モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part13

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342 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:40:40.70 ID:nZ3oq+wSo

 奈緒の足を縛り付け、ふくらはぎへと這い上がってくるのは彼女自身慣れ親しんだ黒い泥であった。
 そしてふと周りをよく見れば、歩道全てが氾濫したように泥が充満している。

『ダレカキタ』

『ボクラノホカノダレカガココマデ来ルナンテハジメテダ』

『ナラワタシタチデ、カンゲイシナキャ。ヨカッタネ、ナオ。オトモダチガフエタヨ』

『『『ヨウコソ。カンゲイスルヨ。アラタナ同胞ヨ』』』

 そしてこの場に響く、幾重にも重なった何百もの同じ言葉の斉唱。
 メリーゴーラウンドやコーヒーカップ、バイキングやジェットコースター。
 ありとあらゆる遊園地を構成する物質から奈緒は視線を感じる。

「ホント……まさに退廃の園ってわけか」

 これらすべてを構成するのは、奈緒の泥に溶け込んだ百獣と同様、ウルティマの眷属であろう。
 そのすべてが主であるウルティマを含め足を引っ張り合い、地獄に止め、地獄を成している。
 この醜い足の引き合いによって成されたこの遊園地を退廃の園と言わずになんと形容できるだろうか。

『あたしと、なおおねえちゃんもずっとここでいっしょだよ。

なおおねえちゃんは、あたしをひとりにしないよね?

あたしはここから出られないんだから、おねえちゃんがあたしをみたしてくれるのでしょ?』
343 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:41:29.65 ID:nZ3oq+wSo

 そしてその獣たちの斉唱は少女には聞こえていない。
 どうやら徹底してウルティマの眷属たちは、自らの主を孤立させ続けるつもりなのだろう。

「くそっ!奈緒ちゃん!あたしの手を取れ!

一緒にここを出るぞ!ここの連中は、誰も奈緒ちゃんの味方じゃない。このままじゃずっと一人だ!」

 奈緒は足に絡みつく泥を振り払おうともがくがその抵抗は全く意味をなさない。
 それでも足が動かないのならば、奈緒は玉座の少女に向けて手を伸ばす。

 その手の距離は少女へは未だ遠い。だが奈緒は届かぬ手を伸ばすことに躊躇いはない。
 必要なのは少女自身がこの地獄から出ようとする意志だ。
 ウルティマが自身の意思でその手を取ろうとするだけで、奈緒は彼女をこの心の最奥から引き上げることはできるだろう。

『……なにをいってるの?おねえちゃん』

 だが当の少女は差し出された手を訝しげに見つめる。
 ウルティマには差し出された手の意味は分からず、そして奈緒が何を言っているのかも理解できていなかった。

『出るってどこに?ここいがいの、どこにいくの?

ここいがいに、『どこか』なんてないでしょおねえちゃん。

『そと』ってここの『どこか』のことでしょ?』

 そもそもウルティマにとって『外』の概念すら知らないものである。
 この遊園地こそがウルティマの世界であり、たった一人の孤独こそがウルティマの既知なのだ。
 これまでに人々を襲ってきた捕食の髪も所詮は目隠し状態で手を伸ばしたに過ぎない行動である。
 そこに意識などなく、それはただの反射行動だ。

 それもそのはず、当の本人は誰の声も光も届かない錆色の空の元で孤独に完結しているからである。
344 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:42:01.08 ID:nZ3oq+wSo

『だから、ずっといっしょだよ。なおおねえちゃん。

ふたりでいっしょに、あたしとずっとあそぼう?』

 ゆえに、初めて対面した他人であり、孤独を埋めてくれる存在かもしれない奈緒を絶対にウルティマは離さない。
 堕ちるところまで一緒に堕ちようと、泥の拘束は奈緒へと這い上がって行く。

「……く、くそ。これじゃ……これじゃダメなんだよ!奈緒ちゃん!」

 きっとウルティマには奈緒に這い上がる泥の眷属は見えていないのだろう。
 だが少女の堕落の願いは、その視界には見えない泥たちの後押しを無意識のうちに行っていた。
 仮に泥たちが奈緒を完全に飲み込んだ後には、ウルティマを再び孤独にするために奈緒を取り上げるのだろう。
 だがウルティマはそんなことに気付かず、ただただ奈緒を束縛したくてその濁った瞳をギラギラと輝かせる。

「ここじゃ、ダメなんだ!……こいつらと一緒じゃ、絶対に、お前は幸せになんてなれないから、だから!」

 奈緒の周囲に見える足を引き合う獣たちの宴は、慣れているはずの奈緒にさえ吐き気を催す醜悪なものだった。
 その渦中で生贄として祭り上げられた少女を説得しようとしても、決して声は届かない。

『あはは!なおおねえちゃんは、ずっといっしょだよね!

これからいっしょにあそぼう!あたし、あのメリーゴーラウンドにのってみたかったの。

ジェットコースターはこわかったけど、おねえちゃんといっしょならきっとだいじょうぶだから。

かんらんしゃにふたりでいっしょに、ずっとぐるぐるまわるのよ!きっと、とてもたのしいよ!

ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっと!』
345 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:42:51.00 ID:nZ3oq+wSo

 いくら奈緒が強靭な意志をもってこの領域に乗り込んだとしても、この世界の主はウルティマである。 
 その心象風景に踏み込んだ時点で奈緒はアウェーであり、胃袋の上に乗っているも同然なのだ。

 たとえ奈緒が抵抗を試みたとしても、大海に一滴落とされたに等しい奈緒という存在はすぐに飲み込まれてしまうはずである。

「ダメだ……絶対に、これじゃダメなんだ。

これじゃ誰も救われない。誰も幸せになんてなれない。

……だったら、あの子には何が届く?『私(あの子)』がここから出る理由は、なんだ?」

 すでに奈緒の半身は泥に沈んでおり、全く身動きはとれない。
 それでも奈緒は思考を巡らせて、少女に手を伸ばすことを諦めていなかった。

 このままで乗り込んだはずの奈緒の側が、ウルティマの泥に飲まれてしまうだろう。
 もしくは奈緒自身が泥に対抗するために自らの『泥』をさらけ出せば、五分には持っていけるかもしれなかった。

 だが決して奈緒はそれはしないだろう。
 それはウルティマの世界を犯すことであり、少女の自我を崩壊へと道ぶくかもしれない危険な行為だ。
 ウルティマを倒すという目的ならば、心臓部であるこの世界を壊せばそれで済む話。
 だが奈緒の目的は倒すことではない。奈緒は小さく、泣き続ける少女を救いに来たのだ。

 それはウルティマに自らの姿を投影した自愛の感情であったのかもしれない。
 自分を救ってくれた誰かの姿を真似したいだけなのかもしれない。
 その気持ちは純粋ではないエゴなのかもしれない。
346 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:43:26.05 ID:nZ3oq+wSo

「そんなことは……わかってる。

この子を救いたい?それはあたしの傲慢かもしれない。同情かもしれない。

だけど……この気持ちは本物だ!あたしは、誰よりも、この子を救いたい!

こんな苦しい姿、これ以上みていられるかぁ!」

 奈緒は這い上がってくる泥を声を上げて振り払う。
 それは自身の泥を使った攻撃でも、異能の力も用いていない。
 奈緒自身の意志力であり、それが纏わりついていた後ろ向きな感情の塊である泥を弾いたのである。


「そうだ。理屈なんて知らない。

あたしは難しいことは考えられないし、何が正しいなんて知らない。

だけど、この手を伸ばすことだけは、絶対に間違ってなんて、いない!」


 以前奈緒の半身は泥に埋まったままである。
 だがその脚は固着しておらず、確実に地面を踏みしめ少女の元へと歩みを進める。
347 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:44:47.17 ID:nZ3oq+wSo

『ナンダ……コレハ?』

『シラナイ。ワタシタチハ、コンナノシラナイ!』

 周囲の泥たちの視線が驚愕の物に代わる。
 決して我らの泥は狙った獲物を逃がすことはないという確信が崩れ、意味の分からない力によって異物が尚も邁進することに眷属たちは驚愕を禁じ得なかった。
 全力で泥に沈めようとしている奈緒は、決して沈むことなく、それどころか拘束を振り切り歩みを進めているのだ。
 そしてそこに理屈など存在しない。あるのは奈緒以外に、この場の誰も持ち合わせていない感情のみであった。

「難しく、考えすぎなんだよ。まったく、どいつもこいつも暗いって」

 奈緒は困惑する泥たちを横目ににやりと笑い、一つの建物を視界に入れる。
 それは遊園地によくあるキャリアカー式の売店であり、小さなグッズと共に私用であろうカレンダーがかけられている。

「……9月16日。ああそうだ。この日だよ。

パパとママ、3人で遊園地に行ったのは、ちょうど7歳の誕生日だ。

すっかり忘れてたな。あたしも……お前も」

 奈緒の視線の先は楽しそうに笑うウルティマの姿。
 だがその笑顔は空虚であり、きっと在りし日の幸せさえもすでに忘れ去っているのだろう。

「でも、無くしてはいないはずだよな。だってそれは、あたし『たち』の幸せそのものだ。

それに思い焦がれる限り、あたしは絶対にあたしをやめたりしないんだから」
348 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:45:13.95 ID:nZ3oq+wSo

 奈緒が焦がれるものはあの日の幸せであるならば、当然ウルティマにとってのそれも同じである。
 奈緒にとっての幸せの基準がそれであり、記憶から忘れようとその価値観は決して一度も揺らいだことはなかった。

 いつもはこの風景は夢で見るだけで、奈緒自身に情報を持ってくることはできなかった。
 だがあくまでこの風景は『他人』のものだ。その9月、自身の誕生日を示す手がかりによって記憶がよみがえることは何ら不思議ではない。

 奈緒にとっての答え、ならばウルティマにとっても同じ答えだ。
 ゆえに、奈緒は最後の一歩を踏みしめる。

「奈緒ちゃん!」

 ウルティマはいつの間にか眼前まで迫ってきていた差し伸べられた手に、ようやく我に返る。
 依然濁った視線で奈緒を貫くが、そこにははっきりとした意思があった。

『おねえ、ちゃん?どうしたの?』

「一緒に、外に出よう!」

『だから……『そと』ってどこ?おねえちゃんは、やっぱりあたしをおいてどっかにいっちゃうの?

そんなの……そんなのは』

 奈緒の言っている意味が分からないウルティマは、悲痛な声を上げる。
 せっかく独りぼっちじゃなくなったのに、また孤独になるのではないかという恐怖に怯えていた。
 だが奈緒はそんな不安そうな少女に向けて、ゆっくりとほほ笑んだ。
349 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:45:51.06 ID:nZ3oq+wSo

「一緒に、パパとママを探しに行こう。

そしてもう一度、遊園地に行こう!」

 錆色の空に、亀裂が走った。
 思い浮かべる風景は、いつかの自分の誕生日。
 両親が連れて行ってくれた遊園地。『奈緒』の幸せの原点であり、間違いなくずっと追い求め続けていたものだった。

『パパ……?ママ……?

……そうだ。あたしには、パパとママがいる。

でも、どこ?……どこなの!?パパ!ママ!』

 その濁った瞳に光が宿る。
 ずっと忘れていた、『神谷奈緒』の記憶。
 それを取り戻した少女の声は、迷子の子供のように泣き叫ぶようではあったが、間違いなく中身のあるものである。

「パパとママはここにはいない。

だけど、必ずこの世界のどこかにいるはずだ」

『……この世界の、どこか?』

「ああ、この奈緒ちゃんの世界じゃない。もっと広い、みんなが暮らす外の世界に。

外に出よう。そしていっしょに探そう、パパとママを」
350 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:46:20.10 ID:nZ3oq+wSo

 奈緒の耳に聞こえてくるのは少女を閉じ込めていた泥たちの断末魔の叫びだ。
 足元に纏わりついていた泥たちはすでに引いており、錆色の空の亀裂からは光が差し込んでいた。
 それは紛れもなく、この閉塞した世界の崩壊であり、ウルティマの意識がこの閉じた世界の『外』に向いたことを示していた。

『あたしも、探す!パパと、ママを!』

「そうだな。いっしょに探そう。あたしたちのパパとママを。

……そうだ、あたしの記憶、思いを、それらをくれた人たちを探さなきゃ」

 迷いは今晴れた。
 少女を孤独に祭り上げるだけの閉塞世界は今終焉を迎える。
 その最後は光に満ちているものであり、動くことのなかった観覧車が回り始めていた。





 
351 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:46:49.95 ID:nZ3oq+wSo




『アアアアアアア『アアアア『『アアアア』アアアアア『アアアアアア!!!!』

 幾重にも折り重なるような不協和音となった雄たけびはまるで断末魔の叫びであるかのようだ。
 溢れ出す泥の洪水は追い立てられるかのようであり、暴食の竜頭は力を失い泥へと帰っていく。
 ウルティマの髪はもとの毛量に戻り、泥は足元から逃げ出すように止めどなく溢れ出している。

「うお、らあぁ!」

 それと同時にウルティマの足元の泥から飛び出す一つの影。
 濁流に流されるように這い出てきた奈緒は、待機していた仲間たちに号令をかけた。

「あとは、任せた!」

『おうとも。その言葉を待っていた!』

 アイユニットから響く軽快な夏樹の声。
 すでに準備は万端のようで、スピーカーの先では何かの物音がする。

 そして天井付近に開く黒い穴。
 それは夏樹のワープホールであり、その中から一つの影が落下してくる。

『だりー、大一番だ!練習の成果を見せてやれ!間違ってもヘマすんなよ』

「わかってるよ。ここで決めれなきゃ、クールが廃る!」
352 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:47:43.92 ID:nZ3oq+wSo

 落ち行く影は声帯装置が元に戻り、完全に李衣菜である。
 その手には専用のエレキギターであり、シールドの先は自身へとつながれていた。

『聴かせてやれだりー!お前のロックを、このナンセンスな獣たちによ!』

「おっけー!イッツ、ロックン、ロールゥ!」

 ギターから力強くかき鳴らされるパワーコードは拙くも心臓を響かせる波長を放つ。
 李衣菜自身につながれたエレキギターは、体を伝わって電気信号が増幅され、ロビー全体へと爆音が行き渡る。

「Yeaaaaaaaah!!」

 李衣菜のシャウトと共に響き渡るメロディーは、決して難易度の高い高度な曲ではなかったが、聴く者の心に響く魂の曲だ。
 その音響は、ソニックブームに近い衝撃を生み、逃げ惑うように這い出てきた泥たちの一切を弾き飛ばし、消滅させていく。

 泥は弾かれ、もはやウルティマを阻むものは精神的にも物理的にも存在しない。
 そこまでの道のりは既に一直線に開けており、ゆっくりと歩いていくことさえ可能であった。

『あ……あぁ……』

 小さく、呆然と立ち尽くすウルティマ。
 その心の枷は断ち切りはしたが、未だ身体は飢えと呪いに侵されたままであり、心は現実に追い付いていない。

 だからこそ、その呪いを浄化し、癒してやる必要があるのだ。

「もう、大丈夫だにぃ」
353 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:48:15.71 ID:nZ3oq+wSo

 きらりは立ち尽くす少女にゆっくりと近づき、そのまま抱きしめる。
 その体は小さく、きらりの大きな身体に収まってしまう
 感じる体温は冷たく、強く抱きしめれば折れてしまいそうなほどに細い。
 故にその抱擁は優しく、ゆっくりとぬくもりを伝えるように穏やかであった。

「これから、きっとはぴはぴになれるように、きらりがはぐはぐしてあげりゅね!」

『……はぴ、はぴ?もう……ひとりじゃないの?もう、くるしくないの?』

 体に伝わってくるこれまでに感じたことのないぬくもりに、ウルティマの力は自然に抜けていく。
 これまでに抱えていた飢えも、苦しみも嘘のように消えていくのを実感していた。

「そうだにぃ。これからは、おねーちゃんたちがいっしょだよー☆」

『あった、かい……うぇ、うええええええええぇぇん!!』

 少女はきらりの腕の中で年相応に泣きじゃくる。
 すでに周囲一帯の泥は完全に蒸発しきっており、地獄は完全になくなっていた。
 破壊しつくされた同盟本部のロビーには光が差し込み、静かに少女を照らし出している。



 
354 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:48:51.46 ID:nZ3oq+wSo


***


「うそだろ……そんなことって」

 奈緒は重々しく口を開く。
 隣の瓦礫の上では、ウルティマ・イーターと呼ばれた少女が臥せっていた。
 その表情はきらりによっていったんは穏やかになったものの、時間の経過とともに苦しそうに曇っていた。
 息は浅く、吸うだけでも苦痛に顔を歪めている。

「嘘じゃ、ない。おそらく、その少女は長くは持たないだろう」

 ウルティマは長くは持たない。
 そう断言するのは、ネバーディスペア直属の上司であるLPだ。
 あの研究所の研究を知り、今のウルティマの状況を見たうえでの判断であった。

「どういうことだよ!?だって、この子はやっとあの苦しみから解放されたはずだ。

もう、この子は自由のはずだろ?だったらどうして、長くないなんて言うんだ!」

 命がけで救い出し、苦しみから解放された少女を前に、奈緒は激昂する。
 まるでその行いが無意味であるかのように否定され、打ちのめされたような気分である。

「おそらく、この子は奈緒のクローンだ。

あの研究所からどうにか遺伝子サンプルを持ち出して、培養したのだろう。

再び、あの悪夢を再現できるように」
355 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:49:32.31 ID:nZ3oq+wSo

 奈緒は確かに兵器として完成はしなかったが、十分な可能性を秘めた研究対象であった。
 あの規模の研究が行われていた以上、多くのスポンサーが出資し、期待をかけていた研究であったのだろう。

 だからこそただでは失敗できなかった。
 どうにかして手に入れたサンプルから研究を復活させて、その計画を完遂させようとどこかの誰かが企んだのは明らかであった。

「だが、言ってしまえば奈緒は偶然に偶然が重なった奇跡の様な存在だ。

それを遺伝子だけで再現しようなど、そもそもが不可能だった。その結果が、この子なのだろう。

凶暴性こそ高いが、生産性が悪く不安定。おそらく長期運用は想定されていない、いわば使い捨て――」

「LPさん!」

 LPが言い切りそうな時に奈緒の静止が入る。
 確かにLPの言うことは真実かもしれないが、それでもその先をいうことはあまりにも非情すぎた。

「すまない。失言だ。とにかく、その子はある意味その『暴食』によって強引に不安定にさせることによって逆に安定させていたのだろう。

強い歪みによって、生命維持にかかわるような致命的な歪みを補正したといってもいい。

だから、その歪みが正されてしまえば、本来の歪みが表出するのは明らかだ……」

「それは……どうにかならないのかよ?延命とか、治療とかは、無理……なのか?」

「それは、無理だ」

 LPの絞り出すような声が、奈緒に深々と突き刺さる。
356 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:50:05.05 ID:nZ3oq+wSo

「この生来の歪みは、いわば体が頑丈だとか、貧弱だとかの生来的な部分につながっている。

奈緒は確かにきらりの浄化に耐えて、理性を取り戻した。

だがそれは奈緒の体が丈夫だっただけで、この子ではきっと耐えられなかった。強すぎる光は小さな影をかき消してしまうだろう。

苦しみはこの子を生かしていたが、苦しみから解き放たれればこの子は生きてはいけない。

なんて……因果だ」

 LPは苦々しく息を吐く。
 仕事柄、反吐の出るような輩は大量に見てきたし、悲惨な境遇な者もLPは多く見てきた。
 だからこそ、このように恵まれなかった生まれの子供だって見たことはあり、そしてそのまま死んでいったことだって見たことないわけではない。

 だが、それは仕方ないと良しには出来ない。LPはこういうときいつも無力感に苛まれる。
 そもそもがネバーディスペアのような存在のほうが少数派なのだ。踏み込んだ時には手遅れであることは嫌というほど目にしてきた。

「一応、連れて帰れば多少の延命、できて数時間程度だがやれないことはないだろう。

それか、楽にしてやることも一つの選択ではある。これは奈緒が決めてくれ」

 LPのその言葉に奈緒は反応せずただじっと地面を見つめている。
 LPの後ろにいる他の面々も、静かに押し黙っていた。

「今回、お前たちはよくやったよ。

この1階ロビーにおいては死者は出なかったし、一人の少女を苦しみから救ってやれたことは事実だ。

これは、誇っていいことだとも」
357 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:50:45.90 ID:nZ3oq+wSo

 奈緒たちにとってこの言葉が所詮は気休めにしかならないことはLPも重々承知である。
 だがそれでも、何もできなかったLPにはただ労ってやることしかできないのだ。

「なぁ……LPさん」

 そして、奈緒がまっすぐLPを見据える。
 LPの方も、奈緒の目をしっかりと見て、その決断を見届けることを決めた。

「LPさんは、この子は助けられないといった。

全くその通りだよ。意気揚々とこの子と約束して引っ張り上げてきたのに、これじゃ裏切りだな……」

 奈緒は小さく横目に少女を見る。
 確かにその表情は苦しそうではあるものの、錆色の空の下で見た空っぽの表情と比べて実に『生きている』。

「だから、あたしに任せてくれないか?

あたしの言った手前だからさ。最後まで、責任持たなくちゃ」

 LPを見据える奈緒の視線に迷いはない。
 そんな瞳を見て、きらりと夏樹は理解して踵を返す。

「ん?どういうこと?」

「だりー。ここは空気を読めよ。きっとこの先は、見られたくないはずだ」

 そして残ったのは、LPと奈緒、そしてウルティマの3人。
 最後にLPは奈緒に最終確認をするように問いかける。
358 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:51:27.65 ID:nZ3oq+wSo

「それでいいのか?それは人の人生をひとつ背負い込むことと同じだ。

決して生半可なものじゃない。いつか後悔する時が来る。自分だけの物じゃない自分の人生はロクなのものじゃあないぞ」

 LPでさえも、誰かの人生をすべて背負い込むことはできない。
 たしかにネバーディスペアの4人の後見人として世話をしているが、すべてを受け持ったわけではない。
 所詮は個人個人の人生。いつかは独り立ちする時もくるのだろう。

 だが奈緒がしようとしていることは、死にゆく者の骸を背負い続けることだ。
 その重荷は決して手放せず、いつかその重さに押しつぶされるかもしれないのだ。

「確かに、簡単じゃない。だけど、今更一人増えたところで問題ないよ。

もうとっくに、あたしのなかは大所帯だ。あたしは一人じゃない。だったら、この子も一人にしておけない」

「奈緒……お前、『気づいて』いるのか?」

 LPは奈緒のことを残った研究資料からある程度知っていた。
 だからこそ奈緒の言っている意味が分かるし、そしてこれまで奈緒がそれに気づいていなかったことも知っている。
 だがその事実はまさしく重荷だ。知らないのならば知る必要はないし、できれば知らないほうが幸せであった。

「気づいているかはとにかく……なんとなく感づいてはいるよ。

会ってはいないけど、そこにいつもいる気がするから。

……まぁそれに、この子と約束もしたから。父さんと母さんを探すってさ」

「……その先は、茨の道だ。

決して明るくはない上に、破滅をもたらすかもしれない。それでもか?」
359 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:52:25.78 ID:nZ3oq+wSo

「いいんだよ。全部あたしの記憶だ。そして、全部あたしだ。

元よりあたしが背負い込むものだ。今更重いなんて言わないよ」

 その言葉を聞いて、LPは諦めたように、それでいて満足したように小さく笑う。
 そして同様に踵を返して、この場を後にしようとする。

「わかったよ。だけど、困ったことがあれば言ってくれ。いくらでも相談に乗るよ。

私たちは家族、だろう?」

「…………はは。もちろん。ありがとなLPさん」





 この場には奈緒とウルティマと呼ばれた少女の二人だけとなった。
 奈緒は腰を下ろして、ウルティマの隣でその髪を小さく撫でる。

「奈緒ちゃん」

「……なお、おねえちゃん?」

 息も絶え耐えながらも、ゆっくりと目を開けた少女は奈緒の方を不安そうに見る。
 そんな不安を和らげるように、奈緒は優しく笑って少女を見下ろした。

「ああ、お姉ちゃんだ。

これからは、お姉ちゃんがずっと一緒だ。奈緒ちゃん。

それでも、いいか?」

「……うん。なおおねえちゃん、すきー」

「ああ。ありがとな。奈緒。

絶対にパパとママを一緒に見つけよう。約束だ。

だから、今はゆっくりと、おやすみ」




 泥の沈み込むような音を最後に、その場には奈緒だけが残る。

「前に、進もう」

 よりいっそう濃くなった泥をその身に宿し、奈緒は差し込む日の光へ視線を向けながら仲間の元へと歩みを進めた。




 
360 :@設定 ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:53:05.79 ID:nZ3oq+wSo

Ultima Eater(ウルティマ イーター)
奈緒のクローンで、再現に失敗したものの兵器としての側面を発展させた猛獣。
暴食の能力が強化されており、髪の毛を捕食器官として自在に操ることができる。
もともと志希の父親であるイチノセ博士が研究素体として残していった奈緒のDNAを用いて誕生したが、資料が現存していないためほとんど再現できていない失敗作であった。
そこに一時期研究を隣で見ていた志希が調整を加えたことによって生命活動には支障がない程度の安定性が備わった。
精神年齢は奈緒の6歳の時で固定されており、無邪気で本能に忠実である。

最終的に安定性を保つために強化された暴食の能力を失ったために消滅しそうになるが、奈緒が自身の意志で泥の中に取り込んだため、今は奈緒の中で眠り続けている。
361 : ◆EBFgUqOyPQ [saga sage]:2016/10/18(火) 02:57:22.76 ID:nZ3oq+wSo
以上です
初めから結末は決めてたとはいえ、我ながらなんだか後味悪いなぁ……

ネバーディスペア、APお借りしました。
残るはAP対くるみと、対ネクロス戦、ラスボスカーリーとの決戦とまだ書くべき内容が残ってます。

ほなまた……2か月後に(頑張ってなるべく早く投下します)
362 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2016/10/20(木) 01:11:12.32 ID:PFr+zEbZ0
お疲れ様でした、そして奈緒を前に進ませてくれて、ありがとうございます

自分で定めた運命であり設定とは言え、これは重い
でも、自分がそうである、と決めた奈緒が自分と向き合って歩みだしたのを見て、涙が出てしまう
呪縛は未だに残ってはいるけども、きっと今の彼女なら「ナニカ」や「正義と狂信」と会っても最悪の事態は避けられそうだ
ウルティマちゃんを見るに「奈緒たち」はずっと飢えを満たす希望と愛を求めて、大なり小なり人に執着してしまうのだろうなと思ったりも
…玉座と赤い空の遊園地の心象風景はイメージというか練っていた設定と合致しすぎてびびったり

奈緒だけじゃなくてメンバー全員、いやLPさんもかっこいい…かっこよすぎる…さすがの演出力ですわ…幸せになれ…
狂犬APと引き篭もりくるみの内情ドッロドロ対決、そして勝てる気がしない二人との戦いも楽しみですぜ…
……大丈夫かな
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/01(火) 02:37:13.49 ID:t4UHosxeo
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/11/20(日) 00:15:37.40 ID:xHcRS68D0
ほしゅ
365 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/28(月) 23:59:04.71 ID:kHQOuUhg0
学園祭3日目時系列で投下でして
366 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:02:45.52 ID:Jh+eG2pi0
学園祭の舞台である学園敷地の端、すっかり冷えて枯れかけの花壇があるその場所、木の下で李衣菜と奈緒が通信機でLPと連絡をとっていた。

内容はもちろん触れただけで精神に干渉し、人々を狂わせる例のカースの件である。

李衣菜「つまり…そのカースの情報は殆ど無いって事で間違いないんですか?」

LP『ああ、前例がなくてな。先程交戦した際のデータも貴重なほどだ。すまないな、休日だというのにこんな事に巻き込んでしまって』

奈緒「いいんだよLPさん!あたし達だって被害者は出したくないし…」

李衣菜「それに、偶然性が強いというか、巻き込まれたってほどじゃないですからね。ところで、学園以外での目撃情報はあったんですか?」

LP『いや…こちらでは確認できてない。担当の者が他の組織へ連絡したり、様々な情報網でサーチもしているが、目撃情報は学園祭敷地内ばかりだな』

奈緒「そっか、じゃあやっぱりそいつらを生み出してる奴が敷地内にいる…のかな」

LP『類を見ないほど強力な精神に影響を与える力を持っているのだから恐らくは…そうだろうな、数も少なくない』

李衣菜「…この学園、厄払いしてもらったほうが良いんじゃないですかねぇ」
367 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:07:13.93 ID:Jh+eG2pi0
LP『あー…、そうだな…もう一つ、カースの情報がある』

奈緒「も、もう一つか…」

ただでさえ厄介なカースが居ると言うのにもう一つ。本当に大丈夫なのか?というニュアンスの返事が返ってくるのは当然とも言える。

LP『獣と人の中間のような姿のカースだ。こちらは以前から学園に居付いているらしくてな、目撃情報もそこそこある。だが、カースにしてはおかしなことに被害情報がない。精神的な影響も見つかっていないようだ』

奈緒「へっ?なんだそれ…ホントにカースなのか?獣人のカースドヒューマンとかなんじゃ?」

LP『そう言われても仕方ないとは思うんだが、反応は純粋なカースだ。…今回、そのカースが件のカースと交戦してるらしい。と言っても一方的に潰しているらしいんだが』

奈緒「…縄張り争いか何かか?」

李衣菜「それか、カースドヒューマンの配下で、水面下で動かされてるとか…うーん、ちょっと違う気がするな」

LP『理由は不明だ、だが結果的にか意図的か…そのカースに救われている一般人も少なくない。何か明らかになるまで、向こうが人を襲っていない限りは無干渉でいてほしい』

奈緒「了解…ところで、夏樹ときらりは来ないのか?」

LP『ああ…今のところ「ネバーディスペア」を動かすことができない。危険性こそわかったものの、あのカースの被害自体は今のところ極小だからな』

奈緒「嘘だろ?あんなにみんな逃げ惑ってたじゃんか…」

LP『そう思う気持ちもわかる。しかし現在、実際に被害はほぼ無い…』

李衣菜「ううん…いいんですよLPさん。『ネバーディスペアが動けない』っていうのは…まぁ、そういう意味なんでしょう?」

LP『……ああ、今日はカースのデータのやりとりの為にこうして通信しているが…本来ならば二人は管理局の組員として動かなくていい、休暇中なのだからな』

奈緒「…?………ん?……あ、ああ!そういうことか」

李衣菜「一応フリーだから、やりすぎなければ問題にはならない…そういう事ですよね?」

LP『それを断言をして良い立場ではないが…そうだな。可能であれば避けたい事だが、緊急事態になれば仕事だ』

李衣菜「それだけ確認できれば十分ですよ。私達に任せてください」

奈緒「…まぁ実際やることと言えば例のカースの出現原因の調査とかだよな、アイドルヒーローは来てるからあまり動いてもあれだし」

李衣菜「それも大事なことだから…難しいねぇ、大人の問題って」

LP『…すまないな』

奈緒「いやいや、これは誰も悪く無いって!」

李衣菜「カメラ無い所ならOKだったりしませんかね?」

奈緒「李衣菜も抜け道を探すんじゃない!決まったことなんだから!仕方ないんだって!」

李衣菜「冗談だってー、実際にするわけじゃないし」

LP『ははは…まぁ、無茶だけはしないでくれよ』

李衣菜「わかってますって」

奈緒「大丈夫だって!」

LP『…二人だから心配してるんだが…とにかく切るぞ。また何かあれば連絡してくれ』

李衣菜「了解しました」

LPが苦笑交じりに通信を切る。実際、二人は痛覚がないことや再生能力を持つことから突撃しがちであるから、この心配は当然である。
368 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:09:03.94 ID:Jh+eG2pi0
奈緒「それで…どこから調べる?」

李衣菜「親玉の居場所がわかれば楽なんだけど…全然わかんないや、とりあえず地図を…」

そう言って李衣菜はバッグから学園祭のパンフレットを取り出そうとしたが、その腕の動きは中断される。

奈緒「どうした?」

李衣菜「…下の方から音が聞こえてくる」

奈緒「んー…あ、耳を澄ませると聞こえてくるな、地震じゃないみたいだけど」

地下全体に響く重低音。それは怪人によって作られた地下迷宮が響かせたものだ。

まさに真下、足元から聞こえてきたその音は周囲がうるさければ聞こえないほどのものだったが、二人はそれを耳にした。

奈緒「なんだろ、地下に何か基地でもあるのか?」

李衣菜「なるほど、プールが割れて中からロボが…ってことじゃない気がするなぁ」

奈緒「だよな…?」

その音は怪人の生み出した地下迷宮の産声。そして、件のカースである『退廃の屍獣』によってその迷宮が人々を捕える凶悪なものに変化しているとは、まだ気づくことはできなかった。
369 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:12:39.38 ID:Jh+eG2pi0
時間は少し遡り、場所も少し変わる。

この日、蘭子とブリュンヒルデ…昼子は店の仕事が入っていなかった。当然、一般的な学生のように、学園祭を楽しもうとしていた。

昼子「しかし、今日はいつにも増して邪悪な気配がそこら中から感じ取れる…のんきに過ごせるほど我は腑抜けてはおらん」モグモグ

蘭子「たこ焼き食べながら言う台詞じゃない気がするけど…?」

昼子「フ…これは浮かれた人間共に紛れるための策よ……このタコ焼きというモノも美味ではあるがな」

そういう通り、二人はベンチに座り、屋台で夢中になりながら買った食べ物を味わいつつも、どこか浮かれきってはいない。

昼子「…ユズが帰ってこないのはそれほど珍しいことでもないが、この学園祭…先程も言ったが汚染された邪気を感じるのだ…嫌な予感がしてならん」

蘭子「昨日も一昨日も大騒ぎだったしね…ところで『汚染された邪気』って?昨日の事件みたいなカースとか悪魔とは違うの?」

昼子「それが…妙なのだ、カースの持つ負の方向の力なのは間違いないのだが…魔王の娘である我にさえ、悍ましさを感じさせるような…未知の力が働いている。断言はできんが、そういう意味ではカースや悪魔とは違うと言えるだろうな」

蘭子「未知の、力が…?前に見えた妖怪とか?」

昼子「あ、あれは…また違うだろうな…正直よく覚えてないのだ…ほんとに…」

蘭子「そうなんだ?」

昼子「我もまだ未熟故に詳しいわけではないが…邪気にさらなる負の力が加わっているのは間違いない」

蘭子「…じゃあ何なんだろう?その原因って」

この騒動で魔導書の力の影響を受けたカースが数を増やしている影響か、魔法の嗜みが有るものなら学園の敷地内で大なり小なり嫌な気配を感じ取れる程に邪気が漂っていた。昼子はそれを常人の何倍も敏感に感じ取り警戒していたのだった。
370 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:17:07.70 ID:Jh+eG2pi0
昼子「…ユズならばこの魔力や邪気を更に詳細を調べてくれるのだろうが…」

いつも忙しそうにしている従者は昨日から会えていない。二人は無意識に彼女のプレゼントである腕輪を見つめていた。

人間の錬金術士が作成したという、それぞれユニコーンとペガサスが描かれた一対の腕輪…ユズのプレゼントだ。

マジックアイテムではあるものの、この腕輪は戦闘用という事ではなく、何かの目的があって作られたものではない。

それと共に思い出す。魔法使いだ。魔力を持つ人間達が、魔力を持たない人間から隠れつつも生活に馴染ませるように発展した、攻撃性の薄い魔法。

魔族の生み出したものである魔術という概念にとらわれていたが、少し冷静に考えると、魔力の形は無限であった。

昼子「…魔力は使い手によっても姿を変える…あの邪気は……まさか…いやそんな馬鹿なことが…」

蘭子「どうしたの、何か思い当たることがあった?」

昼子「…思い出したのだ。魔族とはまた別の、旧き神々に連なる者達の秘術…封じられし禁術。魔力の形の一つとして、そういった物もこの世にはあった、とユズから習った記憶がある」

学んだ時…それはただの言い伝えの類だった。魔術の歴史を学ぶ中での小ネタ、遥か昔に消えてしまったもの。そういった扱い。

しかし、今のこの人間の世界は混沌とした世界。ほぼ絶滅したはずの竜族も潜み、人間にとってその「言い伝え」であったものが溢れた世界。

「ありえない」は有り得ない。昼子は数ヶ月の時を人間界で過ごすうちにそれを学んでいた。

昼子「『秘術』だ。何者かによって生み出されし旧き魔道書に記された、魔術の原型…。しかし、そのうちいくつかの魔道書は名だけは伝わっているものの、全て実物どころか写しすら存在するのか不明なのだそうだ」

昼子「原型と言われてはいるものの、記録には残っていない…故に魔族である我らから見ても実在するかどうかは眉唾であった」

ユズから教わっていた事を思い出しながら昼子は秘術について説明を続ける。

昼子「魔族唯一の閲覧者とされる初代魔王の伝承によれば、記されし文字や言語も魔界や人間界のものとは異なると言うが…我が半身ならその能力で読み取れるかもしれんな」

蘭子「それはちょっと気になるけど…でもどうして今の学園の嫌な気配と繋がるの?」

昼子「…これは可能性の話だ。実際に邪気の根源を突き止めぬことには始まらん」

蘭子「えっ!?」

昼子「フフフ…危険だ、と言いたいか?我らは以前よりも力を増した、わざわざ気配を避け、怯える弱者ではない!」

鞄から黒いローブを取り出しほくそ笑む。

蘭子「そ、それ…用意してたんだぁ…」

昼子「我はいかなる時も魔王サタンの娘であるからな、何かあった時の為の黒衣を用意するのは当然であろう」

蘭子「…なるほど?」

何かあった時、とは何なのか。それは精神年齢が人間換算で14歳の悪姫にしかわからない。
371 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:19:28.83 ID:Jh+eG2pi0
昼子「む?」

翼を広げ、宙を舞おうとしたまさにその時、彼女も地下から響く重低音を聞き取った。

昼子「感じたか?地の底から響く呻きを…」

蘭子「えっと、何か響いて来たのは感じたかも?」

昼子「それだけではない。その方角の魔力の流れが微かに歪んだのを感じた…禍々しい気配のモノが起こした現象かまでは判別できないが…事件の予感がするであろう?」

そこまで言うと昼子は蘭子の手を取る。

昼子「邪気の根源を空から探してやろうかと思ったが…騒ぎになっていないということは地下に潜んでいるに違いない。我が半身よ、行くぞ」

蘭子「大丈夫なの?もしかしたらユズさんの言ってた大罪の悪魔の罠かも…」

昼子「フフ…違うな。腐っても大罪の悪魔、わざわざ連日の事件で警戒度が上がっているこの場で、地響きを響かせてまで『罠』を用意するとは到底思えん」

その調子で手を引きながらズンズンと人混みをかき分け、人混みから離れた地下通路の入り口まで歩いて行けば、本来ならば無いはずの禍々しい扉がそこにはあった。

蘭子「あれ?通路の入口は閉める時はシャッターが降りるはず…扉なんてなかったような?」

昼子「ふむ…『地脈よ、その巡りを我が前に示せ』」

昼子が魔法の呪文を唱えると、地中に宿るエネルギーである地脈の流れを可視化した、無数の光の筋が足元から四方八方に伸びていく。

しかし、よく見れば扉の方へ伸びた光の筋は扉に触れる直前に掻き消えてしまっていた。

それを見た昼子は満足そうに魔法を解除する。

昼子「これこそが、地下に起きた異変の一端。この先は地下であるのに地脈すら断絶している…何らかの方法で空間ごと隔離されているようだな」

蘭子「それって、入ったら帰ってこれないって事なんじゃ…」

昼子「そうだな」

蘭子「…いくの?」

昼子「当然。ここの所、我は学園祭の準備やらで力を発揮できずにいた…まぁ、人間が巻き込まれた事件を解決しに行くのも悪くはないであろう?」

蘭子「巻き込まれたって…お、大げさだよ…」

昼子「何も知らないままこの扉を通った一般人が一人も居ないと言えるのか?」

蘭子「う、それは…」

昼子は連日の事件の際、他の生徒と同じように教室で待機していた事で鬱憤が溜まっていた。

そんな中、自由に行動できる日に目の前に『倒しても良い敵』の根城があるのだ。居ても立ってもいられない。
372 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:21:49.81 ID:Jh+eG2pi0
昼子「正直に、行きたくないと言えばいいではないか」

蘭子「だ、だって…怖いし…」

昼子「…我らと過ごしておいて言う事か?死神と魔王の娘だぞ?……まぁ魔族の中でも人間に外見が似ている方ではあるが…」

蘭子「それに…扉からして、怪物が潜んでそうというか…」

昼子「いや、これは魔法ではないと思うぞ。恐らく潜んでいるのは魔族や怪物ではなく人間、怪人の類だろうな」

蘭子「それでも…どうしても私も行かなきゃいけないのぉ…?」

昼子「……我は半身が居なければ攻撃魔法が使えない身……二人で居なくては我らは満足に戦う事もできぬ…」

蘭子「だから…む、無理に行かなくても…!」

意地でも迷宮に突入するつもりの昼子を、蘭子は止めることができない。

本当の姉妹のように仲良く暮らし、同じ部屋で寝て同じ時を過ごした半身の様な存在が、ここまで自分の意見を聞かないとは思わなかったのだ。

…と言うよりは、すっかり彼女が正真正銘の悪魔だという事が頭から抜け落ちていた。と言うべきだろうか。

昼子「…唐突だが、主従の契りを結んでいた事を忘れてはいないか?」

蘭子「ふえっ!?」

昼子「普段は同等の立場でいるものの…契約上、我は汝を自由にすることができる…わかるな?これが魔王の娘と契約した事による代償だ…」

蘭子「え、ええ…そんな…」

その天使のような可愛らしい微笑みは、蘭子からしてみれば正に悪魔のそれであった。

昼子「我が半身に命令するのは心苦しいが…行こうではないか、地の底へ!」

蘭子「い、いやあああ!!」

二人を繋ぐ固い主従の契約によって、二人は離れること無く扉の中へ入っていく。

扉は重く閉ざされ、迷宮は新たな客人の訪れを喜んだ。

魔王の娘とその従者。二人は果たしてこの迷宮から脱出できるのだろうか…。
373 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2016/11/29(火) 00:22:28.92 ID:Jh+eG2pi0
・地下通路入り口に発生した扉から地下迷宮にブリュンヒルデと神崎蘭子が突入しました。当然ですが扉は一方通行です。

久々に投下できました…。
学園祭3日目、迷宮には蘭子&昼子が突入。念願の宇宙勢力(?)の怪人と戦えるかもしれない状況だからね、そりゃ突撃させるよね。
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/12/08(木) 15:07:00.84 ID:oNFst+uio
おつおつ
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/01/04(水) 03:04:46.07 ID:nMZ9ArN60
ほしゅ
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/09(木) 19:11:59.71 ID:76kCz6xj0
377 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2017/02/17(金) 22:17:15.76 ID:w7+OlWMK0
ケイトさん予約します。
投稿はもう少しお待ちいただければと・・・・・・
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/02/18(土) 01:11:15.01 ID:T1AGHmSzO
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2017/03/02(木) 20:12:05.17 ID:QLk/GcE/o
(゚w゚)
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/03/06(月) 13:47:33.66 ID:PJKR/YO1o
続きまってます
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/04/02(日) 14:33:40.90 ID:P2HkBFEO0
待ってる
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/04/25(火) 02:49:04.75 ID:/9jLf19po
だめか
383 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2017/05/03(水) 01:49:41.09 ID:RKjkGrA70
お待たせしましたorz
いろいろと時期を乗り逃してますが、やっと書き進められたので投下します。
384 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 01:52:46.59 ID:RKjkGrA70
憤怒の街の上空。

その上空には、一機の輸送機が飛んでいた

『ここが日本………日本?
 日本って、カースの被害がひどいのかしら?』

『隊長、あそこは憤怒の街と呼ばれる地域です
 あの残骸はカース大量発生の被害の爪痕であり………我々GDFの汚点でもあります』

『………ひどい有様ね』

『全くです』

そう言い交わす彼ら、あるいは彼女らが使う言語は英語。
英国GDFのエンブレムが付いた輸送機の中には、彼女らのほかに2人の兵士と―――
一人の黒い男がいた。

その黒い男が言う。

『………ふん。我も同じカースではあるが、こっぴどくやってくれたものよ。―――だが。』

そう言葉をつづけながらも、男の顔がにやついていく。

『カースに襲われたというのに、全体的にカースの力というものが異常に弱まっておるな
 それにあの樹はなんだ? すごく異質な力を感じるぞ?』

『樹? そんなのどこにあるというの?』

『貴様らの言うステルスとやらで隠蔽されておるが………この我の眼はごまかせんよ。
 そうだな、我が指を指す方に、その大きな樹がある。』

そういって、指を指す方を兵士たちは見たが、何も見えない。

それを受けて、兵士たちは推測する。

『ステルス………となると、意図的に見えなくしていると?』
『そんなこと可能なのか?』『いや、可能ではあるだろう。ウサミン星の技術を使えばな。』
『だが何のために?』『誰かに見つかるのを恐れたのか?』
『カースに襲われた街に樹が生えているというのも、変な話ではあるが………それを隠す意味はあるのか?』

真相はわからない。
385 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 01:55:51.71 ID:RKjkGrA70
『我にもわからん。 だが興味は沸いた。
 なので、今からそれを見に行こうと思うが―――』

そう言いかけた彼だが、傍らで座っていた女性が銃を向ける。

『勝手な行動は許さないわよ、カースドウェポン。
 我々が輸送任務中だってこと、忘れてないわよね?』

カースドウェポンと呼ばれた彼は、核に銃口を当てられながらも、不敵に笑う。

『忘れてはいないとも。
 だが、興味をそそられるのだから、仕方あるまい?
 それに―――』

『それに?』

『この輸送機の中で、我々が戦ったらどうなる?
 確かに主無しの我には、お前は倒せん。
 だが、抵抗するぐらいならばできるぞ?
 そうしているうちに、この輸送機はどうなる?』

『・・・・・・っ!!』

そう指摘され、銃口を下す女性。

『いいでしょう。
 ですが私は不本意ながらも、あなたの輸送を任された者。
 その私を連れていくことで、今回は手を打ちましょう。』

『許す。 我の伴をせよ。』

女性は不本意ながらも、その気持ちをぐっと抑えて命令する。

『パラシュートの準備を―――』

『その必要はない』

そういうと、黒い男は話していた女性の膝の裏を、左腕でひょいと持ち上げ、右腕で女性の背中を支える。

『!!?』

これはまさしく、お姫様抱っこの姿であった。
386 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 01:57:04.00 ID:RKjkGrA70
『なっ・・・なっ・・・・・・!?』

勝手に命令する黒い男、なぜかノリの良い部下、お姫様抱っこされる女性のGDF隊員。

かくして、輸送機のハッチは開けられた。

『ちょっ、ちょっと待ちなさいあなた達!?』

『大丈夫っすよ! 予行演習はバッチリなんで!』

『そこのカースドウェポンが傷一つ付かせず、地上まで送り届けてくれますので!!』

『まったく。 お姫様抱っこされながらのスカイダイビングなんて羨ましいですよ、隊長!
 ―――まあ、私もやったんですけどね。(遠い目』

そして、人の姿をしたカースドウェポンは、勢いをつけて輸送機の外へと飛び出す。

『いざ! 新たなる冒険の舞台へ!!』

それをサムズアップで、GDF隊員は見送った。

『ケイト隊長! お元気で!!』

『おーぼーえーてーろぉぉぉー!!!』

===============================================================
387 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 01:59:19.29 ID:RKjkGrA70
憤怒の街にできた自然の中を、私たちが乗った車が進みます。

やはり街路樹の根っこなどが道にまで伸びていたりするためか、道がでこぼこしています。

「まあ、通れないほどではないな。少し揺れるが我慢してくれ。」

そうポストマンさんが言いながら、ゆっくりと車を進めています。

そして、私と凛さんは窓の外を見ていました。

「………ありえない。」と、凛さんが言い始めました。

「あの事件が起こってからそれなりに時間は経ってるけど、それでもこんなところに森みたいなのができるなんて、やっぱりおかしい。
どうやったら、こんなことになるの?」

「………カースの影響なのでしょうかっ?」

「たぶん………カースの影響ではないと思う。むしろその逆のような気がする。
でも、調べてみないことには何もわからないよ。」

そうして、物惜し気に外を見つめる凛さん。

「………土とか葉っぱの一部だけでもいいから持って帰れないかな?」

そういって、窓を開けて手を伸ばす凛さん。

「ちょっ、危ないぞおいっ!」

はぁとさんが助手席からこっちに向いて注意を促しますが、それを無視して、木から伸びた枝をつかみました。

雨が降っていたのか、葉の水滴などが凛さんの手にかかりましたが、ポキッという音とともに、折れた枝を手にしていました。

「………随分、無茶なことしますね………っ?」

「今の折れなかったら、腕持ってかれてたぞ☆」

「進むスピードもゆっくりだったし、引っ張って取れるような枝を選んだつもりだよ」

そうして凛さんは、取った枝葉をじっくりと観察します。
388 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 02:01:17.49 ID:RKjkGrA70
「見た目は普通の木の枝だね」

そういって、手の指で枝を回転させながら観察する凛さんでしたが………私は凛さんの足のケガに気づきました。

「あれ? 凛さん、足ちょっとケガしてませんか?」

「うん。さっき逃げようとしてこけたときにすりむいちゃって。」

「ああ、あの時ですか。私が手当てしますね」

そういって近くの救急箱を手に、凛さんの傷の手当をしようとしたとき、葉にちょっとだけついていた水滴が凛さんの傷口にかかりました。

「………えっ?」

「なっ………!?」

水滴がかかった凛さんのすりむき傷がみるみるうちにふさがっていきます。

まさに一瞬のうちに、凛さんの足のケガは跡もなく消えてしまいました。

「………」

凛さんは治った足をまじまじと見ています。

「何これ………」

「どういうことなんでしょうっ?」

「一体何の力が働いてこうなったのかはわからない。
 けど、この木の枝に溜まっていた水滴が傷口に落ちた瞬間、なんだか傷口から癒されてる感じなのかな?そんな感じがした。」

「そして、傷口が見る見るうちにふさがった………っ」

「明らかにカースの仕業ではないけど………予想外のものが出てきたね」

「おいおい、まじかよ☆」

はぁとさんが見るからに嫌そうな顔をしています………っ。
389 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 02:03:22.95 ID:RKjkGrA70
「普通こんなのがあったら、まずGDFのほうに話が上がってくるよね」

「ポストマン、どうなんだよ、おい☆」

「いや、そんなものがあるっていう話は聞いたことがない」

「じゃあ、気付かなかった……ってことはないよね」

「この森自体を見えなくしていたっぽいから、ね☆」

「ってことは、これ、GDFの機密情報?」

「その可能性はあるだろうが………一体何のためだ?」

「いや、ポストマンにわからないんだったら、はぁとにもわかんねぇよ☆」

と、そんな感じではぁとさん達が話している傍らで、チカちゃんがちょっと不思議そうな顔をしていました。

「どうしたの、チカちゃんっ?」

「………よくわかんない」

「………まあ、確かによくわかんないことばっか続いてたしな☆」

「そうじゃなくて………なんか変なの。
 ここはすごく気持ちがいいんだけど、ここにいたらチカの魔法が使えなくなっちゃうみたいなの」

「魔法が……使えなく………?」

それを聞いた凛さんが、また何やら難しそうな顔をして考え込んでいました。

「魔法を使うカース………? 確かにそういうのもいるかもしれないけど………。
この場合は、カースの力が使えなくなってるっていうことなのかな?」

「だとしたらこの森、カースの特効薬なんじゃ………っ?」

「でも、まだわからない………。とにかくこの枝を持ち帰って―――」
390 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 02:05:44.12 ID:RKjkGrA70
「おーい、ちょっといいか?」

そんな声と共に、はぁとさんが手を挙げていました。

「えっと………なに?」

「いやまあ、傷が治ったこととか、カースの特効薬とか、色々と疑問ではあるんだけどさ
――ーチカちゃんってカースなのかよ、おい☆」

・・・・・・・・・

『しまった………っ!!』

「ああいやまあ、そんな気はしてたけどな☆
そんで、お前らがそれを隠そうとしていた理由も何となくわかるぞ☆
はぁとが同じ立場だったら、同じことしてたかもしれないしな☆」

そして、一息ついたはぁとさんは正面に向きなおして、こう言いました。

「この森とか、チカちゃんのこととか、色々わかんない事がいっぱいだけどな♪
はぁと的には、こっちの敵でなければどうもしないし、味方なら歓迎するだけだぞ☆
な、ポストマン?」

そういって、ポストマンさんにバトンを渡したはぁとさんでしたが………

「―――チカちゃんがカースだってことが分からないおろか、勘づきもしなかった俺はどう反応すればいいんだ?」

「知るかバーカ☆」

………台無しです、いろいろとっ
391 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/05/03(水) 02:16:22.64 ID:RKjkGrA70
『!? てんてーん!!』

凛さんのポケットからハンテーンさんの慌てた声が聞こえました。

「? どうしたの、ハンテーン―――!?」

みんなで覗き込んだ端末には―――目の前にカースの反応がありました。

「ポストマン! 目の前にカースがいる!!」

その瞬間、車の正面の方向から、何かが壊れたような大きな音が聞こえます。

「ああ、確認した・・・・・・! 建物の中から戦車だ!!
 くそっ! 待ち伏せされたか!?」

私達が乗る車の前には、GDFの戦車。

既に砲身は私達の車に向けていました。

そうして、悠然とした態度で迎え撃つ戦車は―――突然爆発しました!?

「―――えっ?」

一瞬、何が起きたのかわかりませんでしたが・・・・・・更に、

「フハハハハハ!!』

この高笑い。 一体何が起こったんですかっ!?

『さあついたぞ、ケイト。
 我と共に、憤怒の街の探索と行こうじゃないか!!』

そういう声が、壊れた戦車が巻き上げる煙の中から聞こえ、姿を現しました。

そうして出てきたのが―――まるで全裸な黒い男の人と、それに抱き上げられた軍服姿の女性でしたっ!?

そして男の人は、女性の方を下ろすと………

『なにするのよっ!!』

ああっ! きれいな右ストレートが男の人の顔面にクリーンヒットですっ!

そのまま女性の方がマウント体制っ! 右っ!左っ!右っ!左っ!!

「………」

あまりの展開に、私たちは呆然としていました………っ

「!?」

あっ、女性の方がこっちに気づきましたっ! そして、固まっちゃいました………っ

・・・・・・・・・

少しの沈黙の後、女性の方は、まるで何もなかったかのように立ち、服の埃を払うような動作をして笑顔を見せました

「………ハァイ!」

………また、おかしな人が増えましたっ!?
392 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2017/05/03(水) 02:28:57.84 ID:RKjkGrA70
今回は以上で。
………なんだか、寄り道ばかりしてるな?orz
たぶん登場人物はまだ増えます。(新しいのはもう出ないとは思う)

憤怒の街の樹とかは、どこかの能力者3人組が作ったアレが元になってます。(お分かりかもしれませんが)
あと、英国GDFが運んでいたカースドウェポンについては、いずれ設定書きます。(ケイトも)
しゅがはさんについても、設定を付け足す必要があるかも? というか、ユウキちゃんもだ・・・・・・。

いろいろ考えだすと、止まらないねぇ・・・・・・
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/05/03(水) 12:17:11.63 ID:MCxtRWL5O
乙でしてー
人型カースドウェポンは設定開示が待ち遠しいですねぇ…
樹を巡ってどうなっていくかも気になるところ
次回もお待ちしておりますぞー
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/06/01(木) 19:56:08.82 ID:mVzWWaoiO
ほしゅ
395 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/21(金) 00:45:04.94 ID:XmRntpxmo
保守
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2017/07/22(土) 16:01:05.40 ID:oTmo10mB0
生きてる?
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/22(土) 23:17:31.60 ID:vgn1he6Ko
続きがみたいです
398 : ◆JQjN6nuClI :2017/07/23(日) 02:22:50.86 ID:MoUD2rCso
test
399 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:46:09.27 ID:NsMtQntxo
皆さん! 7月25日!!(挨拶)
いつものやつやります!

……ちょっと感想が溜まってますが
しばらく! 今しばらく!

今年もまたちょっと攻めた内容になってます
それでは行きます
400 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:46:38.92 ID:NsMtQntxo
藍子「ピィさんっ」
藍子「おはようございます、ピィさん」
藍子「朝ですよー、起きてくださーい」

――あぁ、藍子の声が聞こえる。
――とても穏やかで、優しい声だ。
――今日も幸せな気持ちで一日が始まる。

――毎朝こうやって起こしてもらう事にも慣れてきたが、
――やはり何度聞いても藍子の声は落ち着く。

――……即ち、眠気が加速するのだ。

ピィ「ぐぅ……」
401 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:47:08.57 ID:NsMtQntxo
藍子「もう、朝ごはんが冷めちゃいますよ、ピィさんっ」
ピィ「んぁ……」
――ゆさゆさと体を揺すられるが、むしろ逆効果だ。
――そんなに軽い力では揺り籠に揺られるがごとし。ぐぅ……。

藍子「えいっ、こちょこちょ〜♪」
ピィ「んへはははっ」
――起きた。
――くすぐり攻撃は卑怯だ。

藍子「早く着替えてきてくださいね」
ピィ「あーい……」
――こ。

――……いや、何でもない。
402 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:47:38.12 ID:NsMtQntxo
――今日の朝食はトーストにベーコンエッグ、レタス、トマト。
――そしてコーヒー。

――うん、良い朝食だ。
――いかにも朝食って朝食だ。
――何より藍子の手作りっていうのが良い。
――毎朝これを食べられるのだから、本当に俺は幸せだと思う。


ピィ「いただきます」
藍子「いただきます」

――もぐ……。

ピィ「美味ぇ(美味ぇ)」
藍子「ふふっ、ありがとうございます」
403 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:48:08.79 ID:NsMtQntxo
ピィ「さて……、そろそろ出るか」
藍子「はいっ」

――朝食を終え、一息つくと出勤の時間だ。
――もはや『第二の我が家』といった感じなので、あまり”出勤”というイメージはないが、
――藍子と共に『プロダクション』へと向かう。

――俺はピィ。
――Pだ。
――プロデューサーだ。
――『プロダクション』のプロデューサーだ。
――みんな忘れてるかもしれないが、そこそこ偉い。 (※そもそも◆cKpnvJgP32がいつも忘れてる)
――描写されてないだけで、結構な量の仕事をこなしている。 (※多分)
――責任のある立場だ。 (※なんですよこいつ)
――だけど朝はのんびり向かう。
――別に重役出勤とかではない。

――――毎朝藍子と一緒に歩いていくこの時間を大切にしたいんだ。
404 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:48:42.06 ID:NsMtQntxo
ピィ(……というか、そもそも『プロダクション』には明確な出勤時間とか無いし)
ピィ(逆に、明確な退勤時間も無い)
ピィ(だから、夜遅くまで残ることも多いんだが)
ピィ(……)
ピィ(ひょっとして、うちの企業、ブラックなのん……?)

藍子「どうしたんですかピィさん? なんだか難しい顔をしてますけど……」
ピィ「いや、なんでもない……」


――本当は帰りも一緒がいいのだが。
――流石にあまり遅くなると、先に藍子を帰すことも多い。
――ただ、藍子一人だと多少不安……。

未央『ミツボシ』
周子『八つ橋』
沙理奈『セクシー』
――めちゃくちゃ安心だった。
――彼女たちのおかげで心置きなく居残りできます。ちくしょう。
405 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:49:14.27 ID:NsMtQntxo
――そうこうしているうちに『プロダクション』に到着。
茜「あっ! お二人とも!! おはようございますっ!!!!」

ピィ「あぁ、おはよう」
藍子「おはようございますっ、茜ちゃん」
――……朝一の茜ちゃんの食い気味な挨拶にも慣れた。

未央「おっはよ〜。いやー今日もお二人はお熱いですなぁ」
藍子「も、もうっ、未央ちゃん!」
ピィ「お前なぁ……」

――藍子と一緒になってからというもの、
――未央はこうやって毎朝からかってくる。
――悪い気はしないが、こっちにはまだ慣れない。
406 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:49:47.78 ID:NsMtQntxo
ピィ「さて、と……」
――自分のデスクに着き、まずは今日の仕事を確認する。
――確か、そんなに量は無かったはずだ。
――『藍子と一緒に帰れるな』というようなことを考えながら、PCを立ち上げた。

――『プロダクション』の面子のスケジュール管理。
――他組織へのアポイント。
――諸々の雑務。
――と、こんなものか。

藍子「はい、どうぞ」
ピィ「ん、ありがとう」
―― 一通り確認が済んだところで、藍子がお茶を汲んできてくれた。
407 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:50:24.60 ID:NsMtQntxo
ピィ「今日は早めに上がれそうだよ」
藍子「じゃあ! 一緒に帰れますねっ」
ピィ「あぁ」
藍子「ふふっ♪」
――藍子は嬉しそうに微笑んで、その場を後にした。
――去り際に「やった♪」という小さな呟きが聞こえてきた。
――可愛い、天使か。

ピィ「そのためにも、さっさと終わらせないとな」
――藍子の入れてくれたお茶を一口啜り、早速作業に取り掛かる。
――よーし、ピィちゃん張り切っちゃうぞー。


周子(めっちゃウキウキしてる)
沙理奈(ラブラブねぇ)
未央「……」(黙ってうんうんと頷く)
408 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:50:56.92 ID:NsMtQntxo
――
―――
――――数時間後。


ピィ「終わっったー」
――これにて本日の業務終了!
――お疲れ様でした、自分。

――なんか一瞬で終わったような気がするけど、数時間経ってるのだ。
――とにかく、終わったものは終わったのだ。
――相変わらず描写はされないのだ。 (※ごめんなさい)
――ダイジェストでお送りしますのだ。

――まぁ、そんなことより……。
409 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:51:33.20 ID:NsMtQntxo
ピィ「よし、藍子。帰ろうか」
藍子「はいっ、こっちももう少しで終わります」
ピィ「おうっ」

――藍子は藍子でちゃんと仕事がある。
――今日みたいに、俺の仕事が先に終わることは珍しい。
――なので、こうやって”待つ”という経験は稀だ。

――凄いソワソワするんだな、と思う。
――藍子もいつもこんな気持ちなんだろうか。
――……もっと仕事を早く終わらせられるようになろう。

――ちなみに、藍子がどういう仕事をしているのかという描写は(以下略)。
410 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:52:03.45 ID:NsMtQntxo
ピィ「それじゃ」
藍子「お先に失礼します」
――藍子を待って、二人で退勤する。
――残った面子を労いながら『プロダクション』を後にした。

――……の、前に。

ピィ「悪い、先に入り口のところで待っててくれ」
藍子「? わかりました」
――少しだけ、やることが残っている。

ピィ「ちひろさん」
ちひろ「はい」
――ちひろさんのところへ向かい、彼女に声を掛ける。
――それを合図に、ちひろさんは返事をしながらドリンクを差し出し、
――俺は黙ってお金を払った。

――言葉はいらなかった。
――大人の友情が、そこにはあった。
411 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:52:30.33 ID:NsMtQntxo
――藍子と一緒の帰り道を、ゆっくりと歩く。

――今日は早く上がれてよかったね、と他愛もない雑談をしながら。
――夕飯の献立はどうしようか、と今晩の買い物をして。
――いつもとは違う道で帰ってみよう、と少し遠回りしてみたり。

――急がず、焦らず、のんびりと。
――藍子と共に過ごす、なんでもないような時間を、大切にしたい。
――穏やかで、静かで、小さな幸せ。
――こうやって、少しづつ、少しづつ、集めていこうと思う。
412 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:53:00.47 ID:NsMtQntxo
――帰宅後。

――俺達は……。
―― 一緒に夕飯を作り。
―― 一緒に軽めの晩酌をしたり。
―― 一緒にテレビを見ながら、談笑し。
―― 一緒にお風呂に入り。 (※!!)
―― 一緒に髪を乾かして。
―― 一緒に歯を磨き。
―― 一緒にベッドに入り。
―― 一緒に……。
413 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:53:27.79 ID:NsMtQntxo
ピィ「藍子……」
藍子「あっ……」

――布団の中で、藍子を抱きしめる。
――柔らかい感触と、藍子の体温が伝わってくる。
――優しく香るシャンプーの匂い。
――小さく漏れる艶っぽい吐息。
――うっすらと上気した桜色の頬。
――ほのかに潤んだ瞳。

――藍子の全てが愛おしかった。

――俺のものだ。
――俺だけのものだ、と。
――そう思うと、俺は間違いなく世界一の幸せ者だった。

藍子「はい……」
――藍子はその一言で、俺を受け入れた。
――枕元にはちひろさんから買ったドリンクが用意してある。

――今夜も長くなりそうだ。
414 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:54:33.17 ID:NsMtQntxo
以上です
時系列が前後しますが、新婚くらいの時期をイメージしてます

R-18ではないけど、ちょっとピンクな感じを盛り込みました
子供がいる未来があるんだからやることやってんだよおらぁ! という気持ちで
415 : ◆cKpnvJgP32 [sage saga]:2017/07/25(火) 21:10:54.17 ID:NsMtQntxo
重要なことを忘れてました


誕生日おめでとう、藍子!
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/07/26(水) 12:46:01.77 ID:qsa734Cdo
おつやで!!
417 : ◆zvY2y1UzWw [sage saga]:2017/07/26(水) 14:52:17.35 ID:GvFBfSYK0
おつでしてー
毎年愛が溢れてて微笑ましいですぜ…こういう幸せ家族になっていく過程をシェアワで見ると平和って大事だなぁと改めて思わされるのであった
プロダクションは何年もこういう感じが続くんだなぁという安心感もありますしな
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/08/28(月) 20:57:25.47 ID:UkWcVykl0
ほしゅん
419 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/09/18(月) 21:48:23.21 ID:fE4l7gbO0
おつかれさまですっ
凄い藍子ちゃん愛が伝わってきますなぁー
(藍子ちゃん絡みで、ちょっと大変なことを考えてたりしていたなんて言えない・・・)

さて、私のほうも投稿しますー
今回は憤怒の街の話ではなく、以前にやったわらしべイベントの続きになります
・・・・・・が、わらしべは終了しましたorz
どうも展開的にそんな感じにするよりも、ガンガンやろうぜな感じがいいかなって思ったのでw

時系列的には学園祭3日目になり、憤怒の街から出た後の話になります

前回のあらすじ(うろ覚え)
・手紙を届けたら梨をもらったよ!
・誰かと会ったよ!
420 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/09/18(月) 21:50:22.85 ID:fE4l7gbO0
私は公園で梨のかごを腕に抱えながら、ベンチで悩んでいましたっ。

………どうしましょう、これっ。

おじいさんからもらった梨はとてもおいしそうに見えます。

でも、私は梨の上手な剥き方なんてわかりません。

剥くための果物ナイフなら『アイテムボックス』の中にありますけど………。

はぁとさんと連絡は取れますけど、会うとなるとちょっと難しそうです。

いっそ下手でも剥いてしまおうかとも思いましたけど、中身の部分を多めに削ってしまわないかが不安ですっ。

と、そんなことを考えていると………

「あれっ?」

なんか変な視線を感じます。

「じーっ」

いつの間にか、目の前には女子高生ぐらいの女の人が立っていました。

「………あのっ、どうかしましたかっ?」

「じーっ」

女の人は相変わらず私を見続けて………いえっ、違いましたっ。

女の人は私が抱えている梨を見続けています。

「………?」

私がそのことに気付いたとたん、その女の人も気付いたようで………

「はっ!? ……あっ、違うの! 別にほしいってわけじゃなくて―――」

ぐぅ〜

どこからかお腹がすいたような音が聞こえてきました。

「………」

あ、目の前の女の人の顔が心なしか赤くなっています。

多分、この人のお腹の虫が鳴いたのでしょう。

「………あのっ、よければいかかでしょうかっ?」

「………いただきます!」
421 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/09/18(月) 21:51:29.98 ID:fE4l7gbO0
そんなわけで、私は道で出会った女の方と梨を食べてますっ

ちなみに私は剥き方わかりませんので、剥いてもらってますっ

あ、でもナイフとか皿とか爪楊枝は私が用意しましたよっ?

「こんな感じかな?」

「ありがとうございますっ!早速頂きましょうっ!!」

「うん! いただきます!」

私は爪楊枝で剥いた梨をぷすりと刺して、一口・・・・・・

「っ!おいしいっ!!」

食感はシャクシャクしてて、水々しくて甘い味が口の中いっぱいに広がっていますっ!

さっきのおじさんの梨は本当においしいですっ!

そして剥き方がうまいからか、実の部分をほとんど失っていません。

これは剥いてくれた、目の前の女の方に感謝しないとですねっ!

「剥いてくれてありがとうございますっ!」

「ううん、梨を持ってきてくれたのはそっちだから、むしろ私が感謝したいぐらいだよ!」

「じゃあ、この梨を作ってくれたおじさんに感謝しないとですねっ!」

「そうだね!」

そうして食べ終わった私達は、作ってくれたおじさんを思って、「ごちそうさまでした!」と言いましたっ!

「それにしても、剥き方上手でしたねっ」

「家でお菓子作りをする事もあるから、果物を剥いたりとかもよくやるよ」

「そうなんですかっ? 凄いですっ!」

「えへへっ。 今度会う機会があったら、一緒に食べたいなぁ。」

「私も食べたいですっ!」

「その時を楽しみにしてね。・・・ええっと?」

あっ、まだ名乗っていませんでしたっ
なので、はぁとさんから頂いた「この世界での名前」で、自己紹介をしますっ

「あっ、私、乙倉悠貴といいますっ!」

といっても、名前は呼び方を逆にしただけですし、自己紹介も名刺を渡すだけですがっ

そして、その名刺を見た女の方が不思議そうな顔をしていました。

「幸せの手紙屋さん・・・・・・?」

「はいっ! 皆さんのお手紙を届けてますっ!」

というわけで、私がやってることをかくかくじかじか・・・・・・
422 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/09/18(月) 21:52:11.31 ID:fE4l7gbO0

「まるまるうまうま・・・・・・
へぇ〜、何だかすごいね!
こんな風にお手紙を貰えたら、きっと素敵だろうなぁ〜
じゃあ、もしかして今も?」

「いえっ、今日はもう配達終わったので、これから祭の屋台でも見て回ろうかなって思ってますっ!」

「あ、それなら一緒に回ろうよ! 私も屋台見て回ってるんだ!」

「いいんですかっ? ありがとうございますっ!」

「私、三村かな子! よろしくね、悠貴ちゃん!」

「はいっ!」

「あ、そうだ! 私の友達も連れてきていいかな?」

「いいですよっ!」

そんなわけで、私はかな子さん達と一緒に学園祭を見て回ることにしましたっ
これからどんな出会いが待っているんでしょうっ? 楽しみですっ!

・・・・・・あと、仲間も増やさないとですねっ

_______________________________________

一緒に見て回る人達の素性など、ユウキは知らない。

彼女達が、カースドヒューマンだということも。

そして、彼女達が恐ろしいカースを生み出していることも。



―――だが、彼女達もまた、知らないのだ。

この先の未来で、悠貴が自分達を巻き込んで、大変なことをしようとしていることなど。
423 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2017/09/18(月) 21:57:57.43 ID:fE4l7gbO0
……短いですけど、今回はこれで。
学園祭のイベントには参加させたいなーって思ってはいたので、先走って書いてみました。

憤怒の街の後日談編はまだまだかかりそうです。
ちなみに構想内だと、あそこからかなり登場人物が増える予定です・・・・・・
そんでもって、どうやって戦闘描写を書こうか・・・それが難題だっ!
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/19(火) 17:01:00.83 ID:QwiXSz0ro
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/20(水) 16:57:58.55 ID:AAzpTkezo
おつ
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/09/22(金) 23:35:13.30 ID:VROOknM30
おつでしてー
ユウキちゃんカースドヒューマンとかカースとか、割りと遭遇率高い気がしますぞ〜
そして何をする気なのか…楽しみです
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/10/12(木) 20:21:42.16 ID:BQD8I6Y00
おつ
428 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:10:33.69 ID:L6tcVsPXO
ドーモ
今年は辛うじて年内に間に合いました(そもそも去年は結局断念したと思う)
あまり長くないのでなんか大掃除とかの合間に読める!やったぜ!
429 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:11:52.38 ID:L6tcVsPXO
【ファイン・アンド・ロング、スパイダーズ・スレッド・オア・ソバ】
430 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:15:07.55 ID:L6tcVsPXO
 ネオトーキョーの冬は寒い。
 ほんの数年前、彼がまだ現役アイドルヒーローだった頃、この新興経済特区は今以上に環境への配慮が足りず、地球温暖化に多大な貢献をしてきた。
 あるいは企業も夢や希望、野心にあふれ、人々の熱気がネオトーキョーそのものを過熱させてさえいた。では、今は?
 ネオトーキョーの経済成長は当時より緩やかだ。そして良識ある企業は寒い冬を取り戻すべく、一部の暗黒メガコーポによる環境破壊を上回るペースで環境再生を進める。
 ネオトーキョーの冬は寒い。
 漆黒ヒーロースーツの上にフォーマルなビジネス用ジャケットを着用し、さらに防寒防風コートを纏うエボニーコロモは、黒子ヒーローマスクで顔まで防寒である。
 それでも彼が寒さを振り払えずにいるのは、誰かの温もりをこそ求めているとでもいうのか。……バカな。黒衣Pは転がってきた空き缶を蹴り飛ばした。

「……どう言い訳すりゃいいんだよ……畜生」

 今日は緊急出動が重なり、エボニーコロモと二人のアイドルヒーローはそれぞれ単独で現場を担う“三面作戦”を実行した。彼の戦場はホテル・グランド・ゴウカ。
 毒ガス自殺テロを企むイカレ宗教団体に一時は占拠された、地上500メートルの最上階展望レストラン。黒衣Pの作戦行動は迅速であり、被害は出なかった……そのはずだ。
 にもかかわらず、レストランは今日から年末年始の休業を決めた。黒衣Pの半年前からの予約もキャンセルされた。彼の心には寒さだけが残った。
431 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:17:58.65 ID:L6tcVsPXO

(洋子がいたら、すぐ隣で、40度近い体温を分けてくれるだろうに)
(イツキがいたら、あの自販機まで走って熱いアマザケを買うだけの気力を分けてくれるだろうに)

 黒衣Pはスチームパンク戦士めいて黒子ヒーローマスクの隙間から白い空気を吐き出しながら、無意味な“もしも”の世界をニューロン内で描いては消す。
 アイドルヒーローを引退し、プロデューサーヒーローになり、はや二年目の冬。己がどれほど脆弱な存在となったか、彼は否応なく思い知らされていた。

「別に、あの頃は良かった……なんて話じゃねぇけどさ」

 誰に言うでもなく呟いた。この時期のエボニーレオは、借金苦から悪に堕ちるほか無かった哀れな貧困犯罪者達にとって、獅子ではなく鬼であったろう。
 強大な能力で追いかけ、決して逃がさず、鉄拳と共に年明けまでの留置場生活(つまりは必要最小限の衣食住)をプレゼントするのは、しかし彼なりの慈悲だった。
 男性アイドルヒーローそのものが落ち目だった時期、彼自身も楽な生活ではなかった。ひと仕事終えた後には、馴染みの屋台で安いソバを……

(ソバ……か)

 その記憶が甦ったのは何らかの啓示であったか。黒子ヒーローマスクがBEEP音を鳴らし、サブモニタウインドウに解析映像を映し出した。
 思い返せば、今日は昼飯を食べていない。事件解決のため戦い、その結果が……。プランBを早急に準備せねば。まずニューロンに栄養補給を。黒衣Pは足早に屋台へ向かう。
 軽トラック改造屋台は、ネオミドリ自然公園の片隅で「お」「そ」「ば」のノレンを掲げ、ひっそりと佇んでいた。

 ◇◇◇
432 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:20:53.31 ID:L6tcVsPXO
 ◇◇◇

 ネオトーキョーの冬は寒い。
 斉藤洋子の体温は氷点下にも負けず40度近くを保っているが、だからこそ彼女の顔は、手は、外気に触れる露出部分の全ては、温度差によってヒリヒリと痛痒いのだ。
 洋子は灼熱めいた白い吐息で両手を暖め、カサつく?をさすった。冬の乾燥空気は肌の大敵だ。夏の湿度が今だけは恋しい。
 寒風を防いでいたマフラーと手袋は、ついさっきの仕事で特に重大な損失だった。人間ソルベ製造ゴーレムは滅びてなお洋子に少なからずダメージを与えている。

(去年の今ごろは……)

 ふと思いを巡らせる。去年も似たようなものだった。仕事納めというのは言葉だけで、ネオトーキョーに犯罪のない日など訪れないのだ。
 昨秋、ヒーローで食っていく目処が立ったと伝えると、両親は喜んだ。帰省してもヒーロー引退の話にならないと確信するに至った洋子も、ひと安心したものだった。
433 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:23:10.27 ID:L6tcVsPXO
 里帰りできずとも、不満があったわけではない。アイドルヒーローの仲間が誕生日を祝ってくれもしたし、二人きりのパーティーも……

「……こっ! 今年は! 帰ろっかな!」

 誰に言ったわけでもなく、何らかの能力者に心の中を覗かれる感覚もなかったが、洋子の顔は赤い。黒衣Pの姿が見えないことは幸運であったろう。

(そういえばプロデューサーの方は、もう片付いたかな……イツキちゃんは……)

 黒衣Pの言うには、今夜はホテル・グランド・ゴウカでディナーらしい。三人でささやかなバースデーパーティー。主役は洋子と、偶然にも誕生日の同じイツキ。

(ドレスコードとかあるのかなぁ……なんかグレード高い? みたいな感じっぽいし、あんまりいっぱい食べる雰囲気でもなかったり……?)

 考え出せば落ち着かず、心配にもなってくる。がっついて恥をさらさぬよう、何か軽く腹に入れておくべきか? ……まさにその時、視界の端に屋台。
 腹おさえには重いか。否、相応に働きカロリー消費したのでプラスマイナスゼロだ。そういうことにした。

(ソバ……かぁ)

 軽トラック改造屋台は、ネオミドリ自然公園の片隅で「お」「そ」「ば」のノレンを掲げ、ひっそりと佇んでいた。
 簡易ベンチには客らしき姿がひとつ。おそらくハズレ屋台ではない。ほう、と息を吐くと、洋子は二車線の車道を跳び越え、屋台へと向かった。

 ◇◇◇
434 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:26:09.08 ID:L6tcVsPXO
 ◇◇◇

 ネオトーキョーの冬は寒い。
 イツキの生まれ育った獣人界は夏暑く冬寒い、全ての生命に死力を尽くさせる強き大地だったが、ここネオトーキョーも負けず劣らずだ。
 黒衣Pの言うには、特に今年は四年ぶりのデミ氷河期らしい。だからだろうか。彼女の前方5メートルを疾駆するシベリアンハスキー種イヌ獣人は、いやに楽しそうだった。
 ……それだけなら良かった。かの獣人は、ユタカライフ化研のエージェントだ。仕事を片付けたイツキと偶発的遭遇した三人組。
 イヌ獣人の「遊んでやる」との挑発通り、まんまと他の二人の逃走を許してしまった形だ。もっとも、イツキは状況を悲観視しない。
 どのみちこのエージェントを仕留め、インタビューすれば、全てわかる。彼女にはそれを出来るだけの力がある。ディナーまでに残された時間も。

「……?」

 思いがけず、イツキは足を止めた。疾走する二人の獣人が呼んだ風に、獣人界の匂いが混ざり込んでいたのだ。
 イツキのように獣人界からこちらに来ている者は多くない。現に彼女が追うイヌ獣人も、人間界カラフト出身者に多く見られる特徴を有している。
 ならば何故、不意に懐かしい匂いを感じたのか? イツキは考えようとして、我に返った。この僅かな間に、イヌ獣人は逃げおおせて……

「どうした、もう息切れかい? これだからサルのやつは」

 10メートルと離れていない、隣接ビル屋上貯水タンクの上。イヌ獣人はイツキを見下ろして嗤った。
 特に速力に優れるイヌ獣人の脚で逃げるには充分過ぎる隙だった。それをせず敢えて追跡者を待つ、「遊んでやる」ことの意味は? イツキは素早く状況判断した。

「ふーん……じゃあ、飽きちゃったんで、帰りますね☆ キィヤーッ!」

 イツキが跳躍したのは、イヌ獣人でなく懐かしき獣人界の匂いがする方向だ。背後から「ヤッベ」と焦りの声が聞こえた。どうやら正解らしい。
435 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:29:17.40 ID:L6tcVsPXO
 今や追う者と追われる者は逆転していた。いくつものビルを跳び渡り、獣人界の匂いはますます強く濃くなっていく。
 やがて視界が開け、眼下には公園。その片隅で「お」「そ」「ば」のノレンを掲げ、ひっそりと佇む屋台こそ、匂いの最も強まる地点であった。

「えっ……? 屋台……?」

 それはイツキにとって想定外のものだった。
 そして、さらなる想定外……ノレンをくぐり今まさに出てきた客は、彼女の同僚たる斉藤洋子、そして担当プロデューサーヒーロー・エボニーコロモであったのだ。
 直後、軽トラック改造屋台はエンジンを噴かして急発進。離れゆく屋台を背にしたヒーロー二人の視線方向には、また別の人影が二つ。

「ユタカライフのエージェント……!」

「ご明察! イヤーッ!」

「……! しまっ」

 頭上から声。反応が遅れた。シベリアンハスキー種イヌ獣人はイツキの両肩に着地、そのままたっぷりと力を込めて再度跳躍し、屋台を追う。

「サルのやつらは無駄に頭が回りやがるが、戦場で考え込むのはアホだゼ! アバヨ!」

「くッ……このっ!」

 イツキは脱臼しかかった両肩を筋力とキアイで繋ぎ直し、イヌ獣人を追う。その遥か下方でも、ヒーローと暗黒エージェントが一触即発の状況にあった。

 ◇◇◇
436 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:32:06.40 ID:L6tcVsPXO
undefined
437 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:33:41.54 ID:L6tcVsPXO

 絶叫したのはエージェントの方だった。洋子の瞳の光が消えると、恐るべきニューロン破壊能力者マインドトレーサーは仰向けに倒れ、口から白い煙を吐いた。

「プロデューサー、頭大丈夫?」

「割とな。割と効いた。これで二対一か……バーニングダンサー、さっきの屋台、追跡しろ」

「えっ……プロデューサー、ホントに頭」

「大丈夫だ。そもそもサイバネ野郎には俺の方が有利だろうが。俺がやる」

 エボニーコロモのニューロンはおそらく正常だ。洋子は一度頷くと身を翻し、屋台を追ってサンギョウ・ドウロに走り出た。
 黒のヒーローは防寒防風コートとビジネス用ジャケットを脱ぎ捨てた。握りしめたヒーロースーツの両拳が、バチバチと青白く放電した。
 二人の戦士は同時に地面を蹴り、拳を繰り出した!

「トゥオーッ!」「グワーッ!」「トゥオーッ!」「グワーッ!」「トゥオーッ!」……

 ◇◇◇
438 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:36:34.66 ID:L6tcVsPXO
undefined
439 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:38:37.03 ID:L6tcVsPXO
 ◇◇◇

「プロデューサー、頭大丈夫?」

「……言葉足りてねぇぞ。大丈夫だ、おかげさまでな」

「あの屋台、絶対クロだけど……足止めしなくて良かったの?」

「発信器は仕込んである。そうでなくても、まだ見えてるんだろ? コイツら叩きのめしてからで間に合う」

 洋子と黒衣Pは逃げ去る屋台を背に、ユタカライフ戦闘エージェントと対峙する。二人が纏う静かな怒りは、年に一度あるかないかの重大案件対応時に匹敵していた。

「何故邪魔をする? 貴様らも我々も被害者同士。協力して犯罪者を捕らえることが、社会の安定に繋がる」

 エージェントの一人、重サイバネ戦士ファイブセンシズは、ヒーロー達の行動を理解できなかった。
 ユタカライフ化研の試作薬物“HSH03”が何者かにケミカル調味料とすり替えられ、強奪された事件から一週間。彼らは犯人を見つけ、確保まであと一歩に迫っていたのだ。
 使用者の記憶中枢に作用し、家庭の記憶を呼び起こす。最新のVRデバイスと組み合わせることで、カイシャにいながら自宅で過ごす穏やかな時間を再現する。
 HSH03は働き方改革と成長戦略との板挟みで苦しむメガコーポ各社にとって、さながら蜘蛛の糸のごとき救いとなるはずだった。
 この一件で最大の原因、試作品の社外持ち出しという致命的非常識ミスを犯した開発主任をはじめ、既に幹部クラス複数名が長い出張に旅立った。
 メンツを保たねばならぬ。何としても強奪犯を捕らえ、然るべき報いを受けさせる。彼ら戦闘エージェントが投入されるとは、そういうことだ。

「社会の安定……笑える、それなら警察に被害届の一つも出してみればいい。どうせ表に出せないヤバイネタなんだろうが」

 エボニーコロモの声音は、無表情な黒子ヒーローマスク越しでありながら尚その眼光と同じく鋭い。
440 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:40:09.10 ID:L6tcVsPXO
 彼はエージェント達の目的を分かってはいない。だが、身を以て味わった何らかの薬物ヌードルこそ眼前敵と深く関わる物と推測できれば、協力する選択肢などあり得ぬ。

「ファイブセンシズ、交渉は無意味だ。排除する方が早い……イヤーッ!」

 ファイブセンシズを押しのけて進み出た小柄な男が、双眸を紫色に光らせた。エボニーコロモの鼻と目から血が流れ、黒子ヒーローマスクから溢れてポタポタと落ちた。

「アバーッ!?」

 絶叫したのはエージェントの方だった。洋子の瞳の光が消えると、恐るべきニューロン破壊能力者マインドトレーサーは仰向けに倒れ、口から白い煙を吐いた。

「プロデューサー、頭大丈夫?」

「割とな。割と効いた。これで二対一か……バーニングダンサー、さっきの屋台、追跡しろ」

「えっ……プロデューサー、ホントに頭」

「大丈夫だ。そもそもサイバネ野郎には俺の方が有利だろうが。俺がやる」

 エボニーコロモのニューロンはおそらく正常だ。洋子は一度頷くと身を翻し、屋台を追ってサンギョウ・ドウロに走り出た。
 黒のヒーローは防寒防風コートとビジネス用ジャケットを脱ぎ捨てた。握りしめたヒーロースーツの両拳が、バチバチと青白く放電した。
 二人の戦士は同時に地面を蹴り、拳を繰り出した!

「トゥオーッ!」「グワーッ!」「トゥオーッ!」「グワーッ!」「トゥオーッ!」……

 ◇◇◇
441 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:43:24.29 ID:L6tcVsPXO
>>436 >>437 >>438 については、>>439 >>440 が正しいものとなります
引き続き、当プログラムをお楽しみください
442 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:46:19.50 ID:L6tcVsPXO
 ◇◇◇

「ハアーッ……ハアーッ……何でヨ……オレはこんな、ところ、で……」

 重サイバネの男が投げたダガーはチンサンの左腕を掠めただけのはずだった。だが今、軽トラック改造屋台を運転する彼の身体は酷く痺れ、ほとんど動かなかった。
 辛うじてハンドルを切る。屋台はサンギョウ・ドウロを外れ裏道へ。50メートルほど走りゴミ捨て場に突入、煙を噴いて停止した。

「ア……アイヤー……」

 チンサンは運転席ドアから転がり落ち、僅かに残った力で這い進む。止まれば死ぬ。追っ手は無慈悲で、そして己も、きっとそれだけのことをしでかしたのだ。
 既に夢破れていた彼は、故郷へ帰るための……せめて故郷の貧しい農村で多少とも豊かに暮らせるだけのカネを集めようとした。
 一週間前の夜、その日最後に彼のラーメン屋台を訪れた客は、それまでのどの客よりも上質なスーツをクタクタに着古した男だった。
 男はフトコロから奇妙な粉の入った小瓶を取り出し、チンサンのラーメンにかけた。お世辞にも美味いと言われたことのない彼のラーメンを、男は涙を流して喜び食った。

(あのコナは何だ? オレのラーメンをこうも人を泣かすほどにできるなら、カネになるのでは?)

 チンサンの良心はとうに摩りきれていた。彼は男にサケを勧め、眠らせ、粉末小瓶とケミカル調味料をすり替えることに成功した。
 罪の自覚はあった。足が付くまでの時間を延ばすため、ラーメン屋からソバ屋に転向した。それまでの縄張りを捨て、多少とも見知った仲の客も捨てた。
 彼のソバは飛ぶように売れた。予想外に噂が広がり、彼は逃げるように縄張りを転々とした。何処に行っても誰かにずっと見られているような気がした。
443 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:48:25.18 ID:L6tcVsPXO
 カネは充分集まり、粉末も今朝の仕込みで使いきった。明日の朝には彼は密航ブローカーのボロ船で、大陸への帰途についているはずだった。

「バカにしてるんですか」

 その女は、チンサンのソバ……否、今やコストカットのため安価な合成ソーメンに湯をかけたものだ……を食べてむせび泣く黒ずくめの男とチンサンを交互に見て言った。
 女の朱色に燃える瞳は彼の心の奥まで照らし、罪を暴かんとしているように思われた。

「私……それからプロデューサーも、ソバを食べに来たはずなんですけど……バカに、してるんですか」

 女は何度か深呼吸を挟み、冷静さを保とうとしているようだった。普段から怒りを抱くことに慣れていないタイプか。こういう手合いは一線を越えさせてはならない。
 チンサンの背中は嫌な汗で濡れていた。怯えながら、彼は訝しんだ。
 粉末が溶けた湯から上がる湯気を吸い込んだだけで郷愁めいたノスタルジーを呼び起こす力が、何故この女には通用しない?
 良心の最後の一欠片が、今すぐドゲザし全て吐けと迫る。(まだだ! 何とかして逃げ道を……)チンサンは抗い続ける。そして……

「グワーッ!」

 左腕に鋭い痛みを感じ、チンサンは地面に転がった。屋台の柱に刺さったダガー。それだけではない。数十メートルの彼方、二つの人影が、彼に冷たい眼光を向けていた。
 二人の客の反応は速かった。咄嗟に立ち上がり、ノレンをくぐって人影と対峙する。チンサンはノーマーク。(今だ!)彼は運転席に転がり込み、屋台を急発進させた。
444 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:50:15.87 ID:L6tcVsPXO
 ……だが、結局このザマだ。彼は死ぬ。それは遠い未来ではなく、遅くとも数分後だろう。早ければ……まさに今だ。

「見つけたァ! イィヤーッ!」

 遠吠えめいたシャウトがチンサンの頭上から襲いかかる。バサバサと羽音。彼の死を待っていたカラス達が慌てて飛び去ったのだ。
 何もできることはない。動かなければ楽に死ねるか? 否。無慈悲なエージェントは彼を無理矢理生かし、存分にインタビューするだろう。身体から力が失われていく……

「キィヤーッ!」

「グワーッ!」

 別のシャウトと、続いて悲鳴が聞こえた。何が? 考えるより速く何者かがチンサンの首根っこを掴み、手近な割れ窓から廃アパートに放り込んだ。

 ◇◇◇
445 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:52:35.92 ID:L6tcVsPXO
 ◇◇◇

 イツキはコンクリート壁を……そこに半ばめり込んだシベリアンハスキー種イヌ獣人を見据えた。これで終わる程度では暗黒メガコーポのエージェントは務まるまい。
 案の定、イヌ獣人は自力で身を剥がし、地に降り立った。

「サルのやつがよ、なかなかやってくれやがる」

 イヌ獣人は口の端の血を舐め、挑発めいて手招きした。身体ダメージ未だ軽微、戦意も衰え無し。戦闘継続可能。
 イツキは静かに呼吸を整え、全身に力を込める。筋肉が盛り上がり、茹だったオニめいて赤く染まる。体毛がフサフサと伸び、肉体の色を受けて緋色に輝く。

「リオンレーヌです。とりあえず私が勝つまで、ただのサル獣人と見くびっていて下さいね☆」

 リオンレーヌは毛皮の首巻きで隠した口元に狩猟者の笑みを浮かべ、その場で姿を消した。否、消えたのではない。テレポーテーションと見紛う高速移動である!
446 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:54:14.33 ID:L6tcVsPXO
 イヌ獣人は備えようとした。ゴッ、と鈍い音の直後、彼の視界が酷く揺れた。背後からの踵落とし。脳天にクリーンヒットしたか。

「クソが! テメエは……」

「キィヤーッ!」

「グワーッ!」

 イヌ獣人の視点が一瞬で数十センチ落ちた。ヒザを破壊され、立っていることもままならなくなったのだ。リオンレーヌには適度な高さ!

「キィヤーッ!」

「グワーッ! ……ア……アバッ」

 眉間に叩き込んだ掌打がトドメとなり、イヌ獣人は倒れて痙攣した。リオンレーヌは残心と獣化を解き、拘束作業に取りかかる。

「……あっ! さっきの人!」

 ウカツ。己の戦いに巻き込まぬよう避難させたつもりが完全に見失った。企業エージェントに追われるというのは余程のことだ。何か大きな事件の関係者かも知れぬのだ。

「……どうしよう」

 イツキは途方に暮れた。その足下で、スマキにされたイヌ獣人は痙攣し続けていた。

 ◇◇◇
447 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 10:57:43.25 ID:L6tcVsPXO
 ◇◇◇

「ハアーッ……ハアーッ……ッ! ……ハアーッ……」

 チンサンは再び這って進むだけの力を取り戻していた。ダガーの毒が足りなかったか、全身の痺れもいくらか和らぎつつあった。
 捨てる神あれば何とやら、だ。彼はサルめいたシャウトの何者かに感謝しつつ、廃アパートの一室、カビ臭いフローリングの上を進む。
 ……コツン。指先が何かに触れた。それは金属の物体……麺を茹でる鍋だ。

(ナンデ……屋台と一緒にゴミ捨て場でスクラップのはずヨ……)

 チンサンの悪事にただ寄り添い、意のまま麺を茹で続けた鍋。ラーメンを、ソバを茹でる栄光を奪われ、ケミカル合成ソーメンを茹でるという冒涜にも従い続けた鍋。
 チンサンは静かに失禁した。鍋から伸びた朱色の細腕が、彼を冷たい暗闇に引きずり込まんとする。鍋が倒れ、その中身と目が合った。

「アッ……アイヤー!? アアーッ!? ……アアアアーッ!」

 ……夕日が差し込む廃アパートの一室、焼け落ちた玄関ドアの枠を背に立つ洋子は携帯端末で作戦完了を報告し、警官隊と黒衣Pの到着を待つ。
 最後まで逃げ続けようとした男を見下ろす険しい表情は、割れ窓から覗くイツキに気付くと、勝手にほころんでいた。
448 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 11:00:42.30 ID:L6tcVsPXO
 〜エピローグ〜

 ネオトーキョーの冬は寒い。
 サンギョウ・ドウロからやや外れた裏道、早朝のゴミ捨て場に、チンサンは立ち尽くしていた。
 軽トラック改造屋台はこれまでの稼ぎもろとも、証拠物件として押収された。彼の手元には何も残ってはいない。……本当に?
 そもそも彼が冷たい部屋を出て自由に行動できていること自体、本来あり得ぬことなのだ。逮捕が報道された当日、彼は釈放された。
 とあるカネモチが保釈金を支払い、さらには警察幹部を買収して事件を揉み消させたのだと、誰かが話すのを聞いた。
 チンサンを出迎えたのは、こざっぱりとした身なりの少年だった。少年は彼に指二本分ほどの分厚い封筒を差し出し、やや離れた所に停まる一台の高級車を指し示した。
 車外に出て頭を下げる老婦人の顔を、チンサンは思い出した。何年か前、不味いラーメンでも真面目に作っていた頃、タダでラーメンを食わせた路上生活者。

『あの日のラーメンこそ、私にとってのブッダの救いでした』

 札束とともに封筒の中に入っていた手紙には、そう記されていた。チンサンも深々とオジギし、老婦人の車が去るのを見送った。
449 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 11:02:49.82 ID:L6tcVsPXO
 札束は必要なだけの金額を残し、薬物中毒者更正施設に寄付した。彼の手元に形あるモノは残っていない。

(オレは救われたのだ……過去のオレの善意と、現在の名も知らぬ善意に。善意の糸がより合わされ、より強い糸になり、オレを地獄から救い上げたのだ……)

 チンサンはゴミの中に半ば朽ちかかった荷車を見つけ、丁寧に引っぱり出した。そして、よく見知った鍋を。

「オレ、やり直すヨ……今度こそちゃんとやるから、もう一回、力を……」

 ネオトーキョーの冬は寒い。
 だが溢れる涙が、胸の内に燃える炎が、今のチンサンには暖かかった。

 ◇◇◇
450 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 11:05:53.04 ID:L6tcVsPXO
 ◇◇◇

 ネオトーキョーでは珍しくない月も星も見えぬ夜、エボニーコロモ達の事務所を照らすのは、中心街からかすかに届く搾りカスめいたネオン光だけだ。
 コタツを隅に追いやったスペースに敷いたフトンの中、天井をぼんやりと見上げながら、黒衣Pは安堵の息をついた。
 ディナーは洋子とイツキの協議の結果、ヤキニクになった。気取ることも気負うこともなく、存分にカロリーを摂った。
 彼の城たる仮眠室は、ほんの十分ほど前まで声と熱に溢れていた。今は寝息が二つ。金属フレーム簡易ベッドと、天井近くのハンモック。

(“まとまった休み”か……俺も久しぶりに帰省なんて……何年ぶりだ……親父の葬式以来だから……)

 ホンゴエ・タコシ代表は洋子とイツキに甘い。
 「年末年始の緊急出動日数分、一月のどこかでまとまった休みをとれるようにする」二人が取り付けた約束だ。黒衣Pについては、代表は最後まで渋っていたが折れた。
 休みがないのはヒーローとして必要とされている証拠だ。アイドルヒーロー二人を抱えることで実力を認められているなら、それは喜ぶべきだろう。……とはいえ。

(何を浮かれてやがる……洋子とイツキだから、俺も命拾いできて……)

 思考が散漫になりつつある。眠気が。ニューロンを半分焼かれた状態で殴り合うのは馬鹿だった。二度としない。携帯端末に手を伸ばす。23時58分。
 ……終わっちまう。来年の今日は、もっと上手く……瞼が上がらない。意識は浮遊感とともに眠りの闇に溶けてゆく。
 12月30日、午前0時。
 ネオトーキョーの冬は寒い。
451 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 11:07:24.04 ID:L6tcVsPXO
(【ファイン・アンド・ロング、スパイダーズ・スレッド・オア・ソバ】終わり)
452 : ◆GPqSPFyVMNeP [sage saga]:2017/12/31(日) 11:10:19.46 ID:L6tcVsPXO
いじょうです
なんか今年は洋いつバースデー盛り上がりが例年以上っぽい雰囲気だった
相変わらず一市民が目立つうえに途中で不ぐあいとかあったが、お付き合いいただきありがとうございました
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2017/12/31(日) 16:55:34.03 ID:8+ViXghwo
おつおつー
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/01/03(水) 22:37:32.44 ID:P49gCpg/0
おつでして〜
455 : ◆6J9WcYpFe2 :2018/03/21(水) 13:36:18.56 ID:oZ5EiIs10
あけましておめでとうございます(白目)
憤怒の街リターンズの続き、投下しますー
456 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 13:38:38.23 ID:oZ5EiIs10
(しまった、sage忘れてた・・・・・・ごめんなさいっ)
--------------------------------------------------------------

ユウキ達が憤怒の街の森に入って少しした後。
憤怒の街の検問所にて―――

「どういうことだ!? 既に入って行ったGDF隊員がいるだと!?」

検問所の前に止まる輸送ヘリ。そして怒号。

輸送機に乗っていたGDF隊員が、検問所のGDF隊員に対して怒鳴りつけているのだ。

「だ、だから我々は、応援が来るとしか聞かされていなくて・・・・・・っ!」

「だからと言って、こんな危険なところに確認もせずに入れる馬鹿がいるか!!
 無認可の奴を入れたんだぞ、お前らは!!」

「基地司令にも確認取って間違いないって聞いたから入れたんです!!」

「………くそっ!!」

先に入って行ったGDF隊員がいるという事実。

何故入れてしまったのか、あるいは何故入れてしまったのか。何故、入ろうと思ったのか。

いずれにしても、我々と勘違いして入れてしまったGDFの隊員がいる。

その事実があって、なおこの対応。

彼は苛立ち、検問所の壁を思いっきり蹴る。
壁はガンッ!と音をたて、その周りにいた兵士たちが委縮した。

「―――それで、許可は?」

「い、いえっ!それがっ! うまく通信がつながらず――――」

「ふざけるなっ!!」

基地司令と連絡が取れないという事実が、さらにその男の苛立たせた。

これはこいつらの職務怠慢だ。

こいつらの怠慢で、GDFの仲間の命が危ぶまれている。

「このことは上にしっかりと報告するからな!
 あと、憤怒の街には入らせていただく!!」

そういって男は、検問所の兵士の静止の声も聞かず、ヘリに乗り込んだ。
457 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 13:40:20.99 ID:oZ5EiIs10
「あの、何かあったんですか?」

コクピットのスピーカーから女性の声が聞こえる。

「緊急事態だ! お前達に成りすまして、勝手に入った奴らがいる!」

「「「ええっ!?」」」

「何のために入ったかは知らんが、そいつらを捕まえるためにも、現場に急がねばならん!
 シンデレラ1、第1種戦闘配置だ!
 憤怒の街のカースのデータは届いているな?」

「はい! ばっちりです!」

そうして慌ただしく離陸したヘリが憤怒の街の中へと入っていく。

「俺がヘリで空から目標を発見する。
 シンデレラ1-1から1-3は発見し次第、地上機動戦装備で降下、目標を捕まえろ。
 コラプテットビークルが厄介だが、お前達ならやれないことはないはずだ。安全を確保しつつ返り討ちにしてやれ。」

「「「了解!!」」」

「その後、目標を確保。安全を確保したうえで、このヘリに乗せる。
 抵抗するようであれば、多少懲らしめても構わん!!」

「えっ、同じGDF隊員なのに、ですか?」

「GDF隊員に成りすましている可能性もあるからな。
 最悪、この混乱に乗じて乗り込んできたテロリストかもしれん。」

だがまぁ、とその男は続ける。

「どんな相手でも、お前らなら大丈夫だ。 軽く懲らしめて―――
 ん? 通信が入った。」

男はヘリの通信機を手に取り、応答する。

「こちらシンデレラ1。」

『先ほどはすまなかった。 私はここの基地司令だ。
 このあたりはカースの被害がひどくてね。 通信するのも一苦労だ。』

そうか、カースの被害か。
そういえば、GDFの新兵器がこの街に投入された際、まったく使い物にならなかったという話を聞いたことがある。
ならば……この件での八つ当たりは見当違いだったかもしれない。
458 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 13:41:36.95 ID:oZ5EiIs10
「なるほど。 そのあたりは考慮不足だった。
 だが、部外者を危険な憤怒の街に入れたお前らの怠慢はどう説明する?」

『そのことについても謝罪する。演技がうますぎて、あの時点では気付かなかった。
 だが……今しがた調べたら大変な事実が分かった。
 単刀直入に言うと、貴君らに扮して入った奴らの正体は、この騒ぎに乗じて潜伏していたテロリストであるとわかった。
 しかも厄介なことに能力持ちの連中だ。
 恐らくは最近世間を騒がしているイルミナティっていう奴らかもしれん。』

「・・・・・・なんだと?」

「そうでなくても、この街はGDFの管轄だ。
 そこにテロリストなんかが潜伏してみろ。
 GDFの信用問題に関わる。」

「・・・・・・つまり俺達はそいつらを捕まえてくればいいんだな?」

『その通りだが、生死は問わん。
 テロリストと見抜けなかった失態は詫びよう。
 だが今は、そのテロリストの排除が先である。』

「・・・・・・なるほど、その通りだ。
 だが、その入っていった奴らがテロリストである確証はどこから来ているんだ?
 そもそも奴らは何者だ?」

『それを伝えることはできない』

「・・・・・・何故だ?」

『機密情報だからだ。
 お前達は黙って命令どおりに侵入者を排除すればいい。』

『ああ、それと』と、基地司令が話を続ける。

『今から送るデータを見てもらいたいのだが、この赤く塗られている場所には近づかないでいただきたい。』

そう言われ、男はヘリのコンソールに送られてきた地図データを見た。
赤く塗られた場所は、病院を円の中心としていた。
459 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 13:42:33.28 ID:oZ5EiIs10
「それは、何故だ?」

『それも機密情報だ。教えられない。』

「何か俺達に教えられる情報はないのか? このままでは納得しかねる。」

『後でテロリストが乗っていた車両のデータを送ってやる。
 それをもとにテロリストを捜索しろ。』

「他にはないのか?」

『いいからつべこべ言わずにやれ!!
 それともお前はテロリストを野放しにするつもりか!?』

「・・・・・・了解した。シンデレラ1、出撃する。」

『今から画像のデータを送る。では、ご武運を。』

基地司令との通信が切れる。

機内音声で聞いていたため、後ろで準備している響子と美羽、そして柑奈も聞いていた。

「パイロットさん、先に入った人たちって」

「悪い人たちなら、やっつけないと!」

「パイロットさん、今すぐ私達を現場に!」

通信を聞いた響子と美羽は意気揚々としていたが、男の表情はそのことを怪しむかのような表情をしていた。
460 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 13:43:38.77 ID:oZ5EiIs10
「胡散臭いな………」

「? 何がですか?」

「今通信をかけてきた基地司令とやらは信用ならん」

「えっ・・・?」

「あいつは機密情報を盾に奴らの情報を渡さなかった。
 だが、あんな臨時の基地司令程度のやつが知っているような機密情報とは何だ?」

それでも釈然としない顔の3人。
それを見た男は少し咳ばらいをした。

「これでも俺はGDFの暗部ってやつを見てきている。
 お前達の正体はわからんが、どうせ碌でもないもんだというのはわかる。
 それも相当な・・・・・・子供を兵器みたいに扱うようなひどいもんなんじゃないかとも思っている
 その経験則から言わせていただくと・・・・・・今回のは嘘なんじゃないかと思っている。」

「・・・・・・あの基地司令が嘘を言っていると言うんですか?」

「ああ。第一、目標が本当に基地司令とやらが言っていたテロリストかどうかもわからんのに、
 テロリストだと断定して、排除しろだの言っている時点でおかしい。
 大方ばれちゃまずいものがこの街にあるとみて間違いはない。」

「じゃあ、あの基地司令の方を懲らしめる?」

「いや、それは早計だ。ただの経験則だしな。
 何をするにもまずは目標の確保だ。シンデレラ1、いつでも出撃できるように待機しておけ。」

「「「了解!!」」」

そうしてヘリは離陸し、憤怒の街へと入った。
461 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 13:45:57.68 ID:oZ5EiIs10
--------------------------------------------------------

「ハァイ。 イギリスのGDFからやってきたケイトヨ。」

そう愛想よく挨拶しているケイトさん……ですが、

「………お姉ちゃん、あの人こわい」

見た目GDFの女性隊員の方が、ガタイの良い大男のようなのを殴り飛ばした挙句、
その男?を足蹴にしている光景は、まさしくチカちゃんの言う通り、怖い人でした。

「ターイムっ!☆作戦ターイムっ☆」

私、ああいう人、知ってますっ。

「チカちゃん、ああいう人とは関わり合いにならない方がいいですよっ
 上空からお姫様抱っこされて落ちてくるとか、非常識にもほどがありますっ」

「そうなの、ユウキお姉ちゃん?」

「しかも抱っこしてた男を殴り飛ばした挙句にマウントパンチだしね。
 なんなのあの馬鹿力。 ちょっと解析してみたい。」

「ちゃんと丁寧に降ろしてやってたのに殴り飛ばして足蹴にするとか、恩を仇で返してるようなもんだしな☆
 おい、てめー! 恩を仇で返すようなことしちゃいけないって、ばあちゃんが言ってたぞ☆」

「あっ! そういえばほんとだ! ひどーい!!」

「うるさいわネっ! 部下に嵌められてこうなったのヨ!!」

「いったいどう嵌められたらそうなるんですかっ!?」

「というか嵌められたって、人望もないんだな………」

「それは我が否定させていただこうか」

と、ケイトさんに足蹴にされていた男の人?が声をあげます。

「ケイトはな、部下にとてもとーっても信頼されておる!
 そして、我もケイトのことはそれなりに好いておる!
 だから我が、いつか行う時のためのドッキリサプライズ用にその部下と一緒に考え出したのだ!」

どうだぁっ!!と言わんばかりに、足蹴にされながらもドヤ顔してますっ
462 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 13:47:55.21 ID:oZ5EiIs10
「私、勘違いしてましたっ
 ………おかしいのはケイトさんじゃなくて、あの男の人?だったんですねっ」

「褒めるな。照れる」

「どこをどう聞けば褒めてるって言うんだよ、おい☆」

「というか、あんたは知ってるはずデショ、シュガーハート!?」

「あー・・・・・・最近人と出会うことが多くてな・・・・・・わかんねぇ☆」

「ワタシヨ、ケイトよ!!
 ほら、あの時一緒に戦った!!」

「あー、そういやそういうこともあったっけな? まあ、覚えてたけど☆」

「覚えているなら誤解を解いてヨ!!」

それはさておき・・・・・・

「まあ、空からお姫様抱っこしてきた事実とかは置いといて・・・・・・ <誤解ヨ!!>
 英国のGDFが、ここに何しに来たんだよ?」

はぁとさんがそういうと、ケイトさんの足元にいた黒い男の人が、
踏んでいた足をパシパシと叩いたからか、ケイトさんは足をどけました。

「何しに来た、だと?
 むしろ、これほど興味の湧く物ばかりのところに行くなというのが無理というものよ」

黒い姿をした男の人は立ち上がると、腕を組み、私達を見てこういいました。

「なるほど、面白い
 やはり日本には、相当な手練れが多くいるというのは間違っていないようだぞ、ケイト」

「当たり前デショ。
 ここは対カースの最前線ともいうべきところヨ。
 ・・・・・・最も、私達も引けを取らないでしょうケド。」

「うむ、お主等もなかなかのものだが、こいつらはそれだけじゃない。
 なぜかカースも混ざっているが、問題はそこではない。
 ―――お前ら、本当に人間か?」
463 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 13:50:22.62 ID:oZ5EiIs10
「・・・・・・明らかに怪しい人から、人間じゃないと言われてますよ、私達っ」

「いや、そこに俺を含めないでくれるか?」

「はぁとも違うぞ☆」

「私も人間だよ。」

「??? チカは魔法少女だよ?」

「・・・・・・そういう意味で言ったんじゃないと思うヨ?」

黒い男は顎に手をやって、私たちをじっと見つめてきていますっ

「ふむ・・・・・・どうやらケイトと同等の力を持ってるようだな、シュガーハートとやらは。」

「なっ・・・・・・!?」

「ええまあ、彼女は私と一緒に戦った戦友ヨ?
 ・・・・・・向こうはそんな風に思ってくれてなかったようダケド」

「年下だからいじってるんだよ☆
 だけどそいつ、なんでわかったんだ?」

「それは・・・・・・我も同じようなものだからだ!」

それを聞いたはぁとさんは黒い男の人?をまじまじと見つめてーーー

「・・・・・・えっ、やだ☆」

「いきなり拒絶から入るのは良くないぞ?」

「だって・・・・・・黒いし☆」

その言葉に、隣のケイトさんはうなづいていました。
464 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 13:51:41.45 ID:oZ5EiIs10
「仕方なかろう、カースドウェポンなんだから。」

「・・・・・・今さらっとやべえこと言わなかったか、おい☆」

はぁとさんがジト目でケイトさんのほうを見ると、ケイトさんは肩をすくめました。

「勝手に話さないでくれないカシラ?
 まあ、シュガーハート達に隠し事をしても仕方がケド」

「カースドウェポンって、カースの核を武器にくっつけたものだと思うんだけど・・・・・・」

「よく知って・・・・・・るわな、ひなたん星人にあったことあるんだしな」

「ほう、日本にもカースドウェポンがいるのか。会ってみたいものだな!」

「私も会ってみたいわネ。
 まあ、それはそれとして、そのとおり、こいつは鎧のカースヨ。」

「鎧のカースドウェポン・・・へぇ・・・」

あ、なんか目が輝いちゃってます。
なんだか新しいおもちゃを見つけた様な顔をしちゃってます。

それに気づいたのか、ケイトさんは凛さんを見て

「・・・あげないわヨ? 一応これはGDFの備品なんだからネ?」

「ちぇっ」

ですよねっ

しかし、あのカースドウェポン、ちょっと気になりますねっ
なんだか・・・私の本来の力に似た感じがしますっ
465 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 13:52:56.32 ID:oZ5EiIs10
「ところで、貴方達は何しにここにいるのカシラ?」

「あっ、はいっ! お手紙を届けにきましたっ!」

「・・・お手紙・・・レター・・・?
あ、ナルホド、暗号ネ!」

あ、あれっ?

「でもワタシには何の暗号なのかサッパリだわ。後ででも良いから教えてネ?」

「あ、あのっ!暗号じゃないですっ!」

「・・・・・・what's?」

「ですから、この憤怒の街のとある住宅に、お手紙を届けに来たんですっ」

「・・・・・・・・・」

ケイトさん、はぁとさんを手招きして、何やらコソコソ話しちゃいました
・・・・・・何があったんでしょう?

「・・・・・・いや、当然の反応だと思う」

「そうだな」

ああもうっ、どういうことなんですかっ!?

「???」

チカちゃんはよくわかんないって言うような顔をしてますねっ

私もわかんないですっ!

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466 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 13:54:23.23 ID:oZ5EiIs10
しばらくして。

「まあ、なぜこんなところに?っていう疑問はあるケド、アナタの目的、とてもいい目的じゃナイ!
 ワタシも協力するワネ」

「うむ、我も協力しよう。乗りかかった船というのもあるからな。」

といった感じで、英国GDFの2人を乗せて、車は目的地へと向かいましたっ

「ずいぶんにぎやかになったね」

「まあ、旅は多いほうが楽しいもんだぞ☆ 旅ってほど長時間動くわけじゃねぇけどな☆」

はぁとさんは助手席からこっちに移動し、代わりにケイトさんが助手席に座っています。

「しかしまあ、チカちゃんって本当に似てるよなぁ・・・・・・」

「確かに・・・・・・似てますよねっ」

「?? 何に似てるの?」

「ラブリーチカですっ はぁとさんが好きなアニメですっ」

「はぁとだけじゃなくて、あの頃の少女達のほとんどは好きだったと思うぞ☆
 それをモチーフとしたらしい魔法少女とかいう奴らも現れたし☆」

「そんなにすごい影響を与えたアニメだったんだ」

「まあ、ラブリーチカも十数年ぶりに限定フィギュアが出たし、魔法少女に関しても最近活動を再開したと聞くしな☆
 しかしまあ十数年か、はぁとも年をとっちゃ・・・・・・って、何言わせんだよこのこのー☆」

「いや、今のは自分から言っちゃってますよねっ?」

「ふーん、似てる、かぁ・・・・・・」

「似てるんじゃなくて、本物だよ!」

「そっかそっか〜☆ よしよーし☆」

「もーっ!!」

そんな感じで話していると、車が止まりました。

「ユウキちゃん、ついたぜ」

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467 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 13:56:23.88 ID:oZ5EiIs10
私たちが車から降りると、そこは憤怒の街の入り口のほうと同じような風景が広がっていました。

目的の建物は・・・・・・あ、まだ建ってましたっ

「ここが目的地?」

見た目は廃墟と化した一軒家。

窓ガラスは割れているし、荒らされている様子も見えます。

庭は人が誰もいないせいで、草が伸び放題です。

だけど、表札には「横山」という文字。

ここは依頼主さんから依頼されたところで間違いありません。

「・・・・・・・・・」

そして、その家を茫然と見つめるチカちゃん。

「ここ・・・チカのお家・・・・・・」

・・・・・・やっぱり、そうでしたかっ

普通であれば、ここで家族と一緒に暮らしていたはずです。

カースに襲われなければ、ただの仲睦ましい夫婦でいれたはずなんですからっ

あっ、でもフィギュア捨てられてかなり怒っていたといってましたし、どうなんでしょうかっ?

「チカちゃん、一緒に入りましょうっ」

「・・・・・・うん」

「待って」

その言葉に振り向くと、凛さんが真剣な表情でいました。
468 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 14:01:09.52 ID:oZ5EiIs10
「私も一緒に行っていいかな?」

たぶん、そういうと思いましたっ
凛さんはカースの研究をしているって言ってましたからね。
そのカースがここを自分の家と言った。
であれば、どういうことが起きるのか、見てみたいと思うはずです。

「私は構わないですけど・・・・・・チカちゃんはっ?」

・・・・・・まあ、私には止める理由はありませんっ

「いいよ」

「わかった、ありがとう」

「はぁとさんたちは留守番でお願いしますっ」

「ああ・・・・・・っと、ちょっとその前にっと」

はぁとさんはアイテムボックスから無線機を取り出し、私に投げてきました。

「何かあったら、これで連絡するんだぞ☆」

「ありがとうございますっ!」

「気をつけてネ」

「じゃあ、行きましょうかっ! おじゃましまーす!」

「お、おじゃましまーす」

「・・・・・・ただいま」

そうして3人で、家の中に入りました

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469 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 14:02:19.15 ID:oZ5EiIs10
私はユウキちゃん達が家の中に入るのを見届けた後、ケイト達に話しかけた。

「ところで、ケイト達がここに来たのって、あの森のせいか?」

「まあ、そうネ。一体あの森は何なのヨ?」

「正直わかんね☆
 でもまあ、心当たりがないわけじゃねえんだけどな☆」

「心当たり?」

そう、心当たりはある。
あるし、説明はできるんだが、えーっと・・・・・・

「あー、えー・・・・・・
 そこん所の説明任せた、ポストマン!」

めんどくさくなったので、ポストマンに投げちゃおっと☆

「おいおい、心当たりがあるって言っておいてそりゃねぇだろ。
 まあいい、俺から話そう
 憤怒の街の事件は知っているか?」

「大量のカースがこの街にあふれかえって、この通り壊滅した事件デショ?
 イギリスでも大きなニュースになったから覚えてるワ」

「イギリスだけじゃなくて全世界中で大注目になったってわけだがな。」

「で、アイドルヒーロー同盟が中心となって事態解決にあたった事件で、
 GDFとしては新兵器が全く役に立たず、何の活躍も上げられなかった事件よネ・・・・・・」

「ああ、あれは痛恨だった・・・・・・」
470 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 14:03:03.39 ID:oZ5EiIs10
「まあ、それはそれとしてだ」とポストマンは話を続ける。

「その中で、今は森の中にある病院があったんだが。
 当時はあそこに住人が避難して来てな。
 そこを何人かの能力者が中心となって守ってたんだ。

 で、そのなかでもとある3人組の能力者ーーー確かナチュルスターといっただろうか。
 そいつらがカースの気を浄化させるために、雨を降らせて木を生やした
 と聞いている。」

「日本の能力者はそんなことまで可能なの!?
 伊達に対カース戦線の最前線と言われてないわネ。」

「昔っからにはなるが、アイドルヒーローじゃない能力者でも、実力のある奴は結構いるのが日本だ。
 だが、こいつらはとびっきりの規格外ではあるがな。」

「ってことは、この森はその3人組が作ったのネ?」

「ああ。
 もっとも、そのナチュルっていうのも3人でそれぞれ役割があって、
 マリンとスカイが雨を降らしてカースを浄化し、
 アースがそれによって消耗した力を、木を作ることによって癒していたといわれている。」

「ってことは、あれはその副産物?」

「ということになるな。
 だが、木は一本だけだと聞いてはいたが―――」
471 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 14:03:52.19 ID:oZ5EiIs10
「ほほう、副産物としてはなかなか大層なものを作ってくれたものだな」

と、これまで傍で聞いていた黒いカースドウェポンが口を開いた。

「あの森は周りのカースの残滓を吸い取っている。」

「・・・・・・なんだって!?」

「それだけではない。その吸い取った残滓を癒しの力に変えて発散しておる。
 いわば対カース用の浄化槽といったところだ。」

「浄化槽・・・・・・ってことは、あの森ができた原因って」

「大方、吸収したカースの残滓を癒しの力にして増やしたのだろうな」

「そういえば、凛があの森の枝を無理やり採ろうとした時、
 その時に手を傷つけたらしいが、その傷がすぐに治ってたな☆
 あと、カースのチカちゃんが力を発揮できないって言ってたし・・・・・・
 カースの特効薬って言ってたのって、あながち間違いじゃねぇのか☆」

「カースの特効薬か、なるほどな
 煎じて飲めば、カースドヒューマンのカース化が治るかもしれんぞ」

「そいつはすげぇな・・・・・・今あるカースの問題の半分が何とかなっちまうぞ」

確かにそうだ。

憤怒の街に限らず、カースによる影響でカースドヒューマンになり、
GDFの隔離房にいれている人は少なからずいる。
そうでなくともカースに攻撃され傷ついたのに、呪いの影響により治療の難しい患者も多いのだ。
そんな人達が、あの森で全て治療出来てしまう。
まさしくカース問題に対する、一つの突破口と言える代物であった。

「まさしく特効薬ってやつだな☆」
472 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 14:05:20.53 ID:oZ5EiIs10
「だけど、疑問が残るわネ」

「ああ。
 なんでそんな代物を、ウサミン製の認識阻害装置を使ってまでひた隠しにしたんだってことだよな☆」

「普通そんな物を手に入れたら、GDFのどっかに情報として降りてくるもんだが、
 今回に限っては、そんな物一切聞いたことがねぇ」

「What's? ポストマンってそんなに偉い立場の人間ナノ?」

「いや、俺は上から下までいろんなところに知り合いを持ってるだけさ。
 それこそ新司令官様の側近レベルの奴にもな。
 だが、その知り合いからもそんな知らせは聞いたことがねぇ。
 単に上が極秘情報として持っているだけか―――」

「あるいは情報がここで止まっているか、だよな☆」

「まあ、極秘情報だからという理由であればいいんだがな。
 ―――しかし、それでは俺達に出した任務の意味が無い」

「それって・・・・・・どういうコト?」

「ここにはGDF関係者しかいないから行っちゃうけど、
 はぁとたちの任務は、『憤怒の街の実態調査』だから☆
 知っている情報を調査って、おかしいよな☆」

「・・・・・・まさか!?」

「そのまさか、だろうよ」

そんなときに聞こえてきたヘリの音。
私達は戦いの予感を感じ得ずにはいられなかった。
473 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/03/21(水) 14:11:07.33 ID:oZ5EiIs10
今回はここまでです。
鈍足だけど、ちゃんと進んでるよー

次回か次々回くらいでユウキちゃんの目的は達成して、そのあとは戦闘回になりそう。
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/29(木) 00:35:23.97 ID:32QH/27PO
おつくら
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/03/29(木) 22:39:03.90 ID:s8lVgOFa0
おつでしてー
しっかりと核心へ近づきつつありますな!このメンバーでの戦闘回も楽しみにしております
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/06/20(水) 16:48:08.83 ID:u5v0yUqfo
ほしゅ
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/10/21(日) 10:53:52.31 ID:AaWNC2rq0
ho
478 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 04:49:06.20 ID:SO93X4Vj0
お久しぶりです
投下します
479 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 04:53:14.10 ID:SO93X4Vj0

宇宙連合支配領域の片隅に、とある惑星があった。
名をオールドオースチン。

地表のほとんどが土砂とむき出しの岩盤に覆われており、
その赤茶けた外観から想像出来る通り惑星環境は極度に乾燥しているため、宇宙に住まう多くの知的生命体にとって入植に不適な星である。
だが、過去には豊富な鉱物資源の採掘産業により繁栄を迎えたこともあった。



オールドオースチン最大の街、パンゴリン。

ウルトラスーパーレアメタル目当てにやって来た山師連中で賑わったのも今は昔。
産出量の減少と共に人口も減り、現在は居住者も訪れる者も無くなり、その街並みは朽ちるに任せられていた。

そんな中、およそ半世紀ぶりに一人の来訪者がやって来た。
砂塵が吹き荒れる中を歩いて来た旅人然としたその人物は、寂れた──といった表現を通り越し、もはや廃墟となりかけの酒場の前で足を止めた。
そのまま入り口のスイングドアを押し開け店内に入ると、警戒した様子で辺りを伺う。
目深に被ったフードの奥の、その表情は窺い知れない。



「ナンニシマスカ?」

長年のメンテナンス不足により会話ルーチン回路が壊れかけた給仕ボットが、久方ぶりの客に声を掛ける。
客である旅人は「あるものでいい」と一言。

ボットは背後の戸棚から年代物の宇宙リカーのボトルを取り出しグラスに注ぐと、他にも用意する物があるのか、店の奥に引っ込んでいった。
それを見届けた旅人は軽く息をつき、フード付き外套を脱ぐと、ボロボロになったバーカウンターの椅子に腰かけた。

人気のない辺境の惑星にやってきてなお周囲を警戒する様子から察するに、厄介ごとに巻き込まれたか、あるいは自ら引き起こしたか──。
いずれにせよ、お尋ね者の類であろうことが想像できる。
480 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 04:54:04.07 ID:SO93X4Vj0

「それは私に奢らせてもらうわ」

旅人がグラスを手に取ったところ、部屋の隅から声が掛けられた。
入店時には見当たらなかったが、声のした方には壁にもたれかかった人影がある。

「いいわね?」

人影が旅人の方へ歩み寄ると、光源の元に出たことで姿が露わになる。
ポンチョめいた布をマントのように羽織った長髪の女だ。


「……ここのところ、後を尾けてきていたのはあなたねぇ? 賞金稼ぎさん?」

「気付いていたとは……流石ね、『ミサト特佐』」

ミサトと呼ばれた旅人は、女に向かってストーカー行為に対する抗議の色を含んだ目線を向ける。
どうやら女の正体は、宇宙犯罪者を相手取る賞金稼ぎということらしい。


ミサト「せっかくだけどぉ、奢ってもらうのはお断りしますぅ」

ミサト「今の私は軍を抜けたから、もう『特佐』じゃないし」

ミサト「それに、こんな安酒を奢ってもらってもねぇ」

「あら、いいのかしら? あなたの末期の酒よ?」

お互い口調は落ち着いており、殺気立った様子もないが、酒場内には極めて剣呑な空気が流れている。
お尋ね者と賞金稼ぎが相対したのであれば、これから荒事が起こることは自明ではあるが。


ミサト「とりあえず、場所を変えましょう?」

ミサト「こんなボロボロな店でも、私が原因で壊れるのは忍びないもんねぇ」

ミサトはそう言うと、宇宙クレジットチップをカウンターに置くと席を立ち出口へ向かう。

「あら、存外殊勝なのね」

異存はないわ。と付け加えると、女も後に続いた。
481 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 04:56:14.03 ID:SO93X4Vj0

十分後──ミサトと賞金稼ぎの女は、パンゴリンの街近傍の平野にて対峙していた。
周囲にはごつごつとした岩石が点在しているが、それ以外は見晴らしの良い場所だ。

吹きすさぶ風に煽られた球状回転草が二人の間に転がり出でる。
時間帯は、地球で例えるなら薄暮の頃であり、お互いの表情ははっきりと見えない。


「それじゃ改めて、お尋ね者ミサト……」

「その首、もらい受けるわ」

女は腰のホルスターから銃を抜くとミサトに向け構える。

ミサト「上等ぉ、受けて立ちますぅ……!」

対するミサトも、自身のプラズマブラスターを構えた。



最初に仕掛けたのは女の方だった。
ライフル型プラズマブラスターから放たれた光弾を、ミサトは横っ飛びで回避する──が。

ミサト「っ!?」

光弾が飛び去った方向から聞こえてきた轟音に、思わず振り返ってしまった。
背後ではおびただしい量の砂埃がおよそ百メートルの高さまで舞い上がり、光弾の着弾地点の地面には大穴が開いていた。
ともすれば、爆撃の類による攻撃かと見紛うほどの惨状だ。

その後も二射三射と攻撃が続くが、回避に難は無い。
だが、そのたびに射線上にあった物体──今は使われていない無人宇宙港の管制塔が根本から倒壊し、遥か彼方にそびえる巨大なメサが崩落する。


ミサト「(人気のない星に来ておいて良かったぁ)」

数日前から賞金稼ぎに狙われていると気づいていたミサトは荒事を見越して、あえて無人の惑星を選んで上陸していた。

ミサト「(あの人もそれを理解してここで仕掛けてきたっていうことなら、ただのアウトロー賞金稼ぎってわけじゃなさそうかなぁ)」

相手はミサトの目論見通りこの星に着いてから現れたが、実際はそれまでにも仕掛けるタイミングはいくらでもあったはずだ。
あるいは、相手も無人の星を選んで仕掛けてきたということであれば、それなりに分別のある人物ということか。
賞金稼ぎの中には、目的のためには周囲への被害を避けようとしない乱暴者も多い。



ミサト「(それにしてもこの威力……ただのプラズマブラスターじゃないねぇ)」

相手の動作をよく観察してみると、射撃による反動を利用し銃本体を回転させている。
そして回転の際には、銃の機関部からプラズマブラスターの弾倉とも言えるエネルギーカートリッジが排出されるのが見て取れた。

ミサト「(あの動きはスピンコック……一発撃つ毎に空カートリッジの排出をしているということは……フルバーストセルを使っている?)」

ミサト「(さっきの威力から考えても、おそらく間違いないかなぁ)」

一般的なプラズマブラスターは装填されたエネルギーカートリッジ一個から数十射分のエネルギーが分割して供給され射撃を行うが、
相手が撃ってきているプラズマ弾は一射毎にエネルギーカートリッジの全エネルギーを放出する特殊弾薬『フルバーストセル』によるものらしい。
その威力は、ちょっとした宇宙船の艦載砲にも匹敵し、そもそも対人用に使用されるものではない。
482 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 04:57:03.04 ID:SO93X4Vj0

ミサト「ちょっとぉ、それ生身の人に向けて撃つのはオーバーキルじゃなあい?」

さしものミサトも、抗議の声を上げる。
だが、相手の立ち居振る舞いから察するに、恐らく幾度も凶悪な宇宙犯罪者を相手取ってきた歴戦の賞金稼ぎである。
ミサトの言葉を全く意に介すことなく、攻撃の手を緩めない。


「ごもっともだけれど、存外役に立つものよ」

「特に、物陰に隠れた相手を狙う時なんかにね」

ミサト「やばっ」

慌てて遮蔽物としていた岩の裏から転がり離れる。
直後、プラズマ光弾が飛来、直撃した岩は破裂し砕け散り、大小の破片が周囲に降り注いだ。
少しでも判断が遅れていたら同じ運命を辿っていただろう。

巨大な岩石を粉微塵にしてなお、プラズマ弾は勢いが衰えることなく地平の彼方へと飛び去っていった。


ミサト「まったくもう! めちゃくちゃするねぇ!」

うかつに近寄れないため、ミサトは遠距離から反撃を試みる。
所持する拳銃型プラズマブラスターの交戦距離外から、なおかつ走りながらの射撃であるにも関わらず、頭部や胴体などの急所を的確に狙い撃つ。
しかし──

ミサト「……なんで無傷なのぉ?」

相手にはさしたるダメージを与えられていない。
よく見ると、ミサトの攻撃が命中する直前にポンチョ型マントを掲げ、あるいは纏い、銃撃を防いでいるように見える。


「その距離から、正確に当ててくるとはね」

「戦闘機の操縦の腕が立つという話だったけれど、生身でもやるじゃない」

ミサト「お褒めにあずかりどーもぉ!」

相手の挑発じみた発言に、ミサトも苦し紛れの皮肉で返す。

「でも残念だけど、この耐プラズマコーティングフォトニックウィーブにはその程度のプラズマブラスターの弾は効かないわ」

ミサト「なにその説明口調!」

だが、現状では手の出しようが無いことは明白だった。
483 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 04:58:06.00 ID:SO93X4Vj0

その後も遮蔽物代わりの岩石を転々としつつ攻撃を回避し続けるミサトだったが、
相手が撃ち切ったカートリッジの再装填を始めたのを確認すると物陰から進み出た。

ミサト「ねぇ? 提案があるんだけどぉ」

「提案……ですって?」

互いの距離が離れており、なおかつミサトが攻撃の意思を示していないため、
相手もリロードの手を止めることはないものの、話を聞く気はあるようだ。


ミサト「その銃、燃費が悪くて大変だよねぇ? 一発撃つごとにカートリッジを一つ消費するんだから」

ミサト「ひょっとして、そろそろ弾切れになるんじゃなあい?」

「心配は無用よ、残りの弾であなたを仕留めるのは訳ないわ」

ミサト「私も、逃げ回るのに疲れてきちゃったからぁ」

ミサト「ここは、早撃ちで勝負しない?」

「早撃ち?」

ミサトの"提案"に、相手は懐疑的な目を向けるが、ミサトは構わず説明を続ける。


ミサト「もうじき日付が変わるから、そうしたら街の時計台が時報を鳴らすでしょう?」

ミサト「お互い背を向けて立って、時報が聞こえたと同時に振り向いて早撃ち」

ミサト「恨みっこ無しの実力勝負……どうですかぁ?」

「古式の決闘方式で決着をつけようということね」

あと十分もすれば、宇宙連合標準時で日付の変更がなされる。
それに伴い、街の中心に建つデジタル時計塔が時報を鳴らす。
時計の時報に限定されないが、特定の合図を元に行う早撃ち勝負は、古来より一対一の決闘の手段として一般的なものである。
484 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 04:59:09.03 ID:SO93X4Vj0

「……やりたいことは理解出来るけれど」

ミサトの提案を聞いた相手は、しかし得心がいかないといった様子だ。

先の撃ち合いの結果から、ミサトの攻撃は有効打になり得ない。
にも拘わらず早撃ち勝負などというのは、手の込んだ自殺に他ならない。

「あなた分かっているの? ただのプラズマブラスターでは──」

ミサト「その、対プラズマナントカマントを破れない」

ミサト「もちろん分かっているよぉ、私も逃げ回りながらちゃんと準備したからねぇ」

「準備……?」


ミサト「プラズマブラスターのエネルギー供給リミッターを解除して、オーバーチャージ射撃が出来るようにしたからぁ」

ミサト「一発撃ったら多分壊れるけど、これで威力は十分よぉ」

当然ではあるが、無策というわけでは無いようだ。
内容自体は博打の要素がすこぶる強いが。

「なるほど……いいわ、その小細工に免じて、提案に乗ってあげる」

ミサト「さすが、話がわかるぅ」
485 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 05:00:56.19 ID:SO93X4Vj0

決闘の取り決めを交わした二人は、先ほどと同じように近距離で対峙していた。
吹きすさぶ風に煽られた球状回転草が二人の間に転がり出でる。

ミサト「ところで、勝負の前に、あなたの名前を教えてくれない?」

生死を掛けた真剣勝負を前に、ミサトは賞金稼ぎの女に問いかける。

「……ひとたび勝負が始まれば、あとに残るのはどちらか片方だけ」

「……名を名乗る意味など無いわ」

しかし、その返事はにべもないものだった。
賞金稼ぎを生業としている以上、明日をも知れぬ身である。

「私が勝てばそもそも名乗る必要が無い」

「そして、あなたが勝てば私の名前は消える」

標的と名乗りあうなどといった感傷的な行為は、彼女には必要ないというところか。


ミサト「でもぉ、決闘の作法だからぁ、そう言わないでよぉ」

しかし、ミサトも折れない。

ミサト「それに、あなただけ私の名前を知っているっていうのは不公平じゃなあい?」

「……メグミよ」

ミサト「ありがと、覚えておくからねぇ」

少しの逡巡の後、賞金稼ぎの女はその名を告げた。
486 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 05:03:04.33 ID:SO93X4Vj0

──────────────────────────────────────────

先ほどの、弾切れが近いのではないかというミサトの指摘は的を射たものだった。
メグミの得物である『プラズマリピーター』の弱点の一つに、弾薬の消耗が激しいことが挙げられる。
実際、残弾は数発といったところだ。

だが、残弾数の低下──あるいは弾切れは、メグミにとってはさして問題にはならない。
メグミの本領はプラズマリピーターによる遠隔攻撃ではなく、プラズママチェットを用いた高速近接格闘術である。

過剰な威力の銃撃に、これ見よがしのコッキング動作。
そして、継戦能力が低いというあからさまな弱点。
それらは全て、弾切れによる戦力低下を相手に印象付け、接近戦へ誘導するための布石に過ぎない。
攻撃手段を失ったと見せかけて相手の油断を誘い、近寄ってきたところを必殺の間合いで仕留める──メグミの常勝戦法の1つだ。

それゆえに、ミサトの言う早撃ち勝負は、メグミにとっては受ける必要のない提案だったのだが……。

メグミ「(この状況において、打開する策があるというのなら、見せてもらいたいものね)」

メグミ「(まさか、正直に決闘を挑んでくるつもりでは無いでしょう)」

決闘に際しある程度の距離を空ける必要があるため、背を向けあって歩みを進める中、相手の取り得る行動を予測する。


先ほどミサトが言っていた、耐プラズマコーティングフォトニックウィーブへの打開策であるエネルギー供給を増してのオーバーチャージ射撃は、
通常のプラズマブラスターで行う場合過負荷による銃身破裂を起こす危険も伴う行為である。
もしも暴発しプラズマ爆発でも起ころうものなら、勝負云々以前の問題だ。

あるいは、メグミを決闘の話に乗せるためのブラフで、他に何か手があるのか──。

メグミ「(さて……どう出てくるか)」

結局のところ、賞金稼ぎとしての好奇心から話に乗ったのだった。
487 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 05:04:55.23 ID:SO93X4Vj0

メグミ「(……、……鳴った!)」

お互い背を向けたまま数十秒が経過したころ。
ついに街のデジタル時計塔がデジタル鐘声を鳴らした。
それを合図にメグミは振り向きつつ銃を抜き放つ──が、

メグミ「っ!」

そこにミサトの姿は無かった。


ミサト「ダメじゃないのぉ……宇宙犯罪者の言うことを真に受けたら」

そして、横から問題の人物の声が聞こえてくる。
すぐそばで銃を突き付けているのだろう。

互いに背を向けたことで、視線が外れた隙に回り込んだというところか。
自分から決闘形式の勝負を提案しておきながら、あまりにも小狡いやり方である。

しかし、置かれた状況にも拘わらず、メグミは落ち着き払っていた。

メグミ「やれやれね……そんなことだろうと思ったわ」

ミサト「!?」

次の瞬間、ミサトが銃を突き付けていたメグミの姿は一瞬のうちに消え去り、代わりに背後からミサトの首筋にプラズママチェットの刃が宛がわれた。
いつの間にか、ミサトとメグミの位置関係と立場がそのまま反転している。


ミサト「これは……瞬間移動……ではないかぁ」
                          
ミサト「……なるほどねぇ、立体映像と光学迷彩ね」

ミサト「さっき酒場に入った時に見えなかったのも、同じように姿を消していたってことかぁ」

メグミ「ご明察」

ミサトが看破した通り、これもメグミの常勝戦法の一つ。
個人用クローキングデバイスとホログラムプロジェクタの合わせ技による、攪乱・奇襲攻撃である。
光学迷彩で自身の姿を消しつつ、自身と同じ姿の虚像を投影し囮とする、いわば初見殺しの凶悪な技だ。
488 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 05:06:48.08 ID:SO93X4Vj0

メグミ「しかし、まさかあなたの反撃の一手が、決闘の決まりを反故にしての不意打ちとはね」

メグミ「正直、あまりに稚拙過ぎて、失望の念を禁じ得ないわ」

自らの勝利が揺るぎないものと認めたメグミは、いかにもがっかりしたといった様子でミサトを詰る。

ミサト「そっちだって素直に決闘する気無かったんだから、お互い様でしょ?」

メグミ「……まあ、お互い様と言われればその通りね」

しかし、事ここに至ってなおミサトは飄々とした態度を崩さない。


メグミ「(この態度……ただ野放図なだけ? それとも、まだ何かある?)」

その様子に、メグミは些か訝しむ。

ミサト「でも、おみそれしましたぁ、これは私の負けねぇ」

殊勝にも自らの敗北を口にするが、しおらしさといったものは微塵も伺えない。


メグミ「そう、なら大人しく捕まりなさい」

メグミ「これ以上抵抗しなければ、命までは取らないわ」

ミサト「……申し訳ないけどぉ、捕まる気は無いの」

ミサト「出来れば見逃してもらえなぁい?」

メグミ「この期に及んで、何を言い出すのかしら」

冷ややかな目線を物ともせずぬけぬけと言い放つミサトに対し、威嚇の意味も込めてマチェットをさらに強く押し当てる。
489 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 05:07:54.59 ID:SO93X4Vj0

ミサト「それが、お互いのためだと思うんだけどぉ……ダメかなぁ?」

メグミ「……っ!?」

メグミ「(銃砲類によるロックオンアラート……直上?)」

ミサトが猫なで声で自身を見逃すよう懇願すると同時に、
メグミの側頭部に装備された戦闘支援デバイスの脅威検出分析システムが、網膜投影による警告を表示した。

刃を突き付けたまま油断なく頭上に目を向けると、遥か上空に明るく光る物体が見える。
戦闘支援デバイスがハイライトした敵性存在──先のロックオン信号の発信源だ。
状況から判断するに、ミサト配下の宇宙戦闘機の類だろう。
遠隔操縦により、メグミを狙っているのだ。


メグミ「いつの間に……あんなものを配置していたのかしら」

ミサト「気付かれないように準備するのは結構大変だったよぉ」

戦闘機に狙われている以上、下手な動きをすればすぐに避けようのない銃撃に晒されるだろう。
超高速の三次元機動を行いつつ射撃を行う宇宙戦闘機のFCSをもってすれば、いかに距離が離れていようと人一人射貫くなど全く問題にならない。
490 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 05:10:51.02 ID:SO93X4Vj0

ミサト「ねえ……私もね、今回はあなたに負けたと思ってるの」

ミサト「だからぁ、この勝負はお互い水に流しましょ?」

メグミ「……」

ミサトが言うには、決着をつけることなく、お互いを見逃そうということらしい。


メグミ「(なぜわざわざ私に選択肢を与えるようなことを……)」

メグミ「(これまでにチャンスはあったはず……有無を言わさず撃ちぬけばいいものを……あるいは、単純に機体の配置が間に合わなかった?)」

メグミ「(今だってそう……わざわざロックオン信号を発信して……あえて私にあの戦闘機の存在を気付かせて、手を引かせるつもりだったとでも?)」

メグミ「(気に入らないわね……)」

しかし、メグミの賞金稼ぎとして矜持が大人しく引き下がることを拒む。
先程のミサトの「お互いのため」という言葉通り、未だメグミはミサトの生殺与奪を握ってはいるのだ。


メグミ「……私達の勝負を流せるだけの水は、この乾いた惑星には無いわ」

ミサト「それ、うまいこと言ったつもりぃ?」

ミサト「……残念だけどぉ、あなたがそう思っていても、どうやら"水を差され"そうねぇ」

メグミ「……? あぁ……」

ミサトが唐突に辟易としたような様子を見せたためメグミは訝しむ。

メグミ「また面倒なのが来たわね」

だが、すぐにその理由が判明する。
戦闘支援デバイスに、新たな敵性存在が検知されたのだ。


直後、二人の至近に数発の光弾が着弾した。
491 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 05:13:02.40 ID:SO93X4Vj0

『ようやく見つけたぜぇ、賞金稼ぎのメグミぃ……!』

『今まで散々いいようにやられてきたがぁ!! 今日という今日こそは吠え面かかせてやるぞぉぉう!!』

『調子に乗って、毎度の如く足元掬われないようにしてよね』

突然現れた正体不明の宇宙船──先ほどの攻撃元からは、乗組員のものだろうか、やたらとわめき散らす声が聞こえてくる。
どうやらメグミを目当てにやってきたようだ。


『それとぉ……一緒にいる奴は一体ナニモンだぁ!?』

ミサト「うるっさいなぁもう……!」

いかにも面倒そうに、ミサトが上空に待機させていた戦闘機に攻撃命令を出す。
すると機首から、文字通り光速の光の奔流が謎の宇宙船に向けて一直線に伸びる。

『ぐわぁっ! な、何が起こったぁぁ!?』

『攻撃よ、あそこの戦闘機から』

不意打ち気味に高出力ビームキャノンの直撃を受けた乱入者の宇宙船は、黒煙を吹きながら急速に高度を失ってゆく。

『あ、あの戦闘機はぁぁ! ……そこにいる貴様はもしや、フェリーチェ・カンツォーネ!?』

『因縁浅からぬ相手が同時に二人も見つかるたぁ好都合だぁ! まとめてプロデュースしてやるぁ!!』



ミサト「なんでわざわざ外部スピーカーで大声張りあげるかなぁ……」

メグミ「あなた、アレの知り合いなの?」

半ば呆れ顔で呟くミサトに、メグミが問いかける。
乱入者の叫んでいた内容からすると、ミサトも因縁がある様子だったが──。

ミサト「知り合いぃ? アレが? 冗談きついよぉ……知らない人ですぅ」

メグミ「あらそう……」

メグミ「(確かに、可能な限り関わり合いにならないようにすべきタイプだものね、あいつは)」

げんなりとしつつ否定する様子から、メグミもある程度の事情を察した。


メグミ「でもまあ、あのロクデナシと敵対しているということは」

メグミ「あなたは賞金首ではあるけど、悪人というわけではないのかしらね」

ミサト「私が悪人でないかは何とも言えないけどぉ、アレがロクデナシだっていうのには同意よぉ」
492 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 05:15:01.10 ID:SO93X4Vj0

ミサト「それで……とんだ邪魔が入っちゃったけどぉ、どうする? さっきの続けるのぉ?」

メグミ「そうね……興が殺がれたわ」

メグミ「腹いせに、あのやかましいのを黙らせることにするわ」

そう言うメグミの視線の先には、墜落し体勢を立て直そうとしている乱入者の宇宙船。

ミサト「腹いせじゃないよぉ、正当な防衛」

メグミ「確かに、向こうから仕掛けてきたんだものね」

ミサト「私も、丁度いい機会だし、ここいらで禍根を絶っておくかなぁ」

先ほどまでは対立していた二人だったが、共通の敵を得た今、奇妙な連帯感を感じていた。
ともすれば、お尋ね者と賞金稼ぎという間柄でありながら、共闘している方が自然に感じられるほどである。


『おいぃ!? あんたらさっきまで攻撃しあってたじゃねぇか!』

『何で一緒になってこっち向かって来るんですかねェ!?』

乱入者の困惑も無理からぬことだ。
先ほどまで殺し合いを演じていた二人が、今は何故か自分を標的に変え向かって来ているのだ。

しかし、"敵の敵は味方"という論法に則った場合、敵対していた者同士が手を組むということは往々にしてあり得ることである。
ましてや乱入者の彼は、ミサトとメグミの両名から疎ましく思われている。


ミサト「問答無用」

メグミ「覚悟することね」

『ちくしょうめえぇぇえ!!!』

冷笑を浮かべる二人を前にした乱入者の絶叫が、夕闇の大地に響き渡った。


───────────────

────────

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493 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 05:17:04.23 ID:SO93X4Vj0

──プリマヴェーラ号内──

ミサト「それでぇ、最終的にあの……あー、あれ、あの気持ち悪いあいつ」

メグミ「……UP」

ミサト「そうそれ、そのUPを二人でコテンパンにしてぇ、意気投合しちゃったってわけ」

P子「なるほど……そこで、ビアッジョ一家を結成したのですね」

メグミ「ま、ミサトと手を組んだお陰で、私までお尋ね者にされてしまったのだけれどね」

ミサト「もう、それは言いっこなしだって、前から言ってるでしょう?」

ミサトとメグミは、P子に乞われてビアッジョ一家立ち上げの経緯を話して聞かせていた。
二人にとって、懐かしく思う程度には昔の話である。


メグミ「それにしても、あれからUPはどうなったのかしらね」

ミサト「うーん……今まで何度も仕留めた! って思ったことがあったけどぉ」

ミサト「結局復活してるからねぇ」

メグミ「一度、あれの宇宙船ごと、恒星に向かって飛ばしたこともあったわね」

ミサト「それでも結局帰ってきちゃったもんねぇ」

ミサト「また、どこかで出てくるんじゃないかなぁ」

P子「……」


P子「(二人の間には、"思い出"が沢山あるのですね)」

P子「(いつか私も、過去を懐かしむ時が来るのでしょうか……)」

二人のやりとりを傍から眺めつつ、P子はまだ見ぬ未来に思いを馳せるのだった。
494 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/02(金) 05:18:31.42 ID:SO93X4Vj0
終わりです
UPをお借りしました

西部公演以来、絶対シェアワに落とし込むんだって意気込んでたけど、ようやく投下出来た……
495 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:03:41.38 ID:LkNOvbtJ0
もう一つ書きあがったので連投します
496 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:04:25.02 ID:LkNOvbtJ0

超々高層建築物が林立する世界有数の一大メガロシティ──ネオトーキョー。
文字通り天を穿つかのようにそびえ立つ摩天楼群は、訪れた者に驚愕をもたらし、その視線を釘付けにして離さない。
だが、少し目線を動かし海上(ネオトーキョー自体が埋立地の上に建つ都市ではあるが)を見やると、
陸の都市部とはまた違った存在感を放つ地域が存在する。

ネオトーキョー港湾区、通称『ウォーターフロント』。
旧東京湾の湾口──浦賀水道から太平洋上へと大きく突き出す、超巨大海洋構造物の集合体だ。
ネオトーキョーの海と空の玄関口であり、
(都心に隣接していたとはいえ)新興地域からたった数年のうちに世界中類を見ない成長を遂げた経済特区の、その物流を一手に担う運輸の要衝である。

多数の倉庫群に工場施設に港湾設備──果ては航空機の滑走路までもが築かれた大型メガフロートや、
そのメガフロート構造を係留している洋上プラットフォーム群、はたまた港湾設備上を動きまわる荷役用の大型クレーン類──。
それらの威容は、遠目に巨大な甲殻類の群れのようにも見える。


その中の埠頭の一つ。
大型貨物船の荷降ろし用桟橋に、一隻のコンテナ船が入港してきた。
タグボートに曳航されたコンテナ船が緩慢な動きで接岸し係船されると、
埠頭のガントリークレーンが船上のコンテナを運び降ろすために動き始め、港はにわかに忙しい空気に包まれた。


そんな光景を尻目に、コンテナ船のデッキから乾舷数十メートルはあろうかという高さを飛び降りる人影があった。
人影はそのまま、埠頭に降ろしてあった手近なコンテナの陰に滑り込む。
船上や港で作業を行っている人間の中に、その姿を見咎める者は居ない。
497 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:06:01.29 ID:LkNOvbtJ0

むつみ「ふぅ……とりあえず、見つからないで来れましたね」

密入国紛いの動きで上陸を果たした人影──氏家むつみは、周囲の様子を伺いつつ息をついた。

クォーツ『うむ、ここまでは手筈通りだ』

彼女の相棒──宇宙から飛来した謎の存在、通称クォーツが、それに相槌を打つ。

むつみ「ネオレインボーブリッジから、下を通る船に飛び移れって言われた時はどうなることかと思いましたよ……」

クォーツ『もうそれは言うな、こうして無事にたどり着いただろう』

どうやら、すでに一波乱あったらしい。


むつみ「ネオトーキョーにアストラルクォーツのかけらが有るって話ですけど」

むつみ「なんでわざわざこんな回りくどい方法でここまで来たんですか?」

アストラルクォーツ──むつみとクォーツが探し求める宇宙鉱石だ。
今回二人(一人と一個)がネオトーキョーにやってきたのは、それを見つけだす目的があった。

しかし、ネオトーキョーに至るまでの道筋に得心がいかないむつみは、その理由をクォーツに尋ねた。


クォーツ『端的に説明すると、敵に気取られないようにするためだ』

むつみ「敵って……穏やかじゃないですね……」

むつみ「カースじゃないんですか?」

クォーツ『うむ、カースではない』

クォーツ『ただ今の段階では、まだ「仮想敵」と呼ぶべきか……事を構えることになるとは限らんのでな』


クォーツ『これから我々が向かう場所は、人の立ち入りが厳しく制限されていてな』

クォーツ『いや、制限というよりも、その存在自体が秘匿されているから──』

クォーツ『一般人はそもそもその場所を知り得ない……と言った方が適切か』

むつみ「秘匿されているって……誰から、ですか?」

クォーツ『先ほど言った、仮想敵──我々の目標を達するうえで、障害となり得る存在だ』

クォーツが言うには、コンテナ船に紛れ密航した理由は、敵対的な存在を避けるためらしい。
カース以外の"敵"と言われても心当たりのないむつみは、話を聞きながら緊張の色を強める。
498 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:08:15.38 ID:LkNOvbtJ0

クォーツ『目的地──アストラルクォーツがある場所だが、対外的には「関係者以外立ち入り禁止」の区画内にある』

クォーツ『まあ、その表現自体は偽りでは無いのだが、問題はその後だ』

クォーツ『故意にせよ、知らずに迷い込んだにせよ、"関係者"以外が足を踏み入れたが最後──』

クォーツ『漏れなく行方不明者リストに加えられる事になる』

むつみ「えぇ……?」


むつみ「つまり、その"敵"が、入り込んだ人を……?」

クォーツ『それもあるだろうが、人為的な理由以外で行方不明になっている可能性もあり得る』

クォーツ『例えば、入り込んだはいいが迷ったまま出てこられなくなったり……といったところだ』

むつみ「……」



不安そうな面持ちのむつみを余所に、クォーツは話を続ける。

クォーツ『ネオトーキョーの防犯システムが、一般的な都市のそれとは比べ物にならないほど高度だということは知っているか?』

むつみ「授業で習いました」

むつみ「防犯も含めた都市機能の全てが、世界最先端のシステムで動いているって」

クォーツ『生活環境の利便化などと体よく言い繕ってはいるが、その実態は大衆を効率よく管理するための物だ』


コンピュータ制御・ネットワーク接続により管理運営され、極端なまでに電脳化が推し進められたネオトーキョーの都市機能は、
『サイバーフューチャーシティ』として、世界の主要都市でもモデルとされているほどだ。

だが、高度に一元管理されたシステムの恩恵を真に享受しているのは、そこに暮らす市井の大衆ではなく、いわゆる"支配者層"と呼ばれる存在である。

人類が文明を持ち、集団で暮らし始めたその時から、為政者はあの手この手で民衆を管理する策を講じてきた。
ネオトーキョーの都市機能管理構造はその極致と言えるものだ。
499 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:09:28.21 ID:LkNOvbtJ0

クォーツ『我々の仮想敵は、この都市の、防犯機能も含めた諸々のシステムにアクセスする能力を有しているのだ』

むつみ「それって、警察……?」

クォーツ『警察ではない……警察よりも、よほど厄介な連中だ』

むつみ「そんなの……相手に出来るのかな……?」

敵が都市機能を掌握しているというクォーツの言葉が真実だとすると、これから相手をしようとしてる存在はかなりの勢力ということになる。
むつみの不安も無理からぬことだ。

クォーツ『だから、真っ向から相手にせずに済むように侵入経路を選んだのだ』

それに対して、クォーツは反論するように言葉を続けた。


クォーツ『いいか、敵が用いるシステムの中でもとりわけ厄介なのが防犯・監視カメラだ』

クォーツ『私に言わせてみれば原始的なシステムそのものだが、単純故に厄介なのだ』

クォーツ『一度捉えられれば、顔が映っていなくとも体格や歩き方など、あらゆる情報から個人を特定される』

クォーツ『「関係者以外立ち入り禁止」の場所に入り込むうえで、監視カメラ等に見つかってしまっている状態だと、目的を達成した後も追手がかかるかも知れん』

クォーツ『目的地に向かう進行順路を事前に検証した結果、陸路からだといずれのルートもカメラに見つかってしまうのだ……公共交通機関を使うなどもっての外だ』


クォーツ『そこで、海路から密かに侵入する手段をとることにした……というわけだ』

むつみ「……つまり、クォーツの案内に従えば、監視カメラに見つからずに進むことが出来るんですね?」

クォーツ『そういうことだ』

むつみ「(それなら……きっと、大丈夫……だよね)」


むつみがクォーツと出会い、非日常の世界に足を踏み入れるようになってから、度々窮地に陥ることはあった。
だが、その都度最適な解決方法を提示されており、実際その通り動くことで危機を脱してきていたため、むつみにってクォーツは「信頼に足る存在」として認識されていた。

そういった前提もあり、得体の知れない敵と対峙するかもしれないということではあるが、結局むつみの中では「今回も上手くいく」という考えに落ち着いたのだ。
少し前まで感じていた不安も、払拭できたらしい。
500 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:10:59.04 ID:LkNOvbtJ0

クォーツ『理想を言えば、今日我々がネオトーキョーに存在していた事実を、全く誰にも知られることが無ければそれがベストだ』

クォーツ『もしも、万が一カース等の存在に遭遇することがあっても、人前では戦闘を避けろ』

むつみ「わかりました」

むつみ「このステージ衣装なら、見つからないようにするっていう目的に適っていますね!」


むつみが現在纏っている胴衣──いわゆる半着と呼ばれる丈の短い着物は、宵の闇に紛れる濃紺だ。
顔の下半分を覆い隠す紫紺の布は首に巻かれ、スカーフやマフラーめいてはためく。
腹部を締める帯には、何が入っているのか、瓢箪がぶら下がっている。

その姿は、一般的にイメージされる忍者あるいはくのいちと呼ばれる存在が着用する装束そのものだ。
秋炎絢爛祭において、『ニンジャヒーローアヤカゲ』と接触した際に得られたステージ衣装、『シノビトラディション』である。

文字通り人目を忍んで活動していた忍者の記憶が宿るシノビトラディションには、風景に紛れる迷彩能力と他人の目を欺く認識阻害能力、
そして、しなやかで素早い動作を可能とする運動能力が備わっている。
現在の目的に合致したステージ衣装だ。
501 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:12:31.01 ID:LkNOvbtJ0

むつみはクォーツの案内に従い、人目を避けて港湾区の建物の間を抜けて進んでいく。
すると、ある扉に突き当たった。
扉が据え付けられている建物はコンクリート製で、窓などは見られない。

むつみ「港湾区第三区画東46番共同溝……ここですか?」

クォーツ『うむ、中に入るぞ』

外見より重たく感じられる金属扉を開けると、何が出てくるのかと身構えていたむつみの想像に反し、ごく普通の通路につながっていた。
壁面には様々な太さのケーブルや配管が通っている。

むつみ「……入り口には共同溝って書いてありましたけど、ここって、つまり共同溝そのもの……ですよね?」

クォーツ『うむ、ここはまだ目的地ではないぞ』

むつみ「あ、そうだったんですか」



その後もクォーツの案内で、アリの巣のように入り組んだ人気のない都市設備メンテナンス用通路を進んでいく。

クォーツ『そこの扉を通るぞ』

むつみ「はい」

通路に入り何度目かの扉を開けると、そこは遥か下方まで折り返し階段が続く階段室になっていた。
無機質なコンクリート打ち放し壁には、これまた無機質な直管蛍光灯が据え付けられている。
踊り場部分には、商業施設等によくある階数案内は無い。

むつみ「……底が深いですね」

クォーツ『ここを降りるのだ』


階数にすると数十階分だろうか。
相当な長さの下り階段を降りていくと、最終的にまたも金属扉に突き当たった。
やたらに長い階段を下った先にあるという点を除いて、一見して変哲は見られない。


むつみ「やっと一番下まで来られましたね……」

クォーツ『うむ……ここから先が"敵"の支配下だ』

クォーツ『心して進めよ』

むつみ「え? 今までは?」

クォーツ『今まではあくまでネオトーキョーの公共区画に過ぎなかったからな』

クォーツ『もちろん、一般人が立ち入る場所では無かったが──』

クォーツ『ここから先が真の「関係者以外立ち入り禁止」区域だ』

むつみ「分かりました……いよいよ、ですね」


むつみは恐る恐る扉を開け、先の通路を伺う。
今までと同じように、用途の分からない配管がいくつも壁に伝って伸びているが、通路の照明は常夜灯めいた薄暗いオレンジがかったものに変わっている。
また、公共施設において法令で設置が義務付けられている非常口案内表示や消火器等が見当たらない。
502 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:14:14.60 ID:LkNOvbtJ0

むつみ「……なんですか? この雰囲気」

通路に足を踏み入れた途端、むつみは異様な空気を感じ取った。

クォーツ『ほう、お前にも感じられるか』

むつみ「はい……なんていうか……」

むつみ「今までより薄暗いのはそうなんですけど……居るだけで不安になってくるっていうか……」

クォーツ『つまり、この場所が地表とは異質の空間であるということだ』

むつみ「異質……」

言葉で言い表すことが出来なかったが、むつみは肌に纏わりつくような不快感を感じていた。
カースが出現する際にも気分が悪くなることが多いが、それともまた違った感覚だ。



クォーツ『……やはり、この下層部に来てから、周囲の空間値変動が頻発するようになった』

クォーツ『しかも、振れ幅がかなり大きいな』

むつみ「え?」

むつみが言い知れない不快感を不安に感じていると、クォーツも若干険しい声色で何やら呟く。


クォーツ『恐らく、エセリアルベルトを遮る形でこのネオトーキョーという都市が形成されていることが原因だろう』

むつみ「エセ……なんですか?」

クォーツ『惑星を巡る種々のエネルギーの循環路だ』

クォーツ『地球においては、地脈や龍脈と呼ばれているな』

思わず聞き返すと、クォーツからは宇宙的見地で考察された宇宙用語が飛び出す。
むつみは慣れたものだと聞き流すと歩みを進めるが──。

クォーツ『物質世界の混沌が具象化された都市、ネオトーキョー……』

クォーツ『その中にあって、なお混濁を深める地下空間……か』

クォーツ『まったく……怖気が立つな』

むつみ「……クォーツ?」

むつみはクォーツの独り言に対し、心配そうに声を掛ける。
いつものように勝手に感じた疑問に自己完結しているのかと思いきや、
吐き捨てるかのような、不快感を滲ませた声質が気を引いたのだ。

これまで、クォーツがいわゆる"感情"のようなものを見せたことは無かった。


クォーツ『……いいかむつみよ、私の指示する道を外れるなよ』

しかし、当のクォーツは何事も無いかのように振る舞う。

クォーツ『さもなくば、時空の歪みに嵌って二度と戻れなくなるやもしれん』

むつみ「ええ!? そんな!」

むつみ「道案内、しっかりお願いしますよ!」

むつみも、その後の発言に気を取られ、追及はしないのだった。
503 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:15:07.98 ID:LkNOvbtJ0

そんな話を続けながら進んでいると、前方から金属製の案山子のような物体が近寄ってくるのが目に入った。


むつみ「な、なんですか? あれ……?」

クォーツ『あれは……ルナール謹製の"保守点検"ボットだな』

むつみ「ルナールって……ルナール社?」

むつみ「保守点検って……何を……? あれ、銃ですよね?」


金属案山子の上半身──丁度"腕"のあたりから、黒光りする筒状の棒──銃身が飛び出している。
胴体部分には、弾倉と思しきドラム状の物体が据え付けられているのが見て取れる。
おそらく、機関銃の類が備わっているのだろう。

クォーツ『あれは当然市販モデルでは無いだろうが……』

クォーツ『ふむ、設備の全自動保守点検を謳っているルナール社製メンテナンスボットだが、少し仕様を変えれば歩哨も勤まるという事だな』

むつみ「な、納得してないで! どうしよう!」

現在地は一本道の通路のため、このままでは鉢合わせるのは時間の問題だ。
その場合、今のむつみはもれなく侵入者認定をされ、攻撃にさらされるであろう。


クォーツ『武装してあるとはいえ、所詮は機械人形だ、てこずる相手ではない』

クォーツ『だが、奴を打ちのめしてその持ち主連中に異常事態を察知されるのは面白くない』

クォーツ『物陰でやり過ごそう』

むつみ「わ、わかりました」

むつみは天井から床へ通る一際大きな配管の裏に身を隠すと、慎重に通路の先の様子を伺う。
504 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:16:21.37 ID:LkNOvbtJ0

案山子は着実にむつみの居場所に向かってきており、徐々に距離が詰まる。
時折、天井近くの壁面を伝うパイプから漏れ出る蒸気にボットが発する走査レーザー光が映り込み、威圧感を与える。
そのうち、低周波モーター音と共に、細身の金属が打ち合わさるようなガシャガシャとした音──恐らくはボットの歩行時に発するものと思しき音が聞こえてきた。


──そして、むつみのすぐ近くで歩行音が止んだ。


「侵入者探知……戦闘ルーチン起動」

むつみ「えっ?」

甲高いビープ音に続き無機質な機械音声が告げた言葉を聞き取ったむつみは、全身から血の気が引く感覚に見舞われた。


むつみ「っ!?」

その直後、耳元で爆竹を鳴らされたかのような凄まじい破裂音が連続して響き、眩い閃光が通路を照らした。
むつみは反射的に身を縮こませるが──。

「ひゃあああ! 堪忍してぇなああぁぁ!」

自分の後方から聞こえてきた声に気を取られそちらを見やると、人影が走り去っていくのが見えた。
どうやらボットの攻撃は別の存在に向けられたものだったようだ。


「侵入者ロスト……追跡開始」

ボットもまた、人影が逃げ去った方向へと、ガシャガシャと足音を立てながら走り去って行った。

クォーツ『……どうやら、我々の他にも命知らずがいたようだな』

むつみ「なんだかよくわからないけど、助かった?」
505 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:18:23.93 ID:LkNOvbtJ0

その後もむつみは、通路を進む中で何体もの歩哨ボットに出くわす。
その都度かわし、やり過ごしつつ進む。
いよいよアストラルクォーツに近づいているというクォーツの言葉に従い、通路の角を曲がったところ、新たな存在と遭遇した。


むつみ「あれは……人?」

通路の先に、黒いローブを纏った人型(ことネオトーキョーにおいては、人の形をしていても人間とは限らない)が2体。

クォーツ『まずいな……むつみ、隠れ──』

「何者だ!!」

むつみ「っ!?」

クォーツ『遅かったか……走るぞ!』

2人組に見咎められたむつみは、一目散に駆け出した。



クォーツ『奴ら、ルナールの私兵部隊か』

むつみ「……またルナール社ですか?」

クォーツ『うむ……ようやく"仮想敵"のお出ましだ』

むつみ「え? 敵って……ルナール社が!?」

クォーツ『お前も、連中についてのキナ臭い噂は耳にしたことがあるだろう』

むつみ「それって……"悪魔の企業"とかって……でも、そんなまさか……」


ネオトーキョーの発展と共に世界トップクラスの企業へと急成長を遂げ、ネオトーキョーを事実上支配している『ルナール・エンタープライズ』。
その躍進の陰には後ろ暗い何かがあるのだという世間の風評は、むつみも聞き及んでいた。
しかし、多くの一般人の御多分に漏れず、そのような怪しげな噂も自身には関係の無い事だと気に留めた事すら無かったのだが──。

クォーツ『こんな場所に人間を送り込んで何やら嗅ぎ回っているという事は、根も葉もない噂……という訳でも無さそうだな』

クォーツ『だが、連中が何をしているのかについて思案するのは、この状況を切り抜けてからにした方がいいだろう』
506 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:20:31.13 ID:LkNOvbtJ0

あても無く逃げ回っていたむつみだったが、気がつけば袋小路──通路よりは広々とした小部屋のような場所へと入り込んでいた。
周囲を探るも、他に逃げ道は無い。

むつみ「どうしましょう……」

クォーツ『こうなっては、戦うしかあるまい』

間を置かずに、先ほどの二人組も袋小路へとやってくる。
完全に追い込まれる形となってしまった。


「これ以上、逃げ場は無いようだな」

むつみ「……」

体格からすると人間の男だろうか。
ボイスチェンジャーで加工されたような無機質な音声が、殊更威圧感を強める。
顔の半分を覆う仮面によってその表情は読み取れないが、むつみは彼らから発せられるひりつくような敵意を肌で感じ取った。

「目撃者は消すよう厳命されていてな……」

黒装束の一人が懐から拳銃を取り出し、その銃口をむつみへと向ける。



むつみ「カースならともかく、人を相手に戦うなんて……」

クォーツ『この状況では悠長なことを言ってもおれまい』

初めて人間と対することになったむつみが怖気づくのも無理からぬことだが、クォーツの言う通り戦わない訳にはいかない状況である。

クォーツ『いいか、人間相手ならそれ相応の戦い方がある』

そこで、いつものようにクォーツのレクチャーが始まった。


クォーツ『この状況下においては、お前のその容姿が大きなアドバンテージとなるだろう』

むつみ「どういうことですか?」

クォーツ『カース相手ではそうはいかないだろうが、奴らは人間だ』

クォーツ『お前が年端もいかない小娘だということで油断している』

クォーツ『出会ってすぐに逃走したことも相手の油断を誘えたな』

クォーツ『そこを逆手に取るのだ』

むつみ「な、なるほど……ちょっと複雑な心境ですけど……」

クォーツ『銃を持った方の動きに注目しておけ、気の流れと筋肉の動きを見極めろ、奴の発砲と同時に攻撃に移る』
507 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:22:52.14 ID:LkNOvbtJ0

むつみ「(今だっ!)」

むつみは自分を狙う拳銃の、その引き金に掛かった指が僅かに動いたのを視認すると、瞬時に射線軸より身体をずらした。
直後、乾いた発砲音と同時に、弾丸の様に駆け出す。


むつみ「これは正当防衛ですよ!」

背に下げた鞘から忍刀を引き抜きつつ、拳銃を持った方の腹部を柄頭で打ち抜く。

「ぐ……が……っ」

想定し得ない一撃を受けた黒装束の一人は拳銃を取り落とすと前のめりに倒れこみ、そのまま動かなくなった。


むつみ「(刃を当てるわけにはいかない……峰打ちでっ!)」

むつみは勢いそのまま、もう一人の黒装束を直刀の棟で打ち据える。

むつみ「(っ!? 躱された!?)」

だが、その剣閃は空を切るばかりだった。

相手はむつみの攻撃が届く直前に、後ろ飛びで距離を取っていた。
突如として攻勢に出たむつみの動きに動じることなく即座に対応したところを見るに、戦闘慣れした手練れであろうことが推測できる。



「小娘が、ふざけやがって……!」

黒装束は反撃に転じることなく、腕に装着された端末を何やら操作している。

「現れ出でよ……ッ!! フレアブラアアァァアスッッ!!!」

むつみ「うわっまぶしっ」

そして、何事かを叫ぶと、薄暗い通路が閃光に包まれた。



目を眩ます程の光が晴れると、むつみの眼前には小部屋の天井までを覆うほどの体躯を誇る巨大な生物が立ち塞がっていた。

むつみ「えぇっ!?」

その形貌を認めたむつみの顔が驚愕に染まる。


むつみ「な、何……あれ……っ!?」

地球上に存在するどの生物とも似つかないものであったためだ。



全身は赤銅色の鱗状の物体で覆われ、二本の脚で直立し、背部からはコウモリの羽を太くごつくしたような二対の翼が生えている。
上半身から伸びる腕部の先端には土木作業用のツルハシと見紛うほどの凶悪な鉤爪が生え揃っており、頭部から僅かに覗く牙も大きく鋭利だ。


その姿はまるで──


むつみ「ドラゴン……?」

おとぎ話の中の、怪物そのものだった。
508 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:24:44.12 ID:LkNOvbtJ0

クォーツ『今のは……空間転移? いや、事象再現か』

クォーツ『ふむ……なかなかどうして、面白い技術を持っているじゃないか』

またもクォーツは、自己完結しつつ喜んでいる。

むつみ「感心してないで! どうしたらいいですか!?」


クォーツ『あれは、一般的にドラゴン──竜族と呼ばれる生物だな』

クォーツ『先ほどあの男は、フレアブラスと呼んでいたか』

むつみ「ふ、フレアブラスって?」

クォーツ『そうか、一般人だったむつみには見慣れないものか……』


クォーツ『炎のフレアブラス──』

クォーツ『魔界の竜族の中で、雷のテラソーギグ・氷のブリザイアと合わせ、御三家だとか、あるいは三竜だとか呼ばれている種類だ』

むつみ「ま、魔界の竜族……!?」

クォーツ『あー……今はそれは置いておくべきだ、後で説明してやる』



むつみにとっては想像上の存在であるドラゴン──。
それこそ空想物の冒険小説などではよく目にする存在ではあるが、
それが自身の眼前に立ちはだかっているという現実は、容易に受け入れ難いものだった。
だが、相変わらず落ち着き払ったクォーツの様子からすると、驚愕するほどの事ではないらしい。

むつみ「(でも、ドラゴンていったら、大抵はもの凄く強いやつじゃないですか!)」

むつみは改めて、己が非日常の中に置かれているのだと痛感する。



クォーツ『なんにせよ、あれは所詮事象再現によって生み出された紛い物の劣化コピーに過ぎん』

クォーツ『その能力も、本物の竜族には比べるべくも無いものだ』

クォーツ『戦って倒せぬ相手ではない』

むつみ「ほ……本当に?」

そんなむつみの様子を余所に、クォーツは事も無げに言い放つ。
ともすれば、今まで戦ってきたカースなどの存在と同じく、目の前のドラゴンも倒すことが出来るのではないかと、むつみにそう思わせるだけの貫禄があった。


むつみ「どっちみち、戦わずに済ますことは出来ない……ですもんね!」

意を決したむつみは、眼前のファンタジー世界から飛び出したかのような怪物を見据え忍刀を構えた。
509 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:27:29.54 ID:LkNOvbtJ0

クォーツ『っ! まずい! 一旦身を隠せ!』

むつみ「えっ!?」

ドラゴンと戦う覚悟を決めたむつみは今にも飛び掛からんとしていたが、突然のクォーツの言葉に気勢を殺がれる。
何事かと攻撃を取りやめ様子を伺うと、ドラゴンの口元のあたりが陽炎のように揺らめいているのが見て取れた。


むつみ「(相手は炎のドラゴン……ということは……まさか)」

むつみが逡巡していると、ドラゴンがやおら口を開きつつ大きく息を吸い込むような動作を見せた。

クォーツ『早く隠れろ!!』

クォーツの怒声に慌てて隠れ場所を探す。
だがその直後──むつみが危惧した通りだったが──灼熱の火炎がドラゴンから放たれた。


むつみ「あっ! あつっ!! これじゃ、近寄れないです!!」

既の所で部屋の中央に立っていた柱の裏に逃げ込むが、凄まじい熱量に挟まれ、身動きもままならない。
攻撃するにせよ逃げるにせよ、敵の眼前に姿を晒すことは不可能だ。

クォーツ『落ち着け、敵の火炎とて無制限に吐き続けられるわけではない』

クォーツ『途切れたところを反撃だ』


クォーツの言葉通り、数秒後に炎が弱まり、止んだ。
むつみはすぐさま柱から飛び出すと、ドラゴンの足を斬りつけるが──。

むつみ「か……硬い……っ!」

ワニ革を何十倍にも分厚くしたような表皮の上に、さらに硬度のある鱗が備わっている。
刃は受け流されてしまい、何度も切りつけるが傷を付けることすらままならない。

ドラゴンの方は全く動じることなく、むつみを矮小な存在と認めると、目線だけを動かし睨みつける。
そして、思い切り腕を振り上げると、力任せに叩きつけた。
大ぶりな動作のため避けるのは容易だが、その衝撃は地下空間を大きく揺らし、コンクリート製の床から小部屋全体に亀裂が走った。



むつみ「どうしましょう……攻撃が効かないです」

むつみは再度の火炎放射に備えいったん距離を取るとクォーツに相談する。


むつみ「セクシーカモフラージュの武器なら、効果はありますかね?」

クォーツ『いや……先ほどのお前の斬撃の威力と、あれの防御力とを分析したが──』

クォーツ『仮にセクシーカモフラージュの武装を用いても、あれに有効打を与えることは困難だろう』

むつみ「そんな……じゃあ、一体どうすれば!」

クォーツ『(むつみの実力からすると……現状では奴の相手は荷が重いか)』
510 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:31:46.81 ID:LkNOvbtJ0

クォーツ『…………仕方がない』

むつみ「え……?」

重苦しく、苦々しげに絞り出したクォーツの呟きをむつみは聞き逃さなかった。


クォーツ『おいそれと使うべきではない技だが……この際仕方がない』

クォーツはそのまま言葉を続ける。


クォーツ『いいかむつみよ、これから私の力の一端をお前に授ける』

クォーツ『ステージ衣装再現などではない、"私の力"の一端だ』 

クォーツ『それを用いて、あのドラゴンを仕留めるぞ』

むつみ「……は、はい!」

ただならぬクォーツの様子に、むつみは気圧され気味に頷いた。
直後、脳内にステージ衣装を再現する際の様に、イメージが流れ込んでくる。



むつみ「(事象の消滅……因果律の消去……?)」

むつみ「クォーツ、これって……」

クォーツ『今は言う通りにしろ!』

むつみ「わ、わかりました!」

頭をよぎるイメージについて訝しんだむつみは、"力"について問いかけるも、クォーツは有無を言わせない。
むつみは意を決してドラゴンを見据えると、目を閉じ精神を集中させる。



むつみ「汝、憫然たる現世の迷い子よ……」

むつみが脳内に流れ込む言葉を紡ぐと、突如としてクォーツの内奥でなにがしかのエネルギーが渦巻くのを感じ取った。


むつみ「冥き虚無の闇を以って、其に久遠の安寧を齎さん……」

小さな石ころ然としたクォーツには似つかわしくないその膨大なエネルギーは、まるで脈動するかのように膨張と収縮を繰り返している。


むつみ「リヴァートゥザヴォイド!」

かっと目を見開き、そして"トリガー"となる言葉を発した瞬間、それは一気に放出された。


先ほどドラゴンが現れた時とは対照的に、光の届かない宇宙空間を思わせる漆黒がクォーツから迸る。
それは、力を向けた対象であるドラゴンも、力を行使したむつみさえも巻き込むと、小部屋全体に広がっていく。
511 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:33:21.32 ID:LkNOvbtJ0

──────────────────────────────────────────


むつみ「なに……これ……」

むつみ「何も見えない……暗い……?」

今やむつみの周囲は、黒一色で覆われていた。
だが、暗いという表現は適当ではなかった。


むつみ「声に出しているはずなのに……耳も聞こえない?」

視覚をはじめ、聴覚や五体の触覚といった、外界の情報を得るための器官の感覚が、全て消失している。


むつみ「ど、どうなっちゃったの……?」

むつみ「……このまま戻らなかったり、なんてこと……ないよね?」

ともすれば、"意識"だけが存在しているような感覚に、むつみは強い焦燥感に覚える。
512 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:36:23.50 ID:LkNOvbtJ0

───────────────

────────

───


むつみ「はっ!?」

気が付くと周囲の"黒"は引き、元の小部屋が視界に戻ってきた。

時間の流れが変わっていたのか、むつみの体感では黒い空間にいたのはとても長く──ともすれば、永遠にも感じられるほどだった。
しかし実際には一秒も経っていない。

直前まで対峙していたドラゴンの姿はどこにも見えない。


むつみ「(ドラゴンは……クォーツの"力"で、やっつけた……?)」

クォーツ『むつみ! 今だ!』

むつみ「っ! ……はい!」

些か混乱をきたしていたむつみは、クォーツの声で我を取り戻す。


「今のは魔術か!? 貴様は一体……っ!?」

虎の子のドラゴンを失い、狼狽する黒装束を見据えると、一気に駆け出す。

「くそっ!」

想定外の事態に反応が遅れた黒装束は、懐から短剣を取り出す。
だが、その時にはすでに眼前にむつみの刀が迫っていた。



むつみ「はぁっ!!」

「ぐはっ……」

峰打ちとはいえ強かに忍刀に打ち据えられた黒装束は、一人目と同じように動かなくなった。
だが、息はあるようだ。

むつみ「ふぅ……」

むつみは残心を解くと、大きく息をついた。
初めて人間と対峙したが、カースを相手取るよりよほどやりづらいと感じられる。


むつみ「出来れば、乱暴は避けたいですけど……」

むつみ「でも、先に手を出したのはそっちですからね」

むつみは倒れ伏す二人組に、言い開きをするように声を掛ける。


非日常に巻き込まれ、これまで何度か戦闘も経験しているとはいえ、
むつみの本質は同世代と比較しても大人しい方に分類される少女のそれである。
他人に対して暴力を振るうことに抵抗が無いわけがなかった。

だが、よく読む冒険小説の展開を鑑みてか、自身に敵対的な存在に対する武力行使を躊躇わない丹力も持ち合わせていた。
その結果、今回の二人組との戦闘も制することが出来たということになる。
513 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:41:11.82 ID:LkNOvbtJ0

クォーツ『なんとか切り抜けたな』

むつみ「はい」

むつみが落ち着いた頃を見計らって、クォーツが声を掛ける。


クォーツ『私をその二人に近づけるんだ』

クォーツ『姿を見られたからな……記憶操作をしておく』

むつみ「そんなことも出来るんですか」

むつみ自身は知る由も無いことだが、むつみも初めてクォーツと出会った時に、その記憶を覗かれている。
どうやらクォーツには、人の記憶をどうこうする能力も備わっているらしい。


クォーツ『ここでの戦闘自体を無かったことには出来んが──』

クォーツ『うまくすれば先ほど逃げ去った人物の仕業──と思わせることも出来るかもしれん』

むつみ「それって、濡れ衣……」

クォーツ『濡れ衣ではないぞ? 私が行うのは、この二人から我々の記憶を抜き取るだけだからな』

クォーツ『ルナールの連中がどう事後処理をするかについては、私の与り知るところではない』

むつみ「そ、そうですか……」

当初の目標は誰にも見つからず、戦闘も避けるということだったが、
差し当たりこの二人組さえなんとかすればまだむつみ達の存在が知れることは無い。



クォーツ『ついでに、この者達の使っていた端末も調べてみようか』

そう言うと、黒装束が腕に嵌めていたウェアラブルコンピュータから白い光が浮き上がり、クォーツに吸い込まれた。

クォーツ『これは……ほう、「魔族再現プロトコル」とは……大層な』

クォーツ『役に立つかもしれん、頂いておこう』



クォーツ『さて、時間を食った』

クォーツは黒装束から得られた情報をひとしきり分析すると、改めて切り出した。

クォーツ『幸いアストラルクォーツはすぐそこだ、急ごう』

むつみ「わかりました」

むつみもそれに応え、再び歩き始める。
514 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:46:16.09 ID:LkNOvbtJ0

むつみ「ところで、どうやってアストラルクォーツの場所を調べているんですか?」

アストラルクォーツまでの最後の道のりを進むなかで、むつみはふと思いついた疑問をぶつける。
迷路という表現では生易しい、迷宮のようなネオトーキョーの地下空間を、迷うことなく進んできたためだった。


クォーツ『アクティベート──活性化した状態のアストラルクォーツは、特徴的なエネルギーを放出していてな』

クォーツ『それを検出し、辿っているのだ』


クォーツ『前にも見ただろうが、不活性状態のアストラルクォーツはただの透明な石で、活性化したものは輝く性質がある』

むつみ「なるほど……」

原理は分からないが、とにかくそういうものなのだろう──と、むつみは納得する。


クォーツ『ほら、見えたぞ……あれだ』

クォーツの言葉通り、むつみの視界の先には、宙に浮く輝く水晶体──アストラルクォーツがあった。



むつみ「やっとたどり着きましたね……」

ため息交じりにむつみが呟く。
アストラルクォーツの元にたどり着くまで、ネオトーキョーに上陸してからおよそ2時間が経過していた。


クォーツ『何はともあれ、これで目的達成だ、情報を回収して引き上げよう』

以前自宅で見た時の様に──あるいは先ほどの黒装束の端末の時の様に、アストラルクォーツから光が飛び出し、むつみの首物にあるペンダント状になったクォーツへと吸い込まれた。

するとその直後、むつみは足元が「ぐにゃり」と、変形したような錯覚に陥った。
思わずバランスを崩し倒れこんでしまう。


むつみ「えっ!? 何が起こってるんですか!?」

混乱を来たしたむつみはクォーツに問いかける。

クォーツ『どうしたことだ……突然周囲の空間値が……異常値だぞこれは!!』 

何が起こっているのかは分からないが、その様子からするとどうやらクォーツにとっても想定外の事態らしい。



クォーツ『そうか……この地下空間は、エネルギーのわずかな均衡を保って、非常に危うい状態で形作られていた』

クォーツ『アストラルクォーツの情報を回収した際にそのエネルギーの均衡が破られ……このようなことが……っ!』

むつみ「目……目が回って……来ました」

いまや空間全体が渦を巻くかのように蠕動している。


クォーツ『むつみ、取り合えず何かに捕まるんだ』

クォーツ『こうなっては空間が安定するのを待つほか無い』

むつみ「わ、わかりました……けど……気持ち悪い……っ」

むつみは目を固く閉じ、海上で激しく波に揺られる小型船舶に乗っているような感覚に必死で耐える。
次第に揺れは大きくなり、天地が逆さになったかのような感覚に見舞われる。

むつみ「うぅ……早く……収まって……!」
515 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:47:16.40 ID:LkNOvbtJ0

むつみ「あれ……収まった……?」

数分間はそうしていただろうか、ふと気が付くと、感じていた揺れのようなものは収まっていた。
むつみは恐る恐る目を開ける。


むつみ「え……?」

むつみ「ここ……どこですか……?」

するとその視界には、つい今しがた立っていた空間とは似つかない光景が飛び込んできた。


陽光が届かない場所であるという点はネオトーキョーの地下と変わらない。
だが、その天井がやたらと高い。
目測で数百メートルはありそうだ。

むつみ「なんか……やたらと広い場所……ですけど」

さらに横方向の空間も地下通路とは言えないほど広がっている。
周囲を見渡しても、壁が見えないのだ。
516 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:49:27.04 ID:LkNOvbtJ0

クォーツ『ここは……周囲の光景から推察するに、おそらく「アンダーワールド」だな』

この空間にやってきてしばらく沈黙を貫いていたクォーツだったが、ようやく口を利いた。

むつみ「アンダーワールド?」

もはや慣例だが、クォーツの発する耳慣れない単語にむつみが聞き返す。


クォーツ『地球人──ここでは"地上人"と呼ぶべきか』

クォーツ『地上人が暮らしている地表の地下深くに築かれた──地表の対比として、地底人と呼ぼうか』

クォーツ『その地底人の都市──いや、国家だな』

むつみ「地下深くって……冒険小説なんかで、地球空洞説なんてのは見たことがありますけど……まさか……」


クォーツ『つい先日までただの一般人であったむつみが知らぬのも無理は無い』

クォーツ『先ほどの"魔界のドラゴン"もそうだが、この地球という星は普段お前たちが暮らしている地表以外にも、様々な空間を内包している』

クォーツ『おおよそ大半の地球人は、その事実を知らないのだ』

むつみ「地底世界に……魔界……」

クォーツの説明を聞いても未だに理解の及ばない規模の話だ。
クォーツがやってきた外宇宙の話も大概ではあったが、現在むつみが暮らす地球にも、まだまだ多くの未知が存在しているらしい。



クォーツ『とりあえず、地上に戻る手だてを探る必要があるな』

クォーツ『想定外の事態ではあるが、文明が存在する場所だ』

クォーツ『まあ、なんとかなるだろう』

クォーツからは時折楽観的とも思える言葉が出るが、その実、彼の中に蓄積された膨大な情報を現況と照らし合わせ、精査したうえでの発言になる。
事実、むつみに行動指針を示すにあたっても、今までそれで問題なくやってこられたのだ。

むつみ「そうですね、ここで立ち尽くしているわけにもいかないですから」

そしてむつみの意識の切り替えも早かった。
こういった点において、確実に成長が伺える。



むつみ「とりあえず、人を探してみますか」

クォーツ『そうだな、早々に地上に戻れるよう願おう』

二人は脱出手段を求め、未知の地底世界へ歩みを進めるのだった。
517 :@設定 ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:51:48.29 ID:LkNOvbtJ0

※クォーツの力 "無"属性攻撃

なんか怪しいモヤモヤや光線などを発して、それの対象となった物を消滅させる技。
その現象の正体は「事象の崩壊」──宇宙の法則に干渉して因果を書き換え、対象を「何も無い状態」にするというもの。
実際に行使するのはむつみだが、クォーツの持つ力の一部が発現した物であり、彼が宇宙を旅する中で気の遠くなるような時間をかけて編み出した技だったりする。
発動の際にはクォーツに蓄えられたエネルギー(カースを狩った時に放出されるエネルギーを集めている)を大量に消費するため安易に連発することは出来ない。

ちなみに、発動前に詠唱っぽいものが必要なのは、セーフティ解除用の音声認証システムを通すため。
魔術と似ているが特に関係は無い。

むつみ「あの……"詠唱"がなんかやたらと禍々しいんですけど」

クォーツ『……気のせいだ』
518 : ◆lhyaSqoHV6 [sagasage]:2018/11/08(木) 06:53:28.00 ID:LkNOvbtJ0
終わりです
さあナタを地上に連れ出す準備を始めよう


名前は出てないけど亜子お借りました
519 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2018/11/08(木) 22:23:18.74 ID:k/fvSBCY0
おつかれさまでして!
どちらの作品も読み応えがありましたね

ミサトとメグミの出会い編は壮大過ぎるスケールの西部劇…というか破壊力が尋常じゃねぇぜ!
むつみちゃんはまさかのネオトーキョー潜入から地下世界行きという大冒険…なかなか女の子一人で経験することじゃないですな!
まルナール社の技術力も物凄いし不穏しか感じないぜー!…竜族のコピー作成かぁ…解き放たれたら大惨事やろなぁ…
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/14(水) 02:57:37.29 ID:gcw/fb2eo
おつおつ
521 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2018/11/20(火) 04:06:24.07 ID:RuS2Oh8G0
お久しぶりです。続きかけましたので、投稿します。

憤怒の街(事件後)編です。
落ち着いてはいるから、もう何本かは投稿したいなぁ
522 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/11/20(火) 04:12:27.77 ID:RuS2Oh8G0
時は、シンデレラ1との交信を終えた辺り。

「・・・・・・司令官殿、よろしいので?」

憤怒の街の外れのGDFの施設の一室にて、傭兵の男が司令官と呼ばれた男に話しかけた。

「いいも何も、好都合だ。
 確かにシュガーハートは強い。元はGDFの英雄とも言われた奴だからな。
 だがな・・・・・・」

椅子に座っていた司令官は口元をニヤリとさせた。

「シンデレラ1だって負けちゃいない
 あれは対カース用の目的で作られたサイボーグ兵士だ
 通常のGDFの一般兵はおろか、エリート兵士だって、あいつらの比較にはならん」

司令官は机に置かれているティーカップを手に取り、中に入っていたコーヒーをすすった。

「何より奴らのスペックは私も知っている。私も一連のGDFの研究には関わっていたからな。
 奴らは一般兵士では何人がかりでも扱うはおろか、持つことも難しい重量の兵器も軽々使いこなすし、
 装備次第では戦車の砲弾を受けたって平気だ。それが3体もいる。
 ・・・・・・一方、シュガーハートは生身。
 いくらGDFの英雄様といえど、これでは3機の戦車に単身で突っ込むようなもんさ」

「だが、仮にも英雄様なんでしょ? もし切り抜けられたらどうするんです?
 それに状況次第では、そのシンデレラ1とも戦わなきゃならんことにはならないんです?」

「ああ、シンデレラ1については問題ない。 奴らが絶対に逆らえない秘策は知っているからな。
 まあ、もしシンデレラ1が負けるようなことがあるとするならばだが、その時はお前らに頑張ってもらう。
 コラプテットビークルを利用して、疲弊したシュガーハートを叩きのめしてやってくれ」

「・・・・・・まあ、シンデレラ1が来なきゃ、奴らを消すのは俺たちの役目ですし、了解しやした。
 んじゃ、ちょっと行ってきますわ、司令官殿」

そういって、傭兵の男は去って行った。

「・・・・・・大体、シュガーハートの功績など、本当のものなのかなんてわからんからな。
 『数百万のカースの大群を一人で倒した』だの『奴の武器だけ2世紀先をいっている』など、誰が信じるものか。
 ましてや、『GDFのために天から舞い降りた英雄なのだ』とか言っている奴など、頭がおかしくなったとしか思えん」

ぽつりとつぶやいたその噂は、傭兵の耳には届かなかった。
523 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/11/20(火) 04:15:20.00 ID:RuS2Oh8G0
そして、時は進み―――

「お、いたいた
 写真の女と似てる・・・・・・あれがシュガーハートか
 ・・・・・・ただのコスプレ好きな、どキツイ女にしか見えんな。あんなもんがGDFの英雄かよ」

彼は双眼鏡で、シュガーハートが乗っている車を発見した。

今のところ見えるのは、車を運転している男とシュガーハートのみだ。

「って、話には聞いていたが、あの森を通過してんのかよ
 あれ、認識阻害装置とか以外にも、思考を操作して、この場所を通りたくなくなるようにする装置も設置してたんだけどな。
 あれ、高かったんだぞ、くそっ」

そしてその進路先には、コラプテットビークルと化した戦車。

「ははっ、英雄ってもんは案外あっけなく死んでしまうもんだ
 砲弾に撃たれて死に―――!?」

その戦車が突然大きな音を立ててひしゃげた。

周囲に土煙が上がり、その煙が晴れたところから、1人の大男と外国人の女性が現れた。

「な、なんだあの大男!?
 一体どこから・・・・・・まさか空から!?」

そうして空を見上げると、英国GDFのエンブレムがついた輸送機が飛んでいるのが見えた。

「ま、まさか英国GDFも来るとはな・・・・・・
 だが、あの森には認識妨害装置が設置してある。
 落ちてきた奴らはともかく、空の奴らにはあの森は見えていない。」

となれば、作戦は変わらない。

「落ちてきた大男の対処は大変だが、奴らを消せば、憤怒の街の秘密は守られる
 そうすれば、司令官殿が大儲けして、俺もそのおこぼれに預かれる」

シュガーハートを乗せた車は一旦停止し、中から少女と女性2人―――あれも子供だろうか―――が現れた。

「あの2人は見るからに弱そうだ。いざとなればあいつらを人質にすりゃあいいか。
 ―――にしても、研究者風に、魔法少女風に、・・・・・・なんか全身黒い奴。
 こいつら、一体憤怒の街に何しにきたんだ?」

そして、空から落ちてきた英国GDFの女性と大男を乗せて、車が再発進する。

「まあいいか。どうせ奴らも消すんだ。理由なんかいらん。
 それに―――そろそろ"お姫様"も到着するようだしな。」

双眼鏡から目を離した傭兵の視線の先には、1機の大型輸送機が飛んでいた。

―――そして時は、ユウキ達が目的地に到着するまで進む。
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/20(火) 04:19:55.83 ID:RuS2Oh8G0
ドアを開け、あたりを見回すと・・・・・・多少、荒れ果ててはいますが、
普通のごく一般的な家庭の玄関でした。

「・・・・・・よし、ここで間違いなさそうですっ」

「何で知ってるの?」

「依頼主さんから、家の特徴を聞いていますからっ」

そのまま家に上がり、中へと入ろうとした時・・・・・・

「・・・・・・」

チカちゃんがふらふらと歩きだしていきました。

そしてそのまま2階へと・・・・・・

「チカちゃん?」

「凛さん、行きましょう」

「あ、うん・・・・・・」

私達は後を追うように2階へと上がっていきました。

そして、そのうちの一つの部屋にチカちゃんが入り、私達も続いて入りました。

内装はボロボロ。棚も倒れて、まるで地震にあったかのようでした。

「これは・・・またひどくやられちゃってるね・・・」

そういって、凛さんは倒れた棚の中を覗きこみますが・・・

「・・・? 中身がない?」

そう呟き、怪訝そうな顔をしました。

「・・・・・・そこはチカのおうちだよ」
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/20(火) 04:20:28.00 ID:RuS2Oh8G0
「おうち・・・? どういうこと?」

「凛さん、チカちゃんがカースだっていうことは知ってますよね?」

「? そうだけど・・・」

「そして、カースはさっき見たコラプテットビークルみたいに、カースは物に取りつくこともあるようですっ」

「・・・なるほど。
 そして、この棚が家だったっていうことを考えると・・・チカちゃんは元は人形だったんだ」

「そういうことですっ
 そして、私が手紙を届けるときには、ほとんどの場合で家にお届けしますっ」

私はバッグから手紙を取り出し、チカちゃんに差し出す。

「はいっ、お手紙ですっ!」

チカちゃんは手紙を受け取ると、早速封を切って読み出しました。
526 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/11/20(火) 04:22:10.99 ID:RuS2Oh8G0
しまった・・・・・・>>524>>525は僕です。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―――ラブリーチカちゃんへ

初めまして。
君は私のことを全く知らないかもしれないけれど、私は君のことをよく知っている。
だって、私はテレビでラブリーチカちゃんの活躍をよく見ていたから。

初めて君の姿を見たのは、私が小さい頃だった。
当時、学校でいじめられていた私は、ある日の朝のテレビで君の姿を見た。
君の体よりも何倍にも大きい敵に対して、勇敢に戦っていた姿は、私に勇気をくれた。
そのあと、いじめっ子のリーダーに歯向かって、まあ、結果的には返り討ちに会ったけども、それ以来いじめられることはなくなった。
それから毎週、テレビで君の姿を見るたびに、私はテレビの前で応援し続けた。
時にやられそうになりながらも、友達のために、地球のために戦う姿は、大人になったときであっても、印象強く覚えている。

だけど、そんなラブリーチカちゃんに対して、1つだけ可哀そうに思ったことがある。
それは、一緒に戦ってくれる仲間がいなかったことであった。
君の体よりも何倍にも大きい敵に対して、勇敢に戦っていた時も、
一度は負けて、厳しい修行をした時も、
最後の敵に対して、満身創痍になりながらも打ち勝った時も、
そばで応援してくれたり、手助けしてくれる仲間はいても、戦っているのはラブリーチカちゃん1人だけだった。

今も君は1人で戦っているのだろうか?
この世界には、君みたいに強大な敵に対して勇敢に戦うヒーローがたくさんいる。
そしてきっと、君と一緒に戦ってくれる仲間もいるはずだ。
そんな仲間を探してほしい。
そのほうが―――きっと、寂しくないから。

この世界に生まれ落ちた君に、幸あらんことを。

ラブリーチカのファンの1人より―――
527 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/11/20(火) 04:23:28.39 ID:RuS2Oh8G0
「・・・・・・うん、きっと仲間を作るよ。
 そしたら、みんなと一緒に会いに行くからね・・・・・・!」

手紙を読んだチカちゃんは、目に涙を浮かべていました。

「・・・ラブリーチカって、架空のキャラクターだよね?
 それなのになんでこの人はいると思って書いているんだろう・・・?」

「病室で治療を受けていた時、憤怒の街でさまよっているチカちゃんの夢を見たんだそうです。
 それで、ラブリーチカちゃんがいると思ったんだそうで・・・」

「そんな理由で・・・? 変だよ、それ・・・。」

そう言った凛さんに、私は微笑みで返すと、チカちゃんに目線を合わせるためにしゃがみました。

「チカちゃん、手紙を読んでどうでしたか?」

「・・・あたし、ずっと1人ボッチだと思ってた。
 でも、私は知らないけど、ちゃんと私を応援してくれている人がいて、それに気づかせてくれた人がいて・・・グスッ、
 あ、あたし、1人ボッチじゃないんだなって・・・!」

そしてチカちゃんはわんわんと、泣き出してしまいました。

凛さんと私は、泣き止むまでずっと見守りました。
528 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/11/20(火) 04:32:29.41 ID:RuS2Oh8G0
「あなた達ですね? 勝手に憤怒の街に入った兵士っていうのは」

ヘリから降りてきた少女3人に、心達は銃を突きつけられていた。

「おいおい、待ちなって♪
 いきなり銃を突きつけられても、はぁと、困っちゃうぞ、おい☆」

「とぼけたって無駄ですからね!
 あなた達を探すために、憤怒の街を端から端まで探したんですからね!」

「そりゃあ、ご苦労さん♪
その途中であちらの方に森が出来てたのを見かけなかったか?」

銃を突きつけた少女達は顔を見合わせる。
そして、ヘリに乗っていた男に視線を向ける。

「・・・そんなもの見たことがないな。この一帯は草木一本も生えない廃墟になったと聞いている」

「そうですよ!第一そんな平和そうな所、あったらここからでも分かりますよ!」

「でまかせを言って、こちらの気を紛らわせようたって、そうは行きませんからね!」

「あんまり変な事を言ってると、撃ちますよ!」

そうして銃を構え直す3人。

「・・・そっか。あんた達は部外者ってことか」

心の後ろにいるポストマンとケイトが身構える。黒い人型のカースは腕を組んで相手を見据えていた。

「いや、いい。はぁとがやる。」

その彼らを、心は手で制し、前に出る。

「というより、こいつらははぁとが相手をしてやらないといけないようだしな☆」

「・・・どういうことだ?」

ヘリに乗っていた男が訝しそうに訊ね返した。

「強化兵計画」

「!?」

その一言に反応した4人。
しかし、心は話を続ける。
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2018/11/20(火) 04:35:39.57 ID:RuS2Oh8G0
「GDFによる、兵士の強化計画。来るべきカース、能力者との戦いに備え、様々な面からの強化を加え、最強の強化兵士軍団を作るための計画。それだけでなく、大罪の悪魔や未知の勢力、更にはアイドルヒーロー達や天使とかいう奴等も想定に入れていると聞いた事がある。」

心は話を続ける。

「そしてその方策には様々なアプローチが考えられた。単純に既存の兵器を強化する。特殊なアーマーを作り、それ専用の兵装を開発する。搭乗できるロボットを作る計画もあったか?あれはあんまり芳しくは無かったようだけどな♪
だが、その計画は制限が無くてな。わざわざGDFとは無関係の組織を作って、人体改造もやってたし、挙げ句の果てには人体にカースの結晶を埋め込んだりした。」

「お前・・・何を知っている?」

「まあ、慌てるなよ♪ せっかちさんは嫌われるぞ☆」

尚も心は話を続ける。

「恐らくあんた達はその計画の1つ、『シンデレラ計画』で生まれた強化兵士。一般の兵士では運用の難しい兵器群を扱うために、強化の容易な子供、それも少女を人体改造し、その兵器を運用していく。基本的には4人1組の部隊として運用され、世界各地の対カースの前線に投入される予定だったが、素体を少女に限っていた事や身寄りの無く、死にかけの者に限定していた事が仇になり、非人道的な計画でもあった事で、3人目が作られた時点で廃止になった。」

と、ひとしきり言い切ったところで、心はニッと笑う。

「とまあ、これだけ話すと恐ろしく感じるけど・・・・・結構、可愛いじゃんよ☆」
530 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/11/20(火) 04:38:20.43 ID:RuS2Oh8G0
>>529 は私です・・・またやってしまった・・・
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「おいおいシュガーハート、そんな事言ってる場合かよ」

「デモ、確かにあの子達はキュートネ。1人はパッションってカンジだケド。」

「パッション?何の話だ?」

ケイトの発言にポストマンは首をかしげる。
そして、片手にマイクを持ったような仕草をして、

「そんなシンデレラ1にアタックチャーンスっ! 何故GDFはそんな非人道的な事までして、強化兵計画を推し進めたのか?先ずは・・・そこのさっき平和そうな所とか言ってた子から!」

ずびっ!と指を指し、シンデレラ1の1人を指名した。

突然指名されたシンデレラ1の1人、有浦柑奈はテンション高めにーーー

「それはズバリ、ラブアンドピース!!」

「はぁっ!?」

思いもしなかった回答に思わず驚いた心。

「この世界に足りないのは愛と平和!全ての生きる者が愛を知れば、世界は平和になります!」

「いや、そんな事宣う奴が、なんで銃向けて来るんだよ?」

思わずポストマンがツッコむ。

「簡単ですよぅ!世界の平和を乱す悪くて愛の無い奴等を全員ぶっ飛ばせば世界は平和にげふぅっ!?」

隣にいたシンデレラ1の1人、五十嵐響子が柑奈の鳩尾にアッパーブローを食らわせた。
それを食らった柑奈の体は浮き上がり、地面に背中から倒れこむ。

「・・・・・・」

唖然とする、心一行。
531 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/11/20(火) 04:40:12.99 ID:RuS2Oh8G0
「あっ、ごめんなさい。ちょっと不適切な発言が聞こえちゃいましたので。今の話、続けてください。」

殴った右手の握りこぶしそのままに、笑顔で促す響子。こぶしからは煙が出ているような気がした。

「タイム、ターイム。作戦ターイム」

心は急いで戻り、3人と1体で円陣を組む。

「おい、やべーよ☆
シンデレラ1があんなにやべー奴等だとは思わなかったぞ、おい☆」

「うむ、今のアッパーブロー、中々良い筋してたぞ?」

「関心してんじゃねぇよ♪
あいつら、ほんと、やばくね?」

「やばいケド、今の話の続きしないと撃ってくるわヨ?」

「あのー、まだですか? 早くしないと撃ちますよ?」

「ほら呼んでるぞ、シュガーハート。
俺達を制止した以上は、お前が相手しろよ、シュガーハート。」

「うぇぇ・・・少しは労われよ、おい☆」

そう言って、トボトボと戻っていく心。

んんっ!と咳払いをすると、今度はサイドテールの子に指を指した。

「ま、まぁ、さっきのは置いといて、次はそこのサイドテールの子、どうよ?」
532 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/11/20(火) 04:45:10.57 ID:RuS2Oh8G0
「わかりません!!」

「うぇぇっ!?」

きっぱり言われて、今度は違う意味で驚く心。

「いや・・・気にならんの? あんたらができた意味とか?」

「それは気にならないといえば嘘になりますけど・・・私達はそもそもその計画が無ければ死んでいましたし・・・
 記憶がないのは不便ですけど、今こうして生きているのはその計画のおかげなんです」

「だからGDFには感謝してるし、その後も良くしてくれてるから、今更何言われたって失望したりなんてしませんよ」

その言葉に、ヘリを操縦していた兵士は「そうか・・・そんな風に思ってくれてたんだな・・・」と呟いた。

「・・・散々、非人道的行為を繰り返した強化兵計画も、負の一面ばかりじゃなかったってわけだな」

「まあ、こいつらにとっては結果オーライってことで、この話もする必要はないんじゃねぇかな☆」

「いや、ちょっと待ってくれ」

心とポストマンが言うのをやめようとしたが、ヘリを操縦していた兵士が待ったをかける。

「その話―――美羽と響子がよければなんだが、聞かせてくれ」

そういって、美羽と響子を見ると、二人はうなずく。

「そっか。じゃあ、聞かせてやるよ♪
 ・・・そもそも『強化兵計画』っていうのは―――GDFによる、『英雄複製計画』であり、

 かつての私や今のケイトのような、”GDFの英雄”を作り出すための計画だ。」
533 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/11/20(火) 04:45:49.26 ID:RuS2Oh8G0
チカちゃんに手紙を渡し、チカちゃんが泣き止むまで待つことにしたユウキ達。

そんな様子を、遠くから望遠鏡で覗いている男が1人。

「おうおう、なんか面白れえ奴がいるな
 人間様と仲良くしているカースなんざ、初めてみるぜ」

その様子を見て、ニヤリとした表情を浮かべていた。

「しかし、まあ、なんだ? あんな様子を見てると―――虫唾が走るな
 どれ、ちょっと引っ掻き回してやるとしますか」

そう呟いた、男の姿がゆがむ。

「人間とカースは、互いに争いあうのがお似合いなのさ―――」

男の姿が消える。
534 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/11/20(火) 04:48:49.77 ID:RuS2Oh8G0
というわけで、今日は以上です。
・・・・・・sage忘れ、トリつけ忘れを3回もorz
申し訳ねぇ・・・。

そして、予想以上に長丁場になっちゃってる憤怒の街
総量としては大したことなさそうなんだけど、随分書くのに時間かかっちゃってるなぁ
忙しかったのもあるけど、頑張らないとなぁ
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2018/11/21(水) 11:06:48.89 ID:CeOgqrnXo
おつおつ
読み応えガあるぶん書くのも大変そうだなと思うこのごろ
536 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2018/11/22(木) 02:42:07.59 ID:sFkY68QV0
あ、すいません
毎度のことですが、リンちゃん、ラブリーチカちゃん、シンデレラ1の方々(柑奈ちゃん、響子ちゃん、美羽ちゃん)お借りしてますー
537 : ◆zvY2y1UzWw [sage]:2018/11/24(土) 22:32:40.55 ID:vONOS72v0
おつでして
今回もまた不穏な引きですね…!
とりあえずチカ幸せになって…
538 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2019/05/07(火) 00:12:33.55 ID:UQJLizrn0
投稿しまーす
まだまだ書きたい場面は全部書けてないから、まだ続けますよー
539 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2019/05/07(火) 00:18:27.63 ID:UQJLizrn0
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「『英雄複製計画』・・・? GDFの英雄・・・?」

突然明かされた計画の名前に驚くヘリのパイロット。
英雄。つまりはヒーローとも言い換えることができる。
そしてヒーローと聞くと、どうしてもアイドルヒーローを連想してしまう。

だが、側にいたシンデレラ1の面々は怪訝そうな顔をした。

「英雄・・・という割には、普通の兵士よりちょっと強そうという感じにしか見えないけど・・・?」

「英雄と言われるほどには、強そうには見えませんね」

確かに・・・とヘリのパイロットは思う。
目の前にいる兵士は、確かに普通の兵士よりは強いだろう。
しかし、英雄とまで言われるほどかと言われると、疑問が残る。
さっきも連想した通り、英雄と聞くとアイドルヒーローを連想する。
しかし、目の前にいるツインテールの女を筆頭とした者達がそれほどの力を持っているようには見えない。
540 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2019/05/07(火) 00:19:47.36 ID:UQJLizrn0
「じゃあ、これならどうだ?」

すると、目の前のシュガーハートと呼ばれる人物の手が青く光った。
その手の光が左右に広がったかと思うと、青い線のようなのが次々を発生し、それが組み上がっていく。
そしてその骨子が組み上がり、一本の刀の形を為したかと思うと、光が破裂した。

そして、シュガーハートの手には、一振りの鞘付きの刀が握られていた。

「はぁとは物を出し入れ出来る『アイテムボックス』っていうのを持っているぞ♪」

「能力者だったのか・・・!?」

「・・・まあ、そういう事ネ」

「さらにこんな物も出せるぞ、ほれ☆」

シュガーハートは右腕を広げると、広げた右手の先にまた青い線が骨子のように紡がれていき、一つの乗り物となる。
GDFが製造している兵員輸送用のトラックだ。

「乗り物まで出せるのか!?」

「まあ、大きさも量も限りはあるけども、普通に基地一つ分は難なく出し入れできるぞ☆」

基地一つ分の物を出し入れできる能力。驚異的な能力である。
それでもシンデレラ1の一人、矢口美羽は疑問に思っていた。

「物を出し入れする能力・・・? でもそんなので英雄になれるものなの?」
541 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2019/05/07(火) 00:22:07.84 ID:UQJLizrn0

しかし、もう一人のシンデレラ1ーーー五十嵐響子はその疑問に答えた。

「ううん、美羽ちゃん。これは凄いです。特にGDFにおいては、この能力があるのと無いのとでは作戦遂行能力に差が出ます。」

「そ、そこまでなの、響子さん?」

「例えば、私達って何時も専用の輸送車とかヘリで専用の装備と共に運搬されますよね」

「うん・・・あっ」

「今あの目の前にいる人が居れば、普通の輸送車でも運べますし、弾薬とかの補給物資ももっと多く積むことができます」

つまり、彼女が居れば長時間の作戦遂行が出来る。
それこそ、持っていける量が多ければ多いほど、彼女が戦場で与える影響というものが大きくなる。
それが基地一つ分となれば、任務中において補給の心配は無くなる。

「なるほど。確かに『GDFの英雄』と言われるだけの事はありそうだな」

「・・・まぁな☆」

・・・この能力は確かに、軍であるGDFにとっては英雄たる物で間違いないだろう。
542 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2019/05/07(火) 00:23:56.99 ID:UQJLizrn0
「待ってください」

でも、この能力を褒めた本人である響子は疑問を口にした。

「確かにこの能力は英雄と言われるのも納得がいきますけど・・・
 その能力を元にしたのであれば、私達は補給物資の運搬に特化した形になるはずです。
私達にもそういう装備が無いわけでは無いんですけども、実際にはカースと戦う為の装備もあるし、
 色んな任務に対応するための装備もいっぱい計画されていたって聞いてますし・・・
 そこの・・・方もそう呼ばれてますから、もしかしたら『GDFの英雄』は他にもいるんじゃないですか?」

「あ、ゴメンネ。ケイトよ。それと他にもいるっていうのは本当ヨ。
 ワタシはそこのシュガーハートさん以外とは面識は無いけどネ」

「私はあるぞ? まあ、色んな意味ですげー奴だった・・・ぞ☆」

どんな奴なんだ、それ。
恐らくはその人が戦闘面で凄い活躍をしたのだろうかと、この場にいたシンデレラ1達は納得した。
543 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2019/05/07(火) 00:25:22.56 ID:UQJLizrn0
だが、ポストマンの意見は違う。

(いや、シュガーハート。
 GDFの中でも、いや世界中の中でも、あんた以上に凄い奴を知らねえし、
 あんた以上にやばい奴もしらねぇ)

そうしてその会話に対して興味がなさそうな素振りを見せつつ、
手持ち無沙汰そうにポケットからとりだしたライターで、タバコに火をつけて一服する。

(俺はお前が世界征服とか破滅願望とか、そういうもんを持ってなくて良かったと、心の底から思ってるぜ)
544 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2019/05/07(火) 00:27:35.91 ID:UQJLizrn0
_____________________________________

「ぐすっ・・・ひっぐ・・・」

チカちゃんは余程嬉しいのか、まだ泣き止まないようです。

「チカちゃん、まだ泣いてるね」

「余程嬉しかったみたいですね・・・っ」

何がともあれ、こうした手紙を届けられるのは私としても嬉しいですっ
つい顔がほころんでしまいますっ

ーーーけれど、話はこれで終わらないはずです

「・・・」

急に泣き止んだチカちゃん

「・・・?急に泣き止んだ・・・?どうしたの、チカちゃん?」

凛さんもそれを不思議に思ったのか、声をかけます

「・・・・・・セナイ」

「?」

「ユ・・セナイ・・・ユル・・・セナイ」

「え・・・何・・・?」

泣きまくっていた姿から一変した雰囲気を感じ取り、困惑した凛さん
・・・ついに、お出ましですかね

「ーーー許せない!!」

「!?」
545 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2019/05/07(火) 00:33:00.73 ID:UQJLizrn0
瞬間、チカちゃんの胸のあたりにあった赤い石が強く光りました。
私は咄嗟に銃を構えます。

「凛さん、下がってくださいっ!」

その言葉を聞くや否や、凛さんは光の眩しさに目が眩みながらもなんとか這うようにして私の後ろに下がりました。

「はあああああ!!」

突然、私達に殴りかかって来ようとするチカちゃん。

「落ち着いてください、『千佳』ちゃんっ!!」

私は持っている銃の引鉄を引く。
すると、銃から光の膜が放出され、膜に当たった相手が弾かれた。

「!?」

弾かれた相手はそのまま床に尻餅をついた。
彼女は一瞬、驚いたような顔をしていましたが、
その表情は次第に変化していき、まるで怒っているかのような表情に戻りました。

「さっきまでと様子が全然違う・・・何があったの、チカちゃん!?
それとユウキちゃん、さっきの光の膜は何!?」

「今は自重してくださいっ!」

私は光の膜―――シールドバレットを維持するため、引鉄を引き絞り続ける。
この銃にはテーザーガンの機能だけでなく、自分の身を守る為のシールドを張る機能だってある。
この機能と相手の力を鑑みるに、破られることはそうそうなさそうだ。
546 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2019/05/07(火) 00:35:06.23 ID:UQJLizrn0
しかし、相手はそれでも構わず殴りかかろうとして、光の膜に遮られ、弾かれていた。

「落ち着いてください、『千佳』ちゃん! このままじゃ、ボロボロになっちゃいますっ!」

「うるさいっ!お前に何がわかる!!
なんで、あいつだけ幸せになるんだ!!」

相手は力押しでは勝てないと踏んだのか、カースの力を使って違うカースを作りだしましてきました。
見た目はファンシーな感じですが、そこからは強い敵意を感じます。それが5体。

「いけ!オコダーヨ!!」

そして、オコダーヨと呼ばれたカースが私達に襲いかかりました。

「―――! ですがっ!」

突撃してきたオコダーヨですが、しかし、私が張った光の膜を突破出来ずに全て弾かれてしまいました

「・・・一体何があったの、チカちゃん?」

「あれは、『千佳』ちゃんですっ。ラブリーチカちゃんではない、正真正銘の千佳ちゃんですっ! そうですよねっ!?」

「―――!?」

その言葉に動揺したのか、千佳ちゃんとオコダーヨ達の攻撃の手が緩みました。

「なぜ、私が千佳だと・・・?」

「・・・さっきの千佳ちゃんのお父さんの夢の話は聞いてましたかっ?」
547 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2019/05/07(火) 00:40:56.56 ID:UQJLizrn0
恐る恐ると、頷く千佳ちゃん。

「実はあの話で、ラブリーチカちゃんの夢を見たって聞いたんですけど、それだけじゃないんです。
そのラブリーチカちゃんと、そのラブリーチカちゃんによく似たもう一人の少女―――
―――そう、『千佳』ちゃんが、喧嘩をしていたって言ってました」

話の内容が気になるのか、今度こそ攻撃の手を止めた千佳ちゃん。
それを見て、シールドを解除しつつも私は話を続けます。

「『なんで私は死ななくちゃいけなかったの?』
 『なんであんたが私と一緒の体にいるの?』
 『なんであんたはお父さんに構ってもらえたの?』
 『私なんか、仕事だからって全然構ってもらえなかったのに!!』
 ―――そんな感じのことをラブリーチカちゃんに言っていたそうでした。
 いくら『それは誤解だ』と言っても聞いてもらえないぐらい、怒っていたって言ってましたっ」

「そうだよ!!
 私はラブリーチカが許せない!
 なんでチカはお父さんと一緒の部屋にいるの!?
 私だって一緒に寝たかったのに、何時もあいつはお父さんと一緒の部屋にいて!!
 それでなんでチカが表の人格で、私が裏なの!?
 カースはあっちなのに、あっちは正義ぶって、私にだけ負の面を押し付けて!

 ―――今だってそうだよ!
 なんでラブリーチカだけなの!?
 私はお父さんの娘なのに!!
 お父さんは私を嫌いになったの!?」
548 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2019/05/07(火) 00:42:36.98 ID:UQJLizrn0
そして再び襲いかかる千佳ちゃんとオコダーヨ。

私は銃のモードをテーザーガンに切り替えた

「私の話はーーー」

私は襲いかかってくる中を掻い潜って、千佳ちゃんに一気に近づいた
その間に5回引鉄を引き、5体のオコダーヨに当てる
思念誘導式の雷撃は、対象を正確に狙わずとも、私の演算能力で誘導して当てることができた

「まだーーー」

そして、空いた手で千佳ちゃんを掴み、襲ってきた勢いを利用し

「終わっていませんっ!!」

千佳ちゃんを背中から床に叩きつけた。

「かはっ!?」

背中から叩きつけられた千佳ちゃんですが、上手く加減は加えました。
ただ、片手で叩きつけたので、多少のダメージを与えてしまいましたが。
549 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2019/05/07(火) 00:46:46.87 ID:UQJLizrn0

「今の・・・狙いも定めていないのに・・・?」

何やら凛さんが呟いてますが、構わず話を続けます

「ラブリーチカちゃんが最初だったのは、表に出ていたのがラブリーチカちゃんだったからですっ!
私は原則、本人にしか手紙を渡しませんっ!もしあの時千佳ちゃんが表に出ていたら、千佳ちゃんに渡していましたっ!」

それにーーー

「千佳ちゃんのお父さんは、決して千佳ちゃんを嫌いになったわけじゃありませんっ!
お父さんはお父さんなりに千佳ちゃんを大事にしていました。
そしてあの時お父さんは千佳ちゃんを探して、自らの危険を顧みずにこの街を探し回っていましたっ!
これは千佳ちゃんを大事に思っていなければ出来ないはずですっ!」

「なら、お父ちゃんに会わせてよ!なんで迎えにきてくれないの!?」
なんでお父ちゃんは迎えにきてくれなかったの!?
なんでここにいないの!?探しているって言うんだったら、連れてきてよ!!」

「無理ですっ!!」

「なんでっ!!」

「千佳ちゃんのお父さんはカースに襲われたんですっ!」
550 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2019/05/07(火) 00:48:20.40 ID:UQJLizrn0
「えっ!?」

驚く千佳ちゃん。彼女が放っていた怒気が一瞬止まりました。

「先程も言いましたよねっ?千佳ちゃんを探すためにこの街に入ったって。
その時、GDF隊員の制止の声も聞かずに忍び込んだせいでカースに襲われたんですっ」

「お父さんは生きてるの・・・?」

「生きています・・・今は・・・」

「今・・・は?」

「ユウキちゃん・・・それって・・・」

「はい・・・。千佳ちゃんのお父さんはもう助からないって話でした・・・っ」

「そんな・・・!?」

私の口から告げられた言葉に、千佳ちゃんは膝をつきました
その時―――

『ははっ!ちょうどいいや!!
 予定とは違うが、ちょっとその体を乗っ取らせていただきますよっと!』
551 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2019/05/07(火) 00:59:05.98 ID:UQJLizrn0
「!?」

千佳ちゃんの背後から襲い掛かった影。
それが千佳ちゃんの体を覆うと、千佳ちゃんの中に入って行きました。

「千佳ちゃん!?」

そして、倒れこむ千佳ちゃんの体。
そこへ凛さんが駆け寄ります。

「な、なにが起きて―――
 いや、それよりもどうしたらいい・・・どうしたら千佳ちゃんを―――」

「大丈夫ですよ、凛さん」

ええ、本当に・・・なんてことをしてくれたのでしょうか・・・っ

「・・・ゆ、ユウキちゃん?」

私がお手紙を届けようとしている相手に・・・こいつは・・・っ!!

「私が何とかして見せますっ それに―――」

私は自身が持つ「ラーニング」能力をフル稼働させる。
552 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2019/05/07(火) 00:59:52.20 ID:UQJLizrn0

千佳ちゃんを襲った影が千佳ちゃんの中に入って行くのを見た。

あの影はどうやって入った?
どうやって千佳ちゃんを乗っ取ろうとする?
乗っ取るのに適したところは?

そう浮かんだ疑問を要素として、様々な結果を私の演算能力でシミュレートする。

そして、その結果を能力としてラーニングし、私の能力<ちから>とするっ!

「千佳ちゃんとの話はまだ終わっていませんからっ!!
 ―――ポゼッションッッッ!!!」

私は千佳ちゃんの胸の真ん中にある宝石に触れる。
553 : ◆6J9WcYpFe2 [sage saga]:2019/05/07(火) 01:00:36.03 ID:UQJLizrn0
=====================================================

Create Simulated Ability System --- Booted.
Ability[Possession] --- Break Out.

Check Root --- ...OK.
Neuron Connecter --- Online.
Hacking --- Complete.
Depth Feeling Area --- Connect

Entered, Cosmic Sphere.

=====================================================
554 : ◆6J9WcYpFe2 [sage]:2019/05/07(火) 01:02:04.04 ID:UQJLizrn0
以上になります。
借りてきたのは前回と同じです。

まだまだ書いてますよー
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/05/09(木) 07:55:18.79 ID:XErDb8XWo
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/05/17(金) 23:21:36.44 ID:1StV4CJR0
乙です
まだ可動していることに感動している。そして、ラブリーチカの話がもう…つらみ…お父さん…
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/09/02(木) 01:52:45.83 ID:t8JNH5sX0
まだ書き込めるのかテスト
PCとスマホのデータ整理してたら書きかけのSSがいくつも見つかって懐かしくなってまた書きたくなってしまった
スレの動きが無くなって久しい(SS速報自体過疎ってる?)けど、ため込んでたネタを書ききれていない点について、専ブラの一覧からスレを消せない程度には未練があるんだよなあ
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/10/03(日) 16:28:51.06 ID:LJLXjZa40
自分も更新無いかなってたまに見に来てる・・・
ネタまだあるし、書きかけもあるから、たまにその場面のことを考えちゃうんだよなぁ
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