他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
精神レイプ!概念と化した先輩
Check
Tweet
181 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/01(金) 22:46:50.90 ID:FD8bK7d+O
(´・ω・`)「わーい。博士が来たよ、休めるよ」
彡(゚)(゚)「ババアは話が長いから助かるわ」
宇野「黙りなさい軟弱者ども。それで、何の御用ですか?」
coat博士「ああ。概念体について、新たな説明と訂正をしにきた」
宇野「説明?」
coat博士「まぁ、訂正の意味合いの方が強いかな。以前話した、概念体の能力を決める計算式は覚えているか?」
彡(゚)(゚)「『ステータス』と、」
(´・ω・`)「『知名度』のかけ算、だったね」
coat博士「正解だ。だがその計算式にはもう少し、説明を付け加えるべき要素があった。分かりやすくする為に、説明には例え話を使おう」
coat博士「『ステータス』を器に、そして『知名度』を水に置き換えて考えてみてくれ。器が大きければ大きい程、水が入るスペースは増えるよな。しかしここで、肝心の水が少ししか無かったらどうなる?」
彡(゚)(゚)「まぁ、デカい器を用意した意味はないわな。水が少ししか無いなら、器もちっこいので十分や」
coat博士「正解だ。では今度は逆に、水はたくさんあるのに、器が小さかった場合を考えてみよう。小さい器に、このたくさんの水を注いだらどうなる?」
(´・ω・`)「器からはみ出て、こぼれちゃうだけだよ。せっかくのお水がもったいないね」
coat博士「正解だ。つまり器(ステータス)だけ大きくても、水(知名度)だけ多くても仕方が無い。両者がバランス良く伴っていなければ、力は十全に発揮出来ん」
182 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/01(金) 22:47:30.83 ID:FD8bK7d+O
宇野「......説明は分かりやすくなりましたが、言っている事は以前と何も変わってないですね」
coat博士「まぁ、まぁ。本題はこれからだ。......私は、君ら概念体のステータスを増やすことも、知名度を高めてやることも出来ん」
coat博士「だが、今ある器の形を変えたり、一部を削って、新たな小さい器を作ることなら出来る。全体に均等に配分された君らの能力を、ある一点に集中させる......つまり、武器を生み出すということだ」
彡(゚)(゚)「武器?」
(´・ω・`)「集中させる?」
coat博士「例を挙げよう。宇野くんの話によれば、KBSトリオの黒い奴......仮にSと呼ぼうか。Sは他のK、Bとほとんど同じスペックであったにも関わらず、右拳には驚異的な威力を感じたという」
coat博士「理由は単純で、ネット上にSがそういう能力を持っている、という概念が存在しているからだ。Sの能力の名前は『其為右手(イマジンブレイカー)』といって、あらゆる敵の異能を打ち破るらしい」
彡(゚)(゚)「イマジンブレイカーって......お前そりゃ、あれやないか」
coat博士「若者の間で人気のとあるライトノベルの能力らしいが、Sの淫夢ビデオ内での発言と似ている点があってな。それを面白がった淫夢民がでっち上げた、悪ふざけの産物だ」
183 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/01(金) 22:48:31.24 ID:FD8bK7d+O
coat博士「故に、『Sの右手には特別な力がある』という概念が生まれた。そしてSは、右手にのみ突出した力、すなわち武器を手に入れたというわけだ」
coat博士「お前らが遭遇したMURの、肉塊の群れを産む能力も、同じく淫夢民の悪ふざけの賜物だな。あれはMUR肉と呼ばれる、MURの体の様々な部位を繋ぎ合わせて出来た化物だ。その珍妙な姿がウケた為か、淫夢民の間では結構な知名度があるらしい」
coat博士「このように、敵にはその知名度に合わせた個性、武器が備わっている。一方こちらは、何の特性も持ち合わせていない、いわばプレーンの状態なわけだ」
彡(゚)(゚)「ゴチャゴチャ言われたが、ようはワイらをパワーアップさせよう、って話やろ?」
coat博士「目的と結果はその通りだが、これからするのは、厳密に言えば改造だな」
coat博士「お前の体が、仮に戦闘力600だとしよう。その戦闘力を頭部、胴体、両脚両腕の6つの部位に、100ずつ均等に振り分けた状態が今のお前だと考えてくれていい」
彡(゚)(゚)「ふむ」
coat博士「今のお前の全身はバランスが良く、どこを叩かれても、攻撃力99のダメージまでならいくらでも耐えられる」
coat博士「だが相手の攻撃力が200だった場合、お前はその攻撃を耐えることも、弾くことも出来ん。抵抗することもままならん」
(´・ω・`)「そんなの、それこそステータスが強いかどうかの話じゃない。僕らにはどうしようもないよ」
184 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/01(金) 22:49:18.75 ID:FD8bK7d+O
coat博士「だからこそ我々も、そのステータスに偏りをつくろうとしているのさ。私はお前らに更なる力を授けることは出来ん。だが今ある600の戦闘力を、Sのように右手に300、あとの残りを全身に振り分けることは可能だ」
彡(゚)(゚)「パワポケの野手のステータスがCCCCCなのよりも、AACEEの方が使い易くて楽しい、みたいな感じか?」
coat博士「そういうことだ。戦闘であれ、戦術であれ、戦略であれ、何事も突出した偏り(武器)があった方が有利だ、ということだ」
(´・ω・`)「そうと決まれば早速始めようよ!僕、早く強くなりたい!」
彡(゚)(゚)「せやせや! なんでもいいから早よう武器よこせ! なるだけカッコいいの!」
宇野「......まだ今日の訓練は終わっていませんよ?」
彡(゚)(゚)「そんなもん後回しに決まっとるやろ!」
coat博士「いや、改造はお前らが眠っている時に行わせてもらう。くたびれてとっとと眠ってもらった方が都合がいいので、むしろいつもより厳しくしてやってくれ」
宇野「了解です」
彡(゚)(゚)「ファッ!?」
(´・ω・`)「今日はもう終わりの流れだと思ったのに!」
coat博士「強くなりたいんだろう? なら鍛錬は怠るな。せっかく良い指導者がいるんだから、お前らはむしろもっと積極的に励め」
coat博士「何かを得るには代償が必要だ。その点、汗水垂らすだけで済む鍛錬は、強さを得る代償としては非常にリーズナブルだからな」
185 :
スレッドムーバー
★
:2016/07/03(日) 09:23:56.41 ID:???
このスレッドは一週間以内に次の板へ移動されます。
(移動後は自動的に移転先へジャンプします)
SS速報R
http://ex14.vip2ch.com/news4ssr/
詳しいワケは下記のスレッドを参照してください。。
■【重要】エロいSSは新天地に移転します
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1462456514/
■ SS速報R 移転作業所
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1463139262/
移動に不服などがある場合、
>>1
がトリップ記載の上、上記スレまでレスをください。
移転完了まで、スレは引き続き進行して問題ないです。
よろしくおねがいします。。
186 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/07/03(日) 14:34:57.70 ID:WYJCM0KFo
当たり前だよなあ?
187 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/03(日) 22:47:51.69 ID:Cedb29uZ0
感想、美味しゅうございました。
コメント、美味しゅうございました。
読者様 ネット民様 筆者は、もうすっかり追い出されてしまって書き込めません。
何卒、お許しください。
長らく書き込みを放置したり、ご迷惑おかけして申し訳ありません。
筆者は、読者様の蕎麦で暮らしとうございました。
188 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/07/10(日) 11:44:25.35 ID:lZGv9p2Do
えぇ……(困惑)
189 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/07/10(日) 18:09:41.94 ID:OvC6r+3no
書き込めてるよなあ?
今からでも書くんだよオラァン!
190 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 20:43:25.95 ID:SuOXDHYRO
夜。一通り訓練を終えた私達は、権田さんの車に乗り、coat博士の研究所へと向かった。
権田「皆様方には大変なご迷惑をおかけしたようで、申し訳ございません」
人間へと復帰した権田さんは、開口一番謝罪を口にした。
宇野「いえ、今回の件は私の落ち度です。権田さんが謝る必要はありません。......前の車も、私が壊してしまったんですから」
前の車が駄目になったのは、MURに追いかけられた時だ。肉塊共の二回の体当たりによって、前席左側と後部座席右側のドアに、大きな凹みが生じていた。また、車の屋根やバックドアにも小さな凹みが数個あり、側面には擦り傷やぶつけた後があちこちに付いていた。
権田「いえいえ、修理すれば充分治りますから、それこそお気になさらないでください」
彡(゚)(゚)「......ワイ、あの車気に入ってたんやけどな」
権田「すぐに修理して、またあの車で運転させていただきます。しばらくは、この車でご辛抱ください」
彡(゚)(゚)「......。.........そか」
なんJ民の権田さんへの態度は固い。訓練の疲れもあるのだろうが、性交渉を強要させられた相手、という負の情が根強いのだろう。
彡(゚)(゚)「まぁ、早うしてくれや」
しかしなんJ民が罵倒を口にすることは無かった。彼にも、権田さんに罪はないことが分かっているのだろうか。だとすると、感情のおもむくままに暴言を吐き散らしていた頃と比べれば、大した成長ぶりだ。
191 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 20:44:26.09 ID:SuOXDHYRO
宇野(私の指導のおかげかな)
成長に繋がる出来事に、特に心当たりは無い。ならばきっと、積み重ねた鍛錬が、彼の心を強くしたのだろう。それはつまり、私の手柄だということだ。感謝してほしい。
権田「そろそろ着きますよ」
(´・ω・`)「うー、久しぶりの我が家だー」
『私有地につき立ち入り禁止』と書かれた看板を越え、山道に入ってしばらくすると、三日ぶりに目にする研究所に到着した。
権田「私はここで待機しています。何か御用がございましたら、いつでもお申し付けください」
駐車場に一人残った権田を置いて、私達は建物の中に入る。
coat博士「こっちだ、ついて来い」
coat博士に促されるまま歩くと、連れてこられたのは地下室であった。
以前顔を出した時には見せてもらえなかったが、最先端技術の研究室というのには、実のところ少し興味があった。期待を胸に秘めながら階段を降り、室内を視界に納める。すると、
宇野「......はぁ?」
192 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 20:45:26.18 ID:SuOXDHYRO
眼前に広がった光景は、予想外のものだった。研究室は薄暗く、狭さを感じさせる。実際はかなり広々とした間取りなのだろうが、その四方を埋め尽くすように、旧時代の大型電算機や、使用意図の分からない何かの機械がズラリと並んでいて、スペースを圧迫していた。
ピコピコと音を鳴らしながら赤や青に点滅する、いかにも70年代のSF映画に登場しそうな謎の機械群は、いっそ見るものをバカにしているようにさえ思えた。
宇野「なんですか、この......イメージ通りというか、あまりにチープな施設は」
明らかに、現代の科学技術に即した部屋ではなかった。まさかこんな、電卓や8ビットが持て囃されていた時代の遺物で、概念体を生み出したとでも言うつもりなのだろうか。
coat博士「それっぽいだろ? ここは趣味で?き集めたアンティーク(時代遅れのコンピュータ)部屋でな。本当の実験室はこの更に奥の部屋だ」
宇野「何故、わざわざこんな部屋を?」
coat博士「本命の実験室のカモフラージュ......って意味もあるにはあるが、まぁただの私の趣味さ。特にすることが無い時は、実験室よりこっちの趣味部屋にいることの方が多いな」
coat博士「都市の機能としてはビル群の方が優れてはいても、観光地としては、昔の面影を残した場所の方が魅力的だろ? それと同じで、最先端の機材は研究に必須ではあるが、画一的で情緒が無いからな。休む時ぐらい、懐古主義のノスタルジーに囲まれていたいのさ、私は」
193 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 20:46:14.31 ID:SuOXDHYRO
彡(゚)(゚)「ワイらもたまに、ここでファミコンやらスペースインベーダーとかで遊んどるぞ」
(´・ω・`)「すること無さ過ぎる時だけにね。ここ、PSもwiiも置いてないから」
彡(゚)(゚)「ホンマは新しいゲーム機で遊びたいんやが、ババアが置いてくれへんのや」
coat博士「買いたきゃ自分で買え。最先端の現代機器なんぞ、私の趣味部屋に置いてたまるか。昔ながらの情緒や風情がぶち壊しになっちまうだろ」
宇野「......新技術を発明した科学者の言葉とは、とても思えませんね」
coat博士「趣味と仕事は別物なんでね。......それでは、今度は私の仕事部屋をお見せしようか」
そう言うと博士は、壁に貼り付けられた暗証キーに番号を入力し、下部の指紋認証に人差し指をかざした。すると、部屋の最奥部にあった本棚がズルズルと横に移動し、新たな部屋が姿を現した。
宇野「またこんな、ベタな仕掛けを......」
coat博士「そんな呆れた顔をするなよ。言っとくが、私の学会の知り合いの部屋は、皆これよりもっと個性的だぞ?」
宇野「あなたの学会にはアホしかいないんですか」
coat博士「ちゃんと成果を上げてきた奴らなんだがな......。まぁ、科学者に『なる』には物覚えの良い頭がなけりゃ話にならんが、そっから科学者が『成る』のには、独自性や遊び心を忘れん柔軟な頭が必要ってことさ」
194 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 20:47:23.00 ID:SuOXDHYRO
いいから早く入ってみてくれ、と促され、実験室に足を運ぶ。
実験室は、薄暗かった趣味部屋から打って変わり、屋上に散りばめられた電灯に白く照らされていた。手前には、大量の資料が積まれたデスクや、私には理解の及ばない何かの機械が置いてある。奥にはスパコンが幾数台と立ち並び、最先端の研究に相応しい意匠を誇っていた。
中でも目を惹くのが、研究室の中央にドンと構えた、二台の装置であった。
彡(゚)(゚)「ここに来るのも久しぶりやな」
(´・ω・`)「久しぶりというか、僕らが生まれた時と今日とで2度目だね、ここに来るのは」
宇野「生まれたというのは、やはりこの装置でですか?」
(´・ω・`)「うん。僕ら、気付いたらこの中に横たわってて、起きたら博士が目の前にいた」
彡(゚)(゚)「生まれた直後のことなんてボンヤリとしか覚えてないけどな」
縦3m、横と高さが幅1mのその装置は、私に棺桶を連想させた。装置に繋がる幾つものパイプが無ければ、私がこれを装置と分かる術も無かっただろう。
coat博士「お察しの通り、この二台の装置が『概念を実体化する技術』の要であり肝だ。こいつらはここで生まれ、ここで強化される」
彡(゚)(゚)「なんでもいいから早く寝かせてくれや」
coat博士「だったら早く装置の中に入れ」
(´・ω・`)「じゃあ早く外の電気消してよ。眩しくて眠れないよ」
coat博士「中に入れば気にならんから大丈夫だよ」
そう言われ、二人は装置の中に入っていく。
coat博士「......さて、これで後は、こいつらが寝るまで待つだけだ。宇野くんも今日は休んでくれていいぞ。寝泊まりは、二階のリビングに来客用の部屋があるから、そこを好きに使ってくれ。私の趣味ではあるが、映画もそこそこ揃ってる」
明日の朝になったら、また趣味部屋に来てくれ。その博士の言葉を最後に、今日の私の仕事は終わった。
195 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 20:48:16.97 ID:SuOXDHYRO
〜〜〜
夜が明ける少し前。しばしの眠りから覚めた私は、coat博士の実験室へと向かった。趣味部屋から声をかけると、中から操作したのだろう。本棚が移動し、私は再び実験室へと招き入れられた。
coat博士「早かったな。昨夜は、私の用意した映画は観ずに寝たのかい?」
宇野「いえ、『蠅男の恐怖』を視聴させていただきましたよ。展開が支離滅裂で良い映画とは言えませんが、名作です」
coat博士「......私のコレクションはSFがほとんどだが、君は数ある中から何故それを選んだんだ?」
宇野「なんででしょうね。ここの、薄暗い地下の研究室を見たせいかも知れません。タイトルを見たら無性に観たくなってしまいまして、おかげで寝不足です」
coat博士「そうか、別に急いで来る必要はなかったんだがな。まだこいつらも寝ているし」
宇野「それです。昨日は聞きそびれてしまいましたが、何故、彼らがわざわざ眠るのを待っていたんですか? 身体の改造には痛みが伴う、といった理由からですか?」
196 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 20:49:34.96 ID:SuOXDHYRO
coat博士「痛み、ではない。こいつらを気遣っているのはその通りだが、理由はより重大なものでな。ようは※スワンプマン......いや、どこでもドアの怖い話に近いな」
※スワンプマン(泥男)......同一性やアイデンティティーについて問う為の思考実験。
[ある日、一人で散歩をしていた男Aが、沼の側で落雷により死んだ。しかしこの時、落雷と沼の泥が奇跡的な化学反応を起こし、死んだ男Aと全く同一同質、同じ記憶を持つ泥男A'が生まれた。そして散歩から帰ってきたA'がAであると、職場の人間や家族は、疑うことさえ無く受け入れた。A'は明日も明後日も、Aとしての生活を続けていく。
しかし、A'は決してAでは無い。落雷によって死んだ本物のAの亡骸は、今も沼の傍らで横たわったままである]
宇野「どこでもドア......あの身体が分子レベルでバラバラになるって奴ですか」
coat博士「そうだ。どこでもドアで空間をくぐる際、のび太くんの体は、一度バラバラになった後で、記憶や肉体を行き先の空間にそっくりそのまま再構成されているのでは? という説だ」
coat博士「どこでもドアの話の肝は、スワンプマンと違い、元の人間が必ずしも死んでいるわけではない、という点だ。スワンプマンの場合、AからA'へという、死んだはずのAと全く同じ体格人格でありながら、その実全く別の人間であるという恐怖がある」
coat博士「ではどこでもドアの怖い話のどこに、人は恐怖は覚えるのかな?」
宇野「それは、まぁ、身体がバラバラになる点でしょう。のび太くんが無邪気な顔でそんな恐ろしい体験を、しかも知らず知らずの内に何度も味わっているのか、という不気味さもあります」
197 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 20:50:44.19 ID:SuOXDHYRO
coat博士「そうだな。しかし本人が死んでしまうスワンプマンと違って、どこでもドアの話は、本人が知らなければどうということは無い。私の作った『概念を実体化する技術』の装置も同様だ」
coat博士「どこでもドアも私の装置も、記憶の断続性や人格の同一性はクリアしている。しかし一度『自分は一度バラバラになった』と知ってしまえば、もう頭からこびりついて離れることはない。必ず『今の俺はバラバラになる前の俺と、本当に同じ人間なのか?』と、答えの無い思考にハマってしまう」
coat博士「すなわち、自我の危機が訪れてしまうんだ。こいつらをそんな危険に晒すわけにもいかんので、眠って意識が消えるまで待っていたわけだ。繰り返すが、知らなければどうということの無い話だからな」
宇野「バラバラになった彼らは、本当に記憶の断続性や人格の同一性はクリアしているんですか?」
ほ
coat博士「人間と違って、こいつらの意識の源流は、脳や肉体ではなくデータの中にある。今私がやっているのは、頭から脳みそ取り出して弄った後、元の頭にすっぽり収めるようなもんだ。まず間違いなく同じだよ」
それにしてもだ、と、博士は言葉を続ける。
coat博士「KBSトリオの存在と、MURの能力の話を聞いて、私は正直凹んだよ。KBSトリオ如きがいるということは、間違いなく他にも仲間がいる、ということだ。しかもSやMURの例からみて、向こうは能力の付与についてさほど苦労していないらしい」
coat博士「技術を作った私でさえ、生み出せた概念体は野獣を含めた3体だけだ。あちらは我々と比べて、随分と技術が進んでいるらしい」
198 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 20:52:07.17 ID:SuOXDHYRO
同時刻〜ガン掘リア宮殿〜
戦う準備が整いました、という始まりのホモの言葉を受け、野獣は立ち上がった。
夜明け間近のガン掘リア宮殿にて、野獣と始まりのホモは、全ての仲間を外庭に集めた。集まった仲間達の顔には、それぞれ期待の色が浮かんでいる。
その数は数十名にも昇り、熱帯夜の暑さと密集による熱気とが、彼らの高揚をさらに高める。彼らは明らかに、解放の時を今か今かと待ちわびていた。
彼らの様子を確認してから、野獣と始まりのホモはこの時の為に用意された壇上に昇った。ひとしきり注目が集まるのを待った後、野獣は口を開いた。
野獣「随分と待たせてしまったが、タメの時間は今日で終わりだ。これからお前達には、世田谷区全土に散って、我々の勢力を拡大させてもらいたい」
野獣「難しいことは言わん。ルールや制限など設けない。お前らはただ、本能のままに暴れ、望むままに犯せ。好みの男を、好きな時に、好きなだけレイプしてやれ! それこそが、俺達を追い詰めた奴らへの復讐となり、俺達の理想郷を創り上げる手段となる!」
野獣「自分を偽るな! 性癖を隠すな! 生まれ持った本能を愛してやろう!俺達はそれに値する程の苦痛を味わってきた! 俺達はそれを可能にする力を手に入れた!!」
野獣「勃ちあがれ同胞よ! 今この時より、解放の宴を始めよう!!」
199 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 20:52:46.89 ID:SuOXDHYRO
野獣の声を受け、仲間達は盛大な歓声を上げた。歓声はやがて雄叫びに、最後には狂喜の絶叫へと色が変わっていった。
彼らの興奮は当然である。なにせ、絶対的リーダーからついに許可が出たのだ。『犯していい』と、『好きなように暴れていい』と、『好きな奴を好きなだけレイプしていい』と。
性欲を抱えた男なら、誰でも一度は夢想する。
人権も道徳も、人目も社会的立場も、法律も警察もお構い無しに。街を歩く自らの性的対象を、手当たり次第に犯してみたいと。ハーレムをつくってみたいと。性奴隷が欲しいと。心も身体も拘束して、ソイツの全てを思うがままに支配してみたいと。
男の欲望の一つの頂点が、今まさに叶おうとしているのだ。彼らの顔にはもう、理性などほとんど残ってはいない。
野獣「さぁ行け野郎共! 暁の地平線に精子をかけてやれ!!」
「「ウォォォォォォォーーーッ!!!!」
野獣の最後の言葉を皮切りに、彼らは雄叫びをあげ、始まりのホモに定められた持ち場へと走っていった。
200 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 20:53:37.81 ID:SuOXDHYRO
始まりのホモに振り分けられた、世田谷区での彼らの持ち場は、次の通りである。
『ガン掘リア宮殿(本拠地)......野獣先輩、KMR、MUR、始まりのホモ(テロリストの勧誘の為一時離脱)
北沢地域(半ば制圧済み)......ピンキー姉貴、一転攻勢(シャブラサレータ)、ホリ・トオル、KBSトリオ
世田谷地域......MNR、TNOK、イニ義893、SNJ、DB
玉川地域......KBTIT、平野源五郎、虐待おじさん、ひで
砧地域......AKYS、まひろ、じゅんぺい、我修院、中野くん、関西クレーマー
鳥山地域......GO 』
これらの枠のどこかに、その他の概念体が浮動で散る。そして、
始まりのホモ「さぁお前らも早く行け、この役立たず共」
??「「了解です! はじめくん様!!」」
今日の為に準備した、例の『ホモガキ達』約100名も、彼の命令と共に散っていった。彼らは、KBTITやAKYSといった主だった概念体の、手下としての役割が与えられている。いわば、仮面ライダーにおけるショッカーだ。
始まりのホモ「......さて、では僕もそろそろ出かけますかね」
野獣先輩「本当に必要なんですか? その、参謀役のテロリストというのは」
始まりのホモ「勿論です。世田谷区の制圧は、僕らの目的の第一段階に過ぎません。次のステップの為には、軍略の知恵がどうしても必要になります」
野獣先輩「......それに、あの『ホモガキ達』は使い物になるんですか?」
始まりのホモ「どうですかね。coat博士が寄越してくる刺客には無力でしょうが、少なくとも一般人が相手なら無敵でしょう」
始まりのホモ「なにせ『ホモガキ達』は、僕が邪道に邪道を重ねて創り上げた......曲がりなりにもれっきとした、『概念体』ですからね」
201 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 20:55:19.20 ID:SuOXDHYRO
〜同時刻 coat研究所 地下実験室〜
朝。目が覚めたワイと原住民は、寝起き早々ババアに文句を垂れていた。
彡(゚)(゚)「なーんも変わっとらんやんか。失敗したんかババア」
(´・ω・`)「見た目も感覚も昨日と全く同じだね」
coat博士「いや、お前らの改造はちゃんと成功したよ。今の状態は精通したばかりの小学生みたいなもんだ。やり方さえ覚えれば、すぐにおっ勃つようになる」
彡(゚)(゚)「唐突に下ネタぶっこむのやめーや」
coat博士「よし、ではまず原住民からだ。パッと頭に浮かんだ言葉を叫んで、何かを出そうとしてみろ」
(´・ω・`)「ええっ! 急に言われても分かんないよ、何かってなに?」
coat博士「なんでもいいさ。インスピレーションに任せて唱えれば、必ずお前の武器を出せる」
(´・ω・`)「い、インスピレーション? ええと...ええと......」
彡(゚)(゚)「はよせえや、時間かければかける程どんどん場が白けるぞ。こういうのはノリと勢いが命や」
宇野「宴会の無茶振りみたいなこと言わないでください。追い詰めてどうするんですか」
(´・ω・`)「うぅ......う!」
(´・ω・`)「わ、“わたすはJの守り神”!!」
CORPORATION “炸裂のきゅうり神”
202 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 20:57:44.08 ID:SuOXDHYRO
彡(゚)(゚)「なんちゅうかけ声やねん」
(´・ω・`)「わ! なんか出てきた! 右手になんか出てきて......ってなんできゅうり神様が!?」
原住民が驚きの声をあげる。その手には確かにきゅうりが握られているが、先端部が顔の形に掘られている点を除けば、見た目はただのきゅうりでしかなかった。
彡(゚)(゚)「なんや、武器どころかロクに栄養にもならんもんが出てきたぞ」
(´・ω・`)「きゅうり神様の前でなんて失礼なこと言うんだよ! きゅうり神様に謝ってよ!」
彡(゚)(゚)「あーん? 何がきゅうり神や。こんな顔が彫ってあるだけの安物、いつまでも有難がっとるんやないで」
ワイは原住民の手からきゅうりをひったくり、
(´・ω・`)「あっ!」
彡(^)(^)「偶像崇拝はパクーで」
顔っぽいきゅうりの先端部を、思い切り齧ってやった。すると、水気ばかりで味の薄いきゅうりの破片が口内に弾け......、
(´・ω・`)「ああっ! きゅうり神様が!」
彡( )( )「ホゲッ......」
きゅうりが、炸裂した。突然バラバラに弾け飛んだ無数の破片が、きゅうりを握った右手へ、顔へ、そしてワイの口内全域へと襲いかかった。
203 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 20:59:21.45 ID:SuOXDHYRO
彡(×)(゚)「ハッ、カハッ、ハガガ」
右手と顔は、まだ凄く痛い程度で済んだ。が、口内は剥き出しの歯と歯茎と唇とを満遍なく攻撃され、死にたくなる程の激痛が襲った。
(´・ω・`)「うわぁ、おにいちゃん大丈夫!?」
彡(×)(゚)「カ、ハカカ、カハバ(大丈夫なわけないやろ殺すぞ)」
coat博士「おい、今のきゅうりはまだ出せるか?」
(´・ω・`)「え? う、うん。僕、きゅうり神様ならいくらでも出せそうな気がするよ。ホラ」
coat博士「右手と左手に一つずつ......量産も可能か。いいぞ、これなら原住民の身体が弱くても、敵に投擲しながら離れて戦える。今みたいに罠のような使い方も出来るだろう。サポート向きの良い武器だ」
宇野「罠には、向いてないんじゃないですか? さっきのも今のきゅうりにも、何か不気味な顔が彫ってありますし。差し出されてもまず口にはしませんよ」
(´・ω・`)「だから、きゅうり神様を馬鹿にしないでってば」
宇野「あ......いえ、あなたの神を否定しているわけではないですよ。気安く他人様の神を侮辱した奴の末路は、総じてああなりますからね」
coat博士「うむ。因果応報という奴だな」
204 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 21:00:11.20 ID:SuOXDHYRO
彡(×)(゚)「お、ら、ち、しろ(お前らちょっとはワイの心配しろや)」
(´・ω・`)「ごめんおにいちゃん......実はさっき、ちょっとだけね」
(´^ω^ `)「きゅうり神様が爆発した時、心がスカッとしちゃった!」
彡(゚)(゚)「お前、あとで、ほんと、覚えとけよ」
coat博士「お、もう回復したか。早いな」
彡(゚)(゚)「うるせぇ、いいから次いくぞ。今度はワイの番やろババア」
coat博士「そうだな。いいか、パッと頭に浮かんだ言葉を唱えるんだぞ。これは一種の暗示でな、ファンタジーの呪文詠唱なんかも......」
彡(゚)(゚)「ようはオナニー用に、一番好みのエロ本用意しろってこったろ? 話が長いんやババア」
coat博士「むっ、親に対してなんて口の利き方だ貴様」
彡(゚)(゚)「うっせババア。......頭に思い浮かぶ言葉、ねぇ。今はこれしか出てこんわ。“ワイは嫌な思いしてないから”」
CORPORATION “蛮族の棍棒”
宇野「なんですかその、自分勝手極まりないクズ発言は」
彡(゚)(゚)「ふんっ、孤独に荒んだワイの心にはこの言葉がお似合いなんや......おっ?」
気付くと、ワイの右手に、茶色の棍棒が収まっていた。ゴツゴツとした窪みやこぶがいくつもあり、良く言えば無骨、率直に言って不細工な見た目だ。
205 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 21:01:09.57 ID:SuOXDHYRO
彡(゚)(゚)「なんやこれ。せっかく武器使うならバットが欲しかったんやけど」
coat博士「まぁ、棍棒をより洗練させ、球を打つのに適した形にしたのがバットだしな。未熟者の今のお前には、棍棒ぐらいが丁度いい」
彡(゚)(゚)「なんやとババア」
coat博士「その棍棒が、今のお前の限界ってことだ。悔しけりゃもっと鍛えて、もっと強くなることだな。そうすればいずれお前好みのバットも作ってやれるさ」
coat博士「さぁ、これで戦う準備は整った。敵はそこにあり、目的は明確で、武器も揃えた。後はただ、力の限りに戦い、敵陣を弱らせ、そして大将首を狙うだけだ」
彡(゚)(゚)「大将首?」
coat博士「私が与えた使命を忘れるんじゃないよ。大将首が誰かなんて決まっているだろ」
coat博士「お前の使命はただ一つ、『野獣先輩を倒せ』だ。これからたっぷり親孝行してもらうから、覚悟しろよバカ息子」
206 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 21:04:01.67 ID:SuOXDHYRO
【ステータス】
彡(゚)(゚) (なんJ民)
心......知識D 判断力C 精神力D 対人能力E
技......回避C 組手C 間合いC 攻撃手段D
体......腕力B 敏捷性C 持久力D 耐久性B
特殊概念
・蛮族の棍棒
そこそこ硬く、そこそこ重く、当たるとかなり痛い無骨な棍棒。なんJ民自身はバットを使いたがっている為、使用者との相性はあまり良くない。
『総合能力 C』
(´・ω・`) (原住民)
心......知識D 判断力C 精神力C 対人能力B
技......回避B 組手D 間合いE(武装時 B) 攻撃手段E
体......腕力E 敏捷性B 持久力C 耐久性B
特殊概念
・炸裂のきゅうり神
敵に投げつけるも良し、置いて罠にするも良し、食べるのは悪しのきゅうり型炸裂弾。一定以上の圧がかかると爆発し、破片の衝撃によりダメージを与える。が、現時点での火力は少し強めの爆竹程度でしかない。
原住民は、御神像を爆破する冒涜行為への躊躇いと、戦いに貢献したい気持ちとで板挟みになっているという。
きゅうり神の爆発を見届ける彼の表情からは、戦いの虚しさへの哀愁が常に漂っている。
『総合能力 D』
207 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/10(日) 21:09:57.75 ID:SuOXDHYRO
ここまでで序章というか、第1章、みたいなものが終わりました。次章からようやく本題に入れます。
1週間以内にエロスレに追い出される、という話はイタズラだったんですかね
208 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/07/11(月) 01:02:32.54 ID:SQZ+ey8Po
ホモはせっかちで時間に厳しい
209 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/11(月) 23:07:19.77 ID:UmkqGBU0O
【第2章】 『同性愛者の理想郷』編 開始
苛立ちを抑える私の背後から、停車中の電車のアナウンスが聞こえる。ドアを閉める間際の甲高いサイレンが、また不愉快に私の耳を突いた。
ドアが閉まります。ドアが閉まります。ドアが閉まります。
何度も何度も、電車の到着の度に耳に入るその警告音は、私の心境と妙に重なるようで、更に苛立ちを加速させる。
女子高生「......ムカつく、意味分かんない」
土曜日の朝の、SJ学園前駅の南口にて。7時を回った腕時計を睨みながら、私は小さく地団駄を踏んだ。もう、かれこれ30分も待ちぼうけを食らっている。
女子高生「なんで、こんなに待たされなきゃいけないのよ」
私は今日、彼氏である智樹とデートの約束をしていた。千葉の遊園地に行って、久し振りに羽目を外して遊ぼうと誘ってきたのは、智樹の方からであった。
女子高生「ムカつく、ムカつく、ムカつくよ」
210 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/11(月) 23:08:16.23 ID:wQB5CPMY0
野球部に所属する智樹と付き合い始めたのは、去年の秋、高校一年の文化祭の時からだ。
告白してきたのは智樹の方から。坊主頭は少し嫌だったけど、わりと仲も良かったし、顔も悪くないし、話していると楽しいし、私はその告白を受けることにした。
それから、もうすぐ一年が経つ。 現在の二人の関係は......少なくとも私にとっては、あまり良好ではない。智樹が私をどう思っているのかが分からないし、気持ちが分からないのは、それだけ意思疎通が取れていない、という事の顕れだと思う。
女子高生「いっつも、私が我慢する側だよ。いつもこうだよ」
待ち人が来るはずの方角へと、身体だけは真っ直ぐ向けたまま。私は下を向いて、彼氏への恨み言を呟く。すると背後からまた、駅に迫る電車の、レールの継ぎ目をなぞる音が聴こえた。
もう、この音が耳に入るのも何度目だろうか。音が鳴る度に、「智樹が来ていれば、今頃あの電車に乗れただろうに」と、頭の中で声が響いて、苛立ちが消沈の色へと変わっていく。
告白してきたのは、智樹の方なのに。
今日のデートだって、誘ってきたのは智樹からなのに。
それなのに、待たされているのは私だった。
今日まで付き合ってきて、不満やストレスを溜め込んでいるのも、私だった。
211 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/11(月) 23:09:00.67 ID:wQB5CPMY0
ドアが閉まります。ドアが閉まります。ドアが閉まります。
また響く、不愉快な警告音。いっそ耳に届かない所まで移動したかったが、待ち合わせ場所がここなので身動きがとれない。これ以上彼と、無駄にすれ違うのは御免だった。
やがて、響く警告音のせいか、嫌な思い出ばかりが脳裏に浮かんだ。
平日休日問わずに、毎日行われる野球部の練習せいで、一緒に街を歩いた回数すら数える程しか無かった。今日もそうなのだが、一日丸々使ったデートなんて、期末テストの準備期間ぐらいにしかチャンスが無いのだ。
また、クラスが同じだった一年の頃から、二年次のクラス替えを境に、溝は深くなっていった。クラスが離れ離れになってからというもの、学内ですら、共に過ごす時間は目に見えて減っていた。
「えっ、奈央ちゃんと智樹くんって付き合ってたの!? 嘘っ、完全フリーだと思ってた!」
以前クラスメイトに言われた、無遠慮な一言を思い出す。あれには、心底ガックリときた。
その発言をしたクラスメイトの意図はともかくとして、私はその時にようやく突きつけられたのだ。周りに付き合っていると認知されない程に、二人が一緒にいる時間というのが、一般に比べひどく短いという事実を。
その言葉を受け、流石に改善を図るべきだと思い立ち、相談をしたのがつい一昨日の出来事だ。
212 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/11(月) 23:09:40.85 ID:wQB5CPMY0
放課後の練習が終わるのを待ち、夜のファミレスで話を切り出した私は、
「うーん、そっか。じゃあさ、奈央が野球部のマネージャーをやってくれる、ってのはどう? そしたらずっと一緒にいられるよ」
「この間一人辞めちゃって、丁度人が足りてなかったんだよね。ね、どうかな? 奈央は部活やってないし、前からやって欲しいなとは思ってたんだよ」
ヘラヘラと笑いながら返してきた智樹に、心の底からブチ切れた。
私は、「彼女」って名札のついた、アンタの人生のアクセサリーなんかじゃない。私には私のしたいことがあるし、彼女だからってアンタが好きでやっていることを、私が身を捧げてまで支える義理も義務も無い。
私はずっと、智樹に合わせてきたよ? 色々我慢して、本当は辞めちまえって思ってた野球部の応援にも行ったよ。アンタがベンチを温めてるだけの試合でも、頑張れって叫び続けたりしたよ。
でも、アンタが私に合わせてくれたことは一度も無いよね。ずっと野球のことばかりで、私の為に何かを我慢したことなんて一つも無いよね。
なのにこの後に及んで、また私がアンタに合わせろって言うわけ? 何様のつもりなの?
......そんなことを、夕飯時の、わりと混雑したファミレスの席で。私が人目も気にせずまくし立てた結果が、今日のデートだ。
213 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/11(月) 23:10:45.61 ID:wQB5CPMY0
流石にマズいと思ったらしい智樹が、土曜日は全部奈央との時間にするから! と平謝りしてきた末の、デートの約束であった。にも関わらず、である。
女子高生「野球の試合には遅刻しないくせに、私との約束には平気で遅れるんだなぁ」
結局、智樹は今回のデートを、私のご機嫌とり、ぐらいの軽い気持ちでしか見ていないのだ。そもそも、日常での接点が少ないという私の問題提起に対する、とりあえずデートをしようという提案自体が、的外れでその場しのぎのものでしかないだろう。
女子高生「............あ、雨だ」
ヒステリックな女の癇癪を、とりあえずご機嫌を取って宥めよう、といった軽薄な智樹の意図に気付き始めた頃。曇り気味だった空から、にわかに雨が降り始めた。はじめポツリ、ポツリと垂れるようだった雨は、あっという間に激しさを増していった。
女子高生「あー......。なんかもう......いいわ、どうでも」
天気はかなりの大雨で、すぐに回復する見込みも無さそうだった。これで千葉の遊園地で遊ぶ計画は台無しになったのだが、もう、ショックなど特に感じない。落胆も怒りも無く、あるのは冷え切った心だけ。
女子高生(もういいや。無理して合わせるの、もう面倒くさい。数ヶ月ぶりのデートで遅刻かまされたり、悪天候だったり、色々と合っていないのだ、私と智樹は。そういう巡り合わせなのだ私達は)
214 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/11(月) 23:11:34.70 ID:wQB5CPMY0
ドアが閉まります。ドアが閉まります。駆け込み乗車はおやめ下さい。次の彼女までお待ち下さい。
女子高生(さよなら智樹。バイバイ智樹。次の彼女は、甲斐甲斐しく支えてくれるようなマネージャーの中からでも探してください)
ご健闘をお祈りします、とでもメールを送って、家に帰ろう。そう思い携帯を取り出した丁度その時、電話の呼び出し音が鳴った。呼び出し主は、智樹であった。
女子高生「......もしもし。なに? もしかして今起きたの? 外は雨だし、これ以上待てないから、もう私帰るよ。それとね、私もうアンタと」
男子高校生「奈央! 奈央! た、たす、助けてくれ!助けてくれ! おれ、俺、襲われてる!」
女子高生「......はぁ?」
男子高校生「場所はMJ公園で、警察を、あ、あぅ! は、早く来てくれ!た、頼む......頼む助けて!......アッ!」
意味不明なメッセージを伝えると、智樹は私の返事も待たず電話を切った。唐突で、要領を得ない内容であった。
女子高生「助けて? 襲われている?......意味、分かんない」
突然の雨に襲われて身動きが取れない、ということなのだろうか。つまり、傘を持って迎えに来い、ということか。
女子高生「......ほんと、自分のことしか頭に無いんだなぁ、アイツ」
MJ公園と言えば、SJ学園前駅から歩いて10分程の場所だ。そのぐらいの距離、走ってくればよいではないか。ずぶ濡れになるのも構わず走ってくる姿を見せれば、遅刻したことぐらい、許してやったかも知れないのに。しかも私に歩かせて傘をせがむなど、情け無さ過ぎてほとほと愛想が尽きる。だが、
女子高生「しょうがないな。最後に一回だけ、またアイツに『合わせて』やるか」
ドアを閉めきる直前に、駆け込み乗車に間に合った運と、繋がってしまった縁に免じて。アイツの目的地までには、連れて行ってやろう。
どうせ転がりこまれてしまったのだから仕方無い。傘を届けてやって、家に帰れるようにしてやって、それで私の仕事は全部終わりだ。
女子高生「さて......まずは傘を買わなきゃね」
駅中のコンビニへと、私は足を運ぶ。相合傘をする気は毛頭ないので、私の分と、智樹の分とで2本買った。
代金は当然、智樹の全額負担の予定である。
215 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/07/12(火) 00:08:52.44 ID:El+uo5Jxo
ホモは女子の描写が上手い
216 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/15(金) 15:39:24.60 ID:TwzxSY9iO
〜30分前〜
coat博士「戦いについての重要な説明は特に無い。殴れば敵が傷つき弱り、殴られれば自分が痛くて怖い思いをする、ってことが分かっていればそれでいい」
coat博士「だが出発の前にもう一度、これだけは確認しておこうか。エネルギーの受け渡しについてだ」
(´・ω・`)「エネルギーの受け渡し?」
coat博士「概念体は半分が概念、もう半分が実体で出来ている。曲がりなりにもこの世に実存している以上、その身体にはエネルギーが含まれている」
彡(゚)(゚)「はぁ」
coat博士「私はお前らの持つエネルギーの位置は変えられるが、総量そのものは弄れない。では、お前らが強くなるにはどうしたらいいかと言うと、答えは簡単。同じエネルギーを持つ他人から、無理矢理奪ってしまえばいい」
彡(゚)(゚)「その手段がSEXやと? なんやそれ出来の悪い悪夢やんか」
coat博士「私がそういうルールを作った訳じゃないんで、文句を言われても困る。それにそう馬鹿にしたもんでもないぞ。SEXは肉体的接触による奪う、奪われるという関係において、食事の次に重大なものだ。処女を奪う、童貞を奪われる、人妻の貞操を奪う、ホモに尻穴を奪われる。男女の秘所は、すべからく神秘的にして動物的だ」
彡(゚)(゚)「なーに言ってだ」
宇野「.........。」
217 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/15(金) 15:40:11.87 ID:TwzxSY9iO
coat博士「エネルギーを吸収する為に相手の肉体を喰らうという手段もあるが、これは効率が悪いし、なによりバカ息子の精神的苦痛が大きい。ならば性交渉の方が遥かにマシだろう、ということだ」
彡(゚)(゚)「ホモとのSEX、めちゃくそ辛いんやが」
coat博士「そんなもん100回もやりゃ慣れるから我慢しろ」
彡(゚)(゚)「100回もやらせる気なんか......」
coat博士「んで、ここで注意が必要なのはエネルギーの受け渡しの法則だ。法則は至ってシンプル。『概念体同士がSEXすると、受け攻め問わず、エネルギーの弱い方から強い方へとエネルギーが渡される』というもの。強い奴は奪い、弱い奴は奪われるという自然な道理だ」
coat博士「下手に強い奴とSEXすると、逆にエネルギーを奪われるから気をつけろよ」
宇野「受け攻め関係なく......じゃあ、自分より強い相手からはエネルギーは奪えない、ということですか?」
coat博士「いや、相手を弱らせればその限りじゃない。殴って蹴ってレイプが可能になるまで弱らせれば、まずこちらが奪う側に回れる。問題は自分より強い奴を、どうやってそこまで弱らせるかだが......そこは君たちで上手いことやってくれ」
(´・ω・`)「なんかポケモンみたいだね。体力ゲージを赤まで体力減らして、モンスターボールで捕まえるの」
彡(゚)(゚)「ワイの場合、捕まえた先にあるのはレイプやぞ。ワイらの青春をこんな汚ったない仕事と一緒にすんな」
218 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/15(金) 15:40:56.62 ID:TwzxSY9iO
coat博士「ではまとめるぞ。お前らの当面の目的は、」
@世田谷区に行き、概念体or精神レイプ被害者を発見すること。
A概念体を発見したら、捕獲を目的とした戦闘を行うこと。この際、概念体は生け捕りが望ましいが、状況によってはその場でレイプ(エネルギーを奪う)するだけでも良しとする。
Bまた、精神レイプ被害者は見つけ次第優先して保護すること。殺傷は厳禁。
C敵の情報収集を行うこと。どこにどんな敵がいたか、相手の目的は何か、といった情報だけでも価値がある。
D成果の有無を問わず、必ず帰ってくること。なお、探知の恐れがある為、基本的に研究所ではなく防衛省庁舎を使用する。
coat博士「......こんなところかな。まぁ、とにかく行ったら帰ってきてくれればそれでいい。Dさえ守ってくれれば、大抵の問題は後からどうにでも出来るからな」
宇野「今は分からないことの方が多いですからね。とりあえずは、手探りで始めていきましょう」
coat博士「ん。とりあえず今日の話は以上だ。全員、気をつけて行ってきな」
〜現在〜
彡(゚)(゚)「......なぁ、結構な大雨やぞ。これもう中止でええんやないか?」
宇野「辞めるわけないでしょ。ピクニックじゃあるまいし」
(´・ω・`)「濡れたら風邪引いちゃうよ」
権田「皆さんの分の傘は用意しているので、ご安心ください」
権田さんが用意した大型のワゴン車に乗り、私達は世田谷区を見回っていた。ワゴン車は、出来るだけ大勢の人数を収容出来る為のものだ。
219 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/15(金) 15:41:43.10 ID:TwzxSY9iO
(´・ω・`)「今日は、目的地は特に無いの?」
宇野「とりあえず敵を探さなきゃ話になりませんからね。......見つからないに越したことはありませんが」
彡(゚)(゚)「んじゃ、しばらくワイらは暇なんやな」
宇野「サボらないで、周囲を見張っててください。気付いたことがあれば教えてください」
彡(゚)(゚)「えー面倒くさ......ん?」
なんJ民が文句を垂れようとした時、車が急に停止した。何事かと権田さんに尋ねると、
権田「気付いたことがありますので、少しお時間を。向こうから歩いてくるあの女性、どう思われますか?」
そう言われ、前方の女性......女子高生だろうか......に意識を向けると、確かに少し異様だった。大雨の中傘も差さずに歩く彼女は、どうやら泣いているようだった。大口を開け、顔を歪め、両腕をぶらんと垂らしながら、裸足で道路を歩いている。
宇野「なにか......あったんでしょうか」
彡(゚)(゚)「やめとけやめとけ。公共の場で泣くような女に関わっても、ロクな奴はおらんぞ。アレもどーせ彼氏に振られただのなんだの言って、自分の世界に浸っとるだけやろ」
(´・ω・`)「泣いてる女性になんて酷いこと言うのさ。それにおにいちゃん、『雨に濡れた女は下着が透けて興奮する』って前に言ってなかった? あの人今まさにそんな状態だけど、随分冷たいね」
彡(゚)(゚)「当たり前や。いいか原住民、エロってのは健全な精神が伴って初めて成立するんや。例えばメンヘラ女の裸なんて、異常者の精神状態への恐怖がエロより上回って、まったく興奮せんもんなんやぞ」
(´・ω・`)「おにいちゃんの、さも実際に体験したかのように語る癖、ほんと凄いと思う」
宇野「......権田さん、傘を2本出してください。それと二人は、糞みたいな会話してないで心の準備でもしていて下さい。私は彼女に話を聞いてきます」
彡(゚)(゚)「お、おい! だから関わらん方がええって!」
なんJ民を無視し、私は車内から降りる。そして傘を開き、車のすぐ近くまで来ていた女の子へと歩み寄る。
220 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/15(金) 15:42:17.53 ID:TwzxSY9iO
女子高生「ヒック......グスッ......やだぁ......もうやだよぉ......」
宇野「ちょっと君、傘も持たないでどうしたの? どこか痛いの? ご両親は?」
女子高生「ヒッ、......な、なに? 誰? お姉さん、誰なの?」
宇野「私の名前は宇野 佐奈子。とりあえずほら、この傘をあげるわ。そんなにずぶ濡れじゃ風邪引いちゃうわよ?」
警戒されている、というより、怯えた目でこちらを伺いながら。女の子は差し出された傘を、おそるおそる受け取った。
女子高生「傘......ずぶ濡れ......」
宇野「怪しい者じゃない......って言っても信じようがないわね。でも、あなたさえ良ければ、車でお家まで送ってあげましょうか?」
端から見たら、誘拐事件のワンシーンにしか見えないだろうな、と我ながら思っていると、
女子高生「私......逃げ......ヒッ......うぅ......うぅ、うぁぁぁ」
女子高生「うわぁぁぁぁもう嫌だ嫌だ嫌だよぉぉぉぉ!! お家、帰りたいよぉぉぉぉぉ!!」
私の言葉のどこかに、癪に触るところがあったのだろうか。女の子は突然、傘を放り出して私の胸にしがみつき、また盛大に泣き出した。
女子高生「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめん......ごめんごめんごめぇうわぁぁぁ、あああああ!!」
宇野「えぇ......」
なんJ民の言う通り、関わったらマズいタイプの娘だったのだろうか。
などと一瞬湧いた疑念を振り払い、私は泣きじゃくる女の子の背中を、しばらく撫でてやった。
221 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/15(金) 15:45:35.83 ID:TwzxSY9iO
......しばらくすると、女の子もある程度落ち着きを取り戻したのか、
女子高生「......ありがとう、ございました。勝手に胸をお借りしてすいません」
と、放り投げた傘を拾い上げ、言った。そこでようやく、お互い怪しい者では無いと確認し合えた為に。家まで送ることを、彼女は頼み、私は引き受けた。名前は、奈央というらしい。
奈央さんにその場で少し待つよう伝えた後、私はワゴン車の二列目のドアを開けた。ワゴン車は一列目が運転席、二列目がなんJ民達の座る後部座席、三列目が広いスペースの来客席となっている。
宇野「今から先程の女の子を後ろに乗せます。あなた方の姿を見られると面倒くさいので、二列目と後部の間にカーテンを引きます。極力会話は控えて、顔は絶対に覗かせないでください」
彡(゚)(゚)「はぁ!? あの女連れてくってのか? 気でも触れたんかこの無能!」
宇野「ちょっと、彼女に聞こえたらどうするんですか」
彡(゚)(゚)「どうでもいいわ! いいか? 一歩でもあの女車に乗せたら、その時点でワイらは誘拐犯確定なんやぞ。裁判所に訴えられたら負け率100%の、懲役賠償金取られ放題のノーガードや!」
宇野「誘拐じゃありませんし、訴えられたりもしません。大丈夫ですよ」
彡(゚)(゚)「訴えられないってなんで分かるんや!? この国は女性様に訴えられたらお終いなんやぞ! 痴漢は証拠が無くても有罪確定。女が原因で離婚になっても、親権はいつでも女性様が有利! 中年上司の注意や叱咤も、女性様が怒れば即セクハラや! 女性優先席って何や? だったら男性優先席も用意するんが筋ってもんやろアホか!」
222 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/15(金) 15:46:05.91 ID:TwzxSY9iO
宇野「原住民さん、きゅうり神を一本下さい」
(´・ω・`)「え? あ、はい。どうぞ」
彡(゚)(゚)「何が男尊女卑や! 何が男女平等や! 今の時代、男の方がよっぽど差別されとるわ! 奴等は『社会的に弱い』からこそ、国に守られて、実際は滅茶苦茶強いんや! ちょっと声かけただけでも不審者扱いする癖に、草食系男子とか馬鹿にすんのもいい加減にせえよ!? こんな歪んだ不平等は正さなアカン! 今こそ革命のと......モガッ!?」
私は、大きく開いたなんJ民の大口へと、きゅうり神を放り込み、
宇野「ハッ!」
下顎目掛けて、突き上げるように掌底を放った。外部からの衝撃により、なんJ民の口内できゅうり神が爆発する。掌底により顎は塞がれ、逃げ場を失ったきゅうりが口内で弾け、乱れ暴れた。
彡( )( )「ホゲッ......」
宇野「一つ。あなたが挙げた例は、ことさら酷い例を故意に選んだものであり、一般的な事例ではありません。一つ。相手がそういう輩かどうかを見極める目ぐらい、私は持っています。一つ。目の前の人間を『自分の思っている枠』に当てはめ、見極める努力もせず拒絶したあなたの思考は、それこそあなたの言う差別にあたります」
宇野「ネットで話題になるような、酷いニュースばかりを見るからそうなるんです。世の中はそんなに単純でも無ければ極端でもありません。......今すぐ認識を改めろとは言いませんが、彼女を運んであげる間だけは、その野蛮な口を閉じていてください」
彡( )( )「ワ...ワイは......間違って......な.........」
(´・ω・`)「なんでもいいけど今は大人しくしておこうよ。僕、あんまりきゅうり神様使いたくないんだ」
彡( )( )「お......ぼえ......てろ......」
223 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/15(金) 15:47:10.75 ID:TwzxSY9iO
〜〜〜
宇野「だから、やり過ぎたのは私が悪かったですって。何度も謝ってるんですから、いい加減許してくださいよ」
彡(゚)(゚)「謝っただけで済むかボケ。ワイという貴重な戦力を傷付けた罪は計り知れんぞ」
宇野「治るんだからいいじゃないですか。後で好きな食べ物なんでも奢ってあげますよ」
彡(゚)(゚)「足らんわ。本気で謝る気なら、何でもするから許してください、ぐらいの事言ってみぃや」
宇野「嫌ですよ。こんなことで一々自由と人権明け渡してたら、命がいくつあっても足りないじゃないですか」
彡(゚)(゚)「あ! こいつ今こんなことって言ったぞ!まったく反省しとらんやんけ!」
宇野「それに人に親切にした見返りに、敵の居所が分かったんだから結果オーライですよ」
SJ学園前駅から東に1km程の所まで、奈央さんを送り届けた後、私たちはMJ公園へと向かっていた。車内で聞いた奈央さんの話によると、その公園に概念体と、レイプ被害者がいるのは間違いなかった。
奈央さんが話してくれた内容はこうだ。
奈央さんは今日の6時半に、SJ学園前駅で、彼氏とデートの待ち合わせをしていた。しかし待ち合わせの時刻から30分経った7時になっても、一向に彼氏は現れない。
彼氏は野球部に所属しており、日頃の習慣から、遅刻などまずしない男である。遅刻と、遅刻=自分が軽んじられている、それまでに積もっていた不満、雨に降られてデートが台無しになったこと。様々な要因から不機嫌になった彼女が、家に帰宅しようとした時に、彼氏から電話がかかった。
曰く、襲われていて、動けないから、助けて欲しい、と。
224 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/15(金) 15:47:49.17 ID:TwzxSY9iO
雨のせいか聞き取り辛い彼氏の言葉を、奈央さんは『雨に襲われているから身動きぐ取れない、助けてくれ』と解釈。MJ公園へと二本の傘を持って向かっていった。
そしてMJ公園に着いた彼女は、大雨の中何者かにレイプされている彼氏の姿を、その目に収めた。彼氏だけではなく、公園の至る所で誰かが誰かを襲い、誰かが誰かに襲われていた。十数人はいたというその者達は、みな男だったという。
さらに、一際異様な男が一人いた。その男は、Yシャツに赤い縞模様のネクタイを締めた、サラリーマンの様な出で立ちであった。そいつは、男が男を襲う地獄絵図を、一人ベンチに座りながら眺め、愉快そうにワインを飲んでいたという。
奈央さんはその光景を見て、恐怖でパニックになった。「奈央、奈央、助けて」と聞こえる声も無視して、一心不乱にその場から逃げ去った。
走って、走って、とにかくその場から逃げ続け、やがて息が切れて歩くようになってくると。やがて、意味を理解出来なかった光景への恐怖心に加えて、自分は助けを求めた彼氏を見捨てて逃げた、ということがぼんやりと分かってきて。
怖いのか、悲しいのか、申し訳ないのか、悔しいのかも分からない、グチャグチャの気持ちになって。人目も道路の車も気にせず、泣きながら歩いている時に、私が現れたのだという。
権田「宇野さん、MJ公園に着きましたよ」
宇野「分かりました。では行きましょう、皆さん」
彡(゚)(゚)「偉そうに命令すんな!」
(´・ω・`)「内ゲバやってる場合じゃないよ、おにいちゃん」
225 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/15(金) 15:48:38.33 ID:TwzxSY9iO
車外に出ると、奈央さんに聞いた通りの光景が、未だに広がっていた。狭い公園のあちこちで、雨に濡れるのも構わず、性行為を一心不乱に繰り広げる男達。そして公園の中央奥のベンチに座り、悠々とワインを飲むYシャツの男。
彼のいるベンチの側まで近づくと、私達を見咎めたその男が語りかけてきた。......乱交に勤しむ男達は、こちらを気にも止めない。
??「おや? こんなところに来客とはね。私に何か用かね?」
宇野「用も何も、私達は」
??「おっと、私としたことが女性を先に名乗らせてしまうところだ。紳士として恥ずべき振る舞いは避けなければね」
我修院「私の名は我修院。世の中にある美味といわれるものはもう全て食べつくしちゃっ…しまった、哀れな食通さ」
(´・ω・`)「食通って、美食家のこと? そんな人が、なんで男の人達に変なことさせてるの?」
我修院「いい質問だ、おちびちゃん。我々食通にとって、食事とは音楽のようなものなのだよ。優れた音楽を新たに発掘した時の快感は、君達にも覚えがあるだろう?」
(´・ω・`)「う、うん」
我修院「だが先程言ったように、私は最早、この世の美味という美味は食べつくしちゅっ......まった男だ。これでは、新たな美味への快感は望めない。私は食通を極めると同時に、食通が最も愛する快感を、永遠に失ってしまったのだ」
226 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/15(金) 15:49:12.59 ID:TwzxSY9iO
宇野「......この状況をつくった答えになっていませんね」
我修院「なに。食材の味への新鮮さは望めないなら、食材をより楽しむ状況を模索しよう、という当然の発想さ。ポールダンス、女体盛り、宴会、通夜。家族と、友人と、嫌いな奴と、知らない奴と。食事の環境によって美味さが変わるのは、食通以外も知っている常識だからね」
我修院「手始めに『大雨の中、理性もなく、性行為に励む浅ましい男達を見下しながら』呑むワインは如何程のものか、と試していたわけさ。.........失敗だったがね!」
そう言うと、男は右手に持っていた......恐らくは雨に打たれて味が薄くなっていた......ワイングラスを、続けて左手に持っていた酒瓶を地面に叩きつけた。一瞬視界が捉えたラベルには、『Roman?e-conti』の文字が。
宇野「ええええっ!? ロマネ・コンティ!? ロマネ・コンティって、例のアレですか!? 例のアレですよね!? なに捨ててんですか! まだ中身残ってたじゃないですか馬鹿なんですか!? 私にも飲ませてよ!!」
我修院「どんな最高級の酒も、飲み飽きてしまえば見知らぬ安酒にも劣るものさ。趣のある状況をつくってみても、美味くなるどころか更に不味くなってしまった。絶望だよ」
彡(゚)(゚)「雨がグラスに入って、味が薄くなってたからちゃうんか?」
宇野「ひどい......許せない......許せない! なんJ民さん! 原住民さん! やりますよ!」
彡(゚)(゚)「なんや、やっと戦うんか?」
宇野「そうですよ! 私はレイプ被害者の保護を、なんJ民さんは我修院の捕獲、原住民さんはなんJ民さんのサポートをお願いします!」
(´・ω・`)「ラジャッ!」
彡(゚)(゚)「お前に命令されんのは腹立つが、了解」
我修院「な、なんだね? 私を捕らえる? なんの話だ?」
宇野「我修院! 貴様はさっき言ったな!? 「紳士として恥ずべき振る舞いは避けなければ」と。ふざけるな! 『女の子を泣かせた』貴様は、紳士としてとっくに失格だ!」
我修院「な、なんの話だ! お前達は、いったい何者だ!」
宇野「私達は、お前達全員を引っ捕える為の、」
彡(゚)(゚)「正義の味方の、ヒーローの」
(´・ω・`)「coat博士の、一味だよ!」
227 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/07/15(金) 16:35:57.67 ID:qBLJcOmWo
アツゥイ!
228 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/07/15(金) 21:03:34.81 ID:SZAupREPo
ホモは文豪
229 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/07/22(金) 01:59:02.08 ID:CA8tU/R00
ほうお。
230 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/07/29(金) 20:34:50.12 ID:Nros6u9V0
いいねぇ〜
231 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/30(土) 19:34:08.30 ID:7+k8sXgP0
【18話 我修院と......】
勢いは弱まったものの、雨は依然として降り注いている。視界を曇らす暗い空と、絶え間ない雨の線は鬱陶しく、また雨でぬかるんだ地面も動き辛い。身体を濡らす雨は、しかし気温の高さから冷えることなく、生温い湿気の不快感だけを与えてくる。
恵みの雨への感謝など、忘れて久しい都会人の一員として、私もシンプルに雨がうざかった。
「さて、奈央さんの彼氏はどいつかな」
雨に濡れるのも構わずに性交渉に励む、被害者達の群れへと足を運ぶ。精神レイプの被害者であり、加害者である彼らの元へと。
coat博士『精神を犯された人間の特徴は、大きく2つしかない。一つは、強烈な世田谷区への帰巣本能を持つこと。もう一つは、同性との性交渉を激しく求め、そのことしか考えられなくなる、というものだ』
虚ろな目で、涎を垂らし、排泄物に塗れた身体で腰を振る彼らの姿は、ゾンビを想起させた。自由意志を剥奪された人間ほど、痛々しいものはない。
coat博士『彼らは自我を奪われているだけで、肉体はただの人間だ。手荒なマネは控えるようにな』
博士によれば、彼らはただの人間。ならば気絶させて動きを止めたいのだが、自我がない、というのが少々面倒くさい点だ。
232 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/30(土) 19:35:01.58 ID:7+k8sXgP0
気絶させるには、心臓から頭部への血の巡りを止め、酸素の供給を一時的にストップさせる方法がある。だが漫画やアニメと違って、手刀をうなじに叩き込むのは、現実にやるとかなり死にやすいので危険だ。首を締めるというのも時間がかかるし、蘇生の為の喝を忘れるとやっぱり死にやすい。
では急所を突く方法はどうかというと、これもマズい。金的や鳩尾といった正中線の急所は、力加減を間違えたり狙いを外すと、甚大な後遺症が残る。しかもこの急所は『地獄のような痛みによって気絶させる』箇所なので、自我の無い彼らには、傷付くだけで気絶の可能性は低いかも知れない。
ならばと、私は手当たり次第に、彼らの顎に拳を放つ。顎は脳を揺らし、昏倒させる急所だ。これならば、自我の有無に関わらず、身体を動かす脳の機能をストップ出来る。
私は手近な奴から、一人、二人と気絶させていく。すぐ隣で仲間が倒されているというのに、他の奴らは見向きもしない。SEXのこと以外は、本当に頭の中に無いのだろう。
しばらくすると、いよいよ最後の一組まで殴り終えた。ワゴン車に運ぶ作業は権田さんにやってもらおう、と思いながら、四つん這いになった受けの男に蹴りを放つ。次いでタチの男に向け、若干疲れた腕で最後の一振りを放った。すると、
宇野「! えぇ?」
拳には、KBSトリオを蹴った時の、手応えの無いあの嫌な感触が。そして顎を抉られたタチの男は平然として、気絶した相方の穴へと腰を振り続けている。
宇野「概念体......ですか? こいつが?」
233 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/30(土) 19:35:30.54 ID:7+k8sXgP0
その男は、ただの年配のサラリーマンにしか見えなかった。以前、一応チェックしたホモビ出演者の顔のどれとも合致しないし、何よりKBSトリオや我修院と違って、自由意志やキャラが全く見受けられない。
宇野「どういうことだ? 凄いマイナーな男優かなにかか?」
いずれにしろ、概念体であるなら、なんJ民に頼ることになりそうだ。そう思いなんJ民の方を向いてみると、
我修院「ホラ、ホラ、もっと食べたまえ。たらふく食べたまえ。美味いと感じる喜びを、もっともっと噛みしめたまえ」
彡(^)(^)「うめえ! うめえ! こんな美味い肉喰ったの初めてや!」
(´・ω・`)「うめ、うめ......素晴らしいね。噛み切れない程ではない絶妙な固さが、歯応えとはこういうものだ、と教えてくれているようだ。噛む度に溢れ出る肉汁とスパイスが混じり合い、幾度もの感動を与えてくれる」
我修院「まったく羨ましいね。私にとっては飽き果てた食材でも、君たちにとっては新たなる美味の発見となる。嗚呼、私ももう一度だけ、もう一度だけでいいから、君たちのような快感をまた味わいたいよ」
何故か、仲良く食事会を開いていた。
宇野「なにやってんだ、あのバカは」
234 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/30(土) 19:36:21.22 ID:7+k8sXgP0
〜〜少し前〜〜
我修院「ま、待ちたまえ! 私は暴力は嫌いだ! 紳士として、まずは話し合いで解決しよう!」
開口一番、我修院は命乞いをしてきた。気を削がれたワイは、思わず立ち止まって理由を問うた。
彡(゚)(゚)「あん? なんでや、お前は悪者やろ? ワイは正義のヒーローやろ? 戦う以外にすることないやろ」
我修院「君は誤解している! 私は悪者などではない、しがない食通の紳士だ!」
(´・ω・`)「なに言ってんのさ、男の人達に酷いことさせてたくせに」
我修院「私は彼らをレイプしていない。彼らに何かを命令したことも無い。私は既に『出来上がっていた』彼らの、監視を任されていただけだ」
彡(゚)(゚)「任されてたって、誰にや?」
我修院「野獣先輩だよ」
彡(゚)(゚)「!」
(´・ω・`)「博士の言ってた、悪の親玉だね」
我修院「悪? 親玉? ......君達の言っていることは先程から良く分からんが、とにかく私は彼の命令に従っていただけだ」
彡(゚)(゚)「野獣先輩ってのは、お前らにとっての何なんや?」
我修院「待ちたまえ。君は順序というものを知らんのか? 君の言う敵である私が、君達に今、私の命綱である情報を喋るわけがないだろう」
彡(゚)(゚)「なんやと? てめぇ立場分かっとんのかボコりまくるぞ」
我修院「立場も分かっているし、ボコりまくられたくないから、取引しようと言っているのだよ。私は暴力は苦手なので、降伏すると言っているんだ」
我修院「私はこれから、君達の捕虜となろう。私の知る限りの情報を君達に話すから、君達は私の身の安全を保障してくれ」
235 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/30(土) 19:37:02.75 ID:7+k8sXgP0
彡(゚)(゚)「なんか、ややこしいわ。お前ボコって縛り上げた方が効率ええんとちゃうんか?」
我修院「君は先程、正義の味方を名乗っていただろう。ならば、降伏した相手の取り扱い方ぐらい覚えておきたまえ。紳士さを捨てた蛮族には、正義の看板は荷が重いぞ」
彡(゚)(゚)「いちいち偉そうで腹立つなコイツ」
(´・ω・`)「でも戦わないで済むなら、それに越したことはないんじゃないかな」
我修院「イマイチ不服なようだね。では、君達にも個人的なメリットを捧げよう」
そう言うと、我修院はベンチの傍らに置いてあった小包を、こちらに渡してきた。
彡(゚)(゚)「なんやこれ」
我修院「酒の肴に持ってきた、ただのつまみだ。私には飽き果てた雑穀でしかないがね」
彡(゚)(゚)「ふん! 上から目線も大概にせえよ。お前の残飯なんか要らんわ」
我修院「まぁ、まずは食ってみたまえ。もし私の身を保障してくれたら、そうだな。その残飯など比べ物にもならない美食への道を、私が案内してやろう」
〜〜現在〜〜
『食通の中の食通しか招かれることのない』という店を、最近知人に紹介されてね。と、我修院は言葉を紡いだ。
我修院「新たな美食を期待しては裏切られ、を繰り返した為に、あまり乗り気でなかったのだがね。だが、君らのおかげでもう一度チャレンジする気力が湧いてきたよ。もし君らさえ良ければ、私と一緒に来てみないかい?」
我修院に貰った極上の肉を啄みながら、そんな夢のような話を聞いていると、向こうで変態をボコ殴りにしていた宇野が近付いてきた。
236 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/30(土) 19:37:44.41 ID:7+k8sXgP0
宇野「なに、仲良く談笑しているんですか」
(´・ω・`)「あ、宇野さん。あのね、この人僕らに降参して、捕虜になりたいんだって」
明らかに不機嫌な態度の宇野に向けて、原住民が我修院が捕虜を願い出た旨を伝えた。
宇野「降参? あなたが? ......なにか、狙いでもあるんですか?」
我修院「逆に聞くが、捕虜になるのに『己の身を守りたい』以外の理由がいるのかね?」
宇野「......まぁ、楽に生け捕りに出来るに越したことはありませんね。あなたを車で運ぶに当たって、縄で拘束させてもらいますが構いませんね?」
我修院「極力、紳士的に頼むよ」
宇野「では、早速荷物を積む作業に入りしましょう。原住民さんは権田さんと一緒に、私が倒した人達を車に積んでください。なんJ民さんは、あそこで腰振ってる男をぶん殴って下さい」
彡(゚)(゚)「なんやあれ。なんでアイツだけ倒れてないんや?」
宇野「見覚えはありませんが、アレもあなたや我修院と同じ、概念体みたいです」
彡(゚)(゚)「ほーん。なんか個性が無いというか、こう、オリジナリティに欠ける見た目やなぁ」
(´・ω・`)「同じこと繰り返して言ってるよ、おにいちゃん」
宇野「ちゃっちゃと終わらせて、今日は早く帰りましょう。あんまり濡れる時間が長いと、風邪を引いてしまいます」
そう言う宇野に続いて、小降りになってきた雨の中、ワイらは気絶した野郎共を車に運び始めた。
237 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/07/30(土) 19:38:21.51 ID:7+k8sXgP0
【ステータス】
我修院
心......知識A 判断力C 精神力B 対人能力B
技......回避E 組手E 間合いD 攻撃手段E
体......腕力E 敏捷性E 持久力D 耐久性D
特殊概念
・飽くなき探求の終着点(グルメ・ターミナス)
この世全ての美味を把握、理解する舌と頭脳。それが我修院の持つ唯一の、そして決して他の追随を許さない絶対の能力である。
ちなみに、
「この世の美味という美味を食べ尽くした」
という我修院の言葉に?偽りは無いが、しかしそれは真実でもない。何故なら、この世には何万という料理の種類があり、何億という料理人が存在し、一つの料理に対する調味料の加減だけでも、そのバリエーションは何百通りと変化する。
人間の、たかだが数十年の生涯の中で味わい尽くすには、世界に偏在する美味の総量はあまりにも膨大過ぎる。
では、何故彼はこの世の全ての美味を食べ尽くし、その味に飽いているのかというと、それは彼の味覚に問題があった。生涯において、それでも常人の何百倍という美味を味わい続けた彼の味覚と脳は、いつの頃からか重大なバグを抱えるようになったのだ。
そのバグとは、『初めて食したはずの美味を、口に含んだ瞬間に、いつかどこかで食べたものと錯覚してしまう』というデジャヴ現象である。このデジャヴのせいで、我修院は何を食べても既視感を覚え、何を食べても新鮮味を感じない、食通にとって最悪の状況へと陥ってしまった。
美食を求め、食通を極めたからこそ、食を感じる機能に欠陥が生じ、人並みの『美味しい』を喪ってしまった男、我修院。
しかし、彼にもまだ希望はある。彼が把握しているのは、あくまでこの世全ての『美味』である。ならば、一般的にはとても『美味とは呼べない』ものなら、彼の味覚に新しい刺激を与えることが可能かも知れない。
例えば、それは....................................。
238 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/07/30(土) 21:30:43.85 ID:6CQMOowEo
本格能力バトルものですね…
239 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/08/01(月) 09:07:05.85 ID:1I1aZTp20
ええ・・・・・・
240 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/08/02(火) 11:57:40.65 ID:VLRklyEc0
十数人を詰め込み、流石にかなり窮屈に思えるワゴン車の後部座席で、私は我修院と対面した。この車は現在、ある料理店へと向かっている。
理由は、なんJ民達のたっての希望と、その店に連れて行くと約束しなければ、決して何も喋らないという条件を出されたからだ。
私はテープレコーダーのスイッチを入れ、縄で拘束した我修院へと質問を始める。
宇野「では我修院、あなたの知っている情報を教えてもらいましょうか」
我修院「質問がアバウト過ぎるね。インタビューというものは、聞き手が何を知りたいかを明示しなければ話にならないぞ」
宇野「んなこたぁ分かってます。順を追って聞きますが、まずはあなたの所属を」
我修院「自由気ままなフリーの食通......と言いたいところだがね。現在の私は、『ホモ・アルカディア』と名乗る組織に所属している」
宇野「ホモ・アルカディア? ホモの方は、どうせあっちの意味でしょうが、その後のアルカディアというのは......」
我修院「古代ギリシアの時代に実在したとされる、理想郷の名前だな。ホモ・アルカディアという名前は、『同性愛者の理想郷』という意味で付けたらしい」
宇野「理想郷というと、ユートピアの方が馴染み深いと思いますがね。では、ホモ・アルカディアのリーダーというのは」
我修院「田所浩二......君達には、野獣先輩の呼び名が馴染み深いようだね。我々は、彼の元に集まり、彼の命令で動いている」
241 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/08/02(火) 11:58:15.79 ID:VLRklyEc0
宇野「我々というのは?」
我修院「基本は、同性愛者の集まりだ。私は違うがね。みんな野獣先輩に集められた、という点以外では、個々の特徴が強すぎて特に共通点は無い」
宇野「ホモ......面倒臭いのでアルカディアと呼びます。アルカディア、そして野獣先輩の目的は何ですか? あなた方は彼の目的を知っているんですか?」
我修院「真意、という意味なら全く知らん。だが、彼はいつも我々に、『俺は同性愛者を救う為に戦っている』と公言しているな」
宇野「では、あなた方は彼の思想に共鳴して、彼に従っているということですか」
我修院「もちろん、中にはそういう者もいる。だが私から見れば、大半の連中はただ、欲望を発散する場所を求めているだけに思えるね」
宇野「自分はどちらとも違う、といった口ぶりですね。では、あなたが野獣先輩に従う理由は何ですか?」
我修院「分からん」
宇野「は?」
我修院「分からんのだよ。私は、気付いたら彼の部下になっていたのだ。部下になる直前のことは、イマイチ覚えていない」
宇野「......直前のことを覚えていない、ですか。なら、彼の部下になる以前のあなたの人生は、どのようなものだったんですか?」
我修院「今と変わらず、美食の道を探求していたよ」
宇野(......あくまで、『我修院としての人生』の記憶しか持っていない、ということか)
242 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/08/02(火) 11:59:04.98 ID:VLRklyEc0
......野獣先輩サイドの、概念体。彼らがどういう手段で、どこからやってきた存在なのかを、我々はまだ知らない。
彼らがどの段階で概念体になったのか。概念体になる以前は、かつてホモビに出演した役者、生身の人間だったのか。それとも、あるいは役者とは無関係に、無から生み出されたまったく新しい命なのか。
我修院に自覚が無い以上、私に過程を探る術はない。それはcoat博士の領分だ。ならば私は、せめて今の状態だけでも把握しなければ。
宇野「ではあなたは、意志を持って彼の部下になったわけではないのですね。しかし食通のあなたには、特に野獣先輩に従う理由は無いでしょう」
我修院「従う理由なら、あるさ。......良いことを教えよう。我々は今、世田谷区の外には決して出れない。何故だか分かるかね?」
宇野「そうなんですか? いえ、さっぱりです」
我修院「大半の者はまだ気付いておらんが、我々は見張られているのだよ。野獣先輩の片腕、始まりのホモによってね」
宇野「始まりのホモ、ですか。どんな奴なんですか?」
我修院「常に黒いフードを被った、顔も分からん不気味な男だよ。野獣先輩が理想と、性欲を発散するハッテン場を提供してくれるアメなら、始まりのホモはムチの役割を持った男だ」
243 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/08/02(火) 11:59:45.73 ID:VLRklyEc0
「あれは、まだ私が野獣先輩の部下になったばかりの頃だ」と、我修院は語り始める。
我修院には当初、TKGWという食通の仲間がいた。我修院を含む野獣先輩の部下は、「今は自由に行動してくれて構わん。だが、世田谷区の外には決して出るな」という指示を受けていた。
しかし我修院とTKGWら食通を極めんとする者にとって、世田谷区以外での食事の禁止というのは、1日2日だけでも苦行であった。
同性愛者の人権にも、ホモSEXにも興味は無く、野獣先輩に従う忠誠心も無かった二人は、ある日脱走を図った。
二人には、脱走、という意識もあまり無かった。監視も警備も無い状態だったので、危機感を感じなかったという。渋谷区へ向かう二人の頭には、次に食す美味の事しか無かった。しかし、
TKGW「我修院さん! ホラ早く早く! こんな三流グルメだらけの町を出て、本物の美食を堪能しマ°ッッ!!!」
意気揚々と歩き、遂に渋谷区との境目に差し掛かった瞬間。5m先を歩いていたTKGWの頭が吹き飛んだ。首の上のものがフッと消えたと思うと、数瞬後に頭があった場所へと血が噴出した。そして数秒後には、TKGWの首から下は前のめりに倒れ、血を地面に撒き散らし、小刻みに痙攣を起こしていたという。
我修院「......驚愕する、とは正にあのことだ。数秒前まで共に喋り、共に笑い、共に歩んでいた者が、突然無惨な死骸に成り果てる。悲しいとか怖いとかいう以前に、思考が追いついて来なかったよ」
宇野「まぁ、そうですよね。よく分かりますよ」
244 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/08/02(火) 12:00:37.82 ID:VLRklyEc0
我修院「訳も分からずTKGWくんの死体を凝視していると、あの男が目の前に現れて、私にこう言った。『駄目だよ、世田谷区の外に出ちゃ。田所さんとの約束を破っちゃ駄目じゃない』 『この子は境界線を越えちゃったけど、君はギリギリセーフだよ。今度からは気をつけてね』と」
我修院「おそらく彼は、見せしめとしてTKGWくんを殺したのだろう。そして私は、見せしめの証人として見逃された。......TKGWくんと私の位置が逆だったら、殺されていたのは私だったのだ。あまりの恐怖に、2日間食事が喉を通らなかったよ」
宇野「......その始まりのホモは、どうやってTKGWの頭を吹き飛ばしたのでしょうか」
我修院「さっぱり分からんよ。だがあの時、左側の道の塀に、盛大な血の跡が着いていたのを覚えている。あれはきっと、潰れたTKGWくんの頭だったのだろう」
宇野「映画スキャナーズのような、『超能力で頭がパーン!』ではなくて、何らかの凄まじい圧力が、TKGWの側頭部から襲ったということですね」
我修院「どうだろうね、分からんよ。もっと言ってしまえば、始まりのホモがずっと私達の跡をつけていたのかも知れんし、もしかしたら境界を越えた瞬間に瞬間移動の様なことをしたのかも知れん。あの男に関しては、分からないことが多過ぎて怖くてたまらん」
我修院「とにかく、始まりのホモの監視があって、我々は世田谷区の外には出れない。だが、ただ黙って野獣先輩に従っていれば安全は保証され、しかもオイシイ思いにありつける。わざわざ彼の元を離れようとする者は、少なくとも今はいないよ」
245 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/08/02(火) 12:01:48.61 ID:VLRklyEc0
宇野「では、あなた方は世田谷区の中で何をしているんですか」
我修院「割り振られた担当地域に居を構えて、好き放題やっているよ。大半の連中は、一般男性のレイプに興じているようだね。私のように同性に興味の無い男は、先ほど君が見たような監視員をやっている」
宇野「割り振られた地区、ですか。他の仲間の居場所は?」
我修院「悪いが私は、野蛮人との交流は浅くてね。教えられるのは一人だけだ」
そう言うと、我修院は『中野オリジナル』なる店の名前と、その住所を口にした。中野くんという男とは、料理人と食通の関係から、何度か会話をしたことがあるという。
宇野「いいんですか? 真っ先に仲の良い仲間を売ってしまって」
我修院「別に親しい間柄ではない。彼の料理を食えば君も分かるだろうが、私は彼が死んだとしても、欠片も惜しいとは思わんよ」
宇野「.........。」
大して期待していなかった、他の概念体の居場所まで分かった所で。私は頭の中で、我修院から得た情報を整理してみる。
@野獣先輩は仲間を集め、組織を作っていた。組織の名前はホモ・アルカディア。
A野獣先輩の仲間は概念体であり、何らかの方法で増やしているようだ。数は不明だが、今の所数十人程度と想定しておく。
Bホモ・アルカディアは世田谷区内でのみ活動し、精神レイプ被害者を増やしている。その目的は不明。
C概念体の記憶、性格はホモビの内容や設定に準拠している。
D概念体も大きなダメージを受けると死ぬ。野獣先輩の片腕、始まりのホモは、概念体を殺めるだけの力を持ち、世田谷区の外に出ようとする仲間を粛清している。
246 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/08/02(火) 12:02:35.32 ID:VLRklyEc0
他に聞き出せることはないかと、更に口を開きかけた時。車のスピードが急に緩み、数秒の後に停止した。どうやら、我修院の目的地に着いたようだ。
我修院「む。着いたようだね」
彡(゚)(゚)「わーいわーい! 美食の店や! グルメの店や! 今日からワイもセレブの仲間入りや!!」
(´・ω・`)「楽しみだね楽しみだね! 我修院さんのおつまみであんなに美味しかったんだもん! きっと、とんでもなく美味しいお店だよ!」
彡(^)(^)「分かりきってることを声高に叫ぶな原ちゃん! そんなん当たり前やんか!」
(´^ω^ `)「あ、そっかぁ。ウフフ」
彡(^)(^)「そうやでぇ。アハハ」
車外に飛び出した二人が、『H.Nレストラン』という看板の店の前で、楽しそうにはしゃいでいる。
私は車窓を開け、浮かれた二人の水を差した。
宇野「お喜びのところ申し訳ありませんが、原住民さんは車内に戻ってきてください」
(´・ω・`)「えっ、なんで?」
宇野「我修院さんから、概念体がいるというもう一つの店を紹介されました。私一人じゃ捕まえられないかも知れないので、私と一緒について来てください」
(´・ω・`)「そ、そんな! そんなの、ここでご飯食べた後でもいいじゃない!」
宇野「急ぎなんです。ワガママ言って困らせないでください。coat博士に言いつけますよ」
(´・ω・`)「そ、それは! う、うぅぅ......でも、でも......」
彡(゚)(゚)「......あー、ウジウジすんなや原住民。ちゃんとお前のお土産も貰ってきてやるから、それで我慢せえや」
(´・ω・`)「うぅ......。わ、分かったよ......(楽しみだったのに、レストラン)」
247 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/08/02(火) 12:03:40.20 ID:VLRklyEc0
宇野「私達はだいたい2時間後に、またこの店の前に迎えに来ます。なんJ民さんは存分に、レストランでの食事を楽しんでください」
彡(゚)(゚)「おう、気が利くやんか。もちろんそうさせてもらうで」
我修院「話はまとまったかね? まぁ、ちびっこ君もそう気落ちするな。美食の道には幸運が必要だが、今回の君には、それが無かっただけのことさ」
ではそろそろ行こうかね、と我修院がなんJ民に声をかけると、二人はレストランの中へと消えていった。
残された原住民は、とぼとぼと車内へと戻り、私の隣に座って泣きべそをかき始めた。
(´・ω・`)「うぅ......レストラン......美味しいご飯......食べたかったなぁ」
宇野「権田さん。これが中野オリジナルの住所です。私達をここに下ろしたら、一度防衛省に戻って『荷下ろし』をお願いします」
権田「承りました。......そうですね、宇野さん達の元に迎えに来るまでに、1時間くらいかかりますかね」
(´・ω・`)「なんで僕ばっかり......おにいちゃんだけズルいよ、不公平だよこんなの」
宇野「急がないので構いません。それと、権田さんは確か、シャワー室付きの車を持ってましたよね。送り迎えの時は、あの車でお願いします。それと汚れると思うので、全席にシーツを敷きましょう」
248 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/08/02(火) 12:04:09.61 ID:VLRklyEc0
権田「構いませんが......なんでまた、そのようなことを?」
宇野「多分、凄く汚れるからです。......原住民さんは、あのレストランに入れなくて不幸だ、と思っていますね?」
(´・ω・`)「グスッ......え? う、うん。そりゃそうだよ」
宇野「逆ですよ、原住民さん。あなたは命拾いしたんです。なんJ民さんは先ほど、天国と履き違えて地獄へと足を踏み入れました」
(´・ω・`)「え? え? 意味分かんないよ宇野さん」
目で見た方が早いなと思った私は、タブレットを取り出してあるワードを打ち込み、原住民に渡してやる。
宇野「先ほどのレストランの外観で確信しました。敵の概念体は、ほぼほぼホモビの登場人物と同一人物です。それ故彼らの行動は、基本的に出演したビデオの内容に準拠します」
宇野「そして、我修院という人物が出演した作品が、今そのタブレットに表示されているものです」
(´・ω・`)「え、なにこれは(ドン引き)」
宇野「あのレストランの店主も、おそらく概念体でしょう。そしてこれからあの場所では、その記事や画像と同じ内容が行われます」
宇野「我修院が出演したホモビは『糞喰漢』という、最低最悪のスカトロ企画です」
249 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/08/02(火) 15:48:46.13 ID:zxOJGvlQo
かなしいなあ
250 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/08/02(火) 17:57:27.01 ID:y/pvYcTio
なんだこの大作!?
251 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/08/05(金) 14:43:35.03 ID:pkUUFC7CO
ワイが最初に違和感を感じたのは、店に入った時、というか最初からだった。
美食家の我修院すら知らない、秘境のレストランというのだ。どれ程煌びやかな店だろう、と楽しみにしていたのだが、その期待はハナからへし折られた。
じゅんぺい&まひろ「「いらっしゃいませ」」
我修院「知人から聞いて来たのですが」
じゅんぺい「アッ、伺っております〜。こちらへどうぞ」
まず、出迎えた店員二人の格好がおかしい。袖の無いタキシード? のようなものを、裸の上に直接着ている服装が既におかしい。
しかも下にはズボンも履いておらず、黒地で線の細いパンツを履いているのみであった。そのためか、直立不動の二人は揃って、両手で股間を押さえている。
押さえるくらいならそんな格好すんな、とツッコミたかったが、なにせ秘境のレストラン。無知を晒して恥を掻くのも嫌だし、我修院が先導してソファーに座ってしまったので、仕方無くワイも、ソファーの左側に座った。
我修院「ここでは、誰も食べたことの無いという、極上の料理を提供していると聞いたんだが」
じゅんぺい「ハイ、ありがとうございます。仰る通りでございます。......ンンッ! お客様に相応しい料理を提供させて頂きますので、どうぞお楽しみ下さい」
我修院「もう待ちきれないよ! 早く出してくれ!」
満面の笑みで、我修院が店員に言った。顔には新たな美味へのワクワク感が溢れており、羨ましい程にその瞳は輝いている。
だが、ワイには無邪気に料理を待ち望む程、浮かれることが出来なかった。薄暗いこの部屋の様々な不自然さが、ワイに疑念を抱かせた。
252 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/05(金) 14:44:19.72 ID:pkUUFC7CO
何故、レストランの客室の床がビニールシートなのか。座席がソファーなのは何故か。食卓が、背の低いガラスの円卓なのは何故か。
一度に一組の客までしか対応出来ないであろう、狭すぎる客室は、ワイの目にあまりに安っぽく映った。ガラスの円卓にポツンと置かれた五本の蝋燭の内、一本だけ火が点いていないのも、店内の手抜き感を増している。
彡(゚)(゚)(清潔感や居心地の良さで言ったら、風俗の待合室にすら負けるぞ、こんなん)
じゅんぺい「ハイ、かしこまりました」
まひろ「それでは早速お料理へと参らせて頂きますが、その前に幾つか注意事項があります。当店は、完全会員制レストランで御座います。
もしお客様が、ご友人を招待したいと思いましても、まず当方による確認が必要となりますので、それはご注意下さい。そして、ここでの事は一切他言無用でお願いします」
彡(゚)(゚)(ん? じゃあ飛び入り参加のワイが、なんで入れたんや? 事前の確認も糞も無かったぞ)
まひろ「次に、途中退場は一切認められておりません。例えどの様な料理が出て来ようとも、全て完食して頂けるまで、お返しする事は出来ません。
お残しは、一切禁止とさせて頂きます。もし残した場合は、ペナルティがありますので、そのつもりでお願いします」
彡(゚)(゚)(罰金とかかな。ワイが金払うんとちゃうから、これはあんま関係ないかな)
まひろ「最後になりますが、先程も言いました様に、ここでの事は一切他言無用でお願いします。 もしうっかり口を滑らせる様な事があれば、 その時は命に関わる事になりますので 、お願い致します」
彡(゚)(゚)(ん? 命に関わる? 他言無用? じゃあ我修院の知り合いって、命懸けでこの店のこと教えたんか? つーか料理屋で極秘とか命に関わるとか、頭おかしいんやないか?)
253 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/05(金) 14:45:27.15 ID:pkUUFC7CO
我修院「分かった。とりあえずぅ、もう待ちきれない。早く出してくれ」
命に関わる、という料理屋にあるまじき台詞も、しかし我修院は意に介していないようだ。
不信と不安が募ってきたワイが、一旦外に出ようと腰を浮かしかけた時、店員がグラスの乗ったトレイを持ってやってきた。
じゅんぺい「お待たせ致しました。一品目は、ウェルカムドリンクでございます」
そう言って、店員は机の上にトレイを置く。が、グラスの中は空で、ボトルらしきものも無かった。
彡(゚)(゚)「アホかお前、飲み物なんか無いやんか」
じゅんぺい「これから入れるのでこざいます。......(ボロン」
彡(゚)(゚)「!? ハ、ハアァ!?」
店員が突然、パンツから一物を取り出した。ロクな処理もしていない下の毛の茂みから、赤黒い一物がダランと垂れている。
あるまじき事態に怒りの声を上げる暇も無く、畳み掛けるように更なる事態が訪れた。
ジョロ、ジョボボボコォォォォォーーーッ!
ジョボボボ、ジョロ、シュコォォォーーーーージョボリ、ジョボボボボ!!
店員の一物から、真っ黄色の尿がグラスへと注がれた。店員が糖尿病なのか、あるいは勢いが強かったからか、 グラスの中の尿は非常に泡立っており、一見ビールに見えなくも無い。が、目の前で注がれるところを見てしまっては、それは誤魔化しようもなく小便でしか無かった。
彡(゚)(゚)(意味分からん意味分からん意味分からん!)
254 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/05(金) 14:46:08.48 ID:pkUUFC7CO
我修院とワイの前に、小便の入ったグラスが置かれる。出のキレが悪かったのか、最初に注がれた我修院のグラスに比べ、ワイの分のグラスは明らかに分量が多かった。
人間の小便なんて、飲めるわけがない。食通の我修院に助けを求めようと横を向くと、我修院は平然と小便を飲み干していた。
我修院「うん。非常に新鮮で、非常に美味しい」
彡(゚)(゚)(美味いワケないやろ! 人間の小便やぞ!)
なんだ、これは。食通にとっては、これは普通なのか? ワイが未熟でおかしいだけなのか?
ワイは慄きながら、グラスを持って小便に口をつけてみる。意外と、キツい臭いなどはしなかった。が、舌の先に触れた黄色い液体は、ほぼ水の味の中に仄かな酸味と甘みが含まれており、やはり小便だと思うととても飲み込もうとは思えなかった。
まひろ「お連れ様、ドリンクが減っておられないようですね」
彡(゚)(゚)「いや......ちょっと味わおうと思うて......ゼンブ?」
咎めるように店員が話しかける。我修院ともう一人の店員も、ジッとワイを見ていた。ワイがこの小便を飲み切らないと、先に進めないということだろうか。
異様な空間と、異様な事態に、思考が飲み込まれていくのを感じる。だがワイは、これ以上事態が悪化するのが怖くて、彼らに逆らい難い感覚になっていた。
ワイは意を決して、200mlはあろうかという小便を、一気に喉へと流し込む。薄い酸味が、シュワシュワと音を立てる気泡が、小便を飲むという意識が、胃と喉からの拒絶を起こす。
何度もえづきながら、それでも無理矢理、小便を胃に流し込む。胃の中が、タプタプと小便で満たされていくのが分かる。
グラスを空にすると、店員達が満足気な笑みを浮かべたが、気にする余裕は無かった。小便の気持ち悪さに胃がムカムカと焼け、舌に残る後味が吐き気を催させる。
じゅんぺい「ありがとうございます。こちらは、前菜のデジタルスティックでございます。特製ソースを付けてお召し上がりください」
彡(゚)(゚)(やっと......やっとマトモな飯にありつける......)
255 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/05(金) 14:47:41.09 ID:pkUUFC7CO
机の上に人参、大根、きゅうりの詰め合わせが載せられる。パッと見た限り、スーパーで売っているカット野菜をそのまま出したような代物だが、正直もう、汚く無ければなんでも良かった。
ただの野菜にホッと安堵していると、店員が大きな皿を持ってきて、机に置いた。何事かと思って見ていると、店員はおもむろに裸の尻を皿へと向け......大便を始めた。
ブリュッ、ブリチ、プゥゥ! ビチャビチャビチャ!!
水っぽい薄茶色の下痢便が、深皿に吐き出された。飛沫が皿の外に飛び、机に、床に、野菜スティックへとかかる。
茫然と大便を見つめると、すぐに異臭が鼻をついた。小便の時とは違い、決して無視出来ない強烈な臭みであった。トイレで、隣の個室が大便をした時の臭いを、数倍強くしたぐらいの不快感であろうか。
まひろ「それでは、ごゆっくりと」
人前で堂々と糞を漏らした店員が、気にする素振りも無く言った。この下痢便に、野菜スティックをつけろと言うのか。この下痢便を、ワイの口の中に入れろというのか。
左を向くと、流石に我修院も引いているのか、下痢便を見つめたまま固まっていた。が、強張った面持ちでこちらに向くと、「仕方ない、食おう」といった目配せを送ってくる。嘘だろ。
二人同時に、糞のついた野菜スティックに噛み付いた。芯が固く、何の調理も施していない生野菜を、ボリボリと咀嚼する。咀嚼する度に下痢便のついた部分が、舌の先へ、歯の裏へ、歯茎へと広がっていく。苦味と渋みと、薄い下痢便の水っ気が、ビチャビチャと口内を責め立てる。
不味い。不味すぎる。こんなもの、とても美食ではない。食事ですら無い。横目に、食通の我修院の反応を伺うと、
我修院「うん......エ°ッ!」
我修院にも不味いと見え、軽くえづいていた。
256 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/05(金) 14:48:31.68 ID:pkUUFC7CO
じゅんぺい「どうです? 当店のデジタルスティックのお味は」
我修院「うん。素晴らしい料理だ。初めて食べる味だよこれは。なぁ?」
彡(゚)(゚)(初めて食べるに決まっとるやろ糞なんか!)
じゅんぺい「その割にはぁ、特製ソースが減っていませんねぇ。それでは本来の味を楽しめないのでぇ、もっと付けて堪能して下さい」
そう言うと店員は、下痢便の中の小さな固形部分に野菜スティックを入れ、グチャグチャとかき混ぜ、我修院の口へとねじ込んだ。
我修院「ングゥ......グゥムォォウ......」
じゅんぺい「こちらの特製ソースは? どのようなお味で?」
我修院「おぉう......とても濃厚で、しっかりした味だ.........」
じゅんぺい「そうですか。それではもっと堪能して下さい」
その後10分かけて、ワイらはようやくデジタルスティックを完食した。
〜〜糞・ハンバーグ〜〜
彡(゚)(゚)「.........」
我修院「.........」
次に、メインデッシュと称した、糞をハンバーグの形にこねくり回しただけの糞が運ばれてきた。
とても自分で食す気にはなれず、しばらく口をつけずにいると、店員共に無理矢理口に運ばれた。
最初の一噛みにはブニュッとした弾力があったが、二度、三度と咀嚼すると、ニチャニチャと糞が口のあちこちにへばりつく。
何度も何度も、店員が口の中にハンバーグの形をした糞を運んでくる。糞を含んだ時も、含んでいない時も、口の中には下水の臭いが、糞の味が残り続ける。三度目くらいから、噛むのが億劫となり、運ばれた糞をそのまま喉へと押し込んだ。
257 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/05(金) 14:49:13.77 ID:pkUUFC7CO
じゅんぺい「どうですか?当店の糞・ハンバーグは」
我修院「ひ、非常に......しっかりとした味だ」
店員に感想を求められ、我修院が賛辞を絞り出す。だがこの2分後に、耐えきれなくなった我修院は盛大にゲロをブチまけていたので、きっとそれは大嘘だったのだろう。
〜〜ミート・糞ース・スパゲッティ〜〜
彡(゚)(゚)「あ......あ......」
我修院「うげぇぇぇ......うぇぇ......」
ミートなんて入っていないだろ、といったツッコミを入れる暇も無く、机の上に糞とスパゲッティが混じった茶黒色の料理が運ばれた。
店員共も、ワイらが自力で糞を食う気力が無いと知っているらしく、黙って料理を口に運んでくる。
彡(゚)(゚)「あ......あ......もう嫌だ......もうや......」
口の中に、糞入りスパゲッティが入る。茹で過ぎて歯応えの薄い麺に、下痢便が絡みついた味が、ワイの味覚を激しく責め立てる。
彡(゚)(゚)「ンーッ! ンーッ! マ°ッ!! アァァッ!!」
あまりの不味さに身体が拒絶反応を起こし、味が、背中が引き攣った。今までの糞とは一線を画す、最低最悪の料理であった。
我修院「なんJ民くん! なんJ民くんしっかりしろ!」
我修院が身を案じてくるが、不味さに悶絶しているワイの心には、なんら響かない。それ程に、ミート・糞ース・スパゲッティの酷さは、常軌を逸していた。
258 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/05(金) 14:49:51.69 ID:pkUUFC7CO
まず、糞ハンバーグと違って固形が混じっている分、どうしても飲み込むのに咀嚼が必要になる。その為、より長く、糞料理を口の中で味あわなければならない。
しかもスパゲッティという日常に馴染み深い料理故に、糞の味の異質さが際立ち、味覚的にも精神的にもキツさを増させた。
彡(゚)(゚)「ダレカコロシテクレ......」
じゅんぺい「さ、我修院様もどうぞ」
我修院「いやー、もう十分堪能したよ......」
じゅんぺい「さぁ、じゃあ合図しますんで、ちゃんと、食べて下さいね。行きますよ。はい、じゃあ飲み込んで下さい。」
我修院「うむっ! グゥゥ!! .........ゲェェェェェ!!!(ビチャビチャ)」
まひろ「我修院様いけませんね。そんな粗相をいたしては」
じゅんぺい「これでは食通の名が泣くな! な、お前もそう思うよな?」
まひろ「まったくで御座います。この程度で食通などと」
我修院も、酷い責め苦を味わっていた。奴らの何がそんなに偉いのか、容赦無い罵倒を投げかけている。
我修院 「クソ…」
じゅんぺい 「クソですか?」
我修院 「ハハ…クソ…」
じゅんぺい 「クソですか?」
我修院 「クソ…」
じゅんぺい 「好きになりましたか?」
我修院 「いやぁ…」
じゅんぺい「そっか。じゃあ、まだ堪能してもらおうかな」
我慢の、限界であった。
259 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/05(金) 14:50:27.09 ID:pkUUFC7CO
彡(゚)(゚)「え......ええ加減にせえや......こんな......こんなもの、ただの食事への冒涜や」
まひろ「おや? お連れ様、いかがなさいましたか? まだ、スパゲッティを完食していませんねぇ」
じゅんぺい「お残しをするようなクズに、当店の料理をとやかく言って欲しくありませんねぇ」
彡(゚)(゚)「う、うるせぇ......! せっかくのご飯を、糞まみれにして台無しにしてるのは、お前らやろうが......! 食べ物で遊んでるお前らこそ、料理を語る資格なんか、ない......」
ワイが必死に言葉を紡ぐと、思うところがあったのだろうか。店員達の顔に赤みがかかり、その目をカッと見開いた。
じゅんぺい「これが珍味なんだよぉ!分かるか?好きな奴は喰っちゃうんだよ!」
まひろ「まだデザートが残っていたのですが......仕方ないですね。お連れ様にはペナルティを受けていただきます」
じゅんぺい「ついでに......おい、我修院! お前にもペナルティだ」
我修院「ふぁっ!?」
店員達はそう言うと、バケツを二つ持ってきて、机の上に置いた。
一際異臭を放つその中には......一体いつから溜めていたものだろうか......何人の何回分とも分からぬ凄まじい量の糞が入っていた。しかも何日か放置したものらしく、幾匹も蝿や蛆がたかっていた。
260 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/05(金) 14:51:34.55 ID:pkUUFC7CO
彡(゚)(゚)「ひっ!」
我修院「あぁーすわわぁー...(絶望)」
まひろ「ぶへぇな口を利くからですよ......オラァ!」
じゅんぺい「オラァ! 我修院オラァ!!」
頭の上から、糞という糞をぶちまけられる。目が、開けない。体中に、ベトベトとした糞の感触が伝わる。糞の中の蛆虫が肌の上を蠢き、突然居場所が変わった蝿たちが、耳元で、頭の側で、不快な高音を喚き散らす。
彡(゚)(゚)「やだぁ! も、もうやだぁもうやだぁ〜〜!」
まひろ「どうですか? 糞を塗りたぐられた感想は」
我修院「ヴォェェェ! ヴォェェェ!」
じゅんぺい「誰がえづいていいと言いました? ほらちゃんと食べてくださいよホラ、こんなに残ってるじゃないですかウンコがホラ!」
彡(゚)(゚)「無理ぃもう無理ぃ、あああ!」
彡(゚)(゚)「あああああああああああ(ブリブリブリ」
彡(゚)(゚)「あああああああああああああああっ(ブリブリリュリュ」
彡(?)(?)「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!ブツチチブブブチチチチブリリィリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!」
ーー遠くで、誰かの笑い声が聞こえたーー
CORPORATION『蛮族の棍棒』
彡(?)(?)「アハハハ死ね死ね死ねくたばれ死ね死ねアハハハアハ死ね!アハハハ死ねー!死ねー!死ねー!くたばれーー!!ああああうあああああああ!!!!」
...........................ワイだった。
261 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/08/05(金) 19:33:27.83 ID:LEYp1LVeo
描写が迫真すぎる
迫真すぎる…
262 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/08/08(月) 22:40:49.08 ID:qy5Wh6HY0
夕刻。三人の男が、糞尿レストランへ足を運んでいた。
KBTIT「ったくよぉ、懐かしいなぁ、まひろ。元気しっ、しってかなぁ〜」
平野源五郎「いやいや、まひろ君もそうだが、私が少年奴隷の件で世話したじゅんぺい君も楽しみだぞ」
虐待おじさん「今じゃ立派に俺らの調教師後継者だからなぁ。後継者としてはもう、OK? OK牧場?」
KBTIT&平野源五郎「「......さぁ、着いたぞ」」
虐待おじさん「俺の話聞くっつって聞かないだろさっきから! さっきから聞かないだろぉ!」
薄暗い店内へと、三人が足を踏み入れる。しかし三人を待っていたのは、懐かしい顔馴染みの顔でも、立派に成長した男の姿ではなかった。
KBTIT「なんだよこれおい!」
店中に塗りたくられ、飛び散った糞尿の跡と、その癖になる強烈な臭い。そして、大量の血と、微かな精液の臭いのする異様な空間に、三人の男が倒れていた。
KBTIT「こいつは知らない奴だなぁ、なんだこのブサイク!」
平野源五郎「おい!おい! 大丈夫かじゅんぺい!」
虐待おじさん「そっちがじゅんぺい......じゃあ、こいつが、まひろか......?」
263 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/08(月) 22:41:29.19 ID:qy5Wh6HY0
信じられない、と虐待おじさんは息を飲む。おそらくまひろと思われる人物の頭部は......いったい何度殴打すればこうなるのか......まったく原型を留めていなかった。『それ』が首から上の部分のものでなければ、血まみれのひしゃげた形から眼球が飛び出していなければ、彼は決して、『それ』を人間の頭部だったものとは信じなかっただろう。誰の目から見ても、死因は撲殺によるものだった。
平野源五郎「じゅんぺい! おい! 手を動かせ! 私を楽しませるんだろう!?」
虐待おじさん「おじさんなんて言った? ......。気持ちよく出来ましたか?............。......できてないでしょ?(小声) ......じゃあホラ戻って来いよホラァ! まひろぉ!!」
二人が悲鳴のように喚き散らすも、横たわる店員達はピクリとも動かない。それを見ながら、我修院の遺体を確認したKBTITは、あることに思い至った。
横たわる三人の遺体には、ある共通点があった。それは、三人共尻の穴を無防備に開帳し、その穴から精液を滴らせている点であった。
つまり、この三人はある男によって、プレイ中に殺されたのだ。
KBTIT「もう許せるぞオイ!許さねぇからなぁ〜!!」
怒りを露わに、KBTITは叫んだ。正体不明の犯人は、自分達の旧知の友を殺しただけに飽き足らず、SMプレイの禁忌を犯したのだ。
SMプレイの禁忌とは、即ち殺傷行為だ。『限界を超えた苦痛と快楽を与えるべし。しかし、決して傷を残すべからず』が、調教師界隈における暗黙の了解だ。
禁忌を犯し、友を殺した謎の調教師が、今ものうのうと生きているという事実は、彼らにとって耐えがたい屈辱であった。
KBTIT「ホントはこんな風にされて殺されたいんだろお前もよぉ!?」
虐待おじさん「本気で怒らせちゃったね〜、俺のことねー? おじさんのこと本気で怒らせちゃったねぇ!」
平野源五郎「けしからん 私が喝を 入れてやる」
三人の調教師が、報復の声明を張り上げる。その怒りは当然、未だ顔も名も分からぬ殺人犯へと向けられていた。
264 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/08(月) 22:42:51.11 ID:qy5Wh6HY0
〜〜夜、防衛省・coat博士の研究室〜〜
coat博士「......で、今回の収穫はその中野くん、というのと」
宇野「店内にいたクレーマー二人ですね」
coat博士「あいつとは別れて行動していたんだろ? よく君と原住民だけで捕まえられたな」
宇野「戦闘能力がほぼ0でしたからね。きゅうり神を無理矢理口に突っ込んで、爆発させれば済みました」
coat博士「ずいぶん過激だな」
宇野「何の調理も施していないスーパーの特売肉を、高級グルメと言い張る輩でしたからね。容赦はしませんでした」
coat博士「まぁ、私はなんでも構わないがね。......それより、君が我修院から聞き出した情報は、非常に貴重なものだ。ありがとう」
宇野「......同性愛者の理想郷、ホモ・アルカディア。彼らの目的はなんでしょうか」
coat博士「その名の通り、彼らは理想郷が欲しいんだろ。それが実現可能かどうか、どんな手段によるものかは分からんがな」
宇野「手段、ですか」
coat博士「ふむ......そうだなぁ。時に聞くが、君は彼氏はいるか?」
宇野「は?」
coat博士「彼氏だよ、異性の恋人だ」
宇野「いませんね。それがどうかしましたか?」
coat博士「では君には現在、結婚したいという願望はあるかね?」
宇野「全く、ありませんね」
coat博士「なるほど、君は男に興味が無いんだな。では、君は同性愛者のレズビアン、ということでいいんだね?」
宇野「......喧嘩売っているんですか?」
coat博士「ほら、それだ。君は今、私に同性愛者の疑いをかけられ、それを『喧嘩を売られている』と考えた。同性愛者と認知されることが、異端として世間体を悪くすると考えている証拠だ」
265 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/08(月) 22:43:34.98 ID:qy5Wh6HY0
宇野「いや、勝手に性癖を決めつけられたら、怒るのは当然でしょう。ただのセクハラでしたし」
coat博士「例えば『君はイケメンが好きだ』と性癖を決めつけられたとして、君は今と全く同じ感情を抱いたかね?」
宇野「.........。」
coat博士「要はそういうことだ。現代社会がいかに人間皆平等、差別反対、と謳うようになっても。公の場の人々が、差別は良くないよね、と口を揃えて語ろうとも。人間はそう美しい生き物にはなれん」
coat博士「多数派に属する者はいつも、少数派を叩いて安心を得ようとする。それが分かっているから、人間は少数派......世間から見た異端になることを過敏に恐れる。同性愛者の烙印を押されかけた君の反応が、大多数の人間の素直な気持ちだ」
宇野「しかし、同性愛者の人権というものは......」
coat博士「70年代の、ハーヴィー・ミルク※の登場以降、確かに同性愛者の市民権は強まった。が、だからといって偏見が完全に消えたわけではない。『同性愛者は自分達とは違う』という視線を今一番強く感じているのは、他ならぬ同性愛者達だろう」
※アメリカ合衆国の政治家、ゲイの権利活動家。同性愛者の市民権獲得に向け、意欲的に活動を行うも、78年に志半ばで暗殺される。99年には「タイム誌が選ぶ20世紀の100人の英雄」の一人に選出された。
coat博士「人間社会の性質上、世間の目というのは絶大な影響力を持ち、多大なストレスを生む。その目から逃れたい、というのが、とりあえず思いつく彼らの目的だな」
宇野「しかし自分が間違っていないと思うのなら、世間の目など気にせず、堂々と公言すればいいのでは?」
coat博士「そんな強い意志を持った人間など稀だ。例えば異性の恋人のいない状態で、百人から『お前は同性愛者だ』と言われるとな、本当に自分が同性愛者だと思うようになるのだよ。自らが持つ自分像や、信念、信条、主義は、それを支えるだけの証拠が無ければ非常に脆い。これらは外部からの圧力によって、容易く変化する」
266 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/08(月) 22:44:22.08 ID:qy5Wh6HY0
coat博士「ストレス(外部からの世間の目)から『私が思う私の在り方』を守る為には、同じ思想の者と結託し、団結する必要がある。そして、さらにストレスから完全に解放される手段は、
@閉鎖的な環境に篭り、外部との接触を絶つ
A同じ思想の人間を増やし、取り込み、拡大し、最終的に自分達が多数派になることを目指す
B思想の異なる外敵を根絶やしにする
の三つの内のどれかだ」
宇野「だとすると、ホモ・アルカディアの手段とは」
coat博士「おそらく@とAの複合型だな。野獣先輩は仲間達に一般人を襲わせ、精神レイプ被害者という、擬似的な同性愛者を増やしている。世田谷区という、限られた地域の中でな」
宇野「世田谷区を、『同性愛者が多数派』の場所へと塗り替え、閉鎖的な理想郷を作ろうということですか」
coat博士「それで済むのなら、まだ軽いんだがな......今日のネットのニュースはチェックしたか? 今、結構な祭りになっているそうだぞ」
宇野「いえ、知りませんね」
coat博士「2ちゃんねるは、TVと違って放送コードが無いからな。過激な話題、下品な話題ほど盛り上がるものだが.........『世田谷区の公園で、ホモが野外SEXしてるの発見した』という内容のスレが乱立していたらしい。まとめサイトでも、ホモの話題で持ちきりだ」
宇野「まとめサイトにもってことは、一般人にも認知されやすい、ということですよね」
coat博士「おそらく、ホモ・アルカディアは自分達の存在を隠す気がない。それどころか、むしろ認知を広めたがっている気配すら感じる」
coat博士「こちらも、急がなければな。で、肝心のあいつの様子はどうだ?」
宇野「相変わらずですね。原住民がいくら話しかけても、ロクに返事もせずに虚空を見つめているようです」
なんJ民を迎えに行った時、私がレストランの中で見た光景は、惨劇の跡であった。
撒き散らされた血と糞尿。倒された概念体の残骸。その空間の中央に呆然と立った、血と糞尿と微かな精液を身体にこびりついたなんJ民を見た時、私も殺されるかと一瞬恐怖した。
coat博士「......そうか。まぁ、しばらく安静にして、回復するのを待つしかないだろうな」
博士の言葉と共に、今日の事後報告はお開きとなった。
267 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/08(月) 22:45:04.07 ID:qy5Wh6HY0
〜〜深夜。防衛省・coat博士の研究室〜〜
coat博士「......ん〜、もう二時か。そろそろ私も寝るかな。夜更かしは美容に悪いしな」
ガチャ、バタン。
彡(?)(?)「......。」
coat博士「ん? どうした、バカ息子。眠れんのか?」
彡(?)(?)「.........。」
coat博士「......せめて、何か喋れ。言葉を無理にまとめようとしなくていい。意味を汲み取るくらいのことは、私にも出来るから」
彡(?)(?)「.........ワイな、楽しみにしてたんや。美味い飯食えるって聞いてたから」
coat博士「うん」
彡(?)(?)「でも、出てきたのは、糞だったんや。嫌で嫌で仕方ないのに、糞を無理矢理、食わされた。糞だけやない。普通の食い物にも糞をぶちまけて、食わされたんや。そんで、酷い罵倒も喰らったんや」
coat博士「うん」
彡(?)(?)「そんで、糞を身体にもぶちまけられて、蝿と蛆が身体にたかって、臭いも酷くて、ワイはそこでブチ切れた」
彡(?)(?)「ワイは、あの時酷い目に合っただけやなくて、何かを奪われたんや。その奪われたもんを取り返したくて、奴らに色々やった。とりあえず糞を店員共の身体に塗りたくって、口ん中に糞を捩じ込んでやった。ワイと同じように」
coat博士「うん」
彡(?)(?)「それだけじゃ収まらなくて、レイプもしてやった。エネルギーを奪えるっていうから、奴らから何かを奪ってやりたかったんや。これは、店員だけやなくて我修院にもしてやった。ワイをあんなとこに放り込んだあいつにも、責任があるからや」
彡(?)(?)「それでも足らんくて、特に酷く罵倒してきた店員をボコり殺した。けど、戻ってこないんや。あの糞料理屋に入る前のワイに、どうしても戻れないんや」
coat博士「.........。」
彡(?)(?)「ババア、教えてくれ。ワイは、いったい何を奪われたんや? 何をすれば元に戻れる? ずっと、頑張ってみたけど、飯が喉を通らんのや。笑えないんや。楽しくないんや。明るいことが、なんにも考えられんのや」
coat博士「......お前が奪われたのは、そうだな。一言で言えば『尊厳』だ」
彡(?)(?)「尊厳?」
268 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/08(月) 22:45:47.55 ID:qy5Wh6HY0
coat博士「もちろん、糞を喰わされたことも重大なショックだったろう。だがそれよりも、お前はその店で自由を制限され、望まないものを無理矢理押し付けられた。人としての最低限を大きく下回る扱いを受け、陵辱された」
coat博士「レイプされた女性が、例え妊娠せずとも、人生が狂う程のショックを受けるのと同じだ。慰み者にされ、一時的に人間以下の扱いを受けた傷というのは、見た目以上に深刻なものだ」
彡(?)(?)「......どうすればいいんや?」
coat博士「尊厳を傷付けた相手への報復、が真っ先に挙げられるな。『目には心臓を、歯には指を』、自分が与えられた以上の喪失を相手に与えることだ」
coat博士「復讐は虚しいだけ、なんて的外れな言葉をよく耳にするが、決してそんなことは無い。復讐にはある程度心を慰める効果がある。報復を果たせば、人生における一つの区切りにもなるし、『自分を苦しめた奴が、どこかでのうのうと生きているかも知れない』と思って生きるより、幾分か心も救われる」
彡(?)(?)「やり返す、ってことなら、もうやってもうたぞ」
coat博士「報復で気が済まなければ、喪ったものに代わる何かを見つけることだな。『自分にはこれが無いが、代わりにこれがある』と思える何かがあれば、傷つけられた尊厳も、時が経てば癒えるだろう」
彡(?)(?)「ワイに、あるもの......」
coat博士「そうだなぁ......慰めになるか分からんが、そういえばお前に渡す物があったな」
そう言うと、ババアは机の引き出しから何かを取り出し、渡してみせた。それは、額の中に納められた、白い花弁の押し花であった。
彡(?)(?)「これは......」
coat博士「以前、お前が助けた男子高校生の妹から貰った花だ。ありのままの状態で放っておくと、すぐに枯れて駄目になるからな。押し花に加工しておいた」
彡(゚)(゚)「.........。」
269 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/08(月) 22:46:14.99 ID:qy5Wh6HY0
coat博士「その押し花は、お前が誰かを救った証だ。お前が、誰かにとってのヒーローとなり、感謝を受けたという証だ」
彡(゚)(゚)「......うっ」
coat博士「お前は、みじめなんかじゃない。哀れな被害者なんかじゃない。お前は立派にヒーローをやっているよ。......だから、まぁ、そうだな」
そこで一旦言葉を切ると、ババアは椅子から立ち上がり、身長差のあるワイの頭をガシと掴む。そしてそのまま椅子へと座り直すと、頭を抱えられたワイは膝立ちで、ババアの膝の上にもたれる姿勢となった。
coat博士「辛いことがあったら、親に甘えればいいんだよ。図体がいくらデカくても、お前はまだ、生後2ヶ月の子供なんだから」
なだめるように言うと、ババアがワイの頭を優しく撫でた。その労わりが、慈しみのある声色が、なんだか妙に心に響いて。
彡(;)(;)「うあああ、あああっ!」
堰が、切れた。感情の濁流が溢れて、溢れて、止まらない。ババアが相手なのに、後になって恥ずかしくなるのは分かりきっているのに、ワイはババアの太腿に顔を埋め、思い切り泣いた。
彡(;)(;)「わあああああん! わああああああん!」
coat博士「よしよし。辛かったな、怖かったな。もう大丈夫だぞ。ここには敵はいないから。お前はちゃんと、ここに帰ってきたから」
彡(;)(;)「うわぁぁぁぁぁ! びぇぇぇぇぇぇ!」
coat博士「怖くない、怖くない。大丈夫、大丈夫」
頭を撫でながら、あやすようにババアが囁く。
今朝、雨に濡れながら、大泣きして車道を歩いていた女子高生も、こんな気持ちだったのだろうか。もしそうなら、ワイはあの女に謝るべきかも知れない。
「公共の場で泣くような女に、ロクな奴はいない」
あの時ワイはそう言ったが、なるほど。公共の場だろうと、ババアの前だろうと、確かにこの感情の昂りはどうしようも無い。
その後、ワイは寝落ちするまでのしばらくの間、ババアの膝の上で大泣きし続けた。
270 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/08(月) 22:47:50.25 ID:qy5Wh6HY0
〜〜〜〜
(´・ω・`)「ふーぅ。寝る前にきゅうりを10本、は食べ過ぎたかな。深夜なのに、お手洗いに行きたくて起きちゃったよ」
(´・ω・`)「こういう時って、なかなか寝つけない上に、かといって起きているのも眠いから辛いよねぇ。......ん?」
(´・ω・`)「なにか音がする。博士の研究室からだ」
彡(;)(;)『わあああああん! わああああああん!』
(´・ω・`)(この声は......おにいちゃんの......そっか)
(´・ω・`)(おにいちゃんは、博士の所に相談しに行ったんだ。そして、博士に慰めてもらって、きっと博士の胸を借りて泣いているんだ)
(´・ω・`)「そっか。博士に甘えさせてもらってるんだ、おにいちゃん」
(´・ω・`)「.........いいなぁ」
(´・ω・`)(......ハッ! 僕は、何を考えているんだよ。おにいちゃんはあんなウンコまみれで、苦しくて辛い思いをしてきたんぞ?)
(´・ω・`)(ちょっと博士に甘えるぐらい、許されて当然じゃないか。そのぐらい、報われたっていいはずじゃないか)
(´・ω・`)(生っぽいステーキを食べて、きゅうり神を出してただけの僕なんかと違って......)
(´・ω・`)「ああ、でもやっぱり......羨ましいなぁ............僕も.........」
(´-ω - `)「僕も.........。」
(´; ω ; `)「.........。」
(´; ω ; `)「寝よう.........きっと今は、深夜で頭が変になってるんだ。寝て、起きたら、もう良くないことなんて考えなくて、すぐに忘れちゃってるはずだ」
(´; ω ; `)「だから、だからはやく、はやくお布団の中へ」
そう言うと、原住民は研究室の扉から足早に去っていった。彼の胸中を、彼が扉の前に立っていたことを、この時のなんJ民とcoat博士は当然知る由も無かった。
271 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/08(月) 22:48:24.09 ID:qy5Wh6HY0
......そして、原住民が去ったのとほとんど同時の、日本時間午前3時34分のこと。日本の、そして世界の各報道局に、衝撃的なニュースがもたらされた。
『日本発、中東のプエルトルコ共和国※行きの飛行機が、原因不明の墜落事故を起こした。墜落場所は、プエルトルコ共和国への経由国であるローレンスアラビア※域内の、アッシリヤ※との国境付近であった。
機体は、ANAL航空893便。搭乗者はキャビンアテンダント及び補助担当乗員11名、交代要員を含めた操縦士が4名、乗客が514名と確認されている。搭乗者の大部分は、日本人であったとされる。
搭乗者の生存はほぼ絶望的であり、現在は『テロリスト国家アッシリヤ』との関連性を疑いながら、原因の究明を急いでいる状態である。続報を待つべし』 by各国の報道機関、ローレンスアラビア支部より
死亡者数、526名。生存者、0名。この記録は、ANAL航空開業以来未曾有の、日本航空史上最悪の墜落事故であった。
この事件は後に、『ANAL航空893便墜落事件』と呼ばれ、世界の航空史と日本現代史に深く名を刻むこととなる。
※記載された国名はフィクションであり、実在する国とは一切関係ありません。
272 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/08/12(金) 05:50:16.09 ID:LEGeicWo0
いいゾ〜これ
273 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/08/14(日) 15:14:30.01 ID:sG5vcpCPo
ほんま面白いな
274 :
◆aL7BEEq6sM
[saga]:2016/08/15(月) 07:58:26.79 ID:gdPF9xX/0
【21話】ANAL航空893便墜落事件
深夜のアラビア半島の空を、一機の飛行機が横断していた。機長を務める増永は、操縦席に座りながら、眼前に広がる夜空を呆と眺める。が、アラビアンナイト、などと情緒ある言葉を紡ぐには、高度1万mの風景は変わり映えに乏し過ぎた。
自動操縦技術が著しく発展して以来、パイロットの背負う緊張感や忙しさも、数年前に比べてかなり褪せている。弛緩した空の旅の中、増永は管制塔との通信ボタンに手を伸ばした。
増永『こちらプエルトルコ共和国行き、ANAL航空893便機長、増永喜一。現在、ローレンスアラビア上空を通過中。アッシリヤとの国境まで残り100マイル、針路変更の許可を願う』
管制官『こちら航空管制塔、皆川真弓。ローレンスアラビアの悪天候が未だ激しい。アッシリヤ国境までの距離50マイルまで待つこと。以上』
増永「了解。.........ふぅ、聞いたか涼ちゃん。アッシリヤとの国境ギリギリまで粘れ、だってさ」
英語での通信を終えると、増永は右に座る副操縦士、宮田涼介に声をかけた。
宮田「怖いっすねぇ増永さん。50マイルなんて目と鼻の先じゃないっすか。嫌ですよ俺、テロリストのミサイルに撃ち墜とされたりとか」
増永と比べ、まだまだ経験の浅い宮田が、軽薄な口ぶりで言葉を返す。
増永「地上目線で考えなさいや。国境線から50マイル先の飛行機を、連中がどうやって撃ち落とすってんだ」
宮田「えー、だってあのアッシリヤですよ? 世界治安ランキングのワースト常連で、紛争まみれで、『テロリストの蟻の巣』のアッシリヤですよ? 何しでかすか分かんないじゃないすか」
増永「必要以上にテロリストを恐れちゃいかんよ。それこそ、連中の思惑通りになっちまう」
275 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/15(月) 08:00:51.31 ID:gdPF9xX/0
増永達が早く針路を変更しようとする理由は、アッシリヤの危険度にあった。世界で唯一、『テロリスト国家』の蔑称で呼ばれる、アラビアの汚点アッシリヤ。
彼の国の国境線の内側では、常に貧困、紛争、虐殺、民族対立の嵐が吹き荒れる。そして外側の世界に向けて、内側で溜め込んだあらゆる負の感情を、テロという形でぶつけては、諸外国の反感を一身に受けるならず者であった。
この国とだけは関わりたくないと、マトモな国ならどこでも思う。テロとの戦いに際限は無く、一度その泥沼にハマれば、出口の無い戦いの淵へと引き擦りこまれてしまうからだ。
当然、日本も『奴らと関わりたくない』と思う国家の一員である。「アッシリヤは国家の体を成していない」と、多くの先進国同様、日本もアッシリヤとの国交は断絶している。
国交が無いということは、アッシリヤに航空の許可が取れないということであり、アッシリヤ空域で事故が起きても、責任を取るべき国家が日本にとっては存在しない、ということだ。
宮田「あー、ローレンスアラビアに入った時は、こんな嫌な天候じゃなかったんだけどなぁ」
宮田が愚痴をこぼす。飛行機は、より良い天候を選んでルートを選択するが、機体より北側の悪天候が続き、アッシリヤへ向かう西へと進路を取らざるを得なかったのだ。
増永「アッシリヤに近づくリスクより、悪天候で機体が傷つくリスクの方が嫌なのさ。ANAL航空は」
あっという間に、国境まで50マイルという所に差し掛かった。流石にこれ以上近づくと、アッシリヤに何をされるか分からない。
増永は管制官に悪天候へ突入する旨を報告し、機内へのアナウンスを、CAに指示した。
『この先強い揺れが予想されますが、飛行には全く支障はありません』
お決まりのアナウンスを聞きながら、増永が機首を傾けかけたその時、異変が起きた。
276 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/15(月) 08:02:08.38 ID:gdPF9xX/0
機体が、大きな衝撃に見舞われたのだ。悪天候時のそれと全く異なる、ズシンとした衝撃が二度、三度と走る。ただ事では無い振動の収まりを待っていると、宮田が悲鳴をあげた。
増永さん! と、計器を見つめながら叫ぶ宮田に続き、増永も計器の確認をする。そこに表示されていたのは、絶望的な知らせであった。
増永「なんだ、これは。何故だ」
機体の尾翼が、両翼が、補助翼が、へし曲げられ、あるいはほとんどもげかけている現状を、計器は告げていた。辛うじて生きている噴射口だけが、航空力学の理論を外れた機体を支えようと、虚しい努力を続けている。
増永「これは......」
飛行機の安全を支える、訓練と経験に裏打ちされた操縦士の腕と、最新鋭の技術の数々。飛行機が安全な乗り物と呼ばれる所以も、しかし機体そのものが破壊されればどうしようもない。
明晰な頭脳や天賦の身体能力も、脳からの指令を送る神経が断たれれば、身体そのものを壊されれば、何の意味も持たないように。翼を破壊された機体は、操縦席からの指令を一切受け付けることのない.........鉄の塊と化した。
増永「何故だ......何故だ......何故だ......」
天候の影響では、無い。機体の不備でも無い。アッシリヤによる撃墜が一瞬頭をよぎったが、爆薬の炸裂一つで、飛行機がこんな出鱈目な壊れ方をするわけが無かった。
宮田「増永さん! 何か、何かないんですか!?」
宮田が、狂ったように叫んだ。彼も、厳しいパイロットへの道のりを越えた男として、分かっているのだ。
ーーこの機がもはや、墜落するほか無い状態にあるとーー
宮田が、増永の肩を掴み、縋り付くような目でその顔を見る。ベテランの増永なら、この状況を打破するテクニックや知識を持っているのではと、微かな可能性に縋っているのだ。
しかし増永は、宮田の懇願に応えることもなく、機体の制御を司る操縦桿から手を離すと、機内アナウンスを始めた。
増永『乗客の皆さん。申し訳ございません。本機は、原因不明の故障に会い、全く制御が効きません』
増永さん! と叫ぶ宮田の顔に、非難と絶望の色が浮かぶ。機長自らが墜落のアナウンスをした前例など、航空史上一度も無かった。
277 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/15(月) 08:02:59.38 ID:gdPF9xX/0
例え事故が起ころうと、一縷の望みに懸けて、最期まで墜落の運命に抗う。それが機長たるものの責務であり心構えだと、宮田は養成学校で腐る程聞いてきた。
それを今、増永は放棄したのだ。熟練の操縦士によるこの行為が意味するのは、この機体が完全に詰んでいる、という絶望であった。
増永『本機は、確実に墜落します。最期の時を、家族と、友人と、共に過ごしましょう。そして可能ならば......皆で共に祈りましょう』
そう言うと、増永はアナウンスを切った。機長自らによる死の宣告を受けたことで、乗客席のパニックは、今頃頂点に達していることだろう。だが、増永にはもはや、そんなことはどうでも良かった。高度は既に6000mを切り、みるみるうちに低下していく。
機首の落ちる角度は、時が経つ度に増していく。自由落下の恐怖が機体を包むまで、残された時間は数十秒程だろう。
宮田「あんた、気が狂ったのか!?」
宮田の怒りは当然だ。増永が言うまでもなく、500名を越す乗客達は、突然の異変に怯え、家族や友人と肩を抱き合い、神に祈っている者が大多数だったはずだ。
それをわざわざ、「本機は墜落する」などと乗客に知らせ、絶望の淵に叩き込むことに何の意味がある。墜落を避ける事が出来ないなら、せめて人間性を保ったまま死なせてやるのが、乗客にとっての救いになるのではないのか。
そんな宮田の怒りなど意に介せず、増永は次に、管制塔への通信を開始した。
増永『管制塔。こちらプエルトルコ共和国行き、ANAL航空893便機長、増永喜一。現在、原因不明の故障が起こり、制御を失っている。修復は不可能。これより本機は墜落する。繰り返す、本機は墜落する』
本機は墜落する、本機は墜落する。同じ言葉を何度も繰り返す増永を見て、宮田は彼が『狂ってしまったかも知れない』のでは無く、『既に狂っている』のだと気付いた。
278 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/15(月) 08:03:58.37 ID:gdPF9xX/0
宮田は理解した。増永は、自分が間も無く死ぬという事実から目を背ける為に、何かをしていなければならなかったのだ。自らの気を紛らわせる為だけに、増永は乗客500名を死の絶望に叩き込んだのだ。
宮田「なんだよ、これは」
死に直面した人間とは、こんなにも脆いのか。こんなにも、普段の姿からかけ離れた、哀れな程情けない男になってしまうのか。
きっと増永も自分も、助かる手段がほんの僅かでも残っていれば、機体を持ち直す為に心血を注ぎ、乗客の命の為に奔走する、勇敢な操縦士のままでいられただろう。
だが、もはやこの操縦室には、何の手立ても残されていなかった。誰よりも機体の状況を理解している増永自身が、抵抗することも許されず、100%の死を待つしかないことを知っていた。誰よりも、自らの死を確信し、そして彼は狂ったのだ。
宮田「......あぁ、そっか。俺もか」
そこまで分かると、宮田は自分も同じだったのだと気付いた。『増永に救いを求める』『乗客のことを慮って、増永に怒りをぶつける』『不可解な増永の行動を理解する』。宮田のこれらの行為も、死から目を背ける為に必要だったものなのだ。
そしてそれらを終えてしまった今、宮田に残されたのは、間も無く自分も死ぬのだという、死の確信だけであった。
宮田「......嫌だ! こんなところで! こんな訳も分からず死ぬのなんて嫌だ! 嫌だぁ!!」
本機は墜落する、と静かに繰り返し続ける増永の隣で。死にたくない、死にたくないと宮田も何度も叫んだ。これで、最期の希望たるべき操縦室も、死と絶望の狂気に染まった。
すると、操縦士の姿に見切りをつけたかのように、いよいよ機体が自由落下を開始した。
凄まじいGを浴びる人々の悲鳴が、絶叫が、壊れた機体に数秒響き渡った後......。
7月13日、日本時間午前3時34分。ANAL航空893便は墜落した。
279 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/15(月) 08:04:30.20 ID:gdPF9xX/0
〜〜〜
『テロリスト国家』が誕生した発端は、弱肉強食の時代における、弱国の政策の失敗にあった。
湧いては溢れる資源を貿易に注ぎ込む、富める国ローレンスアラビア。
紛争と民族対立の負の螺旋に陥った、病める国アッシリヤ。
数千年の歴史を共にし、現在も国境を隣り合わせる両国に差が生まれたのは、ここ僅か100年ばかりのこと。20世紀の西欧列強による、植民地支配の時代の出来事であった。
列強による植民地支配に対して、ローレンスアラビアは、憎き侵略者共にあえて頭を垂れる道を選んだ。自国の尊厳を踏み躙られ、西洋文化を押し付けられ、資源を搾取され、それでも彼らは、列強に都合の良い弱国として振る舞い続けた。
彼らは知っていたのだ。軍事力こそあれど資源には乏しく、植民地からの搾取無くしては維持出来ない、列強のシステムの脆弱性を。そして、彼らの先進国たるメソッドさえ吸収出来れば、資源に勝るこちらが優位に立てることを。
そして、彼らは待った。アラブ諸国のナショナリズムの高揚を。列強同士の生存圏の奪い合いによる、自滅に近い疲弊の時を。この二つが重なれば、愛するアラブの国土は必ず、自分達の元に帰ってくると、彼らは信じた。
かくして、彼らの読みは見事的中した。大戦後の疲弊と国際秩序の新しい枠組み、熱狂的ナショナリズム運動は、列強から植民地支配を手放させた。以降50年代から現在に至るまで、ローレンスアラビアは一大産油国として、世界中にその影響力を轟かせている。
280 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2016/08/15(月) 08:05:06.33 ID:gdPF9xX/0
対極的に、ローレンスアラビアの隣国アッシリヤは、ナショナリズムに基づく民族自決を唱え、植民地支配に真っ向から反逆した。
「アッシリヤはアシム民族の国だ。西洋人など必要無い」という弱者の正論は、しかし「植民地政策は、後進国の近代化を手助けする善行である」という強者の理屈に押し潰された。
かくして、早過ぎたアッシリヤの独立運動は、支配国による容赦の無い弾圧と支配の強化を招いた。
歴史的遺産や慣習、宗教、文化の破壊。加えてアッシリヤの支配国は、アシム民族をアシ族とシム族とに無差別に分離させた。これは、民族を二つに分け、対立を生むことによって、支配国に逆らう力を削ぐ為であった。
歴史、慣習、宗教、文化、そして統一民族。ナショナリズムの源泉を全て奪われた元アシム民族は、自分達が何者なのか、自らの還るべき場所はどこなのかも分からずに、アッシリヤの土の上で戦い続けた。
2回の大戦中も、冷戦時も、冷戦後も、いつも大国達の思惑に翻弄されながら。本来同じアシム民族だったはずのアシ族とシム族同士が、左右どちらかの体制の為に、激しい代理戦争を行ってきた。
そうした血塗られた歴史を経た、21世紀の現在。アッシリヤは、世界最大のテロリスト国家へと変貌を遂げた。
『正義』が、ナショナリズムに繋がった国がある。『隣国への反発』が、ナショナリズムを形成した国がある。これらは全て、連続する歴史の中で育まれるものである。
植民地支配以前の歴史を失い、憎しみと闘争の歴史しか知らないアッシリヤ。彼ら元アシム民族に共通する意識は、『報復と復讐』だけであった。
447.88 KB
Speed:0.1
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
続きを読む
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)