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【艦これ】伊58「黒く塗り潰せ」
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184 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 22:34:50.19 ID:Pf2BVjno0
「頼めるかな、明石」
携帯端末の熱を頬で感じながら、提督が呟いた。
「うん。これしかないと思っている」
「友提督ん所の明石さんにも俺からお願いしておく。二人で何とかやってくれないか」
「うん。ありがとう。お願いね」
携帯端末を耳から外し、画面に指で触れる。
端末側面のボタンを押し、目的の場所を見据えながら、手の平を手前に向けるように手首を振った。
ブック型の端末カバーが勢い良く閉じ、たん、という音が廊下に響く。
曲がり角の先、目的地から少し遠い場所から、窓側の壁に寄り掛かりながら様子を見る。
話し声は聞こえない。電話中に誰かが通った様子もない。
今、彼女は一人。
彼はそう状況判断した。彼にとって好都合な状況であると、そう感じ取った。
体重を預けていた壁から離れ、歩いて近付いていく。
用意はできた。
やることはやった。
あとはどうにでもなってしまえ。
扉の前まで来た提督は
中指の第二間接の角でこんこんと扉を叩き、僅かに間を置いて、だけど返事を聞かずにドアノブを回した。
185 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 22:38:42.63 ID:Pf2BVjno0
「伊58」
部屋に入ってすぐ、ベッドに横たわる少女に呼びかける。
びくんと身体が跳ねた事以外に返事はない。ただ呼吸だけが聞こえる。
荒い呼吸音だけが鼓膜を震わせる。
怯えている。恐怖している。逃げたがっている。
提督には見て取れる。手に取るようにわかる。
白い制服に対するトラウマ。
金の紋章に対するトラウマ。
提督という存在そのものに対するトラウマ。
両手両足を奪った存在そのものに対するトラウマ。
何もかもを奪った存在そのものに対するトラウマ。
彼にはわかる。わかってしまう。知っているから、推測できてしまうから全てわかってしまう。
だがここから先はわからない。曖昧すぎる推測しかできない。
だが、だから、だからこそ
ここから先は全力で行く。
「お前」
「死にたいんだってな」
殺すつもりで
死ぬ気で。
186 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 22:57:54.43 ID:Pf2BVjno0
「死にたいのか」
「もう生きていたくないのか」
再度伊58に問いかける。
返事はない。だが彼女自身がそう言ったという事を青葉からは聞いている。
どうせこのままだったら死んだ方がマシ。
生きていたって辛いだけ。
そう言ったと、提督は聞いていた。
助かりたくないと、そう考えていると提督は聞いていた。
雪風の表情を思い出す。
彼女は苦しんでいた。泣くのを必死に堪えて、叫んでいた。
伊58の言葉をきっかけに自虐的になってしまった少女の姿を思い出す。
喉を押すその感情が着火剤となる。
あの日、あの時からずっと燃え続けている
青い炎の、彼の狂気の、着火剤となる。
彼の心に小さく、だけど常に揺らめいている青い炎が
着火剤を浴びて大きく燃え上がる。
右手を背中に伸ばす。
上着の下に手を潜り込ませ、手の平の冷たい感触を握り締める。
「だったら」
「俺が今ここで殺してやるよ」
提督は、ただ震えて沈黙する伊58を見据えながら
腰から自動拳銃、オートマチックを引き抜き、向けた。
187 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:18:04.76 ID:Pf2BVjno0
扉の前から歩いて近付いていく。
ベッドの傍まで近寄り、靴のままベッドの上に立つ。
伊58の身体に馬乗りになった提督は、彼女の目の前で銃をいじり出す。
片手を捻り、銃身の側面を伊58に見せ付ける。
もう片手を使い、セーフティを外した。
マガジンリリースを押す。
銃からマガジンが滑るように落ち、提督の手に落ちる。
中に込められた、僅かな緑色を含んだ黄色に光る弾丸を伊58に見せ付ける。
BB弾を発射するモデルガンではない。本物の銃だ。
提督は何も言わないが、伊58には彼が何を言いたいのか痛いほど伝わった。
がちん、という音が響き、マガジンが再び装填され
銃口が半円を描きながら、伊58の額に、こん、と当たった。
「動くなよ」
「今から」
「お前の脳幹をブチ抜く」
「普通の拳銃だけど、艤装を付けていない、結界の無いお前を殺すには十分だ」
額に置いた銃口を下に動かし、彼女の柔らかい唇に当てた。
「こいつを」
「お前の口に突っ込んでブチ抜く」
「拳銃っていうのは他の銃に比べると威力が無いんだ」
「だから額に当ててやるやり方だと、威力不足で銃弾が頭蓋骨滑って死に損なう事があるらしい」
「ショットガンでもあれば外から頭グチャグチャにできるだろうけど、流石にそんなもん積んだ船は今まで見た事ない」
「それと、俺は遠距離から弾を当てられる程腕もよくない」
「だから」
「脳幹に向けて二発」
「それでお前を」
「確実に殺す」
188 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:24:47.71 ID:Pf2BVjno0
左手でオートマチックを支える。
「口を開けろ」
口調を変えず、波を変えず、声量を変えず、提督が伊58に命令する。
口が僅かに開き、白い歯が少しだけ見える。
伊58の口が僅かな、震えるような開閉を繰り返す。
「 開 け ろ 」
二度目の命令を出した。
今度は少し大きな声で、目を見開いて、威嚇するように命令を出す。
伊58は顎を震わせながらゆっくりと口を開けた。
奥歯も、ピンク色の舌も、唾液で濡れた口内の全てを提督の前に曝け出した。
提督はそこに銃口を突き込む。
伊58の顎が限界ギリギリまで開かれ、不快感が耳まで駆け上がる。
189 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:28:52.03 ID:Pf2BVjno0
「俺は時々考える事があるんだ」
「深海棲艦とは何なんだ」
「あいつらの資源は一体どこから来ているんだ」
「あいつらは一体どうやって新種を開発しているんだ」
「あいつらの指揮系統は一体どこにあるんだ」
「あいつらは」
「どこから来て」
「何の為に」
「戦い」
「何が欲しくて」
「生きるのか、って」
伊58の目を見つめながら、銃口を動かさずに提督が呟いた。
190 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:31:32.84 ID:Pf2BVjno0
「艦娘が」
「轟沈した艦娘が深海棲艦となり、敵となる」
「よく聞くケースだ」
「深海棲艦になった後の艦級は場合によってそれぞれだが」
「見た目は、元になった艦娘のそれに似たものになるケースが多い」
「…それがどういう事か」
「深海棲艦は」
「艦娘の死体を使って」
「新しい深海棲艦を生み出す事ができるって事じゃないか?」
191 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:34:04.84 ID:Pf2BVjno0
そこまで言い切り、部屋には一瞬の沈黙が訪れた。
伊58の目を見据えながら、提督が鼻で深呼吸する。
「じゃあお前はこれからどうなる?」
「お前が死んだらそこからどうなる?」
「ここで俺が殺すお前は一体どうなるんだ?」
「お前も」
「深海棲艦になるのか?」
「俺が殺したらお前も深海棲艦になるのか?」
「お前も人を憎んで俺達の敵になるのか?」
192 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:40:56.81 ID:Pf2BVjno0
伊58は困惑した。そんなものはわからないからだ。
そもそも提督が何の為にこんな話をしているのかすらわからない。
だがもし、これから自分が深海棲艦になるのなら、もうそれでもいいと彼女は感じた。
今よりも、今のみじめな自分よりも、ずっとましなはずだ。
だから、もうそれでもいいと考えた。
もう、人の世界に生きる権利なんて無いのだから。
ここで生きていく未来が一切見えないのだから。
失った右腕が
左腕が
右脚が
左脚が
痛むから。
その痛みが止まるのなら。
嫌な思いをしなくなるのなら、もうそれでもいいと。
そう考えた。
193 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:50:47.54 ID:Pf2BVjno0
そんな伊58の意志も解さず提督は言葉を続けていく。
今の彼にとって伊58の意志は彼自身の意志決定と何の関係なかった。
話したいから話す。
伝えたいから伝える。
伝えなければいけない事だから、伝える。
だから彼は言葉を続けていく。
「俺はな、他のキチガイ提督みたいに」
「悲劇のヒーローぶりたいだけで」
「 わ ざ と 轟 沈 さ せ て 」
「 悦 に 入 る よ う な 」
「そんな事は、したくない」
「それが深海棲艦に餌与える事になるなんて」
「そんな考えが及ばないほど」
「 ド 低 脳 な脳ミソも、もう持ち合わせちゃいない」
「命を脅かす敵なんて一人でも少ないほうがマシに決まっている」
「ただでさえ、今でも手一杯なんだ」
「無駄に敵を増やすわけにはいかねぇんだよ」
194 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:53:37.48 ID:Pf2BVjno0
「死にたいなら勝手に死ね」
「俺が手伝ってやる」
「だけどな」
「俺はお前を殺したその後」
「お前の死体を念入りに潰す」
195 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:56:14.82 ID:Pf2BVjno0
伊58が雪風によって救助され、この泊地に連れて来られてから5日
今日、提督がこの部屋に入ってから約3分
紆余曲折を経て
ようやく彼は、彼自身の思いを彼女に伝える事ができた。
196 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:59:03.38 ID:Pf2BVjno0
「深海棲艦が」
「奴らが一切利用できないように、念入りに潰す」
「二度とこの世に蘇られないように」
「この世に二度と戻って来れないように」
「バラバラに」
「粉々に」
「グチャグチャに」
「跡形もなく」
「潰す」
「潰して」
「燃やす」
「何もかもを灰にしてやる」
「二度とこの世に」
「戻ってこられないように」
「完全に消え去るまで」
「何度でも」
「何度でも」
「潰して」
「燃やして」
「灰にする」
197 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/22(木) 00:09:49.19 ID:rJoW6pKe0
☆今回はここまでです☆
前川みくさんはネコのアマゾン。
198 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/22(木) 00:11:25.95 ID:rJoW6pKe0
ちょっと修正します。楽しくなってつい入れましたけどこの台詞量で3分は短すぎィ!!
>>195
伊58が雪風によって救助され、この泊地に連れて来られてから5日
今日、提督がこの部屋に入ってから約10分
紆余曲折を経て
ようやく彼は、彼自身の思いを彼女に伝える事ができた。
199 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/22(木) 01:47:53.97 ID:QMb8yGDGo
おつのん
200 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga sage]:2017/07/06(木) 22:55:19.64 ID:B7JfaPTK0
>>1
です。
多忙の為投下ができませんが、スレ落ち防止の生存報告だけ入れておきます。
201 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/07(金) 09:26:03.14 ID:oepBuDGGo
MAJIか!待ってる!
202 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 21:12:52.96 ID:3LCGAcBQ0
>>1
です。
投下を始めさせて頂きます。
203 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga sage]:2017/07/14(金) 21:17:03.81 ID:3LCGAcBQ0
伊58以外、それ以外が世界から消え去ったかのように、彼女だけを見据えながら提督は話を続けた。
怒鳴るわけでもなく、萎縮するわけでもなく
ただ淡々と、一切捻じ曲げずに事実だけを突きつけるかのように
はっきりとした口調で、死を望む彼女の未来を説明していく。
204 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 21:18:32.05 ID:3LCGAcBQ0
「特に」
「脳」
「心臓」
「子宮」
「徹底的に潰す」
「脳を潰せば、物の判断ができないし身体を動かすこともできない」
「心臓を潰せば、血液が全身に行き渡る事がない。要するに動けない、生きられない」
「子宮を潰せば、新しい命、新しい敵がそこから湧いて出てくる事は無い」
「だから、潰す」
「全部潰す」
「一つ残らず潰す」
「その周囲の部品も全部潰す」
「深海棲艦には耳鼻目口髪の毛一本、たんぱく質カルシウムの一かけらすら与えてやらねぇ」
「砕いて、刻んで、燃やして、灰になるまで叩き潰す」
「家族の元に送る、なんてふざけた事は絶対にしない」
「この世界から完全に消えてなくなってもらう」
205 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 21:20:03.55 ID:3LCGAcBQ0
一瞬の沈黙がこの場に訪れた。
提督の鼻から空気が吸い込まれる音、空気を吹き出す音が流れた後
彼は再び、今度はゆっくりと、そして更にはっきりと、口を開いた。
「それでいいな?」
そして銃を握った右手を前面に押し出す。
伊58の顎が更に開かれ、喉と顎に感じる異物感が吐き気を催す。
206 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 21:27:23.40 ID:3LCGAcBQ0
「脅しだと思ったか?」
「やらないと思うか?」
「やるぞ」
「だってお前は」
「雪風を傷付けた」
「お前を助けようと必死になってるあいつに酷い言葉を浴びせて傷付けた」
「お前のせいで、雪風が傷付いた」
「雪風は、お前を、助けたいと思っていたのに」
「お前のせいで」
目の前の拳銃と提督の右手に定められていた伊58の焦点の、そのはるか遠くで、提督は僅かに表情を歪めていた。
喉奥と海馬から湧き出る苦すぎる思い出が、彼の目尻を下げさせ、歯を食い縛らせる。
頭の中の声、軍艦の記憶、それが艦娘に牙を剥く事例。
赤城との思い出。
如月との思い出。
そして、今度は、雪風。
三度目に立ち塞がったこの苦境への憎しみを、彼は隠しきれなかった。
その引き金となった事象への憎しみを、彼は抑えきれなかった。
だからこそ彼は、暴挙に出る決意をした。
207 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 21:30:59.65 ID:3LCGAcBQ0
「だから」
「お前がこれ以上あいつを傷付ける前にブッ殺さなきゃいけねぇんだよ」
「じゃなきゃあ、あいつがダメになっちまう」
「雪風だけじゃない」
「他のみんなもだ」
「お前がそうやって喚いて騒いで」
「みんなが傷付いていく前に」
「お前を殺す」
208 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 21:42:02.06 ID:3LCGAcBQ0
軍艦雪風の記憶を蘇らせた原因、伊58の殺害を提督は決意した。
これ以上、自分の周囲の艦娘が傷付くところを見たくなかったからだ。
自分の周囲の艦娘を傷付けていく伊58の存在を、提督は許してはおけなかった。
殺した先どうなるか、その結果どうなるか、その未来を彼が予想していないわけではない。
伊58を助けようとした雪風がどう思うか、潜水艦娘達がどう思うか、泊地の艦娘達がどう思うか。
提督がそれを予想していないわけではない。
だが彼は、その先自分がどうするかも既に決めていた。
209 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 21:46:09.21 ID:3LCGAcBQ0
「別にお前一人だけじゃないさ」
「お前を殺して」
「お前の死体を完全に処理した後」
「俺も死んでやる」
210 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:17:00.50 ID:3LCGAcBQ0
提督が伊58に対して抱いている感情は殺意だけではない。
惨たらしい目に遭った彼女に対する憐れみも、助けたいと感じる正義感も持ち合わせている。
彼の中で目の前の伊58という存在は、既に他の艦娘達と差が無いほどの存在になっていた。
大切な友人の一人。仲間の一人であると、彼は伊58をそう見ていた。
だからこそ、提督が伊58を殺す時は、彼自身も死ぬ時だ。
それは彼が、この仕事を続けていく上で定めた対価だった。
自分が無能であると知っているからこそ、文字通り死ぬ気で作戦を立てる。
仲間を誰一人として死なせない。死なせてはいけない。
その考えを実現する為に、彼は対価に自分の命を捧げた。
この戦争で戦死するという事が、どんなに惨たらしい結果をもたらすかを、彼はかつて味わった痛苦と共に思い知った。
名誉も、権利も、何もかもを失う。ただ失う。ただ失うだけなのだと。
その先に残るものは何もない。何もかもを悪意という名の狂った獣に食い尽くされるのみ。
この世界は、人の味を覚えた羆のように唾液を垂らし、舌を突き出し、歯を剥き出し、眼をギラギラと光らせる、狂った獣が跋扈し支配している。
彼は、ここまでの人生でそれを悟ってしまった。
大切な仲間が、狂った獣どもに食い荒らされるなんて事は許されない。
だからこそ、どんな手を使ってでも全員で生き延びようと、彼は決意した。
仲間を一人でも死なせないように。全員で生き残ってこの戦争を終わらせる為に。
だけども自分は無能である。自分に誰かを守る力は無い。故に彼は自分の命を制約として捧げた。
万が一仲間が犠牲になるような事があれば、命の責任を、彼自身の命で払う。
それは、指揮官として致命的な思い上がりである事も、提督はその頭の片隅で理解していた。
だが制約と反逆と自己否定を同意義とするその狂気に彼は身を委ねたのだ。
誰かが犠牲になっても、それでもなおヘラヘラと生きていく事を、彼は何よりも嫌っていた。
そうしてでも生きていく人間を、狂人と罵り、外道と誹り、心の底から軽蔑していた。
例え、その結果が自分の目論見通りだとしても、彼はその先を生きるつもりは一切無かった。
伊58という仲間を自分自身の手で殺しておきながら、その先を生きるつもりは一切無かった。
例えそれが他の仲間を守る為のものだとしても、彼はその先を生きるつもりは一切無かった。
211 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:25:27.68 ID:3LCGAcBQ0
提督が何を考え、伊58に銃を突きつけるに至ったか。
根本から言ってしまえば、
彼女が死にたがっている現状を打破する事。
それしか考えていなかった。
銃を突き付け、殺害の意志を見せる事で彼女がどう動くかという問題は、彼にとって大したことではなかった。
もし恐怖や抵抗の意志が見られたのならばそれでいい。
彼女の生きる意志を煽り、全力を持って支えよう。
それは恐らく一番最善の結果になるはずだ。
だが、常に最善の結果が起こるとは限らない。故に最悪の結果が起こった場合も考えた。
もしそれでも死を選ぶというのなら、そのまま望み通り殺してやろう。
そして自分も、後を追おう。
これで、どちらに転んでも死にたがりの伊58は居なくなる。彼女に仲間が傷付けられる事は無くなる。
彼が考えていたのは、それだけだった。
どちらに転んだとしても、彼にとってはメリットしかないと。
だからこそ、提督は伊58の殺害方法を彼女本人に念入りに話した。
それで恐怖を感じて、生きたいと思うならそれでいい。
それでも死にたいと思うのならばそれでもいい。
いや、死にたいと思ってくれていたほうが都合がいいかもしれない。
それで、自分も、死ねるのならば。
この世界に不要な自分が消えてなくなるのであれば。
「俺が道連れになってやる」
「だから安心して死ね」
どちらに転んでも、提督にとっては都合が良い。
何もかもが、全てが彼の思惑通りに事が進む。
212 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:26:48.72 ID:3LCGAcBQ0
そのはずだった。
そのはずだった。
そのはずだった。
提督は気付いていなかった。
彼が予想していなかった事が、三つも、起きていた事に
彼は気付いていなかった。
213 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:27:48.39 ID:3LCGAcBQ0
彼の口角は、彼自身も気付かない内に、はっきりとわかるほどに上がっていた。
そして伊58は、提督のその表情に焦点を当てていた。当ててしまっていた。
その瞬間、この場の状況が一気に動き出した。
214 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:30:26.04 ID:3LCGAcBQ0
伊58の肩が、震えだす。
伊58の顎が、かたかたと揺れ、銃身にこつこつと音を立てていく。
伊58の瞳に、涙が浮かびだす。
提督は伊58のその様子を、恐怖していると捉えた。
伊58は死にたくないと、生きたいと思い始めている。
それならば、と既に口角が元に戻っている口を開いた。
「何震えてるんだよ」
「怖いかよ」
「さっさと死んだ方がいいなんて言ってたくせに」
「今さら、怖いのかよ」
「死んだ後の事なんてどうだっていいだろ」
一拍置いて息を吸い
「死にたいんだろう!?」
叫んだ。
「もう生きているのが嫌なんだろう!?」
叫んだ。
「そう言ったのはお前じゃないか!!」
大きく息を吸い、吐き出す。
全身の力が空気と一緒に抜けていく。
右手の力も抜け、伊58に突きつけた銃口も僅かに下がった。
215 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:32:42.59 ID:3LCGAcBQ0
「でも違うよな」
「お前は」
「ただ逃げたいだけだ」
「嫌な事を投げ出して、逃げたいだけだ」
「死にたいなんてな、本当に死にたいなんてな、誰も思わないんだよ」
「ただ逃げたいだけ。逃げたくて、逃げたくて、逃げる手段がそれしかないから、死ぬだけだ」
「お前だってそうだろう」
「両手両足吹っ飛んで、これからどうやって生きていけばいいのかもわからない」
「でも生きていたい」
「でも生きていく手段がわからない」
「幸せになれる方法が全然思い付かない」
「だから」
「しょうがなく」
「死にたいだけだろ?」
216 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:36:18.99 ID:3LCGAcBQ0
右手の人差し指、トリガーにかけていた指を外す。
銃口が伊58の口から離れ、光を反射する細い糸がつう、と銃口に伸びた。
「教えろよ」
「そういう、嫌な事とか遠慮してる事とか全部取っ払ってさ」
「お前が本当にしたい事って何?」
「生きたい?」
「まだ生きていたい!?」
口調の激しさを動きにも乗せるように、拳銃から手を離して伊58の両肩を掴んだ。
「 答 え ろ ! ! ! 」
「生きたいのか!!!!」
「死にたいのか!!!!」
「答えろ!!!」
伊58の肩は震えていた。提督の両手もまた震えていた。
既に答えは見えていた。だが、伊58自身の口からそれを言わなければ意味が無い。
「 答 え ろ ! ! ! 」
右手を離し、伊58の頭の傍に置き、右腕を支えにしながら伊58に顔を近づける。
「答えろよ。巡潜乙型改二三番艦娘伊58」
「俺は、お前がどうしたいかを知りたいんだよ」
「俺がどうとか」
「何がどうとかじゃなくて」
「お前が」
「どうしたいかだけを知りたいんだよ」
「生きたいのか、死にたいのか」
「はっきり教えてくれよ」
「じゃなきゃ」
「どうしたらいいのか、わからねぇんだよ」
217 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:37:18.22 ID:3LCGAcBQ0
言葉が途切れ、二人の呼吸だけが聞こえる。
その時間の中でも提督はずっと伊58だけを見続けていた。
そして、伊58の口が開く。
「死にたくない」
218 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:39:08.52 ID:3LCGAcBQ0
ぽつりと呟いたその言葉が
「死にたくない」
彼女の心の中で増幅していく。
「死にたくない」
制御弁を失った彼女の本心が溢れ出していく
「死にたくない」
口から言葉を、目から涙を、溢れ出していく。
「…生きていたい」
ようやく伊58の本心を引き出した。
安心感と伊58に対する同情から、溢れ出しそうになる涙を堪えながら提督は答えた。
「だったら」
「死にたいなんていうんじゃねぇよ」
「諦めるんじゃねぇよ」
「何を犠牲にしてでも」
「どんな手段を使ってでも生き延びるんだ」
219 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:41:12.33 ID:3LCGAcBQ0
ふ、と力が抜けて提督はベッドに、伊58の隣に、肩から倒れこんだ。
ベッドに頭の重さを預けながらも伊58の顔を見つめる。
伊58も、両手両足を失った彼女に残った僅かな自由を行使した。
首を提督に向け、彼の顔を見つめた。
涙が顔を横切り、頬に湿った感覚が触れる。
「わからねぇか」
「生き方がわからねぇか」
「一人ぼっちが怖いか」
「だったら」
「俺が一緒に考えるよ」
「お前が今を生きる手段は俺が用意する」
「だから」
「死にたくないなら、死にたいなんて絶対に言うんじゃねぇ」
「生きろよ」
「どんな手段を使ってでも」
220 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:47:08.89 ID:3LCGAcBQ0
伊58の身体が提督の腕で引き寄せられる。
伊58の頭が提督の胸に押し付けられ、ボタンの冷たい感覚が彼女の顔面に触れた。
そしてそのボタンと、分厚い布の奥で動く、彼の心臓を頬で感じた。
「お前が生きて行けるようになるまで」
「俺が、一緒にいてやるから」
その言葉を聞いた途端、伊58の中にあった感情の爆弾が爆発した。
その衝撃が涙液を押し出し、声帯を激しく震わせた。
221 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:47:42.62 ID:3LCGAcBQ0
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
222 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:48:39.42 ID:3LCGAcBQ0
「私が」
「生きて」
「行けるようになったら」
「あなたはどうするの?」
223 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:50:02.19 ID:3LCGAcBQ0
感情の爆弾による熱も衝撃も過ぎ去った伊58の心の中で、
彼女自身も気付いていないその疑問が
彼女の心の隅の隅で、消えない線香のように、いつまでも燃え続けていた。
いつまでも。
いつまでも。
いつまでも。
224 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:52:15.44 ID:3LCGAcBQ0
提督が気付かなかった三つ目の誤算。
それは
伊58が死を拒絶した最たる理由。
225 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:55:31.27 ID:3LCGAcBQ0
提督が無意識に口角を上げているのを見た瞬間、伊58は危機感と焦りを覚え始めた。
ここで死ねない。死にたくない。そう感じるようになった。
死ぬのが怖くなった。
死んではいけない、と感じるようになった。
それは、すぐそこまで近付いていた救いに気付いた為だったのか。
それは、死という未知に対する恐怖から湧き出た感情だったのか。
それは、予想以上に惨たらしい未来に対する拒絶感だったのか。
確かに、それもあった。
だがそれだけではなかった。
提督も伊58自身も気付いていない、三つ目の誤算がそこにあった。
226 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:59:59.81 ID:3LCGAcBQ0
俺も死んでやる、と言い切った提督の表情は柔らかかった。
その口調は、艦娘になってから出会った誰よりも優しかった。
その言葉が嘘偽りのものではないとはっきりとわかった。
それを伊58が知覚した瞬間、彼女の中で彼女自身も気付いていない、一つの意志が湧き出ていた。
そしてその意志は、確かに伊58に呼びかけていた。
227 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 23:00:41.68 ID:3LCGAcBQ0
この、雄を、死なせてはいけない。
228 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 23:07:47.35 ID:3LCGAcBQ0
その言葉は彼女の知覚に捉われる事は無く、だが確実に彼女の心に危機感を感じさせていた。
そして彼女は死を拒絶した。
目の前の雄を死なせない為に、望んだ死、目の前まで迫った死を拒絶した。
まるで赤子が教わりもしないまま呼吸し始めるかのように。
まるで蜘蛛が教わりもしないまま巣を張り始めるかのように。
従うのが当然と言わんばかりに、彼女はその意志に応えた。
それは、その意志は
彼女の本能とも言える『命令』であった。
229 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 23:23:09.32 ID:3LCGAcBQ0
☆今回はここまでです☆
少し前の話になりますが、限定SSRみくにゃんがきました。うちにはもう4種類くらいみくにゃんがいます。
何でこんなにみくにゃんが出てくるんでしょうか。この永遠の謎に余の心はかき乱されるのだ。
230 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/15(土) 01:17:53.92 ID:as2Fl4bmo
おつかーレ
231 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/15(土) 20:06:40.26 ID:0L6ypvHVO
まさか嫌儲のノリをこんなとこで見るとは思わなんだ
232 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 20:48:07.82 ID:LPxJUIOu0
>>1
です。
イベントが近付いてまいりました。
前回新規実装された海防艦娘達に活躍の場があるのか、今から楽しみですね。
それでは、投下を始めさせて頂きます。
233 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 20:58:28.30 ID:LPxJUIOu0
「随分」
「荒っぽいやり方するんだね」
234 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:10:01.24 ID:LPxJUIOu0
伊58「!!」ビクッ
提督「那珂」
那珂「おはよ、提督」
提督「どうしたの?」
那珂「提督を止めるはずだったの」
那珂「でも」
那珂「なんとかなったみたいだね」
伊58「………」
那珂「流石に那珂ちゃんも焦っちゃったよ。本当に撃つんじゃないかーって」
提督「撃つつもりだったよ」
提督「伊58が本当に死にたいって思ってたんならね」
那珂「カメラに映ってるの、わかってるでしょ?」
提督「それなら俺が拳銃取り出した時に止めればよかったじゃない?」
提督「全部見てたんだろ」
那珂「………」
提督「………」
伊58「………」
提督「…まぁ、いいや」
提督「とにかく、俺はもう伊58を殺そうとはしないよ」
提督「騒がせちゃってごめんな。この件はもう終わった」
那珂「でも」
那珂「まだやる事は残ってるんだよね」
235 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:13:26.31 ID:LPxJUIOu0
那珂「明石ちゃんから話聞いたよ?」
那珂「アレ、また作るんでしょ?」
那珂「説明するより実例見せたほうが早いんじゃない?」
那珂「那珂ちゃんの靴の事」
236 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:20:08.28 ID:LPxJUIOu0
「伊58ちゃん」
「ちょっと見せたいものがあるんだ」
そう言いながら那珂は部屋の隅に置いてある椅子を引っ張り出し、座った。
ニーソックスに包まれた右脚をぴんと伸ばし、装甲で覆われた靴の踵を床に付ける。
その右脚を、両手で締め付けるように掴んだ。
那珂の手が震える。腕に力を入れているのが傍から見てもわかる
その彼女の様子は
自分の脚を自分で引き抜こうとでもしているかのように見えた。
全身から腕に巡る力の流れが那珂の肩を震わせる。
ぎゅ、と噤んだ彼女の唇から小さく声が漏れる。
そして
那珂の右脚が、もぎ取れた。
237 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:23:23.99 ID:LPxJUIOu0
思わず目をつむり、視線を逸らした伊58を那珂が静止する。
「ちゃんと見て」
伊58の視線を待ち構えるように、那珂は千切れた自分の右脚の切断面を伊58に向けた。
伊58が恐る恐る逸らした視線を戻す。
そこには
那珂の右脚には
骨も
肉も
滴るはずの血も
神経も無く
ただ無機質な鉄の塊
大きな接続端子が貼り付いていた。
238 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:26:11.73 ID:LPxJUIOu0
状況が飲み込めず困惑する伊58に対して那珂が説明を始める。
「那珂ちゃんね、義足なんだ」
「昔ちょっと色々あってね」
「自分の両脚がもう無いの」
「修復剤を使っても、元には戻らなかった」
「それで、脚の代わりに明石ちゃんが作ってくれたのがこれ」
「艤装の神経接続技術を応用して作った義足…」
「というか、艤足かな?」
「艤装の艤の字で、艤足」
239 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:40:14.00 ID:LPxJUIOu0
艦娘には普通の人間とは違う、ある特徴がある。
艦娘は人体には存在し得ない稼動域を獲得し、それを自分の手足のように駆使することができる。
己が背負う艤装と己の神経を接続する事で、己の身体そのものとして艤装を扱うことができる。
その技術は、様々な箇所で使われている。
伊勢型艦娘の主砲
初春型艦娘や叢雲型艦娘のサブアーム
天龍型艦娘や龍田型艦娘のヘッドパーツ
多くの艦娘の魚雷発射管、エトセトラ。
艦娘と、彼女達が扱う艤装の開発企業内ではごく当たり前となっているその技術を使って
この小さな泊地に所属する那珂は、自分の新しい脚を獲得した。
那珂型艦娘の脚部艤装を改造・増設し
彼女の新しい脚として作り上げていた。
240 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:45:40.48 ID:LPxJUIOu0
「これが無いと那珂ちゃんは海に出ることもできないし、歩く事もできない」
「でも今はこれがあるから歩けるし、海に出て戦う事もできる」
説明を続けながら、那珂は覆うものを無くして重力に従い垂れ下がったニーソックスの端を掴みするりと脱がしていく。
ニーソックスがめくれ上がっていき、その下に隠されていた鉄の塊が大気と伊58の視線の前に晒された。
「伊58ちゃんにも、これを作ってあげる」
「一生ベッドの上で過ごすなんて事がないようにしてあげる」
「もう腕も脚も元通りにはならないけど」
「新しい腕と脚なら作ってあげることができるから」
241 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:54:25.23 ID:LPxJUIOu0
今の現状を打破する具体案と具体例を提示され、伊58は自分の心が軽くなるのを感じた。
また歩く事ができる。それすらも奪われた彼女には、それだけの事で嬉しくなった。
元通りとはいかなくても、やり直すことはできるかもしれない。
それだけの事で、彼女は自分の未来が少し明るくなったように感じた。
「でも」
しかし
「覚悟はして貰うよ」
すぐにでも作って欲しいと言う顔をしている伊58を静止したのは
その具体案の提示者、那珂だった。
「これはね、どこかの企業が正式に開発したものでもなければ」
「大本営の許可だって下りていない」
「違法ギリギリ…というか完全違法の改造品だから」
「付ける時」
「物凄く」
「痛いよ」
「那珂ちゃんもね、最初付けた時ね」
「このまま死ぬんじゃないかって思ったもの」
「痛さから言ったら」
「ここで提督に撃たれて死んだ方がマシかもしれない」
「それでも付ける?」
242 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 22:02:01.63 ID:LPxJUIOu0
冷たい目で、伊58を見つめる彼女の表情は、まるで先程までの提督のそれを思わせた。
挑戦しようが諦めようが、どちらでも構わない、そう感じていた。
伊58がようやく手に入れた生きる意志に水を差すに等しいその行為を、提督は黙って見守っていた。
那珂の艤足は、彼女自身の希望で提督が接続した。
彼女の言葉を聞いて、その時の光景を思い出す。
骨折のそれとは比較にもならない、常軌を逸した痛がり方。
部屋に響く絶叫。
痛みを逃がそうとしたかったのか、のた打ち回る身体。
布を口に噛ませ、それでも尚漏れる呻き声。
海老反りになる身体。
痙攣する身体。
身体から吹き出す脂汗。
意識をグチャグチャに掻き混ぜる激痛に、青くなる顔。
全て覚えている。だから那珂の言った事は嘘ではないとわかる。
否、那珂自身が、彼女自身が艤肢の事実を一番よくわかっているはずだ。
だから黙っていた。それが嫌なら、諦めるべきだと思っていた。
普通の義肢を付けるという選択肢もあるし、全く付けずに自分が介護するという選択肢もあるのだ。
もしくは、子供の頃道徳教育の一環で読んだ本の著者のように、電動の車椅子を用意するという選択肢もある。
冷静に考えれば、他の選択肢なんていくらでも見つかる。
だから、もしこの話を聞いて艤肢を付けないとなったとしてもそれは仕方の無い事だと提督は考えていた。
那珂が何故この話を持ち出したのか、その真意を見ない振りをして
提督は伊58が答えを出す、その瞬間が来るまで黙って見守っていた。
243 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 22:06:40.55 ID:LPxJUIOu0
伊58は、真っ直ぐ那珂を見つめながら問いかけた。
「那珂さんは」
「どうして脚が無くなったんでちか?」
脚を失ったもの同士、遠慮は要らないという意志からか、直球で飛んできたその問いに那珂は一瞬言葉に詰まる。
「…あまり言いたくない」
伊58の目線に耐え切れずに那珂が目を逸らした。
脚が無くなった時の記憶を思い出したくない。
というのと、彼女の目から感じられる意志に根負けしたのだ。
その程度の事実で、折れるものではないという、彼女の覚悟に根負けしたのだ。
「腕が」
「脚が」
「吹き飛ぶのと、それ、どっちが痛いんでちか?」
伊58は既に両腕と両脚が吹き飛ばされている。
爆発によって一つ一つもぎ取られ、激痛にのた打ち回った経験がある。
それに比べれば
これからを生きる為に必要な痛みなんて、どうって事はない。
彼女のそういう意志を、提督と那珂は十二分に感じ取っていた。
「やるよ」
「どんな手段を使ってでもって、提督が言ったんだから」
伊58は提督を見つめながら、期待を込めた目で見つめた。
「提督」
「艤足を、作って」
「お願い。作って、ください」
244 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 22:10:38.56 ID:LPxJUIOu0
この目に、言葉に、提督が応える。
「わかった」
「一番いい奴を作ってやる」
「絶対作ってやる」
「どんな事をしたって、絶対作ってやる」
堪えきれず、ついに溢れ出した涙を拭うことなく応えた。
245 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 22:19:18.93 ID:LPxJUIOu0
提督「うし!」ガバッ
提督「とりあえず、メシだ!」
伊58「え」
那珂「いきなりだね」
提督「そうでもないでしょ。もういい時間だろ?」
那珂「あ…ほんとだ。もうこんな時間なんだ」
提督「伊58、ここ最近ちゃんと食べてなかっただろ?」
伊58「う、うん」
提督「艤足付けるにもそれなりに体力いるし、ちゃんと食べて備えようぜ」
提督「俺、ちょっと伊良子ちゃんの所行ってくるよ」
提督「今日はごちそうにして貰うからな」
提督「準備ができたら食堂に案内するよ」
提督「みんなで食べようぜ!みんなでー!!」ガチャ
246 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 22:32:33.09 ID:LPxJUIOu0
バタン
那珂「………」
伊58「………」
那珂「本当に」ボソッ
那珂「死にたいなんて、誰も思わないなんて」
那珂「どの口で言ってるんだか」
那珂「しょうがなく死にたいだけなんて」
那珂「どの口で言ってるんだか」
「提督だって、そうなんじゃないの…?」
伊58(那珂、さん…)
那珂「いつもそう」
那珂「あいつのそういう所」
那珂「本当に、大嫌い…」
那珂「本当に、本当に…」
伊58「………」
那珂「伊58ちゃん」
那珂「艤足」
那珂(私の)
那珂( 私 だ け の だ っ た )
那珂(シンデレラの、靴)
那珂「大事にしてね」
伊58「………うん」
247 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 22:37:52.39 ID:LPxJUIOu0
提督「」ピッピッピッ
提督「あっもしもし、大淀?」
提督「うん!伊58の事は何とかなったよ!!」
提督「でね、今日はみんな食堂に集まってくれって言っておいて!」
「伊58の歓迎会、やってなかっただろ?」
「今日やろうぜ!!!」
248 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 22:43:24.73 ID:LPxJUIOu0
☆今回はここまでです☆
流石に今回の限定みくにゃんもひょいと出てくれるって事はありませんでしたねぇ…
ティアラ全然出てこないのに手に入ってもアレですが…
249 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/29(土) 23:51:41.85 ID:MFJQ86fUo
おつかれちゃん
250 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 21:52:58.14 ID:QhBsopZF0
>>1
です。
夏イベントが始まりました。期間が4週間と長めなので慌てず計画的に攻略していきましょう。
そういう私もまだE-2です。
それでは投下を始めさせて頂きます。
251 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 21:54:27.91 ID:QhBsopZF0
携帯端末に指で触れ、手首を振ってブック型のカバーを閉じる。
たん、という音を立てながら閉じた携帯端末をポケットに突っ込み
提督は鼻歌を歌い始める。
この場所に無いギターの代わりとして。
『私には』
『見える』
口を開き、言葉を紡ぎ、彼は歌い始める。
『狂気の月が』
『昇っていく』
日本語ではなく、英語で。
『私の行く手には』
『数々の』
『災い』
彼は上機嫌な様子で歌を歌い始めた。
『私の目の前に広がる』
『地震と雷』
彼の脳内で流れるアップテンポのリズムが彼の気分を高めていく。
『私にはわかる』
『今の時代は狂っている』
252 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 21:55:33.71 ID:QhBsopZF0
『今夜は外に出てはいけません』
『でないと君は殺される』
『狂気の月が昇っているのだから』
253 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 21:59:08.49 ID:QhBsopZF0
『私には見える』
食堂の壁沿いに作られたステージの上で、提督がマイクを持って歌っている。
比叡と金剛が演奏するギターと霧島が叩くドラムの音が食堂に響く。
『狂気の月が昇っていく』
食堂は急ごしらえの飾りつけがされ、テーブルには様々な料理が並んでいる。
伊58とのやり取りの後提督は、伊良子だけではなく足柄や大和にも協力を頼み込んだ。
そのせいもあって、多少脂っこいものが多くなったが、比較的豪勢な歓迎会を開くことができた。
だが、主賓であるはずの伊58は未だ状況を受け入れられずに呆然としていた。
『私の行く手には』
「伊58ちゃん」
「どう?那珂ちゃんプロデュースのアイドルは」
食べ物が山盛りになった皿を伊58の目の前に置いた那珂が、伊58の顔を自信たっぷりに覗き込む。
「アイドル…ってったって」
いわゆるドヤ顔をしている那珂に、困惑の表情を変えずに伊58が呟いた。
『数々の災い』
歌う提督に再び視線を向ける。
英語に詳しくない伊58にはあまり意味のわからない言葉で、彼は満足そうに歌っている。
『私の目の前に広がる』
「那珂ちゃんはもうアイドルになれないもん」
『地震と雷』
「カタワでアイドルなんて、気持ち悪がられてできないし」
『私にはわかる』
「那珂ちゃん、だからね」
『今の時代は狂っている』
「ま」
「とにかく、あれがうちの提督って事」
「変わってるでしょ?」
那珂は伊58に、悪戯っぽく笑いかけた。
伊58はそれに対して苦笑いしかできなかった。
254 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 21:59:49.54 ID:QhBsopZF0
『今夜は外に出てはいけません』
『でないと君は殺される』
『狂気の月が昇っているのだから』
255 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 22:01:59.46 ID:QhBsopZF0
『聞こえる』
伊58はまだ納得できていなかった。
否、納得したいという感情を邪魔する何かがあった。
『けたたましい嵐の音が』
それは例えるなら、魔女の餌になる為にぶくぶくと太らされる子供の気分か。
『感じ取る』
提督の涙を見ても尚、今までの経験が彼女の感情に枷を付けていた。
彼女にとって、この光景があまりにも非現実的すぎるのだ。
悪い、たちの悪い夢でも見ているかのような感覚が彼女の頭の中でぐるぐると渦巻いている。
どの瞬間に、いつもの罵声が、暴力が飛んでくるのだろうかという不安が彼女の背筋を引きつらせる。
『最後の時が訪れる』
「こんばんは、伊58ちゃん」
その時突然、とても久々に聞くような、自分の名前を呼ばれ、伊58は声の方向に視線を動かす。
その先にいたのは、睦月型駆逐艦二番艦娘如月。
黒いカーディガンを羽織り、月のバッジを付け、胸ポケットに造花を挿し、彼女は伊58に微笑んだ。
256 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 22:04:38.66 ID:QhBsopZF0
だが彼女の姿を伊58が認識した瞬間
『恐ろしい』
「ひぃあッ!!!!」
伊58は短いけれど大きな悲鳴を上げた。
『河川が、溢れ、返って』
悲鳴が提督の耳にも入り、歌声が途切れる。
異常を察知した提督が左手を上げ、演奏している金剛達を静止した。
257 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 22:07:17.53 ID:QhBsopZF0
「あ…あぁあ…!!如月…如月…!!!」
目を見開き、伊58が震えている。
「やめて!!!」
近付こうとする如月を、伊58が絶叫して拒絶する。
「もうやだ…!!コーラはもう嫌でち!!!」
「こ、コーラ?」
予想外の、意味不明の反応をされ、周囲の注目も集めてしまった如月が困惑する。
「私、何も…」
自己弁護のように口から漏れた言葉が、自分の聴覚を刺激した瞬間
彼女の海馬が急激に活動した。
彼女にとってあまりにも大切な、大切な、傷の記憶が呼び起こされる。
自分に向けられる恐怖の感情と、かつて自分が抱えていた恐怖の感情。それの類似点。
この子は、あの時の私と、同じだ。と。
如月は肩の力を抜き、カーディガンを脱いだ。
脱いだカーディガンを近くの椅子に掛け、両方の手の平を伊58に向けながらゆっくりと近付いた。
何も持っていない。何も危害を加えない。絶対に傷付けない。
何も持っていない。何も危害を加えない。絶対に傷付けない。
何も持っていない。何も危害を加えない。絶対に傷付けない。
何も持っていない。何も危害を加えない。絶対に傷付けない。
何も持っていない。何も危害を加えない。絶対に傷付けない。
心の中で何度も強く念じながら、ゆっくりと近付き、膝を着き
伊58を抱きしめた。
258 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 22:10:09.83 ID:QhBsopZF0
「大丈夫よ」
伊58の耳元で諭すように如月が呟く。
「誰も貴方を傷付けない」
「絶対に、約束するわ」
「ここの秘書艦である私、如月と」
「そこで歌っている、私の司令官が」
「貴方を絶対傷付けないって、約束する」
「嘘吐いたら針千本だって飲んであげる」
「だから、信じて」
背中に回された如月の手の平の熱を感じながら
伊58はゆっくりと心を落ち着かせていった。
へばり付いた疑念が、如月の手の平から感じる熱によって
蟻に解体される虫が徐々に千切られ無くなっていくかのように消えていく。
そして誰も声を発しない、静寂が食堂に訪れた。
伊58の力が抜けていく事を自分の腕の中で感じた如月は、伊58の背中をぽんぽんと手の平で軽く叩いた。
かつて自分がそうされたように。かつて自分がそう慰められたように。
腕を下ろし、伊58の身体から離れ、如月は振り返る。大切な思い出をくれた男と向き合う為に。
その男、提督はステージから降りて彼女達の方に近付いてきていた。
「ごめんなさい、司令官」
「いや、俺はいいんだけど」
「大丈夫、なのか?伊58?」
如月の後ろで座り込んでいる伊58を、身体を傾け覗き込みながら尋ねると
伊58は首を縦に振り、うん、と小さく答えた。
「びっくりさせちゃって、ごめんなさい」
「いや、しょうがねーよ。気にしないで」
伊58に代わって謝罪をする如月に対し、提督はへらへらと手を振りながらステージに戻っていった。
「………うし」
「じゃ、再開しよ。2番の最初からー」
「はーい」
比叡がギターを持ち直し、改めて演奏を始める。
それに合わせて、霧島がドラムを叩き始める。
先程までの静寂を吹き飛ばすかのような、楽しげなリズムが再び食堂から湧き上がった。
259 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 22:12:19.13 ID:QhBsopZF0
『聞こえる。けたたましい嵐の音が』
『感じ取る。最後の時が訪れる』
『恐ろしい』
『河川が溢れ返っている』
歌いながら、提督は伊58の方をちらりと見た。
彼女は那珂に支えられ、椅子に座りなおしていた。
そしてその傍にいる如月がこちらに手を振ったのも見えた。
『聞こえる』
彼女の手の平にあった黄色い光の残照が宙に漂い
『怒号と破滅の怨嗟の声が』
安っぽいが煌びやかな飾り付けの光と混ざって消えた。
260 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 22:13:03.48 ID:QhBsopZF0
『今夜は外に出てはいけません』
『でないと君は殺される』
『狂気の月が昇っている』
261 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 22:16:57.42 ID:QhBsopZF0
先程の静寂を消し去りたいかのように、食堂に音が溢れ返る。
一部の艦娘は手に持ったタンバリンを叩き
他の艦娘はリズムに合わせ手拍子を叩く。
その歌詞とは裏腹に、誰もが笑顔でその瞬間を楽しんでいた。
彼がこの歌を歌う意図を気付かない振りをして。
『身辺整理はできているだろうな?』
母国語を捨て、英語の歌を歌う意図。
『いい加減受け入れて死ね』
オカルト的で、破滅的な歌詞の歌を歌う意図。
『最悪な天気のど真ん中にいるように感じるのは』
クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル、略称CCR
1960年代後半のアメリカ合衆国でデビューしたサザンロックの先駆けとなったバンド。
Bad Moon Rising
アメリカ音楽産業で最も権威のある音楽チャート、ビルボードのシングルチャートで全米二位を獲得したCCRの楽曲。
第二次世界大戦後の新たな狂気、ベトナム戦争を背景に人気を伸ばしたこの曲を彼は今歌っている。
大日本帝国軍を打ち倒したアメリカ軍が敗北したと言われている、ベトナム戦争をイメージさせるこの曲を。
その意図を、彼女達の一部は気付かず、一部は気付かない振りをして、今この瞬間を楽しんでいた。
その閃きは今この場では無粋であると感じたから。
彼の意図が何であれ、提督は今この瞬間を楽しみ、、隣の友人達が今この瞬間を楽しみ、自分も今この瞬間を楽しんでいるのだから。
『何もかも自業自得だって事だ』
262 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 22:18:03.32 ID:QhBsopZF0
『今夜は外に出てはいけません』
『でないと君は殺される』
『狂気の月が昇っている』
『今夜は外に出てはいけません』
『でないと君は殺される』
『狂気の月が昇っている』
263 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 22:19:37.59 ID:QhBsopZF0
曲の終わりに霧島が思いっきり叩いたシンバルの音が、その場の空気を暫くの間揺らし続けた。
264 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 22:26:12.62 ID:QhBsopZF0
☆今回はここまでです☆
今回はURL貼りません。
CCRはデビュー当初、醜い面相の男達というバンド名だったらしいですが、レコード会社は彼等に何を思ってそう名付けたのでしょうか。
265 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/16(水) 23:28:58.23 ID:wW71kcUpo
おつ
266 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/08/17(木) 09:17:20.77 ID:DxU0qel3o
水の代わりに毎日のようにコーラを飲まされたらそりゃトラウマになるよな…
267 :
◆ZFgfLAc.nk
[sage]:2017/09/03(日) 20:53:12.89 ID:1smkBa3c0
>>1
です。イベントやったりで投下はできませんが生存報告を…
今E-6やっております。
268 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/09/18(月) 20:29:25.51 ID:4Yj+itrc0
>>1
です。お久しぶりです。
イベントお疲れ様でした。私は何とか完走する事ができました。
途中でデレステにイベント限定まゆが来ましたが、そちらも何とか取れました。
それでは投下を始めさせて頂きます。
269 :
◆ZFgfLAc.nk
[sage]:2017/09/18(月) 20:33:32.65 ID:4Yj+itrc0
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
270 :
◆ZFgfLAc.nk
[sage]:2017/09/18(月) 20:37:03.27 ID:4Yj+itrc0
『轟!』
『沈!』
271 :
◆ZFgfLAc.nk
[sage]:2017/09/18(月) 20:37:47.64 ID:4Yj+itrc0
『轟!』
『沈!』
272 :
◆ZFgfLAc.nk
[sage]:2017/09/18(月) 20:38:36.54 ID:4Yj+itrc0
『テレ!』
『ビで!』
『轟!』
『沈!』
273 :
◆ZFgfLAc.nk
[sage]:2017/09/18(月) 20:45:11.11 ID:4Yj+itrc0
『轟!』
『沈!』
パラオの町の一角が熱狂の渦に包まれている。
『轟!』
『沈!』
リズムに合わせ、右手を掲げる。
その様子を、まるで民衆を導く自由の女神、絵画の1シーンのように感じる者もいた。
市民達がリズムに合わせて、手に持ったプラカードを掲げる。
彼らの中心で、『艦特会』と書かれた横断幕を両手で掴んだ市民達がリズムに合わせて横断幕を掲げる。
艦特会、正式名称『艦豚特権を撲滅する地球市民の会』。
大規模な艦娘反対団体である『盾』、別名『SEALD』傘下の組織である。
彼ら艦娘反対団体はここ数ヶ月の間に急激に人数を増やし、大本営がある日本本土や泊地が設立された各国で日々デモを行っている。
274 :
◆ZFgfLAc.nk
[sage]:2017/09/18(月) 20:53:05.33 ID:4Yj+itrc0
『テレ!』
『ビで!』
『轟!』
『沈!』
彼らを蜂起させたのは、ある一つのドキュメンタリー番組だった。
とある鎮守府への密着取材を行い、艦娘の実態を国民に伝えるという意図を持って放送された番組だ。
一種のプロモーション。一種のプロパガンダ。そういうものであると誰もが考えていた。
だがその番組で放送されたものは、多くの人々の予想を反するものだった。
艦娘の轟沈、慢心、傲慢、虚栄、エゴイズム。
艦娘の負の側面を凝縮し映像化したそれは全世界にばら撒かれ、大いに騒がせた。
一般市民にとっても、艦娘を指揮する特務提督にとっても、大本営にとっても、それは尋常ではない影響を与えた。
艦娘・大本営という組織に失望し、特務提督の職を辞職する者も出た。
艦娘・大本営への不信感を募らせる者も出た。
元々彼女らに不満を抱いていた者は今こそが好機と動き出した。
そしてその映像を見た一部の市民は彼ら独自の真理を悟った。
275 :
◆ZFgfLAc.nk
[sage]:2017/09/18(月) 20:55:16.21 ID:4Yj+itrc0
艦娘が、艦娘こそが、この世界の癌なのだと。
艦娘達は政府と結託し、自分達の正体を隠しながら横暴を繰り返しているのだと。
276 :
◆ZFgfLAc.nk
[sage]:2017/09/18(月) 20:56:37.98 ID:4Yj+itrc0
この世界に突然現れた深海棲艦、そして艦娘。
彼女達は一体何故現れたのか、その正体は何なのか。
日々研究が続けられているが、それらは未だ判明していない。
だが絶対正義の賢者の慧眼を得た彼等は、ネットで真実を突き止めたのだ。
277 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/09/18(月) 21:02:06.73 ID:4Yj+itrc0
艦娘の正体は、731部隊が遺したデータを元に作られた生物兵器だ。
278 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/09/18(月) 21:08:08.67 ID:4Yj+itrc0
731部隊。第二次世界大戦期の大日本帝国軍に存在した研究機関の一つ。
戦争の最中捕らえた捕虜を使って生物兵器の研究・開発を行っていたマッドサイエンティスト集団だ。
第二次世界大戦末期、追い詰められた大日本帝国は731部隊に命令を下した。
軍艦の魂と力を持った人型サイズの生物兵器を開発せよ、と。
大日本帝国の優れた技術を結集して作られた戦艦大和の力を持った生物兵器を開発せよ、と。
かつて最強と謳われた南雲機動部隊の力を持った生物兵器を開発せよ、と。
その力を以って鬼畜米英を叩きのめし、世界征服の野望を叶えるのだ、と。
一見馬鹿馬鹿しくも思える命令だが、元々大日本帝国軍は神霊・心霊現象を利用した侵略を得意としていたのだ。
大日本帝国傘下の朝鮮総督府が風水を利用し、庁舎等の建物を使って大地に大日本と刻み込む事で
朝鮮民族の民族精気を抹殺し、今も尚苦しめている事はあまりにも有名な話である。
731部隊も其の例外では無い事は想像に難くない。
279 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/09/18(月) 21:12:46.96 ID:4Yj+itrc0
731部隊は直に研究と開発を開始した。
大韓民国の市民を慰安婦と言う建前で強制連行し、人体実験を行ったのだ。
20万人以上の女性が大日本帝国軍に因って拉致され、日々の虐待や実験の中で死んで逝った。
だが、731部隊は結果を出す事の無いまま、戦争は終焉を迎える。
20万人以上の無辜の犠牲の上で出来上がったおぞましき生物兵器のデータだけを残し、731部隊も歴史の闇に消え去った。
しかし彼等は、大日本帝国軍の残党は死に絶えては居なかったのだ。
50年以上の時を経て、大日本帝国軍の残党は再び動き出した。
大日本帝国による世界征服を実現するために、731部隊が遺したデータを手に、彼等は動き出した。
彼等は地震の混乱に乗じて原子力発電所を攻撃、メルトダウンを引き起こす事で日本中を放射能で覆い尽くした。
その放射能によって人が変異したミュータント、それこそが731部隊が研究していた生物兵器の完成形。
それこそが、艦娘である。
280 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/09/18(月) 21:23:53.79 ID:4Yj+itrc0
50年以上の時を経て、最悪のマッドサイエンティスト集団が開発した悪魔の兵器が完成してしまった。
その後大日本帝国軍の残党は各地で女性を拉致し、強制的に艦娘に変異させ、
反乱の芽を摘む為に指揮官に恋愛感情を抱くように洗脳手術を行った。
そうして身体も心も完全に支配した後、政治家官僚に性接待の道具として利用した。
そして彼等は内閣・国会を篭絡し、秘密裏に日本を支配した。
日本は、再び大日本帝国という最も恥ずべき者達の手に落ちたのだ。
今や内閣は彼等の息のかかった極右の連中のみで構成された危険な集団に成り代わってしまったのだ。
だが彼等は其処で止まらない。彼等の野望は大日本帝国による世界の支配なのだ。
日本を支配し、横須賀に大本営という巣を作った彼等は、その魔手を世界に伸ばし始めた。
パラオ、ミクロネシア連邦、フィリピン、インドネシア、ブルネイ、パプアニューギニア、ロシア。
彼等は都合の良い理由を並べ、其の地に鎮守府を設置していく事で実質的な軍事支配を行い始めたのだ。
天皇制の下に世界を支配するために。
もしくは共産主義の下に世界を支配する為に。
もしくは全ての富を自分達が独占する為に。
もしくは日本を滅ぼす為に。
もしくは自分達が神となる為に。
もしくは深海棲艦に世界を売り渡す為に。
もしくは彼等のくだらない復讐の為に。
もしくは彼等の破滅欲求の為に。
其の為に彼等はいずれ大韓民国にも侵略し、あのおぞましき虐殺を再び繰り広げるに違いない。
彼等は、1足す1が2になるのと同じくらい当然の事として、それを確信した。
281 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/09/18(月) 21:25:14.76 ID:4Yj+itrc0
ちなみに深海棲艦が何なのかは艦娘反対団体の中でも意見が分かれる所だったが、彼らにとってそんな些細な事はどうでもよかった。
282 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/09/18(月) 21:30:02.49 ID:4Yj+itrc0
『轟沈轟沈!お前ら非人!!』
『轟沈轟沈!俺らは善人!!』
『轟沈轟沈!返せよ税金!!』
『轟沈轟沈!こいつは聖戦!!』
『轟沈轟沈!艦豚厳禁!!!』
正義の心の下に、彼らの思いは一つになった。
言葉が意味を無くす程に、彼らの心は一つになった。
艦娘を一刻も早く排除する。その名目の下に彼らの思いは一つになった。
娘、という名前を使うことすらおこがましいほどの害悪である艦娘に対し、彼らは豚という新たな名称を与えた。
そして彼らは武器を手にし、人の形をした艦豚達を、その正当な名称の通り豚の死体のようなモノに変えていく。
休暇中で非武装な時を狙い、集団で襲い掛かり、彼女達を次々と殺害していく。
今もこのパラオの町の片隅には、彼らによって作り上げられた艦娘の惨殺死体が未だ見つからずに転がっているかもしれない。
283 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/09/18(月) 21:31:38.06 ID:4Yj+itrc0
『沈沈沈沈沈カス女!!』
『沈沈シャブシャブ沈カス女!!』
『死ね!!』
『『死ね!!!』』
『死ね!!』
『『死ね!!!』』
『死ね!!』
『『死ね!!!』』
『死ね!!』
『『死ね!!!』』
彼らは町を歩きながら、正義の経典を読み上げていく。
艦娘達がこの世に害をなす存在である事を知らしめる為に。
声を張り上げ、この世界の中心となったかのように正義を叫ぶ。叫び続ける。
その横の道路を一台の車が通り過ぎていった。
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