勇者「救いたければ手を汚せ」 

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211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:29:24.67 ID:vYhwAq/BO

「そんな、まさか…」

彼等はその意図に気付き凍り付いた。

オークは彼女が前方にいる限り発砲出来ないことを理解している。

だからこそ彼女を無視して此方に突撃してきた。

おそらく彼女が要人であることを理解したのだろう。

愚鈍な獣染みた姿からは想像出来ない知性。彼等は完全に侮っていた。

不測の事態、予想だにしていなかった敵の行動。混乱が彼等を呑み込んでいく。

「撃て!撃て撃て撃て!!」

魔術師の存在など忘れてしまったかのように銃を乱射する。

銃弾を掻い潜り向かって来るオークの背後で、魔術師は服が汚れるのも構わず蹲っている。

魔術によって攻撃する気配はない。というより、戦う意志そのものが感じられない。
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:32:44.44 ID:vYhwAq/BO

(ちっ、あの屑……)

(散々偉そうなことを言っておきながら、あんな役立たずだったとはな)

道化師が心中で毒づく。

どうやら、あの魔術師に期待するだけ無駄のようだ。

あれだけ大物然としていた姿はすっかりなりを潜め、今や置物のようにじっとしている。

何故あんな魔術師が起動を任されたのか疑問に思ったが、今はそんな場合ではない。

「来るな来るな来るなあああ!!!」

乱射された銃弾の何発かが先頭のオークに命中し地面に倒れ伏す。

だが、魔核を破壊したわけではない。

確かに銃弾は当たったようだが見る間に治癒している。

その間に他ニ体のオークが迫っていた。何度も発砲を繰り返すものの当たる気配はない。

恐怖によって手が震えているのか照準は定まらず、銃声はあらぬ方向へと飛んでいくばかりだ。
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:35:31.87 ID:vYhwAq/BO

「ぴひゅっ…」

先頭に立っていた長身痩躯の兵士の首が奇妙な音を鳴らしながら宙を舞う。

その目は恐怖と驚愕に見開かれている。

他の兵士も彼と同様の表情で無闇矢鱈に撃ち続けている。

ニ体が背後に回り込む擦れ違い様、更に二人の兵士が爪によって寸断される。

この僅かな間に前方を塞ぐオークの傷は完全に治癒していた。やはり傷は浅かったらしい。

素早く立ち上がると二度三度頭を振り、牙を剥き出しに獲物に向かって吼え猛る。
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:37:58.68 ID:vYhwAq/BO

(マズいな。このままだと挟み撃ちだ)

「くそっ!後ろだ!後ろを取られた!!」

(ダメだ、この兵士共も役に立たない。ボクが何とかするしかない)

背後を取られたことへの動揺からか、前方のオークの存在をすっかり忘れてしまっている。

道化師は死亡した兵士の武器を手に取り娼館主を壁際に追いやると、前方のオークに発砲。

立ち上がり様のオークの肩口に命中させ動きを止めると、次弾で魔核を撃ち抜いた。

(近くて助かった……)

(もう少し遠ければ外してたかもしれない。これで残りは二匹か…)

背後からは相変わらず銃を乱射する音が聞こえる。混乱状態から立ち直った様子はない。

銃弾が掠って倒れはするものの、傷が塞がっては立ち上がりを繰り返しながら着実に距離を詰めている。
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:40:25.45 ID:vYhwAq/BO

(このままじゃ全滅も時間の問題だ。化け物に構っている暇はない)

(大体、こんな奴等が何人死のうが彼女さえ無事ならそれでいいんだ)

(悪いけどボク達は先に行かせてもらう。少しは時間を稼いでくれよ)

道化師は呆然とする彼女を起ち上がらせ、梯子に向かって全力で走り出した。

「ちょ、ちょっと、あの人達は」

「見捨てる」

どうするのか、と聞かれる前に言い切る。

道化師にとって娼館主の身の安全が第一であり、彼女を生かす為ならば幾ら犠牲が出ようと構わないのだ。

少しばかり行動を共にしたからといって、仲間意識が芽生え情が移るなどあるはずもなかった。
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:43:12.27 ID:vYhwAq/BO

一方、娼館主はやり切れぬ表情をしている。

出来ることなら皆で、と思っていたのかもしれない。

だが彼女も裏社会で生きる人間だ。

現実がそう上手くいかないことは分かっている。

しかし、長らく危険から遠ざかっていた所為か、他人を切り捨てることへの躊躇いが生まれてしまったらしい。

(昔なら、こんなの当たり前だった。生きるってことは、何かを犠牲にすることなんだから)

(店持って甘くなったのかな。今さら綺麗な生き方しようったって無理なのに……)

それを感じ取った道化師が、消沈する娼館主に声を掛けた。

「混乱した彼等の様子を見ただろ。ああなったらボク達では助けられない」

「いいか、ボク達は普通の人間なんだ。盗賊や勇者のような『特別』じゃない」
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:48:12.34 ID:vYhwAq/BO

「……分かってる」

(命にも優先順位がある。誰も彼も救おうなんて考える奴の方がイカレてるんだ)

(窮地を乗り越え、皆で力を合わせて逆転勝利なんてのは有り得ない)

(まして全員助かるなんて無理だ。必ず誰かが死ぬ)

道化師は『必ず死ぬ誰か』にならぬ為、娼館主の手を引いて梯子へと直走る。

背後では未だ銃声が鳴り響いているが、彼等がやられれば次は自分達だ。

あの銃声が止む前に梯子に辿り着き、重い石蓋を開けなければならない。

(もう少しだ)

その時、娼館主の身体がぐらりと揺れた。

体当たりで突き飛ばされたかのように身体が大きく傾き、どさりと倒れた。

(……何が、起きたんだ)

彼女の右腕には穴が空いており、背中は横一文字に切り裂かれている。

幸いにも背中の傷は深くはないようだが彼女は気を失っており、ぴくりとも動かない。

原因を探るべく辺りを見渡すと、先程オークが出てきた穴の奥で槍先が輝いた。
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:51:10.26 ID:vYhwAq/BO

「仕留め 損ねた か」

(くそッ!もう一匹いたのか!!)

街灯の光が、蠢く灰色を捉えた。

穴の奥に潜み、油断したところを一突きにするつもりだったのだろうが失敗した。

原因は、街灯の光。

本来であればこの程度で怯むことはないが、このオークは他三体とは違い暗がりにいた。

そこへ突然の光。

それによって怯んでいなければ、間違いなく二人諸共串刺しになっていただろう。

未だ目が慣れていないのか、オークは僅かによろめき壁に手をついた。
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:55:10.08 ID:vYhwAq/BO

(動きが鈍い。何故?)

(いや、この際どうでもいい、何だか分からないが今しかないんだ)

距離は近く的の動きも鈍い。道化師は迷わず左胸部へ銃弾を放った。

魔核を撃ち抜かれ内側から瓦解していくオークを尻目に、服の袖を千切って娼館主の右腕を止血。

素早く彼女を背負い走り出したが、脚に何かが絡み付いた。

ぎょっとして足下を見ると、脚を掴んでいたのは細い人間の手だった。

「そんな女は捨てて、私を助けなさい」

「ッ、ビックリさせんじゃねえよ屑女!!!」

「ぎぇッ!」

空いている蹴で顔面を思い切り蹴飛ばすと、絡み付いた手は容易く離れた。

何をされたか分からないような呆けた表情を見せたのも束の間、潰れた鼻を両手で押さえながら魔術師が吠える。
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:59:38.13 ID:vYhwAq/BO

「あ、あなた、自分が何をしたのか分かっているの!! 私はーー」

「うっせえんだよ豚が!!」

「あぎゃ!」

「お前のような屑女には這いつくばってる姿が似合ってる。ずっとそうしてなよ」

「わ、私がいなければ陣は起動しないのよ!? 西部が、自分達がどうなってもいいの!!?」

「煩い女だな。言っとくけど、お前に救ってもらおうなんてこれっぽっちも思っちゃいない」

「お前がどうなろうが、誰がどうなろうが知ったことじゃないんだよ」

魔術師の瞳が驚愕と絶望に見開かれる。

しかし、それでも尚も縋り付こうとする魔術師。道化師は躊躇いなく発砲、両脚を撃ち抜いた。

それと時同じくして、背後にあった銃撃の音がぴたりと止んだ。

残った兵士がやられたのか、残弾が尽きたのか。

ともかく予断を許さない状況に変わりはない。

道化師はその場に街灯を投げ出し再び走り出したかと思うと、梯子の手前で振り向いた。
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/20(火) 01:03:40.96 ID:j0JKTrIWO

「待って、助けーー」

「嫌だね。ボクはこの人を助けるだけだ」

「西部が滅ぼうとボクが死のうと、この人だけは絶対に死なせない」

(お前に助けられるくらいなら、盗賊に助けられた方がマシだ)

懇願する魔術師の声を遮り、道化師は続けた。

「ああそうだ。一つ言っておくよ」

「お前はお前が思ってるほど大した人間じゃないし、お前が消えても何も変わらない」

ニ体のオークの影が魔術師と重なった。

その瞬間、道化師は街灯内部にある拳大の火元素供給結晶に向かって引き金を引いた。

光を放っていた火元素供給結晶が砕けると同時に爆発が起こり岩盤は崩落。

塞がれた道の向こう側からは、溢れ出た炎によって焼かれる魔術師とオークの叫びが聞こえる。
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 01:07:22.44 ID:j0JKTrIWO

「いやぁ、助かったよ」

「彼女には、あの魔術師はボク等を守る為に戦って死んだって言っておく」

「勘違いするなよ? お前の名誉の為じゃない、彼女の心を傷つけない為だ」

「どんな奴でも、死んだら大抵は良い奴になれる」

「それがお前のような、鳴くだけで何の役にも立たない食えない豚でもな」

すっかり静かになった向こう側の魔術師に吐き捨て、背中から娼館主を下ろす。

まずは石蓋を開けなければならない。

錆びて朽ちているかに見えたが、そこまで強度は落ちておらず何の苦もなく登ることが出来た。

(あの化け物がいたら、このまま地下道に身を潜めるしかないな)

取っ手を掴み、音を立てぬよう用心してゆっくりと石蓋を開ける。
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 01:09:43.63 ID:j0JKTrIWO

(この広場は、演習場か?)

月は雲間に隠れており遠くまでは見えないが、辺りに何かがいる気配はない。

てっきりオークが徘徊しているかと思ったが、どうやら杞憂だったようだ。

石蓋を完全に開き、再度周囲を見渡す。

(いない。取り敢えず止血剤と包帯をーー)

と、身を乗り出そうとしたその時だった。

「久しぶりだね」

「そうだな」

「あっ、その腕輪。そっか、ちゃんと着けててくれてたんだね。ふふ、よかった……」
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 01:16:35.99 ID:j0JKTrIWO

「……………」

「ねえ、どうかしたの?」

「まさか生きてる間に会えるとは思わなかったから驚いてんだよ」

「お前と次に会うのは死んだあと、あの世かどっかだと思ってたからな」

「なに? あたしと会えて嬉しくない?」

「そりゃ嬉しいさ。二度と会えねえと思ってた女に会えたんだ、嬉しくないわけねえだろ」

「じゃあ、何でそんな顔してんのよ」

「言わなくても分かんだろ。お前と会えて最高に嬉しいから、最高に最悪な気分なんだよ」

「ならどうする? あたしを殺すの?」

「……ああ、お前は俺の手で殺す。お前の魂は俺が盗り返す」

雲間が晴れ、月明かりが照らし出したのは、亡き姉と盗賊の姿だった。
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/20(火) 01:18:28.65 ID:j0JKTrIWO
今日はここまで
レスありがとうございます嬉しいです。読んでる方ありがとうございます。
226 : ◆4RMqv2eks3Tg [sage]:2016/12/20(火) 01:31:28.52 ID:j0JKTrIWO
やっぱり長くなりそうです
最後まで読んでもらえるように頑張るのでよろしくお願いします
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/20(火) 08:25:21.25 ID:fqD7h/MyO
長いだけで中身ない
似たような展開の繰り返し
地の文が下手
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/20(火) 12:28:42.37 ID:oJWsxQj3O
>>226
がんばって!
>>227
さようなら
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 23:26:35.39 ID:IIiBXkp6O

>>>>>>>

今、私の目の前で起きている出来事は何と言うのでしょう。

身動きも出来ず、へたり込んだまま目を逸らすことも出来ない。

はっきりと見えているのに、しっかりと聞こえているのに、これを何と言っていいのか分からない。

これは戦闘だろうか?それとも抵抗だろうか?

戦闘とは戦うこと。

『敵』に対して攻撃したり防御することだ。

だとしたら『これ』は戦闘とは言えない。適当な表現ではない。
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 23:28:02.28 ID:IIiBXkp6O

「隊長、元素供給弾が通りません」

ならば抵抗だろうか。

抵抗とは外部からの力や権力に対して、歯向かい逆らうこと。

確かに歯向かっている。思い切り敵対している。けれど、それだけだ。

力の差は素人の私が見ても一目瞭然。残酷なまでに違いすぎる。

「隊長、このままではーー」

「分かってる。俺が目を撃ち抜く。皆は注意を逸らしてくれ」
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 23:30:52.88 ID:IIiBXkp6O

それでも、あの青年は諦めていない。

あの青年。隊長は、勝つため生きるために懸命に指示を出している。

彼とは此処に来るまで色々話した。

店主さんのことは対異形種特別部隊長を通して知っていたらしい。

現在は西部司令官と呼ばれているが、我々西部の人間には特部隊長の方がしっくりくる。

特部隊長と言えば旧西部軍の英雄。

人の身でありながら数多くの異形種を葬ったのは有名で、その数は完全種の部隊より多いとか。

幾分尾鰭が付いているだろうが、概ねは事実だろう。

幾度となく前線に立ちながら今尚も五体満足で生きていることがその証明だ。

以前負傷した兵士の治療をしていた頃は、看護婦達に数々の武勇伝や逸話を聞かされたものだ。

部下思いな人物としても有名であり、実際に負傷した部下の見舞いに訪れこともある。
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 23:33:26.68 ID:IIiBXkp6O

偶然にも私が彼の部下を担当していたので、彼とは何度か会話したことがある。

彼が「部下をお願いします」と、私に頭を下げた姿は今も鮮明に憶えている。

男が女に…いや、軍人が頭を下げるところを見たのはあれが初めてだった気がする。

私も反射的に頭を下げたので彼を困惑させてしまったことも、今では遠い思い出だ。

「振り下ろしが来るぞ!散開しろッ!!」

青年の域を出ない若き隊長。

特部隊長直属の部下であり現在は東西軍部所属の兵士。階級は少尉。
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 23:34:42.49 ID:IIiBXkp6O

『自分が隊長になるなんて思ってもいませんでした』

『何故ですか? さっきの射撃なんて目で追えないくらい早くて凄かったですよ?』

『あの人には遠く及びませんよ。少尉ならもっと…』

『?』

『あ、いえ。何でもないです』

『俺には優秀な隊長がいたので、ずっと隊長の部下だと思っていたんです』

そう。ついさっきまで、こんな会話をしていた。

周りを固める部下の方々は皆一様に彼を見ながら微笑んで、彼は照れたように頬を掻いた。

自分より年配の部下にからかわれる彼の姿は年相応で、私もいつの間にか笑っていた。

隣に居た店主さんは彼を見て『息子』を思い出したのか、ほんの少しだけ笑っていた気がする。
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 23:38:17.89 ID:IIiBXkp6O

けれど、楽しい時間は長く続かない。

断続的に続いていた地鳴りが次第に激しさを増したかと思うと、何かが降ってきた。

凄まじい地響きと破壊音。激しい揺れ。

気付いた時には倒れていて、いつの間にやら辺りは暗くなっていた。

暗闇に目が慣れないまま立ち上がって空を見る。月が翳っているのかと思ったが違った。

見上げる程に大きな灰色の怪物が月明かりを遮っていたのだ。

そうでした。それから『抵抗』が始まったのです。

それからは?

その後はどうなったんでしょう?

その間の私は何をしていて、傍にいたはずの彼は、店主さんは何処へ行ったのでしょう?
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 23:43:13.67 ID:IIiBXkp6O

『離れろッ!!!』

そうでした。彼は私を突き飛ばしたのでした。

再び空から何かが降ってきて、とても避け切れそうにないから、私を突き飛ばしたんだと思います。

何とか身を起すと、彼の姿は降ってきた何かに隠れて見えませんでした。

ぼやける視界の中で必死になって彼の姿を探しましたが、やはり何かに隠れて見えません。

少しずつ視界が戻っていき、『それ』が何なのかやっと理解出来ました。

彼の身体を隠していたのは、空から降ってきた何かの正体は、灰色の怪物の大きな手。

すぐに手を掴んで持ち上げようとしたけれど、重くて重くて持ち上がらない。

小指側から呻き声が聞こえたので目を向けると、うつ伏せに倒れる彼の姿がありました。

私は大急ぎで怪物の手の甲を乗り越え、彼を小指の下から出して抱き寄せました。

膝から下がなくなっていたので何とか治そうとしましたが、何故か医療術が使えません。

紫色の雷がばちばちと鳴るだけで、彼の身体が癒える気配はありませんでした。
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 23:45:21.09 ID:IIiBXkp6O

『おい、こっちだ化け物。獲物はこっちだ』

『ほら来いよ。掛かって来い。そうだ、来い。脳味噌ぶちまけてやるから覚悟しろデカブツ』

隊長と部下の方々が怪物を引き寄せている間に、私は彼を引き摺って物陰へ。

何とか身を隠すことが出来たので一安心していると、私の目を見ながら彼が言いました。

『無事だったか』

息も絶え絶えで痛みも酷いでしょうに、しぶとく笑いながら言ったのです。

私には返答する余裕など一切なくて、急いで服を破いて止血しようとしました。

けれど損傷が酷すぎて血は止まらず、切断面からは血が流れ続けていました。

何度も何度も魔力を練ろうとしたけれど、何かが邪魔して魔術を使えません。

紫色の蛇のような雷が彼の身体を這い回っていたので払い落とそうとしましたが駄目でした。

医療術も使えない私には、彼の手を握るくらいしか出来ません。

彼は眠たそうな顔で空いた手を伸ばすと、私の頬にそっと触れながら

『自棄酒はするなよ?』

と言って微笑みながら、眠るように目を閉じました。
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 23:49:57.98 ID:IIiBXkp6O

「あ、あ、ああ…」

そうだ。彼は此処に、私の傍にいる。

私の手は彼の手を握っている。まだ温かい。そうだ、私はずっと傍にいたんだ。

傍に居ただけで何もしなかった。治癒術師なのに、医師なのに何も出来なかった。

「店主さん起きて、起きて下さい」

(医師なら分かるでしょう。もう彼はーー)

「うるさいッ!! 店主さん!しっかりして下さい!!」

もう止めましょう。

彼は私を庇って両脚を失って、それはもう酷い出血で、止血しても血は止まらなくて。

それから。それから。それから目を閉じた後……

『良かった。お前を守れて良かった』

『そんな、駄目です!! しっかり!しっかりして下さい!!』

『悔いはないが、欲を言えば盗賊と巫女の顔も見たかったがな……』

「嫌っ、嫌ッ、嫌ぁああああああああ!!!」

そう言って、そう言って彼はどうなった?

「違う!違う違う違う!! 彼はまだーー」

違わない、分かっている。

彼はもう動かない、もう喋らない。

だって彼は、私の傍らで何の疑いようもなく死んでいるのですから。
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 23:58:14.07 ID:IIiBXkp6O

「あ、あ、ああ…」

そうだ。彼は此処に、私の傍にいる。

私の手は彼の手を握っている。まだ温かい。そうだ、私はずっと傍にいたんだ。

傍に居ただけで何もしなかった。治癒術師なのに、医師なのに何も出来なかった。

「店主さん起きて、起きて下さい」

(医師なら分かるでしょう。もう彼はーー)

「うるさいッ!! 店主さん!しっかりして下さい!!」

もう止めましょう。

彼は私を庇って両脚を失って、それはもう酷い出血で、止血しても血は止まらなくて。

それから。それから。それから目を閉じた後……

『良かった。お前を守れて良かった』

『そんな、駄目です!! しっかり!しっかりして下さい!!』

『悔いはない。欲を言えば、盗賊と巫女の顔も見たかったがな……』

「嫌っ、嫌ッ、嫌ぁああああああああ!!!」

そう言って、そう言って動かなくなった彼はどうなった?

「違う!違う違う違う!! 彼はまだーー」

違わない、もう分かっているでしょう。

彼はもう動かない。彼はもう喋らない。

だって彼は、私の傍らで何の疑いようもなく死んでいるのですから。
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/21(水) 00:00:02.87 ID:fls5fJtdO
一旦ここまで、また後で書くかもしれません
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/21(水) 00:19:50.46 ID:5ZJkqcSoo

楽しみにしてる
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/21(水) 02:23:26.97 ID:3nLW6oL9O

「はぁっ、はぁっ」

気付けば走り出していた。

生きたいとか死になくないとかではなくて、単純に目の前の怪物が許せなかったから。

そう思っているのは、きっと私だけじゃない。

意味も理由もなく、ただただ理不尽に、次々と『誰かの』命が奪われていく。

(違う。『誰か』じゃなかった)

助けられたことで、それが自分とは関係ない出来事だと思っていたけれど違った。

奪われたのは、遠い地に住む見ず知らずの誰かではない。

触れ合える程に近い場所にいる、私の大事な人だった。
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/21(水) 02:24:51.27 ID:3nLW6oL9O

(世界は今、これで満たされている)

あの怪物が憎い。

憎くて憎くて仕方がない。

もし強い力があったなら殺せるのに、私にそんな力はない。

だから、こうして怪物の脚を引っ掻いたり噛み付いたりすることしか出来ない。

死んでもいい。もう死んでも構わないから、この怪物に痛みを与えたい。

死にたくなる程の痛みを、生を投げ出したくなるような苦しみを与えてやりたい。

けれど無駄だった。

蹴っても噛んでも、引っ掻いても殴っても反応はない。

私の存在に気付いてすらいない。
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/21(水) 02:26:17.20 ID:3nLW6oL9O

悔しい、情けない。

やっと私の存在に気付いた怪物に無様に摘まみ上げられながら、ふと思った。

(あの人は何故、私を助けてくれたのだろう?)

(自分の身を賭してまで私を助けてくれたのは何故だろう)

下から銃声が聞こえる。

隊長や部下の方々、もういいです。あなた達だけでも今の内に逃げて下さい。

嗚呼、何てことだ。人が、人が減っている。

さっきまで二十名はいたのに、今では十名いるかいないかまで減っている。

いい人達だったのに、優しい人達だったのに、何でこうも簡単に死んでしまうのだろう。
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/21(水) 02:28:59.76 ID:3nLW6oL9O

生きて欲しい。死んで欲しくない。

(あの人もこんな気持ちだったのでしょうか?)

(あの人が死んだと知ったら、盗賊君と巫女ちゃんは悲しむでしょうね)

(だったら、私も死んで悲しまれたい。きっと、その方がいい)

(もう嫌だ。誰かの死を見るのは沢山だ。まったく、医師失格…)

(いえ、違う。今の私は医療術も使えない役立たず)

(なら死ねばいい。死んでしまえば、もう二度と死を見なくてすむ)

「雌は 美味い 知ってる」

「…………」

何もかも、この怪物の所為だ。

要らぬ悲しみを、要らぬ痛みを、要らぬ苦しみを、この怪物が振り撒いている。

この怪物に見つかったら最後、逃れる術はなく死んでしまう。
245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/21(水) 02:31:39.51 ID:3nLW6oL9O

(まるで病のような存在だ)

(この病に特効薬はない。今のところ治療法も見つかっていない。不治の病だ……)

(そう考えると、人類は異形種という病に冒された患者という見方も出来る)

異形種という病。

この題名で論文や本でも書けば売れるだろう。嫉妬する同僚の顔が目に浮かぶ。

けれど、彼等も死んでしまった。

あの皮肉屋も、野心家も、学歴重視も、もうこの世界に存在しない。

男尊女卑の染み付いた彼等が大嫌いだったけれど、何故か寂しい気持ちになる。
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/21(水) 02:35:11.73 ID:3nLW6oL9O

(何故でしょうね。大嫌いなはずのに)

答えは簡単、死んでしまったからだ。居なくなってしまったからだ。

そうですね。

死というのは、喪失というのは、それだけ重いものです。

どれだけ嫌いでも、憎んでいたとしても、死者を憎めるでしょうか?

それは程度にもよるでしょうが、あまりいないでしょう。

死んで喜ばれるような人間なんてそうはいない。そんな人間は極々稀。

『良かった。お前を守れて良かった』

あの人は、死んで悲しまれる人間。だった。

「この雌 喰う 邪魔 するな」

この怪物に殺されるまでは、死んで悲しまれるような人間だった。

事実。私はこんなにも悲しくて、あの人を殺したこいつがこんなにも憎い。

こいつが死んだら、こいつを殺せたら、どんなに嬉しいだろうか。

それが一時の喜びで、虚しさしか残らないとしても、あの人の仇を取りたい。
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/21(水) 02:43:36.67 ID:3nLW6oL9O

でも、私には無理。

「頭は 美味しい」

だから『何処かの誰か』にお願いします。

この怪物を殺して下さい。この怪物を殺して下さい。この怪物を殺して下さい。

脚を奪って、動けなくして、痛め付けて痛め付けて殺して下さい。

もし可能であれば、これまで奪った命の分だけ殺して下さい。

医師としてではなく、個人として願います。

「どうか、この怪物を殺して下さい」

「願われずとも殺す。王の命だ」

月を背負って現れた黒衣の何者かが、怪物の野太い腕を切り落とした。

右手には鋼とも鉄とも違う異質の輝きを放つ剣があった。

元素供給弾をも通さなかった分厚い皮膚と骨肉を、剣で切り裂いたというのか。

「暴れるな。暴れれば死ぬぞ」

黒衣をまとった女性が言った。

彼女は手の平から零れ落ちた私を抱き止めると、地上にふわりと降り立った。
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/21(水) 03:11:24.67 ID:3nLW6oL9O

「黒い衣、死神ーー」

「死んではいるが、神ではない」

「えっ?」

「我等は神に憎まれた一族、神に捨てられた一族、とうの昔に滅びた種族」

怪物の叫び声より通る、凛とした声。

彼女は呆然とする私を下ろすと全身覆う黒衣のローブを脱ぎ捨てて、その姿を露わにした。

彼女だけではない。

周囲には彼女と同じような黒衣をまとった彼等彼女等が立っていた。

そして彼女同様に全員が黒衣を脱ぎ捨てて、その姿を月光の下に晒した。

月明かりを浴びて一様に輝くそれは息を呑むほど美しく、不思議と怖ろしさは感じなかった。

そして、ふと思った。

(歴史は嘘吐きだ)


「我等は赤髪の王の命により、貴様等を助けに来た」


(やはり、赤髪は悪魔なんかじゃない)

(皆、盗賊君…王と同じ目をしている。暖かくて優しい瞳を……)
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/21(水) 03:12:23.69 ID:3nLW6oL9O
ここまで寝ます
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/21(水) 10:41:05.48 ID:TBch0YyDO

あと2レスってところで寝落ちしちまったぜww
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/25(日) 00:12:18.68 ID:EyjvUQNPO

>>>>>>

きらきら輝く満ちた月。

眩いばかりの月光が二人の姿を映し出す。そう、これは一夜限りの儚い夢。

予期せぬ再会に戸惑いながらも、二人はゆっくりと距離を縮めていく。

しかし、あと一歩のところで立ち止まってしまう。二人ともに、そこから動けない。

見つめ合う二人。

頬を朱に染めてはにかんだ笑顔の彼女は、そそくさと視線を外して照れた様子で俯いた。

ややあって、彼女は俯いたまま、足りない距離を埋めるようにおそるおそる手を差し延べた。

彼は優しく微笑んでそれに応じると、二人は固く手を握ったまま、くるくるくるくる踊り出す。

しんしんとふる綿雪が、再会を祝福する天使のようにふわりふわりと舞っている。

二人に言葉は必要なかった。何故なら、繋いだ手の温もりが全てを教えてくれるから。
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/25(日) 00:15:40.28 ID:EyjvUQNPO

「あんたを救う」

「安心して。あたしが、この汚れきった世界から連れ出してあげるから」

 なんて、感動的な雰囲気にはなりそうにねえな。やっぱり現実は甘くねえな。

やっと辿り着いたと思ったら陣はぶっ壊されてるし。惚れた女はバケモンみてえにされてるし。

口は裂けるわ腕は伸びるわ。身体からぐちゃぐちゃした黒い泥みてえなの出るわ。

最初からその姿で出て来てくれよ。

どんな姿になっても君は君だ。くらいの気持ちでいたけどさ、限度ってもんがあんだろうが。

「ねえ、こんな世界捨てて一緒になろう?」

「魅力的なお誘いだけど無理だ」

「捨てるのが惜しいくらいに、大事なもんが増えちまったからな」
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/25(日) 00:17:55.98 ID:EyjvUQNPO

「あたしよりも?」

「うるせえな。それ以上そいつの声で話すな」

「大体、そんな面倒臭えことを言うような女じゃねえんだよ」

「あんたが勝手に美化してるだけじゃないの?」

「まあ、確かに。それもあるかもしれねえな」

 あ〜、めんどくせ。

あのどろどろした黒塊。あれが鞭みてえに前後上下左右暴れ回ってっから近付けねえ。

斬っても撃っても刺しても意味ねえし、やっぱタマシイ引き摺り出すしかねえのかな。
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/25(日) 00:22:41.58 ID:EyjvUQNPO

(いい月夜だってのに、最悪だな……)

 なあ、隊長。あんたもこんな気分だったのか?

降霊術師とやり合った時、あんたは惚れた女を自分の手で殺した。

『他ならぬ彼女自身の願いだ。だから、俺の手で終わらせた。悔いはない』とか言ってたよな。

辛かっただろ。腹立っただろ。すっげえ分かるぜ。俺もそんな感じだから。

好き勝手弄られて、バケモンみてえな姿にされて、魂まで囚われちまってる。

身体は偽物だけど、魂は本物だ。

だから、この気色悪ぃバケモンを殺すってことは、あいつを殺すってことなんだ。

(ったく、情けねえよな)

(やろうと思えば今にもやれんのに何やってんだ。俺は何をーー)

「いつまで化け物に見惚れてんだよ!!さっさと姉さん助けろ屑男!!!」
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/25(日) 00:29:18.47 ID:EyjvUQNPO

「お前ーー」

「今さら何を躊躇ってんだよ!!人でなしのクセに気取ってんなよ屑野郎!!」

「……ああ、そうだな」

 でも撃つことねえだろ。

それ元素供給弾じゃねえの? 死にはしねえけど結構痛えんだからやめろよな。

つーかガキみてえに泣いてんじゃねえよ。玉潰しが趣味な癖に女みてえに泣くな。

『ッ、この屑野郎!』

『姉さんを返せ!! お前なんかに関わったから姉さんは死んだんだ!!』

『お前さえいなければ!姉さんは死ななかった!! お前が死ねば良かったんだ!!!』

『何でお前が生きてる!!? 何で姉さんが死んだ!!何でだよッ!!』

『墓参りにも来ないで!何でガキの相手なんかしてんだよ!! 答えろよ屑野郎ッ!!!』

 そういや、あの時もめちゃくちゃ泣いてたな。泣き虫かお前は。

良く見りゃあ泣いた顔は意外と似てんだな。ずっと泣いてりゃいいのに。

でも、女泣かせたら店主になに言われるか分かんねえな。頑張ろ。
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/25(日) 00:32:15.67 ID:EyjvUQNPO

「化け物化け物って、お姉ちゃん傷付くーー」

「縛れ朽ち縄」

「はぎゃ!!?」

「待たせて悪かったな。そろそろ返して貰うぜ」

 あれこれ考えてもやることに変わりはねえし、死んだ奴は生き返らない。

目の前にいんのはあいつじゃねえ。死に際、俺にこの腕輪を渡した女じゃねえ。

俺に惚れた女は死んだ。

俺が惚れた女は死んだ。

「……あんたは、あたしが救う」

「あんたをそんな目に合わせた世界から、あんたをそんな風にさせた運命から、あたしが救うんだ」
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/25(日) 00:36:49.31 ID:EyjvUQNPO

「ありがとな。でも、俺はもう救われてる」

それがお前自身の言葉なのかどうか分かんねえけどさ、もういいんだ。

お前は、確かに俺を救ってくれたから。

お前がいなけりゃ、奪われる苦しみも、失う痛みも知らないままだった。

今の俺は、お前から始まったんだ。お前がいたから『こんな風に』なれたんだ。

だから、もういい。もう、そんな顔しなくていいんだ。

何ものにも囚われることはない。利用されることもない。お前の魂は、もう自由なんだ。

「……盗賊、愛してる」

「……ああ、分かってる。俺もだ」

「それ、ほんと?」

「こんな時に嘘吐かねえだろ。普通」

「ふふっ、うれしい。ねえ、盗賊?」

「?」

「あたしを、あんたの物にして欲しい。あんたが死ぬまで、傍にいさせて……」
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/25(日) 00:38:54.05 ID:EyjvUQNPO
短いけど今日はここまで
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/25(日) 01:51:02.32 ID:9lbtcdLDO

メ…ハッピーホリデー!
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/25(日) 21:56:23.49 ID:SRNZXfGTO

>>>>>>

暗いな、何も見えん。

いや、何も見えないはずがない。

あんなにも大きく見えていたんだ。雲間に隠れたとしても、完全な闇など訪れようもない。

まさか、あの灰色が月すらも覆い尽くしてしまったというのか。

西部は、世界はどうなった。あの声の通り、滅びてしまったのか。

だとしたら、此処は何処だ。

何だ、遠くから声が聞こえる。俺は生きているのか。其処にいるのは誰だ。
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/25(日) 21:57:23.58 ID:SRNZXfGTO

『生きて下さい』


この声……お前、まだいたのか。

俺のことはもういい。早く逃げろ。俺は俺のすべきことをした。

これ以上は何も望まない、悔いもない。だから、もう行け。


『嫌です』

『あなたを死なせてしまったら、生き延びた意味がない』

『それに、あなたを亡くした悲しみを背負って生きていけるほど、私は強くありません』
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/25(日) 21:58:43.48 ID:SRNZXfGTO

俺は救えたはずの命を見捨てた。

人を見殺しにするような奴だ。救う価値などない。

『例えそうだとしても、それがあなたを見捨てる理由にはならないでしょう』

『見捨てた人々があなたを恨み、死ぬべきだと叫んでいたとしても、あなたは私の命の恩人です』

『いえ、違いますね……』

『命の恩人だとか、そんな理由付けは必要ありません』

『私が、あなたに生きて欲しいんです』

『医者としてではなく、一人の人間として、あなたに生きて欲しいんです』
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/25(日) 22:29:12.20 ID:SRNZXfGTO

 生きた先に何がある。

医師というのは、生きる意志のない者も無理やりに生かすのか。

お前を助けたのは借りを返す為なんだ。これ以上、借りを増やさないでくれ。

『……さっき、後悔はないと言いましたよね』

 ああ、言った。

『じゃあ、盗賊君と巫女ちゃんは、あなたの息子と娘はどうするんですか?』

『子供達はあなたを思っている。あなたも子供達を思っている』

『こんな言い方は狡いでしょうけど、子供を置いて逝ってしまうなんて駄目ですよ』

『あなたにとって、希望とは何ですか?』


希望。

盗賊、巫女。

あの二人は、俺に何かを与えてくれた。とても温かい何かを。

出来ることなら、見続けていたかった。どう生きるのか見ていたかった。


『あなたの希望は生きています』

『それがそのまま、あなたの生きる希望になるんです』

『さあ、起きて下さい。きっと、あなたを待っていますから』
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/25(日) 22:32:22.07 ID:SRNZXfGTO

『あなたにとって、希望とは何ですか?』


希望。

盗賊、巫女。

あの二人は、俺に何かを与えてくれた。とても温かい何かを。

出来ることなら、見続けていたかった。どう生きるのか見ていたかった。


『あなたの希望は生きています』

『それがそのまま、あなたの生きる希望になるんです』

『さあ、起きて下さい。きっと、あなたを待っていますから』
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/25(日) 22:42:20.66 ID:SRNZXfGTO
>>264はミス。また後で書くと思います。
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/26(月) 00:06:22.92 ID:dYd0mBr1O
眠くて駄目です。また明日
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/26(月) 02:30:43.66 ID:MxZi3YLDO
どこがミスだかわからない…乙
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:17:33.22 ID:wTh2qvntO

店主「(此処は、医療所…?)」

黒衣「……………」

店主「(赤髪、三人はいるな。敵意は感じられない。見張りか? だが何故…)」

黒衣「起きたか」

店主「……お前は」

黒衣「見ての通り赤髪だ」

黒衣「盗賊から北部赤髪部隊については聞いているな。我々はその部隊に所属していた者だ」

店主「……北部。巫女が所属していた部隊だな。巫女を残して死んだと聞いたが」

黒衣「ああ、確かに死んだ。我々も赤髪一族も死に絶えた。が、生きている」

269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:19:12.90 ID:wTh2qvntO

>>>>>>>

店主「(此処は、医療所…?)」

黒衣「……………」

店主「(赤髪、三人はいるな。敵意は感じられない。見張りか? だが何故…)」

黒衣「ようやく目が覚めたか」

店主「……お前は?」

黒衣「見ての通り赤髪だ」

黒衣「盗賊から北部赤髪部隊については聞いているな。我々はその部隊に所属していた者だ」

店主「……北部。巫女が所属していた部隊だな。巫女を残して死んだと聞いたが…」

黒衣「ああ、確かに死んだ。我々も赤髪一族も死に絶えた。が、生きている」
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:19:46.34 ID:wTh2qvntO

店主「意味が分からん」

黒衣「赤髪一族の魂は盗賊と共にあるということだ」

黒衣「魔神族で言うところの種族王。我々は赤髪の王の眷族ということになる」

店主「……益々分からん。仲間という認識でいいのか」

黒衣「仲間、か。どうなのだろうな」

黒衣「我々以外の一族の者達は『赤髪の王』に従っているようだが……」

271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:20:26.37 ID:wTh2qvntO

店主「お前達は違うと?」

黒衣「忠誠を誓ったのは将軍だけだ。赤髪の王に従うつもりはない」

黒衣「我々は奴に借りがある。協力しているのは、北部での借りを返す為だ」

店主「忠誠ではなく協力か」

黒衣「奴は、それでもいいと言った。気が向いたらでいいから力を貸してくれ。とな」

黒衣「しかし、死んでから借りを返すことになるとはな……まったく、我が儘な王だ」
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:21:28.02 ID:wTh2qvntO

店主「不満か?」

黒衣「不満だが、悪くない」

店主「……そうか。盗賊が、王か」

黒衣「知っていたのだろう?」

店主「ああ。だが、名乗っているだけだと思っていた。あいつ自身もそう言っていたからな」

店主「王は一人。民も一人。領地も税収入もありはないと愚痴を零していた」
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:21:59.56 ID:wTh2qvntO

黒衣「………」

店主「巫女には、会ったのか」

黒衣「……いいや、会っていない。会ったところで混乱させてしまうだけだ」

黒衣「会っていないと言うより、我々には巫女に合わせる顔がない」

黒衣「我々はあの子を残して去った。盗賊に押し付けてな。捨てたと言っても違いはない」

店主「それが借りか」

黒衣「それもあるが他にもある。大きな借りだ。一度二度死んでも返せぬ程の恩がな」
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:22:38.74 ID:wTh2qvntO

店主「……恩。そうだ、治癒師は何処にいる?」

店主「目を覚ます直前、俺は確かにあいつの声を聞いた。隊の奴等はどうなった、道化師と娼館主はーー」

黒衣「安心しろ、無事だ。治癒師と隊長以下数名は我々と共に旧西部軍基地へ向かった」

黒衣「彼等は生存者の避難誘導と負傷者の治療。他の同胞は残党の殲滅に当たっている」

黒衣「道化師と娼館主は、盗賊と共に旧西部軍基地にいる。もう、問題はない」

店主「避難誘導…転移はしないのか」

黒衣「転移しないのではなく転移出来ない。盗賊が到着した時、陣は既に破壊されていたからな」
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:23:33.24 ID:wTh2qvntO

店主「……都は、どうなった」

黒衣「滅んだと言っていいだろうな。民の過半数が殺され、都の大部分は破壊された」

黒衣「世界全土が被害を受けているようだが、最も甚大な被害を受けたのは西部だ」

黒衣「この災厄は都に限ったことではない。街や村も同様の被害を受けている」

店主「……そうか。西部を捨てて東部へ移り住んだ富裕層の奴等は正解だったようだな」

黒衣「いいや、そうとも言えない」

黒衣「黒鷹によれば、東部地下施設の一つにオークが現れたらしい」

黒衣「安全と思われた地下が棺桶と化している。おそらく、地上と差して変わらぬ有り様だろう」
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:24:09.84 ID:wTh2qvntO

店主「どこもかしこも、か」

黒衣「ああ。今現在、何事もなく無事でいられる場所など世界の何処にもない。隠れる場所もな」

店主「あの声の主が関係しているんだろう。あれも異形種か?」

黒衣「そうとも言えるが、そうではない。ただ、人の敵。異形の存在であることに違いはない」

店主「……あの声は、勇者の名を口にしていた。盗賊も、そいつと戦うのか」

黒衣「そうなるだろうな。息子が心配か?」

店主「敵は世界を相手取るような奴だ。口先だけではなく、宣言通りに滅ぼしている」

店主「そんな奴に戦いを挑むとなれば、盗賊と言えど無傷では済まないだろう」

店主「俺のような人間は、灰色の化け物を相手にしただけでこの様だからな……」
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:25:40.56 ID:wTh2qvntO

黒衣「息子。ということは否定しないのだな」

店主「……ああ、あいつは良く出来た息子だ。俺にとっては、だがな」

店主「親殺し子殺しが当たり前の世の中で、命懸けで親を助けようとする子供などそうはいない」

店主「家庭を持ったことはないから分からんが、そこらの家族よりは家族らしいと思っている」

黒衣「(意外だな。盗賊の中の店主は、本心を人前で語るような人物ではないはずだ)」

黒衣「(この男も我々や巫女同様に、盗賊と関わって変わったのだろうか……)」

黒衣「(魔王は、能力や生命を奪い我が物にする。言わば、盗賊の歩んできた道そのもの……)」

黒衣「(奪うことでしか生きられなかった男が、他者に何かを与えたか。つくづく妙な奴だ)」
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:28:39.24 ID:wTh2qvntO

店主「どうした」

黒衣「……いいや、何でもない。それより脚はどうだ、痛むか」

店主「ないものをどうだと言われても答えようがないな。脚の感覚が残っているのが妙な感じだ」

店主「痛みはないが、膝から下が宙に浮いているような奇妙な浮遊感があるだけだ」

黒衣「…………」

店主「俺は一度、死を受け入れた。治癒師の呼び声を無視していれば死んでいただろう」

黒衣「死ぬつもりだったのなら、何故声に応じた。生への未練、執着か?」

店主「未練、未練か…」

店主「そうかもしれんな。あっさり死ぬつもりが、まだ見ていたいと思ってしまった」
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:30:02.71 ID:wTh2qvntO

黒衣「見ていたい? 何をだ?」

店主「この混沌とした世で、盗賊が何を成すのか。あの二人が、どう生きてゆくのか」

店主「赤髪というだけで忌み嫌われ、奪うことでしか生きられなかった男が、どう変わるのか」

店主「その先、未来をこの眼で見てみたいと思った……」

黒衣「……今の世を生きる者にとっては、生は苦痛にしかならないと思うがな」

店主「それは死者としての意見か? それとも、赤髪としての言葉か?」

黒衣「どちらもだ。人間というだけで殺され、人々は理不尽に嘆いている」

黒衣「今は人間そのものが理不尽に晒されている。嘗て、赤髪がそうであったようにな」
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:31:35.64 ID:wTh2qvntO

黒衣「だからだろうな……」

黒衣「私は『人間』が何人殺されようと同情する気になどなれない」

黒衣「同情どころか、我々赤髪一族が受けた苦痛を思い知れとさえ思う」

黒衣「『狩られる側』の痛みと悲しみを、絶え間なく襲い来る恐怖を存分にな……」

店主「疑問だな。そこまで憎んでいながら、何故盗賊に手を貸した?」

黒衣「……奴に訊いたんだ」

店主「訊いた?」

黒衣「ああ。人間に救う価値があるのか。とな」

黒衣「奴は、救う価値などないと言った。人間として生きるなら、人間に救う価値などないと…」
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:33:37.24 ID:wTh2qvntO

店主「…………」

黒衣「……一族の掲げる赤髪の誇りとは、赤髪が抱いている劣等感の表れでもある」

黒衣「人間を見下し、自分達は別の何かだと思うことで保っていた部分もあるからな」

黒衣「だが、それを引き剥がされた時に残るのは何だ。赤髪から赤髪を剥がした時、何が残る?」

黒衣「……奴は、こう言った」

盗賊『全部引っ剥がしたら、残るのは人間だ』

盗賊『黒い肌、白い肌、赤い髪、金色の髪、青い瞳、茶の瞳…』

盗賊『人間は人間を差別して、人間を軽蔑する。人間が人間を殺して、人間が人間を救ってんだ』

盗賊『赤髪は人間とは違う、赤髪は人間より優れてる。本当にそう思ってんならさ…』

盗賊『不毛な争いを繰り返す愚かな人間共は、誇り高き赤髪一族が救ってやらねーと駄目だろ』

盗賊『神に愛されぬ赤髪が、神の愛する人間共を救うんだ。これ以上の皮肉はねえ』

盗賊『神にさえ救えぬ人間共を救って、赤髪狩りが間違いだってことを教えてやろうじゃねえか』
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:39:18.37 ID:wTh2qvntO

盗賊『誇り高き赤髪一族』

盗賊『それが嘘偽りではないことを証明し、我々が何たるかを世に示せ』

黒衣「……とまあ滅茶苦茶だが、皆はこの言葉にまんまと乗せられ焚き付けられたわけだ」

店主「お前もその一人か?」

黒衣「ああ、そうだ」

黒衣「盗賊が秘めていた一族に対しての想いは本物だった」

黒衣「我ながら単純だとは思うが、赤髪であるなら、やらないわけにはいかない」

店主「…………」

黒衣「……我々も、どちらかを選べた」

店主「?」

黒衣「あのまま眠り続けるか、再び立ち上がり赤髪一族として戦うか……」

黒衣「我々は戦うことを選んだ。貴様も『そう』なのだろう」
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/06(金) 03:43:25.24 ID:wTh2qvntO

店主「ああ、そうだな」

店主「俺も生きることを選択した。この先に何があろうと『これ』を抱えていかなければならない」

黒衣「……貴様を父と言った盗賊の気持ちが、少しだけ理解出来た気がする」

黒衣「あの子…巫女が慕う理由も、何とはなくではあるが分かった」

店主「俺には分からんがな」

黒衣「フッ…そうか、それならそれでいい」

店主「……ところで、盗賊は何をしている? 理由は分からんが、お前には分かるのだろう?」

黒衣「奴なら、今しがた妻を迎えた」

店主「妻、妻だと?」

黒衣「貴様もよく知る人物だ。生涯でたった一人、盗賊が愛した女」

店主「彼女は死んだ。まさか、赤髪一族のように甦ったのか?」

黒衣「そんなところだ。一口に蘇りと言っても我々とは経緯が違うが…」

黒衣「それに、婚礼と言っても一般的なものとは掛け離れたもの。魂と魂の契りだ」
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/01/06(金) 03:44:22.84 ID:wTh2qvntO
ここまで
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/06(金) 11:30:27.96 ID:5x2lc8wro
286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/07(土) 00:33:04.24 ID:pe5W0ZBDO
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 03:35:19.53 ID:dAm0odXiO

>>>>>>

盗賊「……………」

道化師「……何してんだよ」

盗賊「見りゃあ分かんだろ、突っ立ってるだけだ。何もしてねえよ」

盗賊「治癒師はもう来たんだろ? 娼館主の治療は終わったのか?」

道化師「まだ気を失ってるけど、命に別状はないって。刺された腕も治るみたいだ」

盗賊「そうか、そりゃ良かった。他の連中はどうだ?生きる気あるか?」

道化師「ボクが見た限り、生きる気があるようには見えないな。大半が親や子を失ったりしてる」

道化師「人も都も、化け物の所為で酷い有り様だ。希望を持てないのも頷けるよ」
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 03:36:39.31 ID:dAm0odXiO

盗賊「(希望、か……)」

道化師「……あのさ」

盗賊「あ、何だよ?」

道化師「……その、あの時はゴメン」

盗賊「はあ?」

道化師「ッ、だから!あの時は何も知らないクセに好き勝手に言ったから素直に謝ってやってるんだよ!!」

道化師「姉さんのこと忘れてガキと家族ゴッコしてるとか!お前が死ねば良かったとか言っただろ!!」

盗賊「……あぁ、そういやそんなこと言ってたな。忘れてた」

道化師「(何だよそれ、せっかく謝ってやったのに……)」
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 03:37:12.40 ID:dAm0odXiO

盗賊「…………」

道化師「…………」

盗賊「……何だよ、もう用はねえんだろ。さっさとどっか行け」

道化師「嫌だね。ボクが何処にいようとボクの勝手だろ」

盗賊「あのなぁ、俺は感傷に浸りてえんだよ。さっさと消えろ、邪魔なんだよ」

道化師「姉さんはボクの姉さんだ。ボクにだって感傷に浸る権利はある」

盗賊「うわぁ〜、お前って本当にめんどくせえ女だな。姉とはえらい違いだ」

盗賊「つーか、めんどくせえ上に玉潰しが趣味とか最悪だな……」
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 03:38:22.83 ID:dAm0odXiO

道化師「うるさいな」

道化師「大体、あれは趣味なんかじゃない。脆い部分を狙ってるだけだ」

盗賊「嘘吐け。玉潰し連続殺人の被害者は、店主を除けばお前の姉さんを買った男だけだ」

盗賊「姉を汚されたと思ったのか何なのか知らねえが、奴等が憎かったんだろ?」

盗賊「それとも、男そのものが憎いのか? まっ、今更どっちでもいいけどな」

道化師「ッ、お前は嫌じゃなかったのかよ。姉さんが他の男に抱かれてたんだぞ」

盗賊「あいつは綺麗だった。嫌だとか汚えだとか思ったことは一度もねえな」

盗賊「それとも何か? お前は姉さんが汚えとでも思ってんのか?」

道化師「違う!!姉さんは綺麗だったんだ。汚いんじゃない、男に汚されたんだ……」
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 03:42:15.82 ID:dAm0odXiO

盗賊「お前が勝手にそう思ってるだけだろうが」

盗賊「この際だから言っとくけどな、あいつはこれっぽっちも汚れちゃいなかった」

盗賊「見た目が綺麗な女なら沢山見てきた。でもな、その中でも一番なんだ」

盗賊「あんなに綺麗でいい女を見たのは初めてだったよ」

盗賊「だから、あれだ…汚えとか汚れたとか言うな。それから、玉潰しもやめろ」

道化師「…………」

盗賊「おい、聞いてんのか。聞いてんなら返事くらいしなさいよ」

道化師「……お前は本当の本当に、姉さんが好きなんだな……」ポツリ

盗賊「あ?」

道化師「……あのさ、姉さんは売られたって話は聞いた?」
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 03:43:21.62 ID:dAm0odXiO

盗賊「あ〜、確か14の頃だろ?」

盗賊「前に娼館主に聞いたな。それがどうかしたのかよ」

道化師「……姉さんは、ボクを守るために売られたんだ。本当はボクが売られるはずだった」

道化師「でも結局、ボクも売られた。あの屑が、1年も経たない内に金を使い込んだから……」

盗賊「屑ってのは男親か?」

道化師「違う。アレは親なんかじゃない。子供を金としか見てない正真正銘の屑だ」

道化師「母さんが死んだのだって、あいつが見殺しにしたようなものなんだ」

道化師「ボクも姉さんも医者に診せるように言ったのに、アイツは聞く耳を持たなかった……」
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 03:45:55.42 ID:dAm0odXiO

盗賊「……いい母ちゃんだったか?」

道化師「……そうだね。正直、何であんな奴と一緒になったのか分からなかったよ」

道化師「妻としてアイツを愛してたのかどうかなんて分からないけど、母親としてボクと姉さんを守ってくれた」

道化師「殴られても叩かれても蹴られても、母さんは絶対にアイツから逃げなかった」

道化師「酔ったアイツに髪を掴まれて何度も追い出されたけど、そのたびに戻ってきたよ」

道化師「『ごめんなさい、どうか家に入れて下さい』って謝るんだ。母さんは何も悪くないのにさ……」

道化師「……きっと、自分がいなくなればボクと姉さんが売られるって分かってたんだと思う」

盗賊「でも結局、母ちゃんが死んじまってすぐに売られたわけか」
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 03:47:38.67 ID:dAm0odXiO

道化師「その通り。ほら、屑だろ?」

盗賊「そうだな。もし時を操れんなら今すぐ過去に行ってぶち殺してる。三千回くらい」

道化師「アハハッ!それはいいな!! 出来ることならそうしたいよ、本当に……」

盗賊「……今はどうなんだ? 娼館主とは上手くやってんだろ?」

道化師「な、何だよ急に」

盗賊「いや、別に。前と顔付きが変わってっから訊いてみただけだ」

道化師「……上手くやってるよ。優しくしてくれるし、姉さんの話とかもしてくれる」

道化師「あの人はボクの知らない姉さんの十年を、姉さんの生き方を教えてくれた」

道化師「一緒に出掛たり、服を買ったりご飯を食べたり…まるで、本当の姉さんみたいに……」
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 03:48:53.05 ID:dAm0odXiO

盗賊「…………」

道化師「それから、お前が姉さんをどれだけ大事に思ってるのかも教えてくれたよ……」

盗賊「ふ〜ん、ああそう。まあ、上手くやってんならいいや」

道化師「何だよ、その保護者みたいな台詞。義兄にでもなったつもりか?」

盗賊「なわけあるかボケ。玉潰しが趣味の義妹なんていらねえよ」

道化師「自分のことを棚上げするな。ボクだって大悪党の義兄なんてお断りだ」

盗賊「俺の場合はやむにやまれず、生きる為にやったことだからいいんだよ」

道化師「開き直りに正当化。お前は絶対に碌な死に方しないだろうな」

盗賊「うっせえ、んなことは分かってんだよ。今更お前に言われるまでもねえ」
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 03:51:02.28 ID:dAm0odXiO

道化師「……後悔とか、しないのかよ」

盗賊「まあ、今んところはしてねえな」

道化師「姉さんのことも後悔してない?」

盗賊「それはしてるな」

道化師「してるじゃん」

盗賊「なんだよ、悪ぃのか」

道化師「ううん、悪くない。全然悪くないよ……」

盗賊「……そうかよ」

道化師「……うん」
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 03:52:31.85 ID:dAm0odXiO

盗賊「……お前は、あれで良かったのか?」

道化師「姉さんの魂を盗ったことなら別に気にしてない。あれは、姉さんが望んだことだからね」

道化師「それに、ボクが嫌だって言ったところでやめなかっただろ?」

盗賊「まあ、そうだろうな。あいつの妹だから一応聞いてみただけだ」ウン

道化師「……じゃあ聞くなよ」

盗賊「うるせえ、聞いて貰っただけありがたいと思え」

道化師「うざっ。それより、姉さんのこと大事にしろよ。今度なくしたら許さないからな」

盗賊「俺の中にいるんだ。もう二度となくさねえし、誰に手にも触れさせねえよ」

道化師「それから、他の女に手を出すなよ。浮気したら玉潰して殺すからな」

盗賊「するかバカ。俺はこう見えて一途なんだ、今まで浮気なんかしたことねえ」
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 03:54:43.60 ID:dAm0odXiO

道化師「今まで? 今までって何だよ」

盗賊「……まあ、あれだ。向こうが勝手にその気になってたことなら多々ある」

盗賊「ほら、俺ってもてるだろ? 何もしてなくても女の方から寄ってくるんだよ」

盗賊「でも安心しろ、俺は全く本気じゃなかった。恋愛関係にあった女はいない」ウン

道化師「……肉体関係は?」

盗賊「いやいやいや、この歳で童貞はねえだろ?」

道化師「お前、幾つなんだ」

盗賊「さぁ、18とか20くらいじゃねえの? 正確な年齢なんざ分かんねえよ」

盗賊「とにかく、本気になった女なんていねえから他の女と一夜を過ごしても浮気にはならねえ」

盗賊「それに、殆どが一夜限りだ」ウン

盗賊「最初から本気じゃねえわけだから、何をしようが浮気にはならねえ。な?」
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 03:56:39.60 ID:dAm0odXiO

道化師「な?じゃないんだよ!ふざけんな!!」

道化師「お前、最ッ低だな。姉さんは何でこんな奴を好きになったんだ…」

盗賊「控え目を更に控えても、滅茶苦茶格好良いからだろうな……」

道化師「黙れ死ね」

盗賊「そんな顔すんな」

盗賊「大丈夫だ、俺が本気で惚れた女はお前の姉ちゃんだけだ」

道化師「(言ってることは屑なのに、信用出来るだけのことをしてるから腹が立つな)」

盗賊「うっし。都の大掃除も済んだみてえだし、そろそろ行くわ」
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 03:59:24.12 ID:dAm0odXiO

道化師「店主に会わないのか?」

盗賊「ん〜、この夜が明けたら会う。巫女も連れてな。じゃあ、行ってくるわ」

道化師「……何処に行くんだよ。行き先くらい教えろ」

盗賊「南部平原。友達のところだ。予定より大分遅れちまっ……!?」

ズズズズズ…

道化師「……な、何だよあれ」

盗賊「(オークの次は、空を覆うでっけえ目玉かよ。襤褸の野郎、何をするつもりだ)」

道化師「……盗賊、あの目玉に何か映ってる」

盗賊「ッ、勇者だ。王女様と勇者の母ちゃんまで……」
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 03:59:53.12 ID:dAm0odXiO

襤褸『見ろ、勇者』

襤褸『東西南北、地上にいる者も地下にいる者も、生きとし生けるもの全てがお前を見ている』

襤褸『漸くだ、漸く会えたな』

襤褸『混沌より生まれ出でし兄弟であり息子である者よ。我と我等を殺しうる唯一の者、希望よ』

勇者『……………』

襤褸『ヌハッ。この二人を見ても動揺せぬか。翠緑の王の下で随分と鍛えられたようだな』

襤褸『まあいい。あまり長話をして邪魔が入ると面倒だ。単刀直入に言おう』

襤褸『再び我と一つになれ。その身に己が剣を突き立て希望を差し出すのだ』

襤褸『さあ、選択せよ。お前が首を縦に振れば、二人の魂は破壊せずにおいてやる』
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 04:00:40.39 ID:dAm0odXiO

勇者『父さんの時と同じやり口だな』

勇者『首を縦に振ろうが横に振ろうが、二人が死ぬことに変わりはない』

勇者『お前と一つになれば、終末の獣が二人を殺す。僕が断れば、二人はお前に殺される』

勇者『どちらを選んでも、その先にある結末は死だ。選択する意味がない』

襤褸『いいや、そうでもない』

襤褸『我と一つになれば、少なくとも今この場で二人が殺されることはない』

襤褸『まあ、その後で世界は滅ぶことになるわけだが……目の前の悲劇は回避出来る』
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 04:02:35.60 ID:dAm0odXiO

勇者『…………』

襤褸『それとも、母と恋人の魂を目の前で破壊された後に戦うか?』

襤褸『そうすると言うのなら、我と我等はそれでも構わん。寧ろ、それを望んでいる』

襤褸『心を圧し殺し、人々の希望であろうとするならば、そうするがよい』

襤褸『この理不尽を呪い、世界すら憎むと言うのなら、命を差し出せ』

勇者『……………』

襤褸『分かっているとは思うが、二人の魂には既に触れている。今この瞬間にも砕ける』

襤褸『そして絶望に砕かれた魂は、如何なる魔術を用いても復活することはない』

襤褸『どちらを選んでも救いはないが、これはお前に選ばせてやる』
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 04:04:19.60 ID:dAm0odXiO

襤褸『さあ、決断の時だ』

襤褸『ヌハッ…皆がお前を見ているぞ。そう、皆だ。文字通り、世界がお前を見ているぞ』

勇者『断る。僕はお前を殺す。絡み付いた因縁因果を今夜で終わらせる』

襤褸『そうか。ならば仕方ない』

グシャッ…

勇者『………ッ…』

襤褸『なに、そう落ち込むことはない』

襤褸『特別な命などありはしない。何者だろうと等しく死ぬ』

襤褸『それが勇者の母であろうと、勇者が愛した女であろうと、今夜死んだ者達と同じように死ぬ』

襤褸『花屋の子供達も魔女も盗賊も東王も王妃も、お前が知らぬ者達も、皆同様に何かを失った』

襤褸『お前だけが何も失わないのは不公平であろう? 希望も希望を失うべきなのだ』
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 04:05:37.61 ID:dAm0odXiO

勇者『……特別な命なんてない?』

勇者『違うな、特別じゃない命なんてない。誰もが誰かの特別なんだ』

勇者『お前がそうすることは覚悟してた。母さんも王女様も覚悟してたんだ……』

勇者『僕が二人を守ろうとすれば世界が滅ぶ。僕が世界を守ろうとすれば二人が死ぬ』

勇者『それも分かってた……』

勇者『……僕はこの先の幸せなんて望んでない。僕の望み、僕の夢はたった一つ』

勇者『お前の、絶望のいない、希望に満ち溢れた世界だ』

勇者『お前を消し去って夜を明ける。僕のような人間が、もう二度と生まれないように……』
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 04:12:14.26 ID:dAm0odXiO

襤褸『ヌフッ、ヌハッ、ヌハハハハッッ!!!』

襤褸『そうじゃそうじゃ、それでよい!! 勇者とは!希望とは!そうでなくてはならぬ!!』

襤褸『己が掲げる正義を絶対のものと信じ、如何なる犠牲があろうと剣を振るう!!』

襤褸『世界よ刮目せよ!これが希望なのだ!! これが勇者たる者の選択なのだ!!』

襤褸『己が心を圧し殺し、母と恋人を殺されようとも心折れることなく戦いを挑む!!』

襤褸『此奴は最早、人ではない。見よ、此奴の顔を、一筋の涙も流さぬわ!!』

襤褸『希望は希望であろうとし、勇者は人であることを捨てたのだ!!』

襤褸『それも見ず知らずの、一度も会うたこともない貴様等の為に、正しく常軌を逸した者となった!!』

襤褸避けられぬ運命を受け入れ、滅びに抗い、絶望を打ち倒さんとする姿にお主等は何を見る』

襤褸『次は貴様等が与えるのだ。この者を強く想うがよい、貴様等の願いを届けるのじゃ』

襤褸『……希望を埋め尽くす程の、歪み狂った祈りと想いをぶちまけろ』

襤褸『さあ高らかに叫び呼ぶのだ。この者こそが貴様等を救う者……』

襤褸『絶望に抗い、魔を滅する者、貴様等の求める救世主だ』
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 04:18:32.18 ID:dAm0odXiO

襤褸『ヌフッ、ヌハッ、ヌハハハハッッ!!!』

襤褸『そうじゃそうじゃ、それでよい!! 勇者とは!希望とは!そうでなくてはならぬ!!』

襤褸『己が掲げる正義を絶対のものと信じ、如何なる犠牲があろうと剣を振るう!!』

襤褸『世界よ刮目せよ!これが希望なのだ!! これが勇者たる者の選択なのだ!!』

襤褸『己が心を圧し殺し、母と恋人を殺されようとも心折れることなく戦いを挑む!!』

襤褸『此奴は最早、人ではない。見よ、此奴の顔を、一筋の涙も流さぬ!!』

襤褸『希望は希望であろうとし、勇者は人であることを捨てたのだ!!』

襤褸『それも見ず知らずの、一度も会うたこともない貴様等の為に、正しく常軌を逸した者となった!!』

襤褸『避けられぬ運命を受け入れ、滅びに抗い、絶望を打ち倒さんとする姿にお主等は何を見る』

襤褸『次は貴様等が与えるのだ。この者を強く想うがよい、貴様等の願いを届けるのじゃ』

襤褸『……希望を埋め尽くす程の、歪み狂った祈りと想いをぶちまけろ』

襤褸『さあ、高らかに叫び呼ぶのだ。この者こそが貴様等を救う者……』

襤褸『絶望に抗い、魔を滅する者、貴様等の求める救世の主だ』
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/10(火) 04:19:36.00 ID:dAm0odXiO
ここまでもう少しで終わると思います
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/11(水) 01:27:11.52 ID:YEhEzt0DO
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2017/01/17(火) 20:31:06.88 ID:XFbmtst+O

>>>>>>

同時刻 東部地下施設

襤褸『さあ、決断の時だ』

襤褸『ヌハッ…皆がお前を見ているぞ。そう、皆だ。文字通り、世界がお前を見ている』

襤褸『勇者よ、選択せよ。我と一つになるか否か』

勇者『……断る。僕はお前を殺す。絡み付いた因縁因果を今夜で終わらせる』

襤褸『そうか。ならば仕方ない』

ぐしゃっ…

特部隊長「…………」ギリッ

魔導鎧「大尉」

特部隊長「ッ、あぁ、済まない。どうした?」

魔導鎧「全機体より報告です。第三施設内のオークは殲滅完了しました」
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