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【艦これ】伊58「黒く塗り潰せ」
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158 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 21:04:33.37 ID:RYMOEHea0
「わかるか?」
「今お前の下着に指をひっかけた」
「俺がこの手を引っ張ったらどうなるか」
「わかるな?」
159 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 21:19:45.23 ID:RYMOEHea0
冷たい目のまま、雪風の目だけを見ながら、提督は警告を出した。
彼が望む事を雪風が言わなかった場合、どうなるか。
どうなってしまうのか。
否が応にも浮かんでしまう未来のビジョンが壊れたビデオのように様々な光景を映し出す。
「言えばいいんだよ、言えば。そうすれば終わりだ」
「言わなきゃ」
「もっと酷い目に遭わせる」
冷たい言葉が雪風の身体を熱くする。
無意味に肩が動き、ソファにめり込んでいく。
義務感
親近感
好奇心
そして抑えきれない衝動が頭の中で駆け巡る。
思考回路がショート寸前になっても激しく循環し続ける。
酸素が足りなくなり、呼吸が荒くなる。
表情を隠すという事すら考えられなくなり、視界から提督を外す事ができなくなる。
感情を制御できなくなり溢れ出した涙。
その目は
僅かな恐怖と
あまりにも大きな期待で鈍く輝いていた。
160 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 21:21:29.91 ID:RYMOEHea0
このまま
このままいったら
雪風は
雪風は
雪風は
雪風は
雪風は
雪風は
161 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 21:33:53.97 ID:RYMOEHea0
「声か」
緊張感が抜けた声が雪風を現実に引き戻す。
「頭の中から声が聞こえてきたんだな?」
「伊58からそう言われた辺りから?」
その一言で、酔いが覚めた。
雪風を苦しめ始めた頭の中の声。
その存在を提督がズバリ言い当てた事で、雪風の目が覚めた。
その存在を認識し始めた時までズバリ言い当てられた事で、雪風の意識は完全に現実に戻った。
「な、なんでわかったんですか?」
目をぱちくりさせながら正直な疑問を口にした雪風を見て、提督が微笑んだ。
先程まで冷酷非道な拷問官のような表情を浮かべていた男が、僅かに顔を赤らめて微笑んだ。
「やっぱりそうか」
雪風の腰を掴んでいた手が離れ、引き抜かれた。
雪風の口から、あ、という声が漏れると同時に、彼女の視界を覆っていた影、提督の身体が彼女の視界から離れていった。
雪風はそれを名残惜しそうな目で見ていたが、提督は後方確認しながら体勢を立て直していたため、それを見る事はなかった。
その提督の様子はまるで、今の雪風の目を、表情を見たくないかのようにも見えた。
162 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 21:36:51.49 ID:RYMOEHea0
提督「雪風、それはな。お前が思っている以上によくある事だよ」
提督「全然変なことじゃない。辛い事だけど、結構な人数が体験していることだよ」
提督「だから抱え込もうとしないで」
雪風「………」
提督「で」
提督「そいつは何て言ってたの?」
雪風「…雪風は疫病神だ。死神だって」
提督「うん。何でそいつは雪風の事をそう言ったの?」
雪風「雪風が生きる為に皆が死んでいったって」
雪風「軍艦だった頃から、雪風はそうやって生きてきたって」
提督「幸運の駆逐艦…呉の雪風…だっけか」
提督「でも、ここにいるお前(雪風)はそうとは限らないんじゃないか?」
雪風「でも!!」
雪風「雪風に当たるはずだった魚雷がいきなり変なほうに行ったんです!!」
雪風「魚雷がぐるって向きを変えて、雪風を避けるように進んで…」
雪風「そんなの、そんなのありえない」
雪風「まっすぐ進む魚雷がいきなり曲がるなんて」
提督「………」
提督(幸運の駆逐艦か………)
163 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 21:37:45.44 ID:RYMOEHea0
「伊58ちゃんの首輪の爆弾、壊れているみたいです」
「私が中開けた時には、もう丸焦げのボロボロでしたよ」
「だから爆発する事はありません」
「機械に不具合が起こってほんの小規模な爆発…首輪の機械を壊す程度の爆発になったか」
「そうじゃなかったらやっぱり不具合で高温になって配線を焼き切っちゃったか」
164 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 21:40:34.78 ID:RYMOEHea0
提督(機械の故障…か)
提督(あれも、俺達にとってはラッキーだったな)
提督(伊58の首輪が爆弾で、それが途中で爆発する事がなかった事も)
提督(雪風が、爆発に巻き込まれることがなかった事も)
提督(本当にラッキー。幸運だった)
提督(………でも)
提督(くだらねぇな)
165 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 21:43:50.35 ID:RYMOEHea0
提督「雪風」
雪風「はい!」ビクッ
提督「」ムニュ
雪風 )・3・( プエ
提督「落ち着けー」
提督「魚雷が勝手にルートを変えて逸れてったって」
提督「それ、俺一つ思い当たるもんがあるぞ」
雪風「んえ?」パッ
提督「ちょっと待ってろ」
166 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 21:53:35.82 ID:RYMOEHea0
提督「伊58見つけたのって、南西諸島海域方面だったよな?じゃあ、これか?」ドス
提督「で…あれだろ。川内と合流した辺りでの話ならー」パラパラ
提督「この辺か」トン
雪風「はい」
提督「なら確定だ」
提督「海流だ」
雪風「海流?」
提督「ほら、これ見てみんしゃい」
提督「この辺はな、ちょうど異なる海流の境目なんだ」
提督「いくら魚雷が勝手に進んで行くとはいえ波には流されちまう」
提督「お前はその境目に立っていたんだ」
提督「だから」
提督「魚雷はお前の目の前で逸れた」
提督「奇跡でも魔法でも何でもない。よくある話だ」
167 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 21:55:44.43 ID:RYMOEHea0
雪風「じゃあ、何で」
雪風「何で雪風はそんな所にいたんですか?」
提督「え?」
提督「………」
提督「雪風、血液型A型でしょ?」
雪風「はい。A型です」
提督「あははやっぱり!」
提督「俺と同じだ」
168 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 21:57:33.69 ID:RYMOEHea0
雪風「………」
提督「…理由があるとすると」
提督「絶妙なタイミングで勘が働いたから、じゃないかな?」
提督「周囲を警戒しないで突っ込むっていうミスをしたけど」
提督「絶妙なタイミングで勘を働かせてそのミスを挽回した」
提督「雪風に魚雷を命中させる事しか意識が行ってなかったイ級は川内の接近に気付かず」
提督「直撃喰らって無様に沈んだ」
提督「そういう事だろ?」
169 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 22:00:06.31 ID:RYMOEHea0
提督「あまり考えすぎるな」
提督「でもな、これだけは覚えておいて」
提督「お前が周りから幸運艦と呼ばれようと、奇跡の駆逐艦と呼ばれようと」
提督「奇跡だとか運で全部片付けられるほどこの世界は甘くはねぇ」
提督「何が起こるかとか、何が生まれるかとか、誰が何を感じるとか」
提督「全部全部、何かが重なって出来上がったものだ」
提督「火山の爆発も、病気の感染も、何らかの要因があって起こるものだ」
提督「それを人間は全部理解しきれない」
提督「人間には全部理解出来るほどの能力がない」
提督「でも、そういう自分の無能さを隠したがるもんだ」
提督「だから、自分の無能さを誤魔化す為に」
提督「運なんて言葉で自分を守る」
170 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 22:02:37.31 ID:RYMOEHea0
提督「運が悪かったから駄目だった」
提督「不幸だからしょうがない」
提督「そうやって自分を守る方便で取り繕って」
提督「考える事をやめちまう」
提督「その、運に酔っちまうんだよ。で、物語の主人公にでもなったかのように振舞う」
提督「馬鹿ばかりだよ。てめぇが主人公なんかになれるわけがねぇのに」
提督「そうやって諦める奴にはせいぜい死体A役くらいが関の山なのに馬鹿みたいに高望みしてな?」
提督「それよりかは何でそうなったか、どうすりゃいいかを考えて行動していった方がよっぽどマシだ」
提督「そうやって色々試して、試して得た経験を次に活かしてどうすりゃいいかを考えて、また試す」
提督「一生不幸だ不幸だ何て言って思考停止するよか、よっぽどマシだ」
提督「こういうのを巷じゃPDCAサイクルって言うんだ。覚えておきな」
雪風「ぴーでぃーしーえーサイクル」
171 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 22:07:17.11 ID:RYMOEHea0
提督「こんな所かな?雪風」
提督「俺はお前の事を奇跡の駆逐艦だなんて全然思わない」
提督「所詮は一駆逐艦娘、一人の人間としてしか見ていない」
提督「お前の頭の中の声は、雪風の事をどこぞのロボットアニメの主人公だとでも勘違いしてるみたいだけどな」
提督「はっきり言うぞ」
提督「俺も、お前も、物語の主人公なんかじゃない」
提督「この世界に数え切れないほどいる有象無象のうちのたった一人だ」
提督「世界はお前を中心に回っているわけじゃないし、全てお前の思い通りにいくはずもない」
提督「お前を生かす為に他の全てを無意識に犠牲にする?」
提督「違うね」
提督「周りにいた奴が馬鹿やらかしたから結果的にそうなっただけだ」
提督「人殺しも厭わないどうしようもないクズどもがキチガイみたいに攻めてきたから結果的にそうなっただけだ」
提督「雪風と、それ以外で決定的な違いがあったから結果的にそうなっただけだ」
提督「それを幸運だの不幸だので誤魔化されてるだけだ」
提督「雪風がどうとか、そんなもんは何も関係ない」
172 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 22:12:55.06 ID:RYMOEHea0
提督「いいか」
提督「運っていう言葉で全部片付けようと思うなよ」
提督「お前は疫病神なんかじゃない」
提督「死神なんかじゃない」
提督「この世界に、神なんてもんがいるはずがないんだから」
提督「お前は、ただの人間だ。ただの女の子だ」
提督「だから」
提督「幸運なんてもんに慢心しちゃいけないし、それを悪いもんとも思っちゃいけないよ」
雪風「………しれぇ」
提督「もう大丈夫かな?」
雪風「…はい!ありがとうございます!しれぇ!!」ニコッ
提督「どういたしまして」ニコッ
提督「また何かあったらすぐに教えてね」
「絶対」
「何をしてでも」
「何とかするから」
173 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 22:16:59.81 ID:RYMOEHea0
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
174 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 22:19:51.87 ID:RYMOEHea0
一人残った執務室で、提督は椅子に腰掛けた。
そして先程のやり取りを思い出す。
何で助けた
お前は疫病神だ。
雪風はそう言われたと言っていた。
ポケットから執務机の鍵を取り出す。
鍵穴に差込み、ぐるりと回すと、かすかに軽くなった感覚が手に伝わった。
引き出しの取っ手に手を掴み、ゆっくり引き出す。
衝立にぶつかり手に衝撃が来たのを合図に手を離し、引き出しの中身をじっと見つめる。
殆ど空の空間に、L字型の鉄塊が一つだけ置かれている。
その形状がよく把握できるように横たわっているそれには、英字の刻印が刻まれている。
それは、自動拳銃と呼ばれるものだ。
提督の右手がそれに伸び、掴んだ。
手首が鉄の重さを感じ、手の平と指先にざらついた感触が伝わる。
175 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 22:22:46.13 ID:RYMOEHea0
所詮俺達はこの世界に無数に存在する有象無象のうちの一つだ。
だから
そのうちの一つや二つ、消えてなくなろうが
この世界には
何の影響も及ぼさない。
十や二十がくたばったところで
この世界は
気にせず回り続ける。
百や千が殺されたところで
あぁそうなんだ怖いねざまぁみろ、ですぐに忘れられる。
気にしない。
心を動かさない。
記憶にも残らない。
どうでもいい他人だからな。
176 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 22:26:24.86 ID:RYMOEHea0
先程、最後に彼が雪風に言った言葉を思い返しながら
提督は自動拳銃の引き金を右手の人差し指でなぞった。
177 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 22:28:37.36 ID:RYMOEHea0
伊58は助ける。助けるつもりだ。
だけど
これ以上うちの艦娘を傷付けるつもりなら
本人が助かりたい気が無いんなら
話は
違う。
てめぇの命一つ、本当に消えてなくなろうが
この世界には
何の影響も
及ぼさない。
178 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 22:30:11.03 ID:RYMOEHea0
提督は自動拳銃をズボンと腰の間に差し込み、
彼の心に呼応するように黒く光る拳銃を
白い制服
白い上着が覆い隠した。
179 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/10(土) 22:34:07.26 ID:RYMOEHea0
☆今回はここまでです☆
180 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/11(日) 03:47:22.92 ID:9BUVCQ1Eo
おちゆん
181 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/11(日) 04:08:04.01 ID:7Ieq1qHfo
懲罰シーンが足りない
182 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 21:58:35.21 ID:Pf2BVjno0
>>1
です。
仕事が忙しくなりましたがそれでも楽しくss作っています。
それでは投下を始めさせて頂きます。
183 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 22:04:18.06 ID:Pf2BVjno0
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
184 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 22:34:50.19 ID:Pf2BVjno0
「頼めるかな、明石」
携帯端末の熱を頬で感じながら、提督が呟いた。
「うん。これしかないと思っている」
「友提督ん所の明石さんにも俺からお願いしておく。二人で何とかやってくれないか」
「うん。ありがとう。お願いね」
携帯端末を耳から外し、画面に指で触れる。
端末側面のボタンを押し、目的の場所を見据えながら、手の平を手前に向けるように手首を振った。
ブック型の端末カバーが勢い良く閉じ、たん、という音が廊下に響く。
曲がり角の先、目的地から少し遠い場所から、窓側の壁に寄り掛かりながら様子を見る。
話し声は聞こえない。電話中に誰かが通った様子もない。
今、彼女は一人。
彼はそう状況判断した。彼にとって好都合な状況であると、そう感じ取った。
体重を預けていた壁から離れ、歩いて近付いていく。
用意はできた。
やることはやった。
あとはどうにでもなってしまえ。
扉の前まで来た提督は
中指の第二間接の角でこんこんと扉を叩き、僅かに間を置いて、だけど返事を聞かずにドアノブを回した。
185 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 22:38:42.63 ID:Pf2BVjno0
「伊58」
部屋に入ってすぐ、ベッドに横たわる少女に呼びかける。
びくんと身体が跳ねた事以外に返事はない。ただ呼吸だけが聞こえる。
荒い呼吸音だけが鼓膜を震わせる。
怯えている。恐怖している。逃げたがっている。
提督には見て取れる。手に取るようにわかる。
白い制服に対するトラウマ。
金の紋章に対するトラウマ。
提督という存在そのものに対するトラウマ。
両手両足を奪った存在そのものに対するトラウマ。
何もかもを奪った存在そのものに対するトラウマ。
彼にはわかる。わかってしまう。知っているから、推測できてしまうから全てわかってしまう。
だがここから先はわからない。曖昧すぎる推測しかできない。
だが、だから、だからこそ
ここから先は全力で行く。
「お前」
「死にたいんだってな」
殺すつもりで
死ぬ気で。
186 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 22:57:54.43 ID:Pf2BVjno0
「死にたいのか」
「もう生きていたくないのか」
再度伊58に問いかける。
返事はない。だが彼女自身がそう言ったという事を青葉からは聞いている。
どうせこのままだったら死んだ方がマシ。
生きていたって辛いだけ。
そう言ったと、提督は聞いていた。
助かりたくないと、そう考えていると提督は聞いていた。
雪風の表情を思い出す。
彼女は苦しんでいた。泣くのを必死に堪えて、叫んでいた。
伊58の言葉をきっかけに自虐的になってしまった少女の姿を思い出す。
喉を押すその感情が着火剤となる。
あの日、あの時からずっと燃え続けている
青い炎の、彼の狂気の、着火剤となる。
彼の心に小さく、だけど常に揺らめいている青い炎が
着火剤を浴びて大きく燃え上がる。
右手を背中に伸ばす。
上着の下に手を潜り込ませ、手の平の冷たい感触を握り締める。
「だったら」
「俺が今ここで殺してやるよ」
提督は、ただ震えて沈黙する伊58を見据えながら
腰から自動拳銃、オートマチックを引き抜き、向けた。
187 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:18:04.76 ID:Pf2BVjno0
扉の前から歩いて近付いていく。
ベッドの傍まで近寄り、靴のままベッドの上に立つ。
伊58の身体に馬乗りになった提督は、彼女の目の前で銃をいじり出す。
片手を捻り、銃身の側面を伊58に見せ付ける。
もう片手を使い、セーフティを外した。
マガジンリリースを押す。
銃からマガジンが滑るように落ち、提督の手に落ちる。
中に込められた、僅かな緑色を含んだ黄色に光る弾丸を伊58に見せ付ける。
BB弾を発射するモデルガンではない。本物の銃だ。
提督は何も言わないが、伊58には彼が何を言いたいのか痛いほど伝わった。
がちん、という音が響き、マガジンが再び装填され
銃口が半円を描きながら、伊58の額に、こん、と当たった。
「動くなよ」
「今から」
「お前の脳幹をブチ抜く」
「普通の拳銃だけど、艤装を付けていない、結界の無いお前を殺すには十分だ」
額に置いた銃口を下に動かし、彼女の柔らかい唇に当てた。
「こいつを」
「お前の口に突っ込んでブチ抜く」
「拳銃っていうのは他の銃に比べると威力が無いんだ」
「だから額に当ててやるやり方だと、威力不足で銃弾が頭蓋骨滑って死に損なう事があるらしい」
「ショットガンでもあれば外から頭グチャグチャにできるだろうけど、流石にそんなもん積んだ船は今まで見た事ない」
「それと、俺は遠距離から弾を当てられる程腕もよくない」
「だから」
「脳幹に向けて二発」
「それでお前を」
「確実に殺す」
188 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:24:47.71 ID:Pf2BVjno0
左手でオートマチックを支える。
「口を開けろ」
口調を変えず、波を変えず、声量を変えず、提督が伊58に命令する。
口が僅かに開き、白い歯が少しだけ見える。
伊58の口が僅かな、震えるような開閉を繰り返す。
「 開 け ろ 」
二度目の命令を出した。
今度は少し大きな声で、目を見開いて、威嚇するように命令を出す。
伊58は顎を震わせながらゆっくりと口を開けた。
奥歯も、ピンク色の舌も、唾液で濡れた口内の全てを提督の前に曝け出した。
提督はそこに銃口を突き込む。
伊58の顎が限界ギリギリまで開かれ、不快感が耳まで駆け上がる。
189 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:28:52.03 ID:Pf2BVjno0
「俺は時々考える事があるんだ」
「深海棲艦とは何なんだ」
「あいつらの資源は一体どこから来ているんだ」
「あいつらは一体どうやって新種を開発しているんだ」
「あいつらの指揮系統は一体どこにあるんだ」
「あいつらは」
「どこから来て」
「何の為に」
「戦い」
「何が欲しくて」
「生きるのか、って」
伊58の目を見つめながら、銃口を動かさずに提督が呟いた。
190 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:31:32.84 ID:Pf2BVjno0
「艦娘が」
「轟沈した艦娘が深海棲艦となり、敵となる」
「よく聞くケースだ」
「深海棲艦になった後の艦級は場合によってそれぞれだが」
「見た目は、元になった艦娘のそれに似たものになるケースが多い」
「…それがどういう事か」
「深海棲艦は」
「艦娘の死体を使って」
「新しい深海棲艦を生み出す事ができるって事じゃないか?」
191 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:34:04.84 ID:Pf2BVjno0
そこまで言い切り、部屋には一瞬の沈黙が訪れた。
伊58の目を見据えながら、提督が鼻で深呼吸する。
「じゃあお前はこれからどうなる?」
「お前が死んだらそこからどうなる?」
「ここで俺が殺すお前は一体どうなるんだ?」
「お前も」
「深海棲艦になるのか?」
「俺が殺したらお前も深海棲艦になるのか?」
「お前も人を憎んで俺達の敵になるのか?」
192 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:40:56.81 ID:Pf2BVjno0
伊58は困惑した。そんなものはわからないからだ。
そもそも提督が何の為にこんな話をしているのかすらわからない。
だがもし、これから自分が深海棲艦になるのなら、もうそれでもいいと彼女は感じた。
今よりも、今のみじめな自分よりも、ずっとましなはずだ。
だから、もうそれでもいいと考えた。
もう、人の世界に生きる権利なんて無いのだから。
ここで生きていく未来が一切見えないのだから。
失った右腕が
左腕が
右脚が
左脚が
痛むから。
その痛みが止まるのなら。
嫌な思いをしなくなるのなら、もうそれでもいいと。
そう考えた。
193 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:50:47.54 ID:Pf2BVjno0
そんな伊58の意志も解さず提督は言葉を続けていく。
今の彼にとって伊58の意志は彼自身の意志決定と何の関係なかった。
話したいから話す。
伝えたいから伝える。
伝えなければいけない事だから、伝える。
だから彼は言葉を続けていく。
「俺はな、他のキチガイ提督みたいに」
「悲劇のヒーローぶりたいだけで」
「 わ ざ と 轟 沈 さ せ て 」
「 悦 に 入 る よ う な 」
「そんな事は、したくない」
「それが深海棲艦に餌与える事になるなんて」
「そんな考えが及ばないほど」
「 ド 低 脳 な脳ミソも、もう持ち合わせちゃいない」
「命を脅かす敵なんて一人でも少ないほうがマシに決まっている」
「ただでさえ、今でも手一杯なんだ」
「無駄に敵を増やすわけにはいかねぇんだよ」
194 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:53:37.48 ID:Pf2BVjno0
「死にたいなら勝手に死ね」
「俺が手伝ってやる」
「だけどな」
「俺はお前を殺したその後」
「お前の死体を念入りに潰す」
195 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:56:14.82 ID:Pf2BVjno0
伊58が雪風によって救助され、この泊地に連れて来られてから5日
今日、提督がこの部屋に入ってから約3分
紆余曲折を経て
ようやく彼は、彼自身の思いを彼女に伝える事ができた。
196 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/21(水) 23:59:03.38 ID:Pf2BVjno0
「深海棲艦が」
「奴らが一切利用できないように、念入りに潰す」
「二度とこの世に蘇られないように」
「この世に二度と戻って来れないように」
「バラバラに」
「粉々に」
「グチャグチャに」
「跡形もなく」
「潰す」
「潰して」
「燃やす」
「何もかもを灰にしてやる」
「二度とこの世に」
「戻ってこられないように」
「完全に消え去るまで」
「何度でも」
「何度でも」
「潰して」
「燃やして」
「灰にする」
197 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/22(木) 00:09:49.19 ID:rJoW6pKe0
☆今回はここまでです☆
前川みくさんはネコのアマゾン。
198 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/06/22(木) 00:11:25.95 ID:rJoW6pKe0
ちょっと修正します。楽しくなってつい入れましたけどこの台詞量で3分は短すぎィ!!
>>195
伊58が雪風によって救助され、この泊地に連れて来られてから5日
今日、提督がこの部屋に入ってから約10分
紆余曲折を経て
ようやく彼は、彼自身の思いを彼女に伝える事ができた。
199 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/22(木) 01:47:53.97 ID:QMb8yGDGo
おつのん
200 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga sage]:2017/07/06(木) 22:55:19.64 ID:B7JfaPTK0
>>1
です。
多忙の為投下ができませんが、スレ落ち防止の生存報告だけ入れておきます。
201 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/07(金) 09:26:03.14 ID:oepBuDGGo
MAJIか!待ってる!
202 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 21:12:52.96 ID:3LCGAcBQ0
>>1
です。
投下を始めさせて頂きます。
203 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga sage]:2017/07/14(金) 21:17:03.81 ID:3LCGAcBQ0
伊58以外、それ以外が世界から消え去ったかのように、彼女だけを見据えながら提督は話を続けた。
怒鳴るわけでもなく、萎縮するわけでもなく
ただ淡々と、一切捻じ曲げずに事実だけを突きつけるかのように
はっきりとした口調で、死を望む彼女の未来を説明していく。
204 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 21:18:32.05 ID:3LCGAcBQ0
「特に」
「脳」
「心臓」
「子宮」
「徹底的に潰す」
「脳を潰せば、物の判断ができないし身体を動かすこともできない」
「心臓を潰せば、血液が全身に行き渡る事がない。要するに動けない、生きられない」
「子宮を潰せば、新しい命、新しい敵がそこから湧いて出てくる事は無い」
「だから、潰す」
「全部潰す」
「一つ残らず潰す」
「その周囲の部品も全部潰す」
「深海棲艦には耳鼻目口髪の毛一本、たんぱく質カルシウムの一かけらすら与えてやらねぇ」
「砕いて、刻んで、燃やして、灰になるまで叩き潰す」
「家族の元に送る、なんてふざけた事は絶対にしない」
「この世界から完全に消えてなくなってもらう」
205 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 21:20:03.55 ID:3LCGAcBQ0
一瞬の沈黙がこの場に訪れた。
提督の鼻から空気が吸い込まれる音、空気を吹き出す音が流れた後
彼は再び、今度はゆっくりと、そして更にはっきりと、口を開いた。
「それでいいな?」
そして銃を握った右手を前面に押し出す。
伊58の顎が更に開かれ、喉と顎に感じる異物感が吐き気を催す。
206 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 21:27:23.40 ID:3LCGAcBQ0
「脅しだと思ったか?」
「やらないと思うか?」
「やるぞ」
「だってお前は」
「雪風を傷付けた」
「お前を助けようと必死になってるあいつに酷い言葉を浴びせて傷付けた」
「お前のせいで、雪風が傷付いた」
「雪風は、お前を、助けたいと思っていたのに」
「お前のせいで」
目の前の拳銃と提督の右手に定められていた伊58の焦点の、そのはるか遠くで、提督は僅かに表情を歪めていた。
喉奥と海馬から湧き出る苦すぎる思い出が、彼の目尻を下げさせ、歯を食い縛らせる。
頭の中の声、軍艦の記憶、それが艦娘に牙を剥く事例。
赤城との思い出。
如月との思い出。
そして、今度は、雪風。
三度目に立ち塞がったこの苦境への憎しみを、彼は隠しきれなかった。
その引き金となった事象への憎しみを、彼は抑えきれなかった。
だからこそ彼は、暴挙に出る決意をした。
207 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 21:30:59.65 ID:3LCGAcBQ0
「だから」
「お前がこれ以上あいつを傷付ける前にブッ殺さなきゃいけねぇんだよ」
「じゃなきゃあ、あいつがダメになっちまう」
「雪風だけじゃない」
「他のみんなもだ」
「お前がそうやって喚いて騒いで」
「みんなが傷付いていく前に」
「お前を殺す」
208 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 21:42:02.06 ID:3LCGAcBQ0
軍艦雪風の記憶を蘇らせた原因、伊58の殺害を提督は決意した。
これ以上、自分の周囲の艦娘が傷付くところを見たくなかったからだ。
自分の周囲の艦娘を傷付けていく伊58の存在を、提督は許してはおけなかった。
殺した先どうなるか、その結果どうなるか、その未来を彼が予想していないわけではない。
伊58を助けようとした雪風がどう思うか、潜水艦娘達がどう思うか、泊地の艦娘達がどう思うか。
提督がそれを予想していないわけではない。
だが彼は、その先自分がどうするかも既に決めていた。
209 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 21:46:09.21 ID:3LCGAcBQ0
「別にお前一人だけじゃないさ」
「お前を殺して」
「お前の死体を完全に処理した後」
「俺も死んでやる」
210 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:17:00.50 ID:3LCGAcBQ0
提督が伊58に対して抱いている感情は殺意だけではない。
惨たらしい目に遭った彼女に対する憐れみも、助けたいと感じる正義感も持ち合わせている。
彼の中で目の前の伊58という存在は、既に他の艦娘達と差が無いほどの存在になっていた。
大切な友人の一人。仲間の一人であると、彼は伊58をそう見ていた。
だからこそ、提督が伊58を殺す時は、彼自身も死ぬ時だ。
それは彼が、この仕事を続けていく上で定めた対価だった。
自分が無能であると知っているからこそ、文字通り死ぬ気で作戦を立てる。
仲間を誰一人として死なせない。死なせてはいけない。
その考えを実現する為に、彼は対価に自分の命を捧げた。
この戦争で戦死するという事が、どんなに惨たらしい結果をもたらすかを、彼はかつて味わった痛苦と共に思い知った。
名誉も、権利も、何もかもを失う。ただ失う。ただ失うだけなのだと。
その先に残るものは何もない。何もかもを悪意という名の狂った獣に食い尽くされるのみ。
この世界は、人の味を覚えた羆のように唾液を垂らし、舌を突き出し、歯を剥き出し、眼をギラギラと光らせる、狂った獣が跋扈し支配している。
彼は、ここまでの人生でそれを悟ってしまった。
大切な仲間が、狂った獣どもに食い荒らされるなんて事は許されない。
だからこそ、どんな手を使ってでも全員で生き延びようと、彼は決意した。
仲間を一人でも死なせないように。全員で生き残ってこの戦争を終わらせる為に。
だけども自分は無能である。自分に誰かを守る力は無い。故に彼は自分の命を制約として捧げた。
万が一仲間が犠牲になるような事があれば、命の責任を、彼自身の命で払う。
それは、指揮官として致命的な思い上がりである事も、提督はその頭の片隅で理解していた。
だが制約と反逆と自己否定を同意義とするその狂気に彼は身を委ねたのだ。
誰かが犠牲になっても、それでもなおヘラヘラと生きていく事を、彼は何よりも嫌っていた。
そうしてでも生きていく人間を、狂人と罵り、外道と誹り、心の底から軽蔑していた。
例え、その結果が自分の目論見通りだとしても、彼はその先を生きるつもりは一切無かった。
伊58という仲間を自分自身の手で殺しておきながら、その先を生きるつもりは一切無かった。
例えそれが他の仲間を守る為のものだとしても、彼はその先を生きるつもりは一切無かった。
211 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:25:27.68 ID:3LCGAcBQ0
提督が何を考え、伊58に銃を突きつけるに至ったか。
根本から言ってしまえば、
彼女が死にたがっている現状を打破する事。
それしか考えていなかった。
銃を突き付け、殺害の意志を見せる事で彼女がどう動くかという問題は、彼にとって大したことではなかった。
もし恐怖や抵抗の意志が見られたのならばそれでいい。
彼女の生きる意志を煽り、全力を持って支えよう。
それは恐らく一番最善の結果になるはずだ。
だが、常に最善の結果が起こるとは限らない。故に最悪の結果が起こった場合も考えた。
もしそれでも死を選ぶというのなら、そのまま望み通り殺してやろう。
そして自分も、後を追おう。
これで、どちらに転んでも死にたがりの伊58は居なくなる。彼女に仲間が傷付けられる事は無くなる。
彼が考えていたのは、それだけだった。
どちらに転んだとしても、彼にとってはメリットしかないと。
だからこそ、提督は伊58の殺害方法を彼女本人に念入りに話した。
それで恐怖を感じて、生きたいと思うならそれでいい。
それでも死にたいと思うのならばそれでもいい。
いや、死にたいと思ってくれていたほうが都合がいいかもしれない。
それで、自分も、死ねるのならば。
この世界に不要な自分が消えてなくなるのであれば。
「俺が道連れになってやる」
「だから安心して死ね」
どちらに転んでも、提督にとっては都合が良い。
何もかもが、全てが彼の思惑通りに事が進む。
212 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:26:48.72 ID:3LCGAcBQ0
そのはずだった。
そのはずだった。
そのはずだった。
提督は気付いていなかった。
彼が予想していなかった事が、三つも、起きていた事に
彼は気付いていなかった。
213 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:27:48.39 ID:3LCGAcBQ0
彼の口角は、彼自身も気付かない内に、はっきりとわかるほどに上がっていた。
そして伊58は、提督のその表情に焦点を当てていた。当ててしまっていた。
その瞬間、この場の状況が一気に動き出した。
214 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:30:26.04 ID:3LCGAcBQ0
伊58の肩が、震えだす。
伊58の顎が、かたかたと揺れ、銃身にこつこつと音を立てていく。
伊58の瞳に、涙が浮かびだす。
提督は伊58のその様子を、恐怖していると捉えた。
伊58は死にたくないと、生きたいと思い始めている。
それならば、と既に口角が元に戻っている口を開いた。
「何震えてるんだよ」
「怖いかよ」
「さっさと死んだ方がいいなんて言ってたくせに」
「今さら、怖いのかよ」
「死んだ後の事なんてどうだっていいだろ」
一拍置いて息を吸い
「死にたいんだろう!?」
叫んだ。
「もう生きているのが嫌なんだろう!?」
叫んだ。
「そう言ったのはお前じゃないか!!」
大きく息を吸い、吐き出す。
全身の力が空気と一緒に抜けていく。
右手の力も抜け、伊58に突きつけた銃口も僅かに下がった。
215 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:32:42.59 ID:3LCGAcBQ0
「でも違うよな」
「お前は」
「ただ逃げたいだけだ」
「嫌な事を投げ出して、逃げたいだけだ」
「死にたいなんてな、本当に死にたいなんてな、誰も思わないんだよ」
「ただ逃げたいだけ。逃げたくて、逃げたくて、逃げる手段がそれしかないから、死ぬだけだ」
「お前だってそうだろう」
「両手両足吹っ飛んで、これからどうやって生きていけばいいのかもわからない」
「でも生きていたい」
「でも生きていく手段がわからない」
「幸せになれる方法が全然思い付かない」
「だから」
「しょうがなく」
「死にたいだけだろ?」
216 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:36:18.99 ID:3LCGAcBQ0
右手の人差し指、トリガーにかけていた指を外す。
銃口が伊58の口から離れ、光を反射する細い糸がつう、と銃口に伸びた。
「教えろよ」
「そういう、嫌な事とか遠慮してる事とか全部取っ払ってさ」
「お前が本当にしたい事って何?」
「生きたい?」
「まだ生きていたい!?」
口調の激しさを動きにも乗せるように、拳銃から手を離して伊58の両肩を掴んだ。
「 答 え ろ ! ! ! 」
「生きたいのか!!!!」
「死にたいのか!!!!」
「答えろ!!!」
伊58の肩は震えていた。提督の両手もまた震えていた。
既に答えは見えていた。だが、伊58自身の口からそれを言わなければ意味が無い。
「 答 え ろ ! ! ! 」
右手を離し、伊58の頭の傍に置き、右腕を支えにしながら伊58に顔を近づける。
「答えろよ。巡潜乙型改二三番艦娘伊58」
「俺は、お前がどうしたいかを知りたいんだよ」
「俺がどうとか」
「何がどうとかじゃなくて」
「お前が」
「どうしたいかだけを知りたいんだよ」
「生きたいのか、死にたいのか」
「はっきり教えてくれよ」
「じゃなきゃ」
「どうしたらいいのか、わからねぇんだよ」
217 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:37:18.22 ID:3LCGAcBQ0
言葉が途切れ、二人の呼吸だけが聞こえる。
その時間の中でも提督はずっと伊58だけを見続けていた。
そして、伊58の口が開く。
「死にたくない」
218 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:39:08.52 ID:3LCGAcBQ0
ぽつりと呟いたその言葉が
「死にたくない」
彼女の心の中で増幅していく。
「死にたくない」
制御弁を失った彼女の本心が溢れ出していく
「死にたくない」
口から言葉を、目から涙を、溢れ出していく。
「…生きていたい」
ようやく伊58の本心を引き出した。
安心感と伊58に対する同情から、溢れ出しそうになる涙を堪えながら提督は答えた。
「だったら」
「死にたいなんていうんじゃねぇよ」
「諦めるんじゃねぇよ」
「何を犠牲にしてでも」
「どんな手段を使ってでも生き延びるんだ」
219 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:41:12.33 ID:3LCGAcBQ0
ふ、と力が抜けて提督はベッドに、伊58の隣に、肩から倒れこんだ。
ベッドに頭の重さを預けながらも伊58の顔を見つめる。
伊58も、両手両足を失った彼女に残った僅かな自由を行使した。
首を提督に向け、彼の顔を見つめた。
涙が顔を横切り、頬に湿った感覚が触れる。
「わからねぇか」
「生き方がわからねぇか」
「一人ぼっちが怖いか」
「だったら」
「俺が一緒に考えるよ」
「お前が今を生きる手段は俺が用意する」
「だから」
「死にたくないなら、死にたいなんて絶対に言うんじゃねぇ」
「生きろよ」
「どんな手段を使ってでも」
220 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:47:08.89 ID:3LCGAcBQ0
伊58の身体が提督の腕で引き寄せられる。
伊58の頭が提督の胸に押し付けられ、ボタンの冷たい感覚が彼女の顔面に触れた。
そしてそのボタンと、分厚い布の奥で動く、彼の心臓を頬で感じた。
「お前が生きて行けるようになるまで」
「俺が、一緒にいてやるから」
その言葉を聞いた途端、伊58の中にあった感情の爆弾が爆発した。
その衝撃が涙液を押し出し、声帯を激しく震わせた。
221 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:47:42.62 ID:3LCGAcBQ0
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
222 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:48:39.42 ID:3LCGAcBQ0
「私が」
「生きて」
「行けるようになったら」
「あなたはどうするの?」
223 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:50:02.19 ID:3LCGAcBQ0
感情の爆弾による熱も衝撃も過ぎ去った伊58の心の中で、
彼女自身も気付いていないその疑問が
彼女の心の隅の隅で、消えない線香のように、いつまでも燃え続けていた。
いつまでも。
いつまでも。
いつまでも。
224 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:52:15.44 ID:3LCGAcBQ0
提督が気付かなかった三つ目の誤算。
それは
伊58が死を拒絶した最たる理由。
225 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:55:31.27 ID:3LCGAcBQ0
提督が無意識に口角を上げているのを見た瞬間、伊58は危機感と焦りを覚え始めた。
ここで死ねない。死にたくない。そう感じるようになった。
死ぬのが怖くなった。
死んではいけない、と感じるようになった。
それは、すぐそこまで近付いていた救いに気付いた為だったのか。
それは、死という未知に対する恐怖から湧き出た感情だったのか。
それは、予想以上に惨たらしい未来に対する拒絶感だったのか。
確かに、それもあった。
だがそれだけではなかった。
提督も伊58自身も気付いていない、三つ目の誤算がそこにあった。
226 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 22:59:59.81 ID:3LCGAcBQ0
俺も死んでやる、と言い切った提督の表情は柔らかかった。
その口調は、艦娘になってから出会った誰よりも優しかった。
その言葉が嘘偽りのものではないとはっきりとわかった。
それを伊58が知覚した瞬間、彼女の中で彼女自身も気付いていない、一つの意志が湧き出ていた。
そしてその意志は、確かに伊58に呼びかけていた。
227 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 23:00:41.68 ID:3LCGAcBQ0
この、雄を、死なせてはいけない。
228 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 23:07:47.35 ID:3LCGAcBQ0
その言葉は彼女の知覚に捉われる事は無く、だが確実に彼女の心に危機感を感じさせていた。
そして彼女は死を拒絶した。
目の前の雄を死なせない為に、望んだ死、目の前まで迫った死を拒絶した。
まるで赤子が教わりもしないまま呼吸し始めるかのように。
まるで蜘蛛が教わりもしないまま巣を張り始めるかのように。
従うのが当然と言わんばかりに、彼女はその意志に応えた。
それは、その意志は
彼女の本能とも言える『命令』であった。
229 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/14(金) 23:23:09.32 ID:3LCGAcBQ0
☆今回はここまでです☆
少し前の話になりますが、限定SSRみくにゃんがきました。うちにはもう4種類くらいみくにゃんがいます。
何でこんなにみくにゃんが出てくるんでしょうか。この永遠の謎に余の心はかき乱されるのだ。
230 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/15(土) 01:17:53.92 ID:as2Fl4bmo
おつかーレ
231 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/15(土) 20:06:40.26 ID:0L6ypvHVO
まさか嫌儲のノリをこんなとこで見るとは思わなんだ
232 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 20:48:07.82 ID:LPxJUIOu0
>>1
です。
イベントが近付いてまいりました。
前回新規実装された海防艦娘達に活躍の場があるのか、今から楽しみですね。
それでは、投下を始めさせて頂きます。
233 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 20:58:28.30 ID:LPxJUIOu0
「随分」
「荒っぽいやり方するんだね」
234 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:10:01.24 ID:LPxJUIOu0
伊58「!!」ビクッ
提督「那珂」
那珂「おはよ、提督」
提督「どうしたの?」
那珂「提督を止めるはずだったの」
那珂「でも」
那珂「なんとかなったみたいだね」
伊58「………」
那珂「流石に那珂ちゃんも焦っちゃったよ。本当に撃つんじゃないかーって」
提督「撃つつもりだったよ」
提督「伊58が本当に死にたいって思ってたんならね」
那珂「カメラに映ってるの、わかってるでしょ?」
提督「それなら俺が拳銃取り出した時に止めればよかったじゃない?」
提督「全部見てたんだろ」
那珂「………」
提督「………」
伊58「………」
提督「…まぁ、いいや」
提督「とにかく、俺はもう伊58を殺そうとはしないよ」
提督「騒がせちゃってごめんな。この件はもう終わった」
那珂「でも」
那珂「まだやる事は残ってるんだよね」
235 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:13:26.31 ID:LPxJUIOu0
那珂「明石ちゃんから話聞いたよ?」
那珂「アレ、また作るんでしょ?」
那珂「説明するより実例見せたほうが早いんじゃない?」
那珂「那珂ちゃんの靴の事」
236 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:20:08.28 ID:LPxJUIOu0
「伊58ちゃん」
「ちょっと見せたいものがあるんだ」
そう言いながら那珂は部屋の隅に置いてある椅子を引っ張り出し、座った。
ニーソックスに包まれた右脚をぴんと伸ばし、装甲で覆われた靴の踵を床に付ける。
その右脚を、両手で締め付けるように掴んだ。
那珂の手が震える。腕に力を入れているのが傍から見てもわかる
その彼女の様子は
自分の脚を自分で引き抜こうとでもしているかのように見えた。
全身から腕に巡る力の流れが那珂の肩を震わせる。
ぎゅ、と噤んだ彼女の唇から小さく声が漏れる。
そして
那珂の右脚が、もぎ取れた。
237 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:23:23.99 ID:LPxJUIOu0
思わず目をつむり、視線を逸らした伊58を那珂が静止する。
「ちゃんと見て」
伊58の視線を待ち構えるように、那珂は千切れた自分の右脚の切断面を伊58に向けた。
伊58が恐る恐る逸らした視線を戻す。
そこには
那珂の右脚には
骨も
肉も
滴るはずの血も
神経も無く
ただ無機質な鉄の塊
大きな接続端子が貼り付いていた。
238 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:26:11.73 ID:LPxJUIOu0
状況が飲み込めず困惑する伊58に対して那珂が説明を始める。
「那珂ちゃんね、義足なんだ」
「昔ちょっと色々あってね」
「自分の両脚がもう無いの」
「修復剤を使っても、元には戻らなかった」
「それで、脚の代わりに明石ちゃんが作ってくれたのがこれ」
「艤装の神経接続技術を応用して作った義足…」
「というか、艤足かな?」
「艤装の艤の字で、艤足」
239 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:40:14.00 ID:LPxJUIOu0
艦娘には普通の人間とは違う、ある特徴がある。
艦娘は人体には存在し得ない稼動域を獲得し、それを自分の手足のように駆使することができる。
己が背負う艤装と己の神経を接続する事で、己の身体そのものとして艤装を扱うことができる。
その技術は、様々な箇所で使われている。
伊勢型艦娘の主砲
初春型艦娘や叢雲型艦娘のサブアーム
天龍型艦娘や龍田型艦娘のヘッドパーツ
多くの艦娘の魚雷発射管、エトセトラ。
艦娘と、彼女達が扱う艤装の開発企業内ではごく当たり前となっているその技術を使って
この小さな泊地に所属する那珂は、自分の新しい脚を獲得した。
那珂型艦娘の脚部艤装を改造・増設し
彼女の新しい脚として作り上げていた。
240 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:45:40.48 ID:LPxJUIOu0
「これが無いと那珂ちゃんは海に出ることもできないし、歩く事もできない」
「でも今はこれがあるから歩けるし、海に出て戦う事もできる」
説明を続けながら、那珂は覆うものを無くして重力に従い垂れ下がったニーソックスの端を掴みするりと脱がしていく。
ニーソックスがめくれ上がっていき、その下に隠されていた鉄の塊が大気と伊58の視線の前に晒された。
「伊58ちゃんにも、これを作ってあげる」
「一生ベッドの上で過ごすなんて事がないようにしてあげる」
「もう腕も脚も元通りにはならないけど」
「新しい腕と脚なら作ってあげることができるから」
241 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 21:54:25.23 ID:LPxJUIOu0
今の現状を打破する具体案と具体例を提示され、伊58は自分の心が軽くなるのを感じた。
また歩く事ができる。それすらも奪われた彼女には、それだけの事で嬉しくなった。
元通りとはいかなくても、やり直すことはできるかもしれない。
それだけの事で、彼女は自分の未来が少し明るくなったように感じた。
「でも」
しかし
「覚悟はして貰うよ」
すぐにでも作って欲しいと言う顔をしている伊58を静止したのは
その具体案の提示者、那珂だった。
「これはね、どこかの企業が正式に開発したものでもなければ」
「大本営の許可だって下りていない」
「違法ギリギリ…というか完全違法の改造品だから」
「付ける時」
「物凄く」
「痛いよ」
「那珂ちゃんもね、最初付けた時ね」
「このまま死ぬんじゃないかって思ったもの」
「痛さから言ったら」
「ここで提督に撃たれて死んだ方がマシかもしれない」
「それでも付ける?」
242 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 22:02:01.63 ID:LPxJUIOu0
冷たい目で、伊58を見つめる彼女の表情は、まるで先程までの提督のそれを思わせた。
挑戦しようが諦めようが、どちらでも構わない、そう感じていた。
伊58がようやく手に入れた生きる意志に水を差すに等しいその行為を、提督は黙って見守っていた。
那珂の艤足は、彼女自身の希望で提督が接続した。
彼女の言葉を聞いて、その時の光景を思い出す。
骨折のそれとは比較にもならない、常軌を逸した痛がり方。
部屋に響く絶叫。
痛みを逃がそうとしたかったのか、のた打ち回る身体。
布を口に噛ませ、それでも尚漏れる呻き声。
海老反りになる身体。
痙攣する身体。
身体から吹き出す脂汗。
意識をグチャグチャに掻き混ぜる激痛に、青くなる顔。
全て覚えている。だから那珂の言った事は嘘ではないとわかる。
否、那珂自身が、彼女自身が艤肢の事実を一番よくわかっているはずだ。
だから黙っていた。それが嫌なら、諦めるべきだと思っていた。
普通の義肢を付けるという選択肢もあるし、全く付けずに自分が介護するという選択肢もあるのだ。
もしくは、子供の頃道徳教育の一環で読んだ本の著者のように、電動の車椅子を用意するという選択肢もある。
冷静に考えれば、他の選択肢なんていくらでも見つかる。
だから、もしこの話を聞いて艤肢を付けないとなったとしてもそれは仕方の無い事だと提督は考えていた。
那珂が何故この話を持ち出したのか、その真意を見ない振りをして
提督は伊58が答えを出す、その瞬間が来るまで黙って見守っていた。
243 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 22:06:40.55 ID:LPxJUIOu0
伊58は、真っ直ぐ那珂を見つめながら問いかけた。
「那珂さんは」
「どうして脚が無くなったんでちか?」
脚を失ったもの同士、遠慮は要らないという意志からか、直球で飛んできたその問いに那珂は一瞬言葉に詰まる。
「…あまり言いたくない」
伊58の目線に耐え切れずに那珂が目を逸らした。
脚が無くなった時の記憶を思い出したくない。
というのと、彼女の目から感じられる意志に根負けしたのだ。
その程度の事実で、折れるものではないという、彼女の覚悟に根負けしたのだ。
「腕が」
「脚が」
「吹き飛ぶのと、それ、どっちが痛いんでちか?」
伊58は既に両腕と両脚が吹き飛ばされている。
爆発によって一つ一つもぎ取られ、激痛にのた打ち回った経験がある。
それに比べれば
これからを生きる為に必要な痛みなんて、どうって事はない。
彼女のそういう意志を、提督と那珂は十二分に感じ取っていた。
「やるよ」
「どんな手段を使ってでもって、提督が言ったんだから」
伊58は提督を見つめながら、期待を込めた目で見つめた。
「提督」
「艤足を、作って」
「お願い。作って、ください」
244 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 22:10:38.56 ID:LPxJUIOu0
この目に、言葉に、提督が応える。
「わかった」
「一番いい奴を作ってやる」
「絶対作ってやる」
「どんな事をしたって、絶対作ってやる」
堪えきれず、ついに溢れ出した涙を拭うことなく応えた。
245 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 22:19:18.93 ID:LPxJUIOu0
提督「うし!」ガバッ
提督「とりあえず、メシだ!」
伊58「え」
那珂「いきなりだね」
提督「そうでもないでしょ。もういい時間だろ?」
那珂「あ…ほんとだ。もうこんな時間なんだ」
提督「伊58、ここ最近ちゃんと食べてなかっただろ?」
伊58「う、うん」
提督「艤足付けるにもそれなりに体力いるし、ちゃんと食べて備えようぜ」
提督「俺、ちょっと伊良子ちゃんの所行ってくるよ」
提督「今日はごちそうにして貰うからな」
提督「準備ができたら食堂に案内するよ」
提督「みんなで食べようぜ!みんなでー!!」ガチャ
246 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 22:32:33.09 ID:LPxJUIOu0
バタン
那珂「………」
伊58「………」
那珂「本当に」ボソッ
那珂「死にたいなんて、誰も思わないなんて」
那珂「どの口で言ってるんだか」
那珂「しょうがなく死にたいだけなんて」
那珂「どの口で言ってるんだか」
「提督だって、そうなんじゃないの…?」
伊58(那珂、さん…)
那珂「いつもそう」
那珂「あいつのそういう所」
那珂「本当に、大嫌い…」
那珂「本当に、本当に…」
伊58「………」
那珂「伊58ちゃん」
那珂「艤足」
那珂(私の)
那珂( 私 だ け の だ っ た )
那珂(シンデレラの、靴)
那珂「大事にしてね」
伊58「………うん」
247 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 22:37:52.39 ID:LPxJUIOu0
提督「」ピッピッピッ
提督「あっもしもし、大淀?」
提督「うん!伊58の事は何とかなったよ!!」
提督「でね、今日はみんな食堂に集まってくれって言っておいて!」
「伊58の歓迎会、やってなかっただろ?」
「今日やろうぜ!!!」
248 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/07/29(土) 22:43:24.73 ID:LPxJUIOu0
☆今回はここまでです☆
流石に今回の限定みくにゃんもひょいと出てくれるって事はありませんでしたねぇ…
ティアラ全然出てこないのに手に入ってもアレですが…
249 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/29(土) 23:51:41.85 ID:MFJQ86fUo
おつかれちゃん
250 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 21:52:58.14 ID:QhBsopZF0
>>1
です。
夏イベントが始まりました。期間が4週間と長めなので慌てず計画的に攻略していきましょう。
そういう私もまだE-2です。
それでは投下を始めさせて頂きます。
251 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 21:54:27.91 ID:QhBsopZF0
携帯端末に指で触れ、手首を振ってブック型のカバーを閉じる。
たん、という音を立てながら閉じた携帯端末をポケットに突っ込み
提督は鼻歌を歌い始める。
この場所に無いギターの代わりとして。
『私には』
『見える』
口を開き、言葉を紡ぎ、彼は歌い始める。
『狂気の月が』
『昇っていく』
日本語ではなく、英語で。
『私の行く手には』
『数々の』
『災い』
彼は上機嫌な様子で歌を歌い始めた。
『私の目の前に広がる』
『地震と雷』
彼の脳内で流れるアップテンポのリズムが彼の気分を高めていく。
『私にはわかる』
『今の時代は狂っている』
252 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 21:55:33.71 ID:QhBsopZF0
『今夜は外に出てはいけません』
『でないと君は殺される』
『狂気の月が昇っているのだから』
253 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 21:59:08.49 ID:QhBsopZF0
『私には見える』
食堂の壁沿いに作られたステージの上で、提督がマイクを持って歌っている。
比叡と金剛が演奏するギターと霧島が叩くドラムの音が食堂に響く。
『狂気の月が昇っていく』
食堂は急ごしらえの飾りつけがされ、テーブルには様々な料理が並んでいる。
伊58とのやり取りの後提督は、伊良子だけではなく足柄や大和にも協力を頼み込んだ。
そのせいもあって、多少脂っこいものが多くなったが、比較的豪勢な歓迎会を開くことができた。
だが、主賓であるはずの伊58は未だ状況を受け入れられずに呆然としていた。
『私の行く手には』
「伊58ちゃん」
「どう?那珂ちゃんプロデュースのアイドルは」
食べ物が山盛りになった皿を伊58の目の前に置いた那珂が、伊58の顔を自信たっぷりに覗き込む。
「アイドル…ってったって」
いわゆるドヤ顔をしている那珂に、困惑の表情を変えずに伊58が呟いた。
『数々の災い』
歌う提督に再び視線を向ける。
英語に詳しくない伊58にはあまり意味のわからない言葉で、彼は満足そうに歌っている。
『私の目の前に広がる』
「那珂ちゃんはもうアイドルになれないもん」
『地震と雷』
「カタワでアイドルなんて、気持ち悪がられてできないし」
『私にはわかる』
「那珂ちゃん、だからね」
『今の時代は狂っている』
「ま」
「とにかく、あれがうちの提督って事」
「変わってるでしょ?」
那珂は伊58に、悪戯っぽく笑いかけた。
伊58はそれに対して苦笑いしかできなかった。
254 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 21:59:49.54 ID:QhBsopZF0
『今夜は外に出てはいけません』
『でないと君は殺される』
『狂気の月が昇っているのだから』
255 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 22:01:59.46 ID:QhBsopZF0
『聞こえる』
伊58はまだ納得できていなかった。
否、納得したいという感情を邪魔する何かがあった。
『けたたましい嵐の音が』
それは例えるなら、魔女の餌になる為にぶくぶくと太らされる子供の気分か。
『感じ取る』
提督の涙を見ても尚、今までの経験が彼女の感情に枷を付けていた。
彼女にとって、この光景があまりにも非現実的すぎるのだ。
悪い、たちの悪い夢でも見ているかのような感覚が彼女の頭の中でぐるぐると渦巻いている。
どの瞬間に、いつもの罵声が、暴力が飛んでくるのだろうかという不安が彼女の背筋を引きつらせる。
『最後の時が訪れる』
「こんばんは、伊58ちゃん」
その時突然、とても久々に聞くような、自分の名前を呼ばれ、伊58は声の方向に視線を動かす。
その先にいたのは、睦月型駆逐艦二番艦娘如月。
黒いカーディガンを羽織り、月のバッジを付け、胸ポケットに造花を挿し、彼女は伊58に微笑んだ。
256 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 22:04:38.66 ID:QhBsopZF0
だが彼女の姿を伊58が認識した瞬間
『恐ろしい』
「ひぃあッ!!!!」
伊58は短いけれど大きな悲鳴を上げた。
『河川が、溢れ、返って』
悲鳴が提督の耳にも入り、歌声が途切れる。
異常を察知した提督が左手を上げ、演奏している金剛達を静止した。
257 :
◆ZFgfLAc.nk
[saga]:2017/08/16(水) 22:07:17.53 ID:QhBsopZF0
「あ…あぁあ…!!如月…如月…!!!」
目を見開き、伊58が震えている。
「やめて!!!」
近付こうとする如月を、伊58が絶叫して拒絶する。
「もうやだ…!!コーラはもう嫌でち!!!」
「こ、コーラ?」
予想外の、意味不明の反応をされ、周囲の注目も集めてしまった如月が困惑する。
「私、何も…」
自己弁護のように口から漏れた言葉が、自分の聴覚を刺激した瞬間
彼女の海馬が急激に活動した。
彼女にとってあまりにも大切な、大切な、傷の記憶が呼び起こされる。
自分に向けられる恐怖の感情と、かつて自分が抱えていた恐怖の感情。それの類似点。
この子は、あの時の私と、同じだ。と。
如月は肩の力を抜き、カーディガンを脱いだ。
脱いだカーディガンを近くの椅子に掛け、両方の手の平を伊58に向けながらゆっくりと近付いた。
何も持っていない。何も危害を加えない。絶対に傷付けない。
何も持っていない。何も危害を加えない。絶対に傷付けない。
何も持っていない。何も危害を加えない。絶対に傷付けない。
何も持っていない。何も危害を加えない。絶対に傷付けない。
何も持っていない。何も危害を加えない。絶対に傷付けない。
心の中で何度も強く念じながら、ゆっくりと近付き、膝を着き
伊58を抱きしめた。
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