勇者「救いたければ手を汚せ」 

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111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/28(月) 00:45:31.18 ID:AvNE7CqXO

魔女は歯噛みした。

他にやりようはない、勇者が来るまで燃やし続ける他にない。

自分の名を繰り返し呼び続け、のたうち焼け爛れる恩師を見続けなければならない。


「(絶望の化身、襤褸の男。これが、お前のやり方か)」


様々な感情が綯い交ぜになり、泣けばいいのか怒ればいいのかも分からない。

瞳からは涙を模した炎がとめどなく流れ、唇は真一文字に固く結ばれている。

泣くまいと堪えているようだが、涙は一滴、また一滴と零れ落ちる。

魔女の涙は地面を焦がしながら、悲しげな音を立てて消えていった。

それを見ていた符術師は、魔女もまた、炎に焼かれているようだと思った。

これ程まで救いたいと願いながら救えず、愛する男性に要らぬ重荷を背負わせる。

魔女の心中は、どれだけの苦痛と悲痛に曝されているのだろう。

それを想うと、符術師の胸は酷く痛んだ。
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/28(月) 00:47:36.66 ID:AvNE7CqXO
短くて申し訳ない
寝ますまた明日
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/28(月) 00:48:17.51 ID:AvNE7CqXO
今日はここまで、短くて申し訳ない
寝ますまた明日
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/28(月) 02:38:44.10 ID:bvqSeAbJO
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/28(月) 02:59:49.35 ID:Ybh2kIgrO

「(何で…)」

「(何で、こんなことになっちゃったんだろう)」

燃える涙を流しながら悲痛に喘ぐ友を見て、符術師はそう思わずにはいられなかった。

周りの仲間も同じ想いであろうことは、顔を見ずとも感じることが出来た。

魔女が何をしたというのだ。

過去に受けた傷を癒した恩人を、母と慕った師を、何故苦しめなければならないのだ。

一体何故、このような仕打ちを受けなければならないのだ。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/28(月) 03:01:40.70 ID:Ybh2kIgrO

同期する一の杖が、かたかたと震えている。

何も言えぬ所持者達の代わりに、杖が訴えているようだった。

皆が一様に顔を伏せ、超高熱に焼かれる魔導師の姿から目を逸らす。

符術師も目の前の光景を直視出来ず、堪らず目を逸らしてしまった。


「かッ…は…」


魔女が、短く息を漏す。

異変に気付き目を戻すと、魔導師と魔女が重なっていた。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/28(月) 03:04:40.19 ID:Ybh2kIgrO

一瞬。

正に、一瞬の出来事だった。

其処には、炎に身を焼かれながら魔女の胸に右手を突き刺す魔導師の姿があった。

骨だけになった右手が、容赦なく体内を掻き回す。

眼窩には闇があるばかりで、頭蓋骨が歯を鳴らして嗤っている。

最早、肉体とは言えない。

誰がどう見ても、人骨が動いているようにしか見えない。異様である。

肉の大半は焼け落ちており、ずるりずるりと地面を這っている。

胸部に寄せ集められた肉塊が、異様さを際立たせている。

仲間達が体を引き剥がそうと魔力を練った瞬間、髑髏が声を発した。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/28(月) 03:06:33.00 ID:Ybh2kIgrO

「動くな。動けば、魔女が死ぬぞ」

「我と我等、絶望とは魂を砕くもの。これも嘘だと思うならば、やってみるがいい」

挑発的だが、自信に満ちた声。

一体どのようにして発声しているのかは分からないが、酷く耳障りで呪詛を含んだ声であるのは確かだ。

符術師は符を這わせていたが、魔女の炎は生きている。焼かれれば終わりだ。

穢れ焼き尽くす炎と言っていたから、符は除外されるかもしれないが、魔女自身の炎は分からない。

符が焼け、中に込めた魔力が外に出てしまえば、魔女は殺されてしまう。

故に、賭に出るのは躊躇われた。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/28(月) 03:08:54.50 ID:Ybh2kIgrO

「魔女よ、都の光球を消せ」

「断る」

魔女は気丈にも睨み返し、凜然とした態度で髑髏に立ち向かう。

髑髏は、いつでも魔女を殺すことが出来る。

そうしないのは、生み出した炎が魔女の死によって消滅するのか判断出来ない為である。

髑髏は空の眼窩が忌々しげに睨み付けると、魔女の体内に突き刺した指先で、魂を引っ掻いた。


「ぐ…ぃッ!!」


魂を削り取られる痛みは凄まじく、あまりの激痛に、魔女の体が大きく跳ねる。

一度、二度、髑髏は繰り返し魔女の魂に爪を立て、手出し出来ずにいる周囲の仲間を嘲笑う。
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/28(月) 03:15:43.38 ID:Ybh2kIgrO

「(光球よりも、魔女を生かしている方が後々の面倒になる)」

「(光球など、魔女を殺害した後で破壊すれば良いだけの話だ)」

魔女は、体内で指先が妖しく蠢くのを感じた。

このまま魂を削られれば、間違いなく死ぬだろう。

魔女に魂の状態など見えないが、感覚として分かるようだ。


「(まさか、本当に命そのものを破壊出来るなんて思わなかったな)」

「(魂、命の破壊か……)」


自分の場合はどうなるのだろう。寿命を終える瞬間までは死ねないはずだ。

だが、魂を破壊されれば別かもしれない。

誰にも認識されぬ透明人間のようになって、残りの四十年五十年を生きるのだろうか。

などと考えていた時、体内から髑髏の右手が引き抜かれた。
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/28(月) 03:17:54.40 ID:Ybh2kIgrO

どうやら、危機を感じて飛び退いたらしい。

しかし、辺りには魔力を練っている者もいなければ、符が動いた気配はない。

ならば、一体何が髑髏を退かせたのだろうか。

周囲を異様に警戒する髑髏を余所に、魔女は一際大きな雪に目を奪われていた。

その雪は他の雪とは違い、自身の体に落ちた。つまり、炎の中に入ってきたのである。

いや、正確には雪ではなかった。


「……絶望が希望を嗅げるように、俺もお前を嗅げるんだよ」

「魔導師さんの魂は、返して貰う」 


それは、今この瞬間に直滑降してくる男の背にある翼の一欠片。

穢れ無き、純白の羽であった。

髑髏は魔導師の魔術を使い迎撃しようとするが、魔女が火球を打ち出し妨害する。

勇者は勢いをそのままに頭蓋に向かって剣を振り下ろし、髑髏となってしまった魔導師を粉々に砕いた。
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/28(月) 03:18:57.25 ID:Ybh2kIgrO
また明日
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/28(月) 03:30:23.49 ID:CkwEvwOOO

空からの強襲。

その衝撃によって地面が窪み土煙が上がったが、符術師によって直ぐさま土煙が払われた。

次第にはっきりと見えてきた勇者の姿を見て、魔女の心は高鳴った。

これまでにない高鳴りだった。心なしか、炎の様子も何かおかしい。

その炎こそが、魔女自身なのであるが。


「……これが、奴の狙いらしいな」

「親しい人間を手に掛けさせることで、僕の動揺を誘ってる」


淡い輝きをそっと空へ送ると、魔女へ向き直り、勇者が口を開いた。

「久し振りだね」と駆け寄ろうとした時、体を焼かれるような痛みが魔女を襲った。

勇者に近付こうとした瞬間の出来事。

彼女はこれが契約内容の一部であることを、すぐに理解した。

勇者に恋い焦がれながら、勇者に近付くことは決して出来ない。
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/11/28(月) 12:39:59.61 ID:7ElujT9zO

どうやら、危機を感じて飛び退いたらしい。

しかし、辺りには魔力を練っている者もいなければ、符が動いた気配もない。

ならば、一体何が髑髏を退かせたのだろう。

周囲を異様なまでに警戒する髑髏を余所に、魔女は一際大きな雪に目を奪われていた。

その雪は他の雪とは違い、自身の体にふさりと落ちた。つまり、炎の中に入ってきたのである。

正確には雪ではなかった。


「絶望が希望を嗅げるように、俺もお前を嗅げるんだよ」

「魔導師さんの魂は、返して貰う」


それは、空より現れた彼の真白い翼。その一欠片。

穢れ無き、純白の羽。

髑髏は魔導師の魔術を使い迎撃しようとするが、魔女が火球を打ち出し妨害する。

勇者は勢いをそのままに頭蓋に剣を振り下ろし、魔導師の魂を幽閉する牢獄を粉砕した。
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/28(月) 12:43:20.10 ID:7ElujT9zO

空からの強襲。

その衝撃によって地面が抉れ土煙が上がったが、符術師によって直ぐさま土煙が払われる。

次第にはっきりと見えてきた勇者の姿を見て、魔女の心は高鳴った。

これまでにない高鳴りだった。心なしか、炎の様子もおかしい。


「(これが奴の狙いか)」

「(親しい人間を手に掛けさせることで、僕の動揺を誘ってる)」

「魔女、大丈夫?」


淡い輝きが解放されたのを確認すると、魔女へと向き直り、勇者が口を開いた。

「久し振りだね」と駆け寄ろうとした時、体を焼かれるような痛みが魔女を襲った。

勇者に近付こうとした瞬間の出来事。

彼女はこれが契約内容の一部であることを、すぐに理解した。

勇者に恋い焦がれながら、勇者に近付くことは決して出来ない。
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2016/11/28(月) 12:45:54.88 ID:7ElujT9zO

「(対価について文句はない。このくらいなら我慢出来る。うん、大丈夫)」

「(……てか、久し振りだねって何だ。何であんなこと言ったんだろ)」

「(馬鹿か私は、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ。しっかりしろ)」


ニ度三度頭を振り、何とか気持ちを切り替えようとするも、想いは燃え上がる。

堰を切ったように溢れ出したそれが心を染め上げ、瞬く間に魔女を支配していく。


「魔女?」


己の体を抱いたまま小刻みに震える魔女。その様子を見た勇者が声を掛けた。

胸の鼓動が跳ね上がる。

その声を聞いただけで、どうにかなりそうだった。

これまでは、一度たりともこんなことにならなかった。

異性として勇者に好意を寄せているのは認める。しかし、これは一体どうしたことだ。

想いを失うどころか、恋慕の情は増すばかりではないか。


「(そっか、そういうことか)」

「(もっと好きになって、もっと後悔しろって、そう言いたいわけだ)」

「(死ぬまで、この想いを抱いて生けってわけだ)」

「(でも、大したことない。こんなの、全然大したことない)」

「(失うよりは、ずっといい)」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/28(月) 12:49:30.89 ID:7ElujT9zO
>>121>>123は無し。
書き直し申し訳ないです。
見返すと他にも沢山誤字脱字があるので、以後気を付けます。
また夜に書きます。
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/29(火) 00:48:37.22 ID:9oK9QQdRO

>>>>>>

勇者「魔女? 大丈夫?」

魔女「えっ? あっ、ごめんごめん。ちょっと気が抜けてた」

魔女「私は大丈夫。勇者、先生を助けてくれてありがとう」

勇者「……何か、変わったね」

魔女「へ?」

勇者「髪形も服も体も、それに雰囲気も変わったよ。ほら、めらめらしてるし」ウン

魔女「あははっ! うん、そうだね。私、炎になっちゃったから」
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/29(火) 00:51:03.26 ID:9oK9QQdRO

勇者「戻れないの?」

魔女「ん〜、それはまだ分かんない」

魔女「さっき『こうなった』ばっかりだし、完全に掴めたわけじゃないからさ」

魔女「っていうか、いつ来たの? 街の方から来たみたいだけど……」

勇者「うん、此処へ来る前に街へ行ったんだ」

勇者「一番危険なのは北部みたいだったから、今さっき飛んで来た」

勇者「街の陣は、魔女の光球と風術隊のお陰で起動したよ」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/29(火) 00:52:16.94 ID:9oK9QQdRO

魔女「……そっか、良かった」

勇者「でも、北都が危険だ」

勇者「未だ暴動が続いてて、陣を起動するどころの騒ぎじゃない」

勇者「だから、魔女には北都を頼みたい。このままだと、どうなるか分からない」

勇者「東部の陣は既に起動済みだ」

勇者「オークは精霊と隊長の魔導鎧部隊が対処してるから、一先ず凌げるはずだ」

勇者「西部には既に盗賊が向かってる。陣の起動は問題ないと思う」

魔女「ちょっ、ちょっと待ってよ。何でそこまで分かるの?」
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/29(火) 00:53:19.26 ID:9oK9QQdRO

勇者「ごめん。一辺に話しすぎた」

勇者「……今の僕は、『僕を知っている者』が何をしているのか、ある程度は感じ取れるんだ」

勇者「絶望のように分体を作り出すことは出来ないけど、奴のことは把握出来る」

魔女「知っている者?」

勇者「うん。ただ知ってるだけじゃなくて、実際に会ったり話したりした人達」

勇者「何て言うか、繋がりだよ。仲が良い人が見えるみたいな、そんな感じ」

勇者「……絶望の場合は、元々が一つだったから分かるんだと思う」
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/29(火) 00:56:35.02 ID:9oK9QQdRO

魔女「……これから、行くの?」

勇者「ああ、絶望そのものを倒さない限り、オークは消えない」

勇者「オークもまた、絶望に囚われているに過ぎないんだ。だから、決着を付けないと…」

魔女「……待ってるから。だから、必ず帰って来てね」

勇者「必ず帰って来る。皆も頑張ってるし、僕も頑張らないと」ウン

魔女「ねえ、勇者」

勇者「ん?」

魔女「えっと…またね?」

勇者「ははっ! うん、また会おう」ニコッ

魔女「ッ、北都…北部は任せてよ!! だから、その…行ってらっしゃい」

勇者「……魔女、ありがとう。行ってきます」ザッ

…ザッザッ…バサッ…ヒュンッ…
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/29(火) 01:00:23.41 ID:9oK9QQdRO

魔女「(あの翼、天使かな……)」

魔女「(あんなに嫌がってた自分に対する信仰の力まで、躊躇いなく使ってるのか)」

魔女「(きっと、勇者は決めたんだ)」

魔女「(でなきゃ、嘘なんて吐かない。これで最後だから、嘘を吐いたんだ……)」

符術師「……魔女ちゃん、勇者さんは

魔女「分かってる。分かってるよ……」ギュッ

符術師「魔女ちゃん……」

魔女「勇者は勇者が出来ることをする。私達は私達の出来ることをする」

魔女「勇者が終わらせるまで、北部は私達で守らなきゃならない」

魔女「……さあ、そろそろ行こう。魔術師として、人間を救う為に」
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/11/29(火) 01:01:29.88 ID:9oK9QQdRO



魔女編#2 終


135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/11/29(火) 01:03:45.07 ID:9oK9QQdRO
短いけど一区切りついたのでここまで
また明日
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/29(火) 13:35:46.81 ID:fMJ7Qe1PO
137 : ◆4RMqv2eks3Tg :2016/11/29(火) 23:11:04.54 ID:oEtp1o/FO
今日は無理そうです。申し訳ない。
次回投下まで、ちょっと時間が掛かるかもしれません。

レスありがとうございます。読んでる方、ありがとうございます。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/30(水) 03:29:14.80 ID:WTFa3gG8o
無理せずマイペースでええんやで
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/30(水) 06:01:29.09 ID:iTUdhj8DO

舞ってる
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 00:30:15.84 ID:uyYIQu6tO

>>>>>>>

人々は混乱していた。

突如として響き渡った絶望の声と、それによってもたらされた殺戮と破壊。

精霊によって西部北部より先に転移術式の起動に成功したが、被害が出ていないわけではない。

誰もが何かを失った。

ある者は妻を、ある者は夫を、ある者は子を、ある者は兄弟姉妹、祖父祖母を失った。

妻を見捨てて逃げ出した男性が、狂ったように壁に頭を打ち付けている。

恋人を化け物の前に突き出した女性は、血が出るのも構わず爪を噛み続けている。

子を失った夫婦は割り当てられた部屋に入ることもせず通路に立ち尽くし、虚ろな目で天井の明かりを見つめていた。

半狂乱となり暴れる者もいたが、同じく地下施設へ転移した兵士達によって連行されていく。

それを見送る周囲の人々の目に光りはなく、再び通路に座り込むと、膝を抱え顔を伏せた。
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 00:31:03.25 ID:uyYIQu6tO

生を喜んでいる者などいなかった。

束の間の喜びすら、津波のように押し寄せる灰色の化け物が呑み込んだ。

逃れようのない現実、目の前で起きた現実が、目を逸らすことを許さない。

あの不気味な声の言った通り、滅びがやって来たのだ。人々は、それを身を以て理解した。

理解したのではなく、理解させられた。

痛烈に意識させられ、これでもかとばかりに思い知らされた。


ーー死。生命の終わり。


此処に居る全ての者が、死を見た。

本来無形であるそれが、明確な意志を持って行動し、自分達を滅ぼそうとするさまを。
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 00:33:20.80 ID:uyYIQu6tO

無事避難出来た者に傷はない、痛みもない。

だが傷がなくとも容易く壊れ、痛みがなくとも苦痛に喘いでいる。

かろうじて生き延びただけに過ぎない。この先どうなるかなど、誰にも分かりはしない。

もしかしたら、あの灰色の化け物が地下施設へ侵入してくるかもしれない。

如何に充実した設備があろうと、地下に押し込められた圧迫感、閉塞感が重くのし掛かる。

つい先程まで地上で暮らしていた人間が、それに耐えうるはずもない。

それは、この地下施設に限ったことではない。

規模は違うが、此処とは別に東部には五つの地下施設があり、北部は三つ、西部にも三つある。

地下に押し込められた全ての人々が、同じ痛みを感じているだろう。

しかも彼等は、勇者や盗賊や魔女のように『何故こうなったのか』など、知らない。

地上にいる者がどんな思いで戦っているかなど、誰一人として知らない。
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 00:35:51.20 ID:uyYIQu6tO

誰が何の為に?

何故こんなことになった? この夜はいつになったら明ける?

生き延びた先に何がある?

人々には、それが見出せないでいた。

それを絶望と言うなら、正しくそうなのだろう。

傷や痛みがなくとも死に至るもの。

治療の施しようもない死の病が、人々を蝕んでいる。

彼等彼女等は確かに生きている。

だが、その胸の内に希望を抱いている者は、果たしてどれだけいるだろうか。
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 00:40:04.66 ID:uyYIQu6tO

「(……勇者)」

対応に追われる兵士達の足音を聞きながら、希望の母である聖女は、不自然な程に明るい部屋でじっと目を閉じていた。

地下施設へ転移してから一時間ばかり経過したが、彼女はずっと息子を思っていた。

現在起きている出来事は、世界の危機であると同時に家族の問題でもある。

夫である戦士が絶望の依り代となったあの日から、覚悟は出来ていた。

数年後か数十年後かは分からないが、どんな形であれ、この日が来ることを知っていた。


息子が生まれ、夫と息子が希望と絶望に別たれてから十二年。


長く保ったのか、それとも短かったのか、その判断は出来ない。

ただ、自分の夫と息子が互いの存在を消し去る為に戦うことだけは変わらない。
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 00:42:59.12 ID:uyYIQu6tO

戦いでは済まない。二人は殺し合う。

どちらかがどちらかを滅ぼすまで、戦いは決して終わらないだろう。

これは逃れようのない事柄であって、決して避けられぬ未来である。

手にしたしあわせ、家庭の温かさ、果ては我が子さえも絶望に囚われ、夫を奪われた。

あの時、戦士が絶望に魅入られた時から、全てはこうなるように定められていたのだ。

憎しみや怒りよりも、何故私達が。と思わずにはいられない。

そして、今更ながら痛感する。

何と苛酷な運命を、業を、我が子に背負わせてしまったのだろうかと。

我が子に希望を託したと言えば聞こえは良いが、そんな綺麗なものではない。

息子に生きろと言うことは、父を殺せと言っているのと同義なのだから。

それが夫の望んだことだとしても、子を生かす為に決断したことだろうと、あまりに惨い。
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 00:44:16.11 ID:uyYIQu6tO

戦友であり夫の友人、剣士。

命を賭して我が子を守護してくれた彼の魂も、今や絶望の内にある。

何よりもつらいのは、家族でありながら、母でありながら、何もしてやれないことだった。

何もしてやれないどころか、息子を苦しめる枷になってしまっている。

母である自分と、息子の思い人である王女が、我が子を苦しめている。

事実、数度の襲撃を受けた。

殺せたのにそうしなかったのは、勇者を苦しめる為に他ならない。

どんなに警備を固めようと容易く突破出来ることを証明し、勇者に強く示した。

その気になれば、いつでも殺せることを。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 00:45:51.05 ID:uyYIQu6tO

向こうはいつでも現れることが出来る。

しかし、此方には対抗する術がない。絶望は魔ではない。故に、感知すら出来ないでいた。

警護していた兵士達はいつ来るとも知れない絶望に怯え、日に日に疲弊していった。

それを見た時、彼女自らが警護の取り下げを願い出た。

彼等にも家族があり、守らねばならないものがある。それを思うと胸が痛んだ。

これ以上、家族の問題に巻き込むことは出来ない。助けてくれなどと、頼めるはずもない。

何をどうしようと、如何なる策を講じようと『誰もがしあわせな結末』など訪れはしない。

絶望は家族を引き裂いただけでなく、今や世界すら巻き込んでしまったのだから。
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 00:49:06.06 ID:uyYIQu6tO

今、この瞬間にも、数多くの命が奪われている。

地下施設が完成してから現れたというのも、意図的なものを感じざるを得ない。

人々が我先にと争う様を見たいのか、更なる恐怖を生む為に敢えて待ったのか。

認めたくはないが、その目論見は成功したと言わざるを得ないだろう。

現に、世界は絶望に翻弄されている。人々は混乱し、生きる意味を失いつつある。

だが、それすらも、目的を成就させる為にとられた手段の一つに過ぎない。


勇者。希望を殺す。


たった一人を、勇者を苦しめる為だけに、絶望は殺戮と破壊を伴って姿を現した。

あの日に言った通り、別たれた一つとして、比類無き絶望として現れたのだ。
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 00:50:48.86 ID:uyYIQu6tO

「(……どうか、生きて)」

一人きりの部屋で誰にも見られることもないのだが、彼女は両手で顔を覆い隠した。

息子が直面しているであろう痛みを想像するだけで、胸が張り裂けそうになる。

声を押し殺そうと、顔を覆い隠そうと、一度流れ出た悲しみが止むことはない。

目尻から溢れたもの指先へ、頬を流れたものは手のひらへと伝っていく。

手のひらをから手首へ、或いは病によって更に細くなった指の隙間から止め処なく流れ落ちる。


「(他の何も望みはしない。ただ、生きて欲しい。自由に、しあわせに……)」


そう願わざるを得ない。

二度と会えなくともいい。ただ、息子にだけは生きて欲しい。

出来ることならば、しあわせになって欲しい。
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 00:53:12.85 ID:uyYIQu6tO

私と夫が得た唯一の希望を失いたくない。

だから、何があろうと決して諦めず、この先を生きて欲しい。

酷なことを言っているのは承知している。それでも願わずにはいられない。

この夜を乗り越えれば、きっと夜が明ける。

絶望によって歪められた運命から解放された時、息子は初めて自由になれる。

其処に自分が居なくとも、息子さえ無事であれば、それでいい。


「(だから、どうか……)」

「祈りなど無意味だ」


今現れたのか、それともずっと其処に居たのか、襤褸を着た男が立っていた。

小脇に抱えられている見覚えある女性を見て、彼女ははっと息を呑んだ。

何を企んでいるのかなど瞬時に理解出来たが、最早どうすることも出来なかった。
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 00:56:34.52 ID:uyYIQu6tO

「こうでもしないと、希望は折れないようだ」

「奴が早々に折れていれば、こんなことをする必要はなかったのだがな」


大袈裟に肩を竦め、こうなったのは勇者の所為だとでも言いたげに溜め息を漏らす。

自らが起こす最悪すらも、全ては勇者の所為であると、そう言っているようだった。


「希望とは毒であり、まやかしである」

「縋るものがあるからこそ絶望する」

「最初から希望などなければ、誰も傷付きはしなかっただろう」

「……世界は、混沌に呑まれた」

「たった二人を捕らえる為に、たった一人を絶望させる為だけに」
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 01:02:06.71 ID:uyYIQu6tO

煤けたフードの奥にある暗黒に、幾つもの赤い眼が浮かび上がる。

それらすべてが彼女を凝視し、それぞれが憎しみを叩き付けるかのように、視線を浴びせかけた。

彼女は凄まじい悪寒と憎悪に呑まれ、気が遠退くのを感じながら、強く念じた。


(私に何があろうと生きて。勇者、あなただけはしあわせに……)


次の瞬間、彼女の意識はぶつりと途切れた。

襤褸を着た男が、歓喜に身を震わせた。

勝利を確信してのことなのか、これから始まる戦いを想像して身震いしているのか。


「ヌハッ…キヒッ…ひゃひひひ」


絶望は、蠢く眼を全身に浮かび上がらせ、この上なく不快な笑い声を響かせた。

それに応えるかのように、全身の眼がうぞうぞと身体を這い回り、歓喜と狂気の血涙を流す。
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 01:05:06.48 ID:uyYIQu6tO

「やっと、相見えることが出来る」

「我と我等の半身でありながら相対する者。我と我等と共に生まれし者」

「希望よ」


その言葉は此処ではない場所へ、視線は天井や地上より遥か高い場所へと向けられている。

勇者が絶望の存在を感じるように、絶望もまた勇者の存在を強く感じている。


「希望よ。見ているのだろう?」

「この舞台。世界の上で、どちらかが朽ちるまで存分に斬り結ぼうではないか」

「父と子として、無明の底の混沌より生まれた出た一つとして……」

「我が半身、兄弟よ。遂に、遂に、この時が来たのだ」


絶望は愛おしげに腕を広げ、囁いた。

赤い眼に埋め尽くされた腕が更に大量の血涙を流し、瞬く間に床一面を赤黒く染め上げた。

流れ出た血涙は、時を戻したかのように襤褸を着た男の足下へと収束していく。
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 01:10:04.28 ID:uyYIQu6tO

「待っていよ。希望よ、もう暫し待て」

「今に行く。今に行くぞ」

「お前にとっての絶望を携えて、お前を絶望に貶める為に。待っていよ、待っていよ」

「我と我等よ。血の雨じゃ、血の雨を降らせ」

「さあ、さあ、雪原を赤染にせよ。一度きりの舞台じゃ、派手なくらいが丁度よいであろう?」

「月明かりに照らされた真紅が如何様なものか、奴めに見せてくれよう」

「斯様なまでに美しく散る赤があるのかと、奴めに教えてくれようぞ」

「一度きりの戦。血染めの赤で彩り、世も歴史も塗り潰し、死の上に死を築け」

「地上も地下も同様に、常世も現世も同様に、我と我等に染め上げようぞ」


男とも女とも言えぬ異様な声を発しながら、自身の作った血溜まりにずぶずぶと沈んでいく。
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 01:12:28.26 ID:uyYIQu6tO

自身を脅かす唯一の敵。勇者。

彼の最愛の母と最愛の女性を手中に収め沈み込んでいく、襤褸を着た男は肩を震わせて笑った。


「法も徳も失われた世で、真に望まれているのはどちらなのか、世に問おうではないか」


粘り着くような声だけが響き渡り、襤褸を着た男は姿を消した。

しかし、影があった。

何者も存在しないはずの部屋に、底の見えぬ穴のような、光すら呑み込む影だけがある。

それは次第に広がり、舐めるように床を溶かし、部屋の中央に穴を空けた。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/06(火) 01:18:57.72 ID:uyYIQu6tO

底からは、微かに音が聞こえる。

何かの呻きのような唸りのような、獰猛な何かが押し寄せる気配が、徐々に迫ってくる。

穴が不気味に伸縮を繰り返す。

まるで呼吸しているかのように、何かを吐き出すように、脈動している。

そして、穴の伸縮と連動するように、次第に呻きと唸りが大きくなる。

穴が一段と大きく息を吐いた時、それに押し上げられるように現れた鉤爪が縁を掴んだ。

一つ、また一つ。

闇の底から湧き出した灰色が姿を現し、地下施設へと駆け出した。

生かす為に作られた避難所は、絶望の手によって無慈悲な処刑場へと姿を変えた。

最早、彼等に逃げ場はない。

行き場をなくした彼等彼女等に、為す術はない。

阿鼻叫喚の地獄へと変わるのに時間は掛からない。宣言通り、皆等しく死ぬ。

人間も、魔神族も、決して逃れることは出来ない。

絶望は絶望であることをまっとうし、与えるべきを与え、姿を消したのだ。
157 : ◆4RMqv2eks3Tg [saga]:2016/12/06(火) 01:22:44.24 ID:uyYIQu6tO
今日はここまで
レスありがとうございます。読んでる方、ありがとうございます。
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/07(水) 01:38:15.28 ID:ops8APYDO
159 : ◆4RMqv2eks3Tg [saga]:2016/12/11(日) 00:25:08.55 ID:qKo0UXK4O

>>>>>>>

「邪魔だ」

大柄な男は眼前の獣(オーク)に臆することなく特攻し、壊れた鉄柵を突き刺した。

あまりの剣幕に気圧されたのか、オークの反応が僅かに遅れ、鉄柵の尖端が頭蓋を貫く。

男は刺した勢いそのままに押し倒すと、オークが手にしていた斧を奪い取り再び駆け出した。

貫かれた頭蓋の裂け目からは脳と血液の入り混ったどろりとした赤黒い液体が噴き出ている。

魔神族は魔核を破壊しないかぎり死ぬことはないが、脳を破壊したとなれば起き上がるまでにかなりの時間を要するだろう。

現に、オークは四肢をばたばたと激しく痙攣させるばかりで起き上がる気配はない。
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/11(日) 00:26:56.02 ID:qKo0UXK4O

(それほど硬いわけでもない)

(一匹なら問題はないだろうが、囲まれれば為す術はないな)

大柄な男。酒場の店主に怖れはなかった。

先程見せた躊躇いのなさ、武器を奪う冷静さは、戦場に慣れていることを証明している。

斧を抱え腰を落とし、やや前傾で走る姿は兵士のそれに違いなかった。

息切れした様子もなく曲がり角に着くと、壁面にぴたりと身を寄せ大通りの様子を窺う。


(どこもかしこも化け物だらけだ。裏道を使うのは得策とは言えんな)


壁面から身を剥がし大通りに出ると、そこは既にオークで埋め尽くされていた。

道を引き返し路地裏から進もうかとも考えたが、狭い路地で複数に囲まれれば終わりだ。

幸いにも。と言っていいのかは分からないが、オークは手にした獲物の破壊に夢中だ。

こちらに気付いている様子もない。

このまま全力で走り抜ければ問題はないだろう。
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/11(日) 00:31:08.07 ID:qKo0UXK4O


(……すまん)

今まさに殺害されようとしている若い男に謝罪の視線を向け、大通りを走り抜ける。

背後から聞こえていた悲鳴は絶叫へと変わり、それから一瞬の静寂が訪れる。

しかしその静寂も新たな絶叫に塗り潰され、切り刻まれた死体から滴る血が積もった雪を染め上げた。


(まるで血の川だな)


靴底が地面を叩くたびに水溜まりに足を突っ込んだような感覚があった。

僅かにぬめりを帯びたそれは徐々に浸透し、ものの数秒で靴の中を満たした。

ぬめぬめとした液体が踵から指先まで舐め尽くすような感覚に堪らず顔を顰める。

靴を脱ぎ捨てたくなる衝動に駆られたが、そんなことをしている時間はない。
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/11(日) 00:37:43.24 ID:qKo0UXK4O

(右を見ても左を見ても、あるのは死だけだ)

今、目にしている景色。置き去りにした景色。

そのすべてが、灰色の獣が生み出した大量の死によって彩られている。

残酷で凄惨な現実を照らし出す月の輝きが、酷く毒々しいものに感じられた。


(地獄)


それ以外に適当な表現は見当たらなかった。

耳に入るのは悲鳴と絶叫。

目に映るのは無差別に殺されていく獲物の姿。

中には走り去る自分に呪詛を吐き捨てる者もいた。助けを求める者もいた。

嫌が応にも目と耳に入るそれに思うところはあったが、無視するほかになかった。
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/11(日) 00:41:57.02 ID:qKo0UXK4O

助ける命は一つだけと、とうに決めていた。

この命を差し出しても助け出すと決めた女がいる。

彼女さえ救えたら、この身がどうなろうと構わない。

その後であれば、あの灰色の化け物に何をされようと構わない。


「見捨てるつもりか糞野郎ッ!畜生!地獄へ落ちやがれ!!」

「待って!助けてッ!この人でなし!!」

「頼む!行かないでくれ!助けてくれッ!!」


背中に数多の呪いの言葉を浴びせられながら、目的地に向かって走り続ける。


(皆、すまん。俺は後から逝く。そこが地獄だろうが喜んで逝く)

(ただ、もう少しだけ待ってくれ。俺には、やらなければならないことがある)


心中でそう呟きながら、彼は走り続けた。
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/11(日) 00:57:59.47 ID:qKo0UXK4O

>>>>>>

「何で陣を連動式にしなかったんすか!? そうすれば東西北すべてが転移出来たのに!!」

倒壊した家屋を遮蔽物にして寄り掛かりながら、部下とおぼしき若者が上官に噛み付いている。

上官もまた若者であったが、顔付きや所作はまるで違っていた。

背後に控える部下たちは、どれも彼より年配だが、彼の指示に忠実に従っている。

理由は単純なものだ。

彼は西部崩壊を生き延び、盗賊と特別部隊と共に降霊術師を倒した一人。

年齢の差を埋める場数と経験。そして隊を率いるだけの実力が備わっている。

当初は運の良い小僧としか思われておらず反発もあったが、彼は実力で黙らせた。

過去。対異形種特別部隊を率いていた自分の上官がそうしたように。


「連動式にしたら、どれか一つでも破壊された場合、すべて機能停止するからだろ」


部下の疑問を軽くいなすと、遮蔽物から顔の上半分だけを出し目標を捕捉。素早く銃を構える。

彼は落ち着き払った様子で遠方に見えるオークの左胸部を撃ち抜く。

すると、オークは文字通り消滅した。
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/11(日) 01:00:09.08 ID:qKo0UXK4O

対異形種用元素弾。

異形種出現直後に西部軍兵器開発部で発明されたこれは、今や全世界に普及している。

魔核に当たらずとも命中した部位を消し飛ばせるが、魔核に命中させれば消滅させることが可能である。

とは言え、動き回る的に命中させるのは容易なことではない。

左胸部。人間で言うところの心臓に位置するそれを撃ち抜くのは至難の業。

対異形種特別部隊に在籍していた彼だからこそ出来る芸当と言えるだろう。

「だからって、こんなのあんまりっすよ!!」

「何が」

「何がって、軍は東部にばかり戦力を割いてるじゃないっすか!!」

「魔導鎧の一機も寄越さない!! 死ねって言ってるようなもんですよ!!」

上官が掩体に身体を戻すやいなや、一息吐く間もなく部下が口を開いた。

背後で弾薬を込めている兵士が、彼の背中を呆れた様子で見つめている。
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/11(日) 01:09:13.06 ID:qKo0UXK4O

「武器に頼るんじゃない」

「お前のような奴が魔導鎧を着用しても、錯乱して暴れるのがオチだ」

「並の精神力じゃ、あれを使い熟すのは無理だ。大尉…司令官だからこそ扱えるんだ」

諭すように言って聞かせるが、部下の不満が解消された様子はない。

「はっ、流石は司令官直属の部下っすね。やっぱり言うことが違ーー」

と、すべてを言い終える前に、部下の頭が弾け飛んだ。

おそらくは近付けずにいるオークが苦し紛れに投げた瓦礫が運悪く命中したのだろう。

「……立ち上がる奴があるか」

不運と言えば不運だが、戦場において身体を晒すことの方が不用心と言える。

辺り構わず飛び散った血飛沫が、隊の何名かを血に染める。

錯乱したり嘔吐く者は一人もおらず、背後にいる部下が装填した狙撃銃を手渡した。
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/11(日) 01:18:27.85 ID:qKo0UXK4O

「装填完了しました」

「分かってる」

差し出された狙撃銃を奪い取るように手にすると、再び瓦礫を投げようとしているオークを捕捉。

照準が定まると同時、瓦礫を振りかぶったオークと視線がぶつかった。


「笑うな化け物。二度も通じるかよ」


明確な怒りを滲ませた声と共に、彼は引き金を引いた。

撃ち出された弾丸は左胸部を撃ち抜き、跡形もなく消し飛ばした。

支えを失い宙に浮いていた瓦礫が地面に落ち、鈍い音を立てて転がる。


(……死ぬなよ。死んだら、何も言えないだろ)


二度と喋ることのなくなった喧しい部下に哀しげな視線を送り一呼吸吐くと、隊に声を掛けた。


「此処一帯の異形種は殲滅した」
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/11(日) 01:33:22.44 ID:qKo0UXK4O

「現在、別動隊とは一切連絡が取れない」

「転声符に異常があるのではなく、あの声の直後から何かが妨害しているらしい」

「各部隊に命じられた通り、人命の救助と生存者の発見及び保護が最優先だ」

「……俺の上官は、部下に死なれるのが大嫌いな人だ。俺も、部下に死なれるのは大嫌いだ」

俯きかけた時、一際大柄で貫禄ある部下が肩を掴んで揺さぶった。

びくっとして顔を上げると、周囲の部下達が子を案ずるような目で見ている。

事実。親子ほどにも年齢が離れている者もいる。肩を掴んでいる部下も、その一人だ。

その彼が、重々しく口を開いた。

「隊長、命令は以上か」

ぶっきらぼうな台詞に皆が微笑んだ。彼なりの、精一杯の気遣いなのだろう。


「命令は以上だ。了解か」

「はっ、了解しました!!」


上官として彼らの上に立つ以上、情けない姿は見せられない。

部下であった青年は隊長として部下を率い、任を果たすべく走りだした。
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/12/11(日) 01:38:04.87 ID:qKo0UXK4O
短いけど今日はここまで
ありがとうございます
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/13(火) 08:52:56.01 ID:BBEzYxthO
もう書かなくていいよ
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/13(火) 09:00:08.60 ID:m1+6gdIgO
乙です‼
辛い展開が続いてるもんな...
救いを早く!
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/13(火) 10:12:17.20 ID:ygNsPIDyo
>>170
もう来なくていいよ
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/14(水) 03:13:14.15 ID:JOruLizDO
>>170
もう息しなくていいよ
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 01:27:08.66 ID:NG5ps7hHO

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娼館主「店主って何者なのかしら」

道化師「さあ、ボクに訊かれても分からないよ。大方、元軍人か何かじゃないの」

娼館主「そう言われるとそんな気もするわね。でも、こんな地下通路があるなんて……」

娼館主「都には長いこと住んでるけど、地下にこんなものがあるなんて知らなかった」

道化師「そりゃそうだろうさ。一般人に見つかる程度じゃ隠し通路なんて言えない」

二人は旧西部軍地下通路を進んでいた。

地下通路に光源はなく、入り組んだ道が蜘蛛の巣のように広がっている。

いつ作られたかは不明だが、ところどころ朽ちてることから相当の年月が経っているのは確かだろう。

浸透した雨水などが天井から滴り落ち、あちこちに水溜まりを作っている。
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 01:29:11.45 ID:NG5ps7hHO

「うっ…」

「っ、酷い臭いだ」

生活排水なども含まれているらしく、むっとした異臭が鼻を突く。

娼館主が袖口で鼻を抑えながら、灯りを持つ道化師の背中を急かすようにつついた。

「分かってるよ。ボクだってこんな臭いはゴメンだ。さっさと行こう」

先導する道化師が手にしているのは元素街灯。箱状の点灯部位。

オークによって薙ぎ倒されたであろう元素街灯から取り外したものである。

持ち手がないため剥き出しになっていた針金を使って吊るしているが、とにかく熱い。

そもそも持ち歩くために作られた物ではないし、とてもじゃないが素手では持てそうになかった。

限界まで針金を伸ばし、持ち手に上着の袖を破いて巻き付けることで何とか持つことが出来た。

街灯の熱はかなりのものらしく、真冬にも拘わらず道化師の頬には大粒の汗が伝っている。
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 01:31:33.44 ID:NG5ps7hHO

(暑さより臭いだ)

(この臭いを長時間嗅いでいたら確実に身体がおかしくなる)

道化師は咳き込む娼館主の手を引き、足早に歩き出した。

走ったところで呼吸が荒くなれば咽がやられかねない。慎重に進むべきだと判断したのだろう。

(気持ち悪くなってきた。急がないとマズい。彼女の顔色も悪くなってる)

娼館主は今にも膝を突きそうだったが、気遣う道化師に対して首を振り「大丈夫」とだけ呟いた。

しかし、一歩一歩が確実に遅くなっている。その言葉が強がりであるのは明白だった。

この短時間で酷く痩せこけたようにも見える。このままでは倒れるのも時間の問題だろう。

道化師は一旦手を離し、顔面蒼白となった彼女の脇を抱え、半ば引き摺るようにして道を進む。

申し訳なさそうに上目で見つめる彼女に「気にしなくていい」とだけ言い、先へ進んだ。
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 01:32:53.56 ID:NG5ps7hHO

(しっかりしろ。この人を守れるのはボクしかいないんだ)

吐き気を堪え、何とか彼女を支える。

姉の友人であり居場所をくれた恩人でもある彼女には、盗賊以上に特別な思いがあった。

姉を知る数少ない人物であり、自分を殺人犯だと知りながら普通に接してくれる奇特な一般人。

自分とは違い、彼女は常識の中で生きる人間だ。にも拘わらず、普通に接してくれる。

勿論友人の妹だからというのもあるだろうが、それでも、その優しさに救われた。

当初は鬱陶しいと感じていた優しさも、今や心地良いとさえ感じている自分がいる。
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 01:34:41.64 ID:NG5ps7hHO

あの事件から四ヶ月あまり。

共に過ごす内に、彼女に姉の面影を見ているのかもしれない。

(……助けたい理由なんてどうでもいいさ。失いたくないという思いに変わりはないんだ)

とうとう歩くこともままらなくなった彼女を背負い、街灯の持ち手を咥えて歩き出す。

放熱によって大量の水分を失い、更には吐き気や目まいによって何度も立ち止まりそうになったが歩みを止めることはなかった。

(臭いが治まってきた。もう少しだ)

店主によれば、降りて暫くは一本道が続くと言っていた。その言葉通り、これまでは一本道。

悪臭が治まってきたということは、この先に分岐路があるはずだ。

耳許で「ごめんね」と呟く彼女を励ましながら、道化師は歩き続けた。
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 01:35:30.86 ID:NG5ps7hHO

>>>>>>>

(何とか、悪臭地帯は抜けたな)

しつこく付きまとう悪臭をようやく振り切り、地べたに座り込んでから数十分が経った。

呼吸も整い、吐き気も治まりつつある。娼館主の顔色も幾分良くなっている。

だが、いつまでも休んでいるわけにはいかない。

地上で何が起きているかは分からないが、大きな地響が連続している。

それは地下にまで影響し、ひび割れた天井からはぱらぱらと構造材の破片が落ちてくる。

(最悪、崩落の可能性もある。早く地下通路を抜けないと)

頭の破片を払いながら、奥にある分岐路を見る。

道は始まったばかりだ。問題はこの先だと考えていた矢先、娼館主が不安げに口を開いた。
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 01:36:06.04 ID:NG5ps7hHO

娼館主「あの人、治癒師を助けに行くなんて言ってたけど大丈夫かしら」

道化師「きっと大丈夫さ。そう易々とやられるような人じゃない」

娼館主「あのねぇ、戦闘の素人であろう使用人に易々と刺されたから心配してるの。分かる?」

道化師「あれは予め店内に隠れるように言ってあったのと、不安になったら飲めと言って渡した興奮剤があったから成功したんだよ」

娼館主「興奮剤?」

道化師「そう。痛みを和らげ戦意向上させるのさ。どんなに臆病な奴でも凶暴になる」

道化師「素人である使用人が店主襲撃に成功したのは、あれがあったからだよ」

道化師「薬が効いている状態なら睾丸を踏み潰されようと平気だ。何度か試したから間違いない」

娼館主「(高度な知識は一歩間違えれば凶悪な武器になる。お偉い学者先生の言葉だったっけ)」

娼館主「(この子の場合、七歩くらい間違えてる気がするけど…どうやって作ってるんだろう)」

道化師「まぁ、手酷くやれていたから効能が切れた後は酷い有り様だったけどね」
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 01:37:30.44 ID:NG5ps7hHO

娼館主「……彼、どうなったの?」

道化師「死んだよ」

道化師「おそらくは店主によって既に殺されていたんだろうけど、薬がそうさせなかったんだと思う」

道化師「まあ、最初から身代わりにするつもりだったから手間が省けてよかったよ」

娼館主「(人の生き死にをさらっと言うところ、西部に来たばかりの盗賊にそっくりね)」

娼館主「(この子も変われるといいけど…)」

道化師「さあ、早く先に進もう。あの化け物が地下に現れないとは限らないんだ」

娼館主「……ええ、そうね」
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 01:38:59.65 ID:NG5ps7hHO

『よく聞け。分岐する道には必ず紋章がある。紋章がある方向に進めば目的地へ辿り着く』

『紋章は地面や壁、柱や天井などに刻まれているらしい。注意深く観察しろ』

店主は事前に地下通路の存在を知らされていたのだろう。

娼館主には情報元が容易に想像出来た。

それは、東西軍部に入った今でも店主と交流のある情報屋。

あれから直接顔を合わせたことはなかったが、近頃は頻繁に手紙が届いていたようだった。

何度も見返していたのは、都にある地下通路入り口を把握する為だったのだろう。

あれだけの混乱の中で迷うことなく入り口に案内出来たのは、記憶していたからに違いない。

(ありがとう、店主。どうか無事で……)

「見なよ。ご丁寧に北、北西、北東、西、東の五つに道が分かれてる。これは面倒そうだ」

「ええ、地道に探すしかないみたいね」

早速分岐に差し掛かった二人は、店主の言葉通り紋章を探した。
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 01:39:47.84 ID:NG5ps7hHO

だが、中々見付からない。

この状況下。オークがいなくとも地上で見た光景は頭から離れない。

光の届かぬ向こう側には闇がある。

この地下通路には闇が迫ってくるような、言い知れぬ気味悪さがあった。

体力気力の消耗も激しい。

そして、いつ来るとも分からないオークの恐怖。焦りが増すのも仕方がないことだった。

「……あった。こっちよ」

東側の柱の下に小さく彫り込まれていた紋章をようやく見つけ、二人は再び歩き出した。

その後も何度か分岐に差し掛かったが、根気強く紋章を探し、正しい道を進んでいく。

間違いはない。確かに先に進んでいる。ただ、一つ不安があった。
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 01:41:41.66 ID:NG5ps7hHO

果てなく続くかに思える地下迷路。

この先にある目的地とは一体何処なのか、二人はそれを知らない。

店主はそれを告げる前に蓋を閉めてしまった。おそらく近辺にオークが現れたのだろう。

蓋を閉じた直後に何か叫んでいたようだったが、二人ともに聴き取ることは叶わなかった。

だが、進む他に道はない。

「……行こう」

と言って手を取ろうとした瞬間、何処からか声が聞こえた。

「早くしなさいよ。いつまで待たせるつもり」

声の主は女だった。かなり苛ついているのか、声を荒げている。

その女に対して、男性数名の「申し訳ありません」と繰り返し謝る声が聞こえた。

はきはきとした発声、装備品のがちゃがちゃとする音。おそらく兵士だ。

女の正体は分からないが、警護されているとすれば要人なのだろう。

姿は見えないが声は近い。彼等と合流出来れば目的地が何処かも判明するはずだ。

二人は顔を見合わせて示し合わせたように頷くと、声のする方向へと歩き出した。
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 01:54:32.53 ID:NG5ps7hHO

>>>>>>>

(一体何が…)

彼女、治癒師は、重篤患者用の病室の片隅に身を潜めていた。

医療所は破壊し尽くされており、最早彼女以外に生きている人間はいない。

雪崩れ込んできたオーク達が瞬きの間に医師と入院患者の命を奪ったのだ。

仮眠中だった彼女が破壊音で目を覚ました時には既に逃げ場はなかった。

数名の医師が元素を浴びせ数体のオークを葬ったのを目にしたが、彼等も殺されてしまった。

咄嗟に逃げ込んだこの病室の患者も既に息絶えていた。

四肢を切断された挙げ句、胴を寸断されて。

あちこちに切断された四肢が散乱しているが、右腕だけはどこを見ても見つからなった。
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 01:55:23.44 ID:NG5ps7hHO

(お婆さんまで……)

この病室にいたのは、もうじき退院予定の老婆だったことを思い出す。

確か、背骨を痛めて入院したはすだ。

柔和な笑みが特徴的で、「いつもありがとう」と言って何度か菓子を手渡されたことがある。

患者でありながら医師を気遣う心優しい女性。

男性しかいない職場の中で、彼女の存在はとても大きかった。

ただでさえ肩身が狭かったというのに、新薬の開発以後は更に風当たりが強くなった。

露骨に嫉妬する者もいれば、明らかな敵意を持って接する者さえいた。

傷や病を癒す立場にありながら、彼等は新薬を出世の道具としてしか見ていなかったのだ。

そんな彼らに辟易し、医師の在り方に悩んでいる時だった。
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 01:56:41.20 ID:NG5ps7hHO

『あなたの患者になれて良かったわ』

『きっとこれからは、先生のような女性がどんどん増えていくのでしょうね』

『私、あなたを見ているだけで元気が出てくるのよ。何だか憧れていた女性を見ているようで…』

『女は弱くて従順だなんて時代はもうじき終わる。旦那に尽くすだけなんてつまらないじゃない?』

『先生のような強い女性が羨ましいわ……』

頭をがつんと殴られたような、頬を張られたような感覚だった。

あの時、彼女の言葉がなければどうなっていただろう。

ひょっとすると、医師を辞めていたかもしれない。

本来であれば医師である自分が患者を救うはずなのに、患者である彼女に救われた。

だからこそ、彼女が近々退院すると聞いた時は快方を喜ぶ反面、寂しさを感じたものだ。

もうじき孫に会えると大喜びしていた姿も記憶に新しい。
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 01:58:15.76 ID:NG5ps7hHO

もうすぐ。

本当にもうすぐだった。

(こんなことが、あっていいのか)

なのに、彼女の命は灰色の化け物によって奪われてしまった。

如何なる術を用いても、死者を蘇らせることは叶わない。

遺体も、生前の形に戻すことすら出来ない程にずたずたに切り刻まれている。

怒りと恐怖で身体が震える。

無意識の内に握り締めていた拳の隙間から、うっすらと血が滲んだ。
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 02:00:21.11 ID:NG5ps7hHO

(惨い、惨すぎる……)

遺体は寝たままの状態だ。きっと何の抵抗も出来ないまま殺されたのだ。

抵抗したとしても敵うはずはない。奴等は、こんな弱者さえも殺すというのか。

いや、きっと動けようが動けまいが関係ない。命あるものすべてが殺害対象なのだ。

あの化け物共は兵士も患者も区別なく、生きていれば誰であろうが殺すだろう。

殺すために生き、殺しを愉しむ生物。彼女の亡骸を見て、治癒師は確信した。

「いた 雌一匹いた」

背筋を這うような声に脈が跳ね上がる。

照明も破壊されているため顔は見えないが、嗤っているに違いない。

全体像より先に見えたのは鋸だった。べとついた赤が山なりの突起を伝っている。

鋸から滴る血が床に落ちたが染める余白はない。彼女の血が、既に床一面を染め上げている。
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 02:02:31.90 ID:NG5ps7hHO

「雌の肉 柔らかい」

その言葉を聞いた瞬間、散乱した四肢に右腕がないことを思い出した。

そして、理解した。

(喰らったのか)

こいつが、この化け物が鋸で彼女を切り刻み喰らったのだ。

どうしようもない怒りが湧き上がる。この化け物だけは必ず殺す。

殺人殺害など、医師としてあるまじき行為だ。

それ以前に、人としてあるまじき行為であることは承知している。

相手が化け物だとしても法が適応されるなら、これから行うことは許されざる罪だろう。

正当防衛は適応されるだろうか。

などと考えている内に、化け物はすぐそこに迫っていた。

窓から射し込む月明かりが灰色の化け物を照らし出す。
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 02:05:30.10 ID:NG5ps7hHO

獲物を前にぎらつく瞳。

ぞろりと並ぶ黄ばんだ歯は、鑢で研いだように尖っている。

化け物は頬を引き攣らせ、手にした鋸をゆっくりと持ち上げた。

その姿を見て怖れは増したが、怒りが収まることはなかった。

「楽に死ねると思うな」

自分の声とは思えぬほど冷たい声に一瞬驚いたが、彼女の覚悟が揺らぐことはない。

彼女はオークを睨みつけ、固く握った拳を開くと血に染まった床に思い切り叩き付けた。

油断しきっているオークの足下、重篤患者用の陣を最大出力で展開する為に。

見る間に輝きを増すそれに危険を感じたのか、慌てて鋸を振り下ろそうとするも間に合わない。

血によって完全に隠れた重篤患者用元素供給陣が起動し、床から昇った稲妻の如き元素が貫いた。

天井と床の間に吊されたような状態で、オークは声なき絶叫を繰り返す。
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 02:10:46.81 ID:NG5ps7hHO

(これでも死なないというのか)

(とうに元素供給量の限界を超えているのに…)

更に出力を上げるべく、暴走する元素供給陣に再び手を触れる。

灼けるような痛みが走るが構わない。

自分の肉の焦げる臭いに顔を顰めながら、陣の供給出力を上げる。

しかし、陣自体が耐えきれなくなったのか稲妻は虚しく掻き消えた。

解放されたオークはのろのろと立ち上がり、虚ろな目で再び鋸を振りかざす。

何度も陣に手を触れるが起動する気配はない。

(駄目だ、起動しない)

(もう、打つ手がない。お婆さん、ごめんなさい……)

諦めかけたその時、ひび割れた陣から紫がかった稲妻がどっと噴き上げた。

その威力は先程の比ではなかった。

ごわついた体毛は忽ち燃え上がり、剥き出しの皮膚に亀裂が走る。

体毛と同じ灰色の肉は稲妻の中でべりべりと剥がされ、空中で塵と化していく。

白目を剥いた眼球は眼窩から飛び出して尚も膨らみ続け、遂には爆ぜた。 
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 02:12:44.38 ID:NG5ps7hHO

「消えろ。跡形もなく、消えてしまえ」

それでも稲妻は止まない。

怒りに震え涙を流す彼女の手が元素供給陣から離れる気配はない。

死して尚も昇る稲妻は、歪な骨格すらも粉々に分解したところで、ようやく止んだ。

「ッ、あぐっ…」

だが、彼女も無事ではなかった。

許容量を越えた元素は、オークだけでなく彼女自身をも傷付けていた。

肘から先の肉が縦に裂け、手の平の肉は殆ど残っておらず失血も酷い。

剥き出しになった骨の隙間には、残留した紫の稲妻が奔っていた。

まるで蛇か何かのように生き生きとしており、指先に絡み付いて離れない。

指先から手の平へ、手の平から肘先へ、主の傷を舐めるように凄まじい速度で移動を繰り返している。
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 02:15:10.67 ID:NG5ps7hHO

(これは、一体…)

朦朧とする意識の中で呆気に取られて観察していると、徐々に傷が癒えているのが分かった。

腕の裂傷は塞がり、骨が剥き出しだった掌には新たな肉が盛り上がっている。

あれだけ失血にも拘わらず、朦朧としていた意識も次第にはっきりとしてきた。

(この紫の稲妻、雷が傷を治している? まさか、そんな事例は聞いたことがない)

(元素は四つ。雷なんて発現するはずがない。しかも傷が治癒するなんて……)

(医療用の陣と元素の暴走。偶然、何らかの魔術を行使してしまったのでしょうか)

(……こんなことを考えている場合ではありませんね。他がどうなっているのか確かめないと)

ふらつきながらも何とか立ち上がり、壁に身体を預けてゆっくりと歩き出す。

慎重に進むが、医療所はすっかり静まり返っており化け物の気配もない。

まだ霞む目で辺りを見渡すが、やはり化け物の姿はない。

どうやら先程の一体で最後だったようだ。
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 02:18:02.58 ID:NG5ps7hHO

(おそらく外にもあの化け物がいる)

(しかし、このまま医療所にいても仕方がないですね。怪我人がいるなら助けないと)

意を決して出入口へ向かうと、やはりオークが徘徊していた。

生者の匂いを嗅ぎ付けたのか、出入口付近のオークがしきり辺りを見渡している。

咄嗟に身を隠そうとしたが失血の影響で足がもつれ、その場に倒れてしまった。

体勢を立て直した時には、既に此方に向かって走り出していた。

鈍重な見た目とは裏腹に脚は速い。

振り向いて逃げる暇などない、彼女は本能的に後ろへ飛び退いた。

瞬間。何かが鼻先を掠め、前髪がはらはらと舞う。

尻もちを突きながら前を見ると、振り下ろされた棍棒が床を抉っていた。

先程のオークは不意を突いたから何とかなったものの、今は為す術がない。

手当たり次第に床に散乱した物を投げ付けるが、そんなもので止まるはずもなかった。
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 02:22:11.27 ID:NG5ps7hHO

だが、止まった。

何故だか分からないが、ごぼごぼと泡だった血を吐きながらゆっくりと倒れる。

それと同時に、オークの背後にいた人物の姿が露わになった。

姿を現したのは斧を持った大柄の男。嘗ての患者であり、彼女の思い人。

「無事か」

「……何で、あなたがここに」

「話している時間はない。立てるか」

「その、腰が抜けてしまって。申し訳ありませんが、手を貸して頂けませんか……」

夢ではないかとも思ったが、差し出された手には確かな体温があった。

ぐいっと手を引かれ立ち上がると、彼はすぐに背を向け出入口へ向かって歩き出した。

その背中を頼もしく感じながら、同時に頬が熱くなるのを感じた。

握られた手には、まだ彼の体温が残っている。
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 02:26:22.29 ID:NG5ps7hHO

(どうして、私を助けに来てくれたんですか?)

(外にはあんな化け物が沢山いるのに、危険を犯してまで私を助けに来てくれたのは何故ですか?)

出来ることなら理由を訊きたかったが、そんな雰囲気ではない。

酒場での彼とは違い、張り詰めた空気を醸し出している。

「おい、何をしてる。来い」

「は、はいっ」

そんなことを考えている場合ではない。とにかく生き延びなければ始まらない。

何故助けてくれたのか。

それも、この夜を乗り越えてから訊けばいい。

彼女は緩んだ頬を張って大きく息を吸うと、彼の後に続いた。
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/16(金) 02:30:45.66 ID:NG5ps7hHO

「行くぞ」

「行くと言っても何処へ行ーー」

その問いは連続する銃声によって遮られた。

いつの間にやら、二十名ほどからなる部隊が医療所付近を固めていた。

隊長と思しき青年が、自分より年配の部下に的確な指示を出しながら周囲のオークを殲滅している。

脇を固める隊員の腕もさることながら、彼は一発の銃弾も無駄にすることなく左胸部のみを撃ち抜いている。

「店主さん、何してるんですか!早くこっちに来て下さい!!」

此処へ来るまでにも死線をくぐり抜けて来たのだろう。彼の顔付きは先程とはまるで違っていた。

「彼等は…」

「此処へ来る途中で合流した。魔術師が陣を起動するまでは奴等と行動を共にする」
199 : ◆4RMqv2eks3Tg [saga]:2016/12/16(金) 02:38:37.73 ID:NG5ps7hHO
今日はここまで
更新遅くて申し訳ないです。

こういう書き方には慣れてないから上手く伝わっているか分かりませんが、
会話と擬音だけだと伝わり辛いかと思って下手くそでもいいから書こうと思いました。

長々と申し訳ない。
もう少しで終わると思うのでよろしくお願いします。
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/16(金) 02:59:10.80 ID:i0bMngYDO
乙乙
やりたい様にやって下さい
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/16(金) 09:16:44.27 ID:01sL8yIyo
乙です‼
楽しみに待ってる
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:10:18.93 ID:vYhwAq/BO

>>>>>>>

「目的地は?」

「旧西部軍基地だ。そこに転移陣がある」

しんがりを務める長身痩躯の部隊員が疲労の色を隠すことなく溜め息交じりに囁いた。

彼によれば、地下通路へ降りる前に多数のオークと交戦したらしい。

何とか退けたようだが、地下通路への入り口へ到着する頃には部隊の半数以上が死亡。

当初は二十名以上いたらしいが、現在は六名。無論、生き残った彼等も無傷というわけではない。

肉体的なものだけはなく、仲間を失った喪失感と度重なる戦闘による疲労が精神を削っている。

だが、疲労の原因はそれだけではない。

道化師と娼館主は、その原因が何であるのかを言われずとも理解出来た。
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:11:32.08 ID:vYhwAq/BO

「まだ着かないの。いつまで歩かせるのよ」

その原因こそが彼女。背後で延々と文句を垂れ流している魔術師。

二人が部隊に合流した後も、彼女は休むことなく不平不満を口にしている。

これでも落ち着いた方で、合流した時など今の比ではなかった。

「要らぬ荷物を増やすな」だとか「私は責任取らない」だとか散々に喚き散らしたのだ。

頭に来たが言い返さなかった。いや、言い返すことは出来たのだがそうしなかった。

こんなに我が儘な女を守らねばならない彼等に対する同情心の方が大きかったからである。

自分達と合流するまでにも散々に言われていたのだろうと思い、下手な刺激を与えるのを避けた。
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:13:26.09 ID:vYhwAq/BO

「暑苦しいわね。少し離れなさいよ」

「っ、はい。申し訳ありません」

背後で彼女のお小言に付き合っている兵士が気の毒でならない。

転移陣起動を任されている魔術師だ。機嫌を損ねるわけにはいかないのだろう。

しかし、だからと言ってあそこまで下手に出る必要はあるのか。

彼女も彼女だ。

文字通り命を賭けて自分を警護してくれた彼等を使用人か何かと思っているのだろうか。

「もっと楽だと思ったから引き受けたのに、これじゃ話が違うわ」

背筋を伸ばし指先まで意識しているような立ち振る舞い、やけに板に付いた横柄な態度。
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:14:44.28 ID:vYhwAq/BO

「彼女、貴族の出なのしら」

「だとしたら他の貴族連中が不憫だね」

「あの女の所為で貴族全体が『あんなもの』だと思われるんだから」

背後に届かぬようにひそひそと会話していると、

横にいる兵士が「お願いだから、余計なことは喋らないでくれ」と目で訴えてきた。

疲れ果てた彼の顔を見て気の毒に感じたのか、二人は黙って頷き口を閉ざした。

背後から聞こえる雑音は止みそうにないが、一行は地下通路を進んでいく。

それから三つの分岐路を通過すると入り組んだ迷路は次第になりを潜めていき、遂には開けた一本道となった。
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:15:47.51 ID:vYhwAq/BO

「これで終わりよね。私、もう嫌よ」

「ボクもそう願いたいね。あんなことをするのは人生で一度で充分だ」

紋章を探し出す作業は苦痛だった。

何よりも苦痛だったのは、分岐路へ差し掛かるたびに魔術師の存在だ。

皆が集中して探し出そうと躍起になっているのに、彼女ときたら何もせず立ち尽くすだけ。

それだけならまだ良かったのだが、「さっさと見つけなさいよ」などと言い出すのだから堪らない。

これに苛立った娼館主が

「だったら突っ立ってないで、あんたも手伝いなさいよ」と怒鳴ったのだが……

「こんな汚い所で膝を突くなんて嫌よ。服が汚れるじゃない」

という、予想を遙かに超える言葉が返ってきた。
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:17:03.19 ID:vYhwAq/BO

精々が、「何で私が地べたを這って紋章探しなんてしなくてはならないの」

くらいだと思っていたのだが、彼女はある意味で想像以上だった。

この非常時にそんなことを口にするとは夢にも思わず、娼館主はすっかり閉口してしまった。

どうやら初めから『一緒に紋章を探す』という選択肢は存在しなかったらしい。

今にも爆発しそうだった怒りも、穴の空いた空気袋のように瞬く間に萎んでいった。

しかし当の本人はどこ吹く風。悪びれた様子など一切なく堂々たるものだった。

(何だか、思い出したら段々と腹が立ってきたわね)
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:18:39.37 ID:vYhwAq/BO

「風の音が強くなってきた」

「えっ?」

「ほら、聞こえるだろ。出口はもうすぐだ」

先程までの出来事を振り返り、怒りが再燃しかけていたところへ突然の朗報。

これまでの疲れが吹っ飛ぶとまではいかないが、強張っていた身体がほぐれて脚が軽くなるのを感じる。

頻発して起きている地響きも気掛かりだったが、外へ出れば崩落の恐怖からも解放されるだろう。

そう思うと、自然と歩みが速くなる。
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:21:39.92 ID:vYhwAq/BO

「あれは、梯子?」

一際強い灯りを放つ道化師の街灯が、赤く錆びた梯子の姿を照らし出す。

すると今まで兵士や自分達を盾にするように歩いていた魔術師が我先にと先頭を切って歩き出した。

(厚顔無恥というか何というか。ここまで来ると清々しいわね)

などと思っていた次の瞬間、前方右側の壁面ががらがらと崩れた。

幸いにも道が塞がるようなことはなかったが、その穴から現れたモノが安堵を掻き消した。

「ば、馬鹿な。奴等、穴を掘って追って来ていたというのか」

銃を構えて撃とうとするが、凄まじい速さで壁面を蹴りながら迫って来るため的を絞れない。
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/12/20(火) 00:26:58.92 ID:vYhwAq/BO

何より邪魔なのは魔術師の存在。

今まさに必死の形相で引き返している最中で、万が一彼女に当ててしまっては元も子もない。

魔術師に射線を阻まれ為す術がない兵士。オークは既に魔術師の背後に迫っている。

「くそっ、仕方ない。撃つぞ。しっかり狙え」

数発発砲するが、壁から壁へ飛び移るように移動している為に狙いが定まらない。

「伏せろ!!」

攻撃圏に魔術師が入った。兵士が魔術師に向かって叫ぶ。

(駄目だ、もう遅い。彼女は死ぬ)

誰もがそう思った。

しかし、オークは彼女を無視して此方に向かって来る。

何故かは分からないが、確実に仕留められたはずの彼女を追い越した。
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