッ

香取「はい、何でしょう?」

如月「私、香取先生に色々聞きたい事があるんです」

如月「丁度良い機会だし…ちょっとお時間頂けますか?」

香取「いいですよ。私でよろしければ」

如月「香取先生じゃないと駄目なんですよ」


如月「香取先生じゃなきゃ、ね?」

145 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/08(木) 22:00:56.58 ID:yhZYf5qW0


大和「それじゃあ雪風ちゃん。また後でね」


バタン、ツカツカツカ…


雪風「………」

提督「………」


提督「で」

提督「どうしたんだ?話って」

雪風「………」

提督「言いにくい?大丈夫だよ」

提督「もし変な事言っちゃったって、忘れてくれって言われたらちゃんと忘れるからさ」

雪風「………」

提督「………」



提督「伊58と何かあったんだろ?」



雪風「え!?」

提督「騒ぎがあったってのは青葉から聞いた」

提督「それが本当かどうかまでは、実際に見たわけじゃないから知らないけどね」

提督「…本当なの?」

雪風「………」コクン

提督「そっか。それで、何があったの?」




雪風「しれぇ」

雪風「雪風は」

雪風「疫病神なんですか?」



146 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/08(木) 22:06:41.53 ID:yhZYf5qW0


「こんな事なら、死んでいた方がましだったって」

「何で助けたんだって」

「雪風は、ただ、助けたかっただけなのに」

「なんで」

「なんでこんな事になっちゃうんですか」

「雪風が」

「雪風だからですか」

「しれぇ、雪風は、疫病神なんですか?」

「死神、なんですか?」


提督「………」

提督「伊58に、そう言われたのか」


提督「雪風、伊58はな」

提督「自分の今の状況を受け入れられなくて、頭がぐちゃぐちゃになってるだけだ」

提督「あんな事があった後だ、何があっても嫌な気持ちになるのはわかる」

提督「その気持ちを抑えきれずに、近くにいた雪風にぶつけた」

提督「理由なんてないけど、そうしないとあいつ自身が持たない」

提督「…あいつなりに、雪風に甘えてたんだよ」

提督「それだけだよ」

提督「それだけだから、あまり思い詰めないで」


雪風「………」

提督「雪風は人の命を助けたんだよ?」

提督「そうしたいって思って、行動したのは絶対間違ってない」

提督「本当に立派な事をやったんだ。他の誰が何て言っても、俺は絶対そうだって思う」

雪風「しれぇ………」

147 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/08(木) 22:12:03.15 ID:yhZYf5qW0



「立派、立派だって!立派だって司令が褒めてくれた!」

「やっぱり褒めてくれた!司令は優しいよね!」

「でも、あの子がいなきゃ褒めてくれなかったんだよ?」

「今雪風が幸運なのは、あの子が不幸になったからだよ?」



「わかってる?」



「あの子がいなきゃ、雪風は褒められなかった」

「あの子が楽に死ねていれば、今雪風は司令に褒められていなかった」

「雪風が司令に褒められたから、あの子は今も辛い思いをしなくちゃいけなくなった!!」


「雪風の幸運のせいで」

「あの子が不幸になったんだって!!!」


148 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/08(木) 22:19:56.06 ID:yhZYf5qW0


雪風「」ビクッ

提督「………」スッ

提督「隣に行ってもいいかな?」

雪風「え?」

提督「まぁ、もう来ちゃったけど」ボスン

雪風(わ、わ…しれぇが、すぐ隣に)


提督「…本当に立派だよ、雪風は」ポンポン


雪風「ひゃっ」

提督「焦って単独行動したのはちょっとアレだけど、人の命を救ったんだ」

提督「立派だ。本当に立派な、艦娘だ」

雪風「しれぇ………」



雪風(でも…)

「でもそのせいであの子は不「でも」

「何か隠しているな?」


149 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/08(木) 22:35:30.01 ID:yhZYf5qW0


物理的に鼓膜を揺らすその声に、頭の中から聞こえる声が掻き消された。

一瞬の内に起こった予想外な状況の変化に対応しきれずに雪風は、え、と声を漏らす事しかできなかった。

頭の中の耳障りな声を掻き消した声の主の顔を見る。



暖かい手で雪風の頭を愛撫していたその声の主の顔は、目は


冷たく、冷酷に、雪風を見ていた。



「こちらが信じられないとかそういう事はどうでもいい」

「お前には他に何かあったはずだ」


雪風の頭からするりと落ちた手が


彼女の頬をかすり


肩にずしりと圧し掛かった。



「言え」


「言わなきゃ」


「懲罰室だ」


150 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/08(木) 22:53:29.21 ID:yhZYf5qW0

☆今回はここまでです☆

また近いうちに書きます。できれば明日。
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/08(木) 23:51:48.30 ID:IWLIg6UBo
おつかーレ
152 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 20:14:59.65 ID:RYMOEHea0
>>1です。
投下を始めさせて頂きます。
153 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 20:25:50.56 ID:RYMOEHea0


雪風の心臓にぐ、と一瞬圧力がかかり

その圧力が解き放たれた反動で跳ね上がった。

言い放たれた言葉を受けて

軍艦雪風の記憶が知識を引きずり出す。


懲罰室。

懲罰房。

営倉。

規則に反した者、問題行動を起こした者が一定期間収容される収容部屋。

懲罰室。

この、小さなパラオ泊地にそう明記された部屋が確かに存在する。



だが

今この泊地に所属する艦娘の中に、本当に提督から懲罰を受けた者は誰一人いない。

今この泊地に所属する艦娘のほぼ全員が、その部屋の真実を知っているだろう。

懲罰室と呼ばれる、その部屋で行われている本当の事を知っているだろう。

その部屋の様子の殆どが青葉の手によって泊地中にばら撒かれているからだ。

それは、動画ファイルとして、泊地内で完結する娯楽の一つとして、1つ数百円程度で販売されている。

雪風も興味本位でいくつか購入した。

そのファイルがどういうものか、初めから何が起こっているかは予め青葉から伝えられていた。

それでも、それをわかった上でも、興味が抑えられなくて手を出した。


部屋に戻ってファイルを開く時の、高鳴る心臓と震える指を雪風は忘れられない。

そしてそのファイルの中身も、雪風は忘れられない。


154 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 20:31:51.73 ID:RYMOEHea0


圧力から解放された心臓は激しく動き、血液を勢い良く全身に循環させる。

身体の隅まで循環した血液の一部が、雪風の身体の一部に集まりだす。

雪風は、自分の顔が熱を帯びていくのを感じていた。


「でも」

「信じてもらえない、です」

雪風は赤くなる顔を隠すように、俯いて言った。

目を見られるのを避けるように、俯いて言った。

雪風は、彼女が今抱いている感情がバレてしまう事を怖がったからだ。

懲罰を受ける者として決して抱いてはいけない感情を、今彼女は抱いていた。

否、彼の口から伝えられた懲罰という言葉を、懲罰という概念とは別物として捉えていた。


だが、雪風の言葉を受けて、肩に置かれた手が重くなる。

「俺が信じる信じないの問題じゃない」

「言え」

「全てこの場で言うんだ」

155 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 20:50:10.22 ID:RYMOEHea0


手が、雪風の身体を押し倒す。

柔らかなソファに頭がめり込み、その勢いのまま首ががくんと上を向く。

雪風の頭の横に提督の手が置かれ、視界が暗くなる。

雪風という少女の身体が、提督という男の身体に覆い被さられていた。

彼女のすぐ傍に置かれた手の支えが失われた瞬間、彼女の身体は提督の身体で押し潰されるだろう。

そのイメージを抱き雪風の心臓が、型落ちの洗濯機にでもなりたいかのようにさらに激しく動き始める。


視界に提督の顔が移る。

彼は、あまりにも冷たい目を以って雪風を見ていた。

スパイを尋問する特別高等警察かの如く、

雪風の様子を、雪風の心情、雪風の内面まで全て覗きこみたいかのように

じっと、冷酷な目で雪風を見つめていた。

156 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 20:55:59.04 ID:RYMOEHea0


「何でそこまで意地になるんだ?」

諭すように語り掛けていた口調も、棘がある口調に変わっていた。

「変な事を言うのがそんなに怖いか?」

赤みを帯びていない仮面のような表情で、抑揚の無い声で、雪風を責め立てる。

「何だろうが言えば終わるのによ」

雪風の内側に捩じ込まんとする暴力的な意志を以って、雪風を責め立てる。


「俺もそろそろ我慢の限界だぞ」

「お前がそうやって黙秘決め込むんならな」



「もうここで」

「直々に懲罰してやろうか」


157 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 21:03:23.62 ID:RYMOEHea0


提督の手が雪風の太腿に触れた。

熱を帯びた手が、雪風の痛覚を刺激し、くすぐったさと快感をもたらす。

その手が有無を言わさず雪風の服の中に滑り込み、

腰の部分の何かを掴んだのを彼女は感じた。


片腹に感じる圧迫感。

片腹に感じる僅かな開放感。

鼠蹊部に触れた提督の爪の感触に、雪風は目を見開いた。

158 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 21:04:33.37 ID:RYMOEHea0


「わかるか?」


「今お前の下着に指をひっかけた」


「俺がこの手を引っ張ったらどうなるか」


「わかるな?」

159 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 21:19:45.23 ID:RYMOEHea0


冷たい目のまま、雪風の目だけを見ながら、提督は警告を出した。

彼が望む事を雪風が言わなかった場合、どうなるか。

どうなってしまうのか。

否が応にも浮かんでしまう未来のビジョンが壊れたビデオのように様々な光景を映し出す。


「言えばいいんだよ、言えば。そうすれば終わりだ」

「言わなきゃ」

「もっと酷い目に遭わせる」


冷たい言葉が雪風の身体を熱くする。

無意味に肩が動き、ソファにめり込んでいく。


義務感

親近感

好奇心

そして抑えきれない衝動が頭の中で駆け巡る。


思考回路がショート寸前になっても激しく循環し続ける。

酸素が足りなくなり、呼吸が荒くなる。

表情を隠すという事すら考えられなくなり、視界から提督を外す事ができなくなる。


感情を制御できなくなり溢れ出した涙。

その目は

僅かな恐怖と

あまりにも大きな期待で鈍く輝いていた。

160 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 21:21:29.91 ID:RYMOEHea0


このまま


このままいったら


雪風は


雪風は


雪風は


雪風は


雪風は


雪風は

161 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 21:33:53.97 ID:RYMOEHea0



「声か」



緊張感が抜けた声が雪風を現実に引き戻す。

「頭の中から声が聞こえてきたんだな?」

「伊58からそう言われた辺りから?」

その一言で、酔いが覚めた。

雪風を苦しめ始めた頭の中の声。

その存在を提督がズバリ言い当てた事で、雪風の目が覚めた。

その存在を認識し始めた時までズバリ言い当てられた事で、雪風の意識は完全に現実に戻った。

「な、なんでわかったんですか?」

目をぱちくりさせながら正直な疑問を口にした雪風を見て、提督が微笑んだ。

先程まで冷酷非道な拷問官のような表情を浮かべていた男が、僅かに顔を赤らめて微笑んだ。

「やっぱりそうか」

雪風の腰を掴んでいた手が離れ、引き抜かれた。

雪風の口から、あ、という声が漏れると同時に、彼女の視界を覆っていた影、提督の身体が彼女の視界から離れていった。

雪風はそれを名残惜しそうな目で見ていたが、提督は後方確認しながら体勢を立て直していたため、それを見る事はなかった。



その提督の様子はまるで、今の雪風の目を、表情を見たくないかのようにも見えた。


162 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 21:36:51.49 ID:RYMOEHea0


提督「雪風、それはな。お前が思っている以上によくある事だよ」

提督「全然変なことじゃない。辛い事だけど、結構な人数が体験していることだよ」

提督「だから抱え込もうとしないで」

雪風「………」

提督「で」

提督「そいつは何て言ってたの?」


雪風「…雪風は疫病神だ。死神だって」

提督「うん。何でそいつは雪風の事をそう言ったの?」

雪風「雪風が生きる為に皆が死んでいったって」

雪風「軍艦だった頃から、雪風はそうやって生きてきたって」

提督「幸運の駆逐艦…呉の雪風…だっけか」

提督「でも、ここにいるお前(雪風)はそうとは限らないんじゃないか?」


雪風「でも!!」

雪風「雪風に当たるはずだった魚雷がいきなり変なほうに行ったんです!!」


雪風「魚雷がぐるって向きを変えて、雪風を避けるように進んで…」

雪風「そんなの、そんなのありえない」

雪風「まっすぐ進む魚雷がいきなり曲がるなんて」

提督「………」

提督(幸運の駆逐艦か………)

163 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 21:37:45.44 ID:RYMOEHea0



「伊58ちゃんの首輪の爆弾、壊れているみたいです」


「私が中開けた時には、もう丸焦げのボロボロでしたよ」


「だから爆発する事はありません」


「機械に不具合が起こってほんの小規模な爆発…首輪の機械を壊す程度の爆発になったか」


「そうじゃなかったらやっぱり不具合で高温になって配線を焼き切っちゃったか」


164 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 21:40:34.78 ID:RYMOEHea0


提督(機械の故障…か)

提督(あれも、俺達にとってはラッキーだったな)


提督(伊58の首輪が爆弾で、それが途中で爆発する事がなかった事も)

提督(雪風が、爆発に巻き込まれることがなかった事も)


提督(本当にラッキー。幸運だった)



提督(………でも)

提督(くだらねぇな)


165 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 21:43:50.35 ID:RYMOEHea0


提督「雪風」

雪風「はい!」ビクッ



提督「」ムニュ

雪風 )・3・( プエ



提督「落ち着けー」

提督「魚雷が勝手にルートを変えて逸れてったって」

提督「それ、俺一つ思い当たるもんがあるぞ」

雪風「んえ?」パッ

提督「ちょっと待ってろ」

166 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 21:53:35.82 ID:RYMOEHea0


提督「伊58見つけたのって、南西諸島海域方面だったよな?じゃあ、これか?」ドス

提督「で…あれだろ。川内と合流した辺りでの話ならー」パラパラ

提督「この辺か」トン

雪風「はい」

提督「なら確定だ」



提督「海流だ」



雪風「海流?」

提督「ほら、これ見てみんしゃい」

提督「この辺はな、ちょうど異なる海流の境目なんだ」

提督「いくら魚雷が勝手に進んで行くとはいえ波には流されちまう」

提督「お前はその境目に立っていたんだ」


提督「だから」

提督「魚雷はお前の目の前で逸れた」

提督「奇跡でも魔法でも何でもない。よくある話だ」

167 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 21:55:44.43 ID:RYMOEHea0


雪風「じゃあ、何で」

雪風「何で雪風はそんな所にいたんですか?」

提督「え?」

提督「………」

提督「雪風、血液型A型でしょ?」

雪風「はい。A型です」

提督「あははやっぱり!」



提督「俺と同じだ」


168 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 21:57:33.69 ID:RYMOEHea0


雪風「………」

提督「…理由があるとすると」

提督「絶妙なタイミングで勘が働いたから、じゃないかな?」


提督「周囲を警戒しないで突っ込むっていうミスをしたけど」

提督「絶妙なタイミングで勘を働かせてそのミスを挽回した」

提督「雪風に魚雷を命中させる事しか意識が行ってなかったイ級は川内の接近に気付かず」

提督「直撃喰らって無様に沈んだ」


提督「そういう事だろ?」

169 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 22:00:06.31 ID:RYMOEHea0


提督「あまり考えすぎるな」

提督「でもな、これだけは覚えておいて」


提督「お前が周りから幸運艦と呼ばれようと、奇跡の駆逐艦と呼ばれようと」

提督「奇跡だとか運で全部片付けられるほどこの世界は甘くはねぇ」


提督「何が起こるかとか、何が生まれるかとか、誰が何を感じるとか」

提督「全部全部、何かが重なって出来上がったものだ」

提督「火山の爆発も、病気の感染も、何らかの要因があって起こるものだ」


提督「それを人間は全部理解しきれない」

提督「人間には全部理解出来るほどの能力がない」

提督「でも、そういう自分の無能さを隠したがるもんだ」



提督「だから、自分の無能さを誤魔化す為に」

提督「運なんて言葉で自分を守る」


170 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 22:02:37.31 ID:RYMOEHea0



提督「運が悪かったから駄目だった」


提督「不幸だからしょうがない」


提督「そうやって自分を守る方便で取り繕って」


提督「考える事をやめちまう」


提督「その、運に酔っちまうんだよ。で、物語の主人公にでもなったかのように振舞う」


提督「馬鹿ばかりだよ。てめぇが主人公なんかになれるわけがねぇのに」


提督「そうやって諦める奴にはせいぜい死体A役くらいが関の山なのに馬鹿みたいに高望みしてな?」



提督「それよりかは何でそうなったか、どうすりゃいいかを考えて行動していった方がよっぽどマシだ」

提督「そうやって色々試して、試して得た経験を次に活かしてどうすりゃいいかを考えて、また試す」

提督「一生不幸だ不幸だ何て言って思考停止するよか、よっぽどマシだ」


提督「こういうのを巷じゃPDCAサイクルって言うんだ。覚えておきな」

雪風「ぴーでぃーしーえーサイクル」

171 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 22:07:17.11 ID:RYMOEHea0


提督「こんな所かな?雪風」

提督「俺はお前の事を奇跡の駆逐艦だなんて全然思わない」

提督「所詮は一駆逐艦娘、一人の人間としてしか見ていない」

提督「お前の頭の中の声は、雪風の事をどこぞのロボットアニメの主人公だとでも勘違いしてるみたいだけどな」



提督「はっきり言うぞ」

提督「俺も、お前も、物語の主人公なんかじゃない」



提督「この世界に数え切れないほどいる有象無象のうちのたった一人だ」

提督「世界はお前を中心に回っているわけじゃないし、全てお前の思い通りにいくはずもない」



提督「お前を生かす為に他の全てを無意識に犠牲にする?」


提督「違うね」


提督「周りにいた奴が馬鹿やらかしたから結果的にそうなっただけだ」


提督「人殺しも厭わないどうしようもないクズどもがキチガイみたいに攻めてきたから結果的にそうなっただけだ」


提督「雪風と、それ以外で決定的な違いがあったから結果的にそうなっただけだ」


提督「それを幸運だの不幸だので誤魔化されてるだけだ」


提督「雪風がどうとか、そんなもんは何も関係ない」


172 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 22:12:55.06 ID:RYMOEHea0


提督「いいか」

提督「運っていう言葉で全部片付けようと思うなよ」

提督「お前は疫病神なんかじゃない」

提督「死神なんかじゃない」

提督「この世界に、神なんてもんがいるはずがないんだから」

提督「お前は、ただの人間だ。ただの女の子だ」


提督「だから」

提督「幸運なんてもんに慢心しちゃいけないし、それを悪いもんとも思っちゃいけないよ」


雪風「………しれぇ」

提督「もう大丈夫かな?」

雪風「…はい!ありがとうございます!しれぇ!!」ニコッ

提督「どういたしまして」ニコッ

提督「また何かあったらすぐに教えてね」



「絶対」


「何をしてでも」


「何とかするから」


173 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 22:16:59.81 ID:RYMOEHea0


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・



174 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 22:19:51.87 ID:RYMOEHea0


一人残った執務室で、提督は椅子に腰掛けた。

そして先程のやり取りを思い出す。



何で助けた


お前は疫病神だ。


雪風はそう言われたと言っていた。



ポケットから執務机の鍵を取り出す。

鍵穴に差込み、ぐるりと回すと、かすかに軽くなった感覚が手に伝わった。

引き出しの取っ手に手を掴み、ゆっくり引き出す。

衝立にぶつかり手に衝撃が来たのを合図に手を離し、引き出しの中身をじっと見つめる。


殆ど空の空間に、L字型の鉄塊が一つだけ置かれている。

その形状がよく把握できるように横たわっているそれには、英字の刻印が刻まれている。



それは、自動拳銃と呼ばれるものだ。



提督の右手がそれに伸び、掴んだ。

手首が鉄の重さを感じ、手の平と指先にざらついた感触が伝わる。

175 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 22:22:46.13 ID:RYMOEHea0


所詮俺達はこの世界に無数に存在する有象無象のうちの一つだ。


だから


そのうちの一つや二つ、消えてなくなろうが


この世界には


何の影響も及ぼさない。


十や二十がくたばったところで


この世界は


気にせず回り続ける。


百や千が殺されたところで


あぁそうなんだ怖いねざまぁみろ、ですぐに忘れられる。



気にしない。



心を動かさない。



記憶にも残らない。



どうでもいい他人だからな。


176 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 22:26:24.86 ID:RYMOEHea0


先程、最後に彼が雪風に言った言葉を思い返しながら

提督は自動拳銃の引き金を右手の人差し指でなぞった。

177 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 22:28:37.36 ID:RYMOEHea0



伊58は助ける。助けるつもりだ。



だけど



これ以上うちの艦娘を傷付けるつもりなら



本人が助かりたい気が無いんなら



話は



違う。



てめぇの命一つ、本当に消えてなくなろうが




この世界には




何の影響も




及ぼさない。



178 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 22:30:11.03 ID:RYMOEHea0


提督は自動拳銃をズボンと腰の間に差し込み、

彼の心に呼応するように黒く光る拳銃を


白い制服

白い上着が覆い隠した。

179 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/10(土) 22:34:07.26 ID:RYMOEHea0

☆今回はここまでです☆
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/11(日) 03:47:22.92 ID:9BUVCQ1Eo
おちゆん
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/11(日) 04:08:04.01 ID:7Ieq1qHfo
懲罰シーンが足りない
182 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/21(水) 21:58:35.21 ID:Pf2BVjno0
>>1です。
仕事が忙しくなりましたがそれでも楽しくss作っています。
それでは投下を始めさせて頂きます。
183 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2017/06/21(水) 22:04:18.06 ID:Pf2BVjno0


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