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勇者「救いたければ手を汚せ」
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311 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 20:33:14.06 ID:XFbmtst+O
特部隊長「了解した。彼女はどうしている」
魔導鎧「精霊は『穴』を塞いだのち、東王陛下のいる第一施設へ向かったようです」
特部隊長「……そうか、陛下の…」
魔導鎧「他機に命令はありますか」
特部隊長「医療機体には引き続き負傷者の治療、損傷の激しい遺体の修復」
特部隊長「他機には避難誘導。錯乱した者がいれば『落ち着かせてくれ』」
特部隊長「遺体は空いている部屋に移動させる。くれぐれも丁重にと伝えてくれ」
312 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 20:34:11.24 ID:XFbmtst+O
魔導鎧「はい、了解しました」
ジジッ…
魔導鎧「魔導鎧全機に命じる。医療機体には引き続き負傷者の治療及び遺体の修復」
魔導鎧「錯乱した者がいれば眠らせて構わない」
魔導鎧「他機は避難誘導と遺体の搬送。遺体はくれぐれも丁重に扱え。全機、了解か」
『はい。全機体、了解致しました』
魔導鎧「大尉、我々もーー」
襤褸『なに、そう落ち込むことはない』
襤褸『特別な命などありはしない。何者だろうと等しく死ぬ』
襤褸『それが勇者の母であろうと、勇者が愛した女であろうと、今夜死んだ者達と同じように死ぬ』
襤褸『花屋の子供達も魔女も盗賊も東王も王妃も、お前が知らぬ者達も、皆同様に何かを失った』
襤褸『お前だけが何も失わないのは不公平であろう? 希望も希望を失うべきなのだ』
313 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 20:35:51.44 ID:XFbmtst+O
特部隊長「……外道め」
魔導鎧「……大尉…」
特部隊長「我々大人は…あの子に、勇者に縋るしかないのか」
特部隊長「勇者が世界を脅かす異形と戦う様を、指を咥えて見ていることしか出来ないのか」
特部隊長「目の前で母を喪い、思い人までも喪った。その苦痛は計り知れないものだろう」
特部隊長「それでも世界の為に戦おうとする彼を、我々は見ていることしか出来ない……」
魔導鎧「…………」
特部隊長「……それに、あれは子供が背負うべきのじゃない。一人の人間が背負うものでもない」
特部隊長「あれはあまりにも…あまりにも重すぎる……」
魔導鎧「……大尉はお怒りになるかもしれませんが、こればかりは仕方がありません」
314 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 20:37:25.74 ID:XFbmtst+O
魔導鎧「あの者……」
魔導鎧「絶望は、我々に手出しさせない為に『このような状況』を作ったのです」
魔導鎧「我々だけではなく、盗賊や魔女といった『勇者と関わる者達』は全て分断されています」
魔導鎧「勇者に助力すべく我々が此処を離れれば、再びオークを放つ可能性もあります」
魔導鎧「これらは、あくまで戦力の分断を意図したもの。勇者の孤立を狙ってのことでしょう」
特部隊長「……全ては、たった一人を殺すため。勇者を葬り去る為の策か。反吐が出るッ!!」ガンッ
魔導鎧「大尉、落ち着いて下さい。貴方は東西軍部所属の兵士、西部司令官です」
魔導鎧「我々が守るべきは勇者ではありません。今、此処にある民間人の命です」
魔導鎧「歯痒い気持ちはお察します」
魔導鎧「ですが大尉、あなたは盗賊や魔女のような自由に行動出来る人間ではないのです」
魔導鎧「軍に属す者として、我々には我々のすべきことがあります。違いますか」
特部隊長「…ッ、ああ、分かっている。分かっているさ……」
315 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 20:39:08.03 ID:XFbmtst+O
>>>>>>>
勇者『僕はこの先の幸せなんて望まない。僕の望み、僕の夢はたった一つ』
勇者『お前の…絶望のいない、希望に満ち溢れた世界だ』
勇者『お前を消し去って、この夜を明ける。僕のような人間が、もう二度と生まれないように』
東王「……精霊よ、これは現実に起きていることなのだな?」
精霊「ええ、これは今実際に起きていることよ。幻術や術催眠の類ではないわ」
東王「奴の狙いは?」
精霊「勇者を殺したのちに希望を取り込み、終末の獣として世界を破壊することでしょうね」
316 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 20:40:27.11 ID:XFbmtst+O
東王「何故、一つになろうとする?」
東王「聖女の話によれば、他ならぬ奴自身の意志で二つに別たれたようだが……」
精霊「さあ、そこまでは分からないわ」
精霊「ただ、奴の真意がどうであれ、勇者が奴を倒さなければ世界は滅びる」
東王「『あれ』は希望である彼にしか打ち倒すことは出来ないと言ったな」
精霊「ええ。仮に兵士を向かわせたとして、擦り傷一つ与えることも出来ず死ぬでしょうね」
東王「……我々は何の助力も出来ず、勇者君に全てを託すしかないというわけか」
東王「こんなにも酷い現実を、彼の受ける苦痛を見ていることしか……」
317 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 20:41:50.73 ID:XFbmtst+O
襤褸『ヌフッ、ヌハッ、ヌハハハハッッ!!!』
襤褸『そうじゃそうじゃ!それでよい!! 勇者とは!希望とは!そうでなくてはならぬ!!』
襤褸『己が掲げる正義を絶対のものと信じ、如何なる犠牲があろうと剣を振るう!!』
襤褸『世界よ刮目せよ!これが希望なのだ!! これが勇者たる者の選択なのだ!!』
襤褸『己が心を圧し殺し、眼前で母と恋人を殺されようと心折れることなく戦いを挑む!!』
襤褸『此奴は最早、人ではない。見よ、此奴の顔を!一筋の涙も流さぬわ!!』
東王「……勇者君のことだ」
東王「こうなってしまった責任は全て自分にあると、そう思っていることだろうな」
318 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 20:44:50.53 ID:XFbmtst+O
精霊「…………」
東王「出来ることなら会って伝えたい」
東王「娘が死んだのは君の所為ではない。私も妻も娘も、君を恨む気持ちは一片たりともないと」
東王「娘は君と出逢ったことを後悔していなかった。心から、君のことを愛していたと……」
精霊「勇者も彼女を愛しているわ。貴方達夫婦のことも大切に思っているはずよ」
精霊「あなたのことも王妃のことも、他人とは思えぬ程に慕っていたもの……」
東王「……初めて会った時は七歳だった。今でも鮮明に思い出せる」
東王「今では妻も娘も、勿論私も、彼を他人だとは思っていない」
東王「私達だけではない。城内の兵士から給仕に至るまで彼の成長を見てきたのだ……」
東王「当初は彼を怖れる者もいたが今は違う。誰もが彼に守られ、彼に救われた」
東王「彼の心を知る者は、これが映し出す光景を他人事として見ていないはずだ」
319 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 20:46:45.04 ID:XFbmtst+O
精霊「……王妃は何処に?」
東王「皆と共にいるように言った。おそらく給仕長や王宮騎士と一緒だろう」
東王「何処に行こうと『この映像』から逃れられはしないが、私といるよりはいい」
東王「娘が攫われ、殺される瞬間も見た。だが、此処では涙の一つも流せない」
東王「……せめて今だけは、王妃としてではなく一人の母として泣かせてやりたい」
精霊「…………」
東王「済まないが様子を見てきてくれないか? 私は此処から離れるわけにはいかない」
320 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 20:49:08.46 ID:XFbmtst+O
精霊「ええ、分かったわ」
コツ…コツ…ガチャッ…パタンッ……
東王「元帥、彼女は何かを隠していたな」
元帥「そのようですが、皆目見当も付きません。東王陛下、これは儂の勘ですが…」
東王「何だ?」
元帥「儂には、この戦には裏があるように思えてならんのです」
元帥「あの戦好き…剣聖が一向に姿を見せないのも気掛かりでならない」
東王「……確かに」
元帥「おそらく、我々には想像も出来ない何かが起きている。容易ならざる何かが……」
東王「………………」
321 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 20:50:55.35 ID:XFbmtst+O
精霊「…………」
コツ…コツ…コツ……
剣聖「遅かったな」
精霊「あら、来てたの?」
剣聖「今しがた来たところだ。ふーっ…そろそろ往くぞ」
精霊「……そう。とうとう動いたのね」
剣聖「俺は盗賊の小僧の下へ向かう、お前は南部に向かえ。奴等を平原に近付かせるな」
剣聖「よいか、先を越されれば終いだ。千年前と同じ過ちが起きる」
精霊「大丈夫よ、分かってるわ。飽きるほど聞かされたもの」
322 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 20:52:29.45 ID:XFbmtst+O
剣聖「ん、そうだったか?」
精霊「随分と長いこと生きているから物忘れが激しくなったんじゃないのかしら?」
剣聖「かもしれんな。それにしても、時が経つのは早いものだ……」
剣聖「……あれから千年。お前と出逢って四百年。互いに歳を取ったな」
精霊「あなたはいいじゃない。何百年経とうが大して変わらないんだから」
剣聖「お前は随分と変わった。いや、勇者が変えたのか……」
精霊「ええ、そうね。きっと、あの子が私を人間にしてくれたのよ」
剣聖「では…ああ、そうであった。西部司令官には何も言わずともよいのか?」
精霊「……与えるべきは与えたわ。彼に対して言うべき言葉はない」
剣聖「そうか、ならばよい。では、往くとするか」
精霊「……ええ、行きましょう」
バシュッ…シーン……
323 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/17(火) 20:55:44.64 ID:XFbmtst+O
もうちょっと書くと思います
324 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/17(火) 20:55:51.29 ID:O+meG9UeO
もし支援が有効なシステムならば支援を
もし別に支援がいらないシステムならば割り込みへの謝罪を
325 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 23:46:42.28 ID:xxX7zxytO
>>>>>>
同時刻 北都
襤褸『希望は希望であろうとし、勇者は人であることを捨てた!!』
襤褸『それも見ず知らずの、一度も会うたこともない貴様等の為に、正しく常軌を逸した者となったのだ!!』
襤褸『避けられぬ運命を受け入れ、滅びに抗い、絶望を打ち倒さんとする姿に貴様等は何を見る!!』
魔女「………」
符術師「魔女ちゃん」
魔女「どした? また暴動でも起きた?」
符術師「いえ、暴徒化した民は鎮圧しました。負傷者の治療も順調です」
符術師「鎮圧したと言っても、大体はあの映像を見て勝手に落ち着いたみたいですけどね」
326 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 23:49:23.97 ID:xxX7zxytO
符術師「問題は正気を取り戻した輩が…」
『これは俺がやったことじゃない!! そ、そうだ!これは全部勇者の所為だ!!』
『あの化け物と勇者は組んでたんだろ!?兄弟だの親子だの言ってたじゃないか!!』
『そ、そうだ!! この灰色の化け物だって勇者が操っていたに違いない!!』
『きっとそうだ…オレ達だって操られてたんだ…あの化け物に操られてたんだ…』
『違う、私はこんなことしてない。私じゃない。これは私がやったんじゃない』
符術師「……とか。自分がしでかしたことを認めず、見苦しく喚き散らしてることです」
符術師「オークの生首持って『人間万歳』言ってた阿呆共が勇者さんに責任転嫁ですよ」
符術師「まったく、魔術師狩りで何を学んだのやら……馬鹿もあそこまでいくと笑えてきますね」
327 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 23:51:52.06 ID:xxX7zxytO
魔女「仕方ないよ……」
魔女「自分達が化け物と同じような残虐行為をしたなんて、そうそう受け入れられるもんじゃない」
魔女「気が狂わない為の防衛本能みたいなもんでしょ。滅茶苦茶腹立つけどね」
符術師「あや、割と冷静ですね。激情に任せて燃やすかと思ってました」
魔女「いやいやいや、流石にそこまではしないよ。まあ、炎で脅かしたりはしたけど……」
符術師「……炎の化け物だとか悪魔だとか色々言われてましたけど、大丈夫ですか?」
魔女「平気平気。あの状況なら民の敵になった方が良かったでしょ?」
符術師「あ〜、炎を操る邪悪な魔女から民を守る王様…ですか?」
符術師「私達から見れば茶番でしたけど、民には効果あったみたいですね。馬鹿馬鹿しい…」
魔女「何はともあれ、落ち着いたみたいで良かったじゃんか。北王も芝居に合わせてくれたしさ」
328 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 23:54:21.76 ID:xxX7zxytO
符術師「……何だか、変わりましたね」
魔女「えっ、そうかな?」
符術師「はい。何というか、こう…どしっとした感じがします」
魔女「……先生の魂が中にあるからかもね。勝手に眷族にしちゃったけど怒られないかな?」
魔女「他に方法なかったし、また利用されたりするのが嫌だから後悔はしてないけどさ」
符術師「大丈夫ですよ、怒るわけないです。きっと喜んでますよ」ウン
魔女「そっかな? でも、うん…そうだと嬉しいな……」
符術師「……あの、魔女ちゃん。もう我慢しなくていいんですよ?」
329 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/17(火) 23:55:48.24 ID:xxX7zxytO
魔女「えっ…」
符術師「暴動は収まりましたし、後は私達で何とかします。だから……」
襤褸『次は貴様等が与えるのだ。この者を強く想うがよい、貴様等の願いを届けるのじゃ』
襤褸『……希望を埋め尽くす程の、歪み狂った祈りと想いをぶちまけろ』
襤褸『さあ、高らかに叫び呼ぶのだ。この者こそが貴様等を救う者……』
襤褸『絶望に抗い、魔を滅する者、貴様等の求める救世主だ』
符術師「ッ、だからもう、我慢しなくていいんです。勇者さんの所に行ってもいいんですよ?」
魔女「……出来ないよ。勇者に北部は任せてって言っちゃったんだから」
魔女「だから、此処から離れるわけにはいかない。転移だって終わってないでしょ?」
330 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/18(水) 00:02:56.05 ID:v3xVyttDO
符術師「『約束』したんじゃないんですか」
魔女「ッ、それはーー」
符術師「言ってたじゃないですか!王女様の分まで戦うって!王女様と約束したって!!」
符術師「王女様はあいつに殺されたんですよ!!友達なんでしょう!!?」
符術師「もしあれが魔女ちゃんだったら、私にはとても耐えられないッ!!」
符術師「それとも私達には任せられませんか!!仲間を信じられませんか!!?そんなに頼りないですか!!?」
魔女「そんなことない!信じてるよ!!だけど私がいないとーー」
符術師「うるさいなっ!! 少しは私達を頼れって言ってんだよ!!」
符術師「浄化の炎だか何だか知らないけど!特別な力を持ってるからって調子乗んなっ!!」
331 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/18(水) 00:05:43.45 ID:v3xVyttDO
魔女「……符術師…」
符術師「…勇者さんは…勇者さんは死ぬ気なんですよ?分かってるんでしょう?」
魔女「…………」
符術師「魔女ちゃんはそれすらも受け入れて我慢する気なんですか?」
符術師「勇者さんが決めたことだからって納得して、このまま見てるだけでいいんですか?」
符術師「その力は後悔したくないから手にした力じゃないんですか……」
符術師「勇者さんを助けたいから!その力を手にしたんじゃないんですか!!?」
魔女「私は……」
襤褸『さて、始めようか…』
勇者『(身体を覆ってた黒塊が蠢いて…何だ、奴の内側から何かが…ッ!!)』
332 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/18(水) 00:13:02.00 ID:v3xVyttDO
ずるり…
戦士『……この身体で戦うのは剣士を殺して以来、今回で二度目』
戦士『……そして、これが最後だ』
勇者『(野性的な顔付き、長身でがっしりとした身体。大剣、複合弓、黒い鎧……)』
勇者『(どこか聞き覚えのある低い声。そうか、この人が、この人が僕の……)』
戦士『この時を待っていた。ここに至るまで十二年。もう充分に待った……』
戦士『……十二年。この日を待ち焦がれていた。母に似たな、勇者』
勇者『(この人が、僕の父さん……)』
符術師「魔女ちゃんッ!!!」
魔女「………ッ…」ヂリッ
符術師「!!?」
魔女「ごめん符術師、やっぱ駄目だ。これ以上は我慢出来そうにないや……」
符術師「……魔女ちゃんはバカですね…最初から、そう言えばいいんですよ……」
333 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/18(水) 00:16:28.79 ID:v3xVyttDO
魔女「……後は任せる」
符術師「ふふっ…はい、任されました。此処は私達に任せて、約束を果たしに行って下さい」
魔女「うん」
符術師「それから…」
符術師「勇者さんが死ぬ気でも、魔女ちゃんが生きて欲しいなら、そう伝えるべきです」
符術師「恋愛なんてものは我が儘の押し付け合いなんですから、最後は我が儘な方が勝つんです」
符術師「魔女ちゃん、頑張ってね? こんなことしか言えないけど、応援してるから」
魔女「ううん、そんなことない。充分気合い入ったよ。符術師、皆、本当にありがと……」
魔女「じゃあ、行ってくる……」
魔女「友達との約束を果たしに、我が儘を通しに行ってくるよ」ヂリッ
ボウッ…ズオッッッ!!
符術師「……失うだけの結末なんて誰も望まない。きっと、きっと上手く行く」
符術師「魔導師様、どうか魔女ちゃんを御守り下さい。無事で帰って来られるように…」
符術師「笑って帰って来られるように、もう何も失わないように、どうかどうか、魔女ちゃんを守って下さい……」ギュッ
334 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/18(水) 00:20:28.04 ID:v3xVyttDO
ちょっと休憩
もう少し書くと思います
335 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/18(水) 02:24:48.86 ID:WUYBRJMUO
>>>>>>>
同時刻 南部国境付近
戦士『始めよう。そして終わらせよう』
戦士『絶望と希望としてではなく家族として。父と子としてな……』ヂャキ
勇者『(父さんは父を超えろと言った。僕になら出来ると言って絶望に身体を渡した)』
勇者『(僕なら絶望を倒せると信じたからだ。きっと、今だって信じてる)』
勇者『(目の前の父さんが偽物だろうが本物だろうが関係ない……)』
勇者『(僕は父さんと母さんの息子として、やり遂げなければならない。この人は僕が…僕が、殺す)』
戦士『……抜け、勇者。俺を、父を、絶望を、見事斬り伏せてみせろ』
勇者『……………』ヂャキ
336 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/18(水) 02:28:10.79 ID:WUYBRJMUO
盗賊「待ってろ勇者、今行くからな」
黒鷹「盗賊、前方に何かいる。気を付けろ」
盗賊「この高度なら問題ねえだろ? これ以上構ってる暇はーー」
ズオッッ!!
黒鷹「ッ!!?」グオッ
盗賊「ッ、ぶっねえ…今のは何だ?」
黒鷹「おそらく剣だ」
盗賊「おい待て、この高さまでぶん投げたってのか?」
黒鷹「そのようだな」
黒鷹「どうやら奴に高度の理は通用しないらしい。今のは警告、威嚇といったところだ」
盗賊「此処を通りたきゃ戦えってか?」
盗賊「ざけんな。わざわざ付き合うことはねえ、遠回りすりゃあ済む話だろ?」
337 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/18(水) 02:29:59.04 ID:WUYBRJMUO
黒鷹「それは無理だ」
盗賊「あ、何でだよ?」
黒鷹「俺の飛行速度を計算して投擲、命中させる技術を持っているような奴だ……」
黒鷹「今から方向転換したところで、即座に串刺しにされるのが落ちだろう」
盗賊「……降りるしかねえってわけか」
黒鷹「…………」
盗賊「おい、どうしたんだ?」
黒鷹「……盗賊、俺を喰え」
盗賊「はぁ? 何でそんな話になるんだよ、ふざけてんのか?」
黒鷹「いや、本気だ。遅かれ早かれ、こうするつもりだった」
黒鷹「盗賊、お前は絶望の中に囚われた鬼妃を救うのだろう?」
338 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/18(水) 02:31:59.17 ID:WUYBRJMUO
盗賊「……ああ、鬼王との約束だからな」
黒鷹「もう、最後まで言わずとも分かるだろう」
黒鷹「奴の中にある数多の魔核。その中から鬼妃を救い出すには俺の眼が必要になる」
黒鷹「俺が伝えてからでは遅い。奴の中の魔核は常に動いているからな……」
黒鷹「俺の翼も、俺の眼も、お前にくれてやる。俺はお前の中で生きる」
盗賊「…………」
黒鷹「フン。どうした?今更躊躇うのか? お前らしくもないな、魔王」
盗賊「ッ、いいんだな」
黒鷹「ああ、お前にならば預けられる。奴も焦れている、時間がない。早くしろ」
339 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/18(水) 02:34:07.44 ID:WUYBRJMUO
盗賊「なあ、黒鷹」
黒鷹「……何だ」
盗賊「これからも頼むぜ?」
黒鷹「フッ、ハハハッ!! ああ、言われずともそのつもりだ。さあ、やれ」
盗賊「……偉大なる大鷲よ。その大いなる翼を、世界を見渡す眼を、俺にくれ」
黒鷹「(俺が口にした台詞を…こいつめ、憶えていたのか。まったく、食えない奴だ……)」
盗賊「おい、聞いてんのかよ? こういう時くらいビシッと決めようぜ?」
黒鷹「……我が名は黒鷹。今この時より、魔王の翼になること誓おう」
黒鷹「……何処までも高く飛べ、盗賊。お前ならば何処までも行ける」
340 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/18(水) 02:35:45.64 ID:WUYBRJMUO
盗賊「……おう、ありがとな」
黒鷹「礼には及ばん。お前と過ごした時は、中々に楽しかったぞ」
盗賊「ああ、俺もだ……」スッ
ゴシャッ…
盗賊「空を掴め、黒翼」
ヒョゥゥゥ…バサッ…バサッ……
盗賊「……………」ザゥッ
剣士「やっと降りてきたか、魔王」
盗賊「あんたは…」
剣士「やあ、久し振りだね。というか大きくなったなぁ。あの日から何年経っただろうか……」
341 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/18(水) 02:37:08.04 ID:WUYBRJMUO
盗賊「……六年だ」
剣士『この場だけ親切にするのは簡単だけど、それをしたら君は怒るだろう』
剣士『だから、君の生きたいように生きればいい。我が儘でいいんだ』
剣士『盗んでも殺してもいい。ただ、その行いは必ず自分に返ってくる』
剣士『それを分かった上で人を殺すと言うなら、それでいい』
剣士『正しい道なんて何処にもない。時には悪が人を救うことさえあるんだ』
剣士『人を救う為に人を殺す。人を助ける為に力を振るう。これは悪だと思うかい?』
剣士『そっか、分からないか……正直な話、僕にも分からないんだ……』
剣士『力を振るうことが正義か悪か。今の話をどう受け取るかは君次第だ……』
342 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/18(水) 02:47:33.18 ID:WUYBRJMUO
剣士「……そうか、あれから六年になるのか」
盗賊「そういや名前聞きそびれてたな、折角だから教えてくれよ」
剣士「あれ、名乗ってなかったっけ? 僕は剣士だ」
盗賊「(……やっぱりな。そんな気はしてたよクソッタレ)」
剣士「精霊と一緒に勇者の保護者をしてたんだ。奴に殺されるまではね」
盗賊「あんたも奴に囚われた一人ってわけか」
剣士「まあ、そんなところだ」
剣士「しかし、あの時南部で出会った少年が魔王になってるなんて驚きだな」
剣士「考えてみると、こうして再会したのも運命なのかもしれない……」ウン
盗賊「何が運命だ、ふざけんな。恩人と殺し合う運命があってたまるかよ」
剣士「……仕方ないさ。運命っていうのはそういう生き物なんだよ」
盗賊「そんな生き物なら今すぐ踏み潰してやりてえよ」
剣士「はははっ、面白い子だな。でもね、そう簡単に運命は殺せないよ」
剣士「もう分かってると思うけど、勇者の下へは行かせない」
剣士「君には、魔王には此処で死んでもらう」ヂャキ
盗賊「……あのさ、あの時は言いそびれたから今の内に言っとくよ」
剣士「ん? 何だい?」
盗賊「あの言葉がなかったら、今の俺はいねえと思うんだ」
盗賊「……あんたには本当に感謝してる。だから、とっとと死んでくれ」ヂャキ
343 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/18(水) 02:50:57.37 ID:WUYBRJMUO
ここまで、寝ます
344 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/18(水) 04:27:17.84 ID:9DrHDE8DO
乙乙
345 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/18(水) 10:04:05.44 ID:9f6j+HD/O
乙。
次も楽しみにしてる
346 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/21(土) 01:40:55.36 ID:dMZ8OWu/O
勇者『可変一刀・二刀型』
戦士『……二刀か、剣士を思い出す。あいつは強かった。俺を殺せる程に強かった』
戦士『希望、我が息子よ、お前がどれほど強くなったのか見せてくれ』ダンッ
勇者『(体勢が低い。まるで地を這うような前傾姿勢、大剣を肩に担いだ突進……)』
勇者『(体格に見合わない速度。撃ち出された砲弾のような圧力、大剣の威圧感)』
勇者『(相手の反撃なんて考えてない。一撃で仕留める自信があるのが見て取れる)』
勇者『(今から避けるのは無理だ。この一撃を捌いて、一度距離を取る)』
347 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/21(土) 01:42:37.39 ID:dMZ8OWu/O
戦士『簡単に死んでくれるなよ』
勇者『(まともに受け止めようだなんて考えるな。勢いを殺さず軌道を逸らせ)』
ガギャッッ!!
勇者『(重い。これが…これが父さんの剣か。でも、これで何とか凌いーー)』
戦士『見くびるな、俺の剣はそう易々と受け止められるほど軽くはない』グッ
ズンッッ! ギシッ…ギシギシッ…
勇者「ぁぐッ!!」
勇者『(何て力だ…軌道を逸らしたのに、そこからまた軌道を変えて斬り返してきた)』
勇者『(いくら完全種でも、身の丈程もある大剣を手首の返しだけで自在に操れるなんて…)』
戦士『考えている暇があるなら動くことだ。敵に先手を打たれる前にな』スッ
勇者『(大剣から手を離…ッ、短剣!? 隠してたのか!!)』バッ
ザシュッ…ポタッ…ポタポタッ……
348 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/21(土) 01:44:20.57 ID:dMZ8OWu/O
戦士『躱し様に斬ってみせるとは、見事だ』
勇者『…ハァッ…ハァッ……』
勇者『(今のは、偶然だ……)』
勇者『(戦う前から分かりきってたことだけど、やはり経験が違う)』
勇者『(競り合い中で剣から手を離し、短剣で斬り付けるなんて発想は……)』
勇者『(いや、発想だけなら出来るかもしれない。それを実行出来るのが凄いんだ)』
勇者『(巨躯を活かした突進、剛腕からくる大剣の圧力。大雑把かと思えば、そうじゃない)』
勇者『(相手を捻伏せる圧倒的な力と、経験に裏打ちされた確かな技術がある)』
349 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/21(土) 01:46:09.20 ID:dMZ8OWu/O
戦士『どうした勇者。何を笑う?』
勇者『こんな時に笑うなんて自分でも変だと思う。でもね、嬉しいんだ……』
勇者『僕の父さん、戦士はやっぱり強かった。想像していたより何倍も強い』
勇者『それが嬉しくて堪らないんだ……』
勇者『こんなにも強い人の息子であることを、僕は心の底から誇りに思うよ』
剣士「……見ろ、魔王。勇者が泣いてる」
剣士「父親と会えたのが嬉しくて、父親と殺し合うのが悲しくて…泣きながら笑ってるんだろう」
剣士「何故、親子で殺し合わなければならない。この世界に救いなんてあるのだろうか」
350 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/21(土) 01:48:40.12 ID:dMZ8OWu/O
盗賊「うっせえ。隠せ、鬼衣」
剣士「そう言えば昔、師から聞いたな」
剣士「鬼とは『いないもの』への怖れであり、そこから生まれた隠なる存在だとか……」
剣士「見えないってのは確かに厄介だ」
剣士「だけどね。音も気配も消えて魔力を完全に隠しても、君の性格までは変えられない」
剣士「君ならどうするか、何処から来るのか。それを読めれば大して怖くないんだよ」グルリ
盗賊「ッ!!?」
剣士「そんなに驚くことはないさ」
剣士「眼に頼らず、感覚を研ぎ澄ませば誰にでも出来る」
剣士「そうすると見えないものまで見えてくる。焦り、不安、怒り、悲しみ…とかね」
盗賊「(ごちゃごちゃうるせえな…)」
盗賊「(感覚も感情も何もかも、脳天吹っ飛ばして消してやるよ)」ズオッ
351 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/21(土) 01:55:30.49 ID:dMZ8OWu/O
剣士「一撃を狙いすぎだよ」スッ
ガシッ…
剣士「どんなに優れた力を持っていても、それは使い手次第だ」
剣士「単調になると簡単に掴まえられる。これからは気を付けた方がいい」
盗賊「(……ハッ、揺さぶって死角から蹴り入れても反応すんのかよ。バケモンかコイツ)」
剣士「今までは『それで』何とかしてきたみたいだけど、僕には通用しない」
剣士「実力の差は感情なんかじゃ埋まらない」
剣士「いいかい? どんな状況でも、誰が相手でも、冷静さを失ったら駄目だ」
剣士「……さあ、隠れんぼはお終いだ」ズッ
ザシュッ!! ブシャッ…
盗賊「…ッ、こッ…の野郎……」ガクンッ
剣士「傷の治りも随分遅くなった。多分、あと一太刀で死ぬだろう」
剣士「友達を守れないってのは本当に辛いことだ。その気持ちはよく分かるよ……」
剣士「……君には戦わないっていう選択もあるんだ。何なら逃げてもいい、追いはしないよ」
盗賊「ざけんな……」
盗賊「あいつを…勇者を見捨てて逃げるくらいなら死んだ方がマシだ……」
352 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/21(土) 02:01:07.45 ID:dMZ8OWu/O
剣士「そうか。なら、殺すしかないな」
盗賊「(立ち上がったのはいいが、どうすりゃいい? 一発も当たりゃしねえ)」
盗賊「(強えとは思ったが、こんなに強えなんて聞いてねえぞ)」
盗賊「(確かに強え、勇者が憧れるのも分かる。が、負けるわけにはいかねえ)」
剣士「……なあ、魔王」
盗賊「あ? 何だよ?」
剣士「本来なら、勇者は普通の家庭で生まれ、普通に育っていたはずだ」
剣士「君だってそうだ。赤髪が迫害されていなければ、そうはならなかっただろう」
剣士「そこで君に問題だ。間違っているのは何だと思う?」
盗賊「何だそりゃ? 運命だ。とでも言って欲しいのか?」
353 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/21(土) 02:03:08.66 ID:dMZ8OWu/O
剣士「その通りだ」
剣士「あるべき運命が歪められたから、勇者は『あんなもの』を背負う羽目になった」
剣士「運命は生きている。明確な意志を持って、確かに存在してるんだ」
盗賊「……いや、意味が分かんねえ。アタマ大丈夫か?」
勇者『(行くよ、父さん)』ダッ
ガギャッッ!! ズオッ…ザシュッ!
戦士『……強者と命を奪い合う』
戦士『相手が強ければ強いほど、危うければ危ういほど、その喜びは増していく』
戦士『高めた力を競い合い、磨いた技をぶつけ合い、最後には俺が勝つ』
戦士『男として、これ以上の喜びはなかった』
戦士『自分がどれほど強いのか。何処まで行けるのか。それを知る術は強者と戦う以外にない』
戦士『そんな相手に巡り会えた時、こいつは危険だと感じた時、自然と笑みが溢れた……』
354 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/21(土) 02:07:24.79 ID:dMZ8OWu/O
戦士『しかし…そうか……』
戦士『己より強き者と戦うのが、忌むべき敵が強くて嬉しいか……』
戦士『内に秘めた力への渇望。俺に似たな、勇者』
勇者『……その言葉、出来ることなら母さんが生きてる時に聞きたかった』
戦士『…………』
勇者『母さんは父さんのことが大好きだった。きっと、今だって大好きなはずだ』
勇者『でもね、僕だって母さんに負けないくらい父さんが大好きなんだよ?』
勇者『強くて格好いい父さんが大好きで、ずっとずっと会いたいと思ってたんだ……』
勇者『ねえ、父さん…母さんは殺された……僕の大切な人の命も……』
勇者『ねえ、父さん』
勇者『父さんは何とも思わないの? 父さんは本当に死んじゃったの?』
戦士『答えは目の前にある。お前の目に映るもの、それが全てだ』
勇者『……狡いな。それじゃ答えになってないよ』
355 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/21(土) 02:13:56.61 ID:dMZ8OWu/O
短いけどここまで
356 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/21(土) 23:33:24.93 ID:Vh5MNnUDO
乙
357 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/23(月) 02:13:31.24 ID:oFJluqn4O
>>>>>>
同時刻 南都
老人「お嬢ちゃん、助けてくれてありがとうよ」
老人「塞がっていた目まで治してもらって…何と礼を言えばよいのか……」
僧侶「いえ、そんな…お礼なんて……」
老人「おや、その白地に金の刺繍は……」
僧侶「は、はい。私は託神教の信徒、僧侶です」
老人「……そうかい、託神教の…」
老人「しかし、まさか都が滅びる日が来るなんてなぁ…酷いことをする奴もいるもんだ…」
戦士『内に秘めた力への渇望…誰よりも強くありたいか……俺に似たな、勇者』
勇者『……その言葉、出来ることなら母さんが生きてる時に聞きたかった』
358 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/23(月) 02:16:53.85 ID:oFJluqn4O
戦士『…………』
勇者『母さんは父さんのことが大好きだった。きっと、今だって大好きなはずだ』
勇者『でもね、僕だって母さんに負けないくらい父さんが大好きなんだよ?』
勇者『強くて格好いい父さんが大好きで、ずっとずっと会いたいと思ってたんだ……』
老人「……あの子が、勇者様なのかい?」
僧侶「ええ、そうです」
僧侶「あの方こそが勇者様。彼は私達の為、世界の為に戦っています」
僧侶「絶望に両親を奪われ、思い人をも奪われ…御自身も深い傷を負いながらーー」
僧侶「それでも尚、絶望に屈することなく必死に戦っているのです」
僧侶「ですから希望を捨てないで下さい。きっと、この夜は明けますから」
359 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/23(月) 02:18:07.44 ID:oFJluqn4O
老人「希望……」
僧侶「ええ、あの方こそが私達の希望。救世主です」
僧侶「彼ならば必ずや絶望に打ち勝ち、平和な世界に導いて下さることでしょう」
老人「しかし…都がこの有り様では…」
僧侶「御安心を。都に現れた異形の者共は、我々魔狩りの大隊と南軍とで討伐しました」
僧侶「彼の者が生きている以上、未だ安全とは言い切れませんが、一先ずは大丈夫です」
僧侶「これから向かう避難所は窮屈かと思いますが、少しばかり辛抱して下さい」
僧侶「この夜が明けるまでの、短い間ですから……」
360 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/23(月) 02:19:47.70 ID:oFJluqn4O
ーー僧侶様
僧侶「何でしょう」
ーー郊外に、強大な魔力を持った何者かが現れたとの報告がありました。
ーー教皇様直々の御指示で、僧侶様は大至急そちらに向かうようにと……
僧侶「……分かりました」
僧侶「では、あなた方はこの御老人を避難所へ送り届けて下さい」
僧侶「まだ目が慣れていないようなので、くれぐれも丁重にお願いします」
老人「……行くのかい?」
僧侶「はい。戦いは好みませんが、時には戦わなくてはなりません……」
僧侶「嘗ての赤髪同様、世を乱す悪魔を野放しにしておくわけにはいけませんから」
老人「気を付けるんだよ…」
僧侶「……はい、ありがとうございます。では、お元気で…」ザッ
…ザッ…ザッ…ザッ……バシュッ…
361 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/23(月) 02:22:12.01 ID:oFJluqn4O
勇者『ねえ、父さん…』
勇者『母さんは目の前で殺された…大切な人の命も奪われた……』
勇者『この戦いに関係のない人々さえも大切な何かを失って、堪え難い痛みを抱えてる……』
勇者『ねえ、父さん……』
勇者『父さんは何とも思わないの? 父さんは、戦士は本当に死んじゃったの?』
戦士『……答えは目の前にある。今、お前の目に映るもの。それが全てだ』
勇者『……狡いな。それじゃあ答えになってないよ』
精霊「……遅かったわね」
僧侶「お待たせして申し訳ありません」
僧侶「住民の避難やオークの駆逐など、やるべきことがあったもので……」
362 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/23(月) 02:25:42.42 ID:oFJluqn4O
精霊「オークだけではないでしょう?」
僧侶「……と、言いますと?」
精霊「『意に添わない者』の排除」
精霊「この大混乱、王侯貴族が死んでも何ら不思議はない。それは南王も例外ではない」
精霊「託神教に否定的懐疑的な輩を一掃し、生き延びた民を教徒とし、信徒はより信仰を強める」
僧侶「…………」
精霊「私より民の救助を優先したのも、より多くの民の心理に勇者が救世主であることを植え付けるため」
精霊「民の前で何度も何度も優しい信徒を演じるのは疲れたでしょう?」
僧侶「別に演じていたわけではないです。優しくするのは当たり前です……」
僧侶「それから、植え付けたという表現はやめて下さい」
僧侶「私達が民に伝えたのは神の告げ、『真実』なのですから」
363 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/23(月) 02:30:02.17 ID:oFJluqn4O
精霊「真実ね……」
精霊「混沌の後の安息の千年。その下準備は整った?」
僧侶「……よく御存知なんですね」
僧侶「概ね順調です。『今のところ』は、ですが」
精霊「そう。なら、後は勇者を手に入れるだけということかしら」
僧侶「手に入れるだなんて、そんな野蛮な真似はしません。お迎えに行くだけです」
精霊「迎えに行く?」
精霊「大隊を率いて遺体を奪い取る気なのに、随分と妙な言い方をするのね」
僧侶「遺体ではなく不朽体です。奪うのではありません、迎えに行くのです」
精霊「…ハァ…まあ、どちらでもいいわ。行かせはしないから」スッ
ぐちゃっ…ドサッ
僧侶「ッ、いきなりですね。ですが、そう言うとは思っていました」スッ
364 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/23(月) 02:34:43.63 ID:oFJluqn4O
僧侶「…………」シュゥゥ
精霊「あら、随分と治りが早いのね。体内の元素を膨張させて爆発させたのに」
僧侶「左脚が吹っ飛んだ程度です。この程度の痛み、勇者様の痛みに比べれば……」ググッ
僧侶「勇者様の痛みに比べれば、大したことはありませんっ」ザッ
精霊「(崇拝や信仰って本当に厄介ね……)」
僧侶「それに、『そのやり方』なら私も知っています」スッ
ぼぎゃっ…
精霊「(何らかの施術を受けているのか。それとも……)」シュゥゥ
僧侶「手を翳すこともなく欠損部位の自動治癒。明らかに既存魔術の枠組みから外れていますね」
精霊「それはお互い様でしょう?」
精霊「それより、託神教は魔術使用を認めていないんじゃなかったのかしら?」
365 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/23(月) 02:38:07.96 ID:oFJluqn4O
僧侶「はい、そうです」
僧侶「原則、神の告げに従う我々にとって魔術は禁忌」
僧侶「人を傷付ける攻撃的魔術、所謂黒魔術の使用は固く禁じられています」
僧侶「神に従う者が『魔』に頼るなど許されざる罪。公開処刑確定の大罪です」
僧侶「慈悲と愛を以て手を差し延べ、人々の傷を癒すことなどは白魔術なので例外ですが」
精霊「白も黒も魔術には変わりないでしょうに……随分と都合の良いように出来ているのね」
僧侶「……『個人的』に、そこを突かれると痛いです」
僧侶「その辺は解釈の違い、信仰の違い。見解の相違ということにしましょう」
366 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/23(月) 02:41:41.98 ID:oFJluqn4O
僧侶「ですが、このような場合」
僧侶「貴方のような異物が現れた場合は、特別に魔術使用を許可されています」
精霊「初対面の人間に向かって異物呼ばわり? 神に仕える身なのに口が悪い子ね」
僧侶「これは失礼致しました」
僧侶「ですが、貴方は一度、世の理から外れた身です」
僧侶「異物というのは適切な表現かと思いますが。どうでしょう?」
精霊「ええ、まあそうね。間違ってはいないわ」
僧侶「それはよかったです。安心しました」ホッ
僧侶「貴方の心を傷付けてしまっていたら、どうしようかと思いました……」
367 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/23(月) 02:44:18.23 ID:oFJluqn4O
精霊「…………」
僧侶「言っておきますが、私に貴方と戦う意志はありません」
僧侶「私は教皇様の命で、勇者様をお迎えに行くだけですので……」
僧侶「しかし、あくまで勇者様の下へ向かうと言うのならーー」
僧侶「此方も『全力』で足止めしなければならなくなります」
僧侶「貴方という存在は、此方からすると色々と面倒なので」
精霊「面倒、ね」
僧侶「ええ。ですから再臨までの間、出来れば『じっとしていて』欲しいのです」
精霊「非常に残念だけれど、その頼みだけは聞けないわね」
僧侶「そうですか、それは残念です」
僧侶「では教皇様の指示通り、真実を歪める者を修正します」
368 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 02:45:53.70 ID:oFJluqn4O
ここまで寝ます
場面があっちこっちにいって申し訳ない
369 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 06:21:26.94 ID:cwfSNGpHO
読み辛い
370 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/23(月) 15:45:40.47 ID:WhYM0P+A0
乙よ
371 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/25(水) 22:48:01.65 ID:E63A0C5pO
精霊「真実を歪めている?」
精霊「真実、世界を歪めているのは『そっち』でしょうに」
僧侶「それは違います。私達は辿るべき真実を守っています。歪めいるのは人の心」
僧侶「人とは脆く、か弱い生き物です」
僧侶「だからこそ、神は人が間違った方向へ向かわぬように、お告げになるのです」
僧侶「そして、神の告げは何人たりとも歪めることは出来ない。起こり得る真実なのですから」
精霊「では、私が今此処であなたを殺したとしても事は成ると?」
僧侶「ええ、私でなくとも誰かが成すでしょう」
僧侶「いえ、何もせずとも『そうなる』ことは確定しているのです」
372 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/25(水) 22:51:41.43 ID:E63A0C5pO
精霊「そうなる?」
僧侶「はい。この夜が明ければ、勇者様は必ずや我々と共に来て下さる」
僧侶「世に蔓延る魔を討つ為、人の世の千年の為、救世主として再臨する」
精霊「……勇者が絶望に打ち勝ち、生きる道を選んだとしたら、どうするつもりなのかしら?」
僧侶「神の告げに間違いはーー」
精霊「運命は変わるわ。勇者一人なら『そうなる』かもしれない……」
精霊「けれど、勇者には友がいる。あの二人がいれば、運命を変えられる」
僧侶「……友人? それは魔王や魔女のことを言っているのですか?」
僧侶「だとするならば、あれらは友人などではありません」
僧侶「あれらは勇者様を堕落させ、苦しめる与える悪魔です」
373 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/25(水) 22:53:51.84 ID:E63A0C5pO
精霊「そうなる?」
僧侶「はい。この夜が明ければ、勇者様は必ずや我々と共に来て下さる」
僧侶「世に蔓延る魔を討つ為、人の世の千年の為、救世主として再臨する」
精霊「……勇者が絶望に打ち勝ち、生きる道を選んだとしたら、どうするつもりなのかしら?」
僧侶「神の告げに間違いはーー」
精霊「運命は変わるわ。勇者一人なら『そうなる』かもしれない……」
精霊「けれど、勇者には友がいる。あの二人がいれば、運命を変えられる」
僧侶「……友人? それは魔王や魔女のことを言っているのですか?」
僧侶「だとするならば、あれらは友人などではありません」
僧侶「あれらは勇者様を堕落させ苦しみを与える悪魔です」
374 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/25(水) 22:56:30.50 ID:E63A0C5pO
精霊「ふっ、ふふふっ」
僧侶「……何が可笑しいのです」
精霊「いえ? 随分と歪んだ顔をしているものだから、ついつい笑ってしまっただけよ」
精霊「それより、何かしらその顔? まさか悪魔に嫉妬でもしているの?」
僧侶「嫉妬などしていません!私は事実を述べただけですっ!!」
精霊「あらそう……」
精霊「なら、事実を述べると顔が歪む特異体質なのね。治してあげましょうか?」
僧侶「……杖よ、凍て付く刃となれ」
精霊「顔に似合わず気が短いのね。そんなことでは勇者様に嫌われるわよ?」
375 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/25(水) 22:58:16.65 ID:E63A0C5pO
僧侶「黙れ、勇者様を惑わす悪魔め」ダッ
精霊「あら、結構速いのね。もっと鈍い女かと思っていーー」
僧侶「 だ ま れ 」ズッ
ザンッッ!! ガシャッ…パラパラ…
僧侶「この程度ーー」
精霊「ちょっとからかっただけじゃない。そんなに怖い顔しないで頂戴」
僧侶「ッ!!?」クルッ
精霊「どうしたの?」
僧侶「(確かに手応えはあった。なら、私が斬ったのはーー)」
376 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/25(水) 23:00:13.43 ID:E63A0C5pO
精霊「それは私の土人形よ」
精霊「どう? 斬った感触も本物そっくりだったでしょう?」
僧侶「(斬られる寸前にここまで精巧なゴーレムを作り、気取られることなく背後に転移……)」
僧侶「(油断していたわけではないけれど、この者の魔術は違いすぎる)」
僧侶「(やはり、私一人では無理ですね。ですが、そろそろ援軍が来る頃……)」
精霊「何か考え事? まあいいわ、それよりどうするの?」
僧侶「……どうする、とは?」
精霊「勇者が生きる道を選択した場合、あなた達は勇者をどうするつもりなのか訊いてるのよ」
精霊「あなた達にとっての真実、神の告げとやらの為に勇者を殺すのかしら?」
377 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/25(水) 23:01:20.24 ID:E63A0C5pO
僧侶「……斯くして」
精霊「?」
僧侶「斯くして絶望は数多の魔を率いて顕現し、長き夜が始まった」
僧侶「魔はいよいよ地上を覆い尽くし、死と苦しみで満たそうとするだろう」
僧侶「これは避けられぬことであって、神は我々を見捨てられたわけではない」
僧侶「そうであるものと、そうでないもの」
僧侶「そうであるものは救われ、そうでないものに救いは訪れない」
僧侶「世が死と苦痛によって満たされようとした時、希望は現れる」
僧侶「崇めよ、讃えよ。希望を信じよ」
僧侶「希望に勝利を、希望に祝福を。祈りこそが彼を支え、奮い立たせるのだ」
378 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/25(水) 23:03:46.04 ID:E63A0C5pO
僧侶「長き戦いの末……」
僧侶「絶望は希望によって討たれ、夜明けと共に救世の主は再臨する」
僧侶「救世の主は人を導き、世にある全ての悪を滅ぼし、悪徳に塗れた暗黒時代を終わらせるであろう」
僧侶「こうして新たな時代が始まり、終わりなき国と繁栄が約束されたのだ……」
僧侶「……これが神のお告げ。真実です」
僧侶「お聞きの通り、あなたが口にしたような未来など訪れようもないのです」
僧侶「死が訪れれば再臨し、我々を導いて下さる。死が訪れなくとも、我々と共に来て下さるのです」
379 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/25(水) 23:06:54.97 ID:E63A0C5pO
僧侶「何がどうあろうと神の告げが真実になる。いえ、真実なのです」
僧侶「ですから貴方が何をしようと、私達が勇者様をお迎えに行くことは変えられません」
精霊「(そろそろ向こうは終わった頃かしら? 興味のない話って退屈だわ)」
僧侶「聞いているのですか?」
精霊「ええ、殆ど聞いていなかったわ」
僧侶「……そろそろ援軍が到着しますが、退くつもりはないのですね?」
精霊「援軍? 出来ることなら全軍がいいのだけれど」
僧侶「大した自信ですね」
僧侶「それに見合った実力あっての発言なのでしょうが、些か傲慢が過ぎるのではないですか?」
380 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/25(水) 23:11:53.46 ID:E63A0C5pO
精霊「……傲慢?」
僧侶「えっ…」ゾクッ
精霊「私が、傲慢…?」
僧侶「(え、えっ、何…雰囲気…身体…変わっ…声…出な…怖い…脚…震え…)」
精霊「そう思うのであれば、考えを改めさせねばならないな」
精霊「神聖術師でも力の差は理解出来たというのに、鈍い女だ……」ザッ
僧侶「(違う。こんなの、人間が持っていい力じゃーー)」
精霊「まあいい。お前のような馬鹿にでも分かり易いように見せてやろう」スッ
精霊「(都に…何を……)」
ゴッッッッ!! サァァァァァァ…
僧侶「(都の城壁が消え…え?砂?)」
僧侶「(あんなに遠いのにどうやって何をどうしたら音もなく城壁を壊せるの?)」
僧侶「(風術圧縮?火術分解??土術崩壊?氷結させた??違う知らない怖い)」
381 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/25(水) 23:15:36.70 ID:E63A0C5pO
精霊「これでも、私が傲慢だと言うのか?」
僧侶「ひっ…う…じ、自分が一体何をしたのか、分かっているのですか…」
精霊「勿論だ、勿論分かっている」
精霊「あの様を見れば分かるだろう。この私が、この私の手で、都の城壁を破壊した」
僧侶「ふ、ふざけないで下さい!!」
精霊「吠えるな、何をしようが私の勝手だ。私の力だ、私の使いたいように使う」
精霊「私には力がある。凡百の者共とは違う、大いなる力だ。力ある者は我を通せる」
精霊「私は欲しいものを欲しいままに、意のまま気の向くままにする。いや、そうしてきた」
僧侶「…ぁ…うあ…」ペタン
精霊「お前が『何かで見た』私ではなく、お前が『その眼で見た』私の脅威を伝えろ」
精霊「足止めなどと生温いことを言うな。私は殺しに来た。阻止するべく来た」
精霊「……援軍程度では足りない」
精霊「魔狩りの大隊を寄越せ。全てだ、全軍だ、全軍を以て私を殺しに来い」
精霊「勇者を、救世主を手にしたいのなら、神の告げとやらを真実にしたいのならーー」
精霊「全身全霊全軍全力で殺しに来るがいい。私も、この命が尽きるまで本気で殺し続けよう」
382 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[s]:2017/01/25(水) 23:27:19.68 ID:E63A0C5pO
もうちょっと書きたい
進むの遅くて申し訳ない
383 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/26(木) 00:06:36.36 ID:oN1ZhzGA0
乙ですよ
384 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:17:50.74 ID:vidETM5EO
>>>>>>>
東部地下施設
特部隊長「……精霊が?」
魔導鎧「はい。東王陛下と元帥は、彼女が何か重大な事実を隠していると推測しています」
魔導鎧「現に、第一施設から精霊の魔力が消えました。何処かに転移したと思われます」
魔導鎧「勇者の下へ向かったのなら、この映像に映し出されるはずなのですが、姿はありません」
特部隊長「彼女を魔力を辿れるか」
魔導鎧「通常であれば可能なのですが、精霊転移後、彼女の魔力を感じられません」
特部隊長「何故だ?」
魔導鎧「おそらく、魔力探知させぬように防壁のようなものを展開しているとものと思われます」
魔導鎧「これにより、彼女が何かを隠している可能性は非常に高くなりました」
385 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:18:33.41 ID:vidETM5EO
特部隊長「この戦の裏…と言っていたな」
魔導鎧「はい。元帥によれば、ですが」
特部隊長「……剣聖の所在は」
魔導鎧「精霊同様、感知出来ません」
特部隊長「精霊と剣聖が姿を消した……」
特部隊長「関連性があるとは断定出来ないが、剣聖の魔力を感知出来ないのは不自然だな」
特部隊長「奴は自分を魔神族だと言っていた。であれば、魔力を隠すのは不可能なはず……」
魔導鎧「剣聖が魔神族…ですか?」
特部隊長「ん?何かおかしなことを言ったか?」
魔導鎧「おかしいも何も、彼は完全種ではないのですか?」
386 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:19:56.21 ID:vidETM5EO
特部隊長「……何?」
魔導鎧「以前お会いした時、彼から一切の魔力を感じませんでした。彼は完全種です」
特部隊長「剣聖に、魔力がない?」
魔導鎧「はい。彼から魔力を感じたことは一度もありません」
特部隊長「それは確かなんだな?」
魔導鎧「私を含め、魔導鎧全機は大尉に虚偽報告をするように設計されていません」
特部隊長「いや、疑っているわけじゃないんだ」
魔導鎧「なら何故?」
特部隊長「君と出逢う以前のことだ。剣聖は自身のことをこう言っていた……」
特部隊長「俺は、お前達が言うところの異形種だ。この剣を抜いてみれば分かる…とな」
387 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:21:07.18 ID:vidETM5EO
魔導鎧「……そうでしたか」
魔導鎧「私を疑っていたわけではないのですね。申し訳ありません」
特部隊長「いや、謝る必要はない。剣聖に対する認識に齟齬があっただけのことだ」
特部隊長「しかし…奴の言ったことが事実とするなら剣を抜かない限り魔力は感じられない」
特部隊長「……魔導鎧、何かに魔核を移すというのは可能なのか?」
魔導鎧「いえ。私が保有する知識の中にそのような術はありません」
魔導鎧「製造されて以降も独学で魔術を学んでいますが、不可能かと思われます」
特部隊長「……そうか。だとしたら、二人が何処へ消えたのか知る術はないな」
特部隊長「偵察機体を向かわせるにも、何の手懸かりもない状態で発見するのは非常に困難だ」
388 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:21:33.60 ID:vidETM5EO
魔導鎧「……大尉、一つ提案があります」
特部隊長「提案?珍しいな…」
魔導鎧「精霊と同期を試みれば、彼女の居場所を知ることが出来る……かもしれません」
特部隊長「同期…それは、君が躊躇いを見せる程に危険なことなのか?」
魔導鎧「はい。最悪、壊れる可能性があります」
特部隊長「なら、そんなことをする必要はない。精霊が情報を秘匿している確証はないんだ」
特部隊長「君には随分と助けられた。憶測の検証の為に君を失うわけにはいかない」
魔導鎧「確証ならあります」
特部隊長「何?」
魔導鎧「この言葉は使いたくありませんが、所謂『勘』というやつです」
389 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:22:06.40 ID:vidETM5EO
特部隊長「馬鹿な、そんなことでーー」
魔導鎧「私以外であれば、そうでしょう」
魔導鎧「ですが私はこの世界で唯一、彼女の精神性を多少なりとも引き継いでいる者です」
魔導鎧「その私が精霊の行動に疑問を持ち、彼女の動向を探ろうとしている」
魔導鎧「大尉、私は断言出来ます。精霊は、何かを隠しています」
特部隊長「いや、しかし…」
魔導鎧「短時間であれば危険はありませんし、音声だけでも拾えるかもしれません」
魔導鎧「これ以上は危険だと判断したら、即座に同期は終了します。大尉、許可を」
390 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:22:39.41 ID:vidETM5EO
特部隊長「……少し、時間をくれ」
魔導鎧「大尉、貴方は先程、私と出逢う以前と言ってくれました」
特部隊長「?」
魔導鎧「貴方は、精霊に製造される以前…ではなく、私と出逢う以前と言ったのです」
魔導鎧「……私は、人間ではありません。精神構造も精霊を基にしたものでしかない」
魔導鎧「私のような命なきものに対し、あたかも人のように接してくれる大尉に感謝しています」
魔導鎧「これを喜びというなら、きっとそうなのでしょう。私は、貴方と出逢えて良かったです」
魔導鎧「私に心があるかどうか、それを証明する術はありませんが、そう思っています」
魔導鎧「……大尉、恩返しをさせて下さい。私も、貴方に何かを与えたいのです」
特部隊長「……そんなことを言われたら俺が断れないのを分かってて聞いてるな?」
391 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:24:27.81 ID:vidETM5EO
魔導鎧「分かりましたか?」
特部隊長「当たり前だ。長いとも短いとも言えないが、これまで共に過ごしてきたんだ」
特部隊長「……君の性格は、ある程度把握しているつもりだ」
魔導鎧「性格…」
特部隊長「ああ、『君の』性格だ」
特部隊長「君は心の有無を証明する術はないと言ったが、君には確かに心がある」
特部隊長「だからだろうな、君に危険な真似をさせたくないと思う」
特部隊長「拳銃や剣のような単なる道具だと思っているのなら、躊躇いなく『やれ』と言えるのだろうが……」
特部隊長「君は人間と何ら変わりはない。君は戦友であり、俺の大事な部下だ」
魔導鎧「であれば尚のこと」
魔導鎧「大尉、お願いします。貴方の部下として、任を全うさせて下さい」
392 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:25:48.99 ID:vidETM5EO
特部隊長「異常を感じたら即刻中止だ。いいな」
魔導鎧「……了解しました。では、同期を試みます」
ヂヂッ…ヂヂヂ……
精霊『『意に添わない者』の排除」』
精霊『この大混乱、王侯貴族が死んでも何ら不思議はない。そして、それは南王も例外ではない』
精霊『託神教に否定的懐疑的な輩を一掃し、生き延びた民を教徒とし、信徒はより信仰を強める』
特部隊長「排除、託神教。断片的だが、まさか…」
僧侶『概ね順調です。『今のところ』は、ですが』
精霊『そう。なら、後は勇者を手に入れるだけということかしら』
僧侶『手に入れるだなんて、そんな野蛮な真似はしません。お迎えに行くだけです』
精霊『大隊を率いて遺体を奪い取る気なのに、随分と妙な言い方をするのね』
僧侶『遺体ではなく不朽体です。奪うのではありません、迎えに行くのです』
特部隊長「……勇者の遺体を? 一体何を……」
僧侶『では教皇様の指示通り、真実を歪める者を修正します』
393 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:27:06.26 ID:vidETM5EO
魔導鎧「…ッ、ガ…」
特部隊長「ッ!? 魔導鎧!もういい!!もう充分だ!今すぐ止めろ!!」
魔導鎧「…ま…だ…いけ…ま…す……」
精霊『……援軍程度では足りない』
精霊『魔狩りの大隊を寄越せ。全てだ、全軍だ、全軍を以て私を殺しに来い』
精霊『勇者を、救世主を手にしたいのなら、神の告げとやらを真実にしたいのならーー』
精霊『全身全霊全軍全力で殺しに来るがいい。私も、この命が尽きるまで本気で殺し続けよう』
魔導鎧「……アッ……」ガグンッ
特部隊長「っ、おい、しっかりしろ!!」
魔導鎧「…大尉…お役に、立て…まし…たか?」
特部隊長「……ああ、彼女が居る場所も、行くべき場所も、何が起きているのかも分かった」
特部隊長「早速で悪いが南都に偵察機体を派遣、南王や王侯貴族の生死を調べさせてくれ」
394 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/26(木) 02:28:15.00 ID:vidETM5EO
魔導鎧「……大尉は…人使いが荒いですね」
特部隊長「……ああ、俺は部下に厳しいんだ」
魔導鎧「ふふっ…了解しました」ギシッ
ガシュッ…
魔導鎧「飛行術式型偵察機に告ぐ」
魔導鎧「大至急南部へ向かい、精霊と何者かの会話が事実であるのか確認せよ。了解か」
『了解しました。飛行術式型偵察機は大至急南部へ向かいます』
魔導鎧「大尉、我々も今すぐ向かいますか?」
特部隊長「いや、動くのは偵察機体の報告後だ。それまでに体調を整えておけ」
魔導鎧「……了解しました」
魔導鎧「(精霊、今日ほどあなたに感謝した日はありません)」
魔導鎧「(私はあなたに作られたことを、心から感謝しています)」
395 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/26(木) 02:29:38.56 ID:vidETM5EO
ここまで寝ます
ありがとうございます
396 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/26(木) 07:02:16.79 ID:BdQ26qM3O
>>372
はミス
397 :
◆4RMqv2eks3Tg
[saga]:2017/01/26(木) 22:58:47.05 ID:26DinylLO
絶望の宣誓、世界各地にオークを放つ。
↓
魔女と魔導師が交戦。符術師が風術隊を派遣。
魔女が対価の腕輪使用、炎そのものとなる。
↓
北部の街で勇者が花屋の子供達を救出、風術隊によって転移陣が軌道。
↓
西都。陣は娼婦によって破壊。
↓
店主は治癒師を助けに行く、道化師と娼館主は地下道で陣起動を任された魔術師と合流。
↓
店主は治癒師を救い出すが、大型オークの攻撃で両足を失う。
直後、赤髪が現れ大型オークを倒す。
↓
地下道にオークが現れるが、道化師が火元素結晶を爆発させ道を塞ぐ。
盗賊は娼婦と交戦、娼婦の願により魂を奪う。オーク殲滅。
↓
勇者と戦士の戦いが全世界に映し出される。
↓
魔女は北都暴動収束後、勇者の下へ
精霊は南部へ、剣聖は盗賊の下へ
↓
盗賊と剣士の再会。戦闘
精霊、南部へ到着。僧侶との戦闘
↓
特部隊長は元帥の命により精霊を探ることに。
魔導鎧が精霊と同期を試みる。
託神教の動きを察知するに至り、南都へ飛行偵察機体を派遣する。
398 :
◆4RMqv2eks3Tg
[saga]:2017/01/26(木) 23:10:58.59 ID:26DinylLO
ごちゃごちゃしてきたので状況整理。
抜けてる箇所があるかもしれませんが、大体はこんな感じです。
終わりに近付いてはいますが、考えていたより長くなりそうです。
ここのところ投下が遅くて申し訳ない。
長くなりましたが、読んでる方、レスしてくれた方、本当にありがとうございます。
凄まじく眠いので寝ます。
399 :
◆4RMqv2eks3Tg
[sage]:2017/01/26(木) 23:23:54.68 ID:26DinylLO
説明が不足している部分や疑問があれば言って下さい。
設定等は短編にあるので、よければ読んで下さい。
400 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/27(金) 06:44:36.53 ID:IYvjqUdDO
乙
401 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:19:58.66 ID:guLrcQbjO
>>>>>>>>
南部上空
『王女様は死んだんだよ?』
魔女「(痛っ!! 『また』これか)」
魔女「(さっきより間隔が短くなってる。きっと勇者に近付いてるからだ)」
魔女「(痛みも酷くなってる。もう少し、後もう少しで着くのに……)」
『もっと喜びなよ。これで邪魔な奴は消えたんだからさ』
『だけど、どれだけ頑張っても、どれだけ尽くしても、勇者が私を見てくれることはないよ』
『この想いが実ることは絶対にない、私は一方的に勇者を愛し続けるだけ……』
『ずっとずっと、王女様を想う勇者を見ているだけ。私を見てくれない勇者を見ているだけ』
『……力なんて求めなければ、私は勇者と結ばれたかもしれないのに……』
402 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:22:13.20 ID:guLrcQbjO
魔女「(ッ、うっさいな!!)」ブンブンッ
ボゥッ…
魔女「?」
魔導師「魔女、先程より頻度が多くなっているようだがーー」
魔女「わ、私なら大丈夫ですって!これくらい全然平気ですから!!」
魔導師「大丈夫なものか。自分の身体をよく見てみろ、炎が酷く乱れている」
魔導師「此処へ来るまでも街や村で戦闘を重ねたのだ。疲れもあるだろう」
魔導師「焦る気持ちは分かるが、痩せ我慢せずに一度立ち止まれ。気を静めるのだ」
魔女「……嫌です。今痩せ我慢をしなかったら一生後悔します」
魔導師「いいから止まれ。その痛みを和らげる妙案を思い付いた」
403 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:24:14.05 ID:guLrcQbjO
魔女「えっ…?」
魔導師「私とで『それ』を共有し、二分するのだ」
魔導師「今の私とお前は二心同体、内にある魂は二つ。互いの魂を繋げれば可能であろう」
魔導師「あくまで繋ぐだけだ。どちらかが消滅することはない」
魔導師「私がどこまで肩代わり出来るかは分からんが、今よりは確実に楽になれるだろう」
魔女「でも、これは私のーー」
魔導師「分かっている。それは、お前が覚悟の上で受け入れた痛み」
魔導師「自身の望みと引き換えに手に入れた力、せれと共に与えられた責め苦……」
魔導師「代償などという言葉では足りん。それは最早、呪いとさえ言えるものだ」
404 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:25:11.22 ID:guLrcQbjO
魔女「…………」
魔導師「……受け入れたからには背負うべきだと、そう思っているのだろう?」
魔導師「だがな、このままでは勇者の下へ行ったところで何の役にも立てんぞ」
魔導師「よいか、魔女。少しは狡くなれ。第一、相応の対価は既に支払っているのだ」
魔導師「支払いは済ませたのだから、これ以上の請求に応じることはない」
魔女「けど、それが代償だって刀匠さんが……」
魔導師「フン、対価の仕組みなど知ったことか。何をしようとバレなければよいのだ」ウム
405 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:27:41.20 ID:guLrcQbjO
魔女「っ…あはははっ!!」
魔導師「ようやく笑ってくれたな……」
魔女「……先生?」
魔導師「弟子よ、絶望に囚われていたとは言え、お前の仲間を傷付け、悲しませてしまった」
魔導師「あの時、勇者が現れなければ…そう思うとぞっとする。魔女、本当に済まなかった……」
魔女「いいんです……」
魔女「こうして本当の先生と一緒にいられるだけで、私は嬉しいですか…ッ!!」ズキッ
ギュッ…
魔女「あっ…」
魔導師「魔女、お前な遙かな高みへ昇った」
魔導師「今や、お前の師として何かを教え授けることなどないのかもしれん」
魔導師「だがな、その痛みを和らげることは出来る。いや、させてくれ」
406 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:30:18.41 ID:guLrcQbjO
魔女「…せ…んせい……」
魔導師「弟子が苦しみ藻掻く様を、何もせずに傍らで見ているというのは、私が耐えられんのだ」
魔導師「魔女、魂を繋ぐぞ」
魔導師「お前が命を全うするその時まで、師であることを許してくれ」
ズッ…ズズズ…
魔導師「ッ!!」ズギッ
『男の人は怖い男の人は怖い男の人が怖い男の人が怖い男は怖い乱暴された乱暴された乱暴された乱暴された乱暴された乱暴された乱暴されたでも勇者は違う勇者違う勇者に出逢えてよかった勇者に出逢えてよかった出逢え勇者は私を見てない出逢えてよかったあんな男いるんだあんな男いるんだあんな男いるんだ勇者は違う違う違う勇者は全然違う勇者は優しい優しい優しい優しい優しい優しくて温かい温かい温かい温かい温かい温かい温かい温かい背中だった優しい笑顔優しい笑顔優しい笑顔私は勇者が私は勇者が好きだ一緒にいたいな一緒にいたいな王女様より先に出逢ってたら一緒にいたいな一緒にいたい一緒にいたいな勇者に貰った勇者が私にくれた時計を持って一緒に出掛けたい一緒にいたい早く行かなきゃ早く行かなきゃ早く行かなきゃ出逢えてよかった勇者は私が勇者は私が勇者は私が男勇者大好だよ勇者私が勇者は私が助ける助ける助ける助ける勇者を助けたい私だけの勇者優しい勇者は王女様が好きお願い王女様じゃなく私を見て王女様じゃなく私をだけを見て見て見て見て見て見て私だけに笑って見せてーー』
407 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:33:56.21 ID:guLrcQbjO
魔導師「(こ…れは……)」
魔導師「(熱した針金を頭蓋から突き通されているような、刺され焼かれるような痛み……)」
魔導師「(恋慕、嫉妬、執着。それらが異常なまでに肥大化したもの。それが、この声の正体か)」
魔導師「(勇者に近付くにつれ、想いは燃え上がり平常ではいられなくなる……)」
魔導師「(燃える恋心と言えば聞こえは良いだろうが、これはまるで呪詛だ)」
魔導師「(魔女自身にこんな歪みはない。代償、対価が、これらを肥大化させ歪めている)」
魔導師「(愛していながら近付くことさえ出来ず、無理に近付けば正気を失う……)」
魔導師「(勇者は魔女が生まれて初めて心を許した異性。そして、初めて恋した男だ)」
魔導師「(魔女にとって大きな存在であることは、最早疑いようもない事実……)」
魔導師「(私や精霊ならば抑え込めるだろうが、この年頃の娘に耐えきれるはずもない)」
408 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:38:21.41 ID:guLrcQbjO
魔導師「(此処へ来るまでもつらかったろうに……)」
魔導師「(しかし、このままでは共に戦うどころではない。狂ってしまう)」
ズッ…ズズズッ…
魔導師「………っ、く…」フラッ
魔女「!!」ガシッ
魔導師「どうだ、魔女…少しは良くなったか?」
魔女「は、はい。さっきと比べたら全然大したことないです。意識もはっきりしてきました」
魔女「だけど先生が……」
魔導師「なに、気にすることはない。それより、もう一つ話がある。絶望についてだ」
魔女「……何か、打つ手が?」
魔導師「違う。少々酷なことを言うが、今あの場に行っても役には立てんだろう」
409 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:41:02.83 ID:guLrcQbjO
魔女「…ッ、でもーー」
魔導師「焦るな逸るな、最後まで聞け」
魔女「……はい」
魔導師「お前は力を手にしたばかりだ。世辞にも使い熟せているとは言えん」
魔導師「その力を真に理解していたのなら、私を覆っていた黒塊をも瞬きの間に焼き尽くせただろう」
魔女「理解…」
魔導師「そうだ。魔術と同様、認識と自覚、何より理解が重要なのだ」
魔導師「今のお前が使えるのは炎による治癒。傷を癒し、他者を救う。魔術師の信条を体現した力」
魔女「けど、役には立てないって……」
魔導師「お前一人ではな……しかし、そこに盗賊…魔王が加われば話は別だ」
410 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2017/01/27(金) 23:45:27.41 ID:guLrcQbjO
魔女「(え、何で盗賊?)」
魔導師「お前の治癒の炎は、魔術による治癒とは違う。魔術による治療は修復や治癒の促進」
魔導師「一方、お前の場合は消えた蝋燭に再び火を灯すようなものなのだ」
魔女「……先生、もうちょっと分かりやすくお願いします」
魔導師「……修復ではなく復活再生」
魔導師「魔術は、抉れた箇所に新たな肉を作る」
魔導師「お前の炎は抉れた肉を復活させる」
魔導師「新たに作るのではなく、失われる以前の状態にしているわけだ」
魔導師「もっと噛み砕いて言えば、炎が失った部分に成り代わる」
魔女「は〜、なるほど……(やっぱり先生は凄いなぁ、私より理解してるし)」
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