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にこ「きっと青春が聞こえる」
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523 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:57:12.33 ID:yiknpVX/o
私のメロディに、彼女が歌を乗せる。
ただそれだけの時間が、ずっと、ずっと、続けばいいと思った。
524 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/01/02(月) 22:58:57.11 ID:yiknpVX/o
短いけどここまで
今更だけどアニメ見返してたらリボンの色レベルでわけわからん勘違いしてた
シナリオ上関係はないけどちょこちょこ違和感あったらごめんなさい
次はまた近いうち
525 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/02(月) 23:53:36.96 ID:34b/KpHc0
乙
楽しみにしてます!がんばってね
526 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/03(火) 22:25:47.00 ID:Nr+bjUJx0
乙
あとは真姫ちゃんが入れば一応九人揃うけどどうなるんだろ
527 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/01/27(金) 22:06:07.77 ID:7R1qUiJSO
はよ
528 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/11(土) 17:51:59.17 ID:UXq7tT3PO
はよ
529 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/02/26(日) 22:09:45.69 ID:yy5CFJJmO
待ってるぞ
530 :
◆yZNKissmP6NG
[sage]:2017/03/01(水) 22:08:30.21 ID:cWxibgpto
申し訳ないけど生存報告だけ
もうちょっと待ってください
531 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/02(木) 14:46:47.89 ID:Ud50C7JSO
>>530
報告ありがとうございます。
気長にお待ちしています。
532 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/03/04(土) 17:09:12.98 ID:ZDgOSR/GO
生きてたか、気長に待ってるよ
533 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/03(月) 11:51:15.86 ID:tLpcSFlto
ほ
534 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:40:45.51 ID:JLb1uo3Bo
この世界にきて最大の違和感を、ここ数日で嫌というほどに味わってる気がする。
μ'sのメンバーも八人まで揃い、残すは真姫ちゃん一人となった。
形としてはまだでも、雰囲気としてはもうかつてのμ'sと同じようなものになってたっておかしくない。
――はずなのに。
穂乃果「それでね、名前はなんかこう、春っぽい感じがいいと思うんだよね!」
ことり「わぁ、私も賛成! 私たちにぴったりだと思うなぁ」
穂乃果「だよね、だよね! どんなのがいいかなぁ……」
ことり「ちょっとおしゃれな感じも出したいよね……」
さっきから聞こえるこの会話。
私が部活に顔を出してる時は――ぶっちゃけ、最近は真姫ちゃんのところに行くことの方が多いんだけど――嫌というほど耳に入ってくる話題。
それがなにより――私の心をざらつかせる。
あんたたち、一体なんの話してるのよ。
535 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:41:26.66 ID:JLb1uo3Bo
海未「ほら、二人とも。そろそろ練習を始めますよ」
ことり「あ、はーい」
穂乃果「えぇー、もうちょっとでいい名前が浮かびそうだったのにぃ……」
海未「つべこべ言わないでください。絵里だってさっきからあなたたちの会話をどこで遮ろうか戸惑っているのですよ」
絵里「ちょ、ちょっと海未、私のことは別にいいから……」
海未「いえ、よくありません。こういったことはきっちり区切りをつけるべきです」
海未「にこ先輩だって、今日は作曲者の方のところでなくこちらへ顔を出してくれているのですから――」
うん、まあ、そういう建前を使わせてもらってるんだけど。
だから、こっちに顔を出さないのは、全面的に私の責任なんだけど。
絵里。にこ先輩。
距離感が――つらい。
536 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:42:09.15 ID:JLb1uo3Bo
にこ(あー、いづらい……)
開いた溝が、なおのこと私の居場所を奪い。
結果居心地のいい場所――つまり、放課後の音楽室に、足を運びたくなる。
それが拍車をかけてることなんてわかりきってるんだけどさ。
でも、今のこの部活は……なんだかものすごく、気味が悪い。
自分の作った料理を食べてるはずなのに、入れた覚えのない調味料が混ざってるような、そんな感覚。
居心地が――悪い。
海未「ところで花陽と凛はまだなのでしょうか。いつもなら真っ先にウォーミングアップを始めているのですが」
絵里「ああ、その二人なら今日は遅れるそうよ。さっきメールをもらったわ」
なんで部長の私に送らないの? なんて疑問は、誰も持たない。
そりゃそうよね。来るか来ないかわからない人間に送ったってしょうがないわよね。
537 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:42:42.56 ID:JLb1uo3Bo
海未「ああ、そうです。フランス語なんてどうでしょう」
穂乃果「?」
海未「先ほどのあなたたちの話です。おしゃれな名前をつけたいのでしょう?」
海未「ならば春をフランス語にでも訳してみてはと思ったのです」
ことり「フランス語で春って……?」
希「あ、うち知ってるよ。たしか――」
プランタン
希「printemps、やったっけ」
穂乃果「ぷらんたん……うん、いい感じ!」
ことり「とってもおしゃれな響きだねぇ」
穂乃果「ほんと、私たちのユニットにはぴったりな名前だね!」
538 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:43:10.22 ID:JLb1uo3Bo
ユニット。
たまに顔を出せば、いつも耳にする話題はそれ。
特に乗り気なのは穂乃果やことりみたいだけど、他の子たちもまんざらではない雰囲気を醸し出してる。
いやいやいや、冗談じゃないわ。
これからμ'sとしてやっていこうって時に、ユニット?
九人で――まだ、八人だけど――練習する時間は、まだまだ削れる段階じゃないの。
それを二、三人のユニットに割くだなんて、とんでもないわ。
539 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:43:58.20 ID:JLb1uo3Bo
にこ「…………」
だけど、こうして一人離れて他の子たちを眺めてると、よくわかる。
この集まりは、μ'sとは違う。
真姫ちゃんがいないこととか、個人個人の距離感が違うとか、細かいところもそうなんだけど、それだけじゃなくて。
決定的な部分で、雰囲気が違う。
ここにいる八人は、決して「八人の集まり」になってない。
穂乃果が作ったあの九人にあったまとまりが、ここにはない。
もちろんそれは仲が悪いとかそういうことではないし、関係にぎこちなさがあるってわけでもない。
だけどそう――かつて感じた一体感は、少なくともまだ、ここにはない。
……まあ、それを率先して乱してるのが自分だっていうのは、反省しなきゃだけど。
でも。
にこ(仮に真姫ちゃんが入部したとして――私たちは、あのμ'sになれるの?)
頭の隅にべったりとこびりつく不安は、何度かぶりを振っても離れてくれることはなくて。
言いようも知れない恐怖が、私の足をがっしりとつかんでいるのを感じた。
540 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:44:38.73 ID:JLb1uo3Bo
にこ(ええい、やめやめ!)
そんなことを考えてたってなにも始まらない。
今の私が考えるべきは、あの頑固な赤毛ちゃんをいかにしてここに引っ張ってくるかで――
と、私が考えを切り替えようとしたところで、ばーんと屋上の扉が開かれる。
花陽「た、大変です!」
飛び込んできたのは、なんだか懐かしさを感じる花陽の叫び声。続いてその本人と、同様に息を切らせた凛が駆けてくる。
絵里「ちょ、ちょっとどうしたの花陽? 落ち着いて?」
凛「落ち着いてなんていられないにゃ! ビッグニュースだにゃ!」
穂乃果「ニュース?」
希「なにがあったん?」
ただならぬ様子の二人に他の部員も集まってくる。さすがにおいてけぼりを食うわけにもいかなく、私も続いて彼女らに近寄る。
六人の視線を一手に浴びる花陽が、果たして口にした言葉は。
花陽「にゅ……入部希望者です!」
541 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:45:30.56 ID:JLb1uo3Bo
にこ「――――!」
断言できる。
その言葉に、一番動揺したのは、私だって。
海未「入部希望者とは……花陽たちのクラスメイトが、ということですか?」
花陽「は、はい」
凛「凛たちね、放課後になってすぐに声かけられたんだ。アイドル研究部に興味があるんだけど、って」
にこ「あ、あ……」
充実感? 満足感? 達成感?
今の気持ちをどう表現していいのかわからない。
だけど、それは間違いなく私の心を喜びに震わせていた。
ついに。
ついにあの子が、折れてくれた――!
絵里「それで、その子は来ていないの?」
花陽「はい、今日は用事があるから話だけ、って……」
凛「だけど興味津々だったし、絶対入ってくれるよ!」
にこ「その、その子の名前って、」
はやる気持ちを抑えきれず、つい漏れ出た私の質問は。
だけど、続いた凛の言葉にかき消される。
542 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:45:56.98 ID:JLb1uo3Bo
凛「二人とも!」
543 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:46:46.83 ID:JLb1uo3Bo
にこ「…………は?」
ことり「すごい、二人も入ってくれるの?」
穂乃果「おおー、一気ににぎやかさが増しそうだね!」
海未「にぎやかさは穂乃果だけで十分ですが……それでも人数は多いに越したことはありませんしね」
にこ「いや、ちょ、」
絵里「そうね、人数が多ければその分ユニットの組み合わせだって幅が広がるだろうし、悪いことじゃないわ」
希「――――」
にこ「ま、待って……」
沸き立つ場の空気に、混ざれない。
みんなが何を喜んでいるのか、私にはまったく理解できなかった。
二人? え?
真姫ちゃんじゃ――ないの?
544 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:47:23.14 ID:JLb1uo3Bo
私の疑問に答えるかのように、花陽が言葉を続ける。
花陽「小林さんと鈴木さんっていうんですけど、二人ともこの間の動画を見て興味を持ってくれたみたいで」
穂乃果「この間のって、『START:DASH!!』の?」
凛「うん。あれで興味を持ってくれた人、結構いるみたいなんだ」
ことり「そっかぁ……やっぱり意味があったんだね」
海未「ええ……なんだか嬉しくなってしまいますね」
絵里「よし、それじゃあその子たちをしっかり迎え入れるためにも、今日の練習を――」
にこ「――――め」
絵里「え?」
そんなの。
絶対に。
にこ「――――だめ!」
545 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:48:07.05 ID:JLb1uo3Bo
穂乃果「にこ、先輩?」
にこ「だめ、そんなのだめ、絶対に! 認められない!」
絵里「ちょ、ちょっとにこ? どうしたのよ急に」
絵里「部員が増えるんだったら願ってもない話じゃないの?」
にこ「願ってなんかない! 願ってなんか……」
目を白黒とさせながら、部員たちが私を見つめる。
構わない。どれだけ奇異に映ったって、構いやしない。
これは、これだけは譲っちゃ――
希「九人じゃ、なくなるから?」
にこ「――――っ」
言葉を継ごうとするより早く、息をのまされる。
希「にこっちが入って欲しいって思ってる人じゃないから、だからだめなん?」
にこ「それ、は……」
ドンピシャの答えを突き付けられ、口ごもる。
その通りよ、希。
私の、私たちのμ'sを。
見知らぬ誰かに、侵されたくないの。
546 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:49:10.21 ID:JLb1uo3Bo
絵里「……希。占いのことを言ってるのだったら、私は八人だと聞いていたのだけれど?」
希「うん、うちの占いではね。だけど、にこっちにとっての『それ』は、どうも九人みたいなんや」
希「せやんな? にこっち」
にこ「…………」
見透かすような希の言葉に、返すものが見つからず。
だというのに、希にとってそれは十分返答にあたるものだったみたいで。
希「もともとここにいる八人はね? 意味のある八人だったんや」
花陽「意味のある?」
希「うん。うちの占いでな? 八つの光がひとつに集まって、おっきなひとつの光になる、いうんがでたんよ」
希「それが――うちと絵里ちの占いの結果」
希「それが、この八人……なんだと、思ってた」
海未「……思ってた、ということは、実際は違ったのですか?」
絵里「待って希、そもそもそれは『私と希の占いの結果』なの?」
絵里「にこの占いの結果じゃ、ないの?」
希「…………」
意味ありげな沈黙。
ねえ、希。なんで?
なんでそんな悲しそうな目で、私を見てるの?
547 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:49:43.53 ID:JLb1uo3Bo
希「にこっちの占いの結果は――白紙だった」
にこ「――――は?」
希「うちが占ったその『八つの光』に、にこっちは――入ってなかったんよ」
希「だからきっと、あと一人、たぶんにこっちの考えてる九人目が、私たちにとっての八人目」
希「にこっちは、最初から――入って、なかった」
にこ「――――」
もう、よくわかんない。
この子は、なにを言ってるの?
私が死ぬ物狂いで集めた、このメンバーに。
私が、入って、ない?
548 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:50:17.60 ID:JLb1uo3Bo
希「ねえにこっち。うち、教えてほしいんよ」
希「教えてほしいから、わざわざこんなつらいこと突き付けることにしたの」
希「にこっちの大事な部分に触れたいから、知りたいから、嘘はつきたくなかった」
希「ごまかしたくなかったの」
希「にこっちにとってその九人って――なんなん?」
にこ「きゅうにん、きゅうにん、は……」
そんな、そんなの、言わなくてもわかるでしょ?
言わなくても、わかってよ。
だってそれは、もう形ができ始めてる。生まれ始めてる。
スタートダッシュを切ったじゃない。
まだ、六人っていう未完成な形だったけど。
だけど、その輪郭は、見え始めてたじゃない。
549 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:50:47.54 ID:JLb1uo3Bo
にこ「……μ's、でしょ?」
550 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:51:35.20 ID:JLb1uo3Bo
私の一言は、透明な空気の中に紛れて、消えた。
誰も、なにも答えない。
どうして?
六人で踊ったじゃない。歌ったじゃない。
練習なら、八人で。私たちのパフォーマンスを、μ'sパフォーマンスを、見せたじゃない。
なのに、なんでそんな――
穂乃果「みゅーず、って……なに? せっけん?」
にこ「――――」
それは、ひょっとしたら場を和ませようとした穂乃果なりの気の利かせ方だったのかもしれない。
だけど、今の私にとって。
それは、決定打。
にこ「うそ、だって……」
よろよろと、おぼつかない足取りで、屋上の隅に放られたかばんに近寄る。
その中からスマホを取り出し、インターネットブラウザを起動。
ラブライブ公式を、検索。
ここには、あるよね?
100位には入らなかったけど、だけど。
μ'sの名前が、ここには――
にこ「――――あ、」
だけど、私たちの順位を示す数字の、その隣には。
「音ノ木坂学院アイドル研究部」
なんの温かみもない、無機質な文字の並び。
551 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:52:04.37 ID:JLb1uo3Bo
にこ「は、はは……」
絵里「に、こ?」
にこ「あは、あはは、あっははははははは!」
海未「ど、どうしたのですか? 落ち着いてください!」
そっかそっか、わかった。わかっちゃった。
「これ」、μ'sじゃないんだ。
そっかそっか、納得。
そうよね、そうに決まってるわよね。
じゃなきゃ、こんなことになってるはず、ないもんね。
あはは。
はは。
は……
552 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:52:59.21 ID:JLb1uo3Bo
それなら。
553 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:53:38.24 ID:JLb1uo3Bo
にこ「……なら」
希「にこっち?」
にこ「それなら!」
希「っ!」
それなら。
それならそれならそれなら!
にこ「それなら――」
554 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:54:08.46 ID:JLb1uo3Bo
私の中のきれいな心は、言っちゃダメって言ってる。
私の中のきたない心は、言っちゃえって言ってる。
それはどっちもおんなじくらい大きな気持ちで。
だから、私は。
自分の意志で、選んだ。
555 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:54:34.94 ID:JLb1uo3Bo
にこ「それなら――こんな集まり、もういらない!」
556 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:55:05.03 ID:JLb1uo3Bo
「――――」
誰かが息をのんだ。
みんな、だったのかもしれない。
決定的に走ったヒビに、とどめを刺したのは。
花陽「――わかりました」
意外な人物。
557 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:55:42.54 ID:JLb1uo3Bo
花陽「……私、にこ先輩は、本当にアイドルが好きなんだなって思ってました」
花陽「だからこそ、ひとりぼっちになっても、アイドル活動を続けられたんだなって」
花陽「だけど……違ったみたいですね。勘違いでした。ごめんなさい」
花陽「絵里先輩。今日からアイドル研究部の部長、お願いします」
花陽「ちゃんと、一生懸命になれる人に、引っ張ってもらいたいですから」
花陽「もう――こんな思い、したくないっ!」
絵里「花陽!」
湿った叫び声と共に、花陽は屋上を飛び出す。
それが、皮切り。
海未「……失礼します」
穂乃果「え、っと……私も」
ことり「あ、待って……」
ひとり、またひとりと。
絵里「……少し、頭冷やしなさい」
希「…………ごめん、にこっち」
屋上から去って行き。
そして、私は。
558 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:56:09.17 ID:JLb1uo3Bo
にこ「あ――あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」
また、ひとりぼっちになった。
559 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/04/12(水) 20:57:02.99 ID:JLb1uo3Bo
ここまで
ずいぶん間が空きましたごめんなさい
続きはできれば近いうち
560 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/12(水) 21:10:53.35 ID:xfAUr2H+o
乙です
561 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/12(水) 22:44:24.55 ID:90rNq/sCO
乙です。いつもドキドキしながら読んでる
562 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/13(木) 10:20:24.29 ID:PnIwIrKZO
乙乙
胃が痛くなるな…
563 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/13(木) 19:56:27.52 ID:iY0wPdtSO
乙です。
バッドエンドになりそうで怖いのですが……そんなことはないと信じてこれからも続きを楽しみにしています。
564 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/14(金) 22:29:50.25 ID:05C46eDAo
乙
凛ちゃんはまだ部室に残ってるのかな?
565 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/04/18(火) 08:02:41.91 ID:/YCIstpAO
ひえぇ…こっからどうなるんや…
566 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:52:31.86 ID:m7W+whrIO
それは、真水のようなものだった。
ぎゅっと掴んで、もう離さないと心に決めながら、それとは裏腹に指の隙間を零れ落ちていく。
どれだけ力を込めても。どれだけ願いを込めても。
それをあざ笑うかのように、手の中にはなにも残らない。
私にとって、μ'sとはそういうものだった。
567 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:52:57.82 ID:m7W+whrIO
夕暮れに沈む教室で、ひとり窓の外を眺める。
ガラス越しに聞こえる運動部の掛け声がいやに遠くて、どこか現実味を失わせた。
まるで。
この世界に、ひとりぼっちであるかのように。
にこ(……あほくさ)
センチになっているだけだ。すべてが徒労に終わり、すべてを失って、少しだけ疲れが顔をのぞかせて。
だから、こんなに虚しさが胸を占めている。
568 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:53:24.65 ID:m7W+whrIO
望みすぎてしまったのだろう。言い聞かせるように繰り返す。私は望みすぎてしまった。
私たち3年生の卒業が間近に迫って、μ'sは終わりにしようって決めて。
だけどアメリカでのライブが世間に与えた影響は、大きくて。
一躍スターになって、そう――望みすぎてしまった。
ああ。
もっと、続けたい。
569 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:53:55.80 ID:m7W+whrIO
だからある意味、この世界は好都合だったのかもしれない。
私にとってμ'sをやり直すチャンス。
あの輝いていた一年間を取り戻すチャンス。
訳が分からないなりにあがき続けられたのは、そんな希望があったからかもしれない。
――じゃあ、今は?
にこ「――――」
μ'sを再び築き上げる道は、絶たれた。
それどころか、私がこの世界でスクールアイドルとして活動できる可能性は、ほぼゼロ。
なら。
私がこの世界にいる意味って、なに?
570 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:54:26.43 ID:m7W+whrIO
思えばμ'sの再結成はひとつの現実逃避だった。
リアリティのない現象に遭遇して、絶望しかけた私を、すんでのところで花陽がすくい上げてくれた。
私の頑張る理由が、生まれた。
じゃあ、今の私が頑張る理由は?
この世界にいる理由は?
571 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:55:00.37 ID:m7W+whrIO
そもそも。現実逃避をやめた私は考える。そもそも、この世界はなんなのだろう。
本当に過去に戻ってきた?
だとしたら廃校の話がなくなっている理由がわからない。
少なくとも私の周りに関してのみ言えば、元の世界とは別のシナリオで進んでいる。
ただ単純に過去に戻っただけとは考えにくかった。
じゃあ、パラレルワールド?
たとえそうだとしても、今、このタイミングで私がこの世界に迷い込んだ理由は?
そうだ。考えてみれば見るほど、私という存在は異質。
私だけが元の世界の存在を知覚している。
私だけが、この世界で非常にイレギュラーな存在なんだ。
572 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:55:26.78 ID:m7W+whrIO
にこ「なんで……私ばっかり」
みんなが幸せそうにしているなかで、私一人がつらい思いをして。
理不尽じゃない、そんなの。
一生懸命頑張ったじゃない。何の説明もなくこんな世界に連れてこられて、それでもμ'sを作るためにあがいて。
なのになんなのよ。みんなみんな、私の邪魔ばっかり。
私は、私はただ……
にこ「――アイドルになりたかった、だけなのに」
不意にこぼれた、その言葉は。
573 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:55:53.40 ID:m7W+whrIO
「うそつき」
574 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:56:19.40 ID:m7W+whrIO
――――ピシリ、と。
世界に、大きな音を響かせた。
575 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/18(木) 23:57:15.05 ID:m7W+whrIO
短いけどここまで
今月中には終わると思います
続きはまたすぐ
576 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 05:51:08.74 ID:PoAYZnzro
乙
577 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 21:27:17.36 ID:PjjpwlD70
乙待ってた
578 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 21:36:10.31 ID:oaIj06zJo
乙です
579 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/19(金) 22:25:45.53 ID:r8Z8nHJb0
乙。終わってしまうのか…
580 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:28:59.54 ID:/PVFQV9zO
にこ「――え?」
声と、音が、同時。
どちらに反応すべきか。迷うほどの時間もなく、声の主は現れた。
「こんにちは」
にこ「あんた……!」
元アイドル研究部の、あの子。
「声をかけただけじゃない、そんな怖い顔しないでよ」
にこ「声をかけただけって……いや、そんなことどうでもいいわ」
にこ「あんたも聞いたでしょ? 今の音」
大きな音だった。何かにひびが入るような、決定的な音。
いつの間に現れたのかわからないけど、私に聞こえて彼女に聞こえていないとは考えにくかった。
581 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:29:27.93 ID:/PVFQV9zO
「そうね」
返ってきた言葉はそっけない。
興味がないような……あるいは、別に不思議ともなんとも思っていないような。
にこ「……なんの音か、わかるの?」
「ええ」
答えはひどくシンプルだった。
そのかわりに。
「あなたには――なんの音に聞こえたの?」
続く言葉は、私を少しだけ悩ませた。
582 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:30:11.74 ID:/PVFQV9zO
にこ「……なにかが、割れるような音」
考えた末に出た答えは、それだった。
いや。もっと正確な言葉を、私は思い浮かべたはず。
「ひびの入った音」
にこ「――――」
考えを読んだかのように、彼女は私の言葉を続けた。
「そうね、その通りよ。今のはひびが入った音」
「ひな鳥がその内側から卵をわるために」
「外の世界へ歩みだすために」
「自分を守る殻を?ぐために」
「ひびを入れた、音よ」
にこ「わけ……わかんない」
「うそつき」
にこ「嘘なんかじゃ、」
言いかけて、気づく。
私を罵るその言葉を、つい先ほど言われたばかりだということに。
583 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:30:41.99 ID:/PVFQV9zO
にこ「あんた……さっきも私のこと」
「言ったわね。うそつき、って」
その言葉は、何に対しての?
その直前に、私が言った言葉は?
それは、たしか――
にこ「――嘘じゃ、ない」
「――――」
にこ「アイドルになりたいって言葉が……嘘なんかなはず、ないじゃない!」
「そう?」
私の大事な部分に触れて、だというのに、彼女は飄々としたまま返す。
「だけどそれは、あなたにとってとても大きな意味合いを持つ言葉よ」
「だからこそ、殻は破れ始めた」
にこ「……は?」
「あなたは嘘じゃないと言った。そうかもね、その言葉自体は嘘じゃないのかもしれない」
「だけどね」
「その奥に眠ってる想いを、言葉を、語ろうとせず蓋をしたままでいるのは――うそつきと同じじゃない?」
584 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:31:07.58 ID:/PVFQV9zO
にこ「……待って。ついていけない」
入ってくる情報量の多さに目が眩む。
彼女の意図している部分の、きっと半分も、私は理解できていないんだと思う。
だけど、なんとなくわかったことがある。
わかったというか、察したというか。
あるいは、感じ取った。
にこ「あんた……この世界のこと、知ってるの?」
「ええ」
答えは、やっぱり、シンプルだった。
そして、続く言葉は。
585 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:31:35.11 ID:/PVFQV9zO
「だって、この世界を作ったのは私だもの」
やっぱり、私を、悩ませた。
586 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:32:35.83 ID:/PVFQV9zO
私の両手が彼女の肩へ伸びたのは、ほとんど衝動的なものだった。
にこ「教えなさい! なんなのよ、この世界は!」
にこ「なんのために作って!」
にこ「なんのために私を閉じ込めたの!」
にこ「教えなさいよ!」
「――痛いわ」
にこ「あっ、」
がくがくと揺さぶられるままになっていた彼女は、静かにそれだけ呟いた。
にこ「ごめん、なさい……」
「いいわよ、別に」
「それよりも……この世界がなんなのか、よね」
「その前にひとつ聞きたいのだけれど」
「それを聞いてあなたはどうしたいの?」
587 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:33:03.46 ID:/PVFQV9zO
にこ「え?」
「この世界はこれこれこういうものでした。おしまい」
「それで、それを聞いてあなたはなにか満足するの?」
にこ「満足、っていうか……」
にこ「この世界を出る方法が、見つかるかもしれないじゃない」
「――そう、よね。あなたはこの世界から出たいのよね」
にこ「あ、当たり前じゃない」
「なぜ?」
にこ「なぜ、って……」
「この世界は、不都合?」
にこ「ふ、不都合よ! こんな、」
「μ'sがない世界?」
にこ「……そうよ」
――自分の言葉を先取りされるのは、ほんとに気持ち悪い。
588 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:33:30.06 ID:/PVFQV9zO
「じゃあ、またやり直す?」
にこ「は?」
それはまるで、ゲームをリセットする? ってぐらいに気軽な言葉で。
思わず聞き流しそうになる。
「μ'sを作れなかったのが気に食わないんでしょう? なら、もう一度3月の「あの日」からやり直しましょう?」
「大丈夫よ、次はもっとうまく立ち回れるわ。今回の失敗をいかして、ね」
「そうすれば満足なんでしょう?」
にこ「そ、そんなこと……」
「可能よ」
にこ「…………や、でも、」
「今度はもっと、理想的なμ'sが作れるかもね」
にこ「…………」
彼女の言葉が、完全に私を黙らせる。
589 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:34:03.02 ID:/PVFQV9zO
「――ここで黙ってしまうから、あなたはうそつきなの」
にこ「え?」
「なんでもないわ」
「そんなことよりも。今言った通り、この世界はあなたの思うようにやり直せる」
「そもそもがそういう世界なの」
「あなたがμ'sの一年をやり直したいと願ったから、この世界は生まれた」
ノゾミ
「あなたの希望が産んだ世界」
にこ「私の、のぞみ?」
「そう。もっとわかりやすい言葉を使った方がいいかしら?」
「意識の奥底、無意識の内側、そこに潜む自分の願望」
「眠りの中で触れる、自らの希望」
「そんな世界の名前。わかるでしょう?」
590 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:34:29.96 ID:/PVFQV9zO
「ここは、あなたの見ている夢の中」
591 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:35:30.84 ID:/PVFQV9zO
にこ「――――」
「3月のあの日。あなたはいつも通り眠りに落ちた」
「そしてこの夢に迷い込んだ。私が作った、この夢に」
「言うなれば、私は管理人といったところかしら」
「もちろんこの姿だって借り物」
ア ナ タ
「私は矢澤にこ。あなたの頭の中に棲む、あなた自身」
にこ「そん……な。だって……」
「信じられなくても、受け入れるしかないわ」
「認めなさい、この世界を」
「ここはあなたが夢見た場所」
ユメ
「あなたが手を伸ばした憧憬で」
ユメ
「あなたが掴もうとした希望で」
ユメ
「あなたがつくり上げた幻想で」
ユメ
「とてもとても甘い――悪夢よ」
592 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:36:26.85 ID:/PVFQV9zO
「もう一度、改めて聞くわ」
「この世界の真実を知って。あなたは、どうしたい?」
「この夢から、醒めたい?」
にこ「私、わたし、は」
「……今決めろっていうのも、酷みたいね」
「だけどね、これだけは忘れないで。私がこの世界にあなたを招いたのには、意味がある」
「その意味をあなたが理解するまでは」
ワ タ シ
「その上で、あなたが矢澤にこを否定できなければ」
「私は、あなたをここから逃がすつもりはない」
にこ「意味、なんて、そんなの……わかんない……」
「うそつき」
三度目の、否定。
593 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:37:17.81 ID:/PVFQV9zO
「さっきも言った通り。この世界には、ひびが入り始めた」
「少しずつ、あなたが目覚める準備が整い始めた」
「だからこそ私はこうしてあなたに真実を教えたの」
「あなたが真実を受け入れる準備が、整い始めたから」
「だけどね、それはあくまで準備でしかないの」
「あなたが自分に嘘をつき続ける限り、準備は準備のまま」
「雛が孵ることはない」
にこ「……わたし、どうしたら……」
戸惑う私の、その胸に。
彼女は――もうひとりの「私」は、優しく指を突いた。
ハコ
「ここにある匣。その蓋を開けなさい」
「その中にある現実に、目を向けなさい」
「あなたがアイドルを目指している。それは本当」
「だけど。それだけじゃ、ないでしょう?」
「それを――認めなさい」
それだけを言い残して、「私」は蜃気楼のように揺らめいて、消えた。
594 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:37:44.23 ID:/PVFQV9zO
にこ「――――夢」
思わずほおをつねろうとして、やめる。この世界で痛い思いなんて、十分してきた。
体も。心も。
すごく、痛い思いをしてきた。
それが、私の望んだ世界?
にわかには信じられない――けど。
この世界に迷い込んだあの日。私はたしかに、望んでいた。
――いっそのこと、この一年間やりなおせたらなぁ
それを……自分の頭の中で実現したってこと、なの?
595 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:40:15.65 ID:/PVFQV9zO
にこ「…………」
「私」が指さした場所を、ぎゅっと握りしめる。
ここにある、箱。
それがなにを指すのか。今の私にはわからない。
うん、わからない。
わからない。
…………
そっか。そういうことなんだ。
にこ「自分に嘘はつけないってこと、なのね……」
その中から、災厄があふれ出てくることを、知りながらも。
それでも私は、この匣を開けなきゃいけないの?
ノゾミ
この世界が、私の希望を叶えた世界だというなら――
にこ「誰か、教えてよ……」
596 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/05/22(月) 16:41:17.39 ID:/PVFQV9zO
ここまで
一応あと5、6回の投下で終わる予定
続きはまたすぐ
597 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/22(月) 17:55:52.98 ID:bzrpFVDuo
乙です
598 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/05/26(金) 22:14:15.84 ID:pBOsbZu30
乙
クライマックスやね
599 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2017/06/05(月) 22:10:10.92 ID:TncLFiZSO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/kako/1402325332/
600 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:08:53.82 ID:EdrrS/iLO
「にこっち」
にこ「えっ」
突然の声だった。
振り向くと、そこにはつい先ほどまでなかった人影。
問答なんてする余地もない。
私のことをそう呼ぶのは、たったひとりだけ。
にこ「希……」
601 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:09:22.99 ID:EdrrS/iLO
いつの間に? という疑問を抱かなかったわけじゃない。
むしろ、ほんの数分前のやり取りがなければ、彼女自身にそう尋ねていたはず。
けれど、今は。
この世界の真実に触れた今は、「ああ、そういうものなんだな」って納得してる私がいた。
ノゾミ
希望を叶える存在を願ったから。
ノゾミ
希が現れた、ってことなのかしら。
にこ「……笑えない冗談よね」
希「ん?」
にこ「なんでもないわ、独り言」
602 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:09:51.97 ID:EdrrS/iLO
にこ「それより、一体全体私になんの用? 練習、もうとっくに始まってるでしょ?」
顎で時計を指し示す。希はその先に視線をやることもなく、ただ、私だけをまっすぐに見つめていた。
吸い込まれそうな瞳だった。
いつもはきれいだと感じるその緑色は、だけど、今はその奥に得体のしれないものを感じさせる。
それは、この世界にきてからうっすらとこびりついていた――疑い。
この希が、「Snow halation」ができる前の希なのだというのなら。
この希は、あの「友達」を口にした希とは、違う。
603 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:10:40.55 ID:EdrrS/iLO
希「ん、……にこっちに、謝らなおもって」
にこ「謝る?」
希「うん。うちが余計なこと言ったから、にこっちが……」
にこ「ああ……」
そこまで言われてようやく話にピントが合う。
たしかにあの状況を振り返ってみると、希が突っ込んだ話をしてきたからあの流れになった――と、言えなくもない。
だけど、正直な話。
にこ「別に、あんたのせいだなんて思ってないわ」
にこ「あんたが話を切り出さなくたって……きっと、たいして展開は変わらなかったし」
希「そんなこと、」
にこ「あるわよ」
希「…………」
604 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:11:06.93 ID:EdrrS/iLO
突き放すような言葉を、あえて突きつける。
悪いけど、どうでもいいのよ。
だって、だって。
だって――今ここにいる希は、あの希とは別人なんだから。
ううん、それだけじゃなくて。
私があそこで切り離した面々だって、夢の世界の住人なんでしょ?
だったら別に、いいじゃない。
別に――
605 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:11:43.68 ID:EdrrS/iLO
希「にこっち」
にこ「――――」
どきりとした。
たった一言、名前を呼ばれただけなのに。
全てを、見透かされているような錯覚に陥った。
希「にこっちは、何を抱えているの?」
にこ「抱えるって……私は別になにも抱えちゃいないわ」
にこ「自分の思った通りに部が運ばなかったから、ちょっと落ち込んでるだけよ」
言い訳がましく言葉がうわすべりしているのを自覚しながら、それでも言葉を止められなかった。
だけど、さ。
大して賢くない私ですらわかってるんだから。
目の前の聡いこの子が、わからないはずないのよね。
希「――にこっち」
606 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:12:17.66 ID:EdrrS/iLO
にこ「……やめてよ!」
耐えられなかった。
別人であるはずなのに。
ただの夢の中のキャラクターのはずなのに。
希に、優しく呼ばれるだけで。
にこ「もう、やめて……」
私のよく知る希が、胸を満たしていった。
私の、私たちの「友達」の、希が。
607 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:12:43.57 ID:EdrrS/iLO
にこ「私は、帰りたいの……」
だからそれは、弱音じゃなくて、本音。
にこ「元の世界に……現実のμ'sに……」
希「現実?」
にこ「……ええ」
信じてもらえるかどうかなんて、もうどうでもよかった。
ただ、重たい荷物を半分持ってもらいたかった。
重さを、わかちあってほしかった。
希の優しさに、甘えたかった。
608 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:13:24.17 ID:EdrrS/iLO
希「――――」
荒唐無稽な私の話を、希は最後まで黙って聞いていた。
にこ「信じ、られないわよね。こんな話……」
希「うーん、そうやねぇ……」
にこ「ううん、いいのよ別に。最初から信じてもらえるだなんて、」
希「すとっぷ」
ずい、と。
希の手のひらが私の言葉を遮る。
希「信じるとか信じないとか、いったん置いとかん?」
希「たぶんそれって、今あんまり重要じゃないと思うんよ」
にこ「……なんで?」
希「んー、だってさ」
いたってまじめな顔して、希は。
希「にこっちが真剣に話してるんだから、うちも真剣に話せばいいだけやん?」
にこ「――――」
奥底まで透き通った緑色の瞳で、そう言った。
609 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:13:55.00 ID:EdrrS/iLO
希「それにしても、ここがにこっちの夢の中……なんともスピリチュアルな話やね」
にこ「まあ……私自身、まだ信じ切れてるわけでもないけど」
希「ほっぺたつねってみる?」
にこ「……のーせんきゅー」
希「…………」ワシワシ
にこ「その手つきはほっぺたつねろうとしてするもんじゃないでしょ!?」
希「……ちっ」
にこ「ついさっきの「真剣に話す」ってのはどこいっちゃったのよ!」
610 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:15:27.01 ID:EdrrS/iLO
希「だけどにこっちとしては大変な問題だよね」
希「夢の世界から出られませーんって、じゃあ現実世界のにこっちはどうなってるん? って話やし」
にこ「それは……そういえばどうなのかしら」
え、現実の私、眠りっぱなしなの? 何か月も?
……いや、夢の中の時間の進み方と現実のそれが同じとは限らないし。
うん、そういうことにしておこう。
希「どうする? 目覚めてみたらカラッカラのミイラになってましたー、とか」
にこ「いや、そんな状態だったら夢見てる余裕ないでしょ」
死んでるって、それ。
希「そう、この世界は夢なのでした。にこっちがついた、長い眠りの――」
にこ「人のこと勝手に殺さないでよ! ――あーもう、しょーもない!」
ああ、だめだ。
ほんとくだらない、軽口の応酬なのに。
にこ「ほんと……しょーもない、わ……」
どうしてこんなに懐かしくて。
どうしてこんなに切なくて。
どうしてこんなに、温かいのか。
611 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:16:07.76 ID:EdrrS/iLO
希「ね、にこっち」
優しさのかたまりみたいな言葉が、私をふんわりと包む。
希「にこっちがこんな夢の世界を作ってまでしたかったことって、なあに?」
にこ「――――」
アイドル活動をしたかった。
その答えが、100点満点中50点くらいの答えだってことは、もうわかってる。
じゃあ。
にこ「μ'sを――作り直したかった」
あの一年間を、やり直したかった。
これが、答え?
希「――――」
目の前の少女は、答えない。
まるで――それが不正解であると、知っているかのように。
612 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:16:59.33 ID:EdrrS/iLO
「私」の言葉が、不意に頭の中をよぎる。
『その奥に眠ってる想いを、言葉を、語ろうとせず蓋をしたままでいるのは――うそつきと同じじゃない?』
『ここにある匣。その蓋を開けなさい』
意味がわからないって、思った。
ううん。思おうとした。わからないって、自分に言い聞かせた。
だって、胸の中に開けちゃいけない匣があることも。
その中にどんな汚いものが詰まっているのかも。
私は――最初から全部、知っていたから。
だから、知らないふりをしなきゃいけなかった。
だけどそんなの、そんなちっぽけな嘘、「私」に通じるはずなんてなかった。
自分をだませるほど――私は、器用じゃなかった。
613 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:17:51.90 ID:EdrrS/iLO
希「――にこっちは強いね」
にこ「は?」
希「だってこの世界に来て、にこっちはまたμ'sを作ろうとしたんでしょう?」
希「絶望的な状況で、それでも自分の居場所をまた作ろうって思えるのは、立派な強さだよ」
希「私には――それがなかった」
にこ「あ――」
それは希が胸の内に秘めていた過去。
住む場所を転々とし、人間関係を保てず、そのたびに居場所がリセットされた少女。
希「私は音ノ木坂にくるまでは、もう諦めてた。「そういうものなんだ」、って」
希「そうすれば痛くなかったから」
希「作れば壊される。壊されれば痛い」
希「なら、最初から作らなければいい――私は、そう思うことにした」
希「それは、私の弱さだった」
にこ「違う……」
違う。違うの。
希が弱いというのなら、私の方がよっぽど弱い。
だって、だって――
614 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:18:37.57 ID:EdrrS/iLO
希「なにが違うの?」
にこ「だって、私は……」
あ、と思っても手遅れで。
匣の蓋が、ほんの少しずつだけど、ずれ始めて。
にこ「μ'sがないとダメだったから。私にとって、μ'sは、すべてだったから」
その隙間から、どんどん言葉が漏れだす。
厄災が、あふれだす。
にこ「だから、作らなきゃいけなかった。μ'sがなきゃ、ダメだから……」
希「なんで?」
もうそれは、きっと会話にすらなっていない。
希はただ、問いかけるだけで。
私は、ただ――吐き出すだけ。
にこ「だって、だってμ'sは――アイドルじゃ、なかったから!」
615 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:19:28.82 ID:EdrrS/iLO
にこ「アイドルっていうのは孤独なの。狭い枠をたくさんの子たちで奪い合う競争社会」
にこ「それはたとえ同じグループであってもよ。総選挙なんてやって順番付けてるのがいい例でしょ」
にこ「おもてっつらでは仲良しを演じながら、でも腹の奥では蹴落とし合う。それがアイドルなの」
にこ「そうあるべきだって思ってた。だから、だから……」
これは、そう。
ただの、いいわけ。
にこ「私がひとりぼっちになってるのだって、当たり前だって思ってた!」
616 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:20:49.90 ID:EdrrS/iLO
にこ「私のやりかたについてこれなくなって、ひとりまたひとりと部からいなくなって」
にこ「寂しかったはずなのに、悔しかったはずなのに、でも私は必死に笑顔を取り繕ってた!」
にこ「ああ、私の方が本気なんだ!」
にこ「私の方がアイドルに向いてるんだ!」
にこ「そう思わなきゃ――耐えられなかったのよ!」
にこ「だから穂乃果たちが現れた時は、何が何でも認められなかった」
にこ「仲良しアイドル? ふざけないでよ! そんなの成立するわけないでしょ!?」
にこ「そんな中途半端なもの、アイドルだなんて認められるはずがない!」
にこ「……でもね、違ったの。あれは、私が「アイドル」と定義してるものじゃなかった」
希「――じゃあ、なあに?」
にこ「……決まってるじゃない」
そう。最初からわかってるはずだった。
私たちがやってるのはアイドルなんかじゃない。
蹴落とし合う必要も、見下し合う必要もない。
一緒に泣いて、一緒に笑って、一緒に高め合って。
正々堂々自分たちの力で輝いて競い合う、純粋に眩しい存在。
にこ「――スクールアイドルよ」
617 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:21:41.56 ID:EdrrS/iLO
にこ「μ'sに加わってからは、信じられない毎日の連続だったわ」
にこ「毎日心の底から笑い合える仲間がいて」
にこ「毎日心の底から競い合える仲間がいて」
にこ「毎日心の底から信じ合える、仲間がいた」
にこ「それは私の中の「アイドル」には決してなかった光景で」
にこ「とっても――幸せだった」
希「そう……」
うん、そう。
とても幸せだった。
醜い想いに蓋をして、見えないふりをしながら過ごす毎日は。
618 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:22:25.31 ID:EdrrS/iLO
にこ「でもね」
希「え?」
にこ「でもね、そんな毎日を過ごせば過ごすほど、匣の中身は増えていったわ」
希「……中身?」
にこ「ええ」
その匣が、今、ゆっくりと蓋を開こうとしていた。
にこ「それは決して考えちゃいけないこと。気づいちゃいけないこと」
にこ「気づいてしまえば、認めてしまえば、それは裏切ることになるから」
希「裏切るって……誰を?」
にこ「私自身を、よ」
もっと正確にいうならば。
今までの、私。
619 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:22:59.51 ID:EdrrS/iLO
にこ「スクールアイドルは楽しい。幸せ」
にこ「あったかいぬるま湯みたいに、心がほわぁってするの」
にこ「そう、それはね」
にこ「アイドルを目指していたときには――決して味わえなかったものなのよ」
希「――――」
にこ「μ'sで幸せを感じれば感じるほど、匣の中身は私に問いかけてきたわ」
にこ「ねえ」
にこ「あの2年間は――なんだったの? って」
620 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:24:29.71 ID:EdrrS/iLO
にこ「ひとりぼっちで涙を飲んでた2年間は、なんだったの?」
にこ「必死にアイドルを目指して、たどり着いたあの2年間は、誰が取り戻してくれるの?」
にこ「私に聞かないでよ。私が知るわけないでしょ。私は今が楽しいの。μ'sがすべてなの」
にこ「耳をふさいで、目を閉じて。匣の存在すらも、忘れようとした」
にこ「――ま、残念ながら「私」がそれを許しちゃくれないみたいだけどさ」
希「にこっち、あの、」
にこ「μ'sが終わったら」
希「っ」
にこ「μ'sが終わったら。スクールアイドルが終わったら」
にこ「私はまた、アイドルを目指す」
にこ「自分が上り詰めるために、他人を蹴落として」
にこ「きったない中身を隠すために、きれいな服で着飾って」
にこ「そんな「アイドル」に、なるの」
621 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:25:06.89 ID:EdrrS/iLO
にこ「ねえ」
さあ、もうおしまいにしましょうか。
にこ「私はいつか、きっとまた思うわ」
長いおしゃべりは、もうおしまい。
にこ「部員が私一人だけになった、あの日のように」
匣の蓋を――開けましょう。
622 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:26:12.58 ID:EdrrS/iLO
にこ「アイドルなんて目指すんじゃなかった――って」
623 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/06/21(水) 23:27:13.24 ID:EdrrS/iLO
ここまで
全然5月中に終わらなかったごめんなさい
続きはなるべく早く
624 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/21(水) 23:59:45.57 ID:OUAT/uqto
乙です
625 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/06/23(金) 23:44:31.82 ID:BtKPPNGbo
乙乙
626 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/17(月) 23:35:27.06 ID:huycTrwqO
希「――そっか」
にこ「ん?」
希「にこっちはアイドルの楽しさ以上に、セーシュンの楽しさを知っちゃったんやね」
にこ「青春?」
希「うん」
にこ「ふふ、なによそれ――青臭い」
だけど、そっか。希の言葉でひとつ腑に落ちる。
私がスクールアイドルに求めている楽しさは、きっと、青春っていうんだ。
627 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/17(月) 23:35:54.89 ID:huycTrwqO
希「じゃあ、にこっちは」
希「やめるの? ――アイドル、目指すの」
にこ「…………」
希「スクールアイドルが楽しくて」
希「夢の中でやり直すのを望んでしまうくらい楽しくて」
希「だから、つらい現実からは目を背けて」
希「アイドルを、諦めるの?」
希「この世界で、夢を、あこがれを、追い続けるの?」
にこ「…………」
628 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/17(月) 23:36:47.29 ID:huycTrwqO
『今度はもっと、理想的なμ'sが作れるかもね』
彼女の、『私』の言葉が、頭の中で再び鳴り響く。
それも可能なのかもしれない。
私がそれを望むのなら。
この夢の中で。
ずっと、ずっと――
にこ「――――」
あの時、答えられなかった質問に。
ゆるゆると、首を横に振った。
629 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/17(月) 23:37:40.02 ID:huycTrwqO
希「――どうして?」
にこ「……寝坊しすぎてミイラになっちゃったら厄介だし?」
希「――――」
にこ「……あーはいはい、答えるわよ」
にこ「って言っても、私自身明確に答えを持ってるわけじゃないんだけどさ」
はっきり言ってしまえば、まだ頭の中はぐちゃぐちゃで。
この甘ったるい夢の中にずぶずぶと沈み込んでいきたい欲望は、ある。
だけど。
にこ「私の望みは、きっと、それだけじゃないから」
630 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/17(月) 23:38:08.50 ID:huycTrwqO
* * * * *
屋上への扉は、開くといつもびゅう、と一際強い風をもたらした。
いつもは髪が崩れて不機嫌になる要素だったけど、今だけはその荒々しさが少しだけ心地いい。
私の背後にべたりとはりついていた後ろ暗いものを、吹き飛ばしてくれたから。
花陽「あっ――」
レッスンで体を動かしている途中、私の存在に真っ先に気づいたのは、私が求めている人物だった。
その視線に気づいた他の子たちも、次々に私をその目に捉える。
12の瞳が、一度に私を射抜いた。
631 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/17(月) 23:38:37.77 ID:huycTrwqO
花陽「……なんの用ですか?」
険のある口調は、明らかに私を排除しようとするものだった。
彼女なりの「アイドル活動」を阻害しようとする私を、排除するための。
明確な、強さだった。
にこ「……あんたは、」
なにを話すべきだろう。この段階にきて、自分の考えがまとまっていないことに気づく。
あーあ、なんて間抜け。
だけど、だからこそ、変に飾ることのない、シンプルな言葉が出てきた。
それを彼女にぶつける直前。
そういえば、これはそもそもかつて私に向けられたものだと気づいた。
にこ「あんたは――なんでアイドルになりたいの?」
632 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/17(月) 23:39:03.20 ID:huycTrwqO
花陽「…………」
突拍子もない質問に面食らった様な花陽。
目を白黒とさせている彼女の目の前で、私はあの時の凛の質問になんと答えただろうかと思いめぐらせる。
その言葉がすんなり思い出せたのは。
あの時の気持ちが、今の気持ちが、本音だから、なのかな。
633 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/17(月) 23:39:29.91 ID:huycTrwqO
にこ『――やりたいから、よ』
花陽「――やりたいから、です」
634 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/17(月) 23:41:43.39 ID:huycTrwqO
きっと、見たくないものをたくさん見ることになると思う。
人の醜い部分とか、自分の薄汚い部分とか。
そういうのを全部押し込めて、だけどお客さんの前ではきらきらした笑顔を振りまいて。
自分の笑顔を削ってまで。誰かを笑顔にする。
――そこまでして、やりたいの?
頭をよぎったその問いを。
花陽「――――」
力強い瞳が、否定していた。
635 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/17(月) 23:42:16.88 ID:huycTrwqO
にこ「――『あんた』のこと、もっと大事にしてあげなきゃいけなかったのにね」
花陽の頭をぽん、と軽くなでる。
花陽「…………?」
私の態度にいい加減違和感を覚えたのか、花陽の瞳から敵意の色が抜ける。
うん、そうよね。わけわかんないわよね。
だけど、『あんた』はそれでいいの。
なんにも難しいことなんて考えずに。
「やりたい」を貫き通せば、それでいいの。
636 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/17(月) 23:42:47.39 ID:huycTrwqO
ああ、言いたくないな。
あの子たち、こんな言葉を叫んだんだ。すごいな。
息を吸って、言葉にならず、吐き出して。
そんなことを何度か繰り返していると、ついに耐えきれなくなったらしい花陽。
花陽「あの、にこ先輩」
花陽「にこ先輩が求めてる形が何なのか、私にはわかりません」
花陽「だけど、にこ先輩のアイドルに対する情熱は、私、まだ疑いきれません」
花陽「しっかり聞きたいです、にこ先輩が望んでいること」
花陽「それで、できるなら――」
花陽「できるなら、また一緒に、スクールアイドル――やりたいです」
にこ「――――」
637 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/17(月) 23:43:16.24 ID:huycTrwqO
ほら、もたもたしてるから言われちゃった。
どうすんのよ。こんな魅力的な提案。
やりたくなっちゃうじゃない。続けたくなっちゃうじゃない。
まったく、もう。
にこ「…………ううん」
花陽「え……?」
ごめんね、花陽。
もう、夢から覚める時間なの。
638 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/17(月) 23:44:04.51 ID:huycTrwqO
にこ「μ'sは、もう――おしまい」
639 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/17(月) 23:44:32.10 ID:huycTrwqO
ピシリ。
ひびは、その大きさを広げて――
640 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/17(月) 23:45:01.64 ID:huycTrwqO
ここまで
多分あと2回くらい
次はなるべく近いうち
641 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/18(火) 00:57:22.72 ID:mC+sfMYlo
乙、そろそろ本当に終わりが近いなぁ
642 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/18(火) 05:57:27.63 ID:GWIhe66io
乙です
643 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/21(金) 08:15:56.71 ID:BqFP8GorO
なるほどな…いよいよクライマックスだな
644 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 08:44:19.84 ID:rN0RYkWfO
* * * * *
まだ、世界は続いていた。
どれだけひびが入っても、殻を破るに至らない。
まだなにか足りない? だとしたらなにが?
夕暮れに沈んでいく廊下を一人歩きながら、考える。
心当たりはあった。
花陽が、私のアイドルになりたいという強い思いを受けて元の世界の彼女と差異が生まれたように。
ガラスのように繊細な弱さをこの世界で見せた、赤髪の少女。
にこ「…………」
たどり着いた音楽室から、音はない。
だけど。
真姫「…………」
開いたドアの先に、彼女は、いた。
645 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 08:44:48.67 ID:rN0RYkWfO
真姫「……なによ。思い詰めた顔して」
にこ「……あんたこそ」
真姫「――――」
にこ「ねえ、真姫ちゃ、」
真姫「だめよ!」
にこ「っ!」
真姫「だめよ! 認めない!」
真姫「せっかく仲良くなれたじゃない!」
真姫「せっかく楽しくなってきたじゃない!」
真姫「なのに、なのに……」
にこ「真姫……」
646 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 08:45:27.84 ID:rN0RYkWfO
強い口調と裏腹に、その口から飛び出てくるのはつつけば崩れそうな脆い言葉ばかりだった。
離れたくない。終わらせたくない。一緒に居たい。
そんな――みっともない言葉ばかり。
真姫「なによそれ、ずるいじゃない! 人に期待させといて!」
真姫「どうせひとりぼっちだろうって、そう覚悟を決めてたのに!」
真姫「なのにあなたは現れた!」
真姫「私にとびっきりのプレゼントまで用意して!」
真姫「そうやって人の心のドア開けといて、そんな……いやよ……」
真姫「さよならなんて……いやぁ……」
ぽろぽろと。その瞳からこぼれる雫は。
きっと、彼女の、私の、弱さ。
647 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 08:46:08.25 ID:rN0RYkWfO
真姫「こんな、こんなことなら……」
真姫「ずっとひとりぼっちのままだって――」
にこ「違う!」
真姫「っ」
にこ「それは――違うわ」
それは、それだけは認めちゃいけない。
あの日、あの時。
アイドル研究部の部室で私を待ち構えていた7人。
私をμ'sに加えてくれた愛すべき後輩たち。
彼女たちが差し伸べてくれたその手は。
間違いなく、私にとって眩しいくらいの光だったんだから。
それは――否定しちゃ、だめ。
648 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 08:47:44.61 ID:rN0RYkWfO
にこ「――ね、真姫」
うつむきながらぼろぼろと泣きじゃくる少女に向かいながら。
その実、私の言葉は、彼女に向けられたものじゃない。
にこ「楽しい時間はね、いつまでもは続かないの」
にこ「いつか必ず終わっちゃうものなのよ」
にこ「それはきっときらきら光る宝石みたいなもので」
にこ「ずっと、ずぅっと……見つめ続けていたくなるものなんだと思う」
私が過ごした高校最後の一年間。
思い出すだけで目がくらみそうになるくらい、まばゆい日々。
それを、人はきっと、青春っていうんだ。
649 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 08:48:29.21 ID:rN0RYkWfO
にこ「だけどね、だめなの」
にこ「そればっかり見つめてたって、前には進めないの」
にこ「だから、それはそっと宝石箱にしまっておくのよ」
にこ「大切に、大切に」
にこ「なくさないように」
真姫「――――」
さっきの花陽みたいに、意味がわからず呆け顔の真姫ちゃん。
ごめんね。これ、ただのひとりごとなのよ。
650 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 08:49:03.76 ID:rN0RYkWfO
にこ「でもね、これから先、きっとつらいこともたくさんある」
にこ「見たくない現実だっていーっぱい出てくる」
にこ「そういうのに負けそうになった時はさ、ちょっとだけ、その宝石箱を開くの」
にこ「いっぺんに開けちゃ駄目よ? まぶしすぎて前が見えなくなっちゃうから」
にこ「そーっと――のぞき込んでみて」
にこ「そしたらね、きっと見えるから。聞こえるから」
真姫「――聞こえる?」
にこ「うん。きっと聞こえるわ」
にこ「きっと、きっと――」
651 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 08:49:38.99 ID:rN0RYkWfO
私たちが駆け抜けてきた一年間が。
私たちが過ごしてきた時間が。
私たちが、踊り、歌い続けてきた曲たちが。
私たちの――大切な青春の日々が。
652 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 08:50:10.99 ID:rN0RYkWfO
さあ、今度こそ終わりにしましょうか。
名残惜しいけど、この世界とはもうさよなら。
大丈夫。
たしかに私は強くはないけど。
だけど、もう――弱くもない。
だからこれは。
過去に別れを告げて、私が前に進むための言葉。
653 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 08:50:39.13 ID:rN0RYkWfO
にこ「きっと青春が聞こえる」
654 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 08:51:49.37 ID:rN0RYkWfO
パキ――ン
殻は、ついに破られて。
世界は、真っ白な光に包まれた。
655 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 08:53:03.15 ID:rN0RYkWfO
とりあえずここまで
今日にこ誕だし終わらせたい
続きはまたすぐ
656 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 09:29:16.71 ID:rN0RYkWfO
にこ「――――ん?」
「気が付いた?」
にこ「え? ……え、ここどこ?」
あの世界に別れを告げた途端、視界がぶわーってまっしろけになって。
次に目を開いたら、世界はまっしろいままで。
だけど目の前には、『私』がいた。
657 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 09:29:46.17 ID:rN0RYkWfO
「ここは夢と現のはざま」
「現実の世界と夢の世界をつなぐ通路みたいなものかしら」
「安心して。もうじきあなたは目を覚ますわ」
「長い長い夢から、ね」
にこ「…………」
そっか。終わったんだ。
本当に長かったように感じる。
そりゃ体感的には数か月を過ごしてるんだから当たり前なんだけど。
だけど、これで目が覚めたらまた――
658 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 09:30:58.67 ID:rN0RYkWfO
「そう。あなたは3月のあの日に戻るわ」
「もちろん、あなたが高校3年生のね」
にこ「――そう」
「……名残惜しい?」
にこ「……惜しくない、っていえば、嘘になるわ」
「うん……」
「――まだ、間に合うわよ?」
にこ「え?」
「あの世界は消えてなくなったわけじゃない」
「あなたの頭の隅っこの方で、まだ残り続けてる」
「10年後まで残ってるかもしれないし、明日消えるかもしれない」
「だけど――今はまだ、ある」
「まだ、戻れるわよ?」
そう言いながら、私の後ろを指さす『私』。
つられて視線をやると、白い世界の中で、一際目立つようにキラキラ光る扉が見えた。
あれをくぐったら、その先は――
659 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 09:31:34.17 ID:rN0RYkWfO
にこ「――もう、やめてよ」
ため息交じりに答える。
にこ「あのね、名残り惜しいのと未練がましいのは違うの」
にこ「私は決めたわ。過去とはさよならするって」
にこ「私をまた夢の世界に引きずり込もうとしたってそうはいかないんだから!」
「ふぅん、そう」
ふふーんと胸を張る私とは対照的に。
楽し気もなく。かといって気分を害した様子もなく。
『私』は、そっけなくそう返すだけだった。
660 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 09:32:02.53 ID:rN0RYkWfO
「じゃあ、最後のあいさつをどうぞ?」
にこ「へ? ……って、うわぁ!」
どうぞ、と示された先に、私がいた。
いや、『私』が、ということではなく。
正真正銘、どこからどう見ても矢澤にこがいた。
にこ『――――』
その私は、どこかうつろな目をしていて焦点が合っていない。
そう、寝ぼけ眼って言葉がまさにぴったりな感じ。
661 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 09:32:33.73 ID:rN0RYkWfO
「言ったでしょう? 夢と現の通路だって」
「3月のあの日とつながってるのだから、もちろん現実から夢の世界へ向かうあなただっているのよ」
にこ「……そういうもんなの?」
「そういうものよ」
にこ「…………」
まあ、そういわれてしまえば「そうですか」としか答えようがない。
しっかしまあ――目の前に自分が立ってるってのも、不気味なもんね。
662 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 09:33:08.43 ID:rN0RYkWfO
――だけど、そっか。
この子は、これからあの世界に向かうんだ。
これから――長い長いお別れの旅に出るんだ。
にこ「――やりなおすのなんてね、結局くだらないことなのよ」
にこ「夢は夢。現実は現実」
にこ「約束してあげるわ。あんたは絶対この場所に帰ってくる」
にこ「私自身が言うんだもの、説得力あるでしょ?」
にこ「ま、大船に乗ったつもりで向かっちゃいなさいよ。ほらほら」
自分でも不思議なくらい矢継ぎ早に、私は言う。
――ああ、だめだ。
これ以上、ここにいては、だめだ。
663 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 09:33:42.68 ID:rN0RYkWfO
にこ「……ま、まあ、そういうわけで私はとっとと現実世界に帰るから、あんたも達者でやりなさい」
にこ「それじゃ、」
一方的に言い放ち踵を返そうとした私の裾を。
にこ『――――』
私がぎゅっとにぎって、そして。
この子は。まぎれもない私は。
まぶしく輝く扉を指さして。
にこ『――あっち、いきたくないの?』
にこ「――――っ!」
無邪気な子供のように、私の心を抉った。
664 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 09:34:15.72 ID:rN0RYkWfO
喉から飛び出ようとする言葉を飲み込んで。
振り返りたくなる足を押さえつけて。
だけど、ぼろぼろ零れ落ちる涙だけは抑えられないまま。
精一杯の強がりだけを顔にへばりつけて。
私は、首を横に振った。
665 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 09:34:42.48 ID:rN0RYkWfO
たしかに私は、もう、弱くはないけど。
だけどやっぱり――強くも、ない。
この気持ちは。宝石箱を開きたい、この気持ちは。
きっと、いつまでも私の胸の中に、強く残り続けるんでしょうね――
666 :
全治全能の未来を予言するイケメン金髪須賀京太郎様に純潔を捧げる
[sage saga]:2017/07/22(土) 09:40:41.10 ID:1i17oUrF0
山本五十六大将
山口多聞善相撲シヨウゼ
アイドルの相撲とか視聴率凄そう笑点感覚
667 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 09:58:42.09 ID:rN0RYkWfO
* * * * *
ジリリリリリリリリ……
にこ「……っるさーい」
カチッ
にこ「ふあぁぁぁあ」ムクッ
にこ「………」
にこ「……ねむい」
668 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 09:59:09.38 ID:rN0RYkWfO
まだ肌寒さを感じる、3月某日朝。
ぬくもりが残る布団の中から、私は恨めし気に目覚まし時計を睨み付ける。
AM7:00
音ノ木坂を卒業した私が起きるにはまだ全然早い時間なんだけど――今日はお出かけの日。
いや、今日も、か。
μ'sのこれからが決まるまでは、おわらない用事。
にこ「――ううん」
もう、おわらせなきゃいけない用事。
669 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 09:59:42.83 ID:rN0RYkWfO
にこ「あれ……?」
自分の行動に、自分で強い違和感を覚える。
私、なんで今、あんなにはっきり否定できたの?
μ'sを続けたい、アイドルを続けたいって気持ちは、まだこんなにあるのに。
それに――ねえ、なんで?
にこ「なんで私――泣いてるの?」
原因不明の涙を指ですくいあげながら。
今の今まで見ていたような気がする長い夢の内容が、ぽろぽろ零れ落ちていくのを感じていた。
670 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:00:20.94 ID:rN0RYkWfO
* * * * *
にこ「おはよー……って、そっか」
返事のないリビングを見回して、そういえばと思い出す。
ふたごちゃんたちはお泊り保育だかで昨日から不在。
ママは朝が早いから朝ご飯は自分で用意してーって言ってたっけ。
にこ「…………?」
なんだか今日はやけに違和感が絶好調。
ことあるごとに頭の中に引っ掛かりが生まれる一日みたい。
ま、気にしててもしょうがないけど。
671 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:02:17.64 ID:rN0RYkWfO
* * * * *
3年生が卒業し、音ノ木坂生の減った通学路を歩く。
違和感先輩はなおも絶好調。
自分でもわけがわからないけど、つい同じ制服を着た子の顔を覗き込んでしまう。
そんでもって見覚えのない後輩の顔を見て安心。それの繰り返し。
……一体全体、私、どうしちゃったの?
とまあ、首をひねりながら校門をくぐろうとすると。
にこ「ん」
前方に見知った二人分の後姿。
672 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:02:46.84 ID:rN0RYkWfO
にこ「あ――」
おはよーって声かけて、軽い冗談のひとつでも飛ばしてやろうかしらと思い立ったところで。
言葉がのどに詰まる。
え、なにこれ?
心臓がどくんどくん鳴って、嫌な汗が背筋を伝う。
なんで?
なんであの二人に声をかけるのが、怖いの?
まるで、その先におそろしい未来が待っているかのように――
絵里「――あら?」
希「ん?」
にこ「……っ」
二人が振り向いた。私の存在に気づいた。
あ、いや、やめて。
こわい、こわい――!
673 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:03:32.92 ID:rN0RYkWfO
絵里「にこじゃない、おはよう……どうしたの、変な顔しちゃって」
希「どしたん? 風邪でもひいた?」
にこ「…………え? あ、いや……」
ふたりに声をかけられた途端。恐怖心が一気にどこかへ消え去った。
にこ「あ、や、えーっと……おはよう」
絵里「え、ええ……おはよう」
希「おはようさん」
にこ「…………」
絵里「……ねえ、本当に大丈夫? 自由登校なのだから無理する必要は……」
にこ「う、ううん、大丈夫……大丈夫だから……」
その言葉に偽りはなく、動悸も呼吸も次第に落ち着きを取り戻した。
だけど、なんで?
なんで私は、この二人に――大切な友達のこの二人に、拒絶されるかも、なんて思ったのかしら。
674 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:04:05.46 ID:rN0RYkWfO
にこ「あー、ごめん。ほんと大丈夫だから」
絵里「そう? ならいいのだけど……」
にこ「ありがと、心配してくれて。だけど、この程度で帰ってなんてられないわ」
にこ「大切な話があるんだから、さ」
絵里「……うん」
希「……そうやね」
にこ「……あのさ。二人にちょっと聞いてもらいたいんだけど――」
675 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:04:36.32 ID:rN0RYkWfO
そうだ。まずはこの二人に聞いてもらおう。
大切な友達の、大切な仲間の、この二人に。
私の中に生まれた、強く、だけどまだまだ脆い、決意の話を。
676 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:34:58.91 ID:rN0RYkWfO
【Side:真姫】
677 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:35:27.66 ID:rN0RYkWfO
真姫「――――♪」
凛「真姫ちゃんまたその曲?」
真姫「う゛えぇ!? ほ、星空さん!?」
凛「じゃなくて?」
真姫「あ、え、えっと……凛?」
凛「よくできましたー!」パチパチ
真姫「……ひょっとして馬鹿にしてる?」
花陽「ご、誤解だよ真姫ちゃん!」
真姫「ああもう、わかってるわよ。それよりほら、部室行くんでしょ?」
678 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:36:02.62 ID:rN0RYkWfO
放課後音楽室に引きこもる日課は、私のスケジュール帳から消え去った。
ううん、違うわね。
自分で、消した。
私が楽曲提供してるアイドル研究部の扉を、自分のこの手で叩いたから。
正直なんでそんな暴挙に出たのか自分でもよくわからない。
そもそも――私はなんで彼女たちに楽曲を提供していたの?
それすらもなぜか曖昧。
だけど、ただ。
ひとりぼっちで諦めているだけの3年間には、したくないって思えたから。
卒業するときに振り返ってみて、宝石みたいに輝く時間を作りたかったから。
――って、なに恥ずかしいこと考えてるのかしら。ばかばかしい。
679 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:36:29.95 ID:rN0RYkWfO
花陽「だけど真姫ちゃん、本当にその曲好きだよね?」
凛「そうそう、しかも同じフレーズばーっかり繰り返してるにゃ」
花陽「それに自分で作った曲なんでしょ? すごいなぁ……」
真姫「……違うわ」
花陽「え?」
真姫「たしかに曲自体は自分で作ったものだけど、このフレーズは――」
真姫「このフレーズだけは、誰かからプレゼントしてもらったような……そんな気がするの」
真姫「名前も覚えていない、誰かに……」
そこまで言って、ぽかーんとしてる二人の表情に気づく。
いけない。つい変なこと口走っちゃった。
680 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:37:25.39 ID:rN0RYkWfO
真姫「ご、ごめん、気にしないで。たぶんただの気のせい――」
凛「ううん、そんなことないよ!」
真姫「え?」
凛「凛とかよちんもね、話してたんだ」
凛「凛たちがアイドル研究部に入ったのって、なんでだろう、って」
真姫「入った、って――あなたたちが作ったんじゃないの?」
花陽「それが……よくわからないの」
花陽「たしかに今いるメンバーの最古参は私と凛ちゃんなんだけど、だけど私たちが作ったわけでもないの」
凛「じゃあ凛たちどうやって入ったんだっけ? てお話してるんだけど、全然思い出せないんだにゃ……」
真姫「…………」
まさか、こんなに身近に私と同じような違和感を覚えてる子がいるだなんて。
正直、驚きを隠せなかった。
681 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:38:16.01 ID:rN0RYkWfO
花陽「それにね、希ちゃんが言ってたの」
花陽「私たち8人でユニット組んだでしょ? あの――」
真姫「――μ's、よね?」
花陽「うん、そう。だけどね、それって神話に出てくる女神さまの名前らしいんだけど」
花陽「その女神さまって、本当は9人いるはずなんだって」
花陽「1人足りないねって話してたら、気づいたの」
花陽「そもそもこの名前をつけたのって――誰? って」
真姫「……なによ、段々ホラーじみてきたんだけど?」
花陽「あ、そういうわけじゃ……」
真姫「考えてもしかたないんじゃない? というか、私は考えないことにしたわ」
真姫「だって思い出せないんだもの。考えたってしょうがないわ」
花陽「うーん……それはそうなんだけど……」
682 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:39:13.31 ID:rN0RYkWfO
凛「――っていっけない! もう練習始まってる時間にゃ!」
花陽「え? ――あああああああ!」
凛「急がないと海未ちゃんカンカンだにゃ!」
花陽「そ、そうだね……真姫ちゃんもはやく!」
真姫「あ、ちょっと待ちなさいよ――」
慌てて教室を飛び出ていく二人の背中を追いかけようとした、その時。
ビュウゥゥゥ!
真姫「きゃっ!」
窓の外から吹き込んだひときわ強い風が背中を押す。
夏の色を感じさせるその風に、思わず振り向いて。
真姫「――――」
なぜかしら。
そこに、誰かの気配を感じた。
683 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:39:40.31 ID:rN0RYkWfO
だから、ってわけじゃないけど。
誰もいないそこに向けて。
真姫「――――♪」
私はもう一度だけ、大切な誰かからもらったそのフレーズを、口ずさんだ。
684 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:40:18.02 ID:rN0RYkWfO
昨日に手を振って ほら――前向いて
685 :
◆yZNKissmP6NG
[saga]:2017/07/22(土) 10:41:30.22 ID:rN0RYkWfO
以上で終了です、長い間お付き合いいただきありがとうございました。
ぐだぐだした挙句ミスも多く申し訳ないです。
次はまたどこか別のスレで
686 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/22(土) 11:46:02.28 ID:lh35cy4SO
ファンタジー色が強い
687 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/22(土) 11:47:59.43 ID:51pCRKjpO
乙乙!
真姫ちゃんsideのμ'sにはいずれあのにこちゃんが加入してくれるって信じてる
688 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/22(土) 14:30:57.55 ID:gohz3Y7lo
乙です
689 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/23(日) 00:52:31.34 ID:jGrRIDbao
乙乙
最初に想像したのとは全然違ったけど面白かったよ
690 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2017/07/30(日) 20:19:03.64 ID:DY9IRR4dO
完結してたのね、乙
やっぱきっと青春が聞こえると愛してるばんざーいは名曲だわ
691 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2019/06/26(水) 01:35:53.97 ID:r3mJNx5I0
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