精神レイプ!概念と化した先輩

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81 : ◆aL7BEEq6sM [sage saga]:2016/05/27(金) 11:49:46.04 ID:rXJ5SWtRO
MUR(俺の身体は今、サナギと同じなんだ。身体がダルかったのは、孵化のために俺が大人しくしている必要があったから。記憶が消えていくのは、俺がどんどん、ソイツに近づいていってるからなんだ)

MUR(今まさに俺は、俺じゃなくなっている最中なんだ)

父親「お、おい明日名!その人から離れなさい!」

少年「お父さん! この人泣いてるよ!泣いてるよ!」

父親「いいから早く! 今日はもう帰るぞ!」

挙動不審な俺を、危険人物だと思ったのだろう。父親が少年の腕を掴み、どんどん遠くへ離れていく。
父親の判断は、正しい。俺はもう、人間じゃ無くなってしまうのだから。概念体とやらになった後で俺が何をするのかは、俺にも分からない。

キャッチボールをしていた親子が去り、公園に残ったのは俺と、どこかで鳴いているニイニイゼミだけ。

MUR(そういえば俺はあの後、ニイニイゼミの名前の由来を、娘にちゃんと教えてやったのだろうか)

なんでこんなしょうもない記憶が、こんな時に一番頭に残っているんだろうと俺は自嘲する。彼女たちとの思い出が消えてしまうって時に、なんで俺は......。

MUR(......もしかして、)

MUR(俺はニイニイゼミにまつわる娘との会話を覚えていたんじゃなく、今、この場で思い出したんじゃないのか? 目の前で親子が遊んでいて、ニイニイゼミが鳴いていたから)

MUR(記憶にまつわる何かを見れば、俺はその出来事を思い出せるんじゃないだろうか。だから、俺はあの時の妻が何をしていたのか思い出せなかったんだ。この場に、妻を連想させる何かはなかったから)

じゃあ、妻と娘に会えば、俺は彼女たちとの記憶を、思い出せるんじゃないか? 記憶を失わずに、済むんじゃないか?
そう思い至った俺は、重たい身体を無理矢理立ち上がらせた。概念体になろうとする意志が、俺に動くなと命じているなら、俺はそれに逆らわなければ。

MUR「帰ろう。妻と娘のところへ」
82 : ◆aL7BEEq6sM [saga sage]:2016/05/27(金) 11:50:24.44 ID:rXJ5SWtRO
帰ろう。もう帰ろう。ホモビだの、概念だの、そんなことはもうどうでもいい。この記憶が、彼女たちの顔さえ分からなくなってしまう前に、家に帰らなければ。

MUR「ぐぅ、うぅ、ぐっ...!」

全身を包む倦怠感が、一歩、また一歩と踏み出すことにさえ、苦痛を伴わせる。身体が叫んでいるのだ、お前は大人しくしていろと。

MUR「うるっせぇんだよ......俺は、家に帰るんだ!!」

なんとか足を踏み出し、俺はようやく走り始めた。最初は沼の中を進むような、酷い疲労感を伴った。だが10歩、100歩と進む内にだんだん身体が楽になっていく。重い鎖が外れたみたいに、どんどんスピードが上がっていく。

MUR「うおおおっ、おおおおおおお!!!」

走る。走る。走る。公園を抜け、街路に出た。俺の家の方角はどっちだったろうか。思い出せない。思い出せないが、動かないよりかはマシだ。走っていればいつかは家にたどり着くはずだ。そのはずだ。
走る。走る。走る。身体が凄く軽い。走るのが気持ちいい。家に帰れば、妻と娘が待っている。早く帰って、シャワーも浴びたい。これだけ汗を流したのだ、きっと気持ちがいいだろう。
走る。走る。走る。家に帰れば妻と娘が待っている。家についたら、もう俺は空手部なんて辞める。鈴木や木村には悪いが、あんな部活、俺は苦しくて嫌なんだ。
走る。走る。走る。妻と娘が待っている。妻と娘が待っている。早く帰らなきゃ、家に帰ってラーメンにミンミンゼミを入れるんだ。妻と娘が待っているんだから。

MUR「いえっ、いえっ、つまぁ!むっ!!」

俺は走った。とにかく走った。そして走っていると黒い車が道からでてきて、はねられた。びっくりしたので、でも俺はぜんぜん平気だったから、車が動くのをみて、車で思いついた。
そうだ、この車に連れていってもらって、車で家と妻と娘に連れていってもらおう。妻と娘が待っているんだから。

MUR『俺も乗せてくれ』

そう言っているのに、車はいきなり動いて、俺にお尻を向けて、走ってしまう。待って、って言っているのに、走ってしまう。

MUR『待ってくれ!俺も乗せてくれ! 俺を家に連れていってくれ!』

車は止まらない。走ってしまう。追いかけなきゃと思って、俺は走る。頑張って走って、走っていると、車から黄色い奴が車から顔を出して俺を見た。俺を見た黄色い奴が俺を見るから、そいつに向かって俺は大声で叫んだ。

MUR『俺を家に連れていってくれ! 俺を家に連れていってくれ!』

MUR『妻と娘が、待っているんだ!!』
83 : ◆aL7BEEq6sM [sage saga]:2016/05/27(金) 11:57:15.79 ID:rXJ5SWtRO
彡(゚)(゚)「お、おい! もっとスピード上げろや轢き逃げ! もう追いつかれるぞ!」

宇野「轢き逃げ言うな!無茶言うな! こんな住宅街の狭い道でかっ飛ばしたら、また人轢いちゃうかも知れないじゃない!」

彡(゚)(゚)「一回轢いたら百回も万回も大して変わらんわ!」

(´・ω・`)「変わるに決まってるでしょ!」

宇野「じゃああなたが運転してくださいよ! 私もうあんな怖い思いするの嫌なんですよ! 当たった瞬間もう、強い衝撃が前からドンっとして、」

宇野がヒステリックに叫ぶのを遮るように、ドンっという衝撃が車内を揺らした。今度は後ろからのようや。

宇野「うひゃあああもうやだぁ! 今度はなんなんですか玉突き事故ですか!? 私の過失は0ですか!?」

彡(゚)(゚)「ちゃうわボケ! お前がちんたら運転するから追いつかれたんや! むしろお前の過失が10や!」

宇野「安全運転してるのにっ」

(´・ω・`)「宇野さんのキャラが壊れてる......」

縄で縛ったKBSトリオの向こうに、バックドアの上に四つん這いで乗るMURの姿が、ミラー越しに見えた。さっきの衝撃は、こいつが飛び乗ったことによるものだろう。

彡(゚)(゚)「おい! MURが車の後ろに乗っとるぞ!どうするんや!」

宇野「......あー、もう! 今から車を右に寄せて走らせます! なんJ民さんは左のドアを開けて車の屋根に登って、彼を車からはたき落として下さい!」

彡(゚)(゚)「戦え...ちゅうことか?」

宇野「車から落としてくれれば手段はなんでも構いません。原住民さんはその後で扉を閉めてから、なんJ民さんら外の様子を私に報告してください!」
84 : ◆aL7BEEq6sM [saga sage]:2016/05/27(金) 12:01:11.38 ID:rXJ5SWtRO
(´・ω・`)「ラジャ!」

彡(゚)(゚)「そうと決まれば......オラァ!」

青「ガネッ!」

赤「ボリョッ!?」

黒「ゼッグズッ!!」

気絶しているKBSトリオを、念のため一発ずつ殴ってから、ワイは左側のドアを開いた。

彡(゚)(゚)「途中で目が覚めたら面倒やからな。ほな、行ってくるで」

(´・ω・`)「行ってらっしゃい!気をつけて!」

車の屋根に手をかけ、一息で全身を屋根まで運ぶ。バックドアに両足を着けるMURに対して、やや高い位置で向かい合う。

彡(゚)(゚)「よう、お前がMUR大先輩やな」

MUR「......ゾ、ゾ、ゾ」

バタンと音を立てて、原住民がドアを閉めた。それとほぼ同時に車が左折を始め、慣性による圧がかかる。ワイは身体を少しよろめかせながら、足場が悪いとこで長いこと戦うのは、多分よろしくないなと思った。
85 : ◆aL7BEEq6sM [saga sage]:2016/05/27(金) 12:05:27.48 ID:rXJ5SWtRO
彡(゚)(゚)「戦う前に、2つだけ礼言うとくぞ。結構余裕あったはずなのに、車壊さないでくれてありがとな。狙いが何かは知らんが、ワイこの車けっこう気に入っとるんや。お釈迦にされたらそりゃもう、たまらんかったわ」

MUR「......ウゥ」

彡(゚)(゚)「2つ目。お前みたいな文句無しに強い奴を、ワイは待ってたんや。さっき戦ったアホどもは、まぁ一発で倒せたんやけども。あんな雑魚っぽいの倒しても、ワイが強いのか弱いのかよう分からんからな」

彡(゚)(゚)「お前はなんか言いたいことあるか?」

MUR「ゾ、ゾ、ゾ、いいゾ〜」

彡(゚)(゚)「......そか。まぁ、そうやろな。んでは」

彡(゚)(゚)「分かり合えない事が分かったところで、やらせてもらうぞ死に晒せぇ!!」



宇野「原住民さん! 上の様子は!?」

(´・ω・`)「ま、まだ戦ってないみたい!」

宇野「人のこと遅いだのチンタラしてるだの言っといて、なに自分はまったりしてんだあの野郎!」

宇野(! クソッ、また左折だ。嫌だなぁ、曲がりたくないなぁ、人跳ねるの怖いなぁ)

住宅街で運転するストレスが、私の精神を削っていく。なんでこう、日本の道路はどこもかしこも狭いのだろうか。あとなんでこんな曲がり道が多いの。

宇野(あー、もう! 権田さんさえ健在なら、こんな怖い思いしないで済んだのになぁ! 私の判断ミスが原因なんですけれども!)

横目でチラリと、助手席で気絶している権田さんを見てみるが、まだまだ起きる気配は無さそうだ。

権田「.........」ピクッ

権田(せ...た...が...ゃ......)
86 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/28(土) 02:18:12.50 ID:5bdgYUAoO
素晴らしいssなのにsage進行、誇らしくないの?

ageて、どうぞ

87 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/05/28(土) 15:09:08.33 ID:dCwLvCntO
登場人物

・彡(゚)(゚) (なんJ民)
coat博士の『概念を実体化させる技術』によって生まれた概念体。元になった概念は2ちゃんねるの実況板、なんJのマスコットキャラクター。短気で粗野で攻撃的な性格で、精神年齢は小学生と同等。
coat博士から『野獣先輩を倒せ』という使命を与えられ、現状はそれに従って行動している。面白ければなんでも好き。

・(´・ω・`) (原住民)
coat博士がなんJ民を生み出した際におまけのようについてきた、イレギュラーな概念体。元になった概念はなんJ民同様、なんJのマスコットキャラクター。性格は気弱で戦闘能力も低いが、粗野ななんJ民のフォロー役として彼と行動を共にする。
自分が何故『原住民』という名前なのか、その理由となる記憶を一切忘れている。好きな食べ物はきゅうり。

・coat博士
『概念を実体化する技術』を開発した女科学者。概念体の野獣先輩を生み出した元凶であり、彼の凶行を止める手段としてなんJ民を産んだらしい。
年齢は31歳。なんJ民をバカ息子と呼ぶ。趣味は観察記録。

・宇野 佐奈子
政府からcoat博士をサポートする為に遣わされた特派員。プロ意識が高く、己を美人だと自負している。
年齢は25歳。趣味は映画鑑賞だが、ホラー映画は大嫌い。

・権田源三郎
黒くてゴツくて頑固な背のデカい車の運転手。宇野とは何度か仕事を共にした仲。
年齢は53歳。生涯を運転手として貫き通したいと思っている。

・野獣先輩
coat博士によって生み出された概念体。都内を中心に起きている連続失踪事件の犯人で、淫夢民、ネット民をターゲットに次々と精神レイプしていく。彼に精神を犯された被害者には、憑かれたように世田谷区へ向かおうとする謎の現象が起きる。
己に課した『虐げられたホモ達を救う』という使命を果たすため、『始まりのホモ』に協力を仰ぎ、仲間を増やしながらある計画を進める。

・始まりのホモ
野獣先輩と行動を共にするホモ。孵化すると概念体になる『概念の卵』を、他者に植え付ける能力を持つ。
その正体は謎に包まれている。

・MUR
当たり前の家庭を築いた幸せな男だが、かつて小遣い稼ぎにホモビに出演した過去を持つ。
ある日、娘にスマートフォンをねだられた事をきっかけに、娘に過去を知られる恐怖に怯えていた所で、野獣先輩に出会う。心の弱りを突いた野獣先輩の誘いに乗り、始まりのホモによって概念体の卵を植え付けられてしまう。愛するものは妻と娘。

人物紹介を書いてみました
88 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/28(土) 21:25:10.23 ID:jBlPuxLqo
原住民怪しすぎますね…
89 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/05/28(土) 21:52:09.32 ID:qJ9yOxM20
単語解説

・概念体
coat博士の『概念を実体化させる技術』、あるいは始まりのホモの『概念の卵』が孵化することによって生まれる、概念と物体の中間に位置する存在。

・ホモビ
主に男性同士の性交渉を取り扱う、同性愛者の視聴を想定したアダルトビデオ。現在は本来意図した客層と異なる人間が、視聴者の大多数を占めている。

・真夏の夜の淫夢
2001年にコートコーポレーションによって発売されホモビの名称、及びホモビ全般をネタにする文化やコンテンツの総称。
2002年に、とある野球選手が、かつてホモビに出演していたとするスキャンダル騒動が起きた際、彼が出演した本作品も同時に知名度を上げた。ネット上ではそれ以降、本作品やその他のホモビをネタにして面白がる文化が綿々と紡がれていった。(以降このコンテンツのことを淫夢と呼ぶ)
2008年〜2009年、ネタ切れによって下火になった淫夢に、野獣先輩が登場する。その圧倒的なキャラ立ちと印象的な演技、セリフによって、淫夢というコンテンツは再び炎上する。以降、様々なホモビ作品が淫夢民によって発掘(無断転載)された。
ネタの面白さ、インパクトの強さによって人口が多数増加した淫夢は、現在2ちゃんねるやニコニコ動画を中心に一大コンテンツと化している。その影響力は甚大であり、最近流行りの言葉が実はネットの流行語で、その流行語もさらに元を正せば淫夢語録(ホモビ出演者の印象的なセリフ)だった、という実例がある程である。

淫夢民
ホモビをネタにして面白がる人物達の総称。野獣先輩の登場以降、爆発的に人口が増え、彼らがどのような存在かを一括りにすることはほぼ不可能である。彼らの年齢、実社会での身分、そしてその活動内容は多種多用であるからだ。
学生もいれば中年男性もいるし、サラリーマンもいれば無職もいる。ニコニコ動画でMADを生み出す者がいれば、それを視聴するだけの人間もいるし、2ちゃんねるでホモビ内容の解釈を行う者や、淫夢語録だけの会話を楽しむ者もいる。ホモビ出演者に好意的なコメントをする者もいれば、罵倒や嘲りを含んだコメントをする者もいる。
つまり現実では、こういう人間が淫夢民だ、と判断するのは不可能であり、裏返せば街を歩いてすれ違う全ての人間が、淫夢民である可能性を秘めている。逆にネットではその多様性故に、淫夢に関する話題に触れた者は内容如何に関わらず、その時点で淫夢民と化すのである。

ただ一つ彼らに共通するのは、その行為の本質が「ウンコをつついて面白がる」のと同じだということだ。淫夢民の多種多様な活動も、要はウンコをどうつついたらより面白くなるだろうか、という模索である。
当然、素顔を多数の人間に晒されたうえにウンコ扱いされた側は、少なくとも平穏を望む人間にとってはあぁ〜もうたまらないことだろう。

・なんJ(なんでも実況ジュピター)
巨大提示版2ちゃんねるの中の、有力な板の1つ。野球の実況、雑談を主とし、猛虎弁やネットスラングを多用する独特な言語を持つ。
スレッドの保持数が異常に少ないことから、回転率が高く、印象的なセリフや出来事を共有しやすい、といった特徴があるが、特筆するべきは野球chから流入してきた歴史、実況を主とする性質から生まれた文化にある。
全てのスポーツは戦いであり、その戦いを応援する彼ら自身も、また好戦的な人物となる。戦いの無い協調、共存よりもむしろ対立と騒動を望み、住人同士の煽り合い(レスバトル)も頻繁に起こる。淫夢民の面白さの追求方法が「ウンコをつつく」のであれば、こちらは「互いにウンコを投げつけ合う」ことで面白さを追求する。他人への気遣いもなく、本能のままに衝動的に行動するその様は、まさに小学生そのものである。
実社会での立場、肉体、他人からの評価、その全てを取り払った名無しの彼らの姿は、
小学生の頃に戻りたいという、大多数の願いの表れなのかも知れない。

ノンケの方向けの用語解説も作りました。来てくれ......。
90 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/05/29(日) 19:58:12.09 ID:iACsiqApO
彡(゚)(゚)「オラァ!」

二歩助走をつけて、MURの顔を目掛けて前蹴りを放つ。屋根とバックドアの高低差から、腹蹴り程の低姿勢で、顔を狙えた。体勢に無理がなくなる分、普通より強い勢いで蹴れたと思う。

MUR「ゾッ!?」

ワイの蹴りに対して、MURはカウンターも、受けを取る素振りすら見せず......

MUR「ゾォォォォォォォ!!」

突き飛ばされたそのままに、普通に車から落ちていった。

彡(゚)(゚)「えぇ......」

道路にゴロゴロと転がるMURを眺めながら、ワイは呆然と立ち尽くす。

彡(゚)(゚)「あっけなさ過ぎるやろ......」

なんだろうか、この肩透かし感は。まるで将棋で言えば、1手目で互いに角道を空け、先手の相手が、何故か2手目で左側の銀を上げた時のような。いやむしろ、プロ棋士同士の高度な対局が、初歩的なミスである二歩で台無しになった時のような虚無感が、ワイを襲った。
勝利の喜びも、敗北の屈辱も感じない。勝ち負けの戦いにあるべき絶対的ななにかが、先程のKBSとの戦いから今に至るまで、ずっと欠けている気がした。

彡(゚)(゚)「ワイが強過ぎる......ってことか?」

宇野は、MURは野獣先輩より格上だと言っていた。なら、野獣先輩もこんな程度のもんなのだろうか。もしそうならばあまりにも......あまりにも、張り合いが無さすぎる。

彡(゚)(゚)「はぁ......つまんな。...ん?うぉ!?」

車内に戻るため、片膝をつき、ドアをノックしようと頭をもたげた時に、車が大きく左右に揺れた。
91 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/05/29(日) 20:07:53.61 ID:iACsiqApO
彡(゚)(゚)「お? お? おぉ!?」

車は頭を左に向け、右に向け、狭い道をクネクネと曲がりながら進む。蛇行運転、というやつだろうか。ワイを振り落とそうとするように、慣性による圧が身体を揺らす。

しばらくすると蛇行が収まり、車は再び直進を始める。

彡(゚)(゚)「おい! ちゃんと運転しろや轢き逃げ! お前、諸々雑過ぎるぞ!」

ドアをドンドンと叩き陳情するも、ワイの声は聞こえていないようだった。車内の様子はミラー越しで見え辛いが、後部座席に原住民の姿はなく、運転席では......権田のオッさんが、何故か宇野の左腕を掴んでいた。なにやら揉めているように見える。

彡(゚)(゚)「なんやあれ。痴話喧嘩か?それに原住民はどこ行ったんや......ゲホォ!」

車の屋上部分から乗り出していたワイの頭が、道端の電柱にぶつかった。痛みは無いが、衝撃により、身体の向きを車の後方へと向けられる。

彡(゚)(゚)「おービックリした。生身の人間なら首もげてたところや......ん?」

MUR「ゾォォォォォォォ! ゾォォォォォォォ!!」

後ろに目を向けると、雄叫びを上げてこちらへ走ってくる人影があった。先程と変わらぬ白いTシャツに坊主頭のその出で立ちは、間違いなくMURだ。

彡(゚)(゚)「ハハッ、あの一発喰らってピンピン走っとるわ。やっぱKBSよりずっと頑丈みたいやな。......ええで、第2ラウンドと行こうやないか」

あれで終わっちゃつまらんもんな、と呟き、ワイは構えをとってMURを見つめる。さぁ来い、早く来い、と意気が高揚したのも、しかしほんのひと時の間だけだった。

MUR「イイィぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

彡(゚)(゚)「! な、なんや!?」
92 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/29(日) 20:17:51.14 ID:WhxZe08xO
みてるぞ
93 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/05/30(月) 00:32:39.82 ID:PkyIq8kN0
走りながら、MURは両手を顔の前で交差させ、上体を仰け反らせる。大して筋肉のついていなかった腕に血管が幾筋も浮かび上がり、奴の白かった肌も急速に赤黒く変色していく。

MUR「ゾォォォォォォォッッ!!!」

MURの咆哮が、ワイの鼓膜を揺さぶる。溜めた力を一気に解放するように、MURは両腕を大きく広げる。露わになった顔は憤怒の色に染まり、瞳孔の開いた瞳が真っ直ぐワイを捉えていた。
そこまでは、まだいい。理性の無い状態という意味なら、MURの姿は先程までとなんら変わりがないから。ワイが驚愕したのは、奴の背中から湧き出てきた......

彡(゚)(゚)「なんやそれは......なんや?」

構えた腕を思わず下げて、ワイは呆然とそれを眺めた。ボコボコと丸い肉塊が、MURの身体から弾き出たのだ。そして丸い肉塊は空中で形を変化させ、動物のような体を型取り、地に足をつけた。
94 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/05/30(月) 00:33:17.75 ID:PkyIq8kN0
十数個程生み出されたソレは、なんとも形容し難い形状をしていた。丸い大きな肉塊から、首と頭部......のようなものが伸びているが、目も鼻も口も、およそ動物に必要なパーツは何一つ、その頭部には備わっていなかった。のっぺらぼうである。しかしそのくせ、頭部の髪?に当たる箇所には、真っ白な人間の指が4本づつ、左右に分かれて生えており、ワキワキと蠢いていた。
頭部、首、恐らく胴体部分であろう丸い大きな肉塊。どの部分にも毛や皮といった動物的な装飾はなく、ピンク色のツルツルした人肌だけが、その奇妙な物体の全身を包んでいた。

更に、その物体から地面に伸びる脚部は、ほっそりした人間の脚そのものであった。胴体部分に比べてアンバランスに長い二本の脚が、奇妙な肉塊を支え、前へ前へと走らせている。

彡(゚)(゚)「なんや、それは!! 一体なんなんやそれはぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

異様な物体達が、十数の群れになって追いかけてくる。あまりに理解不能で不気味な光景に、ワイは思わず絶叫した。
ワイを絶叫に駆り立てた、この初めて経験する感情。その正体が、未知に対する『恐怖』と呼ばれるものだとワイが知るのは、大分後のことであった。

......そしてその奇妙な物体の正体が、ある淫夢民の悪ふざけによって作られた、MUR肉と呼ばれるキャラクターだとは。この時のワイには、尚更知る由も無かった。
95 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/05/30(月) 00:35:29.09 ID:PkyIq8kN0
〜車内〜
権田「ムゥ......グ...ゥゥ...」

宇野「権田さん? 嘘、もう起きたんですか?」

権田「え、えぇ。ご心配をおかけし申し訳ありません。......運転まで、させてしまったようで」

宇野「いえ......まぁ、ええ。気にしないで下さい」

私が銃弾で殺しかけたり、権田さんの車で人?を撥ねたり、現在車の上に敵がしがみついていることは、今は黙っておこう。寝起きにストレスをかけるのも不憫だろうし。

宇野「今日はこのまま私が運転しますので、権田さんは休んでいて下さい。もうこの道を真っ直ぐ走れば、渋谷区に離脱出来ますので」

権田「そう......ですか。もう、着くのですね」

歯切れ悪く、権田さんが答える。なにか、らしくない。寝起きで頭が働かないのだろうか。
違和感が頭をよぎった時、後部座席に座る原住民が私を呼んだ。少し興奮しているようだ。

(´・ω・`)「宇野さん宇野さん! あの怖いオジさんが落ちていったよ! おにいちゃんが勝ったみたい!」

宇野「マジなのですか? アイツ、そんなに強かったんですか」

KBSトリオはまだしも、MURまで瞬殺出来るのか。だとするとこれは、もしかしてかなり......こちらに分がある戦いではなかろうか。MURより知名度や格が高い淫夢のキャラなど、そうそういないはずだ。
96 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/05/30(月) 00:36:43.68 ID:PkyIq8kN0
宇野「ともあれ、これで無事に帰れますね」

権田「そうですね。ところで宇野さん、このまま真っ直ぐ行った二つ目の信号を、左に曲がってくれませんか?」

宇野「はい?」

助手席に座る権田さんが、突拍子も無いことを言い出した。寝ぼけているのだろうか。

宇野「いえ、もうこの道を真っ直ぐ行けば、首都高に乗って帰れますので」

権田「私は権田源三郎ですよ? 都内の道を全て網羅している男の助言です。お聞き届けになった方がよろしいかと」

宇野「......。」

私だけが知っている近道があるんですよ、と権田さんは戯言を続けるが、正直言って近道もへったくれも無い。真っ直ぐ走れば渋谷区へ抜ける高速道路があるのだ。これ以上の最短はありようが無いし、それに、

宇野「ここで左折しても、世田谷区の北側に向かうだけです。今は遠回りをしている余裕はありませんので、また次の機会に......痛っ!?」

寝言をいなし、意味の無い助言を無視して真っ直ぐ車を進めると、権田さんの右手が私の左腕を掴んだ。太く大きな手によって、骨を潰すような勢いで固く握られる。

宇野「なっ! ご、権田さん、一体なにを!」

権田「いいから言うことを聞きなさい! 運転において、私の言葉は絶対です! それにこれは私の車だ! 私の車は絶対に、私の思い通りに動かなければならないのです!!」
97 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/05/30(月) 10:08:42.15 ID:PkyIq8kN0
私の左腕を、権田さんが無理矢理引き寄せる。左手が握るハンドルが左に切られ、車体もそれに倣う。狭い道でそんなことをすれば、事故は必至だ。私は無理矢理ハンドルを右に切り、車の進行方向をなんとか元に戻そうとする。

宇野「や、やめて下さい! 権田さん!」

権田「うるさい! これは私の車だ! 私の車なんだ!」

権田さんはなおも左腕を引き続け、私もそれを戻そうとする。車は蛇行運転となり、危うく塀にぶつかりかけたり、車の脇が電柱にかすったりする。血走った目に憤怒の表情を浮かべる男を相手に、しばらく危機的なやり取りをしていると、原住民が叫んだ。

(´・ω・`)「どうしたの権田さん! へ、変だよこんなの、おかしいよ!」

宇野(その通りだ。こんなのはおかしい。自らの運転に誇りを持つ権田さんが、こんな事故が起こって当然の暴挙に出るなんて、本来なら絶対に有り得ないことだ)

宇野(では今、有り得ないことが起きている理由は何だ? 彼をおかしくさせているモノはなんだ? ......考えてみれば、答えは簡単だ)

権田「黙りなさい! 私は、私は、世田谷に行かなければならないのです!!」

宇野(権田さんは今、精神を犯されている...! 先程の、KBSトリオのレイプによって!)
98 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/05/30(月) 10:09:30.27 ID:PkyIq8kN0
異常な事態の原因が分かると、半ばパニックだった心理状態から回復出来た。冷静になった私は、権田さんに握られている左腕をハンドルから離した。

権田「むぅ!? 小癪な真似を!」

車の進行方向が正常に戻る。右腕だけで車を操作しながら、私は原住民に向かって叫んだ。

宇野「原住民さん!権田さんは今、KBSの暴行によって錯乱しています! 私はこれ以上手が離せません、なんとか権田さんを黙らせてください!!」

(´・ω・`)「黙らせるって、ど、どうやって!?」

宇野「殴れ!!」

(´・ω・`)「え、ええぇ......」

権田さんが、今度は左腕でハンドルを切ろうと狙ってくる。これ以上は、まずい......!

宇野「原住民さん、早く!」

(´・ω・`)「う、うわああああああ」

原住民はほとんど破れかぶれで、後部座席から助手席と運転席の間に割り込んでくる。

権田「!? ふ、ふざけるな! お客様が、神聖な運転席に入ってくるなあああああああ!!!」

ハンドルを掴むはずだった左腕が、原住民への攻撃に狙いを変えたようだ。権田さんは拳を思い切り振り上げて力を溜め、原住民の脳天目掛けて叩きつけた。
ゴッ、という音が響く。人間なら間違いなくタダでは済まないその威力に寒気がしたが、

(´・ω・`)「うわああああああん!」

腐っても概念体、ということだろうか。その小ささ故に助手席の足元に落ちた原住民は、権田さんの拳を意に介さずに、半べそで権田さんを殴りつけた。破れかぶれは継続中らしい。

しかし、何も考えずに殴る原住民の拳というものが、原住民の立つ場所と身長の関係で......。

(´・ω・`)「うわああああああ! うわああああああん!!」ポコポコ

権田「 あ、ま、待って、こは、そこはダメ! やめ、はうゎ!はが、はらま、ああぁ!!」

......全て、権田さんの股間に集中していた。
99 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/05/30(月) 10:10:20.77 ID:PkyIq8kN0
権田「はっ、はっ、はっ、はぅ、はぁぁ!それ以上は、それ以上は、やめ! でな、私、私ぃっ、ひはぁ!」

権田さんの右手が、私の左腕を掴む力は、既にほとんど無い。女の私には一生分からない痛みだが、相当痛いのだろうな。その、男の金的というものは。

権田「私、女の子になってしまいますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

聴くに耐えない断末魔の悲鳴を上げて、権田さんは泡を吹いて気絶した。なおも殴り続ける原住民を止め、

宇野「......よくやってくれました原住民さん。もう大丈夫です。悪は滅びましたよ」

権田さんの子種まで滅んでいないか心配しつつ、私は彼を褒めた。
100 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/05/30(月) 10:10:56.11 ID:PkyIq8kN0
(´・ω・`)「うぅ、うぅぅ、ブニブニした感触が、気持ち悪いよぉぉぉ」

宇野「今、私達が目にした権田さんは、本当の権田さんじゃありません。だから今日見た彼の姿は......出来れば、忘れてあげてください」

(´・ω・`)「......うん、分かったよ」

宇野「さぁ、後部座席に戻って、今度こそ休んでいてください。本当に、あとはもう帰るだけですから」

後部座席にいそいそと戻る原住民を尻目に、私は危機の終わりにほっと一息つい

(´・ω・`)「え? なにあれ? なにあれ! なんなのさあれ!? 宇野さん! 宇野さん! あれ、後ろのあれ見てよ!」

宇野(......一息、くらい、つかせてくれよ)

後ろを見ろ、と言われ、私はバックミラーに目を向ける。そこに写っていたのは、鬼気迫る形相でこちらに駆けてくるMURと、

宇野「......なん、ですかあれ。いやあれはなんですか。馬鹿なんですか。ホント馬鹿なんですかどいつもこいつも」

MURを超えるスピードで、肉塊に人間の足が生えたような、いや実際に足が生えている、謎の物体の群れが追いかけてきていた。キモいの一言に尽きる外見だが、その分アレに追いつかれるのは......多分、そうとう怖い。

宇野「......原住民さん。車のどこでもいいので、しっかり掴まってて下さい」

(´・ω・`)「な、なにする気なの!?」

宇野「私はこれより、鬼になります」

首都高の入り口まで、およそ1.5km。おそらくこれが、本日最後の修羅場だろう。

宇野「もう左右の安全確認なんてやりません。信号なんて知りません。ネズミ捕りがいたら轢き殺します。皆で赤信号渡ってる馬鹿なんて皆殺しです」

(´・ω・`)「ヒエッ」

宇野「さぁ行きますよ」

ギアを5速に変更し、

宇野「法定速度の、壁の向こうへ」

私はアクセルを踏み抜いた。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/05/30(月) 18:19:52.95 ID:Vbr5naYaO
これは久しぶりに見る文才の無駄遣いやなあ...
102 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/01(水) 23:16:24.99 ID:D1P5XDW6O
狭い街路の運転でストレスが溜まっていた私にとって、アクセル全開で車を走らせるのは、ある意味願望であった。もう何も考えずに、ただ真っ直ぐ車を突っ走らせたいと思う衝動が、私を突き動かす。
が、アクセルを踏んでから数秒と経たず、その願望は打ち砕かれた。

(´・ω・`)「宇野さん待って! おにいちゃんが落ちた!」

宇野「なんですって?」

それが本当なら大事だ。まさか奴を置いていくわけにもいかないので、落ちたのなら無論回収しなければならないのだが......

宇野(「アレ」に突っ込まなきゃいけないのよね、その場合。勘弁してよもう)

慌ててギアとスピードを落とし、後方を確認する。サイドミラーにもバックミラーにも、なんJ民の姿は確認出来ない。距離が縮まり、先程よりも大きく見える肉塊どもと、その後ろに続くMURの姿だけが視界に広がっている。

宇野「見えませんよ、本当に落ちたんですか!?」

(´・ω・`)「落ちたけど、車になんとかしがみついてるみたい!」

車窓を開けて首を外に出した原住民の報告に、ひとまず安堵を得られたものの、これで全速力で奴らから逃げる狙いが狂ってしまった。なんJ民が車上か、あるいは車内に戻るまで、またスピードを出すわけにもいかない。奴が振り落とされてしまえば、それこそおしまいだ。

宇野「あー、もう! 勝手に落ちてんじゃないわよあのマヌケ!」
103 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/01(水) 23:17:34.49 ID:D1P5XDW6O
彡(゚)(゚)「あのアマほんま無能の極みやな! もう更迭や更迭、それしかあらへん!」

止まってくれない車に引きづられながら、ワイは必死にナンバープレートにしがみついていた。車から落ちたのは勿論ワイのミスではなく、宇野が断りもせず速度を上げたからだ。
あの謎の肉塊を相手に、どう対処したらいいだろうか。そう考え込んでいる時に不意打ちを喰らったのだから、ワイが圧に負けて転んだのは当然だ。全てあの女が悪い。

彡(゚)(゚)「とりあえず車に戻らな、文句も言えへん」

ガリガリと地面を削りながら、ワイは右手を離してバックドアの取っ手部分に手をかけた。左手を離し、今度はバックドアに手をかけるも、そこはツルツルと摩擦が少なく、とても掴めなかった。仕方なく両手で取っ手を持ち、体を起き上がらせた後、

彡(゚)(゚)「ふんぬらばっ!」

跳び箱の要領で、バックドアまで尻を運ぶ。前から自覚してたが、相当筋力あるよな、ワイ。
窓の向こうで原住民がこちらに顔を向けているのを見つけ、手で挨拶をしてやった後。尻もちの姿勢から立ち上がったワイは、車の屋上に上がり、前の方へ歩き、横向きに寝転んで運転席の窓を叩いた。中の宇野が鬱陶しそうな表情で窓を開ける。なんやその態度は。

彡(゚)(゚)「おいヘタクソ! お前がいきなり速度上げたせいで落ちたやないかこの無能!無能!無能!」

宇野「はぁ!? アンタさえ落ちなければ今頃首都高まで一息でいけたんですよ!? ちょっとは踏ん張り効かなかったんですかこのマヌケ!」

彡(゚)(゚)「なんやとこのブス!」

宇野「な!? またそれを、...... ! チッ、なんJ民さん顔を上げて、早く!」

そう言うと宇野は懐から拳銃を取り出し、ってオイオイオイ。

彡(゚)(゚)「悪口一つでワイを殺す気かお前はぁ!」

必死で顔を上げると、車の右側に並走する、例の肉塊が視界に写った。

彡(゚)(゚)(ついに追いついてきたんか......!)
104 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/01(水) 23:18:09.40 ID:D1P5XDW6O
間近で見ると、肉塊の背丈は頭部を合わせて、140cm程はあった。思ったより更にデカい。
パン、と不愉快な銃声が響くと、その肉塊はあっけなく横に倒れた。そして、車のスピードから置き去りにされた肉塊をしばらく眺めるも、倒れた肉塊はキモい脚をジタバタするばかりで、起き上がる気配は無い。腕がないのだから当然かも知れない。
銃弾一つで処理できたことと、やがて後続の肉塊達に踏み超えられるその様を見て、意外とアイツら、脆いんじゃないかとワイは思った。

宇野「意外と弱いわね」

サイドミラーを見て、宇野も同じ感想を抱いたらしい。

彡(゚)(゚)「それ使えるなぁ。なぁワイにも貸してくれや」

宇野「嫌です。弾は残り5発ですし、そもそもあなたじゃマトモに当てられませんよ......キャッ」

左側から強い衝撃がきた。振り向くと、左側にも肉塊が並走していた。衝撃の原因はそいつの体当たりだったようだが、肉塊はバランスを崩すことなく未だ走っている。
銃声が鳴り、左側のソイツも倒れた。これで弾の残りは4発。さっき数えた肉塊の数は15だったから、倒した2体を引いて、残り13か。

彡(゚)(゚)「向こうが勝手に倒れることはないようやな。弾の数が全く足りんぞ、どうするんや」

宇野「ひとまず並走してくる肉塊は私の銃で処理します。なんJ民さんはとにかく、奴をどうにかしてください!」
105 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/01(水) 23:18:46.89 ID:D1P5XDW6O
宇野が言うのとほぼ同時に、ドンっと音を立てて、MURが車に飛び乗ってきた。位置は最初と変わらず、バックドアに足を立て、屋上に手をつき四つん這いの姿勢だ。

彡(゚)(゚)「そうか、お前もいたんやったな。そんじゃ今度こそ、第2ラウンドといこうやないか!」

先程と同じように、勢いをつけた前蹴りを放つ。また何のリアクションもせず突き落とされるかと思ったが、

MUR「ゾッ!」

MURは両腕を顔の前でクロスさせ、ワイの蹴りを防いだ。片脚を弾かれたワイは、よろめきながら後ろに一歩下がる。その隙を、突かれた。

MUR「イイゾォォォォォォォ!」

彡(゚)(゚)「!?」

MURが無防備に体勢を崩したワイへと接近してきた。バックドアから屋上へと飛び移り、ワイの懐へと侵入したMURは、腹部へ拳を放った。

彡(゚)(゚)「ウグゥッ......!」

予想以上に重い拳が、深々とワイの腹を抉る。息を一気に吐き出してしまい、慌てて酸素を取り込もうと思うものの、2発目の拳が、間髪入れずにもう一度刺さった。

彡(゚)(゚)(あっ! い、痛い! 痛い! 痛い!)

あまりの激痛に、ワイは腹を抑えながら横向きに崩れ落ちる。痛みに耐えようと眼をつむりかけた所で、MURが倒れたワイに覆い被さった。
鬼の形相をした男が、おそらくワイの顔を狙って、右拳を思い切り振り上げた。血走ったその眼が、手加減など知る訳もなく。

彡(゚)(゚)(あ、マズい。トドメ刺される)
106 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/01(水) 23:19:45.91 ID:D1P5XDW6O
命の危機を初めて感じたワイは、痛みを我慢してなんとか......足を持ち上げて、MURの尻を蹴飛ばした。

MUR「ゾッ!?」

殴る為に前傾に力が掛かっていたからか、瀕死のワイの蹴りでも、ギリギリMURを落とすことが出来た。車から落ちたMURが、丁度横を並走していた肉塊を巻き込んで、地面にゴロゴロと転がっていく。残り12。

彡(゚)(゚)(痛い! 死にかけた! 痛い! ワイ舐めてたわ、ケンカを舐めてたわ! 殴られるって、こんなに痛いんか! 殺す気で来る敵って、こんなに怖かったんか!)

屋上に這ったままで、初めて味わう実戦の恐怖に、ワイは慄いた。イメトレとも、ゲームやテレビとも違う、生の痛みに、死の恐怖。
腹の痛みがだんだん引いていき、呼吸が戻ってくるも、まだ、立ち上がれない。
銃声がまた1発、続けてもう1発響いた。宇野がやってくれたのだろう。これで、肉塊は残り10。弾は残り2発。

彡(゚)(゚)(嫌や、また殴られとうない。あんな痛い思いしとうない! 嫌や、嫌や、嫌や。頼むからもう、来ないでくれ!)

ワイの願いも虚しく、肉塊の群れの向こうから、また奴の咆哮が響いてきた。走ってくる、走ってくる。何も変わらぬ、あの鬼の形相で。

彡(゚)(゚)「そんな......」

もう、勘弁してくれ。ワイが半ば絶望しかけた時、後部座席の窓が開き、原住民が顔を出した。

(´・ω・`)「おにいちゃん! またあのオジさんが登ってきてたの? 大丈夫!?」

彡(゚)(゚)「原住民......」
107 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/01(水) 23:20:27.03 ID:D1P5XDW6O
(´・ω・`)「もしかして、まだやってくるの? 僕も一緒に戦おうか!?」

彡(゚)(゚)「......。」

ワイの身体であんなに堪えたMURの拳を、原住民が喰らったらどうなってしまうだろうか。いや、原住民だけでなく、権田のオッさんや宇野も、あんな拳を喰らえば、間違い無く死んでしまうだろう。

彡(゚)(゚)(......そうや。肉塊をどうにかした所で、MURを止められなければどうしようも無いんや。そんで今、MURと戦えるのはワイだけや。ワイしかおらんのや)

彡(゚)(゚)「......お前なんか今役に立つか、アホ。いいから車ん中戻って、大人しく待ってろ。ワイと宇野が、なんとかしてやるから」

(´・ω・`)「で、でもおにいちゃん!僕、」

彡(゚)(゚)「お前がワイの心配するなんて100年早いわ。車ん中戻れ、鬱陶しいんじゃ」

(´・ω・`)「っ!......う、うん。分かったよ...」
108 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/01(水) 23:21:02.01 ID:D1P5XDW6O
彡(゚)(゚)(そうや。ワイがなんとかせにゃならんのや。痛いだの怖いだの言っとる場合やない。動くんや。動かなきゃ死ぬしかないんや!)

ワイはようやく、立ち上がった。抑えていた腹がズキズキと痛むが、気にしている場合じゃない。ワイが守らなきゃいけないんだ。この車を、原住民を、オッさんを、ついでに宇野を。

背中に吹くこの風は、車が動いている証拠だ。この風が凪いだ時に、ワイらの命運は尽きる。逆に風を絶やさなければワイらの勝ちや。動き続けていれば、いずれ首都高に辿り着く。世田谷から抜ければ、きっと希望の芽が出るはずや。
気合いを入れ直し、ワイは身構える。肉塊の群れから、3体飛び出してきた。

彡(゚)(゚)(肉塊の狙いは、体当たりで車を壊すことか? それなら......)

肉塊が左に1、右に2に分かれ、車の横に並んだ。左右から同時に体当たりされたらたまらんし、2体同時には捌けんと思ったワイは、左の1に狙いを定めた。
案の定、右と同時に体当たりしてきた肉塊を、ワイは車にぶつかる直前に横あいから蹴り飛ばした。並走している時は距離があって届かんが、これならワイも奴らを倒せる。
ほぼ同時に右から衝撃がくるが、予想済みだ。ワイは踏ん張って、車から落ちないよう耐えた。
思ったより衝撃が少ない。振り向くと、並走している肉塊は1体だけだった。宇野が一体倒していたのだろう。これで残り8、銃弾は1。
109 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/02(木) 13:47:55.22 ID:WKhm3BlZO
MUR「ゾォォォォォォォ!!」

後方で、MURの咆哮が響く。また距離が縮んできているようだ。その咆哮に応えるように、右側を並走していた、先程の生き残りが加速した。

彡(゚)(゚)「! あ、あの野郎!」

肉塊も学習するのだろうか。一時的に車より速くなった肉塊は、車の前に身体を割り込ませた。もたれてくる肉塊が車の前へ進む力を削ぎ、みるみる内にスピードが殺されていく。

彡(゚)(゚) (アレを放っておいたら、肉塊にもMURにもすぐに追いつかれてまう!囲まれるぞ!)

宇野もヤバいと分かっているのだろう。窓から腕を出し、屋上をバンバンと叩いて合図してくる。アレをなんとかしろ、と。
ワイは前方のボンネットへと駆け、邪魔な肉塊を横へ蹴り飛ばした。残り、7体。
と、そこでアクシデントが起きた。焦って蹴りを放ったことによる体勢の不安定と、

MUR「ゾォォォォォォォ!」

スピードが減退したことで、MURが先程よりも早く車に戻ってきた振動が重なり、

彡(゚)(゚)「また落ちるんか!」

前方に向かって、ワイは車から落ちた。

彡(゚)(゚)「アババババババババ」

地面に体がつくと共に、車に轢かれる。車の底部と地面の間をすり抜けられる程、ワイの体の厚みは薄くないらしく、頭が、腹が、底部の部品にガツンガツンとぶつかり続ける。
やがて暗い視界が開け、外に出た。

彡(゚)(゚)「っ、マズい、何か掴まな」

慌てて腕を伸ばすと、幸いにも片手がナンバープレートに手が届いた。

彡(゚)(゚)「よっしゃ、冴えとるな。お?」

車に戻ろうと体勢を整え上を見上げると、MURの足が、目の前にあった。

彡(゚)(゚)「.........。」

ワイはMURの右足首を掴み、後ろに思い切り引っ張った。

MUR「ゾッ!? ゾォォォォォォォ!」

車からMURを落とし、その反動でワイはバックドアに足をつける。
110 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/02(木) 13:48:31.73 ID:WKhm3BlZO
(´・ω・`)「あっ! 宇野さん、おにいちゃん戻ってきた。戻ってきたよ!」

原住民はワイの安否を宇野に伝えているようだ。まぁ、落ちるのももう二度目だ。向こうも先程よりは動揺も少ないだろう。
また二体、肉塊が左右に並走してきた。先程と同じように、同時に車に体当たりする算段らしい。

彡(゚)(゚)「もう慣れたわ! 芸の無い奴らめ!」

ワイは迷わず左に狙いを定め、体当たりのタイミングに合わせ、肉塊の横っ面を蹴り上げた。振動は、来ない。予想通り、宇野が右の肉塊を仕留めたのだろう。これで肉塊は残り5、弾は0。
しかし、慣れてきたのはこちらだけでは無いのか、MURがまた車に飛び乗ってきた。戻ってくるまでの時間が、どんどん早くなっていく。
更に、数を3分の1まで減らされた為か、肉塊達にも動きがあった。後方で控えていた5体の肉塊が、一気に車に横並びになる。その数は左に2、右に3。

彡(゚)(゚) (いよいよ向こうも大詰めか。けどどないしよ。弾はもう無いし、MURと戦っとる間に一斉に体当たりされたら、防ぎようが無い)

MURと戦うか、 肉塊達の体当たりに備えるか、どちらを選べばいいか悩んでいると、あることに気付いた。

MUR「......。」

彡(゚)(゚) (こいつ、ワイが仕掛けない時は特に何もせーへんよな)

そう、初めて車に乗ってきた時から、コイツはずっと、バックドアに突っ立っているだけなのだ。車を壊すチャンスならいくらでもあったはずなのに、攻撃らしい攻撃といえば、ワイが奴を落とそうとした時に、ワイを殴ってきただけ。

彡(゚)(゚)(車を壊すのが目的じゃないんか?)

違和感は、もう一つあった。肉塊達である。車を壊すなら、今が絶好の機会だ。5体いっぺんに体当たりされたら防ぎようが無いし、今ならそれが出来るはず。なのに、肉塊達は車の横を並走するだけで、一向に仕掛けてこない。

彡(゚)(゚) (理由は、MURが乗っているからか?......それなら)

ワイは身体を寝そべらせ、運転席の宇野に話しかけた。

彡(゚)(゚)「おい宇野! 宇野!分かったことがあるんや!」

宇野「あなた何やってるんですか! 早く肉塊を、いやMURをなんとかしてくださいよ」

彡(゚)(゚)「だからそれが分かったんや! MURが車に乗ってる限り、肉塊共は体当たりせーへん。そんでMURもMURで向こうから何かするつもりは無いらしいんや!」

宇野「なんですって?」

一瞬怪訝な顔を向けられるが、体当たりを仕掛けてこない肉塊達に思い当たったのか、宇野もワイの意見に頷く。

彡(゚)(゚)「なんかこの事利用する手はないか?」

宇野「......一つ、策があります。よく聞いてください」
111 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/02(木) 13:49:42.13 ID:WKhm3BlZO
.........。

約1分後。ワイは肉塊共を尻目に、MURをジッと眺めていた。
身体を縦にしながら四つん這いになるその姿は、木に掴まる蝉の幼虫を思わせる。

彡(゚)(゚)「......結局、コイツの目的ってなんなんやろうなぁ」

いやそもそも、コイツに目的なんて無いのかも知れないな、と一人納得する。蝉といえば、今は丁度夏の始まりの時期だ。 今は聴こえないが、もうどこかで蝉が鳴いているかも知れない。

(´・ω・`)「おにいちゃん! そろそろだよ!」

彡(゚)(゚)「おう、任せとけ」

首都高への入り口が見えた頃、窓から原住民が首を出して報せる。宇野の策は至ってシンプルだった。

宇野『勝負は首都高の入り口。そこでケリを着けましょう』

(´・ω・`)「......GO!! おにいちゃん!!!」

彡(゚)(゚)「ウォォォォォォォ!!」

原住民の合図と共に、ワイはMUR目掛けて走り出す。狙いは最初の時と同じ、顔を目掛けた前蹴り。

MUR「ゾッ!」

MURの反応は早く、既に顔の前で腕をクロスさせ、防御の姿勢を取っていた。だが、

MUR「!?」

車のスピードが一気に上がり、MURの体勢が崩れる。逆にワイには追い風が吹き、蹴りの威力がむしろ上がる。

宇野『首都高に入る直前、なんJ民さんが最初に車から落ちた時同様に、一気にギアをあげスピードを上げます。体勢を崩したMURを、そこで一気に蹴落として下さい』

宇野『くれぐれも、気を付けて。これはタイミングが命です。合図は原住民さんが報せます』

彡(゚)(゚)「タイミングはばっちりやで! 死に晒せやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

MUR「ゾォォォォォォォ!!」
112 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/02(木) 13:50:12.75 ID:WKhm3BlZO
MURが絶叫を放ちながら、車内から転げ落ちる。それに呼応するように、離れて並走していた肉塊達が一気に車へと距離を詰める。一斉に体当たりをかますつもりのようだ。だが、

彡(゚)(゚)『でも待てや。それでMURはなんとか出来たとして、肉塊共はどうするんや』

宇野『だから、タイミングが命なんですよ』

車が首都高の入り口に入り、並走する肉塊達もそれに寄ろうとするが、

肉塊「 」

入り口の両脇の壁に頭をぶつけ、まとめて転倒した。自分のスピードで自爆するあたり、奴らに考える力はやはり無いようだ。

宇野『日本は狭い。なんでも狭い。首都高の入り口も、車がギリギリ入れるくらいの間隔しかありません。その狭さを利用するんです』

彡(゚)(゚)「一網打尽......ってやつやな」

坂道を登り、高速道路へと車は進む。しばらく後ろを眺めても、肉塊もMURも、もう追いかけてくることはなかった。

(´・ω・`)「おにいちゃん、お疲れ様」

彡(゚)(゚)「おう。終わったな」

原住民が後部座席のドアを開け、ワイを招いた。他の運転手達に、車の上に立つワイの姿を晒すわけにもいかんだろう。ワイは急いで車内へと戻り、戦いの終わりにホッと一息ついた。
113 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/02(木) 13:51:31.33 ID:WKhm3BlZO



どこかで、蝉の声が聞こえる。どこか懐かしく感じる、あの蝉の声が。この蝉の名前は、なんだったっけ。どこで聞いたんだっけ。この蝉は、俺は、誰と.........。

MUR「ゾォォォォォォォ!!!」

車が行ってしまったが、まだ追いつける。俺は帰らなくちゃいけないんだ。帰らなくちゃいけないんだ。
腹ばいになったMURはそう叫んで、また起き上がって車を追いかけようとした。だが、

??「いけませんねぇMURさん。世田谷区を出るなと、田所さんに教わらなかったんですか?」

MUR「グッ、ウゥ、ゾォォォォォォォ!!」

突如現れた、黒いフードを被った男に腹を踏みつけられ、MURは身動きが取れなくなる。なんだ、この男は、誰だ。

MUR「ゾォォォォォォォ! ゾォォォォォォォ!!」

??「あららら、話も通じない。初めて見るケースですねこれは」

がむしゃらに暴れるMURを意に介さず、黒フードの男、始まりのホモはMURの顔をまじまじと見た。

始まりのホモ「おかしいなぁ。パッと見はもうほとんど概念体なのに、なんでちゃんとしたMURになっていないんだろ?」

始まりのホモ「......まぁ、どうでもいいか。勿体無いけど、卵を重ね掛けしちゃいましょう。とっとと駒になってもらわないといけないし」

そう言うと、始まりのホモはMURの顔に右手をかざした。頭がボヤけ目眩がする、どこかで味わったような、奇妙な感覚がMURを襲う。

MUR「ウ......アゥ......アァ......」

始まりのホモ「これで大人しく寝てなよ。目が覚めたら、今度こそMURになれているはずだから」
114 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/02(木) 13:52:10.76 ID:WKhm3BlZO
気勢を無くし、虚ろな目になったMURから離れ、始まりのホモは高速道路へと目を向けた。

始まりのホモ「......coat博士はKBSトリオを捕まえましたか。まぁ、最初の被験体としては上々じゃないですか?」

始まりのホモは、かつて見た気丈そうな女の顔を思い浮かべ、クスクスと笑う。

始まりのホモ「あの人のことだ。きっと上手くやるんだろうね。現状を調べ、実態を把握し、対策を練り、訓練を施して、そうやって強くした概念体を、またここに送り込むんだよね。勝てると踏んで、この世田谷に。僕らのホモの領域に」

彼は笑う。ここまでずっと僕の思い通りだ、僕の手のひらの上だ、と。

始まりのホモ「うふふ、急げ急げよcoat博士、地獄の門は目の前だ。早く早く、門番の僕を倒さなきゃ。門の向こうの亡者の群れを、殺して回って減らさなきゃ......」

始まりのホモ「時間切れの日の世界の亀裂が、どんどん酷くなっちゃうぜ?」

始まりのホモに、銃弾は効かない。斬撃も雷撃も、猛毒も爆炎も、核兵器ですら、彼や他の概念体達の命を脅かしはしない。現世のいかなる軍事力を持ってしても、彼らの行軍を止めることは出来ないだろう。
彼らは無敵の強姦魔。概念に包まれた肉体を駆使し、自由と自我を奪う怪物の群れ。
115 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/02(木) 13:52:45.63 ID:WKhm3BlZO
始まりのホモ「恐ろしいものの形を・ノートに描いてみなさい・ そこに描けないものが・君たちを殺すだろう・」

どこかで聴いた歌の詩を口ずさみながら、彼は笑う。頭に思い浮かんだのは、顔であった。時計の針を、目に見える脅威だけを基準に前に後ろに動かして、悦に浸る老人共の顔。その茶番に踊らされて、一喜一憂するバカ共の顔。想像するだけで、彼は笑いが止まらなくなる。

教えてやろう。想像出来る程度の恐怖など、大した脅威では無かったということを。
教えてやろう。命を脅かす真の脅威は、時計の盤面の外側、思考の埒外にあったということを。

奴らに教えてやろう。僕の怒りを、僕の哀しみを、僕の喪失を、僕の怨みを。脅威と恐怖をもって、奴らの頭に刻みつけてやろう。

始まりのホモ「FIRST BLOOD(先に手を出したのはお前らだ)......終末時計を叩き壊して、僕が世界を変えてやる」

怪物は笑う。全ては思惑通りに進んでいると、世界は己の手の中だと言わんばかりに、不遜に笑う。その傍らで、ほとんどの自我を亡くしたMURの瞳だけが、彼の表情を見つめていた。彼の醜く歪んだ口元や、暗く淀んだ瞳の意味する所を、しかしMURには思考する余地がなかった。
だから誰一人として、彼の思惑を知らない。そして誰一人として、彼の気持ちは分からない。今は、まだ、この世界の誰も。

始まりのホモ「変えてやる......壊してやる......ウフフ、ハハッ、ハハハハ、アハハハハハハハ」

MURの耳に微かに聴こえていた、蝉の鳴き声。彼が思い出に到る為の僅かな希望は、しかし始まりのホモの大きな哄笑によって、黒く・き消されてしまう。

MUR(む......つ.........)

もはや意味を得られない脳と視界に、黒い影が滲む。急速に、端から端へと広がっていく。そして、

MUR(ご......め............)

影が全てを飲み込んだ瞬間をもって。MURの意識と記憶は、今度こそ闇の中へと消えていった。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/03(金) 18:14:42.88 ID:TAZoK+52o
文才がありすぎる
117 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/05(日) 16:39:25.79 ID:IU0V1sgv0
宇野「なんJ民さん、原住民さん。お疲れの所で申し訳ありませんが、今日は研究所とは別の場所に宿泊して頂きます」

高速道路に車を走らせながら、宇野が言った。日はまだ高く、まだまだ夜の出番は無いとばかりに、青々とした空が車窓から広がっている。

彡(゚)(゚)「なんや、カプセルホテルにでもぶち込むつもりか? この満身創痍のワイらを」

(´・ω・`)「早くお家帰りたいよぉ」

彡(゚)(゚)「そーやそーやババソーヤー」

原住民の弱音にワイも同調する。時間にして1時間も経っていないが、今日世田谷で起きた出来事はあまりに慌しく強烈だった。とっとと帰って飯食って糞して寝たいのだ、こちらは。

宇野「私だって疲れてるんですから我慢して下さい」

彡(゚)(゚)「こっちが辛いんだからそっちも辛いの我慢しろって、ブラック企業の常套句やないか。ワイらは社畜やないぞ」

宇野「......一方的に権利ばかり主張する奴も、それはそれでどうかと思いますがね。しかし家に帰りたいとおっしゃいますが、」

宇野「あなた方にとっては、coat博士がいる場所こそが家なのでは?」

彡(゚)(゚)「なんで今ババアが出てくるんや」

(´・ω・`)「今から向かう場所に、博士もいるってこと?」

彡(゚)(゚)「ああ、そういう」

宇野「その通り。敵の能力が分からない以上、敵の概念体をそのまま研究所に連れて行く訳にはいきません。どんな手で居場所を割られるか分かりませんからね」

(´・ω・`)「お腹に発信器が付いてたりとか?」

宇野「まぁ、そんな所です。『概念を実体化する技術』は日本国のトップシークレット。研究所の場所を知られる可能性は、限りなく0でなければいけません」

彡(゚)(゚)「今から行く場所は敵にバレてもええんか?」

宇野「少なくとも、連中が事件を大っぴらにしたいと思うまでは、まぁ安全な場所でしょう」

宇野「行き先は国防省技術研究本部。この国の軍事技術の集積所です」

彡(゚)(゚)「......ほう! それは色々、見学しがいがありそうやな!」

(´・ω・`)「きっとカッコいい兵器とかたくさんあるんだよ!楽しみだね!」

彡(゚)(゚)「おう!漢のロマンの宝箱がワイらを待ってるんやで」

(´^ω^ `)「僕、なんだかワックワクしてきたよ」

彡(^)(^)「ワックワクやな!」

宇野「.........。」
118 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/05(日) 16:40:07.30 ID:IU0V1sgv0


〜〜
coat博士「無事に帰ってきたようで何より。さて、まず報告を聞こうか?」

彡(゚)(゚)「報告もクソもあるか! 人のこと荷物扱いしおってからに!」

(´・ω・`)「狭くて、暗くて、怖かったね」

彡(゚)(゚)「頑張って戦ったワイらへの仕打ちがこれかババア!」

場所は、国防省庁舎D棟3階。使用中、とだけ書かれた扉の1室で、概念体どもが不平を漏らす。

coat博士「仕方無いだろう。まさかお前らの姿を庁舎の人間に晒す訳にもいかん。極秘だから、で通すのにも相当な労力が必要だったんだぞ」

パッと見は化物、なんとか誤魔化せても良くて着ぐるみの彼らを、公衆に晒す訳にもいかなかった。そこで「荷物」として彼らを箱に詰め、このcoat博士の研究室まで連れてきたのだが......。

彡(゚)(゚)「色々見学しようと思っとったのに! ワイらの純真なワックワクを返せ!」

(´・ω・`)「ヘリコプターとか見たかった......」

そうとうご立腹のようだ。

宇野「箱に詰められようが詰められまいが、一国の軍事技術をそう易々と拝めるわけないでしょう」

彡(゚)(゚)「じゃあ最初からそう言えやボケ! 夢と現実の落差が激し過ぎるんや!」

coat博士「また学べて良かったじゃないか。そう、夢が無いと人生はつまらんが、あまり夢を見過ぎると現実に叩き起こされて痛い目を見るぞ」

(´・ω・`)「叩き起こした側が言うセリフじゃない......」

coat博士「まぁ今度市ヶ谷記念館に連れていってやるから、それで我慢しろ。ヘリコプターも見れるぞ」

(´^ω^ `)「ほんと? やったぁ」

彡(゚)(゚)「あっさり懐柔されんなや原住民!」

coat博士「自衛隊のカッコいい武器も見れるぞ」

彡(^)(^)「気が利くやんかこのババア!」

宇野(チョロいな......)
119 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/05(日) 16:40:52.13 ID:IU0V1sgv0
coat博士「納得してもらえた所で、今日起きたことの報告をして貰えるかな?」

彡(゚)(゚)「おうええで。まずな、車が黒くてゴツくて固たそうやったんや。そんで出てきた権田のオッさんが、これまた黒くてゴツくて頑固そうで、しかも長かったんや! そん時ワイは思ったな、車に足らんかったもんをこのオッさんは持っとるって。そんでそんで、ドライブがこれまた楽しくてな、」

coat博士「よし分かったもういいぞ。では宇野くん、頼む」

宇野「はい」

彡(゚)(゚)「なんでや! 話はまだこれからやぞ!」

宇野「世田谷区にはcoat博士の予想通り、KBSトリオがいました。交戦の結果、権田さんが精神をレイプされたものの、なんJ民さんの奮戦のおかげで3人の生け捕りに成功。そのサンプルがこちらです」

彡(゚)(゚)「おい、ワイの話を聞け!」

(´・ω・`)「おにいちゃん、ここは下がろうよ」

coat博士「ほう、これがKBSトリオか。ビデオの中の容姿と何一つ変わらんな」

宇野「撮影から十数年経って、容姿の劣化が起きていないのは不自然ですね。概念体には若返りの効果でもあるんでしょうか」

coat博士「というより、ビデオの中の容姿の枠にハメられたのだろうな。概念体になることで、『皆が思っているKBSトリオの姿』に変えられてしまったのだろう」

coat博士「それにしても、素晴らしい結果じゃないか。交戦し、概念体を生け捕りにして帰ってくる。成果の基準は、文句無しの最良だ」

宇野「いえ、そういう訳でもありません」

coat博士「ん?」

私は、世田谷区で起きた出来事をかいつまんで説明した。概念体に物理攻撃が効かなかったこと、私が肌で感じた黒の右拳の脅、そしてKBSトリオを、拳1発で倒したなんJ民の話。
精神を犯された権田さんの豹変と、帰りの途中で遭遇したMURの強度、そして奴が産み出した謎の肉塊共の話を。
120 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/05(日) 16:41:51.34 ID:IU0V1sgv0
coat博士「ふむ......。MUR、か」

宇野「今日起こったことの概要は以上です。更に詳しい説明は、なんJ民さん達から聞いてください。......一つ、質問してもいいですか?」

coat博士「なんだね? 私の3サイズでも教えて欲しいのか?」

彡(゚)(゚)「なんかこう、己の年齢を弁えない女ほど、痛々しいもんも無いんやなって」

coat博士「お前ほんと、三十路の女性に殺されても文句言うなよ?」

んん、と咳払いしてから、私は言った。

宇野「概念体って、そもそも何なんですか?」

coat博士「......。......と、言うと?」


宇野「まぁ、元々違和感はあったんですよ。『概念を実体化する技術』の触れ込みはこうでしたよね。少ないエネルギーで大きなエネルギーの物体を、なんでもアリに産み出せる夢の技術だと」

coat博士「そうだな」

宇野「つまりは概念を利用して、ある特定の物体を創る、ただそれだけの技術だったはずです。爆弾は爆弾で、人間は人間でしかありません。だのにその枠を外れた『能力』が備わっているのはおかしいでしょう」

宇野「あなたの技術に求められていたのは、ただ爆発するだけの爆弾です。なのに今は、物理攻撃で破壊出来ない、不良品の爆弾が生まれてしまっている。求められていたのはただの人間なのに、そいつは肉塊を身体から生成する奇妙な能力を備えている」

宇野「野獣先輩が脱走したのも、それと関係があるんじゃないんですか? 概念体とは、つまりどういう理屈の何なのですか。私が出会った概念体は、まるっきりただの化物でしたよ」

coat博士「簡単な話さ。全ては、ただ私の技術が未完成だった故に起きたことだ」

宇野「......あっさり認めるんですね」
121 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/05(日) 16:42:20.70 ID:IU0V1sgv0
coat博士「恥ずかしいから隠していたかったんだがな。君の言う通り、概念を利用して『100%の物体』を産み出すのが、本来の私の目的だった」

coat博士「だが私の技術はまだそこに届かなくてな。私が作った野獣先輩やなんJ民は、『半分が概念、もう半分が物体』で出来た、言わば出来損ないだ」

彡(゚)(゚)「テメェ、ワイを今出来損ないと言ったな!」

(´・ω・`)「おにいちゃん、抑えて!」

coat博士「概念ではあるが、実体を持つ物体でもある。物体ではあるのに、完全な物体では無い。その矛盾の答えは、君が誰よりも正確に味わったはずだ」

そう言われ、左足の踵が黒の肋骨を捉えた時の感触を思い出す。銃弾の運動エネルギーを持ってしても、貫けなかった概念体の外皮を思い起こす。
触れない、わけでは無い。衝撃を加えて吹っ飛ばすことも可能だった。しかし薄皮一枚先の内部には、一切の影響を与えられなかったあの不気味な身体。

coat博士「出来損ないは、出来損ないであるが故に、完全であるよりも強い力を発揮した。一つ目の特徴は君の言った通り、ただの攻撃には影響を受けないこと。そしてもう一つは、」

coat博士「概念体の半分が物体で出来ているが故に。皆が思っている対象の強さや能力、即ち概念を現実に実体化出来る、という点だ」

宇野「イマイチ、良く分かりませんね」

coat博士「ではこれから説明していこう」
122 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/06(月) 23:20:51.41 ID:thcFHAz20
coat博士「例えば、ベンチプレスを300s持ち上げられる人物がいたとする。その男は多くの人間に認知されていて、とても有名人だ。さて、彼を認識する多くの人間の意識、概念からデータを取り出し、『概念を実体化する技術』で概念体として生み出したとしよう」

彡(゚)(゚)「ベンチ300って化け物やろ」

coat博士「生み出した概念体は、ステータス上はベンチプレス300sを持ち上げる能力を持っている。ここでもし彼が純粋な概念であれば、ステータスがいくら凄いところで、実在する重りを持ち上げることは1rたりとも出来ない。実体が無ければ、それはただの幽霊のようなものだからな」

coat博士「逆に、彼が純粋な実体であれば、彼はステータスの通りに300sの重りを持ち上げられるだろう。しかし先述の通り、私が作った概念体はそのどちらでも無く、概念が半分、実体が半分で構成されている」

coat博士「実体を持っている為に、概念体は自らの概念上のステータスをもって、実在する物体に影響を及ぼせる。しかし、概念体の実体は半分しか無い為、その能力全てをステータス通りに実行出来るわけではない」

彡(゚)(゚)「??」

coat博士「まとめると、概念体は概念として定められた能力を、実在する人間や物体に振るうことが出来る。しかし完全な実体ではないために、その効力は本来の力の半分程しか発揮出来ない、ということだ」
123 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/06(月) 23:21:34.41 ID:thcFHAz20
彡(゚)(゚)「ベンチ300のオッさんを概念体にすると、実際にはベンチ150しか持ち上げられないオッさんが生まれてくるってことか?」

coat博士「そういうことだ。その男がオッさんかどうかは知らんがな」

彡(゚)(゚)「なんか大したことなさそうやな」

coat博士「産み出す概念体のステータスによるさ。例えばゴジラを概念体として生み出したとしよう。するとパワーこそ半分にはなるが、依然人智を超えたパワーと巨体を持つあのゴジラが、実在する兵器が一切通じない無敵状態でこの世に現れることになる」

(´・ω・`)「うわぁ・・・」

彡(゚)(゚)「考えたくもない光景やな」

宇野「まぁゴジラに通常兵器が効かないのは元々ですけどね。ゴジラを殺せるのはオキシジェン・デストロイヤーもとい芹沢博士だけです」

彡(゚)(゚)「じゃあ、あれか? 結局はステータスが強いもん勝ちってことなんか?」

coat博士「そういうわけでもない。概念体の強さを決める要因はもう一つある。今からそれを説明しよう」
124 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/06(月) 23:23:07.59 ID:thcFHAz20
そう言うとババアはペンと紙をとって、机に向かいあって何かを書き始めた。そして30秒程経つと、ワイらにほれ、と一枚の紙切れを見せてくる。

彡(゚)(゚)「・・・なんやこの落書き」

coat博士「今私が即興で考えた、絶対無敵宇宙最強くんだ。どうだ強そうだろう」

適当に書かれた人間のようなものの絵の横に、無敵!だの、絶対勝つ! といった陳腐な文字が躍っている。お世辞を言う気も失せる程、その絵はひっどい出来であった。

coat博士「こいつにはな、どんな攻撃も跳ね返す絶対バリアと、絶対に防げない最強のスピアを持っているんだ。それに時間や運命を操作する能力を持っていてな、なんでも思い通りに出来るんだ。凄いだろ」

彡(゚)(゚)「やめろや、痛々しい通り越して可哀そうになってくる」

coat博士「それでな、女の子にはもうモテモテでな、でも色恋沙汰には鈍くてな、でも優しい笑顔を振りまく度にそれはもう女の子がメロメロになってな」

宇野「まだ続けるんですか」

(´・ω・`)「僕、こんな博士の姿見たくなかったよ」

coat博士「だからゴジラなんて一瞬で殺せるぐらい強いんだよ」
125 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/06(月) 23:23:52.82 ID:thcFHAz20
宇野「......。いや、それはおかしいでしょう」

coat博士「何故だい宇野くん。私の絶対無敵宇宙最強くんは本気になれば星すら壊せるし、光速を超えたスピードで移動することも可能なんだぞ。ステータスを見れば、ゴジラなんか敵にもならないのは一目瞭然だ」

宇野「冗談でもむかっ腹が立つのでやめて下さい。怪獣王ゴジラを相手に、こんな紙切れの落書きなんて比べるのもおこがましい。格が違います」

coat博士「格が違うから、君は絶対無敵宇宙最強くんを、ゴジラより上だと認めないんだな? では、君の言う格とは何によって決まるのかね?」

宇野「それはもちろん、誰もが認める実績を持つかどうか、でしょう。ゴジラには多くの子供達に畏怖を、多くの大人達には深いメッセージ性を刻み込んだ実績があります」

coat博士「その通りだ。もっと簡単に言ってしまえば、ようするに知名度だな。概念とは『皆に共通し、皆で共有するおおよその意識』のこと。ステータスがどれだけ凄かろうと、今この場にいる人間が初めて認識した絶対無敵宇宙最強くんなんて、概念としては屁にも劣る」

coat博士「まとめるぞ。概念体の能力を決める要素は大きく2つ。対象となる概念のステータス、そしてその知名度だ。能力を求める数式は、大雑把に言うとこうだな」

『概念体の能力=概念のステータス×知名度』

coat博士「ステータスばかり大きくても、知名度が無ければ存在は希薄になる。逆に知名度がいくらあっても、元々の能力が低ければどうしようも無い。つまり、知られざる英雄やハンプティ・ダンプティを概念体にしても、何の役にも立たないってことだ」

彡(゚)(゚)「はえ〜」

(´・ω・`)「......。」

coat博士「何か質問はあるか? 無ければ次に進むが」
126 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/09(木) 00:19:52.84 ID:XwsdcoCH0
coat博士「では次のステップに進もう。私はこれから、君たちが持ち帰った概念体を使って彼らの実態を把握する。1日では終わらんかも知れないから、そうだな。大体3日程を目処としてくれ」

宇野「実態を把握するって、あなたは彼らの生みの親でしょう? 分からないことなんて、例えば何があるんですか」

coat博士「むしろ分からないことだらけさ。私が直接手がけたオリジナルは野獣先輩となんJ民だけだ。野獣先輩が増やした仲間の構造は私の知るものと違うかも知れないし、増やし方も分からない。それに私は概念体同士のダメージの与え方や倒し方、」

coat博士「そして概念体に精神を犯された人間を、治す方法も調べなければならん」

宇野「......ええ、そうですね。事態の収拾にはそれが不可欠ですし、権田さんも元に戻していただかないと車の運転もままなりません」

coat博士「別に君が運転すればいいじゃないか。 帰りはそうして来たんだろ?」

宇野「勘弁して下さい。しばらくはハンドルも触りたくないんです私」

coat博士「...? そうかね。まぁとにかく、私が研究をしている間は君たちの時間が余るわけだ。そこで、だ」

彡(゚)(゚)「その間に見学して来ていいってことやな!」

(´・ω・`)「ヘリコプター見ようよヘリコプター」

coat博士「今度連れてってやるって言っただろバカ共。そんなものは後回しにしてやってもらうことがある。戦闘訓練だよ」
127 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/09(木) 00:20:32.81 ID:XwsdcoCH0
彡(゚)(゚)「訓練だと? 嫌やそんな面倒臭そうな」

(´・ω・`)「なんか怖そうな響きがするねおにいちゃん」

宇野「むしろ今までやっていなかったんですか? 野獣先輩と戦うのが目的で産まれてきたのに、随分甘やかされて育ったんですね」

coat博士「産まれてから今までの2ヶ月間は、全て教育に注いできたのでな」

宇野「何故そんな悠長なことを」

coat博士「仕方ないだろ。こいつら、特になんJ民は精神年齢が幼な過ぎて戦闘以前の問題だったんだ。会話してる最中、飯の最中、寝てる時ですら隙あらば脱糞する様な奴だったんだぞ? むしろ短期間でここまで真っ当な人間に近づけた私の手腕を褒めてくれ」

(´・ω・`)「ああ、昔のおにいちゃんは確かに酷かったよね。理由も無く暴言吐いたり騒いだり、気分で僕を殴ったり、糞漏らしたり、まさにジャイアンそのものだったよ」

宇野「ジャイアンは糞は漏らしませんよ、糞は」

彡(゚)(゚)「まぁ今でも漏らそうと思えばすぐ漏らせるけどな」プリッ

coat博士「漏らすな! 処理するこっちの身にもなれこのバカ!」

彡(゚)(゚)「へいへい自分で拭きゃあええんやろ。半漏れやから気にすんな」フキフキ

宇野(臭い......)

(´・ω・`) (臭いが凄く気になる......)

coat博士「ん、とにかくだ。今までは指導する人間がいないこともあって、2人にはロクな訓練を積んでこなかったんだ。概念体の能力は筋トレなんかで強くならんし、組手をさせようにも2人の体格差が大き過ぎた。やってきた事と言えば、武道の映像を観せてイメージトレーニングさせたぐらいだ」

彡(゚)(゚)「イメトレの達人と呼んでくれて構わんよ?」

(´・ω・`)「実技の出来ない保健体育マスター、みたいな称号だね」

宇野「酷いですね。何もやってないようなものじゃないですか」

coat博士「だから君に鍛えてやって欲しいのさ。もちろん2日や3日じゃどんなに上手くいっても、付け焼き刃程度のものしか身につかんだろう。そんなもんでも、きっとどこかで役に立つ」

coat博士「なにせ、敵は身体こそ無敵だが、その身体を動かす頭は素人そのもののはずだからな」
128 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/09(木) 00:21:21.98 ID:XwsdcoCH0




暑い陽射しと青空の下で、車が行き交い、親子が手を引いて歩いている。ぼんやりと風景を眺めると、右を100m進んだ曲がり道の角に、ネズミ捕りが獲物を待っているのを見つけた。わざわざ見えにくい場所に立つ熱心な仕事ぶりに苦笑していると、目の前を赤い車が横切り、曲がり角に向かって急ぎ足に通り過ぎていった。
あらら、御愁傷様。そう車の尻に向けてポツリと呟くと、彼は視線を前方に戻し、そのまま斜め上に傾けた。

いつもと変わらぬ日常。ずっと続いていくはずの平和な世界。その昼の真っ只中に、始まりのホモは1人立っていた。
先程までとは違い、その顔はいささか渋い。太陽の陽射しが鬱陶しいのもあったが、それより当てが外れた悔しさが大きかった。

始まりのホモ「流石に、そんな馬鹿なわけ無かったか。無駄骨折っちゃったなぁ」

林の向こうに覗く庁舎を車道から眺め、彼はため息をついた。KBSの気配を追ってここまできたのだが、そこで待っていたのは防衛省の敷地だった。

始まりのホモ「いつかの時の為に、研究所の場所は押さえときたかったんだけどね」

まさかここが本拠地な訳ではあるまい、と彼は推測する。敵の概念体が出入りするには、あまりに警備が、無関係の人間の目が強すぎる。こちらの探知を恐れた、一時的な避難と見るのが妥当だった。
良い判断だ、と彼は思った。今はまだ、こちらの存在を公にする訳にはいかない。敷地に少しでも踏み込めば感知される防衛省は、隠れ場所としては最適だ。
129 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/09(木) 00:22:31.89 ID:XwsdcoCH0
場所が場所なら、嫌がらせ半分に攻め込むのも面白そうだ、といった驕りからくる浮かれもすぐに失せた。代わりに胸の内に湧いたのは、

始まりのホモ「博士に思惑を読まれたみたいで、あまり良い気はしないねぇ」

何の価値もない、無意味な悔しさだった。戦った訳でも、実際に痛手を被った訳でもない。それでも心に、小さな屈辱感が引っかかる。理性では消すことの出来ない、感情のわだかまりが。
別に今すぐお前らをどうこうするつもりは無かった、馬鹿じゃなきゃ普通はそうすると思っていたさ。相手もいないのに、そう言ってやりたい気持ちが湧いてくる。その衝動は、幼稚な万能感から来る駄々というよりは、生来の負けず嫌いな性格からのものだった。勝負事に対するプライドは、人より数倍強い自負がある。

始まりのホモ「落ち着け、僕の悪い癖だ。それよりも、もっと考えるべきことがあるだろう。例えば、そうだ。あの庁舎の落とし方とかだ」

消えない感情は、他に転化するのが手っ取り早い。彼は目の前に佇む国家機関へと、その思考を切り替えた。
国家を支える一翼、防衛省のその総本部。門の脇に堂々と飾られる大臣筆の省庁看板は、これから戦う敵の規模を、改めて意識するのに充分な荘厳さを誇っていた。

始まりのホモ「よく考えなくても、とんでもない事だねぇ。国を敵に回すってのは」

勝ちに至る戦略は、ある。その為の計画も順調に進んでいる。だがそれに従って、彼方にあって此方に足りないものというのも、当然見えてくる。
130 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/09(木) 00:23:07.51 ID:XwsdcoCH0
一つは、人や物を動かす為の資金。そして何より足りていないものは、戦略や戦術を練り、戦闘の指揮を振る軍事的な頭脳だった。

始まりのホモ「こっちは所詮、ホモの寄せ集めの素人だからなぁ。今のままじゃ、向こうに頭脳戦の土俵に上げられたら勝ち目が無い」

軍事に聡い協力者が欲しいところだ。だが、例えば傭兵を雇うにしても金が要るし、そもそもそういった手合いを日本に呼べるのか、という点にすらこちらは疎い。また仮に雇える条件が整ったとして、果たして協力してくれるかも怪しい。何せ世間的に見れば、こちらはほとんど.........。

始まりのホモ「あ、そっか。要るじゃん、協力してくれそうな奴」

彼の顔が一転、晴れやかになった。思いついてみれば答えは明快で、何をそんな悩んでいたのかと馬鹿らしくなる。
協力者の条件はシンプルだ。軍事に聡くて、金が目的ではなくて、国を敵に回しても付いて来てくれて、日本の秩序が乱れても嘆くどころかむしろ大喜びしてくれる奴。

そんな条件に当てはまるのは、彼が思いつく限りではたった一つ。


始まりのホモ「そうだ、テロリスト、呼ぼう」


そうと決まれば早速手配だ、と彼は踵を返す。小躍りしかねない程に浮かれた気分でしばらく歩くと、水を差すようにポケットの電話が鳴った。
誰だいこんな時に、と思いながら呼び出しに応じると、声の主は野獣だった。

野獣先輩「もしもし、はじめさん? MURがまだ帰ってきていないんですが、そちらで見つけてはいませんか?」

嬉しいことは、重ねて訪れるものらしい。

始まりのホモ「ええ、何やら暴れていたようでしたので、彼は私が保護しましたよ。今夜、またガン掘リア宮殿に集まりますよね? その時に彼も連れていくので、田所さんも安心して休んでいて下さい」

そう言って電話を切った始まりのホモは、その場で立ち止まり、しばらく肩を震わせる。やがて、もう堪え切れないと言わんばかりに腹を抱えながら、彼は大口を開けて笑いだした。
131 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/12(日) 14:46:42.46 ID:5i9ijA5mO
ババアの言いつけで、ワイらは宇野から戦闘の訓練を施されるはずだった。戦闘訓練と言うから、格闘のイロハを習ったり稽古をする、ベスト・キッドな風景を想像していたのだが......

彡(゚)(゚)「ンゴゴゴゴゴゴ」

(´・ω・`)「ふんもっふ! ふんもっふ!」

宇野「ハイハイハイ休まないサボらないペースを下げない。まだ30分しか経っていませんよ〜」

待っていたのは、フルメタルジャケットの世界だった。ババアがKBSトリオを連れ研究室とやらに消えて行ってから3時間が経過したが、あれからというもの、ワイらはぶっ続けで筋トレを強要されていた。
始めは体幹トレーニングを、次にスクワットを、そして今は腕立て伏せをロクな休みもなくやらされている。

彡(゚)(゚)「お、おかしいやろ!こんなん、意味がないやないか!」

(´・ω・`)「ぼ、僕たちに筋トレは無駄って、は、博士が言ってたじゃない!」

宇野「ハイハイハイ質問するフリしてサボろうとしない。指導する側にはバレバレなんですよ〜」

彡(゚)(゚)「こ、このアマ......!」

宇野「ハイ、無駄口叩いたのとサボろうとした罰で10分追加しまーす」

彡(゚)(゚)「あああああああああああ!!」

(´・ω・`)「鬼だよこの人、情けが無いよぉ!」

宇野「ハイあと40分。ペースを乱さず頑張りましょうね〜」

宇野は全く容赦なく、宣言通りの時刻までワイらの肉体を苛め続けた。
132 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/12(日) 14:47:28.04 ID:5i9ijA5mO
......そしてようやく宇野のお許しが出ると、ワイと原住民はすぐさま仰向けに寝転がった。

彡(゚)(゚)「ハァ......ハァ......あれ? この感じは、なんや?」

長い長い苦痛の時間が終わり、苦しみから解放されると、それまでの時間が短かったのか長かったのかの感覚が分からなくなった。

彡(゚)(゚)「何故か、懐かしい......ワイはこれを......どこかで......」

『それ』を味わっている現実の時間は間違いなく長く、体幹時間も永遠に続くかと錯覚する程長かったはず。なのに『それ』が終わって、意識が別の時間に移行すると、あまりに変化に乏しいその時間は『ただ、同じことを繰り返した思い出』でしかなくなる。思い出す記憶は、時間の長さに比べて酷く希薄だ。

彡(゚)(゚)「なんや......この感覚は......懐かしくて、思い出したくもない......あの頃の......」

(´・ω・`)「ハァハァ......疲れたねおにいちゃん。......おにいちゃん?」

頭に浮かぶのは、仄暗く、陽も差さない湿気た部屋。そこでは、ワイを照らす光といえばパソコンのディスプレイしか無い。
ゴミ箱に入れる方法も忘れたのだろうか。あたりには使用済みのティッシュと、飲み残しも気にしないビールの缶が散らばっている。床は溜まったゴミのせいで踏み場もないが、ベッドとパソコンのデスクの間を往復するだけのワイには、何の支障もない。ワイが散らした種々様々な液体が床に染み込み異臭を放つのも、もはやワイの死臭でさえ無ければいいと言って、次第に気にも留めなくなっていった。

彡(゚)(゚)「それでも......昔はこの部屋のドアを開けようと、もがいた時期もあったんや......でも、無理やったんや......ワイには無理やったんや......」

(´・ω・`)「う、宇野さん! おにいちゃんの様子が変だよ!」

宇野「変なのは元からでしょう」

(´・ω・`)「そういう意味じゃなくて!」

ネットの中では、ワイは本当のワイでいられた。この世で最も特別な、ありのままのワイでいられた。でも一歩でも外に出てしまえば、そこにはもう本当のワイはどこにもない。世間から見たワイは、引きこもりで、ニートで、進むべきレールから外れてしまった、才能の無い不健康な男でしかなかったから。
ドアの向こうに待ち構える、ワイのことを何も分かっていない世間の目が。ワイのことなどとっくに追い越して、地位や幸福や家族を得た同級生達の存在が。いつもいつも、ワイの外へ向かう気力を挫いた。勝ち組じゃない、見下されるばかりの己の姿になんて耐えられなかった。
133 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/12(日) 14:48:12.06 ID:5i9ijA5mO
彡(゚)(゚)「ワイは......ワイは......」

宇野「あーこりゃ駄目だ。すっかり自分の世界にトリップしちゃってますね」

(´・ω・`)「駄目なの? おにいちゃんはもう助からないの? そんなの嫌だよ」

宇野「あなたまで頓珍漢なこと言わないでください。寝惚けた奴を起こす方法なんて簡単です」

このままじゃ駄目だと思う気持ちと、ずっと楽なこのままでいたいと思う気持ちとで板挾みになり、結局何一つ行動を起こせなかったあの頃。もうとっくに学生じゃないのに、毎日が学校をずる休みした時に似た、あの取り返しのつかない罪悪感と焦燥感に苛まれていた日々。
そして、いつか必ず来る終わりに怯え、自分に似た境遇の奴らを2ちゃんで探し、ネタで笑い合うことで安心感を得ようとした日々。ディスプレイの向こうのそいつが明日生きているとも限らないのに。そいつらの存在は、自分の人生の残り時間となんら関係無いと分かっているのに。それでもワイは仲間を見つけては、まだ大丈夫、まだ大丈夫だと自分に言い聞かせ続けた。

吐き気を誘うほど過剰に甘くて、それでいて微かに苦い、腐った苦しみ。しかしそんな地獄の責め苦の中でも、僅かにだが心の拠り所はあった。
データの中でのみ存在を確認出来る、死亡説が流れる程に消息不明な、ある男がいた。
その男をネタにして笑っている時だけは、短い時間ではあったが、素直に面白いと思えた。
その男を馬鹿にして笑っている時だけは、歪んでいるかも知れないが、素直に楽しいと思えた。
例えその笑いが、見下す対象を求める、卑しい感情からのものだったとしても。ワイはその男に、少なからず心を救われたのだ。ワイだけでなく、きっと他にも多くの人間が、その男を心の拠り所にしていたに違いない。

『いいよ!こいよ!胸にかけて胸に!!』

『イキスギィ! イクイク......ンアーッ!!』

彡(゚)(゚)『......ハハッ、なんやこいつ汚ったねぇなぁ......アハハ』

彡(^)(^)『アハハッ、アハハハハハハ』

彡(●)(●)『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ』

その男の名前は、や

彡(゚)(゚)「やや! 嫌や! もうあの頃に戻りとうない! 戻りたくなんか、なぁぁいぃぃぃ!!」

宇野「いいから早く戻ってこい、このバカ!」

彡(゚)(゚)「いだっ!?」
134 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/12(日) 14:49:10.75 ID:5i9ijA5mO
側頭部を蹴られ、仰向けのワイの顔が90度曲げられた。何事かと体を起こすと、目の前には、

(´・ω・`)「うわぁ良かったぁ! もう戻ってこないのかと思ったよ!」

宇野「だから、ただ寝惚けてただけですって。大袈裟過ぎるんですよあなたは」

原住民と宇野が立っていた。あれ、おかしいな。さっきまでワイは確かにあの......。

彡(゚)(゚)「あぁ、今の夢だったんか......」

宇野「とっとと起きて下さいよ。30分経ったらまたトレーニングの開始です」

現実への復帰に安堵する間も無く、宇野がほざいた。

彡(゚)(゚)「ふ、ふざけんな! だから何の意味があるっていうんやこの筋トレが!」

(´・ω・`)「僕たちが筋トレしても、筋肉が増えるわけじゃないんでしょう?」

宇野「知っていますよ。勘違いしているようですが、今鍛えているのは体ではなく、甘やかされて育ったあなた方の心です」

宇野「パフォーマンスを支える心技体の内、最も重要なのは心だと私は考えます。技があっても、体格差の激しい相手には通用し辛い。技と体が揃っていても、戦意が伴っていなければそれは木偶と同じです」

(´・ω・`)「心技体の使い方ってそんなだっけ」

宇野「元の意味なんてどうでもいいんです。とにかく実戦では、痛みへの耐性と、痛い思いをしても己を見失わない心の強さが求められます。訓練を積めばある程度痛みに慣れることは可能ですが、あなた方には時間が無い。だからこそこの訓練を洗礼としてください」

宇野「戦い、攻撃を受け、ダメージに身体が悲鳴を上げた時、あなた方もきっと心の声を聞くでしょう。『もういいじゃないか。こんな辛い思いを俺だけがする必要なんてない。もう何もかも放り投げて、辞めてしまおうじゃないか』と」

彡(゚)(゚) (ああ、MURに殴られた時似たようなこと思ったな)

宇野「戦意を失くした瞬間に勝敗は決します。そうならない為の手段は大きく2つ。1つ目は自分が戦う理由......まぁ大義でも正義でも私利私欲でも何でもいいです。これをはっきり自分の中で決め、大切に抱えておくこと」

宇野「2つ目は、痛い思いをした時に、『それでもあの時のアレに比べればまだマシだ』と思える経験を積んでおくことです。そうすれば実戦における心の強さも鍛えられ、後ほど行う『技』の訓練も、かなり楽に行えます」
135 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/12(日) 14:49:55.81 ID:5i9ijA5mO
(´・ω・`)「じゃあ今日の筋トレは、身体を鍛えるんじゃなくて、辛い思いをするのが目的ってこと?」

宇野「その通り。ぬるま湯に浸かりきったあなた方の甘さを、今ここで捨てるんです。地獄のようにキツい思いをしてもらわなきゃ困ります。死にたくなるぐらい泣いてもらわなきゃ困ります。そして今後の戦いで傷つく度に思い出してください。『それでも、今日やった筋トレに比べればマシだ』と」

(´・ω・`)「ヒェェェ」

彡(゚)(゚)「......ふん、こんなもんどうってことないわ。ワイの知ってる地獄に比べりゃあな」

肉体の苦痛など、あの後悔と自責と念が渦巻く、暗い魂の牢獄に比べればどれ程気楽なものか。ワイはもう、二度とあの場所にだけは戻らん。あの苦痛に比べれば、こんな筋トレなんぞ屁でもない。

宇野「ほう。良い威勢ですねぇ、好きですよそういう生意気なの。いいでしょう。ではなんJ民さんの筋トレメニューは、原住民さんの倍に増やしましょう」

彡(゚)(゚)「ファッ!? ちょっと待て、それとこれとは話が別やろ!」

宇野「そういう話ですよ。今、この場で、あなた方に地獄を見てもらうのが私の目的です。あなたの過去がどうとか知ったこっちゃありません。今の負荷が大したことないなら、増やすのが当然でしょう」

彡(゚)(゚)「聞いとらんぞそんなこと!」

宇野「余計なことを言ったのはあなたですよ」

(´・ω・`)「口は災いの元だね」

宇野の理不尽な仕打ちに、なおも抗議しようと口を開きかけた時。扉が開き、ババアがやってきた。

coat博士「や。どうだい訓練は」

宇野「順調に辛い目に合わせています」

coat博士「それは結構。それより報告したいことがあってな、ちょっと時間をもらっていいかね?」

宇野「もちろんです。もう何か分かったんですか?」

coat博士「色々あるが、一番大事な話から始めようか。......精神をレイプされた人間の、治し方が分かった」
136 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/12(日) 14:51:31.19 ID:5i9ijA5mO
宇野「!」

(´・ω・`)「おおっ!」

彡(゚)(゚)「やったやないか、これで権田のオッさんも治るんやな!」

宇野「良かった...! これでもう、運転しないで済むんだ私......!」

(´・ω・`)「泣くほど嬉しいんだ......」

彡(゚)(゚)「なぁ、なんでこいつこんな運転すんの嫌がっとるんや?」

(´・ω・`)「......色々あったんだよ」

彡(゚)(゚)「ほーん。で、具体的にどうやって治すんや? お薬ブスーッと刺したりするんか?」

coat博士「......。いや、そういうわけでは、ない、んだよ息子よ」

彡(゚)(゚)「なんや歯切れ悪いな、らしくないぞ」

coat博士「いや、いざ面と向かうと、中々言いづらいなと」

彡(゚)(゚)「恥ずかしいとかそんなタマやないやろ。はよ言えや気になるやんか」

coat博士「......言っていい?」

彡(゚)(゚)「おお」

coat博士「ほんとにほんと?」

彡(゚)(゚)「だからはよ言えってばこの三十路ババア」

coat博士「分かった。単刀直入に結論だけ言うとな。精神をレイプされた男を治す方法は、」

彡(゚)(゚)「ふむふむ」


coat博士「なんJ民。お前が、彼らと性交渉をすることだ」


彡(゚)(゚)「......は?」

coat博士「言った通りの意味だ。お前はこれから、彼らの理性ひいては彼らの人生を取り戻す為に......彼らとの性交渉、つまりはSEXをするんだ!」

彡(゚)(゚)「は? は? はぁ? はぁぁぁぁぁぁ!? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

この時のワイは、ババアの言葉にただただ驚くことしか出来なかった。しかしこの後、ワイは今まで知る由も無かった、もう一つの地獄へと突き落とされることになる。
そう、それこそ宇野が言っていた、『それでもあの時のアレに比べればまだマシだ』と思うような、筆舌に尽くしがたい苦行へと。
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/12(日) 16:13:54.58 ID:5czDqtPp0
きたか…
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/12(日) 20:58:41.04 ID:GHwOKO2po
やったぜ!
139 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/14(火) 19:14:57.64 ID:Q6BlKbleO
大体15話目『レイプ被害者の治療』

自分は特別じゃないと気づいたのは、何をやっても一番になれなかった小学生の頃。
自分は弱者だと気づいたのは、クラスの乱暴者達に苛められた中学生の頃。
そして高校生になった僕は、いよいよ自分に明るい未来は無いのだと気づいた。十数年生きてきて、特技も長所もロクに挙げられない奴なんて、もう、駄目だろうとしか思えなかった。
いつまで経ってもクラスの中で浮いていた。昔は懐いていてくれたはずの妹には馬鹿にされ、罵倒され、雑に扱われる毎日。そして僕を見る両親の目から、日に日に期待の色が薄れていくのが分かると、自分がどれだけ矮小な存在かをまた思い知らされる。
事件が起きるわけでもなく、何かが変わるわけでもない、ただただ決まったレールの上を歩く怠惰な日常の中で。同じレールの遥か前方に、肩を並べて歩くカップルや友人と笑い合う同級生達の姿を見つける度に、僕の自尊心は削れ、劣等感だけが膨れ上がる。

もうたくさんだ。これ以上嫌なものを見たくない。
もうたくさんだ。これ以上自分を嫌いになりたくない。
過去に戻してくれ。やり直させてくれ。リセットボタンを押させてくれ。そうしたらきっと、今度こそ上手に生きてみせるから。

叶うはずのない妄想を何度も繰り返しながら、その日も僕は家路に着いた。家にも僕には居場所がない。家族と同じ空間にいるのにも苦痛が伴う僕は、帰るとすぐに自分の部屋に篭り、PCを立ち上げ動画サイトを開く。

野獣先輩『まずうちさぁ......屋上......あんだけど......焼いてかない?』

遠野『あぁ^〜 いいっすねぇ^〜』

僕の唯一の憩い。それは、ホモビデオ......特に野獣先輩の出演した作品だった。他の人々が書き込んだコメントと共にそれを観ていると、その時間だけは、今日あった嫌な出来事を忘れられた。いつも抱えている虚無感や劣等感から解放されるのだ。彼を見ていると、たくさんのコメントを見ていると、不思議と心が救われる。理由は多分、誰かを笑う快感と、普段は味わえない仲間との連帯感......のようなものを、体感出来たからだと思う。
日常の憂さ晴らし。僕にとって淫夢は、かけがいのないものであると同時に、それ以上の意味を持たない一時の憩いの時間でしかなかった。

だから、予想なんて出来るわけなかった。

男子高校生「赤字コメントでもしてみるかな〜俺もな〜」

野獣先輩「楽しそうだな」

まさか行方不明の彼が目の前に現れて、僕をレイプしてしまうなんて想像、薬でもキメてなきゃ頭をよぎることすら無いだろう。

野獣先輩「俺の裸が見たいんだろ? ......見たけりゃ見せてやるよ。その代わり、お前のケツをもらうけどなあああああああああああ!!!!」

男子高校生「や、やじゅ...っ! ああああアァアアアっ!!!」パンパンパンパンパンパン

突如訪れた、想像の外側の出来事によって。僕の日常は、世界は、一瞬で破壊された。
140 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/14(火) 19:16:19.35 ID:Q6BlKbleO
〜〜〜〜
密閉された、狭く薄暗い部屋に、その行為のためだけにあつらえたベッドがただ一つ。余計な物は一切排除された簡素な空間に、俺と『コイツ』だけが立っていた。逃げ場の無いこの状況で、これから何をするかなんて言うまでもなかった。
突っ立ったままのコイツに先んじて、俺はベッドに腰掛けた。ギシッと骨組みの木が軋む音がし、尻が深々と沈む。安物だな、と舌打ちをすると、それを合図だと勘違いしたのだろうか。コイツが俺の股間目掛けて飛びつき、そのまま一物にむしゃぶりついた。
「ん、ぐむ、んむぅ、んむちゅ」
コイツの舌が、裏スジを、亀頭の側面を的確に激しく攻め立てる。男の悦ぶ箇所を熟知したその奉仕は、激しく情熱的でありながら、繊細な気配りすら感じさせる。奉仕への必死さ、そして丁寧さは、早く大きくなれと懇願しているようにも見え、なんともいじらしい。
早く応えてやれ、と言わんばかりに、俺の一物も瞬く間に膨れ上がった。主観ではあるが、その大きさと長さは、俺の歴史の中でも一番といえる最高傑作だった。
141 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/14(火) 19:17:48.94 ID:Q6BlKbleO

「オラ、もっと速くしゃぶれよ。あくしろよ」
そう急き立ててやると、コイツは直立した俺の一物の先端を咥え、右手で竿の中間から根元にかけてをさすり、左手で玉袋を揉みしだいた。
「な、なに!? クッ! グッ、フゥゥッ......3点同時攻めを、これ程精巧に行えるとは、な、なんて奴だ......!」
「ん、ちゅぶ、ぐちゅ、ちゅ、んん」
3点同時攻めは本来、誰もが一度は夢想し、そしてほとんどの人間が夢半ばで挫折する秘技だ。難易度が高い理由は単純。成功させる条件として、受け手には十分な竿の長さがあること、そして攻め手には三つの異なる動作を並列して行う、高い処理能力が求められるからだ。
「くぉぉぉぉぉっ!!」
それだけに、3点同時攻めが完成した時の威力は絶大だ。
まず、満遍なく密着した唇が亀頭全体を包み込み、上下に動かす度にムズがゆい快感が先端を襲う。舌先は一定のリズムで回転し、尿道の周囲を絶え間なく舐め回す。そして口内から漏れる生暖かい吐息が、唾液にまみれた亀頭に幾度となくふりかかる。とてつもない。
右手の掌は竿の根元に小指をつけ、竿の中〜下部を包むように握っている。上下に動かして竿を擦ったり、あるいはギュッと握り締めたり、たまに恥骨のあたりを揉んだりして、亀頭とは別物の快感を与えてくれる。その所作は、さながら精液を掘り起こさんとする採掘現場だ。
この二つに添えられるように、玉袋を掴む左手が良い仕事をしている。子種を宿す秘所が、温かい掌に包まれる安心感と、勢い余って握り潰されやしないかという不安とに挟まれ、倒錯したギャップを本能に訴えかける。さらに指が金玉をコリコリと弄り回し、あと少しで痛みに変わろうかという、決して無視出来ない快楽が脳に運ばれる。もう頭の中が精子でいっぱいだ。
142 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/14(火) 19:18:46.67 ID:Q6BlKbleO

頭の奥がジンと痺れる。心地良い目眩が視界をぼんやりと揺らす。意識は一物のことばかりに向き、この快楽がずっと続けばとさえ思う。
しかし時間に限りがあるように、肉体にも限界という縛りがある。極上の快楽を享受した我が一物は、その刺激の強さ故に、2分と経たず絶頂へのカウントダウンを開始した。
(今、ここで出すわけにはいかない......!)
肉体には限界があり、射精可能な回数にも限りがある。今日相手をするのはコイツだけではなく、後がつかえていた。フェラでイっている余裕はこちらにはないため、焦った俺はコイツの髪の毛をがしと掴み、乱暴にベッドへと放り投げた。
「あうっ、ああ!」
コイツは地に足を残したまま、上半身をベッドの上について、四つん這いの姿勢になった。最後までやり通したかったのか、名残惜しそうに切なげな声を上げるが......
「お前も気持ちよくなりたいだろ? オラ入れるぞ、これでフィニッシュといこうやないか」
唾液と我慢汁に濡れまくった一物に、もはやこれ以上の補助液など必要ない。無防備なメス穴へと、ズブリと挿れてやった。
「ッ! く、くふぅ、うぅ、うぅんん!」
ズブリ、ズブリと、肉壁を掻き分け、ゆっくりと侵入していく。他我の領域を無遠慮に犯していく。
今まさに俺は、蛮族と化した。尊厳を奪い、肉体を犯し、何もかも我が物にせんとする魂と欲望の解放が、今の俺の全てであった。愚かな蛮族の俺が、相手の身体を労わるなど、なおさら愚かしいことだ。
143 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/14(火) 19:19:37.04 ID:Q6BlKbleO

「あっ! んああ、ああアウゥッ!!」
ストロークを加速させて腰を振ると、コイツの苦悶に満ちた嬌声が耳を震わせる。馴染む間もなく激しいストロークに晒されているのだから、その反応は当然だった。しかしこの時、被害者ぶったコイツの声が、俺には酷く不愉快に届き、思わず手が出た。
バチン、バチン。苛立ちを解消する為に、右手で何度も尻を叩いてやる。無遠慮に思い切り叩いた為、コイツの尻が赤く腫れあがるが、
「んああっ!ああっ! あああぃぃん!!」
痛みをむしろ悦んで受け入れていた。とんだ変態だな、と罵倒しながら、俺は更にストロークを加速させる。
バックから突き上げる、最も原始的な獣の体勢。最早二人の意識に理性は欠片も残っていない。快楽を貪り喰わんとする衝動だけが、俺達を突き動かす。
「クッ、そろそろか......」
巨大な波が、竿の先端へと登ってくる。そろそろ準備が必要だ、と脳が指令をだす。
そして、盛大なフィニッシュへと向かう、内側の感覚に意識を向けると......。
「......ん?」
竿の先端に、外側からの感触があった。穴の方から波のようにおしかけるこの感覚は......間違いなく......あ、無理無理無理無理もう無理無理無理無理汚い汚なすぎる嫌だ嫌だ嫌だ耐えられない妄想にも限界がこれはアバババババババババババババババババババババババババババ
144 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/14(火) 19:20:24.14 ID:Q6BlKbleO

〜〜〜〜
彡(゚)(゚)「もう嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁこれウンコやないかウンコやないかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」ジュッポジュッポジュッポ

男子高校生「ん!ん!も、もう駄目です!イッちゃいますぅぅぅぅ!!!」

彡(゚)(゚)「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇ男の声を出すなぁぁぁぁぁ!!お前は女の子や!女の子なんやぁ! ワイの童貞卒業の相手が、男であってたまるかぁぁぁぁぁぁぁうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」ジュッポジュッポジュッポ

男子高校生「も、もう無理!イクッ、イクぅぅぅぅぅぅ!!!」

彡(゚)(゚)「あっ、ワイも出る!出てまう! クソ、クッソぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

彡(゚)(゚)&男子高校生「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!)」

彡(゚)(゚)「ハァ......ハァ......」

宇野「お疲れ様です。男子高校生の分はこれで終了です。次は、権藤さんをよろしくお願いします」

彡(゚)(゚)「こ、殺して......殺してクレメンス......」

宇野「ダメです」

権藤「ハァハァ、も、もう待ちきれないよ! 早くヤらせてくれ!」

彡(゚)(゚)「あああああああもう嫌だああああああああああああああ」
145 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/14(火) 19:21:08.53 ID:Q6BlKbleO
......。

結局、男子高校生、権藤の汚っさん、KBSトリオの計5人と、ワイはヤらされた。全てが終わった頃、時刻はもう夕暮れ時となっていた。
今日、この日ほど、強烈な苦痛を味わったことは無いと断言出来る。それは、この先何があっても、『それでもあの時のアレに比べればまだマシだ』と思うのに十分な地獄だった。

だが、それと同時に。

『もういいじゃないか。こんな辛い思いを俺だけがする必要なんてない。もう何もかも放り投げて、辞めてしまおうじゃないか』

宇野が言っていた心の声が、今まさに聞こえる。だがその声に対して、反論も反対意見も、全くワイの胸の内から出てこなかった。もう、全部投げ出してやめたかった。理不尽だと思った。こんな辛い思いをしてまで、野獣先輩を倒すだとか、誰かを守るだとか、やってられるかと思った。

彡(゚)(゚)「そうや......もう、やめよう。知らんわ人間がどうのこうのなんて。だって、どうせ、」

ワイは人間じゃないんだから、とまで言いかけて、流石に喉の奥にしまいこんだ。例え独り言でも、それを言ってしまったら、もう後戻り出来ない気がしたから。

宇野「なんJ民さん、お疲れ様でした。coat博士がお呼びですので、すぐに向かってあげて下さい」

人の気も知らんで、宇野が言った。ムカつくが、丁度よかった。ババアに伝えよう、もうやめさせて欲しいと。それで終わりにさせてもらおう。もうワイは、こんな嫌な思いしたくないんだ。
146 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/14(火) 21:58:37.57 ID:N4GINted0
権藤ではなく権田です。間違えました
147 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:45:32.59 ID:DjlbCeaJ0
目が覚めると、僕は車椅子に乗っていた。場所は分からないが、周囲を見渡すと清潔な床や壁が目に入り、どこかの建物の中だということは分かった。
最初こそ状況が分からず、軽くパニックを起こしたりもしたが、僕は数分と経たず落ち着きを取り戻した。スーツを着た美人のお姉さんが宥めてくれたのと、何故か尻の穴がヒリヒリと痛み、足腰が立たずロクに暴れられなかったおかげだ。

宇野「もう大丈夫です。悪夢は全て終わりましたから」

お姉さんはまた、これから家族に会わせてあげます、と言って車椅子を押してくれた。悪夢、とはいったい何のことだろうか。僕はあの時から今までどれだけの時間が経ち、何が起こったのかを全く覚えていなかった。
不安になった僕は、お姉さんに問いかけてみる。しかし、

宇野「覚えていないなら、無理に思い出す必要はありません。無謀な好奇心は後悔しか生みませんよ」

とだけ答えて、それっきり黙ってしまった。エレベーターに乗り、3階から1階へと降りる。そうは言われても、やっぱり気になるし、それにせっかく美人と二人きりなのに無言でいるのは勿体無い気がして、

男子高校生「あ、あの」

なおも話しかけようとしたが、

宇野「あなたが幸福に暮らす為に役に立つ情報を、私は持っていません。私への質問は無意味です」

とぴしゃりと遮られてしまった。それっきり会話が始まることはなく、僕は車椅子を押されるがままに黙して、目的地へと運ばれた。
建物から出ると、外はもう夕暮れ時だった。随分久しぶりに感じる太陽に見惚れる暇もなく、車椅子はどんどん進み、建物からかなり離れた林の中へと入っていく。少し開けた場所まで進むと、着きました、と言ってお姉さんは歩みを止めた。ここが待ち合わせ場所のようだ。
148 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:49:57.85 ID:DjlbCeaJ0
随分と一目につきにくい場所に来たな、と思っていると、左手側の奥にベンチを見つけた。ベンチには白衣を着た女性と、黒布に全身を包んだ謎の人間が座っている。どうやらこちらをジッと眺めているようで、酷く不気味だ。

男子高校生「お、お姉さん! あれ、あの人達、一体何者なんですかっ」

宇野「あれはあなたを助けてくれた人達ですよ。特に黒い方の人は、身体を張ってあなたを救ったんです。一応、感謝してあげて下さい」

男子高校生「え、えええ?」

僕の身に、一体なにがあったんだよ。真実を知りたい衝動がもはや臨海に達し、問い詰めようと後ろを振り向く。すると、お姉さんの体の向こうから見知った顔が3人、歩いてくるのが見えた。

宇野「来たみたいですね」

お姉さんが車椅子を半回転させ、僕は家族と向かい合う。父と、母と、妹の3人。僕を引き取りに来た、ということだろう。5歩程離れた距離で、僕は家族と対面した。

男子高校生「あ......ひ、久しぶり......なのかな?」

ハッ、と驚いたように目を見開く両親と、無理矢理連れてこられたのか、両親の一歩後ろで不機嫌な顔をしている妹へと。へたな愛想笑いをつくり、手の平を見せて振ってみる。
何を言えばいいのかも、今日の日付も分からないまま言葉を絞り出したのだが、向こうから言葉は返ってこない。数秒の無言の時が流れ、『外した』感が僕の胸を締め付ける。

男子高校生(ああ、これだ。この、合わない感じ。コミュニケーションも上手く取れない異物野郎扱いの、この窮屈感)

沈黙がいたたまれなくて、思わず顔を伏せてしまった。そして僕は、帰ることを望まれていない場所に、また戻ってきてしまったのだと実感した。

男子高校生(そうだよね、僕は期待はずれの失敗作だもんね。出来損ないの僕の為に、足を運ばせてしまってごめんなさいね。帰ってきちゃってごめんなさいね)
149 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:50:38.13 ID:DjlbCeaJ0
長年積み重ねた卑屈なコンプレックスが、ぶり返した。
居場所がない、認められていない、必要とされていない、愛されていない、自分が嫌いな自分の姿をまた見せつけられて。激しい動悸に襲われかけた、その時に、

母「雄一......雄一、雄一! ああ、良かった! もう帰ってこれないかと思った! も、もう元に戻れないと思って、母さん怖かったよぉ! でも良かったよぉ帰ってきてくれて......!」

母が、僕の両肩の奥に手を回し、涙声で抱きついてきた。車椅子に座る僕に合わせた為に、すがりつくような不安定な姿勢でもたれかかっている。

男子高校生「え、なに? え? え?」

予想外の母の行動に、その意味が分からず狼狽していると、父も近づいてきて口を開いた。

父「雄一......怪我は、していないか? どこか痛いところはあるか?」

男子高校生「え?......べ、別にない、けど......え?」

父「そうか......そうか。お前が無事なら、父さんもうそれだけで十分だよ。無事で良かったな雄一......よく、頑張ったなぁ」

そう言って、父さんは僕の頭にポンと手を乗せ、そのまま優しく髪をかき撫ぜる。

男子高校生(なんだよ......これ。どういうつもりなんだよ)

突然優しく接してきた両親の行動に、僕は喜びよりもむしろ、理解が出来ないことへの不安に苛まれた。両親の意図が分からなかったからだ。
150 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:51:49.92 ID:DjlbCeaJ0
男子高校生(なんで急に、こんな優しくするんだよ。......もしかして、世間体を気にして、子を案じる親の演技をしているのか? それとも、僕が死なないと保険金が入らないから、それで安心したって喜んでいるのか?)

僕を抱きしめて咽び泣く母に、頭を撫でる父。良かった、安心した、と何度も呟く両親に囲まれながら、僕は困惑と動揺と不安の中でそう邪推した。......だが、次第に。

男子高校生(ああ、でも......頭を撫でられたのなんて、いつ以来だろう。誰かに抱きしめられた記憶なんて、小学校にあがった頃にはもうなかったよな)

言葉、だけではなく、身体の触れ合いによる安心感が、僕の猜疑心を溶かしていった。そんなことよりも、身を案じられたことが、嬉しかった。無事を喜んでもらえたことが、嬉しかった。

自分の為に誰かが泣いてくれたことが、たまらなく嬉しかった。

そうしてしばらくすると、頃合いを見計らっていたらしいお姉さんが、父と母に声をかけた。

宇野「御両親様、少しだけお時間をいただいても構いませんか?」

今回の事件の説明をしたいので、少しの間建物の中で話をさせて欲しい、と。お姉さんの言葉に、父も母も頷いた。何が起こったか、何が原因だったのかを知りたいと思うのは自然なことだ。
当然、僕だって何があったのか知っておきたい。僕の部屋に現れた野獣先輩は何者だったのか、何故僕が狙われたのか、意識を失っている間のこと、知りたいことは山程あった。
しかし、僕の同行への願いはお姉さんと両親に拒否された。

父「お前は琴美とここで待ってなさい」

母「待っててね。帰ったら好きな料理作ってあげるからね」

そう言い残して、両親はお姉さんに連れられて、建物へと向かっていった。知らなくていいことは知る必要はない、ということなのだろう。
151 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:52:54.47 ID:DjlbCeaJ0
妹「......構ってもらえてよかったじゃない。家族に心配かけるだけかけて、戻ってきただけで泣いて喜んでもらって、チヤホヤされて満足した? これで気は済んだの?」

二人きりになると、黙り込んでいた妹がようやく落ち着い口を開いた。腕を組み、仁王立ちで車椅子の僕を見下ろす妹の顔は、先程よりずっと不機嫌に歪んでいる。

男子高校生「......怒るのも無理ないよな。ごめんな、時間とらせて」

妹「はぁ?」

男子高校生「琴美は、父さん達に無理矢理連れてこられたんだろ? 家族一緒で迎えに行かなきゃ、とか言われてさ。そりゃ不機嫌にもなるよな」

妹「......ッ」

男子高校生「お前の言った通りだよ。俺、こんなに心配かけて、迷惑かけて、母さんまで泣かしちゃってさ。本当は、申し訳ないって思わなきゃいけないんだろうけど......でも、それでも俺、今さ。泣いて喜んでもらって、チヤホヤされたことが嬉しくてたまらないんだよ」

妹「あんた......」

男子高校生「俺は、俺が思ってた程、邪魔じゃなかったのかなって。嫌われてなかったのかなって、思えて、それが嬉しかったんだ」

妹「あんた! ふざけんのも大概にしなさいよ!」

思いの丈を吐露していると、妹が突然、俺の胸倉を掴んだ。近づけられた妹の顔には、怒りの色が浮かんでいる。

男子高校生「な、なんだよ、急に!」

妹「私が無理矢理連れてこられた? 家族に嫌われてると思った? ふっざけんなよ、どこまで被害妄想こじらせりゃ気が済むのよあんたは!」

男子高校生「はぁ!?」

妹「私が今日ここに来たのは、私があんたのことを、バカ兄貴のことが心配だったからに決まってるでしょ! 親に命令されたって、来るのが嫌なら用事つくって無理矢理サボるわ!」

妹「家族に嫌われてるだの、邪魔者扱いされてるだの、勝手に決めつけて部屋に籠るようになったのはあんたが先じゃない! あんたが勝手に、私から距離を置いたんじゃない!」
152 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:53:54.12 ID:DjlbCeaJ0
妹の言葉に、先程まであった感慨の余韻は消し飛んだ。妹は今、僕を糾弾しているのだ。非はそちらにあったと、僕の味わった疎外感はただの勘違いだと、そう追い立てているのだ。

男子高校生「な、なんだよそれ、そんな訳ないだろ!」

だが、そう易々と非を認めるわけにもいかない。積み重ねた孤独な月日を、僕の勘違いで済まされてたまるか。そんなに軽いものなわけがあるか。自衛本能が働いて、脳が言い争いの為の思考に切り替わる。
真相を確かめる為には、言葉よりも行動の方がずっと重いに決まっている。こんなもの、虐めを行ったクズが、本当は仲良く遊んでいるつもりだった、の一言で真相を誤魔化そうとするのと同じではないか。

男子高校生「だってお前、昔はあんなに懐いてたくせに、どんどん俺に冷たくなっていったじゃないか! 俺のことずっとバカにしてたくせに、都合いいように被害者ぶってんのはどっちだよ!」

妹「もう私は中学生になって、あんたは高校生よ? いつまでも一緒にお風呂に入れるわけないし、接し方だって変わるわよ! そんなことも分かんない奴をバカって呼んで何が悪いこのバカ兄貴!」

断固抗議してやる、という決意が早くも弱まる。何かを言い返したいのに、何も思いつかない。僕の頭がポンコツなのか、病み上がりの弊害か。

妹「児童じゃなきゃ、親だっていちいち愛してるなんて言わないし、抱き締めたり頭撫でたりなんかしないわよ。それは冷たくなったからなんかじゃない。成長すればスキンシップが無くても、わざわざ言葉にしなくても、分かるようになるのが普通だからよ」

言葉に詰まる。何も言い返せない。それは多分、今、とんでもなく恥ずかしい図星を指されたからだ。
153 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:54:26.82 ID:DjlbCeaJ0
妹「それをあんたは......だから、気は済んだかってさっき私は聞いたのよ。いつまでも子どもみたいな駄々こねて! 勝手に殻に籠って! そのくせ嫌われる事には怯えきって! ......学校で何があったか知らないけど、それを私達にまで当てはめないでよ!」

妹「あんた、家族をなんだと思ってんのよ! 私のこと、なんだと思ってんのよ!」

胸倉を掴む妹の力が、弱々しく抜けていく。抑えていたものをこれで絞り切ったのか、あるいはこれから溢れる所なのか。妹の表情から怒りの色が失せ、浮かんだものは涙だった。

妹「嫌なことがあるなら、ちゃんと相談しなさいよ......。部屋で変なビデオ観てる暇あったら、私とちゃんと話しようよ......。一緒にゲームやろうよ......」

あんたは、私のお兄ちゃんじゃない、と。涙声はやがて嗚咽に変わり、妹は肩を震わせながらくずおれ、僕の膝の間に顔を埋めた。
泣きじゃくる妹の頭を撫でながら僕の胸に湧いた感情は、申し訳ないことに、またしても喜びだった。

男子高校生「そっか......ごめんなぁ琴美。俺が、お兄ちゃんが、馬鹿だったみたいだ......」

僕が欲しくて欲しくてたまらなかったものは、すぐ近くにあったのだ。真心や、親愛の情、人との繋がり。学校で傷つけられた自尊心と劣等感ばかりを気にする内に、いつしか見えなくなっていたもの。

男子高校生「気づかなかったなぁ......。俺は、 本当はこんなに、恵まれてたんだなぁ......」

父と母に会ったら、今までのことを謝ろう。今までに思っていたことも全部話そう。そうして家族との関係を元に戻して、今度こそ人生をやり直そう。ホモビも、殻に籠る部屋も、僕にはもう必要ない。

自分を心に留めてくれる人がいる、ただそれだけで、頑張ろうとする意欲は湧くのだと。頬を涙で濡らしながら、僕は静かに悟った。
154 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:56:44.46 ID:DjlbCeaJ0


彡(゚)(゚)「いい年こいた兄ちゃんが、女子中学生の顔を股の間に挟みながらワンワン号泣しとるぞ。どんな地獄絵図やねん」

coat博士「あのやりとりのどこを見てそう思ったんだ。感動的な兄弟愛の姿だろうが」

彡(゚)(゚)「ワイの童貞奪ったホモ野郎の泣き顔なんか見たくもないわ。こんなもん見せる為にわざわざ布きれ着せて、ここまで連れてきたんか」

ババアに連れられて林の中のベンチに座らされると、待っていたのは車椅子に乗ったホモ野郎の姿だった。

coat博士「ああ。お前が救った人間の姿を、お前自身に見せてやりたくてな」

彡(゚)(゚)「ふん。こんなくっさいモン見せられた所でワイの気持ちは変わらんわ。いいからはよ、ワイが降りることを認めろや」

coat博士「そう結論を急ぐこともないだろう。せっかく世界を救ったヒーローになれたというのに」

彡(゚)(゚)「あん? 世界? ヒーロー?」

coat博士「そうだ。世界とは、何も地球や人間社会全てを表す言葉ではない。一人の人間の意識が生み出す景色や価値観......ようするに『心』もまた、一つの世界と言える。地球上に70億の人間の心があるのなら、同時に70億通りの人間の世界がある、ということだ」

coat博士「そしてヒーローとは、誰かの世界、すなわち心を救う者のことを指す。現状を打破し、危機を救い、この世にはまだ希望があると誰かに思わせた人間は、救われた者達にとってのヒーローになれる。あの少年とその家族にとってのヒーローが、今まさにお前なんだ」

彡(゚)(゚)「......。」
155 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/18(土) 22:57:44.34 ID:DjlbCeaJ0
coat博士「ヒーローの本質は身体的な危機を救うことよりも、心の危機を救うことにある。
肉体が滅べば、その人の心も消失してしまう。だからTVの中のヒーローは、いつだって命懸けで誰かの命を守るんだ。
いくら肉体が元気でも、この世に飽いて絶望してしまえば、その人の心はやがて腐って死んでしまう。だからヒーローは、人々に面白いドラマを見せることによって、TVの向こうの視聴者の心を救うんだ。超人的な能力やカッコいい変身ベルトは、その為の道具であって本質ではない」

coat博士「試合に勝って欲しいという願いを叶え、子どもに将来の夢を与える野球選手も、もちろんヒーローの姿そのものだ。規模こそまだまだ小さいが、お前はTVの中のヒーロー達と同質の存在になれたんだぞ? そのことを、嬉しいとは思わないのか?」

彡(゚)(゚)「こんな汚ったない仕事させられる奴がヒーローやと? アホ抜かせや」

coat博士「ヒーローの仕事は元々汚いものさ。TVの中のヒーローは、子供達に汚い映像を見せられないので、綺麗な部分だけを切り取って放送しているからな。倒した敵の死骸が、都合よく爆発するのなんて良い例だ」

彡(゚)(゚)「......それに、いくらワイが糞まみれになってアイツをお腹いっぱいにしてやっても、ワイの腹はちっとも満たされんぞ」

coat博士「そんなことは無いさ。ヒーローにだってちゃんと......ん?」

ババアが言いかけた所で、ベンチの前まで女子中学生が駆けてきた。ワイらに気づいていたのか。
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/19(日) 00:21:57.83 ID:8JlNeTnAo
いい話だなあ(感動)
157 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:50:36.14 ID:Mx3of/4b0
妹「あ、あの、お兄ちゃんに、お兄ちゃんを助けてくれたのがあなた達だって聞いて、お礼を言わなきゃと思って来たん、ですけど、」

ホモ野郎の妹の目元は赤く腫れ、鼻水が詰まったのか、非常に話し辛そうな様子だ。もう少し落ち着いてから来ればいいものを、どうやら相当テンパっているようだ。

coat博士「うん。うん。お礼を言うのは良いことだな。だがその前に少し落ち着こうな。ほら、ティッシュを上げるからとりあえず諸々拭きなさい」

ババアに渡されたティッシュで涙の跡を拭き、ズビーッと盛大に鼻を鳴らす。そして目を瞑って深呼吸すると、ようやく妹も落ち着きを取り戻した。

妹「......すいません。やっと落ち着きました。これ、必ず洗って返しますね」

coat博士「いやそんなもん洗って返されても困るから、どっかに捨ててくれ。ハンカチじゃないんだから」

どうやらまだテンパっているようだ。

妹「あっ、すいません間違えました! ......ああっ、お兄ちゃん連れて来るの忘れてた! すいませんすぐ取りに戻ります!」

彡(゚)(゚)「いらんいらんいらん! あいつの顔なんてもう見たくないから、連れてこなくていい! 余計な気遣いはやめろ!」

妹「え、ええっ、そうなんですか? ......あの、じゃあ、ええと、何しに来たんだっけ私?」

coat博士「......先程、礼をしにきたと言っていたな」

妹「そ、そうでした! あ、あの、この度は兄を助けていただき、本当にありがとうございます! このご恩は一生忘れません!」
158 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:51:03.55 ID:Mx3of/4b0
妹「あ、あの、お兄ちゃんに、お兄ちゃんを助けてくれたのがあなた達だって聞いて、お礼を言わなきゃと思って来たん、ですけど、」

ホモ野郎の妹の目元は赤く腫れ、鼻水が詰まったのか、非常に話し辛そうな様子だ。もう少し落ち着いてから来ればいいものを、どうやら相当テンパっているようだ。

coat博士「うん。うん。お礼を言うのは良いことだな。だがその前に少し落ち着こうな。ほら、ティッシュを上げるからとりあえず諸々拭きなさい」

ババアに渡されたティッシュで涙の跡を拭き、ズビーッと盛大に鼻を鳴らす。そして目を瞑って深呼吸すると、ようやく妹も落ち着きを取り戻した。

妹「......すいません。やっと落ち着きました。これ、必ず洗って返しますね」

coat博士「いやそんなもん洗って返されても困るから、どっかに捨ててくれ。ハンカチじゃないんだから」

どうやらまだテンパっているようだ。

妹「あっ、すいません間違えました! ......ああっ、お兄ちゃん連れて来るの忘れてた! すいませんすぐ取りに戻ります!」

彡(゚)(゚)「いらんいらんいらん! あいつの顔なんてもう見たくないから、連れてこなくていい! 余計な気遣いはやめろ!」

妹「え、ええっ、そうなんですか? ......あの、じゃあ、ええと、何しに来たんだっけ私?」

coat博士「......先程、礼をしにきたと言っていたな」

妹「そ、そうでした! あ、あの、この度は兄を助けていただき、本当にありがとうございます! このご恩は一生忘れません!」
159 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:52:22.25 ID:Mx3of/4b0
彡(゚)(゚)「......ふん、言葉だけならどうとでも言えるわ。本当に感謝してるってんなら、行動で示してくれてもええんやないか?」

coat博士「おい、お前何を言い出すつもりだ」

彡(?)(?)「ワイはなぁ、お前の兄ちゃん助ける為に泥被ってんやで? その礼をしたいってんなら、お前もお前の花を差し出すくらいの覚悟、見せるべきとちゃうか?」

妹「え? え? 花って、あの花のことですか? ええと......ええと......あ、あった!」

そう言うと妹は、何を勘違いしたのか近くに生えていた木の枝を折り、ワイの元まで持ってきた。枝の先には、五つの白い花弁に囲まれた中心に、長い黄色のおしべが数十本と並ぶ花がついていた。

妹「ど、どうぞ! 受け取ってください!」

彡(゚)(゚)(こいつ、花を差し出せと言われて、そのまんま花持ってきおった。ワイの言い方が悪かったんか? それともこいつがガイジなんか?)

coat博士「......ふふっ、夕方なのにまだ咲いているのがあったか。この花の名は夏椿、平家物語でお馴染みの、日本における沙羅双樹だ」

coat博士「背負う花の意味は、この世の無情。これは一日花である為につけられたものだが、花言葉として『愛らしい人』というものもある」

coat博士「いい花を、どうもありがとう。ほら、お前も早く受け取りなさい」

ババアに急かされ、ワイは渋々、花を手に取る。受け取ってもらえて安心したのか、妹の顔がパァと晴れ、

妹「本当に本当に、お兄ちゃんを助けてくれて、ありがとう!」
160 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:53:21.15 ID:Mx3of/4b0
先程まで泣いていたのを忘れたかのような、それはそれは満面の笑顔で、妹は感謝の言葉を口にした。その顔に、その言葉に、一切の打算や他意が無いのは流石のワイにも伝わり。

彡(゚)(゚)「お、おう。ちゃんと感謝してるなら、それでええんや」

無邪気なその面を汚してやる、といった荒んだ気分が削がれ、ワイは思わずたじろいだ。

coat博士「ほら、いつまでも兄を放ったらかしにするのも悪かろう。お礼はもういいから、兄を連れて建物の入り口にでも向かいな。そろそろ、向こうの話も終わる頃だろう」

妹「あ、そ、そうですね! どうもありがとうございました! それじゃあ、また!」

ペコリと一礼すると、妹は兄の元へと帰っていった。妹が何事かを兄に話すと、兄もこちらへむけて頭を下げる。そしてそのまま、妹が車椅子を押していき、二人は林の向こうへと消えていった。

彡(゚)(゚)「.........。」

ベンチにババアと二人残されながら、ワイは受け取った花を、しばらくジッと眺めた。

coat博士「......随分と気に入ったみたいじゃないか。お望みの『花』ではなかったんじゃないのか?」

彡(゚)(゚)「......そうやな。そうなんや......これは、ワイが欲しかったもんじゃ、ないんや。なのに、なのに、なんでやろなぁ......」

脳裏に浮かぶ、あの妹の笑顔。耳の中でいつまでも反響する、ありがとう、という言葉。花を受け取った時の、指と指が触れ合った僅かな感触。花を眺めていると、それらがずっと鮮明に思い出させられ、

彡(゚)(;)「なんでやろなぁ。なんで、こんなもんで涙なんか、出てくるんやろなぁ」

不思議と、視界が滲んだ。
161 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:54:05.77 ID:Mx3of/4b0
coat博士「それは、それがお前の本当に欲しいものだからだよ、バカ息子」

彡(゚)(;)「は、はぁ? アホ抜かせ、ワイが欲しいのは、美味い飯と、酒と、女と、金や。こ、こんな下らないもんなんかや、ないわ......」

coat博士「お前が自覚している自分の欲望は、表層に表れた上辺の意識でしかない。お前も意識の底の底の本心では、欲望と悦楽よりも、真心や親愛を望む願望の方が強いのだろう」

coat博士「その感情はヒーローとして、人としてとても、とても大切なものだ。その花を美しいと、嬉しいと思える内はお前は大丈夫だよ。......今のお前は少しだけ、心が疲れているだけさ。少し遊んで、少し休んで、朝日が登ればきっと気分も良くなるから」

そろそろ行くか、言うと、ババアはベンチから立ち上がり、グッと背筋を伸ばした。そして後ろに座るワイへ振り返って言った。

coat博士「その花、大事にしておけよ。それが、それこそが、ヒーローの報酬なんだからな」

彡(゚)(;)「ヒーローの......報酬?」

coat博士「ああ、そうだ。まぁいずれお前にも分かる日がくるさ。ほれ、いつまでも座ってないで、早く立て。置いていくぞ?」

彡(゚)(;)「いくって、どこに行くんや?」

coat博士「ヒーローにも休息が必要だろ?」

ババアはニッと笑いながら、言葉を続けた。

coat博士「特別に許可を貰って、もう閉館時間が過ぎた市ヶ谷記念館の中を、貸し切りで見学出来るよう手配した」

彡(゚)(゚)「おおっ!」

coat博士「さぁ原住民も待っているんだ、早く行くぞ。たまには......水入らずで遊ぶのも、そう悪くないだろう?」
162 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:55:32.58 ID:Mx3of/4b0



〜ガン掘リア宮殿〜
深夜の集会を終え、解散となった会議室の中で。野獣は、始まりのホモに話を切り出した。

野獣先輩「KBSトリオは今日もサボりですか。......舐められてるんですかね」

始まりのホモ「いやぁ元々彼らは、人の話を聞けるほど賢くないんですよ。大して重要な人材じゃないですし、放っておけばいいんじゃないですか?」

野獣先輩「そう......ですね。そうかも知れません」

始まりのホモ「そんなことより、見てくださいよMURさんの姿を。あれ、僕のお手柄なんですからね。褒めてください」

始まりのホモはそう言うと、会議室の端でKMRと雑談をするMURへと指を向けた。

KMR「あっ、それエロ本じゃないですか! 買ってきたんですか!?」

MUR「そうだよ、河原に落ちてるの拾ってきたんだよ。お前も見たいか?」

KMR「な、なんで見る必要なんかあるんですか」

MUR「そんなこと言って、さっきからチラチラ見てただろ。......見たけりゃ見せてやるよ」

KMR「ありがとうございます......」

その姿は、完璧にMURそのものだった。
163 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:56:29.01 ID:Mx3of/4b0
始まりのホモ「もっと早く僕に言ってくれればよかったのに。田所さんも人が悪いなぁ」

野獣先輩「......少し、事情がありましてね」

始まりのホモ「そうですかそうですか。まぁ、事情は人それぞれですもんね」

大して気にする素振りも見せず、始まりのホモはうんうんと頷く。
始まりのホモはしばし間を置くと、じゃあ僕もそろそろ行きますね、と言って踵を返し、出口のドアへと向かう。そしてドアノブに手をかけた所で、こちらへ振り向いて言った。

始まりのホモ「あ、そうそう。ホモガキ達の『アレ』、ようやく100人集まりそうですよ。大体あと三日、ってとこですかね」

野獣先輩「そうですか。では、ぼちぼちこちらも準備を整えておきます」

始まりのホモ「うふふ、楽しみですね。それでは田所さん、良い夜を」

そう言い残し、始まりのホモは今度こそ、ドアの向こうへと消えていった。

野獣先輩「あと、三日か」

ドアを見つめながら、野獣は一人呟く。何か物憂い気なその目の脇で、MURとKMRがなおも会話を続けているのが見えた。
164 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:57:22.99 ID:Mx3of/4b0
MUR「あぁ〜いいゾーこれ」

KMR「ンッ!ンッー、ンッー!」

MUR「こんなとこ見られたら、また妻と娘に怒られちまうかもなー」

野獣先輩「っ!?」

KMR「ンンー、オホッ!......え? MURさんって、奥さんいたんですか? 初耳ですよ?」

MUR「あ? いるわけないだろ、何言ってんだお前」

KMR「ええ、MURさんが言い出したんじゃないですか」

MUR「おっ? そうだったか?」

野獣先輩(馬鹿な! 家族の名前を、覚えていたというのか!? あの思念の濁流に押し流されてなお、ほんの僅かな記憶の断片だけでも残したというのか!)

いったいそれは、どれだけの意志の強さと幸運が必要なことだろうか。驚愕に目を見開いて、野獣はMURをまじまじと見つめる。

KMR「もう、冗談も大概にしてよ。そもそもMURさん、彼女だってロクに出来てないくせに」

MUR「なんだとおいKMRァ! お前だって彼女いねぇだろお前よぉ」

KMR「やめてくれよ......」

野獣先輩「......。」
165 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 01:58:05.16 ID:Mx3of/4b0
驚くべきことではあるが、いざ事が起こってしまえば、それはそこまで理不尽なことでは無いのかも知れない。思念の集合体である概念体は、数千数万の人間のイメージによって型どられる。
だがそのイメージのほとんどは、信念や心の強さとは縁遠いホモガキ共によるもの。膨大な量ではあるが、一人一人の思念を取ってみれば酷く薄っぺらい思念だ。
そこにMUR個人が抱く強烈な意志の力が加われば、僅かにではあるが、思念の集合体に『異物』を混入する余地はあったのかも知れない。ほとんど不可能なことではあるが。

野獣先輩「......。」

完全な0と、0.00001%は大きく異なる。あの概念体にMURの意志が僅かにでも残っているならば、奴の意識が戻ってきてしまう可能性も、限りなく小さくはあるが、確かに生まれてしまった。

野獣先輩「だが、始まりのホモに報告する気にもならんな」

この事を教えれば、奴はまた嬉々として『概念の卵』をMURに植え付けることだろう。野獣としても、不確定要素は出来るだけ取り除いておきたいのが本音だ。
しかし、それでも、どうしても。これ以上MURをどうにかしようとする気は、微塵も起きなかった。もう、そっとしておいてやりたかった。

そう思わせた理由は、概念に必死に抗っていたMURへの憐憫と、変わり果てたMURの姿の痛ましさが。そして何よりも、MURへの畏敬の念が強かった。

野獣先輩「安心しろよ、MUR。約束は必ず守る。計画が全部終わったら、必ず家族の元に帰してやるからな」

固い口調で一人呟くと、野獣は始まりのホモが去ったドアを、鋭い眼光で睨みつけた。
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/19(日) 03:19:25.69 ID:qX9xuBs7o

ところで産卵プレイはありますか?
167 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/19(日) 23:08:57.55 ID:fkMAYBEXO
えぇ......(困惑)
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/20(月) 00:44:43.51 ID:Lw0gpEkDo
植え付けたら産むという帰結ですかね…?
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/20(月) 20:10:44.45 ID:qWh1KGkGo
産め!ホモの子を!
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/21(火) 02:07:44.16 ID:ZTEgsmRG0
やはり野獣先輩は人間の鑑
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 08:04:06.82 ID:tEMWbh9HO
始まりのホモはホモビ出演が発覚したやきう選手ですね間違いない
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 13:43:27.02 ID:X8YcLMwQO
臭いスレタイから恵まれた本編
173 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/22(水) 16:25:12.60 ID:hZQZ8JbiO
コメントありがとうございます。有難いことこの上ないです。

スレタイはもう変えたくて変えたくて仕方ないです。リセットボタンを押してやり直したい。
174 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/22(水) 16:25:39.78 ID:hZQZ8JbiO
宇野と権田のオッさんに出会い、世田谷区で概念体と戦い、地獄の訓練と悪夢の苦痛を味わい、市ヶ谷記念館をババアと原住民と一緒に見に行った激動のあの日から、三日経った。

彡(゚)(゚)「オラァ死に晒せやぁぁぁ!!」

(´・ω・`)「し、死にたくない! 死にたくない!」

宇野「なんJ民! 自分より弱くて小さい相手になにをそんな手こずってる! さっさと一発当てて楽にしてやれ! 動きが大雑把過ぎるぞもっと的を小さく絞れ!」

宇野「原住民! もっと気合入れて避けろ! 最小限の動きで避ける見切りなんて戦場じゃ役に立たんぞ! お前は一発でも攻撃をくらえばお終いなんだ! 不必要なぐらい大げさに避けろ!」

彡(゚)(゚)&(´・ω・`)「ぁぁぁあああああああ!!!」

〜〜
彡(゚)(゚)「ゼェ...コヒュー...ゼェ...コヒュー...」

(´・ω・`)「つらたん......つらタンク......」

宇野「大分動きはマシになったと思います。あと10分休憩したら、次はまた組み手の練習から始めましょう」

彡(゚)(゚)「ゼェ...コヒュー...ゼェ...コヒュー......ゴブフォッ!!」

慌ただしかった初日の次の日から、今日までの三日間。ババアが研究室に篭っている間、ワイらはずっと訓練を受けていた。練習内容は、型の基礎と、組み手と、実戦形式の戦闘訓練の繰り返しだ。
175 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/06/22(水) 16:28:13.82 ID:hZQZ8JbiO
(´・ω・`)「初日の、筋トレよりかは、確かにマシだけど、それでも、辛いものは辛いね」

ワイが糞の掃き溜めのような汚れ仕事をさせられた時に、原住民はずっと筋トレを続けさせられていたらしい。ワイの比ではないだろうが、原住民も相応の苦痛は経験済みなのだろう。

宇野「辛くて当たり前です。三日前の地獄は、これからの苦痛に『耐える』為であって、苦痛を『感じなくなる』為のものではありません。苦痛を感じないということは、そいつは心が壊れているということです。そんなイカれを、戦いの場で頼りにすることなど出来ません」

宇野「心技体のうち、私があなた方に教えられるのは技だけです。体を強くしたいなら、博士になんとかしてもらってください。心を強くしたいなら、強くなる為の何かを、自分で見つけてください」

技や体と違って、心は、他人が無理矢理どうこう出来るものじゃないので。と、宇野は言葉を続けた。

彡(゚)(゚) (......強くなる為の何か、か)

coat博士「失礼するぞ、邪魔しに来たぞ。追い返されても居座るぞ」

ワイの呼吸がようやく元に戻ってきた頃に、ババアが部屋に入ってきた。ボサボサの髪にクマの出来た目元を携えて、気だるげな低いテンションだ。

(´・ω・`)「わーい。博士が来たよ、休めるよ」

彡(゚)(゚)「ババアは話が長いから助かるわ」

宇野「黙りなさい軟弱者ども。それで、何の御用ですか?」

coat博士「ああ。概念体についての説明と、これからのことを話そうと思ってな」
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 16:51:37.56 ID:y74h2Yku0
狂気を感じる
否、狂気しか感じない
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 17:13:15.89 ID:gZrLsM+ao
文才も感じる
官能小説の文才も感じる
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/06/22(水) 20:40:49.42 ID:X8YcLMwQO
むしろ内容的にこれしかないタイトル
179 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/01(金) 22:42:45.40 ID:FD8bK7d+O
16話目 coat博士&始まりのホモ「戦う準備は整った」


宇野と権田のオッさんに出会い、世田谷区で概念体と戦い、地獄の訓練と悪夢の苦痛を味わい、市ヶ谷記念館をババアと原住民と一緒に見に行った激動のあの日から、三日経った。

彡(゚)(゚)「オラァ死に晒せやぁぁぁ!!」

(´・ω・`)「し、死にたくない! 死にたくない!」

宇野「なんJ民! 自分より弱くて小さい相手になにをそんな手こずってる! さっさと一発当てて楽にしてやれ! 動きが大雑把過ぎるぞもっと的を小さく絞れ!」

宇野「原住民! もっと気合入れて避けろ! 最小限の動きで避ける見切りなんて戦場じゃ役に立たんぞ! お前は一発でも攻撃をくらえばお終いなんだ! 不必要なぐらい大げさに避けろ!」

彡(゚)(゚)&(´・ω・`)「ぁぁぁあああああああ!!!」

〜〜
彡(゚)(゚)「ゼェ...コヒュー...ゼェ...コヒュー...」

(´・ω・`)「つらたん......つらタンク......」

宇野「大分動きはマシになったと思います。あと10分休憩したら、次はまた組み手の練習から始めましょう」

彡(゚)(゚)「ゼェ...コヒュー...ゼェ...コヒュー......コッ、ゴブフォッ!!」

慌ただしかった初日の次の日から、今日までの三日間。ババアが研究室に篭っている間、ワイらはずっと訓練を受けていた。練習内容は、型の基礎と、組み手と、実戦形式の戦闘訓練の繰り返しだ。
180 : ◆aL7BEEq6sM [saga]:2016/07/01(金) 22:43:33.24 ID:FD8bK7d+O
(´・ω・`)「初日の、筋トレよりかは、確かにマシだけど、それでも、辛いものは辛いね」

ワイが糞の掃き溜めのような汚れ仕事をさせられた時に、原住民はずっと宇野による筋トレを続けていたらしい。ワイの比ではないだろうが、原住民も相応の苦痛は経験済みなのだろう。

宇野「辛くて当たり前です。三日前の地獄は、これからの苦痛に『耐える』為であって、苦痛を『感じなくなる』為のものではありません。苦痛を感じないということは、そいつは心が壊れているということです。そんなイカれを、戦いの場で頼りにすることなど出来ません」

宇野「心技体のうち、私があなた方に教えられるのは技だけです。体を強くしたいなら、博士になんとかしてもらってください。心を強くしたいなら、強くなる為の何かを、自分で見つけてください」

技や体と違って、心は、他人が無理矢理どうこう出来るものじゃないので。と、宇野は言葉を続けた。

彡(゚)(゚) (......強くなる為の何か、か)

coat博士「失礼するぞ、邪魔しに来たぞ。追い返されても居座るぞ」

ワイの呼吸がようやく元に戻ってきた頃に、ババアが部屋に入ってきた。ボサボサの髪にクマの出来た目元を携えて、ダルそうな低いテンションだ。
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