提督「劇をしたい」龍驤「あのさぁ、さっきからなんなの」

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36 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/17(日) 17:02:42.86 ID:i6oUiyyq0
龍驤「まず、元気な子が好き」

元気な艦娘がそう述べる。

今はなぜかうじうじしているが。

鳳翔「あってると思います」

龍驤「あと、航空母艦を信頼している」

空母の艦娘がそう述べる。

鳳翔「えぇ、そのとおりですね」

龍驤「髪型がツインテールの子がいると目で追っている」

ツインテールの艦娘がそう述べる。

鳳翔「提督の様子を見ればそうなのでしょう」

龍驤「服は和装が好き」

狩衣を身につけた艦娘がそう述べる。

鳳翔「まぁ、そうでしょうね」

龍驤「これって瑞鶴じゃない」

鳳翔「そこはわかりません」

龍驤「その日が来たら、もうそばには居られないよね」

鳳翔「ちょっと台本見せてください」

文字通り眼に光を灯して、一呼吸の間に台本すべてを網羅した。

内容を確認した後、ひとまず安堵する。

少なくとも提督の意思は変わっておらず、一貫しているようだった。

それにも関わらず、なぜか龍驤は追い込まれていた。
37 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/17(日) 17:04:44.96 ID:i6oUiyyq0
鳳翔「あの、台本を受け取った時に提督は何か言っていましたか?」

龍驤「主役は瑞鶴がピッタリだと思った、かな」

条件で言えば龍驤も該当する筈だ。

その上で瑞鶴が選ばれたのであれば、たしかに憂慮したくなる気持ちもわからなくはない。

それだけで判断するのはまだ早計だろう。

鳳翔は続きを促す。

鳳翔「他には?」

龍驤「私に向かって惚れてくれ、とか」

鳳翔「はい? 他には?」

龍驤「大好き、とか」

龍驤「冗談がキツイよね……」

鳳翔「……」

鳳翔は生まれる前から航空母艦だった。

赤城や加賀のように生まれてから空母になったわけではない。

空母として生まれることが決まっていた、『始まりの正規空母』だ。

そのような歴史を背負っているからだろうか。

鳳翔は鍛錬に鍛錬を重ねた結果、他の空母が追随できない程の域に達している。

加えて、練習空母としての積み重ねがあらゆる艦載機の発艦を実現してきた。

それを支えるのは、鋭い『離れ』だった。

鍛え上げた勝手が龍驤の胸を射抜く。
38 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/17(日) 17:05:44.23 ID:i6oUiyyq0



鳳翔「なんでやねん!」


39 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/17(日) 17:07:54.57 ID:i6oUiyyq0
龍驤「なんや! どうしたんや、鳳翔!?」

鳳翔「元に戻りましたね」

龍驤「ウチなんか変やったか」

鳳翔「えぇ、変でしたよ」

鳳翔「一つ、確認したいのですけれど。いいですか?」

龍驤「ええよ、何でも聞いて」

鳳翔「もし、提督が瑞鶴さんを選んだとして。あなたは祝福できますか?」

龍驤「当然や。ウチが秘書艦やなくなっても、積み重ねた時間は本物やからな」

そこに、一切の躊躇はなかった。

龍驤「しばらくは泣くかもしれんけど……。別にええんや、そん時は鳳翔になぐさめてもらうから」

鳳翔「もちろんですよ。空母はみんな私の娘のようなものです」

鳳翔「けれど、龍驤? 姉妹艦の居ない私にとって、あなただけは唯一の姉妹だと思っています」

龍驤「嬉しいなぁ。ありがと、鳳翔姉」

鳳翔「今夜は飲みましょうか」

龍驤「ええヤツ開けてな♪」

鳳翔「提督にも秘密にしていたものを……」

勅令の光を持って秘蔵品を召喚する。隠し方としては最上級だろう。

加えて、龍驤から見ても惚れ惚れするような流麗さだった。

龍驤「ほっほー、メチルアルコールやん」

鳳翔「こればかりは艦娘しか楽しめませんからね。提督には内緒ですよ?」
40 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/17(日) 17:09:18.37 ID:i6oUiyyq0
水よりも透明な液体が盃を満たす。



鳳翔「何か乾杯の音頭をおねがいします」

龍驤「そうやなぁ、それじゃ……」



『この海の平和に』



41 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/17(日) 17:12:02.31 ID:i6oUiyyq0
会釈を交わして、盃を空にする。

メタノールの揮発が熱を奪うように、先ほどまで帯びていた不安も剥がされていった。

龍驤「……何を焦っとったんやろな。変わるものも変わらんものもあるのに」

鳳翔「受け取り方次第ですよ。私達がどう足掻いても、海がそこにあるのと同じです」

龍驤「凪いでも、荒れても、海は海……か」

龍驤「まぁ、ウチはウチにできることしかやれんからな」

鳳翔「そうですね」

鳳翔「間近に迫ってるお仕事はありませんか。何事も一個ずつ、ですよ」

龍驤「そうやなぁ。直近やと、長門との演習かな。ちょっち準備せんとアカンわ」

龍驤「妖精さんたちも呼ばんと。ひとりでどうにかできる相手やないからな」

鳳翔「あら、いいですね。飲みながら話しましょうか」

龍驤「搭乗員のみんな〜。宴会、宴会〜」

42 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/17(日) 17:13:51.16 ID:i6oUiyyq0
艤装から搭乗員妖精が現れる。

秩序ある彼らの振舞は、士気そして練度の高さを物語っていた。

熟練員「姐さん、出撃で?」

龍驤「ちゃうちゃう。今度演習があるから、その作戦会議や」

龍驤「後は、いつも世話になっとるから一緒に飲もうと思ってな」

熟練員「なるほど。あいわかりました」

熟練員「その前に一つ報告が。本日、彼が規定練度に達しました」

新米員「はっ! 自分も一緒に戦えるっす」

龍驤「あれ? その子はまだ入ってから日が浅いんちゃうの?」

新米員「はっ! これも熟練員殿による御指導の賜物っす!」

熟練員「余計な謙遜は不要だ。貴様の訓練に対する姿勢は目を見張るものがあった」

熟練員「姐さん、この通り優秀な奴です。是非とも早い段階で出撃の機会を与えてやってください」

龍驤「キミがそこまで褒めるんか……。鬼すら後ずさりする言われてるキミが」
43 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/17(日) 17:16:23.16 ID:i6oUiyyq0
龍驤「新米くんよろしくな」

新米員「恐縮です!」

龍驤「キミの初陣は次の演習で、相手は長門や! 楽しみやな」

新米員「はっ! 自分頑張るっす!」

龍驤「元気ええなぁ」

龍驤「そや、新米くんにこの役やらせてええか?」

熟練員「役とは、大元帥閣下がいらっしゃる日の劇のことですか」

龍驤「もう知れ渡ってるの? さすがに早すぎるやろ」

熟練員「青葉殿の搭乗員から聞きましたから」

龍驤「あー」
44 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/17(日) 17:21:05.35 ID:i6oUiyyq0
鳳翔「はい、妖精さん。これが台本ですよ」

熟練員「おぉ、御母堂。かたじけない」

熟練員「ふむ、ふむ」

熟練員「これは……。とうとう提督も覚悟を決めた、ということですな」

鳳翔「そうなんですよ。おめでたい場になるはずなので、全力で参りましょう」

熟練員「姐さんはいかがですか?」

龍驤「当然! 全力でその日を迎えるで〜」

鳳翔にこぼしていたさっきまでとは違い、嘘偽りない笑顔で答えることができた。

熟練員「これは重畳! 姐さんの覚悟、確かに受け取りました」

熟練員「これで我々も全力で戦えましょう」
45 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/17(日) 17:23:08.92 ID:i6oUiyyq0
新米員「自分も台本見たいっす!」

横から新米員妖精が台本を覗きこむ。

熟練員「貴様はこの役を賜った。龍驤の搭乗員に恥じぬ活躍を期待する!」

新米員「はっ! 全身全霊を持ってお受けします!」

龍驤「ほんま、元気ええなぁ」

龍驤「けど、劇の前に長門との演習やな。まずは作戦会議や」

龍驤「これは総力戦になるからな。搭乗員一丸となって臨もうと思う」

「「是非もなし」」

熟練員、新米員だけでなく、操舵員、射撃員、割烹員……全搭乗員の声が重なった。

龍驤「けど、その前に皆で飲もう!」

歓声が上がるとともに宴が始まり、そのまま夜は更けていった。
46 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/17(日) 17:37:46.44 ID:i6oUiyyq0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
入手したメンバーのレベル上げに勤しんでいたところ、霧島がやって来ました。

おかげさまで金剛型四姉妹がそろい、第4艦隊が開放されました。

資材が少し豊かになったので戦艦レシピを回したところ、長門がやって来ました。

続きを書かざるをえませんでした。

・龍驤 ✓
・鳳翔 ✓
・翔鶴 ✓
・長門 ✓

・加賀
・瑞鶴

当初目的以外に何人かやって来ました。
・蒼龍 ✓
・飛龍 ✓
・大淀 ✓
・三隈 ✓
・鈴谷 ✓
・熊野 ✓
・雪風 ✓
・時津風 ✓

何かができそうな予感がします。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
47 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/05/19(火) 22:38:19.87 ID:OREGQSz50
乙ー

もうしばらくしたら>>1も大型の闇に飲みこまれていくんだな……
48 : ◆zqJl2dhSHw [saga]:2015/05/31(日) 18:18:08.94 ID:x4E4doG/0
――執務室――

提督「テングサをありがとうございました。近隣の工場で早速加工作業が始まり、今回も品質がよいと喜んでいました」

提督「あと、タ級便の方に間宮羊羹を渡しておきます。皆さんで召し上がってください」

提督「ご安心ください。特使には護衛式符を配備させていただきました」

提督「演劇の日にはよろしくお願いします」

提督「はい、はい。では、失礼します」

交渉式神との同期を切断した。

提督といえど、この提督だからこそ、交渉の重要性を理解していた。

武力行使では双方の消耗が激しく、粗利換算で不利な交渉条件すら下回ることが多い。

交渉不利よりも益がでない、そんな事のために提督は艦娘と近隣住民の命を賭けようとしなかった。
49 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/31(日) 18:19:44.01 ID:x4E4doG/0

次の式符に意識を載せようとした時に、ノックの音が響いた。

電「電なのです」

提督「入ってくれ」

電「第六駆逐隊、遠征終了しました」

提督「どうもありがとう。いつも本当に助かっている」

提督「ところで暁はどうした? 旗艦はあいつだったと思うんだけど」

提督「あと何か困ったことでもあったか? 帰投予定時刻から半日くらいたっているけど」

電「ごめんなさい、司令官さん。 帰ってすぐに龍驤さんと話をしていて、演習に出させて貰えると聞いたのです」

提督「うむ、出撃前に演習をさせてやりたいと言う話はずいぶん前から決めていた」

電「それを聞いてすごくうれしくなっちゃって、そのまま訓練に出ちゃったのです」

電「そして3人とも疲れて果てて寝ちゃったので、電が報告に来たのです」

提督「電さんがたしなめられなかったのか……。もっと早くに演習させてやったほうが良かったかな」

50 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/31(日) 18:22:05.35 ID:x4E4doG/0
電「司令官さん」

提督「どうした?」

電「呼び方が戻ってます。電のことは電と呼べば良いのです」

提督「むっ、すまない。龍驤と鳳翔のことは普通に呼べるようになったんだけどな」

提督「電と執務室で2人きりだと、ついこうなってしまうな」

電「ずいぶん長い期間、2人しか居なかったからしかたないのです」

提督「そう言ってくれて助かるよ。今もそうだけど、本当に世話になった」

電「大丈夫なのです。新任提督は必ず初期艦と二人三脚から始まるのですから」

提督「ありがとう、電さん」

電「司令官さん、また戻っているのです」

提督「おや、またやってしまったな」

気心が知れた者同士、2人は自然と笑みをこぼす。

51 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/31(日) 18:24:44.16 ID:x4E4doG/0
提督「ところで龍驤が帰ってこないんだが、何か知らないか? 台本を配ってもらっているんだが」

電「それならきっと鳳翔さんのところなのです。内容が内容なので鳳翔さんに相談したかったんですよ、きっと」

提督「……役が嫌だったのだろうか? 困ったな、そうなるとは全く予測していなかった」

電「なんでそうなるのです。 あれだけ露骨な依怙贔屓をすれば龍驤さんだって恥ずかしくなっちゃいます」

電「瑞鶴さんが台本見たら怒っちゃいますよ、主人公のはずが何故か龍驤さん中心の演出なのですから」

提督「それは確かに申し訳なくも思っている」

提督「けどな、龍驤には全然伝わらないんだぞ? なら全力を持って伝えるために、場を用意するのは当然じゃないのか?」

電「そこまではいいのです。けど、そのために大元帥まで召喚するのはやり過ぎです」

提督「俺が知る限り最も信用できる人間を呼ぶ必要があると思った。鎮守府の人間だけでやって、万が一、全員総出のドッキリだと勘違いされたらどうするんだ」

電「うぅ、否定しきれないのです」

提督「そもそも、俺の思いはなぜ龍驤に伝わっていない? だんだん不安になってきたぞ」

電「その、龍驤さんは控えめな艦娘ですから。司令官さんから信頼されていることも好意を寄せられていることも自覚はしているはずなのです。けど、司令官さんのたったひとりに選ばれるとはきっと思ってないのです」

提督「何故だ?」

52 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/31(日) 18:26:13.05 ID:x4E4doG/0
電「あまり艦種については触れたくないですが、龍驤さんは軽空母の分類なのです」

提督「うむ、そうだな。それが何かあるのか」

電「戦力として、正規空母には勝てない、だから提督は時間が経てば加賀さんや瑞鶴さんを頼るだろう、と龍驤さんは思っているのです」

提督「……待て、なぜそうなる?」

電「電に聞かないでください。事実とは関係なく、龍驤さんはそう思っちゃっているのです」

提督「艦載機を繰り出しながら、高角砲で対空防御をしつつ、高速機動を持って連装砲をぶち込むようなやつだぞ?」

電「はい、その通りなのです」

提督「この鎮守府だと、戦果も断トツなんだぞ?」

電「みんな知っているのです」

提督「それなのになんでに自信が無いんだよ……」

電「だから控えめだからです。言い方を変えれば慢心をしないのですが、やらた自己評価が低いのです」

53 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/31(日) 18:28:03.61 ID:x4E4doG/0
電「あと容姿についても、触れたくはないのですが、龍驤さんは電たち駆逐艦並なのです」

提督「うむ、電たちは充実した戦力を余計な物を省いて搭載している。その上機動力があるから、はっきり言って外見も機能も美しいな。駆逐艦並という評価は誇らしいことじゃないか」

電「司令官さんにそう思われていたとは……、少し恥ずかしいのです」

電「けど、そうではないのです。『艦』としてより『娘』としての話です」

電「控えめだから、戦艦や重巡には勝てない、だから提督は時間が経てば長門さんや妙高さんを選ぶだろう、と龍驤さんは思っているのです」

提督「……待て、どういうことだ?」

電「電も言いたくないのです。事実は重いのです」

提督「納得いかねぇ」

電「けど、これが龍驤さんの自己評価なのです。だからこそ、ただ一人の艦娘として、司令官さんに選ばれるとは思っていないのです」

54 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/31(日) 18:30:16.34 ID:x4E4doG/0
提督「……なればこそ、正式な場を用意した上で、俺は龍驤に伝えるしかないではないか」

提督「完全に、主観的に見ても、客観的に見てもたったひとつ、疑い様がないように伝えるしかないではないか」

電「……あれ? その通りなのです」

提督「大元帥には御台覧いただく、龍驤には出演してもらう、俺は伝えるべきことを伝える」

提督「大丈夫だ電、安心してくれ。何も変わらない。俺は俺にできることをする、いつだってそうしてきた」

電「……そうですね」

電「万が一、いえ、億が一、まだ足りないのです……」

電「仮に京が一ですけど、龍驤さんが司令官さんの想いに応えてくれなかったら、諦めますか?」

提督「諦めるわけなかろう。これだけは誰の意思にも依らず、俺から生まれた、俺だけの想いだぞ?」

提督「それをどうして諦めることができるんだ」

電「……電は司令官さんの初期艦になれたことが誇らしいのです」

提督「俺も電のお陰でまともな司令になれたと思っている」

電「電を司令官さんの元に送り込んでくれた大元帥に感謝なのです」

提督「ああ」

55 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/31(日) 18:32:49.44 ID:x4E4doG/0
電「ところで、司令官さん。多分その日はおめでたい日になるので、前祝いに飲みませんか」

提督「そうだといいがな。鳳翔のところに行くか?」

電「今日は行っちゃ駄目なのです! 代わりにここでやりましょう」

提督「そうか、ならどれがいいかな?」

日本酒とウヰスキーの棚へ足を運ぶ。

電「いえ、司令官さん。今日はこれがいいのです」

隠し持っていた瓶を取り出す。

「ほう、メチルアルコールか」

電「はい、艦娘といえばこれなのです!」

提督「……この鎮守府を訪問してくれる人間に、まさかこれを出したりしてないだろうな?」

電「当然なのです。電たちは皇国の守護者なのです、なぜ護るべき対象に危害を加えるのですか」

提督「そうか、ならいいんだ」

電「けど、龍驤さんには内緒にして欲しいのです。電は危険物取扱者の資格を持っていないので、メタノールの取り扱いで余計な心配をかけたくないのです」

提督「ふふっ、そうだな。って俺も持ってねぇよ」

電「では1本どうぞ」

2本持っていた瓶の片方を渡す。

提督「ありがとう」

電「何か乾杯の音頭をおねがいします」

提督「そうだな、では……」



『この海の平和に』



瓶を打ち鳴らし、一気に飲み干した。

56 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/05/31(日) 18:39:26.00 ID:x4E4doG/0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
5月29日に龍驤の練度が限界突破しました。

・龍驤 ✓ ○
・鳳翔 ✓
・翔鶴 ✓
・瑞鶴 ✓
・長門 ✓


・加賀

そして加賀がでないので、もうしばらく話を書かないといけないようです。

プロット
・第六駆逐隊VS長門の演習
・加賀・龍驤VS長門の演習前日 第六駆逐隊と長門
・加賀・龍驤VS長門の演習当日朝 加賀と瑞鶴
・加賀・龍驤VS長門の演習本編
・劇本編
・劇終了後の章の授与
・ケッコンカッコカリ
・第一航空戦隊ソウリュウ編成の演習
・入渠
・我、夜戦に突入す!

長いので、途中で加賀が出て欲しいです。

>>30 やはりそうですよね。私は史実を調べていて気に入りました。
>>31 そのつもりです。アニメ本編と同様、この話には登場しませんが。
>>47 やはりいつか飲み込まれてしまうのでしょうか。開始3ヶ月目ですが、怖くて1度も引けていません。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
57 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/01(月) 22:40:26.96 ID:OuRXlfr4o


数百リットルのメタノールを飲む電か、胸が(分)厚くなるな
58 : ◆zqJl2dhSHw [saga]:2015/06/07(日) 23:53:06.89 ID:62GOWKxc0
――居酒屋鳳翔――

龍驤『眼が、ずきずきするでぇ……」

朝の光がまぶし過ぎたわけではなく、昨夜の宴会が原因だった。

眼が潰れる程よく効くメタノール。

艦娘だからこそ飲めるし、気分も高揚するが、翌朝のダメージまではコントロールできなかった。

龍驤『今何時やろ?」

壁掛時計を確認すると、短針が9時の位置を示していた。

59 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/07(日) 23:55:11.86 ID:62GOWKxc0
>>58 差し替え

――居酒屋鳳翔――

龍驤「眼が、ずきずきするでぇ……」

朝の光がまぶし過ぎたわけではなく、昨夜の宴会が原因だった。

眼が潰れる程よく効くメタノール。

艦娘だからこそ飲めるし、気分も高揚するが、翌朝のダメージまではコントロールできなかった。

龍驤「今何時やろ?」

壁掛時計を確認すると、短針が9時の位置を示していた。

龍驤「……」

龍驤「あっかーん! ちょっちピンチすぎや〜!」

周囲を見渡すと、諸肌に脱いだ鳳翔とそれを中心に見事な輪形陣を組んだ妖精が眠っていた。

龍驤「……なんなの? これ?」

こめかみを抑えつつ、徐々に昨夜の様子を思い出していく。

――――――
―――


60 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/07(日) 23:57:02.99 ID:62GOWKxc0
鳳翔『龍驤〜、飲んでますか? 盃が空ですよ』

龍驤『注いでくれるの? ありがと。ってその瓶からもう空やんか』

鳳翔『あら、私としたことが。ふふふ』

龍驤『そんな酔うなんて珍しいなぁ。あとなんで鳳翔が2人いるの?』

鳳翔『あなたも酔いすぎですよ』

鳳翔『ところで、龍驤は提督のどんなところが好きなんですかぁ?』

龍驤『う〜ん? そうやなぁ、具体的に何かあったわけやないけど。秘書艦としてずーっと一緒に過ごしてたやろ?』

龍驤『気がついたらこうなってたなぁ』

普段であれば決して言わないであろうこの言葉。

今、意外なほど滑らかに口から出てきた。

61 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/07(日) 23:58:29.09 ID:62GOWKxc0
龍驤『あとは、堂々としていても控えめなとこかなぁ』

龍驤『あれだけ、戦闘指揮に民間交流に奮迅してるのに、成果を誇示しようともせんしな』

龍驤『謙虚っていうんかな? なんかそういうとこもええよな』

龍驤『それから……』

堰をきったように延々と話し続ける龍驤。

話を聞いている間に鳳翔の顔がにやけてくる。

龍驤のことはわかっていた。

わかっていたが、やはり本人の口から出る言葉には情感がこもっている。

龍驤の盃に何度も注ぎながら、言葉を促す。

こういったことは貯めこまずに吐き出したほうがよい。

鳳翔は年長者としてそれを知っていた。

盃が空くたびに龍驤に注ぐ。ついでに、自分の盃も満たしながら話を聴き続けた。

62 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/07(日) 23:59:58.93 ID:62GOWKxc0
鳳翔『ふふふ、いいですねぇ。素敵です』

鳳翔『そんな龍驤のために、お姉さん一つ芸をしてあげます』

龍驤『ほっほー、ウチはちょっち採点厳しいよ?』

鳳翔『望むところです。本邦初公開ですよ? これを逃したら次の宴会まで見られませんからね?』

新米『熟練殿! 母様が! 急いでください』

龍驤と鳳翔の妖精たちもわらわらと寄ってくる。

龍驤の搭乗員は期待に満ちた眼をしていた。

かたや、鳳翔の搭乗員は自信にあふれた表情をしていた。

鳳翔『行きます! これは、演習ではなくて宴会よっ!』
63 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/08(月) 00:02:06.92 ID:ipErHBFK0



鳳翔『私が祥鳳です!』



64 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/08(月) 00:04:10.16 ID:ipErHBFK0
見惚れるほど見事な、倒立だった。

妖精たちの哄笑が響く中、龍驤だけが即座に反応した。

龍驤『鳳翔! 湯文字、湯文字!』

鳳翔『構いません! ここからが本番です!』

鳳翔『これが……』

鳳翔『祥鳳改ですっ!』

右手一本で艦体を支えながら、左舷側の肌脱ぎを行う。

支えが半分になったにも関わらず、ジャイロスタビライザーで制御したかのような安定感だった。

これにはさすがの龍驤も笑ってしまう。

あの鳳翔がここまで体を張った芸を見せるなどと、どうすれば予想できただろうか?

65 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/08(月) 00:07:24.57 ID:ipErHBFK0
鳳翔『まだですよ! このまま終わるわけには参りませんっ!』

鳳翔『そしてこれが……』

鳳翔『祥鳳改二です!』

爆笑の渦に包まれ、手や床を叩いて鳳翔を評した。

湯文字が見えることも躊躇せず逆立ちになり、諸肌を脱いだ鳳翔。

ダメージコントロールが得意な彼女は、中破したところでこれほどの状況にはならない。

つまり、この光景の貴重さ、姿勢制御の見事さ、実施者が鳳翔という意外さが相まって、笑いを誘うことに成功したのだった。
66 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/08(月) 00:09:04.18 ID:ipErHBFK0
鳳翔『ふぅ、さすがにふらふらします。私が無茶をしては、ダメですね』

大仕事を終えた後、チェイサー代わりの焼酎を口にする。

龍驤『あぁー、ええもん見せてもらった。次の宴会大賞はいただきやな』

鳳翔『えぇ、これ位の事をしなくては「ビッグ7・七変化」にはかなわないですからね』

龍驤『あれは凄過ぎやろ。那珂と「初恋!水雷戦隊」をデュエットやからなぁ』

鳳翔『いつもの長門さんからは想像できない、いい笑顔で歌っていましたからね』

鳳翔『その「ぎゃっぷ」が受賞につながったんでしょうね』

龍驤『……ビッグ7は侮れんな』

鳳翔『祥鳳さんにもお願いして一緒に逆立ちをしてもらったほうがいいかも知れませんね』

龍驤『それもええなぁ』

67 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/08(月) 00:11:04.87 ID:ipErHBFK0
鳳翔『そろそろ私は少し仮眠をいただきますね。もういい時間ですけど、あとかたつけは明日になりそうです』

龍驤『ならウチもそうするよ。5時には執務室やから、4時位に起きてかたつけを手伝うよ』

鳳翔『ふふ、ありがとうございます。では一旦おやすみなさい』

龍驤『おやすみ。鳳翔、今日はありがとな……』

鳳翔『いいんですよ。おめでたいことも悩み事も皆で共有したいですから……』

この居酒屋は、鎮守府最古参の2人が床で仮眠を取る面白空間と化した。

――――――
―――

68 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/08(月) 00:12:34.81 ID:ipErHBFK0
龍驤「いやぁ、なんやようわからんけど。昨日はおもろかったなぁ」

思い出したはしから順番に忘れていく。

酒の力を借りて、吐き出したことも忘れていく。

夢と同じように頭の中が整理されたようだった。

残ったものは楽しい時間を過ごしたという感覚だけだ。

龍驤「って、余韻に浸ってる場合やないで!」

龍驤「一旦寮に戻らんと……。あと、隼鷹にお土産もってかな」

あたりを見渡して、あらかた料理を食べ尽くしたことに気がつく。

龍驤「なんか、なんかないんか」

龍驤「……これや」

龍驤「鳳翔〜、昨日の分とこれはつけといて〜」

小声で伝えて、塊を2つ持って店を後にする。

69 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/08(月) 00:13:38.94 ID:ipErHBFK0
――軽空母寮――

龍驤「隼鷹、おはようさん」

隼鷹「はい、おはよー。朝帰りなんて珍しいな」

龍驤「ちょっと鳳翔とこで宴会になってな」

隼鷹「なんだよ〜、それなら誘ってくれたらよかったのにさ〜」

龍驤「ごめん、ごめん。お礼代わりにお土産持ってきたで許してぇ」

隼鷹「お礼って何のことかな〜? まっ、せっかくだから貰っておくけどね」

龍驤「はい、どうぞ」

隼鷹「……何これ?」

龍驤「生ハムとメロン。あれ? 前に食べたいって言っとらんかった?」

隼鷹「うむ、龍驤よ。生ハムメロンとは生ハムとメロンという素材のことではなく、料理名なのだよ」

龍驤「そうなんか? 知らんかったな」

隼鷹「気持ちだけ受け取っておくよ。今度鳳翔さんに作ってもらおうぜ〜」

龍驤「そうやな」

70 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/08(月) 00:15:01.75 ID:ipErHBFK0
龍驤「ところで今日の任務はどうしたん? まだ寮に居るなんて珍しいんとちゃう?」

隼鷹「何言ってんのさ。放送聞いただろ?」

『本日は秘書艦が体調不良のため、休暇日とする。繰り返す、本日は秘書艦が体調不良のため、休暇日とする』

『外出申請は俺のところに直接持ってきてくれ、以上だ』

隼鷹「うひゃあ! まさか、龍驤が無断欠勤だったとはね。そっちこそ珍しいじゃん」

龍驤「早う行かんと!」

隼鷹「まぁまぁ、待てって」

隼鷹「理由はどうあれ、休日に女が男のところに行くんだ。身なりは整えないとね〜」

71 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/08(月) 00:16:38.44 ID:ipErHBFK0
龍驤「けど、急がんと!」

隼鷹「龍驤」

隼鷹「親しき中にも礼儀ありって言葉があってな、お前そんな状態のまま提督に会うつもりなのか?」

隼鷹「髪は乱れてる、顔も洗っていない、服も着替えていない。そんな様でいいのか?」

隼鷹「これじゃ百年の恋だって冷めちゃうね〜。ひゃっはっはっは」

龍驤「……そんでも早う行かんと」

隼鷹「30分だけ待てって。湯浴みはできないけど、清拭してやるし、髪も梳いてやんよ」

隼鷹「そんくらいの時間は待たせといても大丈夫だって。お湯取ってくるから、髪を解いて服脱いでまってなよ〜?」

あれよあれよという間に話が決まってしまった。

言葉こそ砕けているが、隼鷹は意外な程、礼儀作法に明るい。

それは部屋を見渡せばすぐに納得できる。

遠征や出撃で時間がない中でも、きちんと整えられているのだから。

龍驤はおとなしく指示に従った。

72 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/08(月) 00:18:36.67 ID:ipErHBFK0
バイザーを外し、髪を解き、服を脱ぐ。

姿見で自分を眺め嘆息する。

贔屓目に見ても駆逐艦並だった。

駆逐艦で平均値を取れば、おそらくそれを下回るだろう。

龍驤「こればっかりはしかたないな〜」

変えられない事実はとっくの昔に受け入れた。鏡に映る艦娘はそんな表情をしていた。

隼鷹「おまたせ〜。ちゃっちゃかやっちゃおうぜ〜」

龍驤「頼むわ」

隼鷹「ほい、顔を拭くようの手ぬぐい。拭き終わったら、これ齧ってて」

ミントの葉とオリーブの実を手渡された。

隼鷹「口は大事だからね〜。機会は突然やってくるもんさ」

龍驤の背中を拭いながらそう語る。

機会とは何のことかはわからなかったが、頷いておいた。

顔に触れた熱めの温度が目を覚まさせる。

隼鷹「清拭おっしまーい。次は髪を梳くから服を着とけよ〜」

いつの間にか新しい服が用意されていた。まったくもって抜かりない。

73 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/08(月) 00:19:40.40 ID:ipErHBFK0
隼鷹「すんすんす〜ん♪ や〜すんすんすんす〜ん♪」

龍驤の髪にブラシを通す。BGM代わりに聞こえてくる、隼鷹の鼻歌が小気味良かった。

龍驤「それってなんなの?」

隼鷹「ん〜? 知らね。大昔の歌なんじゃね〜?」

龍驤「なんか意味があんのかな?」

隼鷹「さぁ?」

隼鷹「『風が吹けば悩みも吹き飛ぶ、お日様が輝けば心も熱くなる』」

隼鷹「『今日も元気に生きようぜ!』」

龍驤「おぉ、ええなぁ」

隼鷹「こんなのどうよ?」

龍驤「自分で考えたんかい!」

隼鷹「何でもいいじゃん。自分で自分の自由を奪うなって」

龍驤「その台詞は、かっこええな」

隼鷹「だろ? 意外と私、やるからねぇ」

74 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/08(月) 00:21:48.32 ID:ipErHBFK0
隼鷹「はい、できた。鏡見なよ」

目は覚め、唇はしっとりとしていた。

髪はいつもより艶が出ていた上、ご自慢の尻尾さえ機嫌がよさそうに見えた。

龍驤「おぉ、すっごい綺麗や。ありがと♪」

隼鷹「いいってことよ」

龍驤「あれ? 髪紐2つ余ってるんやけど。これどうやって留めたん?」

隼鷹「ん〜? 髪を編みこんで留めたんだけど?」

龍驤「……ほんますごいわ」

隼鷹「あとは、ハンカチ。 少しだけフラグレンスを付けといたから」

隼鷹「よっし! 準備もできたし、行って来い!」

龍驤「ほんまにありがとう。行ってきます!」

隼鷹「あとな、龍驤」

龍驤「なぁに?」

隼鷹「それ、解くのは簡単だけど、多分自力じゃ留め直せないぜ〜?」

龍驤「ウチじゃさすがに無理やわ」

隼鷹「帰ってきたら一緒に風呂に行こうぜ、ひひっ」

龍驤「うん? わかったでぇ〜」

何度も隼鷹に礼をしたあとに、部屋を去っていった。

慌てた様子ではあったが、その表情は少し自信を感じさせるものだった。

隼鷹「……さてさて、どんな髪型で帰ってくるかな?」

鳳翔が内面を隼鷹が外面を気に掛けたのだから、何もなければ嘘というものだろう。

隼鷹は本当に楽しそうな顔で笑っていた。

75 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/08(月) 00:26:19.05 ID:ipErHBFK0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・龍驤 ✓ ○
・鳳翔 ✓
・翔鶴 ✓
・瑞鶴 ✓
・長門 ✓


・加賀

加賀がでないうえに、話も加賀まで進まないです。

しかし、いつかやってきた大淀のお陰で、龍驤の対空カットインが見られて楽しいです。

プロット
・第六駆逐隊VS長門の演習
・加賀・龍驤VS長門の演習前日 第六駆逐隊と長門
・加賀・龍驤VS長門の演習当日朝 加賀と瑞鶴
・加賀・龍驤VS長門の演習本編
・劇本編
・劇終了後の章の授与
・ケッコンカッコカリ
・第一航空戦隊ソウリュウ編成の演習
・入渠
・我、夜戦に突入す!



>>57 特攻隊の訓練生だった人に話を聞いたんですけども、燃料用アルコールを隠れて飲んでいたと言ってました。

純メタノールか、燃料用アルコールみたいにエタノール:メタノール混合なのかはわかりませんが。

ちなみに、その人は訓練生のまま終戦を迎えることができて、特攻しなくて済みました。

命あっての物種と言うものです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
76 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/08(月) 13:09:29.69 ID:/PNyonGsO
闇市記とかでもメチルは爆弾酒って名前で出てくるな
77 : ◆zqJl2dhSHw [saga]:2015/06/21(日) 19:52:35.09 ID:60EahTQj0
――執務室――

龍驤「龍驤、参りました」

提督「入ってくれ」

提督の机、周囲の床には大量の紐が編み込まれ、伸びていた。

その長さから想像すると、最低12時間は待っていたことがわかる。

龍驤「○九五〇を持って、劇に出演する艦娘への台本配布任務を完了したことを報告します」

提督「報告ご苦労。本日は休暇日とした、この後は自由に過ごしてくれ」

龍驤「了解」

78 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 19:53:40.03 ID:60EahTQj0
龍驤「なぁ、キミ」

提督「どうした?」

龍驤「キミはウチが遅なったことを咎めんのは分かってる。けど、あえて言わせてもらうで」

龍驤「遅なってごめん」

提督「かまわんぞ? お前が思っている通り俺は咎めもしないし、怒りもしない」

提督「お前が俺のことを知ってくれているように、俺もお前のことはちゃんと知ってるからな」

提督「朝は呼びつけはしなかったが、呼べば必ず来てくれたんだろう?」

龍驤「それは当然や。たとえ機関部が全損しても、海底に沈んどっても……」

龍驤「ウチは必ずキミのところに帰ってくる」

提督「うむ」

79 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 19:55:42.52 ID:60EahTQj0
提督「ところで、龍驤よ。劇の本当の目的なんだが……」

龍驤「大元帥に、大事なことを宣言するんやろ?」

提督「……何故わかった?」

龍驤「キミがウチのことを知ってくれてるように、ウチも君のことはちゃーんと知ってるんやで?」

龍驤「どんだけ一緒に戦ってきたと思ってんの」

提督「それはそうかもしれないが、一回でも気がついた素振りは見せなかったじゃないか」

龍驤「いや、任務中やったやろ?」

提督「……しまった。そうだったのか。確かにそうだったな」

提督「はっ!? 今日は任務がないじゃないか!」

龍驤「まぁ、キミが休みにしたからな」

提督「……こほん。龍驤よ、聞いてほしいことがある。俺は……」

提督「むぐっ?」

龍驤が笑みを見せ、その人差し指で提督の口を閉じた。
80 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 19:56:51.72 ID:60EahTQj0
龍驤「ここでウチに言うてどうすんの。大元帥を証人にしてまで伝えたい大事なことなんやろ?」

龍驤「やったら、その時まで待たんと失礼って言うもんやで?」

龍驤「焦ることなんかないって、ちゃんとその時は来るんやからな」

提督「そうか、そうだったのか」

龍驤「そうやで〜」

「「あはははは」」

提督「……あぁ、龍驤。とても素敵だ」

龍驤「ウチのこと褒めてくれるん? ありがと♪」

81 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 19:58:59.33 ID:60EahTQj0
提督「ところで、その髪はすごいな。どうなってるんだ?」

龍驤「すごいやろ? 隼鷹に編んで貰ったんやで?」

龍驤「理由はあれやけど、休日やからな。少しくらいはめかすよ」

提督「そうか、そうだな」

提督「……」

龍驤「ウチの髪さわりたいん? しかたないなー、少しだけならええよ?」

提督「本当か? ありがとう、龍驤! 大す……」

提督「いや、これは言うまい。今はその時ではないよな」

提督「あぁ、後いくつ寝ればその日がくるんだろうな」

82 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:01:22.22 ID:60EahTQj0
龍驤「さっきから何言うてんの。触らんのならもうバイザーつけるで?」

提督「ちょっと待ってくれ」

提督「これはすごいな。素敵だ、よく似合っている」

龍驤「そうやろ、そうやろ?」

提督「これってどうなってるんだ?」

龍驤「気ぃつけて。簡単に解ける言うてたから……遅かったか」

提督「……すまん」

龍驤「別にええよ。ちゃーんと目的は果たしたからな」

龍驤「キミが夜なべした組紐一本ちょうだい? それで留めとくよ」

提督「それはいいんだが、俺が髪を編んでもいいか?」

龍驤「できるの?」

提督「左の房を見ながらならなんとか。せっかく似合ってたんだ」

龍驤「それじゃ、お願いしよかな」

提督「うむ、任されよう」

龍驤「……こんな日は後何日続くんかなぁ」

提督「何か言ったか?」

龍驤「何も言うてへんで」

――――――
―――

83 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:02:52.88 ID:60EahTQj0
――駆逐寮――

雷「龍驤さん、大丈夫かしら? 寝込んでないかしら?」

電「まぁ、大丈夫なのです。多分」

響「けど、司令が任務を中断するくらいだ。さすがに心配してしまうよ」

電「それも大丈夫なのです。多分」

雷「なによ! 電は龍驤さんのこと心配じゃないの?」

電「龍驤さんを心配するより、長門さんとの演習を心配したほうがいいのです」

暁「なんか冷たくない?」

電「じゃあ、少し執務室を覗いてくるのです」

暁「へ? 軽空母寮じゃないの?」

電「少し待ってて」

――――――
―――
84 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:04:35.89 ID:60EahTQj0
――執務室――

電「……失礼します」

小さな声でノックもせず、静かに扉を開ける。

龍驤「……」

椅子に座った龍驤は目を閉じ、船を漕いでいた。

その後ろで髪を結っていた提督はおそらく電が来ることを予想していたのだろう。

声を出さずにテーブルの上を指さした。

『間宮券』

互いに目礼のみ交わして話はおしまい。この沈黙で十分に伝わった。

電「……失礼しました」

入った時と同じように足音すら出さずに部屋を後にした。

――――――
―――
85 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:05:55.74 ID:60EahTQj0
雷「どうだった? 司令は困ってなかった?」

電「司令官さんは龍驤さんと一緒にいたのです」

雷「あっ、そういうことだったの。ごめんね、電」

響「これは、心配する必要はないようだね」

顔を赤くして、2人は電に謝罪をした。

暁「さすが私達の司令ね! 龍驤さんの看病をしてたのね!」

「「え?」」

響「いや、うん。そうだね、さすが暁だ。人を思いやれる素敵なレディーだよ」

暁「当然よ! 暁は一人前のレディーなんだから」

86 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:09:14.32 ID:60EahTQj0
暁「司令をお手伝いして龍驤さんに早く良くなってもらわなくちゃ」

響「これは司令に任せたほうがいいんじゃないかな」

暁「なんでよ」

響「この鎮守府では休むことも任務だからね。もしかすると今日は、長門さんとの演習に備えるための時間なのかも知れない」

暁「そう言われるとそんな気もしてきたわね。龍驤さんのことは司令に任せて私達は作戦を練りましょう」

雷「ねぇ、暁。やっぱり旗艦は私のほうがいい気がするんだけど」

暁「何よ! ジャンケンで正々堂々と決めたじゃない」

電「蒸し返す前に間宮さんのところに移動しましょう。提督のところから券を貰ってきたのです」

雷「なら一番早く着いた人が旗艦ね! よーい、ドン!」

暁「ちょっと! 勝手に決めないでよね」

響「……今度こそ勝つ!」

――――――
――
87 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:11:15.96 ID:60EahTQj0
――廊下――

暁「あ、北上さん。こんにちは!」

北上「むっ、駆逐艦。まぁ、こんにちは。廊下は走るんじゃないよ〜」

暁「ごめんなさい、けどこれは勝負なんです!」

北上「なんなの一体」

88 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:13:17.08 ID:60EahTQj0
響「北上さん、こんにちは」

北上「また駆逐艦。はいはい、こんにちは。埃たつから走るのやめてよね」

響「ごめんなさい。けど、今負けると旗艦になれないんだ」

北上「う〜ん、なんなのこれ?」

89 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:13:47.63 ID:60EahTQj0
雷「北上さん! こんにちは!」

北上「げっ、また駆逐艦。けどまぁこんにちは。先にふたりいっちゃったよ〜?」

雷「なんで止めてくれなかったんですか! このままだと雷は旗艦になれないんだから!」

北上「えぇ〜? そんなの知らないよ……」

90 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:15:11.40 ID:60EahTQj0
北上「あぁ、やっぱり駆逐艦はうざいなぁ」

北上「うわっ、また来た。今日は厄日だなぁ」

北上「こんにちは、電。3人は走っていったけど、アンタは行かなくていいの?」

電「どうも、北上さん。こんにちはなのです」

北上「あれって一体何なの? ちゃんと躾けておきなよ〜」

電「ごめんなさい。演習の旗艦を決める競争をしているのです」

北上「あぁ、長門さんとの演習ってやつ? はしゃぐのも無理ないか」

電「そうだ、北上さん。演習の作戦会議に参加して欲しいのです」

北上「えぇ〜、やだよ」

電「そこをなんとか」

91 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:17:03.44 ID:60EahTQj0
北上「やだよ〜。この鎮守府は大井っちがいないからね。あんまり頑張ってもね〜」

北上「大井っちだけじゃないよ? 球磨姉も多摩姉も、木曽もいないんだよ」

北上「なんか張り合いがないねぇ」

電「……司令に具申しますか? もっと建造に力を入れればきっと」

北上「いいや、いらない。別に目的を履き違えてるわけじゃないんだよ」

北上「むやみに数を増やさないのは逆にいいことだしね〜」

北上「それにさ、球磨型で初めに来ちゃったのが私だからしかたないよ」

北上「このスーパー北上さまを目の前にして、提督が戦力不足なんて語れるわけないんだから」

電「その通りなのです」

92 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:19:26.82 ID:60EahTQj0
北上「……駆逐艦に何言ってんだろう。情けないなぁ、もう。こんなの見られたら、大井っちが大笑いするよ。ったく……」

電「話は戻しますけど、作戦会議に参加して欲しいのです」

北上「ほんとぐいぐいくるね〜。そんなの電がやればいいじゃん」

電「電ができるのは、単艦の鍛錬についてだけなのです。第六駆逐隊として闘うために、作戦会議参加をお願いしたいのです」

北上「あーもう、わかったよ。行けばいいんでしょ、行けば」

電「ありがとう」

北上「ったく、なんでこうなるかね?」

電「軽巡洋艦は駆逐艦を導くものなのですから」

北上「今は重雷装巡洋艦だよ〜。覚えないのはもう諦めたけどさ〜」

電「北上さんと一緒に出撃したのは、北上さんの練度上げに随伴していた時だけでしたから」

北上「まぁ、あの時はありがとね」

93 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:21:18.26 ID:60EahTQj0
――間宮――

暁「どう考えても、暁が一番ってことよね!」

雷「もう少しだったのに!」

響「まぁ、これは仕方ないね」

電「仕方ないのです」

北上「3人とも反省文書き終わった? じゃあ作戦会議を始めるよ〜」

「「お願いします」」

94 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:22:50.45 ID:60EahTQj0
北上「と言ってもやることは決まってるから。長門さんの砲撃をよけながら雷撃戦に持ち込む」

北上「以上」

暁「え、これだけ? 他に何かないの?」

北上「ないよ。駆逐艦の主砲じゃ長門型の装甲を抜くのは無理だからね〜」

雷「長門さんってそんなに強いの?」

北上「はっきり言って今回の演習を組んだ理由を提督に問いたいくらいだね」

北上「長門さんの通常装備だと、そうだね〜」

北上「昼戦で2盃轟沈。残り2盃で雷撃を当てたとしても、長門さんなら小破、いやギリギリ中破だね〜」

北上「さらに夜戦で1盃轟沈。最後の1盃がなんとか頑張ったら、中破、ギリギリ大破に追い込める、かな?」

北上「ちなみに昼戦の主砲は多分貫通しないから、長門さんへのダメージにはならないね〜」

95 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:25:39.46 ID:60EahTQj0
暁「……え? 長門さんってそんなに強いの? 全く勝てる要素がないんだけど」

北上「逆に長門型戦艦をなんだと思ってたの? まぁいいんだけどさ〜」

響「それで、今回の演習に勝てる確率はどれくらいなのかな?」

北上「そうね〜、7割くらいじゃない?」

暁「そんなに高いの!? なんだ北上さん、驚かせないでよね!」

北上「戦闘での頭数は重要だからそうなるね〜。今回の演習だと長門さんに装備縛りがあるしね」

電「よかったよかった。これで安心して闘えるわ!」

96 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:26:48.93 ID:60EahTQj0
北上「どうしてそんなに余裕なの?」

電「だって7割で勝てるんでしょ? 絶望的な差はないってことよね!」

北上「1人は轟沈確定だよ?」

暁「なんでそうなるの?」

北上「あくまでも出撃じゃなくて演習での勝利の話だからね〜。長門さんは正確に、確実に旗艦を狙ってくるよ」

北上「たとえ12.7cm連装高角砲でも、あの人は戦艦だからね。基本の火力が違うわけよ」

北上「それで確実に旗艦は轟沈、まぁ演習だから轟沈判定だね。その上で、生き延びた3盃で雷撃を打ち込んで長門さんを轟沈に追い込む」

北上「これでようやく戦術的勝利になるかな〜」

97 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:47:45.20 ID:60EahTQj0
響「負ける3割は何なのかな」

北上「雷撃を打ち込んでも回避されるか、耐えきられるかだね〜。3盃生き延びて撃ちこめば、まぁ大丈夫、大丈夫」

「「……」」

響「北上さん、今から訓練をお願いします」

明確な記憶があった。姉妹から置いてけぼりを喰らう自分の姿だった。

生き延びたことへの感謝はあったが、それ以上に何もできなかったという惨めさが勝っていた。

北上「せっかくの休日なんだし、やだよ〜」

暁「お願いします!」

混濁した記憶があった。姉妹を置いてけぼりにして独りで沈む自分の姿だった。

目的は果たした、ような気もするし無駄死だったような気もする。

願わくば、次は姉妹で闘い抜き、そして勝利したかった。

北上「嫌だって、駆逐艦。あぁ、うざい」

雷「お願いします!!」

生まれ変わる前からずっと思っていた。

敵も味方も全部助け出したい。

それを実現するためには、必ず力が要る。

北上「……」

電「電からもおねがいするのです」

北上「……まぁ、なんて言うの?」

北上「ギッタギッタにしてあげましょうかね!」

――――――
―――
98 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 20:53:08.67 ID:60EahTQj0
>>76
戦中戦後の物資不足でもお酒が飲みたかったということなんでしょうね。
99 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/06/21(日) 20:56:48.48 ID:x/C/858ao
ロシアでは整備兵がエンジン用のアルコール飲んでたみたいだな 今は違うかもしれんが
100 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/21(日) 21:54:09.37 ID:60EahTQj0
>>99
脱脂用、清掃用アルコールでしょうか。どこの国でも同じなんですね。

>>96
差し替え

北上「どうしてそんなに余裕なの?」

電「だって7割で勝てるんでしょ? 絶望的な差はないってことよね!」

北上「1人は轟沈確定だよ?」

暁「なんでそうなるの?」

北上「あくまでも出撃じゃなくて演習での勝利の話だからね〜。長門さんは正確に、確実に旗艦を狙ってくるよ」

北上「たとえ12.7cm連装高角砲でも、あの人は戦艦だからね。基本の火力が違うわけよ」

北上「それで確実に旗艦は轟沈、まぁ演習だから轟沈判定だね」

北上「開幕した瞬間に長門さんの戦術的勝利条件が確定するの」

北上「その上で、生き延びた3盃で雷撃を打ち込んで長門さんを轟沈に追い込む」

北上「ここまでしてようやく第六駆逐隊の勝利ってわけ」
101 : ◆zqJl2dhSHw [saga]:2015/06/29(月) 00:51:50.00 ID:tx8CqYLJ0
――訓練場――

北上「準備出来た?」

北上「まずは回避訓練からだよ。 ちゃんと避けなよ〜?」

暁「お願いします!」

12.7cm連装高角砲が唸りを上げ、暁を襲った。

北上は射撃宣言をしてから、砲撃を繰り出した。

着弾位置とタイミングを測るための情報は十分だった。

足りないものがあるならば、それは暁の練度だろう。

暁「きゃあっ!」

北上「避けなって言ったじゃん」

暁「へっちゃらだし!」

北上「はい、もう一発」

暁「きゃあっ!!」

暁:大破

北上「少しでも動かないと絶対に当たるからね」

北上「はい、次〜」

響「よろしくお願いします」

北上「ほいっ!」

響「くっ……」

響「不死鳥の名は伊達じゃない」

響:小破

北上「いや、耐えるんじゃなくて避けるの。同じ連装高角砲使っているけど、長門さん相手だったら今ので決着だよ〜」

響「もう一度おねがいします」

北上「ほいっ!」

響「くっ、さすがにこれは、恥ずかしいな……」

響:中破

北上「うんうん、少しは動けていたかな」

102 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/29(月) 00:54:22.33 ID:tx8CqYLJ0
北上「次〜」

雷「はーい! 北上さん。行っきますよー!」

雷「えいっ!」

3人目にして、とうとう回避に成功した。

これは姉ふたりの挙動をよくよく観察した結果だった。

北上が指摘したように、少し動けば急所を外すことができ、大きく動けば回避も可能だった。

北上「まぁまぁか」

雷「そんな攻撃、当たんないわよ?」

北上「連装砲は侘び寂びがないから、あんまりね〜。ほい、ほい、ほいっ!」

雷「ムリムリムリ!」

勘違いに気がついた時と着弾は同じだった。

撃つタイミングと方向を宣言してもらい、射撃は単装砲のように一発のみ。

避けることに成功したが、それが北上の砲撃を回避できることとイコールにはならなかった。

雷「いったぁ〜い!」

雷:大破

北上「ちゃんと避けなよ〜」

雷「なによ、もう! 雷は大丈夫なんだから!」

北上「元気なのはいいことだ」

北上「よ〜し、次行くよ〜」

電「お願いするのです!」

北上「てぇええぇ!!」

電「甘いのです!」

北上「まぁ……主砲は……まぁ……そうねぇ……」

射撃回避訓練一周目終了。

第六駆逐隊は全体的にぼろぼろだった。

北上「はい、高速修復剤はいっぱい用意してあるからじゃんじゃん使っちゃおう」

103 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/29(月) 00:59:26.46 ID:tx8CqYLJ0
三十六週目

北上「駆逐艦、ちゃんと避けなよ〜。もっと回避行動の初動を早くしないと当たっちゃうよ」

雷「こんなの避けられないわ!」

北上「じゃあ休んでていいよ。そっちの方が私も楽だし」

雷「……ごめんなさい、もう一度お願いします!」

北上「うんうん」

北上「はい、3人とも高速修復剤をかぶって」

北上「まとめて行くよ〜」



北上「なんとか避けられるようになって来たね〜。それじゃあ、演習形式で行ってみようか」

「「はいっ!」」

演習開始!

――開幕雷撃――

北上は甲標的を繰り出した。

響「なっ!」

雷「嘘でしょ!」

北上「おっ? ちゃんと避けたね〜。えらいぞ、駆逐艦」

――砲撃戦――

暁「攻撃するからね」

響「さて、やりますか」

雷「ってー!」

電「なのです!」

北上「まぁまぁかな」

被弾することなく、回避しきった。

回避したが、北上も射撃を命中させられなかった。

北上「う〜ん。まぁ私はやっぱ、基本雷撃よね〜」

――雷撃戦――

北上「20射線の酸素魚雷、2回いきますよー」

暁「えっ!?」

北上「40門の魚雷は伊達じゃないから!」

まるで両舷から同時に発射したように見えた。

それほどに華麗な切り返しだった。

電「これはさすがに無理なのです!」

第六駆逐隊:大破

104 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/29(月) 01:00:21.91 ID:tx8CqYLJ0
北上「……」

北上「あれ? 駆逐艦、攻撃当ててないじゃん。ちゃんと当てないと」

暁「当てられるわけないじゃない! 北上さん、強すぎるんだから!」

響「……避けるだけで精一杯だ」

北上「あ〜もう。ほら、持ってきた修復剤。あと4つ残っているから使って」

電「まだ何かしますか? 回避は見違えるほどよくなったのです」

北上「避けれてもちゃんと当てなきゃ勝てないからね〜。ほら、次は射撃訓練だよ」

暁「的を用意しなくちゃ」

北上「そんなのいらないって」

雷「えぇ? 海に向かって撃つんですか?」

北上「違う違う、そんなことしても仕方ないよ」
105 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/29(月) 01:01:46.16 ID:tx8CqYLJ0



北上「私を狙って撃つんだよ?」



106 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/29(月) 01:03:02.26 ID:tx8CqYLJ0
雷「無理です! そんなことできるわけないわ」

暁「そうよね、一人前のレディーはそんな事しないわ」

響「……それは違うよ、暁。本当に出撃したら、的なんてないんだよ」

響「そこにあるのは、私たち『艦娘』と『深海棲艦』だけだ」

暁「で、でも! イ級にちゃんと当てたことはあるわ!」

暁「……機銃だけど」

暁「……」

北上「どうするの、駆逐艦? やらないならこれで終わりにするよ〜?」

電「北上さん、本当に大丈夫なのですか?」

北上「なに、電? 私に不満があるっていうの?」

電「そんなものはないのです」

北上「じゃあ、さっさと準備しなよ〜」

北上「「『当てられるはず』と『当てたことがある』は全然違うからね」

北上「あと駆逐艦のくせに遠慮なんかしなくていいってば」

雷「北上さん、よろしくお願いします!」



――雷撃――

4人それぞれが四連装酸素魚雷を斉射した。

それは、微動だりしない北上に吸い込まれるように進んでいった。

暁「当たった!」

響「北上さんは!?」

雷「うそ!? あれを真正面から受けて、小破だなんて」

北上「まぁ、仕方ないでしょ」

北上「私はハイパー北上さま、装甲は神なのよ」

響「ほら、やっぱり! 北上さんは雷巡だからね、酸素魚雷のことを知り尽くしているんだよ」

電「響、すごく嬉しそうね」

暁「これが、一人前のレディーなのね……」

響「北上さん、ありがとう!」

北上「後はしっかり補給して休んでお終い」

北上「あぁ、疲れた〜」

雷「北上さんも一緒に間宮さんのところに行きませんか? まだ券があるんですよ!」

北上「行かないよ〜。機関部冷却にしばらく巡航するからね」

響「なるほど。雷、私達もそうすべきじゃないかな」

北上「駆逐艦は大丈夫。ほら、さっさと行った行った」

「「本当にありがとうございました!」」

――――――
―――
107 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/29(月) 01:07:27.55 ID:tx8CqYLJ0
電「北上さん、ありがとうございました。演習までしていただけるなんて」

北上「まぁ、私って極めて高練度な艦娘じゃん? あの子たちにとっては十分な経験になったでしょ」

電「もちろんなのです! けど、装甲が……」

北上「いいから、いいから。アンタもさっさと行きなよ」

電「……本当にありがとうございました」

北上「昔、誰かさんも私の練度上げに付き合ってくれたからねぇ」

――――――
―――
108 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/29(月) 01:09:07.52 ID:tx8CqYLJ0
北上「ふぅ、きっついな〜」

北上「装甲は紙なんだよ、本当に」



「北上さ〜ん♪」



北上「大井っち!?」

阿武隈「ごっつーん!」

北上「……」

阿武隈「……」

北上「……阿武隈じゃん」

北上「なんで頭突きすんのさ」

阿武隈「そろそろ水雷戦隊旗艦の序列を決めておきたくて。たった今、神装甲の北上さんを一撃で『大破』させたあたしの方が上でいいよね!」

北上「相手が違うでしょ。川内と競いなよ」

阿武隈「夜戦バカには負けないから!」

北上「何でもいいよ、もう。えいっ」

阿武隈「あぁ! 前髪が!」

北上「いや〜、それをくしゃくしゃにするのは楽しいね」

阿武隈「やめてよぉ〜! セットし直したばかりなのにぃ〜!」

阿武隈「またセットしなくちゃ。北上さん、お風呂行きましょう」

北上「あー」

北上「……ありがとね」

阿武隈「それから、駆逐艦と仲良くなる方法を教えてください!」

北上「えぇ、あんなのうざいだけだよ」

阿武隈「嘘! あんなに楽しそうにしてたじゃない」

北上「そうかな?」

阿武隈「そうよ」

阿武隈「なんで第六駆逐隊の子は第一水雷戦隊旗艦のあたしを頼ってくれないの?」

北上「そんなの知らないって」

北上「けど、まぁ、阿武隈は練度を上げないとね。まずは川内に勝てるようになってからでしょ」

阿武隈「だから! 夜戦バカには負けないから」

北上「わかった、わかった。ほら、お風呂行くんでしょ。えいっ」

阿武隈「ふわぁぁ〜っ! あんまり触らないでくださいよ!」

北上「いや〜、ほんとおもしろいわ」

阿武隈「もうっ! 肩貸してしてあげますから早く行きましょう」

北上「はいはい」

阿武隈「あと、どうやったら第六駆逐隊の子たちは私に頼ってくれますか?」

北上「だから、知らないって……」

―――――――
―――
109 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/06/29(月) 01:16:07.16 ID:tx8CqYLJ0
>>91
訂正
「木曽」→「木曾」

先週は北上さまドロップが大量でした。

早く加賀の話まで進めないと、いつまでたっても加賀を手に入れることはできなさそうです。

そもそも、話を書いたら手に入るわけではないですが。
110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/07/02(木) 04:08:55.45 ID:EtRGR1weO
厨房が書いてるのこれ?
厨房じゃなければほぼ間違いなく統合失調症だと思うから病院いった方がいいよ
111 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/08/01(土) 22:54:54.45 ID:mJ7tnaRJ0
――船渠――

北上「あれ? 先客がいるんだね」

阿武隈「何言ってるんですか、もう夜だから当たり前ですよ。お休みなのにどれだけ訓練してたの?」

北上「いや〜、まぁねぇ」

北上「こんばんは〜っと」

阿武隈「龍驤さんと隼鷹さんだ」

龍驤「お〜、こんばんは。って北上、どうしたんや!? 敵襲か!?」

北上「ちょっと駆逐と訓練してたんだ〜。龍驤さん、今日頑張っちゃったから、かわりに有給休暇もらえないかな?」

龍驤「それはええけど。駆逐艦相手にそこまでなるってさすがにおかしいやろ。どんな訓練してたん?」

阿武隈「この人無茶苦茶なんですよ。単艦で第六駆逐隊の子たち相手に演習形式をして、全弾回避した上で雷撃を叩き込んじゃうし」

阿武隈「何を考えてるのか、その後の雷撃訓練で北上さんが標的役になっちゃうし」

北上「思わず工作艦になっちゃうかと思ったよ」

龍驤「冗談やってわかってるけど、滅多なことは言わんといてな」

北上「ごめんごめん」

龍驤「けど、北上が稽古つけるとはなぁ。なんかあったん?」

北上「訓練つけろ、訓練つけろ! って、しつこかったからね。面倒だから黙らせただけだよ」

いつもの飄々とした雰囲気はなく、ただ柔らかな口調でそうつぶやいた。

隼鷹「なぁ、北上さん。いっこ聞いていい?」

北上「いいよー」

隼鷹「駆逐艦の子たちとの訓練楽しかった?」

北上「そうねー。まぁ……」

北上「楽しかったかな」

いつもの彼女からは決して出ない言葉だった。

訓練も任務も、面倒がってはいるがいつもそつなくこなしていた。

練度も非常に高く、単艦で長門に打ち勝てる数少ない艦娘の1人だった。

水雷戦隊の旗艦こそ離れていたが、今なお、駆逐と軽巡から尊敬を集めている。

それでも、楽しげな表情を見せたことはなかった。

龍驤「なぁ、北上。提督に具申しとこか? 建造に力を入れれば球磨型の姉妹艦も着任できると思うよ」

北上「電とおんなじ事を言うねー。そりゃ会いたい気持ちもあるけどさ、考えてみてよ」

北上「この北上さまとほぼ同格の大井っちが来るだけで大問題だよ。ただでさえ、この鎮守府は監視対象なのに」

龍驤「……軍縮か。たしかに、着任した瞬間に発令されそうや」

北上「でしょ? そうなるのは本当にやだからね」

龍驤「そうやな」
112 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/08/09(日) 22:37:33.23 ID:/mWOSGia0
阿武隈「あのー、ちょっといいですか?」

龍驤「どうしたん?」

阿武隈「あたし達って深海棲艦に対抗できる唯一の手段ですよね」

龍驤「そうやで〜、まだ人類の兵器では勝てやんのや」

阿武隈「だったらなんで戦力を削減するんですか? むしろ今も戦力不足が続いているような気がするんです」

隼鷹「あー、阿武隈さん? それはね……」

阿武隈「皆で力を合わせた方が絶対にいいですよね! 連邦や帝国と共同戦線を張ったりすればもっと早く確実に海の平和が取り戻せると思うんです!」

北上「……阿武隈」

阿武隈「ひぇ? あたし、何か変な事言いましたか〜?」

北上「アンタいい子だねぇ」

前髪を崩すのではなく、頭を撫でながらつぶやいた。

他のふたりも首肯する。

龍驤「川内やなくて阿武隈が一水戦旗艦になった理由がわかった気がするわ」

阿武隈「あれ? なんであたし褒められてるんですか?」

北上「いいからいいから。そろそろアンタも本気で訓練しないとね。川内にも勝ちたいでしょ?」

阿武隈「だから! 夜戦バカには……」

北上「勝てるって自信を持って言える? あれは水雷戦隊だけで敵艦隊を打倒するって覚悟を決めちゃってるからね。だから夜戦に全戦力を賭けてる」

阿武隈「うぅ〜」

北上「そんでもって出撃撤退の判断はかなり慎重だよ〜。陸上型の棲艦だってわかってたら絶対に出ない。もし出撃の途中で気がついたら即撤退するから」

北上「雷撃は陸の上まで届かないし、島に魚雷を打ち込んでも仕方ないからねぇ」

阿武隈「あたしなら! 島ごと吹き飛ばしてやります!」

北上「……龍驤さん聞いてた?」

龍驤「もちろんや、その発想はなかったな」

龍驤「魚雷の出力を上げる? いや、それとも……」

北上「対地魚雷って言うのもありかも。できなくはないよね」

一瞬にして、技術会議が始まってしまった。
113 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/08/09(日) 22:40:03.93 ID:/mWOSGia0
阿武隈「あの? また変なこと言っちゃいましたか?」

隼鷹「いや〜、大丈夫大丈夫。あいつらの変なところに火が着いちゃったけど」

隼鷹「さて、先に出よう。よければ髪を結ってあげようか?」

阿武隈「ほんとですか! やった!」

阿武隈「あっ、もしかして今日の龍驤さんの髪って隼鷹さんがやったんですか?」

隼鷹「そうだよ〜、せっかくの休みだしたまにはね」

阿武隈「そういえば、龍驤さんの体調はよくなったんですか? 突然休暇日になってびっくりしちゃったんですけど」

隼鷹「あー、龍驤のやつ寝坊して出てこなかったんだよ。提督も甘いよねぇ」

阿武隈「むしろそれこそ心配です。龍驤さんが遅刻なんていままでなかったです」

隼鷹「たまにはそうなることもあるって。あんまり追い詰めないでやってほしいねぇ」

阿武隈「そんなつもりは……」

隼鷹「わかってるよ。けど龍驤のやつ、提督と一緒に謝罪に出かけてるからさ。え〜と、漁連と海運の2箇所だね。責務はちゃんと果たしているから許してやってよ」

阿武隈「許すも何も咎めてないですよ」

阿武隈「……あれ? 提督とお出かけしてたんですか?」

隼鷹「ん? そうだね。何してきたって言ってたかな。謝罪の後、飯くって、酒保に補充するものを見に行って、私らへのお土産に甘味を買って……」

阿武隈「デートですね」

隼鷹「やっぱそうだよね〜。せっかくだから泊まってきたらよかったのね」

阿武隈「ちょっと隼鷹さん、それは流石に」

隼鷹「まっ、休みになったし、心太(ところてん)は美味かったしいいか? 阿武隈さんもあとで食っときなよ」

阿武隈「はい、楽しみです」

隼鷹「それはそうと、お客様。どのような髪型にしましょうか?」

阿武隈「龍驤さんのツインテールみたいに留めて欲しいです。組紐のやり方ですよね」

隼鷹「おぉ? よくわかってるじゃん」

阿武隈「結び目のところが花になってましたから。左のテールが菊結びで右が吉祥結びでしたよね。あえて変えるなんて素敵です」

阿武隈「あれだけ綺麗なら、入渠しても解かないのはしかたないですよね」

隼鷹「あれぇ?」

隼鷹はどちらの房も菊結びで留めた。

あえて別の結びをする理由がないから当然と言えば当然だった。

簡単に解けはするが、普通に過ごしているだけで解けはしない。

そして自力ではほぼ留め直すことはできない、つまり。

隼鷹「……やるじゃん、龍驤」

微妙に間違った方向に合点がいった。
114 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/08/23(日) 20:59:43.09 ID:FYsmm/Kj0
北上「これだったら、魚雷の威力で対空迎撃もできるね」

龍驤「はー」

北上「空を飛ぶ時間がが長ければ長いほど、対空防御の餌食になっちゃうからね〜」

北上「魚雷として海中を進んで、最後は空を飛ぶ雷撃だから。艦攻とは別の使い方になるのかな」

龍驤「ふーん」

北上「念の為に名前をつけておこう、『はーふーん魚雷』でいいや。使うときは特許料よろしく〜」

龍驤「了解〜、妖精さんに伝えておくわ。けど、どんだけ時間が経っても皇国はかわらんのやな」

北上「数を制限されるからしかたないよね。いつだって質を上げていくしかないんだよ」

「こんばんは! おっ、龍驤さんに北上さんじゃないですか」

「ふむ、なかなか珍しい組み合わせだな。まぁ、別に関係ないが」

北上「比叡さんに日向さん。こんばんは〜」

龍驤「キミらはキミらで珍しい組み合わせやん」

龍驤「って、あっかーん!! これはホンマにピンチすぎや!!」

北上「うわぁ……、それって長門さん? え? 本当に?」

比叡と日向の間には長門のようなものがぶら下がっていた。

北上が阿武隈の肩を借りて船渠に来た時と比べて、さらに曖昧な状態であった。

龍驤「土気、相生、金気! よっしゃ! 形は留めたで! 妖精さん、高速修復剤をお願いや!」

通信式符を飛ばし、まもなく高速修復剤が運ばれてきた。

迅速に修復が進み、すぐにでも意識が回復することが予想できた。

龍驤「……比叡、日向。仲間に何しとんのや。海やったら間違いなく長門は轟沈やんか」

日向「まぁ、そうなるな。少なくとも私は全力を尽くしたからな」

龍驤「なんや、言いたいことはそれだけか?」

比叡「龍驤さん、これはですね?」

龍驤「ちょっと黙って、いま日向に……」

115 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/08/23(日) 21:00:23.91 ID:FYsmm/Kj0
北上「え〜い、ざっぶーん」

龍驤「熱っ! めっちゃ熱いやん!! 北上っ! なにすんの!?」

北上「あっ、間違えた。こっちは熱湯だった」

北上「龍驤さん、いま比叡さんが説明しようとしてたよ。攻め立てたかったわけじゃないでしょ? 話聞きたかったんだよね」

龍驤「む、その通りや。 比叡、ごめん。 話聞かせて、ことによっては日向をぶっ叩くで」

長門「……ごほっ。がふっ、ふぅ〜。龍驤よ、私が比叡と日向に頼んだのだ」

日向「ほう、さすがは長門だ。この短期間で復活するとはな」

龍驤「何を頼んだんや? 死にたかったんか?」

長門「そんなことするわけなかろう。第六駆逐隊との演習に向けた訓練だ」

龍驤「こんなになるまでやる必要あるんか? 数の優位性は大きいとはいえ、相手は駆逐艦や。その準備に巡洋戦艦と航空戦艦を相手取るのは過剰やないか?」

比叡「あの〜、実は私、練習戦艦なんです」

龍驤「え〜、真面目な話しとったやん。急にそんなこと言われたら……、冷静になったわ」

龍驤「長門、続きを」

長門「うむ。 任務が遠征ばかりという不満を演習で発散したいだけであれば、上手に負けてやるのもいいと思っていた」

長門「たまには遠征ではなく出撃がしたい、演習がしたい、そんな理由であればな」

長門「あの3人の練度では不足も不足だ。加減をしなければ、一発の砲雷撃を打てないまま終わるかもしれん」

長門「だが、もし。本気だったら? 発散したいではなく、本気で勝ちたいと思っているのなら?」

長門「装備に制限を加えた上で、さらに私自身も加減をしたら? そんな演習に勝って、彼女たちは何を得られるのだ?」

長門「まずは、私が全力を出せるように訓練を依頼したというわけだ」

長門「まぁ、杞憂かも知れないな。遠征は経済速度で移動するから、不満もたまりやすいしな」

長門「どうだ、龍驤? 殴り合いで私と対峙できるのは、鎮守府ではこの2人だけだから。この理由では足りないか?」

龍驤「十分や。 そこまで考えてくれてありがとう」

龍驤「日向もごめんな。いきなり突っかかって」

日向「別にいいさ。説明は長門がしてくれた」

日向「それより今日の長門は頑張っていたぞ。私だけではなく、比叡にも膝をつかせたのだからな」

比叡「はい! とうとうやられちゃいました!」

龍驤「ほんまに? 長門よう頑張ったな!」

長門「やめろ、龍驤。 頭を撫でるな、恥ずかしいではないか」

龍驤「何恥ずかしがっとんのや、褒められときなよ。ほれほれ」

北上「お〜、龍驤さんの可愛がりだ。なんか懐かしいね」

長門「むぅ」

116 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/08/23(日) 21:02:17.21 ID:FYsmm/Kj0
比叡「後は砲弾回し受けを覚えて、瑞雲を使った着弾観測射撃ができるようになれば、名実ともに鎮守府の守護神ですね!」

長門「いや、お前たちと違って私にそれはできないからな?」

北上「ついでに先制雷撃もやっちゃいますか。私のお古をあげるよ〜」

長門「それもできないからな? 余っているのなら阿武隈にやればいいではないか」

北上「うん、そうしようかな」

長門「ふぅ〜」

長門「……第六駆逐隊は本気で挑んでくるのだろうか。それとも発散したいだけなのだろうか。演習まではわからんな」

龍驤「長門にヒントをあげるよ」

長門「ほう、それはなんだ?」

龍驤「第六駆逐隊は北上に頼み込んで訓練をしてたんやで〜」

長門「本当なのか、北上? お前が訓練をつけてやったのか?」

北上「まぁ、成り行きでね」

長門「そんな曖昧な理由で動くお前ではないだろう。これはいよいよ楽しみだ」

北上「本気で勝ちに行くから、よろしく〜」

長門「胸が熱くなるな」

龍驤「演習日が楽しみやな」

長門「あぁ」

117 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/08/23(日) 21:02:47.74 ID:FYsmm/Kj0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2-3 潜水艦でデイリーをこなしていた時に加賀を入手しました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
118 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/09/22(火) 22:47:01.23 ID:8NjhJW7Y0
――演習〜第六駆逐隊と長門――

「マイクチェック、ワン、ツー。ワンツーワンツー、サン、シィー!」

青葉「いやぁ、やはり金剛式マイクチェックは気合が入りますね。比叡さんに教わって以来、出撃……いえ、もっと取材が充実するようになりました」

青葉「ども、恐縮です、青葉ですぅ! 本日の演習、司会実況を仰せつかりました!」

青葉「解説は、『お肉も飛行場もまとめてフランベ』でおなじみの、妙高型重巡洋艦妙高さんです」

那珂「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー。よっろしくぅ〜!」

青葉「……」

那珂「……」

青葉「あらためまして、解説は第四水雷戦隊旗艦、川内型軽巡洋艦那珂ちゃんです。本日の演習の見所は一体どこになるでしょうか?」

那珂「青葉ちゃん、切り替え上手だね☆ その前にいろいろ説明しなくちゃだから。みんな、聞いてね!」

那珂「まず、今日の演習のスポンサーは鎮守府前漁業連合会さんだよ。応援ありがとう〜!」

那珂「次に妙高さんなんだけど……」

青葉「待ってください! なんで演習にスポンサーが付いているんですか? しかも今日は対外ではなく、内部演習ですよ」

那珂「え〜とね、今日の演習には電ちゃんが参加しているからだよ☆」

青葉「つまり、どういうことですか?」

119 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/09/22(火) 22:50:25.48 ID:8NjhJW7Y0
那珂「この鎮守府の歴史を紐解くと時間がかかっちゃうから省略するけどね。 鎮守府設立前の村人口って何人だったと思う?」

青葉「当時ですか、青葉が着任するずっと昔の話なのでなんとも予測しにくいですけど。今が600人位だから、400人位ですか?」

那珂「2人」

青葉「え?」

那珂「2人しか居なかったんだよ。 那珂ちゃんも着任していなかった昔の話だけどね。その時の1人が漁連の会長さんだよ」

那珂「今でこそ鎮守府近海は凪いでいるけどね。 そんな過酷な時代があったんだよ。そんな絶望的な状況にやってきたのが……」

青葉「電ちゃんと司令官ですか」

那珂「そうだよ☆ 那珂ちゃんもアイドルだからわかるけど、電ちゃんの偶像崇拝(あいどるぢから)ってすごいんだ」

青葉「なるほど、つまり……」

会長「青葉殿、那珂ちゃん殿! そんな昔話は良いではありませんか!」

那珂「あっ! 会長、今日はありがと〜☆」

青葉「ども、本日はありがとうございます」

会長「なんのなんの。我が君が御姉妹と共に出陣、それも相手は皇国の誉と名高い長門殿だと!」

会長「これを応援しないなどと、どうして言えましょうか!」

青葉「ずいぶん溌溂とした方ですね。会長、電ちゃんとはどのような出会いだったのですか!?」

会長「青葉殿、よくぞ聞いてくれました! 我が君との出会い、それは私がまだハナタレ小僧だった時分。 珍しく海が凪いだ日でした」

電「いい加減にするのです。早く演習を開始してください」

怒った様子ではなかったが、余裕のなさを感じさせる口調だった。

電だけではない、第六駆逐隊全員から緊張を感じた。

その空気は必然だろう。

彼女たちが対峙している相手は、あの長門なのだから。

長門「会長、今日の演習支援本当に感謝している。我々艦娘の闘い振りを披露する良い機会になった」

長門「電と邂逅、思い出、そして、貴方達が自ら復興のために尽力した話も是非聞かせていただきたい」

長門「ただし、それはこの演習が終わってからで良いだろうか。これは彼女たちに取っても重要な時間なのだ」

そう述べた長門は深々と頭を下げた。

会長「ややっ!? 頭を上げてくだされ、長門殿。私は興奮するとどうも……」

長門「かまわないさ。ただどうか今は、全力で彼女たち応援してやってはくれまいか?」

会長「承知!」

120 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/09/22(火) 22:54:51.40 ID:8NjhJW7Y0
その言葉と共に組合員が一斉に並ぶ。

鉢巻には、

電命


法被の背には、

暁に
 響き渡るは
  勝鬨や
その様まさに
 雷の如し


ふんどしは勿論、赤だった。

121 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/09/22(火) 22:57:43.40 ID:8NjhJW7Y0
電「……」

長門「……素晴らしい」

雷「……えぇ、素敵ね」

暁「何よ、レディはこのくらいじゃ喜ばないんだからね」

響「暁、顔がにやけてるよ。けど、これは流石にうれしいな」

電「!?」

青葉「これは壮観です。会長をはじめとして、人間としての限界練度に達しているのではないでしょうか?」

那珂「すっごーい! ハッピがいつもと違うね!」

村祭りに使う法被には、鉢巻と同じ文字が刺繍されている。

つまり、この法被は今日のために新調したものである。

自分たちを応援してくれる人間がいる。

この事実は、初陣に等しい第六駆逐隊の3人に勇気を与えた。

122 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/09/22(火) 22:59:41.21 ID:8NjhJW7Y0
長門「これほどの応援があれば、彼女たちも戦意高揚間違いなしだな」

そう言いつつに視線を下に向けると、何人かの幼童と目があった。

彼らは「ながと」と書かれた鉢巻をしていた。

恥ずかしそうに、「ながとがんばれ」と応援した後、母親の後ろに隠れてしまった。

村では、端午の節句に鎧兜ではなく艦の模型を飾る。

飾る艦は各家で異なるが、やはり一番多いのは長門である。

長門のように大きく、皆を率いて闘えるよう強くなりなさい。

そんな願いが込められていた。

長門「この長門、諸君の期待に必ずや答えよう!」

高らかに謳う。

この返答を受けた幼童たちは顔を輝かせ、長門に向かって手を振った。

123 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/09/22(火) 23:01:22.90 ID:8NjhJW7Y0
長門「ふむ、子供は国の宝とはよく言ったものだな」

最高水準で戦意高揚となった長門は、改めて演習相手と対峙する。

暁「……」

響「……」

雷「……」

電「……」

4人が鉢巻を締め、不退転の意思を示していた。

長門「おどろいたな。纏う空気がまるで違うではないか」

北上から聞かされていた長門ではあったが、実際に相対するとそれ以上の雰囲気を感じ取れた。

長門は胸部装甲から鉢巻を取り出し、締める。

長門「相手にとって不足なし、だ。よろしく頼む!」

「「よろしくお願いします!」」

青葉「ではっ、演習を開始します!」

124 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/09/25(金) 02:34:20.52 ID:KamaJGe3o
おおまだ続いてた
125 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2015/09/25(金) 02:36:50.34 ID:Jb1ndZQIO
ageんなゴミクズ
126 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/10/04(日) 23:49:20.81 ID:2kfKbfCt0
――第六駆逐――

暁「始まったのね。長門さんはまだ見えないわ」

雷「姿が見えたら、即回避行動に移る。これでいいのよね? 電?」

電「はいなのです。電たちにとっては射程範囲外だけど、長門さんにとってはすでに有効射程範囲だから。むしろ見える前に避ける位の気持ちでいないといけないのです」

響「それは驚きだね。けど、それでこそ戦艦なのかな」

暁「きっとそうなのよ。せっかくの機会だから精一杯前に出ないと!」

雷「目を凝らしてもまだ見えないわね。暁、前に出すぎ! 旗艦なんだから焦んないでよね。雷が前に出るわ」

暁「わかってるわよ! 雷も緊張しすぎよ。そんなんじゃ、いざって時に動けないんだからね」

響「ちなみに砲撃戦はどんな感じなんだろうか。北上さんとやった訓練と同じでいいのかな」

電「あれを10倍、20倍と煮詰めた感じなのです。砲撃の前は空気が変わるので、それを感じ取れば見るより先に艦体が動くはず」

暁「え? 今になってそんなことを言うの? どんな空気になるのよ」

電「そうですね、喩えるなら……。全員回避なのです!」

響「!」

暁「!」

雷「あ……」

突然、電が回避行動を開始した。

暁、響、雷も喩え話に耳を傾ける前に、はっきりと感じ取った。

砲弾よりも、爆音よりも先に、長門の気迫がこの場を支配する。

響「雷!」

電「雷ちゃん!」

ほんのわずかの差であったが、一番に前に出ていた雷は艦体を強張らせてしまい、回避が間に合わなかった。

暁「雷ぃ!」
127 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/10/04(日) 23:51:56.44 ID:2kfKbfCt0
――司会実況――

青葉「長門さんによる先制の砲撃が決まりました! 弾着です! この距離をこんなにも早く正確に的中されられるものなのでしょうか!?」

那珂「長門さんは超弩級戦艦だからね☆ これでもいつもの射程よりずっと短い距離だよ。近距離だからコリオリ力の演算も省いて、いつもより軽い砲を使ったから射撃の反動演算を省いた。それでも信じられない程、早くて正確な射撃だったね」

青葉「コリオリ? それでも駆逐艦の射程範囲外から一方的な狙撃! 演習とは言え、これはあまりにも非道いのではないでしょうか!」

那珂「逆だよ、青葉ちゃん。長門さんは41cm連装砲、徹甲弾、零観まで外してる。可能な限り艤装の出力を抑えて、長門さん自身が本気で闘えるようにしてくれてるんだ。伝説のアイドルが新人アイドル相手に本気を出す時、色々と制限をするのとおんなじだよ☆」

青葉「成る程ぉー! 解説ありがとうございます! けど、これで決着してしまった場合はどうなるのでしょうか?」

那珂「その時は地方巡業から鍛え直しだよ! あれだってぜーったいにやらなくちゃならない大事なお仕事だからね。那珂ちゃんは今でもちゃんとやってるよ」

青葉「煙が晴れました。 状況は……雷ちゃんが中破! 暁ちゃんが大破です!」

128 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/10/04(日) 23:58:37.32 ID:2kfKbfCt0
――長門――

長門「……ふむ。暁が雷を庇ったか」

艦橋の高さが、より遠くまで見渡すことを可能にしている。主兵装がなくとも、彼女は間違いなく超弩級戦艦だった。

長門「艦体旗艦としては失格だ。失格ではあるが、極限状態で出た行動が『誰かを護ること』……か。これは皇国の守護者たる我々に取って最も必要な才覚だな。見事だ、暁!」

長門「そして! 一度も振り返ることなく、よくぞここまで足を進めた!」

響「演習前に第六駆逐隊で決めたからね。みんなで勝つと。あなたを目の前にして震えは止まらない。それでもやっぱり闘うって決めたから」

12.7cm連装砲を構え、照準を長門に合わせる。

駆逐艦の主砲では大戦艦の装甲は抜くことはできないが、闘う前に諦めることだけはしなかった。

響「やるさ」

初弾命中。

次弾命中。

全弾命中。

素晴らしい的中率だが、長門は回避行動すら見せなかった。正確には急所から外れるように微調整はしていたが、その意識は攻撃準備に集中していた。

被弾しながら響に照準を合わせる。

響「……無駄だったね」

長門「そんなことはないさ。艦隊で闘うときは必ず必要な能力だ。命中させないことには46cm砲ですら無意味だからな」

響「スパシーバ」

響は照準を合わせ、砲を放つ。

長門「!」

突然、長門が攻撃態勢を解き、旋回した。

この時、響の砲撃が急所にあたり、わずかに長門の装甲を貫く。

129 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/10/05(月) 00:03:08.56 ID:CK7/aTiw0
「なのです!」

想像だにしなかった突撃。

上方から、握り込んだ錨による打撃だった。

長門「ぬぅう!」

駆逐艦の全質量を真正面から受け止めてしまい、全身が悲鳴を上げる。

過剰かと思っていた比叡、日向との訓練がここで活きた。

十字受けによる防衛の成功である。

長門「ふぅーっ! 今のは危なかった……。黒鉄(クロガネ)時代なら……確実に轟沈だった」

耐久力が、装甲が優秀なだけにはっきりと想像できた。

長門「駆逐艦の身でありながら、よくぞそこまで練り上げた!」



特型駆逐艦暁型四番艦

最も長きに渡り鎮守府を支え続けた初期艦

暁型の、特型駆逐艦の最終艦

特型が残した数多の蓄積は、彼女に集約された。

電「電、推して参るのです!」

初期艦、電。

限界練度だった。

130 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/10/11(日) 22:40:21.02 ID:2CgeDF200
――司会実況――

青葉「ーーッ!! ーーッ!!」

排気量を全開にしてマイクを最大音量にしても、実況は伝わらなかった。

海原が割れそうなほどの大声援。海岸で電の名がこだまする。

当然、海でこだますることなどありえないが、途切れることのない声援はそう比喩するよりほかなかった。

那珂「青葉ちゃん、そんなんじゃダメだよぉ。ファンの皆が応援してるんだから、今は静かに実況しないとね☆」

青葉はもとより、応援に精を出していた者たち全員が那珂に注目する。

全員の耳に、那珂の声が届いたからだ。

131 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/10/11(日) 22:42:02.28 ID:2CgeDF200
那珂はマイクを使っていなかった。

単純な音であれば、全てかき消されてしまっていただろう。

ならば、届けた先は耳ではなく心。発したものは、声ではなく想い。

水雷戦隊旗艦である彼女は、常に戦場(ステージ)を意識している。

敵棲艦(ファン)の状況(テンション)を読み取り、自身だけでなく随伴艦(メンバー)が最高の性能(スマイル)を発揮できるように心がけていた。

たとえ、戦場でなく舞台だったとしても、行住坐臥を旗艦(アイドル)として過ごす那珂の振る舞いは変わらない。

想いをくみ取り、想いを伝える。

誰が相手であろうと、決して路線変更などしなかった。

132 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/10/11(日) 22:47:48.73 ID:2CgeDF200
那珂「みんなー! しっかりと電ちゃんのことを見てたかな〜?」

途切れそうな空気を繋ぎ直し、再び歓声が上がる。

青葉「あっ、あれは一体何だったんでしょうか? 艦娘の常軌を逸していたのでは!?」

那珂「あれはね……」

那珂「単なる体当たりだよ☆」

青葉が唖然とし、観客は大笑いする。

那珂「でもね、青葉ちゃん。いつもの2倍の跳躍と!」

青葉「跳んだことなんてありません!」

那珂「いつもの3倍の回転が!」

青葉「回転もしません!」

那珂「もぅっ、青葉ちゃん意地悪だよ!」

会場は笑いと拍手に包まれた。

那珂「那珂ちゃんジョークはこれくらいにして。駆逐艦の重量であれだけの高さと回転だからね、その力積は41cm連装砲にだって負けないんだから!」

青葉「そんなに!? それだけの威力があるなら、始めからやった方がいいのでは?」

那珂「近づけたらそうだよね☆ 近づく相手は誰かな〜?」

青葉「長門さんでした! あの警戒網をくぐり抜けるのは至難の業です!」

那珂「そうだよ、普通だったら絶対に成功しないんだ。長門さんが別のことに集中してたりしないとね」

青葉「響ちゃんです! 響ちゃんが長門さんに砲撃戦を挑んでいました。あの時、全弾命中という素晴らしい成果をあげ、長門さんの意識は響ちゃんに集中していたはずです! そんな状況で長門さんはよく電ちゃんの進撃を察知できましたね」

那珂「戦場は刻一刻と変化する所だからね。場を掌握して、艦隊の全部に指示を出せる艦娘が連合艦隊旗艦なんだよ!」

青葉「長門さんです! 連合艦隊旗艦長門です!」

こっちで響コール、あっちで電コール。

間を開けずに長門コールも響き渡る。

それだけで伝えきれてない、まだ足りていないと判断した那珂はさらに解説を加えた。

舞うように席を離れ、小さな観客に目線を合わせてから、鈴のような声で簡潔に述べる。

那珂「ながとさんはね、みんなのおうえんでもっとがんばれるんだよ☆」

アイドルの笑顔は、道理のわからない子供相手に潤滑油のように染みわたった。

彼らは母親の後ろから出て、小さな体をいっぱいに使い、ながとの名を何度も何度も呼んだ。
133 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/10/11(日) 22:48:59.72 ID:2CgeDF200
青葉「……」

青葉「暁ちゃんと雷ちゃんもこの歓声の中で闘って欲しかったです……」

マイクを通さず、小声でこぼす。

一生懸命、遠征任務を続けてきた彼女たちがようやく掴みとった機会だった。

一度の砲雷撃もできないまま終わるのはあまりにも忍びない。

134 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/10/11(日) 22:49:31.15 ID:2CgeDF200

「……水雷戦隊を侮らないで」

135 : ◆zqJl2dhSHw [sage saga]:2015/10/11(日) 22:50:20.75 ID:2CgeDF200

「……水雷戦隊を侮らないで」

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