魔王「死ぬまで、お前を離さない」 天使「やめ、て」

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33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/20(日) 12:40:26.49 ID:mTdLsehaO
これはひどい
34 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2015/09/20(日) 21:20:16.42 ID:ea1m6jub0
粉雪荒らし沸いててわらった
フィルターホント邪魔だよね、面白いんだけどさ
魔力とか唐揚とかが大変なことに
35 : ◆OkIOr5cb.o [sage saga]:2015/09/22(火) 01:06:48.71 ID:SFw0ZPMn0
>>1-2
×◆IiD8t.HTzVRy ,◆Z1sKHpgSzY
○◆OkIOr5cb.o

>>3
×こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいい
○粉雪

>>8
×視線の端に捉えながら
○視界の端に捉えながら


>>32
ありがとう。でも俺の失敗が招いたことだから、これも勉強と思って恥を残しておく。
読みづらくなってしまったことは申し訳ない。

>>all
皆様、「粉雪」のフィルターチェックはもうお済みになりましたでしょうか。
sage sagaの重要性についてご理解いただいたところで、↓から続けさせていただきます。

36 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 01:10:23.57 ID:SFw0ZPMn0

+++++++


翌朝
本殿・最奥の間――


魔王にとって、朝餉を済ませた後はこの奥間へ来るのが日課となっている。

朝の光に照らされた御簾は、紅葉のような艶を放っていた。
だが、魔王の視線は御簾の奥―― 御簾よりも、なお美しい物を見据えている。


天使「……ぃゃ… ぃゃ…」ブルブル

魔王「よくもまあ、飽きもせずに怯えていられるものだな…クク」

近衛「……」


本来であれば、御簾の中に座するべきが魔王。
一段低くなった床で、御簾越しに他者を見ることなどあってはならない。

だが、崩した胡坐で片膝を立てて、頬杖などをつきながらくつろいでいる魔王は
それすらも愉快に感じているように思えた。


37 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 01:11:18.65 ID:SFw0ZPMn0

近衛「……その、若君。そろそろ奥殿にお渡りになりませぬか」

魔王「ふむ、今日は謁見の儀であったか」

近衛「族長達は既に、対屋に控えております」

魔王「……いや、もう少しこいつを眺めていたい。遅らせろ」


戸口近くで控える近衛に視線を向けることもなく、魔王は告げる。
だが、そんな横柄で傲慢な主君の態度にも、近衛は眉一つしかめることは無い。

それこそが、魔王だからだ。
近衛が彼に忠誠を誓った時から、魔王は何一つ変わってはいない。


近衛「恐れながら若君、本日は…」


だからこそ、近衛はただ自らの役目をまっとうせんと、言葉を続けたのだが――


38 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 01:12:02.24 ID:SFw0ZPMn0

魔王「…おい」


気がつくと、頭の中までも覗き込みそうな鋭い視線が向けられていた。
僅かに早まる鼓動を抑え、冷静を努める。


近衛「はい。……いかがなされましたか」

魔王「いい加減に、俺を『若君』と呼ぶのを止めろ」

近衛「――ッ」


魔王「先秋の戴冠で、俺は魔王に正式に就任している。これ以上その名で呼ぶようなら、不敬とみなすぞ」

近衛「……大変な失礼を致しました。お許しください…… 『魔王陛下』」


改めて座を整え、深々と辞儀を述べる近衛を見て
魔王はまた視線を御簾の奥へと向ける。

39 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 01:12:45.91 ID:SFw0ZPMn0

魔王「ああ、許そうとも。俺は今、非常に機嫌がいいからな」

近衛「……改めて、魔王陛下。本日の謁見の儀には、竜王殿もお召しになっていた筈。あまり彼女の機嫌を損ねるのは、厄介かと」

魔王「ちっ、あの口煩い老婆も居たのか……。止むをえまい、出るとしよう」スクッ

天使「……」ホッ


近衛は戸口を大きく開き、深く頭を下げて待った
だが、魔王が近づく気配はない。
視線をあげると、魔王は扇を口元に当て、なにやら思案する様子で立ち止まっていた。


魔王「………」

近衛「いかがなさいましたか」

魔王「……いや。やはり眺めていたいと思ってな」

近衛「魔王陛下、ですからそれは……」


言いながら、今日の謁見の儀で呼び出された者たちを脳内で確認する。
どの者も重要な部族や種族、その筆頭ばかり。いくら魔王とはいえ、あまり待たせておくのは得策ではない。
あとはどのような切り口でそれを言い出すかだが―― 


魔王「何、天使を連れて行けばいいのだ。問題あるまい」ニャ


天使「!?」ビクッ

40 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 01:13:43.97 ID:SFw0ZPMn0

近衛「魔王陛下!? そのような事をなさっては、大混乱になります!」


魔王「何、余興よ。ここまで天使を運んだ御車があったろう。あれから馬を放して、誰かに担がせればよい」

近衛「しかし!!!」


魔王「近衛、これは俺の勅令だ。まさか従わぬだなどと……?」


近衛「……っ!」

魔王「……」


いっそ強く睨み付けられでもしていたのなら、一言くらいは反論も出たかもしれない。
だが魔王の瞳は、無感情とも思えるほど冷静に近衛を捉えている。

逆らい間違うものならば、その場で確実に
『正しく冷酷な断罪をする』と、告げているのだ。


近衛「……かしこまり、ました…」


魔王「ふふ…我ながら良策だな。これで、いかなるときも… 傍においておけるだろう」


くつくつと嗤いながら、部屋を出て行く魔王。
足音の遠のくのを聞いた近衛の耳に、今度はしゃらしゃらと翼の揺れる音が聞こえてくる


天使「い、いや…… 行きたくない… 行きたく、ない…!!」

近衛「…………っ」


怯えて震え泣く天使。
無情にも、その姿はどこを取っても 美しく幻想的な姿に見えてしまっていた。

41 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 01:14:33.69 ID:SFw0ZPMn0

――――――――――――――――

正殿― 


ザワザワ…
 ザワザワ…


魔王「皆の者、待たせたな。ちと身支度に手間取った」


正殿の中央に設えられた御帳台へと歩み寄り、簾中へと入る魔王。
既に伺候に上がった者たちはそれぞれの居場所を定めてはいるが、落ち着きは無い。

それもそうだろう――
魔王よりも少しばかり先に運ばれてきた物は、彼らにとって不吉そのものだったのだから。

42 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 01:15:17.36 ID:SFw0ZPMn0

獣王「魔王サマ… 先ほド運ばれてきタ、こノ 御簾車ハ…」

魔王「うむ、これか。俺が寵愛している者だよ、皆にも紹介しようと思ってな…」ニヤ


天使「―――っ」ガクガク…ブルブル…


獣王「クンクン… 匂イ、しなイ」

魔王「ほう? 獣王の鼻にも届かないか。急造した結界だが、上手く機能しているようだ」


体躯だけならば魔王よりも数倍も大きい獅子の姿をした獣王。
彼は魔王のその愛しそうな口調を怪訝に思いながらも、御簾車の傍へと近づき嗅ぎ始めていた。


天使「―――ひっ」

獣王「……?」


嗅覚を頼りに敵を判断する獣王にとって、完全に無臭であるそれは「モノ」と代わらない。
従って、なんの危機感も恐れも持つことも無い。

だが、その他の者にとっては――

43 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 01:16:59.13 ID:SFw0ZPMn0

竜王「魔王殿!」ビタン!

魔王「……ちっ。犬猫を見習って、尾を振るのは機嫌のよい時だけにしてはどうだ。さすれば多少の可愛げもあろう」

竜王「ならば冗句を言うのも、機嫌のよい時だけにするのじゃな!」

魔王「鱗を立てるな。竜王ともあろう者が、何をそんなに荒らぶるのか」

竜王「〜〜〜〜っ」ワナワナ


亀姫「うふふ。大婆様、どうぞ御鎮まりくださいませな。それに、ほら。私達はまだ、魔王陛下にご挨拶もしておりませぬ」


牙を剝いて噛み付きそうな竜王をたしなめたのは、扇で顔を隠した一人の女性だった。
青漆に染め上げられた打ち掛けを引き着にしており、艶やかな印象は顔を覆っても隠しきれないほど。
だが、その声もまた、心なしか怒気を含んでいる。

44 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 01:42:41.94 ID:SFw0ZPMn0

魔王「亀姫」

亀姫「ご機嫌麗しゅう、魔王陛下。お召しによりまして参上仕りましてございまする」


亀姫と呼ばれた女性は悠然とした仕草で裾を払い、床に付して長々と訪問の挨拶を述べあげていく。
その背に負った亀甲のせいか、大きく広がった大振袖もまるで亀の手のように見えた。


魔王「相変わらずだな。慇懃無礼という言葉を知っているか」

亀姫「はい。それは“私”を意味する言葉で御座います」クス

魔王「クク… まこと、恐れ知らずな娘であることよ」

亀姫「ありあまる寿命をもてあましているが故の、サガですわ」

魔王「お前の寿命が長いのではなく、お前が周りの寿命を縮めているのではないだろうか」

亀姫「あら…。ならば魔王陛下が私の次に長命なのも頷けますわね。気位こそ同じなれば、女の身では殿方の豪胆さには敵いませんもの」クスクス

魔王「ああ。俺も、お前のおしゃべりには敵う気がしない」

亀姫「ふふ…。ですが今ばかりは、饒舌になっていただかなければ困りますわ」

45 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 01:43:14.46 ID:SFw0ZPMn0

亀姫はそう言うと、ゆたりとした仕草で扇を広げなおし顔を覆った。
それはいかにも淑女の貞節といった風情で、普通であれば見惚れる者すらいただろう。

だが、続けられた言葉はあまりにもはっきりとした抑揚と嫌悪感を持っていた。


亀姫「……その御簾の中の者…。“天使”、ですわね?」


扇は、忌々しきものから目を背けるためだったのだ。


獣王「天使!!」グルルル…

竜王「なんと!! 天使じゃと!? 道理で忌々しい筈じゃ!!」ビタン!!


亀姫「お聞かせくださいませ、魔王陛下……」

魔王「ふむ。年の功とは伊達ではないな、その通りだ」クク

46 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 01:43:47.85 ID:SFw0ZPMn0

亀姫「やはり…。何故このような事を」

魔王「先程言ったとおり、皆に紹介しようとおもってな」


竜王「なんということじゃ! 魔の領地、それも正殿に天使を運び込むですと!? 前代未聞ですぞ!」

魔王「結界によって聖気は封じ込めてある。この者、今は普通の魔物の女子供よりも弱く儚い。ただの愛玩動物と変わらぬよ」

獣王「魔王サマ。御簾車の中、見せていただきたイ。匂いしないト、よくわからなイ」

魔王「ああ、いいだろう。 ……近衛」

近衛「……は」


近衛が御簾へと歩み寄ると、獣王は静かにその場を退いた。
魔王の居る御帳台の傍へ寄り、警戒の姿勢で御簾車を見つめる。

近衛の挙動を誰しもが見つめていた。
張り詰めた空気のせいだろうか、近衛の手元は僅かに躊躇した後…ゆっくりと、御簾を上げた。

47 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 01:45:04.84 ID:SFw0ZPMn0

御簾が開かれたとき、天使の瞳には何がどう写ったのだろう。

それぞれの臣下たちの付き添いも含めれば、その数は数十にもなるであろう。
“人ならざらぬ者達”の特徴的な瞳。その視線のすべてが、一斉に天使を貫いていたのだから。


天使「や、いや… ま、魔物がこんなに・・・!」

近衛「……」

天使「いや、いやあああ!!!」

近衛「天使――」

天使「いや! いや!!! やめて、お願い! 私を出して! もう逃がしてくださいっっ!!」

近衛「――…っ」

48 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 01:58:35.11 ID:SFw0ZPMn0

半狂乱の様子で、結界の中で羽を散らせる天使。
魔王はスノーボールのようなそれに見惚れながらも、天使の声に耳を傾けていた。


魔王「ふふ。愛玩動物……というよりも。いまとなっては“哀願”動物にまで堕ちたようだ」


亀姫「その者を…… 一体、どうなさるおつもりなのです?」

獣王「危ないものなラ、見せしめテ、殺ス。命乞いハ、関係なイ」

魔王「この結界の中に閉じ込めておく限り、お前たちに危険は無い。そしてお前らも、こいつに手を出すことは出来まい…クク」


竜王「ええい、埒が明かぬ!! ならば魔王殿は、この天使をどうするおつもりなのじゃ!!!」

魔王「取り立てて、どうするつもりもない。愛でるほかは、そうだな――」




魔王「こいつが死ぬまでは、放さぬつもり… というくらいだな」ニヤリ



ゾクリ、と。
舐められたかのように走った寒気は、誰のものだったのか。

49 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 02:00:05.66 ID:SFw0ZPMn0

ザワザワ……
 ザワザワ……


魔王「く、くくく。魔王直轄の族長ともあろう者たちが、雁首そろえてこんな小娘一人を恐れるとは」


竜王「魔王陛下は、天使の… 神族のイヤらしさをご存じないのじゃ…」

魔王「ほう。俺を無知と申すか」


魔王が眉をしかめたとき、それまで静観していた族長の一人が前に進み出た。


精霊王「恐れながら、陛下……」

魔王「おまえは… 精霊王……?」


50 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 02:03:00.06 ID:SFw0ZPMn0

精霊王と呼ばれたのは、エルフのような容姿をした中性的な人物だった。
否。実際に性別を持たないかもしれない。彼らの存在の詳細は、彼らにしか知りえない。
非常に閉鎖的な文化の中でのみ生きる部族なのだ。

そんな人物が公然の場で発言するのは、歴史上でも珍しいことだった。
魔王も思わず、彼が次に発する言葉を待つ。



精霊王「我々、精霊の一族は古来より 神と魔の狭間で生きる者」

精霊「万物を眺め、万物を汲み、万物を記しあげることを至上の役割とし、今代まで繋げて参りました」

精霊王「そしてその記録が、確かに語っていることが ひとつ御座います」

精霊王「歴史に名を残す大きな戦禍、災い、国や文化の崩御―― そのほぼ全ての原因が…」



精霊王「神族と魔族の 接触である、と」



シン……

51 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 02:03:57.20 ID:SFw0ZPMn0

魔王「……ふん。確かな記録などなくとも、それくらいは予想できる」

精霊王「………」ペコリ


竜王「魔王殿! ただ知ることと、その意味を理解することはわけが違うのですぞ!」

亀姫「魔王陛下。私も、これはあまりに無体な仕打ちに思えますわ。神族との接触など、あまりにも不用意で軽率…」

獣王「何か、起こるかも知れなイ…。何が起こるカ、わからなイ…?」


皆一様に、魔王を諌めるべく視線や言葉を投げかける。
そんな皆の様子をじっと見て、魔王は可笑しそうに嗤う。

そして、はっきりと告げた。

52 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 02:04:57.31 ID:SFw0ZPMn0

魔王「よいではないか…」


魔王「歴史に名を残す、戦禍とやらも」ニヤリ




亀姫「ま、魔王陛下はまさか… 神族に、戦争を…!?」

竜王「おお、おおおお…! なんと。なんということじゃ…」

獣王「魔王サマ、本気なのですカ?!」グルルル


魔王「ククク。本気も何も… 精霊王の言葉を聴いて、おもいつきで言っただけだ」

魔王「だが、悪くない…」


魔王「俺はこの娘のその儚さ、美貌、声音…… 多くをすっかり愛してしまってな」

魔王「日々、天に帰りたいと泣かれるのにも辟易していたところよ」

53 :今日はここまで。あれ、あんま地文が減ってない…  ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/22(火) 02:07:18.30 ID:SFw0ZPMn0

魔王はスクと立ち上がり、簾中から出て御簾車へと近づく。
青褪め言葉を失って、オロオロと戸惑う魔物達には目もくれない。



魔王「天使」

天使「…っ!」ビクッ


魔王「……お前の帰る場所。俺以外にはないと思え。そして近いうちにそれは…事実となる」


天使「あ… あ、ああ…」ガクン


天使「…そんな… そんな、私が…私が捕まったばかりに…っ」ブルブル…


魔王「ふふ… ははは、ははははははははははははは!!」


近衛「………」


54 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/23(水) 05:02:30.22 ID:uXBkoPRSO
続いていたんだ、乙
この先どうなるのかめっちゃ気になる
55 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/23(水) 07:00:36.26 ID:+ZZkk6D5o
見世物にされてしまったのか
更新乙、続き期待
56 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:12:11.44 ID:pVQvFyFt0

――――――――――――――――


深夜
本殿・最奥の間−


―――シュ。

暗闇の中、格子窓の滑らかに滑る気配。
僅かに戸が開けられたと気づいたのは、ほのかに入り込んだ月灯りの為だった。


天使「っ、だ、誰…!」

「シッ」


ゆっくりと近づく影の塊。
御簾越しに見えるそれに、天使は怯えながらも視線を離せない。

影は足音も立てず、部屋の隅に置かれた几帳の裏に入り込む。
そこでようやく一息ついたように、蜀台の灯心に火を点した。

57 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:13:12.47 ID:pVQvFyFt0

天使「あ… 近衛、様…」

近衛「天使殿…ご無事であらせられるか」


穏やかに微笑む近衛を見て、天使もまた安堵する。
御簾の傍まで近づき、嬉しそうに翼を一振りしてそれに応える。


天使「近衛様のお気遣い、有難く思っております」

近衛「……ですが今日は、申し訳ありませんでした」

天使「何を……?」

近衛「若君を……魔王陛下を、止められなかった」


俯き、硬く握り締めた拳が目に入る。
不甲斐なさを悔やむその姿は見ているだけで痛ましい。


58 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:13:42.42 ID:pVQvFyFt0

天使「近衛様の責ではありません…。どうかご自分をお責めにならないで」

近衛「いいえ…。いいえ、天使殿。こうなったのは全て、自分のせいです」

天使「……」



―――回想―――

一月ほど前
本殿中央・奥殿(魔王の社殿)


魔王「領内視察、だと?」


私室でくつろいでいた魔王は、不機嫌そうに問い返した。


近衛「は。若君におかれましては、戴冠の覚えも目出度き時期。自国の領地と民をしっかりと把握せよと、院よりお言葉を預かっております」


院。
それが表すものは先代魔王のことであり、魔王の実父でもある。

59 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:14:12.10 ID:pVQvFyFt0

魔王「ちっ。つまらぬ。下賎の弱き民を見て何を学ぶというのだ」

近衛「弱き者の、その弱さを。貧しき者の、その貧しさを」

魔王「ふん。お前はいつの間に父君に躾けられたのだ、近衛」

近衛「……そのような事は御座いません」


魔王「それで。お前は俺に、何処へいって何を見よと申すのだ」

近衛「若君がご覧になりたいものがあるならば、まずはそちらから」

魔王「無いな」

近衛「それでしたら、まずは清浄の森へ行かれてはいかがでしょう」

魔王「清浄の森だと?」

近衛「はい。魔国領内において、もっとも魔素の少ない土地。それゆえに問題者が逃げ込む事も非常に多い場所で御座います」

60 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:15:11.18 ID:pVQvFyFt0

魔王「なるほど、魔の世界に溶け込めぬ者共が隠れ住むには、うってつけというわけだな?」

近衛「はい。今後、どのような事があるかわかりませぬ故、是非一度ご視察を…」

魔王「成程、記憶には留めおこう。だが見に行く程に興味は無い」

近衛「ご興味、ですか」

魔王「くくく、いっそ色町のほうが余程面白そうではないか。それに…」

近衛「……?」


魔王「それに、そこはつまり 魔国におけるスラムのような場所。魔素を正とし、浄気を誤とするこの魔国において、そこほど穢れた場所はあるまい」

近衛「その通りでございます。ですが――」

魔王「俺が何故、そんな場所へ出向かねばならぬ」


魔王にとって、それは断るに充分すぎる理由であった。
高貴であることも魔王として必要な資質。穢れに触れるなど、もってのほか。

61 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:15:58.52 ID:pVQvFyFt0

しかしながら、近衛は説得を諦めるわけにはいかなかった。
院より賜った、良き近衛としての在り方。
魔王を魔王として育てるのもまた、その任なのだと忠言を授かったばかりなのだ。


近衛「―――……」



院『“王に穢れあるべからず”。邸内に出入りするものならば誰しもが一番に聴く言葉だろう』

近衛『はい。自分も一番に習いました』

院『穢す者などあってはならない。穢す物など近づけてはならない。臣下ならばこれを心がけよ』

近衛『は。正しく努めさせて頂きたく…』

院『だがお前は、臣下であって臣下ではないのだろう?』

近衛『……?』

62 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:16:30.86 ID:pVQvFyFt0

院『東の近衛。お前の仕事は側近えであり、教育係でもある』

近衛『畏れ多くも、自分に若君の教育などは役者不足も極まれし事…』

院『なに、教え諭すばかりが教育ではない。私は未だお前を好いてはおらぬが、適任だとは思っている』

近衛『……自分が… 適任…?』

院『うむ』


院『あの魔王は自尊心と我儘ばかりが強い。平穏の中で育ち、飢餓を知らぬ。穢されないがゆえに穢れないなど、どこぞの姫君と代わらぬよ』

院『王に必要なのは、“穢れに触れても穢れない強さ”である』


近衛『王に穢れあるべからず…。王自身の為の戒言であらせられましたか…』

63 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:16:58.82 ID:pVQvFyFt0

院『東の近衛。お前は魔王に歯向かい、逆らい、乱し、穢すべき者だ』

近衛『!!! 何をおっしゃるのです、院! 自分は若君にそのような事…!」

院『お前などに穢されぬ強さこそが、魔王に必要なのだ。それとも、お前ならば本当にあれを穢し殺せてしまうか?』

近衛『っ! そのような事…!』

院『やはりお前に適任だよ、東の近衛――……』



近衛「………」


魔王「おい」

近衛「!」ハッ

64 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:17:39.37 ID:pVQvFyFt0

魔王「なにを呆けている? 用が済んだなら下がれ、近衛」

近衛「これは申し訳ありません、魔王陛下。少々思い出した事がありまして…」

魔王「思い出したことだと?」


院からの忠言をそのまま伝えるわけにはいかず
姿勢を正すふりをして時間を稼ぐ。

思い出した言葉のおかげで、今の自分のなすべき事が間違いではないと確信できた。

清浄の森への視察。
そんなものを勧められるのは、確かに自分しかいない。
胸に引っかかるものもあったが、それが魔王の為に必要だというのならば厭わない。


近衛(清浄の森か…。何か若君の興味をそそるようなものがあれば。あそこは、確か…)


ふと下男たちの間で騒がれていた噂話を思い出し、利用する手を思いついた。
近衛は軽く咳払いして、焦れた様子の魔王に進言する。

65 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:18:10.40 ID:pVQvFyFt0

近衛「清浄の森といえば、先日『天空より梯子の降りたるを見た』という報告があがっております」


魔王「梯子だと? 何のことだ」

近衛「おそらく、光の射さぬこの領地で、なんらかの天候異常により光が射したものかと」

魔王「ふん。たかだか光が射し込んだくらいで、大げさな」


近衛「ですが、その光の射した位置というのが清浄の森の方角。天よりの光は、森の植物に影響を与えると…まことしやかに囁かれておるのです」

魔王「ほう? 影響とはどのようなものだ」

近衛「光を浴びた植物は、魔素ではなく浄気を吐くようになる、と…。そして浄気を吸った植物もまた、浄気を…」

魔王「俺の領地内で、浄気を吐く植物が大量に発生すると?」

近衛「はい。もしもこれが真実なれば、重大な汚染の可能性が。確認の必要があるかと思われます」

魔王「…ちっ。そんなものがあってたまるか。仕方あるまい、仕度を整えろ」

近衛「ははっ」
66 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:19:25.99 ID:pVQvFyFt0

・・・・・・・・・・・
・・・・・・・


―――清浄の森


元はといえば魔王が面倒くさがったのが大きな理由ではあるが、
それでも仰々しい隊列は組まずに視察へ来たのは正解だった。

騎馬で草木を踏み分けて進んではいるが、苔生した土のあちらこちらに倒木が転がっている。荷運びの従者ですら邪魔になるからと、森を少し入ったところで待たせている。


魔王「“清浄の森”とはよく言ったものだな。鬱蒼としていて、まるきり迷い路だ」

近衛「ですが本当に、魔素が薄い場所です。っと……」

67 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:20:00.36 ID:pVQvFyFt0

近衛「若君、あちらに開けた場所がありそうです。少し、馬を休めましょう」

魔王「開けた場所……? ほう。これは、不自然な」

近衛「不自然でしょうか?」

魔王「相変わらず愚鈍だな、近衛。…太刀を抜け、そちらは妙な気配があるぞ」

近衛「!?」


魔王はそういうやいなや、するりと馬を降りた。
近衛もそれに倣い、腰元の太刀を引き抜きながら奥へと歩んでいく。

敵襲に備えて警戒した近衛だったが――



天使「……」グッタリ


魔王「……これ、は…?」

近衛「なっ!? まさか…!?」


そこに居たのは、天使だった。

68 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:20:36.43 ID:pVQvFyFt0

魔王「は、はは…… なんてことだ。魔王の領地で、天使がうたたねをしておる」

近衛「まさか…! 天空からの梯子は、本当に『天使の梯子』だったとでも…!?」


天使「ん……う」グタリ…


魔王「ほう? 生きているか」

近衛「! 若君、危険です! 天使の持つ浄気は、魔素を源とするその御身には強すぎます! これでは自分も……」

魔王「ふん…。では、こうしてしまえばよいだろう」


チャキッ、シュパ。

刀を指先に滑らせ、その刀身に僅かな血を乗せる。
魔王がその刀を真一文字に振り切ると、血は意思を持ったかのように五角を描き飛散した。
僅かに光ったその瞬間、天使の周囲に“薄い膜”が張られるのを視認する。

69 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:21:35.93 ID:pVQvFyFt0

魔王「簡易結界だ。術法の類を忌避するものだが、浄気のそれも防ぐだろう。……お前も少しは楽になっただろう?」

近衛「あ、ありがとうござい…


天使「ん。あ……」ユラ… パサッ


近衛「! 目覚めた!?」

魔王「ふむ。結界によって、こいつも魔素の苦しみから解放されたか」


天使「……? あれ… 私…?」シャラン

70 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:22:22.67 ID:pVQvFyFt0

近衛「……真白の…翼…」

魔王「ほう! これは…」


天使「………ここは…?」キョロ


魔王「なんと美しく…稀有な生き物よ」





魔王「気に入った。俺が、飼おう」




――回想終了――

71 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:22:59.11 ID:pVQvFyFt0

天使「……近衛様?」

近衛「あの時…どうしてもっと必死に、若君を止められなかったのか」

天使「近衛様は… 近衛として、その任を全うしたまでですから」


あの後、結界内に閉じ込められた天使は暴れに暴れた。

当初に急造した結界は“触れると痛みを伴う”形のもので、
悲鳴を上げながら暴れもがく天使を、魔王は愉快そうに見ていた。

だがしばらくすると、結界に罅が入ってしまった。
結界内の浄気と、結界自体の魔素が拮抗したところに物理的に強く触れたせいだろう。

急激に漏れ出した浄気に、近衛は意識が朦朧とするのを感じ、直感的に駆けだした。
そして結界が割れると同時に―― 

鞘で天使を打ち付け、昏倒させたのだった。

72 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:23:29.77 ID:pVQvFyFt0

近衛「あの時、漏れ出した浄気に焦り、自分は冷静さを失ったのだと思います」

天使「…主君を守るために、身を挺して前に立ったのです。それのどこに落ち度がございましょう」

近衛「天使殿は、悪意も害意も持ちあわせていなかった。それなのに、一方的に手を上げたのは代わりません」

天使「……私も、暴れすぎましたから。ああなっては、もう既に仕方なかったのでしょう…」


天使を打ち倒した後、近衛もまた失神していた。
気がつけば自室で寝ており、あの後、魔王がどのようにして自分たちを魔王殿まで運び入れたのかさえ定かではない。

目が覚めた近衛に知ることが出来たものは
新調された大きな御簾に覆われた、天使の『檻』の存在だけだったのだ。


近衛「……」

天使「……? 近衛様…?」

73 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:25:19.97 ID:pVQvFyFt0

近衛「必ず、若君を説得してみせる。天使殿を解放するよう説得してみせまするゆえ… もうしばしのご辛抱を…!」

天使「………」


天使「はい、近衛様…… ありがとうございます…!」ニコ


御簾をあげることは叶わない。
この御簾にも結界がかけられており、二重に天使を封じているのだ。

それにこれは、夜間に濃さを増す魔素から天使を守るためにも必要な物だったから――


近衛「天使殿…」

天使「…はい」


御簾越しに交わされる、言葉
薄いシルエットのような、天使の姿
影だけでも分かる、大きな白い翼……


森の中で見たあの美しいものは、確かにこの中にしまわれている。
皮膜のような結界ですら、彼女の本来の美しさを濁しているように思えてならなかった。
74 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/09/26(土) 03:25:47.30 ID:pVQvFyFt0


愛らしい声音
庇護欲を誘う、儚げな生命


近衛(……自分以外に…彼女を助けてくれる者はいない)


美しい正義感が、無謀なまでに 近衛を後押ししていた。
自室に戻っても冷めることのない、高揚にも似た強い想い。


近衛「この身は、若君に忠誠を誓った身。だが、やはり……自分は…!! クソッ!!!」



目を閉じると、暗闇の中に天使の泣き濡れた姿が浮かんでしまい
その晩は、眠ることもままならなかった。


75 : ◆OkIOr5cb.o [sage saga]:2015/09/26(土) 03:28:30.80 ID:pVQvFyFt0
今日はここまでにしておきます。
和製魔王って、知識的に書いててキツイものがありました。ご容赦ください。
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/26(土) 04:17:26.15 ID:UvuU/XwSO
乙。魔王のとーちゃん生きてるのか
77 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/26(土) 09:32:31.10 ID:HX5lxOPWo
良きに計らえ
78 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/26(土) 21:15:03.65 ID:peW6ct1jO
そかそか魔王の教育係は役不足ねぇじゃ余裕やね魔王の教育しっかり育ててや
79 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/26(土) 21:19:29.16 ID:Fh451qOcO
>>78
ちゃんと役者不足って書いてあるよ
仮に間違っててもそのくらいの間違いをトゲトゲしく指摘しなくても
80 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/26(土) 22:41:54.11 ID:2QyQl1Bzo
>>78
役不足だと、近衛にとって「魔王の教育係なんてくだらない仕事やってられるか!」的な意味になるんだが。
大丈夫か?
81 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/27(日) 00:09:17.30 ID:WESF4iH8O
期待
82 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2015/10/01(木) 17:57:08.77 ID:T7Oga5l3o
こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいい
こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいい
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こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいい
83 :本当に一週間以上も間を開けてすみません。 ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/05(月) 04:37:06.47 ID:UZSyIPhQ0

―――――――――――――――――――――


翌日―― 奥殿


近衛「魔王陛下、よろしいでしょうか」


近衛は魔王の社殿を訪ねると、中の魔王に声をかけた
しばらく待ってみたが反応がない。


近衛「魔王陛下……?」


朝餉もまだの時間であり、天使のところに行くには早い。
普段ならば既に起きている時間とはいえ、眠っている可能性を考え
起こさぬように静かに階を上る。


近衛「失礼いたします」

84 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/05(月) 04:37:48.50 ID:UZSyIPhQ0

ゆっくりと戸を開く。
繊細な細工とは半比例して、重厚すぎる観音開きの戸。
非力な者であれば開けることすらできない重さがあるにも関わらず、軋む事はない。

そんな戸を開けている途中、声をかけられた。


魔王「近衛か? 丁度よいところに来たな」

近衛「すでに御起床であらせられましたか。丁度よいとは一体…」

魔王「気を抜くな」

近衛「?」


重い戸とはいえ、近衛にとって戸を開けるのは さほど神経を使うことでもない。
気を抜くなとはどういうことか。
そう思って顔をあげた瞬間、目の前に魔王の刀が迫っていた。

ビュッ――


近衛「っ!!」


近衛は咄嗟に後方へと飛びのく。
つい先程まで自分の居た場所を、確実に切り裂く刀。
手を離された戸は、轟音を立てて閉じた。

85 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/05(月) 04:40:46.25 ID:UZSyIPhQ0

近衛「・・・・・・っ、はぁ」


寝耳に水どころではない。
避けなかったとしたならば、冗談では済まなかっただろう。
近衛が動悸を抑えようとしていると、魔王は愉快そうに自らで戸を開けて出てきた。


魔王「くくく… よい反応だな。だが装束の端を斬らせるくらいの可愛げは、あってもよいだろう?」

近衛「魔王陛下… なんのご冗談でしょう」

魔王「何、少しばかり腕慣らしをな。ついでにお前の腕も試してやっただけのこと」

近衛「腕慣らし……ですか。危うく死ぬところでした」

魔王「そもそも、この程度で死ぬような近衛など要らぬだろう? ククク」

近衛「……ご満足いただけたのならば、何よりでございます」


逆らうことも責める事もせずに、その場で地に伏せる近衛。
そんな近衛を見て、魔王は確かに満足そうに微笑んでいる。

86 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/05(月) 04:41:30.56 ID:UZSyIPhQ0

魔王「何か、俺に用があったのか?」

近衛「いいえ、魔王陛下。用というほどのものでは。少しばかりの進言をお許しいただきたく参上いたしました」

魔王「進言? ふむ…聞いてやってもよい」

近衛「有難きしあわ…

魔王「僅かでも、俺に一手をくらわせられたのならば、な… クク」


近衛「……先程の腕試しでは、ご満足いただけませんでしたか」

魔王「試しも何も、鳴らさぬ腕などわかるものか。俺の腕慣らしの相手役だと思うがよい。刀を抜け、近衛」

近衛「……」


有無を言わせぬ口調。
近衛は諦めてゆっくりと立ち上がり、腰の刀を抜いて構えをとった。


魔王「文官装束に、その構え。なかなか味があって良いことだ。だが動きづらかろう」

近衛「自分の本分はあくまで警護にございます。まして普段は文官として仕えておりますゆえ、こちらの装束が適切かと」

魔王「くくく… 異国の狩衣姿も、なかなかに似合っていたとは思うがな」

87 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/05(月) 04:42:35.72 ID:UZSyIPhQ0


手合わせ自体は、あっという間に終わった。

魔王が放った数撃を、近衛はすべて避けてかわした。
近衛が打ち込んだ7手は、すべて魔王の刀で受け止められた。

それだけの攻防で、間合いが接近しすぎてしまったのだ。
お互いに刀を振るには、近すぎる距離だった。


魔王「ふむ…。 駄目だな」


不自然な跳躍の仕方で、社殿の入り口まで下がる魔王。
近衛は深追いせず、ゆっくりと構えを解く。


近衛「ご期待に応えられず、申し訳ありません」

魔王「少しばかりは刀の扱いも上達したかと思っていたが、そうでもないようだ。逃げ足と反射速度は良いのだがな」

近衛「少しばかりならば上達しました。少なくとももう、刀の向きを間違えて峰打ちにしてしまうこともありません」


魔王は愉快げに笑い、そのまま社殿の中へと戻っていく。
ふぅ、と小さな溜息をついてから、近衛もその後を追った。


88 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/05(月) 04:44:48.59 ID:UZSyIPhQ0

――――――――――――

奥殿・魔王の社殿


魔王「天使を逃がせ、と?」

近衛「はい」


刀での一手を入れる事はかなわなかったものの、口では味のある返しをしたとして
魔王は朝餉まで支度の間、近衛の進言を許した。
だが、その内容を聞いた魔王は不快そうに目を細める。


魔王「そんなことを俺が了承するとでも思うのか?」

近衛「………どうか、お聞き入れくだされば、と」


ひれ伏して願う近衛を、魔王は鼻でふん、と一蹴した。
蔑むように見下ろしていた魔王だったが、しばらくすると、ククと笑い出した。

89 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/05(月) 04:45:20.41 ID:UZSyIPhQ0

近衛「魔王陛下?」

魔王「何。先ほどの手合わせも重なって、お前が俺に忠誠を誓った日を思い出してな」

近衛「……もう、ずいぶんと昔の話でございます」

魔王「あの日もお前はそうして頭をたれていた。お前は覚えているのか? 何故、俺に頭を下げたのか」

近衛「……忘れた日などございません」


近衛もまた、思い出す。
魔王に忠誠を誓った日。

その日、近衛は 無力を嘆き、力を望み、願ったのだ。
異国で生まれ育った一人の人間が、人生の何もかもを全て塗り替えたあの日を――忘れることなどありえない。

90 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/05(月) 04:47:14.70 ID:UZSyIPhQ0

近衛「…魔王陛下は、他に代えることの出来ないものを与えてくださいました。あのままでは、ただ、死ぬしかなかった自分に」

魔王「ああ、そうだろう。俺がお前に与えたものは、お前の一生よりも価値があると お前自身が言っていた」

近衛「今となっては、心より御仕えさせて頂いております。この身は魔王陛下への恩義を忘れは致しません」

魔王「ならばそんなお前が、天使を逃がせだなどと 俺に乞い願える立場かどうかも考えるがよい」

近衛「それ……は…」

魔王「くく。わかったら下がれ。お前は俺の忠臣だ… そうだろう?」

近衛「勿論でございます! ですがこれは魔王陛下の御為にも――

魔王「俺の為?」


魔王「……驕るな、近衛」

近衛「っ」


魔王「自分の力で大切なものを守ることも出来ない者が、力を貸した者の身の為を語るなど。百年早い」

近衛「……っ」

91 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/05(月) 04:48:10.59 ID:UZSyIPhQ0

すっかり黙り込んだ近衛に、魔王は気を良くしていた。
身支度もすっかり整ったのを確認すると、自らの座へ座り込んで扇を広げ、くつろぎはじめる。


魔王「クク…故郷が恋しくなったのならば、帰っても構わぬぞ。今のお前ならば、守れるものも増えているかも知れぬ」

近衛「いいえ、魔王陛下。今の自分にとって、守るべきものは只一つだけ――」


近衛「あの日、魔王陛下と交わした約束のみで御座います」


魔王「約束… 約束、ねぇ」


魔王はそう言いながら、傍の錫杖立に飾られていた錫杖を、扇で弄んでいた。
コロン、シャラランと、鈴と金環が揺すられて重なり、響く。


魔王「随分と、派手で豪勢な約束だな… くく。くくく…」


近衛「…………」


92 : ◆OkIOr5cb.o [sage saga]:2015/10/05(月) 04:49:51.59 ID:UZSyIPhQ0
今日はここまでです。
のんびりやるつもりだったけれど、なるべくサクサク書けるよう頑張ります。
93 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/05(月) 07:10:46.68 ID:cnUURsWSO

天使の今後もだが近衛もどうなっちゃうのか気になる
94 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/05(月) 07:12:04.50 ID:BHwTYQnXO

のんびりでもいいよ
95 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/05(月) 08:34:43.96 ID:C5UPkAteo

近衛の過去に何があったのかも気になるな
96 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/05(月) 10:18:13.37 ID:codKJPjNO
近衛が天使助けてイチャイチャするのもなんかアレだしなぁ。
どうなるか期待
97 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/06(火) 09:20:34.57 ID:GDTO+PZlo
天使が出てきてないぞ
あく
98 : ◆OkIOr5cb.o [sage saga]:2015/10/25(日) 05:13:11.06 ID:6LNCYEUg0

::::::::::::::::::::::


後日

正殿―― 謁見の儀


魔王は正殿に入るなり、じろりと部屋中を眺め見た。
予定にはない謁見の儀。朝餉の後で唐突に知らされたそれに不快は隠せない。


魔王「はっ。謁見とは何であったか。これは決起集会の間違いではないのか?」

近衛「決してその様なことは。皆から至急謁見の申し出があったので、一堂に会したまででございます。本日の謁見には…」


手にした巻物をバラリと解き、流暢に参加者の名を述べあげる近衛。
それとは対照的に臣下達は重々しい表情で、目を伏せたまま微動だにしない。
皆、気まずさを感じながらも集まらずにいられなかったのだろう。


竜王「魔王殿!」バシン!


近衛が族長達の名を読み上げるのを阻み
ズイ、と身を乗り出して口を開いたのは 竜王だった。

99 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/25(日) 05:14:36.36 ID:6LNCYEUg0

魔王「竜王。お前がこいつらを集めたのか?」 

竜王「皆、思うことは同じであったというだけですじゃ」

竜王「前回は我々も、天使の事で混乱しておった! 今日こそしかと、お話を聞かせてもらいましょうぞ!!」

魔王「ふん。混乱したならば、いっそ混乱したままでいればいいものを」


淡々と文句を吐き出しながら、中央の御帳台へと進む魔王。
その背に向かい、老いた竜は火を吹く勢いで捲くし立てていく。


竜王「皆、冗談で集まっているわけではないのですぞ!」

魔王「これが暇人の集いだったのならば、俺とて出向いたりしておらぬ」

竜王「魔王殿には未だ、王たる者の自覚が足りておらぬ!! 先代魔王殿におかれてはこのような――…


魔王はその言葉を聞き、簾中に入る一歩手前でピタリと足を止めた。
開いた扇から瞳を覗かせ、竜王を捉える。


魔王「……その言葉は俺への愚弄か――?」

竜王「なっ」

100 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/25(日) 05:15:57.13 ID:6LNCYEUg0

魔王「違うとでも? ならば、我が父への忠誠か?」クク

竜王「――っ」ビタン!


返す言葉を失い、竜王は大きく尻尾を床に打ち付けた。
そしてそのまま、ゆっくりとその巨頭を垂れて鎮まっていく。


仕える『魔王』への愚弄など、決して許されない。
もとより愚弄するつもりなどはなく、言葉が過ぎるのはただの老婆心なのだ。


竜王(……魔王殿は“魔王殿”じゃ、いつまでも若君ではあらせられぬ。わしの振舞いは改めねばならぬことも承知…。 じゃが……)


竜王はもともと、力強い賢王だった先代に忠誠を誓って仕えていた家臣だ。
先代の在位中は、何度も幼かったこの魔王を叱咤し、厳しく忠言を繰り返した。


竜王(厳しくも思慮深くあられた、先代魔王殿――。
その元で、強く立派な後継を育てるべく情熱を燃やした日々は、未だつい先日の事のように思えますのじゃ……)


101 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/25(日) 05:22:46.19 ID:6LNCYEUg0

継承も戴冠の儀も終え、“魔王”が交代したのはつい先秋のこと。
 

この国の王達には、伝統的な風習として
『より多くを次代に継承する事が王の誉れである』という考えがある。

この風習の中で、先代は見事に全てを手放してみせた。

残したのは小さな東屋と一人の女房だけで、もはや奥殿にすら居を持たない身となった。
知恵こそ残ってはいるものの、“人格者”以上の評価を得ることはできない。
そんな身分へと、自分を押し下げたのだ。

だが何よりも見事だったのは、そんなことではない。
最も誇るべきは、『臣下』の全てが若き魔王に継承された事だったと竜王は考えている。


竜王(主君が替われば臣下も変わるもの。離れる者が出るのは、これまで当然じゃった。
じゃが先代から今代へと変わる際には、誰一人として離れるものが居らんかった……)


『臣下達は皆、王の誉れとなりたかった』――


若き魔王に忠誠を移譲することこそが、
臣下達に出来る 先代魔王への最期で最大の礼であり、忠誠だったのだ。
そんな時代の魔王に仕えた事は、竜王にとっての誇りでもある。

だからこそ今、忠誠を誓うべきは この『魔王』ただ一人でなくてはならない。
先代の誉れに、傷をつけてはならないのだ。

102 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/25(日) 05:24:03.87 ID:6LNCYEUg0

竜王(……ならないというのに…。ワシは先代王という“個”に、未だ執着をしておるのか…?)


頭を垂れたままの竜王を一瞥すると、魔王はスッと簾中へと入っていく。
腰かけて一息ついたところで、獣王が声をかけた。


獣王「魔王サマ。こちらからモ、聞いておきたイ」


魔王「獣王か… まだお前のその低い唸り声のほうが聞いていられるな。申してみよ」

獣王「我等、獣族一同… 筆頭たる魔王サマのご命令には決して背きませヌ。それこそガ、我が獣族の誇リ」

魔王「ほう?」

獣王「ですガ、筆頭たる者と認メ、従うかどうかハ、一つの条件次第でございまス」

魔王「条件……? ふむ。どこぞの臣下のあやふやな忠誠とやらよりは、よほど信頼できそうだ」

竜王「……」グッ


獣王「その条件とハ、『強く導ける者であるカ』…」

魔王「導く?」

103 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/25(日) 05:31:04.33 ID:6LNCYEUg0

獣王「我等は集団で生きル。いかなるときも強く導かねば、混乱が起きル。統率の乱れこそヲ、何よりも愚と考えル」

獣王「かざした目的ヲ、違えなイ者。ふらつく意思を持つのならば、筆頭などとは認められなイ」

魔王「……ふらつく意思だと? 獣王。貴様、誰に向かって物を申して居る」

獣王「神族への戦争―― 思いつきと言っていタ。思いつきで始めて、思いつきで辞められては堪らなイ」


獣王「お聞かせいただきたイ――… 魔王サマノ、想いの丈ヲ」

魔王「く… ククク」

亀姫「獣王! 言葉をお控えなさい! 卑しく争うばかりのケダモノ風情が、王を挑発しようだなどと――」

獣王「我は、魔王サマに聞いてイル!」

竜王「ええい、力量を測るような真似はやめよ! 神族を畏れぬ魔王殿の気概ならば充分にわかっておる! だがそうあってなお、ここは抑えるべきなのじゃからして……」

獣王「魔王サマ! 御答え願いたイ!!」

亀姫「獣王! いい加減になさいまし! さもなければ――


パチン!!

「「「!!!!」」」

104 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/25(日) 05:34:43.14 ID:6LNCYEUg0

強く、扇を閉じた音が響いた。
それを合図に、皆が口を閉じて魔王を見つめる。


魔王「さて…静かになったか。 獣王、さきほどの問いに答えよう」

獣王「………」ゴクリ


魔王「俺は、お前達を導いたりはしない」

獣王「!」


魔王「おまえらの筆頭となる条件? …そんなものを考慮するつもりもない」

獣王「……なんト!」

魔王「俺に従いたいというのであれば、従えてやらん事はないがな」ククク


大きく目を見開いたまま言葉を失う獣王を見て
魔王は満足そうに微笑んでいた。


魔王「俺は俺の目的を達するのみ。着いてきたくば来るがよい」


105 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/25(日) 05:41:26.66 ID:6LNCYEUg0

魔王はスクと立ち上がって簾中を出ると、
四方を囲う各部族の族長や精鋭をぐるりと見まわし、声を張り上げた。


魔王「皆も聞け!! 俺は3日後、神界へと攻め入る!!!」

近衛「――ッ」


 ザワッ・・・!!!


魔王「そして、父の代より付き従えている我が臣下達に言っておく」

魔王「忠誠を棄てよ。棄てられぬ者ならば、即刻と巣に帰るがよい」


 ザワ…ッ 
   ザワザワ…ッ


魔王「クク。俺に異論を持つ者があれば、今すぐこの場でかかってこい」


106 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/25(日) 05:42:03.79 ID:6LNCYEUg0

魔王の言葉に、臣下達は混乱を極めた。

“魔王の為に魔王に従う”事を絶対としてきた臣下達にとって
忠誠を棄てることも、帰らされることも、主人にかかっていくことも、なにもかもが理解不能だったからだ。


竜王「魔王殿――…!! なんということを仰るのじゃ!!」ワナワナ


ざわつき戸惑う臣下達の中、最初に声をあげたのは竜王だった。


竜王「忠誠を棄てよじゃと!? 魔王殿は臣下を何だと思っているのじゃ!?」

魔王「くく… 異論か? ならば、俺にかかってこい、竜王」

竜王「くっ……忠誠を棄てることなど出来ぬ! ならばワシは忠誠をもって、魔王殿のそのお言葉を御諌めさせていただこうぞ!!!」

魔王「ああ―――」



魔王「全力で来い。さすればお前のその忠誠、真実であったことだけは認めてやろう」

竜王「―――魔王殿――ッ」


107 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/25(日) 05:48:05.45 ID:6LNCYEUg0

……………
………
……


魔王「……ご苦労だったな、竜王」

竜王「グ……」ガクン


皆、信じられないものを見た思いだった。

“魔王”に躊躇なく振り上げられる竜王の尾も、それを一振りで切り裂いた魔王の抜刀術も。
吐き出された火炎の熱さも、それを一瞬でかき消した魔力も。
何もかも全てが、とても信じられないものだった。

若き魔王の魅せた、初の戦闘行為。
種族代表の集まるこの場においても、それは圧巻の戦闘技術だった。

ましてや相手は魔物の中でも“攻撃力”を誇る竜族の王だ。
それを赤子の手を捻るかのように地に伏せさせた魔王の強さは、本物としか言いようがない。

108 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/25(日) 05:52:16.76 ID:6LNCYEUg0

竜王「強く……なられたのじゃのう…。若君・・・」

魔王「ああ。そしてお前は老いた」

竜王「老いた、か。ワシはいつの間にか、眼を曇らせておったのじゃろうか…?」

魔王「……」


竜王「魔王殿。どうぞ、愚かな逆臣に裁きを。慈悲は要りませぬ・・・」

魔王「クク。かかって来いといったのは俺。俺に勝てぬからと裁きなど与えては、次の者がかかってこれまい?」

竜王「では… ワシは……」

魔王「無論――  巣に、帰るのみだ。お前は最早、我が臣下ではない」

竜王「………っっ」


顔を地に伏せて隠した竜王。
それを背にして、魔王は他の者を眺め見て言った。


魔王「さて… 次は、どいつだ? 戦わずして帰るのも構わぬがな」ニヤ

109 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/25(日) 05:53:57.43 ID:6LNCYEUg0

しばらくの間沈黙を続けた室内は、次第にザワザワと騒がしくなっていく。

他種族からも信頼の厚い竜王を手当てしようと動き出す者。
仲間の住む場所へと遣いを放つ者。
ただただ圧倒されて、興奮気味に語りだす者――


獣王「魔王サマ」

魔王「む? おまえも、俺にかかってくるか?」

獣王「異論なド、持ちあわせなイ。強き我が王、その強さに魅せられタ」

魔王「クク。筆頭として認めるわけにはいかぬのでは?」

獣王「構わなイ。同族から異議があれバ、我が筆頭となリ、我が一族を従えテ、魔王サマについて参りまス」

魔王「好きにしろ」

獣王「それよりモ、魔王サマ。かかってくる者がいないのなれバ――」


獣王「是非とモ。1戦、お相手願いたイ」グルル…

魔王「……怪我などしてくれるなよ」クス

110 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/10/25(日) 06:09:36.22 ID:6LNCYEUg0

魔王にとって、それは単なる時間つぶしだった。

庭先だけでは狭いのか、太鼓橋の向こうまで駆け、嬉しげに尾を立てている獣と
魔力による弾撃でそれを決して近づけさせぬ魔王。

微笑ましくじゃれ合うかのように声を掛け合ってはいる二人だが
その一撃・一蹴のどれもが、粗く地面を削っては破裂している。

その様子の狂気さを見て、蒼い顔をした臣下がまた一人去っていった。


そうして日没も近づく頃になり、ようやく魔王殿は静けさを取り戻した。
その場に残った者の数は、元居た半分ほど。

充分に翻弄された獣王は、近づく事もできぬ程に強い主人に満足したらしい。
疲れて床に伏せた獣王。
その腹元にもたれかかるように座った魔王が、笑っていた。


魔王「神界を、堕とすぞ」ニヤリ

魔王「来たいやつだけ、来るが良い――」



近衛(……自分の無力さなど…とうに、わかっていたというのに…)グッ



近衛(天使殿――)
111 : ◆OkIOr5cb.o [sage saga]:2015/10/25(日) 06:14:51.47 ID:6LNCYEUg0
今日はここまでにします。
次回から本気で地の文を減らすことと、投下速度の向上に全力を注ぎたいと思いますね…。



112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/25(日) 12:56:01.64 ID:V1DcPruLo
乙乙
これくらいならあっても構わないと思うけど1の好きなようにどぞ
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/10/26(月) 16:50:22.61 ID:+jMqQ+y60
敵意の天使「くくく、光の御国が魔王如きに滅ぼされる訳がありません。魔王と其の一派はかつてのルシファーとの戦で大敗を喫した事をお忘れになったよう

      だ。それに我々が出るまでもありません。光の力を授かった人間“勇者”がいるのですからね。はっはははははは!」
114 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/11/11(水) 13:53:48.07 ID:7otrRdBQ0

::::::::::::::::::::::

本殿・最奥の間


近衛「……」


ちらちらと蜀台の炎が揺れていた
その灯火が自らの影を映し出すのを気にして、そっと掌で覆い隠す。


天使「近衛様…? あの、如何なされましたか…?」

近衛「……」


近衛と天使の、二人だけの密会。
それは月日と共に頻度を増し、既に毎夜の事になっている。
魔王が神界との戦争を口にしてから先は、滞在時間も長くなっていた。

115 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/11/11(水) 13:54:39.51 ID:7otrRdBQ0

天使「近衛様…。戦争の事を、自責していらっしゃるのですね…?」

近衛「天使殿を逃がすことも叶わず、それどころかその故郷を無くそうというのです。
魔王陛下をお止めすることも出来ない自分の無力さを、ただ恥じるばかりしかない」

天使「神様と戦争だなんて…私には、どうなるかの考えにすら及びません」

近衛「陛下は、本当に強い方です。神界を堕とすというのもただの酔狂ではなく、本気で可能だとお考えでいらっしゃる」

天使「そう、なのですか…」

近衛「…天使殿は、凄いですね。最初に出会ったときは、僅かな事にも混乱していらっしゃったのに。今は取り乱す事なく話を聞いておられる」

近衛「芯の強さを、お持ちなのだとおもいます。自分は見習わなくてはなりませんね」


少しの間、近衛の瞳をみつめた天使は
悲しげに視線を落とすと小さく首を横に振った。

116 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/11/11(水) 13:55:25.23 ID:7otrRdBQ0

天使「…違うんです。私はただ、本当に考えが及ばないだけ…。きっと、何も理解しようとしていないだけなのです」

近衛「理解しようとしていない…?」

天使「現実味がないのです。私はそこで生まれて…神様の守護の下、生きて参りました」

天使「争いなどとは無縁の理想郷。そこが戦場になるなど、想像ができないのです。考える事すらも恐ろしくて、出来ないだけなのです…」


近衛「…申し訳ない、浅慮な発言でした。気丈でいられる訳などありもしないのに…」

天使「近衛様。 私は…神界は、どうなると思われますか?」

近衛「それは――」

天使「教えてくださいませ。自らで考えられないのであれば、私はせめて知る努力をしなければなりません」


しばしの沈黙
悩んだ末に、近衛は小さく呟いた。


117 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/11/11(水) 13:55:53.95 ID:7otrRdBQ0

近衛「神は、陛下の事を侮っておられる。だけれど自分には、あの魔王陛下が負ける未来を想像することが出来ない」

天使「え…?」

近衛「神界は堕とされる。目立った者は殺され、一部の運のよい者は捕虜のように扱われるだろう。天地はなくなり、球のごとくに閉ざされた世界が創られる…」


天使「え…? お、お待ちください近衛様。一体何故、近衛様はそのような…」

近衛「……申し訳ない。分かりづらいとは思いますが、それが自分の予想する行く末なのです」

天使「そ、そうではなく――」


神妙な顔つきをしていた近衛が、眉はひそめたまま、ふと口元だけで微笑んだ。
苦悩のなかで、せめて天使が少しでも心安らぐようにと振り絞った笑顔。


近衛「自分が傍にいます。例えどのようになっても…災厄を祓うことなど出来ずとも。天使殿の傍に、必ず居ます」

天使「近衛様……」

118 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/11/11(水) 13:57:51.62 ID:7otrRdBQ0

天使は、このまま近衛が泣き出してしまうのではないかと思った。
『辛い、苦しい、だけれど仕方ないのだ』と、諦めたような表情で微笑み、泣くのではないかと。

だから、心もとなく胸元で握られていたその掌を
近衛に向かって差し出さずにはいられなかった。


だけれど、その掌は届かない。


結界に阻まれて、御簾の手前で止まってしまった小さな掌。
それを見て、近衛は愛しく思った。深く一呼吸し、感情を整える事が出来た。


近衛「最善は尽くします。今の自分にお約束できるのはそれだけ。…どうかお許し願いたい」


近衛はそのまま拳を床に付き、頭を下げた。

119 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/11/11(水) 14:00:33.15 ID:7otrRdBQ0

天使「……」


天使には、最善が何かも、近衛の約束をどう受け取ればいいのかもわからない。

わかるのは、目の前の人物が優しくひたむきであるという事と
そんな彼を愛しく思う、自分の不謹慎な想いの確かさだけだった。


天使「でしたら私も許しを乞い、願ってよいでしょうか」

近衛「…何をでしょうか」


天使「私が近衛様のご無事をお祈りすることを」

近衛「天使殿……」

天使「魔王の右腕であると知っていて、それでも――」



どうか、貴方にも無事で居てほしい。
そんな願いを掛けることを、神様は許してくださるでしょうか。



胸が痛んで、最後まで言葉にする事が出来なかった。
必死に微笑んで、ぽろぽろと零れる涙を その唇の端で受け止めるのが精一杯で。


120 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/11/11(水) 14:06:13.04 ID:7otrRdBQ0

近衛「天使殿――」

天使「近衛様… 近衛様、近衛様……っ」


結界の御簾越しに、掌を重ね合わせる二人。
ちらちらと揺れる蜀台の灯火が、壁に二人の影を映し出している。




魔王「…………」


その影は、まるで本人達に代わって手を重ねているようで。
叶わない口づけを交わし、抱きしめあっているようにも見えて―― 



ふたつの影が離れるまで、
魔王は息を殺したまま、その影の揺らめきから目を離せずにいた。


121 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/11(水) 15:03:43.95 ID:2QCybpLPO
乙乙
近衛が心配だ
122 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/11(水) 17:31:34.28 ID:COTGH1w2O
魔王にNTR癖があったとは
123 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/11/11(水) 21:07:34.01 ID:Mr/rIwJSO
そろそろ近衛をころそう
124 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/12/09(水) 11:11:37.57 ID:IewOJk0a0

―――――――――――――――――――――――――

翌朝・早朝
本殿―東の社殿(近衛の社殿)


魔王がトン、と階を上る音を聞いて、近衛は驚いたように顔を上げた。
自室で刀の手入れをしている最中、少し没頭しすぎていたようだった。


魔王「仕度を整えていたか。感心な事だな」

近衛「これは、魔王陛下。申し訳ありません、こちらではお迎えの準備が…」

魔王「構わない、お前の社殿だ。天使の元へ行ったのだが、珍しくまだ眠っていたものでな」


昨夜は少し夜更けまで長居をしすぎた。
泣きつかれて、少し深くお休みなのだろうと近衛は心の中で察する。


魔王「なのでついでにお前の様子を見にきたまで。長居はしない、支度も続けていて良い」

近衛「左様でございましたか。では、どうぞ奥へ」

125 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/12/09(水) 11:12:15.04 ID:IewOJk0a0

魔王を社殿の奥へと通し、最低限の居支度を整えようとする近衛。
それを軽く手で制し、扇でス、と刀を示す。


近衛(構わずに続けていろ、ということか)


魔王は奔放で人を振り回しもするが、その奔放さは時に人の労を減らす事もある。
近衛は魔王の横柄な態度の反面で垣間見える、そういった行動を心地よく思っていた。


魔王「近衛、その刀で行くつもりか」

近衛「はい。この刀は魔王様より拝借しているものでございます。戦に相応しき――」

魔王「戦うつもりがないのか。それとも、舐めているのか?」

近衛「……そのような事は」


決して舐めているわけではない。この刀には、何の落ち度もない。
だが、魔王の言わんとしている事はすぐにわかった。


魔王「自分の武器を使え。お前にとって用立たない“刀”に何の意味がある」

126 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/12/09(水) 11:13:11.35 ID:IewOJk0a0

近衛「用立たないとまで言われるのは、少々堪えますね」

魔王「クク。お前の事だ、律儀に仕舞いこんでおるのだろう? 引っ張り出してやろうか」

近衛「……いえ、お手を煩わせるわけには参りません。ですが、あの武器は…」

魔王「構わないさ。衣装も全て自分の物を出せ。一番“戦闘”に相応しい物を用いるべきだ」


魔王のどこかおもしろがるような表情を見て、近衛は抵抗を諦めた。
社殿の奥より大き目の駕籠を、ズリと引き出し、埃を払って蓋を開ける。


魔王「ふむ、久しく見た。虫食いなどあっては恥だぞ、着てみるがいい」

近衛「いっそ尻にでも穴が開いていれば、着ずに済むでしょうか」

魔王「くくく、女房の数人にでも繕わせるさ。大きな穴の開いていない事を祈れ」


房を出て着替えようとしたが、構わぬと制された。
構って欲しいのは自分だとも言えず、苦笑してその場で着替える。


魔王「異国の狩り衣姿。やはりなかなかに似合っているぞ? くくく」

127 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/12/09(水) 11:15:47.15 ID:IewOJk0a0

近衛「ですがベルトの締め方すらも怪しいです。それに足回りが少し窮屈に感じます」

魔王「支障があるのか」

近衛「いえ、これまでは袴でしたから。久しぶりのジャケットもパンツも着慣れぬというだけでしょう」

魔王「では、そちらはどうだ?」

近衛「これは……」


腰元に下げたのは、小さなナイフホルダー。そこからナイフを引き抜いた。
グリップには刀のそれを倣って、木綿と白絹を混ぜた糸を軽く巻いた。
もともとの握り手は、今となっては感触が悪くすら感じられたのだ。


近衛(それに……懐かしすぎるグリップの感触は、忌まわしい記憶も思い出させてしまう)


魔王「振れそうか?」

128 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/12/09(水) 11:16:17.88 ID:IewOJk0a0

近衛「どうでしょう。こちらに来てから、ようやくこの“剣”の使い方を知ったものの、仕舞いぱなしですので」

魔王「まさか今度は“刀に慣れてしまったので、今度は剣の背と腹を間違えそうです”などとはいうまい?」

近衛「あまりからかわないでください、流石にそんな事はありません。それにまず…」


刀とは違い、このナイフには背などない。
強度を求めて、太く厚く造られている、戦闘特化のナイフなのだから。

グリップを握り締め、片手を添えて顔の側近くに構える。


近衛「……刀を見慣れてしまうと、どうにもこれが不恰好な気がいたします」

魔王「いつぞやは、得意げに振っていたように見えたが」クク

近衛「お恥ずかしい。あの頃はこれのみを誇りとしていたので…。ナイフ技以上に自分を装飾できるものはないとまで思っておりました」

魔王「ほう?」

近衛「……実際、装飾に過ぎませんでしたが」

129 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/12/09(水) 11:18:11.58 ID:IewOJk0a0

自嘲気味に呟きつつも、構えを解かない近衛。
ずりと足を引き、構えた姿勢のまま重心のズレをゆっくりと直していく。


魔王「装飾では困るな。それでは刀を持たせようと剣を持たせようと変わらぬでは無いか。用立たなさを比べても仕方ない」

近衛「そうですね。ですがこちらのほうが刀よりは扱いやすい。きっと剪定鋏程度には使えます」

魔王「く、くくくくく。鋏か、良いな。ではあの庭の木などを倒して見せよ」

近衛「かしこまりました」


ビュッーー

一際腰を低く下げたと思った直後、近衛は駆けた。
木に衝突するほどの勢いで突進し、直前で踵を返す。そして木の横に回りこみ――
打ち込むようにナイフを突き出した。

その突き出す瞬間、ナイフの刃は 銀に輝く大剣へと姿を変えた。

130 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/12/09(水) 11:20:52.16 ID:IewOJk0a0

魔王ほどの目がなければ、それはなんとおかしな行動に見えただろうか。

しゃがんで消えたと思った瞬間に、ズシャと音がして。
どこからか取り出した大剣で、木を横から突き射しているのだから。

木に突き刺さる剣のグリップは握ったまま、近衛は一言だけ感想を述べた。


近衛「まったくもって使い勝手の悪いおかしな武器でございます」

魔王「放つと同時に、本来以上の威力でもって貫き、切り裂く。便利な鋏ではないか」クク


大剣は抜かれると同時にナイフへと姿を戻す。
その様子は、まるで手妻師の絡繰道具のようで、どこか滑稽でもあった。

魔王は試し斬りに満足げに笑い、扇で続けよと示す。


刀による鍛錬を繰り返したおかげか、脚力も腕力も敏捷性も増している。
刀を握っていたこの数年は背と腹を意識するために、抜くも払うも練習し、鍛えた。


近衛(ナイフだけを武器としていた頃よりも、手首の返しや腕の振りが楽な気がする)

131 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/12/09(水) 11:23:01.10 ID:IewOJk0a0

メシメシと音を立てて折れようとしている木に裏から回り込み、もう一手、刺し込む。
刺し込んだ勢いで払い、手首を返してその下にも一撃。

そのまま、握りを滑らせるように持ち替えて、振り上げて切り裂く。
振り上げて切り裂く勢いを利用して、そのまま後方へと高く跳ね退き……


魔王「刀を振るには、まだまだ大味で。技も足りず未熟であったが――」


ズバン!!!!!
振り上げたナイフはそのまま投擲され、大剣は 砕け落ちる木と大地に突き刺さった。

魔王「そちらは、見事だ」


パチパチと、手を合わせ鳴らす魔王。
その視線の先にあるのは小さなナイフ。

だが振った瞬間に大剣と化すそれは、いかに扱えど暴力的でしかない。


魔王「く、くくく。なんと無粋で色気のない武器。持ち主とよく似ている」

近衛「笑わないでください、陛下。…それに自分はここまで酷くないと思いたいです」

132 : ◆OkIOr5cb.o [saga]:2015/12/09(水) 11:24:09.81 ID:IewOJk0a0

心底愉快そうに笑ったままの魔王を横目に、近衛はふぅと一息つく。
そして気が緩んだのか、つい刀と同じようにホルダーの淵に手を添えてナイフを収めてしまった。


近衛「つっ…」


刀とは違い背は無く、柄に近づくほどに太さを増すナイフ。
そんなものを勢いよく差し入れたせいで、あやうく親指を切断しかけるほどの傷を負ってしまった。


魔王「ははははははは! なんと間抜けな! お前の仕度はまず、それと戯れて慣れることだな!」

近衛「その方がよさそうですね…。これではあまりにも情けないですから」


止血を試みたところで、そうは止まらない。
魔力による治癒魔法が必要だ。至急で手当てを頼まなければならないだろう。

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