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にこ「きっと青春が聞こえる」
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423 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/09/22(木) 21:32:41.15 ID:FSwkNwzyo
花陽「――――」
凛「――――」
一度、凛ちゃんと目を合わせて。
何も言わず、私たちは回れ右しました。
石段を下りきり、再び家路についても、どちらも言葉が出てきません。
本気、なんだ。
みんな、それぞれ理由があっても。それぞれベクトルが違っても。
きっと、私と同じ。
みんな――本気、なんだ。
花陽「…………」
ぎゅっ、と握ったこぶしは、決意のつもり。
みんなで。
みんなでアイドル活動をしたいと、今日、初めて心から思うことができました。
だから――花陽は、そのために動き出します。
424 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/09/22(木) 21:33:19.06 ID:FSwkNwzyo
ここまで
ぼちぼち暗い展開はおしまいになる予定
425 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/22(木) 21:37:13.31 ID:itGxxmkeo
乙乙
ハッピーエンドになるといいなぁ
426 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/22(木) 21:56:40.29 ID:FYpKdrSlo
乙です
427 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/23(金) 08:23:15.66 ID:h9F+7GdV0
花陽の決意やね
乙
428 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/09/23(金) 16:21:53.77 ID:Hz0QC6RAo
悲しみに閉ざされて
泣くだけの君じゃない
429 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/09/23(金) 18:02:44.10 ID:mn+4DF1LO
ほのかがいかに化け物だったかがわかるな
430 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/10(月) 20:35:01.13 ID:qbBHZqVxO
>>362
お前がしね
つまんねえもん読みやがってしね
431 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 22:57:18.08 ID:DRFjCdkxo
【Side:穂乃果】
いつものように練習が終わって、帰り道。今日も私はひとりぼっち。
別に海未ちゃんやことりちゃんがいじわるしてるとか、そういうことじゃなくって。ただ単純に、私が気まずくて一緒に帰れないだけ。
最近はお昼ご飯も他の友達と食べることが多くなった。海未ちゃんたちと一緒に食べても、なんだか、会話が続かないし。
なにやってるんだろう。私。
きっかけは部活動。ことりちゃんが望んで始めることになったこの放課後は、確実に私たちの間に距離を作っていった。
――ううん。そんな言い方、ずるいよね。
原因は私。ついていけないのがつらくて、つい部活をさぼっちゃったあの日から、私たちの間にはどうしようもない溝ができた。
海未ちゃんはきっと怒ってる。ことりちゃんは呆れてるかな。
怖くて聞けない。二人が、今の私をどう思ってるのか、なんて。
今の私は――ことりちゃんのために、やりたくないこと、続けてるだけだもん。
二人だけじゃない。きっと他のみんなだって、そんな中途半端な気持ちで参加してる私のこと、いらない子だって思ってる。
そうだよ。
私は、いらない子なんだ。
432 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 22:57:57.10 ID:DRFjCdkxo
一週間。このぎくしゃくした部活動は、あと一週間で終わるみたいだった。
一週間後の今日、ネットにアップするための動画を撮影する。今日、生徒会長が私たちに告げたタイムリミットだった。
やっと終わる。そんな安心感が半分。
でも、一方で不安に感じる。誰よりもだめだめな私が、他のみんなとおんなじように歌って踊るには――きっと、足りない時間。
本番も失敗するのかな。転んじゃうのかな。歌詞を間違えるのかな。
にこ先輩、怒るかな。怒るよね。
でも……いっか。
だってにこ先輩は、きっと、私のことなんて見てないから。
にこ『ほら、ことりだって必死にやってるわけだし。それが理由でもいいじゃない?』
それは、全部の答えだった。
私があそこにいる理由なんて、後付けだって構わない。
「私」っていう個人に、意味は、きっとなくて。
必要なのは、「部員」っていう記号だけ。
穂乃果「…………」
433 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 22:58:28.11 ID:DRFjCdkxo
なにやってるんだろう、私。
おんなじ言葉がずっと頭の中でぐるぐる回る。
ことりちゃんが日本を発つまで、もう2週間もない。
2週間も経ったら、ことりちゃんは――
穂乃果「――――やだ」
独り言は、夕暮れの道に溶けていく。
穂乃果「やだ――やだやだやだやだ、やだ!」
子供みたいに駄々をこねても、聞いてる人はいない。
ううん、違う。誰も聞いてないから、こんなこと言える。
私は一度だって、ことりちゃんに大切な一言を言えなかった。
怖い。
ことりちゃんがいなくなるのが、海未ちゃんとふたりぼっちになるのが、怖い。
だけど。
私が、それ以上に怖いのは――
434 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 22:59:00.68 ID:DRFjCdkxo
ことり「穂乃果ちゃん」
海未「穂乃果」
穂乃果「っ!」
突然背中に投げかけられた言葉に、足が止まる。
ことり「よかったぁ、やっと追い付けたね」
海未「まったく、部活が終わるなり早々に姿を消すなんて、水臭いではありませんか」
穂乃果「ふたり、とも……」
なんだろう。すっごく懐かしい感じがする。
答えは簡単。二人と、こんなに「普通に」お話をするのなんて、すごく久しぶりだった。
こんなに「いつも通り」な二人は――すごく、久しぶりだった。
なんで?
なんでそんなにすっきりした顔なの?
435 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 22:59:34.74 ID:DRFjCdkxo
ことり「穂乃果ちゃん」
私の疑問なんてお構いなしに、ことりちゃんは続ける。
ことり「……えっと、なにから話せばいいのか、うまくまとまらないんだけどね」
ことり「――ごめんね、穂乃果ちゃん」
穂乃果「……なにが?」
海未「私からも謝らせてください。すいませんでした」
穂乃果「だから、なんのこと? わかんないよ」
海未「身勝手だったこと、です」
穂乃果「身勝手……?」
ことり「私たち、自分のことしか考えられてなかったから」
ことり「きっとそのせいで、穂乃果ちゃんに嫌な思い、いっぱいさせたと思う」
ことり「アイドル研究部のことだって、穂乃果ちゃん、本当はやりたくなかったんだよね?」
ことり「だけど、私に付き合ってもらったせいで……」
悲しそうなことりちゃんの言葉を聞きながら、だけど私は別な人の言葉を再び思い出す。
にこ『ほら、ことりだって必死にやってるわけだし。それが理由でもいいじゃない?』
穂乃果「…………」
くらいくらい気持ちが、私の顔をうつむかせた。
436 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:00:04.52 ID:DRFjCdkxo
海未「穂乃果」
優しい声だった。
まるでお母さんみたいに、とっても、あったかい声だった。
海未「私たちは、大切なことを見失っていました」
海未「ことりに留学の話が持ち上がって」
海未「それは、決してことりにとってマイナスな話ではありません」
海未「むしろ、ことりの将来を考えるなら承諾しないなんて考えられない話です」
海未「私は、そう信じて疑いませんでした」
海未「だけどそれはことりのための言葉なんかじゃなかったんです」
海未「全て――自分のためのものでした」
穂乃果「え?」
海未ちゃんの言葉に顔を上げる。
海未ちゃんは――泣きそうな顔だった。
437 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:00:30.91 ID:DRFjCdkxo
ことり「私もだよ」
そう言うことりちゃんも、唇をかみしめてて。
今にも泣きだしてしまいそうな顔だった。
ことり「お母さんが、海未ちゃんが、みんなが私に期待してくれてるんだって考えたら……」
ことり「なんにも、言えなくなっちゃった」
ことり「言わなくちゃ駄目なのに」
ことり「絶対後悔するって、わかってたのに」
ことり「私は、いろんな人を理由にして―― 一歩を踏み出せなかった」
ことり「ずるいよね。人のせいばっかりにして、私は自分の気持ちを言えなかった」
ことり「だから……もう、そういうの、終わりにしなきゃいけないんだと思う」
438 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:01:04.65 ID:DRFjCdkxo
ことり「穂乃果ちゃん。私は、もうすぐ海外へ行くことになります」
ことり「それは、私にとっては将来を決める大切なことです」
ことり「だけどもしその話を受けてしまったら、私は高校を卒業するまで帰ってこれません」
ことり「穂乃果ちゃんと、海未ちゃんと、離れ離れになってしまいます」
ことり「それを踏まえたうえで。穂乃果ちゃんにも聞きたいです」
穂乃果「……やめて」
ことりちゃんは、まっすぐ私のことを見つめている。海未ちゃんも真剣な目で私を見ていた。
怖い。
ことりちゃんが次に言うであろう言葉がわかってしまったから。
それは、私が一番恐れていた言葉だから。
だから、だから――
ことり「穂乃果ちゃんは――私に、どうしてほしい?」
穂乃果「やめて!」
439 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:01:42.54 ID:DRFjCdkxo
穂乃果「やめて! やめてよ!」
穂乃果「そんなの、わかってるくせに! 答えなんて聞かなくてもわかってるくせに!」
穂乃果「言えないよ! 答えられないよ!」
穂乃果「ことりちゃんの気持ちも、海未ちゃんの気持ちも、否定したくない!」
穂乃果「ことりちゃんが心置きなく旅立てるように、海未ちゃんが頑張ってることも!」
穂乃果「そんな海未ちゃんの気持ちに応えようとしてことりちゃんが決心しようとしてることも!」
穂乃果「私がわがまま言ったら――全部、否定しちゃう!」
穂乃果「穂乃果が子供だからそんな答えになるって、わかってるよ! だから言えなかった! 言いたくなかった!」
穂乃果「――そうだよ! 離れ離れになんてなりたくない! ずっと三人でいたい!」
穂乃果「だけど、だけど!」
気持ちが熱い雫になって、ぽろぽろとこぼれる。
もう止められなかった。
穂乃果のほんとうの気持ち。
穂乃果が、ほんとうに怖かったこと。
穂乃果「穂乃果のわがままのせいで二人を悲しませるのは、もっと嫌なの!」
440 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:02:08.20 ID:DRFjCdkxo
言えなかった、大切な一言。
それはきっと、二人の気持ちを無駄にする。
だから穂乃果が我慢すればいいんだって、そう思ってた。
そうすれば、二人の頑張りは無駄にならないから。
二人の気持ちは、否定しないから。
穂乃果が、我慢するだけだから――
海未「だから」
それでも海未ちゃんは。
穂乃果の気持ちを聞いた海未ちゃんは。
まっすぐに、私を見つめたままだった。
海未「だから、そう思わせてしまったことが――私たちの罪なのです」
穂乃果「罪……?」
どうしてそんな話になるんだろう。
ただ穂乃果が、わがまま言ってるだけなのに。
ことり「私たちの強がりのせいで穂乃果ちゃんが苦しんでたんなら――それは、私たちの罪だよ」
強がり?
441 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:02:37.72 ID:DRFjCdkxo
海未「私たちも教えられたんです。自分たちがどれだけ愚かな意地を張っていたのか」
ことり「だからもっと素直になろうって。素直にならなきゃだめだって。気づかされたの」
穂乃果「教えてもらったって――誰に?」
そう訊くと、二人は一度目を見合わせて。
再び穂乃果に向けた顔は、やっぱりなにかを振り切った表情だった。
海未・ことり「大切な後輩たちに」
――――――――
――――――
――――
442 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:03:03.28 ID:DRFjCdkxo
一日前
443 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:03:40.52 ID:DRFjCdkxo
【Side:ことり】
花陽「あの……何度も何度も呼び出して、すみません」
ことり「ううん、気にしないで」
昨日に引き続き部活後に私を呼び出した花陽ちゃんは、本当に申し訳なさそうに私に言った。
その謝罪に対する私の言葉に嘘はない。
むしろ謝るのは私の方。私たちの方。
本気でアイドルに向き合う彼女たちを侮辱してる――私たちの方。
ことり「だけど……答えは変わらないよ?」
それでも、譲れない気持ちがあるのも事実だった。
このつながりが途絶えてしまったら、私たちはもう。
残りの時間を無為にすることしかできないから。
花陽「いいんです」
だけど、私の予想とは裏腹に。
花陽ちゃんは強いまなざしで私を見つめていた。
444 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:04:06.08 ID:DRFjCdkxo
花陽「教えてほしいんです。二年生のみなさんがなんで、そんなにこの部活にこだわるのか」
ことり「――――」
そっち、か。
うん。当然だよね、気になるの。
言ってもいいかな、って一瞬戸惑ったけど、だけどにこ先輩にはもうした話だし。
もうすぐ嫌でもわかる話だし。
それになにより。
花陽「――――」
真剣な目の後輩の気持ちに、嘘はつきたくなかったから。
445 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:04:36.98 ID:DRFjCdkxo
【Side:海未】
凛「ことり先輩が留学!?」
海未「はい」
部活が終わり、放課後。私を呼び出した後輩は、私たちが抱える真実を聞くと、目を丸くして驚きました。
ことりの許可も得ずに話しても良いものかと悩みましたが、いずれは知るところになる話です。
それに同じタイミングでことりももう一人の後輩に連れていかれたところから察するに、おそらく同じ話になっていることでしょう。
そしてなによりも。
真摯にアイドル活動に向かう彼女には、話さなければ失礼に当たると思いましたから。
446 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:05:20.21 ID:DRFjCdkxo
海未「ことりがこの部活に執着しているのは、間違いなくこの話が関係していると思います」
海未「といっても、彼女がなにを考えているのかなんてわかりようもないのですが……」
凛「そんなのわかるにゃ!」
海未「え?」
まっすぐな瞳で断言する後輩に、つい間の抜けた返事をしてしまいます。
凛「ことり先輩、ほんとは行きたくないんだにゃ!」
凛「だってことり先輩、一生懸命だもん! 二年生の先輩たちは、正直ちょっと本気じゃないかなって思うところ、あるけど……」
凛「だけどことり先輩、一生懸命だにゃ! 衣装を作るためだけに入ってるなんて思えない!」
凛「本当は行きたくなくて! もっともっとこの場所で楽しいことをしたくて!」
凛「ちょっとでもすがりたくて!」
凛「ちょっとでもしがみつきたくて!」
凛「だから、その可能性をつなごうとしてるんでしょ!」
凛「海未先輩や穂乃果先輩と一緒にいるために!」
海未「それ、は――」
後輩の懸命な叫びに、言葉は返せませんでした。
だけど。
凛「海未先輩だって、本当はことり先輩に行ってほしくなんて――」
海未「違います」
この言葉だけは、濁すことはできません。
447 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:05:51.21 ID:DRFjCdkxo
凛「――――っ」
その言葉は、私が思った以上に目の前の後輩に突き刺さったようでした。
海未「……すみません。少しきつい言い方になってしまったかもしれません」
海未「ですが、そんなことありません。私が、ことりに行ってほしくないなどと」
海未「そんな考えは、意を決したことりを侮辱することになります」
海未「決めたのです。笑顔でことりを送り出そうと」
海未「今さらそれを覆すことなど――」
凛「ほんとに?」
海未「――――」
なぜでしょう。
強い言葉をぶつけられたはずの彼女は。
先ほどよりも、強い目をしていました。
凛「先輩、似てるにゃ」
海未「……誰にですか」
凛「凛に」
そう言うと彼女は、えへへーと照れたようにはにかんで。
凛「さっきの冷たい言葉も、なにかを我慢してる顔も――」
448 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:06:45.08 ID:DRFjCdkxo
凛「――自分にのろいをかけてた凛に、そっくり」
449 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:07:11.43 ID:DRFjCdkxo
【Side:ことり】
花陽「先輩は――行きたいんですか?」
ことり「え?」
花陽「留学、したいんですか?」
ことり「……すっごく魅力的なお話だなって、思うよ」
ことり「お洋服を作るのって昔からの夢だったから」
ことり「今回のお話は、私にとって夢をかなえる第一歩ってことになるかな」
ことり「だから、」
だから――なに?
花陽「――――」
自分の言葉が上滑りしているのが、花陽ちゃんの表情からうかがえた。
わかってる。わかってるよ。
花陽ちゃんが聞いてるのが、そういうことじゃないってことくらい。
450 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:07:45.90 ID:DRFjCdkxo
ことり「――もう、私だけの問題じゃないの」
花陽「え?」
これは、本当に言うのをためらう言葉。
誰にも伝えたことのない、真実のカケラ。
それをなんで今、なんの関係もないただの部活の後輩に喋ろうとしてるんだろう、私。
――なんで、って。わかってるくせにね。
この子が、この子たちが、私たちを変えてくれるんじゃないかって。
私たちを導いてくれるんじゃないかって。
そんな淡い希望に、すがりついているからなんて、さ。
451 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:08:12.51 ID:DRFjCdkxo
ことり「私を見込んで誘ってくれた向こうの人」
ことり「私のためにコネクションをつないでくれたお母さん」
ことり「私を応援してくれてるたくさんの人」
ことり「それに――私の背中を押してくれてる、大切な友達」
ことり「もう、裏切れないの」
ことり「もう、私だけで決められる話じゃないの」
ことり「だから、だから――」
花陽「ことり先輩」
必死になる私を、まるで気にすることもなく。
花陽ちゃんは、繰り返す。
花陽「先輩は。行きたいんですか?」
452 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:08:44.68 ID:DRFjCdkxo
ことり「――わかってよ!」
花陽ちゃんがしつこいからなのか。
それとも、私のもろくてやわらかいところを何度もついばまれたからなのか。
つい、おっきな声をだしてしまう。
ことり「言えないよ、今さら!」
ことり「海未ちゃんも苦しんでるの、わかってるから! 悩んでるのわかってるから!」
ことり「これ以上苦しめたくないの!」
ことり「私のせいで! これ以上、これ以上――」
頭の中がぐちゃぐちゃになって。形にならない言葉をひたすらにぶつける。
怖がらせちゃったかな。
嫌な思いさせちゃったかな。
そう思い、ふと見た花陽ちゃんの表情は。
花陽「――――」
とても強くて、とても熱かった。
453 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:09:30.00 ID:DRFjCdkxo
【Side:海未】
海未「のろい?」
凛「うん。のろい」
あっけらかんと返す目の前の少女は。
しかし瞳の奥に、深く暗いなにかを宿していました。
凛「ねえ、海未先輩」
海未「……なんでしょう」
凛「がまん、しちゃだめだにゃ」
海未「我慢? 私が?」
凛「言いたいことは言わなきゃダメだし、気持ちは隠しちゃダメ」
凛「それはいつか、きっと大きなのろいになるから」
海未「……先ほどから、何の話をしているのですか。のろいだのなんだの」
いえ、わかってはいるのです。
意味は理解できなくとも、彼女がなにか大切なものを伝えようとしているのは。
海未「そもそもあなたには関係のない話です。部活だって生徒会長の出した条件が済めばやめます」
海未「ここから先は、あなたに口を出される筋合いはありません」
ぴしゃりと言い放った私に。
それでもこの後輩は。
海未「――なにがおかしいのですか!」
くすくすと、笑うのです。
454 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:10:03.33 ID:DRFjCdkxo
凛「ううん、ごめんなさい。あんまりにもそっくりだったから」
海未「またその話ですか!」
要領を得ない彼女に、ついに堪忍袋の緒が切れました。
海未「いいかげんにしてください! さっきからあなたは何が言いたいのですか!」
海未「我慢などしていないし、隠してなどいません!」
海未「ことりに行ってもらいたい気持ちに偽りはありません!」
海未「全て、全ては、ことりのために――!」
凛「海未先輩」
海未「なんですか!」
凛「嘘つくの――へただね」
かぁ、っと。
全身の血液が沸騰したかのような怒りが、私を支配しました。
海未「あなたに――なにがわかるのですか!」
455 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:10:48.95 ID:DRFjCdkxo
凛「わかるよ」
たぎる血に、冷や水を浴びせるかのように。
彼女の言葉は、真剣なまなざしは、鋭い矢となり私を射抜きました。
凛「わかるよ。凛も同じだったから」
凛「それしかないって決めつけて」
凛「それが正しいって決めつけて」
凛「それ以上考えるのをやめて」
凛「きつくきつく、自分をしばって」
凛「いつか、自分の本当の気持ちもわからなくなっちゃうの」
凛「凛も、同じだったから」
海未「あの、」
凛「海未先輩」
海未「なん、ですか」
凛「後悔――するよ?」
海未「――――」
彼女の強い言葉に、感情に、ついには返す言葉を見失います。
456 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:11:26.85 ID:DRFjCdkxo
【Side:ことり】
花陽「……大切なら」
ことり「花陽、ちゃん?」
花陽「大切なら! それじゃダメなんです!」
ことり「っ」
強い感情の奔流が、私に流れ込んでくる。
花陽「大切なら! 友達なら! ちゃんと言ってあげなきゃダメなんです!」
花陽「そうじゃないよって! 素直になっていいんだよって!」
花陽「ほんとの気持ち、言ってあげなきゃ!」
花陽「相手を傷つけるのを怖がって――」
花陽「自分が傷つくのを怖がって知らんぷりするんじゃ、ダメなんです!」
ことり「あ――」
花陽「じゃないと……本当に後悔しちゃいます……」
それはひょっとしたら、花陽ちゃん自身が味わった気持ちなのかもしれない。
それぐらいに、必死さの詰まった言葉だった。
457 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:12:06.01 ID:DRFjCdkxo
ことり「……わかんないよ」
ことり「もう、どうすればいいのか、わかんない」
ことり「どうすれば、誰も傷つかずに済むの……?」
だから私も、必死に言葉を紡ぐ。
出口のない寒い冬空の迷路を、手探りで歩くように。
答えを探すように。
花陽「簡単です――」
そんな私に、花陽ちゃんは。
春のようにあったかい笑顔で、言った。
458 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:13:02.38 ID:DRFjCdkxo
【Side:海未】
海未「……どうすれば」
凛「え?」
海未「どうすれば、よいのですか」
心の中で、大きくそびえたっていた壁が。
私を強がらせていた、大きな壁が。
崩れていく音が、聞こえました。
凛「簡単だよ――」
そんな私に、目の前の後輩は。
凛は。
揺らめく純白の花のように優しく、言いました。
459 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:13:42.70 ID:DRFjCdkxo
花陽「――素直に、伝えてあげればいいんです」
凛「――素直に、伝えてあげればいいんだにゃ」
460 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:14:16.59 ID:DRFjCdkxo
「友達なら、きっとだいじょうぶ」
461 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:15:23.68 ID:DRFjCdkxo
――――
――――――
――――――――
【Side:穂乃果】
海未ちゃんと、ことりちゃんは。
真っ白い花のように優しく。
春の日差しのように暖かく。
私に、伝える。
海未「後輩たちに諭されてから、私たちは二人で話し合いました」
ことり「お互いにどうしたいのか。本当は、どうしたかったのか」
海未「そしてわかったんです。自分たちがこだわっていたことが、どれだけ大切で、だけど、どれだけちっぽけだったのか」
ことり「それでね、決めたの。穂乃果ちゃんとも、ちゃんと話し合おうって。穂乃果ちゃんの本当の気持ち、聞いてあげようって」
海未「穂乃果――」
ことり「穂乃果ちゃん――」
462 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:15:49.09 ID:DRFjCdkxo
海未「ことりにどうしてほしいですか?」
ことり「私にどうしてほしい?」
463 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:16:15.82 ID:DRFjCdkxo
もう、いいのかな。
穂乃果「海未ちゃん」
海未「はい」
言っても、いいのかな。
穂乃果「ことりちゃん」
ことり「うん」
言えなかった大切な一言。
言っても――いいよね。
464 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:16:42.16 ID:DRFjCdkxo
穂乃果「行かないでぇ……」
465 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:17:08.58 ID:DRFjCdkxo
穂乃果「離れ離れなんて……ひっく……やだよぉ……」
穂乃果「一緒が、いいよぉ……ひぐっ」
海未「ごめん、なさい……つらい思い、させてしまいましたね……」
ことり「ごめんね……ごめんね……」
なにも難しいことなんて、なかったのかもしれない。
ただ、ほんのちょっとだけすれ違って。絡まっちゃって。
お互いに、素直な気持ちが見えなくなって。
ほどいてみたら、見えた答えは。
すっごく、シンプルだった。
466 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:17:58.39 ID:DRFjCdkxo
ことり「今日、帰ったらお母さんに伝えるね。留学のお話はお断りします、って」
三人で一通り泣いて。
これからのことを決めよう、ってなった。
海未「……大丈夫、なのですか?」
ことり「うん。相手の方にはがっかりさせちゃうかもだけど」
ことり「だけど――これが私の気持ち、だから」
海未「――そう、ですか」
ことり「それよりも……アイドル研究部、どうしよっか」
海未「そうですね……来週の撮影までは続けるべきでしょうが、それから先は、」
穂乃果「続けよう」
ことり「え?」
海未「穂乃果?」
あはは。二人ともびっくりしてる。
そうだよね。だって私が、一番続けたくないって思ってた人だもんね。
467 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:18:36.95 ID:DRFjCdkxo
穂乃果「続けよう、アイドル研究部」
穂乃果「他の人たちに迷惑かけちゃうっていうのも、もちろんあるけど」
穂乃果「私自身、続けたいんだ」
穂乃果「私たち三人がつながれた、つながり続けられた、大切なきっかけだから」
穂乃果「すっごく――大切な場所になったから」
ことり「穂乃果ちゃん……」
海未「そう、ですね」
海未「アイドル活動、よいではないですか。私たちが『三人で』必死になれる場所があっても、いいと思います」
海未「どうですか? ことり」
ことり「……うん」
ことり「私も賛成!」
468 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:19:02.59 ID:DRFjCdkxo
――ああ、なんだかとっても久しぶり。
三人が、ひとつになれた気がした。
469 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:19:39.62 ID:DRFjCdkxo
* * * * *
にこ「…………」
屋上への扉が、重い。
いや、物理的にっていうのもあるんだけど、もっと精神的な部分で。
昨日絵里が宣告したリミットは一週間。あと一週間で、六人を仕上げなければならない。
――正直、無理って思う。
一年生はともかくとして、二年生三人はきつい。
技術的にも、モチベ的にも。
一週間は――短すぎるでしょ。
そんな気持ちが重さを増させる扉を、やっとのことで開いて。
私の目に飛び込んできた光景は。
穂乃果「あっ、にこ先輩きた!」
凛「にこ先輩おっそいにゃー!」
海未「こらこら凛、私たちの気が急いただけでしょう」
ことり「にこ先輩が来た時間はいつも通りだよ?」
花陽「そんなことより、早く練習始めませんか? あんまり時間、ないですし……」
にこ「――――え?」
信じられないものだった。
470 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:20:07.98 ID:DRFjCdkxo
強い違和感が私を襲う。
にこ「え、ちょっと……え?」
穂乃果「そうだ、にこ先輩!」
戸惑う私をよそに、穂乃果がぐっと私に詰め寄る。
穂乃果「今まで……すいませんでした!」
にこ「え……え?」
穂乃果「私、全然練習に一生懸命になれなくて、すっごく迷惑かけてましたよね……」
穂乃果「だけど、もう大丈夫ですから!」
穂乃果「私も、それに海未ちゃんもことりちゃんも、これから一生懸命がんばります!」
穂乃果「だから……改めて、よろしくお願いします!」
叫ぶように言いながら、地面と平行になるくらい頭を下げる穂乃果。
待って、全然状況についていけない。
471 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:20:43.92 ID:DRFjCdkxo
ことり「そうだ、私『START:DASH!!』用の衣装作ってきたんです」
凛「えっ、本当!?」
穂乃果「おぉ、凛ちゃんいい食いつきだねぇ!」
花陽「だって凛ちゃん、それがお目当てだもんね?」
凛「えへへー」
海未「へえ、凛もかわいいところがあるのですね」
凛「あー、海未ちゃん馬鹿にしてる!?」
にこ「…………」
なんていうか。
懸念事項は、きれいさっぱりなくなったみたい。
私の――知らない間に。
472 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:21:19.09 ID:DRFjCdkxo
にこ「あ……」
きゃいきゃいとかしましい後輩たちの姿を見て、気づく。
屋上に入ったときに覚えた違和感の、その正体に。
あの感覚。
にこ「――――」
最近毎朝教室に入った時に感じる感覚に、そっくりだったんだ。
473 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/10/20(木) 23:22:23.70 ID:DRFjCdkxo
ここまで
二年生編終了、長かった
次は三年生編になると思う
続きはそのうち
474 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/20(木) 23:30:48.20 ID:e7J8JLdSo
乙です
475 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/21(金) 00:37:47.27 ID:XEr+GsNJo
乙乙
にこちゃんきついなこれ
476 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/21(金) 17:08:16.31 ID:nSM8EyK2o
自分の罪から逃げるな
全能神トール
http://imgur.com/81Q68Of.png
477 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/21(金) 17:22:22.70 ID:nSM8EyK2o
きゃいきゃいとやかましいって初めてみた表現だわ
きいきいだろ
俺の負の経験値なんかあげなくていいから
478 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/23(日) 00:27:03.41 ID:7mZYtjsI0
乙待ってた
毎回解決までが苦しいけど楽しみ
479 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/24(月) 19:50:09.53 ID:3+0R9CcSO
>>477
きゃいきゃいうるさいぞ
480 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/10/26(水) 06:33:42.58 ID:X5551eEFo
はよ
481 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/11/13(日) 19:25:11.79 ID:eC+BAPPSO
はよ
482 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/02(金) 20:51:29.15 ID:nsiNVmIIO
はよ
483 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/12(月) 20:05:11.44 ID:z6qsGP5qo
【Side:絵里】
絵里「…………」チラ
希「…………」
絵里「…………」チラ
希「…………はぁ」
希「そろそろ、時間やんな?」
絵里「あら。もうそんな時間だったのね」
希「絵里ち。いくらなんでも白々しすぎ」
希「時計ちらちら気にしてたの、気づいてないと思った?」
絵里「……わかってるわよ」
484 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/12(月) 20:05:53.99 ID:z6qsGP5qo
希「実際のところ。どうなん? あの子らの出来栄えは」
絵里「先週の録画風景は希も見ていたでしょう?」
希「そんなこと言っても、うちダンスとか歌は専門外やし。あーうまくなったなー、くらいにしか思わへんかったよ」
希「あれでいけそうなん? ランキング100位以内」
絵里「…………」
希「……わかりやすいお返事どうも」
絵里「なにも言ってないわよ?」
希「目は口ほどに物を言う、ってね」
絵里「う……」
希「そっか。難しいんだ、やっぱり」
485 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/12(月) 20:06:26.14 ID:z6qsGP5qo
絵里「希の言う通り。うまくはなったわ。それも格段に」
絵里「二年生の三人が急にやる気になったのが大きいわね。おかげで一年生にも火がついたみたいだったし」
希「というより、見た感じ二年生の方が一年生に火ぃつけられた感じやったやんな?」
絵里「そう、かもしれないわね。もともとあの二人はアイドル活動に真剣に向き合っていたから」
絵里「だけど……やる気だけじゃまかなえないものも、あるわ」
希「まあ、やる気になってから一週間じゃねぇ……」
絵里「残念だけれど、結果は火を見ずとも明らかだわ」
希「なら、入らんの? アイドル研究部」
希「うちには絵里ちが楽しみにしてるように見えたんやけどな? アイドル活動」
絵里「――――」
486 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/12(月) 20:06:58.01 ID:z6qsGP5qo
アイドルに全く興味がなかった、と言えば嘘になる。
バレエの経験からダンスの心得はあったし、歌だって下手な方ではない。むしろどちらも好きなくらいだった。
だから、それらを生かして自分が輝く舞台に再び登れるのであれば。
かつての雪辱を、果たすことができるのであれば。
それは願ってもないことであった。
だけど。
絵里「アイドルはね。正直な話、どうでもよかったの」
希「ふぅん?」
からかうような、試すような、希の相槌。
ああ。やっぱりこの子は、底意地が悪い。
わかっていて聞いているのであれば――お手上げである。
絵里「私が興味あったのは、矢澤さんの方」
487 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/12(月) 20:07:35.49 ID:z6qsGP5qo
希「うん。喜んでたもんね。うちの占いの結果、聞いた時」
希「『あの矢澤にこさんと一緒に活動できるの?』って」
希「おかしな話やんな? うちの占いなんて関係なく、一緒に活動したいなら「いーれて」って言えばいいだけなのに」
希「まるで誰かのお許しがなければ、それもできないみたいにさ」クスクス
絵里「もう、笑わないでよ」
だけど、それも私が彼女に惹かれる理由。
私はそういうところ、素直になれないから。
「やりたいから」なんていうシンプルな理由で、一歩を踏み出すことができないから。
それを純粋に追いかけられる彼女が――そう、とても眩しかった。
絵里「でも……」
曇る私の表情を、希が察する。
希「うん。今のにこっちは、なんか違うね」
希「前に絵里ちが言ってた『私の知ってる矢澤にこと違う』って言葉の意味、今ならわかる」
希「今のにこっち――なんだか苦しそう」
絵里「…………」
488 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/12(月) 20:08:25.06 ID:z6qsGP5qo
六人が作り上げた『START:DASH!!』の完成度は、お世辞にも上出来とは言えなかった。
高坂さんが遅れ、星空さんが走り、小泉さんが息を切らせ。
園田さんはぎこちなく、南さんは声が上擦る。練習不足は誰の目にも明らかだった。
だけど、彼女らには他の誰にも負けない笑顔が宿っていた。
楽しそうに。
嬉しそうに。
最高の瞬間を作り上げていた。
もちろん、それは残る一人も同じだった――はずなのに。
絵里「…………」
矢澤にこのそれは、あまりにも完璧に「作り上げられた」笑顔だった。
489 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/12(月) 20:10:57.98 ID:z6qsGP5qo
希「スマイルはゼロ円ってよく言ったもんやね。むりくり提供される笑顔が無価値だって、にこっちに思い知らされたわ」
希の言葉になるほどと思う。
彼女の笑顔には、ただ口角を吊り上げ目を細められた彼女の笑みには、まるで価値が見いだせなかった。
ほかの五人との決定的な違い。
彼女は、笑顔になっているだけであり。
笑っているわけでは、ない。
絵里「そもそも……八つの光って、いったい何なのかしら」
希「っ」
絵里「別に希の占いをどうこう言うつもりは全くないのだけれど、だけど異様よ、あの八人は」
そこに自分も含まれているというのは、なんだかおかしな話だけれど。
でも、アイドルグループを結成するには、あまりにも向いている方向がばらばらな八人。
それがなんとか形にはなってきたけれど……あくまで結果論。
絵里「矢澤さんが集めようとしていたのは、あの八人なわけよね?」
絵里「私たちは希の占いであの八人なんだってわかったけれど、矢澤さんにはなにか意味のある八人だった?」
絵里「けれど、どこかに共通点のある集まりというわけでもないし……」
希「……ね、絵里ち」
絵里「ん?」
気づけばだんまりになっていた希が、言いにくそうに口を開く。
それはまるで、いたずらを告白する子供のような。
希「あんな? 実はその占いのことで、絵里ちにまだ言ってないことがあって」
絵里「言ってないこと?」
希「うん。実はな、にこっちのことなんやけど、その八人に――」
コンコン
だけれど、希の告白は。
花陽「――失礼します」
突然の来訪者に遮られた。
490 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/12(月) 20:11:38.29 ID:z6qsGP5qo
だいぶ空いた割に進まずに申し訳ない
続きは今書いてるからちょっと待って
491 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/12(月) 22:23:59.05 ID:X0OTporYo
おつ
続いてくれてよかった
492 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/12(月) 23:30:32.92 ID:OyhcxVFto
乙です
493 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/14(水) 00:54:45.84 ID:1nePQeZo0
乙
待ってるぞ
494 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/16(金) 11:52:22.98 ID:fM7cg8gfO
頑張れ
495 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:33:09.77 ID:YNfrPH5eo
【Side:花陽】
花陽「――失礼します」
私が生徒会室の扉を開けると、少し目を丸くした生徒会長と目が合いました。
凛「失礼します」
続いて凛ちゃんも。その姿を見て、生徒会長は表情を怪訝そうなものに変えます。
絵里「……いらっしゃい、アイドル研究部のお二人さん」
氷のように冷たい視線が、私の心を見透かそうとしているのがわかりました。
当然、だと思います。
今日の午後五時。生徒会長たちは、その時間に私たちの部室を訪れる予定でした。
この人たちが、アイドル研究部に入部するかどうかを決めるために。
絵里「こちらから伺う約束だったはずだけれど、私の記憶違いだったかしら」
絵里「それとも、別件で生徒会に用事?」
花陽「いいえ」
生徒会長と向き合う私の声は。ひょっとしたら、少し震えていたかもしれません。
これから自分がすることを考えたら、だけど、声だって震えます。
だって。
これはきっと、とってもずるい取引だから。
花陽「アイドル研究部に入っていただけませんか?」
496 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:33:44.47 ID:YNfrPH5eo
絵里「――待って。言ってる意味がわからないわ」
花陽「なにも難しい話じゃありません。そのままの意味です」
花陽「アイドル研究部に、入ってください」
絵里「うん、うん。だからね? それを決めるためにあなたたちはランキング100位に入ろうと一生懸命――」
花陽「無理です」
絵里「――――」
呆れながら頭を抱えた生徒会長が、そのままの姿勢でこちらに視線を送ります。
さっきよりも。
冷たい、視線でした。
497 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:34:22.52 ID:YNfrPH5eo
絵里「――無理、というのは?」
花陽「それも、そのままの意味です」
花陽「私たちの歌で、踊りで、『START:DASH!!』で――」
花陽「ランキング100位入りは、無理です」
絵里「諦めた、ということかしら?」
花陽「いいえ。ただの事実です」
花陽「私たちは一生懸命頑張りました」
花陽「最初はどうなるのかな、って思いましたけど」
花陽「だけど、みんな少しだけ向いてる方向が違うだけで、必死なのは変わりなかったから」
花陽「だから。だから、あの『START:DASH!!』は、今の私たちができる最高のパフォーマンスでした」
絵里「それなら――」
花陽「それでも」
何度も生徒会長の言葉を遮るようで、少し罪悪感があったけど。
私は、続けます。
花陽「アイドルは、甘くありませんから」
498 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:35:13.44 ID:YNfrPH5eo
絵里「……そうね」
小さくため息をつきながら、だけど生徒会長は否定をしませんでした。
この人だってわかっているはずです。
花陽「ランキング100位に入ること、無理だって。わかってましたよね?」
絵里「別に、あなたたちの努力を否定するつもりはないのだけれどね」
絵里「だけど……そう、あなたの言う通り。あの出来栄えでランキング入りは――」
花陽「違います」
絵里「――――」
みたび、話を遮られた生徒会長は。
だけど、怒った風でもなく、静かに私を見つめています。
花陽「あの条件を出したときから、です」
絵里「…………」
499 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:35:54.07 ID:YNfrPH5eo
花陽「ずっと不思議でした。この条件、そもそも条件として成立してないって」
花陽「だって、私たちがランキングに入ろうが入るまいが、生徒会長には関係ありません」
花陽「なんのメリットもない話です」
絵里「――だとしたら、なぜ私はあんな条件だしたのかしら?」
それは、わからないことを尋ねる質問ではなく。
答え合わせをするような問いかけ。
花陽「……生徒会長は、最初から答えを言っていました」
花陽「私に言った、あの言葉です」
絵里「――――」
花陽「『入るつもりがあったから』、って。生徒会長は言いました」
花陽「それから、『あなたはわかってるんじゃないの?』、とも」
花陽「生徒会長は――絵里先輩は、そもそも最初からアイドル研究部に興味があったんですよね?」
絵里「――――」
絵里先輩は、沈黙を貫くままでした。
500 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:36:44.58 ID:YNfrPH5eo
花陽「その時の態度も、私は不思議でした」
花陽「私たちを煽るような。けんかを売ってるような。あの態度」
花陽「機嫌が悪かったっていうのも、あるのかもしれませんけど。でも、それだけじゃない気がしていました」
絵里「……なら、どんな理由が?」
花陽「試してたん、ですよね?」
花陽「理由はわからないけれど、絵里先輩には二年生も含めた「あの場の六人」がアイドル研究部にいることが必要だった」
花陽「いえ、それだけじゃありません」
花陽「今後もスクールアイドルとして活動していくことが、必要だった」
花陽「だけど、二年生は誰一人自分の意志でアイドルをやろうとはしていませんでした」
花陽「あのままの意識で続けていても。中途半端な気持ちで続けていても」
花陽「あの人たちがアイドルに真剣に向き合うことはなかった」
花陽「そんな人たちがもしもレベルの高い練習を要求されたら――」
結果は、穂乃果先輩がそのまま証明してくれました。
花陽「……きっと、いずれ辞めてしまっていたと思います」
絵里「…………」
501 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:37:28.19 ID:YNfrPH5eo
花陽「だから、煽ったんです。試すために」
花陽「アイドル研究部に、アイドル活動に、真剣に取り組めるかどうか」
花陽「あの六人が――ううん、絵里先輩たちも含めて、八人が」
花陽「アイドル研究部としてやっていけるかどうか」
花陽「絵里先輩のあの態度に怒ってばらばらになるならそれまで」
花陽「それでもなお、まとまりのあるグループを作れるかどうか。絵里先輩は、試したかったんじゃないですか?」
花陽「それならあの条件も納得できます」
花陽「ランキング100位なんて、絵里先輩にはどうでもよかった」
花陽「条件の本当の意味は――「100位に入れるくらいのまとまりを作れるか」、だったんですから」
絵里「――――」
502 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:38:17.46 ID:YNfrPH5eo
絵里「ハラショー」
花陽「え?」
絵里「素晴らしいわ。まるで名探偵ね」
凛「それじゃあやっぱり!」
絵里「買いかぶりすぎなところもあるけれどね。おおむね当たりよ」
花陽「買いかぶり?」
絵里「……あの時の態度。あれは、そこまで深く考えていたわけではないわ」
絵里「ただ――ただ、腹が立ってしまっていただけ」
花陽「にこ先輩に、ですよね?」
絵里「……そこまでわかるものなの?」
花陽「私たちも、おなじですから」
凛「今のにこ先輩、ちょっぴり自分勝手だにゃ」
花陽「……二年生を勧誘したのは、正直、今でも納得できていません」
花陽「なんだかんだで、穂乃果先輩と海未先輩はやってもいいかなって気持ちに傾いていましたから、まだわかります」
花陽「だけどことり先輩に関しては、わけがわかりません」
花陽「衣装作り担当として勧誘したのなら、理解できました」
花陽「だけどにこ先輩は、アイドルをやってもらうために勧誘したって言ってました」
花陽「まったくやる気のない人を、すぐに辞めるかもしれないリスクを背負ってまで勧誘する理由は――わかりません」
503 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:40:22.36 ID:YNfrPH5eo
絵里「それに関しては本人に確認するしかないけれどね」
絵里「それで? それがどう最初の話につながるのかしら?」
花陽「簡単です」
すぅ、と一度息を吸って。
花陽「絵里先輩。私たち六人は、あなたの望むレベルまでの一生懸命さを作ることができました」
花陽「二年生も、それは同じです」
花陽「絵里先輩が求めていた「本当の条件」は、達成しました」
花陽「だから――アイドル研究部に、入ってください」
絵里「……なぜ?」
花陽「え?」
絵里「なぜ、私たちにそこまでこだわるの?」
絵里「矢澤さんを自分勝手というなら、私たちだってよっぽど自分勝手よ」
絵里「それこそあなたたちにメリットがない」
凛「簡単だにゃ」
さっきの私の言葉をマネするみたいに、凛ちゃんが言います。
凛「先輩たちも、アイドル研究部のために一生懸命だからだにゃ」
凛「先輩たちと一緒に―― 一生懸命な人たちと一緒に部活をやりたいと思うって、おかしなことじゃないと思います」
凛「だから――アイドル研究部に入ってください」
地面と平行になるくらい、凛ちゃんが頭を下げます。
それは、絵里先輩たちと初対面の時の態度からは考えられない姿でした。
504 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:41:55.34 ID:YNfrPH5eo
絵里「――そこまで言われたら、断りづらいじゃない」
凛「それじゃあ!」
ぱっと顔を輝かせて、凛ちゃんが頭を上げます。
私も、その言葉から良い返事を期待しました。
だけど。
絵里「でも……駄目よ。条件は条件」
花陽「え……」
凛「そんな……」
希「ちょっと絵里ち」
それまで黙って成り行きを見ていた希先輩が口を開きます。
希「そこまで頑固なる必要あるん? 絵里ちとしても願ってもない申し出やん」
絵里「それとこれとは話が別だわ」
絵里「ここでその話を飲んでしまったら、筋が通らないじゃない」
絵里「それこそあそこまで仕上げてきた彼女たちを侮辱する行為だわ」
絵里「私があなたたちの……矢澤さんのお願いをきくことは、できないわ」
思ったよりも、絵里先輩は頑なな人でした。
せっかく、せっかく真剣にアイドルに向き合える仲間が増えると思ったのに――
絵里「だから、ね」
花陽「え?」
自分でも気づかぬ間にうつむかせていた顔を上げると。
そこには、ほんのちょっぴり照れた顔の絵里先輩いました。
絵里「だから――こうさせてもらうわ」
505 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:43:05.18 ID:YNfrPH5eo
* * * * *
絵里「私たちをアイドル研究部に入れてください」
希「お願いします」
にこ「…………」
絶句。余りにも意味不明な展開に言葉が出てこなかった。
約束の時間を少し過ぎたころ、なぜか絵里たちと一緒に花陽と凛もついてきて。
パソコンでサイトにつないで結果を確認したら――惨敗。
100位にはほど遠い数字が、私たちにつけられていた。
正直、わかってた部分はあるけど。それでもショックなことには変わりなくて。
絵里たちが入部しないって現実がじんわり体に染み渡ろうとしていたところで――その台詞。
にこ「あの、ちょっとなに言ってるか全然わかんないんだけど……」
絵里「たしかにあなたたちは私の出した条件をクリアできなかった」
絵里「だから、私たちが矢澤さんのお願いをきくことはできない」
にこ「うん、そうよね。私の認識、間違ってなかったわよね」
にこ「だったらなんで――」
絵里「だから、よ」
絵里「だから……今度は、私たちからお願い」
絵里「矢澤さんのお願いとか、私の出した条件とか、そんな話はもう一切関係ない」
絵里「自分勝手なのはわかってる。今までの態度も全部謝るわ」
絵里「だから――私と希を、アイドル研究部に入れてください」
にこ「…………」
506 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:43:53.20 ID:YNfrPH5eo
いや、いやいやいやいや。
たしかに最初にお願いしたのは私だし、条件をクリアできなかったのに二人が入部してくれるのは願ってもない話。
でも、どこか私の心にはもやもやしたものが残る。
そう――最近ずっと感じている、置いてけぼり感。
私の知らないところで、私にかかわる致命的なものがどんどん進められていく感覚。
それが、また、私に襲い掛かった。
海未「それではこれからも生徒会長のレッスンを受けられるということですか?」
ことり「私は大歓迎かなぁ。レッスンはたしかにちょっと大変だけど、でも自分が成長してるのが実感できるし」
穂乃果「あ、あははー……私はちょっとどころじゃなかったけどなぁ……」
海未「穂乃果が一番必要とすべきでしょう? まったく情けない」
穂乃果「だってぇ……」
ちょっとちょっと、あんたたちも待ちなさいよ。
まだ私、返事してないじゃない。
なんでもう二人が入部するかのように話を進めてるわけ?
507 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:44:31.92 ID:YNfrPH5eo
花陽「にこ先輩」
にこ「え?」
戸惑う私に、花陽が正面から向き合う。
花陽「断る理由は、ないと思います」
花陽「絵里先輩たちが入れば、この部はもっともっとレベルアップできます」
花陽「だから、この話は――」
真剣に語る花陽の言葉が、右から左へと流れていく。
『絵里先輩』
あんたたち、いつの間にそんな距離になったの?
にこ「……うん、うん」
にこ「いいんじゃない?」
気づけば私の口からは、そんな言葉が漏れていた。
凛「……! やったにゃ!」
ねえ、凛。
あんた絵里のこと毛嫌いしてたんじゃなかったっけ?
なんでそんな大喜びしてるわけ?
508 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:45:25.74 ID:YNfrPH5eo
絵里「それじゃあ改めて」
絵里「三年生の絢瀬絵里です。今までは偉そうにしてごめんなさい」
絵里「だけどこれからは対等な部員。一緒に高め合っていきましょう」
希「うちからも言わせてもらおうかな?」
希「同じく三年生の東條希」
希「今まではあんまり関わることもなかったけど、これからはよろしくね」
穂乃果・凛「よろしくお願いしまーす!」
二人の元気な声を口火に、絵里たちはここに迎え入れられた。
ははは、やったじゃない。
ついに真姫ちゃん以外の八人が揃ったわ。
私の望んだ通りじゃない。
私の計画通りじゃない。
あはは。
あたま、いたいな。
509 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2016/12/20(火) 01:46:49.12 ID:YNfrPH5eo
ここまで
エリチカ編終了
ちょっとかよちんが説明キャラになったのは力不足でした
続きはまた近いうち
510 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 01:48:23.12 ID:E7YMLGDm0
久しぶりにリアタイで読めた
いつもドキドキしながら読ませてもらってます
511 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 01:49:34.66 ID:Z8xVzuCSO
にこっち…
512 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 03:00:59.85 ID:NIGKcwIZo
乙乙
のぞえり加入までりんぱながやるのはなんだかなぁ
513 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 15:35:49.36 ID:DRNYZpOr0
乙
さてこっからどうなるのやら…
514 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/20(火) 20:53:02.67 ID:PZBPU1f1O
クソの役にも立たない主人公だな
515 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/21(水) 06:53:08.83 ID:gbNEbnbtO
\
 ̄ヽ、 _ノ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
`'ー '´
○
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ヾ|  ̄ノ  ̄ / ..::::::::::::::::::l
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`ヽ `、 .::::\:::::::::::::::|::::::::: /,, ,. ‐;''""
516 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/12/22(木) 01:24:12.95 ID:CK1TQYqP0
花陽は本編でも一生懸命だし
こんな環境だったらこうなるかもしれない
周りに置いてかれるにこがいい感じに辛い乙
517 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:53:05.75 ID:yiknpVX/o
【Side:真姫】
学校内でアイドル研究部の噂を耳にすることが増えた。
「アイドル研究部、最近頑張ってるらしいよ?」
「えっ、それって例のあの子の部活でしょ?」
「それがなんだか最近活動再開したらしくて」
「あー、それ私も知ってる。なんかおっきな大会に出るためのランキングに登録したとか」
「それそれ。踊ってる動画もあるけど結構いい感じだったよ」
音楽室へ向かう途中。前を歩く先輩たちの会話。
3年生の彼女らからしてみれば、アイドル研究部は触れちゃいけないタブーのようなもの。
――だったはずなのに、それが今、動き始めてる。
518 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:53:33.90 ID:yiknpVX/o
「うちの部活の後輩の話だと、興味持ち始めた子もいるみたい」
「へー。だけど、部長ってあの子のままでしょ?」
「またひとりぼっちにならなきゃいいけどねぇ」
「あはは、言えてる。なんかネットでは既に悪口書かれてるらしいし」
「きゃー、前途たなーん」
他人事のように茶化す彼女らの背中に続く。
いや、たしかに他人事なんだろうけど。だけどちょっと悔しいカンジ。
真姫「…………」
……私にとっても、他人事じゃないの?
519 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:54:12.16 ID:yiknpVX/o
たしかに曲を提供したのは私。
だけど、別に入部してるわけじゃない。
でも、その部長とはしょっちゅう会ってて――
真姫「――もう、わけわかんない」
私にとってアイドル研究部ってなに?
私にとって、「矢澤にこ」は――
520 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:55:05.11 ID:yiknpVX/o
真姫「……で? なんでまたいるわけ?」
にこ「…………」
もやもやしながら訪れた音楽室には、すでに先客がいた。
一番前の席でしかめっ面してる二個上の先輩。
アイドル研究部部長。
自称未来人。
矢澤にこ。
真姫「アイドル研究部、忙しいんじゃないの? あちこちで話聞くわよ?」
にこ「…………」
返事はない。
最近のこの人はいつもそう。
部活をほっぽりだして私のところに来たかと思えば、つまんなそうな顔して私の曲を聴いていく。
正直暇人? って思わないでもないけど、でも、そうじゃないことくらいわかる。
にこ「…………はぁ」
彼女が何かを抱え込んでることくらい。
521 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:55:37.41 ID:yiknpVX/o
真姫「ま、別にいいけど」
気にしてない風を装ってグランドピアノの前に腰掛ける。
鍵盤に置いた指がちょっとだけ震えてるの。ばれてないわよね?
間違っても気づかれちゃいけない。気づかれたくない。
何かに迷ってる彼女が。
何かに惑ってる彼女が。
唯一、私を頼ってくれてることが、嬉しいだなんて。
522 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:56:26.87 ID:yiknpVX/o
真姫「――――」
きっと、それが答え。
友達を作ることを頑なに拒んだ私が、一人になることを望んだ私が、ついに崩した壁。
一緒にいてもいいって。
一緒に何かをしてもいいって。
そう、思える存在。
きっかけはこの人がつけてくれる歌詞。私の曲に、ぴったりの歌を乗せてくれる人。
だけど、それが理由として小さくなるのに時間はかからなかった。
時々でも構わない。
私のために足を運んでくれるのが。私のために時間を費やしてくれるのが。
すごく、嬉しかった。
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