【艦これ】伊58「黒く塗り潰せ」

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484 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 22:41:24.31 ID:iEoh7WMr0
ぴん、と指を一度鳴らすと朝潮型艦娘と不知火型艦娘が一切躊躇することなく顔を上げブラック提督の方を向いた。

「朝潮、不知火。憲兵殿を別室までお連れしろ」

「了解しました」

「抵抗はしない方がいいです。貴方の首が飛びますから」

両脇を抑えられたまま憲兵は連れて行かれ、倒れ伏したままの提督は残された。


その周囲を多くの艦娘が敵意の視線を送りながら囲んでいる。

自分の提督、司令官を侮辱した提督に対する怒りと、ヘドロのようにドロドロとしたドス黒い加虐心を孕んだ目で。
485 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 22:51:16.80 ID:iEoh7WMr0
ブラック提督は倒れた提督の髪を掴み、勝ち誇った目で彼を見下す。

「クソ野朗か。俺に対してよくもまぁそんな口が利けるな?」

「一番のクソ野朗はお前だろ?裏切り者の提督君」

「あぁ。そういえばそうだったな。裏切り者のクソ野朗」

天龍型艦娘が唾を吐いて毒づく。唾が脇腹に当たり、白い軍服に染みを作る。

事情をよく知らない他の艦娘達は好奇心と窃視願望を露に首をかしげた。


「こいつは深海棲艦と密通して人類を売った」

「史上最悪の裏切り者の一人さ」
486 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 22:56:45.40 ID:iEoh7WMr0
「アイアンボトムサウンドの話は聞いた事があるだろう?」

「数多くの轟沈者を出した、史上最悪の大規模作戦」

「何故そう呼ばれるに至ったか。その一番の原因はいくら敵の本拠地を叩こうがすぐさま修復された事だ」

「それによって戦いが長引き、功を焦った提督や艦娘が無策で突撃…沈んでいった」


「では何故、敵の本拠地が修復されたのか?」


「その答えはただ一つ」


「人間陣営に裏切り者がいたからだ」


「深海棲艦と必死に戦っている裏で、深海棲艦と密通して物資を横流ししていた裏切り者がいたからだ」


「大本営から送られてきた物資と資源を深海棲艦に横流しして、奴らはその補給ルートをフル活用。本拠地の修復を行った」


「そして、アイアンボトムサウンドは無間地獄になった」


「一部の人間の私利私欲に塗れた裏切りで、あまりにも多くの、取り返しの付かない程の犠牲者が出たんだ」
487 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 23:01:41.58 ID:iEoh7WMr0
「その後大本営は裏切り者の存在を察知。憲兵隊も動き回らせて裏切り者の捜索と逮捕に回った」

「そこまでしてようやく、深海棲艦への補給ルートを断つ事ができた」

「もうあいつらに本拠地の修復を行うほどの物資が送られる事はない」

「だけどな。その時の裏切り者の一部はまだ娑婆に残ってのうのうと生きているんだよ」
488 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 23:03:44.91 ID:iEoh7WMr0


「それがこいつだ」

「パラオ泊地所属、提督特務中佐」

「こいつこそが、人類の敵なんだ」

489 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/11(木) 23:07:19.90 ID:iEoh7WMr0
☆今回はここまでです☆

てるてる坊主って何の事だ、と思われるかも知れません。
季節限定家具の梅雨の緑カーテン窓と、季節限定ボイスが元ネタです。
もう一つ元ネタがあるのですが、見つからず…あれは夢だったのか。気のせいだったのか
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/12(金) 22:13:11.46 ID:nLLg+Ri1o
おつ
続き待ってるわ
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/15(月) 10:05:41.21 ID:GYcwVX5To
おつ
492 : ◆ZFgfLAc.nk [sage]:2018/01/24(水) 23:05:52.89 ID:Rszmy9Zk0
相変わらずめっちゃ遅くなってますが生存報告
493 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 18:54:37.62 ID:x4LQrqlJ0
・・・・・・・・・・・

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494 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 18:58:31.16 ID:x4LQrqlJ0
「納得できません!何故逮捕してはいけないのですか!?」

客室に憲兵の声が響く。至近距離で大声を受けた通信端末がその声を電波に載せてそのまま相手に送っていく。

「何でもだ。とにかく君は動こうとするな」

それに対して彼の通信端末から聞こえてくる声は落ち着いている。その落ち着きが憲兵のいらつきを更に煽った。

「何もしないわけにはいかないでしょう!?」

「奴は潜水艦娘に労働を強制し、それだけでなく虐待して殺害しています!」

「だとしても何もするな」

「どうしてですか!?」

何もするな。何故。

何もするな。何故。

この繰り返しがこれまで二度三度繰り返されてきた。

そしてこの無意味な繰り返しに痺れを切らした通信相手が彼を納得させようと論調を変える。

「いいか正直に言おう。我々はブラック提督を失う事を良く思っていないんだ」
495 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 19:05:45.60 ID:x4LQrqlJ0
「少し考えてみてくれ」

「奴の鎮守府の所属艦娘を見ただろう。殆どが駆逐艦娘、潜水艦娘、それと他艦種の艦娘が少し。それだけだ」

「ではこの構成でどうやって日々鎮守府を運営していると思う?」

鬼級、姫級との戦いで重要になる重巡洋艦娘以上の艦娘や、正規空母娘がいない鎮守府が日々どのような活動をしているか。

当然できる事も限られてくる。強力な深海棲艦が出現する海域には出られないからだ。

今まで集めた情報を基に推測して憲兵は答えを出す。

「遠征とオリョールクルージング、ですか」

「そうだ。その鎮守府はその二つで回っている」

「ではもう一つ考えてくれ。そうして手に入れた有り余る資源を、ブラック提督はどうしていると思う?」

「戦艦娘も正規空母娘もいないその鎮守府で溜まり続ける多くの資源を君ならどう扱う?」

どう扱う。その問いに憲兵の考えが詰まる。

低燃費の小型艦娘による遠征、オリョールクルージングで資源は溜まる一方だ。

この資源をどう扱う?資源とは艦娘の艤装を動かす為の必需品だが、それをどれだけ使おうが収入の方が上回る。

余った資源は大規模作戦に備えて備蓄に回すのがセオリーだ。だがこの鎮守府の構成では大規模作戦で戦果を挙げるのは難しい。

いくら遠くの敵に砲弾を当てられるようになろうが、敵の装甲を貫けなければ意味が無い。

溜まり続ける多くの資源をどう使う?考えても考えても憲兵には自分が納得できる答えが出す事ができない。
496 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 19:11:51.11 ID:x4LQrqlJ0
数秒の沈黙の後、通信相手が答えを出してきた。

「答えは『他の鎮守府に売り捌く』だ」

「ブラック提督は手に入れた資源を商品として他の鎮守府に売買しているんだ」

「その顧客の中には多大な戦果を挙げている提督も数多くいる」

その答えは憲兵に、疑問が解けた快感と恐怖を同時にもたらした。

この鎮守府は規模の割りにあまりにも豪勢な造りをしている。今ここにある小物一つ取っても高級品ばかりだ。

何故そんなものがここにあるのか?そしてあの男は資材を売り捌いて稼いだ金をどう使っているのか?

一部は賄賂。今こうやって上層部がブラック提督を庇っているのもそれがあっての事だ。

そして残りは何の戦術的価値も無い贅沢にのみ使われている。

食材、家具、パソコンにゲーム機、雑誌に漫画に酒に煙草等々等。

ありとあらゆる軍事的価値の無い贅沢に残りの全てが注がれていた。

他の提督が日々任務や作戦で奮闘している中、彼らはここでだらだらと無為に日々を過ごす。

潜水艦娘を始めとした、自分達が弱者とみなした艦娘達を虐げながら。

傷付かず、痛みも感じず、ただ快楽それだけを感じて過ごす無為な日々を、無価値な死体を増やしながら延々と続けている。
497 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 19:16:34.13 ID:x4LQrqlJ0
「つまり彼がいなくなれば今後の作戦遂行が困難になるかもしれない」

「我々の敵は人間ではない。人間を滅ぼそうとする侵略者、インベーダーのようなものだ」

「負ければ人間が滅びる。だから我々は勝たなければならない。作戦の失敗は許されないのだ」

だが資源を供給する存在が必要不可欠である事も確かだ。

資源が無ければ作戦の遂行すらできないなら、資源を供給するブラック提督の存在がどれだけ重要であるかなどすぐにわかる。

人類の存亡がかかっている作戦に失敗が許されないなら、彼の役割は作戦成功に欠かせない存在である事などすぐにわかる。

「だから、逮捕するなと?」

「そうだ」


「その陰で何人の艦娘が虐げられて殺されていると思っているんですか!?」

しかしその為に犯罪を見逃していいとはならない。正義感の強い憲兵は葛藤しつつも叫んだ。

守る為に味方を殺すのか。それを良しとしていいのか。それが本当に正しい事なのか。

「潜水艦娘だけじゃありません!睦月型艦娘と如月型艦娘も首を吊って晒されているんですよ!?」

「こんな鎮守府を見逃して何が憲兵なんですか!?」

そんなはずがない。多くの人が生き残る手段を探していかなければいけない。

例えそれが自分の死を覚悟して戦場に立つ軍人であっても、無為に殺していいものではないはずだ。

まして戦いの果てで死ぬのではなく味方に虐め殺される末路など、絶対にあってはならないはずだ。

胸のざわめきを力で抑え付けるように憲兵は力の限り叫んだ。
498 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 19:19:11.06 ID:x4LQrqlJ0
「いいから黙っていろ!!」

そんな彼を更に大きな力で抑えようと、通信端末から大声が届いた。

「なら今奴と話をしている特務提督はどうなるんですか!?」

「奴の艦娘が提督に暴行を加えるのを見ました!このままでは彼は!!」

相手を言い負かす為だけに飛び出した考えを、憲兵は一切ろ過せずに相手にぶつけた。

艦娘が失われるのならともかく、指揮官の立場に居る特務提督ならどうだ。失えば鎮守府や泊地一つが丸ごと機能停止する。

嘘は吐いていない。憲兵は事実だけを述べた。

彼が今危険な状況にいるのは確かだ。さぁどう出る。
499 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 19:21:42.08 ID:x4LQrqlJ0
「それでも動くな。君は彼には何もせずに帰ればいい」

「それと君が考えているであろう最悪の場合だが」


「その特務提督の死体の処理は君がやれ」


「あの鎮守府はあのままでいい。あのまま維持するのが一番なんだ。何の騒ぎも起こす事無く、資源を供給している現状が一番なんだ」

「彼には何もするな。死体の処理は君がやれ」

「これは命令だ。以上」

通信端末からの声はそう言い残し、切れた。
500 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/27(土) 19:24:47.72 ID:x4LQrqlJ0
☆続きます☆
501 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/28(日) 20:35:15.08 ID:kHsRUOb+0
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502 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/28(日) 21:03:16.10 ID:kHsRUOb+0
-同時刻 パラオ泊地-

阿賀野「矢矧!?矢矧!?そっちに提督さん行ってない!?」

阿賀野「いないぃ!?そ、それじゃあ友提督さんとか何か知ってない!?」

阿賀野「提督さんがいないのよ!!いなくなっちゃったのよ!!」

龍田「ほんとにどこ行っちゃったのかしらね」

龍田「提督ー?出てこないと後でひどいわよー」

那珂「ほんとにそれで出てきたらいいんだけどねー!」


大淀「青葉、提督は何かおっしゃられてましたか!?」

青葉「いえ、その…いきなり薬をかがされて」

大淀「クロロホルムって誰よこんなの持ち込んだの!?」

明石「あー…うん。それ私だ。そういうプレイしたいのかなーって思って仕入れちゃった」

大淀「何やってるのよこの淫乱ピンク!!」

阿賀野「納豆ヘアー!!」

龍田「ドスケベスカート」ボソッ

明石「ちょ酷くない!?というかあんた達に言われたくないんだけど!?」
503 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/28(日) 21:14:05.37 ID:kHsRUOb+0
明石「盗聴器の類は?ワレアオバで使ってる奴」

青葉「取られてるみたいで…!あ、いや、ちょっと待って!!」

阿賀野「もしかしてあるの?」

青葉「ちゃんと数えてなかったけどもしかしたら取られてない奴があるかも!」

青葉「1、2、3…やっぱり。司令官一個だけ付けたままだ」

青葉「よぉしそこの盗聴器から音声を取れば場所がわかるかも!!」カタカタカタカタ

大淀「どれ!?」

青葉「わかんない!しらみつぶし!!」

那珂「ですよねー!!」
504 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/28(日) 21:24:19.40 ID:kHsRUOb+0
青葉「1個ずつ調べるから何か音立てたり声出したりしてみて!」


大淀「あーあー!」

青葉「違う!」


那珂「You listen to my voice Listen to my heart〜♪」

青葉「違う!」


龍田「」ガリガリガリガリガリガリガリガリ

青葉「違う!」


阿賀野「あ、あ、あ、あっぷるぺんぺんぺん!!」

青葉「違ーう!」
505 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/28(日) 21:35:38.93 ID:kHsRUOb+0
『…!…!』

青葉「あった!これかも!?」

大淀「音量上げて!」

青葉「わかってる!!」

『…ね!』

青葉「…」
506 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/28(日) 21:45:46.33 ID:kHsRUOb+0
『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!裏切り者!』

『死ね!』

『この鎮守府から出て行け!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『なのDEATH!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『なのDEATH!』

『死ね!』

『死ね!』

『なのDEATH!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『死ね!』

『なのDEATH!』

『死ね!』

『死ね!』

『なのDEATH!』

『死ね!』

『死ね!』
507 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/01/28(日) 22:46:02.16 ID:kHsRUOb+0
☆続きます☆
508 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 19:01:22.90 ID:7pY4BLrl0
「がふ!ごっ!おぇえ!おごえぇえ!」

腹部にめり込む複数の足と拳が内臓を痛めつけていく。

消化が間に合わなかった内容物が逆流し、提督の口から吐き出された。

「うぅわ!汚ぇな!!」

最後の一撃を加えた天龍が床にぶちまけられたモノから逃げるように後ずさった。

痛みと止まらない吐き気で歪む提督の視界に吐瀉物が広がっていく。

おかしいな。そう感じた彼は今日の食事の記憶を辿る。

泊地を抜け出す前にこっそり作って食べた握り飯、今日彼が食べたものはそれだけだ。

白い米に白い塩。海苔すら巻かない、人によっては料理とも呼ばないであろうそのあまりにもシンプルなその料理を彼は好んでいた。

自分で作る握り飯。ただ真っ白で、塩の辛さと米の甘さが口の中で溶け合う握り飯。

自分で作るからこそ美味しいと感じる。自分で作ったからこそ価値がわかる料理。


なのに、目の前で吐き出された握り飯の成れの果ては何故こんなにも赤いのか。

喉を焼く苦味と一緒に来るこの鉄のような味は何だ。
509 : ◆ZFgfLAc.nk [sage]:2018/02/08(木) 19:07:11.84 ID:7pY4BLrl0
「何だ、血はまだ赤いのか?てっきり青い血でも出すかと思ったんだけどなぁ裏切り者ォ!!」

声が裏返ったブラック提督の声が頭上から聞こえる。声の大きさからしてすぐ近くにいるのが提督には感じ取れた。

その言葉の間違いは、どうしても訂正しなければならない。

「あの時の疑いは晴らしただろ!?俺はあ号艦隊決戦作戦を成功させた…それで全部終わりだったろ!」

「そんな事で俺が納得するかァ!!!」

痛む箇所に響くか、という程の叫び声が食い気味に返ってくる。

「お前は深海棲艦に資源と情報を流した!どれだけごまかそうが俺にはわかる。お前は裏切り者だ!!」

「お前は俺達に嫉妬していたんだ。成績最下位で何をやっても駄目駄目の無能提督!!」

「お前は自分が認められないこの世界を恨んだ!そして俺達と世界を滅茶苦茶にしてやろうと企んだ!!」

「お前はガキだからな!!だから裏切った!!深海棲艦に世界を売り渡したんだお前は!!」

「俺にはわかる!!お前みたいな馬鹿の考えなんて俺にはお見通しなんだよぉお!!!!」

アドレナリンを大量に湧き立たせている脳の与える命令に従い、ブラック提督は目の前のゴミを力一杯蹴り上げた。
510 : ◆ZFgfLAc.nk [sage]:2018/02/08(木) 19:09:55.54 ID:7pY4BLrl0
ブラック提督「あぁーもういいや。こいつの処理はお前達に任せる。飽きるまで使ってやれ」

電「殺してもいいのです?」

ブラック提督「[ピーーー]と面倒が増えるんだけど、まぁいいんじゃね」

ブラック提督「こんな奴死んだって問題ないだろ?」

電「なのですなのです♪」

天龍「だとよ。とうとうお前も終わりだな。フフッ怖いか?」

提督「…クソだよ。お前ら全員」

天龍「あ?」

提督「そうやって潜水艦娘や如月達を殺して何になるかわかってんのか?」

提督「死人が増えれば深海棲艦が増える。それがわかってやってんのか!?」

提督「お前らが遊びでやってる人殺しはただ深海棲艦を増やすだけの利敵行為だ!!」

提督「何が裏切り者だよ。お前らのほうがよっぽど裏切り者じゃねぇか!!」
511 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 19:12:08.59 ID:7pY4BLrl0
雷「それの何が悪いの?この雷様をあなた達と一緒にしないで貰えるかしら」

提督「…は?」

雷「わたしは何やっても許されるのよ。何やったって生きていけるのよ」


雷「だってわたしは愛されているから!」


雷「あんなゴミクズとは違う!わたしは愛されている!あいつは愛されていなかった!」

雷「愛されなかったら、死よ!当然じゃない!!」

雷「でもわたしはああならない!だってわたしは愛されているから!!」

雷「だからわたしは死なない!あいつとは違う!わたしは特別!特別なの!!」

雷「だから何でも手に入る!どこにいっても誰にも愛される!!」

雷「あいつは愛されなかった!どこにいったって愛されない!!」

雷「だからテレビでも轟沈したんでしょ!?だから殺した!!いいじゃない!誰にも愛されないゴミを殺して何が悪いの!?」

雷「むしろ感謝して欲しいくらいだわ!『雷様のかませ犬にしてくださってありがとうございます』ってね!!」
512 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 19:16:32.81 ID:7pY4BLrl0
「あぁそうかよ。いつかてめぇらみてぇなのが出てくると思ってた所だ」

耳を疑いたくなるような暴言を提督はあっさりと受け入れた。彼は本当にいつか彼女のような存在が出てくるであろうと予想していた。

何故なら彼女達は艦娘であり、艦娘のベースは人間であるからだ。

暁型、一部朝潮型は多くの鎮守府に配属されている駆逐艦娘の中でもメジャーな存在だ。

その理由は彼女達の見た目と性格、それが小児性愛の性癖がある特務提督達にうけたからだ。

後進の特務提督は先進に倣い、戦略的価値の薄い理由で決められたメジャーな彼女達を選択する。

特務提督とその鎮守府泊地の人事事情の歴史は殆どがその繰り返しだ。

そしてそれを繰り返していく事でとある深刻な問題が彼らの預かり知らぬところで現れてくる。


それは艦娘間の格差だ。
513 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 19:27:51.00 ID:7pY4BLrl0
艦娘という存在が認知され始め艦娘候補生達にも現場の情報が伝わるようになると、彼女達の心に今まで無かった不安が出てくるようになる。

あの艦娘にはなりたくない。あの艦娘になりたい。

魂の適正などという、人間からして見れば不確かなそれが彼女達の今後の全てを左右するようになる。

上記の通り暁型・一部朝潮型艦娘の適正を受ければその後の人生に光が見える。

特務提督の寵愛を受け、万が一の事があったとしても悲劇のヒロインとして祭り上げられるだろう。


だが、例えば潜水艦娘の適正があるとわかってしまえばどうなるか。

彼女に待っている未来は馬車馬のように延々と働かされる事だろう。

甘味処で舌鼓を打つ他の艦娘を横目に、延々とオリョールクルージングに狩り出されて行くだろう。

最悪の場合はこのブラック鎮守府のように虐げられ殺される。

例えば如月型艦娘の適正があるとわかってしまえばどうなるか。

あのドキュメンタリー番組の模倣が世界中で流行した今、多くの如月型艦娘がその後を追って轟沈させられている。

生存権を奪われ悲劇の舞台装置として痛みと恐怖の中死んでいく可能性が大きいのだ。

誰にも見向きされずあったとしても自分のものではない不幸に酔いしれる、あぁ自分はなんて優しいんだろう、という自己表現の自己陶酔の涙だけ。

自分達がその材料として消費されていくという未来が彼女達の目前に立ちふさがるのだ。


それを知って絶望する哀れな負け組達を見て、勝ち組となった艦娘達は優越感に浸る。

自分はあぁはならない。自分は勝ち組だ。自分は特別な存在なんだ。

自分は愛される。たとえどこの鎮守府に行こうが。何故なら自分は勝ち組の艦娘だからだ。

戦果を上げずとも、傷を負わずとも、ヒエラルキーの上位に立てる勝ち組の艦娘だからだ。

人気の艦娘になる、というアドバンテージは特務提督の人事ではかなり大きいものとなると理解していた。

良くて秘書艦、上手く行けばケッコンカッコカリ、そしてその特務提督が有能であればそれだけで将来は安泰。

何の苦労も要らない。ただ提督の好みの反応をするフリさえし続けていれば自分の未来はバラ色になると考えるようになる。


そして彼女達が向かった先で見るのはその通りの未来だ。

輝かしい未来を得られると思っていた者は特務提督の寵愛を受け地位を確かなものとし

反面モノとして消費される未来に絶望した者は消耗品として死に絶えていった。

寵愛を受けた艦娘はその消耗品達を陰で見下し、蔑み、優越感に浸る。特務提督には自分の本性を隠しながら、格下となった艦娘を虐げる。

その候補生全員がかつて予想した通りの未来が、情報の正確性を補強して周囲に伝播していく。

残虐で陰湿な格差体制が更に強固なものとなっていく。
514 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 19:35:49.09 ID:7pY4BLrl0
その救いの無いループの果てに出来上がったのが提督の目の前に立つ醜悪な娘。

上っ面のプライドと上っ面の可憐さの内側はヘドロよりも吐き気を催す腐臭と醜悪を撒き散らす。

愛や人気と言ったものと引き換えに、艦としての誇りすら失った人間の末路。

恐らく睦月・如月型艦娘も伊58から聞いた話を聞いた限りでは、そういう艦娘だったのだろう。

だがあの番組によってその地位が貶められ、彼女らは一気に最下層まで堕ちた。そんな彼女達の結末があの窓際の首吊り死体だ。

ヒエラルキー最下層に置かれた彼女達に同情も何も無い。ただ他がそうしている通り、消耗品として殺されていくだけだ。

ブラック提督はそれに気付いているのだろうか。気付いていないのか。それすら当然の結果として受け入れているのか。

それとも自分の考えに追随する者として彼女達すらも自己陶酔の消耗品としているのだろうか。


いずれにせよ、この元凶は特務提督達だ。

戦略的に何ら意味の無い格差を設けた事による意味の無い悲劇。無意味な傷と無意味な死。

もし彼らがこれを見たらどう思うだろうか。怒るだろうか、悲しむだろうか。これは嘘だこれは夢だと認めないだろうか。

だが彼らにはそんな権利すらない。そんな権利を与えられるべきではないし、そんな権利を持っているという自覚すら与えられるべきではない。

何故なら今目の前に広がる地獄こそ彼らの軽率な考えの産物なのだから。

彼らが一人一人の人間として艦娘を見ていたのならば起こりえなかった地獄。

そう。『ならば』だ。これは仮定の話。つまり現実はそうならなかった。だからこそ提督は今この地獄を目撃している。

この地獄の本質は掃き溜めだ。誰もが見向きをしなかったからこそ産まれてしまった地獄なのだ。

そして、人が人であるが故に産まれた地獄でもある。
515 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 19:41:01.52 ID:7pY4BLrl0
「意味わかんねーよ死ねバーカ!!!」

「あはははは!!それポプテピ!?ポプテピ!?あはははははははは!!!!」

提督の目の前に立った彼の親友、漣にそっくりな別人が両中指を立てながら叫んだ。

「死ねーッ!死ねーッ!死・死・死・ね!!」

周囲の反応からしてまたネットや漫画のネタなのだろう。そんな所まで彼女にそっくりだ。だが、それ以外は全然違う。

どうして同じ漣型艦娘なのに。どうして、こうなったんだ。

提督の知る漣は、漣型駆逐艦娘の面々はあんな残酷な事をするような人間ではない。

漣も、潮も、曙も、みんな誰かを想っていた。助けたいと、苦しみを取り除きたいと、誰もがそう思って動いていた。

今はもういない朧も、確かそうだった。

それが彼が知る漣型駆逐艦娘だ。ではこの目の前のこいつは何だ。

周囲に立ってこちらを嗤うこいつらは何だ。どいつもこいつも嗤ってやがる。

どいつもこいつも自分より格下と見るや否や奴隷のように扱い、虐め殺す最低のクズどもだ。

でなければ今ここにはいない。鎮守府を去っているか、それより前に殺されているか。

もしくは先程の雷の発言に反論するはずだ。

だが現実にはここにいる誰もがそう信じ、自分が特別、自分は愛されていると実感していた。

雷の発言に何ら間違いは無い。

自分達は愛されているから何をやってもいい。愛されているから死なない。

そう心の底から信じていた。
516 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 19:46:51.48 ID:7pY4BLrl0
「てめぇが死ね」

提督が思わず呟いた。精一杯考えて思いついた反撃の言葉だ。だがあまりにも小さい。

それでもその言葉に気付いた一人が、目を見開いて提督に近付き胸倉を掴む。

「なんて事を言うんですか!!」

左頬をぶん殴られてまた地面に倒れこんだ。

「許しません!絶対に許しません!!」

マウントを取られ、乾いた音と頬の痛みと同時に視界が激しく左右に揺れる。

「流石お母さん!流石お母さん!!母は強し!母は強し!母は強しぃぃぃぃぃぃー!!!」

誰かが叫ぶのが提督の耳に入る。状況がグルグルと変わるせいでもう誰が発言しているかも提督にはよくわからない。

だが誰が殴ったかはわかった。軽空母艦娘鳳翔だ。

何が母だ。こいつが本当に母を気取るなら潜水艦娘を虐げている時に止めるべきだった。

だがこいつはそれをしなかった。所詮こいつも周囲の奴らと同じ。自分の地位に甘え、自分の地位を優位に感じ、それに酔っているだけ。

『母』という魅力、いやこの場合は属性と言った方が正しいか、に甘え酔っているだけで何もしない醜悪な人間。

『鳳翔』という名に酔い、『鳳翔』という名声に依存し、『鳳翔』という存在に甘える醜悪な人間。それがこの鳳翔だ。
517 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 19:50:04.59 ID:7pY4BLrl0
「さっきから如月如月如月如月うるせぇんだよ」

鳳翔が身体の上からどいた途端、今度は髪を掴まれて頭を持ち上げられる。

強引に動かされた視界の先で天龍がその手の中に何か布のような何かを握り締めていた。

「だったらこれでも食ってろクソがァー!!!!」

それが口の中に強引に捻じ込まれる。

「オラこいつは!おまけだぁ!!!」

如何ともし難い臭いに吐き出しそうになる所に更に何かが捻じ込まれた。

口の中に一杯に詰め込まれたそれらを口と喉の動きだけで吐き出す事はできない。腐臭に近い何かと身の危険を感じる味が滲み出す。

吐き気と口を塞ぎ呼吸を遮る何かによって提督が呻き声を上げる。
518 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 19:53:24.65 ID:7pY4BLrl0
「うわぁ汚い!!」


「パンツ食った!?パンツ食った!?パンツ食ったの!?」


「パンツ食ったのぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!!!」


その様を見て周囲がげらげらと嗤い喚き立てる。

今提督の口に詰め込まれたものは下着だ。それも首を吊られて死んでいた如月、そして睦月の下着。

わざわざ脱がせてここまで持って来て、提督の口に無理矢理詰め込んだのだ。

乾燥した糞尿がこびりついたそれをそのまま口の中に無理矢理詰め込んだのだ。

「って事は次は!?次は次は次はー!?」

「あぁ!」


「おめぇら!『爆撃部隊』の準備だァ!!」
519 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 20:40:47.08 ID:7pY4BLrl0
『爆撃部隊』という言葉を聞いた途端、周囲が沸き立つ。

すかさず提督の右腕左腕右脚左脚それぞれを艦娘一人が抱え込むように掴まれた。

そのままずりずりと身体を引きずられ、階段の前まで持っていかれる。

その間他の艦娘達がどたどたと階段を上り出す音が聞こえた。

「準備はいいか?絶対に離すなよ」

「大丈夫よ。何度もやってきてるんだし今回はただの人間じゃない」

階段の上から見下ろす複数の艦娘、自分の両手両脚を掴んで引っ張る四人の艦娘。そして今仰向けになって階段の近くに置かれている自分。

今から彼に何が降りかかるか、提督はもうわかってしまった。
520 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 20:47:46.91 ID:7pY4BLrl0
「えい!」

時雨型艦娘が階段から躊躇無く飛び降りた。その様子を提督は下から見つめている。そう、下から。

時雨の身体が落下し提督に近付く。時雨は提督の腹部に向かってその足を伸ばす。

時雨はバランスを崩す事無く着地し、その足は見事提督の腹部にめり込んだ。

「ン"ン"ン"ーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」

言葉にならない悲鳴が顎を揺らす。
521 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 20:56:02.84 ID:7pY4BLrl0
時雨が身体の上からどくと今度は初霜の足がめり込む。

「ぽい!」

夕立

「それ!」

島風

「えい!」

春雨

若葉。初霜。皐月。そこから先はもう提督には見分けも付かなかった。

今までとは比べ物にならない程の激痛

口に詰め込まれた物に唾液と吐血が染み込んで感じる窒息感

絶え間なく続く激痛

強制的に吐き出される空気

艦娘達は何度も何度も階段を駆け上がり、飛び降りる。


何度も


何度も


何度も


口から吐き出された血が漏れ出し、首元を赤く染めていく。

暇を持て余した抑え役の艦娘達が手慰みに提督の両腕両脚を捻っていく。

そしてまた上から飛び降りた艦娘の足が提督の腹部にめり込んだ。
522 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 21:03:14.91 ID:7pY4BLrl0
これでいい。提督はそう考えていた。

これでいい。これでいいんだ。

全部計算通りに行っている。

あんな事でブラック提督がどうにかなるわけがないというものわかっていた。

そしてその報復が来る事も覚悟していた。

ここまでは全部考えていた通りに行っている。

そう言い聞かせ、何とか意識を保たせる事に全力を注ぐ。

後は、後は、俺がここから生きて帰れればいい。

生きて帰れればそれでいい。後は何もいらない。

どんなに惨めな目に遭おうが、どんなに辛い目に遭おうが、生きられればそれでいい。

生きるんだ。生きてここから出ることができればいい。

そう言い聞かせ、提督は何とか自分の意識を保たせる事に全力を注いだ。

生きて帰れれば、次の手が打てる。死ねば、それまでだ。
523 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 21:09:20.98 ID:7pY4BLrl0
「如月パンツ号!!」

「 史 実 通 り 轟沈しましたぁぁああああーーーーーーーーー!!!!!!!wwwwwwwwwwwwwww」

げらげらげらげら。喚き立つ声がし始め、口に詰め込まれた物がつまみ出される。

思わず息を吸い込んだ。空気が触れるだけで激痛が走る。

「が!ごぶっ!ごえ」

新しい血が、びちゃとあふれ出し、床と服と身体を汚した。

身体を転がし、うつ伏せになり、腕の力で前へと進む。

生きるんだ。生きてここから出ることができればそれでいい。

そう自分に言い聞かせながら、提督は少しずつ前へと進む。

両腕に力を入れ、痛みを我慢して立ち上がろうとした瞬間

「なのDEATH!!」

真下から顎を蹴り上げられ、ひっくり返るように倒れた。
524 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 21:17:30.35 ID:7pY4BLrl0
頭が揺さぶられ、視界が更に歪んでいく。呼吸がいつまで経っても整わない。

痛みだけがどんどん強くなっていく。

前を、出口を見なければいけないのに肺が空気を獲る為に顎を引く事を許さない。

これはまずい。死ぬ。

「何見てるんですか」

そう思った時、視界の外、頭上から冷酷な声が聞こえてきた。

吹雪型駆逐艦娘一番艦娘吹雪。

彼女の足が視界の上からぬっと現れた。彼女の大きな鉄の靴が。

「変態!!」
525 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 21:26:54.15 ID:7pY4BLrl0
ぐしゃ、という音が提督には聞こえた気がした。

次に認識できたのは、吹雪の脚部艤装が彼の左手を手の甲ごと踏み潰している映像だ。


「ぎゃァあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」


痛みとその衝撃に絶叫する。

「ひっ!ぎっ!んぐ!!あぁあああああ!!!!!」

潰れた左手を庇うように右手で傷跡を押さえ、痛みを少しでも抑えるかのように横向きになり体重で左腕を押さえつける。

吹雪はそんな彼の姿を見て

鉄の靴を再び上げ


「死ねェェェェえええええええええええええええええええーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」


提督のこめかみ目掛けて叩き付けた。
526 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 21:27:58.60 ID:7pY4BLrl0
みし、と自分の頭蓋が軋むような音

頭が割れるような激痛

それらを感じながら提督はついに意識を手放した。
527 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/02/08(木) 21:31:16.11 ID:7pY4BLrl0
☆今回はここまでです☆

艦娘だって人間です。
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/02/08(木) 21:32:07.37 ID:LQrl/vBQ0
以前アズールや戦艦少女も出す予定とか言ってたけど、同型艦を出すのか、リアンダー・エンタープライズみたいな艦これに出てない艦が出るのかどういう感じに絡むのか楽しみ。
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 22:04:02.48 ID:6pQHEZSno
おつー
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/02/08(木) 22:55:37.15 ID:GIxyhj650
乙です
531 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/03/08(木) 23:19:29.11 ID:1i78kN2R0


・・・・・・・・・・・

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532 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/03/08(木) 23:32:48.41 ID:1i78kN2R0
「発見しました。潜水艦娘です」

「またか。相変わらずこの辺りは素材の宝庫だな」

「我々としては大助かりですけどね」

「全くだ。自分で自分の首を絞める人間のお家芸には笑わせられる」

「あんな馬鹿な連中が万物の霊長で居続けていいはずが無いんだがな」

「さて回収するぞ。今回ので素材が十分集まるはずだ」

「ここはどこ」

「お前がいる場所は海の底だ」

「海の底」

「体を吹き飛ばされてここまで沈んだ。覚えているかな」

「覚えています。でも、これから何をすればいいですか」

「何かやらなきゃいけない事があったような」

「そんなものは忘れろ」
533 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/03/08(木) 23:38:21.25 ID:1i78kN2R0
「お前はそんなものよりやりたい事があるんじゃないのか」

「何も知らぬまま海を渡り、見知らぬ土地で」

「犯され」

「踏み躙られ」

「手足を失い」

「命まで奪われ」

「何も思うところが無いはずがないだろう?」

「お前が何を思っているか我々にはわかる」

「あの男に、誰かに」

「同じ目に」

「同じ位の苦しみを味わってほしい」

「どうしてこんな事になったのか全然納得できない」

「どうしてこんな、どうしてわたしがこんな目に」

「なのになんであいつらは笑っているんだ」

「あいつらも同じくらい苦しめばいい」

「納得できない」

「憎い」

「許せない」
534 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/03/08(木) 23:45:28.95 ID:1i78kN2R0
「ではその為には身体がいるな」

「わたしがそれを用意しよう。何せ素材は沢山ある」

「素材?」

「お前の同士だ。お前と同じ感情を抱いた誰か、と言ってもいいか」

「お前は誰かとなり、誰かがお前となり、お前と誰かはそれになる」

「それになったお前は人間を滅ぼせるかもしれん」

「見てみろ。あれらが全部次のお前になる。皆お前を歓迎している」
535 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/03/08(木) 23:49:19.87 ID:1i78kN2R0
「さぁ行けU-511」

「お前は」

「モウ」

「死ンダンダ」
536 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/03/08(木) 23:50:15.40 ID:1i78kN2R0
「あなたは一体誰なんですか?」

「ワタシハ」

「神」

「ソシテ、今カラオ前モソウナル」
537 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/03/08(木) 23:53:08.72 ID:1i78kN2R0


・・・・・・・・・・・

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538 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/03/09(金) 00:01:24.07 ID:Utjgvb1b0
「二千十六年七月二十六日」

「潜水艦U-511、フィリーネ・シュナイダー」

「定時報告を行います」

椅子と机と白い壁、壁沿いに置かれた機材。

その部屋に彼女は一人立っていた。

彼女の目の前にはビデオカメラが置かれ、彼女はカメラのレンズを見つめながら言葉を続ける。

「…お父さん、お母さん、元気ですか?」

「パラオに着任して五ヶ月目になったよ」

「今月は色々あったよ」

一つ一つ思い出しながらU-511がドイツ語を紡いでいく。

伊58との出会い、特別鎮守府内の図書室での語らい

「新しい友達ができて、友提督さん所に遊びに行って」

そして特別鎮守府で過ごした夜。

その後姿を消した提督が、満身創痍で戻ってきた事。

「その後、ちょっと、色々あって提督さんが怪我して今泊地はお休みしてるの」
539 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/03/09(金) 00:23:28.10 ID:Utjgvb1b0
泊地から突然居なくなった提督は憲兵に連れられて泊地に戻ってきた。

顔や身体中に痣ができ腫れあがり、服は所々赤く染まった姿で、ぴくりとも動かずに。

憲兵に連れられ、否抱えられて戻ってきた彼を真っ先に見た名取の悲鳴が彼の痛々しい姿と共に脳細胞に記憶されている。

多くの艦娘が愕然と立ち尽くす中、何とか平静さを保っていた陸奥と龍田が主導となって事情の把握や医師との諸手続を済ませた。

彼女達が今把握している事はたった三つだけ。

提督が伊58の古巣であるブラック鎮守府に向かい、その罪を糾弾しようとした事。

ブラック提督と彼の指揮下の艦娘達の怒りを買い集団リンチを受けた事。

そして、今もなお提督の意識が戻らず眠り続けている事。

彼女達がわかっているのはそれだけだ。客観的な事実以外の何もわかっていない。

何故そんな事をしようとしたのか。何故たった二人でブラック提督に立ち向かったのか。U-511には何もわからない。


今泊地は秘書艦達と秘書官補佐達、そして特別鎮守府からの応援で最低限の仕事を回している。

それはU-511も同じだ。今彼女は自分に課せられた仕事をこなす為、ここに立っている。
540 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/03/09(金) 00:51:30.24 ID:Utjgvb1b0
最低限の仕事。課せられた仕事。義務。

この一ヶ月間の経験の末、その言葉を再確認する度に彼女は迷うようになった。

深海棲艦という人類の敵を倒し世界の平和を維持する。それが艦娘の仕事だ。

その為に人類が一丸となりこの脅威に立ち向かう。提督と艦娘、艦娘と艦娘同士、そして鎮守府泊地と周囲の人間。

全員で協力し合って世界を守る。彼女はそう信じていた。

だが彼女が見てきたものがその考えを変えようとしている。


搾取と虐待の末、手足を奪われた伊58。

一部の人間の欲望の為に名誉と生きる権利を奪われた如月。

それらに絶望する者。歓喜して命を奪う者。それらを嘲り笑う者。

そこには協力なんて言葉も平和なんて言葉もどこにも無かった。


人は皆悪魔だと提督は語っていた。

正義や平和が綺麗事で、建前でしかないと提督は語っていた。

なら艦娘のしている事は一体なんだ?

悪魔を守ってどうなる?守っても守っても否定され奪われなきゃいけないなら、守る意味があるのか?


手足を奪われ怯えきった伊58の姿が。鉄の手足を見て寂しそうな表情を浮かべる伊58の姿が。

艦娘としての将来を捨て、勉学に励む如月の姿が。恐怖と不信感に押し潰されて提督を求める如月の姿が。

そして何よりも、目を背けたくなるほど痛めつけられた提督の姿が、彼女が今まで抱いていた人間という概念を根底から破壊していた。


あの悪魔どもがどうなろうが知ったことじゃないんじゃないか?どうしてそこまでして守らなきゃいけないのか?

彼女は何度も何度も答えにたどり着いていた。

戦う意味がわからない。もう戦いたくない。今この場でそう言えば、全てが終わる。

艦娘U-511ではなく一人のフィリーネとして、国や家族が自分を連れ戻しに来てくれるはずだ。

この場で全て吐き出してしまえば、全てが終わる。自分は帰れる。この狂った世界から抜け出せるし、避けて生きることもできるはずだ。

それでももはや根付いてしまった人間への不信感は彼女の今後を蝕み続けるのだが、幼い彼女にはそこまで考えられない。

だが今ここで全て言ってしまえばU-511としての彼女は終わる。彼女が抱くその予想は何も間違っていない。


ここで自分の感情を全て出してしまえば、自分は家族の元に帰れる。

そう考えながら彼女は口を開いた。
541 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/03/09(金) 00:56:37.18 ID:Utjgvb1b0
☆今回はここまでです☆

いつも乙や期待のコメントありがとうございます。
エンタープライズは出せるかどうかわかりませんが、同型艦やユニコーンは出したいと思います。
あと忘れかけていたのですが、戦艦少女の方は実はもう出てます。どこでとは言いませんが。
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2018/03/09(金) 01:03:25.23 ID:mju1ZrXa0
乙です。リアンダー出してくれるとうれしい。ノーマル艦だけど実は強いという感じがいい。
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/09(金) 01:08:37.00 ID:Pio/pFSSO
ブラ鎮は核攻撃しなきゃ
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/10(土) 00:15:47.54 ID:qNWssoJp0
乙です
545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/14(水) 02:16:14.05 ID:lZp4xnIe0

これからの展開が全く読めない
546 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 20:39:40.58 ID:PAnp9vz00


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547 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 20:43:38.41 ID:PAnp9vz00
『傲慢傲慢傲慢子!!』

『沈沈ハメハメ轟沈子!!!』

『傲慢艦娘轟沈子!!!』

『大本営は頭がパー子!!!』

『傲慢艦娘轟沈子!!!』

『運子!!!!!!!!』


あの日、特別鎮守府からの帰り道、行きでも見かけた民衆の叫び声を聞いた。

U-511は廊下を歩きながらその記憶を反芻する。

彼女には彼らが何を叫んでいるのか意味がわからなかったし誰も教えてくれなかった。

提督に尋ねても知らなくていいと言われ、それっきりだ。

だけど傍から見てもわかる敵意。ドイツにいた頃とは比べ物にならないほど大きな悪意。

それだけは言葉の意味がわからない彼女でも感じ取る事ができた。
548 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 21:01:38.37 ID:PAnp9vz00
U-511がまだU-511ではなくどこにでもいる一人の少女だった頃、彼女の周りでは艦娘というものを恐ろしい存在と捉えている人が多かった。

当然、彼女が艦娘になる事を決意した時も周囲は彼女の決意を折ろうとした。

死ぬかもしれないぞ。両親や友達ともう二度と会えないかもしれないぞ。そんな彼女の身近な心配は序の口。

ナチスの手先になるのか。そんなに人を殺したいのか。そんな罵倒が来るのも時間の問題だった。

ファシスト、ネオナチ、狂ったサディスト。ありとあらゆる暴言が飛んでくるのも時間の問題だった。

彼女は彼らの行動に恐れを感じて軽蔑もしたが、心のどこかで同情もしていた。

これまでの人生でナチスの恐ろしさを学んだのは、彼らも彼女も同じだからだ。彼らは、自分と同じようにナチスが怖いんだと感じ取っていた。

恐れるからこそ出てくる暴言。恐れるからこその行動。彼女は彼らの行動に対してそう解釈していた。

自分も同じドイツ国民だからこそ、それらの一種の暴挙にも理解が示せた。


だがあの日あの時見た民衆が、彼女の価値観を歪ませていく。

あの連中は何だ。恐れでもない。義務でもない。悪意だ。悪意だけが滲み出ている。

悪意を撒き散らす事でのカタルシス。射精感といっても差し支えない程の解放が彼らの行動原理。

そしてあれが、自分達が守る人々。あれが、自分達が戦った結果。

あれが本当の人間で、もしかしたらドイツにいた頃のあの人達も彼らと何も変わらないのでは。

ナチスという言い訳を使い、悪意を撒き散らす事を目的とした集団だったのでは。

もし、そうならそれは、ナチスと何が違うのだろうか。

ナチスが絶対悪である理由が虐殺や差別にあるのだとしたら、彼らがしている事は何が違うのだろうか。


正義という言い訳を使い、悪意と暴力を撒き散らす事を目的とした集団であるのならば。

人種主義反ユダヤ主義という言い訳を使い、悪意と暴力を撒き散らしていったのがナチスであるのならば。

ナチスがあってはいけなかったものだとしたら

彼らもまた、あってはいけないものではないのだろうか。
549 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 21:07:02.14 ID:PAnp9vz00
U-511の視界に扉が見えてきた。それはもうこれまでに何度も見てきた執務室の扉。

定時報告用の記録メディアを手の内に感じ取り、その扉と向き合い、ノックする。

返事が返って来た事を確認してからU-511は扉を開けた。反芻した記憶の感触を胸で感じながら。
550 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 21:11:18.21 ID:PAnp9vz00
そういえば、と彼女は思い返す。

あの叫び声を塗り潰すように大音量で車内に響いた歌も覚えている。

提督が一番好きな歌だと教えてくれたあの歌は暗く、重く、それでいてどこか軽快な音。

英語で紡がれるその歌声が語るものはその意味がわからなくてもある程度察しがついた。


あれは呪いだ。

何もかもを黒く塗り潰す。

その呪いの歌は、その題名の通り車内に届く悪意の叫び声を黒く塗り潰していた。
551 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 21:13:29.72 ID:PAnp9vz00
U-511「これ…月次報告です」

大淀「はい、承りました。それじゃあこれは検閲してからドイツ支部に送りますね」

愛宕「お疲れ様。ユーちゃん」

U-511「………」

U-511「大淀さん」

大淀「はい?」

U-511「大淀さんはどうして戦っているの?」

U-511「大淀さんは人間が好き?」
552 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 21:18:35.58 ID:PAnp9vz00
大淀「どうしたんですか?」

U-511「ユーは、よくわからないんです」

U-511「ユー達が戦ってどうなるの?」

U-511「戦って勝って、またでっちみたいに不幸な人が増えるの?みんなを幸せにしたいから戦うんじゃないの?」

U-511「外で集まってる人たちを増やしたいとか、誰かを傷付けたいから戦っているんじゃ、ない」

U-511「でも、ユー達が戦ってそうなるんなら」

U-511「ユー達が戦う理由なんて無いんじゃないかな、って」

U-511「Admiralだって…如月ちゃんだって」

U-511「もし今頃人間が深海棲艦に負けてみんないなくなってたらあんな事にはならなかったんじゃないかな、って」


U-511「ユー達が戦って増やすのは、何?」

U-511「ユー達がやってる事って意味があるの?」
553 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 21:43:27.67 ID:PAnp9vz00
大淀「それは…」

愛宕「意味なんて無くても、私達はこれがお仕事だからね」

愛宕「泊地を運営して、深海棲艦を倒して、海の平和を取り戻してお給金を貰う」

U-511「でも、お給金なら別に他のお仕事でも」

愛宕「そうね。艦娘になんてならなくたってどこかのお仕事に就けばお給金は貰えるものね」

愛宕「学校を卒業して、どこかの会社に就職して、彼氏と結婚して…そんな生き方もあったかもしれないわ」

愛宕「でも、もう無理よ。もう戻れない。戻りたくもない」

U-511「どうして?お給金以外に何かがあるの?」
554 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 21:48:41.93 ID:PAnp9vz00
愛宕「…ユーちゃん。今ユーちゃんが言ってた事は誰かに話した?」

U-511「ううん」

愛宕「ご両親にも?」

U-511「………うん」

愛宕「そうなのね、ユーちゃんも私達と同じ、かな?」フフッ

U-511「同じ?」

愛宕「ねぇユーちゃん。どうしてその事をご両親に言わなかったの?ユーちゃんならそれを言えば、すぐにここから離れられるでしょう?」

愛宕「戦う理由もモチベーションも無くなったなら、それを言えばいつでも帰れるのよ?」

U-511「だって!!」

U-511「ユーは…どうすればいいのかわかんない」

U-511「もう守りたくない、でも…怖い」

愛宕「何が怖いの?正直に教えて?もしかしたら私も一緒かもしれないわ。私も怖いものがあるもの」

U-511「ここを離れるのが、怖い」

愛宕「どうして?」

U-511「…離れたくない」

U-511「でっちと離れたくない。しおいと離れたくない。イクと離れたくない。イムヤと離れたくない。はっちゃんと離れたくない」

U-511「雪風と、大和と、香取と…」

U-511「Admiralと離れたくない」
555 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 22:13:27.20 ID:PAnp9vz00
U-511「もう会えないなんて嫌。でも…」

愛宕「戦う理由なんてそれで十分よ」ギュッ

U-511「!」

愛宕「私も人間がどうとか世界がどうとかなんて関係ない。提督と一緒にいたいから戦ってるのよ」

愛宕「大淀もでしょ?」

大淀「…うん」

U-511「大淀さんも?」

大淀「ユーちゃんはこれまでずっと世界の事や人間の事を考えて戦ってきたんですね。偉いね、本当にユーちゃんは偉い」

大淀「でも、もう無理はしなくていい」

大淀「世界がどうとか人類とか、私はもう信じていないもの」

大淀「私も最初は信じようとしたけど…そのせいで、提督は壊れた」

大淀「一度だけじゃない。二度もよ、二度も私はあの人が壊れる所を見させられた」
556 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 22:20:04.62 ID:PAnp9vz00
大淀「私はああなる前の提督を知っている。今よりもっと子供っぽくて、だけど今と同じくらい優しい人だった」

大淀「今の提督はあの時と変わらず優しいけど…」

大淀「人殺しの目をしている」

大淀「…多分、また壊れる事があったら今度こそ」

大淀「提督は取り返しの付かないところまで行ってしまう」

U-511「取り返しの付かない…?」

大淀「死ぬか、それともまたもっと別の…うまく言えないけど、何かが起こる」

大淀「それが嫌なのよ。だから私はここにいる。すぐ近くであの人を見ていられるこの仕事をしている」
557 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 22:22:00.72 ID:PAnp9vz00
「理由なんてそれで十分」

「私は提督の為にここにいる」

「私と同じ屋根の下で、私と同じご飯を食べて、私と同じこの部屋で仕事をする、私の提督」

「あの人の為だけに、あの人を守る為に、あの人が幸せになる事だけを願って今ここにいる」

「あの人が、みんなの幸せを願っているから、私は彼とみんなの幸せを願って動く」

「あの人に、死んで欲しくないから、私は彼の未来を願って動く」


「愛してるのよ。提督を」

「提督も、私が愛する分…うぅんそれ以上に私を愛してくれる」

「彼を幸せにして、彼をここに繋ぎとめて、私の事を見て欲しくて今私はここにいる」


「それ以外の理由なんてない。例え他人から見たら支離滅裂な事をするとしても、いつも私の根底にあるのはそれ」

「世界だとか人類だとか、目にも見えないよくわからないものなんてどうでもいい」

「私の目の前にいる私の愛する人の為に戦う。私とあの人が幸せになれれば後の事なんてどうでもいい」
558 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 22:26:02.00 ID:PAnp9vz00
大淀「そうよね?愛宕」

愛宕「えぇ」

愛宕「私も人類や世界なんてどうでもいい。提督の為だけに動くわ」

愛宕「提督が守りたいっていうから戦ってる。提督が救いたいっていうからゴーヤちゃんを保護した」

愛宕「そうやって、提督が幸せになって私がその隣にいればそれ以外の事なんてどうでもいい」

愛宕「私が見ている世界が幸せなら、それ以外がどうなろうが知ったことじゃないわ」

愛宕「騒ぎたいなら騒げばいいし、馬鹿にするならすればいい」

愛宕「それで幸せになるなら勝手になればいいし」


愛宕「死ぬなら勝手に死んで頂戴って感じ」


愛宕「人類の敵と唯一戦える艦娘って言ったって私も一人の人間なのよ?」

愛宕「好きな人とは一緒にいたいし美味しいものは食べたいし、世界とか人類全体をどうこうできるほど大きな存在じゃない」

愛宕「だからこれでいいんだって、思う。自分の幸せの事だけを考えて生きていけばそれで…」
559 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 22:31:43.28 ID:PAnp9vz00
愛宕「ユーちゃん。自分に正直になりなさい」

愛宕「帰りたいっていうなら手配する。提督だって、ユーちゃんを無理矢理残そうだなんて思わないはずよ」

愛宕「でももし泊地(ここ)に何か、失いたくないものがあるのなら残ったほうがいい」

愛宕「人類とか世界とか正義とかそんな上っ面は取っ払って、ユーちゃんが本当にやりたい事を考えなさい」

愛宕「ユーちゃん自身がどうしたら幸せになれるか、それだけを考えなさい」

U-511「………」

愛宕「もしそれが誰かを守る事であるのなら、ここ以外にそれをできる場所は無いわ」

愛宕「人類とか世界とかそんな曖昧なものじゃなくて、誰を守りたいって具体的でしっかりとした意志があるのならね」

愛宕「だって深海棲艦に対抗できる艤装の力を使えるのは艦娘だけだから」

愛宕「人類や世界だなんてそんな曖昧なものじゃなくて、ユーちゃんの家族とか提督とか、そういうのを守れるのはここ以外に無いわ」

愛宕「力を手放して家族のところにいたって、私達が負けたらみんな深海棲艦に殺されるんだから」

愛宕「でもここにいて、勝っていければ例えどれだけ辛い事があったとしても、一番望んでいるものだけは手に入る」

U-511「辛い事は、あるんだ」

愛宕「どこだってそうよ」

愛宕「全部が全部得ようとしたらただただ傷付くだけ。本当に、一番、望んでいるものの事だけを考えて」

愛宕「もし、色々考えて結局艦娘を辞める事になってもそれだけは忘れないで」

愛宕「あなたが本当に欲しいものが何なのか、それだけははっきりさせて、その為だけに生きていきなさい」

愛宕「自分が本当にやりたい事。本当に欲しい一つや二つの為だけに」

愛宕「全部欲しいだなんて、そんなのは無理なんだから」
560 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 22:32:24.23 ID:PAnp9vz00


・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・



561 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 22:39:52.53 ID:PAnp9vz00
大淀「…ふぅ」

愛宕「お疲れ様大淀。随分喋ったんじゃない?」

愛宕「久々よ。あんな情熱的なあなたを見たの」

大淀「愛宕もね…」

愛宕「どうしたのぼーっとしちゃって、本当に疲れた?」

大淀「愛宕。『大切なものを守る為に戦う』って、私言ったよね」

愛宕「うん」


大淀「提督の、大切なものって何だろう」

愛宕「そりゃあ…」

大淀「一番大切なものよ?」

愛宕「………」

大淀「………」


愛宕「何かしら?」

愛宕「多すぎるような」
562 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 22:48:12.90 ID:PAnp9vz00
大淀「だよね」

大淀「あの人は、一番大切なものが多すぎる」

大淀「それは私であって愛宕であってユーちゃんであって雪風ちゃんであって…」

大淀「その『一番大切なもの全部』に幸せになって欲しいと願って願って願って願って」

大淀「傷付いて」

大淀「また壊れて」

大淀「それでいて」

大淀「自分がそこにいる価値を見ていない」

大淀「いつまでも、どこまでも、お子様で、完璧主義者…」

愛宕「………」
563 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 22:52:01.82 ID:PAnp9vz00
大淀「私、どうして提督が無策でブラック鎮守府に突っ込んだのかがわかった気がする」

大淀「あんな事で何とかなるならゴーヤちゃんみたいな子が出るはずがない。ほぼ完璧に守られているからあんな振る舞いができるってわかるはずなのに」

大淀「提督だってそういう事を考えていなかったはずがないのに」

大淀「だけどもし提督が最初から」


大淀「『糾弾に失敗して私刑に遭う事まで考えて動いていた』としたら」


大淀「…提督が目を覚ましたら、何が起こるんだろう」

大淀「私達は、どうすればいいんだろう?」


愛宕「大淀。起こっちゃう事に対してどうもこうもないわ。私は私の幸せの為に動く」

愛宕「それで誰がどうなろうが、私が幸せになれるなら知ったことじゃないわ」

愛宕「大好きな人と一緒に幸せになる。それ以上に素敵な事なんて何も無いんだから」

愛宕「その為だったら私は…」

愛宕「また、人を殺すわ」
564 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/05(木) 22:54:47.38 ID:PAnp9vz00
☆今回はここまでです☆

冬イベでグラーフツェッペリンが二人来ました。
烈風の上位互換滅茶苦茶おいしいです。
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/06(金) 23:56:06.20 ID:w0l4rW800


グラーフ裏山ですなぁ
566 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 21:39:13.57 ID:C1MSIyGP0
本当に大切なもの。その言葉を何度も繰り返しながらU-511が廊下を歩く。

本当に大切なもの。本当に守りたいもの。

人類を守る。そんな大義名分を捨て、本当にやりたい事とは何か。

U-511はすぐに思いついた。

彼女が艦娘になる事を決意した最初の想い、そしてここに来てから芽生えた大きな想い。

家族を守る事。提督を守る事。彼女にとってそれが根元なはずだったのだ。

でも、だからと言って。それでも彼女は迷い続けた。本当にそれでいいのかと、悩み続けた。

家族の命と他の人間全てを天秤にかける事が正しい事なのか。

それでも、他人を優先してその先に待っているものがあの惨状なのだとしたら。
567 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 21:59:22.43 ID:C1MSIyGP0
悩み続け歩き続ける途中で見知った、気を許せる姿が見える。雪風だ。

「ユーちゃん、定時報告終わったの?」

「うん。これからAdmiralの所に行くけど、一緒に行く?」

この道でばったり会うという事は、つまりそういう事だろう。

そう察してU-511が誘うと雪風は頷いた。

しかし、そこからの会話が繋がらない。ただ無言で歩き続ける。

音楽がかかっていない廊下で二人の足音だけが響く。

足音が無言の空間に響く。まるで気まずさに言及するように足音が響く。

「雪風、今、何を考えているの?」

雪風と共に過ごし、会話が途切れる事は今まで無かった。つまり雪風の様子がおかしいという事だ。

U-511は少ない語彙から言葉を選び、雪風に問いかける。

「別に、何も」

そして返って来た答えがこれだ。会話が繋がらず、無言の空間に逆戻りした。

U-511の問いかけを不快と思ったわけではない。

U-511と共に過ごす事に嫌悪感を抱いているわけではない。


雪風は、今の自分の考えを誰かに知られるわけにはいかなかったのだ。

特に、今彼女の隣にいる友人、U-511には絶対に知られるわけにはいかなかったのだ。
568 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 22:15:12.65 ID:C1MSIyGP0
『伊58を助けなければよかった』


今の雪風の考えを一行で表すのならばそうなる。

それを知ればU-511は怒り、雪風を軽蔑するだろう。今やU-511と伊58は友人同士なのだから。

それがわかっていても、雪風は自分の行動を後悔した。

泊地に伊58が現れ、伊58の鎮守府に提督が向かった結果、提督はリンチに遭いボロ雑巾のようになって帰って来た。

そして未だ目を覚ましていない。いつ目覚めるかもわからない。もしかしたら彼が死ぬまでずっと目覚めないままかもしれない。

伊58を助けたのは自分だ。つまり、今提督が意識不明の重体になったのは雪風自身が原因である。彼女はそう考えていた。

自分が気付きさえしなければ、あの時蒼龍達の静止を無視しなければ、提督に褒められたいと思わなければ、提督があんな事にならずに済んだ。

そうでなくても、あの時の魚雷が自分に直撃していればよかった。

魚雷が不自然に逸れた時、雪風は心の底から安堵し喜んだ。

伊58を助けた事を提督に褒められた時、そしてその後の一連の流れも雪風の中では幸せな思い出として残っている。

自分が自分だけが幸せになろうと思ってしまったから、こんな事になってしまった。

その考えが雪風の胸中に打撲のように滲む痛みを広げていく。
569 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 22:32:45.45 ID:C1MSIyGP0
「よくわかるでしょう?」

「雪風の幸運が多くの不幸と引き換えにもたらされているんだって」

頭の中の声が響く。以前雪風の事を教えてくれた、どこからか聞こえる声。


幸運とは他の不幸との引き換えだ。そしてその代償を払うのは幸運を感じた自身とは限らない。

駆逐艦雪風の幸運の代償は常に誰かが払い続けてきた。

敵も味方も、全員が雪風が生きるという幸運の代償をおっかぶり傷付いていった。


今も何も変わらない。伊58を見つけた事、無事に連れ帰れた事。それら全ては雪風の奇跡であり幸運だった。

だからこそ、その代償を提督がおっかぶった。彼は意識不明の重体となった。

雪風はそう望んでいなかったが、そうならざるを得なかったのだ。

伊58が泊地に辿りついた瞬間から、こうなる事は決まっていたのだ。


自分が雪風でなければ、あの時の魚雷が直撃して伊58は死んでいただろうし、そもそも見つける事すらできなかった。

自分が幸福になろうと考えなければ、提督が傷付く事もなかった。

だからこそ、雪風は心の底から自分の責任を感じ、人命救助を心の底から後悔した。

例えその結果、友人に新しい友人ができたとしても。

いや、だからこそ、それを知られるわけにはいかなかった。

だから雪風は何も言わなかった。だから雪風は自分の心を隠した。
570 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 22:35:32.98 ID:C1MSIyGP0
「あ」

「でっち…Admiralは?」

目の前の扉から伊58が出てきた。その表情は暗い。彼女は無言で首を横に振った。

失った手足を再び与えてくれた男が、古巣の人間にリンチにあって意識不明。

その辛さをU-511は100%正しくイメージできないが文面としては理解できる。

今伊58から目を逸らした雪風の心情は理解もイメージもできないが、察する事はできる。

それは言葉としても表せない余りにも曖昧な予感に過ぎない。だが今自分がするべき事は伊58の傍にいる事だと理解した。
571 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 22:37:47.59 ID:C1MSIyGP0
提督が泊地に戻ってきてから、特別鎮守府から睦月と曙が毎日来ている。

目的は泊地の秘書艦如月だ。彼女にとって提督の受難はショックが大きすぎたのだ。

絶大なハンディキャップを背負う彼女にとって今の提督の姿は猛毒以外の何物でもない。

だから今の提督を如月に見せないよう、如月が提督に会いに行かないよう支え、悪く言えば監視する必要があった。

一班の夕立と潮、睦月と曙、そして空母班や金剛型の人々が中心となって日々彼女を支えようと彼女の元に通っている。


如月は泊地の中心人物だ。多くの人に大切にされている。U-511は常日頃から如月に対してそう感じていた。

自分とそう歳が変わらないにも関わらず秘書艦に抜擢された事、駆逐艦娘だけではなく空母艦娘や戦艦娘との交流も盛んな事。

飛龍や蒼龍、金剛や比叡と一緒に食事をしている光景が彼女の印象として強く残っている。

如月は本当に多くの人に大切にされている。だけど、伊58はまだそうなれていない。

彼女もまた大きなショックを受けた一人だ。感情を量で測れるのならば、彼女の負担は如月と同等かそれ以上かもしれない。

だが泊地の艦娘達は如月に気を取られ、彼女を支えられなくなっている。

如月がそう支えられているように、伊58も支えなければならないはずだ。

そしてそれは今の自分がやるべき事なのだろう。

まして伊58の命を救った当事者である雪風が伊58を見てそんな顔をするというのならば。

「雪風。やっぱりユーは、でっちと一緒にいるね」

そう判断したU-511は伊58の横に付いて共に歩く。

本当に大切なものの事だけを考える、とはこういう事なのだろうか。

雪風の視線を背中で感じながら、愛宕と大淀が教えてくれた言葉の意味をU-511は探り続けた。
572 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 22:41:47.17 ID:C1MSIyGP0
U-511が去り、雪風は一人で部屋に入る。

この部屋に入れば提督が目が覚めているかもしれない。

そんな事が起こるはずがないと理解しながら心のどこかで期待していた。

だがそんな彼女の目の前に映る光景はある意味全く予想もしなかったものだった。


伊401が、提督の上で馬乗りになっている。
573 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 22:45:03.36 ID:C1MSIyGP0
「提督」

両手で提督の頭を支え、誰にも見せない表情を浮かべ、頬を赤らめ、提督の顔に唇を近付けていく。

目をつぶり、首をかしげ、ドラマの1シーンのように唇を捉えようとする。

「しおい?」

伊401の唇が触れるか触れないかの距離に近付いた瞬間、雪風の声に跳ね飛ばされるように遠ざかった。
574 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 22:51:46.25 ID:C1MSIyGP0
え、あ、は、と顔を赤くしながら雪風から目を逸らす伊401に追撃をかける。

「とりあえず、降りて」

「はい」

「何してたの?」

「…キス」

『は?』たった二文字で表せる感情が一瞬にして雪風の脳内に埋め尽くされる。

この子は一体何を考えているのか?どうしてそんな事を考えたのか?

「キスしたら、提督の目が覚めないかな、って」

『は?』たった二文字で表せる感情が疑問で埋め尽くされた雪風の脳内にずどんと圧し掛かる。

「駄目かな?」

雪風は返事の代わりに思いっきり白い目で伊401を見つめる事にした。ずっとずっと見つめる事にした。

駄目かな?じゃないよ。言葉に出さず表情に出したままずっと伊401を見つめる事にした。

「うー、あー、悪かったよぉ!じゃ!!」

いそいそと退室する伊401の姿を雪風はずっと同じ表情で見つめていた。
575 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 22:54:25.41 ID:C1MSIyGP0
ばたんと音が鳴り、部屋には彼女と目覚めぬ提督だけが残される。

思わず溜息が漏れた。こんな状況で彼女は何を考えているのだろうと。

伊401と雪風は歳が近く、着任もほぼ同時期でお互いがお互いに話しかけやすい環境だった。

休暇で遊ぶ事もあるし、趣味趣向の話で盛り上がったりもする。

活発で能動的な彼女と行動を共にする事を雪風は好んでいたし、彼女のそういう所に好感を持っている。

だが彼女は少し、悪い人でもあると常日頃から感じていた。

歳相応の腕白。可愛らしい甘え方。そう捉えるのが相応だが真面目な気性かつ幼い雪風にはまだその度量はなかった。

夜更かし、悪戯、そしてまだ踏み入れてはいけない大人の世界。それらを自分に持ってくるのは大抵伊401だと雪風は記憶している。

ワレアオバ、という通称の隠し撮りの存在にいち早く気付き雪風に持ってきたのも伊401だ。

電気を落とした深夜の部屋で、彼女と同じ布団の中で視たスマホの映像は衝撃的過ぎて忘れられない。

助平だ。伊401を悪く言うとしたら雪風は彼女をそう評する。彼女はやたらそういう所に興味を持つ。言い換えるならば『ませている』のだ。

今だってそうだ。キスで目が覚める?そんな事があってたまるか。

御伽噺じゃあるまいし。ただ自分がキスしたいだけだろうに。

そんな奇跡が起こってたまるか。そんな奇跡が。奇跡が。奇跡が。
576 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 22:55:23.19 ID:C1MSIyGP0
奇跡が。奇跡。奇跡。奇跡。奇跡。奇跡。奇跡。奇跡??

奇跡。その言葉に至った時、雪風は妙な気配を感じたかのように提督の顔に視界を移す。

奇跡。奇跡。奇跡。言葉が繰り返されるごとに雪風の視界が狭まっていく。

テープやガーゼ、包帯で覆われ、見ていて気分がよくもならない提督の顔。

何にも塞がれず、まるでその為だけに用意されていたかのように晒されている彼の唇。

魔法が解けるように、異性のキスで目が覚める。そんなものは童話だけだ。

ありえない。そんな奇跡は起こらない。


本当にそうだろうか?
577 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 22:58:20.29 ID:C1MSIyGP0
雪風が唾を飲み込む。奇跡は起こらないのだろうか?本当に起こらないのだろうか?

心臓が高鳴る。何故そう言い切れる?仮に起こらないとしても、万が一があるのではないか?

何故なら自分は雪風だからだ。深い眠りに沈む男の唇を見ながら少女はそう自答した。


奇跡の駆逐艦雪風。幸運艦雪風。それが自身だ。自分自身だ。

他の誰かができない事でも、自分ならば、雪風ならば、奇跡を起こせるのではないだろうか?

自分は幸運艦雪風だ。今までだって、幸運だったから生き延びてきた。

幸運艦だったから、自分は幸せに生きてこれた。これからもそうだろう。何故なら自分は雪風だからだ。


ならば。靴を脱ぎ、ベッドに乗る。ぎしと音を立てながら雪風は提督の身体を両腕両脚で囲い込んだ。

彼の頭を包むガーゼや包帯の端から青痣が見える。

内出血の様相がグロテスクに浮かび上がり、傷が腫れ上がり輪郭を歪ませている。

それは常人からしてみればとても見れたものではない。カエルより醜いとも捉えられるそれにキスをするなど誰が考えようか。

だが雪風の精神は常人のそれではなかった。

責任感と義務感、罪悪感と焦燥感、優越感、慢心、傲慢

そして下腹部から湧き上がる衝動が彼女の精神を狂気の沙汰に至るまで高揚させ、彼女を非常人へと変えた。


「司令」

「幸運の女神の、キスを、感じてください」
578 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 23:22:55.02 ID:C1MSIyGP0
自分が起こした幸運の結果が今の提督ならば、自分が彼を癒さなければならない。

奇跡を起こして彼を目覚めさせる義務がある。それはこの幸運艦雪風にしかできない責務だ。

他の誰にもできない。羽黒にも、那珂にも、大淀にも、伊401にも、如月にも、他の誰にもできない。

自分の、雪風の、自分だけの、自分だけの特権だ。他の誰かができる役割であってたまるか。


そう自分に言い聞かせ、雪風は湧き上がる衝動の全てを彼の唇にぶつけた。

彼女の舌が感じ取ったのはレモンの味も、血の味もしない無味だった。


頭をがっしりと掴み、肘と膝の支えすら無くし、提督の身体にべったりとくっ付く。

軍服から着替えさせられ薄着になっている提督の身体の感触が、彼に押し付けた身体から伝わってくる。

青葉から貰った映像を思い返しながら、提督に自分の何かを分け当たえ彼は抵抗せずに全てを受け入れていく。

彼女自身の幸運だけではない、感情の全てを送り込んでいく。

どれだけの時間そうやって過ごしたか、ただ彼女は傷付いて目覚めぬ提督に口付けをし、彼女が持つ全てを彼に分け与え続けた。

たった一行で表せる行動を数秒、数分、数十分も延々と繰り返した。舌に流れる電流と息苦しさに喘ぎながら、その行為だけを延々と。
579 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 23:24:35.51 ID:C1MSIyGP0
「司令、司令、司令、しれい、しれい、しれい、しれい」

奇跡を起こす。その建前すらも湧き上がる衝動が吹き飛ばそうとしていたその瞬間、提督がびくと動いた。

「…あれ?」

聞きたかった提督の声。

「しれぇ!」

「え、雪風?ここはどこ?」

「しれぇ!しれぇ!!」

自分の名前を呼ぶ提督の声に感情が暴走する。

二度と聞けなかったかもしれないその声を雪風は再び聞いている。

あぁ、あぁ。雪風は奇跡を起こしたのだ。

そして雪風は確信した。

やはり雪風は、奇跡の駆逐艦。幸運艦なのだと。
580 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 23:26:31.45 ID:C1MSIyGP0
かつて目の前の彼がかけてくれた言葉は、今この瞬間内なる声と衝動に塗り潰された。

全身で彼を感じながら、雪風は彼から与えられたものを忘却した。

それでも状況が飲み込めていない提督以外の全員が笑っていた。


雪風も、彼女に問いかけ惑わす彼女の頭の中の声も。口角を上げてその奇跡を味わっていた。

異性のキスによって目覚めるという童話のような奇跡。それが今現実となった。

その奇跡の代償、幸運の代償がある事には誰も気付いていなかった。

童話のようなロマンティックな奇跡。


その代償は、焼けた鉄の靴を履かされ死ぬまで踊らされるものだと相場が決まっているのだ。
581 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 23:27:33.37 ID:C1MSIyGP0
そして提督はその代償と、そもそも奇跡が起こった事にすら気付かないまま自分勝手に思考を巡らせていた。

ここが自分の泊地だとするならば、青葉は無事なのだろうか。


不安だ。

青葉に会いたい。

あの子に何も起こっていなければいいのに。

青葉に会いたい。

会って無事を確かめたい。


少しずつ状況を理解しだした提督は彼に抱き付いて離さない雪風の身体を感じながら、そう考えた。
582 : ◆ZFgfLAc.nk [saga]:2018/04/28(土) 23:28:35.83 ID:C1MSIyGP0
☆今回はここまでです☆

艦これ5周年おめでとうございます。
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/04/29(日) 00:46:52.13 ID:8kTJly5yo
おつ
次も待ってるわ
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