他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
BBS2ch
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
更新
検索
全部
最新50
魔王「死ぬまで、お前を離さない」 天使「やめ、て」
Check
Tweet
233 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:28:16.30 ID:zUoOI/kM0
近衛「自分の持っているこのナイフ…ご存知の通り、衝撃の段階で大剣へと姿を変えるものです。これが大剣の状態になる時、浄気が動くそうなのです」
亀姫「……浄気を用いて作用するのなら、それは神界からもたらされたものに違いないと判断なされたのね」
近衛「はい。与えられた時の状況に強い光があった事なども含め、陛下はそう確信されていました」
亀姫「わかりましたわ。陛下が確信なさったのなら、それは間違いのない事でしょう」
溜飲を下げたような亀姫の口ぶりに、近衛も一息をついた。
誤解が生まれないように正確に質問に答えるのは、なかなかに緊張を伴う。
確認作業を終えた亀姫が続けて何かを考えこんだので、近衛は黙ったまま本を手にとり、パラリパラリとページをめくりながら待った。
亀姫「……私達はひとつ見誤っていた可能性がありますわ」
近衛「見誤った? 何をですか」
亀姫「……貴方はいろいろとおかしいと思いませんでしたの?」
近衛「すみません。お話の意図が…」
234 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:29:04.06 ID:zUoOI/kM0
亀姫「今回の神界戦争…陛下は思いつきだなんて仰っていられましたけど、陛下の中では以前よりお覚悟なさっていた事案なのでは、と」
近衛「! どういう事です」
亀姫「この戦争…仕掛けたのは陛下ではなく、神の方だったという考え方ですわ」
近衛「亀姫殿。どうぞ詳しくお考えをお聞かせください」
亀姫は扇を広げて口元へ運ぶ。
どこから話したものか、と 思考を巻き戻しているようだった。
亀姫「……この戦争を陛下が口になさった時、私自身も驚いて陛下をご無体で不用意だと責めてしまいましたけれど…… 陛下は本来、そのような方ではありませんわ」
近衛「戦争を決意したきっかけ…ですか。確かに軽率にも感じますが、それは天使を強くお望みになられた衝動ゆえなのでは?」
亀姫「天使が手元に居るにも関わらず、泣き暮らしているのに辟易したから天を滅ぼし帰る場所を無くすだなんて……いくらなんでも浅慮すぎるかと」
近衛「…確かに、普通に考えれば余計に泣き濡れて心を閉ざすのは目に見えていますね…」
亀姫「あの方は思慮深く察しが深い方ですわ。天を滅ぼし、天使の帰る場所を無くすことで“現状を変える別の何か”が得られると考えるべきでしょう」
近衛「……別の何か…」
亀姫「私にも具体的にはわかりませんわ。ですがおそらくソチラが本当に戦争を決意したきっかけかと」
近衛「決意したきっかけ…。では、戦争自体はいつごろに仕掛けられていたと?」
亀姫「そうね……。近衛が、勇者として神に選ばれた時…じゃないかしら」
近衛「!」
235 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:29:41.48 ID:zUoOI/kM0
亀姫「単純明快よね。神が“勇者”を作る理由は、どう考えても世を正すためですもの」
近衛「そう…そう、ですね。至極当然です。神は、自分に魔王陛下を討たせるつもりだったに違いありません」
亀姫「あら。そんなに簡単に納得してしまうの?」
近衛「納得などできませんが、それが一番しっくりくるでしょう…ッ」
亀姫「……」
近衛「自分は魔など教えて貰わなかった。魔を滅ぼせ、という指示もなかった。魔に立ち向かう方法も知らず、危うくただニンゲンとして滅亡するだけでした…!」
近衛「神のやり方は、あまりに雑すぎる!! 魔のことを侮りすぎていて…あまりにニンゲンに任せすぎていて…そんな投げやりなやりかた、とても納得などできません!!」
亀姫「いいえ。神からすると“それでよかった”のよ」
近衛「!!?」
亀姫「……神は地表を守るものだと言われているわ。だから地表を魔が討てば……魔を全力で攻撃するだけの大義名分が神は得られる」
近衛「な……では、地表を攻撃させるために、自分は勇者の啓示を授かったのですか!?」
亀姫「……それじゃ矛盾が生まれるわ。守る役割なのに、“攻撃させる”なんてお粗末があってはならないはず」
236 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:30:07.37 ID:zUoOI/kM0
亀姫「“勇者を作ったのは、地表の安寧の象徴にするため。決して魔をどうこうしようとした訳ではない”……ってとこかしらね」
近衛「……? 自分は、魔王陛下を討つためではなく… ニンゲン世界の平和の為に勇者になった、と?」
亀姫「ええ。だって貴方、先ほど自分で言ったじゃない。滅ぼせとも言われてないし、戦い方も知らなかった、と」
近衛「……? それは、そうですが」
亀姫「そもそも魔王と地表で戦争させて討とうというなら、近衛などを選ばないんじゃないかしら。ましてや魔の存在すら教えないなんて…私からするとありえないですわ」
近衛「…………それは…そう、言われてしまうと。確かに何故自分が選ばれたのかはわかっていませんが…」
亀姫「貴方は…武器にされたのではなく、贄にされたんじゃないかしら」
近衛「ッ! どういう意味ですか!?」
亀姫「大人しく従順。正義感が強く、だけど強すぎる武力は持たない。あくまで“地表の世直しの為に選ばれた者”としてソレらしい要素を持っていた近衛を、“勇者”に仕立てる…」
亀姫「魔国は古い迷信などを信じ、“世直しの為に選ばれただけの善たる若者”を、“魔を滅ぼしに来る勇者”と思い込んで一方的に討ち、ニンゲンを滅ぼす……」
近衛「……あ。え…? 自分は…魔王陛下に救われたからこそ神を恨んだが… そもそもは、どちらが悪いのだ…?」
237 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:30:53.27 ID:zUoOI/kM0
亀姫「……もし、ニンゲンが本当に魔に滅ぼされて…。その後で神が、“平和な世を目指す第一歩だった。独善的で横暴な魔は許せない”と魔に制裁を与え、ニンゲンの死を悼んだなら……近衛はどう思ったかしら?」
近衛「……ひどく…魔を、恨んでいた…? 憎んでいたかもしれない…」
亀姫「そう。それが“神の望んだシナリオ”よ」
近衛「!」
亀姫「いつか魔を滅ぼす時の為に用意された、神が絶対正義である為の免罪符。貴方はそのひとつだった。雑どころか、綿密に練られていたと考えるべきよ」
近衛「そんな“言い訳”をする為に、ニンゲンは滅ぼされるハズだった……?」
亀姫「天と魔の接触は、悲惨な戦禍を招く愚かしい禁忌ですわ。神から直接手を出せば、それは後世に汚点として残ってしまう」
亀姫「天が絶対の美点である為にも、誰しもが納得して賛同するだけの魔を討つ理由が必要でしたのよ」
238 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:31:39.05 ID:zUoOI/kM0
近衛「……っ そうか、この場で本を書いていた彼もまた、その駒の一人ということか。神に窮地を助けられた、信仰心の厚い小僧……」
亀姫「ええ、そうでしょうね。“神はニンゲンを救おうと努力していた”と語る、生き証人。都合良く後世に残る“神の偉業を讃える伝記”の作成者の役割を与えられたのですわ」
近衛「………そんな。そんな者の為に、彼はどれほどの恐怖を味わわされたというのか…」
亀姫「いいえ、間違ってはいけないわ。現段階では、あくまで“彼に恐怖を与えたのは魔で、彼に救いを与えたのが天”なのよ」
近衛「〜〜〜〜ッ」
亀姫「……先代陛下…今の院は賢王と名高い方でしたけど、伝承などを受けて勇者討伐を決めたのは、“恐れを持たず、躊躇いなく危険を排除する”という愚行でしたわね…」
近衛「……ッ いいえ! いいえ、院はそのような愚行を犯してはおりません!」
亀姫「え?」
近衛「ニンゲンは生きています! 現魔王陛下によって、魔からも天からも干渉を受けない場所に独立して、今も生き続けているのです!」
亀姫「そう…でしたの? あ、そういえば確かに以前、言っていましたわね…。私はてっきり、近衛のように数人を連れ帰ったという程度なのかと思っていましたわ」
239 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:32:27.56 ID:zUoOI/kM0
近衛「天と地に挟まれた地表を離れ、自立させてくださったのが魔王陛下です! だからこそ自分は魔王陛下に従っている…!」
近衛「院も陛下も悪行など働いていない! 踏みとどまり、逆に永遠に守ってくださっているのです!」
亀姫「………そう…。そうでしたの。これでようやく繋がりましたわ」
近衛「だから、現段階では神の方が誤解されるような悪行を働いただけで――」
亀姫「ええ。だから、天使が送り込まれたのよ」
近衛「な……?!」
亀姫「……嵌めようとしたら、魔が善行を行ってしまった。悪事に制裁を与えるのなら、善行には褒賞を与えねばならないのよ。神が体裁を守るためにね」
近衛「……天使殿が、褒賞…?」
亀姫「無力で儚いだけの幼い天使。恐らく役割は“ただひたすらに和平だけを望む者”といった所ね」
近衛「和平…。善行をした魔の手を、神が取ろうとした…ということですか?」
亀姫「ええ。ですけれど、これももちろん、そういうシナリオを新たに用意した、という意味よ」
亀姫「いきなり干渉する事は出来ない。けれど、善き行いをするのであれば、魔と友好的に繋がり、平和を築けるのではないか」
亀姫「そんな第一歩が踏み出せるのかどうか下見をしようと、無害な者に魔を見せて反応を確かめようと思った矢先に――」
近衛「“事故で、天使が魔に落ちてしまった”……?」
亀姫「ふふ。近衛もわかってきましたわね。もちろん事故は故意に誘発されたものでしょうけれど」
240 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:32:58.97 ID:zUoOI/kM0
近衛「……天使殿は、自分が落ちてしまったが故にこの戦争が起きたのだと強くご自身を責めていらしたというのに……」
亀姫「ええ。そんな人物だからこそ“役割”に選ばれたのですわ」
近衛「………ッ!」
亀姫「そして……神は、天使が魔に殺されてしまうことを期待していたはずですわ」
近衛「そんな!!」
亀姫「無力で平和的な事故の被害者を、天の者であるという理由ひとつで 魔の者が嬲り、犯し、傷めつける……」
亀姫「そんな“悲惨な事態”が起こる事を期待していたのですわ。厳しい制裁を与えるに相応しい、大義名分のために」
近衛「ーーっ! 〜〜〜〜ッ……。っぐ……」
亀姫「だけれど、陛下はそれをなさらなかったし許さなかった。近衛にしたのと同じように、天使を守り、寵愛なさった。天使を天に戻すという“神との接触”もせず、ただ手元で守るだけ……」
241 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:33:29.40 ID:zUoOI/kM0
亀姫は寂しそうに呟いた。
魔王が天使に寄せていた思いは、神との衝突という危険回避のためだけではないのは明白だ。
こうなっては愛しい思い人が天使を愛するという行為を、愚行と責めることもできない。
天使に向けられた魔王の思いは…めぐりめぐって、薄汚い策略から魔国の民を守っているのだから。
亀姫がそんなやり場の無い憂鬱に胸を痛めた時、近衛が横で唐突に笑い出した。
穏やかな近衛らしからぬ表情で、皮肉そうに口元をゆがめて神をあざ笑っている。
近衛「ふっ。はは、はははは! さぞや神は悔しい思いをしたでしょうね!」
亀姫「……どうかしらね。それはわからないわ」
近衛「そんな思いのひとつくらいしてもらわなければ、自分も天使も、この小坊主も、惨めすぎるじゃないですか!!!」
当り散らすような強い語調。
近衛の目は冷静さを失い、強い怒りが浮かんでいた。
242 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:34:09.24 ID:zUoOI/kM0
亀姫「落ち着きなさい。…私にだって気持ちは理解できるわ。とても許されるものではないもの……」
亀姫はそんな近衛の手を取り、怪我をしているわけでもない近衛に治癒呪文を与えた。
暖かな魔力が流れ込む様子そのものに、近衛は僅かに冷静さを取り戻す。
そうして、気づいた。
亀姫の手が、か細く震えていることに。指先が血の気を失い、冷え切っていることに。
近衛「…! 亀姫様………」
亀姫「ふふ。おぞましい。考えが及ばないほどに、根深いおぞましさですの…。ですが私は亀姫。どれほどおぞましいものを見せ付けられようと、血の道で倒れるような弱さは決して見せませんわ」
近衛「……………」
血の道で倒れる…つまり、貧血を起こして失神しそうなのをこらえているということだ。
それだけの恐怖の中で、冷静に頭をめぐらせて考えていた亀姫。
近衛はみっともなく感情に流されて激昂してしまった自分を諌め
亀姫の手を握り返すようにして覆った。
亀姫「……陛下がこの戦争を始めたのは“次の手として差し出される、まだ見ぬ憐れなもの”のため…というのも、あるかもしれませんわね」
243 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:35:33.08 ID:zUoOI/kM0
亀姫は愛し子の優しさを褒めるように微笑んで、静かに会話を続けた。
その微笑が、近衛に向けられているのか魔王に向けられているのかわからない。
だけれど近衛は黙ってそれを見つめ、亀姫の手を温めながら耳を傾ける。
亀姫「いくらこちらが守り続けても、憐れな弾は撃たれ続けるのに変わらない…」
亀姫「憐れな近衛は、陛下に救われて忠実な家臣になった。――本当ならば自由に生きていたのに」
亀姫「憐れな天使は、陛下に救われながらも永遠に怯え暮らす羽目になった。――そんな必要はどこにもなかったのに」
近衛「あ………まさか、陛下は……」
亀姫「神がそんな状況を作る元々の理由は……魔王陛下に起因しますわ。陛下が魔王であるというそれだけで、全ての惨事は生み出されますのよ」
近衛「!!! ………陛下がご自身の責を感じる必要などありませぬ…ッ!」
思わずまた昂ぶってしまいそうな感情をどうにか押さえ込みながら、
近衛は苦々しく魔王を擁護した。
亀姫「『悪を悪と思わず、善を善と思わず』。この魔王の心得……貴方もお聞きになったでしょう?」
近衛「…ええ…。 ですが今、それが何か…?」
亀姫「あの状況で、そんな事を口にされたのですもの。陛下ご自身がその心得を誰よりも意識していたのは明白ですわね」
244 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:36:10.96 ID:zUoOI/kM0
近衛「あれは…… どういう意味なのでしょうね…」
亀姫「ふふ。そのままの意味ですわ。『悪い者や悪い行い』が“悪”だと思ってはいけない。逆もまた然り。……それだけの言葉」
近衛「……?」
亀姫「鈍い子ねぇ。『何をしようと魔王が悪で、神が善になるのだと思っておけ』って話ですわ」
近衛「なっ」
亀姫「それを心得ておかないと、魔王なんてやっていけない。だからこその魔王の心得」
亀姫「陛下が魔王である以上、陛下ご自身がいかような存在であっても『他者から悪と思われる』覚悟をしていなくてはいけない…」
亀姫「今回のように策略に落とされても、いちいち弁明など出来ると思ってたらやっていけない。出来ると思うな、っていう心得ですわ」
近衛「そんな……そんな不健康な物の考え方をしていては、まともに生きてなどいけません」
亀姫「だけれど事実なのよ。だからこそあらかじめ心得ておくことがとても重要なの…。今回も、きっと陛下はそれを何度もご自身に言い聞かせていたんだわ」
近衛「くっ…」
245 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:36:36.77 ID:zUoOI/kM0
亀姫「陛下は…とてもお優しくて思慮深い方よ。だからこそそれを表には出さない」
亀姫「誰かにとって、優しくされていた相手が悪なのだと思い知らされたら……負う傷の深さが増すだけですものね」
近衛「最初から乱暴で傲慢な相手なら… 乱暴で傲慢な扱いをされたと感じた時でも、それ以上に傷つかなくて済む、と…?」
亀姫「……信頼や忠誠をした相手に裏切られたら…悲しみという傷が増えるでしょう?」
近衛「………だからこそ…陛下はこの戦争の前に、忠誠を棄てろだなんて仰っていたのか…?」
亀姫「この戦争、予め神が望んで陛下に仕掛けさせたものだったとしたら……神は陛下を全力で悪に仕立て上げるでしょうからね」
近衛「………陛下……」
全ては推測に過ぎない。
だけれど、二人はそれぞれ確かに強い思いをもって魔王を慕っている。
推測に過ぎなかったとしても、その可能性があるというだけで充分なのだ。
充分すぎるほどに胸は苦しく、苦々しい思いを噛み締めてしまう。
発するべき言葉もみつからないまま、二人は黙り込んでしまった。
それから少しの間をおいて… 亀姫がスっと姿勢をただし、顔を上げた。
246 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:37:39.17 ID:zUoOI/kM0
亀姫「……神は弱いわ。必ずや弱さを補うための姑息な手段を用意しているはずよ」
近衛「!」
亀姫「行きましょう、近衛。私達は臣下として……陛下を穢そうとする策謀から、陛下をお守りしなくてはならないはずよ」
近衛も姿勢を正し、深く頷いた。
その時に、近衛の目がテーブルの上におかれた本を捕らえた。
近衛「……王に、穢れあるべからず。陛下の心が穢れないからといって……穢そうとしていい道理などはない!!!」
バシュ……ッ!
本は一閃の元に切り破かれ、紙吹雪となって舞い上がる。
皮肉なほどに美しいそれは
既に見る者も駆け去り居なくなった部屋で 静かに散り落ちていった。
247 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:38:14.93 ID:zUoOI/kM0
―――――――――――――――――――――――
一方、天空宮殿1階
魔王・獣王率いる組――
広々としたエントランスを抜けると、片側にたくさんの扉のついた廊下があった。
おそらく扉の中で待ち構えている兵もいるだろう。
魔王と獣王はその廊下の突き当りまでの距離や扉の数を、視線だけで測る。
魔王「獣王。なるべく派手に行け」
獣王「グルル……。了承しタ」
魔王「くく……始めよう」
魔王が手を前に突き出したのを合図に、獣王が飛び出す。
後方で威嚇していた他の獣族も、流れんばかりの勢いで駆け出した。
獣たちはそれぞれに大声で吠え、壁を蹴破り、ドアをたたきつけ…
様々なものを派手に散らしながら、兵の喉笛に喰らい付いていく。
獣王はその中心でわざとらしく敵に時間を与えて見せつけ、逃げ出すのを許している。
……そうしてそいつが改めて他の兵を引き連れて戻ってくるのを出迎えた。
248 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:38:44.47 ID:zUoOI/kM0
獣王「……キリがなイ。手応えもなイ。面白みもなイ」
あらかた片付き、逃げ出した兵が戻ってくるのを待つだけの状態になると、獣王は魔王の側に戻ってきた。
口内に残った肉片を吐き出しながら獣王は不満を口にする。
魔王はそれを満足そうに笑って聞き入れながら、獣族の内の一匹の毛並みなどを撫でている。
魔王「これを面白いと思えたなら、獣王は魔王にでも破壊神にでもなれるだろうな」
そんな2,3のやりとりを楽しむ間に、追加の兵が走りよってくる足音を聞きつけた。
獣王がグルルと喉を鳴らして警戒したが、魔王はそれを手で制す。
魔王「休憩して良い。一度代わろう」
魔王はジッと廊下の様子を見守っていた。
曲がり角から出てくると思っていたら、その手前にある扉が大きく開け放たれる。
扉そのものを盾に、矢による遠距離攻撃を仕掛けるつもりらしい。
獣王「ちっ。距離を取るとは…獣との戦いに怖じけたか」
魔王「交代しておいたのは正解だったな」クク
249 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:39:22.22 ID:zUoOI/kM0
魔王は扉に隠れる一団の足元に魔力弾を打ち込み、続けざまに斬撃を放った。
宮殿の頑丈そうな床は崩れ落ち、一団の重みを受けて連鎖的に広範囲がガラガラと崩れいく。
扉ですらも、壁ごと崩れては盾の役目など果たしようがない。
轟音に悲鳴、混乱。鼓膜を破りそうなほどの大音量が、床に瓦礫ごと呑み込まれて消えていった。
獣王「……魔王様の攻撃ハ、派手すぎル。我々ニ派手にやれと言われてモ、そんな真似ハ出来なイ」
魔王「方法はやりやすいもので構わない。一網打尽にするとは言っておいただろう?」
獣王「ふム。……だガ天の者を個々に撃つよリ、床を破る方が面白いかモ知れなイ」
魔王「くく…。ああ、面白いぞ」
獣王「しかしやはリ、俺には出来なさそうダ。残念ダが、流石ハ魔王様ダ」
心底残念そうな獣王のつぶやきを聞いて、魔王も心底楽しそうに笑った
笑われて不満げな顔をした獣に、俺は魔王だからな、と声をかける。
獣王は自分の落胆の言葉が、自嘲じみた魔王のセリフへの皮肉になってしまっていた事に気付き、非礼を詫びるべく顔をあげた。
その時に 目の前をひときわ大きな魔力弾が疾っていった。
大穴の向こうの曲がり角にぶち当たった魔力弾は壁を砕いて着弾し…… その奥にいたらしい一団が悲鳴をあげる。
獣王「まダ隠れていたのカ」
250 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/02/23(火) 05:41:00.32 ID:zUoOI/kM0
魔王「先ほどの弓隊との攻防にまぎれて接近したのだろう。顔も見ず撃った件は、許してもらうとしよう」クク
獣王「許して貰う必要ナドないのでハ?」
魔王「いや。あのまま走って来られて、そこの穴に落ちる間抜けを見たりしては、本当に笑い転げてしまいかねないと思ってな。攻撃を急いだ」
獣王「……大恥の中デ死ぬよりはそいつもマシだろウ…。許すどころカ感謝するべきダ」
魔王「恥をかくところだった事も知らずに死んだのだぞ。どちらが良かったかなど比べることは出来ないではないか」
獣王「むむ。それもそうカ。なら……せいぜい自分の死に方を悔やんでくれるナよ。魔王様が回避してくださっタ笑い者の死ヲ、無駄にするナ……と」
獣王が、おそらく死体の転がっているだろう曲がり角の向こうに声を掛ける。
魔王は楽しそうに笑い、それからふとまじめな顔をして、こう言った。
魔王「………あちら側に進むのはやめておこう。引き返して別ルートを行く」
獣王「何故ダ?」
魔王「これで床に血文字で無念などと書かれていたら、お前が本当に笑いそうだからだよ」
獣王「……了承しタ」
二人が軽快に走り去った方向からは、また爆音が響く。
魔王と獣達はそうして宮殿内を次々に駆け巡っていった。
――天空宮殿一階、制圧完了。
251 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/02/23(火) 08:30:37.99 ID:hRKrUwULo
乙かな
252 :
◆OkIOr5cb.o
[saga sage]:2016/02/25(木) 08:52:34.93 ID:lCQpYJWX0
【私信】
すみません、どうにも手が動かず、投下がずいぶんと長引いていています。
ストーリーとしては現在、これで既に半分は超えた、といったところです。
必ず完結までは書き続けますが、時間のお約束が出来ません。
完結したらすぐにhtml依頼をかけますので、お読み頂けるのでしたらそちらをお待ちください。
また「息抜きや気分転換に」と他の方の助言を受け、以下のような短めの話を書いたりもしていました。
僕「彼女が┌(┌^o^)┐←コレになって這い寄ってくる」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1450251016/
魔王「最善の選択肢と、悪魔の望む回答」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1456125267/
下段の魔王の方は現在連日投下中で、次の土曜に投下完結を予定しております。
そんな状況ですが、本作についてはゆっくりと書き進めさせていただきたく思っている旨、ご承知置きください。
投下中の私信、失礼しました。
253 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/02/25(木) 09:44:08.22 ID:mmTz8qBjO
お、ホモォの人やったんか
気長に待つで
254 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/02/25(木) 17:37:49.25 ID:bLF8nBKpo
下のは読んでる
待ってるで
255 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2016/03/21(月) 06:52:54.94 ID:YJiH1jFt0
――――――――――――――――――――――――
空中宮殿・2階
ドゴオオオン………
先ほどから度々に、大きな破壊音が響き渡っている。
音が聞こえる度、近衛と亀姫は目を合わせて宮殿内の調査を急いていったが、あまりの頻回さに近衛はついに苦笑を漏らした。
近衛「陛下は、大分派手にやっているようですね」
亀姫「……そうですわね。陛下はやはり魔力攻撃が中心のご様子。ここに居ても陛下の魔素を感じますわ」
近衛「獣王様もついていますし、神族も弱いものばかりだからそう心配もなさそうとはいえ…神との戦いを前に疲弊なさらないといいのですが」
亀姫「第一に、神族が弱いだなんて本当に信じていいのかしら…?」
近衛「え? ですが魔王陛下も、“神族は戦には向いていない、文化風習として有り得ぬ”と仰っていましたが…」
亀姫「陛下の言葉を疑うわけではありませんのよ。ですが先ほどの話を思い出してくださいまし」
近衛「?」
亀姫「神族が陛下をこの戦争に誘い込んだ側なのだとしたら、必ず勝機を用意しているはずでしょう?」
256 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2016/03/21(月) 06:54:37.09 ID:YJiH1jFt0
近衛「それは、そうですね。…ではやはり何か隠していて、こちらを油断させるつもりでしょうか」
亀姫「あるいは、“無力に甚振られる哀れな状況”を作っているか、ですわね」
近衛「……神の描くシナリオ、ですか」
亀姫「魔王に攻められ、無力にいたぶられ、追い詰められた神……何をやっても許されそうじゃありませんこと?」
近衛「何をやっても……?」
何を想像したわけでもないのに、近衛の背中がゾクリと粟立った。
所詮、神にとってこの世界は簡単に姿を変えさせられるもの。
……神は、自分が思うよりも“大きな事”をするかもしれない。
半歩ほど遅れてついてくる亀姫を視線だけで確認する
彼女になら……具体的に想像もつくのだろうか。聞いてみたい気もするのに、聞けない。
聞けないが、それも当たり前だ。
たかが人間である自分が、神の思考を探るなんて。畏れを抱かぬ方がおかしいのだろう。
ここまできても、やはり自分はただの人間なのだ。
亀姫「ふふ。近衛。ほら、あちらを…」
近衛「?」
257 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2016/03/21(月) 06:57:54.20 ID:YJiH1jFt0
左右に別れた道を、これまで通り左回りに折れた所だった。
亀姫に促され、踵を捻り急停止する
後方の通路の逆端に、積み重なった神族の骸があるのが小さく見えた。
亀姫「あれはおそらく、陛下の交戦の跡ですわ」
近衛「ああ。いつの間にか同じ道に出てしまいましたか…。引き返しますか?」
亀姫「いいえ。陛下はこちらまではいらっしゃらなかったようですから、このまま参りましょう」
近衛「ですが、繋がった道ですから通っていてもおかしくないかと。……何故、そう思われるのです?」
亀姫「簡単ですわ。こちらの道が、綺麗なままだからです」
近衛「あ」
亀姫「あの音もそうですわ。別手に別れた私たちが窮地に陥れば、すぐに陛下の元に逃げていけるように…」
近衛「どこを通って進み、今どこにいるのか…わかるように……?」
ドゴオオオン…
今は、上階から破壊音が響いている。
魔王はそこにいて、待つこともせずに突き進んでいるのだと、否応なしに報せてくれる。
亀姫「大丈夫ですわ、近衛。魔王様が先陣をきっていらっしゃるのですもの…心配無用ですわ」
近衛「はは…顔にでていましたか」
258 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2016/03/21(月) 06:59:49.18 ID:YJiH1jFt0
亀姫「ふふ。それにしても、驚くほどの快進撃ですのね」
近衛「この戦、簡単すぎて怪しい気はするものの、まだろくな調査も出来ていないのに…速すぎて困りますね」
亀姫「陛下は本当に、そんな調査を必要としていらっしゃらないのですわ」
近衛「大掛かりな罠のひとつも疑わないなんて、そんなこと」
亀姫「合ったとしても、どうにかするつもりなのでしょう。陛下は私達に何かを期待などせず…ただ、好きにさせてくださっているだけ」
近衛「見放されているような、守られているような…なんだか複雑ですね」
亀姫「ふふ。守りは私の専売特許ですのよ。あまり守られてばかりなのは悔しいですわ」
近衛「……亀姫様の語る陛下のお姿は、自分の見えていた陛下の姿と違いすぎて…少し、戸惑います」
亀姫「私は生まれたときから、陛下のことを見ていますの。年月で言えば竜王様にはかないませんけれど、」クス
近衛「そうでしたか。あの……不躾なことを伺いますが…亀姫様は、もしや陛下のことを…?」
亀姫「……ふふ。神の一族の名を持つ私に望める願いではありませんのよ。口に出すのもおこがましいですわ」
近衛「今は同じ魔族なのでしょう? 陛下はそんな一族の出自の差など…!」
亀姫「それでも、穢すべからず…ですわ。それに私、決して我が一族の名を恥じてはいませんのよ」
亀姫「私は、私の名に代えて。あの方を守ってみせるのですわ」
近衛「……」
駆ける速度を速めた亀姫の背を、近衛は思わず見つめてしまう。
種族の差。想いの強さ。苦しい道を歩む強さ…華奢な身体に込められた想いはどれだけのものなのか。
亀姫の想い。自分の想い。天使の想い。魔王の想い。
この戦にはどれだけの想いが掛かっているのだろうか。
神の想いはわからない。
だけど、もしもそれを弄ぶつもりなら許せない。
近衛(もう。これ以上、駒にされるのはゴメンだ)
近衛の脚にもまた、力が入る。
259 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2016/03/21(月) 07:00:21.41 ID:YJiH1jFt0
――――――――――――――――――――――――――
天空宮殿、某所……
?「ようやく来たか…。ああ、あの偉そうな猫をいよいよ追い詰めてやろう」
?「まったく宮殿中を引っ掻き傷だらけにして…。ああ、なんと傲慢な生き物だろう」
?「聞こえているんだろう?」
?「この神の国中に広がる、愛しき隣人への鎮魂歌が」
?「…わかっててやっているのか。なんと悼ましい」
?「…なんと愚かしいのだ…。だからこそ…私が…。ふ、ふふふ…」
?「この大惨禍……誰の所業だと思っているのやら。おまえはきちりと『事実』を記録してくれよ…? 私が必ずや歴史に残る大偉業へと代えて見せるのだから…」
精霊族「……我が一族の、誇りにかけて。全ての史実は、正しく記録に残しましょう」
?「ふふふ……ふふふふふ……っ 」
260 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2016/03/21(月) 07:01:54.35 ID:YJiH1jFt0
――――――――――――――――――――――
天空宮殿3階――大廊下
通路の真中、外壁につけられた不審な大扉。
左右にあった飾り窓から、反対の位置に立つ塔が見えている。
それからその塔には、こちらと同じ装飾の大扉がついているのも見えた。
亀姫と顔を見合わせ、コクリと頷いた。
――ザァッ!!!
近衛が扉を開けると、強すぎる勢いで外気が流れ込み 亀姫は顔を顰める。
亀姫「あちらの塔への渡り通路だろうとは思いましたが… まさか、完全に落ちているとはね」
近衛「陛下の攻撃で、崩れたのでしょうか」
亀姫「いえ、違うと思いますわ」
亀姫がかがみこみ、扉の奥へ身を乗り出す
崩された渡り廊下に触れると、断面は砂のようにボロボロと崩れていった。
近衛「崩れたのか崩されたのか…ともかく、だいぶ以前からこの状態のようですね」
亀姫「向こうの塔は、ここと同じ高さに扉があって、塔の土台はただの石積み……つまりこの消えた渡り廊下だけが、入り口」
近衛「大昔から使われていない塔とその入り口ってことですか…。そんなものに惑わされて踏み込まなくてよかった」
亀姫「開けたと同時に踏み出していたら、落ちて真っ逆さまでしたわね。押し扉ですのに、よく踏み込まなかったこと」
近衛「大扉を開ける度に死にそうになってますからね、もういい加減に学習しましたよ」
261 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2016/03/21(月) 07:03:20.76 ID:YJiH1jFt0
行きましょう、と近衛が半歩下がると
亀姫は不思議そうに首をかしげた。
近衛「もしあの塔に武器でも隠してあるのならば、多少なりとも利便を図り別の出入り口が用意されているはず。一度降りて、塔へ調べに行かなくては」
亀姫「あら、時間の無駄ではなくて?」
近衛「…まあ確かに、崩れた通路でさえ放置されているのですから、あまり重要なものがあるとは期待できないでしょうが…」
亀姫「バカねぇ。下に出入り口なんて造られるわけがありませんわ」
近衛「え?」
亀姫「神族は、飛べるのですから。もしあの塔に何かあるなら、この通路は故意に落とされたに決まっていますわ」
近衛「っ!!! そうか、神族以外を立ち入らせない為には道を落としてしまうだけでいい…!」
亀姫「少なくとも飛べない者…それこそニンゲンや魔族の大多数は入りにくくなりますわね」
近衛「……通路がない時点で、怪しさも充分ってわけですか」
262 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2016/03/21(月) 07:04:13.60 ID:YJiH1jFt0
亀姫「さて…翼のない私達は、一体どうやって空を飛びましょうか?」
近衛「ふむ…そうですね。ナイフに紐をつけて投げて渡し紐にするとか?」
亀姫「この距離にこれだけ風の強さ。減速して落下…届いたとしても石造りの塔に確実に刺さるとは思えないですわね」
近衛「亀姫様の結界術を足場に転用するというのは可能でしょうか」
亀姫「魔素の結界ですから、浄気を持つものならともかく 私達の身体を弾いて支えるだけの足場にはなりませんわ」
近衛「…ではやはり、いっそ塔の足元から登りますか」
亀姫「近衛、あなた真面目に考えていらっしゃって? 下を覗いたでしょう。塔の足元は大きな堀になってますのよ」
近衛「亀姫様は、泳げないのですか?」
亀姫「あの怪しすぎる堀に飛び込んで泳ぎ渡り、塔へしがみつくの? 私、泳ぎは得意ですけれど嫌な予感しかしませんわ」
近衛「予感……ですか」
亀姫「確かめたかったら堀に入って確認してくださいませ。あれが聖水の堀だったとしても、ニンゲンのあなたなら生き残れるかもしれませんわ」
近衛「聖水…。あの、この石が聖水に浸けて壊れた時点で自分は死ぬんですが…。それならばまだ、結界をお持ちの亀姫様の方がまだ生き残れるかと」
亀姫「聖水の中で保つだけの濃い結界を貼り続けながら、泳いでいって壁を登れとか。案外と鬼畜ですのね、近衛。そんなに私の必死の喘ぎ声が聞きたいのかしら」
近衛「い、いえ。よく知らないものですから…軽率でした、お許しください」
亀姫「案を出せばいいってものではないのよ。真面目に、考えて頂戴」
263 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2016/03/21(月) 07:04:56.69 ID:YJiH1jFt0
近衛「……では。空を飛べる魔族はいませんか」
亀姫「確実な方法ね。飛べる魔族自体はたくさん居ますわ。だけどその多くはハーピーや淫魔などの非戦闘の種族ですの。誰か来ていたかしら……?」
近衛「戦闘向きの、空を飛ぶ一族に心当たりは?」
亀姫「………攻撃力を誇り、空を舞い、戦闘となれば他の追随をゆるさない一族がいらっしゃいますけどね」
近衛「ならば、もちろんその方たちは来ているのでは」
亀姫「いいえ。誰一人として参加されていないはずです。……竜王様の一族ですから」
近衛「………そうですか」
亀姫「せめて朱雀の末裔でもいたら良かったのですけれどねえ…。私達を運べるほどの者は、来ていないのでは」
近衛「……真面目に考えてもいい案になりませんでした。申し訳ありません」
亀姫「うふふ。渡れないし飛べないのであれば………」
亀姫「あとはもう……運を天に任せて、落ちるしかないのでは?」
近衛「………はい?」
悪戯すぎる微笑みが、亀姫の本気を語っていた。
264 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2016/03/21(月) 07:06:13.39 ID:YJiH1jFt0
――――――――――――――――――
天空宮殿7階
ガシャーーン……!!
他のものより大きな翼をもつ神族だったが
魔王が数発の魔力弾を打ち込み、獣王と群れが飛び掛るとあっという間に臥せてしまった。
獣達は群がり、それを踏みつけ噛みちぎり、死を確定させていく。
神族が動かなくなったのを確認してから、魔王は手にしていた刀を鞘に収めた。
結局、あまり刀は使わないままここまできた。そのおかげでかなりの魔素を撒きすぎたらしい。
消耗と疲労を感じた魔王は足を止め、窓を見る。
魔王「 随分と高いな。どれだけ登ったか」
獣王「6つの階ヲ登った所ダ」
魔王「ほう、そんなものを数えていたか」
獣王「外にも居たようなオオきい神族が、各階に一匹ずツ。覚えやすイ」
魔王「 ………それは気づかなかったな」
獣王「少し大きくて印象に残る程度デ、言うほどには強くなかったからナ」
魔王(やはり、何かハメられているな…これだけの場所まで踏み込んでも、手を変えてこないとは…)
獣王「魔王サマ?」
魔王「まあ、いい。まだもうしばらく上かもしれぬが、特に濃い浄気を感じる」
獣王「テッペンに…神が、いル?」
魔王「ああ。……そこを目指して、討つのみだ」
265 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2016/03/21(月) 07:07:20.67 ID:YJiH1jFt0
すみません、スレ保守程度にこれだけです。あまりの停滞なのでsageで。
現在、完結まで一気に書き溜めています。
いつかはともかく、次回で全部投げられるようにがんばりたいです。
266 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/21(月) 09:21:07.81 ID:iIQtmHYho
乙
267 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2016/03/21(月) 13:07:40.53 ID:JGG4Icls0
乙
268 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/22(火) 23:19:47.72 ID:/3/xKQSQo
乙
269 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/03/29(火) 21:56:47.48 ID:uBmckm/Zo
乙乙
270 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/21(木) 19:53:51.15 ID:c3gIQf6jo
保守
271 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2016/04/22(金) 00:03:48.82 ID:XCb4AxA00
今日の日付で保守が…。嬉しい、ありがとう
いっぺんは無理だけど、もう1ヶ月とか投下間隔開けないでイけます。ありがとう
272 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:05:04.64 ID:XCb4AxA00
―――――――――――――――――――
天空宮殿 6階
近衛「落ちるって…こういう事ですか」
近衛と亀姫がいるのは、6階の大廊下
――先ほどまでいた場所とよく似た廊下だ。
亀姫「魔王様が神族を倒しておいてくださったおかげで、あっさりと上階にあがれましたわね」
ここでは魔王による戦闘があったのだろう。
崩れた壁や割れた窓ガラスを脚で蹴りどかし、外を覗き込む。
眼下には、先ほどの塔の屋根が見えた。
273 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:05:36.38 ID:XCb4AxA00
近衛「下に屋根が見えるとはいえ、飛び降りて落下中に飛距離を稼ぐに充分な高度とは思いませんよ…。ただ真下に落ちてしまうのでは?」
亀姫「そうですわね。そして、ここからただ落ちたら、むしろ強く堀にたたきこまれるでしょう。……雲の下まで突き抜けてしまいそう」
近衛「雲の下まで…。せいぜい数十メートルのつもりが実は何百キロの高さだなんて。笑えません。……本当にここから落ちるおつもりですか?」
亀姫「あら、もちろんそのまま落ちたりしませんわ。……翼を持ち、滑空するのです」
近衛「翼…?」
亀姫「ええ。たくさんありますでしょう?」
亀姫が指差した先の通路には、魔王達の倒した神族の骸が点々と転がっていた。
近衛「………まさか…」
亀姫「察してくださって助かりますわ。さ、取っておいでなさい。ああ…首と腕と、胸下は要りませんわ。邪魔ですもの」
あっさりと言ってのけた死体損壊令に、近衛は躊躇する。
……神殺しだけでも罪深く感じたのに、まさかその遺骸を弄ぶ事になるとは。
亀姫「私の分と坊やの分で2体ね。あまり硬直していない、翼の綺麗に残った骸を選んで頂戴。……これなんてどうかしら?」
亀姫が扇で指し示した遺骸は、身体の中央が瓦礫の破片に穿たれている。
壁に打ち付けられて死したのだろう。崩れた身体は壁を背に座り込んでいるように見えた。
大きく広げられたままの翼が、最期の瞬間の衝撃を語っている。
274 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:06:27.66 ID:XCb4AxA00
近衛「―――…」
亀姫「近衛?」
躊躇している場合ではない。
ここは戦場で、自分は魔王の近衛。討った敵の首を刎ねることなど初めてではない。
――拷問にかけ生きたまま耳を刎ねるよりは、余程楽なものだ。
そう自分に言い聞かせて、目を閉じて深呼吸をした。
目を開き、件の死骸に近寄る。
警戒しながら翼に触れてみたが、その身体は既に浄気を失っており、神族というよりは…ただの、鳥の死骸に見えた。
近衛(……鳥…か)
魔王が最初に斬り落とした腕を思い出す。
あの時は、ただの木の枝のように見えた。……ソレに比べれば、これが元生物に見えるだけ正気を保っているのだろう。
ゴジュ…ジュブ…。
ガツッ……グッ、バキャッ、ダンッ。
ナイフは胴体に差し込まれると、一瞬のうちに大剣化して深くまで裂き入った。
その感触を確かめてから、”ゆっくりと” 力を込めて引き下ろし…二分した。
大きな種の入った果実を、割るのによく似ている。
もちろんこれは種ではなく、骨なのだろうが。
275 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:06:54.36 ID:XCb4AxA00
亀姫「……一息に斬り捨てればよいものを。まさか肉斬りの趣味がおありなの?」
多少の嫌悪感を浮かべた様子で、亀姫は問いかけてくる。
誤解をされてはたまらないが、そう見えても仕方ないだろう。近衛は苦笑し、弁解する。
近衛「いえ。こうすれば、“怖ろしく生々しい作業だ”と、吐き気のひとつも催すかと思ったんですよ」
亀姫「おかしなことを。近衛、あなた吐きたかったんですの?」
近衛「…それこそが、この神族への供養になるかと。生死の尊厳を確かめ、彼の死を悼ましく感じるかと。…ですがなんだかんだ言って、容易く斬れてしまいましたね」
亀姫「……はぁ。つまらぬことを仰いますのね。元より私たちが見つけた時点で、これはただの死骸ですわ」
近衛「そうだとしても、彼を斬ることは残酷で冒涜的な行為だと思ったんですが。…ただの、偽善だったようです」
亀姫「悼むべきは死ではなく、生の在り方と失われ方ですわ。戦場で失われた生を悼むなど、却って欺瞞。誇りを穢す行為と知りなさい」
近衛「自分はもともと、戦場の心得など知らぬ弱い人間でしたから。奪われた生を見て悼むのが、人間らしさと思っていましたよ」
亀姫「…そうでしたの。でも今は戦場に生きる魔王の配下でしょう?」
近衛「……ええ、そうでしたね」
276 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:07:34.72 ID:XCb4AxA00
亀姫は近衛の側に近寄り、そっと頬に触れた。
近衛は泣いてはいなかったが、亀姫はそれを拭うような仕草でもって近衛を慰めた。
亀姫「…酷い顔をしていますわ。何を悔やんでいらっしゃるの? 何に戸惑う必要があると?」
近衛「はは……。そんなに、ひどい顔をしていますか?」
亀姫「ええ…」
近衛「…なんでしょうね。神や陛下たちとの力量差を感じるうちに、自分が人間なのだと実感しました…。だからこそ、自分は人間らしくありたかったのかもしれません」
亀姫「お馬鹿な子…。そう心苦しくなるのでしたら、今更ニンゲンらしくあろうとするのはやめてしまえばよいのに…」
近衛「魔族もどきの人間。人間らしさを捨てたところで魔族になれるわけでもなく…。人間らしさを失った自分は、一体何になるのでしょう…?」
亀姫「それは……」
277 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:09:32.37 ID:XCb4AxA00
ザッ――
亀姫の回答を待たず、無表情のままで目の前の骸の首を刎ねた。
形だけの哀悼も、自分を試す為の残虐な行為も、無意味だと実感した。
切り取った翼についた小さな胴体を拾い上げ、検分し、余分を削る。
これくらいなら抱えて滑空するには都合がいい。きっとあの屋根まで届くだろう。
周りを見渡してちょうどよい翼を見つけ、亀姫の分も用意した。
近衛「さあ、行きましょうか」
振り向いた近衛の手に乗せられた、血の滴る肉塊から生えた翼。
それをにこやかに差し出す近衛の姿は、先ほどまで思い悩んでいた者とは思えない。
亀姫「……え、ええ」
近衛が作り笑いの不自然さでも見せていれば――
あるいは僅かにでも恍惚の表情を浮かべていれば、まだ理解もできただろう。
だが、近衛はただ瞬時のうちに様変わりをしたように見える。
どんな残虐な行為よりも、その切り替わりが得体の知れぬ怖ろしさを感じさせた。
先ほどの近衛の疑問には、答えられそうにない。
『ただの半端者になるのですわ』……そう答えれば、近衛は安心したのだろうか。
亀姫(…駄目ですわね。そんなこと、今は白々しくならないように言える気はしませんもの−−)
278 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:10:11.18 ID:XCb4AxA00
――――――――――――――――――
――謎の塔、屋根の上…
……………
………
ビュゥゥ…ザッ!
亀姫「っ、きゃっ!!」
近衛「亀姫様!」
先に屋根の上に降りていた近衛が、滑り落ちてきた亀姫の抱える翼を掴む。
すぐさま反対の手で亀姫の腕を掴み、引き上げた。
亀姫「…っはぁ。助かりましたわ」
近衛「最後の着地で滑るとは……自分も一瞬、気を抜きかけた所でした。無事でよかった」
亀姫「ごめんなさいませ…あまり足元の安定は得意ではありませんの。屋根の上まで届いたなら、転げ倒れて着地するつもりだったのが仇になりましたのよ」
本当は着地の際、近衛に対して僅かに感じてしまった恐怖心を思い出し、動揺して足を滑らせた。
だが、受け止めてくれた近衛は普段どおりの近衛だ。
律儀な仕草で亀姫を屋根の上に座らせ、自らはその足下、滑り止めとなる位置に回ってくれる。
279 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:10:52.16 ID:XCb4AxA00
近衛「それならそうと、何故それを先に………あ、ええと、その。……いえ、その脚では仕方ありませんよね」
叱責するような口調から一転、誤魔化すように苦笑して目を逸らす近衛。
亀姫はようやく自分の着物の裾がひどくはだけていることに気付き、慌てて引き寄せた。
…先ほどの廊下で感じたのは錯覚なのではと思うほど、“いつもの坊や”だった。
危うく死に掛けたこともあり、亀姫はおおきく息を吐いて気を取り直す。
亀姫「……ごめんなさい、不快なものを見せましたわ。もう隠しましたから安心なさって」
近衛「不快だなんて。想像以上に艶かしかったもので、目のやり場に困っただけです」
亀姫「………近衛については、単に適応力が異常なだけだと思うことにしますわ…」
近衛「え?」
亀姫「さ、それより早く中へ」
近衛「あ、待ってください」
亀姫「何ですの? ロープ代わりの布ならきちんとこちらに…」
近衛「いえ。足元に自信がないのでしたら、ロープで外壁を伝い、大扉まで這うのはお辛いでしょう。屋根を破りましょう」
亀姫「この屋根を? 破れますの?」
280 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:11:57.28 ID:XCb4AxA00
近衛は屋根の上を何度か踏み比べて歩き、足元の反響を確かめる。
それから屋根の中腹のあたりで、立ち止まった。
近衛「亀姫、こちらへ。本来ならば、離れて…と言うべきなのでしょうが、少し揺れるでしょうから。…自分にしっかりとしがみついていて下さい」
亀姫「え、ええ。滑り落ちては元も子もありませんものね」
近衛「この屋根、さすがに一撃では厳しいです。三撃は行きますよ……――っ、はぁぁぁっ!!!!」
ダガァァァァン!! がらららっ…
ドカァッ!!! バキバキバキ………
ベキャキャキャキャ……!!!
亀姫「まぁ…。細腕の割りに、意外に力もありますのね」
近衛「刀だったらまず無理です…。このナイフの特徴ゆえですよ」
亀姫「切り裂くことも、穿つことも出来るなんて…剣というのは便利ですわね」
近衛「普通の剣がどうかまでは、保障しませんよ。さて、中の様子は…」
身体ひとつ分ほどの小さな穴ができた。
中を覗き込むと、塔の中は不思議な深い空洞であった。
長い塔の内部は吹き抜けになっており、ちょうど半円の分だけに床がある。
吹き抜けを飛んで階を移動する設計なのだろう。
281 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:12:25.79 ID:XCb4AxA00
足元に飛び出した屋根の梁を穴に掛け、そこから紐を垂らして内部へと降りた。
半円の床の終わり、吹き抜けの始まりの部分に、梯子のようなものを見つける。
飛べない者の為に用意されているのだろうが、実際に使うには粗末過ぎる代物だ。
――実際、朽ちた梯子の所々は段が無くなり、ただの棒になってしまっている。
近衛「自分が先に降ります…1階ずつ互いに待ちながら、順に降りましょう。無理ならばそう仰ってください」
亀姫「心配はご無用ですわ。棒なら…巻きついて降りられますもの」
近衛(…滑り棒…。むしろ自分は待ってもらえるのだろうか)
シュルル…ギシッ、メシ…シュルルル…
亀姫「近衛。底に、何かいますわ」
近衛「あれは…?」
近づくにつれ姿が明瞭になっていく。
ずっぽりと被った薄汚れたローブ。あたりに舞い散った羽と、羽の剝げ落ちた翼……
ある程度の高さまでいくと、近衛は一息に飛び降りた。
ナイフを構えて近づいてみるが、うずくまった姿勢のそれは動かないままだ。
シュルリ、と背後に降りた亀姫の気配を感じたところで、指示を仰ぐ。
282 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:13:39.36 ID:XCb4AxA00
近衛「神族と思われます。…何か聞き出しますか、それとも倒しますか?」
亀姫「……というよりも、既に死んでいるのでは?」
?「生きて…おります……。謀叛の罪を着せられ……ここに、閉じ込められておりました…」
近衛「!!」
亀姫「!」
ゆっくりと顔を上げたのは羽の傷付いた天使だった。
神従者「……ワタシは神従者と申します」
近衛「神従者さん、ですか。ここに閉じ込められていたと……?」
神従者「はい。………あなた方は…見たところ、人間のようですが…?」
亀姫「あら、そう見えて? でも残念ですわね。私も、この子も……魔族ですわ」
近衛(………亀姫様…)
神従者「ああ。そう……魔族、ですか」
亀姫「驚きませんのね」
神従者「そそのかされ、天界を滅ぼしにきたのでしょう?」
近衛「え」
283 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:14:15.24 ID:XCb4AxA00
亀姫「……閉じ込められていた割に、まるで事情を知っているかのごとく当たり前におっしゃいますのね」
神従者「ええ。ワタシは、魔族を逆撫でし天界へ差し向けた罪で、翼を毟られここに投げ捨てられましたから…。魔族が来る可能性を知っていました」
近衛「!! 貴方が……戦争を仕掛けたということですか?!」
神従者「ち、違います! 全ては神のした事…! ワタシはその神の業を着せられたのでございます!」
縋るような目で、自らの無実を訴える神従者。
亀姫を見ると、気の抜けた溜息をついていた。指先を軽く丸め、近衛に構えを解いてよいと示してくる。
隠し武器のひとつもあるかとおもえば、ただの監獄。
神の意図を確証できたのはよい収穫だが、時間の惜しい時に面倒そうな人物に絡んでしまった。
近衛も期待はずれに溜息をつき、目の前で縋っている神族を見下ろした。
敵の敵は味方…とはいかない。だが、斬り捨てるにもあまりに哀れな存在。
亀姫「この神従者。“保険”といったところかしらね」
神従者「ぅ、あぁぁ……っ」
近衛「保険?」
284 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:14:46.60 ID:XCb4AxA00
亀姫「全てを魔族のせいにするシナリオ…だけれど万が一にも失策があっては困る。そうなった場合、“全てを彼の責任にする”という、保険」
近衛「それはつまり、“こちらに裏を読まれて行動されてしまったときの裏の手”ということですよね? そこまでしますか…? 単にこの者が嘘をついて言い逃れしているのでは…」
神従者「…っ! そんな、ワタシは決して嘘など…!」
亀姫「本当に謀反を企てて戦争を起こしたのが彼ならば、私達が乗り込んできた時に、神はまずこの方を私達に差し出して弁明すればよかったのですわ」
神従者「…! そう、そうです! 神がそうしなかったことが、ワタシが嘘をついていない証拠でございます…!」
近衛「……ここに隠しておいて、分が悪くなった場合に出す“罪人代理”ですか」
亀姫「神の分が悪くならなければ、誰にも知らせず殺される…。必要時には生々しい死を演出するために生かされているだけの、死刑囚ですわ」
神従者「………っ。は、い…。もう、生きてまともに口を利くことは無いと、そう思っておりました…」
285 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:15:26.95 ID:XCb4AxA00
近衛「……くそ。この戦争、見えない部分のやりとりが多すぎませんか。ただの斬り殺し合いよりも、タチが悪いように感じます」
亀姫「目に見えるものに惑わされず、見えない真意を読み…そこに対応しなければ勝てません。どのような戦であれ、勝機を得るにはそれくらいの策謀は必要ですわ」
近衛「もしも相手の策を、読み間違えたら…?」
亀姫「嵌められて、掌で踊らされるのですわ」
近衛「……神は本当に、自分達を盤上の駒としか思っていないのか…」
神従者「………そ、それでも…それでも、神の知略に負けてはいけません…っ。神の策に嵌っては、あの子のようになってしまう……っ」
目を見開いたまま顔を覆う神従者は、怯えた様子で身体を震わせながら呟いた。
亀姫「あの子、とは?」
神従者「我が娘…。大事な、一人娘でございました……っ!」
近衛「娘…ですか」
神従者「あ、あの子は…純粋無垢な我が娘は、神に騙され堕とされたのです…っ」
神従者「いえ、今思えば…私の安否を確認する可能性のある娘は、最初から狙われていたのかも…! 怖ろしい…あ、ああああ…っ!」
近衛「堕とされた…? 落ち着いてください。それは一体…」
286 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:18:56.87 ID:XCb4AxA00
亀姫「……近衛。堕ちた天使の娘といえば…もしやあの娘ではなくて?」
近衛「……ではまさか、天使殿の…?」
亀姫は、パラリと扇を僅かに広げ、近衛に口を寄せて囁いた。
口元を隠してそっと告げた意見だったが、近衛は動揺したのか普通の音量で返答してしまい……神従者の耳に、入ってしまった。
神従者「娘を知って…!? 教えてくれ! 教えてください!! 娘は…あの子は今、どうしているのです!? まさか…!!」
近衛「じ、自分の知っている天使の娘の事であれば、大丈夫です」
神従者「! あなた方は魔族…つまり、あの子は魔族に捕まっているのか?! 」
近衛「そ、それはそうですが。ですが天使殿は無事で……」
神従者「それではわからない、ちゃんと答えてくれ!!!」ガシッ
近衛「まっ… あまり近づかないでくださ――…!
亀姫「落ち着き遊ばせ」スッ…
バシッ!!
神従者「ぐっ!」
近衛「ッ」
287 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:19:23.63 ID:XCb4AxA00
亀姫が術を行使すると、神従者と近衛はお互いに跳ね飛ばされるようにして離れた。
結界が二人の間に展開され、無理に引き離したのだ。
亀姫「…落ち着いてくださいまし。あなたがあの天使の父親だとして、今のところ娘の心配は不要ですわ」
神従者「な、何故そう言い切れるのです…!」
亀姫「あの天使でしたら、今となってはこの神界よりもよほど…いいえ、この世界の中でもっとも安全な場所におりますもの」
神従者「なにを… そんな場所が、どこにあると…?」
近衛「………魔国・魔王殿。その中にある魔王陛下の御社殿。そこで誰一人の手出しも許されないまま、守られております」
神従者「――………な…っ」
蒼ざめ、口を閉ざした神従者。
亀姫はパラリと扇を広げ、まっすぐにその目を見つめる。
亀姫「ですが、陛下がこの戦に負ければ、あの娘は魔王殿の中央に取り置かれることになりますわ。陛下の結界も寵愛もなしに、生き延びることは叶わないでしょう」
神従者「ひ…っ」
288 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:20:21.79 ID:XCb4AxA00
亀姫「…私達は、神の策謀を出し抜くための材料をさがしていたところですの…。ねえ、貴方、何かご存知ではなくて?」
神従者「そ、そんな。いくら神に欺かれ恨みを述べようとも、魔族に神を売り渡すなど出来るはずが……!」
近衛「……売り渡すことになるような何かを、ご存知なのですね?」
神従者「!」
亀姫「時間もありませんし、誘導したり拷問にかけて吐かせる真似もできませんの。自分で決めて答えてくださいませんこと?」
亀姫「神と魔王…… どちらが勝つほうが、貴方にとって都合がいいのかしら?」
神従者「そ、れ……は…」
近衛(………)
目を泳がせ、ぶつぶつと懺悔の言葉を繰り返していた神従者。
見限って立ち去ろうとする亀姫を見ると、慌ててその背に縋りついた。
神従者「お、お教えしましょう…。神の策を。私に科せられた罪の仔細を……――ですからっ」
亀姫「……ええ。私たちの陛下なら、必ずや神を討ち、生き残ってくださいますわ」
神従者「ぁ、ぁぁ……」
胸の前で硬直して鬱血するほど堅く組み締められた手は、ガクガクブルブルと震え続けていた。
−−その祈りは、贖罪は、神を裏切る決意の表明にほかならないというのに
289 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:21:46.79 ID:XCb4AxA00
―――――――――――――――――――――――――――
天空宮殿・最上階
――天守閣
ドガシャャアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
それまでと違い、階段のあるべき場所には荘厳に飾り立てられた大扉があった。
見事なステンドグラスがその両扉にあしらわれていたが、
何を描いたものか確認する間もなく獣王が扉を押し開け、無残に床にガラス片が散らばった。
獣王「グルル……」
魔王「………広いな。それに、開けてみるとわかる。この先に――いるようだ」
獣王「先ニ行ク」
魔王「ああ。構わぬが、浄気が強い。無理はするな」
身を低くして、ガラスの散った床を跳躍していく獣の群れ。
魔王は道を譲り、足元に散らばるガラスを眺めていた。
左右に描かれた印象の違うステンドグラス。
ひとつは、おそらく神族…創世主を描いたもの。
そしてもうひとつは、魔族…地獄の化身と呼ばれた初代魔王に見えた。
魔王(……だとすれば、何故、神の間に魔族の姿絵が…?)
290 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:25:04.00 ID:XCb4AxA00
神にとって、魔族とは忌々しいものだろう。
その姿絵を神聖とされる神の間への入り口に飾るものだろうか。
魔王(……たとえば、救世の姿を描いた神に対比させ、地に堕とされる魔族を描くならわかる。だが、先ほど見えたこれは、どちらも同じような立ち姿)
魔王(……ただの悪趣味ならばよいのだが。神族が魔族をどう思っているのかなど…ここにきて想像するのは苦いものがあるな)
ガシャ…ギシ。
砕けた硝子を踏みしめ、魔王は階段を登る。
バサリとマントを広げなおし、腰元の刀を据えなおす。
階段を登りきった先は、宮殿の横幅いっぱいに広がった廊下。
その中央にある大扉の前、左右に広がった獣達が 魔王を待っている。
コツ、コツ、コツ……
グルル……
魔王「ほう。……さすがここまで来ると、漏れ出す浄気が多いな。開けられなかったのか」
獣王「……グルル」
獣王は、僅かに目線をそらして低く唸る。
その様子はつい先ほどまでの好戦的な獣の目をしていない。
魔王はそんな獣王の毛並みにそっと手を這わせ、忠実な臣下の様子を伺った。
291 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:32:23.80 ID:XCb4AxA00
魔王「もしや、言葉を語るのもつらいのか? 魔素の維持に集中せねばならないような状態で、戦にはならない。退いてよいのだぞ」
獣王「退かヌ…」グルル
魔王「本能が、ここを開けてはならぬと告げているのだろう? 獣のそれは強いと聞く。無理をする必要など――
獣王「ガウルルル!!!!!!」
魔王「くく…。あまり撤退を強いては、噛みつかれそうだな。しかしこの浄気の強さ、これ以上には後続の者は連れて行けない」
魔王「戦略的撤退も時には必要だ。列を離れる一団の指揮を取る役割を与えよう、退がるがよい」
獣王「ガル……」
292 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:39:44.62 ID:XCb4AxA00
獣王は一声唸ると、僅かに頭を垂れた。
それから猫さながらのしなやかな仕草で、背後にいた一回り小さい銀色の獣に並ぶ。
獣王がその首に自らの首を沿わせると、
銀色の獣も同じように獣王の首にすりあわせる
ぺたりと座り込んだ銀色の獣の周囲を、身体を擦り付けながら一周。
それからもう一度首を絡めあわせると…今度は、獣王が座った。
直後、銀色の獣は大きく吼え―― 他の獣も揃い、吠え出した。
ァオーーーーン…
ワオー… ワオーーーン…!!
魔王「……?」
獣王が、座ったままで短く吼える。
すると銀色の獣を筆頭として、獣達は吼えながら跳ね飛んで階下へと消えていった。
数匹の体躯の大きな獣だけが残り、黙したまま扉を見据えている。
魔王「…一体、何をした?」
獣王「族長ノ位を譲っタ。あのままでハ、戦えなかっタ」
魔王「ふむ…? ここまでの間、どいつも命令に忠実で勇猛に戦っていた。……お前の足手まといになるとも思わなかったが」
獣王「あア。ならなイだろウ」
魔王「では、“戦えなかった”というのはどういう意味だ?」
293 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:46:19.83 ID:XCb4AxA00
獣王「……ここを開けれバ、それだけデ死ぬ仲間がでル…。手を出せないどころか、足手まといにもなれズ、戦えないまま死ヌ…」
獣王「その無念ヲ見届けながらでハ、オレが冷静に戦えなイ」
魔王「……なるほど。ではここに残ったのは、扉を開けても生きられる者たちか」
獣王「ここに残ったのハ…“例え死を前にしても、強さを示せる者”ダ」
獣達は、身体を低くして唸り続けている。
例え即死しても、それを誇りに代えられる者。
――臆して逃げ帰る姿を見せるより、最期まで強さに生きた姿を見せる者。
濁りも迷いもない瞳は、確かに自らの生き方に ―死に方に― 疑念を持つことはないのだろう。
魔王「……先ほどの、銀色のは何者だ?」
獣王「妻。ここに残れない者ヲ鍛えなおす為ニ。魔国に残る仔らに強さを教える為ニ、離れタ」
魔王「……族長を譲ったのは、おまえも死を覚悟したからか? 最初から死ぬつもりのやつなど、この先には――」
獣王「違ウ」
魔王「…?」
294 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:47:05.21 ID:XCb4AxA00
獣王「『我等は集団で生きル。いかなるときも強く導かねば、混乱が起きル。統率の乱れこそヲ、何よりも愚と考えル』…前ニも、言っタ」
魔王「…ああ、なるほど。 神の間の目前で、かざした意思を違えたお前では示しがつかぬ、と」
獣王「“全員で魔王サマの盾になる”と言ったからナ」
魔王「……しかし解せないな。もともと、お前たち獣は不利な状況で深追いなどしないだろう? その判断は過ちではない。本当に生きて帰るつもりならば、族長を譲る必要など――」
獣王「……あいつらがここから逃げ出す為ニ、“族長命令”の強制力は必要だっタ。先頭に立ち率いなけれバ、一匹として逃げ出せないだろウ」
魔王「……死に怯んだからとて、“統率を乱す愚”を冒すほどの者は居ないということか。……よい一族ではないか、獣王」
遠くからいまだ微かに聞こえる、獣の遠吠え。
そろそろ宮殿の外にまで出ただろうか。
魔王「それにしてもよく吼える…。あれは何を意味しているのだ」
獣王「……ただノ遠吠えダ。仲間ヲ呼び集メ、一箇所ニまとめル合図。他の後続種モ共に下げるのだろウ」
魔王「そうか。……では、そろそろ開けるが構わないな?」
獣王「あア」
295 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:47:31.47 ID:XCb4AxA00
魔王は手元に魔力弾を練りだしていく。
魔素で扉を打ち破ることで、噴出するであろう浄気を抑えるためだ。
だんだんと大きくなる魔力弾を皆が見つめていると、魔王がふとつまらなさげに呟いた。
魔王「おい……獣王、そしてそこの獣達。戦の前に、ひとつだけ命令しよう」
獣王「……?」
魔王「新族長が仲間を呼び集めているのなら、あとで必ず行け。……俺に付き従うのが種族の統率を乱す愚か者ばかりとなれば……魔王の沽券に関わるからな」クク
獣王「……そうだナ。了承しタ」
魔王「では―――」
ドォォォォォォ………ン……ッ…!
重厚な扉の下部を抉り取る魔力弾。
扉と、中に埋め込まれていたであろう蝶番は自重に耐え切れず、崩れ落ちる。
巻き上がる石埃と魔素。そして扉の奥から吹き上げてくる浄気――
一瞬でその場は白い靄に包まれ、一同は嵐のような気の奔流に巻き込まれた。
296 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:48:09.71 ID:XCb4AxA00
…………
……………ガラン…ゴトッ
靄が晴れるころには
扉だけではなく入り口付近の壁も圧によって瓦解していた。
その部屋の中央に、まっすぐに立つ影がある。
魔王「お前が神か」
神「―――ああ。待っていたぞ、魔王」
光のように、透ける白髪。
色素をもたない端整な顔立ち。
石膏よりもなお“鮮やかに白い”、豊かに広げられた翼……
魔王「まさか、女性神だとは。……神族の兵が手ぬるいのはそのせいか?」
神「この神界に兵など居ない。皆、本来は何かを守り慈しむために存在していた」
魔王「ほう。……では、お前も同じように手ぬるいのだろうか」
297 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/22(金) 00:49:37.74 ID:XCb4AxA00
神「確かめてみるがよい。……神の持つ、守る力の強さを」
滑らかな白絹を纏った細腕が、ゆるやかに伸び上がった。
差し出し、相手の手を求めるように。そっと包み込むような握手をするような仕草だった。
神「――そして、我が剣の前に降伏するがいい」
気がついたときには、魔王の心臓位置をめざして正眼に構えられていた。
剣を持っていることすら見落とすほどに、刃の見えない透明な剣が握られていた。
魔王「……クク。確かに予想外のこともあったが…」
魔王「この戦は仕掛けられている…というのは、予想通りだったようだ」クク
シャッ…――
一瞬の抜刀。
魔王はそれと同時、低く跳ねて剣先から逃れる。
獣達も、床を強く踏みしめて飛び掛かっていく。
カ ィーーーン…ッ……
鉱物を金属で打つ、特有の音程。
剣と刀を合わせるたびに空気を振動させるその音は、
部屋中に波紋のように響き渡っていった―――
298 :
◆OkIOr5cb.o
[sage saga]:2016/04/22(金) 00:51:06.14 ID:XCb4AxA00
すみません眠い
299 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/22(金) 15:54:53.01 ID:6HH/EdyGO
乙
300 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/23(土) 02:15:47.34 ID:Ss644WqA0
――――――――――――――――――――――――
天空宮殿――宮殿前
目の前にある大宮殿の入り口。
先ほど、魔王たちと別行動を取ることにしたその場所まで戻ってきた。
近衛は腕に神従者を抱えて、亀姫は周辺警戒をしながら走ってきた。
神従者「そこの入り口では駄目です、手前にある小さな噴水の所へ!」
神従者が指し示した場所に、入り口を飾るための“置物の噴水”があった。
正確に言えば、噴水を模した彫像。
実際に水は沸いておらず、甕を肩に乗せた天使の足元に円形の桶があるだけだ。
周囲には花とも草とも言えぬ、綿のような植物が植え込まれている。
近衛が彫像の前で止まり神従者を降ろすと、神従者は小走りで植え込みに入っていく。
301 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/23(土) 02:16:23.85 ID:Ss644WqA0
近衛「……これですか?」
神従者「この、台座の桶の部分を……っ ま、まわ…」グッ
近衛「自分がやりましょう。まわせばいいんですね?」
近衛も台座に手を掛ける。
重たい石臼と同じ感触で台座が回転すると、風化で抉れたように見えた底部分と奥にあった穴が合致し、穴が現れた。
神従者はそれをみるなり後ろ手で翼を押さえ、身を細くして穴の中へと入りこむ。
肩口あたりで膨らんだ翼が穴の縁に引っかかると、神従者は低く呻き痛みを堪えた。
亀姫「あなた、大丈夫ですの。その翼…」
神従者「はは…折れたようで、根元のほうがうまくたためません」
治療を施すべきなのだろうが、そんな場合ではない。
自分達から離れてもよいが、囚人である彼にはこの神界のどこにも居場所はない。
亀姫の治療術は魔素を用いるので、神従者には使えない――
痛々しいことこの上ないが、せめて気遣うほかに出来ることはなかった。
302 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/23(土) 02:17:00.22 ID:Ss644WqA0
神従者「気にしないでください。元々、使い物にはならなかったのです。そんな翼であなた方を支えて塔を出て、まだ残っていることの方が信じられません」
亀姫「……感謝いたしますわ」
神従者「はは…。あなた方のもっていた、あの翼を使うわけにいきませんからね…」
近衛「…すみません」
話しながらも、順に穴に潜り込む。
穴は1.5m程度の深さだったが、その奥には階段があり、降りるにつれて天井は高くなった。
光は射さない。
時折、壁に蜀台を置くための窪みが見られるが、灯している猶予はないだろう。
お互いの姿を確認することも出来ないほどの暗闇。
どうしたわけか自信ありげな亀姫に先導を任せ、神従者を担いで近衛も降りることにした。
亀姫「それで…あとどれくらい進むんですの」
神従者「目的は最下層です。宮殿の中央に位置する最深部………」
神従者「――そこに、“神”が居ます」
303 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/23(土) 02:17:28.16 ID:Ss644WqA0
シュルルッ…
こころなしか地を這う音が速さを増す。
等間隔の階段とはいえ、声と音の位置だけを頼りに暗闇で駆け下りる――
近衛は、亀姫に遅れを取らぬので精一杯だった。
本当に一本道なのかどうかも知れない場所。
亀姫を見失う不安に背を押され、近衛は情けない声で亀姫に呼びかけた。
近衛「亀姫様…」
亀姫「なんですの?」
近衛「本当に、自分達だけで最下層に向かっていいのでしょうか。神との戦いになるならば、やはり陛下に来ていただくべきだったのでは…」
亀姫「この者が言うのが確かならば、陛下もまた最上階の天守閣で戦闘となっているはずですわ」
近衛「それはそうですが…。もし戦闘になるより先に陛下にお知らせできれば…」
亀姫「戦闘になるより先に着けばね。ですけど、もし間に合わなければ最悪の事態ですのよ」
近衛「……神魔戦で、その大将首が偽者だなんて。悪い冗談としか思えませんよ」
神従者「ですが本当なんです! 最上階にいるのは確かに神族ですが、それは偽物…! 攻撃力に長けた戦神なのです!」
304 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/23(土) 02:18:15.88 ID:Ss644WqA0
亀姫「この神界に、戦神なんてものがいるとは思いませんでしたわ」
神従者「…普段は神の補佐をしているだけの、目立たぬ者です」
近衛「補佐…側近のようなものでしょうか?」
神従者「そうですね。護衛であり、側近であり…そして神に万一があれば、その者が一時的な後継ともなります」
亀姫「では、その方は偽者といっても“次代の継承者”ですのね」
神従者「いいえ、代理となるだけ。……神に万一があった時には子を宿し、その子を守りながら、神に育てるのです」
近衛「……戦神とは、女性神なのですか」
神従者「はい。その役割から、ワタシ共は彼女を戦神妃と呼んでいますが――
亀姫「! 止まって、静かに!!」
突然、亀姫の制止の声が響く。
急停止した足は少し滑り、段を踏み外すぎりぎりの所で止まった。崩れたバランスを取るために神従者を降ろすと、近衛も気配を探った。
耳が痛いほどの静寂の中、上方から気が流れ込んでくるのを感じる。
近衛(……浄気が流れてきた? 亀姫様は、この僅かな気を察知したのだろうか)
亀姫「……獣達が走っているようですわ。この浄気といい……どうしたのかしら、獣王は陛下とご一緒ではなかったの?」
近衛「獣…?」
305 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/23(土) 02:19:05.12 ID:Ss644WqA0
亀姫「ええ。足音ではないのですけれど、その振動を感じますの。浄気にやられた獣が撤退したのかもしれませんわ」
近衛「では、陛下と偽者…いえ、戦神妃の戦が始まってしまったのでしょうか」
神従者「! なんてことだ…状況を確認している場合でもありません、急ぎましょう!」
近衛「待ちなさい、あなたが走るより自分が担いだほうが早い! よく見えぬのです、こちらへ!」
神従者「あの戦神妃の力は本物です……! このままでは魔王は絶対に負けてしまう! 早く!」
近衛「!」
亀姫「ともかく駆け下りますわ。近衛は黙ってしっかりついていらっしゃい。神従者、あなたはその間に説明してもらいますわ」
亀姫「――陛下が絶対に負けるだなどと……ただの侮辱でしたら、許しませんのよ」
306 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/23(土) 02:21:07.82 ID:Ss644WqA0
ッシュルルルル・・・!!!
ザッザッザッザッザッザッ・・・・・・!
更に速度を増して階段を下りる。
もう既にかなり降りたように思うが、前も後ろも見えない暗闇の中で距離の感覚は鈍い。
近衛に担がれたまま、努めて冷静に神従者が説明を始めた。
神従者「……あなた方は正面から、神族を討ってきたのでしょう?」
神従者「ですが、全てが罠なのです。快進撃ですら、神に仕組まれていたもの」
亀姫「連戦による疲弊を狙っただけではないと仰るの?」
神従者「……神族は“浄気”と“物理”のどちらで攻撃してきましたか?」
近衛(……!)
亀姫「……言われてみると、弓を射たり体当たりをしたり…物理攻撃ばかりでしたわ」
神従者「でしょうね。浄気を減らさずに、魔王に“魔素を使わせる”ことが目的なのです」
亀姫「魔素を…」
神従者「浄気を纏う天使を倒すには、魔素を当てるのが効果的。ましてや接近して攻撃しようとしてくるなら、なおさら遠距離で倒せる魔力攻撃を仕掛けるでしょう」
307 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/23(土) 02:21:37.45 ID:Ss644WqA0
亀姫「……陛下は別の理由で、初めから魔力攻撃をなさっていましたわ」
神従者「初めから?」
亀姫「ええ。それに神族を倒す以外でも、余計に魔力を使っていらっしゃるはず。陛下は刀による攻撃にも優れていますもの、魔素が減れば刀で凌ぐおつもりなのかも――」
神従者「戦神妃は武力と剣技の神。 いくら腕に自信があろうと、魔力抜きで勝てる相手ではありません」
亀姫「魔王様も馬鹿ではありませんわ。神との戦をするつもりなのですから、きちんと魔力も残しているはず」
神従者「……ええ。ですが残した魔力が“十分量”に届かなければそれでいいのです」
神従者「戦神妃に、物理攻撃は通用しませんから」
亀姫「……なんですって?」
神従者「彼女は強力な加護の持ち主なのです。魔素によってその加護を弱めなければ、いくら叩いた所でダメージにならないのです」
亀姫「……いくら腕があろうと、魔素がなければ戦いにならないのね」
神従者「ええ。だからこそ、疲労を感じて魔素を温存する気にならないよう、少しでも多くの魔素を消費させるように、快進撃をさせたのです」
亀姫「……そう。だけどそれは陛下が“負ける”理由にはならないわ。勝てないだけ」
亀姫「陛下は決して戦闘狂ではありませんわ。分が悪ければあっさりと撤退を選ぶことでしょう」
神従者「その機を待って、神が地下にいるのですよ」
亀姫「……?」
308 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/23(土) 02:22:19.79 ID:Ss644WqA0
神従者「浄気をなるべく使わせないまま、あっさりと神族を殺させたのはもうひとつ理由があります」
神従者「……神族が死ぬと体内から抜け出す浄気。それを一箇所に集めているのですよ」
神従者「抵抗する術を失くした魔王に、確実にとどめを刺すために……っ!!」
亀姫「――な」
神従者「神族は…っ 魔王の魔力を減らす為に慣れぬ戦場へ向かわされ…っ! 神がその浄気を取る為に、最初から殺される予定だったんです…!!」
神従者「神は! 魔王を殺し理想郷を築くために!! 人間の世も、魔の国も、この神界ですらも全てを殺し! 無くし! 創りかえるつもりなのです!!!!」
走りながら、腕の中で語られる災厄の姿。
近衛がそれに激昂するより先に、亀姫の足が止まったのは幸いだ。
亀姫「……これより先は、行き止まりですわ」
神従者「……っ! それなら、ここが入り口です……」
神従者「天空宮殿・深奥の間。この天空宮殿の基盤となったといわれる原始の部屋……」
神従者「別名、『始まりの間』です」
309 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/23(土) 02:23:12.74 ID:Ss644WqA0
――――――――――――――――――――――――
天空宮殿・最上階
天守閣――
獣王「ガウルルルルァァ!!!」
神「無駄だっ! 私に噛み付こうと、その牙は決して通らない!!」
魔王「そうかもしれん。だが――」
ボウッ!!
魔王が放った魔力弾が神に触れる。
するとその瞬間、喰らいついていた獣の牙が深く刺さり肉を抉った。
神「ぐゥ――ッ」
魔王「魔力を同時に当てれば、その道理も効かぬようではないか」クク
神「魔王――ッ!」
魔王「クク……勇ましいな。剣技も見事だ。女性神でなまぬるいなどと侮ったこと、謝罪してやっても良いぞ」
神「――謝罪など……っ」
310 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/23(土) 02:23:59.93 ID:Ss644WqA0
獣達「「ガウァァッ!!」」
神「〜〜〜死にぞこないの獣が、邪魔をするな!」
ッキーーーン!
自らの脚すれすれの位置に剣を振り下ろし、足元に噛み付いた獣を斬る。
喰らいついていて無防備な顔面をやられた獣は、たまらずに声を上げ口を離してしまった。
魔王「よくやった、お前たち」
剣を完全に振り下ろしきった隙をついて、魔王が神の懐近くまで跳躍する。
あまりの勢いに、体当たりと見間違う。
魔王の身体全体に纏わせた魔素が神に触れる距離まで近づくと――
神「……!」
魔王「――」
斬るというよりは、刺すに近い攻撃だった。
魔王は確かに優勢だったが、神の剣技が魔王を超えているのには気付いている。
優勢で居られるのは、がむしゃらな獣達が作る“時間”のおかげだ。
神だけに注目し、頭と身体を使える魔王に対し
神は獣の分も動きを計算しなければならない。
その僅かな演算速度の差が、魔王の優勢を支えている。
だからこそ、斬りつける為に刀を振る一瞬の時間ですら与える余裕はなかった。
311 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/23(土) 02:26:20.10 ID:Ss644WqA0
神「っ、カハ…ッ…!」
魔王「ちっ!!」
魔王の刀は確かに神に刺さった。
だが即時に浄気を噴出され、魔王は抉ることも払うことも出来ぬまま後方へ跳び逃げる。
神「………っ」
魔王「ただ穴を開けただけだが、少しは効いたようだな」
神「魔王、らしくない戦い方を…っ しやが、って……っ」
魔王「……らしくないだと? どんな攻撃をすると思っていたやら」
神「な、ぜ……私を、殺す気にならぬのだ…っ」
魔王「…………っ」
獣王「グル…… 魔王サマ…?」
言葉に詰まった魔王を、訝しげに獣王が見つめる。
魔王は改めて構えを取り、神を見据えながら獣王の不安を払拭してやった。
魔王「勘違いするな……殺す気がないわけではない」
312 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/23(土) 02:26:48.46 ID:Ss644WqA0
神「ならば、急所をはずし甚振るのが目的か…!?」
魔王「クク、おかしなことを」
神「ではなぜ……!!」
魔王「逆に問おう」
魔王「おまえは何故、既に死を決意しているのだ?」
神「……っ」
魔王「確かに目を見張る剣技だ。だがあまりにも豪胆すぎる」
魔王「勝って生き残ることを見据えた戦い方ではない――相手さえ破ればよいという剣だ」
魔王「どういうつもりか知らぬ。知らぬが、おまえが相打ちを狙っているのなら…下手に討つのも討たれるのも早計だろう?」
神「……お前は…本当に、魔王なのか……?」
魔王「くく。本当におかしな質問をするな。俺が俺でなくて、誰だというのだ?」
神「だが…魔王はもっと横暴に、自分の不都合を排除していたじゃないか…」
魔王「……ほう? 魔王を知っているかのような口ぶりだな」
神「知っている―― お前は…魔王は! 我らが守り育てていた人間の世を滅茶苦茶にし、奪ったではないか!!!!」
313 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/23(土) 02:27:32.48 ID:Ss644WqA0
獣王「……先代魔王サマの、人間掃討戦のことカ」
神「先代…?」
魔王「クク。成程… 俺と父君を間違っていたか。確かに俺は代が浅いからな」
神「それでは…お前は…」
魔王「残念だったな…? 誇り高く、強き賢王と謳われた父君は既に魔王ではない」
魔王「“魔王らしく誇り高い戦闘”など―― してやるつもりはないぞ?」クク…
神「な……」
魔王「くく。つまらぬ誤解に余計な詮索をしたようだ。どういう理屈かわからんが…つまり俺は俺らしく、魔王らしくない殺し方をしていればよいのだな…?」
神「ま…待て…っ!」
魔王「クク。自らで仕掛けた戦だろう。策を間違えたからといって、今更命乞いなど――
神「お前は! 現魔王のお前は―― 我ら神族と話をするつもりはあるか!?」
魔王「…………なんだと?」
獣王「魔王サマ! 神族の話などニ耳を傾けてハならなイ!!」
神「我らは、その獣のように、魔王も話を聴かぬものと思っていたのだ!!!」
獣王「ガゥルルル!!!!」
314 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/23(土) 02:30:18.46 ID:Ss644WqA0
魔王「獣王、待て…」
騒ぎ立てる声を聞き、鬱陶しそうに目を細めた魔王。
諌めるために低く出した声に、獣も神も目を向けている。
魔王「ククク、もちろんこれも策である可能性は大きい」
魔王「だが、神の嘆願を魔王が聞くなど… なかなか面白いではないか? 天使への土産にもなろう。聞いてやってもよいと思うがな」
獣王「魔王サマ!!!」
魔王「……それに、あのステンドグラスの事も腑に落ちないでいた」
獣王「ステンど…グラす…?」
神「魔王と神を描いた2枚のガラスだ…聞いてくれるのであればそれについても説明しよう」
魔王「クク…好きに語るがよい。いつ俺の気が変わってお前を殺すか保証はしないが、それまでは聞いてやるぞ…?」
獣王「グルル…」
315 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/23(土) 14:24:05.81 ID:JwN4Tp6AO
面白い…続きが気になるのう
316 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/26(火) 04:16:36.05 ID:1vpioc0+0
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
神「戦を仕掛けたのは、確かなんだ。……そればかりは弁解のしようもない」
魔王「………」
握りしめた剣を見つめて、神はそう切り出した。
神はどう話を続けるか、思考を巡らせているらしい。魔王は構えたまま、次の句を待った。
神「我らは、お前たちを脅威だと感じていた――」
神「策を張り巡らせ、裏を読み、その裏にも手を打って……そこまでしなければ、勝てないと思っていた」
神「我らの作戦では、魔王がここに辿り着くまでに充分消耗させておくはずだった。 私が…たとえ相打ちになろうとも、魔王を戦闘不能な状態にまで持ち込めると考えていた」
魔王「……侮られたものだな」
神「侮ってなどいない!!」
魔王「……」
317 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/26(火) 04:17:22.34 ID:1vpioc0+0
神「侮ってなど、いない……。我らが魔王を戦闘不能にできる可能性があるとすれば、その策しかありえなかったんだ」
神「……正面きって戦えば、負けることは明白だった。賢い手を探し、少しでも多くの神族を生かして残す方法をかんがえた」
神「だが、魔王を戦闘不能に持ち込むには、結果的に総力戦をしいられる……」
神「だから我らは最初から、すべてを犠牲にしてでも、最も確実に近い方法を選ぶしかなかったのだ」
魔王「ふ。神のくせにずいぶんと弱気ではないか」
神「……我らは戦闘など行わない。我が剣も、本来は警護のための剣…。人間世界で起きる争いを止めるため、強さの象徴として磨かれた」
神「……象徴、偶像。神の名にあっては決してほかに比べて劣ることはないが、所詮はお飾りの剣だ。実戦経験などない」
魔王「戦になど向いていない神族が、負けると踏んでいてなぜ戦を仕掛けた?」
神「……話を、するためだ」
魔王「話だと…?」
神「戦闘可能な状態の魔王と、言葉を交わすことなどできないと思っていた」
神「幾ばくかの神族を遣いとして降ろしたところで、魔素の土地で弱り、むざむざと殺されると考えていたんだ」
神「だから……総力をもって、魔王を抑え込むために。魔王をこの神界におびき寄せる必要があった」
魔王「それが、この戦争を仕掛けた理由か。して、そこまでして話すべき要件とはなんだ」
318 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/26(火) 04:18:41.41 ID:1vpioc0+0
神はビクリと身を震わせた。
本当に口にしていいものか悩むように、口を開けては閉じ、剣を見つめ――視線を落とした。
それから、ゆっくりと剣を鞘に収めた。
魔王「……何のつもりだ」
神はその質問には答えず、魔王にむけてゆっくりと片膝をつき……はっきりと告げた。
神「――謝罪と、和解の申し入れだ」
魔王「………謝罪、だと…?」
これには魔王も眉を顰め、神の言葉の真意を窺った。
獣王にいたっては、明らかに警戒を強めて唸り声を上げている。
神「……神の間への入り口にあったステンドグラス。あれは正しく、魔王と神の姿を描いたものだ。…その話から始めよう」
319 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/26(火) 04:20:20.90 ID:1vpioc0+0
神「遠く遠い昔―― 最初の魔王は、元々は我らと同じ神族… 天使だったんだ」
魔王「な…に…?」
神「魔王の元となった天使は、罪を犯し、心を黒く染め、この神界から堕ちたという」
神「……その天使は、ひどく我らを憎んでいた。浄気すらも憎み、魔素という新たな力に変えてしまうほどに、我らを憎んでいたんだ」
魔王「……」
神「罪を被った天使は自らを魔と名乗り、悪であると宣言し 我らと対立したのだ」
魔王「……ふん。それが事実であったとして、罪が冤罪であったわけでもないのだろう。謝罪など俺は求めていない」
神「ああ。確かに罪は罪だ。我らはいずれ彼を赦すつもりだった。だが、彼は赦しを受けることすらも拒絶した」
神「彼は罪人であり続けた。赦すこともさせてもらえなかった」
神「その時になって、ようやく我らは気付いたのだ」
神「裁きと赦し…神であれば当然であると思っていたその行為が、ひどく自我に満ちた行為であることに」
320 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/26(火) 04:21:39.64 ID:1vpioc0+0
神「……あのステンドグラスに描かれているのは、彼の姿だ」
神「この神界に、彼の居場所を作り続けるために描かれたものだ」
魔王「……それで」
神「……結局、彼はその死を迎えてもここには帰ってこなかった」
神「代が変わり、跡を継いだ魔王も どう教えられたものか我らを憎みつづけた」
神「もちろん、我らは何度も接触を図った! そこにいる……四神だって、そうだ!」
獣王「何ヲ。我ガ祖先は、今のお前たち神族とは違ウ」
神「違うと思いこませたんだ!!」
獣王「……!?」
神「魔王が我らを憎んでいる限り、四神が我らの手の内の者だとわかれば会話も出来ぬまま殺されてしまう!」
魔王「……朱雀のようにか?」
神「――っ。朱雀は、翼持ちだった。だから朱雀は神界との繋がりをとれるものとして、真実が教えられていた…」
魔王「竜族にも翼はある。 竜族も、真実を知る一族なのか」
神「違う。竜族は…朱雀が使えなくなった場合の、予備だった」
魔王「予備…?」
神「……罵ってくれて構わない。我らはいつでも二の手、三の手を用意して、失策を恐れる脆弱者だ」
魔王「−−悪いが、罵るほどにはお前たちに興味を持っていない。話を続けろ」
321 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/26(火) 04:22:52.33 ID:1vpioc0+0
神「……四神に与えられた役割は、魔王に負けて魔王の配下となることだった」
神「魔王の配下となり、魔王の心を解き、我らと接触する機会を作る…」
神「だが、天界へと昇る姿を見られた朱雀は、魔王に詰問された。朱雀はこの作戦をどうにか全うしようと考えていたのだろう」
神「何も語らず。事情も知らぬ残りの三神にすべてを託し、口を固く閉ざしたまま、自らの炎によって絶命した……知られてしまえば、どう事態が転ぶかわからない」
魔王「ふ、おかしな話だな。こちらでは朱雀は、魔王が焼き殺して食べた、と聞いているが」
神「……『悪を悪と思わず、善を善と思わず』…お前も、そう教えられているのだろう」
魔王「――なぜ、それを」
神「魔王は代が変わっても、常に罪人であり続けた。その存在に深く刻まれた呪いのような言葉と教訓…」
神「語らず死した朱雀の正体に気づいていたのだろう。魔王は朱雀の死すらも、自らの罪として――己に関わったが故の死だとして、自らに被せたのだ」
魔王「……」
神「魔王は、代を重ねるごとに罪を増やし、力をつけつづけた。もはや我々では手出しができぬほどに…悪行を被り、不浄となり、我らから遠ざかって行った」
神「そして我らに、“善”を強いた。――すべての善行は神の物となり、すべての悪行は魔王の物となったのだ」
魔王「……そんなわけは……!」
322 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/26(火) 04:24:51.30 ID:1vpioc0+0
神「罪人である彼は、自らとその末代にいたるまでに苦行を与えた…。自分でそうしておきながら、“どうしたってそうなってしまうのだから諦めろ”と教え込んだ」
神「そうして子孫となる魔王たちは、自らで悪を演じるようになった。“どうなってもそうなのるだから、最初からそうあるべきだ”と…」
神「最初から自分が悪なのだと思わなければ、心を壊して生きていけないからと。悪としての振る舞いを、その生き様に叩き付けて代を重ねたんだ」
魔王「………っ」
神「どんな姿になろうと、魔王の元となったのは天使…我らの仲間であったことに違いはない。我らはそんな魔王の姿を見るたびに心を痛めた」
神「そんな時に生まれたのが、人間世界だ」
神「…魔と浄の狭間で生まれた亜種。それが人間だった」
神「その頃の神は、女性神だった。魔と浄の狭間で生まれた人間を、神と魔王の子供として慈しみ、守ると宣言したのだ」
神「……だが、魔と浄の中間に生まれた人間は非常にもろく、危うい存在だった。人間を守るために…導くために、我らは常に善で在り続けることを強いられることとなった」
神「だからこそなおさらに、常に悪に置かれていた魔王に対して罪悪感を感じて――万策尽きたと感じた。神と魔の接触はタブーとなった」
323 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/26(火) 04:26:01.62 ID:1vpioc0+0
魔王「……は。タブーとなったのに、今度は戦を仕掛けてきた? 随分とおかしな話じゃないか」
神「……疲れたんだ」
神「善でなくてはならないとか」
神「悪でなくてはならないとか」
神「疲れ果てて、一縷の望みをかけた。いや、こんなものはやけっぱちとしか言えない策だった」
魔王「なんのことだ…」
神「人間を守ることを、やめたんだ。人間に勇者を与え…我が剣を託した。自分たちで自分たちを加護できるように、と」
魔王「は…はははは! 傑作だな。勝手に守っておいて、勝手に見放したのか!」
神「我らが導くことが、誰のためになる? わかりやすい善悪の見本を示す必要は本当にあるのか?」
神「見本となり続けるために、多くの想いを犠牲にして……そこまでして見せなくては、人間は本当に善悪の区別もつかないのか…?」
神「また我らは自我に満ちて、過保護なことをしているのではないか…そんな疑問だった」
神「そして勇者を選定し、人間自身が人間を和平に導けるよう… 手を放し、見守ることにしたんだ」
324 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/26(火) 04:28:16.83 ID:1vpioc0+0
魔王「………見守る…? 散々守っておいて、勝手な都合で手放して? ……俺にはそれは、一方的な“神の試練”に聞こえるな」クク…
神「―――っ」
突きつけられる事実に顔を赤く染め、拳を強く握りしめる神。
魔王はそんな神を蔑んだ目で見つめた。
神「……ああ、そうだ…っ! 結果、それは人間たちにとって越えがたい試練となった」
神「魔王… 先代といったか。魔王が勇者を滅ぼしに進軍したことで、人間たちまでもが“魔”を憎むようになってしまった!!」
魔王「……」
神「我らの力では、魔に対抗もできない……ッ せめて真実を教えるべく、一人の人間を連れ帰り、癒し、魔を憎む心を拭い去ろうとした…!!」
魔王「そんな人間がいたのか」
神「………真実を教えたことで…彼は発狂し、死んでしまった」
魔王「………」
神「そんなことに気を取られているうちに、気が付いたら人間世界が消えていた」
神「……もう、守るべきものもない。だから、全てを失う覚悟で、この戦を仕掛けたのだ」
325 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/26(火) 04:29:38.28 ID:1vpioc0+0
魔王「よくできた話だが、それが真実であると証明はできるのか?」
神「……できない。それが事実があろうとも、疑って裏を考え続けることに慣れすぎてしまった…。否定しようと思えばいくらでも否定できる我らには、証明など不可能だ」
神「……疑うことはあまりにも簡単で。信用することはあまりにも難しいな」
魔王「…………」
魔王「お前たちの最終目的は何だ。魔王から赦しを請い、自らの罪悪感を消すことか」
神「! 違う!」
魔王「ここまで話したのだ、最後まで語るがいい。語りとも騙りとも区別をつけず、聞いてやろう」
神「…世界を、元のようにひとつにしたい」
魔王「なんだと」
神「世界は、元々は1つであるべきなのだ」
神「悪など。善など。そんな区別が生まれる前は良かった。繰り返される戦も、止むことのない災厄も何もなかった!」
神「どうか、赦してくれ。そしてどうか手を取ってくれ、魔王!」
神「我が話を最後まで聞き届けてくれたお前なら、きっと新しい唯一世界でも……良き隣人となれる!」
神「一つになろう」
神「戻ってきてくれ。 ここから先の時代を、共に歩んでいこう… 魔王……っ」
魔王「な………。馬鹿な、完全に魔と浄が対立しているのに、そんなこと出来るはずが……!!」
神「魔王! どうか…」
神「どうか、私を信じてくれ――……!!」
326 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2016/04/26(火) 04:36:50.96 ID:Orux4S+h0
どうなる
327 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/27(水) 13:12:31.16 ID:RlDl3quZ0
――――――――――――――――――――――――
天空宮殿・最深部
――始まりの間、手前
近衛「ここに、本物の神が居るんですね」
近衛は暗闇の中、手探りで行き止まりの壁部分に触れる
扉状になっているのか、はたまた何かの仕掛けによって開くのか。それを探るためだ
近衛「感触は、ここまでの道にあった壁と同じような石ですね。扉だと知らなければ、本当に行き止まりにしか見えないでしょう」
神従者「これは力技で開ける扉ではないはずです。この場所自体が秘匿なのですから、そう複雑な仕掛けもないでしょう。どこかに必ず開けるための何かがあるはず……」
亀姫「近衛」
近衛「はい、すぐに探しだします。お待ちください」
近衛は壁伝いに手を擦り当てて、扉を調べる。
一方で亀姫は、僅かに声を潜めて神従者に呼びかけた。
328 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/27(水) 13:13:11.03 ID:RlDl3quZ0
亀姫「こちらの声が、向こうへ漏れはしないかしら」
神従者「それは大丈夫でしょう。こちらから中の音が聞こえないように、あちらもまた聞こえないはず」
亀姫「そう……。それでは改めて確認いたしますわ。この中に神が居る。私たちはここを開けたならば奇襲をかけ、速攻で討つ――でよろしいのかしら?」
神従者「悪くない…ですが。正直なところ、その策は博打と変わりません」
亀姫「では?」
神従者「神は集めた浄気を、なんらかの方法で固定しているはずです。それを打ち出されたら魔王は終わると思ってください」
神従者「浄気をどのような方法で固定しているのか、発動の方法が何か…それはワタシにもわからないのです」
亀姫「…呆れた。ならあなたは、神を殺すことが発動の条件にもなりうると仰いますの?」
神従者「…可能性は大きくないですが、充分にありえます」
亀姫「ふざけてらっしゃるの。それとも、私達を騙してこんな場所に連れ込んだとでも?」
神従者「と、とんでもない! ワタシだって娘の命がかかっているんです、ふざけてなど!!」
亀姫「ではどうなさるおつもりです。ここまできて、討っていいかわからないなんて――」
早口な小声で捲し立てる亀姫
その勢いに飲まれ、神従者も対抗するように小声で吐き捨てる
神従者「こう言ってはワタシは本当に神界での居場所を無くしますが…神は独善的で、気位が高い方なんですよ。それを利用しましょう」
神従者「下手に刺激をすれば、激昂して浄気を放出しかねないですからね」
329 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/27(水) 13:14:06.18 ID:RlDl3quZ0
亀姫「利用するといっても、具体的にはどうすればいいと考えますの」
神従者「瞬間的に打ち倒し、それで浄気の噴出を妨げられれば最速の策となるでしょう。ですが最良策は、先に浄気の噴出の仕組みを暴くこと。……刺激せぬように入室する必要があります」
亀姫「この扉を開けて、気付かれずに探り出すなんて無理ね。……つまりあなたは私たちに、神の下手に出ろとおっしゃっているのね」
神従者「魔王の戦から離れ、神の元に降りてきたかのように見せて油断を誘うのです」
亀姫「そんな事で油断するかしら」
神従者「元々、こちらにいる本物の神は戦闘向きな方ではありません。直接戦闘に持ち込めば、倒すこと自体はそう難しくない――それは神もわかっているはず」
神従者「だからこそ戦闘するつもりなどないと態度で示すのです。倒せるほどの力を持っていてなお神に従うことで、安心もするし、彼の虚栄心も満たされる」
亀姫「……安い虚栄心ね」ボソ
神従者「ともかく神が満足したその隙をついて、浄気を使わせぬうちに――……っ」
言葉を止めた神従者
気まずそうに口元をもごつかせている
亀姫「使わせぬうちに、殺すのね」
神従者「………はい…」
330 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/27(水) 13:14:32.16 ID:RlDl3quZ0
最後の最後で、自らの作戦に躊躇いを垣間見せた神従者。
亀姫はどうにも一抹の不安を拭いきれずため息をつく。
呆れずにどうにかこうにかこの作戦を続けていられるのは、
不慣れな土地と足りない情報で、神従者の策よりも確実な別の策を自分が出せないからだ。
それにいざ作戦を実行するとなれば、采配を握るのは近衛となるだろう。
近衛には獣王のお墨付きの強さもあり、魔王への忠心も厚い。
そこに鉄壁の守護を誇る亀姫がついているのだから、策を読み違えていてもその場の対応くらいは出来る。
まともだと確信できる策は、その時点となってようやく立てられるようになる。
それまでは何をしようとどれも同じようなものなのだ。
亀姫「そう珍しくもない懐柔作戦ですけれど、そのように媚びいる時間があるかしら」
神従者「先ほどあなたが言った通り、戦神妃と魔王の戦は“魔王は勝てないけれど負けることもない”戦いです」
神従者「勝敗を決めるトドメとなるのは、神の放つ強大な浄気による攻撃…。戦闘によってトドメを討とうとすれば、不利を悟った魔王に逃げ出される」
神従者「手負いの獣に対して、武器を掲げて深追いするのは愚かです。睨み合ったままで、確実な一撃を食らわせる瞬間を待つでしょう」
亀姫「戦神妃は、トドメは刺さずに神の一撃を待つということね」
神従者「ええ。おそらくある程度まで痛めつけたのち、戦神妃は魔王を逃がさぬために話などをしはじめるでしょう」
亀姫「話…?」
神従者「魔国に逃げ帰られては、集めた浄気を活かしきれない。どうにかあの場に縫い止めておくために、甘言の一つもいってそそのかすんですよ」
331 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/27(水) 13:15:45.24 ID:RlDl3quZ0
亀姫「……本気で言っているの? 先ほどから聞いていれば、神の下手にまわって神を懐柔するだとか、甘言で陛下をそそのかすだとか……。まともな作戦に聞こえませんわ」
神従者「戦を本分としない神族にとって、言葉というのは最強の武器であり防具ですからね」
亀姫「物理戦よりも口先の心理戦がお好みで、神族にとっては主流なのね」
神従者「…馬鹿になさっているかもしれませんが、口先だって鍛えられます。神族の甘言は侮れませんよ」
亀姫「だからって魔王陛下がそんなものに乗せられるとも思いませんの」
神従者「……まぁ、確かに戦神妃は神に比べると口先はうまくないのが確かに心配なんですけれど」
亀姫「そうなの?」
神従者「ええ、まあ…なんというべきか、戦に特化した女性神らしい方というか」
神従者「頭を使って話をしているつもりなのでしょうけど、説得というよりは情に訴えるような話しかできない方ですよ。筋道を並べて話すべき所で、思いついた言葉が先に口から出てしまうから」
亀姫「ああ。よくいらっしゃいますわね、そういう方」
神従者「――まあ、そのやり方で情に訴えた物言いをするから、とても必死そうに見えて 皆が彼女の手を取るんですけどね」
亀姫「神従者……?」
神従者「あ…。失礼しました、気にしないでください。ワタシも以前、彼女の甘言に騙されたクチでして」
亀姫「………馬鹿ねぇ」
332 :
◆OkIOr5cb.o
[saga]:2016/04/27(水) 13:16:48.15 ID:RlDl3quZ0
神従者「はは…お恥ずかしい。ですが神が充分に推敲した話を用意しているでしょう。彼女はそれを使って魔王をその場に縫いとめるだけ」
亀姫「……どんなよい話でも、聞き入るかどうかは語り手次第ですわよ」
神従者「……そう、言われると。魔王が話を聞かずに逃げ出し、戦神妃が深追いして殺そうとしはじめたら、神の作戦は台無しですね」
神従者「逃げて魔国にまで辿り着ければ、魔素を補充できる魔王が勝ち。その前に仕留めれば戦神妃の勝ちになるという…。普通の、結果の見えない勝負になってしまいますね…」
亀姫「あ、あなたねぇ。そんなことでは私たちの行動まで無意味じゃない、もうちょっと堅実に――」
近衛「………たぶん、それは大丈夫です」
亀姫・神従者「「え?」」
壁を探っていた近衛が、作業を続けながらぽつりとこぼした。
それから振り返るような気配。
近衛「見つけましたよ、おそらくこの扉の開閉装置です」
亀姫「よくやったわ、近衛。それで、何が大丈夫だというの」
近衛「陛下のことですから。余裕があるうちに会話をふられれば、面白がって自分から話を聞いてしまうのではないかと」
近衛「肝心なのは甘言にのるかどうかじゃなく、話を聞いて時間稼ぎされてしまうかどうかなのでしょう? ――陛下が戦神妃を神だと思っているのなら、話を聞くと思います。だから、大丈夫ではないかと」
366.46 KB
Speed:0.1
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
続きを読む
名前:
E-mail
(省略可)
:
書き込み後にスレをトップに移動しません
特殊変換を無効
本文を赤くします
本文を蒼くします
本文をピンクにします
本文を緑にします
本文を紫にします
256ビットSSL暗号化送信っぽいです
最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!
(http://fsmから始まる
ひらめアップローダ
からの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)
スポンサードリンク
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)