女神

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56 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/23(水) 20:40:37.21 ID:Xae/YECko

「あのさ」

 翌朝の登校中、有希と夕也と合流する前に俺は麻衣に言った。

「うん」

「俺少し早足で歩いていつもより一本早い電車に乗りたいんだけど」

「何で?」

「あいつらと顔あわせたくないから」

「・・・・・・お兄ちゃん?」

「ああ」

「お姉ちゃんのこと許してあげて。お姉ちゃんはただあたしのことを可哀想だと思ってお
兄ちゃんに注意してくれたんだから」

「全然濡れ衣なのにな。あいつのせいで昼飯も食い損なうところだったし」

「お姉ちゃんは昔からあたしを応援してくれてたから」

「うん?」

「多分、お姉ちゃんは自分の気持ちを抑えてあたしを応援しててくれたから」

「何言ってるのかわかんねえよ」

「お姉ちゃんもきっと辛いんだと思うよ。あたし、一度お姉ちゃんとよく話そっと」

「とにかく俺は先に行くぞ」

「うん。あたしはお姉ちゃんと一緒に行くから」

 こいつのことだから俺と一緒に来るかと思ったのに、麻衣は有希と登校する方を選んだ
ようだ。

「じゃ、先に行くぞ」

「うん。お昼は屋上に来て」

「わかった。じゃあな」

「うん」

 一人で自宅の最寄駅に着いた俺は、いつも有希たちと待合わせをしている電車より一本
早い電車に間に合ったことに少しほっとした。麻衣とは仲直りしたけれど、有希とは会い
たくない。まして、夕也と一緒にいる有希とは。その時、俺はホームのベンチに二見が座
っていることに気がついた。要はこいつは毎朝ベンチでスマホを眺めながら何本もの電車

 麻衣や有希のことを考えればこれ以上関らない方がいいという気もするけれど、昨日昼
飯までご馳走になったのに素通りもないだろう。これは礼儀の問題だ。俺は自分にそう言
い聞かせた。

「よ、よう」

「あ」

 二見が何かを隠した。スマホの画面なのかもしれない。

「おはよう、二見」

「池山君・・・・・・おはよう。君ってもう一本遅い電車じゃなかった?」

 二見が座ったまま俺を見上げて微笑んだ。何度も考えたことだけど、やっぱりこいつは
可愛い。
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/23(水) 20:41:14.72 ID:Xae/YECko

「ちょっとわけがあってさ」

「まだ遠山さんと仲直りしてないの?」

「何でおまえがそれを」

「そういや妹さんもいないね」

「あいつは有希たちと一緒に登校するってさ」

「そうなんだ。あ、電車来たね」

「うん」

「これに乗るの?」

「ああ」

「じゃ、一緒に行っていい?」

「おまえいつもベンチで座って、この三、四本後の電車でぎりぎりの時間に教室に駆け込
んでくるじゃん」

「あたしのこと、見ててくれたんだ」

「まあ、毎朝のことだからね」

「見てたのはあたしの方だけじゃなかったのね」

 何言ってるんだこいつ。

「おまえ、朝いつもスマホで何かやってるけど、それはいいの?」

「うん。別にリアルタイムである必要はないし、それに朝はレスを確認してるだけだし
ね」

「はい?」

 二見が何を言ってるのかわからない。

「何でもないよ。一緒に行ってもいい?」

「・・・・・・別にいいけど」

「よかった。あ、電車来たよ」

「うん」

 こいつ、俺に気があるのか。このとき俺は初めてそう考えた。

「少し早い電車だと結構空いてるね」

「本当だ。これからはこの電車で学校に行こうかな」

「妹さんとか遠山さんはどうするの?」

「別にどうもこうもねえよ。約束してるわけじゃねえし」

「じゃあさ。君が一人のときは一緒に学校に行ってもいい?」

 本当に何なんだ。この積極性は。

「おまえさ」

「うん」

「前にも聞いたかもしれないけど、そこまで積極的に人と接することができるのに何でク
ラスのやつらとは話しねえの」

「何でって言われても。別に話すことが思い浮ばないし」

「俺とは話すことあるのかよ」

「わかんないけど、一緒にいたいとは思うから」
58 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2015/12/23(水) 20:42:00.57 ID:Xae/YECko

 本当にコミュ障どころの騒ぎじゃない。人一倍コミュニケーション能力が備わっている
としか思えない。それに。俺と一緒にいたいというのは何の意味だがあるのだろう。

「ねえ」

「うん」

「携帯の番号とメアド交換しない?」

「・・・・・・別にいいけど」

 昼休みなって、俺は麻衣のところに行こうと席を立った。それにしても、登校したとき
の教室の噂ときたらすごかったな。俺はそう思った。いつもぼっちの二見が俺と一緒に登
校すれば噂されても仕方ないのだろうけど、比較すれば昨日二見のお弁当を食った時より
も周りの視線が痛かったような気がする。まあ無理もない。俺と二見はまるで付き合って
いるかのように並んで教室に入ったのだから。

 だから噂はしかたないにしても、やはり不思議なのは二見のコミュニケーション能力だ
った。普通、どんな相手でも話が途切れることはあるだろう。まして、俺みたいに口下手
な人間相手ならなおさらそうだ。現に、有希とだって、それどころか家族である麻衣とだ
って、ときには話に詰まり気まずい沈黙が訪れることなんかよくあることだった。それが
二見相手だとないのだ。初対面に近い彼女のコミュニケーション能力に俺が何度も感嘆し
たのはそういう理由だ。二見は聞き上手だということになるのだろうけど、どうもそれど
ころではないような気すらする。

 とにかく妹を待たせるとまた麻衣の機嫌を損ねるかもしれな。早く屋上に行くべきだろ
う。教室から廊下に出ようとしたところで、俺は夕也につかまった。

「ちょっと待て」

「何だよ」

「落ち着いて聞けよ。暴力は振るうんじゃないぞ」

「何言ってんのおまえ」

「今日の昼は有希と二人で食ってやってくれ」

「はい?」

 何言ってるんだこいつ。

「あいつがおまえに何か話があるんだって。だから頼むからそうしてくれ」

「よくわかんねえんだけど。つうか俺、妹を待たせてるんだけど」

「そこに抜かりはねえよ。麻衣ちゃんにはさっきの休み時間に了解をもらっているから
よ」

「ってもおまえ」

「あいつもあそこで待ってるから。今日はあいつ、おまえに弁当作ってきてるからさ」

 廊下の端に手提げ袋を提げた有希の姿が見えた。

「じゃ、早くってやってくれ。あいつも待ってるから」

「おい、ちょっと待てよ。おまえはそれでいいのかよ」

 一瞬、夕也が沈黙した。

「・・・・・・いいのかってどういう意味だよ」

「だっておまえら付き合ってるんだろ。何で俺と有希を二人きりにしようとする」

「付き合ってなんかねえよ」

 何なんだいったい。

「あいつはおまえと仲直りしたいんだよ。頼むからそれくらい聞いてやってくれよ」

「何でそこまで必死なんだよ」

「別に必死じゃねえし。じゃ、俺はおまえの代わりに麻衣ちゃんのお弁当を頂いてくるか
らな」

「おい、ちょっと待て。何でそうなる」
59 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/23(水) 20:42:30.28 ID:Xae/YECko

今日は以上です
また投下します
60 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/23(水) 23:12:37.14 ID:ctWqgyGk0


>>56は途中でちょっと文が切れちゃってるな
61 :sage :2015/12/24(木) 00:36:30.37 ID:aPlrBDTx0
>>60
そう言われて焦って見直したけど別に文章は切れてないようです
62 :sage :2015/12/24(木) 00:47:45.15 ID:aPlrBDTx0
>>60
そう言われて焦って見直したけど別に文章は切れてないようです
63 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/12/24(木) 00:56:52.52 ID:KCpqHSMs0

>っていることに気がついた。要はこいつは毎朝ベンチでスマホを眺めながら何本もの電車
> 麻衣や有希のことを考えればこれ以上関らない方がいいという気もするけれど、昨日昼


ここの「電車」と「麻衣」の間になんか入るんじゃない?
64 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/12/24(木) 21:43:24.27 ID:aPlrBDTxo

作者です。すいません見落としてました。
筋に影響は全くないけど、訂正しておきます。


×
要はこいつは毎朝ベンチでスマホを眺めながら何本もの電車

 麻衣や有希のことを考えればこれ以上関らない方がいいという気もするけれど、昨日昼
飯までご馳走になったのに素通りもないだろう。これは礼儀の問題だ。俺は自分にそう言
い聞かせた。





 一人で自宅の最寄駅に着いた俺は、いつも有希たちと待合わせをしている電車より一本
早い電車に間に合ったことに少しほっとした。麻衣とは仲直りしたけれど、有希とは会い
たくない。まして、夕也と一緒にいる有希とは。その時、俺はホームのベンチに二見が座
っていることに気がついた。要はこいつは毎朝ベンチでスマホを眺めながら何本もの電車
をやり過ごしているということのだろう。いつもより早い時間に駅に来て、いつも遅刻ぎ
りぎりの二見を見かけるということは。
 麻衣や有希のことを考えればこれ以上関らない方がいいという気もするけれど、昨日昼
飯までご馳走になったのに素通りもないだろう。これは礼儀の問題だ。俺は自分にそう言
い聞かせた。
65 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/04(月) 00:12:49.25 ID:V/baVpaao

「麻人」

 有希が元気のない声で俯いて言った。

「おう」

「お弁当作ってきたんだけど、一緒に食べてくれるかな」

 もうこの場の俺には、うんという答えしか選択のしようがない。

「うん」

「じゃ、中庭でいい?」

「ああ」

 中庭のベンチで、俺と有希は隣り合って腰かけた。今ごろは屋上で麻衣が待っている時
間だけど、有也によれば話しはつけてあるのだと言う。こんな話を受け入れるとは麻衣は
いったい何を考えているのだろう。

「昨日はごめんなさい」

「もう気にしてねえよ」

「本当にごめん。別にあんたの交友関係にあれこれ言う気はなかったんだけど」

「ああ」

「だけど、麻衣ちゃんが寂しそうだったから」

 そこで有希は少しためらったように黙った。

「ううん、違うね。正直に言うと」

「何だよ」

 本当に何なんだ。

「本当はね。君が二見さんと仲良くしているのを見て少しむかついて、それで麻衣ちゃん
にかこつけて君に文句を言ったのかもね」

「あのな。かもねって、他人事みたいに」

「・・・・・・うん」

「おまえ夕也と付き合ってるんじゃねえの」

「付き合ってないよ」

「じゃあ、聞き方を変えるけど、夕也のことが好きなんじゃねえの」

「ねえ」

「うん?」

「遠慮しすぎることって別に美徳でも何でもないんだね」

「はあ? 何言ってるんだよ」

「・・・・・・君の今の気持ちはわからないけど、中学生のころは、あたしのこと好きだったで
しょ。君」

「お、おまえ何言って」

「あたしもバカじゃないから君の好意には気づいてたの」

「おい」
66 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/04(月) 00:13:28.39 ID:V/baVpaao

 気がつかれていたのか。俺はそのときすごく焦ったし、何か自分が裸にされたようなひ
どい気分に陥った。

「君はあの頃は優しかったし、あたしのことをすごく気にしてくれた」

「何で今さら」

 本当に今さらな話だと俺は思った。有希への気持ちをきちんと口にしなかった俺には、
そう言う権利はないかもしれないけど、それにしても有希は結局夕也の方を好きになった
んじゃないか。

「今さらじゃないよ」

 有希が真剣な顔で俺を見つめていた。

「今さらとか言わないで。あたしも本当は君のこと好きだったから、その気持ちに応えた
かった」

「でも、ご両親がいつもいない家で、あんたに頼りきって暮らしていた麻衣ちゃんのこと
を考えると、あたしは君の気持ちに安易に応えるわけにはいかなかった」

「マジかよ」

 俺はようやく有希に、かすれた声で答えた。

「うん、マジ。今朝ね、電車の中で麻衣ちゃんにもう自分に素直になってって言われた。
それで、今でも麻衣ちゃんはあんたのこと好きだと思うけど、もう遠慮するのは止めよう
って思った」

 何が何だかわからないけど、これは俺の長年の想いが報われたってことなのか。ひょっ
として有希は、今でも夕也ではなく俺を好きなのか。一瞬ひどく幸福な感情が胸裏に満ち
た感覚がしたけど、次の瞬間そこに夕也の顔が浮んだ。

「夕也は?」

「え?」

「夕也はどうなるの? あいつ、一応俺の親友だし」

「夕には悪いことしちゃったと思う。あんたを忘れようと彼とベタベタしたし。でも、彼
とは付き合ってはいないよ、本当に」

「おまえ・・・・・・」

「あたしはあんたのことが好き。小さい頃からずっと」

「もう、自分に正直になるって決めたの。あたしはあんたが好きなの。あたしと付き合っ
て」

 夕也が有希のことが好きなことは間違いない。俺を忘れようとした有希に、その手段と
してこれでもかというほど好意を見せつけられてきた夕也の気持ちはどうなってしまうの
か。

「・・・・・・夕也はさ。さっき必死な顔で俺に言ったんだよな。おまえと一緒に昼休みを過ご
してくれって」

 有希が沈黙した。

「おまえ、あいつに何て頼んだの?」

 有希は返事をしない。

「あいつの気持ちを知ってるんだろ」

「それは。多分」

「今は返事できねえ。少し考えさせてくれるかな」

「うん」

 小さな声で俯いた有希が言った。
67 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/04(月) 00:14:14.49 ID:V/baVpaao

 結局、有希とは話をしてただけで昼飯食えなかった。あいつとの話が終わったあとに、
じゃあ、昼飯にしようかなんてとても言える雰囲気じゃなかった。まだ昼休みが終わるま
で二十分もある。夕也はまだ教室に戻ってない。あいつ、まじで屋上で麻衣の弁当を食っ
ているのだろうか。それはどうあれ、今から屋上に行って妹の弁当を食うわけにいかない
と俺は思った。有希の話が本当ならば、この件に関しては麻衣だって共犯者なのだ。

 しかしどうしたものか。有希のことは正直今でも好きだと思うけど、有也の気持ちを考
えると、あれだけ待ち望んでいた有希の告白に、有希の気持ちに素直に応えていいのかど
うか。それに、有希に言われるまでもなく二人きりの兄妹である麻衣のこともある。もっ
と言えば、最近親しくなった二見のことだってないと言えば自分に嘘を付くことになるの
だろうか。

 あいつは、今日の話をわかっていて俺に有希と会えって言ったのだろうか。とにかく夕
也と話をすべきなのだろう。

 それにしても腹減った。そう考えたとき、タイミングを計ったように二見が目の前に現
れた。

「池山君」

「よう」

 かろうじて俺は二見に返事した。

「ひょっとして落ち込んでる?」

「別にそんなことねえけど」

「でも酷い顔してるよ」

「酷い顔っておまえ」

 実際、ひどい顔をしているんだろうな。俺はそう思った。

「悪い。でもそんな感じする」

「腹減ってるだけだよ。今日昼飯食い損ねたし」

「そうか。まあ、いきなり遠山さんにあんなこと言われたら食欲もなくなるよね」

「おまえ、何言ってるの」

「何って、単なる推測だけどさ。今日二人きりで中庭にいたみたいだし、妹さんと広橋君
は屋上で二人きりで何だかお葬式みたいに黙りこくって食事してたしね」

「おまえ、ひょっとして俺たちのこと探ってるのか」

「あたしがっていうか、広橋君って声大きいしさ。昼休みのあんたと広橋君の会話ってク
ラスの半分くらいは気にしてちらちら見てたよ」

「マジかよ・・・・・・。おまえもそんなとこまでよく観察してるな。よっぽど暇なんだな」

「本当はあたし、普段は観察するというより皆に見られる人なんだけどね」

「ああ?  おまえちょっと自意識過剰なんじゃねえの。ぼっちなんて本人が気にしてる
ほど周りは気にしてねえよ。だからぼっちなんだろうが」

 何でも知っているような二見の様子に少しだけむっとした俺は言わなくてもいいことを
口にしたのだけど、二見はまじめに俺の鬱憤に応えた。

「そういう意味じゃないよ。学校ではあたしが空気なのは自覚してるし、見られるってい
うのは別な場所の話」

 でも、意味はわからない。
68 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/04(月) 00:15:19.70 ID:V/baVpaao

「おまえ、本当に変ってんのな。しつこいようだけどさ、こんだけ人と話そうと思えば話
せるならクラスで友だちなんかいくらでも作れるだろうが」

「別に不便感じてないもん」

「よくわかんねえけど」

「池山君、結局遠山さんのお弁当食べなかったの?」

「ああ」

「お腹空いてるでしょ」

「まあ」

 実際、それは事実だった。

「まだ十五分くらいあるし、よかったらこれどうぞ」

「何? サンドイッチ?」

「コンビニのね。手作りのお弁当には敵わないけどお腹ぐらい塞がるんじゃない?」

「いいの?」

「うん。余ったやつだし捨てるよりいいし。食べて」

 微笑むと本当に可愛い。まじでどっかのアイドルみたいだ。こんなときのに俺は二見の
整った顔や親しみやすい笑顔を浮かべている表情に見とれた。だからどうってことはない
んだけど。俺は言い訳がましく思った。

「じゃ、遠慮なく」

「どうぞ」



 放課後、とにかく夕也を捕まえてあいつの本心を質そうと思った俺は、有希にも二見に
も構わずに校内を捜索した。幸か不幸か、今日は麻衣との約束もない。

 もう帰っちまったのか。少なくとも二年の校舎の中にはいないみたいだ。このまま校内
をうろうろしてても見つかる気がしない。しかたがない。本当は偶然を装って夕也と接触
したかったけど、ここまできたら携帯で呼び出そう。LINEでもいい。

 そう思った俺が、スマホを取り出そうとしたとき、有希の声が聞こえた。今は有希とは
顔を合わせたくない。俺はその教室の前から離れ、階段の方に避難した。そう言えばここ
は生徒会室だ。有希は誰かと話してるようだった。
69 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/04(月) 00:16:59.06 ID:V/baVpaao

「迷惑だったら謝るよ。でも遠山さんのこと前から気になってたんだ。今まで君に振られ
るのが怖くて言えなかったけど」

「え?」

 告白する男の声に、戸惑ったように有希が声を出した。俺は期せずして有希が告白され
る場面に出くわしてしまったようだった。この場を離れた方がいいと俺の理性は俺に忠告
したけれども、どういうわけか俺の足はそこから動けなくなってしまったかのようだった。

「遠山さん、好きです。僕と付きあってください」

 有希はしばらく何も答えなかった。

「駄目・・・・・・かな」

「先輩」

 ようやく有希が小さな声で言った。

「ごめんなさい。あたし好きな人がいるんです。先輩のこと、生徒会長として本当に尊敬
してます。でも、あたし片思いだけど好きな人がいて。彼のこと諦められません。だから
ごめんなさい」

 相手は生徒会の会長のようだ。確か石井 晃とかいう、やや線の細い感じの先輩だった。
そして、やはり有希は俺のことが好きなのだ。ここまではっきりと有希の言葉を聞くと、
もうこれに関しては疑問の余地はないのだろう。つまり俺は長年の恋を成就させることが
できるのだ。

 ただし、俺が夕也のことを切り捨てて有希の告白に応えれば。

「そうか、わかったよ。君を困らせて悪かったね」

「あたしの態度のせいで、先輩に勘違いさせたとしたら本当にごめんなさい」

 本当に有希はこんなのばっかだ。誤解する男の方はどれだけ傷付くと思っているのだ。

「いや。僕が勝手に思い込んだだけだから。君の好きな人ってさ。何となくわかる気がす
るよ」

「・・・・・・はい。ごめんなさい」

「彼なら祝福するしかないね。僕なんかじゃ全然敵わない。成績もいいしスポーツも万能
だし、何よりもイケメンだしね」

「え?」

 はい? スポーツ万能なイケメン? そうか。この人も夕也が彼女の相手だと思い込ん
でいるのか。でも、まあ、無理もない。有希の日頃の態度を鑑みれば。

「君を困らせて本当に悪かったよ。もう二度とそういうことは言わないからこれまでどお
り生徒会の役員でいてくれるかな」

「はい」

「ありがとう。まあ、ライバルが広橋君なら負けてもしかたないか」

 俺は何となくここで有希が自分の好きな相手は夕也じゃないと訂正するのかと思って柄
にもなく緊張した。

「じゃあ、僕は今日は生徒会活動サボるから。振られた日くらいサボっても許されるだろ
う」

「あ、はい」

 でも有希はそう言っただけだった。

「じゃあ、あとはよろしくね」
70 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/04(月) 00:19:19.58 ID:V/baVpaao

その後、生徒会室から石井会長が出てきてどこかに行ってしまい、有希は生徒会室に残
ったままだった。俺、今日有希に告白されたんだよな?

 でも、先輩が夕也の名前を出した時、有希はそれを否定しなかった。先輩なんかどうで
もいいと思っているからいちいち訂正しなかったのかもしれない。あるいは訂正なんかす
る間もなく先輩が去っていってしまったのかも。それでも、何だかわからないけど俺には
再びもやもやする気持ちが残った。さっきまで有希の気持ちだけは間違いないと思ってい
たのに。

 情けないけど妹に会いたいかった。いつもはうざい妹だけど、今日はあいつに甘えて慰
めてもらいたい。考えてみれば利害とかなく無条件で俺の味方をしてくれて無条件で俺を
慰めてくれる女なんて麻衣くらいしかいないのだ。麻衣にはいつも俺への依存を何とかし
ろって言ってるくせに、俺が妹に依存してどうする。今日はもう家に帰ろう。そう思って
校舎の外に出たとき、二見が俺を見て微笑んでいた。

「池山君」

「二見さん。まだいたんだ」

「今帰るの? 最寄り駅一緒だしよかったら」

 こいつも神出鬼没だな。俺はそう思った。

「ああ。駅まで一緒に帰ろうか」

「君にそう言ってくれると嬉しい」

「うん」
71 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/04(月) 00:19:48.93 ID:V/baVpaao

 俺たちは連れ立って校門を出て駅の方に向かう坂道を下っていった。他の生徒の視線を
結構感じながら。

「今日は何か肌寒いね」

「うん」

「もうすっかり秋だね」

「まあね」

「十月の空って一年で一番澄んでいて綺麗に感じない?」

「そんなの気にしたことないからわかんねえよ」

「関心が人間関係に行ってる人は、周りの環境に関心を示さないって聞いたことある」

「何それ」

「何でもない。ついこの間まで夏休みだったのに、いつの間にか空が高いね」

「そうかな。俺にはよくわかんねえや」

「秋って休みが少ないから嫌いだな。早く冬休みになんないかなあ」

「それは少し気が早すぎるだろ」

「まあ、そうなんだけど」

「それに秋から冬ってイベントがいっぱいあるじゃん」

「そう?」

「十一月には学園祭もあるし、十二月にはクリスマスもあるしね」

「そんなのリア充の人専用のイベントでしょ」

「そんなことねえよ。少なくとも学校行事はリア充専用じゃねえだろ」

「ぼっちには辛いイベントなんだよ」

「だから、おまえは好き好んでぼっちやってるんだろ。おまえ、友だちとか作ろうと思え
ばいくらでも作れるだろうが」

「好きでやってるかどうかは別問題だよ。ぼっちに辛いイベントであることには間違いな
いし」

「辛いなら友だち作ればいいじゃん」

「学園祭を一緒に廻ったりとか後夜祭のフォークダンスを一緒に踊ってくれる相手なんて
そんなに簡単にできないでしょ」

「何かおまえならそれくらい簡単にできそうだけどな」

「じゃあ、君は? 君はあたしと学園祭とか一緒に過ごしてくれる?」

「え?」

「何でもないよ。ごめん」

 本当に不意討ちだし、二見が何をしたいのかよくわからない。謎の女か。故意にそう演
出しているのなら恐ろしい女だ。

「電車来たよ」

「ああ」
72 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/04(月) 00:20:28.85 ID:V/baVpaao

あけましておめでとうございます

今日は以上です
また投下します
73 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/04(月) 12:52:20.74 ID:bpKkIlWaO
乙。頼むぜ。
74 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/09(土) 00:16:40.14 ID:wFKv96Wio

「この時間の電車って空いてるよね」

俺たちは空いている席に隣り合って座った。

「まあ、仕事帰りの人で混む前だし部活の連中はこんなに早く帰らないしね」

「そういや一年生の時から池山君って部活してなかったよね」

「よく知ってるな。一年のときはクラス違ったのに」

「うん。あたしは一年生の時から遠山さんと同じクラスだったから」

「有希と同じクラスだったからって、俺のこと知ってる理由にはならねえだろ。俺、一年
の時は三組だぞ」

「遠山さんとか広橋君とか見てれば君の動向なんかリアルタイムで入ってきたし。あの頃
は三人で一緒に帰ってたじゃない? 君たち」

「おまえって、ストーカーなの」

「そんなことはないと思うけど」

 思うけどって何だ。ちゃんと否定しろ。半ば冗談で言った言葉なのに。

「まあ、夕也と知り合ったのは有希の紹介だったけどな。俺、一年のときはあいつらとク
ラス違ってたし」

 俺がそのことに嫉妬心と焦燥感を覚えていたことは、こいつに言う必要はない。

「あの頃から変ってないよね、君たち。まあ、今は妹さんが入学して君たち三人の中に加
わったくらいで」

「まあね」

「ちょっとだけうらやましいな」

「はあ?」

「何か正しい青春みたいじゃん、君たちの関係ってさ」

「おまえ、何言ってるの?」

「男二人と女二人でいつも一緒に行動してるんでしょ。見かけ上は仲良く見える四人の間
には、その実どろどろした愛情が渦巻いて」

「それのどこが正しいんだよ。つうか女性週刊誌とか読み過ぎなんじゃねえの?」

「ああいうのは一度も読んだことないけど」

「だいたい、そのうちの一人は実の妹だってえの。そんなどろどろ成り立つかよ」

「そうかな」

「そうかなって、何で」

「さっき君、妹さんに会いたいとか妹さんに慰めてもらいたいって感じの表情してたよ」

 エスパーかよ、こいつ。
75 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/09(土) 00:17:08.79 ID:wFKv96Wio

「んなことねえよ」

「そう?」

「そう!」

「そか。じゃあよかった」

「え」

「さっき駅のホームで妹さんがきょろきょろしてたんだけど」

「え」

「君を探してたのかなあ、君って気がついてなかったでしょ」

「ああ」

「教えた方がよかったかなって思ってたんだけど、君が妹さんのことは兄妹って割り切っ
てるなら、教えなくてもよかったのかって思ってほっとした」

 妹は、昼飯一緒に食えなくて放課後の約束ができなかった俺を、駅で待っていたのだろ
うか。

「あのさ」

「うん」

「おまえが想像してるようなどろどろとした関係は妹とはねえんだけどさ」

「そうみたいね」

「でも、俺の家って両親が別に住まい持っててほとんど妹と二人暮しみたいなもんなんだよな」

「うん?」

「だからさ。妹とは買い物とか一緒にしなきゃいけないことがあるんでさ」

「そうなんだ。大変なんだね」

「いやさ。だから、今度からがそういう時は一言教えてもらえると助かる」

「そか・・・・・・。ごめんね」

「いや」

 何で関係のないこいつに家庭事情話してるんだよ、俺は。それにこいつに妹のことを俺
に教えなきゃいけないいわれなんかこれっぽっちもないじゃないか。
76 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/09(土) 00:18:05.11 ID:wFKv96Wio

 しばらく電車の中で沈黙が漂った。

 有希の突然の告白に動揺したし、夕也の気持ちも気にはなっていたけど、どういうわけ
かこの時の俺はその悩みを忘れ、二見との間の沈黙の方に気をとられていた。二見は今何
を考えているのだろうか。そのことを知りたいという欲求が沸いたからだ。

 この気持ちは恋ではない。いろいろ複雑なことになってはいるけど、俺が本当に好きな
のは幼い頃からずっと好きだった有希で、そのことに間違いはなかった。そして長年の片
想いが今日初めて報われそうになっていたことも間違いのない事実だった。ただ夕也の気
持ちを考えると、その場で素直に有希の気持ちを受け入れることが出来なかっただけで。

 それなのになぜ俺は、夕也の捜索をあっさりと諦めて二見と肩を並べて座っているのだ
ろう。

 二見は可愛らしい。背は有希と同じくらいだけど、ロングヘアの有希と違って髪の毛は
肩にかかるかかからないかくらいで、それに全体に華奢な印象がする。学校の中では普通
に可愛い部類に入っていると思う。そして性格は。

 こうして二人で話をするようになるまでは、謎めいてはいるけど陰気で無口な女だと思
っていた。でも、一度話をするとその社交性や明るい受け答えに驚いた。これが学校で友
だちもいない、いつも一人きりで過ごしている二見と同一人物かと驚くほどに。でも、よ
く考えれば二見はそれほど饒舌と言うわけではなかった。俺に対して全然臆することなく
はきはきと話はしているけど、実はそれほどペラペラ世間話をしているわけではない。そ
れなのに俺が有希の初告白を忘れるほど二見に関心を持つのは、短い一言一言に意味があ
るように思えたからだった。逆に言うとあまり意味のない世間話のような話題はほとんど
彼女の口からは出てこなかった。そして同時に彼女は自らのことをほとんど俺に語ってい
ないことに気がついた。

 こういう女の子は自分の世界が確立されているのだろうと俺は思った。そして彼女にと
っては、学校がその場所でないことは確かだった。どこが学校でない場所や時間に自分を
表現できる場所を持っているのだろう。

 俺が、自分が二見に関心があり彼女のことをよく知りたいと思っていることを、はっき
りと自覚したのは、この日からだった。

 俺は沈黙を破りたいという気持ちもあり、無難な上にも無難な質問をぶつけてみた。

「あのさあ、おまえって兄弟いるの」

「一人っ子だよ」

 二見はあっさりと答えた。そして俺の方を見て、にっていう感じの笑いを浮かべて自分
についての情報を自ら開示してくれた。

「あと、お父さんは普通の会社員で、お母さんも普通の会社員。つまり共働きね。だから
あたしはいつもは学校でも家でもぼっちなんだよ」

 彼女は平然とそう言って笑った。そして、俺の目を見て続けた。

「あたしのことなんか本当に知りたいの?」

 俺はそれ以上自分から質問をする気を失って二見の言葉をただ聞いていた。

「君が知りたいなら別に隠すことなんかないしね」
77 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/09(土) 00:18:51.30 ID:wFKv96Wio

 俺の返事なんかもとから期待していなかったように彼女は話を続けた。謎めいたこいつ
のことが知りたいという気持ちが先に立っていたため、俺は女の話を遮らずに黙っていた。

「これでも中学の頃は親友もいたし、信じないかもしれないけど告られて付き合った彼氏
もいたんだよ」

 彼女は言った。

「でも、この高校には一年の途中で転校したこともあってさ。何となくぼうっとしてたら
ぼっちになっちゃってた」

 こいつは転校生だったのか。それにしても納得できない話だなと俺は思った。こいつく
らい外見が良くてコミュ力もあれば、いくら転校生だとはいえ友だちが出来ない方が不思
議だ。むしろ近づいてくるクラスメートを自分の方から拒否してたんじゃないのか。

「あはは」

 二見は笑った。もうさっきの沈黙はすっかり消え去り、むしろ彼女は饒舌になっていた。

「自分から周りを拒否してるんじゃないのかとか思ってるんでしょ」

「まあ、正直に言うとそう思うな。だって、俺とだって初対面に近いのにこんなに普通に
話せてるじゃん」

 以前にも彼女には話したことがあるけど、それは俺の正直な感想だった。

「まあ、そうね。あたしあまり学校とかに関心なくてさ。君と全く同じことを一年の時の
担任にも言われたことあるんだけど」

「でもあたし、去年から自宅でネットの掲示板にはまっててさ」

 こいつは何を言ってるんだろう。

「2ちゃんねるって知ってる?」
 二見が聞いた。もちろん知らないわけはなかった、そんなに頻繁に覗いているわけでは
なかったけど。

「うん。たまに見るよ」

「それでね。学校で交流がなくてもあたしはそこで十分に人とコミュニケできてるから
さ」

「はあ? そんなの実生活の上で人と交流するのとは別じゃん」

 これに対して二見は少し黙っていたけど、少しして今までの気楽な態度をやめ、かなり
真面目な表情で俺を見てこう言った。

「君さ。女神って知ってる?」
78 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/09(土) 00:19:26.68 ID:wFKv96Wio

「ただいま」

「おかえり」

「おまえ、玄関で何やってんの?」

 自宅のドアを開けたら、目の前に麻衣が突っ立っていた。

「お兄ちゃんを待ってた」

「はい?」

「今日お姉ちゃんとお昼に話したんでしょ」

「うん」

「お姉ちゃん何だって?」

 麻衣が言った。今日の有希の告白ってこいつの差し金って部分も大きいんだよな。俺は
少し拗ねた気分で思った。

「どうせ知ってるんだろ」

「察してはいるけどちゃんとは知らないし」

「おまえさ」

「うん」

「朝の電車で炊きつけるようなことをあいつに言ったろ」

 麻衣は黙ってしまった。

「自分に正直になれとかさ」

「・・・・・・うん」

「いったいどういうつもり?」

「どうって」

「俺おまえに言ったよな? 面白がって有希と夕也の仲に首突っ込むんじゃねえぞって」

「興味本位でしたわけじゃないよ」

「じゃあ何でだよ」

「お姉ちゃんが昔からお兄ちゃんのことが好きなことをあたしは知っていたから」

「何だって?」

「でも、お姉ちゃんはあたしの気持ちを気にして自分の感情をずっと隠していた」

 こういう話をまじめにしている自分の妹に、俺は何と言っていいかわからなかった。

「お姉ちゃんが夕さんと一緒にいるようになってあたしは嬉しかった。お姉ちゃんにもお
兄ちゃん以外に好きな人が出来たんだって」

 嬉しいって。

「でも、この間お姉ちゃんがお兄ちゃんと二見さんのことで動揺して」

「ああ」

 ようやく俺は声を振り絞って妹に答えた。
79 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/09(土) 00:19:59.75 ID:wFKv96Wio

「それでお兄ちゃんのことを懲らしめようって。お兄ちゃんには麻衣ちゃんがいるのに何
考えてるのって、お姉ちゃんが言って」

「昼飯抜きのときの話か」

「そう。でもその時、お姉ちゃんはあたしのことを考えているより、お兄ちゃんが二見さ
んのものになるのを嫌がってるんだなって気が付いちゃって」

「そうだとしても、何で今さらおまえが有希のことを炊きつける必要があるんだよ」

「それはもう言ったよ。よく知らない二見さんにお兄ちゃんを盗られるくらいならお姉ち
ゃんに盗られた方がいいって」

「盗られるっておまえなあ」

「だってお兄ちゃん、あたしのことは妹としか見てないでしょ」

 何だよいったい。俺が麻衣のことを妹以上の存在として見ているとしたら、そっちの方
が問題だろう。

「当たり前だろ。麻衣は俺の大切な妹だって思ってるよ。他の誰よりも大事な存在だっ
て」

「うん。お兄ちゃんがあたしのことを大切にしてくれてるのはよくわかるの」

「それならいいけど。でも、なら何で」

「だからさ、あたしもいい妹になろうって思ったの。お兄ちゃんの彼女になりたいなんて
変な夢見るのはもうやめようって」

 そこまで言うか。実の兄に対して。

「あのさあ」

「お兄ちゃんが昔からお姉ちゃんのことが好きなこと、あたしも知っていたし」

 不意討ちされて俺は黙ってしまった。

「だから、あたしはお姉ちゃんのこと応援しようと思ったの。本当は辛いけど」

 本当は麻衣の俺に対する気持ちに狼狽するべきタイミングなのだろうけど、それはきっ
と麻衣の思い込みだ。普段から両親が不在がちな環境におかれた麻衣が、過度に俺に依存
した結果、その依存を男女間の恋愛に置き換えてしまっているだけだ。むしろ俺は、麻衣
が何で俺を有希に譲ろうとしているのかが気になった。逆に言うと、二見より有希の方が
麻衣にとっては親しみやすい相手だということか。

 いや。きっとそれも考えすぎなのだ。麻衣にとって有希は実の姉のような存在だ。別に
二見が嫌いとかではなく、有希の方が親しい存在なのだからだろう。

「とにかくお風呂は入っちゃって。夕ご飯の支度はできてるから」

 麻衣は、自分が勝手に始めた話を勝手に打ち切ってそう言った。
80 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/09(土) 00:20:29.59 ID:wFKv96Wio

 夕食後、自分の部屋に戻った俺は宿題とか課題とかを放り出して、ベッドに横になった。
仰向けになった俺は天井を眺めながら考えた。

 何か最近いろいろあり過ぎだ。これまで俺は有希への気持を隠して、寂しがり屋の妹を
宥めて平穏に日常を過ごしていたのだ。俺と妹と有希と夕也。それなりに仲良くやってた
はずのに、俺たち四人って、こんなちょっとした出来事があっただけでお互いに気まずく
なるような付き合いだったんだろうか。俺だけが有希への気持を隠して我慢していれば、
ずっと平和だったと思っていたけど、結局、麻衣も有希も夕也もみなそれぞれ何かを我慢
してたってことなのか。そう考えると、今までの一見和やかな四人の登校風景にも、別な
姿が重なって見えてくる。

 俺はベッドの上で寝返りをうった。

 それにしても俺と二見が話すようになったくらいで、過剰反応すぎるだろう、麻衣は。
あいつは夕食の後、さっさと自分の部屋に引き上げ、自分の部屋に閉じこもってしまった。

 いろいろ考えなきゃいけないことはあるけど、何か二見のさっきの言葉が気になった。
あれはいったいどういう意味だったんだろう。



「女神行為って知ってる?」



 あの後、すぐに別れちゃったから詳しく聞けなかったけど。女神行為? 女神って女の
神様のことだよな。あいつが神様? 二見は2ちゃんねるって言っていた。

 俺は自分の部屋のベッドから起き上がり、階下のリビングに赴いてパソコンを起動した。
妹は部屋に篭っていてリビングにはいない。俺は2チャンネルをインターネットのブラウ
ザで開いた。2ちゃんねるを見るのはこれが初めてではない。

 開いたのはいいけど、どこを探せばいいのかわからない。スレッドが多すぎる。これじ
ゃ何が何だかわからない。やっぱり夕也が前に言ってった専用のブラウザとかっていうの
をインストールしない無理なのかもしれない。

 とりあえずグーグルで女神で検索してみようと俺は考えた。



『女神 - 女神(めがみ)とは、女性の姿を持つ神のこと。 多神教においては、往々にし
て神にも性別が存在し、そのうち女性の神を女神と称する。美しい若い女性や、ふくよか
な体格の母を思わせる姿のものが多い』


 二見が若く美しいつうのはそうかもしれないけど、あいつはふくよかというよりむしろ
スレンダーな体格だ。これでは本当にわからない。明日、二見に女神行為ってどういうも
のなのか聞いてみよう。

 ・・・・・・何でこんなに二見のこと気になるんだろう。そんなことよりも、有希との関係を
何とかするべきなのに。俺はパソコンを閉じて再び二階の自分のベッドに横たわった。明
日の電車は、どうしようかな。睡魔に襲われながら俺はぼんやりと考えた。
81 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/09(土) 00:20:58.66 ID:wFKv96Wio

今日は以上です
また、投下します
82 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/09(土) 14:58:38.63 ID:0MnNvD4yo
83 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/14(木) 23:21:53.22 ID:e5rLf//zo

「なあ」

「うん」

「おまえ、昨日は何で夜自分の部屋に閉じこもってたの? いつもなら下のリビングで俺
と一緒に過ごすのに」

「何でもないよ」

「何でもないって・・・・おまえさあ」

「だから、本当に何でもないって。課題がいっぱい出てたからそれに集中してただけ」

「そうか」

「そうだよ」

 麻衣は俺の目を、見ないでそう言った。

「ねえ」

「ああ」

「もうすぐ隣の駅に着くけど」

「うん」

「今朝も、お姉ちゃんたちと顔会わせないでどっかに逃げちゃうの?」

「逃げるって何だよ、逃げるって」

「だって」

「別に逃げてなんかねえし。つうか今朝は夕也に少し話があるからここにいるよ」

「話か。そうだよね」

「何だよ」

「何でもない」

 とりあえず夕也と話さないと、もう何も決められないことは確かだった。

「あれ?」

「どうした」

「うん。お姉ちゃん一人みたい」

 確かに、いつもなら有也と一緒に電車に乗ってくるはずの有希が一人で駅のホームで電
車を待っている。

「ホームには夕さんいないね。今日は一緒じゃないのかな」

 電車のドアが開くと、有希が人ごみに紛れて車内に入ってきた。

「おはよ」

「おはよお姉ちゃん」

「おはよう麻人」

有希が俺に声をかけた。

「うん」

「うんって何よ? ちゃんと挨拶しなよ」

 麻衣が言った。

 本当に夕也はどうしたんだろう。
84 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/14(木) 23:22:40.17 ID:e5rLf//zo

「いいの、いいの。それよか麻衣ちゃん今日も本当に可愛いね」

「だから。人前で抱き締めるのはやめて、お姉ちゃん」

「何々? 人前じゃなければいいの?」

「そういうことを言ってるんじゃありません。とりあえず離して」

「冗談だって」

「もう。ブレザーの下でブラウスが乱れちゃったじゃない」

「あはは。ごめん」

 有希と麻衣との微笑ましいやりとりが、今朝の俺には妙に気に障る。気にしすぎなんだ。
でも、もうこの二人の茶番をやり過ごせる気がしない。

「あのさ」

「うん?」

 有希が可愛らしく顔をかしげた。

「今日は夕也は一緒じゃねえの?」

「お兄ちゃん」

「うん」

「あいつ、寝坊でもしたの?」

「さあ」

「さあって何だよ。いつもみたいに夕也の家まで迎えに行ったんだろ?」

「・・・・・・行ってない」

「え」

「夕の家には行ってないよ」

「何で」

「あたし、妹ちゃんにはもう遠慮しないことにしたの。ごめん妹ちゃん」

「あたしは別にいいけど」

「それでね、夕にももうこれ以上迷惑はかけられないし」

「おまえ、今日は迎えに行かないって夕也に連絡した?」

「してない」

「そしたらあいつ、ずっとおまえのこと家で待ってるかもしれないじゃんか」

 有希が黙って俯いた。

「メールとか電話とかなかったのか? 夕也から今朝」

「ないみたい」

「黙って置いてけぼりとか普通するか? これまでいつも二人で登校してたのに。ずっと
家でおまえを待ってるかも知れないだろ、夕也は」

「夕には酷いことしてるのかもしれないけど・・・・・・あたしもう決めたの」

「決めたって何をだよ」

「昨日あんたに話たことを。あたしもう迷わないし後悔もしないから」

「お姉ちゃん」

「あんたの返事はせかさないしずっと待ってる。でも、あたしはもうこれまでみたいな四
人仲良しの関係じゃ嫌だから」

 俺は有希の態度にけおされてそれ以上、有希を追及できなかった。
85 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/14(木) 23:23:49.02 ID:e5rLf//zo

 登校しても、夕也はまだ教室にはいなかった。まさか自宅でずっと有希のことを待って
るんじゃないだろうな。いや。いくらあいつが馬鹿でも、いつものように迎えが来なきゃ
有希にメールか電話くらいはするだろう。

「おはよう」

「あ、二見さん。おはよ」

 二見が笑顔で俺に声をかけてくれた。何でこいつがぼっちなんだ。笑顔で屈託なさそう
に俺に話しかけてくるっ二見を見て、もう何度目になるかわからない感想を抱いて二見に
あいさつを返した。

「今日はまだ広橋君来てないの?」

 何でこいつが。俺はすぐにはこいつに返事ができなかった。

「あ、変なこと言って何かごめん」

 何でこいつはこんなにすぐに状況を把握しちゃうんだろう。

「いや。あいつ、今日は来ないかもな」

「そうか」

 クラスのみんなの視線が痛い。そんなに普段ぼっちのやつと親しげに話しているのが珍
しいのか。

「それよかさ」

「うん」

「昨日おまえが言ってたさ、その・・・・・・女神行為つうの? それよくわかんなかったよ」

「なあに? 早速見ようとしたの?」

「つうか気になるじゃん」

「気になるって、そんなに見たいの?・・・・・・ああ、そういう意味で見たいんじゃないの
か」

「へ?」

「板によってはすぐにスレが落ちちゃうとこもあるしね」

「はあ?」

「女神板ならそんなに早くは落ちないけど、画像は見れないよ。即削除してるし」

「意味がわからん。さっきからおまえの話しについていけないんだけど」

「君ってさ」

「何だよ」

「そんなにあたしに興味があるの?」

「い、いや」

「そう?」

「本当はよくわかんねえ」

「そか。まあ、君ならいいか」

「え?」

「じゃあさ、今夜始める時に携帯にメールしてあげる」
86 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/14(木) 23:26:00.33 ID:e5rLf//zo

「始めるって何を」

「見ればわかるよ。URL張ってあげるから。最初はソフトなやつの方がいいかな。あたし
も恥ずかしいし」

「あのさ」

「うん」

「何だかおまえの言ってることがよく理解できねえんだけど」

「今晩スレを見ればわかるよ。それよか、あっちの方をフォローした方がいいんじゃな
い?」

「あっちって」

 二見の視線を追うと、そのときようやく教室に入ってきた夕也の姿が見えた。

「・・・・・・酷い顔してるね。何かわからないけど、相当悩んでるみたい」

 確かに二見の言うとおりだった。

「よう、今日は遅いじゃんか」

「・・・・・・ああ」

「寝不足か? 夜更かしでもしたのか」

「まあ、ちょっとな」

「今日は学校サボって寝てた方がよかったんじゃねえの」

「おまえじゃあるまいし、そんなに簡単に学校をサボれるかよ」

「さすが学年で一、ニを争う秀才は言うことが違うな」

「そんなんじゃねえよ」

 何だかこれ以上こいつが憔悴している理由を追及しづらかった。だから、俺は話をそら
した。

「だいたいおまえスペック高すぎだろ? 部活もやってないくせに体育まで成績いいんだ
もんな、おまえ」

「そんなことねえって」

「いいよなあ。学校で肩身狭い思いしたことねえだろ? おまえ」

「おまえにだけは言われたかねえよ」

「え?」

「何でもねえよ」

「おまえ、本当に大丈夫か」

「大丈夫だよ。それより昨日有希と仲直りはできたのか?」

「一応」

 あいつが俺に言ったことなんかとてもこいつには言えない。

「一応ってどういう意味だよ」

「仲直りしたよ。一応」

「だから、どう意味で仲直りしたって聞いてるんだろ」

 やぱりこいつ、有希のことを好きなんだ。
87 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/14(木) 23:26:52.04 ID:e5rLf//zo

「あのさ」

「何だよ」

「いや、何というかさ」

「さっきから何言いたいの? おまえ」

「・・・・・・やっぱ、何でもないって」

「おまえさ」

「うん」

「前から思ってたんだけど、無駄に考え過ぎるとこ、おまえの悪い癖だぞ」

「別に考え過ぎてなんかねえよ」

「あとさ、大事なことを決めようって時にはあんまり余計なこと考えんなよ」

「意味わかんねえよ」

「人のことばっか気にしてんじゃねえよってことだよ」

「お前の方こそ意味わかんねえじゃん」

「そんで傷付く奴だっているんだぞ」

「俺さ、おまえの体調の話してたのにどうしてこういう話になるんだよ」

「まあいいや」

「いいのかよ」

「おまえが言うなよ」

 担任が入ってきたせいで、俺と夕也の会話が再開したのは、昼休みになってからだった。

「おまえ今日は麻衣ちゃんとお昼一緒?」

「妹からは今日は何も言われてねえな」

「じゃあ、学食行くか」

「やめとく」

有希とこいつと三人で昼飯を食う気になんてなれない。

「何でだよ。麻衣ちゃんと約束ねえならいいじゃんか」

「つうかおまえ、昼飯食うより教室で寝てたら? 何か顔真っ青だぞ」

「平気だって。病気じゃあるまいし単なる寝不足だっつうの」

「でもおまえ、いつも有希と二人で飯食ってるだろ? そっちはいいのかよ」

「おまえと麻衣ちゃんと一緒だよ。今日は約束してねえよ」

「でもよ」

「いいから早く行こうぜ」

「じゃあ学食行くか」

「おう。おまえのせいで出遅れてたじゃねえか」

「まあ、定食は無くなっても麺類とかはあるだろ」

「ラーメンとかそばとかじゃ腹減るんだよなあ」

 食欲のかけらも無いような表情してよく言うよ。俺はそう思った。

「まあ、とにかく早く行こう」

「おお」
88 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/14(木) 23:27:24.63 ID:e5rLf//zo

「まさか麺類すら売り切れているとはな」

「おまえが飯食いに行くくらいでうだうだ言ってるからだろうが」

「まあ、とりあえず辛うじて丼物は残ってたんだからいいじゃん」

「悩んで眠れなかった翌日の昼飯にかつ丼は厳しいっつうの」

 やっぱり。夕也は有希の態度のせいで悩んでいたのだ。

「やっぱりな」

「やべ。つい、口に出ちまった」

「あほ」

「うるせえよ。ま、いいか。俺とおまえの仲で隠しごとしてもしょうがねえか」

「本当だよ。さっさと何を悩んでたのか言え」

「いや」

 もうストレートに聞いてしまおう。俺はそう思った。

「おまえさ、有希のこと好きだろ?」

「おまえは?」

 意外なことに夕也は聞き返してきた。そうきたか。

「おまえから言えよ」

「何でだよ。最初に聞いて来た方が先に言えよ」

 しばらくの沈黙のあと、夕也が言った。

「まあ好きかな。おまえはよ」

 夕也に本心を言わせた以上、俺も正直に答えるべきだ。だから俺は思い切って言った。

「うん・・・・・・好きかな」

「おまえ、有希が好きならよ。何で昨日とかあいつの好意に応えねえの?」

「おまえこそ、あいつのことが好きなら何で俺と有希を二人きりにしようとしたんだよ」

 夕也は黙った。

「何とか言えよ」
89 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/14(木) 23:27:53.72 ID:e5rLf//zo

「俺さ」

「うん」

「泣き言言うわけじゃねえけど。最初は有希の方が積極的だったんだよな」

「そうなのか」

「あいつ、去年俺んちの隣に引っ越してきたじゃん?」

「うん」

「最初の挨拶の時からあいつ、学校もクラスも同じだとわかると、毎朝一緒に登校しよう
ってさ」

「ああ」

「そんでおまえと麻衣ちゃんとも知り合って一緒に登校するようになったじゃん?」

「そうだったな」

「でさ、有希ってその頃は、おまえより俺の方をいつも気にしててくれてさ」

「・・・・・・うん」

 確かに、それは夕也の言うとおりだった。そのせいで俺は有希に失恋したつもりになっ
たのだ。

「いつの間にか俺の方もマジで惚れちゃったわけさ」

「そうか」

「何かこんな話するの恥ずかしいけどよ」

「まあだけど、有希が俺の方を好きだなんて俺の勘違いみたいだし」

「ちょっと待てよ」

「おまえは俺のことは気にしなくていいぞ」



 夕也のやつは、本気で有希が好きなのか。前から察してはいたけれど本人からはっきり
と言われたのは初めてだった。俺は自分の部屋のベッドに横になって考えた。

 それなのに、というかそれだからと言うべきなのかもしれないけど、夕也は有希の恋を
応援してるみたいだ。そして有希の恋愛感情は意外なことに夕也ではなく俺の方を向いて
いるらしい。夕也の応援は、多分俺への友情とかじゃなくて、有希への愛情からだろうけ
ど。

 だからと言って有希の俺への気持に応えられるかというとそんなに簡単な話ではない。
夕也は俺の親友だ。そのあいつが、有希のことを好きな夕也がここまで配慮してくれてる
のに、俺だけ自分の想いを遂げるわけにはいかないだろう。

 妹に慰めてもらいたい。割と切実に。俺はそう思った。あいつは、昼飯は作ってくれな
いわ、帰りも一緒に帰ってくれないわ、いくらなんでも今までと態度変えすぎだろう。今
だって麻衣は自分の部屋に閉じこもっている。

 そのとき俺の携帯が振動した。ディスプレイには二見の名前が表示されていた。LINEの
メッセージの着信だった。
90 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/14(木) 23:28:37.78 ID:e5rLf//zo

「さっき始めたばっかだけどもう二百レス超えちゃった。今日は流れが早いみたい。君が
本当にあたしに興味があるなら下のURL開いてみて。今日は人多過ぎだから早めに画像消
しちゃうし。じゃあ、もし気に入ってくれたらレスしてね。そんでさ、もしレスしてくれ
るならレスの中に、制服GJって書いてね。それで君だってわかるから。じゃあね』

 リビングに戻ってパソ立ち上げるのも面倒だし、このまま携帯で開いちゃうか。俺はそ
の時は気軽にそう思った。女神とか女神行為の意味はわからなかったけど、掲示板とかSN
Sとかに二見の居場所があるのだろうという感じはしていたから、そのときはそんなに焦
ったりはしなかった。

 2ちゃんねるだな確かに。指定されたアドレスを開いた俺はそう思った。

『暇だからjk2が制服姿をうpする』

 俺はその内容に目を通した。


『とりあえず顔から。目にはモザイク入れました』


 画像が貼ってある。開くと、制服姿の華奢な肢体がディスプレイに映った。これは本当
に二見だ。目だけモザイクかかってはいるけど。こんなことやってたのかよ。

『制服のブラウスとスカート。鏡の前で撮ってます』

 二見は鏡に映った自分を撮っているようだった。っていうかスマホまで映っちゃってい
るけど、あれは間違いなくあいつのスマホだ。というか画像でも見ても二見は可愛いい。
そして、これだけ可愛いせいか、ついてるコメントも好意的だった。



『女神きたーーーー!!』
『ここが本日の女神スレか』
『かわいい〜。もっとうpして』
『ふつくしい』
『ありがとうありがとう』
『光の速さで保存した』
『セクロスを前提に結婚してください』
『これは良スレ』
『つか全身うpとか制服から特定されね?』


 あいつが女神って。こういうのを女神行為っていうのか。俺は初めて二見が言っていた
女神の意味がわかった。それにしても、こんなことしてあいつに何の得があるんだろう
か。自分をほめてほしいからか

『>>○ 特定は大丈夫だと思います。よくある制服なので。心配してくれてありがと』
『>>○ ならいいけど無理すんなよ。校章とかエンブレムとかはぼかしといた方がいい
ぞ』
『つうかお前らこれって転載だぞ。前にも見たことあるし』
『何だ釣りか。解散』
『>>○ 今撮ってるんだけど。前にも何度かうpしてるんでその時見たのかな? とりあ
えずID付きで手と腕』
91 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/14(木) 23:30:02.60 ID:e5rLf//zo

 次の画像は。俺は画像のURLをクリックした。二見のその画像に映し出された姿。腕は
細いし色白でむっちゃ綺麗だ。



『おお。確かにIDが』
『俺は信じてたぞ』
『つうかexif見りゃ今撮影してるってわかるじゃんか。お前ら情弱かよ』
>>1のスペック教えて』
『首都圏住みの高校2年です』
『彼氏いる? 年上はだめ?』
『処女?』
『可愛いよね。これだけ可愛いとやっぱイケメンしか眼中にない?』
『>>○ 彼氏はいません。年上でも大丈夫ですよ〜』
『>>○ 処女です』
『顔よりか優しくて頭がいい人がいいです』



 画像の二見の可愛らしさはともかく、少なくともこの場所では二見は普通にコミュニケ
できている。不特定多数の人相手なのに、これがリアルではボッチの二見とは思えないほ
どに。ここまで社交的に話せるのに何で学校じゃああなんだろう。それに。

 ・・・・・・処女か。

 しかしスレの流れが早い。更新するたびに十くらいレスがついてる。

『30代のリーマンだけど対象外?』
『アドレス交換しない?』
『出合厨は氏ねよ』
>>1も全レスしなくていいからもっとうpして』
『次は足です。太くてごめん』



 え? スカートたくし上げて太腿を露出させてるじゃんか。女神行為ってここまで露出
してするものなのか。でも白くてすべすべしてそうだ。結構際どいところまで写ってるけ
ど、二見は恥ずかしくないのか。



『むちゃ綺麗な足だな』
『全然太くないっつうかむしろ細いじゃん』
『なでなでしたい』
『パンツも見せて』
『何という神スレ』
『もっと、もっとだ』
『もっと顔みたい』
『パンツはダメです。つ横顔』



 そうだよな。さすがに下着姿までは見せないよな。俺はほっとした。ほっとしたけど少
し残念な気もする。それにしてもすごいレス数だ。これではとてもじゃないけど、全部の
レスは読めない。少し飛ばし読みしようと俺は思った。最新のレスに追いついたとき、レ
ス数は既に三百レスを越えていた。画像なんか十枚も貼られてないのに何でこんなに盛り
上がるのだろう。

 しかもちゃんと肌が見えてるのってさっきの足くらいで、あとは制服姿とか耳とか手と
かのアップの画像なのだ。中には構ってちゃん死ねとか馴れ合い厨きめえよとかって感じ
のアンチレスもついてたけど、大半は好意的なレスだった。何だか、二見を中心にして雑
談してるみたいだ。しかし二見はこういうのを毎日のようにやっているのか。あいつは毎
朝駅でレスを確認してるとかって言ってたけど。
92 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [saga]:2016/01/14(木) 23:30:41.25 ID:e5rLf//zo

『みんな構ってくれてありがとう。ちょっと用事が出来たのでうpはおしまいです。みん
なまたね〜』
『楽しませてもらったよ。気をつけて行ってらっしゃい』
>>1乙 良スレだった』
『うpありがと。またな』
『今日は冷えるから上着着とけよ おつかれ〜』
『またうpしてね』
『コテ酉付けてよ』
『転載されるから画像ちゃんと削除しとけよ』
『帰ってくるまで保守しとこうか』

 どうもこれで終わりらしい。俺は慌てて二見に言われたとおりにレスした。



『制服GJ』



『みんなありがと。保守はいいです。今日は帰宅が遅くなるのでこのスレは落としてくだ
さい』
『>>○ 制服をほめてくれてありがと。どうだった?』

え? 俺にだけレスしてくれたのか。

『何で>>○にだけレスしてるんだよ』
『>>○死ね』
『>>○ 何なんだよおまえ』
『>>○の人気に嫉妬』



 もういいや。俺はそう思った。確かに太腿の露出にはびっくりしたけど、まああのくら
いなら、卑猥というほどの話でもない。ただ、これがあいつの交友関係ってやつかと考え
ると、何だかわかるようなわからないような気持ちになる。普通に見てて楽しかったけど、
これが現実の人間関係の代わりになるとも思えない。それにしても、何で俺は二見のこと
ばっかり考えてるんだろう。今はむしろ有希と夕也のことを真剣に考えなきゃいけないの
に。

 俺はそう思ったけど、なぜか俺の手は未練がましく今最小化したはずのブラウザを再び
クリックしていた。ちょっとだけ二見の太腿の画像を見てみるか。もう落ちちゃっただろ
うか。そうしてスレを見るとスレ自体はまだ残っていた。

 すげえ。まだ保守してる奴がいる。俺は画像の貼ってあったレスを探して未練がましく
クリックしてみた。

404 NOT FOUNDという表示が映し出され、二見がアップした画像は既に見えなくなってい
た。
93 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/14(木) 23:31:12.18 ID:e5rLf//zo

今日は以上です
また投下します
94 :以下、2015年にかわりまして2016年がお送りします [sage]:2016/01/15(金) 14:58:58.23 ID:5Gomu8qNO
乙です
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/21(木) 19:36:34.83 ID:KbkKP23D0
作者ですがPCが逝ってしまいました。
データはクラウドに置いているので無事でしたが、新しいPCを購入するまでしばらく更新できません。
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/30(土) 22:45:09.89 ID:ZYZlVptYo

 翌朝、あまり眠れなかった俺は朝になっていろいろ後悔した。これじゃ、俺って全然だ
めじゃんか。有希のこととか夕也のこととかで悩むならともかく、何で俺は三十分おきに
あのスレの確認なんかしてたんだろう。結局、二見はあのスレには戻ってこなかった。そ
れでも俺は、三時過ぎにあのスレが落ちるまでは気になって眠れなかったのだ。

 全く。あんな画像見ただけでどんだけ二見のこと気にするようになったんだよ、俺は。
他にもっと気にしなきゃいけないことがあるのに。起きるか。俺は着替えて階下に下りた。

「おはよう」

「おはよ」

「早くご飯食べちゃって。・・・・・・て、どしたの?」

「どしたって何が?」

「昨日眠れなかったの?」

「わかるか」

「うん」

「そうか」

今朝は普通に接してくれるんだな、こいつは。おれはそう思って食卓についた。

「あまり悩まないで自分に素直になればいいと思うけど」

「おまえ何の話してるの」

「何って。お姉ちゃんのことで悩んでるんでしょ」

「いや、そんなんじゃなくて」

「隠したって無駄だよ。前にも話したけど、お兄ちゃんがお姉ちゃんのこと好きだったこ
となんか、あたしは前から知ってたんだから」

「そうじゃねえのに」

「そのお姉ちゃんから告白されてお兄ちゃんが悩まないわけないじゃん。お兄ちゃん、夕
さんの親友だしね」

「あのさあ」

「お姉ちゃん、バカだよね。お兄ちゃんと結ばれるチャンスなんか今までいくらでもあっ
たのに。あたしなんかに、お兄ちゃんの実の妹なんかに遠慮してさ」

「もういいよ」

「お兄ちゃんが夕さんのために身を引いても、多分お姉ちゃんはもう夕さんとは付き合わ
ないよ」

「何でそんなことおまえにわかるんだよ」

「お姉ちゃん言ってたもん。仮にお兄ちゃんがお姉ちゃんの告白を受け入れてくれなかっ
たとしても、もう夕さんとは一緒に過ごさないって」

「夕也がかわいそう過ぎるだろ、それ」

「その気もないのに親しく接せする方がかえって残酷だと思うよ」
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/30(土) 22:45:41.97 ID:ZYZlVptYo

自宅の最寄り駅で俺は麻衣と二人でいつもの電車を待った。

「今日も弁当作ってねえの?」

「うん。最近夜忙しいから準備できなくて」

「まあ、おまえにばっか負担かけてきたわけだからしょうがねえよ」

「ごめんね」

「別に学食とか購買のパンでも問題ねえし」

「お兄ちゃん、偏食だからな。本当はあたしのお弁当で栄養管理したいんだけどなあ」

「別に肉ばっか食ってるわけじゃないぞ」

「口では何とでも言えるしね。いっそお姉ちゃんに頼んじゃうか」

「頼むって何を?」

「しばらくお兄ちゃんのお弁当作ってくれないって」

「ば、ばか。よせ、絶対にそんなこと幼馴染に言うんじゃねえぞ」

 今の有希なら本当に作りかねない。

「冗談だって。そんな図々しいこと本当に頼むわけないじゃん」

「それならいいけど」

「あ」

「どうした?」

 二見が駅の隅にいた。

「今日もいるね」

「うん、いるな」

 妹は黙ってしまった。



「お姉ちゃんおはよう」

「麻衣ちゃんおはよ。今日も可愛いね」

「ありがとお姉ちゃん」

「麻人もおはよう・・・・・・って、どうしたのその顔?」

「おはよ。別にどうもしてねえよ」

 やっぱり有希は、今日も夕也とは別行動なのか。

「酷い顔でしょ」

「うん。寝不足?」

「ちょっとな」

「お姉ちゃんお姉ちゃん」

 麻衣が有希の耳に口を寄せた。内緒話をしている風だけど、声がでかいせいで何を言っ
ているのか全部聞こえている。

「どしたの? 麻衣ちゃん」

「今お兄ちゃんは悩んでるの。わかるでしょ?」

「あ」

「もう。当事者のお姉ちゃんが気が付いてあげなくてどうするの」

「ごめん。そうか、そうだよね」

「もう寝不足には突っ込まないであげて」

「うん、わかった」

 何でわざとらしく声をひそめているのか。全部聞こえてるっつうの。それに、本当はそ
のことで悩んだんじゃない。頭の中に女の太腿の画像がこびりついていたせいなのだ。

 あいつは今夜もやるのだろうか。女神行為を。
98 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/30(土) 22:46:15.97 ID:ZYZlVptYo

 麻衣と別れて有希と二人で始業前の教室に入ったけれども、有希は友人にあいさつされ
て俺のそばから離れていった。

 二見はまたぎりぎりに来る気なのだろうか。教室には彼女の姿がなかった。ちょっとで
も授業始まる前にあいつと話せないだろうか。俺が未練がましくそう思って教室の入り口
を見ると、二見が教室内に入ってきた。いつもよりは一本早い電車に乗ったのだろう。な
ぜか俺の胸の動悸が激しくなった。

「池山君、おはよう」

「おはよう」

「・・・・・・寝不足?」

「ああ、ちょっと」

「悩みでもあるんですか?」

 二見がにこっと笑った。

「何でもねえよ」

 おまえの白い太腿が気になって眠れなかったなんて言えるか。

「あのさ」

「うん」

「見たよ、昨日のスレ」

「レスしてくれたから知ってるよ」

「うん」

「どうだった?」

「どうって言われても」

「軽蔑した? それとも嫌悪を感じた?」

「そんなことねえよ」

 思ったより大声を出してしまった。周囲の生徒たちが俺たちの方を見ているのがわかっ
た。思わず大声を出してしまった。有希とか他のやつらが変な顔でこっちを見ている。

「別に嫌な感じなんてしてねえよ。可愛い写真ばっかだったし」

「本当?」

「ああ」

「嬉しい」

 このあたりでようやく俺の緊張も解けてきた。

「おまえ、すごく人気あったじゃん。結婚してくださいなんて言われてたし」

「そんなの真面目に言ってるわけないじゃん。盛り上げてくれてるだけだよ」

「そうなの? メアド教えろとかっていうのも?」

「ああ。あれは少しマジかもね。どうしても出合厨って沸いてくるし」

「うん?」

「まあ、スルーすればいいのよ、ああいうのは」

「よくわかんねえけど、おまえ昨日は楽しそうだったよ。おまえのレス見ててそう思っ
た」

「昨日はスレ荒れなかったからね。あんなもんじゃないこともあるのよ」

「そうなんだ」
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/30(土) 22:46:49.09 ID:ZYZlVptYo

「あたしの写真、気に入った?」

 二見が微笑んで俺の方を見た。

「え? 何だよそれ」

「可愛かったかな?」

「う、うん」

「君にそう言ってもらえると嬉しいな」

「おまえさ」

「なあに」

「ああいうの毎日やってるの?」

「毎日じゃないよ。普段は他の板とかでロムってることも多いし」

「まあ、昨日くらいの露出なら問題ないんだろうけど」

「うん?」

「学校の奴らとかにばれたらまずいんじゃないの」

 いくらぼっちの二見だって、そういう噂はまずいんじゃないか。俺はそう思った。

「ばれないよ。顔とかは隠してるし」

「隠してるうちに入らねえと思うけどな、あの程度じゃ」

「平気だって。それよか、まだ見る気ある?」

 見る気がないかあるかと聞かれれば、それは見たい。

「今夜もスレ立てるの?」

「そういうわけじゃなくて。あたしが前に言ったこと覚えてる?」

「うん?」

「恥ずかしいから最初はソフトなやつって言ったでしょ」

「あ、ああ。」

「でね。今夜は久しぶりに女神板でやろうと思って」

「何それ」

「見ればわかるよ。その気があるならまたメールしてあげるけど」

「・・・・・・うん」

「じゃあ、夜八時頃から始めるから」

「わかった」

 それまで俺の方を見ていた二見の視線がずれた。

「あ、広瀬君が来た。最近一緒に登校しないんだね」

「・・・・・・わかってて言ってる?」

「ごめん。でも彼、君以上に寝不足な感じ」

 夕也のやつ、ひどい顔だ。

「広瀬君、せっかくイケメンなのにね」

「うん」

「あ、先生来ちゃった。また後でね」

「おう」
100 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/30(土) 22:47:43.74 ID:ZYZlVptYo

 午前中の授業終了後、俺は二見の声に起こされた。

「池山君、池山君ってば。起きてよ」

「あ」

「あ、じゃないわよ。授業終わったよ」

「俺、寝ちゃってたのか」

「机に突っ伏して盛大にね。あの先生だから見て見ぬ振りしてくれたけど、他の先生だっ
たら怒られてるよ」

「うん。何かいつのまにか寝ちゃったみたいだ」

「寝不足で疲れてるんでしょ。何で寝不足なのかは知らないけど」

「何でもないよ」

「今日は妹さんと一緒にお昼?」

「いや今日は約束してないよ」

「じゃあよかったら一緒にお昼食べない?」

「いや、ちょっと夕也と話がしたいんでさ」

「広瀬君、授業終わったらすぐ教室を出てっちゃったよ。気分悪そうだった」

 あいつ、もしかして俺のこと避けてるのか? 昨日はちゃんと話せたのに。

「じゃあ、中庭に行こうか」

 二見が言った。



「君も、二見さんとか広瀬君のことでも考えて眠れなくなったんでしょ」

「違うよ」

「じゃあ妹さんのことでも考えてた?」

「だから違うって」

「じゃあ何で寝不足なの? 場合によっては力になってあげられるかもよ」

「力になるっておまえが?」

「ぼっちのあたしが言っても信じてくれないかもしれないけど、あたしって問題解決能力
が高いぼっちなんだよ」

「何だよそれ」

「ほんとだよ」

 二見は突然微笑んだ。それはすごく可愛いい笑顔だった。正直に言っちまうか。俺はそ
う思った。それでこいつがどんな反応するかも知りたい気がするし。

「ええとだな」

「うんうん」

「おまえの立てたスレを三十分おきくらいに見に行ってたら寝そびれた」

「え・・・・・・つうか、え?」

「いや何か落ちないようにスレ保守している人がいっぱいいたから、おまえがスレに戻っ
てくるんじゃないかと思ってさ」

「飽きれた。今日は戻れないってレスしたのに」

「まあ、あとさ。正直な話、おまえの画像が気になって眠れなかったっていうのもある」

「え」

 やばい、引かれたか。俺はそう思った。
101 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/30(土) 22:49:05.89 ID:ZYZlVptYo

「あ、あの。変なこと話して悪い」

 二見は黙って俺を見ている。

「気持悪かったよな。今の忘れて」

「うれしい」

 二見が俺の方を見上げるようにして小さな声で言った。

「え?」

 何なんだ。

「あたしさ、ああいうことしてるって知り合いに話したの初めてだったんだ」

「うん」

 そりゃそうだろうなって俺は思った。気軽に学校とか家庭で話せるようなことじゃない。

「どうせ知られたら変な目で見られるだろうし、噂にもなるだろうし」

「まあ、普通はあれを知ったらドン引きするだろうけどな」

「あたし、多分友だちとか作ろうと思えばできると思うんだけど、隠し事をしながら友だ
ちと付き合うの嫌だったから」

「それでいつも一人でいたの?」

「うん。でもさ、自分でも何でかわからないけど君とは友だちになりたくてね」

「そうなんだ」

「そうなの。でも隠し事するの嫌だったから、怖かったけど女神のこと君に教えたの」

「そうか」

「嫌われるだろうなって覚悟してたけど、気にしないでくれて、っていうか気に入ってく
れて本当にうれしい」

 俺が好きなのは有希だけど、何かここまで好意を示されると正直うれしい。こいつは可
愛いし。

「まあ俺だって健康な男子だし。あの太腿の写真をもう一度見ようとしたくらいだしな」

「・・・・・・え」

 やばい。ちょっと言い過ぎただろうか。

「ちょっと。大きな声で太腿とか言わないでよ。で? 画像は保存したんでしょ」

「してない」

「え? 何でよ。すぐ削除しちゃうから普通みんなすぐにダウンロードするんだよ」

「いやそれ知らなくてさ。もう一回見ようとしたら見れなかった」

「ちょっと待って」

 二見はスマホ取り出して何か操作し始めた。

「送信したよ」

「何を?」

 スマホが振動した。

「メール見て」

「俺の携帯か。おまえから?」

「君にプレゼント」

 空メールに添付されていたのは、昨日の二見のむき出しの太腿の画像だった。

「よかったらどうぞ。好きに使っていいよ」

「つ、使うっておまえ何言って」

「だってよくレスもらうよ? 大切に使わせてもらいますとかって」

 俺は二見の笑顔を正視できなかった。正直に言えば、その場で死にたいくらいだった。
102 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/30(土) 22:50:16.75 ID:ZYZlVptYo

「とにかく勇気が出たよ。女神のこと話しても嫌われない友だちが一人できたことに」

「うん、別にあんなことくらいで嫌いにはならねえよ。それにエッチなのってこの足の画
像くらいだしさ。あれくらいなら十分許容範囲だ」

 突然二見が黙り込んだ。

「どうかした?」

「はあ」

「うん? ため息なんてついてどうしたんだよ」

「よろこぶのはまだ早いか」

 何だ? こいつ急に暗い顔になっちゃったな。これまでやたらうれしそうに笑ってたの
に。

「だから何で急に落ち込んでるんだよ」

「まあ、しょうがないか。明日君に会うまではどきどきて待ってるしかないのね」

「どういうこと?」

「今夜も女神行為するから」

「うん、それはさっき聞いた」

「昨日と違う板でするの」

「女神板ってとこでしょ」

「うん。それでさ、あそこは基本的に十八歳未満は出入り禁止なの」

「そうなの? じゃあ制服とかアップしたらまずいじゃん」

「そうなの。だからあたしは女神板ではいつも十九歳の女子大生って自分のこと言って
の」

「そうなんだ」

「今夜は君はレスしなくていいから、黙ってロムしてて」

「コメントしないで見てろってことだな。わかった」

「URLはあとでメールするけど、あたしのコテトリだけ覚えておいて」

「コテトリって何?」

「今メールで送るから」

 再びスマホが振動した。

 俺は二見からのメールを開いた。
103 :お前らはマシだ真の悲壮と絶望的状態冗談抜きで継続PLAY神様 :2016/01/30(土) 22:50:25.38 ID:oB6jLJn/0
ねぇグロはね

セイバー顔潰しや

其の他キモ小父さんの妄想ベントウノ発言前に数億枚あるんだよアレイスターちゃん【煽り姫神秋沙子孫根絶】此れで勝つる【旦那吸血鬼卑怯者雑種獣】我様不滅のシャカちゃん10歳【処女膜【VIRGIN】小父さんの妄想ブッサシプリキュア知ってるよ母上】
104 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/30(土) 22:50:55.23 ID:ZYZlVptYo

『モモ◆ihoZdFEQao』

 何かの暗号みたいだ。

「何これ?」

「今日のスレで名前欄にこれが入ってるのがあたしだから。モモって言うのがあたしの固
定ハンドル、まあペンネームとでも思って」

「ああ、そういうことか」

「で黒いダイアモンドマーク以下の文字があるでしょ? それが付いてたら本当のあたし
だっていうこと」

「よくわかんないな」

「それはあたししか知らない文字列を変換している言わば暗号みたいなものだから、その
秘密にしている文字列を入力しないとこういう表示にならないの」

「パスワードみたいなものか」

「まあ、そうね」

「それはわかったけどさ、何でさっきちょっと落ち込んでたの?」

「今夜になればわかるけど。十八禁の意味はわかるでしょ」

「もしかして」

「うん。まだ君に嫌われる可能性は十分に残ってるってことだね」

 だったら俺に女神板なんて教えなきゃいいのに。

「君が何考えてるかわかるよ。黙ってればわからないのにって考えたでしょ」

「まあ、今確かにそういうことも思い浮んだよ」

「さっき言ったように友だちと隠し事しながら付き合うの何かいやだし」

「うん」

「あと、あたし君のこと結構気になってるかも」

「え」

 気になるってどういう意味だ。俺は一瞬本気で心臓の音を聞いた気になった。

「とにかく今夜見て明日感想を聞かせて・・・・・・それが嫌悪しか感じなかったっていう感想
だったとしても正直に話してね?」

「わかった」
105 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/01/30(土) 22:51:38.92 ID:ZYZlVptYo

 二見と別れて自宅に戻ると、麻衣は既に帰っていたけど、リビングではなくて自室にこ
もっているようだった。これなら二見の女神行為をスマホではなくリビングのパソコンで
見ることができそうだ。麻衣は今夜は食事を用意していなかったので、俺は風呂に入り適
当に冷凍食品を解凍して夕食をすませた。

 そろそろ八時だ。何か緊張してきた。そして、なんでこんなに緊張しているのかもわか
らない。たとえ好きな女の子ではなくても、かわいい子の画像が見られるんだから健康な
男子高校生としては緊張くらいしても不思議じゃない。でも、本当にそれだけなのか。

 もしかして二見は俺のことが好きなのだろうか。いや、彼女は気になるって言ってるだ
けで俺のこと好きだってはっきり言ったわけじゃない。ただ、もし少しでもその可能性が
あるなら早めに断らないといけないだろう。俺が好きなのは有希なのだし。まあ、夕也の
ことを考えると、有希とは結局結ばれないのかもしれないけれども。

 それならいっそ二見と付き合うっていうのもあるかもしれない。あいつとは一緒にいて
気が楽だし話も合うし。って何を考えているんだ俺は。別に二見に告られたわけでもない
のに。

 そのときスマホが震えた。二見からのメールだ。



from :二見優
sub  :無題
本文『じゃあ、そろそろ始めるね。今のところ他の子がうpしてる様子もないから、見て
ても混乱しないと思うよ。念のために繰り返しておくけど、女神板はうpも閲覧も18禁
なんであたしは19歳の女子大生って名乗ってるけど間違わないでね。』

『モモ◆ihoZdFEQaoのがあたしのレスだから。あと結構荒れるかもしれないけど動揺して
書き込んだりしちゃだめよ? 君は今日はROMに徹して』

『ああ、そうそう。これは余計なお世話かもしれないし、あんまり自惚れているように思
われても困るんだけどさ。今日うpする画像はすぐに削除しちゃうから、もし何度も見た
いなら見たらすぐに保存しといた方がいいと思うよ』

『じゃあ、下のURLのスレ開いて待っててね。8時ちょうどに始めるから』

『やばい。何かドキドキしてきた(笑) 女神行為にどきどきなんかしなくなってるけど、君に嫌われうかもしれないって思うとちょっとね。でも隠し事は嫌いなので最後まで見て
感想をください。あ、感想ってレスじゃないからね』

『じゃあね』



 二見がどきどきするくらいなのだから、よほどきわどい恰好をするのだろうか。十八禁
の板なのだ。下着とか見せちゃうのかもしれない。そう思うと何か胸がもやもやする。別
に俺の彼女でも何でもないから嫉妬する権利なんか俺にはないのに。それにもやもや以前
に、俺が二見の体が見られることに期待しているのは、誤魔化しようのない事実だ。

 とりあえず俺はスマホのメールをパソコンに転送した。そして、パソコンのメールを開
いて表示されたURLをクリックした。一瞬の間をおいて該当するスレが、自動的に立ち
上がったブラウザに表示された。

【貧乳女神も】華奢でスレンダーな女神がうpしてくれるスレ【大歓迎】

 何かタイトルすごい名前だ。既存のレスの日付を追うと、半年以上前に立ったスレのよ
うだった。昨日のスレと違って>>1に細かい注意事項が書いてある。

 十八歳未満は本当にだめなんだ、あと顔出し非推奨とかメアド晒し、出会い目的は禁止。
何かエッチな板だと思ってたけど結構、常識的なことが書いてあるようだ。

『性器のうpは固くお断りしています』

 ・・・・・・なんかすごく嫌な予感がする。とりあえずスレを更新してみよう。最新レス
は、いきなり二見のレスだった。

モモ◆ihoZdFEQao『こんばんわぁ?。誰かいますか』

 コテトリとかいうのが教わったとおりのやつだ。これは二見で間違いない。俺は再びス
レを更新した。さっきはなかったレスがついてる。

『いるぞ〜』
『モモか。久しぶりだね』
『モモちゃん元気だった?』
『ちゃんと大学入ってる?』

 何かみんな二見というかモモのことを知っているようだ。それにしても本当に大学生を
演じているのか。

モモ◆ihoZdFEQao『人いた。最近恋に落ちたせいか痩せてますます貧乳になりました(悲)』

 恋? まさか。そのレスには画像のURLが貼ってあった。何か怖いけど、見ないです
ませるくらいに俺のメンタルは強くない。それにすぐ削除しちゃうって二見は言っていた
し。俺はそのURLをクリックした。
106 :お前らはマシだ真の悲壮と絶望的状態冗談抜きで継続PLAY神様 :2016/01/30(土) 22:51:48.85 ID:oB6jLJn/0
陰毛 脱毛 二次元

二次元美少女少ないよ

超グロイよ
107 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/30(土) 22:52:29.82 ID:ZYZlVptYo

今日は以上です
新しいPCが届いたのでまた更新を再開します
108 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/30(土) 22:53:00.52 ID:ZYZlVptYo
>>103,106
誤爆してますよ
109 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/01/31(日) 01:55:22.89 ID:EvplOKd0O


>>108
それに触れちゃダメだぞ
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/03(水) 08:14:11.38 ID:WhYZBDMsO
読んでるよ!次が楽しみ
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/05(金) 12:24:53.75 ID:gseyL10R0
続き楽しみ
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/06(土) 22:00:28.90 ID:pCvLUfD/o

 URLをクリックすると別窓が立ち上がった。まだ画像は表示されていないけど、俺は
その別窓を最大化して、ゆっくりと画像が表示されていくのを固唾をのんで見守っていた。
画像は上の部分から徐々に鮮明になり、やがて表示される部分が広くなっていった。最初
に見えたのは二見の顔だった。

 目の部分には昨日はモザイクがかけられぼかされていたけど、今日の画像は上から細い
線を重ねて目の部分が見えないようになっていた。それでも二見を知っている人間ならそ
れが誰だかすぐ判別できるくらい、申し訳程度にしか顔は隠されていなかった。

 やがて彼女の白い肌がゆっくりと浮き上がってきた。それはあいつの上半身の裸身の写
真だった。左手で胸の部分を隠しているため乳首は見えないようになっていたけど、小さ
な手で押さえているせいで、乳房は全体が隠されているわけではなかった。右手が写って
いないのは、おそらくスマホを持って腕を伸ばして自分を撮影したからだろう。画像の下
の部分には二見が履いているスカートが少し写っていたけど、それ以外はあいつは何も身
につけていなかった。いや、正確に言うと鎖骨のあたりに何か付箋のような物が貼り付け
られていて、それには英数字が書きなぐってあった。昨日のスレでもあったけどIDを書
いて本人証明をしているのだろう。

 普段見ている印象よりあいつの体は細く華奢だった。制服姿でいるときより裸身になる
と肩や腕の細さが際立って見える。俺は二見の上半身裸の画像を素直に美しいと思った。

 最初に予想していたようなわいせつな印象は、全くと言っていいほどなかった。自分で
も驚いたことに、二見の裸体を見ても性的な意味で興奮することはなかった。むしろ何か
美しい中世の女神の絵画でも見ているような印象すら受けていた。なぜこういう行為をす
る子が女神と呼ばれているのか、あいつの裸身を眺めていると何となくその意味がわかっ
たような気がする。

 そして、昨日は携帯の小さな画面だったけど、今日パソコンの大きなディスプレイで画
像を見ると、彼女の肌の質感が手に触れているかのようにまざまざと感じられるようだっ
た。スマホのカメラのせいか画質はあまりよくなく、パソコンのディスプレイに映し出さ
れた画像の解像度の荒さは隠しようもなかったけど、それでもそれは映し出された彼女の
美しさを損なうことはなかったのだ。俺が自分のカメラで撮影していれば、もっときれい
に撮れるのに。

 しばらく画像に見とれていた俺は我に帰り画像を右クリックして画像を保存した。すぐ
に削除するってあいつに注意されていたし。それから一度画像を閉じてスレを更新した。



『美乳じゃん』
『美乳なんだろうけど手で隠すくらいならうpするなボケ』
『乳首も見せないとか何なの』
『モモちゃんの乳首みたいです』
『美乳というより微乳かもしれん。こんなんに需要ねえよ』
『>>○ スレタイも読めんのか。モモ、ナイス微乳。手をどけようよ』
『肌綺麗だな。こないだまで女子高生やってだけのことはある』
『乳首見せる気ないなら着衣スレいけよ』



 何でこんなレスばっかなんだろう。これだけ綺麗な画像貼ってるのに。俺はそう思っ
た。同時にここのスレの住人のレベルの低さに無性に腹が立った。ここは十八禁だってい
うけどレスを見ているかぎりでは、高校生以下のレベルではないか。何か腹が立ってきた。
反論のレスをしてやろうかな。一時はそうも思ったけど、でも、あいつに今日はレスする
なって言われていたことを思い出して、俺は反論を断念した。とりあえずスレを更新して
みよう。



『ふざけんな。削除早すぎるだろ』
『即デリ死ねよ』
『のろまったorz』
『次の画像うpしてくれ』



 ・・・・・・もう削除しちゃったのか。どれ。俺は画像へのURLをクリックした。

 DELIETEDって出て画像はなくなっている。俺は画像をあきらめてスレの方を更新した。
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/06(土) 22:02:18.45 ID:pCvLUfD/o

モモ◆ihoZdFEQao『画像は15分で削除します。ごめん』

モモ◆ihoZdFEQao『あと乳首はダメです。需要ないかなあ』



『ねえよ帰れ』
『需要あるよ。乳首なくてもいいから次行ってみよう』
『モモの身体綺麗だからもっと見たいれす』
『次M字開脚してみて』



 好意的なレスもあるけど、とにかく画像を貼らせようって感じだ。でも、正直俺ももっ
と見てみたいという感情はある。



モモ◆ihoZdFEQao『リクに応えてみました。乳首はダメだけどM字です。15分で消しま
す』



 次の画像だ。消される前に。俺は画像へのリンクをクリックした。

 次の画像は鏡に写した自分を撮影したものだった。二見がスカートを脱いで床に座りこ
んで足をMの形に開いている画像で、開いた足の中心部にはブルーで無地のパンツがくっ
きりと写っていた。普通なら下着がはっきり見えているということで、その部分に目が行
くのかもしれないけど、俺の目はあいつの細く白い脚に釘付けになった。昨日見た太腿の
画像より拡大され、細部まではっきりと見えていたけれども、その脚にはしみやあざは一
つも見当たらず全体的に滑らかでほのかに内側から光を発しているようにすら思えた。特
に昨日は見えなかった内腿の白さが際立っている。下半身を写しているせいで、画像の上
部はお腹と形のよいへそが半ば見切れるように写っていた。

 二枚目の画像を見てもやっぱり美しさを感じたたけど、画像を見ているうちに性的な興
奮のようなものがようやく俺にも湧き上がってきた。ただ、それは彼女の下着とか肌を見
ていることからくる即物的な興奮ではなく、自分の親しい人間がこういう姿を不特定多数
の目の前で肌を露わにしているという少し倒錯的な感情から来る興奮だったのかもしれな
い。俺は少し戸惑った。二見の行為に嫌悪感は感じなかったけど、倒錯した興奮を感じた
自分に対する嫌悪感は微妙に感じていた。それでも俺は麻薬に中毒して自分ではやめられ
ない人のように、自分から意識してこのスレを閉じることはできなかった。

 俺は二枚目の画像を保存すると、再びスレに戻り更新した。今度は概ね好意的なレスが
数レス付いていた。昨日のスレのような流れの早さはなく、一枚画像を貼るたびに数人が
レスするという感じだった。こういうスレを過疎スレと呼ぶのかもしれない。何度か更新
してレスを確認していると再び二見のレスがあった。



モモ◆ihoZdFEQao『ほめてくれてありがとうございます。じゃ最後は全身うpです。乳首
なしですいません。15分で消します』



 俺は三枚目の画像を開いた。ゆっくりと表示されていくその画像は、姿見に正面から映
した全身の画像だった。体にはブルーのパンツ以外何も見にまとっておらず胸だけは左手
で隠している。右手には姿見を狙って撮っているスマホのカメラが握られているのがわか
った。

 ・・・・・・結局その日はこれを最後に写真が貼られることはなかった。これでおしまいとい
う二見のレスに数レスだけ、ありがとうとかまた来てねとかというレスが付き、それに続
いて即デリ死ねよとかのろまったとかというレスが数レス。その後は何度更新しても新規
の書き込みはなかった。画像も宣言どおり二十分くらいで全て消去されていた。夜中の三
時ごろまでお祭りのように賑わっていた昨日のスレとは全く感じが違っていて、何か淡々
と事が運んで淡々と事が終わったようだった。今日のスレでは始ってから終わりまで一時
間もかかっていなかった。

 俺は更新を諦めてスレを閉じた。そして保存した画像をパソコンのメールで自分の携帯
に移してから、その画像をパソコンのハードディスクから削除した。リビングのパソコン
は家族共用なので万一発見されると非常に気まずい。というか両親に発見されるくらいな
ら気まずいだけですむけれども、妹が発見すると写真の人物が二見であることに気づいて
しまう可能性があった。

 画像を全部削除してパソコンの電源を落として自分の部屋に戻った俺は改めて自分がこ
の女神行為に対して抱いた印象を考え始めた。明日朝一番で二見に感想を求められること
は間違いない。それまでに自分なりの感想を整理しておく必要を俺は感じたのだ。
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/06(土) 22:06:54.05 ID:pCvLUfD/o

 少なくとも嫌悪感はなかった。それは断言できる。スレを開いた時に女神板のスレに感
じた猥雑な印象は、実際に二見の画像を見ると俺の心からすっかり消し飛んでいた。そし
て彼女の体を美しいと感じたことも間違いなかった。ただ、問題は二枚目以降の画像を見
た時に感じた複雑な感情だった。俺はその感情を自分の心の中で整理しきれていなかった。

 それは自分がよく知っている女が他の男に肌を露出していることから来る嫉妬だったの
だろうか。でもその感情を抱いたとたんに俺は得体の知れない深い興奮を覚えたのだった。
それは単純な性的興奮ではなかった。何か自分の女が複数の男の視線に晒されていること
への興奮だったのか。

 え? 俺は一瞬自分の頭を疑った。俺の女ってなんだよ。

 二見は俺と付き合っているわけではない。俺は不特定多数の掲示板の住人と同じく今日
初めてあいつのああいう画像を見たのだ。いや、モモというコテハンがレスした人たちに
知られていたということは、当然俺より先に二見の裸身を見ていたやつらがいるというこ
とだった。それに対して俺が感じたのがスリリングな興奮なのかそれとも単純な嫉妬なの
か。俺は混乱した。

 もうこれ以上考えても何も結論は出せそうになかった。俺は諦めて寝ることにした。今
日も有希の告白にどう応えるか考えなかったな。そんな感想が眠りにつく前に俺の脳裏に
浮かんだけれども、それはすぐ次に鮮明に脳裏に浮かんだ二見の美しい肢体のイメージに
かき消されてしまった。俺は彼女の真っ白だった美しい肢体を思い浮かべながらいつのま
にか寝入ってしまったようだった。

 翌朝 自宅の最寄り駅に立った俺は、朝食を食い損ねてしまった自分の空腹を持て余し
ていた。今朝は麻衣が朝食を用意してくれなかったのだ。今日は妹は俺を起こすとさっさ
と一人で出かけてしまった。おかげでいつもより遅い電車になってしまったうえ、すきっ
腹を抱えている。まあ、考えようによってはいかに俺が生活する上で妹に依存していると
いう証左になったのだけど。

 麻衣は、最近夜も自分の部屋にいるし、昼も一緒に食べようとしない。俺のこと避けて
いるのだろうか。ついこの間まで、麻衣は近親相姦直前くらいなほど俺にベタベタくっつ
いてたくせに。あいつは有希のこと応援してるって言ってたから、有希への返事を引き伸
ばしている俺のことを怒ってるのだろうか。

 まあ、いいや。そんなことより昨日のことのほうが悩ましいと俺は思った。保存した画
像をちょっとだけ見てみようか。俺はスマホを開いて二見の女神行為の画像を表示した。
一枚目の画像は、スマホの画面だと画像が小さいけど、それでもあいつの体が綺麗なこと
はよくわかる。胸を隠している方がかえって彼女の美しさを引き立てているようだ。

 二枚目はM字に脚開いてっていうリクエストに応えたやつだった。二見の脚とかきれい
だけど、それにしてもいったい何人くらいの男がこの脚を眺めて、画像を保存したんだろ
う。レスしないでROMしてるやつも相当いるはずだった。まあ十五分くらいで画像は消
されているから、思ってるよりその人数は少ないのかもしれない。そもそも過疎スレだっ
たし。

 三枚目が一番好みだ。パンツしか履いてない全身の画像だけど。女神か・・・・・・やけに華
奢な女神だけど、あいつの全身を見ていると胸が締め付けられるような変な感じがする。
それが何でなのか、昨日考えてもこの感覚ってよくわからなかった。単に同級生の女の子
のエッチな写真をゲットして興奮してるとかだったら、まだわかりやすいんだけれども。

 でも、そうじゃない。だってこれをネタにオナニーしようとか全然思い浮ばなかったの
だから。むしろこの二見の美しい裸身が不特定多数の目に晒されてるって考えた時、正直
に言うと胸が締めつけられるような、自分でもよくわからない興奮を覚えたのだ。

 俺は朝の通学時間に俺何考えてるんだろ。誰かに覗き込まれる前に画像閉じておこう。
もうこの電車だと隣の駅で有希も乗ってこないだろう。今はその方がかえって気が楽だ。
そう思って念のためにホームを眺めると、ベンチに座ってスマホを眺めている二見がいた。

 どうしよう。声をかけてもいいんだろうか。そう思った瞬間、二見と目が合った。
115 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/06(土) 22:07:48.81 ID:pCvLUfD/o

「おはよう」

 二見が立ち上がって俺にあいさつしてくれた。

「お、おう。ええと」

 俺は何をうろたえているんだ。

「一緒に登校してもいい?」

 二見が俺を見上げるようにして言った。さっきまで熱心に眺めていたスマホをかばんに
しまい込んで。

「あ、うん」

「よかった」

 何かいつもと違って大人しい。昨日のことで緊張してるのだろうか。

「あのさ」

「うん」

「昨日のあれ」

「・・・・・・うん」

「見たよ」

「そう」

 こいつのこの制服を脱がすと、昨日の画像のとおりの裸になるんだよな。突然俺は本人
を目の前にしてとんでもないことを思いついて、そしてそのことに狼狽した。

「どうしたの」

「いや」

 俺の目はなぜか、二見のブラウスに隠された胸を見つめてしまっていた。

「あ」

 二見が両手でブラウスの胸元を隠した。

「ごめん、そうじゃなくて」

「うん」

 二見が胸を隠したままうつむいた。

「綺麗だった」

 よくこんなことが言えたものだ。本当に半ばは勢いで口に出してしまった。本心ではあ
ったけど。

「え?」

「だから、昨日のおまえすげえ綺麗だったよ」

「うん、ありがと」

 二見が自分の胸元を隠していた両手を外し、真っ赤な顔で俺に答えた。
116 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/06(土) 22:08:53.75 ID:pCvLUfD/o

「昨日の感想だけどさ」

「・・・・・・うん」

 どういうわけかあの二見が珍しく赤くなりうつむいた。

「何て言うかさ」

「うん」

 小さな声で俺と目を合わせないまま二見が言った。

「ああいうスレ見たの初めてだったけど、少なくともおまえの画像を見て嫌悪感とか軽蔑
とか全然感じなかった」

「本当?」

「うん、本当」

「・・・・・・よかった」

 二見が顔をあげ心なしか濡れた瞳で俺を見上げた。

「芸術って言うと大袈裟だけどさ。あれだけ綺麗な写真ならどこかで発表したくなるって
いうのも何となく理解できたよ」

「そんなに大袈裟なことじゃないよ」

「そうかもしれないけどさ。でも画像見ててそういう感想が頭に浮かんだのは本当だぜ」

「ああ。よかったあ」

「突然、何て声出してるんだよ」

「昨日撮影している最中も、フォトショで画像加工している時も、レスしている時も本当
は怖くてどきどきしてたんだからね」

「いったい何で?」

「最近、君とやっと親しくなれて、一昨日のスレ見られても引かれなくてうれしかったけ
ど、さすがに昨日のを見られたらもう普通に話をしてもらえないんじゃないかって思うと
怖くて」

「そうか」

「だから、いっそこんなこと隠してればよかったとか考えちゃってね」

「うん」

「でもよかった。ありがと」

「そこで手を握らなくても」

「どきどきした?」

 そのとき二見の湿った手の感触を感じてどきっとしたのはうそじゃなかった。

「ちょっとだけ」

 二見は俺の手を握ったまま少しだけ笑った。

 ホームに電車が入ってきた。

「電車来たな。おまえどうするの?」

「一緒に乗っていく。別に見ておきたいレスとか今日はないし。いい?」

「うん」

 あのスレを眺めていた俺にはこのときはもう、選択肢なんかなかったんだろう。
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/06(土) 22:09:30.68 ID:pCvLUfD/o

 今日はいつもより遅い電車だから、有希とは会わないはずだけど。だから別に心配する
ことはないんだけれど。こいつ、いつまで俺の手を握ってるつもりなんだろ。結構周りに
はうちの生徒がいるんだけど。しかし、いきなり俺の手を握るってこれはもう勘違いでは
ないんじゃないか。二見は俺のことを好きなのかもしれない。それにしても、好きな相手
にいきなりああいうああいうスレを見せるとか、普通はないと思うけど。

 隣の駅に着いたけれども、有希の姿はない。有希はやっぱりいつもの電車に乗ったみた
いだ。二見と手をついないでいるところを有希や麻衣に見られないことに安心した俺は、
近くのドアから乗車してきた夕也を見つけた。最近有希や麻衣と一緒に登校していないよ
うだけど、こんなに遅い電車に乗っていたのか。どおりで遅刻ぎりぎりに教室に来るわけ
だ。

「よう夕也、おはよう」

 こいつ今日も寝不足みたいで酷い顔をしている。

「おう麻人・・・・・・って、え?」

 俺の方を見た夕也の表情が氷ついた。

「えって何だよ」

 夕也の視線が下がり、俺と二見が握り合った手に気が付いたようだった。

「おまえさ」

「あ、いや。そうじゃねえよ」

「おまえ、そういうことだったの?」

 夕也の声の温度がひどく下がったようだ。

「おはよう」

 ぼっちの二見が夕也にあいさつしたことに俺はおどろいたけど、夕也はそれを無視した。
俺は反射的に二見の手を離そうとしたけど、手を振り解けない。というかもっと強く手を
握りしめられた。

「俺がバカだったのかな」

「おまえ、何言ってるんだよ」

「俺、おまえのためなら、有希のこと忘れようと思って、時間ずらしたりあいつに話しか
けないようにしてたんだけどよ」

 何を言っているんだこいつは。

「おまえ、最低だな」

「何か勘違いしてるぞおまえ」

「有希の気持を知りながら、返事もしないであいつを悩ませておいてよ。自分は二見さん
と浮気かよ」

「違うって。つうか浮気ってなんでだよ。話を聞けよ」

 俺はとりあえず二見の手を離そうと思ったけど、二見はやはり手を離してはくれない。

「二見さんが好きなら何ですぐに有希のことを振ってやらねえんだよ。おまえ、自分が好
かれてるっていう気持を楽しみたいから、有希への返事を引き延ばしているだけじゃねえ
か」

「てめえ怒るぞ」

「怒るって何だよ。誤解だとでも言いてえのかよ。登校中の電車の中でしっかりと二見さ
んの手を握りやがって」

「握ってると言うか、握られて」


 二見の手が震えてる。この誤解は二見のせいじゃない。こいつを俺のごたごたに巻き込
んじゃだめなんだ。この話が続くと夕也のやつの怒りは二見の方に向くかもしれない。も
う夕也に誤解されても仕方ない。せめて二見を傷つけないようにしないと。

「じゃあな。おまえとはもう話さねえから。あと有希にも全部今朝のこと話すからな。も
うおまえなんかに遠慮したり気を遣ったりするのはやめだ」

 もう何を言っても無駄だろうな。俺はそう思った。

「言い訳すらなしかよ。まあいいや。じゃあな」

 そう言い捨てて、夕也は隣の車両に移動していった。
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/06(土) 22:10:04.79 ID:pCvLUfD/o

「何か悪かったな」

 残された俺と二見の間には少し嫌な沈黙が漂った。

「ううん」

「俺たちのごたごたにおまえを巻き込んじゃった。おまえには関係ねえのにな」

「そうじゃない」

「え?」

「そうじゃないの。あたしの方こそごめん」

「何でおまえが謝るんだよ。そりゃ、手を繋いでたとこを夕也に見られたのは痛かったけ
ど」

「君が遠山さんのことを考えなきゃいけない時に、あたしの女神のことなんかで時間取ら
せちゃったから」

 確かにそうだったから俺はこのとき、どう答えていいのかわからなかった。

「だからごめん」

「別におまえに強制されて見たわけじゃねえよ。むしろ有希のことに、真剣に向き合うの
を先送りにしてたのは俺だし」

「でも」

「でもじゃねえよ。おまえに悪いことしたのは俺の方だよ」

 二見はうつむいた。

「たださ」

「うん」

「何で今、俺の手を離さなかったの? 夕也に誤解されるに決まってるのに」

「あの」

「うん」

「あたし、その」

 いつも冷静なこいつらしくないく、何かおどおどしている。

「あたしね。その・・・・・・君のこと好きかもしれない」

 え。

「あたしみたいなぼっちが身の程知らずかもしれないけど」

「お、おい」

「君のこと、本当は前から気にはなっていたんだけど」

「・・・・・・うん」

女「本気で好きになっちゃったみたい」


 その時、俺の手を離さそうとせず真っ赤な顔で俺に愛の告白をしている二見の姿を狼狽
しながら眺めている俺の目には、彼女の上に昨日見た画像のパンツしか身に纏わない裸身
の二見の姿が重なって見えた。

 俺もこいつのことが好きなんだろうか。もしかしたら昨夜女神板のスレでこいつの裸の
姿を見ながら感じていたあの奇妙な感覚は、俺の二見への好意の予兆だったのだろうか。
そしてそのもやもやとした感じとは別に、いつも冷静に振舞っていた二見が、今俺に必死
になって告白している言葉や、強く握り締めらている手の感触が、ここは本気で考えてや
らなければいけない場面であることを俺に強く告げているようだった。

 俺は二見の手を強く握り返した。次の言葉を出す前に一瞬、有希が俺に告白した時の表
情と、それになぜか妹の麻衣の顔が思い浮んだけど、それはすぐに昨日見た二見の美しい
裸身のイメージに置き換わってしまった。

「あのさ」

 俺は言葉を振り絞った。二見は俺の手を握りながら黙って潤んだ瞳で俺を見上げた。

「俺もさ、おまえのこと好きになっちゃったかも」
 彼女はしばらく黙っていた。

 次の瞬間、周囲の乗客やうちの生徒たちの目を気にすることなく、二見が俺に抱きつい
てきた。
119 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/06(土) 22:10:38.05 ID:pCvLUfD/o

今日は以上です
また投下します
120 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/07(日) 10:52:00.40 ID:/1bqt0eZo
あぁ^〜いいっすね〜
121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2016/02/07(日) 12:25:34.43 ID:LwcgYmOeO
このあたり一番好きだったんだよね
やっぱりいいね
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/11(木) 21:09:08.14 ID:VyTyW24Co

 教室までずっと二見と手を繋いで来たけど、周りのやつらの視線が半端なかった。絶対
にもう噂になってることは間違いない。俺と二見が付き合い出したことまでがうわさにな
るのかどうかはわからないけど、少なくとも俺と二見が手をつないで登校したことが有希
に知られるのは時間の問題だろう。

 どうしてこうなったんだろ。これじゃ順序が逆だ。本当ならば有希の告白をちゃんと断
ってから、二見と付き合い出すべきだったのに。いや。それにしても有希を傷つけること
には変わりはないかもしれない。本当に有希が俺のことを好きなのなら。五十歩百歩って
やつだ。とにかく昼休みには有希を呼び出して話をしないといけない。せめて噂を聞いた
有希が傷付くより先に。どちらにしても有希が傷付くことには変わりはないにしても、そ
れがせめても俺の誠意なのかもしれない。

 俺は教科書の方に視線を落としている二見の方を見た。ここでお互いの視線が絡み合っ
たらうれしかったのだけど、二見は教科書に集中しているようだ。こんなにまじめに勉強
するような女だっけ、二見って。それにしても、俺のことが気になっているとは言ってた
けど、まさかいきなり告られるとは思わなかった。

 結局、俺の初めての彼女は、これまでずっと考えていたような幼馴染の有希ではなくぼ
っちの女神だったのだ。有希のことだけが大好きだった昔の俺なら考えられなかっただろ
うけど、今は不思議と違和感がない。っていうかむしろ何かすごく落ち着いた気分だ。そ
れに、二見の教えてくれたスレを見てたときのもやもや感まで一気に晴れた感じだった。

 ちょっとだけ。教科書の陰なら先生にばれないだろ。俺は教科書の後ろでスマホを出し
た。・・・・・・やっぱり綺麗だな、あいつ。

 この画像の裸身は今では俺の物なんだ、って何をキモイこと考えているんだ俺は。それ
でも二見のレスを考えると何だか不思議な感じがする。


モモ◆ihoZdFEQao『人いた。最近恋に落ちたせいか痩せてますます貧乳になりました(悲)』


 あれって俺のことだったんだ。そういや、あいつ俺と付き合ってからも女神を続けるの
かな。今まで考えなかったけど、自分の彼女の女神行為を見たらどんな感じがするんだろ
う。感じるのは嫉妬心なのか。それとも優越感なのか。AKBの誰かひとりを彼女にして
いるやつがいるとしたら同じような感想を持つのかな。いや、いくらなんでもそれは二見
を持ち上げすぎだろう。俺は未練がましく教科書を見ている二見の方を見た。

 そのとき、二見が教科書からきれいな顔をあげ俺の方を見て微笑んでくれた。俺に気が
ついて笑ってくれたのだ。やっぱ、あいつ可愛いな。俺はそう思った。二見のためにも有
希とのことには決着をつけないといけない。とにかく昼休みになったら。
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/11(木) 21:09:37.45 ID:VyTyW24Co

「悪いな呼び出しちゃって」

「あんたになら別にいいよ・・・・・・もしかして返事してくれるのかな」

「うん。時間かかっちゃってごめん」

「あんたが優柔不断なことなんて知ってるよ。何年あんたの側にいたと思ってるのよ」

「そうか。まあ、そうだよな」

「そうだよ」

 俺は腹の底に力を込めた。

「俺、やっぱりおまえとは付き合えない」

「そうなんだ」

「悪い」

「わかった。でも一つだけ教えて」

 有希は全く泣かなかった。というより強い視線で俺を見た。

「うん」

「もしかして、あたしと付き合えない理由って夕のことがあるから?」

「それもある」

「それもって?」

「最初は夕也のことが気になってたんだけど」

「・・・・・・うん」

「でも、正直に言うと今は夕也のことが理由っていうより、他に好きな子がいるから」

「そうか」

「だからおまえとは付き合えない。本当にごめん」

「二見さんだよね?」

「ああ」
124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/11(木) 21:10:16.61 ID:VyTyW24Co

「もう一つだけ聞いていい?」

「いいよ」

「二見さんを好きになる前ってさ。あんた、あたしのこと好きでいてくれた?」

「何でそんなこと」

 何でそんなことを今さら蒸し返すのか。

「お願いだから答えて。もうこれであんたを困らせたりしないから」

 冷静に話しているような有希の手が震えていることに俺は気がついた。なんだかとても
胸が痛い。ここで嘘はついちゃいけない。俺はそう思った。

「昔からずっとおまえのことだけが好きだったよ。二見のことを好きになる前は」

「そうか、そうだよね」

「うん」

「あーあ。うまく行かないよね。あんたがあたしを想っていてくれていた頃は、あたしは
麻衣ちゃんに遠慮しててさ。それであんたのことを忘れようとして夕に近づいたら、今度
はあんたが夕也に遠慮しちゃって」

「そうかもしれないな」

 このときの俺の声はかすれていたと思う。

「そんなことやってるうちに、あんたは新しい恋を見つけちゃったのね」

「めぐりあわせが悪かったのかな、俺たちって」

「うん」

「ねえ?」

「うん」

「これからも友だちっていうか、幼馴染でいてくれる?」

「あたりまえだろ」

「よかった。あたし、これ以上あんたを困らす気はないけど」

「ああ」

「心の中でさ、彼女ができた好きな人のことを想い続けるのはあたしの自由だよね?」

「・・・・・・どういうこと?」

「あんたのこと諦めないって言ってるの」

「有希。あのさあ」

「あんたと二見さんの関係を邪魔したりはしないいよ。でもあんたのことを好きでいるこ
とはあたしの自由でしょ」

「何言ってるの」

「二見さんとのことを邪魔する気は全然ないけど。二見さんとあんたじゃ合わないと思う
し」

「おまえ何言って。俺じゃあ二見にはつり合わないってこと?」

「そうは言ってないけど」

「じゃあどういう意味?」

「言ったとおりだよ。あんたと二見さんは合わない。だから長続きしない」

「何言ってるのか全然わからないんだけど」

「わからなくてもいいけど。とにかくあたしはあんたが二見さんと付き合ったとしても、
あんたのこと好きでいるから」

「・・・・・・夕也のことは?」

「嫌いじゃないよ。でももう自分にも他人にも嘘つくのやめたの。麻衣ちゃんのおかげで
いろいろ目が覚めた」
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/11(木) 21:10:46.06 ID:VyTyW24Co

「おまえさあ」

 何を言っているのか全然わからない。

「じゃあ、あたしもう行くね」

「おい」

「あ、しつこいようだけどもう一つだけ質問。これが最後だから」

「いいよ」

「ひょっとしてもう二見さんと付き合ってる?」

 ここで嘘は言えない。

「うん。今朝、二見に告られてOKした」

「やっぱりね」

 やっぱり、正式な返事を貰うより先に既成事実を作られてるのってショックだよな。俺
はそう思って、少なくともそのことだけは素直に有希に謝ろうと思った。後先の話だけは。
ここは素直に謝ろう。有希に許してもらえなくても。

「あんたさ、麻衣ちゃんにはどう話すつもり?」

「へ?」

「へ? じゃないでしょ。あたしのことを考えてあんたから身を引いた麻衣ちゃんが、二
見さんとのことを知ったらどんなに傷付くと思ってるの」

 こいつが気にしているのは自分のことじゃなくて麻衣のことなのか。

「そう言われても。確かにすごく仲のいい兄妹だし、あいつは俺の大事な妹だけど」

「だったらさあ」

「いやちょっと待て。だけどどんなに仲良くても、どんなにお互いが大事でもあいつはあ
くまでも実の妹だぞ」

「最近、麻衣ちゃんあんたのこと避けてない?」

 そう言われてみれば女神スレ見てたからあまり気にしなかったけど、最近あいつ家では
自分の部屋に閉じこもってるし、弁当は作ってくれないし、今日なんか一緒に登校もしな
かったな。

「麻衣ちゃんは自分なりにあんたのことを考えて、でも自分の気持に嘘つけなくて悩んで
るんだと思うよ。まあ、その原因はもともとあたしにあるんだけどさ」

「うん」

「でも、あたしじゃなくて二見さんにあんたを奪われたって知ったら、麻衣ちゃんどうな
っちゃうんだろうね」

「脅かす気かよ」

「脅しじゃないよ。あたしだって心配なのよ」

 妹がそんなに思い詰めてるって本当だろうか。

「いずれ麻衣ちゃんには知られるだろうし、その時はあたしも頑張って彼女の面倒を見る
けど」

「ごめんな」

「いいよ。あたしのせいでもあるし。でも、あんたも覚悟しといた方がいいかもよ」

 覚悟? 本当にそれほどのことなのだろうか。

「じゃあ、そろそろお昼食べないと休み時間終っちゃうから。またね」

「ああ」
126 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/11(木) 21:11:14.66 ID:VyTyW24Co

「池山君」

 こいつは、いつもは教室では昼飯食わないのに。俺のこと待っていたのか。

「うん」

「思ったより早く戻って来たね」

「え?」

「遠山さんと会ってたんでしょ」

「何だ、知ってたのか。相変わらず察しがいいな」

「まあね」

 少しの沈黙。でも、なんだか悪い気がしない。

「気になる?」

「・・・・・・意地悪」

 二見のその言葉に俺は意表を突かれた。こいつはそういうことをあまり言わない子なん
だと思っていたのに。でも。やばい。二見って可愛い。

「あのさ」

「うん」

「ちゃんと断ってきたよ」

「そうか。よかった」

 よかったってこいつは言った。最初から俺の行動なんかこいつには見抜かれていたんだ
ろうな。それでももういいや。あからさまに嬉しそうだけど、二見ってこんなに感情を表
すタイプだっけ。

「ありがと」

 二見が微笑んでそう言ってくれた。

「まあ、おまえと付き合ってるわけだし、いつまでもぐずぐずと返事を延ばしてはいられ
ねえしな」

「うん」

 何か急に緊張が緩んできたな。そう思った俺は次に自分の腹具合を思い出してしまった。
こんな時なのに何やってるんだ俺。だけど、今日こそ昼飯食いっぱぐれたかもしれない。

「はい、これ」

「うん?」

「サンドイッチ。コンビニので悪いけど」

「おまえ、いつも弁当のほかにサンドイッチとか食い物持ち歩いてるの?」

「そんなわけないじゃん」

「何なんだよ」

「いらない?」

「いるけどさ」

「はい。まだ昼休み二十分くらいあるし」

「じゃあ、貰う」

「うん。飲み物コーヒーでよかった?」

「うん。つうかいつもそんな物まで装備してんのかよ」

「まさか。さっき自販機で買っておいたの」

「まあ、そのさ。ありがとな」

「うん。一応あんたの彼女だし、これくらいはね」

「そうだな」
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/11(木) 21:11:51.27 ID:VyTyW24Co

「美味しい?」

「うん」

「そうか」

 コンビニのサンドイッチでも、空腹の身にはありがたい。俺は二見のくれたサンドイッ
チに夢中でかぶりついていたようだった。

「ねえ」

「うん」

「今日一緒に帰れる?」

「最初からそのつもりだけど」

「よかった。ねえ?」

「今度は何?」

「明日さ」

「うん」

「もし迷惑じゃなかったら、君のお弁当作ってきていい?」

 何だか突然デレ始めたな。俺は戸惑ったけど、迷惑なはずはない。

「うん。楽しみだよ」

「そうか。じゃあ、そうする」

「うん」

 何かやばい。本気でこいつに萌えちゃったような気がする。それにしても、二見の好意
にはそこはとなく気づいていたものの、付き合い出したらこいつがここまでデレるとは夢
にも思わなかった。どっちかかというと感情の起伏に乏しいというか、冷静なタイプだと
思っていたのに。でも普段冷静な二見があそこまでデレてるのも新鮮ではある。こういう
のをギャップ萌えって言うんだろうか。

 それにしても、普段のあいつの振る舞いからはまさかあいつが女神だなんて誰も思わな
いだろう。俺はもうあいつの彼氏なんだし、何であいつが女神行為なんて始めたのか聞い
てもいいのだろうか。

 何か女神の件は考え出すと自分の中で収集がつかなくなる気がするから、もう少し考え
ないでおこう。付き合ってればそのうちそういう話題になるだろうし、その時まではこっ
ちから触れるのはやめておくか。つうか俺たち同級生なのに、付き合い出したきっかけが
女神行為とか2ちゃんねるとかとても人には言えない。まあいい。この先は長いんだから
いろいろとゆっくり考えればいいのだ。



 そろそろ帰ろうと思って二見の席を見ると、二見がクラスメートの女の子たちと話して
いた。珍しいものを見るものだ。少し躊躇したけど、一緒に帰る約束をしているのだ。俺
は二見と彼女を囲んでいる同級生の女の子たちの方に寄っていった。

 俺が近づくと、まだ席に座って話していた二見が俺の方を見上げて微笑んでくれた。

「そろそろ帰らねえ?」

「うん」

「池山、二見さんと付き合ってるんだって?」

 二見に話しかけていた顔見知りの子が俺をからかうように見た。

「ああ、まあ」

 ここで否定できないことくらいは俺にも理解できている。

「ああ、まあって何だよ。照れてるの?」

「照れてる照れてる」

「おまえらうるせえよ」

 二見もなんだか知らないけど、何も否定しないで笑っている。
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/11(木) 21:13:04.62 ID:VyTyW24Co

「もう行こうぜ」

「うん」

「あたしたちさ、二見さんと仲良くなったから。今度放課後一緒に遊びに行くからね」

「何で俺に言ってるんだよ」

「池山って独占欲強そうだし、二見さんのこと束縛しそうじゃん」

「そんなことねえよ。何言ってるんだよ」

「あたしもそんなことないと思うなあ。どちらかと言うとあたしの方が池山君を束縛して
嫌われそうで怖い」

「え」

「そんなわけないでしょ。どう考えても二見さんの方がスペック高いじゃん」

「そうそう。二見さんってぼっちで寂しかったところを池山に付け込まれたんじゃない?
 今のあんたなら男なんて選びたい放題だよ」

「考え直したら?」

「おまえらなあ」

 でも、実はそんなに不快じゃない。二見が普通にクラスメートに人気があるらしいこと
の方が嬉しかった。

「冗談だって・・・・・・冗談。何マジになってるのよ」

「冗談だって。池山君」

「おまえも何嬉しそうに笑ってるんだよ」

「じゃあ、冗談はこの辺にして邪魔者は消えようか」

「うんうん。じゃあ、次は本当に付き合ってよね」

「うん、ごめんね。今度また誘ってね」

「うん。じゃあ、また明日」

「またね」



「なあ」

「うん」

「何でいきなりあいつらと仲良くなったの?」

「仲良くなったっていうかさ」

「うん」

「君の彼女になったんだから、もうぼっちとか暗い女だとか周りの人に思われるのも嫌だ
し」

「はあ?」

「だからさ、普通に目立たないくらいの女になろうかと思って」

「いったい何で? おまえそういうの気にならない人でしょ? 今までだって好き好んで
ぼっちやってたんでしょうが」

「あたしはそれでもいいけど」

「それなら」

「でもそれじゃ君に申し訳ないし」

「まあ、おまえが普通に同級生と会話している方が、俺も嬉しいけどさ」

「やっぱさ、君が遠山さんと付き合えば周りはそれなりに納得すると思うのね」

「え? 何言ってるの」
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/11(木) 21:13:53.20 ID:VyTyW24Co

「え? 何言ってるの」

「遠山さん、綺麗だし人気もあるし」

「あいつはそうかもしれないけど、俺なんかが誰と付き合っても周りは気にしねえだろ」

「君も無駄に自己評価低いんだね」

「意味わかんねえよ」

「要は君が選んだのがあたしみたいなぼっちじゃ、周りが不審に思うでしょってこと」

「それこそ意味わからん」

 それに二見だって、ぼっちということさえ除けば、外見の可愛らしさじゃ、有希といい
勝負だ。

「あたし、君にはあたしが彼女だってことで、負い目とか劣等感とか感じて欲しくない
の」

「んなこと感じねえよ」

「君が好きになったのは普通の女の子なのかってクラスの人たちに思って欲しいから」

 訳がわからない。

「で、おまえは同級生のあいつらとこれからつるんで行動するってこと?」

「ほどほどにそうしようと思う。別に友だちとかなくてもいいんだけど、あたしがぼっち
だと君が周りにバカにされそうだし、そんなのいやだから」

「考えすぎなんじゃねえの? それにおまえ、女神行為のことを隠して誰かと友だち付き
合いするの嫌なんだろ?」

「まあ、そうだけどさ。背に腹は代えられないよ。あたし、本当に君のことが好きだし」

「え」

「・・・・・・やだ。恥かしいこと言っちゃった」

「家まで送っていくよ」

「うん。初めて君の方から手をつないでくれた」
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/11(木) 21:16:10.18 ID:VyTyW24Co

「ただいま」

・・・・・・両親がいないのはいつものことだけど、今日は妹もまだ帰っていないようだ。二
見を家まで送ったせいで、麻衣の方が先に帰っているのかと思っていたんだけど。玄関の
ポストをのぞくと、何か伝票のような薄い紙が入っていた。俺はその紙片を手に取って眺
めた。

『ご不在でしたので明徳集配センターでお預かりしています。下記までご連絡ください。
お預かりしているお品物:MEC製ノートパソコン』

 ノーパソ? いったい誰が買ったんだろう。親父だろうか。いや親父はモバイルノート
を持っている。まさか母さんから俺へのプレゼントなのか。そんなわけはない。頼んでも
いないのに、高価なパソコンを買ってくれるような母親じゃない。

『池山麻衣様』

 妹がパソコン? 俺だってリビングのパソコンを使ってるのに何でこいつだけノーパソ
買ってるんだよ。つうか妹のお小遣いで買えるもんじゃねえだろ。絶対親に買ってもらっ
たに違いない。親父め、麻衣だけえこひいきしやがって。それにしても、リビングのパソ
コンだってたまにしか使わない麻衣が、何でノーパソなんて親にねだったんだろう。学校
の授業で必要なのか? いや、俺が麻衣の学年だった時にそんなことを学校に求められた
ことはない。考えてみれば不思議なことだった。それよりも、大げさかもしれないけど麻
衣がパソコンを買うなんていうこと自体を、あいつが俺に黙っているなんてこれまでの関
係からすればありえない。



「最近、麻衣ちゃんあんたのこと避けてない?」

「麻衣ちゃんは麻衣ちゃんなりにあんたのことを考えて、でも自分の気持に嘘つけなくて
悩んでるんだと思うよ」



 こういうこともそのせいなのだろうか。最近は、かつてとは違って自宅で麻衣と過ごす
時間が極端に減っている。麻衣が、二見と俺とのことを知っているわけはないと思うけど、
それでもその影響が我が家に、俺と麻衣との関係に波及しているみたいじゃないか。

 さすがにそれは考えすぎだろうけど。でも、有希の話を聞いた後ではすごく気が重いけ
れど、俺にも彼女ができたって、そしてそれは二見だって麻衣に報告しなきゃいけないん
だろう。パソコンなんかどうでもいいけれど。とにかく麻衣とじっくり話をしないと。

 リビングで漫然とテレビを見ていると、もう八時になってしまった。買い物でスーパー
に寄っているにしても遅すぎる。麻衣はまだ中学生だ。さすがに心配になった俺は、麻衣
の携帯に電話した。案ずるまでもなく、麻衣はすぐに電話に出た。内心俺はすごくほっと
したけど、一応兄として厳しい声を出してみた。

「おまえ、もう八時過ぎてるぞ。今どこで何してるんだよ」

『もうすぐ家につくから』

「遅すぎだろ。それに遅くなるならメールくらいくれよ」

『ごめんごめん。ちょっと買い物とかで遅くなっちゃって』

「そんならいいけど。帰ってから飯の支度? 俺腹減ったんだけど」

『。もう遅いし、悪いけどカップラーメンとか食べてくれる?』

「まあ、いいけど」

『じゃあ、電車来たから』

「電車っておまえ、今どこに」
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/11(木) 21:16:38.74 ID:VyTyW24Co

 電話を切られてしまった。何なんだよ。まあ、いい。麻衣はとりあえず無事らしいし、
カップ麺も好きだし。それに、妹の心配がまぎれると、あらためて二見との出来事が胸に
浮かんでくる。明日、二見と一緒に登校する約束とかすればよかった。せっかく家まで送
っていったのに普通にさよならして別れてしまった。俺はカップラーメンにお湯を入れて
から、キッチンのタイマーを見ながら思った。これからは二見と一緒に登下校したい。付
き合いだしたんだし、それが自然だと思う。

 彼女ができたら、一般的にはどういうことをすればいいんだろう。俺はカップラーメン
を持ってテーブルに移動しながら考えた。多分、何をすればいいとかじゃない。何をした
いかなんだろう。あいつとデートを重ね、そして夕暮れの公園で初めてのキスとか。そこ
まで行けば、あとは二見の体を、付き合いだした俺の初めての彼女の、初めて見る体を求
めることになるんだろうか。

 あれ? 何か違和感を感じると思ったけど、その原因はすぐにわかった。初めて見るも
なにもない。二見の体を、俺は付き合いだす前に見たのだった。付き合う前から女神スレ
の画像であいつの裸は既に見ているのだ。キスするより前に彼女の裸身を見たことあるっ
て。違和感ありまくりだけど。

 そういあいつは、今夜は女神行為をするのだろうか。何か普通になりたての恋人っぽい
話しかしなかったけど。あいつ。俺と付き合っても女神行為は続ける気なのか。そして、
俺はどうなんだ? 自分の彼女の裸が不特定多数の男に見られることを、俺はどう思って
いるのだろう。

 ・・・・・・とりあえず、このカップラーメンを食ったら、スレを確認してみよう。
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/11(木) 21:17:07.45 ID:VyTyW24Co

今日は以上です
また投下します
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/25(木) 00:27:03.76 ID:rrQrdOTto

 結局、その夜麻衣は帰ってきたけど、風呂から上がったら自分の部屋にこもってしまっ
た。それに帰宅した時にあいつが抱えていた重そうな箱、あれノーパソじゃないのか。不
在連絡票なんか見なくても、留守中にパソが届くって知っていたんだろう。直接受け取り
に行ったから帰宅も遅かったのだ。何で突然ノーパソが必要なんだろう。麻衣は俺が何聞
いても、笑顔でごまかしてちゃんと答えてくれないし。

 でも、まあ、いいか。今はそれより女神板だ。俺が今一番気になっているのは、当然だ
けど二見のことだ。麻衣がリビングにいない分、リビングのPCで落ち着いてスレを見れ
る。とりあえず、こないだブクマしといた女神板のスレから確認しよう。俺はそう思って
女神スレを開いた。



【貧乳女神も】華奢でスレンダーな女神がうpしてくれるスレ【大歓迎】



 ・・・・・・昨日最後に見たレスから全然新しいレスがない。あいつは、今日はおとなしくし
ているのか。なんだか肩透かしというか、つまらない。

 いや。まて。つまらないって何だ。そんなに俺って彼女の女神画像を期待していたのだ
ろうか。よく考えれば、というか考えるまでもなく俺は二見の彼氏なんだから画像とかじ
ゃなくてじかに見たり触ったりとかを考えればいいじゃないか。それが健康な正しい男子
高校生のありかただろう。

 でも、なんだかぴんと来ない。何でなのだろう。あいつはリアルで俺の彼女なのに、何
でネット上の女の画像ばっか期待しているのだろう、俺は。まあ、今夜はあいつの女神行
為はないらしい。と思った次の一瞬に、俺は別なことを考えついた。女神板じゃないとこ
でやっているかもしれない。最初に見たのだって別な板だったし。あのスレ確かVIPだ
った。俺はVIPを開いてみたけど、えらいことになってしまった。どんだけスレが立っ
てるんだよ。試しにjk2とかで検索してみても、該当するスレはヒットしない。やっぱ
り二見は今日は女神行為をしていないんだ。つうか普通に二見に電話して確認すればいい
だけなのに。俺はあいつの彼氏なんだから。やっぱり俺ってチキンだ。

 それでも二見に連絡する勇気がなかった俺は、別なことを思いついた。あいつのコテト
リとかっていうやつで検索してみよう。とりあえず女神板で。



『【貧乳女神も】華奢でスレンダーな女神がうpしてくれるスレ【大歓迎】』
『【緊縛】縛られた女神様が無防備な裸身を晒してくれるスレ【被虐】』



 え? なんだこれ。二見のコテトリで、緊縛とかっていうスレがヒットした。つうか、
緊縛って。なんか怖いけどスレを開いてみよう。開いてみるとスレ自体は二見専用という
わけではなく、どうも一年くらい前に立ったスレらしかった。スレを読み進めていくと、
何か、女神のレスがさばさばし過ぎている感じがした。



『自分で後手縛りは無理でした。縛られてるみたいな格好だけしてみました』
『自分に手錠をかけてみました。手首にあざがついちゃったよ(笑)』
『彼氏にラブホで虐められちゃった。後手に縛られてバックポーズにされた写真です。自
撮でなく彼氏撮影です』
『目隠ししされてみました。見えないからピントもちゃんと合わせられなくてごめんね』



 何かすげえスレ開いちゃったな。それにしても、今のところモモは出てこない。俺はし
ばらくスレを読みながらスクロールしていった。



モモ◆ihoZdFEQao『誰かいますかぁ?』



 それは二見のレスだった。二か月くらい前のものだったけど。



『いるよ』
『モモちゃんキター!』
『今日は大学休みなの?』
『おお、ようやくモモと遭遇できた』



モモ◆ihoZdFEQao『人いた。じゃあ写真貼ります。15分でデリっちゃうけど』



 緊縛とかってまさか。俺は画像のリンクをクリックした。
134 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/25(木) 00:29:31.28 ID:rrQrdOTto

404 NOT FOUND



『モモちゃんGJ!』
『いい。ただ一言いい』
『のろまった。誰か詳細plz』
『>>○ モモが後手に縛られているような感じで床にぺたって座り込んでいる画像。ブラ
ウスが半ば脱がされている感じが色っぽい』
『ビーチクは見えてるの』
『>>○ 見えてない。ブラとスカートは着用してる。でも何か高校生が無理やり後手に縛
られブラウスを脱がされてこれから犯されるってイメージの画像』
『頼む! 保存したやつ誰かうpしてくれ「』
『必死すぎ。んなことできるわけねえだろ。遅れたやつはあきらめろ』
『モモの緊縛画像を永久保存した俺は勝ち組だけどな』



 二見は画像を削除しているようだった。緊縛? いったいあいつはどんな画像を貼った
んだろう。



 翌日、今日も麻衣は勝手に出かけて行ったけど、こうなったらかえって好都合なのかも
しれない。思っていたとおり、二見は駅で俺を待っていてくれた。

「おはよ」

「お、おう。おはよう」

「最近寒くなってきたね」

 二見は自然に俺の横に並んだ。何か新鮮な感覚だった。彼女ができるってこういうこと
なんだ。俺はそう思った。

「そうだね」

「早起きしてちゃんとお弁当作ってきたよ」

「ありがと。でも寒いから屋上とか中庭は厳しいかなあ」

「教室の中じゃだめ?」

「いいけどさ。目立つぞ」

「君がいいならあたしは別に目立っても構わないけど」

「ほんと前とは変ったな、おまえ」

「うん、そうかも。何か中学の頃の自分に戻れそうな気がしてさ。ちょっとわくわくして
る」

「おまえ、もともと可愛いしコミュ力も高いから、自分でその気になればあっという間に
リア充になれるんじゃね」

「そうかな」

「そうだよ。多分男からも注目されるようになると思うよ」

「そんなのはいいよ、面倒くさい。あたしは君がいればそれでいい」

「何でだよ? もてないよりもてた方が気分いいでしょ? 今までだっておまえのことチ
ラ見してる男って結構いたじゃん」

「たまに視線を感じてたんだけど、あれってそういうことだったんだ」

「そ。そのおまえが明るくフレンドリーになったら超人気者になると思うな」
135 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/25(木) 00:29:59.94 ID:rrQrdOTto

「君は?」

「え?」

「君はどっちがいい? あたしがっていうか自分の彼女がぼっちなのとリア充なのと」

「うーん。おまえが男に人気がある方が優越感感じられるし、かといってそれが行き過ぎ
ると嫉妬するかもしれないし」

「正直なんだね」

「格好つけたってしょうがないしね」

「君ってそういうところ格好いいよね。それに女の子に慣れてる感じがする」

「そうかな。妹とか有希とかがいつも一緒にいたからかも」

「そういうことか」

「それよかさ、いつまで俺のこと君って呼ぶの?」

「え」

「もう呼び捨てでいいよ。俺も二見って呼び捨てにしてるしさ」

「じゃあそうする。麻人」

「へ?」

 呼び捨てって池山じゃなかったのかよ。でも、悪い気はしない。

「うん」

「電車来たよ」

「ああ」

「ほら人が降りて来るから、麻人もこっちに寄って」

「悪い」

 こいつは自然に俺のこと呼び捨てた。俺のこと女の子に慣れてるって言ってたけど、こ
いつこそ男慣れしているっていうか、男と一緒にいても全然恥らうとか緊張するとかない
のな。

「これに乗ろう」

「こら。優もあまり俺の腕を引っ張るなよ。痛てえじゃん」

「・・・・・・優って」

「え」

「ふふ」
136 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/25(木) 00:31:09.88 ID:rrQrdOTto

「そういやさ、昨日は女神やらなかったの?」

「うん。お弁当の下ごしらえとかあったし、朝早く起きなきゃいけなかったからさ。あん
なことやってたら早起きできないし」

「早起きって何かあったの?」

「お弁当作るのって結構時間かかるのよ」

「あ、そうか。ごめん」

「あたしは好きでやってるからいいんだけどね。多分、麻衣さんも今まで麻人より最低で
も一時間は早起きしてたんじゃないかな」

「そういやそうだ。今まではあいつお弁当だけじゃなくて朝飯も作ってしな」

「そういうこと。好きな男にお弁当作るのって結構大変なんだよ」

「ありがとな」

「お昼休み期待してて」

 そう言って優は微笑んだ。

「あ、そうだ」

「なあに」

「女神と言えばさ、昨日おまえのレス見つけたよ。これまでと違うスレで」

「うん? どこだろう。女神板?」

「そうそう。確か、縛られた女神様がどうこうとかってスレ」

「ああ緊縛スレか」

 朝から女子高生が緊縛とか言うか。でも、こいつはそういうことも含めて、もう俺には
隠しごとはしないことにしたようだった。

「ああいう特殊なシチュエーションの女神行為もしてたんだ」

「うん。別に他のスレと変らないよ。他より露出度多くしてるわけじゃないし」

「ああいうの、リアルで好みなの?」

「ああいうのって?」

「つまり、その・・・・・・縛られて犯される? みたいなの」

 俺の方こそ朝から何を言っているのか。

「そんなわけないじゃん。つうかあたし処女だし」

「あ、ああ」

 処女なんだ、やっぱり。

「でもさ、あのスレ用に後ろ手に縛られて撮影してるとちょっとドキドキしたかな」

「縛られてって。いったい誰に」

「違うって。誤解しないで」

「だってさ」

「自分で自分を縛ってるんだよ・・・・・・ってあ」

「それはその気があるんじゃねえの」

「君こそ。そういう趣味あるの?」

「ね、ねえよ! と思うけど。俺も童貞だしよくわからねえ」
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/25(木) 00:31:46.13 ID:rrQrdOTto

「そうか。あれ評判はいいみたいなんだけど、撮影が面倒だからあまりやらないの」

「面倒って?」

「ああいうのって雰囲気が大事だからさ。怯えている表情とかも作らなきゃいけないし」

「そんなことまでしてたのかよ。何か女優みたいだな」

「あとテクニカルな問題だけど、両手を背中に回しちゃったら自分で撮影できないじゃな
い?」

「そらそうだ。って、まさか」

「違うって。誰かに撮ってもらったりはしないよ。あれはスマホじゃなくてデジカメのタ
イマーで撮影したの」

「そうか」

「あれ見て興奮した?」

「だから画像なんて削除されてるから見てねえよ」

「ああそうだった。ちょい待って」

 え? こいつ。まさか

「はい、送信」

何なんだ。俺のスマホが着信して振動した。

「メール開いてみ」

「ああ」

 俺はタイトルも本文もないメールを開いて、添付画像をタップした。それは二見・・・・・・
いや、優の女神画像だった。それは優が床に座り込んでいる画像だった。制服姿で服はブ
レザーまで全部着ている。でも両手を背中の方に回しているので後ろ手に縛られているよ
うに見える。そして優は、少し高い位置に置いたカメラの方を怯えたような表情で見てい
る。

 二枚目は、前の画像とポーズは全く一緒だけどブレザーを着ていないし、ブラウスの前
ボタンが全部外され、こいつの肌が露出している。スカートもめくっている。視線は相変
わらずカメラを見上げている。目に線が入って隠してはいるけど、なんか怯えている感じ
が伝わってくるようだ。そして三枚目。ポーズは一緒だけどブラウスを脱いで上半身はブ
ラだけ。スカートは完全に捲くられてパンツが見えている。怯えたような表情とか、確か
にレスにあったとおり拉致されて無理やり犯される寸前の女子高生っていう感じだ。

 やばい。こんな朝の通学時間から、俺は。俺はカバンでさりげなくズボンの前を隠した。
露出度でいえばそんなに高くないけれど、それでもすごく興奮するのは何でだろうか。そ
れに興奮はするけど、猥褻な印象は無くてむしろ綺麗だ。こいつはそんなに写真を撮るの
は上手じゃないのに、何かアイドルとか女優の写真集を見ているような気がする。

「君の感想は?」

 優が微笑んで言った。
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/25(木) 00:32:15.33 ID:rrQrdOTto

「感想って・・・・・・朝から何て画像見せるんだよ」

「いいじゃない。あたしと君の仲なんだし」

「おまえ、何言ってるの」

「でもさっきも言ったけど、こういう写真って結構時間と手間がかかるからさ。jkが制
服うpするみたいなスレのほうが気が楽なんだよね」

「最初に見せてくれたみたいなやつか」

「そうそう。あそこは雑談板だしすぐにスレも落ちちゃうしね。何よりあの程度の画像で
感激してくれるから楽でいいよ」

「まあ女神板って要求水準高そうだよな。乳首出さないくらいで結構叩かれてたし」

 俺は女神板のむかつくレスを思い出してそう言った。

「本当だよ。平均年齢は女神板のほうが高いと思うのに、レス内容は幼稚だしね」

「あのさ」

「何?」

「おまえさ、女神行為はこの先も続けるの?」

「この先って?」

「あ、いや。何っていうかさ」

「つまりあんたの彼女になってからも女神をやるのかって質問なのかな」

「まあ、端的に言っちゃえばそういうことだけど」

 俺は思い切ってそう言った。

「君はあたしが女神なの嫌?」

「別に嫌じゃねえけど」

 多分、それは嘘じゃないと思う。むしろ不思議な興奮を覚えたくらいなのだし。
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/02/25(木) 00:32:52.63 ID:rrQrdOTto

「そうか。じゃあ続ける。でも君があたしが女神行為するのを嫌になったら、その時は真
剣にどうするか考える」

「そう」

 俺が嫌になったら止めるんじゃねえんだな。

「あのさ」

「うん」

「女神行為とかってさ。やっぱり綺麗な自分を見てほしいとか他人に認めて欲しいとかほ
めて欲しいとか、そういのも動機のひとつなんでしょ?」

「よくわかってるね」

「まあね。それでさ、おまえはこれまで学校でぼっちだったということもあって、人に認
めてもらえる場が2ちゃんねるとかだったと思うんだよ」

「そうかもね」

「でももうおまえは学校でぼっちを止める宣言したじゃんか? 多分これからは学校で男
女問わずすげえもてると思うんだ」

「そんなことないと思うけど」

「賭けてもいいけどそうなるよ。そしたらリアルで認知されるわけだけど、それでも女神
行為で評価されたいものなのかな」

「うーん。正直自分じゃわかんないや」

 多分、それは嘘じゃないんだろう。本当に優は戸惑ったようにそう言ったのだ。初めて
そんなことを気がつかされたかのように。

「そうか」

「女神板でさ、女神雑談所ってスレがあってね」

「そんなものまであるのかよ」

「うん。それで他の女神と話したことあるんだけど、ぼっちなんて一人もいなくてさ。み
んなリア充の女子大生とかOLとか主婦とかなのね」

「そうなんだ」

 主婦ってどうなのよ。そんな人まで女神やってるのか。

「みんなじゃないけど、コテトリつけてる人多いしその人たちの画像見たこともあるけど、
みんな綺麗な人たちなんだよね。絶対リアルじゃリア充だなって思ったもん」

「そうか」

「だから一概にリアルが充実していない女の代替行為とは決め付けられないかも」

「深いな」

「深いんだよ」

 優が俺の反応を面白がっているかのように微笑んだ。

「まあ、いいや。そろそろ駅に着くな」

 自分ですら優の女神行為に対してどう考えているかわからないのだ。この状態で優に対
してこれ以上言えることはないだろう。

「うん。学校まで手を繋いで行ってもいい?」

「そうしようか」

「何か嬉しいな」

 まあ深く考えることもないか。せっかく俺にも可愛い彼女ができたんだし。それに、麻
衣に優のことを話すという、胃の痛いミッションがまだクリアできてないしな。この時の
俺にはそっちの方が気になっていたのだ。
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/25(木) 00:33:21.56 ID:rrQrdOTto

今日は以上です
また投下します
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/02/25(木) 11:13:47.90 ID:Uz6VAqQAo
本当に面白い
期待してる
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/06(日) 22:12:39.78 ID:TRYjB1f10
まだー?
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/06(日) 23:47:32.23 ID:lFgwUqheo

「だからさ、それで今日のお弁当は肉だらけで茶色くなっちゃったってわけ」

「まあそれでも俺は全然構わないけどな。あんまり俺なんかのために手をかけることはな
いよ」

「そうは言っても好きな人のために作るんだもん。手をかけて見栄え良くしたいじゃん」

「そういうもんかね」

「そういうも、あ」

 優が突然話を止めた。俺は優の視線をたどった。その先には麻衣の泣きそうな顔があっ
た。

「麻衣?」

「お兄ちゃん」

「おまえ、二年の校舎で何してるんだよ」

「ごめん。今日はお弁当作れたからお兄ちゃんに渡そうと思って」

「今の俺たちの話聞いてた?」

「聞こえちゃったかも」

 かもじゃねえだろ。でも、もうこうなったらしかたがない。

「そうか。おまえには話すつもりだったんだけど、俺こいつと付き合ってるんだ」

「こんにちは」

優が麻衣に微笑みかけたけど、麻衣はそれには応えずに俺の方を見た。

「あの」

「うん」

 麻衣は元気はないようだけど、黙ってしまうということもないようだった。

「お姉ちゃんは?」

「有希? ああ。話したから知ってるよ」

「そうなんだ。授業始っちゃうからあたしもう行くね。お兄ちゃんにはお弁当もあるみた
いだし」

「え?」

「じゃあ」

「ちょっと待て」

 麻衣がさりげなく涙を払った様子を見て俺は慌てて声をかけた。でも、麻衣には無視さ
れたみたいだ。

「先輩、失礼します」

 麻衣は顔を合わせようともせずに、優に言った。

「さよなら」

 優が不安そうに俺の方を見上げてた。今、俺がケアしなきゃいけない相手を間違えたら
だめだ。

「なあ」

「うん」

「妹のことは気にするなよ。あいつ、びっくりしてろくに挨拶もしなかったけどさ」

「無理ないよ。妹さん、お兄ちゃんっ子みたいだし」

 ブラコンとか言わないんだ。優は、実は本当に気を遣えるやつなんだ。

「まあ普段から二人きりで暮らしてたしそういうこともあるかもな」

「あたしが心配してるのは麻人の方だよ」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/06(日) 23:48:35.77 ID:lFgwUqheo

「俺の方?」

「うん。冷たいようだけど、妹さんの悩みの原因があたしだとしたら、あたしが妹さんに
出来ることは何もないし」

「それはまあそうだな」

「あたしはそれより自分の彼氏の方が心配」

「俺には別に何にも問題ないと思うけど」

「今日家に帰って妹さんと何を話すか悩んでない?」

「それは、まあ確かに」

「何も悩んでないとしたら、お兄ちゃんとして失格っていうか人間失格だよ」

「正直悩んでるけど」

「ごめんね」

「何で優が謝るんだよ」

「あたしが麻人に告らなければ妹ちゃんもまだ自分を納得させられたでしょうに」

「どういうこと?」

「あたしと付き合う前は、あんたは遠山さんへの愛を取るか広橋君への友情を取るかどっ
ちかだったんじゃない?」

 全部見透かされているみたいだった。

「それで悩んでた時期もあったよ、確かに」

「それがあたしみたいなぼっちの女と付き合ったばっかりに」

「おまえ、何言ってるの」

「遠山さんを振って傷付け、広橋君はそれを喜ぶどころか、あたしと付き合って遠山さん
を傷つけた君と絶交した」

「それは。まあ、そうかもしれん」

「そしてついに、長年寄り添って暮らしてきた妹さんまで傷ついた。全部あたしが君に告
ったからだよね」

「おまえ何でそこまでわかっちゃうの?」

「ぼっちだから観察力が鋭くなったのかな・・・・・・ううん」

「うん?」

「好きな人のことだから一生懸命観察してたからかな」

「優・・・・・・」

「君に辛い思いをさせたくて告ったんじゃない。それだけは本当だよ」
145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/06(日) 23:49:06.87 ID:lFgwUqheo

 優の手が震えていた。

「君が好きだから・・・・・・もしあたしと付き合うことで君が辛いなら別れても」

 これ以上言わせるか。あほ。俺は優の腕を握って自分の方に引き寄せた。

「あ」

 間近に迫った優の顔が赤く染まっていた。

「誰かを好きだって気持はどうしようもないだろ。俺がおまえと別れても何も解決しねえ
よ」

「だけど」

「だけどじゃねえよ。付き合い出したばっかで俺のこと振る気かよ」

「いいの?」

「いいも何もあるか。おまえに振られたら、今よりもっと俺が悩んで傷付くことになるっ
てどうして気づかねえんだよ」

 優が無言で俺にしがみついた。

「授業始まっちゃうな」

「うん」

「教室の前でここまで密着して寄り添ってると」

「周リの人たちがドン引きしてるね」

「教室入るか」

「うん」

「涙拭けよ」

「うるさい! わかってるよ」

「あ〜あ。腹減ったな・・・・・・早く弁当食わせろ」

「お昼休みになったらね」
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/06(日) 23:49:53.02 ID:lFgwUqheo

 昼休みに一緒に帰る約束をした俺は、教室でかなりの時間待たされることになった。優
が同級生の女たちにつかまって話しかけられていたせいだった。十五分くらいで彼女たち
をようやく振り切った優が俺のところにやってきた。

「ごめんね、麻人。早く君のところに行こうとしたんだけど」

 優が俺を麻人と呼んだことに、近くにいた男どもが反応していたけど、今さら驚きはし
ない。

「そらそうだろうね。今まで下手したら一日誰とも口聞かなかったおまえが今ではクラス
の人気者だもんな」

「君にふさわしい彼女になろうとしているだけだよ」

「でも無理するなよ。おまえが今までみたいなぼっちのままでも、俺はおまえが好きなん
だからさ」

「ありがとう」

 優が俺の手を握った。

「いや」

「正直に言うとね、今日はあたしちょっと無理したかも」

「だろうな。おまえ今日一日放っておいてもらえなかったもんな」

「麻人はさ」

「何?」

「あたしのこと、好き?」

「何を今さら」

「じゃあ、明日お弁当作れなくてもいい?」

「何だ、そんなことか。今日は優だって疲れただろうし、弁当なんて無理しなくてもいい
よ」

「わかった。じゃあさ」

「うん」

「今夜、久しぶりに女神になってもいい?」

「いいって言われても」

 ああいうのって俺の許可が必要なのだろうか。

「ちょっと今日はやりすぎちゃった。君の彼女にふさわしい振る舞いをしようって考えす
ぎたかな・・・・・・すごく疲れちゃって。気分転換に女神行為しようかなって」

「まあ、おまえが今日無理してるのは俺も感じたけど。いいよ。今日はVIPとかでやる
の?」

「ううん。久し振りに女神板の緊縛スレでうpしようかなって」

「あそこで?」

 緊縛スレとは、あの縛られて犯されるみたいな画像のやつだ。

「今日、あたしの家って両親いないんだ」

「お、おう」

 何なんだ。
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/06(日) 23:50:56.79 ID:lFgwUqheo

「よかったら、今夜あたしの家で夕食食べていかない?」

「おまえがいいなら、お邪魔してもいいけど」

「よかった。じゃあ、夕食作るね」

「楽しみだよ」

 あれ。でも女神はどうするのだろう。

「夕食後、緊縛スレ用の撮影するから手伝って」

「おい」

「自分を縛るのって難しいし、縛られるポーズを撮ると、自分では撮影できなかったんだ
けど」

「何々?」

「麻人が撮影してくれるならポーズ撮れるし」

「それってさ。つまり俺が優のことを撮影するってこと?」

「うん。だめ?」

「お、おまえがいいなら」

 俺は優にそう答えたけど、内心の動揺は隠せなかったと思う。



「どうだった?」

「うん、さっきも言ったけど美味しかったよ。かなり意表をつかれたけど」

「意表って?」

「いやさ。ここまで純和風の夕食が出てくると思わなかったから」

「そんなに珍しいかな」

「女子高生が作ったんじゃなきゃ珍しくないけどさ」

「あたしんちはいつもこんな感じだけどね」

「そらおまえのお母さんが作るのならわけるけど」

「料理はだいたいお母さんに教わったから。あと2ちゃんねる」

「はい?」

 何なんだ。

「だから料理板」

「そんなのもあるんだ。つうかそんなところにも常駐してたんだ」

「うん、結構役に立つよ。それにいつも女神板ばっかにいるわけじゃないもん」

「まあ、とにかく美味しかったよ。さわらの西京漬けも赤味噌の味噌汁も、ごはんも何か
すげえ美味しかったし」

「そう。それならよかった」

「こういうの全部を美味しく作るのって、すげえ大変だと思うけど。優ってぼっちだった
から目立たなかっただけで、本当はすげえスペック高かったんだな」

「そんなことないよ」

「だってさ。成績も結構いいし、見た目も可愛いし、その気になればば愛想よくもできる
だろ」

「か、可愛いって」

 優が赤くなって俯いてしまった。
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/06(日) 23:51:29.56 ID:lFgwUqheo

「その上、料理も上手とか普通ありえねえだろ」

「そう言われれば嬉しいけど・・・・・・でも君の勘違いだよ。あたしはそんなに完璧な人間じ
ゃないよ」

「謙遜すんな」

「謙遜じゃなくてさ、あたしって女神なんかやってる時点で人生詰んでるしね」

 自分でもわかってはいるんだ。

「まあ、それに関してはそうかもしれないけど」

「麻人は、本当はあたしがああいうことするの、本当はいや?」

「今のところはそんなにいやだって感じはしないけど」

「今のところはって?」

「そのうちおおまえのこと独り占めしたくなって、他のやつらにおまえの体を見られるこ
とに嫉妬し出すかもしれないとか、考えたことはあるよ」

「そうか。まあ、そうだよね」

「でも、今は別にいやじゃない」

「それならよかった。もうお代わりしないの?」

「うん。もういいや。美味しかった」

「じゃあ、コーヒー入れるね。あたしの部屋で飲もうか」

「え?」

「二階なの。こっちだよ」
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/06(日) 23:52:08.06 ID:lFgwUqheo

「どうぞ。入って」

「お邪魔します。って」

「どしたの?」

「いや。お邪魔します」

 何かやけにこざっぱりした部屋だな。ピンクのカーテンとかふわふわのぬいぐるみとか
はない。高校生の女の子の部屋っていう感じが全然しない。女子高生の部屋なんて、麻衣
とか有希の部屋みたいに、かわいい小物とかぬいぐるみとかであふれているものだと思っ
ていたのに。

「とりあえず座って」

「うん」

 でもまあ、こいつらしいと言えばこいつらしい。

「今、コーヒーいれて来る」

「ああ、もういいよ。夕食の時のほうじ茶が美味しくて飲みすぎちゃったし」

「いいの?」

「うん」

 八畳間くらいの部屋だけど、何かやたらと本が多い。

 「コーチング基礎理論」「傾聴技法その1理論編」「傾聴技法その2実践編」

 いったにこいつは何の本を読んでいるのか。どういう趣味を持っているのだろう。そう
言えば、俺はこいつのことを何も知らないのだ。知っているのは女神行為をしているとい
うことだけで。こんな状態で俺はこいつの彼氏になったのだ。

「じゃあ、ちょっと待ってて。今用意するからね」

 用意って・・・・・・女神のか? クローゼットのドアを開いたけど、あまりじろじろ中を見
ると失礼かもしれない。

「そうだよ・・・・・・あ、あった」

「何、それ」

「縄だよ」

 それはそうだ。考えてみれば不思議はない。緊縛スレ用の写真を撮るんだから。

「う、うん」

「あとアイマスクとタオル」

「嫌な予感がする」

「今日は緊縛スレにうpするって言ったじゃない」

「アイマスクは何となくわかるけど、タオルって?」

「拉致されたあたしが大声で助けを呼んだら困るでしょ? だからあたしの口をこのタオ
ルで塞ぐの」
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/06(日) 23:56:10.67 ID:lFgwUqheo

「困るでしょって、誰が困るんだよ」

「誰って。ここにはあたしと麻人しかいないし」

「え? 俺が困るの?」

「高校2年生のあたしをさらって監禁して、これから乱暴しようとしているとしたら、あ
たしが大声で叫んだら麻人だって困るでしょ」

「は? 俺ってそういう役割なの?」

「別に動画を撮るわけじゃないけど、シチュエーションはそういう感じなの」

「たかが女神行為にそこまで凝る必要あんの」

「普段は一人だとできないじゃない? せっかく彼氏が協力してくれるんだから少し本格
的にやってみようかなって」

「本当にやるの?」

「麻人が嫌なら無理にとは言わないよ。あたし、君には嫌われたくないし」

「べ、別にいやだなんて言ってねえだろ」

 何言ってるんだよ俺。本当にそうなのか。気が進まないなら、素直にそう言えばいいん
じゃないのか。

「本当にいいの?」

「ああ」

 俺は考えなしにそう答えてしまっていた。

「よかった。はい、これ」

「え? これって、発売されたばっかのミラーレス一眼カメラじゃん」

「やっぱり麻人ってカメラとか写真詳しいんだ」

「俺、カメラのことおまえに話したっけ?」

「聞いてないよ」

「じゃあ、何で俺がカメラに詳しいとかわかるの?」

「あんたのことずっと見つめていたから」

 前にもそう言ってたっけ。それにしても俺は、別に写真部とかじゃないし、よくわかっ
たものだ。

「遠山さんとか広橋君とかが、君の話をしているのをずっと聞いていたからね。特に広橋
君って声大きいし」

「ああ、それでか」

「何で写真撮るの得意なの?」

「まあ、親の影響でさ。俺の両親ってもともと社会人のカメラサークルで知り合って結婚
したくらいだから、ガキの頃から親父には写真の撮り方とか教わってたからな」
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/07(月) 00:02:48.61 ID:6yt3IbxEo

「そうなんだ。じゃあ、これからはあたしのことも被写体にしてくれる?」

「そりゃもちろん、いいけど。それよかこのミラーレス、おまえの?」

「うん。前にお父さんに買ってもらったんだけど」

「レンズ付きで10万円以上するこれを、まさか女神行為用に?」

「うん、そうだけど。でもこれって両手使わないと撮れなくて、あまり自分撮り用じゃな
かったな。結局一度も使ってない」

「このカメラも気の毒に」

「え? なんで」

「まあ、いいや。じゃあ、今日は俺がカメラマンだな」

「うん。自撮りじゃない女神行為って初めてだから何かドキドキする」

「まあ、少なくともおまえよりは綺麗に撮れると思うよ」

「よかった。可愛く撮ってね」

「ああ。ちょっとそのカメラ貸して」

「はい」

 電源を入れると、液晶に光が灯った。これならすぐにでも使えそうだ。

 俺は撮り方を考えた。背景はぼかした方がいい。主に身バレしないためだけど、その方
が優が目立つ写真になる。絞りは開放でいこう。あと、蛍光灯しか光源がないし、青っぽ
くならないようにホワイトバランスも弄っていこう。というかこのカメラの設定はすごく
わかりやすい。

「使えそう?」

「ああ、問題ないよ。ちょっと試し撮りしていい?」

「うん」

「どれ」

 シャッター音が響いた。



『メモリーカードが入っていないので実行できません』
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2016/03/07(月) 00:03:35.58 ID:6yt3IbxEo

「どうだった? 綺麗に撮れそう?」

「あのさ」

「うん?」

「買ってもらってからこれ1回でも使った?」

「だから、自撮りできないんじゃ女神行為には使えないから」

「つまり一度も使ってないんだな」

「うん」

「これSDカードが入ってねえんだけど」

「どういう意味?」

「SDカードを買ってきてカメラに入れないとこのカメラは使えないってこと」

「そうだったんだ。あたしのスマホのカメラはそんな物なくても撮れたから」

「そりゃ本体のメモリーに保存してるからだろ。普通こういうカメラには本体側にはメモ
リーないんだよ」

「じゃあ、今日はスマホじゃなきゃ撮影できないの?」

「おまえが前にタイマーで自撮りしてたコンデジがあれば出来るけど」

「コンデジって何?」

「普通のデジカメのことだよ。それならあるだろ?」

「これ買ってもらった時に捨てちゃった」

「じゃあ、スマホで撮るしかないか。正直おまえの上げた画像って画質は最悪なんだけど
な」

「ええー。今日は麻人が一緒にいてくれるし綺麗に撮ってもらえると思ってたのに」

「おまえ、スペック高いし、ネットのこととかはよく知ってるのにカメラの基本的な知識
とかはないのな」

「うん。そういうのはこれからあんたに教えてもらう」
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/07(月) 00:04:09.00 ID:6yt3IbxEo

今日は以上です
また投下します
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/07(月) 19:29:59.31 ID:pZz3TIDWo
ふむ
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2016/03/09(水) 19:48:46.64 ID:ooqhsM2wo
復活してたんか
こいつもげんふうけいみたいに書籍化すればいいのにな
せめて、動向が分かればもっと良いのにと思う
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